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リゾート感溢れるし、ラストはラストで楽しめたが、原作を超えるには至っていない。

地中海殺人事件  pannhu .jpg地中海殺人事件 1982 poster.jpg地中海殺人事件 DVD.jpg 地中海殺人事件-  Ustinov.jpg
地中海殺人事件 デジタル・リマスター版 [DVD]
映画パンフレット 「地中海殺人事件」監督 ガイ・ハミルトン 出演 ピーター・ユスチノフ」「【映画チラシ】地中海殺人事件 ガイ・ハミルトン ピーター・ユスティノフ [映画チラシ]
マギー・スミス/ロディ・マクドウォール/シルヴィア・マイルズ/ジェームズ・メイソン
地中海殺人事件- smith mcdowell mason.jpg ロンドンの保険会社で、ポアロ(ピーター・ユスティノフ)が模造宝石に保険をかけようとしたホレス・ブラット(コリン・ブレークリー)の調査を依頼される。ポアロは彼に会い、「結婚の約束をした女優のアリーナ・マーシャル(ダイアナ・リグ)に20万ドルの宝石を与えたが、彼女が他の男と結婚したので、宝石を取り戻したところ模造品だった」と聞かされる。当のアリーナはアドレア海の孤島のホテルで休暇を過ごす予定であり、ポアロもそこへ赴く。ホテルの女主人ダフネ(マギー・スミス)はタイラニア国王の元愛人で、手切れ金代りにこのホテルを貰ったのだった。アリーナとは昔一緒に舞台に出たことがあり、二人は再会すると互いに笑いながら嫌味を言い合う。アリーナが新夫ケネス・マーシャル(デニス・クイリー)、ケネスと前妻との間の子リンダ(エミリー・ホーン)と共に着いたホテルには、彼女を再び舞台に復帰させようというプロデューサーのオーデル・ガードナ地中海殺人事件 - balloon.jpgー(ジェームズ・メイソン)と妻の地中海殺人事件- roddy.jpgEvil Under the Sun (1982)_AL_.jpgマイラ(シルヴィア・マイルズ)、彼女の伝記を執筆したジャーナリストのレックス・ブルースター(ロディ・マクドウォール)が待っていたが、彼女は女優業への復帰も伝記の出版も拒否する。そして、ホテル客のハンサムなラテン語教師パトリック・レッドファン(ニコラス・クレイ)と大っ地中海殺人事件276.jpgぴらにいちゃつき、人々の非難の目を浴びる。アリーナのことでパトリックが妻クリスティン(ジェーン・バーキン)と喧嘩しているのを、多くの人が聞きつける。ある日、ホテルを一人で出たアリーナは、ホテルと反対側の海岸の浜辺で日光浴をしていた。パトリックとマイラがボ地中海殺人事件s.jpgートでその浜辺へ。パトリックが横になっている彼女の所へ行くと彼女の死を発見。マイラの知らせを受けたダフネの依頼でポワロが捜査にあたる。皆それぞれに犯行動機があったが、ポアロは死亡推定時刻の11時半から12時までの全員のアリバイ地中海殺人事件b6.jpgを訊くと、誰にとってもアリーナ殺害は不可能だった。リンダとクリスティンは死体発見現場とは反対側の海辺で海水浴とスケッチをしていたし、ケネスは部屋でタイプを打っていたし、レックスはボートで別の海上にいて、ダフニネは従業員とミーティングをし、窓からオーデルが庭で読書しているのを目撃していた。皆がホテルを去る日、ポワロは皆を集めて犯人を指摘する―。

白昼の悪魔  cb.jpg白昼の悪魔 (ハヤカワ・ミステリ文庫2.jpg 1982年公開の昨年['16年]亡くなったガイ・ハミルトン(1922-2016/享年93)による監督、ピーター・ユスティノフ(1921-2004/享年82)の主演作で、原作はクリスティが1941年に発表した『白昼の悪魔』であり、映画の原題も"Evil Under the Sun"。ピーター・ユスティノフにとっては、同じくポワロを演じたジョン・ギラーミン監督の「ナイル殺人事件」('78年)とマイケル・ウィナー監督の「死海殺人事件」('88年)の間の作品であり、ガイ・ハミルトンにとっては、ミス・マープル物の『鏡は横にひび割れて』が原作である「クリスタル殺人事件」('80年)に続くクリスティ原作作品の監督作です(因みにこの「地中海殺人事件」は、「ナイル殺人事件」とプロデューサー、脚本及びが同じであり、「クリスタル殺人事件」ともプロデューサをはじめ主要スタッフが同じである)。

地中海殺人事件 - smith mcdowell.jpg 原作の登場人物の内、ミリー・ブルースターが男性に変更され、レックス・ブルースター(ロディ・マクドウォール)になっているほか、ブルースターがパトリック・レッドファンと共にアリーナの遺体を発見する部分は、オーデル・ガードナーの妻マイラ(シルヴィア・マイルズ)にその役割を置き換えられています。更に、ケネス・マーシャルのことを心配する有名ドレスメーカーのロザモンド・ダーンリーは登場せず、その役割は一部、原作には無いホテルの女主人ダフネ(マギー・スミス)に置き換えられているといった感じです。
マギー・スミス/ロディ・マクドウォール

