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山崎努が演じる"父"老人が破天荒で人間臭く面白い。死して後に何かを遺した?

『あ、春』.jpg「あ、春」 斎藤。佐藤.jpg 「あ、春」 佐藤。山崎.jpg
あの頃映画 「あ、春」 [DVD]」佐藤浩市/山崎努/斉藤由貴

「あ、春」02.jpg 一流大学を出て証券会社に入社、良家のお嬢様・瑞穂(斉藤由貴)と逆玉結婚して可愛いひとり息子にも恵まれた韮崎紘(佐藤浩市)は、ずっと自分は幼い時に父親と死に別れたという母親の言葉を信じて生きてきた。ところがある日、彼の前に父親だと名乗る男が現れたのである。ほとんど浮浪者としか見えないその男・笹一(山崎努)を、俄かには父親だと信じられない紘。だが、笹一が喋る内容は、何かと紘の記憶と符合する。しかも、実家の母親・公代(富司純子)に相談すると、笹一はど「あ、春」04.jpgうしようもない男で、自分は彼を死んだものと思うようにしていたと言う。笹一が父親だと知った紘は、無碍に彼を追い出すわけにもいかず、同居する妻の母親・郁子(藤村志「あ、春」 8.jpg保)に遠慮しながらも、笹一を家に置くことにした。しかし、笹一は昼間から酒を喰らうわ、幼い息子にちんちろりんを教えるわ、義母の風呂を覗くわで紘に迷惑をかけてばかり。堪忍袋の緒が切れた紘は笹一を追い出すが、数日後、笹一が酔ったサラリーマン(木下ほうか)に暴力を振るわれているのを助けたことから、再び家に連れてきてしまう。図々しい笹一はそれからも悪びれる風もなく、ただでさえ倒産が囁かれる会社が心配でならない紘の気持ちは休まることがない。そんなある日、笹一の振る舞いを見かねた紘の実家の母・公代が来て、紘は笹一との子ではなく、自分が浮気してできた子供だと告白する。その話に身に覚えのある笹一は、あっさりその事実を認めるが、紘の心中は複雑だ。ところが、その途端に笹一が倒れてしまう。医師(塚本晋也)の診断では、末期の肝硬変。笹一は入院生活を強いられ、彼を見舞う紘は、幼い頃に覚えた船乗りの歌を笹一が歌っているのを聞いて、彼が自分の父親にちがいない、と思うのだった。しばらくして、ついに紘の会社が倒産する―。

「ナイスボール」.jpg「あ、春」06.jpg '98年公開の相米慎二(1948-2001/享年53)監督のホームドラマ的作品で、第73回(1999年度)「キネマ旬報ベストテン」第1位、第49回ベルリン国際映画祭「国際批評家連盟賞」受賞作品。原作は村上政彦『ナイスボール』('91年/福武書店)。証券会社勤務のサラリーマン(佐藤浩市)で、良家の娘(斉藤由貴)と結婚し、一人息子をもうけ、義母(藤村志保)と同居する、そんな主人公の家庭に、5歳の時に死別したと母(富司純子)から聞かされていた父(山崎努)が突然の闖入者としてやって来たという話です。

「あ、春」山崎1.jpg この、山崎努が演じる"父"老人がなかなか破天荒で人間臭く面白いです。末期の肝硬変だとわかって入院生活を余儀なくされた彼と佐藤浩市演じる息子が、病院の屋上で船乗りの歌を歌って親子であることを感じるシーンは、美しかったです。結局、母親・郁子(藤村志保)の証言によれば、血は繋がっていないが、5歳まで一緒にいたため幼児記憶がある、つまり「心の父親」であるということでしょう。

「あ、春」山崎2.jpg その「心の父親」笹一が息を引き取り、紘(佐藤浩市)は死に目に会うことは叶いませんでしたが、笹一のお腹に、彼がこっそり温めて孵化したチャボの雛を見つけます(雛の孵化に失敗するというシチュエーションも用意されていたそうだが、それだと、「あ、春」というタイトルにならないのでは)。紘の会社は倒産しますが(1997年11月に自主廃業した山一証券がモデルか)、紘は既に、笹一のように強く生きていける自信を彼から授かったように見えます。

 ラストの笹一の遺体を荼毘に付した紘たちが、彼の遺灰を故郷の海に船に乗って撒くシーンも良かったです。妻・瑞穂(斉藤由貴)、義母・郁子(藤村志保)、母・公代(富司純子)、笹一の愛人(三林京子)の4人の女性が、強風の中、髪を振り乱して散骨している様はなぜか仄々(ほのぼの)とした気持ちにさせられ、ユーモラスでもあります。何となく亡くなった笹一が、紘に限らず後の人々に何かを遺したことが感じられるラストでした。

「あ、春」05.jpg「あ、春」03.jpg「あ、春」富士d.jpg「あ、春」●制作年:1998年●監督:相米慎二●製作:中川滋弘●脚本:中島丈博●撮影:長沼六男●音楽:大友良英●原作:村上政彦「ナイスボール」●時間:100分●出演:佐藤浩市/山崎努/斉藤由貴/藤村志保/富司純子/三浦友和/三林京子/岡田慶太/村田雄浩/原知佐子/笑福亭鶴瓶/塚本晋也/河合美智子/寺田農/木下ほうか/掛田誠/余貴美子●公開:1998/12●配給:松竹●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-02-12)(評価:★★★★)
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「寒流」が原作。原作とも映画とも異なる結末はイマイチだったが、俳優を見ていて愉しめた。

「愛の断層」1975.jpg「松本清張シリーズ・事故」dvd2.jpg 「愛の断層」11.jpg
土曜ドラマ 松本清張シリーズ 上巻 DVD 全5枚」「愛の断層」平幹二朗/香山美子/中谷一郎

「愛の断層」12.jpg 東陽銀行の支店長・沖野一郎(「愛の断層」13.jpg平幹二朗)は融資先の料亭の女将・前川奈美(香山美子)と深い仲になっていた。だが学生時代からの友人で常務の桑山英己(中谷一郎)は、二人の関係を訝って探[愛の断層_s2.jpg偵の伊牟田(殿山泰司)を使って二人の仲を突き止める。そして、自分の権限を使って沖野から出されていた奈美の店の支店出店のための資金融資の稟議を却下してしまう。その上で、自分と沖野と奈美の三人での温泉旅行を設定し、途中で沖野に帰るよう命じて、自分は奈美を奪ってしまう。失意の沖野は銀行を辞めようとするが、そんなある日、探偵の伊牟田から桑山常務と奈美の密会写真を提供される―。

黒い画集 00_.jpg黒い画集2.png黒い画集3.png黒い画集 第二話 寒流.jpg『黒い画集』 .jpg '75(昭和50)年放送された、NHK「土曜ドラマ」松本清張シリーズ版('75年-'78年)の第3作で、原作は、'59(昭和34)年4月から翌年7月にかけて光文社から刊行された『黒い画集』第1巻から第3巻の中の1つであり、鈴木英夫監督の「黒い画集 第二話 寒流」('61年/東宝)として、池部良(沖野一郎)、新珠三千代(前川奈美)、平田昭彦(桑山常務)の出演で映画化されてます。

 一方、ドラマ化作品は以下の通り。
 •1960年「寒流 (日本テレビ)」山根寿子・細川俊夫・安部徹
 •1962年「寒流 (NHK)」原保美・春日俊二・環三千世
 •1975年「松本清張シリーズ・愛の断層 (NHK)」平幹二朗・香山美子・中谷一郎
 •1983年「松本清張の寒流 (テレビ朝日)」:露口茂・山口崇・近石真介
 •2013年「松本清張没後20年スペシャル・寒流 (TBS)」椎名桔平・芦名星・石黒賢
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2013年・TBS月曜ゴールデン「松本清張没後20年スペシャル・寒流」椎名桔平・芦名星(1983-2020/36歳没)

 このNHK版だけ「愛の断層」というタイトルなので、原作が「寒流」であることを見過ごしている人もいるかもれないと思われます。原作は、銀行員である主人公が踏んだり蹴ったりの目に遭いますが、最後に策を凝らして逆転すると言うか常務を罠に嵌める復讐劇になっています。

「黒い画集 第二話 寒流(黒い画集 寒流)」(1961/11 東宝) ★★★☆ 出演:池部良/新珠三千代
黒い画集 寒流01.jpg黒い画集 寒流03.jpg 一方、鈴木英夫監督の映画の方は、原作同様、主人公(池部良)が仕事上のきっかけで美人女将(新珠三千代)と知り合い、いい関係になったまではともかく、そこに主人公の上司である好色の常務(平田昭彦)が割り込んできて、主人公の仕事人生をも狂わせてしまうというものですが、主人公は原作と異なり、踏んだり蹴ったりの散々な目に遭うだけ遭って、反撃策を講じても相手に裏をかかれ、ただ敗北者で終わってしまう結末になっています(鈴木英夫監督は、欲に駆られて自滅する人間や犯罪者を描いた和製フィルム・ノワール的作品を得意とした)。

「愛の断層」14.jpg そして、このNHKの中島丈博(「無宿 やどなし」('74年)、「祭りの準備」('75年)、「女教師」('77年))脚本版は、どちらでもない結末でした。殿山泰司演じる探偵の伊牟田が、平幹二朗演じる沖野の前に現れる以前に、中谷一郎演じる桑山常務の依頼を受けて、香山美子演じる奈美と沖野の関係を密偵したことがあったというのはドラマのオリジナルです。桑山常務と奈美の密会写真を沖野に渡すのは原作と同じですが(ただし、桑山常務の対抗勢力である"副頭取派"に渡すよりも、写真をどうするか沖野に判断して欲しかったとの注釈がつく)、沖野が奈美といる旅館へ桑山常務を呼び出したり、その際に奈美が問題の写真をこっそり奪ったりと、この辺りはドラマのオリジナルで、どんどん原作と違った方向に行くなあという感じがしました。

「愛の断層」18.jpg.png.jpg 沖野が銀行を辞めるというのもドラマのオリジナルですが、原作とも映画とも決定的に異なるのは、沖野が奈美のところへ出向いて写真もネガも燃やして欲しいと頼むところで、奈美はそれを拒絶し、副頭取に送ると言い放ったために二人は揉み合いに。最後は転落事故でしたが、「無理心中」にされているということは、事故&自殺というこ「愛の断層」16.jpgとなのでしょう。それはともかく、どうして最後に沖野が桑山を守るような行動をとったのが謎で、ラストシーンで、むっつり顔の沖野の遺影が桑山にニヤッと微笑みかけるといったシュールなオチから逆算すると、沖野と桑山は最後まで友情で結ばれていたことになります。

「愛の断層」19.jpg しかしながら、最初に三人で旅館に行った際に、桑山が沖野に自分の背中を流せと言ってマウントしたのに対し、後に沖野が桑山を旅館に呼び出したときは沖野が桑山に自分の肩を揉めと言って(どちらもドラマのオリジナル)、権力の見せつけ行為とその仕返しという関係になっていただけに、その底流に「友情」があったとはちょっと理解しがたい気もします(友情と言うよりホモセクシャルな関係ととる人もいるようだ)。

黒い画集 寒流 ド.jpg 一方、奈美の自殺は沖野が死んだショックからのものと考えられ、結局、奈美は沖野を好きだったのだろなあ。原作でも映画でも、奈美は最後は沖野に「はっきり言って、自分より惨めに見える人、好きになれないわ」と絶縁宣言し、そのファム・ファタールぶりを露わにするのですが(新珠三千代が役に嵌っていた)、ドラマの香山美子演じる奈美は、桑山に抱かれた時こそ騙し討ちに遭った気持ちだったけれども、ホントは最後まで沖野のことを好きだったのではないかと考えます。

