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今村「重喜劇」の代表作。大島渚の「太陽の墓場」と似た雰囲気を感じた。

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日活100周年邦画クラシックス GREATシリーズ 豚と軍艦 HDリマスター版 [DVD]」長門裕之/吉村実子
「豚と軍艦」14.jpg 水兵相手のキャバレーが立ち並ぶ町の中心地ドブ板通り。周囲の活気をよそに。当局の取締りで根こそぎやられてしまったモグリ売春ハウスの連中、日森(三島雅夫)一家は青息吐息の状態。そこで一家は、豚肉の払底から大量の豚の飼育を考えついた。ハワイからきた崎山(山内明)が基地の残飯を提供するという耳よりな話もある。ゆすり、たかり、押し売りからスト破りまでやってのけて金をつくり、彼らの"日米畜産協会"もメドがつき始めた。そんな時、流れやくざの春駒(加原武門)がタカリに来た。応待に出た若頭で胃病もちの鉄次(丹波哲郎)の目が光る。叩き起されたチンピラの欣太(長門裕之)は春駒の死体を沖合まで捨てに行かされた。「欣太、万一の場合には代人に立つんだ。くせえ飯を食ってくりゃすぐ兄貴分だ」という星野(大坂志郎)の言葉に、単純な欣太はすぐその気になった。彼は恋人の春子(吉村実子)と暮したい気持でいっぱいなのだ。春子の家は、姉の弘美(中原早苗)のオンリー生活で左団扇だったが、彼女はこの町の醜さを憎悪し、欣太に地道に生きようと言っては喧嘩になった。ある夜、吐血して病院に担ぎこまれた鉄次がそのまま入院となり、日森一家の屋台骨はグラグラになる。会計係の星野が有り金を持って消え、崎山も前金を搾り取るとハワイに逃げてしまった。酷い胃癌で余命三日という診断結果を受けた鉄次は、自殺する勇気もなく、殺し屋のワン(城所英夫)に自分を殺してくれとすがりつく。だがこれは間違いで、鉄次は単なる胃潰瘍だった。鉄次は、間違いを喜ぶよりもワンに殺される恐怖に再び血を吐く。欣太と激しく口喧嘩をした春子は町に飛び出し、酔った水兵に嬲りものにされる。日森一家は組長の日森と、軍治(小沢昭一)・大八(加藤武)とに分裂、両者とも勝手に豚を売りとばそうと企み、軍治たちは夜にまぎれての運搬を欣太に命じた。欣太は豚を積み込む寸前に先回りした日森らに捕まってしまう。豚を乗せ走り出す日森のトラック群。それを追う軍治らのトラック。六分四分で手を打とうという日森だったが、欣太はもう騙されないと小型機関銃をぶっ放す。ドブ板通りには何百頭という豚の大群が溢れる―。

「豚と軍艦」poster.jpg「豚と軍艦」ny1.jpg 今村昌平監督の1961年公開作で、今村「重喜劇」の代表作とされる作品であり、1961年度・第14回「ブルーリボン賞(作品賞)」受賞作。マーティン・スコセッシ監督がこの映画を学生時代に観て「衝撃を受けた」と語っているという話は有名です。そう思うと確かに〈ピカレスクもの〉としては「グッドフェローズ」('90年/米)などに通じるところもあるし、一方、長門裕之(競演の南田洋子とはこの年に結婚)と吉村実子(今村昌平にスカウトされての映画初出演。「にっぽん昆虫記」にも出ている)のカップルはまさに「どぶの中の青春」という感じで(つまり〈青春もの〉でもある)、2012年に日活創立100周年記念として過去の日活映画を上映した「日活映画 100年の青春」企画でも、上映作品のラインアップにこの作品がありました。

「豚と軍艦」6.jpg 基本的にコメディですが普通のコメディと少し違い、「重喜劇」は単に重いのではなく、軽快な喜劇の逆であるということ、つまり「鈍重な喜劇」だということだそうです。豚を巡るブラックユーモアは、そのまま戦後日本の状況的な寓意になっていて、「米軍基地から出る残飯でやくざが豚を飼い、大儲けをたくらむ」という簡単なプロットから、戦後世界の中で軍艦(軍事的身分)を保持できなかった日本人が、豚(寄生的な家畜)として生きる姿を描いているともとれます。
  
小沢昭一/加藤武/長門裕之/丹波哲郎/大坂志郎
「豚と軍艦」ierba.jpg 神経を逆撫でするギャグが頻出し、丸焼きにした豚の肉片から人の入れ歯が見つかり、ヤクザの一人(加藤武)が殺害したお尋ね者の死体を土に埋めずに豚の餌の中に混ぜ込んだと言うと、鉄次(丹波哲郎)ら一同が嘔吐するといった場面と「豚と軍艦」丹波哲郎 j.jpgか、また、鉄次が、末期ガンで三日と持たないと伝えられ、発作的に鉄道自殺を企てるも直前で思い止まり、列車をやり過ごした直後にしがみついていたのが生命保険の看板だったとか―(だいたい強面な役が多い丹波哲郎が、ここではドスを効かせながらも喜劇的な部分をかなり担っているのが興味深く、この点も「重喜劇」故か?)。

 個人的には、前年公開の大島渚監督の「太陽の墓場」('60年/松竹)と似た雰囲気を感じました。「太陽の墓場」は大阪(西成地区か)が舞台で、主人公のチンピラ役は川津祐介で、愚連隊の会長役は長門裕之の弟・津川雅彦でした。皆が殺し合って、最後に残ったのは炎加世子演じるヒロインでしたが、この「豚と軍艦」でも、ラストの狂騒の中、警官に撃たれた欣太は路地裏でひっそり命を落とし、数日後、一人になった春子は未来を見据えて堂々と家を出ていきます。どちらの映画の女性も強い―。誰か、「太陽の墓場」と「豚と軍艦」を比較して論じている人はいないのかなあ。

「豚と軍艦」yokosuka.jpg 何年か前に横須賀に行って横須賀本港と、海上自衛隊の司令部がある長浦港をめぐり、日米の艦船を見学するクルージングツアーに参加しました。艦船の中にイージス艦2隻が泊まっていましたが、2隻で計約5000億円するそうな。新国立競技場の 建設「豚と軍艦」m.jpg費用が約1600億円だから、1隻の費用だけで新国立競技場の建設費を上回ることになります。ほかに「豚と軍艦」cb.jpgも猿島や三笠公園、海軍カレーの店などに行ったりし、「どぶ板通り商店街」も行ったはずですが、なぜかあまり印象に残らなかったです(観光スポット化して小ざっぱりしすぎていた?)。

「豚と軍艦」●制作年:1961年●監督:今村昌平●製作:大塚和●脚本:山内久「豚と軍艦」ny2.jpg●撮影:姫田真佐久●音楽:黛敏郎●時間:108 分●出演:長門裕之/吉村実子/三島雅夫/丹波哲郎/大坂志郎/加藤武/小沢昭一/南田洋子/佐藤英夫/東野英治郎/山内明/中原早苗/菅井きん/加原武門/青木富夫/西村晃/ 初井言栄/高原駿雄/神戸瓢介/矢頭健男/殿山泰司/城所英夫/武智豊子/河上信夫/玉村駿太郎/中川一二三/福田文子/奈良岡朋子●公開:1961/01●配給:日活●最初に観た場所(再見):シネマブルースタジオ(22-06-14)(評価:★★★★)

吉村実子/長門裕之

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「豚と軍艦」奈良岡.jpg 奈良岡朋子(ホテル「チェリィ」の女将)

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いい映画だったが、原作をヒントに「東京物語」を撮った? という印象も。

「息子」 山田洋次1991.jpg『息子』1991.jpg 「息子」 山田洋次図1.jpg  ハマボウフウの花や風200_.jpg
あの頃映画 「息子」 [DVD]」『ハマボウフウの花や風

「息子」 山田洋次 11.jpg バブル景気時の1990年7月、東京の居酒屋でアルバイトをしている浅野哲夫(永瀬正敏)は、母の一周忌で帰った故郷の岩手でその不安定な生活を父の昭男(三國連太郎)に戒められる。その後、居酒屋のアルバイトを辞めた哲夫は下町の鉄工所にアルバイトで働くようになる(後に契約社員へ登用)。製品を配達しに行く取引先で川島征子(和久井映見)という美しい女性に好意を持つ。哲夫の想いは募るが、あるとき彼女は聴覚に障害があることを知らされる。当初は動揺する哲夫だったが、それでも征子への愛は変わらなかった。翌年の1月に上京してきた父に、哲夫は征子を紹介する。彼は父に、征子と結婚したいと告げる―。

