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マギー・チャン出演2作。ラストがいい「ラヴソング」。勉強になった「宋家の三姉妹」。

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ラヴソング」マギー・チャン(張曼玉)/レオン・ライ(黎明)
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宋家の三姉妹」マギー・チャン(張曼玉)/ヴィヴィアン・ウー(鄔君梅)/ミシェル・ヨー(楊紫瓊)[左]

「ラヴソング」 01.jpg 1986年。故郷 天津に恋人シャオティン(小婷)(クリスティ・ヨン(楊恭如))を残し、シウクワン(小軍)(レオン・ライ(黎明))は香港へやって来る。シウクワンの夢は、香港で金を蓄えてシャオティンと結婚すること。しかし、広東語はチンプンカンプン、右も左も分からない香港では迷う事ばかり。そんなある日、初めて入ったハンバーガーショップで 店員のレイキウ(李翹)(マギー・チャン(張曼玉))に偶然助けられ、彼女と徐々に親しくなっていく。いくつも仕事を掛け持ちするシッカリ者のレイキウは、シウクワンにとって、香港で唯一頼れる友人に。ところが、何でも知っているように見えたレイキウもまた広州からやって来た大陸出身者であると判る。香港で孤独な二人はどんどん親密になり、1987年大晦日の晩、ついに一線を越えてしまう。それでも、お互いを"友人"と偽り続け、関係を続けるが、1990年、シウクワンは天津から呼び寄せたシャオティンと結婚、レイキウもまたパウ(豹哥)(エリック・ツァン(曾志偉))の援助で、実業家として成功していくのであった―(「ラヴソング」)。

 1996年(香港返還の前年)11月に公開されたピーター・チャン(陳可辛)監督作で、出演はマギー・チャン(張曼玉)、レオン・ライ(黎明)、エリック・ツァン(曾志偉)など。1998年・第16回「香港電影金像奨」で最優作品賞・最優秀主演女優賞・最優秀助演男優賞など9つの賞、「台湾映画金馬賞」最優秀脚本賞、米国の「シアトル国際映画祭」最優秀作品賞などを受賞し、「タイム」では同年度の世界での優秀な作品トップ10で2位に選ばれています。20世紀末で最も成功したラブストーリー映画とも称され、同作品のヒロイン、マギー・チャンは「ロアン・リンユィ 阮玲玉」('91年/香港)に続いて2回目の金像賞、金馬賞のダブル受賞を達成しています。

「ラヴソング」 11.jpg 1986年から始まり、1995年までの主人公二人の10年に及ぶ心温まるラブストーリーで、特にラストがいいですが、ラストがいいと感じられるということは、そこまでのストーリーの積み上げ方が上手いのでしょう。テレサ・テンの歌をモチーフにしており、「ラヴソング」 12.jpg原題にもなっている「甜蜜蜜(ティェンミミ/ 蜜のように甘く)」という曲もその1つ。当時香港ではテレサ・テンのファンであることは 大陸出身であることを意味し、それを隠すためテレサ・テンのカセットは密かに買われていたようですが、 それまでいかにも香港人らしく振る舞っていたレイキウも実は大陸出身であることを告白し、他に親しい人のいない寂しい二人の仲は一気に 深まっていきます。

「ラヴソング」 l.jpg 二人が自転車に乗って「甜蜜蜜」を歌うのが、恋愛の始まりの高揚感を現していて良かったです(まさに「ラヴソング」)。テレサ・テンの曲では、その他に、「再見!我的愛人」(アン・ルイスの「グッドバイ・マイ・ラブ」)、「涙的小雨」(クールファイブの「長崎は今日も雨だった」)といったカバー曲も流れます。テレサ・テンが亡くなったのは1995年5月8日ですが、そのニュースが流れる場面が最後にあり、この映画で重要な役割を果たします。この映画はテレサ・テンが亡くなった翌年に作られているため、ラストシーンはほぼリアルタイムということになります。

「我が心のテレサ・テン」.jpg テレサ・テンについては、昨年['22年]8月にNHKの「映像の世紀バタフライエフェクト」で"我が心のテレサ・テン"として取り上げていましたが、日本人が一般に抱く「台湾からやって来た歌手テレサ・テン」のイメージとは大違いであり、彼女は当時すでにアジアの歌姫であって、天安門事件(1989年)などに苦しむ中国の若者たちにとっては、政治的メッセージを発する自分たちのシンボル的な存在であったようでです(ただし、この映画では天安門事件などは描かず、そうした政治的メッセージを伏せている)。

「ラヴソング」 つあん.jpg エリック・ツァン(曾志偉)演じる、レイキュウがその愛人になってしまうヤクザ者のパウ(豹哥)も、実は見かけに「ラヴソング」 ドイル.jpgよらず人間味のあるいい男でした(エリック・ツァンはこの演技で「香港電影金像奨最優秀助演男優賞」を受賞)。ウォン・カーウァイ監督作品の撮影監督で知られるクリストファー・ドイルが、英語学校の酔いどれ不良講師役で出ていますが(その授業というのが、海賊映画を見せてその台詞を覚えさせるものだった)、これもまた見かけによらず優しい男であり、この辺りもラブロマンス的には良かったです。


「宋家の三姉妹」1997.jpg 1900年代の初頭。中国の大財閥の総帥チャーリー宋(チアン・ウェン(姜文))は、三姉妹のわが子を米国留学させた。長女の宋靄齢は14歳。三女の美齢はまだ9歳の時に。当時の中国は清朝打倒運動が盛んで、宋も密かに革命家の孫文(ウィンストン・チャオ(趙文瑄))を支援していた。やがて辛亥革命で清朝は滅亡、孫文は中華民国大統領に選出される。1910年、帰国して孫文の秘書となる長女の靄齢(ミシェル・ヨー(楊紫瓊))。だが、靄齢は程なく富豪の孔祥熙(ニウ・チェンホワ(牛振華))と結婚。代わって孫文の秘書となる次女の慶齢(マギー・チャン(張曼玉))。政争に破れた孫文が日本に亡命すると慶齢も渡日し、親の反対を押し切って親「宋家の三姉妹」01.jpg子ほど歳の離れた孫文と結婚。1922年、広東に革命政府を樹立した孫文は、味方であるはずの軍閥に急襲され、軍事顧問の蔣介石(ウー・シングォ(呉興国))により救出される。だが、妻・慶齢は脱出に苦労し、妊娠中の子を失う。1924年、孫文の抜擢で蒋介石は黄捕士官学校の校長となる。学校設立には、財閥である靄齢の夫・孔祥熙が深く関わっていた。蒋介石の出世を見越して、妹の美齢(ヴィヴィアン・ウー(鄔君梅))に結婚を勧める靄齢。1925年、「宋家の三姉妹」02.jpg孫文は総理在任中に「革命未だ成らず」と言い残して逝去。人々から孫文の思想の象徴と見なされる慶齢。政治的に孫文になり代わったのは総司令官の蒋介石だった。蒋家の権力、孔家の財力。孫家の名声が国を動かすと確信する靄齢。孫文が作り上げた中国国民党は彼の死後、権力争いで分裂。乱れた国民党を嫌って脱退する慶齢。混乱に乗じて権力拡大を画策する蒋介石。蒋介石を非難した慶齢は、美齢や靄齢と敵対する。美齢は既に蒋介石と婚約していたのだ。1927年、慶齢はソ連に渡り、美齢は国民革命軍の総司令官となった蒋介石と盛大な結婚式を挙げる。1931年。満洲事変が勃発するが、蒋介石の国民党は中国共産党の粛清を優先し、日本軍の侵攻を許す。ソ連から帰国し、蒋介石非難声明を発表する慶齢。慶齢が邪魔だが、義姉であり、英雄・孫文の妻である彼女を暗殺できない蒋介石。1936年、蒋介石が西安で張学良らに拉致・監禁される。国民党と共産党の内戦を停止し、対日戦線を開始せよと蒋介石に迫る張学良。蒋介石の救出に力を合わせる宗家の三姉妹。日本軍との戦いのために、共産党に働きかけて張学良らの暴走を止める慶齢。救い出された蒋介石は、挙国一致の抗日を宣言。兵士の慰問などで反日戦線の象徴となる三姉妹。だが、終戦を待たずに靄齢と夫は香港に、慶齢は上海に移住。中国では共産党が台頭し、蒋介石と美齢は国民党と共に台湾に去る。「一人は金と、一人は権力と、一人は国家と結婚した」と言われた三姉妹が再び揃うことは無かった―(「宋家の三姉妹」)。

 「誰かがあなたを愛してる」('87年/香港)のメイベル・チャン 監督の1997年5月公開作(この年の7月に香港は英国から中国に返還された)。「誰かがあなたを愛してる」とはまったく作風の異なる作品で(「ラヴソング」の方が「誰かがあなたを愛してる」に近い)、伝記映画であるとともに壮大な時代劇ロマンです。1998年・第17回「香港電影金像奨」の最優秀主演女優賞(マギー・チャン)、最優秀助演男優賞(チアン・ウェン)、最優秀撮影賞(アーサー・ウォン)、最優秀衣装賞(ワダ・エミ)、最優秀音楽賞(喜多郎/ランディ・ミラー)を受賞しています(マギー・チャンは前年の「ラヴソング」に続いて2年連続の受賞)。

 三姉妹とその配役を整理すると、

「宋家の三姉妹」3姉妹.jpg  長女・宋靄齢(孔祥熙と結婚)... ミシェル・ヨー(楊紫瓊)
  次女・宋慶齢(孫文と結婚)... マギー・チャン(張曼玉)
  三女・宋美齢(蔣介石と結婚)... ヴィヴィアン・ウー(鄔君梅)

「宋家の三姉妹」3姉妹本.jpg 「一人は金と、一人は権力と、一人は国家と結婚した」いうこの映画のキャッチから、「宋靄齢は金を愛し、宋美齢は権力を愛し、宋慶齢は国を愛した」と評されるようになったそうです。宋三姉妹については、これもまた昨年['22年]8月にNHKの「映像の世紀バタフライエフェクト」で"中国 女たちの愛と野望"として取り上げていたので、まったく知らないわけではありませんでしたが、映画は意外と説明的に作られていて、これはこれで勉強になりました。この映画によれば「国共合作」が成り立ったのは宋三姉妹の尽力によるものであり、中国の歴史を変えた三姉妹ということになるでしょうか。

 渋谷のBunkamuraが今年['23年]4月10日から休館したことに伴い、渋谷東映プラザ内「渋谷TOEI」跡地に6月16日に開業した「Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下」のこけら落としを飾ったのが、このマギー・チャン(1964年生まれ)の回顧上映「マギー・チャン レトロスペクティブ」でした(マギー・チャンに着眼するところがBunkamuraらしい?)。ミシェル・ヨー(1962年生まれ、マレーシア出身)が「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」('22年/米)でアジア人女優として初めてアカデミー主演女優賞にエントリーされ、受賞したことも影響しているのでしょうか。そのミシェル・ヨーとマギー・チャンを同時に観られるのが嬉しい作品です。

 ミシェル・ヨーはアカデミー賞受賞で、国際派女優としてこれまで以上に注目を集めるようになりましたが、マギー・チャンも1992年には「ロアン・リンユィ/阮玲玉」で香港女優初の「ベルリン映画祭主演女優賞」を獲得し、ベルリン国際映画祭(1997年)、ベネチア国際映画祭(1999年)、カンヌ国際映画祭(2007年)の審査員も務めるなどした香港を代表する国際派女優となりました。

「ラヴソング」 d.jpg「ラヴソング」●原題: 甜蜜蜜/(英)COMRADES, ALMOST A LOVE STORY●制作年:1996年●制作国:香港●監督:ピーター・チャン(陳可辛)●製作:ピーター・チャン/クローディ・チョン(製作総指揮:レイモンド・チョウ)●脚本:アイヴィ・ホー●撮影:ジングル・マー●音楽:チウ・ツァンヘイ(主題歌:テレサ・テン「甜蜜蜜」)●時間:118分●出演:マギー・チャン(張曼玉)/レオン・ライ(黎明)/エリック・ツァン(曾志偉)/クリストファー・ドイル(杜可風)/クリスティ・ヨン(楊恭如)/アイリーン・ツー●日本公開:1998/02●配給:BMGジャパン=ビターズ・エンド●最初に観た場所:Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(23-07-10)(評価:★★★★☆)

「宋家の三姉妹」05.jpg「宋家の三姉妹」●原題:宋家皇朝/(英)THE SOONG SISTERS●制作年:1997年●制作国:香港・日本●監督:メイベル・チャン(張婉婷)●製作:ン・シーユエン●脚本:アレ「宋家の三姉妹」04.jpgックス・ロー●撮影:アーサー・ウォン(黄岳泰)●音楽:喜多郎/ランディ・ミラー●時間:145分●出演:マギー・「宋家の三姉妹」03.jpgチャン(張曼玉)/ミシェル・ヨー(楊紫瓊)/ヴィヴィアン・ウー(鄔君梅)/ウィンストン・チャオ(趙文瑄)/ウー・シングォ(呉興国)/チアン・ウェン(姜文)/エレイン・チン(金燕玲)/ニウ・チェンホワ(牛振華)●日本公開:1998/11●配給:東宝東和●最初に観た場所:Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(23-07-09)(評価:★★★★)

チアン・ウェン(姜文)in 「紅いコーリャン」('87年/中国)/「春桃(チュンタオ)」('88年/中国・香港)/「宋家の三姉妹」('97年/香港・日本)[「香港電影金像奨最優秀助演男優賞」受賞]
チアン・ウェン(姜文)1.jpg チアン・ウェン(姜文)3.jpg チアン・ウェン(姜文)2.jpg

《読書MEMO》
●NHK 総合 2022/05/30「映像の世紀バタフライエフェクト#8―我が心のテレサ・テン」
「わが心のテレサ・テン」.jpg
台湾出身のテレサ・テンの歌声は世界のチャイニーズの心を震わせ、テレサが一度も足を踏み入れたことのない中国本土にも彼女のカセットテープがあふれた。中国から台湾に亡命した空軍パイロットはテレサとの面会を真っ先に求め、台湾当局もテレサをプロパガンダに利用した。そして、テレサの歌声は天安門広場の民主化デモを支援し、香港の民主化運動でも歌われ続けている。歴史に翻弄されたアジアの歌姫の知られざる物語である。

●NHK 総合 2022/08/22「映像の世紀バタフライエフェクト#15―中国 女たちの愛と野望」
「中国 女たちの愛と野望」.jpg
中華人民共和国の建国式典に毛沢東と共に天安門に上る女性がいた。「革命の父」孫文の未亡人・宋慶齢である。中国の権力の攻防の陰にはいつも女性がいた。辛亥革命から権力者を支えてきた宋家の三姉妹、「一人は国を愛し、一人は権力を愛し、一人は富を愛した」と言われた。中国を恐怖に陥れた文化大革命を主導した江青、そのねらいはライバルの女性を失脚させることだった。権力の陰で繰り広げられた女性たちの愛と野望の物語。

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〈パリ解放〉を描いた作品。多くの有名俳優が出ているが、主人公は独軍のパリ占領軍司令官か。

