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28年ぶりの劇場公開。翻案は成功している。2日続けて観に行った。。

「レ・ミゼラブル 2Kリマスター版 [Blu-ray]」ジャン=ポール・ベルモンド
1899年の大晦日の深夜、醜聞に巻き込まれた伯爵(ダニエル・トスカン・デュ・プランティエ)が逃亡中に自殺した。逃亡を
助けた運転手のアンリ・フォルタン(ジャン=ピエール・ベルモンド)が状況証拠から伯爵殺害の嫌疑を受け、有罪になる。フォルタンの妻カトリーヌ(クレマンティーヌ・セラリエ)と幼い息子アンリはノルマンディーの海岸にある居酒屋でなんとか職を得る。彼女は吝嗇で残酷な主人ギヨーム(ルフュ)にこき使われながら夫の再審のため懸命に金を稼ぎ、ギヨームの手引きで売春までするが、アンリは脱獄に失敗して命を落とす。彼女は夫の後を追って自殺し、息子のアンリだけが遺される。1918年、成長したアンリはボクシングのチャンピオンになり、養父ギヨーム
から独立した。彼はその後1931年までチャンピオンの地位を守り、引退してトラック運送屋になった。同じ1931年、バレリーナのエリーズ(アレサンドラ・マルティネス)は弁護士の卵アンドレ・ジマン(ミシェル・ブジューナー)と結婚した。1939年、第2次世界大戦でパリはドイツの占領下になり、ユダヤ人のジマン夫妻はノルマンディーに引っ越す。その運送屋がアンリ・フォルタン(ベ
ルモンド=二役)だった。ノルマンディーも安全でないと知った夫妻は、アンリにスイス国境まで運んでくれるよう頼む。道中、非識字者のアンリはセーヌ川の古本屋(ダリー・カウル)から買った『レ・ミゼラブル』を読んでくれるようアンドレに頼む。力持ちの彼は、まるでジャン・ヴァルジャンだとよく人に言われていたのだ。前
科者ジャン・ヴァルジャン(ベルモンド=三役)が田舎の司教(ジャン・マレー)の慈愛に触れて人間らしさを取り戻す物語を聞いたこの日から、アンリ・フォルタンは小説のヴァルジャンのように、自分でなく人間愛のため
に生きていくことを決意する。アンリはジマンの娘サロメ(サロメ・ルルーシュ)をカトリックの寄宿学校に預ける。修道院長(ミシュリーヌ・プレール)は、サロメがユダヤ人と見抜きつつも彼女を庇護する。アンリのお蔭で国境にたどり着いたジマン夫妻だが、逃がし屋が独軍に通じており、亡命ユダヤ人たちは虐殺される。アンドレは重傷を負うが、近所の農家の夫婦もの(アニー・ジラルド、フィリップ・レオタール)に匿われる。一方捕虜になったエリーズは、独軍の慰安婦になることを拒否し、ドイツの強制収容所へ。アンリはペタン派の刑事(フィリップ・コルサン)に捕らえられ拷問に遭うが、同じ房にいた強盗団(ティッキー・オルガドほか)に助けられ脱走。強盗団はゲシュタポから情報を得て、空襲警報中の邸宅に盗みに入るのが仕事。アンリは助けられた義理から嫌々ながら手を貸す。そこへ連合軍上陸作戦の噂が入り、一同は早速レジスタンスに鞍替えする。ノルマンディーにあるギヨームの居酒屋は、今では息子(ルフュ=三役)が経営しているが、その海岸こそ連合軍の上陸地点だった。一同が居酒屋に着いた翌朝に作戦が始まり、アンリは居酒屋の裏手にあるトーチカを爆破して英雄になる。やがてパリも解放され、仲間と別れたアンリは、ギヨームの店で働いていた青年マリウスと共に、パリ郊外にリゾート風のレストランを買う。ジマン夫妻は未だ行方不明で、アンリがサロメを引き取る。実はアンドレはまだ地下に籠もったままだった。匿ってくれた夫婦の妻の方が彼に恋し、嫉妬しながらも妻から離れられない夫が、ドイツ軍の勝利という
嘘を吹き込んで彼を引き止めていたのだ。アンリは福祉などに力を尽くして地域の尊敬を集め、市長から自分の後任にと頼まれる。強制収容所で生き残ったエリーズ・ジマンが戻り、サロメと親子の再会を果たす。だがそこへアンリの昔の仲間が匿ってくれと言って現れ、彼らを追ってかつてアンリを拷問した元ペタン派の刑事もやって来る。アンリは血に飢えた昔の仲間が許せず、最後には逮捕に協力すらするが、逮捕される。刑事はアンリを裁判にかければ自分の対独協力も白日のもとに晒されると悟り、いったんはアンリを殺そうとするが、アンリの善良さに自らを恥じて自殺する。しかしアンリは刑事殺しの濡れ衣まで着せられそうになる。そのころスイス国境の山中ではアンドレ・ジマンを匿っていた夫婦がついに殺し合い、アンドレは初めて戦争が終わっていたことを知る。アンリの留守中にその店を支えるエリーズと、それにサロメと再会したアンドレは、一家の大恩人アンリの弁護を引き受ける。無罪を勝ち取って数年後、市長になったアンリは、美しく成長したサロメとマリウスの結婚式を執り行うのだった―。
1995年公開のクロード・ルルーシュの製作・監督・脚本作で、主演は「あの愛をふたたび」「ライオンと呼ばれた男」以来ルルーシュと3度目のタッグとなったジャン=ポール・ベルモンド。ヴィクトル・ユーゴーの原作を大幅にアレンジし、その物語にソックリの人生を送る男が主人公で、20世紀の激動の時代を舞台に描いた大河ロマン(第2次大戦前後に時代設定され、ドイツ軍のユダヤ人狩りにかなりの時間が割かれている。因みにクロード・ルルーシュはユダヤ人である)。1996年・第17回「ロンドン映画批評家協会賞 外国語映画賞」、同年・第53回「ゴールデングローブ賞 外国語映画賞」受賞作。
ジャン=ポール・ベルモンド
海外では評価も高く、またヒットもしたのに、日本ではシネマスクエア東急の単館ロードで終わってしまいました。トークイベントでの解説によれば、日本では当時、娯楽映画はCGなどを駆使したハリウッド映画の方に関心が行ってしまい、一方、フランス映画は、ゴダールやトリュフォーなどヌーベルバーグの監督を中心に"作家主義"的に語られることが多くなり、ジャン=ポール・ベルモンドのこうした作品は、日の目を見ない不遇の時代が続いたとのこと。ベルモンドという俳優そのものも、ゴダールの「勝手にしやがれ」などの作品の中で語られるのが主で、結果として、こうした作品に目が行かなかったのではないかということです。
本邦では1997年にVHS版とレーザーディスク版が「レ・ミゼラブル 輝く光の中で」というタイトルでリリースされて以来ソフト化されておらず、ずっと観る機会がありませんでした。それが、昨年['24年]、ベルモンド主演作をリマスター版で上映する「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選グランドフィナーレ(第4弾)」('24年6月28日~東京・新宿武蔵野館ほか)にて28年ぶりに劇場公開され、本作としての初日それを観ましたが、期待に違わず楽しめた3時間が短く感じられる作品で、2日目にまた観にいきました(その2日目が、仏文学者・翻訳家の野崎歓氏のトーク・イベント付きだった)。
まず、アンリ・フォルタン(父)として登場するジャン=ポール・ベルモンドは、アンリ・フォルタン(子)役のほか、劇中劇としての原作『レ・ミゼラブル』でジャン・ヴァルジャン役も務める1人三役で(オープニングシーンのベルモンドは、そのジャン・ヴァルジャンとしての彼であることが暫くして判る)、さらに、居酒屋を営む夫婦にこき使われながら育てられるアンリ(子)の子供時代は、原作の宿屋のテナルディエ夫婦にこき使われたコゼットにダブります(このことが、大人になったアンリが『レ・ミゼラブル』に惹かれる要因の1つにもなり、彼は自分がヴァルジャンでありコゼットであるとい言う)。
アンリ(子)を追う警部役のフィリップ・コルサンも、原作のジャヴェール警部との二役で、原作のジャヴェール警部は橋の欄干から飛び降り自殺しましたが、自殺死する点でもジャヴェール警部と同じです。コルサンは、原作のジャヴェール警部を、職務に忠実な男として尊敬しています(そこでアンリと意見が合わない)。
また、アンリ(父)の妻カトリーヌ役のクレマンティーヌ・セラリエも、同じく非業の死を遂げる、原作のゴゼットの母ファンティーヌとの二役です。さらには、吝嗇な居酒屋の主人ギヨーム(ルフュ)を演じたルフュも、店を継いだその息子役と、作中劇としての原作の宿屋のテナルディエの三役です(ギヨームはテナルディエを尊敬している。その点でアンリと意見が合わない)。こうしたことを確認しながら観るのも面白いです。
そのほか、アンリが一時仲間に加わる「強盗団」は、原作の悪党集団「パトロン=ミネット」の翻案で、そこから身を転じるレジスタンスは原作の共和派秘密結社「ABC(ア・ベ・セー)の友」の翻案でしょうか(原作で「ABCの友」に加入するのはマリウスなのだが)。
原作『レ・ミゼラブル』は劇中劇とし、本編は内容を大幅に改変しているわけですが、物語が原作とパラレルになっている点で、脚本がよく出来ていると思いました。しかも演出は見事であり、感動的させられます(1回目観て感動を味わい、2回目観て翻案を楽しんだという感じ)。結末のハッピーエンドはある程度見えていましたが、それでもカタルシス効果充分で、クロード・ルルーシュの翻案は成功したと思います。
ジャン=ポール・ベルモンド(1933生まれ)は当時62歳。渋みがあり、顔の皺の一つ一つに味わいがある感じ。ヴァルジャンに銀器を与える司教を演じたジャン・マレー(1913生まれ)(「美女と野獣」('46年/仏))は81歳で、貫録の演技。アンドレを匿うことで夫から心が離れてしまう妻を演じたアニー・ジラルド(1931生まれ)(「若者のすべて」('68年/伊・仏))も、演技達者ぶりを見せています(夫婦の愛憎劇はサスペンスフルでもあった)。
これまで観た「レ・ミゼラブル」映画の評価は以下の通り(◎が多いね)。ジャン・ギャバン版は原作を忠実に映画化しているとされており、リーアム・ニーソン版は、ジャン・ヴァルジャンとジャヴェール警部の葛藤を中心に描いていて、ジャヴェール警部が自殺したところで終わります。ヒュー・ジャックマン版はミュージカルで、ミュージカルのオリジナル脚本を忠実に映画化しているとされるようです。


◎ ジャン=ポール・ル・シャノワ 監督、ジャン・ギャバン主演 「レ・ミゼラブル」 ('57年/仏・伊)(186分) ★★★★☆
〇 ビレ・アウグスト監督、リーアム・ニーソン主演 「レ・ミゼラブル」 ('98年/米)(124分) ★★★☆
◎ トム・フーパー監督、ヒュー・ジャックマン主演 「レ・ミゼラブル」 ('12年/英)(158分) ★★★★☆
◎ クロード・ルルーシュ 監督、ジャン=ポール・ベルモンド主演 「レ・ミゼラブル」 ('95年/仏・伊)(175分) ★★★★☆
このジャン=ポール・ベルモンド版が、いちばん独創に富んでいると言えばそういうことになるかと思います(原作をベースとした別個の物語との言える)。先述の通り、新宿武蔵野館がそれまで'20年、'21年、'22年の3回にわたって上映してきた「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」('21年9月にベルモンドが亡くなり、'22年が言わば「1周忌上映」になってしまった)の第4弾「グランド・フィナーレ」('24年)で鑑賞したわけですが、観ることができて良かったです。
「レ・ミゼラブル」●原題:LES MISERABLES●制作年:1995年●制作国:フランス●監督・製作・脚本:クロード・ルルーシュ●撮影:クロード・ルルーシュ/フィリッペ・パヴァン・ド・チェカティ●音楽:ディディエ・バルベリヴィエン/エリック・ベルショー/フランシス・レイ/ミシェル・ルグラン/フィリップ・サーヴェイン(挿入歌:パトリシア・カース(作詞:ディディエ・バルブリヴィアン/作曲:フランシス・レイ))●原作:ヴィクトル・ユーゴー●時間:175分●出演:ジャン=ポール・ベルモンド/ミシェル・ブジュナー/アレサンドラ・マルティネス/サロメ・ルルーシュ/マルゴ・アバスカル/アニー・ジラルド/フィリップ・レオタール/クレマンティーヌ・セラリエ/フィリップ・クロワシル/ティッキー・オルガド/ウィリアム・レイメルジー/ジャン・マレー/ミシュリーヌ・プレール/ダニエル・トスカン・デュ・プランティエ/ミカエル・コーエン/ジャック・ブーデ/ロベール・オッセン/ダリー・コール/アントワーヌ・デュレリ/ジャック・ガンブラン/ピエール・ヴェルニエ/ルフュ●日本公開:1996/08●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:新宿武蔵野館(24-07-05)●2回目:新宿武蔵野館(24-07-06)(評価:★★★★☆)


伝統的スタイルのレストラン"ドゥブロヴニク"で給仕長を務めるイロナ(カティ・オウティネン)は、市電の運転士である夫ラウリ(カリ・ヴァーナネン)とつましく幸せに暮らしていた。しかし不況の影響でラウリは整理解雇、"ドゥブロヴニク"も大手チェーンに買収されイロナたち従業員は失職してしまう。働き盛りを過ぎた中年の夫婦は職探しに苦労する。イロナは場末の安食堂のコック兼給仕の仕事に就くが、税務調査のゴタゴタで給料がうやむやに。妻の給料を食堂経営者に請求しに行ったラウリは
、袋叩きにされ港に放り出される。安宿でしばらく静養したラウリが帰宅すると、家財は差し押さえられており、イロナはラウリの妹のもとに身を寄せていた。イロナの元同僚で"ドゥブロヴニク"のドアマンだったメラルティン(サカリ・クオスマネン)の紹介で仕事にありついたラウリは、彼にレストランの開業を提案される。夫婦は決意して事業計画を立てるが、資金を借してくれる銀行がない。ラウリはクルマを売った金をカジノで増やそうとするが
、全額スッてしまう。途方に暮れるイロナだったが、求職に訪れた美容院で偶然、"ドゥブロヴニク"の元経営者スヨホルム夫人(エリナ・サロ)と再会する。引退して生きがいを失っていた夫人は、イロナの計画を聞いて出資を申し出る。ラウリとメラルティンは、"ドゥブロヴニク"の元シェフでアルコール依存症のラユネン(マルク・ペルトラ)を探し出し、治療施設に送り込んで更生させる。"ドゥブロヴニク"の元従業員たちが揃い、イロナとラウリのレストラン"ワーク"が開店した。ランチタイムになっても客が入らず不安になるが―。
この作品、漫画家の吉野朔美(1950-2016/57歳没)の『こんな映画が、―吉野朔実のシネマガイド』('01年/PARCO)にも取り上げれていましたが、吉野朔美氏は、この監督は「間」を作るのが上手い人で、「......」の部分ばかりで出来上がっていてセリフが極めて少ないのが特徴であると。ナルホド(そう言えば、「孤高のグルメ」の俳優・松重豊がアキ・カウリスマキ監督の作品が大好きだという)。
一方で、元経営者に偶然出会い、彼女が引退して生きがいを失い、金の使い道を持て余していた(いつの間に蓄財した? 店を売却した金か)というのはややご都合主義とみる向きもあるかもしれません。この部分は寓話的と言うか、大人のメルヘンのようにも感じました。監督インタビューによると、結末はハッピーエンドにするしかなかったが、本当は結末をもっと非情なものにしたいと思っていたので、自身でも納得がいかないという気持ちもあったとのことです(これに対し、前作「
ラスㇳ、店を開店しランチタイムになっても客が入らず不安がる夫婦ですが、しばらくすると1人入り2人入り、やがて満員となった上、ディナーの団体予約まで入る―。喜びを噛みしめて店の前で一服し、空を見上げる夫婦の表情がいいです。吉野朔美氏は、「見終わった時、少し上向きな気分になっている気持ちの良い映画です。こうゆうのは作ろうと思ってもなかなかできない」と。何気ない小さなエピソードの積み重ねなのだなあ。吉野朔美はこの監督の上手さをよく見ていたと改めて思いました。偶然も重要だが、その機会を掴める心構え・準備が必要であるということ。『
「浮き雲」●原題:KAUAS PILVET KARKAAVAT(英語:DRIFTING CLOUDS)●制作年:1996年●制作国:フィンランド●監督・脚本・製作:アキ・カウリスマキ●撮影・音楽:ティモ・サルミネン●時間:98分●出演:カティ・オウティネン/カリ・ヴァーナネン/エリナ・サロ/サカリ・クオスマネン/マルク・ペルトラ/マッティ・オンニスマー/ピエタリ(犬)●日本公開:1997/07●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-12-07)(評価:★★★★)
1988年、ニューヨークのブロンクス。警部補LT(ハーヴェイ・カイテル)は今朝も車中から二人の息子を見送りながら、目覚めのコカインを吸う。今日最初の事件は被害者二名の殺人事件。現場を離れコーヒーを買いに行くと、駐車場泥棒を見かけるが無視。次の事件は薬物売人グループの追跡。LTは売人をアパートの上階に追い詰めるふりをして、別の事件で入手した薬物を与え、自分のために取っておいた薬物を吸う。売人は数日内に薬物を売却し、売上金の一部をLTに渡すことを約束する。その頃、修道女(フランキー・ソーン)が教会で二人の若い不良からレイプされる事件があり、犯人逮捕の賞金は5万ドルとされる。LTは病院で医師の診断を受ける修道女を覗き見るが、彼女は犯人を恨まないとし、事件により神のご加護を受ける機会を得たと語る。翌朝、LTはテレビでメッツvs.ドジャースのリーグチャンピオンシップシリ
ーズで、自分が賭けていたドジャースが負けたのを見てがっくりするが、次の試合で掛金を倍にして取り戻そうとする。メッツは最初三連敗し、彼はドジャースの勝利を確信していのだ。今度の掛金は持ち金以上の3万ドル。彼の薬物使用および飲酒はさらにひどくなり、行動は制御不能に。他の事件現場で薬物を見つけてスーツのポケットに隠す。しかし注意力減退により薬物を路上に落とし、同僚は訝るが、彼は証拠として提出するつもりだったと嘘をつく。彼は掛金をさらに倍の6万ドルにする。ノミ屋は忠告するが、LTはこれまで三連敗したチームが優勝したことはないと言う。彼の犯罪行為は悪化し、親の車でクラブに行こうとした若い女性二人を路肩停車させ、猥褻行為を強要する。メッツが勝ち、彼は掛金をさらに倍にしようするが、ノミ屋はLTが胴元から殺害される恐れがあるとし、12万ドルの掛金は自殺行為だとして拒否、LTは胴元に掛金を告げる。飲酒運転をしながら試合結果を聴
くが、ドジャースが負け、カーラジオを銃で撃つ。やがて、売人から売上金のうち3万ドルを回収する。彼は修道女がレイプされた教会へ行くと、彼女が祭壇の前で跪いて祈っていた。彼は、もし彼女が犯人が誰か知っているのであれば、代わりに彼らを殺すと言うが、彼女はもう忘れたと繰り返し、祭壇の前に跪く、LTを残して去り、、LTは精神的に不安定になる。彼は祭壇の十字架に貼られたキリストを見て涙しながら罵声を浴びせ、最終的に自分の弱さを懺悔して罪の許しを請う。キリストの足元に這っていき、血まみれの足にキスをして顔を上げると、それはキリストではなく聖杯を持った近所の黒人女性だった。彼女は、LTに、夫の質店に二人のレイプ犯が聖杯を質入れしたのだと語る。LTはレイプ犯二人を追跡して発見し、二人を手錠で繋ぐ。彼らに銃口を向けつつ、メッツが歴史的大逆転をし優勝するところをテレビで見ながら三人で次々とコカインを吸う。そして、彼らをバスターミナルに連れて行き、二度とニューヨークに戻ってくるなと語り、3万ドルが入ったシガーボックスを持たせてバスに乗せる。二人をバスで逃がした後、泣きながら車を走らせ、道路で止まると、別の車が横づけし「おい、警官」と声を掛け、雑踏の中に銃声が二発響く。LTの車の周りに人が群がっていく―。
アメリカ・インディーズ映画界の鬼才と言われるアベル・フェラーラの1992年公開作で、ニューヨークを舞台に、暴力と弱さのあいだで葛藤する人間と都市の暗部を描いた人間ドラマです。1992年のカンヌ国際映画祭で上映されるも、ショッキングな描写や内容から賛否を呼んだそうです。2024年に本邦でリバイバル上映されました。
「ルーテナント(Lieutenant)」=「副官」「補佐官」はここでは警部補の意味であり、「バッド・ルーテナント」は悪徳刑事ということですが、そえを絵に描いたような堕落した主人公LTを、「
一方のゾーイ・ルンドは、ミュージシャン、モデル、女優、作家、脚本家、政治活動家、プロデューサーと多彩な活動をしながらも、1999年にパリで麻薬中毒による心不全で37歳で死去しています。この映画でハーベイ・カイテルがラリっているシーンが強烈な印象を残すのは、脚本家にそうしたバックグラウンドがあったからというのもあるかもしれません。

1800年代半ば、主人公エイダ(ホリー・ハンター)は娘フローラ(アンナ・パキン)とピアノを伴い、スコットランドから未開の地ニュージーランドへ旅立った。現地では彼女の結婚相手スチュアート(サム・ニール)が迎えたが、彼は重いピアノを自宅へ運ぶことを拒み、ピアノを浜辺に置き去りにした。話すことができないエイダにとって、ピアノはかけがえのないものであり、エイダは娘を連れて何度も浜辺にピアノを弾きに訪れた。その姿とピアノに惹きつけられ
たベインズ(ハーヴェイ・カイテル)はピアノをスチュアートから自分の土地と交換して手に入れる。エイダに「黒鍵の数だけ自分にレッスンをしてくれたら、ピアノを返す」と約束す
る。初めはベインズを嫌ったエイダだったが、レッスンを重ねるごとに気持ちが傾く。2人の秘密のレッスンを知ったスチュアートはエイダにベインズと会うことを禁じる。彼女は鍵盤にメッセージを書き、フローラにベインズへ届けるように託すが、情事を覗き見していたフローラは、スチュアートに鍵盤を渡して密告。スチュアートは逆上し、エイダの人指し指を切り落とす。だが、彼女の瞳にベインズへの思慕を読み取り、ベインズに2人で島を去るがいいと言う―。

1993年に公開されたジェーン・カンピオン監督作で(原題:The Piano)、ジェーン・カンピオン監督のオリジナル脚本であり、ノベライズ版が新潮文庫にもあります(ノーベル文学賞作家のアリス・マンローに「ピアノ・レッスン」という短編があるが(原題:Dance of the Happy Shades(幸せな木陰たちのダンス?))、あれはまったくの別作品)。「ピアノ・レッスン」は個人的には90年代のレンタルビデオ全盛期にビデオで観て、ああ、これ劇場で観てもよかったかなと思った作品の1本でしたが、「TOHOシネマズシャンテ」で4K版でリバイバル上映されることになり、最近そうした昔の作品を劇場で4K版で観る機会がよくあるのはありがたいです。
ハーヴェイ・カイテル演じるマオリ族の男ベインズとホリー・ハンター演じる女エイダの関係は、最初は「取り引き」の関係であったのが、途中から本当の恋愛関係になっていく、その描き方が巧みです。果たしてエイダの行為は、純粋にピアノを取り戻すためだけのものだったのか。おそらく最初はそうだっただろうが...。今回観直してみて、エイダがベインズとの愛と官能の炎を燃え上がらせていく、そこに至るまでの過程を再確認するような感覚がありました。
また、エイダの娘フローラを演じて「アカデミー助演女優賞」を受賞したアンナ・パキンは、当時11歳での受賞で、これは「
「ピアノ・レッスン」●原題:THE PIANO●制作年:1993年●制作国:オーストラリア/ニュージーランド/仏●監督・脚本:ジェーン・カンピオン●製作:ジェーン・チャップマン●撮影:スチュアート・ドライバーグ●音楽:マイケル・ナイマン●時間:121分●出演:ホリー・ハンター/ハーヴェイ・カイテル/サム・ニール/アンナ・パキン/ケリー・ウォーカー/ジュヌヴィエーヴ・レモン/トゥンギア・ベイカー/イアン・ミューン●日本公開:1994/02●配給:フランス映画社●最初に観た場所(再見):TOHOシネマズシャンテ(24-04-08)((評価:★★★★)

ブルックリンの街角で小さな煙草店を営むオーギー・レン(ハーヴェイ・カイテル)は、10年以上毎日同じ時刻の同じ場所で写真を撮影していた。煙草屋の常連で、オーギーの親友でもあるポール・ベンジャミン(ウィリアム・ハート)は、作家であるが数年前に銀行強盗の流れ弾で妻を亡くして以来、仕事が手につかず悩んでいた。閉店間際の店に駆け込んだポールは、見せてもらったオーギーの写真集から亡き妻のありし姿を見つけ号泣する。ポールはボンヤリとして自動車に轢かれそうになったのを助けられ、ラシード(ハロルド・ペリノー・ジュニア)と出会う。その怪しい少年に感謝し、ポールは彼を自分の家に泊めてやる。2晩泊まった後にラシードは家を出て行ったが、その数日後にラシードの叔母を名乗る女性が現れた。ラシードの本名はトーマス・コールといい、偽名を使って各地を転々としていたのだ。その頃トーマスは生き別れた父親のサイラス(フォレスト・ウィテカー)に会いに、サイラスが営む小さなガレージを訪れた。トーマスはサイラスのガレージのスケッチをしているが、追い払われても退かず、そこでトーマスは以前世話になったポールの名前を偽名として用い、無理やり雇わせる。後日、トーマスはポールの元を再訪。ポールは先日トーマスの叔母が自分の元を訪れた経緯を述べ、本名を問い詰める。トーマスを追うギャングに押し入られ、ポールはトーマスのヤバさを知る。ルビー(ストッカード・チャニング)は戦争中、オーギーを裏切り他の男と結婚したが、娘がピンチだと金の工面に訪れる。ポールはトーマスの隠した6000ドルを自宅で見つけるが、その金はトーマスがタバコ屋のバイトでドジした賠償に当てられ、さらにルビーに渡される。トーマスはサイラスに本当の名を名乗り、息子であることを伝えるが、混乱から乱闘になる。オーギーは作家に昼食をとりながら過去にあったクリスマスの話をする。昔、万引き犯を追いかけるが逃げられ、落としていった財布には写真だけがあった。家を訪ねるとそこには盲目のおばあさんが一人で住んでいて、自分のことを孫だと思い込んだ。だから話を合わせて一緒にクリスマスを過ごしてきたという。それにポールは「本当にいいことをしたな。人を幸せにした。生きていることの価値だ」と言う。オーギーはその言葉に心から満足する。ポールはその話の原稿を書き始める―。
香港出身のウェイン・ワン監督の1995年公開作で、同年・第45回 「ベルリン国際映画祭」の銀熊賞(審査員特別賞)受賞作。原作は今年['24年]4月30日に77歳で没したポール・オースターが、ニューヨーク・タイムズ紙から依頼されて書いた短編小説。ポール・オースターは、事実を載せるはずの新聞に虚構を書けというアイデアが気に入って引き受けたそうで、そのタイムズ紙を読んでウェイン・ワン監督が感激して映画化をポール・オースターに持ちかけたということだったようです。ポール・オースターはウェイン・ワン監督と親交を深め、映画「スモーク」の脚本を書き下ろし、ハーヴェイ・カイテルやフォレスト・ウィテカーなどのキャストの選定もポール・オースターが行ったそうです。
オーギーがポールにクリスマス・ストーリー(盲目のおばあさんとの話)を語る店は実在する惣菜屋で、この店での撮影に3日間もかかり、ポール・オースターはハーヴェイ・カイテルにセリフの一字一句変えることを禁じたとのこと。結果、このクリスマス・ストーリーを語るシーンが、ハーヴェイ・カイテルの演技の見せ処となったように思います。
また、ポール・オースターが1987年の『ニューヨーク三部作』(City of Glass, Ghosts, The Locked Room)の発表から5年後の1992年に発表した原作(Auggie Wren's Christmas Story)は、柴田元幸訳、タダジュン絵で『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』('21年/スイッチパブリッシング)とし
て翻訳されています(絵本だが、原文は全部生かしている)。タダジュン氏のモノクロの絵がいい感じです。原作はポールの視点で描かれており、ニューヨーク・タイムズからクリスマスの朝刊に載せる短編を書かないかといわれ引き受けたものの、「クリスマス・スートリー」なんて書けないと悩んでいたという、作家ポール・オースター自身の経験を裏返しにして活かしています。「銀行強盗の流れ弾で妻を亡くした」とかはもちろん"脚本家ポール・オースター"としての創作ですが。原作では「銀行強盗の流れ弾で妻を亡くした」という話そのものが無く、これは映画のオリジナルです(ラシード少年の話なども原作には無い話で、原作では少年そのものが登場しない)。
物語の中で、最後は、ポールはオーギーの盲目のおばあさんとの話は全部でっち上げではないかとも思いますが、彼の話を信じることにし、「誰か一人でも信じる人間がいる限り、本当でないない物語などありはしないのだ」として、小説のネタをくれたオーギーに感謝します。ある意味、「虚構」が入れ子構造になっているとも言え、「虚構の中にこそ真実がある」という作家のメッセージのように思いました。
因みに、村上春樹氏・柴田元幸氏の共著の『
フォレスト・ウィテカー/ストッカード・チャニング/アシュレイ・ジャッド/エリカ・ギンペル/ジャレッド・ハリス/ヴィクター・アルゴ●日本公開:1995/10●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:新宿武蔵野館(24-06-05)((評価:★★★★)
満月の夜、女優を夢見るマムラカット(チュルパン・ハマートヴァ)は森で舞台俳優と名乗る男に声をかけられて互いに結ばれ
る。その後体の変調に気づいたマムラカットは村の医師を訪ねたものの、医師は流れ弾に当たって死ぬ。仕方なく父親(アト・ムハメドシャノフ)に妊娠を打ち明けるが、激怒した父親は戦争で精神を病んだ息子ナスレディン(モーリッツ・ブライプトロイ
)と彼女を引き連れて相手の男捜しに東奔西走。道中、困窮した状況を察したマムラカットは、売血を試みるが、ひょんなことから何もせずに金を貰えることに。村に帰ると、父親がわからない子を妊娠した彼女への村人からの罵倒が絶えず、一人村を出て列車に乗り込むマムラカットは、車内で売血の際に会った男と再会する。将来を悲観したマムラカットにその男は結婚を申し
出る。そして結婚式。だが晴れの舞台は一転し、新郎と父親の頭上に何故か空から牛が降ってきて直
撃、二人は湖にら落下して溺死するという悲劇に。後に月夜の男が判明。しかし、その男は、飛行機から牛を突き落とした男でもあった。怒ったマムラカットがその男に銃口を向けると、男は恐怖のあまり昏睡状態になる。兄ナスレディンは村人たちの怒号に追い詰められた妹のマムラカットを石垣の上に建つ家に逃す。するとその家の天井についた扇風機がプロペラとなり―。
「ルナ・パパ」は、バフティヤル・フドイナザーロフ監督による1999年公開のファンタジックなドラマ。1999年の東京国際映画祭で上映され、「最優秀芸術貢献賞」を受賞した作品です。キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンの三か国の国境が接する地域(グーグルマップで見ると、この辺りは国境が入り組んでいて、確かに作品に出てきた大きな湖もある)に3.5キロメートルにも及ぶ広大なセット建てて撮られた作品そうで、吹きさらしの荒野、西部劇みたいな舞台は、無声映画時代の(「
出てくる人びとが皆何かにつけて"過剰"で、予想だにつかないことが次から次へと起き、まったく先が読めない展開で飽きさせませんでした。終盤は、風刺の色合いを強めるとともに、一気にファンタジスティックな展開へ。でも、一方で、そ
こまでにリアリズムを積み上げているから、それだけファンタジーの効果があるのでしょう。ラスト、「心の狭い人たちよ、さようなら」と語り手の「(母親の胎内にいる)ボク」は言い残して、「家」は、「天空の城 ラピュタ」の如く舞い上がります。
真摯なヒロインのマムラカット(「大地」「祖国」という意味らしい)を演じたソビエト連邦生まれのロシアの女
優チュルパン・ハマートヴァが良く、彼女はその後、ヴォルフガング・ベッカー監督の「グッバイ、レーニン!」('03年/独)や、2021年のカンヌ国際映画祭に出品されたキリル・セレブレニコフ監督の「インフル病みのペトロフ家」(露・仏・スイス・独)などにも出演。2022年2月にロシアがウクライナに侵攻した際にはラトビアに滞在しており、戦争に反対する請願に署名。その後ロシアへの帰国を断念し、3月20日に亡命を決断したことを公表しています。
「ルナ・パパ」●原題:LUNA PAPA●制作年:1999年●制作国:ドイツ・オーストリア・日本●監督:バフティヤル・フドイナザーロフ●製作:カール・バウムガートナー/ ヘインツ・ストゥサック/ イーゴリ・トルストノフ/トマス・コーファー/フィリップ・アブリル●脚本:バフティヤル・フドイナザーロフ/イラー・クリナザーロフ●撮影:マーティン・グシュラハト/ドゥシャン・ヨクシモビッチ/ロスチスラフ・ピルーモフ●
音楽:ダーレル・ナザーロフ●時間:108分●出演:チュルパン・ハマートヴァ/モーリッツ・ブラウプトロイ/アト・ムハメドシャノフ/ポリーナ・ライキナ/メラーブ・ミニッゼ●日本公開:200/07●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-04-04)((評価:★★★★)
内戦状態にある中央アジア・タジキスタンの首都ドゥシャンベで、ロープウェイの操縦士として働く青年ダレル(ダレル・マジダフ)。一方、モスクワから久々にドゥシャンベに帰ってきた女性ミラ(パウリーナ・ガルベス)は、父が
賭博で作った借金のかたにされてしまう。街で銃声が鳴り響く中、都会的なミラに一目惚れしたダレルは彼女の愛を獲得するべく突き進むが―。
1993年公開のタジキスタンのバフティヤル・フドイナザーロフ監督(1965-2015/49歳没)作で、長編デビュー作「少年、機関車に乗る」('91年/タジキスタン・ソ連)で国際的に注目された同監督の長編第2作であり、内戦下のタジキスタンを舞台に若い男女の不器用な恋の行方を綴ったラブストーリー。1993年・第50回「ヴェネツィア国際映画祭」で銀獅子賞を受賞しています。
因みにタジキスタンは、1991年のソ連の崩壊でタジキスタン共和国として独立したのですが、独立直後から共産党勢力とイスラム勢力の内戦状態が長く続き、最終和平合意が成立したのは1997年6月で、この間、内戦により約6万人が死亡したと言われています。
タイトルの「コシュ・バ・コシュ」は、タジクの賭博用語で"勝ち負けなし"という意味だそうで、ここでは主人公の青年の恋模様を象徴していると思われます。一方の、主人公の女性は
、最後に「父の死」という哀しい思いをすることになりますが、気づいてみれば、そうした辛いことばかりではなかったことが示唆されています(彼女にとっても"勝ち負けなし"か)。ということで、一応はアンハッピーエンドな面もありながら、ハッピーエンドでもあると言えるのですが、実態としては結局父親の負債は、それを肩代わりした青年に引き継がれているだけなので、これから先も二人は大変だなあと(この青年もギャンブルで取り返そうと考えているところからすると依存症? かつての賭博仲間が誰も相手にしてくれないのは、誰もがトラブルに巻き込まれたくないからか)。
冒頭の女性の父親らが賭けをやる場面が迫真の演技で、この監督の演出力にただならぬものを感じました。青年の飄々とした雰囲気も良かったです。でも、将来がちょっと心配(笑)。砲火の音が響く一方で(実際に撮影の後半は内戦が激化した時期だったとのこと)、淡々と続く人々の生活を牧歌的なムードの中に描き、戦時下での恋、ロープウェイでのデートと、"愛は時や場所を選ばず"という主題を上手く浮き彫りにしていたように思います。
撮影に使われたロープウェイは、グーグルマップで検索すると今もあるみたいですが、観光用で使われているのかどうかはよくわかりません(そう言えば、この映画では、ロープウェイで干し草とか運んでいたけれど、観光客らしきはまったく出てこなかった)。個人的には、前エントリーで取り上げた「
「コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って」●原題:KOSH BA KOSH●制作年:1993年●制作国:タジキスタン●監督:バフティヤル・フドイナザーロフ●脚本:バフティヤル・フドイナザーロフ/レオニード・マフカーモフ●撮影:ゲオルギー・ザラーエフ●音楽:アフマド・バカエフ●時間:96分●出演:パウリーナ・ガルベス/ダレル・マジダフ/ボホドゥル・ジュラバエフ/アルバルジ・バヒロワ/ナビ・ベグムロドフ/ラジャブ・フセイノフ/ズィーズィデン・ヌーロフ●日本公開:1994/08●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-04-02)((評価:★★★★)


「四月十六日の朝、医師ベルナール・リウーは、診察室からでかけようとして、階段口のまんなかで、一匹の死んだ鼠につまずいた」―。アルベール・カミュが第二次大戦後まもない1947年に発表した小説で、194X年のアルジェリアの人口二十万人の港町オランが舞台(オランはアルジェリア北西部に位置する同国第二の人口(2008年現在683,000人)を持つ都市で、観光名所である)。大流行する感染症のペストに対して、人々が何の手も打てず、死者が増え続ける。絶望の淵で、思想も立場も異なる人たちが手を携え感染症という不条理に抗う様子を描いています。
このカミュの『ペスト』は、新型コロナウイルスが猛威を奮う中で空前のヒットとなった作品でもあります。新潮文庫版は2020年だけで過去の販売総数を超えてしまったといい、岩波文庫(三野博司:訳)や光文社古典新訳文庫(中条省平:訳)でも新訳が刊行され、中条省平氏監修の『

このカミュの『ペスト』も、1992年に「プレイグ」(plague、ペストの英語表現)として映画化されています。舞台を現代の南米の架空の小都市(市の名前は原作と同じ)に移し、エイズをはじめとする時代状況の変化に即した新たな解釈が付け加えられていますが、原作にほぼ忠実に映像化されていると言えます。監督・脚本はアルゼンチン・ブエノスアイレス出身のルイス・プエンソ。音楽は、「炎のランナー」「ブレードランナー」などのヴァンゲリス。出演はウィリアム・ハート(リウー医師)、ロバート・デュヴァル(グラン
ト老人・原作の喘息病みの爺さんに相当する役か)ほか、「

の意図した事が不明瞭なまま雰囲気だけ盛りたてて先に進んでしまう、かなり一人よがりな印象も。やはり、原作の不条理的テーマというのは映画では伝わりにくいものだったかもしれません(あらすじを再確認するにはまずまずだった)。
サンドリーヌ・ボネール 

「アダムス・ファミリー」●原題:THE ADDAMS FAMILY●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:バリー・ソネンフェルド●製作:スコット・ルーディン●脚本:キャロライン・トンプソン/ラリー・ウィルソンソ●撮影:オーウェン・ロイズマン●音楽:マーク・シャイマン(主題歌:M.C.ハマー)●原作(キャラクター創造):チャールズ・アダムス●時間:100分●出演:アンジェリカ・ヒューストン/ラウル・ジュリア/クリストファー・ロイド/クリスティーナ・リッチ/ジュディス・マリナ/ダナ・アイヴィ/カレル・ストルイケン/ダン・ヘダヤ/ポール・ベネディクト/エリザベス・ウィルソン/ジョン・フランクリン●日本公開:1992/04●配給:COLTRI(コロンビア・トライスター映画)(評価:★★☆)
「アダムス・ファミリー2」●原題:THE ADDAMS FAMILY VALUES●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:バリー・ソネンフェルド●製作:スコット・ルーディン●脚本:ポール・ラドニック●撮影:ドナルド・ピーターマン●音楽:マーク・シャイマン(主題歌:Addams Family (WHOOMP!))●原作(キャラクター創造):チャールズ・アダムス●時間:94分●出演:アンジェリカ・ヒューストン/ラウル・ジュリア/クリストファー・ロイド/ジョーン・キューザック/クリスティーナ・リッチ/キャロル・ケイン/ダナ・アイヴィ/ジョン・フランクリン/ジョーン・キューザック/メルセデス・マクナブ/デヴィッド・クラムホルツ/ピーター・マクニコル/クリスティーン・バランスキー/ネイサン・レイン/トニー・シャルーブ/シンシア・ニクソン/デヴィッド・ハイド・ピアース/バリー・ソネンフェルド●日本公開:1993/12●配給:ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ(評価:★★☆)
南米の小都市オラン。政局が混乱し、特別警戒体制にあるこの地を取材すべく、フランスのテレビ局からカメラマンのタルー(ジャン=マルク・バール)とニュースキャスターのマルティーヌ(サンドリーヌ・ボネール)が訪れていた。マルティーヌはある時、ホテルのエレベーター内で鼠を見つけ、まもなく泡を吹いて死んだのを目撃する。やがて激しい悪寒と嘔吐の末に死ぬ人々が続出し、オランの街は静かな死の恐怖に包まれた。医師のリウー(ウィリアム・ハート)は、早くからそれをペストによるものだと判断。ペスト発生のニュースを隠すよう要請する市行政部の意見に真っ向から反対し、軍隊を呼んで街を閉鎖すべきだと主張する。街は完全に封鎖され、タルーは特ダネのチャンスだと意気込むが、恋人をパリに残すマルティーヌは街から脱出しようと決心する。彼女はその工作のため、暗黒街とつながりのある男コタール(ラウル・ジュリア)と接触する。その間にも犠牲者は増え続け、3人は罪なき聖歌隊の少年が、死の床で短い命を散らすところに立ち会った。教会で人々の改悛を説いていたパヌルー神父は、この不条理な死を受け入れがたく、苦悩した末にペスト患者の死体を埋葬する穴に赴き、自らの体を横たえる。さらにリウーの友人で気のいい老役人グラント(ロバート・
デュヴァル)も病に倒れ、マルティーヌはベッドに横たわる瀕死の彼を見舞う。タルーとマルティーヌは街に残り、ボランティアとしてリウーに協力した。だが、マルティーヌは隔離所に収容されてしまい、タルーは自分がペストに罹ったことを知る。やがてペストの猛威も終息に向かう。グラントは一命を取り留め、タルーも快方に向かい、マルティーヌも隔離所から開放された。オランの人々が笑顔を取り戻した頃、狂気にとらわれたコタールが部屋に立て籠り、「ペストはまだ終わっていない、いつかまたやって来るぞ」と叫び、通りに向けて無差別に発砲した。リウーが説得に当たったが、群衆を守ろうとしたタルーが撃たれた。リウーは瀕死の彼を抱いて泣いた。
〈第1話:7時のランデブー〉法学部の学生エステル(クララ・ベラール)は試験を控えているが、恋人のオラス(アントワーヌ・バズレル)が自分に会わない日の7時ごろにカフェで別の女の子とデートしているという話
を聞かされて勉強も手につかない。朝、市場で買い物中のクララは見知らぬ男に愛を告白され、ふと思いついてオラスがデートしていたという例のカフェに夜7時に来るように言う。その直後彼女は財布がないのに気づき、さてはあの男にスラれたと思う。夕方、アリシー(ジュディット・シャンセル)という女の子が財布を拾って届けてくれた。彼女は7時に例のカフェで待ち合わせがあるというので、エステールも件のスリとの待ち合わせの話をして一緒に行く。予想どおり、アリシーのデートの相手はオラスだった。エステルは彼に愛想が尽きる。アリシーも事態を察して去ると、そのテーブルに朝の市場の青年が腰掛け、人を待つ風でビールを注文する―。
「
〈第2話:パリのベンチ〉彼(セルジュ・レンコ)は郊外に住む文学教師、彼女(オロール・ローシェール)は同棲中の恋人が別にいるらしい。9月から11月にかけて、二人はパリの随所にある公園でデートを重ねる。彼は彼女
を自宅に連れていきたいが、彼女は貴方の同居人がいやといって断る。彼女の恋人が親類の結婚式で留守にするとかで、彼女は観光客になったつもりでホテルに泊まろうと提案する。いざ目的のホテル前で、彼女は恋人が別の女とホテルに入るのを見る。別れるのは今がチャンスという彼に、彼女は「恋人がいなければあなたなんて必要ないわ」と言う―。
第1話と対照的に第2話は完全に女性上位。主人公の彼女の好みで、デートの場所はいつも外で、場所も彼女が指定するのですが、それが、9月30日 サン=ヴァンサン墓地、10月14日 ベルヴィル公園、10月21日 ヴィレット公園、11月12日 モンスリ公園、11月18日 トロカデロ庭園、11月25日 オートゥイユ庭園...といった具合に日記風に展開されていき、映画自体がパリの公園巡りみたいになっています(笑)。ラストに決定的な女性のエゴを見せつけられた気がしますが、第1話と違って、この女性が嫌になると言うより(好きにもならないが)、男女の関係というものの複雑さを感じさせ、意外と深いエピソードだったようにも思います。
〈第3話:母と子1907年〉ピカソ美術館の近くに住む画家(ミカエル・クラフト)は、知人からスウェーデン人女性(ヴェロニカ・ヨハンソン)を紹介されていた。彼は自分を訪ねて来た彼女をピカソ美術館に連れていく。自分は美術館に入らず、8時に会う約束をしてアトリエに帰るその途中、彼は若い女(ベネディクト・ロワイヤン)とすれ違い、彼女を追って美術館に入る。彼女は「母と子1907年」の前に座る。彼はスウェーデン女性と合流し、そ
の名画の前で例の女性にわざと聞こえるように絵の講釈を始める。彼女が席を立ち、彼は慌てて別れを告げて女を追って美術館を出て、道で声をかける。彼女は自分は新婚で夫は出版業者、今度出る画集の色を原画と比べに来たのだという。彼はめげず、彼女も興味を覚えて彼の絵を見にアトリエに行く。二人は絵画談義を交わし、結局何もないまま女は去る。画家はしばし絵筆を取って作品に手を加え、スウェーデン女性との待ち合わせの場所に行く。だが時間が過ぎても女は現れない。家に帰った画家は絵の中の人物を一人完成させ、呟く。「それでも今日一日まったく無駄ではなかった」と―。
ベネディクト・ロワイヤンの《美術女》ぶりがいいですが、元々は人気モデルで、映画出演はあまりないみたい。スウェーデン人女性=のヴェロニカ・ヨハンソンも同じくモデル系でしょうか(皆が振り返るような振るには勿体ない美人だと思ったら、最後は女の方が男を振ったのか)。こうした演技経験の浅い人を使うところがエリック・ロメールらしく、先に挙げた濱口竜介監督はそうした部分においてもこれに倣っていて、「
各話の頭にアコーディオン弾きと歌い手の2人組が出てくるのは、ルネ・クレール監督の「巴里の屋根の下」へのオマージュでしょう。各話を繋いでいく辺りも演出方法そうですが、エリック・ロメール監督自身、先駆者の影響を受けているのだなあと改めて思いました。
濱口竜介監督は演出においてひたすら「本読み」をやることで知られていますが、エリック・ロメール監督がそうであり、さらに遡るとジャン・ルノワール監督もそう。濱口監督によれば、エリック・ロメールは演技経験のない人とそれをやることを好み、ジャン・ルノワールはプロフェッショナルの役者とそれをやることを好んだそうです。濱口監督の場合、経験のない人とは「



シネヴィヴァンは独自に映画パンフレットを作っていて、ロベール・ブレッソン監督の「

パリの南西部ヴァンデ県サン=ジュイールの市長ジュリアン(パスカル・グレゴリー)は、村の原っぱに、図書館とCD・ビデオのライブラリー、野外劇場、プールを備えた総合文化センターを建設しようと考えていた。だが、この計画は周囲の賛同を得られないでいる。ジュリアンの恋人で、根っからのパリっ子である小説家のベレニス(アリエル・ドンバール)も「文化会館なんて必要かしら」と少々懐疑的
。村のエコロジストの小学校教師マルク(ファブリス・ルキーニ)は、烈火のごとく怒る。ジュリアンにインタビューした女性ジャーナリストのブランディーヌ(クレマンティーヌ・アムルー)のルポは編集長(フランソワ・マリー・バニエ)の独断で、マルクを中心としたエコロジー特集になってしまう。そんなある日、偶然にマルクの娘ゾエ(ギャラクシー・バルブット)とジュリアンの娘ヴェガ(ジェシカ・シュウィング)が出会って友達となり、ゾエは市長に「文化会館よりみんなが集まって楽しめる広場がいいわ」と訴える。結局、予定地の地盤が弱いことが判明し、建設は中止となった。代わりにジュリアンは広大な土地を開放し、そこは人々の憩いの広場となった―。
アリエル・ドンバールをたっぷり観られる映画でもあります。市長ジュリアン役のパスカル・グレゴリーは、「海辺のポリーヌ」('83年)ではアリエル・ドンバールに袖にされる役でしたが、10年後のこの作品では恋人同士の役。パスカル・グレゴリーは、最近では婁燁(ロウ・イエ)監督の 「
文化会館設立反対派の教師マルクを演じたのはファブリス・ルキーニで、「レネットとミラベル 四つの冒険」('87年)の第4話「絵の売買」の画廊の主人役などエリック・ロメール監督の常連。最近ではフランソワ・オゾン監督のコメディ映画「
「木と市長と文化会館 または七つの偶然」●原題:L'ARBRE, LE MAIRE ET LA MEDIATHEQUE OU LES HASARDS(英:THE TREE, THE MAYOR AND THE MEDIATHEQUE)●制作年:1993年●制作国:フランス●監督・脚本:エリック・ロメール●製作:フランソワーズ・エチュガレー●撮影:ディアーヌ・バラティエ●音楽:エリック・ロメール●時間:105分●出演:パスカル・グレゴリー/アリエル・ドンバール/ファブリス・ルキーニ/クレマンティーヌ・アムルー/フランソワ・マリー・バニエ/ジャン・パルヴュレスコ/フランソワーズ・エチュガレー/ギャラクシー・バルブット/ジェシカ・シュウィング/レイモンド・ファロ/マヌエラ・ヘッセ●日本公開:1994/04●配給:シネセゾン●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-02-28)((評価:★★★☆)
ロサンゼルス 若い女性タクシー運転手コーキー(ウィノナ・ライダー)は、空港で出会ったビバリーヒルズへ行こうとしている中年女性ヴィクトリア(ジーナ・ローランズ)を乗せる。映画のキャスティング・ディレクターであるヴィクトリアは、新作に出演する女優を探し出すのに手を焼いていた。口は汚いがチャーミングなコーキーに可能性を感じたヴィクトリアはある提案をする―。
ウィノナ・ライダー(当時19歳)がいい。こうした役を演じつつ、2年後のマーティン・スコセッシ監督の「エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事」('93年/米)で伝統主義的な貴族の娘を演じて「ゴールデングローブ賞助演女優賞」を受賞しているからスゴイ。2001年に窃盗罪で逮捕され有罪となりキャリアが途切れかかったが、何とかつながった(10代の頃に境界性パーソナリティ障害を患っていたということと関係しているのか)。ジーナ・ローランズが佇むラストの余韻もいい。
ニューヨーク 寒い街角で、黒人の男ヨーヨー(ジャンカルロ・エスポジート)はブルックリンへ帰るためタクシーを拾おうとするが、なかなか捕まらない。ようやく捕まえたタクシーを運転していたのは、東ドイツからやってきたばかりのヘルムート(アーミン・ミューラー=スタール)。しかし彼は英語がうまく話せず、その上オートマ車の運転もろくにできない。降りようにも降りられないヨーヨーは、自分でタクシー
を運転する―。
パリ 大使に会いに行くという黒人の乗客2人の態度に腹を立てたコートジボワール移民のタクシー運転手(イザック・ド・バンコレ)は、我慢ならず途中下車させてしまう。そこに若い盲目の女(ベアトリス・ダル)が乗車する。当初、運転手は気が強く態度の大きい女に苛立っていたが。だが、彼は晴眼者の
自分以上に鋭い感覚を持つ女には物事の本質が的確に見えているように思え、何とも言い難い強い印象を受ける―。
ローマ 1人で無線相手にうるさく話しかけるタクシー運転手ジーノ(ロベルト・ベニーニ)は神父(パオロ・ボナチェリ)を乗せる。そして、せっかく神父を乗せたのだからと勝手に懺悔し始めるが、その内容は傍から見ればハレンチな艶笑話ばかり。神父は心臓が悪く薬を飲もうとするが、ジーノの乱暴な運転のせいで薬を落としてしまう。仕方なく神父は、我慢してジーノの"懺悔"を聞き続ける―。
ロベルト・ベニーニが可笑しい。ジム・ジャームッシュ監督の「
ヘルシンキ 凍りついた街で無線連絡を受けたタクシー運転手ミカ(マッティ・ペロンパー)。待っていたのは酔っ払って動かない3人の労働者風の男。その中の1人アキは酔い潰れていて車に乗ってからも眠っているが、残る2人はミカに、今日がアキにとってどれほど不幸な1日かを高らかに語り始める。しかし、ミカは今、アキとは比べ物にならないほどに不幸であるがために、彼らの話に動じることは
なかった―。
「ナイト・オン・ザ・プラネット」●原題:NIGHT ON EARTH●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:ジム・ジャームッシュ●撮影:フレデリック・エルムス●音楽:トム・ウェイツ●時間:129分●出演:(ロサンゼルス)ウィノナ・ライダー/ジーナ・ローランズ/(ニューヨーク)アーミン・ミューラー=スタール/ジャンカルロ・エスポジート/アンジェラ - ロージー・ペレス/(パリ) イザック・ド・バ
ンコレ/ベアトリス・ダル/(ローマ)ロベルト・ベニーニ/パオロ・ボナチェリ/(ヘルシンキ) マッティ・ペロンパー/カリ・ヴァーナネン/サカリ・クオスマネン/トミ・サルミラ●日本公開:1992/04●配給:フランス映画社(評価:★★★★)●最初に観た場所[再見]:シネマート新宿(スクリーン2)(24-03-08)



第1章のミニシアターというものが未知数だった「80年代」のトップは新宿「シネマスクエアとうきゅう」(81年12月、歌舞伎町「東急ミラノビル」3Fにオープン)。企業系ミニシアターの第1号で、1席7万円の椅子が売り物でした。柳町光男のインディペンデント作品「
が16週上映(コピーは"中世は壮大なミステリー"。教養映画風だが実はエンタメ映画)、今で言うストーカーが主人公で、買い手がつかなかったのを買い取ったというパトリス・ルコントの「
六本木「俳優座シネマテン」(81年3月、「俳優座劇場」内にオープン)の「テン」は夜10時から映画上映するためだけでなく、ブレイク・エドワーズのコメディ「テン」(79)から
とったとのこと。トリュフォーの、フランスの文豪ヴィクトル・ユーゴーの次女アデルの狂気的な恋の情念を描いた「アデルの恋の物語」(75)はここでした。ルキノ・ヴィスコンティが看板監督で、「地獄に堕ちた勇者ども」(69)や「
81年オープンのもう1館は、渋谷「パルコ・スペース・パート3」。ヴィスコンティの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(43)(ヴィスコンティの処女作。原作はアメリカのハードボイルド作家ジェームズ・M・ケイン。映画での舞台は北イタリア、ポー河沿いのドライブイン・レストランに。ファシスト政権下でオールロケ撮影を敢行した作品)、「
行機でやってきて、ホテルに泊まり1週間通い詰めた人もいたとのこと。カルトムービーとインディーズのメッカでもあり、日本では長年オクラだった「ピンク・フラミンゴ」(72)は、86年に初めてここで正式上映されたとのこと、個人的には84年に「アートシアター新宿」で観ていましたが、その内容は正直、個人的理解を超えていました。99年に映画常設館「CINE QUINTO(シネクイント)」となり、これは第2章で「シネクイント」として取り上げられています。個人的には、初期の頃観た作品では、フランスの女流監督コリーヌ・セローの「彼女と彼たち-なぜ、いけないの-」(77)、チェコスロバキアのカレル・スミーチェクの「少女・少女たち」(79)、台湾の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の「
「シネヴィヴァン六本木」(83年11月「WAVEビル」地下1階にオープン)は、オープン2本目でゴッドフリー・レジオ監督の「コヤニスカッティ」(82)を上映、アメリカの大都市やモニュメントバレーなどを映したイメージビデオ風ドキュメンタリー。コヤニスカッティとはホピ族の言葉で「平衡を失った世界」。延々と続いた早回しシーンがスローモーションに転じた途端に眠気に襲われました。アンドレイ・タルコフスキー監督の「ノスタルジア」(83)が84年に7週間上映、ビクトル・エリセ監督の「
監督の「
「ユーロスペース」(82年、渋谷駅南口桜丘町「東武富士ビル」2Fにオープン)は、85年6月のデヴィッド・クローネンバーグ監督の「
ーヴン・キング原作の「
「シャンテ・シネ」(87年、日比谷映画跡地にオープン)は、今の
「TOHOシネマズ シャンテ」。ここの大ヒット作は何と言っても88年公開の「ベルリン・天使の詩」(87)で、30週のロングランという単館ロード全体の記録を打ち立てたとのこと(動員数は16.6万人)。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の「
「シネスイッチ銀座」(87年にオープン)は、個人的には前身の「銀座文化劇場・銀座ニュー文化」さらに「銀座文化1・2」の頃から利用していましたが、"シネスイッチ"は、洋画と邦画の2チャンネルを持つという意味でのネーミングだそうで、ジェームズ・アイヴォリーの「
第2章のブームの到来の「90年代」のトップは渋谷「シネマライズ」(86年6月、渋谷 スペイン坂上「ライズビル」地下1階にオープン)。劇場の認知度を上げたのは86年7月公開のトニー・リチャードソンの「
2011年に閉館した「シネセゾン渋谷」 (85年11月、渋谷道玄坂「ザ・プライム渋谷」6Fにオープン)はリバイバル上映に個性があり、市川崑の「
「ル・シネマ」(89年9月、渋谷道玄坂・Bunkamura6階にオープン)の方は東急系で、92年にかけられたジャック・リヴェット監督(原作はバルザック)のフランス映画「
主演の「花の影」(96)も17週上映、今世紀に入ってからは、張藝謀(チャン・イーモウ)監督、チャン・ツィイー主演の「
「恵比寿ガーデンシネマ」(94年10月、恵比寿ガーデンテラス弐番館内にオープン)は、ポール・オースター原作、ウェイン・ワン監督の、ニューヨークのタバコ屋の人間模様を描いた「スモーク」(95)のような渋い作品をやっていました。個人的には、ロイ・アンダーソンの「
第2章の最後は、「岩波ホール」(68年オープン、74年から映画常設館に)。サタジット・レイ「
4年2月にロードショー。4週間後にホールは満席になったといいます(因みに、サタジット・レイの「大地のうた三部作」のうち「大河のうた」は結末がハッピーエンドでないため、インドでも興行上は振るわなかった)。その後も、75年にルネ・クレールの「