 1991年公開の山田洋次監督作で、原作は椎名誠の短編小説「倉庫作業員」です(『ハマボウフウの花や風』('91年10月刊/文藝春秋)所収で、単行本が出たのと映画が公開されたのが同時期ということになる)。第15回「日本アカデミー賞」で「最優秀作品賞/最優秀主演男優賞/最優秀助演男優賞/最優秀助演女優賞」を受賞し、第65回「キネマ旬報ベスト・テン」でも「日本映画部門第1位/監督賞/主演男優賞/助演男優賞/助演女優賞」を受賞しているので、"Wで四冠"といったところでしょうか(そのほかに「毎日映画コンクール 日本映画大賞」「報知賞 作品賞」「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」なども受賞)。「日本アカデミー賞」の演技賞受賞対象者は、主演男優賞は三國連太郎、助演男優賞は永瀬正敏、助演女優賞は和久井映見ですが、とりわけ永瀬正敏はこれ以外にも多くの賞を受賞し、飛躍の契機となった作品になります。

「息子」 山田洋次 wkakui e1.jpg いい映画だと思いました。原作は短編で、哲夫の家族は登場せず(従って、哲夫が母の一周忌で帰省する場面で、その際に兄弟・家族関係を明らかにするといった描写もない)、哲夫が日雇い労働をしていたのが、より安定した仕事を求めて伸銅品問屋に臨時社員として就職するところから始まります。そして、仕事を通して知り合った川島征子に好意を抱き、不器用ながらもアプローチする中で彼女が聾唖者であること知って、この恋を貫こうと決意するところで終わるので、映画で言えば、哲夫が「それがどうしたっていうんだ!いいではねぇか!」と心中で叫ぶところで終わっていることになり、あとは原作の後日譚ということになります。

「息子」 山田洋次 8.jpg 戦友会の集まりに出るために哲夫の父・昭男が上京し、哲夫の兄の家に泊まるりますが、哲夫の生活が心配な昭男は哲夫の元を訪れます。外食でもしようと哲夫を誘う昭男でしたが、哲夫は断り自宅で料理するため昭男とスーパーへ買い物に。そして、哲夫の部屋で昭男は哲夫から征子を紹介されます。耳の聞こえない征子のためにFAXを購入している哲夫。哲夫から、征子と真面目に付き合っていて、結婚することを告げられる昭男。いくら反対したって無駄だからと昭男に言う哲夫。昭男は征子に向かって「本当にこの子と一緒になってくれるのですか?」と訊き、頷く征子を見て「有難う。有難う」と感謝する。哲夫に対しては「もしお前がこの子の事を傷つけるようなことがあれば、俺はこの子の両親の前で腹を切らなきゃならないからな」と覚悟を問い、哲夫は当たり前だと答える―。いい場面だったなあ。仲睦まじい二人を見て昭男が素直に喜び、心配していた哲夫が立派になっていることに胸を撫でおろす様がいいです。

「息子」 山田洋次 5.jpg こうして息子のことを気に掛ける父と、一人暮らしになった父をどうするかに悩む哲夫の兄夫婦や姉などが描かれますが、どちらかと言うと後者の方が色合いが強く、誰の世話にもならないと言い張る父親に周囲が戸惑っているといった感じです。それでも、一番ふらふらしていたように見えた息子・哲夫の成長を見届けて、昭男自身は安心して息子が買ったファックスを持ってまた岩手に戻っていく―。ああ、核家族社会における親離れ・子離れの話で、山田洋次監督が「家族」('70年)以来追求し続けてきたテーマの映画だったのだなあと思いました。

東京物語 小津 笠・原2.jpg さらに言えば、田中隆三演じる息子長男とはまともに話ができないけれども、原田美枝子演じる血縁関係のないその嫁とはしみじみと本音で語り合えるというのは、これはもう小津安二郎の「東京物語」の笠智衆(周吉)と原節子(周吉の次男の妻)の世界。そう思うと、一人になった父をどうするか悩む兄や妹らも、一方で自分たちの生活の事情があって、父親の存在を「処理すべきやっかいな問題」として捉えているという点で、これまた「東京物語」で山村聰(長男)や杉村春子(長女)、中村伸郎(長女の夫)が演じた役に通じるところがあります。原作をヒントに「東京物語」を撮った?みたいな感じの映画で、原作者も「感動的な映画でした」と苦笑するしかないのでしょう。主人公が、原作には出てこない父・昭男に哲夫から代わり、その昭男を演じた三國連太郎が〈主演男優賞〉で、永瀬正敏の方は〈助演男優賞〉ですから。

「息子」 山田洋次 21.jpg 三國連太郎の自然な演技もさることながら、賞を総嘗めした永瀬正敏は、実際いい演技でした。この映画での高評価を機に、テレビドラマにはあまり出ず、映画出演を専らとする、言わば"映画「息子」 山田洋次 wakui.png俳優"になっていったのではないでしょうか(日本にはあまりいないタイプ。浅野青天を衝け 和久井映見.jpg忠信あたりが後継者か)。和久井映見もとても感じが良かったです。彼女も、この作品からちょうど30年を経た今年['21年]のNHK大河ドラマ「青天を衝け」で吉沢亮演じる渋沢栄一の母・渋沢ゑい役を演じるなど、息の長い女優になってきました。
「青天を衝け」('21年)和久井映見(渋沢栄一の母・渋沢ゑい)

「息子」 山田洋次 41.jpg あと、鉄工所のおっさん役のをいかりや長介や、トラック運転手タキさん役の田中邦衛をはじめ、梅津栄、佐藤B作、レオナルド熊、松村達雄といった脇を固める面々の演技が手堅く、演技の下手な人が出てこない映画とも言えるのではないでしょうか。とりわけ、黒澤明監督が前年「息子」ikariya.jpgに「」('90年)で役者としては実質的に初めて映画に起用したいかりや長介に、「夢」の時は単に絵的な使われ方だったのに対し、この作品できちっり演技させているのは、後のいかりや長介の俳優としての活躍のことを思うと慧眼だったと思います。後に藤山直美が阪本順治監督の「」('00年)で、映画初出演・初主演にして演技賞を総嘗めしたということがありましたが、舞台をやっていた人は、それがドタバタコントや定番喜劇であろうと、映画の方でもすっとと役に入り込んで力を発揮することがままあるように思います(映画に限らず、テレビドラマの方に行っても同じ。あの荒井注でも、ドリフターズ「江戸川乱歩美女シリーズ」荒井注.jpg脱退後に出演した「土曜ワイド劇場・江戸川乱歩の美女シリーズ」(テレビ朝日)に1978年の第2話より明智小五郎の盟友の波越警部役で出演し、新人助演男優賞のような演技賞をもらっていた記憶があります(明智役の天知茂が他界する1985年の最終・第25話まで演じ通した)。
永瀬正敏/いかりや長介/田中邦衛
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「息子」パンフ.jpg「息子」●制作年:1991年●監督:山田洋次●製作:中川滋弘/深澤宏●脚本:山田洋次/朝間義隆●撮影:高羽哲夫●音楽:松村禎三●原作:椎名誠「倉庫作業員」●時間:121分●出演:三國連太郎/永瀬正敏/和久井映見/田中隆三/原田美枝子/浅田美代子/山口良一/浅利香津代/ケーシー高峰/いかりや長介/田中邦衛/梅津栄/佐藤B作/レオナルド熊/松村達雄●公開:1991/10●配給:松竹(評価:★★★☆)

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作りすぎというか、盛り込み過ぎという感じだが、奈良岡朋子の「知覧の母」は良かった。

