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個人的な思い出の記録でありながらも、記録・資料データが充実していた(貴重!)。

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ミニシアター再訪〈リヴィジテッド〉: 都市と映画の物語 1980-2023 』['24年]

 1980年代初頭に大きく花開いた「ミニシアター」を、同時代を並走してきた映画評論家が、劇場や配給会社など当時の関係者たちの証言を集め、彼らの情熱と映画への愛、数々の名画の記憶とともに、都市と映画の「物語」を辿ったもので、取材がしっかりしいて(映画買い付け時のエピソードなどがあり興味深い)、情報面でも充実していました。

「シネマスクエアとうきゅう」.jpg 第1章のミニシアターというものが未知数だった「80年代」のトップは新宿「シネマスクエアとうきゅう」(81年12月、歌舞伎町「東急ミラノビル」3Fにオープン)。企業系ミニシアターの第1号で、1席7万円の椅子が売り物でした。柳町光男のインディペンデント作品「さらば愛しき大地」(82)が成功を収め10週上映、自分もここで観ました。さらにフランソワ・トリュフォー監督の隣家同士に住む男女の情愛を描いた、彼が敬愛したヒッチコックの影響が強い作品「隣の女」(81)が82年に12週上映(個人的には「五反田TOEIシネマ」のフランソワ・トリュフォー監督特集で、映画撮影の裏側を製作の進行と作製中の映画のストーリーをシンクロさせて描き、さらにその映画の監督役をトリュフォーが自ら演じるという3重構造映画「アメリカの夜」(73)(「アカデミー外国語映画賞」受賞作)、「隣の女」の前年作で、同じくジェラール・ドパルデューが出ていて、こちらはカトリーヌ・ドヌーヴと共演した「終電車」(80)と併せて観た)、ショーン。コネリー主演の「薔薇の名前」(87)「シネマスクエアとうきゅう」8.jpgが16週上映(コピーは"中世は壮大なミステリー"。教養映画風だが実はエンタメ映画)、今で言うストーカーが主人公で、買い手がつかなかったのを買い取ったというパトリス・ルコントの「仕立て屋の恋」(89)が92年に16週上映、「青いパパイヤの香り」(93)が94年に14週上映だったと。個人的には、初期の頃にここで観た作品としては、本書にもある、カメラマン出身で「ベニスに死す」の監督ニコラス・ローグが、またもベニスを舞台に撮ったオカルト風サスペンの"幻の傑作"(本書。おそらく製作から本邦公開まで10年かかったからだろう)「赤い影」(74)(原作は「鳥」「レベッカ」などで知られるダフネ・デュ・モーリア)や、ケン・ラッセルの作曲家グスタフ・マーラーを題材にした「マーラー」(74)(この作品も製作から本邦公開まで10年以上の間がある。伝記映画だが内容はかなり恣意的解釈?)、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーのゲイ・ムービー「ファスビンダーのケレル」(82)(男色作家ジャン・ジュネの長編小説「ブレストの乱暴者」を、30歳代で他界したドイツの若手監督ファスビンダーが映画化した遺作。ヴェルナー・シュレーターやベルナルド・ベルトリッチもこの作品の映画化を企画したが実現しなかったという難解作で、個人的にも評価不能な面があった)などがあります。

「俳優座シネマテン」.jpg 六本木「俳優座シネマテン」(81年3月、「俳優座劇場」内にオープン)の「テン」は夜10時から映画上映するためだけでなく、ブレイク・エドワーズのコメディ「テン」(79)から「俳優座シネマテン」8.jpgとったとのこと。トリュフォーの、フランスの文豪ヴィクトル・ユーゴーの次女アデルの狂気的な恋の情念を描いた「アデルの恋の物語」(75)はここでした。ルキノ・ヴィスコンティが看板監督で、「地獄に堕ちた勇者ども」(69)や「ベニスに死す」(79)のリバイバルもここでやり、ビデオが普及していない時代だったために成功、さらに「カッコーの巣の上で」(75)のリバイバルも。精神異常を装って刑務所での強制労働を逃れた男が、患者の人間性までを統制しようとする病院から自由を勝ちとろうと試みる物語でした(ニコルソンが初めてオスカーを手にした作品。冷酷な婦長を演じたルイーズ・フレッチャーも主演女優賞を受賞)。同じ六本木で2年遅れて開館したシネ・ヴィヴァンがダニエル・シュミットの「ラ・パロマ」をかけたのに対し、こちらはファッショナブルで官能的な「ヘカテ」(82)を上映、そして、この劇場の最大のヒットとなったのが、ジェームズ・アイヴォリーの「眺めのいい部屋」(86)で、87年に10週間のロングランになったとのことです。個人的には、ニキータ・ミハルコフのソ連版西部劇(?)「光と影のバラード」(74)やゴンザロ・スアレスの「幻の城/バイロンとシェリー」(88)などもここで観ました。

「パルコ・スペース・パート3」.jpg 81年オープンのもう1館は、渋谷「パルコ・スペース・パート3」。ヴィスコンティの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(43)(ヴィスコンティの処女作。原作はアメリカのハードボイルド作家ジェームズ・M・ケイン。映画での舞台は北イタリア、ポー河沿いのドライブイン・レストランに。ファシスト政権下でオールロケ撮影を敢行した作品)、「若者のすべて」(60)、「イノセント」(76)などの上映で人気を博し、「若者のすべて」は九州から飛「パルコ・スペース・パート3」8.jpg行機でやってきて、ホテルに泊まり1週間通い詰めた人もいたとのこと。カルトムービーとインディーズのメッカでもあり、日本では長年オクラだった「ピンク・フラミンゴ」(72)は、86年に初めてここで正式上映されたとのこと、個人的には84年に「アートシアター新宿」で観ていましたが、その内容は正直、個人的理解を超えていました。99年に映画常設館「CINE QUINTO(シネクイント)」となり、これは第2章で「シネクイント」として取り上げられています。個人的には、初期の頃観た作品では、フランスの女流監督コリーヌ・セローの「彼女と彼たち-なぜ、いけないの-」(77)、チェコスロバキアのカレル・スミーチェクの「少女・少女たち」(79)、台湾の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の「坊やの人形」(83)、スイスのブルーノ・モールの「わが人生」(83)、韓国の李長鍋(イー・チャンホー)の「寡婦の舞」(84)、ニュージーランドのビンセント・ウォードの「ビジル」(84)などがあります(これだけでも国が多彩)。「彼女と彼たち」は、男2人女1人の3人組で、女が唯一の稼ぎ手で、男が家事を担当し、3人で一つのベッドに眠るというややアブノーマルな生活を、繊細な演出でごく自然に描いてみせた、パルコらしい上映作品であり佳作、「寡婦の舞」は、東京国際映画祭の一環としてパルコで上映された韓国映画で、生活苦など諸々の不幸から"踊る宗教"へ傾倒する未亡人を中心に、韓国の日常をユーモラスに描いた作品、「ビジル」は、ニュージーランドの辺境に両親・祖父と暮らす少女の無垢な感受性をナイーブな映像表現で伝えた作品でした(佳作だが、やや地味か)。

「シネヴィヴァン六本木」.jpg 「シネヴィヴァン六本木」(83年11月「WAVEビル」地下1階にオープン)は、オープン2本目でゴッドフリー・レジオ監督の「コヤニスカッティ」(82)を上映、アメリカの大都市やモニュメントバレーなどを映したイメージビデオ風ドキュメンタリー。コヤニスカッティとはホピ族の言葉で「平衡を失った世界」。延々と続いた早回しシーンがスローモーションに転じた途端に眠気に襲われました。アンドレイ・タルコフスキー監督の「ノスタルジア」(83)が84年に7週間上映、ビクトル・エリセ監督の「ミツバチのささやき」(73)が製作から12年遅れの上映で、12週間上映のヒットに。フレディ・M・ムーラー「シネヴィヴァン六本木」8.jpg監督の「山の焚火」(85)も86年に7週間上映されたとのことで、個人的にもここで観ました。さらに、エリック・ロメール監督の「満月の夜」(84)(ユーロスペース配給)や「緑の光線」(86)(シネセゾン配給)など一連の作品の上映も注目を集めたとのことです。個人的には、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の「童年往時-時の流れ-」(89)、ベルナルド・ベルトリッチの「暗殺の森」(70)、ピーター・グリーナウェイの「数に溺れて 悦楽の夫殺しゲーム」(88)などもここで観ました。ベルトリッチの「暗殺の森」は、「暗殺のオペラ」とほぼ同時期に作られましたが、日本での公開はこちらの方が先で、六本木シネヴィヴァンでの上映は「リバイバル上映」です。

「ユーロスペース」.jpg 「ユーロスペース」(82年、渋谷駅南口桜丘町「東武富士ビル」2Fにオープン)は、85年6月のデヴィッド・クローネンバーグ監督の「ヴィデオドローム」(82)の上映から映画だけ上映する常設館になったとのこと(その前から、キートンの映画などをよくここで観た。欧日協会の旅行代理店が入っていた)、並行してレイトショー公開されたルネ・ラルー監督の「ファンタスティック・プラネット」(73)もヒットし、クローネンバーグ監督が続いて撮ったが行き場を失っていたスティ「ユーロスペース」8.jpgーヴン・キング原作の「デッドゾーン」(83)もここで上映され、1か月強の限定公開にもかかわらず8000人を動員、個人的にも85年の6月と7月に、ここでそれぞれ「ヴィデオドローム」と「デッドゾーン」を観ました。でも何と言ってもこの劇場の名を世間に知らしめたのは、原一男の「ゆきゆきて、神軍」(87)で、26週間の記録的なロングランに。張藝謀(チャン・イーモウ)監督のデビュー作「紅いコーリャン」(87)を観たのもここでした。山口百恵の「赤い疑惑」が中国で大ヒットし、コン・リーが中国の"山口百恵"と呼ばれていた頃です。ここではそのほかに、本書でも紹介されている山本政志監督の「闇のカーニバル」(81)(「ロビンソンの庭」(87)の山本政志監督が高い評価を受けるきっかけとなったモノクロ16ミリの意欲作。子どもを男友達に預けて、夜の新宿をトリップする女性ロック歌手を演じた太田久美子は、本業もロック歌手。「ロビンソンの庭」の原点的なパアフル作品で、個人的にはユーロスペースでの5年後の再上映の際も観に行った)や「バグダッド・カフェ」(87)、奴隷狩りから逃れ、地球に不時着した異星人"ブラザー"がNYに辿り着くというところから話が始まる、ジョン・セイルズの「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」(84)などもここでした(ジョン・セイルズ監督自身が異星人を追う賞金稼ぎの異星人(白人に化けている)の1人の役で出演している)。

「シャンテ・シネ」.jpg 「シャンテ・シネ」(87年、日比谷映画跡地にオープン)は、今の「シャンテ・シネ」6.jpg「TOHOシネマズ シャンテ」。ここの大ヒット作は何と言っても88年公開の「ベルリン・天使の詩」(87)で、30週のロングランという単館ロード全体の記録を打ち立てたとのこと(動員数は16.6万人)。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の「悲情城市」(89)は90年に17週間上映され、シャンテの歴代興行第11位、ジム・ジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」(91)は92年に21週のロングランで歴代興行第4位、ジェーン・カンピオン監督の「ピアノ・レッスン」(93)は、公開30周年記念の4K版を今年[24年]ここで観ました。「ドゥ・ザ・ライト・シング」(89)も興行的に成功し、「日の名残り」(93)は94年に17週間上映で歴代興行第6位と、これもまた人気を呼んだとのことです。でも、2018年に東京ミッドタウン日比谷がオープンしてからここって「TOHOシネマズ日比谷」の付帯映画施設みたいなイメージになってるなあ、名称も「TOHOシネマズシャンテ」であるし。

「シネスイッチ銀座」.jpg 「シネスイッチ銀座」(87年にオープン)は、個人的には前身の「銀座文化劇場・銀座ニュー文化」さらに「銀座文化1・2」の頃から利用していましたが、"シネスイッチ"は、洋画と邦画の2チャンネルを持つという意味でのネーミングだそうで、ジェームズ・アイヴォリーの「モーリス」(87)や滝田洋二郎の「木村家の人々」(88)はここでした。「モーリス」は88年に15週のロングランを記録したそうですが、シネスイッチ銀座の歴代興行の金字塔は「ニュー・シネマ・パラダイス」(88)で、都内では1館だけ(東京に限って言えば"単館")で40週上映(観客動員26万人)、この記録はミニシアターの歴史上で破られていないとのことです。個人的には「運動靴と赤い金魚」(97)などもここで見ました。実は、地下1階の「銀座文化」が「シネスイッチ銀座」になったとき、3階の「銀座文化2」は「銀座文化劇場」の名に戻っていて(97年4月に「シネスイッチ銀座1・2」としてリニューアルするまで)、主に古い洋画のリバイバル上映をしていました。個人的には、例えば88年だけでも「サンセット大通り」(50)、「ヘッドライト」(56)、「避暑地の出来事」(59)、「酒とバラの日々」(62)、「シャレード」(63)をここで観ていますが、当時の館名に沿えば、「シネスイッチ」ではなく「銀座文化劇場」で観たことになります。「避暑地の出来事」は、マックス・スタイナー作曲のテーマ音楽をパーシー・フェイスがカバーし発売された「夏の日の恋(Theme from A Summer Place)」が有名、「酒とバラの日々」と「シャレード」はヘンリー・マンシーニの音楽で知られています。

「シネマライズ」.jpg 第2章のブームの到来の「90年代」のトップは渋谷「シネマライズ」(86年6月、渋谷 スペイン坂上「ライズビル」地下1階にオープン)。劇場の認知度を上げたのは86年7月公開のトニー・リチャードソンの「ホテル・ニューハンプシャー」(84)で、89年には「バグダッド・カフェ」(87)、93年には「レザボア・ドッグス」(92)がかっています。「レザボア・ドッグス」は公開当時は大コケだったそうです。「バグダッド・カフェ」は地下1階で観ましたが、「レザボア・ドッグス」はビデオで観て(ミニシアターブームの到来とビデオの普及時期が重なる)、最近、映画館(早稲田松竹)で観直しました。96年に、2階の劇場(元渋谷ピカデリー)もオープンし、オープニング作品は、エミール・クストリッツァ監督がカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した快作(怪作?)「アンダーグラウンド」(95)。その後、ウォン・カーウァイの「ブエノスアイレス」(97)が26週上映、ジャン=ピエール・ジュネの「アメリ」(01)は35週上映で、シネマライズの歴代ナンバーワン興行収入作品となりました。さらには、ソフィア・コッポラ「ロスト・イン・トランスレーション」(03)(17週上映)、アン・リー「ブロークバック・マウンテン」(05)(15週上映)なども。第3章の方で出てきますが、「ロッキー・ホラー・ショー」(75)を80年代に本来の「観客体験型」ムービーとしてリバイバル上映したのもシネマライズでした(地下1階で、上映中結婚式の場面でライスシャワー、雨の場面で水シャワーがかけられた。あれ、あとの掃除が大変だったろうなあ)。

