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どれもコンスタントに面白かった。アイロニカルな作品も一定割合を占める。

『人生は回転木馬』sinsyo (2.jpg オーヘンリー セレクション 人生は回転木馬.jpg
人生は回転木馬 (静山社ペガサス文庫 ヘ 3-6) 』『人生は回転木馬 (オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション (2))

 O・ヘンリー(1862-1910/47歳没)短編集、和田誠イラスト/千葉茂樹訳の『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション』(全8巻)の単行本版で言うと第2弾で、表題作「人生は回転木馬」など8編を所収。

The Whirligig of Life.gif「人生は回転木馬」The Whirligig of Life
 取り上げ済み。一組の夫婦が治安判事のもとに離婚の申し立てにやってきた。手続き費用は5ドル。それを払うとあとは慰謝料すら払えない―。5ドルが行ったり来たりして夫婦が丸く収まる話なので、挿画のどこかに5ドル札を描いて欲しかった気がします。作者没後3か月後の1910年9月刊行の第10短編集『Whirligigs(回転木馬)』の表題作

「愛の使者」By Courier
 取り上げ済み。別れることになった二人の間を行き来する少年―。この千葉茂樹訳では、少年が二人のことを指して言うとき、「あのあんちゃん」「あの姉(ねい)ちゃん」になっていて、これが自然なのかもと思いました(新潮文庫の大久保康雄の旧訳などは、「あの紳士」「あのご婦人」になっていた)。原題の「Courier(クーリエ)」は配達業者などを指し、新潮文庫の新訳(小川高義:訳)などはそのまま「使い走り」 、旧訳(大久保康雄:訳)の方が本書と同じく「愛の使者」でした。翻訳によって雰囲気変わるなあ。

「にせ医師物語」Jeff Peters as a Personal Magnet
 取り上げ済み。にせ医者ジェフ・ピーターズは、ひょんなことから市長の治療をすることになるが、それは市長が仕掛けた罠だった―。これ、芝居にもなっています。新潮文庫の新訳(小川高義:訳)は「にせ医者ジェフ・ピーターズ」、旧訳(大久保康雄:訳)はこちらも本書と同じ「にせ医師物語」。ジェフ・ピーターズの名前があった方がいいでしょうか。そのジェフの方が市長より一枚上手でした。

「ジミー・ヘイズとミュリエル」Jimmy Hayes and Muriel
 テキサスの国境警備騎兵隊に加わった新兵ジミー・ヘイズは、二十歳そこそこのやせた男で、ツノトカゲのミュリエルと片時も離れない。彼の素朴さや剽軽さは皆から愛されたが、戦闘経験はなく、その勇敢さには疑問符がついた。部隊がメキシコ人悪党一味と戦闘をする中、悪党を追ううちに彼は姿を消す。彼はやはり臆病者だったのか。悪党が現れなくなって1年が経ったころ、悪党と思しき三体の骸骨が見つかり、さらにもう一体遺体が―。ツノトカゲが飼い主の勇敢さを証明することになった、というのがいいです。

「待ちびと」To Him Who Wait
慕われながらも結ばれなかった恋の後、ずっと山で世捨て人のような暮らしをする「ハドソン川の世捨て人」ハンプ・エリソン。10年目のある日、彼の元へ金持ちの令嬢が訪れ、恋心を打ち明ける―。二人の女性に慕われながら、すれ違いで二人とも逃してしまった男。こういう人っているかもしれないなあ。

「犠牲打」A Sacrifice Hit
 中編小説「愛こそすべて」書き上げた実績のない作家アレンは、ハースストーン社の編集長が、原稿をさまざまな人に振り分けて読ませ、その感想を聴いて掲載を決めるシステムをとっていることを知っていた。そこで、自分の作品が確実に受けそうな女性スレイトン夫人に自分の小説原稿が回るよう、雑用係の少年に手配するが―。多分、アレンが書いた小説は、ハーレクイン・ロマンスみたいなものだったのでしょう。恋愛至上主義批判と言うより、通俗小説批判か。

「一枚うわて」The Man Higher Up
 毎冬ニューヨークにやって来る詐欺師ジェフが語る、かつての冒険譚。彼は若い押し込み強盗のビル・バセットと、老いた金融詐欺師のアルフレッド・E・リックスと偶然一緒になったが、三人は一文無し。そこでビル・バセットは早速に強盗を敢行し、成果を収め勝ち誇るが、ジェフには強盗というやり口が気に入らなかった。自分はトランプカード詐欺で5千ドルを手にする。そして、鉱山株を買うが、その株はやがて大化けするという―。3人で「悪」を競い合って、結局、自分が一番「下」だったという、可笑しくてちょっと哀しい話。

「フールキラー」The Fool-Killer
 とてつもなくバカなことをしたヤツを殺して歩くという「フールキラー」こと空想上の人物ジェシー・ホームズ。私は、絵描きのカーナーが、百万長者である父親と縁を切っても工場勤めの彼女と結婚すると聞いて、一緒にアブサン・ドリップを飲むうちに「お前はバカだ。ジェシー・ホームズにきてもらったほうがいい」と説教するように。すると、そこに本当にジェシー・ホームズが現れる―。主人公には、自分にしかジェシー・ホームズが見えないと思っていたけれど、実はそうではなかったということ。自分だけが彼がカーナーを殺しに来たと思ってしまって大慌てし、カーナーが主人公の悪酔いを疑ったのは、見えないものが見えているような振舞いについてでなく("私"はそう思っている)、その勘違いの部分についてだったということでしょう。

 どれもコンスタントに面白かったです。「人生は回転木馬」は、これで夫婦の縒りが戻るならばハッピーエンド、「愛の使者」は完全な勿論ハッピーエンドで、「にせ医師物語」は、詐欺師側からみれば成功譚。「ジミー・ヘイズとミュリエル」は切ないけれど、名誉回復という意味では良かった話。「待ちびと」「犠牲打」「一枚うわて」とアンハッピーエンドが続きましたが、「フールキラー」は自分だけが大慌てしたけれど、親子の関係は戻ったからハッピーエンドと言えます。

 8作中3作がアンハッピーエンドですが、アンハッピーエンド作品については、アイロニカルといった方がいいかも。この手の作品も一定割合であるなあと改めて認識しました。

【2023年新書化[静山社ペガサス文庫]】

新潮文庫(小川訳)『О・ヘンリー傑作選(全3巻)』/理論社『オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション』(全8巻) 各収録作品
 『オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション』 .jpg

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和田誠のイラストが楽しいシリーズの新書化。単行本では第1弾だった密度濃いラインアップ。