「愛の断層」香山.jpg
 同じ「松本清張シリーズ」で、この作品の翌週に放送された「事故」もそうでしたが、この頃のこのシリーズ、脚本家の意図かどうかは分かりませんが、メロドラマ的改変が多いように思います。「愛の断層」の場合、原作「寒流」やその映画化作品と異なり、総会屋(映画では志村喬が演じた)ややくざ(映画では丹波哲郎が演じた)も出てこず、「愛の断層」17.jpg.pngタイトルからしてそうですが、主人公の男女の恋愛心理に重点を置いている印象。原作から改変された結末は個人的にはイマイチでしたが、平幹二朗、中谷一郎、殿山泰司といった俳優たちの手堅い演技と、奈美を演じた香山美子(当時31歳)の美貌が堪能できるドラマでした。香山美子はこの2年後に「江戸川乱歩の陰獣」('77年/松竹)で「愛の断層」清張.jpg初ヌードを披露することになりますが(本作にでも情事の場面がある)、一方で、時代劇「銭形平次」('70年‐'84年/フジテレビ)で平次の妻・お静役を長く務めました。因みに、この「松本清張シリーズ」の第1次シリーズ12作のすべてに原作者・松本清張がカメオ出演しています。

松本清張(タクシー運転手)

松本清張シリーズ・愛の断層  20.jpg「愛の断層」t.jpg「松本清張シリーズ・愛の断層」●演出:岡田勝●脚本:中島丈博●音楽:眞鍋理一郎●原作:松本清張「寒流」●出演:平幹二朗/香山美子/中谷一郎/殿山泰司/高田敏江/森幹太/鈴木ヒロミツ/山崎亮一/松村彦次郎/鶴賀二郎/望月太郎/テレサ野田桂木梨江/石黒正男/戸塚孝/小林テル/本田悠美子/風戸拳/西川洋子/松本清張(クレジット無し)●放送日:1975/11/01●放送局:NHK(評価:★★★)


●「土曜ドラマ(第1次・第2次)」松本清張シリーズ(全15話)放映ラインアップ
        放送日   脚本/演出       出 演 (《第1次》は松本清張本人がすべてに出演)
《第1次》
 1975年
  遠い接近  10月18日  大野靖子/和田勉   小林桂樹、笠智衆、吉行和子、荒井注
  中央流沙  10月25日  石松愛弘/和田勉   川崎敬三、佐藤慶、内藤武敏、中村玉緒
  愛の断層   11月1日    中島丈博/岡田勝   平幹二朗、香山美子、中谷一郎、殿山泰司
  事故    11月8日   田中陽造/松本美彦   田村高広、山本陽子、野際陽子、二瓶康一(火野正平)
 1977年
  棲息分布   10月15日  石堂淑朗/和田勉   滝沢修、佐藤慶、津島恵子、中山麻里
  最後の自画像  10月22日 向田邦子/和田勉   いしだあゆみ、加藤治子、内藤武敏、乙羽信子
  依頼人    10月29日  山内久/高野喜世志   太地喜和子、小澤栄太郎、二木てるみ、沖雅也
  たずね人   11月5日   早坂暁/重光亨彦   林隆三、鰐淵晴子、小山明子、戸浦六宏
 1978年 
  天城越え    10月7日   大野靖子/和田勉   大谷直子、佐藤慶、鶴見辰吾、中村翫右衛門
  虚飾の花園   10月14日  高橋玄洋/樋口昌弘    岡田嘉子、奈良岡朋子、内藤武敏、河原崎建三
   一年半待て   10月21日  杉山義法/高野喜世志   香山美子、早川保、南風洋子、藤岡弘
  火の記憶    10月28日  大野靖子/和田勉    高岡健二、秋吉久美子、村野武憲、山内明
《第2次》
  天才画の女   1980年4月5日・12日・17日  高橋康夫/高橋玄洋  竹下景子、佐藤慶、 鹿賀丈史、篠ひろ子
  けものみち   1982年1月9日・16日・23日  和田勉/ジェームス三木 名取裕子、山崎努、 西村晃、伊東四朗
  波の塔  1983年10月15日・22日・29日  和田勉/ジェームス三木 佐久間良子、山崎努、 鹿賀丈史、和由布子
土曜ドラマ 松本清張シリーズ3.jpg

「遠い接近」('75年)/「中央流沙」('75年)/「最後の自画像」('77年)/「天城越え」('78年)/「火の記憶」('78年)/「けものみち」('82年)

●松本清張カメオ出演集《第1次・松本清張シリーズ》(1975-1978)
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土曜ドラマ 松本清張シリーズ 上巻 DVD 全5枚
土曜ドラマ 松本清張シリーズ1.jpg「遠い接近」(1975/10/18放送)
 昭和23年(1948)、三重県・御在所山の崖から男が突き落とされて死亡。事件の裏には、戦争の傷跡が深く刻まれていた。昭和17年(1942)、自営の印刷色版画工・山尾に召集令状が届く。入隊後は古参兵にいじめられ、朝鮮の前線部隊へ配属、復員すると家族は広島の原爆で亡くなっていた。山尾はふとしたことから自分の召集のカラクリを知り、人生を奪った相手に復讐の炎を燃やす。

「愛の断層」(1975/11/1放送)(原作「寒流」)
 沖野一郎は銀行支店長に就任早々、前支店長から料亭の女将・前川奈美を紹介される。やがて二人は深い仲に。奈美から八千万円の融資を頼まれた沖野は、学生時代からの友人で上役の桑山常務に了解を求めるが、桑山は奈美の体と引き替えという条件を出す。沖野は理不尽な条件に内心憤りつつも逆らえない。若くして支店長になれたのも桑山あってこそ。ある日、沖野は見知らぬ男から桑山と奈美の密会写真を提供され...。

「事故」(1975/11/8放送)
 興信所の調査員・浜口久子は、会社重役夫人・山西三千代の浮気調査を担当する。三千代の情事の確証を得るため、知り合いのトラック運転手に頼んで、夫の留守に山西邸の玄関に突っ込むという事故を起こさせる。現場に待機していた久子は、慌てて2階から下りてきた三千代と愛人を見て衝撃を受ける。なんと三千代の密会相手は、久子が勤める興信所の所長だった...。

「棲息分布」(1977/10/15放送)
 井戸原俊敏は戦時中に軍の物資を横領し、敗戦のどさくさに闇屋から巨財を築いた男。あくどく冷徹に会社を乗っ取り、利権を求めて政界の有力代議士にも近づこうとする。井戸原の過去を握る根本常務は元憲兵で、それをネタに井戸原に一泡吹かせ、金を引き出そうとたくらむ。さらに井戸原の妻や愛人たち、井戸原夫婦の情事をかぎつけたゴシップ記者などもからんで...。

「最後の自画像」(1977/10/22放送)(原作「駅路」)
 定年を迎え、第二の人生を前に小旅行に出かけた小塚貞一。一か月たっても戻らないため、妻の百合子は安否を気遣い捜索願いを出す。二人の刑事が捜索に当たるが、誰に聞いても小塚は謹厳実直で、社内の信頼も厚く、浮いた噂ひとつない。趣味といえば写真と旅行だけ。ところが、その小塚が旅に出る前、銀行から500万円を引き出していたことが判明。さらに、一人の若い女性の存在が浮上して...。

土曜ドラマ 松本清張シリーズ 下巻 DVD 全5枚
土曜ドラマ 松本清張シリーズ2.jpg「依頼人」(1977/10/29放送)(原作は小説としては存在せず)
 美容院を営む佐伯伊佐子は、ある会社会長の愛人で、店も会長に買ってもらったものだ。その会長が息を引き取ると、顧問弁護士の沼田が伊佐子に接触してくる。遺族の意向で伊佐子の出方を探るのが目的だったが、沼田は土地問題で悩んでいた伊佐子の弱みにつけ込み、自分の愛人にしようと画策し始める。追い詰められた伊佐子を、若手弁護士・河村亮平が助けようとするが、法曹界の壁が立ちはだかる。

「たずね人」(1977/11/5放送)(原作は小説としては存在せず)
 3年ぶりに帰国したカメラマンの綾村省三は、オランダで出会ったルキアという女性を連れていた。彼女は日本軍人の父とインドネシア人の母との間に生まれた子どもで、終戦直後に別れた父親を捜しに来日しただった。綾村とルキアはテレビの人捜し番組に出演するが、手がかりは「サイトウ少尉」という名前と、父が母に教えた「砂山」という歌だけだった。

「虚飾の花園」(1978/10/14放送)(原作「獄衣のない女囚」)
 リバーウエストマンションの10階に住むのは、独身女性ばかり。住人の一人で社長秘書の服部和子は、屋上で女性の死体を発見する。死んだのはマンションの住人ではない山本菊江で、他殺と断定。担当刑事らは、動機や犯行時間から容疑者を3人に絞る。元外交官夫人の栗宮多加子、洋裁学校教師の村瀬妙子、そして、モデルの南恭子。捜査が進むにつれて、中年を過ぎた独身女性たちの隠された一面が浮上してきて...。

「一年半待て」(1978/10/21放送)
 郊外の交番に、「夫を殺しました」という子連れの女が自首してきた。女は保険外交員の須村さと子。二人目の子どもができたころに夫の会社が倒産。働きに出たさと子の稼ぎが増えるにつれて、無職の夫は酒と賭博と女に明け暮れるように...。ある日、さと子は、酒を飲んで子どもに乱暴する夫を殺してしまう。世間は彼女に同情して嘆願書も集まり、執行猶予つきで刑は軽くなりますが、再出発を前に新しい事実が浮かび上がる。

「火の記憶」(1978/10/28放送)
 高村泰雄は父の顔を知らず、母もすでにこの世にはいない。記憶を閉ざしていた泰雄は、母の十七回忌に見つけた一枚のはがきを手がかりに、恋人とともに過去を探す旅に出る。母と暮らした幼い日々を思い出すと、なぜか"火の記憶"がよみがえり、母のそばには父ではない一人の男が寄り添っていた。封印していた過去の扉を開き、事実が明らかになるにつれて、泰雄の心は次第に解き放たれていく。


池部良/新珠三千代/平田昭彦
黒い画集 寒流 title.jpg黒い画集 寒流00.jpg「黒い画集 第二話 寒流(黒い画集 寒流)」(映画)●制作年:1961年●監督:鈴木英夫●製作:三輪礼二●脚本:若尾徳平●撮影:逢沢譲●音楽:斎藤一郎●原作:松本清志「寒流」●時間:96分●出演:池部良(沖野一郎)/荒木道子(沖野淳子)/吉岡恵子(沖野美佐子)/多田道男(沖野明黒い画集 寒流_0.jpg)/新珠三千代(前川奈美)/平田昭彦(桑山英己常務)/小川虎之助(安井銀行頭取)/中村伸郎(小西副頭取)/小栗一也(田島宇都宮支店長)/松本染升(渡辺重役)/宮口精二(伊牟田博助・探偵)/志村喬(福光喜太郎・総会屋)/北川町子(喜太郎の情婦)/丹波哲黒い画集 第二話 寒流12.jpg郎(山本甚造)/田島義文(久保田謙治)/中山豊(榎本正吉)/広瀬正一(鍛冶久一)/梅野公子(女中頭・お時)/池田正二(宇都宮支店次長)/宇野晃司(山崎池袋支店長代理)/西条康彦(探偵社事務員)/堤康久(比良野の板前)/加代キミ子(桑山の情婦A)/飛鳥みさ子(桑山の情婦B)/上村幸之(本店行員A)/浜村純(医師)/西條竜介(組幹部A)/坂本晴哉(桜井忠助)/岡部正(パトカーの警官)/草川直也(本店行員B)/大前亘(宇都宮支店行員A)/由起卓也(比良野の従業員)/山田圭介(銀行重役A)/吉頂寺晃(銀行重役B)/伊藤実(比良野の得意先)/勝本圭一郎/松本光男/加藤茂雄(宇都宮支店行員B)/細川隆一/大川秀子/山本青位●公開:1961/11●配給:東宝(評価:★★★☆)


