Recently in 上司学・リーダーシップ Category

「●ビジネス一般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●仕事術・整理術」【1189】 梅棹 忠夫 『知的生産の技術
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ

「ポリティカル・スキル」を習得することで「組織で自由に働く人」になれると説く。

ポリティカル・スキル2.jpgポリティカル・スキル.jpg マリー・マッキンタイヤー.jpg マリー・マッキンタイヤー(ワークプレイス心理学者・キャリアコーチ)
ポリティカル・スキル 人と組織を思い通りに動かす技術』['24年] 

 本書は、20年以上のコンサル経験を持つ組織心理・組織力学のプロである著者が、「組織で自由に働く人」というキーワードのもと、「ポリティカル・スキル」を習得することで、思い通りに人と組織を動かし、仕事の自由度を上げることができるとし、その方法を明かしたものです。

 三部構成のPART1では、「組織で自由に働く人」の極意とは何かを分析しています。まず、組織に生息する人間には、「成功者」「殉教者」「背徳者」「愚か者」の4タイプがあるとし、自分のタイプを把握して問題行動を改め、抱えている倫理的なジレンマを整理することを説いています(第1章)。

 また、「組織で自由に働く人」は、職場に理想を求めず、現実だけを見るとしています。組織とはもともと民主的なものではなく、最も大きな力を持つ者が勝つのであり、「公平さ」へのこだわりは捨てるべきだとしています(第2章)。

 さらに、「組織で自由に働く人」は、相手との力関係を見極めているとし、組織スキルを高める力を7つの力を「レバレッジ・ブースター」として挙げていますが、この中に「距離を置く力」というのがあるのが興味深いです(第3章)。

 このPARTの最後では、「組織で自由に働く人」は敵と味方を見分けて利用するとし、その際に「友人」「パートナー」「人脈」という3つの仲間を取り込むとし、また、敵への対処法の「法則」を示しています(第4章)。

 PART2では、「組織の力学」の落とし穴にはまらないためにどうすればよいかを説いています。まず、リーダーとは「組織内ゲームの勝者」であるとし、組織のゲームには「パワーゲーム」「エコゲーム」「回避ゲーム」の3つのカテゴリーがあるとして、それぞれのゲームに勝つ方法を説いています(第5章)。

 また、人は「怒り」か「不安」によって自滅していくとして、「私は犠牲者だ」という感情にとらわれていたら要注意であるとしています。その上で、習慣になっている態度や行動を変えるカギとなる5つのステップ(「気づき」「モチベーション」「特定」「代替」「習慣の置き換え」)を挙げています(第6章)。

 さらに、「個人の力」とは、肩書や役職ではなく、自身の性格や能力がその源泉であるとして、自分の力量や自分に影響を与えている要素の分析方法を示しています(第7章)。

 PART3では、組織において主導権を手にするにはどうすればよいかを説いています。まず、どんな目標であれ、達成するには十分な力が必要であり、真の力は貢献から生まれるが、見えない貢献は組織内での力を高める効果はまったくないので、貢献の重要性だけでなく「露出度」も意識せよとしています(第8章)。

 さらに、誰かに影響を与えるには、自分の言動を意識することが必要で、セルフマネジメント能力を磨き、改善すべき影響力のスキルを検討することを説いています(第9章)。

 また、組織内の力関係を全方位的に掌握し、上・横・下に影響力を持つべきであるとし、上司に対するマネジメント法や同僚との付き合い方、部下の引っぱり方を説いています(第10章)。

 そして最後に、組織で自由に働くためには"ゲームプラン"が必要であるとし、「やめること」「始めること」「続けること」をリストアップし、それらを定期的に見直しことを勧めています(第11章)。

 別に権謀術数をめぐらすことを推奨しているわけではなく、どれほど才能があっても、社内政治を軽んじてしまえば、得たい結果は得られないという趣旨の本です。

 ジェフリー・フェファーの『「権力」を握る人の法則』(2014年/日経ビジネス人文庫)や、ロバート・B・チャルディーニの『影響力の武器[新版]―人を動かす七つの原理』(2023年/誠信書房)などにも通じる内容であり、それらに読み進むのもいいのではないかと思います。

《読書MEMO》
●目次
Introduction―はじめに
PART1「組織スキル」の極意
第1章 「組織で自由に働く人」だけが知っている組織で生きるためのスキル
第2章 「組織で自由に働く人」は職場に理想を求めず、現実だけを見る
第3章 「組織で自由に働く人」は相手との力関係を見きわめる
第4章 「組織で自由に働く人」は敵と味方を見分けて利用する
PART2「組織の力学」の落とし穴にはまらないために
第5章 リーダーとは「組織内ゲームの勝者」である
第6章 「組織で自由に働く人」が絶対にしないこと
第7章 「組織で自由に働く人」は権力に逆らわない
PART3 組織において主導権を手にする
第8章 「組織で自由に働く人」は正しいプランを立てる
第9章 「組織で自由に働く人」には影響力という武器がある
第10章 「組織で自由に働く人」は全方位で力関係を掌握する
第11章 組織で自由に働くために必須のゲームプラン
Epilogue―おわりに

「●ビジネス一般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3495】 マリー・マッキンタイヤー 『ポリティカル・スキル
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ 「●講談社現代新書」の インデックッスへ

具体例は分かりよかったが、「心理屋さん」が書いた本という印象は拭えない。

職場を腐らせる人たち2.jpg職場を腐らせる人たち.jpg    他人を攻撃せずにはいられない人.jpg
職場を腐らせる人たち (講談社現代新書 2739)』['24年] 『他人を攻撃せずにはいられない人 (PHP新書)』['13年]

 精神科医としてこれまで7,000人以上を診察してきたという一方で、『他人を攻撃せずにはいられない人』('13年/PHP新書)など多数の著書のある本書の著者によれば、最も多い悩みは、職場を「腐らせる」人がらみだとのことです。本書は、「職場を腐らせる人たち」とはどのような人であり、それに対する有効な対処法は何かを解説したものです。

 第1章では、「職場を腐らせる人たち」の具体例を紹介し、その精神構造と思考回路を分析しています。「根性論を持ち込む上司」「過大なノルマを部下に押しつける上司」「言われたことしかしない若手社員」や「完璧主義で細かすぎる人」「あれこれケチをつける人」など15の事例を挙げ、その精神構造や思考回路を分析しています。

例えば「根性論を持ち込む上司」や「過大なノルマを部下に押しつける上司」などは、次のように紹介されていて、いずれの事例も分かりやすいです。

 〈食品会社で営業部長を務める50代の男性は、「営業で大切なのは気合と根性」と日々力説し、何軒訪問したか、何人に電話したかを毎日報告させ、少ないと「気合が足らん」と激高する。しかも、自分が若い頃気合と根性で営業成績をあげた話を何度も繰り返す。残業を暗に強要し、定時に退社した社員がいると翌日デスクを廊下に出したこともある。〉

 〈保険会社の40代の男性上司は、部下を別室に呼びつけて「君の将来を思って言うんだが...」という枕詞を吐いた後、過大なノルマを押しつける。この上司は、現状を見れば達成できるとは到底思えない数字を示し、「これだけの契約を取ってくれば、上からの君の評価はうなぎ登りで、賞与にも反映されるし、今後も安泰。昇進できるし、給料も上がる。本当に君のためになるんだぞ」と熱っぽく言うそうだ。〉

 第2章では、なぜ「職場を腐らせる人」は変わらないかのかを分析し、そこには、たいてい自己保身や喪失不安が絡んでおり、合理的思考ではなく感情に突き動かされていて、けっして自分が悪いとは思わないとしています。そして、彼らは「ゲミュートローゼ」である可能性が高いとしています。「ゲミュート」とは、思いやり、同情、良心などを意味するドイツ語で、このような高等感情を持たない人を、ドイツの精神科医クルト・シュナイダーは「ゲミュートローゼ」と名づけ、日本では「情性欠如者」と訳されるそうです(実は政治家などにも多いとのこと)。

 第3章では、職場を腐らせる人を変えるのは難しいということを踏まえた上で、どう対処すべきかを説いています。ここでは、まず、その人物が「職場を腐らせる人」であることに気づき、どのタイプか見極めることが大事だとしています。さらに、そうした人のターゲットにされやすい人の特徴を8つ挙げ、ターゲットにされないためにはどうすればよいかを説いています。

 全体の3分の2を占める第1章の「職場を腐らせる人たち」の(「職場を腐らせる人」というネーミングはいい)具体例は、読んでいて、職場にそうした人がいることに思い当たる人も多いかと思います。終盤の対処法の方は、一般のビジネスパーソン目線ではまずまずですが、人事パーソン目線でみると、組織がそうした人を抱えている場合どうすればよいかという視点も必要になってきます。「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」というのは正しいと思いますが、その見解レベルで終わっている点ではやや物足りないように思いました(一般のビジネスパーソン向けに書かれているので仕方がないが)。

 個人的には、イジメ上司、卑劣な同僚、ムカつく部下......これらをどうするか? を説いた、ロバート・I・サットン著『あなたの職場のイヤな奴』('08年/講談社)という本をお薦めしたいです。この本では、そうした人物は職場からできるだけ早く追放するべきだと明確に提言しており、一方で、自分自身がそうした「イヤな奴」になってしまう危険性も説かれていて、経営組織論としても啓発書としても優れていたように思います。

 そうした本と比べると本書はどうしても、「心理屋さん」が書いた本という印象を拭えなかったです。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●組織論」 【741】 ローレンス・J・ピーターほか 『ピーターの法則
「●新潮新書」の インデックッスへ

「上司ガチャ」でなく「上司学」の本だが、話があちこちに飛び、体系が見えない。

なぜこんな人が上司なのか2.jpgなぜこんな人が上司なのか.jpg
なぜこんな人が上司なのか (新潮新書 1035) 』['24年]

 責任は取らず、手柄は自分のものに。失敗の本質を見抜けず、数字も時代の変化も読めず、無駄な努力を続ける。見当違いの対策を無理強いする―そうした無能な上司、経営者らの抱える問題と、そうならないためにどうすればよいうかを説いた本であるとのことです。

 第1章「人望を失うリーダーがやっていること」では、「私がいたからこそ成功した」と言う上司の問題を指摘する一方、「負けない組織」を作った栗林中将のリーダーシップや、ロシアが伝統的に弱い理由について述べています。

 第2章「組織を壊しているのはリーダーである」では、最凶のパワハラは「無駄な仕事」であるとし、また、AIの時代でも問われるのは経営者の資質であるとしています。さらに、ビッグモーター事件から何が部下を壊すのかを探り、80代現役ホステスが教えてくれる経営の真髄についても述べています。

 第3章「成功したリーダーの共通点」では、「部下が言うことを聞かない」と嘆く前にすべきことを説き、「好きを仕事にする」のは失敗するとも言っています。さらに、新聞社が衰退した理由はスマホのせいではないとし、自衛隊の「任務分析」というものを紹介、器の小ささが混乱を招くとしています。

 タイトルから「上司ガチャ」系の本かと思いましたが、むしろ「上司学」的な本でした。ダメな上司の話と同じくらい、立派な上司の話も出てきます。それらの中には、著者と親交がある陸海空自衛隊の将官や元最高幹部など、著者に近い人も出てきます(著者は国防ライターでもあるらしい)。

 ただし、書かれていること1つ1つは尤もかもしれませんが、上述のように話があちこちに飛んで、読んでいて体系というのが見えてこないのが難点でしょうか。「体験談的」リーダーシップ論であり、「昭和型」のリーダーシップ論のように感じました。こういうのって合う人には合うけれど、自分はイマイチでした。

 Amazonのレビューの評価は「素晴らしい」「読む価値あり」など総じて高いようですが、個々にレビューを見ていくと「読みずらいし、言いたいことが浅い」或いは「読みやすい本だけど主観」というのもあって、「飲み会で聞く話としてはライトだし、楽しく盛り上がれそうな内容だなと思った」と。個人的にもこれらに近い印象でしょうか。ぎりぎり×にはしないけれど△です。

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●人事・賃金制度」 【021】 宮本 眞成 『年俸制の実際
「●労働経済・労働問題」の インデックッスへ 「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ

「1on1」と「今どきの職場の若者像」。リジッドだが、読み易い。

静かに退職する若者たち2.jpg静かに退職する若者たち.jpg
静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』['24年]

 本書によれば、1on1ミーティングを実施する企業が増えている一方で、笑顔で1on1ミーティングをしたばかりの若者が、何の前触れもなくその翌週に会社を辞め、しかもそれが上司を通さず人事部経由であったり、退職代行サービスを使った退職であったりするということが、最近少なからずあるとのことです。

 本書は、そうした状況を踏まえ、「若者との1on1の前に読む本」とのコンセプトのもと、1on1を核とした世代間コミュニケーションの問題を切り口に、職場の若者を多面的に分析し、今どきの「職場の若者像」に迫ったものです。

 第1部「1on1の前に知っておきたいこと」では、日本企業の現場で1on1が求められている理由を探り(第1章)、1on1の基本原則とそのパターンや、見落とされがちな課題を整理した上で(第2章)、1on1に求められるスキルやコーチングとの違いを解説し(第3章)、さらに、1on1を若者たちはどう捉えているのか、その受けめ方を6つのタイプに分類しています。

そして、その中でも特徴的な3つのタイプ――活用を望む〈積極志向〉、やらされている感がある〈表面志向〉、やりたがらない〈回避志向〉――について、その対応方法を解説しています。〈積極志向〉だからといって良いことづくめではなく、それに応えるべく「上司としてできる限りの行動」をとらないと、逆に部下から見透かされてしまうというのは、鋭い指摘だと思いました。

 第2部「なぜ、若者は突然会社を辞めるのか?」では、退職代行サービスを使って辞める若者たちの考え方や(第5章)、「別の会社で通用しなくなる」と考えて辞める若者(いわゆる「ゆるブラック」を理由とする退職)の心理を探り(第6章)、アメリカで見られる「静かな退職」と言われる現象との比較で、日本の今の若者が会社を辞める理由を4つ挙げています(第7章)。

また、その背後にある今どきの「職場の若者像」に迫り、とにかく早く正解を教えてもらおうとする姿勢が特徴であることを指摘するとともに(第8章)、今の若者にとっての「理想の上司・先輩像」を、調査データから探っています(第9章)。また、社内新人研修がテンプレート化しているという問題も指摘しています(第10章)。

 第3部「提案:これからも若者たちと共に前に進むために」では、上司や先輩が何よりも優先して鍛えるべきスキルは「フィードバック」スキルであるとし、その理論と、効果的なフィードバックを行うための5つの原則を示しています。そして終章では、「上司・先輩世代に向けた5個の提案」をしています。

 構成はしっかりしていて、データの裏付けもあります。一方で、非常に分かりやすく書かれていて、時に砕けた表現などもあり、肩が凝らずに読めます。帯に「職場のわかり合えないを乗り越える処方箋」とあるように、実践に供することを狙いとして書かれていることが窺えました。

 そちらかと言うと、第1部の「1on1」についての方がテキスト的で、第2部の「今どきの職場の若者像」の方が興味深く読めたでしょうか。ただし、1on1を上司・部下の「双方の学びの場」としているのには共感されられ、コーチングとの違いなどもわかりやすかったです。

 絶対解は存在しないとの前提の下、お互いが理解を深め、楽しみながら寄り添える現場をどう作るか、読者と共に考えていきたいという姿勢が謙虚であると思いました。


「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3410】 ノール・M・ティシー/他 『リーダーシップ・エンジン
「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●トム・ハンクス 出演作品」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

成功事例だけではなく、失敗したリーダーの事例もあるのがいい。

九つの決断1.jpg九つの決断.jpg
九つの決断: いま求められているリーダーシップとは』['99年]

 本書は、それぞれのおかれた危機的局面で、重要な決断をし9人のリーダーをドキュメント風に紹介したものです。成功事例だけではなく、失敗したリーダーの事例も含まれているのが特徴的で、さまざまな立場でのリーダーたちの判断や行動を通して、企業リーダーなどに求められるリーダーシップについての示唆が得られるものとなっています。

 第1章で取り上げているのは、アフリカの風土病オンコセルカ症の撲滅に貢献した製薬会社メルク社のCEOロイ・ヴァジェロスの話です。彼は、開発中の難病特効薬が、研究費がかさむ一方で、それを必要とする人々には購買力がなく、会社に損失をもたらすかもしれないという状況下で、「健康を利益より優先させる」というメルク社の伝統的原則に沿って薬を開発して多くの人命を救い、最終的には社業の発展にも貢献しました。リーダーは「己(の役割)を知る」ことが、とるべき道を確信できるということです。

大村智 2.png 因みに、本書に特効薬の研究開発者としてその名が出てくるウィリアム・キャンベルとともに、共同開発者として'15年にノーベル生理学・医学賞が授与されたのが(残念ながら本書にその名前が出てこないが)大村智・北里大特別栄誉教授です。本書では、4万種のバクテリアの抗寄生虫性を確かめたところ、効果があったものは1種類だったとありますが、それが、大村博士が伊東市の川奈ホテルゴルフ場近隣の土から採取した新種の放線菌でした。
 
マクリーンの渓谷.jpg 第2章では、1949年にモンタナ州マン渓谷で起きたで起きた大規模な森林火災に立ち向かった森林消防隊長ワグナー・ドッジの話です。彼は、15人の部下とともに火の海に取り囲まれますが、"向かい火"というあえて足元に火を放つ手法で2人の部下と窮地を脱します。ただし、無口な性格から部下に自分の考えを説明しておらず、離反した残り13人の部下が焼死しました。リーダーには「己(の考え)を語る」ことが求められるということです。

 因みに、この話は、ノーマン・マクリーン著『マクリーンの渓谷 若きスモークジャンパー(森林降下消防士)たちの悲劇』という本になっていて、原著(原題:YOUNG MEN AND FIRE)は全米批評家協会賞を受賞しています。

マクリーンの渓谷 若きスモークジャンパー(森林降下消防士)たちの悲劇』('97年/集英社)

アポロ13 n.jpg 第3章では、1970年のアポロ13号の宇宙飛行で、故障した宇宙船を無事地球に帰還させるために全権を与えられた管制官ユージン・クランツの話です。ここでは、困難だが失敗が許されない状況で、解決策が見つかるという揺るぎない信念で危機を耐え抜いた例を引いて、あらゆる状況で最善をつくすことがリーダーの要件であることを伝えています。

アポロ13 .jpgアポロ13 2.jpg この話はアポロ13号の船長だったジム・ラヴェルらが『失われた月』(未訳)という本に著しており、ロン・ハワード監督により「アポロ13」('95年)というタイトルで映画化され、ラヴェル船長はトム・ハンクス、飛行主任ユージン・クランツはエド・ハリスが演じています。

 第4章では、1978年に女性の遠征隊を率いてアンナプルナの登頂を目指したアーリン・ブルームの話であり、最終的に頂上に挑むメンバーを誰にするかという彼女の決断を通して、メンバーの同意を得ることがリーダーの務めであることを伝えています。「大切なのは、私たちの誰かが頂上に登って、全員が無事下山すること、それだけだ」「普通の人びとが集まったグループでも、ビジョンを共有すれば、信じられないような挑戦ができ、実力をはるかに超えたことができる」という彼女の言葉が印象に残ります。

 第5章では、南北戦争のゲティスバーグの戦いの北軍指揮官ジョシュア・ローレンス・チェンバレンの話で、部下が全員札付きの上官反抗者であった状況において、彼が何から着手し、どのように部下の信頼を得たかが紹介されています。

クリフトン・ウォートン.jpg 第6章では、危機に瀕した米国最大の年金基金(教職員退職年金)を再建したクリフトン・ウォートンが、旧態依然とした巨大組織でのリストラをどのように進めたのか、第7章では、ソロモン社(ソロモン・ブラザーズ)のトップ(会長兼CE0)として部下の不正の報告を受けたジョン・グッドフレンドが、迅速な行動を怠ったためにその経営権を失い、ウォーレン・バフェットCEOに経営再建をゆだねることになった経緯が、第8章では、第三世界の女性のための銀行を設立したナンシー・バリーが、いかにして「自分の人生はこの仕事をするためにあった」との己れの天分を知るに至ったか、第9章では、エルサルバドルの大統領に選ばれたアルフレッド・クリスティアニが、内戦続きで荒廃した国を、交渉による同意を得ることで内戦を終結させた経緯が描かれています。

Privilege and Prejudice: The Life of a Black Pioneer』['15年]

 最後の結びで著者は、これらの事例から得られる最も重要な教訓は、ビジョンと行動がもつ圧倒的な意義であるとしています。また、「何人の部下をもっているかというだけの問題ではなく、部下のなかから何人のリーダーをつくれるかということも重要なのだ」とも述べています。

 先にも述べたように、成功事例だけではなく、失敗したリーダーの事例もあるのがいいです。〈凖古典〉となりつつある本で、もしかしたら入手が難しいかもしれませんが、小説を読むように読める本でもあり、リーダーシップの本質とは何かを探る上で一読をお薦めします。


アポロ13 う.jpg 映画「アポロ13」は、アポロ13号の打ち上げシーンがとにかく凄い迫力だった印象があります(レンタルビデオ全盛期で、映画館ではなくビデオで観たのだが)。熱風による遠景の揺らぎや船体から剥がれ落ちる無数の氷片など、当時の先端のCGテクニックがふんだんに使われていました(燃料の液体酸素と液体水素が冷たいため、燃料注入後の機体は冷たくなり、発射までの間にまわりに氷がつく。それが発射の時に船体から剥がれ落ちるのを、一つ一つをCGを使って表現したそうだ)。ドラマ部分では、NASA指令センターのエド・ハリスが良かったです。

アポロ13 (4K ULTRA HD + Blu-rayセット) [4K ULTRA HD + Blu-ray]
アポロ13 d4k.jpgアポロ13 4.jpg「アポロ13」●原題:APOLLO 13●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:ブライアン・グレイザー●脚本:ウィリアム・ブロイルス・Jr./アル・レイナート●撮影: ディーン・カンディ●音楽:ジェームズ・ホーナー●原作:ジム・ラヴェル/ジェフリー・クルーガー●時間:140分●出演:トム・ハンクス/ケヴィン・ベーコン/ビアポロ13 3.jpgル・パクストン/ビル・パクストン/ゲイリー・シニーズ/エド・ハリス/キャスリーン・クインラン/ローレン・ディーン/ミコ・ヒューズ/ジーン・スピーグル・ハワード/トレイシー・ライナー/メアリー・ケイト・シェルハート/クリス・エリス/ザンダー・バークレー/クリント・ハワード/ベン・マーリー●日本公開:1995/07●配給:ユニヴァーサル映画=UIP(評価:★★★★)

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

「●ビジネス一般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3484】 針貝 有佳 『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか
「●マネジメント」の インデックッスへ 「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ 

人間の行動を支配する基本的な心理学の原理(新版で6つ→7つへ)を解説。

影響力の武器[新版].jpg影響力の武器[1-3.jpg影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか』['91年]『影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか』['07年]『影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか』['14年]
影響力の武器[新版]:人を動かす七つの原理』['23年]

 本書は、人間関係において、相手にイエスと言わせるために使う戦術は7つのカテゴリーに分類でき、そのカテゴリーをそれぞれ支配するのは、人間の行動を支配する基本的な心理学の原理であるとして、この7つの原理及び戦術を解説したものです。

 第1章で、世の中に情報が溢れるなか、深く考えず手っ取り早い意思決定が増えているが、このような「手っ取り早い」反応の利点は、その効率性と経済性にあり、欠点は、間違いを犯す可能性が高くなることであるとしています。そして、一部の承認誘導の専門家は、自分の要求を通す〈影響力の〉武器として、こうした信号刺激的な反応を利用しているとして、以下、第2章から第8章の各章で、説得のための〈強力な〉7つの道具について解説しています。

 第2章は「返報性」です。つまりはギブアンドテイクのことであり、人間文化のなかに最も基本的なものとして昔からあるもので、他者から与えられたら、自分も相手に返すように努めようとする心理です。注意点として、返報性のルールのために余計な恩義を感じてしまうことがあることを挙げ、不公平な交換を引き起こす危険があるとする一方、承認を引き出す方法として、最初に譲歩して、そのお返しとして相手の譲歩を引き出すやり方があるとしています。

 第3章は「好意」です。人は好意を寄せてくれている人に対してイエスと言いやすい傾向があるとしています。承認誘導の専門家はこのルールを知っているので、自らの影響力を強めるために、自身の外見の魅力、相手との類似性、相手への称賛、繰り返しの接触、相手との連合(結びつき)といった、相手が好意を寄せる要因を強調するとしています。

 第4章は「社会的証明」です。人は他の人たちが何を正しいと考えているかを基準に物事を判断するというものです。社会的証明は一定の条件下で強い影響力を持ち、それは不確かさ(自分に確信が持てない)、人の多さ(多くの人がそうだ)、類似性(自分と似た人がそうだ)の3つであるとしています。

 第5章は「権威」です。権威からの要求には、服従を促す強い圧力があるとしています。権威者に対して自動的に反応する場合、その実体ではなく、権威の単なるシンボル(肩書き、服装、そして自動車などの装飾品)に反応してしまう傾向があり、権威の影響力の源は、権威ある地位(肩書きなど)、もしくは何らかの意味で権威とみなされること(専門性など)にあるとしています。また、前者はしばしば反発や恨みを買う難しさがあり、後者はこの問題を避けられ、確かな権威であると判断されれば説得効果は大きくなるとしています。
 
 第6章は「希少性」です。人は機会を失いかけると、その機会をより価値のあるものとみなすとしています。希少性の原理が効果を上げるのは、手に入れにくいものは貴重だという思い込みと、入手機会が減ると自由を失い、そのことを嫌う心理的リアクタンスが働くためであるとしています。

 第7章は「コミットメントと一貫性」です。承諾を引き出す上で鍵となるのは、最初にコミットメントを確保することであり、コミットメントしてしまうと、人はそのコミットメントに合致した要求を受け入れやすくなるので、承認誘導のプロは、後でやらせようとしている行動と一貫するような、最初の立場をとらせようとするとしています。

 第8章は「一体性」です。人は自分の身内だと思う相手にイエスと言うとしています。他者との「私たち」性(一体性)に関係するのは、アイデンティティの共有であり、「私たち」集団の成員には、仲間の成員の幸福を非成員のものより重く見たり、仲間の好みや行動を手本に自分の行動を決め、それらが集団の結束を高めたりする傾向があるという結論が、研究の結果として導き出されているとしています。

 最終章である第9章では、情報過多の社会で、私たちは手っ取り早い意思決定を行う「思考の近道」を使わざるを得なくなってきており、そのため、相手への要請の中に影響力の梃子(テコ)を忍ばせる承認誘導の専門家は増えているとしています。その上で、この仕組みを悪用する者もいるため、私たちが思考の近道によって得られる利益を失わずにいるためには、あらゆる適切な手段を使って、そのようなインチキに対抗することが重要だとして、本書を締め括っています。

 人々がどのように相手から要求に意のままに従うのか、豊富な実例を交えて人の行動を司る心理学の原理を解説しています。初版から30年を経て改版を重ね(原著初版は1984年刊行)、評価は定着している本ですが、改版ごとに事例などは新しいものに更新されています。前回の第三版からの変更点は、6つだった影響力の原理に新に「一体性」が加わって7つとなり、また、その並び順も変わっています。旧版を読まれた方も、新版で再読してみるのもいいのではないかと思います。

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)
【2790】 ○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)
【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3493】 桃野 泰徳 『なぜこんな人が上司なのか

「両立思考」によるパラドックス・マネジメントを提唱。

両立思考1.jpgウェンディ・スミス.jpg両立思考.jpg
両立思考 「二者択一」の思考を手放し、多様な価値を実現するパラドキシカルリーダーシップ』['23年]

 仕事と家庭、利益とパーパス、個人と組織、男性と女性...。相反する考えで溢れる現代において、われわれが常に陥りがちな「択一思考」の罠から逃れ、創造力に富み、持続可能で包括的な解決策の糸口を見つけるにはどうすればよいか。本書は、それを可能にする「両立思考」へのアプローチを、二人の経営学者が解説したものです。

 全3部構成の第1部では、われわれを取り巻く二者択一的な対立(ジレンマ)の中にはパラドックスが隠れており、矛盾しながらも相互に依存する緊張関係(テンション)があるとして、それに効果的に対応するにはまず、このパラドックスを理解しなければならないとしています。第1章で、パラドックスは、パフォーマンス・パラッドクス、学習パラドックス、所属パラドックス、組織化パラドックスの4種類に区別できるとしています。

 第2章では、こうしたパラドックスを乗りこなす際に悪循環につながるパターンとして、行き過ぎた強化をする「ウサギの穴」、過剰修正する「解体用剛球」、二極化する「塹壕戦」の3つを挙げています。

 第2部では、パラドックスをマネジメントするツールを紹介しています。まず第3章で、パラドックスが好循環を引き起こす方法として、ラバ型(クリエイティブな統合)と綱渡り型(一貫した非一貫性―状況に応じて頻繁に方針を変える)を紹介しています。それから、統合システムとしての「パラドックス・マネジメントのABCDシステム」を紹介し、続く第4章から第7章で、各ツールを説明しています。

 第4章では、択一から両立に「前提(アサンプション(A))」をシフトするパラドックス・マインドセットについて述べ、第5章では、「境界(バウンダリー(B))」構造を作って緊張関係を包み込むことで、不確かさを乗りこなす術について解説しています。第6章では、不快のなかに「心地よさを(コンフォート(C))」を見つけることで、緊張関係を受け入れる感情に至る方法ついて述べ、第7章では、「動態性(ダイナミクス(D))」を備え緊張関係を解き放つことで、危機を回避する方法を解説しています。

 第3部では、両立思考を採用するプロセスを、個人、対人、組織という異なるレベルで探求しています。第8章では、個人の意思決定においてジレンマにどう取り組むか、第9章では、対人関係において、拡大する分断をどう縮小するか、第10章では、組織のリーダーとして、持続可能なインパクトを与え続けるにはどうするかを、具体例を挙げて説明しています。

 著者らは最後に、「パラドックスとは、対立項が互いに打ち消し合うのではなく、両極にわたってひらめきの火花を起こすように、バランスを取る技術である。(中略)思いさえあれば矛盾を受け入れることができるのだ」として、本書を締めくくっています。

 パラドックス・マネジメント、パラドキシカルリーダシップといった、日本ではまだ目新しい概念を扱った本ですが、読んでみると、陰陽思想をはじめとする古今東西の思想・哲学から、最近の話題となった経営書まで多く引用がなされており、これまでの人間の思考の歩みを辿りつつ、多様な視点が重要となる不確かな今日世界を背景に生まれた概念やアプローチであることがわかります。

 コンセプチュアルで堅めな本ですが、著者ら自身の体験談なども多く織り込まれていて、物語を読むように読める箇所も少なからずある本です。敬遠せずトライしてみるのもいいかと思います。

「●ビジネス一般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3481】 ロバート・B・チャルディーニ 『影響力の武器
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ 「●新潮新書」の インデックッスへ

特に、上司やリーダーが使いがちな言葉が、身近な気づきを与えてくれる。

『聞いてはいけない』.jpg山本 直人.jpg 山本 直人 氏(写真:ノマドジャーナル)
聞いてはいけない:スルーしていい職場言葉 (新潮新書) 』['23年]

 かつて大手広告代店・博報堂でコピーライターと人事部門での仕事をし、現在は人材開発コンサルタントをしている著者(この著者の本は以前に『ネコ型社員の時代』('09年/新潮新書)を読んだが、あの頃にはもう博報堂を辞めていた)による本書は、日々の仕事や職場において、本当はスルーしてもいいような言葉に影響されたり、流行り言葉に振り回されたりしないためにはどうすればいいのかを説いています。

 第1章では、聞いてはいけない説教言葉として、「評判悪いよ」「絶対大丈夫か」などを挙げて、その根底にある悪意や問題点を探っています。「寄りそう」なども実は、その先どうするのかが曖昧な"危うい言葉"であり、「何とかしろ」は"怒るだけのリーダー"がよく使う言葉であると。「机上の空論」という言葉は、今までの延長線上でしかものを考えられない人がよく発するもので、新しいアイデアをつぶす"名ばかりのスペシャリスト"が使いがちだとしています。また、「夢を持て」という言葉が胡散臭さを感じさせる理由についても考察しています。

 第2章では、目新しい言葉ではあるが、本当に言葉の使い方として正しいのかどうか疑問であるとして、「老害」「劣化」といった言葉を取り上げ、検証しています。「配属ガチャ」「親ガチャ」といった使われ方をしている「ガチャ」は、いわば"不幸を呼ぶ言葉"であり、「失われた世代」という言葉も"自分事"を"他人事"にしてしまう安易な使われ方をしていると。「さん付け」で果たして社内の風通しが良くなるのか、新しい強制力が生まれるのではないかと疑念を呈しています。

 第3章では、「迷惑をかけるな」「許せない」といった言葉の呪縛から解放されることを説いています。「やればできる」というのは、いわゆる"昭和の職場"であれば通用していたが、今の職場では通用せず、これからは「できることをやる」職場になっていくだろうしています。「あれが好きな人はダメ」という人こそダメであり、「誰だってできるようなことしかやらせてもらえなう」とよく言うけれども、「誰にでもできる仕事」と思ったら、そこで負けなのだとしています。

 仕事を進めていく上で、誰かの発する「困った言葉」が組織全体を停滞させてしまったり、メンバーの士気を低下させてしまったりすることもあり、なんとなくモヤモヤしている時は、そうした言葉にどこか引っ掛かっている場合があって、その引っ掛かりの理由を明らかにし、言葉を変えていくだけで職場の空気も変わるはずだとしています。

 仕事をしていく中で接する、身近な人々が発する言葉や、組織のリーダーが使う言葉だけでなく、メディアを通じて広まる言葉なども取り上げていますが、特に、上司やリーダーが使いがちと思われる言葉が、身近な気づきを与えてくれるように思いました。

 タイトル的には"部下としての防衛策"的なタイトルですが、"上司・リーダーのためのセルチェック"本としても読めます。さらっと読める一般ビジネス書ですが、"自分事"として読むことで、"上司学"の本としても読めるのではないでしょうか。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3480】 ウェンディ・スミス/他 『両立思考

「上司を辞めることから、はじめよう」と。やや総花的だが、様々な気づきがあった。

フラット・マネジメント.jpgフラット・マネジメント2023.jpg
フラット・マネジメント 「心地いいチーム」をつくるリーダーの7つの思考』['23年]

 本書の著者である電通のワカモン(若者研究部)は、「若者から未来をデザインする」というビジョンを掲げ、高校生・大学生を中心に10~20代の若者の実態に迫り、新しい価値観の兆しを捉えることを目指すユニットだそうで、本書は、若者にとって働き易い職場・チームを考えたという一冊とのことです。

 本書では、チームメンバーの一人一人と向き合いながら、その多様性を生かしてチームをより良い形に整えていく「フラット・マネジメント」というものを提唱し、その実践のためにこれからのリーダーに求められる「7つの思考」「16のスタンス(以下、S)」「35のアクション(以下、A)」を示しています。

 まず「思考1:固定観念より新しい価値観」では、古い慣習やステレオタイプを押しつけず(S1)、自分にとっての常識は部下にとっての非常識であることを自覚し(A1)、偏見や先入観(バイアス)を取り除き(A2)、「押しつける」のではなく「すり合わせる」という意識で部下と向き合い(A3)、部下へのリスペクトも忘れないこと(A4)、さらに、いつまでも過去の成功体験にすがらず(S2)、「いま」と「未来」の話をし(A5)、成功ではなく失敗に目を向けよ(A6)としています。

 「思考2:会社の都合より部下自身の「納得解」」では、会社の都合だけで人を動かそうとせず(S3)、「会社のため」よりも「部下自身のため」を考え(A7)、他社でも使えるポータブルスキルを伸ばしてあげること(A8)、部下にとっての「納得解」を見つけ出すために(S4)、「やらされ仕事」をゼロにすること(A9)、「チームの納得解」を整理すること(A10)を説いています。

 「思考3:費用対効果より時間対効果」では、若者のタイムパフォーマンス(タイパ)志向を理解すること(S5)、コスパよりタイパを意識して(A11)、「効率的な作業」を重視し(A12)、アジェンダのない会議などはしないこと(A13)、「習うより慣れろ」ではなく「慣れろより教えろ」であって(S6)、慣れるためにはやはり教えることが大事であり(A14)、教える=やり方を丁寧に共有すべき(A15)としています。

 「思考4:大きなビジョンより小さなアクション」では、「伝える」だけでは伝わらないと認識し(S7)、相手とキャッチボールすることが必要で(A16)、言葉とタイミングを意識すること(A17)、チームの信頼は行動で得られるため(S8)、言行不一致はNGで(A18)、What to say(何を言うか)」より「What to do(何をするか)」を大事にせよ(A19)としています。

 「思考5:上から目線より横から目線」では、「上司だから偉い」と勘違いしないこと(S9)、上下関係の呪縛を断ち切り(A20)、「感情的知性」を高めよと(A21)。さらに、伴走者としてのスタンスで(S10)、目線を合わせた指導をし(A22)、「聞き出す」ではなく、相手が自然に話すことを「聞く」こと(A23)、部下からも学ぼうとする姿勢で(S11)、恥をかくことを恐れず(A24)、プライドを捨てて素直に向き合うことで、得られるものは多い(A25)としています。

 「思考6:嫌われない建前より丁寧な本音」では、「心理的安全性」が高い職場を目指すべきで(S12)、チームの居心地の良さはリーダーの言動次第であり(A26)、「配慮」は必要だが「遠慮」は不要であり(A27)、等身大で対話するスタンスが大事で(S13)、自他尊重のコミュニケーションで(A28)、「素の自分」を見せるべきであると(A29)。怒らず丁寧に叱り(S14)、あくまでも「怒る」より「叱る」ことが肝要で(A30)、メンバーの良い部分を引き出すこと(A31)を説いています。

 「思考7:リッチキャリアよりサステナブルライフ」では、「人生100年時代」の視点を持ち(S15)、ワークをライフの一部とする「ワークライフ」思考で(A32)、持続可能な人生という目線で生き方を考えよ(A33)と。また、「違い」を認め、「互いの成功」を思案するスタンスで接することが必要で(S16)、変化を恐れず(A34)、Win-Winになるバランスを取り続ける(A35)ことで、チームとして成長できるとしています、

 本書の主題であるフラット・マネジメントは、「杓子(しゃくし)定規な考え方にとらわれず、チームメンバーの一人一人と向き合いながら、その多様性を生かしてチームをより良い形に整えていく」というマネジメントの在り方を意味します。そのためには、「立場の上下」にこだわる従来のリーダー像は成り立ちません。その意味で、本書の帯にある「上司を辞めることから、はじめよう」というキャッチが印象的です。書かれていることの一つ一つはそれほど目新しいわけではないですが、そうした視点からまとめられていることで、気づきを与えてくれる本になっています。

《読書MEMO》
●まとめ(若者の仕事観を知ることが大切! 「これからのリーダーに求められる7つの思考」とは(マイナビニュース2023/07/25 by春奈))
【1】固定観念より新しい価値観
時代とともに価値観が変化していく中、自分にとっての「常識」は部下にとっての「非常識」であることを自覚し、時代に適応していく意識をもつことが重要。そのために、古い慣習やステレオタイプを押しつけるのではなく、「すり合わせる」という意識で部下と向き合う。
【2】会社の都合より部下自身の「納得解」
今は個人が望む自分のあり方を実現できる時代。部下のモチベーションや動かし方においても、部下が思う"納得できるやる意味"=「納得解」を一緒に考えることで、「やらされ仕事」をゼロにすることが大事になる。
【3】費用対効果より時間対効果
「タイパ」が流行語となったように、時間対効果が重視されるようになっている。上司は「自分の時間は有限である」という今の時代の思考を理解した上で、部下と向き合う必要がある。具体的なアクションとして、労働時間の長さよりも生産性で評価する、明確な議題や目的のない会議はやめるなどがある。
【4】大きなビジョンより小さなアクション
今の時代において、具体的なアクションがない口だけの上司は部下の信頼を得られない。良いチームを構築するためには、言行不一致はNGだと心得て、「What to say(何を言うか)」より「What to do(何をするか)」を大事にする必要がある。
【5】上から目線より横から目線
今の若者は、上から目線での指導や強制的な物言いに抵抗を感じやすいため、リーダーのあり方を根底から考え直す必要がある。「上司だから偉い」と勘違いせず、部下からも学ぼうとする姿勢を持つことが大切。
【6】嫌われない建前より丁寧な本音
「部下を怒ってはいけない」という風潮が高まっており、若い部下を腫れ物に接するように扱う上司もいるが、部下を指導する上で「注意する」ことは避けられない。「配慮」は必要だが「遠慮」は不要。"怒る"と"叱る"の違いを理解し、本音で部下と向き合うことが重要。
【7】リッチキャリアよりサステナブルライフ
価値観が変化し続ける時代、リーダーに求められているのは、自分と相手の気持ちを尊重する姿勢で未来を見つめること。「違い」を認め、「互いの成功」を思案するスタンスで接することが必要で、お互いがWin-Winになるバランスを取り続けることで、チームとして成長できる。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2651】 スチュアート・クレイナー/デス・ディアラブ 『Thinkers50 リーダーシップ
「●組織論」の インデックッスへ

「命じるリーダーシップ」から「委ねるリーダーシップ」ヘ(実話本!)。

「最強組織」の作り方2.jpg デビッド・マルケ.jpg L. David Marquet(元アメリカ海軍大佐、リーダーシップコンサルタント)
米海軍で屈指の潜水艦艦長による「最強組織」の作り方』['14年]

 本書は、1999年に米海軍で潜水艦艦長になった著者が、当時最低ランクの艦だったサンタフェを「命じるリーダーシップ」から「委ねるリーダーシップ」に試行錯誤しながら変えていったことで、たった1年で平均以上の優秀艦に変貌させ、その後は次々と優秀なリーダーを輩出するトップクラスの潜水艦になり、著者が退任した後も優秀艦であり続け、10年経過した後でも軍の平均よりもはるかに高い確率で乗員が昇進を遂げ続けているという、そうした艦長個人の技ではない改革を成し遂げた過程を紹介した本です(実話本とも言える)。

 Part1(第1章~第6章)では、著者がいかにして従来型のリーダーシップに対して葛藤や疑問を抱き、最終的には自分の固定概念となっていた「命じるリーダーシップ」と決別することになったかが書かれています。前に機関科長として乗り込んだ原子力潜水艦で、部下に権限を与える試みがうまくいかなかった著者(第1章)は、新たにサンタフェの指揮を執ることを命じられ、上っ面の権限移譲ではだめで、何かを改善するときに何よりも大事なのは、それをやり続ける不屈の精神を持ち続けることだと考えます(第2章)。そこでまず艦内を歩き回り(第3章)、乗員の話に耳を傾けることから始め(第4章)、職場の中で、立場が上の人々がリーダーでその他の人材は単なるフォロワーにすぎないという考え方が日常的に促進されているのに気づき(第5章)、新しいリーダーシップを導入する必要を感じます(第6章)。

 Part2(第7章~第13章)では、「委ねるリーダーシップ」を実践するために導入した仕組みを紹介しています。まず、名ばかりの委譲を止め、班長が班員をすべて管理できる「責任班長」という仕組みを作り(第7章)、挨拶のルールを変えるなど、意識よりまず行動を変えることから組織文化を変えていきます(第8章)。また、部下に仕事の目的を理解させ(第9章)、許可を求めるような言葉を使うのではなく、「これから~をしようと思います」という報告ベースの言葉に変えさせます(第10章)。さらに、問題の解決策を叫びたい欲求を抑えて、メンバーに決断のチャンスを与え(第11章)、常に部下を監視することを止め(第12章)、同僚や部下に率直な気持ちを話せるようにしました(第13章)。

 Part3(第14章~第18章)では、職務を果たす技能を高める仕組みに焦点を当てています。まず、ミスを減らす方法を考案し(第14章)、常に学ぶ者でありことを心掛けます(第15章)。部下の説明よりも上長自身の確認を重視し(第16章)、大事なメッセージは繰り返し(第17章)、非常事態時でも、部下に主導権を与えた方がよいとしています(第18章)。

 Part4(第19章~第25章)では、正しい理解を促す仕組みを紹介し、それを促すことで、誰もがリーダーとして振る舞うようになるとしています。まず、部下との間に信頼を作る方法を説き(第19章)、お飾りでない行動指針を作ること(第20章)、目標を持って始めさせること(第21章)、命令に盲目的に従わせないこと(第22章)を推奨しています。さらに、委ねるリーダーシップの具体策を整理し(第23章).部下には権限とともに自由を与えることで(第24章)、自分がいなくなっても機能する組織ができるとしてしています(第25章)。最後に、委ねるリーダーシップを実践するための3つの理念として、支配からの解放と、それを支える優れた技能、正しい理解の二本柱を挙げていました(第24章)。

 実話であるため読みやすく、海軍の潜水艦という「上からの命令に絶対服従」的イメージのある職場での、こうした「委ねるリーダーシップ」の実践が、成功例として紹介されているのが興味深いです。次世代型リーダーシップあるいは組織のあるべき姿のひとつとして、示唆に富む内容の本です。

《読書MEMO》
「最強組織」の作り方 2014.jpg●委ねるリーダーシップを実践するための3つの理念
1. 支配からの解放
仕事を自分ごととして捉えて、指示待ちにならないようにするために、上司が指示を出すという雰囲気や慣習を変える必要がある。
A. 指示を出されていた側の行動を変える
許可を求めるような言葉を使うのではなく、「これから〜をしようと思います。」という報告ベースの言葉に変えてもらう。また、報告を受けた人が質問をしなくても済むように、背景や行動の理由も一緒に報告するようにする。この場合、効果的な報告をするには報告を受ける側が気にするであろうことを考える必要がある。その結果、報告する側の視座が上がる。
B. 指示を出していた側の行動を変える
指示したくなってしまう衝動を抑える必要がある。指示という形で答えを渡してしまうのではなく、アドバイスや視点を提供することができれば、仕事の主導権は相手に残したままより良い形で進行する補助をすることができる。そのため、メンバーが困っていること、考えていること、何かをやろうとした背景を率直に口に出してもらう環境を作ることが鍵になる。
2. 優れた技能
メンバーの権限を拡大する時、メンバーにそれを処理する能力があることを確認する必要がある。
もし能力を大幅に超えていると、メンバーが重圧に押し潰されてしまいます。
3. 正しい理解
メンバーが自主的に行動を決定して進めていくときに、チームの進むべき方向性に対して正しい理解がある必要がある。それがないと、メンバーが判断を始めた瞬間にバラバラの方向にチームが進んでしまうことになる。そのため、チームの方向に対して正しく理解するとともに、行動指針を作り判断基準とする。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1613】 杉本 良明 『リーダーなら知っておきたい部下の心をつかむたったひとつの大切なこと

問題解決能力より問題発見能力。リーダーがマスターすべき7つのスキルと能力。

なぜ危機に気づけなかったのか 2010.jpgなぜ危機に気づけなかったのか.gif マイケル・A・ロベルト.jpg Michael A. Roberto(現ブライアント大学教授)
なぜ危機に気づけなかったのか ― 組織を救うリーダーの問題発見力』['10年]

 優れたリーダーは、危機を未然に防ぐべく、問題を発見する能力を身につけている―。本書では、ハーバード・ビジネス・スクール教授などを歴任し、戦略的意思決定を専門とする著者が、多くの経営者へのインタビューと、ビジネス・政治・軍事・スポーツ・医療など数々のケーススタディを分析し、優れた問題発見者となるために、リーダーがマスターすべき7つのスキルと能力を示しています。

 第1章で、問題の解決よりもむしろ問題の発見の方が重要であるとし、それに続く7つの章で、その7つの問題発見のスキルと能力を一つずつ説明しています。

 第2章「フィルターを避ける」では、リーダーの周囲の部下たちは情報にフィルターをかけることがあるが、そうしたフィルタリングが起きる理由と、リーダーがそれを避けるための5つの手法を解説しています。

 第3章「人類学者になる」では、リーダーはあたかも人類学者のように、自然な環境の中で人々の集団を観察することを学ばなければならないとし、効果的な観察を行うためにすべきこと、してはならないことを説いています。

 第4章「パターンを探す」では、優れた問題の発見者は、問題のパターンを探し、見分けることができるとし、そうした直観を鍛え、強化し、パターンを認識する能力を高めるにはどうすればよいか解説しています。

 第5章「点を結びつける」では、一見バラバラな情報の断片の中から「点をつなぐ」能力を磨かなければならず、そのためには情報の共有が必要であり、情報の共有を阻む理由は何か、情報の共有を促進する方法を説いています。

 第6章「価値ある失敗を奨励する」では、優れた問題の発見者になるには、部下にリスクを取ることを促し、失敗から学ぶ方法を教えなければならないとし、また、失敗の中にも、学習と改善の機会となる「役に立つ、低コストの失敗」があるとしています。

 第7章「話し方と聴き方を教える」では、リーダーは自分自身のコミュニケーション能力だけでなく、組織全体のコミュニケーション能力も磨かなければならないとし、対人コミュニケーションの改善方法を説くとともに、それを個人だけではなくチームとして訓練することが重要だとしています。

 第8章「ゲームの録画を見る」では、スポーツチームの偉大なコーチや監督が、過去の試合や演技の録画を見てチームが抱える問題を把握するように、リーダーは、自らの行動を振り返り、反省のプロになることで、デリベレイト・プラクティス(計画的に熟慮された練習)を考えなければならないとしています。

 最後の第9章では、優れた問題発見者となるための心構えの要素として、「知的好奇心」「システム思考」「健全な偏執狂」の3つを挙げています。

 リーダーに求められるのは、問題解決能力より問題発見能力であるという趣旨の本です。各章で事例を挙げて解説していますが、ビジネスの場面だけでなく、9.11テロで情報統合に問題があったことや航空機事故なども事例に引いています。一方で、言説のエッセンスが個別の章立てして整理されているため、相互作用的に説得力を持たせているように思いました。

 指摘している7つのスキルと能力は、リーダー個人の姿勢の視点だけでなく、組織論的な視点もあり、自分自身と自分のいる組織や職場のことを省みながら読み進めるのもいいかと思います。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1672】 ウォレン・ベニス/他 『本物のリーダーとは何か
「●マネジメント」の インデックッスへ

経営者は不都合な事実を認めない傾向にあり、それは会社を破滅に導くとしている。

『なぜリーダーは「失敗」を認められないのか』2.jpg『なぜリーダーは「失敗」を認められないのか』2011.jpg『なぜリーダーは「失敗」を認められないのか』文庫.jpg
なぜリーダーは「失敗」を認められないのか: 現実に向き合うための8の教訓』['11年] 『なぜリーダーは「失敗」を認められないのか』['15年/日経ビジネス人文庫]
Tedlow, Richard S
Tedlow, Richard S .jpg 頭も良く、学歴も立派で、輝かしい経歴を持ち、切れ者の部下を抱える企業トップが、なぜ目の前の「現実」を認められないのか?――本書は、ハーバード・ビジネススクールの著名教授が、「否認」が原因で危機に陥った有名企業の事例を解き明かし、それを避けるためにリーダーが取るべき行動と「不都合な真実」を受け入れるための8つの教訓を説いたものです。

 第1部では、現実を直視せずに失敗した企業や経営者の事例が紹介されています。取り上げられているのは、"モデルT"の成功で自動車産業を興隆させたものの、自分にとって都合の悪い情報を遮断したために、会社を誤った方向に導いてしまったヘンリー・フォード(第1章)、ラジアルタイヤの出現で業界構造が一変したことを認めなかったために凋落したタイヤ業界の5大メーカー(第3章)(5社のうち生き残ったのはグッドイヤーのみ)、自分たちに都合のよい統計だけを信じ、不都合なものを無視した大手食品スーパーのA&P(第4章、その後、2015年に経営破綻)、シカゴに摩天楼を築いたのもつかの間、Kマートに買収された小売大手シアーズ(第5章、その後、2018年に経営破綻)などで、そのほかIBM(第6章)、コカ・コーラ(第7章)、さらにドットコムバブルとその崩壊(第8章)などの事例も紹介されています。IBMについては、コンサルタント出身のルイス・ガースナーによる経営の再建ストリー、コカ・コーラについては、ライバル会社ペプシコにおいてロジャー・エンリコがとった戦略などについても書かれています。

 フォード社の創業者ヘンリー・フォードは、革新的な生産技術によって、安価で庶民が買えるモデルTを生み出したことにより、米国に広く車社会を実現し、モデルTは、19年間という長きに渡り、ほぼ仕様の変更なく作り続けられ、その総販売台数は1500万台余におよぶ大ヒット作となったといいます(因みに、この台数は市場歴代第2位であり、第1位は日本のカローラだそうだ)。しかし、モーターリゼーションが進行するにつれ、人々の指向が多様性を帯び、その一つが、ボデーカラーでした。モデルTは、乾燥の早い塗色として黒しかなかったそうですが、人々は、他の色を求め始め、ボディスタイルや装備など、もっと優雅で豪華なものを嗜好し始めていたのでした。このユーザー指向の変化を捕まえたのがGMであり、モデルTより多少割高でも、その様な、好みの色やボディスタイル、装備などを求め、モデルTの売上は頭打ちになったのでした。このことは、ヘンリー・フォードが自らの社長室の窓から通りを走るクルマを見れば一目瞭然のことだったことです。その様な中、社の前途を憂いヘンリー・フォードに意見具申した幹部は、なんと彼に解雇されてしまったとのことです(第1章)。

 経営者やリーダーがどうして失敗を認められないのかについては、自我を脅かす外の現実に対する自己防御のメカニズムが無意識に働くためであり、これは個人的な場合もあるが、グループシンク(集団浅慮)と呼ばれる集団的行為であることも多いとしています。そして、否認は強力な本能だが、きちんとした自己認識、批判に対するオープンな姿勢、自らの認識とは矛盾する現実への寛容さなどを通じて、否認への防御を固めることできるとしています(第2章)。

 第2部では、事実の否認に陥りそうになりながらも、現実を見極め、それを克服した事例が紹介されています。取り上げられているのは、デュポン(第9章)、インテル(第10章)、ジョンソン&ジョンソン(第11章)などであり、彼らは、どうやって否認を回避することができたのかを、最終章(第12章)で次の8つの教訓としてまとめています。

  1.手遅れになるまで危機を待たない
  2.事実を曲解しても、待ち受ける現実は変わらない
  3.権力は人を狂わせる
  4.経営陣は、悪い知らせを聞く耳を持つ
  5.長期的な視野に立つ
  6.バカにしたり、歪曲した言葉遣いには要注意
  7.隠すことなく真実を語る
  8.失敗は、常識に囚われることから始まる

 紹介されている、事実の否認に起因する大企業の「凋落ストーリー」は、読む者を魅了します。優秀であるとみられている経営者さえも、不都合な事実を認めない傾向にあり、それは会社を破滅に導くことにもなるということでしょう。また、それは、CEOなどに限らず、リーダー全般に当てはまることであり、偉大なリーダーか否かは、厳しい現実に向き合えるかにかかっているということになるのでしょう。そのことを改めて強く思わされる本です。

 ビジネス書としては大変読みやすいし理解しやすく、また、デュポンの創業者の父親が、フランス革命の嵐の中、断頭台に上がる1日前にロベスピエールが処刑されて助かったとか、最近まで目にしていたコカ・コーラ・クラシックの「クラシック」の誕生の経緯とか色々あって、読み物としても飽きさせないものでした。

【2015年文庫化[日経ビジネス人文庫]】

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2722】 ロナルド・A・ハイフェッツ/他 『最難関のリーダーシップ

文庫化による再読だが、説得力ある。
リーダーを目指す人の心得文庫版.jpg
リーダーを目指す人の心得  文庫版.jpg リーダーを目指す人の心得 単行本.jpg リーダーを目指す人の心得 コリン・パウエル 英.jpg
リーダーを目指す人の心得 文庫版』['17年]  『リーダーを目指す人の心得』['12年]"It Worked for Me: In Life and Leadership"
PRESIDENT (プレジデント) 2019年 10/4号
「プレジデント」201910.jpg ジャマイカ移民の子で、子ども時代はニューヨークのサウス・ブロンクスのストリートキッドであり、若い頃にはぺプシ工場の清掃夫をしていたのが、陸軍入りして昇進に昇進を重ねて上りつめ、4つの政権でアメリカ軍制服組トップである統合参謀本部議長(1989-1993)などの要職を歴任、最後はジョージ・W・ブッシュ政権で国務長官(2001-2005)を務めたコリン・パウエル(Colin Luther Powell、1937-2021)が、多くの逸話や自らの体験をもとにリーダーシップについて語った本です。纏めたのは、専ら軍人の回顧録を書いているライターのトニー・コルツ、訳者は『スティーブ・ジョブズ―偶像復活』('05年/東洋経済新報社)、『スティーブ・ジョブズ(上・下)』('11年/講談社)等、ジョブズの伝記なども訳している井口耕二氏です。

リーダーを目指す人の心得 管.jpg 少し前になりますが、菅義偉(すが よしひで)氏が2020年9月に総理大臣に就任した際に、官房長官時代に読んで以来いかなる時も心の支えにしてきた愛読書であると表明したことで話題になりました。その翌年['21年]10月に著者コリン・パウエルが84歳で亡くなったのが惜しまれます。以前、単行本で読みましたが、今回は、文庫化されたものを再読し、復習的に内容を纏め直してみました。


 第1章「コリン・パウエルのルール」では、私の「13ヵ条ルール」というリーダーに求められる"自戒13カ条"が紹介されていて、事例に沿った分かりやすいリーダー訓にまず引き込まれます。その13カ条とは、以下の通りです。
 1.なにごとも思うほどに悪くない。翌朝には状況は改善しているはずだ。
 2.まず怒れ。そのうえで怒りを乗り越えろ。
 3.自分の人格と意見を混同してはならない。さもないと、意見が却下されたときに自分も地に落ちてしまう。
 4.やればできる。
 5.選択には細心の注意を払え。思わぬ結果になることもあるので注意すべし。
コリン パウエル.jpg 6.優れた決断を問題で曇らせてはならない。
 7.他人の道を選ぶことはできない。他人に自分の道を選ばせてもいけない。
 8.小さなことをチェックすべし。
 9.功績は分けあう。
 10.冷静であれ。親切であれ。
 11.ビジョンを持て。一歩先を要求しろ。
 12.恐怖にかられるな。悲観論に耳を傾けるな。
 13.楽観的であり続ければ力が倍増する。

 第2章「己を知り、自分らしく生きる」では、自分を本当に知ることの重要性と、いつも自分らしくある方法を、説いています。ここでは、仕事バカになるな、必要だと思う以上に人に親切にせよ、常に問題を探して歩けとも言っています。

 第3章「人を動かす」では、自分の部下を中心に、ほかの人を知ることに焦点を当てています。ここでは、部下を信じること、部下に尊敬されようとせず、まず部下を尊敬することなどを説いています。

 第4章「情報戦を制する」では、近年のデジタル世界における自らの経験を語り、情報戦を制するにはどうすればよいか、著者にとっての話をするときに意識すべき「5種類の聞き手」とは誰かなどを解説しています(著者にとってのそれは、記者、米国民、政治家や軍部リーダー、敵、兵士の5つであると)。

 第5章「150%の力を組織から引きだす」では、偉大な管理者、偉大なリーダーになる方法を説いています。まず、自分の側近として生き残る方法(べからず集)を挙げ、ひとつのチームになること、準備を整える時間を与えること、「命令だ!」と命令しないことなど説いています。また、組織において「必要欠くべからざるとされている人物」が実は組織の足を引っぱっているのに、その現実を直視しないリーダーがいるが、リーダーは、組織にみあう能力がなくなった者を交代させられるよう、常に用意を整えておかなければならないとしています。

 第6章「人生をふり返って―伝えたい教訓」では、自分のこれまでの人生を振り返るとともに、若い人に伝えたい教訓を述べています。ここでは、リーダーたるものは、降ってわいた問題も解決しなければならないとする一方で、スピーチで人の心をつかむ楽しい工夫などについても語られていて、エッセイとしても読める章となっています(ダイアナ妃との思い出―レセプションでダイアナ妃を巡って主賓のヘンリー・キッシンジャーをさし置いて王妃と近しく接したこと―を嬉々として語っている)。全体を通しても、リーダーシップの啓蒙書としてばかりでなく、読みものとしても興味深く、楽しく読めるものとなっています。

 原題は" It Worked for Me: In Life and Leadership"。「For Me(私にとっては)」となっているのは、リーダーシップに正解というものはなく、「誰もがこれでうまくいく」とはいうわけではないということを示唆しているわけですが、そうでありながらも、書かれていることの普遍性と説得力は、巷に出回っている「これを読めばあなたも有能なリーダーになれる」的な薄っぺらな自己啓発本を凌駕して大いに余りあるものです。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2227】 榎本 博明 『お子様上司の時代
「●マネジメント」の インデックッスへ
 ○経営思想家トップ50 ランクイン(スティーブン・R・コヴィー)

自己啓発本の名著。成功の方法やリーダーシップについて実践的・現実的に書かれている。。

『完訳 7つの習慣』00.jpg『完訳 7つの習慣』.jpg スティーブン・コヴィー.jpg Stephen Covey
完訳 7つの習慣 人格主義の回復』['13年]

 1989年に原著の初版が刊行された本書は、自己啓発本の名著とされる本であり、成功の方法やリーダーシップについて実践的・現実的に書かれたビジネス書でもあります。

IMG_20240502_184813.jpg 第1部「パラダイムと原則」では、「個性主義」なものはあくまで二次的なものであって、まずは「人格」を磨かなければ真の成功は得られないとするとともに、問題の見方を「自分が変わらなければ周囲も変化しない」という「インサイド・アウト」という考え方にパラダイム・シフトすべきであるとしています。そして、「7つの習慣」は人格を磨くための基本的な原則を具体的なかたちにしたものであり、その原則を守ることで、自らが変わり結果を引き寄せていく、という新しいパラダイムを手に入れることができるとしています。

 また、「7つの習慣」とは、「依存」から「自立」、「相互依存」へと至る、成長の連続体を導くプロセスでもあり、そのプロセスは3段階に分類できるとして、以下、第2部で私的成功の習慣(第1〜第3の習慣)、第3部で公的成功の習慣(第4〜第6の習慣)、第4部で再新再生の習慣(第7の習慣)についてそれぞれを解説しています。

私的成功の習慣
 第1の習慣として「主体的であること」を挙げています。主体的であるということは、「今の自分の人生は自分の選択の結果だ」と考え、「それゆえにこれからの人生も自分で選択していくことができる」という考えであり、私たちは人間に与えられた「想像、良心、意思、自覚」という能力によって、何が自分の身に降りかかってこようとも、それが自分に与える影響を自分自身で決定することができるとしています。

 第2の習慣「終わりを思い描くことから始める」です。何事においても「終わりをイメージ」しておくことはとても重要であり、なぜなら「終わりをイメージ」しておくことによって、「最終的に自分がどこに辿り着きたいか」が自ずと見えてくるからで、この習慣を身につけるためには、個人のミッションステートメントを書くのが効果的で、どのような人間になりたいか(人格)、何をしたいか(貢献・功績)、自分の根底にあるもの(価値観)を羅列していくとよいとしています。

 第3の習慣「最優先事項を優先する」です。自分のミッション・ステートメントに照らし合わせて自ら行うことを決め、最優先事項から優先的に行動せよと述べています。具体的には物事を①緊急で重要なこと、②緊急ではないけれど重要なこと、③緊急だが重要ではないこと、④緊急ではなく重要でもないことの4つに分け、そして「緊急ではないけれど重要なこと」を優先して行うことが自分自身の成長につながるとしています。

公的成功の習慣
 第4の習慣「Win-Winを考える」であり、第1〜第3の習慣が身につくと、人と協力しながらより大きな成功を目指せるようになるが、「Win-Winを考える」とは、全ての人間関係で自分も相手も利益になることを考えるということであり、この習慣が身につくと、競争よりも協力することに眼が向くようになり、関わった人との間に信頼が積み重なり、協力を得やすくなるとしています。

 第5の習慣は、「まず理解に徹し、そして理解される」です。より深い信頼関係を構築するためにはお互いに理解し合う必要があり、高度な信頼関係を構築するためにも、自分を理解してもらおうとする前に相手を理解することに徹することが重要で、話を聞く時も、相手の身になって親身に話を聴き、相手の言葉にしっかりと耳を傾けていることが伝われば、その後で自分のことも理解してもらいやすくなるとしています。

 第6の習慣「シナジーを創り出す」です。シナジー(相乗効果)とは、全体の合計が個々の総和より大きくなることを指し、バラバラに仕事をしている人が協力し合うことで、個人では達成できない大きな結果を生み出せるとしています。

再新再生の習慣
 第7の習慣「刃を砥ぐ」です。これは、自分自身の価値をより高めていく習慣です。人間には、肉体・精神・知性・社会・情緒という5つの刃があるとし、これら5つの刃を日頃からバランスよく磨いていくことで、自分自身の価値をより高めることが可能であるとしています。

 本書は、人事パーソンの間でも推す人の多い本。「7つの習慣」は生きている限りいくらでも高めることができるものと言えるものであり、本書は定期的に読み返したい本の一冊です。


【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

【2713】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『リーダーシップの名著を読む』 (2015/05 日経文庫)

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2768】 ロジャー・マーティン 『「頑張りすぎる人」が会社をダメにする
「●マネジメント」の インデックッスへ 「●講談社学術文庫」の インデックッスへ 「●PHP新書」の インデックッスへ

自己啓発書の名著。リーダーシップ論、マネジメント論としても読める。

『自助論』.jpg 『自助論』0「.jpg 西国立志編.jpg 現代語訳 西国立志編.jpg
自助論』['03年] 『西国立志編 (1981年) (講談社学術文庫)』['81年]『現代語訳 西国立志編 スマイルズの『自助論』 (PHP新書)』['13年]
『自助論』2.jpg
・竹内 均:訳『自助論―人生を最高に生きぬく知恵』(1985年/三笠書房)
・竹内 均:訳『自助論―人生を最高に生きぬく知恵』(2002年/三笠書房・知的生きかた文庫)
・竹内 均:訳『スマイルズの世界的名著 自助論』(2012年/三笠書房・知的生きかた文庫)
・竹内 均:訳『自助論』(2003年/三笠書房)
・竹内 均:訳『自助論:「こんな素晴らしい生き方ができたら!」を実現する本』(2013年/三笠書房)
『自助論』3.jpg
・久保美代子:訳『新・完訳 自助論』(2016年/アチーブメント出版)
・夏川賀央:訳『今度こそ読み通せる名著 スマイルズの「自助論」』(2016年/ウェッジ)
・三輪裕範:訳『超訳 自助論 自分を磨く言葉 エッセンシャル版』(2023年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)
・竹内 均:訳『自助論:「まんがで人生が変わる! 自助論: 感動的に面白い世界的名著!!』(2013年/三笠書房)
・『マンガでわかる サミュエル・スマイルズの自助論~成功する「考え方」と「習慣」』(2017年/マイナビ出版)

 原著が1858年に刊行された『自助論(セルフ・ヘルプ)』は、世界10数ヵ国語に訳されたベストセラーの書で、日本では1871(明治4)年、『西国立志編』として中村正直により翻訳刊行されています。講談社学術文庫所収されていて、PHP新書に現代語訳版が所収されていますが、翻訳は現在訳されている『自助論』とかなり異なり(底本が異なる?)、立身出世志向の色合いが強いものとなっています。ただし、今日目にする『自自論』自体も、多くの偉人の成功談を集め、自助の精神を説いた自己啓発の古典的名著であり(中村正直訳を見ると「成功本」の奔りでもあると思わされるが)、冒頭の「天は自ら助くる者を助く」という言葉は特に有名です。

 第1章「自助の精神」では、「天は自ら助くる者を助く」とし、外部からの援助は人間を弱くし、自分で自分を助けようとする精神こそ、その人間をいつまでも励まし元気づけるとしています。そして、最高の教育は日々の生活と仕事の中にあるとしています。

 第2章「忍耐」では、何をするにしても、常識や集中力、勤勉、忍耐のような平凡な資質がいちばん役に立ち、天賦の才は不要であり、天才と称される人物ほど、必ずといっていいくらい、粘り強い努力家であったとしています。ニュートンは業績の秘訣を問われた際「いつもその問題を考えつづけていたからだ」と答え、フランスの博物学者ビュフォンは「天才とは、一つの問題に深く没頭した結果、生まれるものだ」と言ったと。

 第3章「好機は二度ない」では、勤勉の中にこそ「ひらめき」は生まれるものであり、ありふれた事物の背後にある本質を理解する観察力は、人間に大きな差をつけるとしています。ニュートンにしてもガリレオにしても、膨大な科学的知識を土台に、常に本質を探求する観察力や洞察力で、大きな功績を残したと。そして、チャンスをとらえ、偶然を何かの目的に利用していくところに成功の大きな秘密が隠されているとしています。

 第4章「仕事」では、割に合わない仕事にも注意深く心をこめて取り組むべきで、常に最善をつくし、前の仕事より一歩でも二歩でも前進しようと努力することが大切であるとしています。成功を決意し、努力の結果に自信を持つことが大事で、仕事は自分の才能を伸ばす最高の"栄養剤"であると。

 第5章「意志と活力」では、「世間」という学校にしっかり学ぶことが大事で、意志の力さえあれば、人は自分の決めた通りの目標を果たし、自分がかくありたいと思った通りの人間になることができるとしています。自分を方向づけるのはまさに「意志の力」であり、それによって"何も生まない生活"と訣別すべきであると。また、誠実に生きることの大切さを説くとともに、旺盛な活力と不屈の決意さえあれば、この世に不可能なことはないとしています。

