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最強チームをつくるカギは「安全な環境をつくる、弱さを共有する、共通の目標を持つ」こと。

THE CULTURE CODE― 最強チームをつくる方法0.jpgTHE CULTURE CODE― 最強チームをつくる方法.jpg
THE CULTURE CODE ―カルチャーコード― 最強チームをつくる方法』['18年]

 本書では、グーグルやピクサーなど、仕事への熟達やヒットを生む創造力の強さが世界的にも証明されている「最強のチーム」を実際に訪ねて分析した結果、チーム力の原点は「日常の仕事での、ちょっとしたさりげない行動」にあり、成功しているチームには共通する3つのスキルがあることが判明したとしています。その3つのスキルとは、「安全な環境をつくる」「弱さを共有する」「共通の目標を持つ」であるとし、以下、3部構成で各スキルを解説しています。

 第1部(スキル1「安全な環境をつくる」)では、チームのパフォーマンスを決めるのは、「ここは安全な場所だ。そして私たちはつながっている」という心理的安全性と帰属意識であり(第1章)、安全な社内環境が信頼を生んで、それが帰属意識につながり(第2章)、その帰属意識がチームの結束を強めるとしています(第3章)。さらに、帰属意識を育てるにはどうすればよいか(第4章)、帰属意識の高いチームをつくるにはどうすればよいか(第5章)、そのためにリーダーはどのような行動をとるべきか(第6章)を解説しています。

 第2部(スキル2「弱さを共有する」)では、帰属意識がチームをくっつける「接着剤」だとするなら、弱さを共有することは「筋肉」であるとしています(第7章)。「自分には弱点があり、助けが必要だ」という弱さの開示は「弱さのループ」を生み、それによってチームの親密さと信頼が深まり(第8章)、チームのパフォーマンスは最大化されるとしています(第9章)。また、小さなチームで協力関係を築くには、シンプルな質問を何度もするのが効果的であり(第10章)、個人間の協力関係を築くには、相手の話を本当に聞き、相手に全神経を集中させることだとし(第11章)、最後に、リーダーが弱さを見せられるようになる方法を指南しています(第12章)。

 第3部(スキル3「共通の目標を持つ」)では、成功しているチームでは、共通の価値観や目的が明確であり、目標達成のメリットと障害が理解されていて、「現実と理想をつなぐ物語」が存在するとし(第13章)、目的意識の高い環境のチームを、実例で紹介しています(第14章)。その上で、「熟達したチーム」をつくるには価値を言葉にして伝え続けることが重要であり(第15章)、「創造的なチーム」をつくるには、創造的な人たちへのサポートが必要であるとしています(第16章)。そして最後に、価値や目標を共有するためにリーダーが何をすべきか、行動のためのアイデアを示しています(第17章)。

 本書の特徴の一つは、事例を引いて、3つのスキルそれぞれの有効性を説くとともに、どうすればそれを実践できるかという、具体的な行動提案が書かれている点にあります。環境変化が激しく、企業が抱える問題の複雑さも増す今日、一人のカリスマに依存するのはリスクであり、チームの力を最大化することが、より大きな困難や逆境を乗り越える原動力となるということであると思います。本書を通してチームビルディングの新しい形を知ることができ、リーダーが読むべき本であると言えます。

 本書では、チーム力の原点は「日常の仕事での、ちょっとしたさりげない行動」にあるとし、一見すると普通とも思えるような行動を習慣化することによって、チームの力は大きく変わっていくとしています。最強チームをつくるカギは、「安全な環境」「弱さの開示」「共通の目標」の3つのスキルに集約されるとし、これらのスキルはなぜ重要で、具体的にはどのように行動すればよいのかを説いています。

 良いチームに最も必要なのは、強いリーダーシップや優秀な人材ではないということです。本書を通して提案される行動は、シンプルでポジティブな人間観に基づいており、極々「普通」に思えますが、だからこそ誰でも、いつでも行うことができ、こうした些細な行動によって強いチームが育まれるならば、一読の上、試してみる価値は大いにあると思われます。

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リーダーシップ行動のあり方が具体的・実践的に書かれていて、軍隊を超えた普遍性も高い。

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リーダーシップ―アメリカ海軍士官候補生読本』['81年]『リーダーシップ 新装版―アメリカ海軍士官候補生読本』['09年]
 
 本書は、アメリカ海軍兵学校の生徒、幹部候補生、見習士官のリーダーシップ教育のために作成されたものであり、原書は1959年に発行され、本邦では、野中郁次郎氏らの共訳で1981年に訳書が刊行され、35刷を重ねています(2009年に新装版が刊行された)。

 2部構成の第Ⅰ部「基礎編」では、まず第1章で、リーダーシップとは「一人の人間がほかの人間の心からの服従、信頼、尊敬、忠実な協力を与えるようなやり方で、人間の思考、計画、行為を指揮できかつそのような栄誉を与えうる技術、科学、ないし天分」であると定義し、このリーダーシップを理解し、身につけるうえで、フォロアーシップを身につけることが必要であり、フォロアーシップとは、チームメンバーとして必要となる要素であり、フォロアーシップとして習得すべき態度は、リーダーに対して服従、信頼、尊敬、忠実な協力の4つであるとしています。

 そして、リーダーシップを理解するためには、心理学、行動分析学の要素を理解しておく必要があるとし、第2章で、心理学的研究の歴史的背景を述べています。そして、第3章では、人間行動の科学的研究について述べ、科学的行動は、健全な懐疑主義、客観性、変化への即応性の3つを基本的なアプローチとするとしています。さらに、第4章では、集団の構造と機能について書かれており、リーダーが集団の成員に配慮すべきこととして、集団における安定した満足すべき社会的関係、集団内部における身分感情、集団内のメンバーシップによる地位感情、現時点で重要かつ多様な個人的欲求の充足の4つを挙げています。

 第Ⅱ部「実践編」では、第5章で、道義的リーダーシップとは何かを説き、それは、第一は、リーダーが自己を誠実にするのに必要な高い水準の徳性を伸ばすことであり、第二は、リーダーが道徳的価値を部下に率先垂範によって分け与えることであるとし、与えられた使命を達成するための責任を受け入れる覚悟が求められるとしています。第6章では、士官の役割や、リーダーとしての品位を保った言動、立ち居振る舞いと話し方などについて述べています。

 第7章では、バーク大将がリーダーの人格的特性として①自信、②知識、③熱意、④力強く明確に表現する能力、⑤無能な不適任者をふるいにかける道義的勇気、⑥大義のために何かをしようとする意思の6つを挙げたことを引き、有能なリーダーの人格的特性として組織に対する「忠誠」や行動・判断する「勇気」、「謙虚」「自信」など挙げて、それぞれ解説しています。第8章では、リーダーシップを日々行使することで得られるダイナミックな(体得可能な)特性(目標設定、熱意と快活、配慮、専門知識など)を挙げ、さらに第9章では、その他重要なリーダーシップを増強する特性、リーダーとしての成功要因(部下を名前で呼ぶ能力、寛容、話し振りなど)を挙げて、それぞれ解説しています。

 第10章では、リーダーとして人間関係をうまくやっていく際の13の落とし穴を列挙し、どうすればリーダーとしてよい人間関係をフォロワーとの間に築けるか、また、組織化された制度上のリーダーシップの概念においては、フォロワーの役割が一番大切であることを脳裡に刻むべきであるとし、よいフォロワーの特性とは何かを述べています。

 第11章では、部下との人間関係を維持し、部下を認めてあげるための効果的な技術としては、個人面接とカウンセリングに勝る方法はないとして、よいカウンセリング(面接)の一般原則を説き、第12章では、規律の重要性と、部下の士気を高める方法を説いています。第13章では、組織、管理、および指揮リーダーシップは、相互に結びついて切り離せないものであるとし、最後の第14章にアメリカ合衆国の戦闘要員の行動要領(部分訳)を付けています。

 興味深いのは、リーダーシップの基礎として「人間心理を客観的に分析する」という科学的方法を重視していること(本書第Ⅰ部)と、科学的合理主義のみならず、それと同時に、リーダーたり得るかどうかの基準である部下や上司、同僚の信頼をいかに獲得するかということについて、自分の視点ではなく、他者の評価が重要であると強調されている点です。

 さらに、リーダーシップ行動のあり方が、きわめて具体的かつ実践的に書かれているのが本書の特徴であり、例えば、飲酒に関する注意点について、①絶対な一人飲みをするな、②絶対に就業中および勤務時間中に飲むな、③絶対に空腹時に飲むな、④とくに、疲労時に飲みすぎに注意せよ、⑤絶対に早飲みするな、⑥絶対に毎日飲む習慣をつけるな、⑦飲みすぎの気がしたら、たえず動いたり、ダンスをしたり、食事したり、談話したりすること―そして、次回にはひと飲み減らすこと―といった具合です。

 アメリカ海軍兵学校の士官候補生を対象としたリーダーシップの教科書でありながら、軍事組織の範囲を超えて、リーダーシップ一般に共通する(敷衍できる)視点を展開していることが、60年以上前に書かれて、いまだに読みつがれている理由ではないかと思います(勿論アメリカ海軍の理想的なリーダー像も見えてくるわけだが、同時に現代ビジネス社会に応用可能な普遍的要素を多く含むということ)。

《読書MEMO》
●集団に関する要素(第4章:49p~70p)
・集団の性質:規模・構造・密度・集団となった経緯によって決定される
・集団の特徴:排他性・一体感・ポテンシャル・目的の統一性・安定性によって決定される
・個人と集団:集団との一体感・組織内の位置づけ・参加の度合い・リーダーへの依存度により関係性が決定される
・集団の構成員の欲求:集団との関係性の安全、集団内での地位、集団による地位、評価、報酬、組織の士気により変化する
●バーク大将の「海軍のリーダーシップの実践」における有能なリーダーの人格的特性(第7章:115p)
(1) 自信
(2) 知識
(3) 熱意
(4) 力強く明確に表現する能力
(5) 無能な不適任者をふるいにかける道義的勇気
(6) 大義のために何かをしようとする意思
●リーダーに必要な特性(第7章)
・組織に対する「忠誠」
・行動・判断する「勇気」
・名誉・正直・真実
・信義
・宗教的信仰
・謙虚
・自信
・常識とよい判断
・健康、エネルギー、楽観主義
●リーダーのダイナミックな特性(第8章)
・目標の設定
・熱意と快活
・協力
・敏速、信頼性
・如才なさ
・配慮
・公正
・自制
・専門知識、準備、余暇の利用
・率先。計画能力、想像力
・決断力
・勝つ意志
●その他重要な成功要因(第9章)
・部下を名前で呼ぶ能力
・寛容
・よい聞き手であれ
・節制
・弁説の力
・話し振り
・口頭による命令
・集団の前で話すこと
・会話
・書き言葉対話し言葉
・有効な文書
●人間関係をうまくやっていく際の13の落とし穴(第10章:160p)
(1) 自分勝手な善意の規準を設けようとすること。
(2) 他人の楽しみを自分自身の物差しで測ろうとすること。
(3) 世間の意見の画一性を期待すること。
(4) 無経験を酌量しないこと。
(5) すべての気質を同じ型につくり上げようとすること。
(6) 重要でない、ささいなことがらについて譲歩しないこと。
(7) 自分自身の行動に完全を求めること。
(8) つまらぬことに自分自身また他人についてくよくよ思い悩むこと
(9) 場所のいかんを問わず、助けることができるときにだれも助けないこと。
(10) 自分自身が実行できないことを不可能と考えること。
(11) われわれ有限の心で捉えうるものだけしか信じないこと。
(12) 他人の弱点を斟酌しないこと。
(13) その人をつくり上げるのが内部の質的基準であるのに、外部の質的基準で評価すること。
●フォロワーのリーダーに対する責任(第10章:178p)
(1)自己の仕事とそれがいかに部隊の使命達成に寄与しているかを知っている。
(2)リーダーの特性を知っている。
(3)インスピレーションを与える能力をもっている。
(4)上司および部下に対して忠誠をつくす。
(5)能力に見合うイニシアチブを発揮する。
(6)権限と責任の委譲を容易に受諾し、かつまた受諾する用意がある。
(7)リーダーの決定を受諾し、全幅的にこの決定を実施するために最善をつくす。
(8)リーダーの部下のために配慮する能力と限界を十分に知り、不当な期待をかけることによって、上司のリーダーシップの負担をふやさない
●団結心の達成と維持のためにリーダーが克服すべきこと(第12章:212p)
(1)リーダーに対する信頼の欠如
(2)チームメンバーの葛藤
(3)成果に対する非協力者の存在
(4)リーダー・チームメンバーの急な異動
(5)正当な評価の欠如
●組織を成果に向かわせるために(第13章:212p)
・成果に必要なミッションを組織内に全て割り当てる
・チームメンバーが自分の責任・ミッションを明確に理解できるようにする(簡潔に整理し、何をすべきかを明確にする)
・チームメンバーの特性・職位にあったミッションを与え、必要な権限を最大限委譲する(責任に相応)
・矛盾や重複した責任・ミッションの分担は行わない
・組織全体の構造に一貫性と正当性を持たせる
・複数のリーダーを一つのチーム、または一人の個人に置かない(上長1に対し、チームメンバーNとする)
・リーダーがコントロールできないチームメンバーをおかない
・指揮系統の安定を図る(他による侵食を防ぐ)
・上位にいるリーダー(複数のチームリーダーをまとめるリーダー、会社で言う部長など)は、方針によって組織を統制する
・組織内で相互に監視が行われ、統制機能が働く関係性を作る

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ジョブ型のもとでの課長の在り方を整理するも、ジョブ型に限らずの話になっている。

ジョブ型と課長の仕事.jpg 『ジョブ型と課長の仕事 役割・達成責任・自己成長』['21年]

 ヘイグループを一部前身とするコンサルティングファーム「コーン・フェリー」の「クライアントパートナー」であるという著者による本書は、ジョブ型人事制度のもとでの課長の役割と仕事とは何か、これまでとは何が違うのか、何を為すべきかについて、体系的に整理したものであるとのことです。

 序章では、ジョブ型雇用雇用の本質とは何かを解説したうえで、ジョブ型雇用の成功のカギは、社員が個性を自覚し、ジョブを選択し、自己の運命に責任を持つこと、換言すれば「自律」と能力開発への自主的な取り組みであるとし、その上で、組織の中核を担う課長級の社員からジョブ型雇用に合った役割と仕事を理解し、行動を変容することが出発点になるとして、
  ①課長は中核管理職である
  ②21世紀のパラダイムを主導する
  ③チームの目標管理を推進する
  ④役に立つスキルを磨く
  ⑤マネジメントの焦点を理解する
  ⑥自らの運命を支配する
の6つの基本を掲げています。

 第1章では、これからの課長がやるべきこととして、
  ①ジョブの意味を正しく理解する (ジョブとは付加価値を生むもの)
  ②ジョブの価値を向上させる  (ジョブは与えられるのではなく、自らつくるもの)
  ③ジョブを実践する原則を知る (7つの原則)
の3つを挙げ、それぞれ解説しています。最後の「7つの原則」とは、
 [第1の原則]2020年代の成功につながるマインドセット
 [第2の原則]トップダウン型目標管理ではなく、自律型目標管理
 [第3の原則]360度型リーダーシップ
 [第4の原則]顧客の創造
 [第5の原則]思考力の錬磨
 [第6の原則]コミュニケーション力の錬磨
 [第7の原則]社会的課題への積極的な関与
であるとのことです。

 第2章では、変えるべきマインドセットとして、
  ①「競争に勝つ」から脱却する (競争志向から顧客志向へ)、
 ②戦略的思考の定義を変える (競争戦略からブルーオーシャン戦略に立ち戻る)
 ③管理者から支援者に変わる (ファシリテーターの役割を担う)
 ④部下ではなくパートナーとして接する (部下から学ぶ)
 ⑤中間管理職から中核管理職に変わる (成果を生み出すプロフェッショナルになる)
の5つを挙げ、それぞれ解説しています。

 第3章では、チームの目標管理をどう行うかについて、
 ①自律的な仕事環境をつくる
 ②作業の棚卸しをする
  ③目標達成に必要なスキルを確認する
  ④ジョブディスクリプションを運用する
  ⑤チームの目標管理を行う
の5つを挙げ、それぞれ解説しています。

 第4章では、チーム運営に必要なスキルとして、
  ①リーダーシップ
  ②共感力を生むコミュニケーション力
  ③問題解決のためにの思考力
の3つを挙げ、それぞれ解説しています。

 第5章では、課長のマネジメントの課題として、
  ①コンプライアンス問題への対応
  ②リスクマネジメントへの対応
  ③ダイバーシティへの対応
  ④SDGsへの対応
  ⑤組織づくりへの対応
  ⑥顧客起点の行動
の6つを挙げ、それぞれ解説しています。

 第6章では、課長の自己成長のための習慣として、
  ①内省の習慣
  ②継続的な学習習慣
  ③定期的なフィードバック習慣
  ④プロジェクトをつくる習慣
  ⑤教養を身につける習慣
  ⑥キャリアビジョンを考える習慣
の5つを挙げ、それぞれ解説しています。

 要約すると、ジョブ型人事制度のもとでの課長には、経営からの待ちの姿勢ではなく、顧客起点から機会を探り、最適なビジネスを自律的に展開すること、問題の発見と解決のための自発的な目標管理プロセスを運営すること、プロジェクトをリードすること、人の育成と同等に自分のキャリアを開発することなどが求められるということを言っているように思います。

 いずれも至極もっともであり、「課長の教科書」としては、さまざまな気づきを喚起してくれる本であると思いました。課長の役割や責任、人材育成や自己成長について、ジョブ型という視点で捉え直そうとする試みかと思います。

 ただし、本書で書かれていることの多くは、「ジョブディスクリプションを運用する」といったようなことを除けば、ジョブ型雇用であるかどうかによらず、以前から言われてきた、または近年よく言われていることであり、今後さらに求められるであるように思いました。その意味で、オーソドックスですが、新味はさほど無いように思いました。

 コーン・フェリーとしては、〈ジョブディスクリプションの必要性〉に持っていきたいのだろうなあ。そのために、協力コンサルタントに、日本企業向けの「課長論」を書かせているようにも思えなくもないです。

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ユーモアに助けられて肩が凝らずに読み通せるリーダーシップの「教科書」。

ゼロから考えるリーダーシップ2021.jpgゼロから考えるリーダーシップ』['21年]

 本書は、企業組織の研究を心理学と経営学の両方から研究してきた著者によるリーダーシップの「教科書」であり、マネジャーとリーダーはどう違うのか、リーダーシップはカリスマや積極的な人だけのものなのか、リーダーは何を考えているのか、といったリーダーシップにまつわるさまざまな疑問に答えながら、リーダーシップ理論の体系とその中身を解説しています。

 まず、第1章で、リーダーシップとは何か、第2章で、リーダーとマネジャーの違いは何か、第3章で、マネジャーとして、リーダーとして必要な素養とはそれぞれどのようなものかを解説しています。第4章では、トヨタグループへの調査結果と照合させながら、学術上、リーダーシップの3要素として、業務を担うリーダーシップ、人間関係を担うリーダーシップ、変革を担うリーダーシップがあることを紹介しています。

 続いて第5章では、マネジメントやリーダーシップは本当に組織で役に立っているのかを調査から分析し、リーダーシップとマネジメントはともに組織に不可欠だが、それを両立させる黄金比は3:1であるとしています。つまりポジティブ(リーダーシップ)とネガティブ(マネジメント)の比率バランスが3:1であることが理想であるという、「3:1の法則」を提唱しています。

 第6章では、リーダーシップ理論のビッグファイブ・パラダイムとして、①特性理論、②行動理論、③条件適合(コンティンジェンシー)理論、④リーダー・メンバー交換関係(LMX)理論、⑤変革型理論の5つがあるとして、それぞれを解説しています。この章はとりわけ、読者のリーダーシップに関する"理論武装"に資するであろう章となっています。

 第7章では、リーダーシップと脳の機能の関係を解説し、業務志向・対人志向の2要素と未来志向・現在志向の2要素の掛け合わせから、業務遂行型リーダーシップ、チームワーク型リーダーシップ、ビジョン型リーダーシップ、育成型リーダーシップという4つのリーダーシップと、それに呼応する、ゲームリーダー、チームリーダー、イメージリーダー、ドリルリーダーという4タイプのリーダー像を示しています。

 第8章では、リーダーシップはどうすれば育成できるのか、知識と経験でリーダは育つのかを考察し、第9章では、リーダーにとって対話が持つ意味は何か、対話がもたらすリーダーシップの効果について解説しています。

 第10章から11章にかけては、リーダーにとってビジョンとはどういうことかを述べ、リーダーの器はビジョンで決まるとし、ビジョンはどうすれば鍛えられるのかを解説しています。

 第12章では、リーダーには集団を引っ張るリーダーだけではなく、従者(サーバント)として集団を支えるリーダーや、リーダーシップをメンバーと分かち合うリーダー(シェアド・リーダー)もいるとしています。その上で、最終章の第13章では、日本型リーダーシップの本質とは何かを考察しています。

 しっかりした内容で、リーダーシップの歴史を踏まえつつ、最近のトレンドも押さえた本であったと思います。前提としてリーダーシップをマネジメントと峻別する立場に立っていること、リーダーシップの解説においてポジティブ心理学の知見などが織り込まれていることなどが特徴的です。

 ともするとガチガチに固いテキスト本になりがちな内容であるにも関わらず、随所にアニメ等にまつわるネタなどをギャグ的にを織り交ぜているため、そうしたユーモアに助けられて固さが緩和され、肩が凝らずに読み通せるのも、類書にはない特長かと思います。リーダーシップ理論について初学者が入門書として読むのもいいし、ベテランが復習のために読むのもいいと思います。

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リフレクションについての気づきを与えてくれるが、実践はまた別か。

リフレクション図1.jpgリフレクション2021.jpg
リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術 オリジナルフレームワークPPT・PDF特典付き』['21年]

 本書では、リフレクションとは、自分の内面を客観的、批判的に振り返る行為であり、「内省」という言葉が最も近いとしています。リフレクションの目的は、あらゆる経験から学び、未来に活かすことであるとし、このスキルを応用していくことで、自分自身だけでなく、他者への理解を深めて成長を促進したり、組織をまとめるリーダーシップを育んだりすることができるとしています。本書は、そうしたリフレクションスキルを身につけるための基本メソッドを紹介したものです。

 第1章では、リフレクションの質を高めるメタ認知のフレームワーク「認知の4点セット」(意見・経験・感情・価値観)と、リフレクションの基本となる5つのメソッド(自分を知る・ビジョンを形成する・経験から学ぶ・多様な世界から学ぶ・アンラーンする)を紹介しています。この章は、本書の"読みどころ"になるかと思います。

 第2章は「リーダーシップ編」であり、メンバーの主体性を引き出すチーム型リーダーになるには、リフレクション(認知の4点セット)をどう活用すればよいかを説いています。ここでは、ぶれない軸をつくるリフレクション、自分自身のモチベーションを高めるリフレクション、感情を上手に扱うリフレクション、思考の柔軟性を高めるリフレクション、対話力・傾聴力を高めるリフレクションなどを紹介しています。

 第3章は「育成編」であり、自立型学習者を育てるにはどうすればよいか、部下育成にリフレクションを活用する方法を紹介しています。ここでは、先に述べた5つのメソッドを自分だけでなく他者にも応用することを説くとともに、自分の頭で考える力を育むにはどうすればいいか、信頼関係を構築するにはどうすればよいか、相手の強みを引き出したり成長を支援するにはどうすればようか、などを解説いています。

 第4章は「チーム編」であり、どのように他者と協働(コラボレーション)するかを説いています。ここでは、組織のパーパス(目的)・ビジョン(ありたい姿)・バリュー(組織文化)の定義にも認知の4点セットを活用することを推奨するとともに、ビジョンを浸透させるにはどうすればよいか、多様性を価値に変えるにはどうすればよいか、などについても認知の4点セットから説明し、最後に、ピーター・センゲが提唱した「学習する組織」を作るための5つの規律(ディシプリン)を紹介しています。

 著者自身が「学習する自立型組織を目指す人のためにハウツー本」として執筆したと述べているとおり、本書におけるリフレクションの基本となる5つのメソッドは、ピーター・センゲの「学習する組織」における5つのディシプリンを、その実践方法として再構築したものであるようです。

 リーダーにはリフレクション(内省)が不可欠であるとはよく言われるものの、そのことを掘り下げて一冊にまとめた本は少なく、その点ではリフレクションにフォーカスして書かれた本書は、読む価値はあったかと思います。また、リフレクションのメソッドを自分だけでなく他者にも応用することを説いているのはユニークです。

 体系的にも整理されていて、最新のリーダーシップや組織開発に関する理論も随所で紹介されています。マイドフルネス、レジリエンス、グロースマインド、ウェルビーイングといったことにも触れていれば、ティール組織やホラクラシーといった言葉も出てきます。

 ただし、読み終わって、やや漠たる、少しもっとした印象が残るのは、本書におけるリフレクション・メソッドのスタートは、結局は自身の認知の在り方ということになるためではないかとも思いました(認知心理学(論理療法におけるABC理論(出来事(A)、信念(B)、結果(C))を想起させる)。本書を読んで〈気づき〉を得られるのは、それはそれでいいのですが、それがイコール実践というようには、すぐにはならないのではないかという感想も抱きました。

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「できるリーダー」の部下の能力を100%引き出すマネジメント術。読みやすく説得力がある。

「最強のチーム」のつくり方.jpg「最強のチーム」のつくり方2.jpg
アメリカ海軍に学ぶ「最強のチーム」のつくり方: 一人ひとりの能力を100%高めるマネジメント術 (知的生きかた文庫 よ 19-2)』['15年]

 本書は、『即戦力の人心術―部下を持つすべての人に役立つ』('08年/三笠書房))の文庫化・改題版で、内容は、アメリカ海軍のミサイル駆逐艦「ベンフォールド」の艦長として300名以上のクルーを率い、機能不全に陥っていた同艦を"海軍No.1"と呼ばれるまでに大変革させ、海軍中にその名を轟かせたという元海軍大佐が、「できるリーダー」は何をしているのか、その具体的な思考方法を明らかにし、部下一人ひとりの能力を100%引き出すマネジメント術を、自身の経験に基づいて説いたものです(原題: It's Your Ship -Management Techniques from the Best Damn Ship in the Navy(2002))。

 第1章「「硬直した組織」に、ガツンと変化を起こす」では、硬直した組織に変化を起こすために著者はまず、部下の身になって、何がいちばん大事かを考えたとしています。そして、もっとよいやり方はないか部下に聞いてまわり、いいアイデアは惜しみなく褒め、実績として高く評価したとのことです。「自分たちの提案を大事にしてくれる上司」に対しては、部下たちは心を開き、信頼を寄せてくれるものであるとしています。

 第2章「部下を迷わせない、確たる「一貫性」」では、単に命令するだけでは部下は動かず、①目標を明確にし、②その任務を達成するための十分な時間・資金・材料を部下に与え、③部下に十分な訓練を受けさせなければならないとしています。そして、結果だけではなく、正しいやり方を重視し、そのことが明日のワシントン・ポストの一面に掲載されて全米中に知られることになって、それを誇りに思うだろうかを問うてみるとしています。

 第3章「「やる気」を巧みに引き出す法」では、部下のやる気を引き出すには、組織内のすべての人間との出会いを大事にしたとのことです。また、自分の部下をよく知っていることは、実に大きな資産で、部下を上手く指導する手段ともなるとしています。

 第4章「明確な「使命」を共有せよ」では、管理職にとって重要なのはチームの力であり、そのためには「集団の知」が必要であるとしています。また、部下がどれだけ上司の命令について知っているかということと、彼らがそれをどれだけうまく実行できるかということには直接的な関係があるとしています。

 第5章「チームで「負け組」を出さない!」では、組織全体が勝利すれば、そこにいる全員の勝利であり、負け組が必要な組織など偽物であるとしています。また、部下を見限ったりせず、力になるつもりだというシグナルを送ると部下は安心できるとしています。

 第6章「なぜ「この結果か」をよく考える」では、部下に服従を求めるだけでなく、アイデアや自発性を引き出すことが必要であり、「自分自身で判断し、行動する」ことを身につけさせれば、部下がその後どのような人生を歩んだとしてもそれは彼らにとって貴重な財産となるとしています。

 第7章「「合理的なリスク」を恐れるな!」では、「合理的なリスク」を恐れてはならず、ときには失敗しても冒険する人間を称え、昇進させるべきであるとしています。

 第8章「「いつものやり方」を捨てろ」では、マニュアルはおよび腰な行動の原因となり、本当に重要なものを見えなくするとし、日ごろから自分たちの仕事において「いちばん大事なこと」をおろそこにするなとしています。懸命に働くな、賢明に働けとも言っています。

 第9章「あなたはまだ、部下をほめ足りない!」では、部下の些細に思える意思表示を見逃さず、コミュニケーションを重ねることで、親密で協力的な雰囲気が生まれるのだとしています。また、前向きで、直接的な励ましこそが効果的なリーダーシップの本質であるともしています。

 第10章「「頭を使って遊べる」人材を育てよ」では、どんな組織でも、友人たちと楽しむことは、お金では換算できない、大きな精神的つながりを生み出すとしています。

 第11章「永遠に語り継がれる「最強のチームワーク」」では、リーダーの役割は「管理すること」よりも、「いかに才能を育て、延ばすか」にあるとして本書を締めくくっています。

 著者自身が「この武勇伝」と呼んでいるように、実際に著者が経験したエピソードばかりで構成されているため、読み物を読むように読めます。アメリカ海軍が舞台になっていますが、企業組織にも通用することがほとんどであり、机上の空論ではなく、実際の指導経験と成功例に支えられた内容となっているためり、読みやすくて説得力がある良い本だと思いました。広くお薦めできるものです。

《読書MEMO》
●第1章:「硬直した組織」に、ガツンと変化を起こす
・艦長室で報告を待っているのではなく、積極的に艦内を歩きまわって意見を吸い上げる。
・何をするにも必ずもっと良い方法があると考えよ。
・どんな小さな提案であっても、いいアイデアは惜しみなくほめ、その提案者の実績として高く評価した。
・自分たちの提案を大事にしてくれる上司に対しては部下たちは心を開き信頼を寄せてくれる。
●第2章:部下を迷わせない、確たる「一貫性」
・目標を明確にし、それを行うだけの時間と設備を与え、部下がそれを正しく行う為の適切な訓練を受けていることを確認しない限り、もう二度と命令を口にすることはしない。
・結果だけではなく正しいやり方を重視する。明日のワシントン・ポストの一面に掲載されて全米中に知られることになってそれを誇りに思うだろうか、恥と思うだろうか。汚い手を使って目標を達成しても必ず敵をつくり、長い目でみるとマイナスである。
●第3章:「やる気」を巧みに引き出す法
・艦にいる全ての人間との全ての出会いを一番大事なものとして扱う。
・艦にいる全員の名前を覚える。
・自分の部下をよく知っていることは、実に大きな資産で、部下を上手く指導する手段となる。
●第4章:明確な「使命」を共有せよ
・部下がどれだけ上司の命令について知っているかということと、彼らがそれをどれだけうまく実行できるかということには直接的な関係がある。
●第5章:チームで「負け組」を出さない!
・組織全体が勝利すれば、そこにいる全員の勝利である。
・負け組が必要な組織など偽物である。
・部下を見限ったりせず、力になるつもりだというシグナルを送ると部下は安心できる。
・悪い知らせを持ってくる人間をないがしろにせず信頼関係を築いておくことで、悪い知らせほどすぐ耳に届くようにする。
●第6章:なぜ「この結果か」をよく考える
・「自分自身で判断し、行動する」ことを身につけさせれば、部下達がその後どのような人生を歩んだとしてもそれは彼らにとって貴重な財産になる。
●第9章:あなたはまだ、部下をほめ足りない!
・前向きで、直接な励ましこそが効果的なリーダーシップの本質である。
・彼らを機械のように扱うのをやめれば、彼らの業績は向上する。
・あらゆる重要な業務でクロストレーニング(複数の仕事ができるよう訓練すること)を実施することが必要であり、そうしないと重要な業務に精通している人間が一人だけになってしまい、何かあったときに惨事が起こる可能性がある。

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優優れたリーダーは「WHAT(結果)」からではなく、「WHY(理念)」から始める!