『20年後』 静山社ペガサス文庫.jpg  オーヘンリー セレクション 20年後.jpg
20年後 (静山社ペガサス文庫 ヘ 3-3)』['23年]『20年後 (オー・ヘンリーショートストーリーセレクション 1)』['07年]
 和田誠のイラストが楽しい『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション』(全8巻)。小学校高学年から読めるような優しい翻訳ですが、"簡訳"ではないようです。単行本の第1弾は、「20年後」など9編を所収。一方、この静山社ペガサス文庫の新書版は、『最後のひと葉』『賢者の贈り物』といった表題作がよく知られているものの次に刊行されています。単行本刊行から約15年を経ての新書化は、2019(令和元)年に和田誠氏が亡くなったことも関係しているのでしょうか。

「20年後」After Twenty Years
 取り上げ済み。街を巡回中の警官が男に声をかける。男は20年ぶりに友人に会うと話す。警官が立ち去ると友人らしき男がやって来るが―。1906年4月刊行の第2短編小説集『四百万』の1編として発表されたもので、それまでもO・ヘンリーは意外な結末を多用していましたが、短編として世界的名声を得た作品はこの「20年後」だそうです。久しぶりに会った旧友同士が、片方は警官に、片方は犯罪者になっていたという"暗い"オチですが、和田誠のイラストが入ると、警官の思いやりがより浮き彫りになって、いい話に思えてきます。

「改心」A Retrieved Reformation
 取り上げ済み。金庫破りのジミーは刑務所を出所するや、早速何件かの金庫破りし、敏腕刑事ベンが捜査に乗り出す。1年後ジミーはある街で銀行頭取の娘と知り合い、真面目に生きていくことを決意する。ジミーは娘の父親と銀行で会うが、その時誤って子供が金庫に閉じ込められてしまう。ジミーは昔の腕を披露し子供たちを助ける。そこにはベンが偶然居合わせていた―。新潮文庫の旧訳(大久保康雄:訳)では「よみがえった改心」でしたが、新訳(小川高義:訳)では「更生の再生」だったので、タイトルだけだと同じ作品と分からないかも。好きなタイプの作品で、ラストのモチーフは「20年後」にも似ているように思いました(こっちの刑事は逮捕しないけれど)。

「心と手」Hearts and Hands
取り上げ済み。客車の美しい女性が座っている席の前に、犯人とそれを護送する保安官が乗り合わせる。女性は、向かいの席の男が昔の知り合いなので声を掛けるが、2人が手錠で繋がれているのを見て驚く。しかし、手錠で繋がれた男が自らの罪を話し、知り合いが犯人護送中の保安官と知って安心する―。警官、刑事、保安官と3つ続けて、捕まえる側の"深情け"話が続いたことになりますが、「20年後」が最も有名だけれど、個人的に好きな順番は、1番「心と手」、2番「改心」、3番「20年後」です。

「高度な実利主義」 The Higher Pragmatism
 私が公園のベンチで声掛けした浮浪者風の男は元ボクサーで、彼の話だと、路上で見知らぬ男を殴り倒したらそれがボクシング・チャンピオンで、一方、リングに上がると、相手の名前に負けて勝てなかったという。あんたも同じようなアマチュア級だろ、勝ち目はないと言われて、私はすぐに電話ボックスに入り、身分の違いから愛を告白できないでいた女性に電話する―。う~ん。こんなのでホントにいいのかなあという気はします。

「三番目の材料」The Third Ingredient
取り上げ済み。ヘティがシチューを作ろうとするが、牛肉しかない。じゃがいもは? たまねぎは?どうやったら手に入る?― 貧しくて食べるのにも苦労する三人の男女が偶然出会い、シチューは完成し、ヘティは図らずも愛のキューピッドとなったという楽しい話で、個人的にはかなり好きな作品の1つです。

「ラッパの響き」The Clarion Call
取り上げ済み。刑事は、今は強盗殺人犯でかつて幼馴染みだった男に千ドルの借りがあり、その引け目で、証拠をつかんだのに逮捕できない。彼はどうしたか―という話。かつての幼馴染み同士が善・悪に道を隔てるという設定は「20年後」と同じえだることに、改めて気づかされます(そう言えば、映画「汚れた顔の天使」('38年)などもそんな感じの設定だった)。新潮文庫の新訳(小川高義:訳)では「高らかな響き」、オムニバス映画「人生模様」('52年)ではそのまま「「クラリオン・コール新聞」。

「カーリー神のダイヤモンド」The Diamond of Kali
 インド探検でヒンズー教の女神カーリー神の額の目のダイヤモンドを手に入れた将軍は、それを奪還しようとする東インド人に狙われているが、牛が傍らにいると、牛は彼らにとって「神聖にして侵さざるべき」存在だから安全だという。そこへ突然"賊"が襲ってくる―。本人たちは、傍らの消火栓を彼らが牛だと思ってくれたお陰で助かったと思っているけれど、実は―という種明かしが楽しいです。ギャングには縄張りというものがあるわけだ。

「バラの暗号」Roses,Ruses and Romance
 詩人のラぺネルは、自分の部屋の庭越しの屋敷の窓に見える美少女に一目惚れで恋い焦がれるが、彼女が窓辺に置く4本のバラの花に、雑誌に掲載された自分の詩との符牒を読み取り、彼女は自分の愛に応えようとしていると―。もう一人の登場人物、詩人の部屋になぜかよくやって来る、詩人から見れば俗物の男サミー、彼がカギで、バラの花は彼にとっての"符牒"だったわけだあ。

「オデュッセウスと犬男」Ulysses and the Dogman
 女房の尻に敷かれ、毎日犬の散歩を日課にしている「犬男」が、ある夜旧友と再会して酒場で飲んでいる内に、辛抱強く耐え抜いて来た不満を大爆発させ―。犬の散歩を義務付けられた男たちを皮肉った話でした。愛犬家の人が読んだらどう思うのだろうか。

 既読だった「心と手」「三番目の材料」がやはり◎で、同じく再読の「改心」「20年後」もよく、かなり密度の濃いラインアップでした(シリーズの単行本刊行時"第1弾"だったのも分かる)。ただ、初読の作品群はややパンチが弱かったかも。小学校高学年でも読んで理解できるという前提のもとに作品を選んでいるようで、ある程度仕方がないかもしれませんが、未読の作品に出合えるというメリットはありました(活字が大きいので年寄りに優しい(笑))。

【2023年新書化[静山社ペガサス文庫]】

新潮文庫(小川訳)『О・ヘンリー傑作選(全3巻)』/理論社『オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション』(全8巻) 各収録作品
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どれも面白いが、個人的ベストはシチューを作る話「第三の材料」か。