「パリは燃えているか」1966.jpg「パリは燃えているか」19662.jpg 「パリは燃えているか」2.jpg
パリは燃えているか [DVD]」「吹替シネマ2021 パリは燃えているか-HDリマスター版- [Blu-ray]」ジャン=ポール・ベルモンド/マリー・ヴェルシニ/アラン・ドロン
「パリは燃えているか」01.jpg 1944年8月、第2次世界大戦の連合軍の反撃作戦が始まっていた頃、フランスの装甲師団とアメリカの第4師団がパリ進撃を開始する命令を待っていた。独軍下のパリでは地下組織に潜ってレジスタンスを指導するドゴール将軍の幕僚デルマ(アラン・ドロン)と自由フランス軍=FFIの首領ロル大佐(ブリュノ・クレメール)が会見、パリ防衛について意見を闘わしていた。左翼のFFIは武器弾薬が手に入りしだい決起すると主張、ドゴール派は連合軍到着まで待つという意見だった。パリをワルシャワのように廃墟にしたくなかったからだ。一方独軍のパリ占領軍司令官コルティッツ将軍(ゲルト・フレーベ)は連合軍の進攻と同時に、パリを破壊せよという総統命令を受けていた。将軍は工作隊に命じて、工場、記念碑、橋梁、地下水道など、ありとあらゆる建造物に対して地雷を敷設させていた。このような時に、イギリス軍諜報部から"連合軍はパリを迂回して進攻する"というメッセージがレジスタンス派に届いた。ロル大佐は自力でパリを奪回しようと決意し、これを知ったデルマは、これをやめさせる人間は政治犯として独軍に捕らえられているラベしかないと考え、ラベの妻フランソワーズ(レスリー・キャロン)とスウェーデン領事ノルドリンク(オーソン・ウェルズ)を動かして、ラベ救出を図ったが失敗、結局、ドゴール派と左翼派の会議の結果、決起が決まった。ドゴール派は市の要所を占領し、市街戦が始まった。パリ占領司令部は、独軍総司令部からパリを廃墟にせよという命令を受けていた上、市「パリは燃えているか」 ウェルズ.jpg街戦が長びけば爆撃機が出動すると告げられていた。コルティッツ将軍は、すでにドイツ敗戦を予想していて、パリを破壊することは全く無用なことと思っていた。そこでノルドリンク領事を呼び、一時休戦をしてパリを爆撃から守り、その間に連合軍を呼べと遠回しに謎をかける。ノルドリンクから事情を知ったデルマは、ガロア少佐(ピエー新湯 パリは燃えているか〔新版〕.png.jpgル・ヴァネック)を連合軍司令部に送った。ガロアはパリを脱出、ノルマンディの米軍司令部に到着した。パットン将軍(カーク・ダグラス)はパリ解放は米軍の任務ではないと告げ、ガロアを最前線のルクレク将軍(クロード・リッシュ)に送る。ルクレク将軍は事態の急を知ってシーバート将軍(ロバート・スタック)を動かし、ブラドリー将軍(グレン・フォード)を説いた。ブラドリーは全軍にパリ進攻を命令した。8月25日、ヒットラーの専用電話はパリにかかっていて"パリは燃えているか"と叫び続けていた―。

パリは燃えているか?〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫 NF 455) 』['16年]2025.6.7 蓼科新湯温泉にて

「パリは燃えているか」d1.jpg 1966年の米・仏合作のオールスターキャスト戦争映画で、原作はラリー・コリンズ、ドミニク・ラピエールによるレジスタンスとパリの解放を描いたノンフィクション作品。「禁じられた遊び」('52年/仏)、「居酒屋」('56年/仏)のルネ・クレマンが監督し、「ゴッドファーザーPARTⅡ」('74年/米)、「地獄の黙示録」('79年/米)のフランシス・フォード・コッポラが脚本を担当しています。

 この映画がモノクロ映画になったのは、撮影のためナチスの卍旗を、公共の建物に掲げることにフランス当局からの許可が出ず、本来の赤い部分を緑に変色させたものを使ったためだとも言われていますが、どちらかと言うと、後半の市街戦を中心に本編の劇とパリ解放当時の実際の映像を大量にモンタージュしてシームレスに当時の状況を再現していて、このためだったのではないかと思います。本編の方も記録映像に合わせてわざと画素を荒くしたりしており、記録映像とうまく融合するようになっています。

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 オールスター映画と言っても、多くの有名俳優がちょっとずつ出ているという感じで、コルティッツ将軍にパリの街を守ることを進言するスウェーデン領事を演じたオーソン・ウェルズなどは前半かなり出づっぱりだったし、ジャン・ポール・ベルモンドとアラン・ドロンが一つの枠に収まっているシーンなどもありますが、パットン将軍のカーク・ダグラスなどはほぼ1シーンだけだし、タンク(戦車)隊のGI役のジョージ・チャキリスなどは一瞬のカメオ出演といった感じ。まだ、同じGI役のアンソニー・パーキンスの方がチャキリスよりはよく出ていました(珍しく明るい役だと思ったら、パリ進攻直後に敵軍撃破で歓喜に湧いて祝杯を挙げた直後に、敵の弾に当たってあっさり戦死してしまったが)。

「パリは燃えているか」1.jpg 群像劇の中で誰が主人公か敢えて言えば、ゲルト・フレーベが演じた"独軍のパリ占領軍司令官コルティッツ将軍だったかも。ヒトラーの信任が厚い人物ながら、パリの破壊と市民の人命を救うべく、ナチ親衛隊の命令を聞き流すなど面従腹背の腹芸をしたことが描かれています。ラストの方で、フランス軍の中尉が降伏要求と身柄確保に乗り込んで来るシーンがありますが、伝わるところでは、仏軍中尉は、司令官室に乗り込むと緊張のあまり「ドイツ語を話せるか」とドイツ語で叫んでしまい、それに対してコルティッツ将軍は「貴官よりいくらか上手だと思う」と余裕で答えたそうです。ただし、この逸話は映画では描かれていませんでした(代わりに、中尉が自分が敵将軍を逮捕するまでの人間になったと親に電話で報告する場面が描かれている)。

 史実では、パリの状況に苛立ったヒトラーが、パリ廃墟命令が実施されているか、最高司令部作戦部長アルフレート・ヨードル大将に質問した上で、「Brennt Paris?(パリは燃えているか?)」と3回にわたって問うたそうで、それがコルティッツ将軍が降伏する10分ほど前だったそうですが、それをヒトラーからコルティッツ将軍への彼の降伏直後の電話(したがって誰も出ない)に置き換えてラストシーンとし、さらに映画のタイトルにしたわけです。

 演出もドキュメンタリータッチで、過剰な演出はありませんが(したがって地味と言えば地味な映画)、しかしながらこれだけ有名な俳優が出ていると、それがどこでどういう役で出ているのか見るだけでも楽しめます。また、屋根の上などから見たパリの街の俯瞰が時折入るところはルネ・クレマンらしいいと言うか、フランス映画の伝統なのかも。因みに、NHKスペシャル「映像の世紀」「新・映像の世紀」のメインテーマ曲「パリは燃えているか」は、加古隆がこの映画にインスパイアされて作曲したものです(こも映画のテーマ曲ではない)。

パリよ、永遠に.jpg ドイツの監督が作ったパリ解放映画では、「ブリキの太鼓」('79年/西独)のフォルカー・シュレンドルフ監督の「パリよ、永遠に」('14年/仏・独)があり、ドイツ軍のコルティッツ大将と、「パリは燃えているか」でオーソン・ウェルズが演じたスウェーデン総領事ノルドリンクのやり取りでほとんどが構成されているようです。

 こちらの方は観てませんが、ナチス・ドイツ崩壊後、コルティッツは以前のセヴァストポリ包囲戦での行動が原因で2年間の獄中生活を送ることになり、ノルドリングの方はパリでコルティッツを説得したことで勲章を授与されますが、本当の英雄はコルティッツだと認め、彼に勲章を渡す―という終わり方になっているようです。

パリよ、永遠に [レンタル落ち]
ニエル・アレストリュプ(コルティッツ将軍)/アンドレ・デュソリエ(ノルドリング総領事)
  
[パリは燃えているか.jpg「パリは燃えているか」きゅけい.jpg「パリは燃えているか」●原題:PARIS BRULE-T-IL ?/IS PARIS BURNING?●制作年: 1966年●制作国:アメリカ・フランス●監督:ルネ・クレマン●製作:ポール・グレッツ●脚本:ゴア・ヴィダル/フランシス・フォード・コッポラ●撮影:マルセル・グリニヨン●音楽:モーリス・ジャール●原作:ラリー・コリンズ/ドミニク・ラピエール●時間:173分●出演:ジャン・ポール・ベルモンド/シャルル・ボワイエ/アラン・ドロン/ジャン=ピエール・カッセル/ブリュノ・クレメール/ゲルト・フレーベ/ダニエル・ジェラン/レスリー・キャロン/オーソン・ウェルズ/ピエール・ヴァネック/カーク・ダグラス/クロード・リッシュ/ロバート・スタック/グレン・フォード/イヴ・モンタン/アンソニー・パーキンス/ミシェル・ピコリ/ヴォルフガング・プライス/シモーヌ・シニョレ/ジャン=ルイ・トランティニャン/ジョージ・チャキリス/マリー・ヴェルシニ/ギュンター・マイスナー/マイケル・ロンズデール●日本公開:1966/12●配給:パラマウント映画(評価:★★★★)

《読書MEMO》
●NHK 総合 2023/11/27「映像の世紀バタフライエフェクト#52―パリは燃えているか」
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この番組のテーマ音楽「パリは燃えているか」は、ヒトラーが第二次大戦末期に発した言葉に由来する。しかし、パリは燃えなかった。パリを治めるドイツ軍司令官がヒトラーの破壊命令に背いたのだ。ナチス占領下のパリで何があったのか。亡命先から市民に徹底抗戦を呼びかけたドゴール、ドイツの監視の中、創作を続けたピカソ、シャネルはナチスの協力者となった。「パリ燃え」のメロディーに乗せて贈る、パリ百年の不屈の物語。

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主人公の「敵」は誰であるか。最後に彼女が銃口を向けたのはイリーナではなく―。

同志少女よ、敵を撃て8.jpg同志少女よ、敵を撃て0.jpg同志少女よ、敵を撃て1.jpg
同志少女よ、敵を撃て』装画:雪下まゆ

『同志少女よ、敵を撃て』評.jpg同志少女よ、敵を撃て honya.jpg 2022(令和4)年・第19回「本屋大賞」第1位(大賞)作品。2021(令和3)年・第11回「アガサ・クリスティー賞(大賞)」(早川書房・公益財団法人早川清文学振興財団主催)受賞作。2022(令和4)年度・第9回「高校生直木賞(大賞)」(同実行委員会主催、文部科学省ほか後援)受賞作。2021(令和3)年下半期・第166回「直木賞」候補作。

 独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」―そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした"真の敵"とは―。

戦争は女の顔をしていない 1.jpg 作者自身も述べているように、2015年にノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの主著『戦争は女の顔をしていない』に触発されて書かれた小説で、同書は、独ソ戦に従軍した女性たちへの綿密なインタビューをもとに、「男の言葉」で語られてきた戦争を、これまで口を噤まされてきた女性たちの視点から語り直した証言集ですが、そのほかに、実在した天才狙撃手リュドミラ・パヴリチェンコの回想録『最強の女性狙撃手』などから完成された本物のスナイパーの在り様を参照し、さらに、作中でも引用している『ドイツ国防軍兵士たちの100通の手紙』からは、人を殺めることへの罪悪感が消失する瞬間を描出しています。

 直木賞の選評では、三浦しをん氏が強く推したのに対し、浅田次郎氏の「戦争小説には不可欠なはずの、生と死のテーマが不在であると思えた。主人公が敵を憎みこそすれ戦争に懐疑しないというのは、たとえ現実がそうであろうと文学的ではない」などといった意見もあり、受賞を逃していますが、もともとこの回は米澤穂信氏の『黒牢城』が候補作にあったりしてレベルが高かったのと、あと、この作品が作者の処女作であることから、もう少し他の作品も見てみたいというのも選考委員の間にあったのではないでしょうか。選考委員の一人である宮部みゆき氏も、「作品は素晴らしいが、新人賞受賞作で初ノミネート、いきなり受賞はためらわれる」として見送りになったかつてのケースと同じだと、述べています。

 浅田次郎氏の評と反しますが、作中で主人公セラフィマが終始問われることになるのが「なんのために戦うのか」であり、これはタイトルにある「敵」が誰であるのかにも通じる問いです。むしろ、物語は、主人公の「敵」が誰であるのかからスタートし、セラフィマにとっての最初の「敵」は、母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナであって、それらに復讐するためにそのイリーナの下で彼女は狙撃兵となります。それが、最後は、イリーナへ銃口を向けるのではなく、自分と同い年の幼馴染で、周囲からは将来結婚するものと思われていたミハイル(ミーシカ)に彼女は銃を向けることになる―。
 
 ここが、この作品の最大のポイントでしょう。国家間の戦争からジェンダーの問題に切り替わってしまったとの見方もあるかもしれませんが、この部分において『戦争は女の顔をしていない』のテーマを引き継ぐとともに、、ミハイルをそのような人間にしてしまった戦争というものへの批判が込められているように思いました。

 直木賞の選考で論点となったことの1つに、「どうして日本人の作家が、海外の話を書かなくてはいけないのか」というものがあり、林真理子氏などは、それが最後まで拭い去ることが出来なかったとしています。しかし一方で、三浦しをん氏は「彼女たちの姿を描くことを通し、現代の日本および世界に存在する社会の問題点をも「撃て」ると作者は確信したからだろう」という積極的に評価しており、この意見は選考委員の中では少数意見だったようですが、個人的には自分もそれに近い意見です。よって、評価は「◎」としました。

 ただし、選考委員の北方謙三氏は、「タイトルの『敵』が、終盤では観念性を持ちはじめて、私を失望させた」と述べており、そういう見方もあるかもしれないなあとは思いました(でも「◎」)。

 因みに、高校生が直木賞候補作から「大賞」を選ぶ「高校生直木賞」では、『黒牢城』などを抑えてこの作品が受賞しています。

《読書MEMO》
#26―戦場の女たちパブリチェンコ.jpg●NHKのドキュメンタリー番組「映像の世紀バタフライエフェクト」で2022年12月19日、ウクライナ出身の伝説の最強女性狙撃手「リュドミラ・パヴリチェンコ」が取り上げられていた。本書にも主人公の少女セラフィマの「第三十九独立小隊」の指揮官である「イリーナ」の戦友という設定で登場する。作者は文藝春秋のインタビューで、彼女の回想録『最強の女性狙撃手』(ただし、彼女自身は"最強"であることを誇ってはいない)から、如何なる状況下でも一切動揺することがない、完成された本物のスナイパーの在り方を学んだと述べている。パヴリチェンコさんは戦線を離れた後、少佐に昇進、その当時同盟国だったアメリカに派遣され、ソ連人として初めてフランクリン・ルーズヴェルト大統領と面会した。

●NHK 総合 2022/12/19「映像の世紀バタフライエフェクト#26―戦場の女たち」
#26―戦場の女たち.jpg
世界の軍隊で増え続ける女性兵士たち。そのきっかけは第二次世界大戦だった。309人をしとめ、死のエンジェルと呼ばれたソ連の女性狙撃兵リュドミラ・パブリチェンコ。ナチスの急降下爆撃を生み出した天才飛行士ハンナ・ライチュ。ノルマンディー上陸作戦を成功させるため、危険な潜入工作に挑んだスパイたち。彼女たちの命懸けの活躍、そして兵器の進化が、その後の女性兵士を生んでいく。戦場の女性たちの勇気と悲しみの物語。