「●溝口 健二 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2955】 溝口 健二 「雨月物語
「●市川 右太衛門 出演作品」の インデックッスへ(前編) 「●高峰 三枝子 出演作品」の インデックッスへ(後編) 「●加東 大介 出演作品」の インデックッスへ(前編・後編)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ ○あの頃映画 松竹DVDコレクション「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「元禄繚乱」「忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣」))「●中島 丈博 脚本作品」の インデックッスへ(「元禄繚乱」)「●池辺 晋一郎 音楽作品」の インデックッスへ(「元禄繚乱」) 「●赤穂浪士・忠臣蔵」の インデックッスへ

3時間43分の大作だが討ち入りシーン抜き。前半は忠義とは何かを問う論争劇、終盤は女性映画。

元禄忠臣蔵 前後編[VHS].jpg元禄忠臣蔵1941・42.jpg
あの頃映画 松竹DVDコレクション 元禄忠臣藏(前篇・後篇)<2枚組>」河原崎長十郎(大石内蔵助)/高峰三枝子
元禄忠臣蔵 前後編(全2巻セット)[VHS]
元禄忠臣蔵 松の廊下.jpg 浅野内匠頭(五代目嵐芳三郎)は江戸城・松の廊下で吉良上野介(三桝萬豐)に斬りつけたかどにより切腹を命じられる。さらに浅野が藩主を務める赤穂藩はお家取り潰しとなってしまう。赤穂藩では国を守るために戦うか、あるいは主君に殉じて切腹をするか、意見が真っ二つに分かれた。家老の大石内蔵助(四代目河原崎長十郎)は、幕府に城を明け渡すことにする。上野介を討つため、内蔵助は主君の妻である瑶泉院に別れを告げる。その他の赤穂浪士も家族と別れ、続々と大石のもとに集まった。討ち入りを終え吉良の首を討ち取った大石は、泉岳寺にある浅野の墓を訪れる。その後、大石ら浪士たちに切腹の命が下る―。

元禄忠臣蔵 前編・後編 0.jpg 1941年12月に前編が公開され、翌年2月に後篇が公開された溝口健二監督による3時間43分の大型時代劇。劇作家の真山青果(1878-1948)による新歌舞伎派の演目「元禄忠臣蔵」を、原健一郎と依田義賢が共同で脚色し、厳密な時代考証、実物大の松の廊下をはじめとする美術、ワンシーンワンカットの実験的手法を用いた流麗なカメラワークなどによって、それまでの「忠臣蔵もの」とは全く異なる作品に仕上げています。映画はいきなり江戸城内松の廊下で浅野内匠頭(嵐芳三郎)が吉良上野介(三桝萬豐)に斬かかる場面から始まります(まるで御所のようなセットのスケールの大きさ!)。事件後、上野介が沙汰無しで、内匠頭が切腹との御下知を伝える使者に対し、多門伝八郎(小杉勇)が、内匠頭が斬りつけようとした時に、吉良が損得のために脇差に手をかけなかったことを、侍として風上にも置けない人物だと批判しています(これは明らかに創作だろうなあ)。
 
元禄忠臣蔵 前編・後編6.jpg また、内蔵助(河原崎長十郎)を幼馴染みの井関徳兵衛(板東春之助)が訪ね、一緒に籠城に加えてくれと申し出る話があります。内蔵助は思うところがあってその申し出を拒絶し、家臣たちに対し開城を宣言します。その夜、内蔵助は帰宅途中で息子と共に自害した徳兵衛を見つけ、徳兵衛の死に際に、内蔵助はその本心を打ち明けます。

 さらに、上野介の首を取ろうとしない内蔵助に業を煮やし、富森助右衛門(中村翫右衛門)が上野介が徳川家の「御浜御殿」を訪れた際に討とうとするエピソードがあります。助右衛門が能装束(「義経記」の義経の姿)の男を上野介だと思って襲うものの、実はそれは後に六代将軍・家宣となる綱豊(市川右太衛門)で、綱豊は内蔵助の心中を察するよう助右衛門を諭します。そして、また、能舞台へと戻り、義経記の続きを舞います(カッコ良すぎ(笑)。上野介はその能を観る客の側だった。でも、がっちりした綱豊と爺さんの上野介を見間違えるかなあ)。実は、この作品は討ち入りの場面がないので、このシーンが本作の最大の立ち回りシーンになります(歌舞伎「元禄忠臣蔵」でも、この「御浜御殿綱豊卿」の場面は一番の見せ場のようだ)。

元禄忠臣蔵 前編・後編4.jpg 内蔵助は浅野家再興が正式に潰えると、時機到来とばかりに吉良邸に乗り込む準備をして、浅野内匠頭の未亡人・瑶泉院(三浦光子)に別れの挨拶に行きますが、外部に情報が漏れるのを怖れ、瑶泉院に本心を打ち明けられず、彼女の怒りを買ってしまう。密偵に悟られないよう、自分の詠んだ歌と称し、服差包みを瑶泉院に仕えるお喜代(山路ふみ子)に渡して去る。昼間の内蔵助の態度が気に掛かり眠れずにいた瑶泉院が服差包みを開けると中に連判状が―と、この「南部坂雪の別れ」は通常の「忠臣蔵もの」と同じですが、すぐそこに吉良への討ち入り成功の知らせが届き、画面は、討ち入りを果たして、泉岳寺の亡き主君の墓へ報告に向かう内蔵助ら義士一行に切り替わるといった流れです。

「元禄繚乱」('99年/NHK)主演:中村勘九郎
「元禄繚乱」1.jpg「元禄繚乱  99.jpg 討ち入り後、まだ45分くらい映画は続き、内蔵助が義士らが潔く切腹したのを見届けるところまでいきますが('99年のNHKの大河「元禄繚乱」(原作:船橋聖一/脚本:中島丈博)も中村勘九郎(五代目)演じる内蔵助が義士らの切腹を見届けるまでをやっていたなあ)、その間に最も時間を割いているエピソードが、磯貝十郎左衛門(五代目河原崎國太郎)とその許嫁おみの(高峰三枝子)の悲恋物語です。十郎左衛門への想いから吉良邸の情報を十郎左衛門に提供したおみのは、討ち入り後に蟄居を命じられている十郎左衛門に、その気持ち元禄忠臣蔵 前編・後編01.jpgが本心なのか吉良邸の情報が欲しかっただけなのかを確かめるため会おうと、身の回りを世話をする小姓に擬して接近しますが、内蔵助に女だと見抜かれます(高峰三枝子は誰が見ても女性にしか見えないが(笑))。それでも、十郎左衛門の懐におみのの琴の爪が忍ばせてあることを知った彼女は喜び、これから切腹の場に向かおうとする十郎左衛門と最期の面会を果たします(こんなことが可能とは思えないが、ここはお話)。

元禄忠臣蔵 前編・後編10.jpg 討ち入りの場面がなく、セリフも堅苦しくてあまり人気のある作品ではないですが、前半は忠とは何か?義とは何か? 武士とは何か? をとことん問う価値観の「論争劇」的な展開であり、内蔵助が、浅野大学頭を立ててのお家再興願いが叶えば、仇討ちの大義がなくなることに苦悩する場面があったりします。一方、討ち入りシーンが無いまま迎えた終盤は、高峰三枝子演じるおみのにフォーカスした、溝口健二お得意の「女性映画」であったように思いました。

 この「論争劇」の側面と「女性映画」の部分が撮りたくて、溝口はこの映画を撮ったとの話もありますが(そう言えば「山椒大夫」('54年)も終盤は森鷗外の原作にはまったく無い政治劇になっていた)、そうだとすれば、討ち入りシーンは単なるアクションシーンということになるから、割愛してもいいという道理なのでしょうか。そこのところは個人的にはよく分かりませんが、溝口ファンなら一度は観ておきたい作品かと思います。

「忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣」('16年~'17年/NHK)主演:武井咲
忠臣蔵の恋2.jpg忠臣蔵の恋1.jpg また、この磯貝十郎左衛門と女性の悲恋物語は、諸田玲子が『四十八人目の忠臣』('11年/毎日新聞社)として小説に描いており、NHKの「土曜時代劇」枠で「忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣」('16年~'17年・全四十八人目の忠臣.jpg20回)としてドラマ化されています。「おみの」に該当する女性「きよ」は武井咲が演じましたが、「きよ」はこの映画で市川右太衛門が演じた後の6代将軍・徳川家宣の側室になり、7代将軍・徳川家継の生母・月光院となるという話になっています。すごく飛躍した設定だなあと思いますが、月光院の家宣の側室時代の名は「喜世(きよ)」であったとのことで、ただし、浅野家に関わった事実はないようです。『四十八人目の忠臣』では、浅野家と想い人であった礒貝十郎左衛門の仇討として徳川家将軍の生母となった(徳川家を乗っ取った)という、ある種の復讐物語にしたのではないでしょうか。さらに、家宣の寵愛を得たきよは、男児(後の徳川家継)を産んだ褒美として、赤穂浅野家の再興と島流しとなっていた遺児たちの恩赦を願うという話で、つまり"48人目の忠臣"とは「きよ」こそがその人だということになります。小説は2012年(平成24)年度・第1回「歴史時代作家クラブ賞」の「作品賞」を受賞しています。
四十八人目の忠臣 (集英社文庫)
 


「元禄繚乱」991.jpg「元禄繚乱」●脚本:中島丈博●演出:大原誠 ほか●音楽:(オープニング)池辺晋一郎●原作:舟橋聖一『新・忠臣蔵』●出演:中村勘九郎/(以下五十音順)安達祐実/阿部寛/井川比佐志/石坂浩二/柄本明/大竹しのぶ/菅原文太/鈴木保奈美/京マチ子/滝沢秀明/滝田栄/宅麻伸/堤真一/中村梅之助/夏木マリ/萩原健一/東山紀之/松平健/宮沢りえ/村上弘明/吉田栄作(ナレーター)国井雅比古●放映:1999/01~12(全49回)●放送局:NHK

5代目中村勘九郎(大石内蔵助)/東山紀之(浅野内匠頭)/山口崇(大野九郎兵衛)/柄本明(進藤源四郎)・寺田農(奥野将監)
「元禄繚乱」東山ほか.jpg 「元禄繚乱」菅原.jpg菅原文太(肥後国熊本藩藩主・細川越中守綱利(内蔵介らがお預けとなった細川家の当主))
「元禄繚乱」00.jpg

堤真一(高田郡兵衛)・六平直政(奥田孫太夫)・阿部寛(堀部安兵衛)/鈴木保奈美(柳沢保明(吉保)の側室・染子)・篠原涼子(柳沢保明(吉保)の正室・定子)・村上弘明(柳沢保明(吉保))/今井翼(矢頭右衛門七)・宮崎あおい(矢頭右衛門七の妹・さよ)[当時14歳]・久野綾希子(母・矢頭菊)
元禄繚乱003.jpg


「忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣」●脚本:吉田紀子/塩田千種●演出:伊勢田雅也/清水一彦/忠臣蔵の恋0.jpg忠臣蔵の恋4.jpg黛りんたろう●音楽:吉俣良●原作:諸田玲子『四十八人目の忠臣』●出演:武井咲/福士誠治/中尾明慶/今井翼/田中麗奈/佐藤隆太/石丸幹二/大東駿介/皆川猿時/新納慎也/陽月華/辻萬長/笹野高史/風吹ジュン/平田満/伊武雅刀/三田佳子(ナレーター)石澤典夫●放映:2016/09~217/02(全20回)●放送局:NHK
忠臣蔵の恋四十八人目の忠臣.jpg     
   
市川莚司(加東大介)/市川右太衛門/中村翫右衛門(右)/高峰三枝子
元禄忠臣蔵 前編・後編 12.jpg「元禄忠臣蔵 前編・後編」●英題:The 47 Ronin●制作年:1941・42年●監督:溝口健二●製作総指揮・総監督:白井信太郎●脚本:原健一郎/依田義賢●撮影:杉山公平●音楽:深井史郎●原作:真山青果●時間:(前編)111分/(後編)112分●出演:(前進座)四代目河原崎長十郎/三代目中村翫右衛門/四代目中村鶴蔵/五代目河原崎國太郎/坂東調右衛門/助高屋助蔵/六代目瀬川菊之丞/市川笑太郎/橘小三郎/市川莚司(加東大介)/市川菊之助/中村進五郎/山崎進蔵/市川扇升/市川章次/市川岩五郎/坂東銀次郎/生島喜五郎/山本貞子/(松竹京都)海江田譲二/坪井哲/風間宗六/和田宗右衛門/竹内容一/征木欣之助/梅田菊蔵/大川六郎/村時三郎/大河内龍/松永博/大原英子/岡田和子/(第一協団)河津清三郎/浅田健三/(フリー)三桝萬豐/島田敬一/(新興キネマ)市川右太衛門/加藤精一/荒木忍/梅村蓉子/山路ふみ子/(松竹大船「元禄忠臣蔵 前編・後編」ph03.jpg)高峰三枝子/三浦光子/(その他)五代目嵐芳三郎/山岸しづ江/四代目中村梅之助/三井康子/市川進三郎/坂東春之助/中村公三郎/坂東みのる/六代目嵐德三郎/筒井德二郎/川浪良太郎/大内弘/羅門光三郎/京町みち代/小杉勇/清水将夫/山路義人/玉島愛造/南光明/井上晴夫/大友富右衛門/賀川清/粂譲/澤村千代太郎/嵐敏夫/市川勝一郎/滝見すが子●公開:(前編)1941/12/(後編)1942/02●配給:松竹(評価:★★★★)

  
河原崎長十郎(大石内蔵助)
 

   
人情紙風船」('37年) 河原崎長十郎/中村翫右衛門/市川莚司(加東大介)
「人情紙風船」河原崎 中村.jpg「人情紙風船>」加東 .jpg

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さすが「直木賞」創設者。現代大衆小説の祖と言えるかも。通俗だがとにかく面白い。

『真珠夫人』.jpg  真珠夫人 上巻 新潮文庫.jpg 真珠夫人 下巻 新潮文庫.jpg   菊池寛.jpg
真珠夫人 上巻 新潮文庫 き 1-3』『真珠夫人 下巻 新潮文庫 き 1-4』 菊地 寛
真珠夫人 (文春文庫)
菊地 寛 『真珠夫人』文春文庫.jpg『真珠夫人』  .jpg 渥美信一郎は療養中の妻の見舞いに訪れた湯河原で自動車事故に巻き込まれる。事故にあった青年・青木淳は腕時計を「瑠璃子に返してくれ」と言い残しノートを託して絶命する。青木の葬儀で見聞きした情報を基に、信一郎は妖艶な未亡人・壮田瑠璃子を訪ねる。瑠璃子は腕時計を見て動揺した様子を見せるが、それをごまかし腕時計を預かり、信一郎を音楽会に誘う。青木のノートには愛の印として貰った腕時計が他の男にも送られているのを知って自殺を決意したことが書かれていた―。数年前、貿易商・壮田勝平は自宅で催した園遊会で、子爵の息子・杉野直也と男爵の娘・唐沢瑠璃子から成金ぶりを侮辱され激怒、奸計を巡らす。貴族院議員・唐沢光徳の債権を全て買い取りさらに弱みを握り、瑠璃子に結婚を迫る。自殺を図った父に瑠璃子は「ユージットになろうと思う」と押しとどめ、直也には復讐のため結婚しても貞操を守ると手紙する。壮田と結婚した瑠璃子は、父の見舞いを理由に実家に帰ったり、壮田に「お父様になって」と言ったりして体を許さない。知的障害のある壮田の息子・勝彦も手懐け、寝室の見張りをさせる。壮田は瑠璃子を葉山の別荘に連れ出し、嵐の夜に関係を結ぼうとするが、瑠璃子を追ってきた勝彦が窓から飛び込んで荘田の襲いかかるのを見て驚き卒倒、壮田は我が子の将来を瑠璃子に託し亡くなる、豪奢な生活はその瑠璃子を、男の気持ちを弄ぶ妖婦へと変貌させていた―。

 作者の菊池寛(1888- 1948/享年59)の実家は江戸時代、高松藩の儒学者の家柄だったそうで、菊池寛は高松中学校(現在の高松高校)を首席で卒業した後、東京高等師範学校(後の東京教育大学→筑波大学)に進んだものの、授業をサボっていたため除籍処分となり、その後、明治大学、早稲田大学、第一高等学校(東大)に学ぶも中退、ようやく1916年、28歳で京都大学を卒業、時事新報記者を経て、小説家になっています。

菊池寛2.jpg 1916年に戯曲『屋上の狂人』『暴徒の子』、翌年『父帰る』、1918年には『無名作家の日記』『忠直卿行状記』『恩讐の彼方に』などを続々発表して作家としての地位を確立し、1919年、芥川龍之介とともに大阪毎日新聞杜の客員となり、『藤十郎の恋』、『友と友の間』などを書いています。

 菊池寛という人は、作家としてだけでなく、編集者(乃至はプロデューサー)としてもとにかくスゴく、「文芸春秋」の創刊者(1923(大正12)年)として知られていますが、その他に「映画時代」「創作月刊」「婦人サロン」「モダン日本」「オール読物」「文芸通信」「文学界」など多くの雑誌を創刊あるいは継承再刊しており、1935(昭和10)年には、自殺した一高の同期時代からの盟友・芥川龍之介と、目をかけ親しくしていた人気の大衆作家で病死した直木三十五の名をそれぞれ冠した「芥川賞」「直木賞」を設立しています。、また、(これは、後に「永田ラッパ」で知られるようになる永田雅一に担ぎ出されたのだが)映画の企画や経営も引き受けて、1943(昭和18)年からは映画会社・大映の社長にもなっています(作家の井上ひさしに『菊池寛の仕事―文芸春秋、大映、競馬、麻雀...時代を編んだ面白がり屋の素顔』('99年/ネスコ)という著作がある)。

東京日日新聞 真珠夫人.jpg その菊池寛が1920(大正9年)年の6月9日から12月22日まで大阪毎日新聞、東京日日新聞に連載したのがこの小説『真珠夫人』で、菊池寛(当時31歳)にとって初の本格的な通俗小説であり、その人気は新聞の読者層を変え、後の婦人雑誌ブームに影響を与えたとも言われています。通俗小説の代表格として、紅葉の『金色夜叉』や徳富蘆花の『不如帰』を継ぐとも言われたそうですが、それらよりはずっとモダンであると思います(作中に『金色夜叉』を巡る通俗小説論争がある)。

 黒岩涙香(1862-1920)がアレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯」を翻案した『巌窟王』を発表したのが1902年頃ですが、ある種、そうした西洋の復讐譚に近いとも言えます。また、ファム・ファタールを描いたものとして、プロスペル・メリメの『カルメン』などを想起させるものでもあります。主人公・瑠璃子の復讐の発端は経済的な格差であったあってわけですが、それが、女性を欲望の対象物としてしか見ない男性に対する復讐へと転化していて、個人的には、リベンジファクターが変質しているように思いました。しかも、私怨からと言うより、虐げられている女性全員の代弁者のようになっているのが興味深く、また、それが読者の共感を得るうえでも効果を醸していると思いました。

 また、この瑠璃子という主人公が、最初の方の青木淳の葬儀の場面からして、唸り声をあげたイタリー製の自動車で会場に乗り付けたかと思うと、白孔雀のように美しく立ち振る舞うというカッコ良さで(しかも、青木淳は瑠璃子への失恋のために死んでいるのだ!)、この辺りも読者を引き込みます。まあ、常に多くの若い男を身近にはべらせていることからも、ファム・ファタール・瑠璃子にその運命を狂わされた男は沢山いると窺えますが、ストーリー上のメインは青木淳の弟も含めた青木兄弟で、結局二人とも自殺またはそれに近い死に方をしてしまいます(先に書いたように、その間に瑠璃子の夫・壮田勝平も不慮の死を遂げるのだが、これも瑠璃子にも責任の一端があるとも言える)。でも、瑠璃子は、青木兄が遺したノートを対しても感慨を示さず、弟の死にも、自分が邪険にしたことに悪意はなかったと言ってのけます。

 結局、女性に対して非常に純粋なタイプと思われる青木兄弟にしても(二人とも自分こそが瑠璃子の"本命"たり得ると思ってしまったわけだ)、瑠璃子にとっては数多くの自分の取り巻きの男たちと変わらない位置づけだったということでしょう(自分こそ瑠璃子の"本命"と勝手に思い込んでしまうところがダメなのかも)。これだけだと、瑠璃子って「その気にさせるだけさせといて」ホントに嫌な女性だなと思ってしまいますが、実は、彼女には一時ともそのことを忘れ得ず想い続けた人がいて...と、これもアレクサンドル・デュマの『椿姫』などを想起させるものの、上手いなあと思いました。

 個人的には、ドラマ化されたものを観たことはありますが、原作は今回が初読で、昔、同じ作者の『父帰る』や『恩讐の彼方に』を旺文社文庫で読みましたが、作風が全然違うなあと思いました。「芥川賞」と併せて「直木賞」を設け、大衆小説に一定のポジションを与えた菊池寛その人の、まさに、現代大衆小説の祖となった作品と言えるかもしれません。通俗と言えば通俗かもしれませんが、とにかく面白いです。

ドラマ「真珠夫人」(2002年・横山めぐみ主演)/映画「真珠夫人」(1950年・山本嘉次郎監督・高峰三枝子主演)
真珠夫人 v.jpgsinjyuhujin.jpg 2002年7月に単行本が刊行され、翌8月に新潮文庫と文春文庫で文庫化されていますが、同2002年4月1日から6月28日の毎月曜から金曜までフジテレビ系列で放送された東海テレビ製作の昼ドラ「真珠夫人」全65回の放映が終わって、その人気を受けてそれぞれ急遽刊行されたのではないでしょうか。それ以前にも、1927年に松竹キネマの池田善信監督・栗島すみ子主演で、1950年には大映が山本嘉次郎監督・高峰三枝子・池部良主演で映画化され、1974年にはTBSがこれも昼ドラの「花王・愛の劇場」で光本幸子(「男はつらいよ」の初代マドンナ)主演の全40回が放映されていますが、2002年の放送はとりわけ人気が高かったようです。放送時間が昼1時30分から2時までで、DVDレコーダーなど無い時代で、会社務めの人の中にはビデオテープを買い溜めて録画した人も多かったとか。