「隣の女」●原題:LA FEMME DA'COTE(英:THE WOMAN NEXT DOOR)●制作年:1981年●制作国:フランス●監督:フランソワ・トリュフォー●製作:フランソワ・トリュフォー/シュザンヌ・シフマン●脚本:フランソワ・トリュフォー/シュザンヌ・シフマン/ジャン・オーレル●撮影:ウィリアム・ルプシャンスキー●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:107分●出演:ジェラール・ドパルデュー/ファニー・アルダン/アンリ・ガルサン/ミシェル・ボートガルトネル/ヴェロニク・シルヴェール/ロジェ・ファン・ホール/オリヴィエ・ベッカール●日本公開:1982/12●配給:東映ユニバースフィルム●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-10-01)(評価:★★★)●併映:「アメリカの夜」(フランソワ・トリュフォー)/「終電車」(フランソワ・トリュフォー)
「アメリカの夜(映画に愛をこめて アメリカの夜)」●原題:LA NUIT AMERICAINE(英:DAY FOR NIGHT)●制作年:1973年●制作国:フランス●監督・脚本:フランソワ・トリュフォー●製作:マルセル・ベルベール●撮影:ピエール=ウィリアム・グレン●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:115分●出演:ジャクリーン・ビセット/ヴァレンティナ・コルテーゼ/ジャン=ピエール・オーモン/ジャン=ピエール・レオ/アレクサンドラ・スチュワルト/フランソワ・トリュフォー/ジャン・シャンピオン/ナタリー・バイ/ダニ/ベルナール・メネズ●日本公開:1974/09●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-10-01)(評価:★★★☆)●併映:「隣の女」(フランソワ・トリュフォー)/「終電車」(フランソワ・トリュフォー)
「終電車」●原題:LE DERNIER METRO(英:THE LAST METRO)●制作年:1980年●制作国:フランス●監督:フランソワ・トリュフォー●製作:マルセル・ベルベール●脚本:フランソワ・トリュフォー/シュザンヌ・シフマン●撮影:ネストール・アルメンドロス●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:134分●出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ジェラール・ドパルデュー/ジャン・ポワレ/ハインツ・ベネント/サビーヌ・オードパン/ジャン=ルイ・リシャール/アンドレア・フェレオル/モーリス・リッシュ/ポーレット・デュボスト/マルセル・ベルベール●日本公開:1982/04●配給:東宝東和●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-10-01)(評価:★★★)●併映:「アメリカの夜」(フランソワ・トリュフォー)/「終電車」(フランソワ・トリュフォー)
「薔薇の名前」●原題:LE NOM DE LA ROSE●制作年:1986年●制作国:フランス・イタリア・西ドイツ●監督:ジャン=ジャック・アノー●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:アンドリュー・バーキン●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:ジェームズ・ホーナー●原作:ウンベルト・エーコ●時間:132分●出演:ショーン・コネリー/クリスチャン・スレーター/F・マーリー・エイブラハム/ロン・パールマン/フェオドール・シャリアピン・ジュニア/エリヤ・バスキン/ヴォルカー・プレクテル/ミシェル・ロンスダール/ヴァレンティナ・ヴァルガス●日本公開:1987/12●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所(再見):新宿武蔵野館(23-04-18)(評価:★★★)
「赤い影」●原題:DON'T LOOK NOW●制作年:1973年●制作国:イギリス・イタリア●監督: ニコラス・ローグ●製作:ピーター・カーツ●脚本:アラン・スコット/クリス・ブライアント●撮影:アンソニー・B・リッチモンド●音楽:ピノ・ドナッジオ●原作:ダフニ・デュ・モーリエ「いまは見てはだめ」●時間:110分●出演:ドナルド・サザーランド/ジュリー・クリスティ
/ヒラリー・メイソン/クレリア・マタニア/マッシモ・セラート/レナート・スカルパ/ジョルジョ・トレスティーニ/レオポルド・トリエステ●日本公開:1983/08●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所:新宿・シネマスクエアとうきゅう(83-09-11)(評価:★★★)
「マーラー」●原題:MAHLER●制作年:1974年●制作国:イギリス●監督・脚本:ケン・ラッセル●製作:ロイ・ベアード●撮影:ディック・ブッシュ●音楽:グスタフ・マーラー/リヒャルト・ワーグナー/ダナ・ブラッドセル●時間:115分●出演:ロバート・パウエル/ジョージナ・ヘイル/リー・モンタギュー/ロザリー・クラチェリー●日本公開:1987/06●配給:俳優座シネマテン=フジテレビ●最初に観た場所:新宿・シネマスクエアとうきゅう(87-06-21)(評価:★★★)
「ケレル(ファスビンダーのケレル)」●原題:QUERELLE●制作年:1982年●制作国:西ドイツ/フランス●監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー●脚本:
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー/ブルクハルト・ドリースト●撮影: クサファー・シュヴァルツェンベルガー/ヨーゼフ・バブラ●音楽:ペール・ラーベン●原作:ジャン・ジュネ『ブレストの乱暴者』●時間:108分●出演:ブラッド・デイヴィス/ジャンヌ・モロー/フランコ・ネロ/ギュンター・カウフマン/ハンノ・ポーシェル●日本公開:1985/05●配給:人力飛行機舎=デラ●最初に観た場所:新宿・シネマスクエアとうきゅう(88-05-28)(評価:★★★?)
「アデルの恋の物語」●原題:L'HISTOIRE D'ADELE H.(英:THE STORY OF ADELE H.)●制作年:1975年●制作国:フランス●監督・製作:フランソワ・トリュフォー●脚本:フランソワ・トリュフォー/ジャン・グリュオー/シュザンヌ・シフマン●撮影:ネストール・アルメンドロス●音楽:モーリス・ジョベール●原作:フランセス・ヴァーノア・ギール『アデル・ユーゴーの日記』●時間:96分●出演:イザベル・アジャーニ/ブルース・ロビンソン/シルヴィア・マリオット/ジョゼフ・ブラッチリー/イヴリー・ギトリス●日本公開:1976/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:大塚名画座(78-12-08)(評価:★★★★)●併映:「二十歳の恋」(フランソワ・トリュフォー/ロベルト・ロッセリーニ/石原慎太郎/マックス・オフュルス/アンジェイ・ワイダ)
「地獄に堕ちた勇者ども」●原題:THE DAMNED(独:Götterdämmerung)●制作年:1969年●制作国:イタリア・西ドイツ・スイス●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:アルフレッド・レヴィ/エヴェール・アギャッグ●脚本:ルキノ・ヴィスコンティ/ニコラ・バダルッコ/エンリコ・メディオーリ●撮影:アルマンド・ナンヌッツィ/パスクァリーノ・デ・サンティス●
音楽:モーリス・ジャール●時間:96分●出演:ダーク・ボガード/イングリッド・チューリン/ヘルムート・バーガー/ラインハルト・コルデホフ/ルノー・ヴェルレー/アルブレヒト・シェーンハルス/ウンベルト・オルシーニ/シャーロット・ランプリング/ヘルムート・グリーム/フロリンダ・ボルカン●日本公開:1970/04●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:大塚名画座(79-02-07)(評価:★★★★)●併映:「ベニスに死す」(ルキノ・ヴィスコンティ)
「カッコーの巣の上で」●原題:ONE FLEW OVER THE CUCKOO'S NEST●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ミロス・フォアマン●製作:ソウル・ゼインツ/マイケル・ダグラス●脚本:ローレンス・ホーベン/ボー・ゴールドマン●撮影:ハスケル・ウェクスラー●音楽:ジャック・ニッチェ●原作:ケン・キージー『カッコウの巣の上で』●時間:133分●出演:
ジャック・ニコルソン/ルイーズ・フレッチャー/マイケル・ベリーマン/ウィリアム・レッドフィールド/ブラッド・ドゥーリフ/クリストファー・ロイド/ダニー・デヴィート/ウィル・サンプソン●日本公開:1976/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:テアトル吉祥寺(82-03-13)(評価:★★★★)●併映:「ビッグ・ウェンズデー」(ジョン・ミリアス)
「光と影のバラード」●原題:Свой среди чужих, чужой среди своих(英題:AT HOME AMONG STRANGERS)●制作年:1974年●制作国:ソ連●監督:ニキータ・ミハルコフ●脚本:エドゥアルド・ボロダルスキー/ニキータ・ミハルコフ●撮影:パーベル・レベシェフ●音楽:エドゥアルド・アルテミエフ●時間:95分●出演:ユーリー・ボガトィリョフ/アナトリー・ソロニーツィン/セルゲイ・シャクーロフ/アレクサンドル・ポロホフシコフ/ニコライ・パストゥーホフ/アレクサンドル・カイダノフスキー/ニキータ・ミハルコフ●日本公開:1982/10●配給:日本海映画●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(82-11-21)(評価:★★★☆)
「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●原題:OSSESSIONE●制作年:1943年●制作国:イタリア●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:カミッロ・パガーニ●脚本:ルキノ・ヴィスコンティ/マリオ・アリカータ/ジュゼッペ・デ・サンティス/ジャンニ・プッチーニ●撮影:アルド・トンティ/ドメニコ・スカーラ●音楽:ジュゼッペ・ロゼーティ●原作:ジェームズ・M・ケイン●時間:140分●出演:マッシモ・ジロッティ/クララ・カラマイ/ファン・デ・ランダ/ディーア・クリスティアーニ/エリオ・マルクッツォ/ヴィットリオ・ドゥーゼ●日本公開:1979/05●配給:インターナショナル・プロモーション●最初に観た場所:池袋・文芸坐(79-09-24)(評価:★★★★)●併映:「家族の肖像」(ルキノ・ヴィスコンティ)
「ピンク・フラミンゴ」●原題:PINK FLAMINGOS●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本・撮影:ジョン・ウォーターズ●時間:93分●出演:ディヴァイン/ディビッド・ロチャリー/メアリ・ヴィヴィアン・ピアス●日本公開:1986/06●配給:東映=ケイブルホーグ●最初に観た場所:渋谷・アートシアター新宿(84-08-01)(評価:★★★?)●併映:「フリークス・神の子ら(怪物団)」(トッド・ブラウニング)
「彼女と彼たち-なぜ、いけないの-」●原題:POURQUOI PAS!●制作年:1977年●制作国:フランス●監督・脚本:コリーヌ・セロー●製作:ミシェル・ディミトリー●撮影:ジャン=フランソワ・ロバン●音楽:ジャン=ピエール・マス●時間:97分●出演:サミー・フレイ/クリスチーヌ・ミュリロ/マリオ・ゴンザレス/ニコル・ジャメ●日本公開:1980/11●配給:フランス映画社●最初に観た場所:渋谷・パルコスペース3(84-06-17)(評価:★★★★)
「寡婦(やもめ)の舞」●原題:과부춤(英:WIDOW DANCING)●制作年:1984年●制作国:韓国●監督:李長鍋(イー・チャンホ)●脚本:李長鍋(イー・チャンホ)/李東哲(イ・ドンチョル)/イム・ジンテク●撮影:ソ・ジョンミン●原作:李東哲(イ・ドンチョル)『五人の寡婦』●時間:114 分●出演:イ・ボイ(李甫姫)/パク・ウォンスク(朴元淑)/パク・チョンジャ(朴正子)/キム・ミョンコン(金明坤)/パク・ソンヒ/チョン・ジヒ/ヒョン・ソク/クォン・ソンドク/ソ・ヨンファン/イ・ヒソン●日本公開:1985/09●配給:発見の会●最初に観た場所:渋谷・パルコスペース3(「東京国際映画祭」)(85-06-02)(評価:★★★☆)
「ビジル」●原題:VIGIL●制作年:1984年●制作国:ニュージーランド●監督:ヴィンセント・ウォード●製作:ジョン・メイナード●脚本:ヴィンセント・ウォード/グレーム・テットリー●撮影:アルン・ボリンガー●音楽:ジャック・ボディ●時間:114 分●出演:ビル・カー/フィオナ・ケイ/ペネロープ・スチュアート/ゴードン・シールズ●日本公開:1988/02●配給:ギャガ・コミュニケーションズ●最初に観た場所:渋谷・パルコスペース3(85-06-02)(評価:★★★☆)
「コヤニスカッティ(コヤニスカッツィ)」●原題:KOYANISQATSI●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ゴッドフリー・レッジョ●製作:
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「暗殺の森」●原題:CONFORMISTA●制作年:1970年●制作国:イタリア・フランス・西ドイツ●監督・脚本:ベルナルド・ベルトリッチ●撮影:ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●原作:アルベルト・モラヴィア『孤独な青年』●時間:115分●出演:ジャン=ルイ・トランティニャン/ステファニア・サンドレッリ/ドミニク・サンダ/エンツォ・タラシオ●日本公開:1972/09●配給:パラマウント映画=CIC●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(84-06-21)(評価:★★★☆)
「闇のカーニバル」●制作年:1981年●●監督・脚本・撮影:山本政志●製作:伊地知徹生/山本政志●時間:118分●出演:太田久美子/桑原延亮/中島稔/太田行生/じゃがたら/遠藤ミチロウ/伊藤耕/中島稔/前田修/山口千枝●公開:1981/12●配給:CBC=斜眼帯●最初に観た場所:渋谷・ユーロスペース(83-07-16)●2回目:渋谷・ユーロスペース(88-07-09)(評価:★★★★)
「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」●原題:THE BROTHER FROM ANOTHER PLANET●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジョン・セイルズ●製作:ペギー・ラジェスキー/マギー・レンジー●撮影:アーネスト・ディッカーソン●音楽:メイソン・ダーリング●時間:110分●出演:ジョー・モートン/ダリル・エドワーズ/スティーヴ・ジェームズ/レナード・ジャクソン/ジョン・セイルズ/キャロライン・アーロン/デヴィッド・ストラザーン●日本公開:1986/05●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:ユーロスペース(86-06-14)(評価:★★★★)

「避暑地の出来事」●原題:A SUMMER PLACE●制作年:1959年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:デルマー・デイヴィス●撮影:ハリー・ストラドリング●音楽:マックス・
スタイナー●原作:スローン・ウィルソン『避暑地の出来事』●時間:131分●出演:リチャード・イーガン/ドロシー・マクガイア/トロイ・ドナヒュー/ サンドラ・ディー/アーサー・ケネディ●日本公開:1960/04●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:銀座文化劇場(84-06-21)(評価:★★★☆)
「酒とバラの日々」●原題:DAYS OF WINE AND ROSES●制作年:1962年●制作国:アメリカ●監督:ブレイク・エドワーズ●製作:マーティン・マヌリス●脚本:J・P・ミラー●撮影:フィル・ラスロップ●音楽:
「シャレード」●原題:CHARADE●制作年:1963年●制作国:アメリカ●監督:スタンリー・ドーネン●製作:マーティン・マヌリス●脚本:J・P・ミラー●撮影:フィル・ラスロップ●音楽:
ー・マッソー/ジョージ・ケネディ/ネッド・グラス●日本公開:1963/12●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●最初に観た場所:銀座文化劇場(88-04-16)(評価:★★★☆)

「レザボア・ドッグス」●原題:RESERVOIR DOGS●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督・脚本:クエンティン・タランティーノ●製作:ローレンス・ベンダー●撮影:アンジェイ・セクラ●音楽:カリン・ラクトマン●時間:100分●出演:ハーヴェイ・カイテル/ティム・ロス/マイケル・マドセン/クリス・ペン/スティーヴ・ブシェミ/ローレンス・ティアニー/クエンティン・タランティーノ●日本公開:1993/04●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所(再見):早稲田松竹(24-05-20)(評価:★★★★)●併映:「バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト」(アベル・フェラーラ)
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ルディーノ・ザッポーニ●撮影:ダリオ・ディ・パルマ●音楽:ニーノ・ロータ●時間:110分●出演:フェデリコ・フェリーニ/アニタ・エクバーグ/ピエール・エテックス/ジョセフィン・チャップリン/グスターブ・フラッテリーニ/バティスト●日本公開:1976/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋・文芸坐(78-02-07)(評価:★★★★)●併映:「フェリーニのアマルコルド」(フェデリコ・フェリーニ)

「木靴の樹」●原題:L'ALBERO DEGLI ZOCCOLI(米:THE TREE OF WOODEN CLOGS)●制作年:1978年●制作国:イタリア●監督・脚本・撮影:エルマンノ・オルミ●音楽:J・S・バッハ●時間:186分●出演:ルイジ・オルナーギ/フランチェスカ・モリッジ/オマール・ブリニョッリ/テレーザ・ブレシャニーニ/バティスタ・トレヴァイニ/ルチア・ベシォーリ●日本公開:1979/04●配給:フランス映画社●最初に観た場所:有楽町・スバル座(80-12-02)(評価:★★★★)
「大理石の男」●原題:CZLOWIEK Z MARMURU●制作年:1977年●制作国:ポーランド●監督:アンジェイ・ワイダ●製作:バルバラ・ペツ・シレシツカ●脚本:アレクサンドル・シチボ
ル・リルスキ●撮影:エドワルド・クウォシンスキ●音楽:アンジェイ・コジンスキ●時間:165分●出演:イエジー・ラジヴィオヴィッチ/クリスティナ・ヤンダ/タデウシ・ウォムニツキ/ヤツェク・ウォムニツキ/ミハウ・タルコフスキ/ピョートル・チェシラク/ヴィエスワフ・ヴィチク/クリスティナ・ザフヴァトヴィッチ/マグダ・テレサ・ヴイチク/ボグスワフ・ソプチュク/レオナルド・ザヨンチコフスキ/イレナ・ラスコフスカ/スジスワフ・ラスコフスカ●日本公開:1980/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(81-05-24)(評価:★★★☆)●併映:「水の中のナイフ」(ロマン・ポランスキー)

「女の叫び」●原題:A DREAM OF PASSION●制作年:1978年●制作国:アメリカ・ギリシャ●監督・脚本:ジュールス・ダッシン●撮影:ヨルゴス・アルヴァニティズ●音楽:ヤアニス・マルコプロス●時間:110分●出演:メリナ・メルクーリ/エレン・バースティン/アンドレアス・ウツィーナス/デスポ・ディアマンティドゥ/ディミトリス・パパミカエル/ヤニス・ヴォグリス/フェドン・ヨルギツィス/ベティ・ヴァラッシ●日本公開:1979/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:岩波ホール(80-02-04)(評価:★★★★)

双葉社刊の月刊「映画秘宝」の最終号です。このあと約2年の休刊期間を経て昨年['23年]12月、新たに設立された「合同会社秘宝新社」が雑誌の権利を取得し、今年['24]年1月19日発売の3月号から、月刊誌として約2年ぶりに「再々創刊」されていることは、これまでのこの雑誌の経緯と併せ、前エントリーに書きました。
因みに、「日本のサイテー映画」(浦山珠夫)には、小津安二郎の「
「サイテー戦争映画」(大久保義信)では、4作挙げられているうちの1つが「ヨーロッパの解放」('70年~'71年)であり、これは全5部計468分の大作(7時間48分。観ていて、終いには、どれが何の戦いなのかわからなくなってくる(笑))。第1部は、史上最大の作戦と言われる1943年夏のロシア西部要衝クルクスの戦いがメイン、第2部はハリコフ奪回からドニエプル河渡河そしてウクライナ"解放"へ、第3部は1944年のベラルーシ"解放"戦。第4部はポーランドやチェコスロバキアの"解放"戦、第5部はベルリン戦から終戦へ―大久保氏に言わせると、これらが「史実の歪曲や無視、曲解のオンパレードで描かれる『これそ国策映画』」で、「これじゃ『ヨーロッパの侵略』だろう」としています。ただし、個人的には、初めて観た時はついていくのが精いっぱいで、あまりそこまで考えませんでした
。評価は△。(なるほど、ソ連の頃からロシアは変わっていない。プーチン大統領は「ヨーロッパをファシズムから解放した」ソ連の歴史と、後継国としてのロシアの国際的地位を強調することで、国内で政権への求心力を高めてきた。2022年2月のウクライナ侵攻も、ウクライナ政府はネオナチ思想に毒されており、ロシア系住民を迫害・虐殺しているとして、そのウクライナを「非ナチ化」するためとしてしていることは、次エントリーの小泉 悠『
「スティーブン・スピルバーグのダメ映画5選」(尾崎一男)で1位は「フック」('91年)、2位は「1941」('79年)になっています。選者の尾崎氏は、「1941」が駄作の筆頭のイメージがあるが、精緻なサンタモニカ公園のミニチュアや、それを攻撃する
日本軍の奇襲攻撃シーンなどに見るべきところは多く、年を経るにつれてカルト的な評価を得て悪評も薄らいだ感があるとしています。ただし、本分であるコメディ演出は笑えないともしていて、こちらは個人的には、世間評と同じくスピルバーグの一番の駄作であるように思われ(三船敏郎はなぜこんな映画に出てしまったのか)、初めて観た時から評価は×。
それに比べると、「フック」の方はまだ少しマシだった気がします。原作がジェームス・M・バリーとあるように、まさに現代版「ピーター・パン」。当時で8,000万ドル(約100億円)を投じたファンタジー大作で、フック船長がダスティン・ホフマン、ピーター・パン(ピーター・バニング) がロビン・
ウィリアムズ、ティンカーベル(ティンク)がジュリア・ロバーツと役者も豪華でセットも絢爛ですが、大人になったピーター・パン(職業は企業弁護士)という設定がイマイチで、やはり映画として失敗しているには違いないです(笑)。評価は△(ウェンディ・ダーリングの現在を演じたマギー・スミスは撮影当時56歳で、92歳のウェンディを演じるためにメイクで老けたが、ピーター役のロビン・ウィリアムズは老けメイク無し、というか、今は充分"中年"で、ネーバランドに行っても若作りメイク無し。スピルバークは基本、実年齢のまま演技すべきという考えらしい)。 
「東京暮色」●制作年:1954年●監督:小津安二郎●製作:山内静夫●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:140分●出演:原節子/有馬稲子/笠智衆/山田五十鈴/高橋貞二/田浦正巳/杉村春子/山村聰/信欣三/藤原釜足/中村伸郎/宮口精二/須賀不二夫/浦辺粂子/三好栄子/田中春男/山本和子/長岡輝子/櫻むつ子/増田順二/長谷部朋香/森教子/菅原通済(特別出演)/石山龍児●公開:1957/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):(18-06-28)((評価:★★★★)
「ヨーロッパの解放(全5部)」●原題:ОСВОЬОЖЛЕНИЕ(OSVOBODZHDENIE)●制作年:1970-71年●制作国:ソ連●監督:ユーリー・オーゼロフ●製作:エマ・トーマス/チャールズ・ローヴェン/クリストファー・ノーラン●脚本:ユーリー・オーゼロフ/ユーリー・ボンダリョフ/オスカル・クルガーノフ●撮影: イーゴリ・スラブネヴィッチ●時間:468分●出演:ニコライ・オリャーリン/ラリーサ・ゴルーブキナ
/ミハイル・ウリヤーノフ/イヴォ・ガラーニ/フリッツ・ディッツ/スタニスラフ・ヤスケヴィッチ/ブフティ・ザカリアーゼ●日本公開:(第1部・第2部)1970/07/(第3部)1971/07/(第4部・第5部)1972/08●配給:松竹映配●最初に観た場所:三鷹オスカー(83-12-11)(評価:★★★)
「1941」●原題:1941●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:バズ・フェイトシャンズ●脚本:ロバート・ゼメキス/ボブ・ゲイル●音楽:ジョン・ウィリアムズ●時間:118分●出演:ジョン・ベルーシ/ネッド・ビーティ/ダン・エイクロイド/ロレイン・ゲイリー/マーレイ・ハミルトン/クリストファー・リー/ティム・マシスン/三船敏郎/ウォーレン・オーツ/ナンシー・アレン/ジョン・キャンディ/エリシャ・クック/ジェームズ・カーン(クレジットなし)●日本公開:1980/03●配給:コロンビア ピクチャーズ●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(80-07-08)(評価:★★)●併映:「ローラー・ブギ」(マーク・L・レスター)
「フック」●原題:HOOK●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:キャスリーン・ケネディ/フランク・マーシャル/ジェラルド・R・モーレン●脚本:ジム・V・ハート/マライア・スコッチ・マルモ●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作:ジェームス・M・バリー●時間:144分●出演:ダスティン・ホフマン/ ロビン・ウィリアムズ/ジュリア・ロバーツ/ボブ・ホスキンス/マギー・スミス/キャロライン・グッドール/チャーリー・コースモー/アンバー・スコット/ローレル・クローニン/フィル・コリンズ/アーサー・マレット/イサイア・ロビンソン/ジャセン・フィッシャー/ダンテ・バスコ/ルシャン・ハモンド/グウィネス・パルトロー/ケリー・ローワン●日本公開:1992/06●配給:コロンビア・トライスター映画(評価:★★☆)

因みに、本書に特効薬の研究開発者としてその名が出てくるウィリアム・キャンベルとともに、共同開発者として'15年にノーベル生理学・医学賞が授与されたのが(残念ながら本書にその名前が出てこないが)大村智・北里大特別栄誉教授です。本書では、4万種のバクテリアの抗寄生虫性を確かめたところ、効果があったものは1種類だったとありますが、それが、大村博士が伊東市の川奈ホテルゴルフ場近隣の土から採取した新種の放線菌でした。
第2章では、1949年にモンタナ州マン渓谷で起きたで起きた大規模な森林火災に立ち向かった森林消防隊長ワグナー・ドッジの話です。彼は、15人の部下とともに火の海に取り囲まれますが、"向かい火"というあえて足元に火を放つ手法で2人の部下と窮地を脱します。ただし、無口な性格から部下に自分の考えを説明しておらず、離反した残り13人の部下が焼死しました。リーダーには「己(の考え)を語る」ことが求められるということです。
第3章では、1970年のアポロ13号の宇宙飛行で、故障した宇宙船を無事地球に帰還させるために全権を与えられた管制官ユージン・クランツの話です。ここでは、困難だが失敗が許されない状況で、解決策が見つかるという揺るぎない信念で危機を耐え抜いた例を引いて、あらゆる状況で最善をつくすことがリーダーの要件であることを伝えています。
この話はアポロ13号の船長だったジム・ラヴェルらが『失われた月』(未訳)という本に著しており、ロン・ハワード監督により「アポロ13」('95年)というタイトルで映画化され、ラヴェル船長はトム・ハンクス、飛行主任ユージン・クランツはエド・ハリスが演じています。
第6章では、危機に瀕した米国最大の年金基金(教職員退職年金)を再建したクリフトン・ウォートンが、旧態依然とした巨大組織でのリストラをどのように進めたのか、第7章では、ソロモン社(ソロモン・ブラザーズ)のトップ(会長兼CE0)として部下の不正の報告を受けたジョン・グッドフレンドが、迅速な行動を怠ったためにその経営権を失い、ウォーレン・バフェットCEOに経営再建をゆだねることになった経緯が、第8章では、第三世界の女性のための銀行を設立したナンシー・バリーが、いかにして「自分の人生はこの仕事をするためにあった」との己れの天分を知るに至ったか、第9章では、エルサルバドルの大統領に選ばれたアルフレッド・クリスティアニが、内戦続きで荒廃した国を、交渉による同意を得ることで内戦を終結させた経緯が描かれています。

「アポロ13」●原題:APOLLO 13●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:ブライアン・グレイザー●脚本:ウィリアム・ブロイルス・Jr./アル・レイナート●撮影: ディーン・カンディ●音楽:ジェームズ・ホーナー●原作:ジム・ラヴェル/ジェフリー・クルーガー●時間:140分●出演:トム・ハンクス/ケヴィン・ベーコン/ビ
ル・パクストン/ビル・パクストン/ゲイリー・シニーズ/エド・ハリス/キャスリーン・クインラン/ローレン・ディーン/ミコ・ヒューズ/ジーン・スピーグル・ハワード/トレイシー・ライナー/メアリー・ケイト・シェルハート/クリス・エリス/ザンダー・バークレー/クリント・ハワード/ベン・マーリー●日本公開:1995/07●配給:ユニヴァーサル映画=UIP(評価:★★★★)


中国系移民のエヴリン(ミシェル・ヨー)は、自身が経営するコインランドリーが破産寸前で、しかも国税局から監査が入り、税金の申告をやり直さなければならなくなったという問題や、頼りにならない夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)、反抗的な娘ジョイ(ステファニー・スー)、老齢で車椅子が必要な上に最近ボケてきた父親ゴンゴン(ジェームズ・ホン)といった家族の問題など、数多くのトラブル
を抱えていた。疲れ果てた彼女の前にある日、夫に乗り移った"別の宇宙(ユニバース)の夫"が現れ、「全宇宙にカオス
をもたらそうとしている強大な悪ジョブ・トゥパキを倒せるには君だけだ」と彼から告げられて、世界の命運を託されてしまう。彼女は"無限の多元宇宙(マルチバース)"に飛び込み、カンフーの達人の"別の宇宙のエヴリン"の力を得て、マルチバースの脅威ジョブ・トゥパキと戦うこととなるが、ジョブ・トゥパキの正体は"別の宇宙の自分の娘"だった―。

2022年制作のダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)監督よる「異次元間アクション映画(通称「エブエブ」)。主演は香港アクシ
ョン映画の華として活躍し、「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」('97年/英・米)、「
どうして今このメンバー?とも思える組み合わせですが、先月['23年3月]発表の第95回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、編集賞の計7部門を受賞し、この3人ともが演技賞を受賞したことになります(主演男優賞は「ザ・ホエール」のブレンダン・フレイザ)。
アカデミー賞受賞決定の直後に観ました。そんなスゴイ作品かなあというのはありましたが、話は強引ながらも勢いがあり、乗せられて観てしまいました(フツーに娯楽映画として観たということか)。ミシェル・ヨー演じるエヴリンの、現実生活の苦しさをぶっ飛ばすキレキレのアクションは「グリーン・デスティニー」での彼女を髣髴させ、キー・ホイ・クァンも、一時俳優業から武術指導のアシスタントに転じていただけに、なかなかのアクションでした。共にCGは使っていないそうです(ミシェル・ヨーの小指での腕立て伏せのシーンはCGだと思うが)。
人生をカオスと捉え、マルチバースの世界にそれを反映させているといった感じでしょうか(監督のダニエルズは「湯浅政明や今敏、宮崎駿などといった、日本のアニメ監督からインスピレーションを受けて作った」とコメントしている)。例えばエヴリンには、カンフーマスターであったり女優として成功するなど別宇宙での彼女が沢山いるといった具合です(ミシェル・ヨーの過去に出演したカンフー映画や、国際的な映画祭での実際の映像などを使っている。映画自体は低予算映画で、2023年・第38回「インディペンデント・スピリット賞 作品賞」を受賞している)。SFのスタイルを借りつつ、女性とマイノリティを励ます映画にもなっています。
一方で、観終わってみれば、徹底した「現実逃避」映画ともとれ、要は、「母と娘」の関係の解(ほつ)れとその修復という古典的・感情的テーマを、大袈裟なマルチバースという枠組みの中で展開しただけに過ぎなかったという見方もできなくはないと思います(この点が「そんなスゴイ作品かなあ」という印象に繋がる)。
この作品でアジア人女優として初めてアカデミー主演女優賞を受賞した(エントリーされること自体がアジア人女優初だった)ミシェル・ヨー(楊紫瓊・1962年生まれ)は、その前にゴールデングローブ賞(今年['23年]1月)でも主演女優賞を受賞していて、その時のスピーチで「昨年私は60歳を迎えた」「女性は年齢の数字が大きくなればなるほど、機会に恵まれることは少なくなる」と女性の年齢による機会損失について訴えていましたが、アカデミー賞の授賞式のスピーチでもオスカー像を掲げ、「これは希望と可能性の印です。夢が叶う証です。そして女性のみなさん、『あなたはもう盛りを過ぎた』なんて誰にも言わせてはなりません」と語ったことが、世界的に大きな反響を呼びました。
その彼女に、来月['23年5月]のカンヌ国際映画祭のオフィシャルディナーの場にて、「ウーマン・イン・モーション」アワードが授与されることが今月['23年4月]決定しました。2015年に発足した「ウーマン・イン・モーション」アワードは、女性に対するコミットメントや取り組みを称えるもので、アジア人では2019年のコン・リー以来2人目の授賞になります。
ていなかったと思います。作品賞や監督賞はあっても、俳優だけはノミネートされなかった。ジョアン・チェンやコン・リーなど、私より先に活躍していた美しい女優たちは、本来ならアカデミー賞にノミネートされているべきでした。人種のせいなのか? 私はそうだと思います。しつ
こく言いたくはないですが、ただ『前に進みましょう』と言いたい。いまこそ前進するときです。素晴らしい映画の魅力とは、文化を超え、時代を超え、言語を超えるところにあると思います」と述べています。
ミシェル・ヨーは1985年、初主演作「レディ・ハード 香港大捜査線」('85年/香港)でアクション映画に初挑戦、バレエ仕込みの身体表現で激しいカンフーアクションや危険なスタントシーンを演じ、レディ・アクションスターの先駆けとなって、「皇家戦士」('86年/香港)では真田広之と共演、「ポリス・ストーリー3」('92年/香港)でジャッキー・チェンと共演し「走行中の貨物列車の屋根にオートバイで飛び乗る」というスタントを代役なしで演じています(ジャッキー・チェンをして「自分の見せ場を奪われるから競演NG」と言わしめたとか)。映画のラストにジャッキー・チェン作品ではお馴染みのNG集があり、1回では成功していないことが窺えますが、これ、ハリウッド映画だったら、スタントを使わないこと自体がNGでしょう。「ジェームズ・ボンド」シリーズ第18作「007トゥモロー・ネバー・ダイ」('97年/英米)(公開時タイトルは「トゥモロー・ネバー・ダイ」)で
35歳で「ミシェル・ヨー
」(それまではミシェル・キングまたはミシェル・カーンだった)としてハリウッドへ進出したのは、"満を持して"といった感じだったでしょうか。中国国外安保隊
員ウェイ・リンという役柄で、ジェームズ・ボンド役のピアース・ブロスナンと対等に渡り合う「戦うボンドガール」として注目を浴びました。ボンドと一緒に手錠をかけられた
状態でビルからジャンプするシーンや、そのままバイクで市中を駆け抜けるシーンは派手で、格闘シーンもよく脚が上がっていてキレキレと言う感じでした。ストーリーは大したことなかったものの、優れたSF・ファンタジー・ホラー作品に送られる「サターン賞」で4つのノミネートを受け、ピアース・ブロスナンが「
キー・ホイ・クァンで、ゴールデングローブ賞助演男優賞、アカデミー助演男優賞のほかに、第88回「ニューヨーク映画批評家協会賞 助演男優賞」、第57回「全米批評家協会賞 助演男優賞」、第48回「ロサンゼルス映画批評家協会賞 助演男優賞」など多くの賞を受賞しています。「現実世界の頼りない夫」としてのハリウッド映画における従来のアジア人のパターナルな演技と、「"別の宇宙(ユニバース)の夫"」としてのヒロイックな演技(まるでブルース・リー(!?))の使い分けが際立っていたことが評価されたのでしょう。
さらに、ボケているのに頑固な父親ゴンゴンを演じたジェームズ・ホンは1929年生まれの今年94歳。ジェニファー・ジョーンズ、ウィリアム・ホールデン主演の香港を舞台とした映画「慕情」('55年)の頃からノンクレジットですが映画に出ており、「砲艦サンパブロ」('66年)のヴィクター・スー役などもありましたが、「
とは、ハリソン・フォードは、この映画に出ているキー・ホイ・クァンと「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」('84年/米)で共演したほかに、ジェームズ・ホンとも「ブレードランナー」で共演したことがあるということか。
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」●原題:EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONC●制作年: 2022年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ダニエルズ(ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート)●撮影:ラーキン・サイプル●音楽:サン・ラックス●時間:140分●出演:ミシェル・ヨー/キー・ホイ・クァン/ステファニー・スー(許瑋倫)/ジェイミー・リー・カーティス/ジェームズ・ホン/タリー・メデル/ジェニー・スレイト/ハリー・シャム・Jr/ビフ・ウィフ/スニータ・マニ/アーロン・ラザール/オードリー・ヴァシレフスキ/ピーター・バニファズ●日本公開:2023/03●配給:ギャガ●最初に観た場所:TOHOシネマズ西新井(シアター1)(23-03-15)(評価:★★★☆)
「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」●原題:TOMORROW NEVER DIES●制作年:1997年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ロジャー・スポティスウッド●製作:マイケル・G・ウィルソン/バーバラ・ブロッコリ●脚本:ブルース・フィアスティン●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:デヴィッド・アーノルド(主題歌:「トゥモロー・ネヴァー・
ダイ」シェリル・クロウ)●原作:イアン・フレミング●時間:119分●出演:ピアース・ブロスナン/ジョナサン・プライス/ミシェル・ヨー/テリー・ハッチャー/ジョー・ドン・ベイカー/リッキー・ジェイ/ゲッツ・オットー/デスモンド・リュウェリン/ヴィンセント・スキャベリ/ジョフレー・パーマー/コリン・サーモン/サマンサ・ボンド/ジュディ・デンチ●日本公開:1998/03●配給:UIP(評価:★★★☆)
「ポリス・ストーリー3」●原題:警察故事3/超級警察(英題:POLICE STORY III:SUPER COP)●制作年:1992年●制作国:香港●監督:スタンリー・トン(唐季禮)●製作:ウィリー・チェン/エドワード・タン●脚本:エドワード・タン/フィレー・マー/リー・ウェイイー●撮影:ラム・ウォクワー(アンディ・ラム(林國華))●音楽:ジョナサン・リー(李宗盛)●時間:96分●出演:ジャッキー・チェン(成龍)/ミシェール・キング(ミシェル・ヨー(楊紫瓊))/マギー・チャン(張曼玉)/トン・ピョウ(董驃)/ユン・ワー(元華)/ケネス・ツァン(曾江)/ジョセフィーヌ・クー(顧美華)/ケルヴィン・ウォン(王霄)/フィリップ・チャン(陳欣健)/ロー・リエ(羅烈)●日本公開:1992/12●東宝東和(評価:★★★)




マーク・グリーン(アンソニー・エドワーズ)は、シカゴ近郊クック郡のカウンティ総合病院のER(緊急救命室)チーフレジデントで腕利き内科医。病気やケガ、事故により昼夜問わず患者が搬送され、仮眠もろくに取れず、今日も看護師が目覚まし時計のように夜勤の彼を起こしに来る。その彼は今、私立病院から好条件で誘いを受け、ERを続けるかどうか迷っていた。そんな折、帰宅したばかりのER看護師長のキャロル・ハザウェイ(ジュリアナ・マルグリース)が自殺未遂を起こしてERに担ぎこまれてくる―。
"カーター君"が初赴任する「ER」の記念すべき第1話はパイロット版として作られたもので(原題は"24 HOURS") 、本国放映が1994年9月19日、日本初放映が1996
年4月1日(NHK‐BS2)。決して広くはない診療室で撮影しなくてはならず、ステディカムが威力を発揮しています(第1話の撮影は廃院となった病院をスタジオ代わりに撮影しており、それ以降はスタジオにセットを再現して撮影した)。このパイロット版を含む最初の3話は、製作総指揮を務めたマイケル・クライトン(1942-2008/66歳没)自身が脚本を書いています。マイケル・クライトンはハーバード・メディカルスクール(ハーバード大学医学大学院)の出身です。
そして、極めつけは、スタッフからの信頼が厚い看護師長(翻訳は婦長)のキャロル・ハザウェイの何の前触れもない自殺未遂。かつてERの小児科医のダグラス・ロス(ジョージ・クルーニー)と付き合っていたが破局し、今は整形外科医と婚約中だったはずだが...。心配そうにキャロルを見守るダグ。この二人の関係はシーズン1の幾つかある重要なストーリーの1つになっていきます。因みに、ダグ・ロスはハンサムなモテ男でプレイボーイ。この第1話ではロス先生は二日酔いでヨレヨレ状態での初登場となるのですが、児童虐待していると疑われる母親に対して心底怒りをぶつける熱血漢でもあります。
一方、医学部3年の研修生ジョン・カーター(ノア・ワイリー)は今日がER勤務の初日。外科レジデント2年目のピーター・ベントン(エリク・ラ・サル)のもとで、これからさまざまな指導を受けることになりますが、まず、点滴をやるのが初めてということにベントンも呆れ、さらに、ナイフで刺された患者の血を見て気分が悪くなる始末です。
自らの不甲斐なさすっかりしょげているところを(このシーンはOPで
使われることになる)、優しく励ますグリーン先生。ただ励ますだけなく、「医者には2種類ある。自分の感情を切り捨てるタイプと感情を切り捨てれないタイプだ」「何かあると後者は、治療する側の自分が病気になってしまいそうになる」と、医者の心得まで説いてます。しかしながら、そのグリーン先生もその後、離婚問題で悩まされることになります(司法試験の勉強中の妻との行き違いは、すでにこの第1話で示唆されている)。
ジデントの自分には資格がないのに手術を強行
、患者の危機を救い、駆けつけたモーゲンスタン部長(ウィリアム・H・メイシー)から最初は「下手な獣医並み」と貶されるも、最後にはその臨機応変の判断を褒められガッツポーズ(このシーンもOPで使われることになる)。患者の命を救うことを第一信条とするとともに、自信家で上昇志向が強いその性格がすでに表されています。
内科・外科レジデント二年目のスーザン・ルイス(シェリー・ストリングフィールド)は、仕事が忙しく最近、恋人と別れたが、グリーン先生とは相性が良く何でも話せる間柄。性格はサバサバしており、ハッキリものを言うタイプですが、今日
はガンの疑いが濃厚な患者(ミゲル・フェラー)から逆に告知を求められるような状況に直面し、これはさすがにキツイ、患者も医者も(その後、米国でも日本でも、告知は医師の「裁量の範囲」から「義務」へという流れになっている)。ルイス先生はその後、問題ある姉に悩まされることになります。
ER緊急救命室(第1話)/甘い誘い(120分枠)」●原題:ER:24 HOURS (a.k.a. THE LONGEST DAY (1))(Season 1、Episode 1)●制作年:1994年●制作国:アメリカ●本国上映:1994/09/19●監督:ロッド・ホルコム●脚本:マイケル・クライトン●出演:アンソニー・エドワーズ/ジョージ・クルーニー/シェリー・ストリングフィールド/ノア・ワイリー/ジュリアナ・マルグリース/エリク・ラ・サル/クリスティーン・ハーノス/ウィリアム・H・メイシー/(ゲスト出演)シリ・アップルビー/ミゲル・フェラー●日本放映:1996/04●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★★☆)




ABCという差出人名でポアロ宛てに挑戦状が届く。何事もなく記してあった日付が過ぎて悪戯だと思われたが、予告通りアンドーヴァーでアリス・アッシャー(A.A)なる人物が亡き者にされていた。アリスが絶命したのは午後5時半~6時5分だと推定され、後頭部に受けた強い打撃が命を落とした原因だった。そして、カウンターの上にABCの鉄道案内が置かれていた。捜
査が難航しアンドーヴァーでの一件が忘れ去られた頃、ABCから第二の挑戦状が届き、事が再燃、明け方のベクスヒル=オン=ザ=シーで、エリザベス・バーナード(B.B)という若い女性が自分のベルトで首を絞められて命を落としたのだった。現場にあったABCの鉄道案内がアンドーヴァーとの関連を示唆していたが、アリスとの共通点は女性というだけしかない。エリザベスの家族や恋人に話を聞くも特に有力な手がかりは得られず、ただ時だけが過ぎていった。さらに、ABCからの3通目に挑戦状がポアロ宛てに届く。ABCによる住所の書き間違いにより手紙の配達が遅れるという不運も重なり、第三の犠牲者が出てしまう
。場所はチャーストンで、命を落としたのはカーマイクル・クラーク(C.C)という富豪だった。3件すべてが世間に公表され、警察も地道な捜査を続ける一方、ポアロは、関係者を集めて話をさせ、本人たちですら気づいていないこ
とに目を向けて真実に迫る手法をとる。ABCから4件目の殺人予告があり、厳戒態勢を敷いたにもかかわらず、4人目の犠牲者も出てしまう。警察は様々な証言により、ABCの正体はアレクサンダー・ボナパㇽト・カスト(A.B.C)(ドナルド・サンプター)というストッキングのセールスマンと特定し、逮捕する。しかし何一つ解決していないと思っていたポアロは、ヘイスティングズの言葉をヒントに、事件の黒幕を明らかにしてみせる―。
真犯人の手口は、本当のターゲットに加えて関係ない人物を巻き込み操作を撹乱するもので、東野圭吾の小説など今でもよく使われる手法ですが、犠牲者に共通点があるという先入観を逆手にとったやり方です。映像化作品の場合、見せ方が難しくなる場合もあるところ、本作はうまく撮っていたように思われ、ただし、原作の良さに負うところはやはり大きいかと思います(4番目の殺人が微妙。映画館で殺害されるのは原作通りだが)。
原作のストーリーが複雑であるためか、原作の主要な登場人物のうち何人かを省いていて、原作では2か月半以上かけて行われる4つの殺人が1カ月に満たない期間に集約しているほか、すべての現場に同行していたクローム警部が出て来ず(ちらっと出てきた?)、代わりにジャップ警部がすべての現場に同行していたり、さらには、カーマイクル・クラークの弟フランクリンがカーマイクルの手紙をポアロに見せるシーンが割愛されていたりしますが(原作ではこれがポワロの事件解決のヒントの1つになる)、それでも概ね原作通りだったのではないでしょうか(アレクサンダー・ボナパㇽト・カストの人格については戦争PTSDのような解釈だったが)。
新シーズンスタートの第1作ということもあってか、、汽車による移動シーンや地方の保養地のシーンなど旅情溢れる場面が多く、競馬場のダービーシーンなど大掛かりなロケシーンがあって愉しめました。さらには、ヘイスティン
グズが中南米旅行の土産に持ち帰った、自らが射ったというカイマン(ワニ)の剥製〈セドリック〉を巡るポワロとヘイスティングズの愉快なやり取りもあったりして、いつもながら、小粒のユーモアも効いていました。シリーズの中でも佳作であると思います。
「名探偵ポワロ(第31話)/ABC殺人事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅣ:THE ABC MURDERS●制作国:イギリス●本国放映:1992/01/05●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス大尉)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ドナルド・サンプター(アレクサンダー・ボナパㇽト・カスト)/ドナルド・ダグラス(フランクリン・クラーク)●日本放映:1992/10/02●放映局:NHK-BS2(評価:★★★★)

1953年、スターリン政権下ソビエトでは不穏な空気が立ちこめていた。モスクワの大病院の脳外科医にして赤軍の将軍でもあるクレンスキー(ユーリー・アレクセーヴィチ・ツリロ)は、病院と家庭と、愛人のところを行き来する毎日を送っ
ている。そんな中、スターリンの指示の元
、KGBはユダヤ人医師の迫害計画である「医師団陰謀事件」を発動する。事態を察したクレンスキーは逃亡を試みるが、すぐに捕らえられ強制収容所に送られ拷問を受ける。しかしそこにはもう一つの陰謀が動いていた。クレンスキーは突然釈放され、山奥の別荘に連れて行かれる。そこにいたのは重い病にふせっているスターリンその人であった。すでに手遅れであることを悟ったクレンスキーは、スターリンに最後の放屁をさせる。家に戻ったクレンスキーは家族の前から姿を消す。10年後、マフィアと
なってたくましく生き抜くクレンスキーの姿があった―。
1999年のカンヌ国際映画祭正式出品作で、審査委員を務めたマーティン・スコセッシ監督が、「わけがわからないがすごい」と言ったというのも頷けます(なのに無冠で終ったのは、スコセッシ監督曰く「困ったことになにがなんだかさっぱり理解できなかったのだ。だから他の審査員を説得できなくて」とのこと)。
映画はこうした混沌のまま進んでいくため、時に一体今どこにいるのかさえ分からなくなります。部屋を横切ってゆく人物をカメラで背中から追いかけていく、或いはいつも移動する車の前にカメラを置くといった手法で撮影された画面が、こうした迷宮めいた空間を作り出すことに一役買っています。
彼は列車の中で再び頭を殴られ、「どうして俺ばっかりこんな目に遭うんだ」とつぶやくのですが、その列車には主人公の将軍&脳外科医クレンスキーが、偶然乗り合わせていて、つるつる頭にウォッカを満たしたコップを載せ、両手に大きなスプリングを持ってバランスを崩さないでいる賭けゲームをしています。列車がやがてカーブにさしかかろうとする瞬間、「くだらねえ」というユーリーの声が聞こえてきたところで、映画は終わっています。家族で田舎にでも疎開するのかなと思ったら、解説を読んだら、今やマフィアのボスとなっていたとのこと。彼は、家族を捨ててまったく別の人生を生きることにしたのかあと、解説を読んで分かった次第です(笑)。
1953年2月の夜、あるボイラーマンが路上駐車していた車から現れた男たちによって、公園の焼却装置に閉じ込められる。男たちは黙っていないと舌を抜くぞと彼を脅すと、再び車の中に戻る。路上で人が撥ねられ、現場に居合わせた女医のマルメラードワは被害者の男を介抱する。クレンスキー少将の息子リョーシカ(ミハイル・デメンティエフ)の従姉はユダヤ人だが、父が軍に根回しをしていたおかげで、当局の追及を受け
ることなく暮らすことができた。公園で遊ぶ子供たちの中に、赤旗の新聞記事のことをふれて回る少年がいた。少年のことを鬱陶しく思った者たちが少年に暴力を振るう。そこにクレンスキーが割って入り、騒動を納める。自分が院長を務める精神病院にクレンスキーが出勤すると、自分のもとに持ち込まれる様々な問題を次々に問題を片付け、クレンスキーは地下に向かう。そこには彼と同じ顔をして、自分こそが本物のクレンスキーだと訴える男がいた。クレンスキーの家ではリョーシカの成績の悪さが問題視されていた。母親(ニーナ・ルスラノヴァ)に叱られるリョーシカだが、クレンスキーは学業が駄目なら職業学校に進学すればいいと励ます。そこに、ストックホルムにいるクレンスキーの妹から言伝を預かってきたと言う男が来る。しかし、クレンスキーはストックホルムに妹などいないと男を追い出しす。男は秘密警察だった。マルメラードワと患者の男が夜道を歩いていると、車に乗ったマルメラードワの夫、ドミトリィ・カラマーゾフがやってきて、患者の男から旅券を没収するとマルメラードワを連れて行ってしまう。患者は旅券を取り戻そうとするが、返り討ちに遭う。クレンスキーの家に医者や軍人が招かれ、パーティーが催されるが、妻はまるで動物園だと悪態をつく。パーティーを抜け出したクレンスキーは真夜中の病院にやってくる。隠し通路から病院の裏口を出て、門の上で暫し物思いに耽った後、失踪したと思わせる痕跡を残して病院を後にする。そこにトラックに乗った大勢の男たちが病院に押し寄せる。クレンスキーは愛人ワルワーラの家を訪ねて泊めてくれと頼む。クレンスキーの家に秘密警察がやって来て、リョーシカは怯え、捜査員は父親が戻ってきたら電話をしろと言う。結局、クレンスキーは秘密警察に囚われ、ユダヤ人と共に強制収容所へ連行される。そこでクレンスキーは、彼のユダヤ人保護を快く思っていない同胞や、自分たちを虐げてきたロシア人のことを恨むユダヤ人から暴行を受けて苦痛に喘ぐが、秘密警察の捜査員は彼を嘲笑う。護送車両が休憩のために山中で停車していると、そこに軍の上層部の車が通りがかる。軍の上層部の男たちは秘密警察の捜査員を捕え、クレンスキーを解放する。彼は自分そっくりの男が自分に成り変わろうとしていたことを知る。軍の上層部の者たちは秘密警察が仕掛けていった彼の財産の封印を解き、彼を復職させる。復職したクレンスキーは病床に伏したある人物の診察を命じられる。クレンスキーにその人物スターリンのことを「あなたのお父上ですか」と聞かれた秘密警察長官ベリアは、最初「馬鹿な」と答えたあとで、思い直したように、「そうだ、父だ」と言い直す―。



スイスの経済弁護士ヴァルト博士(ウルリヒ・ノエテン)とファッション・デザイナーのシャルロッテ・デー(ジェラルディン・チャップリン)は権力にすべての生きがいを感じる人種で、金融界でも政界でもまともに相手にされてはいなかった。しかし、シャルロッテが抱えるコールガール、ロシア人のイリーナ(エレナ・パノーヴァ)は、権力者たちの寵愛を集めていた。次第に、博士とシャルロッテはそんな彼女に期待と私財をかけ、高級マンションを買い与えるや、彼女に語りかける男たちの機密のやりとりを盗聴しようとする。だが、イリーナは決して機密のやりとりをしようとしない。苛立ったヴァルト博士とシャルロッテは、イリーナに、常連客たちのスパイをするかロシアへ帰るかという最後通牒をつきつけた―。
「
コメディであり政治風刺劇ですが、あのダニエル・シュミットが、こんな風風刺の効いた変わったコメディも撮っていたのかという感じ。政治家、裁判官、警察―そのすべてのトップがみんな利権をむさぼっているという(しかも性的変態ばかり)、まとめて批判の対象になっているところが興味深いです。
やがて国外退去の通知を受け、絶望したイリーナは、睡眠薬を飲み死を待った。その間に彼女は、自分の一番の客であった元陸軍少尉シュトゥルツェネガー(マルティン・ベンラート)の帽子の裏側に書いてあった秘密の電話番号をダイヤルしてしまう。それによって、かつて秘密軍隊コブラ団にいた老人たちがクーデターを起こし、古いコブラ団のヒットリストに載っていたすべての役人たちを殺害していった。そして偶然にもコブラ団の指揮を取ったことになったイリーナは、昏睡状態から目覚めたのち、アルプスの新しい国、ヘルベチア王国の女王の座につくのだった―。
エレナ・パノーヴァ演じるイリーナが、あまり状況が掴めておらず、ただスイスの市民権を得たいがために政財界の重鎮達の渡り歩き(顧客ではあるが、ほぼ"お友達"感覚で)、でも他人の秘密を漏らすことはしたくないという無垢な(無知ともいえるが)女性を演じていてハマっています。
そのエレーナを大物たちにあてがったのが、ジェラルディン・チャップリン演じる(彼女はフランス語、スペイン語だけでなくドイツ語も話すのか)黒い扇子が胡散臭いシャルロッテで、ラストでは今度はロシア娘ならぬいいキューバ娘を見つけたと、依然、権力志向は衰えていないのが、これまたブラック・ユーモアです。
「ベレジーナ」●原題:BERESINA ODER DIE LETZTEN TAGE DER SCHWEIZ●制作年:1999年●制作国:スイス・ドイツ・オーストリア●監督:ダニエル・シュミット●製作:マルセル・ホーン●脚本:マルタン・シュテール●撮影:レナート・ベルタ●音楽:フカール・ヘンギ●時間:108分●出演:エレナ・パノーヴァ/ジェラルディン・チャップリン/マルティン・ベンラート/ウルリヒ・ノエテン/イヴァン・ダルヴァス/マリナ・コンファロン/ステファン・カート/ハンス・ペーター・コーフ/ヨアキム・トマシュウィスキー日本公開:20001/04●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-08-27)(評価:★★★☆)
1970年代のドイツ。婚約者がいる20歳の青年フランツ(マリック・ジディ)は、中年男レオポルド(ベルナール・ジロドー)に街で声を掛けられ、婚約者とのデートをすっぽかして彼の
家に行く。レオポルドの妖しい魅力にとりつかれたフランツはそこにそのまま棲みついてしまう。やがて二人の関係が険悪になり始めた頃、フランツの婚約者の彼女アナ(リュディヴ-ヌ・サニエ)がやって来て、さらには昔レオポルドと7年間同棲していたという元恋人の"彼女" ヴェラ (アンナ・トムソン)が、男性から女性に性転換したと言ってやって来る―。
フランソワ・オゾン監督(1967年生まれ)が32歳で発表した2000年公開作。彼が敬愛するライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督が19歳で書いた未発表の戯曲の映画化した、4幕構成の室内劇風の作品です。2001年に日本公開され、キネマ旬報ベストテンで、外国映画の5位。昨年['21年]Bunkamuraル・シネマで20年ぶりに35ミリフィルムでリバイバル上映されました(個人的には今回シネマブルースタジオで観た。同監督の「クリミナル・ラヴァーズ」('99年/仏・日)もやっていたのだが観に行けなかった)。
フランツの婚約者役のリュディヴ-ヌ・サニエは、映画を通してずっと裸かそれに近い下着姿でいて、セクシーと言うよりは健康的という感じ。でも、こんな娘を放っぱらかしにして中年オジンに取り込まれてしまうということは、女性よりも男性によってその孤独を癒されたということであり、フランツ青年はもともともとその素養があったのではないか...。
と思ったら、終盤にきて、リュディヴ-ヌ・サニ
エの演じるアナの方が、ベルナール・ジロドー演じる中年男フランツの性的魅力に目覚めて(調教されて)しまい、この中年男は両刀使いだったわけなのだなあ。アナ、ヴェラとトリプルセックス状態で、これにはフランツ青年は大ショックで(同時に両方の性対象に裏切られたようなものだから)、結局自死の道を選びます。ある意味、「美貌ゆえの悲劇」と言えるかもしれません。
ベルナール・ジロドーは、ダニエル・シュミット監督の「
「焼け石に水」●原題:GOUTTES D'EAU SUR PIERRES BRULANTES(WATER DROPS ON BURNING ROCKS)●制作年:2000年●制作国:フランス●監督・脚本:フランソワ・オゾン●製作:オリヴィエ・デルボスク/マルク・ミソニエ/アラン・サルド/クリスティーヌ・ゴズラン●撮影:ジャンヌ・ラポワリー●音楽(挿入曲):フランソワーズ・アルディ●原作:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー●時間:90分●出演:ベルナール・ジロドー/マリック・ジディ/リュディヴィーヌ・サニエ/アンナ・レヴィン●日本公開:2001/07●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-08-09)(評価:★★★)
「ヘカテ」●原題:HECATE●制作年:1982年●制作国:フランス/スイス●監督:ダニエル・シュミット●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:ダニエル・シュミット/パスカル・ジャルダン●撮影:レナート・ベルタ●音楽:カルロス・ダレッシオ●原



熊本・八千代座。坂東玉三郎が「鷺娘」を舞う。続いて「大蛇」を踊るため舞台に向かう玉三郎。その姿を背広姿の玉三郎がみつめている。舞台が終わり、化粧を落とす玉三郎。四国・内子座。まず御祓いが粛々と行われ、続いて玉三郎は楽屋で化粧をし、《女》へと変身してゆく。大阪のホテルで女形が女を演ずることについて語る玉三郎。そして八千代座で坂東彌十郎の大伴黒主を相手に「積恋雪関扉」の黒染を演じる。カメラは玉三郎の早変わりや、鉞(まさかり)の陰で関守から黒主に変身する彌十郎、それに二人の演技を後見する黒衣の動きを丹念に捉えていく。玉三郎は希有の天才女優として杉村春子や武原はんの名を挙げる。杉村
と武原がそれぞれインタビューに答え、《女》を演ずること、舞うことの精神を語る。大野一雄が東京湾の水の上を軽やかに舞う。蔦清小松朝じが三味線を手に常磐津の一節を聞かせる。女と黄昏について語る玉三郎。劇「黄昏芸者情話」。夜の東京湾を走る屋形船で年増の芸者(玉三郎)と若い男二人(宍戸開、永澤俊矢)が花札に興じている。やがて眼鏡をかけた青年(宍戸)と芸者は甲板に出て、接吻を交わす。その様子を見たもう一人の男(永澤)が青年に掴みかかり、芸者が慌てて間に割って入る。黄昏どきの芸者の家に電話がかかり、男からの電話に芸者は艶っぽく身悶えする。夜、明治風のたたずまいの街を芸者が歩き、青年が彼女の姿を求めて走る。再び「鷺娘」。そして大阪の街を行くリムジンに乗った玉三郎の姿が挿入される。「鷺娘」はクライマックスを迎え、玉三郎が大きく後ろにのけぞる―。
「
た、1995年製作(日本公開は1996年3月)のドキュメンタリーで、玉三郎の舞台のほか、彼が年増の芸者に扮した「黄昏芸者情話」というフィクションパート(劇部分)が組み込まれていますが、ダニエル・シュミットはこの映画全体がドキュメンタリーではなくフィクシィンであると言っていたそうです(因みにノー・ナレーションである)。
自らの演劇論を語る際に尊敬する杉村春子(1906-1997/91歳没)の名を挙げていますが、その杉村春子のインタビューも挿入されていて、自分のハンディを踏まえて演じているという点で、玉三郎が語る内容と重なるのが興味深かったです(杉村春子のハンディは、当初舞台から映画界に行った女優は美人ばかりだったのに自分はそうではなかったこと、玉三郎のハンディは女形にしては身長がありすぎること)。
杉村春子と同じく玉三郎が尊敬する人物として2人目に登場するのは、88歳の舞踏家・大野一雄(1906-2010/103歳没)で、夜の晴海埠頭での舞踏を見せます(そう言えば晴海埠頭は今年['22年]2月に閉鎖になったばかりだなあ)。3人目は、芸者か
ら日本舞踊の舞踏家に転じた武原はん(1903-1998/95歳没)で、92歳にして日舞を踊ってみせます。さらに4人目には、当時で現役最高齢102歳になる芸者・蔦清小松朝じ(1894-1996/102歳没)が三味線の芸を披露します。いずれも貴重な映像であるとともに、この映画の流れや雰囲気に沿った挿入だったように思います。
むしろ、映画全体がフィクションであるならば劇中劇とも言える、玉三郎と宍戸開、永澤俊矢による「黄昏芸者情話」のパートの方が、全体を通して緊張感がある中で、ここだけ少し浮いていた印象もありました(宍戸開は、玉三郎の監督・主演作品「天守物語」('95年)で共演したばかりだった)。これは、宍戸開らの若さのせいもあるのでしょうか?(玉三郎はいつも年齢不詳だが)
その他に、「積恋雪関扉」で坂東彌十郎と共演している映像があり、坂東彌十郎と言えば今年['22年]のNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で北条時政を演じているなあと。当時で40歳くらいでしょうか。背が高いので、女形にしては高身長の玉三郎と、見た目ですが、相性がいいように思います。
坂東彌十郎は玉三郎の「夕鶴」('97年)の演出も手掛け、その後、同世代の十八世中村勘三郎(1955-2012/57歳没)による
「平成中村座」に参加。'03には中村座ニューヨーク公演、'14年には長男と自主公演「やごの会」を立ち上げ、'16年にはフランス、スイス、スペインの3カ国をめぐる欧州公演も行っています。大河ドラマでは、武骨で、自分の一族のことしか考えていない"田舎の侍"って感じの北条義政(これ、本人が最初に脚本を読んだ時に受けた印象だそうだ)を演じていますが、実は英語、フランス語を話すインテリです。海外公演に行ったのは、若くしてニューヨーク・メトロポリタン歌劇場に招聘された玉三郎の影響もあるのでは(そう言えば、玉三郎は坂東彌十郎の2年前、'20年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」に正親町天皇役で出演していた)。
「書かれた顔」●原題:THE WRITTEN FACE●制作年:1995年●制作国:日本・スイス●監督:ダニエル・シュミット●製作:堀越謙三/マルセル・ホーン●撮影:レナート・ベルタ●時間:89分●出演:坂東玉三郎(5代目)/杉村春子/大野一雄/武原はん/蔦清小松朝じ/坂東彌十郎/宍戸開/永澤俊矢●日本公開:1996/03●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-08-23)(評価:★★★★)


金鉱王として有名な大富豪ギブソン(ダニエル・マッセイ)の妻マリア(セリア・グレゴリー)が射殺体となってソア橋の上で発見され、当家の家庭教師でグレース(キャサリン・ラッセル)という女性が逮捕される。夫人は頭を撃たれており、凶器と思われる銃がグレースの部屋から見つかったのだ。だがギブソンは彼女の無実を主張。証拠品やアリバイから、嫉妬を買ったダンバー嬢がマリアと揉み合っているうちの悲劇とも考えられたが、本人はそれをも否認。一方、ギブスンが潔白を主張する理由は、彼が好意を示した際に慈善に動くよう諭されたダンバー嬢の人柄だという。絞首刑の危機が迫るグレースを救うため、ホームズ(ジェレミー・ブレット)は捜査に乗り出す―。
で、なぜかアーチェリーをしながらでした。このアーチェリーの場面(ホームズも弓を引く)は原作にはありません。ただ、ギブスンがホームズに依頼しておきながら、捜査に非協力的なのは原作と同じです(家庭教師を愛してしまったことへの衒いがあるのか)。
「シャーロック・ホームズの冒険(第28話)/ソア橋のなぞ」●原題:THE ADVENTURE OF SHERLOCK HOLMES: THE PROBLEM OF THOR BRIDGE●制作年:1991年●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/28●監督:マイケル・シンプスン●脚色:ジェレミー・ポール●原作:アーサー・コナン・ドイル●時間:48分●出演:ジェレミー・ブレット/エドワード・ハードウィック/ダニエル・マッセイ/キャサリン・ラッセル/セリア・グレゴリー●日本放映:1991/08/28 (NHK)(評価:★★★★)




「ブーム」とはパーティーのこと。ブームに誘われることを夢見る13歳のヴィック(ソフィー・マルソー)が、自分の14歳の誕生日ブームを開くまでの物語。リセの新学期(夏のバカンス明け)に始まり、歯科医の父親(クロード・ブラッスール)とイラストレーターである母親(ブリジッド・フォッセー)の別居騒動、ハープ奏者の曾祖母プペット(ドゥニーズ・グレイ)の折々の助言を背景に、ブームで出会ったマチュー(アレクサンドル・スターリング)との恋模様、春休み明けに自身が開く誕生日ブームまでを描く。
「ラ・ブーム」('80年/仏)はクロード・ピノトー(1925-2012/87歳没)監督によるフランス映画で、個人的にはこの映画で「
(1966年生まれ)のデビュー作であり(日本で言えば"中一"だが高校生くらいに見えたりもする)、ブリジッド・フォッセーはソフィー・マルソー演じる思春期の娘をも持つ母親役。個人的にはどうってことない映画でしたが、ヨーロッパ各国や日本を含むアジアでヒット作となりました。
娘の恋愛だけでなく、親夫婦の倦怠期とそこからの脱脚を
も描いているところがフランス映画らしく、改めて観ると、フランス的文化・恋愛価値観が垣間見られた作品だったように思います。映画パーソナリティの襟川クロ(1950年生まれ)氏が「おもちゃ箱的青春ムービー。(中略)ごく普通の少女達が、普通の恋をして、またひとつ大人になるのでありました、とりまく大人は大人でイロイロあり、ひとつ年をとりましたとさ。といった、よくあるパターンではありますが、しかし、その味つけがなかなかのもの」と評価したほか、映画評論
家の
この映画は高田馬場パール座で観て、併映がフィービー・ケイツ(1963年生まれ)の19歳の時の
デビュー作である「パラダイス」('82年/米)(公開時のタイトルは「フィービー・ケイツのパラダイス」)でしたが、こちらは当時のメモを見ると「フィービー・ケイツのアイドル映画。中身がない」(評価★☆)とだけありました(笑)。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーは当時、米仏2大アイドルだったのかもしれません。米国にはあと1人、二人
と同年代のブルック・シールズ(1963年生まれ)がいましたが、ルイ・マル監督の「プリティ・ベイビー」('78年/米)も観ました(これも高田馬場パール座で、併映はダイアン・レイン主演の「リトル・ロマンス」('79年/米))。ニューオリンズの娼館が舞台のこの作品に、ルイ・マル監督が渡米して自ら発掘した彼女を起用したもので、ブルック・シールズは11歳で娼婦(12歳)を演じてセンセーションを巻き起こしましたが、ルイ・マル作品としてはイマイチだったかも(評価★★★)。フィービー・ケイツについては「
結構、アイドル映画を観ていたのだなあと今になって思います。「プリティ・ベイビー」はブルック・シールズのアイドル映画ではありませんが(彼女の出たアイドル映画と言えば17歳の時の「青い珊瑚礁」('80年/米)あたりか)、彼女を一気にアイドルに押し上げた映画でしょう。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーを比べると、米国型アイドルとフランス型アイドルとではやはり違うなあと思わされます(映画雑誌「スクリーン」だと、ソフィー・マルソーが表紙向きで、フィービー・ケイツがグラビア向きと言ったところか)。フランス人監督のルイ・マルが見出したブルック・シールズはどちらか。天皇徳仁(今上天皇)が皇太子時代、日本人では柏原芳恵、外国人ではブルック・シールズの熱烈なファンであったとされていましたが、プリンストン大学を首席で卒業するような才女でした。
「ラ・ブーム」で父親と娘の役だったクロード・ブラッスールとソフィー・マルソーが、この作品の6年後、フランシス・ジロー監督の「デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて」('86年/仏)では年齢の離れた夫と妻を演じましたが、これも夫婦の危機を打開しようとする話で、ただし、結構どろっとした話になっています。滞在先のリゾートホテルで殺人事件が起きる犯罪ミステリ仕様ですが、やや猟奇的側面も(原作は『狼は天使の匂い』『ピアニストを撃て』『華麗なる大泥棒』のデイビッド・グーディス)。さらには、「ラ・ブーム」の父親役と裸で激しいラブシーンを演じたりしていることもあり、そうした映画を企画する側も企画する側だが、「みんな父娘相姦みたいな目で私たちを見たがってるのよね」と自分でも承知していながら、こうした作品に簡単に出演してしまうソフィー・マルソーもソフィー・マルソーだとの批判と言うか苦言もあったようです。やはり、「ラ・ブーム」のソフィー・マルソーのイメージを壊されたくないファンがいるのだろうなあ(タイトルが何のことだかよく分からないのが難。ビデオタイトルは「地獄に墜ちて」)。
さらにその13年後、ソフィー・マルソーはマイケル・アプテッド監督の007シリーズシリーズ第19作「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」('99年/英)(公開時タイトルは「ワールド・イズ・ノット・イナフ」)でボンドガールとなり、当時で32歳ぐらいでしょうか、役どころは、ピアース・ブロスナン演じるジェームズ・ボンドを翻弄する悪役エレクトラ・キングで、結構ボンドと微妙な関係になりながらも、やがて本性を現しサディスティックにボンドを苛め倒していましたが(やや変態性欲気味)、詰まるところ悪役なのでやはり最期は...。彼女は、1996年に、半自伝的小説『うそをつく女』を刊行し、作品は「女性のアイデンティティの探求」と評され、フランスでは大きくとりあげられたとのことですが、こうした有名人女優がボンドガールになるのは当時としては珍しかったのではないでしょうか。その後、2002年に、長編映画監督としてのデビュー作「聞かせてよ、愛の言葉を」('01年)でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞を受賞するなどの活躍を遂げています。
「禁じられた遊び」●原題:JEUX INTERDITS●制作年:1952年●制作国:フランス●監督:ルネ・クレマン●脚本:ジャン・オーランシュ/ピエール・ポスト●撮影:ロバート・ジュリアート●音楽:ナルシソ・イエペス●原作:フランソワ・ボワイエ●時間:86分●出演:ブリジッド・フォッセー/ジョルジュ・プージュリー/スザンヌ・クールタル/リュシアン・ユベール/ロランヌ・バディー/ジャック・マラン●日本公開:1953/09●配給:東和●最初に観た場所:早稲田松竹 (79-03-06)●2回目:高田馬場・ACTミニシアター (83-09-15)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「鉄道員」(ピエトロ・ジェルミ)●併映(2回目):「居酒屋」(ルネ・クレマン)