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ホタル [DVD]」/VHS  高倉健・田中裕子
Hotaru2.jpg「ホタル」2001年図1.jpg 桜島を望む鹿児島県知覧町で、元特攻隊員の生き残りの山岡(高倉健)はこの日も漁船「とも丸」から養殖カンパチの生簀に餌を撒いていた。それを見守る妻の知子(田中裕子)と二人の間には子はなく、「とも丸」を我が子のように大事に乗りこなしてきた。知子が14年前に腎臓を患い人工透析が必要になったのを機に、沖合漁をやめカンパチの養殖を始めたのだった。昭和が終わり、平成が始まった頃、山岡は同じ特攻隊の生き残りだった藤枝(井川比佐志)が自殺したという知らせを聞き、青森に住む藤枝がホタル  2001 .jpg毎年のように山岡にリンゴを送っていただけに衝撃を受ける。数日後、藤枝の孫・真実(水橋貴己)が山岡の元を訪れる。真美(水橋貴己)が携えた藤枝の遺品のノートには、山岡から「生きろ」と励まされているように感じたこと、昭和が終わり自分の役目は終わったと感じることなど、その想いが綴られていた。数日後、山岡はかつて特攻隊員らから「知覧の母」と呼ばれて慕われていた富屋食堂の店主・山本富子(奈良岡朋子)から、特攻で命を落とした金山文隆少尉ことホタル  2001es.jpgキム・ソンジェ(小澤征悦)の遺品である面飾りのついた財布を韓国の実家に届けてほしいと託される。折しも医師(中井貴一)から知子の余命が僅か1年半と宣告されており、山岡は最後の思い出にと知子との韓国行きを決める。戦争時、知子(戦時中:笛木優子)は金山と婚約していて、当時は遺言さえ検閲される時代であり、山岡(戦時中:高杉瑞穂)は金山から口頭で、自分は大日本映画 ホタル2_m.jpg帝国のためではなく、知子や実家の家族、そして朝鮮民族の誇りのために死ぬのだという言葉を託されていた。山岡と知子は韓国の金山の実家を訪ねるが、遺族はなぜ金山が死に日本人の山岡が生き残ったのかと山岡を責める。しかし、山岡が金山の遺言を伝えると遺族は山岡を責めるのを止め、遺品を受け取る。山岡は知子に、今まで金山の遺言を伝えなかったことを謝罪すると、知子は「ありがとう」と泣きながら寄り添う。月日が流れ、21世紀のある日、老いた山岡は海辺で、役目を終えた「とも丸」が炎に包まれるのを見つめていた―。 

映画「ホタル」監督.jpg 2001年公開の降旗康男監督作で、その2年前に高倉健(1931-2014)が鹿児島県知覧町の「特攻平和祈念館」を訪ね、同行していた降旗康男監督に自ら映画化を持ちかけた作品で(高倉健が自ら製作を持ちかけたのは初めて)、降旗康男監督はこの作品で2001 年度・第52回「芸術選奨」を受賞しています。日本アカデミー賞で13部門ノミネートされ、70歳で203本目の出演映画となった高倉も主演男優賞にノミネートされましたが、後輩の俳優に道を譲りたい」として辞退、富屋食堂の店主・山本富子を演じた奈良岡朋子がブルーリボン賞助演女優賞を受賞しています。

高倉健/降旗康男

 山本富子のモデルは、「知覧の母」乃至は「特攻隊の母」と呼ばれた富屋食堂の主人・鳥濱トメ(1902-1992)で、小澤征悦が演じる金山文隆のモデルは、出撃の前日、鳥濱トメに自身が朝鮮人ということを明かした上で、アリランを歌ったという卓庚鉉(1920-1945)です。但し、鳥濱トメに別れを言いに行った際に「ホタルになって戻ってくるよ」と言ったエピソードの主は、宮川三郎(1925-1945)という人です。この2人の人物のエピソードが一緒にされるようになったのは、河内音頭の鉄砲光三郎(1929-2002)作詞作曲の「知覧の母~ホタル~」あたりからでしょうか。後年の、石原慎太郎脚本・製作総指揮、新城卓監督の「俺は、君のためにこそ死ににいく」('07年/東映)にもこのエピソードが出てきますが(個人的には未見)、そちらでは、宮川三郎がモデルの役と卓庚鉉がモデルの役を分けているようです。

 高倉健は、降旗康男監督の前作「鉄道員」('99年/東映)のように鉄道員を演ずれば鉄道員らしく、この映画のように漁師を演じれば漁師らしくて、その意味では"名優"ですが、「役」である以前に「高倉健」であるという意味では"名優"と言うより"スター"ということになるのかも。でも、やはり"名優"であることも否定できないといった感じでしょうか。以前、この「ホタル」の撮影の頃かと思いますが、NHKが高倉健を特集取材したことがあり、本番直前の現場スタッフの全員がピリピリした雰囲気の中で、これから演技に向かう主役たる高倉健が番組スタッフのインタビューに気さくに応じ、気を使う番組スタッフに「あまり準備しない方がいいんだ」というようなことを言っていたのが印象的でした。同時期の「クローズアップ現代」の高倉健特集の中では、降旗康男監督が高倉健のことを、「涙を流すようなことが出来る俳優ではなかったのが最近変わった」というようなことを述べています。また、高倉健本人へのインタビューで国谷裕子キャスターが、「俳優・高倉健は、ご自身・小田剛一(高倉健の本名)に近づいているのではありませんか」と問うたところ、「小田剛一よりも高倉健の方が遥かに長くなりましたから、どちらが本当の自分なのか分からなくなってきています」と答えたのことです。

映画ホタル-l.jpg 映画の方は、「卓庚鉉」と「宮川三郎」を「金山文隆」ということで一緒にしてしまったのはともかく、金山に許婚がいて、それが主人公である山岡の今の妻の知子であり、その知子は不治の病に冒されていて余命いくばくもなく、最期に金山の遺言を伝えるため遺族のいる韓国へ夫婦で向かう―という、やや作りすぎというか、前半部分には同じ特攻隊の生き残りだった藤枝映画 ホタル 05.jpgの自殺もあったりして、それでその娘(水橋貴己)が山岡を訪ねてくるわけですが、こうなると盛り込み過ぎという感じで、何映画 ホタル 奈良岡.jpgれの話も中途半端になってしまった印象を拭えません。個人的評価としては本来は△ですが、「知覧の母」を演じた奈良岡朋子の、まさに「ホタル」のエピソードを語る部分の演技が光っていて(舞台劇風でありながらも映画向けの演技をしている)、星半個加点して○にしました。舞台出身俳優の中でも上手いです、この人。「鉄道員」にも幌舞駅前「だるま食堂」の店主役で出ていましたが、個人的には、やや遡って、須川栄三監督の「螢川」('87年/松竹)で、この人の演技のところでぐっときました。

映画 ホタル.jpgホタル (映画).jpg 高倉健はこの映画においてもカッコいいにはカッコいいですが、ヤクザ映画ならともかく「鉄道員」やこうした映画になると「高倉健」だけでは成立せず、それを支えているのが、それぞれ妻役を演じた「鉄道員」の大竹しのぶであり、この「ホタル」の田中裕子のような女優と言えるかもしれません。大竹しのぶも上手いことは上手いですが、いかにも"演技派"風の大竹しのぶよりも田中裕子の方が脇役の本分を心得ている感じもします(この人も故・蜷川幸雄に「近松心中物語」の英国公演('89年)などで鍛えられた女優ではある)。但し、奈良岡朋子はその上を行く感じでしょうか。彼女鉄道員 大竹しのぶ2.jpgが「ホタル」のエピソードを語るシーンが前半部にあって、終盤それを超えるシーンが無いのも、"盛りだくさん"なのに"もの足りなさ"を感じる一因かもしれません。

大竹しのぶ in「鉄道員」(1999年)
   
Hotaru (2001)
Hotaru (2001).jpg「ホタル」●制作年:2001年●監督:降旗康男●脚本:竹山洋/降旗康男●撮影:木村大作●音楽:国吉良一●時間:114分●出演:高倉健/田中裕子/水橋貴己/奈良岡朋子/井川比佐志/小澤征悦/小林稔侍/夏八木勲/原田龍二/石橋蓮司/中井貴一/高杉瑞穂/今井淑未/笛木夕子/小林綾子/田中哲司/伊藤洋三郎/小林滋央/永倉大輔/好井ひとみ/町田政則/姿晴香●公開:2001/05●配給:東映(評価:★★★☆) 
「ホタル」パンフ.jpg

奈良岡朋子 in「地の群れ」(1987)/「蛍川」(1987)/「鉄道員」(1999年)
「地の群れ」s (1).jpg螢川2es.jpg「鉄道員 大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子2.jpg

中江裕司監督(原案:水上勉)「土を喰ふ日々 わが精進十二ヶ月」(2022年11月11日)沢田研二/奈良岡朋子(1929年12月1日‐2023年3月23日(93歳没))
『土を喰らう十二ヵ月』.jpg

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「泥の河」と同様に傑作。抒情派であり、ストーリーテラーでもあるということか。

螢川 (1978年) 200_.jpg蛍川 筑摩.jpg 「螢川」.jpg 蛍川.gif 蛍川 [DVD].jpg
螢川』(筑摩書房) 『蛍川 (角川文庫)』新版・旧版(「泥の河」収録) 「蛍川 [DVD]