WHYから始めよ!.jpg
WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』['12年]

WHYから始めよ!gc.jpg 本書は、コンサルタントである著者が、TEDでの「優れたリーダーはどうやって行動を促すのか」というプレゼンで提唱して注目を集めた〈ゴールデン・サークル〉理論を書籍化したものです。その趣旨は、人々や社会を巻き込む力を持つリーダーには共通点があり、それは思考を「WHAT(結果)」からではなく、「WHY(理念と大義)」から始めるという点にあるということです。本書は、組織の内外の人々に感銘を与え、やる気を起こさせ、アイディアやビジョンを発展させる手助けができる"インスパイア型リーダー"になる方法を説いたものです。

 第1部「WHYから始まらない世界」では、第1章「あなたの思い込みが間違っていたら?」で、我々はつい勝手な思い込みをして、不完全な情報を基に誤った判断をしがちだが、長期的な成功を得ることができるのは正しい判断が下された時のみであるとしています。第2章「飴と鞭」では、人に影響を与えることができる方法は、「操作(マニュピレーション)」と「鼓舞(インスピレーション)」しかなく、価格競争・プロモーション・恐怖心の利用・上昇思考メッセージ・目新しさなどの様々な操作は、短期的な利益を得るためには有効な手段だが、操作から継続的な忠誠心が生まれることはなく、別の正しい方法(つまり鼓舞)が存在するとしています。

 第2部「WHYから始まる世界」では、第3章「ゴールデン・サークル」で、著者が〈ゴールデン・サークル〉と命名したコンセプトを紹介しています。これは、人に何かしらの情報を伝え、行動を促したい時、「WHY・HOW・WHAT」という3層のサークル状の構成要素が存在し、サークルの中心にあるWHY(なぜ)から始め、HOW(どうやって)、WHAT(何を)の順で相手に伝えると共感を生むことができるという理論です。例えば、アップルのメッセージはWHY(理由)から始まっていて、つまりそれは目的、大義、理念であり、アップルを際立たせているのは、アップルのWHAT(していること)ではなくWHYであり、アップルの製品は、彼らの信念に命を吹き込んだものなのだと。「よりよい」製品という考え方には疑問が伴い、なぜその製品が存在するのかが最初に考えられるべきであり、それを望む人がいる理由と一致してなければならず、どの場合でも、初心、大義、信条といったものに立ち戻っていれば、業界の変化に対応できると。「競争に勝つためににはなにをすべきか?」と自問するのではなく、「そもそも自分たちの理念とはな何か、その理念に生命を吹き込むには、なにができるか」と自問すべきなのだとしています。

 第4章「これは生物学だ」では、どこかに帰属していたいという願望は、理性から生じるものではなく、どんな文化であろうとすべての人間がもつ普遍的なものであるとしています。また、意思決定を司る脳の部位は、言語機能を司っていないため、我々は無理やり説明をくっつけるが、WHYがなければ、決断を下すのは難しくなり、不安な気持ちのままデータや数値に頼って決断を下そうとするようになると。WHYが鮮明な製品は、ユーザーの理念や信条を周囲に明確に伝える力を持っているが、WHYを曖昧にしている企業は、顧客の要望を叶えようとHOWやWHATで始めてしまい、低価格、特徴の数、サービスや製品の品質といった操作で差異化を図って勝負せざるを得なくなるとしています。

 第5章「明快さ、厳しい指針、一貫性」では、終始一貫したWHATには「本物であること」が求められ、本物であることは、永続する成功には必須だが、これは、もとをたどればWHYに行きつくとしています。そして、自分のWHYがわかっていなければ、志や理念を言動であらわすことなどできず、自分のWHY(信条)と言動が矛盾せず、終始一貫していなければ、本物になれないと。リーダーは自分の心から信じることを行動に移すことによって本物(オーセンティシティ)になり、周囲の同じ信条を持っている人がついてくるとしています。

 第3部「リーダーには信奉者が必要」では、第6章「危機に瀕する信頼」で、勝ちたいという欲望は、本質的に悪いものではないが、得点だけが成功の基準になると問題が生じるとしています。会社や顧客のためではなく「自分のために」勝たなければならなず、会社やリーダーは、社内の人間が「自分のために」と思えるようなWHYを持つ必要がある―つまり、会社のWHYと自分のWHYを一致させ、自分のためにやったことが会社のためになっていることが理想なのだとしています。

 第7章「ティッピング・ポイントとは」では、ビジネスや社会でティッピング・ポイント(それまで小さく変化していたある物事が、突然急激に変化する時点)に達するには、コネクター(イノベーター、アーリーアダプター)による口コミが必要だが、初期ターゲットとするイノベーターやアーリーアダプターには単に影響力をある人を選ぶのではなく、自分たちが信じているものを信じてくれる人を選ぶべきであると。ビジネスの目標は、単に誰か(大衆)に商品を売ることではなく、理念や信念に共感してくれる人を探すことにあり、初期採用者についてそうした狙いを定めていれば、最終的には大衆がついてくるとしています。

 第4部「信じる人間をどう集結させるか」では、第8章「WHYからはじめよ、だがHOWを知れ」で、世の中にはWHYタイプの人(夢を語る人)とHOWタイプの人(計画を立てる人)が存在するが、優劣があるわけではなく、WHYタイプの語る信念・大義を中心に、それらをメガホンのように拡散する役割をHOWタイプが担っていて、WHYを知る人にはHOWを知る人が必要であり、WHYタイプの役割は、人々をインスパイアし、活動をおこすことだとしています。

 第9章「WHYがわかり、HOWもわかった。で、WHATは?」では、リーダーは、メンバーに信念を確実に信じさせ、それを実行する方法を理解させなければならず、また、HOWタイプはWHYを理解する責任を負っているとしています。組織のトップに座っているリーダーは、インスピレーションであり、我々の行動理由のシンボルなのだと。

 第10章「コミュニケーションとは耳を傾けること」では、業績をあげている会社の「最善策」を、つまりWHATやHOWをそのまま真似るだけではダメで、大切なのは、WHATやHOWではなく、HOWとWHATがWHYと一致しているかどうかが肝心なのだとしています。

 第5部「成功は最大の難関なり」では、第11章「WHYが曖昧になるとき」で、起業した後、あるいは仕事を始めた後、自分が行うWHATに我々は自信を深めていき、それを行うHOWに精通していく―業績を上げれば、どれだけの成功をおさめたかを数値で知ることができ、これでまた精進した、成功した、と感じることができる―ところがその過程で、そもそもどうしてこの旅を始めたのかというWHYをすっかり忘れてしまいがちになり、すると、必ずWHATとWHYに乖離が生じるとしています。

 第12章「WHATとWHYの乖離」では、WHATとWHYが離れはじめた組織は、もはや理念や大義に心動かされることはなく、インスピレーションはなきに等しいと。多くの大企業が「初心に戻れ」と異口同音に言っているのも、偶然ではなく、彼らがほのめかしているのは、乖離が始まる前の時代に戻れということだとしています。

 第6部「WHYを発見する」では、第13章「WHYの源泉」で、アップルという会社のWHYの源泉はどこにあったのかを振り返り、アップルの製品は、アップルのWHYを理解する人にとって最高なのだとしています。

 第14章「新たな競争」では、他の人間と競争するとき、誰もあなたを助けたいとは思わないが、自分自身に戦いを挑むと、誰もがあなたを助けたいと思うとし、他人と自分を比べると誰も私たちを助けようとしないが、自分自身をよりよくするために出社したらどうなるか? 人々をインスパイアするために出社したたらどうなるか? と問うています。そして、もし、すべての組織がWHYから始めたら、決定はよりシンプルになり、忠誠心は篤くなり、信頼が共通認識になるだろうとしています。

 世の中には「形式上のリーダー」と「本物のリーダー」がいて、「形式上のリーダー」は、権力のある座につき、影響力を持つが、「本物のリーダー」は、私たちを感激させ、奮起させる。「本物のリーダー」は、私たちに「WHY(理念と大義)」を語るが、それこそが組織の内外の人たちのやる気を起こさせるのに対し、「形式上のリーダー」は「WHAT(結果)」だけを語ってしまうということを言っている本です。

FIND YOUR WHY2.jpg TEDで記録的な再生数を誇った著者のプレゼンテーションを見て本書を手に手にした人も多いかと思いますが、プレゼンからさらに一歩踏み込んで説明されており、啓発度が高かったように思います。単なる啓発書にとどまらず、組織論、リーダーシップ論としても読め、人事パーソンにお薦めです(本書の実践編として、『FIND YOUR WHY―あなたとチームを強くするシンプルな方法』('19年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)も刊行されている)。

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啓発的かつ実践的。「新しい時代の上司学」を考えるうえでは良かった。

あなたの職場の繊細くんと残念な上司.jpg 『あなたの職場の繊細くんと残念な上司 (青春新書インテリジェンス)』['20年]

 自分の意見を言えなかったり、強く注意すると会社を休んだり、言いづらいことはメールで伝えてくる――といった繊細な若手社員が増えているのはなぜか? そんな若者を良かれと思った指導でつぶしてしまう残念な上司にならないようにするはどうすればよいか? 本書は、かつて企業に勤め、現在は大学教員であり、職場でのコミュケーション、メンタルヘルス問題や若者意識に詳しい著者が、世代間のギャップを考察し、若手を伸ばすリーダーや職場の共通点を明らかにしたものです。

 まず、著者は、いまNOをはっきり言えないといった繊細な若者が増えていることを指摘し、彼らがひ弱で繊細に見える理由として、①中高年には見えにくい「不安心理」、②多様性の時代に高まる「同調圧力」、③「doingからbeing」への人生に求めるもの変化、の3つがその言動の背景にあるとしています。

 第1章では、上司には見えない「不安心理」の背景には、彼らが不透明かつ不安定な時代を生きてきたことがあるとしています。彼らは常に「(Comfortable ℤone(居心地のいい空間)」に身を置きたいという気持ちが強く、会社にそうした居心地のいい空間があるかどうかを、会社の規模や知名度、給料の高さよりも重要視するとしています。たとえば、若手社員の定着率は、緩やかながらもお互いに支え合える「横の人間関係」の有無に左右されるとしています。

 第2章では、自分の意見をはっきり言わず、遅刻を注意したら退職したとか、飲み会・社内イベントの幹事をやろうとしない、海外勤務や転勤をきっぱり断る、といった最近の若者の言動の背景には、「doing(形のあるもの)からbeing(形のないもの)」への価値観の変化があり、外面よりも内面の充実を重視するようなっていて、旧来の価値観を押し付ける上司は、若手を追い込む「同調圧力」として避けられ、できる上司ほど自身の価値観を部下に「強要」しないとしています。

 第3章では、いま日本では、ハラスメントを恐れて部下にダメ出しできない上司が増えているとし、中高年の管理職が部下に言いにくいことを伝えるときは、これまで述べてきた若者の特徴を踏まえ、「かりてきたねこ」に留意すべきであるとし、「か:感情的にならない」「り:理由をきちんと話す」「て:手短に済ませる」「き:キャラクターには触れない」「た:他人と比較しない」「ね:根に持たない」「こ:個別に伝える」の7つのポイントについて解説しています。

 第4章では、できるリーダーとは、若手の力を引き出す共感のマネジメントができる人であり、若手の力を引き出す近道は、何をおいても「傾聴」であるとし、残念な上司は「指示」を出し、できるリーダーは「質問」をするとしています。

そして、部下との信頼関係を築く、以下の6つのポイントを紹介しています。
 1.100点か0点かで判断しない
 2.「いつも~だ」と考えない
 3.「マイナス思考」「マイナスだけを通すフィルター」を持たない
 4.事実から離れない
 5.「すべき思考」にはまらない
 6.レッテルを貼らない

 また、部下の成長応じて、指示は4段階で変えるようにとも(SL理論)。
 ・成熟度1(その仕事の未経験者)→「指示型」の指導
 ・成熟度2(ある程度自分でできる)→「コーチ型」の指導
 ・成熟度3(その業務に精通している)→「援助型」の指導
 ・成熟度4(専門性を持ち成果がだせる)→「委任型」の指導

 最後に「繊細な若手社員の力を引き出す、以下の6か条を紹介しています。
 1.賞罰や競争、比較をからめないこと
 2.共同体の感覚を持たせる
 3.YES・NOの表明を強要しない
 4.不安に共感し、不安を共有する
 5.相手の考え、環境、生き方に共感する
 6.責任を口にしない

 例えば、最後の「責任を口にしない」。「おまえたちのやりたいようにやってみろ。その代わり全力投球しろ。責任は俺が取るから心配するな」と、こんな啖呵を切っても、今の若手社員にはたいして響かず、彼らは「自分に酔っている」とか「耳あたりのいい台詞だけど、こっちにプレッシャーをかけている」と見透かしているとのことです(笑)。責任を強調して部下を追い込むのではなく、上司と部下で役割は違えど、同じ目的に向かっていく仲間として、ともに力を合わせていくことを伝え、それを共有していくことが求められている(179p)ということなのでしょう。

 いろいろ気付きを与えてくれて啓発的であると同時に、実践的な内容でもあったように思います。多様性の時代、働く部下のワーク・ライフ・バランスを理解し、彼らと価値観や倫理観が共有でき、良いコミュニケーションが取れることが、これからの上司に求められる資質であるとの思いを抱かされました。会社としても、そうしたことを後押しする社内環境の整備を考えるべきで、ただ、若い社員には愛社精神を持ってほしいと思っているだけでは何も変わらないのでしょう。

 著者の過去の著書の傾向からメンタルヘルスの本かと思いましたが、タイトル通り「上司学」の本でした。「新しい時代の上司学」とまで言ってしまうとどうでしょうか。SL理論をはじめ、リジッドなリーダーシップ理論も織り込まれていたように思います。でも、「新しい時代の上司学」を考えるうえでは良かったように思います。

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心理的安全性と何か、それを実践するにはどうすればよいかを説く。

恐れのない組織1.jpg恐れのない組織.png チームが機能するとはどういうことか.jpg エイミー・C・エドモンドソン2.jpg Amy C. Edmondson
恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』['21年] エイミー・C・エドモンドソン『チームが機能するとはどういうことか―「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』['14年]

 本書は、ハーバード・ビジネススクール教授で、最近注目を集めている「心理的安全性」という概念の提唱者である著者が、フォルクスワーゲン、ピクサー、福島原発など様々な事例を分析し、対人関係の不安がいかに組織を蝕むか、それを乗り越えた組織の在り方とは何かを論じて、実践への示唆までを語った本です。

 3部構成の第1部「心理的安全性のパワー」では、心理的安全性とは何か、心理的安全性がなぜ重要なのかを説明し、さらに、なぜ多くの組織で心理的安全性が当たり前になっていないのかを考察しています。

 第1章「土台」では、病院での医療事故につながりかねなかった事例から、対人関係の不安により職場で従業員が本心を言わないことがパターン化すると、仕事の質に深刻な影響を及ぼしかねないとしています。心理的安全性とは、率直に発言することによる対人関係リスクを、人々が安心して取れる環境のことであるとしています。

 第2章「研究の軌跡」では、心理的安全性に関する学術研究からわかったことして、不安を当たり前にして生き残れる組織は21世紀においてはなく、「フィアレスな組織」は従業員にとってよりよい場であるだけでなく、学習、エンゲージメント、パフォーマンスに素晴らしい効果をもたらすことが明らかになったとしています。

 第2部「職場の心理的安全性」では、事例をもとに、心理的安全性が業績と人々の安全委にどのように影響するかを述べています。

 第3章「回避できる失敗」では、心理的安全性が欠けていると、ビジネスにおいて重大な失敗を吹き起こしてしまうことをフォルクスワーゲンなどの事例から、第4章「危険な沈黙」では、率直に意見を言えないことや権威を過信することとがもたらすリスクを、福島第一原発の事例などから、それぞれ検証しています。

 第5章および第6章では、率直に考えを述べることができ、それを当たり前とする組織の事例を紹介しています。第5章「フィアレスな組織」では、ピクサーを例に、クリエイティブな仕事が業績を左右するなかでのフィアレスな組織のもたらした効果を、第6章「無事に」では、福島第二原発などを例に、思いやりのあるリーダーシップよって、従業員が求められる以上のことをすることを、それぞれ例示しています。

 第3部「フィアレスな組織をつくる」では、リーダーはどんなことをすればフィアレスな組織―誰もが率直に話して仕事をし、貢献・成長・成功し、チームを組んで、ずば抜けた成果を出す組織―をつくりだせるかに焦点を当てています。

 第7章「実現させる」では、心理的安全性をつくるためには何をする必要があるかを述べ、心理的安全性は相互に関連する3つの行動(土台をつくる。参加を求める、生産的に対応する)によって生み出され、心理的安全性を強固にすることは、組織のあらゆるレベルのリーダーの責務であるとしています。

 第8章「次に何が起きるのか」では、本書の事例に関するいくつかの最新情報を紹介するとともに、心理的安全性に関してのよくある質問について回答しています。

 最後の質問のなかに「職場が心理的に安全になると、時間がかかりすぎてしまうのではないか」というのがあり、これなどは最近どこかの組織委員会であったような話ですが、著者は、心理的安全性は効率性に役立つ可能性があり、時間の浪費ではなく節約になるとしています。また、透明性の問題にも触れています。

 著者は、日本企業は「権力格差(パワー・ディスタンス)」が大きいとしており、その意味でも日本企業の職場こそ心理的安心性がより求められると思われますが、著者もそれは可能なことであるとしています。

 著者は『チームが機能するとはどういうことか』の著者でもあり、専門はチーミング(境界を越えてコミュニケーションを図り、一致協力する技術)ですが、心理的安全性と何か、それを実践するにはどうすればよいかを問いた本書は、チーミングをテーマとした本と言ってもいいのではないかと思います。

 心理的安全性について書かれた本がすでに何冊か出ていますが、先に大本(おおもと)である本書を読んで、そのエッセンスに触れておくのがよいかと思います(『チームが機能するとはどういうことか』もお奨めです)。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1部 心理的安全性のパワー
第1章 土台
第2章 研究の軌跡
第2部 職場の心理的安全性
第3章 回避できる失敗
第4章 危険な沈黙
第5章 フィアレスな職場
第6章 無事に
第3部 フィアレスな組織をつくる
第7章 実現させる
第8章 次に何が起きるのか
解説 村瀬俊朗

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理想のチームプレーヤーの特質は、「謙虚」「ハングリー」「スマート」の3つ。

理想のチーム プレーヤー2.jpg理想のチーム プレーヤー.jpg
理想のチームプレーヤー――成功する組織のメンバーに欠かせない要素を知り、成長・採用・育成に活かす方法』['20年]

 本書の著者パトリック・レンシオーニには、『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか』('02年/日経BP)、『あなたのチームは、機能してますか?』('03年/翔泳社)など日本でも話題になった著書があります。

 『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか』は、大規模な組織を率いるトップにとっての組織が競争優位を得るための最重要課題は、戦略でもマーケティングでも財務でもなく、健全な組織をつくることにあるとし、それを実現する「結束」「明確化」「周知徹底」「強化」という4つの指針を、物語を通して示した本であり、『あなたのチームは、機能してますか?』は、危ない組織の5つの症状(「信頼の欠如」「衝突への恐怖」「責任感の不足」「説明責任の回避」「結果への無責任」)を、これも物語形式で示し、ここから導かれる、真のチームワークに求められる5つの行動とは、弱みを見せて信頼を築き、健全に衝突し合い、進んで責任感を持ち、互いの説明責任を追求し、結果を重視することであるとしたものでした。

 本書『理想のチームプレーヤー』では、著者は、チームデベロプメントのコンサルタントとして長年に渡り様々な企業と関わる中で、組織の繁栄に最も必要な人材はチームプレーヤーであるという結論に至ったとした上で、前著での5つの行動は、十分なコーチングや忍耐力、時間などの条件を満たせば習得可能だが、周りよりも優れたチームプレーヤーで、この5つの行動をうまく実践できる人がいて、これ実現できるそうした理想のチームプレーヤーは、人生や仕事や鍛錬を通して「3つの美徳」を身に付けてきたのだとしています。そして、その3つの美徳とは何かを、「第1部:寓話」で、前二著と同じく物語形式で示しています。物語の枠組みは次のようなものです。

 シリコンバレーの企業やコンサルティング会社で輝かしいキャリアを重ねてきた主人公ジェフ・シャンリーは、突然、伯父が経営する有名な建設会社バレー・ビルダーズ社のCEO に任命される。緊急の社長交代劇と共に与えられた使命は、会社史上最大規模の2つのプロジェクトを成功させることだった。ジェフは困惑しながらも、難航するプロジェクトをやり遂げる唯一の方法を見つけ出す。それは、会社のメンバー全員が「理想のチームプレーヤーになる」という価値観を共有し、それに向かう採用と育成の企業文化を、早急に作り上げることだった―。

 つまり本書は、ジェフ・シャンリーという主人公が叔父の会社を救おうとする物語を例に、理想のチームプレーヤーとは何かが語られているわけです。物語で主人公らはまず、会社に問題を引き起こす「モンスター社員」の特性を考え、次にその逆の特質とは何かを考えます。そして、偉ぶらず、勤勉に働き、人間との接し方を知っていることが、モンスター社員の逆、つまりチームプレーヤーの特質であり、この「謙虚」「ハングリー」「スマート」という3つの要素が、優れたチームプレーヤーに欠かせないという結論に行きつきます。

 物語の後の「第2部:モデル」では、3つの美徳を改めて定義し、理想のチームプレーヤーと、そうでない3つの要素のどれかがが欠けている人物のモデルを示すとともに、理想のチームプレーヤーを採用する方法、今いる社員の評価の仕方、一つ二つ美徳に欠けている社員の育成方法、3つの美徳の組織カルチャーへの組み込み方がまとめられています。

 例えば、採用に関しては、面接でカギとなるポイントや、謙虚、ハングリー、スマートの3要素のエッセンスを探るのに役立つ質問例が紹介されていいます。その中には、ごく普通に日本の企業面接で訊くような質問もありますが、チームプレーヤーに必須の3要素を持っているかどうかを、要素ごとに探るためにその質問をしているという点が特徴的であると思われます。

 物語形式なので読みやすく、内容も頭に入ってきやすいです。例えば採用に関して、米国企業の採用というとスペック重視という印象が強いですが、最近は変わってきているのではないかと思わせるものがありました。一方、日本企業は、前述のように、以前から本書にあるような採用をしてきたような気がしなくもありません。しかしながら、どこまで戦略的バックグラウンドがあったかはやや疑問であり、本書を読みながらそのことについて考えてみるのもいいのではないかと思います。また、著者の前著が未読であれば、遡及してそちらに読み進むのも良いかと思います。

《読書MEMO》
●モデル
三分の一
・「謙虚さのみ」 ⇒ 歩兵
・「ハングリーさのみ」 ⇒ ブルドーザー
・「スマートさのみ」 ⇒ 人たらし
三分の二
・「謙虚でハングリーだがスマートでない」 ⇒ うっかりトラブルメーカー
・「謙虚でスマートだがハングリーでない」 ⇒ 憎めない怠け者
・「ハングリーでスマートだが謙虚でない」 ⇒ 熟練の政治家

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「賢明」より「健全」。そのために「結束」「明確化」「周知徹底」「強化」せよと。

れんしおーに2.jpgなぜあなたのチームは力を出しきれないのか.jpg あなたのチームは、機能してますか.jpg
なぜあなたのチームは力を出しきれないのか 』['02年] 『あなたのチームは、機能してますか?』['03年]

 本書『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか』では、まえがきにおいて、競争優位を得ている組織には、①賢明である、②健全である、の2つの特徴があるが、「現実をみると、ほとんどのリーダーは、組織をかしこくすることに時間とエネルギーの大半を費やし、組織をすこやかにすることにはあまり熱がこもっていない。ビジネス・スクールやビジネス誌が何を重視しているかを考えれば、無理もないことである。しかし、組織が健全であることの、しなやかで強い特性を考えると、これは残念なことである」(8p)としています。自身がマネジメントを任されているチームが、最高のパフォーマンスを発揮していると胸を張って言える管理職はどれほどいるでしょうか。本書は、物語形式で話を進めながら、チームが力を出し切れていないのはなぜなのか、その疑問に答え、解決策を提示したものです。

 第1部「不安の種」では、物語の枠組みが示されています。ビンス・グリーンが創立しCEOを務めるITコンサルティング会社グリニッチ・コンサルティングは、ビジネス・スクールの同級生だったリッチ・オコナーがほぼ同時期に創立しCEOを務める同業のITコンサルティング会社テレグラフとライバル関係にあるが、リッチの会社はすこぶる評判が良く、両社は売上こそ競ってはいるものの、人材獲得競争において、ビンスの会社からリッチの会社に移る人の流れが止まらない。また、ビンスの方は相手の会社が気になるが、相手は自分の会社に関心すら示していないようだ。ビンスはリッチの会社テレグラフ成功の秘密を知るためにスパイまがいの偵察までしたりし、さらにその"謎"を探ろうと、専門家を経営会議に招いたりするが、専門家らの分析では、ビンスの会社とリッチの会社では何から何まで異なり、彼らは、リッチの会社は「非常に健全な組織なのです」と言うばかりだった―。