ドラマ 真珠夫人 2.jpg その2002年のフジテレビ版は、主演が横山めぐみ、脚本が中島丈博(「祭りの準備」)で、時代を昭和20年代・30年代に変え、瑠璃子が娼館の経営者になっているほか、原作で最初と最後にしか出てこない瑠璃子の想い人である杉野直也がドラマでは出ずっぱりで、病気療養中で原作に出てこない直也の妻(登美子)が、直也と瑠璃子の関係を知って嫉妬に苦しむうちに精神を病んでいく女性...といった具合に、時代背景だけでなく人物相関もかなり改変されていますが、敢えてすべてを毒々しく描くことに徹していたような感じです。

真珠夫人 たわしコロッケ.jpg 直也が瑠璃子と会っているのを知った登美子のいる自宅へ直也が帰宅すると、登美子が夫に「おかず何もありません、冷めたコロッケで我慢してください」と言い、たわしと刻んだキャ真珠夫人 6.jpgベツを皿に載せて出すという「たわしコロッケ」シーンが当時話題になりましたが、とにかくエグさが前面にきていたでしょうか。一方の瑠璃子は、義理の娘や息子を守りながら、内には直也への愛を秘め、健気に純潔を守り通すというのは原作どおりですが、原作のように男たちの前でフェミニズム論を展開することはなく、視聴者受けを狙ったのかキャラの先鋭的な部分を改変したような印象も受けます。

ドラマ 真珠夫人.jpg 原作とドラマでどちらにカタルシスを覚えるかは人の好みですが、個人的には原作の方が上のように思います(人物相関だけでなく質的に改変されているので、比較すること自体どうかというのもあるが)。ドラマを観た人には原作も読んで欲しいように思います。

横山めぐみ1.jpg横山 めぐみ.jpg「真珠夫人」●演出:西本淳一/藤木靖之/大垣一穂●脚本:中島丈博●音楽:寺嶋民哉●出演:横山めぐみ/葛山信吾/大和田伸也/森下涼子/松尾敏伸/奈美悦子/日高真弓/浜田晃/増田未亜/河原 さぶ●放映:2002/04~06(全65回)●放送局:フジテレビ

横山めぐみ

【2002年8月1日文庫化[新潮文庫(上・下)]/2002年8月2日再文庫化[文春文庫]/2007年再文庫化[徳間文庫(上・下)]】

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振り切ってきた過去へのノスタルジーに満ちた「祭りの準備」。大谷直子が鮮烈な「肉弾」。

祭りの準備.jpg 祭りの準備  タイトル.jpg  肉弾.jpg 肉弾 大谷直子3.jpg
祭りの準備 [DVD]」(監督:黒木和雄)          「肉弾 [DVD]」 (監督:岡本喜八)

黒木和雄.jpg中島丈博.jpg 「祭りの準備」('75年/ATG)は、昭和30年代の高知を舞台に、1人の青年がしがらみの多い土地の人間関係に圧迫されながらも巣立っていく姿を描いた青春映画で、主人公(江藤潤)が信用金庫に勤めながらシナリオライターになることを夢見ていることからも窺えるように、原作は中島丈博の自伝的小説であり、監督は'06年に亡くなった黒木和雄です。
祭りの準備 DVDカバー.jpg
黒木和雄(1930‐2006/享年75)/中島丈博

映画チラシ 黒木和雄「祭りの準備」.jpg 「青春映画」とは言え青春の真只中でこの作品を観ると、あまりにどろどろしていて結構キツいのではないかという気もしましたが、このどろどろ感が中島丈博の脚本の特色とも言えます。

 父親(ハナ肇)は女狂い、祖父(浜村純)はボケ老人、母親(馬渕晴子)は主人公の青年を溺愛し、彼は二十歳にしてそこから逃れられないでいて、心の恋人(竹下景子)も片思いの対象でしかなく、結局、男達の性欲の捌け口となっている狂った女(桂木梨江)と寝てしてしまうが、その女が妊娠したらしいことがわかる―。 映画チラシ 黒木和雄「祭りの準備」
  
祭りの準備00.jpg祭りの準備2.jpg 青年がシナリオを書くとセックス描写が頻出し、左翼かぶれの"心の恋人"に「労働者階級をもっときちんと描くべきで、どうしてセックスのことばかり書くの」となじられる始末。そのくせ、彼女はオルグの男性にフラれると、宿直中の青年に夜這いして来て、そこで小火(ボヤ)事件が起きてしまうという、青年同様に彼女自身、青春の混沌の中でちょっと取りとめが無い状態になっています。

祭りの準備図0.jpg こんな状況から脱したいという青年の気持ちがよく分かり、その旅立ちを駅のホームで列車に伴走しながら万歳して見送る、青年の隣家の泥棒一家「中島家」の次男で殺人の容疑をかけられ逃亡の身の男「中島利広」を演じているのが原田芳雄(1940-2011)で、冬物語2.gif役柄にしっくり嵌っていい味を出しています(この俳優を渋いなあと最初に思ったのは映画ではなくテレビで観た「冬物語」('72年~'73年/日本テレビ)というメロドラマだった。恋人役は浅丘ルリ子、ふられ役は大原麗子)。

「冬物語」('72年~'73年)浅丘ルリ子・原田芳雄

 創作の要素はあるとは言え、この「祭りの準備」という映画には、原作者(中島丈博)が過去に振り切ってきた諸々に対するノスタルジーが詰まっている感じがします(東京への"脱出"行を果たした江藤潤と、それが出来ないでいる原田芳雄という対比構造になっている)。
竹下景子 in 「祭りの準備」(1975)[下写真]
祭りの準備3.jpg 祭りの準備 竹下景子.jpg 祭りの準備 図1.jpg
竹下景子 (たけしたけいこ) 1953年9月15日生まれ.jpg 竹下景子(1953年生まれ、当時22歳)の映画デビュー2作目、主演級は初で、桂木梨江(1955年生まれ、当時20歳)も映画デビュー2作目。この作品は竹下景子のヌードシーンで話題になることがありますが、主人公の青年に夜這いした際の下着姿と引き続く火事の炎の向こうにチラッと見える全裸(半裸?)姿程度で(この頃の彼女は結構コロコロ体型、よく言えばグラマラスだった)、この後清純派で売り出し、"お嫁さんにしたい桂木梨江 祭りの準備.jpg女性No.1"などと言われたために以降全くスクリーン上では脱がなくなり(「天の花と実」('77年/テレビ朝日)ではヌードを拒否した)、そんな経緯もあって「祭りの準備」のこのシーンの付加価値が出たのかも? むしろ、この作品で大胆なヌードを見せたのは「中島家」の末娘で男達の性欲の捌け口となっている狂女を演じた桂木梨江の方で、彼女はこの演技で第18回ブルーリボン賞新人賞、第49回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞にノミネートされています。
桂木梨江/原田芳雄 in 「祭りの準備」(1975)
映画「純」 横山博人 江藤潤 ポスター.jpg純 江藤潤DVD.jpg 主演の江藤潤(1951年生まれ)も、映画初主演の割には良い演技をしていたように思います。その後も、「帰らざる日々」('78年/日活)、「純」('80年/東映セントラルフィルム)などの作品に出演していますが、主演の「純」は東映出身の横山博人監督の第一回作品で、'78年4月に完成したものの国内公開の目途の立たぬまま翌年度のカンヌ映画祭に出品され、新人監督の登竜門「批評家週間」オープニング上映作品に選出され、以後、ロンドン映画祭、ロサンゼルス映画祭に招待されるなど高い評価を得ため、'80年に一般公開となったという作品。

映画 「純」朝加真由美.jpg 長崎の軍艦島から漫画家を志望して上京し、遊園地の修理工場で働いている主人公の二十歳の松岡純(江藤潤)は、恋人がいながらその手さえ握らず、通勤電車の中で痴漢行為に耽ける―漫画家を志望で軍艦島から東京に出てきたというところが、脚本家志望で高知・四万十から都会へ行こうとする「祭りの準備」の主人公と似ていますが、ラストまでのプロセスが観ていて気が滅入るくらい暗くて(痴漢行為に耽っているわけだから明るいはずはないが)、脇を固めている俳優陣は非常にリアリティのある演技をしていたものの、イマイチ自分の肌には合わなかったなあ(リアリティがあり過ぎて?)。江藤潤はやはり「祭りの準備」の彼が良かったように思います(「純」はどうして海外でウケたのだろう。外国人には痴漢が珍しいのかなあ。そんなことはないと思うが、クロード・ガニオン監督の「Keiko」('79年/ATG)でも冒頭に痴漢シーンがあった)。

大谷直子 in 「肉弾」(1968)[下写真]
『肉弾』(監督 岡本喜八)2.bmp 女優のデビュー時乃至デビュー間もない頃のスクリーン・ヌードという点では、「高校生ブルース」('70年/大映)の関根(高橋)惠子(1955年生まれ、当時15歳)、「旅の重さ」('72年/松竹)の高橋洋子(1953年生まれ、当時19歳)、「十六歳の戦争」('73年制作/'76年公開)の秋吉久美子(1954年生まれ、当時19歳)、「恋は緑の風の中」('74年/東宝)の原田美枝子(1958年生まれ、当時15歳)、「青春の門(筑豊篇)」('74年/東宝)の大竹しのぶ(1957年生まれ、当時16歳)、「はつ恋」('75年/東宝)の仁科明子(亜季子)(1953年生まれ、当時22歳)などがありますが(これらの中では、関根惠子と原田美枝子の15歳が一番若くて、仁科明子の22歳が竹下景子と並んで一番遅いということになる)、個人的には、'05年に亡くなった岡本喜八監督の「肉弾」('68年/ATG)の大谷直子(1950年生まれ、当時17歳)が鮮烈でした。

nikudann vhs.jpg肉弾3.jpg肉弾 寺田農.jpg この「肉弾」という作品は、特攻隊員(寺田農)を主人公に据え(「肉弾」とは「肉体によって銃弾の様に敵陣に飛び込む攻撃」のこと)、戦争の悲劇というテーマを扱っていながら、コミカルで悲壮感を(一応は)表に出していないという変わった映画で、映画肉弾 大谷直子4.jpg自体は、太平洋に漂流するドラム岳の中で魚雷を抱えている(ある意味、既に死んでいる)主人公の回想という形で進行し、主人公が1日だけの外出許可日に古本屋に行くつもりが思わず女郎屋に駆け込んでしまい、そこにいたセーラー服姿の肥溜めに咲いた一輪の白百合のような少女と防空壕の中で結ばれるという、その少女の役が映画初出演の大谷直子でした(その後、NHKの朝の連ドラ「信子とおばちゃん」('69年)でTVデビュー)。

 彼女が全裸で土砂降りの雨の中を走るシーンは衝撃的で、モノクロ映画ゆえに却ってその美しさは印象に残りましたが、かの特攻隊員は、そこで初めて自らが守るべきものを見出し、空襲で彼女が犠牲になったことで復讐心から戦闘意欲に燃え、魚雷と共に太平洋に出るという―これ、岡本喜八ならではのアイロニーなのですが、笑えるようでやっぱり岡本喜八.jpg笑えないなあ。岡本監督はその後も自らと同年代の戦中派の心境を独特のシニカルな視点で描き続けますが、「独立愚連隊」('59年)とこの「肉弾」は、そのルーツ的な作品でしょう。「日本のいちばん長い日」('67年)のようなオールスター大作を撮った後に、私費を投じてこのような自主製作映画のような作品を撮っているというのも凄いことだと思います。

