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森崎東監督によるシリーズ第3作。言われているほどには前の路線を外していないが...。

「フーテンの寅」1970.jpg「フーテンの寅」d.png「フーテンの寅」01.jpg
第3作 男はつらいよ フーテンの寅 HDリマスター版 [DVD]

「フーテンの寅」6.jpg 旅先で病気になってしまい、宿の女中(悠木千帆)に親兄弟があるのか心配された寅次郎(渥美清)は、とらやの人びとの写真を見せ、ついさくらを「奥さん」、満男を「自分の赤ちゃん」、おばちゃん・おいちゃんを「おふくろとおやじ」と見栄を張ってしまう。久々に故郷柴又に帰ってきた寅次郎を見合い話が待っていた。本人もすっかりその気になったが、相手の駒子(春川ますみ)は寅次郎と旧知の仲であり、しかも旦那持だった。寅次郎は、駒子の妊娠も知らずに旦那が浮気したと聞くや、二人の仲を取り持つために一肌脱ぐ。しかし、二人のための結婚式や新婚旅行まがいの宴会やハイヤーの代金をとらやに請求したことが原因で、おいちゃん(森川信)と大ゲンカして「フーテンの寅」o1.pngしまい、いたたまれなくなった寅次郎は再び旅に出る。旅先の伊勢・湯の山温泉で腹を下した寅次郎は、便所を借りに温泉宿・もみじ荘に入り浸り、そこの女将・お志津(新珠三千代)の同情を買って宿に泊めてもらう。未亡人のお志津に惚れ込んた寅次郎は、宿代がないことを理由にもみじ荘に居着くようになり、住み込みの番頭として一生懸命働く。お志津の弟・信夫(河原崎建三)となじみの芸者・染奴(香山美子)との仲を取り持つことに奔走してお志津に感謝され、お志津の小さな女の子を可愛がるあまり風邪を引いてお志津に看病してもらって、寅次郎は有頂天になる。しかし、寅次郎の知らないところで、お志津には再婚を考えている相手(高野真二)がいたのだった―。

 1970年1月公開の「男はつらいよ」シリーズの3作目で、今回は前作に代わって山田洋次監督から、山田洋次監督の助監督出身で(ただし4歳年長)、第1作やテレビ版の脚本にも参加した森崎東が監督し、山田洋次は当時、本作はもういいと思っており脚本(原作)のみ書いています。ただし、山田洋次監督はその後、この森崎東が監督した第3作と、小林俊一が監督した第4作に違和感を覚えて第5作で監督に復帰、以降、最後まで他人に監督させることはなかったことになります。

 森崎東の監督としての個性は山田洋次とは対照的で、薄味(山田)と濃い味(森崎)、柔と剛、洗練さと野暮ったさとはよく言われているところですが、個人的には、原作が山田洋次監督であることもあってか、言われているほどには第1作、第2作の雰囲気を大きく外してはいないように思いました(細部にこだわりを持つ人は、また異なる印象を持つのだろうが)。

「フーテンの寅」倍賞千恵子.jpg ストーリー的には、おいちゃん・おばちゃんが湯の山温泉を訪れた際、寅次郎が働いている宿に泊まり、寅と出会う(さらにマドンナのお志津の存在を知る)という設定になっていて、お志津がとらやを一度も訪れていないことも含め、旅先の寅次郎が中心の話になっており、さくら役の倍賞千恵子の出番は非常に少ないのが特徴でしょうか。

「フーテンの寅」m.jpg あとは、自分なりに"細部"を突き詰めていくと、おいちゃんと喧嘩したり(まあ、これはシリーズの他の作品でもあることが、この回のはかなり激しくやり合い、それが原因で寅次郎は再び旅に出ることになる)、染奴の中風にかかった父・清太郎(花沢徳衛)が元テキ屋であるということで、寅次郎の将来を暗示するかのように見えてしまったりするのがやや暗かったりします。駒子と再び一緒になった夫が、寅次郎からの電話をプツリと切ってしまうあたりもちょっと冷たい感じがしました。

「フーテンの寅」k.jpg 森崎東監督の演出は、シリーズ第4作「新・男はつらいよ」の監督・小林俊一とは相通じるものがあるかもしれません(小林俊一は山田洋次と共にこの作品に脚本参加している)。定番である「寅次郎の失恋」も、山田流では哀愁が漂う切ない雰囲気ですが、森崎・小林流だと、寅次郎の勘違いが際立っていて、可哀そうなのは同じですが、やや乾いた感じでした。暗い部分と明るい部分でバランスをとっていて、結局、前作に比べ「雰囲気を大きく外してはいない」という個人的感想に至ったのですが、観る人によって山田洋次監督版とは「大きく異なる」という人がいても納得です(細部を見ていけば必然的にそういうことになる)。

「フーテンの寅」yuki.jpg「男はつらいよ フーテンの寅」●制作年:1970年●監督:森崎東●脚本:山田洋次/小林俊一/宮崎晃●撮影:高羽哲夫●音楽:山本直純●原作:山田洋次●時間:90分●出演:渥美清/新珠三千代(東宝)/倍賞千恵子/香山美子/河原崎建三/前田吟/春川ますみ/三崎千恵子/野村昭子/悠木千帆/佐々木梨里/高野真二/左卜全(特別出演)/佐藤蛾次郎/太宰久雄/晴乃ピーチク/晴乃パーチク/森川信/笠智衆/花沢徳衛●公開:1970/01●配給:松竹●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-02-02)(評価:★★★☆)

悠木千帆(樹木希林)/渥美清

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原作・映画ともいろいろケチをつけたくなるが、それなりに面白かった。

『真夏の方程式』文庫.jpg「真夏の方程式]2013.jpg 「真夏の方程式」0.jpg
真夏の方程式 (文春文庫)』「真夏の方程式 DVDスタンダード・エディション」福山雅治

 夏休みのある日から両親の都合で一人、親戚が経営する旅館で過ごすことになった小学4年生の恭平は、玻璃ヶ浦へ向かう電車の中で湯川に出会う。湯川は海底鉱物資源開発の説明会にアドバイザーとして出席するために玻璃ヶ浦へ行くことになっており、湯川は気まぐれから恭平の親戚の旅館に泊まることにする。そんな中、同じ旅館に泊まっていた客の塚原正次が夜中に姿を消し、翌朝海辺で変死体となって発見される。県警は現場検証を行い、堤防から誤って転落した事故死の線が濃厚と判断していた。同じ頃、草薙は多々良管理官から直々に特命の捜査を依頼される。玻璃ヶ浦の事件の被害者の塚原は元警視庁捜査一課所属の刑事で、その死に疑問を抱く多々良は、同じ旅館に湯川が泊まっていることを知り、草薙を連絡係にして独自の捜査を命じたのだ。草薙は内海とともに、湯川と連絡を取りながら捜査を行う。捜査を進めるうち、塚原は殺害された後に、海岸に遺棄された可能性が高くなってゆく。塚原は、何のために玻璃ヶ浦に来たのか。湯川は「ある人物の人生が捻じ曲げられる」ことを防ぐために、真相に挑んでいく。鍵を握るのは、16年前に塚原が担当した元ホステス殺人事件。そして、その裏には緑岩荘を営む川畑家が隠していたある重大な秘密があった―。
真夏の方程式
『真夏の方程式』単行本.jpg 2011年6月に文藝春秋より刊行されたガリレオシリーズ第6弾、シリーズ3作目の長編で、2013年6月29日に、「ガリレオ」シリーズの劇場版第2作として映画化・公開され、累計興収33.1億円で2013年度の邦画実写第1位となっています。シリーズでは『容疑者Xの献身』に次いで映画化された作品の原作であり、それなりに面白かったように思います。

 と言うか、世評の高い『容疑者Xの献身』の方を個人的にはあまり高く評価しておらず、なぜならば殺人の隠蔽のために別の殺人を犯すのはどうかと思ったからで、浮浪者だからと殺してしまっていいのかという点がどうしても引っ掛かるためです(これについては北村薫氏が、ミステリあるいは小説を道徳論で論ずるべきでないとの立場を示しているが)。

 この『真夏の方程式』も、まったく問題がないわけではなく、業務上過失致死を装って殺害された元刑事の塚原に何か非かあったのではないのに、彼の命が軽く扱われている気がするし、子どもに、本人が知らずにとは言え、殺人の手助けをさせていいのかというのもあります。ただ、複雑な人間関係の中、最後の最後まで読めない展開に引き込まれたので、一応○としました。

「真夏の方程式」4.jpg 映画化作品の方は、比較的原作に忠実に作られていたように思います。原作にある、川畑成実(杏)の高校時代の同級生で今は地元で警官をやっている西口や、フリーライターで環境保護活動家の沢村が割愛されていましたが、却ってスッキリしたかも(沢村が割愛されたおかげで、死体を運ぶのがたいへんそうだったが(笑))。

 ただ、宿に泊まった塚原(塩見三省)が元刑事であることを仄めかして川畑節子(風吹ジュン)に仙波の名前を出して話を聴きたいと言い、それによって節子が激しく動揺するという場面が早々にあるため、川畑家に何か重大な秘密があって、そのため塚原が殺されたことが早くから判ってしまい、「刑事コロンボ」ではないですが、半ば「倒叙式」みたいになってしまったのはいかがなものかと思いました。

「真夏の方程式]相関図jpg.jpg ラストで、湯川(福山雅治)が成実に、「きみは恭平君を守ってほしい」と言うのも、前後の脈絡からしてどうしてこうなるの?という疑問はありますが、これは原作では「きみの務めは人生を大切にすることだ」となっています。どちらにしても、事件はこれで終わりにしようということですが、この映画を観る限り、恭平君は「いつか」ではなく「明日にでも」自分が事件当日にやったことの意味に気づきそうな感じでした。

「真夏の方程式」3.jpg いろいろケチをつけましたが、原作「真夏の方程式]201前田3.jpgを読んでよくわからなかった、カメラ付きケータイ入りのペットボトル・ロケットを何度も海に向かって打ち上げる実験の全容が理解できたのと(かなりの尺をとっていた)、湯川と対峙した旅館の主人・川畑重治を演じた前田吟が、(これで事件を落着させたいという)重要な場面でベテランの演技力を見せていたので、映画も一応○としました。

「真夏の方程式」p2.jpg「真夏の方程式」●制作年:2013年●監督:西谷弘●製作:鈴木吉弘/稲葉直人●脚本:福田靖●撮影:柳島克己●音楽:菅野祐悟/福山雅治●原作:東野圭吾●時間:129分●出演:福山雅治/吉高由里子/北村一輝/杏/豊嶋花/青木珠菜/前田吟/風吹ジュン/白竜/塩見三省/山﨑光/西田尚美/田中哲司/永島敏行/根岸季衣/神保悟志/綾田俊樹/筒井真理子●公開:2013/06●配給:東宝(評価:★★★☆)

杏(川畑成実)

「真夏の方程式」永島敏行.jpg永島敏行(多々良管理官)/ 北村一輝(草薙俊平)

【2013年文庫化[文春文庫]】

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テキヤの歴史と独特の慣行の実態を探る。今は多くは地元の零細業者か。

テキヤはどこからやってくるのか?2.jpgテキヤはどこからやってくるのか?.jpg      男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎ps.jpg
テキヤはどこからやってくるのか? 露店商いの近現代を辿る (光文社新書)』「男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎 HDリマスター版 [DVD]
2020年1月1日湊川神社
2020年01月01日湊川神社.jpg2020年1月1日湊川神社5168.JPG 初詣客で賑わう神社や祭りの縁日などで、ソース焼きそばを作ったりリンゴ飴を売ったりして、或は金魚すくいや射的などの露店商いをしている人たちは、一体どこからやったくるのかという疑問は、誰しもが抱いたことがあるのではないでしょうか。

 本書はそうした謎に包まれたテキヤの歴史を近世から現代まで探るとともに、東京の下町で「テキヤさん」と呼ばれている伝統的な露店商の、その「親分子分関係」や「なわばり」などの独特の慣行の実態を調査したものです。章立ては―
 【第一章】 露店商いの地域性
 【第二章】 近世の露店商
 【第三章】 近代化と露店 ―― 明治から第二次世界大戦まで
 【第四章】 第二次世界大戦後の混乱と露店商 ―― 敗戦後の混乱期
 【第五章】 露店商いをめぐる世相解説 ―― 1960年代以降
となっていて、第5章が東京の下町のテキヤを調査し、その「親分子分関係」や「なわばり」などについて述べた、フィールドリサーチにもなっています。