 第6章「時間の知恵」では、どんなビジネスにも、それを効率よく運営するのに欠かせない原則が6つあり、それは、注意力、勤勉、正確さ、手際のよさ、時間厳守、そして迅速さであるとしています。また、今日の仕事を明日に延ばすと、二倍時間がかかるとしています。時間を正しく活用すれば、自己を啓発し、人格を向上させられるが、仕事に身を入れず、怠惰な時間を過ごしていると、心に雑草をはびこらせると。1日15分の使い方が人生の明暗を分け、時間にルーズな人は成功のバスに乗り遅れるとも言っています。

 第7章「お金の知恵」では、金を人間生活の第一の目的だなどと考えるべきではないが、聖人ぶってお金を軽蔑するのも正しくないとしています。実際、人間の優れた資質のいくつかは、金の正しい使い方と密接な関係があり、寛容、誠実、自己犠牲などはもとより、倹約や将来への配慮といった間の美徳と密接に関わっているとしています。いちばん大切なのは、正直な手段で金を得て、それを倹約しながら使うことであり、身の丈を超える借金は絶対にしてはいけないとしています。財産を相続した若者は、安易な生活に流されがちであり、望むものが何でも手に入るため、かえって生活に飽き飽きしはじめ、彼のモラルや精神力は、いつまでも眠りから覚めることがないと。

 第8章「自己修養」では、最良の教育とは、人が自分自身に与える教育であり、確固たる目的や目標を持っていれば、勉強も実り多いものとなると。また、仕事を通してしか生まれない実践的「知的素養」というものがあり、"自学自習"で勝ち取った知識は応用がきくとしています。人間は、困難や失敗を克服することで、自己を高めていくものであり、困難に立ち向かわなくても済むようになるのは、人生が終わり、修養の必要もなくなった時だけだと。

 第9章「出会い」では、よき師、よき友は人生の最大の宝であり、人間性を育てる際の成否は、誰を模範にするかによって決まり、われわれの人格は、周囲の人間の性格や態度、習慣、意見などによって無意識のうちに形づくられるとしています。また、「人生を変える一冊」「自分を奮い立たせる一冊」を持つことも大切であり、特に真の人生を生きた人の伝記は、現在に通ずる優れた知恵であるとしています。

 第10章「信頼される人」では、立派な人格は人間の最良の特性であり、人格者は社会の良心であり、同時に国家の原動力となるとしています。教養や能力に乏しく財産の少ない人間でも、立派な人格さえ持ち合わせていれば他人に大きな影響を与えられると。また、言行一致は、立派な人格のバックボーンを成すとしています。真の人格者は、力や才能に驕らず、成功しても有頂天にならず、失敗にもそれほど落胆せず、他人に自説を無理に押しつけたりせず、求められた時にだけ自分の考えを堂々と披瀝し、人の役に立とうという場合でも、恩着せがましいそぶりは微塵も見せないものだと。

 本書はキャリアの入り口にいる若い人向けの自己啓発本と思われている面もありますが、どの世代にも通用する普遍的な自己管理論で、リーダーシップ論、マネジメント論として読める要素も多くあり、中堅・ベテランの人事パーソンの教養書としてもお薦めできる内容です。当ブログには「自己啓発書」というカテゴリーが無いため、リーダーシップ論、マネジメント論として扱いました。


【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

【2713】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『リーダーシップの名著を読む』 (2015/05 日経文庫)

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【129】 ジョン・P・コッター 『リーダーシップ論
「●マネジメント」の インデックッスへ

自己啓発の名著であるとともに、リーダーシップの名著でもある。

『人を動かす【新装版】 』.jpg『人を動かす【文庫版】』 .jpg    『人を動かす【改訂新装版】』 .jpg 『人を動かす【改訂文庫版】』 .jpg
人を動かす 新装版』['99年]『人を動かす 文庫版』['16年]『人を動かす 改訂新装版』['23年]『人を動かす 改訂文庫版』['23年]
1937年10月30日・日本語抄訳版初版(加藤直士:訳)/1958年5月20日・第20版/1958年11月1日・全訳版初版(山口 博:訳)/1982年12月1日・第2版
『人を動かす』[旧版].jpg 本書は、社会人として身につけるべき「人間関係の原則」を具体的に明示した、自己啓発本の古典としてよく知られている本です。1936年に刊行(日本語版は抄訳版が1937(昭和12)年創元社刊)されて以降、全世界で1500万部以上売れてたベストセラーであり、タイトルだけは聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。もちろん、すでに読んだという人も多いかと思います。

 PART1では、「人を動かす3原則」として、①盗人にも五分の理を認める、②重要感を持たせる、③人の立場に身を置く――を挙げています。どんな相手であっても非難せずに相手を認めること、相手に心からの賛辞を示して自己重要感を満たすこと、自分のことではなく相手の立場に立ってその望みは何なのかを考え、そこに自分の望みの標準を合わせることが、人を動かすための重要な点であるとしています。

 PART2では、「人に好かれる6原則」として、①誠実な関心を寄せる、②笑顔を忘れない、③名前を覚える、④聞き手にまわる、⑤関心のありかを見抜く、⑥心からほめる――を挙げています。どんな人でも、自分に関心があって、常に笑顔で、自分の話をよく聞き、自己重要感を高めてくれる相手に対しては、けっして無下に扱うようなことはしないとしています。自然と人に好かれ、行動を促すための、簡単なようでなかなかできている人が少ない人間関係の基礎を説いています。

 PART3では、「人を説得する12原則」として、①議論を避ける、②誤りを指摘しない、③誤りを認める、④穏やかに話す、⑤"イエス"と答えられる問題を選ぶ、⑥しゃべらせる、⑦思いつかせる、⑧人の身になる、⑨同情を寄せる、⑩美しい心情に呼びかける、⑪演出を考える、⑫対抗意識を刺激する――を挙げています。人を説得する12原則では、人を動かす3原則、人に好かれる6原則をベースに具体的な方法が書かれています。自分の意見を相手に受け入れてもらい、説得するためにはまず相手を尊重する必要があるとし、対立することを避け、相手の立場と考えを尊重し穏やかな言動で接することで、相手はこちらの意見を受け入れやすくなるとしています。その上で相手の良心に訴え、相手が興味を引き楽しめるような演出をすることで、結果的に相手がこちらの望む行動をとるようになるとしています。

 PART4では、「人を変える9原則」として、①まずほめる、②遠まわしに注意を与える、③自分の過ちを話す、④命令をしない、⑤顔をつぶさない、⑥わずかなことでもほめる、⑦期待をかける、⑧激励する、⑨喜んで協力させる――を挙げています。人を変える9原則では、相手へ影響を与えるための原則が書かれています。人を変えるには、まず相手を褒め、自尊心を満たし、期待をかけ自分は変われるという自信を持たせること、そして実際以上の評価を相手に伝えることで理想とする指針を示し、やる気を刺激する「肩書き」を与えることで、相手の自発的な行動が促されるとしています。

 「時代が変わっても、人の性質は変わらない」という著者の言葉があります。豊富な事例から抽出される原則が的確で、まさに原則としての普遍性を湛えており、それが、今日もなお本書がベストセラーの上位にある所以でしょう。

 自己啓発の名著であるとともに、リーダーシップの名著でもあります。全部で30の「人間関係の原則」が記されていることになりますが、一つ一つの原則を自分が理解できるまで何度も繰り返し読み、何度も実践しすることで、自分のものへと落とし込んでいくことになるかと思います。

人を動かす 完全版.jpg 創元社の単行本【新装版】(1999年刊)と【文庫版】(2016年刊)の違いは、単行本版には「付」として「幸福な家庭をつくる7原則」というのが掲載されていますが、文庫版にはありません(昨年['23年]、【改訂新装版】の単行本が6月に、文庫が9月に刊行されたが、どこが"改訂"なのか、個人的には未確認。目次を見る限りそれぞれ同じに見えるが...)。また、新潮社より『人を動かす 完全版』(2016年刊)が東条健一訳で刊行されており、こちらは著者の未亡人が編纂に関わり、著者の死後に加えられたエピソードを排し、失われていた「本書を書いた理由」など多くの原稿を復活させたものです(ただし、個人的には創元社版の方が読みつけているせいか読みやすい)。

人を動かす 完全版』['16年]

【1999年新装版[創元社]/2016年新装版文庫化[創元社]/2016年完全版[新潮社]/2023年改訂新装版[創元社]/2023年改訂新装版文庫化[創元社]】

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

【2713】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『リーダーシップの名著を読む』 (2015/05 日経文庫)

蔵書用(単行本)と携帯用(文庫)
『人を動かす【新装版】』1.jpg

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3473】 電通若者研究部 ワカモン 『フラット・マネジメント

OODAを回すのに必要なリーダーシップとは何か、組織文化の属性は何かを説く。

OODA式リーダーシップ.jpgOODA式リーダーシップ20223.jpg   アーロン・ズー.jpg アーロン・ズー((株)電通 BXCC事業開発プロデューサー)
OODA式リーダーシップ 世界が認めた最強ドクトリン』['23年]

OODA式リーダーシップ2.jpg 本書によれば、PDCAよりも環境変化に柔軟に対応でき、変化が激しい昨今のビジネスをハンドリングしていくフレームワーク概念として「OODAループ」というものがあり、それは「Observe(観察)」「Orient(状況判断)」「Decide(意思決定)」「Act(実行)」に分かれていて、意思決定から行動までを網羅しているとのことです。

 OODAは米国空軍で戦闘機パイロットだったジョン・ボイド大佐が提唱したもので、米国ではすでに確立されており、民間でも一般的であるとのことです。ただし、PDCAが当たり前になってしまっている日本人がOODAを使いこなすには、日本人が苦手とするリーダーシップが必要であるとし、軍事戦略をベースにしたOODAの基礎知識と、求められるリーダーシップについて解説しています。

OODA式リーダーシップ1-2.jpg 第1章では、マネジャーの役割は複雑さに対応することであるのに対し、リーダーの重要な役割は「変化に対応する」ことであるとしています。その上で、真のリーダーに必要な5つの基本要素(①意義を共有する、②与える人になる、③メンバーの強みを見つける、④フィードバック上手になる、⑤成果を明確にする)を掲げています。また、OODAとPDCAの決定的な違いとして、OODAは目指すべき結果を想定しておらず、評価のプロセスもなく、そもそも意思決定のためのものであり、業務改善のためのものであるPDCAとは役割が異なるとしています。

 第2章では、OODAが持つ軍事的エッセンスについて、軍事戦略の基礎である「ランチェスOODA式リーダーシップ2-2.jpgターの法則」から説き起こしています(弱者のための「一次法則(=機動戦)」と「強者のための二次法則(=消耗戦)」)。そして、PDCAが「消耗戦」でいく"正策"であるのに対し、OODAは「機動戦」に可能性を見出した"奇策"であり、本当の戦争よりもビジネスにおいて、その実力を発揮できるとしています。また、一般に知られているOODAの図は、正確なOODAではなく、実際の現場では「明示的な決定」は必要とされず、「判断(Orient)」が直接「行動(Act)」を統制することで、スピーディーな意思決定のプロセスが踏め、これこそがOODAの「速さの正体」だとしています。

 第3章では、ビジネスにおけるOODAの存在意義として、今後「パラダイムシフト」によってビジネスの根本が変化する中、スピーディーに状況を観察(Observe)し、方向性(Orient)を決め、迅速な決定(Decide)により行動(Act)することは不可欠だとしています。また、OODAを回すために必要な組織文化の属性として、信頼、直観、任務、方向性の4つを挙げ、さらに、すべての経営者(リーダー)は、奇策を生み出せるクリエイターであるべきだとしています。

 第4章では、日本でOODAを高速回転させるための手法として、「イシュー・セリング(Issue Selling)」と呼ばれる「問題を課題として経営層に認識してもらうためのプロセス(提案、根回し、協力者探しなど)」を紹介し、その4つのステップ(①前準備、②パッケージング活動、③巻き込み活動、④セリング活動)について解説しています。

 日本では、PDCAは仕事の基本であると言われ続けてきたように思います。一方で、変化の激しい今の時代において、当初の計画通りに事が運ばないことは少なからずあるかと思います。こうした状況において、OODAというフレームワークは、非常に興味深いと思われます。

 ただし、やや漠たる印象もあり、それを日本の企業や職場においてどう回していけばいいのか、具体的なイメージが把握しにくい面もあるように思います。本書も、読んでみてまだ難しく思われる箇所もあるかもしれませんが、OODAを回すのに必要なリーダーシップとは何か、組織文化の属性は何かにフォーカスして書かれている分、「では、どうすればよいのか」をイメージしやすい内容になっているように思います。

OODA LOOP 2019.jpg 「OODAループ」についてより知りたい人は、本書にも紹介されている本で、OODAの提唱者であるジョン・ボイド大佐の弟子だった企業コンサルタントのチェット・リチャーズ氏の著書『OODA LOOP(ウーダループ)』('19年/東洋経済新報社)を読んでみるのもいいかと思います。

《読書MEMO》
●目次
第一章 科学的に考えるリーダーシップの定義
第二章 軍事戦略から紐解く「戦略」の要素
第三章 ビジネスにおけるOODAの存在意義
第四章 日本でOODAを活かすための変革とは
●「人生で偽りのリーダーに出会うほど無駄なことはない。」(31p)
●ランチェスターの法則
・ランチェスターの1次法則(弱者戦略)
「一騎打ちの法則」 純粋な白兵戦、一対一の戦闘を前提とすると、戦闘力が優勢な方が勝利し、勝利側の損害は劣勢の戦闘力と等しくなる。
・ランチェスターの2次法則(強者戦略)
30人と50人が同じ能力の武器を使って戦う場合、兵士数はそれぞれ2乗になると考え、50人の軍が、40人を残して勝つことになる。 公式は「戦闘力=(兵士数の2乗)×武器効率」。

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3460】 仁科 雅朋 『心理的安全性がつくりだす組織の未来
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ 「●マネジメント」の インデックッスへ

「表層的なパーパス」とは異なる「深層的なパーパス(ディープ・パーパス)」を提唱。

DEEP PURPOSE.jpgDEEP PURPOSE2023.png  ランジェイ・グラティ.jpg
DEEP PURPOSE 傑出する企業、その心と魂』['23年]  ランジェイ・グラティ(ハーバード大学ビジネス・スクール教授)

 ハーバード大学ビジネス・スクール教授による本書では、高業績を上げる企業は利潤よりもパーパスに導かれているとしています。パーパスは、その会社の従業員、顧客、パートナー、株主などあらゆるステークホルダーをまとめるビジョンを作り出し、倫理的な行動を動かし、ステークホルダーの最善の利益に反する行動に対する本質的な抑制を作り出すものであり、また、文化の強力な原動力であり、組織の内部すべてで一貫性を持つ意思決定の枠組みを提供し、最終的には、会社の株主のために長期的な収益を維持するのに役立つとしています。

 最初の3章は、ディープ・パーパス・リーダーがパーパスについて考える強力なやり方を検討しています。

 第1章「そもそもパーパスとは何か?」では、一般の多くのリーダーは、パーパスを機能または道具として考え、ツールだと思っているが、ディープ・パーパス・リーダーはそれを、より根源的な企業の存在理由そのものを表現するものと考え、彼らにとっては、パーパスは意思決定を形成し、ステークホルダーたちをお互いに結びつける組織原理となるとしています。

 第2章「かみそりの刃の上を歩く」では、ディープ・パーパス・リーダーは、商業主義と社会倫理のトレードオフの調整に取り組み、ステークホルダー間の利害を調整して、ときには彼らが短期的には「不満足」と思うが、やがて万人に利益をもたらすつらい決断をすることもあるとしています。

 第3章「すぐれた業績の四つのレバー」では、ディープ・パーパス・リーダーは企業の成長を導くレバーとして、①戦略立案の焦点を定める能力、②顧客との関係構築、③外部ステークスホルダーへの対応、④従業員の啓発、の四つ便益を指摘しているとしています。

 第4章から第7章は、存在理由(パーパス)を定義して企業に根づかせ、それが本当に業績を改善するようにするために、リーダーたちが実施すべき鍵となるアクションを検討しています。

 第4章「パーパスの真の源:前を見ながら振り返る」では、ディープ・パーパス・リーダーは過去を振り返り、創業者や初期の従業員たちの意図に入り込んで企業の不滅の魂や本質を捉えるため、結果的に感情的なつながりが深まって、存在理由への献身が高まるとしています。

 第5章「あなたは詩人? それともただの作業員?」では、ディープ・パーパス・リーダーがパーパスを伝える際には、壮大な基盤となる物語を語り、会社に深みと意義と、詩情さえももたらすとしています。

 第6章「パーパスの中の「自分」」では、ディープ・パーパス・リーダーは、組織のパーパスをチームメンバーの個人的な発展と成長に結びつけ、内在的動機に火をつけ、高水準の献身と業績を実現するとしています。

 第7章「鉄の檻を逃れる」では、パーパスを深く追求するリーダーは、伝統的な官僚主義的やり方を破壊し、自社をイノベーション、アジャイル性、成長に向かわせようとするとしています。

 最後に、第8章「思いつきから理想へ:未来に湛えるパーパス」で、パーパスを次第に空疎化させてしまういくつかの罠を述べ、ディープ・パーパス・リーダーが会社を正しい方向に維持するために使う手法を紹介しています。

 昨今「パーパス経営」という言葉がよく使われますが、本書では、「ディープ・パーパス(深層的なパーパス)」という概念を初めて提唱し、パーパスには「表層的なパーパス」と「深層的なパーパス」があって、両者は異なるとしています。

 パーパスステートメントを書くのは簡単だが、出来上がった美辞麗句を社員に伝えただけではパーパス経営が行なわれているとは言えず、深層的なパーパスは、経営者が中心となり、経営者と社員が長い時間を掛けて真剣に検討し何度も議論する中で生まれてくるものであるとしています。

 さらには、経営者自らが社員一人ひとりに、パーパスを浸透させるために、自ら実践する必要があり、戦略立案、人材採用、新規事業開発など、どのような仕事を行なう際にも、経営者を始め管理者層がパーパスを実践し、それを下へと伝えていくことが肝要あるとしています。

 ペプシコやレゴ社、リクルートなど、パーパス経営を実現しているとされる18の企業例が紹介されていますが、解説の鵜澤慎一氏が、伊藤忠商事が近江商人の「三方よし」の精神を企業理念に掲げていることを例に、「パーパス経営は実は日本の経営観に近い」と述べており、このことを念頭に置くと、身近な印象を抱きながら読み進めることができるのではないかと思います。

《読書MEMO》
●目次
序文
はじめに
第1章 そもそもパーパスとは何か
都合のいいパーパス
パーパスの別のパラダイム
会社の魂とのつながり
第2章 かみそりの刃の上を歩く
「同時解決策」の誘惑
かみそりの刃の上を歩く
実務的理想主義の心構え
実務的理想主義の勇敢な追求
トレードオフの妙技
第3章 優れた業績の四つのレバー
成長を導く「北極星」(パーパスのレバーその1:方向的)
緊密なエコシステム(パーパスのレバーその2:関係的)
顧客への評判強化(パーパスのレバーその3:評判的)
従業員を惹きつけ啓発(パーパスのレバーその4:動機的)
第4章 パーパスの真の源:前を見ながら振り返る
道徳的コミュニティとしてのビジネス企業
過去に見出す聖なるもの
未来を見つつ振り返る
戦略その1:過去の美化と邪悪化の緊張に特に注目
戦略その2:過去についての批判的対話を育む
戦略その3:パーパスをストレステストにかけよう
第5章 あなたは詩人? それともただの作業員?
ただのエピソードではない――大きな物語
業績はパーパスとともに
ペプシコの大きな物語を語る
「大きな物語」の背後の物語
自分/我々/今
大きな物語を具象化する
第6章 パーパスの中の「自分」
「自分」を解き放つ
「自分らしく、率直に、親切に」
何のために会社にくるのか?
会社はあなたのために何ができる?
人生のパーパスの力を解き放つ
第7章 鉄の檻を逃れる
「醜悪な一大惨状」
パーパスとのつながり
「船頭が多すぎる」問題の解決
パーパス=自律性=信頼のつながり
「根深いタコツボ」問題の解決
パーパス=信頼=協働のつながり
第8章 思いつきから理想へ:未来に湛えるパーパス
コース逸脱
脱線要因その1:属人化のパラドックス
脱線要因その2:(不適切な)計測による死
脱線要因その3:善行者のジレンマ
脱線要因その4:パーパスと戦略の分裂

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3446】 アーロン・ズー 『OODA式リーダーシップ
「●マネジメント」の インデックッスへ 「●組織論」の インデックッスへ

CEは、新規事業を立ち上げ推進するだけでなく、既存組織の変革も両立して行うリーダー。

コーポレート・エクスプローラー2.jpgコーポレート・エクスプローラー2023.jpg アンドリュー・ビンズ2.jpg アンドリュー・J・M・ビンズ(後ろ)/チャールズ・A・オライリー(手前)
コーポレート・エクスプローラー――新規事業の探索と組織変革をリードし、「両利きの経営」を実現する4つの原則』['23年]

 本書は、企業の中から新しい探索事業を立ち上げるリーダー(コーポレート・エクスプローラー、CE)に焦点を当てています。CEはスタート・アップの起業家とは異なり、成熟した企業の内側からイノベーションを起こしつつ、既存事業の変革も担うリーダーであり、本書では、実際に存在するCEの事例にフォーカスし、新規事業を立ち上げ、既存組織も変革する「両利きの経営」を実現するための4つの原則を提示しています。

 第Ⅰ部では、調査の結果、創造的破壊を起こす企業には、「戦略的抱負」「イノベーションの原則」「両利きの組織」「探索事業のリーダーシップ」の4つの特徴(原則)があったとしています(第1章)。

 まず、自社の資産を活用して破壊的イノベーションを起こした企業が生まれた経緯とその方法を分析し、CEが社内イノベーションに果たした役割を紹介、CEこそが新規事業は起こすと結論づけています(第2章)。さらに、CEの成功を左右するCEOや経営陣の役割は、企業の成長意欲と直結する「戦略的抱負」を定め、探索事業にお墨付きを与えることだとしています(第3章)。

 第Ⅱ部では、CEが知っておくべき「イノベーション」の原則――着想、育成、量産化――について述べています。着想はただ案を出すだけではなく、解決すべき顧客の問題を突き止め、顧客を惹きつける力のある解決策を出すという二段階があるとし(第4章)、育成は、新規事業の軸となる最重要仮説を検証し、そこから学ぶことであって(第5章)、さらにCEは新規事業のために資産(顧客、組織能力、経営資源)を集めることで、新規事業の成功に欠かせない量産化を実現するとしています(第6章)。

 第Ⅲ部では、探索事業とコア事業を分離する「両利きの経営」について扱っています。探索事業の組織形態としてのフォーカス型、ボトムアップ型、トップダウン型の3つの選択肢を紹介し(第7章)、探索事業システムとしてのチーム構成などについて解説(第8章)、さらに、CEが直面する社員のモチベーション問題や、CE個人のモチベーション問題などのリスクについて述べています(第9章)。

 第Ⅳ部では、経営陣とCEの両面から、リーダーシップについて考察しています。まず、探索事業を妨げる抵抗(「サイレントキラー」)はコア事業システムから生じるとして(第10章)、イノベーションと組織変革を「両立する」リーダーが求められるとし、そうした"二重らせん"型のリーダーの特質を述べ(第11章)、最終章で、新規事業を成功させる最後の要素は「リーダーとして実行する覚悟だ」としています(第12章)。

 著者らの前著『両利きの経営』(2019年/東洋経済新報社)の実践版とのことで、まだ全体的に概念的な記述が多いものの、今回は事例も多く紹介されて、内容をイメージしながら読み進むことができます。ここで言うCEとは、新規事業を立ち上げ推進するだけでなく、既存組織の変革も両立して行うリーダーということになるかと思います。

 CEOに実行する覚悟を持たせるのもCEの役割であると。また、イノベーションの原則、両利きの経営などの要素はすべて成功への地固めであり、最終的にはリーダーとしての勇気が不可欠なのだとしています。個人的には、創造的破壊に向けて、実務者にエールを送っている本であるように思いました(前著が経営論、組織論の色合いが強かったのに対し、今回はリーダーシップ論の色合いが濃い)。

《読書MEMO》
●目次
Part1 戦略的抱負
1 社内イノベーションの利点
2 新規事業はCEが動かす
3 戦略的抱負の条件
Part2 イノベーションの原則
4 着想―新規事業のアイデアを出す
5 育成―検証を通して学ぶ
6 量産化―新規事業のための資産を集める
Part3 両利きの組織
7 探索事業部
8 探索事業システム
9 CEのリスクと報酬
Part4 探索事業のリーダーシップ
10 探索事業を妨げる「サイレントキラー」
11 二重らせん―イノベーションと組織変革を「両立する」リーダー
12 行動する覚悟―新規事業の量産化を決断するリーダー

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3443】 アンドリュー・J・M・ビンズ/他 『コーポレート・エクスプローラー

優れたリーダーは「脇役」。エンパワーメント・リーダーシップを提唱。

世界最高のリーダーシップ.jpg世界最高のリーダーシップ2023.jpg フライ」&モリス」」.jpg
世界最高のリーダーシップ 「個の力」を最大化し、組織を成功に向かわせる技術』['23年]フランシス・フライ/アン・モリス

 本書は、実際に多くの企業の再生に携わったハーバード・ビジネススクールの教授が、エンパワーメント・リーダーシップについて唱えたものです。

 1章では、一般的なリーダーシップ論ではリーダーにとって最も大切な仕事が隠されてしまうとし、その仕事とは、他者(メンバー)を育てることであって、エンパワーメント・リーダーシップとは、自分の存在によって他者をエンパワーメントし、その影響力が、自分が不在の状況でも続くようにすることであると定義しています。

 そして、「エンパワーメント・リーダーシップの輪」というものを示し、円の中心に「信頼」があり(第2章)、そこから外に向かうにつれて、エンパワーできる他者も増えていき、まず「愛」を通して個人をエンパワーし(第3章)、「帰属」を通してチーム(第4章)、「戦略」を通して組織(第5章)、そして「文化」を通してさらにその影響の範囲を拡げる(第6章)としています。

 つまり、信頼、愛、帰属の3つがエンパワーメント・リーダーシップのコア・コンピタンス(核となる強み)であるが、この段階ではリーダー現場に姿を見せることを前提とした「存在のリーダーシップ」であり、さらにその外側に、組織に対する「戦略」と、組織およびその先のコミュニティに対する「文化」という、「不在のリーダーシップ」の領域があるということです。

 第1部(第1章~第4章)では、「存在のリーダーシップ」について述べています。第2章で「信頼」について、人が信頼するのは、本当の自分を出していると感じられる人(オーセンティシティ)、判断や能力があてにできる人(ロジック)、自分を気にかけてくれると感じられる人(共感)であるとしています。

 第3章では「愛」について、高い基準と献身を両立させた「正義のリーダーシップ」により他者をエンパワーメントできるとし、他者が確実に能力を発揮できる状況をつくるための枠組みを示しています。

 第4章では「帰属」について、多様な組織を構成・維持する4つのステップとして、①多様な才能を引き寄せて選別する、②成功するチャンスを平等に与える、③厳密で透明なシステムを通して最高の人材を昇格させる、④最高の人材を維持する、を掲げています。

 第2部(第5章~第6章)では、「不在のリーダーシップ」について書かれています。第5章で「戦略」について、自分がいない状況でも組織の隅々までリーダーシップを浸透させるにはどのような戦略が効果的であるかを、多くの事例で紹介しています。

 第6章では「文化」について、文化は組織の隅々まで届いてこそ行動指針となるとして、文化を変えるための「プレイブック」として、①懐疑的なデータを集める、②情報を(まだ)誰にも話さない、③厳密で、楽観的な実験プランを作成する、④解決策に全員を巻き込む、の4つのステップを示しています。

 書かれていることは、これまで多くのリーダシップ本で言われてきたようなことも多いです。ただし、帯に「優れたリーダーは『脇役』」とあるように、「リーダーシップの主役はリーダー本人ではない」と言い切っている点や、自分が不在の状況でも続くような「不在のリーダーシップ」というものを提唱している点がユニークでしょうか。事例が多く紹介されていて、方法論・技術論的なこと――例えば「スマホを置き、目の前にいる相手の話を聴く」といったこと――まで細かく書かれており、誰が読んでも啓発される箇所は少なからずあるかと思います。

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3435】 ジョン・P・コッター/他 『CHANGE 組織はなぜ変われないのか
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ

ウェルビーイングを高める5要素。内、キャリア・ウェルビーイングが最重要であると。

『職場のウェルビーイングを高める.jpg職場のウェルビーイングを高める 2022.jpg Jim Clifton.jpg  『ザ・マネジャー』2022.jpg
職場のウェルビーイングを高める 1億人のデータが導く「しなやかなチーム」の共通項』['22年]Jim Clifton(Chairman and CEO, Gallup)/ジム・クリフトン/ジム・ハーター 『ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる ボスからコーチへ』['22年]

 本書は、次にくるグローバル危機はメンタル・パンデミックかもしれないとの危機感のもと、「ウェルビーイング(充実度)」という切り口から、しなやかで永続する組織やチームの共通項を、長年にわたるギャラップの調査を基に導き出したものです。

 第1章では、「想像しうる最高の生活」とは何かを考察し、ギャラップの調査から、エンゲージできる「よい仕事」に就くことが、生き生きした暮らしを送る、まさしくその基盤になることが判明したとしています。そして、ウェルビーイングに欠かせない5つの要素を挙げています。、

 第2章では、第1章で述べた5つのウェルビーイングについて、それぞれ解説しています。その5つとは、①キャリア・ウェルビーイング(日々していることが好き)、②人間関係ウェルビーイング(人生を豊かにする友がいる)、③経済的ウェルビーイング(上手にお金を管理する)、④身体的ウェルビーイング(やり遂げるエネルギーがある)、⑤コミュニティ・ウェルビーイング(住んでいるところが好き)になりますが、この中でキャリア・ウェルビーイングが最も重要であり、他の4つの基盤となるとしています。

 第3章では、生き生きした組織文化を生み出そうとするに際して、社内外にありがちな4つのリスクを挙げています。それは、①従業員のメンタルヘルス、②明確さと目的の欠如、③指針やプログラム、特典への過度の依存、④スキルの浅いマネジャーの4つであるとして、それらへの対処法を述べています。さらに、ウェルビーイングとレジリエンスの高い文化は、危機の時も優れたパフォーマンスを上げるとしてレジリエンスの重要性を説くとともに、危機においてフォロワーが必要としているのは、希望、安心感、信頼、思いやりであるとしています。

 第4章では、キャリアのエンゲージメントからウェルビーイングは始まるとし、ウェルビーイングの実践法を身につけるための今すぐ使えるシンプルな洞察方法として、自らの①期待値、②強み、③能力開発、④意見、⑤ミッションや目的の5つのエンゲージメント項目を見つめ直すことを説いています。また、マネジャーはこのエンゲージメント項目に沿って、従業員が何を必要としているかを考えた上で彼らに接し、彼らにとって仕事を意味あるものにする役割を担うとして、その具体的方法を示しています。

 第5章では、ウェルビーイングを高めるにはどうすればよいかを考察し、従業員の強みを特定できれば、それを活かして職場のウェルビーイングを高めることができ、それは直ちにレジリエンスとメンタルヘルスの向上にもつながるとしています。

 巻末に付録として、①5つのウェルビーイング要素に関する強みの洞察とアクション項目、②マネジャー・リソース・ガイド――ウェルビーイングの5つの要素、③テクニカルレポート――ギャラップのウェルビーイング5つの要素の研究と開発、④従業員エンゲージメントと組織的成果の関係、といったメソッド集や調査の概要が付されています。

 このようにギャラップの調査がベースになっているということもあり、何か突飛なことが書かれているわけではないですが、ウェルビーイングというやや一般には漠然とした概念をわかりやすく整理・要素分解し、キャリア・ウェルビーイングこそが最も重要であると結論づけている点が、主張が明確だったように思います。

 同著者の前著『ザ・マネジャー―人の力を最大化する組織をつくる ボスからコーチへ』(2022年/日本経済新聞出版)では、社員の熱意とやる気を高めるためにマネジャーは何をすべきかということを説いていましたが、本書も、部下コミュケーションやリーダーシップについて述べた本として読めます。前著同様に、テーマごとにポイントが整理されていて、意識の面、実践の面から改めて振り返ってみるのにいい本であると思います。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3442】 フランシス・フライ/アン・モリス 『世界最高のリーダーシップ
「●マネジメント」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ユベール・ジョリー)

人的資本時代のリーダー論。組織のパーパスと社員のパーパスを結びつけるという点で啓発的。

the heart of business ハート オブ ビジネス.jpg
THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ』['22年]『The Heart of Business: Leadership Principles for the Next Era of Capitalism』['00年]ユベール・ジョリーユベール・ジョリー.jpg
ベスト・バイ(Best Buy)米ミネソタ州ミネアポリスに本社を置く世界最大の家電量販店
ベスト・バイ.jpg 「人」を大事にする、「パーパス」を大切にするといったことは最近よく聞かれますが、「パーパス経営」と言われても今一つ漠たるイメージしかなかったりすることも多いかと思います。本書は、マッキンゼーのコンサルタント出身で数々の企業の再生を行なってきた元ベスト・バイのCEOが、企業経営がどん底の中、リストラでも事業縮小でもインセンティブでもなく、目の前の人とパーパスでつながることを選んで会社を立て直した自身の実体験をもとに、これからの時代のリーダーシップについて述べたものです。本書では、パーパスを明らかにし、人々の深いつながりとパーパスを基軸に経営することが、ビジネスの核心(ハート・オブ・ビジネス)だと述べています。

働く意味.jpg 第1部(第1章~第3章)では、人にとっての仕事の意味について考察しています。仕事は生きる意味の探究の一部であり、「人間らしく生きるのに欠かせないもの」「自分の生きる意味を探すための鍵」「人生に充実感を見いだす手段」だと捉えることで、経営者と従業員の関係がよくなり、ビジョンを達成できるようになるとしています。また、自分のパーパスを探るには、
  ① 愛していること、
  ② 得意なこと、
  ③ 世界が必要としていること、
  ④ お金を得られること
の4つの要素が重なるところに自分のパーパスがあるとしています。

 第2部(第4章~第7章)では、企業は利益ばかりに目を向けていると、顧客や従業員を敵に回すことになり、企業におけるパーパス(その企業が存在する意義)と人を重視すべきであって、「ノーブル・パーパス(大いなる存在意義)」を会社の戦略の要とし、それに沿った経営慣行を作るべきであるとしています。そして、どんなときも人から始め人が最後になるとし、人のエネルギーを生むにはどうすればよいかを説いています。

 第3部(第8章~第13章)では、時代遅れとなった「アメとムチ」による経営手法に代わるアプローチの鍵となるものを「ヒューマン・マジック(人に備わる魔法のような力)」と呼び、経営者が以下の5つの要素を意識し従業員への接し方を変えることで、彼らの働き方が変わるとしています。
  ① 個人の夢と会社のパーパスを結びつける
  ② 人と人とのつながりを育む
  ③ 自律性を育む
  ④ マスタリー(熟達)を追究する
  ⑤ 追い風に乗る(成長できる環境を作る)

 第4部(第14章~第15章)では、パーパスフルなリーダーになるために大切なことを挙げ、パーパスフル・リーダーの5つの「あり方」として、以下を挙げています。
  ① 自分と周囲の人々のパーパスを理解し、それらと企業のパーパスの結びつきを明確にする
  ② リーダーとしての役割を明確にする
  ③ 誰に仕えているかを明確にする
  ④ 価値観を原動力にする
  ⑤ 偽りのない自分になる

 本書は、経営者自らがパーパスについて語った最初の本であるとのことです。個人的には、一人ひとりにとってのパーパスというものを、企業にとってのノーブル・パーパスに敷衍している点が興味深かったです。個々にものすごく目新しいことが書いてあるわけではありませんが、リーダーは完璧である必要はなく、リーダーにとって重要なのは自分らしくあることであり、また、最善を求めて努力し続け、周りの人とコミュケーションをとり、組織のパーパスと社員のパーパスを結びつけ、彼らがのびのびと働ける環境づくりをすることこそが求められるということを、改めて教唆してくれる本でした。

世界の家電量販店業界.jpg

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3432】 ユベール・ジョリー/キャロライン・ランバート 『THE HEART OF BUSINESS

人的資本時代のリーダー論。啓発的でありながらも、どことなくもやっとした印象も。

人的資本の活かしかた1.jpg人的資本の活かしかた2022.jpg
人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書 単行本』['22年]

 本書では、日本にアップルやアマゾンがような企業が生まれないのは、かつて製造業を世界一に押し上げた日本的な組織のあり方からなかなか脱却できず、人的資本への投資が進んでいないからであるとしています。日本企業の持つ資産の多くは、設備や建物、現金などの有形資産に偏っており、今、日本の企業も「人的資本経営」へと大きく変革する必要があるとしています。本書は、これから企業にとって「人的資本経営」は避けられない課題になるとし、ではその「人的資本経営」とは何なのか、 今までのマネジメントとどう異なるのか、これからのリーダーにはどのような能力が求められるのかを解説しています。

 第1章で、「人的資本経営」とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方であると定義し、今、人的資本経営が注目される理由は3つあり、1つは社会からの要請、1つは企業の戦略的必要性、1つは価値観の変化であるとしています。

 第2章では、人的資本時代における管理職を「チーム経営責任者(TMO=Team Management Officer)」と定義し、チーム経営責任者に求められる能力として、①キャリア支援力、②強み発見力、③仕事アサイン力、④チームビルディング力、⑤人材獲得力、⑥オンボーディング力、⑦全体俯瞰力の7つを挙げ、以下、第3章から第9章までの各章でそれぞれについて解説しています。

 まず、第3章と第4章では、人的資本を伸ばす能力としての「キャリア支援力」と「強み発見力」について述べています。「キャリア支援力」は、ポジションを重視した組織内キャリアではなく、人的資本に注目した個人のキャリアを支援するものであり、「強み発見力」は、自分のコピーをつくる育成ではなく、それぞれのメンバーの強みを引き出す能力であるとしています。

 第5章と第6章では、人的資本を活躍させる能力としての「仕事アサイン力」と「チームビルディング力」について解説しています。「仕事アサイン力」は、メンバーに対して画一的に関わるのではなく、それぞれの強みにフォーカスした個別アプローチがベースになるとし、「チームビルディング力」は、かつてのような上意下達ではなく、メンバーの力がスムーズに発揮できるフラットなチームづくりのために必要であるとしています。

 第7章と第8章では、チームに人的資本を投入する能力としての「人材獲得力」と「オンボーディング力」について述べています。「人材獲得力」の前提にあるのは、人材は受け身的に与えられるものではなく、管理職が自分から獲得していくものであるという考え方であるとし、「オンボーディング力」は、新しく受け入れたメンバーをチームに当てはめるのではなく、新しいメンバーの強みを活かして新たなチームを作っていくということが基本となるとしています。

 さらに、第9章で、チームの人的資本と経営戦略をつなぐ能力としての「全体俯瞰力」について、近視眼的に自分のチームだけを見るのではなく、経営戦略との連携を重視するということであるとしています。そして最後に、第10章で、人的資本経営にありがちな「5つの罠」を挙げ、罠に陥らないために人事部門や経営者が行うべきことを説いています。

 人的資本は、人的資本情報の「開示」という面で注目を集めていますが、将来的に企業価値向上につなげるという意味では、実際のアクション部分である人的資本の「最大化」を行うことが、組織を強くする上で大事であり、その中核を担うのが中間管理職であるという本書の趣旨は、その通りであると思います。

 「組織を変えるリーダーの教科書」とサブタイトルにあるように、人的資本時代における「チーム経営責任者」としての管理職やリーダーに求められる能力とそれを発揮するためのスキルが、よくまとめられていると思いました。

 一方で、啓発的な内容でありながらも、どことなくもやっとした印象にとどまる面もあり、読みやすい本ですが、書かれていることを実践しようとしたら、何度か読み返しが必要な本でもあるように思いました。

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3469】 佐宗 邦威 『理念経営2.0
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ 「●組織論」の インデックッスへ 

ギャラップ調査に基づくマネジャー論。優れたマネジャーは「優れたコーチ」であると。

『ザ・マネジャー』.jpg『ザ・マネジャー』2022.jpg 『ザ・マネジャー』原著.jpg  さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 最新版.jpg
ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる ボスからコーチへ』['22年]『It's the Manager: Moving From Boss to Coach』['19年]ジム・クリフトン/ギャラップ 『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 最新版 ストレングス・ファインダー2.0

 本書は、ベストセラーシリーズ『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』の著者ジム・クリフトンらが、数十年にわたるギャラップの調査をもとに、「人の力を最大化する組織」をつくるための問題解決の糸口となる突破口を、50項目以上(全52章)にわたり解説したものです。それぞれをテーマごとに5つの部に分けて取り上げ、従業員エンゲージメントを高めるための方法や、従業員の「才能」を開花させる方法、そのためにマネジャーがとるべき会話やアクションなどを詳説しています。

 第Ⅰ部「戦略を立てる」(第1章~第5章)では、職場で求められているものが「給料」→「目的」、「満足度」→「成長」、「ボス」→「コーチ」、「年次評価」→「継続的な会話」と変化してきているとした上で、リーダーに欠かせない特性について述べています。

 第Ⅱ部「組織文化をつくる」(第6章~第8章)では、なぜ組織文化が重要であるのか、また、それを変革するには何が必要かを述べています。

 第Ⅲ部「採用のためのブランドを確立する」(第9章~第19章)では、新世代の労働力を惹きつけ、スター社員を採用するにはどうすればよいか説くとともに、新入社員のキャリアを方向づける「オンボーディング(入社後施策)」プログラムや、能力開発への近道となる「強みに基づく会話」、成功するために必要な「7つの期待値―コンピテンシー2.0」を紹介しています。また、「サクセッションプラン(後継者育成計画)」を科学的に行うための4つのステップや、成功する退職とはどのようなものかについても述べています。

 第Ⅳ部「ボスからコーチへ」(第20章~第31章)では、コーチングを成功させるための「3つの条件」と「5つの会話」を紹介するとともに、給与や昇進の正しい在り方、レーティング(評価)における「バイアスの罠」とその補正方法、従業員の定着を高めるキャリアアップの3要素、チームを成功に導く12の要素などを列挙しています。また、なぜ従業員は仕事に対して「エンゲージしていない」のか考察し、「能力開発を重視する組織文化」をつくるのに必要な4つの要素や、優れたマネジャーが持つ5つの特性を挙げ、どのようにしてマネジャーを育てるかを論じています。

 第Ⅴ部「これからの働き方」(第32章~第52章)では、ダイバーシティ&インクルージョンの3要件や働く女性が直面する3つの課題について述べるとともに、年配社員の活かし方、福利厚生、フレックスタイム、イノベーション、アジャイル、ギグワーカー、AIテクノロジーなどについて論じ、最後に、ビジネスの成果には「人間の本質」が果たす役割が大きく、マネジャーこそが成功のカギであるとして、本書を締めくくっています。

 巻末に100ページ以上に及ぶ調査資料が付されているように、ギャラップの調査がベースになっているということもあり、何か突飛なことが書かれているわけではないですが、幅広く、かつオーソドックスな内容であるように思いました。

 それでいて、時代の変化に沿った内容にもなっていて、その中で特に強調されていたのは、「ボスからコーチへ」ということ、つまり、優れたマネジャーとは「優れたコーチ」であるということではなかったかと思います。

 テーマごとにポイントが整理されていて、社員の熱意とやる気を高めるためにマネジャーは何をすべきかということを、意識の面、実践の面から改めて振り返ってみるのにいい本であると思います。

《読書MEMO》
●オンボーディングのための5つの質問(第13章)
1「皆が信じているものは何か」
2「私の強みは何か」
3「私の役割は何か」
4「私のパートナーは誰か」
5「ここでの自分の未来はどうなるか」
●7つの期待値―コンピテンシー2.0(第17章)
・人間関係を築く
・人を育てる
・変化を導く
・人に意欲を吹き込む
・批判的に考える
・明確なコミュニケーションをとる
・アカウンタビリティを生み出す
●サクセッションプランを科学的に行うための4つのステップ(第18章)
1 客観的なパフォーマンス評価から始める
2 カギとなる成功体験を分析する
3 生来の傾向を活かす
4 個別にリーダーシップ開発を設計する
●退職を成功させる(第19章)
 1 授業員は「自分の話を聞いてもらえた」と感じている
 2 従業員は自分の貢献に誇りを感じて退職する
 3 退職者をブランド大使にする
●コーチングの3つの条件(第20章)
1 期待値を設定する
2 継続的なコーチングを行う
3 アカウンタビリティを生み出す
●パフォーマンスを向上させる5つの会話(第21章)
1 職務の明確化と人間関係の構築
2 クイックコネクト
3 チェックイン
4 育成型コーチング
5 進捗レビュー
●従業員の定着率を高めるキャリアアップの3要素(第25章)
1 変化をもたらす機会
2 成功
3 希望するキャリアとの適合性
●「能力開発を重視する組織文化」をつくるのに必要な4点(第29章)
1 CEOや取締役会が取り組みを開始している
2 マネジャーに新しいマネジメント方法を教えている
3 全社的なコミュニケーションが行われている
4 マネジャーにアカンタビリティを持たせている
●優れたマネジャーが持つ5つの特性(第30章)
1 モチベーション(チームにやる気をもたらす)
2 ワークスタイル(目標を設定し、リソースを配置する)
3 イニシエーション(周囲に影響を与えて、逆境や抵抗を乗り越える)
4 コラボレーション(深い絆で結ばれた信頼できるチームをつくる)
5 思考プロセス(戦略や意思決定のために分析的アプローチ)
●ダイバーシティ&インクルージョンの3要件(第33章)
 ・「私に敬意を払って」
 ・「私の強みを大事にして」
 ・「リーダーは正しいことをする」
●働く女性が直面する3つの課題(第37章)
 ・職場での不当な扱い
 ・賃金格差
 ・ワークライフの柔軟性

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【132】 米倉 誠一郎 『脱カリスマ時代のリーダー論

「できる」上司が「できない」部下をつくってしまう「失敗おぜん立て症候群」を指摘。

よい上司ほど部下をダメにするド.jpgよい上司ほど部下をダメにする.jpg  ジャン=フランソワ・マンゾーニ.jpg ジャン=フランソワ・マンゾーニ(2017年よりIMD学長)
よい上司ほど部下をダメにする』〔'05年〕

 スイスのローザンヌに拠点を置く世界トップクラスのビジネススクールIMDの教授らによる本書の英題は"The Set-Up-To-Fail Syndrome"で、本文では「失敗おぜん立て症候群」と訳されていますが、この方がタイトルの「よい上司ほど部下をダメにする」よりも内容を分かりやすく端的に表しているかと思います。本書は個人的には18年前に読んだものの再読・再整理になります。

 第1章では、上司は知らず知らずのうちに一部の部下に「できないヤツ」というレッテルを貼り、その部下の失敗を導く仕組みを作り出していることがあるとし、この現象を著者らは「失敗おぜん立て症候群」と呼んでいます。第2章では、部下の成績が悪いとき、上司は「自分たちの努力にもかかわらず」そうなっていると考えるが、実際には「上司の努力ゆえに」部下の成績が悪いというケースが多いとしています。

 第3章では、部下が「できない」のは上司のせいであり、そのことに多くの上司が気づいていないとしています。上司には、「できない部下」に対してどこかで「できないままでいて欲しい」という願望があり、自分が下してきた評価を今さら変えたくないので、「できない」部下がたまに「できた」行動を取っても認めようとせず、「できない」部下が「できない」行動を取ることで予想と一致してその考えは確信に変わり、ますます自分に責任があるとは思わなくなる悪循環になるとしています。

 第4章では、上司は「できる部下」と「できない部下」とでは異なる見方をしてしまい、こうした色メガネで部下を見ることが、「失敗おぜん立て症候群」をさらに悪化させるとしています。第5章では、部下の側からも上司にレッテルを貼ることで上司をダメにしてしまうことがあることを解説しています。第6章では、以上のことから、上司と部下がいっしょになって生み出している巨大なコストの中身を検証しています。

 第7章では、症候群の具体的な治療法を提示し、上司が症候群を理解するには、まず自分の考え方を変える必要があることを説いています。第8章では、「できない部下」とうまく付き合うための枠組みを紹介し、第9章では、症候群の「予防法」を考えています。第10章では、予防につながる行動を取りやすくするには、上司自身が変わらなければならないと論じています。

 「できない部下」をそのままにしておくことは、これからの人材難の時代に業務効率に多大のマイナスを及ぼすに違いないと思います。本書で示されている解決の方法は、やはり部下とのコミュニケーションを密にするということです。事例が数多くとり上げられているので、過去の経験を想起しつつ、自分に言い聞かせるように熟読すれば、上司にとっての自己変革(自省)効果は大きいと思います。それにしても、上司とは色メガネで部下を見てしまいがちなものであるということは、日本も海外も同じなんだなあ。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2226】 ベルリッツ・ジャパン 『グローバル人材の新しい教科書

リーダーシップとワーク・ライフ・バランスを統合させた「トータル・リーダーシップ」。

トータル・リーダーシップ.jpgトータル・リーダーシップ.jpg スチュワート・フリードマン(Stewart Friedman).jpg スチュワート・フリードマン(Stewart Friedman)
トータル・リーダーシップ 世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」』['13年]

Work and Life The Four-Way View.jpg 著者は、リーダーシップ開発とワーク・ライフ・バランスに関する第一人者であり、本書はそうした著者が唱えるところの、リーダーシップとワーク・ライフ・バランスを統合させた「トータル・リーダーシップ」の強化ステップやその内容等について、著者がペンシルバニア大学で実際に行っている講義に沿ってテキスト化したものです。個人的には、10年前に読んだものの再読・再整理になります(翻訳者の塩崎彰久氏は弁護士で、父は塩崎恭久元厚生労働大臣。2021年10月衆議院議員総選挙にて初当選して自身も国会議員となり、2023年9月、岸田改造内閣で厚生労働大臣政務官に就任している)。

 第1章「トータル・リーダーシップへの旅」では、「トータル・リーダーシップ」とは、「リーダーシップ」と「ワーク・ライフ・バランス」というこれまで直接関連しないと考えられてきた概念を融合する新たな概念であり、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の四つの領域に調和をもたらすことで、リーダーシップにも磨きをかけるものであるとしています。「トータル・リーダーシップ」の目的は、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の四つの領域における「四面勝利」であり、一般にはレード・オフと思われがちなこれら四領域が実は相互連関しているとの新発見から、新たな人生は始まるとして、以下、そのためのエクササイズを紹介しています。

 よきリーダーは自らの価値観に沿った明確なビジョンを持つとし、第2章、第3章では、ビジョンを描くために、何が最も大事なのかを見極めていくエクササイズになっています。第4章、第5章では、自分のビジョンにまわりの人を巻き込んでいく前提として、自分にとって誰が本当に大切なのかを探っていきます。第6章、第7章では、創造力を発揮して、人生の四つの領域のすべてに成果を上げるための「実験」を計画し、実行に移していくことになります。そして最後には、実験がパフォーマンスにどう影響したかを分析して、うまくいった理由、いかなかった理由を挙げ、そこから卓越したリーダーとしての人生を送るための知見を得るところとなります。

 第2章「あなたにとって本当に大切なものは何ですか」では、まず、自分はどんな人間か、どういう人間になりたいのかを問い直し、どんなリーダーになりたいか、自身の中核的な価値観は何かを見つめ直すことを説いています。

Wharton, Total Leadership.jpg 第3章「4つの領域を定義する」では、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の四つの領域の自分にとっての関心度をチャート化し、さらにそれらが調和しているかを四つの円で表してみることで、人生の四の領域を調和させるために、自分に何ができるかを考えてみることを推奨しています。

 第4章「人生の大事なステークスホルダーは誰ですか」では、自分にとってカギとなるステークスホルダーを特定すること、そのステークスホルダーは自分に何を求め、自分はステークスホルダーに何を期待しているかを考えてみることを勧めています。

 第5章「大事なステークスホルダーと心から繋がるためには」では、ステークスホルダーとの関係を掘り下げるためにダイアログ(対話)について解説し、相手の視点に立って新たな可能性を見つけるにはどうすればよいか、ステークスホルダーの気持ちを探るにはどうすればよいかを説いています。

 第6章「ビジョンに近づく「実験」を計画してみよう」では、自分を頼りにしている人々の期待にうまく応えられる人間になるために、知恵を絞った「実験」を計画・実行してみようとして、実験のアイデアの生み出し方やプランの立て方についてアドバイスしています。

 第7章「ステークスホルダーと力を合わせてビジョンを実現しよう」では、前進への決意をさらに固めるためのアドバイスとして、行動を開始すること、利他に貢献すること、現在の人的ネットワークの隙間を見つけてそれを広げ、身近な人々の輪を超えて変化を起こすことを説いています。

 第8章「「リーダーシップの終わらぬ旅」では、実験の結果やステークスホルダーの期待を振り返り、さらには「四面勝利」の視点を振り返ることで、自分にとって何が大事なのか、第3章の関心度チャートと四つの円を新たに書き直してみることを勧めています。そして、ここまでのエクササイズを通して、リーダーシップの教訓をどう導き出すか、学習者・指導者として成長するための次のステップは何かを説いています。

 仕事、家庭、コミュニティ、自分自身で各「円」を描かせて、その大きさや重なり具合から、その人の人生における比重の置き方や価値観の一致度をみるやりかたは興味深いです。これは、キャリアカウンセリングなどでは以前から用いられている手法ではないかと思いますが、それをリーダーシップ理論にまとめあげているところが画期的と言えるでしょう。

 因みに、翻訳者の塩崎彰久氏は元厚生労働大臣・塩崎恭久氏の長男。本書刊行時点で長島・大野・常松法律事務所パートナー・弁護士でしたが、2021年10月31日の第49回衆議院議員総選挙にて初当選し、現在衆議院議員です。

「●キャリア行動」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3340】 前川 孝雄 『50歳からの逆転キャリア戦略
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(シェリル・サンドバーグ)

女性のためのキャリア指南書。男性が読んでも啓発される要素は多い。

LEAN IN(リーン・イン)」.pngLEAN IN(リーン・イン)2018年文庫.png
LEAN IN: 女性、仕事、リーダーへの意欲』['18年/日経ビジネス人文庫]

 本書の著者は、財務省で首席補佐官、グーグルでオペレーション担当副社長を歴任した後、現在はフェイスブックのCOO(最高執行責任者)の地位にある人です。こうした著者の華々しい経歴から、本書は、スーパーウーマンが自らの成功体験をもとに、常人には真似できないようなことを書いた自己啓発書かと思われがちですが、実際に読むと、著者自身、自らのキャリアが恵まれたものであることを認めつつも、現在の地位にたどりつくまでにさまざまな苦労や葛藤があったことが、実に赤裸々に、時にユーモアを交え描かれています(本書は2013年刊行の単行本の文庫化で、個人的には再読になる)。

 まず、アメリカ社会において女性が仕事をしていくことがいかに困難かを、社会の仕組みだけでなく、働く女性の心理面からも分析し、女性はもっと「怖がらなければできること」をやるべきであり(第1章)、男性に自分の意見を無視されようとも、まず「同じテーブルにつく」ことが大事だと。「できる女性は嫌われる」という風潮はまだ根強くあるが(第3章)、そうした中で、アドバイスとして、キャリアを梯子ではなくジャングルジムにように考えること(第4章)、良きメンターを見つけること(第5章)、建前でなく本音でコミュニケーションすること(第6章)、どうしても辞めなければならないときまで会社を辞めないこと(第7章)、男性パートナーがもっと家庭のことに積極的に参加するよう仕向けること(第8章)、完全無欠のスーパーママ神話を捨てること(第9章)を挙げています。また、より平等な環境をつくるために皆が声をあげること(第10章)女性同士が力を合わせること(第11章)を提唱し、「対話を続けよう」として本書を締めくくっています。

 著者によれば、男女差別はアメリカ社会の中にも隅々まで根付いていて、優秀な女性たちは、自分たちの優秀さについて一種の罪悪感を抱いており(著者自身、ハーバード大学で最優秀学生の1人に選ばれた際に、「優秀な女は嫌われる」という思い込みから、周囲にはそのことを隠していたという)、女性たちはまず、この内なる敵と闘わなければならないのとしています。

 その上で、「キャリアは梯子ではなくジャングルジム」「笑っていれば気分が明るくなる」「ロケットの座席をオファーされたらまず座ってみる」「正直なリーダーになる」「完璧を目指すよりもとにかくやり遂げること」という「5つのマインドチェンジ」を提唱しています。

 女性がキャリアで成功する上での障害と、それを取り除くためにどうすればよいかということについて多くのページを割いていて、報酬の交渉をする際のポイント、夫を協力的なパートナーにするためのコツや、子供が生まれるまさにその時まで仕事を辞めてはいけないというアドバイスなど、いずれも具体的かつ有用なものばかりです。

 単に声高に女性の権利を主張するのではなく、本当に必要なのは相互理解であり、女性は女性で、まず出来ること、やるべきことをやりましょう、と言っているように思えました。その上で著者は、「いまこそ私は、誇りをもって、自分をフェミニストと呼ぼう」と宣言しています。結婚や出産といったライフイベントを機に、キャリアを諦めてしまう女性が多いのは日本も同じであるという、データに基づいた指摘もあり、アメリカ国内だけでなく、世界の女性に呼びかけているところに、メッセージ性、発信力のスケールの大きさを感じます。

 著者は本書を自分の領域でトップに就く可能性を高めたい、全力でゴールを目指したい、そう考えている女性に向けて書いたそうです。女性のためのキャリアの指南書として読めるばかりでなく、男性にとっても、一緒に働く女性のことを考える契機となる本であり、また、男女を問わず、キャリアやリーダーシップに関する示唆に富むものとなっています。更に、女性リーダーのロールモデルを増やしていくことは、今後の企業の人材活用における大きな課題になっていくことは間違いなく、人事パーソンの視点からみても、啓発される要素を多分に含んだ本であると思います。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3431】 上林 周平 『人的資本の活かしかた

リーダーの在り方と併せ、リーダーシップ研修を行う際の気づきを促してくれる。

次世代型リーダーの基準1.jpg次世代型リーダーの基準.jpg
次世代型リーダーの基準 世界基準で「話す」「導く」「考える」 (角川新書)』['22年]

 GE(ゼネラル・エレクトリック)のリーダー育成機関「クロトンビル」でマスター・トレーナーを務めた著者が、GEの幹部研修で語られる「リーダーに求められる考え方」「リーダーシップを発揮するために必要なスキル」を紹介した本です。

 第1部「仕事の基本」では、序章で、誰もが今よりも「自分を進化」させることができるとし、第1章で、自分を「知る」ための方法を「ジョハリの窓」などを用いて紹介、第2章で、自分で「考える」とはどういうことかを述べています。第3章では、自分を「鍛える」にはどうすればよいか、そのために心掛けるべきことを説き、「学ぶことをやめたら、会社を去れ」とまで言い切っています。第4章では、自分を「変える」ステップを「守・破・離」という考え方などと併せて解説し、第5章では、自分をより高みに「導く」ためには、自分の運命を自分でコントロールすることを意識せよと述べています。

 第2部「部下の育て方」では、序章で、なぜ部下を育てなければならないのかを説き、第1章で、部下を"エンゲージ"させるにはどうすればよいか、第2章で、部下の"人生の価値観"を把握するにはどうすればよいかを、それぞれ解説しています。第3章では、GEにおいてOJD(On the Job Development)と呼ばれる仕事を通じた人材育成について、フィードバックやコーチングの在り方と併せてそのポイントを紹介しています。第4章では、部下の基本能力をアップデートし、単なる「権限移譲」を超えた「エンパワーメント」をするための実践方法を説き、仮に「今日から100日で部下を育てよ」と言われたら何から着手すべきかを述べています。

 第3部「プレゼンの基本」では、序章で、なぜGEにおけるプレゼンが簡潔であることを旨としているのか解説しています。第1章で、優れた人は事前に「聞き手を知ろう」として情報を集めて整理するとし、第2章では、なぜ「構造がシンプル」な話は効果的なのか、プレゼンの全体構造の在り方について述べています。第3章では、なぜ簡潔な資料が「人を動かす」のか、第4章では、なぜ短く「15秒で話す」と記憶に残るのか、聞き手にとって印象的なプレゼンにするための技法を紹介し、第5章では、質問・反論は「歓迎すべき」ものであるとしてその理由を述べています。

 著者の前著『世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられている仕事の基本』(2014年)、『世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられているプレゼンの基本』(2017年)、『世界基準の「部下の育て方」』(2019年)の3冊を合本・再編集したものであるため内容的には盛りだくさんです。ただし、図などの使用は最小限に抑え、ちょうど研修の場で講師が語るようなトーンで書かれていて、また、著者自身の経験に近いところで書かれていることあり、比較的読みやすかったです。

 GEでトップ15%の社員が受けられる幹部研修で語られる内容というだけあって、強い上昇志向が前提となっているように感じられます。また、GEという一企業の研修内容を紹介して「次世代型」「世界基準」と言い切る自信はスゴイいと思いました。しかしながら、ものすごく目新しいこと書かれているわけではなく、普段そこまで考えなかったり見落としがちであったりするけれども、本来は基本として押さえていくべきことが多く書かれていると思いました。

 自分の価値観を知る人は成長が早く、ではそれをどうやって知るかといったマインドセット的なことことから、プレゼンの後「ご質問はありませんか?」ではなく「ご質問をお願いします」と言うのがよいといったテクニカルなことまで、まさに「考え方」から「スキル」まで幅広くかつ体系的に網羅されていて、人事パーソンにとっては、リーダーの在り方を考える上でもそうですが、リーダーシップ研修を行う際のさまざまな気づきを促してくれる本でもあるかと思います。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【717】 天外 伺朗 『マネジメント革命

指図や命令なしに人を動かす力こそが本物のリーダーシップ。その鍛え上げ方を説く。

あなたがリーダーに生まれ変わるとき.jpgあなたがリーダーに生まれ変わるとき2006.jpg developing the leader within you.jpg ジョン・C・マクスウェル2.jpg ジョン・C・マクスウェル 『あなたがリーダーに生まれ変わるとき―リーダーシップの潜在能力を開発する』 〔'06年〕『Developing the Leader within you

 あとがきによると、著者は、アメリカでリーダーシップと言えば、知らない人がいないほどの権威であり、さらに、Wikipediaによれば、2014年に、「Inc.」誌による世界のリーダーシップ、経営の専門家のランキングで第1位となったそうです(二十数年にわたり教会の主任牧師を務めた経験も持つ)。そうした著者の古典的名著とされる本書(原題:Developing the Leader Within You, 1993 (Repackaged 2001))は、指図や命令なしに人を動かす力こそが本物のリーダーシップであるとし、誰もが持っている本物のリーダーになるための資質を鍛え上げるにはどうすればよいかを説いた本です。

 第1章では、リーダーシップとは影響力のことであり、それは身につけられるものだとしています。さらに、リーダーシップには、低次から高次にかけて、①地位、②相互理解、③成果、④人材育成、⑤人間性の5つのレベルがあるとしています。

 第2章では、リーダーシップ発揮のカギは、ものごとの優先順位を見きわめることであるとし、パレートの法則(80:20の法則)を紹介するとともに、その優先順位に見られるいくつかの法則を解説しています。

 第3章では、リーダーシップの最も重要な構成要素は誠実さであるとし、誠実さが信頼感を育てること、誠実さは大きな影響力があることなど、誠実さが重要な理由を7つ挙げています。

 第4章では、リーダーシップの究極の試練は、徹底した変革を生み出せるかどうかであり、なぜ人は変化に抵抗するのか、変化を起こす前にチェックすべきことは何か、変化に向かう空気をつくり出すにはそうすればよいかを説いています。

 第5章では、リーダーシップを手に入れる最速の方法は、みなが抱えている問題を解決することであり、優れたリーダーは先回りして問題を認識する能力を有し、立ち向かっている問題の大きさを評価でき、正しい心構えのもと、しっかりした行動計画を立て、問題解決へのプロセスを過たないとしています。

 第6章では、リーダーシップにとりわけ大切なものはその心構えであり、リーダーの心構えが部下の心構えをも左右するとして、自分の心構えを変えるにはどのようなステップを踏めばよいか解説しています。

 第7章では、周りの人たちまでをリーダーに育て上げるだけの影響力があるリーダーには限界がないとし、人材育成の成功のカギをとして、①人について適切な仮説を立てる、②人について適切な質問をぶつける、③人に対して適切な支援をする、の3つを挙げています。

 第8章では、リーダーシップになくてはならない資質として、ビジョンを挙げています。そして、ビジョンを企業に根づかせるには、①認知(現実的な目で現状をみつめる)、②先見性(洞察力のある目でこらから先のことを見通す)、③可能性(ビジョンのある目で起こりそうなことを見通す)の3つのレベルがあるとしています。

 第9章では、本物のリーダーはみな、自分自身を律して初めて、周りの人たちを動かせることを知っているとして、リーダーにとっての自己規律の重要性を説くとともに、自分の生活にめりはりをつけるために実践すべき10のこと、誠実さを育むために意識すべき5つにことを挙げています。

 第10章では、リーダーシップの最も重要な課題はスタッフの育成であるとしています。常勝チームには本物のリーダーがいて、財務・人事・計画立案の三大分野をコントロールし、優秀な人材を選抜し、メンバーの実力を向上させているとしています。

 極めてオーソドックスなことが書かれており、「リーダーシップ」について俯瞰するのに適切な本です。本書によれば、最も内向的な人でも一生の間に1万人の人たちに影響を与えるという社会学者の説があるとのこと。そして本書では、リーダーシップとは影響力のことであると言っているわけです。他の人に影響を与える可能性のある人間としての心構えを持ち、自分のリーダーシップの潜在能力を開発することは、充実した人生を送るためには、誰にとっても必要なことかもしれないと、改めて思わされる内容でした。

多くの事例を引いていますが、それで終わらせず、その都度、ポイントを3つや5つ、或いは10程度にとまとめているのが分かりやすいです。以前に著者の『伸びる会社には必ず理想のリーダーがいる』('11年/辰巳出版)を読みましたが、著者のこれまでの著作から著者自身がエッセイを130篇抜粋して、26週間の月曜から金曜まで毎週5日、それぞれ1日1頁に収まるような形で割り振ったもので、本来ならば、26週間かけてじっくり内省を深めながら読むべきなのだろうけれど、これを一気に読んでしまったので、何だか"お腹一杯"であまり頭に残らなかった感じでした。こっちを先に読んでおけば、先に「体系」が理解出来てよかったかもしれないと思った次第です。

《読書MEMO》
●【目次】
はじめに
第1章 リーダーシップとは影響力のこと
第2章 リーダーシップ発揮のカギ 優先順位の見きわめ
第3章 リーダーシップの最も重要な構成要素 誠実さ
第4章 リーダーシップ究極のテスト 徹底した変革を生み出せるか
第5章 リーダーシップを手に入れる最速の方法 問題の解決
第6章 リーダーシップにとりわけ大切なもの 心構え
第7章 最も大切な資産を育てる 人材の育成
第8章 リーダーシップになくてはならない資質 ビジョン
第9章 リーダーシップにつける価格 自己規律
第10章 リーダーシップの最も重要な課題 スタッフの育成
エピローグ
訳者あとがき
●リーダーシップの5つのレベル(第1章)
・第一レベル:地位
・第二レベル:相互理解
・第三レベル:成果
・第四レベル:人材育成
●優先順位の法則(第2章)
・優先順位は決して"不変不動"ではない
・どんなに重要そうに見えても、無視できないものはない
・"そこそこの出来"は"最高の出来"の敵
・すべてを手に入れることは不可能
・優先順位の高いものがあまりにも多いと、立ち往生の原因になる
・優先順位の低いものが過大な負担になると大きな問題が生まれる
・期限と緊急度が私たちに優先順位の設定を迫る
・本当に重要なものがわかったときには手遅れ、という場合が多すぎる
●誠実さはなぜ重要か、7つの理由(第3章)
①誠実さが信頼感を育てる
②誠実さには大きな影響力がある
③誠実さは志の高い規範を生み出す力となる
④誠実さが生み出すのはイメージではなく確かな評判
⑤誠実さとは人を動かす前に自分時自身が日々誠実に生きること
⑥誠実さは、リーダがただ賢くなるのではなく信頼できる人物になるための力になる
⑦誠実さは必死で身につけるもの
●心構えを変えるための6段階(第6章)
①問題のある感情を見きわめる
②問題のある行動を見きわめる
③問題のある考えからを見きわめる
④真っ当な考えを見きわめる
⑤組織全体が真っ当な考えにこだわるようにする
⑥真っ当な考えを実現する計画を練る
●人材育成の成功のカギをと(第7章)
①人について適切な仮説を立てる
②人について適切な質問をぶつける
③人に対して適切な支援をする
●ビジョンを企業に根づかせるには(第8章で)
①認知(現実的な目で現状をみつめる)
②先見性(洞察力のある目でこらから先のことを見通す)
③可能性(ビジョンのある目で起こりそうなことを見通す)
●自分の生活にめりはりをつける(第9章)
①自分の優先順位を定める
②自分のカレンダーに優先順位を書き込む
③予期しない案件に少しばかり時間を割く
④仕事への取り組みはひとつずつ
⑤仕事のスペースを整える
⑥自分の気質と相談しながら仕事をする
⑦通勤時間を簡単な仕事や自己啓発に活用する
⑧自分のために役立つシステムを開発する
⑨会議と会議の合間の分秒を活用するプランを常に用意する
⑩活動ではなく、成果にこだわる

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1894】 スチュワート・D・フリードマン 『トータル・リーダーシップ
○経営思想家トップ50 ランクイン(バーバラ・ケラーマン)