O・ヘンリー 魔が差したパン.jpg魔が差したパン: O・ヘンリー傑作選III (新潮文庫)

 1904年3月発表の「魔が差したパン」ほか17編を収録(書影は和田誠:イラスト/千葉茂樹:訳 『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション』)。

Witches' Loaves.jpgオーヘンリー セレクション 魔女のパン.jpg「魔が差したパン」 Witches' Loaves
 ミス・マーサは40歳で小さなパン屋を営んでいる。結婚運には恵まれず、ずっと独身だったが、ある男性客に興味をひかれていた。男性は清潔感があり、言葉にはドイツ語訛りがあって、決まって古いパンを2個買っていく。あるときミス・マーサは、男性の指に絵の具がついているのを見つけ「きっと貧しい絵描きなのだ」と確信し、確かめるため、店に絵を飾ってみると、案の定、男性はその絵に目を止めて、鋭い洞察力を見せた。ミス・マーサはささやかな心遣いで、男性が買ったパンにバターを忍ばせるが―。製図屋かあ、上手いなあ。市庁舎のコンペとは大きな仕事だった。お節介は悲しい結末になった。直訳して「魔女のパン」という訳もあるが、この訳者がそう訳さなかったのは、主人公の善意がもたらした結末だから(新潮文庫旧版の大久保康雄は敢えて「善女のパン」としている)。

「ブラック・ビルの雲隠れ」 The Hiding of Black Bill
 赤ら顔の男の話。テキサスで仕事を探していたときに、牧場オグデンから声掛けられて羊飼いの仕事にありつくが、ちょうどその頃ブラック・ビルという列車強盗がこの羊牧場一帯に逃げ込んだらしく、保安隊が追っていて、通報者には千ドルの賞金が出るという。牧場を買ったばかりのオグデンこそがブラック・ビルだと男は密告し、保安隊長は彼のポケットから銀行の新札を掴み出す―。なかなか面白い。最後、真犯人はオグデンの嫌疑が晴れたことを言わないではおれなかったのは、盗人のプライドか。1918年に"The Hiding Of Black Bill"のタイトルのまま映画化されている。

「未完の物語」 An Unfinished Story
 ダルシーは、週6ドルの薄給で働く娘。食べる物にもしばしばこと欠くが、ピギーという裕福な男からデートの誘いを受けるが、その時になって。ルシーはピギーと出掛けることをやめる―。どうもこの男は、金に困窮する女の子ばかりを誘い、一夜の快楽を期待して食事やらなにやらを提供するタイプらしい。しかし、いずれ彼女がさらなる空腹に見舞われれば、デートをすることになるかも。一体誰が悪いのか。物語の大部分は過去の出来事で、語り手もすでに死んでおり、生前の行状について神の裁きを控えてるところで、天使が裁きを待っているある一団を彼に指し示し、お前はあの連中の仲間なのか問うというところから始まるという枠組み。

「にせ医者ジェフ・ピーターズ」 Jeff Peters as a Personal Magnet
 にせ医者ジェフ・ピーターズは、ひょんなことから市長の治療をすることになる。しかしそれは実は、市長がジェフを捕まえるための罠だった―。ジェフ・ピーターズとアンディ・タッカーという二人組詐欺師の登場する連作短編集の1作。ジェフは許可なく医療行為をし、現金を受け取ったとかどで現行犯逮捕。金品は警察に渡され、その場は終わるが、金品を受け取った刑事は実は...。相手の裏の裏をかく。

「アイキーの惚れ薬」 The Love-Philtre of Ikey Schoenstein
 リドル家の下宿人マガウアンと薬剤師のアイキーは、ロージーという娘にぞっこん。アイキーは内気な性格で彼女への思いをとじこめ、打ち明けることはできないでいた。ある日、マガウアンは、試してみたい薬があると相談を持ち掛ける。今夜ロージーと駆け落ちして結婚することになったが、彼女の気が変わらないか心配していたのと、彼女の父親が、一緒に外出を許してくれないという。アイキーは2、3時間眠りこける薬を処方し、マガウアンに渡す一方、父親の下宿屋の主人リドルに、マガウアンとロージーの駆け落ちの計画を明かしてしまう。マガウアンはアイキーからみれば恋の略奪者。ロージーが薬で眠らされ、父親のリドルがショットガンを構えて現れれば、アイキーのライバルの失敗は確実だったはずだが、次の日、マガウアンは勝利の笑みを浮かべ、喜びに顔を照らしながらアイキーの手を握る―。マガウアンは直前になって、眠り薬を入れる相手を、目に留まった別の人物のコーヒーに。惚れ薬と言うより眠り薬。

The Whirligig of Life.gifオーヘンリー セレクション 人生は回転木馬.jpg「人生ぐるぐる」 The Whirligigs of Life
 「判事さん、その紙、まだ渡しちゃなんねいよ。まるっきり話は終わってねいもの。あたしにだって権利がある。まずは扶養料をもらわなくちゃ」。離婚が決まりかけたその時、妻のアリエラが判事の手を止めてそう言いだし、2人の離婚は翌日まで延期されることなった―。旧訳(大久保康雄訳)のタイトルは「人生の回転木馬」("Whirligigs"には「風車」のほかに「回転木馬」の意、意味もある)。離婚する、離婚しないの遣り取りの中で、5ドル紙幣が人から人へぐるぐる回っているのに懸けているのが旨い。

「使い走り」 By Courier
 別れることになった男女の間を、少年が伝言を携え行ったり来たりするうちに、男の不倫の嫌疑が晴れて―。結末は見えているけれど、映画の1シーンみたいで良い。愛の誤解は解かれるべきもの。少年は愛のキューピッドか。

「一ドルの価値」 One Dollar's Worth
 判事に、かつて刑を言い渡した男と思われる"がらがら蛇"を名乗る者から娘を殺すとの脅迫状が届くが、彼は取り合わず、娘の恋人で婚約者であるリトルフィールド検事も、鉛製の偽造1ドル硬貨を作った別の男の裁判の準備をする。偽造犯の妻は、自分を救うためにやったことで、許して欲しいと嘆願し、リトルフィールドの恋人も同情的だが、彼は粛々と法の義務を果たすのみと。ある日、リトルフィールドは証拠の偽造1ドル硬貨をもったまま恋人と狩りに行く。そこに殺人予告をした男が現れて銃撃戦に。彼が持っているのは狩りのための散弾銃で、射程が短く圧倒的に不利な状況だった―。ネタバレになるが、1ドル硬貨を加工して、銃弾に仕上げたのだった(そんなに簡単に加工できるのか、また、それが散弾より効果的なのかイメージしにくいが)。「証拠がなくなったので裁判はできません」ということ。

