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「忠臣蔵」の裏エピソード、乃至はサイドストーリー集。面白かった。
『忠臣蔵討ち入りを支えた八人の証言 (PLAY BOOKS INTELLIGENCE 42) 』['02年] 「大忠臣蔵」('71年/NET[現テレビ朝日])三船敏郎
映画・芝居等でお馴染みの元禄討入事件で深く関り、事実を記録し、事後の処理をした8人の「義」人たちの史料に基づく記録です。「忠臣蔵」の裏エピソード、乃至はサイドストーリーといったところでしょうか。ああ、色んな人たちが義士に思い入れをし、支えたのだなあと改めて感じ入りました。史料準拠ですが読みやすく、読み物としても面白かったです。
取り上げているのは、1人目が、武士の情けを地で行く検察官・多門伝八郎、2人目が、浪士を援助した未亡人・瑤泉院、3人目が、義商綿屋善右衛門、4人目が.口上書の監修をした学者・細井広沢、5人目が、吉良邸の情報を提供した国学者・荷田春満、6人目が、討ち入り従軍記を記した佐藤條右衛門、7人目が、義に配慮した大目付・仙石伯耆守(せんこくほうきのかみ)、そして8人目が、細川家預りとなった赤穂義士達にきめ細かな世話を行い切腹当日までの証言を記録し晩年まで亡くなった義士の為に動いた堀内伝右衛門です。
1人目の検察官・多門伝八郎は、殿中刃傷の後、吉良はどうなるのか聞きすが浅野内匠頭に、老人なので長くは持たないと言って思いやったとのこと。更に切腹に際し、正検死役の庄田下総守が大名の切腹の場に相応しくない庭先でやらせようとしたのに対して、多門ともう一人の副検死役・大久保権左衛門がその処置に抗議し、また、最期に一目と望む内匠頭の家臣・片岡源五右衛門を自分の取り成しで主君に目通しを許可させたそうです。う~ん。この人がいなかったら、映画やドラマの忠臣蔵のあの片岡源五右衛門の最期の接見シーンもなかったのかあ(個人的には「赤穂浪士」(松田定次監督、'61年/東映)の山形勲の片岡源五右衛門が、山形勲は悪役が多いだけに却って印象的。この時の多門伝八郎役は悪役が多い進藤英太郎で、これも意外な配役)。ただし、典拠が『多門伝八郎覚書』であり、多門伝八郎自身のことをよく書いているのではないかとの批判もあるようです。そのため創作性が強い思われてきたようですが、著者は複数の史料から、多門伝八郎は実際に「義の人」であったとみているようです(著者自身の"思い入れ"は影響していないのかな)。
「赤穂浪士」('61年/東映)山形勲(片岡源五右衛門)
2人目の未亡人・瑤泉院は、映画などでも義士たちを支援していたのが描かれたものがありました。ただし、大石内蔵助が南部坂でそのための密談しているのは知りませんでした(ちゃんと決算報告もしている!)。映画などにおける「南部坂雪の別れ」のように、内蔵助が邸内に冠者が居るのを察して、瑤泉院の前で「さる西国の大名に召抱えられることになりました」と討ち入りする気など毛頭無いような素振りを見せ、瑤泉院を嘆かせ、戸田局を怒らせ(実はこれ、西国=浄土という暗喩だったのだが)、後で義士たちの血判状が見つかって、瑤泉院が内蔵助を邪険に追い返したことを悔いるシーンが有名ですが(個人的には「忠臣蔵」(渡辺邦男監督、'58年/大映)の山本富士子の瑤泉院が印象的)、そういったドラマは無かったようです(笑)。