「ラ・ブーム」●原題:LA BOUM●制作年:1980年●制作国:フランス●監督:クロード・ピノトー●製作:アラン・ポワレ●脚本:ダニエル・トンプソン/クロード・ピノトー●撮影:エドモン・セシャン●音楽:ウラジミール・コスマ(主題歌:「愛のファンタジー」歌:リチャード・サンダーソン)●時間:110分●出演:クロード・ブラッスール/ブリジッド・フォッセー/ソフィー・マルソー/ドゥニーズ・グレイ/ アレクサンドル・スターリング/ ベルナール・ジラルドー/シェイラ・オコナー/アレクサンドラ・ゴナン/ジーン=フィリップ・レオナール/リシャール・ボーランジェ/ウラジミール・コスマ●日本公開:1982/03●配給:松竹=富士映画●最初に観た場所:高田馬場パール座(82-09-15)(評価:★★★☆)●併映:「フィービー・ケイツのパラダイス」(スチュワート・ジラード)
「パラダイス」●原題:PARADISE●制作年:1982年●制作国:カナダ●監督・脚本:スチュアート・ギラード●製作:ロバート・ラントス/スティーブン・J・ロス●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ポール・ホファート●時間:95分●出演:フィービー・ケイツ/ウィリー・エイムス/リチャード・カーノック/チュヴィア・タヴィ/ニール・ヴィポンド●日本公開:1982/06●配給:松竹富士(評価:★☆)●併映:「ラ・ブーム」(クロード・ピノトー)
「プリティ・ベビー」●原題:PRETTY BABY●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督・製作:ルイ・マル●脚本:ポリー・プラット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:ジェリー・ウェクスラー●時間:110分●出演:ブルック・シールズ/E.J.ベロッ/キース・キャラダイン/スーザン・サランドン/アントニオ・ファーガス/マシュー・アントン/ダイアナ・スカーウィッド/バーバラ・スティール/ドン・フッド●日本公開:1978/10●配給:パラマウント●最初に観た場所:高田馬場パール座(80-01-16)(評価:★★★)●併映:「リトル・ロマンス」(ジョージ・ロイ・ヒル)
「デサント・オ・ザンファー 地獄に墜ちて」●原題:DESCENTE AUX ENFERS●制作年:1986年●制作国:フランス●監督:フランシス・ジロー●製作:アリエル・ゼイトゥン●脚本:フランシス・ジロー/ジャン=ルー・ダバディ●撮影:シャルリー・ヴァン・ダム●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●原作:デイビッド・グーディス●時間:88分●出演:ソフィー・マルソー/クロード・ブラッスール /ベッツィ・ブ

「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」●原題:THE WORLD IS NOT ENOUGH●制作年:1999年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:マイケル・アプテッド●製作:マイケル・G・ウィルソン/バーバラ・ブロッコリ●脚本:ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:デヴィッド・アーノルド(主題歌:「The World is Not Enough」ガービッジ)●原作:イアン・フレミング●時間:127分●出演:ピアース・ブロスナン/ソフィー・マルソー/ロバート・カーライル/デニス・リチャーズ/ロビー・コルトレーン/デスモンド・リュウェリン/マリア・グラツィア・クチノッタ/サマンサ・ボンド/マイケル・キッチン/コリン・サーモン/セレナ・スコット・トーマス/ウルリク・トムセン/ゴールディ/ジョン・セル/クロード=オリビエ・ルドルフ/ジュディ・デンチ●日本公開:2000/02●配給:UIP(評価:★★★☆)
作:エリッ
ク・アルトメイヤー/ニコラス・アルトメイヤー●撮影:イシャーム・アラウィエ●音楽:ニコラス・コンタン●原作:エマニュエル・ベルンエイム●時間:113分●出演:ソフィー・マルソー
/アンドレ・デュソリエ/ジェラルディーヌ・ペラス/シャーロット・ランプリング/エリック・カラヴァカ/ハンナ・シグラ/グレゴリー・ガドゥボワ/ジャック・ノロ/ジュディット・マーレ/ダニエル・メズギッシュ/ナタリー・リシャール●日本公開:2023/02●配給:キノフィルムズ●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(23-02-17)(評価:★★★★)

大工の息子ではあったが大工仕事よりもラテン語の勉強に身を入れるジュリアン・ソレル(ジェラール・フィリップ)は、シェラン僧院長(アンドレ・ブリュノ)の推薦でヴェリエエルの町長レナール侯爵家の家庭教師となった。レナール夫人(ダニエル・ダリュー)はいつしかジュリアンに愛情を抱くようになったが、ジュリアンとの逢瀬が重なるにつれ次第に後悔し、子供が病気になったとき、夫人は自分の非行を天が罰したのではないかと考えるようになった。世間の口も次第にうるさくなって来たころ、ジュリアンは心を決めてかねての計画通り神学校に向けて出発した。ナポレオン戦争直後のフランスでは、僧侶になることが第一の出世道だったのだ。しかし、神学校でも、ジュリアンは、平民に生れた者の持つ反逆の感情に悩まねばならなかった。ピラール僧院長(アントワーヌ・バルペトレ)はジュリアンの才気を愛してい
たが、同時に彼の並ばずれて強い野心を心配していた。僧院長がラ・モール侯爵(ジャン・メルキュール)に招かれてパリに行くときジュリアンも同行してラ・モール侯爵の秘書となったが、ここでも上流社会からの侮蔑の目が彼に注がれた。ジュリアンはその復讐に、侯爵令嬢マチルド(アントネラ・ルアルディ)と通じ、侯爵令嬢をわがものと
した優越感に酔った。二人の結婚を認めねばならなくなった侯爵は、レナール夫人にジュリアンの前歴を照会した。夫人は聴問僧に懺悔したと同じく、ジュリアンを非難し、自分との関係を暴露した返事をよこした。これを読んでジュリアンは激怒し、夫人をピストルで傷つけた。法廷に立ったジュリアンはあらゆる弁護を拒絶した。彼はこの犯行が貴族への復讐心から出たものではなく、彼女への恋から発していることを悟った。獄舎に訪れて心から許しを乞う夫人との抱擁に満足しつつ、ジュリアンは絞首台の人となる―。
映画は、分かりやすく作ってあると思いました。「赤と黒」の意味するところなどは極々説明的に撮られていましたが、原作には何ら説明は無かったのではないでしょうか(実際は当時のフランス軍の軍服は青色だったとのことだし)。ただ。やはり原作を読んでいないとストーリー的に理解に苦しむ場面も少なからずあるようにも思いました。それでも、原作をまずまずはなぞっています。原作の2度目の映画化作品で、フランス映画としては初でしたが、こうした堂々とした大作が作られてしまうと、リメイク作品はちょっと作りにくいのかもしれません(1997年にフランスでTVドラマとしてジャン=ダニエル・ヴェラーゲの監督で再び映像化され、NHK(BS)でも放送、後にDVDも発売された)。
ただし、原作を読んから観るとやはり物足りないと言うか、少しだけ軽い感じがします。当時31歳のジェラール・フィリップが主人公ジュリアン・ソレルの18歳から23歳までを演じていることもあって、大工の息子時代の彼は描かれておらず、映画が始まって30分でダニエル・ダリュー演じるレナール夫人との出会いがあるのは、かなり駆け足気味という印象です(映画全体の長さは3時間12分)。因みに、'97年のTVドラマ版では、大工見習時代のジュリアン・ソレルが描かれていて、非常におどおどした自信無さげな様子は、原作に忠実かと思われました(ドラマ版の長さは3時間20分)。
原作には、ジュリアン・ソレルが最初は自分の出世のためにレナール夫人を自らの手中に収めようとするものの、相手の自分への愛情を得たばかりでなく、次第に彼自身が本気で夫人を愛するようになっていく過程が、心理小説として丹念に描かれているのですが、映画では、そのあたりが駆け足気味だったでしょうか。侯爵令嬢マチルドに対しても同じで、ジュリアン・ソレルはマルチドを最初は自身の出世に利用するつもりだったのですが、次第に...。これが映画だと展開が早すぎて、ジュリアン・ソレルが単に惚れやすい男にも見えなくもないです。それでも、ジェラール・フィリップは美貌のみならず演技力を兼ね備えた俳優であり、彼なりのオーラのようなものは発していたと思います。

それと、この作品は美女映画としても楽しめました。レナール夫人を演じたダニエル・ダリューも美人であれば、侯爵令嬢マチルドを演じたイタリア女優のアントネラ・ルアルディも綺麗で(これだと、ジュリアンがそれぞれと恋に落ちるのも無理はないか)、レナール家の小間使でジュ
リアンに想いを寄せるエリザを演じたアンナ・マリア・サンドリ(彼女もイタリアの女優)までもが、今風の美女でした(この小間使エリザのジュリアンへの思慕は、原作以上に強調されていて、エリザの出番もかなり多い)。

因みに、TVドラマ版でジュリアン・ソレルを演じたキャロル・ブーケも美男子で、実年齢でジュリアン・ソレルよりずっと上だったジェラール・フィリップよりは原作に近いかも(ジェラール・フィリップのようなオーラはないが)。レナール夫人を演じたキム・ロッシ・スチュアートも、マチルドを演じたジュディット・ゴドレーシュもこれまた美人。特にキム・ロッシ・スチュ
アートはモデル出身の女優ですが、堂々とした印象すらあります(ジュリアン役のキャロル・ブーケより上にクレジットされている。キャラクター的にはダニエル・ダリュー演じる夫人の方が原作に近いか)。こちらもまた、展開が速く原作を読んでいないとよく理解できない部分もありますが、映画版よりは淡々と物語に沿って作られている印象もあり、DVDで一気に観るというより、2夜に分けて観るのがちょうどよいといった感じのものでした(NHKの放送が2夜に分かれていた)。フランスでのテレビ放送時は、視聴率が30%を超える大ヒットとなったとのことで、名作のTVドラマ版としては立派な出来だと思います。
「赤と黒」●原題:LE ROUGE ET LE NOIR●制作年:1954年●制作国:フランス・イタリア●監督:クロード・オータン=ララ●製作:アンリ・デューチュメイステル/ジャ
ンニ・ヘクト・ルカーリ●脚本:ジャン・オーランシュ/ピエール・ボスト●撮影:ミシェル・ケルベ●音楽:ルネ・クロエレック●原作:スタンダール「赤と黒」●時間:192分(完全版)●出演:ジェラール・フィリップ/ダニエル・ダリュー/アントネッラ・ルアルディ/アンドレ・ブリュノ/アントワーヌ・バルペトレ/ジャン・メルキュール/ジャン・マルティネリ/アンナ=マリア・サンドリ/ミルコ・エリス/ピエール・ジュルダン/ジャック・ヴァレーヌ●日本公開:1954/12●配

「赤と黒(TV-M)」●原題:LE ROUGE ET LE NOIR●制作年:1997年●制作国:フランス・イタリア・ドイツ●監督:ジャン=ダニエル・ヴェラーグ●原作:スタンダール「赤と黒」●時間:200分●出演:キム・ロッシ・スチュアート/キャロル・ブーケ/ベルナール・ヴェルレー/モーリス・ガレル/リュディガー・フォーグラー/ジュディット・ゴドレーシュ/フランチェスコ・アクアローリ/クロード・リッシュ●日本放送:2001/08・09●放送局:NHK-BS(評価:★★★★)



1942年春、舞台はベルヒテスガーデンのヒトラーの山荘・通称イーグルネスト。ドイツとオーストリアの国境付近にある雄大な景色を望めるこの山荘で、重臣や愛人エヴァ・ブラウンと休暇を過ごすフューラー(総統)ことアドルフ・ヒトラーの1日を、その権力者とは思えないようなダラダラした姿を、或いは重臣に突然当たり散らす様を、或いはまた、愛人のエヴァと二人きりになり、自分はガンで体が痛いとエヴァに向かって甘える様などを描く―。
「モレク神」は'98年公開のロシア映画で、アレクサンドル・ソクーロフ監督の「権力四部作」と呼ばれる連作の1作目であり、1999年・第52回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞しています。ソクーロフ監督は連作の2作目「牡牛座 レーニンの肖像」('01年)ででレーニンを、3作目「太陽」('05年)で昭和天皇を描いています。「モレク神」とは子供を人身御供にさせた古代セム族の信仰に由来する神の名、旧約聖書では、悲惨な災いや戦火の象徴で、ユダヤ人にとっては避けるべき異教の神とみなされ、キリスト教世界では偽の神を意味するそうで、この映画の主人公はアドルフ・ヒトラーであり、まさに偽神と呼ぶにふさわしい人物ということになります(「モレク神」はヘブライ語で王をも意味する)。
晩年のヒトラーを描いていますが、戦争映画風でも政治映画風でもなく、冒頭に述べたように、別荘(本作では現存するヒトラーのティーハウスでロケをしている)で愛人のエヴァ・ブラウンや側近らと過ごす彼の1日が描かれていて、従って、オリヴァー・ヒルシュビーゲル 監督の「
1942年春の時点でドイツ軍の敗走はまだ始まっていませんが、この映画で描かれるヒトラーは我儘な子供のようで、もう既に常軌を逸しているという印象であり、エヴァ・ブラウンとの関係も、赤ん坊とそれをあやす母親のような感じです。ただし、この別荘滞在時にはすでに梅毒の症状が出ていたという話もあるので、全部が全部、大袈裟に描かれた創作とは言えないかもしれません。
とはなんだ?」と尋ねる場面があり、ヒトラーはユダヤ人の大量虐殺を知らなかった説が採用されている)。
これに続く'01年公開の「権力四部作」の第2作にあたる「牡牛座 レーニンの肖像」では、暗殺未遂事件から4年後の1922年、52歳となり、最初の脳梗塞の発作のためモスクワ郊外のゴールキ村で療養していたウラジーミル・レーニンのある1日を描いてます(2001年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品、2001年ニカ賞最優秀監督賞・作品賞・主演男優賞・女優賞・撮影賞・脚本賞・美術賞受賞、ロシア映画評論家協会最優秀最優秀監督賞・最優秀作品賞・主演男優賞・主演女優賞・撮影賞・脚本賞・美術賞受賞)。
この映画におけるレーニンも、自分ではほぼ何も出来ないような要介護老人のように描かれています。ヒトラーの次にレーニンを同じように描いているというのがスゴイです(これ、レーニン廟があるロシアの映画だものなあ)。
ただ、終盤、お手伝いに用意して貰いながらも満ち足りた食事をする場面で、「人民は飢えているのに私たちは贅沢に耽る。恥ずかしい」とレーニンが言っているところに、まだ、自らの基本理念を保持し続ける彼の姿があり、その点が、壊れてしまっているヒトラーとの違いでしょうか。
りがあった)、そこでスターリンと政治権力上の力関係が逆転してしまったことをまざまざと実感させられるレーニンの姿もあって(スターリンには自信に満ち、見舞いに来ているのに内心ではやつれたレーニンを見て喜色満面の様子)、権力者の末路の惨めさを描いている点では「モレク神」と同じです。(●やがて、そのスターリンも1953年に脳卒中の発作で倒れ、末期を迎えることになるのは、アレクセイ・ゲルマン監督の「

「モレク神」●原題:Молох●制作年:1999年●制作国:ロシア・ドイツ●監督・脚本:アレクサンドル・ソクーロフ●製作:トマス・クフス/ヴィクトール・セルゲーエフ●脚本:ユーリー・アラボフ●撮影:アレクセイ・フョードロフ/アナトリー・ロジオーノフ●時間:108分●出演:レオニード・マズガヴォイ/エレーナ・ルファーノヴァ/レオニード・ソーコル/エレーナ・スピリドーノ/ヴァウラジミール・バグダーノフ●日本公開:2001/03●配給:ラピュタ阿佐ヶ谷●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(21-04-06)(評価:★★★★)
「牡牛座 レーニンの肖像」●原題:Телец●制作年:2001年●制作国:ロシア●監督:アレクサンドル・ソクーロフ●製作:ヴィクトール・セルゲーエフ●脚本:ユーリー・アラボフ●撮影:アレクサンドル・ソクーロフ●音楽:アンドレイ・シグレ●時間:94分●出演:レオニード・モズゴヴォイ/マリヤ・クズネツォーワ/ナターリヤ・ニクレンコ/レフ・エリセーエフ/セルゲイ・ラジューク●日本公開:2008/02●配給:パンドラ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(21-04-15)(評価:★★★★)

ベルギー。自動車修理工場の見習工のイゴール(ジェレミー・レニエ)は、父ロジェ(オリヴィエ・グルメ)の命令ですぐに仕事を抜けてしまう。ロジェは不法移民の斡旋が仕事で、イゴールは大事な助手なのだ。彼はほどなくクビに。不法移民宿泊施設。ブルキナファソ出身で古株のアミドゥ(ラスマネ・ウエドラオゴ)とその妻アシタ(アシタ・ウエドラオゴ)が赤ん坊を連れてやってくる。ある日、アミドゥが建築現場で作業中、突然移民局の抜き打ち査察があった。アミドゥは重傷を負うが、ロジェは警察沙汰を恐れて医者も呼
ばない。傷の手当てもされず、アミドゥはイゴールに妻子の世話を頼んで死ぬ。深夜、ロジェはイゴールに手伝わせて、アミドゥの遺体をコンクリートの土台に埋め込む。翌朝、アシタは夫のことでイゴールを問い詰める。彼女のところには、男たちがアミドゥがギャンブルで作った借金の取り立てに来ていた。イゴールは彼女を助けようと金を渡すが、ロジェに知られて殴られる。ロジェはアシタを追い出そうとしていた。ロジェはアシタにアミドゥの名前で偽の電報を打つ。アシタを騙して連れ出し、
娼婦として売ろうというロジェの企みを知ったイゴールは、母子を連れて家出する。イゴールが勤めていた修理工場に3人は泊まるが、夜中に赤ん坊が熱を出し、アシタは半狂乱に。病院に転がり込むと、親切な係官と、アシタと同じアフリカ系のロザリー(クリスチャン・ムシアナ)が世話を焼いてくれた。アシタは赤ん坊を連れてイタリアの叔父さんの元へ行こうと決心。身分証明書はロザリーが借してくれた。イゴールはロジェからもらった指輪を売って旅費を作る。翌朝、ロジェが工場に現れ、イゴールに家を戻ってアシタ母子を引き渡せと命令する。イゴールは父親の言いつけを初めて拒絶し、ロジェを鎖で繋いで、アシタと駅へ急ぐ。ホームへ向かう途中、イゴールはアシタにアミドゥは亡くなったと真実を明かすと―。
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の1996年の作品で、長編第3作。カンヌ映画祭「ある視点」部門で注目され、パリで小規模公開ながらロングランを記録しています。
個人的には、確かに彼の行動の動機として正義感みたいなものが無かったわけではないと思いますが、むしろ、今まで父親に言いなりになっていたのが、そこから逃れようとする"第二の自我"のようなものが生まれてきたということではないかと思います。つまり、アミドゥとの〈約束〉を守ることが、彼にとっては「父親離れ」乃至は「父親超え」に重なったからではないかと思います。
「イゴールの約束」●原題:LA PROMESS●制作年:1996年●制作国:ベルギー・フランス・ルクセンブルク●監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ●製作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/ハッサン・ダルドゥル クロード・ワリンゴ ジャクリーヌ・ピエルー●脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/レオン・ミショー/アルフォンソ・バドロ●撮影:アラン・マルクーン●時間:93分●出演:ジェレミー・レニエ/オリヴィエ・グルメ/アシタ・ウエドラオゴ/フレデリック・ボドソン/ラスマネ・ウエドラオゴ●日本公開:1997/05●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-09-20)(評価:★★★★)


「俺」は、ビデオ出張撮を請け負うカメラマン。ある日、ナイトクラブに設けられた水槽の中を泳ぐ人魚を撮影する仕事が舞い込む。「俺」は人魚を演じる美美(メイメイ)(周迅(ジョウ・シュン))に一目惚れし、二人は付き合いはじめる。(話は過去に遡って―)馬達(マー・ダー)(賈宏声(ジア・ホンション))はバイクで何でも運ぶ運び屋。ある日、少女・牡丹(ムーダン)(周迅(ジョウ・シュン)二役)を運ぶ仕事が舞い込む。牡丹の父親は密輸酒で金を儲け、愛人がいる。牡丹の父親が愛人と密会する日、牡丹は馬達のバイクの後ろに跨り、叔母の家に届けられる。馬達に何度も送られて、牡丹は馬達を次第に好きになっていく。馬達のボス・老B(ラオB)(姚安濂(ヤオ・アンリェン))と馬達のかつての恋人の蕭紅(シャオホン)(耐安(ナイ・アン))は、馬達に、牡丹を誘拐して父親に身代金を払わせる計画に加担させようとする。当初は渋っていた馬達だが、遂には嫌々ながら牡丹を誘拐する。老Bと蕭紅が身代金を受け取った際に、老Bは蕭紅を殺害する。馬達は牡丹を家に送ろうとするが、牡丹はバイクを倒して駈け出し、馬達は後を追う。橋に辿り着いた牡丹は、蘇州河に飛び込み、馬達も河に飛び込むが牡丹は見つからない。馬達は逮捕され、刑務所送りになる。何年かして出所した馬達は、再び運び屋となり、牡丹を探す。ある日、馬達は美美に出会う。美美と牡丹はそっくりであり、馬達は美美が牡丹だと信じ込む―。
2000年公開の婁燁(ロウ・イエ)監督の長編第3作(原題は「蘇州河))。婁燁監督は、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督などと並ぶ第6世代監督の一人で、自身の出身地・上海を舞台にしたこの作品では、脚本も書いています(因みに、劇中で殺害される蕭紅(シャオホン)を演じた耐安(ナイ・アン)は製作者の一人)。この作品は、2000年・第29回「ロッテルダム国際映画祭」タイガー・アワード(最優秀作品賞)受賞作であり、2000年・第1回「東京フィルメック」の最優秀作品賞受賞作でもあります。
上海の裏町がシズル感溢れる映像で活写される中、ミステリアスな物語の展開で惹きつけ、独特の才気を感じました。物語はある種"入れ子"構造になっていて、「俺」が語る「馬達(マー・ダー)の物語」となっていますが、「俺」は"撮影者"として在り、自らの姿を見せず、それは、「俺」が馬達と出会ってからも(結局、最後まで)続きますが、この辺りも上手いと思いました。
美美(メイメイ)・牡丹(ムーダン)の二役を演じた周迅(ジョウ・シュン)は、この作品で2000年・「パリ国際映画祭」最優秀主演女優賞を受賞し、その後も
戴思杰(ダイ・シージエ)監督の「

蕾(シュー・ジンレイ)、趙薇(ヴィッキー・チャオ)、章子怡(チャン・ツィイー)と並ぶ四大名旦(中国四大女優)の一人として人気を博し、2014年に米国の中国系俳優アーチー・カオと結婚しています。
一方の馬達(マー・ダー)を演じた賈宏声(ジア・ホンション)は、この作品に出演後、周迅と意気投合し、恋愛関係を持ったことも知られていますが(1年以上の交際を続けた後に二人は別れた)、2010年にビル14階から転落して43歳で死亡し、自殺とみられています(彼はこの作品に出る前も、90年代にアイドル俳優として活躍していたが、麻薬に手を染め芸能界を一時追放されたという過去がある)。
昨年['19年]11月の第20回「東京フィルメックス」で、歴代の最優秀作品賞受賞作の人気投票で上位に選ばれ、この作品が上映されることになったのに合わせ婁燁(ロウ・イエ)監督が来日し、公開インタビューに答えていますが、観客から「ロウ・イエ監督の作品は被写体にカメラが近く、主観性が強いと感じる」と意見が飛ぶと、ロウ・イエは「カメラは撮影のツールではなく"目"です。近い距離で撮ることによってエモーションが生み出せます」と述べ、「映画は人を騙せません。カメラマンの思い、俳優たちの思いを撮影によって表現することにより、真実の映画を撮ることができると思います」「ほかの撮影方法で撮ろうと思ったこともありますが、僕が好きなのはドキュメンタリータッチで撮るということなんです」と語っています。
「ふたりの人魚」●原題:蘇州河(英:Suzhou River)●制作年:2000年●制作国:中国・ドイツ・日本●監督・脚本:婁燁(ロウ・イエ)●製作:フィリップ・ボバー/耐安(ナイ・アン)●撮影:王昱(ワン・ユー)●時間:83分●出演:周迅(ジョウ・シュン)/賈宏声(ジア・ホンション)/姚安濂(ヤオ・アンリェン)/耐安(ナイ・アン)●日本公開:2001/04●配給:アップリンク●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-02-14)(評価:★★★★)
蘇州河に飛び込む牡丹(ムーダン)(周迅(ジョウ・シュン)) 

![ローラーボール [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB%20%5BDVD%5D.jpg)









アメリカ映画では、B級映画と言えばB級映画ですが、ノーマン・ジュイソン監督作でジェームズ・カーン主演の「ローラーボール」('76年)を取り上げているのが懐かしいです。これもある意味ディストピア映画で、優れたSF・ファンタジー・ホラー映画に与えられる「サターン賞」の、創設間もない'75年度第3回の
ジェームズ・カーンは「ゴッドファーザー」('72年)、「







んな映画にも出過ぎて、映画ファンには"どうも仕事を選ばないおじさん"という印象があるそうな。いずれにせよ、この「ブレードランナー」という作品は、公開前及び公開直後はそれほど話題にもなっておらず、時を経て評価が高まった作品で、同年の第7回「サターンSF映画賞」も、候補にはなったものの「




「ローラーボール」●原題:ROLLERBALL●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督・製作:ノーマン・ジュイソン●脚本:ウィリアム・ハリソン●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:アンドレ・プレヴィン●原作:ウィリアム・ハリソン●時間:125分●出演:ジェームズ・カーン/ジョン・ハウスマン/モード・アダムス/ジョン・ベック/モーゼス・ガン/パメラ・ヘンズリー/シェーン・リマー/バート・クウォーク/ロバート・イトー/ラルフ・リチャードソン●日本公開:1975/07●配給:ユナイテッド・アーテ



「イレイザー」●原題:ERASER●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:チャック・ラッセル●製作:アーノルド・コペルソン/アン・コペルソン●脚本:トニー・パーイヤー/ウォロン・グリーン●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:アラン・シルヴェスト
リ(主題歌:「Where Do We Go From Here(愛のゆくえ))」ヴァネッサ・ウィリアムズ)●原案:トニー・パーイヤー/ウォロン・グリーン/マイケル・S・チャヌーチン●時間:115分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/ジェームズ・カーン/ヴァネッサ・ウィリアムズ/ジェームズ・コバーン/ロバート・パストレリ/ジェームズ・クロムウェル/ダニー・ヌッチ/ニック・チンランド/ジョー・ヴィテレリ/マーク・ロルストン/ジョン・スラッテリー/ローマ・
マフィア/オレク・クルパ/パトリック・キルパトリック●日本公開:1996/08●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★)

シルヴィア(シャーリーズ・セロン)は、ポートランドの海辺に建つ高級レストランのマネージャーとして働いている。だが、ひとたび職場を離れると、行きずりの男と安易に関係を持ち、自傷行為に走る。そんな彼女の前に、カルロス(ホセ・マリア・ヤスピク)と名乗るメキシコ人男性が現れ、彼が連れてきた12歳の少女マリア(テッサ・イア)の姿にシルヴィアは動揺し、思わず逃げ出す。その胸に、砂漠の中で真っ赤に燃え上がるトレーラーハウスの幻影が浮かび上がる...。シルヴィアがマリアーナと呼ばれていた10代の頃、彼女の一家はニ
ューメキシコ州の国境の町で暮らしていた。病気を克服したばかりの母親ジーナ(キム・ベイシンガー)に代わって、父親ロバート(ブレット・カレン)と3人の幼い兄弟の面倒を見るのはマリアーナ(ジェニファー・ローレンス)の役目だった。そんな中、ジーナは隣町に住むメキシコ
人のニック(ヨアキム・デ・アルメイダ)と情事を重ねていた。お互いに家庭を持つ二人は、中間地点のトレーラーハウスを忍び逢いの場所に選び、貪るように愛を交わすが、その情事は唐突に終わりを告げる。二人が密会中にトレーラーハウスが炎上、二人は帰らぬ人と
なった。母の事故死は、多感なマリアーナの心に大きな傷跡を残したが、それはニックの息子・サンティアゴ(J・D・パルド)にとっても同様だった。やがて、両親を真似るように密会を重ねるようになった二人は、本気で恋に落ちていく―。それから12年、シルヴィアは、マリアーナの名前と共に置き去りにした過去と向き合うべき時が来たことを悟る―。
「あの日、欲望の大地で」('08年/米、原題:The Burning Plain)は、メキシコ出身の脚本家・作家で「21グラム」('03年)、「バベル」('06年)などの脚本映画があるギジェルモ・アリアガが、2人のオスカー女優、シャーリーズ・セロン(1975年生まれ)とキム・ベイシンガー(1953年生まれ)を主演に迎えて撮り上げた2008年の監督デビュー作。「時代と場所を越えて3世代にわたる女性たちが織りなす愛と葛藤と再生の物語を、時制を錯綜させた巧みな語り口で描き出していく」という謳い文句ですが、まさにその通りの佳作でした。
"脚本家"監督のまさに脚本の上手さを感じさせますが、驚くべきは、重要な役どころであるシルヴィアの娘マリアーナを演じたジェニファー・ローレンス(1990年生まれ)の演技力で、当時17歳にして、2人のオスカー女優の体当たり演技(これはこれで流石と言うべき好演)に拮抗する演技となっています。ギジェルモ・アリアガ監督には「メリル・ストリープの再来かと思った」と言わしめ、2008年・第65回ヴェネツィア
国際映画祭ではマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞しました。その4年後、コメディ映画「
大学で英文学を教えるマリー(シャーロット・ランプリング)は、夫ジャン(ブリュノ・クレメール)とは結婚して25年になる50代の夫婦。子どもはいないが幸せな生活を送っている。毎年夏になると、フランス南西部・ランド地方の別荘で過ごし、今夏も同様にヴァカンスを楽しみに来た。昼間、マリーが浜辺でうたた寝する間、ジャンは海に泳ぎに行く。目を覚ましたマリーは、ジャンがまだ海から戻っていないことに気づく。気を揉みながらも平静を装うマリーだが、不安は現実のものとなる。ヘリコプターまで出動した大がかりな捜索にもかかわらずジャンの行方は不明のまま。数日後、マリーはひとりパリへと戻るが―。
シャーロット・ランプリング(1946年生まれ)が演じる、夫の死を受け入れられないマリーが、"壊れている"感がある分、どこかいじらしさもありました。彼女がパリに戻って最初の方のシーンで夫が出てくるため、その部分はカットバックかと思ったら、どうやらそうではなかったみたい。すでに「まぼろし」は始まっていた?(原題: Sous le sableは「砂の下」の意)。そう言えば、すでに女友達のアマンダ(アレクサンドラ・スチュワルト)に精神科に診てもらうよう勧められていました。
彼女にとって夫は生きているわけで、女友達のアマンダはヴァンサン(ジャック・ノロ)を再婚相手として紹介したつもりなのだろうけれども(一見カットバック・シーンと思われた食事会は、二人をくっつけるためのものだったわけか)、彼女自身は不倫のスリルと快感を味わっているような
感じでした(やや滑稽にも見える)。夫の薬棚からうつ病の薬を見つけて夫が自殺することを心配し、医者に行ってヴァカンス以降は薬を受け取りに来ていないことを知っても、あくまでも自殺を心配しています。仕舞には、ラスト近くで夫と思しき水死体が揚がって自ら検死に行くも、腕時計が違うという理由だけで(それが正確かどうかも怪しいが)夫とは認めようとしない―精神分析でいう"合理化"なのでしょうが、やっぱり"壊れている"!
アメリカでも好評を得た理由の1つは、シャーロット・ランプリングがアメリカ映画にもよく出ていることもあるのでは。まさにシャーロット・ランプリングの演技を観る映画になっているような感じですが、彼女はその負託に応えている感じで、この作品の演技が、「さざなみ」('15年/英)などでの高い評価を得た近年の演技の下地として連なっているのではないかと思います。かつて「愛の嵐」('74年/伊)の頃は、こんなに息の長い女優になるとは思われていなかったように思います。また、彼女は実際に活動が一時低調であったわけで、フランソワ・オゾン監督にこの作品で起用されたことで、再び注目を集めることになったとも言えます。
「愛の嵐」は、リリアーナ・カヴァーニ監督の1973年のイタリア映画。ウィーンのとあるホテルの夜番のフロント係兼ポーターとして働くマクシミリアン(ダーク・ボガード)は、実は元ナチス親衛隊の将校で収容所の所長だった人物。アメリカから有名なオペラ指揮者がホテルに泊り客としてやってきますが、その妻ルチア(シャーロット・ランプリング)は、13年前マックスが強制収容所でその権力を使って倒錯した愛の生活を送ったユダヤ人の少女で、二人は再び倒錯した愛欲
の世界にのめり込んでいくという話です。この映画において、主人公マックスはじめとして元ナチ党員たちが孤立せずに、横のつながりを持ちながら生きていることが描かれていて(この部分は実際の社会や政治を反映している)、そうした輩にとってルチアは危険な存在になっていくが―。
「美しい」とか「醜い」とか様々な評価のある映画ですが、シャーロット・ランプリングの美貌が光る作品であったには違いなく、上半身裸にサスペンダーでナチ帽をかぶって踊る場面は、映画史に残る有名なシーンの1つとなりました。原題は「ナイトポーター」。昔観たときは、ヨーロッパのホテルにはダーク・ボガードみたいな顔のポーターがよくいるけれど、みんなスゴイ過去を持っているのかも...とも思ったりしました。
(●2023年・第80回「ヴェネチア国際映画祭」にて、リリアーナ・カヴァーニ監督は、俳優のトニー・レオンとともに栄誉金獅子賞を受賞した。)
「あの日、欲望の大地で」●原題:THE BURNING PLAIN●制作年:2008年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ギジェルモ・アリアガ●製作:ウォルター・パークス/
ローリー・マクドナルド●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:ハンス・ジマー/オマール・ロドリゲス=ロペス●時間:106分●出演:シャーリーズ・セロン/キム・ベイシンガー/ジェニファー・ローレンス/ホセ・マリア・ヤスピク/ジョン・コーベット/ダニー・ピノ/テッサ・イア/ジョアキム・デ・アルメイダ/J・D・パルド/ブレット・カレン●日本公開:2009/09●配給:東北新社●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-09-07)(評価:★★★★)

「まぼろし」●原題:SOUS LE SABLE/(英)UNDER THE SAND●制作年:2000年●制作国:フランス●監督:フランソワ・オゾン●製作:オリヴィエ・デルボス/マルク・ミソニエ●脚本:フランソワ・オゾン/エマニュエル・ベルンエイム/マリナ・ドゥ・ヴァン/マルシア・ロマーノ●撮影:アントワーヌ・エベルレ/ジャンヌ・ラポワリー●音楽:フィリップ・ロンビ●時間:95分●出演:シャーロット・ランプリング/ブリュノ・クレメール/ジャック・ノロ/アレクサンドラ・スチュワルト/ピエール・ヴェルニエ/アンドレ・タンジー●日本公開:2002/09●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-09-03)(評価:★★★☆)
「愛の嵐」●原題:IL PORTIERE DI NOTTE/(英)THE NIGHT POTER●制作年:1974年●制作
国:イタリア●監督:リリアーナ・カヴァーニ●製作:ロバート・ゴードン・エドワーズ●脚本:リリアーナ・カヴァーニ/イタロ・モスカーティ●撮影:アルフィーオ・コンティーニ●音楽:ダニエレ・パリス●原作:リリアーナ・カヴァーニ/バルバラ・アルベルティ/アメディオ・パガーニ●時間:117分●出演:ダーク・ボガード/シャーロット・ランプリング/フィリップ・ルロワ/ガブリエル・フェルゼッティ/マリノ・マッセ/ウーゴ・カルデア/イザ・ミランダ/カイ・ジークフリート・シーフィルド●日本公開:1975/11/(ノーカット完全版)1997/03●配給:日本ヘラルド映画/(ノーカット完全版)彩プロ●最初に観た場所:八重洲スター座(79-02-01) (評価:★★★★)●併映:「ルシアンの青春」(ルイ・マル)




アイオワ州の田舎町。24歳のギルバート・グレイプ(ジョニー・デップ)は、大型スーパーの進出ではやらなくなった食料品店に勤め、日々の生活は退屈だが、彼には町を離れられない理由がある。知的障害を持つ弟アーニー(レオナルド・ディカプリオ)は彼が身の回りの世話を焼き、常に監視していないと給水塔に登るなどの大騒ぎを起こす。母親ボニー
(ダーレーン・ケイツ)は夫が17年前に突然首吊り自殺を遂げて以来、外出もせず一日中食べ続け、鯨のように太っている。ギルバートはそんな彼らの面倒を、姉のエイミー(ローラ・ハリントン)、妹のエレン(メリー・ケイト・シェルバート)と共に見なければなれなかった。彼は店のお客で、2人の子持ちの人妻のベティ(メアリー・スティーンバージェン)と不倫を重ねていたが、彼
女の夫(ケヴィン・タイ)が気づいているかどうかは不明。ある日、ギルバートは、旅の途中でトレーラーが故障したため母親と沿道にキャンプを張っている女性ベッキー(ジュリエット・ルイス
)と知り合い、2人の仲は急速に深まるも、彼は家族を捨てて彼女と町を出ていくことは出来ない。そんな折、ベティの夫が急死し、人妻は町を出る。一方、アーニーの18歳の誕生パーティの前日、ギルバートは弟を風呂へ入れようとして、苛立ちが爆発し暴力を振るってしまう。居たたまれなくなり家を飛び出した彼の足は、自然にベッキーの元へと向かう。その夜、彼は美しい水辺でベッキーに優しく抱きしめられて眠る。翌日、トレーラーの故障が直ったベッキーは出発する―。
「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」('85年/スウェーデン)のラッセ・ハルストレム監督の1993年公開作。原作は。劇作家ピーター・ヘッジス初の小説『ギルバート・グレイプ』で、脚本も担当しています。ヒューマンドラマとして感動作に仕上がっているのは、原作の良さに拠
る部分も大きいかと思いますが、この監督は家族物を撮るのが上手いと思います。加えて、役者たちも好演しており、公開当時はレオナルド・ディカプリオの演技が話題になりましたが(彼はこの演技で19歳にしてアカデミー助演男優賞にノミネートされた)、主人公ギルバート・グレイプ役のジョニー・デップも、彼と不倫する人妻役のメア
リー・スティーンバージェンも、ベッキー役のジュリエット・ルイスも母親役のダーレン・ケイツ(1947-2017)もみんな良く、更には、この映画が映画初出演だったり、それこそワン・アンド・オンリーの出演者もいるようで、それでいて不自然さを感じさせないのは、監督の演出力の賜物かもしれません。
ネタバレになりますが、母親ボニーはアーニーが再度給水塔に登り警察に身柄を拘束されたのに怒って、家を出てギルバートの運転するクルマで警察へ出向き息子を奪還するも、その太った姿を人々から奇異の目で見られ、再び引き籠り状態となり、アーニーの誕生パーティが終わった後、自ら歩いて階段を登り、2階のベッドで眠るように息を引き取ります。そして、母親の巨体と葬儀のことを思ったギルバートは(クレーンでも使わないと遺体を2階から運び出せない状況だが、そうすれば多くの野次馬が見に来ることが予想される)、母親を「笑い者にはさせない」と決心し、家に火を放ちます。一年後、姉や妹も自分の人生を歩き出していて、ギルバートはアーニーと、町を訪れたベッキーのトレーラーに乗り込み、アーニーが「僕らはどこへ?」と尋ねると、彼は「どこへでも、どこへでも」と答えます。
彼に「自分のこと」を考えるように促したのが、母親とトレーラーで旅する生活を送っているベッキーで、彼に何がしたいのか、どういう人になりたいのかを訊き、ギルバートは「いい人に」なりたいと答えますが、これはそれまでのギルバートの犠牲的な生き方を象徴しているとともに、彼が自分というものを見つめ直し、人妻との関係にピリオドを打つ契機にもなったように思います。
一方で、このベッキーという女性は面白くて、自分を訪ねて来たギルバートに、洗濯物なんか干しながらさらっと、「(カマキリが)どう交尾するか知ってる? オスがメスに忍び寄ると、メスはオスの頭を噛みちぎるの。オスの体は交尾を続けるんだけど、交尾が終わるとメスは残りの体も食べちゃうのよ」というようなことを言います。
ギルバートが置かれている状況のメタファーだと解釈すると、"eat"はそのまま「食い尽くす」という意味にもなり、更に、メス=女性とすれば、ギルバートを喰いつす"メスカマキリ"は人妻のベティであると言えます。ベッキーはギルバートが"メスカマキリに喰われるオスカマキリ"のようだと示唆しているわけですが、ベッキーがギルバートから人妻ベティを引き剥すだけのためにこうした暗喩を用いたというのはやや狭い見方のように思われ、ベッキーはギルバートが自分自身の人生を生きるために、自分が置かれている状況を安易に受容したり、あるいは意識的に見ないようにするのではなく、まず危機感を持って自らを見つめ直すよう促したように思います。
ただし、この考えで行くと、ギルバートが愛した彼の母親にもメスカマキリの話が当て嵌まるように思われ(自殺した夫は"オスカマキリ"か?)、その辺りがなかなかこの映画の微妙なところです。でも実際、知的障害を持つ弟アーニーは18歳になったからといって何か特別に改善が見られるわけではなく、大人になって今後ますます大変そうな感じがするにも関わらず、人妻が去った代わりにベッキーという恋人が出来、さらにギルバートにとって大きな負担となっていた母親は亡くなったことで、つまり"メス"の呪縛から解放されたことで、ギルバートは自分の人生に対してもアニーに対しても、これまでよりずっと前向きになれたのではないかと思われます(ベッキーはギルバートの母親のことを偉いと思っているが、彼女がギルバートに母親との面会を求めたことは、結果として彼女が母親にある種"最後通牒"を突きつけたのと同じことになったようにも思える)。
ョルン・イスファルト●原作:ピーター・ヘッジス●時間:118分●出演:
ジョニー・デップ/レオナルド・ディカプリオ/ジュリエット・ルイス/ダーレン・ケイツ/ローラ・ハリントン/メアリー・ケイト・シェルハート/ジョン・C・ライリー/クリスピン・グローヴァー/メアリー・スティーンバージェン/ケヴィン・タイ/ ペネロープ・ブランニング●日本公開:1994/08●配給:シネセゾン●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-07-23)(評価:★★★★☆)


90歳の通称"ラッキー"(ハリー・ディーン・スタントン)は、今日も一人で住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。ヨガをこなしたあと、テンガロンハットを被って行きつけのダイナーに行き、店主のジョー(バリー・シャバカ・ヘンリー)と無駄話をかわし、ウェイトレスのロレッタ(イヴォンヌ・ハフ・リー)が注いだミルクと砂糖多めのコーヒーを飲みながら新聞のクロスワード・パズルを解く。夜はバーでブラッディ・マリーを飲み、馴染み客たちと過ごす。そんな毎日の中で、ある朝突然気を失ったラッキーは、人生の終わりが近いことを思い知らされ、「死」について考え始める。子供の頃怖かった暗闇、逃げた100歳の亀、"生餌"として売られるコオロギ―小さな町の、風変わりな人々との会話の中で、ラッキーは「それ」を悟っていく―。
昨年[2017年]9月に91歳で亡くなったハリー・ディーン・スタントン主演のジョン・キャロル・リンチ監督作品で、ハリー・ディーン・スタントンの遺作となりました。ジョン・キャロル・リンチは本来は俳優で(最近では「
」の創始者マクドナルド兄弟の兄モーリスを演じていた)、この「ラッキー」が初監督作品になります。一方、2017年のTV版「ツイン・ピークス」でハリー・ディーン・スタントンを使ったデヴィッド・リンチ監督が、主人公ラッキーの友人で、逃げてしまったペットの100歳の陸ガメ"ルーズベルト"に遺産相続させようとしとする変な男ハワード役で出演しています(役者として目いっぱい演技している)。
ントンは太平洋戦争時に、映画の中でダイナーの客が語る沖縄戦に実際に従軍している)、映画では少々偏屈で気難しいところのあるキャラクターとして描かれています。自分の言いたいことを言い、そのため周囲の人々と小さな衝突をすることもありますが、でも、ラッキーは周囲の人々から気に掛けられ、愛されていて、彼を受け容れる友人・知人・コミニュティもあるといった
具合で、むしろこれって"ラッキー"な老人の話なのかもと思いました。但し、彼自身はウェット感はなく、どうやら無神論者らしいですが、そう遠くないであろう自らの死に、自らの信念である"リアリズム"(ニヒリズムとも言える)を保ちつつ向き合おうしています。ある意味、精神的"終活映画"と言えるでしょうか。その姿が、ハリー・ディーン・スタントン自身と重なるのですが、孤独でドライな生き方や考え方と、それでも他者と関わりを持ち続ける態度の、その両者のバランスがなかなか微妙と言うか絶妙かと思いました。
ハリー・ディーン・スタントンはこの映画撮影時は90歳で、「八月の鯨」('87年/米)で主演したリリアン・ギッシュ(1893-1993)が撮影当時93歳であったのには及びませんが、「サウンド・オブ・ミュージック」('65年/米)のクリストファー・プラマーが「手紙は憶えている」('15年/カナダ・ドイツ)で主演した際の年齢85歳を5歳上回っています(クリストファー・プラマーはその後「ゲティ家の身代金」('17年/米)で第90回アカデミー賞助演男優賞に88歳でノミネートされ、アカデミー賞の演技部門でのノミネート最高齢記録を更新した)。
ハリー・ディーン・スタントンがこれまでの出演した作品と言えば、SF映画の傑作「エイリアン」や、準主役の「レポマン」、主役を演じた「パリ、テキサス」など多数ありますが、第37回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した、ヴィム・ヴェンダース監督の「パリ、テキサス」が特に印象深いでしょうか。この「ラッキー」のエンディング・ロールで流れる彼に捧げる歌の歌詞に「レポマン」「パリ、テキサス」と出てきます。また、米国中西部らしい舞台背景は「パリ、テキサス」を想起させます(ジョン・キャロル・リンチ監督は


「パリ、テキサス」('84年/独・仏)は、失踪した妻を探し求めテキサス州の町パリをめざす男(スタントン)が、4年間置き去りにしていた幼い息子と再会して親子の情を取り戻し、やがて巡り会った妻(ナスターシャ・キンスキー)に愛するがゆえの苦悩を打ち明ける―というロード・ムービーであり、当時まだアイドルっぽいイメージの残っていたナスターシャ・キンスキーに、「のぞき部屋」で働いている生活疲れした人妻を演じさせ新境地を開拓させたヴィム・ヴェンダース監督もさることながら、ハリー・ディーン・スタントンの静かな存在感も作品を根底で支えていたように思いま
す。ヴィム・ヴェンダース監督は、ロマン・ポランスキー監督が文豪トマス・ハーディの文芸大作を忠実に映画化した作品「
ハリー・ディーン・スタントンは、主役だった「パリ、テキサス」に比べると、リドリー・スコット監督の「エイリアン」('79年/米)では、"怪物"に「繭」にされてしまい、最後は味方に火炎放射器で焼かれて
しまう役だったからなあ(それもディレクターズ・カット版の話で、劇場公開版ではその部分さえカットされている)。ただ、あの映画は、英国の名優ジョン・ハートでさえも、エイリアンの幼生(チェスト・バスター)に胸を食い破られるというエグい役でした。最初に観た時はストレートに怖かったですが、最後に生き残るのはシガニー・ウィーバー演じるリプリーのみという、振り返ればある意味「女性映画」だったかも。シリーズ第1作では男性に置き換えられていますが、チェスト・バスターが躰を食い破って出て来るというのは、哲学者・内田樹氏の「街場の映画論」等での指摘もありましたが、女性の出産に対する不安(恐怖、拒絶感)を表象しているのでしょうか。
この恐れは、シガニー・ウィーバー演じるリプリーが完全に主人公となったシリーズ第2作以降、リプリー自身の見る「悪夢」として継承されていきます。「エイリアン2」('86年/米)の監督は、「ターミネーター」のジェームズ・キャメロン。ラストでエイリアンと戦うリプリーが突如「機動戦士ガンダム」風に変身する場面に象徴されるように、SF映画というよりは戦争アクション映
画風で、「1」に比べ大味になったように思います(海兵隊のバスケスという男まさりの女兵士は良かった)。デヴィッド・フィンチャー監督の「エイリアン3」('92年/米)になると、リドリー・スコット監督がシンプルな怖さを前面に押し出した第1作に比べてそう恐ろしくもないし(馴れた?)、ジェームズ・キャメロン監督がエイリアンを次々と繰り出した第2作に較べても出てくるエイリアンは1匹で物足りないし、ラストの宗教的結末も、このシリーズに似合わない感じがしました(「エイリアン」「エイリアン2」は共に優れたSF映画に与えられる「サターンSF映画賞」を受賞している)。
チェスト・バスターの出現がシリーズを象徴する場面として印象に残るという意味では、「エイリアン」でのジョン・ハートの役は、エグいけれどもオイシイ役だったかも。この人、「
そのジョン・ハートも「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」('17年/英)のチェンバレン役を降板したと思ったら、昨年['17年]1月に膵臓ガンで77歳で亡くなっています。「ウィンストン・チャーチル」ではゲイリー・オールドマンがアカデミー賞の主演男優層を受賞していますが、そのゲイリー・オールドマンと、第22回「サテライト・アワード」(エンターテインメント記者が所属する国際プレス・アカデミが選ぶ映画賞)の主演男優賞を分け合ったのがハリー・ディーン・スタントンです。但し、スタントンは"死後受賞"でした。遅ればせながらこれを機に、ジョン・ハートとハリー・ディーン・スタントンに追悼の意を捧げます(「冥福を祈る」と言うと、"ラッキー"から「冥土なんて存在しない」と言われそう)。
そう言えば、ハリー・ディーン・スタントンは生前、"The Harry Dean Stanton Band"というバンドで歌とギターも担当していて、2016年に第1回「ハリー・ディーン・スタントン・アウォード」というイベントが開催され、ホストが今回の作品にも出ているデヴィッド・リンチで、ゲストが「沈黙の断崖」('97年)でハリー・ディーン・スタントンと共演したクリス・クリストファーソンや、「ラスベガスをやっつけろ」('98年)などで共演経験のあるジョニー・デップでしたが(ジョニー・デップの登場はハリー・ディーン・スタントンにとってはサプラズ演出だったようだ)、この「ハリー・ディーン・スタントン賞」って誰か"受賞者"いたのかなあ。

公開:2018/03●配給:アップリンク●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(18-04-13)(評価:★★★★)


「ワン・フロム・ザ・ハート」●原題:ONE FROM THE Heart●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:フランシス・フォード・コッポラ●製作:グレイ・フレデリクソン/フレッド・ルース●脚本:アーミアン・バーンスタイン/フランシス・フォード・コッポラ●撮影:ロナルド・V・ガーシア/ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:トム・ウェイツ●時間:107分●出演:フレデリック・フォレスト/テリー・ガー/ラウル・ジュリア/ナスターシャ・キンスキー/レイニー・カザン/ハリー・ディーン・スタントン /アレン・ガーフィールド/カーマイン・コッポラ/イタリア・コッポラ/レベッカ・デモーネイ●日本公開:1982/08●配給:東宝東和●最初に観た場所:目黒シネマ(83-05-01)(評価:★★★)●併映:「ひまわり」(ビットリオ・デ・シーカ)

「エイリアン」●原題:ALIEN●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:ゴードン・キャロル/デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル●脚本:ダン・オバノン●撮影:デレク・ヴァンリント●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:117分●出演:トム・スケリット/シガニー・ウィーバー/ヴェロニカ・カートライト/ハリー・ディーン・スタントン/ジョン・ハート/イアン・ホルム/ヤフェット・コットー●日本公開:1979/07●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)(評価:★★★★)●併映:「遊星からの物体X」(ジョン・カーペンター)





「エレファント・マン」●原題:THE ELEPHANT MAN●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:デヴィッド・リンチ●製作:ジョナサン・サンガー●脚色:クリストファー・デヴォア/エリック・バーグレン/デヴィッド・リンチ●撮影:フレディ・フランシス●音楽:ジョン・モリス●時間:124分●出演:ジョン・ハート/アンソニー・ホプキンス/ジョン・ギールグッド/アン・バンクロフト●日本公開:1981/05●配給:東宝東和●最初に観た場所:不明 (82-10-04)(評価:★★★☆)



ユーゴスラヴィア・ドナウ川沿いのロマの住む田舎町。自称天才詐欺師のマトゥコ(バイラム・セヴェルジャン)は、ロシアの密輸船から石油を買うが、騙されて大金を失う。起死回生を狙って、ブルガリアからの石油運搬車両の強盗を計画、息子ザーレ(フロリアン・アイディーニ)を伴って "ゴッドファーザー"グルガ(サブリ・スレジマニ)のもとへ行き、計画への出資を依頼する。かつてグルガを助けた自分の父ザーリェ(ザビット・メフメトフスキー)が亡くなったことにして、グルガから香典としての資
金援助を得るが、計画は新興ヤクザのダダン(スルジャン・トドロヴィッチ)の奸計により失敗し、ダダンに全財産を奪われる。困り果てたマトゥコは、嫁に行きそびれていたダダンの妹アフロディタ(サリア・イブライモヴァ)と自分の17歳の息子ザーレを結婚させる話を呑んでしま
う。ザーレは、川沿いでレストランを営むスイカ(リュビシャ・アジョヴィッチ)の孫娘で、年上の恋人イダ(ブランカ・カティッチ)からその話を聞かされるが何も出来ない。ザーリエは、息子マトゥコは見限っているが、孫のザーレには幸せになって欲しい。結婚
式当日、元アコーディオン奏者だったザーリェは一計を案じ、アコーディオンにヘソクリを隠して、自ら心臓を止める。祖父が死んだと思ったマトゥコは、ダダンに式の中止を訴えるが
、マトゥコは式を強行、ザーレは、アフロディタに式から脱出するよう促す。花嫁が消えて式は大混乱となり、ダダンをはじめ参列者総出の捜索が始まる。逃げるアフロディタは道中でノッポの男に助けられ、運命
を感じた二人はその場で結婚を約束。ダダンたちが追いついたところへやって来たノッポ男の祖父が、"ゴッドファーザー"グルガで、彼らはザーリェの"墓参り"に向かうところだった。ダダンはかつて彼の見習だったので、何も口出しできない。"死んだ"はずのザーリェも生き返り、グルガとザーリェは旧交を温め、晴れて二組のカップルが誕生。ザーリェは孫のザーレにヘソクリを託して二人の門出を祝う―。
ユーゴスラビアのサラエヴォ(現在はボスニア・ヘルツェゴビナの首都)出身のエミール・クリトリッツァ監督の1998年作。愛人に漏らしたちょっとした国家批判が政府側の人物に漏れてしまったために父親が当局に捕まってしまう「パパは、出張中!」('85年/ユーゴスラビア)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞し、更に、ユーゴスラビアの50年に渡る紛争の歴史を寓話的に描いた「アンダーグラウンド」('95年/仏・独・ハンガリー・ユーゴスラビア・ ブルガリア)で2度目となるカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞しながらも、その後政治的なしがらみに巻き込まれ、一度は引退を決意した同監督は、メッセージ性を徹底的に排除した、それまでと全く趣の異なるスタイルのコメディ映画であるこの作品で、1998年第55回ヴェネチア国際映画祭「銀獅子賞」を受賞し、復活を果たしています(1993年「アリゾナ・ドリーム」でベルリン国際映画祭「銀熊賞」を受賞しているため、三大映画祭の全てで受賞したことになる)。
前半はややゆったりしていますが、これは複雑な登場人物の相関を分かりやすくするためだったのかも。ある程度、主要登場人物のバックグラウンドが明らかになると、それまでのラテン的な明るさに加えて話のテンポ自体も良くなり、終盤に向けては加速的にノンストップ・コメディの様相を呈してきます。エンディングで「ハッピーエンド」という字幕が出て来るのは、エミール・クストリッツァ監督初めてのハッピーエンド映画だったためではないでしょうか。
ハチャメチャなヤクザ・ダダンを演じたスルジャン・トドロヴィッチは喜劇役者かと思ってしまいますが、そうではなく、政治色の濃い前作「アンダーグラウンド」にも出演しているようだし(クロを演じたラザル・リストフスキーに似ている気がするのだが)、スルジャン・スパソイェヴィッチ監督の「セルビアン・フィルム」('10年/セルビア)のようなハードゴア・サスペンスに主演したりもしているようなので、相当に演技の幅が広いのではないでしょうか(でもこの作品では歌って踊って超ノリノリの演技をしていてハマリ役?)。このダダン役のスルジャン・トドロヴィッチとザーレの父マトゥコ役のバイラム・セヴェルジャン、恋人イダ役の女優ブランカ・カティチの3人以外は全てロマの人々だそうで、ザーレを演じたキアヌ・リーブス似のフロリアン・アイディーニもこの映画しか出ていないようです。
予定調和型の"結婚狂騒曲"風ドタバタ喜劇ですが、ロマの人々の生活や文化、ものの考え方がしっかりバックグラウンドに描かれていて、これまで触れたことのないようなものに触れた気がし、同時に、どこの世界も同じなのだなと思わせるものもありました。飛ぶ鳥を落とす勢いのダダンにとって、妹がいまだに結婚できないのが頭痛の種で、"ゴッドファーザー"グルガにとっても息子がなかなか結婚しないのが悩みの種だというのは、ある種"体面"を重んじる閉鎖的な社会を映しているのかも。"ゴッドファーザー"をユーモラスに描いていますが、その実態は一帯の支配者であって、現実はこうはいかないだろうなあと(ダダンのようなヤクザはいそう)。最後に結婚したザーレが旅に出ると決心した時に「ここには太陽がない」と言い残すところに、監督の真意があるのかも。その上で、この作品は敢えてコメディとして完結させたというのが、エンディングの「ハッピーエンド」という字幕に込められた意味ではないか思ったりもしました。
(●1995年・第48回「カンヌ国際映画祭」でパルムドールを受賞したエミール・クストリッツァ前作「アンダーグラウンド」('95年)が2019年に早稲田松竹でかかったので観に行った(2017年に上映時間5時間14分の完全版が上映され、2018年にDVD化されているが、早稲田松竹で観たのは2011年にリバイバル公開された劇場版(170分)のデジタルリマスター版)。
ユーゴスラビアにおける紛争の歴史が、あくまでもバカバカしく騒がしい愛と悲しみのファンタジーとして、狂気と喧噪のもと語られていく作品。タイトルの「アンダーグラウンド」は何かの比喩ではなく、戦火の間、政敵によってまさに地下に閉じ込められ、地上世界の動きを知らされぬまま長き年月を送ってしまうという特殊な状況に生きる人々(ただしその中でも恋や愛はある)を描いた作品。パワー溢れる傑作であると同時に、「黒猫・白猫」と同様の怪作でもあった。)![黒猫・白猫【字幕ワイド版】 [VHS].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E9%BB%92%E7%8C%AB%E3%83%BB%E7%99%BD%E7%8C%AB%E3%80%90%E5%AD%97%E5%B9%95%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%89%E7%89%88%E3%80%91%20%5BVHS%5D.jpg)
「黒猫・白猫」●原題:CHAT NOIR, CHAT BLANC/CRNA MACKA, BELI MACOR●制作年:1998年●制作国:フランス・ドイツ・ユーゴスラビア●監督:エミール・クストリッツァ●製作:マクサ・チャトヴィッチ/カール・バウムガルトナー●脚本:ゴルダン・ミヒッチ●撮影:ティエリー・アルボガスト●音楽:ネレ・カライリチ/ヴォイスラフ・アラリカ/デーシャン・スパラヴァロ●時間:130分●出演:バイラム・セヴェルジャン/フロリアン・アイディーニ/スルジャン・トドロヴィッチ/ブランカ・カティッチ/サリア・イブライモヴァ/ザビット・メフメトフスキー/サブリ・スレジマニ/リュビシャ・アジョヴィッチ/ジャセール・デスタニ/アドナン・ベキールストジャン・ソティロフ/ゼダ・ハルテカコヴァ/プレドラグ・ペピ・ラコビッチ/プレグラグ・ミキ・マノジョロビッチ●日本公開:1999/08●配給:フランス映画社(評価:★★★★)
「アンダーグラウンド」●原題:UNDERGROUND●制作年:1995年●制作国:フランス・ドイツ・ハンガリー・ユーゴスラビア・ブルガリア●監督:エミール・クストリッツァ●脚本:デュシャン・コヴァチェヴィッチ/エミール・クストリッツァ●撮影:ヴィルコ・フィラチ●音楽:ゴラン・ブレゴヴィッチ●時間:170分(完全版314分)●出演:ミキ・マノイロヴィ
ッチ/ラザル・リストフスキー/ミリャナ・ヤコヴィッチ/エルンスト・シュテッツナー/スラヴコ・スティマツ/スルジャン・トドロヴィッチ●日本公開:1996/04●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所:早稲田松竹(19-04-08)(評価:★★★★)●併映:「ジプシーのとき」(エミール・クストリッツァ)
![ポーラX [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%A9X%20%5BDVD%5D.jpg)

変名で新人小説家として作品を発表したばかりの青年ピエール(ギヨーム・ドパルデュー)は、外交官だった父の亡き後、美しい母マリー(カトリーヌ・ドヌーヴ)と城館で何不自由なく暮らしていた。そんな彼の前に突然、異母姉と名乗る難民女性イザベル
(カテリーナ・ベルゴワ)が現れる。彼女の出現で、前から渇望していた"この世を越える"きっかけを得たと感じたピエールは、母マリーも婚約者リュシー(
デルフィーヌ・シェイヨー)も捨ててイザベルとパリヘ出る。パリで従兄のティボー(ローラン・リュカ)を訪ねるが、すげなく追い立てられ、やがて二人は音楽活動と武装訓練に余念がないアングラ集団が巣くう廃墟のロフトに棲み家を定める。二人はほどなくそこで結ばれ、創作活動に打ち込み始めたピエールだが、やがて母のバイク事故死とリュシーが病気であるとの報が入る。そのリュシーは、彼女を看病をしてくれたティボーの制止を振り切り、婚約者であることは秘されたまま、ピエールとイザベルの元に身を寄せるが―。
レオス・カラックス監督の1999年の作品で、第52回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作。「ボーイ・ミーツ・ガール」('83年)、「汚れた血」('86年)に続く連作の終止符として「ポンヌフの恋人」('91年)を撮ってから、レオス・カラックス監督の長編としては8年を経ての作品です。ハーマン・メルヴィルの『ピエール』(邦訳・『メルヴィル全集 第9巻』所収、国書刊行会)をベースに、舞台をフランスのノルマンディにしています。タイトルは原作の題名の仏語訳"Pierre ou les ambiguites"の頭文字に字"Pola"に解かれぬ謎を示すXを加えたものですが、映画に使われた10番目の草稿を示すローマ数字「Ⅹ」であるとも(従って、映画でポーラという人物が出てくるわけではない)。
主要な登場人物である男女が皆"神経症"乃至"分裂症"気味で、観ていて疲れました。主人公のピエールは、一緒に城館で暮らす母マリー(カトリーヌ・ドヌーヴが貫禄十分の演技)と「姉、弟」と呼び合う関係であるところから既に親子共々"危ない"印象を受けるし、自分の前に突然現れた異母姉イザベルとあっさり性愛関係になってしまうし(性愛を超えた魂の伴侶ということなのだろうが、男女の関係になるのもメルヴィルの原作通りなのか?)、後半のピエール、イザベル、リュシーの3人での生活はどうみても上手くいくはずもなく(ピエールは母親の遺産相続を拒否した挙句に金に困っているわけで、彼の諸々の行動には脈絡がない)、ラストは自殺未遂あり殺人ありのカタストロフィ的状況に。でも、これも"劇的"と言うより"劇画的"とでも言うか、ちょっと安易な終わり方のような気がしました(この結末もメルヴィルの原作通りなの?)。
いて、"アレックス"と"カラックス"は語感が似ている)、この「ポーラX」はどうなの
でしょうか。「汚れた血」と「ポンヌフの恋人」でヒロインを演じたジュリエット・ビノシュとは実生活でも恋人同士であったのが、困難が多発し多額の費用と膨大な時間を要した「ポンヌフの恋人」の撮影中に破局し、「ポーラX」まで8年間レオス・カラックスの沈黙が続いたのは、彼女との破局が大きく影響していると言われています。でも、この作品を観ると、まだ何か引き摺っているよような...。結局、次の長編「ホーリー・モーターズ」('12年)を撮るまで更にまた10数年、長編は撮っていません(ハーモニー・コリン監督の「
主人公のピエールを演じたギヨーム・ドパルデューは、名優ジェラール・ドパルデューの息子で、この「ポーラX」の日本公開の時にレオス・カラックス監督らとともに来日していますが、2008年に急性肺炎のため37歳で急死しています。また、イザベルを演じたカテリーナ・ベルゴワはロシアのサンクトペテルブルク出身の女優ですが(レオス・カラックスにとって彼女との出会いが8年ぶりに映画を撮るきっかけになったとも言われる)、彼女も2011年にパリにて44歳で亡くなっており、「死因不明」とされています(自殺説あり)。
一方、レオス・カラックスと別れたジュリエット・ビノシュはその後、「トリコロール/青の愛」('93年)でヴェネツィア国際映画祭女優賞とセザール賞主演女優賞を受賞、「イングリッシュ・ペイシェント」('96年)でベルリン国際映画祭銀熊賞女優賞とアカデミー助演女優賞を受賞、「トスカーナの贋作」('10年)で第63回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞と、世界三大映画祭の女優賞を受賞しており(三大映画祭の女優賞制覇は彼女が初で、ジュリアン・ムーアがこれに続いた)、やはりジュリエット・ビノシュを失ったのはレオス・カラックスにとっては大きかったのではないかと思わざるをえません。
高く評価する人もいる作品ですが(その気持ちも分からなくもない)、個人的にはやはり、この"神経症"&"分裂症"的な暗さと、ラストの急展開にややついていけなかったでしょうか。カトリーヌ・ドヌーヴ演じるマリーの自殺とも思えるバイク事故死は、ピエール喪失感によるものなのか。ピエールを巡る"四角関係"の話だったのか。その辺りもよく分からなかったです。
「ポーラX」●原題:POLA X●制作年:1999年●制作国:フランス・ドイツ・日本・スイス●監督:レオス・カラックス●製作:ブリュノ・ペズリー●脚本:レオス・カラックス/ジャン・ポール・ファルゴー/ローラン・セドフスキー●撮影:エリック・ゴーティエ●音楽:スコット・ウォーカー●原作:ハーマン・メルヴィル「ピエール」●時間:134分●出演:ギョーム・ドパルデュー/カテリーナ・ゴルベワ/カトリーヌ・ドヌーヴ/デルフィーヌ・シェイヨー/ローラン・リュカ/パタシュー/ペトルータ・カターナ/ミハエラ・シラギ●日本公開:1999/10●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-03-30)(評価:★★★)