すぐれたリーダーの34の資質。自ら「強み」に沿った「人の動かし方」を伝授。

ストレングス・リーダーシップ.jpgストレングス・リーダーシップ2013.jpg ストレングス・リーダーシップ2.jpg
『ストレングス・リーダーシップ さあ、リーダーの才能に目覚めよう』['13年] ギャラップ著『ストレングス・リーダーシップ<新装版> さあ、リーダーの才能に目覚めよう』['22年]

 本書は、すぐれたリーダーの条件とは何か、それを34の資質に分類し、その強みを活かした「人の動かし方」を伝授しています('22年に著者らが所属した調査会社ギャラップの著作として新装版が刊行されている)。

 本文は4つの章に分かれ、それぞれ、「強みに集中する大切さ」「強みを活かしたチーム力の発揮」「人がついてくる理由」「強みを活かして人を率いる方法」を説いています。

 第1章「自分の強みに投資する」では、リーダーにとっての自らの強みに集中することの大切さを説いています。あらゆることに秀でようとすると傑出した存在にはなれず、他の素晴らしいリーダーを真似ても人はついてこないとし、取り組むべきことは「自分ならでは強みを知り、発揮すること」であるとしています。

 第2章「チームの力を最大限に活かす」では、すぐれたチームが備える4つの条件を挙げています。すぐれたチームには「実行力」「影響力」「人間関係構築力」「戦略的思考力」の4つの条件が揃っているとし、さらにそれらを34の資質に分類しています。また、強固なチームの特徴として、「結果を重視する」、「組織にとって最善のことを優先し、行動を起こす」、「チームのメンバーは、仕事と同じように私生活にも真剣にかかわる」、「多様性を受け入れる」、「才能を引きつける」の5つを挙げています。

 第3章「『なぜ人がついてくるか』を理解する」では、人がついてくる4つの理由として、「信頼」(正直さ、誠実さ、尊敬により育まれる人間関係)、「思いやり」(親密でいたわりのある、ポジティブなコミュニケーション)、「安定」(必要なときにいつでも頼れる人であること)、「希望」(組織に成長をもたらす新たな取り組みに着手していること)を挙げています。

 第4章「実践編・強みを活かして人の率いる」では、ウェブ上のテストである「ストレングス・ファインダー」の質問を受けて、先に挙げた人を率いるための34の資質のどれが自分の強みになるかを理解することを推奨するとともに、この34のリーダーの強みについて、それぞれに即した「信頼」「思いやり」「安定」「希望」の発揮の仕方はどのようなものになるかを解説してします。

 たとえば、自身が〈最上志向〉を持っているなら、それを活かしてどうリーダーシップを発揮するか、具体的には、どう信頼を築くか、どう思いやりを示すか、どう安定をもたらすか、どう希望を生み出すかを伝授しています。さらには、その強みを持つ部下やメンバーに対して、リーダーとしてどうふるまえばよいかについてもアドバイスしています。

 すぐれたリーダーは、常に自身の「強み」に投資をし、また、周囲に適切な人材を配置して、メンバーごとの強みにあわせて仕事を任せることで、チームの力を最大限に引き出しているということを説いた本です。マネジャーが自分自身の強みとは何か、メンバーの強みは何か、それらをどう活かすかを考えるのにお薦めの1冊です。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3447】 デール・カーネギー 『人を動かす

成功するリーダーの特性は、教育、学習とIdea、Value、Energy、Edge、Story。

リーダーシップ・エンジン.jpg リーダーシップ・エンジン1999.jpg
リーダーシップ・エンジン: 持続する企業成長の秘密』['99年]

 企業におけるリーダーシップを長年研究してきたビジネススクールの教授による本書は、勝ち続ける企業にはリーダーを生み出す仕組みがあるとし、成功するリーダーの特性を探究したリーダーシップ論となっています。

 第1章「リーダーが率いる組織」では、勝利する組織にはリーダーがいて、勝利するリーダーは教育を行い、また、過去を省みて、経験から貪欲に学習するとしています。さらに、リーダーには、アイデア、バリュー(価値観)、エネルギー、エッジ(大胆な意志決定力)、ストーリーが備わっているとしています。この教育、学習、アイデア、バリュー、エネルギー、エッジ、ストーリーの重要性については、後に第3章から第9章の各章でそれぞれ詳説されることになります。

 第2章「なぜリーダーが重要なのか」では、リーダーは変革のときを乗り切り、カルチャーを形成し、現実に直面して適切な対処を示し、他者も同様に行動するよう激励するとしています。

 第3章「リーダーシップおよび教育的見地」では、優れたリーダーは優れた教師であり、成功するリーダーは、教えることを第一義と捉え、あらゆる機会を逃さず学び、教えるとしています。また、リーダーとは「教育的見地」を持ち、他者をリーダーになるべく教える人のことであると述べています。

 第4章「プロローグとしての過去」では、成功するリーダーは自分の過去から教訓を得るが、誰にも役立つ過去があり、リーダーはそれを上手に活用するにすぎないとしています。また、リーダーのストーリーは、彼らの教育的見地を明らかにするとしています。

第5章「リーダーシップの神髄」では、勝利する組織は明確なアイデアの上に作られ、リーダーはアイデアを現実に即した適切なものにし、また、アイデアは、組織の全階層で行動の枠組みとなるとしています。

 第6章「価値観」では、勝利する組織にはしっかりした価値観があり、リーダーたちはその価値観を自ら実践するが、そうした価値観こそが競争力を強化する重要なツールになるとしています。

 第7章「実現する」では、勝利するリーダーは精力的な人間で、チャレンジを好み、自分の仕事を楽しむと同時に、従業員の中にエネルギーを創出し、野心に満ちた努力を促すとしています。

 第8章「エッジ」では、エッジとは、現実を直視し、それに基づいて行動する勇気であり、勝利するリーダーは決して楽な道をとらないとしています。また、エッジとは、残酷であることではなく正直であることであり、エッジがなければご都合主義が勝利を収めてしまうとも述べています。

 第9章「皆で一緒にトライする」では、リーダーにとって自身のリーダーシップ・ストーリーを描くことの重要性を説いています。勝利するリーダーは未来を展開中のドラマとして描き出し、そのダイナミックなストーリーは人々を動機づける成功へのシナリオとなるとしています。

 第10章「結び」では、これまでの総括として、勝利するリーダーシップとは未来を作ることであり、成功は他のリーダーを育成することで達成されるとしています。そして最後に、最高のリーダーは去るべきときを知っているとしています。

 本書におけるリーダーシップ・エンジンとは、組織の全階層でリーダーを生み出し続ける仕組みであり、優れたリーダーとは、わが身を削って後継者の育成を行う人々のことであるというのが本書の趣旨であるともいえます。

ジャック・ウェルチわが経営 下.jpgジャック・ウェルチわが経営.jpgジャック・ウェルチ.jpg GEのジャック・ウェルチなどがこの考え方に影響を受けており、また本書の中でもその実践者としてウェルチが登場します。そう言えば、『ジャック・ウェルチ わが経営』('01年/日本経済新聞社)の中で、A(評価)プレイヤーの4つのEとして、ウェルチは以下を挙げていました(ほぼ本書に重なる)。
 ・活力(Energy)
 ・周囲の活力を引き出す(Energize)
 ・決断力(Edge)
 ・実行力(Execute))

 後継者を育てないと自分が上に行けないという、米国流のプロモーション(昇進)の仕組みも関係しているとは思ますが、リーダーが忙しさにかまけて後継を育てないとき、そのリーダーが去ったあとの組織はどうなるだろうかということを考えてみれば、どこにでも当て嵌まる帰結であるとも言えます。

 だだ、日本の企業で、われわれの日常で、そうしたことが日々どれほど真剣に行われているか、どれだけの経営者がこの考えに沿って実践しているかを考えると、(反省も込めて)改めて啓発される本であるように思いました。

《読書MEMO》
●アイデア、バリュー(価値観)、エネルギー、エッジ、ストーリー
(1)アイデア(Idea):仕事を成功させるためのアイデアを確立せよ。アイデアは組織としての目標を明確に述べるもの。これを明示することによって組織は大きく変わる。
(2)バリュー(Value)(価値観):目的を達成するために必要な価値基準バリューを組織に浸透させよ。バリューは望ましい行動様式を規定する。いかにして目標を達するかという方法に関わる。いわば日々の判断に際しての倫理的指針。リーダーはこれを体現せよ。そして組織に浸透させよ。ジョンソン&ジョンソン社の「タイラノル事件」(鎮痛剤のビンに毒を入れられた事件)の際の見事な行動は、その直前に会社のバリューを全社的に見直したことによる。組織としてバリュー を持つだけでは不十分で人々に徹底しておく必要がある。
(3)エネルギー(Energy):部下にエネルギーを注入せよ。そもそもリーダーはエネルギッシュな人。仕事に価値を見出しているから、ほかを犠牲にしているという意識なくして仕事に勢力を注ぎ込む。かくして部下のエネルギーをかき立てよ。やる気にさせよ。方法はさまざまある。パーソナルタッチもよい。より高い目標を設定することでもよい。
(4)エッジ(Edge):リーダーは厳しい決断をせよ。エッジ とは、現実を直視する能力、今後発展の望めない分野からきっぱりと手を引く能力、組織にとってプラスでない人物を取り除く能力を意味する。いずれにせよ、個人的にはつらい厳しい決断をしなくてはならない。
(5)ストーリー(Story):以上の全ての要素を盛り込んだ生き生きとしたストーリーを語れ。物語を語れ。そうすることによって部下は全てを理解する。

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2741】 アンドリュー・S・グローブ 『HIGH OUTPUT MANAGEMENT
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ

オーソドックスかつ普遍的な内容。読み流すのではなく実践の書として読むべき本。

ベイシック・マネジャー.jpgベイシック・マネジャー1984.jpg ベイシック・マネジャー2.jpg
ベイシック・マネジャー: 部下の動きを働きに変えるリーダーシップ』['84年]

 1983年原著(Back-to-basics Management: Lost Craft of Leadership)刊行の本書の訳者はしがきによれば、80年代後半にアメリカ経済を蘇らせた、この自信と回復のポイントは、一時的な流行を追いかけることに狂奔せず、温故知新を真面目に行い、基本に立ち戻る精神の作興であり、こうしたアメリカのマネジメントを蘇生させた原点回帰運動の基本的宣言であり、実践的指南書が本書『ベイシック・マネジャー』であるとのことです。本書は、コミュニケーションを基軸としたリーダーシップの復活を熱っぽく説いて、マネジメントとして古くて新しい真理の現実的展開法と領域の第一歩を丁寧に手ほどきしたものであるとのことです。

 第1章では、ベイシック・マネジメントとは何か、ベイシック・マネジャーの特質を述べています。そして、その特質は以下のようになるとしています。
 1.自分自身を知っている。
 2.物事をやり遂げることに関してエキスパートである。
 3.時間の管理と自己管理にたけている。
 4.管理の最高の用具としてのコミュニケーションの利用価値を理解している。
 5.対人関係技術に優れている。
 6.創造的かつ革新的である。そしてグループ全体のやる気を盛り上げ、その創造的成果を活用する法を知っている。
 7.仕事を委譲して成功させる法を心得ている。
 8.影響力のある監督者になる法を知っている。

 第2章では、ベイシック・マネジメントに必要不可欠なものとして、人の話を創造的に聴く技術を挙げ、人の話を効果的に聴く能力をアップする方法や、話し手に対して注意を払ったり、相手の話の方向づけをする技術について解説し、さらに、相手への質問は控えめにすべきだとして、話し手の言い分を反映し、話し手に反応を示す技術や、反映的な聴き方以外の方法を紹介しています。

 第3章では、意思決定のしかたについて述べています。意思決定においてはまず「現地に見合った地図をつくる」ことが重要であるとし、「現地」とは何か、「地図」とは何か、判断のルールはどのようなもので、意思決定の実行はどのようになされるべきか、上司、他のマネジャー、部下に対するコミュニケーションはどうすればうまくいくかをそれぞれ解説しています。

 第4章では、変革を管理するための鍵となることについて述べています。また、マネジャー・リーダーはまず自分が変革を試みなければならないとし、変革に部下を巻き込むにはどうすればよいかを解説しています。

 第5章では、部下にやる気を起こさせるにはどうすればよいかを述べています。ここではマズローの欲求段階説を引いて欲求とモチベーションについて解説し、部下をやる気をさせる言葉や、やる気を起させるタイミング、「相手からいちばん良いものを引き出す」ためのマネジメントなどについて述べています。

 第6章では、時間をどう管理すべきかを述べています。ここでは、集中力を増すためのヒントや知識と経験の力、自己の時間管理法を高める方法について述べています。

 第7章では、権限移譲をどうマネジメントするかを述べています。権限移譲における"すべきこと""してはならないこと"は何か、権限移譲のやり方の計画や、権限移譲を成功させる要素などについて解説しています。

 第8章では、リーダーシップについて述べています。社会状況の変化に応じて、リーダーシップのあり方も変化するとして、その趨勢を分析し、これからの時代にどのようなリーダーシップが求められるかを考察しています。

 第9章では、コミュニケーションにおけるボディ・ランゲージの役割について述べ、基本的なボディ・ランゲージの数々について解説しています。

 第10章では、効果的に部下に指導するにはどうすればよいか、部下を訓練・指導する際のプロセスと障害、コミュニケーションと学習の方法などについて解説しています。

 第11章では、コミュニケーションの技術について述べています。コミュニケーションの技術に磨きをかけ、相手を言葉で説得できるようにするにはどうすればよいか、書く技術として求められるものは何か、ミーティングをもっとうまく利用するにはどうすればよいか、ディスカッションの進め方などについて述べています。

 第12章では、目標設定のマネジメントについて述べています。ここでは、目標設定の重要性を説くとともに、効果をあげる目標を立て、部下たちが従うことのできる計画を立てるこにはどうすればよいかを指南しています。

 ベイシック・マネジメントとは何か。著者らは、
・それは第一に「マネジメントを一つの手腕として掌握することである。実践とと現場で鍛え磨くアートとしてとらえることである」
・そして第二に、「人間各個人こそ、いかなる組織においても最も貴重な資産であるという人間尊重の理念をトコトンからだで認識することである」としています。

 このような発想を起点として、創造的な積極的傾聴法から意思決定へ、変化の先取りと計画変革の実現へ、動機づけのマネジメントへ、時間という貴重な資源の管理へ、権限移譲の適切な行使のしかたへと、部下コーチと教育訓練のあり方と手続きへ、コミュニケーション・スキルの向上へ、目標設定の的確な技術へと、冒頭に述べたように、マネジメントとして古くて新しい真理の現実的展開法と領域の第一歩を丁寧に手ほどきしているのが本書です。

 オーソドックスかつ普遍的な内容であり、平易でもありますが、訳者も述べているように、読み流しの書としてではなく、実践の書として読まれることで価値が増す本であると思います。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2767】バート・R・ブレーク/他 『全改訂・期待される管理者像―新・グリッド理論』

リーダーシップは学んで得られ、仕事を成就するグループにより発揮される。

not boss nut leader John Adair.jpg『最良の指導者(リーダー)とは何か。』.jpg  ジョン・アデア.jpg ジョン・アデア
最良の指導者とは何か』['89年]

Not Bosses But Leaders: How to Lead the Way to Success』['87年]

 本書は、英国のリーダーシップ論の権威が、若きマネジャーが経営者として成長する課程を通して、具体的・合理的・実践的なリーダーシップ論を展開した本です(原題:Not Bosses But Leaders: How to Lead the Way to Success)。

 第1章では、リーダーシップ研究の3つのアプローチとして、リーダーに共通する特性があるとの前提に立つ方法、リーダーは資質ではなく状況によって誰がリーダーになるのかが決まるという前提に立つ方法、グループを構成する仕事、個人、チームという3つの要素こそがリーダーシップを発揮する対象であるとの前提に立つ方法を挙げています。以下、本書は、この3番目の方法を軸とするリーダーシップモデルを展開していきます。

 第2章では、チーム作りと意思決定について、仕事、個人、チームを3つの重なり合う円とし、その相互関係を述べています。仕事を達成することで、チームがまとまり、個人も満足するが、チームが満足なものでなければ、つまり、チームが結束に欠けていれば、仕事の達成度が悪くなり、個人の満足も減少するし、また、個人の要求が満たされなければ、チームの団結力が薄れ、仕事の達成度も悪くなるとしています。

 第3章では、リーダーシップとマネジメントの概念について整理しています。リーダーは変革を好み、リーダーシップとはインスピレーションであるとしています。さらに、マネジャーは必要だが、リーダーは不可欠であるとしています。

 第4章では、リーダーの力量を判断するチェックポイントを列挙するとともに、リーダーシップとは学んで得られるものであり、そのための訓練が必要であるとしています。

 第5章では、ビジネスの成功の鍵は戦略的思考のプロセスにあり、善良さと知性と経験こそがリーダーとしての英知を生み出すとしています。また、リーダーに不可欠な要素として、相手の言うことを「聴く」ことができなければならないとしています。

 第6章では、戦略的リーダーシップの原則として、計画だけでな部下をく行動させるために必要なことは何か述べています。

 第7章では、リーダーは惜しみなく与える存在であり、部下への気配りは最も重要であるとしています。

 第8章では、リーダーシップと権力(パワー)の行使の関係について、リーダーシップとは、賢明で鋭敏な感覚をもってする権力の行使であるとしています。また、リーダーとは、同等者の中の第一人者であり、まず部下や同僚に敬意を表せとしています。

 第9章では、上からではなく内側からのリーダーシップこそ最高の指導力であるとし、また、リーダーは人々に方向感覚を与えるとしています。

最良の指導者(リーダー)とは何か。 .jpg 著者は、組織におけるリーダーシップ論とリーダーシップ開発では世界的権威として認知されていますが、その理由は、自らが作り上げた機能的リーダーシップモデルによって、古代ギリシャ時代から定説であった「リーダーシップは生まれながらに持った先天性のもの」という認識から、「リーダーシップは訓練と経験によって後天的に誰もが身に付けられるもの」という自身の主張を裏付け、これまでの常識を覆したためであるとされています。

 本書では、本書に登場する若いマネジャーが実証しているように、ほんの少しばかりよけいに考え実践することにより、誰でもリーダーシップを大きく向上しうるとしています。そして、これからの社会に必要なのはボスではなくリーダーであると言っています。

 リーダーシップは学んで得られるもので、仕事を成就するグループを通して発揮されることを説いた、読みやすく、説得力もある内容であり、人事パーソンにお薦めできる本です。

 しかし、この頃の小林薫って、『1分間マネジャー』『1分間リーダーシップ』をはじめ、いっぱい翻訳してたなあ。

《読書MEMO》
Wikipediaより抜粋
●アデアの最大の功績は、はるか昔から主流であった「リーダーシップは生まれながらの資質によるものである」というそれまでの定説であったリーダー偉人説から、「リーダーシップは後天的なものであり、訓練と経験によって誰もが身に付けることができるもの」とし、それまでの常識を覆したことにある。
●彼はリーダーシップとマネジメントを明確に区別しており、マネジメントが力学、統制、システムに根差しているのに対し、リーダーシップは人に根ざしており、その発揮する対象は仕事、チーム、個人という3つの要素が重なり合った領域に働きかけるものとした。
●彼の思想は実用的であり、働く環境に関わらずすべてのマネジャーに当てはまる。また自著についても実際に現場で働くマネジャーやリーダーのために書かれたものが多く、その内容は緻密な分析に基づき慎重に書かれている。一部のリーダーシップ論者が書くような研究や学問のための著書ではないことも彼が現場や実用性を重視していることがうかがえる。また意思決定、イノベーション、モチベーション、コミュニケーションといったリーダーシップの実務的側面についても研究対象としており、彼の考えの多くは当時の時代を先取りしたもので、現在でも広く教えられ利用されている。

●優れたリーダーとなるために必要な7つの品格
リーダーシップにおいてパーソナリティやキャラクターを切り離すことはできないように、彼が提唱するリーダーが持つべき一定の資質というものが存在する。
 1.熱意:すべきことを一生懸命にする
 2.誠実さ:信頼関係を作り出す資質。また善や真実といった外部の価値観を固守するという意味も含まれる
 3.タフネス:リーダーはしばしば人々への要求者であり、ときにその水準が高いがゆえに周囲は不満を持つ。リーダーは立ち直りが早く、また粘り強い。
 4.公明正大:リーダーはお気に入りをつくらず、成果に対しては公平に報酬と罰を与える。
 5.温かさ:リーダーシップは感情をも包含するものだ。人々のために実践し、人に気を配り思いやる心は不可欠である。
 6.謙虚さ:最上級のリーダーたちが持つ特質でもある。優れたリーダーのしるしは、進んで傾聴し、うぬぼれたエゴを排除することである。
 7.信頼:不可欠な基本的要素である。

●リーダーシップを発揮する3つの対象領域(スリーサークル)
これらの欲求に対し、彼は仕事、チーム、個人、この3つこそがリーダーシップを発揮する対象であるとする。 すなわちチームメンバーは自分のリーダーに、
 ・「職務を遂行する手助けをしてほしい」
 ・「チームワークのシナジーを生んでほしい」
 ・「個人の要求に応えてほしい」
と期待するというものである。
この理論は、比喩的に3つの重なり合う円(スリーサークル)で描かれている。 この3つの円はそれぞれ
 ・仕事(Task)
 ・チーム(Team)
 ・個人(Individual)
を示しており、グループの欲求に対して、リーダーが取るべき基本的な行動の対象を表している。
仕事は1人の力だけでは達成できない。チームは職務を全うしたい欲求を持っている。チームが成功するには、絶えずグループの結束を高め、維持することが不可欠であり、団結したい欲求が備わっている。チームは団結すれば成功し、分裂すれば失敗する。個人の要求は、物質的なもの(給料・報酬など)と精神的なもの(評価、達成感、地位、仕事上での他者との関わりなど)がある。
また「仕事」「チーム」「個人」、3つの欲求は部分的に重なり合う必要がある。
 ・仕事を達成することで、チームがまとまり、個人も満足する。
 ・チームが満足なものでなければ、つまり、チームが結束に欠けていれば、仕事の達成度が悪くなり、個人の満足も減少する。
 ・個人の要求が満たされなければ、チームの団結力が薄れ、仕事の達成度も悪くなる。

●リーダーシップを発揮する目的、リーダーの役割
仕事・チーム・個人のバランスを俯瞰的に捉え、ニーズを満たすことがリーダーシップの発揮となり、リーダーシップを発揮する目的は下記の3つとも捉えることができる。
 1.タスクや目標を達成すること
 2.チームを作り、団結を維持すること
 3.個人の能力を開発すること

●7つのリーダーシップの実践行動(7 core Functions)
3つの領域において、期待に応えるために実践する7つの機能が存在する。これらの行動を起こすことがリーダーシップを発揮することになり、リーダーに求められる核となる行動と主張する。
 1.リスクを明確にする
 2,計画する
 3.統制する
 4.支援する
 5.評価する
 6.動機づけする
 7.模範となる

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1671】 菊原 智明 『人は上司になるとバカになる

「従業員を団結させ、競争力を高める」実践的リーダー論。「社員第一主義」で貫かれている。

逆境を生き抜くリーダーシップ0.jpg逆境を生き抜くリーダーシップ.jpg
逆境を生き抜くリーダーシップ』['11年]

 本書は、80年代において鉄鋼業がマメリカ国内で構造不況に陥る中、倒産寸前の片田舎の製鉄所(ニューコア)を、全米有数の鉄鋼メーカーに押し上げ(本書刊行時点で全米第3位、2016年時点で粗鋼生産量全米第1位)、フォーチュン500社のCEO(最高経営責任者)の中で最も所得が低いと書かれたことを勲章とする著者が明かす、「従業員を団結させ、競争力を高める」実践的リーダー論です。

 第1章「『長期の』利益を全員の目標に」では、経営者は「長期の」利益を社員全員の目標としなければならないとし、そのために社員とつながる4つの原則として、以下を挙げています。
(1)経営陣は、従業員が生産性に応じた報酬をえられるように会社を経営する義務がある
(2)従業員は、職務をきちんとはたしていれば明日も仕事があると安心できなくてはならない
(3)従業員は公平に扱われる権利があり、また、当然そのように扱われると確信できなければならない
(4)従業員には、不公平な扱いを受けていると思った場合に申し立てる手段がなければならない

 第2章「意思決定は現場にまかせろ」では、経営者は自分の直感を信じるべきだが、総合的な方針以外の決定はすべて、現場の管理職と従業員に任せるべきで、従業員とつながる方法としては、①対話、②意識調査、③ミーティングの3つを効果的に行うべきであるとしています。

 第3章「社員はすべて平等だ」では、社員をすべて平等に扱うことが経営を助けるとし、また、マネジメント階層はできるだけ少なくするべきであるとしています(ニューコアには4階層しかない)。そして、情報はすべて共有すべきであるとしています。平等と自由こそがやる気を生み、企業の成功は文化で決まるとしています。

 第4章「進歩は従業員から生まれる」では、会社の功績は社員の功績であり、社員の職場環境は重要であり、責任の大部分を部下に委譲し、社員が自力で答えを見つけられるような職場環境の形勢に専念すべきだとしています。本気で社員を活かしたいなら、「経営者が企業の成功のカギを握っている」といった考えは変えるべきだとし、管理職に求められる6つの変化として、以下を挙げています。
 ①ふさわしい人材を選ぶ。
 ②管理職の時間配分を見直す。
 ③社員がみずから成長できるようにする。
 ④社員に情報を提供する
 ⑤テクノロジーへの投資は社員にまかせる。
 ⑥合併と買収は社員の視点から検討する

 第5章「やる気を生む給料とは」では、ニューコアが業界最高の給与を払える理由は、作業効率が良く、生産性が高いからで、「生産量に応じた」ボーナスがチームワークを高めているとしています。報酬体系を改善するカギは、個人の貢献よりもチームワークに報いるようにすることであり、給与体系の違いが競争力の差になるとしています。

 第6章「小さいことはいいことだ」では、「大きな本社」は無駄そのものであり、大企業にとって最善のやり方は、必要最低限の階層の数を設定して、なるべく早く構造のスリム化に取りかかることだとしています。

 第7章「リスクをとれ!」では、アイデアはすべて試させるべきで、経営者や管理職は、社員が持ってくるアイデアを受けいれるよう努め、その革新性とリスクを引き受けるべきであるとしています。賭けに出てこそ成功するのであって、攻めの姿勢を保ち、勝つことだけを考えるべきだとしています。

 第8章「『ビジネス』と『倫理』の関係」では、倫理の問題は棚上げにすべきではなく、また、ビジネス界での倫理の基準は常に変化するとしています。

 第9章「成功は『シンプル』の先に」では、シンプルこそ成功のカギであり、事業をシンプルに保てば、顧客にも正直になれるとしています。成長を促す単純な原理として、また、これまで述べてきたことのまとめとして、以下の5つを挙げています。
 ・長期的な存続を短期的な収益より重視すること。
 ・重役のふところを潤わせるのではなく、痛みを分かち合うこと。
 ・意思決定の権限を現場の労働者に与えること。
 ・管理職と従業員の差を最小限にすること。
 ・社員には生産性に応じた報酬を支払うこと。

 従業員の信頼と忠誠心を獲得するにはどうすればよいかという問題は、どこの企業でも悩むことですが、著者は、そのためのリーダーシップの在り方として、長期視点での意思決定、現場との適切なコミュニケーションや現場への意思決定権限の委譲、アクティブリスリングを身につけること、権力の危険性を理解すること、必要な情報が従業員に公平公正に開示されていること、など多くの考え方や方法を挙げています。また、それらを実践することで著者自身が、組合の必要性を従業員が一切提起しないほど満足度の高い経営を実現してきたことになり、とても説得力があるように思いました。

 特に従業員第一を心掛けている点が印象的で、典型的なアメリカ型の経営者というより、むしろ日本の経営者(松下幸之助や本田宗一郎)に近い空気も感じさせなくもない点が興味深かったです。従業員の能力を最大限発揮させるには、彼らを「人間らしく扱う」ことであるといったようなことは、当たり前の原則なのかもしれませんが、こうした「社員第一主義」を貫いている企業が実際どれほどあるかと思うと、改めて示唆に富む内容であったと思います。

《読書MEMO》
●目次
序文(ウォレン・ベニス)
はじめに
1 「長期の」利益を全員の目標に
2 意思決定は現場にまかせろ
3 社員はすべて平等だ
4 進歩は従業員から生まれる
5 やる気を生む給料とは
6 小さいことはいいことだ
7 リスクをとれ!
8 「ビジネス」と「倫理」の関係
9 成功は「シンプル」の先に
エピローグ ビジネススクールへの提言

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3311】 サイモン・シネック 『FIND YOUR WHY
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ

最強チームをつくるカギは「安全な環境をつくる、弱さを共有する、共通の目標を持つ」こと。

THE CULTURE CODE― 最強チームをつくる方法0.jpgTHE CULTURE CODE― 最強チームをつくる方法.jpg 才能を伸ばすシンプルな本.jpg 天才はディープ・プラクティスと.jpg
THE CULTURE CODE ―カルチャーコード― 最強チームをつくる方法』['18年]『才能を伸ばすシンプルな本』['13年]『天才はディープ・プラクティスと1万時間の法則でつくられる: ミエリン増強で脅威の成長率』['19年]

 本書では、グーグルやピクサーなど、仕事への熟達やヒットを生む創造力の強さが世界的にも証明されている「最強のチーム」を実際に訪ねて分析した結果、チーム力の原点は「日常の仕事での、ちょっとしたさりげない行動」にあり、成功しているチームには共通する3つのスキルがあることが判明したとしています。その3つのスキルとは、「安全な環境をつくる」「弱さを共有する」「共通の目標を持つ」であるとし、以下、3部構成で各スキルを解説しています(因みに、同著者の本では『才能を伸ばすシンプルな本』、『天才はディープ・プラクティスと1万時間の法則でつくられる』というのが邦訳されていて、自己啓発書の著者のイメージがあるが、本書に関して言えば組織論、リーダー論だった)。

 第1部(スキル1「安全な環境をつくる」)では、チームのパフォーマンスを決めるのは、「ここは安全な場所だ。そして私たちはつながっている」という心理的安全性と帰属意識であり(第1章)、安全な社内環境が信頼を生んで、それが帰属意識につながり(第2章)、その帰属意識がチームの結束を強めるとしています(第3章)。さらに、帰属意識を育てるにはどうすればよいか(第4章)、帰属意識の高いチームをつくるにはどうすればよいか(第5章)、そのためにリーダーはどのような行動をとるべきか(第6章)を解説しています。

 第2部(スキル2「弱さを共有する」)では、帰属意識がチームをくっつける「接着剤」だとするなら、弱さを共有することは「筋肉」であるとしています(第7章)。「自分には弱点があり、助けが必要だ」という弱さの開示は「弱さのループ」を生み、それによってチームの親密さと信頼が深まり(第8章)、チームのパフォーマンスは最大化されるとしています(第9章)。また、小さなチームで協力関係を築くには、シンプルな質問を何度もするのが効果的であり(第10章)、個人間の協力関係を築くには、相手の話を本当に聞き、相手に全神経を集中させることだとし(第11章)、最後に、リーダーが弱さを見せられるようになる方法を指南しています(第12章)。

 第3部(スキル3「共通の目標を持つ」)では、成功しているチームでは、共通の価値観や目的が明確であり、目標達成のメリットと障害が理解されていて、「現実と理想をつなぐ物語」が存在するとし(第13章)、目的意識の高い環境のチームを、実例で紹介しています(第14章)。その上で、「熟達したチーム」をつくるには価値を言葉にして伝え続けることが重要であり(第15章)、「創造的なチーム」をつくるには、創造的な人たちへのサポートが必要であるとしています(第16章)。そして最後に、価値や目標を共有するためにリーダーが何をすべきか、行動のためのアイデアを示しています(第17章)。

 本書の特徴の一つは、事例を引いて、3つのスキルそれぞれの有効性を説くとともに、どうすればそれを実践できるかという、具体的な行動提案が書かれている点にあります。環境変化が激しく、企業が抱える問題の複雑さも増す今日、一人のカリスマに依存するのはリスクであり、チームの力を最大化することが、より大きな困難や逆境を乗り越える原動力となるということであると思います。本書を通してチームビルディングの新しい形を知ることができ、リーダーが読むべき本であると言えます。

 本書では、チーム力の原点は「日常の仕事での、ちょっとしたさりげない行動」にあるとし、一見すると普通とも思えるような行動を習慣化することによって、チームの力は大きく変わっていくとしています。最強チームをつくるカギは、「安全な環境」「弱さの開示」「共通の目標」の3つのスキルに集約されるとし、これらのスキルはなぜ重要で、具体的にはどのように行動すればよいのかを説いています。

 良いチームに最も必要なのは、強いリーダーシップや優秀な人材ではないということです。本書を通して提案される行動は、シンプルでポジティブな人間観に基づいており、極々「普通」に思えますが、だからこそ誰でも、いつでも行うことができ、こうした些細な行動によって強いチームが育まれるならば、一読の上、試してみる価値は大いにあると思われます。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【127】 K・プランチャード/他 『1分間マネジャー
「●ちくま新書」の インデックッスへ

リーダーシップ行動のあり方が具体的・実践的に書かれていて、軍隊を超えた普遍性も高い。

リーダーシップ  アメリカ海軍士官候補生読本1.jpg リーダーシップ  アメリカ海軍士官候補生読本10.jpg  リーダーシップ  アメリカ海軍士官候補生読本2.jpg リーダーシップ  アメリカ海軍士官候補生読本20.jpg
リーダーシップ―アメリカ海軍士官候補生読本』['81年]『リーダーシップ 新装版―アメリカ海軍士官候補生読本』['09年]
 
 本書は、アメリカ海軍兵学校の生徒、幹部候補生、見習士官のリーダーシップ教育のために作成されたものであり、原書は1959年に発行され、本邦では、野中郁次郎氏らの共訳で1981年に訳書が刊行され、35刷を重ねています(2009年に新装版が刊行された)。

 2部構成の第Ⅰ部「基礎編」では、まず第1章で、リーダーシップとは「一人の人間がほかの人間の心からの服従、信頼、尊敬、忠実な協力を与えるようなやり方で、人間の思考、計画、行為を指揮できかつそのような栄誉を与えうる技術、科学、ないし天分」であると定義し、このリーダーシップを理解し、身につけるうえで、フォロアーシップを身につけることが必要であり、フォロアーシップとは、チームメンバーとして必要となる要素であり、フォロアーシップとして習得すべき態度は、リーダーに対して服従、信頼、尊敬、忠実な協力の4つであるとしています。

 そして、リーダーシップを理解するためには、心理学、行動分析学の要素を理解しておく必要があるとし、第2章で、心理学的研究の歴史的背景を述べています。そして、第3章では、人間行動の科学的研究について述べ、科学的行動は、健全な懐疑主義、客観性、変化への即応性の3つを基本的なアプローチとするとしています。さらに、第4章では、集団の構造と機能について書かれており、リーダーが集団の成員に配慮すべきこととして、集団における安定した満足すべき社会的関係、集団内部における身分感情、集団内のメンバーシップによる地位感情、現時点で重要かつ多様な個人的欲求の充足の4つを挙げています。

 第Ⅱ部「実践編」では、第5章で、道義的リーダーシップとは何かを説き、それは、第一は、リーダーが自己を誠実にするのに必要な高い水準の徳性を伸ばすことであり、第二は、リーダーが道徳的価値を部下に率先垂範によって分け与えることであるとし、与えられた使命を達成するための責任を受け入れる覚悟が求められるとしています。第6章では、士官の役割や、リーダーとしての品位を保った言動、立ち居振る舞いと話し方などについて述べています。

 第7章では、バーク大将がリーダーの人格的特性として①自信、②知識、③熱意、④力強く明確に表現する能力、⑤無能な不適任者をふるいにかける道義的勇気、⑥大義のために何かをしようとする意思の6つを挙げたことを引き、有能なリーダーの人格的特性として組織に対する「忠誠」や行動・判断する「勇気」、「謙虚」「自信」など挙げて、それぞれ解説しています。第8章では、リーダーシップを日々行使することで得られるダイナミックな(体得可能な)特性(目標設定、熱意と快活、配慮、専門知識など)を挙げ、さらに第9章では、その他重要なリーダーシップを増強する特性、リーダーとしての成功要因(部下を名前で呼ぶ能力、寛容、話し振りなど)を挙げて、それぞれ解説しています。

 第10章では、リーダーとして人間関係をうまくやっていく際の13の落とし穴を列挙し、どうすればリーダーとしてよい人間関係をフォロワーとの間に築けるか、また、組織化された制度上のリーダーシップの概念においては、フォロワーの役割が一番大切であることを脳裡に刻むべきであるとし、よいフォロワーの特性とは何かを述べています。

 第11章では、部下との人間関係を維持し、部下を認めてあげるための効果的な技術としては、個人面接とカウンセリングに勝る方法はないとして、よいカウンセリング(面接)の一般原則を説き、第12章では、規律の重要性と、部下の士気を高める方法を説いています。第13章では、組織、管理、および指揮リーダーシップは、相互に結びついて切り離せないものであるとし、最後の第14章にアメリカ合衆国の戦闘要員の行動要領(部分訳)を付けています。

 興味深いのは、リーダーシップの基礎として「人間心理を客観的に分析する」という科学的方法を重視していること(本書第Ⅰ部)と、科学的合理主義のみならず、それと同時に、リーダーたり得るかどうかの基準である部下や上司、同僚の信頼をいかに獲得するかということについて、自分の視点ではなく、他者の評価が重要であると強調されている点です。

 さらに、リーダーシップ行動のあり方が、きわめて具体的かつ実践的に書かれているのが本書の特徴であり、例えば、飲酒に関する注意点について、①絶対な一人飲みをするな、②絶対に就業中および勤務時間中に飲むな、③絶対に空腹時に飲むな、④とくに、疲労時に飲みすぎに注意せよ、⑤絶対に早飲みするな、⑥絶対に毎日飲む習慣をつけるな、⑦飲みすぎの気がしたら、たえず動いたり、ダンスをしたり、食事したり、談話したりすること―そして、次回にはひと飲み減らすこと―といった具合です。

 アメリカ海軍兵学校の士官候補生を対象としたリーダーシップの教科書でありながら、軍事組織の範囲を超えて、リーダーシップ一般に共通する(敷衍できる)視点を展開していることが、60年以上前に書かれて、いまだに読みつがれている理由ではないかと思います(勿論アメリカ海軍の理想的なリーダー像も見えてくるわけだが、同時に現代ビジネス社会に応用可能な普遍的要素を多く含むということ)。

《読書MEMO》
●集団に関する要素(第4章:49p~70p)
・集団の性質:規模・構造・密度・集団となった経緯によって決定される
・集団の特徴:排他性・一体感・ポテンシャル・目的の統一性・安定性によって決定される
・個人と集団:集団との一体感・組織内の位置づけ・参加の度合い・リーダーへの依存度により関係性が決定される
・集団の構成員の欲求:集団との関係性の安全、集団内での地位、集団による地位、評価、報酬、組織の士気により変化する
●バーク大将の「海軍のリーダーシップの実践」における有能なリーダーの人格的特性(第7章:115p)
(1) 自信
(2) 知識
(3) 熱意
(4) 力強く明確に表現する能力
(5) 無能な不適任者をふるいにかける道義的勇気
(6) 大義のために何かをしようとする意思
●リーダーに必要な特性(第7章)
・組織に対する「忠誠」
・行動・判断する「勇気」
・名誉・正直・真実
・信義
・宗教的信仰
・謙虚
・自信
・常識とよい判断
・健康、エネルギー、楽観主義
●リーダーのダイナミックな特性(第8章)
・目標の設定
・熱意と快活
・協力
・敏速、信頼性
・如才なさ
・配慮
・公正
・自制
・専門知識、準備、余暇の利用
・率先。計画能力、想像力
・決断力
・勝つ意志
●その他重要な成功要因(第9章)
・部下を名前で呼ぶ能力
・寛容
・よい聞き手であれ
・節制
・弁説の力
・話し振り
・口頭による命令
・集団の前で話すこと
・会話
・書き言葉対話し言葉
・有効な文書
●人間関係をうまくやっていく際の13の落とし穴(第10章:160p)
(1) 自分勝手な善意の規準を設けようとすること。
(2) 他人の楽しみを自分自身の物差しで測ろうとすること。
(3) 世間の意見の画一性を期待すること。
(4) 無経験を酌量しないこと。
(5) すべての気質を同じ型につくり上げようとすること。
(6) 重要でない、ささいなことがらについて譲歩しないこと。
(7) 自分自身の行動に完全を求めること。
(8) つまらぬことに自分自身また他人についてくよくよ思い悩むこと
(9) 場所のいかんを問わず、助けることができるときにだれも助けないこと。
(10) 自分自身が実行できないことを不可能と考えること。
(11) われわれ有限の心で捉えうるものだけしか信じないこと。
(12) 他人の弱点を斟酌しないこと。
(13) その人をつくり上げるのが内部の質的基準であるのに、外部の質的基準で評価すること。
●フォロワーのリーダーに対する責任(第10章:178p)
(1)自己の仕事とそれがいかに部隊の使命達成に寄与しているかを知っている。
(2)リーダーの特性を知っている。
(3)インスピレーションを与える能力をもっている。
(4)上司および部下に対して忠誠をつくす。
(5)能力に見合うイニシアチブを発揮する。
(6)権限と責任の委譲を容易に受諾し、かつまた受諾する用意がある。
(7)リーダーの決定を受諾し、全幅的にこの決定を実施するために最善をつくす。
(8)リーダーの部下のために配慮する能力と限界を十分に知り、不当な期待をかけることによって、上司のリーダーシップの負担をふやさない
●団結心の達成と維持のためにリーダーが克服すべきこと(第12章:212p)
(1)リーダーに対する信頼の欠如
(2)チームメンバーの葛藤
(3)成果に対する非協力者の存在
(4)リーダー・チームメンバーの急な異動
(5)正当な評価の欠如
●組織を成果に向かわせるために(第13章:212p)
・成果に必要なミッションを組織内に全て割り当てる
・チームメンバーが自分の責任・ミッションを明確に理解できるようにする(簡潔に整理し、何をすべきかを明確にする)
・チームメンバーの特性・職位にあったミッションを与え、必要な権限を最大限委譲する(責任に相応)
・矛盾や重複した責任・ミッションの分担は行わない
・組織全体の構造に一貫性と正当性を持たせる
・複数のリーダーを一つのチーム、または一人の個人に置かない(上長1に対し、チームメンバーNとする)
・リーダーがコントロールできないチームメンバーをおかない
・指揮系統の安定を図る(他による侵食を防ぐ)
・上位にいるリーダー(複数のチームリーダーをまとめるリーダー、会社で言う部長など)は、方針によって組織を統制する
・組織内で相互に監視が行われ、統制機能が働く関係性を作る

【2713】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『リーダーシップの名著を読む』 (2015/05 日経文庫)

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3387】 守島 基博 『全員戦力化
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ

ジョブ型のもとでの課長の在り方を整理するも、ジョブ型に限らずの話になっている。

ジョブ型と課長の仕事.jpg 『ジョブ型と課長の仕事 役割・達成責任・自己成長』['21年]

 ヘイグループを一部前身とするコンサルティングファーム「コーン・フェリー」の「クライアントパートナー」であるという著者による本書は、ジョブ型人事制度のもとでの課長の役割と仕事とは何か、これまでとは何が違うのか、何を為すべきかについて、体系的に整理したものであるとのことです。

 序章では、ジョブ型雇用雇用の本質とは何かを解説したうえで、ジョブ型雇用の成功のカギは、社員が個性を自覚し、ジョブを選択し、自己の運命に責任を持つこと、換言すれば「自律」と能力開発への自主的な取り組みであるとし、その上で、組織の中核を担う課長級の社員からジョブ型雇用に合った役割と仕事を理解し、行動を変容することが出発点になるとして、
  ①課長は中核管理職である
  ②21世紀のパラダイムを主導する
  ③チームの目標管理を推進する
  ④役に立つスキルを磨く
  ⑤マネジメントの焦点を理解する
  ⑥自らの運命を支配する
の6つの基本を掲げています。

 第1章では、これからの課長がやるべきこととして、
  ①ジョブの意味を正しく理解する (ジョブとは付加価値を生むもの)
  ②ジョブの価値を向上させる  (ジョブは与えられるのではなく、自らつくるもの)
  ③ジョブを実践する原則を知る (7つの原則)
の3つを挙げ、それぞれ解説しています。最後の「7つの原則」とは、
 [第1の原則]2020年代の成功につながるマインドセット
 [第2の原則]トップダウン型目標管理ではなく、自律型目標管理
 [第3の原則]360度型リーダーシップ
 [第4の原則]顧客の創造
 [第5の原則]思考力の錬磨
 [第6の原則]コミュニケーション力の錬磨
 [第7の原則]社会的課題への積極的な関与
であるとのことです。

 第2章では、変えるべきマインドセットとして、
  ①「競争に勝つ」から脱却する (競争志向から顧客志向へ)、
 ②戦略的思考の定義を変える (競争戦略からブルーオーシャン戦略に立ち戻る)
 ③管理者から支援者に変わる (ファシリテーターの役割を担う)
 ④部下ではなくパートナーとして接する (部下から学ぶ)
 ⑤中間管理職から中核管理職に変わる (成果を生み出すプロフェッショナルになる)
の5つを挙げ、それぞれ解説しています。

 第3章では、チームの目標管理をどう行うかについて、
 ①自律的な仕事環境をつくる
 ②作業の棚卸しをする
  ③目標達成に必要なスキルを確認する
  ④ジョブディスクリプションを運用する
  ⑤チームの目標管理を行う
の5つを挙げ、それぞれ解説しています。

 第4章では、チーム運営に必要なスキルとして、
  ①リーダーシップ
  ②共感力を生むコミュニケーション力
  ③問題解決のためにの思考力
の3つを挙げ、それぞれ解説しています。

 第5章では、課長のマネジメントの課題として、
  ①コンプライアンス問題への対応
  ②リスクマネジメントへの対応
  ③ダイバーシティへの対応
  ④SDGsへの対応
  ⑤組織づくりへの対応
  ⑥顧客起点の行動
の6つを挙げ、それぞれ解説しています。

 第6章では、課長の自己成長のための習慣として、
  ①内省の習慣
  ②継続的な学習習慣
  ③定期的なフィードバック習慣
  ④プロジェクトをつくる習慣
  ⑤教養を身につける習慣
  ⑥キャリアビジョンを考える習慣
の5つを挙げ、それぞれ解説しています。

 要約すると、ジョブ型人事制度のもとでの課長には、経営からの待ちの姿勢ではなく、顧客起点から機会を探り、最適なビジネスを自律的に展開すること、問題の発見と解決のための自発的な目標管理プロセスを運営すること、プロジェクトをリードすること、人の育成と同等に自分のキャリアを開発することなどが求められるということを言っているように思います。

 いずれも至極もっともであり、「課長の教科書」としては、さまざまな気づきを喚起してくれる本であると思いました。課長の役割や責任、人材育成や自己成長について、ジョブ型という視点で捉え直そうとする試みかと思います。

 ただし、本書で書かれていることの多くは、「ジョブディスクリプションを運用する」といったようなことを除けば、ジョブ型雇用であるかどうかによらず、以前から言われてきた、または近年よく言われていることであり、今後さらに求められるであるように思いました。その意味で、オーソドックスですが、新味はさほど無いように思いました。

 コーン・フェリーとしては、〈ジョブディスクリプションの必要性〉に持っていきたいのだろうなあ。そのために、協力コンサルタントに、日本企業向けの「課長論」を書かせているようにも思えなくもないです。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3413】 田口 力 『次世代型リーダーの基準

ユーモアに助けられて肩が凝らずに読み通せるリーダーシップの「教科書」。

ゼロから考えるリーダーシップ2021.jpgゼロから考えるリーダーシップ』['21年]

 本書は、企業組織の研究を心理学と経営学の両方から研究してきた著者によるリーダーシップの「教科書」であり、マネジャーとリーダーはどう違うのか、リーダーシップはカリスマや積極的な人だけのものなのか、リーダーは何を考えているのか、といったリーダーシップにまつわるさまざまな疑問に答えながら、リーダーシップ理論の体系とその中身を解説しています。

 まず、第1章で、リーダーシップとは何か、第2章で、リーダーとマネジャーの違いは何か、第3章で、マネジャーとして、リーダーとして必要な素養とはそれぞれどのようなものかを解説しています。第4章では、トヨタグループへの調査結果と照合させながら、学術上、リーダーシップの3要素として、業務を担うリーダーシップ、人間関係を担うリーダーシップ、変革を担うリーダーシップがあることを紹介しています。

 続いて第5章では、マネジメントやリーダーシップは本当に組織で役に立っているのかを調査から分析し、リーダーシップとマネジメントはともに組織に不可欠だが、それを両立させる黄金比は3:1であるとしています。つまりポジティブ(リーダーシップ)とネガティブ(マネジメント)の比率バランスが3:1であることが理想であるという、「3:1の法則」を提唱しています。

 第6章では、リーダーシップ理論のビッグファイブ・パラダイムとして、①特性理論、②行動理論、③条件適合(コンティンジェンシー)理論、④リーダー・メンバー交換関係(LMX)理論、⑤変革型理論の5つがあるとして、それぞれを解説しています。この章はとりわけ、読者のリーダーシップに関する"理論武装"に資するであろう章となっています。

 第7章では、リーダーシップと脳の機能の関係を解説し、業務志向・対人志向の2要素と未来志向・現在志向の2要素の掛け合わせから、業務遂行型リーダーシップ、チームワーク型リーダーシップ、ビジョン型リーダーシップ、育成型リーダーシップという4つのリーダーシップと、それに呼応する、ゲームリーダー、チームリーダー、イメージリーダー、ドリルリーダーという4タイプのリーダー像を示しています。

 第8章では、リーダーシップはどうすれば育成できるのか、知識と経験でリーダは育つのかを考察し、第9章では、リーダーにとって対話が持つ意味は何か、対話がもたらすリーダーシップの効果について解説しています。

 第10章から11章にかけては、リーダーにとってビジョンとはどういうことかを述べ、リーダーの器はビジョンで決まるとし、ビジョンはどうすれば鍛えられるのかを解説しています。

 第12章では、リーダーには集団を引っ張るリーダーだけではなく、従者(サーバント)として集団を支えるリーダーや、リーダーシップをメンバーと分かち合うリーダー(シェアド・リーダー)もいるとしています。その上で、最終章の第13章では、日本型リーダーシップの本質とは何かを考察しています。

 しっかりした内容で、リーダーシップの歴史を踏まえつつ、最近のトレンドも押さえた本であったと思います。前提としてリーダーシップをマネジメントと峻別する立場に立っていること、リーダーシップの解説においてポジティブ心理学の知見などが織り込まれていることなどが特徴的です。

 ともするとガチガチに固いテキスト本になりがちな内容であるにも関わらず、随所にアニメ等にまつわるネタなどをギャグ的にを織り交ぜているため、そうしたユーモアに助けられて固さが緩和され、肩が凝らずに読み通せるのも、類書にはない特長かと思います。リーダーシップ理論について初学者が入門書として読むのもいいし、ベテランが復習のために読むのもいいと思います。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3382】 高橋 潔 『ゼロから考えるリーダーシップ

リフレクションについての気づきを与えてくれるが、実践はまた別か。

リフレクション図1.jpgリフレクション2021.jpg
リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術 オリジナルフレームワークPPT・PDF特典付き』['21年]

 本書では、リフレクションとは、自分の内面を客観的、批判的に振り返る行為であり、「内省」という言葉が最も近いとしています。リフレクションの目的は、あらゆる経験から学び、未来に活かすことであるとし、このスキルを応用していくことで、自分自身だけでなく、他者への理解を深めて成長を促進したり、組織をまとめるリーダーシップを育んだりすることができるとしています。本書は、そうしたリフレクションスキルを身につけるための基本メソッドを紹介したものです。

 第1章では、リフレクションの質を高めるメタ認知のフレームワーク「認知の4点セット」(意見・経験・感情・価値観)と、リフレクションの基本となる5つのメソッド(自分を知る・ビジョンを形成する・経験から学ぶ・多様な世界から学ぶ・アンラーンする)を紹介しています。この章は、本書の"読みどころ"になるかと思います。

 第2章は「リーダーシップ編」であり、メンバーの主体性を引き出すチーム型リーダーになるには、リフレクション(認知の4点セット)をどう活用すればよいかを説いています。ここでは、ぶれない軸をつくるリフレクション、自分自身のモチベーションを高めるリフレクション、感情を上手に扱うリフレクション、思考の柔軟性を高めるリフレクション、対話力・傾聴力を高めるリフレクションなどを紹介しています。

 第3章は「育成編」であり、自立型学習者を育てるにはどうすればよいか、部下育成にリフレクションを活用する方法を紹介しています。ここでは、先に述べた5つのメソッドを自分だけでなく他者にも応用することを説くとともに、自分の頭で考える力を育むにはどうすればいいか、信頼関係を構築するにはどうすればよいか、相手の強みを引き出したり成長を支援するにはどうすればようか、などを解説いています。

 第4章は「チーム編」であり、どのように他者と協働(コラボレーション)するかを説いています。ここでは、組織のパーパス(目的)・ビジョン(ありたい姿)・バリュー(組織文化)の定義にも認知の4点セットを活用することを推奨するとともに、ビジョンを浸透させるにはどうすればよいか、多様性を価値に変えるにはどうすればよいか、などについても認知の4点セットから説明し、最後に、ピーター・センゲが提唱した「学習する組織」を作るための5つの規律(ディシプリン)を紹介しています。

 著者自身が「学習する自立型組織を目指す人のためにハウツー本」として執筆したと述べているとおり、本書におけるリフレクションの基本となる5つのメソッドは、ピーター・センゲの「学習する組織」における5つのディシプリンを、その実践方法として再構築したものであるようです。

 リーダーにはリフレクション(内省)が不可欠であるとはよく言われるものの、そのことを掘り下げて一冊にまとめた本は少なく、その点ではリフレクションにフォーカスして書かれた本書は、読む価値はあったかと思います。また、リフレクションのメソッドを自分だけでなく他者にも応用することを説いているのはユニークです。

 体系的にも整理されていて、最新のリーダーシップや組織開発に関する理論も随所で紹介されています。マイドフルネス、レジリエンス、グロースマインド、ウェルビーイングといったことにも触れていれば、ティール組織やホラクラシーといった言葉も出てきます。

 ただし、読み終わって、やや漠たる、少しもっとした印象が残るのは、本書におけるリフレクション・メソッドのスタートは、結局は自身の認知の在り方ということになるためではないかとも思いました(認知心理学(論理療法におけるABC理論(出来事(A)、信念(B)、結果(C))を想起させる)。本書を読んで〈気づき〉を得られるのは、それはそれでいいのですが、それがイコール実践というようには、すぐにはならないのではないかという感想も抱きました。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2714】 ケン・ブランチャード/他 『新1分間マネジャー

「できるリーダー」の部下の能力を100%引き出すマネジメント術。読みやすく説得力がある。

「最強のチーム」のつくり方.jpg「最強のチーム」のつくり方2.jpg
アメリカ海軍に学ぶ「最強のチーム」のつくり方: 一人ひとりの能力を100%高めるマネジメント術 (知的生きかた文庫 よ 19-2)』['15年]

 本書は、『即戦力の人心術―部下を持つすべての人に役立つ』('08年/三笠書房))の文庫化・改題版で、内容は、アメリカ海軍のミサイル駆逐艦「ベンフォールド」の艦長として300名以上のクルーを率い、機能不全に陥っていた同艦を"海軍No.1"と呼ばれるまでに大変革させ、海軍中にその名を轟かせたという元海軍大佐が、「できるリーダー」は何をしているのか、その具体的な思考方法を明らかにし、部下一人ひとりの能力を100%引き出すマネジメント術を、自身の経験に基づいて説いたものです(原題: It's Your Ship -Management Techniques from the Best Damn Ship in the Navy(2002))。

 第1章「「硬直した組織」に、ガツンと変化を起こす」では、硬直した組織に変化を起こすために著者はまず、部下の身になって、何がいちばん大事かを考えたとしています。そして、もっとよいやり方はないか部下に聞いてまわり、いいアイデアは惜しみなく褒め、実績として高く評価したとのことです。「自分たちの提案を大事にしてくれる上司」に対しては、部下たちは心を開き、信頼を寄せてくれるものであるとしています。

 第2章「部下を迷わせない、確たる「一貫性」」では、単に命令するだけでは部下は動かず、①目標を明確にし、②その任務を達成するための十分な時間・資金・材料を部下に与え、③部下に十分な訓練を受けさせなければならないとしています。そして、結果だけではなく、正しいやり方を重視し、そのことが明日のワシントン・ポストの一面に掲載されて全米中に知られることになって、それを誇りに思うだろうかを問うてみるとしています。

 第3章「「やる気」を巧みに引き出す法」では、部下のやる気を引き出すには、組織内のすべての人間との出会いを大事にしたとのことです。また、自分の部下をよく知っていることは、実に大きな資産で、部下を上手く指導する手段ともなるとしています。

 第4章「明確な「使命」を共有せよ」では、管理職にとって重要なのはチームの力であり、そのためには「集団の知」が必要であるとしています。また、部下がどれだけ上司の命令について知っているかということと、彼らがそれをどれだけうまく実行できるかということには直接的な関係があるとしています。

 第5章「チームで「負け組」を出さない!」では、組織全体が勝利すれば、そこにいる全員の勝利であり、負け組が必要な組織など偽物であるとしています。また、部下を見限ったりせず、力になるつもりだというシグナルを送ると部下は安心できるとしています。

 第6章「なぜ「この結果か」をよく考える」では、部下に服従を求めるだけでなく、アイデアや自発性を引き出すことが必要であり、「自分自身で判断し、行動する」ことを身につけさせれば、部下がその後どのような人生を歩んだとしてもそれは彼らにとって貴重な財産となるとしています。

 第7章「「合理的なリスク」を恐れるな!」では、「合理的なリスク」を恐れてはならず、ときには失敗しても冒険する人間を称え、昇進させるべきであるとしています。

 第8章「「いつものやり方」を捨てろ」では、マニュアルはおよび腰な行動の原因となり、本当に重要なものを見えなくするとし、日ごろから自分たちの仕事において「いちばん大事なこと」をおろそこにするなとしています。懸命に働くな、賢明に働けとも言っています。

 第9章「あなたはまだ、部下をほめ足りない!」では、部下の些細に思える意思表示を見逃さず、コミュニケーションを重ねることで、親密で協力的な雰囲気が生まれるのだとしています。また、前向きで、直接的な励ましこそが効果的なリーダーシップの本質であるともしています。

 第10章「「頭を使って遊べる」人材を育てよ」では、どんな組織でも、友人たちと楽しむことは、お金では換算できない、大きな精神的つながりを生み出すとしています。

 第11章「永遠に語り継がれる「最強のチームワーク」」では、リーダーの役割は「管理すること」よりも、「いかに才能を育て、延ばすか」にあるとして本書を締めくくっています。

 著者自身が「この武勇伝」と呼んでいるように、実際に著者が経験したエピソードばかりで構成されているため、読み物を読むように読めます。アメリカ海軍が舞台になっていますが、企業組織にも通用することがほとんどであり、机上の空論ではなく、実際の指導経験と成功例に支えられた内容となっているためり、読みやすくて説得力がある良い本だと思いました。広くお薦めできるものです。

《読書MEMO》
●第1章:「硬直した組織」に、ガツンと変化を起こす
・艦長室で報告を待っているのではなく、積極的に艦内を歩きまわって意見を吸い上げる。
・何をするにも必ずもっと良い方法があると考えよ。
・どんな小さな提案であっても、いいアイデアは惜しみなくほめ、その提案者の実績として高く評価した。
・自分たちの提案を大事にしてくれる上司に対しては部下たちは心を開き信頼を寄せてくれる。
●第2章:部下を迷わせない、確たる「一貫性」
・目標を明確にし、それを行うだけの時間と設備を与え、部下がそれを正しく行う為の適切な訓練を受けていることを確認しない限り、もう二度と命令を口にすることはしない。
・結果だけではなく正しいやり方を重視する。明日のワシントン・ポストの一面に掲載されて全米中に知られることになってそれを誇りに思うだろうか、恥と思うだろうか。汚い手を使って目標を達成しても必ず敵をつくり、長い目でみるとマイナスである。
●第3章:「やる気」を巧みに引き出す法
・艦にいる全ての人間との全ての出会いを一番大事なものとして扱う。
・艦にいる全員の名前を覚える。
・自分の部下をよく知っていることは、実に大きな資産で、部下を上手く指導する手段となる。
●第4章:明確な「使命」を共有せよ
・部下がどれだけ上司の命令について知っているかということと、彼らがそれをどれだけうまく実行できるかということには直接的な関係がある。
●第5章:チームで「負け組」を出さない!
・組織全体が勝利すれば、そこにいる全員の勝利である。
・負け組が必要な組織など偽物である。
・部下を見限ったりせず、力になるつもりだというシグナルを送ると部下は安心できる。
・悪い知らせを持ってくる人間をないがしろにせず信頼関係を築いておくことで、悪い知らせほどすぐ耳に届くようにする。
●第6章:なぜ「この結果か」をよく考える
・「自分自身で判断し、行動する」ことを身につけさせれば、部下達がその後どのような人生を歩んだとしてもそれは彼らにとって貴重な財産になる。
●第9章:あなたはまだ、部下をほめ足りない!
・前向きで、直接な励ましこそが効果的なリーダーシップの本質である。
・彼らを機械のように扱うのをやめれば、彼らの業績は向上する。
・あらゆる重要な業務でクロストレーニング(複数の仕事ができるよう訓練すること)を実施することが必要であり、そうしないと重要な業務に精通している人間が一人だけになってしまい、何かあったときに惨事が起こる可能性がある。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1857】 鈴木 雅則 『リーダーは弱みを見せろ
「●組織論」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(サイモン・シネック)

優優れたリーダーは「WHAT(結果)」からではなく、「WHY(理念)」から始める!