「第三の材料」 The Third Ingredient
 ビッグ・ストアを馘になったヘティは、ビーフシチューが食べたくなり、有り金をはたいて牛肉を買う。ところがジャガイモと玉ねぎがない。同じアパートに住むジャガイモしかない女性画家セシリアと偶然知り合いになり、ジャガイモは手に入れることができたが、「第三の材料」となるタマネギはないものか。そこへ―。面白かった。ヘティは図らずも愛のキューピッドとなった。1908年12月発表で(クリスマス向けか)、1917年に短編映画になっている。

「王女とピューマ」 The Princess and the Puma
 ピューマに襲われたリプリー。野生的な王女ジョセフィアが見事な射撃の腕前でピューマを射止め、間一髪で男を救うが、男はこのピューマは実は愛すべきペットだったと言う。女は男に謝るが―。男女が仕掛ける恋の駆け引きは、女の方が一枚上手だったということ。

「貸部屋、備品あり」 The Furnished Room
 若い男が部屋を探して12軒目で辿り着いた家具・備品付きの部屋には、まさに今自分が探し歩いている女性の痕跡があったかに思えた、しかし、家主の女性の話を聞くと、勘違いのようだ―。今の日本の決まり事だったら、この家主は情報提供義務違反でアウトか。具つきの部屋」という邦題も。

オーヘンリーセレクション マディソン.jpg「マジソン・スクエアのアラビアンナイト」 A Madison Square Arabian-Night
 大金持ちのチャーマーズの下に、ある女の悪評を伝える海外郵便が届く。気分を害した彼は、気分を変えようと、浮浪者を1人呼び寄せ、食事を共にする。突然の招待をさほど驚かないこの浮浪者プルーマーは、「何でも真実を描いてしまう」ことで失業した肖像画家だった。彼の肖像画にはモデルの本性が現れ、しばしば不快を引き起こすのだ。チャーマーズはブルーマーに、海外郵便で届いた写真の女の肖像画を描かせる―。ネタバレになるが、最初に届いた郵便は、海外旅行中の妻に関する報告書で、画家に描かせたのは妻の肖像画。チャーマーズは描いてもらった妻の絵を怖くて見れないが、別の画家に見てもらって疑いが晴れた。一応、ハッピーエンドだが、人間の弱さから来る不安を描いていた作品か。画家チャーマーズはここでは救いの神だが、多くの場合は疫病神になるか。

「都会の敗北」 The Defeat of the City
田舎町の少年ボブ(ロバートの愛称)は都会で成功を収め洗練された紳士になり、冷ややかな印象さえ与える高貴な美人で社交界の花形アリシアを妻にする。アリシアが田舎のロバートの母親の手紙を見て田舎に行きたがったため、ロバートは故郷へ妻を連れて帰ることに。ところが、自然に包まれた故郷に帰り家族と久々に食卓に着いた途端に「社交界の花形で一点の非の打ち所もない前途洋洋の青年実業家ロバート氏」は「そばかすだらけのボブ」に戻ってしまう。大はしゃぎしていたロバートだが、疲れているアリシアを見て、初めて自分がしでかしたことに気づき狼狽する―。思わぬハッピーエンド。ラストの階段のアリシアの言葉がいい。

「荒野の王子さま」 A Chaparral Prince
父親に出された奉公先の石切場で虐げられる11歳の少女レーナ。読みたいグリム童話も読めない。母親に迎えを求める手紙を書くが、その郵便車はが強盗団に襲われる。レーナの手紙を読んだ強盗団の頭領は―。レーナが帰って来れた理由を自信満々に「王子さまに連れられて」と言うのがいい。

「紫のドレス」 The Purple Dress
勤める店が主催する感謝祭のディナーパーティに着ていくためにコツコツとお金をため、大好きな紫のドレスを注文していた娘メイダ。自分や女店員たちの憧れの的である店の主任ラムジーも紫が気に入るはずだと固く信じている。しかし感謝祭の前夜、同じアパートに住む同僚グレースが部屋代の滞納で追い出されそうになっていることを聞き、ドレスの仕立代の残金を全部貸してしまう。紫のドレスが着られないならとパーティに出なかった彼女。仕立て屋に行き、残金を払えないと言うと、この娘が長い間紫のドレスを欲しがっていたことを知っていた彼は「支払いはあとでいいんだよ」とドレスを渡してくれる。紫のドレスを着て彼女は雨降る街へ出る―。これ、日本語オペラになっている。

 ほかに、「新聞の物語(A Newspaper Story)、「シャルルロワのルネサンス(The Renaissance at Charleroi)」 を所収。どれも面白いですが、個人的ベストはシチューを作る話「第三の材料」でしょうか。読んでいて楽しくなる作品でした。

新潮文庫:大久保訳・小川訳 各収録作品
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和田誠:イラスト/千葉茂樹:訳 『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション(1~8)』(2007/04~2008/03 理論社)
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短いけれど印象に残る「心と手」が、キレ味という意味でベストか。

O・ヘンリー 最後のひと葉.jpg最後のひと葉: O・ヘンリー傑作選II (新潮文庫)

 1905年10月15日日発表の「最後のひと葉」ほか14編を収録(書影は和田誠:イラスト/千葉茂樹:訳 『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション』(理論社))。

オーヘンリー  最後のひと葉.jpg「最後のひと葉」 The Last Leaf
「人生模様」30.jpg スーとジョンジーは芸術家達が集まるアパートの住人で、画家になることを夢見ていた。しかしジョンジーは肺炎にかかり「窓から見える隣の家のつたの葉が落ちる時に、自分も一緒に死んでしまう」と思い込んでいた。スーは同じアパートに住むベ老画家アマンに相談に行く―。あまりに有名な作品であり、オムニバス映画「人生模様(O. Henry's Full House)」('52年)の一話としてアン・バクスター主演で映画化されるなど、何度か映像化されている。作りようで、老画家の自己犠牲にも見えるし、芸術家としてのプライドにも見えてくるのでは。著者45歳の時(1907)に刊行された第3短編集『The Trimmed Lamp(手入れのよいランプ)』に収録された。

