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衝撃のどんでん返し。相手は「ゲーム」が始まる前に仕掛けていたわけか。

DVD恐怖劇場アンバランス Vol.2.jpg3殺しのゲーム title.jpg 1殺しのゲーム 岡田1.png
DVD恐怖劇場アンバランス Vol.2」「殺しのゲーム」岡田英次(岡田)

(第3話)/殺しのゲーム .jpg ある病院で、何者かが夜中に侵入してカルテが荒らされる異変があった。翌日、岡田正男(岡田英次)はその病院に来ていた。胃が変で、急激に痩せ、医者は胃潰瘍だと言うが...。病院の看護婦・明子(春川ますみ)から話があると言われ、岡田は彼女に会う。明子は昨日、病院に侵入したのが岡田ではないかと聞き、岡田が否定すると、実は岡田はガンであると打ち明ける。本当のことを告げた方が良いと思ったと。岡田は帰途、自分はじき死ぬのだとヤケになり、階段にしゃがんで涙していると、若い女が「おじさん、あたしと遊ぼうよ」と声を掛け、岡田を連れ出す。女は連れの若い男(石橋蓮司)と一緒に踊るが、岡田はそんな気になれない。家への帰途、今度は見知らぬ男に声を掛けられ、男は名刺を差し、鈴木正助(田中春男)と名乗る。鈴木は岡田の全てを知っていると言う。名前、年齢、勤務先はもちろん、妻が2年前に事故で亡くなっていることも、子供が無いことも、岡田が胃ガンで余命1年の命であることも。彼はあなたの死の恐怖を和らげてあげるという。実は、鈴木も肺ガンで岡田より長くは生きられないらしい。鈴木は岡田に、先が短いがん患者同士互いを殺し合う「ゲーム」をしようと誘う。お互いがいつ自分を殺すのか、どうやって相手を殺そうかと考えている間は死の恐怖から逃れられると。殺人者になるのは死刑が怖いからで、お互い余命1年程度の身な第03話 「殺しのゲーム」図4.pngら死刑も怖くないと話す。岡田は、自分は仕事に打ち込むとして、この申し出を断ろうする。岡田が病院へ行くと医者が岡田の兄が心配して弟の病状を聞きに来たというが、岡田には兄はいない。明子は代休で何も知らなかったが、医者は岡田の兄と名乗る人物は岡田の妻が亡くなったことも知っていたと話す。ある日、岡田が常務(増田順司)から静養を言い渡される。岡田の兄を語った人物が、会社に岡田が胃ガンであることを知らせたのだ、岡田は、打ち込もうと思った仕事もなくなり落胆する。マンションの前まで来ると、明子が待っていて、岡田と一緒に住み、ここから病院へ通うと言う。二人の同居生活が始まるが、明子は岡田の面倒を看てくれて、暫くは平穏な日々が続き、岡田は、同居しているうちに、明子に恋心を抱き始める。そんな折、鈴木の脅しが始まり、岡田は、次々と命を狙われるような出来事に遭遇するようになる―。

第03話 「殺しのゲーム」図5.png 「恐怖劇場アンバランス」の第3話(制作№9)で、監督は、第9話「死体置場(モルグ)の殺人者」(制作№3)に続いて長谷部安春(放映順である「話数」と制作№がちょうど逆)。原作は西村京太郎の「殺しのゲーム」(『完全殺人』(角川文庫)所収)。西村京太郎と言うより、シリーズ第7話「夜が明けたら」の原作者・山田風太郎に作風が近いのではないかと思ったりしましたが、ラストはまさにミステリー作家ならではの衝撃のどんでん返しでした。

 事態が把握できるまでちょっと時間がかかったけれど、結局、鈴木が岡田について話したこと、また最後に自身について話したことは、岡田・鈴木それぞれの置かれている状況において、事実とはちょうど逆だったのだなあと。しかも、鈴木は、「ゲーム」が始まる前から、もう仕掛けをスタートしていたのだなあと。リアリティ面でどうかというのはありますが、プロットは秀逸だと思いました。結局、岡田を脅したのは鈴木だけれど、彼は最初と最後に登場するのと、あと、岡田の兄のふりをして病院に行ったり会社に行っただけで、不自然な出来事のほとんどの実行犯は......と、後でいろいろ考えていくと、結構怖いかも(最後に話したことの中に一部事実もあったわけだ)。

(第3話)/殺しのゲーム図4.png このシリーズの他のエピソードにもありますが、当時、本人へのガン告知が義務化されていなかったという前提条件のもとに成り立っている話ではあり、かつてはドラマなどで、ガンと知らされていない本人の前で無理して明るく振る舞うも、やがて泣き出して本人に知れるというのが"定番"としてあったりしました。ただ、今の時代には当てはまらない状況設定であることを割り引いても、これはこれで面白かったように思います。

 岡田英次は、増村保造監督の 「女体(じょたい)」('69年/大映)の時もそうでしたが、こうした鬱屈した役が合っているように見えました。鈴木を演じた田中春男も良石橋蓮司 第3話)/殺しのゲーム3.pngかったし、ぽっちゃり系の春川ますみもでいかにも包容感ありそうな感じでいいです。時代を反映していると思ったのは、石橋蓮司が演じる若い男が、岡田にチキンレースっぽい賭けを仕掛けて、結局、恋人と共にクルマごと海に落ちてしまう石橋 蓮司3.jpg場面で、いわば"時代の虚無感"を象徴しているでしょうか。作品的には"賭けの敗者"という位置づけで、ラストと対比させているのかもしれません。石橋蓮司は、「あらかじめ失われた恋人たちよ」('71年/ATG)の時よりかなり若く見え、髪の毛がふさふさであることにも、60年代末・70年代初期を感じました(笑)。

春川ますみ(明子)/田中春男(鈴木)
春川ますみ71.png 田中春男81.png

1(第3話)/殺しのゲーム図.png「恐怖劇場アンバランス(第3話)/殺しのゲーム」●制作年: 1970年(制作№9)●監督:長谷部安春●監修:円谷英二●制作:円谷プロダクション/フジテレビ●脚本:若槻文三●音楽:冨田勲●原作:西村京太郎「殺しのゲーム」●出演:岡田英次/石橋蓮司/米岡雅子/田中春男/増田順司/松本染升/小川幾太郎/和田啓/山岡勢津子/小沢美知子/永谷悟一/春川ますみ/青島幸男(解説)●放送:1973/01/22●放送局:フジテレビ(評価:★★★★)

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レナード&ポール・シュレイダー兄弟の東映ヤクザ映画への思い入れが感じられる作品。

ザ・ヤクザ 1974.jpgザ・ヤクザ dvd.jpg.jpg  ザ・ヤクザ1a8.jpg
ザ・ヤクザ [DVD]
                高倉健/ロバート・ミッチャム
ザ・ヤクザ 01.jpg ロスで私立探偵をしているハリー・キルマー(ロバート・ミッチャム)は旧友のジョージ・タナー(ブライアン・キース)から、日本の暴力団・東野組に誘拐された娘を救出してほしいと依頼される。タナーは海運会社を営むマフィアで、武器密輸の契約トラブルで東野組と揉めていたのだ。東野が殺し屋・加藤次郎(待田京介)をロスに送り、4日以内にタナー自身が日本に来なければ娘の命はないと通達、タナーは、かつて進駐軍憲兵として日本に勤務していた旧友のハリーに相談したのだ。ハリーは日本語が堪能な上、田中ザ・ヤクザ es.jpg健(高倉健)という暴力団の幹部と面識があった。健はハリーに義理があり、東野との交渉もうまく行くだろうというのがタナーの目算だった。ハリーは20年ぶりに東京へ向い、ボディガードで監視役のダスティ(リチャード・ジョーダン)がこれに同行する。ハリーとタナーの共通の友人で、日本文化に惹かれ、大学で米国史を教えるオリヴァー・ウィート(ハーブ・エデルマン)の邸に滞在することになる。ハリーはバー「キルマーハウス」を訪れる。戦後の混乱時に田中英子(岸惠子)と知り合い、子連れの英ザ・ヤクザ .jpg子が娼婦にならずに済んだのもハリーの愛情のお蔭だった。実は英子の夫・健が奇跡的に復員し、健は妻と娘が受けた恩義を尊び、二人から遠去かったのだが、ハリーには健と英子は兄妹だと話していた。軍命で日本を去る際にハリーはタナーから金を用意してもらい、バーを英子に与えたのだった。娘・花子(クリスティーナ・コクボ)も今は美しく成長し、ハリーを歓迎する。ハリーは健に会いに京都に向かう。健はヤクザの世界から足を洗い、剣道を教えていたザ・ヤクザ05.jpgが、義理を返すために頼みを引き受ける。タナーの娘が監禁されている鎌倉の古寺に忍び入って娘を救出、今度は健の命が東野組に狙われる。ハリーはタナーが東野と手を握り、自分たちを裏切ったことを知る。東野組がウィート邸に殴り込みをかけ、目の前で花子とダスティが殺される。タナーを射殺したハリーは健と共に、賭場を開いている東野邸に殴り込む―。
  
The_Yakuza_1974_.jpg 1974年のシドニー・ポラック監督作で、脚本は、2年後に「タクシードライバー」('76年)の脚本を手掛け、後に「MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS」('85年)を監督するポール・シュレイダー、原作は、その兄で、1969年~1973年の5年間、同志社大学と京都大学で英文学を教え、義侠の世界に興味を持ち、実在の暴力団にも出入りしたレナード・シュレイダーです。レナード・シュレイダーは帰国後、当時の東映ヤクザ映画を元にこの映画の原作を書いています。

 一方、弟のポール・シュレイダーは本当は脚本だけでなく監督もやりたかったのが、この作品で脚本家デビューしたばかりの無名であったためにそれはならず、但し、この脚本を気に入ったワーナー・ブラザーズは彼に監督の選択権を委ねていたそうで、シドニー・ポラックに決まる前に、フランシス・フォード・コッポラやニコラス・ローグにも依頼していたそうです。結局、大御所シドニー・ポラックが監督することになりましたが、その前に、ロバート・アルドリッチに監督のオファーが行ったものの、リー・マーヴィンを起用したいと考えたロバート・アルドリッチと会社側と折り合いがつかず、ロバート・ミッチャムに声が掛かかり、更に、創作上の違いから結局ロバート・アルドリッチが監督を降りたという経緯があります。ロバート・アルドリッチは代わりに、同じ男性アクション映画でも、極々アメリカ的な作品「ロンゲスト・ヤード」('74年)を撮ることになった)。

ザ・ヤクザ2s.jpg レナード&ポール・シュレイダー兄弟の東映ヤクザ映画への思い入れが感じられる作品です。とりわけレナード・シュレイダーはやくざ世界と任侠道についてきちんとリサーチをした上で原作を書いていていて、シドニー・ポラック監督もシュレイダー兄弟の意向をできるだけ汲んで映画化した模様です。従って、日本を舞台にしたハリウッド映画にありがちな、実態と乖離したへんてこりんなジャポニズムは殆ど見られなかったように思います。日本で米国史を教え、日本の歴史研究にも関心があるというオリヴァー・ウィート(ハーブ・エデルマン)のモデルは、原作者のレナード・シュレイダー自身でしょうか。

ザ・ヤクザ3s.jpg シドニー・ポラック監督自身も日本のヤクザ映画を研究したらしく、日本のヤクザ映画でよくみかけるショットなども結構あったように思います(東映のスタッフが制作に関わっている)。菅原文太の「仁義なき戦い」シリーズが1973年にスタートしていますが、むしろ参考にしたのは、ヤクザの美学や様式美の色合いがまだ濃く残る、高倉健主演のザ・ヤクザ1s.jpg日本侠客伝」や「昭和残侠伝」シリーズではないでしょうか(レナード・シュレイダーは帰国後に東映ヤクザ映画を60本ぐらい米国の映画館で観たらしい)。ロバート・ミッチャム演じるハザ・ヤクザ kisi .jpgリーが、自分を裏切ったタナーを射殺した後、東野邸に単独で殴り込みをかけようとする田中健に同行するのは、「昭和残侠伝」シリーズにおける池部良の役どころと重なります。日本のヤクザ映画の"道行"のパターンを踏襲しているわけですが、日本人俳優と外国人俳優の組み合わせであってもその形がさほど崩れておらず、目だった違和感がないのは、ロバート・ミッチャムの演技力に負うところも大きいように思いました(岸恵子もほどよくバタ臭いところがあるし...)。