WHYから始めよ!.jpg
WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』['12年]Simon Sinek

サイモン・シネック2.jpgWHYから始めよ!gc.jpg 本書は、コンサルタントである著者が、TEDでの「優れたリーダーはどうやって行動を促すのか」というプレゼンで提唱して注目を集めた〈ゴールデン・サークル〉理論を書籍化したものです。その趣旨は、人々や社会を巻き込む力を持つリーダーには共通点があり、それは思考を「WHAT(結果)」からではなく、「WHY(理念と大義)」から始めるという点にあるということです。本書は、組織の内外の人々に感銘を与え、やる気を起こさせ、アイディアやビジョンを発展させる手助けができる"インスパイア型リーダー"になる方法を説いたものです。

 第1部「WHYから始まらない世界」では、第1章「あなたの思い込みが間違っていたら?」で、我々はつい勝手な思い込みをして、不完全な情報を基に誤った判断をしがちだが、長期的な成功を得ることができるのは正しい判断が下された時のみであるとしています。第2章「飴と鞭」では、人に影響を与えることができる方法は、「操作(マニュピレーション)」と「鼓舞(インスピレーション)」しかなく、価格競争・プロモーション・恐怖心の利用・上昇思考メッセージ・目新しさなどの様々な操作は、短期的な利益を得るためには有効な手段だが、操作から継続的な忠誠心が生まれることはなく、別の正しい方法(つまり鼓舞)が存在するとしています。

 第2部「WHYから始まる世界」では、第3章「ゴールデン・サークル」で、著者が〈ゴールデン・サークル〉と命名したコンセプトを紹介しています。これは、人に何かしらの情報を伝え、行動を促したい時、「WHY・HOW・WHAT」という3層のサークル状の構成要素が存在し、サークルの中心にあるWHY(なぜ)から始め、HOW(どうやって)、WHAT(何を)の順で相手に伝えると共感を生むことができるという理論です。例えば、アップルのメッセージはWHY(理由)から始まっていて、つまりそれは目的、大義、理念であり、アップルを際立たせているのは、アップルのWHAT(していること)ではなくWHYであり、アップルの製品は、彼らの信念に命を吹き込んだものなのだと。「よりよい」製品という考え方には疑問が伴い、なぜその製品が存在するのかが最初に考えられるべきであり、それを望む人がいる理由と一致してなければならず、どの場合でも、初心、大義、信条といったものに立ち戻っていれば、業界の変化に対応できると。「競争に勝つためににはなにをすべきか?」と自問するのではなく、「そもそも自分たちの理念とはな何か、その理念に生命を吹き込むには、なにができるか」と自問すべきなのだとしています。

 第4章「これは生物学だ」では、どこかに帰属していたいという願望は、理性から生じるものではなく、どんな文化であろうとすべての人間がもつ普遍的なものであるとしています。また、意思決定を司る脳の部位は、言語機能を司っていないため、我々は無理やり説明をくっつけるが、WHYがなければ、決断を下すのは難しくなり、不安な気持ちのままデータや数値に頼って決断を下そうとするようになると。WHYが鮮明な製品は、ユーザーの理念や信条を周囲に明確に伝える力を持っているが、WHYを曖昧にしている企業は、顧客の要望を叶えようとHOWやWHATで始めてしまい、低価格、特徴の数、サービスや製品の品質といった操作で差異化を図って勝負せざるを得なくなるとしています。

 第5章「明快さ、厳しい指針、一貫性」では、終始一貫したWHATには「本物であること」が求められ、本物であることは、永続する成功には必須だが、これは、もとをたどればWHYに行きつくとしています。そして、自分のWHYがわかっていなければ、志や理念を言動であらわすことなどできず、自分のWHY(信条)と言動が矛盾せず、終始一貫していなければ、本物になれないと。リーダーは自分の心から信じることを行動に移すことによって本物(オーセンティシティ)になり、周囲の同じ信条を持っている人がついてくるとしています。

 第3部「リーダーには信奉者が必要」では、第6章「危機に瀕する信頼」で、勝ちたいという欲望は、本質的に悪いものではないが、得点だけが成功の基準になると問題が生じるとしています。会社や顧客のためではなく「自分のために」勝たなければならなず、会社やリーダーは、社内の人間が「自分のために」と思えるようなWHYを持つ必要がある―つまり、会社のWHYと自分のWHYを一致させ、自分のためにやったことが会社のためになっていることが理想なのだとしています。

 第7章「ティッピング・ポイントとは」では、ビジネスや社会でティッピング・ポイント(それまで小さく変化していたある物事が、突然急激に変化する時点)に達するには、コネクター(イノベーター、アーリーアダプター)による口コミが必要だが、初期ターゲットとするイノベーターやアーリーアダプターには単に影響力をある人を選ぶのではなく、自分たちが信じているものを信じてくれる人を選ぶべきであると。ビジネスの目標は、単に誰か(大衆)に商品を売ることではなく、理念や信念に共感してくれる人を探すことにあり、初期採用者についてそうした狙いを定めていれば、最終的には大衆がついてくるとしています。

 第4部「信じる人間をどう集結させるか」では、第8章「WHYからはじめよ、だがHOWを知れ」で、世の中にはWHYタイプの人(夢を語る人)とHOWタイプの人(計画を立てる人)が存在するが、優劣があるわけではなく、WHYタイプの語る信念・大義を中心に、それらをメガホンのように拡散する役割をHOWタイプが担っていて、WHYを知る人にはHOWを知る人が必要であり、WHYタイプの役割は、人々をインスパイアし、活動をおこすことだとしています。

 第9章「WHYがわかり、HOWもわかった。で、WHATは?」では、リーダーは、メンバーに信念を確実に信じさせ、それを実行する方法を理解させなければならず、また、HOWタイプはWHYを理解する責任を負っているとしています。組織のトップに座っているリーダーは、インスピレーションであり、我々の行動理由のシンボルなのだと。

 第10章「コミュニケーションとは耳を傾けること」では、業績をあげている会社の「最善策」を、つまりWHATやHOWをそのまま真似るだけではダメで、大切なのは、WHATやHOWではなく、HOWとWHATがWHYと一致しているかどうかが肝心なのだとしています。

 第5部「成功は最大の難関なり」では、第11章「WHYが曖昧になるとき」で、起業した後、あるいは仕事を始めた後、自分が行うWHATに我々は自信を深めていき、それを行うHOWに精通していく―業績を上げれば、どれだけの成功をおさめたかを数値で知ることができ、これでまた精進した、成功した、と感じることができる―ところがその過程で、そもそもどうしてこの旅を始めたのかというWHYをすっかり忘れてしまいがちになり、すると、必ずWHATとWHYに乖離が生じるとしています。

 第12章「WHATとWHYの乖離」では、WHATとWHYが離れはじめた組織は、もはや理念や大義に心動かされることはなく、インスピレーションはなきに等しいと。多くの大企業が「初心に戻れ」と異口同音に言っているのも、偶然ではなく、彼らがほのめかしているのは、乖離が始まる前の時代に戻れということだとしています。

 第6部「WHYを発見する」では、第13章「WHYの源泉」で、アップルという会社のWHYの源泉はどこにあったのかを振り返り、アップルの製品は、アップルのWHYを理解する人にとって最高なのだとしています。

 第14章「新たな競争」では、他の人間と競争するとき、誰もあなたを助けたいとは思わないが、自分自身に戦いを挑むと、誰もがあなたを助けたいと思うとし、他人と自分を比べると誰も私たちを助けようとしないが、自分自身をよりよくするために出社したらどうなるか? 人々をインスパイアするために出社したたらどうなるか? と問うています。そして、もし、すべての組織がWHYから始めたら、決定はよりシンプルになり、忠誠心は篤くなり、信頼が共通認識になるだろうとしています。

 世の中には「形式上のリーダー」と「本物のリーダー」がいて、「形式上のリーダー」は、権力のある座につき、影響力を持つが、「本物のリーダー」は、私たちを感激させ、奮起させる。「本物のリーダー」は、私たちに「WHY(理念と大義)」を語るが、それこそが組織の内外の人たちのやる気を起こさせるのに対し、「形式上のリーダー」は「WHAT(結果)」だけを語ってしまうということを言っている本です。

FIND YOUR WHY2.jpg TEDで記録的な再生数を誇った著者のプレゼンテーションを見て本書を手に手にした人も多いかと思いますが、プレゼンからさらに一歩踏み込んで説明されており、啓発度が高かったように思います。単なる啓発書にとどまらず、組織論、リーダーシップ論としても読め、人事パーソンにお薦めです(本書の実践編として、『FIND YOUR WHY―あなたとチームを強くするシンプルな方法』('19年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)も刊行されている)。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3381】 熊平 美香 『リフレクション(REFLECTION)

啓発的かつ実践的。「新しい時代の上司学」を考えるうえでは良かった。

あなたの職場の繊細くんと残念な上司.jpg 『あなたの職場の繊細くんと残念な上司 (青春新書インテリジェンス)』['20年]

 自分の意見を言えなかったり、強く注意すると会社を休んだり、言いづらいことはメールで伝えてくる――といった繊細な若手社員が増えているのはなぜか? そんな若者を良かれと思った指導でつぶしてしまう残念な上司にならないようにするはどうすればよいか? 本書は、かつて企業に勤め、現在は大学教員であり、職場でのコミュケーション、メンタルヘルス問題や若者意識に詳しい著者が、世代間のギャップを考察し、若手を伸ばすリーダーや職場の共通点を明らかにしたものです。

 まず、著者は、いまNOをはっきり言えないといった繊細な若者が増えていることを指摘し、彼らがひ弱で繊細に見える理由として、①中高年には見えにくい「不安心理」、②多様性の時代に高まる「同調圧力」、③「doingからbeing」への人生に求めるもの変化、の3つがその言動の背景にあるとしています。

 第1章では、上司には見えない「不安心理」の背景には、彼らが不透明かつ不安定な時代を生きてきたことがあるとしています。彼らは常に「(Comfortable ℤone(居心地のいい空間)」に身を置きたいという気持ちが強く、会社にそうした居心地のいい空間があるかどうかを、会社の規模や知名度、給料の高さよりも重要視するとしています。たとえば、若手社員の定着率は、緩やかながらもお互いに支え合える「横の人間関係」の有無に左右されるとしています。

 第2章では、自分の意見をはっきり言わず、遅刻を注意したら退職したとか、飲み会・社内イベントの幹事をやろうとしない、海外勤務や転勤をきっぱり断る、といった最近の若者の言動の背景には、「doing(形のあるもの)からbeing(形のないもの)」への価値観の変化があり、外面よりも内面の充実を重視するようなっていて、旧来の価値観を押し付ける上司は、若手を追い込む「同調圧力」として避けられ、できる上司ほど自身の価値観を部下に「強要」しないとしています。

 第3章では、いま日本では、ハラスメントを恐れて部下にダメ出しできない上司が増えているとし、中高年の管理職が部下に言いにくいことを伝えるときは、これまで述べてきた若者の特徴を踏まえ、「かりてきたねこ」に留意すべきであるとし、「か:感情的にならない」「り:理由をきちんと話す」「て:手短に済ませる」「き:キャラクターには触れない」「た:他人と比較しない」「ね:根に持たない」「こ:個別に伝える」の7つのポイントについて解説しています。

 第4章では、できるリーダーとは、若手の力を引き出す共感のマネジメントができる人であり、若手の力を引き出す近道は、何をおいても「傾聴」であるとし、残念な上司は「指示」を出し、できるリーダーは「質問」をするとしています。

そして、部下との信頼関係を築く、以下の6つのポイントを紹介しています。
 1.100点か0点かで判断しない
 2.「いつも~だ」と考えない
 3.「マイナス思考」「マイナスだけを通すフィルター」を持たない
 4.事実から離れない
 5.「すべき思考」にはまらない
 6.レッテルを貼らない

 また、部下の成長応じて、指示は4段階で変えるようにとも(SL理論)。
 ・成熟度1(その仕事の未経験者)→「指示型」の指導
 ・成熟度2(ある程度自分でできる)→「コーチ型」の指導
 ・成熟度3(その業務に精通している)→「援助型」の指導
 ・成熟度4(専門性を持ち成果がだせる)→「委任型」の指導

 最後に「繊細な若手社員の力を引き出す、以下の6か条を紹介しています。
 1.賞罰や競争、比較をからめないこと
 2.共同体の感覚を持たせる
 3.YES・NOの表明を強要しない
 4.不安に共感し、不安を共有する
 5.相手の考え、環境、生き方に共感する
 6.責任を口にしない

 例えば、最後の「責任を口にしない」。「おまえたちのやりたいようにやってみろ。その代わり全力投球しろ。責任は俺が取るから心配するな」と、こんな啖呵を切っても、今の若手社員にはたいして響かず、彼らは「自分に酔っている」とか「耳あたりのいい台詞だけど、こっちにプレッシャーをかけている」と見透かしているとのことです(笑)。責任を強調して部下を追い込むのではなく、上司と部下で役割は違えど、同じ目的に向かっていく仲間として、ともに力を合わせていくことを伝え、それを共有していくことが求められている(179p)ということなのでしょう。

 いろいろ気付きを与えてくれて啓発的であると同時に、実践的な内容でもあったように思います。多様性の時代、働く部下のワーク・ライフ・バランスを理解し、彼らと価値観や倫理観が共有でき、良いコミュニケーションが取れることが、これからの上司に求められる資質であるとの思いを抱かされました。会社としても、そうしたことを後押しする社内環境の整備を考えるべきで、ただ、若い社員には愛社精神を持ってほしいと思っているだけでは何も変わらないのでしょう。

 著者の過去の著書の傾向からメンタルヘルスの本かと思いましたが、タイトル通り「上司学」の本でした。「新しい時代の上司学」とまで言ってしまうとどうでしょうか。SL理論をはじめ、リジッドなリーダーシップ理論も織り込まれていたように思います。でも、「新しい時代の上司学」を考えるうえでは良かったように思います。

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3452】 マシュー・サイド 『多様性の科学
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(エイミー・C・エドモンドソン)

心理的安全性と何か、それを実践するにはどうすればよいかを説く。

恐れのない組織1.jpg恐れのない組織.png チームが機能するとはどういうことか.jpg エイミー・C・エドモンドソン2.jpg Amy C. Edmondson
恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』['21年] エイミー・C・エドモンドソン『チームが機能するとはどういうことか―「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』['14年]

 本書は、ハーバード・ビジネススクール教授で、最近注目を集めている「心理的安全性」という概念の提唱者である著者が、フォルクスワーゲン、ピクサー、福島原発など様々な事例を分析し、対人関係の不安がいかに組織を蝕むか、それを乗り越えた組織の在り方とは何かを論じて、実践への示唆までを語った本です。

 3部構成の第1部「心理的安全性のパワー」では、心理的安全性とは何か、心理的安全性がなぜ重要なのかを説明し、さらに、なぜ多くの組織で心理的安全性が当たり前になっていないのかを考察しています。

 第1章「土台」では、病院での医療事故につながりかねなかった事例から、対人関係の不安により職場で従業員が本心を言わないことがパターン化すると、仕事の質に深刻な影響を及ぼしかねないとしています。心理的安全性とは、率直に発言することによる対人関係リスクを、人々が安心して取れる環境のことであるとしています。

 第2章「研究の軌跡」では、心理的安全性に関する学術研究からわかったことして、不安を当たり前にして生き残れる組織は21世紀においてはなく、「フィアレスな組織」は従業員にとってよりよい場であるだけでなく、学習、エンゲージメント、パフォーマンスに素晴らしい効果をもたらすことが明らかになったとしています。

 第2部「職場の心理的安全性」では、事例をもとに、心理的安全性が業績と人々の安全委にどのように影響するかを述べています。

 第3章「回避できる失敗」では、心理的安全性が欠けていると、ビジネスにおいて重大な失敗を吹き起こしてしまうことをフォルクスワーゲンなどの事例から、第4章「危険な沈黙」では、率直に意見を言えないことや権威を過信することとがもたらすリスクを、福島第一原発の事例などから、それぞれ検証しています。

 第5章および第6章では、率直に考えを述べることができ、それを当たり前とする組織の事例を紹介しています。第5章「フィアレスな組織」では、ピクサーを例に、クリエイティブな仕事が業績を左右するなかでのフィアレスな組織のもたらした効果を、第6章「無事に」では、福島第二原発などを例に、思いやりのあるリーダーシップよって、従業員が求められる以上のことをすることを、それぞれ例示しています。

 第3部「フィアレスな組織をつくる」では、リーダーはどんなことをすればフィアレスな組織―誰もが率直に話して仕事をし、貢献・成長・成功し、チームを組んで、ずば抜けた成果を出す組織―をつくりだせるかに焦点を当てています。

 第7章「実現させる」では、心理的安全性をつくるためには何をする必要があるかを述べ、心理的安全性は相互に関連する3つの行動(土台をつくる。参加を求める、生産的に対応する)によって生み出され、心理的安全性を強固にすることは、組織のあらゆるレベルのリーダーの責務であるとしています。

 第8章「次に何が起きるのか」では、本書の事例に関するいくつかの最新情報を紹介するとともに、心理的安全性に関してのよくある質問について回答しています。

 最後の質問のなかに「職場が心理的に安全になると、時間がかかりすぎてしまうのではないか」というのがあり、これなどは最近どこかの組織委員会であったような話ですが、著者は、心理的安全性は効率性に役立つ可能性があり、時間の浪費ではなく節約になるとしています。また、透明性の問題にも触れています。

 著者は、日本企業は「権力格差(パワー・ディスタンス)」が大きいとしており、その意味でも日本企業の職場こそ心理的安心性がより求められると思われますが、著者もそれは可能なことであるとしています。

 著者は『チームが機能するとはどういうことか』の著者でもあり、専門はチーミング(境界を越えてコミュニケーションを図り、一致協力する技術)ですが、心理的安全性と何か、それを実践するにはどうすればよいかを問いた本書は、チーミングをテーマとした本と言ってもいいのではないかと思います。

 心理的安全性について書かれた本がすでに何冊か出ていますが、先に大本(おおもと)である本書を読んで、そのエッセンスに触れておくのがよいかと思います(『チームが機能するとはどういうことか』もお奨めです)。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1部 心理的安全性のパワー
第1章 土台
第2章 研究の軌跡
第2部 職場の心理的安全性
第3章 回避できる失敗
第4章 危険な沈黙
第5章 フィアレスな職場
第6章 無事に
第3部 フィアレスな組織をつくる
第7章 実現させる
第8章 次に何が起きるのか
解説 村瀬俊朗

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3360】 エイミー・C・エドモンドソン 『恐れのない組織
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ

理想のチームプレーヤーの特質は、「謙虚」「ハングリー」「スマート」の3つ。

理想のチーム プレーヤー2.jpg理想のチーム プレーヤー.jpg   なぜあなたのチームは力を出しきれないのか.jpg あなたのチームは、機能してますか.jpg
理想のチームプレーヤー――成功する組織のメンバーに欠かせない要素を知り、成長・採用・育成に活かす方法』['20年]『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか 』['02年] 『あなたのチームは、機能してますか?』['03年]

 本書の著者パトリック・レンシオーニには、『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか』('02年/日経BP)、『あなたのチームは、機能してますか?』('03年/翔泳社)など日本でも話題になった著書があります。

 『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか』は、大規模な組織を率いるトップにとっての組織が競争優位を得るための最重要課題は、戦略でもマーケティングでも財務でもなく、健全な組織をつくることにあるとし、それを実現する「結束」「明確化」「周知徹底」「強化」という4つの指針を、物語を通して示した本であり、『あなたのチームは、機能してますか?』は、危ない組織の5つの症状(「信頼の欠如」「衝突への恐怖」「責任感の不足」「説明責任の回避」「結果への無責任」)を、これも物語形式で示し、ここから導かれる、真のチームワークに求められる5つの行動とは、弱みを見せて信頼を築き、健全に衝突し合い、進んで責任感を持ち、互いの説明責任を追求し、結果を重視することであるとしたものでした。

 本書『理想のチームプレーヤー』では、著者は、チームデベロプメントのコンサルタントとして長年に渡り様々な企業と関わる中で、組織の繁栄に最も必要な人材はチームプレーヤーであるという結論に至ったとした上で、前著での5つの行動は、十分なコーチングや忍耐力、時間などの条件を満たせば習得可能だが、周りよりも優れたチームプレーヤーで、この5つの行動をうまく実践できる人がいて、これ実現できるそうした理想のチームプレーヤーは、人生や仕事や鍛錬を通して「3つの美徳」を身に付けてきたのだとしています。そして、その3つの美徳とは何かを、「第1部:寓話」で、前二著と同じく物語形式で示しています。物語の枠組みは次のようなものです。

 シリコンバレーの企業やコンサルティング会社で輝かしいキャリアを重ねてきた主人公ジェフ・シャンリーは、突然、伯父が経営する有名な建設会社バレー・ビルダーズ社のCEO に任命される。緊急の社長交代劇と共に与えられた使命は、会社史上最大規模の2つのプロジェクトを成功させることだった。ジェフは困惑しながらも、難航するプロジェクトをやり遂げる唯一の方法を見つけ出す。それは、会社のメンバー全員が「理想のチームプレーヤーになる」という価値観を共有し、それに向かう採用と育成の企業文化を、早急に作り上げることだった―。

 つまり本書は、ジェフ・シャンリーという主人公が叔父の会社を救おうとする物語を例に、理想のチームプレーヤーとは何かが語られているわけです。物語で主人公らはまず、会社に問題を引き起こす「モンスター社員」の特性を考え、次にその逆の特質とは何かを考えます。そして、偉ぶらず、勤勉に働き、人間との接し方を知っていることが、モンスター社員の逆、つまりチームプレーヤーの特質であり、この「謙虚」「ハングリー」「スマート」という3つの要素が、優れたチームプレーヤーに欠かせないという結論に行きつきます。

 物語の後の「第2部:モデル」では、3つの美徳を改めて定義し、理想のチームプレーヤーと、そうでない3つの要素のどれかがが欠けている人物のモデルを示すとともに、理想のチームプレーヤーを採用する方法、今いる社員の評価の仕方、一つ二つ美徳に欠けている社員の育成方法、3つの美徳の組織カルチャーへの組み込み方がまとめられています。

 例えば、採用に関しては、面接でカギとなるポイントや、謙虚、ハングリー、スマートの3要素のエッセンスを探るのに役立つ質問例が紹介されていいます。その中には、ごく普通に日本の企業面接で訊くような質問もありますが、チームプレーヤーに必須の3要素を持っているかどうかを、要素ごとに探るためにその質問をしているという点が特徴的であると思われます。

 物語形式なので読みやすく、内容も頭に入ってきやすいです。例えば採用に関して、米国企業の採用というとスペック重視という印象が強いですが、最近は変わってきているのではないかと思わせるものがありました。一方、日本企業は、前述のように、以前から本書にあるような採用をしてきたような気がしなくもありません。しかしながら、どこまで戦略的バックグラウンドがあったかはやや疑問であり、本書を読みながらそのことについて考えてみるのもいいのではないかと思います。また、著者の前著が未読であれば、遡及してそちらに読み進むのも良いかと思います。

《読書MEMO》
●モデル
三分の一
・「謙虚さのみ」 ⇒ 歩兵
・「ハングリーさのみ」 ⇒ ブルドーザー
・「スマートさのみ」 ⇒ 人たらし
三分の二
・「謙虚でハングリーだがスマートでない」 ⇒ うっかりトラブルメーカー
・「謙虚でスマートだがハングリーでない」 ⇒ 憎めない怠け者
・「ハングリーでスマートだが謙虚でない」 ⇒ 熟練の政治家

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【134】 沼上 幹 『組織戦略の考え方
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(マンフレッド・ケッツ・ド・ブリース)

「賢明」より「健全」。そのために「結束」「明確化」「周知徹底」「強化」せよと。

れんしおーに2.jpgなぜあなたのチームは力を出しきれないのか.jpg あなたのチームは、機能してますか.jpg
なぜあなたのチームは力を出しきれないのか 』['02年] 『あなたのチームは、機能してますか?』['03年]

 本書『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか』では、まえがきにおいて、競争優位を得ている組織には、①賢明である、②健全である、の2つの特徴があるが、「現実をみると、ほとんどのリーダーは、組織をかしこくすることに時間とエネルギーの大半を費やし、組織をすこやかにすることにはあまり熱がこもっていない。ビジネス・スクールやビジネス誌が何を重視しているかを考えれば、無理もないことである。しかし、組織が健全であることの、しなやかで強い特性を考えると、これは残念なことである」(8p)としています。自身がマネジメントを任されているチームが、最高のパフォーマンスを発揮していると胸を張って言える管理職はどれほどいるでしょうか。本書は、物語形式で話を進めながら、チームが力を出し切れていないのはなぜなのか、その疑問に答え、解決策を提示したものです。

 第1部「不安の種」では、物語の枠組みが示されています。ビンス・グリーンが創立しCEOを務めるITコンサルティング会社グリニッチ・コンサルティングは、ビジネス・スクールの同級生だったリッチ・オコナーがほぼ同時期に創立しCEOを務める同業のITコンサルティング会社テレグラフとライバル関係にあるが、リッチの会社はすこぶる評判が良く、両社は売上こそ競ってはいるものの、人材獲得競争において、ビンスの会社からリッチの会社に移る人の流れが止まらない。また、ビンスの方は相手の会社が気になるが、相手は自分の会社に関心すら示していないようだ。ビンスはリッチの会社テレグラフ成功の秘密を知るためにスパイまがいの偵察までしたりし、さらにその"謎"を探ろうと、専門家を経営会議に招いたりするが、専門家らの分析では、ビンスの会社とリッチの会社では何から何まで異なり、彼らは、リッチの会社は「非常に健全な組織なのです」と言うばかりだった―。

 第2部「異なる文化」では、ビンスのライバルと目されていたリッチにも、ある悩みがあったことを明かしています。その悩みとは、忙しすぎるということで、自らの時間を取れないためリッチは会社を売却しようかとも考えましたが、生きがいでもある会社であるため踏ん切りがつかず、そこで、本当に会社にためになることを1つだけやるとすれば、それは何か? それだけを考えることにしました。そして、その結果見出した「4か条の指針」を黄色い用箋に記し、これを「イエロー・リスト」と呼びます。そのイエロー・リストに記された指針に則って行動することで、会社は急速に素晴らしいものになっていきました。そのイエロー・リストには何が書かれているのか、秘密にしていたわけではないですが、本当に知る人はごく限られていました(4か条の内容は本書の最後の方で明かされる)。
しかしながら、どんなグレートな会社でも過ちを犯すものです。リッチの会社は、空いていた人事担当副社長のポストにジャミー・ベンダーという男を採用します。ジャミーの経歴はどこから見ても申し分ないように思えましたが、次第にジャミーが進める改革の手法を巡って、彼とリッチの会社の経営チームのメンバーとの間に溝が生じます。結局、リッチの会社は、自社の企業文化にそぐわない人物を採用したことが判明し、ジャミー自身も自分がリッチの会社の企業文化に合わないことに気づいて会社を辞めます。

 第3部「チャンス」では、リッチの会社を辞めたジャミーが、ビンスの会社に自分を売り込みに行きますが、その際に何とイエロー・リストの内容を手土産に持っていきます。ここで、その4か条の内容が明かされます。それは、①まとまりがある指導者チームをつくり、その結束を維持する、②透明な組織をつくりだす、③組織が決定したことの伝達はやり過ぎるくらいやる、④人事システムで透明な組織を強化する、の4つで、つまり、リーダーが第一にするべき仕事とは、組織を健全にすること、それだけなのだということです。しかし、ビンスには、それがやれるというイメージが湧かない―。
ジャミーが転職希望先のビンスの会社で、ライバルのリッチの会社の「秘密の4か条」を説いているとき、偶然にもリッチがその場に、ビンスの会社事業買収の相談で訪ねてきます。そして、まだホワイトボードに書かれていなかった第4条と、「結束せよ、明確にせよ、周知徹底せよ、強化せよ」というまとめのスローガンを書き残して、穏やかな表情で去っていきます。

 第4部「情熱のゆくえ」は後日譚です。4か条の効用を信じたとしても、そのとおり実践するのは自分には無理だと悟ったビンスは、企業経営への情熱を失っている自分に気づき、会社を売却します。

 以上、本書の前4分の3がストーリー展開になっていて、後の4分の1が、健全な組織をつくるための4か条の指標のまとめとなっています。本書には、組織を健全化するためのノウハウがたくさん盛り込まれていて、リーダーは可能な限りその命題に取り組んでみるべきだろうと改めて思わされます。社内政治は良くないのではなく「絶対に駄目」と言っているのが印象的で、小さなほころびが大きな穴となり、組織を崩してしまうことの危険性がわかります。「強い」チームを作るためにリーダーが最も注力すべきことは何か、そのことを知りたいと思うマネジャーにお薦めです。


 同著者には、本書に続いて日本でもベストセラーになった『あなたのチームは、機能してますか?』('03年/翔泳社)という著書もあり、こちらもストーリー仕立てになっていて、その枠組みは以下の通りです。

 経験豊富な経営陣、完全無欠な事業計画、他の企業には望むべくもない一流の投資家、ことさら慎重なベンチャーキャピタルも列をなして投資を申し込み、オフィスも決まらないうちに有能なエンジニアが履歴書を送ってきた。その企業の将来は薔薇色に見えた。しかし2年後、取締役会で37歳のCEOは解任された。150名の社員の頂点に迎えられたのは57歳の女性CEOのキャスリン。しかも古くさいブルーカラー業界出身。ビジネス・スクールも決して有名とは言えない。彼女をCEOに迎えたいという会長の発言を聞き、取締役は彼の正気を疑った。でも、会長には確信があった。競争における究極の武器はチームワークである。そして、キャスリンはチーム作りの天才だったのだ―。

 本書では、キャスリンが来た時には最悪だった会社の状況を示し、危ない組織の5つの症状を挙げています。それは次のようになります。
 ・結果への無責任(各自の仕事にかまけて全体を見ない)
 ・説明責任の回避(衝突を避けて互いの説明を求めない)
 ・責任感の不足(決定したことでもきちんと支持しない)
 ・衝突への恐怖(不満があっても会議で意見を言わない)
 ・信頼の欠如(意見は一致していないのに議論が起きない)

 キャスリンは、経営チームのメンバー各個人の性格を全員露わにすることから始め、チームの輪を崩すもの(テイカー)をチームから排除し、少しづつチームとして機能させていきます。危ない組織の5つの症状から導かれる、真のチームワークに求められる5つの行動とは、弱みを見せて信頼を築き、健全に衝突し合い、進んで責任感を持ち、互いの説明責任を追求し、結果を重視することであるとしたものでした。

 本書も、前6分の5がストーリー展開になっていて、キャスリンが経営チームとの対話や討議を通して、組織がチームワークの実現に失敗する、これら5つの要因を一つひとつ明らかにしていき、それを解決するにはどうすればよいかを説いていきます。そして、最後の6分の1で、「五つの機能不全」モデルを再整理し、それを理解し克服する「プロセス」と「ノウハウ」をまとめています。こちらも併せて読まれることをお勧めします(シンプルさで言えば前者、より体系的であると言えば後者になるか)。


【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社) (『あなたのチームは、機能してますか?』)

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3324】 M・ケッツ・ド・ブリース 『会社の中の「困った人たち」
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ

「上司」を持たない自律したチーム=「セルフマネジング・チーム」を提唱。今もって先進的。

自律チーム組織 マンツ1.jpg自律チーム組織 マンツ2.jpg
自律チーム型組織―高業績を実現するエンパワーメント』['97年]

 本書は、チーム制を組織に導入し、フラット化された組織を作るうえでの注意すべきポイントを、実際にチーム制を導入した実例を使って説明している本であり、著者であるチャールス・C・マンツとヘンリー・P・シムズJr.は「セルフマネジング・チーム」という概念の産みの親とも言える研究者です。セルフマネジング・チームとは「上司」を持たない自律したチームであり、「上司」の代わりに部下をセルフマネジングに導く「スーパーリーダー」がいることになります。本書ではまず、この新チーム制を導入する際の阻害要因を整理し、それらを踏まえ、チーム制導入のためには何をすればよいかを章ごとに事例を通して説明していきます。

 第1章「チーム制への道―中間管理職の壁の克服」では、チーム制導入成功への最大の課題である中間管理職の抵抗をどう克服するかについて、シャレッテ社の倉庫管理における中間管理職の移行事例を通して述べています。ここでは、管理職を「上司」から「スーパーリーダー」へと新しいリーダーシップの役割に移行する際に想定されるステップと、ステップごとにどのようなことが課題となるかを示すとともに、移行のための時間と努力は、セルフマネング・チームを成功させるのに重要であるとしています。

 第2章「現場でのチーム経験―役割、行動、そして成熟したセルフマネジング・チームの業績」では、メンテナンスフリーの自動車バッテリーを創り出したゼネラルモータース工場の事例を取り上げ、比較的成熟したセルフマネジング・チームにおける従業員の日々の行動を通して、セルフマネジング・チーム内での従業員の役割や行動、チームリーダーや調整者のリーダーシップの特徴などを見ています。そして、初期の段階から以前は管理者に任されていた責任と役割がチームに任せられたこと、調整者の最も頻繁な言語的行動は、従業員への思慮深い問いかけであったことなどが明らかになったとしています。

 第3章「チーム制の利点と欠点―成功と課題の実践的展望」では、レイク・スペリアー製紙会社の工場での、セルフマネジング・チーム制への移行のまだ比較的初期の発展段階にあるチーム制の事例を通して、解決されるべき多くの課題もあるが多くの成功もあるとし、以降の際にどのようなことが課題となり、それらにどう応えるべきかを説いています。

 第4章「導入初期の段階―オフィスでチーム制を導入する」では、IDS金融会社でのチーム制の導入を検証し、導入初期の段階で留意すべきことを説いています。ここでは、さまざまな難題や挫折、苦境に直面したもののチーム制への移行は成功したが、その過程において、どのような組織が設けられ、どのような分析ツールが活用されたかを紹介し、チーム制によって得をする人もいれば損をする人もいるが、できるだけ多くの人が得をするよう細心の注意を払わなければならないとしています。

 第5章「セルフマネジングの幻想―権限を奪うためにチーム制を利用すること」では、ある独立系保険会社の失敗事例を取り上げ、従業員の権限を奪い、コントロールを強化するためにチーム制を導入した場合は、たとえ「セルフマネジメント」という言葉を使ったからといって、自動的にエンパワーされた従業員につながるわけでもなく、セルフマネジング・チームが達成されるわけでもないと警告しています。

 第6章「組職上のチーム制なしでのセルフマネジング―チームとしての組織」では、セルフマネジメント・チームを公式にデザインされたチーム制なしで実現している例として、非常に成功しているW・A・ゴア社の事例が紹介されています。そのなかでは、自分たちで育てていくようなかたちでのチームが必要な時だけに現れてくるという画期的なやり方が明らかにされ、上司とか管理者はいないが、たくさんのリーダーがいるというのが成功の秘訣であったとしています。ゴア社の経営スタイルは「無管理」と呼ばれていて、チームワークはさかんであるが、組織上のチームはなく、仕事を遂行するうえで必要な場合、だれもが異分野の人々とチームを組むことができるとのことです。

 第7章「チーム制とトータルクオリティマネジメント―国境を越えて」では、トータルクオリティマネジメント(TQC)の最終段階としてセルフマネジング・チームを取り入れたテキサス・インスツルメント・マレーシアの事例を紹介し、アメリカ以外の国の組織でも、チーム制の導入により目を見張るような効果が上がることを明らかにしています。

 第8章で「戦略的チーム―上層部のチーム」では、電力会社であるAES社の事例をもとに、企業の戦略形成におけるチームワークの重要性について述べています。会社のあちこちに出現するチームのネットワークが、成長中の組織の経営戦略を決定するうえでどう影響するのかを見ています。AES社にとって全従業員が共有する価値観は非常に重要であり、この会社で共有されているコアバリューとは、正直さ、公平さ、楽しさ、社会的責任の4つであるが、この4つのコアバリューに忠実であるということは、それ自体、価値のある目標であるとしています。さらに、この章では、チーム制は組織の下の部分だけでなく、上層部においても適用されるべきであるとしています。

 第9章「セルフマネジング・チーム―我々は何を学び、どこへいくのか」では、これまでのセルフマネジメントの実践例から得られた知見と将来の課題について述べるとともに、チームアプローチを採用することを検討していたり、すでに採用しだした企業に向けて、セルフマネジング・チームを成功させる道のりのガイドを示しています。

 各章での議論が、著者たちの調査した事例に基づいて行われていて、顧客対応、TQC、業務プロセスなど多様であるため興味深く、また説得力もあります。今や"準古典"的な位置づけにある本ですが、セルフマネジング・チームという概念は今もって先進的であるように思います。むしろ、本書を読んで、「ウチはまだそこまでは」と思われる読者の方が多いかもしれません。ただし、そうした企業であっても、本書で示された知見は、プロジェクトマネジメントや人材育成などにおいて応用可能であると思われます。新しいリーダー像を示した啓発書としても読めるかと思われ、人事パーソンにお薦めの1冊です。

《読書MEMO》
●目次
序章 ティラノザウルス王国―企業内の恐竜としての上司
第1章 チーム制への道―中間管理職の壁の克服
第2章 現場でのチーム経験―役割、行動、そして成熟したセルフマネジング・チームの業績
第3章 チーム制の利点と欠点―成功と課題の実践的展望
第4章 導入初期の段階―オフィスでチーム制を導入する
第5章 セルフマネジングの幻想―権限を奪うためにチーム制を利用すること
第6章 組職上のチーム制なしでのセルフマネジング―チームとしての組織
第7章 チーム制とトータルクオリティマネジメント―国境を越えて
第8章 戦略的チーム―上層部のチーム
第9章 セルフマネジング・チーム―我々は何を学び、どこへいくのか

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3367】 渡部 卓 『あなたの職場の繊細くんと残念な上司
○経営思想家トップ50 ランクイン(エドガー・H・シャイン)

「1人の人間として相手を見る」謙虚なリーダーシップを提唱。従来理論の前段階か。

謙虚なリーダーシップ1.jpg謙虚なリーダーシップ.jpg
謙虚なリーダーシップ――1人のリーダーに依存しない組織をつくる』['20年]

 昨年['23年]1月に亡くなったエドガー・H・シャイン(1928-2023/94歳没)らによる本書は、これまで人と組織の研究に大きな影響を与えてきた著者らが、「謙虚なリーダーシップ」という新たなリーダーシップのコンセプトを提唱するとともに、その実践の在り方を示したものです。リーダーシップに対する新しいアプローチとして、従来の業務上の役割に基づく関係ではなく、個人的なつながりを重視するアプローチを提唱しています。

 まず、第1章で、リーダーとフォロワーの関係は、
 ・レベルマイナス1(全く人間味のない、支配と強制の関係)、
 ・レベル1(単なる業務上の役割や規則に基づいて監督・管理したり、サービスを提供したりする関係。大半の「ほどほどの距離を保った」支援関係)、
 ・レベル2(友人同士や有能なチームに見られるような、個人的で、互いに助け合い、信頼し合う関係)、
 ・レベル3(感情的に親密で、互いに相手に尽くす関係)
の4つのレベルがあるとしています。そして、ルールと役割に依存するレベル1の関係から、もっと個人的なレベル2の関係に基づくリーダーシップ・モデルが新たに必要になってきているとしています。その理由として、
 1.課題の複雑さが、加速的に増している
 2.現代の経営文化は、近視眼的で、目に入らない領域があり、自己破壊的である
 3.職業的、社会的価値観は世代交代する
の3つを挙げています。そして、謙虚なリーダーシップの基盤は、レベル2の個人的な関係であり、この関係は、率直に話し、信頼し合うことが基盤となり、グループの関係がまだレベル2になっていないなら、謙虚なリーダーはまず、グループのなかで信頼を確立し、率直な発言を促す必要があるとしています。

 第2章では、関係の4つのレベル改めて解説し、単なる業務上の役割に基づく関係は、「相手を一個人として見る」レベル2の関係にシフトする必要があるとしています。

 第3章から第5章にかけては、謙虚なリーダーシップの成功事例として、シンガポールの政治リーダーらが謙虚なリーダーシップにより、国の経済開発を変革した事例、バージニアの医療センターのCEOが同センターのあらゆる人とレベル2の関係を築いて抜本的な改革を成し遂げた事例、アメリカ海軍という厳密なヒエラルキー下においてさえ、レベル2の協働が成果を生んだの事例の3つが紹介されています。

 第6章では、謙虚なリーダーシップが育たなかったり、行き詰まったり、成功しなかった事例を紹介し、謙虚なリーダーシップを阻害する要因となるヒエラルキーや意図せぬ結果について解説しています。

 第7章では、「パーソニゼーション」(personization)という概念、グループ・センスメーキング、チーム学習といった謙虚なリーダーシップの主要要素を今まさに推し進めているいくつかの傾向について解説するとともに、謙虚なリーダーシップは「英雄のようなリーダーシップ」の対極にあり、包括的で適応力のある組織デザインを可能にすることで変化の激しい時でも組織の崩壊を回避できる、未来型のリーダーシップであるとしています。

 第8章では、謙虚なリーダーシップの本質は、対人関係およびグループ・ダイナミクスにひたすら集中し続けることであり、これによって、より広範な経営文化についての考えを推し進められるかもしれないとしています。

 第9章では、謙虚なリーダーシップとは、弱さを受け容れ、レベル2のつながりを通じて、レジリエンシー(しなやかに適応する力)を育みことであるとしています。また、さらなる読書、自己分析、スキル習得を通して、自分自身のリーダーシップに磨きをかけることでできるとしています。

 英雄的な1人のリーダーに頼る組織は時代の変化に対応できず、重要なのは、相互に信頼し、率直に本音を伝え合う「組織文化」であって、そのような組織文化を築くためには、役割やそれに基づく関係ではなく、「1人の人間として相手を見る(パーソニゼーション)」という(個人的には、この言葉が"謙虚"ということに最もリンクした)、普段の絶え間ない実践が不可欠であるというのが、本書の趣旨となるかと思います。

 タイトルから「サーバント・リーダーシップ」のようなものを想像したりもしましたが、読んでみて、「サーバント・リーダーシップ」や「変革型リーダーシップ」といった一般的なリーダーシップ理論の前段階として、本書で言う謙虚なリーダーシップがあるべきなのだと思いました。第9章で、参考になる書籍として、ダグラス・マグレガーの『企業の人間的側面』からフレデリック・ラルーの『ティール組織』まで10冊の書籍が紹介されていることも、その表れかと思います。それらに読み進むのもよいでしょう。

 謙虚なリーダーシップというのは、本書で言う日本人のリーダーシップ観に馴染みやすく、フォロワーにも受け容れられやすいのではないでしょうか。むしろ、業務上の役割に基づく関係ではなく、個人的なつながりを重視するアプローチというのは、本書を読んでなくとも、多くの日本人リーダーが実践していることのようにも思いました。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3328】 ジョン・R・カッツェンバック 『リアル・チェンジ・リーダー

業績管理法(PM)を解説。部下が「笛吹けど踊らず」状態の上司に読ませたい。

ベストを引き出せ1.jpgベストを引き出せ.jpg オーブリー・ダニエルズ.jpg オーブリー・ダニエルズ
ベストを引き出せ―部下の業績を最大化するリーダーシップ』['95年]

 本書は、臨床心理学者でコンサルタントでもある著者によって、心理学的な観点から業績管理法について書かれた本であり、この分野では代表的な著作であるとされています。業績管理法はパフォーマンス・マネジメント(PM)とも呼ばれ、本書により「メンバーが行動を結果に結びつけるための人材マネジメント手法」として紹介されました。

 まえがきにおいて、「リーダーが企業内で変革を勧めようとする場合、リーダーは従業員たちの貢献意欲、創造活動、協力、業績を高めるか逆に低下させるかどちらかのやり方で変革を推進する。本書は、どうして、いかにこのような状況が発生するのかについて、明確に説明したい」としています。

 第Ⅰ部「伝統的マネジメントの危険性」では、1章で、流行の経営管理手法に惑わさず、また「自己流のスタイル」から脱して確固たる方法をとるべきであるとしたうえで、ビジネスとは行動そのものであり、業績管理法は人間行動を理解することを目的とし、行動を変革するための科学的な方法を活用するとしています。2章では、常識的な知識は通常のビジネスや生活の中で身につくが、科学的知識は計画的、体系的に追求されなければならず、科学的な知識こそが継続的な成果の基になるとしています。3章では、行動分析の科学では、行動の前に現れてくる現象を「前件」、行動の後に生じてくることを「結果」と呼び、前件はある行動を引き起こすが持続させることはできず、結果こそが行動を持続させるとしています。

 第Ⅱ部「行動強化は驚くべき力をもたらす」では、4章で、行動に伴って出てくる結果には、行動強化、行動否定、行動処罰、行動消去の4つのタイプがあり、行動強化は業績を改善させる「結果」と定義されているので、この方法は常に有効であることになるとしています。5章では、業績管理の基本は、ものごとを他人が見ているのと同じ見方でとらえることであり、それによって部下との信頼が築けるとしています。6章では、行動否定には大きな欠陥があるとして、行動強化と行動否定でどのような差があるか、行動否定が作用していることを示すヒントとはどこに見られるのかを解説しています。7章では、行動強化で部下の自発的努力を引き出すにはどうすればよいか、8章では、行動消去と行動処罰を活用するにはどうすればよいか、9章では、行動強化を効果的に活用するにはどうすればよいかをそれぞれ解説しています。

 第Ⅲ部「業績管理法によりリーダーシップを発揮する」では、10章で、成果を達成するために必要とされる行動をどう特定するかを述べています。11章では、行動を測定する方法の妥当性を高めるにはどうすればよいか、12章では、部下に効果的に業績をフィードバックするにはどうすればよいかを述べ、13章では、部下の業績を最大に高めるための技法を紹介しています。

 第Ⅳ部「組織の業績をベストに導く」では、14章で、業績管理法において経営幹部の果たすべき役割を説き、困難な時期こそ支援的行動強化が必要とされるとしています。15章では、従業員の学習効果を最大限に高めるにはどうすればよいかを説き、16章では、部下からベストを引き出すための心構えやヒントを示しています。

 さらにエピローグで、業績管理法が基礎とする価値として、つつみ隠さぬ姿勢、一貫性、公平性と人間尊重などを挙げています。

 近年、組織としてどのようなアクションをとるのが望ましいかを明らかにし、それを従業員一人ひとりの個人的な目標とリンクさせることによって、組織全体の生産性を向上させようと考える企業が増えてきています。本書によれば、業績管理法は、目標達成につながる行動を社員本人と一緒に考え、そのアクションの結果を受けて、定期的にフィードバック。社員に気付きを促すことで、さらに能力発揮につながるように導くものであるということになります。

 より具体的には、各メンバーの行動とその結果に注目し、客観的な計測結果をフィードバックすることで、パフォーマンスに繋がる「望ましい行動」を増やし、「望ましくない行動」を減らそうとするものということになります。この手法は現代の職場においても効果的であると考えられ、従業員や部下が「笛吹けど踊らず」状態の経営者やマネジャーには是非読んでほしい本です。

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3378】 ヘンリー・ミンツバーグ 『これからのマネジャーが大切にすべきこと
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ 「●組織論」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(トム・ピーターズ)

エクセレントを生むのは「人」という考え方はブレず、AI時代にも説得力を持つ。

新エクセレント・カンパニー1.jpg新エクセレント・カンパニー2.jpg
新エクセレント・カンパニー: AIに勝てる組織の条件』['20年]

 本書は、80年代に発表され、世界的ベストセラーとなった『エクセレント・カンパニー』を著した著者が、豊富な経験とケーススタディをもとに、AI(人工知能)には決してマネ出来ない「エクセレント」な企業活動の条件とは何か、時代に左右されないビジネスの本質を説いたものです。

 第Ⅰ部「実践」 、第Ⅱ部「エクセレント」 、第Ⅲ部「人びと」、 第Ⅳ部「イノベーション」、 第Ⅴ部「付加価値」、 第Ⅵ部「エクセレントなリーダー」の全6部から成り、さらにそれを15の章に分けており、 第Ⅰ部では、実践こそ戦略であり、実践とは現場で行われるものであって、社長室では起こらないと説いています(第1章)。

 第Ⅱ部では、エクセレントとは何かを14のセクションにわたって検討し、エクセレントはその瞬間瞬間の生き方にあり、実行しなければ存在しないとしています(2章)。さらに、エクセレントは、エクセレントな組織文化によってのみ維持されるとし(第3章)、中小企業は間違いなくエクセレントたり得るとして、エクセレントな成果を上げている中小企業の事例を紹介しています(第4章)。

 第Ⅲ部のテーマは人間関係であり、まず「人がいちばん」はエクセレントを目指すための最重要項目であるとし(第5章)、従業員一人ひとりにチームにがっちりかかわらせて、チームの成長に専念させなければならないとしています(第6章)。また、新しいテクノロジーとの向き合い方を説き、企業の新しい道徳的責務は、すべての社員に将来必要となる専門技術を身につけさせることだとし(第7章)、不安定な世界で雇用を安定させることは、攻撃的な戦略なのだとしています(第8章)。

 第Ⅳ部では、イノベーションの2つの法則(「数打ちゃ当たる」と「失敗は成功のもと」)を紹介し、イノベーションは"本気の遊び"であり、思い切って一歩を踏み出すことだとし(第9章)、多様な相手との付き合いが私たちを成長させるのであって、この時代、同じような人とばかり付き合うのは身を亡ぼすとしています(第10章)。

 第Ⅴ部では、AI時代において魂が抜けた業務が氾濫するなかで、付加価値こそ優先すべきだとして、付加価値を強化する9つの戦略の筆頭にデザインを挙げ、アップルなどの例からデザインこそ最重要の差別化因子であるとし(第11章)、続いて、その他の8つの付加価値強化戦略を説いています(第12章)。

 第Ⅵ部では、エクセレントなリーダーの最大の特質は「聴き上手」であることだとし(第13章)、最前線のエクセレントなリーダーは企業のコアバリューであって、もっと評価されるべきだとしています(第14章)。そして最後に、エクセレントなリーダーとなるための26の戦術を紹介しています(第15章)。

 各章の冒頭に「マイストーリー」という著者自身の実体験があり、その後に各トピックが番号付きで紹介されてはいますが、内容的には特に体系だった構成がされているわけではなく、解説の米倉誠一郎・法政大学大学院教授が述べているように、気に入った章から読み進め、各章で紹介されるエクセレントな事例を座右の銘として書き留めるという読み方でもよいと思います。

 他の書籍からの引用が多く、読んでいてやや細切れ感があったのは否めませんが、戦略や数字、分析よりも、組織文化や人こそが大切であるという考え方は、前著『エクセレント・カンパニー』から受け継がれているものであり、AI時代に突入した今日においても、エクセレントを生むのは「人」であるとし、そうした「人がいちばん」という著者の考え方がブレず、且つ、今日においても説得力を持っているのは、個人的には嬉しく、また心強く思いました。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3355】 エドガー・H・シャイン/他 『謙虚なリーダーシップ

「体育会系」組織の病理に迫るも、人事パーソン的には物足りない。

体育会系上司.jpg体育会系上司2020.jpg       自己実現という罠.jpg  
 『体育会系上司 - 「脳みそ筋肉」な人の取扱説明書 - (ワニブックスPLUS新書)』['20年] 『自己実現という罠―悪用される「内発的動機づけ」』['18年]  

 以前、その著書『お子様上司の時代』('13年/日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』('15年/日経文庫)、『自己実現という罠―悪用される「内発的動機づけ」』('18年/平凡社新書)を取り上げた著者の本(この著者は4冊目ということになる)。

 ここ数年、体育会系組織の不祥事が次々と明るみに出て、世間を騒がせていますが、本書は、心理学者である著者が、体育会系組織の特徴と問題点について心理学の視点から検討することで、「体育会系」という存在の正体に迫っています。そして、スポーツ系の組織に限らず、日本的組織の持つ特徴が体育会系組織に凝縮されているとの仮説のもと、日本的組織が陥りがちな問題点を探るとともに、体育会系組織との付き合い方を示しています。

 第1章では、なぜ人は体育系の魅力に取り憑かれるのかを分析しています。著者によれば、池井戸潤の「下町ロケット」などもいわば体育会系のノリの作品であり、見る者を熱くさせるのが体育会系の魅力であるが、そこには非現実の世界だからこそ美しく見えるといった面もあるとしています。

 第2章では、アメフト部、ボクシング連盟、体操協会などに見られた諸事件を分析し、その権力構造が、山崎豊子の「白い巨塔」で描かれる大学医学部の組織構造と酷似していることを指摘、体育会系の組織構造は日本の社会に深く浸透しているとして、果たしてそうした組織に身を置いたとき、自分が正しいと思った通りに行動できる人間がどれだけいるだろうかと問いかけています。

 第3章では、体育会系学生のイメージと実態を分析しています。体育会系学生の肯定的なイメージは、➀礼儀正しい、②仲間を大切にする、③自己抑制力がある、などで、否定的なイメージは、➀勢いだけで動く、②融通が利かない、③自分の頭で考えない、④単純な認知構造、であると。体育会系人材の特徴として、社交性や協調性の高さ、行動力、達成動機の強さ、チャレンジ精神、意志の強さなどがあり、実態としては、今も体育会系人材は企業から好まれているとしています。

 第4章では、体育会系組織がなぜ病んでしまうのかを分析し、その原因として、上意下達が思考停止を招く、気配りが忖度の行きすぎを招く、権威主義がパワハラ容認につながる、属人思考に染まる、事なかれ主義に陥りがちになる、などを挙げています。また、自己抑制による欲求不満が陰湿ないじめを生んだり、団結心の強さが逆に仇になることがあるとしています。

 第5章では、体育会系組織に象徴される日本的組織の病巣を、実際に起きた不祥事事件などから探り、不祥事を生む「気配り」、責任の所在を覆い隠す忖度の心理構造、情実人事につながる「上にお任せ」の「甘えの心理構造」、会議で本当の議論ができず、空気を乱さないことが何よりも大事になっていることなど挙げています。

 第6章では、体育会系組織との上手い付き合い方を指南しています。ここでは、自己中心的になりすぎない、危ない時は情にアピールする、話を単純明快にする、適度の距離感を保つ、自分の軸を持つ、別の居場所を持つ、といったことを挙げています。

 採用時にはどの会社もこぞって欲しがる人材でありながら、何年も会社にて権力を持つと高圧的な態度を取りがちという、「体育会系」人材の問題を指摘した本は、これまでもあったように思います。本書の場合、それを個人レベルにとどまらず、組織心理学的な視点まで敷衍して分析している点は良かったです。

 ただし、何か新規性のある分析が見られたかというとそうでもなく、また、そうした問題のある組織や上司をどうするべきかということではなく、最後は、体育会系組織に馴染めない人に向けたアドバイスで終わっているのが(これはこれで一般向け図書としてはいいのだが)、これまで取り上げたこの著者の本と同様、人事パーソンの視点から見ると物足りないように思いました(今のところ、『自己実現という罠』がいちばん良かった)。


「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3348】 榎本 博明 『体育会系上司

「経験から学ぶ力」を高めるには、弱みに目をむけるのではなく部下の強みを引き出せと。

経験学習リーダーシップ.jpg部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ 』['19年]松尾 睦  『成長する管理職』2.jpg成長する管理職: 優れたマネジャーはいかに経験から学んでいるのか』['13年]

 経験学習という言葉は、企業における人材育成の場で、最近よく使われるようになっているようです。経験から学ぶものが最も大きいということは、認識としてはずっと以前からあったものの、部下や後輩が「自らの経験から学べるように支援する」ことが人材育成上の課題として捉えられるようになってきたのは、最近の傾向ではないかと思います。

 本書における「経験学習リーダーシップ」とは、まさにそうした「職場メンバーの経験学習をうながす指導」を指し、マネジャーはどうすれば部下の「経験から学ぶ力」を高め、部下の成長を効果的に支援できるのかを解明するのが本書の目的となっています。

 本書では、さまざまな調査の結果、育て上手のマネジャーがどのような指導をしているかが明らかになったと同時に、普通のマネジャーが陥りやすい「落とし穴」も見えてきたとしています。

 その普通のマネジャーが陥りやすい「落とし穴」とは、①弱みを克服させることに重点を置き、②問題や失敗のみを振り返らせ、③マネジャーが職場のすべてを仕切るというアプローチ法であり、こうした指導方法は、「反省」を重視した、極めて日本的・職人的な育成方法であるとのことです。

 これに対し、育て上手のマネジャーは、①強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づけ、②失敗だけでなく成功も振り返らせることで、強みを引き出し、③中堅社員と連携しながら、思いを共有するという、3つのエッセンスから成るアプローチ法をとるとのことです。こうした指導は、「組織における成果」を高め、「人生における幸福」や「社会における善」につながるとしています。

 第1章では、ディビッド・コルブの経験学習サイクル(①経験する、②振り返る、③教訓を引き出す、④応用する)などを引きながら経験学習の基本プロセスを示し、経験から学ぶ力は、①ストレッチ(挑戦する力)、②リフレクション(振り返る力)、③エンジョイメント(やりがいを感じる力)、④思い、⑤つながりの5つの要素から成るとしています。

 続く第2章では、先に述べた育て上手の指導法の3つのエッセンスを改めて紹介し、第3章から第5章にかけて、①強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づける(3章)、②失敗だけでなく成功も振り返らせ、強みを引き出す(4章)、③中堅社員と連携しながら、思いを共有する(5章)という3つのエッセンスについて、それぞれより詳しい指導法や事例を解説しています。

 さらに、こうした指導法に加えて、2つの補完スキルとして、第6章と第7章で、④成長をうながす仕事の創り方(6章)、⑤成長をうながすリフレクション(振り返り)支援(7章)について、それぞれ指導法や事例を解説し、終章で、これまでの内容を確認しまとめています。また、巻末に付録として、部下の強みをチェックする「強みのリスト」、本書の内容をより深く理解するための「自己診断チェックリスト」、育成計画を立てるための「育成ワークシート」が付されています。

 内容的には、調査結果をもとにした研究書とも言えるものですが、体系的によく整理されているのと、「部下の強みを引き出す」という大きな柱が一本あることでわかりやすくなっています。また、事例も豊富で、「手軽にできる5分間リフレクション・エクササイズ」といったツール的な素材も織り込まれているため、実際の職場で応用が可能な実務書(マニュアル)としても読めるものとなっています。

 ただし、著者自身もそう述べていますが、本書に書かれていることのすべてを一度に実行することは難しいと言えるため、できるところから実践していくというスタンスになるかと思います。また、職場で起きていることが、本書で書かれていることのどの部分に該当するか、常に意識することも必要かと思います。そうした地道な実践を通してはじめて、組織メンバーの「経験から学ぶ力」を高めるよう指導するうえでの、ガイドラインになる本であると思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 経験学習の基本プロセス
第2章 育て上手のマネジャー vs 平均的マネジャー
第3章 育て上手の指導法1:強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づける
第4章 育て上手の指導法2:失敗だけでなく成功も振り返らせ、強みを引き出す
第5章 育て上手の指導法3:中堅社員と連携しながら、思いを共有する
第6章 補完スキル1:成長をうながす仕事の創り方
第7章 補完スキル2:成長をうながすリフレクション支援
終 章 まとめ
おわりに
付録A 強みのリスト
付録B 自己診断チェックリスト
付録C 育成ワークシート
参考文献

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2764】リッチ・カールガード『グレートカンパニー
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ 「●文章技術・コミュニケーション」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(エリン・メイヤー)

効果的な異文化コミュニケーションをマネジメント要素別、国別に分かりやすく解説。

異文化理解力1.jpg異文化理解力.jpg The Culture Ma.jpg Erin Meyer.jpg
異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』['15年]『The Culture Map: Breaking Through the Invisible Boundaries of Global Business』['14年]Erin Meyer

 グローバル化により、外国企業と交渉したり上司や部下が外国人だったり、多国籍のチームで働くことは珍しくなくなってきていますが、育った環境や価値観が異なる人たちと仕事をするときに、互いの発言や行動の真意を理解し合い、誤解や対立を避けつつ、リーダーシップを発揮したり意思疎通を円滑にしたりし、多国籍な職場で成果を出し続けるにはどうすればいいか─本書の著者エリン・メイヤーは、フランスとシンガポールに拠点を置くビジネススクールの客員教授で、異文化マネージメントのプログラム・ディレクターなどを務めていますが、10年超の研究と数千人の経営幹部への取材をもとに、本書において、異文化を理解するためのツール「カルチャーマップ」により、マネジャーが自覚しておくべき以下の8つの指標について、国の文化や慣習が相対的にどこに位置しているのかを可視化しています。

  1.コミュニケーション:ローコンテクスト vs ハイコンテクスト
  2.評価(ネガティブフィードバック):直接的 vs 間接的
  3.説得:原理優先 vs 応用優先
  4.リード:平等主義 vs 階層主義
  5.決断:合意志向 vs トップダウン式
  6.信頼:タスクベース vs 関係ベース
  7.見解の相違:対立型 vs 対立回避型
  8.スケジューリング:直接的な時間 vs 柔軟な時間

 「カルチャーマップ」とは、8つのマネジメント領域を縦軸に、各領域における両極端の特徴を横に置いた、文化の「見取り図」とでも言うべきもので、「評価」という領域では、左端が「直接的なネガティブなフィードバック」、右端が「間接的なネガティブなフィードバック」となり、例えばドイツは左端、日本は右端に位置するとされています。以下、各章ごとに、8つの指標について、それぞれがどのような「カルチャーマップ」(の要素)となるか解説しています。

 第1章「空気に耳を澄ます」では「コミュニケーション」について、ローコンテクスト文化のアメリカやカナダなどは、簡潔明瞭で額面どおりの表現を好むのに対し、ハイコンテクスト文化の日本や中国などは、曖昧で含みがある表現を多用するとしています。

 第2章「様々な礼節のかたち」では「評価」について、ネガティブなフィードバックを率直かつ単刀直入に行うロシアやイスラエルに対し、日本やタイなどは間接的にやんわりと伝える傾向があるとしています。

 第3章「『なぜ』vs『どうやって』」では「説得」について、ラテン系のイタリア、フランス、スペインなどは「原理優先」の文化であるが、アングロサクソン系のアメリカやカナダなどは「応用優先」の文化であるとしています。また、アジアの人々はいわゆる「包括的な」思考パターンを持っていて、西洋の人々はいわゆる「特定的な」アプローチをとっているとしています。

 第4章「敬意はどれくらい必要?」では「リード」について、同じヨーロッパの国でも、歴史的背景の違いににより、ローマ帝国やカトリックの影響をうけた南欧諸国は階層的権威主義的であるのに対し、バイキングの思想に基づく北欧諸国は平等主義的であるとしています。そして、儒教文化の影響を受けた中国、韓国、日本は、最も階層主義的文化と位置づけられるとしています。

 第5章「大文字の決断か小文字か」では「決断」について、アメリカ人は<小文字の決断>を複数繰り返し行って、最終的な形にしていくという傾向があるが、日本人は<大文字の決断>という一度決めたら二度と変えないくらいの行動をする傾向があるとしています。また、決断が個人でなされる(たいていは上司)トップダウン式がアメリカなどの国であり、決断は全員の合意の上グループでなされる典型的な国が日本であり、日本の稟議システムは、階層主義かつ超合意主義であるとしています。

 第6章「頭か心か」では「信頼」について、信頼はビジネスに関連した活動で築かれるというタスクベースの考え方をするのがアメリカなどであり、それに対し、食事をしたり酒を飲んだりすることで築かれるという関係ベースの考え方をするのが中国や日本であるとのことです。また、人間関係を構築する傾向を「桃」VS「ココナッツ」と表現しています。これは、アメリカ人はアイスブレイクなどをワークショップなどで行うことが多く、容易くそれをこなしているが、彼らは「桃」の関係構築をしていて、会ったばかりの人には親しく接するものの、どこかで種にぶつかったかのように、その人の守る壁に突き当たり、逆に日本人などは「ココナッツ」の関係構築をしていて、「ココナッツ」は皮が固くなかなか親しくしてもらえないが、親しくなるとプライベートも関わるような関係ができる、という関係を構築する文化のことを表しています。

 第7章「ナイフではなく針を」では「見解の相違」について、例えばフランス人は見解の相違や議論はチームや組織にとってポジティブなものだと考える対立型の傾向があるが、日本人などは、ネガティブなものだと考える対立回避型の傾向があるとしています。

 第8章「遅いってどれくらい?」では「スケジューリング」について、プロジェクトなどがスケジュール通りに進むことが重要であると考える日本や中国に対し、インドなどでは、プロジェクトは流動的なものとして捉えられ、場当たり的に作業を進め、組織性より柔軟性に価値が置かれるとしています。

 各章とも事例をもとに解説されているため、読みやすく、また、納得性の高い内容であったと思います。どの指標においても日本は常にどちらかの側に偏った端的なポジショニングにあることを改めて思い知ったという印象です。ビジネスでの同意、決定、承認、チームをリードする、といった場面で、どの国の人にはどのような手法がより効果的になるかが、分かりやすく説明されている本であり、仕事で外国人と接することがあるすべてのビジネスパーソンにお薦めできます。もちろん、グローバル企業で働く人事パーソンにも、これからの教養としてお薦めです。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3483】 マイケル・ユシーム 『九つの決断

企業の命運はCEOにではなく、最前線に立つ中間管理職(RCL)にかかっている。

リアル・チェンジ・リーダー1.jpgリアル・チェンジ・リーダー2.jpg ジョン・R. カッツェンバック.jpg ジョン・R. カッツェンバック
リアル・チェンジ・リーダ』['98年]

 本書は、マッキンゼーの企業変革グループが、1990年代のアメリカ経済の復活をけん引した企業変革に関する膨大な研究成果を、「変革の真のリーダー」という切り口から書き下ろしたものです。本書では、アメリカを復活させたのはまったく新しいタイプの中間管理職であり、それをリアル・チェンジ・リーダー(=RCL)としています。

 第1部「リアル・チェンジ・リーダーは変革をになう」では―、

 第1章では、「業績は数字だけではない」とし、RCLは、①市場で何が重要なのかをその理由と併せて明確にし、②変革にどれほどの努力が注がれたかを達成した業績によって計り、③より高い成果を常に求め続ける―としています。

 第2章では、変革における「ワーキング・ビジョン」の重要性を説き、①RCLにとってワーキング・ビジョンによって達成されるものは何か、②RCLが自分たちにのワーキング・ビジョンを作り出すプロセスとはどのようなものか、③ワーキング・ビジョンを育くむために、RCLはどのような働きかけをするのか―を考察しています。

 第3章では、変革には「リスクを冒す勇気」が必要であるとし、RCLは、①自身の自信と信頼感を築き上げ、②他の人々の心に勇気を吹き込み、③経営陣が抱く成功への確信にプラスの影響を及ぼす―としています。

 第2部「会社ぐるみの変革をいかに成し遂げるか」では―、

 第4章では、「組織の全員に期待以上の成果を上げさせる」ためにRCLが従業員活性化のための支援をどのように与えるかを、①少人数グループの活性化、②大規模工場における従業員の活性化、③大企業の広い範囲の部署にいる従業員の活性化―のそれぞれについて、事例で紹介しています。

 第5章では、「プロセス再設計は顧客のニーズから」行うべきであるとし、RCLは、①顧客の視点を把握する、②上下関係にとらわれず行動する、③多様なアプローチを学ぶ―としています。

 第6章では、「組織変革のタイミング」について、従来の典型的な管理職と異なってRCLが選択・実行するのは、①組織図を明確化し、そこから前進する、②チームや作業グループなど柔軟な組織単位に依存する、③必要に応じてリストラを断行する―ことであるとしています。

 第3部「リーダーシップ能力と企業の成長」では―、

 第7章では、変革に「弾み」をつけるためにRCLは、①多様なツールを作り出し、さまざまなアプローチを開発する、②ツールやアプローチのバランスを変えていく、③長時間にわたって変革にかかわる人々の数を増やし、スピードを上げていく―としています。

 第8章では、変革のスキルを身につけるためにRCLは、①どのようなスキルと心構えが必要とされるか、②リーダーとしてどんな役割が浮上してくるか、③より優れたRCLに、どうやって、また、なぜなるか―を説いています。

 第9章では、RCLが自身のキャリアの将来のためにとる態度を、①状況に対応するために「バランスをさまざまに変える」、②将来に目を配ることで「他との違いを際立たせる」―の二点にまとめています。

 最後に「エピローグ 経営陣へのメモ」で、RCLがトップに実践してもらいたいと思っていることとして、
  ⑴ 顧客と従業員たちにとって意味のある目標と測定基準を設定する
  ⑵ 組織内を歩き回って部下に話しかける、要求の多いボスになる、
  ⑶ 成果を上げた人間には十分に報いてやり、怠けた人間には罰を与える
  ⑷ 業績が思わしくない分野の尻を叩く
  ⑸ 要求を達成したら報奨を与える
の5つを挙げています。

 企業の命運はCEOや重役にではなく、最前線に立つ中間管理職にかかっており、新しいタイプの中間管理職リアル・チェンジ・リーダー(RCL)が発意することにより、初めて組織は動き出すという―ではRCLとはどのような人を指し、RCLになるにはどうすればよいかを説いた、多くのビジネスパーソンにとって啓発度の高い本であると思います。

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3358】 パトリック・レンシオーニ 『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(マンフレッド・ケッツ・ド・ブリース)

精神分析的組織・リーダー論。広くお薦めできるが、とりわけ人事パーソンにお薦めの本。

会社の中の「困った人たち」.jpg マンフレッド・ケッツ ド・ブリース2.jpg Manfred Kets de Vries
会社の中の「困った人たち」―上司と部下の精神分析>』['98年]

 本書(原題:Life and Death in the Executive Fast Lane: Essays on Irrational Organizations and Their Leaders,1995)の著者マンフレッド・ケッツ・ド・ブリース(Manfred F. R. Kets de Vries) は、欧州のINSEADビジネススクールの教授であり(本書執筆時)、ハーバード・ビジネススクールの教授を務めたこともある人で、精神分析を組織論に応用することを目指している異色の経営学者であるとのことです。原題の意は「追い越し車線を走る経営幹部の生と死―非合理的な組織とそのリーダーに関するエッセイ集」であり、企業組織の中で慌ただしく働き生きる人々の心理を探ろうとした本です。大きく二部構成になっていて、Ⅰ部(「困った人たち」は変化を求めない、第1~第9章)は組織の問題に重点を置いており、Ⅱ部(「困った人たち」のジレンマ、第10~第19章)は人間の役割に焦点を当てています。

 第1章「部下がついてこない上司なんて―リーダーシップの機微」では、リーダーには、組織の将来をビジョン化し、社員にエンパワーし、社内エネルギーを方向付けるカリスマとしての役割と、計画を立て、組織化を行い、統制をして、報酬を与えるという実施促進者としての役割があるとしています。

 第2章「新しい会社に移った経営者なら―新任最高経営責任者の心の内」では、社外から招かれたり、内部昇進をしてリーダーの地位に就いた経営幹部は、さまざまな対立事項や利害の衝突の対処しなければならないことがい多いが、リーダーとしての役割をできるだけ早く果たせるようになるには、どのようなことを意識すべきかを説いています。

 第3章「ゆでガエル、そして踊るゾウ―やる気を保つダウンサイジング」と第4章「合併熱にご用心―合併・買収の心理的側面」では、企業が競争力を保つためには組織の変化が必要であり、それが企業規模や労働力の拡大縮小につながることもままあるが、ダウンサイジングなどの困難な変化について、あるいは合併・買収(Ⅿ&A)などについて、リーダーは社員の拒否反応をどう調停すべきか、経営幹部は変化による競争上の利点をどう活かすかを説き、変化をうまく活かすには、変化の途上における人間的側面に配慮することが不可欠であるとしています。

 第5章「社歌という名のラブソング―企業文化は簡単には変わらない」では、企業文化はいわば人間的側面の集大成であり、組織変革においてはこれが決定的要因になることがあるとして、象徴や言語や行動など社風の本質を解読し、それを変えていくための手がかりを提示しています。

 第6章「会社の中のカルチャーショック―国境を越える経営」では、企業文化の多様性の考察と同じく、国ごとの文化の違いを考察することは重要であり、異文化問題が決定的になる例として国際的なⅯ&Aがあるとして、文化による仕事の多様性を扱っています。

 第7章「海外でほんとうに働きたい?―海外赴任のプラス・マイナス」では、経営幹部やその家族に対して、海外の赴任のために適切な準備を行うことの重要性を理解している企業はほとんどなく、帰国してみると戻るべきポストがないという問題にぶつかる経営幹部も多いとして、海外勤務と帰国後の勤務とを、経営幹部にとっても企業にとっても建設的なものとするにはどうすればよいかを考察しています。

 第8章「グローバルにやっていく―グローバル・リーダー育成の実際」では、グローバル企業の増加に伴い、真にグローバルなリーダーへの要請が高まっているが、そのようなリーダーはどのような経験によってつくられるものなのかを、実例を見ながら、そのの国際的リーダーたちの育成に役立った要因を考察しています。

 第9章「今日の成功者は明日の失敗者―エクセレンスを持続するリーダーシップ」では、将来のビジネスはどうなるか、企業が抜きんでておく必要がある分野とは何かを予想しています。

 第10章「女性差別の重いツケ―上司としての女性」では、男性と女性の生理的、心理的過程がどう異なるかに注目して、組織の中でこの違いから生じてきている偏見と現実をテーマにしています。

 第11章「親父の会社に入る茶番劇―同族会社の大変さ」では、同族会社においては後継者問題で会社が没落するということもあり、家族関係がビジネスに影響すると問題が深刻化するとして、同族会社のオーナーや従業員にアドバイスを与えています。

 第12章「はみ出し者を活かす―創造性の管理」では、真に創造的な社員と普通の社員の違いに目を向け、創造的な社員をどう見つけ、どう育てるかを検証しています。

 第13章「優雅な退場―最高経営責任者の引退と後継者問題」では、引退と後継者問題といういかなるリーダーにとってもトラウマになる時期について説明し、引退を人生の一つの通過点に過ぎないと思う人がいる一方で、なぜ、これを文字通り命に関わる問題と感じる人がいるのか、この種の変化に対して、個人的、組織的両面からどう対処すればよいかを考察しています。

 第14章「つい働き過ぎてしまうのは―仕事と遊びのバランス」では、機能不全の行動のタイプとしてよく見られるものに仕事中毒(ワーカーホリック)があるとし、ワーカーホリックの行動をどのようにすれば変えることができるのかを考えています。

 第15章「『死んだ魚』でいっぱいの会社―失感情症は蔓延する」では、組織には失感情症(アレキシサイミア)と呼ばれる人がいて、こうした情動を表現できない症状の人は大企業によく見られるが組織の構造や日常業務の背後に隠れてしまっていることもあり、失感情症のリーダーはその組織に悪影響を及ぼし、有能なリーダーに不可欠なカリスマ的資質を欠きがちであるとしています。

 第16章「起業家はムチャもする―起業家精神の暗黒面」では、リーダーとしての機能不全的特徴の多くは、不健康な自己愛に起因しており、起業家は自分に敵対していると思える勢力を前にしても、なお成功への道を突き進もうとするエネルギーを得られることから行き過ぎた行動をとるという、その起業家にありがちな精神の暗黒面について論じています。

 第17章「なぜジンギス・カンのために働くのか?―粗暴な上司に服従する心理」では、行動面での過度の服従と感応精神病という奇妙な現象を考察し、リーダーへの愛着は、ときにフォロワーの合理的思考力、行動力を圧倒して、自分を損なわせるほどにつよくなることを明らかにしています。

 第18章「常軌を逸した上司―自己愛とうぬぼれの取り扱い方」では、これまで見てきたような種類の機能不全よりももっとひどい、狂気の領域に足を踏み入れたようなリーダーもいて、彼らの行動を説明できる合理的解釈は見当たらないが、彼らに一線を超えさせてしまう要因として、やはり自己愛があり、自己愛は建設的なプラスの力として働くこともあるが、一転して過度の傲慢と非合理的思考の鍵となることもあるとしています。ただし、第19章「おわりに―少々の狂気は人生に必要」では、特に極端な位置にいるのでなければ、少々の狂気は人生の中で必要なのだと認めることもできるとしています。

 冒頭に述べたように、Ⅰ部(第1~第9章)は組織の問題に重点を置いており、Ⅱ部(第10~第19章)は人間の役割に焦点を当てていますが、著者自身が前書きで述べているように、恋人と組織はそれぞれ複雑に絡み合った全体の一面であるため、ほとんどシームレスな感じで読めました(Ⅱ部からでも読める)。また、各章に気の利いたタイトルがついていて(おそらく訳者による意訳だと思うが)、その章で扱うテーマが分かりやすくなっているのも良かったです。

 内容的には、リーダーシップ(とその暗黒面)、組織改革、キャリア・ダイナミクス(転職、海外赴任、引退、女性のキャリア問題)、企業活動と人の国際化・グローバル化、起業家、同族経営、職場のメンタルヘルス、リストラやⅯ&Aの心理的影響など多くの問題を扱っていますが、問題の掘り下げ方に精神分析家としての特徴があり、しかも臨床的パラダイムを主張する著者だけに、企業経営者やそこで働く人々をよく観察・分析して書かれているという印象を持ちました。