「懐かしのアリゾナ」.jpg「懐かしのアリゾナ」D.jpg「騎士の道」 The Caballero's Way
 無法者シスコ・キッドを追うサンドリッジ中尉は、探索の中、キッドの愛人トーニャ・ペレスと親密になる。キッドはある日、その2人の様をサボテンの陰から目撃する。トーニャからサンドリッジに、危険を感じたキッドが彼女の服を着て敵の眼をごまかし、彼女にはキッドの服を着せて標的にしようとしているとの手紙が届く―。1907 年発表作。このストーリーをそのまま使った「懐しのアリゾナ(In Old Arizona)」('28年)という西部劇は、アカデミー賞作品賞を含む5部門にノミネートされ、続編「シスコ・キッド」('31年)が作られたほか、シスコ・キッドというキャラクターは西部の快男児として数々の映画やテレビ・シリ-ズの主人公として登場することになった。

「金銭の神、恋の天使」 God of Money, Angel of Love
 大金持ちのアンソニー・ロックウォールの息子リチャードが一人の女性に恋をした。彼女とはまだほんの少しの顔見知り程度。彼女は数日後に遠くへ行き2年は帰らない。リチャード諦めかけた。父親は、こんなに金があるのに断る女性はいないと言い放つ。息子は彼女と話す機会がないと嘆き、お金では解決出来ないと言う。彼女とは旅立ちの前にほんの2、3分くらいしか話せないのだと。息子の叔母がその時、小さな指輪を恋愛成就のお守りに息子に与え、叔母はお金よりも大切なのは愛だと伝えた。息子はほんの少しでもと彼女に逢いに行き、彼女と逢う。その時、町中で交通渋滞が発生し2時間は動けなくなった。息子は2時間かけて彼女に想いを伝え―。ハッピーエンドの裏に大金が動いていたということ。でも、指輪を落として取りに戻ったら渋滞に遭ったのfで、指輪も一役買っていた(やはり金がすべてではない)というというのがいい。

「ブラックジャックの契約人」 A Blackjack Bargainer
 落ちぶれた元名家のゴーリーは客の来ない法律事務所で飲んだくれる日々。土地から雲母が発見され、その土地を売って金持ちになった田舎の猟師のガーヴィが、ゴーリーの全てを買いに来て、昔からの敵のコルトレーン大佐との〈敵対関係〉も売る。墓の名前を書き換えていいか?と言われてゴーリーは激怒し、ガーヴィを叩き出す。コルトレーンがゴーリーの事務所に来て、そろそろ仲直りしてうちの事業を手伝ってくれと持ちかけ、ゴリーは了承する。2人が馬に乗り、昔のゴリー家の屋敷の前を通ると、ガーヴィが狙っているのに気づき、自分の格好みずぼらしいから大佐のコートと帽子を貸してくれるよう頼む。ゴーリーはコルトレーンの服と帽子を身に着けて1人ガーヴィの銃の前に―。最期に見せた男気。身代わりになった。でも、リス撃ちは唯々人間を撃ちたかったのか? 狂ってる。

「芝居は人生だ」 The Thing's the Play
 18歳の美女ヘレン。美男子フランクとジョンは共にヘレンを好きになるが、紳士協定の末、フランクがヘレンと結婚することに。ジョンは祝福したが、納得してはおらず、式終了後、ヘレンにどこかで一緒に暮らそう、ダメならアフリカへ行くと言う。そこへフランクが乗り込んできて修羅場を迎え、その後2人が殴り合った末に、共にどうなったのかは分からず、時は過ぎる。38歳になったヘレンは、いつ夫が帰ってきてもいいように準備していた。祖母の遺産を相続するも、生活に困ったため空き部屋を貸し出す。そこに部屋を借りたヴァイオリニストのラモンティは、彼女に愛を告白する。彼は昔頭部にけがをして記憶を失い、自分の本当の名も知らないと。さらに、もう一人やって来た別の男は、「覚えていないかな、ヘレン」と言う。実は男はジョンで、フランクは自分が殺してしまったと―。フランクの親友ジョンと浮気してたかのように勘違いされたことが原因か、フランクはいなくなってしまい、20年の歳月の後に、その2人共と再会したという話。ジョンはフランクを殺したと思い込み、そのフランクはケガのためにずっと記憶を喪ったままであったという、結構凝った話。

「心と手」 Hearts and Hands
 東部行きの列車で、愛らしい美人の前に、男前の紳士とむさくるしく陰のある男という、見た目が逆の2人の男が手錠で繋がれた座った。美人と紳士は昔の知り合いのようだった。二人が話し中のところ、様子を窺っていたもう一人の男は、紙幣贋造の7年の罪で刑務所に収監されるところだと自分から言う。紳士は保安官で、犯罪者を移送中らしい。美人は保安官と会話し、その仕事を称え、近いうちに会えないかと言うが、それは出来ないと彼は言う―。面白かった。様子を見ていた客に、自分の利き手に手錠を掛ける保安官がいるかと種明かしをさせるところがいい。僅か5頁。ショートショートの見本のような見事な作品、

「高らかな響き」 The Clarion Call
「人生模様」20.jpg バーニー・ウッズ刑事は、かつて幼馴染みで今は強盗殺人犯のジョニー・カーナンに千ドルの借りがあり、その引け目があるので、証拠をつかんだのに逮捕できない。犯人はいい気になって新聞社を挑発する。新聞社は情報提供者に千ドルの賞金を出すと発表。朝刊でそれを知たった刑事がしたことは―。途中で気づいてもよさそうだが、最後まで読んでナルホド、この手かと。本人の目の前でやるラストがスマート。別訳タイトルは「ラッパの響き」で、ラッパは正確にはクラリオンという高音の金管楽器である。カーナンの完全犯罪の終わりを告げるその音は、勝利のファンファーレでもあるだろう。旧訳(大久保康雄:訳)タイトルは「ラッパのひびき」で、オムニバス映画「人生模様」('52年)の一話として映像化されており、そちらの訳は「クラリオン・コール新聞」。オムニバス映画「人生模様」('52年)の一話として映像化されていて、リチャード・ウィドマークのヤクザ者の役が出ている。

「ピミエンタのパンケーキ」The Pimienta Pancakes

「探偵探知機」 The Detective Detector
 私とセントラル・パークを歩いているエイヴリー・ナイトは、泥棒、辻強盗、殺人者で、ブロードウェイでも殺人はできると豪語、私の目の前で、拳銃で裕福そうな市民を殺害して、その持ち物を奪ってみせた。そして、駆けつけて来た警官に「いま人を殺しました」と言っても、警官は相手にしない。目撃者がいて人相が分かっているし、名刺入れを落としてきたのでナイトの名前と住所も分かっているはず。なのに、待っていても警察を出たはずの探偵はやってこない。その名探偵のはずのシャムロック・ジョーンズ(シャーロック・ホームズのもじり?)は、裏をかくつもりか、手掛かりと正反対の人間(アンドルー・カーネギー)を犯人ではないかと疑って探っている―。警察のダメさ加減を皮肉った話か。トーンが星新一みたいで、和田誠のイラストが似合いそう。

「ユーモリストの告白」Humorist Confessions
 ユーモアセンスが認められ、地元でも有名になり、遂に勤めを辞めてユーモア作家になった私だが、やがてスランプに陥り、ネタ探しをする余り人々にも嫌われ、ある葬儀屋の店内の奥の部屋の静謐さの中でのみ安息を得るようになる―。結局どうなったかというと、今ではこの町で好感を持たれ、軽口をたたいているというハッピーエンド。ユーモアって、根詰めて追求し過ぎると、ゆーもではなくなってしまうどころか、その人間そのものも危うくする?