地中海殺人事件- sea.jpg 原作の舞台は英国内ですが、それをアドリア海にあるティラニア島(架空の島)に改変しています。実際のロケ地はスペインのマヨルカ島付近のドラゴネーラ島であり(ホテル内の壁にかかっている島の地図(文庫カバー図と同じ)と島の空撮映像で見る形とが一致していない(笑))、美しい風景をバックにコール・ポーターの名曲が地中海殺人事件 - island real.jpg流れ、陽光に満ちたリゾート感、優雅な贅沢感が溢れる作品になっています。一方、一部登場人物の改変はあるものの、プロットはほぼ原作に沿っています(原作が精緻なプロットであるため、基本的には殆どいじりようがないのだが)。

ロケ地のスペイン・ドラゴネーラ島

 映画「ナイル殺人事件」の時もそうでしたが、最後ややバタバタバタっとポワロが謎解きしてしまう感じで、観る者に推理する暇をあまり与えていないような印象があり、こうした点はデビッド・スーシェ主演のドラマ版である「名探偵ポワロ(第48話)/白昼の悪魔」('01年)の方が丁寧で分かり易いかもしれません。

地中海殺人事件e4.jpg そのことを意識してか、最後にポワロが犯人だと名指して推理を展開した容疑者が、話としては面白いが証拠がどこにもないと反駁し、悠々とその場を立ち去ろうとするという映画オリジナルの場面があって、それに対してポワロがどう対処したかという独自の"捻り"が加えられています。イギリス映画であって、多くの観客がクリスティの原作の結末を知っているため、敢えてこうしたシークエンスを加えたのではないかとも思われ、また、「タワーリング・インフェルノ」('74年)などアクションアドベンチャー大作が得意のジョン・ギラーミン監督と、「007死ぬのは奴らだ」('73年)などスパイ物やサスペンス物を多く手掛けたガイ・ハミルトン監督の作風の違いの表れでもあるかもしれません。ラストはラストで楽しめましたが、やはり原作を超えるには至っていないように思います。

地中海殺人事件 - last.jpg地中海殺人事件 - rigg smoth.jpg アリーナ・マーシャルを演じたダイアナ・リグ(Diana Rigg)は、「女王陛下の007」('69年)のボンドガールで、娘のレイチェル・スターリング('77年生まれ)も女優であり、「名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚」('03年)、「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第2話)/牧師館の殺人」('04年)などに出演しています。

地中海殺人事件ジェーン・バーキン19.jpg地中海殺人事件a18.jpg パトリック・レッドファンの妻クリスティンを演じたジェーン・バーキン(Jane Birkin)は、「ジェーン・バーキン22.jpgナイル殺人事件」に続いての出演で、10代で既にミケランジェロ・アントニオーニ監督の「欲望」('66年/英・伊)などに出ていますが、エルメスのカゴバッグ"バーキン"誕生の契機となるエルメスの社長と航空機で乗り合わエルメスのバーキン.jpgジェーン・バーキン ファッション.jpgせたという出来事は'84年のこと。以降、女優業、歌手業をこなしながらカジュアル系のファッション・リーダーとしても今日まで活躍し続けていますが、この映画の頃はまだ"着せ替え人形"みたいな感じ。夫パトリック役のニコラス・クレイはシルビア・クリステル主演の「チャタレイ夫人の恋人」('81年/英・仏)で重要な役どころの森番役を演じるなどしましたが、残念ながら2000年に肝癌で亡くなっています。

ジェーン・バーキン

  
Evil Under the Sun (1982)
Evil Under the Sun (1982).jpg地中海殺人事件 - hercule swim.jpg「地中海殺人事件」●原題:EVIL UNDER THE SUN●制作年:1982年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:アンソニー・シェーファー/バリー・サンドラー●撮影:クリストファー・チャリス●音楽:コール・ポーター●原作:アガサ・クリスティ「白昼の悪魔」●時間:117分●出演:ピーター・ユスティノフ/コリン・ブレイクリー/ジェーン・バーキン/ニコラス・クレイ/マギー・スミス/ロディ・マクドウォール/ジェームズ・メイソン/ダイアナ・リグ/シルヴィア・マイルズ/デニス・クイリー/エミリー・ホーン●日本公開:1982/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:有楽座(82-12-28)(評価★★★☆)
ナイル殺人事件」('78年)   「地中海殺人事件」('82年)   「死海殺人事件」('88年)
ナイル殺人事件 スチール2.jpg 地中海殺人事件 es.jpg 死海殺人事件 w.jpg
《読書MEMO》
●原作の評価                
・『ナイルに死す』......★★★★
・『白昼の悪魔』......★★★★
・『死との約束』......★★★★
●映画化作品の評価
・「ナイル殺人事件」......★★★☆
・「地中海殺人事件」......★★★☆
・「死海殺人事件」......★★★

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ヒッチコック唯一のアクション・サスペンス映画。筋立ての旨さで飽きさせない。