 訳者あとがきで、第一に、会社の中における人間の問題について深く考える必要があるポジションにある人(例えば管理職、人事部門の人)、第二に、会社の中で「困った人たち」に会うことを専門にしている人たち(例えばキャリア・カウンセラー、組織コンサルタント)、第三に、組織内で自らが困っていると思っている人、第四に、なにも困っていなくとも、精神分析的組織論と言う経営学の知のフロンティアに知的好奇心を抱く一般読者に本書を読んでほしいとありますが、まさにその通りだと思いました(個人的は、とりわけ人事パーソンにお薦め)。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3350】 オーブリー・C・ダニエルズ 『ベストを引き出せ

「リーダーは、集団を"リニューアル"するのがその最終的な役割」―説得力あり。

リーダーシップの本質.jpgジョン・ウィリアム・ガードナー.jpg John William Gardner
リーダーシップの本質―ガードナーのリーダーの条件』['93年]

ジョン・ウィリアム・ガードナー 2.jpg 本書の著者ジョン・ウィリアム・ガードナー(1912-2012)は、医療、教育、福祉部門の長官、ケネディ政権で教育タスクフォースのメンバーになったのを皮切りに、6人の大統領の顧問、スタンフォード大学の教授を務めた人物であり、そうした経験を持つ著者が、アメリカ各界の指導者数百名にインタビューするなどして5年間を費やした研究調査の成果を横糸に、著者自身の社会観、文明観、哲学を縦糸にして、リーダーシップ論を展開したのが本書です(原題:On Leadership,1990)。

 第1章では、リーダーシップというのは、個人あるいはリーダー・チームが、リーダーやリーダーと部下が共有している目的を追求すべく、集団を誘導していくプロセスであるとしています。第2章では、最も重要なリーダーシップ機能として、目標設定、動機づけなど、リーダーの9つの任務を示しています。

 第3章では、リーダーとフォロワーズとの相互作用について述べ、その関係がうまく機能するために必要なこととして、効果的な双方向のコミュニケーションは不可欠であるとしています。第4章では、いかなる状況の中でも成功するリーダーシップを保証するような、リーダーの特質などは存在しないとしています。

 第5章では、リーダーにとって重要な資質として、以下の14 項目を挙げています。
  1.肉体的活力とスタミナ
  2.知力と実行判断力
  3.責任を引き受ける意欲
  4.任務遂行能力
  5.部下に対する理解
  6.人を扱う技術
  7.偉業を達成する必要性
  8.動機づけ能力
  9.勇気、決意、着実性
  10.信頼を獲得し保持する能力
  11.管理し、決定し、優先順位を設定する能力
  12.自信
  13.主導権、支配、自己主張
  14.戦術の適応性と柔軟性

 第6章では、リーダーシップとパワー(権限)は同じものではないとし、第7章では、道徳的に受容できるリーダーの特質とはどのようなものかを述べています。

 第8章では、今日の複雑化した大規模組織におけるリーダーの機能と役割を探り、第9章から第11章にかけては、そうした大規模組織内で起きる断片化と共通利益の問題、連携と責任のネットワークの問題、コミュニティ意識の喪失の問題を取り上げ、リーダーはどう対応すべきかを説いています。

 第12章では、今日リーダーが対応しなければならない組織の問題は、分断化、共有価値の喪失、対立勢力を妥協させる困難だけでなく、組織を常にリニューアル(再活性化)する必要があるということを理解しなければならないとし、さらに言えば、リーダーは組織文化の再生者でなければならないとしています。

 第13章では、リーダーシップにおける役割の分担について述べ、その1つの形態として、リーダーと密接な関係を保ちながら働く少数の個人グループ、リーダーシップ・チームというものを取り上げ、リーダーシップ任務を分担することの利点を説いています。

 第14章では、リーダーシップは教育できるかという問いに対する答えは「イエス」であるが、その教育は、多数の人々を対象に、できるだけ早期のうちに取り組むことが、社会の活力に決定的な重要性を持つとし、また、大学レベルにおけるリーダーシップのための最善の準備は、リベラル・アーツ(一般教養)を身につけさせることであるとしています。第15章では、リーダーシップ開発は生涯にわたって可能であり、その過程は生涯学習となるとしています。

 第16章では、動機づけ者としてのリーダーという観点から、リーダーにはフォロワーズのニーズが何かを知ることが求められ、また、自己を超えた献身が求められるとしています。第17章では、リーダーは人々に自信を持たせる試みをするものであり、リーダーとフォロワーズの関係は、人間の可能性に対する信念によって設定されるとしています。

 フォロワーズとの関係においてリーダーの優劣か決まるとしているというのは尤もだと思わされました。リーダーの特質は、眠っている個人の才能を発掘・育成する点にあり、さらに、最終的には、集団を"リニューアル"するのがその役割であるというのが、説得力をもって響いてくる、啓発度の高い名著です。

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3310】 太田 肇 『「承認欲求」の呪縛
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ 「●新潮新書」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(サイモン・シネック)

個人だけでなく組織をも対象としていることで、組織開発的な内容に。求められるファシリテーション能力。

FIND YOUR WHY.jpgFIND YOUR WHY2.jpg サイモン・シネック.jpg
 『FIND YOUR WHY あなたとチームを強くするシンプルな方法』['19年] Simon Sinek

サイモン・シネック2.jpg 本書の著者の一人サイモン・シネックは、2009年に行ったTEDトークにおいて、「WHY」(個人や集団の存在意義、組織が何を表しているか)という概念の重要性を説き、反響を呼びました。その概念をさらに掘り下げたのが、前著『Start with WHY』(邦題『WHYから始めよ!』('12年/日本経済新聞出版社))であり、本書はその実践編とでもいうべきものです。

 TEDトーク以来の彼の主張は、社会を巻き込む力をもつリーダーに共通するのは、思考を「WHAT(何をするのか)」からではなく「WHY(なぜそれをやっているのか)」から始めるという点であるというものでした。「本物のリーダー」は、私たちに「WHY(理念と大義)」を語り、それこそが組織の内外の人たちのやる気を起こさせるが、「形式上のリーダー」は「WHAT(結果)」だけを語ってしまうと指摘しています。

WHY2012.jpg 本書では、まず第1章で、TEDトーク及び『WHYから始めよ!』で示したゴールデン・サークル(WHY―HOW―WHAT)という概念モデルで、WHYから始めることのインパクト、WHYを知ることの利点を説明し、第2章で、WHYを見つけるためにはどのようなプロセスを踏めばよいのか、3つのステップを解説しています。さらに第3章では、<個人>が自分自身のWHYを見つけるための段階的プロセスを、7つのステップごとに説明しています。

 第4章では、、<組織>のためのWHYの見つけ方として、その準備としてのユニット(グループ)アプローチについて解説しています。続く第5章では、実際にワークショップを実施するための具体的な手順を解説しています。ここでは、WHYを見つけるプロセスにおいて、グループをどう導けばよいかを述べています。

 第6章では、WHYを現実のものとするための行動、HOWについて書かれています。WHYは目的地であり、HOWはそこへたどり着くための経路を意味します。第7章では、自分のWHYを生き始め、実行するにはどうすればよいかを説明しています。

 リーダーを目指す人にとって啓発的な内容であるとともに、個人だけでなく組織をも対象とすることで、本書自体が<組織開発>的な内容となっているのが興味深いです。個人に応用するにはまずパートナーを見つけることから始め、組織に応用するにはまずファシリテーターを見つけることが最初のステップになるということですが、個人や組織をそのWHY(存在意義)に導いてくれるパートナーやファシリテーターを見つけたり、育成したりするのが、ややハードルが高いようにも思いました。とは言え、ワークショップの進め方などは、これまでの組織開発におけるホールシステムの手法などに通じるところがあったようにも思います。

 要所ごとにパートナー・セッションやファシリテーター・セッションといった解説があり、巻末にもパートナー、ファシリテーターのそれぞれに対するアドバイスが付されていることからも窺えるように、本書を読んだ人がまず自らパートナーやファシリテーターになってみることを推奨しているのでしょう。ただ、個人的には、読んでみて、若干もやっとした印象も残りました。

 米国などでは、エンカウンターグループなどの歴史が連綿と今日にまで繋がっていますが、日本はそうしたものが高度経済成長期に行われた感受性訓練(ST)などをもっていったん途切れた観もあり、そもそも日本人はグループで集まって自分の本心を語るということが苦手なような気もします。一方で、「組織開発」は今また何十年かぶりに注目を集めているとも言われています。こうした個人や組織の根本的な存在意義(「WHY」)を問い、それを共有化するという啓発的なワークショップが、今後どれくらい日本に浸透するのか注目したいと思います。


「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3461】 チェット・リチャーズ 『OODA LOOP
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ 「●新潮新書」の インデックッスへ

「承認欲求の呪縛」を解くには、メンバーの組織への依存を断ち切り、プロ化する。

『「承認欲求」の呪縛』.jpg 『「承認欲求」の呪縛 (新潮新書)』['19年]

 本書の著者によれば、上司などから褒められたらモチベーションや挑戦意欲が高まり、業績も上がるという実験結果があり、承認が離職の抑制や成長にもつながることが明らかになっている一方で、褒められ、認められると逆にやる気が奪われるケースがあるとのことです。また無意識のうちに承認欲求の奴隷になり、破滅したり、自殺に追い込まれたりするケースもあり、さらにパワハラや組織不祥事の背景にも「承認欲求の呪縛」が潜んでいると言います。

 つまり、承認欲求には光と影があり、功と罪を分ける何かがあるということです。本書は、「承認欲求の呪縛」がどのようなメカニズムで発生するか、どうすれば呪縛から逃れられるかを簡単な数式と具体例を用いながらわかりやすく説明したものであるとのことです。

 「承認欲求」が人間にとって「最強の欲求」となるのは、それ自体が人を動機づけるだけでなく、認められるとほかの欲求が満たされたり、有機無形のさまざまな報酬が得られたりするためであるとしています。ところが、あることをきっかけに、今度は獲得した報酬や築き上げた人間関係にとらわれるようになり、それが「承認欲求の呪縛」であるとのことです。「認められたい」が「認められなければ」に変わるとき、それは危険な兆候を示し、結果的にその人を破滅に導くこともあるとのことです。

 また、「承認欲求の呪縛」は、「認知された期待」と「自己効力感」のギャップに加え「問題の重要性」という三つの要素によってもたらされ、「数式」としては(認知された期待-自己効力感)×問題の重要性=プレッシャーの大きさ、即ち「承認欲求の呪縛」の強さであるとのことです。そして、パワハラや企業不祥事、長時間労働による過労死の背景にも、この呪縛が潜んでいるとした上で、これまでに起きたさまざま事件を振り返りながら、そうした事件が繰り返される根底には、日本の組織が、外から隔てられた「共同体」の性格が強く、メンバーは内部の規範や人間関係を強く意識し、そこでの承認を失うことを恐れるという特徴があると指摘しています。

 それではこの、無意識のうちに精神的な負担となり、本人の意に反して無理をさせ、時にはそれが過労死や過労自殺、犯罪、組織不祥事といった重大な事態を招く場合もある「承認欲求の呪縛」から逃れるにはどうすればよいのか。著者によれば、日本人はもともと「期待」に潰されやすく、これを病にたとえるならば「日本人病」と言うより、「日本の風土病」とでも言うべきものであり、よってリーダーにはメンバーに過剰なプレッシャーをかけない配慮が求められ、また、本人の自己効力感を高め、組織への依存を小さくすることが必要であるとしています。

 また、組織不祥事をなくすためには、メンバーの「プロ化」、すなわち組織をプロフェッショナルの集団に変えるのがよく、なぜならば、プロにとっては専門能力こそが生命線なので、自己効力感が高く、期待をプレッシャーではなく、むしろエネルギーに変えることも可能であるからとしています。著者は、これまでのような共同体組織は、遅かれ早かれ崩れていくに違いなく、だとすれば、組織にとっても個人にとっても、変化を先取りしてプロ化を図っていくことが、「承認欲求の呪縛」を解く決め手になり、ひいては不祥事対策の王道を歩むことにもつながるとしています。

 「承認欲求」に関する本をこれまで何冊も書いてきた著者ですが、いずれもそのポジティブな面に焦点を当てたものばかりだったのが、今回、「承認欲求の呪縛」というネガティブ面に着眼し、警告を発しているという点が興味深かったです。そして、「承認欲求」が人間にとって「最強の欲求」であることをよく知っている著者が発する警告であるだけに、説得力があったように思います。

 最後の部分の「プロ化」の勧めは、ドラッカーが『現代の経営』の中で、「専門職たる者(プロフェッショナル)は、優れた仕事とは何であるべきかを自ら決める」と言っていたのを想起しました。プロって、自分の仕事の評価を自分でできる人なのだなあと。本書によれば、そうした組織に依存していないメンバーの揃ったプロ集団であれば、組織不祥事は起きないということなのでしょう。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2797】 ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 『リーダーシップの教科書

「日本型フォロワーシップ」の類型を提唱。「日本型」研究の嚆矢となるか。

次世代型組織へのフォロワーシップ論2.jpg次世代型組織へのフォロワーシップ論.jpg
次世代型組織へのフォロワーシップ論:リーダーシップ主義からの脱却

 本書は、戦略的人的資源管理論や組織行動論を専門とする著者が、リーダーと比べてこれまでネガティブなレッテルが貼られ続けてきたフォロワーというものに着眼しています。フォロワーが自律的貢献の主体者となり得ることを明らかにし、フォロワーおよびフォロワーシップの概念を改めて定義するとともに、日本的なフォロワーシップとはどのようなものかを探求しています。

 全7章の構成で、第1章では、人事労務管理の歴史を振り返り、今日、日本をはじめとする先進国では、フォロワーたる労働者の地位が向上してきているとしています。一方で、組織においてリーダーは疲弊し、リーダーを目指す若手も減少してきているため、リーダー偏重の組織運営は限界にきており、今こそ、フォロワーに注目し、真摯なフォロワーシップ論を展開すべきであるとしています。

 第2章では、フォロワーとは誰のことなのか、フォロワーは何に従い、また、なぜ従うのかをアンケート調査などを基に考察しています。さらには、社会の見方が歴史的にどのように変化を遂げてきたにかについても検討しています。

 第3章では、フォロワーシップとは何かということを、バーナード、サイモンなどの古典的な研究を踏まえて考察し、さらに、現代のフォロワーシップ論について、役割理論アプローチと構造主義アプローチの観点から、その主要な研究を紹介しています。

 第4章では、日本におけるフォロワーシップについて、海外の研究者らの「忠臣蔵」や「葉隠」を取り上げた研究を紹介し、日本的フォロワーシップと日本人労働者特有の忠誠心について考察、その心理的メカニズムとしての"観我"と"従我"を想定した「観従二我論」という著者なりの理論を提唱しています。

 第5章では、これまでの議論を踏まえて、「受動的忠実型F」「能動的忠実型F」「統合(プロアクティブ)型F」という、わが国における三つのフォロワー・タイプのモデルを抽出し、調査の結果から、統合型のプロアクティブ性が、モチベーションおよびメンタルヘルスにポジティブな影響力を有するとしています。

 第6章では、日本人に最も多いと考えられる能動的忠実型フォロワーに注目し、その特徴ともいえる、メンタルヘルスに対する好ましくないインパクトについて考察しています。

 第7章では、これまでの議論を振り返りながら、日本人特有の心理構造や組織との関係性を検討し、労働者の人格を(例えば"組織人格""家庭人格""趣味人格"といった)多層的な自然人として捉えることを提唱、さらにそこから、フォロワーシップ・マネジメントを日本的HRMに応用すると、採用や配属、異動や人材開発などはどうなるか、また、フォロワーシップ・マネジメントがリーダーや管理者を置かないことを理想とするならば、進化型組織とはどのようなものになるかを展望しています。

 役割理論アプローチのところで紹介されている、ケリーの5つのフォロワ・ータイプ(「模範的」「孤立型」「消極的」「順応型」「実務型」)や、チャレフの4つのフォロワー・タイプ(パートナー・個人主義者・実行者・従属者)などはよく知られているものでもあります。一方で、「忠臣蔵」や「葉隠」を、海外のフォロワーシップ研究者が研究対象としていることは、本書で初めて知りました。

 著者は、学部生の時は臨床心理学が専攻であったようです。「おのずから」の我を「従う我(従我)」、「自ら」の我を「観る我(観我)」とする「観従二我論」は、哲学的な概念との印象も受けますが(実際、本書には西田幾多郎なども登場する)、読んでいくうちに、ある種の日本人論に毛戸なっているように思いました。

 本書の意義は、日本でこれまでほとんど議論されてこなかったフォロワーおよびフォロワーシップについて取り上げ、日本人の精神に適合したマネジメントを探っていることにあるかと思います。その際に、観我と従我という心理的メカニズムをもとに日本型のフォロワー・タイプの類型を提唱している点が特徴的であると言えます。

 思えば、リーダーシップ理論もこれまで"輸入モノ"ばかりだったような気がしなくもないです。今後、こうした「日本型フォロワーシップ」の研究はもっと盛んになっていいのではないかと思われ、その嚆矢であろうとする意気込みが感じられる本でした。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2799】 松山 一紀 『次世代型組織へのフォロワーシップ論

リーダーがチームの安全基地(セキュア・ベース)のような存在となることを提唱。

セキュアベース・リーダーシップ2.jpgセキュアベース・リーダーシップ.jpg
セキュアベース・リーダーシップ ―〈思いやり〉と〈挑戦〉で限界を超えさせる

 本書は、リーダーがチームの安全基地(セキュア・ベース)のような存在となることで、メンバーの才能、意欲、創造力、エネルギーを解き放つ、いう考え方に基づいたリーダーシップ論を提唱したものです。セキュアベース・リーダーとは単に優しいリーダーではなく、部下の安全基地となると同時に各自の力を最大限に発揮してはじめて達成できるような高い目標を与えることで、チームのパフォーマンスを上げるリーダーのことを指すとしています。

 第Ⅰ部では、第1章で、セキュアベースとは安全と安心感を提供し、加えて、冒険やリスクをとることや挑戦への意欲をもたらすものであるとし、第2章で、セキュアベース・リーダーの9つの特性を挙げています。それらは、① 冷静でいる、②人として受け入れる、③可能性を見通す、④傾聴し、質問する、⑤力強いメッセージを発信する、⑥プラス面にフォーカスする、⑦リスクを取るように促す、⑧内発的動機で動かす、⑨いつでも話せることを示す、の9つであり、これらの特性は後天的に習得することができるとしたうえで、第1の特性(①冷静でいる)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。

 第Ⅱ部では、第3章で、人と人の「絆」こそがセキュアベース・リーダーシップの中心であるとして、信頼を構築するために役立つ2つの特性(②人として受け入れる、③可能性を見通す)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。第4章では、社会的感情としての「悲しみ」に注目して、悲しみを受け止め、組織に変化を起こすために役立つ2つの特性(④傾聴し、質問する、⑤力強いメッセージを発信する)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。

 第5章では、「心の目」をコントロールすることが、自分自身のコントロールには欠かせないとして、心の目で見るために役立つ2つの特性(⑥プラス面にフォーカスする、⑦リスクを取るように促す)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。第6章では、「勝利を目指す」リーダーシップ・アプローチの特性を説き、「勝利を目指す」ために役立つ2つの特性(⑧内発的動機で動かす、⑨いつでも話せることを示す)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。

 第Ⅲ部では、第7章で、自分のセキュアベースを強化するには自己認識が重要であることを説き、第8章では、自身が他者のセキュアベースになるには、9つの特性のうち、何が自分の強みかを明確にすることが必要であるとしています。第9章では、組織が人間関係と結果の両方を大切にするとき、その組織は従業員にとってのセキュアベースとなり得るとしています。最終第10章では、組織の人間性を高める取り組みは、リーダー自身が自分の人間性に注意を向け、他者に対して自分自身をオープンにすることから始まるとしています。

 本書によれば、成功したリーダーと失敗したリーダーの大きな違いは、人生にセキュアベース(安全基地)が存在したかどうかという点であり、安全基地を持つことで、不安や恐れが減少し、信じること、リスクをとることが増えていくとのことです。この意欲とエネルギーによって、人は居心地のよい領域から踏み出して、自身のまだ開拓されていない可能性を現実のものにしようと努力するし、人生においてセキュアベースの力を経験したならば、それを「モデル」として他の人のセキュアベースとなることができるとしています。

 著者の専門は組織心理学であるとのことですが、本書の趣旨を一言で言えば、帯にあるように「人は、安全基地があればより遠くまで飛んでいける」ということなのでしょう。あるいは、サブタイトルにある「〈思いやり〉と〈挑戦〉で限界を超えさせる」ということになるのかもしれません。

たいへん啓発的な内容ですが、まったく新しいリーダーシップ論と言うよりは、「PM理論」や「EQリーダーシップ」など既存のリーダーシップ論と重なる部分もあったように思います。個人的には、リーダーが部下にとっての安全基地になるためには、まず自分自身のセキュアベースを持つことが重要であるという考えに納得させられました。

《読書MEMO》
●目次
第Ⅰ部
第1章 安全とリスクのパラドックス
第2章 セキュアベース・リーダーの9つの特性
第Ⅱ部
第3章 信用構築サイクル
第4章 社会的感情としての「悲しみ」
第5章 「心の目」で見る練習
第6章 「勝利を目指す」マインドセット
第Ⅱ部
第7章 自分のセキュアベースを強化する
第8章 他者のセキュアベースになる
第9章 「安全基地」としての組織
第10章 人間の顔をした組織をつくる

●セキュアベース・リーダーの9つの特性(第2章)
① 冷静でいる
②人として受け入れる
③可能性を見通す
④傾聴し、質問する
⑤力強いメッセージを発信する
⑥プラス面にフォーカスする
⑦リスクを取るように促す
⑧内発的動機で動かす
⑨いつでも話せることを示す

●特性①(冷静でいる)を伸ばすためのヒント(第2章)
1.気分を変える
2.何をどのように言うか注意する
3.マインドフルネスの練習をする
●特性②(人として受け入れる)を伸ばすためのヒント(第3章)
1.自分を律する
2.社員としての役割を超えて、その人の個性を知る
3.失敗を学びに変える
4.問題とその人自身を切り離す
●特性③(可能性を見通す)を伸ばすためのヒント(第3章)
1.チームや組織の全員の可能性についてのビジョンを作成する
2.高い期待を持つ
3.自分を超える可能性を持っている人を採用する
●特性④(傾聴し、質問する)を伸ばすためのヒント(第4章)
1.積極的に話を聞く練習をする
2.自由回答式の質問をする
3.沈黙の間を使う
4.話をする環境にも気を遣う
●特性⑤(力強いメッセージを発信する)を伸ばすためのヒント(第4章)
1.言葉だけでなく、非言語のメッセージにも気を遣う
2.その一瞬を見逃さない
3.力強いメッセージをはっきりと、簡潔に、ゆっくり伝える
4.力強いメッセージを書く
5.力強いメッセージをノートに書きためておく
●特性⑥(プラス面にフォーカスする)を伸ばすためのヒント(第5章)
1.自分自身の心の目をチェックする
2.自分の脳をだます
3.前向きになるように影響を及ぼしたい人物を3人選ぶ
4.他者をビジョンに巻き込む
●特性⑦(自分のセキュアベースを強化する)を伸ばすためのヒント(第5章)
1.リスクをとるロールモデルとなる
2.失敗に公正かつ明確に対応する
3.リスクをとるチャンスを一貫して提供しているかを意識しよう
4.自分の状態に注意する
●特性⑧(内発的動機で動かす)を伸ばすためのヒント(第6章)
1.どのように部下を動機づけているかを振り返る
2.一人の人間として部下を理解する
3.「所属」と「達成」という2つの欲求を満たす
●特性⑨(いつでも話せることを示す)を伸ばすためのヒント(第6章)
1.フォロワーと過ごす時間の長さではなく、その質を大切にする
2.歩き回って指揮を執る
3.短いやりとりを行う
4.本当に近づいていいことを示す

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3336】 松尾 睦 『経験学習リーダーシップ

主要な著者(経営思想家)の代表的な著作(主張)のエッセンスを抽出。

リーダーシップの教科書2.jpgリーダーシップの教科書.jpg
ハーバード・ビジネス・レビュー リーダーシップ論文ベスト10 リーダーシップの教科書

 リーダーシップは、どうすれば、習得できるか。本書は、マネジメント誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」に発表された、リーダーシップ論の権威とされる経営思想家などの論文から10選を、同誌編集部が選び抜いたものです。

John Kotter2.jpg 第1章では、「リーダーシップとマネジメントの違い」についてジョン・P・コッターが、マネジメントは複雑な状況に対処するために必要であり、リーダーシップは変化に対応するために必要なものであるとしています。第ピーター・F・ドラッカー031.jpg2章「プロフェッショナルマネジャーの行動原理」ではピーター・ドラッガーが、有能な経営者は、「何をしなければならないか」「この企業にとって正しいことは何か」を自問自答し、アクションプランをきちんと策定し、意思決定やコミュニケーションの責任をまっとうし、問題ではなくチャンスに焦点を当て、会議を生産的に進行し、「私」ではなく「我々」として発言するとしています。

ロナルド・A・ハイフェッツ2.jpg 第3章「リーダーシップの新しい使命」ではロナルド・A・ハイフェッツらが、人々を適応へとリードするはロブ・ゴーフィー/ガレス・ジョーンズ2.jpgための6原則として、リーダーは、「バルコニー」に上がり、適応への挑戦を見極め、人々の苦痛や苦悩を調整し、自身の注意力を磨き続け、仕事への責任を現場に戻し、組織の中から聞こえてくるリーダーシップの産声に耳を傾けるとしています。第4章「共感のリーダーシップ」ではロバート・ゴーフィーとガレス・ジョーンズが、部下をやる気にさせるリーダーの資質として、「みずからの弱点を認める」「直観を信じる」「タフ・エンパシーを実践する」「他人との違いを隠さない」の4つを挙げています。

ウォーレン・ベニス2.jpg 第5章「挫折がリーダーシップの糧となる」ではウォレン・G・ベニスらが、リーダーらが真のリーダーになるまでに、その人ジム・コリンズ2.jpgたちが「クルーシブル」(厳しい試練)をいかに成長の機会に変えてきたかを説いています。第6章「レベル5のリーダーシップ」ではジム・コリンズが、「まあまあ」の企業を超一流の企業に変えたリーダーたちには、有能な個人、貢献度の高いチームメンバー、有能なマネジャー、効果的なリーダーという4段階があり、さらにその上のレベル5のリーダーシップとして、スタッフを称賛し自らを語らない謙虚さと、プロフェッショナルとしての意思の強さを併せ持っているとしています。

ビル・ジョージ2.jpg 第7章「変革リーダーへの進化」ではデイビッド・ルークらが、リーダーシップを左右する行動原理の7種類の類型を示し、第8章「自分らしいリーダーシップ」ではビル・ジョージらが、最近の潮流である「オーセンティック・リーダーシップ」について論じています。

ダニエル・ゴールマン2.jpg 第9章「完全なるリーダーはいらない」ではマサチューセッツ工科大学の教授陣が、独自の調査から「分散型リーダーシップ」という新たなモデルを提唱するとともに、その分散型リーダーシップは、「状況認識」「人間関係の構築」「ビジョンの策定」「創意工夫」の4つの能力から成るとしています。第10章「心の知能指数『EQ』トレーニング法」ではダニエル・コールマンが、自身が提唱した「EQ」を構成する、自己認識、自己統制、モチベーション、共感、ソーシャルスキルの4つの因子について解説しています。

 以上のように、本書一冊が丸ごとリーダーシップ育成のための指南書となっいますが、その中に論じる人の数だけリーダーシップ論があり、それらを無理やり繋げて読む必要もないと思います。むしろ、"リーダーシップ論の潮流を読む"という感じで読めばいいのではないでしょうか。

 また、本書を読むだけでも啓発される要素はあるか思いますが、同時に、主要な著者(経営思想家)の代表的な著作(主張)のエッセンスを抽出したものにもなっているため、関心を持った論者がいれば、その著作(日本でもベストセラーやロングセラーになっているものも少なからずある)に触れてみるのもいいのではないか思います。

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3326】 各務 晶久 『職場の紛争学
「●主要ブックガイド」の インデックッスへ 「●本・読書」の インデックッスへ 「●日経文庫」の インデックッスへ

述べられていることに普遍性があるから「ベストセラー」になったのだと思わされた。

プロがすすめるベストセラー経営書9.JPGプロがすすめるベストセラー経営書.jpg  マネジメントの名著を読む.jpg リーダーシップの名著を読む.jpg 企業変革の名著を読む.jpg
プロがすすめるベストセラー経営書 (日経文庫)』 『マネジメントの名著を読む』『リーダーシップの名著を読む』『企業変革の名著を読む

プロがすすめるベストセラー経営書10.JPG 本書は経営書を紹介したものであり、読む前は、同じ日経文庫の『マネジメントの名著を読む』('15年)、『リーダーシップの名著を読む』('15年)など「名著を読む」シリーズと"同系統"かと思いましたが、一方で、タイトルの付け方やカバーデザインが少し違っているので"別系統"かなとも思ったりしました。

 実際のところ、手にしてみれば、『マネジメントの名著を読む』や『リーダーシップの名著を読む』、同じく「名著を読む」シリーズの一冊である『企業変革の名著を読む』('16年)と同様に、オリジナルは日経電子版の「日経Bizアカデミー」及び「NIKKEI STYLE出世ナビ」に2011年から連載の「経営書を読む」であり、経営学者やコンサルタントがマネジメントやリーダーシップに関する本を選んで解説したネットの連載に加筆したものでした。

 今回の特徴は、"ベストセラー"という選び方をしている点ですが、取り上げられている本のうち、『ワーク・シフト』『採用基準』が'12年刊行、『HARD THINGS』が'15年刊行と比較的最近のベストセラーであるものの、中にはベストセラーと言われてもピンとこないものもあるかも。因みに『イノベーションと企業家精神』は'15年刊行の「エッセンシャル版」を底本としています。

『サーバントリーダーシップ』三省堂 3.jpg ロバート・K・グリーンリーフの『サーバントリーダーシップ』なども'08年の翻訳刊行で、当時はベストセラーだったかもしれませんが、今は"定番""ロングセラー"と言った方がいいかもしれません。ただし、この本、リーダーシップの"定番"でありながら、『リーダーシップの名著を読む』では取り上げれていなかったので、ここで取り上げてもらえるのは有難いです(元本は571ページの大著で、読み手側からすれば、何らかの参考となる切り口が欲しいということもある)。

 これまでの「名著を読む」シリーズと同じく、本ごとに複数のケーススタディを示して解説していますが、今回は紹介している本が全8冊とやや少ないものの、1冊当たりの解説は充実してたように思います。述べられていることに一定の普遍性があるから「ベストセラー」になったのだろうなあと思わせるものがありました。

 国内・国外の「ベストセラー」が混ざっていますが、「ベストセラー」を近年の新刊に限定せず"広義"に解したのは正解だったでしょう。むしろ、連載時点で選者らが、単にベストセラーであるということより、「名著」乃至は「名著となりそうなもの」を選んでいるということなのでしょう。

【読書MEMO】
●取り上げている本
プロがすすめるベストセラー経営書00_.jpgFlag_of_日本.png『戦略プロフェッショナル』三枝匡著(日経ビジネス人文庫、2002年)―原理原則と熱い心がリーダーを作る(清水勝彦(慶應義塾大学ビジネススクール))
ワーク・シフト ―00_.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngワーク・シフト』リンダ・グラットン著(邦訳・プレジデント社、2012年)―明るい未来を切り開くためのシフトチェンジ(岸田雅裕(A・T・カーニー))
採用基準 伊賀泰代.jpgFlag_of_日本.png採用基準』伊賀泰代著(ダイヤモンド社、2012年)―リーダーシップが自分の人生を切り開く(大海太郎(ウイリス・タワーズワトソン・グループタワーズワトソン))
Flag_of_日本.png『ストーリーとしての競争戦略』楠木建著(東洋経済新報社、2010年)―3枚の札でビジネスに勝つ(小川進(神戸大学、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院))
『サーバントリーダーシップ』 -2.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngサーバントリーダーシップ』ロバート・K・グリーンリーフ著(邦訳・英治出版、2008年)―「良心」が会社を動かす(森洋之進(アーサー・D・リトル))
HARD THINGS.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngHARD THINGS(ハード・シングス)』ベン・ホロウィッツ著(邦訳・日経BP社、2015年)―人、製品、利益、の順番で大事にする(佐々木靖(ボストンコンサルティンググループ))
Flag_of_アメリカ合衆国png.png『イノベーションと企業家精神』ピーター・ドラッカー著(邦訳・ダイヤモンド社"エッセンシャル版"、2015年)―一つの目標に資源を集中させよ(森下幸典(PwCコンサルティング))
Flag_of_日本.png『経営戦略の思考法』沼上幹著(2009年、日本経済新聞出版社)―考え続けることが英断を生む(平井孝志(筑波大学大学院ビジネスサイエンス系))

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2719】 中原 淳 『フィードバック入門
○経営思想家トップ50 ランクイン(ロブ・ゴーフィー/ガレス・ジョーンズ)

「自分自身に忠実であれ」という困難なチャレンジにどう向き合うかをガイドしている。

なぜ、あなたがリーダーなのか?.jpgなぜ、あなたがリーダーなのか 旧版2.jpgなぜ、あなたがリーダーなのか 旧3.JPGRob Goffee & Gareth Jones.jpg Rob Goffee & Gareth Jones
なぜ、あなたがリーダーなのか[新版]――本物は「自分らしさ」を武器にする』['17年]/
なぜ、あなたがリーダーなのか? (ADL経営イノベーションシリーズ)』['07年]
"Why Should Anyone Be Led by You? With a New Preface by the Authors: What It Takes to Be an Authentic Leader"(2019)
Why Should Anyone Be Led by You?:What It Takes To Be An Authentic Leader.jpg ロンドン・ビジネススクール教授らが自らのリーダーシップ研究について纏めたもので(原題"Why Should Anyone Be Led by You?: What It Takes To Be An Authentic Leader" 2006)、日本でも2007年に一度邦訳が刊行されています(実は個人的にはそちらを読んだ)。内容的には、優れたリーダーに共通する資質を探るのではなく(所謂"特性論"を否定している)、各自が自分の持ち味を生かしてリーダーシップを発揮するためにはどうすればよいかを考えています。

 第1章「自分自身に忠実であれ」では、「みんながジャック・ウェルチになれるわけではない」として、いつ何時でもあてはまるようなリーダーシップ特性というものの存在を否定し、リーダーシップは状況に左右されるとしています。そして、「リーダーであるためには、自分自身に忠実でなければならない」ということをテーマに掲げ、優れたリーダーは、役割を果たす上で役立ちうる「自分ならではの持ち味」を認識し、活用しているとしています。また、「リーダーシップに関わる三つの原理原則」として、以下を挙げています。
 ①リーダーシップは状況に左右される
 ②リーダーシップは肩書きを問わない
 ③リーダーシップは関係性に根ざす

 第2章「自分らしく振る舞え」では、良いリーダーは自らの持ち味にいかにして気づき、活かすようになっていくのかを考察しています。そして、優れたリーダーは、周りの環境が著しく変化していく中にあっても、自分にとって無理なく心地よい「らしさ」を見失わないとしています。そして、その「らしさ」を周囲は評価するとして、自分らしくあるための実践的な取り組みのコツを、
 ①新たな状況、新たな経験に身をさらす
 ②フィードバックを正しく得る
 ③歩んできた道をみつめなおす
 ④生い立ちを振りかえる
 ⑤(仕事、家庭に次ぐ)第三の場所を見つける

 第3章「リスクに身をゆだねよ」では、リーダーとしての自分らしさの打ち出しが必然的に伴う、個人的なリスクテイクを論じています。リーダーとしての自分をさらけ出せば必然的に、その強みと共に弱みも見せることになるが、それはリーダーとしての魅力を損なわせるものではないとしています。そして、リーダーは、「自らのおかれた状況を前提とした上で」自分らしくあらねばならないとしています。

 第4章「おかれた状況を感知せよ」では、状況感知を考察しています。リーダーは、ものごとを察する力と見極める力を駆使して、今何がおこっているかを示すシグナルを捉え続けなくてはならず、状況を感知する力は、次の三つの相関しあう要素に分け得るとしています。
 ①観察すること、認識すること
 ②行動すること、適応すること
 ③状況を変えていくこと

 第5章「相応に妥協せよ」では、「状況にほどよく同調する」ことを論じています、リーダーとして自分らしさを押し出していくことは大切だが、しかし同時に、いつ、どこで、どれほど現状と折り合いをつければよいかも正しく判断できなければならず、良いリーダーは、状況への同調を通じて周囲に馴染もうとするとしています。また、ここでは、組織文化の基本的な形として、次の四つを挙げ、それぞれにプラス面。マイナス面があるとしています。
 ①ネットワーク型(社交性が高く連帯性が低い文化)
 ②傭兵型(社交性が低く連帯性が高い文化)
 ③断片型(社交性・連帯性ともに低い化)
 ④共同体型(社交性・連帯性ともに高い化)

 第6章「距離感を操れ」では、距離感のコントロールを論じています。思いやりや愛情を持って歩み寄るべきとき。ぬるま湯的な雰囲気に喝を入れるために距離をおくべきとき。優れたリーダーがこれをどう判断し、行動しているのかを明らかにしています。そして、距離感に関して留意すべきリスクとして、以下を挙げています。
 ①歩み寄り過ぎて同化してしまう
 ②親しさが未熟ことに気づかない
 ③本来の目的を見失う
 ④歩み寄るべきときに遠くにいる
 ⑤素晴らしくやり過ごしてしまう

 第7章「組織にリズムを刻め」では、コミュニケーションを考察しています。社会的距離の意図的なコントロールを破綻なくやりとげるには、熟達した意思疎通能力が必要となり、良いリーダーは、自分自身を皆がどう見ているか・感じているかに細心の注意を払うとしています。そして、良いリーダーのコミュニケーションのガイドラインを以下のように示しています。
 ①変化を必要十分に強いる
 ②心をつかみビジョンを届ける
 ③もてる「ヒト」資産を量る
 ④ゆっくりと急ぐ
 ⑤しかるべく報いる

 第8章「部下は何を望むか」では、フォロワーシップについて検討しています。リーダーシップは関係性に根ざすため、フォロワーについて知ることは大切であり、部下がリーダーに何を求めるかは、次の四つに括られるとしています。
 ①「本物」であること
 ②認めてくれること
 ③胸の高まりを呼びさましてくれること
 ④つつみこんでくれること

 第9章「リーダーシップ―その代償と褒賞」では、本書のまとめとして、物事がうまくいかないようなときに何がおこりうるかに触れ、また、リーダーに求められる倫理性についても述べています。

 リーダーシップ特性論に対する否定的な見解は決して新しいものではありません。但し、本書は、「自分自身に忠実であれ―そしてその自分らしさを磨けよ」ということがリーダーにとっていかに困難なチャレンジを伴うものであるか、そしてそれにどう向かうべきかを丹念に描き出したものであると言えます。そうした意味で自己啓発度の高い本ですが、心理学的アプローチだけでなく社会学的アプローチも駆使し、調査による裏付けもあるなどアカデミックな側面もあります。

 今回約10年ぶりに「新版」が"復刻"刊行されていることなどは、読者にとっても一定の普遍性と説得力を持って受け止められる内容であるということの証しではないでしょうか。個人的には、「他人に影響を与えうる」自分らしい「何か」を認識し活用することが一つポイントになるように思われました。

《読書MEMO》
●目次
序章 なぜ、あなたがリーダーなのか?
第1章 自分自身に忠実であれ
第2章 自分らしく振る舞え
第3章 リスクに身をゆだねよ
第4章 おかれた状況を感知せよ
第5章 相応に妥協せよ
第6章 距離感を操れ
第7章 組織にリズムを刻め
第8章 部下は何を望むか
第9章 リーダーシップ――その代償と褒賞
付録A――自らのポテンシャルを考えてみる
付録B――自分の立ち位置を考えてみる

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2787】 ロブ・ゴーフィー/ガレス・ジョーンズ 『なぜ、あなたがリーダーなのか

リーダーシップに不可欠なものは経営者マインドと積極的に学び続ける姿勢。

ハーバードのリーダーシップ講義.jpgハーバードのリーダーシップ講義2.JPG 『ハーバードのリーダーシップ講義』.jpg
ハーバードのリーダーシップ講義 「自分の殻」を打ち破る』['16年]/「本to美女」2017.02.16 「悩める人のリーダーシップ」より

 本書(原題:What You Really Need to Lead: The Power of Thinking and Acting Like an Owner,2015)は、ハーバード大学のMBAプログラムでさまざまなリーダーシップ講座を担当し、管理職向けのプログラムでも教えていた著者によるもので、リーダーシップ能力は伸ばすことも習得することもできるというハーバードの自分を知る技術.jpgハーバードの正しい疑問を持つ技術.jpgことを前提とし、リーダーシップを定義することよりも、リーダーシップのベストプラクティスに重きを置いて、リーダーであり続けるための極意を説いた本です(『ハーバードの自分を知る技術 悩めるエリートたちの人生戦略ロードマップ』('14年/CCCメディアハウス、『ハーバードの"正しい疑問"を持つ技術―成果を上げるリーダーの習慣』('15年/CCCメディアハウス)に続く同著者のハーバード・シリーズ第3弾)。
ハーバードの自分を知る技術 悩めるエリートたちの人生戦略ロードマップ』['14年]/『ハーバードの"正しい疑問"を持つ技術 成果を上げるリーダーの習慣』['15年]

 第1章「経営者マインドをもつ―経営者になったつもりで考え、行動する」では、リーダーシップに不可欠なものは経営者マインドであり、経営者マインドとは、意思決定者の立場でものを考え、自分の信念に従って行動し、自分の行動の結果に責任をもつことであるとしています。リーダーシップとは、人々にメリットをもたらすような価値を提供することであり、意思決定者としての自分の信念を見極め、勇気を出して行動し、人々に価値を提供することに注力するのがリーダーシップの柱であり、リーダーシップを発揮するのに地位も肩書も必要ではなく、リーダーシップの本質は心構えであり、それは地位でなく行動で決まるとしています。

 第2章「自分の殻を破る―意欲的に学び、〝正しい疑問〞をもち、アドバイスを求め、孤立を避ける」では、リーダーであり続けることは並大抵ではなく、リーダーシップには努力が必要であり、常に学ぼうとする姿勢が必要であるとしています。学ぶ意欲を持続するには、わからないことを質問し、人の話を聴くことが大切であり、説得力のある主張を聴いたとき、それに耳を傾けて自分の意見を考え直す、そうした「自分の殻」を打ち破る柔軟な姿勢が、リーダーが陥りやすい孤立というリスクを回避し、ものごとの転換点を察知することにつながるとしています。

 第3章「リーダーとしてのスキルを伸ばす―二つのプロセスをマスターする」では、リーダーシップ能力を向上させ、リーダーが犯しやすい過ちを回避するには2つのプロセスがあるとしています。1つは、「明確なビジョンを描く」「優先事項を3~5項目選び出す」「方向性から外れていないか分析する」ことであり、これらのプロセスを行うと、リーダーとしての手腕を格段に向上させることができるとしています。2番目のプロセスは、「自分を知ること」であり、自分の強みと弱みは何か、自分は何が好きか、何に情熱を抱くかを知ることは、リーダーになるのに欠かせない土台のようなものであるとしています。

 第4章「真の人間関係を築く―自分をさらけ出し、グループの力を活用する」では、リーダーが孤立を避けるには、人々の協力が必要であり、真の人間関係を築くには、「相互理解」「互いへの信頼」「互いに対する尊敬の念」の3つの要素が必要であるとしています。また、人間関係を深めるには、「自分をさらけ出す」「相手に質問する」「アドバイスを求める」の3つを行う必要があるとしています。さらに、1人の人間が決定を下すよりも、グループのほうがより優れた分析結果や解決策を導き出すことができ、この「グループの力」を利用するには、多様な人材を集めて、問題を1つ提起して彼らに議論してもらうのがよいとしています。

 第5章「終わりなき旅をする―もう一段階上のリーダーをめざして」では、もう一段階上のリーダーをめざすための心構え(マインドセット)として、自分の人生に責任をもつこと、「正しい行為は報われる」と信じること、価値創造に目を向けることを挙げています。また、学習意欲を妨げる壁を乗り越え、窮地を脱するにはどうすればよいか、より良いリーダーになるためのツールを幾つか提案し、「世の中はあなたを必要としている」という激励の言葉で本書を締め括っています。 

 本書の目的は、読者にリーダーになるための習慣を身につけ、リーダーシップスキルを伸ばし続けてもらうものであり、そのためにとりわけ重要なのは、経営者マインドを身につけることと、積極的に学び続ける姿勢であるとしています。よりよきリーダーシップの発揮をめざす人にとって、マインセットを促す啓発度の高い内容であるとともに、ヒントとなるスキルが紹介されている実践の書でもあるかと思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに ――誰でもリーダーになれる 
リーダーシップは素質の問題? 
リーダーシップは習得できる? 
あなたにとってリーダーシップとは? 
リーダーシップの定義 
リーダーシップの共通認識を求めて 
問題点 
リーダーシップの基本は経営者マインド
さあ、始めよう
第1章 経営者マインドをもつ――経営者になったつもりで考え、行動する
経営者マインドとは 
意思決定者になったつもりで考える 
確信を実行に移すには 
価値創造に注力する 
リーダーに幻滅するとき 
地位も肩書きも関係ない 
リーダーがいない? 
リーダーシップになくてはならない要素 
第2章 自分の殻を破る――意欲的に学び、〝正しい疑問〞をもち、アドバイスを求め、孤立を避ける 
成長の分岐点 
質問しますか? 助言を求めますか? 
積極的に学び続ける姿勢 
孤立というリスク 
自分をさらけ出すのが怖い 
孤立に気づくとき 
練習あるのみ
第3章 リーダーとしてのスキルを伸ばす――二つのプロセスをマスターする
二つのプロセス 
ビジョン、優先事項、方向性の確認 
二番目のプロセス――自分を知ること 
嘘をついてもいいですか? 
二つのプロセスを行う意味 
第4章 真の人間関係を築く――自分をさらけ出し、グループの力を活用する
孤立のリスク 
人間関係で重要な三つのこと 
頼れる人がいない 
人間関係の築き方 
知っているようで実は知らない 
フィードバックを求める 
孤立する起業家 
昇進のジレンマ 
グループの力 
多様な人材をそろえる 
ブレインストーミングの力 
白紙の状態から構想を練る演習 第二弾 
人と協力して働くことを学ぶ 
第5章 終わりなき旅をする――もう一段階上のリーダーをめざして
自分の人生に責任をもつ 
「正しい行為は報われる」と信じる 
価値創造に目を向ける 
学習意欲を妨げる壁 
窮地を脱するには 
より良いリーダーになるためのツール 
世の中はあなたを必要としている

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2717】 海老原 嗣生 『即効マネジメント
○経営思想家トップ50 ランクイン(シドニー・フィンケルシュタイン)

人材を次々と発掘して育てる"スーパーボス"の戦略の秘密を解き明かしている。

SUPER BOSS.jpg    シドニー・フィンケルシュタイン.jpg
SUPER BOSS (スーパーボス)―突出した人を見つけて育てる最強指導者の戦略』 Sydney Finkelstein
名経営者が、なぜ失敗するのか?』('04年/日経BP社)
名経営者が、なぜ失敗するのか?.jpg リーダーシップ論の大家で、著書『名経営者が、なぜ失敗するのか?』('04年/日経BP社)でも知られる著者によれば、どの業界においても、一流と呼ばれる50人のうち半数近くは、1人かせいぜい2、3人の同じ才能養成者のもとで教えを受けていことが調査によって明らかになったとのことです。本書では、そうした、部下や弟子を次々と育てて、成功させる偉大なコーチ、才能の発掘者をスーパーボスと呼び、オラクルのラリー・エリソン、インテル創業者のロバート・ノイス、デザイナーのラルフローレン、映画監督のジョージ・ルーカスなど、ビジネス、スポーツ、ファッション、料理などの分野における18人のスーパーボスについての調査から、その戦略の秘密を解き明かしています。

 第1章では、スーパーボスは、①因習打派主義者(目的はあくまでも自分の仕事と情熱だが、関わっているうちに情熱が伝わって直感的に教育できるタイプ。芸術家肌のスーパーボスで、創造的天才と見なされやすい)、②栄誉あるろくでなし(勝利こそが至上命題であり、部下をこき使い、失敗も容赦なくとがめるタイプ。ただ、勝利のためには最高のチームが必要であることを理解しているため、人材はきっちりと育てあげる)、③養育者(部下の成功を心の底から気にかけ、自分の育成能力を誇りに思っているタイプ。善意にあふれ、活動家肌のボスである)の3つの種類があるとし、すべてのスーパーボスに共通する要素として、「恐れ知らずなほどの自信」「旺盛な競争力」「たくましい創造力」の3つがあるとしています。そして、以下、第2から8章で、並みのリーダーは使っていないテクニック、マインドセット、哲学、秘訣といったスーパーボスの戦略を示しています。

 第2章では、特別な何かを「持っている人を見つけ出す」のがスーパーボスであるとしています。スーパーボスが求める「特別な何か」とは、ずば抜けた知性、創造力、高い柔軟性を指し、スーパーボスはそうした資質を持っている人を見抜いて雇うとしています。

 第3章では、スーパーボスは「優秀な人材に限界を超えさせる」としています。スーパーボスは部下をオリンピック選手のように扱い、限界のその先を目指すようその背中を押すとしています。

 第4章では、「がんこなのに柔軟」であるのがスーパーボスの特長であるとしています。彼らが部下から新しいアイデアを絶えず引き出すことでビジネスを成功に近づけられるのは、ぶれないビジョンと変化への柔軟性を両立できるからだとしています。組織の目的は守りつつも、手段はあらゆる面で絶えず改良するというのが、彼らの心構えであるとのことです。

 第5章では、スーパーボスは「師匠と弟子のようにそばで教える」としています。スーパーボスは普通のボスよりも部下の成長に対して個人的な責任を大きく取り、部下やチームメンバーとの距離を縮めることに腐心するとしています。

 第6章では、スーパーボスは「細部を見ながら部下に任せる」としています。スーパーボスは口出しせずに監督・統制する巧みなスキルを持っていて、最初に絶対的なビジョンを示してゴールを明確にしたら、あとは一歩下がってなりゆきを見守るとしています。ここでは、部下を信じないせいで権限委譲に及び腰になるマネジャーではなく、かと言って仕事を丸投げするフリーライダーでもない、第三の道としての「関与型権限委譲」という概念が示されています。

 第7章では、「部下同士を競わせる、助け合わせる」といったことも、スーパーボスが取る戦略であるとしています。スーパーボスは、チームに強い競争心を植えつけつつも、部下の間に団結の精神が根づくようなメッセージを発し、その際に率先して成長の手助けをすることで、部下同士が助け合うための「コホート効果」を生み出すとしています。

 第8章では、スーパーボスは「優秀な元部下のネットワークをつくる」としています。スーパーボスの元部下は、スーパーボスから巣立っても完全には離れず、そうしたネットワークは、元部下が数年、数十年たってもスーパーボスに抱く深い感情のつながりの上に成り立っているのだとしています。

 第9章では、これまでの総括としての「スーパーボスになる方法」として、キャリア、監督業務、組織にスーパーボスのアプローチを最大限取り入れるにはどうすればいいか、"スーパーボス指数"の測り方や、"スーパーボスの戦略集"を実践に移すためのアイデアや取り組みを紹介し、さらに、経営者がスーパーボスを見つけるための質問項目や、従業員がスーパーボスのもとで成功するための基本原則を示しています。

 読んでいて、"スーパーボス"ってかなり超人的というかモーレツだなあという印象もありました。ただ、日本の企業はどうしても、組織に害を与えない人を優先して管理職にしがちな面もあると思われ、それでも一方で、本書で言う"スーパーボス"への期待も厳然とあるのではないかと思います。あとは、漫然とそうした期待を抱き続けているだけか、組織戦略として、そうした人材を発掘して育て、リーダーとしてのローモデルを確立し、スーパーボスを起点として人材育成の連鎖を築いていけるかの違いでしょう。その意味で、スーパーボスの戦略集とも言える本書は、突出した人を見つけて育てることができるスーパーボス像というものを把握する上でも、また、そうしたスーパーボスをどうやって見出すかということにおいても参考になるだけでなく、読者自身がスーパーボスの手腕に学び、どのように部下を育てていくかを考えるうえでも示唆に富むように思います。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2713】日本経済新聞社(編) 『リーダーシップの名著を読む
○経営思想家トップ50 ランクイン(リズ・ワイズマン)

リーダーにおける「消耗型」と「増幅型」の2類型を示す。啓発的で、分かり易く説得力がある。

メンバーの才能を開花させる技法.jpg
メンバーの才能を開花させる技法   .jpg
 Multipliers.jpg リズ・ワイズマン.jpg
メンバーの才能を開花させる技法』['15年]/"Multipliers, Revised and Updated: How the Best Leaders Make Everyone Smart"/リズ・ワイズマン(Liz Wiseman)
Liz Wiseman Recognized By Thinkers50 As Top Leadership Thinker
リズ・ワイズマン 2.jpgオラクル.png 本書(原題:Multipliers, Revised and Updated: How the Best Leaders Make Everyone Smart)の著者リズ・ワイズマン(Liz Wiseman)は、元オラクル社の重役であり、17年に渡ってオラクル・ユニバーシティのバイス・プレジデントとして、グローバル・リーダーの養成に携わった人で(現在は、シリコン・バレーに本社を置くワイズマン・グループの社長として、世界各国でエグゼクティブ向けにリーダーシップを教える)、「Thinkers50」(最も影響力のある経営思想家トップ50)にも'13年、'15年、'17年と3期続けて選出されるなど、今、リーダーシップ分野で世界的に注目される女性の1人でもあり(共著者のグレッグ・マキューンはその著書『エッセンシャル思考』('14年/かんき出版)で日本でも知られる)、本書には、『7つの習慣』のスティーブン・R・コヴィー、『本物のリーダーとは何か』のウォレン・ベニスなど、錚々たる顔ぶれが推薦の言葉を寄せています。

 第1章「なぜ、今『増幅型リーダー』なのか」では、リーダーの2つの類型として「消耗型リーダー」「増幅型リーダー」があるとし、消耗型リーダーは自分の知性に溺れ、メンバーを低く見て、組織にとって大切な知性と能力を損ない、一方、増幅型リーダーは天才をつくり、メンバーの知識を引き出すことで、組織の中に伝染力のある集合知を築くとしています。そして、増幅型リーダーの習慣として、①才能のマグネット:人を惹きつけ、その才能を最大限に発揮させる、②解放者:最高のアイデアを求める、③挑戦者:難しい課題に挑戦させる、④議論の推進者:議論を通して決定する、⑤投資家:責任を明確にする、の5つを掲げ、メンバーの能力を最大限に引き出すことで、増幅型リーダーは消耗型リーダーの二倍の能力を手に入れるとしています。

 第2章「『才能のマグネット』としての技法」では、消耗型リーダーは「帝国の構築者」として優秀な人材を獲得しながら、彼らを囲い込んで自分の利益のためにしか使わず、せっかくの才能を浪費するのに対し、増幅型リーダーは「才能のマグネット」として最高の人材を手に入れ、チームメンバーは十二分に活用され、次の舞台に飛躍できるとわかり、多くの人材がここに集ってくるとしています。そして、才能のマグネットとして、①どこにでも人材を探す、②天賦の才を発掘する、③才能を最大限に活用する、④障害を取り除く、の4つの実践を掲げ、才能のマグネットになるためには、①才能の発掘者になるとともに、②"雑草を抜く"ことも必要であるとしています。

 第3章「『解放者』としての技法」では、消耗型リーダーは「独裁者」として人々のアイデアや能力を抑え込むような、威圧的な環境を作りだし、その結果メンバーは自分を抑え、リーダーが賛成するような安全なアイデアばかり出し、委縮しながら働くようになるのに対し、増幅型リーダーは「解放者」として人々のアイデアと仕事を引き出すような、緊張感のある環境を作り出し、その結果、メンバーは最も大胆で素晴らしいアイデアを提案し、最善の努力を注ぐようになるとしています。そして、解放者として、①居場所を作る、②最高の仕事を求める、③素早い学びのサイクルを生み出す、の3つの実践を掲げ、解放者になるためには、①チップを上手に使う、②意見を区別して伝える、③自分の失敗を語る、の3つを挙げています。

 第4章「『挑戦者』としての技法」では、消耗型リーダーは「全能の神」として自分の知識の豊富さをひけらかすような指示を与え、その結果、組織はリーダーがやり方をわかっていることしか成し遂げられなくなり、上司の考えを憶測することに組織のエネルギーが消耗されるのに対し、増幅型リーダーは「挑戦者」として自分の知識を超えて行動できるチャンスを人々に提示し、その結果、組織全体が挑戦を理解し、それを受け入れる集中力とエネルギーを持つようになるとしています。そして、挑戦者として、①チャンスの種を撒く、②挑戦を掲げる、③自身を植えつける、の3つの実践を挙げています。

 第5章「『議論の推進者』としての技法」では、消耗型リーダーは「意思決定者」として少人数の内輪の人間で効率よく結論を出すが、組織の大部分を置き去りにするため、決定の健全性が疑われ、実行にいたらないのに対し、増幅型リーダーは「議論の推進者」として人々を議論に引き入れ、それがよりよい決定につながり、理解と実行が進むとしています。そして、議論の推進者として、①問題の枠組みを示す、②議論を盛り上げる、③「開かれた決定」を徹底する、の3つの実践を掲げ、議論の推進者になるためには、①厳しい問いを投げかける、②根拠を示させる、③全員を参加させる、の3つを挙げています。

 第6章「『投資家』としての技法」では、消耗型リーダーは「マイクロマネジャー」として重箱の隅をつつくようにメンバーを管理し、リーダーへの依存を生み出し、リーダーなしでは成果の出ない組織を作るのに対し、増幅型リーダーは「投資家」として人に投資して責任を与え、リーダーがいなくても自分自身の力で結果が出せるようにするとしています。そして、投資家として、①責任の所在を明らかにする、②人的資源に投資する、③最後まで責任を預ける、の3つの実践を掲げ、投資家になるためには、①誰がボスかをはっきり知らせる、②流れを見守る、③解決はメンバーの力で、④ペンを返す、の4つを挙げています。

 第7章「『増幅型リーダー』を目指すあなたに」では、正しい原則とツールを使って、適度な努力で最大の結果を得るにはどうすればよいかを説いており、「加速ツール」として、①両極を改善する:リーダーとしての自分の習慣を振り返り、両極を改善することに力を注ぐ、②あえて思い込みから始める:増幅型リーダーの思い込みを取り入れ、それに従って行動する、③ひとつの課題を30日間続けてみる:5つの習慣から1つを選び、更にその中から1つの実践項目を選択し、それを30日間続ける、の3つを掲げ、また、勢いを持続するため、①1つ1つ層を重ねる、②1年間問い続ける、③コミュニティを作る、の3つを挙げています。

 消耗型リーダーの性質を持つ人物が、増幅型リーダーに変身できるものなのか。これについて著者は、変身するには、次の段階を経なければならないとし、①増幅型リーダーに共感する、②自分の中の消耗型リーダーに気づく、③増幅型リーダーになることを決意する―の3段階を挙げています。また、増幅型リーダーになるために1つだけ何かするとしたらそれは何かという質問に対し、1つだけ挙げるとすれば「質問」であり、メンバーに考えを促すような、洞察に満ちた教務深い質問を心掛けることから始めることを促しています。

 消耗型リーダーvs.増幅型リーダーという対比を、帝国の構築者vs. 才能のマグネット、独裁者vs. 解放者、全能の神vs. 挑戦者、意思決定者vs. 議論の推進者、マイクロマネジャーvs. 投資家という対比に落とし込んでいるのが分かり易く、非常に啓発的な内容で、かつ、実在するリーダーを調査して書かれているため説得力があり、また、実例が多く記載されているため理解し易く、更には、増幅型リーダーと消耗型リーダーの考え方や行動が具体的に纏められている点で実践し易いという、なかなかスグレモノの1冊です(リズ・ワイズマンの近著『ルーキー・スマート』('17年/海と月社)も、ルーキー"というものを従来とは異なる視点で捉えており、お薦め)。

《読書MEMO》
序文──スティーブン・R・コヴィー
第1章 なぜ、今「増幅型リーダー」なのか
 メンバーを活かすリーダーは、たしかにいる
 ふたりのリーダーの物語
 「増幅型リーダー効果」とはなにか?
 増幅型リーダーの考え方
 増幅型リーダーの五つの習慣
 三つの発見
 実践法に入る前に
 より効果を上げる読み方
 *増幅型リーダーの方程式
第2章 「才能のマグネット」としての技法
 あなたは「帝国の構築者」か「才能のマグネット」か
 「才能のマグネット」とは?
 才能のマグネットの四つの実践
 消耗型リーダーはメンバーをどう扱っているか
 メンバーはやりがいを求めている
 才能のマグネットになるために
 *増幅型リーダーの方程式
第3章 「解放者」としての技法
 あなたは「独裁者」か「解放者」か
 「解放者」とは?
 解放者の三つの実践
 消耗型リーダーは環境作りができない
 「自発性」がカギになる
 解放者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第4章 「挑戦者」としての技法
 あなたは「全能の神」か「挑戦者」か
 ある挑戦者の失敗と喜び
 挑戦者の三つの実践
 消耗型リーダーはチャンスをつぶす
 「全能の神」と「挑戦者」を比較すると──
 挑戦者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第5章 「議論の推進者」としての技法
 あなたは「意思決定者」か「議論の推進者」か
 「議論の推進者」とは?
 議論の推進者の三つの実践
 消耗型リーダーは議論を避ける
 議論を盛り上げることの真意
 議論の推進者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第6章 「投資家」としての技法
 あなたは「マイクロマネジャー」か「投資家」か
 「投資家」とは?
 投資家の三つの実践
 消耗型リーダーは依存体質を好む
 投資家には多くのリターンが待っている
 投資家になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第7章 「増幅型リーダー」を目指すあなた
 「共感」で終わらず、「決意」しよう
 「手抜き」を成功させる三つのポイント
 勢いを維持するには?
 もう一度、効果を確認する
 かならず、変われる
 *増幅型リーダーになるために
資料──頭を整理し、実践に勢いをつけるために
資料A:調査プロセスについて
資料B:よくある質問
資料C:増幅型リーダーの顔ぶれ
資料D:議論の手引き
*自己評価したいなら......