 本書によれば、テキヤには北海度・東日本、西日本、沖縄の三地域によって地域的な違いが大きく、関東地方の場合、大まかに言って近世には香具師(ヤシ)、近代になってテキヤ、その後露天商と名称が変化したらしく、香具師と呼ばれていたのは、「龍涎香」などのお香の原料を扱っていたりしたこともあったためのようです。

 映画「男はつらいよ」の「寅さん」のイメージがあって、テキヤに対して流れ者的なイメージがありますが、縁日の露店などで出店している露店には、地元の零細事業者(組合員)の露店と遠方から来た人(タビの人)の露店があり、時代や場所にもよりますが、「さきに結論を述べてしまうと、大半は近所からやってくる」のが現況のようです(要するに、地元の零細業者なのだなあ。寅さんみたいに全国中を回っていたら交通費だけでたいへんかも)。

 店を出す場所、神社の石段の上か下かなど、どこに店を出すかというのはそのナワバリの親分が仕切ります。ただ、よそ者でも許諾を得れば店が出せて、その際の自己紹介が、寅さんでもお馴染みの口上ですが、映画でやっている口上と実際の口上はかなり違うようです(フィクションでやっている口上と違って形容がほとんどなく、出身地や自分の親分は誰かといった情報を相手に効率的に伝える実務的なもの)。

 ヤクザとテキヤの関係は、ある露店商が著者に語ったところによれば、テキヤは「七割商人、三割ヤクザ」であるとのことで、これは、反社会的組織の一員になっている者が三割という意味と、気質として三割は「ならず者」だという気分が込められている、と説明されています。また、「ヤクザは極道だが、テキヤは神農道だ」と言われ、テキヤは古来、農業と薬や医学の神である「神農の神」を奉ってきたとされています(ある種"宗教集団"的でもある)。

 なかなか興味深い内容でしたが、やや論文調と言うか、修士論文でも読んでいるような堅さがり、その分(ソース焼きそばがジュージュー焼ける音のような)シズル感にやや欠ける面もあったように思います。ただ、テキヤ集団の棲み分け調査の結果を地図で示しているところは、何となく"野生動物の棲み分け"調査にも似て興味深かったです。

 因みに、ある人の調べによると、寅さんが「男はつらいよ」シリーズの中で啖呵売りしているシーンはシリーズ全49作中47作の中にあり、最も多く売っていた商品は、易本・暦本(11回)、続いて、古本(雑誌)(4回)、正月の縁起物、スニーカー、サンダル(各3回)という順になっているとのことです。

男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎.png男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎_photo.jpg この間たまたま観たシリーズ第27作「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」('81年)では、寅さんが瀬戸内海のどこかの島で一人で夏物ワンピース(俗に言うアッパッパ)を売っているシーンと(ここで初めてマドンナと出会う)、東大阪市の石切神社の参道で"バイ"しているシーンがありましたが(ここで偶然マドンナと再会する)、参道に露店を出すときはやはり、地元の親分に対して口上を述べたということになるのでしょうか。ヤクザへの連想を避けるために、そうしたシーンを山田洋次監督は敢えてシリーズでは殆ど取り扱っていない気もします(テキヤの生活が最もよく描かれているのは森崎東監督によるシリーズ第3作「男はつらいよ フーテンの寅」('70年)だと言われている)。

男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎 水中花.jpg この「男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎」のマドンナ役は松坂慶子(撮影時28歳)で(寅さんは参道で「水中花」を売っていた)、松坂慶子はこの作品で第5回「日本アカデミー賞」最優秀主演女優賞など多数の賞を受賞しています。個人的には"演技力"より"美貌"がもたらした賞のように思われなくもないですが、この頃の松坂慶子はこの後に「道頓堀川」('82年)、「蒲田行進曲」('82年)に出演するなど、乗りに乗っていた時期ではありました。

「男はつらいよ  浪速の恋の寅次郎 」.gif 「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」松坂.gif

男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎 [DVD]
男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎dvd.jpg男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎g_photo2.jpg「男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎」●制作年:1981年●監督:山田洋次●製作:島津清/佐生哲雄●脚本:山田洋次/朝間義隆●撮影:高羽哲夫●音楽:山本直純●時間:104分●出男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎 吉岡秀隆.jpg男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎 mastszaka.jpg演:渥美清/松坂慶子/倍賞千恵子/三崎千恵子/太宰久雄/前田吟/下條正巳/吉岡秀隆(シリーズ初登場)/正司照江/正司花江/笑福亭松鶴/関敬六/大村崑/笠智衆/初音礼子/芦屋雁之助●公開:1981/08●配給:松竹(評価:★★★☆)
 
 
●寅さんDVDマガジンによる男はつらいよベスト18(2011)
講談社「寅さんDVDマガジン」として編集部とファンが選んだ人気18作品を刊行(ベスト18作品内での順位は不明のため、マガジン刊行順に並べている)。
刊行順 作数  作品名         マドンナ
vol.1  1  男はつらいよ         光本幸子
vol.2  17  男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け 太地喜和子
vol.3  15  男はつらいよ 寅次郎相合い傘   浅丘ルリ子
vol.4  9  男はつらいよ 柴又慕情     吉永小百合
vol.5  30  男はつらいよ 花も嵐も寅次郎  田中裕子
vol.6  11  男はつらいよ 寅次郎忘れな草    浅丘ルリ子
vol.7  32  男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎  竹下景子
vol.8  25  男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 浅丘ルリ子
vol.9  14  男はつらいよ 寅次郎子守唄   十朱幸代
vol.10  22  男はつらいよ 噂の寅次郎    大原麗子
vol.11  2  続・男はつらいよ        佐藤オリエ
vol.12  5  男はつらいよ 望郷篇      長山藍子
vol.13  7  男はつらいよ 奮闘篇        榊原るみ
vol.14  19  男はつらいよ 寅次郎と殿様     真野響子
vol.15  27  男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎  松坂慶子
vol.16  29  男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋 いしだあゆみ
vol.17  38  男はつらいよ 知床慕情        竹下景子
vol.18  42  男はつらいよ ぼくの伯父さん   後藤久美子

  
  
 

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浅丘リリー、2度目の登場。「寅のアリア」「メロン騒動」などの名場面が。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘_poster15.jpg男はつらいよ 寅次郎相合い傘dvd.jpg 男はつらいよ 寅次郎相合い傘 船越.jpg
男はつらいよ・寅次郎相合い傘 [DVD]」渥美清/浅丘ルリ子/船越英二

男はつらいよ 寅次郎相合い傘_0.jpg シリーズ第11作「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」のマドンナ・リリー(浅丘ルリ子)が再登場。葛飾柴又の"とらや"で、寅次郎(渥美清)の帰省が遅いことを皆が心配しているところへリリーが訪れ、寿司屋の亭主と離婚した彼女は、再びドサ回りの歌手をしているという。寅次郎に会えなかったことを残念がるリリー。その寅次郎は青森で、通勤途中不意に蒸発したくなったというサラリーマン・兵頭謙次郎(船越英二)と出会う。自由な生き方に憧れるという兵頭に手を焼く寅次郎だった男はつらいよ 寅次郎相合い傘01.jpgが、そこで偶然にも、青森に来ていたリリーと再会、寅次郎とリリーは兵頭も巻き込んで北海道へと向男はつらいよ 寅次郎相合い傘03.jpgかう。ごろ寝や啖呵売もこなして楽しい道中となるが、小樽に着いた兵頭はどうしても彼の初恋の人に会いたいと言う。その女性・信子(岩崎加根子)は夫を亡くし女手一つで子供を育てており、懸命に生きる姿を見た兵頭はいたたまれなくなる。そんな彼の複雑な心中をめぐって寅次郎とリリーは対立し、ついには喧嘩別れしてしまう男はつらいよ 寅次郎相合い傘_4.jpg。やがて柴又に帰ってきた寅次郎だが、リリーとの一件を悔やんで表情は沈んだまま。そこへひょいとリリーが現れ、リリーもまたあの一件を悔やんでおり、二人はあっという間に寄りを戻す。リリーとすっかりいい仲になった寅次郎だが、その仲睦ましさが近所でも噂になり始めた時、さくらは寅次郎がこのままリリーと結ばれればいいと思うようになる―。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘 Ls.jpg 1975(昭和50)年8月公開のシリーズ第15作で、第11作「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」('73年)以来の再登場。以後、第25作「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」('80年)、渥美清(1928-1996/享年68)の遺作となった第48作「男はつらいよ 寅次郎紅の花」('95年)と通算4回、松岡リリーという同一キャラクターでマドンナ役を務めたことになります。満男のマドンナとしてシリーズ終盤に出演した後藤久美子の5回を除いて、寅次郎のマドンナとしては、竹下景子の3回を超えて最多となっていますが、むしろ同じキャラクター(歌子)で2回登場した吉永小百合が比較の対象となるでしょうか。4回は傑出していると思います。

 やはり、役者というのは役者同士の相性もあるし、演技力があって相性が良ければそれだけいい作品が出来るということなのでしょう。この「寅次郎相合い傘」は、シリーズ作品の人気ランキングでも常に上位に来る作品です。また、「男はつらいよ」シリーズは、全48作中9作が「キネマ旬報ベストテン」に入選していますが、浅丘ルリ子をマドナに迎えたこの作品も'75年度の第5位にランクインしています(同ベストテンでは、「駅前」「社長」「若大将」シリーズなど、その他時代劇も含めシリーズ物映画は殆ど無視される傾向にあり、シリーズ作が何度かランクインした「仁義なき戦い」の場合はストーリーが進行・完結していく五部作であり、永劫回帰型シリーズとして何度も「キネ旬報ベストテン」にランクインしたのは「男はつらいよ」シリーズのみだと言う)。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘27.jpg この「寅次郎相合い傘」は、男女の機微を浮き彫りにしつつ余韻を残して終わるラストもいいですが(寅次郎とリリーは恋人同士である以上に、むしろ友情で結ばれた"同志"に近かったのか)、この1本の作品の中に、シリーズを通しての名シーンと言われ、よく「名場面ベスト10」などで挙げられるシーンが2か所もあり、それぞれ「寅のアリア」「メロン騒動」と呼ばれています。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘 寅のアリア.jpg 「寅のアリア」は、リリーをキャバレーまで送った寅次郎が、そのあまりの環境の劣悪さに驚き、「俺にふんだんに銭があったら」と大ステージで歌い上げるリリーの姿を、さくらたちに臨場感たっぷりに想像で語るもので、スタッフによれば、後日リリー役の浅丘ルリ子がこのシーンを見て涙したとのことです(倍賞千恵子著『お兄ちゃん』('97年/廣済堂出版)。渥美清の本領発揮というか、山田洋次監督は渥美清に初めて会った頃、彼が語る的屋の口上を聞いてこの人は天才だと思ったそうですが、こうしたところでその力を引き出しているのはスゴイと思いました。

「メロン騒動」.jpg 「メロン騒動」は、寅次郎に世話になったと兵頭から高級メロンを貰ったとらやの面々が切り分けて食べ始めたところへ寅次郎が外から戻って来て、寅次郎の分を勘定に入れ忘れていたこ男はつらいよ 寅次郎相合い傘lt.jpgとに気付いた一同が大慌てで場を取り繕う様に、とらやの連中は心が冷たいと激しくなじる寅次郎に対し、リリーが核心を男はつらいよ 寅次郎相合い傘 20.jpg突いた言葉で寅次郎を一喝してしまうという場面ですが、こちらは、浅丘ルリ子の演技が渥美清のそれに拮抗した場面であるとも言え、大袈裟に言えば、シリーズを通してそれまで憧れの対象でしかなかったマドンナの位置づけを、主体的な存在にパラダイム変革させた場面でもあったかと思います。