北北西に進路を取れ ps.jpg北北西に進路を取れ チラシ.jpg北北西に進路を取れ7.jpg 北北西に進路を取れ dvd.jpg
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北北西に進路を取れ 022.jpg 広告会社の重役ロジャー・ソーンヒル(ケーリー・グラント)は、ホテルのロビーでの会合中、偶然別の人物に間違えられて誘拐され、広壮な邸宅に連れていかれる。そこにいたタウンゼントと名乗る男(ジェームズ・メイソン)は彼の事をキャプランというスパイだと決めつけ、ロジャーが否定すると、今度は泥酔運転に見せかけて殺されそうになる。窮地を脱したロジャーは、翌日、タウンゼントが国連で演説することを知り、真相を確かめようと国連ビルへ赴くが、そこに現れたタウンゼントは全くの別人だった。そして、タウンゼントの背中にナイフが突き立てられ、容疑はロジャーにかかってしまう。政府のスパイ機関の会議室では、教授(レオ・G・キャロル)と呼ばれる男を中心に、予想外の事態への対応を協議していた。タウンゼントに成りすました男は、実はヴァンダムという敵のスパイ一味の親北北西に進路を取れ auction.jpg玉で、教授たちは彼らヴァンダム一味の中に自分たちの側のスパイを送り込んでいた。キャプランは教授たちが創造した架空のスパイで、ヴァンダムの注意をキャプランに引き付けることで、味方のスパイを守ろうという作戦だった。スパイ合戦に巻き込まれたロジャーに対し教授たちは同情しつつも、味方のスパイの安全のHokuhokusei ni shinro wo tore (1959).jpgため敢えて何もしないことに決める。架空の人物とも知らずキャプランを追い求めるロジャーは、彼がシカゴに向かったと知ると駅から特急寝台列車に乗る。その車内でイヴ・ケンドール(エヴァ・マリー・セイント)という女性と親しくなる。彼女はロジャーがお尋ね者であることを知りながら、彼を自室に招き入れて匿う。ところが同じ列車にヴァンダム一味も乗っていて、実はイヴは彼らと通じていた―。
Hokuhokusei ni shinro wo tore (1959)

北北西に進路を取れ 09.jpg 1959年のアルフレッド・ヒッチコック作品で、小麦畑でのセスナシーンやラシュモア山のシーンなどで知られるように、ヒッチコック唯一のアクション・サスペンスムービーとも言われています。こうした作品は大味になりがちなところを、筋立てとその運びの旨さで飽きさせず、さすがアカデミー賞の脚本賞にノミネートされただけのことはあります。個人的には、アクションもさることながら、ラシュモア山麓に建っている敵のモダンな別荘だとか、ロジャーがオークション会場で敵に囲まれた際に、わざと無茶苦茶な値を付けて警備員に連れ出されることで難を逃れるといったシーンなどが意外と印象に残っていたりします。

北北西に進路を取れ 00.jpgジェームズ・ステュアート.jpg 主演のケーリー・グラント(1904-1986/享年82)は、ジェームズ・ステュアート(1908-1997/享年89)と並ぶヒッチコック映画の代表的俳優であり、「断崖」('41年)、「汚名」('46年)、「泥棒成金」('55年)でヒッチコック映画のまさに"顔"となりましたが、その後、「裏窓」('54年)、「知りすぎていた男」('56年)、「めまい」('58年)でジェームズ・ステュアートが台頭し、立場が逆転した印象もあったところにこの作品に出演し、再びジェームズ・ステュアートに並ぶか、或いは抜き返したという感じではないでしょうか。

北北西に進路を取れ 03.jpg ジェームズ・ステュアートはこの作品のロジャー役を熱望していたそうですが、フランソワ・トリュフォーのヒッチコックに対するインタビュー集『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』(山田宏一・蓮實重彦訳、'81年/晶文社)によれば、ヒッチコックは、「めまい」がヒットしなかったのはジェームズ・ステュアートがラヴ・ストーリーを演じるには年を取り過ぎていたからと考えていたようで、「北北西に進路を取れ」はスパイ・アクション映画ではあるが、ラヴ・ストーリーが大きな位置を占めているため、ジェームズ・ステュアートよりもその外見が若々しいケーリー・グラントを選んだのだろうとト映画術80.JPG映画術78.JPGリュフォーは推察しています(実際にはケーリー・グラントの方がジェームズ・ステュアートより3つ年上なのだが)。因みに、当時ヒットしなかったという「めまい」は、"Sight & Sound"誌映画批評家による「オールタイム・ベスト250」の2012年版で第1位に選出されています(「北北西に進路を取れ」は52位)。

定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』('90年/晶文社)

北北西に進路を取れ エヴァ・マリー・セイント.jpg 一方、謎の女性を演じている女優はエヴァ・マリー・セイント(1924- )で、当時すでに「波止場」('54年)でアカデミー助演女優賞を受賞していましたが(因みに「波止場」はグレースー・ケリー北北西に進路を取れ 05.jpgが「裏窓」出演のために役を断り、そのためエヴァ・マリー・セイントに役が回ってきた)、ヒッチコックはこの作品でしかエヴァ・マリー・セイントを使っていません。おそらく、従来のヒッチコ北北西に進路を取れ 06.jpgック作品のヒロイン像と違って、「007シリーズ」のボンドガールのような役回りであることも関係しているのでしょう。ラストのロジャーと2人で寝台車のベッドで抱き合うシーンなども「007シリーズ」の北北西に進路を取れ 07.jpgエンディングっぽいですが、「007シリーズ」の第1作「007 ドクター・ノオ」('62年)の公開は本作の3年後です。ロジャーとイヴが寝台車の中で抱き合った後、列車がトンネルの中に入っていくシーンについて先ほどの『映画術』の中でヒッチコックは、「あれはこれまで私が撮った映画のなかでも一番猥褻なショットだ...列車は男根のシンボルだ」とトリュフォーに語っています。