「●スティーヴン・スピルバーグ監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3117】 スティーヴン・スピルバーグ 「ウエスト・サイド・ストーリー
「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「●メリル・ストリープ 出演作品」の インデックッスへ 「●トム・ハンクス 出演作品」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●国際(海外)問題」の インデックッスへ ○映像の世紀バタフライエフェクト(「ベトナム戦争 マクナマラの誤謬」)

ジャーナリズムの使命とは。「大統領の陰謀」の冒頭シーンに繋がるラストシーン。

「ぺタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」 2017.jpg「ぺタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」0.jpg キャサリン・グラハム.jpg
ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書 [DVD]」キャサリン・グラハム(1917-2001)

「ぺタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」 1.gif ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国民の間に疑問や反戦の気運が高まっていたリチャード・ニクソン大統領政権下の1971年、政府がひた隠す、ベトナム戦争を分析・記録した国防省の最高機密文書=通称「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在をニューヨーク・タイムズがスクープし、政府の欺瞞が明らかにされる。ライバル紙でもあるワシントン・ポスト紙は、亡き夫に代わり発行人・社主「ぺタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」 2.jpgに就任していた女性キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)のもと、編集長のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)らが文書の入手に奔走。なんとか文書を手に入れることに成功するが、ニクソン政権は記事を書いたニューヨーク・タイムズの差し止めを要求。新たに記事を掲載すれば、ワシントン・ポストも同じ目に遭うことが危惧された。記事の掲載を巡り会社の経営陣とブラッドリーら記者たちの意見は対立し、キャサリンは経営か報道の自由かの間で難しい判断を迫られる―。

「ぺタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」 3.jpg スティーブン・スピルバーグ監督の2017年公開作で、メリル・ストリープ、トム・ハンクス出演の二大オスカー俳優の共演で、政府と報道機関の闘いを通してジャーナリズムの使命や良心とはなにかを問うたアメリカ映画らしい作品(原題は"The Post")。背景は複雑ですが、見どころを明日の新聞にスクープ記事を掲載するかしないか、掲載すれば新聞社は潰れるかもしれないという究極の状況にフォーカスすることで、娯楽性も兼ね添えた作品となっています。
   
大統領の陰謀1.jpg こうした単純化の手法は、アラン・J・パクラ監督がよく使っていたように思いますが、この映画の最後に、政府の機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」を暴露された当時の大統領リチャード・ニクソンが、怒り心頭に発して電話で怒鳴りながら何やら指示しており、さらにその後のラストシーンが、アラン・J・パクラ監督の「大統領の陰謀」('76年/米)の冒頭の、ウォーターゲートビルで働く警備員が建物のドアに奇妙なテープが貼られていることに気づく、そのシーンに繋がるようにな終わり方になっています。これは意図的でしょう(そして、「大統領の陰謀」で描かれるように、ポスト紙の記者ボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインの取材が、「ウォーターゲート事件」という政治スキャンダルに繋がり、1974年のニクソンが大統領の辞任に至る)。

「ぺタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」 4.jpg テーマ的にはいいテーマだと思います。ただ、脚本のせいなのか、6カ月という短期間で撮り上げたせいなのか(スピルバーグの作品で「最も短期間で完成」した作品とのこと)よくわかりませんが、オスカー3度受賞のメリル・ストリープとオスカー2度受賞のトム・ハンクスの共演にしては演出的な盛り上がりはやや物足りず、トム・ハンクスが役柄上のこともあってメリル・ストリープに喰われるかたちで、両者の共演が相乗効果に至っていない印象を受けました。

 そのためか、2017年11月発表の「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞」で作品賞、主演女優賞、主演男優賞を獲りましたが、その後の賞レースではノミネートはされるもののほとんどが受賞に至りませんでした。それでも、メリル・ストリープは上手いことは上手いです。あがり症の主人公が演説をするところの演技などはさすがで、アカデミー主演女優賞にノミネートされていて、21回目のノミネートは俳優としては最多の記録になります。

 スピルバーグ監督らしいと思ったのは、当時の鉛版を使用していた凸版輪転機で新聞を作る様が(おそらく)忠実に再現されていた点で(社主が輪転機の回っている階にわざわざ降りて行くかどうかはともかく)、昔、新聞社見学で、鉛の版組みを見せられたり、地階で巨大輪転機が回るのを見たのを思い出しました(今はコンピューター制御のオフセット印刷だが、最後、輪転機を回し、刷り上がった新聞をトラックで運ぶのは同じ。新聞社は物流業の側面がある)。

 1970年代前半の「ニューヨーク・タイムズ」記者の数人が、本作が「ペンタゴン・ペーパーズ」をめぐる一連の報道における同紙の役割を軽視していると批判しているそうですが、確かに、先に二度も「ペーパーズ」記事を書いて政権から記事差し止めを要求されたニューヨーク・タイムズの方が先駆的であったかも。ライバルでありながら共闘していくというというのがこの映画での描かれ方ですが、やはりスクープを競うライバル意識は互いに強いのでしょう。

「キャサリン・グラハム わが人生」より.jpg メリル・ストリープが演じたキャサリン・グラハム(1917-2001/84歳没)は、20世紀の米国で最もパワフルな女性の一人として本国では広く知られている存在のようです。社主キャサリン・グラハムと編集長ベン・ブラッドリーは最初にペンタゴン・ペーパーズの内容を発表する際は、映画で描かれたように困難を感じていましたが、記者のボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインがブラッドリーにウォーターゲート事件の取材を持ち掛けたときは、キャサリンは彼らの調査を支持し、ブラッドリーは他の報道機関がほとんど報じていなかったウォーターゲート事件の記事を掲載することにしたとのことです(「ジャーナリズムの使命」というのもあるし、「スクープ」的価値というのもあったかと思う)。
ペンタゴン・ペーパーズ 「キャサリン・グラハム わが人生」より

ジェフ・ベゾス.jpg 因みに、2013年10月、グラハム家(社主はキャサリンの息子に代替わりしていた)は同紙をアマゾン創業者のジェフ・ベゾスが設立した持株会社ナッシュ・ホールディングスに2億5千万ドルで売却しており、以来、同紙の実質的オーナーはジェフ・ベゾスということになります(イーロン・マスクがTwitter(ツイッター)社を約440億ドル(5.6兆円)で買収するという最近の話と比べればその180分の1というずっと小規模な売却額だが)。ジェフ・ベゾスに買収されてからというもの、「ワシントン・ポスト」はデジタルファーストを掲げて急速な変化を遂げており、2015年10月、「ワシントン・ポスト」のWebサイトへの訪問者数が6690万人と、はじめて「ニューヨーク・タイムズ」の数字(6580万人)を上回っています(それ以前の同紙は、知名度は高いがあくまで「地方紙」という存在で、発行部数も50万部程度だった)。

「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」●原題:THE POST●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:エイミー・パスカル/スティーヴン・スピルバーグ/クリスティ・マコスコ・クリーガー●脚本:リズ・ハンナ/ジョシュ・シンガー●撮影:ヤヌス・カミン「ペンタゴン・」ストリープ&ハンクス.jpg.gif.jpgスキー●音楽:ジョン・ウィリアムズ●時間:116分●出演:メリル・ストリープ/トム・ハンクス/サラ・ポールソン/ボブ・オデンカーク/トレイシー・レッツ/ブラッドリー・ウィットフォード/ブルース・グリーンウッド/マシュー・リース●日本公開:2018/03●配給:東宝東和(評価:★★★☆)

中央:ブルース・グリーンウッド(マクナマラ国防長官)

マシュー・リース(ダニエル・エルズバーグ)/ダニエル・エルズバーグ(1931-2023.6.16(92歳没)元国防次官補佐官。"ペンタゴン・ペーパーズ"を暴露した。)
マシュー・リース ペンタゴン・ペーパーズ.jpg  ダニエル・エルズバーグ2.jpgダニエル・エルズバーグ.jpg

《読書MEMO》
●NHK 総合 2023/05/29「映像の世紀バタフライエフェクト#40―ベトナム戦争 マクナマラの誤謬」
映像の世紀バタフライエフェクト マクナマラの誤謬.jpg
「マクナマラの誤謬」 | マクナマラによる日本への無差別爆撃進言 | フォード社に入社したマクナマラ | ケネディによるマクナマラの国防長官登用 | ケネディを受け継いだジョンソンのベトナム撤退の白紙化と戦線の拡大 | キルレシオ | テト攻勢 | サイゴン陥落 | ペンタゴン・ペーパーズのリーク | マクナマラとヴォー・グエン・ザップの会談 | 社会学者ヤンケロヴィッチ(語り:糸井羊司)

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シニアが最初に読む「筋トレ入門書」としてはオーソドックス。

定年筋トレ (ワニブックスPLUS新書).jpg 定年筋トレ (ワニブックスPLUS新書) 2.jpg 京都大学名誉教授 森谷敏夫1.png
定年筋トレ (ワニブックスPLUS新書)』NHK-BSプレミアム「美と若さの新常識〜カラダのヒミツ〜」"実践!おサボり筋トレ"(2018年5月15日)
京大の筋肉』['15年]「RBG 最強の85才」('18年/米)ルース・ベイダー・ギンズバーグ
京大の筋肉.jpgRGB最強の85才01.jpg 60歳前後は「筋トレ適齢期」であるとともに、時間が自由に使えるようになる定年前後は、まさに「はじめどき」でもあると説いた本。シニアの運動は「ウオーキング」ばかりになりがちだが、ウオーキングばかりしていても筋肉は増えず、きちんとした知識を身につけて行えば、少々ハードな筋トレをやっても大丈夫とのことです。去年['19年]観た映画で、「RBG 最強の85才」('18年/米)という米国で最高齢の女性最高裁判事として国民的アイコンとなったRBGことルース・ベイダー・ギンズバーグを追ったドキュメンタリー映画がありましたが、その中でギンズバーグが85歳にしてパーソナルトレーナーをつけてがんがん筋トレしていたのを思い出しました。

安井友梨図1.jpg 著者は京大名誉教授であり、「京大の筋肉」のキャッチとヌード写真で一躍注目を浴びましたが(当時64歳)、個人的にどんな人か知ったのは、NHK-BSプレミアムのフットボールアワーがMCを務める「美と若さの新常識〜カラダのヒミツ〜」で"実践!おサボり筋トレ"というテーマの時にコメンテーターとして出演しているのを見たのが最初だったでしょうか。自分で実践しているので、言っていることに説得力がありました(同じ番組に出ていたフィットネスビキニの日本女王・安井友梨などにも言えることだが)。

 本書の内容も、「☓シニアの筋トレは週1で十分、◯週に6日座っていては効果はほぼ無い」「☓筋トレは毎日やるべき、◯休ませないと筋肉は育たない」といった」ように、一見常識を否定しているようで、ある程度分かっている人からすれば、極めてオーソドックスなことが書かれていると言えるのではないでしょうか。

 「筋トレをすることは脳トレになる」「筋トレ直後に20gのタンパク質を摂る」「できれば30分以内」「糖質も摂るとさらに効果的」と(過度の糖質制限には否定的な立場)。自宅でトレーニングするときは、フローリングであれば「室内用のスポーツシューズにはきかえるのがお勧めです」と親切。でも、「自重トレ」は手軽だが飽きやすいと。結局、目的に沿った適正重量を知るには(その方法が本書には分かりやすく書かれているが)、ジムに行くのが一番いいのだろうなあ。

 ジムに行く時間は「朝食を摂って数時間経った昼食前、昼食をとってて数時間経った夕方の時間帯がベター」だと。確かに、ビルダー兼インストラクターで、午前中に自分のトレーニングをして、午後に指導している人がいるなあ。一般の人は「定年後のアドバンテージを生かして、15~17時にトレーニングするのがいい」と。17時過ぎると19時頃まで仕事を終えた人がジムに来て混むためだそうです(ナルホド。自分の知っているジムで、15~17時の方が高齢者ばかりで混んでいるというケースもあったが)。

 最終章が実践編になっていて、NSCA(日本ストレングス&コンディショニング協会)のヘッドS&Cコーチ、吉田直人氏によるストレッチ、自宅筋トレ、ジム筋トレの写真入り解説が50ページ続きます。ジム筋トレの写真が少なくてアームカール(上腕二頭筋トレーニング)が無いなど物足りないですが、全体を通してシニアが最初に読む「筋トレ入門書」としてはオーソドックスであったように思います。

RGB最強の85才 2018.jpgRGB最強の85才02.jpg 冒頭に挙げた「RBG 最強の85才」は、米国では関連本が何冊も出版され、Tシャツやマグカップといったグッズまで作られるほどの知名度と人気を誇る、RBGことルース・ベイダー・ギンズバーグの若い頃から現在までを二人の女性監督が描いたドキュメンタリーで、85歳(映画製作時)で現役の最RGB最強の85才 ka-ta.jpg高裁判所判事として活躍する彼女は、ニューヨークのユダヤ系の家に生まれ、苦学の末に判司となり、1980年にカーター大統領によってコロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所判事に指名され、1993年にRBG 最強の85才ード.jpgはビル・クリントン大統領政権下で女性としては2人目のアメリカ最高裁判事(長官を含めて9人で構成される)に任命されています。85歳の年齢で現職にあるので保守派かというと、実はその逆で、これまでも女性やマイノリティへの差別撤廃に寄与した判決を多く出しているリベラル派です(だかRGB最強の85才 トレーニング.jpgら若者に人気がある)。映画の中でも一部解説されていますが、ドナルド・トランプは2017年1月大統領就任後、引退する連邦最高裁判事の後任として保守派の判事を次々に任命しているため、リベラル派のギンズバーグはこれ以上の連邦最高裁の保守化を食い止めるために、少なくともトランプが退陣して新たな民主党出身の大統領が現れるまでは、引退を見送ると見られているようです。現職に留まっているのには理由があり、また、職務継続のため「筋トレ」で健康を維持しているということになるかと思います(もうすぐ87歳になるなあ)。

RBG 最強の85才_0045.JPG「RBG 最強の85才」●原題:RBG●制作年:2018年●制作国:アメリカ●監督・製作:ベッツィ・ウェスト/ジュリー・コーエン●撮影:クラウディア・ラッシュク●音楽:RBG 最強の85才_0043.JPGミリアム・カトラー●時間:97分●出演:ルース・ベイダー・ギンズバーグ/ジェーン・ギンズバーグ/ジェームズ・スティーヴン・ギンズバーグ/ニナ・トテンバーグ/クララ・スペラ/グロリア・スタイネム/ブルース・マックヴィッテ/ジミー・カーター/ビル・クリントン/バラク・オバマ●日本公開:2019/05●配給:ファインフィルムズ●最初に観た場所:新宿・シネマカリテ(19-05-23)●評価:★★★★
シネマカリテ 2012年12月22日開館(新宿武蔵野館のある武蔵野ビルに入っていたミニシアターが移転)。
新宿シネマカリテ.jpg 新宿シネマカリテ0.jpg
シネマカリテ1(69席)/シネマカリテ2(78席)
新宿シネマカリテ1.jpg 新宿シネマカリテ2.jpg