浅丘ルリ子 やすらぎの郷.jpg浅丘ルリ子 寿桂尼.jpg 浅丘ルリ子は最近またNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の寿桂尼役やテレビ朝日系ドラマ「やすらぎの郷」への出演で注目されていますが、もともと演技も歌も上手い方だと思います。歌の方は20曲以上シングルを出した後に、「愛の化石」('69年)の大ヒットで逆に歌手を引退したような状況になる一方、「男はつらいよ」シリーズでは売れない歌手役で、この作品の中でもちらっと歌っているのは興味深いです(とらやの面々と歌っているうちにソロになる)。

「やすらぎの郷」加賀まり子・石坂浩二・浅丘ルリ子・野際陽子

男はつらいよ 寅次郎相合い傘  16.jpg リリーが仕事で歌う場末の酒場のうらぶれた様子は、寅次郎の口から語らせるものの映像化せず、一方で、リリーが別の女性と同居する狭いアパートに相手方の男が来て彼女がそこにおれなくなる場面は映像化しており、その辺りのリアリティの出し方の加減が上手いと思いました。あまり全部隠してしまうとリアリティが湧かないし、あまり見せ過ぎると暗くなり過ぎるし...(シリーズ全作を通して観ると、この加減に失敗しているものも幾つかある)。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘 Eg2.jpg サラリーマン・兵頭を演じた船越英二の演技も手堅く、兵頭に纏わるサイドストーリーもまずまずでしょうか。ただ、失踪事件をモチーフにした野村芳太郎監督(松本清張原作)の「ゼロの焦点」('61年)や今村昌平監督の「人間蒸発」('67年)が60年代だったことを思うと、当時('75年頃)そのようなことがどれくらい時事性があったのか...。

男はつらいよ 寅次郎相合い傘 シンドバッド 黄金の航海.jpg 因みに、冒頭にある、映画館でうたた寝しながら寅次郎が見る夢は、前年['74年]12月日本公開の「シンドバッド 黄金の航海」('73年/米)のパロディだそうですが(統一劇場と米倉斉加年、上條恒彦がノンクレジットで友情出演している)、個人的には、こちらもまた当時より一昔前の、小野田嘉幹監督の「女奴隷船」('60/新東宝)を想起させられました(山田洋次監督も観たのではないか)。
15作 男はつらいよ.jpg

「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」(第15作)HDリマスター「メロン騒動」
 

「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」浅丘・前田.gif男はつらいよ 寅次郎相合い傘02.jpg「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」●制作年:1975年●監督:山田洋次●脚本:山田洋次/朝間義隆●撮影:高羽哲夫●音楽:山本直純●時間:91分●出演:渥美清/浅丘ルリ子/船越英二/倍賞千恵子/下條正巳/三崎千恵子/太宰久雄/佐藤蛾次郎/吉田義夫/岩崎加根子/久里千春/早乙女愛/中村はやと/宇佐美ゆふ/村上記代/光映子/秩父晴子/米倉斉加年(ノンクレジット)/上條恒彦(ノンクレジット)/谷よしの/笠智衆●公開:1975/08●配給:松竹(評価:★★★★)

●キネマ旬報 一般映画ファンによる男はつらいよランキング
2006年1月上旬号のキネマ旬報より、キネ旬の定期購読者が選んだ男はつらいよランキング。
順位  作数   作品名      マドンナ
1位   15   男はつらいよ 寅次郎相合い傘  浅丘ルリ子
2位   17   男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け  太地喜和子
3位   38   男はつらいよ 知床慕情     竹下景子
4位   1   男はつらいよ          光本幸子
5位   2   続・男はつらいよ      佐藤オリエ
6位   5   男はつらいよ 望郷篇     長山藍子
7位   29  男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋 いしだあゆみ
8位   9   男はつらいよ 柴又慕情     吉永小百合
9位   26   男はつらいよ 寅次郎かもめ歌  伊藤蘭
10位  10   男はつらいよ 寅次郎夢枕     八千草薫

「●ま行の日本映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒「●や‐わ行の日本映画の監督」【1555】 藪下 泰司 「白蛇伝
「●橋本 忍 脚本作品」の インデックッスへ 「●芥川 也寸志 音楽作品」の インデックッスへ「●丹波 哲郎 出演作品」の インデックッスへ「●三國 連太郎 出演作品」の インデックッスへ「●大滝 秀治 出演作品」の インデックッスへ「●高倉 健 出演作品」の インデックッスへ「●北大路 欣也 出演作品」の インデックッスへ「●緒形 拳 出演作品」の インデックッスへ「●小林 桂樹 出演作品」の インデックッスへ「●加藤 嘉 出演作品」の インデックッスへ「●加賀 まりこ 出演作品」の インデックッスへ「●前田 吟 出演作品」の インデックッスへ「●秋吉 久美子 出演作品」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

事実をアムンゼン・スコット隊の物語のようにドラマチックに改変した原作と映画。

八甲田山  1.jpg八甲田山 1977.jpg八甲田山  2.jpg 八甲田山 dvd.jpg
Hakkodasan (1977)   「八甲田山 完全版 [DVD]

八甲田山 大滝秀治.jpg八甲田山1s.jpg 日露戦争開戦目前の1901(明治34)年10月、軍部はロシア軍と戦うためには雪と寒さに慣れておく必要があると判断、弘前の第4旅団司令部で行われた「日露戦争に備えての雪中行軍作戦会議」に、弘前第8師団より第4旅団長・友田少将(島田正吾)、参謀長・中林大佐(大滝秀治)、「弘前第31連隊」より連隊長・児島大佐(丹波哲郎)、第1大隊長・門間少佐(藤岡琢也)、徳島大尉(高倉健)、「青森第5連隊」よ八甲田山2a96e.jpg八甲田山 高倉2.jpgり津村中佐(小林桂樹)、木宮少佐(神山繁)、神田大尉(北大路欣也)、第2大隊長・山田少佐(三國連太郎)らがそれぞれ出席して、耐寒訓練として冬の八甲田山を軍行する計画を立て、神田大尉率いる「青森第5連隊」と徳島大尉率いる「弘前第31連隊」の参加が決まる。双方は青森と弘前から出発、八甲田山ですれ違うという進行が大筋だった。翌年1月20日、徳島率いる弘前0八甲田山80.jpg第31連隊は、雪に馴れている27名の編成部隊で弘前を出発し、一方の神田大尉も小数精鋭部隊の編成を申し出たが、大隊長・山田少佐に拒否され210名という大部隊で青森を出発した。神田の青森第5連隊の実権は大隊長・山田少佐に移っており、神田の用意した案内人を山田が断ってしまう。神田の部隊は低気圧に襲われ、磁石が用をなさなくなり、ホワイトアウトの中に方向を失い、次第に隊列は乱れ、狂死する者0八甲田山12.jpgさえ出始める。一方徳島の部隊は、案内人(秋吉久美子)を先頭に風のリズムに合わせ、八甲田山に向って快調に進む。出発してから1週間後、徳島隊は八甲田に入って神田大尉の従卒の遺体を発見、神田の青森第5連隊の遭難は疑う余地はなかった。そして徳島は、吹雪の中で永遠の眠りにつく神田と再会。青森第5連隊の生存者は山田少佐以下12名。徳島の弘前第31連隊は全員生還。山田少佐はその後に拳銃自殺する―。

0八甲田山 高倉.jpg 1977年公開の森谷司郎監督、橋本忍脚本、高倉健・北大路欣也主演作品で、原作は新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』('71年/新潮社)。原作は、1902(明治35)年)1月、陸軍第8師団の「青森歩兵第5連隊」が青森市街から八甲田山の田代新湯に向かう雪中行軍訓練で参加者210名中199名が死亡した事件に材を得ていますが、「弘前歩兵第31連隊」の雪中行軍訓練と時期は重なるものの、お互いに相手の計画を知らなかったということで、これを徳島・神田両大尉が同時に行軍指揮の命令を受け、事前に両隊が八甲田山で出会うことを示し合わてスタートしたように描き、更に、強行スケジュールを立てて先を急いだ神田・青森隊と、自然の驚異への畏怖からそれに逆らわず慎重に行動した徳島・弘前隊を対比的に描くことで、ちょうど南極点一番乗りを目指して片や偉業達成、片や全滅したアムンゼン隊とスコット隊の物語のようにドラマチックにしたのは、新田次郎の作家としての力量の為せる技でしょう。

八甲田山 1977  三國s.jpg 従って、事実としては、映画のように高倉健が演じた徳島大尉(モデルは福島泰蔵大尉)と北大路欣也が演じた神田大尉(モデルは神成文吉大尉)が出発前に出会って語らったこともなく、また、映画では三國連太郎演じる山田少佐(モデルは山口鋠少佐)の我田引水の判断や行動が遭難事故の誘因となったように描かれていますが、実際には山口少佐の遭難事故に与えた影響は判明していないそうです(部下の犠牲で生き残ったことへの自責の念から病院で拳銃自殺するというのも新田次郎の創作)。

0八甲田山es.jpg 一方の、徳島大尉は理想のリーダーのように描かれていますが、実際には福島隊も地元の案内人との関係は良くなかったらしく、高倉健の徳島大尉が秋吉久美子演じる(軽々と雪山を登って行く部分はスタント?)案内人に感謝の意を表して部下らに捧げ銃を命じるのは完全に映画のオリジナルで、新田次郎原作においてすら、小銭を渡して冷たくあしらったことになっています(映画では、三國連太郎演じる山田少佐が「金目当てか?」と案内人を追い返したのと対照的な行動として描かれている。感動的な場面ではある)。

八甲田山i.jpg しかしながら、事実がどうだったかはともかく、映画は映画としてみれば面白く、少なくとも長尺の割には、途中飽きることはありませんでした。原作の方は企業研修や大学において、リスクマネジメントやリーダー論などの経営学のケーススタディに用いられることがあるようですが、当然事前に読ませておくということでしょう。映画も(その後の討論を含め1日がかりの研修ならともかく)勤務時間中に見せるのは約2時間40分の長さはきついかもしれません。

八甲田山 北大路欣也.jpg そもそも、原作にしても映画にしても、明治陸軍という特殊な組織の中での話であって、これを現代のビジネス社会に当て嵌めて考えたり応用したりするには無理があるという見方もあるようですが、確かにそうした面もあるかもしれないし(「北大路欣也演じる神田大尉が上官の無茶な命令に逆らえないのはフォロワーシップの欠如だ」と言うのは簡単だが、当時の陸軍においては上官命令には絶対服従だっただろう)、一方、高倉健演じる徳島大尉はあまりに理想的に描かれ過ぎている感じもします。しかしながら、個々のリーダーシップと言うより組織論的な観点から見ると、命令系統の混乱が青森隊を混迷状況に陥れたわけで、マネジメントにおける「命令統一の原則」が守られなかった場合どうなるかということと呼応しており、参考になる部分はあるかもしれません。

0八甲田山 1977   8.jpg 今日まで続く"山岳映画"の流れの嚆矢にもなったとされる作品ですが(一応これ以前にも「銀嶺の果て」('47年)や「黒い画集 ある遭難」('61年)といった作品はあるが)、この作品のロケは大変だったろうなあと思います。撮影隊が本当に遭難しそうになったという逸話があるというのは頷けますが、今だったらかなりの部分をCGでカバーしてしまうだろうから、そう考えると全てフィルムで撮っているというのは映像的に貴重かも。但し、カメラマンの木村大作は吹雪の中で照明が殆ど使えなかったことが不満だったとのことで、確かに白い雪の中で登場人物の顔が黒く潰れてしまっているというのは多く見られました。おそらくこれはデジタルリマスター版になってもそう改善されないものなのでしょう。