岡田英次(Toshiro Tono)/高倉健
ザ・ヤクザ the-yakuza.jpgザ・ヤクザ7.jpg でも、全体としては、やはり高倉健の映画という感じです(高倉健はロバート・ミッチャムの次にクレジットされている)。殴り込みも、"主戦場"で闘っているのは高倉健で、岡田英次演じる敵方のボスを殺った後も、一人で何人ザ・ヤクザ1-1.jpgもの相手をしていて、ロバート・ミッチャムは拳銃とライフルで周辺でそれをアシストするのみです。最後は負傷でへたり込んで、ラストの待田京介演じる殺し屋との勝負にも手は出しません。最後に主人公が怒りをザ・ヤクザm.jpg爆発させて暴れまくり、それが観る側にカタルシス効果を生むのはヤクザ映画のお決まりですが、アメリカ人が観たら少しフラストレーションを感じるかも。実際、興行的にはアメリカでは失敗作だったようですが、後にクエンティン・タランティーノなどによって再評価されて自身の作品でオマージュが込めれたり(「キル・ビル」('03年))、ミンク監督、スティーヴン・セガール主演でリメイク作品が作られたりしています(「イントゥ・ザ・サン」('05年))。


ザ・ヤクザ 海外版.jpgザ・ヤクザ 01.jpg-the-yakuza-1.jpg「ザ・ヤクザ」●原題:THE YAKUZA●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督・製作:シドニー・ポラック●脚本:ポール・シュレイダー/ロバート・タウン●撮影:岡崎宏三/デューク・キャラハン●音楽:デイヴ・グルーシン(挿入歌:「ONLY THE WIND」作詞:阿久悠)●原作:レナード・シュレイダー●時間:122分●出演:ロバート・ミッチャム/高倉健/ブライアン・キース/ハーブ・エデルマン/リチャード・ジョーダン/岸惠子/岡田英次/ ジェームス繁田/待田京介/クリスティーナ・コクボ/汐路章/郷鍈治/植村謙二郎 /ヒデ夕樹●日本公開:1975/03●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)

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浅丘ルリ子の演技(悪女ぶり)と肉体(若々しさ)が見所か。ラストは安易。

女体 1969.jpg女体 1969 09.jpg 浅丘ルリ子 『女体』 スチールi.jpg
女体 [DVD]」浅丘ルリ子・伊藤孝雄      岡田英次・浅丘ルリ子・川津祐介
               浅丘ルリ子・岸田今日子
女体 浅丘ルリ子岸田今日子スチル.jpg 浜ミチ(浅丘ルリ子)は、大学理事長・小林卓造(小沢栄太郎)の息子・行夫(青山良彦)に強姦されとして慰謝料200万円を要求したが、行夫の姉・晶江(岸田今日子)に侮辱的な扱いを受け、敵意を抱く。スキャンダルを恐れた卓造は、婿である秘書の石堂信之(岡田英次)に処理を一任し、信之は晶江の意志に反して200万円を支払う。ミチは信之に愛を感じ、二人は求め合うが、ミチは信之との情事を晶江に伝えてしまう。それを知った信之は、ミチが元画家の青年・五郎(川津祐介)とも交渉があることを知ってミチと別れる決心をする。しかし、ミチを捨てられず、逆に五郎女体 1969_1.jpgから手切れ金を要求され、卓造から預っていた裏口入学金の一部500万円を流用して払う。だが、五郎はミチと別れないばかりか、金の出所を追求すると嘯き、信之はそんな五郎を誤って殺害する。やがて保釈された信之は、晶江を捨て、仕事も捨ててミチとの生活に飛び込女体 1969m.jpgむが、バー経営が行き詰まり、加えてミチの束縛を嫌う奔放な性格から二人の間に亀裂が生じる。ミチはやがて信之の妹・雪子(梓英子)の婚約者・秋月(伊藤孝雄)に心を寄せるようになる。秋月はミチの誘惑を拒むが、ミチは入水自殺する素振りをみせた挙句、深夜のドライブに秋月を誘い出し、事故による無理心中を図るも失敗する。信之にも去られて独りになったミチは「また素敵な男を見つければいいわ」と酔って、ふらつく足で風呂場のガス管を引っ掛けたまま湯舟で微睡み、永遠の眠り向かう―。

盲獣poster.jpg盲獣 .jpg 増村保造(1924-1986)監督の1968年10月公開作で、同監督は60年代は大体年3本くらい撮っていて、この年も江戸川乱歩原作、船越英二・緑魔子主演の「盲獣」('68年/大映)と川端康成原作、平幹二朗・若尾文子主演の「千羽鶴」('68年/大映)が公開されています。昔の監督は量産だったなあと思いますが、増村保造監督について言えば、次の年1970年に撮っているのが「でんきくらげ」「やくざ絶唱」「しびれくらげ」の3本であり、文芸路線、エンタメ路線、ピンク路線と何でも混在しているところが増村保造監督らしいです。
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緑はるかに.jpg緑はるかに2.jpg浅丘ルリ子 昭和44年 女体.jpg 14歳でカラー映画「緑はるかに」('55年/日活)でいきなり主役映画デビューした浅丘ルリ子は、29歳ですでに80本以上の映画に出演していましたが、当時まさに人気絶頂で、その日活に所属する超人気女優の浅丘ルリ子が大映映画に出ることになったということで、当時の大映のエース・増村保造監督が起用されたとのことです。

愛の化石L.jpg また、浅丘ルリ子はこの年('69年)にシングルレコード曲「愛の化石」をヒットさせており(唄よりもセリフが愛の化石.jpg浅丘ルリ子-p2.jpg多い曲だった)、翌年の1970年には、浅丘ルリ子と田宮二郎、高橋悦史主演で同名映画「愛の化石」('70年/日活)も製作されました。因みに、それまでも20曲以上シングルを発表していた彼女ですが、この曲で一旦歌謡曲の世界からは身を引き、「愛の化石」の次のシングルが出たのは45年後でした(小林旭とのデュエット曲「いとしいとしというこころ」('14年))。
愛の化石 [EPレコード 7inch]」/「愛の化石 [DVD]」/「愛の化石」('70年/日活)スチール写真
    
小谷野敦.jpg この「女体」については、比較文学者の小谷野敦氏が「ここでの浅丘ルリ子はニンフォマニアかサイコパスとしか思えず、ひたすらうざい。海に入って死のうとする時なんか、とめないで死なせたほうがいいと思ってしまう。『痴人の愛』よりひどく、まともな男ならまず逃げ出す。魅力のかけらもない。小沢栄太郎、岸田今日子ら理事長一家の描き方がまた類型的でげんなりする。どいつもこいつもゲヘナの火で焼きつくされてしまえばいいのにというような映画」と酷評していましたが(Amazon. comで星1つ)、お説ごもっともながら、そこまでヒドイかなあ(?)とも思ってしまいました。

痴人の愛 京マチ子.jpg 確かに『痴人の愛』のナオミに比べたら、この映画の浅丘ルリ子演じるミチは、なぜこんな女性に男が入れ込んでしまうのかなあと思うぐらい「自己愛性人格障害」ぶりが露骨に前面に出ているように感じられました。今で言う「ストーカー」的要素もあるし...(まあ、『痴人の愛』のナオミにおける谷崎ならではの絶妙なファム・ファタールぶりも、何度か映画化されたものにおいてそれが十全に描き出せているかというと、そうでもない気がするが)。

痴人の愛」('49年)京マチ子、宇野重吉

浅丘ルリ子 女体 .jpg ミチのウザさは、彼女が海に入って死のうとする時に、小谷野敦氏ならずとも、自分だってとめないで死なせたほうがいいと思ってしまったくらいですが、観客目線でミチという女性が好きだ嫌いだということとは別に、少なくとも映画の中では、伊藤孝雄演じる男はミチを助けに海に飛び込み、岡田英次演じる男は彼女を捨てられないわけであって、そこがこの映画のミソなのではないかと思います(と言っても、男たち、特に岡田英二演じる男に感情移入し切れない面があったが)。

女体 1969.jpg 男を引き付けるのはやっぱり、タイトル通り"女体"の力なのでしょうか。この映画の浅丘ルリ子はあっけらかんと下着姿を見せていて、しかも非常に締まったスレンダーな小麦色のボディをしています。但し、こうなると、女体(にょたい)と言うより、やはり女体(じょたい)になるのだろうなあ(野坂昭如風に言えば、エロスの具象かもしれないが、エロは感じられないと言うことか。野坂昭如は、エロは分かるがエロスは自分にはよく分からないとも言っている)。

 浅丘ルリ子は、やや芝居臭さがあって、演技に無理があるようにも見えますが、穿った見方をすれば、主人公の「演技性人格障害」を体現していると言えるのかも。川津祐介は増村保造監督の「」('64年/大映)でも、若尾文子演じる両性愛的女性の婚約者だかヒモだかよく分からない男を演じていて、ちんけなワルが似合います。「卍」で若尾文子に想いを寄せる女性を演じた岸田今日子は、「卍」の方がいい演技でしたが、こちらでは脇に回ったから仕方がないか(やったことと言えば、離婚を承諾しなかったことだけ)。

 全体にパターン化された演技が多いため(何だか小谷野敦氏に近くなってきた)、やはり浅丘ルリ子の演技(悪女ぶり)と肉体(若々しさ)が見所でしょうか。最後にミチを死なせてしまうのがいかにも安易に思われました。ラストでミチが独りポツンと居るだけの方が、余韻があったように思います。
1969(昭和44)年公開(大映)林 光(1931-2012)
浅丘ルリ子9.jpg女体  .jpg林光.jpg女体 1969m.jpg「女体(じょたい)」●制作年:1969年●監督:増村保造●脚本:池田一朗/増村保造●撮影:小林節雄●音楽:林光●時間:94分●出演:浅丘ルリ子/岡田英次/岸田今日子/梓英子/伊藤孝雄/川おとなの大映祭.jpg津祐介/小沢栄太郎/青山良彦/早川雄三/北村和夫/伊東光一/中条静夫/中田勉/小山内淳/三笠すみれ/川崎陽子/仲村隆/白井玲子●公開:1969/10●配給:大映●最初に観た場所:角川シネマ新宿(シネマ2・おとなの大映祭)(17-07-12)(評価:★★★)
角川シネマ新宿  0.jpg角川シネマ新宿 .jpg角川シネマ新宿 2.jpg角川シネマ新宿(新宿3丁目「新宿文化ビル」4・5階)シネマ1(300席)・シネマ2(56席)  2006(平成18)年12月9日〜旧文化シネマ1・4が「新宿ガーデンシネマ角川シネマ新宿シネマ2座席表.jpg1・2」として、旧文化シネマ2・3が「シネマート新宿1・2」として再オープン、2008(平角川シネマ新宿 シネマ22.jpgEJアニメシアター新宿カフェ・ギャラリー.jpg成20)年6月14日「新宿ガーデンシネマ1・2」が「角川シネマ新宿1・2」に改称)2018(平成30)年7月7日休館、同月28日「角川シネマ新宿」シネマ1はアニメ作品のみを上映する「EJアニメシアター新宿」に改称、シネマ2は「アニメギャラリー」としてリニューアルオープン。2023(令和5)年8月24日「EJアニメシアター新宿」閉館。跡地(4・5階)に「kino cinéma(キノシネマ)新宿」(シアター1(294席)・シアター2(53席))が同年11月16日からオープン。

角川シネマ新宿(シネマ2)[56席]

2024年3月8日撮影
Ikino cinéma(キノシネマ)新宿.jpg 
  

浅丘ルリ子(14歳)in「緑はるかに」('55年/日活)
緑はるかに 01.jpg緑はるかに 02.jpg

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逞しき青年武将としての正宗を描くも、全てにおいて中途半端な印象。

独眼竜政宗 1959 5.jpg 独眼竜政宗 1959 dvd.jpg 独眼竜政宗 1959 dvd2.jpg
独眼竜政宗 [DVD]」 中村錦之助・佐久間良子・月形龍之介

独眼竜政宗28.jpg 戦国の世の、陸奥の伊達政宗(中村錦之助)は、知勇勝れた若き武将として知られていた。豊臣秀吉(佐々木孝丸)は彼を恐れて、石田三成(徳大寺伸)の縁続きにある和田斉之を政宗の隣国に派遣した。政宗はこうした秀吉の意図を察して、鷹狩りで捕らえた鶴を聚楽第の竣工祝いとして秀吉に贈って親睦を計る。そんな時秀吉と対立関係にある北条家とつながりをもつ、奥羽路の名家田村家から、息女愛姫(大川恵子)を政宗に娶せたいとの申し出があった。政宗は愛姫と対面し、その清楚な美しさにうたれたが、政略の臭い濃いこの縁組みを断わる。その頃、秀吉の命をうけて隣国の和田斉之が政独眼竜政宗 1959 01.jpg宗に対して挑発行為に出る。だが彼は逆に斉之を術中に陥れて難を避ける。ますます脅威を感じた秀吉は暗殺団を送って政宗殺害を計るが、政宗は一味の矢を右眼にうけて重傷を負いながらも危機を逃れる。彼は、以前に狩の途中で樵(きこり)の勘助(大河内傳次郎)から聞いた"白蛇の湯独眼竜政宗 1959 8.jpg"という温泉郷に身を休めた。彼の身分を知らぬ勘助とその娘千代(佐久間良子)の素朴な愛情につつまれて、正宗には、両眼が見えていた時には知らなかった新しい世界が開ける。政宗の消息を案じた愛姫が"白蛇の湯"に訪ねる。折しも、秀吉の軍勢が北条家討伐のため小田原に向って進撃をはじめたとの報が入る―。