 第2部「異なる文化」では、ビンスのライバルと目されていたリッチにも、ある悩みがあったことを明かしています。その悩みとは、忙しすぎるということで、自らの時間を取れないためリッチは会社を売却しようかとも考えましたが、生きがいでもある会社であるため踏ん切りがつかず、そこで、本当に会社にためになることを1つだけやるとすれば、それは何か? それだけを考えることにしました。そして、その結果見出した「4か条の指針」を黄色い用箋に記し、これを「イエロー・リスト」と呼びます。そのイエロー・リストに記された指針に則って行動することで、会社は急速に素晴らしいものになっていきました。そのイエロー・リストには何が書かれているのか、秘密にしていたわけではないですが、本当に知る人はごく限られていました(4か条の内容は本書の最後の方で明かされる)。
しかしながら、どんなグレートな会社でも過ちを犯すものです。リッチの会社は、空いていた人事担当副社長のポストにジャミー・ベンダーという男を採用します。ジャミーの経歴はどこから見ても申し分ないように思えましたが、次第にジャミーが進める改革の手法を巡って、彼とリッチの会社の経営チームのメンバーとの間に溝が生じます。結局、リッチの会社は、自社の企業文化にそぐわない人物を採用したことが判明し、ジャミー自身も自分がリッチの会社の企業文化に合わないことに気づいて会社を辞めます。

 第3部「チャンス」では、リッチの会社を辞めたジャミーが、ビンスの会社に自分を売り込みに行きますが、その際に何とイエロー・リストの内容を手土産に持っていきます。ここで、その4か条の内容が明かされます。それは、①まとまりがある指導者チームをつくり、その結束を維持する、②透明な組織をつくりだす、③組織が決定したことの伝達はやり過ぎるくらいやる、④人事システムで透明な組織を強化する、の4つで、つまり、リーダーが第一にするべき仕事とは、組織を健全にすること、それだけなのだということです。しかし、ビンスには、それがやれるというイメージが湧かない―。
ジャミーが転職希望先のビンスの会社で、ライバルのリッチの会社の「秘密の4か条」を説いているとき、偶然にもリッチがその場に、ビンスの会社事業買収の相談で訪ねてきます。そして、まだホワイトボードに書かれていなかった第4条と、「結束せよ、明確にせよ、周知徹底せよ、強化せよ」というまとめのスローガンを書き残して、穏やかな表情で去っていきます。

 第4部「情熱のゆくえ」は後日譚です。4か条の効用を信じたとしても、そのとおり実践するのは自分には無理だと悟ったビンスは、企業経営への情熱を失っている自分に気づき、会社を売却します。

 以上、本書の前4分の3がストーリー展開になっていて、後の4分の1が、健全な組織をつくるための4か条の指標のまとめとなっています。本書には、組織を健全化するためのノウハウがたくさん盛り込まれていて、リーダーは可能な限りその命題に取り組んでみるべきだろうと改めて思わされます。社内政治は良くないのではなく「絶対に駄目」と言っているのが印象的で、小さなほころびが大きな穴となり、組織を崩してしまうことの危険性がわかります。「強い」チームを作るためにリーダーが最も注力すべきことは何か、そのことを知りたいと思うマネジャーにお薦めです。


 同著者には、本書に続いて日本でもベストセラーになった『あなたのチームは、機能してますか?』('03年/翔泳社)という著書もあり、こちらもストーリー仕立てになっていて、その枠組みは以下の通りです。

 経験豊富な経営陣、完全無欠な事業計画、他の企業には望むべくもない一流の投資家、ことさら慎重なベンチャーキャピタルも列をなして投資を申し込み、オフィスも決まらないうちに有能なエンジニアが履歴書を送ってきた。その企業の将来は薔薇色に見えた。しかし2年後、取締役会で37歳のCEOは解任された。150名の社員の頂点に迎えられたのは57歳の女性CEOのキャスリン。しかも古くさいブルーカラー業界出身。ビジネス・スクールも決して有名とは言えない。彼女をCEOに迎えたいという会長の発言を聞き、取締役は彼の正気を疑った。でも、会長には確信があった。競争における究極の武器はチームワークである。そして、キャスリンはチーム作りの天才だったのだ―。

 本書では、キャスリンが来た時には最悪だった会社の状況を示し、危ない組織の5つの症状を挙げています。それは次のようになります。
 ・結果への無責任(各自の仕事にかまけて全体を見ない)
 ・説明責任の回避(衝突を避けて互いの説明を求めない)
 ・責任感の不足(決定したことでもきちんと支持しない)
 ・衝突への恐怖(不満があっても会議で意見を言わない)
 ・信頼の欠如(意見は一致していないのに議論が起きない)

 キャスリンは、経営チームのメンバー各個人の性格を全員露わにすることから始め、チームの輪を崩すもの(テイカー)をチームから排除し、少しづつチームとして機能させていきます。危ない組織の5つの症状から導かれる、真のチームワークに求められる5つの行動とは、弱みを見せて信頼を築き、健全に衝突し合い、進んで責任感を持ち、互いの説明責任を追求し、結果を重視することであるとしたものでした。

 本書も、前6分の5がストーリー展開になっていて、キャスリンが経営チームとの対話や討議を通して、組織がチームワークの実現に失敗する、これら5つの要因を一つひとつ明らかにしていき、それを解決するにはどうすればよいかを説いていきます。そして、最後の6分の1で、「五つの機能不全」モデルを再整理し、それを理解し克服する「プロセス」と「ノウハウ」をまとめています。こちらも併せて読まれることをお勧めします(シンプルさで言えば前者、より体系的であると言えば後者になるか)。

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「上司」を持たない自律したチーム=「セルフマネジング・チーム」を提唱。今もって先進的。

自律チーム組織 マンツ1.jpg自律チーム組織 マンツ2.jpg
自律チーム型組織―高業績を実現するエンパワーメント』['97年]

 本書は、チーム制を組織に導入し、フラット化された組織を作るうえでの注意すべきポイントを、実際にチーム制を導入した実例を使って説明している本であり、著者であるチャールス・C・マンツとヘンリー・P・シムズJr.は「セルフマネジング・チーム」という概念の産みの親とも言える研究者です。セルフマネジング・チームとは「上司」を持たない自律したチームであり、「上司」の代わりに部下をセルフマネジングに導く「スーパーリーダー」がいることになります。本書ではまず、この新チーム制を導入する際の阻害要因を整理し、それらを踏まえ、チーム制導入のためには何をすればよいかを章ごとに事例を通して説明していきます。

 第1章「チーム制への道―中間管理職の壁の克服」では、チーム制導入成功への最大の課題である中間管理職の抵抗をどう克服するかについて、シャレッテ社の倉庫管理における中間管理職の移行事例を通して述べています。ここでは、管理職を「上司」から「スーパーリーダー」へと新しいリーダーシップの役割に移行する際に想定されるステップと、ステップごとにどのようなことが課題となるかを示すとともに、移行のための時間と努力は、セルフマネング・チームを成功させるのに重要であるとしています。

 第2章「現場でのチーム経験―役割、行動、そして成熟したセルフマネジング・チームの業績」では、メンテナンスフリーの自動車バッテリーを創り出したゼネラルモータース工場の事例を取り上げ、比較的成熟したセルフマネジング・チームにおける従業員の日々の行動を通して、セルフマネジング・チーム内での従業員の役割や行動、チームリーダーや調整者のリーダーシップの特徴などを見ています。そして、初期の段階から以前は管理者に任されていた責任と役割がチームに任せられたこと、調整者の最も頻繁な言語的行動は、従業員への思慮深い問いかけであったことなどが明らかになったとしています。

 第3章「チーム制の利点と欠点―成功と課題の実践的展望」では、レイク・スペリアー製紙会社の工場での、セルフマネジング・チーム制への移行のまだ比較的初期の発展段階にあるチーム制の事例を通して、解決されるべき多くの課題もあるが多くの成功もあるとし、以降の際にどのようなことが課題となり、それらにどう応えるべきかを説いています。

 第4章「導入初期の段階―オフィスでチーム制を導入する」では、IDS金融会社でのチーム制の導入を検証し、導入初期の段階で留意すべきことを説いています。ここでは、さまざまな難題や挫折、苦境に直面したもののチーム制への移行は成功したが、その過程において、どのような組織が設けられ、どのような分析ツールが活用されたかを紹介し、チーム制によって得をする人もいれば損をする人もいるが、できるだけ多くの人が得をするよう細心の注意を払わなければならないとしています。

 第5章「セルフマネジングの幻想―権限を奪うためにチーム制を利用すること」では、ある独立系保険会社の失敗事例を取り上げ、従業員の権限を奪い、コントロールを強化するためにチーム制を導入した場合は、たとえ「セルフマネジメント」という言葉を使ったからといって、自動的にエンパワーされた従業員につながるわけでもなく、セルフマネジング・チームが達成されるわけでもないと警告しています。

 第6章「組職上のチーム制なしでのセルフマネジング―チームとしての組織」では、セルフマネジメント・チームを公式にデザインされたチーム制なしで実現している例として、非常に成功しているW・A・ゴア社の事例が紹介されています。そのなかでは、自分たちで育てていくようなかたちでのチームが必要な時だけに現れてくるという画期的なやり方が明らかにされ、上司とか管理者はいないが、たくさんのリーダーがいるというのが成功の秘訣であったとしています。ゴア社の経営スタイルは「無管理」と呼ばれていて、チームワークはさかんであるが、組織上のチームはなく、仕事を遂行するうえで必要な場合、だれもが異分野の人々とチームを組むことができるとのことです。

 第7章「チーム制とトータルクオリティマネジメント―国境を越えて」では、トータルクオリティマネジメント(TQC)の最終段階としてセルフマネジング・チームを取り入れたテキサス・インスツルメント・マレーシアの事例を紹介し、アメリカ以外の国の組織でも、チーム制の導入により目を見張るような効果が上がることを明らかにしています。

 第8章で「戦略的チーム―上層部のチーム」では、電力会社であるAES社の事例をもとに、企業の戦略形成におけるチームワークの重要性について述べています。会社のあちこちに出現するチームのネットワークが、成長中の組織の経営戦略を決定するうえでどう影響するのかを見ています。AES社にとって全従業員が共有する価値観は非常に重要であり、この会社で共有されているコアバリューとは、正直さ、公平さ、楽しさ、社会的責任の4つであるが、この4つのコアバリューに忠実であるということは、それ自体、価値のある目標であるとしています。さらに、この章では、チーム制は組織の下の部分だけでなく、上層部においても適用されるべきであるとしています。

 第9章「セルフマネジング・チーム―我々は何を学び、どこへいくのか」では、これまでのセルフマネジメントの実践例から得られた知見と将来の課題について述べるとともに、チームアプローチを採用することを検討していたり、すでに採用しだした企業に向けて、セルフマネジング・チームを成功させる道のりのガイドを示しています。

 各章での議論が、著者たちの調査した事例に基づいて行われていて、顧客対応、TQC、業務プロセスなど多様であるため興味深く、また説得力もあります。今や"準古典"的な位置づけにある本ですが、セルフマネジング・チームという概念は今もって先進的であるように思います。むしろ、本書を読んで、「ウチはまだそこまでは」と思われる読者の方が多いかもしれません。ただし、そうした企業であっても、本書で示された知見は、プロジェクトマネジメントや人材育成などにおいて応用可能であると思われます。新しいリーダー像を示した啓発書としても読めるかと思われ、人事パーソンにお薦めの1冊です。

《読書MEMO》
●目次
序章 ティラノザウルス王国―企業内の恐竜としての上司
第1章 チーム制への道―中間管理職の壁の克服
第2章 現場でのチーム経験―役割、行動、そして成熟したセルフマネジング・チームの業績
第3章 チーム制の利点と欠点―成功と課題の実践的展望
第4章 導入初期の段階―オフィスでチーム制を導入する
第5章 セルフマネジングの幻想―権限を奪うためにチーム制を利用すること
第6章 組職上のチーム制なしでのセルフマネジング―チームとしての組織
第7章 チーム制とトータルクオリティマネジメント―国境を越えて
第8章 戦略的チーム―上層部のチーム
第9章 セルフマネジング・チーム―我々は何を学び、どこへいくのか

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○経営思想家トップ50 ランクイン(エドガー・H・シャイン)

「1人の人間として相手を見る」謙虚なリーダーシップを提唱。従来理論の前段階か。

謙虚なリーダーシップ1.jpg謙虚なリーダーシップ.jpg
謙虚なリーダーシップ――1人のリーダーに依存しない組織をつくる』['20年]

 昨年['23年]1月に亡くなったエドガー・H・シャイン(1928-2023/94歳没)らによる本書は、これまで人と組織の研究に大きな影響を与えてきた著者らが、「謙虚なリーダーシップ」という新たなリーダーシップのコンセプトを提唱するとともに、その実践の在り方を示したものです。リーダーシップに対する新しいアプローチとして、従来の業務上の役割に基づく関係ではなく、個人的なつながりを重視するアプローチを提唱しています。

 まず、第1章で、リーダーとフォロワーの関係は、
 ・レベルマイナス1(全く人間味のない、支配と強制の関係)、
 ・レベル1(単なる業務上の役割や規則に基づいて監督・管理したり、サービスを提供したりする関係。大半の「ほどほどの距離を保った」支援関係)、
 ・レベル2(友人同士や有能なチームに見られるような、個人的で、互いに助け合い、信頼し合う関係)、
 ・レベル3(感情的に親密で、互いに相手に尽くす関係)
の4つのレベルがあるとしています。そして、ルールと役割に依存するレベル1の関係から、もっと個人的なレベル2の関係に基づくリーダーシップ・モデルが新たに必要になってきているとしています。その理由として、
 1.課題の複雑さが、加速的に増している
 2.現代の経営文化は、近視眼的で、目に入らない領域があり、自己破壊的である
 3.職業的、社会的価値観は世代交代する
の3つを挙げています。そして、謙虚なリーダーシップの基盤は、レベル2の個人的な関係であり、この関係は、率直に話し、信頼し合うことが基盤となり、グループの関係がまだレベル2になっていないなら、謙虚なリーダーはまず、グループのなかで信頼を確立し、率直な発言を促す必要があるとしています。

 第2章では、関係の4つのレベル改めて解説し、単なる業務上の役割に基づく関係は、「相手を一個人として見る」レベル2の関係にシフトする必要があるとしています。

 第3章から第5章にかけては、謙虚なリーダーシップの成功事例として、シンガポールの政治リーダーらが謙虚なリーダーシップにより、国の経済開発を変革した事例、バージニアの医療センターのCEOが同センターのあらゆる人とレベル2の関係を築いて抜本的な改革を成し遂げた事例、アメリカ海軍という厳密なヒエラルキー下においてさえ、レベル2の協働が成果を生んだの事例の3つが紹介されています。

 第6章では、謙虚なリーダーシップが育たなかったり、行き詰まったり、成功しなかった事例を紹介し、謙虚なリーダーシップを阻害する要因となるヒエラルキーや意図せぬ結果について解説しています。

 第7章では、「パーソニゼーション」(personization)という概念、グループ・センスメーキング、チーム学習といった謙虚なリーダーシップの主要要素を今まさに推し進めているいくつかの傾向について解説するとともに、謙虚なリーダーシップは「英雄のようなリーダーシップ」の対極にあり、包括的で適応力のある組織デザインを可能にすることで変化の激しい時でも組織の崩壊を回避できる、未来型のリーダーシップであるとしています。

 第8章では、謙虚なリーダーシップの本質は、対人関係およびグループ・ダイナミクスにひたすら集中し続けることであり、これによって、より広範な経営文化についての考えを推し進められるかもしれないとしています。

 第9章では、謙虚なリーダーシップとは、弱さを受け容れ、レベル2のつながりを通じて、レジリエンシー(しなやかに適応する力)を育みことであるとしています。また、さらなる読書、自己分析、スキル習得を通して、自分自身のリーダーシップに磨きをかけることでできるとしています。

 英雄的な1人のリーダーに頼る組織は時代の変化に対応できず、重要なのは、相互に信頼し、率直に本音を伝え合う「組織文化」であって、そのような組織文化を築くためには、役割やそれに基づく関係ではなく、「1人の人間として相手を見る(パーソニゼーション)」という(個人的には、この言葉が"謙虚"ということに最もリンクした)、普段の絶え間ない実践が不可欠であるというのが、本書の趣旨となるかと思います。

 タイトルから「サーバント・リーダーシップ」のようなものを想像したりもしましたが、読んでみて、「サーバント・リーダーシップ」や「変革型リーダーシップ」といった一般的なリーダーシップ理論の前段階として、本書で言う謙虚なリーダーシップがあるべきなのだと思いました。第9章で、参考になる書籍として、ダグラス・マグレガーの『企業の人間的側面』からフレデリック・ラルーの『ティール組織』まで10冊の書籍が紹介されていることも、その表れかと思います。それらに読み進むのもよいでしょう。

 謙虚なリーダーシップというのは、本書で言う日本人のリーダーシップ観に馴染みやすく、フォロワーにも受け容れられやすいのではないでしょうか。むしろ、業務上の役割に基づく関係ではなく、個人的なつながりを重視するアプローチというのは、本書を読んでなくとも、多くの日本人リーダーが実践していることのようにも思いました。

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業績管理法(PM)を解説。部下が「笛吹けど踊らず」状態の上司に読ませたい。

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ベストを引き出せ―部下の業績を最大化するリーダーシップ』['95年]

 本書は、臨床心理学者でコンサルタントでもある著者によって、心理学的な観点から業績管理法について書かれた本であり、この分野では代表的な著作であるとされています。業績管理法はパフォーマンス・マネジメント(PM)とも呼ばれ、本書により「メンバーが行動を結果に結びつけるための人材マネジメント手法」として紹介されました。

 まえがきにおいて、「リーダーが企業内で変革を勧めようとする場合、リーダーは従業員たちの貢献意欲、創造活動、協力、業績を高めるか逆に低下させるかどちらかのやり方で変革を推進する。本書は、どうして、いかにこのような状況が発生するのかについて、明確に説明したい」としています。

 第Ⅰ部「伝統的マネジメントの危険性」では、1章で、流行の経営管理手法に惑わさず、また「自己流のスタイル」から脱して確固たる方法をとるべきであるとしたうえで、ビジネスとは行動そのものであり、業績管理法は人間行動を理解することを目的とし、行動を変革するための科学的な方法を活用するとしています。2章では、常識的な知識は通常のビジネスや生活の中で身につくが、科学的知識は計画的、体系的に追求されなければならず、科学的な知識こそが継続的な成果の基になるとしています。3章では、行動分析の科学では、行動の前に現れてくる現象を「前件」、行動の後に生じてくることを「結果」と呼び、前件はある行動を引き起こすが持続させることはできず、結果こそが行動を持続させるとしています。

 第Ⅱ部「行動強化は驚くべき力をもたらす」では、4章で、行動に伴って出てくる結果には、行動強化、行動否定、行動処罰、行動消去の4つのタイプがあり、行動強化は業績を改善させる「結果」と定義されているので、この方法は常に有効であることになるとしています。5章では、業績管理の基本は、ものごとを他人が見ているのと同じ見方でとらえることであり、それによって部下との信頼が築けるとしています。6章では、行動否定には大きな欠陥があるとして、行動強化と行動否定でどのような差があるか、行動否定が作用していることを示すヒントとはどこに見られるのかを解説しています。7章では、行動強化で部下の自発的努力を引き出すにはどうすればよいか、8章では、行動消去と行動処罰を活用するにはどうすればよいか、9章では、行動強化を効果的に活用するにはどうすればよいかをそれぞれ解説しています。

 第Ⅲ部「業績管理法によりリーダーシップを発揮する」では、10章で、成果を達成するために必要とされる行動をどう特定するかを述べています。11章では、行動を測定する方法の妥当性を高めるにはどうすればよいか、12章では、部下に効果的に業績をフィードバックするにはどうすればよいかを述べ、13章では、部下の業績を最大に高めるための技法を紹介しています。

 第Ⅳ部「組織の業績をベストに導く」では、14章で、業績管理法において経営幹部の果たすべき役割を説き、困難な時期こそ支援的行動強化が必要とされるとしています。15章では、従業員の学習効果を最大限に高めるにはどうすればよいかを説き、16章では、部下からベストを引き出すための心構えやヒントを示しています。

 さらにエピローグで、業績管理法が基礎とする価値として、つつみ隠さぬ姿勢、一貫性、公平性と人間尊重などを挙げています。

 近年、組織としてどのようなアクションをとるのが望ましいかを明らかにし、それを従業員一人ひとりの個人的な目標とリンクさせることによって、組織全体の生産性を向上させようと考える企業が増えてきています。本書によれば、業績管理法は、目標達成につながる行動を社員本人と一緒に考え、そのアクションの結果を受けて、定期的にフィードバック。社員に気付きを促すことで、さらに能力発揮につながるように導くものであるということになります。

 より具体的には、各メンバーの行動とその結果に注目し、客観的な計測結果をフィードバックすることで、パフォーマンスに繋がる「望ましい行動」を増やし、「望ましくない行動」を減らそうとするものということになります。この手法は現代の職場においても効果的であると考えられ、従業員や部下が「笛吹けど踊らず」状態の経営者やマネジャーには是非読んでほしい本です。

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エクセレントを生むのは「人」という考え方はブレず、AI時代にも説得力を持つ。

新エクセレント・カンパニー1.jpg新エクセレント・カンパニー2.jpg
新エクセレント・カンパニー: AIに勝てる組織の条件』['20年]

 本書は、80年代に発表され、世界的ベストセラーとなった『エクセレント・カンパニー』を著した著者が、豊富な経験とケーススタディをもとに、AI(人工知能)には決してマネ出来ない「エクセレント」な企業活動の条件とは何か、時代に左右されないビジネスの本質を説いたものです。

 第Ⅰ部「実践」 、第Ⅱ部「エクセレント」 、第Ⅲ部「人びと」、 第Ⅳ部「イノベーション」、 第Ⅴ部「付加価値」、 第Ⅵ部「エクセレントなリーダー」の全6部から成り、さらにそれを15の章に分けており、 第Ⅰ部では、実践こそ戦略であり、実践とは現場で行われるものであって、社長室では起こらないと説いています(第1章)。

 第Ⅱ部では、エクセレントとは何かを14のセクションにわたって検討し、エクセレントはその瞬間瞬間の生き方にあり、実行しなければ存在しないとしています(2章)。さらに、エクセレントは、エクセレントな組織文化によってのみ維持されるとし(第3章)、中小企業は間違いなくエクセレントたり得るとして、エクセレントな成果を上げている中小企業の事例を紹介しています(第4章)。

 第Ⅲ部のテーマは人間関係であり、まず「人がいちばん」はエクセレントを目指すための最重要項目であるとし(第5章)、従業員一人ひとりにチームにがっちりかかわらせて、チームの成長に専念させなければならないとしています(第6章)。また、新しいテクノロジーとの向き合い方を説き、企業の新しい道徳的責務は、すべての社員に将来必要となる専門技術を身につけさせることだとし(第7章)、不安定な世界で雇用を安定させることは、攻撃的な戦略なのだとしています(第8章)。

 第Ⅳ部では、イノベーションの2つの法則(「数打ちゃ当たる」と「失敗は成功のもと」)を紹介し、イノベーションは"本気の遊び"であり、思い切って一歩を踏み出すことだとし(第9章)、多様な相手との付き合いが私たちを成長させるのであって、この時代、同じような人とばかり付き合うのは身を亡ぼすとしています(第10章)。

 第Ⅴ部では、AI時代において魂が抜けた業務が氾濫するなかで、付加価値こそ優先すべきだとして、付加価値を強化する9つの戦略の筆頭にデザインを挙げ、アップルなどの例からデザインこそ最重要の差別化因子であるとし(第11章)、続いて、その他の8つの付加価値強化戦略を説いています(第12章)。

 第Ⅵ部では、エクセレントなリーダーの最大の特質は「聴き上手」であることだとし(第13章)、最前線のエクセレントなリーダーは企業のコアバリューであって、もっと評価されるべきだとしています(第14章)。そして最後に、エクセレントなリーダーとなるための26の戦術を紹介しています(第15章)。

 各章の冒頭に「マイストーリー」という著者自身の実体験があり、その後に各トピックが番号付きで紹介されてはいますが、内容的には特に体系だった構成がされているわけではなく、解説の米倉誠一郎・法政大学大学院教授が述べているように、気に入った章から読み進め、各章で紹介されるエクセレントな事例を座右の銘として書き留めるという読み方でもよいと思います。

 他の書籍からの引用が多く、読んでいてやや細切れ感があったのは否めませんが、戦略や数字、分析よりも、組織文化や人こそが大切であるという考え方は、前著『エクセレント・カンパニー』から受け継がれているものであり、AI時代に突入した今日においても、エクセレントを生むのは「人」であるとし、そうした「人がいちばん」という著者の考え方がブレず、且つ、今日においても説得力を持っているのは、個人的には嬉しく、また心強く思いました。

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「体育会系」組織の病理に迫るも、人事パーソン的には物足りない。

体育会系上司.jpg体育会系上司2020.jpg       自己実現という罠.jpg  
 『体育会系上司 - 「脳みそ筋肉」な人の取扱説明書 - (ワニブックスPLUS新書)』['20年] 『自己実現という罠―悪用される「内発的動機づけ」』['18年]  

 以前、その著書『お子様上司の時代』('13年/日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』('15年/日経文庫)、『自己実現という罠―悪用される「内発的動機づけ」』('18年/平凡社新書)を取り上げた著者の本(この著者は4冊目ということになる)。

 ここ数年、体育会系組織の不祥事が次々と明るみに出て、世間を騒がせていますが、本書は、心理学者である著者が、体育会系組織の特徴と問題点について心理学の視点から検討することで、「体育会系」という存在の正体に迫っています。そして、スポーツ系の組織に限らず、日本的組織の持つ特徴が体育会系組織に凝縮されているとの仮説のもと、日本的組織が陥りがちな問題点を探るとともに、体育会系組織との付き合い方を示しています。

 第1章では、なぜ人は体育系の魅力に取り憑かれるのかを分析しています。著者によれば、池井戸潤の「下町ロケット」などもいわば体育会系のノリの作品であり、見る者を熱くさせるのが体育会系の魅力であるが、そこには非現実の世界だからこそ美しく見えるといった面もあるとしています。

 第2章では、アメフト部、ボクシング連盟、体操協会などに見られた諸事件を分析し、その権力構造が、山崎豊子の「白い巨塔」で描かれる大学医学部の組織構造と酷似していることを指摘、体育会系の組織構造は日本の社会に深く浸透しているとして、果たしてそうした組織に身を置いたとき、自分が正しいと思った通りに行動できる人間がどれだけいるだろうかと問いかけています。

 第3章では、体育会系学生のイメージと実態を分析しています。体育会系学生の肯定的なイメージは、➀礼儀正しい、②仲間を大切にする、③自己抑制力がある、などで、否定的なイメージは、➀勢いだけで動く、②融通が利かない、③自分の頭で考えない、④単純な認知構造、であると。体育会系人材の特徴として、社交性や協調性の高さ、行動力、達成動機の強さ、チャレンジ精神、意志の強さなどがあり、実態としては、今も体育会系人材は企業から好まれているとしています。

 第4章では、体育会系組織がなぜ病んでしまうのかを分析し、その原因として、上意下達が思考停止を招く、気配りが忖度の行きすぎを招く、権威主義がパワハラ容認につながる、属人思考に染まる、事なかれ主義に陥りがちになる、などを挙げています。また、自己抑制による欲求不満が陰湿ないじめを生んだり、団結心の強さが逆に仇になることがあるとしています。

 第5章では、体育会系組織に象徴される日本的組織の病巣を、実際に起きた不祥事事件などから探り、不祥事を生む「気配り」、責任の所在を覆い隠す忖度の心理構造、情実人事につながる「上にお任せ」の「甘えの心理構造」、会議で本当の議論ができず、空気を乱さないことが何よりも大事になっていることなど挙げています。

 第6章では、体育会系組織との上手い付き合い方を指南しています。ここでは、自己中心的になりすぎない、危ない時は情にアピールする、話を単純明快にする、適度の距離感を保つ、自分の軸を持つ、別の居場所を持つ、といったことを挙げています。

 採用時にはどの会社もこぞって欲しがる人材でありながら、何年も会社にて権力を持つと高圧的な態度を取りがちという、「体育会系」人材の問題を指摘した本は、これまでもあったように思います。本書の場合、それを個人レベルにとどまらず、組織心理学的な視点まで敷衍して分析している点は良かったです。

 ただし、何か新規性のある分析が見られたかというとそうでもなく、また、そうした問題のある組織や上司をどうするべきかということではなく、最後は、体育会系組織に馴染めない人に向けたアドバイスで終わっているのが(これはこれで一般向け図書としてはいいのだが)、これまで取り上げたこの著者の本と同様、人事パーソンの視点から見ると物足りないように思いました(今のところ、『自己実現という罠』がいちばん良かった)。


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「経験から学ぶ力」を高めるには、弱みに目をむけるのではなく部下の強みを引き出せと。

経験学習リーダーシップ.jpg部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ 』['19年]松尾 睦  『成長する管理職』2.jpg成長する管理職: 優れたマネジャーはいかに経験から学んでいるのか』['13年]

 経験学習という言葉は、企業における人材育成の場で、最近よく使われるようになっているようです。経験から学ぶものが最も大きいということは、認識としてはずっと以前からあったものの、部下や後輩が「自らの経験から学べるように支援する」ことが人材育成上の課題として捉えられるようになってきたのは、最近の傾向ではないかと思います。