八甲田山_n.jpg八甲田山(映画) 加藤嘉 .jpg
徳島大尉(第一大隊第二中隊長):高倉健
神田大尉(第二大隊第五中隊長):北大路欣也
山田少佐(第二大隊長):三國連太郎
村山伍長(第五中隊第二小隊):緒形拳
田茂木野村の作右衛門:加藤嘉
「八甲田山」欣也.jpg
八甲田山 特別愛蔵版 高倉健 主演 DVD2枚組」(2014年)
八甲田山 特別愛蔵版.jpg八甲田山03.jpg「八甲田山」●制作年:1977年●監督:森谷司郎●製作:橋本忍野村芳太郎/田中友幸●脚本:橋本忍●撮影:木村大作●音楽:芥川也寸志●時間:169分●出演:高倉健/北大路欣也/島田正吾/三國連太郎/丹波哲郎/藤岡琢也/加山雄三/小林桂樹/神山繁/森田健作/下絛アトム/大滝秀治/前田吟/東野英心/緒方拳/加賀まり子秋吉久美子八甲田山 加賀まりこ.jpg八甲田山 akiyosi.jpg山谷初男/丹古母鬼馬二/菅井きん/加藤嘉/田崎潤/栗原小巻/金尾哲夫/玉川伊佐男/江角英明/樋浦勉/浜田晃/加藤健一/江幡連/高山浩平/安永憲司/佐久間宏則/大竹まこと/新克利/山西道宏/船橋三郎●公開:1977/06●配給:東宝(評価:★★★☆)
加山雄三(大隊本部・倉田大尉)/前田吟(第三十一連隊・斉藤伍長)/森田健作(第五連隊・三上少尉)/秋吉久美子(案内人さわ)
「八甲田山」加山前田森田秋吉.jpg

「●わ 和田 誠」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【640】 和田 誠 『倫敦巴里
「●映画」の インデックッスへ 「●山田 洋次 監督作品」の インデックッスへ 「●「芸術選奨(監督)」受賞作」の インデックッスへ(山田洋次) 「●「芸術選奨(演技)」受賞作」の インデックッスへ(渥美清)「●渥美清 出演作品」の インデックッスへ「●笠 智衆 出演作品」の インデックッスへ 「●志村 喬 出演作品」の インデックッスへ 「●倍賞 千恵子 出演作品」の インデックッスへ 「●前田 吟 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●日本のTVドラマ (~80年代)」の インデックッスへ(「泣いてたまるか」) 「●木下忠司 音楽作品」の インデックッスへ(「泣いてたまるか」)「●山本 直純 音楽作品」の インデックッスへ(「男はつらいよ」) 

PART2で区切りをつけるつもりで書いていたと思われるだけに、密度濃く、充実している。

お楽しみはこれからだ Part2 映画の名セリフ.jpg 男はつらいよ 第一作 dvd2.jpg  和田 誠 氏.jpg 和田 誠
「男はつらいよ」(1969)渥美清/倍賞千恵子/光本幸子             
お楽しみはこれからだ〈Part2〉―映画の名セリフ (1976年)』 「男はつらいよ〈シリーズ第1作〉 [DVD]

 1973年から「キネマ旬報」に連載されたイラストレーターの和田誠(1936年生まれ)氏による映画エッセイシリーズのPART2で単行本刊行は1976(昭和51)年。PART1との違いは、日本映画がいくらか入っていることと、古い映画から当時の新作まで年代的に幅が拡がっていることです。このシリーズ、著者が許可を出さないためなのか文庫化されていませんが、一方で、当時の映画のロードショー料金を上回らない価格設定にするため、表紙は単色でしかも新刊時から帯無しというシンプルなスタイルになっています。このシンプルさにも、多くの装丁を手掛ける著者の美意識が表れているのかも。但し、例えば表紙にトリュフォーの「アメリカの夜」をもってきていますが、本文の形式を倣いながらも(この作品は本文でも取り上げいている)、表紙用に文も絵も新たに書き(描き)起こすなど、手抜きはしていません。

 日本映画は、冒頭から「幕末太陽伝」('57年)、「夫婦善哉」('55年)、「けんかえれじい」('66年)、「総長賭博」('68年)、「日本沈没」('73年)ときて、途中、「生きる」('52年)をはじめとする一連の黒澤明監督作や、中村翫右衛門らが出演したオムニバス映画「怪談」('64年)、片岡千恵蔵主演の「七つの顔の男だぜ」('60年)、更には高倉健主演の「網走番外地」('65年)やその他任侠映画まで様々取り上げていますが、それでもトータルでは洋画の方が多くなっています。

 新作も幾つか入れたといっても数的にはそれほどでもなく、圧倒的に著者が昔観た古い映画の話が多く、次いで、テレビや映画祭の特集で最近観た、かつて観ることが出来なかった昔の作品などがくる感じでしょうか。有名な作品と併せてややマニアックな作品もとり上げていて、よく観ているなあと思う一方で、その記憶力には驚かされます。

さらば友よ (お楽しみはこれからだ─和田誠─より.jpg このシリーズは、映画の中の名セリフを取り上げて、リレー方式というか連想方式的に一定サイクル話を繋いでいっていますが(それと、勿論のことだが、イラストとの組み合わせ)、著者によれば、日本映画の方がセリフに関する記憶が少なく、洋画においてスパーインポーズで読んだものの方が記憶に残っているとのことです(そういうものかもしれないなあ)。

 ここまでで「キネマ旬報」連載の60回分がひとまず落着し、あとがきで著者はまた書かせてもらう機会があるかもしれないといったことを書いていますが、結局、間を置きながらも20年以上にわたって連載は続き、単行本はPART7まで刊行されました。いずれの巻も映画ファンには読み応えがありますが、特にPART2までは、当初はそこで区切りをつけるつもりで書いていたと思われるだけに、密度が濃くて充実しているように思います。
「さらば友よ」(1968)

 久しぶりに読み返してああそうか、ナルホドなと思った点を、外国映画主体のこのシリーズの中では少数派である日本映画から2つ。

椿三十郎 三船 仲代.jpg 1つは、「椿三十郎」('62年)のラストの三船敏郎、仲代達矢の決闘シーンで、近距離で一瞬にして勝負がつく斬り合いは、著者自身、当時"新機軸"だと思ったそうですが、山中丹下左膳 百万両の壺 dvd.jpg貞雄の「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」('35年)で、すでに大河内伝次郎の丹下左膳がヤクザ風の男を斬る場面で使われていたことを、著者はフィルムセンターで観て知ったとのことです。ああ、そうだったかなあ。「百萬兩の壺」の丹下左膳って、それまでの丹下左膳像と違ってコミカルな印象が強くて、剣豪のイメージが相対的に抑えられていたような気がしましたが、コミカルであろうと強いことに変わりはないんだよね、丹下左膳は。但し、あの"噴血"はやはり黒澤ならではの見せ方ではないかな。
丹下左膳餘話 百萬両の壺 [DVD] COS-032

『男はつらいよ』森川信、渥美清、三崎千恵子、倍賞千恵子ら.jpg もう1つは、「男はつらいよ」('69年)で、この作品はTVが先で映画が後ですが、著者はTVは観ていたけれど映画化されてこれほどの人気シリーズになるとは思っていなかったとのことで、作者らもそうだったのでないかとしている点です。その証拠として、TV版のあらゆる要素が(総まとめ的に)ぶちこまれていて、妹のさくらが結婚してしまうのもその現れで、シリーズ化が先に決まっていれば、さくらの見合いを寅が邪魔するなど、第2作以降にさくらの結婚は持ち越されていたのではないかとしており、ナルホドなあと思いました。

「男はつらいよ」(1969)森川信、渥美清、三崎千恵子、倍賞千恵子ら

光本幸子さん .jpg その代りのお楽しみとして、毎回違った"マドンナ"が登場するパターンになったということなのでしょう。初代マドンナは昨年['13年]食道癌で亡くなった光本幸子でした。また、著者が矛盾を指摘する「俺がいたんじゃお嫁にゃ行けぬ」という主題歌の歌詞はもともとTV版用に作られたものですが、映画版の第2作からは別の歌詞に差し替えられています。
光本幸子(1943-2013)

男はつらいよ 志村・笠1.jpg 第1作は、黒澤明監督映画の重鎮俳優・志村喬(諏訪飈一郎役)が出演し、さくらの披露宴のシーンで小津映画の重要俳優・笠智衆(御前様役)と同じ画面に収まっているというのが珍しいかもしれません(黒澤監督の「赤ひげ」('65年/東宝)にも2人共が出演しているが、それぞれ違った場面での登場となっている)。

男はつらいよ 〈シリーズ第1作〉.jpg 第1作がヒットして、山田洋次監督が松竹渥美清の泣いてたまるか 男はつらい0.jpgから3作撮ったところで好きな映画作りをしてもいいと言われて撮ったのが「家族」('70年)ですが、「家族」の構想は山田監督の中で製作の5年前からあったそうです。一方の「男はつらいよ」は、山田洋次監督が渥美清に最初に出会った時に「この役者は天才だ」と思ったそうで、おそらく、毎回脚本家が変わり、渥美清も毎回違う役柄で出演した連続テレビドラマ「渥美清の泣いてたまるか」('66‐'68年/TBS[全53話])(渥美清主演のほかに、青島幸男、中村嘉津雄主演の「泣いてたまるか」がそれぞれ14話と13話作られた)が二人の出会いではないかと思われますが、そこから急に構想が芽生えてきたのではないかと勝手に推測しています。「渥美清の泣いてたまるか」の最終回は山田洋次監督が脚本担当で、タイトルは「男はつらい」でした。やがて、これが独立した連続TVドラマ「男はつらいよ」('68‐'69年/フジテレビ[全26回])になったという流れでしょうか。
渥美清の泣いてたまるかVOL.20 [DVD]


お楽しみはこれからだPART2 223.jpg 「天井桟敷の人々」(1945)のところで、初めて観たのが高校1年の時で、その良さを理解できなかったように思うというのは正直か(その後何度か観て、少しずつ判ってきたとのこと)。山田宏一(1938年生まれ)氏が中学時代にこの映画を観てフランス語を習う決心をした話を引き合いに、著者は「バチスト(ジャン=ルイ・バロー)とガランス(アルレッティ)のベッドシーンで、カメラが窓の方にパンしてしまうのを不服に思ったのが初めて観たときの印象だから、ずいぶんと差がついてしまった」と書いているのがユーモラスです。個人的にも名作だと思いますが、3時間超の内容は結構「大河メロドラマ」的な要素もあったように思います。

「天井桟敷の人々」(1945)

 『お楽しみはこれからだ』―時々読み返してみるのも悪くないシリーズです。

「椿三十郎」.jpg椿三十.bmp「椿三十郎」●制作年:1962年●製作:東宝・黒澤プロダクション●監督・脚本:黒澤明●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「日日平安」●時間:96分●出演:三船敏郎/仲代達矢/司葉子/加山雄三/小林桂樹/田中邦衛/山茶花究/加東大介/河津清三郎/山田五十鈴/東野英治郎/入江たか子/志村喬/藤原釜足/夏木陽介/清水将夫 /伊藤雄之助/久保明/太刀川寛/土屋嘉男/団令子/平田昭彦●劇場公開:1962/01●配給:東宝 (評価★★★★☆)椿三十郎 [監督:黒澤明] [三船敏郎/仲代達矢] [レンタル落ち]

『丹下左膳余話 百萬両の壺』のDVD版のジャケット.jpg丹下左膳 百万両の壺 02.jpg「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」●制作年:1935年●監督:山中貞雄●脚本:三村伸太郎●潤色:三神三太郎●撮影:安本淳●音楽:西梧郎●原作:林不忘●時間:92分●出演:大河内傳次郎/喜代三/沢村国太郎/山本礼三郎/鬼頭善一郎/阪東勝太郎/磯川勝彦/清川荘司/高勢実乗/鳥羽陽之助/宗春太郎/花井蘭子/伊村理江子/達美心子/深水藤子●公開:1935/06●配給:日活(評価:★★★★☆)丹下左膳餘話 百萬兩の壺 [DVD]
                          
シリーズ第1作「男はつらいよ」三崎千恵子.jpg「男はつらいよ 〈シリーズ第1作〉」●制作年:1969年●監督・原作:山田洋次●脚本:山田シリーズ第1作「男はつらいよ」渥美清.jpg洋次/森崎東●製作:上村力●撮影:高羽哲夫●音楽:山本直純●時間:91分●出演:渥美清/倍賞千恵子/光本幸子/笠智衆/志村喬(特別出演)/森川信/前田吟/津坂匡章/佐藤蛾次郎/関敬六「男はつらいよ」志村喬.jpg男はつらいよ 第一作 dvd.png三崎千恵子/太宰久雄/近江俊輔/広川太一郎/石島戻太郎/志賀真津子/津路清子/村上記代/石井愃一/市山達己/北竜介/川島照満/水木涼子/谷よしの/●公開:1969/08●配給:松竹(評価:★★★★)

第1作 男はつらいよ HDリマスター版 [DVD]