1979年、中国山西省の地方都市・汾陽(フェンヤン)。明亮(ミン・リャン)(王宏偉(ワン・ホンウェイ))ら幼馴染みの4人は文化劇団で活動し、いつも一緒の時間を過ごしていた。張軍(チャン・ジュン)(梁景東(リャン・チントン))と鐘萍(チョンピン)(楊天乙(ヤン・ティェンイー))の二
人は親公認の仲だが、明亮と瑞娟(ルイジュエン)(趙濤(チャオ・タオ))は恋人とはいえない曖昧な仲。張軍は親戚のいる広州へ旅立ち、やがてサングラスをかけラジカセを持って町へ戻ってくる。明亮は瑞娟との仲をはっきりさせようとするが、ふられてしまう。一方、張軍の子供を身籠ってしまった鐘萍は中絶。80年代半ば、自由化の波が押し寄せ、劇団への補助金が打ち切られると4人の関係も不安定になり、瑞娟以外は旅回りに加わる。80年代後半、明亮と張軍らはロック・バンドを結成して活動。しかし89年の天安門事件の頃になると、彼らの音楽は流行から遅れはじめ、彼らはバンドを解散して田舎へ戻る―。
賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督の2作目となる2000年の香港・日本・フランス合作映画で、1980年代の中国で生きる4人の若者の姿を描いていて、第1作「一瞬の夢」('97年/中国・香港)と同じく賈樟柯監督の出身地である山西省の地方都市・汾陽(フェンヤン)(煉瓦で出来た田舎町という印象)を舞台としています。北京電影学院の卒業制作だった「一瞬の夢」は、1998年・第48回ベルリン国際映画祭の新人監督賞であるヴォルフガング・シュタウテ賞と最優秀アジア映画賞(NETPAC AWARD)を受賞し、釜山国際映画祭、ナント三大陸映画祭でグランプリを受賞していますが、この第2作「プラットフォーム」も、
前半部分では、主人公らの属する劇団は毛沢東主席を賛美する劇を上演したりしていますが、そうした地方にも「改革開放」の波が押し寄せたことを、若者たちがラッパズボンやパーマといった都市部の流行りの文化に影響されていくことで表現しています。と言っても、その都市文化のマネをする若者たちもどこかまだ垢抜けずにいて、地方と都市の文化格差を表しているように思いました。さらにそれを強く感じさせるのが、そうした文化を嫌う大人たちと若者たちの世代間ギャップで、この辺りは、新たな文化の波が押し寄せたからと言って地方が一気に変わったのではないことが分かります。

彼らが行く先々の雄大な自然が美しく撮られていますが、彼らにとってはバスやトラックに揺られて無舗装の道や荒野を行き、鰻の寝床さながらの寝所で寝る結構キツそうな日々の連続。でも、元々が県の劇団であるためか、主人公の明亮などはちょくちょく母親の元へ里帰りしているし(父親は家を出て別の所で別の女性と商売を始めたようだ。明亮はそこへも行ったが、父には会わなかった)、若い彼らにとっては、旅のキツさよりもむしろ、恋愛や家族のことの方が気
になる問題といった感じでしょうか。但し、公民館みたいな施設で公演をさせてもらうために鐘萍と瑞娟が居合わせた人たちの前で言われるがままに試しに踊ってみせたら、踊るだけ踊らせておいて施設の関係者ではなかったりして、これにはさすがに2人もキレてストライキを起こしそうになるし、道路わきにトラックを停めて荷台の上で2人が踊っている前をクルマがぶんぶん通り過ぎていくのも侘しかったです。
時代がさらに80年代半ばになると、明亮と張軍らはロック・バンドを組んでいたりするわけで、演劇に人民思想を込めていた何年か前とはすっかり様変わりし、但し、エレキギターを奏でても明亮が相変わらずパッとしないのは前と同じで、かなりイモっぽいです。やがて彼らの演奏も飽きられ、最後どうなってしまうのかと思いましたが、これってハッピーエンドなのでしょうか。かつて尖がっていた明亮、フツーの長閑そうなオッサンになっていました。
カメラを定位置に据え、その前を役者が行ったり来たりするのを長回しで撮るなど、ちょうどテオ・アンゲロプロス監督の作品と同じように長回しが多く、一方で説明的な描写は省いているため、やや観るのに根気がいるかもしれません。瑞娟は劇団を離れて何やってたのでしょうか(郵便局員? 税務署員?)。当時の政治的文化的状況を直接的に描くのは(国家当局の検閲上)困難であるとして、劇団の若者たちを通して間接的に観る側に伝えようとするならば、もう少し説明的であっても良かったのではないかと思いました。


ヴェネツィア国際映画祭出品作「世界」('04年/日・中国・仏)、そして第63回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞作「長江哀歌」でそれぞれ主役を務め、更には同監督の「四川のうた」('08年/中国・日)、「罪の手ざわり」('13年/中国)でそれぞれ重要な役を演じ、最近では第68回カンヌ映画祭パルム・ドールノミネート作「山河ノスタルジア」('15年/中国・日・仏)でも主役を務めています(その前、2012年に賈樟柯監督と結婚していて、そっかーというのもあるが、映画監督と女優との間でよくありそうなことか)。
「プラットホーム」●原題:站台/PLATFOME●制作年:2000年●制作国:香港・日本・フランス●監督・脚本:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)●撮影:余力為(ユー・リクウァイ)●音楽:半野喜弘●時間:154分●出演:王
宏偉(ワン・ホンウェイ)/梁景東(リャン・チントン)/楊天乙(ヤン・ティェンイー)/趙濤(チャオ・タオ)/韓三明(ハン・サンミン)●日本公開:2001/12●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-03-04)(評価:★★★☆)


16歳の少女ロゼッタ(エミリー・デュケンヌ)は、働いていた工場から突然解雇され、暴れながら警備員につまみ出される。彼女はバスに乗り、住まいであるトレーラーハウスがあるキャンプ場に、いつもの秘密の入り口から入る。トレーラーハウスにはアル中でセックス依存症の母親(アンヌ・イェルノー)がいて、ロゼッタに隠れて酒を飲んでは男を連れ込むため、ロゼッタとはいつも喧嘩に。ロゼッタも持病の腹痛に悩まされている。管理人に隠れてキャンプ場の中の池で釣りをするロゼッタ。町で母親が繕い直した古着を売るが大した金にはならず、役所に届け出た休
職届も受け取ってもらえない。いつも立ち寄るワッフル・スタンドで、新顔の店員リケ(ファブリツィオ・ロンギオーヌ)と知り合う。リケのお蔭でワッフル製造の仕事を得たロゼッタだが、社長(オリヴィエ・グルメ)はすぐに自分の息子に仕事を渡してしまい、彼女はまたも失職。リケは彼女に自分が密
かに作っているワッフルを売ることを勧めるが、仕事が欲しいロゼッタはそのことを社長に密告、クビになったリケの替わりに職を得る。問いつめるリケにロゼッタは仕事のためと素っ気なく答える。だが、家に戻り泥酔して眠り込む母親を見た彼女は、社長に電話し仕事を辞めることを伝える。そのことを知らないリケはキャンプ場にやってきて彼女を追い回す。何もかもうまくいかず、倒れ込み泣き出すロゼッタ。リケはロゼッタを黙って抱き起こす―。
1999年公開のジャン=ピエール&ダルリュック・ダルデンヌの兄弟の監督によるベルギー・フランス映画で、
その(自死に向けて)重たいプロパンボンベをトレーラーハウスまでよろけながら運ぶロゼッタのところへ、ロゼッタに裏切られて自らの職を奪われたリケがやってきて、すでにロゼッタがリケから奪った仕事も辞めていることを知らずに、彼女の周りをバイクでぐるぐり回ります。彼はロゼッタの現在の行動の意味がわからず、ただ彼女がなぜ自分を裏切ったのか知りたかっただけだと思いますが、ロゼッタがよろけた際に彼が手を差し伸べたところで映画は終わります。その際に、ロゼッタが初めて見せる誰かに救いを求めるような表情―これが、これまで自らの境遇とたった独り闘い続け、外に対して心を閉ざしきたロゼッタの"救い"の兆しなのかもしれません(「ある子供」では男性に対して女性の存在が救いとなっていて、男女の位相がちようど逆になっている感じか)。
そこに至るまでにも、リケと知り合うもトレーラーに住んでいることをリケに知られたくなかったロゼッタが、仕事の空きを知らせに来たリケに殴りかかるといったこともありました。一方で、トレーラーハウスに帰るのが嫌なロゼッタを、ロゼッタに仕事をみつけてくれたリケが自分の家に泊めた際に、寝る前にロゼッタが彼女自身に「ロゼッタ、仕事も見つけた」「ロゼッタ、友達もできた」「まっとうに生きる」と話しかけるシーンもありました(これが唯一ロゼッタの心象を描いたシーン)。それでいてロゼッタの新たな仕事が社長の息子に奪われてしまうと、リケがこっそり自分用にワッフルを作っていることを社長に密告してその仕事を奪ってしまうわけであって、フツーに考えれば彼女は人としてやってはいけないことをやっていることになりますが、それくらのことをするまでのロゼッタの仕事への執念とも取れるし、それだけ彼女の心の闇が深いことを物語っているとも言えます。
ロゼッタがその後どうなるかは殆ど示唆されておらず、この映画を観る側に委ねられていうようにも思われ、個人的にはロベール・ブレッソン監督の「
「ロゼッタ」●原題:ROSETTA●制作年:1999年●制作国:ベルギー・フランス●監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ●製作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/ローラン・ペタン/マイケル・パティン●撮影:アラン・マルクーン●時間:93分●出演:エミリー・ドゥケンヌ/ファブリッツィオ・ロンギーヌ/アンヌ・イェルノー/オリヴィエ・グルメイ●日本公開:2000/04●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-02-25)(評価:★★★★)


香港から地球の裏側に当たるアルゼンチンを
旅するウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)のゲイのカップルは、それが「やり直す」ための旅行にもかかわらず、イグアスの滝へ行く途中で道に迷って荒野のハイウェイで喧嘩別れしてしまう。一人になったファイは旅費不足を補うためブエノスアイレスのタンゴバーでドアマンとして
働くが、そこへ白
人男性とともにウィンが客として現れる。以降ウィンは何度もファイに復縁を迫りその度ファイは突き放すが、嫉妬した男性愛人にケガを負わされたウィンがアパートに転がり込んで来たため、やむなく介護する。ウィン
との生活にファイは安らかな幸せを感じるが、ケガの癒えたウィンはファイの留守に出歩くようになり、ファイは独占欲からウィンのパスポートを隠す。一方、ファイは転職した中華料理店の同僚で台湾からの旅行者のチャン(チャン・チェン)と親しくなり、そんなファイのもとからウィンは去っていく。旅行資金が貯まったチャンは南米最南端の岬へ旅立ち、チャンの出発後、ファイは稼ぎのいい食肉工場に転職、旅費が貯まりイグアスの滝へと旅立つ。香港への帰途、ファイは台北のチャンの実家が営む屋台を訪れる―。
ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の1997年の香港映画で、同年の
撮影は難航したようで、トニー・レオン(梁朝偉)は「同性愛者役はできない」と一旦出演を辞退したものの、「亡父の恋人をアルゼンチンに探しに行く息子の物語」に書き改めた新企画を示されて了承、ところが現地に着いてみるとストーリーは大きく変更されていました(監督に騙された?)。男同士でのラブシーンにはかなり抵抗があり、撮影後に呆然としてしていたそうです。
また、相方役のレスリー・チャン(張國榮)は、映画俳優と人気歌手の掛け持ちで、撮影当時コンサートツアーの予定があり、遅延を重ねた撮影の途中でやむを得ず香港へ帰国してしまい、収拾のつかなくなったストーリーを完結させるために、兵役直前で休業に入る予定だった台湾出身のチャン・チェン(張震)と、香港出身の歌手シャーリー・クワン(關淑怡)が招集されましたが、チャン・チェンが中華料理店でのファイの後輩にあたるチャンの役でかなり重要な役どころで出ているのに対し、シャーリー・クワンの出演シーンは本編
では1カットも使われていません。チャン・チェンはカンフー俳優でもあり、兵役からの復帰後、アン・リー監督の「
・米)などに出演し、近年ではウォン・カーウァイ監督、トニー・レオン主演の武術映画「
こうしたことも含め、全編を貫いているのは、人間は孤独であり、その辛さに耐えられるかという問いかけではないでしょうかか。舞台が地球の裏側だけに、そのことが一層ひしひしと感じられます。そうした中で、一人では生きることが出来ないのがウィン
で、次第に破滅に向かって行くタイプかも(ラストの方では、男性の愛人を仮想ファイに見立てていた)。一方で意外と逞しいのが中華料理店の後輩のチャンで、先輩の代わりに南米最南端の岬へ行って悩みを捨ててきてあげるからとファイにテープレコーダー
を渡しますが、ファイはテープレコーダーを握りしめるも言葉はなく、涙を流すしかありませんでした。それまで何となく距離を置いてこの映画を観ていたつもりが、このシーンではこちらも
泣けました。ファイが仕事に打ち込んできたのは、ウィンとの別離の痛みを忘れるためというのもあったのではないでしょうか(でも忘れられないでいる)。というわけで、チャンは約束通りしっかり南米最南端のエクレルール灯台まで行き('97年1月)、そのファイが"自らの悩みを吹き込んだ"カセットを聴くも、そこにはファイの言葉は無く、泣き声のようなものしか聴こえませんでした。
一方のファイも最後には、貯めた金で中古車を買って旅の目的地だったイグアスの滝へ行っており、そこでウィンの不在を再認識しながらも彼との過去を封印したような感じで、更に帰国時には台北に寄って('97年2月。テレビでは鄧小平死去のニュースが伝えられている。この辺りは物語が撮影とリアルタイムになっているようだ)、チャンの実家が営む屋台を訪れ、チャンの写真を一枚盗むことで、「もし会おうと思えば、どこでだって会うことができる」と確信します。こうした行為は何れも自らの過去を整理するための(同時に未来へ向けての再生のための)儀式のように思えました。
そう言えば、「
「ブエノスアイレス」●原題:春光乍洩/HAPPY TOGETHER●制作年:1997年●制作国:香港●監督・製作・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●撮影:クリストファー・ドイル(杜可風)●音楽:ダニー・チョンほか●時間:96分●出演:レスリー・チャン(張國榮)/トニー・レオン(梁朝偉)/チャン・チェン(張震)/グレゴリー・デイトン/スー・ピンラン(蕭炳林)●日本公開:1997/09●配給:プレノンアッシュ●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ(18-02-17)(評価:★★★★☆)


重慶マンションの無国籍地帯の雑踏で、刑事223号・モウ(金城武)は金髪サングラスの女性(ブリジット・リン)とすれ違う。その金髪女性
はドラッグ・ディーラーで、密入国インド人に麻薬を運ばせる仕事をしていた。空港へ向かった女はそこにインド人の姿が無く、裏切られたことを知る。命を狙われた女は、偶然入ったバーでモウと出会い、ホテルへ。恋人にふられていたモウは次に出会った女性に恋をすると決めていたのだが、女は疲れ果てホテルに着くや爆睡してしまう。翌朝はモウの誕生日で、ポケベルに既に姿を消した女からのバースディコールがあった。女は裏切ったインド人を射殺し、金髪とサングラスを脱ぎ捨て去っていく。モウはファーストフード店〈ミッドナイト・エクスプレス〉で新入りの娘フェイ(フェイ・ウォン)とす
れ違う。その店の常連客の警官663号(店主は633と呼ぶが、認識番号は663)(トニー・レオン)はCA(スチュワーデス)の恋人(チャウ・カーリン)と別れたばかりだった。元彼女のCAは店の主人に663号への手紙を封筒で託すが、主人はこっそり開封して手紙を読んでしまう。フェイも手紙を読むと、封筒には部屋鍵が入っていた。店に来た663号が封筒を受け取らないため、フェイは、その鍵
で663号の部屋に密かに入り込み、毎日少しずつ模様替えをしていく。663号はある日そのフェイと部屋の入口で鉢合わせする。次にファーストフード店で会った時にデートに誘う633号だったが、彼女は待ち合わせ場所に来なかった。店の主人が渡しに来たフェイからの手紙を663号は一旦屑籠に捨てるが、拾って読み返すと手書きの航空券で日付は1年後の今日だった。1年後、フェイはCAとなってかつての店の前に現れる。シャッターを押し上げると、中にいたのは、改装開店を控えたその店の新たな店主になっていた663号だった―。
ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の1994年の香港映画で、第14回香港電影金像奨で最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞(トニー・レオン)を受賞、日本でもミニシアターでの上映から始まってヒットした作品です。原題は「重慶森林」で、香港の九龍、尖沙咀にある「世界最大の雑居ビル」とも言われる重慶大厦(重慶マンション)を舞台に、すれ違う男女の物語をスタイリッシュ且つポップに描いた青春恋愛映画となっています。
最初、金城武演じる刑事223号・モウが金髪サングラスの女性(ブリジット・リン)とすれ違った際に、「その時彼女との距離は0.5ミリ。57時間後、僕は彼女に恋をした」というセリフが流れ、次に、ファーストフード店の娘フェイ(フェイ・ウォン)とすれ違う場面を介して警官663号(トニー・レオン)の話に移る際に、今度は「その時彼女との距離は0.1ミリ。6時間後、彼女は別の男に恋をした」と流れます。なかなかお洒落だなあと。おそらく、想定されていた第3話も刑事または警官の話で、そこにに切り替わる時も、そうした手法が用意されていたのでしょう。
第1話と第2話でどちらが好きか人によって好みは分かれると思います。第1話で、広東語、北京語、英語、日本語を巧みに使い分けていた台湾出身の金城武(日本人の父と台湾人の母との間に生まれ、沖縄県出身の祖父を持つ)は、香港に仕事で訪れた際、ホテルのロビーで偶然居合わせたウォン・カーウァイ監督に見初められ、この映画への出演が決まったとのことですが、映画が日本でもヒットしたため、日本でも人気が出ました。外国映画に出て外国語を話しているわけですが(独白は北京語か。台湾の若者は福建語より北京語を好んで使うようだ)日本人っぽくて、その辺りの"等身大"的感覚がいいのかも。このエピソードは、許可無しのゲリラ的手法で尖沙咀の街中を撮っていて、香港の都会の裏側に潜入したようなシズル感があって良かったです(第1話のカメラ担当は自身が映画監督でもあるアンドリュー・ラウ(劉偉強))。第1話は、男女がすれ違ってもうおそらく会うことはないだろうという(会ったら会ったで殺し屋と刑事なのだからかなりまずいことになるのだが)けっして明るい話ではないですが、最後に、金髪女からバースディコールがあったのが、主人公の救いになっているように思いました。
ただ、個人的には、トニー・レオン(梁朝偉)(こちらもまだ当時日本ではそれほど有名ではなく、この作品によって知名度と人気が出た)が主演の第2話の方が、40分の予定が60分に延びた分(?)ストーリー的には作
り込まれていたように思います。中国出身の香港の歌手フェイ・ウォン(王菲)演じるファーストフード店の娘も良くて、やっていることは押しかけ女房風で、今の基準で言えばストーカー行為なのですが、むしろ一途さが健気で可愛らしく思われる不思議な魅力があります。彼女はこの作品の演技でストックホルム国際映画祭・最優秀主演女優賞を受賞しています。個人的にはフランス映画の「
トニー・レオン演じる663号が、自分の部屋が少しずつ様変わりしているのを、恋人と別れたショックによる幻覚のせいだと
勝手に思い込んで(?)変に納得してしまったりしているなど、男の鈍感さがユーモラスに描かれていました(元々石鹸や濡れタオルに感情移入して話しかける癖がある変わった男なのだが)。ラストで、フェイが663号の元恋人の職業であったCAになっていて、663号がかつてフェイが働いていた店の店主になっているといった作りなど、ある種ファンタジー乃至寓話的な作りになっているように思いましたが、個人的にはそこに嵌りました(「恋する惑星」という邦題も悪くない)。フェイの好みの曲ママス&パパスの「夢のカリフォルニア」など、音楽の使われ方が映画にしっくりマッチしたものになっていて、フェイ・ウォン自身が歌うエンディング曲「夢中人」も良かったです(フェイ・ウォンは、「広東語のアルバム累計売り上げ」世界一としてギネスブックで認定されている)。

「恋する惑星」●原題:重慶森林/CHUNGKING EXPRESS●制作年:1994年●制作国:香港●監督・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●製作:ジェフ・ラウ(劉鎭偉)●撮影:(第1話)アンドリュー・ラウ(劉偉強)/(第2話)クリストファー・ドイル/●音楽:フランキー・チェン(陳動奇)/ロエル・A・ガルシア/マイケル・ガラッソ●時間:110分●出演:トニー・レオン(梁朝偉)/フェイ・ウォン(王菲)/金城武/ブリジット・リン(林青霞)/チャウ・カーリン(周嘉玲)/バレリー・チョウ●日本公開:1995/07●配給:アスミック・エース(評価:★★★★☆)



1958年。オックスフォードのダーリントン・ホールは、前の持ち主のダーリントン卿(ジェームズ・フォックス)が亡くなり、アメリカ人の富豪ルイス(クリストファー・リーヴ)の手に渡っていた。かつては政府要人や外交使節で賑わった屋敷は使用人も殆ど去り、老執事スティーヴンス(アンソニー・ホプキンス)の手に余った。そんな折、以前屋敷で働いていたベン夫人(エマ・トンプソン)から手紙をもらったスティーヴンスは彼女の元を訪ねることにする。離婚
をほのめかす手紙に、有能なスタッフを迎えることができるかもと期待し、それ以上にある思いを募らせる彼は、過去を回想する。1920年代、スティーヴンスは勝気なミス・ケントン(後のベン夫人)をホールの女中頭として、彼の父親でベテランのウィリ
アム(ピーター・ヴォーン)を執事として雇う。スティーヴンスは彼女に父には学ぶべき点が多いと言うが、老齢のウィリアムはミスを重ねる。ダーリントン卿は、第二次大戦後
のドイツ復興の援助に注力し、非公式の国際会議をホールで行う準備をする。会議で卿がドイツ支持のスピーチを続けている中、病に倒れたウィリアムは死ぬ。'36年、卿は反ユダヤ主義に傾き、ユダヤ人の女中2名を解雇する。当惑しながらも主人への忠誠心から従うスティーヴンスに対し、ケントンは卿に激しく抗議した。2年後、ユダヤ人を解雇したことを後悔した卿は、彼女たちを捜すようスティーヴンスに頼み、彼は喜び勇んでこのことをケントンに告げる。彼女は彼が心を傷めていたことを初めて
知り、彼に親しみを感じる。ケントンはスティーヴンスへの思いを密かに募らせるが、彼は気づく素振りさえ見せず、あくまで執事として接していた。そんな折、屋敷で働くベン(ティム・ピゴット・スミス)からプロポーズされた彼女は心を乱す。最後の期待をかけ、スティーヴンスに結婚を決めたことを明かすが、彼は儀礼的に祝福を述べるだけだった。それから20年ぶりに再会した2人。孫が生まれるため仕事は手伝えないと言うベン夫人の手を固く握りしめたスティーヴンスは、彼女を見送ると、再びホールへ戻る―。
「
ストーリー的にはほぼ原作通りに作られていますが(脚本には、ノンクレジットだが、2005年に
が旅する中で、旅先の田舎の人でもダーリントン卿=ナチのシンパという印象を抱いていたりする描き方になっているが、原作ではスティーヴンスの予想に反してダーリントン卿の名は田舎では殆ど知られてはいなかったということになっている)。そして、この会議で宥和論に傾く会議の流れに一人異議を唱える内容のスピーチをするアメリカの下院議員スミス氏(原作ではルイース氏)が、映画ではクリストファー・リーヴ(1952-2004)演じる、現在のダーリントン・ホールの所有者、つまりスティーヴンスの今の主人と同一人物あるということになっています(原作ではファラディ氏という、同じアメリカ人ではあるがルイース氏とは別人物)。
小説が全編、主人公の執事スティーヴンスの語り(旅行中の回想日記)で展開していくのに対し、映画では彼の内面の声はなく、アンソニー・ホプキンスがすべてそれを演技で表しています。そのためか、エマ・トンプソン演じるミス・ケントンと視線が絡み合ったりする場面が多く、スティーヴンスが延々と「品格」とは何かを語っている原作に比べると、映画は、二人の間での感情のぶつかり合いがより前面に出たものになっています。
そして終盤、今はベン夫人となっているミス・ケントンが、(当初はその気があったかもしれないが)事情が変わって再びダーリントン・ホールに戻ってスティーヴンスと仕事をすることはできないとなったとき、スティーヴンスは呆然とし、彼女と共に新たな人生の夕暮れを迎えるという望みが絶たれたことによって、取り返しのつかない、過ぎ去りし人生の悔いを実感します。原作では、肝心のミス・ケントンと再会した日(旅行5日目)の日記は無く(ショックで日記が書けなかった?)、6日目、スティーヴンスは帰路ウェイマス(Weymouth)に寄り道して、波止場で出会った見知らぬ老人から「夕日が一日で一番いい時間だ」と聞かされ、スティーヴンスは涙
を流しますが、映画ではミス・ケントンがリトル・コンプトン(Little Compton)のバス停でスティーヴンスにこの言葉を言って、人々が夕方を楽しみに待つとして、あなたは何を楽しみに待つのかと聞き、スティーヴンスは「お屋敷に戻り、人手不足の解消策を感がることかな」と答えます。ラストで屋敷の中に迷い込んだ鳥をスティーヴンスが追い立て、鳥が窓から外に逃れた時、それを屋敷の窓の内側から見上げる(屋敷から出ることのない)スティーヴンス―という対比的構図も、鳥の闖入自体が映画のオリジナルです。
原作本は、あのAmazonのCEO ジェフ・ペゾス氏が推薦しています(『
自分自身も、非常に抑えたトーンの(それだけに切なさが増す)叶わなかった恋の物語であると感じられたのと同時に、「時間は巻き戻せない」「後悔先に立たず」といった箴言を想起させられましたが、原作者のカズオ・イシグロ氏は、この映画を結構気に入っているとしながらも、原作と映画は「異なる芸術作品」だとしています。

「日の名残り」●原題:THE REMAINS OF THE DAY●制作年:1993年●制作国:イギリス●監督:ジェームズ・アイヴォリー●製作:リンゼイ・ドーラン●脚本:ルース・プラワー・ジャブバーラ/ハロルド・ピンター(ノンクレジット)●撮影:トニー・ピアース=ロバーツ●音楽:リチャード・ロビンス
●原作:カズオ・イシグロ●時間:134分●出演:アンソニー・ホプキンス/エマ・トンプソン/ジェームズ・フォックス/クリストファー・リーヴ/ピーター・ヴォーン/ヒュー・グラント/パトリック・ゴッドフリー/マイケル・ロンズデール●日本公開:1994/03●配給:コロンビア・ピクチャーズ(評価:★★★★)


貴族のダッシュウッド氏(トム・ウィルキンソン)が亡くなった後、ダッシュウッド夫人と3人の娘、エリノア(エマ・トンプソン)、マリアンヌ(ケイト・ウィンスレット)、マーガレットは、年500ポンドの遺産しか残されなかったことに愕然とする。ダッシュウッド氏は妻と娘たちの身を案じ、死ぬ間際に彼女たちを頼むと先妻との間の息子ジョン(ジェームズ・フリート)に頼んでいたにもかかわらず、ジョンの妻ファニー(ハリエット・ウォルター)がそれを阻止してしまったのだった。ジョンとファニーは母娘が住んでいたノーランド・パーク邸に乗り込み、彼女たちを邪険に扱うようになる。エリノアは、屋敷を訪れたファニーの弟エドワード(ヒュー・グラント)と互いに好感を抱く。ダッシュウッド母娘はミドルトン卿(ロバート・ハーディ)の厚意でバートン・コテージへ移り住む。マリアンヌは年の離れたブランドン大佐(アラン・リックマン)から愛情を寄せられるが、彼女は青年貴族ウィロビー(グレッグ・ワイズ)と恋仲になってしまう。しかし、ウィロビーは理由も告げずにロンドンへ去り、マリアンヌは悲しみに沈む。一方、エリノアはエドワードの秘密の婚約者ルーシー(イモジェン・スタッブス)の存在に大きな衝撃を受ける。ジェニングス夫人(エリザベス・スプリッグス)の招待で、失意のエリノアとマリアンヌ姉妹、そしてルーシーはロンドンを訪れるが、そこでは思いがけない事態が待っていた―。
1995年製作のアン・リー(李安)監督による米・英合作映画で、アン・リー監督にとっては、本格的にハリウッド進出を果たした第1作。ジェーン・オースティンの『分別と多感』が原作であり、原題は原作と同じです(Sense and Sensibility)。1996年・第46回ベルリン国際映画祭で、アン・リー監督としては「ウェディング・バンケット」('93年/台湾・米)に次ぐ2度目の「金熊賞」を獲得したほか(複数回の金熊賞受賞は2017年現在アン・リー監督のみ)、主演のエマ・トンプソンが脚本を担当しており、第68回アカデミー賞にて脚色賞を受賞しています。
ジェーン・オースティン作品では『高慢と偏見』が2005年にジョー・ライト監督によるイギリス映画としてキーラ・ナイトレイ主演で映画化されていますが(「プライドと偏見」)、文学全集などによく収められているのは『高慢と偏見』の方だけれども(或いは『エマ』か)、この「いつか晴れた日に」の原作『分別と多感』もなかなか面白いのではないでしょうか(個人的には未読だが、2009年に英国ガーディアン紙が発表した「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」に『高慢と偏見』と共に入っている)。『高慢と偏見』の最初の映画化作品は、ローレンス・オリヴィエ主演の「高慢と偏見」('40年/米)で、当時ハリウッドで流行したスクリューボール・コメディの影響を受けた作りになっているそうですが、ジェーン・オースティンの小説に登場する姉妹(『高慢と偏見』の場合は5人姉妹)は、いい男が現われる度にどんどん恋に
陥っていくので、何となく分かる気がします。
長女エリノア役のエマ・トンプソンはイングランド出身で、ジェームズ・アイヴォリー監督の「ハワーズ・エンド」('92年/英・日)でアカデミー主演女優賞を受賞済み、同じく
ジェームズ・アイヴォリー監督の「
次女マリアンヌ役のケイト・ウィンスレットもイングランド出身で、この作品の後、ジェームズ・キャメロン監督の「タイタニック」('97年/米)でレオナルド・ディカプリオと共演し、スティーブン・ダルドリー監督の「
エドワード役のヒュー・グラントは、こうした英国風映画には欠かせないイングランド出身の俳優で(個人的には ジェームズ・アイヴォリー監督の「
ブランドン大佐役のアラン・リックマンは、この人もイングランド出身で、映画初出演だった「
年/米)の冷酷無比なテロリスト集団のリーダー・ハンス役で一気に有名になりましたが、元々は英ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身の舞台俳優であり、この映画を観ているとそのことが感じられます。「ハリー・ポッター」シリーズのセブルス・スネイプ役も印象的でしたが、2016年に膵臓癌により69歳で死去したのが惜しまれます。
脇役もいいですが、やはりこの4人の演技力が映画の完成度に寄与している部分が大きいです。ハリウッド映画ですが、グレッグ・ワイズまで含めて主要な配役の5人ともイングランド出身で、彼らの演技力を引き出したのが、台湾出身のアン・リー監督であるというのが興味深いです。




河北省赤城県のチェンニ
ンパオ村にある水泉(シュイチアン)小学校で1年から4年まで28人の生徒たちを教えているカオ先生(高恩満(カオ・エンマン))が、母親の看病のため、1ヵ月間小学校を離れることになった。放っておけば、多く
の生徒が家庭の事情で学校をやめてしまう。代理としてチャン村長(田正達(チャン・ジェンダ))に連れてこられたのは、13歳の少女、ウェイ・ミンジ(魏敏芝(ウェイ・ミンジ))。中学校も出ていないミンジに、面接したカオ先生は心許なさを感じるが、子供たちに黒板を書き写させるだけの簡単なことならできるだろうと代理を任せる。報酬は50元。子供を一人も脱落させなければさらに10元。ミンジは、生徒に自習させて教室の外で座っているだけの「授業」を始めるが、うまくいくはずもなく、次々と騒ぎが起こる。特に生徒のホエクー(張慧科(チャン・ホエクー))は、隙を見て抜け出そうとしたり、女の子の日
記を盗んで騒いだりといつもミンジを困らせていた。そんなある日、そのホエクーが突然学校に来なくなった。病気になった親の代わりに、町に出稼ぎに行ったという。脱落者を出すと報酬が減ってしまうと考えたミンジは、何とか連れ戻そうと策を巡らせるが、町を出るバス代がない。皆で話し合い、レンガを運んで金を稼ぐことになり、生徒たちも一生懸命働いてようやくミンジを送り出す。大きな町へ着くとホエクーは行方知れずだと聞く。彼女はなけなしの金をはたいて紙と筆と墨汁を買い、尋ね人のチラシを貼り出すが、ある男から「そんなものは無駄だ」と指摘される―。
最初のうちは、ミンジには真剣に授業に取り組む気持ちも無く、彼女が町にホエクーを探しにいくのも、子供を一人でも脱落させれば、報酬にプラスして貰えるはずの
10元がフイになってしまうことが動機になっているわけですが、町に行くために幾らのカネが必要で、レンガを幾つ運べばどれだけのカネが集まるかを生徒に計算させているうちに、だんだん先生っぽくなっていき、レンガ運びで生徒たちとの間にも一体感が生まれてくるのが面白かったです。この辺りは、コメディ的手法が成功していると言っていいのではないでしょうか。
しかし、町に着いてからもミンジのホエクー探しは難航し、彼女はホエクーと最後に別れたという少女にカネを払ってまでして情報を得ようとしていて、観ていて、ああ、もう自分の報酬のためとかでなくなっているなあというのが伝わってきます。本人は別にそう思って意識が変わったわけではなく、いつの間にかそうした意識になっているわけであって、この辺りも上手いと思いました。そして、ラスト近くのテレビを通しての涙ながらの訴え―これは泣けます。
メイキング(張芸謀監修・出演「『あの子を探して』ができるまで」(2002年))によると、出演者は全員、演技の素人であるとのこと。ミンジを演じた13歳の少女ウェイ・ミンジは、全国で2千人以上もの候補者の中から選ばれた河北省の中学校の生徒。ホエクーを演じた10歳のチャン・ホエクーも河北省の小学生で、村長もカオ先生もテレビ番組のキャスターも、実際に同じ職業の人々だそうです。監督は出演者全員にその状況に彼らが置かれたらどうするかを問い、彼らが答えたようにカメラの前で演じさせたとのことです。
監督のインタビュー等によると、ミンジが、スタジオでキャスターからいろいろ問いかけられて何も答えられないでいた場面も、監督が予めミンジに「色々質問されるけれど、必ず答えなければいけない」と言って緊張させておいて、答えられない状況を作り出したということで、監督自身「テレビ局のある一面を風刺している場面になったと思います」と述べています。そのミンジが泣くシーンも、「どうしてもあそこで『ホエクー』って言って泣いてもらわなければならない。で、何をしたかと言いますと、耳元でこっそり囁きました。お父さんやお母さん、お姉さん、妹のことですね。彼女の家は非常に貧しいのです。ですから、そういうお家の状況を思い出して泣いてもらったのです」とのこと。スゴイ演出だなあ。
ややストレート過ぎてベタな印象もありますが、ラストの美談も含め、都市と農村の貧富の差が大きく、それが教育格差にもなっているという社会批判になっているようにも思います。中国語タイトルは「一个都不能少」、英語タイトルは"Not One Less"。ミンジは、残っている生徒をうっちゃっておいてホエクーを探しに行っているわけで、カンヌの審査員たちは当然のことながら、聖書の「迷える子羊」の話を想起したのではないでしょうか(改めて、上手く作られていると思う)。
「あの子を探して」●原題:一个都不能少/NOT ONE LESS●制作年:1999年●制作国:中国●監督:張芸謀(チャン・イーモウ)●製作:趙愚(ツァオ・ユー)●脚本:施祥生(シー・シアンション)●撮影:侯咏(ホウ・ヨン)●音楽:三宝(サンパオ)●原作:施祥生(シー・シアンション)「空に太陽がある」●時間:106分●出演:魏敏芝(ウェイ・ミンジ)/高恩満(カオ・エンマン)/張慧科(チャン・ホエクー)/田正達(チャン・ジェンダ)●日本公開:2000/07●配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ(00-10-10)(評価:★★★★☆)

1930年の大恐慌時代のカルフォルニア。小柄で頭の切れるジョージ(ゲイリー・シニーズ)と、巨漢だが知恵遅れのレニー(ジョン・マルコヴィッチ)の2人は、農場から農場へ渡り歩きながら労働に明け暮れる日々を送っていた。レニーは気持ちの優しい男だが、他愛のない失敗でよく面倒に巻き込まれるのが日常茶飯事だった。そんなレニーを聡明なジョージは何かと庇い、レニーは行動の全てをジョージに指示してもらい頼りきっていた。いつかは牧場主になるという夢を楽しそうに語る2人。そして彼らは、次の働き場所タイラー牧場へと向かうが―。
1992年公開作で、
昔ビデオで観たのを、今回DVDで観直しました。ジョン・マルコヴィッチは映画に出たての「
ということなのだろう)と重なる伏線となるわけで、これははっきり覚えていましたが、その他にも、レニーが〈二十日鼠〉の死体を持ち歩いていたこと(自分の手で圧死させてしまったのかもしれない)と、結果として短期間しか飼えなかった〈子犬〉の死、そして終盤の〈カーリーの妻〉(シェリリン・フェン)の死と、3度にわたって事故死が繰り返されていたのだなあと。更には、2人が今の農場に流れてくる原因になった、レニーが前の農場で女性の着ている服の〈光沢〉のある生地に魅せられた結果生じたトラブルと、レニーが今度はカーリーの妻の髪の毛の〈光沢〉に魅せられて、彼女からの誘惑もあって、結局それが悲劇に繋がるという、ここでもリフレインが効いています。つまり3通りものリフレインがあるわけですが、何れも後の方がより重大な結果を招いており、リフレインとリフレインが"相似形"的な関係になっています(何という技巧か!)。
ジョージはラストで、レニーと共にいることが自分の生きがいになっていたことに改めて(初めて?)気づいたのではないでしょうか。原作は、ラストの悲劇の後、全てを見通したスリムがジョージに気遣いする一方で、共に立ち去る2人を見てカーリーとカールソンは首を傾げるといった終わり方になっていて、スリム、ジョージの2人とカーリー、カールソンの2人が、全く別のタイプの人間として明確に線引されることを効果的に印象づけているように思いました。同時に、ジョージがもう農場をあちこち移動することなく、スリムと同じ道を辿り、更にはスリムの後継となることを暗示しているように思いました。
概ね原作に忠実に作られていましたが、黒人であるがために厩に住まわされているクルックス(ジョー・モートン)をカーリーの妻がなじるシーンが無かったなあ。ゲイリー・シニーズは舞台から映画に入ったわけですが、この作品の原作そのものが小説でありながら演劇的でもあり、このクルックスも出番は短いながら重要な役割を担っていたように思います。但し、ジョー・モートンの演技そのものは良く、老犬を飼うキャンディ老人役のレイ・ウォルストンもそうですが、脇役まで演技達者で固めているという点でも、演劇的な映画でした。

「二十日鼠と人間」●原題:OF MICE AND MEN●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ゲイリー・シニーズ●製作:ゲイリー・シニーズ /ラス・スミス●脚本:ホートン・フート●撮影:ケネス・マクミラン●音楽:マーク・アイシャム●原作:ジョン・スタインベック●時間:115分●出演:ゲイリー・シニーズ/ジョン・マルコヴィッチ/レイ・ウォルストン/シェリリン・フェン/ジョー・モートン/アレクシス・アークエット/ジョン・テリー/モイラ・ハリス●日本公開:1992/12●配給:MGM映画=UIP(評価:★★★★)




第二次世界大戦後のドイツ。15歳のマイケル(ダフィット・クロス)は、体調が優れず気分が悪かった自分を偶然助けてくれた21歳も年上の女性ハンナ(ケイト・ウィンスレット)と知り合う。猩紅熱にかかったマイケルは、回復後に毎日のように彼女のアパートに通い、いつしか彼女と男女の関係になる。ハンナはマイケ
ルが本を沢山読む子だと知り、本の朗読を頼むようになる。彼はハンナのために『オデュッセイア』や『犬を連れた奥さん』などを朗読する。ある日、ハンナは働いていた市鉄での働きぶりを評価され、事務職への昇進を言い渡されると、マイケルの前から姿を消
してしまう。理由がわからずにハンナに捨てられて8年が経ったある日、ハイデルベルク大学法学部生となったマイケルは、ロール教授(ブルーノ・ガンツ)のゼミ研究のためにナチスの戦犯を裁くアウシュビッツ裁判を傍聴し、被告席の一つにハンナの姿を見つける。彼女は第二次世界大戦中に強制収容所で看守をしていたのである。裁判はハンナに不利に進み、彼女は無期懲役の判決を受ける―。
2008年のアメリカ・ドイツ合作映画で、監督は英国人のスティーブン・ダルドリー、原作は1995年に出版されたベルンハルト・シュリンク(Bernhard Schlink)の長編小説『朗読者』('00年/新潮社、原題:Der Vorleser/The Reader)です。映画は(終盤に主人公がニューヨークへ行く場面を除き)ドイツで撮影されていますが、英語による製作であるため、主人公の名前も、原作のミヒャエルからマイケルになっています。但し、少年時代のマイケルを演じたダフィット・クロスはドイツの俳優、母親を演じたズザンネ・ロータもドイツ人女優、法学部のロール教授はスイス出身のブルーノ・ガンツが演じていてます。ハンナ役のケイト・ウィンスレットは英国人女優、成人してからのマイケルを演じたレイフ・ファインズも英国人俳優、アウシュヴィッツの生存者母子ローゼ・マーターとイラーナ・マーターの二役を演じたレナ・オリンはスウェーデン出身、若き日のイラーナを演じたアレクサンドラ・マリア・ララはルーマニア人、成人したマイケルの娘を演じたハンナー・ヘルツシュプルングは、これまたドイツ人女優です(アメリカ人、いないね)。
先に原作を読みましたが、かつて齋藤美奈子氏が「包茎小説」と呼んでいたのを思い出しました。15歳のミヒャエルと21歳年上のハンナが出会い、男女の関係を持って別れるまでを描いた第1章だけならば、確かに"筆おろし"小説と言えなくもなく、元判事で法学部教授である作者がこういうの書くのが興味深いと思いました。しかし、第2章の裁判の場面はまさにキャリアに裏打ちされたもので、作品に深みを与えることにも繋がっているように思いました。小説はこれに、裁判以降の主人公とハンナの話を描いた第3章を加えた3つの章から成ります。
一方の映画の方は、1995年の主人公マイケルの「現在」を軸に、1958年の15歳の時にハンナと出会った少年期、1966年のハンナの裁判を偶然傍聴することになった法学部生
時代、1976年のマイケルが本を朗読しテープに録音して、それを獄中のハンナに送ることを思いついた時期、1980年のハンナから届いた短い文章の礼状にマイケルが感動した出来事、1988年の20年の刑に減刑されたハンナが釈放されることが決まった時などとの
間を行き来する形をとっていますが、概ね原作に忠実であるといっていいでしょう(マイケルが離婚して娘となかなか会えないでいるといった現況は映画のオリジナル。あとは、ブルーノ・ガンツ演じる教授のウェイトが原作より大きくなって、主人公に精神的に導き支えるという点で、原作における主人公の父親である哲学教授の役割を一部代替していたりする)。
原作でも言えるのは、ハンナが幾つか謎を抱えている女性であるという点であり、①なぜマイケルと交わるようになったのか?(単なる気まぐれ?)、②なぜ裁判で不利になることを承知で自らの"秘密"を明かさなかったのか?(主人公がその"秘密"に気づく場面は、ミステリの謎が明かされるようで、原作でも映画でも白眉)、③そして最後に彼女がとった行動の理由は?―等々。映画を観て、①の理由は、マイケルが彼女にとっての癒しとなる"朗読者"であり、自らを成長させるパートナーであったことが窺えましたが

こうした"秘密"を持つ女性を演じるのは難しいだろうなあと思いますが、それだけ魅力的でもあり、ケイト・ウィンスレット(1975年生まれ)はそこに上手く嵌ったように思います(ニコール・キッドマンが妊娠で降板し、当初の候補だったケイト・ウィンスレットが結局演じることになった)。ケイト・ウィンスレットは、この作品で「タイタニック」('97年)以来4度目のアカデミー賞主演女優賞ノミネート(「助演賞」ノミネートを含むと6度目)にして、初の受賞を果たしています。「タイタニック」で共演したレオナルド・ディカプリオ(1974年生まれ)も、「レヴェナント:蘇えりし者」('15年)で4度目のアカデミー賞主演男優賞ノミネート(「助演賞」ノミネートを含むと5度目)にして初受賞していますが、若い頃から演技の天才などと呼ばれたレオナルド・デカプリオよりもケイト・ウィンスレットの方が受賞は7年早かったことになります。
「タイタニック」でケイト・ウィンスレット演じるローズは1等客室の客、レオナルド・ディカプリオ演じるジャックは3等客室の客でした。「船」って階層社会の縮図だなあと思いました(それは現在の豪華クルーズ船の旅などでも同じかも)。階級差を超えた恋という定番の設定ですが、意外と感情移入できたのは、振り返ってみれば二人の演技がしっかりしていたのかもしれません。個人的には、昔、八戸と苫小牧間のフェリーで1等の個室部屋がとれなくて2等の部屋に雑魚寝部屋にいったん入ったのを思い出しました。すぐに1等のキャンセル待ちに並んで、窓ありの個室部屋に移りましたが、やはり天と地の差があったなあ(笑)。学生時代は、雑魚寝部屋で伊豆大島に行ったりしていましたが、その頃は全然抵抗なかったけれど...。
局ビデオで観てしまいましたが、「タイタニック」の監督と言うより「アビス」('89年)の監督によるCG映画だと思って軽く見ていました(「アビス」は海洋SFだが、夫婦愛がテーマのひとつになっている。なのに、キャメロン監督はこの映画の撮影中に、製作者で妻でもあるゲイル・アン・ハードと離婚したという皮肉。'89年公開作に30分の未公開部分を付加した完全版も観たが、話題になっていた大津波来襲のSFXはイマイチ。メッセージ性が前面に出た分だけ説教臭くなったし、いずれにせよ、異星人の船は海底から浮上させない方が良かった)。
それが、さほど期待していなかった「アバター」を実際観てみると、結構ドラマ部分もしっかりしていて、事前の予想よりも良かったです。主人公のジェイク・サリー(サム・ワーシントン)は、アバターと一体化し、先住民族であるナヴィの一員として彼らの地パンドラで生きることを選びますが、ああ、これって、ケビン・コスナーが監督し、自身で主演した「ダンス・ウィズ・ウルブズ」('90年)年と同じで、「こちら側」にいた人間が「あちら側」の世界と接し、最後はあちら側に行く話だなあと思いました。ネットで調べたら、大筋には共通点があるとの見方が幾つか見
受けられ、「『アバター』では,『ダンス・ウィズ・ウルブズ』と同様の方法によって観客の評価や解釈が誘導されます」とする大学の先生の論考(神戸市外国語大学・山口治彦教授「
「愛を読むひと」●原題:THE READER●制作年:2008年●制作国:アメリカ・ドイツ●監督:スティーブン・ダルドリー●製作:アンソニー・ミンゲラ/


「タイタニック」●原題:TITANIC●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ジェームズ・キャメロン/ジョン・ランドー●撮影:ラッセ
ル・カーペンター●音楽:ジェームズ・ホーナー(主題歌:セリーヌ・ディオン「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」●時間:194分●出演:レオナルド・ディカプリオ/ケイト・ウィンスレット/ビリー・ゼイン /デビッド・ワーナー/フランシス・フィッシャー/ダニー・ヌッチ/ジェイソン・ベリ
ー/エイミー・ガイバ/ビル・パクストン/グロリア・スチュアー
ト/スージー・エイミス/ルイス・アバナシー/キャシー・ベイツ/バーナード・ヒル /ジョナサン・ハイド/ヴィクター・ガーバー/マーク・リンゼイ・チャップマン/ヨアン・グリフィズ/エドワード・フレッチャー /エリック・ブレーデン/マイケル・エンサイン/バーナード・フォックス●日本公開:1997/12●配給:20世紀フォックス(評価★★★★)

「アビス」●原題:THE ABYSS●制作
年:1989年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ゲイル・アン・ハード●撮影:ミカエル・サロモン●音楽:アラン・シルヴェストリ●時間:140分(公開版)/171分(完全版)●出演:エド・ハリス/メアリー・エリザベス・マストラントニオ/マイケル・ビーン/レオ・バーメスター/トッド・グラフ//キ
ジョン・ベッドフォード・ロイド/J・C・クイン/キンバリー・スコッャプテン・キッド・ブリューワー/マイケル・ビーチ/ディック・ウォーロック/ジョージ・ロバート・クレック/クリス・エリオット/クリストファー・マーフィ/アダム・ネルスン/ジミー・レイ・ウィークス/J・ケネス・キャンベル/ケン・ジェンキンス/ピーター・ラトレイ/ジョー・ファーゴ●日本公開:1990/03●配給:20世紀フォックス映画(評価★★★)
「アバター」●原題:AVATAR●制作年:2009年●制作国:アメ
リカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ジェームズ・キャメロン/ジョン・ランドー●撮影:マウロ・フィオーレ●音楽:ジェームズ・ホーナー(主題歌:レオナ・ルイス「I See You」●時間:162分●出演:サム・ワーシントン/ゾーイ・サルダナ/シガニー・ウィーバー/ステ
ィーヴン・ラング/ミシェル・ロドリゲス/ジョヴァンニ・リビシ/ジョエル・デヴィッド・ムーア/ディリープ・ラオ/ラズ・アロンソ/ウェス・ステュディ/CCH・パウンダー●日本公開:2009/12●配給:20世紀フォックス映画(評価★★★★)
「ダンス・ウィズ・ウルブズ」●原
題:DANCES WITH WOLVES●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ケビン・コスナー●製作:ケビン・コスナー/ジェイク・エバーツ●脚本:マイケル・ブレイク●撮影:ディーン・セムラー●音楽:ジョン・バリー●原作:マイケル・ブレイク●時間:181分(オリジナル版)/236分(完全版)●出演:ケビン・コスナー/メアリー・マクドネル/グラハム・グリーン/ロドニー・A・グラント/モーリー・チェイキン/ロバート・パストレリ/ラリー・ジョシュア/トム・エヴェレット●日本公開:1991/05●配給:東宝東和(評価★★★★)



1954年、シェイクミキサーのセールスマン、レイ・クロック(マイケル・キートン)に8台もの注文が飛び込む。注文先はマック(ジョン・キャロル・リンチ)とディック(ニック・オファーマン)のマクドナルド兄弟が経営するカ
リフォルニア州南部にあるバーガー・ショップ「マクドナルド」だった。合
理的なサービス、コスト削減、高品質という、店のコンセプトに勝機を見出したクロックは兄弟を説得し、「マクドナルド」のフランチャイズ化を展開する。しかし、利益を追求するクロックと兄弟の関係は次第に悪化し、クロックと兄弟は全面対決へと発展してしまう―。
ジョン・リー・ハンコック監督の2016年製作映画(本国公開2016年12月7日、日本公開2017年7月29日)で、「マクドナルド」の"創業者"(founder)"レイ・クロックの成功とその裏側を描いた実話風ビジネスドラマです。レイ・クロックの「マクドナルド」に纏わる話は、本で読んだり(自伝『成功はゴミ箱の中に』

壮大なフランチャイズ・ビジネスで利益を追求しようとするレイ・クロックと、小規模でも堅実な道を歩もうとするマクドナルド兄弟との確執に焦点を当てていて、フェイスブックの創業者間の対立を描いた「
この映画の日本版のキャッチ・コピーの1つに「英雄か。怪物か。」というのがありますが、本国版のキャッチ・コピーは"He took someone else's idea and America ate it up."で、「他人のアイデア」とあるように、30秒以内に注文客に商品を渡すといったマクドナルドのコンセプト自体は、レイ・クロックの独創ではないことをより明確に打ち出しています。この映画はマクドナルド社の協力無しに作られているわけですが、それでもレイ・クロックという人物を、アクの強さがあるにせよ、進取の気性に富み、スモール・ビジネスをビッグ・ビジネスに変えた傑物として描いている部分が大きいように思いました。
中盤でレイ・クロックが、人から"創業"はいつか聞かれて答えに窮する場面があったのが印象に残りました(創業したのはマクドナルド兄弟だから)。それが、ビジネスが拡張すると、彼自身が"ファウンダ―(創業者)"を名乗るようになり、終いにはマクドナルド兄弟から経営権を全面的に買い取って、兄弟には「マクドナルド」という名を使わせないようにします。マクドナルド兄弟に「マクドナルド」という名を使わせないというのもスゴイですが、兄弟が交換条件として求めた「永続的に利益の1%」を支払うという件については、契約書には記さず"紳士協定"ということにして、必ず守ると言いながら反故にし、兄弟の店はやがて閉店することになったことを映画は最後に伝えています。
こうした「目的のためには手段を選ばず」的な面はあるものの、52歳のうだつの上がらないシェイクミキサーのセールスマンだった男が、あれよあれよという間に外食産業の帝国を築いてしまうというのは、まさにアメリカン・ドリームを象徴するような話であるには違いありません。成功の条件は、ひたすら「根気強く」ということでしょうか。但し、映画で描かれる彼は、人の能力(やる気と言うべきか)を見抜く才能があり、そうして得た人材を適材を適所に配置することに長け、また、いいタイミングで自身の右腕となる参謀的な人物と出会えたという運もあったようです。
KFCはフランチャイズ・ビジネスという点でもマクドナルドのずっと先輩格にあたるわけですが、マクドナルドもフランチャイズ・ビジネス抜きには考えられないわけで、そうした観点から見ればレイ・クロックも"ファウンダ―(創業者)"と言えなくはないと思います。彼は「マクドナルド」という商標にこだわったため、マクドナルド兄弟との対立が深まったという気もします。なぜ、「クロック」とせず「マクドナルド」にこだわったのかが、映画の中でも、また本物のレイ・クロックが登場する記録映像の中でも明かされていたのが興味深かったです(両親はチェコ系ユダヤ人であり、クロックという姓は当時の米国ではマイノリティ=被差別層を想起させる姓ということになる)。
「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」('14年)でアカデミー主演男優賞にノミネートされたマイケル・キートンがレイ・クロックを好演しています。マイケル・キートン主演のビジネス・ムービーと

「バットマン」で彼が演じたバットマンはとにかく暗く、映画自体が暗かったです。ロビンも出てこないし、昔テレビでやっていた実写版の「怪鳥人間バットマン」('66‐'67年)とは随分違う感じがしました。映画は米国ではヒットしたようですが、日本では宣伝の割りにはイマイチだったように思います。"ジョーカー"を演じたジャック・ニコルソンのギャラの高さが話題になった記憶があります。
シリーズ第2作の「バットマン・リターンズ」は、ペンギン男にダニー・デヴィート、新登場のキャット・ウーマンにミシェル・ファイファーを配しましたが、共に主役のマイケル・キートンを完全に喰ってしまう怪演を見せ、第1作よりちょっとだけ面白かったかも。何れにせよ、マイケル・キートンは、主演であるのに第1作でジャック・ニコルソンに喰われ、第2作でダニー・デヴィート、ミシェル・ファイファーに喰われるという損な役回りだったようにも思います。
話を「バッドマン」第1作に戻して、ゴッサムシティの裏社会を牛耳るマフィアのグリソム(ジャック・ニコルソン演じるグリソムの部下でその右腕だったジャック・ネーピアは、グリソムの愛人に手を出してその怒りを買って罠に嵌められ、化学工場で警官隊に追い詰められ、そこに現れたバットマンと格闘の末に化学薬品の液槽に転落してしまい、一命は取りとめたものの肌は真っ白に漂白され、顔面は麻痺、精神に異常をきたしてしまい、そこから「ジョーカー」と名乗り始めて、グリソムら裏社会の大物たちを次々と殺害し、街を支配するようになるというのが話の流れ。ジョーカーとバッドマンの間にはもともと因縁があったというとになる)を演じたのが「
この年はシルヴェスター・スタローン、カート・ラッセルがライバル刑事役でダブル主演したアクション映画「デッドフォール」('89年/米)でも犯罪組織のボスを演じ、二人の刑事を抹殺できないまでも失脚させるべく罠を仕掛け、押収品を横流しする悪徳刑事として、果てにはFBI捜査官殺しにまで仕立て上げるという役でで出ています。スタローンが時折みせるコメディタッチはイマイチ。一方、カート・ラッセルはアクションでスタローンに拮抗していました。でも、個人的には、老ジャック・パランスの悪役が嬉しかったです。ただし、「
「ファウンダー ハンバー
ガー帝国のヒミツ」●原題:THE FOUNDER●制作年:2016年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・リー・ハンコック●製作:ドン・ハンドフィールド/ジェレミー・レナー/アーロン・ライダー●脚本:ロバート・シーゲル●撮影:ジョン・シュワルツマン●音楽:カーター・バーウェル●時間:115分●出演:マイケル・
キートン/ニック・オ
ファーマン/ジョン・キャロル・リンチ/リンダ・カーデリニ/パトリック・ウィルソン/B・J・ノバク/ローラ・ダーン/ジャスティン・ランデル・ブルック/ケイト・ニーランド●日本公開:2017/07●配給:KADOKAWA●最初に観た場所:渋谷シネパレス(旧渋谷パレス座)(17-07-30)(評価★★★☆)





「ガン・ホー」●原題:GUNG HO●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:デボラ・ブラム/トニー・ガンツ●脚本:ローウェル・ガンツ/ババルー・マンデル●撮影:ドナルド・ピーターマン●音楽:トーマス・ニューマン●時間:11
1分●出演:マイケル・キートン/ゲディ・ワタナベ/ミミ・ロジャース/山村聰/クリント・ハワード/サブ・シモノ/ロドニー・カゲヤマ/ジョン・タトゥーロ/バスター・ハーシャイザー/リック・オーヴァートン●日本公開:(劇場未公開)VHS日本発売:1987/11●発売元:パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン(評価:★★★☆)




「ダークナイト」●原題:THE DARK KNIGHT●制作年:2008年●制作国:アメリカ・イギリス●監督:クリストファー・ノーラン●製作:クリストファー・ノーラン/チャールズ・ローヴェン/エマ・トーマス●脚本:クリストファー・ノーラン/ジ
ョナサン・ノーラン●撮影:ウォーリー・フィスター●音楽:ハンス・ジマー/ジェームズ・ニュートン・ハワード●原作:ボブ・ケイン/ビル・フィンガー「バットマン」●時間:152分●出演:クリスチャン・ベール/ヒース・レジャー/アーロン・エッカート/マギー・ジレンホール/マイケル・ケイン/ゲイリー・オールドマン/モーガン・フリーマン/メリンダ・マックグロウ/ネイサン・ギャンブル/ネスター・カーボネル●日本公開:2008/08●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)

「怪鳥人間バットマン」(Batman) (ABC 1966~1968) ○日本での放映チャネル:フジテレビ(1966~1967)/WOWOW
「デッドフォール」●原題:TANGO & CASH●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:アンドレイ・ミハルコフ=コンチャロフスキー●製作:ジョン・ピーターズ/ピーター・グーバー●脚本: ランディ・フェルドマン●撮影:ドナルド・E・ソーリン●音楽:ハロルド・フォルターメイヤー●時間:106分●出演:シルヴェスター・スタローン/カート・ラッセル/ジャック・パランス/テリー・ハッチャー/ジェフリ
ー・ルイス/エドワード・バンカー/ブライオン・ジェームズ/ロバート・ツダール/ジェームズ・ホン/マルク・アレイモ/マイケル・J・ポラード/マイケル・ジェッター/フィル・ルーベンスタイン/フィリップ・タン/ルイス・アークエット/ロイ・ブロックスミス/クリント・ハワード/グレン・モーシャワー●日本公開:1990/03●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★)




ポワロはヘイスティングスの友人チャールズ・アランデルが、水上ボートの最速記録に挑戦するのを見学にウィンダミアにやって来る。そこには、取材陣や村人らの他に、チャールズの叔母でリトル・グリーンハウスの主のエミリー、付添婦のウィルミーナ、チャールズの妹テリーザ、エミリーの姪のベラ・タニオスとその夫でギリシャ人医師のジェイコブが集っていた。さらに、霊媒のトリップ姉妹も駆けつけ、ポワロ
に不吉な警告をする。チャールズのボートは火を噴くが、彼は無事に脱出、祝賀会の予定が単なる夕食会になったその席には、エミリー
の主治医グレンジャー医師も同席する。席上、トリップ姉妹のイザベルに霊が憑依し、MP(ポワロの先祖)からポワロに警告すると言う。その夜、エミリーが階段から転落する事故が起き、踊り場に飼い犬のフォックステリア、ボブのボールが見つかる。彼女はそれに躓いたと思われたが、ポワロはネジを発見し、ワイヤーが張られていたと推理する。エミリーから相談を受けたポワロは、遺産目当てに命を狙われるな
ら、遺言状を書き換えて身内には遺産をやらないことにすればよいと提案し、エミリーはこれを受け入れ実行する。ジェイコブが調合薬をエミリーに渡し、エミリーがそれを飲んで外に出たとたん、口から緑色の気体を吐いて倒れ、彼女は亡くなる。トリップ姉妹もウィルミーナもエミリーの口から魂が外に出たのだと思い込む。地元警察のキーリ
ィ巡査部長は肝臓障害による死亡と断定し、検死解剖を拒否する。ポワロは降霊会をやるというトリップ姉妹の提案を受け入れ、その降霊会でイザベルはエミリーの言葉で殺人者はロバート・アランデルだと告げるが、そんな名の者は、犬のボブがロバートであるのを除いていない。新しい遺言状で遺産全部がウィルミーナに贈られることが明かされ、ウィルミーナ自身も初めてそれを知る。彼女はボブが騒いだ夜、夢うつつで見た"誰か"のナイトガウンにTAと縫い取りされていたことを思い出したとポワロに告げる。TAはテリーザのイニシャルである。一方、グレンジャー医師は、エミリーが吐いた緑色の気体の正体に気づくが―。
原作では、エミリー・アランデルはポワロに相談の手紙を書きますが、その手紙がポワロに届く前に彼女は"病死"しており、手紙を受けてポワロらがリトル・グリーンハウス(小緑荘)に来た時にはもう彼女はこの世にいないという設定になっており、チャールズが水上ボートの最速記録挑戦に入れ込んでいて、彼がヘイスティングスの友人であったためポワロも一緒にその挑戦を見学に来たというのはドラマ版オリジナルです(結果として、ポワロが来てから殺人が起きるというパターンになった)。
細部の改変はありましたが(ボブがボートに映った自分の顔を見て吠えるとことからポワロが鏡の原理を思い出す点などもドラマのオリジナル。このホワイトテリア、名演技だったなあ)、但し、犯人が誰かは勿論のこと、プロットなども原作を踏襲しているように思われました。原作では、チャールズは遊び人、テリーザは浪費家、ベラはテリーザを真似るも彼女のように垢抜けることは出来ない女性ということになっていますが、それぞれのその"程度"は弱められていたように思います。
文庫解説で、事件解決後ポワロに贈られたボブがその後どうなったかについて(その後の作品にポワロが犬を飼っていた記述はなく、一方、本原作をもってヘイスティングスは長編小説から姿を消し、『カーテン』まで登場しない)、ヘイスティングスと一緒にアルゼンチンに渡ったのではないかとしていますが、このドラマ作品ではポアロが霊媒能力を身に着けた振りをして本職の霊媒師のトリップ姉妹にボブを託してしまうというエピローグが可笑しかったです。
「名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON6:DUMB WITNESS●制作年:1997年●制作国:イギリス●本国放映:1997/03/16●監督:エドワード・ベネット●脚本:ダグラス・ワトキンソン●時間:100分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/パトリック・ライカート(チャールス・アランデル)/ケイト・バファリー(テリーザ・アランデル)/ノーマ・ウェスト(ウィルミーナ)/ジュリア・セント・ジョン(ベラ・タニオス)/ポール・ハーツバーグ(ジェイコブ・タニオス)/アン・モリッシュ(エミリー・アランデル)/ ポーリン・ジェームソン(イザベル・トリップ)/ミュリエル・パブロー(ジュリア・トリップ)●日本放映:1997/12/30●放映局:NHK(評価:★★★★)