「シネセゾン渋谷」.jpg「シネセゾン渋谷」2.jpg 2011年に閉館した「シネセゾン渋谷」 (85年11月、渋谷道玄坂「ザ・プライム渋谷」6Fにオープン)はリバイバル上映に個性があり、市川崑の「黒い十人の女」(61)をレイトショーで97年11月から13週上映、その前、92年には、リュック・ベッソンの「グラン・ブルー」(88)(88年に英語版で上映された「グレート・ブルー」に48分の未公開シーン(変な日本人ダイビング・チームとかも出てくる)を加えて再編集した168分のフランス語版)が独占公開され、ヒットしています。

 「ル・シネマ」.jpg 「ル・シネマ」(89年9月、渋谷道玄坂・Bunkamura6階にオープン)の方は東急系で、92年にかけられたジャック・リヴェット監督(原作はバルザック)のフランス映画「美しき諍い女」(91)に代表されるヨーロッパ系の映画が強い劇場ですが、アジア系も強く、陳凱歌(チェン・カイコー)の「さらば、わが愛/覇王別姫」(93)を94年に26週上映、陳凱歌(チェン・カイコー)監督、レスリー・チャン、コン・リー 「ル・シネマ」5.jpg主演の「花の影」(96)も17週上映、今世紀に入ってからは、張藝謀(チャン・イーモウ)監督、チャン・ツィイー主演の「初恋のきた道」(99)を00年末から24週上映(歴代5位)していますが、個人的いちばんは、ウォン・カーウァイ監督の「花様年華」(00)です。ウォン・カーウァイ監督作は「ブエノスアイレス」などがシネマライズで上映されていましたが、「花様年華」は女性層狙いだったので、シネマライズから回ってきたそうです。近年では、休館前に濱口竜介監督の一連の作品を観ました。

「恵比寿ガーデンシネマ」.jpg 「恵比寿ガーデンシネマ」(94年10月、恵比寿ガーデンテラス弐番館内にオープン)は、ポール・オースター原作、ウェイン・ワン監督の、ニューヨークのタバコ屋の人間模様を描いた「スモーク」(95)のような渋い作品をやっていました。個人的には、ロイ・アンダーソンの「散歩する惑星」(00年)などをここで見観ました。本書にもある通り、11年1月28日をもって休館し、15年3月、今度はサッポロビールとユナイテッドシネマの共同経営で「YEBISU GARDEN CINEMA」として再オープンしています。

「岩波ホール」.jpg 第2章の最後は、「岩波ホール」(68年オープン、74年から映画常設館に)。サタジット・レイ「大樹のうた」(59)が本格オープン作で、ATGの「大河のうた」の興行成績が厳しく、次作上映ができなかったところへ、高野悦子総支配人が手をさしのべ、7「岩波ホール」16.jpg4年2月にロードショー。4週間後にホールは満席になったといいます(因みに、サタジット・レイの「大地のうた三部作」のうち「大河のうた」は結末がハッピーエンドでないため、インドでも興行上は振るわなかった)。その後も、75年にルネ・クレールの「そして誰もいなくなった」(45)、衣笠貞之助の「狂った一頁」(26)、76年に「フェリーニの道化師」(70)、77年にアンドレイ・タルコフスキーの「惑星ソラリス」(72)、78年にゲオルギー・シェンゲラーヤの「ピロスマニ」(69)などの上映がありましたが、78年から79年にかけてルキノ・ヴィスコンティの「家族の肖像」 (74)を上映したら10週間超満員が続く盛況ぶりだったとのこと(岩波ホールといえばコレという感じか)。79年にエルマンノ・オルミの「木靴の樹」(78)(北イタリアの貧しい農村の生活をエピソードを重ねながら丹念に描く、ネオレアリズモの継承者と呼ばれるにふさわしい佳作。カンヌ映画祭パルムドール受賞作)や、テオ・アンゲロプロスの「旅芸人の記録」(75)が上映され、80年にはヴィスコンティ の「ルートヴィヒ/神々の黄昏」(72)が。歴代興行第1位は、98年に封切られたメイベル・チャンの「宋家の三姉妹」(97)(高野悦子も三姉妹でこの作品にひかれたのではとのこと)、岩波ホール創立30周年記念作品でもあり、31週上映だったそうです(アンコール上映も併せると45週、18.7万人を動員)。アンジェイ・ワイダの「大理石の男」(77)(ワイダは初期作品の方がインパクトがあった)など、社会的テーマの作人も多く上映されました。個人的には、カール・テオドア・ドライヤー監督の「奇跡」(56)やジュールス・ダッシン監督の「女の叫び」(78)(「日曜日はダメよ」のメリナ・メルクーリと「アリスの恋」のエレン・バースティンの演技派女優の競演はバーンスティンに軍配を上げたい)、アンドレイ・タルコフスキーの「」(80)をここで観ましたが、ルキノ・ヴィスコンティ監督(アルベール・カミュ原作)の「異邦人」は、「岩波シネサロン」(岩波ホール9F)で観ました。

2022年2月7日朝日新聞デジタル「ミニシアターの道、開いた岩波ホール 54年の歴史、7月に幕 コロナ影響」
岩波ホール 54年の歴史.jpg

 第3章は変化する「2000年代」で、このあたりから映画観ごとより全体の流れを追っていく感じで、その中で「ミニシアター最後の日」として、13年の銀座テアトルシネマ、14年の吉祥寺バウスシアター、16年のシネマライズの最後の日を取材したものを載せています。銀座テアトルシネマは伝説的な映画館テアトル東京の跡地に87年オープン、吉祥寺バウスシアターは84年に前身の武蔵野映画劇場(吉祥寺ムサシノ)がアート系映画館に生まれ変わったものでした。86年オープンのシネマライズもそうですが、いずれも30年前後の歴史があり、その閉館は寂しいものです。ただし、今後のミニシアターの展望も含め、著者の12年間もの長期に及ぶ取材がしっかり纏められており、懐かしさを掻き立てられるだけでなく、資料としても第一級のものになっていると思います。

 
フランソワ・トリュフォー「隣の女」.jpg隣の女 .jpg「隣の女」●原題:LA FEMME DA'COTE(英:THE WOMAN NEXT DOOR)●制作年:1981年●制作国:フランス●監督:フランソワ・トリュフォー●製作:フランソワ・トリュフォー/シュザンヌ・シフマン●脚本:フランソワ・トリュフォー/シュザンヌ・シフマン/ジャン・オーレル●撮影:ウィリアム・ルプシャンスキー●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:107分●出演:ジェラール・ドパルデュー/ファニー・アルダン/アンリ・ガルサン/ミシェル・ボートガルトネル/ヴェロニク・シルヴェール/ロジェ・ファン・ホール/オリヴィエ・ベッカール●日本公開:1982/12●配給:東映ユニバースフィルム●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-10-01)(評価:★★★)●併映:「アメリカの夜」(フランソワ・トリュフォー)/「終電車」(フランソワ・トリュフォー)

「アメリカの夜 1973.jpg「アメリカの夜 01.jpg「アメリカの夜(映画に愛をこめて アメリカの夜)」●原題:LA NUIT AMERICAINE(英:DAY FOR NIGHT)●制作年:1973年●制作国:フランス●監督・脚本:フランソワ・トリュフォー●製作:マルセル・ベルベール●撮影:ピエール=ウィリアム・グレン●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:115分●出演:ジャクリーン・ビセット/ヴァレンティナ・コルテーゼ/ジャン=ピエール・オーモン/ジャン=ピエール・レオ/アレクサンドラ・スチュワルト/フランソワ・トリュフォー/ジャン・シャンピオン/ナタリー・バイ/ダニ/ベルナール・メネズ●日本公開:1974/09●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-10-01)(評価:★★★☆)●併映:「隣の女」(フランソワ・トリュフォー)/「終電車」(フランソワ・トリュフォー)

「終電車 1980.jpg「終電車 00.jpg「終電車」●原題:LE DERNIER METRO(英:THE LAST METRO)●制作年:1980年●制作国:フランス●監督:フランソワ・トリュフォー●製作:マルセル・ベルベール●脚本:フランソワ・トリュフォー/シュザンヌ・シフマン●撮影:ネストール・アルメンドロス●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:134分●出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ジェラール・ドパルデュー/ジャン・ポワレ/ハインツ・ベネント/サビーヌ・オードパン/ジャン=ルイ・リシャール/アンドレア・フェレオル/モーリス・リッシュ/ポーレット・デュボスト/マルセル・ベルベール●日本公開:1982/04●配給:東宝東和●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-10-01)(評価:★★★)●併映:「アメリカの夜」(フランソワ・トリュフォー)/「終電車」(フランソワ・トリュフォー)

「薔薇の名前」.jpg薔薇の名前 c.jpg「薔薇の名前」●原題:LE NOM DE LA ROSE●制作年:1986年●制作国:フランス・イタリア・西ドイツ●監督:ジャン=ジャック・アノー●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:アンドリュー・バーキン●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:ジェームズ・ホーナー●原作:ウンベルト・エーコ●時間:132分●出演:ショーン・コネリー/クリスチャン・スレーター/F・マーリー・エイブラハム/ロン・パールマン/フェオドール・シャリアピン・ジュニア/エリヤ・バスキン/ヴォルカー・プレクテル/ミシェル・ロンスダール/ヴァレンティナ・ヴァルガス●日本公開:1987/12●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所(再見):新宿武蔵野館(23-04-18)(評価:★★★)

赤い影1973.jpg赤い影[.jpg「赤い影」●原題:DON'T LOOK NOW●制作年:1973年●制作国:イギリス・イタリア●監督: ニコラス・ローグ●製作:ピーター・カーツ●脚本:アラン・スコット/クリス・ブライアント●撮影:アンソニー・B・リッチモンド●音楽:ピノ・ドナッジオ●原作:ダフニ・デュ・モーリエ「いまは見てはだめ」●時間:110分●出演:ドナルド・サザーランドジュリー・クリスティ「赤い影」サザーランド・クリスティ.jpg/ヒラリー・メイソン/クレリア・マタニア/マッシモ・セラート/レナート・スカルパ/ジョルジョ・トレスティーニ/レオポルド・トリエステ●日本公開:1983/08●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所:新宿・シネマスクエアとうきゅう(83-09-11)(評価:★★★)

 
マーラー 19.jpgマーラー 1974.jpg「マーラー」●原題:MAHLER●制作年:1974年●制作国:イギリス●監督・脚本:ケン・ラッセル●製作:ロイ・ベアード●撮影:ディック・ブッシュ●音楽:グスタフ・マーラー/リヒャルト・ワーグナー/ダナ・ブラッドセル●時間:115分●出演:ロバート・パウエル/ジョージナ・ヘイル/リー・モンタギュー/ロザリー・クラチェリー●日本公開:1987/06●配給:俳優座シネマテン=フジテレビ●最初に観た場所:新宿・シネマスクエアとうきゅう(87-06-21)(評価:★★★)

ケレル(ファスヴィンダー)1982.jpg「ケレル(ファスビンダーのケレル)」.jpg「ケレル(ファスビンダーのケレル)」●原題:QUERELLE●制作年:1982年●制作国:西ドイツ/フランス●監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー●脚本:「ケレル(ファスビンダーのケレル)」0.jpgライナー・ヴェルナー・ファスビンダー/ブルクハルト・ドリースト●撮影: クサファー・シュヴァルツェンベルガー/ヨーゼフ・バブラ●音楽:ペール・ラーベン●原作:ジャン・ジュネ『ブレストの乱暴者』●時間:108分●出演:ブラッド・デイヴィス/ジャンヌ・モロー/フランコ・ネロ/ギュンター・カウフマン/ハンノ・ポーシェル●日本公開:1985/05●配給:人力飛行機舎=デラ●最初に観た場所:新宿・シネマスクエアとうきゅう(88-05-28)(評価:★★★?)


「アデルの恋の物語」1975 2.jpg「アデルの恋の物語」1975.jpg「アデルの恋の物語」●原題:L'HISTOIRE D'ADELE H.(英:THE STORY OF ADELE H.)●制作年:1975年●制作国:フランス●監督・製作:フランソワ・トリュフォー●脚本:フランソワ・トリュフォー/ジャン・グリュオー/シュザンヌ・シフマン●撮影:ネストール・アルメンドロス●音楽:モーリス・ジョベール●原作:フランセス・ヴァーノア・ギール『アデル・ユーゴーの日記』●時間:96分●出演:イザベル・アジャーニ/ブルース・ロビンソン/シルヴィア・マリオット/ジョゼフ・ブラッチリー/イヴリー・ギトリス●日本公開:1976/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:大塚名画座(78-12-08)(評価:★★★★)●併映:「二十歳の恋」(フランソワ・トリュフォー/ロベルト・ロッセリーニ/石原慎太郎/マックス・オフュルス/アンジェイ・ワイダ)

「地獄に堕ちた勇者ども」 (69年.jpg「地獄に堕ちた勇者ども」2.jpg「地獄に堕ちた勇者ども」●原題:THE DAMNED(独:Götterdämmerung)●制作年:1969年●制作国:イタリア・西ドイツ・スイス●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:アルフレッド・レヴィ/エヴェール・アギャッグ●脚本:ルキノ・ヴィスコンティ/ニコラ・バダルッコ/エンリコ・メディオーリ●撮影:アルマンド・ナンヌッツィ/パスクァリーノ・デ・サンティス●「地獄に堕ちた勇者ども」1.jpg「地獄に堕ちた勇者ども」ランプリング.jpg音楽:モーリス・ジャール●時間:96分●出演:ダーク・ボガード/イングリッド・チューリン/ヘルムート・バーガー/ラインハルト・コルデホフ/ルノー・ヴェルレー/アルブレヒト・シェーンハルス/ウンベルト・オルシーニ/シャーロット・ランプリング/ヘルムート・グリーム/フロリンダ・ボルカン●日本公開:1970/04●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:大塚名画座(79-02-07)(評価:★★★★)●併映:「ベニスに死す」(ルキノ・ヴィスコンティ)