●キネマ旬報 映画評論家による男はつらいよランキング
2006年1月上旬号のキネマ旬報より、映画評論家・著名人41人による男はつらいよのベストテン。
順位  作数    作品名        マドンナ
1位   1作   男はつらいよ        光本幸子
2位  15作  男はつらいよ 寅次郎相合い傘   浅丘ルリ子
3位   17作  男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け   太地喜和子
4位  11作  男はつらいよ 寅次郎忘れな草   浅丘ルリ子
5位   2作   続・男はつらいよ     佐藤オリエ
6位   5作   男はつらいよ 望郷篇      長山藍子
7位   38作  男はつらいよ 知床慕情      竹下景子
8位   25作  男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花  浅丘ルリ子
9位   9作   男はつらいよ 柴又慕情      吉永小百合
10位  32作   男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎    竹下景子
10位  48作   男はつらいよ 寅次郎紅の花     浅丘ルリ子

光本幸子 in「男はつらいよ〈第1作〉」('69年/松竹)/「必殺仕事人・激突!」('91-'92年/テレビ朝日系)
第1作 男はつらいよ 光本幸子.jpg 必殺仕事人・激突.jpg

泣いてたまるか1.jpg渥美清の泣いてたまるか 男はつらい2.jpg「泣いてたまるか」●制作:国際放映/松竹テレビ室/TBS●脚本:野村芳太郎/橋田壽賀子/早坂暁/家城巳代治/山田洋次/清水邦夫/泣いてたまるかe.jpg青島幸男/橋本忍/金城哲夫/小林久三/山中恒/深作欣二/木下惠介/山田太一/井出雅人/佐藤純彌/森崎東/桜井康裕/山根優一郎/鈴木尚之/掛札昌裕/光畑碩郎/高岡尚平/関沢新一/大川久男/渡邊祐介/大石隆一/大原清秀/高岡尚平/北野夏生/山内泰雄/入江昭夫/乙武英樹/灘千造/家城秀男/稲垣俊/大川タケシ/秋山透/内田栄一●演出:高橋繁男/山際永三/松野宏軌/中川晴之助/森崎東/今井正/深作欣二/降旗康男/福田純/円谷一/佐藤純彌/降旗康男/望月優子/山際永三/佐伯孚治/下村堯二/渡邊祐介/真船禎/松林宗恵/家城巳代治/飯島敏宏/瀬川昌治/神谷吉彦/枝川弘/平松弘至/小山幹夫/吉野安雄/大槻義一/鈴木英夫/井上博/香月敏郎●音楽:木下忠司(主題歌「泣いてたまるか」(作詞:良池まもる、作曲:木下忠司、歌:渥美清(渥美清主演の時))●出演(主人公):渥美清/青島幸男/中村賀津雄●放映:1966/04~1968/03(全80回)●放送局:TBS
   
天井桟敷の人々1.jpg天井桟敷.jpg天井桟敷の人々 ポスター.jpg「天井桟敷の人々」●原題:LES ENFANTS DU PARADIS●制作年:1945年●制作国:フランス●監督:マルセル・カルネ●製作:フレッド・オラン●脚本:ジャック・プレヴェール●撮影:ロジェ・ユベール/マルク・フォサール●音楽:モーリス・ティリエ/ジョセフ・コズマ●時間:190分●出演:アルレッティ/ジャン=ルイ・バロー/ピエール・ブラッスール/マルセル・エラン/ルイ・サルー/マリア・カザレス/ピエール・ルノワール●日本公開:1952/02●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)(評価:★★★★)●併映:「ネオ・ファンタジア」(ブルーノ・ボセット)

【2022年愛蔵版】

《読書MEMO》
「男はつらいよ」(第1作)予告編映像/4Kデジタル修復版ブルーレイ 2019年12月5日リリース

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「三軒茶屋シネマ」ラストショー2本立て―といっても、通常のラインアップと変わらないが...。

そして父になる tirasi.jpg 万引き家族 通常版DVD.jpg のぼうの城 tirasi.jpg
そして父になる DVDスタンダード・エディション」映画チラシ/万引き家族 通常版DVD(特典なし) [DVD]」/のぼうの城 通常版 [DVD]」映画チラシ
0三軒茶屋シネマ.jpg三軒茶屋シネマ ラストしおり.JPG 今月['14年7月]20日で60年の歴史を閉じた「三軒茶屋シネマ」の最終上映作品がこの「そして父になる」と「のぼうの城」の邦画2本立てであり、結構急な閉館だったせいか、通常の「二番館」的プログラムであって「さよならフェスティバル」的なプログラムではないのがやや唐突な気もします。それでも、最終日に観に行くと、午後の上映からは155席が満席になっていました(一応、前々週の「イタリア映画・不朽の名作2本立て」(「ニュー・シネマ・パラダイス」「ひまわり」)と前週の「モノクロ・サイレント映画の傑作2本立て」(「街の灯」「アーティスト」)と併せてフェスティバル的な上映とのことらしいが)。

そして父になる 1.jpg 是枝裕和監督の「そして父になる」('13年/ギャガ)は、夫(福山雅治)と妻(尾野真千子)の間にいる6歳の一人息子が、実は出生時に子どもの取り違えがあって実の息子ではなかったことが判明し、そこから始まるその夫婦の苦悩と、取り違えられた子を育ててきたもう1つの夫婦(リリー・フランキー・真木よう子)とのやり取りを描いた作品(2014年「芸術選奨」受賞作)。

そして父になる 2.jpg 子どもの取り違えが判明してからその次にどういう手順になるのかがきっちり取材されていて、加えて、河瀬直美監督に見出され「萌の朱雀」('97年)でデビューしたd尾野真千子、「無名塾」出身の真木よう子、スピルバーグがその演技を絶賛したリリー・フランキーなど、演技陣も充実していました。第66回カンヌ国際映画祭の審査そして父になる カンヌ.jpg員賞(パルムドール、(審査員特別)グランプリに次ぐ賞)を受賞した作品ですが、国内では、尾野真千子、真木よう子の2人はそれぞれ第37回「日本アカデミー賞」の優秀主演女優賞、最優秀助演女優賞を受賞、福山雅治、リリー・フランキーもそれぞれ優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞を受賞しています(電気屋夫婦の方が「最優秀」を獲っていることになる。因みに真木よう子は、同年の「さよなら渓谷」での最優秀主演女優賞とのW受賞)。

 ある種、アンチ・クライマックス映画で、問題提起型作品の多い是枝裕和監督らしい作品。尤も、このテーマで安易な落とし所を設けて「感動物語」風にしてしまったら是枝監督作らしくはなくなるし、おそらく何人もいるであろう同種の事件の当事者に対する冒涜になってしまうのでしょう。それに代わるカタルシス効果がどこかに欲しかった気もしますが、カンヌでは上映後にスタンディングオベーションがあったというから、これでよしとすべきでしょうか(カンヌで観ていた人たちは概ね娯楽性を求めているわけではないだろうが)。子役までも上手だったことから、監督の演出力を率直に評価したいと思います。

万引き家族t.jpg(●是枝裕和監督の「万引き家族」('18年)が、第71回カン万引き家族 カンヌ.jpgヌ国際映画祭においてパルム・ドールを獲得した(日本人監督作品としては、1997年の今村昌平監督の「うなぎ」以来21年ぶり)。やはりリリー・フランキーを使万引き家族ド.jpgったかあ。でも彼は「そして父になる」以上の演技だった。この映画、Amazon.comのレビューなどでみると「どこがおもしろいのか、わからない」という人も結構多いようだが、個人的には良かったと思った。「お父さん」「お母さん」と呼んでほしいと願う主人公の想いが核になっていて、終わり方も良0万引き家族3.jpgかった。家族っていなくなると切ないものである。これで、是枝監督にとって「家族」というのが大きなテーマであることがよく分かった。それでは小津安二郎や山田洋次と変わらないと思われるフシもあるかもしれないが、ステップファミリーを通して「家族」というものを描いているのが大きな特徴であり、「そして父になる万引き家族ges.jpg」からの流れで見ると繋がっている。ハッピーエンドにせず、問題投げかけ型で終わるのも同じ。今回は中流家庭ではなく、下流家庭(疑似家族)を描いている点で、明らかに小津安二郎の後期作品とも異なる。何となく是枝監督のスタンスが見えてきた気がする。パルム・ドールは、ベルギー移民の少女や若者の貧困を描いたダルデンヌ兄弟の作品が2度受賞しているなど、格差社第13回アジア・フィルム・アワード.jpg会を描いたものが近年では賞を獲り易い傾向にあり、「万引き家族」の受賞も意外性はなかった(「万引き家族」の翌年2019年には、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」がパルム・ドール受賞。やっぱりという感じ)。因みに本作は、2019年・第13回アジア・フィルム・アワードも作品賞と作曲賞(細野晴臣)を受賞しているほか(この賞の作品賞受賞は日本映画では初)、第44回ロサンゼルス映画批評家協会賞の外国語映画賞なども受賞している。)

第13回アジア・フィルム・アワード(左から細野晴臣(音楽)・是枝裕和・安藤サクラ・三ツ松けいこ(美術))


のぼうの城 1.jpg 犬童一心、樋口真嗣共同監督の「のぼうの城」('12年/東宝)は、北条氏の支城で、周囲を湖に囲まれ浮城とも呼ばれる忍城(おしじょう)の領主・成田氏一門の成田長親(野村萬斎)と、その城を攻め落とそうとする豊臣方・石田三成(上地雄輔)の攻防を描いた作品で、2時間超ですがあまり長さを感じさせず、予想以上に面白かったです(この面白さは、和田竜氏の直木賞候補となった原作の面白さによるものではないかとも思うが、原作を読んでいないので、素直に「面白かった」としておきたい。台詞が一部、「○○的」など現代語になっているのが気になったが、脚本も原作者によるもの)。

のぼうの城 佐藤.jpg 歌舞伎や狂言の俳優が、日頃その世界で伝統芸能の継承・研鑽に励みつつも、現代劇や時代劇に出てすんなりそれにフィットした演技が出来てしまうのにはいつも感心させられますが、この映画の野村萬斎の場合、狂言の演技をそのまま成田長親のキャラに活かしていることにより、映画を自分の作品にしている点で、起用に充分応えているように思いました。また、近習の正木丹波守利英を演じた佐藤浩市の演技がオーソドックスな映画的演技であることも、対比的な効果を醸しているように思われます。この2人はそれぞれ第36回「日本アカデミー賞」の優秀主演男優賞、優秀助演男優賞を受賞しています。

のぼうの城 野村.jpg ストーリー的には、最後は、北条氏の本城である小田原城が落城してしまうことから、支城を巡って争う理由がなくなり、これ以上は戦わずして成田氏は忍城を豊臣方・石田三成に明け渡すことになってしまうという点では、これもまた、アンチ・カタルシス的な作品と言えるかもしれません(M&Aで大企業に吸収される関係会社みたい)。それでも「こういう武将もいたのだ」という面白さによってさほどカタルシス不全を感じさせないのは、これはやはり、原作の目の付け所の良さに拠るものかと思われます。

「のぼうの城」gennsaku.jpg 僅か500の兵で2万の大軍から城を守り和議に持ち込んだというのはやはりスゴイことだと思われ、今までほとんど時代小説の素材になっていないのが不思議なくらい(風野真知雄の『水の城 いまだ落城せず』では主人公の成田長親は、際立った武勇や才覚はなく、捉えどころのない人物として描かれているそうだ)。近年の研究では、もともと水攻めに向かない城に対して水攻めに固執した秀吉のミスだったとの説が有力なようで、実戦経験の乏しい石田三成に配慮した作戦が裏目に出たのか。逆に三成が書状の中で「諸将は完全に水攻めと決め込んで全く攻め寄せる気がない」と嘆く事態となったわけですが、水攻めの決定に三成軍の武将たちのモチベーションががたんと低下する場面はこの作品の中でも描かれています。