《読書MEMO》
●NHK 総合 2022/07/04 「映像の世紀バタフライエフェクト#12―RBG 最強と呼ばれた女性判事 女性たち 百年のリレー」
RBG 最強と呼ばれた女性判事.png
保守的なヴィクトリア女王の葬儀 | エミリー・デイヴィソンと女性参政権運動 | 第一次世界大戦と女性の地位向上、女性参政権の認定 | アリス・ポール率いる全国女性党 | 入党したアメリア・イアハートの2度の大西洋横断飛行と太平洋横断飛行中の失踪 | ルース・ベイダー・ギンズバーグの連邦最高裁判所判事就任 | ヒラリー・クリントンがガラスの天井に挑んだ2016年アメリカ合衆国大統領選挙とトランプ政権下でのギンズバーグの逝去(語り:山田孝之)

「●小林 正樹 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒「●川島 雄三 監督作品」【2460】 川島 雄三 「とんかつ大将
「●「カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリ」受賞作」の インデックッスへ(「切腹」)「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ(「切腹」)「●橋本 忍 脚本作品」の インデックッスへ 「●武満 徹 音楽作品」の インデックッスへ(「切腹」「東京裁判」)「●丹波 哲郎 出演作品」の インデックッスへ(「切腹」)「●三國 連太郎 出演作品」の インデックッスへ(「切腹」)「●仲代 達矢 出演作品」の インデックッスへ(「切腹」)「●岩下 志麻 出演作品」の インデックッスへ(「切腹」)「●佐藤 慶 出演作品」の インデックッスへ(「切腹」「東京裁判」)「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ(「切腹」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ○あの頃映画 松竹DVDコレクション(「切腹」)「●「朝日賞」受賞者作」の インデックッスへ(武満 徹・仲代達矢)「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ(仲代達矢)○映像の世紀バタフライエフェクト(「映像記録 東京裁判」)

橋本忍脚本が巧みな「切腹」。壮絶且つ凄絶な復讐(仇討)劇。決闘シーンも味がある。

切腹 1962 ポスター.jpg切腹 1962 dvd.jpg 切腹 1962 決闘シーン.jpg  『東京裁判』 dvd.jpg
「切腹」 [DVD]」/護持院原決闘シーン(丹波哲郎・仲代達矢) 「東京裁判 [DVD]
「切腹」ポスター
切腹 1962 前庭 仲代.jpg 寛永7(1630)年10月、井伊家上屋敷に津雲半四郎(仲代達矢)という浪人が訪れ、「仕官先もままならず、生活も苦しくなったので屋敷の庭先を借りて切腹したい」と申し出る。申し出を受けた家老・斎藤勘解由(かげゆ)(三國連太郎)は、春先、同様の話で来た千々岩求女(石濱朗)の話をする。食い詰めた浪人たちが切腹すると称し、なにがしかの金品を得て帰る最近の流行を苦々しく思っていた勘解由が切腹の場をしつらえると、求女は「一両日待ってくれ」と狼狽したばかりか、刀が竹光であったために死に切れず、舌を噛み切って無惨な最期を遂げたと。この話を聞いた半四郎は、自分はその様な"たかり"ではないと言って切腹の場に向かうが、最後の望みとして介錯人に沢潟(おもだか)彦九郎(丹波哲郎)、矢崎隼人(中谷一郎)、川辺右馬介(青木義朗)の3人を順次指名する。しかし、指名された3人とも出仕しておらず、何れかの者が出仕するまでの間、半四郎は自身の話を聞いて欲しい「切腹」 (1962 松竹).jpgと言う。求女は実は半四郎の娘・美保(岩下志麻)の婿で、主君に殉死した親友の忘れ形見でもあった。孫も生れささやかながら幸せな日が続いていた矢先、美保が胸を病み孫が高熱を出した。赤貧の浪人生活で薬を買う金も無く、思い余った求女が先の行動をとったのだ。そんな求女に一両日待たねばならぬ理由ぐらいせめて聞いてやる労りはなかったのか、武士の面目などとは表面だけを飾るもの、と勘解由に厳しく詰め寄る半四郎が懐から出したものは―。

『東京裁判』 映画.jpg小林正樹.jpg 「人間の條件」6部作('59-'61年)の小林正樹(1916-1996/享年80)が1962(昭和37)年に撮った同監督初の時代劇作品であり、1963年・第16回カンヌ国際映画祭「審査員特別賞」受賞作です(現在のグランプリに該当)。この監督にはベルリン国際映画祭で「国際映画批評家連盟賞」を受賞した「東京裁判」('83年)という長編ドキュメンタリーの傑作もあります。この「東京裁判」という映画を観ると、裁判の争点は端的に言えば、天皇を死刑にすべきかどうかという点であったともとれ(中心となる戦犯らは死刑が裁判前からすでに確定しているようなもので、魂『東京裁判』 映画2.jpgを抜かれたお飾りのように被告席にいるだけ)、そのことを(主役が法廷にいないことも含め)浮き彫りにした内容であるだけに4時間37分を飽きさせることなく、下手なドラマよりずっと緊迫感がありました(この編集の仕方こそがドキュメンタリーにおける監督の演出とも言える。ナレーターは佐藤慶)。争点が天皇にあったことは、この裁判が、昭和天皇の誕生日(現昭和の日)に11ヶ国の検察官から起訴されたことに象徴されており、天皇に処分は及ばなかったものの、皇太子(当時)の誕生日(現天皇誕生日)に被告人28名のうちの7名が絞首刑に処されたというのも偶然ではないように思われます。
   
「切腹」ポスター in 小津安二郎「秋刀魚の味」
7「切腹」.jpg切腹 小林正樹.jpg 「切腹」の原作は滝口康彦(1924-2004)の武家社会の虚飾と武士道の残酷性を描いた作品です。映画化作品にも、かつて日本人が尊んだサムライ精神へのアンチテーゼが込められているとされていますが、井伊家の千々岩求女への対応は、武士道の本筋を外れて集団サディズムになっているように感じました(同時に斎藤勘解由は、千々岩求女を自らの出世の材料にしようとしたわけだ)。ストーリーはシンプルですが骨太であり(脚本は橋本忍)、観る側に、何故半四郎が介錯人に指名した3人が何れもその日に出仕していないのかという疑問を抱かせたうえで、半四郎がまさに切腹せんとする庭先の場面に、半四郎の語る回想話をカットバックさせた橋本忍氏の脚本が巧みです。
   
切腹(196209 松竹).jpg 壮絶且つ凄絶な復讐(仇討)劇でしたが、改めて観ると、息子・千々岩求女の亡骸を半四郎が求女の妻・美保と一緒に引き取りに来た際に、求女に竹光で腹を切らせた首謀者である沢潟、矢崎、川辺の3人しか半四郎に会っておらず、それ以外の者には半四郎の面が割れていないとうのが一つの鍵としてあったんだなあと。

切腹 1962 岩下.jpg 半四郎役の仲代達矢(当時29歳)は、長台詞を緊迫感絶やすことなくこなしており、勘解由役の三國連太郎(当時39歳)、沢潟役の丹波哲郎(当時39歳)の "ヒール(悪役)"ぶりも効いています(19歳の美保を演じた岩下志麻は当時21歳だったが、やはり若い。11歳の少女時代(右)まで演じさせてしまっているのはやや強引だったが)。

切腹 1962 三國.jpg 撮影中に起きた仲代達矢と三國連太郎の演劇と映画の対比「論争」は海外のサイトなどにも紹介されていて(この作品は「カンヌ映画祭」で審査員特別賞を受賞している)、仲代達矢の台詞を喋る声が大きすぎて、三國連太郎が(仲代達矢が演劇出身で)映画と演劇の違いが解っていないとしたのに対し、仲代達矢は、集音マイクがあろうと、実際の人物間の距離に合わせた声量で台詞を言うべきだと反論したというものです(小林正樹監督が両者が納得し合うまで議論するよう仕向けたため撮影は3日間中断、後に仲代達矢はあの議論は有意義だったと述懐している)。

切腹 1962 丹波.jpg カットバック(回想)シーンの中にある仲代達矢と丹波哲郎の決闘場面はなかなかの圧巻で、仲代達矢はこの作品と同じ年の1月に公開された「椿三十郎」('62年/東宝)で先に三船敏郎と決闘シーンを演じているわけですが、丹波哲郎との決闘シーンは、それとはまた違った味わいがありました(「椿三十郎」と言わば真逆の役回りであることもあり、"仲代達矢目線"で観ればこちらの方がいい)。

 因みに、その仲代達矢の腰を低く落として脇に刀を構える構えは戦国時代のもので、丹波哲郎の直立姿勢での構えは江戸時代初期に始まりその後主流となったものであるとのことです。

護持院原の敵討―他二篇 森鴎外著.png 両者が決闘した護持院原(ごじいんがはら)は、森鷗外の中編「護持院原の敵討」でも知られていますが、現在の千代田区神田錦町辺りで、江戸時代は"敵討ちの名所"だったようです(江戸から「中追放」の罪となった者の放たれる境界線のすぐ外側。従って、放たれた途端に、私怨を晴らし切れない者などに決闘を申し込まれる)。沢潟の方から半四郎をわざわざ決闘の場として護持院原に誘ったことがずっと個人的には解せなかったのですが、この作品の時代設定は大阪の陣からまだ15年しか経っていないので(まだ"敵討ちの名所"になっていない?)、たまたま近場の原っぱが護持院原だったと考えれば、沢潟が半四郎を護持院原に誘ったこと自体は不自然ではないのかもしれないと改めて思いました。

Seppuku(1962)  第16回カンヌ国際映画祭「審査員特別賞」受賞作
Seppuku(1962).jpg

近江彦根藩井伊家屋敷跡(東京都千代田区)の石碑.jpg 因みに、滝口康彦(1924-2004)による原作「異聞浪人記」は、講談社文庫版『一命』に所収(三池崇史監督、市川海老蔵 主演の本作のリメイク作品('11年)のタイトルは「一命」となっている)。『滝口康彦傑作選』(立風書房)にある原作に関する「作品ノート」によれば、「『明良洪範』中にある二百二十字程度の記述にヒントを得た。彦根井伊家の江戸屋敷での話で、原典では井伊直澄の代だが、小説では、大名取潰しの一典型といえる福島正則の改易と結びつけるため、直澄の父直孝の代に変えている」とのことです。『明良洪範』の記述の史実か否かの評価については様々な異論があるようですが、ある程度歴史通の人たちの間では、この中にある、彦根藩(この藩は当時は弱小藩だったが後に安政の大獄で知られる大老・井伊直弼を輩出する)が士官に来た浪人を本当に切腹させてしまったことが、こうした「狂言切腹」の風習が廃れるきっかけとなったとされているようです。
近江彦根藩井伊家屋敷跡(東京都千代田区)の石碑

人間の条件2.jpg小林 正樹(こばやし まさき、1916年2月14日 - 1996年10月4日)は、北海道小樽市出身の映画監督である。1952年(昭和27年)、中編『息子の青春』を監督し、1953年(昭和28年)『まごころ』で正式に監督に昇進。1959年(昭和34年)から1961年(昭和36年)の3年間にかけて公開された『人間の條件』は、五味川純平原作の大長編反戦小説「人間の條件」の映画化で、長きに渡る撮影期間と莫大な製作費をつぎ込み、6部作、9時間31分の超大作となった。続く1962年(昭和37年)初の時代劇『切腹』でカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞。続いて小泉八雲の原作をオムニバス方式で映画化した初のカラー作品『怪談』は3時間の大作で、この世のものとは思えぬ幻想的な世界を作り上げ、二度目のカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受けた他、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、日本映画史上屈東京裁判 小林正樹.jpg指の傑作と絶賛された。1965年(昭和40年)松竹を退社して東京映画と契約し、1967年(昭和42年)三船プロ第一作となる『上意討ち 拝領妻始末』を監督して、ヴェネツィア国際映画祭批評家連盟賞を受賞、キネマ旬報ベスト・ワンとなった。1968年(昭和43年)の『日本の青春』のあとフリーとなり、1969年(昭和44年)には黒澤明、木下恵介、市川崑とともに「四騎の会」を結成。1971年(昭和46年)にはカンヌ国際映画祭で25周年記念として世界10大監督の一人として功労賞を受賞。1982年(昭和57年)には極東国際軍事裁判の長編記録映画『東京裁判』を完成させた。1985年(昭和60年)円地文子原作の連合赤軍事件を題材にした『食卓のない家』を監督。これが最後の映画監督作品になる。(「音楽映画関連没年データベース」より)

切腹 1962 チラシ.jpg切腹 1962 仲代 立ち回り.jpg「切腹」●制作年:1962年●監督:小林正樹●脚本:橋本忍●撮影:宮島義勇●音楽:武満徹●原作:滝口康彦「異聞浪人記」●時間:133分●出演:仲代達矢/三國連太郎/丹波哲郎/石浜朗/岩下志麻/三島雅夫//中谷一郎/佐藤慶/稲葉義男/井川比佐志/武内亨/青木義朗/松村達雄/小林昭二/林孝一/五味勝雄/s沢潟彦九郎:丹波哲郎.jpg-s津雲美保:岩下志麻.jpg安住譲/富田仲次郎/田中謙三●公開:1962/09●配給:松竹(評価:★★★★)

丹波哲郎(沢潟彦九郎)/岩下志麻(津雲美保)
      
『東京裁判』 映画1.jpg『東京裁判』 映画3.jpg「東京裁判」●制作年:1983年●監督:小林正樹●総プロデューサー:須藤博●脚本:小笠原清/小林正樹●原案:稲垣俊●音楽:武満徹●演奏:東京コンサーツ●ナレーター:佐藤慶●時間:277分●公開:1983/06●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋文芸坐(84-12-08)(評価:★★★★)

 
 
 


《読書MEMO》
●NHK 総合 2024/04/01「映像の世紀バタフライエフェクト#65―映像記録 東京裁判」
ニュルンベルク裁判の映像を流して東京裁判と対比させ、東京裁判への影響を示唆しているのが興味深かった。

バタフライエフェクト#65―映像記録 東京裁判.jpg
アメリカなど11か国が裁判官と検察官を務めた東京裁判は、日本の戦争指導者の責任を追及する様子を世界に発信するため、照明など撮影に万全の体制を整えた法廷で行われた。被告人25人のうち7人に極刑が言い渡された。傍聴していた作家・川端康成は、「劇的な人間の生と死との分れ目を私は眼前に見て、深く打たれるものがあった」と記している。東条英機、広田弘毅など戦争指導者が裁かれた東京裁判の2年6か月をたどる。(語り:糸井羊司)

「●よ 吉田 修一」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2076】 吉田 修一 『愛に乱暴
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ストーリーが巧みでテンポも良いい。敢えて通俗、通俗だから面白いのでは。

太陽は動かない 吉田修一.jpg吉田修一氏.jpg エントラップメント01.jpg ラストエンペラー02.jpg
 吉田 修一 氏  「エントラップメント [DVD]」ショーン・コネリー/キャサリン・ゼタ=ジョーンズ 「ラストエンペラー ディレクターズ・カット (初回生産限定版) [DVD]」ジョン・ローン/ジョアン・チェン
太陽は動かない』(2012/04 幻冬舎)