「忠臣蔵」('58年/大映)山本富士子(瑤泉院)
3人目の義士たちの潜伏生活を支えた義商・綿屋善右衛門好時は、『仮名手本忠臣蔵』では名を変えて「天川屋義平は男でござる」のセリフで知られ、映画では「天野屋利兵衛は男でござる」などのセリフで有名(ものによっては天野屋利兵衛が家族ともども拷問に遭うものもあるが、個人的には忠臣蔵のコメディ版「珍説忠臣蔵」(斎藤寅次郎監督、'53年/新東宝)の花菱アチャコの「天野屋利兵衛は男でござる」ならぬ「何言うてまんねん。(天野屋)亜茶兵衛は男でござる」という口ぶりが、陰惨さが無くて良かった)。義商のモデルは、歌舞伎の天川屋義平はまったく架空の人物で、映画の天野屋利兵衛は実在の人物がいたものの、大石内蔵助らとの交流は無かったとのこと。その上で、綿屋善右衛門という実際に赤穂浪士を支援した人物がいたことを、史料から導き出しています(Wikipediaでは「義商天野屋利兵衛」のモデルとして、綿屋善右衛門説と天川屋利兵衛説の両方を挙げている)。
「珍説忠臣蔵」('53年/新東宝)花菱アチャコ(天野屋亜茶兵衛)・古川緑波(大石内蔵助)
『赤穂義士討入り従軍記―佐藤條右衛門覚書』(中島康夫ほか/㈶中央義士会(初版平成14年・第2版平成25年発行)/「大忠臣蔵」('71年/NET)田中春男(佐藤條右衛門)
そのほかには、討ち入りに同行し、討ち入りを終えたばかりの義士たちに聴き取りをした佐藤條右衛門とか(本書にもあるように、平成になって見つかった目撃談「佐藤條右衛門一敞覚書」は、当夜の四十七士のことやその親類縁者のことがいろいろ書かれており、奇跡の大発見と言われて発見当時ニュースにもなった。さらに、本書刊行年である平成14年の1月に全文が初めて活字化され、より一層その資料的価値が着目されるようになった。ただし、佐藤條右衛門の存在は以前から知られており、三船敏郎が大石内蔵助を演じた民放初の大河ドラマ「大忠臣蔵」('71年/NET[現テレビ朝日])では、既にその佐藤條右衛門を田中春男が演じており、渡哲也が演じるその従兄にあたる堀部安兵衛と別れの盃を交わしている)、
17名の義士が預かりとなった肥後細川家で、甲斐甲斐しく義士たちの世話をしながら、彼らの証言を自身の日記に書いた堀内伝右衛門とか(「堀内伝右衛門物語」として赤穂義士講談の1つになっていて、若林鶴雲の講談は感涙ものである。堀内伝右衛門は後年出家し、
故郷山鹿の日輪寺に赤穂義士遺髪塔を建立。生涯、義士の供養を行ったという。民放大河ドラマ「大忠臣蔵」では志村喬が堀内伝右衛門を演じた)とか。
「大忠臣蔵」('71年/NET)志村喬(堀内伝右衛門)
このように、まるでインタビュアー&取材記者、或いはノンフィクション作家のような役割を果たした人物がいたというのが興味深いです。そうした人たちのお陰で、赤穂義士のことが広く世に語り継がれ、また多くの物語にもなったのですが、当時としては、「後世に残す」というのもさることながら、人々の「知りたい」という欲求・要請が強くあり、それに応えてのそうした行為だったという面もあったかと思います。