 観る前は、60年の歴史を持つ名画座のラストショーとしてはややもの足りないラインアップのようにも思えましたが、実際に観てみたらまあ思ったより良かったという感じでしょうか(でもやっぱり、基本的には通常のラインアップと変わらない組み合わせだった? 後に知ったことだが、劇場管理者は野々宮良輔(夏八木勲).jpg夏八木勲 のぼう.jpg敢えて長年二番館として営業してきた三茶シネマらしいラインアップを選んだらしい)。ラストショーと思って思い入れを込めて観た分、評価はやや甘くなっているかもしれません。昨年['13年]5月に亡くなった夏八木勲(1939-2013/享年73)が両方の作品に脇役で出ています('12年の秋から膵癌を患い、闘病を続けていた)。

三軒茶屋シネマ8.JPG 名画座に降りてくる前にDVDがレンタルショップに並んでしまうというのはやはり名画座にとってはキツイことかも。「三軒茶屋シネマ」の閉館により、都内23区に残る名画座は「飯田橋ギンレイホール」「池袋新文芸坐」「早稲田松竹」「目黒シネマ」「下高井戸シネマ」「新橋文化劇場」「キネカ大森」「三軒茶屋シネマ70.JPGシネマヴェーラ渋谷」「神保町シアター」「ラピュタ阿佐ヶ谷」の10館となるそうですが(日本芸術センター運営の「シネマブルースタジオ」や「東京国立近代美術館フィルムセンター」などの公的施設は除く)、この内「新橋文化劇場」は、来月['14年8月]末閉館することが決まっています。
三軒茶屋シネマ6.jpg

三軒茶屋シネマ (1955年「三軒茶屋東映」オープン、1973年建て替え、1997年~「三軒茶屋シネマ」) 2014(平成26)年7月20日閉館日に撮影(左写真手前右:2013(平成25)年2月14日閉館「三軒茶屋中央劇場」(右写真右奥)跡)

Soshite chichi ni naru (2013) 樹木希林(1943-2018)/尾野真千子
Soshite chichi ni naru (2013) .jpgそして父になる 樹木希林.jpg「そして父になる」●英題:LIKE FATHER,LIKE SON●制作年:2013年●監督・脚本:是枝裕和●製作:亀山千広/畠中達郎/依田翼●撮影:瀧本幹也●音楽:松本淳一/森敬/松0そして父になる 3.jpg原毅●時間:120分●出演:福山雅治/尾野真千子/真木よう子/リリー・フランキー/二宮慶多/黄升炫/中村ゆり/高橋和也/田中哲司/井浦新/ピエール瀧/大河内浩/風吹ジュン/國村隼/樹木希林/夏八木勲●公開:2013/09●配給:ギャガ●最初に観た場所:三軒茶屋シネマ(14-07-20)(評価:★★★★)●併映:「のぼうの城」(犬童一心/樋口真嗣)
0そして父になる.jpg 風吹ジュン(野々宮のぶ子(良多の義母))
                
万引き家族2.jpg万引き家族t2.jpg「万引き家族」●英題:SHOPLIFTERS●制作年:2018年●監督・脚本・原案:是枝裕和●製作:石原隆/依田巽/中江康人●撮影:近藤龍人●音楽:細野晴臣●美術:三ツ松けいこ●衣裳デザイン:黒澤和子●時間:120分●出演:リリー・フランキー/安藤サクラ/松岡茉優/池松壮亮/城桧吏/佐々木みゆ/高良健吾/池脇千鶴/樹木希林/緒形直人/森口瑤子/山田裕貴/片山萌美/柄本明/笠井信輔(ニュースキャスター)/三上真奈(ニュースキャスター)●公開:2018/06●配給:ギャガ(評価:★★★★☆)
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柄本明(柴田家の近隣の駄菓子屋の店主・山戸頼次)/池脇千鶴(治と信代の取り調べを担当する警察官・宮部希衣)
「万引き家族」柄本.jpg  「万引き家族」池脇.jpg
細野晴臣「日本アカデミー賞」最優秀音楽賞
細野晴臣「日本アカデミー賞」.jpg


のぼうの城 31.jpg「のぼうの城」.jpg「のぼうの城」●制作年:2012年●監督:犬童一心/樋口真嗣●製作:久保田修●脚本:和田竜●撮影:瀧本幹也●音楽:松本淳一/森敬/松原毅●時間:145分●出演:野村萬斎/榮倉奈々/成宮寛貴/佐藤浩市/山口智充/上地雄輔/前田吟/中尾明慶/尾野真千子/ピエール瀧/前田吟/山田孝之/平岳大/市村正親/西村雅彦/鈴木保奈美/平泉成/夏八木勲●公開:2012/11●配給:東宝●最初に観た場所:三軒茶屋シネマ(14-07-20)(評価:★★★★)●併映:「そして父になる」(是枝裕和)

前田吟(下忍村のたへえ)/中尾明慶(たへえの娘婿・ちよの夫・かぞう)/尾野真千子(たへえの娘・かぞうの妻・ちよ)
「のぼうの城」前田.jpg のぼうの城 32.jpg

「●深作 欣二 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3224】深作 欣二 「バトル・ロワイアル
「●あ行の日本映画の監督」の インデックッスへ「●菅原 文太 出演作品」の インデックッスへ「●松方 弘樹 出演作品」の インデックッスへ(「仁義なき戦い」「仁義なき戦い 頂上作戦」「仁義なき戦い 完結篇」)「●梅宮 辰夫 出演作品」の インデックッスへ(「仁義なき戦い」「仁義なき戦い 代理戦争」「仁義なき戦い 頂上作戦」)「●渡瀬 恒彦 出演作品」の インデックッスへ(「仁義なき戦い」「仁義なき戦い 代理戦争」)「●北大路 欣也 出演作品」の インデックッスへ(「仁義なき戦い 広島死闘篇」「仁義なき戦い 完結篇」)「●千葉 真一 出演作品」の インデックッスへ(「仁義なき戦い 広島死闘篇」) 「●田中 邦衛 出演作品」の インデックッスへ(「仁義なき戦い」「仁義なき戦い 代理戦争」「仁義なき戦い 頂上作戦」「仁義なき戦い 完結篇」) 「●加藤 嘉 出演作品」の インデックッスへ(「仁義なき戦い 広島死闘篇」)「●前田 吟 出演作品」の インデックッスへ(「仁義なき戦い 広島死闘篇」)「●丹波 哲郎 出演作品」の インデックッスへ(「仁義なき戦い 代理戦争」)「●加藤 武 出演作品」の インデックッスへ(「仁義なき戦い 代理戦争」「仁義なき戦い 頂上作戦」)「●夏八木 勲 出演作品」の インデックッスへ(「仁義なき戦い 頂上作戦」)「●小林 稔侍 出演作品」の インデックッスへ(「仁義なき戦い 頂上作戦」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ  「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(吉祥寺東映(吉祥寺プラザ))

群像活劇。配役の"混乱"が作品の"混沌(カオス)"的雰囲気と重なった。

仁義なき戦い dvd.jpg   女奴隷船 dvd.jpg
仁義なき戦い [DVD]」/「仁義なき戦い」テーマ(津島利章)/「女奴隷船 [DVD]

6 仁義なき戦い.jpg 広能昌三(菅原文太)は復員後、遊び人の群れに身を投じていたが、山守組々長・山守義雄(金子信雄)はその度胸と気風の良さに感心し、広能を身内にする。まだ小勢力だった山守組は、土居組との抗争に全力を注ぐ。その土居組を破門された若頭・若杉(梅宮辰夫)が山守組に加入し、若杉による土居(名和宏)殺害計画が進む―。 

 「仁義なき戦い」シリーズの作曲家の津島利章の訃報が入ってきました(1936-2013.11.25/享年77)。キネマ旬報が'09(平成21)年に実施した「オールタイム・ベスト映画遺産200(日本映画編)」で、歴代第5位という上位にランクされた作品ですが、個人的にはあの作品で最も印象に残ったのはテーマ曲だったかも。

 任侠道を美化して描くそれまでの"時代劇風の舞台演劇"っぽいヤクザ映画から、ヤクザの行動原理も結局は金と権力に拠るという視点に立った、"リアルな群像活劇"へのターニングポイントとなった作品と言われていますが、裏切りに続く裏切りの一方で、主人公の広能だけは、従来の任侠道を貫く者として美化されているような感じで、やや矛盾を感じなくもありません。但し、そのことが作品としての救いにもなっています。「その他大勢」はストレートに「我欲に忠実」な人々とでも言うべきでしょうか。そうした点も含め、深作欣二の作品の中では、その演出力が最も発揮された作品だと思います。

梅宮辰夫の若杉.jpg仁義なき戦いAL_.jpg仁義なき戦い5_AL_.jpg 「仁義なき戦い 広島死闘篇「('73年)、「仁義なき戦い 代理戦争」('73年) 、「仁義なき戦い 頂上作戦('74年)、「仁義なき戦い 完結篇」('74年)も続けて観ましたが、広能の他にも、松方弘樹演じる板井や梅宮辰夫演じる若杉などサブヒーロー的な登場人物がいることはいますが、彼らは皆、この第1作の中で死んでしまいます。
獄中の広能を訪ねる若杉(梅宮辰夫)
明石組幹部 岩井信一(梅宮辰夫
梅宮辰夫 仁義なき戦い.jpg シリーズの後の方になると、死んだ人物の役を演じた俳優がまた別の役で出てくるので、観ていて妙な感じがします。第1作における梅宮辰夫の「若杉」などは結構キーパーソンだったのですが、第3作「仁義なき戦い 代理戦争」と第4作と「仁義なき戦い 頂上梅宮辰夫 アンナ2.jpg作戦」には「明石組幹部 岩井信一」の役で出演しています。この役を演じるのに際して眉毛を剃り落としましたが、これは、岩井のモデルで梅宮ア辰夫ンナ.jpgある三代目山口組若頭の山本健一に眉毛がなかったためで、眉のない父の顔を見た娘の梅宮アンナ(1972年生まれ)は、怖くて泣いたそうです。でも、このシリーズの演技で最も飛躍した俳優の一人が彼、梅宮辰夫であり、異なった役を演じ切ったこともその要因としてあったのでは。違った役と言えば、第3作に第1作と別の役で出てくるのは渡瀬恒彦も然り。しかも、ストーリー的には、この第3作が第1作の続編となっているのでややこしいです。松方弘樹は第4作「頂上作作戦」で別の役で登場、第5作「完結篇」でさらに別の役で出てきます。

「仁義なき戦い」シリーズ松方.jpg松方弘樹 in「仁義なき戦い」(坂井鉄也・射殺される)/「仁義なき戦い頂上作戦」(藤田正一(射殺される)/「仁義なき戦い完結編」(市岡輝吉・射殺される)
   
「仁義なき戦い」73.jpg 準主役級でさえそうですから、主に殺され役である川谷拓三などは第1作から第5作まで全部異なる役で登場しており、一方で、小林旭は第3作から第5作まで、山城新伍は第2作から第5作まで同じ役で出ていたりもします。流れとしては、誰か特定の個人の生き様を追うというよりは、次第に"群像活劇"の色合いを濃くしていくという感じでしょうか(広能が結構長く刑務所に入っている期間があって、必ずしも毎回は表舞台に出てはこないということもある)。
「仁義なき戦い」('73年)

 個人的には、配役から受ける"混乱"が、そのまま、作品の"混沌(カオス)"的雰囲気と重なりました(笑)。その他、千葉真一(第2作)、北大路欣也(第2作・第5作)、丹波哲郎(第3作、写真のみ)、宍戸錠(第5作)といった面々も登場します。因みに第5作「完結篇」は、当初4作で終わる予定が、シリーズ続行でオマケ的に作られた作品です。

吉祥寺プラザ 2024年1月31日閉館(最終上映「もののけ姫」)(吉グル
吉祥寺プラザ 閉館.jpg吉祥寺東映.jpg このシリーズを通しで観た「吉祥寺東映」は、自分が通った当時はまだ狭い映画館で、「仁義なき戦い」上映時は満席で立ち見も出る状態でした。但し、席にアルプス・スタンドのようなかなり急勾配の段差が設けられて(最前列には手すりがあった)、前の人が邪魔になるということはありませんでした。東宝配給の「もののけ姫」('97年)の吉祥寺地域での上映誘致を契機に、'96年7月に館名を「吉祥寺プラザ」に変えていますが、その前にいつの間にかロード館になっていて、あの座席はかなり早い時期に取り壊されたみたいです。
吉祥寺東映 1978(昭和53)年に吉祥寺駅北方面・五日市街道沿いにオープン、1996年7月~吉祥寺プラザ 2024(令和6)年1月31日閉館