[北北西に進路を取れ]posterart_.jpeg北北西に進路を取れ hichi.jpg 因みに、恒例のヒッチコック自身のカメオ出演は、この作品では冒頭のクレジットタイトルの最後に出てくるバスに乗り遅れる男性であり、探す上ではかなり分かりやすい部類ではないでしょうか(「裏窓」も分かりやすかったが、それ以上か)。海外版の映画ポスターでは、劇中に出てくるラシュモア山の4人の大統領の顔にヒッチコックの顔をコラージュしたものがあります。
   
北北西に進路を取れ 02.jpg「北北西に進路を取れ」●原題:NORTH BY NORTHWEST●制作年:1959年●制作国:アメリカ●監督・製作:アルフレッド・ヒッチコック●脚本:アーネスト・レーマン●撮影:ロバート・バークス●音楽:バーナード・ハーマン●時間:136分●出演:ケーリー・グラントエヴァ・マリー・セイント北北西に進路を取れe8.jpgNorth_by_Northwest.jpgジェームズ・メイソンマーティン・ランドー/ジェシー・ロイス・ランディNorth_by_Northwest__James_Mason.jpgス/レオ・G・キャロル/ジョセフィン・ハッチンソン/フィリップ・オバー/エドワード・ビンズ/アダム・ウィリアムズ/ロバート・エレンシュタイン●日本公開:1959/09●配給:メトロ・ゴールドウィン・メイヤー●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター(88-07-10)(評価:★★★★)●併映:「暗殺者の家」(アルフレッド・ヒッチコック)

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『評決』の続編。本格リーガル・サスペンスだが、エンタメ要素もふんだんに。

決断 バリー・リード.jpg  評決 dvd.jpg 評決 ニューマン チラシ.jpg 『評決』(1982)3.jpg
決断 (ハヤカワ文庫NV)』['97年]/「評決 [DVD]」/映画「評決」チラシ/「評決」の1シーン
"The Choice" Barry C. Reed (Paperback 1992)『決断 (ハヤカワ・ノヴェルズ)』['94年]
『決断』ハヤカワ・ノヴェルズ.jpg アル中から立ち直った弁護士フランク・ギャルヴィンは、今や一流法律事務所で出世街道をひた走っていたが、ある日、若い女性弁護士ティナから巨大製薬会社の薬害訴訟の被害者側の弁護を依頼される。しかし、その訴訟は勝目が無い上に、その製薬会社はギャルヴィンの所属事務所の大手顧客であったため、彼は弁護を断わり、代わりに恩師の老弁護士モウ・カッツを紹介する。訴訟は提訴され、ギャルヴィンは図らずも製薬会社側の弁護を命じられ、恩師と女性弁護士、更には事務所を辞めたかつての部下らと対峙することになる―。

 1980年にデビュー作『評決』(原題:The Verdict、'83年/ハヤカワ・ミステリ文庫)を発表したバリー・リード(Barry C. Reed 1927-2002)が、11年後の1991年に発表した、『評決』の続編で(原題:The Choice)、医療ミスに関する訴訟を扱った前作の『評決』は、「十二人の怒れる男」のシドニー・ルメット監督、「明日に向かって撃て!」のポール・ニューマン(1925-2008)主演で映画化('82年/米)され、アル中のため人生のどん底にあった中年弁護士ギャルヴィンの、甦った使命感と自らの再起を賭けた法廷での闘いが描かれていました。

 本作『決断』では、弁護士として功名を成したギャルヴィンは、専ら大企業の弁護をするボストンの一流法律事務所のパートナー弁護士になっていて、その分刻みでのビジネスライクな仕事ぶりに、最初はすっかり人が変わってしまったみたいな印象を受けますが、やはりギャルヴィンはあくまでギャルヴィンであり、最後どうなるか大方の予想がつかなくもありませんでした。

 中盤までは、法律事務所の仕事ぶりや裁判の経緯がこと細かく描かれていて、バリー・リード自身が医療ミス事件としては史上最高額の評決を勝ち取ったことがある法律事務所に属していた辣腕弁護士であっただけに、本格的なリーガル・サスペンスという感じで、同じ弁護士出身の作家でも、『法律事務所』(1991年発表、'92年/文藝春秋)のジョン・グリシャムのよりも、弁護士としての実績では遥かにそれを上回る『推定無罪』(1987年発表、'88年/文藝春秋)のスコット・トゥローの作風に近い感じがしました。

 結末の方向性は大体見えているし、審理の過程を楽しむ"通好み"のタイプの作品かなと思って読んでいたら、『評決』同様乃至はそれ以上に終盤は緊迫したドンデン返しの連続で、一時は法廷を飛び出してスパイ・ミステリみたいになってきて、相変わらず女性との絡みもあり、大いに楽しませてくれました。

 映画化されたら「評決」と同じかそれ以上に面白い作品になるのではないかとも思いましたが、やはり、主人公がどん底から這い上がって来て、人生の逆転劇を演じるような作品の方がウケルのかなあ(『決断』は映画化されていない)。

