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切なく美しい物語。漫画であることによって入り込みやすかった。
『五色の舟』近藤.jpg 『五色の舟』宇野.jpg 『五色の舟』近藤・宇野6.jpg
五色の舟 (ビームコミックス)』['14年]『五色の舟』['23年]

 2014年・第18回「文化庁メディア芸術祭マンガ部門」大賞受賞作。

 先の見えない戦時にありながら、見世物小屋の一座として糊口をしのぐ、異形の者たちの家族がいた。未来を言い当てるという怪物「くだん」を一座に加えようとする家族を待つ運命とは―。

 昨年['22年]10月に亡くなった広島県出身の被爆二世作家・津原泰水(1964-2022/58歳没)の幻想短編「五色の舟」(『11 eleven』('11年/河出書房新社)所収)の漫画化作品。原作は、2014年「SFマガジン」700号記念企画「オールタイム・ベストSF」国内短篇部門で第1位となっています。

 切なく美しい物語です。原作者は、見世物一座の惨めさではなく、勇気凛々たる5人を描いたとしています。漫画であることによって入り込みやすかったかもしれません。作者は、「見えないものを捉え、可視化する力」が素晴らしい漫画作家とされていて、原作者もこの漫画化の話があった時はどうせ実現しないと思っていたのが、出来上がったものを見て絶賛しています。

 概ね原作に忠実である一方、終盤の「殺されていたはずの人々」「消し去られていたはずの街」は漫画のオリジナルですが、原作自体にもGHQの総司令官マッカーサーが片腕片脚であるなどのメタバース的要素があり、全体としては原作の雰囲気を損ねてはいないのでは(原作者もその部分について「綿密な調査に基づき活き活きと描かれていることに注目されたい。原作には無い、近藤さんの創意と熱意の賜物だ」としている)。

宇野亜喜良) 『五色の舟』.jpg 原作の所収本は文庫にもなっていますが、今年['23年]、原作者本人の企画立案により、宇野亞喜良氏が18点の挿画を描き下ろし、さらにToshiya Kamei氏による英訳(初訳)を対訳で収録した「ヴィジュアル版五色の舟」とも言える本が刊行されています(書店に並ぶ前に原作者が亡くなったのは惜しまれる)。宇野亞喜良のイメージに引っ張られる感はありますが、宇野亞喜良が好きな人にはいいと思います。

 因みに、昔、花園神社・酉の市の見世物小屋を観ましたが、おどろおどろしい〈蛇女〉とか〈牛女〉の幕絵の前でじりじり待たされる感じは何とも言えないものがありました。結局、〈蛇女〉は「五色の舟」の桜と同様、肌にウロコのペイントをし、細い小さな蛇を飲み込む"普通の人"で、〈牛女〉については、「五色の舟」の清子さん同様"逆関節"の人で、最後に実は「気の毒な身体障碍者です」的なアナウンスがありました。

 昭和50年代以後、未認可状態で身体障害者を舞台に出演させて見世物とする事などに対して取締りが行なわれるようになって見世物小屋が減少し、現在ある認可興行主は大寅興行社1社のみ。それが下記の通り、季節ごとに各地を巡業しているようです。
 5月 ― くらやみ祭(府中市/大國魂神社)
 6月 ― 札幌まつり(札幌市/中島公園)
 7月 ― みたままつり(千代田区/靖国神社)
 9月 ― 放生会(福岡市/筥崎宮)
 10月 ― 川越まつり(川越市/蓮馨寺)
 11月 ― 酉の市(新宿区/花園神社)
 12月 ― 十二日まち(さいたま市浦和区/調神社)。

 1社だけ残っているということは、"残している"ということなのでしょうか。〈角兵衛獅子〉などは、あれも元々は見世物興行的なものだったわけですが、「角兵衛獅子保存会」なんていうのがあったりしますが。

花園神社 酉の市.jpg

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漫画化作品の中で群を抜く、近藤ようこ版「桜の森の満開の下」「夜長姫と耳男」。

