【1071】 ◎ アルベール・カミュ (窪田啓作:訳) 『異邦人 (1954/09 新潮文庫) ★★★★☆ (○ ルキノ・ヴィスコンティ 「異邦人」 (67年/伊・仏・アルジェリア) (1968/09 パラマウント) ★★★★)

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従来の文学作品の類型の何れにも属さず、かつ小説的濃密さを持つムルソーの人物造型。

異邦人 単行本(1951).jpg 異邦人 1984.jpg 異邦人1.jpg 異邦人 1999.jpg   異邦人ポスター.jpg
異邦人 (新潮文庫)』['84年]['99年]/企画タイアップカバー['09年]映画「異邦人」(1967)ポスター
単行本['51年/新潮社]
異邦人 新潮文庫 1.jpgAlbert Camus.jpg 1942年6月に刊行されたアルベール・カミュ(Albert Camus、1913‐1960/享年46)の人間社会の不条理を描いたとされる作品で、「きょう、ママンが死んだ」で始まる窪田啓作訳(新潮文庫版)は読み易く、経年疲労しない名訳と言えるかも(新潮社が仏・ガリマール社の版権を独占しているため、他社から新訳が出ないという状況はあるが)。

Albert Camus
異邦人 (新潮文庫)』['54年]

 養老院に預けていた母の葬式に参加した主人公の「私」は、涙を流すことも特に感情を露わにすることもしなかった―そのことが、彼が後に起こす、殆ど出会い頭の事故のような殺人事件の裁判での彼の立場を悪くし、加えて、葬式の次の日の休みに、遊びに出た先で出会った旧知の女性と情事にふけるなどしたことが判事の心証を悪くして、彼は断頭台による死刑を宣告される―。

L'Etranger.png 仏・ガリマール社からの刊行時カミュは29歳でしたが、この小説が実際に執筆されたのは26歳から27歳にかけてであり(若い!)、アルジェリアで育ちパリ中央文壇から遠い所にいたために認知されるまでに若干タイムラグがあったということでしょうか。但し、この作品がフランスで刊行されるや大きな反響を呼び、確かに、自分の生死が懸かった裁判を他人事のように感じ、最後には、「私の処刑の日に大勢の見物人が集まり、憎悪の叫びをあげて、私を迎えることだけ」を望むようになるムルソーという人物の造型は、それまでの文学作品の登場人物の類型の何れにも属さないものだと言えるのでは。1957年、カミュが43歳の若さでノーベル文学賞を受賞したのは、この作品によるところが大きいと言われています。

Gallimard版(1982)

 カフカ的不条理とも異なり、第一ムルソーは自らの欲望に逆らわず行動する男であり(ムルソーにはモデルがいるそうだが、この小説の執筆期間中、カミュ自身が2人の女性と共同生活を送っていたというのは小説とやや似たシチュエーションか)、また、公判中に自分がインテリであると思われていることに彼自身は違和感を覚えており(カミュ自身、自らが実存主義者と見られることを拒んだ)、最後の自らの死に向けての"積極"姿勢などは、むしろカフカの"不安感"などとは真逆とも言えます。

サルトル .jpg サルトルは「不条理の光に照らしてみても、その光の及ばない固有の曖昧さをムルソーは保っている」とし、これがムルソーの人物造型において小説的濃密さを高めているとしていますが、このことは、『嘔吐』でマロニエの樹を見て気分が悪くなるロカンタンという主人公の"小説的濃密さ"の欠如を認めているようにも思えなくもないものの、『嘔吐』と比較をしないまでも、第1部の殺人事件が起きるまでと第2部の裁判場面の呼応関係など、小説としてよく出来ているように思いました。
 
The Stranger 1967.jpg異邦人QP.jpg ルキノ・ヴィスコンティ(Luchino Visconti、1906‐1976/享年69)監督がマルチェロ・マストロヤンニ(Marcello Mastroianni、1924‐1996/享年72)を主演としてこの『異邦人』を映画にしていますが('67年)、テーマがテーマである上に、小説の殆どはムルソーの内的独白(それも、だらだらしたものでなく、ハードボイルドチックな)とでも言うべきもので占められていて、情景描写などはかなり削ぎ落とされており(アルジェリアの養老院ってどんなのだTHE STRANGER (LO STRANIERO)s.jpgろうか、殆ど情景描写がない)、映画にするのは難しい作品であるという気がしなくもありませんでした。それでもルキノ・ヴィスコンティ監督は果敢に映像化を試みており、当初映画化を拒み続けていたカミュ夫人が原作に忠実に作ることを条件として要求したこともありますが、文庫本に置き換異邦人パンフレット.jpgえるとほぼ1ページも飛ばすことなく映像化していると言えます。第2部の裁判描写はともかく、第1部での主人公とさまざまな登場人物とのやりとりが第2部の裁判場面の伏線となっている面もあり、その第1部のさまざまな場面状況が具体的に掴めるのが有難いです(そう言えばこの作品、かつて日本語吹き替え版がテレビ放映されたこともあるのに、なぜかDVD化されていないなあ)。