『太陽は動かない』5.JPG 表向きはアジア各地のファッションやリゾート情報などを扱う小さなニュース通信社だが、裏では「産業スパイ」としての顔を持つAN(アジアネット)通信情報部の鷹野一彦は、油田開発利権にまつわる機密情報を入手し高値で売り飛ばすというミッションのもと、部下の田岡と共にアジア各国企業の新油田開発利権争いの渦中で起きた射殺事件の背後関係を探っていた。鷹野は、企業間の提携交渉の妨害を意図したウイグル反政府組織による天津スタジアム爆破計画天津スタジアム.jpg情報を入手、その詳細を突き止めるため、闇社会に通じている雑技団団長・張豪(ジャンハオ)の紹介で、首謀者シャマルに会うが交渉は決裂、更に、商売敵デイビッド・キムや謎の女AYAKOが暗躍し、中国国営エネルギー巨大企業CNOX(中国海洋石油)が不穏な動きを見せる中、田岡が何者かに誘拐されたため、張豪の部下である張雨(ジャンユウ)と共に、彼が拉致されていると思われる天津へと飛ぶ―。

天津スタジアム

 スパイ小説ですが、その舞台が「ポスト原発」と呼べる状況にある国際的なエネルギー市場であるところが現代風で、油田開発の利権争いの一方で、日本の無名の技術者が、従来のものとは比較にならない高性能の太陽光発電のパネルを開発した―というのが、何となく夢があっていいなあと。

 お膳立てが揃ってしまえば、後は、政治家、日本企業、中国多国籍企業、CIAなどの様々な組織の利害関係が複雑に絡み合ってのノンストップ・アクション風―ということで、ストーリー・テイリングも巧みだし、実際にテンポも良くて428ページ一気に読めました。

 作者は文芸作家としてデビューし、芥川賞も受賞していますが、『パレード』にはミステリの要素もあったし、『悪人』もエンタテイメント要素はあったように思います。

 この作品に対しては、『悪人』など比べると人物の描き方に深みが無いとの批評も多くありますが、"純粋エンタテイメント"として読めば、それでいいのではないかと思いました。『悪人』とは根本的にテーマもモチーフも異なる作品。敢えて通俗、通俗だから面白いのではないかと。

 日本が"スパイ天国"であるとは、随分と以前から言われていることですが、「スパイ小説」となると、劇画に出てくるような怪しげな外国人が大勢登場して何となく胡散臭いものになりがちという気もし、この作品についてもそのことが言えなくもないけれど、筆の運びの上手さで(さすが芥川賞作家?)、あまりそうしたことに疑念を挟まずにどんどん読めてしまいました。

 最後まで日本人中心であるというのもよく、産業スパイという設定は、日本人を主人公とするのに適しているのかも―と思ったりもしました。

2020年映画化「太陽は動かない」(公開は2021年)
羽住 英一郎(原作:吉田修一)「太陽は動かない」 (2020/05 → 2021/03 ワーナー・ブラザース映画) ★★★☆
太陽は動かない  2021.jpg 太陽は動かない 2.jpg 


「エントラップメント」1.gifエントラップメント03.jpg アクション風ということで、「ミッション:インポッシブル」 ('96年/米)など想起させられる映画が幾つかありましたが、金だけのために敵になったり味方になったりし、それが鷹野とAYAKOという男女間で展開するところは、個人的にはジョン・アミエル監督の「エントラップメント」('99年/米)を想起しました(この系統は「泥棒成金」('55年/米)や「華麗なる賭け」('68年/米)以来、連綿とあるが)。

「エントラップメント」3.gif AYAKOのイメージは、「エントラップメント」で主人公の美術泥棒役のショーン・コネリーと共演し、主人公と様々な駆け引きを繰り広げる保険会社調査員役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズかな。ゼタ=ジョーンズの方がよりアクション系で、主人公の相方(弟子?)的立場になったりし、その間、ショーン・コネリーに若干惹かれ気味になったりするんだけど、ラストは...。

峰不二子.jpg キャサリン・ゼタ=ジョーンズはこの作品でゴールデン・ラズベリー賞の最低主演女優賞にノミネートされていますが(すごくいいと言うほどでもないが、そんなに悪くもなかったと思う)、この『太陽は動かない』も、仮に映画化されるとすると、鷹野やAYAKOを演じきれる役者はあまりいないように思います(巷ではAYAKOは「ルパン三世」の峰不二子が相応しいとの声を聞くが、いきなりアニメに行っちゃうのか)。

 「金だけのために」とか言いつつ、主要な登場人物たちがそれぞれに"貸し借り"に律義で(反政府組織の女性指導者までもが)、ラストのデイビッド・キムの登場などには友情めいたものさえ感じられるという、何だか綺麗に出来過ぎた話ですが、カタルシス効果はあったように思います("カタルシス効果"と言うより"読後感の爽やかさ"か)。

 それにしても、作者に関しては、芸域、広いなあという感じ。普段からエスピオナージをよく読み、その分野を読みつけている人から見れば突っ込みどころの多い作品かも知れないし、従来の作者の作品の世界に馴染んだ人から見れば、人物の描き方がステレオタイプだとかいった評価になるのかも知れないけれど、個人的には、とにかく面白く読めたため、そのことを素直に認めてのほぼ5つ星評価―ミステリ界でどういった評価になるのか気になります(「文芸作家は自分たちの領域に立ち入らんでくれ」と言うほど閉鎖的ではないとは思うが)。

静園.jpg 因みに、作者は映画「ラストエンペラー」('87年/イタリア・中国・イギリス)の大ファンということで、版元のサイトによれば本書執筆のため2011年5月に3泊4日という強行スケジュールで、北京→天津→内モンゴル自治区を行く取材旅行し(編集者同行)、北京では紫禁城を、この作品の前半の主要な舞台となる天津では溥儀が暮らしていた邸宅「静園」なども訪問したそうですが、そうしたモチーフはこの作品には織り込まれていなかったなあ(純粋に溥儀の家を見たかったということか)。

「静園」(天津市)

ラストエンペラー01.jpg ベルナルド・ベルトリッチ(最近はベルトルッチと表記するみたい)監督の「ラストエンペラー」は、アカデミー賞の作品・監督・脚本・撮影・美術・作曲など9部門を獲得した作品で(ゴールデングローブ賞作品賞も)、紫禁城で世界初の完全ロケ撮影を行うなど前半のスペクタクルに比べ、ジョン・ローンが演じる庭師になった元・皇帝が、かつて自分が住んでいた城に入場料を払って入るラストが侘しかったです。
 
『ラストエンペラー』(1987).jpg 2時間43分という長尺でしたが、実はこれでも3時間39分の完全版を劇場公開用に短縮したものであり、そのため繋がりの良くないところもあって、個人的には星3つ半の評価でした(これ、有楽町マリオン別館内の「丸の内ルーブル」で観たけれど、たまたま天井の可動式シャンデリアの真下に座ったので、最初それが気になったのを憶えている)。その後、今世紀に入って完全版のDVDが発売されていますが未見。完全版を観れば評価が変わるかもしれません。

 同監督作品では、「1900年」('76年)の方が質的に上のように感じましたが、こちらは、5時間16分の完全版を観ることが出来たというのも影響しているかもしれません(普段は3本立の「三鷹オスカー」で1本のみ上映)。

エントラップメント dvd.jpg「エントラップメント」2.gif「エントラップメント」●原題:ENTRAPMENT●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・アミエル●製作:ショーン・コネリー/マイケル・ハーツバーグ/ロンダ・トーレフソン●脚本:ロン・バス/ウィリアム・ブロイルズ●撮影:フィル・メイヒュー●音楽:クリストファー・ヤング●原案:ロン・バス/マイケル・ハーツバーグ●時間:113分●出演:ショーン・コネリーキャサリン・ゼタ=ジョーンズ/ヴィング・レイムス/ウィル・ パットン/モーリー・チェイキン/ケヴィン・マクナリー/テリー・オニール/マッドハヴ・ シャーマ/デヴィッド・イップ/ティム・ポッター/エリック・メイヤーズ/アーロン・スウォーツ●日本公開:1999/08●配給:20世紀フォックス(評価★★★)

The Last Emperor(1987)
The Last Emperor(1987).jpg「ラストエンペラー 劇場公開版.jpg「ラストエンペラー」●原題:THE LAST EMPEROR●制作年:1987年●制作国:イタリア・中国・イギリス●監督:ベルナルド・ベルトリッチ●製作:ジェレミー・トーマス●脚本:ベルナルド・ベルトルッチ/マーク・ペプロー●撮影:ヴィットリオラストエンペラーdvd.png・ストラーロ●音楽:坂本龍一●時間:163分(劇場公開版)/219分(オリジナル全長版)●出演:ジョン・ローン/ジョアン・チェン/ピーター・オトゥール/坂本龍一/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/デイヴィッド・バーン/コン・スー/ヴィヴィアン・ウー/ヴィクター・ウォン/デニス・ダン/イェード・ゴー/マギー・ハン/リック・ヤング/ウー・ジュンメイ/英若誠/リサ・ルー/ファン・グァン/立花ハジメ/坂本龍一/高松英郎/池田史比古/陳凱歌(カメオ出演)●日本公開:1988/01●配給:松竹富士●最初に観た場所:丸の内ルーブル (88-04-23)(評価:★★★☆)

ジョアン・チェン3.jpgジョアン・チェン/ベルナルド・ベルトルッチ監督「ラストエンペラー」('87年/伊・中国・英)・デヴィッド・リンチ監督「ツイン・ピークス」('90/英)・アン・リー監督「ラスト、コーション」('07年/米・中国・台湾・香港)

丸の内ルーブル.jpg丸の内ルーブル シャンデリア.jpg丸の内ピカデリー3の看板.jpg 丸の内ルーブル 1987年10月3日「有楽町サロンパスルーブル.jpgマリオン」新館7階に5階「丸の内松竹」とともにオープン(2005年12月~2008年11月「サロンパス ルーブル丸の内」) 2014年8月3日閉館(「丸の内松竹」は1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」2018(平成30)年12月2日休館、2019(令和元)年10月4日~ドルビーシネマ専用劇場「丸の内ピカデリー ドルビーシネマ」として再オープン) 

丸の内ピカデリー3.jpg「丸の内ルーブル」シャンデリア.jpg丸の内ルーブルの巨大シャンデリア

【2014年文庫化[幻冬舎文庫]】

《読書MEMO》
●NHK 総合 2025/02/03「映像の世紀バタフライエフェクト#91―ラストエンペラー溥儀 財宝と流転の人生」
・自身が満州国の皇帝となることを切望していた溥儀が、東京裁判では責任回避のためその思惑を一切否定し、傍聴席の日本国民を唖然とさせた場面が印象に残った。1965年にはNHKの番組にも出演し、「熱烈な共産主義者になった」と語っているが、毛沢東は彼のことを「死を恐れる小心者」と評していたようだ。溥儀の妻・婉容が皇后としての振る舞いも許されない状況下で従者との間に子をなすも、その子はすぐに亡くなり、絶望から阿片中毒になり、溥儀にも見放されて亡くなったのに対し、溥儀の弟・溥傑の妻であった嵯峨浩が冷静な視点で様々な証言を残しているのが対照的に思えた。
ラストエンペラー 溥儀.jpg
20世紀、紫禁城から歴代王朝が蓄えてきた膨大な財宝が流出した。国宝級の名画「清明上河図」など1200点以上の書画を密かに持ち出したのは、最後の皇帝・溥儀だった。日本の傀儡国家・満州国の皇帝となり、終戦後はソ連に抑留、中国に戻され共産党の思想改造を受けた溥儀は、頼る相手を次々と変え、財宝を切り売りして生き延びた。権力に利用され続け、皇帝から一市民になるという数奇な生涯を送った男の流転と孤独の物語。(語り:糸井羊司)

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謎多き生涯を、多くの証言等から再構築。映画の方はフーヴァーに寄り添っている感じだが...。

大統領たちが恐れた男 上.jpg 大統領たちが恐れた男 下.jpg 大統領たちが恐れた男.jpg  大統領たちが恐れた男 j.エドガー dvd.jpg 
大統領たちが恐れた男―FBI長官フーヴァーの秘密の生涯〈上〉 (新潮文庫)』『大統領たちが恐れた男―FBI長官フーヴァーの秘密の生涯〈下〉 (新潮文庫)』『大統領たちが恐れた男―FBI長官フーヴァーの秘密の生涯』「J・エドガー [DVD]
大統領たちが恐れた男 フーヴァー.jpg 1924年にFBI長官に任命され、1972年に亡くなるまで長官職にとどまったジョン・エドガー・フーヴァー(John Edgar Hoover, 1895 - 1972/享年77)の人と生涯の記録ですが、謎の多い彼の長官時代の実態を、多くの証言と資料から立体的に再構築しているように思われました。

大統領たちが恐れた男 j.エドガー.jpg 折しも、クリント・イーストウッド監督、レオナルド・ディカプリオ主演によるフーヴァーの伝記映画「J・エドガー」('11年/米)が公開され、この映画に対する評価は割れているそうですが、本書を読む限り、分かっている範囲での事実関係、或いはフーヴァーのセクシュアリティ(同性愛、異性装)など、ほぼ事実とされている事柄については、比較的漏らさずに描かれていたように思います。

・エドガー3.jpg 映画では、フーヴァーの、FBIの機能・権力を整備・改革・拡大していく才気に溢れた青年時代を、マザコンのために女性と上手く付き合うことが出来なかったその性癖と併せて描く共に、ケネディ兄弟に対する脅迫など自分の地位を守るために手段を選ばなかった最盛期、老いて権力にしがみつく亡霊のようになった晩年期が、ほぼ同じような比重で描かれていたように思います。

 しかし本書を読むと、政治家に対する脅しに関しては、映画で中心的に描かれていたロバート・ケネディ司法長官との対立に限らず、フーヴァーがケネディ兄弟の以前から、歴代大統領の私生活のスキャンダルも含めた極秘情報を使っていかに彼らを恫喝していたかが、様々な証言や資料を基に最も詳しく描かれていて、圧倒的なボリュームを占めています。

 例えば、映画では、ニクソンがフーヴァーの恫喝が通じにくい新しいタイプの大統領であったかのように描かれていますが、本書を読むと、ウォーターゲート事件の先駆けとなるニクソンの政敵への盗聴工作について、自らが実行部隊の責任者でありながら、それがホワイトハウス・マターであることの証拠を確保しておいて、後に自分を長官の座から追い落とそうとするニクソンを恫喝するネタにしていたことが分かります。

 さらに、映画では殆ど描かれていなかったマフィアとの黒い交際(フーヴァーは大好きな競馬で勝ち馬をマフィア関係者から事前に教えてもらうなどの優遇を受け、マフィアを取り締まることはFBIの管轄ではないとしていた)や、映画の方では控え目にしか描かれていなかった同性愛癖についても、様々な事実関係や証言を基に、かなり詳しく検証しています。

J・エドガー1.png 自らがFBIの副長官に任じたクライド・トールソンとの同性愛は、映画ではキス・シーンが1回ある程度で、あとは、フーヴァーのトールソンに贈った詩や、彼が異性との交際の意思をトールソンに伝えた際にトールソンが激昂する―といった象徴的な表現に抑えられていますが、二人が老齢に達して両者の肉体関係は終わったものの、その後もフーヴァー自身は若いゲイなどを相手に同性愛に耽り、女装癖も保持し続けていたことが、本書からは窺えます。