「感謝祭の二人の紳士」 Two Thanksgiving Day Gentlemen
 感謝祭の日、金のある者は、貧乏な者に食事を振る舞う。その伝統を確固たる者にしようと、毎年同じ場所に集まる二人の紳士がいた。一方は、貧乏暮らしをしている頑固者のスタッフィ・ピート。もう一方は、この9年間、感謝祭の日には必ずピートに好きなだけ食事をさせる老紳士。今年も感謝祭にいつものようにベンチで出会う二人。しかし、今年のピートの状況は少し違った。ベンチに来る前、慈善家の気まぐれで、吐き気のするほど大量の料理を食べさせられていた。そうとは知らぬ老紳士は例年のようにピートを食事に誘う。この「伝統」を絶えさせてはならぬ、とピートも精一杯空腹を装う―。ネタバレだが、結局二人とも病院に担ぎ込まれることになる。ピートは満腹が限界に達しため。老紳士は3日間何も食べてなかったところへ大食いしたため。律儀な2人の憎めない滑稽さ。アメリカ人の"伝統コンプレックス"を揶揄。

「ある都市のレポート」 A Municipal Report
 南部の街ナッシュヴィルの歴史や特徴をガイドブックさながらに紹介しつつ、一ドル紙幣の謎をも織り交ぜて、街のさまざまな人間模様をコミカルに描く―。南北戦争後のアメリカの姿を描いており、無意識ではあっても黒人への人種差別が根強く存在することが窺える。

「金のかかる恋人」A Lickpenny Lover
 デパートのショップガール、メイシーは、ある日来店した男にデートに誘われ、やがてプロポーズされる。自分と結婚すれば人生はずっと続く休暇となり、どこへでも行けると。しかし、コニーアイランドへ行こうと言われ、新婚旅行に遊園地かと呆れ彼の申し出を断る。ところが実は彼は―。思い込みや固定観念とかで縁を逃してしまう話。

「更生の再生」A Retrieved Reformation
 スペンサーの本名はジム・ヴァレンタイン。若くして凄腕の金庫破りだったが、名刑事ベンに捕まった。刑務所出所後も彼は大胆な金庫破りを続けるが、エルモアの地で銀行頭取の娘アナベルに出会い、一目惚れした彼はその地に定住し、靴屋を開業して成功を収める。その上で彼女と接触し、持ち前の社交性を発揮して僅か一年の間に婚約までこぎ着ける。ある日、頭取アダムズが新型金庫を説明している最中に、アナベルの姉の娘が遊んでいて閉じ込められる―。その後は想像がつくかと思われる。スペンサーはジム・ヴァレンタインに戻り、譲り渡すために持参していた自分の道具を並べ、新型金庫を事もなげに破り、女の子を救い出す。そこに、たまたま張っていた名刑事ベンがとった行動は...。「A Retrieved Reformation(よみがえった改心)」という原題で、作者46歳の時(1909.4)に刊行された第7短編集『Roads of Destiny(運命の道)』に収録され、「侠盗ヴァレンタイン(Alias Jimmy Valentine)」('28年)など何度か映像化されている。

 昔、新潮文庫の大久保康雄:訳『O・ヘンリ短編集』(全3巻)を読んで、今回は新訳での読み直しになります(ラインアップは多少異なる)。この巻は、個人的ベストを絞り切れません。良いと思ったのは「騎士の道」「芝居は人生だ」「心と手」「更生の再生」です。「騎士の道」は西部劇。「芝居は人生だ」凝ったストーリー。「心と手」と「更生の再生」は、保安官や刑事の人情がラストに浮かび上がる「二十年後」などと似たモチーフ。短いけれど印象に残る「心と手」が、キレ味という意味で個人的ベストでしょうか。。

新潮文庫:大久保訳・小川訳 各収録作品
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和田誠:イラスト/千葉茂樹:訳 『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション(1~8)』(2007/04~2008/03 理論社)
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個人的ベストは、最後の「車を待たせて」か。「緑のドア」も面白かった。

O・ヘンリー 賢者の贈りもの.jpg賢者の贈りもの: O・ヘンリー傑作選I (新潮文庫)

 1905年12月10日発表の「賢者の贈りもの」ほか16編を収録(書影は和田誠:イラスト/千葉茂樹:訳 『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション』)。

オーヘンリー セレクション 賢者の贈りもの.gif「賢者の贈りもの」 The Gift of the Magi
 明日はクリスマスというのにデラの手元に「人生模様」51.jpgあるのは僅か1ドル87セント。これでは愛する夫ジムに何の贈りものもできない。デラは苦肉の策を思いつき実行するが、ジムもまた、妻のために一大決心をしていた―。この作品、クリスマス前発表されている。あまりに有名な作品であり、オムニバス映画「人生模様(O. Henry's Full House)」('52年)の一話としてなど、TV-Mも含め何度も映像化され、オペラにもなり、「ミッキーのクリスマスの贈りもの」('99年)としてディズニーアニメにもなっている。

「春はアラカルト」 Spring à la Carte
 古い下宿に住むサラ。やっとのことで、隣のレストランのメニューの清書タイピストの仕事を得た彼女には、前年の夏、田舎である農夫の若者と恋に落ち「春になったら結婚しよう」と言い合った過去があった―。タイプの打ち間違えが二人を再び引き合わせたという偶然、と言うより「奇跡」に近いか。それでも感動物語に仕上げるところが、この作者の強み。

「ハーグレーヴズの一人二役」 The Duplicity of Hargraves
 娘とワシントンのアパートに暮らす老軍人は元少佐で、回顧録を書いており、近々それを出版して生計費にと考えている。やがて、同じアパートに、役者の卵の感じよい青年が入居する。少佐と娘が気晴らしに劇場に行くと、偶然にもその青年が出演していたが、彼は少佐の振る舞いを完全に模倣した演技で観客の喝采を浴び、少佐は頭にくる。回顧録の進捗が無く、少佐家族は困窮に陥る。例の役者の青年が用立てを申し入れるが、気を悪くしたままの少佐は断る。少佐家族がいよいよ困窮した際に、思いもよらないところから助け舟が―。リアリティに問題がありそうだが、面白かった。