泥の河・螢川・道頓堀川 (ちくま文庫)00_.jpg 1977(昭和52)年下半期・第78回「芥川賞」受賞作。

 昭和37年富山。14歳の少年竜夫は近所の銀蔵爺さんから螢の大群を見たという話を幼いころに聞いて、自分もいつか見てみたいと思っていた。その螢の大群は4月に大雪が降るような年でないと見られるという。竜夫は幼馴染みの同級生・英子と一緒に螢を見に行こうと約束をしていたが、中学生になってからは英子とまともに会話をしたことがなかった。ある日、父親の重竜が病気で倒れ入院する。重竜はかつて春枝という妻がありながら、竜夫の母千代と駆け落ちし、二人の間に出来た子が竜夫だった。父の死が近いことを知る竜夫。父は事業に失敗し、多額の借金があった。父の死が近づいた4月のある日大雪は降り、あの螢の大群を見ることができる条件が揃うのだった...。

川三部作 泥の河・螢川・道頓堀川 (ちくま文庫)

 「泥の河」を併録して1978年に筑摩書房より刊行され、「泥の河」、「道頓堀川」とともに作者の「川三部作」をなす作品です。「泥の河」、よりも早くから構想されたものの、「泥の河」の方が先に発表されて「太宰治賞」を受賞し、後から発表されたこの「螢川」が、初の芥川賞候補で、そのまま受賞となっています。

 最初に読んだ時は、抒情的な色合いの濃い「泥の河」の方が好みで、「螢川」の方は、これも傑作には違いないものの、途中まで結構どろどろしていて最後できなり抒情的になった印象があっため、ラストの螢の大群で表象されるロマンチシズムがやや浮いた感じがしていましたが、読み直してみて、やはりこれはこれで傑作だと思いました。

 芥川賞の選考では、すんなり決まったわけではなく混戦だったようですが、選考委員の中では大江健三郎が否定的だったほかは、井上靖が「久しぶりの抒情小説といった感じで、実にうまい読みものである。読みものであっても、これだけ達者に書いてあれば、芥川賞作品として採りたくなる」と述べるなど、概ね肯定的吉行 淳之介.jpgだったようです。個人的には、吉行淳之介の「前作『泥の河』の後半が良い意味での抽象的なものに達していた趣は、この作品にはなかった。しかし、全体としての完成度は、前作よりも高い。抒情が浮き上らずに、物自体に沁みこんでいるところが良い」という評が、前作との対比を上手く言い表しているように思いました。

 前作「泥の河」は昭和30年の大阪が舞台で、主人公の貴一少年は小学校の低学年という感じでしょうか。作者自身。昭和22年生まれで、作者の一家は9歳の時に大阪から富山に移転したということで、更に高校に進学したのも昭和37年とのことで、「螢川」の主人公・竜夫と重なりますが、富山に移住して1年後には兵庫県の尼崎に移っており、父親が事業に失敗して借財を残して死んだのも実際の作者の経験ですが、その時作者は22歳で大学在学中だったそうです。ですから、1年しか住まなかった富山を舞台に、自らの経験をいろいろ反映させてストーリーを構築したということになるかと思います。抒情派であり、ストーリーテラーでもあるということでしょうか。

螢川_02.jpg螢川es.jpg 小栗康平監督による映画化作品「泥の河」('81年)はよく知られていますが、「螢川」も1987年に須川栄三(1930-1998/享年68)監督におって映画化されています。須川栄三監督は1953年、東京大学経済学部を卒業し東宝に入社、どちらかというと「野獣死すべし」('59年)のようなハードボイルド・タッチの作品を得意としており、文芸作品というイメージはそれほど無かったのではないでしょうか。ただ、この作品は俳優陣がしっかりしており、三國連太郎の重竜、十朱幸代の千代も良く(十朱幸代はやや綺麗すぎか)、奈良岡朋子(泣かせる演技!)、大滝秀治、殿山泰司らが脇をしっかり支え、子役の演技も悪くなかったです(英子役は前年に歌手デビューした沢田玉恵で、歌も演技も高い評価を得ながらも映画公開時にはすでに引退していた"幻のアイドル")。

螢川図1.jpg 螢川図2.jpg 螢川図3.jpg
螢川図4.jpg 螢川図5.jpg 螢川図6.jpg

螢川_01.jpg螢川ges.jpg 映画は、原作のどろどろした部分をやや抑えて、一方で、竜夫の学校生活をやや重点的に取り上げ、この年の文部省選定作品になっています。但し、教育映画風とかではなく、原作にもある話ですが、英子に思いを寄せている親友の関根圭太の死なども通して、「死」(関根・重竜)と「生(性)」(英子)というコントラストを上手く描いていたように思います。その「生(性)」の象徴である、ラストの無数の螢が乱舞するクライマックスシーンで特殊効果を担当したのが、円谷英二の最後の弟子で光学合成の匠・川北紘一であり、今でこそ「ウルトラマン」シリーズか何かを想起してしまいそうな特撮ですが、当時リアルタイムで劇場で観た人は結構圧倒されたのではないでしょうか。
螢川1bg.jpg 螢川2es.jpg 奈良岡朋子
螢川s.jpg  「螢川」 富山.jpg ロケ地:富山市
Hotaru-gawa (1987)
Hotaru-gawa (1987).jpg
螢川-p.jpg「螢川」●制作年:1984年●監督:須川栄三●製作:高橋松男/加藤博明●脚本:中岡京平/須川栄三●撮影:姫田真佐久●特技監督:川北紘一●音楽:篠崎正嗣●原作:宮本輝●時間:84分●出演:三國連太郎/十朱幸代/坂詰貴之/沢田玉恵/川谷拓三/奈良岡朋子/大滝秀治/河原崎長一郎/寺泉憲/殿山泰司/利根川龍二/早川勝也/粟津號/江幡高志/小林トシ江/斉藤林子/岩倉高子/伊藤敏博/飯島大介/勇静華●公開:1987/02●配給:松竹(評価★★★★)

【1978年単行本[筑摩書房(『螢川』)]/1980年文庫化[角川文庫(『螢川』)]/1986年再文庫化[ちくま文庫(『泥の河・螢川・道頓堀川』)]/1994年再文庫化・2005年改版[新潮文庫(『螢川・泥の河』)]】

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"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向において力を発揮する作家?

鉄道員(ぽっぽや)単行本.jpg 鉄道員(ぽっぽや)文庫.jpg 鉄道員poster.jpg 鉄道員 dvd.jpg 駅station poster.jpg
鉄道員(ぽっぽや)』『鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)』「鉄道員(ぽっぽや)」映画ポスター「鉄道員(ぽっぽや) [DVD]」「駅 STATION」チラシ

 1997(平成9)年上半期・第117回「直木賞」受賞作。

 道央の廃止寸前のローカル線「幌舞線」の終着駅「幌舞駅」の駅長・佐藤乙松(おとまつ)は。鉄道員一筋に生きてきたが近く定年を迎え、また同時に彼の勤める幌舞駅も路線と共に廃止の時を迎えようとしていた。彼は生まれたばかりの一人娘を病気で失い、妻にも先立たれ、孤独な生活を送っていた。ある雪の日、ホームの雪掻きをする彼のもとに、忘れ物をしたと一人の鉄道ファンの少女が現れる。乙松が近所にある寺の住職の孫だと思い込んだ彼女の来訪は、彼に訪れた優しい奇蹟の始まりだった―(「鉄道員」)。

 「鉄道員(ぽっぽや)」「ラブ・レター」「悪魔」「角筈にて」「伽羅」「うらぼんえ」「ろくでなしのサンタ」「オリヲン座からの招待状」の8編を収録し、何れも1995(平成7)年から1997(平成9)年にかけて発表された作品で、作者によれば「奇蹟」をモチーフにしたものを集めたとのことです。

井上ひさし2.jpg 直木賞の選評を見ると、8人の選考委員のうち田辺聖子、黒岩重吾、井上ひさし、五木寛之の各氏が◎で、他の委員も概ね推している印象ですが、故・井上ひさしが、「高い質を誇っていた」と評価しつつも、「8つの短編が収められているが、内4つは大傑作であり、残る4つは大愚作である」とし、「大傑作群に共通しているのは、"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向」であると指摘しているのが興味深いです(「この趣向で書くときの作者の力量は空恐ろしいほどだ」とも述べている)。

