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ジュニア新書だが、原発事故とその後の実態は、大人でも読んで初めて知ることが多いのでは。
『原発事故、ひとりひとりの記憶 3.11から今に続くこと (岩波ジュニア新書 981) 』['24年]『ルポ 母子避難―消されゆく原発事故被害者 (岩波新書)』['16年]『孤塁 双葉郡消防士たちの3.11』['20年]『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11 (岩波現代文庫 社会333)』['23年]
吉田 千亜 氏
2011年3月11日の地震、津波、そして原発事故から10年余、その間、福島と東京を往復し、人々の声に耳を傾け、寄り添い、取材を重ねてきた著者が、あの日から今に続く日々を生きる18人の道のりを伝え、あの原発事故が何だったかを、浮き彫りにすることを試みた本です。
第1章「原発から3kmの双葉町で」では、双葉町で牧畜を営んでいた人などに取材し、原発の近くにいた人ほど、逃げるためにいち早く知るべき情報が、まったく伝えられていなかったことが窺えます。
第2章「原発から60kmの郡山市で」では、著者が『ルポ 母子避難―消されゆく原発事故被害者』('16年/岩波新書)でも扱った、当時母子のみで避難することになった人を追っていますが、そのことが離婚の原因となり、シングルマザーになってしまった人もいるのだなあ。
第3章「原発から40kmの相馬市で」では、避難をせず、東電や国の責任を訴え裁判を闘った人を追っていますが、最高裁は「国の責任を認めない」との判決を言い渡し、国家賠償責任は退けた...。国策だった原発の事故なのにです。
第4章「避難指示が出なかった地域で」では、住民たちが自分たちで放射線量を測定する組織を立ち上げた話を紹介。何せ、「ニコニコしていれば放射能は来ない」などと宣(のたま)う御用学者(山下俊一氏)がいたりしたからなあ。
第5章「原発から20km圏内で」では、これも著者が『孤塁―双葉郡消防士たちの3.11』('20年/岩波新書、'23年/岩波現代文庫)でも扱った、原発事故発生当時、原発構内での給水活動や火災対応にもあたった双葉消防本部の消防士たちの証言を集めています。当時、職責以上のことをしていたのに公に知られることなく、そして今は被曝の後遺症の不安を抱え続けているという、何とも理不尽!
第6章「あの原発事故は防げたかもしれなかった」では、津波は予見でき、対策をすれば原発事故は回避できたのではないかということが、東電内で「社員が津波対策を考えていた」ということからも窺えるとしながら、なのに裁判(最高裁判決)では、経営者側の「自分に責任はない」という言い分がと通ってしまったとしています。まさに「唖然」。最高裁は東電の味方なのだなあ。
第7章・第8章では、原発事故当時子どもだった人々を取材して被曝後遺症の不安を聴くとともに、実際に甲状腺がんに罹患した子どもたちの声を集めています。第9章・第10章では、区域外避難者たちの苦難や、国の補助が限定的であったり、どんどん打ち切られたりしていることの問題を取り上げています。
ジュニア新書ですが、本書にある原発事故とその後の実態は、大人だって本書を読んで初めて知ることが多いのではないかと思われます。こうして見ると(除染費用とか補償費用とか、住みたいところに住めないという経済的損失などから考えると)原発ほどコストのかかるエベルギー源はないように思います。それでも国としては、原発事故後に導入された運転期間を原則40年に制限する制度(40年ルール)を見直し、緩和する動きがすでに出ています。
原発推進のために、更なる税金が投入される...。喩えはおかしいかもしれませんが、負け賭博にどんどん金をつぎ込んだ人物を思い出してしまいました。
《読書MEMO》
●目次
1章 原発から3kmの双葉町で―「もう帰れないな」と思った
2章 原発から60kmの郡山市で―母子避難を経て
3章 原発から40kmの相馬市で―避難をせず、裁判を闘う
4章 避難指示が出なかった地域で―地元を測り続ける
5章 原発から20km圏内で―原発のすぐ近くで活動を続けた人たち
6章 あの原発事故は防げたかもしれなかった
7章 原発事故と子どもたち
8章 甲状腺がんに罹患した子どもたち―「誰にも言えずに」「当事者の声を聞いて」
9章 区域外避難者たちの苦難―住宅供与の打ち切り
10章 原発事故の被害の枠組みを広げる
●著者プロフィール
吉田千亜[ヨシダチア]
1977年生まれ。フリーライター。福島第一原発事故後、被害者・避難者の取材、サポートを続ける。著書に『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11』(岩波書店)にて、本田靖春ノンフィクション賞(第42回)、日隅一雄・情報流通促進賞2020大賞、日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞を受賞。