 1959(昭和34)年公開の河野寿一(こうの としかず)監督、中村錦之助主演による東映娯楽時代劇で、伊達政宗を主人公とする作品はこれ以前に主なもので、稲垣浩監督、片岡千恵蔵主演の「独眼龍政宗」('42年/大映)があり、また、以降では、1987年に渡辺謙が正宗を演じたNHKの大河ドラマ「独眼竜政宗」があります。この中村錦之助版では、伊達政宗は逞しき青年武将として描かれており、佐久間良子、月形竜之介、大河内傳次郎といった豪華キャストを配しています。また、秀吉を演じた佐々木孝丸は、戦前はプロレタリア文学の作家として活動していましたが、戦後は主に俳優として活動した人です(この作品における秀吉は完全に"悪役"だが)。

独眼竜政宗32.jpg ただ、伊達正宗が失明したのは眼病のためであり、それを、秀吉が政宗暗殺を謀って石田光成に命じて陸奥に刺客を送り、その刺客の忍者らとの戦いで政宗が右目を失ったという設定になっているため、右目を失った苦悩や秀吉への敵愾心も全て虚構の上に成り立っていることになり、このあたりはどうなのだろうか。Amazonのレヴューにも、「史実から完全に浮き上がった動画紙芝居を見せられているようだ」というものがありました。

 但し、政宗の父・輝宗(月形龍之介)が北条派の畠山義継(山形勲)に攫われ、それを政宗が畠山もろとも父を射殺したというのは、まず、輝宗に面会に訪れた義継が、面会が終わり出立する義継を見送ろうとした輝宗を、義継の家臣と共にに刀を突きつけ捕えたというのは事実らしく、輝宗が「自分を気にして家の恥をさらすな。わしもろともこ奴を撃て」と叫び、それが合図となって伊達勢は一斉射撃、この銃撃で輝宗と義継を始めとする二本松勢は全員が死亡したという記録が、伊達家の公式記録である『伊達治家記録』にあるそうです。更に、『奥羽永慶軍記』では、政宗自身によって義継と輝宗は撃ち殺されたとされており、この辺りは全くの作り話ではないようです(むしろ、本作で唯一、史実に忠実なシーンだったりして)。

 映画にもあるように、秀吉から上洛して恭順の意を示すよう促す書状が幾度か伊達家に届けられており、政宗はずっとこれを黙殺していましたが、最終的には秀吉の膨大な兵力を考慮した結果、秀吉に服属することとし、北条討伐の秀吉軍のいる小田原に参陣、秀吉は会津領を没収したものの、伊達家の本領72万石を安堵しています。

 正宗が当初秀吉への恭順を渋っていたのは、北条方につくか豊臣方につくか迷っていたためであり、最終的に正宗が豊臣方につくことで北条家は孤立して豊臣家に滅ぼされ、それによって秀吉の天下統一が成ったわけで、正宗の下した判断が歴史に与えた影響は大きかったわけですが、本当に秀吉に心底"恭順の意"を抱いていたのかというと疑わしく(秀吉亡き後の関ヶ原の戦いでは徳川家康の東軍についている)、その辺りの形式的には秀吉に服従するけれど、気持ち的には独眼竜政宗 1959 9.jpg従っていないということを、「自分の右眼を奪った秀吉」という位置づけで強調している作品なのかも。但し、それは歴史的背景を探りつつかなり好意的に解釈した場合であって、普通に観ていると、何が言いたいのかよく分からない作品ということになってしまうかもしれません。正宗は最後、「両目のままでは、こうして太閤にお目にかかることもなかったでありましょう。はっはっは」って呵々大笑するも、これも何だか強がりにしか聞こえなかったなあ。
中村錦之助(伊達正宗)・佐々木孝丸(豊臣秀吉)
中村錦之助(伊達正宗)・大河内傳次郎(樵の勘助)
独眼竜政宗38.jpg独眼竜政宗 1959 09.jpg 樵の勘助と正宗との交流は、勘助役の大河内傳次郎がなかなかいい味出していて楽しく、その娘・千代を演じた佐久間良子も美しいのですが、親子にとって正宗が「実は殿さまだった」と分かったところで終わっていて、こちらも中途半端。時間も87分と、これだけ役者を揃えた割には短く、とにかく全てにおいて中途半端な印象でした。

大河内傳次郎・中村錦之助
独眼竜政宗 1959s.jpg独眼竜政宗 1959 03.jpg「独眼竜政宗」●制作年:1959年●監督:河野寿一●脚本:高岩肇●撮影:坪井誠●音楽:鈴木静一●時間:87分●出演:中村錦之助(萬屋錦之介)/月形龍之介/岡田英次/宇佐美淳也/片岡栄二郎/浪花千栄子/矢奈木邦二郎/大川恵子/大河内傳次郎/佐久間良子/佐々木孝丸/徳大寺伸/加賀邦男/山形勲/中村時之介/長島隆一/水野浩/尾形伸之介/近江雄二郎●公開:1959/05●配給:東映(評価:★★)
「独眼竜政宗」作品ガイド(DVD付録)
「独眼竜政宗」 ガイド.jpg

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戦争の悲劇を描いたマルグリット・デュラス原作(脚本)の映画化作。DVD化されていない名作。

かくも長き不在 ポスター.jpgかくも長き不在 vhs.jpg かくも長き不在 01.jpg かくも長き不在 ちくま.jpg
輸入版ポスター/「かくも長き不在」VHS/『かくも長き不在 (ちくま文庫)

UNE AUSSI LONGUE ABSENCE.jpg パリ郊外でカフェを営むテレーズ(アリダ・ヴァリ)はある日、店の前を通る浮浪者に目を止める。その男(ジョルジュ・ウィルソン)は16年前に行方不明になった彼女の夫アルベールにそっくりであった。テレーズはその男とコンタクトをとるが、その男は記憶喪失だった―。

 アンリ・コルピ(1921-2006/享年84)監督の1961年公開の作品で、この人は映画監督の他に雑誌編集者、脚本家、音楽家、編集技師として幅広く活動した人ですが、逆に単独監督した作品として有名なのはこの一作くらいではないでしょうか。但し、この作品でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞しています。

 この作品もある種"企画"的側面があり、原作者のマルグリット・デュラス(1914-1996/享年81)は1960年にこの物語を、同じくデュラスマルグリット・デュラス.jpgの小説『モデラートカンタービレ』(原題:Moderato Cantabile, 1958年)を原作としジャンヌ・モロー、ジャン=ポール・ベルモンドが主演した「雨のしのび逢い」('60年/仏・伊)の脚本家ジェラール・ジャルロと共同でいきなり脚本から書き起こしていて、それは「ちくま文庫」に所収されています。
Marguerite Duras(1914 - 1996)
かくも長き不在 02.jpg
 戦争の悲劇を描いた感動作ですが、マルグリット・デュラスの作品の中でも分かり易く、また、件(くだん)の浮浪者は果たしてテレーズの夫であるのかどうかという関心から引き込まれます。そして、事実は結末で意外な形で示唆されますが(テレーズの呼んだ夫の名を街の人が次々と伝えていき、それに反応する形で浮浪者が降参するかのように両手を上げるのが悲しい)、その前のテレーズと浮浪者のダンスシーンなども、ぎこちなく二人が抱き合うところなどは逆にリアルで感動させられ、定番的な作り物にしてしまわない脚本と演出の上手さが感じられました。

UNE AUSSI LONGUE ABSENCE aridabari.jpg アリダ・ヴァリはキャロル・リード監督の「第三の男」('49年/英)が有名ですが、この作品を観ると、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の「さすらい」('57年/伊)で夫と別れて暮らすことになった妻を演じていたのを思い出します。「さすらい」において、夫は疲弊して妻の元に戻りますが、アリダ・ヴァリ演じる妻は既に新たな生活を築いており、夫は妻の目の前で自死を遂げます。

UNE AUSSI LONGUE ABSENCE 1.jpg この「かくも長き不在」においても、アリダ・ヴァリ演じるテレーズには日常においては暗さは無く、16年前にゲシュタポに捕えられたまま消息を絶った夫の帰りを待ちながらも店を営んで逞しく生活しており、若い恋人までいるような様子であって、そこへ抜け殻のようになって現れた"夫かもしれない男"との対比が、逆に男の心的外傷によるトラウマの闇の深さを際立たせています。テレーズが男とぎこちないダンスをした際に、男の頭部の傷に気づく場面はぞっとさせられますが、一方で、そのことにより"夫かもしれない男"に憐れみと慈しみを覚えるテレーズの表情は、まさにアリダ・ヴァリにしか出来ないような演技であり、この作品の白眉と言えます。

 因みに、この映画を観て、いくら心的外傷を負ったとは言え、自分の夫と他人の区別がつかないものだろうかという慰問を抱く人がいますが、心的外傷だけでなく記憶中枢である海馬を損傷するなど脳に器質的障害を負った場合、その人の顔つきまでも全く変わってしまうことが見受けられるようで、個人的にもそうしたケースに接したことがあります。

「二十四時間の情事」1.jpg マルグリット・デュラスは多くの作品を残しながら自身も監督業を手掛けていますが、どちらかと言うと原作や脚本を書いたものを別の映画監督が映画化したものの方が知られており、有名なものでは原作・脚本を書き、アラン・レネが監督してカンヌ国際映画祭FIPRESCI(国際映画批評家連盟)賞を受賞した「二十四時間の情事」('59年/仏・日)がありますが、こちらもモチーフとしてナチの収容所体験を持つ女性が出てきます。ヌーヴェル・ヴァーグの色合いを感じる作品で、観念的な原作の文脈でそのまま映像化するとこんな感じかなという作品ですが、これもオリジナルよりは分かり易くなっています。同じアラン・レネ監督の、後にノーベル文学賞を受去年マリエンバートで 01.jpg賞する作家アラン・ロブ=グリエ(1922-2008/享年85)原作の「去年マリエンバートで」('61年/仏)ほどには前衛的ではなく、デュラスの小説の映画化作品は、小説より分かり易くなる傾向にあるように思います(それでもまだ難解な面もあるが、「去年マリエンバートで」のように観ていて眠くなる(?)ことはない)。デュラスの小説『ジブラルタルから来た水夫』を原作とするトニー・リチャードソン監督の「ジブラルタルの追想」('67年/英)なども、えーっ、原作ってこんなラブロマンスなの、というようなハーレクイン風の仕上がりで、ここまで噛み砕いてしまうとどうかなというのはありますが、さすがにこの作品は自身で脚本までは書いていないようです。

UNE AUSSI LONGUE ABSENCE 7.jpg 「かくも長き不在」のちくま文庫版の原作脚本を読むと、自身で監督したものに有名な作品は無いけれど、(脚本家の協力・示唆はあったにせよ)小説的効果と映画的効果の違いはわかっていた人ではないかという気がします。特に、この映画のラストの男を呼ぶ声が伝言のように街中を伝わっていく場面は、映画的シチュエーションの極致と言ってよいかと思います。

 しかし、この「かくも長き不在」、以前はビデオとLD(レーザーディスク)で発売されていたけれど、2014年現在DVD化はされていないようです。どうして?(2015年完成の4Kスキャン→2K修復画質により2018年に初めてDVD&Blu-ray化された)

かくも長き不在 シアターアプル.jpgUNE AUSSI LONGUE ABSENCE 3.jpg「かくも長き不在」●原題:UNE AUSSI LONGUE ABSENCE●制作年:1960年●制作国:フランス●監督:アンリ・コルピ●脚本:マルグリット・デュラス/ジェラール・ジャルロ●撮影:マルセル・ウェイス●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:98分●出演:アリダ・ヴァリ/ジョルジュ・ウィルソン/シャルル・ブラヴェット/ジャック・アルダン/アナ・レペグリエ●日本公開:1964/08●配給:東和●最初に観た場所:新宿シアターアプル(85-04-21)(評価:★★★★)
ポスター(イラスト:和田 誠

二十四時間の情事 02.jpg「二十四時間の情事」●原題:HIROSHIMA 二十四時間の情事_.jpgMON AMOUR●制作年:1959年●制作国:フランス・日本●監督:アラン・レネ●脚本:マルグリット・デュラス●撮影:サッシャ・ヴィエルニ/高橋通夫●音楽:ジョヴァンニ・フスコ(イタリア語版)/ジョルジュ・ドルリュー●時間:90分●出演:エマニュエル・リヴァ/岡田英次/ステラ・ダサス/ピエール・バルボー/ベルナール・フレッソン●日本公開:1959/06●配給:大映●最初に観た場所:京橋・フィルムセンター(80-07-15)(評価:★★★★)
二十四時間の情事 [DVD]