「カッコーの巣の上で」00.jpg「カッコーの巣の上で」●原題:ONE FLEW OVER THE CUCKOO'S NEST●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ミロス・フォアマン●製作:ソウル・ゼインツ/マイケル・ダグラス●脚本:ローレンス・ホーベン/ボー・ゴールドマン●撮影:ハスケル・ウェクスラー●音楽:ジャック・ニッチェ●原作:ケン・キージー『カッコウの巣の上で』●時間:133分●出演:「カッコーの巣の上で」012.jpgジャック・ニコルソンルイーズ・フレッチャー/マイケル・ベリーマン/ウィリアム・レッドフィールド/ブラッド・ドゥーリフ/クリストファー・ロイド/ダニー・デヴィート/ウィル・サンプソン●日本公開:1976/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:テアトル吉祥寺(82-03-13)(評価:★★★★)●併映:「ビッグ・ウェンズデー」(ジョン・ミリアス)

「光と影のバラード」1974.jpg「光と影のバラード」00.jpg「光と影のバラード」●原題:Свой среди чужих, чужой среди своих(英題:AT HOME AMONG STRANGERS)●制作年:1974年●制作国:ソ連●監督:ニキータ・ミハルコフ●脚本:エドゥアルド・ボロダルスキー/ニキータ・ミハルコフ●撮影:パーベル・レベシェフ●音楽:エドゥアルド・アルテミエフ●時間:95分●出演:ユーリー・ボガトィリョフ/アナトリー・ソロニーツィン/セルゲイ・シャクーロフ/アレクサンドル・ポロホフシコフ/ニコライ・パストゥーホフ/アレクサンドル・カイダノフスキー/ニキータ・ミハルコフ●日本公開:1982/10●配給:日本海映画●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(82-11-21)(評価:★★★☆)

「郵便配達は二度ベルを鳴らす」1943年.jpg郵便配達は二度ベルを鳴らす (1943年.jpg「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●原題:OSSESSIONE●制作年:1943年●制作国:イタリア●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:カミッロ・パガーニ●脚本:ルキノ・ヴィスコンティ/マリオ・アリカータ/ジュゼッペ・デ・サンティス/ジャンニ・プッチーニ●撮影:アルド・トンティ/ドメニコ・スカーラ●音楽:ジュゼッペ・ロゼーティ●原作:ジェームズ・M・ケイン●時間:140分●出演:マッシモ・ジロッティ/クララ・カラマイ/ファン・デ・ランダ/ディーア・クリスティアーニ/エリオ・マルクッツォ/ヴィットリオ・ドゥーゼ●日本公開:1979/05●配給:インターナショナル・プロモーション●最初に観た場所:池袋・文芸坐(79-09-24)(評価:★★★★)●併映:「家族の肖像」(ルキノ・ヴィスコンティ)

「ピンク・フラミンゴ」(72).jpg「ピンク・フラミンゴ」(1972).jpg「ピンク・フラミンゴ」●原題:PINK FLAMINGOS●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本・撮影:ジョン・ウォーターズ●時間:93分●出演:ディヴァイン/ディビッド・ロチャリー/メアリ・ヴィヴィアン・ピアス●日本公開:1986/06●配給:東映=ケイブルホーグ●最初に観た場所:渋谷・アートシアター新宿(84-08-01)(評価:★★★?)●併映:「フリークス・神の子ら(怪物団)」(トッド・ブラウニング)

「彼女と彼たち」 1977.jpg「彼女と彼たち」 2.jpg「彼女と彼たち-なぜ、いけないの-」●原題:POURQUOI PAS!●制作年:1977年●制作国:フランス●監督・脚本:コリーヌ・セロー●製作:ミシェル・ディミトリー●撮影:ジャン=フランソワ・ロバン●音楽:ジャン=ピエール・マス●時間:97分●出演:サミー・フレイ/クリスチーヌ・ミュリロ/マリオ・ゴンザレス/ニコル・ジャメ●日本公開:1980/11●配給:フランス映画社●最初に観た場所:渋谷・パルコスペース3(84-06-17)(評価:★★★★)

寡婦(やもめ)の舞 84.jpg寡婦(やもめ)の舞 1984.jpg「寡婦(やもめ)の舞」●原題:과부춤(英:WIDOW DANCING)●制作年:1984年●制作国:韓国●監督:李長鍋(イー・チャンホ)●脚本:李長鍋(イー・チャンホ)/李東哲(イ・ドンチョル)/イム・ジンテク●撮影:ソ・ジョンミン●原作:李東哲(イ・ドンチョル)『五人の寡婦』●時間:114 分●出演:イ・ボイ(李甫姫)/パク・ウォンスク(朴元淑)/パク・チョンジャ(朴正子)/キム・ミョンコン(金明坤)/パク・ソンヒ/チョン・ジヒ/ヒョン・ソク/クォン・ソンドク/ソ・ヨンファン/イ・ヒソン●日本公開:1985/09●配給:発見の会●最初に観た場所:渋谷・パルコスペース3(「東京国際映画祭」)(85-06-02)(評価:★★★☆)

ビジル(84年/ニュージーラン.jpgビジル(84年/ニュージーランド).jpg「ビジル」●原題:VIGIL●制作年:1984年●制作国:ニュージーランド●監督:ヴィンセント・ウォード●製作:ジョン・メイナード●脚本:ヴィンセント・ウォード/グレーム・テットリー●撮影:アルン・ボリンガー●音楽:ジャック・ボディ●時間:114 分●出演:ビル・カー/フィオナ・ケイ/ペネロープ・スチュアート/ゴードン・シールズ●日本公開:1988/02●配給:ギャガ・コミュニケーションズ●最初に観た場所:渋谷・パルコスペース3(85-06-02)(評価:★★★☆)

コヤニスカッティ(82年.jpgコヤニスカッティ(82年).jpg「コヤニスカッティ(コヤニスカッツィ)」●原題:KOYANISQATSI●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ゴッドフリー・レッジョ●製作:フランシス・フォード・コッポラ/ゴッドフリー・レッジョ●脚本:ロン・フリック/ゴッドフリー・レッジョ●撮影:ロン・フリッケ●音楽:フィリップ・グラス●時間:87分●日本公開:1984/01●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所:大森・キネカ大森(84-06-02)(評価:★★☆)

「ノスタルジア」(1983年) .jpgノスタルジア0.jpg「ノスタルジア」●原題:NOSTALGHIA●制作年:1983年●制作国:イタリア・ソ連●監督:アンドレイ・タルコフスキー●製作:レンツォ・ロッセリーニ/マノロ・ポロニーニ●脚本: アンドレイ・タルコフスキー/トニーノ・グエッラ●撮影:ジュゼッペ・ランチ●時間:126分●出演:オレーグ・ヤンコフスキー/エルランド・ヨセフソン/ドミツィアナ・ジョルダーノ/パトリツィア・テレーノ/ラウラ・デ・マルキ/デリア・ボッカルド/ミレナ・ヴコティッチ●日本公開:1984/03●配給:ザジフィルムズ●最初に観た場所:Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(24-02-13)(4K修復版)(23-02-08)(評価:★★★★)

「暗殺の森」ベルトリッチ.jpg暗殺の森 00.jpg「暗殺の森」●原題:CONFORMISTA●制作年:1970年●制作国:イタリア・フランス・西ドイツ●監督・脚本:ベルナルド・ベルトリッチ●撮影:ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●原作:アルベルト・モラヴィア『孤独な青年』●時間:115分●出演:ジャン=ルイ・トランティニャン/ステファニア・サンドレッリ/ドミニク・サンダ/エンツォ・タラシオ●日本公開:1972/09●配給:パラマウント映画=CIC●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(84-06-21)(評価:★★★☆)

「闇のカーニバル」 (1981.jpg「闇のカーニバル」 (1981. 2.jpg「闇のカーニバル」●制作年:1981年●●監督・脚本・撮影:山本政志●製作:伊地知徹生/山本政志●時間:118分●出演:太田久美子/桑原延亮/中島稔/太田行生/じゃがたら/遠藤ミチロウ/伊藤耕/中島稔/前田修/山口千枝●公開:1981/12●配給:CBC=斜眼帯●最初に観た場所:渋谷・ユーロスペース(83-07-16)●2回目:渋谷・ユーロスペース(88-07-09)(評価:★★★★)
  
「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」84年.jpg「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」84.jpg「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」●原題:THE BROTHER FROM ANOTHER PLANET●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジョン・セイルズ●製作:ペギー・ラジェスキー/マギー・レンジー●撮影:アーネスト・ディッカーソン●音楽:メイソン・ダーリング●時間:110分●出演:ジョー・モートン/ダリル・エドワーズ/スティーヴ・ジェームズ/レナード・ジャクソン/ジョン・セイルズ/キャロライン・アーロン/デヴィッド・ストラザーン●日本公開:1986/05●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:ユーロスペース(86-06-14)(評価:★★★★)

ナイト・オン・ザ・プラネットv.jpg「ナイト・オン・ザ・プラネット」●原題:NIGHT ON EARTH●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:ジム・ジャームッシュ●撮影:フレデリック・エルムス●音楽:トム・ウェイツ●時間:129分●出演:(ロサンゼルス)ウィノナ・ライダー/ジーナ・ローランズ/(ニューヨーク)アーミン・ミューラー=スタール/ジャンカルロ・エスポジート/アンジェラ - ロージー・ペレス/(パリ) イザック・ド・バンコレ/ベアトリス・ダル/(ローマ)ロベルト・ベニーニ/パオロ・ボナチェリ/(ヘルシンキ) マッティ・ペロンパー/カリ・ヴァーナネン/サカリ・クオスマネン/トミ・サルミラ●日本公開:1992/04●配給:フランス映画社(評価:★★★★)●最初に観た場所(再見):シネマート新宿(スクリーン2)(24-03-08)
「ナイト・オン・ザ・プラネット」00.jpg
    
「ピアノ・レッスン」000.jpg「ピアノ・レッスン」●原題:OPPENHEIMER●制作年:1993年●制作国:オーストラリア/ニュージーランド/仏●監督・脚本:ジェーン・カンピオン●製作:ジェーン・チャップマン●撮影:スチュアート・ドライバーグ●音楽:マイケル・ナイマン●時間:121分●出演:ホリー・ハンターハーヴェイ・カイテル/サム・ニール/アンナ・パキン/ケリー・ウォーカー/ジュヌヴィエーヴ・レモン/トゥンギア・ベイカー/イアン・ミューン●日本公開:1994/02●配給:フランス映画社●最初に観た場所(再見):TOHOシネマズシャンテ(24-04-08)(評価:★★★★)

「避暑地の出来事」1959年.jpg「避暑地の出来事」00.jpg「避暑地の出来事」●原題:A SUMMER PLACE●制作年:1959年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:デルマー・デイヴィス●撮影:ハリー・ストラドリング●音楽:マックス・銀座文化・シネスイッチ銀座.jpgスタイナー●原作:スローン・ウィルソン『避暑地の出来事』●時間:131分●出演:リチャード・イーガン/ドロシー・マクガイア/トロイ・ドナヒュー/ サンドラ・ディー/アーサー・ケネディ●日本公開:1960/04●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:銀座文化劇場(84-06-21)(評価:★★★☆)

「酒とバラの日々」00.jpg「酒とバラの日々」1962.jpg「酒とバラの日々」●原題:DAYS OF WINE AND ROSES●制作年:1962年●制作国:アメリカ●監督:ブレイク・エドワーズ●製作:マーティン・マヌリス●脚本:J・P・ミラー●撮影:フィル・ラスロップ●音楽:ヘンリー・マンシーニ●時間:117分●出演:ジャック・レモン/リー・レミック/チャールズ・ビックフォード/ジャック・クラグマン/アラン・ヒューイット●日本公開:1963/05●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:銀座文化劇場(88-07-20)(評価:★★★★)
 
  
 
  
 
「シャレード」1963年.jpg「シャレード」1963 2.jpg「シャレード」●原題:CHARADE●制作年:1963年●制作国:アメリカ●監督:スタンリー・ドーネン●製作:マーティン・マヌリス●脚本:J・P・ミラー●撮影:フィル・ラスロップ●音楽:ヘンリー・マンシーニ●時間:117分●出演:ケイリー・グラントオードリ・ヘップバーン/ジェームズ・コバーン/ウォルタコバーン「シャレード」.jpgー・マッソー/ジョージ・ケネディ/ネッド・グラス●日本公開:1963/12●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●最初に観た場所:銀座文化劇場(88-04-16)(評価:★★★☆)
ジェームズ・コバーン/ジョージ・ケネディ
 
 

「レザボア・ドッグス」0.jpg「レザボア・ドッグス」dr.jpg「レザボア・ドッグス」dr2.jpg「レザボア・ドッグス」●原題:RESERVOIR DOGS●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督・脚本:クエンティン・タランティーノ●製作:ローレンス・ベンダー●撮影:アンジェイ・セクラ●音楽:カリン・ラクトマン●時間:100分●出演:ハーヴェイ・カイテル/ティム・ロス/マイケル・マドセン/クリス・ペン/スティーヴ・ブシェミ/ローレンス・ティアニー/クエンティン・タランティーノ●日本公開:1993/04●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所(再見):早稲田松竹(24-05-20)(評価:★★★★)●併映:「バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト」(アベル・フェラーラ)
「レザボア・ドッグス」早稲田松竹.jpg


「花の影」.jpg「花の影」0.jpg「花の影」●原題:風月(英: TEMPTRESS MOON)●制作年:1996年●制作国:香港・中国●監督:陳凱歌(チェン・カイコー)●製作:湯君年(タン・チュンニェン)/徐楓(シュー・フォン)●脚本:舒琪(シュウ・チー)●撮影: クリストファー・ドイル(杜可風)●音楽: 趙季平(チャオ・チーピン)●原案: 陳凱歌/王安憶(ワン・アンイー)●時間:128分●出演:張國榮(レスリー・チャン)鞏俐(コン・リー)/林健華(リン・チェンホア)/何賽飛(ホー・サイフェイ)/呉大維(デヴィッド・ウー)/謝添(シェ・ティェン)/周野芒(ジョウ・イェマン)/周潔(ジョウ・ジェ)/葛香亭(コー・シャンホン)/周迅(ジョウ・シュン)●日本公開:1996/12●配給:日本ヘラルド映画(評価:★★★☆)●最初に観た場所[4K版]:池袋・新文芸坐(24-02-26)

「スモーク」01.jpg「スモーク」●原題:SMOKE●制作年:1995年●制作国:アメリカ・日本・ドイツ●監督:ウェイン・ワン●製作:ピーター・ニューマン/グレッグ・ジョンソン/黒岩久美/堀越謙三●脚本:ポール・オースター●撮影:アダム・ホレン「スモーク」02.jpgダー●音楽:レイチェル・ポートマン●原作:ポール・オースター『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』●時間:113分●出演:ハーヴェイ・カイテルウィリアム・ハート/ハロルド・ペリノー・ジュニア/フォレスト・ウィテカー/ストッカード・チャニング/アシュレイ・ジャッド/エリカ・ギンペル/ジャレッド・ハリス/ヴィクター・アルゴ●日本公開:1995/10●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:新宿武蔵野館(24-06-05)((評価:★★★★)