 本書における「経験学習リーダーシップ」とは、まさにそうした「職場メンバーの経験学習をうながす指導」を指し、マネジャーはどうすれば部下の「経験から学ぶ力」を高め、部下の成長を効果的に支援できるのかを解明するのが本書の目的となっています。

 本書では、さまざまな調査の結果、育て上手のマネジャーがどのような指導をしているかが明らかになったと同時に、普通のマネジャーが陥りやすい「落とし穴」も見えてきたとしています。

 その普通のマネジャーが陥りやすい「落とし穴」とは、①弱みを克服させることに重点を置き、②問題や失敗のみを振り返らせ、③マネジャーが職場のすべてを仕切るというアプローチ法であり、こうした指導方法は、「反省」を重視した、極めて日本的・職人的な育成方法であるとのことです。

 これに対し、育て上手のマネジャーは、①強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づけ、②失敗だけでなく成功も振り返らせることで、強みを引き出し、③中堅社員と連携しながら、思いを共有するという、3つのエッセンスから成るアプローチ法をとるとのことです。こうした指導は、「組織における成果」を高め、「人生における幸福」や「社会における善」につながるとしています。

 第1章では、ディビッド・コルブの経験学習サイクル(①経験する、②振り返る、③教訓を引き出す、④応用する)などを引きながら経験学習の基本プロセスを示し、経験から学ぶ力は、①ストレッチ(挑戦する力)、②リフレクション(振り返る力)、③エンジョイメント(やりがいを感じる力)、④思い、⑤つながりの5つの要素から成るとしています。

 続く第2章では、先に述べた育て上手の指導法の3つのエッセンスを改めて紹介し、第3章から第5章にかけて、①強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づける(3章)、②失敗だけでなく成功も振り返らせ、強みを引き出す(4章)、③中堅社員と連携しながら、思いを共有する(5章)という3つのエッセンスについて、それぞれより詳しい指導法や事例を解説しています。

 さらに、こうした指導法に加えて、2つの補完スキルとして、第6章と第7章で、④成長をうながす仕事の創り方(6章)、⑤成長をうながすリフレクション(振り返り)支援(7章)について、それぞれ指導法や事例を解説し、終章で、これまでの内容を確認しまとめています。また、巻末に付録として、部下の強みをチェックする「強みのリスト」、本書の内容をより深く理解するための「自己診断チェックリスト」、育成計画を立てるための「育成ワークシート」が付されています。

 内容的には、調査結果をもとにした研究書とも言えるものですが、体系的によく整理されているのと、「部下の強みを引き出す」という大きな柱が一本あることでわかりやすくなっています。また、事例も豊富で、「手軽にできる5分間リフレクション・エクササイズ」といったツール的な素材も織り込まれているため、実際の職場で応用が可能な実務書(マニュアル)としても読めるものとなっています。

 ただし、著者自身もそう述べていますが、本書に書かれていることのすべてを一度に実行することは難しいと言えるため、できるところから実践していくというスタンスになるかと思います。また、職場で起きていることが、本書で書かれていることのどの部分に該当するか、常に意識することも必要かと思います。そうした地道な実践を通してはじめて、組織メンバーの「経験から学ぶ力」を高めるよう指導するうえでの、ガイドラインになる本であると思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 経験学習の基本プロセス
第2章 育て上手のマネジャー vs 平均的マネジャー
第3章 育て上手の指導法1:強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づける
第4章 育て上手の指導法2:失敗だけでなく成功も振り返らせ、強みを引き出す
第5章 育て上手の指導法3:中堅社員と連携しながら、思いを共有する
第6章 補完スキル1:成長をうながす仕事の創り方
第7章 補完スキル2:成長をうながすリフレクション支援
終 章 まとめ
おわりに
付録A 強みのリスト
付録B 自己診断チェックリスト
付録C 育成ワークシート
参考文献

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効果的な異文化コミュニケーションをマネジメント要素別、国別に分かりやすく解説。

異文化理解力1.jpg異文化理解力.jpg 『異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』['15年]

 グローバル化により、外国企業と交渉したり上司や部下が外国人だったり、多国籍のチームで働くことは珍しくなくなってきていますが、育った環境や価値観が異なる人たちと仕事をするときに、互いの発言や行動の真意を理解し合い、誤解や対立を避けつつ、リーダーシップを発揮したり意思疎通を円滑にしたりし、多国籍な職場で成果を出し続けるにはどうすればいいか─本書の著者エリン・メイヤーは、フランスとシンガポールに拠点を置くビジネススクールの客員教授で、異文化マネージメントのプログラム・ディレクターなどを務めていますが、10年超の研究と数千人の経営幹部への取材をもとに、本書において、異文化を理解するためのツール「カルチャーマップ」により、マネジャーが自覚しておくべき以下の8つの指標について、国の文化や慣習が相対的にどこに位置しているのかを可視化しています。

  1.コミュニケーション:ローコンテクスト vs ハイコンテクスト
  2.評価(ネガティブフィードバック):直接的 vs 間接的
  3.説得:原理優先 vs 応用優先
  4.リード:平等主義 vs 階層主義
  5.決断:合意志向 vs トップダウン式
  6.信頼:タスクベース vs 関係ベース
  7.見解の相違:対立型 vs 対立回避型
  8.スケジューリング:直接的な時間 vs 柔軟な時間

 「カルチャーマップ」とは、8つのマネジメント領域を縦軸に、各領域における両極端の特徴を横に置いた、文化の「見取り図」とでも言うべきもので、「評価」という領域では、左端が「直接的なネガティブなフィードバック」、右端が「間接的なネガティブなフィードバック」となり、例えばドイツは左端、日本は右端に位置するとされています。以下、各章ごとに、8つの指標について、それぞれがどのような「カルチャーマップ」(の要素)となるか解説しています。

 第1章「空気に耳を澄ます」では「コミュニケーション」について、ローコンテクスト文化のアメリカやカナダなどは、簡潔明瞭で額面どおりの表現を好むのに対し、ハイコンテクスト文化の日本や中国などは、曖昧で含みがある表現を多用するとしています。

 第2章「様々な礼節のかたち」では「評価」について、ネガティブなフィードバックを率直かつ単刀直入に行うロシアやイスラエルに対し、日本やタイなどは間接的にやんわりと伝える傾向があるとしています。

 第3章「『なぜ』vs『どうやって』」では「説得」について、ラテン系のイタリア、フランス、スペインなどは「原理優先」の文化であるが、アングロサクソン系のアメリカやカナダなどは「応用優先」の文化であるとしています。また、アジアの人々はいわゆる「包括的な」思考パターンを持っていて、西洋の人々はいわゆる「特定的な」アプローチをとっているとしています。

 第4章「敬意はどれくらい必要?」では「リード」について、同じヨーロッパの国でも、歴史的背景の違いににより、ローマ帝国やカトリックの影響をうけた南欧諸国は階層的権威主義的であるのに対し、バイキングの思想に基づく北欧諸国は平等主義的であるとしています。そして、儒教文化の影響を受けた中国、韓国、日本は、最も階層主義的文化と位置づけられるとしています。

 第5章「大文字の決断か小文字か」では「決断」について、アメリカ人は<小文字の決断>を複数繰り返し行って、最終的な形にしていくという傾向があるが、日本人は<大文字の決断>という一度決めたら二度と変えないくらいの行動をする傾向があるとしています。また、決断が個人でなされる(たいていは上司)トップダウン式がアメリカなどの国であり、決断は全員の合意の上グループでなされる典型的な国が日本であり、日本の稟議システムは、階層主義かつ超合意主義であるとしています。

 第6章「頭か心か」では「信頼」について、信頼はビジネスに関連した活動で築かれるというタスクベースの考え方をするのがアメリカなどであり、それに対し、食事をしたり酒を飲んだりすることで築かれるという関係ベースの考え方をするのが中国や日本であるとのことです。また、人間関係を構築する傾向を「桃」VS「ココナッツ」と表現しています。これは、アメリカ人はアイスブレイクなどをワークショップなどで行うことが多く、容易くそれをこなしているが、彼らは「桃」の関係構築をしていて、会ったばかりの人には親しく接するものの、どこかで種にぶつかったかのように、その人の守る壁に突き当たり、逆に日本人などは「ココナッツ」の関係構築をしていて、「ココナッツ」は皮が固くなかなか親しくしてもらえないが、親しくなるとプライベートも関わるような関係ができる、という関係を構築する文化のことを表しています。

 第7章「ナイフではなく針を」では「見解の相違」について、例えばフランス人は見解の相違や議論はチームや組織にとってポジティブなものだと考える対立型の傾向があるが、日本人などは、ネガティブなものだと考える対立回避型の傾向があるとしています。

 第8章「遅いってどれくらい?」では「スケジューリング」について、プロジェクトなどがスケジュール通りに進むことが重要であると考える日本や中国に対し、インドなどでは、プロジェクトは流動的なものとして捉えられ、場当たり的に作業を進め、組織性より柔軟性に価値が置かれるとしています。

 各章とも事例をもとに解説されているため、読みやすく、また、納得性の高い内容であったと思います。どの指標においても日本は常にどちらかの側に偏った端的なポジショニングにあることを改めて思い知ったという印象です。ビジネスでの同意、決定、承認、チームをリードする、といった場面で、どの国の人にはどのような手法がより効果的になるかが、分かりやすく説明されている本であり、仕事で外国人と接することがあるすべてのビジネスパーソンにお薦めできます。もちろん、グローバル企業で働く人事パーソンにも、これからの教養としてお薦めです。

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企業の命運はCEOにではなく、最前線に立つ中間管理職(RCL)にかかっている。

リアル・チェンジ・リーダー1.jpgリアル・チェンジ・リーダー2.jpg ジョン・R. カッツェンバック.jpg ジョン・R. カッツェンバック
リアル・チェンジ・リーダ』['98年]

 本書は、マッキンゼーの企業変革グループが、1990年代のアメリカ経済の復活をけん引した企業変革に関する膨大な研究成果を、「変革の真のリーダー」という切り口から書き下ろしたものです。本書では、アメリカを復活させたのはまったく新しいタイプの中間管理職であり、それをリアル・チェンジ・リーダー(=RCL)としています。

 第1部「リアル・チェンジ・リーダーは変革をになう」では―、

 第1章では、「業績は数字だけではない」とし、RCLは、①市場で何が重要なのかをその理由と併せて明確にし、②変革にどれほどの努力が注がれたかを達成した業績によって計り、③より高い成果を常に求め続ける―としています。

 第2章では、変革における「ワーキング・ビジョン」の重要性を説き、①RCLにとってワーキング・ビジョンによって達成されるものは何か、②RCLが自分たちにのワーキング・ビジョンを作り出すプロセスとはどのようなものか、③ワーキング・ビジョンを育くむために、RCLはどのような働きかけをするのか―を考察しています。

 第3章では、変革には「リスクを冒す勇気」が必要であるとし、RCLは、①自身の自信と信頼感を築き上げ、②他の人々の心に勇気を吹き込み、③経営陣が抱く成功への確信にプラスの影響を及ぼす―としています。

 第2部「会社ぐるみの変革をいかに成し遂げるか」では―、

 第4章では、「組織の全員に期待以上の成果を上げさせる」ためにRCLが従業員活性化のための支援をどのように与えるかを、①少人数グループの活性化、②大規模工場における従業員の活性化、③大企業の広い範囲の部署にいる従業員の活性化―のそれぞれについて、事例で紹介しています。

 第5章では、「プロセス再設計は顧客のニーズから」行うべきであるとし、RCLは、①顧客の視点を把握する、②上下関係にとらわれず行動する、③多様なアプローチを学ぶ―としています。

 第6章では、「組織変革のタイミング」について、従来の典型的な管理職と異なってRCLが選択・実行するのは、①組織図を明確化し、そこから前進する、②チームや作業グループなど柔軟な組織単位に依存する、③必要に応じてリストラを断行する―ことであるとしています。

 第3部「リーダーシップ能力と企業の成長」では―、

 第7章では、変革に「弾み」をつけるためにRCLは、①多様なツールを作り出し、さまざまなアプローチを開発する、②ツールやアプローチのバランスを変えていく、③長時間にわたって変革にかかわる人々の数を増やし、スピードを上げていく―としています。

 第8章では、変革のスキルを身につけるためにRCLは、①どのようなスキルと心構えが必要とされるか、②リーダーとしてどんな役割が浮上してくるか、③より優れたRCLに、どうやって、また、なぜなるか―を説いています。

 第9章では、RCLが自身のキャリアの将来のためにとる態度を、①状況に対応するために「バランスをさまざまに変える」、②将来に目を配ることで「他との違いを際立たせる」―の二点にまとめています。

 最後に「エピローグ 経営陣へのメモ」で、RCLがトップに実践してもらいたいと思っていることとして、
  ⑴ 顧客と従業員たちにとって意味のある目標と測定基準を設定する
  ⑵ 組織内を歩き回って部下に話しかける、要求の多いボスになる、
  ⑶ 成果を上げた人間には十分に報いてやり、怠けた人間には罰を与える
  ⑷ 業績が思わしくない分野の尻を叩く
  ⑸ 要求を達成したら報奨を与える
の5つを挙げています。

 企業の命運はCEOや重役にではなく、最前線に立つ中間管理職にかかっており、新しいタイプの中間管理職リアル・チェンジ・リーダー(RCL)が発意することにより、初めて組織は動き出すという―ではRCLとはどのような人を指し、RCLになるにはどうすればよいかを説いた、多くのビジネスパーソンにとって啓発度の高い本であると思います。

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精神分析的組織・リーダー論。広くお薦めできるが、とりわけ人事パーソンにお薦めの本。

会社の中の「困った人たち」.jpg マンフレッド・ケッツ ド・ブリース2.jpg Manfred Kets de Vries
会社の中の「困った人たち」―上司と部下の精神分析>』['98年]

 本書(原題:Life and Death in the Executive Fast Lane: Essays on Irrational Organizations and Their Leaders,1995)の著者マンフレッド・ケッツ・ド・ブリース(Manfred F. R. Kets de Vries) は、欧州のINSEADビジネススクールの教授であり(本書執筆時)、ハーバード・ビジネススクールの教授を務めたこともある人で、精神分析を組織論に応用することを目指している異色の経営学者であるとのことです。原題の意は「追い越し車線を走る経営幹部の生と死―非合理的な組織とそのリーダーに関するエッセイ集」であり、企業組織の中で慌ただしく働き生きる人々の心理を探ろうとした本です。大きく二部構成になっていて、Ⅰ部(「困った人たち」は変化を求めない、第1~第9章)は組織の問題に重点を置いており、Ⅱ部(「困った人たち」のジレンマ、第10~第19章)は人間の役割に焦点を当てています。

 第1章「部下がついてこない上司なんて―リーダーシップの機微」では、リーダーには、組織の将来をビジョン化し、社員にエンパワーし、社内エネルギーを方向付けるカリスマとしての役割と、計画を立て、組織化を行い、統制をして、報酬を与えるという実施促進者としての役割があるとしています。

 第2章「新しい会社に移った経営者なら―新任最高経営責任者の心の内」では、社外から招かれたり、内部昇進をしてリーダーの地位に就いた経営幹部は、さまざまな対立事項や利害の衝突の対処しなければならないことがい多いが、リーダーとしての役割をできるだけ早く果たせるようになるには、どのようなことを意識すべきかを説いています。

 第3章「ゆでガエル、そして踊るゾウ―やる気を保つダウンサイジング」と第4章「合併熱にご用心―合併・買収の心理的側面」では、企業が競争力を保つためには組織の変化が必要であり、それが企業規模や労働力の拡大縮小につながることもままあるが、ダウンサイジングなどの困難な変化について、あるいは合併・買収(Ⅿ&A)などについて、リーダーは社員の拒否反応をどう調停すべきか、経営幹部は変化による競争上の利点をどう活かすかを説き、変化をうまく活かすには、変化の途上における人間的側面に配慮することが不可欠であるとしています。

 第5章「社歌という名のラブソング―企業文化は簡単には変わらない」では、企業文化はいわば人間的側面の集大成であり、組織変革においてはこれが決定的要因になることがあるとして、象徴や言語や行動など社風の本質を解読し、それを変えていくための手がかりを提示しています。

 第6章「会社の中のカルチャーショック―国境を越える経営」では、企業文化の多様性の考察と同じく、国ごとの文化の違いを考察することは重要であり、異文化問題が決定的になる例として国際的なⅯ&Aがあるとして、文化による仕事の多様性を扱っています。

 第7章「海外でほんとうに働きたい?―海外赴任のプラス・マイナス」では、経営幹部やその家族に対して、海外の赴任のために適切な準備を行うことの重要性を理解している企業はほとんどなく、帰国してみると戻るべきポストがないという問題にぶつかる経営幹部も多いとして、海外勤務と帰国後の勤務とを、経営幹部にとっても企業にとっても建設的なものとするにはどうすればよいかを考察しています。

 第8章「グローバルにやっていく―グローバル・リーダー育成の実際」では、グローバル企業の増加に伴い、真にグローバルなリーダーへの要請が高まっているが、そのようなリーダーはどのような経験によってつくられるものなのかを、実例を見ながら、そのの国際的リーダーたちの育成に役立った要因を考察しています。

 第9章「今日の成功者は明日の失敗者―エクセレンスを持続するリーダーシップ」では、将来のビジネスはどうなるか、企業が抜きんでておく必要がある分野とは何かを予想しています。

 第10章「女性差別の重いツケ―上司としての女性」では、男性と女性の生理的、心理的過程がどう異なるかに注目して、組織の中でこの違いから生じてきている偏見と現実をテーマにしています。

 第11章「親父の会社に入る茶番劇―同族会社の大変さ」では、同族会社においては後継者問題で会社が没落するということもあり、家族関係がビジネスに影響すると問題が深刻化するとして、同族会社のオーナーや従業員にアドバイスを与えています。

 第12章「はみ出し者を活かす―創造性の管理」では、真に創造的な社員と普通の社員の違いに目を向け、創造的な社員をどう見つけ、どう育てるかを検証しています。

 第13章「優雅な退場―最高経営責任者の引退と後継者問題」では、引退と後継者問題といういかなるリーダーにとってもトラウマになる時期について説明し、引退を人生の一つの通過点に過ぎないと思う人がいる一方で、なぜ、これを文字通り命に関わる問題と感じる人がいるのか、この種の変化に対して、個人的、組織的両面からどう対処すればよいかを考察しています。

 第14章「つい働き過ぎてしまうのは―仕事と遊びのバランス」では、機能不全の行動のタイプとしてよく見られるものに仕事中毒(ワーカーホリック)があるとし、ワーカーホリックの行動をどのようにすれば変えることができるのかを考えています。

 第15章「『死んだ魚』でいっぱいの会社―失感情症は蔓延する」では、組織には失感情症(アレキシサイミア)と呼ばれる人がいて、こうした情動を表現できない症状の人は大企業によく見られるが組織の構造や日常業務の背後に隠れてしまっていることもあり、失感情症のリーダーはその組織に悪影響を及ぼし、有能なリーダーに不可欠なカリスマ的資質を欠きがちであるとしています。

 第16章「起業家はムチャもする―起業家精神の暗黒面」では、リーダーとしての機能不全的特徴の多くは、不健康な自己愛に起因しており、起業家は自分に敵対していると思える勢力を前にしても、なお成功への道を突き進もうとするエネルギーを得られることから行き過ぎた行動をとるという、その起業家にありがちな精神の暗黒面について論じています。

 第17章「なぜジンギス・カンのために働くのか?―粗暴な上司に服従する心理」では、行動面での過度の服従と感応精神病という奇妙な現象を考察し、リーダーへの愛着は、ときにフォロワーの合理的思考力、行動力を圧倒して、自分を損なわせるほどにつよくなることを明らかにしています。

 第18章「常軌を逸した上司―自己愛とうぬぼれの取り扱い方」では、これまで見てきたような種類の機能不全よりももっとひどい、狂気の領域に足を踏み入れたようなリーダーもいて、彼らの行動を説明できる合理的解釈は見当たらないが、彼らに一線を超えさせてしまう要因として、やはり自己愛があり、自己愛は建設的なプラスの力として働くこともあるが、一転して過度の傲慢と非合理的思考の鍵となることもあるとしています。ただし、第19章「おわりに―少々の狂気は人生に必要」では、特に極端な位置にいるのでなければ、少々の狂気は人生の中で必要なのだと認めることもできるとしています。

 冒頭に述べたように、Ⅰ部(第1~第9章)は組織の問題に重点を置いており、Ⅱ部(第10~第19章)は人間の役割に焦点を当てていますが、著者自身が前書きで述べているように、恋人と組織はそれぞれ複雑に絡み合った全体の一面であるため、ほとんどシームレスな感じで読めました(Ⅱ部からでも読める)。また、各章に気の利いたタイトルがついていて(おそらく訳者による意訳だと思うが)、その章で扱うテーマが分かりやすくなっているのも良かったです。

 内容的には、リーダーシップ(とその暗黒面)、組織改革、キャリア・ダイナミクス(転職、海外赴任、引退、女性のキャリア問題)、企業活動と人の国際化・グローバル化、起業家、同族経営、職場のメンタルヘルス、リストラやⅯ&Aの心理的影響など多くの問題を扱っていますが、問題の掘り下げ方に精神分析家としての特徴があり、しかも臨床的パラダイムを主張する著者だけに、企業経営者やそこで働く人々をよく観察・分析して書かれているという印象を持ちました。

 訳者あとがきで、第一に、会社の中における人間の問題について深く考える必要があるポジションにある人(例えば管理職、人事部門の人)、第二に、会社の中で「困った人たち」に会うことを専門にしている人たち(例えばキャリア・カウンセラー、組織コンサルタント)、第三に、組織内で自らが困っていると思っている人、第四に、なにも困っていなくとも、精神分析的組織論と言う経営学の知のフロンティアに知的好奇心を抱く一般読者に本書を読んでほしいとありますが、まさにその通りだと思いました(個人的は、とりわけ人事パーソンにお薦め)。

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「リーダーは、集団を"リニューアル"するのがその最終的な役割」―説得力あり。

リーダーシップの本質.jpgジョン・ウィリアム・ガードナー.jpg John William Gardner
リーダーシップの本質―ガードナーのリーダーの条件』['93年]

ジョン・ウィリアム・ガードナー 2.jpg 本書の著者ジョン・ウィリアム・ガードナー(1912-2012)は、医療、教育、福祉部門の長官、ケネディ政権で教育タスクフォースのメンバーになったのを皮切りに、6人の大統領の顧問、スタンフォード大学の教授を務めた人物であり、そうした経験を持つ著者が、アメリカ各界の指導者数百名にインタビューするなどして5年間を費やした研究調査の成果を横糸に、著者自身の社会観、文明観、哲学を縦糸にして、リーダーシップ論を展開したのが本書です(原題:On Leadership,1990)。

 第1章では、リーダーシップというのは、個人あるいはリーダー・チームが、リーダーやリーダーと部下が共有している目的を追求すべく、集団を誘導していくプロセスであるとしています。第2章では、最も重要なリーダーシップ機能として、目標設定、動機づけなど、リーダーの9つの任務を示しています。

 第3章では、リーダーとフォロワーズとの相互作用について述べ、その関係がうまく機能するために必要なこととして、効果的な双方向のコミュニケーションは不可欠であるとしています。第4章では、いかなる状況の中でも成功するリーダーシップを保証するような、リーダーの特質などは存在しないとしています。

 第5章では、リーダーにとって重要な資質として、以下の14 項目を挙げています。
  1.肉体的活力とスタミナ
  2.知力と実行判断力
  3.責任を引き受ける意欲
  4.任務遂行能力
  5.部下に対する理解
  6.人を扱う技術
  7.偉業を達成する必要性
  8.動機づけ能力
  9.勇気、決意、着実性
  10.信頼を獲得し保持する能力
  11.管理し、決定し、優先順位を設定する能力
  12.自信
  13.主導権、支配、自己主張
  14.戦術の適応性と柔軟性

 第6章では、リーダーシップとパワー(権限)は同じものではないとし、第7章では、道徳的に受容できるリーダーの特質とはどのようなものかを述べています。

 第8章では、今日の複雑化した大規模組織におけるリーダーの機能と役割を探り、第9章から第11章にかけては、そうした大規模組織内で起きる断片化と共通利益の問題、連携と責任のネットワークの問題、コミュニティ意識の喪失の問題を取り上げ、リーダーはどう対応すべきかを説いています。

 第12章では、今日リーダーが対応しなければならない組織の問題は、分断化、共有価値の喪失、対立勢力を妥協させる困難だけでなく、組織を常にリニューアル(再活性化)する必要があるということを理解しなければならないとし、さらに言えば、リーダーは組織文化の再生者でなければならないとしています。

 第13章では、リーダーシップにおける役割の分担について述べ、その1つの形態として、リーダーと密接な関係を保ちながら働く少数の個人グループ、リーダーシップ・チームというものを取り上げ、リーダーシップ任務を分担することの利点を説いています。

 第14章では、リーダーシップは教育できるかという問いに対する答えは「イエス」であるが、その教育は、多数の人々を対象に、できるだけ早期のうちに取り組むことが、社会の活力に決定的な重要性を持つとし、また、大学レベルにおけるリーダーシップのための最善の準備は、リベラル・アーツ(一般教養)を身につけさせることであるとしています。第15章では、リーダーシップ開発は生涯にわたって可能であり、その過程は生涯学習となるとしています。

 第16章では、動機づけ者としてのリーダーという観点から、リーダーにはフォロワーズのニーズが何かを知ることが求められ、また、自己を超えた献身が求められるとしています。第17章では、リーダーは人々に自信を持たせる試みをするものであり、リーダーとフォロワーズの関係は、人間の可能性に対する信念によって設定されるとしています。

 フォロワーズとの関係においてリーダーの優劣か決まるとしているというのは尤もだと思わされました。リーダーの特質は、眠っている個人の才能を発掘・育成する点にあり、さらに、最終的には、集団を"リニューアル"するのがその役割であるというのが、説得力をもって響いてくる、啓発度の高い名著です。

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個人だけでなく組織をも対象としていることで、組織開発的な内容に。求められるファシリテーション能力。

FIND YOUR WHY.jpgFIND YOUR WHY2.jpg 『FIND YOUR WHY あなたとチームを強くするシンプルな方法』['19年]

 本書の著者の一人サイモン・シネックは、2009年に行ったTEDトークにおいて、「WHY」(個人や集団の存在意義、組織が何を表しているか)という概念の重要性を説き、反響を呼びました。その概念をさらに掘り下げたのが、前著『Start with WHY』(邦題『WHYから始めよ!』('12年/日本経済新聞出版社))であり、本書はその実践編とでもいうべきものです。

 TEDトーク以来の彼の主張は、社会を巻き込む力をもつリーダーに共通するのは、思考を「WHAT(何をするのか)」からではなく「WHY(なぜそれをやっているのか)」から始めるという点であるというものでした。「本物のリーダー」は、私たちに「WHY(理念と大義)」を語り、それこそが組織の内外の人たちのやる気を起こさせるが、「形式上のリーダー」は「WHAT(結果)」だけを語ってしまうと指摘しています。

WHY2012.jpg 本書では、まず第1章で、TEDトーク及び『WHYから始めよ!』で示したゴールデン・サークル(WHY―HOW―WHAT)という概念モデルで、WHYから始めることのインパクト、WHYを知ることの利点を説明し、第2章で、WHYを見つけるためにはどのようなプロセスを踏めばよいのか、3つのステップを解説しています。さらに第3章では、<個人>が自分自身のWHYを見つけるための段階的プロセスを、7つのステップごとに説明しています。

 第4章では、、<組織>のためのWHYの見つけ方として、その準備としてのユニット(グループ)アプローチについて解説しています。続く第5章では、実際にワークショップを実施するための具体的な手順を解説しています。ここでは、WHYを見つけるプロセスにおいて、グループをどう導けばよいかを述べています。

 第6章では、WHYを現実のものとするための行動、HOWについて書かれています。WHYは目的地であり、HOWはそこへたどり着くための経路を意味します。第7章では、自分のWHYを生き始め、実行するにはどうすればよいかを説明しています。

 リーダーを目指す人にとって啓発的な内容であるとともに、個人だけでなく組織をも対象とすることで、本書自体が<組織開発>的な内容となっているのが興味深いです。個人に応用するにはまずパートナーを見つけることから始め、組織に応用するにはまずファシリテーターを見つけることが最初のステップになるということですが、個人や組織をそのWHY(存在意義)に導いてくれるパートナーやファシリテーターを見つけたり、育成したりするのが、ややハードルが高いようにも思いました。とは言え、ワークショップの進め方などは、これまでの組織開発におけるホールシステムの手法などに通じるところがあったようにも思います。

 要所ごとにパートナー・セッションやファシリテーター・セッションといった解説があり、巻末にもパートナー、ファシリテーターのそれぞれに対するアドバイスが付されていることからも窺えるように、本書を読んだ人がまず自らパートナーやファシリテーターになってみることを推奨しているのでしょう。ただ、個人的には、読んでみて、若干もやっとした印象も残りました。