 "死者が顕われて生者に語りかける"作品となると、冒頭の、鉄道員の男のもとへ亡き娘の甦りとも思える少女が現われる「鉄道員」と、ポルノショップの店長である主人公に、自分との偽装結婚の末に亡くなった戸籍上の妻で出稼ぎ外国人の白蘭という女性が、手紙を通してまだ見ぬ夫である自分への想いを語る「ラブ・レター」、海外配転が決まったサラリーマンの主人公が、40年前自分が幼い頃に自分を捨てた父親と歌舞伎町で再会する「角筈にて」、子どもの頃に肉親を亡くして身寄りが無くなり、薬剤師となって医師と結婚した主人公が、嫁いだ先で夫の親族に苛められているところへ亡くなった祖父が現われ、主人公の力になるという「うらぼんえ」の4つということになるのでしょうか。

 文庫解説の北上次郎氏が、この短編集を「すごくよかった」と言う人が「鉄道員」「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」の4派に分かれるとし、それを派ごとの主張争いに模して解説していますが、そもそもこの4作品が選ばれていることが、故・井上ひさしの"死者が顕われて生者に語りかける"作品という指摘と合致しているように思いました。

 それ以外の作品はどうかと言うと、ややベタが過ぎたり気味悪かったりして、やはり個人的もこの4つかなあと。更に自分の好みを言えば、「ラブ・レター」はやはりベタ過ぎる印象があるし(北上次郎氏は女性読者には好評な作品としている)、上手さから言えばやはり「鉄道員」になるのかなあ。これだって、斎藤美奈子氏に言わせれば、「怪談、死んだ娘だから父に優しい(生きていたらグレてる)」ということになるのであって、直木賞選考委員の中にも阿刀田高氏のように、「悪くはないけれど、あまりにも型通りで、涙腺をふくらませながらも、こんなことで泣けるかと、しらけるところなきにしもあらず」ということにもなるのかも(考えてみればすべて乙松の頭の中で起きたこととも取れるし)。

鉄道員  02.jpg 「鉄道員」は降旗康男監督、高倉健主演で映画化されましたが('99年/東映)、昔劇場で観た、同じ降旗康男監督、高倉健主演の「駅 STATION」('81年/東映)が、倉本聰が高倉健のために書き下ろした脚本だったためか、何だか高倉健のプロモーション映画みたいで、日本映画ワースト・テンに名を連ねることも多く、個人的にも、自殺した円谷選手の遺書のナレーションを映画の中で使うことなどに抵抗を感じ、いいと思えませんでした(小谷野敦氏が「日本語をローマ字読みしてくっつけた作品のタイトルはダサい」と言っていた(『頭の悪い日本語』('14年/新潮新書))。先にそのイメージと何となくあって、結局「鉄道員」の方は劇場で観ることはなく、テレビがビデオで観たように思います。

鉄道員 志村けん.jpg 原作が短編なので、志村けんが酒癖の悪い炭坑夫として出て来きて炭鉱事故で亡くなる話や、その息子が成長してイタリアへ料理修業に行く話など、原作に無いエピソードで膨らませている部分はありますが、原作の持ち味(ひとことで言えば気持よく泣けるということか)はまずまず保たれていたのではないでしょうか。志村けん志村けん.jpg自宅の留守番電話に主演の高倉健直々の出演依頼のメッセージが入っていて驚いたとのこと。志村けんが俳優として映画出演したのは、ドリフターズの付き人時代に志村康徳名義で端役出演した「ドリフターズですよ!冒険冒険また冒険」('68年/東宝)、「ドリフターズですよ!特訓特訓また特訓」('69年/東宝)の2作以外ではこの作品のみとなります(志村けんは山田洋次監督の「キネマの神様」に菅田将暉とダブル主演の予定だったが、'20年に新型コロナウイルスによる肺炎で急逝したため叶わなかった)

鉄道員 02.jpg これも一歩間違えばどうしようもない映画になりそうなところを、高倉健をはじめとする俳優陣の演技力で強引に持たせていたという感じがします。実際、日本アカデミー賞の主要7部門のうち、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞(高倉健)、主演女優賞(大竹しのぶ)、助演男優賞(小林稔侍)の6部門を受賞していて、高倉健主演映画で、主要7部門中"6冠"達成は山田洋次監督の「幸福鉄道員 大竹しのぶ.jpgの黄色いハンカチ」('77年/松竹)以来ですが、「幸福の黄色いハンカチ」の方は第1回日本アカデミー賞ということもあって、監督賞や脚本賞は「『男はつらいよ』シリーズ」との合わせ技でした(因みに、「駅 STATION」も作品賞、脚本賞、主演男優賞を獲っている)。「鉄道員」で獲らなかったのは助演女優賞だけで、これは広末涼子のパートになるかと思いますが、その広末涼鉄道員  s.jpg子さえも、けっして上手いとは言えませんが、そう悪くもなかったように思います(最優秀賞の候補にはなっている)。大竹しのぶは流石に上手ですが、やはりこの映画は高倉健なのでしょう(高倉健は'99年モントリオール世界映画祭で主演男優賞受賞)。「駅STATION」の頃より年齢を重ねて良くなっていて、これなら泣ける? 泣けるかどうかと評価はまた別だとは思いますが。降旗康男監督、高倉健のコンビは2年後に再タッグを組み「ホタル」('01年/東映)を撮りますが、こちらも日本アカデミー賞で13部門ノミネートされ、高倉も主演男優賞にノミネートされましたが、後輩の俳優に道を譲りたい」として辞退しています。

「鉄道員(ぽっぽや)」●.jpg鉄道員 s.jpg「鉄道員(ぽっぽや)」●制作年:1999年●監督:降旗康男●脚本:岩間芳樹/降旗康男●撮影:木村大作●音楽:国吉良一(主題歌:坂本美雨「鉄道員」)●原作:浅田次郎●時間:112分●出演:高倉健/大竹しのぶ/広末涼子/吉岡秀隆/安藤政信/志村けん/奈良岡朋子/田中好子/小林稔侍/大沢さやか/安藤政信鉄道員  1s.jpg/山田さくや/谷口紗耶香/松崎駿司/田井雅輝/平田満/中本賢/中原理恵/坂東英二/きたろう/木下ほうか/田中要次/石橋蓮司/江藤潤/大沢さやか●公開:1999/06●配給:東映(評価★★★☆)
    
高倉健、小林稔侍、田中好子(1956-2011)  大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子
鉄道員 高倉健、小林稔侍、田中好子.jpg 鉄道員 大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子.jpg
吉岡 秀隆            撮影の合間に談笑する志村けんと高倉健
鉄道員 吉岡 秀隆1.jpg撮影の合間に談笑する志村けんと高倉健.jpg


「駅 STATION」●.jpg駅station dvd.jpg「駅 STATION」●制作年:1981年●監督:降旗康男●製作:田中寿一●脚本:倉本聰●撮影:木村大作●音楽:宇崎竜童(主題歌のみ坂本龍一)●時間:132分●出演:高倉健/倍賞千恵子/いしだあゆみ/岩淵建/名古屋章/大滝秀治/八木昌子/池部良/潮哲也/寺田農/渡会洋幸/高駅station 01.jpg橋雅男/榎本勝起/烏丸せつこ/田中邦衛/竜雷太/小林念侍/根津甚八/宇崎竜童/北林谷栄/藤木悠/永島敏行/古手川祐子/今福将雄/名倉良/平田昭彦/阿藤海/室田日出男●公開:1981/11●配給:東宝●最初に観た場所:テアトル池袋(82-07-24)(評価★★☆)●併映:「泥の河」(小栗康平)
駅 STATION [DVD]
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駅 STATION 池部良.JPG 駅station 06.jpg 駅Station 大滝秀治2.jpg
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【2000年文庫化[集英社文庫]/2004年再文庫化[講談社文庫(『鉄道員/ラブ・レター』)]/2013年文庫化[集英社みらい文庫]】

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ラストでナオミが譲治に許しを乞うのは、劇場公開のための表面的なアレンジ?