ここはとある惑星のとある町。30年間会社を無欠勤だった男が、リストラで解雇を宣告され泣きわめき、社長にすがりついて廊下を引き摺られていく。社屋の一階では、道に迷った男が訳もなく若者たちに殴られて倒れている。社長のペレ(トルビョーン・ファルトロム)は会社のことより、折れてしまったゴルフクラブを気にしている。ディナーショーでマジシャン(ルチオ・ブチーナ)は人体切断マジックに失敗して、協力者の腹をのこぎりで切ってしまう。保険金欲しさに自分の店に火をつけた家具屋経営のカール(ラース・ノルド)が、煤だらけで満員の地下鉄に乗っていると、どこからともなく音楽が聞こえてきて、乗客らが歌い始める。焼けた家具店の表通りは渋滞していて、デモ隊が鞭打ちをしながら車の間を行く。タクシー運転手をしていたカールの長男は、人々の悩みを聞かされるうちに自分が精神を病んでしまい、誰とも話せなくなって精神病院に入院中である。今は次男シュテファン(シュテファン・ラーソン)がタクシーを運転手をしている。そのタクシーに軍人が一人乗り込んできて、今日が総司令官(ハッセ・ソーデルホルム)の100歳の誕生日で自分がその祝辞の草稿を作った言う。将軍の100歳の誕生日を祝う式典が病院内で行われ、将軍はナチ式の敬礼をする。カールが同業者を訪ねると、彼は不況下で大聖年という理由で、十字架を売って儲けしようとしていて、カールも十字架を一つ買う。駅に行くと、自殺したはずのスヴェンが自分の後ろをついてくる。不条理な出来事が次々起きて、やがて町全体が異様な雰囲気に包まれていく―。
2014年・第71回ベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞した最近作「さよなら、人類」は(これも構想に15年、撮影に4年を費やしたという)、吸血鬼のお面や笑い袋といった面白グッズを売り歩く冴えないセールスマン・コンビのとサム(ニルス・ウェストブロム)とヨナタン(ホルガー・アンダーソン)を軸に話が展開し(これもストーリーにさほど
脈絡はないのだが)、2人がグッズがまるで売れずに散々な日々を送る中、フラメンコの女教師(ロッテ・トルノス)はレッスンを受けに来るお気に入りの若い男
の子の身体を指導のフリをして触りまくり、フェリーの船長(オラ・ステンソン)は船酔いが耐えられずに理容師に転職し、バーになぜか18世紀のスウェーデン国王カール12世(ヴィクトル・ギュレンバリ)が騎馬隊を率いて現われ...と、こちらも不条理の小劇のオンパレード。全39シーンというから、だんだんシーン数が多くなってきているのではないでしょうか。
それらのシーンを主に繋いでいるのが、サムとヨナタンのセールスマン・コンビですが、この2人が面白グッズを売り歩いているのに滅茶苦茶にクラいというのがブッラクで可笑しいです。16世紀の画家ブリューゲルの「雪中の狩人」など様々な絵画からインスピレーションを受けて作られているとのことですが、低彩色のトーンは「散
歩する惑星」の時と同じであるものの、「散歩する惑星」よりも死のイメージが濃くなっているような気がしました。黒人たちがが回転する大きなドラムのようなものの中に入れられ、そのドラムが火で炙られるシーンなど、政治的なメッセージともとれるメタファーも前作よりグロテスクで直截的になっていますが、個人的には「散歩する惑星」の方がやや好みだったしょうか。
「散歩する惑星」●原題:SANGER FRAN ANDRA VANINGEN/SONGS FROM THE SECOND FLOOR●制作年:2000年●制作国:スウェーデン・フランス●監督・脚本:ロイ・アンダーソン●製作:フィリップ・ボバー●撮影:イストヴァン・ボルバス








ポワロの秘書ミス・レモンの姉ハバード夫人が管理人を務めるヒッコリー・ロードにある学生寮で奇妙なものが盗まれる事件が頻発し、ミス・レモンはポワロに相談する。学生寮のオーナーのニコレティスは気難しい女性で、学生たちへの犯罪学の講演名目で寮ににやった来たポワロを歓迎していない様子。寮
にいる学生は、医学生のレオナルド、アメリカからフルブライト留学生で英文学専攻のサリー、考古学・中世史専攻のナイジェル、政治学専攻のパトリシア、心理学専攻のコリン、化学専攻のシーリア、服飾デザイン専攻のヴァレリーら7人。盗まれた品物の内訳は、聴診器、指
輪、ライター、ホウ酸、夜会靴の片方、リュックサック、電球などで、被害は大したものではないが、それを見たポワロは盗みの陰に潜む危険を察知する。程なくして盗
みの犯人が盗癖持ちだったという女子学生シーリアと判明するが、彼女は一部の品については盗んでいないと言う。ポワロが事件の予感を覚えた直後にシーリアが毒殺される事件が起き、医学生のレオナルドへの容疑が強まるが、次いで学生寮のオーナー女性ニコレティスが何者かに刺殺される―。
「名探偵ポワロ」の第43話(第6シーズン第2話)でロング・バージョン。本国放映は1995年2月12日、本邦初放映は1996年12月30日(NHK)で、第42話「ポワロのクリスマス」より1年早く放映されています。原作はクリスティが1955年に発表したポアロシリーズ第26作。映像化作品としては、戦後発表されたものの中では(戦前に発表した短編を戦後に中篇に拡張した「盗まれたロイヤル・ルビー」「スペイン櫃の秘密」を除いて)シリーズ初登場とのことですが、時代設定は他のシリーズ作品同様1930年代半ばにしています。
原作は、学生寮にいて様々な出身国の学生が集い自由に議論したりする様は印象深かったですが、登場人物が多すぎて(文庫巻頭の登場人物一覧表に記載されている寮生だけでも11人、全部で16人か)、しかもその中で殺害された者を除いて全員容疑者とあって、もう最後は犯人が誰だっていいや的な気分になりそうでしたが、推理通に言わせれば、ロジックで辿っていくと犯人は判るようになっているとのことです(個人的には全然判らなかった)。
この映像化作品では、さすがに100分の話の中に寮生十数人を全部詰め込むのは無理と考えたのか7人に絞っていて、原作では、ジャマイカからの黒人の留学生エリザベス、西アフリカ人の黒人の留学生アキンボ、その他インド人の学生など有色人種の学生も結構いましたが、全部白人になっています。これは別に人種差別ということでもなく(フランス人の留学生なども省かれている)、時代設定を戦前にしたことに関係しているのではないかと思います。
まあ、その前に、登場人物を減らしてスッキリさせるという狙いがあったかと思いますが、それが成功しているように思います。品物が盗まれる事件に複数の人物の動機が絡んでいて、それだけでも複雑であるため、これで容疑者が10人も15人もいたら何が何だか分からなくなるところでしたが(原作を読んだ時はその印象に近かった)、この映像化作品を観て腑に落ちたという感じでしょうか。
「名探偵ポワロ(第43話)/ヒッコリー・ロードの殺人」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON6:HICKORY DICKORY DOCK●制作年:1995年●制作国:イギリス●本国放映:1995/02/12●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ)/ ポーリン・モラン(ミス・レモン)/パリス・ジェファーソン(サリー・フィンチ)/ナイジェル・チャップマン(ジョナサン・ファース)/ダミアン・ルイス(レナード・ベイトソン)/ギルバート・マーティン(コリン・マクナブ)/エリナー・モリストン(バレリー・ホブハウス)/ポリー・ケンプ(パトリシア・レーン)/ジェシカ・ロイド(シーリア・オースティン)/サラ・ベデル(ハバード夫人)/レーチェル・ベル(ニコレティス夫人)/グランヴィル・サクストン(キャスタマン氏)/デビッド・バーク(サー・アーサー・スタンリー)●日本放映:1996/12/30●放映局:NHK(評価:★★★☆)![レ・ミゼラブル [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%83%AC%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%BC%E3%83%A9%E3%83%96%E3%83%AB%20%5BDVD%5D.jpg)


ビレ・アウグスト監督による1998年作品で、ジャン・バルジャンが「シンドラーのリスト」('93年/米)でオスカー・シンドラーを演じたリーアム・ニーソン、ジャベール警部が「シャイン」('96年/豪)でアカデミー主演
男優賞をを受賞したジェフリー・ラッシュ(オーストラリア人初の演技部門でのオスカー受賞者)、ファンテーヌが「パルプ・フィクション」('94年/米)でアカデミー助演女優賞にノミネートされたユマ・サーマン、コゼットが「アンジェラ 15歳の日々」で
ゴールデングローブ賞主演女優賞(テレビドラマシリーズ部門)を受賞したクレア・デインズと、配役は何れも手堅い演技派で固めたという感じで、また、実際
、この作品での演技はそれぞれが良かったです(中でもジェフリー・ラッシュのジャベール警部がピカイチか。でも、幼少期のコゼットを演じた子役ミミ・ニューマンも含め、皆悪くなかった)。
残念だったのは脚本でしょうか(序盤で銀器を盗むのを'司教に見られた'バルジャンが司教を'殴り倒して'逃走するところから、ええっと思ったのだが)。2時間を少しだけ超えるくらいに収めるためか、全体にかなり端折っています
それから、マリユスが反政府派である共和派の秘密結社ABC(アー・ベー・セー)の首領になっています(本来はマリユスも主要メンバーではあるが、首領はアンジョルラス)。だとしたら、司令官が決戦を前にしてそうちょくちょく恋人に会いにいくのは難しいのではないかと思ってしまうのですが、これがちょくちょく会いに行く―そうしたマリユスをしばしば牽制するアンジョルラスの役は、それはそれで黒人のレニー・ジェームズが演じている―といった具合です。
ジャベールが、同じ自殺するにしても、バルジャンの見ている前で自らの命を絶つというのも原作やミュージカルとは異なり(罪人にするはずだった手錠を自身にして川へ身を投げたことに監督の解釈が示唆されているようだが)、また、原作ではジャベールの死後も話はまだまだ続くところを、ミュージカルではそこのところはかなり圧縮されていますが、それがこの作品では「圧縮」どころか、ジャベールの死を以って映画は終わってしまいます(「Wikipedia」によれば、「本作ではジャン・バルジャンとジャベールの関係に焦点が絞られている。そのため、ジャベール警部の身投げと共に映画は幕を閉じる」ということらしい。成人後のエポニーヌは全く登場しないのも同様の理由によるようだ)。何度も映画化されている作品なので、オリジナルの視点があってもいいとは思いますが、ジャベールの死を以って終わるのはともかく、最後にバルジャンが浮かべる笑みの意味がイマイチよく分かりませんでした。
また、後の方をカットしているために、バルジャンの秘密をマリユスが知るのは、コゼットとの結婚式の後にバルジャンから知らされるのではなく、反政府派のバリケード内に潜入しようとして捕まってしまったジャベールの口から知らされるという展開になっていて、更には、反政府運動の最中に負傷した自分を担ぎ、官憲の目を逃れるため下水道を通って包囲網を突破し救ってくれたのは誰かという、マリユスにとっての謎解きは、バルジャンの死の間際になってマリユスは初めて全てを知るというのではなく、そもそもそうした謎は最初からカットされています(これだと、父娘が離れ離れに暮らす理由は無くなるのでは? まあ、この映画では後のことはどうなったか分からないわけだが)。
このように気になった点は多くありましたが、原作に忠実なところの方が当然に多い訳で、やはりあの「レ・ミゼラブル」だけあって見ているうちに引き込まれ、この作品だけ観る分には楽しめます。但し、先に原作を読んだり、ミュージカルを観ていたりすると、今度はどこが端折られるのか...といった方向につい気持ちが行ってしまう、そんな映像化作品でした。
「レ・ミゼラブル」●原題:LES MISERABLES●制作年:1998年●制作国:アメリカ●監督:ビレ・アウグスト●製作:サラ・ラドクリフ/ジェームズ・ゴーマン●脚本:ラファエル・イグレシアス●撮影:ヨルゲン・ペルソン●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●原作:ヴィクトル・ユゴー●134分●出演:リーアム・ニーソン/ジェフリー・ラッシュ/ユマ・サーマン/クレア・デインズ/ミミ・ニューマ/ハンス・マシソン/ジョン・ケニー/ジリアン・ハンナ/シンルヴィ・コヴィルィズコヴァ/

シェイン・ハーヴィ/レニー・ジェームズ/ジョン・マッグリン/リーネ・ブリュノルフソン/ピーター・ヴォーン●日本公開:1999/02●配給:ソニー・ピクチャーズ(評価:★★★☆)





シカゴ記念病院の有能な血管外科医リチャード・キンブル(ハリソン・フォード)がある夜帰宅すると、妻のヘレン(セーラ・ウォード)が家の中で何者かに襲われて死に瀕していた。キンブルは犯人と思しき「片腕が義手の男」を撃退するも、妻は既に致命傷を負っており手遅れであった。キンブルは自分が取り逃がした義手の男について捜査するよう警察に懇願するが、警察は死の間際のヘレンの通報内容を誤解し、キンブル本人が妻殺しの濡れ衣を着せられ逮捕されてしまう。キンブルは裁判で無実を証明することができず、死刑判決を受けて刑務所へと移送されることになるが、その最中に他の囚人たちが逃亡を企てたことにより、護送車が列車と衝突し爆発炎上するという事故が発生する。事故を間一髪で生き延びた
キンブルは混乱に乗じ、妻を殺害した真犯人を自らの手で見つけて汚名をすすぐため、事故現場から逃亡してシカゴへと向かう。一方、いち早く脱走した囚人がいることを突き止めた連邦保安官補サミュエル・ジェラード(トミー・リー・ジョーンズ)とその部下達はキンブルを追跡する。時には持ち前のヒューマニズムが仇となって窮地に陥りつつも、執拗なジェラードの追跡を振り切りながら、キンブルはシカゴに帰り着いて証拠を辿り、同僚であり親友でもあるチャールズ・ニコルズ(ジェローン・クラッベ)からの援助も受けながら、自分が目撃した「片腕が義手の男」の名前を突き止める―。
オリジナルは1963年から1966年にかけて、デビッド・ジャンセン主演で放映され、アメリカ国内で平均視聴率45%という驚異的な数字を叩き出したTVドラマです。日本でも、1964(昭和39)年から1967(昭和42)年までTBS系列(関西地区は朝日放送)で放送されて人気を博し、最終話の放送時刻には銭湯が空になったと言われています(TVドラマ版は当初モノクロだったが、最後の方はカラーになった)。映画では、妻殺しの濡れ衣を着せられ死刑を宣告された医師リチャード・キンブルが、連邦保安官補サミュエル・ジェラードの追跡を逃れながら逃げまくるという枠組みは、TV版をそのまま
踏襲しています。
ハリソン・フォードは、
ハリソン・フォードより4つ年下のトミー・リー・ジョーンズ(当時46歳)は、この作品で'93年のアカデミー助演男優賞を受賞し、以降は「メン・イン・ブラック」('97年)(1998年・第24回「サターンSF映画賞」受賞作)、「逃亡者」のスピンオフ作「追跡者」('98年)などの

「メン・イン・ブラック」のバリー・ソネンフェルド監督はトミー・リー・ジョーンズのことを、「彼は大真面目に演じていてもどこかコミカルだ」と評していますが、確かにそうかも。「逃亡者」におけるトミー・リー・ジョーンズの中にも「メン・イン・ブラック」に通じるコミカル要素があるともとれますが、「メン・イン・ブラック」はそれが前面に出ていて、続編の「メン・イン・ブラック2」('02年)では、MIBに所属していたころの記憶を失い本名のケビン・ブラウンに戻って田舎町の郵便局長として働いているというさらにコミカルな設定。この設定とやや被るところのある、'06年から続くサントリーフーズの缶コーヒーBOSSのCM「宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ」も、誰か慧眼の
持ち主が彼のそうした特性に着眼して起用したのでしょう(因みにトミー・リー・ジョーンズは親日家であり、大の歌舞伎ファンであるとともに
「逃亡者」に話を戻すと、トミー・リー・ジョーンズの"活躍"もあって、映画としては悪くはないのですが(初めて観た時の評価は星4つ)、改めて観直してみると、アクションのヤマ場が中盤のキンブルのダム底へのダイビングであり、あとはやや流れが緩慢な印象も受けます。電車内での「片腕が義手の男」との対決もある種お決まりのパターンであれば、最後に真犯人を追い詰めて銃撃戦になる展開もこれまたパターンであるように思えたため、星半個減の3つ半としました。元は連続ドラマであるところを一話完結にしているわけで、ストーリーをばたばたと収斂させざるを得ないのは致し方無いのかもしれませんが。
また「逃亡者」には、映画に出始めた頃のジュリアン・ムーア(左)が出演しています。前年にカーティス・ハンソン監督のサイコスリラー「ゆりかごを揺らす手」('92年)に出演して
いますが、その作品ではレベッカ・デモーネイが怖すぎて、彼女の印象は薄かったです。猥褻な診察を医師から受けたことで彼を告訴したアナベラ・シオラ演じる主人公が、医師が失墜し自殺したことから、レベッカ・デモーネイ演じるその妻から逆恨み的復讐を被るという話。ジュリアン・ムーアは、ナニー(ベビーシッター)として主人公の家に来ている女性(実は復讐を果たさんとする医師の妻)が危険人物であることを早くから見抜き「ゆりかごを揺らす手は世を支配する手」と主人公に忠告するその友人役。結局は犯人に残虐な殺され方をしてしまうという点から見ても脇役でした(ただし、レベッカ・デモーネイ演じる犯人も最後、自らの罠に嵌って同じ死に方をする)。
いるのを不審に思って警察に通報する女医役で出ていますが、キネ旬をはじめ多くの映画データべースで、「元同僚のアン・イーストマン医師(ジュリアン・ムーア)の協力で、病院の中にある義手を持つ人のリストを調べあげ...」などとあり、ジェーン・リンチ(右)が演じたキャシー・ワーランド医師の役との混同が見られます(キンブルに協力するのはキャシー・ワーランド医師。ジュリアン・ムーア演じるイーストマン医師ではない)。これも、ジュリアン・ムーアが後に有名になったためでしょうか。最近では、2014年に「カンヌ国際映画祭女優賞」を「マップ・トゥ・ザ・スターズ」('14年/米・カナダ・独・仏)で受賞し
たため、ジュリエット・ビノシュに続いて世界三大国際映画祭すべての女優賞を制覇した2人目の女優となり、さらに同じく2014年公開
の「アリスのままで」('14年/米)でゴールデングローブ賞の主演女優賞(ドラマ部門)とアカデミー賞の主演女優賞を受賞しています。(その後も「ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞」を受賞したペドロ・アルモドバル監督の「
因みに、「片腕の男」の義手の資料を集めるためにキンブルが潜り込んだ病院は、本作の1年後に放送が開始されたTVドラマ「
先に挙げた「ゆりかごを揺らす手」は、サイコスリラーとしてはよく出来ていたように思います。復讐を謀るため復讐相手の家にベビー・シッターとして入り込んだレベッカ・デモーネイが、復讐相手のの赤ん坊には異常な愛情を注ぎ、母性愛に目覚めていくというのが不気味で、このあたりはレベッカ・デモーネイの表情と演技に負うところが大でしょう。深夜、密かに赤ん坊に自分の乳をふくませて馴染ませ、母親の乳を嫌がるように仕向けるシーンは怖かったです(しかし、流産した女性でもお乳はでるのか?)。展開が敢えてそこを狙ったのかと思ってしまうほ定石どおりで、それまで積み重ねてきた怖さを一気に爆発させるとうなスリリングでユニークなクライマックスがあるわけでもないため、コアなミステリファンやスリラーファンには物足りないかもしれませんが、自分にはちょうどいい程度でした(笑)。
「逃亡者」●原題:THE FUGITIVE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:アンドリュー・デイヴィス●製作:アーノルド・コペルソン●脚本:デヴィッド・トゥーヒー/ジェブ・スチュアート●撮影:マイ
ケル・チャップマン●音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード●原作:ロイ・ハギンズ●130分●出演:ハリソン・フォード/トミー・リー・ジョーンズ/ジェローン・クラッベ/セーラ・ウォード/ジュリアン・ムーア/アンドレアス・カツーラス/ジョー・パントリアーノ/ダニエル・ローバック/L・スコット・カードウェル/トム・ウッド/ジェーン・リンチ●日本公開:1993/09●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)



「メン・イン・ブラック」●原題:MEN IN BLACK●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督:バリー・ソネンフェルド●製作:ウォルター・F・パークス/ローリー・マクドナルド●脚本:エド・ソロモン●撮影:ドン・ピーターマン●音楽:ダニー・エルフマン(主題歌:「Men in Black」ウィル・スミス●原作:ローウェル・J・カニンガム●98分●出演:トミー・リー・ジョーンズ/ウィル・スミス/リンダ・フィオレンティーノ/ヴィンセント・ドノフリオ/リップ・トーン/トニー・シャルーブ/シオバン・ファロン/ジョン・グリース/カレル・ストルイケン/フレドリック・レーン●日本公開:1997/12●配給:ソニー・ピクチャーズ リリーシング(評価:★★★☆)
「メン・イン・ブラック2」●原題:MEN IN BLACK2●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督:バリー・ソネンフェルド●製作:ウォルター・F・パークス/ローリー・マクドナルド●脚本:ロバート・ゴードン/バリー・ファナロ●撮影:グレッグ・ガーディナー●音楽:ダニー・エルフマン(主題歌:「Black Suits Comin' (Nod Ya Head)」ウィル・スミス●原作:ローウェル・J・カニンガム●88分●出演:トミー・リー・ジョーンズ/ウィル・スミス/ララ・フリン・ボイル/リップ・トーン/ジョニー・ノックスビル/ロザリオ・ドーソン/トニー・シャルーブ/パトリック・ウォーバートン/ジャック・ケーラー/デヴィッド・クロス●日本公開:2002/07●配給:ソニー・ピクチャーズ リリーシング(評価:★★★☆)
「ゆりかごを揺らす手」●原題:THE HUND THAT ROCKS THE CRADLE●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:カーティス・ハンソン●製作:デヴィッド・マッデン●脚本:アマンダ・シルヴァー●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:グレーム・レヴェル●110分●出演:アナベラ・シオラ/レベッカ・デモーネイ/マット・マッコイ/アーニー・ハドソン/ジュリアン・ムーア/マデリーン・ジーマ/ジョン・デ・ランシー●日本公開:1993/09●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)
●2020年テレビドラマ化「テレビ朝日開局60周年記念 2夜連続ドラマスペシャル・逃亡者」(テレビ朝日・2020年12月5日5・6日放送)![花様年華 [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E8%8A%B1%E6%A7%98%E5%B9%B4%E8%8F%AF%20%5BDVD%5D.jpg)


1962年の香港。新聞社の編集者であるチャウ(トニー・レオン〈梁朝偉〉)が夫妻でアパートに引っ越してきた日、隣の部屋にもチャン夫人(マギー・チャン〈張曼玉〉)が夫と引っ越してくる。チャン夫人は商社で社長秘書として働いている。チャウの妻とチャン夫人の夫は仕事のせいであまり家におらず、二人はそれぞれの部屋に一人でいることが多かったが、大家のスーエン夫人(レベッカ・パン)の仲立ちもあり二人は親しくなる。ある日、一緒に昼食を取った際、それぞれの配偶者の日本土産の話などから、お互いの配偶者同士が浮気しているらしいと察する。隣同士の部屋に住む孤独な男と女―。チャウは夫人により接近するため、本の好きな彼女に自らの小説執筆の手伝いを依頼する。夫人がスリッパのままチャンの部屋にやって来たある日、偶然にアパートの住民ら
が徹夜マージャンをすることになり、自分の部屋に戻るに戻れなくなった夫人は、一夜をチャンの部屋で過ごすも機会を窺い、自分のスリッパを置き足に合わないチャウ夫人のヒール靴を履いて、さも外出先から自宅に帰ってきたかのようにチャンの部屋を出て行く。更に二人は、チャウが小説を書くために借りたホテルの部屋で何度か逢引するが、チャウが夫人が夫を問い詰めることを想定した練習台になったりするものの、二人は自分たちの配偶者のように簡単に不倫関係を結ぶことは出来ないでいる。チャウは、シンガポールでの仕事に誘われて現地へ行くことにするが、その際に夫人を誘うも彼女は一緒には来ない。しかし、1963年のある日、彼女は突然シンガポールのチャウの部屋を訪ねる。チャウは無言の電話を受け、自分の部屋の灰皿に夫人のタバコの吸い殻を見つけるが、夫人とは会えなかった。時は流れ1966年、子どもを連れたチャン夫人が香港のかつてのアパートにスーエン夫人を訪ね、アメリカに移住するというスーエン夫人からかつて住んだ部屋を借り受ける。一方のチャンもその後アパートを訪れ、新しい管理人に、隣は「お母さんと息子」が住んでいると聞く。それが誰であるかを確認することなく、その後彼は取材でアンコールワットを訪問し、古跡の壁の穴に過去の秘密を封印する―。
ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の2000年作品で、同監督の「
一方で、観ていて大きな謎の部分もありましたが、それは後にネットなどでいろんな人の分析を読んで、ナルホドなあと思ったりもし、また、そうした中でも見方が分かれていたりして、どっちの解釈が正しいのか、それは"正解"があるのか、それとも元々が観客に解釈を委ねている作品なのか―などと考えてみる上で"面白い"作品であると思います。以下、個人的解釈―。
一説では、チャン夫人はスリッパを取りにシンガポールに行ったという見方もあるようですが、それは、後でチャウが部屋から無くなったものがあるとメイドに訴える、その"無くなったもの"とはスリッパであり、それは、例のマージャンの夜に夫人がチャウの部屋に置いてきたスリッパだったという。彼女がスリッパを"回収"するカットは実際にあり(スリッパが件(くだん)のものであったことそのものはまず間違いないだろう)、チャウにシンガポールでの仕事を紹介した人物がかつてのアパートの同居人でもあったことから、その人物がスリッパを見れば、どうして夫人のスリッパがここにあるのかと訝しがる、そのことを夫人は恐れたのか。仮にそうであるとしても、チャウが例のスリッパをシンガポールに持って行っていることを夫人は事前に知る由もなく、やはりここは、自分がチャウと付き合っていた「痕跡を消す」ためにスリッパを"回収"したのではなく(また、そのためにシンガポールまで行ったわけでもなく)、わざとタバコの吸い殻を残したのと同じように、チャウに想いを伝えに来たが踏み切れず、来たという「痕跡を残す」ためにスリッパを持ち帰ったと見るべきではないでしょうか。
あり、チャウの妻(声のみで姿は画面には一度も出てこない)が電話で相手に対し(相手は不倫相手のチャン夫人の夫のようだが、こちらも声のみで姿は画面には一度も出てこない)、「話さないとダメよ」と言って泣いていることから(この部分も声のみ)、不倫相手に離婚を迫ったもののチャン夫人の夫が離婚を渋っているらしいことが窺え、更に、チャン夫人の夫が日本に出張中にチャン夫人の誕生日にラジオに歌のリクエストしていることで(その曲名が「花様的年華」)、これを聴いたチャン夫人が夫と和解し、結局は夫と別れなかったと解されるというもの。でも、そうだとしたら、どうしてわざわざチャウとの思い出が色濃く残るかつてのアパートに舞い戻ってくるのかが理解し難い気がします(この時、指輪はどうなっていた? 1962年時点では最後まで外さなかったようだが)。
では、チャン夫人が連れている子どもはチャウの子なのか。だとしたら、二人はそれまでどうしても越えられなかった一線を最後に越えたことになりますが、それは何時だったのか。おそらく、夫人の夫への問い質し練習の延長としてやった、チャウとの別れの場面のロールプレイング(相手は夫を想定しているのかチャウを想定しているのか微妙)の後、夫人が泣き崩れ「今日は帰りたくない」というあの辺りでしょうか(2度目のタクシー内の場面)。その後、チャウがシンガポールに行っている間に妊娠・出産し、シンガポールにはそのことをチャウに伝えるためにも行ったとすれば、目的は果たさなかったものの行った動機としても説明がつくのではないでしょうか。
るという意味は大きい)、一方、おそらくは隣の部屋にチャン夫人が戻って来ているのを知らないままにアンコールワットに行ったチャウは、そこまで割り切って"思い出"に生きられないからこそ(男女の生理的違いと言っていいのでは)、遺跡の壁の穴に口づけをするという行為を以って意識的に"思い出"を封印しようとしたのではないか―と考えます。


「花様年華」●原題:花様年華/IN THE MOOD FOR LOVE●制作年:2000年●制作国:香港●監督・製作・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●撮影:クリストファー・ドイル/リー・ピンビン(李屏賓)●音楽:マイケル・ガラッソ/梅林茂●時間:98分●出演:トニー・レオン(梁朝偉)/マギー・チャン(張曼玉)/レベッカ・パン(藩迪華)/ライ・チン(雷震)/スー・ピンラン(蕭炳林)●日本公開:2001/03●配給:松竹●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ1(01-04-25)(評価:★★★★★)







チャン・ツィイー
剣の名手として武林にその名を知られた李慕白(リー・ムーバイ)(チョウ・ユンファ〈周潤發〉)は、血で血を洗う江湖の争いに悩み、剣を捨てて引退することを決意、自身の名剣「青冥剣(グリーン・デスティニー)」を北京の鐵(ティエ)貝勒に寄贈するために、密かに恋心を抱いていた同門の弟子で、鏢局を営む兪秀蓮(ユイ・シューリン)(ミシェル・ヨー〈楊紫瓊〉)に託す。シューリンは剣を無事に北京のティエ宅に届けるものの、その夜、剣は何者
かに盗まれる。シューリンに続いて北京にやってきたムーバイは、剣を盗んだのは、リーの師匠を毒殺した仇の女性・碧眼狐(ジェイド・フォックス)(チェン・ペイペイ〈鄭佩佩〉)ではないかと考える。一方シューリンは、そこで結婚を間近に控えた貴族の娘の玉嬌龍(
イェン・シャオロン)(チャン・ツィイー〈章子怡〉)と出会い義姉妹の契りを交わすが、賊と戦った時の印象から、剣を盗んだ賊とはそのシャオロンではないかと疑う。シューリンの読み通り、剣を盗んだのはシャオロンで、シャオロンに剣を教えたのはジェイド・フォックスだった。結婚を控えたシャオロンには恋をした過去があり、新疆でその地の賊・羅小虎(ロー・シャオフー)(チャン・チェン〈張震〉)と出会い、シャオロンとシャオフーは今も深く愛し合っていた―。
アン・リー〈李安〉監督による2000年の中国・香港・台湾・米国の合作作品で、原作は王度廬の武侠小説『臥虎蔵龍』ですが、五部作の第四部だけを映画化してもの。第73回アカデミー賞で英語以外の言語による作品でありながら作品賞ほか10部門にノミネートされ(監督、脚色、撮影、編集、美術、衣装デザイン、作曲、歌曲、外国語映画)、外国語映画賞など4部門を受賞しています。トロント国際映画祭の最高賞「観客賞」も受賞しており、トロント国際映画祭はアカデミーが公認している映画祭であるため、アカデミー作品賞ほかにノミネートされたものと思われます(ゴールデングローブ賞外国語映画賞、インディペンデント・スピリット賞及びロサンゼルス映画批評家協会賞の各「作品賞」も受賞)。
アン・リー監督は「両岸三地の中国人が力を合わせた結果、中国文化をアメリカに持ち込むことができた」と言っていますが、因みに、アン・リー監督とチャン・チェンは台湾出身、チョウ・ユンファは香港出身、ミシェル・ヨーは中国系マレーシア人で彼女も主に香港で活躍、チャン・ツィイーは中国出身。中国武侠映画は中国人に深く浸透しているものの、中国圏以外ではそれまであまり知られておらず、中国圏では古いタイプの物語がアメリカや日本の観客の眼には新鮮に映り、関心を持って迎えられたという事情はあったかと思います。
)、「
それ以上に意外だったキャスティングが、我儘お嬢様で実は武闘家のイェン・シャオロンを演じるチャン・ツィイー(「
でここまで撮れてしまうのかと感心する一方で、竹林のアクションシーンでは俳優達をずっと4,50フィートの高さに吊っていたというから、それなりの大変さはあったのでしょう。カメラマンのピーター・パウ〈鮑徳熹〉は、「あのようなアクションはハリウッドでは永遠に撮れないだろう。なぜなら、ハリウッドには、俳優を10フィート以上吊ってはいけないという規定があるから」と述べています。悪役・碧眼狐を演じたベテラン女優チェン・ペイペイさえも「今の武侠映画はCGを使えるのでとても便利だ」と言っているぐらいですから、こうした生身のアクションシーンはだんだん見られなくなるのではないでしょうか。
武侠映画のスタイルを取りながら、ストーリーとしては恋愛&ファンタジーといった感じですが、ラストで"ヒロイン"のイェン・シャオロンが

「グリーン・デスティニー」●原題:臥虎藏龍/CROUCHING TIGER, HIDDEN DRAGON●制作年:2000年●制作国:中国・香港・台湾・米国●監督:アン・リー(李安)●製作:アン・リー/ビル・コン●脚本:ジェームズ・シェイマス/ツァイ・クォジュン/ワン・ホエリン●撮影:ピーター・パウ(鮑徳熹)●音楽:タン・ド
ゥン/ヨーヨー・マ●原作:王度廬(ワン・ドウルー)「臥虎蔵龍」●時間:120分●出演:チョウ・ユンファ(周潤發)/ミシェル・ヨー(楊紫瓊)/チャン・ツィイー(章子怡)/チャン・チェン(張震)/チェン・ペイペイ(鮑徳熹)/ラン・シャン(郎雄)/リー・ファーツォン●日本公開:2000/11●配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント●最初に観た場所:渋谷東急(00-12-03)(評価:★★★☆)


チャン・ツィイー





都会で働くルオ・ユーシェン(孫紅蕾(スン・ホンレイ))は、父の急死の知らせを受け故郷である中国華北部の小さな山村、三合屯(サンヘチュン)へ帰郷する。老いた母は悲嘆にくれるばかりで、遺体は町の病院に安置されたまま。母が遺体を担いで帰る昔ながらの葬式をすると言い張るが、村は老人と
子供ばかりで遺体の担ぎ手がいない。母はまた、棺に掛ける布も自分が織ると言い張った。そんな母の姿を見つめる中、ユーシェンはふと一枚の写真に目がとまる。結婚直後の若き日の父と母が並んだ写真。母は赤い服を着ている。彼は村の語り草ともなった、若き日の父(鄭昊(チョン・ハオ))と母(章子怡(チャン・ツィイー))の恋愛物語を思い出す―。
「紅いコーリャン」の時と違うのは、「紅いコーリャン」の頃は張藝謀の監督作品は中国国内では上映禁止だったのに、この「初恋のきた道」の頃には中国政府にも受け入れられるようになっていたということで、張監督はその後2008年の北京オリンピックの開会式および閉会式のチーフディレクターを任されるまでになり、これを体制に取り込まれた《堕落》と見る向きもあるようです。確かにそうした見方もあるかと思いますが(一応、この作品の中にも文化大革命批判が見られるが、それまでの同監督の作品ほどには先鋭的ではない。それでも中国のある年代の人が観れば暗い時代を思い出さずにはいられないだろうが)、そうした政治的なことはともかく、「紅いコーリャン」でみせた骨太の演出とダイナミックな映像美はこの作品でも充分に堪能できるかと思います。
主人公が出てくる現在の部分はモノクロで、若き日の父と母のラブストーリーの部分はカラー(主人公は語り手となる)。2人の恋愛物語において、村に教師としてやった来た父と母の関係は、正確には教師と生徒ではなく、教師とただの村の娘というそれ以上に開きがあるものでしたが、それでも憧れの先生に猛烈にアタックをかけるチャン・ツィイーがいい(田舎娘らしいドン臭い走り方が"効果"的?)。その恋愛は、政治的理由で何年も会えないという過酷なものでしたが、障壁があればあるほど想いが強まるという意味では、ある種、"王道的"乃至"定番的"に描かれている恋物語のようにも思いました(同監督の「菊豆<チュイトウ>」('90年)のような"毒"を含んだ作品ではない)。
終盤モノクロの現在に話が戻って、かつての教え子たちが遠方からも含め百人ほども集って棺を担ぎ、誰も報酬を受け取らないというというのがスゴイ。吹雪の雪道を黙々と歩むその姿は感動的ですが、彼らは主人公にとっては知らない人ばかりだったという―。地方に留まり40年教師を続けた父親の偉大さがここにきて主人公の視点から浮彫りになり、そう言えば、若き日の父の話で母との恋愛の部分は映像化されていたのに対し、父の教える様子は「声が良かった」という母の述懐を主人公が語るといった間接表現になっていて実際のその姿の映像が無かったのが、逆にこの葬送シーンでの感動を引き起こす"効果"に繋がっていたように思います(因みに現在の母親を演じたのは女優ではなく素人)。
これで終わらないのがこの監督のスゴイところ。父の棺は今は使われていない古井戸の傍に運ばれて埋められ、それは父が教えていた学校のすぐ傍。つまり、雪が積もっていて初めはよく分からなかったけれども、父の教え子たちが棺を担いだ葬送の道程はまさに母親にとって「初恋のきた道」であって、ここにきて母親が遺体を担いで"帰る"昔ながらの葬式を望んだ理由が浮き彫りになります。

可憐な演技を見せたチャン・ツィイーは、次回作「
「初恋のきた道」●原題:我的父親母親/THE ROAD HOME●制作年:1999年●制作国:中国●監督:張芸謀(チャン・イーモウ)●製作:趙愚(ツァオ・ユー)●脚本:鮑十(パオ・シー)●撮影:侯咏(ホウ・ヨン)●音楽:三宝(サンパオ)●原作:鮑十(パオ・シー)●時間:89分●出演:章子怡(チャン・ツィイー)/鄭昊(チョン・ハオ)/孫紅雷(スン・ホンレイ)/趙玉蓮(チャオ・ユエリン)●日本公開:2000/12●配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ2(01-05-13)(評価:★★★★)


1968年5月のパリ五月革命の最中、南
仏ジェール県の当主ヴューザック家夫人(ポーレット・デュボー)が突然の発作で死ぬ。長男のミル(ミシェル・ピコリ)は彼女の死を兄弟や娘たちに伝えようとするがストで電話が繋がらない。ようやく駆け付けたミルの娘カミーユ(ミュウミュウ)と
フランソワーズたち3人の子、姪のクレール(ドミニク・ブラン)とそのレズビアン友達マリー=ロール(ロゼン・ル・タレク)、弟のジョルジュ(ミシェル・デュショーソワ)と彼の後妻リリー(ハリエット・ウォルター)たちの話題は革命と遺産分配のことばかり。立派な邸宅を売ったらゴルフ場にもできるというカミーユとジョルジュにミルは怒りを爆発させ、小川へザリガニ捕りに行く。カミーユと幼馴染みの公証人ダニエル(フランソワ・ベルレアン)の読みあげる夫人の遺書の中に、小間使いのアデル(マルティーヌ・ゴーティエ)が相続人に含まれていると知って一同は驚くが、気のあるミルだけは喜ぶ。パリで学生運動に参加しているジョルジュの息子ピエール
=アラン(ルノー・ダネール)が共産党嫌いのグリマルディ(ブルーノ・カレット)のトラックに乗せてもらって屋敷に現われる。翌日、革命の影響で葬儀屋までがストをする。ミルたちは遺体を庭に埋めることにし、葬式を一日延期し、ピクニックに興じる。その夜、屋敷に現われた村の工場主夫妻から、ド・ゴール大統領が姿を消していて、ブルジョワは殺されると知らされた一同は、森の洞窟へと逃げる。疲労と空腹で一夜を過ごした彼らのもとにアデルがやって来て、ストが終ったことを知らせる。いつしか彼らの心の中には、屋敷を売る考えはなくなっていた。無事に葬儀は終わり、人々も帰るべき場所へと帰って行き、屋敷には再びミルだけが残される―。

ブルジョワ階級出身のルイ・マル監督が五月革命に翻弄されるブルジョワを風刺と皮肉を込めて描いた作品ととれますが、アイロニカルな部分がことさらに強調されているわけではなく、その点において自然であるとともにやや中途半端か。むしろ、政治的なことは抜きにして、単純に集団劇として見た場合に結構面白いのではないでしょうか(ルイ・マルの頭にはアントン・チェーホフの『桜の園』があったという。また、ジャン・ルノワールの「ゲームの規則」的な作りをも意識しているらしい)。
ミルは母親の死に一度慟哭しますが、その後は親族たちのドタバタに振り回され、そうした中で弟の後妻リリーと急速に接近(それまでも小間使いのアデルと恋人関係にあったようだが)、娘のカミーユは幼馴染みの公証人のダニエルとの関係が再燃したようで、レズビアンだったはずのマリー=ロールはピエール=アランと親密になり、それに対抗するようにクレールもトラック運転手のグリマルディと親しくなります(何だか、親戚と他人が入り混じった乱交状態みたいになってくるね)。
こうした人同士の関係の化学変化が、ミルの突然思い立ったザリガニ捕りや(これも相続争い対する嫌気から逃れたい気持ちからの行動だと思うが)、関係者総出でのピクニックを通して描かれ、美しい自然の中で人々の気持ちが解放され、行動が大胆になっていく一方、屋敷を売ってどうのこうのといった考えは消えていき、また、それは同時に、屋敷を売りたくないミルの思惑に沿ったものになっているというのは、観ていてまずますスムーズな流れです。
しかし、ミル自身は、屋敷は売らずに済んだものの、最後は小間使い兼恋人のアデルにも婚約者がいて彼女も去っていくという目に遭います(意外としたたかな女性だった)。リリーも去ってアデルも去り、残されたミルは、もう誰もいない屋敷で亡き母の幻影とダンスを踊る―ミルの老境の孤独を感じさせるエンディングで、初
め「田舎の日曜日」→中ほど「お葬式」→ラスト再び「田舎の日曜日」といった感じの作品ですが、「田舎の日曜日」同様にフランスの田舎を美しく撮っている作品でもあります。黒澤明(1910-1998)監督の娘である黒澤和子氏によれば、黒澤明が生前評価していた作品でもあるようです(黒澤和子

ミシェル・ピコリ(1925-2020/享年94)は「
ック・リヴェット(1928-2016/享年87)監督(この人もヌーヴェルヴァーグの中心的人物である)の「美しき諍い女(いさかいめ)」('91年)に出演しています。高名であるが世捨て人の画>家(ミシェル・ピコリ)が、もともとモデルだった妻(ジェーン・バーキン)とプロヴァンスの片田舎にある古城で静かに暮らしているところへ、一人の若い画家が恋人(エマニュエル・ベアール)を連れて彼のもとを訪れると、画家は彼女をモデルにする事で、自分が長い間打ち捨てていた作品「美しき諍い女」の制作を再開する気になるというものです。ノーカット版は3時間57分ですが、当時['93年]VHS版(1時間31分)で観てしまいました(ジャック・リヴェット監督が別撮りのフィルムでテレビ用にシー
ンを変更した2時間5分の別バージョン「美しき諍い女ディヴェルティメント」が1993年に劇場公開されているが、現在は約4時間のオリジナル完全版が
DVD・Blu-ray化されている)。エマニュエル・ベアールは作中を通じてほとんど全裸であり、「ワイセツか芸術か」の物議をかもした問題作ですが、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しています(エマニュエル・ベアールはブライアン・デ・パルマ監督の「



「五月のミル」●原題:MILOU EN MAI●制作年:1989年(公開年:1990年)●制作国:フランス・イタリア●監督:ルイ・マル●製作:ルイ・マル/ヴィン・セントマル●脚
本:ジャン=クロード・カリエール●撮影:レナート・ベルタ●音楽:ステファン・グラッペリ●時間:107分●出演:ミュウミュウ/ミシェル・ピコリ/ミシェル・デュショーソワ/ブルーノ・カレット/ポーレット・デュボー/ハリエット•ウォルター/マルティーヌ・ゴーティエ/ドミニク・ブラン/ロゼン・ル・タレク/フランソワ・ベルレアン/ルノー・ダネール●日本公開:1990/08●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(90-10-10)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(15-04-18)(評価:★★★☆)
題:LA BELLE NOISEUSE(英:BEAUTIFUL TROUBLEMAKER)●制作年:1991年●制作国:フランス●監督:ジャック・リヴェット●製作:マルティーヌ・マリニャック●脚本:パスカル・ポニツェール/クリスティーヌ・ロラン/ジャック・リヴェット●撮影:ウィリアム・リュプチャンスキー●音楽:イゴール・ストラヴィンスキー●原作:「バルザック 知られざる傑作」●時間:91分(VHS版)・131分(2時間編集版)・237分(ノーカット版)●出演:ミシェル・ピコリ/ジェーン・バーキン/エマニュエル・ベアール/マリアンヌ・ドニクール/ダヴィッド・バースタイン/ジル・アルボナ/マリー・ベリュック/マリー=クロード・ロジェ●日本公開:1992/05●配給:コムストック(評価:★★★★) 


クリスマスも間近に迫ったある日、ポワロはセントラル・ヒーティングが壊れて困っているところに、ゴーストン・ホールの当主である老富豪シメオン・リーから電話で泊まりの仕事の依頼があり、そちらにはセントラル・ヒーティングがあるとのことで邸へ赴く。彼には、ホールに同居するアルフレッド、国会議員のジョージ、道楽者のハリーの3人の息子と、スペイン人と結婚
した娘ジェニファーがいた
が、娘は子供を残して亡くなっており、シメオン・リーはこのクリスマスに、ジョージ、ハリーの夫婦に加え、長年離れて暮らしていた末息子ハリーと亡くなった娘の子供、つまり彼にとっての孫娘となるピラールも呼び寄せていた。一族たちが邸を訪れ、互いに再会したり初めて会ったりした一同ではあったが、兄弟の不仲や老人の嫌味な言動などにより、邸内には不穏な空気が流れる。そしてクリスマス・イヴに事件は起こる。老人の部屋から聞こえて来た凄まじい騒音と絶叫。鍵のかかっていたドアを破壊し中に踏み入った一同が目にしたものは、崩れた家具とその横に倒れる老人の血まみれの死体だった。そして、彼が銀行から届けさせていたダイヤが紛失していた―。

「名探偵ポワロ」の第42話(第6シーズン第1話)でロング・バージョン。本国放映は1995年1月1日、本邦初放映は1997年12月29日(NHK)。原作はアガサ・クリスティが1938年に発表した長編作品であり、映像化作品の年代設定もほぼ同じ(このTVシリーズが"通し"で大体
その頃の時代設定になっている)。但し、原作ではジャップ警部は登場しませんが、こちらは、妻の実家ウェールズに帰省していて、地元ウェールズ人のクリスマス期間中に朝から晩まで歌い通しの慣習にウンザリしている彼を、ポワロが"救出"して捜査に当たらせます(奥さんの実家は見せても、当の奥さんの姿は無い。「刑事コロンボ」ではないが、ジャップ警部の奥さんを見せないのがドラマの決まりごとになっているようだ)。
ということで、シメオン・リーは過去に仲間を殺害して富を得る機会を独占した"殺されても仕方がないくらい"悪い奴なのですが(更に、現在においても、孫娘に躙り寄るどうしようもない好色爺なのだが)、あまりに多くの人物から恨みにを買っていそうで、一体誰が犯人なのか判らない―長男、次男にそれぞれの嫁まで絡んで、何となく秘密を抱えていそうなピラールも加え、当面の容疑者は6人に。
個人的には、シメオン・リーを殺害したのは、ダイヤ発掘の際に彼に殺害された相方の子孫だと思ったのですが、それが孫娘に化けて邸に潜入したのかと思ったけれど、ちょっと違っていました(ポワロが仄めかした「犯人は内部の者であり外部の者でもある」という言葉に該当するのはその時点で彼女しかいないように思えたのだが、ただ金持ちになりたかっただけか)。
結局、「執事が犯人だった」という手に匹敵する"禁じ手"だったような気
がしなくもないですが、しっかり伏線もあったし(ビリアード室でのピラールの言葉など)、密室殺人から始まってお決まりの関係者全員を集めての謎解きまで、プロセスにおいて最後まで愉しめたから、まあ、良しとしようという感じでしょうか(評価はロング・バージョン



ポワロはベルギーで「黄金の枝」勲章を叙勲されるジャップ警部に伴い、ブリュッセルを訪れる。警視総監になった旧友のシャンタリエと再会したポワロは、20年前の事件を思い出す。ポワロが警官だった頃、リベラル派の大臣ポール・デルラールが家族や知人たちとの食事後、好物のチョコレートを食べて急死した事件だ。ポワロはシャンタリエと捜査を始めるが、ブシェール警視によって打ち切りを命じられる。それでもポワロは決然と捜査を進めたのだった―。
「名探偵ポワロ」の第39話(第5シーズン第6話)でショート・バージョン。本国放映は1993年2月21日、本邦初放映は1993年7月10日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「チョコレートの箱」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「チョコレートの箱」)などに所収。
ポワロがベルギー警察時代に初めて〈私立探偵〉として手がけた事件を描いた作品(警官が捜査打ち切り命令に反して休暇を取って自主的に捜査すれば私立探偵ということになるわけか)。原作では ポワロがヘイステングス相手にロンドンの自室で40年前の事件の回顧談をする設定なのに対し、映像化作品では、ポール・デルラールの死が1913年頃で、20数年前の事件となっています。更に、回顧談の相手がジャップ警部に変更され、どうせ回顧シーンをブリュッセルでロケしなければならないのならば、現在のポワロとついでにジャップ警部もベルギーへ行かせようということになったの
か、ジャップ警部がベルギーで勲章を受けることになり、奥さんが長旅がダメで同伴できなくて(ジャップ警部の自宅や奥さんの親戚は出てくることがあっても、当の奥さんは姿を見せ
ないのが、「刑事コロンボ」のコロンボのカミさん同様にドラマのお決まりになっている)、代わりにポワロがジャップ警部に同行するという設定になっています(旅費2人分は予め表彰する側が負担することになっているということか。ベルギー側が、ジャップ警部の功績はポワロによるところ大であることを知っていて、ポワロも招待したのかと思ってしまった。それではジャップ警部に対して嫌味になってしまう)。

原作との大きな改変点は、原作でポール・デルラールに想いを寄せる女性ビルジニー・メナール(ポールの亡き妻の従妹)が、何とポワロに想いを寄せているとでも言っていいくらいポワロを信頼しきっている感じになっており、ポワロがいつも身に付けている襟のブローチがその時の彼女からの贈り物であったことが明かされ、同時に、かつてビルジニーへ抱いたポワロ自身の思慕が今も生き続けていることが示唆されます。再会シーンは微妙(個人的には要らなかったかなとも)。夫は薬剤師なのに、息子2人は警官になっているという...(原作では、彼女は女好きのポールに幻滅して修道院に入ってしまうため、ポワロとの恋愛談は無い)。
ポワロが犯人を見逃すというのは『オリエント急行の殺人』などでそのような例がないわけではないですが珍しい方でしょう(警察時代の事件であるということもあるのか。いや、警察官だったら本来は犯人逮捕は義務であるはずだが)。チョコレートの箱と蓋の組み合わせを間違えた犯人は、赤と緑を十分に区別できない所謂「赤緑色盲」だったのでしょうか?
「名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅤ: THE CHOCOLATE BOX ●制作国:イギリス●本国放映:1993/02/21●監督:ピーター・バーバー・フレミング●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●時間:52分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ジェームズ・クームス(ポール・デルラール)/デヴィッド・デ・キーサー(ガストン・ボージュ)●日本放映:1993/07/10●放映局:NHK(評価:★★★★)


2年前、アルゼンチンに滞在しているヘイスティングスに会いに行ったポアロは、ブエノスアイレスのホテルで偶然事件に遭遇する。それから月日は流れ、ある朝、ポアロはヘイスティングスから「ル・ジャルダン・デ・シーニュ」が付近にオープンすることを聞き、ミス・レモンからは「事務所のポストに挿されていた」と"黄色いアイリス"を手渡される。ポアロにとって思い出したくない2年前の
事件―同じ名のレストランの黄色いアイリスが飾られたテーブルにいたアイリスという女性の殺害事件が再び脳裏に蘇る。ポワロが過去に遭遇し未解決に終わっていたその事件が、2年後の今、ロンドンで再び動き出す―。
「ル・ジャルダン・デ・シーニュ」は、2年前の事件の現場
となった有名なフランス料理店で、この度ロンドンに進出しオープンしたわけですが、そのオープンの日は、図らずも2年前その事件が起きた―アイリスが突然うっ伏して亡くなった―その日であり、当時、ポアロはまさにその時その場所にいたにも関わらず、クーデターを起こした軍によりスパイ容疑で逮捕されて強制送還され、事件を解決するに至らず、事件はアイリスのポーチにあった青酸カリによる自殺として処理されたというもの。
今回
は、当時アイリスが青酸カリによって殺害されたテーブルにいた当事者全員が招待されて店に集います。店のテーブルは、米国人実業家のバートン・ラッセルが予約したもので、ラッセルは4年前と同じ状況を作った上でアイリスは他殺であるとの考えを述べ、この中に犯人がいるとしますが、今度はその場でアイリスの妹ポーリンが突然うっ伏してしまう―。
原作の短編は長編『
因みに、ヘイスティングスは今はアルゼンチンからロンドンに戻ってきているわけで、これは、ドラマでは鉄道への投資に失敗したため破産し、イギリスに帰国して再びポアロの助手を務めているという設定になっているためです。原作では、アルゼンチンで牧場を経営し成功を収めたため、イギリスに一時帰国することあっても、途中から彼の本拠地はあちらになっています(そのため、ポワロはミス・レモンを雇うことになった)。
「名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅤ: THE YELLOW IRIS●
制作国:イギリス●本国放映:1993/01/31●監督:ピーター・バーバー・フレミング●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●時間:52分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ロビン・マキャフリー(アイリス・ラッセル)/ジェラルディン・サマーヴィル(ポーリーン・ウェザビー)●日本放映:1994/02/05●放映局:NHK(評価:★★★☆)



エジプトで行われている大掛かりな発掘調査で、遂にメンハーラ王の墳墓が開封される時が訪れるが、封印の扉を開けた直後、発掘隊の考古学者ウィラード卿が倒れ、そのまま亡くなってしまう。死因は心臓発作で自然死と判断されたが、それから次々と調査に関わった人間が不審な死を遂げて行く。そんな折、卿夫人の依頼を受けたポワロは、ヘイスティングスとともにエジプトへ向かう。 人々は「王の墓を暴くものには制裁が下される」と王の呪いを噂するが―。
「名探偵ポワロ」の第34話(第5シーズン第1話)でショート・バージョン。本国放映は1993年1月17日、本邦初放映は1993年7月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「エジプト墳墓の謎」)、創元推理文庫『クリスティ短編集1』(「エジプト墓地の冒険」)などに所収。
犯人はやっぱりという感じでした。あとは動機だけでしたが、動機は謎解きされてみないと分からないものでした。シーズンの第1話ということでロケをした割には("王家の谷"のロケ地はエジプトではなくスペインのようだが、大英博物館のラムセス二世の胸像なども出てきて雰囲気を盛り上げている)、プロットは大したことなかったかも。まあ、今回は、砂漠での王家の墓の発掘作業というエキゾチックかつミステリアスな舞台設定に、ポワロがいつも通りのスタイルで(砂漠にもかかわらず皮手袋にエナメル靴で)乗り込んでいくところが見所だったのかもしれません(ポワロは飛行機がダメだから海路で行ったのか)。テレビドラマにしては舞台背景はしっかり撮ってると思われ、その分評価として星半個プラスしました(プロットだけ見ると星3つ。因みに、メンハーラ王はクリスティによる架空の王らしい)。
(ミス・レモンは原作より親しみやすい人柄として描かれている。原作で彼女が登場するのはヘイスティングスと入れ違いであるため、基本的に2人同時には登場しない)。ミス・レモンは、続く第35話「負け犬」(The Underdog)で
は、今度はポワロに、きっと仕事に役に立つからと催眠術をかけようとしますが、ポワロは意地っ張りなせいもあってか術にかかりません。しかし、ポワロに言われて殺人事件の関係者に催眠術をかけ、事件解決の大きなヒントを引き出します(本当に仕事に役に立った)。
また、この「エジプト墳墓のなぞ」の時、ミス・レモンは愛猫を亡くして寂しい気持ちになていますが、そうした彼女を気遣って、ポワロが事件解決の後、ミス・レモンにエジプト王の墓に描かれている猫に模した置物のお土産を渡すと、彼女はかなり癒された風でした。こんなミス・レモンに、第38話「イタリア貴族殺害事件」(The Adventure of the Italian Nobleman)ではボーイフレンドができますが、実はこれがとんでもない男で、そのことを
突き止めたポワロは、彼女に真実を告げなければというヘイスティングスに対し、それは自分の役目だと言ってミス・レモンに対峙しますが、彼女はすでに男とは別れたとのことで拍子抜けしてしまいます。そして、別れた理由は男が飼い猫が邪魔になって処分しようとしたことに彼女が憤慨したためで、ポワロがふと気づくと、オフィスの中に当の猫が...(ポワロはやや渋い顔に)。



1925年インド。英国皇太子巡行の際に、女優のメイベル・セインズベリー・シールは同僚のガーダが銀行員アリステア・ブラントと結婚すると知り、その12年後、英国行きの船で一緒だったアンベリオティスに歯科医を紹介したついでにその昔話をする。英国に戻ったセインズベリー・シールは歯科医院の前で偶然ブラントと再会、彼は銀行頭取にまで出世していて、伝道師でもある彼女は寄付を頼む。ポワロは偶々その歯科医モーリィの所に通う。するとモーリィはこれから経済界を牛耳るブラントが来ると。待合室でブラントと擦れ違い歯医者を出るとセインズベリー・シールとぶつかる。待合室にいた彼女は待ち時間が長過ぎると怒って帰ってしまい、ボーイが診察室を覗くとモーリィ医師の拳銃自殺死体が。ジャップ警部からの要請でポワロは捜査に協力することになり、医師の予約簿にはポワロ、ブラント、セインズベリー・シール、アンベリオテ
ィスの順に名が。最後に治療を受けたのがアンベリオティスだと本人からも確認したが、直後にアンベリティオスは麻酔の過剰投与の後作用で死亡する。死ぬ気配がなかったモーリィが自殺したのは投薬ミスに気づいたからだと警察は納得するが、ポワロは納得できず捜査を続行。メイドが証言では、モーリィは秘書ネビルが最近勤怠不良になっているのは失業中の恋人カーターのせいだとして2人の交際に反対していて、事件当時待合室にいた青年はそのカーターだと。話を聞こうと思ったセインズベリー・シールは失踪し、後日、チャップマン夫人の部屋に顔を潰された彼女と思しき遺体が。モーリィ医師が自殺した日に訪れた患者が二人も死んだことを訝しんだポワロは、ブラントにも話を聞くが、アーンホルト財閥の令嬢レベッカの入り婿となって一介の銀行員から経済界の実権を握った彼は、病死したレベッカの知り合いだと言われてもそんな女性に覚えはないと。そんな時、庭師として入り込んでいたカーターが発砲事件を起こし、ブラントの秘書モントレソーに現場を取り押さえられ、濡れ衣を主張するが逮捕される。歯の治療跡から顔の潰されたセインズベリー・シールだと思われた遺体はチャップマン夫人の遺体だったらしい。ではセインズベリー・シールは何処へ行ったのか。ポワロは留置場のカーターから、事件当時モーリィに文句を言いに行ったら死んでいたという証言を得、それによって当初の犯行推定時刻の1時間前、セインズベリー・シールが帰る前に殺人は行われていたと確信する。ポワロが銀行の会議室に関係者を集め、事件の種明かしが行われる―。
原作では殆ど前面に出てこないこの共犯者が、この映像化作品では多分に映像化されており、但し、最初は"セインズベリー・シール"に変装して出ている訳で、では冒頭の本物のメイベル・セインズベリー・シールはまた別の女優が演じたのでしょうか(プロローグのインドでメイベル・セインズベリー・シールとガーダが一緒に出てくることからするとそうなるが、舞台メイクをしているのでよく分からない)。何れにせよ、映像面、演技面で観る側をも引っ掛かけているというのは興味深いです。
「名探偵ポワロ(第33話)/愛国殺人(愛国殺人事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅣ:ONE, TWO, BUCKLE MY SHOE●制作国:イギリス●本国放映:1992/01/19●監督:ロス・デベニッシュ●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)、フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)、キャロリン・コルキュホーン(メーベル)、ジョアンナ・フィリップ=レーン(ガーダ)、ピーター・ブライス(ブラント)、ジョー・グレコ(アルフレッド・ビッグス)、クリストファー・エクルストン(フランク・カーター)、カレン・グレッドヒル(グラディス・ネビル)、ローレンス・ハリントン(ヘンリー・モーリィ)、セーラ・スチュワート(ジェーン・オリベラ)、ヘレン・ホートン(ジュリア・オリベラ)、ケボーク・マリキャン(アンベリオティス)、トリルビー・ジェームズ(アグネス・フレッチャー)●日本放映:1992/10/03●放映局:NHK-BS2(評価:★★★☆)


ポワロは、ヘイスティングスに誘われて戦勝記念舞踏会に出かける。 晩餐の後、女優のココ・コートニーと骨董陶磁器の収集家クロンショー卿が争いながら食堂から出てくる。一方、アメリカ人のマラビー夫人は、ダンスの約束をしたクロンショーを捜していると、食堂でひとつの死体を発見する。それはクロンショーの死体だった。彼のポケットにはCの頭文字のついた小さなケースが入っており、死体発見の直前に彼がメモしていた手帳も見つかる―(第29話「戦勝舞踏会事件」)。
戦勝記念舞踏会って仮装舞踏会であるわけで、そこへ、自分は自身が有名人であるから仮装はしないと乗り込んでいくポワロの自信家ぶりはスゴイね。そのポワロの居合わせた舞踏会で殺人が起きてしまい、犯人を見逃したとマスコミに叩かれて、名誉回復のため事件解決に躍起になるというのがいかにも彼らしいです。
事件の当事者は、骨董陶磁器のコメディア・デラルテ(仮面即興劇)の6体の人物にそれぞれ扮した、クロンショー卿、女優のミス・ココ・コートニー、男優のクリス・デビッドソンとその夫人、ペルテイン子爵、未亡人ミス・マラビーの6人で、その中でクロンショー卿が殺され、普通でいけばクロンショー卿の伯父であり、相続人であるペルテイン子爵が一番怪しいということになりますが、このシリーズの場合、一番怪しい人は真犯人で
はないというのはほぼ定番となっています。
冬、ヘイスティングスの友人ロジャー・ヘイバリングの伯父ハリントン・ペースに招待されたポワロとヘイスティングスは、ライ鳥猟に出かける。猟に興味はなく、ライチョウ料理が楽しみだったポワロは風邪をひき、ホテルで寝込んでしまう。その夜、ロッジでは訪ねてきたひげの男にハリントン・ペースが殺される―(第30話「猟人荘の怪事件」)。
「名探偵ポワロ」の第30話(第3シーズン第11話)で本国放映は1991年3月10日、本邦初放映は1992年7月30日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「狩人荘の怪事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「ハンター荘の謎」)などに所収。
ライチョウ猟をするための別荘というのは贅沢だなあ。しかし、ライチョウ料理ってそんなに美味なのでしょうか。それを楽しみにしていたポワロは風邪で寝込んでしまい、殆ど「安楽椅子探偵」ならぬ「ベッド・ディテクティブ」状態でした。
殺害されたハリントン・ペースは身内の皆から嫌われていて、ロジャーの従弟のアーチー・ヘイバリングは、ハリントンから教師としての安月給をバカにされている上に、狩場での失態を厳しく咎められ、ペースの腹違いの弟ジャック・スタッダードも、猟場の番人をさせられれている上に、恋仲のメイドとの結婚資金の融通もして貰えない、更に、ロジャー・ヘイヴァリング夫妻も...といった具合。
「名探偵ポワロ(第29話)/戦勝舞踏会事件(戦勝記念舞踏会事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE AFFAIR AT THE VICTORY BALL●制作国:イギリス●本国放映:1991/03/03●監督:レニー・ライ●脚本:アンドリュー・マーシャル●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/マーク・クラウディ(クロンショー卿)/ヘイドン・グウィン(ココ・コートニー)●日本放映:1992/07/29●放映局:NHK(評価:★★★★)
「名探偵ポワロ(第30話)/猟人荘の怪事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE MYSTERY OF HUNTER'S LODGE●制作国:イギリス●本国放映:1991/03/10●監督:レニー・ライ●脚本:T・R・ボウエン/クライブ![名探偵ポワロ[完全版]Vol.16.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DVol.16.jpg)
![名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DVol.14%20%5BDVD%5D.jpg)