「フェリーニの道化師」1970年.jpg「フェリーニの道化師」●原題:FELLINI:I CROWNS●制作年:1970年●制作国:イタリア●監督:フェデリコ・フェリーニ●製作:エリオ・スカルダマーリャ/ウーゴ・グエッラ●脚本:フェデリコ・フェリーニ/ベルナフェリーニの道化師」01.jpgフェリーニの道化師」02.jpgルディーノ・ザッポーニ●撮影:ダリオ・ディ・パルマ●音楽:ニーノ・ロータ●時間:110分●出演:フェデリコ・フェリーニ/アニタ・エクバーグピエール・エテックス/ジョセフィン・チャップリン/グスターブ・フラッテリーニ/バティスト●日本公開:1976/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋・文芸坐(78-02-07)(評価:★★★★)●併映:「フェリーニのアマルコルド」(フェデリコ・フェリーニ)

フェリーニの道化師」アニタ.jpg
    
「木靴の樹」1978.jpg「木靴の樹」00.jpg「木靴の樹」●原題:L'ALBERO DEGLI ZOCCOLI(米:THE TREE OF WOODEN CLOGS)●制作年:1978年●制作国:イタリア●監督・脚本・撮影:エルマンノ・オルミ●音楽:J・S・バッハ●時間:186分●出演:ルイジ・オルナーギ/フランチェスカ・モリッジ/オマール・ブリニョッリ/テレーザ・ブレシャニーニ/バティスタ・トレヴァイニ/ルチア・ベシォーリ●日本公開:1979/04●配給:フランス映画社●最初に観た場所:有楽町・スバル座(80-12-02)(評価:★★★★)

「大理石の男」 (77年/ポーランド.jpg「大理石の男」 1.jpg「大理石の男」●原題:CZLOWIEK Z MARMURU●制作年:1977年●制作国:ポーランド●監督:アンジェイ・ワイダ●製作:バルバラ・ペツ・シレシツカ●脚本:アレクサンドル・シチボ「大理石の男」 2.jpgル・リルスキ●撮影:エドワルド・クウォシンスキ●音楽:アンジェイ・コジンスキ●時間:165分●出演:イエジー・ラジヴィオヴィッチ/クリスティナ・ヤンダ/タデウシ・ウォムニツキ/ヤツェク・ウォムニツキ/ミハウ・タルコフスキ/ピョートル・チェシラク/ヴィエスワフ・ヴィチク/クリスティナ・ザフヴァトヴィッチ/マグダ・テレサ・ヴイチク/ボグスワフ・ソプチュク/レオナルド・ザヨンチコフスキ/イレナ・ラスコフスカ/スジスワフ・ラスコフスカ●日本公開:1980/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(81-05-24)(評価:★★★☆)●併映:「水の中のナイフ」(ロマン・ポランスキー)
 
「女の叫び」1.jpg「女の叫び」1978年.jpg「女の叫び」1978.jpg「女の叫び」●原題:A DREAM OF PASSION●制作年:1978年●制作国:アメリカ・ギリシャ●監督・脚本:ジュールス・ダッシン●撮影:ヨルゴス・アルヴァニティズ●音楽:ヤアニス・マルコプロス●時間:110分●出演:メリナ・メルクーリ/エレン・バースティン/アンドレアス・ウツィーナス/デスポ・ディアマンティドゥ/ディミトリス・パパミカエル/ヤニス・ヴォグリス/フェドン・ヨルギツィス/ベティ・ヴァラッシ●日本公開:1979/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:岩波ホール(80-02-04)(評価:★★★★)

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2851】 谷 充代 『高倉健の身終い
「●文春新書」の インデックッスへ「●ルキノ・ヴィスコンティ監督作品」の インデックッスへ「●バート・ランカスター 出演作品」の インデックッスへ(「家族の肖像」)「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ「●「全米映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「ミリオンダラー・ベイビー」)「●クリント・イーストウッド 出演・監督作品」の インデックッスへ(「ミリオンダラー・ベイビー」)「●モーガン・フリーマン 出演作品」の インデックッスへ(「ミリオンダラー・ベイビー」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●「死」を考える」の インデックッスへ(「ミリオンダラー・ベイビー」)

実質的な1位は自分が"隠れ"ファンを自認していた作品だった(笑)。

週刊文春「シネマチャート」全記録.jpg イノセント1シーン.jpg 家族の肖像 デジタル修復完全版.jpg ミリオンダラー・ベイビード.jpg
週刊文春「シネマチャート」全記録 (文春新書)』「イノセント」「家族の肖像」「ミリオンダラー・ベイビー」

 「週刊文春」の映画評「シネマチャート」が、1977(昭和42)年6月に連載を開始してから丸40年を迎えたのを記念して企画された本。40年間で4千本を超える映画に29名の評者が☆をつけてきたそうですが、その☆を今回初めて集計し、洋画ベスト200、邦画ベスト50選出しています。

地獄の黙示録01ヘリ .jpg 洋画のベスト1(評者の中で評価した人が全員満点をつけたもの)は10本あって(ただし、2003年までの満点が☆☆☆であるのに対し、2004年以降は☆☆☆☆☆で満点)、その中で評価(星取り)をしなかった(パスした)評者がおらず、全員が満点をつけたものが1977年から2003年までの間で9本、2004年以降が2本となっています。さらに、2003年までは評者の人数にもばらつきがあり、最も多くの評者が満点をつけたのがルキノ・ヴィスコンティ監督の「イノセント」('76年/伊・仏)(☆☆☆8人)、次がフランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」('79年/米)(☆☆☆7人、無1人)となっています。

 選ばれた作品を見て、あれが選ばれていない、これが入っていないという思いは誰しもあるかと思いますが、巻頭に選定の総括として、中野翠、芝山幹朗両氏、司会・植草信和・元「キネマ旬報」編集長の座談会があり(中野翠、芝山幹朗両氏は現役の評者)、彼ら自身が選定に偏りがあるといった感想を述べていて、特定の作品が高く評価されたりそれほど評価されなかったりした理由を、その時の時代の雰囲気などとの関連で論じているのが興味深かったです。

 それにしても、全般に芸術映画の評価は高く、娯楽映画の評価はそうでもない傾向があるようですが、洋画ベスト200の実質的なトップにルキノ・ヴィスコンティ監督の「イノセント」がきたのは、この作品の"隠れ"ファンを自認していた自分としては意外でした(全然"隠れ"じゃないね)。しかも、この時の評者が、池波正太郎、田中小実昌、小森和子、品田雄吉、白井佳夫、渡辺淳など錚々たるメンバーだからスゴイ。彼らが「イノセント」を高く評価したというのも時代風潮かもしれませんが、だとすれば、「家族の肖像」('74年)、「ルードウィヒ/神々の黄昏」('80年)が共に62位と相対的に低いのはなぜでしょうか(ただし、個人的評価は、「イノセント」★★★★☆、「ルードウィヒ/神々の黄昏」★★★★、「家族の肖像」★★★★で、今回の順位に符号している)。

家族の肖像 78.jpg家族の肖像00.jpg(●「家族の肖像」は2020年に劇場でデジタルリマスター版で再見した。日本ではヴィスコンティの死後、1978年に公開されて大ヒットを記録し、日本でヴィスコンティ・ブームが起きる契機となった作品だが、上記の通り個人的評価は星5つに届いていない。今回、読書会のメンバーから、「家族」とその崩壊がテーマになっているという点で小津安二郎の「東京物語」に通じるものがあるという見解を聞き、そのあたりを意識して観たが、バート・ランカスター演じる大学教授は平穏な生活を求める自分が闖入者によって振り回された挙句、最後家族の肖像01.jpgには「家族ができたと思えばよかった」と今までの自分の態度を悔やんでいることが窺えた。ただし、「家族の肖像」の場合、主人公の教授がすでに独り身になっているところからスタートしているので、日本的大家族の崩壊を描いた「東京物語」と比べると状況は異なり、「家族」というモチーフだけで両作品を敷衍的に捉えるまでには至らなかった。一方、主人公の教授がヘルムート・バーガー演じる若者に抱くアンビバレントな感情には同性愛的なものを含むとの見解もあるようで、それはどうかなと思ったが、再見して、シルヴァーナ・マンガーノ演じるその若者を自分の愛人とする女性が、教授に対して「あなたも彼の魅力にやられたの」と言って二人の間に同性愛的感情があることを示唆していたのに改めて気づいた。)

 ☆☆☆☆☆で満点となった2004年以降で満点を獲得したのは、ゲイリー・ロス監督の「シービスケット」('03年/米)と クリント・イーストウッド監督の「ミリオンダラー・ベイビー」('04年/米)ですが、クリント・イーストウッド監督は洋画ベスト200に9作品がランクインしており、2位のルキノ・ヴィスコンティ監督の6作品を引き離してダントツ1位。この辺りにも、この「シネマチャート」における評価の1つの傾向が見て取れるかもしれません。クリント・イーストウッド監督の9作品のうち、個人的に一番良かったのは「ミリオンダラー・ベイビー」なので、自分の好みってまあフツーなのかもしれません。

ミリオンダラー・ベイビー01.jpg 「ミリオンダラー・ベイビー」は重い映画でした。女性主人公マギーを演じたヒラリー・スワンクは、イーストウッドに伍する演技でアカデミー主演女優賞受賞。作品自体も、アカデミー作品賞、全米映画批評家協会賞作品賞を受賞しましたが、公開時に、マギーが四肢麻痺患者となった後で死にたいと漏らしフミリオンダラー・ベイビー04.jpgランキーがその願いを実現させたことに対して、障がい者の生きる機会を軽視したとの批判があったようです。批判の起きる一因として、主人公=イーストウッドとして観てしまうというのもあるのではないでしょうか。「J・エドガー」('11年)などもそうですが、イーストウッドのこの種の映画は問題提起が主眼で、後は観た人に考えさせる作りになっているのではないかと思います。

 因みに、邦画ベスト50では1位の「愛のコリーダ2000」('00年)だけが評者全員(5人)が満点(☆☆☆)でした。この作品は、「愛のコリーダ」('76年)における修正を減らしたノーカット版により近いものであり、実質的なリバイバル上映だったと言えます(これ、現時点['19年]でDVD化されていない)。


●週刊文春「シネマチャート」満点作品(評者全員が満点をつけた作品)1977-2017
 (洋画)
 ・1975年「イノセント」 (伊)ルキノ・ヴィスコンティ監督
 ・1979年「地獄の黙示録」(米)フランシス・フォード・コッポラ監督
 ・1983年「風櫃(フンクイ)の少年」(台湾)侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督
 ・1984年「冬冬(トントン)の冬休み」(台湾)侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督
 ・1990年「コントラクト・キラー」(フィンランド)アキ・カウリスマキ監督
 ・1994年「スピード」(米)ヤン・デ・ボン監督
 ・2000年「愛のコリーダ2000」(仏・日)大島渚監督
 ・2001年「トラフィック」(米)スティーヴン・ソダーバーグ監督
 ・2002年「ボウリング・フォー・コロンバイン」(米)マイケル・ムーア監督
 ・2006年「シービスケット」(米)ゲイリー・ロス監督
 ・2004年「ミリオン・ダラー・ベイビー」 (米)クリント・イーストウッド監督

Inosento(1976)
イノセント .jpgInosento(1976).jpg「イノセント」●原題:L'INNOCENTE●制作年:1976年●制作国:イタリア・フランス●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:ジョヴァンニ・ベルトルッチ●脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ/エンリコ・メディオーリ/ルキノ・ヴィスコンティ●撮影:パスクァリーノ・デ・サンティス●音楽:フランコ・マンニーノ●原作:ガブリエレ・ダヌンツィオ「罪なき者」●時間:129分●出演:ジャンカルロ・ジャンニーニ/ラウラ・アントネッリ/ジェニファー・オニール/マッシモ・ジロッティ/ディディエ・オードパン/マルク・ポレル/リーナ・モレッリ/マリー・デュボア/ディディエ・オードバン●日本公開:1979/03●最初に観た場所:池袋文芸坐 (79-07-13)●2回目:新宿・テアトルタイムズスクエア (06-10-13) (評価★★★★☆)●併映(1回目):「仮面」(ジャック・ルーフィオ)

Jigoku no mokushiroku (1979)
Jigoku no mokushiroku (1979).jpg「地獄の黙示録」●原題:APOCALYPSE NOW●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督・製作:フランシス・フォード・コッポラ●脚本:ジョン・ミリアス/フランシス・フォード・コッポラ/マイケル・ハー(ナレーション)●撮影:ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:カーマイン・コッポラ/フランシス・フォード・コッポラ●原作:ジョゼフ・コンラッド「地獄の黙示録 デニス・ホッパー_11.jpg闇の奥」●時間:153分(劇場公開版)/202分(特別完全版)●出演:マーロン・ブランド/ロバート・デュヴァル/マーティン・シーン/フレデリック・フォレスト/サム・ボトムズ/ローレンス・フィッシュバーン/アルバート・ホール/ハリソン・フォード/G・D・スプラドリン/デニス・ホッパー/クリスチャン・マルカン/オーロール・クレマン/ジェリー・ジーズマー/トム・メイソン/シンシア・ウッド/コリーン・キャンプ/ジェリー・ロス/ハーブ・ライス/ロン・マックイーン/スコット・グレン/ラリー・フィッシュバーン(=ローレンス・フィッシュバーン)●日本公開:1980/02●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:銀座・テアトル東京(80-05-07)●2回目:高田馬場・早稲田松竹(17-05-07)(評価★★★★)●併映(2回目):「イージー・ライダー」(デニス・ホッパー)

家族の肖像 デジタル・リマスター 無修正完全版 [DVD]
家族の肖像.jpg家族の肖像 dvd.jpg「家族の肖像」●原題:GRUPPO DI FAMIGLIA IN UN INTERNO(英:CONVERSATION PIECE)●制作年:1974年●制作国:イタリア・フランス●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:ジョヴァンニ・ベルトルッチ●脚本:ルキノ・ヴィスコンティ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/エンリコ・メディオーリ●撮影:パスクァリーノ・デ・サンティス●音楽:フランコ・マンニーノ●時間:121分●出演: バート・ランカスター/ヘルムート・バーガー/シルヴァーナ・マンガーノ/クラウディア・マルサーニ/ステファノ・パトリッツィ/ロモロ・ヴァリ/クラウディア・カルディナーレ(教授の妻:クレジットなし)/ ドミニク・サンダ(教授の母親:クレジットなし)●日本公開:1978/11●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋・文芸座(79-09-24)●2回目(デジタルリマスター版):北千住・シネマブルースタジオ(20-11-17)(評価:★★★★)●併映(1回目):「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(ルキノ・ヴィスコンティ)