 但し、こうした作品が映画化される場合、「評決」の時もカルテの書き換えとそれに関する偽証に焦点が当てられていたように、細かい箇所は端折って、どこか一点に絞ってクローズアップされる傾向にあり、リーガル・サスペンスとしての醍醐味は、やはり原作の方が味わえるのではないかと思います。

 振り返れば、女性の使われ方が『評決』とやや似かよっていて、また、証人の証言に比重がかかり過ぎているようにも思えましたが、後半からラストまでは息つく間もなく一気に読める作品でした(読んでいて、どうしてもギャルヴィンにポール・ニューマンを重ねてイメージしてしまう。映画化されていないのは、続編が出るのが遅すぎて、ポール・ニューマンが歳をとりすぎてしまっていたこともあるのか?)。

評決 ペーパーバック.jpg評決 ポール・ニューマン.jpg 映画「評決」は、当初アーサー・ヒラー監督、ロバート・レッドフォード主演で制作が予定されていたのが、アーサー・ヒラーが創作上の意見不一致を理由に降板、ロバート・レッドフォードもアル中の役は彼のイメージにそぐわないとの理由で見送られ、企画は頓挫し、脚本も途中で何回も書き直されることになったそうです。

 結局、監督はシドニー・ルメットに(彼が選んだ脚本は一番最初に没になったものだった)、主演は「明日に向かって撃て!」でレッドフォードと共演した評決 新宿ロマン1.jpg評決 新宿ロマン2.jpgポール・ニューマンになり、そのポール・ニューマン自身、「自分の長いキャリアの中で初めてポール・ニューマン以外の人物を演じた」と述べたそうですが、そうした彼の熱演もあって、リーガル・サスペンスと言うより人間ドラマに近い感じに仕上がっているように思いました。

評決 ニューマン.jpg ちょうどアカデミー賞の受賞式を日本のテレビ局で放映するようになった頃で、ポール・ニューマンの初受賞は堅いと思われていましたが、「ガンジー」のベン・キングズレーにさらわれ、4年後の「ハスラー2」での受賞まで持ち越しになりました。映画の内容の方は、より一般向けに原作をやや改変している部分もありますが、ポール・ニューマンの演技そのものにはアカデミー賞をあげてもよかったのではないかと思いました。

The Verdict (1982).jpgThe Verdict (1982)
評決」●原題:THE VERDICT●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:リチャード・D・ザナック/デイヴィッド・ブラウン●脚本:デイヴィッド・マメット●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:ジョニー・マンデル●時間:129分●出演:ポール・ニューマン/シャーロット・ランプリング/ジャック・ウォーデン/「評決」 シャーロット・ランプリング.jpg評決 ジェームズ・メイソン.jpg評決 ブルース・ウィリス2.jpgジェームズ・メイスン/ミロ・オシア/エドワード・ビンズ/ジュリー・ボヴァッソ/リンゼイ・クルーズ/ロクサン・ハート/ルイス・J・スタドレン/ウェズリー・アディ/ジェームズ・ハンディ/ジョー・セネカケント・ブロードハースト/コリン・スティントン/バート・ハリス/ブルース・ウィリス(ノンクレジット)(傍聴人)●日本公開:1983/03●配給:20世紀フォックス●最初に観新宿ロマン.png新宿ロマン劇場2.jpgた場所:新宿ロマン劇場(83-05-03)(評価:★★★☆) 
    
新宿ロマン劇場 明治通り・伊勢丹向かい。1924(大正13)年「新宿松竹館」→1948(昭和23)年「新宿大映」→1971(昭和46)年「新宿ロマン劇場」 1989(平成元)年1月16日閉館

「新宿ロマン劇場閉館―FNNスーパータイム」1989(平成元)年1月17日放送(アンカーマン 逸見政孝・安藤優子)
新宿ロマン劇場閉館.jpg

【1997年文庫化[ハヤカワ文庫NV]】

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複雑な問題をわかり易く説明することのプロが、時間をかけて書いた本だけのことはあった。

まんが パレスチナ問題.jpg sadat.jpg アラファト.jpg 屋根の上のバイオリン弾き dvd.jpg さすらいの航海 dvd.jpg
まんが パレスチナ問題 (講談社現代新書)』['05年]「屋根の上のバイオリン弾き [DVD]」「さすらいの航海 [DVD]

 旧約聖書の時代から現代まで続くユダヤ民族の苦難とパレスチナ難民が今抱える問題、両者の対立を軸とした中東問題全般について、その宗教の違いや民族を定義しているものは何かということについての確認したうえで、複雑な紛争問題の歴史的変遷を追ったもので、周辺諸国や列強がどのようなかたちでパレスチナ問題に関与したか、それに対しイスラエルやパレスチナはどうしたかなどがよくわかります。

 最初のうちは、マンガ(と言うより、イラスト)がイマイチであるとか、解説が要約され過ぎているとか、地図の一部があまり見やすくないとか、心の中でブツブツ言いながら読んでいましたが、結局、読み出すと一気に読めてしまい、振り返ってみれば、確かに史実説明が短い文章で切られているため因果関係が見えにくくなってしまい、歴史のダイナミズムに欠ける部分はあるものの、全体としては、わかり易く書かれた本であったという印象です。