 米国などでは、エンカウンターグループなどの歴史が連綿と今日にまで繋がっていますが、日本はそうしたものが高度経済成長期に行われた感受性訓練(ST)などをもっていったん途切れた観もあり、そもそも日本人はグループで集まって自分の本心を語るということが苦手なような気もします。一方で、「組織開発」は今また何十年かぶりに注目を集めているとも言われています。こうした個人や組織の根本的な存在意義(「WHY」)を問い、それを共有化するという啓発的なワークショップが、今後どれくらい日本に浸透するのか注目したいと思います。


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「承認欲求の呪縛」を解くには、メンバーの組織への依存を断ち切り、プロ化する。

『「承認欲求」の呪縛』.jpg 『「承認欲求」の呪縛 (新潮新書)』['19年]

 本書の著者によれば、上司などから褒められたらモチベーションや挑戦意欲が高まり、業績も上がるという実験結果があり、承認が離職の抑制や成長にもつながることが明らかになっている一方で、褒められ、認められると逆にやる気が奪われるケースがあるとのことです。また無意識のうちに承認欲求の奴隷になり、破滅したり、自殺に追い込まれたりするケースもあり、さらにパワハラや組織不祥事の背景にも「承認欲求の呪縛」が潜んでいると言います。

 つまり、承認欲求には光と影があり、功と罪を分ける何かがあるということです。本書は、「承認欲求の呪縛」がどのようなメカニズムで発生するか、どうすれば呪縛から逃れられるかを簡単な数式と具体例を用いながらわかりやすく説明したものであるとのことです。

 「承認欲求」が人間にとって「最強の欲求」となるのは、それ自体が人を動機づけるだけでなく、認められるとほかの欲求が満たされたり、有機無形のさまざまな報酬が得られたりするためであるとしています。ところが、あることをきっかけに、今度は獲得した報酬や築き上げた人間関係にとらわれるようになり、それが「承認欲求の呪縛」であるとのことです。「認められたい」が「認められなければ」に変わるとき、それは危険な兆候を示し、結果的にその人を破滅に導くこともあるとのことです。

 また、「承認欲求の呪縛」は、「認知された期待」と「自己効力感」のギャップに加え「問題の重要性」という三つの要素によってもたらされ、「数式」としては(認知された期待-自己効力感)×問題の重要性=プレッシャーの大きさ、即ち「承認欲求の呪縛」の強さであるとのことです。そして、パワハラや企業不祥事、長時間労働による過労死の背景にも、この呪縛が潜んでいるとした上で、これまでに起きたさまざま事件を振り返りながら、そうした事件が繰り返される根底には、日本の組織が、外から隔てられた「共同体」の性格が強く、メンバーは内部の規範や人間関係を強く意識し、そこでの承認を失うことを恐れるという特徴があると指摘しています。

 それではこの、無意識のうちに精神的な負担となり、本人の意に反して無理をさせ、時にはそれが過労死や過労自殺、犯罪、組織不祥事といった重大な事態を招く場合もある「承認欲求の呪縛」から逃れるにはどうすればよいのか。著者によれば、日本人はもともと「期待」に潰されやすく、これを病にたとえるならば「日本人病」と言うより、「日本の風土病」とでも言うべきものであり、よってリーダーにはメンバーに過剰なプレッシャーをかけない配慮が求められ、また、本人の自己効力感を高め、組織への依存を小さくすることが必要であるとしています。

 また、組織不祥事をなくすためには、メンバーの「プロ化」、すなわち組織をプロフェッショナルの集団に変えるのがよく、なぜならば、プロにとっては専門能力こそが生命線なので、自己効力感が高く、期待をプレッシャーではなく、むしろエネルギーに変えることも可能であるからとしています。著者は、これまでのような共同体組織は、遅かれ早かれ崩れていくに違いなく、だとすれば、組織にとっても個人にとっても、変化を先取りしてプロ化を図っていくことが、「承認欲求の呪縛」を解く決め手になり、ひいては不祥事対策の王道を歩むことにもつながるとしています。

 「承認欲求」に関する本をこれまで何冊も書いてきた著者ですが、いずれもそのポジティブな面に焦点を当てたものばかりだったのが、今回、「承認欲求の呪縛」というネガティブ面に着眼し、警告を発しているという点が興味深かったです。そして、「承認欲求」が人間にとって「最強の欲求」であることをよく知っている著者が発する警告であるだけに、説得力があったように思います。

 最後の部分の「プロ化」の勧めは、ドラッカーが『現代の経営』の中で、「専門職たる者(プロフェッショナル)は、優れた仕事とは何であるべきかを自ら決める」と言っていたのを想起しました。プロって、自分の仕事の評価を自分でできる人なのだなあと。本書によれば、そうした組織に依存していないメンバーの揃ったプロ集団であれば、組織不祥事は起きないということなのでしょう。

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「日本型フォロワーシップ」の類型を提唱。「日本型」研究の嚆矢となるか。

次世代型組織へのフォロワーシップ論2.jpg次世代型組織へのフォロワーシップ論.jpg
次世代型組織へのフォロワーシップ論:リーダーシップ主義からの脱却

 本書は、戦略的人的資源管理論や組織行動論を専門とする著者が、リーダーと比べてこれまでネガティブなレッテルが貼られ続けてきたフォロワーというものに着眼しています。フォロワーが自律的貢献の主体者となり得ることを明らかにし、フォロワーおよびフォロワーシップの概念を改めて定義するとともに、日本的なフォロワーシップとはどのようなものかを探求しています。

 全7章の構成で、第1章では、人事労務管理の歴史を振り返り、今日、日本をはじめとする先進国では、フォロワーたる労働者の地位が向上してきているとしています。一方で、組織においてリーダーは疲弊し、リーダーを目指す若手も減少してきているため、リーダー偏重の組織運営は限界にきており、今こそ、フォロワーに注目し、真摯なフォロワーシップ論を展開すべきであるとしています。

 第2章では、フォロワーとは誰のことなのか、フォロワーは何に従い、また、なぜ従うのかをアンケート調査などを基に考察しています。さらには、社会の見方が歴史的にどのように変化を遂げてきたにかについても検討しています。

 第3章では、フォロワーシップとは何かということを、バーナード、サイモンなどの古典的な研究を踏まえて考察し、さらに、現代のフォロワーシップ論について、役割理論アプローチと構造主義アプローチの観点から、その主要な研究を紹介しています。

 第4章では、日本におけるフォロワーシップについて、海外の研究者らの「忠臣蔵」や「葉隠」を取り上げた研究を紹介し、日本的フォロワーシップと日本人労働者特有の忠誠心について考察、その心理的メカニズムとしての"観我"と"従我"を想定した「観従二我論」という著者なりの理論を提唱しています。

 第5章では、これまでの議論を踏まえて、「受動的忠実型F」「能動的忠実型F」「統合(プロアクティブ)型F」という、わが国における三つのフォロワー・タイプのモデルを抽出し、調査の結果から、統合型のプロアクティブ性が、モチベーションおよびメンタルヘルスにポジティブな影響力を有するとしています。

 第6章では、日本人に最も多いと考えられる能動的忠実型フォロワーに注目し、その特徴ともいえる、メンタルヘルスに対する好ましくないインパクトについて考察しています。

 第7章では、これまでの議論を振り返りながら、日本人特有の心理構造や組織との関係性を検討し、労働者の人格を(例えば"組織人格""家庭人格""趣味人格"といった)多層的な自然人として捉えることを提唱、さらにそこから、フォロワーシップ・マネジメントを日本的HRMに応用すると、採用や配属、異動や人材開発などはどうなるか、また、フォロワーシップ・マネジメントがリーダーや管理者を置かないことを理想とするならば、進化型組織とはどのようなものになるかを展望しています。

 役割理論アプローチのところで紹介されている、ケリーの5つのフォロワ・ータイプ(「模範的」「孤立型」「消極的」「順応型」「実務型」)や、チャレフの4つのフォロワー・タイプ(パートナー・個人主義者・実行者・従属者)などはよく知られているものでもあります。一方で、「忠臣蔵」や「葉隠」を、海外のフォロワーシップ研究者が研究対象としていることは、本書で初めて知りました。

 著者は、学部生の時は臨床心理学が専攻であったようです。「おのずから」の我を「従う我(従我)」、「自ら」の我を「観る我(観我)」とする「観従二我論」は、哲学的な概念との印象も受けますが(実際、本書には西田幾多郎なども登場する)、読んでいくうちに、ある種の日本人論に毛戸なっているように思いました。

 本書の意義は、日本でこれまでほとんど議論されてこなかったフォロワーおよびフォロワーシップについて取り上げ、日本人の精神に適合したマネジメントを探っていることにあるかと思います。その際に、観我と従我という心理的メカニズムをもとに日本型のフォロワー・タイプの類型を提唱している点が特徴的であると言えます。

 思えば、リーダーシップ理論もこれまで"輸入モノ"ばかりだったような気がしなくもないです。今後、こうした「日本型フォロワーシップ」の研究はもっと盛んになっていいのではないかと思われ、その嚆矢であろうとする意気込みが感じられる本でした。

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リーダーがチームの安全基地(セキュア・ベース)のような存在となることを提唱。

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セキュアベース・リーダーシップ ―〈思いやり〉と〈挑戦〉で限界を超えさせる

 本書は、リーダーがチームの安全基地(セキュア・ベース)のような存在となることで、メンバーの才能、意欲、創造力、エネルギーを解き放つ、いう考え方に基づいたリーダーシップ論を提唱したものです。セキュアベース・リーダーとは単に優しいリーダーではなく、部下の安全基地となると同時に各自の力を最大限に発揮してはじめて達成できるような高い目標を与えることで、チームのパフォーマンスを上げるリーダーのことを指すとしています。

 第Ⅰ部では、第1章で、セキュアベースとは安全と安心感を提供し、加えて、冒険やリスクをとることや挑戦への意欲をもたらすものであるとし、第2章で、セキュアベース・リーダーの9つの特性を挙げています。それらは、① 冷静でいる、②人として受け入れる、③可能性を見通す、④傾聴し、質問する、⑤力強いメッセージを発信する、⑥プラス面にフォーカスする、⑦リスクを取るように促す、⑧内発的動機で動かす、⑨いつでも話せることを示す、の9つであり、これらの特性は後天的に習得することができるとしたうえで、第1の特性(①冷静でいる)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。

 第Ⅱ部では、第3章で、人と人の「絆」こそがセキュアベース・リーダーシップの中心であるとして、信頼を構築するために役立つ2つの特性(②人として受け入れる、③可能性を見通す)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。第4章では、社会的感情としての「悲しみ」に注目して、悲しみを受け止め、組織に変化を起こすために役立つ2つの特性(④傾聴し、質問する、⑤力強いメッセージを発信する)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。

 第5章では、「心の目」をコントロールすることが、自分自身のコントロールには欠かせないとして、心の目で見るために役立つ2つの特性(⑥プラス面にフォーカスする、⑦リスクを取るように促す)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。第6章では、「勝利を目指す」リーダーシップ・アプローチの特性を説き、「勝利を目指す」ために役立つ2つの特性(⑧内発的動機で動かす、⑨いつでも話せることを示す)について解説し、それを伸ばすためのヒントを示しています。

 第Ⅲ部では、第7章で、自分のセキュアベースを強化するには自己認識が重要であることを説き、第8章では、自身が他者のセキュアベースになるには、9つの特性のうち、何が自分の強みかを明確にすることが必要であるとしています。第9章では、組織が人間関係と結果の両方を大切にするとき、その組織は従業員にとってのセキュアベースとなり得るとしています。最終第10章では、組織の人間性を高める取り組みは、リーダー自身が自分の人間性に注意を向け、他者に対して自分自身をオープンにすることから始まるとしています。

 本書によれば、成功したリーダーと失敗したリーダーの大きな違いは、人生にセキュアベース(安全基地)が存在したかどうかという点であり、安全基地を持つことで、不安や恐れが減少し、信じること、リスクをとることが増えていくとのことです。この意欲とエネルギーによって、人は居心地のよい領域から踏み出して、自身のまだ開拓されていない可能性を現実のものにしようと努力するし、人生においてセキュアベースの力を経験したならば、それを「モデル」として他の人のセキュアベースとなることができるとしています。

 著者の専門は組織心理学であるとのことですが、本書の趣旨を一言で言えば、帯にあるように「人は、安全基地があればより遠くまで飛んでいける」ということなのでしょう。あるいは、サブタイトルにある「〈思いやり〉と〈挑戦〉で限界を超えさせる」ということになるのかもしれません。

たいへん啓発的な内容ですが、まったく新しいリーダーシップ論と言うよりは、「PM理論」や「EQリーダーシップ」など既存のリーダーシップ論と重なる部分もあったように思います。個人的には、リーダーが部下にとっての安全基地になるためには、まず自分自身のセキュアベースを持つことが重要であるという考えに納得させられました。

《読書MEMO》
●目次
第Ⅰ部
第1章 安全とリスクのパラドックス
第2章 セキュアベース・リーダーの9つの特性
第Ⅱ部
第3章 信用構築サイクル
第4章 社会的感情としての「悲しみ」
第5章 「心の目」で見る練習
第6章 「勝利を目指す」マインドセット
第Ⅱ部
第7章 自分のセキュアベースを強化する
第8章 他者のセキュアベースになる
第9章 「安全基地」としての組織
第10章 人間の顔をした組織をつくる

●セキュアベース・リーダーの9つの特性(第2章)
① 冷静でいる
②人として受け入れる
③可能性を見通す
④傾聴し、質問する
⑤力強いメッセージを発信する
⑥プラス面にフォーカスする
⑦リスクを取るように促す
⑧内発的動機で動かす
⑨いつでも話せることを示す

●特性①(冷静でいる)を伸ばすためのヒント(第2章)
1.気分を変える
2.何をどのように言うか注意する
3.マインドフルネスの練習をする
●特性②(人として受け入れる)を伸ばすためのヒント(第3章)
1.自分を律する
2.社員としての役割を超えて、その人の個性を知る
3.失敗を学びに変える
4.問題とその人自身を切り離す
●特性③(可能性を見通す)を伸ばすためのヒント(第3章)
1.チームや組織の全員の可能性についてのビジョンを作成する
2.高い期待を持つ
3.自分を超える可能性を持っている人を採用する
●特性④(傾聴し、質問する)を伸ばすためのヒント(第4章)
1.積極的に話を聞く練習をする
2.自由回答式の質問をする
3.沈黙の間を使う
4.話をする環境にも気を遣う
●特性⑤(力強いメッセージを発信する)を伸ばすためのヒント(第4章)
1.言葉だけでなく、非言語のメッセージにも気を遣う
2.その一瞬を見逃さない
3.力強いメッセージをはっきりと、簡潔に、ゆっくり伝える
4.力強いメッセージを書く
5.力強いメッセージをノートに書きためておく
●特性⑥(プラス面にフォーカスする)を伸ばすためのヒント(第5章)
1.自分自身の心の目をチェックする
2.自分の脳をだます
3.前向きになるように影響を及ぼしたい人物を3人選ぶ
4.他者をビジョンに巻き込む
●特性⑦(自分のセキュアベースを強化する)を伸ばすためのヒント(第5章)
1.リスクをとるロールモデルとなる
2.失敗に公正かつ明確に対応する
3.リスクをとるチャンスを一貫して提供しているかを意識しよう
4.自分の状態に注意する
●特性⑧(内発的動機で動かす)を伸ばすためのヒント(第6章)
1.どのように部下を動機づけているかを振り返る
2.一人の人間として部下を理解する
3.「所属」と「達成」という2つの欲求を満たす
●特性⑨(いつでも話せることを示す)を伸ばすためのヒント(第6章)
1.フォロワーと過ごす時間の長さではなく、その質を大切にする
2.歩き回って指揮を執る
3.短いやりとりを行う
4.本当に近づいていいことを示す

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主要な著者(経営思想家)の代表的な著作(主張)のエッセンスを抽出。

リーダーシップの教科書2.jpgリーダーシップの教科書.jpg
ハーバード・ビジネス・レビュー リーダーシップ論文ベスト10 リーダーシップの教科書

 リーダーシップは、どうすれば、習得できるか。本書は、マネジメント誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」に発表された、リーダーシップ論の権威とされる経営思想家などの論文から10選を、同誌編集部が選び抜いたものです。

John Kotter2.jpg 第1章では、「リーダーシップとマネジメントの違い」についてジョン・P・コッターが、マネジメントは複雑な状況に対処するために必要であり、リーダーシップは変化に対応するために必要なものであるとしています。第ピーター・F・ドラッカー031.jpg2章「プロフェッショナルマネジャーの行動原理」ではピーター・ドラッガーが、有能な経営者は、「何をしなければならないか」「この企業にとって正しいことは何か」を自問自答し、アクションプランをきちんと策定し、意思決定やコミュニケーションの責任をまっとうし、問題ではなくチャンスに焦点を当て、会議を生産的に進行し、「私」ではなく「我々」として発言するとしています。

ロナルド・A・ハイフェッツ2.jpg 第3章「リーダーシップの新しい使命」ではロナルド・A・ハイフェッツらが、人々を適応へとリードするはロブ・ゴーフィー/ガレス・ジョーンズ2.jpgための6原則として、リーダーは、「バルコニー」に上がり、適応への挑戦を見極め、人々の苦痛や苦悩を調整し、自身の注意力を磨き続け、仕事への責任を現場に戻し、組織の中から聞こえてくるリーダーシップの産声に耳を傾けるとしています。第4章「共感のリーダーシップ」ではロバート・ゴーフィーとガレス・ジョーンズが、部下をやる気にさせるリーダーの資質として、「みずからの弱点を認める」「直観を信じる」「タフ・エンパシーを実践する」「他人との違いを隠さない」の4つを挙げています。

ウォーレン・ベニス2.jpg 第5章「挫折がリーダーシップの糧となる」ではウォレン・G・ベニスらが、リーダーらが真のリーダーになるまでに、その人ジム・コリンズ2.jpgたちが「クルーシブル」(厳しい試練)をいかに成長の機会に変えてきたかを説いています。第6章「レベル5のリーダーシップ」ではジム・コリンズが、「まあまあ」の企業を超一流の企業に変えたリーダーたちには、有能な個人、貢献度の高いチームメンバー、有能なマネジャー、効果的なリーダーという4段階があり、さらにその上のレベル5のリーダーシップとして、スタッフを称賛し自らを語らない謙虚さと、プロフェッショナルとしての意思の強さを併せ持っているとしています。

ビル・ジョージ2.jpg 第7章「変革リーダーへの進化」ではデイビッド・ルークらが、リーダーシップを左右する行動原理の7種類の類型を示し、第8章「自分らしいリーダーシップ」ではビル・ジョージらが、最近の潮流である「オーセンティック・リーダーシップ」について論じています。

ダニエル・ゴールマン2.jpg 第9章「完全なるリーダーはいらない」ではマサチューセッツ工科大学の教授陣が、独自の調査から「分散型リーダーシップ」という新たなモデルを提唱するとともに、その分散型リーダーシップは、「状況認識」「人間関係の構築」「ビジョンの策定」「創意工夫」の4つの能力から成るとしています。第10章「心の知能指数『EQ』トレーニング法」ではダニエル・コールマンが、自身が提唱した「EQ」を構成する、自己認識、自己統制、モチベーション、共感、ソーシャルスキルの4つの因子について解説しています。

 以上のように、本書一冊が丸ごとリーダーシップ育成のための指南書となっいますが、その中に論じる人の数だけリーダーシップ論があり、それらを無理やり繋げて読む必要もないと思います。むしろ、"リーダーシップ論の潮流を読む"という感じで読めばいいのではないでしょうか。

 また、本書を読むだけでも啓発される要素はあるか思いますが、同時に、主要な著者(経営思想家)の代表的な著作(主張)のエッセンスを抽出したものにもなっているため、関心を持った論者がいれば、その著作(日本でもベストセラーやロングセラーになっているものも少なからずある)に触れてみるのもいいのではないか思います。

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述べられていることに普遍性があるから「ベストセラー」になったのだと思わされた。

プロがすすめるベストセラー経営書9.JPGプロがすすめるベストセラー経営書.jpg  マネジメントの名著を読む.jpg リーダーシップの名著を読む.jpg 企業変革の名著を読む.jpg
プロがすすめるベストセラー経営書 (日経文庫)』 『マネジメントの名著を読む』『リーダーシップの名著を読む』『企業変革の名著を読む

プロがすすめるベストセラー経営書10.JPG 本書は経営書を紹介したものであり、読む前は、同じ日経文庫の『マネジメントの名著を読む』('15年)、『リーダーシップの名著を読む』('15年)など「名著を読む」シリーズと"同系統"かと思いましたが、一方で、タイトルの付け方やカバーデザインが少し違っているので"別系統"かなとも思ったりしました。

 実際のところ、手にしてみれば、『マネジメントの名著を読む』や『リーダーシップの名著を読む』、同じく「名著を読む」シリーズの一冊である『企業変革の名著を読む』('16年)と同様に、オリジナルは日経電子版の「日経Bizアカデミー」及び「NIKKEI STYLE出世ナビ」に2011年から連載の「経営書を読む」であり、経営学者やコンサルタントがマネジメントやリーダーシップに関する本を選んで解説したネットの連載に加筆したものでした。

 今回の特徴は、"ベストセラー"という選び方をしている点ですが、取り上げられている本のうち、『ワーク・シフト』『採用基準』が'12年刊行、『HARD THINGS』が'15年刊行と比較的最近のベストセラーであるものの、中にはベストセラーと言われてもピンとこないものもあるかも。因みに『イノベーションと企業家精神』は'15年刊行の「エッセンシャル版」を底本としています。

『サーバントリーダーシップ』三省堂 3.jpg ロバート・K・グリーンリーフの『サーバントリーダーシップ』なども'08年の翻訳刊行で、当時はベストセラーだったかもしれませんが、今は"定番""ロングセラー"と言った方がいいかもしれません。ただし、この本、リーダーシップの"定番"でありながら、『リーダーシップの名著を読む』では取り上げれていなかったので、ここで取り上げてもらえるのは有難いです(元本は571ページの大著で、読み手側からすれば、何らかの参考となる切り口が欲しいということもある)。

 これまでの「名著を読む」シリーズと同じく、本ごとに複数のケーススタディを示して解説していますが、今回は紹介している本が全8冊とやや少ないものの、1冊当たりの解説は充実してたように思います。述べられていることに一定の普遍性があるから「ベストセラー」になったのだろうなあと思わせるものがありました。

 国内・国外の「ベストセラー」が混ざっていますが、「ベストセラー」を近年の新刊に限定せず"広義"に解したのは正解だったでしょう。むしろ、連載時点で選者らが、単にベストセラーであるということより、「名著」乃至は「名著となりそうなもの」を選んでいるということなのでしょう。

【読書MEMO】
●取り上げている本
プロがすすめるベストセラー経営書00_.jpgFlag_of_日本.png『戦略プロフェッショナル』三枝匡著(日経ビジネス人文庫、2002年)―原理原則と熱い心がリーダーを作る(清水勝彦(慶應義塾大学ビジネススクール))
ワーク・シフト ―00_.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngワーク・シフト』リンダ・グラットン著(邦訳・プレジデント社、2012年)―明るい未来を切り開くためのシフトチェンジ(岸田雅裕(A・T・カーニー))
採用基準 伊賀泰代.jpgFlag_of_日本.png採用基準』伊賀泰代著(ダイヤモンド社、2012年)―リーダーシップが自分の人生を切り開く(大海太郎(ウイリス・タワーズワトソン・グループタワーズワトソン))
Flag_of_日本.png『ストーリーとしての競争戦略』楠木建著(東洋経済新報社、2010年)―3枚の札でビジネスに勝つ(小川進(神戸大学、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院))
『サーバントリーダーシップ』 -2.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngサーバントリーダーシップ』ロバート・K・グリーンリーフ著(邦訳・英治出版、2008年)―「良心」が会社を動かす(森洋之進(アーサー・D・リトル))
HARD THINGS.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngHARD THINGS(ハード・シングス)』ベン・ホロウィッツ著(邦訳・日経BP社、2015年)―人、製品、利益、の順番で大事にする(佐々木靖(ボストンコンサルティンググループ))
Flag_of_アメリカ合衆国png.png『イノベーションと企業家精神』ピーター・ドラッカー著(邦訳・ダイヤモンド社"エッセンシャル版"、2015年)―一つの目標に資源を集中させよ(森下幸典(PwCコンサルティング))
Flag_of_日本.png『経営戦略の思考法』沼上幹著(2009年、日本経済新聞出版社)―考え続けることが英断を生む(平井孝志(筑波大学大学院ビジネスサイエンス系))

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ロブ・ゴーフィー/ガレス・ジョーンズ)

「自分自身に忠実であれ」という困難なチャレンジにどう向き合うかをガイドしている。

なぜ、あなたがリーダーなのか?.jpgなぜ、あなたがリーダーなのか 旧版2.jpgなぜ、あなたがリーダーなのか 旧3.JPGRob Goffee & Gareth Jones.jpg Rob Goffee & Gareth Jones
なぜ、あなたがリーダーなのか[新版]――本物は「自分らしさ」を武器にする』['17年]/
なぜ、あなたがリーダーなのか? (ADL経営イノベーションシリーズ)』['07年]
"Why Should Anyone Be Led by You? With a New Preface by the Authors: What It Takes to Be an Authentic Leader"(2019)
Why Should Anyone Be Led by You?:What It Takes To Be An Authentic Leader.jpg ロンドン・ビジネススクール教授らが自らのリーダーシップ研究について纏めたもので(原題"Why Should Anyone Be Led by You?: What It Takes To Be An Authentic Leader" 2006)、日本でも2007年に一度邦訳が刊行されています(実は個人的にはそちらを読んだ)。内容的には、優れたリーダーに共通する資質を探るのではなく(所謂"特性論"を否定している)、各自が自分の持ち味を生かしてリーダーシップを発揮するためにはどうすればよいかを考えています。

 第1章「自分自身に忠実であれ」では、「みんながジャック・ウェルチになれるわけではない」として、いつ何時でもあてはまるようなリーダーシップ特性というものの存在を否定し、リーダーシップは状況に左右されるとしています。そして、「リーダーであるためには、自分自身に忠実でなければならない」ということをテーマに掲げ、優れたリーダーは、役割を果たす上で役立ちうる「自分ならではの持ち味」を認識し、活用しているとしています。また、「リーダーシップに関わる三つの原理原則」として、以下を挙げています。
 ①リーダーシップは状況に左右される
 ②リーダーシップは肩書きを問わない
 ③リーダーシップは関係性に根ざす

 第2章「自分らしく振る舞え」では、良いリーダーは自らの持ち味にいかにして気づき、活かすようになっていくのかを考察しています。そして、優れたリーダーは、周りの環境が著しく変化していく中にあっても、自分にとって無理なく心地よい「らしさ」を見失わないとしています。そして、その「らしさ」を周囲は評価するとして、自分らしくあるための実践的な取り組みのコツを、
 ①新たな状況、新たな経験に身をさらす
 ②フィードバックを正しく得る
 ③歩んできた道をみつめなおす
 ④生い立ちを振りかえる
 ⑤(仕事、家庭に次ぐ)第三の場所を見つける

 第3章「リスクに身をゆだねよ」では、リーダーとしての自分らしさの打ち出しが必然的に伴う、個人的なリスクテイクを論じています。リーダーとしての自分をさらけ出せば必然的に、その強みと共に弱みも見せることになるが、それはリーダーとしての魅力を損なわせるものではないとしています。そして、リーダーは、「自らのおかれた状況を前提とした上で」自分らしくあらねばならないとしています。

 第4章「おかれた状況を感知せよ」では、状況感知を考察しています。リーダーは、ものごとを察する力と見極める力を駆使して、今何がおこっているかを示すシグナルを捉え続けなくてはならず、状況を感知する力は、次の三つの相関しあう要素に分け得るとしています。
 ①観察すること、認識すること
 ②行動すること、適応すること
 ③状況を変えていくこと

 第5章「相応に妥協せよ」では、「状況にほどよく同調する」ことを論じています、リーダーとして自分らしさを押し出していくことは大切だが、しかし同時に、いつ、どこで、どれほど現状と折り合いをつければよいかも正しく判断できなければならず、良いリーダーは、状況への同調を通じて周囲に馴染もうとするとしています。また、ここでは、組織文化の基本的な形として、次の四つを挙げ、それぞれにプラス面。マイナス面があるとしています。
 ①ネットワーク型(社交性が高く連帯性が低い文化)
 ②傭兵型(社交性が低く連帯性が高い文化)
 ③断片型(社交性・連帯性ともに低い化)
 ④共同体型(社交性・連帯性ともに高い化)