ルートヴィヒ 04.jpgルードウィヒ 神々の黄昏 ポスター.jpg「ルートヴィヒ (ルードウィヒ/神々の黄昏)」●原題:LUDWIG●制作年:1972年(ドイツ公開1972年/イタリア・フランス公開1973年)●制作国:イタリア・フランス・西ドイツ●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:ウーゴ・サンタルチーア●脚本:ルキノ・ヴィスコンティ/エンリコ・メディオーリ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ●撮影:アルマンド・ナンヌッツィ●音楽:ロベルト・シューマン/リヒャルト・ワーグナー/ジャック・オッフェンバック●時間:(短縮版)184分/(完全版)237分●出演:ヘルムート・バーガー/ロミー・シュナイダー/トレヴァー・ハワード/シルヴァーナ・マンガーノ/ゲルト・フレーベ/ヘルムート・グリーム/ジョン・モルダー・ブラウン/マルク・ポレル/ソーニャ・ペドローヴァ/ウンベルト・オルシーニ/ハインツ・モーグ/マーク・バーンズ1962年の3人2.jpgロミー・シュナイダー.jpg●日本公開:1980/11(短縮版)●配給:東宝東和●最初に観た場所:(短縮版)高田馬場・早稲田松竹(82-06-06) (完全版)北千住・シネマブルースタジオ(14-07-30)(評価:★★★★)

ロミー・シュナイダー(Romy Schneider,1938-1982)
ロミー・シュナイダー(手前)、アラン・ドロン、ソフィア・ローレン(1962年)

シルヴァーナ・マンガーノ in 「ベニスに死す」('71年)/「ルートヴィヒ」('72年)/「家族の肖像」('74年)
シルヴァーナ・マンガーノ.jpg

ナオミ・ワッツ(Naomi Watts1968- )(2012年)
大統領たちが恐れた男 j.エドガー dvd2.jpgナオミ・ワッツ.jpg「J・エドガー」●原題:J. EDG「J・エドガー」01.jpgAR●制作年:2011年●制作国:アメリカ●監督:クリント・イーストウッド●製作:クリント・イーストウッド/ ブライアン・グレイザー/ロバート・ロレンツ●脚本:ダスティン・ランス・ブラック●撮影:トム・スターン●音楽:クリント・イーストウッド●時間:137分●出演:レオナルド・ディカプリオ/ ナオミ・ワッツ/アーミー・ハマー/ジョシュ・ルーカス/ジュディ・デンチ/エド・ウェストウィック●日本公開:2012/01●配給/ワーナー・ブラザーズ(評価★★★☆)

ミリオンダラー・ベイビー [DVD]」 モーガン・フリーマン(アカデミー助演男優賞)
ミリオンダラー・ベイビー.jpgミリオンダラー・ベイビー02.jpg「ミリオンダラー・ベイビー」●原題:MILLION DOLLAR BABY●制作年:2004年●制作国:アメリカ●監督:クリント・イーストウッド●製作:ポール・ハギス/トム・ローゼンバーグ/アルバート・S・ラディ●脚本:ポール・ハギス●撮影:トム・スターン●音楽:クリント・イーストウッド●原案:F・X・トゥール●時間:133分●出演:クリント・イーストウッド/ヒラリー・スワンク/モーガン・フリーマン/ジェイ・バルチェル/マイク・コルター/ルシア・ライカ/ブライアン・オバーン/アンンソニー・マッキー/マーゴ・マーティンデイル/リキ・リンドホーム/ベニート・マルティネス/ブルース・マックヴィッテ●日本公開:2005/05●配給:ムービーアイ=松竹●評価:★★★★

《読書MEMO》
●『観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88』 (2015/06 鉄人社)
ミリオンダラー・ベイビー_7893.JPG

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すべてを分かり易く撮っているヴィスコンティ。"注釈"的な場面さえある。

べ二スに死す ps.jpgヴェ二スに死す 文庫新潮.jpg ヴェ二スに死す 文庫岩波.jpg ヴェ二スに死す 文庫集英社.jpg トーマス・マン.jpg
ベニスに死す [DVD]」/『トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す (新潮文庫)』['67年]/『ヴェニスに死す (岩波文庫)』['00年]/『ベニスに死す (集英社文庫)』['11年]/トーマス・マン(1875-1955)

ベニスに死す  .jpgベニスに死す 07.jpg 1911年、ドイツ有数の作曲家・指揮者であるグスタフ・アシェンバッハ(ダーク・ボガード)は静養のため訪れたベニスで、母親(シルヴァーナ・マンガーノ)と三人の娘と家庭教師と共に同地を訪れていたポーランド人少年タジオ(ビヨルン・アンデルセン)に理想の美を見出す。以来、彼は浜に続く回廊をタジオを求めて彷徨うようになる。ある日、ベニスの街中で消毒が始まり、疫病が流行しているのだという。白粉と口紅、白髪染めを施して若作りをし、タジオの姿を求めてベニスの町を徘徊ベニスに死す86cf.jpgベニスに死す last.jpgしていたあるとき、彼は力尽きて倒れ、自らも感染したことを知る。それでも彼はベニスを去らない。疲れきった体を海辺のデッキチェアに横たえ、波光がきらめく中、彼方を指さすタジオの姿を見つめながら死んでゆく―。
ルキノ・ヴィスコンティ監督/ビヨルン・アンデルセン
ベニスに死す ヴィスコンティ.jpg 1971年公開のルキノ・ヴィスコンティ監督作で、アメリカ資本のイタリア・フランス合作映画で第24回カンヌ国際映画祭25周年記念賞受賞作。同監督の「地獄に堕ちた勇者ども」「ルートヴィヒ」と並ぶ「ドイツ三部作」の第2作とされていますが、これだけ舞台はドイツではなくイタリアです。原作はドイツの作家トーマス・マン(1875-1955)が1912年に発表した中編小説で、原作では主人公グスタフ・アッシェンバッハは"著名な作家"となっていますが、映画では"作曲家・指揮者"になっています。ただし、主人公のファースト・ネームから窺えるように、トーマス・マンは主人公のモデルに。このDeath in Venice_243fa75d0e.jpg小説執筆の直前に死去した作曲家のグスタフ・マーラー(1860-1911)をイメージし、主人公の名前もそこから借りたとされており、主人公を作曲家にしたのはルキノ・ヴィスコンティ監督の恣意によるものとは必ずしも言い切れないようです。

Vintage cover of a German edition of Death in Venice

ベニスに死すges.jpg トーマス・マンは1911年に実際にヴェネツィアを旅行しており、そこで出会った上流ポーランド人の美少年に夢中になり、帰国後すぐにこの小説を書いたとのことで、作品の主人公は老人になっていまうが、トーマス・マンはこの時まだ30代だったことになります(トーマス・マンの死後、美少年のモデルになったポーランド貴族ヴワディスワフ・モエス男爵が名乗り出て、彼がヴェネツィアでトーマス・マンと遭遇したのは11歳の時で、当時ヴワージオ、アージオなどの愛称で呼ばれていたことが確認されている)。

 文学作品を映画化すると、ストーリーを追おうとするばかり、本質的なところが抜け落ちてしまうことがままありますが、この作品は、アルベール・カミュの原作を同監督が映画化した「異邦人」('67年/伊・仏・アルジェリア)よりはその"抜け落ち"の程度が抑えられているように思います。

ベニスに死す6b.jpg 成功の要因としては、監督がヨーロッパ中を探して見つけたという美少年ビョルン・アンドレセンの美しさ(映画における美少年ランキングの人気投票でほとんどいつもトップにくる)もさるこベニスに死す-07.jpgとながら、舞台となる20世紀初頭のホテルなど、ルキノ・ヴィスコンティ監督の背景への徹底したこだわりがあるかと思います。これは、オフシーズンの名門ホテルを借り切って19世風に改装したそうですが、ホテルのホールやレストラン、客室の調度、人々の衣裳などの華やかさは、ヴィスコンティ監督の十八番という感じでしょうか。

シルヴァーナ・マンガーノ/ビョルン・アンドレセン/ダーク・ボガード
べ二スに死すa.jpg さらにこの映画の特徴としては、すべてを分かり易く撮っているということが言えるかと思います。アシェンバッハが旅立とうしたら荷物の行先が間違えられて、彼は結局ホテルに戻らざるを得なくなりますが、それによってまたタジオと会うことができるようになる、その喜びをダーク・ボガードは堪えても堪えきれないといった満面の笑みで表現しています。アシェンバッハは、少年とその家族にペストの流行を伝え、この地を去るよう注意を促す自分を想像しますが、映画ではこの実現しなかった場面を実際に映像化して少年の髪の毛に手を触れるところまで描いています。さらに、終盤アシェンバッハが化粧して若作りする場面も、リアリティを欠くぐらい濃いメイクをダーク・ボガードに施してします。また、これは、主人公が原作の冒ベニスに死す kesyou.jpg頭で出会った、「若作りをしているが実はぎょっとするぐらい年寄りだったと分かった男」と対応していて、主人公自身がその男になってしまったといういわば"オチ"であるわけですが、その冒頭の"若作り男"もしっかり描かれています。アシェンバッハは疫病のためか体調不良で(心臓の具合が悪いようも見える)、さらに精神的にも疲弊しますが(少年への想いが激しくて自分自身が空洞化しているように見える)、そのことを強調するためか、ホテル内で行われた演奏会での彼の指揮が散々な出来だったという、原作には無い場面を入れています(原作は作家だから元々演奏会の指揮などしないわけだがベニスに死す67.png)。極めつけは、アシェンバッハの回想シーンに彼が娼館に女を買いに行く場面があることで、原作には無い場面のように思います。このシーンがあることによって、アシェンバッハが少年に恋い焦がれているのは事実ですが、彼を直接的に性愛の対象として見ているのではなく、あくまでも絶対的な美の対象としてみていることが示唆されており、ある種"注釈"的な印象を受けました。
    
トーニオ・クレーガー 他一篇 (河出文庫)
トーニオ・クレーガー.jpg そもそも原作のテーマは何なのか。ドイツ文学者の高橋義孝(1913-1995)は、この作品を、同じく作者の代表作の中編小説で1903年発表の「トーニオ・クレーゲル」と対比させています。「トーニオ・クレーゲル」は自分が文学者としてどうあるべきか真摯に思い悩んでいたトーマス・マン自身の告白的な作品で、主人公のトニオはギムナジウムの時代にハンスという美少年とインゲという美少女の両方に憧れを抱き、芸術家(詩人)を目指しながらも彼の思いはその両者の間を彷徨いますが(それを自身は自らの市民気質(かたぎ)によるものと捉え、年上の女性からもあなたは"俗人"だと言われる)、年齢を経て旅行などでの経験を通して、最後は自分はあくまで市民気質を保ちながらより良い作品を書いていく決心をするに至るというものです。高橋義孝は、トーマス・マンにおいて芸術家、特に文士、作家とは、「生」と「精神」、「市民気質」と「芸術家気質」、感情と思想(「ヴェニスに死す」の中の表現)、感性と理性、美と倫理、陶酔と良心、享受と認識という相反する2つのものの板挟みになっている存在であり、「トーニオ・クレーゲル」では、主人公はこれら対立概念の後者にすがってかろうじて自己の文士としての生活を支えるが、「ヴェニスに死す」では、これら対立概念の前者のために敗北し、死んでいくとしており、この解説は分かり易かったです。

 つまり、トーニオ・クレーゲルは踏みとどまったというかバランスを保ち得たわけで(この作品は三島由紀夫や北杜夫などの作家に大きな影響を与えたと言われている)、一方のアシェンバッハは向こう側にイッて(行って/逝って)しまったという感じでしょうか。小説としては、"イッて(行って/逝って)しまった"話の方が面白いような気がするし、また怖いような気もしますが、ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画は、その面白さ、怖さをわれわれにその通り伝えてくれているような気がします。この作品は第45回(1971年度)キネマ旬報の外国映画ベスト・テン第1位となりましたが、ルキノ・ヴィスコンティ監督は「家族の肖像」('74年/伊・仏)でも第52回(1978年度)キネマ旬報の外国映画ベスト・テン第1位となっており、"滅びの美学"は感性的に日本人に受け容れられやすいのかもしれません。

ベニスに死すs.jpg「ベニスに死す」●原題:DEATH IN VENICE(英)/MORTE A VENEZIA(伊)/MORT A VENISE(仏)●制作年:1971年●制作国:イタリア・フランス●監督・製作:『トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す』.JPGルキノ・ヴィスコンティ●脚本:ルキノ・ヴィスコンティ/ニコラ・バダルッコ●撮影:パスクワーレ・デ・サンティス●音楽:グスタフ・マーラー●原作:トーマス・マン●時間:131分●出演:ダーク・ボガード/ビョルン・アンドレセン/シルヴァーナ・マンガーノ/ロモロ・ヴァリ/マーク・バーンズ/マリサ・ベレンソン/ノラ・リッチ/キャロル・アンドレ/レスリー・フレンチ/フランコ・ファブリッツィ/セルジオ・ガラファノーロ/ドミニク・ダレル/マーシャ・ブレディット/エヴァ・アクセン/マルコ・トゥーリ●日本公開:1971/10●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:大塚名画座(79-02-07)(評価:★★★★)●併映:「地獄に堕ちた勇者ども」(ルキノ・ヴィスコンティ)

シルヴァーナ・マンガーノ in 「ベニスに死す」('71年)/「ルートヴィヒ」('72年)/「家族の肖像」('74年)
シルヴァーナ・マンガーノ.jpg

大塚駅付近.jpg大塚名画座 予定表.jpg大塚名画座4.jpg大塚名画座.jpg大塚名画座(鈴本キネマ)(大塚名画座のあった上階は現在は居酒屋「さくら水産」) 1987(昭和62)年6月14日閉館


【1939年文庫化・1960年改版・2000年改版[岩波文庫『ヴェニスに死す』(実吉捷郎:訳)]/1967年再文庫化[新潮文庫『トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す』(高橋義孝:訳)]/2011年再文庫化[角川文庫『ベニスに死す』(浅井真男:訳)]/2007年再文庫化[光文社古典新訳文庫『ヴェネツィアに死す』(岸美光:訳)]/2011年再文庫化[集英社文庫『ベニスに死す』(圓子修平 :訳)]】
 
《読書MEMO》
●ヴェニス(ヴェネツィア)を舞台にした映画
ジョゼフ・ロージー監督「エヴァの匂い」('62年/仏)/ルキノ・ヴィスコンティ監督「ベニスに死す」('71年/伊・仏)/ニーノ・マンフレディ監督「ヌードの女」('81年/伊・仏)/テレンス・ヤング監督「007 ロシアより愛をこめて」('63年/英)
イタリア・ベネチア●エヴァの匂いes.jpgイタリア ベニスに死す .jpgイタリア。ヴェネチア●ヌードの女.jpg 007 ロシアより愛をこめて  ヴェネチア (2).jpg