「女奴隷船」(新東宝)1.jpg 菅原文太は、'60(昭和35)年の正月映画「女奴隷船」(新東宝)に26歳で主演しています。この作品は舟崎淳の「お唐さん」を基にした和風海洋アドベンチャー(?)で、これ、昭和20年初頭の時代設定なのですが(「仁義なき戦い」と大差ない)、日本女性を上海まで運んでセリにかけて売り飛ばす「お唐さん船」というものがストーリー背景となっています。

「女奴隷船」(新東宝)2.jpg菅原文太 「女奴隷船」.jpg 善玉主人公が菅原文太で(この頃は何となく的場浩司と似ている)、悪役は丹波哲郎(この人は昔からこんな感じだったんだなあと)、女優陣は新東宝のセクシー看板女優・三原葉子に、この映画を撮った小野田嘉幹監督と結婚することになる三ツ矢歌子など。

「女奴隷船」(新東宝)3.jpg 菅原文太は丹波哲郎とのアクション対決を演じたりしましたが、う~ん、スゴイ「B級」の冒険アクション&お色気映画。ダサいセットが微笑ましく、但し、東映風のミニチュア特撮を駆使したりしている努力は買えます。音楽は、東大文学部卒心理学科卒で作曲家になった渡辺宙明(1925-font color=red>2022/96歳没)です。
三原葉子/三ツ矢歌子

女奴隷船l2.jpg 丹波哲郎の海賊の統領役はあまりに漫画チックで笑女奴隷船 1シーン.jpgえますが(洋画の影響?)、これでも作品全体としては新東宝作品群の中では相対的にみてゴージャスな方女奴隷船il2.jpgと言ってよく(この作品は'60年の新東宝のお正月映画であり、新東宝は翌'61年に倒産する)、三原葉子三原葉子のベリーダンス.jpgベリーダンスもどきの踊り(これも洋画の影響?)が見ることができるなど、「珍品」的意味合いで星1個オマケという感じ大井武蔵野館 閉館日2.jpg大井武蔵野館 閉館日22.jpgでしょうか(大井武蔵野館って変わった作品を上映していた)。
大井武蔵野館 1999(平成11)年1月31日閉館

 菅原文太は、新東宝の経営が倒産して東映に移籍してからは10年間くらい「雌伏の時」がありましたが(というと聞こえはいいが、セリフさえない端役時代が長らくあった)、やがて徐々に頭角を現し、この「仁義なき戦い」シリーズでブレイク、この人、東北出身ですが(井上ひさしの「吉里吉里人」の映画化権を持っている)、どうしても「仁義なき戦い」のイメージがあって「じゃけんの~」という広島弁の方が似合ってしまう役者です。

Jingi naki tatakai (1973)
Jingi naki tatakai (1973) .jpg仁義なき戦い 1973年1月13日公開.jpg「仁義なき戦い 〈シリーズ第1作〉」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利「仁義なき戦い」1973年.jpg章●原作:飯干「仁義なき戦い」渡瀬.jpg晃一●時間:99分●出演:菅原文太/松方弘樹/田中邦衛/金子信雄/梅宮辰夫/成田三樹夫/渡瀬恒彦/曽根晴美/川地民夫/田中邦衛/名和宏/内田朝雄/伊吹吾郎/川谷拓三/中村英子/木村俊恵/渚まゆみ/内田朝雄/三上真一郎/高野真二/高宮敬二/林彰太郎/中村錦司/野口貴史/大前均/志賀勝/岩尾正隆●公開:1973/01●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)●併映:「仁義なき戦い 広島死闘篇」/「仁義なき戦い 代理戦争」/「仁義なき戦い 頂上作戦」/「仁義なき戦い 完結篇」(何れも深作欣二)  
      
Hiroshima shitô hen (1973)  
Hiroshima shitô hen (1973) .jpg仁義なき戦い 広島死闘篇12.jpg仁義なき戦い 広島死闘篇.jpgHiroshima shitô hen _.jpg「仁義なき戦い 広島死闘篇」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:100分●出演:菅原文太/前田吟/松本泰郎/司裕介/金子信雄/木村俊恵/名和宏/成田三樹夫/北大路欣也/山城新伍/宇崎尚韶/笹木俊志/木谷仁義なき戦い 広島死闘篇 1973年2.jpg仁義なき戦い 広島死闘篇   .jpg仁義なき戦い 広島死闘篇_梶2.jpg邦臣/小池朝雄/堀正夫/遠藤辰雄/国一太郎/川谷拓三/藤沢徹夫/白川浩二郎/千葉真一/大木晤郎/室田日出男/八名信夫/志賀勝/広瀬義宣/北川俊夫/加藤嘉/中村錦司/梶芽衣子●公開:1973/04●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)
「仁義なき戦い 広島死闘篇」前田吟/千葉/加藤.jpg前田吟(広能組若衆・島田幸一)/千葉真一(大友組組長・大友勝利)/加藤嘉(大友連合会々長・大友長次)
     

          
Jingi naki tatakai:Dairi sensô (1973)
Jingi naki tatakai:Dairi sensô (1973).jpg
仁義なき戦い 代理戦争3.jpg仁義なき戦い 代理戦争dvd.jpg「仁義なき戦い 代理仁義なき戦い 代理戦争  .jpg戦争」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:102分●出演:菅原文太仁義なき戦い 代理戦争 田中邦衛.jpg0仁義なき戦い 代理戦争 1973年.png/小林旭/渡瀬恒彦/山城新伍/池玲子/金子信雄/木村俊恵/成田三樹夫/加藤武/山本麟一/川谷拓三/北村英三/汐路章/内田朝雄/遠藤辰雄/室田「仁義なき戦い 代理戦争 」渡瀬.jpg日出男/大前均/野口貴史/曽根晴美仁義なき戦い 代理戦争 丹波.jpg/名和宏/丹波哲郎「仁義なき戦い 代理戦争」加藤武.jpg宮辰夫田中邦衛●公開:1973/09●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)
  
Jingi naki tatakai:Chôjô sakusen (1974)
Jingi naki tatakai:Chôjô sakusen (1974) .jpg
仁義なき戦い 頂上作戦.jpg仁義なき戦い 頂上作戦 1974年1月.jpg「仁義なき戦い 頂上作戦」●制作年:1974年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:101分●出演:菅原文太/梅宮辰夫/黒沢年男/田中邦仁義なき戦い 頂上作戦t.jpg衛/小林旭/松方弘樹/堀越光恵/木村俊恵/中原早苗/渚まゆみ「仁義なき戦い 頂上作戦」加藤武.jpg/金子信雄/小池朝雄/山城新伍/加藤武/夏八仁義なき戦い 頂上作戦 小林旭2.jpg木勲/遠藤太津朗/内田朝雄/長谷川明男/小倉一郎/葵三津子/城恵美/八名信夫/汐路章/室田日出男/鈴木瑞穂/野口貴史/小林稔侍/岡部正純/高月忠/白川浩二郎/有川正治●公開:1974/01●配給:東映「仁義なき戦い 頂上作戦」小林.jpg●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★仁義なき戦い 頂上作戦 小林稔侍2.jpg頂上作戦 渚まゆみ2.jpg★☆)

小林稔侍・岡部正純・高月忠/渚まゆみ
 
Jingi naki tatakai:Kanketsu-hen (1974)
Jingi naki tatakai:Kanketsu-hen (1974) .jpg
仁義なき戦い 完結篇.jpg仁義なき戦い 完結篇 1974.jpg「仁義なき戦い 完結篇」●制作年:1974年●監督:深作欣二●脚本:高田宏治●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:98分●出演:菅原文太/伊吹吾郎/野口貴史/寺田誠/桜木健一/松方弘樹/唐沢民賢/白川浩三郎/小林旭/北大路欣也/西田良/曽根晴美/成瀬正孝/宍戸錠/山田吾一/誠直也/織本順吉/高並功/八名信夫/山城新伍/木谷邦臣/田中邦衛/国一太郎/川谷拓三/金子<第五作  槇原政吉(田中邦衛).jpg仁義なき戦い 完結篇ド.jpg信雄/岩尾正隆/鈴木康弘/天津敏/内田朝雄/野川由美子/藤浩子/中原早苗/橘麻紀/賀川雪絵●公開:1974/06●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)
田中邦衛(槇原組組長・槇原政吉)

「女奴隷船」ポスター/スチール写真
女奴隷船 ポスター.jpg女奴隷船 スチール.jpg女奴隷船ps.jpg「女奴隷船」●制作年:1960年●監督:小野田嘉幹●製作:大蔵貢●脚本:田辺虎男●撮影:山中晋●音楽:渡辺宙明●原作:舟崎淳「お唐さん」●時間:83分●出演:菅原文太/三原葉子/三ツ矢歌子/丹波女奴隷船 vhs.jpg映画「女奴隷船」【TBSオンデマンド】_.jpg哲郎/左京路子/沢井三郎/大友純/杉山弘太郎/川部修詩/中村虎彦●公開:1960/01●配給:新東宝●最初に観た場所:大井武蔵野館(86-10-04)(評価:★★☆)●併映:「女獣」(曲谷守平)主演:菅原文太
女奴隷船 [VHS]」「映画「女奴隷船」【TBSオンデマンド】」   
        


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一家族のロードムービー。家族を1つの有機体のように捉えた作品。倍賞千恵子の演技がいい。

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家族 [DVD]」 「家族」(1970年)(大阪→東京間移動車中/万博会場)

家族 プレスシート.png 長崎沖・伊王島の炭鉱労働者・風見精一(30歳)(井川比佐志)は、炭鉱閉山で転職を余儀なくされ、自らの夢であった北海道での牧場経営に乗り出したいと願う。妻の民子(25歳)(倍賞千恵子)は当初反対するが、長男(3歳)長女(1歳)の子供2人を連れて一緒に入植することに。精一の父である源蔵(65歳)(笠智衆)を広島県福山市に住む次男の力(前田吟)と同居させる予定だったが、訪ねてみると力の家は源蔵を同居させる状態になく、民子が精一と源蔵を説得し一緒に北海道へ向かうことに。家族5人はまず大阪へ向かい、そこで開催直後の大阪万博を見物に出かけ、その日の内に新幹線に乗り込み東京へ。

山田 洋次 「家族」.jpg 東京駅から上野駅に移動し、更に青森行きの夜行に乗る予定だったが、子2人のうち赤ん坊の方の様子が急変、上野の旅館に入り病院を探すが手遅れで死んでしまう。荼毘に付すために東京に2泊し、精一と民子が夫婦喧嘩をする険悪なムードの中、家族は夜行で青森に向かい、青函連絡船で函館に、それからまた長い列車の旅を経てやっと中標津に辿り着く。翌日、近所の人達が歓迎会を開いてくれた時、「炭坑節」を気持ちよく歌った源蔵は、その夜布団の中で静かに息を引き取る―。

 万博会場での家族5人を実写で撮っているので1970年の作品ということが分かり易いですが、正確には同年4月6日から1週間足らずの間に伊王島→長崎→福山→大阪→上野→函館→中標津と家族ごと移動するロードムービーのような作りになっています(途中、船旅が2回あるほかは殆ど列車移動ではあるが)。

 その過程で家族5人の内2人が亡くなるわけで、学校の映画の時間に観に行った作品ですが、通常の授業が休みなのはいいけれど、何でこんなに悲しい映画を見なきゃならないのかと―。最後に民子のお腹の中に新たな生命が宿っていることがわかり、家族の死と再生というか、家族を1つの有機体のように捉山田 洋次 「家族」_1.jpgえ、その中で消えていく命もあれば新たに生まれる命もあるという、今思えばそういう作品だったのだなあと(年齢がいって観ると、段々いい作品に思えてくる...)。

東京物語.jpg 福山で弟夫婦から老父の預かりを拒否されるところに旧来型の「家族」の崩壊の予兆が見て取れる一方、万博会場の雑踏に会場入口に来ただけで疲れ果ててしまう家族に、高度成長経済に取り残された一家というものが象徴的に被っているように思えましたが、それは最近観て思ったこと。但し、当時39歳だった山田洋次監督はそこまで見通していたのだろうなあ。今観ると、小津安二郎監督の「東京物語」('53年/松竹)からの影響がかなりあるように感じられます。