 第6章「距離感を操れ」では、距離感のコントロールを論じています。思いやりや愛情を持って歩み寄るべきとき。ぬるま湯的な雰囲気に喝を入れるために距離をおくべきとき。優れたリーダーがこれをどう判断し、行動しているのかを明らかにしています。そして、距離感に関して留意すべきリスクとして、以下を挙げています。
 ①歩み寄り過ぎて同化してしまう
 ②親しさが未熟ことに気づかない
 ③本来の目的を見失う
 ④歩み寄るべきときに遠くにいる
 ⑤素晴らしくやり過ごしてしまう

 第7章「組織にリズムを刻め」では、コミュニケーションを考察しています。社会的距離の意図的なコントロールを破綻なくやりとげるには、熟達した意思疎通能力が必要となり、良いリーダーは、自分自身を皆がどう見ているか・感じているかに細心の注意を払うとしています。そして、良いリーダーのコミュニケーションのガイドラインを以下のように示しています。
 ①変化を必要十分に強いる
 ②心をつかみビジョンを届ける
 ③もてる「ヒト」資産を量る
 ④ゆっくりと急ぐ
 ⑤しかるべく報いる

 第8章「部下は何を望むか」では、フォロワーシップについて検討しています。リーダーシップは関係性に根ざすため、フォロワーについて知ることは大切であり、部下がリーダーに何を求めるかは、次の四つに括られるとしています。
 ①「本物」であること
 ②認めてくれること
 ③胸の高まりを呼びさましてくれること
 ④つつみこんでくれること

 第9章「リーダーシップ―その代償と褒賞」では、本書のまとめとして、物事がうまくいかないようなときに何がおこりうるかに触れ、また、リーダーに求められる倫理性についても述べています。

 リーダーシップ特性論に対する否定的な見解は決して新しいものではありません。但し、本書は、「自分自身に忠実であれ―そしてその自分らしさを磨けよ」ということがリーダーにとっていかに困難なチャレンジを伴うものであるか、そしてそれにどう向かうべきかを丹念に描き出したものであると言えます。そうした意味で自己啓発度の高い本ですが、心理学的アプローチだけでなく社会学的アプローチも駆使し、調査による裏付けもあるなどアカデミックな側面もあります。

 今回約10年ぶりに「新版」が"復刻"刊行されていることなどは、読者にとっても一定の普遍性と説得力を持って受け止められる内容であるということの証しではないでしょうか。個人的には、「他人に影響を与えうる」自分らしい「何か」を認識し活用することが一つポイントになるように思われました。

《読書MEMO》
●目次
序章 なぜ、あなたがリーダーなのか?
第1章 自分自身に忠実であれ
第2章 自分らしく振る舞え
第3章 リスクに身をゆだねよ
第4章 おかれた状況を感知せよ
第5章 相応に妥協せよ
第6章 距離感を操れ
第7章 組織にリズムを刻め
第8章 部下は何を望むか
第9章 リーダーシップ――その代償と褒賞
付録A――自らのポテンシャルを考えてみる
付録B――自分の立ち位置を考えてみる

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リーダーシップに不可欠なものは経営者マインドと積極的に学び続ける姿勢。

ハーバードのリーダーシップ講義.jpgハーバードのリーダーシップ講義2.JPG 『ハーバードのリーダーシップ講義』.jpg
ハーバードのリーダーシップ講義 「自分の殻」を打ち破る』['16年]/「本to美女」2017.02.16 「悩める人のリーダーシップ」より

 本書(原題:What You Really Need to Lead: The Power of Thinking and Acting Like an Owner,2015)は、ハーバード大学のMBAプログラムでさまざまなリーダーシップ講座を担当し、管理職向けのプログラムでも教えていた著者によるもので、リーダーシップ能力は伸ばすことも習得することもできるというハーバードの自分を知る技術.jpgハーバードの正しい疑問を持つ技術.jpgことを前提とし、リーダーシップを定義することよりも、リーダーシップのベストプラクティスに重きを置いて、リーダーであり続けるための極意を説いた本です(『ハーバードの自分を知る技術 悩めるエリートたちの人生戦略ロードマップ』('14年/CCCメディアハウス、『ハーバードの"正しい疑問"を持つ技術―成果を上げるリーダーの習慣』('15年/CCCメディアハウス)に続く同著者のハーバード・シリーズ第3弾)。
ハーバードの自分を知る技術 悩めるエリートたちの人生戦略ロードマップ』['14年]/『ハーバードの"正しい疑問"を持つ技術 成果を上げるリーダーの習慣』['15年]

 第1章「経営者マインドをもつ―経営者になったつもりで考え、行動する」では、リーダーシップに不可欠なものは経営者マインドであり、経営者マインドとは、意思決定者の立場でものを考え、自分の信念に従って行動し、自分の行動の結果に責任をもつことであるとしています。リーダーシップとは、人々にメリットをもたらすような価値を提供することであり、意思決定者としての自分の信念を見極め、勇気を出して行動し、人々に価値を提供することに注力するのがリーダーシップの柱であり、リーダーシップを発揮するのに地位も肩書も必要ではなく、リーダーシップの本質は心構えであり、それは地位でなく行動で決まるとしています。

 第2章「自分の殻を破る―意欲的に学び、〝正しい疑問〞をもち、アドバイスを求め、孤立を避ける」では、リーダーであり続けることは並大抵ではなく、リーダーシップには努力が必要であり、常に学ぼうとする姿勢が必要であるとしています。学ぶ意欲を持続するには、わからないことを質問し、人の話を聴くことが大切であり、説得力のある主張を聴いたとき、それに耳を傾けて自分の意見を考え直す、そうした「自分の殻」を打ち破る柔軟な姿勢が、リーダーが陥りやすい孤立というリスクを回避し、ものごとの転換点を察知することにつながるとしています。

 第3章「リーダーとしてのスキルを伸ばす―二つのプロセスをマスターする」では、リーダーシップ能力を向上させ、リーダーが犯しやすい過ちを回避するには2つのプロセスがあるとしています。1つは、「明確なビジョンを描く」「優先事項を3~5項目選び出す」「方向性から外れていないか分析する」ことであり、これらのプロセスを行うと、リーダーとしての手腕を格段に向上させることができるとしています。2番目のプロセスは、「自分を知ること」であり、自分の強みと弱みは何か、自分は何が好きか、何に情熱を抱くかを知ることは、リーダーになるのに欠かせない土台のようなものであるとしています。

 第4章「真の人間関係を築く―自分をさらけ出し、グループの力を活用する」では、リーダーが孤立を避けるには、人々の協力が必要であり、真の人間関係を築くには、「相互理解」「互いへの信頼」「互いに対する尊敬の念」の3つの要素が必要であるとしています。また、人間関係を深めるには、「自分をさらけ出す」「相手に質問する」「アドバイスを求める」の3つを行う必要があるとしています。さらに、1人の人間が決定を下すよりも、グループのほうがより優れた分析結果や解決策を導き出すことができ、この「グループの力」を利用するには、多様な人材を集めて、問題を1つ提起して彼らに議論してもらうのがよいとしています。

 第5章「終わりなき旅をする―もう一段階上のリーダーをめざして」では、もう一段階上のリーダーをめざすための心構え(マインドセット)として、自分の人生に責任をもつこと、「正しい行為は報われる」と信じること、価値創造に目を向けることを挙げています。また、学習意欲を妨げる壁を乗り越え、窮地を脱するにはどうすればよいか、より良いリーダーになるためのツールを幾つか提案し、「世の中はあなたを必要としている」という激励の言葉で本書を締め括っています。 

 本書の目的は、読者にリーダーになるための習慣を身につけ、リーダーシップスキルを伸ばし続けてもらうものであり、そのためにとりわけ重要なのは、経営者マインドを身につけることと、積極的に学び続ける姿勢であるとしています。よりよきリーダーシップの発揮をめざす人にとって、マインセットを促す啓発度の高い内容であるとともに、ヒントとなるスキルが紹介されている実践の書でもあるかと思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに ――誰でもリーダーになれる 
リーダーシップは素質の問題? 
リーダーシップは習得できる? 
あなたにとってリーダーシップとは? 
リーダーシップの定義 
リーダーシップの共通認識を求めて 
問題点 
リーダーシップの基本は経営者マインド
さあ、始めよう
第1章 経営者マインドをもつ――経営者になったつもりで考え、行動する
経営者マインドとは 
意思決定者になったつもりで考える 
確信を実行に移すには 
価値創造に注力する 
リーダーに幻滅するとき 
地位も肩書きも関係ない 
リーダーがいない? 
リーダーシップになくてはならない要素 
第2章 自分の殻を破る――意欲的に学び、〝正しい疑問〞をもち、アドバイスを求め、孤立を避ける 
成長の分岐点 
質問しますか? 助言を求めますか? 
積極的に学び続ける姿勢 
孤立というリスク 
自分をさらけ出すのが怖い 
孤立に気づくとき 
練習あるのみ
第3章 リーダーとしてのスキルを伸ばす――二つのプロセスをマスターする
二つのプロセス 
ビジョン、優先事項、方向性の確認 
二番目のプロセス――自分を知ること 
嘘をついてもいいですか? 
二つのプロセスを行う意味 
第4章 真の人間関係を築く――自分をさらけ出し、グループの力を活用する
孤立のリスク 
人間関係で重要な三つのこと 
頼れる人がいない 
人間関係の築き方 
知っているようで実は知らない 
フィードバックを求める 
孤立する起業家 
昇進のジレンマ 
グループの力 
多様な人材をそろえる 
ブレインストーミングの力 
白紙の状態から構想を練る演習 第二弾 
人と協力して働くことを学ぶ 
第5章 終わりなき旅をする――もう一段階上のリーダーをめざして
自分の人生に責任をもつ 
「正しい行為は報われる」と信じる 
価値創造に目を向ける 
学習意欲を妨げる壁 
窮地を脱するには 
より良いリーダーになるためのツール 
世の中はあなたを必要としている

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○経営思想家トップ50 ランクイン(シドニー・フィンケルシュタイン)

人材を次々と発掘して育てる"スーパーボス"の戦略の秘密を解き明かしている。

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SUPER BOSS (スーパーボス)―突出した人を見つけて育てる最強指導者の戦略』 Sydney Finkelstein
名経営者が、なぜ失敗するのか?』('04年/日経BP社)
名経営者が、なぜ失敗するのか?.jpg リーダーシップ論の大家で、著書『名経営者が、なぜ失敗するのか?』('04年/日経BP社)でも知られる著者によれば、どの業界においても、一流と呼ばれる50人のうち半数近くは、1人かせいぜい2、3人の同じ才能養成者のもとで教えを受けていことが調査によって明らかになったとのことです。本書では、そうした、部下や弟子を次々と育てて、成功させる偉大なコーチ、才能の発掘者をスーパーボスと呼び、オラクルのラリー・エリソン、インテル創業者のロバート・ノイス、デザイナーのラルフローレン、映画監督のジョージ・ルーカスなど、ビジネス、スポーツ、ファッション、料理などの分野における18人のスーパーボスについての調査から、その戦略の秘密を解き明かしています。

 第1章では、スーパーボスは、①因習打派主義者(目的はあくまでも自分の仕事と情熱だが、関わっているうちに情熱が伝わって直感的に教育できるタイプ。芸術家肌のスーパーボスで、創造的天才と見なされやすい)、②栄誉あるろくでなし(勝利こそが至上命題であり、部下をこき使い、失敗も容赦なくとがめるタイプ。ただ、勝利のためには最高のチームが必要であることを理解しているため、人材はきっちりと育てあげる)、③養育者(部下の成功を心の底から気にかけ、自分の育成能力を誇りに思っているタイプ。善意にあふれ、活動家肌のボスである)の3つの種類があるとし、すべてのスーパーボスに共通する要素として、「恐れ知らずなほどの自信」「旺盛な競争力」「たくましい創造力」の3つがあるとしています。そして、以下、第2から8章で、並みのリーダーは使っていないテクニック、マインドセット、哲学、秘訣といったスーパーボスの戦略を示しています。

 第2章では、特別な何かを「持っている人を見つけ出す」のがスーパーボスであるとしています。スーパーボスが求める「特別な何か」とは、ずば抜けた知性、創造力、高い柔軟性を指し、スーパーボスはそうした資質を持っている人を見抜いて雇うとしています。

 第3章では、スーパーボスは「優秀な人材に限界を超えさせる」としています。スーパーボスは部下をオリンピック選手のように扱い、限界のその先を目指すようその背中を押すとしています。

 第4章では、「がんこなのに柔軟」であるのがスーパーボスの特長であるとしています。彼らが部下から新しいアイデアを絶えず引き出すことでビジネスを成功に近づけられるのは、ぶれないビジョンと変化への柔軟性を両立できるからだとしています。組織の目的は守りつつも、手段はあらゆる面で絶えず改良するというのが、彼らの心構えであるとのことです。

 第5章では、スーパーボスは「師匠と弟子のようにそばで教える」としています。スーパーボスは普通のボスよりも部下の成長に対して個人的な責任を大きく取り、部下やチームメンバーとの距離を縮めることに腐心するとしています。

 第6章では、スーパーボスは「細部を見ながら部下に任せる」としています。スーパーボスは口出しせずに監督・統制する巧みなスキルを持っていて、最初に絶対的なビジョンを示してゴールを明確にしたら、あとは一歩下がってなりゆきを見守るとしています。ここでは、部下を信じないせいで権限委譲に及び腰になるマネジャーではなく、かと言って仕事を丸投げするフリーライダーでもない、第三の道としての「関与型権限委譲」という概念が示されています。

 第7章では、「部下同士を競わせる、助け合わせる」といったことも、スーパーボスが取る戦略であるとしています。スーパーボスは、チームに強い競争心を植えつけつつも、部下の間に団結の精神が根づくようなメッセージを発し、その際に率先して成長の手助けをすることで、部下同士が助け合うための「コホート効果」を生み出すとしています。

 第8章では、スーパーボスは「優秀な元部下のネットワークをつくる」としています。スーパーボスの元部下は、スーパーボスから巣立っても完全には離れず、そうしたネットワークは、元部下が数年、数十年たってもスーパーボスに抱く深い感情のつながりの上に成り立っているのだとしています。

 第9章では、これまでの総括としての「スーパーボスになる方法」として、キャリア、監督業務、組織にスーパーボスのアプローチを最大限取り入れるにはどうすればいいか、"スーパーボス指数"の測り方や、"スーパーボスの戦略集"を実践に移すためのアイデアや取り組みを紹介し、さらに、経営者がスーパーボスを見つけるための質問項目や、従業員がスーパーボスのもとで成功するための基本原則を示しています。

 読んでいて、"スーパーボス"ってかなり超人的というかモーレツだなあという印象もありました。ただ、日本の企業はどうしても、組織に害を与えない人を優先して管理職にしがちな面もあると思われ、それでも一方で、本書で言う"スーパーボス"への期待も厳然とあるのではないかと思います。あとは、漫然とそうした期待を抱き続けているだけか、組織戦略として、そうした人材を発掘して育て、リーダーとしてのローモデルを確立し、スーパーボスを起点として人材育成の連鎖を築いていけるかの違いでしょう。その意味で、スーパーボスの戦略集とも言える本書は、突出した人を見つけて育てることができるスーパーボス像というものを把握する上でも、また、そうしたスーパーボスをどうやって見出すかということにおいても参考になるだけでなく、読者自身がスーパーボスの手腕に学び、どのように部下を育てていくかを考えるうえでも示唆に富むように思います。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(リズ・ワイズマン)

リーダーにおける「消耗型」と「増幅型」の2類型を示す。啓発的で、分かり易く説得力がある。

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メンバーの才能を開花させる技法』['15年]/"Multipliers, Revised and Updated: How the Best Leaders Make Everyone Smart"/リズ・ワイズマン(Liz Wiseman)
Liz Wiseman Recognized By Thinkers50 As Top Leadership Thinker
リズ・ワイズマン 2.jpgオラクル.png 本書(原題:Multipliers, Revised and Updated: How the Best Leaders Make Everyone Smart)の著者リズ・ワイズマン(Liz Wiseman)は、元オラクル社の重役であり、17年に渡ってオラクル・ユニバーシティのバイス・プレジデントとして、グローバル・リーダーの養成に携わった人で(現在は、シリコン・バレーに本社を置くワイズマン・グループの社長として、世界各国でエグゼクティブ向けにリーダーシップを教える)、「Thinkers50」(最も影響力のある経営思想家トップ50)にも'13年、'15年、'17年と3期続けて選出されるなど、今、リーダーシップ分野で世界的に注目される女性の1人でもあり(共著者のグレッグ・マキューンはその著書『エッセンシャル思考』('14年/かんき出版)で日本でも知られる)、本書には、『7つの習慣』のスティーブン・R・コヴィー、『本物のリーダーとは何か』のウォレン・ベニスなど、錚々たる顔ぶれが推薦の言葉を寄せています。

 第1章「なぜ、今『増幅型リーダー』なのか」では、リーダーの2つの類型として「消耗型リーダー」「増幅型リーダー」があるとし、消耗型リーダーは自分の知性に溺れ、メンバーを低く見て、組織にとって大切な知性と能力を損ない、一方、増幅型リーダーは天才をつくり、メンバーの知識を引き出すことで、組織の中に伝染力のある集合知を築くとしています。そして、増幅型リーダーの習慣として、①才能のマグネット:人を惹きつけ、その才能を最大限に発揮させる、②解放者:最高のアイデアを求める、③挑戦者:難しい課題に挑戦させる、④議論の推進者:議論を通して決定する、⑤投資家:責任を明確にする、の5つを掲げ、メンバーの能力を最大限に引き出すことで、増幅型リーダーは消耗型リーダーの二倍の能力を手に入れるとしています。

 第2章「『才能のマグネット』としての技法」では、消耗型リーダーは「帝国の構築者」として優秀な人材を獲得しながら、彼らを囲い込んで自分の利益のためにしか使わず、せっかくの才能を浪費するのに対し、増幅型リーダーは「才能のマグネット」として最高の人材を手に入れ、チームメンバーは十二分に活用され、次の舞台に飛躍できるとわかり、多くの人材がここに集ってくるとしています。そして、才能のマグネットとして、①どこにでも人材を探す、②天賦の才を発掘する、③才能を最大限に活用する、④障害を取り除く、の4つの実践を掲げ、才能のマグネットになるためには、①才能の発掘者になるとともに、②"雑草を抜く"ことも必要であるとしています。

 第3章「『解放者』としての技法」では、消耗型リーダーは「独裁者」として人々のアイデアや能力を抑え込むような、威圧的な環境を作りだし、その結果メンバーは自分を抑え、リーダーが賛成するような安全なアイデアばかり出し、委縮しながら働くようになるのに対し、増幅型リーダーは「解放者」として人々のアイデアと仕事を引き出すような、緊張感のある環境を作り出し、その結果、メンバーは最も大胆で素晴らしいアイデアを提案し、最善の努力を注ぐようになるとしています。そして、解放者として、①居場所を作る、②最高の仕事を求める、③素早い学びのサイクルを生み出す、の3つの実践を掲げ、解放者になるためには、①チップを上手に使う、②意見を区別して伝える、③自分の失敗を語る、の3つを挙げています。

 第4章「『挑戦者』としての技法」では、消耗型リーダーは「全能の神」として自分の知識の豊富さをひけらかすような指示を与え、その結果、組織はリーダーがやり方をわかっていることしか成し遂げられなくなり、上司の考えを憶測することに組織のエネルギーが消耗されるのに対し、増幅型リーダーは「挑戦者」として自分の知識を超えて行動できるチャンスを人々に提示し、その結果、組織全体が挑戦を理解し、それを受け入れる集中力とエネルギーを持つようになるとしています。そして、挑戦者として、①チャンスの種を撒く、②挑戦を掲げる、③自身を植えつける、の3つの実践を挙げています。

 第5章「『議論の推進者』としての技法」では、消耗型リーダーは「意思決定者」として少人数の内輪の人間で効率よく結論を出すが、組織の大部分を置き去りにするため、決定の健全性が疑われ、実行にいたらないのに対し、増幅型リーダーは「議論の推進者」として人々を議論に引き入れ、それがよりよい決定につながり、理解と実行が進むとしています。そして、議論の推進者として、①問題の枠組みを示す、②議論を盛り上げる、③「開かれた決定」を徹底する、の3つの実践を掲げ、議論の推進者になるためには、①厳しい問いを投げかける、②根拠を示させる、③全員を参加させる、の3つを挙げています。

 第6章「『投資家』としての技法」では、消耗型リーダーは「マイクロマネジャー」として重箱の隅をつつくようにメンバーを管理し、リーダーへの依存を生み出し、リーダーなしでは成果の出ない組織を作るのに対し、増幅型リーダーは「投資家」として人に投資して責任を与え、リーダーがいなくても自分自身の力で結果が出せるようにするとしています。そして、投資家として、①責任の所在を明らかにする、②人的資源に投資する、③最後まで責任を預ける、の3つの実践を掲げ、投資家になるためには、①誰がボスかをはっきり知らせる、②流れを見守る、③解決はメンバーの力で、④ペンを返す、の4つを挙げています。

 第7章「『増幅型リーダー』を目指すあなたに」では、正しい原則とツールを使って、適度な努力で最大の結果を得るにはどうすればよいかを説いており、「加速ツール」として、①両極を改善する:リーダーとしての自分の習慣を振り返り、両極を改善することに力を注ぐ、②あえて思い込みから始める:増幅型リーダーの思い込みを取り入れ、それに従って行動する、③ひとつの課題を30日間続けてみる:5つの習慣から1つを選び、更にその中から1つの実践項目を選択し、それを30日間続ける、の3つを掲げ、また、勢いを持続するため、①1つ1つ層を重ねる、②1年間問い続ける、③コミュニティを作る、の3つを挙げています。

 消耗型リーダーの性質を持つ人物が、増幅型リーダーに変身できるものなのか。これについて著者は、変身するには、次の段階を経なければならないとし、①増幅型リーダーに共感する、②自分の中の消耗型リーダーに気づく、③増幅型リーダーになることを決意する―の3段階を挙げています。また、増幅型リーダーになるために1つだけ何かするとしたらそれは何かという質問に対し、1つだけ挙げるとすれば「質問」であり、メンバーに考えを促すような、洞察に満ちた教務深い質問を心掛けることから始めることを促しています。

 消耗型リーダーvs.増幅型リーダーという対比を、帝国の構築者vs. 才能のマグネット、独裁者vs. 解放者、全能の神vs. 挑戦者、意思決定者vs. 議論の推進者、マイクロマネジャーvs. 投資家という対比に落とし込んでいるのが分かり易く、非常に啓発的な内容で、かつ、実在するリーダーを調査して書かれているため説得力があり、また、実例が多く記載されているため理解し易く、更には、増幅型リーダーと消耗型リーダーの考え方や行動が具体的に纏められている点で実践し易いという、なかなかスグレモノの1冊です(リズ・ワイズマンの近著『ルーキー・スマート』('17年/海と月社)も、ルーキー"というものを従来とは異なる視点で捉えており、お薦め)。

《読書MEMO》
序文──スティーブン・R・コヴィー
第1章 なぜ、今「増幅型リーダー」なのか
 メンバーを活かすリーダーは、たしかにいる
 ふたりのリーダーの物語
 「増幅型リーダー効果」とはなにか?
 増幅型リーダーの考え方
 増幅型リーダーの五つの習慣
 三つの発見
 実践法に入る前に
 より効果を上げる読み方
 *増幅型リーダーの方程式
第2章 「才能のマグネット」としての技法
 あなたは「帝国の構築者」か「才能のマグネット」か
 「才能のマグネット」とは?
 才能のマグネットの四つの実践
 消耗型リーダーはメンバーをどう扱っているか
 メンバーはやりがいを求めている
 才能のマグネットになるために
 *増幅型リーダーの方程式
第3章 「解放者」としての技法
 あなたは「独裁者」か「解放者」か
 「解放者」とは?
 解放者の三つの実践
 消耗型リーダーは環境作りができない
 「自発性」がカギになる
 解放者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第4章 「挑戦者」としての技法
 あなたは「全能の神」か「挑戦者」か
 ある挑戦者の失敗と喜び
 挑戦者の三つの実践
 消耗型リーダーはチャンスをつぶす
 「全能の神」と「挑戦者」を比較すると──
 挑戦者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第5章 「議論の推進者」としての技法
 あなたは「意思決定者」か「議論の推進者」か
 「議論の推進者」とは?
 議論の推進者の三つの実践
 消耗型リーダーは議論を避ける
 議論を盛り上げることの真意
 議論の推進者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第6章 「投資家」としての技法
 あなたは「マイクロマネジャー」か「投資家」か
 「投資家」とは?
 投資家の三つの実践
 消耗型リーダーは依存体質を好む
 投資家には多くのリターンが待っている
 投資家になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第7章 「増幅型リーダー」を目指すあなた
 「共感」で終わらず、「決意」しよう
 「手抜き」を成功させる三つのポイント
 勢いを維持するには?
 もう一度、効果を確認する
 かならず、変われる
 *増幅型リーダーになるために
資料──頭を整理し、実践に勢いをつけるために
資料A:調査プロセスについて
資料B:よくある質問
資料C:増幅型リーダーの顔ぶれ
資料D:議論の手引き
*自己評価したいなら......