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壮大華麗な舞台装置に埋没しない強烈な個性の配役陣と演出力はヴィスコンティ映画ならでは。

ルートヴィヒ 完全版 dvd.jpgルートヴィヒ taiknnsiki.jpg
ルートヴィヒ 復元完全版 デジタル・ニューマスター [DVD]」['06年]       
ヘルムート・バーガー(Helmut Berger)/ロミー・シュナイダー(Romy Schneider)
ルートヴィヒ 01.jpgLudwig movie 3.jpg 1864年18歳でバイエルン王に即位したルートヴィヒ(ヘルムート・バーガー)は、やがて年上の従姉エリザベート(ロミー・シュナイダー)に惹かれていくが、その思いは叶えられない。またルートヴィヒは政治や軍事より芸術を好み、特にワーグナー(トレヴァー・ハワード)を援助した。そのワーグナーは王をなめきっていて、愛人コジマ(シルヴァーナ・マンガーノ)と共に彼を食い物にする。ルートヴィヒは、贅を極めた宮殿での愚かしい生活や虚しい日常と、当時勃発した普墺戦争の中で精神的に消耗していき、その行動は次第に常軌を逸したものとなっていく―。

ルートヴィヒ 2.jpg  ルキノ・ヴィスコンティ(1906-1976)監督の1972年のイタリア・フランス・西ドイツ合作映画で、「地獄に堕ちた勇者ども」('69年)、「ベニスに死す」('71年)と並ぶ「ドイツ三部作」の最後となるもの。バイエルン王ルートヴィヒ2世の即位から死までを描いた作品で、元々は約4時間もの作品だったのですが、配給会社から長すぎるとのクレームが出て、仕方なくヴィスコンティ自身の手によって約3時間に短縮されたとのこと。ヴィスコンティが没して4年後の'80年にようやく日本で初公開されたのはこの短縮版であり、「ルードウィヒ/神々の黄昏」というタイトルであったため、「ウ」ではなくその前の「ト」の方を濁る言い方に馴染んでしまった印象はあります。

ルートヴィヒ 02 雪.jpg 同じく'80年にヴェネツィア国際映画祭において、ヴィスコンティの当初の意図に限りなく近いとされる4時間版が初公開され、劣化したフィルムの修復作業を経たものが'06年に新宿のテアトルタイムズスクエアで開催された「ヴィスコンティ生誕100年祭」で、「ルートヴィヒ【完全復元版】」として「山猫」「イノセント」と共に上映されましたが、個人的にはその時は遺作となった「イノセント」しか観ることができず、今回、北千住・シネマブルースタジオのヴィスコンティ監督特集の一本として上映されたのを観ました(特集と言っても、「若者のすべて」('60年)と2作だけの上映だったが)。完全版もビデオ化されていましたが、やはりいつか劇場で観たいという思いもあって今回足を運んだ次第です。
 
 
Rûtovihi (1973)
Rûtovihi (1973).jpg
Ludwig movie 7.jpg 4時間という長さそのものが劇場向きですが、冒頭のルートヴィヒの戴冠式から荘厳な舞台劇を観ているみたいで、劇場で観た価値はありました。王族の絢爛豪華な世界を妥協なく再現している点で、中期以降のヴィスコンティ作品に観られる貴族趣味が最も徹底している作品と言えるかと思いますが(撮影はリンダーホーフ城など実際にルートヴィヒ2世が建設した王城でも行われた)、そうした壮大なバックグラウンドの中で、繊細で孤独を好むルートヴィヒの理知と狂気をきっちり浮き彫りにしてみせていて、「大味」感が全くないところがスゴいと思います。

Ludwig movie 2.jpg 改めて完全版を観て思ったのは、史実に比較的忠実に描かれている点で、ルートヴィヒは近侍させた美青年たちを愛し、女性を嫌忌していたものの、エリーザベトだけには女性でありながら唯一心を許していたというのも事実らしく、また、彼女の妹のゾフィーと婚約者として押しつけられ、挙式を伸ばし延ばしにした挙句、婚約を反故にしてしまったのも実際のことのようです。ワーグナーに入れ込んで金を使い、城を幾つも建てて税金を使い、政治よりも詩を愛し、社交よりも真夜中の彷徨を好んだルードウィッヒですが、バイエルンの国民には人気があったそうです。

 映画は、ルートヴィヒに王としての統治能力があるかどうか重臣たちが証人を喚問して査問会議を開いているという外枠的状況があって、終盤は王は精神を病んでいるとの結論に至った重臣たちが王を廃位すべく反乱を起こす経緯とそれに対するルートヴィヒの抵抗が詳しく描かれていますが、短縮版ではこの部分がかなり削られていたのではなかったかと。こうしてみると、かなり史劇として丁寧に作られていたのだという印象を受けましたが、重臣たちがルートヴィヒを廃位したのは、多くの城を造営した彼の乱費が最大原因だったというのが最近の有力な説のようです(家臣たちがワーグナーの召喚を快く思っていなかったのも事実らしい)。但し、「狂王」とも呼ばれたように、次第に王の奇行が目立つようになり、首相らが医師たちに診断書を作成させて精神病を理由に王を禁治産者にしようとしたのもほぼ事実のようです。

 ルートヴィヒがベルク城に送られ、その翌日に城付近の湖で侍従医と共に水死体となって発見されたのも事実ですが、その事件の経緯は「謎」であるようで、映画の中でのルートヴィヒが彼を監視していた医師を殺して自殺したという重臣の台詞は、実際にその場面が出てこないことからも、あくまで映画内における重臣による事件の決着のさせ方なのでしょう。映像化して史実を逸脱してしまうことを回避するとともに、観る者に「謎」を投げかけつつも、幽閉されるよりは死を選ぶというルートヴィヒの絶望と美学を示唆するような描かれ方をしているように思いました。

Ludwig movie16.jpg ヘルムート・バーガーは好演してると言うか、前半の美男子ぶりから終盤は一転して顔を白塗りにしての怪演、ホモセクシュアルはさほど強調されていませんが、「地獄に堕ちた勇者ども」を想起させるようなシーンがありました(ヴィスコンティとヘルムート・バーガーは"恋人同士"の関係にあったと言われ、ヘルムート・バーガーは姉として慕っていたロミー・シュナイダーから"バーガー嬢"或いは"バーガー夫人"とからかわれたほどであったという)。

Ludwig movie 03.jpg ワーグナーを演じるトレヴァー・ハワードも怪演、加えて、ロミー・シュナイダーの強い意志を秘めた美しさとシルヴァーナ・マンガーノのアクの強さ―といった具合に、壮大華麗な舞台装置に決して埋没してしまうことのない強烈な個性の配役陣と、その持ち味を十二分に引き出しているヴィスコンティの演出力が光ります。やはり、これはこの監督にしか撮れない作品なのだと思いましたが、'12年にワーグナー生誕200周年としてマリー・ノエル、ピーター・ゼアー共同監督でドイツ映画「ルートヴィヒ」が作られています。ある意味、こっちの方が「ご当地」版ということになりますが、出来の方はどうなのでしょうか。
        
ルートヴィヒ 04.jpgルードウィヒ 神々の黄昏 ポスター.jpg「ルートヴィヒ (ルードウィヒ/神々の黄昏)」●原題:LUDWIG●制作年:1972年(ドイツ公開1972年/イタリア・フランス公開1973年)●制作国:イタリア・フランス・西ドイツ●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:ウーゴ・サンタルチーア●脚本:ルキーノ・ヴィスコンティ/エンリコ・メディオーリ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ●撮影:アルマンド・ナンヌッツィ●音楽:ロベルト・シューマン/リヒャルト・ワーグナー/ジャック・オッフェンバック●時間:(短縮版)184分/(完全版)237分●出演:ヘルムート・バーガー/ロミー・シュナイダー/トレヴァー・ハワード/シルヴァーナ・マンガーノ/ゲルト・フレーベ/ヘルムート・グリーム/ジョン・モルダー・ブラウン/マルク・ポレル/ソーニャ・ペドローヴァ/ウンベルト・オルシーニ/ハインツ・モーグ/マーク・バーンズ1962年の3人2.jpgロミー・シュナイダー.jpg●日本公開:1980/11(短縮版)●配給:東宝東和●最初に観た場所:(短縮版)高田馬場・早稲田松竹(82-06-06) (完全版)北千住・シネマブルースタジオ(14-07-30)(評価:★★★★)
ロミー・シュナイダー


ロミー・シュナイダー(手前)、アラン・ドロン、ソフィア・ローレン(1962年)

シルヴァーナ・マンガーノ in 「ベニスに死す」('71年)/「ルートヴィヒ」('72年)/「家族の肖像」('74年)
シルヴァーナ・マンガーノ.jpg

Helmut_Berger_1974.jpgヘルムート・バーガー(オーストリアの俳優)2023年5月18日死去。78歳。

Helmut Berger 1974

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リアルで気迫のこもった演出。モノクロ映画の特性を充分に生かしている。

ルキノ・ヴィスコンティ 「若者のすべて」俳優座.jpgROCCO E I SUOI FRATELLI1.jpg若者のすべて DVD.jpg 若者のすべて パンフレット2.jpg Rocco e i suoi fratelli2.jpg 
1982年リバイバル公開時チラシ/「若者のすべて [DVD]」/パンフレット/「Rocco and His Brothers [DVD] [Import]
 ルキノ・ヴィスコンティ(1906‐1976)監督というと"貴族"映画のイメージがすぐ浮かびますが、イタリア南部から北部ミラノへ移住した家族の崩壊を4人兄弟(一番下の幼い弟も含めると5人兄弟)の確執を通して描いたこの映画は、イタリアの南北の格差問題を背景とした社会派作品とも言え、グラムシに共感するという彼の思想を映し出すものでもあります(ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞受賞作)。

ルキノ・ヴィスコンティ 「若者のすべて」.jpg 原題は「ロッコとその兄弟たち」(原作はジョヴァンニ・テストーリの『ギゾルファ橋』)。近親相互間の人間臭い葛藤が凄まじく、三男のロッコ(アラン・ドロン)がボクサー志望の次男(レナート・サルヴァトーリ)の恋人ナディア(アニー・ジラルド)に横恋慕したとして、兄一味が彼女を強姦するのを目の当たりにさせられ絶叫するシーンなどは心底痛々しく感じられ、ジュゼッペ・ロトゥンノのカメラワークも含め、ヴィスコンティのリアルで気迫のこもった演出に改めて驚嘆させられます。

若者のすべて アランドロン.jpg 兄のために、自分に求婚するナディアを振り切って身を引き、家族を経済的苦境から救うために好きではないのにボクサーなるロッコは、どこまで純粋なキャラクターなのだろうか。リアリティが欠如しているとすれば、アラン・ドロンがボクサーとしてはあまりに美男過ぎる点はともかくとして、旧恋人を殺めてしまった兄さえも暖かく迎えるこのロッコの善人ぶりぐらいかなと。でも、そのロッコがいなければ全く救いの無いような映画であり、貧しいがゆえに兄は弟を妬み、同じ貧しさのゆえに弟は兄への兄弟愛に飢えるという―ということになるのでしょうか。

"ドゥオーモ"に登ったロッコ(A・ドロン)とナディア(A・ジラルド)
rocco e i suoi fratelli.jpg 最初に、ロッコとその一家が列車から降り立ったのは「ミラノ中央駅」で、これは、後にヴィットリオ・デ・シーカ監督の「ひまわり」('70年/伊)でも別れのシーンのロケ場所になっていますが、絵になる駅だなあと。

 他にも、ミラノのドゥオーモ(大聖堂)など、映像美溢れるシークエンスが少なからずあり、モノクロ映画の特性を充分に生かしている感じがしました(北イタリアの寒村風景やロッコの心象風景にはモノクロ―ムが合っている)。

ROCCO E I SUOI FRATELLI 2.jpg 作中では、アニー・ジラルドは元カレのレナート・サルヴァトーリに殺されてしまうのですが(レナート・サルヴァトーリは「スキャンドール」('80年/伊)でも母娘の両方と寝る男を演じていた)、実生活ではこの 「若者のすべて」での共演を機に2人は結クラウディア・カルディナーレ 若者のすべて.jpg婚し、アニー・ジラルドはレナート・サルヴァトーリが亡くなるまで添い遂げています。

 また、それほど出番は多くありませんが、長男ヴィンチェンツォの婚約者ジネッタ役でクラウディア・カルディナーレが出ていてます。このように、今思うと、アラン・ドロンを筆頭に結構豪華な役者陣だったわけですが、ヴィスコンティ作品の中では1948年に発表のネオ・レアリスモ作品「揺れる大地」の第二部のように位置づけられることが多いことからも窺えるように、それらの役者がリアルな生活感の中に自然と嵌っていて、違和感を感じさせないところがいいです(「いい」と言うより「スゴイ」と言うべきか)。一方で、ヴィスコンティ的壮麗美として、アラン・ドロンの美貌、ミラノの町並み、大聖堂のビジュアルなどもちゃんと鏤(ちりば)められているわけで、そうした意味ではしっかり"映画的"でもあるのですが。

クラウディア・カルディナーレ in 「若者のすべて」

Wakamono no subete(1960)
Wakamono no subete(1960).jpg
「若者のすべて」●原題:(伊)ROCCO E I SUOI FRATELLI/(仏)ROCCO ET SES FRERE/(英)ROCCO AND HIS BROTHERS●制作年:1960年●制作国:イタリア・フランス●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●脚本:On set of Rocco and His Brothers .jpgルキノ・ヴィスコンティ/パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/マッシモ・フランチオーザ/エンリコ・メディオーリ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:ジョヴァンニ・テストーリ「ギゾルファ橋」●時間:168分●出演:アラン・ドロン/アニー・ジラルド/レナート・サルヴァトーリ/クラウディア・カルディナーレ/カティーナ・パクシヌー/ロジェ・アンナ/パオロ・ストッパ/スピロス・フォーカス/マックス・カルティエール/ロッコ・ヴィドラッツィ/コラド・パーニ/アレッサンドラ・パナーロ/アドリアー ナ・アスティ/シュジー・ドレー飯田橋佳作座.jpgル/クラウディア・モーリ●日本公開:1960/12●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:カトル・ド・シネマ上映会(81-06-20)●2回目:飯田橋佳作座(83-04-17)(評価:★★★★☆)●併映(2回目):「山猫」(83-04-17)
On set of Rocco and His Brothers directed by Luchino Visconti, 1960