去年マリエンバートで  チラシ.jpg去年マリエンバートでes.jpg「去年マリエンバートで」●原題:L'ANNEE DERNIERE A MARIENBAT●制作年:1961年●制作国:フランス・イタリア●監督:アラン・レネ●製作:ピエール・クーロー/レイモン・フロマン●脚本:アラン・ロブ=グリエ●撮影:サッシャ・ヴィエルニ●音楽:フランシス・セイリグ●時間:94分●出演:デルフィー去年マリエンバートで ce.jpgヌ・セイリグ/ ジョルジュ・アルベルタッツィ(ジョルジョ・アルベルタッツィ)/ サッシャ・ピトエフ/(淑女たち)フランソワーズ・ベルタン/ルーチェ・ガルシア=ヴィレ/エレナ・コルネル/フランソワーズ・スピラ/カリン・トゥーシュ=ミトラー/(紳士たち)ピエール・バルボー/ヴィルヘルム・フォン・デーク/ジャン・ラニエ/ジェラール・ロラン/ダビデ・モンテムーリ/ジル・ケアン/ガブリエル・ヴェルナー/アルフレッド・ヒッチコック●日本公開:1964/05●配給:東和●最初に観た場所:カトル・ド・シネマ上映会(81-05-23)(評価★★★?)●併映:「アンダルシアの犬」(ルイス・ブニュエル)

THE SAILOR FROM GIBRALTAR PERFORMER.jpg「ジブラルタルの追想」●原題:THE SAILOR FROM GIBRALTAR PERFORMER●制作年:1967年●制作国:イギリス●監督:トニー・リチャードソン●製作:オスカー・リュウェンスティン●脚本:クリストファー・イシャーウッド/ドン・マグナー/ジブラルタルの水夫.jpgトニー・リチャードソン●撮影:ラウール・クタール●音楽:アントワーヌ・デュアメル●原作:マルグリット・デュラス「ジブラルタルから来た水夫(ジブラルタルの水夫)」●時間:90分●出演:ジャンヌ・モロー/イアン・バネン/オーソン・ウェルズ/ヴァネッサ・レッドグレーヴ●日本公開:1967/11●配給:ユナイテッド・アーチスツ●最初に観た場所:大塚名画座(78-12-12)(評価:★★☆)●併映:「悪魔のような恋人」(トニー・リチャードソン)(原作:ウラジミール・ナボコフ)
ジブラルタルの水夫

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「五社協定」はまさに、三船、裕次郎にとっての「破砕帯」であった。

黒部の太陽 ミフネと裕次郎.jpg 黒部の太陽 全記録.jpg  黒部の太陽 ポスター.jpg 熊井啓.bmp 熊井 啓(1930‐2007)
黒部の太陽』['05年]『映画「黒部の太陽」全記録 (新潮文庫)』['09年] 映画「黒部の太陽 [通常版] [DVD]」['68年]ポスター

黒部の太陽 ポスター2.jpg 映画「黒部の太陽」('68(昭和43)年/日活)は、或る一定世代おいては学校の課外授業で観た人も多いと思いますが、自分もその一人。この度、石原プロが、東日本大震災の被災地支援のため全国でチャリティー上映会を催すとのことで、その第1弾の上映が来月('12年5月)に黒部市で行われ、年末までに全国約150カ所を巡って上映するそうですが、どういう上映形態になるのでしょうか。

 と言うのは、生前の石原裕次郎が「こういった作品は映画館の大迫力の画面・音声で見て欲しい」と言い遺したためソフト化されていない一方で(2013年3月DVD化)、スクリーン上映もこれまで殆ど行われておらず、裕次郎の13回忌や17回忌などに、石原プロが関係するイベントで上映されている程度。しかも、封切版は3時間15分の作品ですが、海外公開用に編集された「約1時間がカットされたもの」を公開しているとのこと(本書著者あとがき)、過去のノーカット版の上映は、大阪市と黒部市での2回のみだそうです。

黒部の太陽2.jpg 今年('12年)3月17日にはNHK‐BSプレミアムで33年ぶりにTV放映され、「特別篇」と称した2時間20分の海外用短縮版を観ましたが、ラストの三船敏郎がダム完成後に工事用の隧道内を歩くシーンなど、作品において不可欠と思われる場面がカットされているように思われました。こうなると、不完全燃焼感の残る再放送を観るよりも、こちらの監督自身による、映画完成までの苦難の道程を記録した記録を読む方が面白かったりして...。

 勿論、映画を観た上での相乗効果的な面白さですが、まだ映画を観ていない人は、本書を読んでから映画を観るとより面白いと思います(本書後半には、映画シナリオの完全版を掲載)。

黒部の太陽3.jpg 本書によれば、映画制作のきっかけは、石原プロの専務・中井景が、毎日新聞編集委員・木本正次が'64(昭和39)年に毎日新聞に116回に渡り連載した原作小説『黒部の太陽』に着目したことですが、'62年に日活から独立した石原裕次郎は、'63年には独立第1弾として、「太平洋ひとりぼっち」を公開するものの興行面では失敗に終わり(これは母親に連れられてリアルタイムで観たなあ)、ややジリジリしていたみたいで、中井が著者に監督を打診する辺りなどは、なかなか興味深いものがあります。

 一方で中井は三船プロの三船敏郎にも渡りを付け、監督が熊井啓ならば、ということで制作・出演の了解を得(三船は初め熊井のことをよく知らなかったみたいだが)、映画は石原プロと三船プロという俳優が興したプロダクションによって制作されることになりますが、当時は大手の映画会社が制作・配給・劇場公開までを仕切るのが通常で、裕次郎、三船という日活・東宝の看板スターでも、独立系プロダクションが映画を作るというのは大変なことだったようです。

 特に石原・三船らを苦しめたのは、当時映画会社の間にあった「五社協定」と呼ばれる取り決めで(当初は、松竹・東宝・大映・東映・新東宝の5社、後に新東宝に替わって日活が加わる)、協定では、実質上ある映画会社の俳優は、その映画会社の撮影所でその映画会社の監督以下スタッフのもと映画に出演し、制作・配給し、その映画会社の系列映画館でしかできないというもので、日活に縁のある石原裕次郎が、東宝に縁のある三船敏郎と組んで、日活社員であった熊井啓に映画会社の事前了解無く脚本を書かかせ(井手雅人の脚本の前に熊井自身が一度脚本を書いている)、映画を撮らせるというのは、そうした閉鎖的な業界から見れば掟破りのことだったようです。

 '64年に三船敏郎と石原裕次郎は「三船プロ・石原プロの共作で『黒部の太陽』を映画化する」と"中央突破"的に会見し、このことは同じく会見に臨んだ著者(熊井啓)の日活解雇問題にまで発展、こうした経緯が、映画化が実現するまでに時間を要した原因となりますが、その間にも、石原プロが厳しい財政状況だった裕次郎は、スタッフ・キャスティングに必要な人件費が充分にないため、劇団民藝の主宰者である宇野重吉を訪ねて協力を依頼し(宇野重吉は協力・出演を快諾。映画は、息子・寺尾聡の映画初出演作ともなった)、また、制作に当たって映画会社から圧力が掛かっていた関西電力を訪ね、経営層トップにシンパを築くことなどもしていきます

 '66年に再び三船と裕次郎が会見を開き、『黒部の太陽』を映画化すると再発表しますが、資金面だけでなく撮影面でも大掛かりであったため(トンネル工事の再現セットが愛知県豊川市の熊谷組の工場内に作成された)、クランクインしてからも苦難の連続で、トンネル内の出水シーンでは、420トンの水タンクの水が想定以上に勢いよく押し寄せ、裕次郎が親指を骨折したほか負傷者が何人も出たとのことです(奔流に流される裕次郎を救出しようと監督がカメラの前に飛び出したのが映っている)。

高熱隧道.jpg トンネル工事、とりわけ「関電トンネル」にフォーカスした脚本は成功していると思われますが、結局、ダム工事で一番大変なのが隧道建設であることは、戦前・太平洋戦争直前の黒部第三ダムの建設を描いた吉村昭のノンフィクション小説『高熱隧道』('67年/新潮社)からも窺えます(この「黒部第三ダム」の建設の大変さは、映画では、裕次郎演じる熊谷組下請け会社・岩岡(モデルは笹島建設の社長)の父・源三(辰巳柳太郎)などによって再現されている)。

高熱隧道 (新潮文庫)

 因みに、"昭和の大工事"とされた黒部川第四発電所建設での犠牲者が171名に対し、この第三発電所建設は全工区で300名以上の死者が出て、吉村昭が小説でフォーカスした阿曾原谷側工事だけでも188名の死者が出ています(この時は温泉水脈の傍を掘ったため、"灼熱地獄"の中での工事だった)。

黒部の太陽 5.jpg 黒四ダムの「関電トンネル」は全長5.4キロを掘り進む工事でしたが、熊谷組坑口から1.4キロの地点で「大破砕帯」にぶつかり、湧水を含んだ地中の軟弱層が切羽を押し潰すという事態が繰り返し起きて工事は難航(こちらは、漏水による言わば"水地獄"状態)、これが、本書を読むと、「五社協定」によって映画作りが難航したことと丁度ダブって見え、まさに「五社協定」は、三船、裕次郎にとっての「大破砕帯」であったわけです。

 その他にも本書を読んで知ったのは、三船敏郎が演じた関西電力黒四建設事務所次長・北川の娘(日色ともゑ)が白血病で亡くなるという話は、モデルとなった芳賀公介という人が、関電トンネルの完成とほぼ同じ頃に娘を亡くしており、事実に基づいた話だったのだなあと。

「黒部の太陽」03.jpg 関電トンネルが貫通してもいい頃なのになかなか貫通せず、その日も皆諦めて帰りかけた時に、裕次郎演じる岩岡が鑿を突っ込んだら貫通していたというのも、笹島氏の話によると事実だそうで、それで、貫通祝賀の儀式は、反対面から掘っていた間組ではなく、熊谷組の仕切りになったそうです。

「黒部の太陽」.jpg 47歳の三船敏郎の演技は重厚。貫通祝賀の日に娘の訃報が入るという、歓喜と悲嘆の入り混じる場面の演技は秀逸ですが、撮影前夜に笹島氏らと酒を飲み、しかも三船は朝まで飲んで、真っ赤に充血した目で撮影現場に現れたそうで、それが黒部の太陽1.jpg映画では演技にリアルさを持たせ、それも役作りの一環だったわけかと、後で笹島氏は悟ったそうです。

 石原裕次郎(1934‐1987)、三船敏郎(1920‐1997)が亡くなった際の著者の追悼文が付されていますが、まさか三船を兄貴分と慕っていた裕次郎の方が先に亡くなるとは。プロデューサーの中井景も脚本の井手雅人も鬼籍に入り、裕次郎、三船への追悼文を書いた著者・熊井啓(1930‐2007)も、本書が文庫化される前に亡くなっているのが寂しいです。
 
黒部の太陽58.jpg「黒部の太陽」●制作年:1968年●製作:三船敏郎(三船プロダクション)/中井景(石原プロモーション)/石原裕次郎(石原プロ)●監督:熊井啓●脚本:井手雅人/熊井啓●撮影:金宇満司●音楽:黛敏郎●原作:木本正次「黒部の太陽」●時間:195分●出演:三船敏郎/石原裕次郎/滝沢修志村喬/辰巳柳太郎/宇野重吉/二谷英明/芦田伸介/佐野周二/岡田英次/山内明/寺尾聰/柳永二郎/玉川伊佐男/高津住男/加藤武/成瀬昌彦/信欣三/大滝秀治/清水将夫/下川辰平/庄司永建/鈴木瑞穂/日色ともゑ/樫山「黒部の太陽」 滝沢修.jpg大滝秀治 黒部の太陽.jpg文枝/川口晶/内藤武敏/佐野浅夫/草薙幸二郎/榎木兵衛/武藤章生/北林谷栄/三益愛子/高峰三枝子●公開:1968/02●配給:日活(評価:★★★★☆)

滝沢修(関西電力社長・太田垣士郎)/大滝秀治(間組・上条班長)

「黒部の太陽」高峰三枝子.jpg「黒部の太陽」三船。石原.jpg

【2009年文庫化[新潮文庫(『映画「黒部の太陽」全記録』)]】

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工藤夕貴の演技がいい「台風クラブ」。少女を撮るのが上手だった故・相米慎二監督。