映画プレミアパンフレット 「異邦人(A4/紺背景版)」 監督 ルキノ・ビスコンティ 出演 マルチェロ・マストロヤンニ/アンナ・カリーナ/ベルナール・ブリエ/ジョルジュ・ウィルソン/ブルノ・クレメール/ピエール・バルタン/ジャック・エラン/マルク・ローラン/ジョルジュ・ジレー

The Stranger 1967  2.jpgルキノ・ヴィスコンティ監督の『異邦人』.jpg 松岡正剛氏はこの映画を観て、ヴィスコンティはムルソーを「ゲームに参加しない男」として描ききったなという感想を持ったそうで、これは言い得ているのではないかという気がします。原作にも、「被告席の腰掛の上でさえも、自分についての話を聞くのは、やっぱり興味深いものだ」という、主人公の冷めた心理描写があります。一方で、ラストのムルソーの司祭とのやりとりを通して感じられる彼の「抵抗」とその根拠みたいなものは映画ではやや伝わってきにくかったように思われ、映像化することで抜け落ちてしまう部分はどうしてもあるような気がしました。だだ、そのことを考慮しても、ルキノ・ヴィスコンティ監督の挑戦は一定の評価を得てもいいのではないかとも思いました。

映画異邦人2.jpg この世の全てのものを虚しく感じるムルソーは、自らが処刑されることにそうした虚しさからの自己の解放を見出したともとれますが、ああ、やっぱり死刑はイヤだなあとか単純に思ったりして...(小説は獄中での主人公の決意にも似た思いで終わっている)。ムルソーが母親の葬儀の翌日に女友達と海へ水遊びに行ったのは、彼が養老院の遺体安置所の「死」の雰囲気から抜け出し、自らの心身に「生」の息吹を獲り込もうとした所為であるという見方があるようです。映画を観ると、その見方がすんなり受け入れられるように思いました。

映画「異邦人(Lo straniero)」より

lo_straniero1.jpg ママンの出棺を見るムルソー(マルチェロ・マストロヤンニ)
lo_straniero2.jpg 葬儀の翌日、海辺で女友達(アンナ・カリーナ)に声をかける
lo_straniero3.jpg アラブ人達と共同房にて(死刑確定後は独房に移される)

映画 異邦人.jpg映画 「異邦人」.jpg異邦人 .jpg「異邦人」●原題:THE STRANGER (LO STRANIERO/L'ÉTRANGER)●制作年:1967年●制作国:イタリア・フランス・アルジェリア●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ/エマニュエル・ロブレー/ジョルジュ・コンション●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ピエロ・ピッチオーニ●原作:アルベール・カミュ「異邦人」●時間:104分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ(ムルソー)/アンナ・カリーナ(マリー・カルドナ)/映画チラシ 「異邦人」 岩波シネサロン 8.jpg映画チラシ 「異邦人」 岩波シネサロン 1.jpgジョルジュ・ウイルソン(予審判事)/ベルナール・ブリエ(弁護人)/ジャック・エルラン(養老院の院長)/ジョルジェ・ジュレ(レイモン)/ジャン・ピエール・ゾラ(事務所の所長)/ブリュノ・クレメール(神父)/アルフレード・アダン(検事)/アンジェラ・ルーチェ(マッソン夫人)/ミンモ・パルマラ(マッソン)/ヴィットリオ・ドォーゼ(弁護士)●日本公開:1968/09●配給:岩波ホールビル.jpgパラマウント●最初に観た場所:岩波シネサロン(80-07-13)●2回目:池袋文芸座ル・ピリエ(81-06-06)(評価:★★★★)●併映(2回目):「処女の泉」(イングマル・ベルイマン)
岩波シネサロン(岩波ホール9F)
Ihôjin (1967)
Ihôjin (1967).jpg
IMG_4920.JPG異邦人 新潮文庫.jpg   
    
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 【1954年文庫化[新潮文庫〕】

              



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和田泰明

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