飯田橋佳作座(神楽坂下外堀通り沿い)1957(昭和32)年10月1日オープン、1988(昭和63)年4月21日閉館


太陽がいっぱい.jpgアランドロン.jpgアラン・ドロン(1935-2024)
2024年8月18日死去。88歳。 映画「太陽がいっぱい」などに主演し、世界的な二枚目俳優として日本でも多くの人々を魅了した。2017年に引退を表明し、2019年には、長年の功績が評価され、カンヌ映画祭の名誉賞を受賞したがその後、脳卒中で倒れ、療養生活を続けていた。

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最後まで枯れることのなかったヴィスコンティ。L・アントネッリ、J・オニールを使いこなす。

イノセント ポスター.jpgイノセント.jpg Malizia1.jpg 思い出の夏summer42.JPG
イノセント 無修正版 デジタル・ニューマスター [DVD]」「青い体験〈無修正版〉 [DVD]」(Laura Antonelli) 「おもいでの夏」(Jennifer O'Neill)

ヴィスコンティ生誕百年祭特集.jpgイノセント パンフ.jpg 「イノセント」は1976年のイタリア・フランス合作映画で、ルキノ・ヴィスコンティ(1906‐1976)の最後の監督作品(公開されたのは没後)。

 2006年に新宿のテアトルタイムズスクエアで開催された「ヴィスコンティ生誕100年祭」で、「山猫」、「ルートヴィヒと共にその完全版が上映されましたが、「祭」と言いつつたった3作しか上映しないのか、以前は名画座などでもっと気軽に観られたのに―という思いもあるものの、3作に限るならばこのラインアップはかなりいい線いってるように思いました。

L'INNOCENTE 輸入盤dvd.jpgL'INNOCENTE 2.jpg 「イノセント」は、19世紀ローマの貴族男性(ジャンカルロ・ジャンニーニ)が主人公で、その彼が妻と愛人の間で揺れ動く様が描かれているのですが、〈妻〉が「青い体験」(Malizia、'73年/伊)、「続・青い体験」(Peccato veniale、'74年/伊)のラウラ・アントネッリで、〈愛おもい出の夏42.jpg「青い体験」00.jpg人〉が「おもいでの夏」(Summer of '42、'71年/米)のジェニファー・オニールなので、初めて見に行った時は、この2人を老ヴィスコンティがどう撮ったのかという興味もありました。貴族男性が愛人のもとへ行く際、妻に「君は昔から可愛い妹だった」などと言い訳して、それを妻ラウラ・アントネッリが許すというそれぞれのお気楽ぶりと従順ぶりにやや呆れるものの、最後になってみれば、実は女イノセントd.jpg性の心と肉体は男が思っているほど単純なものではなかったということか。

インノセント2.jpg  ラウラ・アントネッリ(あの「青い体験」の...)が妻でいながら、浮気などするなんて何というトンデモナイ奴かと思わせる部分も無きにしもあらずですが、浮気相手はジェニファー・オニール(あの「おもいでの夏」の...)だし...。

Laura Antonelli Giancarlo Giannini in L'Innocente

L'INNOCENTE5.jpg ジャンカルロ・ジャンニーニが演じる貴族は、自分の気持ちに純粋に従い過ぎるのかも。何となく憎めないキャラクターです(ジャンカルロ・ジャンニーニは、リナ・ウェルトミューラー監督の「流されて...」('75年/伊)の日本公開('78年)の時だったかに来日して舞台で挨拶していたが、意外と小柄だった印象がある)。結局、妻ラウラ・アントネッリの方も、義弟から紹介された作家に惚れられて自身も浮気に走り、そのことで夫は今さらのように自身の妻への愛着を再認識する―。

Jennifer O'Neill in L'Innocente          
ジェニファー・オニール2.jpg でもやはり気持ちはふらふらしていて、最後には作家の子を身籠った妻からの反撃を食い、愛人にも逃げられ、(自業自得とも言えるが)かなり惨めなことに...という、没落過程にある貴族層に個人のデカダン指向を重ね合わせたような、ヴィスコンティらしい結末へと繋がっていきます。

LINNOCENTE2.jpg 冒頭の「赤」を基調とした絢爛たる舞踏会シーンから映像美で魅せ、話の筋を追っていけば"貴族モノ"とは言え結構俗っぽい展開なのに、それでいて、ラウラ・アントネッリやジェニファー・オニールが、ヴィスコンティ映画の登場人物として"貴族然"として見えるのは、やはりヴィスコンティの演出のなせる業でしょうか(大河ドラマに出る女優が皆同じように見えるのとは似て非なるものか)。

イノセント1シーン.jpg 精神的かつ性的に抑圧されることで更にその魅力を強めていくラウラ・アントネヴィスコンティs.jpgッリが、(期待に反することなく?)充分エロチックに描かれていました(この〈妻〉の役は〈夫〉に勝るとも劣らず人物造形的にかなり複雑なキャラクターのように思える)。この映画の撮影の時ヴィスコンティは既に車椅子での演出でしたが、う〜ん、70歳、死期を悟りながらも、随分こってりした作品を作っていたんだなあと思わされます(そこがまたいい)。
Laura Antonelli  in L'Innocente  


              
悦楽の闇RE.jpg悦楽の闇4.jpg 因みに、ラウラ・アントネッリは貴族や上流階級の役での出演作がこの他にも幾つかあって、「イノセント」の一作前のジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ監督の1920年代のローマの社交界を舞台にした「悦楽の闇」('75年/伊・仏)では、裕福な貴族バニャスコ(テレンス・スタンプ)の愛人マノエラ役で出ています。バニャスコには他にも愛悦楽の闇6.jpg人がいて、愛想をつかしたマノエラは彼の元を去りますが、バニャスコは、15歳の時にある男に処女を奪われて以来、男性不信になっていたというマノエラ悦楽の闇ード.jpgの話から、その男がいとこのミケーレ(マルチェロ・マストロヤンニ)であることを偶然り、ミケーレに嫉妬心を抱きます。彼は一計を案じ、ミケーレにマノエラを近づ悦楽の闇The Divine Nymph (1975)_.jpgけ苦しみを与えようとしたところ、ミケーレはいまだにマノエラを愛しており、マノエラの心も動いたため、バニャスコはますます苦しみ、最期は自殺に追い込まれるというもの。もとはと言えば男が悪いのですが、女はバニャスコ、ミケーレ以外にもミケーレ・プラチド(監督としても活躍)演じる男とも繋がりがあって、実悦楽の闇es.jpgは彼女のほうこそ男を滅ぼすファム・ファータルだったということになるかと悦楽の闇 スタンプ1.jpg思います。キャストは豪勢だし、ラウラ・アントネッリの衣裳も絢爛なのですが、ストーリーがごちゃごちゃしていて、単なる恋愛泥沼劇にになってる印象も受けました。ラウラ・アントネッリも頑張って演技してるし、テレンス・スタンプは意外と役が合っていましたが、やはり、役者を集めるだけではダメなのだろなあ。


Inosento(1976)
イノセント .jpgInosento(1976).jpgL'INNOCENTE.jpg「イノセント」●原題:L'INNOCENTE●制作年:1976年●制作国:イタリア・フランス●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:ジョヴァンニ・ベルトルッチ●脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ/エンリコ・メディオーリ/ルキノ・ヴィスコンティ●撮影:パスクァリーノ・デ・サンティス●音楽:フランコ・マンニーノ●原作:ガブリエレ・ダヌンツィオ「罪なき者」●時間:129分●出演:ジャンカルロ・ジャンニーニ/ラウラ・アントネッリ/ジェニファー・オニール/マッシモ・ジロッティ/ディディエ・オードパン/マルク・ポレル/リーナ・モレッリ/マリー・デュボア/ディディエ・オードバン●日本公開:1979/03●最初に観た場所:池袋文テアトルタイムズスクエア閉館.jpgタカシマヤタイムズスクエア.jpg芸坐 (79-07-13)●2回目:新宿・テアトルタイムズスクエア (06-10-13) (評価★★★★☆)●併映(1回目):「仮面」(ジャック・ルーフィオ)
テアトルタイムズスクエア0.jpgテアトルタイムズスクエア内.jpgテアトルタイムズスクエア 新宿駅南口の新宿タカシマヤタイムズスクエア12Fに2002年4月27日オープン。2009年8月30日閉館。      
 

      
「青い体験」パンフレット/「青い体験〈無修正版〉 [DVD]
青い体験 パンフレット.jpg青い体験(無修正版).jpg「青い体験」●原題:MALIZIA●制作年:1973年●制作国:イタリア●監督:サルヴァトーレ・サンペリラウラ・アントネッリ.jpg●製作:シルヴィオ・クレメンテッリ●脚本:オッタヴィオ・ジェンマ/アレッサンドロ・パレンゾ/サルヴァトーレ・サンペリ●撮影:ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:フレッド・ボンガスト●時間:Malizia2.jpg98分●出演:ラウラ・アントネッリ(Laura Antonelli)/アレッサンドロ・モモ/テューリ・フェッロ/アンジェラ・ルース/ピノ・カルーソ/ティナ・オーモン/ジャン・ルイギ・チリッジ●日本公開:1974/10●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-04-05) (評価★★★★)●併映:「続・青い体験」(サルヴァトーレ・サンペリ)/「新・青い体験」(ベドロ・マソ)
ラウラ・アントネッリ            アレッサンドロ・モモ/ティナ・オーモン     Tina Aumont
Tina Aumont .jpg青い体験(2).jpgアレッサンドロ・モモ/ティナ・オーモン.jpg

 


青い体験 新dvd.jpg青い体験/続・青い体験 Blu-ray セット<無修正版>
青い体験 新dvd2.jpg 
  
 
   
 

 
  
  
「続・青い体験」.jpg続・青い体験01.jpg「続・青い体験」●原題:PECCATO VENIALE●制作年:1974年●制作国:イタリア●監督:サルヴァトーレ・サンペリ●製作:シルヴィオ・クレメンテッリ●脚本:オッタヴィオ・ジェンマ/アレッサンドロ・パレンゾ●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:フレ「続・青い体験」_01.jpgッド・ボンガスト●時間:98分●出演:ラウラ・アントネッリ/アレッサンドロ・モモ/オラツィオ・オルランド/リッラ・ブリグノン/モニカ・ゲリトーレ/リノ・バンフィ●日本公開:1975/08●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-04-05) (評価★★★☆)●併映:「青い体験」(サルヴァトーレ・サンペリ)/「新・青い体験」(ベドロ・マソ)


悦楽の闇 [DVD]」 テレンス・スタンプ/ラウラ・アントネッリ/マルチェロ・マストロヤンニ
悦楽の闇 dvd 1975.jpg悦楽の闇s.jpg「悦楽の闇」●原題:THE DIVINE NYMPH●制作年:1975年●制作国:イタリア・フランス●監督:ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ●製作:ルイジ・スカチーニ/マリオ・フェッラーリ●脚本:ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ/アルフィオ・ヴァルダルニーニ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:C・A・ビクシオ●原作:ルチアーノ・ズッコリ●時間:130分●出演:ラウラ・アントネッリ/テレンス・スタンプ/マルチェロ・マストロヤンニ/ミケーレ・プラチド/エットレ・マンニ/デュリオ・デル・プレート/マリナ・ベルティ/ドリス・デュランティ/カルロ・タンベルラーニ/ティナ・オーモン●日本公開:1987/06●配給:ケイブルホーグ=大映●最初に観た場所:渋谷・パルコスペース3(87-06-06)(評価★★★)

パルコスペース Part3.jpg渋谷シネクイント劇場内.jpgCINE QUINTO tizu.jpgPARCO SPACE PART3 1981(昭和56)年9月22日、演劇、映画、ライヴパフォーマンスなどの多目的スペースとして、「パルコ・パート3」8階にオープン。1999年7月~映画館「CINE QUINTO(シネクイント)」。 2016(平成28)年8月7日閉館。


「おもいでの夏」●原題:THE SUMMER OF '42●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・マリガン●製作:リチャード・ロス●脚本:ジェニファー・オニール1.jpgおもいでの夏 dvd.bmpハーマン・ローチャー●撮影:ロバート・サーティーおもいでの夏.pngス●音ジェニファー・オニール.bmp楽:ミシェル・ルグラン●原作:ハーマン・ローチャー●時間:105分●出演:ジェニファー・オニール/ゲイリー・グライムス/ジェリー・ハウザー/オリヴァー・コナント/キャサリン・アレンタック/クリストファー・ノリス/ルー・フリッゼル●日本公開:1971/08●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-11-03)(評価:★★★☆)●併映:「フォロー・ミー」(キャロル・リード)/「ある愛の詩」(アーサー・ヒラー) ジェニファー・オニール

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○ノーベル文学賞受賞者(アルベール・カミュ) 「○海外文学・随筆など 【発表・刊行順】」の インデックッスへ 「●ルキノ・ヴィスコンティ監督作品」の インデックッスへ  「●マルチェロ・マストロヤンニ出演作品」の インデックッスへ「●アンナ・カリーナ 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(岩波シネサロン)

従来の文学作品の類型の何れにも属さず、かつ小説的濃密さを持つムルソーの人物造型。

異邦人 単行本(1951).jpg 異邦人 1984.jpg 異邦人1.jpg 異邦人 1999.jpg   異邦人ポスター.jpg
異邦人 (新潮文庫)』['84年]['99年]/企画タイアップカバー['09年]映画「異邦人」(1967)ポスター
単行本['51年/新潮社]
異邦人 新潮文庫 1.jpgAlbert Camus.jpg 1942年6月に刊行されたアルベール・カミュ(Albert Camus、1913‐1960/享年46)の人間社会の不条理を描いたとされる作品で、「きょう、ママンが死んだ」で始まる窪田啓作訳(新潮文庫版)は読み易く、経年疲労しない名訳と言えるかも(新潮社が仏・ガリマール社の版権を独占しているため、他社から新訳が出ないという状況はあるが)。

Albert Camus
異邦人 (新潮文庫)』['54年]

 養老院に預けていた母の葬式に参加した主人公の「私」は、涙を流すことも特に感情を露わにすることもしなかった―そのことが、彼が後に起こす、殆ど出会い頭の事故のような殺人事件の裁判での彼の立場を悪くし、加えて、葬式の次の日の休みに、遊びに出た先で出会った旧知の女性と情事にふけるなどしたことが判事の心証を悪くして、彼は断頭台による死刑を宣告される―。