Typhoon Club 1985.jpg 台風クラブ.jpg    逆噴射家族.jpg 逆噴射家族 1シーン.jpg 
「台風クラブ」ポスター「台風クラブ [DVD]」(相米慎二監督)「逆噴射家族 [DVD]」(石井聰互監督)ラストシーン

台風クラブ1.jpg 地方都市の女子中学生たちが、学校のプールに夜中に泳ぎにやってきて、先に来ていた男子生徒にイタズラをするが、度が過ぎて溺死寸前の状態に追い込んでしまう。翌朝、ニュースでは台風の接近を告げていた―。

台風クラブ2.bmp 「台風クラブ」('85年/東宝=ATG)は、'85(昭和60)年の第1回東京国際映画祭のグランプリ受賞作で、台風の接近に伴い、言いようのない感情の昂ぶりを見せ騒乱状態に陥る中学生たちを生々しく且つ瑞々しく描き出した作品。女子中学生役の工藤夕貴が、中学生の日常とそこに潜む思春期の生理的・精神的危うさを演じて台風クラブ22.jpg秀逸で、何か自分でそうしたものを観察でもしたかのような相米慎二監督の演出が際立っています。実際、女子中学生の私生活を「長回し」で写し撮っているような感じのシーンもあり、今ならば児童保護の名目で規制の対象になりそうな際どい場面もあって、更にストーリー的にも結構どろどろした出来事がありますが、そうしたことも含め、「観察対象」としての距離を置いて撮っているような感じもします。

 迫りくる台風に対する不安と非日常への漠たる期待、台風という非日常の中での狂騒、そして台風台風クラブ 図1.jpg一過、中学生たちは何事もなかったかのようにまた元気に学校に通い出す―でも実は、台風が来る前に比べぐっと大人に近づいているという、 "大人になるための出来事"を台風に絡めているところが旨く、また、女子中学生の方が男子よりも逞しく描かれているように思いました。人間の自律神経は気圧の変化には敏感で、酸素がたくさんある高気圧だと酸素ストレスで交感神経が緊張して体は興奮して元気になり、逆に雨や台風で低気圧が接近すると、副交感神経が優位に働いて、特に神経痛やリュウマチなどの持病がある人にとっては低気圧は不快感を増幅させるそうですが、思春期にある者の情緒不安定を引き起こすことについても何か科学的根拠があるんじゃないかなあ。

相米慎二.jpg 相米慎二(1948‐2001/享年53)監督は、薬師丸ひろ子(当時17歳)主演の「セーラー服と機関銃」('81年)の後に夏目雅子(当時25歳)主演の「魚影の群れ」('83年)や斉藤由貴(当時19歳)主演の「雪の断章‐情熱‐」('85年)などを撮り、そして工藤夕貴(当時14歳)主演のこの作品「台風クラブ」を撮っていますが、その内夏目雅子を除いて当時何れも二十歳未満で、斉藤由貴は映画初出演で主演、工藤夕貴もこの作品が初主演でした。何だか新人専門みたいですが、とりわけ未成年(少女)を撮るのが上手だった(?) 相米慎二監督はその後も、「東京上空いらっしゃいませ」('90年)で当時18歳の牧瀬里穂を、「お引越し」(93年)で当時11歳の新人・田畑智子を、それぞれ主役に据えた作品を撮っています。

台風クラブ 三浦友和 演.jpg 「台風クラブ」では三浦友和が不良っぽい教師役で出ていて、なかなか良かったです。三浦友和は、所謂「百恵・友和ゴールデンコンビ」と言われた作品群で1970年代に二枚目の俳優として10代に大変な人気がありましたが、その百恵・友和のゴールデン・コンビの第8作、大林宣彦監督、ジェームス三木脚本の「ふりむけば愛」('78年/東宝)を友達と観に行って、2人とも途中で眠くなりました。ただ、本作を契機に山口百恵と三浦友和は結婚に踏み切ることを決意したと言われています。2本立てで小原宏裕監督の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」('78年/日活)の後でしたが、大林宣彦監督はいい作品(尾道3部作など)も撮る一方で駄作も多い気がし、これもその1つ。百恵・友和コンビ作では、市川昆監督、川端康成原作の「古都」('80年)が山口百恵引退記念作品となり、三浦友和は村川透監督、勝目梓原作の「獣たちの熱い眠り」('81年/東映)でイメージチェンジを図りますが(三浦友和は萩原健一や松田優作のような反体制タイプの役者に憧れていたらしい)、映画内で風吹ジュンらとの激しいベッドシーンなどがあったものの、「三浦友和のイメチェン作」と言われている割にはイメチェンに成功しておらず、彼の後の演技の糧にはなったかもしれませんが、「友和クンにハードボイルドは似合わない」というのが当時の印象でした(この作品は過去にビデオあれておらず、'09年現在DVD化もされていない)。その三浦友和が、この「台風クラブ」では、その無責任ゆえに生徒たちから反発を喰う教師役を演じていて、恋人(小林かおり)が台台風クラブ 三浦友和 演技.jpg所で料理をしている隣りの部屋でだらしなく寝転がってる三浦友和が、近よってきた恋人に足を絡ませ倒して抱きつく長回しなど、ダメさ加減がよく出ていました(ハードボイルド風よりよりこっちの方がいい)。個人的には、この作品こそが彼のイメージチェンジ作ではないかなと思います(イメチェンって、ただこれまでと違う役をやればいいというものでもなく、新たなキャラを確立させなければならないだけに難しい)。三浦友和はこの作品で、第10回報知映画賞助演男優賞を受賞しています。
「NHKあさイチ~あさイチ・プレミアムトーク~」(2011.11.25)

「ふりむけば愛」('78年/東宝)、「獣たちの熱い眠り」('81年/東映)、「台風クラブ」('85年/東宝=ATG)
三浦友和1 ふりむけば愛.jpg 0三浦友和2 獣たちの熱き眠り2.jpg 三浦友和3 台風クラブ.jpg

逆噴射家族5.bmp 一方、工藤夕貴の映画初出演は、この作品の前年の石井聰互監督の「逆噴射家族」('84年/ATG)で(当時13歳)、真面目で小心者のサラリーマン(小林克也)が長期ローンでやっとマイホームを建て、家族4人でそれなりの幸せ気分でいたところに(この家族が変人揃いで皆それぞれ勝手気儘というかバラバラなのだが、その1人が工藤夕貴演じる娘)、郷里からまた変な祖父(植木等)が舞い込んで来て家の中がおかしくなりだし、更にある日、このサラリーマン氏が自宅でシロアリの群れを発見して、マイホームが朽ちるのではとの不安に駆られ、シロアリ駆除に向けて大暴走するというものです。

逆噴射家族6.bmp 小林よしのり氏(当時31歳)の原案だそうですが、映画としてはあくまでも石井聰互監督(当時27歳)の映画という感じで、DJ・小林克也の演技は役者並みだし、ちょっと狂い気味の妻役の倍賞美津子や、植木等の怪しい老人ぶりもいいです。

0有薗芳記 in 「逆噴射家族」.jpg 更には工藤夕貴の兄を演じた有薗芳記の電脳オタクぶりも、映画初出演ながら凄かった―ということで、工藤夕貴のぶっ飛び感も、これらに比べるとちょっと弱かったかも知れません("緊縛シーン"(?)に象徴されるように、彼らの被害者的立場という色合いが強い役柄のせいもあったが)。
有薗芳記 in 「逆噴射家族」

逆噴射家族ンロード.jpg逆噴射家族A.jpg 「逆噴射家族」は海外の映画祭でもグランプリなどを獲っている作品ですが、狂気を描くことが目的化してしまっている面も感じられ、むしろ異価値・異文化的な面で海外に受台風クラブ07.jpgけたのではないかなあ。個人的には「台風工藤夕貴 in 「台風クラブ」.jpgクラブ」の方がより好みでしょうか。

[上]小林克也 in 「逆噴射家族」

[下]工藤夕貴 in 「台風クラブ」
        
  

台風クラブes.jpg「台風クラブ」●制作年:1985年●監督:相米慎二●製作:宮坂進●脚本: 加藤裕司●撮影:伊藤昭裕●音楽:三枝成章●時間:85分●出演:工藤夕貴/三上祐一/大西結花台風クラブ  13.jpg三浦友和/佐藤充/寺田農/尾美としのり/鶴見辰吾/紅林茂/松永敏行/会沢朋子/小林かおり/きたむらあきこ/石井富/佐藤浩市(友情出演)●公開:1985/08●配給:東宝=ATG●最初に観た場所:有楽町スバル座(1985/8/31)●2回目:大井武蔵野館(1986/9/20)(評価:★★★★)●併映(2回目):「時代屋の女房」(森崎東) 
    
ふりむけば愛〈別冊近代映画〉.jpgふりむけば愛9.jpg「ふりむけば愛」●制作年:1978年●監督:大林宣彦●製作:堀威夫/笹井英男●脚本:ジェームス三木●撮影:萩原憲治●音楽:宮崎尚志(主題歌:三浦友和「ふりむけば愛 dvd.jpgふりむけば愛」(作詞・作曲:小椋佳 編曲:松任谷正隆))●時間:92分●出演:山口百恵/三浦友和/森次晃嗣/玉川伊佐男/奈良岡朋子/黒部幸英/神谷政浩/名倉良/高橋昌也/南田洋子/大内勇/藤木啓士/安西卓人/星野晶子/岡田英次●公開:1978/07●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-06-03)(評価:★★)●併映:「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」(小原宏裕)
ふりむけば愛 [DVD]

獣たちの熱い眠り .jpg獣たちの熱き眠り 00.jpg獣たちの熱い眠り 3.jpg「獣たちの熱い眠り」●制作年:1981年●監督:村川透●脚本:永原秀一●撮影:仙元誠三●三浦友和風吹ジュン宇佐美恵子「獣たちの熱い眠り」広告.jpg音楽:速水清司●原作:勝目梓●時間:111分●出演:三浦友和/風吹ジュン/なつきれい/宇佐美恵子/石橋蓮司/鹿内孝/峰岸徹/宮内洋/佐藤蛾次郎/阿藤海/安岡力也/草薙幸二郎/中丸忠雄/中尾彬/成田三樹夫/伊吹宇佐美恵子1.jpg宇佐美恵子2.jpg吾郎/(以下、特別出演)吉行和子/池波志乃/来栖アンナ●公開:1981/09●配給:東映●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)(評価:★★)●併映:「吼えろ鉄10文芸坐.jpg拳」(鈴木則文)
[上]「映画チラシ 「獣たちの熱い眠り」監督 村川透 出演 三浦友和、なつきれい、宇佐美恵子」/[右]広告切抜き
宇佐美恵子
三浦友和/風吹ジュン
0「獣たちの熱い眠り」.jpg 0「獣たちの熱い眠り」2.jpg
     
逆噴射家族1.jpg逆噴射家族 2.png逆噴射家族 1.png「逆噴射家族」●制作年:1984年●監督:石井聰互●製作:長谷川和彦/山根豊次/佐々木史郎●脚本:石井聰逆噴射家族E-.jpg亙/小林よしのり/神波史男●撮影:田村正毅●時間:106分●出演:小林克也/倍賞美津子/植木等/工藤夕貴/有薗芳記/岸野一彦/小海とよ子/緒方明/林崎巌/郷守信廣/井上欣逆噴射家族   .jpg則/高橋佑奈/井手国弘/アレックス・アブラモフ●公開:1984/06●配給:ATG●最初に観た場所:池袋日勝文化劇場(85-11-04)(評価:★★★☆)●併映:「お葬式」(伊丹十三)

「逆噴射家族」スチール写真(左から有薗芳記/植木等/小林克也/倍賞美津子/工藤夕貴)
   
日勝文化2.jpg池袋.jpgビックカメラ池袋.jpg池袋日勝映画劇場・池袋日勝文化劇場・池袋スカラ座・池袋日勝地下劇場 (現・池袋東口ビックカメラ池袋本店付近) 1995(平成7)年6月25日閉館
池袋日勝 日勝文化3.jpg
日勝文化705.jpg③池袋東急 ④池袋スカラ座 ⑮池袋日勝地下劇場 ⑬池袋日勝映画劇場 ⑭池袋日勝文化劇場

・1937年 池袋日勝映画館オープン
・1946年10月 - 池袋日勝映画劇場として再オープン
・1951年12月 - 池袋日勝地下劇場オープン
・1960年前後 - 池袋日勝文化劇場、池袋松竹劇場オープン
・1963年 - 池袋松竹劇場を池袋スカラ座と改称
・1995年 - 4館ともすべて閉館
池袋スカラ座/池袋日勝文化 菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より  
池袋日勝 日勝文化 6月25日.jpg 池袋日勝.jpg 
青木 圭一郎 『昭和の東京 映画は名画座』(2016/03 ワイズ出版)より
昭和の東京 映画は名画座  池袋.jpg