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3463】 L・デビッド・マルケ 『米海軍で屈指の潜水艦艦長による「最強組織」の作り方

「模範的リーダーシップの5つの実践」を示す。豊富なケーススタディにより啓発される。

リーダーシップ・チャレンジ[原書第五版] .jpgリーダーシップ・チャレンジ[原書第五版]2.jpg  The Leadership Challenge.jpg  リーダーシップ・チャレンジ0_.jpg
リーダーシップ・チャレンジ[原書第五版]』['14年]/The Leadership Challenge: How to Make Extraordinary Things Happen in Organizations (J-B Leadership Challenge: Kouzes/Posner)(第6版,2017)/『リーダーシップ・チャレンジ』['10年]
James M. Kouzes, Barry Z. Posner
James M. Kouzes,  Barry Z. Posner.jpg 本書は、1987年に初版が刊行され全世界で200万部を超えて読み継がれている本であり、著者らは1980年代のはじめから、数千もの「自己最高のリーダーシップ体験」を聞き集め分析したといいます。今回の第5版も100を超すケーススタディを盛り込み、今日のリーダーが直面する課題にも応えるものになっているとのことです(原著は何年かごとに改版されていて既に2017年に第6版が出されている)。

 1章では、リーダーシップの基本原則を示しています。非凡なことを成し遂げるリーダーは例外なく「模範的リーダーシップの5つの実践」を行っており、それは、●模範となる、●共通のビジョンを呼び起こす、●プロセスに挑戦する、●人々を行動にかりたてる、●心から励ます、の5つであるとしています。また、一握りの偉大なリーダーが人々を高みに導くという考えは、明らかに間違っているし、リーダーが組織の規模や種類や経済環境によって生まれると考えるのも間違いであって、実のところ、リーダーシップとは誰にでも実践できるスキルと能力の組み合わせであるとしています。そして、ついていきたいリーダーに共通する4つの特質として、●正直である、●先見の明がある、●仕事ができる、●やる気にさせる、が挙げられるが、これらは、先に挙げた「模範的リーダーシップの5つの実践」と表裏一体であるとしています。そのうえで、以下の章で「リーダーシップの5つの実践と10の原則」をそれぞれ解説しています。

 2章と3章では、「模範となる」ための原則と行動を示しており、それは「価値観を明らかにする」ことと「手本を示す」こと、つまり「①自分の言葉で語り、共通の理想を確認することで、価値観を明らかにする」ことと、「②共通の価値観に従って行動することで、手本を示す」ことであるとしています。

 4章と5章では、「共通のビジョンを呼び起こす」ための原則と行動を示しており、それは「未来を描く」ことと「人々を引き入れる」こと、つまり「③心踊るような崇高な可能性を想像し、未来を描く」ことと、「④共通の夢に訴えて、人々を引き入れる」ことであるとしています。

 6章と7章では、「プロセスに挑戦する」ための原則と行動を示しており、それは「チャンスを模索する」ことと「実験しながらリスクをとる」こと、つまり「⑤自発的に行動し、革新的な改善策を外部に求めることで、チャンスを模索する」ことと、「⑥小さな勝利を積み重ね、経験から学ぶことで、実験しながらリスクをとる」ことであるとしています。

 8章と9章では、「人々を行動にかりたてる」ための原則と行動を示しており、それは「協働を育む」ことと「力を与える」こと、つまり「⑦信頼を築き、絆を強めることで協働を育む」ことと、「⑧意思決定の権限を与えることで、人々の能力を高める」ことであるとしています。

 10章と11章では、「心から励ます」ための原則と行動を示しており、それは「貢献を認める」ことと「価値と勝利を讃える」こと、つまり「⑨卓越した成果を褒め、貢献を認める」ことと、「⑩共同体精神をつくりだし、その価値と勝利を讃える」ことであるとしています。

 終章の12章では、誰もがすばらしいリーダーになれるとし、そのためには自分の重要性を知ること、そして何よりもリーダーシップを実践することが大切であるとしています。また、リーダーは常に謙虚で人間らしくあるべきであり、リーダーシップとは頭で考えるものではなく、心で感じるものであるとしています。

 「世界で最も読まれているリーダーシップのテキスト」とも言われ、構成上非常にかっちり纏まっているようにも見えますが、体系的な理論書と言うよりは、リーダーのための啓発書であるとともに、実践的ガイドブックであると言ってよいかと思います。そのことは、著者ら自身がイントロで、まず1章を読んだならば、その先はどの順番で読んでも構わないと述べていることにも表れているかと思います。但し、調査研究から生まれた本であると著者らが自負する通り、豊富なケーススタディはいずれもシズル感に溢れ、啓発度が高いものであり、「模範的リーダーシップの5つの実践」を説得力のあるものとしているように思いました。前向きのリーダーにお薦めしたい本です。

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)


《読書MEMO》
◇模範的リーダーシップの5つの実践と10の実践
●模範となる
 ①自分の言葉で語り、共通の理想を確認することで、価値観を明らかにする
 ②共通の価値観に従って行動することで、手本を示す
●共通のビジョンを呼び起こす
 ③心踊るような崇高な可能性を想像し、未来を描く
 ④共通の夢に訴えて、人々を引き入れる
●プロセスに挑戦する
 ⑤自発的に行動し、革新的な改善策を外部に求めることで、チャンスを模索する
 ⑥小さな勝利を積み重ね、経験から学ぶことで、実験しながらリスクをとる
●人々を行動にかりたてる
 ⑦信頼を築き、絆を強めることで協働を育む
 ⑧意思決定の権限を与えることで、人々の能力を高める
●心から励ます
 ⑨卓越した成果を褒め、貢献を認める
 ⑩共同体精神をつくりだし、その価値と勝利を讃える

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2782】 ジェームズ・M・クーゼス/バリー・Z・ポズナー 『リーダーシップ・チャレンジ[原書第五版]
「●組織論」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(エイミー・C・エドモンドソン)

チームを機能させるためには何が必要なのか、学習力・実行力を高める実践アプローチを説く。

チームが機能するとはどういうことか2.jpg チームが機能するとはどういうことか.jpg Teaming.jpg エイミー・C・エドモンドソン2.jpg Amy C. Edmondson
チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』(2014/05 英治出版)/"Teaming: How Organizations Learn, Innovate, And Compete In The Knowledge Economy"(2012)

 病院、工場、役員室、災害現場など20年以上にわたって多様な人と組織を見つめてきた著者が、「チーミング」という概念をもとに、学習する力と実行する力を兼ね備えた新時代のチームづくりを描いた本です(Amy C. Edmondson,Teaming: How Organizations Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economy,2012)。

 本書の原題は「チーミング」ですが、チーミングとは、組織が相互に絡み合った仕事をするために協働する「活動」を表す造語であり、それはチームといった静的なものとは異なり、動的な活動プロセスをさすものであるとのことです。本書では、組織がチーミングを通して成功するのに役立つ基本的な活動と条件について述べていて、以下のように全3部8章構成になっています。
(第1部)チーミング
  第1章 新しい働き方
  第2章 学習とイノベーションと競争のためのチーミング
(第2部)学習するための組織づくり
  第3章 フレーミングの力
  第4章 心理的に安全な場をつくる
  第5章 上手に失敗して、早く成功する
  第6章 境界を超えたチーミング
(第3部)学習しながら実行する
  第7章 チーミングと学習を仕事に活かす
  第8章 成功をもたらすリーダーシップ

 第1部ではチーミングに焦点を当て、チーミングをしっかり行うための中心的活動について述べるとともに、チーミングとはどのように機能するものなのか、チーミングの仕方を学ぶにはどれくらい時間がかかるのか、チーミングをしているとき人々はどのような行動をとるのか、チーミングは一体どのようにして組織学習を生み出すのかといった疑問に答えています。第1章ではまずチーミングとは何かを明らかにし、今日の複雑な組織においてなぜそれが不可欠なのかを探り、次いで学習と知識を理解するための新たな枠組みを示しています。第2章では、チーミングの段階的プロセスをさらに詳しく述べ、成功しているチーミングは、次の4つの特別な行動を伴っているとし、さらに、チーミングと学習を可能にする、以下の4つのリーダーシップ行動を明らかにしています。
(成功しているチーミングにおける4つの特別な行動)
 ・率直に意見を言う
 ・協働する
 ・試みる
 ・省察する
 (チーミングと学習を可能にする4つのリーダーシップ行動)
 ・行動1 学習するための骨組みをつくる
 ・行動2 心理的に安全な場をつくる
 ・行動3 失敗から学ぶ
 ・行動4 職業的、文化的な境界をつなぐ

 第2部では、その4つのリーダーシップ行動について、さらに詳しく述べています。ここではチーミングの人間的な側面に焦点を当て、様々な組織的背景の中で人々がどのように協力するのかを詳細に見ています。具体的には、第3章でフレーミングの力を探り、効果的な協働と学習を促すためにリーダーはフレーミングによってどのようなことが出来るのかを説き、第4章では、心理的安全によって、チーミングの成功に必要な考え方やスキルや行動がどのように促進されるのかを見ています。第5章では、なぜ失敗が組織学習の根幹であるかを示し、失敗によって生まれるチャレンジを乗り越えるための具体的な行動を紹介しています。第6章では、様々な分野や部署、企業、さらには国の間にある境界をつなぐ重要性と課題を検証しています。そして、実際につなぐとどんなことが可能になるかを、2010年にチリのサン・ホセ鉱山で起きた、地下600メートルの岩の中に閉じ込められた33人の作業員の「不可能な」救出劇を糸口に検証しています。

 第3部では、個人や個人間の行動から組織としての実践に焦点を移しています。第7章では、それまでの章で述べた「実行」の新たなモデルとなる教訓や戦略をまとめ、たゆまぬ学習と改善を確実にする反復プロセスを診断、デザイン、実践するための具体的な手順を紹介し、第8章では、3つのケーススタディを通して、プロセス改善、問題解決、イノベーションなど得られるだろう様々な学習の結果を考察しています。1つ目のケースでは、他社にリードを許してしまった企業において業績を改善させるリーダーシップに注目し、2つ目のケースでは、組織中の人を協働させ、複雑な業務における難しい問題を解決するリーダーシップについて述べ、3つ目のケースでは、イノベーションを支援して、先駆的な製品やプロセスを生み出すようなチーミングを成功させるリーダーシップに焦点を当てています。

 以上が本書の"あらすじ"ですが、要するに、チーミングとは、新たなアイデアを生み、答えを探し、問題を解決するために人々を団結させる働き方のことであり、また、組織間の境界を超えてつながり合うこと、つまり境界をつなぐことでもあるということになります。

 成功しているチーミングの特別行動を、「率直に意見を言う、協働する、試みる、省察する」の4つに定義し、学習するための組織づくりには「学習するための骨組みをつくる、心理的に安全な場をつくる、失敗から学ぶ、職業的、文化的な境界をつなぐ」という4つの行動が不可欠であるというのが著者の主張であり、また、そうした主張が、以下に展開される様々なケーススタディを通して説得力を持つものとなっており、また、各章の章末に「リーダーシップのまとめ」と「Lessons & Actions」というコーナーが設けられているという点でも分かり良いものとなっています。協働を推し進め、パフォーマンスを向上させたいと考えるリーダー、協働を後押ししたり、チームづくりの訓練をしたり、組織学習を実践したりする人事パーソンに是非お薦めしたい本です。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2253】 グロービス経営大学院 『新版 グロービスMBAリーダーシップ
○経営思想家トップ50 ランクイン(マイケル・ワトキンス)

新任管理職が最初の90日を乗り切るためのロードマップ。管理章にとって多くの示唆を含む本。

90日で成果を出すリーダー2.jpg90日で成果を出すリーダー.jpg   The First 90 Days.jpg   ハーバード・ビジネス式 マネジメント.jpg
ハーバード流マネジメント講座 90日で成果を出すリーダー (Harvard Business School Press)』['14年/翔泳社(伊豆原 弓:訳)]/"The First 90 Days, Updated and Expanded: Proven Strategies for Getting Up to Speed Faster and Smarter"(2013)/『ハーバード・ビジネス式 マネジメント - 最初の90日で成果を出す技術』['05年/アスペクト(村井 章子:訳)]
Michael D. Watkins
マイケル・D・ワトキンス.jpg リーダーシップ教育で知られるIMDビジネススクールの教授である著者による本書は、昇進した新任管理職が最初の90日を乗り切るためのロードマップであり、90日という期間でリーダーが何をすべきか、そのことを実践的かつ体系的に学べる本として以前ベストセラーとなった原書('The First 90 Days: Critical Success Strategies for New Leaders at All Levels'(2003)/『ハーバード・ビジネス式 マネジメント―最初の90日で成果を出す技術』('05年/アスペクト))の、刊行10周年記念増補改訂版('The First 90 Days: Proven Strategies For Getting Up to Speed Faster and Smarter'(2013))の邦訳です。

 はじめに、職務移行に成功するための重要な作業として、①「準備をととのえる」(新しい任務に合わせて思考回路を切り替える)、②「効率よく学ぶ」(必要な知識や情報を効率よく学ぶ)、③「状況に合った戦略を立てる」(正しくリーダーシップをとるために状況に合った戦略を立てる)、④「上司と成功条件を交渉する」(上司と関係を築いて下地づくりをする)、⑤「初期の成果をあげる」(まず小さな成果をあげて流れをつくる)、⑥「組織のバランスをととのえる」(組織のバランスに歪みがないか見きわめて調整する)、⑦「理想のチームをつくる」(部下を評価してチームづくりをする)、⑧「味方の輪をつくる」(内外の支持基盤を確立する)、⑨「自己管理の意味を考える」(私生活を管理する)、⑩「組織全体の移行を速める」(組織に対する移行支援)を挙げ、以下、各章で、実践的なガイドラインやツールを紹介していきます。

 第1章「準備をととのえる」では、「昇進」と「新しい会社への転職」の2種類の移行について、どのような課題に直面しそれをどう乗り越えるか、その準備をととのえる際の基本原則をまとめています。

 第2章「効率よく学ぶには」では、新任リーダーが失敗するのは、たいていは効果的に学習ができなかったことに要因があるとし、学習の障害を克服し、効率よく学ぶにはどうすればよいかを説いています。

 第3章「状況に合った戦略を立てる」では、正しくリーダーシップをとるには、状況に合った戦略を立てる必要があるとし、そのためのSTARSモデルというものを紹介しています。
  S (Start-up)     立ち上げ
  T (Turnaround)    立て直し
  A (Accelerated)   急成長
  R (Realigment)    軌道修正
  S (Sustaining success) 好業績をあげて次の段階進もうとする組織の継承

 第4章「上司と成功条件を交渉する」では、新しい上司と生産的な関係を築くためにしてはならないことと、基本的にやるべきことを列挙し、その中で、自分に対する期待を繰り返し確認せよと言っています。また、上司との会話の中心となる基本的話題として、移行に関して計画的に織り込むべき5つの会話を掲げています。

 第5章「初期の成果をあげる」では、移行期の計画を立てるにあたっては、連続的に変革の波を起こすことに重点を置くべきであり、最初の変革の波は、初期の成果をあげることが目標であるとしています。ただし、手近な成果の罠にはまらないようビジネスの優先課題に注目すべきであるとし、正しいやり方で成果をあげるための基本原則を示しています。

 第6章「組織のバランスをととのえる」では、組織がアンバランスになる過程はさまざまであり、最初の90日間の目標は、潜在的なアンバランスを突き止め、それらを修正する計画を立てることであるとしています。組織のバランスには論理があり、方向性が正しいかどうかを考えずに構造を変えようとすると問題を引き起こす可能性が高いとし、戦略的方向をどのように定義し、その妥当性や実施面での評価をどのように行うかを説いています。

 第7章「理想のチームをつくる」では、チームをつくる段階でリーダーが失敗する、陥りやすい落とし穴の例を挙げ、落とし穴にはまらないようにするためにはどうすればよいかを説いています。また、部下を評価してチームづくりをし、チームを進化させるにはどうすればよいか、インセンティブのバランスはどのようにとったらよいのかを説いています。

 第8章「味方の輪をつくる」では、具体的に誰を味方につけるべきか見定め、組織に対する影響力の全体を把握すべきであるとし、影響力のネットワークにおける重要人物を理解し、相手を動かす戦略を立てることが重要であるとしています。

 第9章「自己管理の意味を考える」では、自分が置かれている状況を検討するための「構造的内容」のガイドラインを示すとともに、自己管理の3本の柱を掲げています。

 第10章「組織全体の移行を速める」では、組織全体の移行を速めるにはどうすればよいか、そのポイントとして、重要な移行を特定し、また、失敗が決定づけられているケースも特定するとともに、既存の移行支援を診断し、共通の核となるモデルを採用すること、タイムリーに、移行のタイプやリーダーの階層に合わせて支援をすることを挙げています。

 各章の冒頭にケーススタディがあり、読み易く、また、実践的な内容であると思いました。柔軟なフレームワークを示しながら、上司との関係、部下の評価、組織戦略などを掘り下げていて、あらゆるレベルの管理職に役立つ、多くの示唆を含む本であると思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに 最初の90日
 キャリア移行能力を身につける
 ブレイクイーブンポイントに達する
 移行の落とし穴にはまらない
 流れをつくる
 基本原則を理解する
 移行リスクを評価する
 最初の90日を計画する
 早速はじめよう
第1章 準備をととのえる
 昇進する
 新しい会社に溶け込む
 コラム 文化規範を見きわめる
 準備をととのえる
 まとめ
 チェックリスト
第2章 効率よく学ぶには
 学習の障害を克服する
 学習を投資プロセスと考える
 学習課題を決める
 コラム 過去に関する質問
 コラム 現在に関する質問
 コラム 未来に関する質問
 知識を得るために最高の情報源を見きわめる
 構造化学習法を取り入れる
 コラム 新任リーダーの同化
 学習計画の作成
 コラム 学習計画のテンプレート
 支援を得る
 まとめ
 チェックリスト
第3章 状況に合った戦略を立てる
 STARSモデルを使う
 STARSポートフォリオを診断する
 変革を主導する
 自己管理
 成功に報いる
 まとめ
 チェックリスト
第4章 上司を成功条件を交渉する
 基本的なことに注意する
 5つの会話を計画する
 組織の状況についての会話を計画する
 上司の期待についての会話を計画する
 資源についての会話を計画する
 仕事のスタイルについての会話を計画する
 自己啓発についての会話を計画する
 複数の上司と協力する
 離れて働く
 まとめー90日計画を交渉する
 チームと5つの会話を計画する
 コラム 移行の黄金律
 チェックリスト
第5章 初期の成果をあてる
 波をつくる
 目標から始める
 基本原則を使う
 初期の成果を見きわめる
 コラム かつての同僚の上司になる
 変革を主導する
 予測可能な不意打ちは避ける
 チェックリスト
第6章 組織のバランスをととのえる
 落とし穴にはまらない
 組織構造を設計する
 アンバランスを診断する
 さあ、漕ぎだそう
 戦略的方向性を定義する
 コラム SWOTからTOWSへ
 グループの構造を形成する
 コアプロセスのバランスをとる
 グループのスキルベースを開発する
 文化を変えるために構造を変える
 バランスをとってみよう
 チェックリスト
第7章 理想のチームをつくる
 落とし穴にはまらない
 チームを評価する
 チームを進化させる
 チームのバランスをとる
 コラム インセンティブの方程式
 コラム オフサイト・ミーティグ計画のチェックリスト
 チーム主導する
 チームを始動させる
 チェックリスト
第8章 味方の輪をつくる
 影響力の目標を定める
 影響力の全体を把握する
 重要人物を理解する
 相手を動かす戦略を立てる
 まとめ
 チェックリスト
第9章 自己管理の意味を考える
 現状を検討する
 コラム 構造的内省のガイドライン
 自己管理の3本の柱を理解する
 軌道を外れないために
 チェックリスト
第10章 組織全体の移行を速める
 重要な移行を特定する
 失敗が決定づけられているケースを特定する
 既存の移行支援を診断する
 共通の核となるモデルを採用する
 タイムリーに支援する
 構造化プロセスを使う
 移行のタイプに合わせて支援する
 リーダーの階層に合わせて支援する
 コラム 移行コーチングと開発コーチング
 役割をはっきりさせインセンティブのバランスをとる
 ほかの人材管理システムと統合する
 まとめ
 チェックリスト

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3411】 トム・ラス/他 『ストレングス・リーダーシップ
○経営思想家トップ50 ランクイン(バーバラ・ケラーマン)

リーダーからフォロワーに力と影響力が移動し、リーダーシップ教育の見直しが求められていることを指摘。

Iハーバード大学特別講義 リーダーシップが滅ぶ時代8.JPGハーバード大学特別講義 リーダーシップが滅ぶ時代.jpg バーバラ・ケラーマン.jpg Barbara Kellerman
ハーバード大学特別講義 リーダーシップが滅ぶ時代
"The End of Leadership"[Kindle版]
the end of leadership.jpg 著者はハーバード大学ケネディスクールの社会リーダーシップの授業で、ジェームズ・マグレガー・バーンズ論を担当する講師であり、本書(The End of Leadership HarperBusiness 2012)は「リーダーシップ」が一大産業になるまでの変化の歴史と、変化によって起きた現代社会の問題点について触れた本です。本書では、リーダーシップ教育は過去に例を見ないほど盛んに行われているのに、なぜリーダーの影響力は低下したのだろうかという疑問を呈し、リーダーシップの歴史と社会情勢の変化を分析したうえで、一大産業と化したリーダーシップ教育の問題点を洗い出し、未来のリーダーシップについて警鐘を鳴らしています(全三部構成で、第一部、第二部でリーダーからフォロワーに力と影響力が移動しその関係が変化していることを説き、第三部で、そうした時代の状況を鑑みた場合の、現在のリーダーシップビジネスにおける問題点を指摘している)。

 第一部「パワーシフト」第一章「歴史的軌跡―衰えゆくリーダーの力」では、リーダーシップには長い歴史があり、たどってきた軌跡にははっきりした流れがあるとして、紀元前から現在までのリーダーシップの歴史を振り返るとともに、近年の傾向として、フォロワーが力をつけ、リーダーは弱体化しつつあるとしています。

 第二章「文化的制約―対等な立場で勝負する」では、フォロワーの力の増大の裏側には、リーダーのさまざまな限界があり、リーダーは、どんなときでも誰もが振り返って指示を仰ぐような道しるべ的な役割から、その力と影響力をフォロワーに委譲しつつあり、リーダーとフォロワーの形が変わってきているとうのが現代の歴史であり、時代(文化)の状況であるとしています。

 第三章「避けられない技術革命―テクノロジーに振り回される」では、そうした過去30年間から40年間のリーダーシップとフォロワーシップの変化は、文化的変化と併せて、通信技術の進歩などの技術的変化によって進行したことを、多くの事例によって説明しています。

 第二部「時代の変遷」第四章「社会契約―むしばまれる信頼関係」では、リーダーとフォロワーの関係の基礎となるのは、リーダーの資質に対するフォロワーの信頼であるが、今その信頼が宗教界、政界、経済界の各方面において損なわれつつあることを例証しています。

 第五章「今アメリカで―弱体化するリーダー」では、とりわけ今アメリカで起きているリーダーの弱体化現象について述べています(この部分は、ドナルド・トランプのような人物が大統領となることを"予言"しているとまでは言えないが、ある意味"予感"させるものであてって興味深い)。

 第六章「世界的な動き―勢いづくフォロワー」では、多くのヨーロッパ、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々で、30年から40年前に比べて、アメリカ以上に、リーダーが弱くなりフォロワーが強くなっていることを検証していて、アメリカはリーダーが弱体化したためにリーダーとフォロワーのバランスが変化したが、これらの国々は、フォロワーが強くなることで、力の均衡に変化が起きたとしています。

 第三部「パラダイムシフト」第七章「リーダーシップビジネス―リーダーシップ大流行の中で」では、リーダーシップビジネスはこの30年から40年の間に爆発的に成長しているが、莫大な資金がリーダーシップビジネスに流れこみ、莫大な時間がリーダーシップ教育、研究に費やされているにも関わらず、リーダーシップの成功例は少なく、失敗例には事欠かないとし、その問題の一つは、有能なリーダーを育成することに固執していることにあるとしています。

 第八章「特別講義完了―現代に求められるリーダーとは」では、これまでの「救世主探し」のようなリーダー中心のリーダーシップ教育ではフォロワーの重要性が忘れられており、今リーダーシップ育成事業そのものを全体的に考え直す必要があるとして、今のリーダーシップ産業を支えている「前提」の数々について、著者が疑問を抱いているものをリストアップし、それらはリーダーシップの危機を促進こそすれ、緩和はしないとしています。

 本書は、リーダーとフォロワーの関係の変化、そして、リーダーシップビジネスがなぜ意図した結果を生んでいないのかについて述べる一方で、これは簡単に解決できる問題ではないとして、「お定まりの処方箋」を描くことはしていません。リーダーシップを否定しているわけではなく、これまでのリーダーシップは時代遅れになる危険があるとしているわけです。リーダーの存在を否定するのではなく、、リーダーはいつの時代にも存在するが、フォロワーシップより重要な存在としてのリーダーシップ、授業料を払って習得するようなリーダーシップ、普通の仕事より優れたものとしてのリーダーシップ、どんな問題でも解決するリーダーシップ、業績を出すのが当たり前だと皆が思っているリーダーシップ―そのようなリーダーシップはもう古いとしていて、相当に示唆的な内容であると言えます。

 リーダーシップビジネス(教育)について詳細に(批判的に)語っていることも本書の特徴であり、それらはアメリカ社会を中心に書かれていますが、次世代リーダーの育成が急務の日本の企業にとっても参考になるように思われます。著者はリーダーシップビジネスが衰退しないようにするには、少なくとも次の四つの改革をしなければならないとして本書を結んでいます。

 ・会話を阻害する、リーダー中心主義を終わりにすること。
 ・近視眼的な状況の特定から脱却すること。
 ・リーダー教育自体を厳しい分析の対象とすること。
 ・影響力の対象を反映しなければならない、移りゆく時代とともに変わること。

《読書MEMO》
●目次
プロローグ──二十一世紀のリーダーシップ、そしてフォロワーシップ
第一部 パワーシフト
 第一章 歴史的軌跡―衰えゆくリーダーの力
 第二章 文化的制約―対等な立場で勝負する
 第三章 避けられない技術革命―テクノロジーに振り回される
第二部 時代の変遷
 第四章 社会契約―むしばまれる信頼関係
 第五章 今アメリカで―弱体化するリーダー
 第六章 世界的な動き―勢いづくフォロワー
第三部 パラダイムシフト
 第七章 リーダーシップビジネス―リーダーシップ大流行の中で
 第八章 特別講義完了―現代に求められるリーダーとは

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2210】 小杉 俊哉 『リーダーシップ3.0

リーダーは生まれながらリーダーなのではなく、育てられるもの。

リーダーの使命とは何か.jpgHesselbein.jpg あなたらしく導きなさい.jpg
リーダーの使命とは何か』['12年]Frances Hesselbein at TEDあなたらしく導きなさい 愛されるリーダーの生き方、愉しみ方』['13年]

Hesselbein2.jpg 本書(原題:Hesselbein on Leadership)は、17歳で父が他界、大学進学を断念して就職、22歳で結婚、出産後にガールスカウトのボランティアを始めて頭角を現し、ついには全米ガールスカウト連盟初の現場出身CEOとなり、さらにドラッカー財団の初代プレジデント兼CEOとなり、大統領自由勲章を受勲し、『アメリカ陸軍リーダーシップ』('10年/生産性出版)の共著者でもあるというフランシス・ヘッセルバイン(1915年生まれ、2018年12月現在満103歳)が、リーダーシップについて述べたエッセイをまとめたものです。

 Ⅰ「『どうやるべきか』から『どうあるべきか』」では、リーダーシップとは「どうやるべきか」ではなく「どうあるべきか」の問題であるとしています。1章では、これからのリーダーは、「どうあるべきか」に専心する人であるとして、その行動特性を列挙し、2章では、今の若者はシニカルになりがちだが、実はこうしたリーダーは身近にいるものだとしています。3章では、自らはリーダーとして「イノベーション」「融合」「機会」「価値観」という四つのカゴを持つようにしてきたとし、4章では、リーダーには女性も男性もなく、もし仮に女性的と形容されるマネジメントの特長があるとすれば、それは男女関係なく、有能なリーダーの共通の資質であるとしています。5章では、よいマナーや礼儀正しさは、組織全体によい人間関係を確立するために不可欠であるとし、真摯に人と向き合い、尊敬の念を表すことのできるリーダーが求められるとしています。6章では、リーダーには自分でつくりだす壁と組織がつくりだす壁の2つの壁があるとして、それぞれの壁について解説し、壁を見極め、乗り越えなければならないとしています。7章では、リーダーが交代する際に、称賛される交代となるために必要な四つのステップを挙げています。

 Ⅱ「新時代のリーダーは、こうなる」では、これからのリーダーはどのようになっていくかを述べています。8章では、リーダーがピラミッドの上に立つ時代は終わり、リーダーは円の中心的存在として、ミッションの達成やイノベーション、ダイバーシティを目指すマネジメントを行うことになるとしています。9章では、これからのリーダーはミッションを常に意識し、絶えず学び、絶えず教え、才能よりも勤勉さを尊ぶとしています。10章では、ひとつの組織が理想の組織に変わるための八つのポイントを示しています。11章では、組織には「家をきれいに保っておく」ことが求められるとし、それはどういうことか、そのための三つの要件を挙げています。12章では、今日の組織は本気でリーダーを育成することが求められており、すぐれた組織の共通点として、リーダーシップ養成に力を入れていることが挙げられるとしています。13章では、組織が10年後も成長しているためのチェックリストを示しています。

 Ⅲ「外に飛び出し、社会を変えよう」では、あらゆる組織のリーダーたちは、自分の組織の壁を越えたリーダーシップも発揮しなければならないとしています。14章では、官・民・NPOのトライアングルの構築の実例を挙げています。15章では、組織を超えて「共通の言葉」で話し、協力し合う必要があるとしています。16章では、これからの企業人は非営利組織に注目すべきであるとしています。17章では、多様性の時代の組織づくりはどうあるべきかを考察し、生産性のある組織を実現する五つの条件を挙げています。18章では、リーダーとは、献身的なリーダーシップを発揮して初めて真のリーダーになるとし、とりわけ、こどもたちを救うということをリーダーの使命として挙げています。19章では、ドラッカーが『未来社会の変革』の冒頭で書いた「都市を文明化する」という仕事に関して、現実にどこから手をつければよいか、コミュニティとのパートナーシップの規範となる事例を紹介しています。

 200ページ足らずのソフトカバー本ですが、密度は濃いです。リーダーは生まれながらリーダーなのではなく、育てられるものであり、ただし、リーダーを育てるには相当の時間を投入する必要があり、それによって、リーダーが育成される―ということを改めて思い知らされる、啓発度の高い本です。また、同著者の『あなたらしく導きなさい 愛されるリーダーの生き方、愉しみ方』('13年/海と月社)も280ページ程度と本書よりはやや厚いですが、本書同様に読みやすく説得力のある本です。

《読書MEMO》
目次
世界の重鎮たちはなぜ、ヘッセルバインに一目置くのか。―ジム・コリンズ
困難から逃げないあなたへ
Ⅰ「どうやるべきか」から「どうあるべきか」へ
  1章 「どうあるべきか」のリーダーとは?
  2章 ヒーローは身近にいる
  3章 四つのカゴを持ち歩く
  4章 リーダーに、女性も男性もない
  5章 礼儀正しさの効用
       よいマナーはリーダーの味方
       メンバーへの敬意の示し方
  6章 リーダーに立ちはだかる二つの壁
  7章 称賛されるリーダー交代の方法
       理事会とのやり取り
       交代までの四つのステップ
Ⅱ 新時代のリーダーは、こうなる
  8章 ピラミッドを円に変える
  9章 あなたは「善きサマリア人」か?
       お題目だけのミッションならいらない
       絶えず学び、絶えず教える
       才能より勤勉さを尊ぶ
  10章 理想の組織に変わるための八つのポイント
  11章 「家」をきれいに保つ
       三つの要件を満たす
       自分の「家」をじっくり見つめる
  12章 本気でリーダーを育成する
       すぐれた組織の共通点
       五つの質問に答える
  13章 一〇年後も成長しているためのチェックリスト
Ⅲ 外に飛び出し、社会を変えよう
  14章 官・民・NPOのトライアングル
  15章 「共通の言葉」で話せる人に
  16章 企業人は非営利組織に注目せよ
       NPOを評価すべき理由
       メンバーのやる気をかきたてる態度
  17章 多様性の時代の組織づくり
       口先だけでは通用しない
       生産性のある組織を実現する五つの条件
       新たな現実をチャンスに変える
  18章 子どもたちを救う、という使命
       企業も無縁ではない
       なぜ、献身が必要なのか
       子どもを気にかけない社会の不幸
  19章 実例なら、ここにある
理想の組織に変わるための八つのポイント(10章)
①周囲に目を配る
いろいろな本や記事、調査結果などから、自分達の組織に影響を及ぼしそうなトレンドを見極める。常にこうした姿勢でいれば、転換プランに欠くことのできない情報も得られるようになる。
②ミッションを再確認する
周囲の環境や顧客のニーズは変化するため、ミッションは見直し、必要に応じて改訂する必要がある。ミッションステートメントとは、自分達の存在意義、目的の説明である。リーダーは、マネジメントとは目的ではなく手段であることを理解し、自分勝手なマネジメントのためのマネジメントではなく、ミッシ ョンのためのマネジメントを行わなければならない。
③階層を禁じる
組織を転換するためには、メンバーを組織の箱から解放し、柔軟で流動的なマネジメント体制をつくりだす必要がある。スタッフの役割や地位を同心円状に、系統的に配置することで、職務をローテーション化することが可能となる。これによってメンバーは円を描くように移動し、新しいスキルを学び、経験の幅を広げていく。
④「天の声」に疑問をもつ
絶対神聖なタブーなどつくってはならない。どんな方針や慣行、前提に対しても、疑問の声をあげていくべきである。本気で組織を変えようとするなら、「計画的廃棄」も実行すること。
⑤言葉の力を駆使する
リーダーは明瞭で首尾一貫したメッセージを何度も送らなくてはならない。メンバーや顧客の心を明るく照らし出すような強力なメッセージを発しながら、自分の声で組織を導き、よりよいコミュニケーションをとっていくこと。
⑥リーダーシップを分散させる
いかなる組織も、一人のリーダーではなく、多くのリーダーを持たなくてはならない。リーダーを育成し、組織のあらゆるレベルで力を発揮してもらうこと。
⑦「後ろから押す」ではなく、「真正面から導く」
リーダーは何もせず、風見鶏のようにただ待っていたりはしない。組織に影響を及ぼしそうな問題に立場を明言し、企業やその価値観、原則を具現化した存在としてふるまう。
⑧業績を評価する
進歩のためには、自分自身を評価することが不可欠である。転換のプロセスにおける、ミッション、目標、目的は最初に明確にしておく。目標と評価の尺度を設定して初めて、転換への道のりを歩み出すことができる。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1882】 コリン・パウエル/他 『リーダーを目指す人の心得

奉仕型のリーダーシップとは、自らを人間的に成長させる素晴らしい"スキル"であると。

サーバント・リーダー  ハンター.jpgサーバント・リーダー  ハンター7.JPG サーバント・リーダー  ハンターl2.jpg James Hunter.jpgサーバント・リーダー 「権力」ではない。「権威」を求めよ』['12年] "The Servant: A Simple Story About the True Essence of Leadership"(1998) James Hunter

サーバント・リーダーシップ ハンター.jpg 本書(原題:The Servant: A Simple Story About the True Essence of Leadership,1998)は、『サーバント・リーダーシップ』('04年/PHP研究所、石田量訳)の新訳です。物語仕立てになっていて、世界的なガラスメーカで異例の若さで工場を任され、順調なキャリアを歩むゼネラル・マネジャーが、ビジネスとプライベートの両面で危機を迎え、妻から教会の牧師に相談することを勧められ、牧師から修道院の修道会に参加することを提案され、気乗りはしなかったが、その修道院に伝説の経営者がいることに興味をひかれて参加し、そして、その伝説の経営者から、リーダーシップを学ぶというストーリーになっています。

サーバント・リーダーシップ』('04年/PHP研究所、石田量訳)

 1日目は、主人公は、修道院の中ではシメオンと呼ばれるその伝説の経営者の導きにより、他の5人の参加者との討議を通して、リーダーシップとは「共通の利益になると見なされた目標に向かって熱心に働くよう、人々に影響を与える技能」であるとの定義に至ります。シメオンは、リーダーシップは"技能"であるので、学んだり身につけたりすることができるものだとし、リーダーシップを身につけるという行動には"大きな努力"が必要とされるとも言います。なぜならば、リーダーシップが他人を動かすことだとしたら、人を動かす影響力をどのように身につければよいのかを常に考える必要があるからです。そこで重要になるキーワードは"影響力"というものであり、この影響力に関して「権力」と「権威」という二つの言葉が持つ意味の違いを正しく理解することの重要性を述べます。「権力」は、たとえ相手がそうしたがらなくても、地位や力によって、自分の意思どおりのことを強制的にやらせる能力であり、「権威」は、個人の影響力によって、自分の意思どおりのことを誰かに進んでやらせる技能であるとし、権力に頼らなければならないのは、権威が崩れたからであって、では権威あるリーダーの特質とは何かを参加者に考えさせ、その結果「正直で信頼できる」ことなど10の特質が抽出されます。シメオンは、これら10の特質は全て「行為」であり、このような「行為を実践する」ことができるのならば「権威を持つ」ことができるとします。シメオンは、リーダーシップとは、人々を通して何かを成し遂げることであり、人と共に働き、人に何かをさせるときには「任務」と「関係」というものが必ず関わってくると説きます。「任務」と「関係」はどちらも重要で、いずれか一方だけを重要視するとバランスが崩れてしまい望まない結果がもたらされることになるので注意が必要だということを常に心に留め置く必要があるとします。関係を顧みずに任務にだけ集中していると、退職、反抗、品質の低下、やる気の無さ、信用低下といった問題が起き、一方、関係性のみに注力をするならば、任務を成し遂げることができず、つまり、リーダーシップとは「関係を築きながら任務を成し遂げる」ことを指すということになるとし、関係性を維持するために最も必要なものは「信頼」であると説きます。

 2日目は、シメオンはまず、人に最後まで話をさせずに自分の意見を言い始めることの弊害を説きます。そして、尊敬の気持ちには、尊敬の行動が伴わなければならないとします。また、もし10の特質を本当に実践するのであれば、「パラダイム:規範」(人生を進んでいくにあたって用いる心の図式・モデル・地図)の見直しの必要性に迫られるとし、このパラダイムは上手に使えば人生を渡っていくのに非常に役立つが、時代遅れの古いパラダイムに捉われてしまうと世界に取り残されてしまう危険性があるとします。例えば、父親に虐待された女の子は「大人の男性は信用できない」というパラダイムを持ち、成長後もそのパラダイムを持ち続けるならば男性との付き合い方に深刻な支障をきたすことになり、この場合、「すべての男性は信用できない」というものから「信用できない男性もいる」といったパラダイムの変換が必要になります。従って、常に自分自身や自分を取り巻く環境に関するパラダイムを自ら見直す必要があり、多くが現在身につけている組織運営に関するパラダイムは、「ピラミッド型:上から下へ」というものであって、CEOを最上位とし、[上]CEO→副社長→中間管理職→監督者→従業員[下]と続いて、最下層の従業員が「顧客」への対応を行うが、この従来型モデルの場合、組織のメンバーには、顧客ではなくて「上」つまり上司を見よというメッセージになるだろうと。そこで、このパラダイムの変換が必要になり、それは「逆ピラミッド型:下から上へ」というもので、[上]従業員→監督者→中間管理職→副社長→CEO[下]というものであると。顧客に目を向けるために顧客を最上位に置き、その対応する従業員を上に配置するならば、リーダーの役割は支配したり下層のメンバーに威張り散らしたりすることではなく、むしろ従業員に対して"奉仕する"ということになるとしています。ここでの「奉仕する」の本当の意味は、相手の欲求に応えるということではなくて"ニーズに応える"ということを意識しなければならないといとしています。欲求とは「心身におよぼす影響をまるで考えない願い、希望」で、ニーズとは「人間としてよい状態にあるために、心身が正当に求めるもの」であり、例えば、従業員が時給20ドルを求めることは欲求であり応える必要はないが(なぜならば、その要求を満たすことになれば企業の存続が危うくなり、安定した長期の雇用という彼らのニーズに応えることができなくなるから)、リーダーは常に自分が導いている人々のニーズに応えるべく、それらをきっちりと把握する努力をする必要があるとしています。そのためには「マズローの欲求5段階説」を知ることは有益であるとしています。欲求ではなくニーズに応える、つまり、隷属するのではなくて奉仕者になる、ということを心に留め置くべきだというのが、2日目の講義のポイントです。

 3日目は、「奉仕」と「犠牲」のリーダーシップに踏み込んでいきます。リーダーシップに関して、それをどのように身につけるかを、[上]リーダーシップ→権威→奉仕と犠牲→愛→意志[下]というピラミッド型モデルで学ぶことができるとしています。まず、有効なリーダーシップは、「権威」の上に打ち立てられなければならず、権威は「奉仕と犠牲」の上に成り立ち、その奉仕と犠牲は「愛」の上に、愛は「意志」の上に作られるとしています。この意志とは「意図 + 行動」を意味し、意図は行動を伴って初めて意味を成すとしています。つまり、リーダーシップとは、意志から始まり、それは、意図に添った行動をし、行為を選ぶという人間ならではの能力であり、正しい意志があれば愛を選ぶことができる。この愛というのは動詞で、人々の欲求ではなく、正当なニーズを見極めてそれに応えることを指し、人々のニーズに応えるとき、奉仕し、犠牲を払うことさえ求められるが、他人に奉仕して犠牲を払うと、権威あるいは影響力を手にすることができるということです。つまり、もっとも偉大なリーダーとは、もっとも奉仕した人物ということになるとのことです。

 4日目は、「行為」としての愛に踏み込んでいきます。「行為を示す動詞の愛」について理解を深めることは、リーダーシップを理解することへの大きな助けになるとしています。ギリシャ語には愛を表すのに幾つかの異なる単語があり、性的な魅力や欲望、切望といった感情を指す「エロス」、家族の間の感情を指す「ストルゲ」、「あなたが私に親切にしてくれたら、わたしもあなたに親切にします」といった条件付きの親密な相互の愛である「フィロス」、見返りを考えない、他人への行為の基になる無条件の愛である「アガぺ」のうち、奉仕と犠牲のリーダーシップの中で用いられる「愛」とは「アガぺ」を意味する、行為と選択の愛なのだとしています。そして、自分が人に対してどう感じるかはコントロールできないが、人に対してどのように振る舞うかは、きちんとコントロールができるということを意識することが必要であるとしています。そして「アガぺの愛」は、次のように、先のリーダーシップが求める10の特質と重なるとしています。
  忍 耐:自制すること
  優しさ:注意を払い、評価し、励ますこと
  謙 虚:信頼でき、虚偽や高慢さがないこと
  敬 意:他者を重要な人物として扱うこと
  無 私:他者の必要に応えること
  許 し:悪いことをされたときに怒りを捨てること
  正 直:欺かないこと
  献 身:選択を貫くこと
 以上のことは「奉仕と犠牲」を意味し、それは「自分の欲求や必要を脇にやり、他者のために最高の利益を求めること」であって、つまり、権威をもって導くためには、努力をして愛し、奉仕し、時には他人のために犠牲を払うことさえ求められるが、その際の愛が意味するものは、他者に対してどう感じるかではなくて、他者に対してどう行動するのかということであり、それは「メンバーの正当なニーズを見極め、それに応えることによって、人のために努力する」という行為を意味するとしています。

 5日目は、メンバーが成長できる環境について踏み込んでいきます。シメオンは、具体的にはどのように行動することが求められるかを「園芸」を比喩として用い、自分の影響が及ぶ範囲を「世話をする必要のある庭」だと考え、庭には注意と世話を欠かすことはでず、この庭には何が必要だろうか? 評価や認知や賛美などで養分を与える必要があるのではないか? 雑草を取り除く必要は? 害虫の駆除は? などと常に自問して自分の役割を果たして育んでいくのならば、きっと豊かな実を得られることができるとしています。ここで注意すべきは、実がなるまでの期間を事前に知ることは誰もできないということを知っておくことであり、そのためにリーダーシップには、未来を信じて努力を続けるという「献身」という行動を欠かすことはできないとしています。

 6日目は、どう行動するかどう行動するかを選ばなければなたないときのことについて触れています。奉仕のリーダーシップを採ることによって、権力に頼る人からの迫害を受ける可能性があり、なぜならば、彼らはたいてい権威に基づく人々によって地位を脅かされないか怯えて不快感を覚えているからであるが、しかし、自分がどのように扱われようと、愛と敬意をもって人と接することができない場所などほとんどないことも覚えておくべきであるとしています。なぜならば、私たちは誰でも、自分自身の行動においてのみ「周囲に影響を与えることができる」からだと。そう考えるならば、リーダーシップという務めと愛は、人格の問題であり、長い時間に耐えうる卓越したリーダーになりたければ、忍耐、優しさ、謙遜、無私、敬意、許し、正直、献身という、こうした人格の基礎を習慣として身につけ、成熟させなければならないとしています。

 最後の7日目は、リーダーは、はたしてこのような大変な努力をする価値が本当にあるのかを考察しています。この奉仕のリーダーシップがもたらす真の報酬とは何なのか。もちろん、人々に対する影響力を身につけることもあるが、それよりも「日々の使命/人生の使命」を明確にしてくれるということも報酬であるとしています。なぜならば、高齢者を対象にした「もう一度人生をやり直すとしたら、自分の行動をどう変えたいですか?」という調査結果の上位の回答の一つに「もっと後世に残すことをする」があるように、使命感を持ち他人に影響を与えることは私たちの大きな満足に繋がるからであると。加えて、外部の状況に基づかない、内面から湧き出る"歓び"という感情を得ることができることも、とても大きな報酬の一つであるとしています。歓びは、心の中の満足、自分が人生の深遠な不変の原理に本当に連携できたと確信できるからです。それは、私たちが自己中心的な利己主義を克服するのに役立つとしています。

 物語形式で「リーダーシップ」について理解が進められるように話が進んでいくのが本書の特長ですが、ここでいうリーダーシップとは、従来のリーダーシップとは異なる奉仕型のリーダーシップを指していて、主人公やセミナーの参加者たちも、初めはこの常識とは真逆のリーダーシップに戸惑いつつも、それぞれの経験を鑑みながら講義を進めていくにつれて、奉仕型のリーダーシップが持つ意味や、それがもたらす効果の大きさを理解するようになっていきます。突き詰めるならば、この奉仕型のリーダーシップとは、自らを「人間的に」成長させる素晴らしい"スキル"でもあり、それが日々を充実させる使命感や大きな歓びをもたらすことを、学ぶことができるかと思います。「奉仕型のリーダーシップ」は経営者や管理職のみならず、誰にでも必要な「技能/スキル」であることを認識させる本であり、リーダーを目指す人に広くお薦めします。

servant-leadership-.jpg

《読書MEMO》
●目次
プロローグ このわたしが修道院へ?
1日目 リーダーが見落としているもの
2日目 殻を破り、逆転の発想を
3日目 「奉仕」と「犠牲」とリーダーシップ
4日目 「行為」としての愛について
5日目 メンバーが成長できる環境とは
6日目 どう行動するかを選びとるとき
7日目 リーダーにたいする真の報酬
エピローグ あらたな旅路へ
●リーダーシップ・権力・権威(1日目)
「リーダーシップ」:共通の利益になるとみなされた目標に向かって熱心に働くよう、人々に影響を与える技能。
「権力」:たとえ相手がそうしたがらなくても、地位や力によって、自分の意思どおりのことを強制的にやらせる能力。
「権威」:個人の影響力によって、自分の意思どおりのことを誰かに進んでやらせる技能。
●権威あるリーダーの10の特質(1日目)
正直で信頼できる/いいお手本/愛情深い/献身的/話をよく聞く/人に責任を持たせる/敬意をもって人に接する/人を励ます/肯定的で熱心な態度/人の価値を認める
●古いパラダイムと新しいパラダイム(2日目)
「古いパラダイム」<ピラミッド型:上から下へ>
[上]CEO→副社長→中間管理職→監督者→従業員→(顧客)[下]
「新しいパラダイム」
[下](顧客)→従業員→監督者→中間管理職→副社長→CEO[下]
●<リーダーシップのモデル>(3日目)
[上]リーダーシップ→権威→奉仕と犠牲→愛→意志[下]
●「行為」としての愛について(4日目)
「選手や仲間をかならずしも好きになる必要はないが、リーダーとしては彼らを愛さなければならない。愛は忠義、愛はチームワーク、愛は個人の威厳を尊重する。これはどんな組織にとっても強みだ。」―ヴィンス・ロンバルディ(アメリカンフットボール・コーチ)(p103)
●どう行動するか選びとるとき(6日目)
「リーダーシップという務めと愛は、人格の問題です。忍耐、優しさ、謙遜、無私、敬意、許し、正直、献身。長い時間に耐えうる卓越したリーダーになりたければ、こうした人格の基礎を習慣として身につけ、成熟させなければなりません。」(p186)
●リーダーに対する真の報酬(7日目)
「権威によって導くこと、正当なニーズに応えて他者に奉仕することには大きな歓びがあるということです。そしてこの歓びが、地球という名の精神の基礎訓練キャンプを生きていくにあたって、わたしたちを支えてくれるのです。・・・人間としての真の目的は、心理的、そして霊的な成熟に向かって成長することです。愛し、奉仕し、他者のために努力するなかで、わたしたちは自己中心的な考えを捨て去っていきます。(中略)他者を愛することでみずからが成長するのです。」(p202)

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3370】 サイモン・シネック 『WHYから始めよ!
○経営思想家トップ50 ランクイン(リンダ・A・ヒル)

優れた上司であり続けるための3つの要素。説得力があり、啓発書として優れている。

Being Boss Linda A. Hill.jpgハーバード流ボス養成講座2.jpgハーバード流ボス養成講座.jpg  リンダ・A・ヒル.jpg Linda A. Hill
ハーバード流ボス養成講座―優れたリーダーの3要素
"Being the Boss, with a New Preface: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader"
Linda Hill: How to manage for collective creativity | TED
Linda Hil:How to manage for collective creativity  TED.jpg 本書は、ハーバード・ビジネススクールのリーダーシップ部門主任教授リンダ・A・ヒル(Linda A. Hill)と著述家ケント・ラインバック(Kent Lineback)の共著("Being Boss"(ボスになる)(2011))で、ウォールストリート・ジャーナル紙によって、「2011年に読むべきビジネス書5冊」に選ばれています。

 1章で、できるマネジャーの課題として、1.自分をマネジメントする、2.人脈をマネジメントする、3.チームをマネジメントする、の3つを挙げ、この3つの課題は、マネジャーとしての責任を果たそうとするうえでなすべきことのエッセンスをまとめたものであり、部下とそれ以外の人々の両方に自分の望む行動をとってもらうための、基本的なテコの役割を果たすとしています。パートⅠ以降では、この3つの課題を中心に話を進め、各課題に3~4の章を割り当てています。

 パートⅠ「自分をマネジメントする」では、他人、とりわけ部下との1対1の関係に照準を合わせています。2章では、長期にわたって効果的に影響力を発揮しようとするには、公式の権限だけに頼ったのでは限界があるとしています。3章では、友情に訴えかけて影響力を行使しようとする際には落とし穴があることを説いています。4章では、影響力の真のよりどころは信頼であるとしています。

 パートⅡ「人脈をマネジメントする」では、組織につきものの政治的駆け引きを念頭に置きながら、建設的な目的に沿って誠実に影響力を行使する術を説いています。5章では、助けを求めて一緒に働かなくてはならない相手との人脈を細心の注意を払って築き、維持していくことがたいへん重要であるとし、6章では、こうした人脈の築き方を詳しく述べています。7章では、上司との大切な関係について述べています。

 パートⅢ「チームをマネジメントする」では、部下たちとともに真のチームを作り上げるには何が必要かに焦点を当てています。8章では、水先案内人としてチームに目的意識を与えるには、文書になったプランとそうでないプランの両方を作る必要があるとしています。9章では、チームの文化と、適切な規範、理念、実り多いチームワークの条件について取り上げています。10章では、チームメンバー1人ひとりを管理しながらともに働く方法を説明しています。11章では、上司としての行動の核となる基本的な行動モデル〈準備→実行→反省〉を紹介し、それが懸案や想定外の出来事などあらゆる状況をマネジメント課題の追求に活かすのに、どう役立つのかを紹介しています。

 結びの12章では、3つの課題に照らして自分を眺め、強みは何か、旅の途上で更なる進歩が求められる分野は何かを見極める助けをし、日々の経験から学ぶためのアドバイスもしています。

 各章の冒頭に事例があって、それらが連続するストーリーのようになっていて課題の状況がイメージしやすくなっていますが、全体の構成がかっちりしているため、それが無かったとしても十分読みやすいのではないでしょうか。内容的にも「チームをマネジメントする」の前に、まず「自分をマネジメントする」ことから始まって、次に「人脈をマネジメントする」ことが来ていて、説得力がありました。啓発書として優れていると思います。

 本書で著者らが「3つの課題」と呼ぶもの―「自分をマネジメントする」「人脈をマネジメントする」「チームをマネジメントする」は、マネジャーの能力が最も未熟な分野であるというだけでなく、「人々に影響を及ぼす」という上司の最も根本的な役割を果たすうえでも役に立つものであり、3つの課題はマネジメントとリーダーシップの核心であり、できる上司になるうえで欠かせないすべての要素を含む、行動指向型のフレームワークであるとしています。

 また、優れた上司になるまでの過程を理解し、その行動様式を知るだけでは十分とは言えず、本当に重要なのは、リーダーシップの旅で、自分をどう成長させるかであって、成長は、自分の現在の実力をしっかり把握するところから始まるというスタンスに立っています。これを1度きりではなく継続的に行っていくためには、自分の能力や行動を常に見直し、正直な自己評価を行い、間違いを認めそこから学び、周りから率直な意見を求め吸収していくことが必要となるということです。

 自分は有能な上司の要件を満たしているだろうか。部下や、自分の管理下にはないが必要な人材を、最大限に活用できているだろうか。会社や顧客からの高まり続ける期待に、十分に応えているだろうか―そうしたことを自問してみるによい本であり、優れたマネジャー、リーダーを目指す全ての人にとって役立つ本であると思いますが、とりわけ、新任マネジャーや中間管理職がどのようにマネジメントを実践すれば良いかが書かれていたように思いました。でも、中間管理職に限らず、優れたリーダーを目指す人に広くお薦めできる本です。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1217】 山田 咲道 『ダメ上司論

いかにして部下の潜在能力を最大限まで引き出し、強力な組織をつくるかを説く優れた啓発書。

響き合うリーダーシップ  .jpg 響き合うリーダーシップ.jpg Max De Pree.jpg ハーマンミラー.jpg
"Leadership Is an Art"(2004)『響き合うリーダーシップ』 Max De Pree(1924-2017/享年97)
リーダーシップの真髄―リーダーにとって最も大切なこと
リーダーシップの真髄―リーダーにとって最も大切なこと.jpg響き合うリーダーシップ6.JPGハーマンミラー  .jpg 本書は、数多くの世界的デザイナーを率いて、ハーマンミラー社を「もっとも働きがいのある企業」「もっとも称賛される企業」と呼ばれる世界的家具メーカー(自分が今使用しているアーロンチェアを作った会社でもあるのだが)に育て上げた伝説のCEOマックス・デプリー(Max De Pree、2017年没)が説くリーダーシップ論です。初版は1987年で(原題:Leadership Is an Art、1989年版の邦訳『リーダーシップの真髄』('99年/経済界))、本書は2004年改訂新版の訳本。裏表紙に、その間に寄せられたドッラカーやビル・クリントンなどによるこの本への賛辞が載っている)。

Max De Pree2.jpg 先ず「はじめに」で、「リーダーシップは『アート』だ。時間をかけて身につけるものであり、たんに本を読んで学ぶものではない。リーダーシップは科学というより伝承であり、情報の蓄積というより関係の構築なので、その意味では、私はそのすべてを明らかにする方法を知らない」としています。

Max De Pree

 1章「ある親方の死」では、「工場の操業全体を担うキーパーソン」である親方が亡くなり、弔問に自宅を訪ねたところ、実はその親方は美しい詩をつくる詩人であることが分かったというエピソードを引いて、リーダーは一人ひとりの才能、力量、スキルの多様性、つまり人間の個性、多様性といったものを認めなくてはいけないとし、リーダーに多様性への理解と受容があれば、社員一人ひとりが、自分は大切にされていると感じることができ、その結果、社員は、① 職場で機会や平等やアイデンティティを求められていることがわかる、② 仕事に意味、充実感、目的を見出すことができる、③ 目標と報酬が根本的に異なることを理解するのに役立つ、というようになるとしています。
 
 2章「リーダーシップの『アート』とは?」では、「リーダーは、まず最初に現実を明らかにしなければならない。そして最後にありがとうと言わなければならない。その間、リーダーは部下に奉仕し、部下に借りをつくる。すぐれたリーダーはこうして成長する」とし、次に、リーダーシップのアートを身につけるには、リーダーを「世話役」として考えるべきであるとし、具体的には、「資産と遺産」を残し、組織に「推進力」を与え、「効果」に責任を持ち、「礼節と価値観」を育まなければならないとしています。

 「資産」は財務の観点からのそれだけでなく、従業員(人)、組織の価値観(価値体系)、未来のリーダー(の育成)、質に対する意識、心の関係、リーダーの成熟した人間性、筋道を通す姿勢、ビジネス・リテラシー、才能を生かせる「場」の提供なども入ってくるとし、「変化への対処法」を確立するために「リーダーは反対意見を奨励する」が、それは「重要な活力源」となり、このことが「組織の基礎を固め、組織の存続を意識し、組織文化を築く」ことにつながるとしています。

 次に、「リーダーは組織内に『心の関係』をつくらなければならない。組織は結局、人の集まりだ。思いやりがあり、目的を持ち、熱意のある人が組織のなかでどうなりうるか。リーダーは彼らを正しく評価する新しい基準を示さなければならない」とし、また、「リーダーは筋道を通さなければならない。それによって企画や人間関係に理由や共通の理解が生まれる。筋道を通せば、秩序ができる。秩序のあるところでしか、人々のすぐれた面や熱意や能力は引き出せない。秩序だった環境では、信頼と人の尊厳が重んじられ、組織の目標を達成しようとする人々に自己啓発と自己実現の機会が与えられる」としています。

 「推進力」については、推進力の元になるのは、明確なビジョン、周到な戦略、そして「慎重に考えられ、従業員に伝えられた」方針や計画の3つであり、ビジョン→戦略→方針・計画という流れで実施すべきであるとしています。また、すぐれた才能を持つ人々が、適切で柔軟な研究開発プログラムを進めるかどうかで、推進力はちがってくるとしています。更に「効果」については、「リーダーは『効率性』は人にまかせてもいいが、『効果』にはみずから取り組まなければならない」としています。

 3章「参加型マネジメントで組織を変える」では、マネジメントで最も効果的なのは「参加型マネジメント」であり、それは人々の潜在能力を信じるところから始まり、理想的な関係を生み出すアプローチとして、①人を救う、②方針や業務より、自分たちの信念を優先させる、③仕事上の権利を認める、④「契約関係」と「心の関係」の役割と両者の関係を理解する、⑤「関係」は「構造」より重要であることを理解する、の5つを挙げています。

 4章「『愛着』について」では、「人の能力(コンピテンス)の中心には、愛着(インティマシ―)がある。愛着によって理解や信念が生まれ、仕事が充実したものになる。愛着は、あなたと仕事の関係を築く」としています。

 5章「投手と捕手」では、仕事とは何かという問題は、投手と捕手の関係に照らして考えるとわかりよいとし、仕事の意味、仕事上の役割から「すぐれた投手にはすぐれた捕手が必要」であるとして、その際に、双方に不可欠な、「組織にとって必要とみなされる権利」などの8つの権利を掲げています。

 6章から8章をそれぞれ要約すると、6章「遊軍リーダーを活かせ」では、そのときそのときの力を発揮できる人を活用することを説き、7章「資本主義の未来のために」では、参加型について考察をめぐらし、資本主義は排他的仕組みの中では生き残れないだろうとし、だからこそ参加型のアプローチが必要であるとし、8章「これが『偉人』だ」では、著者の父親を含め、先人らの示した様々なリーダーシップ例を挙げています。

響き合うリーダーシップ ハーマンミラー.jpg この内、6章「遊軍リーダーを活かせ」では、「遊軍リーダーとは、日常生活のなかで必要とされるときにその場にいる、欠くことのできない人々のことだ。彼らは日々多くの組織で、程度こそさまざまだが、主導権を握っている」とし、リーダーには、ヒエラルキー上のリーダーと遊軍リーダーの2種類があるが、「特別な状況においては、ヒエラルキー上のリーダーが遊軍リーダーを認め、サポートし、その指示にしたがわなければならない。また、潔く遊軍リーダーに主導権を譲らなければならない」としています。「遊軍リーダーシップは『問題』に焦点を当てた考え方だ。遊軍リーダーシップが発揮されるということは、ヒエラルキー上のリーダーに、問題を共有する能力(言い換えれば、他人にある状況をゆだねることができる能力)があるということにほかならない」としています。そして、遊軍リーダーシップが発揮されるには、「深い信頼と、自分たちは依存しあっているという自覚」と「規律」の2つが求められ、重要なのはある目標を達成するかどうかではなく、「個人としても集団としても、潜在能力をフルに発揮する」ことであり、「健全な心、開かれた態度、高い能力、経験に対する信頼―これらが仕事に活力を与え、人生に意味をもたらし、遊軍リーダーシップを可能にする。そして遊軍リーダーシップは、私たちが自由かつ率直な態度で協力し合うとき、潜在能力をフルに発揮するための手段となる」としています。

 9章「『語り部』の役割」には、著者がCEO、会長をつとめた会社、ハーマンミラー社の価値観が、研究主導型からスキャンロン・プランまで9つ紹介されています。本書におけるスキャンロン・プランとは、「参加型マネジメントを実現する、生産性向上を考慮した成果配分方式で、アメリカではかなりの数の企業で実施されている(中略)。スキャンロン・プランによって、従業員は創造性と創造プロセスを重視しながら、多様な才能を発揮することができる。この方式を原動力としてアイデアを生み、問題を解決し、変化と争いに対処することができる」としています。「ハーマンミラーのような集団には、個人としての多様性と、企業としての多様性がある。企業としての多様性とは、各個人が集団に役立てるために持ち寄る才能、能力、熱意のことだ。その多様性を正しい方向に導き、うまくまとめれば、集団の最大の強みとなる(中略)。多様性をまとめるプロセスとは、思いきって他人の強みに頼ることである。何かについて自分よりすぐれた人がいれば、その人に対して自分の弱みを認めればいい」としています。
スキャンロン・プラン
スキャンロン・プラン.jpg
ラッカー・プラン
ラッカー・プラン.jpg

10章「オーナーと従業員の理想の関係」では、オーナーシップの考え方を示し、オーナーとは有形資産だけでなく、企業の後継者への遺産に対しても責任を負うとし、ハーマンミラー社では、「オーナー」と「従業員」と「後継者」は同じものをさすことが多いとしています。

 以下、各論に入り、11章「リーダー必須のコミュニケーション術」では、「活力のある組織には、たいてい連帯感がある。相互依存、相互利益、互いへの貢献、そしてシンプルな喜びからなる連帯感だ。これが保たれ、強まるように配慮するのも、リーダーシップの『アート』のひとつだ」が、「とはいえ、連帯感を保ち強めるには「すぐれたコミュニケーションがぜったいに欠かせない」として、意味合い、効果、機能、運用ポイント、義務の5つの視点から、そのノウハウが示されています。「組織の連帯感や価値観の基本を伝えるいちばんの方法は、態度によるコミュニケーションだ」とし、「すぐれたコミュニケーションとは、相手の一人ひとりに敬意を払うことにほかならない」「すぐれたコミュニケーションは、人々が教え、学ぶための必須条件だ。成長する会社に生じるギャップを埋める方法であり、人々が連絡をとり合い、信頼を築き、助けを求め、業績を監視し、ビジョンを共有できる方法だ」「すなわち、すぐれたコミュニケーションの効果とは、相互連絡、信頼構築、サポート要請、業績モニター、ビジョン共有の5つの面で役立つことであるといえよう。 コミュニケーションの機能はふたつあり、教育機能と『解き放つ』機能である」としています。

 12章「『ピンクの氷』は危険の兆し」では企業の衰退の兆候が挙げられており、「危険の兆し」として、お祝いや儀式の時間がなくなる、従業員が、貢献、精神、美徳、美、喜びなどを大切にする価値観ではなく、ビジネス・スクールで学んだドライな基準にしたがおうとする、過去と将来に対する考えを数字で示したくなる、指標を設けたくなる、リーダーが、人でなく組織構造に頼る、などが挙げられています。

 13章「勤務評定のポイント」14章「会社の施設のあり方」15章「後継者の選び方」の各章とも、各テーマに沿って著者の、リーダーシップの観点に立った有意義なノウハウとポリシー、信条が示されています。

 16章「あなたは泣いていますか?」では、「上っ面だけの態度」をはじめ、私たちにとって「涙を流すべき」こと(会社にとっても)が18項目挙げられていて、この中には、「顧客を邪魔者と見なすこと」「態度を見ず、結果だけを見るリーダー」「決して『ありがとう』と言わないリーダー」「のびのびとベストを尽くせない仕事を押しつけられること」などといった項目もあります。

 17章「品格のしるし」では、「品格のある会社は社員に自由を与え、自己実現をさせる。同様に、品格のあるリーダーは部下に自由を与える」とし、「品格のあるリーダーはつねに完全を求める」ともして、「品格のしるし」として、「契約はさまざまな関係のなかのごく一部である。完全な関係には『心』が必要だ」「知性と教育は『事実』を教えてくれる。知恵は『事実』を教えてくれる。企業生活にはどちらも必要だ」「時間をさいているからといって、かならずしも関与していることにはならない」など8項目が示されています。

 200ページ足らずの本であり、たいへん分かり易い言葉で書かれていますが、非常に奥深い本でもあります。リーダーシップの本であるとともに、マネジメントの本でもあり、また、自らの実践に基づいて書かれた優れた啓発書であり、いかにして部下の潜在能力を最大限まで引き出し、強力な組織をつくるかを考えるうえで多くの示唆が含まれていると思われ、お薦めです。

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

《読書MEMO》
●章立て
はじめに
1章 ある親方の死
2章 リーダーシップの「アート」とは?
3章 参加型マネジメントで組織を変える
4章 「愛着」について
5章 投手と捕手
6章 遊軍リーダーを活かせ
7章 資本主義の未来のために
8章 これが「偉人」だ
9章 「語り部」の役割
10章 オーナーと従業員の理想の関係
11章 リーダー必須のコミュニケーション術
12章 「ピンクの氷」は危険の兆し
13章 勤務評定のポイント
14章 会社の施設のあり方
15章 後継者の選び方
16章 あなたは泣いていますか?
17章 品格のしるし
あとがき

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3448】 サミュエル・スマイルズ 『自助論
「●マネジメント」の インデックッスへ(『企業変革の名著を読む』) 「●主要ブックガイド」の インデックッスへ (『企業変革の名著を読む』)「●本・読書」の インデックッスへ(『企業変革の名著を読む』)「●日経文庫」の インデックッスへ

従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチ。リーダー個人の動機や視点に注目。

静かなリーダーシップ.jpg静かなリーダーシップ5.JPG 企業変革の名著を読む.jpg
静かなリーダーシップ (Harvard Business School Press)』['02年]『企業変革の名著を読む (日経文庫)』['16年]

 本書(原題:Leading Quietly: An Unorthodox Guide to Doing the Right Thing,2002)では、特殊な能力を持つリーダーが組織の目的を達成するために力を発揮する従来の「ヒーロー型リーダーシップ」に対して、日常生活やビジネスの意思決定を正しく行い、地道な努力と絶妙な妥協によって目的を達成する能力を「静かなリーダーシップ」とし、目を引くヒーロー型リーダーよりも、静かなリーダーが社会で果たす役割の方が大きいと主張しています。そのうえで、第1章から第8章にかけて、静かなリーダーの8つの特徴的な考え方や行動特性について述べています。

 第1章では、静かなリーダーは「現実を直視する」としています。静かなリーダーは、現実的であるとともに自分の理解を過大評価せず、計画を立てるが予想外の事態にも備え、組織内のインサイダー(事情通)に目を光らせ、人を信頼しすぎないことがないのと同じく、人を信頼しすぎることもなく、信頼してもどこかで切り札を残しておくとしています。

 第2章では、静かなリーダーの「行動はさまざまな動機に基づく」としています。複雑でさまざまな動機が静かなリーダーの成功のカギとなり、また、リーダーであり続けるためには、自分の地位を守って交渉の場にとどまり続けなければならず、そのため健全な利己主義の感覚が必要であるとしています。

 第3章では、静かなリーダーは「時間を稼ぐ」としています。静かなリーダーは、難問に直面しても、問題に突進するのではなく、何とかして時間を稼ぐ方法を考えるとのことです。なぜならば、常に変化する予想不可能な世界では、流動的で多面的な問題に対して、即座に対策を考えるのは無理であるからだとしています。

 第4章では、静かなリーダーは「賢く影響力を活用する」としています。ここでいう影響力とは、主に人の評判と仕事上の人間関係で構成され、静かなリーダーは現実主義者であるため、自分の影響力を危険さらす前に、リスクと報酬(見返り)を考えるとしています。

 第5章では、静かなリーダーは「具体的に考える」としています。つまり、複雑な問題に直面した場合、忍耐強さと粘り強さをもって、自分が何を知っているのか、何を学ぶ必要があるのか、だれからの支援が必要なのかを理解しようとするとしています。

 第6章では、静かなリーダーは「規則を曲げる」としています。静かなリーダーは、規則について真剣に考え、創造性と想像力を駆使して規則を曲げながら、規則の目的を果たす方法を探すとしています。規則をないがしろにするのではなく、規則の解釈の余地を探すということです。

 第7章では、静かなリーダーは「少しずつ徐々に行動範囲を広げる」としています。今後の展開が不明な状況下で、リーダーシップが成功するかどうかは、事態を把握できるかどうかにかかっていて、そのためには、些細なステップを適切に実行する必要があり、静かなリーダーは探りを入れながら、物事の流れ、避けるべき危険、活用できるチャンスを徐々に理解するとしています。

 第8章では、静かなリーダーは「妥協策を考える」としています。静かなリーダーにとって妥協をを考えるということは、実践的な知識を習得して実行に移すことであり、多くの場合、妥協を考えることが、目的を達成する最善の方法であるとしています。

 第9章では、これまでの振り返りとして、静かなリーダーには「三つの静かな特徴」があり、それは、自制、謙遜、粘り強さであって、ほぼだれでも静かなリーダーシップ特徴を実践できるとして、これまで述べてきたことを振り返りつつ、この三つの特徴について解説しています。

 第1章から第8章にかけて各章ごとに、「静かなリーダー」のケーススタディとなる人物が1人または2人登場し、読みやすいものとなっています。一方で、あまり体系的に本書を理解しようとすると、却って読みずらいかも。著者自身、本書の"付録"で、「本書はエッセイである。理論構築、仮設の検証、結論の証明を行っているのではない」とし、「本書はガイドラインの形で、実践的なアドバイスも提供している」としています。

 従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチで、リーダーシップ論に新たな視点を与えているとともに、リーダー個人の動機や視点に注目し、そこからリーダーシップ論を展開しているという点でもユニークです。従来の「ヒーロー型リーダーシップ」が組織目標の達成というトップダウンの組織に動かし方であるのに対して、静かなリーダーシップはボトムアップ型の個人の目的達成を中心とした組織の動かし方であり、解説の渡邊有貴氏も書いているように、個人を視点としたリーダーシップ指向は強まると思われます。内部昇進でミドルがトップになっていく日本には理解しやすい内容であると思います。ミドルマネジメントにお薦めですが、もちろん人事パーソンが読んでも良いと思います。

 因みに本書は、『企業変革の名著を読む』('16年/日経文庫)において紹介されていて、こちらはコンサルタントやビジネススクールの人気教員たちが企業や組織の変革をテーマにした本をそれぞれ選んで解説したものですが(オリジナルは日経電子版の「日経Bizアカデミー」及び「NIKKEI STYLE出世ナビ」に2011年から連載の「経営書を読む」のうち2014年から2016年にかけて掲載のもの)、その11人12選のラインアップのうちの1冊となっています。いずれの紹介者たちも、本の内容を紹介するにあたって、コンサルなどで経験した本の内容に呼応するような事例を複数、ケーススタディとして交えながら解説するスタイルになっていて、『静かなるリーダーシップ』の紹介者はPwCコンサルティングの森下幸典氏ですが、分かりやすい解説でした(事例に関しては、元本の『静かなるリーダーシップ』自体が事例構成になっているので、元本を読んだ方が早い?)。

 『静かなるリーダーシップ』というタイトルでもあり、個人的にはリーダーシップの本として手にしましたが、ミドルマネジメント向けに書かれていて、個人の動機などに着眼していることが特徴として挙げられながらも、最終的には組織変革が目的となっているため、「企業変革」をテーマにした本と言えなくもないです。『企業変革の名著を読む』は、日経文庫の「名著を読む」シリーズの1冊でもありますが、テーマが「企業変革」とあるのにあまり「企業変革」らしくない内容の本も納められていて、そうした中で本書は、比較的オーソドックスな選本ということになるのかもしれません。

《読書MEMO》
● 『企業変革の名著を読む』で取り上げている本
企業変革の名著を読む9_1.jpg1 ジョン・P・コッター『企業変革力』
2 ロバート・バーゲルマン『インテルの戦略』
3 ピーター・センゲほか『出現する未来』
4 サリム・イスマイルほか『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法』
5 松下幸之助述『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』
静かなリーダーシップ.jpg6 ジョセフ・L・バダラッコ『静かなリーダーシップ』
7 C・K・プラハラード『ネクスト・マーケット』
8 シーナ・アイエンガー『選択の科学』
9 ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』
倫理の死角2.jpg10 マックス・ベイザーマンほか『倫理の死角
11 若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』
12 アレックス・ファーガソン『アレックス・ファーガソン自伝』

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1174】 松本 順市 『上司はなぜ部下が辞めるまで気づかないのか?