 映画の方は、脚本のダスティン・ランス・ブラックが「J・エドガーのような人物を映画に描くとき、その人物の衷心にあるものを読み取ろうとしないなどということは、私の脚本にはありえない」と述べているように、この女装癖についても、彼の最愛の母が亡くなった際に母親の服を纏うというセンチメンタルなトーンで描かれていましたが、これが老醜の男がベビードールを纏って少年愛に耽っているとなると、かなり一般のイメージが違ってくるのでは。

 本書では、彼のこうした性癖についても最後に簡潔に成育歴からみた精神分析学的な分析を行っていますが、それに加えて、彼が有名人のスキャンダルなどを執拗に追いかけた背景には、相手の弱みを握るためだけでなく、そうしたことをはじめ風紀に関する厳しい取り締まりを行うことが、自分の秘密を守ることに繋がると彼は考えたのだとの分析も示しています。

大統領たちが恐れた男 j.エドガー3.jpg 「犯罪とスキャンダルの摘発」「権力者への恫喝」「自らの性癖の隠蔽」の3つがトライアングルのような関係になっていたことを暗示している分、心理学的にみても本書の方が読みが深いと言え、また、このような人物が国の機関の最高権力者として居続けたことに対する問題提起もされています。

 こうしてみると、映画の方は、むしろフーヴァーに寄り添っている感じですが、とても寄り添えるような人物ではないような...。イーストウッドが撮ると、こうなるのだろうなあ。

 映画でフーヴァーを演じることを切望したというディカプリオの演技は、確かに頑張っているなあという印象はありますが、元々ブルドッグ顔で知られるフーヴァーをディカプリオが演じること自体が視覚的にハードルが高く、晩年期はメイクが濃すぎてゾンビのようで、かなりギャップを感じました(自伝のウソの部分を先に映像にしてしまっている点も気になった。これ、"禁じ手"ではないか)。

J・エドガー2.jpg 本書の原題 "Official and Confidential(公式かつ機密)"は、フーヴァーが収録したファイルの名前で、所謂この「フーヴァー・ファイル」には、有名人に対する恐喝や政治的迫害が記録されているとのことですが、本書にも映画にもあるように、長年にわたって彼の秘書を務めた女性(映画でナオミ・ワッツが演じた、フーヴァーが初めて女性に想いを打ち明け、結婚を断られた相手)が、フーヴァーの死後に、訃報に触れたニクソンがファイル回収のために配下をフーヴァーの屋敷に送り込む前に持ち出し、密かに処分したとのことです。
ナオミ・ワッツ(Naomi Watts1968- )[2012年]
大統領たちが恐れた男 j.エドガー dvd2.jpgナオミ・ワッツ.jpg「J・エドガー」●原題:J. EDG「J・エドガー」01.jpgAR●制作年:2011年●制作国:アメリカ●監督:クリント・イーストウッド●製作:クリント・イーストウッド/ ブライアン・グレイザー/ロバート・ロレンツ●脚本:ダスティン・ランス・ブラック●撮影:トム・スターン●音楽:クリント・イーストウッド●時間:137分●出演:レオナルド・ディカプリオ/ ナオミ・ワッツ/アーミー・ハマー/ジョシュ・ルーカス/ジュディ・デンチ/エド・ウェストウィック●日本公開:2012/01●配給/ワーナー・ブラザーズ(評価★★★☆)

 【1998年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

《読書MEMO》
●NHK 総合 2023/03/06 「映像の世紀バタフライエフェクト#32―大統領が恐れたFBI長官」
0大統領が恐れたFBI長官.jpg
リンドバーグ愛児誘拐事件 | フーバーによる科学捜査 | FBIの誕生とフーバーの初代長官就任 | 電話盗聴を行うFBI | トルーマンによるCIAの設立 | 赤狩りの時代 | 公民権運動の弾圧 | レインズ夫妻によるFBI偵察と暴露 | フーバーの国葬 | NSCによる無許可の盗聴(語り:山田孝之)

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「●スティーブ・ジョブズ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(スティーブ・ジョブズ) 「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●トム・ハンクス 出演作品」の インデックッスへ「●外国のアニメーション映画」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ ○映像の世紀バタフライエフェクト(「世界を変えた"愚か者"フラーとジョブズ」)

ジョブズの多面性をそのままに描く。こんな劇的な話があっていいのかと思うくらい面白かった。

スティーブ・ジョブズ 偶像復活.jpgスティーブ・ジョブズ 偶像復活2.bmp スティーブ・ジョブズ 1977.jpg Steve Jobs.jpg S. Jobs
スティーブ・ジョブズ-偶像復活』['05年/東洋経済新報社] AppleⅡを発表するスティーブ・ジョブズ(1977)本書より

ウォルター・アイザックソン スティーブ・ジョブズ.jpg アップル創業者スティーブ・ジョブズ(1955-2011/享年56)の半生記であり、ジョブズの伝記はこれまでも多く刊行されていますが、昨年['11年]10月にジョブズが亡くなったことで、ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ(上・下)』('11年10月/講談社)をはじめ、多くのジョブズ関連本がベストセラーにランクインすることとなりました。

 アイザックソン版は絶妙のタイミングでの邦訳刊行でしたが、取材嫌いのスティーブ・ジョブズが唯一全面協力した「本人公認の決定版評伝」とのことで、スティーブ・ジョブズという人の評伝を読むに際し、彼のキャラクターからみて果たしてそのことがいいのかどうか。上下巻に渡る長さということもあり、翻訳の方もかなり急ぎ足だったことが窺えるようで、同じ井口耕一氏の翻訳によるものですが、本書の方を読むことにしました。

 本書は、原著も'05年刊行であり、ジョブズの生い立ちから始まって、一度はアップルを去った彼が倒産寸前のアップルに復帰し、iPod等で成功を収めるまでが描かれていますが、翻訳はこなれていて読み易く、ジョブズの歩んできた道が成功―挫折―復活の繰り返しであったこともあって、とにかく内容そのものが波瀾万丈、こんな劇的な話があっていいのかというくらい面白かったです。

ジョブズ nhk.bmp 個人的には、ちょうどNHKスペシャルで「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ」('11年12月24日放送)を見たところでしたが、それと照らしても、偏りの少ない伝記と言えるのではないでしょうか。元々が毀誉褒貶の激しいジョブズですが、そのスゴイ面、人を強烈に引きつける面と、ヒドイ面、友人や上司にはしたくないなあと思わせる面の両方が書かれていて、それでいて、ジョブズに対する畏敬と愛着が感じられました。

 単巻ながらも約500ページの大著ですが、アップル創業時代を描いた第1部(21歳でアップルを創業し、僅か4年で「フォーチュン500」に名を連ねる企業にするも、経営予測を誤り'85年に同社を追われる)、追放時代を描いた第2部(NeXT社を設立する一方、ルーカス・フィルムの子会社を買収して設立したピクサーで成功を収め、表舞台に復帰する)、アップル復帰以降の第3部(13年ぶりにアップルに復帰するやiMac('98年)をヒットさせ、更にiPod('01年)、iTunesなどのヒットをも飛ばす)とバランスよく配分されています。

「マッキントッシュ」新発売コマーシャルと発表するジョブズ(1983)
steve jobs 1983.jpg アップルの共同創業者や自らが引き抜いた経営陣との確執のほかに、同年代のライバルであるビル・ゲイツとの出会いや彼との交渉、Windowsの牙城を切り崩そうするジョブズの攻勢なども描かれていますが、ピクサーでの仕事におけるディズニー・アイズナー会長との様々な権利を巡るビジネス面での交渉が特に詳しく描かれており、アメリカのコンピュータ業界の内幕を描いた本であると同時に、映画ビジネス界を内側から描いたドキュメントにもなっています。
   
Luxo Jr.(1986)
Luxo Jr.jpg NHKスペシャルの「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ」を見て、彼の人生には幾つかの印象的な場面が印象的な映像と共にあったように思われ、とりわけ、'84年のマッキントッシュ発売の際のジョージ・オーエルの『1984』をモチーフとしたコマーシャル(CM監督は「ブレードランナー」('82年)のリドリー・スコット)や、'86年のCGの可能性を如実に示した"電気ランプ"の親子が主人公の短篇映画「ルクソーJr.」(Luxo Jr.)、'95年の「世界初のフル3DCGによる長編アニメーション映画「トイ・ストーリー」などが個人的には脳裡に残りました。

「トイ・ストーリー」(1995)
トイ・ストーリー1.jpg 「トイ・ストーリー」以外は番組で初めて見ましたが、そうした映像のイメージもあって本書を比較的身近に感じながら読むことができ、「トイ・ストーリー」も、初めて観た時はCGが進化したなあと思っただけでしたが、ジョブズが買収も含め個人資産を10数年も注ぎこむも全く利益を生まなかったピクサーが、土壇場で放った"大逆転ホームラン"だったと思うと、また違った感慨も湧きます(この作品だけでも公開までの4年間の投資額は5千万ドルに及び、「こんなに金がかかるなら投資しなかった」とジョブズは語っているが、本作のヒットでピクサー株は高騰し、結果的にジョブスの資産は4億ドル増えた)。

 そもそも、ジョブズのアップル復帰そのものが、次世代マッキントッシュの開発に失敗したジョブズ無き後のアップルが、次世代OSを求め、その開発に当たっていたNeXT社を買収、それに伴いジョブズの非常勤顧問という形でのアップル復帰が決まったわけで、それを機にジョブズは経営の実権を握るべくポリティックな画策をするわけですが、この「トイ・ストーリー」のヒットが、ジョブズの立場を押し上げ強固なものとする追い風になったのは確かでしょう。

 「トイ・ストーリー」に続くピクサー作品も、興行記録を次々塗り変えるヒットで、その生み出す利益があまりに膨大であるため、本書にあるようなディズニー・アイズナー会長との確執ということに繋がっていったのでしょうが、その後アイズナーの方は会長職を追われ、ジョブズはピクサーをディズニーに売却すると共に、ディズニーの筆頭株主に収まるという決着となっています。

iMacを発表するジョブズ(1998)
iMac 1998.jpg 人々を惹き付ける素晴らしいプレゼンテーションをする一方で、傲慢な人柄で平気で人を傷つけ、また、類まれなイノベーターとして製品のデザインや性能への完璧主義的なこだわりを持つ一方で、相手の弱みに付け込む政治的画策も厭わない冷酷な経営者という一面も持つ―こうしたジョブズの多面性が、本書では充分に描かれているように思いました。

 彼の次の視野には、マイクロソフトからコンピュータ業界の覇権を奪回すべく、Windows及びOfficeに匹敵するようなOSやアプリの開発があることが本書では示唆されていますが、実際に彼が'07年1月のMacworld 初日の基調講演で発表した新製品は、次世代携帯端末のiPhoneだった―徹底した秘密主義というのもあるかと思いますが、ほんの1年か2年後にどんな(しかもメガヒットとなる)製品を出すのか、誰も予測がつかなかったということなのでしょうか。

トイ・ストーリー17.jpgトイ・ストーリー dvd.jpg「トイ・ストーリー」●原題:TOY STORY●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ラセター●製作:ラルフ・グッジェンハイム/ボニー・アーノルドズ●脚本:ジョス・ウィードン/アンドリュー・スタントン/ジョエル・コーエン/アレック・ソコロウ●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ランディ・ニューマン●時間:81分●出演:トム・ハンクス/ティム・アレン/ドン・リックルズ/ジョン・モリス/ウォーレス・ショーン/ジョン・ラッツェンバーガー/ジム・バーニー●日本公開:1996/03●配給/ブエナ ビスタ インターナショナル ジャパン(評価★★★☆)
トイ・ストーリー [DVD]

《読書MEMO》
スティーブ・ジョブズ スタンフォード.jpg●NHKのドキュメンタリー番組「映像の世紀バタフライエフェクト」で2022年12月19日、スティーブ・ジョブズを、彼が影響を受けたバックミンスター・フラーと併せて取り上げていた。「宇宙船地球号」という概念を唱え、人類と地球との調和を説いた思想家バックミンスター・フラー。「現代のレオナルド・ダビンチ」とも「狂人」とも称されたフラーの思想が多くの若者たちを突き動かし、その中に若き日のスティーブ・ジョブズもいたとのこと。フラーの思想は、時空を超え、ジョブズに受け継がれ、世界を変えていき、そして伝説のスピーチが生まれたのだとしている。

●NHK 総合 2022/12/19「映像の世紀バタフライエフェクト#24―世界を変えた"愚か者"フラーとジョブズ」
#24―世界を変えた
フラーが考案したダイマクションハウスとジオデシック・ドーム | 宇宙船地球号発言 | ヒッピーらに崇められたフラーと『ホールアースカタログ』の売上によるホームブリュー・クラブの設立 | Macintoshの発売とAppleを追われるスティーヴ・ジョブズ | 新たに立ち上げたNeXTでも変わらぬジョブズ | コンピューター会社ピクサー社が制作した映画『ティン・トイ』と『トイ・ストーリー』 | iMac、iPod、iPhoneの発売 | スタンフォード大の卒業式での演説 | フラーに学んだノーマン・フォスターによるアップルの新社屋「宇宙船」。


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「仮に地球人の姿をしている宇宙人」を演じるデヴィッド・ボウイが、かなり宇宙人っぽい。

地球に落ちてきた男.jpg 地球に落ちてきた男 dvd.jpg THE MAN WHO FELL TO EARTH.jpg Christiane F. - Wir Kinder vom Bahnhof Zoo (1981) .jpg Senjô no merî Kurisumasu (1983) .jpg
「地球に落ちて来た男」パンフレット「地球に落ちて来た男 [DVD]Christiane F. - Wir Kinder vom Bahnhof Zoo (1981)  Senjô no merî Kurisumasu (1983)

 砂漠化した故郷の星に妻子を残し、地球にやってきたニュートン(デヴィッド・ボウイ)は、発明家として人知を超えた9つの特許を元に巨万の富を築き、アメリカのかつての大富豪、ハワード・ヒューズなどを思わせる、彼の奇妙な暮らしは全米の注目の的となる。ニュートンはロケットを建造して家族の待つ星に帰ろうとするが、地球で知り合って愛し合うようになったメリー・ルー(キャンディ・クラーク)を残して宇宙に飛び立とうとする直前、政府組織に捕らえらてしまい、拷問じみた人体実験と軟禁生活の中で数十年を過ごす―。

0「地球に落ちて来た男」.jpg 原作はウォルター・テヴィス。「ブレードランナー」の原作者であるフィリップ・K・ディックらに影響を与えたとされるSF映画ですが、特撮(と言えるほどのものでもない)部分は、ニュートンが回想する故郷の星の家族が"着ぐるみ"みいたいだったりして(しかも、お決まりの"キャット・アイ")、むしろ、地球人の姿を借りている主人公の宇宙人を演じているデヴィッド・ボウイ自身の方が、表情や立ち振る舞いがよほど宇宙人っぽく見えました。これって相当な集中力を要求される演技だと思います(デヴィッド・ボウイ自身もこの作品に思い入れがあったのか、2015年にオフブロードウェ1「地球に落ちて来た男」.jpgイで舞台化された際にはボウイ自身もプロデュースを担当した)