痴人の愛 1949.jpg 痴人の愛 京マチ子 宇野重吉 .jpg 痴人の愛 京マチ子.jpg  痴人の愛2.jpg
日本映画傑作全集 「痴人の愛」」VHS 宇野重吉/京マチ子 『痴人の愛 (新潮文庫)
img痴人の愛 1949年版2.jpg痴人の愛101.JPG痴人の愛103.JPG 河合譲治(宇野重吉)は、会社では「君子」と言われ、女などいると思われてない男だが、実はナオミ(京マチ子)いう女と同棲していた。「パパ、スクーター買ってよ」とナオミにせびられると「無理言うんじゃないよ、ナオミちゃん」と言いながら結局買ってやり、洗濯も料理もする譲治だった。以前に神戸へ出張した際に知り合ったカフェの女給ナオミのその肢体に夢痴人の愛211.JPG中になり、彼女を東京へ連れ帰り、肉体も精神も理想の女にしたいと思って、英語もピアノも勉強させ、ナオミの我儘も我慢しているのだった。しかし、ナオミはそれをいいことに、熊谷(森雅之)、関(三井弘次)、浜田(島崎溌)などの不良と友達になってキャ痴人の愛252.JPGバレーやホールを遊び歩き、英語の勉強には少しも身を入れずに譲治を手こずらせ、譲治を怒らしてしまう。だがナオミがふてくされて夜遊びに出てしまうと、やはり譲治はナオミが恋しい。ナオミの誕生日、ナオミは不良友達を招待して夜更けまで歌い踊る。譲治は若い男たちとふざけるナオミをみて、やり切れない気持でになる。嫉妬した譲治は、ナオミに関たちと付き合うことを禁じる。ある日、ナオミの提案で鎌倉へ行くことになった譲治は、植木屋の一間を借りて数日をそこで過ごすことに。ナオミは毎日海で遊び、譲治はそこから会社へ通う。しかしナオミはそこでも関や熊谷や浜田たちと遊び、その痴人の愛289.JPG現場痴人の愛297.JPGを譲治に見つかる。譲治は本当に怒ってナオミに「出ていけ!」と言い放つ。夏は終わり、譲治を離れたナオミには金もなく、もう関や浜口たちも相手にしない。宿なしの彼女に真剣な愛情を抱く者はいない。逆に熊谷からまともな生活をするよう諭され、ナオミはうらぶれた気持になり、結局譲治のところへ戻る。今は冷たくナオミを見る譲治に、涙を流し「何でもする、馬にでもなるから許して」と、四つんばいになるナオミだった―。

「痴人の愛(1949)」.jpg 1949(昭和24)年公開の木村恵吾(1903-1986)監督、京マチ子(ナオミ)・宇野重吉(河合譲治)主演による「痴人の愛」('49年/大映)で、木村恵吾監督は1960(昭和35)年にも叶順子(ナオミ)・船越英二(河合譲治)主演で「痴人の愛」('60年/大映)を撮っています(この他に、1967(昭和42年)公開の増村保造監督、安田道代(ナオミ)・小沢昭一(河合譲治)主演の「痴人の愛」('67年/大映)もある)。

痴人の愛.jpg 原作は1925(大正14)年刊行の谷崎潤一郎(1886‐1965)の長編耽美小説で、主人公・河合譲治による、7年前(足かけ8年前)の数え年28歳でのナオミ(奈緒美、当時15歳)との出会いから32歳(ナオミ19歳)までの約5年間の回顧という形をとっていますが、映画では、譲治のナオミとの出会いの部分は飛ばして既に同棲生活をしているところから始まります。そこで、いきなり、スクーター買ってという原作に無い話が出てきて、大正末期の出来事ではなく、四半世紀後の映画製作時の"現代"に舞台が翻案されていることが分かります。 但し、原作のエピソードを現代に翻案しながらもほどよく織り込んでいて、原作の持ち味はある程度出ていたように思います。

痴人の愛 京マチ子 宇野重吉2.jpg また、宇野重吉、森雅之といった重鎮の中で、京マチ子が活き活きと演技しているのが印象に残ります(京マチ子は翌年、黒澤明監督の「羅生門」('50年/大映)に出演し、以降、海外の映画祭で自らの主演作が次々と賞を獲ることになる)。

 宇野重吉は当時35歳、京マチ子は当時25歳。主人公がナオミと初めて出会った時、ナオミは15歳だから、二人の出会いの部分をカットしたのは必然的措置と言えるかも。因みに原作でエピローグ的に語られる最終章では譲治は数えで36歳、ナオミは23歳となっていますが(これが原作における"現在")、最後、譲治は会社を辞め、田舎の財産を売った金で横浜にナオミの希望通りの家を買い、もうナオミのすることに何も反対せず、ナオミの肉体の奴隷として生きていくことにする―という終わり方になっています。

 これをこの通り映画化すると世間の批判を受けると思ったのか、映画ではラストでまるで「アリとキリギリス」のキリギリス状態になったナオミが譲治に許しを乞い、譲治は再びナオミを許すという終わり方になっています。そのため、女性の魔性に跪く男の惑乱と陶酔を描いたマゾヒズム文学としての原作の持ち味は、最後にかなり削がれたようにも思います。但し、それまでにとことんナオミのファム・ファタールぶりを描いているだけに、このラストを観て個人的には、また譲治はナオミに騙されたかなと思えなくもないです。だから、あくまで劇場公開のための表面的なアレンジであって、あまり結末の原作との違いのことは気にせずに観ればいいのかもしれません(そう思って評価は星半分オマケ)。

京マチ子(ナオミ)/宇野重吉(主人公・河合譲治)/森雅之(金持の息子・熊谷政太郎))
痴人の愛...京マチ子e.jpg痴人の愛 京マチ子 森雅之 .jpg「痴人の愛」●制作年:1949年●監督:木村恵吾●脚本:木村恵吾/八田尚之●撮影:竹村康和●音楽:飯田三郎●原作:谷崎潤一郎●時間:89分●出演:宇「本の街・神保町」文芸映画特集Vol.10.jpg野重吉/京マチ子/森雅之/島崎溌/三井弘次/上田寛/菅井一郎/近衛敏明/清水将夫/北河内妙子/藤代鮎子/片川悦子/大美輝子/葛木香一/奈良岡朋子/原聖四郎/小柳圭子/牧竜介/小松みどり●公開:1949/10●配給:大映●最初に観た場所:神田・神保町シアター(09-01-17)(評価:★★★☆)

神保町シアター「本の街・神保町」文芸映画特集Vol.10「男優・森雅之」

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差別される側の集団が互いに集団間で差別し合うという、やるせない構図を浮き彫りに。

地の群れ atg.bmp地の群れ ポスター.jpg  地の群れ2.jpg  地の群れ.jpg  
「地の群れ」パンフレット/「地の群れ [VHS]」 ['87年]
                                 
地の群れ スチール.jpg 佐世保の開業医・宇南(鈴木瑞穂)は、被爆者が寄り集まった海塔新田、またの名を"ピカドン部落"と呼ばれる地域で原爆症と思われる少女を診療するが、母親(奈良岡朋子)は、被爆者が受けていた差別を思い頑強に否定する。
 一方、海塔新田出身の少年・信夫(寺田誠)は原爆病で死んだ母親似のマリア像を盗んだことで大人たちに折檻されて以来すさんだ性格になり、被差別部落の少女・徳子(紀比呂子)が強姦される事件があった際に、彼女と顔見知りであったことから警察に呼び出される。
 犯人の体にケロイドがあったという徳子の証言から、信夫は海塔新田に住む真犯人の真(岡倉俊彦)を突き止めて父親(宇野重吉)の前で自分の無実を訴え、更に、徳子の母親(北林谷栄)が信夫の手引きで真の家を訪ね父親と言い争いになるが、思わず被爆者を罵る言葉を吐いたため、海塔新田の住人たちから投石を浴び、投げつけられたトタン板の破片で喉を切られたのが致命傷となって死に、信夫も仲間を売ったとして海塔新田を追放され、逃げ込んだ徳子の部落でも敵として追われる―。        

 被爆者、被差別部落、朝鮮人という差別される側の3つの集団が互いに集団間で差別し合うという、極めてやるせない構図(それは、差別というものが醸成されるメカニズムを示唆しているとも言える)がリアルな出来事を通して描かれていて、この物語の語り部的存在である医師・宇南も、被差別部落の関係者であり、それだけではなく、妊娠させた朝鮮人の娘を自殺に追い込んだという過去があり、更には、原爆投下直後の長崎において父親を探して歩き回った経験から今も原爆症に怯えているという、3つの差別の要素の全てに関与しているというのが、この映画の重さを象徴しています(だからこそ、宇南は、この物語の「語り部」たり得るのかも知れないが)。