「大忠臣蔵」[Prime Video]三船敏郎(大石内蔵助)・佐久間良子(瑤泉院)・尾上菊五郎(浅野内匠頭)・市川中車(吉良上野介)
「大忠臣蔵」●監督:土居通芳/村山三男/西山正輝/古川卓己/柴英三郎●脚本:高岩肇/土居通芳/宮川一郎/池田一朗/柴英三郎●プロデューサー:勝田康三(NET)/西川善男●音楽:冨田勲●撮影:浅斎藤孝雄/佐藤正●出演:三船敏郎/尾上菊之助/河原崎建三/長澄修/司葉子/中原剛/斉藤里花/佐久間良子/辰巳柳太郎/竜崎勝/伊藤雄之助/島田景一郎/渡哲也/有島一郎/赤座美代子/堀越節子/浜村
純/矢吹寿子/新克利/伊藤榮子/中丸忠雄/河野秋武/石田太郎/田村正和/加藤嘉/露原千草/平林利香/平林美香/御木本伸介/江原真二郎/原知佐子/香川良介/伴淳三郎/夏川静枝/中村伸郎/柴田侊彦/三上真一郎/フランキー堺/長谷川明男/音羽久米子/和崎俊哉/砂塚秀夫/左右田一平/金井由美/横森久/島かおり/河原崎長一郎/中村賀津雄/鮎川いずみ/早川保/牧紀子/寺田農/島田順司/宗方勝巳/工藤堅太郎/野々村潔/蜷川幸雄/若林豪/田中浩/小林昭二/石坂浩二/山本陽子/菅井一郎/浦辺粂子/村井国夫/田村高廣/堀雄二/珠めぐみ/清水将夫/北竜二/玉川伊佐男/高橋悦史(平幹二郎の代役)/中山仁/河津清三郎/大出俊/美川陽一郎/丹羽又三郎/井川比佐志/岩本多代/福田豊土/田島義文/勝部演之/地井武男/田村亮/真屋順子/小林千登勢/園千雅子/中野良子/北川美佳/中村光輝/西尾恵美子/桜町弘子/中村玉緒/林成年/山崎亮一/徳大寺伸/柴田美保
子/東郷晴子/木村博人/宮浩之/田口計/浅野進治郎/小栗一也/本郷淳/永井秀明/矢野宣/信欣三/徳永礼子/川野耕司/近藤準/湊俊一/川口節子/鈴木治夫/伊藤清美/市川中車(急逝に伴い吉良上野介役を実弟の小太夫に交代)/市川小太夫/丹波哲郎/中村米吉/芦田伸介/天知茂/長谷川峯子/天田俊明/池田秀一/神田隆/大友柳太朗/梓英子/橘公子/村上冬樹/戸上城太郎/睦五朗/今井健二/奥野匡/富田仲次郎/北城寿太郎/久富惟晴/青木義朗/小笠原弘/大里健太郎/原田力/仲村絋一/北村晃一/藤森達雄/高橋昌也/神山繁/高杉早苗/中村錦之助/市村竹之丞/仲谷昇/佐藤慶/北上弥太郎/細川俊夫/明石潮/岡部正/中吉卓郎/土屋嘉男/稲葉義男/中村竹弥/山
本耕一/佐々木孝丸/清水一郎/山崎直樹/宇佐美淳也/見明凡太郎/上月晃/高松英郎/堀田真三/相原巨典/原鉄/加藤武/加賀邦男/夏川大二郎/露口茂/上野山功一/滝川潤/天本英世/大木正司/二本柳敏恵/石橋雅史/内田勝正/永山一夫/山本清/山形勲/津島恵子/千波丈太郎/川合伸旺/長島隆一/宮口二郎/田中志幸/中村梅之助/北原義郎/伊達三郎/田川恒夫/広田竜治/武内亨/松尾文人/幸田宗丸/西田昭市/宮口精二/伊沢一郎/近藤準/湊俊一/北沢彪/真弓田一夫/永井玄哉/加地健太郎/小山源喜/織本順吉/滝田裕介/高木二朗/木村博人/沢村昌之助/多田幸雄/森山