リーダーシップの発揮は危険だが、やるだけの価値はあるとして、そのプロセスを説く。

最前線のリーダーシップ  .jpg 最前線のリーダーシップ図1.png   最前線のリーダーシップ sin.jpg ロナルド・A・ハイフェッツ.jpg
最前線のリーダーシップ』['07年]『[新訳]最前線のリーダーシップ―何が生死を分けるのか』['18年]ロナルド・A・ハイフェッツ in NHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(全6回)(2016)
ハーバードリーダーシップ白熱教室2.jpgハーバードリーダーシップ白熱教室.jpg 本書は、ハーバード・ケネディスクールの教授らによるものであり(著者の一人ロナルド・ハイフェッツ教授は「NHK白熱教室〕シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)で知られている)、原著("Leadership on the Line: Staying Alive Through the Dangers of Leading")刊行は2002年です(2017年に改版された)。人はいかにしてリーダーシップ行動を起こすことができるか、また、リーダーシップ行動に伴う危機をどう乗り越えるのか、その方法や技術について説いた本ですが、本書では、そもそも、リーダーシップを発揮するということは、危険な生き方をするということであるというところから始まります。つまり、真のリーダーは、未解決の問題を表面化させ、長きにわたる慣習に挑戦し、人々に新しいやり方を要求せねばならず、脅威にさらされた人々は、変化を要求する人間に狙いを定め、その結果リーダーは、個人的にも職業的にも傷つくことになるのだと。しかし、周囲の人々の生活をよりよくし、人々にとって価値のある「将来の可能性」を提供できるがゆえに、リーダーシップはリスクに見合う価値があるというのが著者らの考えです。

ロナルド・ハイフェッツ3.jpg 第1部「リーダーシップには危険がいっぱい」では、なぜリーダーシップがそれほど危険なのか、どのようにしてリーダーシップを発揮した人々が表舞台から排除されるかについて取り上げています。
 第1章「危険の本質とは」では、リーダーシップを発揮することの危険は、リーダーシップを必要とする問題の本質に由来し、適応を必要とする問題に取り組むことは、人々の習慣、考え方、価値基準の変化を迫ることになるため、抵抗を招くのだとしています。
 第2章「迫りくる4つのリスク」では、組織や社会が示す抵抗の4つの形として、リーダーシップには「脇に追いやられる」「注意をそらされる」「個人攻撃される」「誘惑される」という4つのリスクがあるとしています。

ロナルド・ハイフェッツ5.jpg 第2部「リーダーシップを発揮しながら生き延びる5つの方法」では、排除されるリスクを減らすためにどのような行動をとるべきかについて取り上げています。
 第3章「全体像をつかむ―方法1」では、「ダンスフロアから1歩出てバルコニー席に上がる」という表現を用いて、まず起きていることの全体像を知るべきであるとし、①技術的な問題か、適応が必要な問題かをみきわめる、②人々の立ち位置を知る、③言葉の奥に潜む歌に耳を傾ける、④権威者の行動を読む、の4つを説いています。
 第4章「政治的に考える―方法2」では、政治的に考えることの重要性を説き、そのうえでの6つの基本的な視点として、①パートナーを見つける、②反対派を遠ざけない、③自分が問題の一部であったことを認める、④喪失を認識する、⑤自らモデルになる、⑥犠牲を受け入れる、を挙げています。
 第5章「衝突を指揮する―方法3」では、破壊的側面を最小化し、建設的なエネルギーを確保するための方法として、①適応を促す環境を確保する、②熱気を調整する、③ペースをつくる、④将来像を見せる、の4つを挙げています。
 第6章「当事者に作業を投げ返す―方法4」では、作業を自分の方から下ろしてあるべき場所に戻すべきあるとする一方、リーダーシップを発揮する際には必ず介入が必要になるが、その介入には、①観察する、②問いを投げかける、③見解を示す、④行動に移す、の4種類があるとして、介入し、結果を評価し、介入を修正し、再評価し、再び介入するという、リーダーシップの継続的な行動において、自分の行動がどう受け取られたか、それに対する反応に常に耳を傾ける必要があるとしています。
 第7章「攻撃を受けても踏みとどまる―方法5」では、攻撃を受けても踏みとどまるには、①ほかのどのような懸念事項が問題にかかわる人を忙しくしてしまっているか、②その問題を取り上げることで、どのくらい深く人々が影響を受けるか、③人々は取り上げられる問題をどの程度深く学ぶ必要があるか、④権威ある立場の人は、その問題についてどのような意見を持っているか、の4つの問いかけをせよとしています。

ロナルド・ハイフェッツ4.jpg 第3部「リーダーシップの原点、心を見つめる」では、人々がどのようにして自ら墓穴を掘るような行動をとってしまうのかについて論じ、これらの状況を見きわめて行動に移る方法に加え、リーダーシップに課されるストレスに持ちこたえるための個人的な挑戦について、考え方と実践の両面から対処法を提示しています。
 第8章「渇望をコントロールする」では、渇望(欲望)に屈しないためにためにはどうすればよいか、渇望を抑制するにはどうすればよいかを説いています。
 第9章「自分自身をつなぎ止める」では、役割と自己を区別し、自由と強さを得るための方法として、相談役を協力者と区別して確保すること、肉体的にも精神的にも安心できる聖域を探すことなどを説いています。
 第10章「原動力を把握する」では、リーダーシップを発揮することは、人々の人生に貢献することによって、自分の人生に意味を与える方法の1つであり、最も良いのは、リーダーシップが愛情を原動力とした行動であるときであるとしています。
 第11章「神聖な心を保つ」では、自己防衛的な姿勢は、無邪気さを皮肉に、好奇心を傲慢に、哀れみを冷淡に変えてしまうが、神聖な心とは、人間のあらゆる活動に対して包容力を持ち続けることであり、無邪気さ、好奇心、哀れみは開かれた心の美徳なのであるとしています。

 リーダーシップを発揮する際のプロセス全体を俯瞰するとともに、反対派のさまざまな行動に対して戦略的に対処して、人々が課題と向き合って自らを変えていくための環境をつくりこんでいくという、リーダーシップの本質的な作業を的確に捉えた本であると言えます。啓発的であると同時に実践的であり、本書に示されているリーダーシップのプロセスを押さえておくことは、我々が実際にリーダーシップを発揮する際に役に立つものと思われ、本書の姉妹書とも言えるハイフェッツ教授らの新著『最難関のリーダーシップ―変革をやり遂げる意志とスキル』('17年/英治出版)と併せお薦めできる本です。

《読書MEMO》
●英治出版 公式Twitterより(2018年10月5日)
紀伊國屋書店 梅田本店さんでは、最新刊『[新訳]最前線のリーダーシップ』を新刊話題書棚やリーダーシップ棚など多面で展開くださっています!!
時代を超えて絶大な支持を集めるリーダーシップ論の金字塔!
最前線のリーダーシップ  kinokuniya.jpg

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【131】 J・F・マンゾーニ/他 『よい上司ほど部下をダメにする
○経営思想家トップ50 ランクイン(ビル・ジョージ)

企業の持続的成長に求められる本物のリーダーシップについての実証的考察。

ミッション・リーダーシップ図1.png82011793.jpg  ビル・ジョージ.jpg Bill George
ミッション・リーダーシップ―企業の持続的成長を図る』(2004/08 生産性出版)

 先端医療テクノロジー企業メドトロニック社のCEO及び会長を務め、何度もベスト経営者賞を受賞した著者による本書(原題:Authentic Leadership: Rediscovering the Secrets to Creating Lasting Value)は、自分流のリーダー像を各自がどう模索すべきかを実証的に説いた啓蒙書であり、著者は経営者時代にいち早くCSRを重視し、利益追求のみならず、企業組織が暴走せずに倫理を順守できる体制づくりに奔走するなど企業が持続的に成長するための組織づくりを啓発してきた人物です。

 序章では、エンロンやワールドコムなどの企業不祥事や、M&Aを中心とした安易な企業買収、事業売却やリストラなどの背景にある最近のリーダーシップの危機がいかに発生してきたかについての見解を述べ、この危機の解決には新しい法律ではなく、新しいリーダーシップが要請されているという考えを示しています。

 第Ⅰ部は、本物のリーダーの特性を記述し、変革を求める経験を通じていかにリーダーが自己を成長させるかを示し、加えて彼らが仕事と私生活をバランスさせていかに本物の人生を送っているかを明らかにしています。

 第1章では、リーダーシップはスタイルではなく、本物を目指すことから生まれるとし、第2章では、リーダーに成長するには自己をどう高めるかを説き、第3章では、バランスの取れた生活がすぐれたリーダーを生むとしている。

 第Ⅱ部では、これらの経営リーダーがいかに本物の企業を築くのかを検討しています。ここでは、ミッション重視の企業は、財務的利益を追求する企業に比べて、長期的に見てより大きな株主価値を創造するという考え方を述べています。また、なぜ、価値重視の企業が卓越した業績を上げる企業になり得るのか、さらに自社の人材をエンパワーすることに努める企業がなぜすぐれた顧客サービスを提供する企業になるのかについても解明しています。加えて第Ⅱ部では、偉大な組織を築くのは、カリスマ性の高いCEOではなく、偉大な経営チームやそのほかのチームであることを実証しています。第Ⅱ部の最後の章でも、本物の企業がいかにすべてのステークスホルダーに卓越した成果をもたらすかについて言及しています。

1ミッションリーダーシップ ビルジョージ.jpg 第4章では、ミッションは人材をモチベートするが、お金はモチベーとしないとし、第5章では、価値観はうそをつかないとしている。第6章では、カスタマーが最も重要であるとし、第7章では、すぐれたチームが企業を生むのであってCEOだけの貢献ではないとし、第8章では、本物の企業がいかにステークスホルダーに成果をもたらすかを説いている。

 第Ⅲ部では、本物の企業がいかに市場で競争力を発揮するのかを検証しています。まず成功を収めてきた企業が成長を止める7つの落とし穴を検討しています。それに続く各章では、各企業がそのミッションを実現するために何をなすべきかを探り、さらに企業がぶつかる倫理上のジレンマ(葛藤)とその解決法を明らかにし、加えて数多くのブレークスルーに値する革新を生むプロセスを検証しています、第Ⅲ部の結論を述べる数章では、企業買収や合併はお金のためではなく、組織を築くために行われるべきことを提案し、さらにさまざまなステークスホルダーの各グループから出されるさまざまなニーズに応えるチャレンジを紹介しています。

 第9章では、成長に伴う7つの落とし穴を挙げ、第10章では、さまざまな障害を乗り越えるにはどうすればよいか、第11章では、倫理上のジレンマをどう克服するか、第12章では、心のこもったイノベーションとは何かを述べている。続く第13章では、企業買収はお金のためだけのものではないとし、第14章では、株主は、カスタマー、社員に次ぐ第三順位であるとしている。

 第Ⅳ部では、「利益」を超えて存在する諸問題を取り上げています。つまりガバナンスとマネジメントとの間に見いだせる大きな差異を解明しています。また、経営リーダーはいかなるときに自らの課題を公けの場に持ち出すべきかを検討し、さらに経営者をいかに育て、新しい挑戦に挑み続けるかを検討しています。

 第15章では、企業ガバナンスにための制度を作ることを、第16章では、自社の立場を明確に主張することの重要性を説き、第17章では、後継者を準備し、さらに前進することを説いている。

 序章でも述べられているように、現在、CSRやコンプライアンスが注目されたきっかけはエンロンやワールドコムなどの企業不祥事であり、M&Aを中心とした安易な企業買収やリストラによる一時的な利益の増加を通した株主価値市場主義に基づく短期的利益志向そのものでした。本書は、そうしたことが日常化していた企業の状況に一石を投じ、企業のミッションを追求することが事業の成長やイノベーションを生むとし、そのことをメドトロニック社において実証的に示したものあり、企業においてミッションやビジョンとは単なるお題目ではなく、まず最初に考えるべきものであるとしています。

 成長への7つの大罪を避けるための、成長の維持に貢献する「規律を守るリーダーシップ」を示した著者は、たとえ成長が鈍ったときも、リーダーはコスト削減に走る誘惑に勝ちながら成長への意欲を新たにし、そのためのあらゆる手を考えるべきであるとしています。本書で提案されるさまざまなアイデアは、新しいリーダーたちが本物のリーダーシップを発揮し、本物の企業を築くことに意欲を燃やす面で大いに貢献するものと思われます。

【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)


《読書MEMO》
●7つの大罪―成長に伴う落とし穴
1.明確なミッションを持たずに進む
2.コア・コンピタンスを過少評価する
3.単一の製品ラインに頼り過ぎる
4.技術とマーケットの変化を見落とす
5.企業文化を変えずに戦略を変える
6.自社のコア・コンピテンシーから逸脱する
7.成長のために企業買収に依存する

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2769】 ビル・ジョージ 『ミッション・リーダーシップ
○経営思想家トップ50 ランクイン(ロジャー・マーティン)

組織に蔓延する「無責任ウイルス」への4つの対処ツールを示す。実践的・啓発的な本。

頑張りすぎる人が会社をダメにする .jpg頑張りすぎる人が会社をダメにする 2.jpg ロジャー・マーティン.jpg ロジャー・マーティン  .jpg
「頑張りすぎる人」が会社をダメにする―部下を無責任にしてしまう上司の法則』(2003/12 日本経済新聞社)ロジャー・マーティン(Roger L. Martin)カナダ・トロント大学ロットマン・スクール・オブ・マネジメント学長
「頑張りすぎる人」が会社をダメにする0.JPG 原題は"Responsibility Virus(無責任ウイルス)"。責任感の強いリーダーが必死で働けば働くほど、同僚や部下がやる気を失い、職場の人間関係が壊れ、組織全体の業績が悪化していくのはなぜかという疑問を、この「無責任ウイルス」という比喩を用いて分析したものであり、職場に「無責任ウイルス」がどのように蔓延していくかを実例を用いて解き明かすとともに、その予防と治療のためのマネジメント・ツールを示しています。

 第1部「無責任ウイルスとは何か」では、雑誌の業績を好転させる名人で華々しいキャリアを持つリーダーの、部下の責任を引き受けていった末の業績悪化と失脚、IDA(国際開発機関)に勤めるエリートの、開発途上国担当者に対する熱心なアプローチが生む相互不信と挫折など3つの事例を紹介し、これらを通して、頑張り過ぎた上司の下に頑張らない部下が生まれるのは、上司の「失敗への恐れ」が部下への「支配価値」を生むためであり、また上司・部下トータルの責任量は変わらないとする「責任量保存の法則」を提示しています。

 第2部「無責任ウイルスの症状」でも、自信と能力にあふれた弁護士の、事務所の浮沈を背負い込むあまりの組織不和と変革の失敗などの強い責任感で周囲を引っ張るリーダーとその組織が、それゆえに挫折し、衰退していった例など3つの事例を紹介し、これらを通して、①協働の死滅、②不信と誤解の発生、③選択決定スキルの低下という、「無責任ウイルスの症状」を示しています。

 第3部「無責任ウイルスへの4つの処方箋」では、「無責任ウイルスの症状」に陥りながらもそれを克服した、著者自身の経験も含めた4つの事例を紹介し、それらを通して、①意思決定プロセス、②枠組み実験、③責任のハシゴ、④リーダーシップとフォロワーシップの再定義という4つのマネジメント・ツールを示しています。第一のツールである「意思決定プロセス」とは、グループのメンバーが、ヒーロー型リーダーシップや言いなりのフォロワーシップに反射的に飛びこむのではなく、生産的な協議を促すためのものであり、グループの力を上手に利用して、より生き生きした強固な決定を下して実行し、一人では到達できない成果をあげるためのものであるとのことです。第二のツールである「枠組み実験」とは、責任過剰や無責任にはまり込んで不信感や誤解を抱いているものが、問題になっている相手との関係や協働能力の改善を助けるためのものであるとしています。第三のツールである「責任のハシゴ」とは、部下が上司とともに責任をとる能力を構築し、上司が責任過剰になるのを防ぐ能力開発型のツールであるとのことです。第四のツールである「リーダーシップとフォロワーシップの再定義」は、リーダーとフォロワーが責任過剰/責任過少という極端な状態に陥るのを防ぐツールであるとしています。

 第4部「無責任ウイルスをやっつけろ」では、ここでも事例を紹介しつつ、過少責任からいかにして脱出するか、責任過剰からいかにして脱出するかを説くとともに、プロフェッショナルが抱える「何でも仕切りたがる」という危険に陥らないために先に挙げた4つのツールをどう使うか、また、CEOと役員会の関係においてCEOが同様の危機に陥らないために先に挙げた4つのツールをどう使うかを示し、更には、日常生活において、妻と夫、親と子、友人や同僚との間で生じる無責任ウイルスから来るさまざまな問題も、4つのツールを使うことで解決できるとして、その例を示しています。

 最後に「結び」として、これまで述べてきたことを総括し、失敗への恐れが失敗を生むこと、支配価値の存在とそのマイナス面を思い起こすことなどを説き、「負けずに勝つ」ことにばかりこだわるのではなく「十分な知識に基づく選択」をし、「困惑の回避」に走るのではなく「オープンな基準による検証」を行い、「理性の保持」にばかり気をとられるのではなく「真の自分らしさ」に沿った行動をとるといった、新しい支配価値を身につければ、自ずと能力の最先端で、つまり強みや優位性の上で生きることになり、個人の集まりである組織が、新しい支配価値に従って生き、再定義されたリーダーシップモデルに取り組み、責任についてより高度の対話を維持することによって、着実に能力を伸ばすことができる競争を、確実に「求める」ようになるとしています。

 全体を通して事例を通じて解説されており、実践的(プラクティカル)な内容ですが、同時に啓発的であり、また、概念的(コンセプチュアル)でもある本であり、その点は邦訳タイトルから受ける印象とは少し違いました(著者の近著の邦訳タイトルは『インテグレーティブ・シンキング』('09年/日本経済新聞出版社))。書かれていることに相当する職場でのイメージを思い浮かべながら読まないと、今読んだ内容がすっとどこかへ流れていってしまうかも。

 一方が過剰に責任をとろうとすると、別の方は責任を過少にとってバランスを保とうとするという「責任量保存の法則」という観点は面白いと思いました(但し、本書は単なる「エンパワーメント」に対しては否定的である)。肝は、無責任ウイルスに対処するための4つのマネジメント・ツールを示した第3部でしょうか。やや高度に概念的な部分もあり、応用は少し難しいかもしれませんが、習得できれば役立つと思われ、多くの人にとって読む価値はあるのではないかと思います。

《読書MEMO》
●目次
まえがき
序 もう英雄はいらない?
第1部 無責任ウイルスとは何か
 1 頑張りすぎた上司と頑張らない部下
 2 「失敗への怖れ」と「支配価値」の役割
 3 責任量保存の法則
第2部 無責任ウイルスの症状
 4 協働の死滅
 5 不信と誤解の発生
 6 選択決定スキルの低下
第3部 無責任ウイルスへの4つの処方箋
 7 [ツール1]選択決定プロセス
 8 [ツール2]枠組み実験
 9 [ツール3]責任のハシゴ
 10 [ツール4]リーダーシップとフォロワーシップの再定義
第4部 無責任ウイルスをやっつけろ
 11 責任過少からの脱出法
 12 責任過剰からの脱出法
 13 プロフェッショナルが抱える危険性
 14 役員会の危機
 15 日常生活と無責任ウイルス
結び 新しいリーダーシップへの道
訳者あとがき

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3323】 ジョン・ウィリアム・ガードナー 『リーダーシップの本質
「●マネジメント」の インデックッスへ

グリッド理論による人間のタイプ分けと対処法。理想の管理者像を示したリーダーシップ論。

BlakeMoutonPhoto.png期待される管理者像9.JPG期待される管理者像.jpg
期待される管理者像―新・グリッド理論』 ロバート・R・ブレーク/ジェーン・S・ムートン

 マネジリアル・グリッド論(Managerial grid model)とは、リーダーシップ行動論の1つで、1964年にロバート・R・ブレーク(Robert.R.Blake,1918-2004)とジェーン・S・ムートン(Jane.S.Mouton,1930-1987)によって提唱されたものです。エクソン社でコンサルタント業務を担当し、人間の行動について調べたブレークらは、管理の理論化手法、特にリーダーシップと動機づけに関して、現実との大きな開きがあると結論づけています。当時もてはやされていたモチベーション理論は、ダグラス・マグレガーのⅩ理論・Y理論でしたが、ブレークらは多くの社員の行動やモチベーションが、ⅩとYの中間にあり、Ⅹ理論・Y理論は、組織行動の全体像の一部にすぎないとして、「業績に関する関心」「人間に関する関心」「モチベーションに関する関心」の3本の軸を用いたモデルこそが現実をより正確に表すと結論づけています。

Leadership Dilemmas- Grid Solutions.jpg ブレークとムートンは、1964年発表の"The Managerial Grid"(『期待される管理者像』('65年/産業能率短期大学))に続いて、1978年に"New Managerial Grid"(『新・期待される管理者像』('79年/産業能率大学出版部))、1985年に"The Managerial Grid Ⅲ"(本邦未訳)を上梓していますが、本書はさらに1987年のムートン女史の急逝(享年58)後に改訂された1991年版("Leadership Dilemmas- Grid Solutions")の翻訳になります。

"Leadership Dilemmas- Grid Solutions: a visionary new look at a classic tool for defining and attaining leadership and management excellence (Blake/Mouton Grid Management and Organization Development Series)"(1991)
5つのグリッド・スタイル(リーダーシップ・スタイル)
マネジリアル・グリッド論.gif グリッド理論とは、リーダーシップの行動スタイルについて、「業績に対する関心」と「人間に対する関心」という2軸に注目し、横軸に「業績に対する関心」、縦軸に「人間に関する関心」をとり、それぞれにどの程度関心を持っているか、それぞれの軸を9段階に分け、ここにできる計81の格子(グリッド)をマネジメント・グリッドと称し、典型的な5つのリーダーシップ類型(9・1型、1・9型、1・1型、5・5型、9・9型)に分類したものでした。

 そして、この改訂版では、これまで強調されてきた5つのグリッド・スタイル(リーダーシップ・スタイル)に、さらにこれまでのタイプを複合した「温情主義(9+9型)」と「日和見主義」の2つが加えられ、7つのグリッド・スタイルが浮き彫りにされています。

 第1章では、リーダーシップを構成する6つのエレメント(葛藤処理・イニシャティブ・探究心・意思表示・意思決定・クリティーク)について解説しています。

 第2章では、横軸に「業績に対する関心」、縦軸に「人間に関する関心」をとり、業績と人間に関する関心がリーダーシップのスタイルを決めるとするグリッド理論によるリーダーシップの7つの分類が紹介されています。
 ・「9・1型」...「権威服従型」
 ・「1・9型」...「カントリー・クラブ型」
 ・「温情主義(9+9型)」
 ・「1・1型」...「無関心型」
 ・「5・5型」...「中道型」
 ・「日和見主義」
 ・「9・9型」...「チームマネジメント型」
 さらに、リーダーと同様に部下のタイプも、このグリッドに沿って7つに分類されるとしています。
 ・「9・1型」...「こわもて型」
 ・「1・9型」...「ご機嫌とり型」
 ・「温情主義(9+9型)」...「高級参謀型」
 ・「1・1型」...「無関心型」
 ・「5・5型」...「堅実型」
 ・「日和見主義」...「抜けがけ型」
 ・「9・9型」...「問題解決型」

 第3章以降、これら7つのリーダーシップの各スタイルの特徴を述べ、リーダーシップを構成する6つのエレメントはそれぞれどう表れるか、また、上司に対する部下の反応は部下のそれぞれのタイプごとにどうなるかを述べています。

 第3章では「9・1型」について、このタイプは「権威服従型」とも言われ、この型のマネジャーは業績を重視し、権限とコントロールシステムを強化するが、人間的要素を顧みない、とにかく「強い者が勝ち!」というタイプであるとしています。

 第4章では「1・9型」について、このタイプは「カントリー・クラブ型」とも言われ、この型のマネジャーは人間関係に十分気を配るが、業績に対する関心は低く、「楽しくやろう」というタイプであるとしています。

 第5章では「温情主義(9+9型)」について、このタイプのマネジメントでは、忠誠と服従の代償として厚遇が与えられるが、従わない者は罰せられる、「俺は偉いのだ!」というタイプであるしています。

 第6章では「1・1型」について、このタイプは「無関心型」とも言われ、組織の一員としての身分を保つために、仕事をやり遂げるための最低限の努力しかせず、人間に対しても業績に対しても関心が薄い、「触らぬ神に祟りなし」というタイプであるとしています。

 第7章では「5・5型」について、このタイプは「中道型」とも言われ、コツコツと平凡な仕事に精を出す組織人で、業績達成と人々の気持ちへの配慮をバランスよく保てば組織はうまく機能し、自らの帰属欲求も充足される、「これだけやれば十分だ...」というタイプであるとしています。

 第8章では「日和見主義」について、このタイプは、自分の利益追求のためにあらゆるグリッド・スタイルを使い分けるタイプで、とにかく「自分の得になることがあるか」を最優先するタイプであるとしています。

 ここまで(第3章から第8章)は、業績にあまり貢献しない6つのリーダーシップ・スタイルについての説明でしたが、第9章では、本書が理想のリーダーシップ・スタイルとする「9・9型」について解説しています。このタイプは「チームマネジメント型」とも言われ、仕事に打ち込んだ人によって成果を上げてもらうタイプで、組織目的という共通の利害関係を通じてお互いに依存し合うことによって、信頼と尊敬による人間関係を樹立する、「一人は全員のために、全員は一人のために」というタイプであるとしています。第10章では、「9・9型」のリーダーシップを発揮するための実務的な着眼点や具体的なやり方について述べています。

 第11章では、「あなたも9・9型のマネジャーになれる」として、9・9型のリーダーシップを身につけるためにはどうすればよいかを説いています。第12章では、チームワークを改善するにはどうすればよいかを説き、第13章では、グリッド方式が組織開発にどう応用できるかを、最終第14章では、組織開発にどのような効用があるのかを説いています。

 リーダーシップおよび組織開発の名著とされる本ですが、7つのリーダーシップ・スタイルにそれぞれ対応する7人のメンバーから成る組織を舞台としたストーリー仕立ての解説になっているため、読み易く(しかも翻訳ではその7人が日本人の名になっている!))、一度は目を通しておきたい本。ほぼ同じ時期に三隅二不二が提唱した「PM理論」と似ているところもありますが、発表されてから何度か時代に対応して改訂されているところが米国らしいと言えるかもしれません。但し、この「全改訂」版で"古典"として確立した印象もあり、入手できる内に読んでおきたいものです。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

《読書MEMO》
●内容説明(表紙カバー 折り返し)
本書は、いろいろな面で進展を遂げてきたグリッド理論を、時代に対応して集大成・再構築した最新版の完訳である。特に、変革しつつある現代のマネジメントを踏まえたリーダーシップのあり方を、従来の五つのグリッド・スタイルに新たに二つを追加、動機づけ要因の分析、クリティークとスタイル改善への着眼点の掘り下げを行いつつ、追究する。21世紀に向けて、理想の管理者像を明示した究極のリーダーシップ論。
●目次
第1章 人的資源を活かす鍵―リーダーシップ
第2章 グリッド理論によるリーダーシップの分類
第3章 9・1型―強い者が勝ち!
第4章 1・9型―楽しくやろう
第5章 温情主義(9+9型)―俺は偉いのだ!
第6章 1・1型―触らぬ神に崇りなし
第7章 5・5型―これだけやれば十分だ
第8章 日和見主義―自分の得になることがあるか
第9章 9・9型―一人は全員のために、全員は一人のために
第10章 9・9型の実務適用の着眼点と具体的やり方
第11章 あなたも9・9型のマネジャーになれる
第12章 チームワークの改善法
第13章 グリッド方式による組織開発
第14章 組織開発の効用と将来の展望

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒【735】 C・レイモルド『最高の上司とは何か

提唱者自身による「状況対応型リーダーシップ」入門書。
1分間リーダーシップ8.JPG1分間リーダーシップ 旧.jpg  1分間リーダーシップ 新.jpg
1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法』['85年]『新1分間リーダーシップ』['15年]

SL理論ード.png 1985年に発表された本書は、リーダーシップのあり方を4類型にまとめ、それぞれ相手の状況、担当する事業の経験等、習熟段階に合わせて適切に使い分けると良いとする「状況対応型リーダーシップ」を提唱したものとして知られています。本の記述スタイルとしては、ある起業家が、熟練したマネジャー(1分間マネジャー)に助言を求めにいくという、「1分間シリーズ」の他の本と同じ物語風のスタイルとなっています。

 第1章「ある企業化の来訪」では、〈1分間マネジャー〉は、成功するためには「より懸命(ハード)に働くな。より賢明(スマート)に働け」と言い、「違った相手には違った触れ方(ストローク)を」するように助言しています。

 第2章「部下は〈1分間マネジャー〉をどう見ているか」では、〈1分間マネジャー〉の3人の部下が登場し、それぞれが〈1分間マネジャー〉との間で仕事上どのような管理スタイルになっているのかを話し、そこから〈1分間マネジャー〉が部下によってリーダーシップ・スタイルを使い分けていることが窺えるようになっています。

 第3章「リーダーシップ・スタイルを使い分ける」では、状況対応型リーダーになるには、
  ①リーダーシップ・スタイルを柔軟に使い分ける「柔軟性」、
  ②部下たちの要求(ニーズ)を診断する「診断力」、
  ③部下たちと何らかの合意を取り付ける方法を知る「取り決め」の3つのスキルが必要であるとしています。

situational-leadership-model.jpg そのうえで、
  ①指示型(リーダーは具体的な指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく監督する)、
  ②コーチ型 (リーダーは引き続き指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく監督するが、決定されたことも説明し、提案を出させ、前進できるように援助する)、
  ③援助型(リーダーは仕事の達成に向かって部下の努力を促し、援助し、意思決定に関する責任を部下と分かち合う)、
  ④委任型(リーダーは意思決定と問題解決の責任を部下に任せる)
の4つの基本的なリーダーシップ・スタイルを示し、「平等でないものを平等に扱うことほど不平等なことはない」としています。

 第4章「部下を診断する」では、部下の発達の段階を診断して、
  D1: <低>適正能力 x 高いやる気
  D2: <中>適正能力 x 低いやる気
  D3 : <高>適正能力 x まちまちなやる気
  D4: <高>適正能力 x 高いやる気
の4つの段階に分類し、
  D1の人はやる気はあるがやり方が分からないので、指示型を用い、始動をかけてあげる(S1:指示型)
  D2の人は能力はついてきているが、やる気が低いので、指示とともに援助・称賛・意思決定への参画による意欲向上をはかる(S2:コーチ型)
  D3の人は能力は高水準なため指示は少なくても良くなるが、自分自身に対する動機づけが弱い分、援助により自身と意欲を向上させる(S3:援助型)
  D4の人はすでに独り立ちして行動が出来るため、業務を委任する(S4:委任型)
という具合に、部下の発達の段階に応じたリーダーシップ・スタイルの使い分けをすると良いとしています、

 第5章「〈1分間マネジャー〉と状況対応型リーダーシップ」では、部下の適性能力とやる気を伸ばすには、部下への観察を通じて指示型・コーチ型から援助型・委任型にリーダーシップ・スタイルからを変えていくべきであるとしています。

 第6章「部下と取り決めをする」では、「状況対応型リーダーシップとは、部下に対して何をするかではない。部下といっしょに何をするかである」とし、また、目標設定に際して、
  S:Specific(具体的な)
  M:Measurable(測定可能な)
  A:Attainable(達成可能)
  R:Relevant(適切な関連がある)
  T:Trackable(追跡可能)
以上のSMART(スマート)になるようにすると良いとしています。

 終章である第7章「状況対応型マネジャーになる」では、「知りすぎて使わざるは、なお知らざるがごとし」とし、状況対応型リーダーシップを実際に使い、役立てることが大切であるとしています。

 本書で提唱されている「状況対応型リーダーシップ」は、人事パーソンにとって、とりわけリーダーシップ研修などを実施するに際しては、基本知識の部類に属するものと思われます。部下の目標を決め、目標に対する現在の部下の発達度から、リーダーシップのスタイルを使い分けるべきである、というのが本書の趣旨であり、マネジャーがリーダーシップを効果的に発揮するうえで実際に参考になると思われます。

 個人的には、先行の『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』 ('83年/ダイヤモンド社)で言っていた、部下マネジメントにおいて大切なのは、「目標設定、褒めること、叱ること」であるというのに比べれば、こちらの方がずっと研修や実務で使える洗練された理論のように思います。

 本書は、30年余りの時を経て『新1分間リーダーシップ―どんな部下にも通用する4つの方法』('15年/ダイヤモンド社)として改定されており、状況対応型リーダーに必要な3つのスキルが「柔軟性・診断力・取り決め」から「目標設定・診断・マッチング」に変わったり、SMARTの「M」が'Measurable'から'Motivating'に変更になったりしていますが、4種類のリーダーシップ・スタイルや、それぞれの部下の発達段階との対応関係など、基本的・中核的な部分では大きく変わっていません。「状況対応型リーダーシップ」を理解する上で、旧版・新版のどちらを読んでも差し支えないのではないかと思われます。本書の場合は、理論の提唱者によって書かれている本であること自体に意義があると思います。

SL理論.jpg

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2798】 ○ ジョージ・コーリーザー/他 『セキュアベース・リーダーシップ

ファシリテーター型リーダーシップを提唱、その発揮ノウハウを噛み砕いて解説。

なぜ、あのリーダーはチームを本気にさせるのか?.jpgなぜ、あのリーダーはチームを本気にさせるのか?――内なる力を引き出す「ファシリーダーシップ」 (DOBOOKS)』(2018/06 同文舘出版)

 組織コンサルタントによる本書は、従来の「トップダウン型」のリーダーシップから、メンバーやチームの力を引き出す「ファシリテーター型」のリーダーシップへの転換を提唱しています。そして、ファシリテーター型リーダーシップの発揮には、人の部位になぞらえると、「耳:聴く、目:観る、口:問う/語る、手:手と手をつなぐ、足:踏み込む、頭:考える」の6つの機能の実践が伴うとして、この6機能の実践から成る新たなリーダーシップ・スタイルを、「ファシリーダーシップ」と名づけ、以下、6機能を章ごとに解説しています。

 1章では、耳:聴く(Listen)ということについて述べています。ここでは、リーダーは、メンバーに力を与え相互作用を生み出すために、話す前に「聴く」ことが必要であるとし、「聴く」力を高めるための7つの秘訣や、カウンセラーマインドなどリーダーが知っておくべき実践心理学の知識、「聴き合い、響き合う」ための場づくりの手法としての「1on1ミーティング」「リーダーズインテグレーション」「プラウド&ソーリー」などを紹介しています。

 2章では、目:観る(Insight)ということについて述べています。ここでは、リーダーとメンバーではもともと異なる視界を有しており、それを一致させるのがリーダーの役割であるとし、また、チェスター・バーナードの定義したグループとチームを分かつ組織成立の3要素(共通の目的・協同意志・コミュニケーション)を紹介しています。さらに、個人や組織の持つバイアス(偏見)にどのようなものがあるか、グループシンク(集団浅慮)を回避する「悪魔の代弁者」と呼ばれる手法や、ピーター・センゲが言うところメンタルモデルを見直す「5P」の観点、ジェームズ・C・コリンズ等が言うところの「企業衰退の5段階のシグナル」、エドワード・デノボの「6色の帽子思考法」などを解説し、著者自身の経験を基に、組織を見極めるための16の危険シグナルを紹介しています。

 3章では、口:問う(Inquire)/語る(Tell)ということについて述べています。ここでは、4つの問いかけ法(調査/提案/探求/共創)と4つの陥りがちな罠(詰問/命令/べき/執着)、対話・議論・会話の違いと対話が拓くプレゼンシングまでの4つのレベル、聞き手が奮い立つパワフルなストーリー語りの「5つのメソッド」、職場で実践できる「問う、語る」ための対話の場づくりの手法としての「他己紹介インタビュー」や「ポジションチェンジ・ダイアログ」などの手法を紹介しています。

 4章では、手:つなぐ(Connect)ということについて述べています。ここでは、リーダーに必要なシステムを活かす力として、物事をつながりで捉える力(「因果」で捉える、「循環」で捉える、「クリティカルパス」で捉える)、「抵抗勢力」とつながる力(イレブン>サポーター>フーリガン>野次馬)を紹介し、さらに、ジョン・ゴットマンが言うところの「心理的安全性」のために関係性悪化の4つの危険要因(①避難、②侮辱、③自己弁護、④逃避)を解毒する方法や、ミハイ・チクセントミハイが提唱したフロー理論を紹介し、キース・ソーヤーが提唱した、チームで力がみなぎるフロー状態「グループ・フロー」が起こりやすい10の条件を紹介、さらには、職場で集合知を生み出すための手法として、「TEA TIME/BAR TIME」などを紹介しています。

 5章では、足:踏み込む(Step into)ということについて述べています。ここでは、部下のやる気に火を灯す「ダメ出しフィードバック」とその黄金則「薪+FIRE」、承認力を高める「ポジティブフィードバック・ピラミッドモデル」、「承認」「改善」「表彰」のための場づくりの手法として、興味と思いやりある承認風土を創る「おかくれさん」、健全なダメを出し、改善活動につなげる「きらいなことボード」などを紹介しています。

 6章では、考える(Think)ということについて述べています。ここでは、「考える」ことを阻む5つの大きな壁~「経験」「前提」「抽象」「選択肢」「文脈」を紹介し、マインドフルネス瞑想で物事の本質を捉えることを勧めています。また、直感やひらめきを起こすための5つのステップや、潜在意識にアクセスするビジュアリゼーションという手法、衆知を集め、創造的に考える会議の場をつくっていくコツなどを紹介しています。

 以上のように、「ファシリーダーシップ」という考えを軸に、網羅的にリーダーシップ発揮のノウハウを解説しており、その密度は濃いように思いました。リーダーにとっての教科書となる本ですが、実践にまで落とし込んでおり、ファシリテーションに関わる人には役立つ知識や手法がぎっしりという感じ。書かれていることを一度に全部実践できるわけではないとは思いますが、知っておけばいつか使える時があるかもしれません。テキスト的な内容でありながらも分かりやすく噛み砕いて解説されており、さらに、合間に20の「小咄」が挿入されていて、例えばワンパターンから抜け出す「あいづち」を九九で81個並べて紹介したりしており、肩肘張らず楽しみながら読めて役に立つ本と言えます。

《読書MEMO》
●内容紹介
はじめに
・耳:聴く(Listen)メンバーに力を与え、相互作用を生み出すために、話す前に聴く
・目:観る(Insight) さまざま次元、角度、距離感で観ることで、行き詰まりを突破する
・口:問う/語る(Inquire/Tell)問いかけ、ストーリーを語り理屈を超え感情を揺さぶる
・手:手と手をつなぐ(Connect)境界線を越えたつながりの土壌を耕し組織を進化させる
・足:踏み込む(Step into)踏み込んだフィードバックで、本音が行き交う組織を作る
・頭:考える(Think)過去の成功体験を健全に疑い、今ここに立ち止まり、考え抜く
1章 耳:聴く(Listen)
・ 「聴く」力を高める7つの秘訣
・ 承認が与えられないと無自覚に展開される「心理ゲーム」
・ 「リーダーズインテグレーション」でチームを統合しよう!
・ 「プラウド&ソーリー」で真実の声に耳を傾けよう!  ほか
2章 目:観る(Insight)
・ グループとチームを分かつ組織成立の3要件
・ グループシンクを回避する「悪魔の代弁者」
・ メンタルモデルを見直す「5P」の観点
・ 16の危険シグナルであなたの組織を見極めよう!  ほか
3章 口:問う(Inquire)/語る(Tell)
・ 4つの問いかけ法(調査/提案/探求/共創)と陥りがちな罠(詰問/命令/べき/執着)
・ 対話、議論、会話の違いと 対話が拓くプレゼンシングまでの4つのレベル
・ 聞き手が奮い立つ、パワフルなストーリー語りの「5つのメソッド」
・ 「ポジションチェンジ・ダイアログ」で立場を超えた納得解を作ろう!  ほか
4章 手:つなぐ(Connect)
・ 「抵抗勢力」とつながる力~イレブン>サポーター>フーリガン>野次馬
・ 「心理的安全性」のために関係性悪化の4つの危険要因を解毒する
・ チームで力がみなぎるフロー状態に入ろう!
・ 職場で集合知を生み出そう! TEA TIME/BAR TIME  ほか
5章 足:踏み込む(Step into)
・ ダメ出しフィードバックの黄金則「薪+FIRE」
・ 承認力を高めるポジティブフィードバック・ピラミッドモデル
・ 「おかくれさん」で興味と思いやりある承認風土を創ろう!
・ 「きらいなことボード」で健全なダメを出し、改善活動につなげよう!  ほか
6章 頭:考える(Think)
・ 「考える」ことを阻む5つの大きな壁~「経験」「前提」「抽象」「選択肢」「文脈」
・ マインドフルネス瞑想で本質を捉える
・ ひらめきの神、ミューズを降臨させる5つのステップ
・ 衆知を集め、創造的に考える会議の場を開こう!  ほか

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2733】 太田 肇 『なぜ日本企業は勝てなくなったのか
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ロブ・ゴーフィー/ガレス・ジョーンズ)

組織論から入って、リーダー(またはリーダーを志す人)へのアドバイスになっている。

DREAM WORKPLACE1.JPGDREAM WORKPLACE.jpg なぜ、あなたがリーダーなのか 旧3.JPG Rob Goffee & Gareth Jones.jpg
DREAM WORKPLACE(ドリーム・ワークプレイス)――だれもが「最高の自分」になれる組織をつくる』(2016/12 英治出版)『なぜ、あなたがリーダーなのか? (ADL経営イノベーションシリーズ)』['07年] Rob Goffee & Gareth Jones
"Why Should Anyone Work Here?: What It Takes to Create an Authentic Organization""Why Should Anyone Be Led by You? With a New Preface by the Authors: What It Takes to Be an Authentic Leader"(2019)
Why Should Anyone Work Here.jpgWhy Should Anyone Be Led by You?:What It Takes To Be An Authentic Leader.jpg 原題は"Why should Anyone Work Here?"(なぜみんながここで働かなければならないのか?)。本書では、世界で一番働きたいと思う組織は、有能な人材を引きつけ、留まらせる灯台のようなところであり、社員と会社そのものから、常に一番よいところ引き出す場となる組織であるとしています。そして、著者ら(『なぜ、あなたがリーダーなのか』(原題:"Why Should Anyone Be Led by You?: What It Takes To Be An Authentic Leader" 2006))の著者でもある)は、世界中の人々に、理想の組織、すなわち最高の自分になれる組織とはどのようなものであるのかを問い続けた結果、回答は大きく次の6つの原則に分類されることが判ったとしています。

 ①違い(Difference)ありのままの自分でいることができる
 ②徹底的に正直であること(Radical honesty)今現実に起きていることを伝える
 ③特別な価値(Extra value)社員の強みと利益を理解し、強化する
 ④本物であること(Authenticity)アイデンティティ、価値観、リーダーシップ
 ⑤意義(Meaning)日々の仕事にやりがいをもたらす
 ⑥シンプルなルール(Simple rule)余計なものを減らし、透明性と公平性を高める

そして、これらの頭文字をとってこれを「夢(DREAMS)」の原則と呼び、以下、第1章から第6章までは、この6つの原則をひとつずつ詳しく述べ、各章の中でそれぞれの原則に沿ったシンプルな組織診断ツールを示すとともに、末尾にリーダーがとるべきアクションを整理しています。

 第1章「ありのままでいられるように」では、「違い」は埋めずに、むしろ広げるべきであるとして、思考プロセスや人生経験の「違い」を理由に人を雇い、価値観に対する見解の一致を求めながらも、個人が創造的な表現をする余地を認めよとしています。

 第2章「徹底的に正直である」では、今現実に起きていることを伝えるべきであるとして、コミュニケーションは正直に、かつ迅速に行うことなどを説いています。

 第3章「社員の強みと利益を理解し、強化する」では、ひとりひとりのために特別な価値を創造せよとし、能力開発のチャンスを与えること、社員に価値を付加することなどを推奨しています。

 第4章「『本物』を支持する」では、アイデンティティや価値観を重視し、自分の中にある「本物であること(オーセンティシティ)」を行動で示すことを説いています。

 第5章「意義あるものにする」では、日々の仕事にやりがいをもたらすにはどうすればよいかを述べており、意義あるものを見つけようと思ったら、様々な経験を取り入れ、また、あらゆる機会を使って、自分の組織の取り組みと成果を、広くコミュニティにつなげていくことを推奨しています。

 第6章「ルールはシンプルに」では、余計なものを減らして、透明性と公平性を高めることに努めよとし、物事がうまくいかなくても、新しいルールをつくりたいと思う誘惑を退けなさいとしています。

 さらに第7章では、本物の組織を作り維持するにはどうすればよいか、6つの原則を自分の組織の現状にカスタマイズする際に、リーダーとして行わなければならないトレードオフのパターンなどを示しています。

著者らはロンドンの組織行動学とリーダーシップの研究者ですが、各章とも組織の在り方から入って、組織診断ツールを示した上で、リーダーがとるべきアクションを整理しており、最終的にはリーダー(またはリーダーを志す人)に啓発を促す内容になっています。

 「6つの原則」は、それだけではやや抽象的な人生訓のような印象も受けなくはありませんが、多くの事例を紹介することで、読み進んでいく中で具体的にどのようなことを指すのかがイメージ出来るようになっていて、そのことがリーダーへのアドバイスに繋がっていきます(中にはややもやっとした感じのままのものもあったが、一方で、感動的なエピソードも少なからずあった)。

 ただし、本書で挙げた組織は、「6つの原則」の少なくともひとつ以上の達成に向けて努力していると思われるから取り上げられたのであるとのことで、それらの中で「6つの原則」をすべて解決した企業はひとつもないとしています。ですから、「こんなのウチでは無理だ」などと思わないで、自分たちに出来ることは何かという感覚で読んでいった方が、割合受け入れられ易いのではないでしょうか。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2760】広江 朋紀 『なぜ、あのリーダーはチームを本気にさせるのか?

現役の管理職にとっても次世代の管理職を育成するためのツールとして活用できる。

リーダーシップ徹底講座.jpgリーダーシップ徹底講座』(2018/04 中央経済社)

 本書は、マネジャーに求められるリーダーシップとマネジメントに関する知識を身につけることを目的として、リーダーシップやマネジメントを学ぶ学生や大学院生、次世代の管理職候補となる若手や中堅の社会人、さらに、現にマネジメントに関わっている現役管理職を対象に書かれたものです。

 第1章では、「マネジメントそしてマネジャーとは?」として、マネジメントとは何かということをドラッカーの主張などに基づいて説明し、『ハーバード流ボス養成講座―優れたリーダーの3要素』(2012/01 日本経済新聞出版社)の著者リンダ・A・ヒルらの研究から導き出されたマネジメントに関する誤解や、マネジメントに関するさまざまな論点を考察、また、組織の概念について、『経営者の役割―その職能と組織』 (1956/09 ダイヤモンド社)の著者チェスター・I・バーナードの近代組織論に基づいて解説しています。

 第2章では、「マネジメントの基本」として、マネジメントの基本となるマネジャーの人間観について、エドガー・H・シャインが『組織心理学』(1981/03 岩波書店)で論じている人間観のモデル(経済人・社会人・自己実現人・複雑人)に基づいて解説し、マネジメントを実行する上で必要不可欠なパワーに関するJ・フレンチとB・H・レイブンによる5類型を取り上げています。

 第3章では、「リーダーシップの基本」と題して、リーダーとは一体何かを、R・J・ハウスらが主張するリーダーシップが生まれる3つのパターン(任命されたリーダー、選挙で選ばれたリーダー、自然発生的リーダー)で解説、次に、マーティン・M・チェマーズの『リーダーシップの統合理論』(1999/02 北大路書房)など、リーダーシップ論の代表的なテキストにおけるリーダーシップの定義を比較検討し、また、リーダーシップを語る上で必要不可欠なフォロワーの存在について、『最前線のリーダーシップ―危機を乗り越える技術』 (2007/11 ファーストプレス)の著者ロナルド・A・ハイフェッツらの主張を紹介、さらに、『サーバントリーダーシップ』(2008/12 英治出版)の著者であるロバート・K・グリーンリーフのサーバント・リーダーシップについて解説しています。

 第4章では、「リーダーシップ論の展開」と題して、リーダーシップ論の歩みを、初期リーダーシップ研究における資質的アプローチ、行動アプローチ、状況アプローチの順でそれぞれの代表的研究を紹介し、それに続く、『カリスマ的リーダーシップ―ベンチャーを志す人の必読書』(1999/12 流通科学大学出版)の著者ジェイ・A・ コンガー、ラビンドラ・N・ カヌンゴらによるカリスマ的リーダーシップ論や、B・J・アボリオの変革型リーダーシップ論について解説しています。

 第5章は、「フォロワーの目から見たリーダーシップ」として、フォロワーの視点を重視したリーダーシップ研究を説明、具体的には、E・P・ホランダーの特異性―信頼理論を取り上げています。また、フォロワーのリーダーシップ認知について、B・コールダーのリーダーシップ原因帰属モデル、R・G・ロードのリーダーシップ情報処理モデル、L・R・オファーマンのフォロワーが抱く暗黙のリーダーシップ論について説明しています。また、J・R・マインドルの提唱したリーダーシップの幻想について解説しています。

 第6章では、「フォロワーシップについて考える」ということで、リーダーシップを受け入れるフォロワーに求められる行動としてのフォロワーシップについて考察し、『指導力革命―リーダーシップからフォロワーシップへ』(1993/11 プレジデント社)の著者ロバート・E・ケリーの提唱した「模範的なフォロワー」や、『フォロワーシップ―上司を動かす賢い部下の教科書』(2009/11 ダイヤモンド社))の著者アイラ・チャレフの提唱した「勇敢なフォロワー」を取り上げています。

 第7章は、「マネジャーに求められるもの」として、管理者行動論の諸研究を説明し、具体的には、『ザ・ゼネラル・マネジャー―実力経営者の発想と行動』(1984/03 ダイヤモンド社)の著者ジョン・P・コッタ―の「ゼネラル・マネジャー」、『マネジャーの実像―「管理職」はなぜ仕事に追われているのか』(2011/01 日経BP社)の著者ヘンリー・ミンツバーグの「マネジャーの仕事」と「マネジャーの実像」の議論、リンダ・A・ヒルらによる「マネジャーの3つの課題」について説明しています。

 本書の前身である『リーダーシップ入門講座―まとめ役になれる!』(2011/03中央経済社)から7年ぶりの改訂であるとのことですが、リーダーシップ論だけでなくフォロワーシップ論についての解説がなされているのが特徴で、さらに最新のリーダーシップ理論も織り込まれてアップデートされています。また、前著に比べ、マネジメント及び管理者行動について掘り下げているのも特徴です。

 テキスト的な本ですが、序章で述べられているように、現役の管理職にとっても、管理職としての経験を振り返って整理し、次世代の管理職を育成するためのツールとして活用できる本であるかと思います(索引はあるが、文中のキーワードを太字にするようなことはしていないのは、読み物としても読めるようんすることを意識したのか)。

 初学者には、なぜリーダーシップ理論を学ぶのか、それが実務に何の役に立つのかといった抵抗感が往々にしてあるものですが、理論をそのまま現実に適用するのではなく、その理論の基本的エッセンスを応用の足掛かりとし、自分なりのリーダーシップ・スタイルを確立させ、自分自身のコアを持つことは大切であり、そのためには、理論体系をまず把握するのが、毎週のように刊行される自己啓発本みたいなものを読み漁るよりずっと効率的であると、個人的には考えます。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2725】 小野 善生 『リーダーシップ徹底講座

目に見えにくいフォロアワーシップというものを自身の経験から可視化して解説。

リーダーシップからフォロワーシップへ8.JPGリーダーシップからフォロワーシップへ.jpg 中竹竜二.jpg
新版 リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』 中竹 竜二・日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター
リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』['09年]
リーダーシップからフォロワーシップへ    .jpg 本書は、著者が2006年に清宮克幸氏の後を受け早稲田大学ラグビー蹴球部の監督に就任し、2007年度から2年連続で全国大学選手権2連覇を成し遂げた際に刊行された本の新版であり、新版として刊行するにあたり、「いいリーダーの資質」についてまとめた終章が加わっています(第1~7章はほぼ旧版を踏襲)。

 第1章では、リーダーシップとフォロアワーシップを同じレベルで考えなければならない時代がやってきたとし、「リーダー」と「リーダー以外」を分けて考えると、組織に対してそれぞれの立場で考えなければならないことは、
 ①リーダーが考える自分自身のリーダーシップ(第2章)
 ②リーダーが考える自分以外のフォロワーシップ(第4章・第5章)
 ③フォロワーが考える自分自身のフォロワーシップ(第6章)
 ④フォロワーが考えるリーダーがとるべきリーダーシップ(第7章)
 の4つあるとしています。

 第2章では、リーダーのためのリーダーシップ論を説いています。まず、ストッグディルの特性論を紹介し、彼はリーダーの持つ特性として、「公正」「正直」「誠実」「思慮深さ」「公平」「機敏」「独創性」「忍耐」「自信」「攻撃性」「適応性」「ユーモアの感覚」「社交性」「頼もしさ」の14を挙げたとし、また、優秀なリーダーたちが持っている能力を、分かりやすく表現したシリーズとして「~力」という考え方があり、そこで挙げられる「力」には情報収集力、分析力、実行力、準備(段取り)力、決断力、対応力、論理力、創造力、マネジメント力、俯瞰力、交渉力、企画力、発想力、目標設定力、課題解決力...等々があるが、管理職研修ワークショップからの吸い上げなどから全ての要素がリーダーシップの大切な能力であることは確認できるものの、一つひとつが大切であることと、一人の人間がそれらの全ての要素を持つべきだということとは全く異なり、この両者を混同すると、「極めて万能で優秀な神様みたいな能力を備えたリーダー以外は、いわゆる理想のリーダーシップを発揮することは、非常に困難である」という矛盾に陥ってしまうとしています。一方、非理想のリーダー像には大きな共通項が見出しやすく、そこから逆説的に考えると、理想のリーダーの条件は、「ブレない」「言動に一貫性を持っている」ことであるとしています。

 これを受け、第3章では、リーダーとしてのスタイルを確立させることの必要性を説いています。ここでは、「中竹のスタイル」として、①日本一オーラのない監督、②期待に応えない、③ 他人に期待しない、④怒るより、謝る、⑤選手たちのスタイル確立を重視の5つを挙げ、さらに、スタイル確立の鉄則として、①多面的な自己分析、②できないことはやらない、③短所こそ光を!、④引力(周囲のプレッシャー)に負けない、⑤焦らず、勇気を持って、の5つを掲げ、また、Vision(ビジョン)・Story(ストーリー)・S cenario(シナリオ)の3つのフェーズを意識してマネジメントするVSSマネジメントというものを提唱しています。また、スタイルを作り上げるプロセスで起こりがちな失敗として留意すべきこととして、①「スタイルがないのがスタイル」は×、②スキルが全くなければスタイルなし、③安易なオンリーワン思考、④無謀な夢、⑤情報過多での混乱、の5つを挙げています。

 第4章は、リーダーのためのフォロワーシップ論です。ここでは、フォロワーを育てるためには、リーダーがまず理想のフォロワー像を描き、部下に主体性を持たせることが大切で、「マニュアル化」や「安全性」はむしろ自主性逓減に繋がることがあるとしています。部下の成長機会を手助けするのがリーダーの役目であり、そのためには、フォロワーの資質と目標に合った環境を整えるとともに、フォロワー一人ひとりのスタイル構築を支援しなければならないとしています。

 第5章では、具体的なフォロワーシップ実践の際の重要な思考スキルと手法を紹介しています。ここでは、(フォロワー育成の中竹メソッドとして)フォロワーとの個人面談におけるチェックポイントとして、①ポジティブ(前向き)で未来志向であるか、②弱点克服に偏りすぎていないか、③周りの引力に負けていないか、④スタイルがオンリーワンになっているか、⑤スタイルを発揮する状況をイメージできているか、の5つを挙げています。そして、自らの経験から、個人面談を通して、選手の短所に光を当ててあげ、相手の懐に入り込み、ワンサイズ大きなスタイルを目指させることで、お互いにとってエネルギーとなる面談となるとしています。また、フォロワーが自分たちで課題を見つけ、解決していくために欠かせないチームトークを推進するために必要なスキルと心構えについても述べています。

 第6章は、フォロワーの立場になって、どう組織を支えていくかが論じられています。ここではまず、組織と人間の関係性に注目し、日本と西洋における個人と組織の一般的な捉え方を比較したうえで、フォロワーの5つの選択肢として、①自分自身の個としての成長を最優先、②仲間(フォロワー)と共に成長する、③リーダーを成長させる、④リーダーを変える、⑤組織を脱退する、の5つを挙げ、前2つのパターンがフォロワーのためのフォロワーシップ行動であり(第6章で解説)、後3つは「フォロワーのためのリーダーシップ」の考え方であるとしています(第7章で解説)。そして、自分自身の個としての成長を考えるには、まず、フォロワーであることのメリットを理解しておくことが重要であるとし、また、自分だけでなく、仲間と共に成長したいと思った場合は、組織に存在する課題をプロジェクト化するとよいとしています。

 第7章は、フォロワーが考えるリーダーシップ論です。ここでは、リーダーのプライドをコントロールすることを説き、その一つの方法として、リーダーそのものの人格ではなく、リーダーと言う立場に敬意を払うポジションリスペクトという考え方を紹介しています。

 2009年刊の本書旧版の巻末にある「おそらくこれから数年の間に、多くの組織においてリーダーシップからフォロワーシップへと議論の焦点が移行するだろう」という著者の予測は、当たったと言えるかと思います。ただし、著者も指摘しているように、トップダウン型のリーダーシップは目に見えやすく、一方で、フォロワーシップは、努めて目を凝らさなければなかなか見えてこない面があり、ラグビーチームの監督としての著者自身の経験に基づいて書かれた本書は、そうした意味ではその見えにくい部分を、著者なりの切り口で可視化して解説しているように思いました(何よりも実績があるので説得力がある)。

 スポーツチームの監督がチームが優勝したりして本を出すのはよくあることですが、本を出した次の年にはリーグなどで最下位だったりすることもあり、個人的には何となくそうした本を読むことに対してそう積極的でなかったです。そうしたこともあり、本書も刊行時にはすぐに読みませんでしたが、こうして新版を読んでみると、この著者の本は当時から「ビジネス書」(ビジネスの世界に応用可能な普遍性を有する本)だったのだなあと思いました。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2724】 中竹 竜二 『新版 リーダーシップからフォロワーシップへ
「●日経プレミアシリーズ」の インデックッスへ

部下を不調に追いやる「危険な上司」4タイプの特徴と対処法を分かりやすく説く。

『上司が壊す職場』.JPG上司が壊す職場.jpg  「新型うつ」な人々.jpg 劣化するシニア社員ード.jpg
上司が壊す職場 日経プレミアシリーズ』 『「新型うつ」な人々 (日経プレミアシリーズ)』『劣化するシニア社員 (日経プレミアシリーズ)

 本書は、産業カウンセラーであり、本書と同じ日経プレミアシリーズにも『「新型うつ」な人々』(2011/06)、『劣化するシニア社員』(2014/02)などの著書がある著者が、自身のカウンセラーとしての経験則をもとに、部下を不調に追いやる上司の特徴とその対処法に分かり易く説いた本です。

 第1章では、職場におけるメンタル不調の7割は、上司が原因で起こるとしています。そして、部下を不調にさせる管理職のおよそ半分(全体の3分の1)は、マネジメント能力の未熟さ、つまり「スキル不足」の問題を抱えているとしています。一方、残りの3分の1は、上司自身の特性、つまりキャラクターに偏りがあるケースであるとし、本書ではこの部分に注目し、このタイプを「危険な上司」と呼び、こうした上司が存在するだけで、そこは「心が折れる職場」となるとしています(「『部下も悪い』と考える会社は危ない」とも言っている)。

 著者は、そうした危険な上司は、自身に問題がある自覚もなければ、罪悪感もなく、他人に気を配れず、他罰的で、極度に「自己中心」な思考をする傾向にあり、無自覚にパワハラ問題を起こし続けるとしています(「『自然な言動』で部下を追い込む」と言っている)。そのうえで、「危険な上司」を、周囲が目に入らず、空気が読めない「機械型」、相手を"敵"と認識すると感情的に攻撃する「激情型」、常に賞賛を浴びたい、特別視されたい「自己愛型」、部下の気持ちよりも自己の目的を重視しすぎる「謀略型」の4タイプに分類し、第2章から第5章の各章で、それぞれのタイプを詳説するとともに、その対処法を示しています。

 「機械型」は、興味の幅が狭く、段取りが下手で、普段は部下の仕事に全く関心がないのに、融通は利かず、どうでもよいことを細かく注意してくるタイプです。周囲の目を気にせず、荷物が多くカバンがぱんぱん、デスクが異様に散らかっているか、逆にクリップ一つないほど片付き過ぎている人にこのような特徴が出やすいとのことです(その性格が変わらない場合は、「うちの上司はそういう人」と割り切って考えるのがお勧めとのこと)。

 「激情型」は、部下の些細な一言で、突然逆上し、罵声をあびせかける典型的なパワハラ上司で、自分が信頼する人にはとことん尽くすが、それが裏切られたと感じると、感情のコントロールができなくなって相手を攻撃してしまうタイプです。会社や職場への不満を話し出したら止まらず、何事も根に持ちやすいとのことです。ひどいケースでは、激昂の末に暴力を振るう場合もあり、こうなるとパワハラの域を超えるとしています(そもそも、激情型の人を上司に就かせないよう、会社側は見きわめる必要があると)。

 「自己愛型」は、「あの人は有能だ」と思われることが本人にとっての最大目標であり、「部下の手柄は自分の手柄」と考えているのに、自身のミスは、その責任を平気で部下へ押し付けるタイプです。電話の声が必要以上に大きく、周りに聞こえるように仕事を進めたり、「忙しさ自慢」をしてきたりするなど、面倒くさい「かまってちゃん」が多いとのことです(賞賛をし続ければ敵意の対象とはされないため、部下側の対応は比較的容易だと)。

 「謀略型」は、支配欲や権利欲がとても強く、「邪魔」と感じた部下は躊躇なく切り捨てられる「最も危ないタイプの上司」であり、他のタイプは自身の感情をコントロールできないため、部下や組織を壊してしまうという側面があるが、このタイプは、自分の目標を達成するために「理知的」に行動しているのが特徴。結果のためには手段を選ばず、部下の弱みを最大限利用し、自分のせいで部下がつらい目にあっていても良心が痛むことがない。口がうまく、自分を「できる上司」だと演出するのを得意とする人が多いとのことです(部下側の対処が最も難しいタイプで、「離職者の続出、職場の澱んだ空気」の責任者であると)。

 第6章では、こうした「危険な上司」がカウンセリングなどを通して変われるか、もし行動様式を変えようとするならば、どのようなカウンセリング内容になるかを、専門家の立場から4つのタイプごとに解説しています。また、こうした個別対応もさることながら、「危険な上司」を生み続け、メンタル不調者を多く出す組織、いわば「危険な会社」というものも多く目につくとしています(「危険な上司」の類型を大まかにでも理解しておけば、自らの職場で起こっている問題を明示的に認識する助けとなるが、最終的は組織的な取り組みが求められるということになる)。

 そこで、最終章の第7章では、「危険な上司」を生まない会社になるにはどうすればよいか、幾つかの提言をしています。この中で、ある職場で問題を起こしたりした上司を、同じ職位のまま別の職場に「たらい回し」するのは、問題の先送りであるとしています。また、ライン管理職中心の人事を見直すべき時代にきているのではないかとも述べています。

 本書では、カウンセリングの手法を示しつつも、カウンセラーの立場でできることには限界があり、「人事上の判断」でしか、真の解決はできないとしています。また、各章で、誰を管理職に登用するかの判断が非常に重要になってくるとしています。意外と、パワハラ上司になる危険性というのは、管理職登用に際してはあまりチェックされなかったりすることもあるのではないか思われます。その意味では教唆的な内容であり、人事パーソンとって自らの気づきを促すために一読してみるのもよいかと思います。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2723】 見波 利幸 『上司が壊す職場

前著『最前線のリーダーシップ』の実践編と言えるか。

最難関のリーダーシップ.jpg ハーバードリーダーシップ白熱教室2.jpg ハーバードリーダーシップ白熱教室.jpg
最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意志とスキル』ロナルド・A・ハイフェッツ in NHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)
最前線のリーダーシップ
最前線のリーダーシップ.jpg 本書(原題:Practice of Adaptive Leadership: Tools and Tactics for Changing Your Organization and the World、2009)は、ハーバード・ケネディスクールの教授らによるもので、著者の一人ロナルド・ハイフェッツ教授はNHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)で知られています。また、本書は、ハイフェッツ教授の『リーダーシップとは何か!』('96年/産能大学出版部、原題:Leadership Without Easy Answers、1998)や『最前線のリーダーシップ』('07年/ファーストプレス、原題:Leadership on the Line: Staying Alive Through the Dangers of Leading" 2002、マーティ・リンスキーとの共著、先月['18年10月]新訳版刊行)の続編とも言える内容であり、前著で培われてきた考えを更に推し進め、「アダプティブ・リーダーシップ」というものを強く提唱するものとなっています。

 本書の第1部「イントロダクション:目的と可能性」の第2章で、アダプティブ・リーダーシップとは、難題に取り組み、成功するように人々をまとめあげ動かしていくことであるとしており、リーダーシップで失敗する最大の原因は、「適応課題」(問題の当事者が適応することによってのみ前進させられる課題)を「技術的課題」として対処してしまうことにあるとしています。そして、アダプティブ・リーダーシップでは、観察、解釈、介入という3つの主要な活動を反復するとし、ステージごとに、そのコツを身につけることが大切であるとしています。以下、第2部から第5部にかけてが、そのプロセスの実践編となっています。

 第2部「システムを診断する」では、第5章で、観察によってシステムをどのように診断するか、技術的要素と適応要素はどう判断するかを述べ、適応課題の類型を示しています。第6章では、政治的状況をどう診断するか、第7章では、適応力の高い組織にはどのような特性があるのかを述べています。

 第3部「システムを動かす」では、第8章で、システムを解釈する際の方法を述べ、第9章で、効果的な介入をどうデザインするのかを述べています。そして、第10第では政治的に行動する方法を、第11章では対立を組織化する方法を、第12章では適応力の高い文化を構築する方法を述べています。

 第4部「自分をシステムとして認識する」では、第13章で、どのようにして自分自身に目を向けるかを述べ、第14章では自分自身の忠誠心を特定する方法を、第15章では自分自身のチューニングを確認する方法を説いています。更に、第16章では自身の能力の容量を広げるにはどうすればよいか、第17章では自身の役割をどう把握するか、第18章ではどうやって目的を明確にするかを述べています。

 第5部「自分を戦略的に動かす」では、第19章で、目的とつながり続けることの、第20章で勇気をもって参画することの、第21章で人を鼓舞することの重要性とコツをそれぞれ説き、第22章では、リーダーシップを一つの実験として考える考え方を提唱しています。そして、最後の第23章では、成長し成功するためのポイントを述べています。

 著者の前著『最前線のリーダーシップ』では、「ダンスフロアから1歩出てバルコニー席に上がる」という表現を用いて、まず起きていることの全体像を知るべきであるとしていましたが、本書では、第2部以降、アダプティブ・リーダーシップにおける、観察、解釈、介入というプロセスの解説を進めていくうえで、随所で「バルコニーにて」というコーナーで観察すべきポイントを示し、「現場での実践演習」というコーナーで、実験へのヒントを紹介しています。それらヒントは啓発的であり、納得性が高いように思いました。

 第12章で、適応力の高い組織の特徴として、「エレファント(Elephant in the room):重大な問題でその場にいる誰もがその存在を認識しているが、見て見ぬふりをされているもの」の指摘が日常的行動としてなされていることをトップに挙げているのが個人的に印象に残りました。

 また、システムの診断と併せて、自分自身をシステムとして認識することを説いているのは興味深かったです(第2部がシステムの診断、第3部がシステムを対象とした行動、第4部が自分自身の診断、第5部が自分自身を対象とした行動について書かれていることになる)。一方で、スキルに比重を置いてはいるものの、全体を通しては、オーソドックスなリーダーシップ論であるようにも思いました(突飛なことは何一つ言っていない)。但し、示された多くのヒントは大いに啓発的であると思います。

 個人的には、『最前線のリーダーシップ』(個人的評価は◎)から先に読んだのが良かったかもしれません。『最前線のリーダーシップ』も、リーダーシップ行動に伴う危機をどう乗り越えるのか、その方法や技術について説いた本でしたが、『最前線のリーダーシップ』の方がよりコンセプチュアルで、本書の方は、それに比べると("実践の書"を謳っている分)テクニカルかもしれません。本書単独で読んでも得られるものは少なからずあるかと思います(但し、実践してこそ意味があることを忘れてはならない)。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3456】 コリン・パウエル/他 『リーダーを目指す人の心得 文庫版』《再読》

「科学的モチベーション論」入門。モチベーションの有無よりその理由に注目。

会社でやる気を出してはいけない』.JPG会社でやる気を出してはいけない.jpg  Susan Fowler.jpg Susan Fowler
会社でやる気を出してはいけない』[下]自著「Production-Ready Microservices」を紹介するスーザン・ファウラー氏(LinkedInより)
Susan Fowler2.jpg 世界30カ国以上の国々でリーダーシップ・コンサルタント、コーチとしての仕事に携わった実績を持つという著者による本です(前歴として、エンジニアとして米Uberに約1年勤務し、Uber内部でのセクハラやそれを放置した人事部について自身のブログで暴露したことでも知られる)。タイトルは刺激的ですが(原題"Why Motivating People Doesn't Work...and What Does")、本書のベースにある考え方は、「人間はどんな時でもモチベーションを持っている」ということ、問題は「モチベーションに有無ではなく、モチベーションの理由」であって、「仕事へのモチベーションがあればあるほど望ましいという考え方」は、単純すぎるどころか馬鹿げている」というものです。モチベーションには科学的な裏付けがあり、「科学的にモチベーションをマネジメントする方法」を示したものが本書であるとのことです。

 第1章「モチベーション・ジレンマ」では、他人のやる気を引き出そうとしてもうまくいかない理由を解明し、その代替案となる「モチベーション・スペクトラム」というものを提案しています。モチベーション・スペクトラムとは、横軸に「心理的欲求」、縦軸に「自己制御力」を取り(この「心理的欲求」と「自己制御力」については第2章、第3章で改めて解説している)、その高低によって「無関心」「外発的」「義務的」「協調的」「統合的」「内在的」の6種類のモチベーションタイプを配したもので、前3タイプを「後ろ向きタイプ」、後3タイプを「前向きタイプ」のモチベーションとしています。

 第2章「モチベーションっていったい何?」では、人間に備わっているモチベーションの本質を知り、それを利用することで得られるメリット、それを省みないことによる代償を明らかにしています。ここでは、モチベーションの本質とは、「自律性」「関係性」「有能感」を満たしたいという人間の「心理的欲求」であるとしています。

 第3章「何かに駆り立てられる『ドライブ』の罠」では、結果を出そうとがむしゃらにならなくても、なぜかよりよい結果が出せる方法を紹介しています。そこで鍵になるのは「自己制御力」ですが、「マインドフルネス」「価値観」「目的」の3つが自己制御力を育む手段となるとしています。

 第4章「モチベーションはスキル」では、自らのモチベーションの質を変えていくために個人がなすべきことと、そのために役立つスキルとして、①現在のモチベーションタイプを見きわめる、②前向きタイプのモチベーションにシフトする、③自らを振り返る、という3つを挙げています。