 ユダヤの少年ニッシムとパレスチナの少年アリによるガイドという形式をとっていて、(会話体の割には教科書的な調子の記述傾向も一部見らるものの)双方のパレスチナ問題に関する歴史的事件に対する見解の違いを浮き彫りにする一方で、ちょっと工夫されたエンディングも用意されています。

 著者は、広告代理店の出身で、教育ビデオの制作などにも携わった経験の持ち主ですが、複雑な問題をわかり易く説明することにかけてのプロなわけで、そのプロが、2年半もの時間をかけて書いた本、というだけのことはありました。

 読み終えて、ロンドンのロスチャイルドのユダヤ人国家建国の際の政治的影響力の大きさや、'48年、'56年、'67年、'73年の4度の中東戦争の経緯などについて新たに知る部分が多かったのと、サダト・元エジプト大統領に対する評価がよりプラスに転じる一方で、アラファト・元PLO議長に対する評価のマイナス度が大きくなりました。


 要所ごとに、「十戒」「クレオパトラ」「チャップリンの独裁者」「アラビアのロレンス」「夜と霧」「屋根の上のバイオリン弾き」「栄光への脱出」といった関連する映画がイラストで紹介されているのも馴染み易かったです。

屋根の上のバイオリン弾き.jpg屋根の上のバイオリン弾き2.jpg ノーマン・ジュイスン監督の「屋根の上のバイオリン弾き」('71年)は、もともと60年代にブロードウェイ・ミュージカルとして成功を収めたもので、ウクライナ地方の小さな村で牛乳屋を営むユダヤ人テヴィエの夫婦とその5人の娘の家族の物語ですが、時代背景としてロシア革命前夜の徐々に強まるユダヤ人迫害の動きがあり、終盤でこの家族たちにも国外追放が命じられる―。

Topol in Fiddler On the Roof
『屋根の上のバイオリン弾き』(1971).jpg 映画もミュージカル映画として作られていて、テーマ曲のバイオリン独奏はアイザック・スターン。ラストの「サンライズ・サンセット」もいい。

 主演のトポルはイスラエルの俳優で、舞台で既にテヴィエ役をやっていたので板についていますが、森繁の舞台を先に見た感じでは、やはりこの作品は映画より舞台向きではないかという気がしました("幕間"というものが無い映画で3時間は結構長い)。

Katharine Ross in Voyage Of The Damned
さすらいの航海0_n.jpgKatharine Ross Voyage Of The Damned.jpgさすらいの航海(VOYAGE OF THE DAMNED).jpg 事件的にはややマイナーなためか紹介されていませんが、第2次大戦前夜、ドイツから亡命を希望するユダヤ人937名を乗せた客船が第二の故郷を求めて旅する実話のスチュアート・ローゼンバーグ監督による映画化作品「さすらいの航海」('76年/英)なども、ユダヤ人の流浪を象徴する映画だったと思います。

 船に乗っているのは比較的裕福なユダヤ人たちですが、ナチスVoyage of the Damned1.jpgの策略で国を追い出されアメリカ大陸に向かったものの、キューバ、米国で入港拒否をされ(ナチス側もそれを予測し、ユダヤ人差別はナチスだけではないことを世界にアピールするためわざと出航させた)、結局また大西洋を逆行するという先の見えない悲劇に見舞われます。

Voyage of the Damned2.jpg この映画はユダヤ人資本で作られたもので、マックス・フォン・シドーの船長役以下、オスカー・ヴェルナーとフェイ・ダナウェイの夫婦役、ネヘミア・ペルソフ、マリア・シェルの夫婦役、オーソン・ウェルズやジェームズ・メイソンなど、キャストは豪華絢爛。今思うと、フェイ・ダVOYAGE OF THE DAMNED Faye Dunaway.jpgナウェイのスクリーン 1976年 10月号 表紙=キャサリン・ロス.jpgさすらいの航海 キャサリン ロス.jpgような大物女優からリン・フレデリック、キャサリン・ロスのようなアイドル女優まで(キャサリン・ロスは今回は両親を養うために娼婦をしている娘の役でゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞。アイドル女優と言っては失礼か)、よく揃えたなあと。さすがユダヤ人資本で作られた作品。但し、グランドホテル形式での人物描写であるため、どうしても1人1人の印象が弱くならざるを得なかったという、このタイプの映画にありがちな弱点も見られたように思います。
 
「スクリーン」1976年 10月号 表紙=キャサリン・ロス
 
  
FIDDLER ON THE ROOF 1971.png『屋根の上のバイオリン弾き』(1971)2.jpg「屋根の上のバイオリン弾き」●原題:FIDDLER ON THE ROOF●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督・製作:ノーマン・ジュイスン●脚本:ジョセフ・スタイン●撮影:オズワルド・モリス●音楽:ジョン・ウィリアムス●原作:ショーレム・アレイヘム「牛乳屋テヴィエ」●時間:179分●出演:トポル/ノーマ・クレイン/ロザリンド・ハリス/ミシェル・マーシュ/モリー・スカラ座.jpg新宿スカラ座22.jpgピコン/レナード・フレイ/マイケル・グレイザー/ニーバ・スモール/レイモンド・ラヴロック/ハワード・ゴーニー/新宿スカラ123  .jpg新宿スカラ座.jpgヴァーノン・ドブチェフ●日本公開:1971/12●配給:ユナイト●最初に観た場所:新宿ビレッジ2(88-11-23)(評価:★★★☆)