モデルとなった長崎県・崎戸の昭和44年頃の情景/映画「地の群れ」(1970)より

熊井啓監督「地の群れ」1.jpg熊井啓監督「地の群れ」2.jpg 鶏を食い殺した大量のネズミが炎でメラメラと焼かれていくタイトルバックはショッキングですが、映画の中での人間の所為は、そうした映像に符号してしまう残酷さを孕んでおり、とりわけ徳子の母親(北林谷栄)が石を投げつけられるシーンと、それを庇おうとする娘・徳子(紀比呂子)の悲痛な表情は、強く印象に残るものでした。

熊井啓.jpg熊井啓 4.jpg 熊井啓(1930‐2007/享年77)監督が「黒部の太陽」('68年)の後、地の群れ [DVD].jpg日活を辞めて独立系プロダクションで撮った作品で、製作に際して「黒部の太陽」が予算約4億円だったのに対し、この作品の予算は1千万円しかなかったとのこと。何れにせよ、「黒部の太陽」もこの「地の群れ」もDVD化されていないのが残念です(その後「黒部の太陽」は2013年にDVD化された)(さらに「地の群れ」は2015年にDVD化された)地の群れ [DVD]

熊井啓 日活DVD-BOX」(「帝銀事件 死刑囚」「日本列島」「愛する」「日本の黒い夏 冤罪」所収)

地の群れ 紀比呂子 2.jpg地の群れ   (1970年).jpg 監督自らが発掘した紀比呂子は、周囲のベテラン演技陣に支えられながらも、その瑞々しい演技で注目を浴び、この作品出演後、テレビドラマ「アテンションプリーズ」の主役に抜擢されていますが、女優・三條美紀(黒澤明監督の「静かなる決闘」などに出演)の娘であり、役者の血は争えないといったところでしょうか(テレビドラマ「アテンションプリーズ」は'06年に上戸彩主演で36年ぶりにリメイクされた)。
     
井上光晴.jpg全身小説家.png この骨太と言っていい作品の原作は井上光晴(1926‐1992/享年66)の同名小説『地の群れ』。井上光晴は、安部公房(1924‐1993)、埴谷雄高(1909‐1997)らと並ぶ純文学作家で、「ゆきゆきて、神軍」の映画監督・原一男が癌に冒されたその晩年を取材したドキュメンタリー映画「全身小説家」('94年)でも知られています(瀬戸内晴美(寂聴)と不利関係にあったことでも知られている)。

奈良岡朋子/鈴木瑞穂              紀比呂子
「地の群れ」s.jpg地の群れ 紀比呂子.jpg「地の群れ」●制作年:1970年●監督:熊井啓●製作:大塚和/高島幸夫●脚本:熊井啓/井上光晴●撮影:墨谷尚之●音楽:松村禎三●原作:井上光晴「地の群れ」●時間:127分●出演:鈴木瑞穂/寺田誠/紀比呂子/宇野重吉/松本典子/北林谷栄/奈良岡朋子/佐野浅夫/水原英子/小川吉信●公開:1970/01●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-01)(評価:★★★★★)●併日劇文化.jpg日劇文化入口.jpg映:「絞死刑」(大島渚)  
日劇文化劇場 1935年12月30日日劇ビル地下にオープン、1955年8月12日改装/ATG映画専門上映館)。日劇ビルの再開発による解体工事のため、1981(昭和56)年2月22日閉館。/「日本劇場」(左写真:「銀座百点」624号より(1980年当時))[右下「日劇文化劇場」地下入口]/「日劇文化劇場」地下入口(右写真:「音楽・映画・生活雑筆」より)
 
「地の群れ」鈴木瑞穂.jpg鈴木みずほ.jpg 鈴木瑞穂 2023年11月19日、心不全のため東京都内で死去。96歳。

アテンションプリーズ1.jpgアテンションプリーズ2.jpg「ATTENTION PLEASE アテンションプリーズ」●演出:金谷稔/竹林進●制作:黒田正司●脚本: 竹林進/上條逸雄●音楽:三沢郷(作詞:岩谷時子)●出演: 紀比呂子/佐原健二/皆川妙子/范文雀/高橋厚子/関口昭子/黒沢のり子/麻衣ルリ子/山内賢/竜雷太/ナレーション:納谷悟朗●放映:1970/08~1971/03(全32回)●放送局:TBS
アテンションプリーズ主題歌:ザ・バーズ「アテンションプリーズ」(作詞:岩谷時子、作曲・編曲:三沢郷)

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単なるメロドラマになってしまった「愛情の系譜」。岡田茉莉子はやはり「香華」か。

「愛情の系譜」00.jpg
「愛情の系譜」(1961/11 松竹)
「「香華(こうげ)」.jpg 香華 1964.jpg 香華 木下 00.jpg 香華 木下 01.jpg
「香華」(1964/05 松竹)
「愛情の系譜」01.jpg 米国留学を終えた吉見藍子(岡田茉莉子)は、帰国してから国際社会福祉協会に勤め社会事業に打ちこんでいた。その関係から彼女は、旋盤工の兼藤良晴(宗方勝巳)を補導しながらその更生を願っていたが、良晴は彼女に一途な思いを寄せていた。しかし藍子には、米国で結ばれた電力会社の有能な技師・立花研一(三橋達也)という恋人があった。藍子の母・克代(乙羽信子)は家政婦紹介所を営み、妹の紅子(桑野みゆき)は高校に通っていた。勝気な克代は子供達に父親は戦死したといっているが、夫の周三(山村聡)は杉電気の社長として実業界の大立物であった。藍子と紅子はふとしたことから父のことを知った。二十年前、克代の父に望まれ彼女と結婚して吉見農場の養子となった周三は、老人の死後、老母や兄夫婦の冷たい仕打ちに家を飛び出してしまった。杉を愛する克代は彼を追って復縁を迫ったが断わられ、克代は無理心中を図った。だが、二人とも生命をとりとめたのであった。藍子は自分の体の中に母と同じ血が流れていることを知った。その頃、立花には縁談が進められていた、化粧品会社を経営する未亡人・香月藤尾(高峰三枝子)の一人娘・苑子(牧紀子)との話である。ある日良晴は、藍子が自分に寄せる好意を、男女の愛情と勘違いして藍子に迫るが、藍子に突放されてしまう。それからの良晴の生活は荒れ、遂には夜の女を殺害するという事態に陥る。一方、立花は苑子との結婚のために藍子との関係を清算しようとしていた。立花のアパートを訪れた藍子は、眠っている立花の枕元からの手紙でそのことを知り、立花を殺そうとするが、どうしても殺すことができなかった。傷心の藍子は、父のところに飛び込む。翌朝、杉の知らせで克代も駆けつけて来た―。

『愛情の系譜』1.jpg 五所平之助監督の1961年11月公開作で、原作は円地文子の『愛情の系譜』('61年5月刊/新潮社)。原作を比較的忠実に映像化していますが、結果として「てんこ盛り」的になったという感じです。原作のイメージを視覚的に確認するのにはいいですが、ややストーリー全体のテンポが鈍くなってしまいました(例えば、原作では、藍子が父親の存命や母親との過去の経緯を知るのは前半部分のかなり早い段階だが、映画では後半に入ってから)。

『愛情の系譜』['61年]『愛情の系譜 (1966年) (角川文庫)

 原作のテーマは、文庫解説の竹西寛子が指摘しているように、形而上学的なものなのですが(敢えて言えば、「エゴイスティックな愛」を超えた「博愛」のようなもの)、そうした観念を振りかざさずことをせず、皮膚感覚的な面も含め、描写を通して読者に接しているところに、原作の「独自性」があります。映画の方は、その表象のみを描いたため、ちょっと単なるメロドラマになってしまった感じで、「愛情の系譜」の何たるかは分からなくもないですが、主人公がそれを乗り越えたという実感がイマイチでした。

「愛情の系譜」p.jpg 映画は、主人公・藍子が外人のガイドをして鷺山を見学している場面から始まり、そこへ、鷺を撮影している一人の中年の男性が話しかけます。藍子はガイド以外に罪を犯した青少年を更生させたりする仕事もしていて、その仕事に生き甲斐を感じていますが、結婚直前まで進んでいる恋人の立花はあまり評価していない様子。妹の紅子は最近派手な行動が目立ってきて母・克代は心配していますが、実は紅子が会っていたのは死んだと聞いていた父で、今は杉周三という名で事業を成功させおり、それが、藍子が鷺山で出会った紳士でした。杉は北海道で克代と結婚していたものの確執があり、克代からは離れようとした際に克代が杉をナイフで刺して怪我を負わせてしまい、克代は今も杉を恨み関わることを嫌っています。一方、立花は取引先の実業家の娘との縁談が持ち上がり、はっきり藍子に話せずにいて、藍子の方は、面倒を見ていた不良少年が殺人を犯してしまい、原因は藍子にそっけなくされて自暴自棄になったためらしい―と、やっぱり今一度振り返っても"盛り沢山"過ぎます(笑)。