ジャップ警部が浮かない顔でポワロのもとを訪れ、イギリス各地の貴族の邸で発生した3件の宝石強盗事件の解決の糸口が掴めず、自らのクビさえ危ないと言う。待つしかないというポワロの言葉通り、第4の事件が発生。宝石コレクターとしても有名なマーカス・ハードマン氏の邸での野外コンサートに客たちが招かれた際に、邸内の金庫が壊され、カトリーヌ・ド・メディシスのエメラルドのネックレスが盗まれたのだった―(第26話「二重の手がかり」)。
"二重の手がかり"とは、破られた金庫の中に白い手袋が、その近くに"B.P."のイニシャル入りのシガレットケーがあったことを指し、容疑者はネックレスが盗まれた晩に屋敷に出入りした4人の客ということになりますが、ポワロはその容疑者の一人、ロシア人亡命貴族を称するヴェラ・ロサコフ伯爵夫人に一目惚れしたようで、3日以内に事件を解決しないとクビになると総監から言い渡されているジャップ刑事を尻目にロサコフ夫人とデートばかりしていて、事件を投げ出した印象さえあります。そこで、ヘイスティングスとミス・レモンが、それぞれに怪しいところがある他の3人の調査に当たります。
このポワロのシリーズにおけるロサコフ夫人は、シャーロック・ホームズの「ボヘミアの醜聞」における、ホームズが恋した唯一の女性アイリーン・アドラーに相当するわけです。ということで宝石盗難犯の見当はおおよそつくわけですが、ポワロは犯人を捕まえる気がないわけで(クライアントの了解済み)、となるとこの事件にどう決着をつ
けるのかが見所になるわけです。そうした意味では、なかなかユニークな展開でした。
オペラ劇場で旧知のレディ・チャタートンに、友人のクレイトン夫人が夫に命を狙われているらしいと言われたポワロは、様子を探りにクレイトン夫妻が出席するパーティに出掛ける。クレイトン夫人と親しくしているリッチ少佐、クレイトン夫人を巡って決闘して敗れたこともあり、今もまお夫人を執拗に追いかけるカーティス大佐らがパーティに出席していたが、クレイトン氏は急な仕事で欠席。翌日、パーティ会場にあったスペイン櫃の底から、大量の血が流れ出してるのをメイドが発見し、蓋を開けると中にクレイトン氏の刺殺体があった―(第27話「スペイン櫃(ひつ)の秘密」)。
「名探偵ポワロ」の第27話(第3シーズン第8話)で本国放映は1991年2月17日、本邦初放映は1992年4月2日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、などに所収。
先ず逮捕されたのは、屋敷のオーナーであるリッチ少佐で、スペイン櫃(エリザベス朝の家具で大きくて蓋がある)の持ち主でもない限り、クレイトンの死体を持ち込むなど不可能と思われたわけですが、クレイトン夫人がポワロのマンションを訪ねて来て、リッチ少佐の無実を証明することを依頼したため、ポワロは動き出します。
リッチは逮捕されましたが、第一容疑者は真犯人ではないというのはもうお約束事のようになっており、そうなると、リッチとは別に最初から怪しい人物はいるなあと思われ、それがそのまま結末までいってしまい、 "犯人当て"という面ではヒネリはさほどなかったように思います。



夏祭りの席上でポワロは旧友の息子ジョン・ハリスンに出会った。彼は自分の婚約者モリーをポワロに紹介、ポワロは戯れに紅茶占いをするが、彼女のカップには彼女自身の口紅と一緒に別の口紅がついていた。会場にはモリーの元婚約者で今は良き友人というクロードも参加していたが、三人の関係にポワロは暗雲を予測する―(第24話「スズメバチの巣」)。
ポワロが、まだ起きていない犯罪を防ぐべく捜査を始めるというユニークな展開です。モリーのカップに彼女自身の口紅と一緒に付着していた紅は元婚約者クロードのものであり(彼は夏祭りでピエロに扮していた)、それでポワロは悪い予感に駆られたという訳です。クロードは未だにモリーへの気持ちを捨てられず、またモリーも故意にクルマ事故を起こしてクロードとの時間を過ごすなどしていました。
殺人未遂罪は成立していると思われますが、最後、ポワロが犯人に優しいのは、犯人の置かれた境遇に対する思い遣りからでしょうか。まあ、死ぬつもりの人間をわざわざ訴えても仕方がないし、どうせ公判の途中で死んでしまうのならば意味がないという理屈とも呼応している訳ですが(プラグマティックに考えればであるが)。
ポワロ、いつから占い魔になった?とか、ハチの巣駆除のガソリンと単なる水との色や臭いの違いが分からないものかとかいった突っ込み所はありますが(洗濯ソーダと青酸カリの味の違いが分からないのは、今まで生きている間に青酸カリを飲んだことがないのだから仕方がないが)、ポワロの友への友情が感じられる終わり方は良かったです。
絶望している相手には"要らぬ同情"として拒絶される可能性もあったのではないかという見方もありますが、犯行を実行していれば、ポワロがいる限り、死後に殺人犯として糾弾されるのは自分であることは避けられなかったため(死後の復讐を考える者は、死後の名誉も考える)、やはり自ずとポワロに感謝することになるのでしょう。
自分に高額保険をかけたばかりのマルトラバースが、庭の大木の下で死んでるのを発見される。死因は内出血だが、庭には死者が引きずられたような痕跡が残されていた。美しい未亡人スーザンは、大木にまつわる少女の霊を見た夫がショック死したのではないかと言う。彼女は医師から夫が、ショックで潰瘍が再発した場合に死ぬ可能性もあると聞いていたのだ。本当に幽霊がいるのか?ポワロは灰色の脳細胞を駆使し、事件解決に挑む―(第25話「マースドン荘の惨劇」)。
「名探偵ポワロ」の第25話(第3シーズン第6話)で本国放映は1991年2月3日、本邦初放映は1992年3月31日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(マースドン荘園の悲」)などに所収。
第24話では、事件が無いことに対してポワロが苛立ち、ヘイスティングスが気晴らしと連れて行った夏祭りで、祭り会場で死体でも出れば満足するのかとジャップ警部に陰口を叩かれ、第25話では、ある殺人事件を解決できるのはポワロだけだという手紙を受け、ロンドンから200キロ離れた町に来てみれば、事件は手紙を出した宿の主人の小説の中の話だったという―でも、ポワロの行く処に事件は必ずあります。
今回は、犯人は途中で大体判りました。犯行のヒントをどこから得たのか(瞬時に英字新聞を読みとらないと分からない)など細かいことまではともかく、誰が犯人かは何となく目星がついて、何か予想を覆すような展開があるかなと思ったけれど、意外とそれがありませんでした。
このラスト、犯人が、自分の手についた血を被害者のものだと思って自白してしまうくだりは、心霊現象を怖れていた態度がすべて芝居だったという事実と矛盾しているという批判もあるようです。でも、嘘だと知っていてやってたら本当に幽霊が出てきたら、やはり怖いだろうね。自分が殺しているだけに。

「名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣(スズメ蜂の巣)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:WASPS' NEST●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/20●監督:ブライアン・ファーナム●脚本:デビッド・レンウィック●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/マーティン・ターナー(ジョン・ハリスン)/メラニー・ジェサップ(モリー・ディーン)●日本放映:1992/03/30●放映局:NHK(評価:★★★★)
「名探偵ポワロ(第25話)/マースドン荘の惨劇」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE TRAGEDY AT MARSDON MANOR●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/03●監督:レニー・ライ●脚本:デビッド・レンウィック●時間:56分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/イアン・マカロック(ジョナサン・マルトラバース)/ジェラルディン・アレグザンダー(スーザン・マルトラバース)/ニール・ダンカン(ブラック大尉)●日本放映:1992/03/31●放映局:NHK(評価:★★★)



自分の名がついた新種のバラが発表される園芸展でポワロは、アメリアという車椅子の老婦人に声をかけられ、種袋を差し出される。しかし、何故か中身は空だった。帰宅後に老婦人から助けを求める手紙を受け取ったポワロは、ミス・レモンを連れて彼女の家を訪ねるが、すでに彼女は前夜に猛毒ストリキニーネで殺されていた。いつ、どうやって毒は盛られたのか?(第22話「あなたの庭はどんな庭?」)。
老婦人のアメリアは姪のメアリー、その夫ヘンリーの夫婦と暮らし、カトリーナという付添いがいて、彼女はカトリーナを相続人にしていましたが、カトリーナの部屋にストリキニーネの小瓶があり、警察は先ず彼女の身柄を拘束します。彼女はロシア人で、スターリンのせいで財産をなくした貴族階級の出身(メアリー夫婦は彼女を共産主義者と決めつけていたが実際の出自はむしろ逆)。カトリーナがロシア大使館員と密かに会う場面などもあって、ちよっと怪しげではあるものの、このシリーズ、「第一容疑者は真犯人ではない」ということがほぼセオリー化しているため、そのつもりで観ていると、もう、そんなに犯人候補者は残っていないんじゃないかという感じ(カトリーナの出自やキャラクターは原作からかなり改変されているようだ)。
ラストはカトリーナは容疑が晴れて恋人とも結ばれ、これで無事に遺産も入るからメデタシ、メデタシ。一方の犯人は、ええいっ、これまでと毒を飲み干そうとしたら、アル中の夫が妻に内緒で毒をウィスキーに入れ替えていて...。このラストが一番印象に残るくらいだから、プロセスはさほどインパクト無かったかなあ。
ロンドン・スコティッシュ銀行は100万ドル相当の自由公債をアメリカに移送する計画を立てた。ところが、移送前にショー部長が狙われるなど不穏な雰囲気があり、別の担当者リッジウェイが移送の任を負うことに。また、銀行側はポワロに相談を持ちかけ、ポワロもクイーン・メリー号に乗り込んで移送に同行することに―(第22話「100万ドル債券盗難事件」)。
案の定、100万ドルの債権はポワロたちの船旅の途上で消え、案の定、ギャンブルで負債を抱えているリッジウェイに疑いがかかります。まあ、彼が真犯人でないことは大方予想がつきますが、後の展開は意外性があって面白かったです。最後、リッジウェイの容疑は晴れ、婚約者の部長秘書とポワロのところへ挨拶に。リッジウェイ、大丈夫かな(しっかり者の女性はダメ男にくっつきがちというパターンだなあ)。
豪華客船での船旅を楽しみにしていたヘイスティングスの方が船酔いでダウンし、亡命時の船酔いがトラウマとしてあり、船旅を嫌っていたはずのポワロの方が乗船してからは絶好調で、好物の「牛の脳ミソのソテー」などこってりしたものを食しているのが可笑しいです。ヘイスティングスは船上で美女と知り合い、アタックしようにも体調が...。実はこれ、事件の鍵を握る女性だったのですが、もしヘイスティングスの体調が良ければ、どういう展開になっていたのだろう(まあ、振られてお終いで、結果、あんまり変わらないか)。
「名探偵ポワロ(第21話)/あなたの庭はどんな庭?」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:HOW DOES YOUR GARDEN GROW?●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/06●監督:ブライアン・ファーナム●脚本:アンドリュー・マーシャル/クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/マージェリー・メイソン(アミリア・バロビー)/アン・ストーリーブラス(メアリ・デラフォンテン)●日本放映:1991/09/14●放映局:NHK(評価:★★★)
「名探偵ポワロ(第22話)/100万ドル債権盗難事件(百万ドル債券盗難事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE MILLION DOLLAR BOND ROBBERY●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/13●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/オリヴァー・パーカー(フィリップ・リッジウェイ)/ナタリー・オーグル(エズミー・ダルリーシュ)●日本放映:1991/09/15●放映局:NHK(評価:★★★☆)

元警視副総監ヒリアン(モーリス・ブッシュ)の叙勲パーティが開かれ、モースはかつての同僚でタカ派のドーソン警部(ケネス・コリー)と会話する。ドーソン夫妻は酔ったヒリアンを彼の屋敷に送り、ソファーに寝かしつけ帰宅するが、何者かが侵入して部屋を物色、気づいたヒリアンと揉み合いになり、投げられたヒリアンは床で頭を打って死亡する。彼は回顧録を執筆中で、犯人は原稿の一部を奪い去っていたが、それは18年前のメアリー・ラプスレイという少女の殺人事件に関係するもので、その時の容疑者だったレッドバス(オリヴァー・フォード・ディヴィス)が、車を目撃されたとしてまたもや逮捕される。回想録が出版されることで、未解決事件の犯人として再び自分に嫌疑がかかるのを恐れたための犯行との見方が有力だったが、ドーソンは彼は犯人ではないという確信を持っているようだった。彼の妻(アン・ベル)は夫の直情径行を心配している。捜査の指揮官はモースだが、ドーソン警部の助言も参考にしながら調べていくうちに、モースは少女の隣人ミッチェル家(母パット・ヘィウッド、息子クリストファー・エクルストン)に注目するとともに、殺害された少女の父親が誰なのかを探る―。
「主任警部モース」シリーズの第16話で、1991年に本国で放映され、2001年に日本語字幕付きVHSが発売されています。「
一方で、動機はラスト近くまで判らなかったなあ。その背後事情となると尚更に複雑で、子供に対する親の愛情が、復讐と保護という形でダブルで拮抗していたわけかあ。ドーソン夫妻の夫婦間の溝というのも伏線としてあったことになるけれど、これだけではねえ。モースとドーソン夫人の間に恋愛感情は芽生えるのか―といった関心は引き起こしたけれど。
「主任警部モース(第16話)/メアリー・ラプスレイに起こったこと」●原題:INSPECTOR MORSE:SECOND TIME AROUND●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/20●監督:エイドリアン・シェアゴールド●脚本:ダニエル・ボイル●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/モーリス・ブッシュ/ケネス・コリー/オリヴァー・フォード・ディヴィス/アン・ベル/パット・ヘィウッド/クリストファー・エクルストン●ⅤHS発売:2001/02●発売元:日本クラウン(評価:★★★☆)

後に「タイタニック」('97年公開)に抜かれるまで1位の記録だった)、'89年公開の「最後の聖戦」も、同年公開の「バック・トゥ・ザ・フューチャー パート2」の94.0億円に及ばず2位と、このシリーズ作は何れも年間トップを取ってはいなかったんだなあと、やや意外な思いもします。「最後の聖戦」公開時に「シリーズ最終作」と銘打っていたように思いますが、その後「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」('08年)が作られています(2008年の年間興業収入57.1億円で第3位。この年の第1位は「崖の上のポニョ」の155億円)。
物語は聖杯伝説をベースにしており、手に入れれば願いはすべて叶うという聖杯を巡ってのナチス連中とインディたちの争奪戦。ナチスに誘拐された考古学者である父親(ショーン・コネリー)を救出に向かったインディも捉えられ...と、本来ならばもっとハラハラドキドキさせられるような展開になるところが、ハリソン・フォード演じるインディのおとぼけぶりに輪をかけるようなショーン・コネリー演じる父親のおとぼけぶりで、コメディ映画みたいになっていました。
インディは馬に乗って軍用列車を追いかけたり、ナチスの一味と殴り合い、撃ち合いしたりと相変わらずアクション面でも頑張っていますが、前作に比べると派手さがなく、テンポもイマイチ。最後は、聖杯の守り主みたいな騎士が出てき
てなかなかシュールに盛り上げてくれましたが(それにしてはその手前の仕掛けがやたらメカニックだったりもする)、「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」のラストと被ってしまい、結果的に「ショーン・コネリーがとぼけた父親役をやっている映画」という印象のみが強く残ってしまった気がします。但し、ショーン・コネリーはこの作品
における「007シリーズ」のジェームズ・ボ
ンドのパロディ的要素を含む役どころを気に入っていたようで(敵か味方か途中までよく分からないボンドガール的な女性が出てくるのは007へのオマージュか)、2006年に俳優業を引退宣言していますが、もし映画界に戻ってくるとしたら「インディ・ジョーンズ」に出られるときだけとも語っています。
因みに、ショーン・コネリーがジェームズ・ボンドのパロディ的要素を含む人物設定の役柄として出演している作品の代表的なものとしては、アメリカ海兵隊員の英雄率いるテロリストと、制圧する特殊部隊との攻防を描いたマイケル・ベイ監督によるアクション映画「ザ・ロック」('96年/米)があります。かつて敵に包囲された末に救援も得られずに部下を見殺しにされ、それに対して何の補償もない国に憤りを抱くハメル准将(エド・ハリス)が、14人の部下と共に化学兵器を奪取して、ザ・ロックと呼
ジ)がアメリカ海軍特殊部隊SEALsに同行して島に潜入することになりますが、潜入にあたってアルカトラズ島からの唯一の脱獄成功者で、現在は刑務所に幽閉中の元イギリス情報局秘密情報部(SIS)部員・兼SAS大尉のメイソン(ショーン・コネリー)の協力を得るというもの。結局、SEALsは敵の前に全滅し、残されたのは元脱獄囚メイソンと化学兵器オタクのグッドスピードのみという、まあアクション映画のパターナルな展開ですが、ショーン・コネリー演じるメイソンが元SIS(SISの中にMI6がある)ということで、ジェームズ・ボンドが意
識されていることは明白でした。この映画公開の前年にサンフランシスコに行き、ゴールデン・ゲート・ブリッジからアルカトラズ島を観てきたところだったので懐かしかったですが、映画自体はやや大味でした。エド・ハリスの叛乱はかなり理不尽であるし(最後、自分でも作戦変更した)、FBIでありながら戦闘経験のない化学兵器オタクであるはずのニコラス・ケイジ(アクション映画の主役は初)が、カーチェイスをはじめ結構アクションしていました。化学兵器である毒ガスの溶剤が洗濯用の洗剤に見えてしまったのが難でした。
因みに、ショーン・コネリー演じるメイソンが刑務所から移送された後に滞在をリクエストし、その豪華なスウィートルームをしばし満喫するホテルは、サンフランシ
スコの「ザ フェアモント サンフランシスコ」で、ここは映画「
アドバイザー」が映画の舞台となったり重要なシーンに登場したホテルの中で、ユーザーからの評価が高いものをランキ
ング化した「
インディ・ジョーンズ シリーズ3作の個人的評価は、第1作「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」が★★★☆、第2作「魔宮の伝説」が★★★★、第3作「最後の聖戦」が★★★といったところです(第3作が星3つと厳しいのは、絶対評価と言うより、ややシリーズの中での相対評価になっているためで、普通の娯楽映画としてみれば十分楽しめる作品であると言える)。因みに「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」は、2000年代に入って、ソフト化作品のタイトルに"インディ・ジョーンズ"と付けるようになっており、これはこの作品がインディ・ジョーンズ シリーズの第1作であることを知らない年代層が増えてきたためでしょうか。
(●シリーズ第4作「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」('08年)年から15年を経て、シリーズ第5作でその続編である「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」('23年)が公開された。ルーカスフィルムがウォルト・ディズニー・カンパニーに買収されて以来、初となるシリーズ作品で、監督はジェームズ・マンゴールド。これまでのシリーズで監督を務めていたスティーヴン・スピルバーグは監督を降板してプロデューサーを務めている。
1944年、インディ(ハリソン・フォード)はナチスが略奪した秘宝「ロンギヌスの槍」を友人の考古学者バジル(トビー・ジョーンズ)と共に奪還しようとする最中、ナチスの科学者フォラー(マッツ・ミケルセン)が偶然見つけたもう一つの秘宝「アルキメデスのダイヤル」の片割れを手に入れる。時が経ち1969年。アメリカがアポロ計画の月面着陸成功に沸く中、定年を迎え長年勤めた大学教授の職を退いたインディはバジルの娘ヘレナ(-フィービー・ウォーラー=ブリッジ)からかつて手に入れた「アルキメデスのダイヤル」の調査を依頼される。同じ頃、アポロ計画の協力者となっていたフォラーもインディに奪われたダイヤルを取り戻すべく、ナチスの残党と共に動き出そうとしていた―。
ハリソン・フォードも歳をとったが、同じく続投したインディの友人で、エジプトの発掘屋サラー役のジョン・リス=デイヴィスや、インディの妻・マリオン役のカレン・アレも同様。ついでに、シリーズ初出演、インディの旧友で潜水士レナルドの役のアントニオ・バンデラスの現在の姿も。ただし、1944年のシーンでは、撮影時79歳のハリソン・フォードがAIよって37歳のインディに"ディエイジング"されています。ただ、そのためか、最初からCG過剰感は否めず、ほとんど〈マンガ〉みたいな感じで観ていたら、終盤にきてタイムスリップして今度は〈SF〉に。アルキメデスが出てきて、これはもう〈SFマンガ〉と言っていいか(笑)。息もつかせぬ勢いで続くジェットコースタームービーと言いたいところであるし、実際に見栄えはそうではあるのだが、観ていてどこかでジェットコースター的展開に飽きている自分もいたというのが正直なところ。過去のシリーズ作品へのオマージュが所々にあり、それは懐かしかった。評価は★★★。)

●製作:フランク・マーシャル●脚本:ローレンス・カスダン●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原案:ジョージ・ルーカス/フィリップ・カウフマン●時間:115分●出


グロリア・カッツ●撮影:ダグラス
・スローカム●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原案:ジョージ・ルーカス●時間:118分●出演:ハリソン・フォード/ケイト・キャプショー/キー・ホイ・クァン/アムリッシュ・プリ/ロイ・チャオ/ロシャン・セス/リック・ヤン/デヴィッド・ヴィップ/チュア・カー・ジ



「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」●原題:INDIAN INDIANA JONES AND THELAST CRUSADE●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:ロバート・ワッツ●脚本:ジェフリー・ボーム●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ジョン・ウィリアムズ●製作総指揮:ジョージ・ルーカス●時間:127分●出演:ハリソン・
フォード/ショーン・コネリー デン/ホルム・エリオット/アリソン・ドゥーディ/ジョン・リス=デイヴィス/ジュリアン・グローヴァー/
リヴァー・フェニックス/マイケル・バーン/ケヴォルク・マリキャン/リチャード・ヤング/ロバート・エディスン●日本公開:1989/07●配給:パラマウント・ピクチャーズ●最初に観た場所:歌舞伎町・新宿プラザ劇場(89-07-30)(評価:★★★)

リアム・フォーサイス/デヴィッド・モース/マイケル・ビーン/ザンダー・バークレー/ラルフ・ペデュート/デヴィッド・ボウ/ヴァネッサ・マーシル/ジェームズ・カヴィーゼル/ドワイト・ヒックス/ジョン・C・マッギンリー/ジョン・ラフリン/アンソニー・クラーク/デヴィッド・グラント/トニー・トッド/ボキーム・ウッドバイン/ダニー・ヌッチ/ショーン・スケルトン/スティーヴ・ハリス/インゴ・ノイハウス/グレゴリー・スポールダー/ブレンダン・ケリー/レイモンド・クルス/マーシャル・R・ティーグ/フィリップ・ベイカー・ホール/スタンリー・アンダーソン/スチュアート・ウィルソン/ハワード・プラット/ハリー・ハンフリーズ/レオナルド・マクマハン/クレア・フォーラニ/トッド・ルイーゾサム・ホイップル●日本公開:1996/09●配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル・ジャパン(評価:★★★)
「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」●原題:INDIANA JONES AND THE DIAL OF DESTINY●制作年:2023年●制作国:アメリカ●監督:ジェームズ・マンゴールド●製作:スティーヴン・スピルバーグ/キャスリーン・ケネディ/フランク・マーシャル/サイモン・エマニュエル●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原案:ジョージ・ルーカス/フィリップ・カウフマン●時間:154分●出演:ハリソン・フォード/フィービー・ウォーラー=ブリッジ/アントニオ・バンデラス/ジョン・リス=デイヴィス/シャウネット・レネー・ウィルソン/トーマス・クレッチマン/トビー・ジョーンズ/ボイド・ホルブルック/オリヴィエ・リヒタース/イーサン・イシドール/マッツ・ミケルセン●日本公開:2023/06●配給: ウォルト・ディズニー・ジャパン(評価:★★★)![ジョンとメリー [VHS].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%BC%20%5BVHS%5D.jpg)
![ジョンとメリー [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%BC%20%5BDVD%5D.jpg)

![卒業 [DVD] L.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%8D%92%E6%A5%AD%20%5BDVD%5D%20L.jpg)
マンハッタンに住む建築技師ジョン(ダスティン・ホフマン)のマンションで目覚めたメリー(ミア・ファロー)は、自分がどこにいるのか暫くの間分からなかった。昨晩、独身男女が集まるバーで2人は出会い、互いの名前も聞かないまま一夜を共にしたのだった。メリーは、整頓されたジョンの家を見て女の影を感じる。ジョンはかつてファッションモデルと同棲していた過去があり、メリーはある有力政治家と愛人関係にあった。朝食を食べ、昼食まで共にした2人は、とりとめのない会話をしながらも、次第に惹かれ合っていくが、ちょっとした出来事のためメリーは帰ってしまう―。
脚本は「シャレード」('63年)の原作者ジョン・モーティマーですが、構成の巧みさもさることながら、演じているダスティン・ホフマンとミア・ファローがそもそも演技達者、とりわけダスティン・ホフマン演じるジョンの、そのままメリーに居ついて欲しいような欲しくないようなその辺りの微妙に揺れる心情が可笑しく(ジョンの方に感情移入して観たというのもあるが)ホントにこの人上手いなあと思いました(でも、ミア・ファローも良かった)。
最後に互いの気持ちを理解し合えた2人が、そこで初めて「ぼくはジョンだ」「私はメリーよ」という名乗り合う終わり方もお洒落(その時に大方の日本人の観客は初めて、そっか、2人はまだ名前も教え合っていなかったのかと気づいたのでは。アメリカ人だったら普通は最初に名乗るけれど、アメリカ人が見たらどう感じるのだろうか)。観た当時は、これが日本映画だったら、もっとウェットな感じになってしまうのだろうなあと思って、ニューヨークでの一人暮らしに憧れたりもしましたが、逆に、ニューヨークのような大都会で恋人も無く一人で暮らすということになると、(日本以上に)とことん"孤独"に陥るのかも知れないなあとも思ったりして。
そうした大都会での孤独をより端的に描いた作品が、ダスティン・ホフマンがこの作品の前に出演した同年公開のジョン・シュレシンジャー(1926-2003/享年77)監督の「真夜中のカーボーイ」('69年)であり、ジョン・ヴォイトが、"いい男ぶり"で名を挙げようとテキサスからニューヨークに出てきて娼婦に金を巻き上げられてしまう青年ジョーを演じ、一方のダスティン・ホフマンは、スラム街に住む怪しいホームレスのリコ(一旦は、こちらもジョーから金を巻き上げる)役という、その前のダスティン・ホフマンの
主演作であり、彼自身の主演第1作だったマイク・ニコルズ監督の「卒業」('67年)の優等生役とはうって変った役柄を演じました(「卒業」で主人公が通うコロンビア大学もニューヨーク・マンハッタンにある)。
映画デビューした年に「卒業」でアカデミー主演男優賞ノミネートを受け(この作品、今観ると「サウンド・オブ・サイレンス」をはじめ「スカボロ・フェアー」「ミセス・ロビンソン」等々、サイモン&ガー
ファンクルのヒット曲のオン・パレードで、そちらの懐かしさの方が先に立つ)、主演第2作・第3作が「真夜中のカーボーイ」(これもアカデミー主演男優賞ノミネート)と「ジョンとメリー」であるというのもスゴイですが、ゴールデングローブ
賞新人賞を受賞した「卒業」の、その演技スタイルとは全く異なる演技をその後次々にみせているところがまたスゴイです(「卒業」で英国アカデミー賞新人賞を受賞し、「真夜中のカーボーイ」と「ジョンとメリー」で同賞主演男優賞を受賞している)。
3作品共にアメリカン・ニュー・シネマと呼ばれる作品ですが、その代表作として最も挙げられるのは「真夜中のカーボーイ」でしょう。ニューヨークを逃れ南国のフロリダへ旅立つ乗り合いバスの中でリコが息を引き取るという終わり方も、その系譜を強く打ち出しているように思われます。「真夜中のカーボーイ」も「ジョンとメ
リー」も傑作であり、ダスティン・ホフマンはこの主演第2作と第3作で演技派としての名声を確立してしまったわけですが、個人的には「ジョンとメリー」の方が、ラストの明るさもあってかしっくりきました。一方の「真夜中のカーボーイ」の方は、ジョーとリコの奇妙な友情関係にホモセクシュアルの臭いが感じられ、当時としてはやや引いた印象を個人的には抱きましたが、2人の関係を精神的なホモセクシュアルと見る見方は今や当たり前のものとなっており、その分だけ、今観ると逆に抵抗は感じられないかも(但し、原作者のジェームズ・レオ・ハーリヒー自身はゲイだったようだ)。![ミスター・グッドバーを探して [VHS].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%92%E6%8E%A2%E3%81%97%E3%81%A6%20%5BVHS%5D.jpg)
ダイアン・キートン演じる主人公の教師はセックスでしか自己の存在を確認できない女性で、原作は1973年にニューヨーク聾唖学校の28歳の女性教師がバーで知り合った男に殺害された「ロズアン・クイン殺人事件」という、日本における「東電OL殺人事件」(1997年)と同じように、当時のアメリカ国内で、殺人事件そのものよりも被害者の二面的なライフスタイルが話題となった事件を基にしており、当然のことながら結末は「ジョンとメリー」とは裏腹に暗いものでした。主人公の女教師は最後バーで拾った男(トム・ベレンジャー)に殺害されますが、その前に女教師に絡むチンピラ役を、当時全く無名のリチャード・ギアが演じています(殺害犯役のトム・ベレンジャーも当時未だマイナーだった)。
何れもニューヨークを舞台にそこに生きる人間の孤独を描いたものですが、ニューヨークを舞台に男女の出会いを描いた作品がその後は暗いものばかりなっているかと言えばそうでもなく、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの演技派2人が共演した「恋におちて」('84年)や、メグ・ライアンとトム・ハンクスによるマンハッタンのアッパーウエストを舞台にしたラブコメディ「ユー・ガット・メール」('98年)など、明るいラブストーリーの系譜は生きています(「ユー・ガット・メール」は1940年に製作されたエルンスト・ルビッチ監督の「街角/桃色(ピンク)の店」のリメイク)。
「恋におちて」はグランド・セントラル駅の書店での出会いと通勤電車での再会、「ユー・ガット・メール」はインターネット上での出会いと、両作の間にも時の流れを感じますが、前者はクリスマス・プレゼントとして買った本を2人が取り違えてしまうという偶然に端を発し、後者は、メグ・ライアン演じる主人公は絵本書店主、トム・ハンクス演じる男は安売り書店チェーンの御曹司と、実は2人は商売敵だったという偶然のオマケ付き。そのことに起因するバッドエンドの原作を、ハッピーエンドに改変しています。
トム・ハンクスとメグ・ライアンは「めぐり逢えたら」('93年)の時と同じ顔合わせで、こちらもレオ・マッケリー監督、ケーリー・グラント、デボラ・カー主演の
(●今度は韓国系の男女を主人公にした、ニューヨークでの再会物語が作られた。海外移住のため離れ離れになった幼なじみの2人が、24年の時を経てニューヨークで再会する7日間を描いた、セリーヌ・ソン監督のラブストーリー作品「パスト ライブス/再会」('23年)である。
とソウルでそれぞれの人生を歩んでいた。2人はオンラインで再会を果たすが、互いを思い合っていながらも再びすれ違ってしまう。そして12年後の36歳、ノラは作家のアーサー(ジョン・マガロ)と結婚していた。ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れ、2人はやっと巡り合うのだが―。


公開:1969/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-17)(評価:★★★★☆)●併映:「ひとりぼっちの青春」(シドニー・ポラック)/「草原の輝き」(エリア・カザン)三鷹東映 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。
「真夜中のカーボーイ」●原題:MIDNIGHT COWBOY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・シュレシンジャー●製作:ジェローム・ヘルマン●脚本:ウォルド・ソルト●撮影:アダム・ホレンダー●音楽:ジョン・バリー(主題曲「真夜中のカーボーイ」ハーモニカ演奏:トゥーツ・シールマンス)●原作:ジェームズ・レオ・ハーリヒー「真夜中のカーボーイ」●時間:113分●出演:ジョン・ヴ
ファー・ソルト/ボブ・バラバン●日本公開:1969/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:早稲田松竹(78-05-20)(評価:★★★★)●併映:「俺たちに明日はない」(アーサー・ペン)
マン●脚本:バック・ヘンリー/カルダー・ウィリンガム●撮影:ロバート・サーティース●音楽:ポール・サイモン
ニエルズ/エリザベス・ウィルソン/バック・ヘンリー/エドラ・ゲイル/リチャード・ドレイファス●日本公開:1968/06●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(83-02-05)(評価:★★★★)●併映:「帰郷」(ハル・アシュビー)


キー●音楽:デイヴ・グルーシン●時間:106分●出演:ロバート・デ・ニーロ/メリル・ストリープ/ハーヴェイ・カイテル/ジェーン・カツマレク/ジョージ・マーティン/デイヴィッド・クレノン/ダイアン・ウィースト/ヴィクター・アルゴ●日本公開:1985/03●配給:ユニヴァーサル映画配給●最初に観た場所:テアトル池袋(86-10-12)(評価:★★★)●併映:「愛と哀しみの果て」(シドニー・ポラック)




「パスト ライブス/再会」●原題:PAST LIVES●制作年:2023年●制作国:アメリカ●監督・脚本:セリーン・ソン●製作:デイヴィッド・イノヨーサ/クリス
チン・ヴァション/パメラ・コフラー●撮影:シャビエル・キーシュナー●音楽:クリストファー・ベア/ダニエル・ローセン●時間:106分●出演:グレタ・リー/ユ・テオ/ジョン・マガロ/ユン・ジヘ/チェ・ウォニョン●日本公開:2024/04●配給:ハピネットファントム・スタジオ●最初に観た場所:Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(24-05-06)((評価:★★☆)

ミッドサマー・デヴェレルの村では、インクペン家所有の記念庭園を巡り、庭園を閉鎖してティールームを作ろうとしている所有者のエルスペス・インクペン(べリンダ・ラング)と、庭園は地域親睦の場であるとして反対する多くの村人との間で対立が起きていた。村人の中でも、ジェーン・ベネット(ケイト・デュシェーヌ)は、その庭園が前所有者である彼女の父ジェラルド(フレデリック・トレーブ)が長年かけて作り上げたものだったため、庭を守ろうとして、再開発に強く反対していた。ジェラルドは、インクペン家から庭園を買って5年前まで管理していたが、体調を崩し庭園をインクペン家に売り戻していた。彼の妻は、5年前に忽然と失踪していた。ある日の夕方、再開発について村民集会が開かれたが、話し合いは平行線のまま物別れに終わった。その直後、問題の庭園でエルスペスの娘フィリス(サラ・アレクサンダー)が撲殺されて発見される―。
エルスペスの娘フィリスは、同じインクペン家のフェリシティとは父親違いの娘ヒラリー(ビクトリア・ハミルトン)をいびまくるなど性格悪すぎで、犯人ではなく被害者の方になるだろうと思ったらやっぱり。真犯人はおそらく最も犯人らしくない人かと思ったけれど、誰かという予想は外れました。複数の事件で異なる犯人がいるというのは前作も含めこれまでにもあり、これだけ回を重ねれば、だんだん似たパターンが出てくるのはやむを得ないでしょうか。但し、犯行の時期を違えているので、それなりにリアリティはありました。
結局、相続目当てと言うよりも(それも一部あったかもしれないが)、親子間の愛憎劇だったなあ。その内の1件は、父親を愛して母親を憎むという典型的なエレクトラ・コンプレックスでした。この母親というのが、「3P浮気」をやったりして、かなり問題ありだったのですが、インクペン家の母親も尻軽で、祖母で当主であるナオミ・インクペン(マーガレット・タイザック)が嘆くのも無理ないことでしょうか。
昔埋めた死体を掘り返されたらマズイから...という設定は、「

「バーナビー警部(第14話)/庭園の悲劇」●原題:MIDSOMER MURDERS:GARDEN OF DEATH●制作年:2000年●制作国:イギリス●本国上映:2000/09/10●監督:ピーター・スミス●製作:ブライアン・トゥルー=メイ●脚本:クリストファー・ラッセル●撮影:グラハム・フレーク●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/べリンダ・ラング/ケイト・デュシェーヌ/マーガレット・タイザック/フレデリック・トレーブ/デヴィッド・ロス/サラ・アレクサンダー/ビクトリア・ハミルトン●DVD発売:2004/08●発売元:キングレコード(評価:★★★☆)
Eleanor and Troy
アスペンホール博物館の館長のアラン(マルコム・シンクレア)が、旅行者を連れて、土地の伝説的人物、ジョナサン・ローリーの生涯を案内していたところ、ローリーの肖像画が無残にも切り裂かれているのを見つけた。器物破損事件として、バーナビー警部(ジョン・ネトルズ)とトロイ巡査部長(ダニエル・ケーシー)がやってくる。アランは旧知の修復画家サンドラ(シェリル・キャンベル)に修理を依頼するが、夫を亡くして精神的に不安定な彼女を、不可解な心霊現象が襲い、遂に、ローリーの子孫を名乗るマーカス(チャールズ・サイモン)が真夜中の博物館で撲殺される事件が起きる―。 
ロケに使われた古城に雰囲気があり、田舎町の風景も美しく、いつもながらに楽しめましたが、話が複雑な割には、その複雑さが面白さに繋がっていないような気もしました。真犯人はいかにも最初から怪しげだし、連続殺人に至る動機がやや弱い感じも。
個人的にはよく分からない部分もありました。いかにも田舎町にいそうな胡散臭い霊媒師エレノア(プルネラ・スケイルズ)のキャラが面白かったけれど、彼女がこれから新たに埋葬をしようとしている墓穴の底に、行方不明になっている人物の死体が埋まっていることを言い当てることが出来たのは何故?(バーナビーは、意外と彼女の言っていることは正しいと前から言っていたが、2人で仕組んだ? この霊媒師、サンドラが何かを盛られていることにも気づいていたみたいだが)
ユーモアという面では、バーナビーの娘カリー(ローラ・ハワード)のボーイフレンド(エド・ウォーターズ)が役者志望で、今度「警部」役をやるからといって、バーナビーに実地で刑事の仕事を見せてもらうという設定が、こんなのありかなと思わせなくもないですが、バーナビーが「刑事の心得」を言って聞かせるところなどは、わざとトロイに聞こえるように言っていたりして面白かったです。彼は社会人なんだなあ、見るからに青二才だけど、トロイがあれで自分より年収が高いとぼやいていたのが可笑しかったです(基本的にトロイの使い走りに終始したが、変に博識だったり鋭いところがあったりもした)。
「バーナビー警部(第13話)/裂かれた肖像画(古城の鐘が亡霊を呼ぶ))」●原題:MIDSOMER MURDERS:BEYOND THE GRAVE●制作年:2000年●制作国:イギリス●本国上映:2000/02/05●監督:モイラ・アームストロング●脚本:ダグラス・ワトキンソン●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/シェリル・キャンベル/デビッド・ロブ/シルヴェストラ・トウゼル/パトリシア・ブレイク/ジェームズ・ローレンソン/プルネラ・スケイルズ/チャールズ・サイモン/マルコム・シンクレア/エド・ウォーターズ/オルウェン・テイラー/クリス・スタントン●日本放映:2002/07●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★)


「理想の村コンテスト」の最終候補になったミッドサマーマロウの村の周辺では、しばしば窃盗事件が起こっていた。犯人は村の不良青年ピーター(オーランド・ブルーム)と肉屋の息子ジャック(トビアス・メンジス)だった。バーナビー(ジョン・ネトルズ)の捜査の手がもう少しで届くところで、ピーターは干し草鋤で串刺しにされ殺される。ピーターはデビア夫妻(ティモシー・ウェスト、ハンナ・ゴードン)の娘キャロライン(クロエ・タッカー)と付き合いながら、獣医ゴードン(リチャード・ホープ)の妻ローラ(マーシャ・フィッツェラン)とも不倫していた。更に、息子を悪の道に引き込まれた肉屋のレイ(ビル・トーマス)や、ピーターの素行の悪さに頭を悩ませていた叔母のバーバラ(バーバラ・ジェフォード)、、ピーターに空き巣に入られ、大切な肖像画を傷つけられた元俳優エドワード・アラダイス(マーレイ・ワトソン)にも殺人の動機があった。 そんな中、今度は「理想の村コンテスト」開催中に、ロンドンからきた審査員がワインに入れられた青酸カリによって毒殺される―。
トム・バーナビー警部のシリーズの第12話「審判の日」(原題:Judgement Day)の本国放映は2000年1月29日、日本では2002年9月にNHK‐BS2にて前後編に分けて初放映され、その時のタイトルは「人形の手に血のナイフ」でした。
推理ドラマとして純粋に楽しめるし、「理想の村コンテスト」の3人の審査員の変なキャラクターの描き分けなどもしっかりしているし(4人目の審査員であるバーナビーの妻ジョイス(ジェーン・ワイマール)が戸惑うのも無理ない)、謎解きからラストにかけては人間ドラマとしても
重厚。「理想の村コンテスト」が背景になっているだけに、ロケーションもまた一段と美しく、また、「ロード・オブ・ザ・リング」('01年~'03年)シリーズのオーランド・ブルーム(Orlando Bloom)が人妻と不倫している不良青年役で出ているという見所もあります(バーナビーとトロイ(ダニエル・ケーシー)が「指輪物語」の話をする場面があるのは、撮影の時点でオーランド・ブルームの「ロード・オブ・ザ・リング」への出演が内定していたため? それとも偶然の一致?)。
Chenies Manor, Used as the actor Edward Aladice's house
題:MIDSOMER MURDERS:JUDGEMENT DAY●制作年:2000年●制作国:イギリス●本国上映:2000/01/29●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/オーランド・ブルーム/バーバラ・ジェフォード/ティモシー・ウェスト/ハンナ・ゴードン/クロエ・タッカー/リチャード・ホープ/マーシャ・フィッツェラン/ビル・トーマス/トビアス・メンジス/マーレイ・ワトソン/シェラ・フラスター/マギー・スティード/ニコラス・グレース/ジョゼフィーン・トゥーソン●日本放映:2002/09●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★★)

マーシュウッドの上流階級の面々が、キツネ狩りをしている最中に、一人の浮浪者が撲殺された。休暇中のバーナビー警部(ジョン・ネトルズ)に代わって捜査の指揮をとったのはロン・プリングル警部(ジェームズ・ボーラム)。上流階級に憧れるプリングルは、すぐに地元の不良、ビリー・ガーディ(トム・スミス)を逮捕する。その後、帰ってきたバーナビー警部は、プリングルの狭量な捜査が間違いでなければと危惧するが、またしても事件が起こる。息子の無実を信じ、森を調べていた父親のベン・ガーディー(フレッド・リッジウェイ)が、射殺体で発見されたのだった。そして、上流階級のトランター家やフィッツロイ家の主人にとりいり、キツネ狩りに参加したプリングルにも、パーティの夜に庭の東屋であるものを見てしまったがために―。
森で殺害された浮浪者と上流階級の一族との間にどのような繋がりがあるのか―というのがミソですが、いやあ、大ありでした。フィッツロイ家当主ジェームズ・フィッツロイ(リチャード・ジョンソン)、その妻サラ・フィッツロイ(ジェニファー・ヒラリー)、トランター家の若き当主グレアム・トランター(ドミニク・マッファン)、その母マーシア・トランター(ダイアン・フレッチャー)、グレアムの妻ケイト・トランター(サラ・ウィンマン)らの関係が錯綜していて、それに森に住む女リンダ・ワグスタッフ(ジャンヌ・ヘップル)や剥製屋のヘンリー・カーステアズ(サイモン・マクバーニー)のような全く上流階級に関係ないような人たちもが実は何らかの関係があって事件に関与しているらしく、更に最後に、浮浪者と上流階級一族や森に住む女との関係が明らかになる―。
複雑な人物関係はこのシリーズの特色であり、このエピソードもバーナビー警部ならでは謎解きですが、視聴者目線では推理不可能な要素も。暗い結末の中(この暗さもこのシリーズの持ち味だが)、バーナビーが休暇先で奮発してフレンチのコース料理を食べて腹具合が悪くなったり、トロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)がグレアムの母ケイト・トランターを指して、「100万ポンドもらってもお断りな女」と言ったりと、ユーモラスな場面やセリフもちゃんと用意されていました。
しかし、今でも貴族って、毎週キツネ狩りばかりやっているのだろうか。英国の田舎町を舞台にしたこのシリーズの視聴者への訴求要素の1つとして「郷愁」のようなものがあって、キツネ狩りというのも、イギリス人にとっては、自分がやったことがある・無しに関わらず、ある種の懐かしさを呼び起こす慣行なのかもしれません。
「バーナビー警部(第10話)/絶望の最果て(狩りの角笛が死を誘う)」●原題:MIDSOMER MURDERS:DEATH OF A STRANGER●制作年:1999年●制作国:イギリス●本国上映:1999/12/31●監督:ピーター・クレギーン●脚本:ダグラス・リビングストン●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●原作:キャロライン・グレアム●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケイシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/リチャード・ジョンソン/ジェニファー・ヒラリー/ドミニク・マッファン/ダイアン・フレッチャー/サラ・ウィンマン/ジェームズ・ボーラム/ジャネット・デイル/ジャンヌ・ヘップル/ピーター・ベイリス/トビー・ジョーンズ/サイモン・マクバーニー/フレッド・リッジウェイ/ジェーン・ウッド/トム・スミス/ジョニー・ブルーム●日本放映:2002/10●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)
The French restaurant where the Barnaby family eat a meal whilst on holiday in France


意地の悪い判事へクター(ポール・ジェッソン)は、 村にやって来たオーヴィル(ケビン・マクナリー)をリーダーとするロマ達(ジプシー)を追い出そうと、知り合いの軍人まで呼んでしまうような陰険な男だった。一旦はバーナビー警部が仲裁に入り収まるが、その後、ロマ達が開催した祭りの最中に、へクターが猟銃で撃たれて死亡する―。
トム・バーナビー警部のシリーズの第9話「報いの一撃」(原題:Blood Will Out)の本国放映は1999年9月、日本では2002年7月にNHK‐BS2にて前後編(第17話・第18話)に分けて初放映され、その時のタイトルは「流浪の馬車がやって来る」でした。
馬車とトレーラーで移動する現代版ジプシーの描写が興味深かった作品ですが、ダグラス・ワトキンソンの脚本はかなり複雑なストーリーとなっています。元将校で今は判事のへクターと、元軍人で今はジプシーを率いるオーヴィルがかつて因縁事があった戦争というのは、フォークランド紛争(1982年)だったのだなあと。オーヴィルを見ただけで、彼に"想いの人"がいると分かってしまうバーナビーは、ややスゴ過ぎ。
次から次へと意外な事実が明らかになり、ラストも意外でした(もう、これは推理不能)。そんな中、ジプシー兄妹の兄が最後に妹にみせる思いやりが泣け、家族からフルーツ・ダイエットを強いられ、家族の依頼を受けた部下のトロ
イに間食しないか監視されているバーナビーがユーモラスです。
「○外国映画 【制作年順】」の 
「
田舎地主カベンディッシュ家の若き後妻タラ(フェリシティ・ディーン)が、何者かによってクリケットのバットで撲殺される。凶器は仲の悪い義理の息子のものであり、しかも事件現場の当家所有の採石場は、かつてカベンディッシュ家の家政婦が崖から転落死した場所でもあった。偶然にもクリケットチームの一員となったトロイ巡査部長を使い捜査を進めていたバーナビー警部は、暴君であるタラの夫ロバート・カベンディッシュ(ロバート・ハーディ)が、息子のスティーブン(アンソニー・カーフ)をはじめ様々な人といがみ合っていたことを突き止める―。
トム・バーナビー警部のシリーズの第8話「不実の王」(原題:Dead Man's Eleven)の本国放映は1999年9月、日本では2002年8月に
NHK‐BS2にて前後編(第19話・第20話)に分けて初放映され、その時のタイトルは「採石場にのろいの叫び」でした。



ミッドサマーワーシー近付近レイヴンズウッド(カラスの森)で女性の全裸死体が子供により発見された。死因はネクタイによる絞殺、身元は大手タバコ会社モナクのヒット商品「カーラ」のテレビCMに出ているブラジル人女優カーラ(左上)だった。現場は9年前に3人の女性が同様にネクタイで絞殺され未だ解決を見ず、マスコミに「首締めの森」と名付けられた場所だった。バーナビーの捜査で、現場で見つかった高級時計は、カーラのCM起用を決めたタバコ会社のマーケティング部長ジョン・メリル(右上)のものと分かる。
地元紙の身の上相談蘭を担当し、タバコ会社の社長(左下)と不倫関係にあるジョン・メリルの妻(右下)も、夫が犯人でないかと疑い始める。バーナビーは、9年前に一連の事件を担当していた元警察官ジョージ・ミーカムから、満月の夜に次の犠牲者が出るとの警告を受けていたが、果たしてその予告通り、第2、第3の事件が起きる―。
トム・バーナビー警部のシリーズの第7話となる本作「首絞めの森」(原題:Strangler's Wood)の本国放映は1999年2月、日本では2002年6月から7月にかけてNHK‐BS2にて前後編(第11話・第12話)に分けて初放映され、その時のタイトルは「カラスの森が死を招く」でした。原作はキャロライン・グレアムということになっていますが、脚本家アンソニー・ホロヴィッツのオリジナル色が強いように思われます。
ジョン・メリルが犯人であることを示す状況証拠が続出し、これが却って不自然なわけで、誰かが彼に罪をなすりつけようとしていることはバーナビーならずとも分かることであり、高齢の母親と一緒に暮らし、のらりくらりとバーナビーの質問をかわす旅館経営の男がどう見ても雰囲気的に怪しい...。これは殆ど「刑事コロンボ」風の倒叙法に近いのではないかと思わされましたが、その男が何者かに風呂場で「サイコ」風に刺殺されてから、全く犯人の見当がつかなくなりました。
トロイって、ポルトガル語(正しくはスペイン語か)がかなり上手に話せるくせに、サンパウロがどこにあるのかとかは知らなかったね。イタリアですかね、なんてね。バーナビーをあきれさせたり、はたまた驚かせる能力を発揮したりと、なかなか面白い。
いつもながら、複雑な事件の展開と併せて、家族サービスしようと思ってなかなか出来ないでいるバーナビーやそのバーナービーと部下トロイとの遣り取りなどのコミカルなシーンが楽しめ、加えて、イギリスの片田舎の田園風景が美しい作品です。


結婚25周年目のバーナビー夫妻は、妻のたっての望みで12世紀建造の教会で結婚式をやり直すことに。その教会は牧師のスティーブン・ウェントワース(ジュディ・パーフィット)が中心となって補修基金を集めているのだが、修繕委員の一人で脳腫瘍のため余命幾許も無いと診断された不動産開発業者リチャード・ベイリー(ドミニク・ジェフコット)が、深夜に何者かにインド刀で惨殺される。リチャードはタイ・ハウス地域の開発を進めていたが、立ち退きを拒み続けていたタイ・ハウスの不動産管理人デビッド・ホワイトリー(クリストファー・ビラーズ)も深夜に自分のトレーラーハウスに閉じ込められて焼き殺され、村で子供時代を過ごし、たまたま村に帰ってきていた演劇監督のサイモン・フレッチャー(ジュリアン・ワダム)も教会修繕基金を集うバザーの最中に弓矢で殺される。当初、事件はタイ・ハウスの開発を巡るトラブルに起因しているとバーナビー(ジョン・ネトルズ)は考えていたが、村の元小学校教師で村の開発反対派アグネス・サンプソン(ヴィヴィアン・ピクルス)から聞いた10歳の子供の話を思い出し、次に狙われるのは、殺された3人と小学校の同級生だった村の不動産屋イアン・イーストマン(ニック・ダニング)だと推測、また事件が教会を中心に起こっていることに気づく―。
トム・バーナビー警部のシリーズの第6話「秘めたる誓い」(原題:Death's Shadow)の本国放映は1999年1月、日本では2002年6月から7月にかけてNHK‐BS2にて前後編(第13話・第14話)に分けて初放映され、その時のタイトルは「少年時代は秘密のベール」でした。一応、シリーズの原作はキャロライン・グレアム(Caroline Graham)ということになっていますが、この辺りから原作の洋書版が見当たらず、原作者名のクレジットもされていないため、脚本家アンソニー・ホロヴィッツ(Anthony Horowitz)のオリジナルであるように思われます。但し、この作品に関しては、それまでのキャロライン・グレアムの原作に沿ったエピソードより面白かった面もありました。
結局、個人的には、完全にプロットの罠にハマったのですが、バーナビーも途中まで現在起きている問題に引っ張られてミスリード されていたわけだなあ―それが、事件が教会を中心に起こっていることに気づいて...。前作「沈黙の少年」同様、"隠された係累"ということで、最後は後出しジャンケンみたいな印象もありましたが、真犯人の意外性はインパクトがありました。
凄惨で猟奇性を帯びた連続殺人事件と、その捜査に当たるバーナビーとトロイのユーモラスな遣り取り、或いはバーナビーを支える暖かい家庭―このギャップのある2つの要素の取り合わせに加えて、ストーリーの出来不出来に関わらず、ロケ地にこだわった美しい田舎町の風景が楽しめるシリーズです。



村人が資金を出しあった工場の経営が行き詰まり、責任者のアラン・ホリングスワース(ロジャー・アラム)を糾弾する声が高まっていた。批判者の急先鋒グレイ(マーク・ベズレイ)はチャリティーバザーで「殺す」とアランに脅しをかける。最悪の事態を回避するため捜査を始めたバーナビー(ジョン・ネトルズ)は、アランの妻シモーヌ(レズリー・バイカレッジ)が実家に帰ったのではなく何者かに誘拐され、出資金は身代金に使われたものと推定する。トロイがホリングスワース家
を見張っていたが、ブレンダ(ミシェル・ドゥートリス)の手引きでアランはトロイをまいて何処かへ行ってしまい、アランを追っていたブレンダが何者かに殺されてしまう。更にブレンダに続きアランが睡眠薬で何者に殺され、前夜訪れていたパブの主人ナイジェル(ポール・ブルック)の指紋がそこら中から検出される。だがナイジェルは犯人ではなかった。バーナビーは捜査の末、シモーヌの元恋人ビンス・ペリー(アンドリュー・ポール)を逮捕する。バーナビーは犯人一味を逮捕し追及するが、主犯を有罪にもちこむ決定的証拠に欠けていた―。
トム・バーナビー警部のシリーズの第4話「誠実すぎた殺人」(原題:Faithful unto Death)の本国放映は1998年4月、日本では2002年5月から6月にかけてNHK‐BS2にて前後編(第9話・第10話)に分けて初放映され、その時のタイトルは「愛する人のためならば」でした。原作はキャロライン・グレアムのシリーズ第5作"Faithful unto Death"(1996年発表)ですが、2013年現在邦訳はされていません。
新興宗教団体ゴールデンウィンドホースロッジのメイ・カトル(ジュディ・コーンウェル)から、教団設立時の出資者の一人ウィリアム・カーター(ロバート・ピッカバンス)が階段から落ちて死んだとの知らせがバーナビーに入る。事故ということで片付いたものの、嵐の夜、屋根飾りの砲弾が落ちて危うく信者に当たりそうになる不審事が起きる。新参の若い
信者クリストファー・ウェンライト(ステファン・モイヤー)は、信者の一人スハミことシルビー・ガムラン(アンナ・ボルト)と仲良くなる。スミハの父で俗物の金持ちガイ・ガムラン(マイルズ・アンダーソン)は、娘スハミの誕生日祝いに団体を訪ねて娘に贈った大金を、彼女が全て教祖イアン・クレイギー(マイケル・フィースト)に寄付したため激怒する。そのスハミの誕生日の祝いの席で、教祖は何者かに刺殺される。事件の鍵を握るのは自閉症の物言えぬ少年だった―。
教祖の殺害が、部屋の灯りが消えた一瞬の隙に行われるのは、クリスティの『予告殺人』を想起させるし、言葉を発することがなかった少年が、何者が教祖を刺したのかというバーナビーの問いに初めて発した言葉が「マジック」であるというのもクリスティの『魔術の殺人』を意識してか。憑依による儀式が行われるところは『蒼ざめた馬』もそうであるし、クリスティへのオマージュが感じられるととるのは、穿ち過ぎた見方でしょうか。
「バーナビー警部(第4話)/誠実すぎた殺人(愛する人のためならば)」●原題:MIDSOMER MURDERS:FAITHFUL UNTO DEATH●制作年:1998年●制作国:イギリス●本国上映:1998/04/22●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●原作:キャロライン・グレアム●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/ロジャー・アラム/レズリー・バイカレッジ/ポール・ブルック/ロザリンド・アイレス/エレオノーラ・サマーフィールド/ピーター・ジョーンズ/ポール・チャプマン/ミシェル・ドゥートリス/ソフィー・スタントン/マーク・ベイズレィ/テッサ・ピーク-ジョーンズ●日本放映:2002/05●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★)
「バーナビー警部(第5話)/沈黙の少年(祈りの館に死が宿る)」」●原題:MIDSOMER MURDERS:DEATH IN DISGUISE●制作年:1998年●制作国:イギリス●本国上映:1998/05/06●監督:バズ・テイラー●脚本:ダグラス・ワトキンソン●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●音楽 : ジム・パーカー●原作:キャロライン・グレアム●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/ロバート・ピッカバンス/マイケル・フィースト/ダニエル・ハート/アンナ・ボルト/マイルズ・アンダーソン/スーザン・トレーシー/コリン・ファレル/ダイアン・ビル/ジュディ・コーンウェル/チャールズ・ケイ/ステファン・モイヤー●日本放映:2002/04●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★)



ミッドサマー地区で中年女性アグネス・グレイ(デニーズ・アレクサンダー)が何者かに殺された。アグネスは不治の病に冒されており、「とてつもない過ちを犯したのでそれを正したい」と漏らし、意外なほどの大金を動物保護団体に寄付していた。一方、ハロルド・ウィンスタンリー(バーナード・ヘプトン)が舞台監督を務めるコーストン・アマチュア劇団による舞台劇「アマデウス」の初日が近づいていたが、バーナビー(ジョン・ネトルズ)の妻ジョイス(ジェーン・ワイマーク)も端役で出演する、サリエリ役で主演する会計士のエスリン(ニコラス・ラ・ブレボスト)はアグネスのいとこで唯一の親族だった。
キティ(Debra Stephenson)/ローザ(Sarah Badel)
エスリンの妻キティ(デブラ・スティーブンソン)は(舞台ではモーツァルトの恋人役)は不倫をしており、そのことを同じ劇団員のエスリンの元妻のローザ(サラ・バデル)がエスリンに示唆したことで、エスリンはローザに離婚話を切り出す。人々の愛憎が錯綜する中で初日の幕は上がるが、クライマックスでエスリンは、何者かによってテープが剥がされた剃刀で喉を切ってしまい死亡。バーナビーの調べで劇団員兼大道具係デービッド(イアン・フィッツギボン)の父で大道具係のコリン(ジェフリー・ハッチングス)が「自分が殺した」と自供するが、それは息子を庇ってのことで息子も無実が明らかになり、となると、アグネスとエスリンを殺した真犯人は別にいることになる―。
アマチュア劇団を舞台にした演出家と俳優の確執をモチーフにした作品ですが、ちゃんと原作者の著作がある作品で、しかも、今回は珍しく原作者本人が脚本を担当しているにしては、第1話「謎のアナベラ」、第2話「血ぬられた秀作」と比べると、人間関係の入り組み具合もさほどではなく、プロットも単純で、分かりやすけれど物足りないと言うか、ミステリとしてはややランク落ちの印象を受けます。
プロットは物足りないけれども、今回も怪しい人物、奇妙な人々には事欠きません。エスリンの妻の不倫相手は、ゲイの書店主アベリーの本屋で働いていた"ゲイ友"の書店員ティムだったんだなあ(舞台では2人は舞台美術係と照明係)。ハロルドのお手伝い(舞台では進行係兼小道具係)デアドレ・ティブス(ジャニーン・ダヴィツキー)が、ハロルドが劇の評判を聞くよう彼女に頼んだのに、彼女は事件のことを記者たちに話したくて仕方がない様子がおかしいです(でも、これが"マトモな感覚"なんだろなあ)。
トロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)が初めて警部の娘カリー(ローラ・ハワード)に出会って一目惚れするのはこの回だったんだなあと。彼女は、役者の卵ニコラス(エド・ウォーターズ)の方と仲良くなってしまいましたが、このプロの役者を目指している青年も書店員。バーナビーも、舞台美術の手伝いで書割の絵をかいているし、今回は、関係者ほぼ全員が劇団員であるか何らかの形で舞台に関係しているという中で事件が起きるというのが、最大のミソと言えるのでしょう。
しかし、「アマデウス」とはねえ。田舎のアマチュア劇団にしては随分難しそうな演目を選んだものだと思いますが、わざとそうした設定にしたのでしょう。原作は、サリエリが喉を搔き切る場面で"血糊"を見せるかどうかを演出家らが議論している場面から始まり、シェークスピア劇をはじめ演劇に関する薀蓄がてんこ盛りです。
映画の方は、アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞など8部門を獲得した作品で、双葉十三郎(1910-2009/享年99)の『
個人的にも大作であるとは思いましたが、モーツァルト像がややデフォルメされ過ぎている印象もありました。アカデミー賞の「主演男優賞」には、"ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト"を演じたトム・ハルスと、"サリエリ"を演じたF・マーリー・エイブラハムの両方がノミネートされましたが、F・マーリー・エイブラハムが受賞したのは順当と言えるかと思います(F・マーリー・エイブラハムはゴールデングローブ賞「主演男優賞」(ドラマ部門)、
「アマデウス」●原



アマチュア作家サークルを主宰するジェラルド・ハドリー(ロバート・スワン)の家で、主人の死体が発見される。サークルでは前夜、プロの作家マックス・ジェニングス(ジョン・シャープネル)を招いて講演会を開いていたが、ジェラルドとマックスの間には緊張感が漂っていた。
マックスを招くことを提案したエイミー(ジョアンナ・デビッド)は、講演会の前にハドリーから「マックスと二人きりにしないでくれ」と懇願されていたが、義姉オノーリア(アンナ・マッセイ)の命令で、やむなく二人だけを残して先に帰っってしまったことを後悔していた。
バーナビー警部(ジョン・ネトルズ)は、トロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)と共にサークルの面々に聞き込みに廻るが、ハドリーの素性を訊いいても誰も知らない。サークルのメンバーで中学校で演劇を指導しているブライアン(ディビッド・トロートン)も、事件当時不審な行動をとった一人だが、教え子イーディー(ナンシー・ロデル)に性的行為をしている現場の写真を生徒に撮られてしまって、事件どころではない。
そうした中、ハドリーに続いて、マックス・ジェニングスも海辺のコテージで遺体となって発見される。マックスの妻のセリーナ(ウナ・スチュブス)や秘書バーバラ(アノーシュカ・ルガロア)の話によれば、彼は海外へ講演旅行に行っていたはずとのことだったが、バーナビーの調べで、彼は出張を装い、愛人であるバーバラとそこで落ち合うことになっていたことが判る。二人を殺した犯人は一体誰なのか―。
ジェラルド・ハドリーはプロ作家マックス・ジェニングスと会うのを嫌がり、それでもサークルのメンバーの総意で彼を呼ぶことになって渋々それに従い、一方、マックス・ジェニングスもジェラルド・ハドリーと会うことを恐れていた―そして、その両方が殺される、という展開にぐぐっと引き込まれます。
バーナビーが捜査の最中に首筋を掻いてばかりいるのは、後の方で、娘から預かったペルシアン・ブルーのお蔭で猫アレルギーを発症していたことが判明します。重厚でゴシック調の暗っぽさも感じられる事件周辺の雰囲気と、バーナビーのこうした家族との暖かいふれあいやユーモラスな様との取り合わせがこのシリーズの妙なのでしょう(娘の猫を預かる話は原作通りだが、猫アレルギーの話は原作には無い)。田園風景の美しさも楽しめました。
ン・グレアム●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケイシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/ロバート・スワン/ジェーン・ブッカー/ローラ・ハットン/ジョアンナ・デビッド/アンナ・マッセイ/ディビッド・トロートン/ジュディス・スコット/ジョン・シャープネル/アノーシュカ・ルガロア/マレーネ・サイダウェイ/ナンシー・ロダー/ティモシー・ベーテソン/ウナ・スチュブス●日本放映:2002/04●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)