岡本喜八(1924- 2005/享年81) 下:「肉弾」大谷直子  寺田農/笠智衆
肉弾 大谷直子1.jpg 肉弾 大谷直子2.jpg 肉弾 笠智衆5.jpg 
 

祭りの準備es.jpg祭りの準備ド.jpg「祭りの準備」●制作年:1975年●監督:黒木和雄●製作:大塚和/三浦波夫●脚本:中島丈博●撮影:鈴木達夫●音楽:松村禎三●原作:中島丈博●時間:117分●出演:江藤潤/馬渕晴子/ハナ肇/浜村純/竹下景子/原田芳雄/杉本美樹/桂木梨江/石山雄大/三戸部スエ/絵沢萠子/原知佐子祭りの準備 桂木梨江.jpg祭りの準備 竹下景子.jpg/真山知子/阿藤海/森本レオ/斉藤真/芹明香/犬塚弘/湯沢勉/瀬畑佳代子/夏海千佳子/石津康彦/下馬二五七/福谷強/中原鐘子/柿谷吉美●公開:1975/11●配給:ATG●最初に観た場所:飯田橋・ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★★☆)●併映:「サード」(東陽一)
飯田橋ギンレイホールド.jpgギンレイホール.jpg飯田橋ギンレイホール内.jpgギンレイホール 1974年1月3日飯田橋にオープン 2022年11月27日閉館


  
      
 
  

「純」●制作年:1978年●監督・脚本:横山博人●製作:横山博人プロダクション●撮影:「純」dv.jpg高田昭●音楽:一柳慧(1933-2022)●時間:88分●出演:江藤潤/朝加真由美/中島ゆたか/榎本ちえ子/赤座美代子/山内恵美子/田島令子/橘麻紀/花柳幻舟/原良子/江波杏子/小松方正/深江章喜/大滝秀治/安倍徹/小坂一也/小鹿番/「純」p.jpg今井健二/森あき子/田中小実昌●公開:1980/12●配給:東映セントラルフィルム●最初に観た場所:新宿昭和館(83-05-05)(評価:★★☆)●併映:「聖獣学園」(鈴木則文新宿昭和館2.jpg新宿昭和館3.jpg/主演:多岐川裕美)
新宿昭和館 1951(昭和26)年K's cinema.jpg7月13日新宿3丁目にオープン(前身は1932年開館の洋画上映館「新宿昭和館」)。1956年、昭和館地下劇場オープン。2002(平成14)年4月30日 建物老朽化により閉館。跡地にSHOWAKAN-BLD.(昭和館ビル)が新築され、同ビル3階にミニシアター「K's cinema」(ケイズシネマ)がオープン(2004(平成16)年3月6日)。


肉弾 アートシアター.jpg肉弾 vhs2.jpg『肉弾』(監督 岡本喜八)1.bmp「肉弾」●制作年:1968年●監督・脚本:岡本喜八●撮影:村井博●音日劇文化.jpg楽:佐藤勝●時間:116分●出演:寺田農/大谷直子/天本英世/笠智衆/北林谷栄/三橋規子/今福正雄/春川ますみ/園田裕久/小沢昭一/菅井きん/三戸部スエ/頭師佳孝/雷門ケン坊/田中邦衛/中谷一郎/高橋悦史/伊藤雄之助/(ナレーター)仲代達矢●公開:1968/10●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-05)(評価:★★★★)●併映:「人間蒸発」(今村昌平)
田中邦衛(区隊長)/笠智衆(戦争で両腕が無い古本屋の老人)
映画 肉弾 tanaka.jpg 映画 肉弾 ryuu.jpg


冬物語.gif「冬物語」.jpg冬物語 ドラマタイトル.jpg「冬物語」●演出:石橋冠●制作:銭谷功/早川恒夫●脚本:清水邦夫/林秀彦●音楽:坂田「冬物語」2.bmp晃一(主題歌「冬物語」作詞:阿久悠/作曲・編曲:坂田晃一/唄:フォー・クローバース)●出演:浅丘ルリ子/原田芳雄/津川雅彦/扇千景/大原麗子/高松英郎/原田大二郎/宝生あや子/南美江/荒谷公之/鳥居恵子/渡辺篤史/下元勉/潮万太郎/上野山功一/柿沼真二/下川清子/野々あさみ/渥美マリ●放映:1972/11~1973/04(全20回)●放送局:日本テレビ

原田芳雄/浅丘ルリ子/原田大二郎/津川雅彦/大原麗子
冬物語0d87.jpg 冬物語31645_21.jpg 冬物語 大原.jpg
          
    
    
寺田農25.jpg 寺田農 2024年3月14日未明、肺がんのため81歳で死去。代表作「肉弾」など。出演作「雪の断章-情熱-」など。

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大人の男女3人の宝探し。甘いけれど許せる甘さの"青春映画"。勝新・高倉健版はイマイチ。
冒険者たち.jpg 冒険者たち2.jpg 冒険者たち1.jpg Les aventuriers(1967).jpg
冒険者たち [DVD]」 Lino Ventura,Alain Delon,Joanna Shimkus in "LES AVENTURIERS" Les aventuriers(1967)
LES AVENTURIERS.jpg パリ郊外の飛行クラブでインストラクターをしているパイロットのマヌー(アラン・ドロン)と新型エンジンの開発に熱中する元エンジニアのローラン(リノ・ヴァンチュラ)のもとに、芸術家の卵である前衛彫刻家レティシア(ジョアンナ・シムカス)が現れ、2人とも彼女に恋心を抱くが、やがて3人はアフリカの海底に5億フランの財宝が眠っているとの話を聞き、共にコンゴの海に旅立つことに―。

 大の大人3人が宝探しをするという、何だか甘い青春ドラマみたいな設定なのですが、ジョゼ・ジョヴァンニの原作を大幅に脚色したロベール・アンリコ監督の演出が巧みで、話のテンポも良く、この中では一番おっさん臭いリノ・ヴァンチュラ(当時48歳)の演技も生きていました(この人、刑事役とかギャング役が十八番なのだが)。

Joanna Shimkus.jpg やはり、ちょっと胴長のジョアンナ・シムカス(当時24歳)の明るさが効いていて、周囲を巻き込んでしまう―それだけに、彼女が演じるレティシアが亡くなってしまうのが哀しく、そこから本来のリノ・ヴァンチュラとアラン・ドロン(当時32歳)の哀愁を帯びたギャング映画みたいなトーンになるといったところでしょうか。それでも、この映冒険者たち 戦場にながれる歌.jpg画は最後まで映像的には光に満ちているように思え、最後の方に出てくる銃撃戦の舞台となる要塞みたいな島も良かったです。

ジョアンナ・シムカス(背景のポスターは松山善三監督「戦場にながれる歌」('65年/東宝))

冒険者たち0.jpg アラン・ドロンを軸に見れば「太陽がいっぱい」系の雰囲気かとも思えますが、結末から逆算的に見るとリノ・ヴァンチュラの視点での物語ということになるのかもしれません(アラン・ドロンというのは常に「見られる側」の存在であって、「見「冒険者たち」doronn.jpgる側」にはならないような気がする)。因みに、生き残った者の掟.jpgジョゼ・ジョヴァンニ José Giovanni.JPGジョゼ・ジョヴァンニの原作のタイトルは「生き残った者の掟」で、ジョゼ・ジョヴァンニ自身も同時期に自らの監督作として「生き残った者の掟」('66年/仏))を撮っています(当然ながらジョゼ・ジョヴァンニ自身が監督したものの方が原作に忠実)。
生き残った者の掟 (河出文庫)

「冒険者たち」リノ」.jpg冒険者たち 1977年公開時チラシ.jpg リノ・ヴァンチュラ(1919-1987)は、俳優になる前はレスリングのヨーロッパ・チャンピオンだったそうですが、この映画での彼は、最近の俳優で言うと、ジャン・レノなどに通じるものがあるなあと勝手に思ったりしました。

冒険者たち6.jpg テーマ曲もいいですが、アラン・ドロンの歌うサブ・テーマ曲「愛しのレティシア」は、口笛の伴奏がホンダシビックのCFなどで使われましたが、サワリの部分を聞くだけで、レティシアを水葬に付す場面など、映画の様々なシーンが甦ってきます。甘いけれど、許せる甘さの"青春映画"であると思います。


無宿 .jpg無宿 ド.jpg 因みに、日本映画に「祭りの準備」('75年/ATG)の中島丈博脚本、斎藤耕一監督、勝新太郎・高倉健主演の「無宿(やどなし)」('74年/東宝)というのがあり、勝新太郎、高倉健の2人に梶芽衣子が絡む男2人と女1人のロードムービーであり、映画の後半は海で宝探しをするという展開でした。予備知無宿 やどなしロード.jpg識無しに観ましたが、「冒険者たち」の影響を受けていることがすぐに分かり、実際そうでした。但し、ジョゼ・ジョヴァンニ原作、ロベール・アンリコ監督の「冒険者たち」は、無宿 ages.jpg女性が途中で亡くなり、男性が生き残ります。それが「無宿」では、ラスト逆になっていて、しかもそこで話は終わってしまい、「生き残った無宿 やどなしes.jpg者」(この場合は梶芽衣子)がどうなったかという話ありませんでした。どちらかというとダークな背景が似合いそうな勝新太郎、高倉健、梶芽衣子の3人が、前半は任侠映画風ながらも、後半はずっと陽光燦々と輝く海で演技しているというちょっと毛色の変わった作品ですが、こうした終わり方から、日本版「冒険者たち」のつもりなのか(それにしては"生き残った者の掟"というテーマが見出せない)、宝探しは単に部分的にモチーフを借りただけなのか、個人的には釈然としませんでした(男たちがヤクザ=ギャングに追われるところなどは同じなので、日本版「冒険者たち」のつもりなのだろうが...)。

無宿 大滝秀治.jpg 因みに、この映画は高倉健(1931-2014)と勝新太郎(1931-1997)が共演した唯一の作品であるとともに、高倉健と大滝秀治(1925-2012)の初共演作であり、大滝秀治は前半部分で高倉健が演じる主人公に殺されるヤクザの親分役で出ています(ただし、直接的な絡みは無く、二人同時に画面に映らない演出がされている)。高倉健と大滝秀治はその後「君よ憤怒の河を渉れ」('76年/大映)、「八甲田山」('77年/東宝)、「居酒屋兆治」('83年/東宝)など多くの作品で共演を重ねることになります(降旗康男監督の「あなたへ」('12年/東宝)が大滝秀治の遺作になったとともに、高倉健にとっても最後の主演作品となった)

Les aventuriers (1967)
Les aventuriers (1967).jpgジョアンナ・シムカス.jpg「冒険者たち」●原題:LES AVENTURIERS●制作年:1967年●制作国:フランス●監督:ロベール・アンリコ●脚本:ロベール・アンリコほか●撮影:ジャン・ボフティ●音楽:フランソワ・ド・ルーベ●原作:ジョゼ・ジョヴァンニ「生き残った者の掟」●時間:112分●出演:アラン・ドロン/リノ・ヴァンチュラ/ジョアンナ・シムカス/セルジュ・レジニア●日本公開:1967/05●配給:大映●最初にロベール・アンリコ(Robert Enrico).jpg観た場所:有楽町・ニュー東宝シネマ1(77-11-24)●2回目:テアトル池袋(84-11-11) (評価:★★★★☆) ●併映(2回目):「カリブの熱い夜」(テイラー・ハックフォード)
ロベール・アンリコ(Robert Enrico)