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文化大革命以降、意外な日本映画が中国で大反響。その背景を分析。

中国10億人の日本映画熱愛史2.jpg君よ憤怒の河を渉れ 高倉・原田 2.jpg 君よ憤怒の河を渉れ (1976年3.jpg
君よ憤怒の河を渉れ [DVD]」('76年)高倉健・原田芳雄/中野良子・大滝秀治
中国10億人の日本映画熱愛史-高倉健、山口百恵からキムタク、アニメまで』['06年] 

追捕.jpg君よ憤怒の河を渉れ.jpg 文化大革命以降の中国国内における日本映画の歴史を解説したもので、何よりも、文革直後に中国で公開された数少ない映画が、中国の一般の人々や映画人に与えた影響が絶大なものであったことを本書で知りました。その代表というのが、今は日本では殆ど顧みられることのない作品「君よ憤怒の河を渉れ」('76年/製作:大映、配給:松竹)で、西村寿行の原作を佐藤純彌が監督したこの作品は、'78年に中国で「追捕」というタイトルで公開されるや大反響を呼び、中国人の約80%以上が観たということで(スゴイ!)、主演の高倉健、中野良子は今でも中国で人気があるそうです。

サンダカン八番娼館 望郷.jpg これに続いたのが、山崎朋子の原作を熊井啓が監督した「サンダカン八番娼館・望郷」('74年製作)で、主演の栗原小巻の中国での人気は今でも高いそうですが、その後も「愛と死」('71年/中村登監督)、「人間の証明」('77年/佐藤純彌監督)、「砂の器」('74年/野村芳太郎監督)などが中国に輸入され、高い人気を博したとのこと(「愛と死」を80年代に日本人が観れば、既にノスタルジーの対象であったものが、当時の中国人にはオシャレに見えた。この点が、今の日本の"韓流ブーム"とは異なるところ)。

 本書では、中国に輸入された日本映画とその影響を、「第5世代」と呼ばれる中国の新映画人の台頭など国産映画の動向と併せて解説し、何故それら日本映画が中国の人々に受け入れられたのかを分析していて、先に挙げたものは、中国に輸入された日本映画の初期のものに過ぎないのですが、とりわけ反響が絶大であっただけに、その「ウケた理由」には自ずと興味が持たれます(こうしてみると、芸術性はあまり関係ないなあ)。

山口百恵 赤い疑惑.jpg 中国における高倉健の人気は、ハリウッドスターを含めた海外映画俳優の中で今でもトップという圧倒的なものだそうですが、女優で最大人気は、'84年から中国で放映されたTVドラマ「赤い疑惑」シリーズの山口百恵だそうで、殆どカリスマのような存在。

コン・リー.jpg 大物女優の鞏俐(コン・リー)なども、中国が本当にオリジナルな芸術性を持った作品を作り始めた第五世代の代表的監督・張芸謀(チャン・イーモウ)の初期作品「紅いコーリャン」('87年)に出演した頃は、中国国内で「中国の山口百恵」と言われているという話を聞いた覚えがあります(本書によれば、その後すぐに彼女はそのイメージから脱却したそうだが、スピルバーグがプロデュースした「SAYURI」('05年)に、チャン・ツィイーと共に日本人女性役で出ているというのが興味深い。本来は日本人がやる役だけれど、ハリウッド進出は中国女優の方が既に先行している)。

 著者は映画芸術論を専門とする中国人の学者で('94年以降、日本在住)、本書は初めから日本語で書かれたもの。知らないことだらけで興味深く読めたけれど、1行当たりの"漢字含有率"がどうしても高くなってしまうのは、本の内容上、仕方がないことなのか。

君よ憤怒の河を渉れ poster.jpg君よ憤怒の河を渉れ 高倉・原田.jpg 冒頭で掲げた「君よ憤怒の河を渉れ」は(原作は「ふんぬ」だが映画タイトルには「ふんど」のルビがある。因みに監督の佐藤純彌は東大文学部卒)、高倉健の東映退社後の第一作目(当時45歳)で、高倉健が演じるのは、政界黒幕事件を追ううちに無実の罪を着せられ警察に追われる立場になる東京地検検事・杜丘冬人(上君よ憤怒の河を渉れ 池部s.jpg司の伊藤検事正を池部良が演じている)。原田芳雄が演じる彼を追う警視庁の矢村警部との間で、次第に友情のようなものが芽生えてくるのがポイントで、最後は2人で黒幕を追い詰め、銃弾を撃ち込むという任侠映画っぽい結末でした(検事と警官で悪を裁いてしまうという無茶苦茶ぶりだが、その分カタルシス効果はあったか)。健さんは逃亡過程においては、馬を駆ったりセスナ機を操縦したりと007並みの活躍で、その間、中野良子や倍賞美津子に助けられるという盛り沢山な内容です。

Kimi yo fundo no kawa wo watare (1976)
Kimi yo fundo no kawa wo watare (1976) .jpg君よ憤怒の河を渡れ  .jpg そこそこ面白いのですが、B級と言えばB級で、なぜこの映画が中国で受けたのか不思議というのはあります。中国人の約80%以上が観たというのが大袈裟だとして、たとえそれが30%であったとしても、最も多くの人が観た日本映画ということになるのではないでしょうか。張藝謀(チャン・イーモウ)監督のように、この映画を観て高倉健に恋い焦がれ、その想いがコラボ的に高倉健が主演することになった「単騎、千里を走る。」('05年)に結実したということもあります。やっぱり、中国で文革後に実質初めて公開された日本映画という、そのタイミングが大きかったのでしょう。今観ると、意外と2時間半の長尺を飽きさせずに見せ、また70年代テイスト満載の映画でもあり、その部分を加味して星半個オマケしておきます。
君よ憤怒の河を渉れ 大和田.jpg 君よ憤怒の河を渉れ nakano.jpg
大和田伸也/高倉健/原田芳雄                 高倉健/中野良子
君よ憤怒の河を渉れsp.jpg「君よ憤怒の河を渉れ」1.jpg「君よ憤怒の河を渉れ」●制作年:1976年●監督:佐藤純彌●製作:永田雅一●脚本:田坂啓/佐藤純彌●撮影:小林節雄●音楽:青山八郎●原作:西村寿行「君よ憤怒の河を渉れ」●時間:151分●出君よ憤怒の河を渉れ-s.jpg君よ憤怒の河を渉れ 倍賞.jpg演:高倉健/原田芳雄/池部良/大滝秀治/中野良子/倍賞美津子/岡田英次/西村晃/田中邦衛/伊佐山ひ君よ憤怒の河を渉れ サントラ.jpgろ子/内藤武敏君よ憤怒の河を渉れ s.jpg君よ憤怒の河を渉れ 大滝秀治s.jpg/大和田伸也/下川辰平/夏木章/石山雄大/松山新一/木島進介/久富惟晴/神田隆/吉田義夫/木島一郎/浜田晃/岩崎信忠/姿鉄太郎/沢美鶴/田畑善彦/青木卓司/田村貫/里木佐甫良/阿藤岡田英次 君よ憤怒の河を渉れ.jpg海(阿藤快)/松山新一/小島ナナ/中田勉、/飛田喜佐夫/細井雅夫/千田隼生/宮本高志/本田悠美子●公開:1976/02●配給:松竹 (評価:★★★☆)      
岡田英次(主人公・杜丘を自殺させようとする医師・堂塔)/西村晃(政界の黒幕・長岡了介)
君よ憤怒の河を渉れ 西村晃.jpeg

君よ憤怒の河を渉れ 池部3.jpg池部良(杜丘の上司・伊藤検事正)/原田芳雄/高倉健

田中邦衛 君よ憤怒の河を渉れ.jpg

田中邦衛(横路敬二・杜丘を窃盗犯と名指した寺田俊明と名乗る男。最後は精神病院での人体実験的投薬により廃人となる)

   
  
●世界歴代観客動員数・2021年3月8日現在(Wikipedia[要出典])
タイトル 公開年 チケット販売数(推定) 製作国
君よ憤怒の河を渉れ 1976 800,000,000 日本
白蛇伝 1980 700,000,000 中国
喜盈門(中国語版) 1981 650,000,000 中国
神秘的大佛 1980 403,210,000 中国
風と共に去りぬ 1939 338,400,000 アメリカ
スター・ウォーズ 1977 338,400,000 アメリカ
キャラバン(英語版) 1971 319,000,000 インド
少林寺 1982 304,920,000 香港・中国
タイタニック 1997 301,300,000 アメリカ
保密局的鎗聲 1979 300,000,000 中国
サウンド・オブ・ミュージック 1965 283,300,000 アメリカ
アベンジャーズ/エンドゲーム 2019 278,301,590 アメリカ
E.T. 1982 276,700,000 アメリカ
十戒 1956 262,000,000 アメリカ
炎(ヒンディー語版) 1975 250,021,329 インド
ドクトル・ジバゴ 1965 248,200,000 アメリカ・イタリア
ジョーズ 1975 242,800,000 アメリカ
アバター 2009 238,600,000 アメリカ
放浪者(英語版) 1951 217,100,000 インド
白雪姫 1937 214,900,000 アメリカ
エクソシスト 1973 214,900,000 アメリカ
アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー 2018 210,856,433 アメリカ
101匹わんちゃん 1961 199,800,000 アメリカ
スター・ウォーズ/フォースの覚醒 2015 196,584,093 アメリカ
ジュラシックパーク 1993 165,447,929 アメリカ
ベン・ハー 1959 161,877,059 アメリカ
戦狼 ウルフ・オブ・ウォー 2017 159,322,273 中国
ライオン・キング 2019 159,166,303 アメリカ
アベンジャーズ 2012 157,614,553 アメリカ
スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス 1999 157,000,804 アメリカ
ジュラシック・ワールド 2015 152,003,952 アメリカ
ハリー・ポッターと賢者の石 2001 148,973,885 イギリス・アメリカ
ライオン・キング 1994 144,602,914 アメリカ
ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 2003 142,573,659 ニュージーランド・アメリカ
赤いカリーナ(ロシア語版) 1974 140,000,000 ソビエト
廬山恋(中国語版) 1980 140,000,000 中国
アナと雪の女王 2013 139,738,456 アメリカ
ジャングル・ブック 1967 137,915,958 アメリカ
Disco Dancer (英語版記事) 1982 135,000,000 インド
パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト 2006 134,528,334 アメリカ
ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔 2002 130,420,246 ニュージーランド・アメリカ
スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲 1980 129,984,978 アメリカ
ゴッドファーザー 1972 128,176,173 アメリカ
ブラックパンサー 2018 126,325,768 アメリカ
スター・ウォーズ /ジェダイの復讐 1983 126,255,825 アメリカ
スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け 2019 126,062,216 アメリカ
スパイダーマン 2002 125,026,496 アメリカ
ファインディング・ニモ 2003 124,728,882 アメリカ
美女と野獣 2017 123,766,498 アメリカ
ジャングル・ブック 2016 123,663,450 アメリカ
スティング 1973 123,048,854 アメリカ
シュレック2 2004 123,023,527 アメリカ
007/サンダーボール作戦 1965 122,235,389 イギリス・アメリカ
ダークナイト ライジング 2012 121,771,548 イギリス・アメリカ
インデペンデンス・デイ 1996 120,752,312 アメリカ
スーパーマン 1978 117,872,453 アメリカ
グリース 1978 117,075,584 アメリカ
クレオパトラ 1963 116,470,333 アメリカ
ボビー 1973 116,400,000 インド
アナと雪の女王2 2019 115,994,260 アメリカ
ダークナイト 2008 115,688,414 イギリス・アメリカ
インクレディブル・ファミリー 2018 113,261,772 アメリカ
ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー 2016 111,452,976 アメリカ
アラジン 2019 106,787,769 アメリカ
メリー・ポピンズ 1964 105,507,268 アメリカ
バーフバリ 王の凱旋 2017 105,003,001 インド
スパイダーマン2 2004 104,531,972 アメリカ
流転の地球 2019 104,027,044 中国
シックス・センス 1999 103,747,446 アメリカ
レイダース/失われたアーク《聖櫃》 1981 103,498,886 アメリカ
ランボー 1982 101,187,271 アメリカ
荒野の七人 1960 100,923,583 アメリカ
フォレスト・ガンプ/一期一会 1994 100,522,518 アメリカ