周一郎/松枝錦治/笠原弘孝/柿木香二/金内喜久夫/池田忠夫/木村元/弘松三郎/牧田正嗣/柄沢英二/小林亘/吉頂寺晃/緒方燐作/立川雄三/大木史朗/松本幸四郎/勝新太郎/中村翫右衛門/曾我廼家五郎八/池内淳子/花柳小菊/志村喬/曾我廼家明蝶/桂小金治/京塚昌子/堺正章/島田正吾/小杉勇/東千代之介/原保美/岡田英次/十朱幸代/小山明子/十朱久雄/平田昭彦/三島雅夫/尾上菊蔵/安部徹/田崎潤/夏川大二郎/柳谷寛/坂上二郎(コント55号)/萩本欽一(コント55号)/関敬六/玉川スミ/堺左千夫/小川安三/田武謙三/高桐真/内田朝雄/佐伯徹/清水元/宮川洋一/磯野洋子/江原達怡/人見きよし/大泉滉/小松方正/:花沢徳衛/二木てるみ/香川秀人/清水美佐子/村田芙実子/黒木進/永田靖/西尾恵美子/小林勝彦/三角八朗/住吉正博/桂小かん/田中春男/杉山渥典/小瀬格/溝井哲夫/河村弘二/中原成男/石井宏明/ケーシー高峰/宮城けんじ(Wけんじ)/東けんじ(Wけんじ)/島田洋介/今喜多代/正司玲児(正司敏江・玲児)/正司敏江(正司敏江・玲児)/雷門助六/鮎川浩/池田忠夫/青沼三郎/土方弘/利根はる恵/菅沼赫/穂積隆信/天草四郎/浜田寅彦/水原麻紀/渡辺明/左奈田恒夫/上田忠好/里木左甫良/矢野目がん/中村是好/石浜祐次郎/桜川ぴん助/伊東ひでみ/西山真砂/奈美悦子/八代万智子/赤木春恵/三井弘次/木田三千雄/向井淳一郎/丘寵児/小松紀子/三島新太郎/藤本三重子/瀬良明/立岡晃/山本郷一/大前亘/飯沼慧/岡本隆/藤江リカ/田中浩/永井譲滋/松山照久/中井啓輔/森本景武/霧島八千代/沼田曜一/工藤明子/牧伸二/岡田可愛/稲吉靖/沢田雅美/藤里まゆみ/小畑通子/村上不二夫/吉永倫子/福山象三/北九州男/南川直/田村保/森脇邦浩/山波宏/中村公三郎/和田幾子/桂淳平/瀬川新蔵/鈴木慎/刈谷潤/深町稜子/市川祥之助/河合憲/江藤潤/高瀬美樹/中村上治/間島純/池田生二/小高まさる/日恵野晃/佐田豊/藤木卓/稲川善一/鈴木志郎/本庄和子/辻伊万里/高松政雄/藤田漸/東洋健児●放映:1971/04~12(全52回)●放送局:NETテレビ[現テレビ朝日]
[1段目]中村錦之助(脇坂淡路守)/渡哲也(堀部安兵衛)/江原真二郎(片岡源五右衛門)/伊藤雄之助(大野九郎兵衛)/加藤嘉(矢頭長助)/フランキー堺(赤埴源蔵)/[2段目]勝新太郎(俵星玄蕃)/中村伸郎(吉田忠左衛門)/平田昭彦(堀内源太左衛門)/芦田伸介(小林平八郎)/天知茂(清水一學)/蜷川幸雄(間十次郎)/[3段目]佐藤慶(松平駿河守)/山形勲(滝立仙)/丹波哲郎(千坂兵部)/ 田村高廣(高田郡兵衛)
「大忠臣蔵」DVD 全13巻
《読書MEMO》
●目次
第1章 内匠頭を見届けた正義漢―多門伝八郎重共
第2章 浪士を援助した決意の未亡人―瑤泉院
第3章 潜伏生活を支えた義商―綿屋善右衛門好時
第4章 旧主に背いて味方した学者―細井広沢知慎
第5章 吉良邸の情報提供役―荷田春満
第6章 討ち入りの全記録者―佐藤条右衛門一敞
第7章 義士を逃がした大目付―仙石伯耆守久尚
第8章 義士の日記を書いた男―堀内伝右衛門勝重