 最後、藍子は立花を殺そうとガスの元栓を開けますが、すんでのところで留まって立花との別れを決心するのも、母・克代が父・杉周三を訪ね和解するのも原作と同じ。ただし、藍子が殺人を犯した良晴を諭して自首しに行くのに付き添うところで映画は終わりますが、原作はその前に、妹・紅子の恋人の法学生・叶正彦(園井啓介)が良晴を諭して自首しに行くのに付き添います。

 多分、正彦の役どころを映画で藍子に置き換えたのは、テーマを浮かび上がらせるためだったと思いますが、結果的に、正彦って何のためにいるのか分からない存在になってしまいました。原作では、良晴のメンター的存在であることが窺えます。映画では、紅子が自分の部屋に泊りに来ても手を出さない聖人君子みたいな描かれ方ですが、原作では正彦の内面での葛藤が描かれています。やはり、原作を読んでしまったから物足りなさを感じるのでしょうか。

「香華」3.jpg 同じく乙羽信子が母親、岡田茉莉子が娘を演じた映画に、木下惠介監督の「香華」('64年/松竹)があり、原作は有吉佐和子ですが、こちらの方が良かったです(原作を読んでいないせいか)。母娘の確執を描いたものでは、最近でも湊かなえ原作、廣木隆一 監督の「母性」('22年)などがありますが、そうした類の映画ではベストの部類ではないかと思います。二部構成で、木下惠介作品では最長の3時間超(204分)の長さですが、冗長は感じませんでした。

「香華」2.jpg 乙羽信子演じる母・郁代が実に身勝手そのものの性格で、その淫蕩な生活がたたって岡田茉莉子演じる娘・朋子は芸者に売られることになりますが、それから暫くして借金苦のため、郁代自身も芸者となり、芸者として成功する娘に対して母の方はすっかり落ちぶれ、それでもあれやこれやで娘に迷惑をかけるという展開の話です(同じ置屋に母と娘がいるというのが凄まじい)。

 岡田茉莉子は 吉田喜重監督の「秋津温泉」('62年)で温泉旅館の娘・新子の17歳から34歳までを演じましたが、この「香華」では娘・朋子の17歳から63歳までを演じています。個人的には彼女の代表作であり、最高傑作の部類だと思います。

 木下惠介監督はこの作品で、1964(昭和39年)年度・第15「芸術選奨(映画部門)」を受賞していますが、世間ではあまり評価されているように思えない作品で、原因としては、「原作を忠実に映画化しただけではないか」との評価があるためのようです。

 原作を読むと、そういった評価になってしまうのでしょうか。「香華」の原作も「婦人公論読者賞」や「小説新潮賞」を受賞しており、今回の自分が原作を読んでしまった(それで映画化作品に物足りななさを感じた)「愛憎の系譜」との関係で、ちょっと考えさられてしまいました。


「愛情の系譜」神保町.jpg「愛情の系譜」●制作年:1961年●監督:五所平之助●製作:月森仙之助/五所平之助●脚本:八住利雄●撮影:木塚誠一●音楽:芥川也寸志●原作:円地文子●時間:108分●出演:岡田茉莉子/三橋達也/桑野みゆき/山村聡/園井啓介/牧紀子/乙羽信子/高峰三枝子/宗方勝巳/市川翠扇/千石規子/殿山泰司/陶隆/十朱久雄●公開:1961/11●配給:松竹●最初に観た場所:神保町シアター(24-03-15)(評価:★★★)<.font>

神保町シアター

岡田茉莉子/桑野みゆき/山村聡/高峰三枝子/殿山泰司

「香華」4.jpg「香華」1964.jpg「香華(こうげ)」●制作年:1964年●監督・脚本:木下惠介●製作:白井昌夫/木下惠介●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●原作:有吉佐和子●時間:201分●出演:岡田茉莉子/乙羽信子/田中絹代/北村和夫/岡田英次/宇佐美淳也/加藤剛/三木のり平/村上冬樹/桂小金治/柳永二郎/市川翠扇/杉村春子/菅原文太/内藤武敏/奈良岡朋子/岩崎加根子●公開:1964/05●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-08-27)(評価:★★★★☆)
木下惠介生誕100年「香華〈前篇/後篇〉」 [DVD]

岡田茉莉子 (朋子)
岡田英次 (野沢)
乙羽信子 (郁代)
杉村春子 (太郎丸)
菅原文太 (杉浦)
奈良岡朋子(江崎の妻)


●「香華」あらすじ
〈吾亦紅の章〉明治37年紀州の片田舎で朋子は父を亡くした。3歳の時のことだ。母の郁代(乙羽信子)は小地主・須永つな(田中絹代)の一人娘であったが、大地主・田沢の一人息子と、須永家を継ぐことを条件に結婚したのだった。郁代は二十歳で後家になると、その美貌を見込まれて朋子をつなの手に残すと、高坂敬助(北村和夫)の後妻となった。母のつなは、そんな娘を身勝手な親不孝とののしった。が幼い朋子には、母の花嫁姿が美しく映った。朋子が母・郁代のもとに引きとられたのは、祖母つなが亡くなった後のことであった。敬助の親と合わない郁代が、二人の間に出来た安子を連れて、貧しい生活に口喧嘩の絶えない頃だった。そのため小学生の朋子は静岡の遊廓叶楼に半玉として売られた。悧発で負けず嫌いを買われた朋子は、芸事にめきめき腕を上げた。朋子が13歳になったある日、郁代が敬助に捨てられ、九重花魁として叶楼に現れた。朋子は"お母さん"と呼ぶことも口止めされ美貌で衣裳道楽で男を享楽する母をみつめて暮した。17歳になった朋子(岡田茉莉子)は、赤坂で神波伯爵(宇佐美淳也)に水揚げされ、養女先の津川家の肩入れもあって小牡丹という名で一本立ちとなった。朋子が、士官学校の生徒・江崎武「香華」5.jpg文(加藤剛)を知ったのは、この頃のことだった。一本気で真面目な朋子と江崎の恋は、許されぬ環境の中で激しく燃えた。江崎の「芸者をやめて欲しい」という言葉に、朋子は自分を賭けてやがて神波伯爵の世話で"花津川"という芸者の置屋を始め独立した。
〈三椏の章〉関東大震災を経て、年号も昭和と変わった頃、朋子は25歳で、築地に旅館"波奈家(はなのや)"を開業していた。朋子の頭の中には、江崎と結婚する夢だけがあった。母の郁代は、そんな朋子の真意も知らぬ気に、昔の家の下男・八郎(三木のり平)との年がいもない恋に身をやつしていた。そんな時、神波伯爵の訃報が知らされた。悲しみに沈む朋子に、追い打ちをかけるように、突然訪れた江崎は、結婚出来ぬ旨告げて去った。郁代が女郎であったことが原因していた。朋子の全ての希望は崩れ去った。この頃44歳になった母・郁代は、年下の八郎と結婚したいと朋子に告げた。多くの男性遍歴をして、今また結婚するという母に対し、母のため女の幸せを掴めない自分に、朋子は狐独を感じた。終戦を迎えた昭和20年、廃虚の中で、八郎と別れて帰って来た郁代に戸惑いながらも、必死に生きようとする朋子は"花の家"を再建した。それから3年、新聞に江崎の絞首刑の記事を見つけた朋子は、一目会いたいと巣鴨通いを始めた。村田事務官(内藤武敏)の好意で金網越しに会った江崎は、三椏の咲く2月、十三階段に消えていった。病気で入院中の朋子を訪ねる郁代が、交通事故で死んだのは朋子の52歳の時だった。波乱に富んだ人生に、死に顔もみせず終止符を打った母を朋子は、何か懐かしく思い出した。母の死後、子供の常治を連れて花の家に妹の安子(岩崎加根子)が帰って来た。朋子は幼い常治の成長に唯一の楽しみを求めた。昭和39年、63歳の朋子は、常治を連れて郁代のかつての願いであった田沢の墓に骨を納めに帰った。しかしそこで待っていたのは親戚の冷たい目であった。怒りに震えながらも朋子は、郁代と自分の墓をみつけることを考えながら、和歌の浦の波の音を聞くのだった―。

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