 第5章「モチベーションをシフトする」では、部下のやる気をより質の高いものへと変えていくためのリーダーの会話術を披露し、第6章「前向きなモチベーションへのシフトを阻む5つの固定観念」では、リーダーとしての言動に悪影響を及ぼしている固定観念や価値観を見定め、部下が前向きなモチベーションを持てるよう促し支援する最善策を紹介しています。第7章「前向きなモチベーションが約束するもの」では、モチベーションに対する新たなアプローチに秘められた可能性を、「組織」「リーダー」「職場での成功を目指す人」の3つの観点から考察しています。

 前半部分が理論編で、後半にかけて実践編になっていくという感じでしょうか。全編を通じて事例を織り込んで解説しているため、読みやすいものとなっています。「マネジメントは科学である」というアメリカ的な考え方が、モチベーションも同様に科学的裏付けがあり、モチベーションを科学的にマネジメントすることで、自分や相手のモチベーションを前向きなものにすることが可能となる、という考え方に敷衍されている本と言えるのではないかと思います。

 これはこれで一つの考え方であると思いますが、「マズローの欲求五段階説」など古典的理論に拘泥されない新しいモチベーション理論であり、自分自身にも相手にも、またチームやプロジェクトにも当てはまる考え方でもあるように思いました。一方で、"理論書"というよりむしろ"啓蒙書"として読める面も多くあるかもしれません(個人的には多分にそう読んだ。リーダーに対する警句がいっぱい出てくる)。確かに、科学的なモチベーション論と精神論の境界は難しいように思いますが、本書において言語化された概念を、もう一度自らの頭の中で再整理してみるもの、その「科学的モチベーション」に一歩近づく手立てではないかと思います(帯に「『科学的モチベーション』のはじめ方」とある)。

 "啓蒙書"として読むと楽に読めるけれど、"理論書"として読むと結構コンセプチュアル・スキルを要する本であったかもしれません。

《読書MEMO》
●人はいかなる場合でもモチベーションを持っています。問題はやる気があるかどうかではなく、なぜやる気があるかなのです。
●リーダーとしてなすべきは、職場で部下が関係性を実感できるように計らうことです。それは、互いに尊重し合っていると思えるよう、誠意をもってつながっていると感じられるよう、自分より大きなものに貢献できるよう導くことにほかなりません。
●人のやる気を引き出そうとしてもうまくいかないのは、関係性を感じるよう他人に無理強いすることができないからです。
●従業員は職場に関して、頼りになるか否か、安心できる場か不穏な場か、信頼できるか否か、というふうに絶えず評価を下しています。そして、信頼性があり安心できる職場環境のほうが高い自己制御能力を持てる可能性がずっと大きいのです。
●皮肉にも、後ろ向きタイプのモチベーションが生み出すエネルギーは中毒性を持っており、それと同時に人を疲弊させます。(中略)マイナスのエネルギーを維持するには、原因を問わず、怒りを燃やし、失望し続けるしかありません。
●前向きタイプのモチベーションが持つエネルギーは、後向きタイプのモチベーションが放つマイナスのエネルギーにはけっしてかないません。
●価値観は高い自己制御力を支える柱です。それなのに、仕事に関して自分はどんな価値観を持っているかと疑問を抱き、深く考えたことのある人はほとんどいません。
●従業員は外発的モチベーションに夢中になると、他人や物に操られるようになり、知らず知らずに自律性を失ってしまうのです。
●人は、自律性を損ねるような職場をつくるリーダーに対して憤りをかんじます。そのうえ、結果を出せと部下を追い立てる上司を利己的だとみなします。
●どんな感情でも容認するが、どんな行動でも容認できるわけではない、という姿勢を持ちましょう。感情を察知し、それを受け入れ、対処するのです。
自らの心の声に耳を傾けて、感情が重大な役割を果たしていることを認めて、自己制御力を鍛えてください。
●権力を手にしたのだから、けっしてそれを使ってはいけない。優れたリーダーになれるのは信頼と尊敬を集めるからであって、権力があるからではない
●リーダーとは部下が心理的欲求を満たしうる職場づくりを担う人間である。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2721】 スーザン・ファウラー 『会社でやる気を出してはいけない
「●人材育成・教育研修・コーチング」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(リズ・ワイズマン)

ルーキーの強み(ルーキー・スマート)はリーダーにこそ求められる。

ルーキー・スマート6.JPGルーキー・スマート.jpg  メンバーの才能を開花させる技法.jpg リズ・ワイズマン.jpg
ルーキー・スマート』『メンバーの才能を開花させる技法』リズ・ワイズマン
Liz Wiseman Recognized By Thinkers50 As Top Leadership Thinker
リズ・ワイズマン 2.jpgオラクル.png 著者のリズ・ワイズマンはオラクルで長年人材育成に携わった人で、前著『メンバーの才能を開花させる技法』('15年/海と月社)では、リーダーの2つの類型として「消耗型リーダー」と「増幅型リーダー」があり、消耗型リーダーは自分の知性に溺れ、メンバーを低く見て、組織にとって大切な知性と能力を損ない、一方、増幅型リーダーはメンバーの知識を引き出すことで、組織の中に伝染力のある集合知を築くとしていました。

 本書では、はじめて経験する課題に取り組むルーキーに着目し、ルーキーの潜在力に目覚め、彼らをもっと活用することを説いています。さらには「だれもが永遠にルーキーでありつづけられる」として、自分自身もマンネリと決別し、ルーキーならではの強み(ルーキー・スマート)を身につけることを勧めています。そして、これまでの「経験」に「ルーキーのパワー」が加われば、個人としても組織としても非常に強みを発揮できるようになるとしています。

 第1部「ルーキー・スマートを手に入れる」の第1章では、著者らの調査からわかったこととして、はじめて経験する課題に取り組むルーキーは、目覚ましい成果を上げることができ、多くのベテランと肩を並べ、イノベーションが求められる局面などではベテランを凌駕することも多いが、そうした自覚あるルーキーの示す思考・行動にはパターンがあるとしています。著者はそれを「ルーキー・スマート」と名づけ、ルーキー・スマートには、「バックパッカー」「狩猟採集民」「ファイアウォーカー」「開拓者」の4つのモードがあり、同じ人が局面ごとにさまざまなモードに入るとしています。そして、第2章から第5章にかけて、各モードとその思考パターンを解説しています。

 「バックパッカー」とは、重荷がなく、失うものがない者のことを指し、ベテランが"守り"思考であるのに対して、ルーキーは無制約で自由な思考で動くことができるとしています。「狩猟採集民」とは、知識や専門技能が未熟であるため、周りの世界を理解しようと努め、導きを求めて他の人の力を借りようとする特性を指しています。「ファイアウォーカー」とは、自信がないため慎重に、かつ同時に、あたかも初心者の火渡りのように素早く行動する特性を指しています。「開拓者」は、地図に記されていない、しばしば不快な土地に乗り出していく者を指し、"定住者"であるベテランと違って、未知の世界へ乗り出すために、ハングリーで絶えず精力的に行動する特性を指しています。

 第2部「ルーキー・スマートの育み方」の第6章では、「永遠のルーキー」であるための資質として、好奇心、謙虚さ、遊び心、計画性の4つを掲げています。第7章では、ルーキー・スマートは若者や未経験者だけのものではなく、どんなに経験や実績が豊富な人でも自分を再生させ、ルーキーへ回帰できるとして、それを実現するための4つの戦略(①リーダーから学習者へ、②非快適ゾーンに足を踏み入れる、③小さな行動をとる、④若々しさを取り戻すための手順を確立する)を示しています。

 第3部「人に続いて組織も変わる」の第8章では、リーダーがルーキーを活かすための方法として、①方向性を示したうえで自由を与える、②建設的な「ミニ試練」を与える、③安全ネットつきの綱渡りをさせる、の3つを挙げています。また、ルーキーとベテランの効果的な組み合わせ方法や、チームや組織にルーキーらしさを取り戻す方法についても述べています。

 全体を通して、調査に基づいて書かれているため説得力があります。ルーキーに着目した本ですが、著者の専門はリーダーシップの実践的研究であり、本書におけるルーキー・スマートも、最終的には年齢的な枠を超えた特性的なものであって、むしろ、リーダーが柔軟な思考や果敢な行動力、挑戦者の精神を失わないためにはどうすればよいかを説いた本であるように感じられました。ルーキーの強み(ルーキー・スマート)はリーダーにこそ求められるという意味で、たいへんユニークな視座を提供していて、啓発度は高かったように思います。<

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2720】 リズ・ワイズマン 『ルーキー・スマート
「●人材育成・教育研修・コーチング」の インデックッスへ 「●PHPビジネス新書」の インデックッスへ

目新しいことが書かれているわけではないが、再啓発される部分はあった。

フィードバック入門es.jpgフィードバック入門5.JPGフィードバック入門.jpgフィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術 (PHPビジネス新書)』['17年]

 本書では、上司から部下へのフィードバックについて、フィードバックは「成果のあがらない部下に、耳の痛いことを伝えて仕事を立て直す」部下指導の技術であるとし、コーチングとティーチングのノウハウを両方含んだ、まったく新しい部下育成法であると捉えています。

 第1章「なぜ、あなたの部下は育ってくれないのか?」では、マネジャーが置かれている部下育成が困難な現況を分析し、フィードバックこそ最強の部下育成方法であり、フィードバックは、【情報通知】(ティーチング的)=たとえ耳の痛いことであっても、情報や結果を通知すること(現状を把握し、向き合うことを支援)と【立て直し】(コーチング的)=部下が自己の業績や行動を振り返り、行動計画をたてる支援を行うこと(振り返りと、アクションプランづくりの支援)から成るとしています。

 第2章「部下育成を支える基礎理論 フィードバックの技術 基本編」では、部下育成の基礎理論として「経験軸」と「ピープル軸」を掲げ、「経験軸」の考え方は、部下に適切な業務経験を与え、ストレッチゾーン(挑戦空間)を促すことであり、「ピープル軸」の考え方は、「業務支援」「内省支援」「精神支援」による面の育成であるとしています。そして、フィードバックとの関係では、【情報通知】=経験軸+ピープル軸「業務支援」、【立て直し】=ピープル軸「内省支援」+「精神支援」となるとし、耳の痛いことを伝えて耐え直すフィードバックの技術を、フィードバックのプロセス順に解説しています。

 第3章「フィードバックの技術 実践編」では、「あなたは、相手としっかりと向き合っているか?」「あなたは、ロジカルに事実を通知できているか?」などフィードバックの実践における5つのチェックポイントと、フィードバック前には必ず「脳内予行演習」すること、フィードバックの内容も記録することなど、フィードバックの8つのTips(コツ)を示しています。

 第4章「タイプ&シチュエーション別フィードバックQ&A」では、すぐに激昂してしまう「逆ギレ」タイプや何を言っても黙り込む「お地蔵さん」タイプ、から目線で返される「逆フィードバック」タイプなど、部下のタイプ&フィードバックのシチュエーション別に、上司がそれらにどのように対処すべきかを、Q&A形式で解説しています。

 第5章「マネジャー自身も成長する! 自己フィードバック・トレーニング」では、フィードバック力をつける2つのポイントとして、自分自身のフィードバックを客観的に観察することと、自分自身もフィードバックされる機会を持つことを挙げ、フィードバック力をつけるトレーニング方法や自分自身をフィードバックし続けるコツを紹介しています。

 前半部分はややコンセプチュアルですが(米国のビジネス書によく見られるタイプか)、後半になればなるほどマニュアル的になり、実践を意識した入門書になっています。全体としては、フィードバックの考え方やチェックポイントを、著者なりにその研究の成果に基づいてまとめたものであると言えます。ものすごく目新しいことが書かれているわけではないけれども、一つのコンセプトのもとに体系的に整理されていることによって、改めて啓発される箇所はそれなりにあったという印象です。中には分かっていてもそれを実践するのがなかなか難しいのだと言いたくなるような箇所もあるかもしれませんが、それが習得できればそれなりに役立ち、十分に効果的であると思われます。そうした意味では、自己啓発のつもりで読んでみるのもいいのではないかと思います。

《読書MEMO》
●フィードバックのプロセス(第2章)
・事前......SBI情報の収集⇒「1to1」を中心に
・フィードバック
①信頼感の確保
②事実通知」鏡のように情報を通知する
③問題行動の腹落とし:対話を通して現状と目標のギャップを意識化させる
④振り返り支援:振り返りによる真因探究、未来の行動計画づくり
⑤期待通知:自己効力感を高めて、コミットさせる
・事後......フォローアップ
●フィードバックの実践 5つのチェックポイント(第3章)
1.あなたは、相手としっかりと向き合っているか?
2.あなたは、ロジカルに事実を通知できているか?
3.あなたは、部下の反応を見ることができているか?
4.あなたは、部下の立て直しをサポートできているか?
5.あなたは、再発予防策をたてているか?
●フィードバックにまつわる8つのTips(コツ)(第3章)
Tips①:フィードバック前には必ず「脳内予行演習」
Tips②:フィードバックの内容も記録する
Tips③:耳の痛いことを言った後で無駄に褒めない
Tips④:フィードバックは「即時」と「移行期」にこそ行う
Tips⑤:フィードバックの沈黙時には時空間を変える
Tips⑥:フィードバックの強烈なストレスと向き合う方法
Tips⑦:「嫌われるもの仕方がない」という覚悟を持とう
Tips⑧:どうしてもフィードバックが難しいときもある
●タイプ&状況別フィードバックQ&A(第4章)
・すぐに激昂してしまう「逆ギレ」タイプ
 ⇒こちらから具体的に改善策を聞く
・何を言っても黙り込む「お地蔵さん」タイプ
 ⇒こちらも負けじと黙り込む
・上から目線で返される「逆フィードバック」タイプ
 ⇒「もし君が上司だったら~」と仮定法で意見を求める
・言い訳ばかりしてくる「とは言いますけれどね」タイプ
 ⇒どんどんしゃべらせて、矛盾を炙り出す
・「根拠なきポジティブ」タイプ/すぐに「大丈夫です!」タイプ
 ⇒なんとかなると思う理由を具体的に聞く
・別の話題にすり替える「現実逃避」タイプ
 ⇒根気よく話を元に戻して、何度でも同じことを述べる
・上司のお前が間違っている! 「思い込み」タイプ
 ⇒部下の日頃の行動を元に具合的に指摘する
・なんでも他人のせいにする「傍観者」タイプ
 ⇒「傍観者に見えるよ」とそのまま指摘する
・都合よく解釈する「まるめとっちゃう」タイプ
 ⇒「私の言いたいことはそうではない」とはっきり言う
・お膳立てしても挑戦しない「ノーリスク」タイプ
 ⇒「挑戦しなくてもいいけど、現状維持はできないよ。このままだとこうなるよ」と伝える
・昔取った杵柄を振りかざす「元○○の神様」タイプ
 ⇒「立場上、私はこう言わざるを得ないのですが」と前置きしてから、素直に述べる
・前評判と働きが違う「他では優秀」タイプ
 ⇒「郷に入れば郷に従え」とはっきり伝える
●フィードバック力をつけるトレーニング方法(第5章)
・模擬フィードバック......自分おフィードバックの観察
・アシミレーション......部下による上司へのフィードバック方法
・社外でのフィードバック......社内の人間関係では得られないスパイシーなフィードバックを受ける
●自分自身をフィードバックし続けるコツ(第5章)
・ピーターの法則......「人は無能になるまで出世する」
・「緊張屋」と「安心屋」
  「緊張屋」......厳しいフィードバックをしてくれる人
  「安心屋」......精神的支援をしてくれる人
   ⇒両者のバランスが大切

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2786】ロバート・スティーヴン・カプラン 『ハーバードのリーダーシップ講義
○経営思想家トップ50 ランクイン(ジェフリー・フェファー)

「リーダー神話」は百害あって一利なし!リーダーシップ教育と現実のギャップを浮き彫りに。

悪いヤツほど出世する4.JPG悪いヤツほど出世する.jpg    悪いヤツほど出世する 文庫.jpg
悪いヤツほど出世する』 『悪いヤツほど出世する (日経ビジネス人文庫)

 2017年の「経営思想家トップ50(Thinkers50)」において"殿堂入り"したジェフリー・フェファーの、既刊『「権力」を握る人の法則』('14年/日経ビジネス文庫)の続編に位置付けられる本であるとのことで、リーダーシップに関する従来の知識やリーダーシップ研修の類が実際の職場で役に立たないのはなぜかを探り、リーダーシップについて読者の再考を促しています。

 第1章では、「リーダー神話」は百害あって一利なしとして、リーダーシップに関する本やブログが数十年にわたって精力的に書かれ、講演や研修が盛んに行われているにもかかわらず、職場の実態もリーダーの質も上がっていないことを指摘し、科学的なデータや調査よりも感動体験を求めることにその一因があるとしています。

 そのうえで、続く五つの章で、リーダーシップにとって欠かせないとされている五つの要素―謙虚さ、自分らしさ、誠実、信頼、思いやり―を取り上げ、これらの資質が組織や集団にとって望ましい資質であるには違いないが、第一に、これらの資質を多くリーダーが備えているという証拠はあるのか、第二に、リーダーシップ教育産業が推奨することと反対の行動をとるほうがむしろ賢明に見えるのはなぜかを考察しています。

悪いヤツほど出世する81.JPG 第2章では、「謙虚さ」について、そもそも控えめなリーダーはいるのかという疑問を呈し、むしろ自信過剰な方が成功しやすく、過剰な自信は時に大事であり、ナルシスト型の行動は出世に有利であるとしています。

 第3章では、「自分らしさ」について、そもそも「真の自分」は存在するのかという疑問を呈し、「自分らしさ」は臨機応変に捨てるべきであり、つねに自分らしさを前面に押し出すリーダーシップは有効ではないとしています。

 第4章では、「誠実」について、もちろん真実を語るリーダーはいるが、たいていのリーダーは嘘をつくものであり、嘘をついて損をすることは滅多になく、むしろ、嘘がよい結果をもたらすこともあるとしています。

 第5章では、「信頼」について、現代のリーダーが信頼を得ているとは言いがたく、ただし、信頼を踏みにじってもリーダーは罰せられないことが多く、むしろ人を信頼しすぎると損をすることがあるとしています。

 第6章では、「思いやり」について、リーダーの多くは「社員第一」ではなく「我が身第一」であり、リーダーを部下思いにすることを期待するならば、エージェンシー理論に基づき適正な測定とインセンティブを導入すれば、少しは改善されるだろうとしています。

 第7章では、自分の身は自分で守らねばならないということを強調し、第8章では、リーダー神話を捨てて、真実に耐えるべきであるとしています。そして、現実と向き合うためのヒントとして、「こうあるべきだ」(規範)と「こうである」(現実)を混同しない、他人の言葉ではなく行動を見る、ときには悪いこともしなければならないと知る、普遍的なアドバイスを求めない、「白か黒か」で考えない、許せども忘れず、の6つを挙げています。また、リーダーシップを巡る問題点は、リーダーの発言と行動の不一致や行動と結果の不一致、リーダーシップ教育と現実の不一致など不一致の問題であり、不一致を一致に変えるためには、現実に根ざした努力が必要であるとしています。

人材を生かす企業.jpg人材を活かす企業―「人材」と「利益」の方程式.jpg 著者は「スタンフォード大学の人気教授」と帯にありますが、日本でも、90年代に刊行されたその著書『人材を生かす企業―経営者はなぜ社員を大事にしないのか?』が2000年代に入って再び翻訳され(『人材を活かす企業―「人材」と「利益」の方程式』』)読まれるなど、単なる人気教授と言うより「カリスマ教授」に近いのではないでしょうか。誰もが薄々思っていることを、データや実例をもとに解き明かし、リーダーは部下思いで、謙虚・誠実であるべきだといった「神話」を妄信として打ち砕いていく様は爽快でもあり、読み易い啓発書ですが、一方で、リーダーシップ教育と現実のギャップを浮き彫りにもしており、考えさせられる本でした。

 処世術的な読み方と組織行動論的な読み方ができる本ですが、これでいくと、リーダーに依存しすぎるのはよいことではなく、今後は権力分散型の組織が望ましいということになるのでしょうか。

 邦訳タイトルといい装丁といい若干「売らんかな」系(?)に見えなくもないですが、原題は「Leadership BS: Fixing Workplaces and Careers One Truth at a Time」。「BS」はBull Shit(=デタラメ)の略語で、直訳に近い訳だと「リーダーシップの嘘:職場とキャリアを1つずつ改善するために」となるようですが、Bull Shitの語感からは「嘘っぱち」と訳した方が近いのかも。「悪いヤツほど出世する」は更なる意訳ですが、これも内容的にはみ出した訳とは必ずしも言えないようです。善意に解釈すれば、よりアイロニカルな意味合いが込めたのでしょう。

【2018年文庫化[日経ビジネス人文庫]】

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2718】 ジェフリー・フェファー 『悪いヤツほど出世する
「●マネジメント」の インデックッスへ 「●ちくま新書」の インデックッスへ

基礎理論を学ぶことの重要性を説いていることに共感。初任管理職などには示唆に富む本。

即効マネジメント2.jpg即効マネジメント.jpg即効マネジメント: 部下をコントロールする黄金原則 (ちくま新書)』['16年]

 著者の既刊『無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論』('15年/プレジデント社)の姉妹編で、前著で扱った、部下のやる気をどう出させるか(「個」のマネジメント)というテーマと組織全体の活気をどう保つか(「組織」のマネジメント)というテーマのうち、前者に的を絞り、より細かく解説を加えたものであるとのことです。

 本書での理論解説のベースに置いているのは、ハーズバーグやマズローをはじめとする大家と呼ばれる7人の研究者の理論であり、とりわけ、著者が薫陶を受け、元気・勇気・やる気にあふれるリクルートの組織風土を生み出した大沢武志(1935-2012)氏の実践的理論を基礎に置いているとのことです。

 著者は、マネジメントというものを1つの型にはめる必要はなく、むしろ基礎理論を覚えることが重要であるとして、本書では、そのための基礎理論を「明日から使えるように、実践的で簡単な法則」にしたとし、それが、「2W2R(What・Way・Reason・Range)」と「三つのギリギリ」であるとしています。

 第1章では、「やる気」には内発的動機と外部誘因があるが、社員の内発的動機を高めれば企業は強くなるとし、では、その内発的動機はどのようにすれば高まるのかを、ハーズバーグの「満足要因と衛生要因」説などを用いて説明していて、それには「機会」を与え「支援」することが必要であるとしています。

 第2章では、部下にどのような機会を与えそれをいかに支援するかを解説し、指導の基本は2W(What・Way)であり、手本やなどできっちり「What」を教えるのも必要だが、それよりも、その通りにやれば誰でもうまくできる成功の道筋=「Way」を教えることが重要であるとしています。また、教えるに際しては、その理由や目的(Reason)を伝えることが大切で、それが部下の自律への入口になるとしています(ここまでで「2W1R」となったわけだが、もう1つのRについては後述されることになる)。更に、部下に機会を与える際には、「できるかできないかギリギリの線を示す」「経験や得意技を活かす場を残す」「逃げ場をなくす」という「三つのギリギリ」が重要であるとしています。

 第3章では、やる気を絶やさない秘訣として、目標はすぐにくずれるので、そのたびごとに刻み直すこと、そのためにも、上司は常に部下を見てSOSや慢心を見逃さないこと、更に、横の見通し(今の仕事は周囲にどんな影響を与えているか)と縦の見通し(今の仕事は将来のキャリアにどんな影響を与えているか)をつけることが重要であるとしています。

 第4章では、もう1つのRであるRange(範囲)について述べており、成長が実感出来るように踊り場(自遊空間)を作って思いっきり羽を伸ばせるようにしてあげること、階段を刻み、踊り場で遊ばせることが大切であることを、D・マクレガーの「XY理論」や三隅二不二の「PM理論」を用いつつ説明しています。

 第5章では、「誰もがエリートを目指せる」日本型のキャリア構造は世界的にみれば特殊であるが、これも「ギリギリの線を与え続ける」などといったモチベーション理論をキャリアパスの下敷きとして意図的に生み出された構造であるとして、基礎理論の重要性を説いています。また、仮に社員がやる気を出してくれずマネジメント理論が通じないと思われるケースであっても、それは、人の心を揺り動かす要因(動因)が揃っていないことによるものであり、部下は多様な動因を持つから、上司はそれに合った「多様な機会」を作っていくことが大切であることを、マーレイの動因理論などを用いて説いています。

 第6章では、学んだことを人に教えることの重要性を説くとともに、本書でこれまで述べてきた基礎理論を、質問形式で簡潔にまとめています。以上、要約すれば、「2W2R(What・Way・Reason・Range)」とは、何を、どうやって、なぜ、どこまでを決めることであり、「三つのギリギリ」とは、(1)易しすぎず難しすぎず、(2)活かし場を用意する、(3)逃げ場をなくす、ということになります。

 こうしたことが、クイズなどを交えつつ、読み易く丁寧に解説されていて、また、章を追うごとに理論を積み重ねて構造化していくため、説得力のあるものとなっています。個人的にも、基礎理論を学び、実践することの重要性を説いている点には共感しました(同著者の雇用システムや労働市場問題を扱った本よりも共感度が高い?)。とりわけ初任管理職、ミドルマネジメント層には一定の示唆に富む本であるかと思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに 「あの人はすごい」―その理由は、マネジメント理論でけっこう説明できます。
第1章 なぜ、企業は社員のやる気を大切にするのか
第2章 やる気の源泉=「機会」と「支援」の鉄則
第3章 やる気を絶やさないための秘訣
第4章 もう一つのR(=Range)は、なぜ「スーパーな力」なのか
第5章 世界でも特殊な日本型のキャリア構造
第6章 学んだことを人に教え、自分でも実践する
あとがき リクルートの「元気とやる気」の秘密を、みなさんに

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2784】 シドニー・フィンケルシュタイン 『SUPER BOSS
「●日経文庫」の インデックッスへ

幾つかの気づきを与えてくれる一方、ややもの足りなさを感じる面も。

モチベーションの新法則5.JPGモチベーションの新法則.jpg
モチベーションの新法則 (日経文庫)』['15年]

 部下や職場全体のモチベーションをどうすれば高められるのかを、経営心理学の立場から、クイズなどを交えて分かりやすく解説した入門書です。著者によれば、個人の成功体験の紹介ではなく、誰にでも役立てられること、②心理学の最新の研究に基づいていること、③日本人に特徴的な心情や文化的背景を前提に解説していることが、本書の特色であるとのことです。

 第1章では、多くの若者が「成長したい」という時代に、成長欲求をモチベーションにつなげるにはどうしたらよいかを考察しています。第2章では、ほめて育てるというのが流行っているが、それには落とし穴があるとし、ほめる際の注意点を示しています。第3章では、モチベーションは気分に大きく左右されるという視点から、上司のちょっとした声掛けの効果について考え、そのコツが紹介されています。
 
 第4章では、内発的動機づけと外発的動機づけをどのように使ったらよいかを解説しています。第5章では、ポジティブなものの見方のコツについて述べるとともに、ネガティブだからうまくいっている人もいて、そうした人にはどう対応すればよいかを説いています。第6章では、分かっていてもできない理由について考察しています。

 第7章では、無意識の威力に焦点を当てて、日常生活の中でモチベーションを高めるコツを紹介しています。第8章では、MBO(目標管理)の問題点を指摘しつつ、業績目標と学習目標という視点から、モチベーションを維持するのに有効な目標の立て方について検討しています。第9章では、関係性(人間関係)に重きを置くのが日本人の特徴であることを念頭に置き、アメリカのモチベーション論では見落とされがちな日本人独自のモチベーション法則について考察しています。

 日経文庫ということもあってか、テキストとしてコンパクトに纏まっており、モチベーション理論について、マズロー、マグレガ―、ハーズバーグなど1960年代の理論あたりまでは学習したが、それ以降どのような理論が展開されてきたかを今一度俯瞰しておきたいという人には手ごろな入門書であると思います。

 個人的には、目標管理において、業績目標と学習目標のどちらを持つかによってモチベーションが異なってくるといった点や、日本人は仕事よりも職場を重視する傾向があるため、関係性を整えるだけでモチベーションが上がるといった指摘が腑に落ちるものでした。

 人事パーソンの視点から見て、幾つかの気づきを与えてくれる本であるとは思いますが、クイズが意外と歯ごたえがないのと同様、読む人によっては、それほど目新しさが感じられる指摘でもなかったりするかも。また、こうした心理学系の人が書いた本にありがちですが、実践に活かさなければならない立場の人が読んだ際には、ややもの足りなさを感じる面があるかもしれません。

 著者には専門書に近い内容の本から自己啓発書まで数多くの著書がありますが、本書はその中間的位置づけでしょうか。より専門書寄りのものとして『モチベーション・マネジメント』('15年/産業能率大学出版部)があり、自己啓発よりも知識としての理解に重点を置くならば、体系的にはそちらの方がスッキリしているように思いますが、これは読者の好みの問題でしょう(個人的には著者の前著『お子様上司の時代』('13年/日経プレミアシリーズ)よりは今回の方がやや良かたったか)。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2716】 榎本 博明 『モチベーションの新法則
「●ちくま新書」の インデックッスへ

理系の性分、理系的センスとは何か、理系社員とどう向き合うかを説く。「トリセツ」と言うより「啓発書」。

理系社員のトリセツ_2.jpg理系社員のトリセツ.jpg理系社員のトリセツ (ちくま新書)』['15年]

 文系と理系の間にある深い溝―本書は、その壁をを解消して、両者が一緒に働いている職場をうまくまわすにはどうすればよいか、そのために理系の特徴を分析し、その活用法を解説した本です。著者によれば、企業が成功するには、文系と理系双方の人材がうまくかみ合う必要があるのに、実際には文系と理系はお互いを相容れないものとして捉えがちであるとのことです。その結果、文系は理系の仕事をなかなか理解することができず、「文系上司」が「理系部下」の扱いに困っているといったことなども少なからず起きているとのことです。

 そこで「理系」である著者が、"理系の性分"とは何か、その思考傾向を多面的に探るとともに、"理系的センス"とはどういったものか、それはビジネスの様々な場面でどのような効果を発揮するかを説いていますが、読んでいて、そのセンスとは往々にして文系の人間にも求められるものであるように思いました。本書では、それらを踏まえたうえで、組織内で理系社員をどう活用すればよいかを解説しています。

 著者によれば、理系的才能の本質は想像力であり、真の理系は想像力で問題を解くとともに、事実に目を配り、直感に飛びつかず慎重に考えるとのこと、また理系人材は「質量保存・エネルギー保存の法則」を前提に物事を捉えるので、ゼロサムの関係には敏感であり、全体バランスを壊すことになるカネやポストでは動機づけられにくい一方、外部からの期待感や専門分野での名誉には奮い立ち"本気度"を刺激される側面も併せ持つとしています。

 上司が「理系部下」を活かす方法としては、文書化を徹底させるコーチングを行い、部下に自由に語らせるようにし、外部の干渉からは部下を守ること、また、先に述べたような理由から、技術成果に対し「顕彰」で報いることなどを挙げています。とにかく、複雑な評価制度などに惑わされず、コーチングを続けることが大切であるとしています。

最後に、理系マインドをビジネスにどう結びつけていくかを説くとともに、これからのビジネスは文理の協働が前提となり、文理別々で働いてもろくな事は起きないとし、また、理系女性の拡大は、人材増強策の切り札であるとしています。

 個人的には、理系の人材育成の要点として、
 ・空間的に狭い範囲に人材を集めること
 ・仕事を小刻みに数多く絶え間なく与えること、
 ・仕事の成果は質よりも早さを求めること、
 ・互いに切磋琢磨し、競争の状況が誰の目にも明らかに分かる分かるようにすること
とし、その典型例として、石ノ森章太郎や藤子不二雄、赤塚不二夫らを輩出したトキワ荘を例に挙げているが興味深かったです。

 このように、逐一分かりやすい例を挙げて解説しているためたいへん読みやすかったですが、著者はどちらかと言うと、理系人間の中でも「文系」的な方の人間ではないかとも思わせました。そのように考えていくと、だんだん理系と文系に分ける意味が無くなってくるようにも思えてくるのですが、ここはある種のタイポロジー(類型化)を前提とした"思考整理"であると割り切って、最後まで読んだ方がいいかもしれません。

 タイトルには"トリセツ"とありますが、〈マニュアル〉というよりは、文系人間が理系人間と向き合う際の考え方を示した〈啓発書〉といえるでしょう。もちろん、理系人間が、理系である自分の能力の特質を見つめ直し、その活かし方を考えるうえでのヒントが得られる本であるともいえるかもしれません。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2715】 中田 亨 『理系社員のトリセツ
「●マネジメント」の インデックッスへ

旧版の「1分間叱責」を「1分間修正」に修正。旧版よりしっくりくる。
新1分間マネジャー.jpg新1分間マネジャー――部下を成長させる3つの秘訣』['15年] 1分間マネジャー.jpg ケネス・ブランチャード/スペンサー・ジョンソン『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』['83年]

 世界中で累計2000万部以上売れたという1分間」シリーズの第1弾で、1982年に原著刊行の『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』('83年/ダイヤモンド社)の2015年改定版で、著者は旧版と同じくケン・ブランチャード(Kenneth H. Blanchard、心理学者)とスペンサー・ジョンソン(Spencer Johnson、精神医学者)の2人です(ブランチャード博士は、amazon.comにおいて世界中で25人しかいないベストセラー著者の殿堂入りを果たしている)。

 『1分間マネジャー』の特徴は、1つは、物語仕立てになっていて読み易いことで、但し、こうした寓話スタイルは、読んで合う人と合わない人がいるようにも思います。もう1つの特徴は、部下の管理方法の秘訣をシンプルに3つに纏めていることで、その3つの秘訣とは、「1分間目標設定」「1分間称賛」「1分間叱責」というものでした。個人的には、「1分間目標設定」はいいとして、「1分間称賛」「1分間叱責」と続くと、あまりに単純すぎて、逆にこんなのでいいのか、という思いがあって、初読以来、個人的には△評価になっていました。

 こうした古典的ベストセラーと言ってもいいような本が、中身を変えて改定されることは珍しいとのことですが(34年ぶり!)、今回も、物語仕立ての形式も同じであるし、中身もそれほど大きくは変わっていません。但し、物語全体を今の時代環境に合うように直したことで、以前の版は1982年に書かれたものであるから、インターネットなど無い時代のことでであったのに対し、今回の版では、インターネットで世界各地のメンバーとコミュニケーションをとる様子が描かれたりしています。

 次に、ここが一番決定的な改定点ですが、3つの秘訣の内の最後の「1分間叱責」が「1分間修正」に変わっっています。何れの場合も、部下が間違った方向に行ったときにどのように正すかということですが、改定版では、上司が所謂上から目線ではなく、部下と同じ目線で、軌道修正について話し合うようになっています。この改定の理由についてブランチャード博士は、「1980年代に比べ、今の時代はトップダウン式のリーダーシップがそぐわなくなってきており、部下とのパートナーシップがより重要になってきている」と述べています。また、「1分間目標設定」も、上司が一方的に目標を決めるのではなく、部下と共に決めていくような形に改定されています。

 個人的には、以前の版よりかなり良くなったと思います。と言うより、前の版を手にした時に、すでにそうした時代の風潮を感じていて、それがどこか、旧版に対する違和感に繋がっていたのかもしれません。今回の方がしっくりきます。

 旧版同士の比較では、1985年原著刊行の『1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法』(Leadership and the One Minute Manager)('85年/ダイヤモンド社)の方が良かった、と言うか、リーダーシップには唯一無二の完璧な手法はないが、事実上、指示型、委任型、コーチ型、援助型という4つのスタイルがあり、マネジメントの状況に応じていずれかのスタイルが取られるとする、かの有名な「状況対応型リーダーシップ」論が提唱されていて、これかあ、という印象を浮けた記憶があります。こちらの方は、本書より先に(2013年に)改定版『新1分間リーダーシップ―どんな部下にも通用する4つの方法』('15年/ダイヤモンド社)が出ています。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3380】 マイケル・アブラショフ 『アメリカ海軍に学ぶ「最強のチーム」のつくり方
「●主要ブックガイド」の インデックッスへ 「●本・読書」の インデックッスへ 「●日経文庫」の インデックッスへ

多彩な11冊を、実際にビジネスシーンでありそうなケーススタディで解説。

リーダーシップの名著を読む1.jpgリーダーシップの名著を読む2.JPG             マネジメントの名著を読む.jpg
企業変革の名著を読む (日経文庫)』['15年]  『マネジメントの名著を読む』['15年]

 実務経験豊富な5人の経営コンサルタントらが、リーダーシップについての不朽の名著と言われる11冊を選び、その内容を紹介するとともに、現代における意義を解説したもので、ウェブサイト「日経Bizアカデミー」で2011年10月から連載されている「日経キャリアアップ面連動企画」(経営書を読む)の内容を抜粋、加筆・修正し、再構成したものであり、先に刊行された『マネジメントの名著を読む』('15年1月/日経文庫)の姉妹編にあたります。

 取り上げられているのは、ジョン・コッタ―の『第2版 リーダーシップ論』に始まり、デール・カーネギーの『人を動かす』、スティーブン・コヴィーの『7つの習慣』、ダニエル・ゴールマンの『EQ こころの知能指数』などの"有名どころ"から、エドガー・シャインの『組織文化とリーダーシップ』やトム・ピーターズらの『エクセレント・カンパニー』、更には、米国海軍の士官候補生向けに書かれた『リーダーシップ アメリカ海軍士官候補生読本』(個人的には"初モノ"だった)、2000年に邦訳が出たビジネス寓話『チーズはどこへ消えた?』、MLB弱小チームの再生を描き、映画化もされた『マネー・ボール』まで多彩です。

 そのラインナップと内容から、「体系」よりも「実践」を重視している印象を受けました。実際、9人のコンサルタントや大学教授が12冊の"座右の書"を紹介した『マネジメントの名著を読む』と同じく、単なる内容紹介にとどまらず、本の内容に関連して、実際にビジネスシーンでありそうなケーススタディを1冊につき4つ設定し、ケーススタディを通して本の内容を解説するというスタイルになっています。

 従って、11冊の中には、「天は自ら助くる者を助く」という序文で知られるサミュエル・スマイルズの『自助論』といった古典も含まれていますが、現代的なケーススタディに当てはめて解説されているため、19世紀半ばに英国で著され、明治時代に日本でベストセラーとなった古典でありながらも、その言わんとするところを身近に感じることができます。

 また、古典ばかりではなく、1990年に刊行され全世界で2000万部が売れたという『7つの習慣』についても、会社の上司と部下の関係をケースに引きながら、「真の成功とは、優れた人格を持つこと」という『7つの習慣』の根底に流れる考え方を提示していくスタイルをとっており、このように、本書自体がリーダーシップの"ケースブック"として読める点が、その特長と言えるかと思います。

 一方で、前著『マネジメントの名著を読む』よりも更に執筆陣の思い入れが強く感じられ(古今数多くあるリーダーシップに関する本の中から僅か11冊をまさに"厳選"しているわけだから、思い入れが無い方がむしろおかしいが)、切り口にも執筆者の経験や考え方が少なからず反映されているように思われました。

 その意味では、この1冊でリーダーシップに関するヒントを手っ取り早く頭に入れるのもいいですが、関心を持たれたもので原著を読んでいないものがあれば、そちらに当たるのもいいのではないでしょうか。そこでまた、執筆者とは違った見方が生じることも大いにあり得るのではないかと思います。

 同じ名著と呼ばれるものでも、「リーダーシップ系」のものは「マネジメント系」のものに比べて、読む人によって相性が良かったりそうでなかったりする傾向がより著しいように思います。「リーダーシップ」に関する本を読むということは、書かれていることを鵜呑みにするのではなく、また、書かれていることの全てに納得する必要もなく、自分にフィットしたものを探す「旅」のようなものではないかと思います。

《読書MEMO》
●取り上げている本
リーダーシップの名著を読む9_1.jpg第2版 リーダーシップ論 帯付 2.jpg1『第2版 リーダーシップ論ジョン・コッター ---- 変革を担うのがリーダーの使命・永田稔(タワーズワトソン)
『人を動かす【新装版】 』1999.jpg2『人を動かすデール・カーネギー ---- 誤りを指摘しても人は変われない・森下幸典(プライスウォーターハウスクーパース)
『自助論』00.jpg3『自助論サミュエル・スマイルズ ---- 「道なくば道を造る」意志と活力・奥野慎太郎(ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン)
『完訳 7つの習慣』.jpg4『7つの習慣スティーブン・コヴィー ---- 人格の成長を土台に相互依存関係を築く・奥野慎太郎
5『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン ---- 自制心と共感力で能力を発揮・永田稔
リーダーシップ  アメリカ海軍士官候補生読本20.jpg6『リーダーシップ アメリカ海軍士官候補生読本アメリカ海軍協会 ---- 米国式リーダーシップの源流・高野研一(ヘイグループ)
7『組織文化とリーダーシップ』エドガー・シャイン ---- 変革はまず組織文化から・永田稔
エクセレント・カンパニー_.jpg8『エクセレント・カンパニートム・ピーターズ他 ---- 優れたリーダーの影響力は価値観にまで及ぶ・高野研一
9『なぜ、わかっていても実行できないのか』ジェフリー・フェファー他 ---- 成果ではなく行動したことを評価・森下幸典
10『チーズはどこへ消えた?』スペンサー・ジョンソン ---- 変化を受け入れ、いち早く動く・森健太郎(ボストンコンサルティンググループ)
11『マネー・ボール』マイケル・ルイス ---- チーム編成のイノベーション・森健太郎
 
 

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2707】 グロービス経営大学院 『これからのマネジャーの教科書
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ

先の見えない時代に対応できる「機動戦経営」を提唱。概念的にはキレイにまとまっている。

米軍式 人を動かすマネジメント.jpg米軍式 人を動かすマネジメント──「先の見えない戦い」を勝ち抜くD-OODA経営

 本書は、先の見えない時代に対応できる「機動戦経営」(D-OODC(ドゥーダ)経営)というものを提唱しています。第1章「機動線経営とは何か?」では、日本人の計画好きのルーツはPACDにあるが、それが「計画・管理・情報」の過剰を生んでおり、軍事的にみれば「想定される攻撃」に対して適切かつ機敏に行動が取れることと、「想定外の攻撃」に対しても臨機応変な対応が取れることは別であり、先が見えない環境で戦うためには、前者の消耗戦型よりも、後者の機動戦型の方が有効であり、それは経営にも当て嵌るとのことです。

OODA.gif それでは機動戦経営とは何なのかと言うと、1つは、機動戦で言うところの「OODC」、即ち、観察(Observe)―方向付け(Orient)― 決心(Decide)― 実行(Act)のサイクルを繰り返すことであり、自分の計画から始まるのがPDCAであるのに対し、OODCは相手を観察することから始まるのがその特徴で(PDCAの前段階とも言える)、このOODCループによって「動く」個人をつくることができるとのことです。例えば接客業であれば、PDCA接客には、 決められた手順を守る従順さが求められるが、一方のOODCには、顧客に対する鋭い観察眼が求められるとのことです。

「OODAループ」from Insource

 そして、臨機応変に「動く」個人が育ったなら、機動戦では次に、 「ミッション・コマンド」という指揮法をとるとのことで、ミッション・コマンドは、何のためにどんな理由で戦うのか(Why)と、戦闘によってどんな勝利を目指すのか(What)が明確に示されるとのこと。更に、こここでOODCとミッション・コマンドを強力にサポートするのが判断と行動に直結する情報であり、これを「クリティカル・インテリジェント」と言うとのことです。

 つまり、「動く個人・動かすリーダーシップ・動ける情報」が機動戦経営の3要素であるとし、以下の章で、それぞれについて解説しています。

 理論的にかっちりしている印象を受けるのは、アメリカ空軍のジョン・ボイド大佐によって提唱された意思決定理論である「OODCループ」の考えを起点にしているということもありますが、その理論にミッション・コマンド、クリティカル・インテリジェントという概念を付加して行く過程も、分かり易く説明されているように思いました。

 第2章ではOODCについて、第3章ではミッション・コマンドについて、第4章ではクリティカル・インテリジェントについてそれぞれ解説し、最終第5章では、現在の米軍では、作戦計画の作成・立案において、「正しい問題の設定」を指す「オペレーショナル・デザイン」(Operation Design)が重視されているという事実をもとに、これをにOODCを組み合わせた「D-OODC(ドゥーダ)ループ」というものを提唱しています。

 やや気になったのは、第2章以下で、OODC、ミッション・コマンド、クリティカル・インテリジェントというそれぞれの概念を更に詳しく説明していく段階で、事例に落とし込んでいく際に、公認会計士である著者の顧問先の中小企業の事例など、事例そのものは数多く紹介されているのものの話がやや拡散気味で、概念と事例の対応関係がややもやっとなった印象がありました。

 そうしたこともあって、もともと概念的要素の高い内容ですが、理論的にはキレイに纏まっているものの、概念的なまま終わってしまった印象も受けました(自分の抽象化能力に問題があるのかもしれないが)。

 概念的には分かるのだけれど、この本を読んだ経営は、次、どうすればいいのか、ちょっと考えてしまうのではないかなあ。とは言え、PDCA絶対説をあっさり批判している点など、提唱されていることの新鮮さはありました。

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2704】 永田 稔 『非合理な職場
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ 「●光文社新書」の インデックッスへ

現場マネジャーが直面するジレンマに話題を絞った前半部分が良かった。

会社の中はジレンマだらけ.jpg会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング (光文社新書)』['16年]

 本書によれば、ジレンマとは「どちらを選んでもメリットもデメリットもあるような二つの選択肢を前にして、それでもどちらにするかを決めなければならない状況」とのことで、企業・組織においてマネジャーが直面する幾つかのジレンマのパターンを取り上げ、ヤフー執行役員の本間浩輔氏と東京大学の中原淳准教授が対談形式で議論しています。

 第1章が「絶対に結果を出さなくてはならないハードな案件。自分自身でこなす?それとも思い切って部下に任せる?」、第2章が「チーム内にくすぶり始めた時短社員への不満。ほかのメンバーを説得する?それとも時短社員に働き方を変えてもらう?」、第3章が「仕事をしない"年上の部下"がいます。言いたいことを伝える?それともやり過ごす?」といったように、マネジャーに"現場仕事"が増えがちな問題、産休社員に人員補充が無い場合に起きがちな問題、なぜ「働かないおじさん」の給料は高いのかといった問題を扱っていて、全部で5章ありますが、最初の3章が比較的トーク内容が充実していたように思います(後半2章は正直それほどでも...)。

 第1章では、ヤフーで行われている「ななめ会議」というのが興味深かったです。ある意味、マネジャーに気づきを促すフィードバック方法の1つなのですが、人事部が職場のマネジャーについて部下たちに発言させ、次に人事部がその発言をマネジャーに伝え、最後は三者で話をするというものですが、こうした方法論もさることながら、こうした方法を取ることが可能な企業文化というのもあるだろうなあと。本間氏が「成長には修羅場だ」といった「修羅場幻想」からそろそろ離れた方がいいと言っているのにも納得。IT企業でありながら、「会って話すことがポイント」と言っているのも興味深かったです。

 第2章では、ワーク・ライフ・バランスに関して、「資生堂ショック」を話題にしており、本間氏の発言などからも窺えるように、何時間働くかではなく、パフォーマンスを見て評価するという傾向は今後強まるのだろうなあと(コンサルティング会社「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵社長なども以前からこの路線だったように思う)。但し、マネジャーは短期的評価を気にしていてはダメで、その意味で、マネジャーには覚悟が必要というのも分かります。

 第3章では、「働かないおじさん」とは「おじさん」が「学習した結果」生じているのであり、本間氏が、その"経験学習"も相当な水準に達しているかもしれないと言っているの、ヤフーのような執行役員でもそうしたことを感じるのかと興味深かったです。もちろんこうなってしまうのはマネジャーにも問題があるわけで、1つの大きな原因が評価の在り方にあって、本間氏が、「その人」を評価するのではなく「今期の働き」を評価せよ、つまり「人」ではなく「事」を評価せよ、と言っているのがしっくりきました。会社の「利益」と部下の「やりたい事」のベクトルを摺り合わせるのが上司の仕事だと言っているのも分かり易かったです。

第4章では、なぜ新規事業のハシゴはすぐに外されるのかと言う問題を扱っていて、新規事業に異動したいと言う部下にどう対処すべきかを論じており、この中では、企業のビジョンに絡めた話で、IT企業の間で社史編纂が密かなブームになっているという本間氏の話が興味深かったです。

 第5章では、なぜ転職すると給料が下がるのかというテーマで、転職の話が突然舞い込んできたとき、年収が減っても新天地へ行くべきかということを論じており、今話題の「副業」の問題なども話し合われています。

 前半3章が、マネジャーの直面するジレンマに的が絞られていて良かったですが、後半になって若手など働く側の方へ視点がずれていて、やや散漫になっていった印象。ただ、ヤフー執行役員の本間浩輔氏の話はなかなか興味深く、中原淳氏が主に聞き手に回っているのもいいです(中原氏は、今後もこうした対談形式の本を光文社新書から出していくのか。金井壽宏氏のパターン?)。

《読書MEMO》
●目次
第一章 なぜマネジャーに"現場仕事"が増えるのか
第二章 なぜ産休社員への人員補充がないのか
第三章 なぜ「働かないおじさん」の給料が高いのか
第四章 なぜ新規事業のハシゴはすぐ外されるのか
第五章 なぜ転職すると給料が下がるのか目次

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2661】 楠木 新 『左遷論
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ

どこの企業でも考える人事施策を1つ1つ積み上げてきた。結局、やるかやらないかの違いだろう。

ワーク・ルールズ! .jpgワーク・ルールズ!  .jpg Laszlo Bock.jpg Laszlo Bock
ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』['15年]

グーグル logo.jpg 本書は、1972年、共産主義政権下のルーマニアに生まれ、マッキンゼーやGE勤務を経て2006年にグーグルに入社、9年間に従業員が6千人から6万人に増えていく過程で、グーグルの人事システムを設計し進化させてきた、同社の人事担当上級副社長によるものです。グーグルにおける採用・業績評価・人材育成・福利厚生の仕組みや考え方を通して、人材を活かし、組織を有効に機能させるうえで効果的であると考えられるワーク・ルールの数々を示しています。

 第1章・第2章では、グーグルの創業エピソードなどを紹介しながら、社員が創業者のように行動すること、自分の仕事は重要なミッションを持つ天職だと考えること等をルールとして掲げています。第3章から第5章にかけては、採用について書かれており、時間をかけて最高の人材だけを雇うこと、何らかの点で自分より優れた人材だけ雇うこと、マネジャーに自チームのメンバーの採用を任せないこととし、卓越した採用候補者を見つけるにはどうしたらよいか、最高の採用テクニックを発揮するにはどうすればよいかを説いています。

 第6章では、マネジャーから権力を取り上げ、社員を信頼して運営を任せるにはどうすればよいかを説き、第7章では、評価や報酬でなく、個人の成長に焦点を合わせることで業績を改善せよとして、そのための業績評価のポイントを示しています。第8章では、最大のチャンスは最低(ボトムテール)の社員と最高(トップテール)の社員にあるとし、この2本のテールを管理することの重要さを説いています。第9章では、最良の教師は社内にいるとして、学習する組織を築くにはどうすればよいかを説いています。

 第10章・第11章では、報酬には大きな差があってよく、一方、社員がいちばん必要としている時には社員に寄り添う必要であるとしています(グーグルの社員が亡くなった場合、遺族に社員の死後10年間、給与の50%が支給されるという制度が紹介されている)。第12章・第13章では、社員を健康と富と幸福に導くにはどのような選択肢を設ければよいか、失敗に直面したときはどうすればよいかを説いています。第14章では、これまで述べてきたことを総括し、チームと職場を変えるための10のステップとしてまとめています。

 本書を読む前は、グーグルという極めてイノベーティブな文化を持つ企業のワーク・ルールが、普通の企業にとっては果たして参考になるのかという思いがありましたが、読んでみたら、確かにグーグルならではの話もなかった訳ではないですが、むしろ大部分は、どこの企業でも考えるであろう人事施策であり、それらを試行錯誤や失敗を繰り返しながら1つ1つの積み上げていた先に、官僚主義に陥らず、ベンチャースピリットを保ち続ける、今日のグーグルがあることが理解できました(著者も「グーグルのプログラムの大半は誰でも真似できる」としている。結局、やるかやらないかの違いだろう)。

 個人的には、第3章から第5章にかけて「採用」について3章を割き。なぜ採用は組織における唯一にして最重要の人事活動なのか、いかにして最高の人材を採用するか、その難しさについて説いているのが印象的でした(グーグルは、世界で入社するのが最も困難な会社の1つであり、本書でも、「まずは100万人から300万人の求職者からの応募を受け付け(中略)約0.25%しか雇わない」、「ハーバード大学は志願者の6.1%に入学許可を出した(中略)(ハーバードはグーグルの)25倍も簡単なのである」としている)。

 550ページを超す大著ですが、これからの企業の人事マネジメント(本書では「ピープル・オペレーションズ」という言葉を使っている)やそこで働く人々の働き方の在り方について考えるうえで様々な刺激と示唆を与えてくれる本であり、人事パーソンにお薦めしたい1冊です。

《読書MEMO》
●社員への権限委譲のために(第6章/241p)
□ステータスシンボルを廃止する
□マネジャーの意見ではなく、データにもとづいて意思決定を行う。
□社員が自分の仕事や会社の指針を定める方法を見つける。
□期待は大きく。
●業務評価のために(第7章/286p)
□目標を正しく設定する。
□同僚のフィードバックを進める。
□キャリブレーションを活用して評価を完了させる。
□報酬についての話し合いと人材育成についての話し合いを分ける。
●プロジェクト・オキシジェンの8つの属性(第8章/312p)
1 良いコーチであること。
2 チームに権限を委譲し、マイクロマネジメントしないこと。
3 チームのメンバーの成功や満足度に関心や気遣いを示すこと。
4 生産性/成果思考であること
5 コミュニケーションは円滑に。話を聞き、情報は共有すること
6 チームのメンバーのキャリア開発を支援すること
7 チームに対して明確な構想/戦略を持つこと。
8 チームに助言できるだけの重要な技術スキルを持っていること。
●2本のテールを管理するために(第8章/324p)
□困っている人に手を差し伸べる
□最高の社員をじっくり観察する
□調査やチェックリストを使って真実をあぶり出し、改善するように社員をせっつく
□自分のフィードバックを公表し、至らなかった点について改善するよう努力して範を垂れる。
●チームや職場を変える10のステップ(第14章/521p)
①仕事に意味をもたせる
②人を信用する
③自分より優秀な人だけを採用する
④発展的な対話とパフォーマンスのマネジメントを混同しない
⑤「2本のテール」に注目する
⑥カネを使うべきときは惜しみなく使う
⑦報酬は不公平に払う
⑧ナッジーきっかけづくり
⑨高まる期待をマネジメントする
⑩楽しもう!(そして、①に戻って繰り返し)

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2783】 リズ・ワイズマン/他 『メンバーの才能を開花させる技法

リーダーシップ研究の最近の歩みをシズル感を持ちつつ概観するには手頃。

Thinkers50 リーダーシップ.jpg 『Thinkers50 リーダーシップ』(2014/11 プレジデント社)

 「Thinkers 50」は、マネジメント思想を調査、ランク付けしたうえで世の中に広く紹介する取り組みで、2001年以降、隔年で発表されているランキングは、「マネジメント思想のアカデミー賞」とも言われています。歴代の第1位は、ピーター・ドラッカー(2001年、2003年)、マイケル・ポーター(2005年)、C.K.プラハラード(2007年、2009年、クレイトン・クリステンセン(2011年、2013年)。日本では「経営思想家トップ50」などと訳されていますが、日本人では過去に大前研一氏が複数回ランクインしているほか、2013年に野中郁次郎氏が"Lifetime Achievement Award(生涯業績賞、功労賞)"を受賞しています。

 当シリーズは、「Thinkers 50」にランクインした経営思想家を、直接インタビューした内容とともに紹介し、ジャンル別に分けてそれぞれ1冊に要約することで、テーマごとの本質に迫る入門書であり、本書「リーダーシップ」は、「マネジメント」「ストラテジー」「イノベーション」の3ジャンルの邦訳に続くシリーズ第4弾になります。

リーダーシップの王道2.jpg 第1章でリーダーシップ研究の変遷を概観した後、第2章では『リーダーシップの王道』などの著者として知られ、今年['14年]逝去したウォレン・ベニスの思想を、本人へのインタビューを中心に紹介していますが、その中でベニスは、「クルーシブル(厳しい試練)」がリーダーを作ることを強調しています。そして、今の若いリーダーにとって難しいのは、クルーシブルが滅多に存在しないことであり、次世代のリーダーは自分でそれを見つけねばならないとしています。

ビジョナリー・カンパニー2  .jpg 第3章では、インタビューにおいてC.K.プラハラードがリーダーに求められる謙虚さを語り、『ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則』の著者ジム・コリンズが、企業を「まあまあ良い」水準から「偉大」な水準に飛躍させる「レベル5リーダーシップ」とは何かについて語っています。コリンズが提唱する「レベル5リーダーシップ」も、謙虚さと強い意志の組み合わせからなり、レベル5のリーダーは「物静かなリーダー」だとしています。

なぜ、あなたがリーダーなのか 旧版2 .jpg 第4章では、『なぜ、あなたがリーダーなのか?』の共著者ロバート・ゴーフィーガレス・ジョーンズが、自分らしいリーダーシップとは何かを語り、さらにエリザベス・メロンがリーダーの思考についての自らの考えを述べています。それらを統合すると、自分らしいリーダーシップにおいては、自分がすでに保有している資質を最大限に活用するものであって、他の成功したリーダーのスタイルを真似るものではなく、また、内省と高い自己意識が求められる―その際に近道をしたり、自己開発に不可欠な段階を省略したりすると、自分の価値観と異なる人格を装ってしまう―としています。

名経営者が、なぜ失敗するのか?.jpg 第5章では、著者がカリスマとリーダーシップの関係について考察するとともに、『カリスマCEOの呪縛』の著者ラケシュ・クラナ『名経営者が、なぜ失敗するのか?』の著者シドニー・フィンケルシュタインとの対話を通して、カリスマはリーダーの特性として、以前は望ましいもの、或いは不可欠なものと考えられていたが、現在では、リーダーとして効果ある特性なのか、疑問視されていることを示唆しています。

経営の未来 2.jpg 第6章では、フォロワーについての研究の歩みを概観し、フォロワーの類型を再整理するとともに、『フォロワーシップ(未訳)』の著者バーバラ・ケラーマン『経営の未来』の著者ゲーリー・ハメルへのインタビューを行っています。ケラーマンは、フォロワーを孤立者・傍観者・参加者・活動家・硬骨漢の5つのタイプに分けるとともに、「フォロワーが権力と影響力を拡大する一方で、リーダーは権力と影響力を失いつつある」とも主張しています。

トータル・リーダーシップ2.jpg 第7章では、『トータル・リーダーシップ―世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」』の著者スチュワート・フリードマンとの対話を通して、リーダーシップは企業や組織の中だけに存在するのではなく、リーダーの人生のそれ以外の部分とも重なり合い、影響を与えるとし、仕事とプライベートな生活のバランスをとるトータル・リーダーシップという考えが紹介されています。

コーチングの神様が教える後継者の育て方 .jpg 第8章では、現場で活用できるリーダーシップについて考察するとともに、『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』『コーチングの神様が教える後継者の育て方』『コーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方』『リーダーシップ・マスター』の共著者マーシャル・ゴールドスミスにリーダーシップの実践的な側面についてインタビューしています。

 以上のように、リーダーシップに関する代表的な考えと論者を紹介しながらも、インタビューで構成されている部分の比重が大きいため、とっつきやすいものとなっています。リーダーシップ研究の最近10年の歩みを、単なる項目主義ではなくある種シズル感を持ちつつ概観するには手頃であり、興味を持たれた経営思想家がいれば、その著書に読み進むと更によいかと思います。

《読書MEMO》
【目次】
◆第1章 リーダーシップ研究の変遷
◆第2章 クルーシブルがリーダーをつくる
◆第3章 レベル5リーダーシップ
◆第4章 自分らしいリーダーシップ
◆第5章 カリスマと影
◆第6章 フォロワーシップ
◆第7章 トータル・リーダーシップ
◆第8章 現場で活用できるリーダーシップ

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3457】 リチャード・S・テドロー 『なぜリーダーは「失敗」を認められないのか

リーダーシップへの「思い込み」を解く。分かりやすさ、理論的バックボーン、現場のシズル感がいい。
マネジャーになってしまったら読む本.JPGマネジャーになってしまったら読む本 2.jpg

永禮弘之 氏.jpg 永禮 弘之 氏 (エレクセ・パートナーズ)
マネジャーになってしまったら読む本―リーダーシップに自信が持てる7つの方法

 本書Part1第1章によれば、最近のマネジャー研修やリーダーシップ研修などで、参加者の中から、そもそもリーダーシップに興味が無いとか、元々"損な役回りである"マネジャーにはなりたくなかったとかいう声が聞かれることがあるとのことですが、これは個人的にも少なからず感じます。続く第2章では、こうした傾向は、日本人のマネジャーのリーダーシップに対する自信の無さからくるとし、その根底にリーダーシップへの「思い込み」があるとしています。

 Part2(第3章から第9章)では、新任マネジャーがよく抱く「リーダーシップに対する7つの思い込み」(1.自分にはリーダーシップがない、2.常に、部下には仕事で勝たなければならない、3.指導力が高くなければならない、4.人望を高めなければならない、5.リーダーシップのスキルやテクニックを身につけなければならない、6.自分を犠牲にしなければならない、7.自分の分身をつくらなければならない)が、リーダーシップへの過大な期待や要求につながり、多くの人の自信を失わせる原因となっていることを解き明かしています。

 Part3(第10章)では、自信を失う原因である「7つの思い込み」への対処方法を示すことで、自ら考え、行動するリーダーとして自信が湧いてくるよう読者を導くとともに、エピローグでは、更にリーダーとして成長していくための4つのステージ(セルフ・リーダーシップ → ワン・トウ・ワン・リーダーシップ → チーム・リーダーシップ → オーガニゼーション・リーダーシップ →ソサエティ・リーダーシップ )を示しています。

 労政時報の人事ポータル「ジンジュール」で著者の人材育成、教育・研修に関する連載を読み、本書を思い出しました。著者は数多くのセミナーやマネジャー・リーダーシップ研修をこなしており、個人的にも著者の人事担当者向けの企業内研修企画作成セミナーを聴いたことがありますが、双方向性の講義とワークショップ方式のグールプ作業から成り、たいへん分かり易く、また、身に付くものでした。

 こうした研修主体の仕事をしている所謂「セミナー講師型コンサルタント」が本を書くと、ともすると本がセミナーの内容そのものになってしまって、しかも "企業秘密"に属するメソッドの中核の部分は明かさないといった研修誘引型の(結果としてスカスカの内容の)本になりがちであるのに対し、本書は「指南書」としてきちんと纏まっているうえに、各章末のコラムなどでリーダーシップ理論などを紹介していることから窺えるように、理論的なバックボーンもしっかりしています。そのうえで分かり易くか書かれているので、新任マネジャーには是非ともお薦めですが、人事パーソンが読んでも得られるものは多分にあるのではないでしょうか。

 これは著者のセミナーや研修についても言えることですが、理論的なバックボーンをしっかり持ちながらも、多くのマネジャーや人事担当者のナマの声をしっかり吸い上げ反映させていてるシズル感があり、読み易い、分かり易いというのが共通する特長でしょうか。セミナー講師だけでなく、実際に人材育成や組織風土改革に関わっているコンサルタントであることがよく分かります。

 また、世の流れとして、リーダーシップとマネジメントを分けて考える風潮がありますが、本書では最初から「リーダーシップに対する思い込み」がマネジャーの自信を失わせているとして、マネジャーに欠かせないものとしてのリーダーシップという捉え方になっています。やみくもにスキルや知識を身につけても、他人に使われる器用な道具にはなれても、自分の人生の主役にはなれない―という著者の考えなどと併せて、個人的にはしっくりくるスタンスでした。刊行されてから何度か読み返しているため、却って取り上げるのが遅くなりましたが、五つ星です。

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1858】 ドミニク・テュルパン/高津 尚志 『なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか
「●人材育成・教育研修・コーチング」の インデックッスへ

いわばリクルート流のSL理論(状況対応型リーダーシップ理論)。分かり易く書かれている。

部下育成の教科書 00.jpg
   
  
   
   
部下育成の教科書』(2012/03 ダイヤモンド社)

 「"やや中古"本に光を」シリーズ第7弾(エントリー№2277)。表紙折り返しに「自立しない若手、伸び悩む中堅、やる気のないベタラン社員にも効く育て方の『「ものさし」』とあるように、ビジネスパーソンを10の「段階」に分け、その段階に合わせた育成方法を指南しています。その10の段階=ステージとは以下の通り。

部下育成の教科書 図.jpg

●一般社員層:4つのステージ(段階)
(1)スターター(Starter/社会人):ビジネスの基本を身につけ、組織の一員となる段階
(2)プレイヤー(Player/ひとり立ち):任された仕事を一つひとつやりきりながら、力を高める段階
(3)メインプレイヤー(Main Player/一人前):創意工夫を凝らしながら、自らの目標を達成する段階
(4)リーディングプレイヤー(Leading Player/主力):組織業績と周囲のメンバーを牽引する段階

●マネジャーとして部下を持つ管理職層:4つのステージ(段階)
(1)マネジャー(Manager/マネジメント):個人と集団に働きかけて、組織業績を達成しながら変革を推進していく段階
(2)ダイレクター(Director/変革主導):対立や葛藤を乗り越えながら、変革・改革を起こし、組織の持続的成長を実現する段階
(3)ビジネスオフィサー(Business Officer/事業変革):戦略的な資源配分を通じて、自ら描いた事業構想を実現する段階
(4)コーポレートオフィサー(Corporate Officer/企業変革):社会における自社の存在意義を絶えず問い直し、自社の針路を決める段階

●部下を持たない管理職層:2つのステージ(段階)
スペシャリストとして部下を持たない管理職層:2つのステージ(段階)
(1)エキスパート(Expert/専門家):高い専門性を発揮することを通じて、組織業績と事業変革に貢献する段階
(2)プロフェッショナル(Professional/第一人者):卓越した専門性を発揮することを通じて、事業変革に道筋をつける段階
部下育成の教科書 図1.jpg

 「10」と聞いてやや多過ぎか?と思いましたが、上記のように一般社員層4、部下を持つ管理職層4、部下を持たない管理職層4ということで納得。これを全部均等に解説していくと"総花的"になってしまうところを、一般社員層の4段階を特に詳しく説明し、更にステージの変わり目(トランジッション)をどう見極め、上司としてどう対処するかを説いたりもしているため、総花感は回避されているように思いました。

 部下の成長の段階の違いによって育成方法や指導に関する関与の在り方を違えるべきだという気付きを与えるという意味では、啓発される要素は多い本であるし、何よりも分かり易く書かれています。

 一般社員について、スターター、プレイヤー、メインプレイヤー、リーディングプレイヤーの4段階に分かれているというのは、SL理論(Situational Leadership Theory)との対比で捉え直してみると面白いのではないでしょうか。

 著者らは何れもリクルートマネジメントソリューションズ(前HRR、旧人事測定研究所)の所属。本書はいわばリクルート流のSL理論(状況対応型リーダーシップ理論)であり、一般職の部分に更に管理職層の部分を繋げて作ったものとも言えるのではないかと思いました。

 個人的なツン読本、または読み残しや書評の書き残しを改めて振り返った「"やや中古"本に光を」シリーズはここまで下記の通り。読んでみて大したことが書かれていなかった本もあれば、もっと早く読んでおけばという本もあって、本を読むときの時間的優先順位の決め方というのは難しいと改めて思った次第です。
【2270】 × 中澤 二朗 『働く。なぜ? (2013/10 講談社現代新書) ★☆
【2071】 △ 齋藤 孝 『雑談力が上がる話し方―30秒でうちとける会話のルール』 (2010/04 ダイヤモンド社) ★★★
【2272】 △ 近藤 圭伸 『上司の「人事労務管理力」―部下との信頼関係を築くために大切なこと』 (2012/09 中央経済社) ★★★
【2273】 △ 奥山 典昭 『間違いだらけの「優秀な人材」選び (2012/11 こう書房) ★★★
【2275】 ○ 三菱UFJ信託銀行退職給付会計研究チーム 『図解 退職給付会計はこう変わる! (2013/08 東洋経済新報社) ★★★★
【2276】 ◎ 笹島 芳雄 『最新アメリカの賃金・評価制度―日米比較から学ぶもの』 (2008/04 日本経団連事業サービス) ★★★★★
【2277】 ○ 山田 直人/木越 智彰/本杉 健 『部下育成の教科書 (2012/03 ダイヤモンド社) ★★★★(本書)

《読書MEMO》
sl理論.gif●SL理論(「INVENIO LEADERSHIP INSIGHT」より)
(1977年にハーシィ(P.Hersey)とブランチャード(K.H.Blanchard) が提唱したリーダーシップ条件適応理論の1つ)
S1:教示的リーダーシップ/ 具体的に指示し、事細かに監督する 
(タスク志向が高く、人間関係志向の低いリーダーシップ)
→部下の成熟度が低い場合
S2:説得的リーダーシップ/こちらの考えを説明し、疑問に応える 
(タスク志向・人間関係ともに高いリーダーシップ)
→部下が成熟度を高めてきた場合
S3:参加的リーダーシップ/ 考えを合わせて決められるように仕向ける 
(タスク志向が低く、人間関係志向の高いリーダーシップ)
→更に部下の成熟度が高まった場合
S4:委任的リーダーシップ/ 仕事遂行の責任をゆだねる
(タスク志向・人間関係志向ともに最小限のリーダーシップ)
→部下が完全に自立性を高めてきた場合

About this Archive

This page is an archive of recent entries in the 上司学・リーダーシップ category.

M&A is the previous category.

組織論 is the next category.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1