新宿スカラ座 閉館.jpg新宿ビレッジ1・2 新宿3丁目「新宿レインボービル」B1(新宿スカラ座・新宿ビレッジ1・2→新宿スカラ1(620席)・2(286席)・3(250席)) 2007(平成19)年2月8日閉館

新宿ビレッジ1・2 → 新宿スカラ2・3
 

 

「さすらいの航海」サウンドトラック
Voyage of the Damned.jpgさすらいの航海 w d.jpgサウンドトラック - さすらいの航海.jpg「さすらいの航海」●原題:VOYAGE OF THE DAMNED●制作年:1976年●制作国:イギリス●監督:スチュアート・ローゼンバーグ●製作:ロバート・フライヤー●脚本:スティーヴ・シェイガン/デヴィッド・バトラー●撮影:オズワルド・モリス●音楽:ラロ・シフリン●原作:ゴードン・トマス/マックス・モーガン・ウィッツ「絶望の航海」●時間:179分●出演:フェイ・ダナウェイオスカー・ヴェルナーオーソン・ウェルズリン・フレデリックマックス・フォン・シドー/マルコム・マクダウェル/リー・グラント/キャサリン・ロス/ジェームズ・メイソン/マさすらいの航海 マックス・フォン・シドー.jpgさすらいの航海 リン・フレデリック4.jpgさすらいの航海 ウェルズ2.jpgリア・シェル/ネヘミア・ペルソフ/ホセ・フェラVoyage of the Damned James Mason.jpgー/フェルナンド・レイ●日本公開:1977/08●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:吉祥寺スカラ座 (77-12-24)(評価:★★★)●併映:「シビルの部屋」(ネリー・カフラン)

吉祥寺東亜.jpg吉祥寺セントラル・吉祥寺スカラ座.jpg吉祥寺スカラ座・吉祥寺オデヲン座・吉祥寺セントラル・吉祥寺東宝

吉祥寺スカラ座 1954(昭和29)年、吉祥寺駅東口付近に「吉祥寺オデヲン座」オープン。1978(昭和53)年10月、吉祥寺オデヲン座跡に竣工の吉祥寺東亜会館3階にオープン(5階「吉祥寺セントラル」、2階「吉祥寺アカデミー」(後に「吉祥寺アカデミー東宝」→「吉祥寺東宝」)、B1「吉祥寺松竹オデヲン」(後に「吉祥寺松竹」→「吉祥寺オデヲン座」)。 2012(平成24)年1月21日、同会館内の全4つの映画館を「吉祥寺オデヲン」と改称、同年8月31日、地下の前・吉祥寺オデヲン座(旧・吉祥寺松竹)閉館。 

吉祥寺東亜会館
吉祥寺オデオン.jpg 吉祥寺オデヲン.jpg

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"感動ストーリー"だが、色々考えさせられるという意味で面白かった。

秘密.jpg 映画 秘密.jpg 秘密DVD.jpg 天国から来たチャンピオンL.jpg
秘密』(1998/09 文藝春秋) 1999年映画化(監督:滝田洋二郎、主演:広末涼子/小林薫)「秘密 [DVD]」「天国から来たチャンピオン [DVD]

 1999(平成11)年度・第52回「日本推理作家協会賞」受賞作。 

 愛する妻と11歳の娘に囲まれ満ち足りた生活を送る杉田平介。だがある日、 妻・直子と娘・藻奈美が乗ったスキーバスが崖から転落する。妻は亡くなってしまうが、意識を取り戻した娘の方に妻の意識が宿ってしまい、残された平介は「娘の姿をした妻」と生活することになる―。

 某編集者の結婚披露宴の挨拶で、自らのことを「キャリアは20年だが、14年間売れなかった」と言ったという作者の、そうした状況を脱する契機となったとされる出世作。主人公は、世間に対しては「娘が実は妻であること」は伏せていて、そのことがまずこの物語の第一の「秘密」。そして、第二の「秘密」は―。

天国から来たチャンピオン.jpgゴースト ニューヨークの幻.jpg これ以上は何を書いてもネタバレになってしまいますが、アメリカ映画の「天国から来たチャンピオン」('79年)や「ゴースト/ニューヨークの幻」('90年)などのスピリチュアル・ファンタジーの系譜と同種のプロットかと思って読んでいました。
天国から来たチャンピオン [DVD]」/「ゴースト ニューヨークの幻 [DVD]

 そうしたら「憑依」という言葉が出てきて、この作品では心霊学的な「憑依」ではなく、超心理学的な「憑依現象」(心理学的には「多重人格」)としてのそれが扱われているので、「娘の姿をした妻」は実は「妻の意識を持った娘」であることがはっきりします。

 それでも読者を、「妻の人格」に感情移入させて読ませるところが、著者の力量でしょうか。夫の妻に対する想いを描き、「妻」の夫に対する想いを描きますが、後者は「娘の人格により投射された妻の像」であるはず。娘と妻の関係を直接的には描写せず、更に夫をセンチメンタリズムの中に埋没させ事実を直視させないことで、"科学的"ファンタージーとして成立しているように思えました。