 世間がニュートンを忘れた頃、彼は拘禁状態を解かれ(依然、軟禁状態にはある)外界に戻りますが、もはや誰も彼を覚えておらず、メリー・ルーとの再会も、お互いの心の中に無力感を刻むだけのものとなり、故郷の星に戻ることもできず、巨万の富を抱えたままでひっそりと生きて行くしかない―(ラストでは、軟禁状態をも解かれ、ニュートンにとっての次なる世界が展開されるかのような終わり方になっているが...)。

2「地球に落ちて来た男」.jpg パンフレットの解説によれば、これはSFと言うよりも愛の物語であるとありましたが、メリー・ルーがニュートンとの数十年ぶりの再会で心を開くことが出来なかったのは、彼女が年齢を加えているのに、ニュートンの方は一向に年をとっていないという隔たりのためで、時を共有するというのは、一緒に年齢を重ねていくということなのだなあと思ったりもしました。「時間」というものも、この作品のテーマの1つであると言えるかもしれません。

地球に落ちて来た男 深夜の告白1.jpg 富を得れば得るほど孤独になり、自分が何のために地球に来たのかもだんだんわからなくなり地球に落ちて来た男 深夜の告白2.jpg、酒に溺れていく(宇宙人もアル中になる!)ニュートン―。人間の疎外というものを描いた作品でもあるように思いました。

アメリカン・グラフィティAmericani.jpg デヴィッド・ボウイの日本初公演は1973年ですが、映画「地球に落ちて来た男」では、「アメリカン・グラフィティ」('73年/米)でデヴィッド・ボウイより先に日本に"映画お目見え"したキャンディ・クラークも、本作メリー・ルー役で、カントリー・ガール風にいい味出しています(2人でピンポンをするシーンなんか、良かったなあ)。

デヴィッド・ボウイs.jpg デヴィッド・ボウイは、本作が映画では日本初お目見えでしたが、この作品の前後に「ジギー・スターダスト」('73年/英、ボウイのステージと素顔を追ったドキュメンタリー。日本での公開は'84年)、「ジャスト・ア・ジゴロ」('81年/西独、未見)に出ていて、その後「クリスチーネ・F」('83年/西独、ドイツの麻薬中毒少女をドキュメンタリー風に扱った映画)、「ハンガー」('83年/英、カトリーヌ・ドヌーヴが吸血鬼女、デヴィッド・ボウイがその伴侶という設定)、大島渚監督の「戦場のメリー・クリスマス」('83年/日・英)と続きます。因みに、「ジギー・スターダスト」は1972年にデヴィッド・ボウイがリリースしたアルバム名であり、異星からやってきた架空のスーパースター「ジギー」の成功からその没落までを描いたというそのコンセプトは、3年後に作られた「地球に落ちて来た男」にほぼ反映されたとみていいのではないでしょうか。
ジギー・スターダスト dvd.bmp  ジギー・スターダスト パンフ.gif ジギー・スターダスト パンフ3.jpg ジギー・スターダスト パンフ2.jpg ジギー・スターダスト アルバム.jpgジギー・スターダスト [DVD]」/「ジギー・スターダスト」パンフレット/「ジギー・スターダスト発売30周年記念アニヴァーサリー・エディション

クリスチーネ・F [DVD]
クリスチーネ・F dvd.jpg映画「クリスチーネF」.jpg 「クリスチーネ・F」は、西ベルリンの実在のヘ麻薬中毒の少女(当時14歳)の手記『かなしみのクリスチアーネ』(原題: "Wir Kinder vom Bahnhof Zoo", 「われらツォー駅の子供たち」)をベースに作られ映画ですが、主人公のクリスチーネも、同じ14歳の女友達も、共に薬代を稼ぐために売春していて(この女友達はヘロインの過剰摂取で死んでしまう)、更に、男友達も男娼として身体を売っているという結構すごい話で、クリスチーネをはじめ、素人を役者として使っていますが、演技も真に迫っていて、衝撃的でした(因みに、手記を書いたクリスチアーネ・フェルシェリノヴ(1962年生まれ)は、2010年現在生きていて、一旦は更生したものの、最近また麻薬に手を出しているという)。

CHRISTINE F.jpg この頃の「西ドイツ」映画には、日本に入ってくるものが所謂"芸術作品"っぽかったり(「ノスフェラトゥ」('78年)、「ブリキの太鼓」('79年)、「メフィスト」('81年))、歴史・社会派の作品だったり(「リリー・マルレーン」('81年)、「マリア・ブラウンの結婚」('79年))、重厚でやや暗めのものが多く、また、娯楽映画の中にもアナーキーな部分があったりして(「ベルリン・ブルース」('86年)、「ベルリン忠臣蔵」('85年))、共通して独特の暗さがありましたが、この作品は、テーマの暗さがそれに輪をかけているような感もあります。

 デヴィッド・ボウイは、クリスチーネが訪れるベルリンのコンサートシーンOriginal Soundtrack.jpgに出てくるだけですが、元々デヴィッド・ボウイとドイツの縁は深く、70年代半ばに長年の薬物使用による中毒で精神面での疲労が頂点に達し、更にドイツでのライブがナチズムを強く意識したステージ構成になっていたため世間のバッシングを浴びたりもした彼でしたが、ツアー終了後、薬物からの更生という目的も兼ねてそのままベルリンに移住し創作活動を行っていた時期があります。映画ではデヴィッド・ボウイが音楽でクリスチーネを元気づけ、立ち直りに向かわせるような位置づけになっていて、当時(80年代初め)はまだデヴィッド・ボウイに対してどことなく反社会的なイメージがあったために、やや意外な印象を受けました(実はいい人なんだあ、みたいな)。
Christine」Original Soundtrack CD (2001年)
 
「ハンガー」映画9_TheHunger-2.jpgハンガー 映画.bmp リドリー・スコット監督の弟トニー・スコットの初監督作品でもある「ハンガー」では、デヴィッド・ボウイは、「地球に落ちてきた男」で演じた「歳を取らない」宇宙人役とは真逆で、吸血鬼に若さを奪われ「急速に老いていく男」を演じています。

「ハンガー」00.jpg この他にも、スーザン・サランドンとカトリーヌ・ドヌーヴとのラヴシーンといったのもありましたが、個人的には、全体的にイマイチ入り込めなかった...。日本でもそんなにヒットしなかったように思いますが、ガラッと作風を変えた次回作「トップガン」('86年/米)がヒットして、もう、トニー・スコットがこのような映画を撮らなくなったということもあってか、この作品自体はカルト的な人気はあるようですトニー・スコットは2012年に病気を苦に橋から飛び降り自殺してしまった)

戦場のメリークリスマス ブルーレイ.jpg デヴィッド・ボウイが日本で再びブレイクすることになったのは、「ハンガー」より先に公開された大島渚監督作品「戦場のメリークリスマス」('83年/日・英)によってであって、音楽の方は、同じく役者として出演していた坂本龍一が担当していました。

 ヴァン・デル・ポストが日本軍俘虜収容所での体験を描いた小説がベースになっていて、日英の文化的相克のようなものが描かれている作品ですが(「戦場にかける橋」などとは違った意味で、それぞれの良いところ、悪いところが描かれているのには好感を持てた)、両者の溝を超えるものとしての人間と人間の繋がりが、ヒューマニズムと言うよりはホモ・セクシュアルを匂わせるようなものになっているところが大島監督らしいところ(役者名で言えば、トム・コンティとビートたけしの関係、デヴィッド・ボウイと坂本龍一との関係。ボウイが坂本龍一にキスするシーンが話題になったが、それは、映画の文脈の中でまた異なる意味を持つ)。但し、何か"日本的"と言うか"ウェット"な感じがするかなあと(大島渚監督は後の作品「御法度」(司馬遼太郎原作)でもホモ・セクシュアルを扱っている)。

 作家の小林信彦氏によれば、デヴィッド・ボウイの役は、はじめ大島監督は、ローバート・レッドフォードを考えていたのが、レッドフォードは「オーシマを尊敬している」が、脚本が自分向きでないとして断ったとこと、日本人側の俳優も、滝田栄と緒方拳でやるつもりだったが2人とも大河ドラマ出演のため出られず、勝新太郎、若山富三郎、菅原文太、三浦友和...と"口説いて"、結局、坂本龍一とビートたけしになったとのことです。坂本龍一は勿論、ビートたけしも当時は役者としてのキャリアは殆ど無く(監督としても、デビュー作「その男、凶暴につき」を撮るのは6年後)、大島渚監督の前で硬くなっている感さえあり、その点、デヴィッド・ボウイの演技面は貫禄充分でした(但し、個人的には、この作品にあまり合っているように思えない)。

 それにしてもデヴィッド・ボウイは、アメリカ、西ドイツ、イギリス、日本と、様々な国の監督のもとで映画に出演してるなあ。

ハンガー dvd.jpgハンガー パンフ.jpg    戦場のメリークリスマス dvd.jpg戦場のメリークリスマス パン.jpg 戦場のメリークリスマス 6.jpg 
ハンガー [DVD]」パンフレット 「戦場のメリークリスマス [DVD]」/パンフレット

デヴィッド・ボウイの『地球に落ちて来た男』82.jpg「地球に落ちて来た男」デヴィッド・ボウイ .jpg「地球に落ちて来た男」●原題:THE MAN WHO FELL TO EARTH●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ニコラス・ローグ●製作:マイケル・ディーリー/バリー・スパイキングス●脚本:ポール・メイヤーズバーグ●撮影: アンソニー・B・リッチモンド●音楽:ジョン・フィリップス●原作:ウォルター・テヴィス●時間:119分●出演:デヴィッド・ボウイ/キャンディ・クラーク/リップ・トーン/バック・ヘンリー/バーニー・ケイシー●日本公開:1977/02●配中野武蔵野ホール.jpg給:コロムビア映画●最初に観た場所:中野武蔵野館 (78-02-24)●2回目:中野武蔵野館 (78-02-24)●3回目:三鷹オスカー(86-07-06)(評価:★★★★)●併映(1回目):「魚が出てきた日」(ミカエル・カコヤニス)併映(2回目):「ハンガー」(トニー・スコット)/「ジギー・スターダスト」(D・A・ペネベイカー) 中野武蔵野館 (後に中野武蔵野ホール) 2004(平成16)年5月7日閉館 

david-bowie-1973.jpgZIGGY STARDUST movie.jpg「ジギー・スターダスト」●原題:ZIGGY STARDUST●制作年:1973年●制作国:イギリス●監督:ドン・アラン・ペネベイカー●撮影:ジェームズ・デズモンド/マイク・デイヴィス/ニック・ドーブ/ランディ・フランケン/ドン・アラン・ペネベーカー●音楽:デヴィッド・ボウイ●衣装デザイン:フレディ・パレッティ/山本寛斎●時間:90分●出演:デヴィッド・ボウイ/リンゴ・スター(ノンクレジット)●日本公開:1984/12●配給:ケイブルホーグ●最初に観た場所:三鷹オスカー(86-07-06)(評価:★★★)●併映:「地球に落ちて来た男」(ニコラス・ローグ)/「ハンガー」(トニー・スコット)

クリスチーネ・Fes.jpg「クリスチーネ・F」●原題:CHRISTINE F●制作年:1981年●制作国:西ドイツ●監督:ウルリッヒ・エーデル●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:ヘルマン・ヴァイゲル/カイ・ヘルマン/ホルスト・リーク●撮影:ユストゥス・パンカウ●音楽:ユルゲン・クニーパー/デヴィッド・ボウイ●原作:クリスチアーネ・ヴェラ・フェルシェリノヴ「かなしみのクリスチアーネ(われらツォー駅の子供たち)」●時間:138分●出演:ウルリッヒ・エーデル/ナーチャ・ブルンクホルスト/トーマス・ハウシュタイン/イェンス・クーパル/ヘルマン・ヴァイゲル/デヴィッド・ボウイ●日本公開:1982/06●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:荻窪オデヲン座(82-12-11)(評価:★★★☆)●併映:「グローイング・アップ ラスト・バージン荻窪オデオン座 - 2.jpg荻窪駅付近.jpg荻窪オデヲン.jpg荻窪東亜会館.jpg」(ボアズ・デビッドソン)
荻窪オデヲン座・荻窪劇場 1972年7月、荻窪駅西口北「荻窪東亜会館」B1にオープン。1991(平成3)年4月7日閉館。(パンフレット「世にも怪奇な物語」)
菅野 正 写真展「平成ラストショー」HPより

「ハンガー」映画_TheHunger-31.jpg「ハンガー」●原題:THE HUNGER●制作年:1983年●制作国:イギリス●監督:トニー・スコット●製作:リチャード・シェファード●脚本:ジェームズ・コスティガン/アイヴァン・デイヴィス/マイケル・トーマス●撮影:スティーヴン・ゴールドブラット●音楽:デニー・ジャガー/デヴィッド・ローソン/ミシェル・ルビーニ●時間:119分●出演:カトリーヌ・ドヌーヴデヴィッド・ボウイスーザン・サランドン/クリフ・デ・ヤン「ハンガー」さランドン.jpgグ/三鷹オスカー  復活.jpg三鷹オスカー2.jpgダン・ヘダヤ/ウィレム・デフォー●日本公開:1984/04●配給:MGM●最初に観た場所:三鷹オスカー (86-07-06)(評価:★★★)●併映:「地球に落ちて来た男」(ニコラス・ローグ)/「ジギー・スターダスト」(D・A・ペネベイカー)
スーザン・サランドン 

戦場のメリークリスマスsen-mer2.jpg戦場のメリークリスマスド.jpg「戦場のメリークリスマス」●制作年:1983年●制作国:日本・イギリス・オーストラリア・ニュージーランド●監督:大島渚●製作:ジェレミー・トーマス●脚本:大島渚/ポール・メイヤーズバーグ●撮影:杉村博章●音楽:坂本龍一●原作:ローレンス・ヴァン・デル・ポスト「影さす牢格子」「種子と蒔く者」●時間:123分●出演:デヴィッド・ボウイ/坂本龍一/ビートたけし/松竹セントラル123.jpg松竹セントラル123.jpg松竹セントラル.jpgトム・コンティ/ジャック・トンプソン/内田裕也/三上寛/ジョニー大倉/室田日出男/戸浦六宏/金田龍之介/内藤剛志/三上博史/本間優二/石倉民雄/飯島松竹セントトラル 銀座ロキシー.jpg松竹セントラル 閉館のお知らせ(1999年).jpg大介/アリステア・ブラウニング/ジェイムズ・マルコム●日本公開:1983/05●配給:松竹富士=日本ヘラルド●最初に観た場所:銀座・松竹セントラル(83-06-04)(評価:★★★)
松竹セントラル・銀座松竹・銀座ロキシ-(→松竹セントラル1・2・3) 1952年9月、築地・松竹会館にオープン。1999年2月11日松竹セントラル1・2・3閉館。