「冒険者たち」 パンフレット 1977年/1989年
冒険者たち 1977.png  冒険者たち 1989.png

ニュー東宝シネマ1.jpgニュー東宝1.JPGニュー東宝シネマ1・2 チケット入れ.jpgニュー東宝シネマ1 1957年5月5日、有楽町ニュートーキョービル(有楽町マリオン向かいニユートーキヨー数寄屋橋本店ビル)3Fに「ニュー東宝シネマ」オープン(「ニュー東宝」「スキヤバシ映画」が「ニュー東宝シネマ1,2」に改称)。TOHOシネマズ 有楽座.jpg1972年5月~「ニュー東宝シネマ1」、1995年7月~「ニュー東宝シネマ」(「ニュー東宝シネマ2」閉館)、2005年4月~新生「有楽座」、2009年2月10日~「TOHOシネマズ有楽座」(右) 2015年2月27日閉館
「TOHOシネマズ 有楽座」閉館のお知らせ(TOHOシネマズHPより)
かつての「有楽座」は、1935年に演劇劇場(現 東宝日比谷ビル)として誕生し、1951年には映画専用劇場となり、1984年に一度閉館致しました。
その後、2005年に「ニュー東宝シネマ1」を「新・有楽座」として改装オープンし、2009年には「TOHOシネマズ有楽座」と館名を改め、今日まで多くの名作を上映して参りましたが、このたび、ニユートーキヨー本店ビルの閉鎖に伴い、TOHOシネマズ有楽座を閉館することとなりました。
これまでTOHOシネマズ有楽座にご支援、ご愛顧いただきました映画ファンの皆様、関係者の皆様に心より御礼申し上げます。
TOHOシネマズ日劇、スカラ座、みゆき座、シャンテにて、引き続きご来場をお待ちしております。
【TOHOシネマズ 有楽座(1スクリーン/397席)】
◆閉館日:2015年2月27日(金)
   
テアトル池袋2.JPG「テアトル池袋 LAST ALLNIGHT」チラシ-1.gif「テアトル池袋_1.jpgテアトル池袋
1956年12月26日に東池袋1丁目「(第一地所)池袋ビル」1階にオープン(当時地下1階はテアトルダイヤ)。1980年に「南池袋テアトルビル(南池袋共同ビル)」の8階に移転。2006(平成18)年8月31日閉館 IKEKYO.com
「テアトル池袋」閉館のお知らせ(東京テアトル株式会社HPより)
 テアトル池袋は、1980年に、名画座として開業以来「アニメ映画専門館」や「アジア映画専門館」をはじめ「新人作家発掘の専門館」や「拡大ロードショー館」など、様々な興行形態を展開してまいりました。
 しかしながら、ビルの8階での単独館であることや、映画館が立ち並ぶエリアから離れた立地なども影響して、業績が伸び悩み、今後の方向性につきまして検討を重ねてまいりましたが、収益性を飛躍的に向上させることは困難であるとの結論に達し、やむなく本年8月31日をもちまして閉館することといたしました。
 26年間に亘りご愛顧賜りましたことに心より御礼申し上げます。

無宿 やどなし  dvd.jpg無宿 やどなし01.jpg「無宿(やどなし)」●制作年:1974年●監督:斉藤耕一●製作:勝新太郎/西岡弘善/真田正典●脚本:中島丈博/蘇武道男●撮影:坂本典隆●音楽:青山八郎●時間:125分●出演:勝新太郎/高倉健/梶芽衣子/安藤昇/藤間紫/山城新伍/中谷一郎/三上真一郎/今井健二/大滝秀治/殿山泰司/神津善行「無宿(やどなし)」katu.jpg/荒木道子/石橋蓮司/栗崎昇/木下サヨ子/伊吹新吾●公開:1974/10●配給:東宝(評価:★★★)
無宿(やどなし) [東宝DVDシネマファンクラブ]
神津善行(ガセネタ売り)/大滝秀治(大場親分)/殿山泰司(元潜水夫・為造)
「無宿(やどなし)」神津.jpg 「無宿(やどなし)」大滝秀治2.gif 「無宿(やどなし)」殿山2.jpg

「●し 清水 一行」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●し 城山 三郎」【587】 城山 三郎 『打たれ強く生きる
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ピカレスク・ロマン或いはサクセス・ストーリーとして楽しめる"小説"になっている『花の嵐』。

花の嵐―小説・小佐野賢治〈上〉.jpg花の嵐―小説・小佐野賢治〈下〉.jpg花の嵐 小説小佐野賢治 上.jpg 花の嵐 小説小佐野賢治下.jpg  女教師 清水一行 カッパ・ノベルズ.jpg
『花の嵐 小説・小佐野賢治 (上・下)』(朝日新聞社)/『花の嵐―小説小佐野賢治〈上〉』『花の嵐―小説・小佐野賢治〈下〉』光文社文庫/『女教師―長編推理小説 (カッパ・ノベルス)

清水一行.jpg小説兜町(しま).jpg 高杉良、城山三郎と並び、日本における経済小説の第一人者として知られる清水一行(1931-2010)ですが、'59年に『総会屋錦城』で直木賞を取った城山三郎、'75年に『虚構の城』でデビューした高杉良に対し、清水一行は'66年に『小説 兜町(しま)』で作家デビューしており、デビュー期で言えば、城山三郎と高杉良の間になります。
 また、評論家の佐高信は、高杉良、城山三郎を「向日派」とし、清水一行を「暗部派」としていますが、前向きで夢を感じさせる主人公が登場して読後感も爽やかなものが多い高杉作品などに比べると、確かに清水一行の作品はドロドロした経済や社会の暗部を抉ったものが多い。

花の嵐 (上) 小説 小佐野賢治.jpg 本書も政商・小佐野賢治(1917-1986)を扱ったものであるから、当然のことながらドロドロして暗いのかと思いきや、ピカレスク・ロマンとして、或いはサクセス・ストーリーとして楽しめる"小説"に仕上がっていました(ロッキード事件に連座する前で話は終わっている)。

 箱根・強羅ホテルの買い取り依頼に応じたことで東急の総帥・五島慶太から寵愛され、東急からバス事業を譲り受けたことが成功への足掛かりになっていますが、その後、弁護士・正木亮の紹介で田中角栄と知り合い、一方で児玉誉士夫らとも交わり、財界の裏道を歩んでいく―。もともと政治家には関心が無かったようですが、「農家出の無学歴」コンプレックスという点で田中角栄と合い通じ、"刎頚の交わり"となったようです。

花の嵐〈上〉 (角川文庫)

小佐野賢治.jpg ガソリン横流しでGHQに逮捕されたにもかかわらず、投獄期間中に看守を騙して外出し芸者遊びをした話など、ニヤリとさせられる"悪漢"ぶりで、作者の小佐野に対する愛着が感じられる一方、こんなに好人物に描いちゃっていいのかなあという気も。

 ただし、経営不振の会社を社員のクビを切ることなく次々と再建したというのは、やはり並々ならぬ手腕だと思うし、コワモテのイメージがあり、面の皮も厚そうだけれども(ロッキード事件(1976年)の証人喚問で小佐野が何度も口にした「記憶にございません」はその年の流行語となった)、小佐野の近くで接した人によれば、あまり感情を表に表さない紳士然とした人物だったそうです。
   
モアナ・サーフライダー/シェラトン・ワイキキとロイヤル・ハワイアン
モアナ・サーフライダー.jpgシェラトン・ワイキキ(左)とロイヤル・ハワイアン(右).jpg バス会社だった国際興業は、ハワイのロイヤル・ハワイアン、モアナ・サーフライダー、シェラトン・プリンセス・カイウラニ、シェラトン・ワイキキといった名門ホテルを買収し、小佐野はハワイの「ホテル王」と呼ばれるようになって、更に自身が夢見た帝国ホテルの買収も果たしましたが、その後バブルが崩壊し、彼が社主だった国際興業は外資の傘下に入っています(従って帝国ホテルも現時点['06年時点]では外資の傘下となっている)。

『女教師』(カッパ・ノベルス).jpg 因みに、清水一行の作品では、『女教師』('77年/カッパ・ノベルス)という小説があり、ストーリーは、若い音楽教師が中学校内で暴行され、3年生の不良グループの生徒が犯人と思われたが、事を荒立てたくない校長はじめ学校側はもみ消しをはかり、女教師が生徒を誘惑したのだという流言飛語まで流されたため女教師は失踪、そんな中、主犯格と思われる生徒が誘拐され、更に教師が殺害される―というもの。

女教師 (角川文庫,200_.jpg清水一行・『女教師』.jpg女教師 清水一行 tokuma.jpg この通り、推理サスペンスであるわけですが、校内暴力や教職員の不正と、それに対し何も手を打たない学校―といった教育現場の荒廃を鋭く抉っており、いつの時代にも通じる社会的テーマを背景としています。「いつの時代にも通じる」というのは残念な事実でもありますが、この作品はそうした意味も含め、佳作であると思います。
女教師 (集英社文庫)』(1984)/『女教師 (徳間文庫)(2007)
女教師 (角川文庫 緑 463-7)』(1980)

田中 登(1937-2006/享年69)
田中登.jpg女教師 ポスター.jpg この作品は映画化され、先月['06年10月]動脈瘤解離のため急逝した田中登が監督し、脚本は中島丈博、主演は永島暎子(1978年のエランドール賞新人賞を受賞)。日活ロマンポルノの一作品として作られたためか、一応テーマは原作に沿おうとしてはいるものの(基本的には学校や社会の体制を批判した真面目な作品だった)、登場人物などの改変が激しく、ロマンポルノの一環としてこの作品を撮るのはどうかという気もしました。名画座で併映の「赫い髪の女」は、中上健次の原作ながら愛欲がテーマ古尾谷雅人 .jpgだからロマンポルノでもいいのだけれど...。但し、映画はヒットし、第9作まで作られました(風営法の強化改正で、「女教師」という言葉がポルノ映画のタイトルに使えなくなったため、シリーズを終わらざるを得なかったらしい)。自殺した古尾谷雅人の映画デビュー作であり、泉谷しげる作詞・作曲の「春夏秋冬」が劇中で使われています。

古尾谷康雅(雅人)(1963‐2003/享年45)(江川秀雄(中学三年生))/永島暎子(田路節子(音楽教師))/砂塚英夫(瀬戸山貢(国語・社会科教師))/[下]久米明(校長・神野謙三)
女教師 1977.jpg田中登「女教師」_4.jpg「女教師」.jpg「女教師」●制作年:1977年●監督:田中登●製作:岡田裕●脚本:中島丈博●撮影:前田米造●音楽:中村栄●原作:清水一行●時間:100分●出演:永島暎子/砂塚久米明 女教師.jpg英夫/山田吾一/鶴岡修/宮井えりな/久米明/穂積隆信/蟹江敬三/樹木希林/古尾谷康雅 (古尾谷雅人)/絵沢萠子/福田勝洋●公開:1977/10●配給:日活●最初に観た場所:銀座並木座 (評価:★★★)●併映:「赫い髪の女」(神代辰巳)

蟹江敬三(教職員組合分会長・小林悟)/永島暎子/樹木希林(教職員組合役員・横山百合子)
42女教師.png

『花の嵐』...【1993年文庫化[角川文庫(上・下)]/1994年再文庫化[朝日文庫(上・下)]/1999年再文庫化[光文社文庫(上・下)]】『女教師』...【1980年文庫化[角川文庫]/1984年再文庫化[集英社文庫]/2007年再文庫化[徳間文庫]】