 作者はそれでも不充分だと思ったのか、最後に"指輪"を巡る第二の「秘密」を用意していましたが、それさえも、「霊」を持ち出さなくとも超心理学的には説明できてしまうことだと思います(ただしこの辺りにくると、真実はもうどうでもよくなっているような感じ)。

 亡くなった人の自我や個性が別の人の脳にコピーされた場合、その「別の人」が「亡くなった人」になり、状況的には「亡くなった人」が生きているというのと同じことになるのでしょうか。妻が娘にかけた、自分が死んだときに自動起動する「後催眠暗示」というふうにとれなくもないし、娘がそれを逆手にとって、夫の心の中での妻の座を占めようとしているようにとれなくもないない場面もあるからややこしい。

映画「秘密」1.jpg者は当初、コメディ仕立てでいこうかと考えたとのこと、自分にとっては、色々な見方ができて考えさせられるという意味での"面白さ"がありました。

滝田洋二郎 秘密1.jpg 映画化もされましたが、話が途中から始まっているし、設定も細部において異なっているものの(娘の事故当時の年齢設定が11歳から17歳に引き上げられている)、物語の本筋の部分は生かされていたように思います。 映画「秘密」(1999年・東宝)

 ベテランの役者陣が周りをしっかり固めているということもありましたが、広末涼子の演技も悪くなかったです(う~ん、この演技力でワセダにAO入学したわけか。中退したけれど)。

幽霊紐育を歩く.jpg 因みに、先にあげた「天国か天国から来たチャンピオン23.jpgら来たチャンピオン(Heaven Can Wait)」は、「幽霊紐育を歩く(Here Comes Mr. Jordan)」('41年)のリメイク作品で、前途有望なプロ・フットボール選手(ウォーレン・ベイティ)が交通事故で即死するが、それは天使のミスによるものだったため、困った天界は彼の魂を殺されたばかりの若き実業家の中に送り込み、その結果全く新しい人物となった彼は、再びフットボールの世界に乗り出す―というもの。

天国から来たチャンピオン  ジェット機.jpg ボクシングのチャンピオンだった男を主人公としたオリジナルのリメイク作品だと分かるように、わざわざ邦題に"チャンピオン"と入れたのでしょうか(アメフトで個人を指してチャンピオンとはあまり言わないのでは)。今観ると、天国へ行く人々が乗るジェット機が〈コンコルド〉風だったりして時代を感じさせますが、「感動作」であることには違いなく、"自分とは何か"を考えさせられる部分もありました。

天国から来たチャンピオン2.jpg 一方で個人的に今ひとつノリ切れなかったのは、映像上のウソがあるためで、つまり、死んだウォーレン・ベイティの魂が身体を借りた実業家兼フットボール選手を、やはりウォーレン・ベイティが演じているという点。これは致し方ないことであり、あまりこだわる人もいないのかも知れませんが、このウソを克服しないと映画が楽しめないような気もしました(オリジナル作品では、ボクシング選手の魂が実業家にのり移るのだがそれなりに実業家に見える。その点、ウォーレン・ベイティはどこから見てもウォーレン・ベイティにしか見えない)。                                 

 これに比べると、映画「秘密」は、こうした「お約束」を観る者に強いるほどではない分、その点に関して言えば旨く出来ているようにも思いました(原作がいいということか)。 

秘密ド.jpg映画 秘密31.jpg「秘密」●制作年:1999年●監督:滝田洋二郎●製作:児玉守弘/田上節郎/進藤淳一●脚本:斉藤ひろし●撮影:栢野直樹●音楽:宇崎竜童●原作:東野圭吾●時間:119分●出演:広末涼子/小林薫/岸本加世子/金子賢/石田ゆり子/伊藤英明/大杉漣/山谷初男/篠原ともえ/柴田理恵/斉藤暁/螢雪次朗/國村隼/徳井優/並樹史朗/浅見れいな/柴田秀一●劇場公開:1999/09●配給:東宝 (評価★★★☆)
     
天国から来たチャンピオン チラシ.jpg天国から来たチャンピオン  .jpg「天国から来たチャンピオン」●原題:HEAVEN CAN WAIT●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:ウォーレン・ベイティ/バック・ヘンリー●製作:ウォーレン・ベイティ●脚本:エレイン・メイ/ウォーレン・ベイティ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:デーヴ・グルーシン●原作:i-img600x446-1546386106i9p1zj197656.jpgハリー・シーガル●時間:101分●出演:ウォーレン・ベイティ/ジュリー・クリスティ/ジェームズ・メイソン/ジャック・ウォーデン/チャールズ・グローディン/ダイアン・キャノン/R・G・アームストロング/ヴィンセント・ジェームズ・メイソン 天国から来たチャンピオン1.jpgガーディニア●日本公開:1979/01●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:新宿パレス(83-02-04)(評価:★★★☆)

ジェームズ・メイソン

ジュリー・クリスティ in「ドクトル・ジバゴ」(1965)/「天国から来たチャンピオン」(1978)
0ジュリー・クリスティ .jpg


東野 圭吾 『秘密』1.jpg東野 圭吾 『秘密』2.jpg 【2001年文庫化[文春文庫]】

文春文庫カバー(旧・新)

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