《読書MEMO》
●NHKのドキュメンタリー番組「映像の世紀バタフライエフェクト」で2022年12月30日、デヴィッド・ボウイがベルリンの壁を崩壊に導いたロックシンガーとして取り上げられた。エピソードタイトルは「ロックが壊した冷戦の壁」で、東西冷戦の象徴であるベルリンの壁を崩壊に導いた3人のロックシンガーの物語を拡大版で特集し、東ドイツで監視社会への怒りを歌ったニナ・ハーゲン、ドラッグや同性愛を赤裸々に歌ったルー・リード率いるベルベットアンダーグラウンドとともに、西ベルリンから壁の反対側に向けてコンサートを行ったデヴィッド・ボウイが取り上げられている。デヴィッド・ボウイは1987年6月6日、ベルリンの壁の西ベルリン側でコンサートを開催し、スピーカーを東側に向けるなどした。映画「クリスチーネ・F」でクリスチーネ・Fが訪れるベルリンでのデヴィッド・ボウイのコンサートシーンは、ボウイの協力を得てベルリンでのライブ後に会場で撮影されたものある。

●NHK 総合 2022/12/30「映像の世紀バタフライエフェクト#27―ロックが壊した冷戦の壁(73分特番)」
#27―ロックが壊した冷戦の壁.jpg
東西冷戦の象徴「ベルリンの壁」を崩壊に導いた、3人のロックシンガーの物語を拡大版で特集。東ドイツで監視社会への怒りを歌った女性歌手ニナ・ハーゲン。ドラッグや同性愛を赤裸々に歌い、チェコスロバキアで大ブームとなった、ルー・リード率いるベルベットアンダーグラウンド。そして西ベルリンから壁の反対側に向けてコンサートを行ったデビッド・ボウイ。自由を叫ぶ3人の音楽は、冷戦の壁を越えて人々の心を揺さぶった。

「●お 小川洋子」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●お 奥田 英朗」【567】 奥田 英朗 『空中ブランコ
「●「本屋大賞」 (第10位まで)」の インデックッスへ 「●さ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●「カンヌ国際映画祭 パルム・ドール」受賞作」の インデックッスへ(「ブリキの太鼓」)「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「ブリキの太鼓」)「●「アカデミー国際長編映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「ブリキの太鼓」)「●モーリス・ジャール音楽作品」の インデックッスへ(「ブリキの太鼓」) 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外文学・随筆など」の インデックッスへ 「○海外文学・随筆など 【発表・刊行順】」の インデックッスへ ○ノーベル文学賞受賞者(ギュンター・グラス)○映像の世紀バタフライエフェクト(「ふたつの敗戦国 ドイツ さまよえる人々」)

限りある生を超え、"伝説"として人々の記憶に生き続ける―芸術家の究極の姿か。

猫を抱いて象と泳ぐ.jpg  『ブリキの太鼓』(1979)31.jpg ブリキの太鼓.jpg
猫を抱いて象と泳ぐ』(2009/01 文藝春秋) 映画「ブリキの太鼓 HDニューマスター版 [DVD]

 唇が閉じて生まれ、切開手術で口を開いたという出生の経緯を持つ寡黙な少年は、体が大きくなりすぎて屋上動物園で生涯を終えた象と、壁の隙間に挟まり出られなくなった女の子を架空の友とし、7歳で廃バスにポーンという名の猫と暮らす巨漢の男と遇って、彼を師匠にチェスを習い、その才能を開花させる。男が象と同様にその巨体のために亡くなると、彼は自らの意思で11歳のまま身体の成長を止め、名棋士アリョーヒンに因んでリトル・アリョーヒンと名づけられたチェスのカラクリ人形の中に入り、人知れず至高の対戦を繰り広げる―。

 2009(平成11)年度「『本の雑誌』編集部が選ぶノンジャンル・ベスト10」第2位。2010(平成22)年・第7回 「本屋大賞」第5位。同作者の『博士の愛した数式』('03年/新潮社)が"数式"をモチーフにしていたのに対して、今度は"チェス"がモチーフということで、そうした独自の素材が物語にうまく溶け込んでいるという点では、『博士の愛した数式』を凌いでいるかも。

『ブリキの太鼓』(1979).jpg飛ぶ教室 実業之日本社.gif 自らの意思で成長を止めた少年というのは、ギュンター・グラスが1959年に発表した処女作『ブリキの太鼓』(フォルカー・シュレンドルフ監督の映画「ブリキの太鼓」('79年/西独・仏))の"オスカル少年"のようでもあり、廃バスに住むマスターは、エーリッヒ・ケストナーの『飛ぶ教室』の学校近くの廃車となった禁煙車両に住む"禁煙先生"をも想起させます。
「ブリキの太鼓」('79年/西独・仏)

「ブリキコの太鼓」6.jpg(●ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』を読書会のテーマ本となったのを機に読み、面白くて映画も再見した。映画は、戦争が終わり、成長を決意したオスカルが家族とともに西ドイツ独に移住する場面で終わっているが(文庫3巻の上巻・中巻に該当)、原作はその後が描かれている(文庫3巻の下巻)。戦後、オスカルは故郷ポーランドのダンツィヒを離れ西ドイツに移住(これは敗戦国民としてポーランドを追放されたギュンター・グラス自身の来歴と重なる)、闇商売から出発し、石工、美術学校のモデルと職業を替えた後(グラスも彫刻家・石工として生計をたてながら美術学校に通っていた時期がある)、ジャズバンドのドラマーとして成功し脚光を浴びる一方で、殺人事件に巻き込まれたりもする。成長するとともにガラスを破壊する声は失ってしまっていたが、「ブリキの太鼓」を叩くことで観客たちの幼少時の記憶を喚起するという新たな機能を見出し、彼は再び「ブリキの太鼓叩きのオスカル」に戻っていく―。オスカルが成長を再開してからトーンが変わって、むしろ話がぶっ飛んでいるように思ったが(この部分を映画化しなかったのは正解)、「大人としての新生活」に向かって歩み始めたはずの彼の戦後が虚構でしかなかったことの表れか。)
ブリキの太鼓単行本全集文庫.jpgブリキの太鼓 (1972年) (現代の世界文学)』['82年改版版]/『ブリキの太鼓 1 (集英社文庫) 』『ブリキの太鼓 2 (集英社文庫) 』『ブリキの太鼓 3 (集英社文庫) 』['78年]/『ブリキの太鼓 (池澤夏樹=個人編集世界文学全集2) 』['10年]

 個人的には『博士の愛した数式』のような母子モノの話には感動させられ易いのですが、現実を描いている風でありながら大人のメルヘン的要素を醸した『博士の...』に比べると、こちらは、最初から「物語」乃至「寓話」であることがフレームとして読者の前に提示されている感じで、いったん物語の中に入り込めてしまえば、よりすんなり感動できるかも知れません(実際、感動した。自分は「母子モノ」に弱いと言うより、このタイプの「小川作品」に弱いのかも)。

 主人公の師匠である巨漢男だけでなく、優しい祖母や老人ホームに住まう往年の名プレーヤーたちなど、印象に残る登場人物が多く、彼らはやがて死んでいきますが、それぞれに生きている者の中に記憶として生きていると言えます。
 そして、主人公の最期もまたあっけないものですが、彼は"伝説"として人々の記憶に生き続けることになる―、ある意味、人間の限りある生を超えられるものは何かを問いかけるような作品でもあります。

 主人公はチェスプレーヤーですが、「ビショップの奇跡」と呼ばれる1枚の棋譜と1葉のスナップ写真のみを残したその生き方は、芸術家の究極の姿でもあるように思えました。
 そのことは、「もし彼がどんな人物であったかお知りになりたければ、どうぞ棋譜を読んで下さい。そこにすべてのことが書かれています」という、この作品の最後のフレーズにも象徴されているかと思います。

Bobby Fischer.jpgBOBBY FISCHER 2.jpg 実際、チェスの世界は伝説的な話には事欠かないようで、'08年にアイスランドで亡くなったボビー・フィッシャー(米国)みたいに、何度も世界チャンピオンになりながら何度も消息不明になった人などもいて、ボビー・フィッシャーの再来といわれた天才少年ジョシュ・ウェイツキンを主人公にした「ボビー・フィッシャーを探して」('93年/米)という映画も作られるなどしました(Photo:Bobby Fischer: (1958)He wins US Chess Championship at age 14)。

羽生善治.jpg ボビー・フィッシャーは日本に潜伏していた時期もあったらしく、無効パスポート保持で成田で拘束されたこともあり、米国に強制送還される恐れがあったため、チェスが"趣味"の羽生善治氏が、彼に日本国籍を与えるよう当時の小泉首相に嘆願メールを出したということもありました。

チェス部が小川洋子氏の取材を受ける.jpg 作者が取材した麻布高校のチェスサークルは、在学中に全日本チャンピオンとなり、'08年度まで4年連続タイトルを保持した小島慎也氏('09年度は、アイルランドのIM(インターナショナル・マスター)サム・コリンズに敗れ準優勝だった)の出身サークルでもありますが、小島氏に言わせれば、日本チェス界で一番強いのは羽生善治であるとのこと、羽生は主に海外で対局していて、国際レイティングは今も('09年)日本人トップで、羽生を倒せるようになるのが"全日本チャンピオン"の座に4度輝いた小島氏の目標だそうです(羽生ってスゴイなあ。まるで、生ける"伝説"みたいな感じ...)。

 「ボビー・フィッシャーを探して」('93年/米)と同様、チェスの世界大会を舞台にした映画では、カール・シュンケル監督の「美しき獲物」('93年/米・独)があり、チェスの世界選手権に絡んで起きた猟奇殺人事件を描くサスペンス・サイコ・スリラーで、ストーリーそのものは悪くないのですが、主演のクリストファー・ランバートとダイアン・レイン(私生活で当時は恋人同士)の2人とも、それぞれに「チェスの天才」にも「女性心理学者」にも見えないのが難、「ボビー・フィッシャーを探して」に出演した子役は賢そうに見えたけれど...。

ブリキの太鼓2.jpgブリキの太鼓 ポスター.jpg「ブリキの太鼓」●原題:DIE BLECHTROMMEL●制作年:1979年●制作国:西ドイツ・フランス●監督:フォルカー・シュレンドルフ●製作:アナトール・ドーマン/フランツ・ザイツ●脚本:ジャン=クロード・カリエール/ギュンター・グラス/フォルカー・シュレンドルフ/フランツ・ザイツ●撮影:イゴール・ルター●音楽:モーリス・ジャール●原作:ギュンター・グラス●時間:142分●出演:ダーフィト・ベンネント/マリオ・アドルフ/アンゲラ・ヴィンクラー/カタリーナ・タールバッハ/ダニエル・オルブリフスキ/ティーナ・エンゲル/ローラント・トイプナー●日本公開:1981/04●配給:フランス映画社●最初に観た場所:有楽町スバル座(81-04-26)(評価:★★★★)


SEARCHING FOR BOBBY FISCHER (1993).jpgボビー・フィッシャーを探して.jpg「ボビー・フィッシャーを探して」●原題:SEARCHING FOR BOBBY FISCHER●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督・脚本:スティーヴン・ザイリアン●製作総指揮:シドニー・ポラック●撮影:コンラッド・ホール●音楽:ジェームズ・ホーナー●原作:フレッド・ウェイツキン●時間:110分●出演:マックス・ポメランツ/ジョー・マンティーニャ/ジョアン・アレン/ローレンス・フィッシュバーン/ベン・キングズレー/マイケル・ニーレンバーグ●日本公開:1994/02●配給:パラマウント映画=UIP (評価★★★☆)

美しき獲物.png美しき獲物 チラシ.jpgKnight Moves (1992).jpg「美しき獲物」●原題:KNIGHT MOVES●制作年:1992年●制作国:アメリカ/ドイツ●監督:カール・シェンケル●製作:クリストファー・ランバート/ジアド・エル・カウリー ●脚本:ブラッド・ミルマン●撮影:ディートリッヒ・ローマン●音楽:アン・ダッドリー●時間:116分●出演:クリストファー・ランバート/ダイアン・レイン/トム・スケリット/ダニエル・ボールドウィン/アレックス・ディアクン/フェルディ・メイン/キャスリーン・イソベル/アーサー・ブラウス●日本公開:1992/11●配給:アスキー(評価★★★)
 
 
【2011年文庫化[文春文庫]】

《読書MEMO》
●NHK 総合 2024/10/30「映像の世紀バタフライエフェクト#82―ふたつの敗戦国 ドイツ さまよえる人々」
ふたつの敗戦国 ドイツ さまよえる人々2.jpg
大戦後、東欧には1500万のドイツ人がいた。ドイツ降伏はその運命を変えた。現地の人々のドイツ人への恨みは暴力となり、住み慣れた土地からは強制追放された。しかしドイツ本国に戻っても彼らの苦しみは終わらなかった。戦争責任を重く受け止める西ドイツでは、彼ら被害者の声はかき消され、東ドイツでは、そもそも語ることが許されなかった。シリーズ「ふたつの敗戦国」、前編はドイツ人の被害者としての側面をみつめる。

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「●世界史」の インデックッスへ 「●岩波新書」の インデックッスへ ○映像の世紀バタフライエフェクト(「ベトナム 勝利の代償」)

米軍同行取材に対する批判もあるが、多くのカラー写真が訴えるものはやはり重い。

カラー版  ベトナム 戦争と平和.gifカラー版 ベトナム 戦争と平和.jpg  『ベトナム戦争と平和―カラー版』 岩波新書 〔05年〕

 ベトナム戦争で新聞社所属のカメラマンとして活動した著者に対して、たとえ著者が心情的に解放戦線寄りだったとしても、米軍に同行し、目の前でその米軍に虫けらのように殺されるベトナムの兵士や民間人を撮影していることに対する批判的な見方はあるかも知れませんが、イラク戦争にしてもそうですが、こうした取材スタイルになるのはある程度やむを得ないのではないでしょうか(本書には"北側"からの取材も一部ありますが)。
 
 故沢田教一のように、被写体となった家族を自ら救い、さらにその写真がピュリツァー賞を受賞すると、戦時中に関わらずその家族を訪問し、賞金の一部を渡したというスゴイ人もいましたが、本書は本書なりに、多くのカラー写真が訴えるものは重いと思いました。

 どうも個人的には、1973年の和平協定で米軍が撤退した時の印象が強いのですが、本書はサイゴン陥落はその2年後だったことを思い出させました。戦争終結直前に死亡した政府軍兵士の墓も哀しい。政府や軍の幹部がとっくに海外に逃亡した頃に亡くなっているのです。その後もカンボジア、中国との武力紛争を繰り返し、国力が衰退を極めたにも関わらず、よくこの国は立ち直ったなあという感想を持ちました。ドイモイ政策もありますが、戦時においても爆弾の跡を灌漑用の溜池として利用するような、国民のバイタリティによるところが大きいのではないでしょうか。

 現在のべトナムの姿もあり、経済振興と人々の明るい表情の一方で、枯葉剤の影響を受けて生まれてきた子どもの写真などが、戦争の後遺症の大きさを感じさせます。今やハノイなどは観光ブームですが、ここを訪れるアメリカの観光客は、ただ異国情緒だけ満喫して帰って行くのでしょうか。ベトナムという国の観光収入だけ考えれば、それでいいのだろうけれど...。

《読書MEMO》
●NHK 総合 2025/01/27「映像の世紀バタフライエフェクト#90―ベトナム 勝利の代償」
アメリカの戦死者約6万人、ベトナム人犠牲者300万人以上―。考えさせられる。

バタフライエフェクトベトナム勝利の代償1.jpg

バタフライエフェクトベトナム勝利の代償2.jpg


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