《読書MEMO》
2014年11月の高倉健逝去を悼み、中国各所でこの作品の上映会が催された。
君よ憤怒の河を渉れ415.jpg

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医学界の権力構造の図式を鮮やかに浮かびあがらせた傑作。もとは財前の勝利で終わる話だった。
白い巨塔 1965.jpg 白い巨塔 1.jpg 白い巨塔 2.jpg 白い巨塔 3.jpg kyotou2.jpg 白い巨塔 1シーン.jpg
白い巨塔 (1965年)』 『新潮文庫「白い巨塔 全5巻セット」』  映画「白い巨塔 [DVD]」['66年]
映画「白い巨塔」('66年/大映) 田宮二郎・田村高廣
映画「白い巨塔」('66年/大映).jpg この作品は何度かテレビドラマ化ざれ、佐藤慶('67年/テレビ朝日系/全26回)、田宮二郎('78年/フジテレビ系/全31回)、村上弘明(90年/テレビ朝日系/全2回)などが主役の財前五郎を演じています。更に最近では、'03年にフジテレビ系で唐沢寿明主演のもの(全21回)がありましたが、断トツの視聴率だったのは記憶に新しいところ(唐沢寿明版の最終回の視聴率32.1%で、'78年の田宮二郎版の最終回31.4%を上回る数字だった)。
                   
白い巨塔 66.jpg銀座シネパトス.jpg しかしながら個人的には、やっぱりテレビ版よりは、原作を読む前に観た山本薩夫(1910-1983)監督による映画化作品(田宮二郎主演)が鮮烈な印象として残っており、また観たいと思っていたら、'04年にニュープリント版が銀座シネパトス(東銀座・三原橋の地下にあるこの映画館は、しばしば昔の貴重な作品を上映する。2013年3月31日閉館)で公開されたため、約20年ぶりに劇場で観ることができました。これも全て今回の唐沢寿明版のヒットのお蔭でしょうか。

映画 「白い巨塔」('66年/モノクロ)

白い巨塔」(テレビ 1978.jpg田宮二郎自殺.jpg田宮二郎.jpg 田宮二郎(1935-1978/享年43)は、31歳の時にこの小説と巡り会って主人公・財前五郎に惚れ込み、作者の山崎豊子氏に懇願してその役を得たとのこと。その演技が原作者に認められ、それがテレビでも財前医師を演じることに繋がっていますが、テレビドラマの方も好評を博し、撮影終盤の頃、ドラマでの愛人役の太地喜和子(1943‐1992/享年48)との対談が週刊誌に掲載されていた記憶があります。それがまさか、ヘミングウェイと同じ方法でライフル自殺するとは思わなかった...。クイズ番組「タイム・ショック」の司会とかもやっていたのに(司会者は自殺しないなどという法則はないのだが)。

テレビドラマ版 「白い巨塔」('78~'79年/カラー)
 田宮二郎は30代前半の頃から躁うつ病を発症したらしく、テレビ版の撮影当初は躁状態で自らロケ地を探したりも田宮二郎 .jpgしていたそうです。それが終盤に入ってうつ状態になり、リハーサル中に泣き出すこともあったりしたのを、周囲が励ましながら撮影を進めたそうで、彼が自殺したのはテレビドラマの全収録が終わった日でした(実現が困難な事業に多額の投資をし、借金に追われて「俺はマフィアに命を狙われている」とか、あり得ない妄想を抱くようになっていた)。当時週刊誌で見た大地喜和子とのにこやかな対談は、実際に行われたものなのだろうか。

『続・白い巨塔』('69年/新潮社 )/『白い巨塔(全)』('94年/新潮社改版版)/映画「白い巨塔」('66年/大映)
白い巨塔 ラスト.jpg続白い巨塔.jpg白い巨塔1994.jpg
 もともとの『白い巨塔』('65年/新潮社)は、'63年から'65年にかけて「サンデー毎日」に連載されたもので、熾烈な教授選挙戦を征して教授になった財前五郎が、権力者の後ろ盾のもとに、彼の医療ミスを告発する里見医師らを駆逐するところで終わっています。映画('66年)も教授選をクライマックスに、主人公の財前が第一外科教授に昇進するまでを描いていて、原作・映画ともに、医学界の権威主義に対する強烈な風刺や批判となっていますが、権力志向の強い男のピカレスク・ロマンとしてもみることができます。しかしながら、こうした「悪が勝つ」終わり方に世間から批判があり、そのため『続・白い巨塔』('69年)が書かかれたということです('94年新装版では、正・続が2段組全1冊に収められている)。

白い巨塔 新潮文庫.jpg 文庫の方は、当初は正(上下2巻)・続に分かれていましたが、'93年の改定で「続」も含め『白い巨塔』として全3巻になり、更に'02年の改定で全5巻になっています(「続」という概念がある時期から消されているともとれる)。最近のテレビドラマもそれに準拠し、財前が亡くなるところまで撮り切っていますが、文庫で読むときは、もともとは今ある全5巻のうち、第3巻までで終わる話だったことを意識してみるのも良いのではないでしょうか。

 因みに、いくつかあるテレビ版で、原作の正編に相当する部分のみで終わっているのは、「続」が書かれる前にドラマ化された佐藤慶版('67年/テレビ朝日系/全26回)のみです。田宮二郎の主演のものも、テレビ版の方は唐沢寿明版と同じく、主人公が癌で亡くなるところまで撮っています。田宮二郎テレビ版では、田宮二郎自身が台本に自分で書いた遺書を挿入し、末期がんのがん患者になり切ったとのこと、ストレッチャーに乗る遺体役での演技をラッシュで確認して、本人は満足していたそうです(その場面が放送される前に自殺したわけだが)。

白い巨塔 .jpgkyotou1.jpg この小説は、続編も含め、単純な勧善懲悪物語にしていないところがこの著者の凄いところです。財前はむしろ、周囲に翻弄されるあやつり人形のような存在で(苦学生上がりで医師になったのに、才能を上司に認められないというのは辛いだろうなあ)、彼をとりまく人々の中に、医学界の権力構造の図式を鮮やかに浮かびあがらせている(読んでると、権力を持たなければ何も出来ないではないかという気にさえさせられる)一方、個々に「白い巨塔」小沢.jpgは、権力に憧れる気持ちと真実を追究し正義を全うしようという気持ちが入り混じっているような"普通の人"も多く出てきて、この辺りがこの小説の充実したリアリティに繋がっていると思います。 

山崎豊子(1924-2013
山崎豊子.png白い巨塔 東野.jpg白い巨塔 加藤嘉.jpg「白い巨塔」●制作年:1966年●製作:永田雅一(大映)●監督:山本薩夫●脚本:橋本忍●音楽:池野成●原作:山崎白い巨塔 船越 英二.jpg白い巨塔 滝沢修.jpg豊子●時間:150分●出演:田宮二郎/東野英治郎小沢栄太郎小川真由美/岸輝子/加藤嘉田村高廣船越英ニ滝沢修藤村志保/下条正巳/石山健二郎/加藤武/里見明凡太朗/鈴木瑞穂/清水将夫/下條正巳/須賀不二男/早白い巨塔 小川真由美.jpg白い巨塔 藤村志保  .jpg川雄三/高原駿雄/杉田康/夏木章/潮万太郎/北原義郎/長谷川待子/瀧花久子/平井岐代子/村田扶実子/竹村洋介/小山内淳/伊東光一/南方伸夫/河原侃二/山根圭一郎/浜世津子/白井玲子/天池仁美/岡崎夏子/赤沢未知子/福原真理子●劇場公開:1966/10●配給:大映●最初に観た場所:渋谷・東急名画座(山甦れ!東急名画座3.jpg甦れ!東急名画座1.jpg東急文化会館.jpg東急名画座 1.jpg本薩夫監督追悼特集) (83-12-05)●2回目:銀座シネパトス (04-05-02) (評価★★★★)
東急名画座 (東急文化会館6F、1956年12月1日オープン、1986年〜渋谷東急2) 2003(平成15)年6月30日閉館

銀座シネパトス.jpg銀座東映.jpg銀座シネパトス.jpg銀座シネパトス 1952(昭和27)年、ニュース映画の専門館「テアトルニュース」開館、1954(昭和29)年「銀座東映」開館、1967(昭和42)年10月3日「テアトルニュース」跡地に「銀座地球座」開館、1968(昭和43)年9銀座シネパトスs.jpg月1日「銀座東映」跡地に「銀座名画座」開館、1988(昭和63)年7月1日「銀座地球座」→「銀座シネパトス1」、「銀座名画座」→「銀座シネパトス2」「銀座シネパトス3」に改装。2013(平成25)年3月31日閉館

  
白い巨塔」(テレビ 1978.jpgテレビドラマ 白い巨塔 田宮二郎  dvd.jpg白い巨塔 ドラマ 1.jpg「白い巨塔」(テレビ・田宮二郎版)●演出:小林俊一●制作:小林俊一●脚本:鈴木尚之●音楽:渡辺岳夫●原作:山崎豊子「白い巨塔」「続・白い巨塔」●出演:田宮二郎/生田悦子/太地白い巨塔 大滝秀治2.jpgTV版「白い巨塔」中村伸郎.jpg喜和子/島田陽子/藤村志保/上村香子/高橋長英/中村伸郎/小沢栄太郎/河原崎長一郎/山本學/金子信雄/清水章吾/大滝秀治佐分利信加藤嘉/渡辺文雄/戸浦六宏/関川慎二/東恵美子/中村玉緒/井上孝雄/小松方正/西村晃/曽我廼家明蝶/渡辺文雄/米倉斉加年/岡田英次/中北千枝子/児玉清/北村和夫/小林昭二●放映:1978/06~1979/01(全31回)●放送局:フジテレビ
白い巨塔 佐分利 信.jpg白い巨塔 (1978年のテレビドラマ) 大河内 加藤.jpg白い巨塔 戸浦六宏.jpg中村伸郎(浪速大学医学部第一外科教授→近畿労災病院院長・東貞蔵)/大滝秀治(大阪地方裁判所裁判長)/佐分利信(東都大学医学部第一外科教授教授・船尾悟)/加藤嘉(浪速大学医学部病理学教授・大河内清作)/戸浦六宏(浪速大学医学部産婦人科教授・葉山優夫)/小沢栄太郎(浪速大学医学部第一内科教授、浪速大学医学部長・鵜飼雅一)/渡辺文雄(真鍋外科病院院長・真鍋貫治)/岡田英次(里見清一(里見脩二の兄、洛北大学医学部第二内科講師→開業医))
「白い巨塔」小沢渡辺.jpg「白い巨塔」岡田.jpg『白い巨塔_1331.jpeg
    
白い巨塔 ドラマ 2003.jpg「白い巨塔」ドラマ  .jpg「白い巨塔」(テレビ・唐沢寿明版)●演出:西谷弘/河野圭太/村上正典/岩田和行●制作:大多亮●脚本:井上由美子●音楽:加古隆●原作:山崎豊子「白い巨塔」「続・白い巨塔」●出演:唐沢寿明/江口洋介/西田敏行/佐々木蔵之介/上川隆也/伊藤英明/及川光博/石坂浩二/伊武雅刀/黒木瞳/矢田亜希子/水野真紀/高畑淳子/沢村一樹/片岡孝太郎/若村麻由美●放映:2003/10~2004/03(全21回)●放送局:フジテレビ

 【1965年単行本・1969年続編・1973年改訂・1994年新装版[新潮社]/1978年文庫化(上・下・続)・1993年改訂(全3巻)・2002年再改定(全5巻)[新潮文庫]】

《読書MEMO》
白い巨塔 岡田准一版.jpg白い巨塔 2019.jpg●2019年再ドラマ化【感想】'78年の田宮二郎版の全31回、'03年の唐沢寿明版の全21回に対して今回の岡田准一版は全5回とドラマ版としては短く、盛り上がる間もなくあっという間に終わってしまった感じで、岡田准一は大役を演じ切れてない印象を持った。最終回の視聴率が15.2%というのはそう悪い数字ではないが、この原作ならば本来はもっと高い数字になって然るべきで、やはり内容的に...。田宮二郎版の31.4%、唐沢寿明版の32.1%と比べると平凡な数字に終わったのもむべなるかなと。

白い巨塔 キャスト.jpg白い巨塔 2019  01.jpg「白い巨塔(テレビ・岡田准一版)~テレビ朝日開局60周年記念5夜連続ドラマスペシャル」●監督:鶴橋康夫/常廣丈太●脚本:羽原大介/本村拓哉/小円真●音楽/兼松衆●原作:山崎豊子「白い巨塔」「続・白い巨塔」●出演:岡田准一/松山ケンイチ/寺尾聰/小林薫/松重豊/岸部一徳/沢尻エリカ/椎名桔平/夏帆/飯豊まりえ/斎藤工/向井康「白い巨塔」小林.jpg白い巨塔 ドラマ 小林薫.jpg「白い巨塔」岸部.jpg二/岸本加世子/柳葉敏郎/満島真之介/八嶋智人/山崎育三郎/高島礼子/市川実日子/美村里江/市毛良枝/小林稔侍●放映:2019/05/22-26(全5回)●放送局:テレビ朝日
小林稔侍(浪速大学医学部名誉教授・滝村恭輔)/小林薫(財前の義父・財前産婦人科医院院長・財前又一)/岸部一徳(浪速大学医学部病理学科教授・次期第一外科教授選選考委員会委員長・大河内恒夫)
 