家族 1シーン.jpg 全体にドキュメンタリータッチで撮られていて、演技陣は難しい演技を強いられていたのではないかと思いましたが、この夫婦は旅程でしばしば険悪な雰囲気になる(これだけツライ目に合えば愚痴も出るか)その加減にリアリティがあり、その中でも倍賞千恵子の演技は秀逸。

 所々にユーモラスな描写もあってアクセントが効いていますが、青函連絡船の中で、険悪な雰囲気になる家族を行きずりの男が笑わせてくれる、この男を演じているのが渥美清です。

倍賞千恵子/井川比佐志/渥美清

 この作品の前年('69年)に同監督の「男がつらいよ」シリーズがスタートし、それがヒットして、松竹から3作撮ったところで好きな映画作りをしてもいいと言われて撮ったのがこの作品(但し、作品の構想は5年前からあったとのこと)。「男はつらいよ」シリーズの面々が他にもカメオ出演しています。

『家族』井川比佐志、倍賞千恵子.jpg山田 洋次 「家族」4.jpg この作品を見ていると、倍賞千恵子は「男がつらいよ」シリーズがあんなに長く続かなければ、もっと違った作品に出る機会もあったのではないかという気もしましたが、「故郷(ふるさと)」('72年)、「同胞」('75年)、「遙かなる山の呼び声」('80年)などシリーズの合間に撮られた山田洋次作品に主演しており、この内「故郷」と「遙かなる山の呼び声」での役名は、本作品と同じ"民子"です。

笠智衆 家族.jpg 「家族」「故郷」「遙かなる山の呼び声」で民子三部作と言われており(「遙かなる山の呼び声」の舞台は"家族"が目指した中標津)、それだけ「家族」での彼女の演技にインパクトがあったということかも。
家族 1971_1.jpg 「家族」の中で、新幹線から富士山を見るのを皆楽しみにしていたのに、富士山の前を通過する頃には家族全員疲れて寝てしまう...というのが、なんだかありそうな話で可笑しかったです。

「家族」●制作年:1970年●監督:山田洋次●脚本:山田洋次/宮崎晃●撮影:高羽哲夫●音楽:佐藤勝●時間:106分●出演:井川比佐志/倍賞千恵子/木下剛志/瀬尾千亜紀/笠智衆/前田吟/富山真沙子/竹田一博/池田秀一/塚本信夫/松田友絵/花沢徳衛/森川信/ハナ肇とクレージーキャッツ/渥美清/松田友絵/春川ますみ/太宰久雄/梅野泰靖/三崎千恵子●公開:1970/10●配給:松竹●最初に観た場所(再見):京橋・フィルムセンター(10-01-21)(評価:★★★★)

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「主人公」は小春(有森也実)だが「主演」は渥美清、誰が誰のモデルか、で愉しめる。

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あの頃映画 「キネマの天地」 [DVD]」有森也実/中井貴一
「キネマの天地」02.jpg かつて旅回りの役者だった喜八(渥美清)は、一人娘の小春(有森也実)と二人で長屋暮らし。小春は浅草「帝国館」で人気の売り子として働いていた。ある日、小春の噂を聞きつけた映画監督の小倉(すまけい)がスカウトに来たことで「キネマの天地」arimori.jpg、小春は女優への道に。小春は見学に行った撮影現場で看護婦の役を与えられたが、いきなりのことで散々な結果となる。意気消沈した小春は女優を諦めようとするが、思いを寄せる助監督の島田(中井貴一)が説得し、大部屋女優として歩み始めた―。

「キネマの天地」ps.jpg 1986年公開の「松竹大船撮影所」50周年記念作品で、1920(大正9)年から大船に移転する1936(昭和11)年まで映画を作り続けた「松竹蒲田撮影所」が舞台。製作の契機としては、松竹映画の象徴である「蒲田行進曲」('82年/松竹)が、同じ松竹配給映画でありながらも、松竹のライバル会社の東映出身の深作欣二監督が東映京都撮影所で撮ったことを野村芳太郎プロデューサーが無念に思い、松竹内部の人間で「過去の松竹映画撮影所」を映画化したいという思いがあったとのことです。

 「蒲田行進曲」は、キネマ旬報ベスト・テン第1位となり、毎日映画コンクール日本映画大賞、ブルーリボン賞作品賞、報知映画賞作品賞、山路ふみ子映画賞などを受賞、賞レースを席巻しましたが、この「キネマの天地」はノミネートこそされたものの、主だった映画賞の作品賞(最高賞)レベルでは無冠に終わったようです。ただし、個人的には、銀四郎とヤスのサド・マゾ的な捻じれた関係から「自発的隷従」的な印象を抱いた「蒲田行進曲」は肌に合わず(もしその方向でいくなら、根岸季衣が小夏を演じた舞台のように徹底すべきだった)、山田洋次監督らしいほんわりしたこの「キネマの天地」の方が好みかもしれません(自分が歳とったせいもあるか)。

「キネマの天地」ab.jpg 脚本に井上ひさし、山田太一が加わる力の入れ様で、「蒲田行進曲」をライバル視しつつも「蒲田行進曲」に出ていた松坂慶子や平田満まで出ているオールスターキャスト、「男はつらいよ」シリーズの製作を1回飛ばしてこちらに注力しているので、渥美清、倍賞千恵子、前田吟、下條正巳、三崎千恵子、笠智衆、佐藤蛾次郎など「男はつらいよ」のレギューラーが総出演(当時15歳の吉岡秀隆は、倍賞千恵子と前田吟の夫婦の間の子の役で、役名もそのまま「満男」)、すまけい、笹野高史、美保純など凖レギューラー、毎回ノンクレット出演の出川哲朗も含め「男はつらいよ」から全員引っ越してきたという感じです。

「キネマの天地」有森中井.jpg 一方で、浅草の映画館の売り子からスター女優になる主役の「田中小春」役を「それから」('85年)の藤谷美和子が"ぷっつん"降板したため(リハーサル中に突然涙ぐんだり、気分が乗らないと芝居もウワの空で、渥美清とぶつかるなどして現場に来ない日があり、我慢強い山田洋次監督も最後はお手上げ状態になり降板となった)、エース女優降板でピンチヒッターとして主役に起用された役モデルと同様に、新人の有森也実が抜擢されました。ただ、彼女と中井貴一とのコンビは初々しいながらも、渥美清と倍賞千恵子が画面に出てきて演技をすると一気に霞んでしまう感じで、「主人公」は小春(有森也実)でペアの相手は島田(中井貴一)だけれども、「主演」は渥美清で相方は倍賞千恵子、という映画だったように思います。

 有森也実が演じた田中小春は田中絹代(1909-1977)がモデルだそうで、そうなると"すまけい"演じる小倉金之助監督は、特定モデルはいないようですが、近いところで「マダムと女房」('31年)で田中絹代をスターダムに押し上げた五所平之助(1902-1981)監督でしょうか。

「キネマの天地」松坂.jpg 松坂慶子が演じる、突然の逐電で主役を降板し、小春にチャンスをもたらすことになる川島澄江は、岡田嘉子(1902-1992)がモデル(1927(昭和2)年3月27日、主役を務める「椿姫」(村田実監督)の相手役であった竹内良一との失踪事件を起こした。小津安二郎監督の「東京の宿」('35年)などにも出ていたが、1937(昭和12)年35歳でソ連に亡命し日本に帰ったのは35年後)ですが、役名は日本映画史上初のスター女優と言われた栗島すみ子(1902-1987)に近いでしょうか。中井貴一が演じる島田健二郎は、特定のモデルはいないようですが、これも、松竹の島津保次郎(1897-1945)監督と40年代に松竹専属だった溝口健二(1898-1956)監督を掛け合わせた風の名前で、二人とも田中絹代と繋がりの深い監督でした(特に溝口健二は田中絹代に恋愛感情を抱いていたと言われている)。

「キネマの天地」岸部.jpg 岸部一徳が演じる緒方監督は小津安二郎(1903-1963)監督を明確にモデルにしており、その演出の様子まで再現していますが、小津の演出を知る笠智衆がその岸部一徳の演技を"語り下ろ「キネマの天地」r.jpgし"の自著『大船日記―小津安二郎先生の思い出』('91年/扶桑社)(後に『小津安二郎先生の思い出』('07年/朝日文庫))の中で褒めています(女優がうまく演技できない時、「外で深呼吸をして来なさい」とか言ったのかなあ)。そのほか、9代目松本幸四郎が演じた城田所長は城戸四郎がモデル、堺正章が演じた内藤監督は、蒲田時代にナンセンス喜劇の名手として鳴らした斎藤寅次郎(1905-1982)がモデルです。
女中役の演技が上手くいかず、いったん外に出る小春(有森也実)(手前は小使トモさん(笠智衆))

「キネマの天地」渥美笹野.jpg 渥美清のキャラクターは、小津安二郎監督の「出来ごころ」('34年)や「浮草物語」('34年)で主役を演じた坂本武を髣髴させ、その渥美清と笹野高史演じる屑屋との掛け合いは森の石松の「スシ食いねえ」の完全なパロディ(オリジナルは中川信夫監督の「エノケンの森の石松」('39年)での柳家金語楼と榎本健一の掛け合いなどで見ることができる)。有森也実演じる小春の初主演作は、「浮草物語」を小津自身がリメイクした「浮草」('59年)と同じタイトルでした。

 「蒲田行進曲」ほど賞には恵まれませんでしたが、山田洋次監督らしい作品でした。以前、蒲田撮影所の跡地に行きましたが、敷地内に映画「キネマの天地」で使用された松竹橋(蒲田撮影所前に架かっていた橋を再現したもの)があり、跡地に建った区民ホール「アプリコ」の玄関ホールに本物がありました。ただし、それ以外は、ここに撮影所があったという痕跡はまったく無かったように思います。

松竹キネマ蒲田撮影所(1920(大正9)年~1936(昭和11)年)/跡地:現ニッセイ「アロマスクエア」&大田区民ホール「アプリコ」)(2023.5.13撮影)
蒲田撮影所1.jpg
映画「キネマの天地」で使用された松竹橋(再現版)と区民ホール「アプリコ」内にある実物(2023.5.13撮影)
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「キネマの天地」dm[.jpg「キネマの天地」t.jpg「キネマの天地」●英題:FINAL TAKE-THE GOLDEN DAYS OF MOVIES●制作年:1986年●監督:山田洋次●製作:野村芳太郎●脚本:山田洋次/井上ひさし/山田太一/朝間義隆●撮影:高羽哲夫●音楽:山本直純●時間:135分●出演:渥美清/中井貴一/有森也実/すまけい/岸部一徳/堺正「キネマの天地」s.jpg章/柄本明/山本晋也/なべおさみ/大和田伸也/松坂慶子/津嘉山正種/田中健/美保純/広岡瞬/レオナルド熊/山城新伍/油井昌由樹/アパッチけ(中本賢)/光石研/山田隆夫/石井均/笠智衆/桜井センリ/山「キネマの天地」y.jpg内静夫/桃井かおり/木の実ナナ/下條正巳/三崎千恵子/平田満/財津一郎/石倉三郎/ハナ肇/佐藤蛾次郎/松田春翠/関敬六/倍賞千恵子/前田吟/吉岡秀隆/笹野高史/ 出川哲朗(ノンクレジット)/(以下、特別出演)9代目松本幸四郎/藤山寛美●公開:1986/08●配給:松竹●最初に観た場所:神保町シアター(24-04-05)(評価:★★★☆)
山田洋次監督(手前は すまけい)
映画で辿る――山田太一と木下惠介.jpg IMG_20240405_162016.jpg 神保町シアター

「キネマの天地」dvd.jpg「キネマの天地」kyasuto.jpg岸部一徳(緒方監督(小津安二郎がモデル))/柄本明(佐伯監督)/松坂慶子(川島澄江(岡田嘉子がモデル))/すまけい(小倉金之助監督)/9代目松本幸四郎(城田所長(城戸四郎がモデル))/笠智衆(小使トモさん)/桃井かおり(彰子妃殿下)/倍賞千恵子(ゆき)/前田吟(ゆきの亭主・弘吉)
あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション キネマの天地 [Blu-ray]


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