L'Etranger.png 仏・ガリマール社からの刊行時カミュは29歳でしたが、この小説が実際に執筆されたのは26歳から27歳にかけてであり(若い!)、アルジェリアで育ちパリ中央文壇から遠い所にいたために認知されるまでに若干タイムラグがあったということでしょうか。但し、この作品がフランスで刊行されるや大きな反響を呼び、確かに、自分の生死が懸かった裁判を他人事のように感じ、最後には、「私の処刑の日に大勢の見物人が集まり、憎悪の叫びをあげて、私を迎えることだけ」を望むようになるムルソーという人物の造型は、それまでの文学作品の登場人物の類型の何れにも属さないものだと言えるのでは。1957年、カミュが43歳の若さでノーベル文学賞を受賞したのは、この作品によるところが大きいと言われています。
  
Gallimard版(1982)

新湯 バンド・デシネ 異邦人.jpg カフカ的不条理とも異なり、第一ムルソーは自らの欲望に逆らわず行動する男であり(ムルソーにはモデルがいるそうだが、この小説の執筆期間中、カミュ自身が2人の女性と共同生活を送っていたというのは小説とやや似たシチュエーションか)、また、公判中に自分がインテリであると思われていることに彼自身は違和感を覚えており(カミュ自身、自らが実存主義者と見られることを拒んだ)、最後の自らの死に向けての"積極"姿勢などは、むしろカフカの"不安感"などとは真逆とも言えます。

バンド・デシネ 異邦人』['18年](マンガ化作品)2025.3.30 蓼科新湯温泉にて

サルトル .jpg サルトルは「不条理の光に照らしてみても、その光の及ばない固有の曖昧さをムルソーは保っている」とし、これがムルソーの人物造型において小説的濃密さを高めているとしていますが、このことは、『嘔吐』でマロニエの樹を見て気分が悪くなるロカンタンという主人公の"小説的濃密さ"の欠如を認めているようにも思えなくもないものの、『嘔吐』と比較をしないまでも、第1部の殺人事件が起きるまでと第2部の裁判場面の呼応関係など、小説としてよく出来ているように思いました。
 
The Stranger 1967.jpg異邦人QP.jpg ルキノ・ヴィスコンティ(Luchino Visconti、1906‐1976/享年69)監督がマルチェロ・マストロヤンニ(Marcello Mastroianni、1924‐1996/享年72)を主演としてこの『異邦人』を映画にしていますが('67年)、テーマがテーマである上に、小説の殆どはムルソーの内的独白(それも、だらだらしたものでなく、ハードボイルドチックな)とでも言うべきもので占められていて、情景描写などはかなり削ぎ落とされており(アルジェリアの養老院ってどんなのだTHE STRANGER (LO STRANIERO)s.jpgろうか、殆ど情景描写がない)、映画にするのは難しい作品であるという気がしなくもありませんでした。それでもルキノ・ヴィスコンティ監督は果敢に映像化を試みており、当初映画化を拒み続けていたカミュ夫人が原作に忠実に作ることを条件として要求したこともありますが、文庫本に置き換異邦人パンフレット.jpgえるとほぼ1ページも飛ばすことなく映像化していると言えます。第2部の裁判描写はともかく、第1部での主人公とさまざまな登場人物とのやりとりが第2部の裁判場面の伏線となっている面もあり、その第1部のさまざまな場面状況が具体的に掴めるのが有難いです(そう言えばこの作品、かつて日本語吹き替え版がテレビ放映されたこともあるのに、なぜかDVD化されていないなあ)。

映画プレミアパンフレット 「異邦人(A4/紺背景版)」 監督 ルキノ・ビスコンティ 出演 マルチェロ・マストロヤンニ/アンナ・カリーナ/ベルナール・ブリエ/ジョルジュ・ウィルソン/ブルノ・クレメール/ピエール・バルタン/ジャック・エラン/マルク・ローラン/ジョルジュ・ジレー

The Stranger 1967  2.jpgルキノ・ヴィスコンティ監督の『異邦人』.jpg 松岡正剛氏はこの映画を観て、ヴィスコンティはムルソーを「ゲームに参加しない男」として描ききったなという感想を持ったそうで、これは言い得ているのではないかという気がします。原作にも、「被告席の腰掛の上でさえも、自分についての話を聞くのは、やっぱり興味深いものだ」という、主人公の冷めた心理描写があります。一方で、ラストのムルソーの司祭とのやりとりを通して感じられる彼の「抵抗」とその根拠みたいなものは映画ではやや伝わってきにくかったように思われ、映像化することで抜け落ちてしまう部分はどうしてもあるような気がしました。だだ、そのことを考慮しても、ルキノ・ヴィスコンティ監督の挑戦は一定の評価を得てもいいのではないかとも思いました。

映画異邦人2.jpg この世の全てのものを虚しく感じるムルソーは、自らが処刑されることにそうした虚しさからの自己の解放を見出したともとれますが、ああ、やっぱり死刑はイヤだなあとか単純に思ったりして...(小説は獄中での主人公の決意にも似た思いで終わっている)。ムルソーが母親の葬儀の翌日に女友達と海へ水遊びに行ったのは、彼が養老院の遺体安置所の「死」の雰囲気から抜け出し、自らの心身に「生」の息吹を獲り込もうとした所為であるという見方があるようです。映画を観ると、その見方がすんなり受け入れられるように思いました。

映画「異邦人(Lo straniero)」より

lo_straniero1.jpg ママンの出棺を見るムルソー(マルチェロ・マストロヤンニ)
lo_straniero2.jpg 葬儀の翌日、海辺で女友達(アンナ・カリーナ)に声をかける
lo_straniero3.jpg アラブ人達と共同房にて(死刑確定後は独房に移される)

映画 異邦人.jpg映画 「異邦人」.jpg異邦人 .jpg「異邦人」●原題:THE STRANGER (LO STRANIERO/L'ÉTRANGER)●制作年:1967年●制作国:イタリア・フランス・アルジェリア●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ/エマニュエル・ロブレー/ジョルジュ・コンション●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ピエロ・ピッチオーニ●原作:アルベール・カミュ「異邦人」●時間:104分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ(ムルソー)/アンナ・カリーナ(マリー・カルドナ)/映画チラシ 「異邦人」 岩波シネサロン 8.jpg映画チラシ 「異邦人」 岩波シネサロン 1.jpgジョルジュ・ウイルソン(予審判事)/ベルナール・ブリエ(弁護人)/ジャック・エルラン(養老院の院長)/ジョルジェ・ジュレ(レイモン)/ジャン・ピエール・ゾラ(事務所の所長)/ブリュノ・クレメール(神父)/アルフレード・アダン(検事)/アンジェラ・ルーチェ(マッソン夫人)/ミンモ・パルマラ(マッソン)/ヴィットリオ・ドォーゼ(弁護士)●日本公開:1968/09●配給:岩波ホールビル.jpgパラマウント●最初に観た場所:岩波シネサロン(80-07-13)●2回目:池袋文芸座ル・ピリエ(81-06-06)(評価:★★★★)●併映(2回目):「処女の泉」(イングマル・ベルイマン)
岩波シネサロン(岩波ホール9F)

「岩波ホール」閉館(2022.7.29)「異邦人」上から2段目/右から8番目
「岩波ホール」閉館.jpg

Ihôjin (1967)
Ihôjin (1967).jpg
IMG_4920.JPG異邦人 新潮文庫.jpg   
    
新潮文庫 旧版・新装版
 
 【1954年文庫化[新潮文庫〕】

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ロマンチックで滑稽で切ない「白夜」。ヴィスコンティよりもブレッソンの映画が良かった。

白夜.jpg 白夜 [DVD]PL.jpg 白夜2.jpg 白夜 映画.jpg 白夜 ブレッソン ブルーレイ.jpg
白夜 (角川文庫クラシックス)』/ルキノ・ヴィスコンティ監督「白夜 [DVD]」/ロベール・ブレッソン監督「白夜」チラシ・パンフレット/「ロベール・ブレッソン監督『白夜』Blu-ray」(2016)

「白夜」挿画 (1922年).jpg 1848年、ドストエフスキーが20代後半に発表した初期短篇集で、後の作品群のような重々しいムードは無く、むしろ処女作『貧しき人びと』の系譜を引くヒューマンタッチの作品が主で、内容的にも読みやすいものばかりです。

 表題作の「白夜」も恋愛がテーマで、主人公は美しい恋愛を夢想するインテリ青年で、理想の女性を求め白夜の街を徘徊していたある日、橋の上で泣いている美しい女性に出会い、恋人に捨てられたらしい彼女の話を聞くうちに自分が恋に陥る―というものですが、ロマンチックだけれどもどこかコミカルでもあり、切ないと言うか、但し、ちょっと残酷でもあるお話です。

「白夜」挿画 (1922年)

 人生で絶対的なものなど希求した覚えがないという人でも、若かりし頃は"絶対の恋人"というものを夢見たことがあるのではないか、夢と現実の違いを知ることが大人になるということなのか、などと多少しみじみした気分に...。

 また、この主人公がとる、フィアンセがきっと帰ってくると彼女を勇気づける利他的とも思える行動は、『貧しき人びと』や、後の『永遠の夫』などにも通じるモチーフのように思えます。

 主人公は、愛する人の聞き役、相談役であることに充足していて、いつまでもその状態が続くことを欲しながらも、ライバルから彼女を奪い取ろうとはせず、結果的には彼女を失うための努力をしているような感じになっている...。

白夜4.jpg この作品は、ルキノ・ヴィスコンティ監督がマルチェロ・マストロヤンニ、マリア・シェル主演で映画化('57年/モノクロ)しているほか、「少女ムシェット」のロベール・ブレッソン監督がまったくの素人俳優を使って映画化('71年/カラー)していますが、個人的には後者の方が良かったです。  

白夜 ヴィスコンティ版1シーン.jpg ルキノ・ヴィスコンティ版「白夜」は、ペテルブルクからイタリアの港町に話の舞台を移し、但し、オールセットでこの作品を撮っていて(モノクロ)、主人公の孤独な青年にマルチェロ・マストロヤンニ、恋人に去られた女性に「居酒屋」のマリア・シェル、その恋人にジャン・マレーという錚々たる役者布陣であり、キャスト、スタッフ共に国際的です。

白夜 ルチェロ・マストロヤンニ/マリア・シェル.jpg 「ヴェネツィア高裁映画祭・銀獅子賞」を受賞するなど、国際的にも高い評価を得た作品で、タイトルに象徴される幻想的な雰囲気を伝えてはいるものの、細部において小説から抱いたイメージと食い違い、個人的にはやや入り込めなかったという感じです。

 撮影に膨大な時間をかける傾向にあるヴィスコンティは、短時間、低予算でも映画を作ることができることを証明しようとしてこの作品を撮ったらしいですが、他のヴィスコンティ作品に比べると粗さが目立つ気もしました(ヴィスコンティはヴィスコンティらしく、金と時間をふんだんに使って映画を撮るべきということか。但し、これは個人的な見解であって、この作品に対する一般の評価は高い)。
      
ブレッソン 白夜 2.jpg白夜3.jpg 一方のロベール・ブレッソン版「白夜」は、舞台をパリに移し、青年はポン・ヌフの橋からセーヌ河に身投げしようとしている女性と出会うという地理的設定にしています。(1978年2月に「岩波ホール」で公開されて以来、34年ぶりとなる2012年10月に「渋谷ユーロスペース」にてリバイバル上映され、2016年5月に本邦初ソフト(Blu-ray)が販売された。この映画に惚れ込んだ人物が個人で会社を設立して、配給・ソフト発売にこぎつけたとのこと)。

映画:白夜.jpg 神経質そうでややストーカーっぽいとも思える青年(ギョーム・デ・フォレ)の、それでいて少白夜1シーン.bmpし滑稽で哀しい感じが原作を身近なものにしていて、恋人の名前をテープに吹き込んだりしている点などはオタク的であり、こんな青年は実際いるかもしれないなあと白夜1.jpg―。そうしたギョーム・デ・フォレの鬱屈した中にも飄々としたユーモアを漂わせた青年に加えて、イザベル・ヴェンガルテンの内に秘めた翳のある女性も良かったように思います(ギヨーム・デ・フォレ、イザベル・ヴェンガルテン共にこの作品に出演するまで演技経験が無かったというから、ブレッソンの演出力には舌を巻く)。

白夜 フランス版ポスター.jpgQUATRE NUITS D'UN REVEUR1.bmp 夜のセーヌ河をイルミネーションに飾られた水上観光バス(バトー・ムーシュ)がボサノヴァ調の曲を奏でながらクルージングする様を、橋上から情感たっぷりに撮った映像はため息がでるほど美しく、原作のロマンチシズムを極致の映像美にしたものでした。

 「白夜」という原作タイトルは邦訳の際のもので、ドストエフスキーがこの短編につけたタイトルは「「夢想者の4夜」です(右はブレッソン版ポスター)。

 どちらかと言えば、ヴィスコンティの作品の方を評価する人が多いのかも知れませんが、孤独な青年の繊細さ、情熱、詩情を中心に据えた物語だとすると、ジャン・マレー(元の恋人役)の存在はちょっと重すぎる感じもしました。最後に「元カレ」が現れる場面は共に原作通りですが、そもそも原作には、ヴィスコンティの作品のような離れ離れになる前の男女の遣り取りはなく、もっとシンプルです。いろいろな点で、個人的にはブレッソンの作品の方が勝っていると考えます。

ヴィスコンティ 白夜 .jpg「白夜」(ヴィスコンティ版).jpg「白夜」(ヴィスコンティ版)●原題:QUATER NUITS D'UN REVEUR●制作年:1957年●制作国:イタリア・フランス●監督・脚本:ルキノ・ヴィスコンティ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:ドストエフスキー●時間:107分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ/マリア・シェル/ジャン・マレー/クララ・カラマイ/マリア・ザノーリ/エレナ・ファンチェーラ●日本公開:1958/04●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:高田馬場東映パラス(86-11-30)(評価★★★)●併映:「世にも怪奇な物語」(ロジェ・バディム/ルイ・マル/フェデリコ・フェリーニ)

QUATRE NUITS D'UN REVEUR 1971.bmp「白夜」(ブレッソン版)●原題:QUATRE NUITS D'UN REVEUR(英:FOUR NIGHTS OF A DREAMER)●制作年:1971年●制作国:フランス●監督・脚本:ロベール・ブレッソン●撮影:ピエール・ロム●音楽:ミシェル・マーニュ●原作:ドストエフスキー●時間:83分●出演:イザベル・ヴェンガルテン/ギョーム・デ・フォレ●日ルイ・マル ブレッソン『白夜 鬼火』半券.jpg本公開:1978/02●配給:フランス映画社●最初に観た場所:池袋文芸坐(78-06-22)●2回目:池袋文芸坐(78-06-23)●3回目:有楽シネマ(80-05-25) (評価★★★★★)●併映(1回目・2回目):「少女ムシェット」(ロベール・ブレッソン)●併映(3回目):「鬼火」(ルイ・マル)

 【1958年文庫化・1979年改訂[角川文庫(小沼文彦:訳)]】

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