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「模範的リーダーシップの5つの実践」を示す。豊富なケーススタディにより啓発される。

リーダーシップ・チャレンジ[原書第五版] .jpgリーダーシップ・チャレンジ[原書第五版]2.jpg  The Leadership Challenge.jpg  リーダーシップ・チャレンジ0_.jpg
リーダーシップ・チャレンジ[原書第五版]』['14年]/The Leadership Challenge: How to Make Extraordinary Things Happen in Organizations (J-B Leadership Challenge: Kouzes/Posner)(第6版,2017)/『リーダーシップ・チャレンジ』['10年]
James M. Kouzes, Barry Z. Posner
James M. Kouzes,  Barry Z. Posner.jpg 本書は、1987年に初版が刊行され全世界で200万部を超えて読み継がれている本であり、著者らは1980年代のはじめから、数千もの「自己最高のリーダーシップ体験」を聞き集め分析したといいます。今回の第5版も100を超すケーススタディを盛り込み、今日のリーダーが直面する課題にも応えるものになっているとのことです(原著は何年かごとに改版されていて既に2017年に第6版が出されている)。

 1章では、リーダーシップの基本原則を示しています。非凡なことを成し遂げるリーダーは例外なく「模範的リーダーシップの5つの実践」を行っており、それは、●模範となる、●共通のビジョンを呼び起こす、●プロセスに挑戦する、●人々を行動にかりたてる、●心から励ます、の5つであるとしています。また、一握りの偉大なリーダーが人々を高みに導くという考えは、明らかに間違っているし、リーダーが組織の規模や種類や経済環境によって生まれると考えるのも間違いであって、実のところ、リーダーシップとは誰にでも実践できるスキルと能力の組み合わせであるとしています。そして、ついていきたいリーダーに共通する4つの特質として、●正直である、●先見の明がある、●仕事ができる、●やる気にさせる、が挙げられるが、これらは、先に挙げた「模範的リーダーシップの5つの実践」と表裏一体であるとしています。そのうえで、以下の章で「リーダーシップの5つの実践と10の原則」をそれぞれ解説しています。

 2章と3章では、「模範となる」ための原則と行動を示しており、それは「価値観を明らかにする」ことと「手本を示す」こと、つまり「①自分の言葉で語り、共通の理想を確認することで、価値観を明らかにする」ことと、「②共通の価値観に従って行動することで、手本を示す」ことであるとしています。

 4章と5章では、「共通のビジョンを呼び起こす」ための原則と行動を示しており、それは「未来を描く」ことと「人々を引き入れる」こと、つまり「③心踊るような崇高な可能性を想像し、未来を描く」ことと、「④共通の夢に訴えて、人々を引き入れる」ことであるとしています。

 6章と7章では、「プロセスに挑戦する」ための原則と行動を示しており、それは「チャンスを模索する」ことと「実験しながらリスクをとる」こと、つまり「⑤自発的に行動し、革新的な改善策を外部に求めることで、チャンスを模索する」ことと、「⑥小さな勝利を積み重ね、経験から学ぶことで、実験しながらリスクをとる」ことであるとしています。

 8章と9章では、「人々を行動にかりたてる」ための原則と行動を示しており、それは「協働を育む」ことと「力を与える」こと、つまり「⑦信頼を築き、絆を強めることで協働を育む」ことと、「⑧意思決定の権限を与えることで、人々の能力を高める」ことであるとしています。

 10章と11章では、「心から励ます」ための原則と行動を示しており、それは「貢献を認める」ことと「価値と勝利を讃える」こと、つまり「⑨卓越した成果を褒め、貢献を認める」ことと、「⑩共同体精神をつくりだし、その価値と勝利を讃える」ことであるとしています。

 終章の12章では、誰もがすばらしいリーダーになれるとし、そのためには自分の重要性を知ること、そして何よりもリーダーシップを実践することが大切であるとしています。また、リーダーは常に謙虚で人間らしくあるべきであり、リーダーシップとは頭で考えるものではなく、心で感じるものであるとしています。

 「世界で最も読まれているリーダーシップのテキスト」とも言われ、構成上非常にかっちり纏まっているようにも見えますが、体系的な理論書と言うよりは、リーダーのための啓発書であるとともに、実践的ガイドブックであると言ってよいかと思います。そのことは、著者ら自身がイントロで、まず1章を読んだならば、その先はどの順番で読んでも構わないと述べていることにも表れているかと思います。但し、調査研究から生まれた本であると著者らが自負する通り、豊富なケーススタディはいずれもシズル感に溢れ、啓発度が高いものであり、「模範的リーダーシップの5つの実践」を説得力のあるものとしているように思いました。前向きのリーダーにお薦めしたい本です。

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)


《読書MEMO》
◇模範的リーダーシップの5つの実践と10の実践
●模範となる
 ①自分の言葉で語り、共通の理想を確認することで、価値観を明らかにする
 ②共通の価値観に従って行動することで、手本を示す
●共通のビジョンを呼び起こす
 ③心踊るような崇高な可能性を想像し、未来を描く
 ④共通の夢に訴えて、人々を引き入れる
●プロセスに挑戦する
 ⑤自発的に行動し、革新的な改善策を外部に求めることで、チャンスを模索する
 ⑥小さな勝利を積み重ね、経験から学ぶことで、実験しながらリスクをとる
●人々を行動にかりたてる
 ⑦信頼を築き、絆を強めることで協働を育む
 ⑧意思決定の権限を与えることで、人々の能力を高める
●心から励ます
 ⑨卓越した成果を褒め、貢献を認める
 ⑩共同体精神をつくりだし、その価値と勝利を讃える

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チームを機能させるためには何が必要なのか、学習力・実行力を高める実践アプローチを説く。

チームが機能するとはどういうことか2.jpg チームが機能するとはどういうことか.jpg Teaming.jpg エイミー・C・エドモンドソン2.jpg Amy C. Edmondson
チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』(2014/05 英治出版)/"Teaming: How Organizations Learn, Innovate, And Compete In The Knowledge Economy"(2012)

 病院、工場、役員室、災害現場など20年以上にわたって多様な人と組織を見つめてきた著者が、「チーミング」という概念をもとに、学習する力と実行する力を兼ね備えた新時代のチームづくりを描いた本です(Amy C. Edmondson,Teaming: How Organizations Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economy,2012)。

 本書の原題は「チーミング」ですが、チーミングとは、組織が相互に絡み合った仕事をするために協働する「活動」を表す造語であり、それはチームといった静的なものとは異なり、動的な活動プロセスをさすものであるとのことです。本書では、組織がチーミングを通して成功するのに役立つ基本的な活動と条件について述べていて、以下のように全3部8章構成になっています。
(第1部)チーミング
  第1章 新しい働き方
  第2章 学習とイノベーションと競争のためのチーミング
(第2部)学習するための組織づくり
  第3章 フレーミングの力
  第4章 心理的に安全な場をつくる
  第5章 上手に失敗して、早く成功する
  第6章 境界を超えたチーミング
(第3部)学習しながら実行する
  第7章 チーミングと学習を仕事に活かす
  第8章 成功をもたらすリーダーシップ

 第1部ではチーミングに焦点を当て、チーミングをしっかり行うための中心的活動について述べるとともに、チーミングとはどのように機能するものなのか、チーミングの仕方を学ぶにはどれくらい時間がかかるのか、チーミングをしているとき人々はどのような行動をとるのか、チーミングは一体どのようにして組織学習を生み出すのかといった疑問に答えています。第1章ではまずチーミングとは何かを明らかにし、今日の複雑な組織においてなぜそれが不可欠なのかを探り、次いで学習と知識を理解するための新たな枠組みを示しています。第2章では、チーミングの段階的プロセスをさらに詳しく述べ、成功しているチーミングは、次の4つの特別な行動を伴っているとし、さらに、チーミングと学習を可能にする、以下の4つのリーダーシップ行動を明らかにしています。
(成功しているチーミングにおける4つの特別な行動)
 ・率直に意見を言う
 ・協働する
 ・試みる
 ・省察する
 (チーミングと学習を可能にする4つのリーダーシップ行動)
 ・行動1 学習するための骨組みをつくる
 ・行動2 心理的に安全な場をつくる
 ・行動3 失敗から学ぶ
 ・行動4 職業的、文化的な境界をつなぐ

 第2部では、その4つのリーダーシップ行動について、さらに詳しく述べています。ここではチーミングの人間的な側面に焦点を当て、様々な組織的背景の中で人々がどのように協力するのかを詳細に見ています。具体的には、第3章でフレーミングの力を探り、効果的な協働と学習を促すためにリーダーはフレーミングによってどのようなことが出来るのかを説き、第4章では、心理的安全によって、チーミングの成功に必要な考え方やスキルや行動がどのように促進されるのかを見ています。第5章では、なぜ失敗が組織学習の根幹であるかを示し、失敗によって生まれるチャレンジを乗り越えるための具体的な行動を紹介しています。第6章では、様々な分野や部署、企業、さらには国の間にある境界をつなぐ重要性と課題を検証しています。そして、実際につなぐとどんなことが可能になるかを、2010年にチリのサン・ホセ鉱山で起きた、地下600メートルの岩の中に閉じ込められた33人の作業員の「不可能な」救出劇を糸口に検証しています。

 第3部では、個人や個人間の行動から組織としての実践に焦点を移しています。第7章では、それまでの章で述べた「実行」の新たなモデルとなる教訓や戦略をまとめ、たゆまぬ学習と改善を確実にする反復プロセスを診断、デザイン、実践するための具体的な手順を紹介し、第8章では、3つのケーススタディを通して、プロセス改善、問題解決、イノベーションなど得られるだろう様々な学習の結果を考察しています。1つ目のケースでは、他社にリードを許してしまった企業において業績を改善させるリーダーシップに注目し、2つ目のケースでは、組織中の人を協働させ、複雑な業務における難しい問題を解決するリーダーシップについて述べ、3つ目のケースでは、イノベーションを支援して、先駆的な製品やプロセスを生み出すようなチーミングを成功させるリーダーシップに焦点を当てています。

 以上が本書の"あらすじ"ですが、要するに、チーミングとは、新たなアイデアを生み、答えを探し、問題を解決するために人々を団結させる働き方のことであり、また、組織間の境界を超えてつながり合うこと、つまり境界をつなぐことでもあるということになります。

 成功しているチーミングの特別行動を、「率直に意見を言う、協働する、試みる、省察する」の4つに定義し、学習するための組織づくりには「学習するための骨組みをつくる、心理的に安全な場をつくる、失敗から学ぶ、職業的、文化的な境界をつなぐ」という4つの行動が不可欠であるというのが著者の主張であり、また、そうした主張が、以下に展開される様々なケーススタディを通して説得力を持つものとなっており、また、各章の章末に「リーダーシップのまとめ」と「Lessons & Actions」というコーナーが設けられているという点でも分かり良いものとなっています。協働を推し進め、パフォーマンスを向上させたいと考えるリーダー、協働を後押ししたり、チームづくりの訓練をしたり、組織学習を実践したりする人事パーソンに是非お薦めしたい本です。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(マイケル・ワトキンス)

新任管理職が最初の90日を乗り切るためのロードマップ。管理章にとって多くの示唆を含む本。

90日で成果を出すリーダー2.jpg90日で成果を出すリーダー.jpg   The First 90 Days.jpg   ハーバード・ビジネス式 マネジメント.jpg
ハーバード流マネジメント講座 90日で成果を出すリーダー (Harvard Business School Press)』['14年/翔泳社(伊豆原 弓:訳)]/"The First 90 Days, Updated and Expanded: Proven Strategies for Getting Up to Speed Faster and Smarter"(2013)/『ハーバード・ビジネス式 マネジメント - 最初の90日で成果を出す技術』['05年/アスペクト(村井 章子:訳)]
Michael D. Watkins
マイケル・D・ワトキンス.jpg リーダーシップ教育で知られるIMDビジネススクールの教授である著者による本書は、昇進した新任管理職が最初の90日を乗り切るためのロードマップであり、90日という期間でリーダーが何をすべきか、そのことを実践的かつ体系的に学べる本として以前ベストセラーとなった原書('The First 90 Days: Critical Success Strategies for New Leaders at All Levels'(2003)/『ハーバード・ビジネス式 マネジメント―最初の90日で成果を出す技術』('05年/アスペクト))の、刊行10周年記念増補改訂版('The First 90 Days: Proven Strategies For Getting Up to Speed Faster and Smarter'(2013))の邦訳です。

 はじめに、職務移行に成功するための重要な作業として、①「準備をととのえる」(新しい任務に合わせて思考回路を切り替える)、②「効率よく学ぶ」(必要な知識や情報を効率よく学ぶ)、③「状況に合った戦略を立てる」(正しくリーダーシップをとるために状況に合った戦略を立てる)、④「上司と成功条件を交渉する」(上司と関係を築いて下地づくりをする)、⑤「初期の成果をあげる」(まず小さな成果をあげて流れをつくる)、⑥「組織のバランスをととのえる」(組織のバランスに歪みがないか見きわめて調整する)、⑦「理想のチームをつくる」(部下を評価してチームづくりをする)、⑧「味方の輪をつくる」(内外の支持基盤を確立する)、⑨「自己管理の意味を考える」(私生活を管理する)、⑩「組織全体の移行を速める」(組織に対する移行支援)を挙げ、以下、各章で、実践的なガイドラインやツールを紹介していきます。

 第1章「準備をととのえる」では、「昇進」と「新しい会社への転職」の2種類の移行について、どのような課題に直面しそれをどう乗り越えるか、その準備をととのえる際の基本原則をまとめています。

 第2章「効率よく学ぶには」では、新任リーダーが失敗するのは、たいていは効果的に学習ができなかったことに要因があるとし、学習の障害を克服し、効率よく学ぶにはどうすればよいかを説いています。

 第3章「状況に合った戦略を立てる」では、正しくリーダーシップをとるには、状況に合った戦略を立てる必要があるとし、そのためのSTARSモデルというものを紹介しています。
  S (Start-up)     立ち上げ
  T (Turnaround)    立て直し
  A (Accelerated)   急成長
  R (Realigment)    軌道修正
  S (Sustaining success) 好業績をあげて次の段階進もうとする組織の継承

 第4章「上司と成功条件を交渉する」では、新しい上司と生産的な関係を築くためにしてはならないことと、基本的にやるべきことを列挙し、その中で、自分に対する期待を繰り返し確認せよと言っています。また、上司との会話の中心となる基本的話題として、移行に関して計画的に織り込むべき5つの会話を掲げています。

 第5章「初期の成果をあげる」では、移行期の計画を立てるにあたっては、連続的に変革の波を起こすことに重点を置くべきであり、最初の変革の波は、初期の成果をあげることが目標であるとしています。ただし、手近な成果の罠にはまらないようビジネスの優先課題に注目すべきであるとし、正しいやり方で成果をあげるための基本原則を示しています。

 第6章「組織のバランスをととのえる」では、組織がアンバランスになる過程はさまざまであり、最初の90日間の目標は、潜在的なアンバランスを突き止め、それらを修正する計画を立てることであるとしています。組織のバランスには論理があり、方向性が正しいかどうかを考えずに構造を変えようとすると問題を引き起こす可能性が高いとし、戦略的方向をどのように定義し、その妥当性や実施面での評価をどのように行うかを説いています。

 第7章「理想のチームをつくる」では、チームをつくる段階でリーダーが失敗する、陥りやすい落とし穴の例を挙げ、落とし穴にはまらないようにするためにはどうすればよいかを説いています。また、部下を評価してチームづくりをし、チームを進化させるにはどうすればよいか、インセンティブのバランスはどのようにとったらよいのかを説いています。

 第8章「味方の輪をつくる」では、具体的に誰を味方につけるべきか見定め、組織に対する影響力の全体を把握すべきであるとし、影響力のネットワークにおける重要人物を理解し、相手を動かす戦略を立てることが重要であるとしています。

 第9章「自己管理の意味を考える」では、自分が置かれている状況を検討するための「構造的内容」のガイドラインを示すとともに、自己管理の3本の柱を掲げています。

 第10章「組織全体の移行を速める」では、組織全体の移行を速めるにはどうすればよいか、そのポイントとして、重要な移行を特定し、また、失敗が決定づけられているケースも特定するとともに、既存の移行支援を診断し、共通の核となるモデルを採用すること、タイムリーに、移行のタイプやリーダーの階層に合わせて支援をすることを挙げています。

 各章の冒頭にケーススタディがあり、読み易く、また、実践的な内容であると思いました。柔軟なフレームワークを示しながら、上司との関係、部下の評価、組織戦略などを掘り下げていて、あらゆるレベルの管理職に役立つ、多くの示唆を含む本であると思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに 最初の90日
 キャリア移行能力を身につける
 ブレイクイーブンポイントに達する
 移行の落とし穴にはまらない
 流れをつくる
 基本原則を理解する
 移行リスクを評価する
 最初の90日を計画する
 早速はじめよう
第1章 準備をととのえる
 昇進する
 新しい会社に溶け込む
 コラム 文化規範を見きわめる
 準備をととのえる
 まとめ
 チェックリスト
第2章 効率よく学ぶには
 学習の障害を克服する
 学習を投資プロセスと考える
 学習課題を決める
 コラム 過去に関する質問
 コラム 現在に関する質問
 コラム 未来に関する質問
 知識を得るために最高の情報源を見きわめる
 構造化学習法を取り入れる
 コラム 新任リーダーの同化
 学習計画の作成
 コラム 学習計画のテンプレート
 支援を得る
 まとめ
 チェックリスト
第3章 状況に合った戦略を立てる
 STARSモデルを使う
 STARSポートフォリオを診断する
 変革を主導する
 自己管理
 成功に報いる
 まとめ
 チェックリスト
第4章 上司を成功条件を交渉する
 基本的なことに注意する
 5つの会話を計画する
 組織の状況についての会話を計画する
 上司の期待についての会話を計画する
 資源についての会話を計画する
 仕事のスタイルについての会話を計画する
 自己啓発についての会話を計画する
 複数の上司と協力する
 離れて働く
 まとめー90日計画を交渉する
 チームと5つの会話を計画する
 コラム 移行の黄金律
 チェックリスト
第5章 初期の成果をあてる
 波をつくる
 目標から始める
 基本原則を使う
 初期の成果を見きわめる
 コラム かつての同僚の上司になる
 変革を主導する
 予測可能な不意打ちは避ける
 チェックリスト
第6章 組織のバランスをととのえる
 落とし穴にはまらない
 組織構造を設計する
 アンバランスを診断する
 さあ、漕ぎだそう
 戦略的方向性を定義する
 コラム SWOTからTOWSへ
 グループの構造を形成する
 コアプロセスのバランスをとる
 グループのスキルベースを開発する
 文化を変えるために構造を変える
 バランスをとってみよう
 チェックリスト
第7章 理想のチームをつくる
 落とし穴にはまらない
 チームを評価する
 チームを進化させる
 チームのバランスをとる
 コラム インセンティブの方程式
 コラム オフサイト・ミーティグ計画のチェックリスト
 チーム主導する
 チームを始動させる
 チェックリスト
第8章 味方の輪をつくる
 影響力の目標を定める
 影響力の全体を把握する
 重要人物を理解する
 相手を動かす戦略を立てる
 まとめ
 チェックリスト
第9章 自己管理の意味を考える
 現状を検討する
 コラム 構造的内省のガイドライン
 自己管理の3本の柱を理解する
 軌道を外れないために
 チェックリスト
第10章 組織全体の移行を速める
 重要な移行を特定する
 失敗が決定づけられているケースを特定する
 既存の移行支援を診断する
 共通の核となるモデルを採用する
 タイムリーに支援する
 構造化プロセスを使う
 移行のタイプに合わせて支援する
 リーダーの階層に合わせて支援する
 コラム 移行コーチングと開発コーチング
 役割をはっきりさせインセンティブのバランスをとる
 ほかの人材管理システムと統合する
 まとめ
 チェックリスト

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○経営思想家トップ50 ランクイン(バーバラ・ケラーマン)

リーダーからフォロワーに力と影響力が移動し、リーダーシップ教育の見直しが求められていることを指摘。

Iハーバード大学特別講義 リーダーシップが滅ぶ時代8.JPGハーバード大学特別講義 リーダーシップが滅ぶ時代.jpg バーバラ・ケラーマン.jpg Barbara Kellerman
ハーバード大学特別講義 リーダーシップが滅ぶ時代
"The End of Leadership"[Kindle版]
the end of leadership.jpg 著者はハーバード大学ケネディスクールの社会リーダーシップの授業で、ジェームズ・マグレガー・バーンズ論を担当する講師であり、本書(The End of Leadership HarperBusiness 2012)は「リーダーシップ」が一大産業になるまでの変化の歴史と、変化によって起きた現代社会の問題点について触れた本です。本書では、リーダーシップ教育は過去に例を見ないほど盛んに行われているのに、なぜリーダーの影響力は低下したのだろうかという疑問を呈し、リーダーシップの歴史と社会情勢の変化を分析したうえで、一大産業と化したリーダーシップ教育の問題点を洗い出し、未来のリーダーシップについて警鐘を鳴らしています(全三部構成で、第一部、第二部でリーダーからフォロワーに力と影響力が移動しその関係が変化していることを説き、第三部で、そうした時代の状況を鑑みた場合の、現在のリーダーシップビジネスにおける問題点を指摘している)。

 第一部「パワーシフト」第一章「歴史的軌跡―衰えゆくリーダーの力」では、リーダーシップには長い歴史があり、たどってきた軌跡にははっきりした流れがあるとして、紀元前から現在までのリーダーシップの歴史を振り返るとともに、近年の傾向として、フォロワーが力をつけ、リーダーは弱体化しつつあるとしています。

 第二章「文化的制約―対等な立場で勝負する」では、フォロワーの力の増大の裏側には、リーダーのさまざまな限界があり、リーダーは、どんなときでも誰もが振り返って指示を仰ぐような道しるべ的な役割から、その力と影響力をフォロワーに委譲しつつあり、リーダーとフォロワーの形が変わってきているとうのが現代の歴史であり、時代(文化)の状況であるとしています。

 第三章「避けられない技術革命―テクノロジーに振り回される」では、そうした過去30年間から40年間のリーダーシップとフォロワーシップの変化は、文化的変化と併せて、通信技術の進歩などの技術的変化によって進行したことを、多くの事例によって説明しています。

 第二部「時代の変遷」第四章「社会契約―むしばまれる信頼関係」では、リーダーとフォロワーの関係の基礎となるのは、リーダーの資質に対するフォロワーの信頼であるが、今その信頼が宗教界、政界、経済界の各方面において損なわれつつあることを例証しています。

 第五章「今アメリカで―弱体化するリーダー」では、とりわけ今アメリカで起きているリーダーの弱体化現象について述べています(この部分は、ドナルド・トランプのような人物が大統領となることを"予言"しているとまでは言えないが、ある意味"予感"させるものであてって興味深い)。

 第六章「世界的な動き―勢いづくフォロワー」では、多くのヨーロッパ、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々で、30年から40年前に比べて、アメリカ以上に、リーダーが弱くなりフォロワーが強くなっていることを検証していて、アメリカはリーダーが弱体化したためにリーダーとフォロワーのバランスが変化したが、これらの国々は、フォロワーが強くなることで、力の均衡に変化が起きたとしています。

 第三部「パラダイムシフト」第七章「リーダーシップビジネス―リーダーシップ大流行の中で」では、リーダーシップビジネスはこの30年から40年の間に爆発的に成長しているが、莫大な資金がリーダーシップビジネスに流れこみ、莫大な時間がリーダーシップ教育、研究に費やされているにも関わらず、リーダーシップの成功例は少なく、失敗例には事欠かないとし、その問題の一つは、有能なリーダーを育成することに固執していることにあるとしています。

 第八章「特別講義完了―現代に求められるリーダーとは」では、これまでの「救世主探し」のようなリーダー中心のリーダーシップ教育ではフォロワーの重要性が忘れられており、今リーダーシップ育成事業そのものを全体的に考え直す必要があるとして、今のリーダーシップ産業を支えている「前提」の数々について、著者が疑問を抱いているものをリストアップし、それらはリーダーシップの危機を促進こそすれ、緩和はしないとしています。

 本書は、リーダーとフォロワーの関係の変化、そして、リーダーシップビジネスがなぜ意図した結果を生んでいないのかについて述べる一方で、これは簡単に解決できる問題ではないとして、「お定まりの処方箋」を描くことはしていません。リーダーシップを否定しているわけではなく、これまでのリーダーシップは時代遅れになる危険があるとしているわけです。リーダーの存在を否定するのではなく、、リーダーはいつの時代にも存在するが、フォロワーシップより重要な存在としてのリーダーシップ、授業料を払って習得するようなリーダーシップ、普通の仕事より優れたものとしてのリーダーシップ、どんな問題でも解決するリーダーシップ、業績を出すのが当たり前だと皆が思っているリーダーシップ―そのようなリーダーシップはもう古いとしていて、相当に示唆的な内容であると言えます。

 リーダーシップビジネス(教育)について詳細に(批判的に)語っていることも本書の特徴であり、それらはアメリカ社会を中心に書かれていますが、次世代リーダーの育成が急務の日本の企業にとっても参考になるように思われます。著者はリーダーシップビジネスが衰退しないようにするには、少なくとも次の四つの改革をしなければならないとして本書を結んでいます。

 ・会話を阻害する、リーダー中心主義を終わりにすること。
 ・近視眼的な状況の特定から脱却すること。
 ・リーダー教育自体を厳しい分析の対象とすること。
 ・影響力の対象を反映しなければならない、移りゆく時代とともに変わること。

《読書MEMO》
●目次
プロローグ──二十一世紀のリーダーシップ、そしてフォロワーシップ
第一部 パワーシフト
 第一章 歴史的軌跡―衰えゆくリーダーの力
 第二章 文化的制約―対等な立場で勝負する
 第三章 避けられない技術革命―テクノロジーに振り回される
第二部 時代の変遷
 第四章 社会契約―むしばまれる信頼関係
 第五章 今アメリカで―弱体化するリーダー
 第六章 世界的な動き―勢いづくフォロワー
第三部 パラダイムシフト
 第七章 リーダーシップビジネス―リーダーシップ大流行の中で
 第八章 特別講義完了―現代に求められるリーダーとは

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リーダーは生まれながらリーダーなのではなく、育てられるもの。

リーダーの使命とは何か.jpgHesselbein.jpg あなたらしく導きなさい.jpg
リーダーの使命とは何か』['12年]Frances Hesselbein at TEDあなたらしく導きなさい 愛されるリーダーの生き方、愉しみ方』['13年]

Hesselbein2.jpg 本書(原題:Hesselbein on Leadership)は、17歳で父が他界、大学進学を断念して就職、22歳で結婚、出産後にガールスカウトのボランティアを始めて頭角を現し、ついには全米ガールスカウト連盟初の現場出身CEOとなり、さらにドラッカー財団の初代プレジデント兼CEOとなり、大統領自由勲章を受勲し、『アメリカ陸軍リーダーシップ』('10年/生産性出版)の共著者でもあるというフランシス・ヘッセルバイン(1915年生まれ、2018年12月現在満103歳)が、リーダーシップについて述べたエッセイをまとめたものです。

 Ⅰ「『どうやるべきか』から『どうあるべきか』」では、リーダーシップとは「どうやるべきか」ではなく「どうあるべきか」の問題であるとしています。1章では、これからのリーダーは、「どうあるべきか」に専心する人であるとして、その行動特性を列挙し、2章では、今の若者はシニカルになりがちだが、実はこうしたリーダーは身近にいるものだとしています。3章では、自らはリーダーとして「イノベーション」「融合」「機会」「価値観」という四つのカゴを持つようにしてきたとし、4章では、リーダーには女性も男性もなく、もし仮に女性的と形容されるマネジメントの特長があるとすれば、それは男女関係なく、有能なリーダーの共通の資質であるとしています。5章では、よいマナーや礼儀正しさは、組織全体によい人間関係を確立するために不可欠であるとし、真摯に人と向き合い、尊敬の念を表すことのできるリーダーが求められるとしています。6章では、リーダーには自分でつくりだす壁と組織がつくりだす壁の2つの壁があるとして、それぞれの壁について解説し、壁を見極め、乗り越えなければならないとしています。7章では、リーダーが交代する際に、称賛される交代となるために必要な四つのステップを挙げています。

 Ⅱ「新時代のリーダーは、こうなる」では、これからのリーダーはどのようになっていくかを述べています。8章では、リーダーがピラミッドの上に立つ時代は終わり、リーダーは円の中心的存在として、ミッションの達成やイノベーション、ダイバーシティを目指すマネジメントを行うことになるとしています。9章では、これからのリーダーはミッションを常に意識し、絶えず学び、絶えず教え、才能よりも勤勉さを尊ぶとしています。10章では、ひとつの組織が理想の組織に変わるための八つのポイントを示しています。11章では、組織には「家をきれいに保っておく」ことが求められるとし、それはどういうことか、そのための三つの要件を挙げています。12章では、今日の組織は本気でリーダーを育成することが求められており、すぐれた組織の共通点として、リーダーシップ養成に力を入れていることが挙げられるとしています。13章では、組織が10年後も成長しているためのチェックリストを示しています。

 Ⅲ「外に飛び出し、社会を変えよう」では、あらゆる組織のリーダーたちは、自分の組織の壁を越えたリーダーシップも発揮しなければならないとしています。14章では、官・民・NPOのトライアングルの構築の実例を挙げています。15章では、組織を超えて「共通の言葉」で話し、協力し合う必要があるとしています。16章では、これからの企業人は非営利組織に注目すべきであるとしています。17章では、多様性の時代の組織づくりはどうあるべきかを考察し、生産性のある組織を実現する五つの条件を挙げています。18章では、リーダーとは、献身的なリーダーシップを発揮して初めて真のリーダーになるとし、とりわけ、こどもたちを救うということをリーダーの使命として挙げています。19章では、ドラッカーが『未来社会の変革』の冒頭で書いた「都市を文明化する」という仕事に関して、現実にどこから手をつければよいか、コミュニティとのパートナーシップの規範となる事例を紹介しています。

 200ページ足らずのソフトカバー本ですが、密度は濃いです。リーダーは生まれながらリーダーなのではなく、育てられるものであり、ただし、リーダーを育てるには相当の時間を投入する必要があり、それによって、リーダーが育成される―ということを改めて思い知らされる、啓発度の高い本です。また、同著者の『あなたらしく導きなさい 愛されるリーダーの生き方、愉しみ方』('13年/海と月社)も280ページ程度と本書よりはやや厚いですが、本書同様に読みやすく説得力のある本です。

《読書MEMO》
目次
世界の重鎮たちはなぜ、ヘッセルバインに一目置くのか。―ジム・コリンズ
困難から逃げないあなたへ
Ⅰ「どうやるべきか」から「どうあるべきか」へ
  1章 「どうあるべきか」のリーダーとは?
  2章 ヒーローは身近にいる
  3章 四つのカゴを持ち歩く
  4章 リーダーに、女性も男性もない
  5章 礼儀正しさの効用
       よいマナーはリーダーの味方
       メンバーへの敬意の示し方
  6章 リーダーに立ちはだかる二つの壁
  7章 称賛されるリーダー交代の方法
       理事会とのやり取り
       交代までの四つのステップ
Ⅱ 新時代のリーダーは、こうなる
  8章 ピラミッドを円に変える
  9章 あなたは「善きサマリア人」か?
       お題目だけのミッションならいらない
       絶えず学び、絶えず教える
       才能より勤勉さを尊ぶ
  10章 理想の組織に変わるための八つのポイント
  11章 「家」をきれいに保つ
       三つの要件を満たす
       自分の「家」をじっくり見つめる
  12章 本気でリーダーを育成する
       すぐれた組織の共通点
       五つの質問に答える
  13章 一〇年後も成長しているためのチェックリスト
Ⅲ 外に飛び出し、社会を変えよう
  14章 官・民・NPOのトライアングル
  15章 「共通の言葉」で話せる人に
  16章 企業人は非営利組織に注目せよ
       NPOを評価すべき理由
       メンバーのやる気をかきたてる態度
  17章 多様性の時代の組織づくり
       口先だけでは通用しない
       生産性のある組織を実現する五つの条件
       新たな現実をチャンスに変える
  18章 子どもたちを救う、という使命
       企業も無縁ではない
       なぜ、献身が必要なのか
       子どもを気にかけない社会の不幸
  19章 実例なら、ここにある
理想の組織に変わるための八つのポイント(10章)
①周囲に目を配る
いろいろな本や記事、調査結果などから、自分達の組織に影響を及ぼしそうなトレンドを見極める。常にこうした姿勢でいれば、転換プランに欠くことのできない情報も得られるようになる。
②ミッションを再確認する
周囲の環境や顧客のニーズは変化するため、ミッションは見直し、必要に応じて改訂する必要がある。ミッションステートメントとは、自分達の存在意義、目的の説明である。リーダーは、マネジメントとは目的ではなく手段であることを理解し、自分勝手なマネジメントのためのマネジメントではなく、ミッシ ョンのためのマネジメントを行わなければならない。
③階層を禁じる
組織を転換するためには、メンバーを組織の箱から解放し、柔軟で流動的なマネジメント体制をつくりだす必要がある。スタッフの役割や地位を同心円状に、系統的に配置することで、職務をローテーション化することが可能となる。これによってメンバーは円を描くように移動し、新しいスキルを学び、経験の幅を広げていく。
④「天の声」に疑問をもつ
絶対神聖なタブーなどつくってはならない。どんな方針や慣行、前提に対しても、疑問の声をあげていくべきである。本気で組織を変えようとするなら、「計画的廃棄」も実行すること。
⑤言葉の力を駆使する
リーダーは明瞭で首尾一貫したメッセージを何度も送らなくてはならない。メンバーや顧客の心を明るく照らし出すような強力なメッセージを発しながら、自分の声で組織を導き、よりよいコミュニケーションをとっていくこと。
⑥リーダーシップを分散させる
いかなる組織も、一人のリーダーではなく、多くのリーダーを持たなくてはならない。リーダーを育成し、組織のあらゆるレベルで力を発揮してもらうこと。
⑦「後ろから押す」ではなく、「真正面から導く」
リーダーは何もせず、風見鶏のようにただ待っていたりはしない。組織に影響を及ぼしそうな問題に立場を明言し、企業やその価値観、原則を具現化した存在としてふるまう。
⑧業績を評価する
進歩のためには、自分自身を評価することが不可欠である。転換のプロセスにおける、ミッション、目標、目的は最初に明確にしておく。目標と評価の尺度を設定して初めて、転換への道のりを歩み出すことができる。