高齢の元教師エミリー・シンプソン(ルネ・アッシャーソン)が自宅で不審死を遂げる。捜査を開始したトム・バーナビー警部(ジョン・ネトルズ)は、年の離れたキャサリン・レイシー(エミリー・モーティマー)との結婚を控えた富豪ヘンリー・トレース(ジュリアン・グローバー)の最初の妻ベラの「事故死」が今回の事件に関係しているのではないかと考える。エミリーの葬儀から幾日もしない内に、今度はレインバード親子(エリザベス・スプリッグス/リチャード・キャント)が何者かに殺され、二人が町のゴシップを収集して金を脅し取っていたことが判明する。
殺された時刻に二人の家を訪れていたキャサリンは、ショックを受け結婚式の延期を懇願する。
バーナビーは新たな証拠にもとづき、ヘンリーの義妹フィリスを1995年のベラ殺害容疑で逮捕、フィリスは自白し、拘留中に自殺を遂げる。更に新たな証言を得て、バーナビーはキャサリンの兄で画家のマイケル・レイシー(ジョナサン・ファース)をレインバード親子殺害容疑で逮捕、マイケル宅からは凶器の刃物も発見される。事件はこれで解決したかに思われたが、新たな証言でマイケルのアリバイが成立し、彼は釈放される。エミリー及びレインバード親子を殺した真犯人は誰なのか―。

連続殺人事件とそれに纏わる村の奇妙な人々、そして謎めいた兄妹―と、おどろおどろしい雰囲気満載でありながらも、バーナビー警部と部下のトロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)とのユーモラスな会話や、警部と妻ジョイス(ジェーン・ワイマーク)や一人娘カリー(ローラ・ハワード)とのホームドラマ的な遣り取りなどのバランスが絶妙で、この一話でもってバーナビー警部が好きになった視聴者も多いのではないでしょうか。海外でも当シリーズ作品の人気投票で、この第1話「The Killings at Badgers Drift」が1位にくることが圧倒的に多いようです。
原作は7作ぐらいしかないようですが(しかも、邦訳されているのは2013年現在3作のみ)、トム・バーナービーを主人公としたTVシリーズの方は2011年まで13シーズン81作作られ、実質的には早い段階で脚本家アンソニー・ホロヴィッツによるシリーズになったと言えます。
「バーナビー警部(第1話)/謎のアナベラ(森の蘭は死の香り)」●原題:MIDSOMER MURDERS:THE KILLINGS AT BADGER`S DRIFT●制作年:1997年●制作国:イギリス●本国上映:1997/03/23●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●原作:キャロライン・グレアム「蘭の告発」(バジャーズドリフトの殺人)●時間:120分●出演:ジョン・ネトルズ/

ジョナサン・ファース/エミリー・モーティマーダニエル・ケイシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/ルネ・アッシャーソン/ロザリー・カーチレイ//ジュリアン・グローバー/セリーナ・カデル/クリストファー・ヴィリエ/リチャード・キャント/エリザベス・スプリッグス/ビル・ウォリス/ダイアナ・ハードキャッスル/ジェシカ・スティーブンソン/バーバラ・ヤング/アブリル・エルガー●日本放映:2002/04●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★★) Emily Mortimer 




ゴーマン神父(ジョフリー・ビーヴァーズ)が、臨終間際のデーヴィス夫人(トリシア・ソーンズ)から紙片を渡されたすぐ後に路上で撲殺され、偶然現場に駆け付けた彫刻家のマーク・イースターブルック(コリン・ブキャナン)は、容疑者にされてしまう。レジューン警視(トレヴァー・バイフィールド)はマークが犯人と決め付けるが、コリガン警部補(アンディ・サーキス)は他の犯人を探っている。マークは自らの無実を証明するため、神父の持っていた紙片に書かれた人物の名前の謎を探るべく、女友達ハーミア(ハミオネ・ノリス)の友人、金持ちのティリー(アンナ・リヴィア・ライアン)を訪ねるが、訪問の翌日に彼女は死ぬ。医師オズボーン(ティム・ポッター)は病死としたが、彼女の親友だったケイト・マーサ(ジェイン・アッシュボーン)は、ティリーは何かにおびえていたと言う。村の「蒼ざめた馬」という屋敷に住むチルザ(ジーン・マーシュ)・シビル(ルース・マドック)・ベラ(マギー・シェヴリン)の三老女は、『マクベス』の魔女さながらに悪魔を呼び出す黒魔術を行っているという噂であり、歩けない名画蒐集家ヴェナブルス(マイケル・バイアン)の用心棒リッキー(ブレッティ・ファンシー)は神父殺害事件の夜、マークが見かけた男だった。
紙片の名前の主はみな自然死として死んでいることが判明し、しかも遺産は全て1人か2人に贈られていることから、マークは人を呪い殺す請負業があることを察する。弁護士ブラッドリー(レスリー・フィリップス)を通して、蒼ざめた馬の魔女たちが呪術を行うのだが、本当に人を呪い殺すことが可能なのか。マークはケイトと相談し、ケイトを囮にして犯人を導き出す計画を実行する。ティリーの遺産を受け継いだ叔母フロレンス(ルイ・ジェイムソン)も溺死し、娘ポピー(キャサリン・ホルマン)はおびえる。そしてケイトも、友人ドナルド(リチャード・オーキャラハン)の厳重な見張りにも関わらず、消費者動向調査員(ウェンディ・ノッティンガム)やガス会社の点検員の訪問以降、髪の毛が抜けて弱っていく―。
原作でのマーク・イースターブルックはムガール建築の本を執筆中の歴史学者ですが、本作では建築家になっていて、神父の死体の第一発見者ということで、第一容疑者にされてしまいます。その彼の保釈金を払ってくれたのが、原作の女友達ハーミアで、この映像化作品では、ハーミアは大金持ちで、マークはその"ヒモ"的存在になっているなあ。

マークを演じたコリン・ブキャナンは、この作品の前年から、BBCのレジナルド・ヒル原作の「ダルジール警視」シリーズに、ウォーレン・クラーク演じるダルジール警視の配下のパスコー刑事役で出ています。




ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)は女学校時代の友人ルース・ヴァン・ライドック夫人(フェイス・ブルーク)から、ルイス・セラコールド(ジョス・エイクランド)に嫁いだ妹キャロライン(キャリー)・ルイーズ(ジーン・シモンズ)のことが心配なので様子を見に行ってくれるよう頼まれる。ルイスは自邸の敷地内で私営の少年更正施設を運営している。ルイスの秘書のエドガー(ニート・スウェッテンハム)が駅にマープルを迎えに来るが、キャリーの養女ジーナ・ハッド(ホリー・エアド)がマープルを車に乗せて屋敷へ。ジーナは、アメリカ人のウォルター(トッド・ボイス)と結婚しており、キャリーの二番目の夫の次男スティーヴン・レスタリック(ジェイ・ヴィリアーズ)が、施設内で少年同士の喧嘩が起きた際に及び腰で止めようとしなかったのを、ウォルターが止めさせる。エドガーは孤
児で、自分は正当に評価されていないと思い込んでおり、自分の本当の父親はチャーチルだとマープルに真面目に言う。キャリーの最初の夫(故人)の連れ子で、ガルブランドセン財団の管理者であるクリスチャン・ガルブランドセン(ジョン・ボット)が急に屋敷を訪れ、ルイスと何やら話し合っている。ある晩、ルースが持参した女学校時代の16mmフィルムの映写会にエドガーが銃を持って乱入、ルイスとエドガーが書斎に籠ってルイスが書斎で宥めている間に銃声がし、映写会に顔を見せず別の部屋でタイプを打っていたクリスチャンが射殺体で発見される。ロンドン警察からスラック警部(ディヴィッド・ホロヴィッツ)やレイク警部補(イアン・ブリンブル)が乗り込んでくる。映写会の日に帰省したスティーヴンの兄アレックス・レスタリック(クリストファー・ヴィリアーズ)は、弟スティーヴンと共にジーナに気があり、二人ともウォルターの前で平気でジーナに言い寄る。施設の少年が事件当夜何かを目撃したと言う話をスティーヴンから聞いたアレックスは、刑事のふりをして少年から話を聞こうとするが―。

犯行が行われた際のフィルム上映会も原作には無く、但し、グラナダ版ではルイスが施設内でやる予定の演劇の練習発表会になっていて、ルイスが何とインディアンの酋長の恰好で出てくるので、まだこちらのジョーン・ヒクソン版の改変は穏やかな方だったか。
スラック警部がミス・マープルに一言だけあなたに言いたいことがあると言って、何を言うのかと思ったら、ぎこちなく「ありがとう」と。そうか、スラック警部の「手柄」になっているのかと思いつつも、このシーンは悪くなかったです(続く、シリーズ最終話となった
「ミス・マープル(第11話)/魔術の殺人」●原題:THEY DO IT WITH MIRRORS●制作年:1991年●制作国:イギリス●本国放映:1991/12/29●演出:ノーマン・ストーン●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版93分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン/ジーン・シモンズ/フェイス・ブルーク/ホリー・エアド/ジェイ・ヴィリアーズ/ニート・スウェッテンハム/ジェイ・ヴィリアーズ/ジョン・ボット/クリストファー・ヴィリアーズ/デビッド・ホロビッチ/イアン・ブリンブル/ギリアン・バージ●日本放映:1997/03/14●放映局:テレビ東京(評価:★★★)

情報を入手、その詳細を突き止めるため、闇社会に通じている雑技団団長・張豪(ジャンハオ)の紹介で、首謀者シャマルに会うが交渉は決裂、更に、商売敵デイビッド・キムや謎の女AYAKOが暗躍し、中国国営エネルギー巨大企業CNOX(中国海洋石油)が不穏な動きを見せる中、田岡が何者かに誘拐されたため、張豪の部下である張雨(ジャンユウ)と共に、彼が拉致されていると思われる天津へと飛ぶ―。

アクション風ということで、「
AYAKOのイメージは、「エントラップメント」で主人公の美術泥棒役のショーン・コネリーと共演し、主人公と様々な駆け引きを繰り広げる保険会社調査員役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズかな。ゼタ=ジョーンズの方がよりアクション系で、主人公の相方(弟子?)的立場になったりし、その間、ショーン・コネリーに若干惹かれ気味になったりするんだけど、ラストは...。
キャサリン・ゼタ=ジョーンズはこの作品でゴールデン・ラズベリー賞の最低主演女優賞にノミネートされていますが(すごくいいと言うほどでもないが、そんなに悪くもなかったと思う)、この『太陽は動かない』も、仮に映画化されるとすると、鷹野やAYAKOを演じきれる役者はあまりいないように思います(巷ではAYAKOは「ルパン三世」の峰不二子が相応しいとの声を聞くが、いきなりアニメに行っちゃうのか)。
因みに、作者は映画「ラストエンペラー」('87年/イタリア・中国・イギリス)の大ファンということで、版元のサイトによれば本書執筆のため2011年5月に3泊4日という強行スケジュールで、北京→天津→内モンゴル自治区を行く取材旅行し(編集者同行)、北京では紫禁城を、この作品の前半の主要な舞台となる天津では溥儀が暮らしていた邸宅「静園」なども訪問したそうですが、そうしたモチーフはこの作品には織り込まれていなかったなあ(純粋に溥儀の家を見たかったということか)。
ベルナルド・ベルトリッチ(最近はベルトルッチと表記するみたい)監督の「ラストエンペラー」は、アカデミー賞の作品・監督・脚本・撮影・美術・作曲など9部門を獲得した作品で(ゴールデングローブ賞作品賞も)、紫禁城で世界初の完全ロケ撮影を行うなど前半のスペクタクルに比べ、ジョン・ローンが演じる庭師になった元・皇帝が、かつて自分が住んでいた城に入場料を払って入るラストが侘しかったです。
2時間43分という長尺でしたが、実はこれでも3時間39分の完全版を劇場公開用に短縮したものであり、そのため繋がりの良くないところもあって、個人的には星3つ半の評価でした(これ、有楽町マリオン別館内の「丸の内ルーブル」で観たけれど、たまたま天井の可動式シャンデリアの真下に座ったので、最初それが気になったのを憶えている)。その後、今世紀に入って完全版のDVDが発売されていますが未見。完全版を観れば評価が変わるかもしれません。
「エントラップメント」●原題:ENTRAPMENT●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・アミエル●製作:ショーン・コネリー/マイケル・ハーツバーグ/ロンダ・トーレフソン●脚本:ロン・バス/ウィリアム・ブロイルズ●撮影:フィル・メイヒュー●音楽:クリストファー・ヤング●原案:ロン・バス/マイケル・ハーツバーグ●時間:113分●出演:
「ラストエンペラー」●原題:THE LAST EMPEROR●制作年:1987年●制作国:イタリア・中国・イギリス●監督:ベルナルド・ベルトリッチ●製作:ジェレミー・トーマス●脚本:ベルナルド・ベルトルッチ/マーク・ペプロー●撮影:ヴィットリオ
・ストラーロ●音楽:坂本龍一●時間:163分(劇場公開版)/219分(オリジナル全長版)●出演:ジョン・ローン/ジョアン・チェン/ピーター・オトゥール/坂本龍一/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/デイヴィッド・バーン/コン・スー/ヴィヴィアン・ウー/ヴィクター・ウォン/デニス・ダン/イェード・ゴー/マギー・ハン/リック・ヤング/ウー・ジュンメイ/英若誠/リサ・ルー/ファン・グァン/立花ハジメ/坂本龍一/高松英郎/池田史比古/陳凱歌(カメオ出演)●日本公開:1988/01●配給:松竹富士●最初に観た場所:丸の内ルーブル (88-04-23)(評価:★★★☆)
ジョアン・チェン/ベルナルド・ベルトルッチ監督「ラストエンペラー」('87年/伊・中国・英)・デヴィッド・リンチ監督「


マリオン」新館7階に5階「丸の内松竹」とともにオープン(2005年12月~2008年11月「サロンパス ルーブル丸の内」) 2014年8月3日閉館(「丸の内松竹」は1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」2018(平成30)年12月2日休館、2019(令和元)年10月4日~ドルビーシネマ専用劇場「丸の内ピカデリー ドルビーシネマ」として再オープン) 
丸の内ルーブルの巨大シャンデリア




個人的には、映画「白雪姫」を観て、これがディズニーの最初の「長編カラー」アニメーションですが、1937年の作品だと思うとやはりスゴイなあと。白雪姫や継母である后の登場する場面は実際に俳優を使って撮影し、その動作を分解して絵を描くという手法はこの頃からやっていたわけです。因みに、7人の小人は、原作ではゴブリン(ドラクエのキャラにもある小鬼風悪魔)であるのに対し、ディズニーによって、サンタクロースのイメージに変えられたとのことです。
原作では、王子が初めて白雪姫に合った時、姫は死んでいたため、本書では、王子はネクロフィリア(死体に性的興奮を感じる異常性欲)であるとしています(半分冗談を込めてか?)。ディズニー版では王子を最初から登場させることで純愛物語に変えていますが、原作の基調にあるのは、白雪姫の后に対する復讐物語であり(結婚式で、継母=魔女は真っ赤に焼けた鋼鉄の靴を履かされて、死ぬまで踊り続けさせられた)、ヒロインが自分の婚礼の席で、自分を苛め続けてきた義姉妹の両眼を潰して復讐する「シンデレラ」の原作「灰かぶり姫」にも通じるものがあります。
むしろ、本書にも紹介されている、シガーニー・ウィーヴァーが継母の后を演じたTV実写版「スノーホワイト」('97年)が比較的オリジナルに忠実に作られている分だけ、よりホラー仕立てであり、'99年の年末の深夜にテレビで何気なく見て、そのダークさについつい引き込まれて最後まで観てしまいました。これ、継母が完全に主人公っぽい。ホラー風だがそんなに怖くなく、但し、雰囲気的には完全に大人向きか(昨年('12年)テレビ東京「午後のロードショー」で再放映された)。
本書の最後に取り上げられている「美女と野獣」は、個人的には90年代のディズニー・アニメの頂点を成している作品だと思うのですが、原作では、ヒロインであるベルは妬み深い二人の姉に苛められていて、グリムの「灰かぶり姫」のような状況だったみたいです。ディズニー・アニメでは、この姉たちは出てこず、代わりに、強引にベルに言い寄るガストンなる自信過剰のマッチョ男が出てきますが、これは、グリムのオリジナルには全く無いディズニー独自のキャラクター。
本書によれば、オリジナルは、ベルの成長物語であるのに対し、ディズニー版ではベースト(野獣)の成長物語になっているとのことで、「美女と野獣」ではなく「野獣と美女」であると。そう考えれば、「悔い改めたセクシスト」であるビスーストと対比させるための「悔い改めざるセクシスト」ガストンという配置は、確かにぴったり嵌る気もしました。
'05年にディズニーのアイズナー会長は経営責任をとって退任し、'06年にはディズニーとの交渉不調からディズニーへのピクサー作品提供を打ち切るかに思われていたスティーブ・ジョブズが一転してピクサーをディズニーに売却し、同社はディズニーの完全子会社となり、ジョブズはディズニーの筆頭株主に。「トイ・ストーリー」などを監督したピクサーのジョン・ラセターは、ディズニーに請われ、ピクサーとディズニー・アニメーション・スタジオの両方のチーフ・クリエイティブ・オフィサーを兼任することに。'06年にピクサー制作の「カーズ」('06年)を監督するなどしながらも、「ルイスと未来泥棒」('07年)などの以降のディズニー・アニメの制作総指揮にあたっています(ディズニー作品も3D化が進むと、ディズニー・アニメのピクサー・アニメ化が進むのではないかなあ)。
「白雪姫」●原題:SNOW WHITE AND THE SEVEN DWARFS●制作年:1937年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・ハンド●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:テッド・シアーズ/オットー・イングランダー/ アール・ハード/ドロシー・アン・ブランク/ リチャード・クリードン/メリル・デ・マリス/ディック・リカード/ウェッブ・スミス●撮影:ボブ・ブロートン●音楽:フランク・チャーチル/レイ・ハーライン/ポール・J・スミス●原作:グリム兄弟●時間:83分●声の出演:アドリアナ・カセロッティハリー・ストックウェル/ルシール・ラ・バーン/ロイ・アトウェル/ピント・コルヴィグ/ビリー・ギルバート/スコッティ・マットロー/オーティス・ハーラン/エディ・コリンズ●日本公開:1950/09●配給:RKO(評価:★★★★)
「スノーホワイト(グリム・ブラザーズ スノーホワイト)」
●原題:SNOW WHITE: A TALE OF TERROR(THE GRIMM BROTHERS' SNOW WHITE)●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・コーン●製作:トム・エンゲルマン●脚本:トム・スゾロッシ/デボラ・セラズ●撮影:マイク・サウソン●音楽:ジョン・オットマン●原作:グリム兄弟●時間:100分●出演:シガーニー・ウィーヴァー/サム・ニール/モニカ・キーナ/ギル・ベローズ/デヴィッド・コンラッド/ジョアンナ・ロス/タリン・デイヴィス/ブライアン・プリングル●日本公開:1997/10●配給:ギャガ=ヒューマックス(評価:★★★)
「美女と野獣」●原題:BEAUTY AND THE BEAST●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ゲーリー・トゥルースデイル/カーク・ワイズ●製作:ドン・ハーン●脚本:リンダ・ウールヴァートン●撮影:ディーン・カンディ●音楽:アラン・メンケン●原作:ジャンヌ・マリー・ルプランス・ド・ボーモン●時間:84分●声の出演:ペイジ・オハラ/ロビー・ベンソン/リチャード・ホワイト/レックス・エヴァーハート/ジェリー・オーバック/アンジェラ・ランズベリー/デイヴィッド・オグデン・スティアーズ●日本公開:1992/09●配給:ブエナ・ビスタ(評価:★★★★)






同著者による『図説 モンスター―映画の空想生物たち』('01年/河出書房新社)に続くシリーズ第2段で、草創期(サイレント時代~1930年代)、繁栄と低迷(1940~1950年代)、復興と世代交代(1960年代以降)という流れで、各時代の名作を紹介、製作にまつわる裏話やエピソードなども交え解説しています。
でみると、戦前はボリス・カーロフ、ベラ・ルゴシ(上右)をホラー・スターに育てたユニヴァーサル、戦後はピーター・カッシングとクリストファー・リー(右上)をホラー・キングに育てたハマー・プロが中心なっています。

現代のホラー映画をすっかり観慣れてしまうと、ジェームズ・ホエール(1889-1957)監督、ボリス・カーロフ主演の「フランケンシュタイン(FRANKENSTEIN)」('31年/米)に出てくる怪物も、漫画「怪物くん」のフランケンのようにどこか可愛いかったりもし、湖のほとりで少女と触れ合うシーンは、ビクトル・セリエ監督の「ミツバチのささやき」('73年/スペイン)でも、主人公の少年が観る映画の1シーンで使われました。


製作した、ケネス・ブラナー監督の「フランケンシュタイン」('94年/英・日・米)などもありましたが、

フランケンシュタインのパロディ映画では、メル・ブルックス(1926- )監督の「
マン(せむし男)やピーター・ボイル(怪物)など、脇役がいいです。オリジナルの「フランケンシュタインの花嫁」にも出てくる山小屋に住む盲目の老人役はジーン・ハックマン、ラストに小さくクレジットされていました。


ヘルツォーク/キンスキー版は、「ドラキュラ伯爵」に戻しながらも設定はムルナウ版を踏襲。全体として透明感のある映像で、ペストで住民が死滅した村の描写などは絶妙でしたが、それら以上に、クラウス・キンスキーの怪演ぶり、「キモさ」が際立っていた印象です(彼に噛まれる女性役は美貌のイザベル・アジャーニ。トリュフォーの「アデルの恋の物語」('75年/仏)で知られるフランスの人気女優だが、この作品でドイツ語で話しているのは、父親がアルジェリア人であるのに対し、母親はドイツ人であるため。「ノスフェラトゥ」の前年作のウォルター・ヒル監督のアクション映画「ザ・ドライバー」('78年/米)でみせたように英語も堪能)。
ドラキュラのパロディでは(クリストファー・リーが「エアポート'77/バミューダからの脱出」('77年/米)で土左衛門姿で出てきた際に見せていた苦悶の表情も、ドラキュラのパロディと言えばパロディだったけれど)、たまたま「ノスフェラトゥ」と同じ年に作られたもので、本書にも紹介されている「ドラキュラ都へ行く」('79年/米、原題:Love at First Bite)というジョージ・ハミルトンが製作総指揮し、主演もした作品もありました(ジョージ・ハミルトンはこの作品で「
ョージ・ハミルトンは「刑事コロンボ」の第31話「5時30分の目撃者」('75年)で犯人の精神分析医役を演じていた二枚目俳優で、ハリウッド社交界でもプレイボーイで鳴らした彼らしく、愛人が絡むエピソードですが、計画殺人ではなく衝動殺人になっているのがややプロット的には弱点だったでしょうか。ハミルトンは、「刑事コロンボ」の新シリーズ(通算第57話)「犯罪警報」('91年)でも人気テレビ番組のホストである犯人役を演じていました。
「フランケンシュタイン」●原題:FRANKENSTEIN●制作年:1931年●制作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:アーサー・エジソン●音楽:バーンハルド・カウン●原作:メアリー・シェリー
●時間:71分●出演:コリン・クライヴ/ボリス・カーロフ/メイ・クラーク/
エドワード・ヴァン・スローン/ドワイト・フライ/ジョン・ポールズ/フレデリック・カー/ライオネル・ベルモア●日本公開:1932/04●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★☆)●併映:「フランケンシュタインの花嫁」(ジェイムズ・ホエール)
「フランケンシュタインの花嫁」●原題:BRIDE OF FRANKENSTEIN●制作年:1935年●制
作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:ジョン・J・メスコール●音楽:フランツ・ワックスマン●時間:75分●出演:ボリス・カーロフ/エルザ・ランチェスター/コリン・クライヴ/アーネスト・セシガー●日本公開:1935/07●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★★)●併映:「フランケンシュタイン」(ジェイムズ・ホエール)
「フランケンシュタイン」●原題:FRANKENSTEIN●制作年:1994年●制作国:イギリス・日本・アメリカ●監督:ケネス・ブラナー●製作:



「ノスフェラトゥ」●原題:NOSTERTU. PHANTOM DER NACHT(英:NOSFERATU THE VAMPYRE))●制作年:1979年●制作国:西ドイツ●監督・脚本・製作:ヴェルナー・ヘルツォーク●撮影:イェルク・シュミット=ライトヴァ![ノスフェラトゥ(1978)[A4判].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%83%8E%E3%82%B9%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%A9%E3%83%88%E3%82%A5%281978%29%EF%BC%BB%EF%BC%A1%EF%BC%94%E5%88%A4%EF%BC%BD.jpg)


「ドラキュラ都へ行く」●原
題:LOVE AT FIRST BITE●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:スタン・ドラゴッティ●製作・脚本:ロバート・カウフマン●撮影:エドワード・ロッソン●音楽チャールズ・バーンスタイン●時間:96分●出演:ジョージ・ハミルトン/スーザン・セント・ジェームズ/ディック・ショーン/アート・ジョンソン/リチャード・ベンジャミン/シャーマン・ヘムズリー●日本公開:1979/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:日比谷・みゆき座(79-12-15)(評価:★★★)
「刑事コロンボ(第31話)/5時30分の目撃者」●原題:A DEADLY STATE OF MIND●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ハーベイ・ハート●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ピーター・S・フィッシャー●ストーリー監修:ピーター・S・フィッシャー●音楽:バーナード・セイガル●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/ジョージ・ハミルトン/レスリー・ウォーレン/スティーブン・エリオット/カレン・マックホン/ブルース・カービー/ライアン・マクドナルド/ジャック・マニング/フレッド・ドレイパー/ウィリアム・ウィンターソウル/ヴァンス・デイヴィス/レッドモンド・グリーソン/グローリー・カウフマン●日本公開:1976/12●放送:NHK(評価:★★★☆) 「

'96年の映画館の入場者数は1億1,957万人とのことで1億2千万人を割り込みましたが、本書の編者・江藤努氏は編集後記において、レンタルビデオによる映画鑑賞が定着し、〈映画人口〉というより〈映画館人口〉が減少したとみるべきだろうが、やはり憂慮すべき事態であるとしています。また、シネマ・コンプレックス建設ブームで映画館自体の数は52館増えたので、小劇場化の流れが定着したところで、この凋落傾向の底が見えるのではないかともしています。
個人的には、トム・クルーズがプロデューサーとしてブライアン・デ・パルマを監督に指名した「ミッション:インポッシブル」('96年)に注目しましたが、それなりに楽しめたけれども、オリジナルの「スパイ大作戦」とは随分違った作りになったなあと。
という脚本が好きなのかなあ(ヴァネッサ・レッドグレイヴが謎の武器商人「マックス」を演じて貫録の演技)。「007シリーズ」におけるボンドガール的な役回りには、「
プスを演じたピーター・グレイブスは衝撃を受け、他のドラマ出演者からの評判も良くなかったようです。
「スパイ大作戦」の映画化らしい出来にする、という前提条件があり、テレビシリーズの構図に近い出来となっていました。現場を引退して教
官をしていたイーサンが、敵に拉致された教え子の女エージェントの救出プロジェクトに参加することになりますが、彼女は頭の中に仕掛けられていた小型爆弾により死亡し、逆にイーサン自身が彼女と同様の窮地に陥り、さらにミシェル・モナハン演じる婚約者も拉致されてしまう―イーサンを救い、さらにイーサンの婚約者を奪還するために仲間が協力するという"身内"色の強い内容でしたがそう悪くなく、この3作目をシリーズベストに挙げる人もいるようです。
「ミッション:インポッシブル」●原題:MISSION:IMPOSSIBLE●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:ブライアン・デ・パルマ●製作:トム・クルーズ/ポーラ・ワグナー●脚本:デヴィッド・コープ/ロバート・タウン/スティーヴン・ザイリアン●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ダニー・エルフマン(テーマ音楽:ラロ・シフリン)●原作:ウィンストン・グルーム●時間:110分●出演:トム・クルーズ/ジョン・ヴォイト/エマニュエル・ベアール/ジャン・レノ/ヘンリー・ツェーニー/ダニー・ エルフマン/クリスティン・スコット・トーマス/インゲボルガ・ダクネイト/ヴィ
ング・レイムス/ヴァネッサ・レッドグレイヴ/ヘンリー・ツェニー/アンドリアス・ウイスニウスキー/ロルフ・サクソン/マーセル・ユーレス/デイル・ダイ●日本公開:1996/07●配給:パラマウント=UIP(評価:★★★☆)


「ミッション:インポッシブル2(M:i:2)」●原題:MISSION:IMPOSSIBLE 2●制作年:2000年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ウー●製作:トム・クルーズ/ポーラ・ワグナー●脚本:ロバート・タウン●撮影:ジェフリー・L・キンボール●音楽:BT/ハンス・ジマー●原作:ブルース・ゲラー●時間:123分●出演:トム・クルーズ/ダグレイ・スコット/タンディ・ニュートン/ヴィング・レイムス/リチャー
ド・ロクスバーグ/ジョン・ポルソン/ブレンダン・グリーソン/ラデ・シェルベッジア/ウィリアム・メイポーザー/ドミニク・パーセル/マシュー・ウィルキンソン/アントニオ・バルガス/ダニエル・ロバーツ/アンソニー・ホプキンス(ノンクレジット)●日本公開:2000/07●配給:パラマウント=UIP(評価:★★★)
「ミッション:インポッシブル3(M:i:III)」●原題:MISSION:IMPOSSIBLE III●制作年:2006年●制作国:アメリカ●監督:J・J・エイブラムス●製作:トム・クルーズ/ポーラ・ワグナー●脚本:アレックス・カーツマン/ロベルト・オーチー/J・J・エイブラムス●撮影:ダニエル・ミンデル●音楽:マイケル・ジアッキーノ(テーマ音楽:ラロ・シフリン)●時間:126分●出演:トム・クルーズ/フィリップ・シーモア・ホフマン/ヴィング・レイムス/ビリー・クラダップ/ミシェル・モナハン/サイモン・ペッグ/ジョナサン・リース=マイヤーズ/ケリー・ラッセル/マギー・Q/ローレンス・フィッシュバーン●日本公開:2006/07●配給:パラマウント=UIP(評価:★★★☆)


ロバート・ゼメキス監督の「フォレスト・ガンプ/一期一会」('94年)はアカデミー賞6部門(作品・監督・主演男優・脚色・視覚効果・編集)独
占で、トム・ハンクスは「フィラデルフィア」('93年)に続いてアカデミー賞主演男優賞2年連続受賞、さらにこの年公開の「アポロ13」('95年)にも出演していて、当時は洋画界を一人で牽引しているような勢いがありましたが、アカデミー俳優トム・ハンクス主演ということで、これらの作品を観に映画館に足を運んだ人も多かったのではないでしょうか。
「フォレスト・ガンプ」は50年代から80年代にかけてのアメリカ現代史を駆け抜けていったIQが人並みに至らない男ガンプの話ですが、彼は俊足を買われて大学で全米アメフト代表選手となってケネディ大統領に祝福され、ベトナム戦争では戦友の命を救ってジョンソン大統領から栄誉を授かる一方、全米卓球チームのメンバーになって「ピンポン外交」特使としてジョン・レノンとテレビ共演するほど有名になり、さらにエビの事業で成功して大金持ちになるといった具合に、アメリカン・ドリームを絵に描いたような道を歩みます。
但し、そうした"お目出度い"話ばかりでなく、彼の人生と交錯する人びとの挫折や苦悩も描いており、ガンプ自身も幼馴染みの恋人に何度か去られ、最後にやっと愛を成就できたかと思ったら、その彼女に死なれてしまうなどして人生の寂寥感を味わい、それでも彼女が遺した自分の息子に出会うことで未来への希望を抱くという、ラストシーンで空を舞う羽根のように、ふわ~っと心に滲み入る作品でした。
原作は、1985年にウィンストン・グルームが発表した小説 Forrest Gumpで、ガンプのモーレツぶりは、ジョン・アービング原作、ジョージ・ロイ・ヒル監督、ロビン・ウィリアムズ主演の「ガープの世界」('82年)の登場人物らに通じるものを感じましたが、「ガープの世界」がアービングの自伝的小説であるのに対し、グルームの原作では、主人公のガンプは宇宙飛行士やプロレスラー、チェスのチャンピオンになるといったエピソードもあるとのことで、映画においても、「ガンプ」はシンボライズされたキャラクターと見るのがスジでしょう。
映画ではアメリカ現代史の様々な映像が合成SFXでガンプの物語に織り込まれており(ゼメキス監督は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でも見せたとおり、特撮が持ち味。ガンプがケネディ大統領と握手し、「おしっこしたい」と言うシーンは笑える)、それもこの作品の一つの見所ですが、個人的には、ウォーターゲート事件にしてもベトナム反戦運動にしても、ガンプの純粋さを媒介としてある種戯画化されて描かれているように思いました。
この作品を観て思い出すのは、ハル・アシュビー監督の「チャンス」('79年/米)で、知的障害がある庭師のチャンスが、余命いくばくも無い財界大物を夫に持つ美しい貴婦人が乗る高級車に轢かれ、屋敷に招かれることになったのをきっかけに、その言葉に実は深い意味があると周囲から勝手に解釈されて、世間の注目を集めテレビ出演までするようになり、国民的な人気を得ることになりますが、彼自身は全くそんなことには無頓着でいるというもの。この作品で、ピーター・セラーズ(1925-1980)が演じるチャンスは次期大統領候補にまでなる一方で、ラストはチャンスの死を暗示させて終わりますが、ピーター・セラーズ本人もこの映画の日本公開前に心臓発作で急逝、彼の遺作となった作品であるということでも知られています。
ジャージ・コジンスキーの脚本のベースになっているのはニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』であり、原題の"Being There"は、ドイツの哲学者マルティン・ハイデッガーの未完の主著『存在と時間』からきているとのことで、「ただそこにある(もの)」という意味ですが、「チャンス」という主人公の名前を邦題にしてしまったため、「どんなハンディキャップがある人にもチャンスがある」という話と捉えられている向きがあるように思います。

「フォレスト・ガンプ/一期一会」●原題:FORREST GUMP●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ゼメキス●製作:ウェンディ・フィネルマン/スティーヴ・ティッシュ/スティーヴ・スターキー●脚本:エリッ
ク・ロス●撮影:アーサー・シュミット●音楽:アラン・シルヴェストリ●原作:ウィンストン・グルーム●時間:142分●出演:トム・ハンクス/ロビン・ラ



Billionaire Benjamin Rand (Melvyn Douglas) takes on Chance (Peter Sellers) as a trusted advisor.メルヴィン・ダグラス(億万長者ベンジャミン・ランド)アカデミー助演男優賞・ゴールデングローブ賞助演男優賞・
「チャンス」●原題:BEING THERE●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:ハル・アシュビー●製作:アンドリュー・ブラウンズバーグ●脚本:ジャージ・コジンスキー●撮影:キャレブ・デシャネル●音楽:ジョニー・マンデル●原作:ジャージ・コジンスキー●時間:130分●出演:ピーター・セラーズ/シャーリー・マクレーン/メルヴィン・ダグラス/ジャック・ウォーデン/リチャード・ダイサート/リチャード・ベースハート/ル

旧・丸の内ピカデリー1・2 前身は1925年オープンの「邦楽座」(後の「丸の内松竹」)。1957年7月、旧朝日新聞社裏手にオープン(地下に「丸の内松竹」再オープン)。 1984年10月1日閉館。1984年10月6日後継館「丸の内ピカデリー1・2」が有楽町センタービル(有楽町マリオン)西武側9階にオープン。


ハリウッド映画のアクション系で、「ダイ・ハード」('88年)、「氷の微笑」('92年)のカメラマンだったヤン・デ・ボン(「トータル・リコール」「氷の微笑」のポール・バーホーベン監督と同じくオランダ人)の初監督作品「スピード」('94年)が気を吐きました。
時速を80キロ以下に落とすと爆発する爆弾を仕掛けたバスの疾走が迫力満点のノンストップアクションで、バスが街中を車をはじき飛ばしながら爆走したり、キアヌ・リーブスが爆弾を解除するために高速で走るバスの下にもぐりこむシーン、或いは、地下鉄の車両が工事現場を破壊しながら地上に突き抜けるシーンなどは実写中心であるため見応えはありました。
脚本を書いたグレアム・ヨストは、 アンドレイ・コンチャロフスキー監督の「暴走機関車」('86年/米)の原
案である黒澤明のオリジナル脚本を読んで着想を得たと述懐していますが、その脚本もまずまずではないでしょうか。但し、脚本を含めてよく出来ていた「ダイ・ハード」と比べるのと、トータルではやや落ちるか。キアヌ・リーブス、サンドラ・ブロック共に頑張っているけれど、爆弾魔のデニス・ホッパー(1936-2010)は、クイズ好きのオタクみたいで、それほど凄味がないような....。デニス・ホッパーということで、期待し過ぎてしまったのかもしれませんが(結局、大掛かりなアクションで見せる映画だった。元々の狙いも概ねそうだとは思うが)。
ということで、個人的にはヤン・デ・ボン監督には次に期待、というところだったのですが、その続編「スピード2」('97年/米)であっさりコケてしまった感じでした(既に同年の「ツイスター」('97年/米)を観れば、この監督の力量の限度は窺い知れたのだが。因みに、竜巻パニック
「スピード」の「四つ星」評価に対し、本書で星3つの評価となっている「ターミネーター」シリーズのジェームズ・キャメロンが監督した「トゥルーライズ」('94年)の方が、ユーモアの要素があって個人的な評価はやや上になります。
アガサ・クリスティの「おしどり探偵」シリーズの現代アクション版みたいで、アーノルド・シュワルツェネッガーはコメディも充分にこなすし、スタント無しのジェイミー・リー・カーティスも良かったです(アクションでもそれ以外でも身体を張った演技をしていたなあ)。
カーチェイスの場面で実際に橋を爆破したというのもスゴいですが、一方で、シュワちゃんがゴールデン・ゲート・ブリッジにしがみつくシーンやハリヤー・ジェット機上でのテロリストとの"生身"のバトルシーンなど、デジタル合成のSFXをふんだんに使っています。
「トゥルーライズ」ではそのほかに、ハリヤー・ジェット機の熱で空気が揺らぐシーンなどにもデジタル・ドメイン社が開発したCGが初めて使われていて、この技術は「アポロ13」('95年)のロケット発射シーンなどにも使われました(ジェームズ・キャメロンはデジタル・ドメイン社の初代共同経営者)。
「スピード」●原題:SPEED●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:
ヤン・デ・ボン●製作:マーク・ゴードン●脚本:ランダル・マコーミック/ジェフ・ナサンソン●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:マーク・マンシーナ/ビリー・アイドル●時間:115分●出演:キアヌ・リーブス/デニス・ホッパー/サンドラ・ブロック/ジョー・モートン/ジェフ・ダニエルズ/アラン・ラック●日本公開:1994/12●配給:20世紀フォックス映画●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(94-12-17)(評価:★★★☆)
「スピード2」●原題:SPEED:CRUISE CONTROL●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督:ヤン・デ・ボン●製作:マーク・ゴードン●脚本:グレアム・ヨスト●撮影:ジャック・N・グリーン●音楽:マーク・マンシーナ●時間:121分●出演:サンドラ・ブロック/ジェイソン・パトリック/ウィレム・デフォー/テムエラ・モリソン/ブライアン・マッカーディー/グレン・プラマー/コリーン・キャンプ/ロイス・チャイルズ/マイケル・G・ハガーティー/ボー・スヴェンソン/フランシス・ギナン/ジェレミー・ホッツ●日本公開:1997/08●配給:20世紀フォックス映画(評価:★★☆)
「ツイスター」●原題:TWISTER●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:ヤン・デ・ボン●製作:キャスリーン・ケネディ/イアン・ブライス/
「トゥルーライズ」●原題:TRUE LIES●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ジェームズ・キャメロン/ステファニー・オースティン●オリジナル脚本:クロード・ジディ/シモン・ミシェル/ディディエ・カミンカ●撮影:ラッセル・カーペンター●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:144分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/ジェイミー・リー・カーティス/トム・アーノルド/ビル・パクストン/ティア・カレル/アート・マリック
/エリザ・ドゥシュク/グラント・ヘスロヴ/チャールトン・ヘストン●日本公開:1994/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(94-09-25)(評価:★★★★)
「ラスト・アクション・ヒーロー」●原題:LAST ACTION HERO●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●製作:スティーヴ・ロス/ジョン・マクティアナン●脚本:デヴィッド・アーノット/シェーン・ブラック●撮影ディーン・セムラー●音楽:マイケル・ケイメン●時間:131分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/オースティン・オブライエン/チャールズ・ダンス/ロバート・プロスキー/トム・ヌーナン/フランク・マクレー/
アンソニー・クイン/ブリジット・ウィルソン/F・マーリー・エイブラハム/マーセデス・ルール/アート・カーニー/イアン・マッケラン/プロフェッサー・トオル・タナカ/ジョーン・プロウライト/ノア・エメリッヒ/(カメオ出演)M.C.ハマー/リトル・リチャード/マリア・シュライヴァー/ティナ・ターナー/ジェームズ・ベルーシ/チェビー・チェイス/ジャン=クロード・ヴァン・ダム/ロバート・パトリック/シャロン・ストーン/シルヴェスター・スタローン/ハンフリー・ボガート/ローレンス・オリヴィエ●日本公開:1993/08●配給:コロンビア映画(評価:★★★)

でも、前出の通り、ピレ・アウグスト監督の「愛の風景」(スウェーデン他9カ国)、チャン・イーモウ監督の「秋菊の物語」(中国)、パトリス・ルコント監督の「タンゴ」(仏)、アッバス・キアロスタミ監督の「友だちのうちはどこ?」(イラン)といったハリウッド映画以外の作品も一部で注目された年であり、また、ハリウッド映画の中にも、ロバート・アルトマン監督がハリウッドの映画製作の内幕を描いた「ザ・プレーヤー」('92年/米)などの変わった作品もありました(この作品は1992年カンヌ国際映画祭「監督賞」「男優賞」及びインディペンデント・スピリット賞、
ニューヨーク映画批評家協会賞などを受賞している)。
ラスト近く、グリフィンはウケだけを狙ったどうしょうもない通俗映画を作っていて、それに主演しているのが、ジュリア・ロバーツ、ブルース・ウィリスの二人で、更にバート・レイノルズ、アンジェリカ・ヒューストン、ジョン・キューザック、ジャック・レモン、アンディ・マクダウェル、シェール、ピーター・フォーク、スーザン・サランドンなどが映画内映画にカメオ出演している―この辺りはやはりロバート・アルトマンの名の下に―という感じでしょうか。
「ザ・プレイヤー」●原題:THE PLAYER●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルトマン●製作:デヴィッド・ブラウン/マイケル・トルキン/ニック・ウェクスラー●脚本・原作:マイケル・トルキン●撮影:ジャン・ルピーヌ●音楽:トーマス・ニューマン●時間:124分●出演:ティム・ロビンス/グレタ・スカッキ/フレッド・ウォード/ウーピー・ゴールドバーグ/ピーター・ギャラガー/ブライオン・ジェームズ/ヴィンセント・ドノフリオ/ディーン・ストックウェル/リチャード・E・グラント/
シェール/ピーター・フォーク/
●ブルース・ウィリス&ジュリア・ロバーツ/スーザン・サランドン&ピーター・フォーク/ロッド・スタイガー


結局、邦画界は1月に公開された周防正行監督の「シコふんじゃった。」がその年の映画賞を総ナメした形になりましたが、これ、意外と穴だったと言うか、実際に面白く(個人的にもこの年のナンバー1作品。但し、これだけ賞を獲ると、日本映画は他にいい作品がないのかという気も)、一方、洋画も例年の大作とは一味違ったものがじわじわ人気を呼んだりして、その典型が
1941年、場末の安ホテルに籠って脚本を書いていた劇作家バートン・フィンク(ジョン・タトゥーロ)は、隣室のセールス男メドウズ(ジョン・グッドマン)と親しくなるが、フィンク自身は脚本が書けなくなるスランプに陥り、更には自分の部屋で殺人事件が起きて、メドウズが死体を片付けてくれたものの、彼は完全に神経症に陥る―。
もう一つ、同じく'92年公開のジョン・アヴネット監督の「フライド・グリーン・トマト」('91年/米)は、「ドライビング・ミス・デージー」のジェシカ・タンディが演じる元カフェ経営者の昔話を、「ミザリー」のキャシー・ベイツ演じる夫に愛想をつかされた女性が聴くという展開でしたが(アカデミー主演賞女優同士!)、ジェシカ婆さんが淡々と語る話の内容が、ある種、女性たちの人間として生きる権利を求めての闘いの軌跡というか、感動ストーリーでありながらも、合間に入るエピソードがグリム童話みたいに残酷(猟奇的)だったりして、この取り合わせの妙が何とも言えない作品でした。
女流監督ペニー・マーシャルが「レナードの朝」('90年)の次に撮った「プリティ・リーグ」('91年/米)のあらすじは―、1943年、男たちが戦争に駆り出され、プロ野球閉鎖の危機が訪れる中、全米女子プロ野球リーグが結成され、最強チーム"ピーチズ"のメンバーは、田舎の主婦からホール・ダンサーまで、野球を愛する男顔負けのスーパー・レディースで構成さ
れていたが、汗と埃にまみれて白球を追う彼女たちの力強く美しい姿には全米が拍手を贈った―という感動もので、一見すると漫画的題材ですが、実話がベースになっているというのはやはり強いなあと。監督役のトム・ハンクスの演技が冴え、痛快スポーツ・ドラマとなっていますが、最後の同窓会的にかつてのメンバーが集う場面は、賛否があるものの個人的には良かったです。スーパースターのマドンナがナインの一員として(エース役のジーナ・デイビスの助演として)しっかり演技しているという点で興味深い作品でもあります。マドンナはハマリ役でした。 

「バートン・フィンク」●原題:BARTON FINK●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ジョエル・コーエン●製作:イーサン・コーエン●脚本:ジョエル&イーサン・コーエン●撮影:ロジャー・ディーキンス●音楽:カーター・パウエル●時間:116分●出演:ジョン・タトゥーロ/ジョン・グッドマン/ジュディ・デイヴィス/マイケル・ラーナー/ジョン・マホーニー/トニー・シャルーブ●日本公開:1992/03●配給:KUZUIエンタープライズ(評価:★★★★)
「フライド・グリーン・トマト」●原題:FRIED GREEN TOMATO●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・アヴネット●製作:ジョン・アヴネット/ジョーダン・カーナー●脚本:キャロル・ソビエス
![プリティ・リーグ [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B0%20%5BDVD%5D.jpg)
「プリティ・リーグ」●原題:A LEAGUE OF THEIR OWN●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ペニー・マーシャル●製作:ロバート・グリーンハット/エリオット・アボット●脚本:ババルー・マンデル/ローウェル・ガンツ●撮影:ミロスラフ・オンドリチェク●音楽:ハンス・ジマー●時間:116分●出演:トム・ハンクス/ジーナ・デイヴィス/マドンナ/ロリー・ペティ/ロージー・オドネル/ジョン・ロビッツ/デヴィッド・ストラザーン/ゲイリー・マーシャル/ビル・プルマン/ティア・レオーニ/アン・キューザック/エディ・ジョーンズ/アン・ラムゼイ/ポーリン・ブレイスフォード/ミーガン・カヴァナグ/トレイシー・ライナー/ビッティ・シュラム/ドン・S・デイヴィス/グレゴリー・スポーレダー●日本公開:1992/10●配給:コロンビア・トライスター映画社(評価:★★★★)



『
個人的なイチオシは、リドリー・スコット監督の「テルマ&ルイーズ」('91年/米)で、専業主婦のテルマ(ジーナ・デイヴィス)とレストランでウエイトレスとして働く独身女性のルイーズ(スーザン・サランドン)の親友同士が週末旅行に出掛けた先で、自分たちをレイプしようとした男を射殺したことから、転じて逃走劇になるという話(ロンドン映画批評家協会賞「作品賞」「女優賞(スーザン・サランドン)」受賞作)。
リドリー・スコットが女性映画を撮ったという意外性もありましたが、ジーナ・デイヴィスとスーザン・サランドンが、どんどん破局に向かいつつも、その過程においてこれまでの束縛や因習から解放され自由になっていく女性を好演し、彼女ら追いつつも彼女らの心情を理解し、何とか連れ戻したいと
思う警部役のハーベイ・カイテルの演技も良かったです(まださほど知られていない頃のブラッド・ピットが、彼女らの金を持ち逃げするヒッチハイカー役で出ていたりもした)。
「ダンス・ウィズ・ウルブス」といったアカデミー賞受賞作品と並んで「羊たちの沈黙」や「ターミネーター2」が星4つの評価を得ているというのがこの年の特徴でしょうか。
ジェームズ・キャメロン監督の「ターミネーター2」('91年/米)は、形状記憶疑似合金でできたT1000型ターミネーターが登場したものでしたが、この作品の前に「アビス」('89年)を撮り、ずっと後に「アバター」('09年)を撮ることになる
ジェームズ・キャメロン監督らしい特撮CGが冴えていたように思われ、T1000型を演じるロバート・パトリックも、華奢なところがかえって凄味がありました。一方、アーノルド・シュワルツネッガーが演じる旧タイプのT800型ターミネーターを善玉にまわしてヒューマンにした分、前作「ターミネーター」に比べ甘さがあるように思いました(これ、本書において山口猛氏が書いている批評とほぼ同じなのだが、山口氏の評価は最高評価になる星4つ)。IMDb評価は、「ターミネーター」が[8.1]、「ターミネーター2」が[8.6]で、「2」が上になっています。後からまとめて観た人は「2」の方がいいのかもしれないけれど、それぞれリルタイムで観た自分の場合、「1」のインパクトが大きかったです。
督デビュー作「殺人魚
フライング・キラー」(81年)に続く監督2作目であり、彼の出世作と言えます。ジェームズ・キャメロン監督はシュワルツネッガーと1度会食をしただけで、キャリアが浅く当初脇役で出演の予定だった彼をT800型ターミネーター役に抜擢することを決めたそうですが、シュワルツネッガーの全裸での登場シーンから始まって、そのストロングタイプのヒールぶりは今振り返っても
強烈なインパクトがあったように思います。ただ、この作品の後、「ターミネーター2」との間の7年間の間隔があり(ヒットしたB級映画にありがちだが、すぐにでも続編を撮りたいところが版権が複数社に跨っており、撮ろうにもなかなか撮れなかった)、その間に
シュワルツネッガーは「レッドソニア」「コマンドー」「ゴリラ」「プレデター」「バトルランナー」「レッドブル」「ツインズ」「
因みに、91年は、これも映像表現に特徴のあるデイヴィッド・リンチ監督のテレビ・シリーズ「ツイン・ピークス」が6月にWOWOWで日本で初公開、9月にビデオがリリースされており、日本中のレンタルビデオ店が「ツイン・ピークス」入荷&予約待ち状態になるという大ブームになりましたが、この作品もある意味「脱日常」的な作品だったなあと(まあ、「Xファイル」にしろ「LOST」にしろ、どれもみんな「脱日常」なのだが)。
ビデオ14巻、全29話(パイロット版(「序章」)を含めると30話)、25時間強のサスペンス・ミステリーですが、毎回毎回いつもいいところで終わるので、続きを観るまで禁断症状になるという(あの村上春樹も米国でリアルタイムでハマったという)―ラストは腑に落ちなかったけれども(「えーっ
、これが結末?」という感じか)、そのことを割り引いてもテレビ・ムービーの金字塔と言えるのでは(デイヴィッド・リンチによると、このラストはあくまでも第2シーズンの最終話に過ぎず、「ツイン・ピークス」という物語そのものの結末ではないとのことだが、続編は未だ作られていない)。(●その後、2017年に物語の25年後を描いた「リミテッド・イベント・シリーズ(全18話)」(邦題「ツイン・ピークス The Return」)が作られた。)

「テルマ&ルイーズ」●原題:THELMA & LOUISE●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:リドリー・スコット/ミミ・ポーク●脚本:カーリー・クーリ●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:ハンス・ジマー●時間:129分●出演:スーザン・サランドン/ジーナ・デイヴィス/ハーヴェイ・カイテル/マイケル・マドセン/ブラッド・ピット●日本公開:1991/10●配給:松竹富士(評価:★★★★☆)
「ターミネーター2」●原題:TERMINATOR2:JUDGMENT DAY●制作年:1991
年●制作国:アメリカ●監督・製作:ジェームズ・キャメロン●脚本ジェームズ・キャメロン/ウィリアム・ウィッシャー●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:137分(公開版)/154分(完全版)●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/リンダ・ハミルトン/エドワード・ファーロング/ロバート・パトリック/アール・ボーエン/ジョー・モートン/ジャネット・ゴールドスタイン●日本公開:1991/08●配給:東宝東和(評価:★★★)
「ターミネーター」●原題:THE TERMINATOR●制作年:1984年●制作国:アメリカ/イギリス●監督:ジェームズ・キャメロン●製作:ゲイル・アン・ハード●脚本:ジェームズ・キャメロン/ゲイル・アン・ハード
●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:108分●出演:



(1段目)デイル・クーパー捜査官(カイル・マクラクラン)/ローラ・パーマー(シェリル・リー)/アルバート・ローゼンフィールド捜査官(ミゲル・フェラー)/ハリー・S・トルーマン保安官(マイケル・オントキーン)/ハリーの部下、アンディ・ブレナン(ハリー・ゴアズ)/(2段目)ホーク保安官補佐(マイケル・ホース)/署の受付嬢ルーシー(キミー・ロバートソン)/ローラの同級生ドナ・ヘイワード(ララ・フリン・ボイル)/ローラの同級生オードリー・ホーン(シェリリン・フェン)/シェリー・ジョンソン(メッチェン・アミック)/(3段目)製材所経営者の未亡人ジョスリン・パッカード(ジョアン・チェン)/ボビー・ブリッグス(ダナ・アッシュブルック)/マイク・ネルソン(ゲイリー・ハーシュバーガー)/ローラの同級生ジェームズ・ハーレイ(ジェームズ・マーシャル)/シェリーの夫レオ・ジョンソン(エリック・ダ・レー)/(4段目)小さな男(マイケル・アンダーソン)/片腕の男(アル・ストロベル)/丸太おばさん(キャサリーン・コウルソン)/ネィディーン・ハーレイ(ウェンディ・ロビー)/謎の男ボブ(フランク・シルバ)
992年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・リンチ●製作:グレッグ・ファインバーグ●脚本:デイヴィッド・リンチ/ロバート・エンゲルス●撮影:ロン・ガルシア●音楽:アンジェロ・バダラメンティ●時間:135分●出演:シェリル・リー/レイ・ワイ
ズ/メッチェン・アミック/カイル・マクラクラン/デヴィッド・ボウイ/ミゲル・フェラー/キーファー・サザーランド/ダナ・アシュブルック/フィービー・オーガスティン●日本公開:1992/05●配給:日本ヘラルド映画(評価:★★★?)
デイヴィッド・リンチ(映画監督)2025年1月15日逝去。78歳。人気ドラマシリーズ「ツイン・ピークス」や、映画「マルホランド・ドライブ」など、カルト的人気を得た多くの作品で知られる。

●2025年ドラマ化【感想】2025年6月22日からNHKBSの「プレミアムドラマ」枠にて、直木賞作家での父である井上光晴と瀬戸内寂聴の不倫を基に描いた『あちらにいる鬼』('19年/朝日新聞出版)が話題になった井上荒野の『照子と瑠衣』('23年/祥伝社)のドラマ化作品が風吹ジュン・夏木マリのW主演で放映されたが、井上荒野の原作はまさに映画「テルマ&ルイーズ」へのオマージュ的な小説であり、従ってドラマも「テルマ&ルイーズ」を原案としていると
見ていい。ただし、原作は主人公の二人の女性の年齢を70代に引き上げており、ドラマでも実際に共に1952年5月生まれで73歳の風吹ジュン、夏木マリが演じている(二人は初共演)。70歳の親友同士の照子と瑠衣がそれぞれ、照子はモラハラ気味の夫との生活に見切りをつけ、瑠衣は老人マンションでのトラブルから逃れるために、二人一緒に逃避行を始め、長野県・八ヶ岳の別荘地で素性を隠して暮らし始めるというストーリー(因みに、井上荒野も2019年より長野県八ヶ岳の麓に暮らす)。風吹ジュンは年齢を重ねるごとにいい役者になっていく。
「照子と瑠衣」●演出:大九明子●脚本:大九明子/フル
タジュン●音楽:侘美秀俊●原作:井上荒野『照子と瑠衣』●時間:49分●出演:

'90年公開の洋画で先ず個人的に良かったのは、スパイク・リー監督の「ドゥ・ザ・ライト・シング」('89年/米)で、ブルックリンの黒人街でピザ屋を営むイタリア系父子と店員のムーキーやその周辺の黒人たちの暑い夏の1日を、毒々しい色彩感覚とラップのリズムにのせて描いたものですが、まだメジャーになる前のスパイク・リー監督自身がピザ屋の店員のムーキー役で主演しており、作品の根柢には人種差別問題があるのですが、予定調和に終わらない結末にスパイク・リーの鋭さが窺えました。ダニー・アイエロは「ゴッドファーザーPart II」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」にもちょこっと出ていた俳優ですが、この作品で1989年・
続いて良かったのがブルース・ベレスフォード監督の「ドライビング Miss デイジー」('89年/米)で、90年度アカデミー賞優秀作品賞・主演女優賞などの最多4部
門に輝いた秀作(ジェシカ・タンディは歴代最高齢(80歳)でのアカデミー主演女優賞受賞)。1948年のアトランタを舞台に70歳過ぎのユダヤ人の元教師(ジェシカ・タンディ)と黒人運転手(モーガン・フリーマン)の交流を描いたもので、ラストの老人ホームでの二人の再会シーンは感動的。こうした"感動ストーリー"仕立てを好まない人もいますが、個人的には入れ込んでしまいました。dジェシカ・タンディの名演もさることながら、この頃のモーガン・フリーマンもいいです(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。
モーガン・フリーマンが映画俳優として知られるようになったのは50歳の時、ジェリー・シャッツバーグ監督の「NYストリート・スマート」('87年/米)でアカデミー助演男優賞にノミネートされてからで、この「ドライビング Miss デイジー」でアカデミー主演演男
優賞にノミネートされたのは52歳の時。さらにフランク・ダラボン監督の「ショーシャンクの空に」('94年/米)でティム・ロビンスと共に主役レッドを演じて最高の評価を得、前作に続いてアカデミー主演演男優賞にノミネートされますが受賞はならず、その10年後に、クリント・イーストウッドが監督した「
デミー助演男優賞受賞を受賞し、4回目のノミネートでアカデミー俳優となります。(●2023年10月9日、「ショーシャンクの空に」を「TOHOシネマズ錦糸町オリナス」にて「午前十時の映画祭13」で4K版にて再鑑賞(劇評で観るのは初)。モーガン・フリーマンの堂々たる演技が、レッドを単なる"観察者"ではなくより強い存在していることを再認識した。一方で、アカデミー賞を獲れなかった理由も、主人公と異なりレッドが"行動者"ではなく"観察者"に留まっているという役柄設定のせいもあったのではないかと思った。原作は スティーヴン・キングの『刑務所のリタ・ヘイワース』。壁に貼られた女優のポスターリタ・ヘイワース、マリリン・モンロー、ラクエル・ウェルチと変わっていくのが時の流れを表していた。2023年時点で、
・ザ・ライト・シング」を取り上げ、「この映画には真実がある」と訴えています(キム・ベイシンガーも「ドライビング Miss デイジー」が良くないとは言っていない。しかしながら、この頃からアカデミーのある種"偏向"を見抜いていたとも言える)。
マーティン・スコセッシ監督の「グッドフェローズ」('90年/米)は、実在の人物をモデルにギャングたちの生き様を描いた作品で、ヴェネツィア国際映画祭「銀獅子賞」受賞作。ロバート・デ・ニーロが口封じのために仲間を次々と殺していく様子や、ジョー・ペシがギャングの幹部に呼ばれて昇格かと思い出向いたところ、逆に殺されてしまうところなどオソロシイ。「グッドフェローズ」って、反語的意味合いを含んでいるわけね(本書評価★★★★/個人的評価★★★★)。
「トータル・リコール」('90年/米)は、フィリップ・K・ディック(1928-1982/享年53)の短編SF小説「記憶倍
ります」をポール・バーホーベンが監督したもので、シュワルツェネッガー演じる主人公の偽(ニセ)の妻役に、後に同じくポール・バーホーベン監督の「氷の微笑」('92年/米)に主演するシャロン・ストーンが出ていました。優れたSF映画に贈られる「サターンSF映画賞」の第17回受賞作。この作品、最近リメイクされています(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。
因みに、ポール・バーホーベン監督は「ロボコップ」('87年/米)で米映画界に進出して成功を収めたオランダ人です。「ロボコップ」は、殉職した警官の遺体を利用したサイボーグ警官が活躍するバイオレンスSFアクション映画で低予算で作られながらもヒットし、「ロボコップ2」「ロボコップ3」やテレビドラマシリーズも作られました(2014年にリメイクされた)。サイボーグ警官を演じたのはピーター・ウェラーでしたが、アーノルド・シュワルツェネッガーも候補だったと
か。犯罪多発都市としてデトロイト市を舞台としていますが、デトロイトは当時から既に自動車産業の衰退で荒廃していたため、ロケのほとんどはダラスで行われたそうです。暴力シーンも多いですが、一方で、ピーター・ウェラーの演じる哀愁を帯びた主人公と、そのロボット歩き(ピーター・ウェラーしかできなかったので彼がスタントも演じた)はなかなかのものでした。ラストで、悪人がオム二社(ロボコップを造った会社)の会長を人質にして逃走を図りますが、悪人はオムニ社の役人で、ロボコップに内蔵されていた「オムニ社役員には危害を加えない」というプログラムがあって手を出せないでいたところ、会長が悪人に「お前はクビだ!」と叫んだことでプログラムの規定が消滅し、ロボコップは悪人を射殺するという、そうしたコミカルな面もありました(これも「サターンSF映画賞」の受賞作)。







「ショーシャンクの空に」●原題:THE SHAWSHANK REDEMPTION●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:フランク・ダラボン●製作:ニキ・マーヴィン●撮影:ロジャー・ディーキンス●音楽:トーマス・ニューマン●原作:スティーヴン・キング「刑務所のリタ・ヘイワース」●時間:142分●出演:ティム・ロビンス/モーガン・フリーマン/ボブ・ガントン/ウィリアム・サドラー/クランシー・ブラウン/ギル・ベローズ/ジェームズ・ホイットモア●日本公開:1995/06●配給:松竹富士(評価:★★★★)「
「グッドフェローズ」●原題:GOODFELLAS●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:アーウィン・ウィンクラー●脚本:ニコラス・ピレッジ/マーティン・スコセッシ●撮影:ミヒャエル・バルハウス●時間:145分●出演:レイ・リオッタ/ロバート・デ・ニーロ/ジョー・ペシ/ロレイン・ブラッコ/ポール・ソルヴィノフランク・シベロ/

ティン/シャロン・ストーン/ロニー・コックス/マイケル・アイアンサイド/マーシャル・ベル/メル・ジョンソン・Jr/ ロイ・ブロックスミス/レイ・ベイカー/マイケル・チャンピオン/デビッド・ネル●日本公開:1990/06●配給:東宝東和(評価:★★★☆)
「ロボコップ」●原題:RoboCop●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:アーン・L・シュミット●脚本:エドワード・ニューマイヤー/マイケル・マイナー●撮影:ヨスト・ヴァカーノ/ソル・ネグリン●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●時間:103分●出演:ピーター・ウェラー/ナンシー・アレン/ロニー・コックス/カートウッド・スミス/ダン・オハーリー/ミゲル・フェラー/ロバート・ドクィ/フェルトン・ペリー/レイ・ワイズ/ポール・マクレーン●日本公開:1988/02●配給:ワーナー・ブラザース映画(評価:★★★★)