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単なるメロドラマになってしまった「愛情の系譜」。岡田茉莉子はやはり「香華」か。

「愛情の系譜」00.jpg
「愛情の系譜」(1961/11 松竹)
「「香華(こうげ)」.jpg 香華 1964.jpg 香華 木下 00.jpg 香華 木下 01.jpg
「香華」(1964/05 松竹)
「愛情の系譜」01.jpg 米国留学を終えた吉見藍子(岡田茉莉子)は、帰国してから国際社会福祉協会に勤め社会事業に打ちこんでいた。その関係から彼女は、旋盤工の兼藤良晴(宗方勝巳)を補導しながらその更生を願っていたが、良晴は彼女に一途な思いを寄せていた。しかし藍子には、米国で結ばれた電力会社の有能な技師・立花研一(三橋達也)という恋人があった。藍子の母・克代(乙羽信子)は家政婦紹介所を営み、妹の紅子(桑野みゆき)は高校に通っていた。勝気な克代は子供達に父親は戦死したといっているが、夫の周三(山村聡)は杉電気の社長として実業界の大立物であった。藍子と紅子はふとしたことから父のことを知った。二十年前、克代の父に望まれ彼女と結婚して吉見農場の養子となった周三は、老人の死後、老母や兄夫婦の冷たい仕打ちに家を飛び出してしまった。杉を愛する克代は彼を追って復縁を迫ったが断わられ、克代は無理心中を図った。だが、二人とも生命をとりとめたのであった。藍子は自分の体の中に母と同じ血が流れていることを知った。その頃、立花には縁談が進められていた、化粧品会社を経営する未亡人・香月藤尾(高峰三枝子)の一人娘・苑子(牧紀子)との話である。ある日良晴は、藍子が自分に寄せる好意を、男女の愛情と勘違いして藍子に迫るが、藍子に突放されてしまう。それからの良晴の生活は荒れ、遂には夜の女を殺害するという事態に陥る。一方、立花は苑子との結婚のために藍子との関係を清算しようとしていた。立花のアパートを訪れた藍子は、眠っている立花の枕元からの手紙でそのことを知り、立花を殺そうとするが、どうしても殺すことができなかった。傷心の藍子は、父のところに飛び込む。翌朝、杉の知らせで克代も駆けつけて来た―。

『愛情の系譜』1.jpg 五所平之助監督の1961年11月公開作で、原作は円地文子の『愛情の系譜』('61年5月刊/新潮社)。原作を比較的忠実に映像化していますが、結果として「てんこ盛り」的になったという感じです。原作のイメージを視覚的に確認するのにはいいですが、ややストーリー全体のテンポが鈍くなってしまいました(例えば、原作では、藍子が父親の存命や母親との過去の経緯を知るのは前半部分のかなり早い段階だが、映画では後半に入ってから)。

『愛情の系譜』['61年]『愛情の系譜 (1966年) (角川文庫)

 原作のテーマは、文庫解説の竹西寛子が指摘しているように、形而上学的なものなのですが(敢えて言えば、「エゴイスティックな愛」を超えた「博愛」のようなもの)、そうした観念を振りかざさずことをせず、皮膚感覚的な面も含め、描写を通して読者に接しているところに、原作の「独自性」があります。映画の方は、その表象のみを描いたため、ちょっと単なるメロドラマになってしまった感じで、「愛情の系譜」の何たるかは分からなくもないですが、主人公がそれを乗り越えたという実感がイマイチでした。

「愛情の系譜」p.jpg 映画は、主人公・藍子が外人のガイドをして鷺山を見学している場面から始まり、そこへ、鷺を撮影している一人の中年の男性が話しかけます。藍子はガイド以外に罪を犯した青少年を更生させたりする仕事もしていて、その仕事に生き甲斐を感じていますが、結婚直前まで進んでいる恋人の立花はあまり評価していない様子。妹の紅子は最近派手な行動が目立ってきて母・克代は心配していますが、実は紅子が会っていたのは死んだと聞いていた父で、今は杉周三という名で事業を成功させおり、それが、藍子が鷺山で出会った紳士でした。杉は北海道で克代と結婚していたものの確執があり、克代からは離れようとした際に克代が杉をナイフで刺して怪我を負わせてしまい、克代は今も杉を恨み関わることを嫌っています。一方、立花は取引先の実業家の娘との縁談が持ち上がり、はっきり藍子に話せずにいて、藍子の方は、面倒を見ていた不良少年が殺人を犯してしまい、原因は藍子にそっけなくされて自暴自棄になったためらしい―と、やっぱり今一度振り返っても"盛り沢山"過ぎます(笑)。

 最後、藍子は立花を殺そうとガスの元栓を開けますが、すんでのところで留まって立花との別れを決心するのも、母・克代が父・杉周三を訪ね和解するのも原作と同じ。ただし、藍子が殺人を犯した良晴を諭して自首しに行くのに付き添うところで映画は終わりますが、原作はその前に、妹・紅子の恋人の法学生・叶正彦(園井啓介)が良晴を諭して自首しに行くのに付き添います。

 多分、正彦の役どころを映画で藍子に置き換えたのは、テーマを浮かび上がらせるためだったと思いますが、結果的に、正彦って何のためにいるのか分からない存在になってしまいました。原作では、良晴のメンター的存在であることが窺えます。映画では、紅子が自分の部屋に泊りに来ても手を出さない聖人君子みたいな描かれ方ですが、原作では正彦の内面での葛藤が描かれています。やはり、原作を読んでしまったから物足りなさを感じるのでしょうか。

「香華」3.jpg 同じく乙羽信子が母親、岡田茉莉子が娘を演じた映画に、木下惠介監督の「香華」('64年/松竹)があり、原作は有吉佐和子ですが、こちらの方が良かったです(原作を読んでいないせいか)。母娘の確執を描いたものでは、最近でも湊かなえ原作、廣木隆一 監督の「母性」('22年)などがありますが、そうした類の映画ではベストの部類ではないかと思います。二部構成で、木下惠介作品では最長の3時間超(204分)の長さですが、冗長は感じませんでした。

「香華」2.jpg 乙羽信子演じる母・郁代が実に身勝手そのものの性格で、その淫蕩な生活がたたって岡田茉莉子演じる娘・朋子は芸者に売られることになりますが、それから暫くして借金苦のため、郁代自身も芸者となり、芸者として成功する娘に対して母の方はすっかり落ちぶれ、それでもあれやこれやで娘に迷惑をかけるという展開の話です(同じ置屋に母と娘がいるというのが凄まじい)。

 岡田茉莉子は 吉田喜重監督の「秋津温泉」('62年)で温泉旅館の娘・新子の17歳から34歳までを演じましたが、この「香華」では娘・朋子の17歳から63歳までを演じています。個人的には彼女の代表作であり、最高傑作の部類だと思います。

 木下惠介監督はこの作品で、1964(昭和39年)年度・第15「芸術選奨(映画部門)」を受賞していますが、世間ではあまり評価されているように思えない作品で、原因としては、「原作を忠実に映画化しただけではないか」との評価があるためのようです。

 原作を読むと、そういった評価になってしまうのでしょうか。「香華」の原作も「婦人公論読者賞」や「小説新潮賞」を受賞しており、今回の自分が原作を読んでしまった(それで映画化作品に物足りななさを感じた)「愛憎の系譜」との関係で、ちょっと考えさられてしまいました。


「愛情の系譜」神保町.jpg「愛情の系譜」●制作年:1961年●監督:五所平之助●製作:月森仙之助/五所平之助●脚本:八住利雄●撮影:木塚誠一●音楽:芥川也寸志●原作:円地文子●時間:108分●出演:岡田茉莉子/三橋達也/桑野みゆき/山村聡/園井啓介/牧紀子/乙羽信子/高峰三枝子/宗方勝巳/市川翠扇/千石規子/殿山泰司/陶隆/十朱久雄●公開:1961/11●配給:松竹●最初に観た場所:神保町シアター(24-03-15)(評価:★★★)<.font>

神保町シアター

岡田茉莉子/桑野みゆき/山村聡/高峰三枝子/殿山泰司

「香華」4.jpg「香華」1964.jpg「香華(こうげ)」●制作年:1964年●監督・脚本:木下惠介●製作:白井昌夫/木下惠介●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●原作:有吉佐和子●時間:201分●出演:岡田茉莉子/乙羽信子/田中絹代/北村和夫/岡田英次/宇佐美淳也/加藤剛/三木のり平/村上冬樹/桂小金治/柳永二郎/市川翠扇/杉村春子/菅原文太/内藤武敏/奈良岡朋子/岩崎加根子●公開:1964/05●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-08-27)(評価:★★★★☆)
木下惠介生誕100年「香華〈前篇/後篇〉」 [DVD]

岡田茉莉子 (朋子)
岡田英次 (野沢)
乙羽信子 (郁代)
杉村春子 (太郎丸)
菅原文太 (杉浦)
奈良岡朋子(江崎の妻)


●「香華」あらすじ
〈吾亦紅の章〉明治37年紀州の片田舎で朋子は父を亡くした。3歳の時のことだ。母の郁代(乙羽信子)は小地主・須永つな(田中絹代)の一人娘であったが、大地主・田沢の一人息子と、須永家を継ぐことを条件に結婚したのだった。郁代は二十歳で後家になると、その美貌を見込まれて朋子をつなの手に残すと、高坂敬助(北村和夫)の後妻となった。母のつなは、そんな娘を身勝手な親不孝とののしった。が幼い朋子には、母の花嫁姿が美しく映った。朋子が母・郁代のもとに引きとられたのは、祖母つなが亡くなった後のことであった。敬助の親と合わない郁代が、二人の間に出来た安子を連れて、貧しい生活に口喧嘩の絶えない頃だった。そのため小学生の朋子は静岡の遊廓叶楼に半玉として売られた。悧発で負けず嫌いを買われた朋子は、芸事にめきめき腕を上げた。朋子が13歳になったある日、郁代が敬助に捨てられ、九重花魁として叶楼に現れた。朋子は"お母さん"と呼ぶことも口止めされ美貌で衣裳道楽で男を享楽する母をみつめて暮した。17歳になった朋子(岡田茉莉子)は、赤坂で神波伯爵(宇佐美淳也)に水揚げされ、養女先の津川家の肩入れもあって小牡丹という名で一本立ちとなった。朋子が、士官学校の生徒・江崎武「香華」5.jpg文(加藤剛)を知ったのは、この頃のことだった。一本気で真面目な朋子と江崎の恋は、許されぬ環境の中で激しく燃えた。江崎の「芸者をやめて欲しい」という言葉に、朋子は自分を賭けてやがて神波伯爵の世話で"花津川"という芸者の置屋を始め独立した。
〈三椏の章〉関東大震災を経て、年号も昭和と変わった頃、朋子は25歳で、築地に旅館"波奈家(はなのや)"を開業していた。朋子の頭の中には、江崎と結婚する夢だけがあった。母の郁代は、そんな朋子の真意も知らぬ気に、昔の家の下男・八郎(三木のり平)との年がいもない恋に身をやつしていた。そんな時、神波伯爵の訃報が知らされた。悲しみに沈む朋子に、追い打ちをかけるように、突然訪れた江崎は、結婚出来ぬ旨告げて去った。郁代が女郎であったことが原因していた。朋子の全ての希望は崩れ去った。この頃44歳になった母・郁代は、年下の八郎と結婚したいと朋子に告げた。多くの男性遍歴をして、今また結婚するという母に対し、母のため女の幸せを掴めない自分に、朋子は狐独を感じた。終戦を迎えた昭和20年、廃虚の中で、八郎と別れて帰って来た郁代に戸惑いながらも、必死に生きようとする朋子は"花の家"を再建した。それから3年、新聞に江崎の絞首刑の記事を見つけた朋子は、一目会いたいと巣鴨通いを始めた。村田事務官(内藤武敏)の好意で金網越しに会った江崎は、三椏の咲く2月、十三階段に消えていった。病気で入院中の朋子を訪ねる郁代が、交通事故で死んだのは朋子の52歳の時だった。波乱に富んだ人生に、死に顔もみせず終止符を打った母を朋子は、何か懐かしく思い出した。母の死後、子供の常治を連れて花の家に妹の安子(岩崎加根子)が帰って来た。朋子は幼い常治の成長に唯一の楽しみを求めた。昭和39年、63歳の朋子は、常治を連れて郁代のかつての願いであった田沢の墓に骨を納めに帰った。しかしそこで待っていたのは親戚の冷たい目であった。怒りに震えながらも朋子は、郁代と自分の墓をみつけることを考えながら、和歌の浦の波の音を聞くのだった―。

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