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面白く読めることは読めるが、"オヤジ泣かせ"のあざとさがミエミエではないかと...。
浅田次郎 『壬生義士伝 (上)』.bmp 壬生義士伝  2.jpg  壬生義士伝 上.jpg 壬生義士伝 下.jpg  壬生義士伝m2.jpg
壬生義士伝〈上〉〈下〉』(題字:榊莫山)/文春文庫(上・下) 2003年映画化(松竹/監督: 滝田洋二郎)

 2000(平成12)年度・第13回「柴田錬三郎賞」受賞作。

 貧しさゆえ盛岡の南部藩を脱藩し、壬生浪(みぶろ)と蔑称された新撰組隊士となった吉村貫一郎は、鳥羽伏見の戦に破れ、傷だらけのまま大坂・南部藩蔵屋敷にたどり着き、妻子のいる故郷盛岡への帰還を望むが、大坂屋敷の差配で貫一郎のかつての幼馴染である大野次郎右衛門は、彼に今すぐに腹を切るよう命じる―。

 明治維新からから半世紀を経た頃、記者らしき人物が貫一郎ゆかりの人たちを訪ねて回り、貫一郎をめぐる彼らの思い出話を聞き書きするという"取材記"スタイルをベースに、今まさに切腹に追い込まれた貫一郎の南部弁の独白が挿入されているという構成です。

 そうした回想スタイルが最初はまどろっこしいけれど、極度の倹約のため守銭奴と蔑まれた貫一郎が、実は"人斬り貫一"と怖れられる剣の使い手であったというこのギャップがアクセントになっており、新撰組の近藤、土方、沖田といった隊士たちの作者なりの描き方も興味深く、どんどんハマっていく感じでしょうか。中でも中盤の、新撰組随一の剣豪として知られた斎藤一の、自身と貫一郎をめぐる回想が、剣豪小説として面白く読めました(斎藤一による竜馬暗殺説にはビックリ)。

 しかし個人的に良かったのは中盤までで、なぜ旧友の大野が貫一郎に切腹を命じたのかという謎で一応は後半に引っぱっていくものの、その答えはまあ大方予想がつくものであり、また何よりも、貫一郎の南部弁の独白がベタで、これが"浅田調"なのだろうけれども、泣ける前に少し白けてしまいました。後に五稜郭に馳せ参じた貫一郎の息子の生き方も、果たしてこれが父の望むところだったか、疑問を抱いてしまいます。

 この小説は、普段は時代小説を読まない人にも多く読まれた一方で、時代小説ファンの間でも評価が高いようですが、"オヤジ泣かせ"のテクニックのあざとさがミエミエではないかと...。

 「もう一つの武士道」って言っても、結局はフツーの家族愛のことになってしまっているような気がしました(その"フツー"さが普遍性となって読者に受けるのかも)。

 史実では吉村貫一郎は鳥羽伏見の戦で行方不明になっていて、うまいところに虚構の糸口を見つけたなあという感じはしますが、子母澤寛の『新選組物語-新選組三部作』(「隊士絶命記」)を参照していることは本人も認めており、そうすると、この聞き書きの主の職業は新聞記者ということなのだろうか(子母澤寛は新聞記者として新選組ゆかりの人たちを取材してまわり、昭和3年に「新選組三部作」の第1部『新選組始末記』を書いている)。

 '03年に滝田洋二郎監督によって映画化されましたが(貫一郎役は中井貴一)、この監督、比較的原作に忠実に作るタイプなのか、主人公の語りが冗長になった感は否めませんでした。
 これは、原作を読んでクドイと思った自分の感性の問題で(中井貴一は日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞受賞)、映画化される前の'02年に、テレビ東京の「新春ワイド10時間ドラマ」として放映されているのですが(貫一郎役は渡辺謙)、こちらも概ね好評だったようです。好きな人は好きなのだろうし、正月なので腰を落ち着けて観るというのもあるんだろうなあ。

2003年映画化(松竹/監督: 滝田洋二郎)
壬生義士伝(DVD).jpg壬生義士伝m.jpg「壬生義士伝」●制作年:2003年●監督:滝田洋二郎●製作:松竹/テレビ東京/テレビ大阪/電通/衛星劇場●脚本:中島丈博●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:137分●出演:中井貴一/佐藤浩市/夏川結衣/中谷美紀/山田辰夫/三宅裕司/塩見三省/野村祐人/堺雅人/斎藤歩/比留間由哲/神田山陽/堀部圭亮/津田寛治/加瀬亮/木下ほうか/村田雄浩/伊藤淳史/藤間宇宙/大平奈津美●公開:2003/01●配給:東宝 (評価:★★☆)

 【2002年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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恋するキャリアウーマン。職探しの侘しさとユーモア。人物の描き方の幅。

刺客 単行本.jpg 『刺客―用心棒日月抄』(1983年) 刺客.jpg刺客 用心棒日月抄.jpg 『刺客―用心棒日月抄(じつげつしょう) (新潮文庫)』(カバー:村上 豊) 

 藤沢周平(1927‐1997)の時代小説シリーズ「用心棒日月抄」の第3弾で、「小説新潮」に'81年から'83年にかけて断続連載された作品。
 主人公の青江又八郎は、お家乗っ取りを画策する黒幕から、陰の組織「嗅足組」を壊滅するため江戸に放たれた5人の刺客を倒すべく、3度目の脱藩をし用心棒稼業をしながらその機を窺う―。

 藩士の非違を探る「嗅足組」の女首領・佐知は、本シリーズの第2の弾「孤剣」では又八郎と対決したこともありましたが、最後には又八郎の危機を救った女性。
 本作では、又八郎の陰となり活躍しつつ、又三郎に想いを寄せる姿が切ない。職場の男性に恋したキャリアウーマンといったところでしょうか。

 又八郎の用心棒暮らしの侘しさや、用心棒仲間の浪人・細谷とのユーモラスなやりとりが、親近感を抱かせます。
 2人は"口入れ屋"を通して用心棒の仕事を探しますが、今で言う人材派遣業者への登録か(ただし、又三郎も細谷も腕が立つので口入れ屋の二枚看板になっている)。

 又八郎は基本的にはストイックなのですが、妻子持ちでありながら佐知と交情するなど、決して聖人君主ではありません。この辺りに作者の人物の描き方の幅を感じました。

 「用心棒日月抄」「孤剣」「刺客」、そして少し後に書かれた「凶刀」と進むにつれて、一話完結スタイルから長編小説のような構成に推移していますが、この「刺客」あたりが、既に説明的な記述はあまり要しなくなっていて、又八郎のキャラクターも確立されていて、一番切れ味鋭いというか無駄がないように感じました。

 「用心棒日月抄」が「腕におぼえあり」(村上弘明・渡辺徹主演)としてNHKでドラマ化されて人気を博し、2003年にシリーズ4冊とも単行本が新装改訂されています。

腕におぼえあり DVD.jpg腕におぼえあり nhk.jpg「腕におぼえあり(1)~(3)」●演出:大原誠ほか●制作:一柳邦久●脚本:中島丈博/金子成人●音楽:近藤等則●原作:藤沢周平「用心棒日月抄」●出演:村上弘明/渡邊徹/清水美沙/坂上二郎/北林谷栄/香取慎吾/刺客―用心棒日月抄―.jpg小田茜●放映:1992/04~19993/03(全35回)[(1)1992/04~06(全12回)/(2)1992/09~11(全13回)/(3)1993/01~03(全10回)]●放送局:NHK        村上弘明/渡邊徹

刺客―用心棒日月抄』 単行本新装改訂版 ['03年] 

 【1983年単行本・2003年新装改訂〔新潮社〕/1987年文庫化[新潮文庫]】

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裁判とは何かを問う。執筆中に、主人公と被害者の関係に加えられた「重大修正」。

大岡昇平 「事件」.jpg事件 大岡昇平.png  『事件』.JPG 事件.jpg
単行本〔新潮社/'77年版〕/単行本〔新潮社/'78年版〕/新潮文庫〔旧版〕/『事件』新潮文庫[新版]

 1978(昭和53)年度・第31回「日本推理作家協会賞」受賞作。

 神奈川県の相模川沿いの山林で、若い女性の刺殺死体が発見され、被害者はこの町出身で、厚木市でスナックを営む23歳の女性・坂井ハツ子。数日後警察は、事件の夕刻、現場付近の山道で地主に目撃されていた19歳の工員・上田宏を逮捕するが、彼はその後の調べで、ハツ子の妹・ヨシ子と同棲していたことがわかる―。

 事件発生から少年の殺意の有無をめぐる裁判とその判決に至るまでの過程を、フィクションとは思えないような抑制の効いた筆致と圧倒的なリアリズムで描いています。

 つまりは「殺人」か「傷害致死」かを争うだけの話なので、裁判小説と言ってもそのプロセスでの"意外性"は限定的で、E.S.ガードナーの「ペリー・メイスン」シリーズのようなミステリーとはまったく趣を異にします。

 しかし、一般にはあまり知られていない裁判の進行模様が、菊池弁護士をはじめ個性的な登場人物のおかげもあり面白く読めます。そして最終章でこれほど「う~ん」と唸らされる小説というのも少ないように思いました。その「う~ん」は、ミステリーとしての「う~ん」とはやや別物であり、「事件」とは何かを考えさせられるものです。

フィクションとしての裁判.jpg 一般に殺意を裏付けるものは"動機"と"状況"なのですが、大岡昇平(1909‐1988)とこの小説を執筆した際のアドバイザーの1人だった当事俊英の弁護士・大野正男氏(後に最高裁判事)との対談『フィクションとしての裁判』('79年/朝日出版社)を読み、大岡昇平が執筆の途中で主人公・宏と被害者・ハツ子の関係に「重大な修正」を加えたことを知り、それがラストのウ〜ンにも繋がるのかなと思いました。最初からミエミエなら、ここまで唸らされないかもしれません(それにしても結末を変えるとは...)。

大野正男・大岡昇平『フィクションとしての裁判―臨床法学講義 (1979年)

事件 映画 野村芳太郎.jpg事件(ポスター).jpg事件 映画 野村芳太郎v.jpg 「砂の器」などで知られる野村芳太郎監督により'78年に映画化されていて(菊池弁護士:丹波哲郎、ヨシ子:松坂慶子、ハツ子:大竹しのぶ)、同年にNHKでテレビドラマ化もされているように(菊池弁護士:若山富三郎、ヨシ子:いしだあゆみ、ハツ子:大竹しのぶ)、社会的反響の大きかったベストセラーでした。'93年には、テレビ朝日で再ドラマ化されています(菊池弁護士:北大路欣也、ヨシ子:渡辺梓、ハツ子:松田美由紀)。 

 事件 図1.jpg事件 図252.jpg事件 図3.jpg事件 図4.jpg テレビドラマはNHK版(脚本:中島丈博)を観ました。若山富三郎の演技もさることながら、野村芳太郎をして「天才」と言わしめた大竹しのぶの演技が良かったです、と言うか、うますぎでした。

「事件」●演出:深町幸男/高松良征●制作:小林猛●脚本:中島丈博●音楽:間宮「事件」宮口.jpg芳生●出演:若山富三郎/いしだあゆみ/大竹しのぶ/高沢順子/佐々木すみ江/草野大悟/鈴木光枝/丹波義隆/勝部演之/石橋蓮司/沼田曜一/垂水悟郎/北城真紀子/殿山泰司宮口精二/伊佐山ひろ子/中村玉緒●放映:1978/04(全4回)●放送局:NHK

「事件」キャスト.jpg事件 ドラマ 若山富三郎.jpg事件-全集- [DVD]
                     
 【1980年文庫化[新潮文庫]/1999年再文庫化[双葉文庫]/2017年再文庫化[創元推理文庫]】

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