個人的には、ちょうどNHKスペシャルで「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ」('11年12月24日放送)を見たところでしたが、それと照らしても、偏りの少ない伝記と言えるのではないでしょうか。元々が毀誉褒貶の激しいジョブズですが、そのスゴイ面、人を強烈に引きつける面と、ヒドイ面、友人や上司にはしたくないなあと思わせる面の両方が書かれていて、それでいて、ジョブズに対する畏敬と愛着が感じられました。
アップルの共同創業者や自らが引き抜いた経営陣との確執のほかに、同年代のライバルであるビル・ゲイツとの出会いや彼との交渉、Windowsの牙城を切り崩そうするジョブズの攻勢なども描かれていますが、ピクサーでの仕事におけるディズニー・アイズナー会長との様々な権利を巡るビジネス面での交渉が特に詳しく描かれており、アメリカのコンピュータ業界の内幕を描いた本であると同時に、映画ビジネス界を内側から描いたドキュメントにもなっています。
NHKスペシャルの「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ」を見て、彼の人生には幾つかの印象的な場面が印象的な映像と共にあったように思われ、とりわけ、'84年のマッキントッシュ発売の際のジョージ・オーエルの『1984』をモチーフとしたコマーシャル(CM監督は「ブレードランナー」('82年)のリドリー・スコット)や、'86年のCGの可能性を如実に示した"電気ランプ"の親子が主人公の短篇映画「ルクソーJr.」(Luxo Jr.)、'95年の「世界初のフル3DCGによる長編アニメーション映画「トイ・ストーリー」などが個人的には脳裡に残りました。
「トイ・ストーリー」以外は番組で初めて見ましたが、そうした映像のイメージもあって本書を比較的身近に感じながら読むことができ、「トイ・ストーリー」も、初めて観た時はCGが進化したなあと思っただけでしたが、ジョブズが買収も含め個人資産を10数年も注ぎこむも全く利益を生まなかったピクサーが、土壇場で放った"大逆転ホームラン"だったと思うと、また違った感慨も湧きます(この作品だけでも公開までの4年間の投資額は5千万ドルに及び、「こんなに金がかかるなら投資しなかった」とジョブズは語っているが、本作のヒットでピクサー株は高騰し、結果的にジョブスの資産は4億ドル増えた)。
人々を惹き付ける素晴らしいプレゼンテーションをする一方で、傲慢な人柄で平気で人を傷つけ、また、類まれなイノベーターとして製品のデザインや性能への完璧主義的なこだわりを持つ一方で、相手の弱みに付け込む政治的画策も厭わない冷酷な経営者という一面も持つ―こうしたジョブズの多面性が、本書では充分に描かれているように思いました。
「トイ・ストーリー」●原題:TOY STORY●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ラセター●製作:ラルフ・グッジェンハイム/ボニー・アーノルドズ●脚本:ジョス・ウィードン/アンドリュー・スタントン/ジョエル・コーエン/アレック・ソコロウ●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ランディ・ニューマン●時間:81分●出演:トム・ハンクス/ティム・アレン/ドン・リックルズ/ジョン・モリス/ウォーレス・ショーン/ジョン・ラッツェンバーガー/ジム・バーニー●日本公開:1996/03●配給/ブエナ ビスタ インターナショナル ジャパン(評価★★★☆)
●NHKのドキュメンタリー番組「映像の世紀バタフライエフェクト」で2022年12月19日、スティーブ・ジョブズを、彼が影響を受けたバックミンスター・フラーと併せて取り上げていた。「宇宙船地球号」という概念を唱え、人類と地球との調和を説いた思想家バックミンスター・フラー。「現代のレオナルド・ダビンチ」とも「狂人」とも称されたフラーの思想が多くの若者たちを突き動かし、その中に若き日のスティーブ・ジョブズもいたとのこと。フラーの思想は、時空を超え、ジョブズに受け継がれ、世界を変えていき、そして伝説のスピーチが生まれたのだとしている。



マイケル・ハフハール(スティーヴ・マーティン)は世界的に有名な脳外科医だが、亡き愛妻の思い出に胸締め付けられる日々を送っていた。ある日、車を運転中、目の前を横切ったドロレス(キャスリーン・ターナー)を跳ね飛ばしてしまうが、駆け寄って見た彼女の美しさに参ってしまう。美貌のドロレスは、実は遺産目当てで年老いた男に近寄り、結婚後に夫を死に追いやる悪女だったが、そうと知らずにドロレスの脳外科手術を買って
出たハフハールは、手術を成功させ、意識を取り戻したドロレスにアタックをかけ結婚へ。しかし、新婚生活を送るうちにドロレスの傲慢さが目につくようになり、その上夜の営みを拒み続けるドロレスに欲求不満気味、上司の勧めで仕事とハネムーンを兼ねてオーストリアへ行き、脳移植の権威ネセシスター博士(デビッド・ワーナー)に出会い、彼の研究室で、"アン・アールメヘイ"と名乗る頭脳(声:シシー・スペイセク)とテレパシーで意思疎通出来ることを知る。意思疎通を図るうちに、次第にアールメヘイの持つ優しさに惹かれて、挙句の果てには、横行していた"エレベーター・キラー"にかこつけて、彼女に見合う女性を殺害してその肉体を手に入れようとまでし始める―。
'85年の第1回「東京国際映画祭」の一環としての「ファンタスティック映画祭」で上映された、カール・ライナー監督、スティーヴ・マーティン(1945‐)主演のホラー・コメディで、"脳"に不倫心を抱いてしてしまう男と
いう奇抜な設定。その流れで、その男は、"脳"のために肉体を探し、"脳移植"手術をしようとするという、ハチャメチャながらも、SF風のドタバタ喜劇であることを踏まえて観れば結構良く出来たストーリーであったように思え、意外と面白かったです(「ファンタスティック映画祭」に相応しい上映作品と言える)。
スティーヴ・マーティンにしてもレスリー・ニールセンにしても、銀髪のダンディな男が途方も無くバカバカしいことをやるという点で似ているかも。両者共に日本にはあまりいないタイプの喜劇役者でしょうが、そもそも洋モノコメディ軽視の日本では、当時スティーヴ・マーティンの名は殆ど知られていなかったように思われ、自分自身この作品で初めて知り、なかなかの芸達者だと思いました。この作品も日本ではロードにかかっておらず(映画祭出品後にビデオ化はされた)、「愛しのロクサーヌ」('87年)などでやっと日本でも彼の名知られるようになりましたが、その後も出演作品数は多く、バイプレイヤーだったりシリアスな役もこなしたりしているようで、最近では、2010年に、自身3回目となるアカデミー賞授賞式の司会をしています。

キャスリーン・ターナーはこの後、ロバート・ゼメキス監督の「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」('84年)にマイケル・ダグラスとの共演で出演しています。 「2つの頭脳...」がロードにかからなかったため、こちらを「東京国際映画祭」の1か月前に先に観ることになったのですが、ロマンス作家が否応なしに自分の書く小説張りの恋と冒険に巻き込まれていくという「インディ・ジョーンズ」と「ハーレクイン・ロマンス」を足して2で割り、それにコメディの味付けをしたような"盛り沢山"の作品でした。 

)という作品も作られています。今度は、人気冒険作家である主人公(キャスリーン・ターナー)が、独裁国大統領の伝記執筆のため渡ったアフリカで大騒動に巻き込まれるというもの。そこで、冒険家(マイケル・ダグラス)と再会し、その彼は悪党(ダニー・デヴィート)
とも再会していて...と、監督は変わりましたが主要メンバーは変わらず、気心知れた仲間で楽しみながら作っているような映画でした。

もありました。「
コメディタッチでテンポはそう悪くなかったように思います。ただ、個人的にはそんなに熱くなるほどの映画かなあとも。配役がある種ノスタルジーを醸すのかなあ。リチャード・チェンバレンは同じく主役を演じた「
結婚17年目を迎えたローズ夫妻の泥沼の離婚戦争をブラック・ユーモアで描いたコメディで(タイトルはイングランドの「バラ戦争」に準えている)、家庭間で領域を二分し、車をぶつけ合い、装飾品を投げ合って、生きるか死ぬかの闘いを繰り広げる様は、コメディというよりは恐怖映画に近く、寒気を覚えるくらい...。マイケル・ダグラスがシャンデリアにつかまっている場面が印象的でした。
ちょっとやり過ぎの感もありましたが、マイケル・ダグラス自身はこの作品を気に入っているようで(グレン・クローズに苛められる「
因みに、マイケル・ダグラスは「ローズ家の戦争」の3年後に、ポール・バーホーベン監督の「氷の微笑」('92年/米)でシャロン・ストーンと共演、殺人事件の容疑者となった女流作家に惹かれていく刑事を演じています。恋人が次々と死んでいく魔性の女を演じたシャロン・ストーンはこの作品が出世作となり、彼女が取調室で足を組みかえるエロティックなシーンは評判となりました。マイケル・ダグラスは当時さほ
ど有名ではなかったシャロン・ストーンの配役に難色を示し、役柄のリスク分散のため、スター女優との共演を望んみましたが、前作「
も(笑))。シャロン・ストーンは翌年には「
マイケル・ダグラスは「氷の微笑」('92年)と「ディスクロージャー」('94年)の間に「フォーリング・ダウン」('93年)に出演、 ささいなストレスが積み重なって主人公の理性を蝕んできたことが引き金となり、プッツン状態になる平凡な中年男D-フェンスを演じましたが、かつて「
・レイン」('89年)でハードボイルドな刑事ニック・コンクリンを演じた彼も、これだけ神経症的な役が続くと、「フォーリング・ダウン」の精神的にぶっ壊れた主人公の役が似合ってしまうのが何となく面白かったです。ただ、この映画、前半のコメディタッチに較べ、ラストはちょっと主人公が哀れ過ぎて、そこがイマイチでした。
「2つの頭脳を持つ男」●原題:THE MAN WITH TWO BRAINS●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督:カール・ライナー●製作:デイヴィッド・V・ピッカー/ウィリアム・E・マッキューン●脚本:カール・ライナー/スティーヴ・マーティン/ジョージ・ガイプ●撮影
:マイケル・チャップマン●音楽:ジョエル・ゴールドスミス●時間:93分●出演:スティーヴ・マーティン/キャスリーン・ターナー/シシー・スペイセク(声の出演)/デビッド・ワーナー/リチャード・ブレストフ/ジェームズ・クロムウェル/ジェフリー・コムズ/ポール・ベネディクト/マーヴ・グリフィン:マーヴ・グリフィン●日本公開:1985/06●配給/ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:渋谷パンテオン(85-06-02) (評価★★★★)
「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」●原題:ROMANCING THE STONE●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ゼメキス●製作:マイケル・ダグラス●脚本:ダイアン・トーマス●撮影:ディーン・カンディ●音楽:アラン・シルヴェストリ●時間:106分●出演:キャスリーン・ターナー/マイケル・ダグラス/ダニー・デヴィート/スピロス・フォーカス/アヴナー・アイゼンバーグ/ホランド・テイラー/ポール・デヴィッド・マギッド●日本公開:1984/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿ローヤル(85-05-06) (評価★★★)



「ナイルの宝石」●原題:THE JEWEL OF THE NILE●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:ルイス・ティーグ●製作:マイケル・ダグラス●脚本:マーク・ローゼンタール/ローレンス・コナー●撮影:ヤン・デ・ボン●音楽:ジャック・ニッチェ●原作キャラクター創作/ダイアン・トーマス●時間:107分●出演:マイケル・ダグラス/キャスリーン・ターナー/ダニー・デヴィート/ザック・ノーマン/アルフォンソ・アラウ/マヌエル・オヘイダ/ホランド・テイラー/メアリー・エレン・トレイナー/エヴァ・スミス●日本公開:1986/04●配給:20世紀フォックス(評価★★★)

「キング・ソロモンの秘宝/ロマンシング・アドベンチャー」●原題:KING SOLOMON'S MINES●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:J・リー・トンプソン ●製作:メナヘム・ゴーラン/ヨーラム・グローブス●脚本:ジーン・クインターノ/ジェームズ・R・シルク●撮影:アレックス・フィリップス●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:100分●出演:リチャード・チェンバレン/シャロン・ストーン/ハーバート・ロム/ジョン・ライス=デイヴィス/ケン・ガンプ/ジューン・ブゼレッジ●日本公開:1986/06●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:日比谷スカラ座(86-06-29) (評価★★★)


「ローズ家の戦争」●原題:THE WAR OF THE ROSES●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ダニー・デヴィート●製作:ジェームズ・L・ブルックス/アーノン・ミルチャン●脚本:マイケル・リースン●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:デヴィッド・ニューマン●原作:ウォーレン・アドラー「ローズ家の戦争」
●時間:116分●出演:キャスリーン・ターナー/マイケル・ダグラス/ダニー・デヴィート/マリアンネ・ゼーゲブレヒト/ショーン・アスティン/ヘザー・フェアフィールド●日本公開:1990/05●配給:20世紀フォックス(評価★★★)
「氷の微笑」●原題:BASIC INSTINCT●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:アラン・マーシャル●脚本:ジョー・エスターハス●撮影:ヤン・デ・ボン●音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード●時間:118分●出演:マイケル・ダグラス/シャロン・ストーン/ジョージ・ズンザ/ジーン・トリプルホーン/レイラニ・サレル/デニス・アーント/チェルシー・ロス/ブルース・A・ヤング/ダニエル・フォン・バーゲン/ドロシー・マローン/ウェイン・ナイト/スティーヴン・トボロウスキー/ベンジャミン・ムートン/ジェームズ・レブホーン/スティーヴン・ロウ/ミッチ・ピレッジ●日本公開:1992/06●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:新宿プラザ(90-06-02) (評価★★★)
「フォーリング・ダウン」●原題:FALLING DOWN●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ジョエル・シュマッカー●製作:ティモシー・ハリス/アーノルド・コペルソン/ハーシェル・ワイングロッド●脚本:エブ・ロー・
スミス●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:123分(完全版128分)●出演:マイケル・ダグラス/ロバート・デュヴァル/バーバラ・ハーシー/レイチェル・ティコティン/チューズデイ・ウェルド/フレデリック・フォレスト/ロイス・スミス/ジョーイ・ホープ・シンガー/マイケル・ポール・チャン/レイモンド・J・バリー●日本公開:1993/07●配給:ワーナー・ブラザース (評価★★★)


ペンシルバニア州のある操車場に停車中の最新式貨物列車が、整備士の人為的ミスによって無人のまま走り出してしまうが、積荷は大量の化学薬品とディーゼル燃料であることが判明、操車場長のコニー・フーパー(ロザリオ・ドーソン)は極めて深刻な事態が発生
したことを認識し、州警察に緊急配備を依頼する。フランク・バーンズ(デンゼル・ワシントン)と職務経験4ヵ月のその頃、勤続28年のベテラン機関士車掌ウィル・コルソン(クリス・パイン)は、この日初めてコンビを組み、旧式機関車に乗り込み職務に就いていた―。



にしているところに興味を惹かれました(「リスク管理」の教材?この作品の日本初試写会は鉄道高校として有名な東京・上野の岩倉高等学校の体育館で行われ、ゲストにAKB48のメンバーが登場した(2010年11月17日) )。
デンゼル・ワシントンは、同じくトニー・スコット監督作品の「サブウェイ123 激突」('09年)でも鉄道員の役を演じていて、前回は運行司令官役でしたが、今回は運転士役。デンゼル・ワシントンが、妻と死別し2人の難しい年頃の娘がいる寡男で会社からは退職勧告を受けていて、クリス・パインの方は、妻の浮気疑惑で離婚争議中のため接近禁止命令が出ている男といった具合に、共に仕事や家庭生活に難点を抱える者同士の組み合わせですが、映画の主役は、劇薬を積んで市街地へ向かって暴走する800メートルの貨物列車でしょうか。
鉄道会社の上層部の見通しの甘い事故対応が更に
事態を悪化させるといった社会批判も織り交ぜ、また、アクション映画としてもよく出来ているけれども、最初からデンゼル・ワシントン(観ていて安心感あり過ぎ)らが事態を収束するであろうことが見えていて、あまりドキドキしなかった感じも(むしろ、デンゼル・ワシントンは彼自身のアクション・シーンが危なっかしい感じだったけれど、勿論これは演技のうち?)。



女性操車場長のロザリオ・ドーソンは、リー・ストラスバーグ演劇学校で学んだ演技派で、この作品でも好演(「メン・イン・ブラック2」('02年)の店員役の頃に比べると随分貫禄がついた?)。但し、事故の収束とともに2人の男がヒーローになるのは"予定調和"の内だけれど、それで両者の仕事や家庭問題まで一気に解決されてしまったとなると、"事故様様"みたいな感じもしてしまいました(1人犠牲者が出ている。「危機管理」の観点からももっと反省すべきケースではないか)。
トニー・スコット監督、デンゼル・ワシントンの組み合わせでは、米軍原子力潜水艦を舞台にした「クリムゾン・タイド」('95年)が傑作でしょうか。
「アンストッパブル」●原題:UNSTOPPABLE●制作年:2010年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ジュリー・ヨーン/トニー・スコット/ミミ・ロジャース/エリック・
マクレオド/アレックス・ヤング●脚本:マーク・ボンバック●撮影:ベン・セレシン●音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ●時間:98分●出演:デンゼル・ワシントン/クリス・パイン/ロザリオ・ドーソン/ケヴィン・ダン/イーサン・サプリー/T・J・ミラー/リュー・テンプル/ジェシー・シュラム/ケヴィン・チャップマン/ケヴィン・コリガン/デヴィッド・ウォーショフスキー●日本公開:2011/01●配給:20世紀フォックス(評価:★★★) 東京・上野の岩倉高等学校での公開記念イベント(AKB48高橋みなみ、渡辺麻友、宮澤佐江)

「暴走機関車」●原題:RUNAWAY TRAIN●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:アンドレ・ミハルコフ=コンチャロフスキー●製
作:ヨーラン・グローバス/メナハム・ゴーラン●脚本:ジョルジェ・ミリチェヴィク/ポール・ジンデル/エドワード・バンカート●撮影:アラン・ヒューム●音楽:トレヴァー・ジョーンズ●原案:
「恐怖の報酬」●原題:LE SALAIRE DELA PEUR●制作年:1953年●制作国:フランス●監督・脚本:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー●撮影:アルマン・ティラール●音楽:ジョルジュ・オーリック●原作:ジョルジュ・アルノー●時間:131分●出演:イヴ・モンタン/シャルル・ヴァネル/ヴェラ・クルーゾー/フォルコ・ルリ●日本公開:1954/07●配給:東和●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10)(評価:★★★★)●併映:「死刑台のエレベーター」(ルイ・マル) 
ジットなし)●撮影:ダリウス・ウォルスキー●音楽:ハンス・ジマー●時間:116分●出演:デンゼル・ワシントン/ジーン・ハックマン/ジョージ・ズンザ/ヴィゴ・モーテンセン/ジェームズ・ガンドルフィーニ/リロ・ブランカート.Jr/ダニー・ヌッチ/スティーヴ・ザーン/リッキー・シュローダー/ロッキー・キャロル/ヴァネッサ・ベル・キャロウェイ●日本公開:1995/10●配給:ブエナ・ビスタ(評価:★★★★)


小学3年生のアリ(ミル=ファロク・ハシェミアン)は、修理してもらったばかりの妹ザーラ(バハレ・セッデキ)の靴を失くしてしまうが、家が貧しいため新しい靴を買ってもらえそうになく、怒られるのが怖くて、親にもそのことを言えない。妹が学校に行く時に自分の運動靴を貸してやるという日々が続くが、そんなある日、学校の掲示板にマラソン大会の参加者が発表され、その大会は、学校代表として数名が参加出来るもので、既に予選会は終了していた。しかしアリは、大会の3等賞品が運動靴であることを知り、教師に参加を哀願して単独でランニング・テストを受け、大会参加の切符を得る―。
モントリオール世界映画祭でグランプリを含む4部門を受賞し、第71回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた作品。初めて観た時は、イラン映画のレベルの高さに驚いたものの、何だかハリウッド映画の泣かせのテクニックを踏襲しているようで、しかも、結構唐突な終わり方をするため、それほど感動しなかったのですが、最近観直していい映画に思えたのは、歳のせいかも。
子役が兄・妹とも素人だったということを後で知り、改めて演出の見事さに感服。映像も秀逸で、一場面一場面が印象に残っていましたが、音楽は殆ど使われていなかったのだなあ。それでいて、これだけ心に滲みる情感を醸すというのは、結構スゴイことかも。
モントリオール国際映画 グランプリ受賞など数々の映画祭で賞を受賞し、福岡国際映画祭など内外の映画祭で公開された時のタイトルは「天使のような子どもたち」(Children of the Heaven)でしたが、「運動靴と赤い金魚」の方がいいと思われ、その「赤い金魚」は最後に出てくるわけですが、う~ん、こういう映画の終わり方というのは、なかなか他の作品では無いでしょう。





1951年のサイゴン、10歳になる娘ムイは田舎からとある家へ奉公にやって来て、食事の世話や家事手伝い、その他細々とした事を任され、毎日を過ごしていた。その家には何もせずただ楽器を楽しむだけの父親、衣地屋を営み家系を支える母親、嫁に辛くあたる祖母、社会人の長男と幼い弟という家族がいた。やがてムイは、家に遊びに来た長男の友人クェンに密かに恋心を抱くようになる。10年後、ムイは暇を出され、今度はクェンの家へ奉公に出される―。
前半から中盤にかけては、ベトナム版「おしん」という感じですが、少女ムイを演じる子役の演技が旨く、子供ながらもこうしたしっとりした情感を出せるのは、監督の演出の成せる業(わざ)だろうと思いました(この作品の殆どの俳優がフランス在住のベトナム人で映画初出演であり、トラン・アン・ユン監督は、この作品でカンヌ映画祭のカンヌ国際映画祭で新人監督賞に該当する「カメラ・ドール」を受賞している)。
二十歳になってからの話は、ちょっとシンデレラ・ストーリーっぽくって、しかも、結果として"略奪愛"的な展開になっているのですが、ひたすら相手に尽くすムイの姿勢には、クェンならずとも惹かれるのかも。但し、前半の少女時代の話に比べると、ストーリー的にはやや平板な感じもしました。
トラン・アン・ユン監督はベトナムで生まれ、パリ育ち、またパリで映像芸術について学んだ人で、デビュー作にあたるこの作品は、すべてフランスでセットを組んで撮られたそうですが、昆虫や魚、野菜や果物、料理などの映像を合間ごとに挟むことにより、アジア的雰囲気を巧みに醸しているように思えました(パパイヤはベトナム人にとっては"野菜"であることがよく分かる)。
二十歳のムイを演じた女優は、実生活において監督の妻となったということで、こういうパターンは日本でも海外でもよくありますが、監督が女優を恋愛対象として見ている時は、いい映画に撮れるのかも。主人公が、永く召使い的な立場にありながらも純粋さと女性らしさを失わず、「凛として生きる」ことを貫いてきたことが分かるように描いていたように思います。
但し、映画全体としてはやはり、小さな出来事を積み重ねることである家族の全体を浮き彫りにするとともに、その中における、外部からやって来た10歳の少女の精神的成長を描いた前半部分の方が優れていたように思います。
「青いパパイヤの香り」●原題:Mùi du du xanh/仏:L'ODEUR DE LA PAPAYE VERTE/英:THE SCENT OF GREEN PAPAYA●制作




社を解体させるアイデアを"植えつける(インセプション)"仕事を依頼する。自殺した妻モル(マリオン・コティヤール)殺害の容疑をかけられ子供に会えずにいたコブは、犯罪歴抹消と引き換えに仕事を引き受けることにし、コブ及びサイトーに、コブの仕事仲間のアーサー(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)、夢の世界の「設計士」アリアドネ(エレン・ペイジ)、ターゲットの思考を誘導する「偽装師」イームス(トム・ハーディ)、夢の世界を安定させる鎮静剤を作る「調合師」ユスフ(ディリープ・ラオ)の4人を加えた計6人で、ロバートの夢の中に潜入する―。
最初は6人がこれからやろうとしていることの説明(理屈)が多くてややダルかったけれども、実際に夢への潜行が始まると、「夢」から「夢の中の夢」に、更に「夢の中の夢の中の夢」に降りて行くという発想が面白く、思いつかないことでもないけれど、よくこれを「お話」にして「映像化」したものだと―。突っ込み所は多いのですが、つい先月['11年7月]発表された英国の映画誌「TOTAL FILM」の投票による"史上最高のSF映画べスト10"で、今世紀の作品として唯一8位にランクインしています。
実際に夢の第1階層(雨のL.A.)、第2階層(ホテル)、第3階層(雪の要塞)のそれぞれで繰り広げられるのは、カーチェイスだったり銃撃戦だったりと定番のアクションなのだけれど(敵はロバートの潜在意識に既にインセプションされているライバル企業側の輩)、下の階層に行くにつれて相対的に上の層より時間の流れが遅くなり、その分だけ時間稼ぎ出来るといった着想などはなかなか秀逸ではないかと思われ(「黄粱一炊の夢」「邯鄲の夢」の"二乗"ということか)、ラストも、コブは本当に現実世界に戻ってきたのか、ちょっと気を持たせる終わり方でした(この辺りはむしろ「胡蝶の夢」か)。(2010年度・第37回「サターンSF賞」受賞作)
仮想現実世界での戦いと言えば、ウ
映像面でスタンリー・キューブリック
の「2001年宇宙の旅」('68年/米)や、アンドレイ・タルコフスキー作品へのオマージュが見られますが、モチーフとして特に似ているのはタルコフスキーの「
「惑星ソラリス」の宇宙飛行士であり科学者でもある主人公(ドナタス・バニオニス)は、"意識を持つ"惑星ソラリスを調査する中で、ソラリスが主人公の記憶の中から再合成して送り出してきた「かつて自殺した妻」(ナタリア・ボンダルチュク)と邂逅し(「インセプション」も同じ)、その仮想現
「インセプション」には、700系新幹線「のぞみ」が富士川鉄橋を走る映像が出てきますが、「惑星ソラリス」では、未来都市のイメージとして、首都高速道路の赤坂
トンネル付近を走行するクルマの車内から見た映像があり、こうした日本からの素材の抽出なども「惑星ソラリス」を意識しているのではないかと思いました。
「イ
ンセプション」●原題:INCEPTION●制作年:2010年●制作国:アメリカ●監督・脚本:クリストファー・ノーラン●製作:エマ・トーマス/クリストファー・ノーラン●撮影:ウォーリー・フィスター●音楽:ハンス
・ジマー●時間:148分●出演:レオナルド・ディカプリオ/渡辺謙/キリアン・マーフィー/トム・ベレンジャー/マイケル・ケイン/マリオン・コティヤール/ジョセフ・ゴードン=レヴィッド/エレン・ペイジ/トム・ハーディー/ディリープ・ラオ/ルーカス・ハ―ス/ロバート・フィッシャー/キリアン・マーフィ●日本公開:2010/07●配給:ワーナー・ブラザース(評価:
「マトリックス」●原題:THE MATRIX●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ウォシャウスキー兄弟(アンディ・ウォシャウスキー/ラリー・ウォシャウスキー)→ウォシャウスキー姉弟(アンディ・ウォシャウスキー&ラナ・ウォシャウスキー(性転換前はラリー・ウォシャウスキー))→2016年弟アンディ・ウォシャウスキーも性転換手術をしてリリー・ウォシャウスキーとなり、ウォシャウスキー姉妹に)●製作:ジョエル・シルバー●撮影:
ビル・ポープ●時間:136分●出演:キアヌ・リーブス/ローレンス・フィッシュバーン/キャリー=アン・モス/ヒューゴ・ウィービング/グローリア・フォスター/




「惑星ソラリス」●原題:SOLARIS●制作年:1972年●制作国:ソ連●監督:アンドレイ・タルコフスキー●脚本:アンドレイ・タルコフスキー/フリードリッヒ
・ガレンシュテイン●撮影:ワジーム・ユーソフ●音楽:エドゥアルド・アルテミエフ●原作:スタニスワフ・レム「ソラリス」(「ソラリスの陽のもとに」)●時間:165分●出演:ナタリア・ボンダルチュク/ドナタス・バニオニス/ウラジスラフ・ドヴォルジェツキー/アナトーリー・ソロニーツィン/ソス・サルキシャン/ユーリー・ヤルヴェト/ニコライ・グリニコ/タマーラ・オゴロドニコヴァ/オーリガ・キズィローヴァ●日本公開:1977/04●配給:日本海映画●最初に観た場所:大井武蔵野館(83-05-29)(評価:★★★☆)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(23-07-25)(評価:★★★★☆) 「惑星ソラリス」1977年岩波ホール公開時パンフレット
「鏡」●原題:ZERKALO●制作年:1975年●制作国:ソ連●監督:アンドレイ・タルコフスキー●脚本:アレクサンドル・ミシャーリン/アンドレイ・タルコフスキー●撮影:ゲオルギー・レルベルグ●音楽:エドゥアルド・アルテミエフ●挿入詩:アルセニー・タルコフスキー●時間:108分●出演:マルガリータ・テレホワ/オレーグ・ヤンコフスキー/イグナト・ダニルツェフ/フィリップ・ヤンコフスキー/アナトーリー・ソロニーツィン●日本公開:1980/06●配給:日本海映画●最初に観た場所:岩波ホール (80-07-03) (評価:★★★★★) 「




胸部外科医のメイフィールド(レナード・ニモイ)は、上司のハイデマン博士(ウィル・ギア)との心臓移植の拒絶反応を抑える新技術の共同研究の成果を、他の研究グループが発表する前に先手を打って発表すべきだと考えていたが、ハイデマン博士はもっと治験が必要だとして発表を認めない。そんな折、博士が心臓の病に倒れ、博士の主治医でもあるメイフィールドが手術をすることになるが、手術を補佐した看護婦のシャロン(アン・フランシス)は、メイフィールドが縫合糸に何か細工をしたことに気づく。真面目な彼女は自分の疑問を確認しようとするが、その最中にメイフィールドに殺されてしまう―。
「刑事コロンボ」第15話で、レナード・ニモイの冷静な犯人役が際立っている作品。むしろ、コロンボの方がメイフィールドのデスクを叩いて激昂するという珍しい場面(台詞上は「ハイデマン博士の面倒をよくみることだ。もし死んだら、当然われわれは検死解剖を要求する。そして、単なる心臓発作による死亡なのか、糸のためなのかを確認するからな」―言葉使いも荒い)があったりするので、ますますメイフィールドの冷静さが浮き彫りにされるわけですが、この「冷静さ」がコロンボによる事件解決の伏線になっていたわけだなあ(実はコロンボの「激昂」そのものも、メイフィールドを窮地に追い詰め、彼に次の行動を起こさせてボロを出させるための演技だったわけだが)。
犯人だとは分かっているけれど、証拠が出ない―それが最後の最後で閃いた、土壇場の逆転劇であるとするならば、その直前にコロンボがメイフィールドに対し表向きは負けを認めて一旦引き下がったのは、まだ逆転の可能性はあるという思いを裡に秘めた演技半分、悔しいという本音半分だったのでしょうか。とにかく、それぐらい手強い相手だったということなのでしょう。それにしても、ミスター・スポックことレナード・ニモイ、昔からああいう独特のマスクだったんだなあ。
但し、TV版「宇宙大作戦/スタートレック」は1966年から1969年に全米で放映されており、このコロンボ出演('73年)の前のこと(従って、彼が「コロンボ」に出演していた時には既に「レナード・ニモイ=スポック博士」のイメージが浸透していたことになる)、TV版が映画「スタートレック」になったのが'79年で、その後、「スタートレックⅥ」まで作られましたが(新シリーズを含めると2009年までに11作映画化されている)、「Ⅲ・Ⅳ」をレナード・ニモイ、「Ⅴ」をカーク船長ことウィリアム・シャトナーが監督しています。
因みに、宇宙艦エンタープライズ号のカーク船長役のウィリアム・シャトナーも、'76年に「刑事コロンボ」の第38話「ルーサン警部の犯罪」に犯人役で出演しています(第63話「4時02分の銃声」でも再び犯人役を演じている)。
その「ルーサン警部の犯罪」は、本物の警部が犯罪を犯すわけではなく、テレビの人気ミステリ・シリーズで名警部役を演じている俳優が犯人であるという、あたかも「刑事コロンボ」を意識したかのような背景で、ウィリアム・シャトナー演じるところの犯人が「ルーサン警部」の立場からコロンボと一緒に事件の謎を解いていくという凝った設定ですが、事件そのものは余りに状況証拠が多すぎて、コロンボにとってはあまり難事件とは言えなかったかも。
最後に決め手となる物的証拠も、犯人の指紋の拭き忘れという凡ミスに拠るもので、強いて言えば、犯人が殺人を犯した自分自身とルーサン警部という架空のキャラクターとの区別がつかなくなっている(?)のが、
犯罪心理面での見所でしょうか。そうしたことも含め、レナード・ニモイの冷静な犯人像に比べると、ウィリアム・シャトナーのこのエピソードにおける犯人像はかなり弱々しく思えました(それにしても、ウィリアム・シャトナー、若いなあ)。
個人的には、「スタートレック」シリーズを劇場で観たのは「Ⅲ」くらいまでかなあ(「Ⅲ」では初代「宇宙大作戦」の原作者(生みの親)ジーン・ロッデンベリーが原作者としてクレジットされている)。「新スタートレック」 「スタートレック:ディープ・スペース・ナイン」といったTV版も一部ビデオで観たので、もう、どれがどれだか分らなくなってしまいましたが、作品の出来不出来はともかく、やはり最初に観た「Ⅰ」が印象に残りました(「ヴィジャー」って何かと思ったらそういうことだったのか、という衝撃があった)。
いずれにせよ、このTVシリーズと映画化作品が全米で絶大な人気を得たのは事実で、トレッキーまたはトレッカーと呼ばれる熱心なファンがアメリカのみならず世界中の宇宙関連事業関係者にも多いと言われています。そうした現象を逆手に取ってパロディ化したディーン・パリソット監督、ティム・アレン主演の「ギャラクシー・クエスト」('99年/米)というのもありました。20年前TVシリーズ「ギャラクシー・クエスト」で宇宙の英雄である「エンタープライズ号」ならぬ「プロテクター号」乗組員を演じて
人気を博すも、今は売れずにファンへのサイン会
やイベントを糧にして生活を送っていた俳優たちが、他の星の宇宙人の侵略に苦しむ中「ギャラクシー・クエスト」の電波を自星で受信し、架空のドラマだとは思わずに歴史ドキュメンタリーと信じて助けを求めてきた宇宙人たちによって実際の宇宙戦争に巻き込まれるという二重構造に、「スタートレック」のパロディを絡ませた三重構造の形を取っていて、なんだかオリジナルより面白かったような...。今思えば、当時「エイリアン4」('97年)までの出
演を終えたシガニー・ウィーバー(「
因みに、「溶ける糸」でメイフィールドに殺されてしまう優しく真面目な看護婦役のアン・フランシス(1930-2011)は、ロープウェイでのラストシーンが印象的な「刑事コロンボ」シリーズ第8話「
は、「
アン・フランシス&レスリー・ニールセン 「禁断の惑星」(1956)
「刑事コロンボ(第15話)/溶ける糸」●原題:A STITCH IN CRIME●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:ハイ・アヴァバック●製作:ディーン・ハーグローヴ●脚本:シャール・ヘンドリックス●ストーリー監修:ジャクソン・ギリス●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/レナード・ニモイ/ウィル・ギア/アン・フランシス/ニナ・タルボット/ジャレッド・マーティ/ヴィクター・ミラン/アニタ・コルシオ●日本公開:1973/10●放送:NHK-UHF(評価:★★★★)

「スタートレック」●原題:STAR TRECK●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ワイズ●製作:ジーン・ロッデンベリー●脚本:ハロルド・リヴィングストン/レナード・ニモイ●撮影:リチャード・H・クライン
アン/ウォルター・ ケーニッグ/ジョージ・タケイ/パーシス・カンバータ/スティーブン・コリンズ/メイジェル・バレット/ニシェル・ニコラス●日本公開:1980/07●配給:パラマウント映画=CIC●最初に観た場所:渋谷パンテオン(80-07-14)●2回目:大井ロマン(85-02-09)(評価:★★★☆)●併映(2回目):「スター・トレック2 カーンの逆襲」(ニコラス・メイヤー)/「スター・トレック3 ミスター・スポックを探せ!」(レナード・ニモイ) 

「スタートレックII カーンの逆襲」●原題:STAR TREAK 2 THE WRATHOF KHAN●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ニコラス・メイヤー●製作:ロバート・サリン●脚本:ジャック・B・ソワーズ/ニコラス・メイヤー●撮影:ゲイン・レシャー●音楽:ジェームズ・ホーナー●時間:113分/117分(ディレクターズ・カット版)●出演:ウィリアム・シャトナー/レナード・ニモイ/デフォレスト・ケ
リー/ジェームズ・ドゥーアン/ニシェル・ニコルズン/ジョージ・タケイ/ウォルター・ケーニッグ/ビビ・ベッシュ/メリット・バトリック/カースティ・アレイ/ポール・ウィンフィールド/リカルド・モンタルバン/ジャドスン・スコット/ジョン・ウィンストン●日本公開:1983/02●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:大井ロマン(85-02-09)(評価:★★★)●併映:「スター・トレック」(ロバート・ワイズ)/「スター・トレック3 ミスター・スポックを探せ!」(レナード・ニモイ)

「スタートレックⅢ ミスター・スポックを探せ!」●原題:STAR TREAK 3 THE SEARCH FOR SPOCK●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:レナード・ニモイ●製作:ロバート・サリン●脚本:ジャック・B・ソワーズ/ニコラス・メイヤー●撮影:チャールズ・コレル●音楽:ジェームズ・ホーナー●原作:ジーン・ロッデンベリー●時間:105分●出演:ウィリアム・シャトナー/レナード・ニモイ/デフォレスト・ケリー/ジェームズ・ドゥーアン/ニシェル・ニコルズン/ジョージ・タケイ/ウォルター・ケーニッグ/メリット・バトリック/ロビン・カーティス/クリストファー・ロイド/マーク・レナード/デイム・ジュデ
ィス・アンダーソン/キャシー・シリフ/ロバート・フックス/フィリップ・R・アレン/ジェームズ・B・シッキング/ジョン・ラロケット/ティーヴン・リスカ/ポール・ソレンセン/フィル・モリス/ミゲル・フェラー●日本公開:1984/06●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:大井ロマン(85-02-09)(評価:★★★)●併映:「スター・トレック」(ロバート・ワイズ)/「スター・トレック2 カーンの逆襲」(ニコラス・メイヤー)



「ギャラクシー・クエスト」●原題:GALAXY QUEST●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:ディーン・パリソット●製作:マーク・ジョンソン/チャールズ・ニューワース●脚本:デビッド・ハワード/ロバート・ゴードン●撮影:イェジー・ジェリンスキー●音楽:デヴィッド・ニューマン●時間:102分●出演:ティム・アレン/シガニー・ウィーバー/アラン・リックマン/トニー・シャルーブ/サム・ロックウェル/ダリル・ミッチェル/エンリコ・コラントーニ/パトリック・ブリーン/ミッシー・パイル/ジャスティン・ロング/ロビン・サックス/ジェド・リース/ジェレミー・ハワード/ケイトリン・カラム/ジョナサン・フェイヤー●日本公開:2000/01●配給:ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ(評価:★★★★)




トゥームストーンへ平穏な暮らしを求めやって来た元保安官のワイアット・アープ(カート・ラッセル)は、町がクラントン兄弟や凄腕のガンマン、ジョニー・リンゴ(マイケル・ビーン)らカウボーイズと名乗る無法者集団に牛耳られていることを知る。ワイアットは旧友ドク・ホリデ
イ(ヴァル・キルマー)と再会したが、彼は結核に冒されていて、恋人のケイト(ジョアンナ・パクラ)が彼の生き方を全うさせようと寄り添っている。一方ワイアットは、舞台女優のジョセフィーヌ(ダナ・デラニー)と知り合う。カウボーイズの無法ぶりを抑えようと、ワイアットの兄と弟は保安官となり、アープ兄弟は一味からOKコラルでの決闘を申し込まれるが、ドクの加勢を得て勝利する。しかし、敵の報復により兄が重体に、弟が殺されるに及んで、ワイアットは再び保安官のバッジを付け、ドクと共に立ち上がる―。
「トゥームストーン」('93年/米)の監督は「ランボー 怒りの脱出」のジョージ
この作品でみると、敵役のリンゴなどはワイアット・アープの手に余る相手で、ワイアットを助太刀したのがドグ・ホリディという構図になっているのが興味深いです(一番の拳銃使いはドグ・ホリディということか)。
同じ頃に公開された「ワイアット・アープ」('94年/米)は、「シルバラード」のローレンス・カスダン監督ということで期待しましたが、こちらは完全にケヴィン・コスナーの映画という感じ。ケヴィン・コスナーはやりたかったんだろうなあ、この役を。
こちらも「史実に忠実」が謳い文句で、同じくOKコラルの決闘の後にもう一度、ワイアット・アープ(ケヴィン・コスナー)とドグ・ホリディ(デニス・クエイド)はカウボーイズ一味を相手にワイアットの弟の弔い合戦をやっています。
デニス・クエイドのドグ・ホリディは、ヴァル・キルマーより更に線が細い、というより病的。事実、結核病みだったから、リアルと言えばリアルなのかも(自分の頭の中にある「
3時間11分の大作になっているのは、ワイアット・アープの生涯を通しで描いているためで、若い頃に身重の妻を病気で喪って酒浸りの日々を送り、馬泥棒で留置所に入れられたりもしたのだなあと(よくぞ立ち直った)。但し、決闘に至るまでがあまりに長く(これはある種「伝記映画」か?)、ケヴィン・コスナーの熱演(?)にもかかわらず(コスナーはこの作品で「ゴールデン・ラズベリー賞」の最低主演男優賞を受賞している)冗長な感は否めませんでした(この人が製作に関わった作品は、長尺になる傾向がある。カットするのが惜しい?)。
「トゥームストーン」●原題:TOMBSTONE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・P・コスマトス●製作:ジェームズ・ジャックス/ショーン・ダニエル/ボブ・ミシオロウスキ●脚本:ケヴィン・ジャール●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:ブルース・ブロートン●時間:130分●出演:カート・ラッセル/ヴァル・キルマー/サム・エリオット/ビル・パクストン/ダナ・デラニー/ジョアナ・パクラ/パワーズ・ブース/マイケル・ビーン/チャールトン・ヘストン/ジェイソン・プリーストリー/マイケル・ルーカー/ビリー・ゼーン/ロバート・ミッチャム●日本公開:1994/05●配給:東宝東和(評価:★★★★)
「ワイアット・アープ」●原題:WYATT EARP●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:ローレンス・カスダン●製作:ケヴィン・コスナー/ ジム・ウィルソン/ローレンス・カスダン●脚本: ローレンス・カスダン/ダン・ゴードン●撮影:オーウェン・ロイズマン●音楽:楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード●時間:191分●出演:ケヴィン・コスナー/デニス・クエイド/ジーン・ハックマン/イザベラ・ロッセリーニ/マイケル・マドセン/デヴィッド・アンドリュース/リンデン・アシュビー/トム・サイズモア/ビル・プルマン/マーク・ハーモン/ジェフ・フェイヒー/アダム・ボールドウィン/アナベス・ギッシュ/メア・ウィニンガム/ジョアンナ・ゴーイング/キャサリン・オハラ/ジョベス・ウィリアムズ/アリソン・エリオット/ベティ・バックリー/ジェームズ・カヴィーゼル/ランドル・メル/レックス・リン/ルイス・スミス/トッド・アレン●日本公開:1994/07●配給:ワーナー・ブラザース映画(評価:★★★)




農民が地主の横暴に苦し
められた19世紀末のアイルランド、農夫ジョセフ(トム・クルーズ)の父も、厳しい地代の取立ての混乱で事故死する。更に地主の配下に家を焼かれ、怒ったジョセフは地主を射殺しようと地主邸に向かうが失敗、銃の暴発のため負傷し、復
讐相手の邸で介抱を受けるという間抜けな結果となる。そこには、放火の張本人で地主令嬢と結婚を図るスティーブン(トーマス・ギブソン)がいて、ジョセフは彼を襲うも再度失敗し、彼と決闘させられることに。そこへ、実はスティーブンのお高くとまった性格が嫌いで、堅苦しい生活を捨てアメリカ行きを望む地主令嬢のシャノン(ニコール・キッドマン)が現れ、ジョセフを攫うように連れ去り、二人のアメリカ行きの旅が始まる―。
アイルランド系移民の苦労を描いたロン・ハワード監督の'92年作品で、トム・クルーズとニコール・キッドマンが仲良かった頃、と言うか、結婚したての頃の作品ですが、映画の中に出てくる「オクラホマ・ランドラッシュ」というのが印象深かったです。
1889年4月22日の正午を境にオクラホマへの白人の入植が認められた。同年同月日には15ドルの入植手続き料を支払った人々がオクラホマとの境界に集まり、正午を告げる号砲が鳴ると一斉にオクラホマへと乗り込んでいった。彼らは一人当たり160エーカー(65ヘクタール)の土地を手に入れることができた――これは、新大陸のフロンティア時代の入植者に土地を無料で配るというもので、移民たちが白線に並んで「用意ドン!」で駆けっこして、ここからここまでは自分の土地だと主張した範囲の土地が与えられるというスゴイものなのですが(当然、そこで醜い争いも生じる)、お嬢さんだが気が強いシャノンと、自分の土地を得るにはこの方法しかないと考えるジョセフは、このレースに参加する―。
ロン・ハワードにはアイルランド人の血が流れていて、祖先にはこのオクラホマのランド・ラッシュに実際に参加した人もいたとのことで、随分前からこの映画の構想は練っていたそうです。ニコール・キッドマンをヒロインに想定していたところに、トム・クルーズが出演の名乗りを上げたそうですが、ロン・ハワードは当時二人が交際していることを知らなかったそうです。因みに、トム・クルーズ自身にもアイルランド人の血が流れています。
2人ともいい演技をしています。特に、上流意識を持ち、気位が高いながらも、ボディガード代わりに連れてきたトム・クルーズに内心では惹かれていくニコール・キッドマンの演技がいい(トム・クルーズはこの映画の随所で、状況の急な変化に振り回される、三枚目的な味を出している)。
移民たちが駆けっこして奪い合っている土地は、元々は北米原住民のものであるはずという批判的な見方も出来ますが、この映画が日本でも本国でもあまりヒットしなかったことを思うと、もう少し注目されても良かったのでないかと。ロン・ハワードは両親とも俳優だったので、子役の頃から多くのテレビドラマや映画に出演していましたが(「

一方のトム・クルーズは、それ以前に「トップガン」('86年)で一躍世界的なスターになっていたわけで、日本でもこの映画は大ヒットしました。まあ、米海軍が協力を惜しまない "USネイビィのリクルート戦略"の一環のような映画でした。「
ヴァル・キルマー、メグ・ライアン、ティム・ロビンスら若手俳優の出世作としても知られ、「ER 緊急救命室」の"グリーン先生"ことアンソニー・エドワーズがトム・クルーズの同僚パイロット役で出てましたが、出ていた記憶が薄いのはまだ髪の毛が濃かったせいでしょうか。ともかく、トム・クルーズ人気を一気に高めた作品であって、その分だけ相対的に他の俳優の影が薄い? 後になって、あの人も出ていた、この人も出ていたと言われる映画です(当時まだ皆さほど名が知れてなかったということもあるが)。
トム・クルーズの当時の人気はすさまじく、その勢いで「トップガン」と同年にマーティン・スコセッシ監督の「ハスラー2」('86年)に出演、翌々年にはロジャー・ドナルドソン監督の「カクテル」('88年)、バリー・レヴィンソン監督の「
ューマンに初のアカデミー主演男優賞をもたらし、ダスティン・ホフマンと共演した「レインマン」は第61回アカデミー賞と第46回ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)、さらに第39回ベルリン国際映画祭においてそれぞれ作品賞を受賞しました。一方、トム・クルーズのスマイルと、フレアバーテンディングによるカクテル作りの派手なパフォーマンスでヒットを博した「カクテル」は、(一応"原作"はあるようだが)完全なトム・クルーズ・ファンのためのアイドル映画でした。これ、ビデオパーティで観た(90-04-01)のですが(自分で選んではいない)、当時の日本のバブリーな雰囲気にマッチしていた面もあったかも。

ケリー・マクギリスは1982年に映画デビューしていますが、彼女を一躍有名にしたのは、ハリソン・フォードと共演し、アーミッシュの女性を演じた「刑事ジョン・ブック 目撃者」('85年)でしょう(これも知人宅でのビデオパーティで観た(89-05-03))。ハリソン・フォード演じる警察の不正を知ったために警察に追われること
になった刑事が主人公で、警察を舞台にした犯罪サスペンスかと思ったら、そのジョン・ブック刑事が匿われたアーミッシュの村の暮らしぶり(と言うより、アーミッシュの人々の考え方)が描かれていて、ある種カルチャーショック映画のようになっていました。ハリソン・フォードはアカデミー主演男優賞にノミネートされましたが、来日した時に、今まで出演した中で一番印象に残っている作品として、この「刑事ジョン・ブック 目撃者」を挙げていました。この作品でのハリソン・フォードの演技の延長上に、後の「
ました。女性がアレクサンドル・ゴドゥノフ演じる許嫁候補(?)と仮に結婚したとしても、ずっとジョン・ブックのことを思い続けるのでしょう(「シェーン」にも同じことが言えるが、旦那または許
嫁は"立場ない"なあ)。それにしてもケリー・マクギリス、最初の主演作がハリソン・フォードの相手役で、次がトム・クルーズの相手役であったわけで、当時の圧倒的な美貌のせいもあってか、キャリアの最初の方がとりわけ華々しかったです。
(●2022年にジョセフ・コジンスキー監督による「トップガン マーヴェリック」('22年/米)が公開され
た。「トップガン」から36年ぶりの続編で、トム・クルーズが前回同様マーヴェリック役を演じ、米海軍パイロットのエリート養成学校、通称"トップガン"に教官として戻ってくることになるも、結局、自らチームを率いて敵地へウラン濃縮施設撃破のために飛ぶことになるというもの。トム・クルーズは60歳で頑張っているなあという感じで、映画もヒットしているようだ。日本でも世代を問わず絶賛する声が多い。ただ、前作と異なり、映画評論家までが褒めていたりするのには違和感を感じる。俳優のミッキー・ロークが、トム・クルーズが「トップガン マーヴェリック」で米国
で興行収入1位になったことについてどう思うかとの質問に、「あいつは35年間あんな同じ役を演じてるんだ。尊敬に値しないね」と言っており、そちらの方がまともなマトモな見方とも言える。ヒロイン役はジェニファー・コネリー(51歳)。ケリー・マクギリスは、自分のところには出演オファーが無かったと言っている(笑)。気になったのはストーリーで、教官が部下を救い、今度は部下が教官を救うという話は美しいが、敵地に不時着して、"たまたま近くあった"敵の戦闘機を強奪して帰還するというのはあまりに話が出来過ぎているように思った。かつて、クリント・イーストウッドが監督・主演した「ファイヤーフォックス」('82年)で、イーストウ

ッド演じる元米空軍パイロットがNATOの秘密ミッションでソ連に潜入し、最新鋭戦闘機「MiG-31 ファイヤーフォックス」を盗み出すという映画があったが、あれは最初から周到な計画のもとに敵地に潜入しているわけであって、しかも、
当時の〈東西冷戦〉状況を背景としているとはいえ戦闘機自体はパイロットの意志を感知してオートマチックに敵を攻撃する機能を搭載しているといった半ばSF仕立てでもあった(この機能は実際に研究されているが、まだ実現していない)。苦心惨憺の末に敵戦闘機に辿り着いたイーストウッドとの比較でみると、トム・クルーズの、不時着した付近にたまたま敵の戦闘機があったというのは、あまりにご都合主義的な話だったように思う。
「トップガン マーヴェリック」には、トム・クルーズが前作と同じ"マーヴェリック"役で出ているほかに、ヴァル・キルマーが前作と同じ"アイスマン"役で出ていて、個人的には「
「遥かなる大地へ」●原題:FAR AND AWAY●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:ブライアン・グレイザー/ロン・ハワード●脚本:ボブ・ドルマン●撮影:ミカエル・サロモン●音楽:ジョン・ウィリアムズ●時間:140分●出演:トム・クルーズ/ニコール・キッドマン/トーマス・ギブソン/バーバラ・バブコック/シリル・キューザック/ロバート・プロスキー/コルム・ミーニー/アイリーン・ポロック/ミシェル・ジョンソン/ダグラス・ジリソン/ウェイン・グレイス/バリー・マクガヴァン●日本公開:1992/07●配給:ユニヴァーサル映画=UIP(評価:★★★☆)
「トップガン」●原題:TOP GUN●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ドン・シンプソン/ジェリー・ブラッカイマー●脚本:ジム・キャッシュ/ジャック・エップス・Jr●撮影:ジェフリー・キンボール●音楽:ハロルド・ファルターメイヤー/ジョルジオ・モロダー●時間:110分●出演:トム・クルーズ/ケリー・マクギリス/ヴァル・キルマー/アンソニー・エドワーズ/トム・スケリット/マイケル・ アイアンサイド/ジョン・ストックウェル/リック・ロソビ
「カクテル」●原題:COCKTALEN●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ロジャー・ドナルドソン●製作:テッド・フィールド/ロバート・W・コート●脚本:ヘイウッド・グールド●撮影:ディーン・セムラー●音楽:ピーター・ロビンソン(主題歌:ザ・ビーチ・ボーイズ「ココモ」)●原作:ヘイウッド・グールド●時間:104分●出演:トム・クルーズ/ブライアン・ブラウン/エリザベス・シュー/ケリー・リンチ●日本公開:1989/03●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★)

「刑事ジョン・ブック 目撃者」●原題:WITNESS●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・ウィアー●製作:エドワード・S・フェルドマン●脚本:ウィリアム・ケリー/アール・W・ウォレス●撮影:ジョン・シール●音楽:モーリス・ジャール●時間:113分●出演:ハリソン・フォード/ケリー・マクギリス/ルーカス・ハース/ジョセフ・ソマー/ダニー・グローヴァー/ヤン・ルーベス/アレクサンドル・ゴドゥノフ/パティ・ルポーン/ブレント・ジェニングス/アンガス・マッキネス/フレデリック・ロルフ/ヴィゴ・モーテンセン●日本公開:1985/06●配給:UIP(評価:★★★☆)
「トップガン マーヴェリック」●原題:TOP GUN: MAVERICK●制作年:2022年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ
・コシンスキー●製作:ジェリー・ブラッカイマー/トム・クルーズ/クリストファー・マッカリ
ー/デヴィッド・エリソン●脚本:アーレン・クルーガー/エリック・ウォーレン・シンガー/クリストファー・マッカリー●撮影:クラウディオ・ミランダ●音楽:ハロルド・フォルターメイヤー/レディー・ガガ/ハンス・ジマー●時間:131分●出演:トム・クルーズ/マイルズ・テラー/ジェニファー・コネリー/ジョン・ハム/グレン・パウエル/ルイス・プルマン/エド・ハリス/ヴァル・キルマー●日本公開:2022/05●配給:東和ピクチャーズ●最初に観た場所:TOHOシネマズ上野(スクリーン2)(22-07-12)(評価:★★☆)




二子東急 1957年9月30日 開館(「二子玉川園」(1985年3月閉園)そば) 1991(平成3)年1月15日閉館 






1926年に発表されたアガサ・クリスティの長編推理小説で(原題" The Murder of Roger Ackroyd")、クリスティの6作目の長編で、エルキュール・ポアロ・シリーズでは3作目ですが、シリーズの中でも傑作とされており、個人的にもそう思います。
これ、映像化に際しては、原作がある種の叙述トリックであるため、工夫が必要にあります。デビッド・スーシェ版「名探偵ポワロ」の第46話(第6シーズン第5話)で2000年にテレビドラマ化されており(製作は1999年。99分の長尺版)、その時もやはり少しアレンジされていました、ただし、トリックそのものは概ね生かされており、まずまずの出来ではなかったかと思います。
因みに、ドラマでは、ポワロが廃業後、隠居したキングス・アボットの村で野菜園作りなどしていた折に遭遇する事件という設定になっており(ただし、ロンドンのホワイトヘヴン・マンションはまだキープし続けて
いる)、本ドラマシリーズ中期の後半といったことでそうした設定になっているのでしょう(原作は、ポワロの長編としては『ゴルフ場殺人事件』の次に書かれた3作目に当たるのだが)。したがって、ジャップ警部が引退したポワロと偶然にも再会を果たし、快哉を叫ぶというシーンもあったりします(因みに、ジャップ警部の本ドラマシリーズ登場回数は、全70話中40回と、ヘイスティングスの43回と僅か3回しか差がない。最初はポワロのことを煙たがっていたジャップ警部だが、これだけポワロに事件を解決してもらえれば、確かに再会を喜び合う関係になってもおかしくない)。
「名探偵ポワロ(第46話)/アクロイド殺人事件」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON6:THE MURDER OF ROGER ACKROYD●制作年:1999年●制作国:イギリス●本国放映:2000/01●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:クライブ・エクストン●時間:99分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ主任警部)/オリヴァー・フォード・デヴィース(シェパード医師)/マルコム・テリス(ロジャー・アクロイド)/セリーナ・キャデル(キャロライン・シェパード)/デイジー・ボウモント(アーシュラ・ボーン)/フローラ・モントゴメリー(フローラ・アクロイド)/ナイジェル・クック(ジェフリー・レイモンド)/ ジェイミー・バンバー(ラルフ・ペイトン)/ロジャー・フロスト(パーカー)/ヴィヴィアン・ハイルブロン(ヴェラ・アクロイド)/グレガー・トラター(デイビス警部)●日本放映:2000/12/30●放映局:NHK(評価:★★★☆)
【1955年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(松本恵子:訳『アクロイド殺し』)]/1957年文庫化[角川文庫(松本恵子:訳『アクロイド殺人事件』)/1958年再文庫化・1987年改版[新潮文庫(中村能三:訳『アクロイド殺人事件』)/1959年再文庫化・1975年・2004年改版[創元推理文庫(大久保康雄:訳『アクロイド殺害事件』)/1979年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳『アクロイド殺し』)]/1998年再文庫化[偕成社文庫(茅野美ど里:訳『アクロイド殺人事件』)]/1998年再文庫化[集英社文庫(雨沢泰:訳『アクロイド殺人事件―乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10(6)』)]/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(羽田詩津子:訳『アクロイド殺し』)]/2004年再文庫化[嶋中文庫(河野一郎:訳『アクロイド殺害事件』)]/2005年再文庫化[講談社青い鳥文庫(花上かつみ:訳『アクロイド氏殺害事件』)]】




ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミード村にある邸宅ゴシントン・ホールに、往年の大女優マリーナ・グレッグが夫ジェースン・ラッドと共に引っ越して来て、その邸宅で盛大なパーティが開かれるが、その最中に招待客の1人で地元の女性ヘザー・パドコックが変死し、死因はカクテルに入っていた薬物によるものだったことが判明する―。
やがて、何らかの秘密を握るジェースンの秘書エラ・ジーリンスキーが毒殺され、第3の殺人事件も起きますが、ストーリーそのものはシンプル(作品が永く印象に残る1つの要因だと思う)、但し、妊娠中の女性が水疱瘡に感染すると胎児に危険を及ぼすという知識はあった方がいいかも。
ガイ・ハミルトン監督によって映画化された「クリスタル殺人事件」('80年/英)は、ミス・マープル役がアンジェラ・ランズベリー(これが契機となったのか、後にテレビドラマ「ジェシカおばさんの事件簿」('84年~'96年)で"ジェシカおばさん"ことミステリー作家ジェシカ・フレッチャーを演じることに)。マリーナがエリザベス・テーラー(1932年生まれ)、秘書のエラがジェラルディン・チャップリン、夫ジェースンがロック・ハドソンと豪華顔ぶれですが、やや原作とは違っているという
感じも。原作ではそれほど重きを置かれていない映画女優ローラ・ブルースターをキム・ノヴァク(1933年生まれ)が演じることで、マリーナとローラの確執を前面に出しています。ロンドン警視庁のクラドック警部役がエドワード・フォックスだったり、マリーナが出ている映画の中でちらっと出てくる相手役がピアース・ブロスナン(ノンクレジット)だったりと、役者を観る楽しみはありますが、出演料に費用がかかり過ぎたのか舞台はやや地味で(『
・ハミルトン監督の次回作「
導入部では、例のミス・マープルと近所のおばさんや小間使いとの間の世間話なども織り込まれていて、最初はいつもフツーのおばあさんにしか見えないミス・マープルですが、事件が進展していくと一転して鋭い洞察をみせ、相当早くに犯人の目星をつけてしまったみたいで、後は、残った疑問点を整理していくという感じでしょうか(最大の疑問点は犯行動機、これが事件の謎を解くカギになる)。原作と同じようにエンディングで余韻を残していて、この点でも原作に忠実でした。
テレビ版でもこれまで何人かの女優がミス・マープルを演じていますが、BBCが最初にシリーズ化した際にマ―プルを演じたジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)は好きなタイプで、生前のクリスティ本人から「年を経た暁には、ミス・マープルを演じて欲しい」と言われたという逸話があるそうです(この「鏡は横にひび割れて」は、シリーズ全12話の最後の作品で、ジョーン・ヒクソンはこの時85歳くらいかと思われるが、非常にしっかりしている)。
この「鏡は横にひび割れて」には、同じテレビシリーズの「


「クリスタル殺人事件」●原題:The Mirror Crack'd●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:ジョナサン・ヘイルズ/バリー・サンドラー●撮影:クリストファー・チャリス●音楽:ジョン・キャメロン●原作:アガサ・クリスティ「鏡は横にひび割れて」●時間:105分●出演:アンジェラ・ランズベリー/エリザベス・テイラー/ロック・ハドソン/ジェラルディン・チャップリン/トニー・カーティス/エドワード・フォックス/キム・ノヴァク/チャールズ・グレイ/ピーター・ウッドソープ/ナイジェル・ストック/ピアース・ブロスナン(ノンクレジット)●日本公開:1981/07●配給:東宝東和●(評価★★★)
「ミス・マープル(第12話)/鏡は横にひび割れて」●原題:The Mirror Crac'd from Side to Side●制作年:1992年●制作国:イギリス●監督:ノーマン・ストーン●製作:ジョージ・ガラッシオ●脚本:T・R・ボーウェン●撮影:ジョン・ウォーカー●原作:アガサ・クリスティ●時間:日本放映版93分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン(マープル)/クレア・ブルーム(マリーナ・グレッグ)/バリー・ニューマン(ジェイソン・ラッド)/グエン・ワトフォード(ドリー・バントリー)/ジョン・キャッスル(ダーモット・クラドック警部)/コンスタンチン・グレゴリー(アードウィック・フェン)/グリニス・バーバー(ローラ・ブルースター)/エリザベス・ガーヴィー(エラ・ザイリンスキー) /デヴィッド・ホロヴィッチ(スラック警視)/イアン・ブリンブル(レイク巡査部長) ●日本公開:1997/03/19 (テレビ東京)(評価:★★★★) 










'99年にフィリップ・ノイス監督により映画化されましたが、リンカーン・ライム役がデンゼル・ワシントンということで、白人から黒人になったということはともかく、原作のライムの苦悩や気難しさなどが、優等生的なデンゼル・ワシントンが演じることで薄まっている感じがし、アメリア・ドナヒュー(原作ではアメリア・サックス)役の アンジェリーナ・ジョリーも、この映画に関しては演技の評価は高かったようですが、個人的には、ちょっと原作のイメージと違うなあという感じ。
このアンジェリーナ・ジョリーという女優は、演技派と言うより肉体派では?と、実父ジョン・ヴォイトと共演し、役柄の上でも父と娘の関係の役だった「トゥームレイダー」('01年)などでも思ったのですが、「トゥームレイダー」は、世界中で大ヒットしたTVアクション・ゲームの映画版で、タフで女性トレジャー・ハンターが、惑星直列によって強大な力を発揮するという秘宝を巡って、その秘宝を狙う秘密結社と争奪戦を繰り広げるもの(インディ・ジョーンズの女性版?)。ストーリー
も役者の演技もしょぼく、アンジェリーナ・ジョリーのアクロバティックなアクションだけが印象に残った作品(アンジェリーナ・ジョリー自身が、脚本を最初に読んだ時、主人公を「超ミニのホット・パンツをはいたバカ女」と評して脚本家と口論となった)。この作品で彼女は、ゴールデンラズベリー賞の「最低主演女優賞」にノミネートされたりもしていますが、最近では、クリント・イーストウッド監督の「チェンジリング」('08年)でアカデミー主演女優賞にノミネートされたりもしています。
「ボーン・コレクター」●原題:THE BONE COLLECTOR●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:フィリップ・ノイス●製作:マーティン・ブレグマン/マイケル・ブレグマン/ルイス・A・ストローラー●脚本:ジェレミー・アイアコーン/ジェフリー・ディーヴァー●音楽:クレイグ・アームストロング●原作:ジェフリー・ディーヴァー●時間:118分●出演:デンゼル・ワシントン/アンジェリーナ・ジョリー/クィーン・ラティファ/エド・オニール/マイク・マッグローン/リーランド・オーサー/ルイス・ガスマン●日本公開:2000/04●配給:ソニー・ピクチャーズ(評価:★★☆)
「トゥームレイダー」●原題:TOMB RAIDER●制作年:2001年●制作国:アメリカ●監督:サイモン・ウェスト●製作:ローレンス・ゴードン/ロイド・レヴィン/コリン・ウィルソン●脚本:パトリック・マセット/ジョン・ジンマン●撮影:ピーター・メンジース・Jr●音楽:BT●時間:100
ア分●出演:アンジェリーナ・ジョリー/ジョン・ヴォイト/イン・グレン/ダニエル・クレイグ/レスリー・フィリップス/ノア・テイラー/レイチェル・アップルトン/クリス・バリー/ジュリアン・リンド=タット/リチャード・ジョンソン●日本公開:2001/06●配給/東宝東和(評価★★)