オーヘンリー セレクション 20年後.jpg「二十年後」 After Twenty Years
 ボブとジミー・ウェルズはある場所で20年後に再会する約束をした。ボブが待っていると夜中に巡回中の警察官がやってきて、ボブは西部での成功体験を語る。警察官が去った後、 ジミーと思しき背の高い男が現れ、2人は共に歩き始めるが、明るい場所に出たところでボブは背の高い男がジミーではないことに気づく―。分からないものかなあ。でも、年月は人を変える。法を犯してまでアメリカン・ドリームを追い求めるような人間はよろしくない、ということ。「二十年後」('89年/米)という短編映画になっている。

「理想郷の短期滞在客」 Transients in Arcadia
 避暑地の豪華ホテルに、貴婦人の客がチェックインした。数日後に青年実業家が訪れ、2人は言葉を交わすようになる。自分たちが属しているゴージャスな環境や生活、高い社会的地位や名声について語り合ううちに、2人の間には親近感が芽生え始める。しかし、1週間目のディナーの後で、貴婦人は青年に打ち明ける―。たまに贅沢してみるのもいいかも。"プチ贅沢"ではなく本格的なのを。

「巡査と讃美歌」 The Cop and the Anthem
「人生模様」11モンロー.jpg 冬が近づき、ホームレスのソーピーは冬を快適に過ごすために、刑務所に入ることを計画した。毎年のことである。盗み、無銭飲食、警官への暴行、店のショーウィンドーの破壊。いろいろ試みたが、なぜか警察は逮捕してくれない。疲れて教会に入った。讃美歌が聞こえてきた。その神聖な雰囲気に触発されてか、ソーピーは自分の態度を反省し、真面目に仕事を探すことにした。そして教会を出たところ―。1904年発表。法の無慈悲。オムニバス映画「人生模様」('52年)の一話としてチャールズ・ロートン主演で映像化されていて、マリリン・モンローが出ている。

「水車のある教会」 The Church with an Overshot-Wheel
 4歳になった時に忽然と姿を消してしまった愛娘アグレイア。父親のエイブラム・ストロングは娘を探し続け、母親は心労で亡くなってしまった。エイブラムは、娘がいた頃、水車小屋で小麦粉を挽く仕事を生業とし、作業中はいつも粉挽き歌を歌い、いつも娘と一緒だった。その後、エイブラムは財を築き、古い水車小屋はアグレイアを偲ぶために、そして彼女が住んでいた村人たちが神の恵みを授かるよう教会に改築され、彼は神父となった。また、自分の製品である小麦粉を、災害などで貧窮した人々に無料で配布することにした。何年か後、村のホテルに二十歳のローズ・チェスターという女性が休暇で宿泊していた―。再開物語だとオチは見えていても、パイプオルガンの音が水車の粉を挽く音に重なったというあたりは旨い!と思わせる。

「手入れのよいランプ」 The Trimmed Lamp
 同じ故郷から、都会に出てきた2人の女性。そのひとり、ルーは洗濯屋で地道にお金を稼ぎ背丈のあった男性ダンという恋人を持っている。もうひとりナンシーは、デパートのショップガールとして働き、デパートにやってくる金持ちの男性と玉の輿の結婚を日々狙っている―。幸せを掴んだのは、聖書の「手入れの良いランプ」の喩えにあるように、日頃からランプを手入れするように自分の感性を磨き上げていた女性の方だった。世間の考え、他人の価値観に翻弄され、知らぬうちに他人の価値観の上で行動していると、いつか後悔が残ってしまうだろうという教訓。

オーヘンリー セレクション 千ドルの使い道.jpg「千ドル」 One Thousand Dollars
 ジリアンは使途を報告する義務のある遺産千ドルを受け取る。一生遊んで暮らせる額ではない。面倒くさがり屋の彼は「使途の報告」すら重荷に感じ、叔父の庇護を受けていたミス・ヘイデンに千ドルをそっくりそのまま譲ることに。ところがそれを弁護士に報告に行くと、千ドルの使い方次第では追加の遺産五万ドルを継承できると告げられる。追加遺産の条件は、よいことに使えば自分に五万ドル、ろくでもないことに使っていれば何もなし(五万ドルはミス・ヘイデンに渡る)といもの。頼るものをなくし、特に資産もないとおぼしきミス・ヘイデンに千ドルを贈ることは善行の部類に入るだろう。ジリアンは報告書を読まれる前に「競馬で浪費した」と弁護士に告げて気楽な調子で去っていく―。ジリアンはミス・ヘイデンを心から愛しているのだなあ。自らが損しても、彼女が実質的に幸せになる方を選んだわけだ。しかも、自分の気持ちを伏せて(ある種の美意識?)。

「黒鷲の通過」 The Passing of Black-Eagle

「緑のドア」 The Green Door
 冒険好きな青年ルドルフが夕方通りを歩いていたら、ビラ配りの男がビラをくれる。しかしそのビラは「緑のドア」と書いてあるだけ。試しにもう一回ビラを貰ったらやはり「緑のドア」と。冒険好きなルドルフの血が騒ぎ、近くの建物の中に入ったらそこには緑のドアがあった。ルドルフはそのドアを叩くと 妙齢の女性がドアを開け、彼の姿を見てその場で倒れ込む―。ネタバレになりますが、「緑のドア」が表わしていたのは、ルドルフが入った建物のことではなく、通りの向こうの劇場の演目タイトルで、でも、ルドルフが勘違いして入った建物にも緑のドアあって(ただし、その建物の部屋のドアはすべて緑だった)、要するに、彼が冒険の始まりだと思ったものは彼の壮大な勘違いだったということ。しかしながら、彼の冒険心が一人の女性を救うとともに、新たな出会いを生んだのも事実。

「いそがしいブローカーのロマンス」 The Romance of a Busy Broker
 株式仲買人ハーヴェイ・マクスウェル。"仕事馬鹿"が進んでる彼は、速記者レズリーに気がある。ある日のこと。仕事が立て込んでおり、猛烈に忙しいハーヴェイだったが、ほのかに甘いライラックの香りに我に返り、行動に移る。ハーヴェイの告白は成功するのか―。ほとんど漫画チックな結末。リアリティより皮肉に比重を置いているが、主人公に対する作者の眼は暖かい。