桜の森の満開の下 (岩波現代文庫).jpg 夜長姫と耳男 (岩波現代文庫).jpg 桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫).jpg  桜の森の満開の下・夜長姫と耳男 (ホーム社漫画文庫).jpg
桜の森の満開の下 (岩波現代文庫)』『夜長姫と耳男 (岩波現代文庫)』『桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)』(「夜長姫と耳男」所収)『桜の森の満開の下・夜長姫と耳男 (ホーム社漫画文庫)
桜の森の満開の下・白痴 他12篇 (岩波文庫)
桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫).jpg 主人公の山賊が住む鈴鹿の山奥には桜の木がたくさん茂っており、山賊はそれらに対し、理由がわからないまま不安を感じている。ある時、山道を非常に美しい女が通り、山賊は、女と一緒にいた旦那を殺して女を自分の妻にする。妻は都から来たもので、山での生活に何かと不平不満を言う。そして遂には山賊を都に連れて行き生活を始める。都での妻は大変楽しそうだった。山賊に頼んで獲ってきてもらった人の首で、ごっこあそびにふけっていた。対する山賊は次第に退屈になり、同時に妻に嫌気もさし始めたため、山へ帰ろうと決める。その旨を伝えると妻は連れて行ってくれと頼む。しかし妻は、一時ついていくものの、いずれまた都に連れ帰ってこようと考えていたのだ。山賊が妻を負ぶって山へ向かう道中、いつの間にか背中にいたのは鬼だった。襲われた山賊は鬼を殺す。しかしそこにあるのは鬼ではなく妻の死体だった。死体は桜の花びらへと変わり、孤独を知った山賊自らも花びらへと変わって消えてゆくのだった―。

IM桜の森の満開の下8.jpg 昭和22(1947)年6月、当時40歳の坂口安吾(1906-1955)が雑誌『肉体』創刊号に発表した短編小説「桜の森の満開の下」(さくらのもりのまんかいのした)は、坂口安吾代表作の一つで、「堕落論」と並んで読まれており、傑作と称されることの多い作品です。

 作品の魅力として、全体を通して情景の美しさが溢れるように感じられる点がありますが、これをビジュアル化するとなると、それぞれが既に抱いている美しいイメージがあるだけに、その期待に応えるのはなかなか難しいということになります。

 実際、多くの漫画家や画家が挑戦していますが、原作を読んで固有のイメージが出来てしまった人を満足させるものは少ないかと思います。画風が少女漫画風(BL系・ツンデレ系)になってしまっているものが多いせいもあるかと思います。

桜の森の満開の下 (ビッグコミックススペシャル).jpg そんな中、2009年に小学館のビッグコミックススペシャルとして刊行された近藤ようこ(1957年生まれ)氏の漫画化作品は、さすがベテランと言うか、比較的原作の雰囲気をよく伝えているように思いました。と言うより、相対比較で言えば、群を抜いていると言っていいかもしれません(このタッチが原作にフィットするとすれば、山岸涼子氏なども描けば結構いい線いくのではないか)。

桜の森の満開の下 (ビッグコミックススペシャル)』['09年]

 実は近藤氏が坂口安吾の作品で最初に漫画化したのは2008年の「夜長姫と耳男」で、近藤氏はその企画が決まった時、大好きな安吾を独り占めできるような気がして武者震いしたそうです。一番描きたいと思っていたのは、耳男が江奈子に耳を切られる場面と、高楼につるされた蛇の死体が揺れる場面だったそうで、これだけでも、「夜長姫と耳男」の原作が「桜の森の満開の下」に劣らず凄まじい話であることは窺えるかと思いますが、「桜の森の満開の下」のあらすじを書いてしまったので、「夜長姫と耳男」の方はここでは内容には触れないでおきます。
桜の森の満開の下 (立東舎 乙女の本棚)
桜の森の満開の下 (立東舎 乙女の本棚).jpg 近藤氏の漫画のほかに、立東舎の「乙女の本棚」シリーズで「桜の森の満開の下」の原文を全て載せた上でそれにカラーで絵をつける形での絵本化をしていますが('19年)、絵が、駆け出しの少女漫画家のパターンでこれも自分にとってはイマイチでした。

 同じ少女漫画風ならば、ホーム社漫画文庫の『コミック版 桜の森の満開の下・夜長姫と耳男』('10年)の方がまだ良かったかも。「桜の森の満開の下」の方の漫画は萩原玲二氏、「夜長姫と耳男」の方はタナカ☆コージ氏が描いています。漫画として割り切って読めば、1冊で両方の作品が読めるので、コスパ的にもますまずだったように思います。

 因みに、近藤氏の『桜の森の満開の下』『夜長姫と耳男』は共に2017年10月に岩波現代文庫のラインアップに加わっています(お堅い岩波もその実力を認めた!?)。

『桜の森の満開の下』...【2017年文庫化[岩波現代文庫]】/『夜長姫と耳男』...【2017年文庫化[岩波現代文庫]】

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