オーヘンリー セレクション 赤い酋長の身に白金.jpg「赤い酋長の身代金」 The Ransom of Red Chief
 悪党のビルとサムは、いかさま土地周旋の元手を得るために、アラバマ州の田舎町の有力者ドーセット氏の息子を誘拐する。ところが、この少年は実はとんでもない腕白坊主で、自分をインディアンの「赤い酋長」と名乗り、ビルをまぬけな白人猟師の「オールド・ハンク」サムをスパイの「スネーク・アイ」と勝手に命名、家から離れた洞窟に連れて来られてもかえって喜ぶ始末。挙句の『赤い酋長の身代金』コミック.jpg「人生模様」41.jpg果てにビルの頭の皮をはごうとする。2人は身代金を期待するがドーセット氏は平然とした様子。二人は身代金の金額を下げて脅迫状を出すが、ドーセット氏からはあべこべに250ドル払えば息子を引き取ると申し出る手紙が届いただけだった。少年の腕白ぶりに恐れをなした悪党達は、ドーセット氏の申し出たとおりの金額を払い、何とか逃げ出すことが出来た―。悪党2人が身代金目的で誘拐した腕白坊主に振り回される愉快な作品。1907年7月6日発表。オムニバス映画「人生模様」('52年)の一話として映像化されているほか、永島慎二によって漫画になっている。

「伯爵と婚礼の客」 The Count and the Wedding Guest
 アンディ・ドノバンは自分の下宿の新たな下宿人コンウェイ嬢を最初は気にかけてなかった。だがある日、喪服を着た彼女に心を奪われ、泣いている彼女を元気づけようとした。彼女は徐々に心を開き、反対する父からようやく許しをもらえた許嫁が死んだことを告げ、写真を見せる。1か月後。彼らは結婚することになった。だがアンディは不安な気持ちでいっぱいだった。そんな彼をみて彼女は自分に許嫁などいなかった、作り話だったと罪の告白をする。アンディは男は彼女の好きな人が自分の尊敬する人ではなかったことに気づき安堵した。写真は許嫁ではなく、彼の尊敬するサリヴァンだったのだ―。写真を見た段階でアンディは彼女のウソに気づいていたことになるが、それを言わないで、彼女が真実を打ち明けるのを待ったということか。優しいね。

「この世は相身互い」 Makes the Whole World Kin
 ある家に侵入した盗賊は、目を覚ました家主の男に「手を上げろ」と命令する。右手を高々と挙げた男に、盗賊は「左手もだ」と要求するが、男の返答は「こっちの手は上がらん。肩にリュウマチがある」。実は盗賊も...。まさに同病相合われるを絵に描いたような話。

「車を待たせて」 While the Auto Waits
 夕方の公園でいつも読書をする美しい女性と、その女性に好意を持ちつつもいつも遠くから眺めている青年パーケンスタッカー。ある日青年は彼女が落とした本を拾い上げ、声を掛けた。彼女は高貴な家柄の人だという。そして、金持ち達の形骸化した贅沢に嫌気がさし、庶民の娯楽を楽しんでいるそうだ。彼女はドイツのとある公国の大公とイギリスの公爵から求婚を受けていると話す。青年は自分の職業をレストランの出納係だと言う。すると彼女は腕時計を覗き、慌てて立ち上がった。青年は彼女の車まで送ろうと申し出たが、ナンバープレートを見られては困るからと断る。しかし、彼女は自分の車を気にも留めず、奥の青年が働いているというレストランに入り、その出納係の席に座った―。車を待たせてたのは誰だったのか、ラストがいい。「While the Auto Waits(自動車を待つ間)」という原題で、作者46歳の時(1908)に刊行された第5短編集『The Voice of the City(都会の声)』に収録されている。

 個人的ベストは、最後の「車を待たせて」でしょうか。タイトルが旨いです。「緑のドア」も面白かったですが、"奇跡的"ととるか、やや偶然が重なり過ぎととるか、微妙なところも。

●0・ヘンリー短編集一覧(刊行年順) ※刊行時年齢
◎生前に刊行された短編集
 第1短編集『キャベツと王様』(Cabbages and Kings, 1904年11月)※42歳
 第2短編集『四百万』(The Four Million, 1906年4月)※43歳
 第3短編集『手入れのよいランプ』(The Trimmed Lamp, 1907年)※45歳
 第4短編集『西部の心』(Heart of the West, 1907年10月)※45歳
 第5短編集『都会の声』(The Voice of the City, 1908年5月)※45歳
 第6短編集『やさしいつぎ木師』(The Gentle Grafter, 1908年11月)※46歳
 第7短編集『運命の道』(Roads of Destiny, 1909年4月)※46歳
 第8短編集『選択権』(Options, 1909年10月)※47歳
  第9短編集『きびしい商売』(Strictly Business, 1910年3月) ※47歳
◎没後に刊行された作品集
 第10短編集『回転木馬』(Whirligigs, 1910年9月)
 第11短編集『てんやわんや』(Sixes and Sevens, 1911年)
 第12短編集『転石』(Roalling Stones, 1912年)
 第13短編集『がらくた』(Waifs and Strays, 1917年)


『Oヘンリ短編集』.jpg 昔、同じ新潮文庫の大久保康雄:訳『O・ヘンリ短編集』(全3巻)を読んで、今回は新訳での読み直しになります。旧訳とは多少ラインアップは異なりますが、ほぼほぼ重なっている感じです。和田誠がイラストを描いている千葉茂樹:訳 『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション(1~8)』(2007/04~2008/03 理論社)も読み易く楽しいです。

大久保康雄:訳『O・ヘンリ短編集(1)』(1969/03 新潮文庫)
大久保康雄:訳『O・ヘンリ短編集(2)』(1969/03 新潮文庫)
大久保康雄:訳『O・ヘンリ短編集(3)』(1969/04 新潮文庫)
大津栄一郎:訳『オー・ヘンリー傑作選』(1979/11 岩波文庫)
芹澤  恵:訳『1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編』(2007/10 光文社古典新訳文庫)
青山  南:訳『O・ヘンリー ニューヨーク小説集』(2015/05 ちくま文庫)
越前 敏弥:訳『オー・ヘンリー傑作集1 賢者の贈り物』(2020/11 角川文庫)
越前 敏弥:訳『オー・ヘンリー傑作集2 最後のひと葉』(2021/03 角川文庫)
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新潮文庫:大久保訳・小川訳 各収録作品
oヘンリー短編集新旧.png

和田誠:イラスト/千葉茂樹:訳 『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション(1~8)』(2007/04~2008/03 理論社 )
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