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奉仕型のリーダーシップとは、自らを人間的に成長させる素晴らしい"スキル"であると。

サーバント・リーダー  ハンター.jpgサーバント・リーダー  ハンター7.JPG サーバント・リーダー  ハンターl2.jpg James Hunter.jpgサーバント・リーダー 「権力」ではない。「権威」を求めよ』['12年] "The Servant: A Simple Story About the True Essence of Leadership"(1998) James Hunter

サーバント・リーダーシップ ハンター.jpg 本書(原題:The Servant: A Simple Story About the True Essence of Leadership,1998)は、『サーバント・リーダーシップ』('04年/PHP研究所、石田量訳)の新訳です。物語仕立てになっていて、世界的なガラスメーカで異例の若さで工場を任され、順調なキャリアを歩むゼネラル・マネジャーが、ビジネスとプライベートの両面で危機を迎え、妻から教会の牧師に相談することを勧められ、牧師から修道院の修道会に参加することを提案され、気乗りはしなかったが、その修道院に伝説の経営者がいることに興味をひかれて参加し、そして、その伝説の経営者から、リーダーシップを学ぶというストーリーになっています。

サーバント・リーダーシップ』('04年/PHP研究所、石田量訳)

 1日目は、主人公は、修道院の中ではシメオンと呼ばれるその伝説の経営者の導きにより、他の5人の参加者との討議を通して、リーダーシップとは「共通の利益になると見なされた目標に向かって熱心に働くよう、人々に影響を与える技能」であるとの定義に至ります。シメオンは、リーダーシップは"技能"であるので、学んだり身につけたりすることができるものだとし、リーダーシップを身につけるという行動には"大きな努力"が必要とされるとも言います。なぜならば、リーダーシップが他人を動かすことだとしたら、人を動かす影響力をどのように身につければよいのかを常に考える必要があるからです。そこで重要になるキーワードは"影響力"というものであり、この影響力に関して「権力」と「権威」という二つの言葉が持つ意味の違いを正しく理解することの重要性を述べます。「権力」は、たとえ相手がそうしたがらなくても、地位や力によって、自分の意思どおりのことを強制的にやらせる能力であり、「権威」は、個人の影響力によって、自分の意思どおりのことを誰かに進んでやらせる技能であるとし、権力に頼らなければならないのは、権威が崩れたからであって、では権威あるリーダーの特質とは何かを参加者に考えさせ、その結果「正直で信頼できる」ことなど10の特質が抽出されます。シメオンは、これら10の特質は全て「行為」であり、このような「行為を実践する」ことができるのならば「権威を持つ」ことができるとします。シメオンは、リーダーシップとは、人々を通して何かを成し遂げることであり、人と共に働き、人に何かをさせるときには「任務」と「関係」というものが必ず関わってくると説きます。「任務」と「関係」はどちらも重要で、いずれか一方だけを重要視するとバランスが崩れてしまい望まない結果がもたらされることになるので注意が必要だということを常に心に留め置く必要があるとします。関係を顧みずに任務にだけ集中していると、退職、反抗、品質の低下、やる気の無さ、信用低下といった問題が起き、一方、関係性のみに注力をするならば、任務を成し遂げることができず、つまり、リーダーシップとは「関係を築きながら任務を成し遂げる」ことを指すということになるとし、関係性を維持するために最も必要なものは「信頼」であると説きます。

 2日目は、シメオンはまず、人に最後まで話をさせずに自分の意見を言い始めることの弊害を説きます。そして、尊敬の気持ちには、尊敬の行動が伴わなければならないとします。また、もし10の特質を本当に実践するのであれば、「パラダイム:規範」(人生を進んでいくにあたって用いる心の図式・モデル・地図)の見直しの必要性に迫られるとし、このパラダイムは上手に使えば人生を渡っていくのに非常に役立つが、時代遅れの古いパラダイムに捉われてしまうと世界に取り残されてしまう危険性があるとします。例えば、父親に虐待された女の子は「大人の男性は信用できない」というパラダイムを持ち、成長後もそのパラダイムを持ち続けるならば男性との付き合い方に深刻な支障をきたすことになり、この場合、「すべての男性は信用できない」というものから「信用できない男性もいる」といったパラダイムの変換が必要になります。従って、常に自分自身や自分を取り巻く環境に関するパラダイムを自ら見直す必要があり、多くが現在身につけている組織運営に関するパラダイムは、「ピラミッド型:上から下へ」というものであって、CEOを最上位とし、[上]CEO→副社長→中間管理職→監督者→従業員[下]と続いて、最下層の従業員が「顧客」への対応を行うが、この従来型モデルの場合、組織のメンバーには、顧客ではなくて「上」つまり上司を見よというメッセージになるだろうと。そこで、このパラダイムの変換が必要になり、それは「逆ピラミッド型:下から上へ」というもので、[上]従業員→監督者→中間管理職→副社長→CEO[下]というものであると。顧客に目を向けるために顧客を最上位に置き、その対応する従業員を上に配置するならば、リーダーの役割は支配したり下層のメンバーに威張り散らしたりすることではなく、むしろ従業員に対して"奉仕する"ということになるとしています。ここでの「奉仕する」の本当の意味は、相手の欲求に応えるということではなくて"ニーズに応える"ということを意識しなければならないといとしています。欲求とは「心身におよぼす影響をまるで考えない願い、希望」で、ニーズとは「人間としてよい状態にあるために、心身が正当に求めるもの」であり、例えば、従業員が時給20ドルを求めることは欲求であり応える必要はないが(なぜならば、その要求を満たすことになれば企業の存続が危うくなり、安定した長期の雇用という彼らのニーズに応えることができなくなるから)、リーダーは常に自分が導いている人々のニーズに応えるべく、それらをきっちりと把握する努力をする必要があるとしています。そのためには「マズローの欲求5段階説」を知ることは有益であるとしています。欲求ではなくニーズに応える、つまり、隷属するのではなくて奉仕者になる、ということを心に留め置くべきだというのが、2日目の講義のポイントです。

 3日目は、「奉仕」と「犠牲」のリーダーシップに踏み込んでいきます。リーダーシップに関して、それをどのように身につけるかを、[上]リーダーシップ→権威→奉仕と犠牲→愛→意志[下]というピラミッド型モデルで学ぶことができるとしています。まず、有効なリーダーシップは、「権威」の上に打ち立てられなければならず、権威は「奉仕と犠牲」の上に成り立ち、その奉仕と犠牲は「愛」の上に、愛は「意志」の上に作られるとしています。この意志とは「意図 + 行動」を意味し、意図は行動を伴って初めて意味を成すとしています。つまり、リーダーシップとは、意志から始まり、それは、意図に添った行動をし、行為を選ぶという人間ならではの能力であり、正しい意志があれば愛を選ぶことができる。この愛というのは動詞で、人々の欲求ではなく、正当なニーズを見極めてそれに応えることを指し、人々のニーズに応えるとき、奉仕し、犠牲を払うことさえ求められるが、他人に奉仕して犠牲を払うと、権威あるいは影響力を手にすることができるということです。つまり、もっとも偉大なリーダーとは、もっとも奉仕した人物ということになるとのことです。

 4日目は、「行為」としての愛に踏み込んでいきます。「行為を示す動詞の愛」について理解を深めることは、リーダーシップを理解することへの大きな助けになるとしています。ギリシャ語には愛を表すのに幾つかの異なる単語があり、性的な魅力や欲望、切望といった感情を指す「エロス」、家族の間の感情を指す「ストルゲ」、「あなたが私に親切にしてくれたら、わたしもあなたに親切にします」といった条件付きの親密な相互の愛である「フィロス」、見返りを考えない、他人への行為の基になる無条件の愛である「アガぺ」のうち、奉仕と犠牲のリーダーシップの中で用いられる「愛」とは「アガぺ」を意味する、行為と選択の愛なのだとしています。そして、自分が人に対してどう感じるかはコントロールできないが、人に対してどのように振る舞うかは、きちんとコントロールができるということを意識することが必要であるとしています。そして「アガぺの愛」は、次のように、先のリーダーシップが求める10の特質と重なるとしています。
  忍 耐:自制すること
  優しさ:注意を払い、評価し、励ますこと
  謙 虚:信頼でき、虚偽や高慢さがないこと
  敬 意:他者を重要な人物として扱うこと
  無 私:他者の必要に応えること
  許 し:悪いことをされたときに怒りを捨てること
  正 直:欺かないこと
  献 身:選択を貫くこと
 以上のことは「奉仕と犠牲」を意味し、それは「自分の欲求や必要を脇にやり、他者のために最高の利益を求めること」であって、つまり、権威をもって導くためには、努力をして愛し、奉仕し、時には他人のために犠牲を払うことさえ求められるが、その際の愛が意味するものは、他者に対してどう感じるかではなくて、他者に対してどう行動するのかということであり、それは「メンバーの正当なニーズを見極め、それに応えることによって、人のために努力する」という行為を意味するとしています。

 5日目は、メンバーが成長できる環境について踏み込んでいきます。シメオンは、具体的にはどのように行動することが求められるかを「園芸」を比喩として用い、自分の影響が及ぶ範囲を「世話をする必要のある庭」だと考え、庭には注意と世話を欠かすことはでず、この庭には何が必要だろうか? 評価や認知や賛美などで養分を与える必要があるのではないか? 雑草を取り除く必要は? 害虫の駆除は? などと常に自問して自分の役割を果たして育んでいくのならば、きっと豊かな実を得られることができるとしています。ここで注意すべきは、実がなるまでの期間を事前に知ることは誰もできないということを知っておくことであり、そのためにリーダーシップには、未来を信じて努力を続けるという「献身」という行動を欠かすことはできないとしています。

 6日目は、どう行動するかどう行動するかを選ばなければなたないときのことについて触れています。奉仕のリーダーシップを採ることによって、権力に頼る人からの迫害を受ける可能性があり、なぜならば、彼らはたいてい権威に基づく人々によって地位を脅かされないか怯えて不快感を覚えているからであるが、しかし、自分がどのように扱われようと、愛と敬意をもって人と接することができない場所などほとんどないことも覚えておくべきであるとしています。なぜならば、私たちは誰でも、自分自身の行動においてのみ「周囲に影響を与えることができる」からだと。そう考えるならば、リーダーシップという務めと愛は、人格の問題であり、長い時間に耐えうる卓越したリーダーになりたければ、忍耐、優しさ、謙遜、無私、敬意、許し、正直、献身という、こうした人格の基礎を習慣として身につけ、成熟させなければならないとしています。

 最後の7日目は、リーダーは、はたしてこのような大変な努力をする価値が本当にあるのかを考察しています。この奉仕のリーダーシップがもたらす真の報酬とは何なのか。もちろん、人々に対する影響力を身につけることもあるが、それよりも「日々の使命/人生の使命」を明確にしてくれるということも報酬であるとしています。なぜならば、高齢者を対象にした「もう一度人生をやり直すとしたら、自分の行動をどう変えたいですか?」という調査結果の上位の回答の一つに「もっと後世に残すことをする」があるように、使命感を持ち他人に影響を与えることは私たちの大きな満足に繋がるからであると。加えて、外部の状況に基づかない、内面から湧き出る"歓び"という感情を得ることができることも、とても大きな報酬の一つであるとしています。歓びは、心の中の満足、自分が人生の深遠な不変の原理に本当に連携できたと確信できるからです。それは、私たちが自己中心的な利己主義を克服するのに役立つとしています。

 物語形式で「リーダーシップ」について理解が進められるように話が進んでいくのが本書の特長ですが、ここでいうリーダーシップとは、従来のリーダーシップとは異なる奉仕型のリーダーシップを指していて、主人公やセミナーの参加者たちも、初めはこの常識とは真逆のリーダーシップに戸惑いつつも、それぞれの経験を鑑みながら講義を進めていくにつれて、奉仕型のリーダーシップが持つ意味や、それがもたらす効果の大きさを理解するようになっていきます。突き詰めるならば、この奉仕型のリーダーシップとは、自らを「人間的に」成長させる素晴らしい"スキル"でもあり、それが日々を充実させる使命感や大きな歓びをもたらすことを、学ぶことができるかと思います。「奉仕型のリーダーシップ」は経営者や管理職のみならず、誰にでも必要な「技能/スキル」であることを認識させる本であり、リーダーを目指す人に広くお薦めします。

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《読書MEMO》
●目次
プロローグ このわたしが修道院へ?
1日目 リーダーが見落としているもの
2日目 殻を破り、逆転の発想を
3日目 「奉仕」と「犠牲」とリーダーシップ
4日目 「行為」としての愛について
5日目 メンバーが成長できる環境とは
6日目 どう行動するかを選びとるとき
7日目 リーダーにたいする真の報酬
エピローグ あらたな旅路へ
●リーダーシップ・権力・権威(1日目)
「リーダーシップ」:共通の利益になるとみなされた目標に向かって熱心に働くよう、人々に影響を与える技能。
「権力」:たとえ相手がそうしたがらなくても、地位や力によって、自分の意思どおりのことを強制的にやらせる能力。
「権威」:個人の影響力によって、自分の意思どおりのことを誰かに進んでやらせる技能。
●権威あるリーダーの10の特質(1日目)
正直で信頼できる/いいお手本/愛情深い/献身的/話をよく聞く/人に責任を持たせる/敬意をもって人に接する/人を励ます/肯定的で熱心な態度/人の価値を認める
●古いパラダイムと新しいパラダイム(2日目)
「古いパラダイム」<ピラミッド型:上から下へ>
[上]CEO→副社長→中間管理職→監督者→従業員→(顧客)[下]
「新しいパラダイム」
[下](顧客)→従業員→監督者→中間管理職→副社長→CEO[下]
●<リーダーシップのモデル>(3日目)
[上]リーダーシップ→権威→奉仕と犠牲→愛→意志[下]
●「行為」としての愛について(4日目)
「選手や仲間をかならずしも好きになる必要はないが、リーダーとしては彼らを愛さなければならない。愛は忠義、愛はチームワーク、愛は個人の威厳を尊重する。これはどんな組織にとっても強みだ。」―ヴィンス・ロンバルディ(アメリカンフットボール・コーチ)(p103)
●どう行動するか選びとるとき(6日目)
「リーダーシップという務めと愛は、人格の問題です。忍耐、優しさ、謙遜、無私、敬意、許し、正直、献身。長い時間に耐えうる卓越したリーダーになりたければ、こうした人格の基礎を習慣として身につけ、成熟させなければなりません。」(p186)
●リーダーに対する真の報酬(7日目)
「権威によって導くこと、正当なニーズに応えて他者に奉仕することには大きな歓びがあるということです。そしてこの歓びが、地球という名の精神の基礎訓練キャンプを生きていくにあたって、わたしたちを支えてくれるのです。・・・人間としての真の目的は、心理的、そして霊的な成熟に向かって成長することです。愛し、奉仕し、他者のために努力するなかで、わたしたちは自己中心的な考えを捨て去っていきます。(中略)他者を愛することでみずからが成長するのです。」(p202)

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○経営思想家トップ50 ランクイン(リンダ・A・ヒル)

優れた上司であり続けるための3つの要素。説得力があり、啓発書として優れている。

Being Boss Linda A. Hill.jpgハーバード流ボス養成講座2.jpgハーバード流ボス養成講座.jpg  リンダ・A・ヒル.jpg Linda A. Hill
ハーバード流ボス養成講座―優れたリーダーの3要素
"Being the Boss, with a New Preface: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader"
Linda Hill: How to manage for collective creativity | TED
Linda Hil:How to manage for collective creativity  TED.jpg 本書は、ハーバード・ビジネススクールのリーダーシップ部門主任教授リンダ・A・ヒル(Linda A. Hill)と著述家ケント・ラインバック(Kent Lineback)の共著("Being Boss"(ボスになる)(2011))で、ウォールストリート・ジャーナル紙によって、「2011年に読むべきビジネス書5冊」に選ばれています。

 1章で、できるマネジャーの課題として、1.自分をマネジメントする、2.人脈をマネジメントする、3.チームをマネジメントする、の3つを挙げ、この3つの課題は、マネジャーとしての責任を果たそうとするうえでなすべきことのエッセンスをまとめたものであり、部下とそれ以外の人々の両方に自分の望む行動をとってもらうための、基本的なテコの役割を果たすとしています。パートⅠ以降では、この3つの課題を中心に話を進め、各課題に3~4の章を割り当てています。

 パートⅠ「自分をマネジメントする」では、他人、とりわけ部下との1対1の関係に照準を合わせています。2章では、長期にわたって効果的に影響力を発揮しようとするには、公式の権限だけに頼ったのでは限界があるとしています。3章では、友情に訴えかけて影響力を行使しようとする際には落とし穴があることを説いています。4章では、影響力の真のよりどころは信頼であるとしています。

 パートⅡ「人脈をマネジメントする」では、組織につきものの政治的駆け引きを念頭に置きながら、建設的な目的に沿って誠実に影響力を行使する術を説いています。5章では、助けを求めて一緒に働かなくてはならない相手との人脈を細心の注意を払って築き、維持していくことがたいへん重要であるとし、6章では、こうした人脈の築き方を詳しく述べています。7章では、上司との大切な関係について述べています。

 パートⅢ「チームをマネジメントする」では、部下たちとともに真のチームを作り上げるには何が必要かに焦点を当てています。8章では、水先案内人としてチームに目的意識を与えるには、文書になったプランとそうでないプランの両方を作る必要があるとしています。9章では、チームの文化と、適切な規範、理念、実り多いチームワークの条件について取り上げています。10章では、チームメンバー1人ひとりを管理しながらともに働く方法を説明しています。11章では、上司としての行動の核となる基本的な行動モデル〈準備→実行→反省〉を紹介し、それが懸案や想定外の出来事などあらゆる状況をマネジメント課題の追求に活かすのに、どう役立つのかを紹介しています。

 結びの12章では、3つの課題に照らして自分を眺め、強みは何か、旅の途上で更なる進歩が求められる分野は何かを見極める助けをし、日々の経験から学ぶためのアドバイスもしています。

 各章の冒頭に事例があって、それらが連続するストーリーのようになっていて課題の状況がイメージしやすくなっていますが、全体の構成がかっちりしているため、それが無かったとしても十分読みやすいのではないでしょうか。内容的にも「チームをマネジメントする」の前に、まず「自分をマネジメントする」ことから始まって、次に「人脈をマネジメントする」ことが来ていて、説得力がありました。啓発書として優れていると思います。

 本書で著者らが「3つの課題」と呼ぶもの―「自分をマネジメントする」「人脈をマネジメントする」「チームをマネジメントする」は、マネジャーの能力が最も未熟な分野であるというだけでなく、「人々に影響を及ぼす」という上司の最も根本的な役割を果たすうえでも役に立つものであり、3つの課題はマネジメントとリーダーシップの核心であり、できる上司になるうえで欠かせないすべての要素を含む、行動指向型のフレームワークであるとしています。

 また、優れた上司になるまでの過程を理解し、その行動様式を知るだけでは十分とは言えず、本当に重要なのは、リーダーシップの旅で、自分をどう成長させるかであって、成長は、自分の現在の実力をしっかり把握するところから始まるというスタンスに立っています。これを1度きりではなく継続的に行っていくためには、自分の能力や行動を常に見直し、正直な自己評価を行い、間違いを認めそこから学び、周りから率直な意見を求め吸収していくことが必要となるということです。

 自分は有能な上司の要件を満たしているだろうか。部下や、自分の管理下にはないが必要な人材を、最大限に活用できているだろうか。会社や顧客からの高まり続ける期待に、十分に応えているだろうか―そうしたことを自問してみるによい本であり、優れたマネジャー、リーダーを目指す全ての人にとって役立つ本であると思いますが、とりわけ、新任マネジャーや中間管理職がどのようにマネジメントを実践すれば良いかが書かれていたように思いました。でも、中間管理職に限らず、優れたリーダーを目指す人に広くお薦めできる本です。

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いかにして部下の潜在能力を最大限まで引き出し、強力な組織をつくるかを説く優れた啓発書。

響き合うリーダーシップ  .jpg 響き合うリーダーシップ.jpg Max De Pree.jpg ハーマンミラー.jpg
"Leadership Is an Art"(2004)『響き合うリーダーシップ』 Max De Pree(1924-2017/享年97)
リーダーシップの真髄―リーダーにとって最も大切なこと
リーダーシップの真髄―リーダーにとって最も大切なこと.jpg響き合うリーダーシップ6.JPGハーマンミラー  .jpg 本書は、数多くの世界的デザイナーを率いて、ハーマンミラー社を「もっとも働きがいのある企業」「もっとも称賛される企業」と呼ばれる世界的家具メーカー(自分が今使用しているアーロンチェアを作った会社でもあるのだが)に育て上げた伝説のCEOマックス・デプリー(Max De Pree、2017年没)が説くリーダーシップ論です。初版は1987年で(原題:Leadership Is an Art、1989年版の邦訳『リーダーシップの真髄』('99年/経済界))、本書は2004年改訂新版の訳本。裏表紙に、その間に寄せられたドッラカーやビル・クリントンなどによるこの本への賛辞が載っている)。

Max De Pree2.jpg 先ず「はじめに」で、「リーダーシップは『アート』だ。時間をかけて身につけるものであり、たんに本を読んで学ぶものではない。リーダーシップは科学というより伝承であり、情報の蓄積というより関係の構築なので、その意味では、私はそのすべてを明らかにする方法を知らない」としています。

Max De Pree

 1章「ある親方の死」では、「工場の操業全体を担うキーパーソン」である親方が亡くなり、弔問に自宅を訪ねたところ、実はその親方は美しい詩をつくる詩人であることが分かったというエピソードを引いて、リーダーは一人ひとりの才能、力量、スキルの多様性、つまり人間の個性、多様性といったものを認めなくてはいけないとし、リーダーに多様性への理解と受容があれば、社員一人ひとりが、自分は大切にされていると感じることができ、その結果、社員は、① 職場で機会や平等やアイデンティティを求められていることがわかる、② 仕事に意味、充実感、目的を見出すことができる、③ 目標と報酬が根本的に異なることを理解するのに役立つ、というようになるとしています。
 
 2章「リーダーシップの『アート』とは?」では、「リーダーは、まず最初に現実を明らかにしなければならない。そして最後にありがとうと言わなければならない。その間、リーダーは部下に奉仕し、部下に借りをつくる。すぐれたリーダーはこうして成長する」とし、次に、リーダーシップのアートを身につけるには、リーダーを「世話役」として考えるべきであるとし、具体的には、「資産と遺産」を残し、組織に「推進力」を与え、「効果」に責任を持ち、「礼節と価値観」を育まなければならないとしています。

 「資産」は財務の観点からのそれだけでなく、従業員(人)、組織の価値観(価値体系)、未来のリーダー(の育成)、質に対する意識、心の関係、リーダーの成熟した人間性、筋道を通す姿勢、ビジネス・リテラシー、才能を生かせる「場」の提供なども入ってくるとし、「変化への対処法」を確立するために「リーダーは反対意見を奨励する」が、それは「重要な活力源」となり、このことが「組織の基礎を固め、組織の存続を意識し、組織文化を築く」ことにつながるとしています。

 次に、「リーダーは組織内に『心の関係』をつくらなければならない。組織は結局、人の集まりだ。思いやりがあり、目的を持ち、熱意のある人が組織のなかでどうなりうるか。リーダーは彼らを正しく評価する新しい基準を示さなければならない」とし、また、「リーダーは筋道を通さなければならない。それによって企画や人間関係に理由や共通の理解が生まれる。筋道を通せば、秩序ができる。秩序のあるところでしか、人々のすぐれた面や熱意や能力は引き出せない。秩序だった環境では、信頼と人の尊厳が重んじられ、組織の目標を達成しようとする人々に自己啓発と自己実現の機会が与えられる」としています。

 「推進力」については、推進力の元になるのは、明確なビジョン、周到な戦略、そして「慎重に考えられ、従業員に伝えられた」方針や計画の3つであり、ビジョン→戦略→方針・計画という流れで実施すべきであるとしています。また、すぐれた才能を持つ人々が、適切で柔軟な研究開発プログラムを進めるかどうかで、推進力はちがってくるとしています。更に「効果」については、「リーダーは『効率性』は人にまかせてもいいが、『効果』にはみずから取り組まなければならない」としています。

 3章「参加型マネジメントで組織を変える」では、マネジメントで最も効果的なのは「参加型マネジメント」であり、それは人々の潜在能力を信じるところから始まり、理想的な関係を生み出すアプローチとして、①人を救う、②方針や業務より、自分たちの信念を優先させる、③仕事上の権利を認める、④「契約関係」と「心の関係」の役割と両者の関係を理解する、⑤「関係」は「構造」より重要であることを理解する、の5つを挙げています。

 4章「『愛着』について」では、「人の能力(コンピテンス)の中心には、愛着(インティマシ―)がある。愛着によって理解や信念が生まれ、仕事が充実したものになる。愛着は、あなたと仕事の関係を築く」としています。

 5章「投手と捕手」では、仕事とは何かという問題は、投手と捕手の関係に照らして考えるとわかりよいとし、仕事の意味、仕事上の役割から「すぐれた投手にはすぐれた捕手が必要」であるとして、その際に、双方に不可欠な、「組織にとって必要とみなされる権利」などの8つの権利を掲げています。

 6章から8章をそれぞれ要約すると、6章「遊軍リーダーを活かせ」では、そのときそのときの力を発揮できる人を活用することを説き、7章「資本主義の未来のために」では、参加型について考察をめぐらし、資本主義は排他的仕組みの中では生き残れないだろうとし、だからこそ参加型のアプローチが必要であるとし、8章「これが『偉人』だ」では、著者の父親を含め、先人らの示した様々なリーダーシップ例を挙げています。

響き合うリーダーシップ ハーマンミラー.jpg この内、6章「遊軍リーダーを活かせ」では、「遊軍リーダーとは、日常生活のなかで必要とされるときにその場にいる、欠くことのできない人々のことだ。彼らは日々多くの組織で、程度こそさまざまだが、主導権を握っている」とし、リーダーには、ヒエラルキー上のリーダーと遊軍リーダーの2種類があるが、「特別な状況においては、ヒエラルキー上のリーダーが遊軍リーダーを認め、サポートし、その指示にしたがわなければならない。また、潔く遊軍リーダーに主導権を譲らなければならない」としています。「遊軍リーダーシップは『問題』に焦点を当てた考え方だ。遊軍リーダーシップが発揮されるということは、ヒエラルキー上のリーダーに、問題を共有する能力(言い換えれば、他人にある状況をゆだねることができる能力)があるということにほかならない」としています。そして、遊軍リーダーシップが発揮されるには、「深い信頼と、自分たちは依存しあっているという自覚」と「規律」の2つが求められ、重要なのはある目標を達成するかどうかではなく、「個人としても集団としても、潜在能力をフルに発揮する」ことであり、「健全な心、開かれた態度、高い能力、経験に対する信頼―これらが仕事に活力を与え、人生に意味をもたらし、遊軍リーダーシップを可能にする。そして遊軍リーダーシップは、私たちが自由かつ率直な態度で協力し合うとき、潜在能力をフルに発揮するための手段となる」としています。

 9章「『語り部』の役割」には、著者がCEO、会長をつとめた会社、ハーマンミラー社の価値観が、研究主導型からスキャンロン・プランまで9つ紹介されています。本書におけるスキャンロン・プランとは、「参加型マネジメントを実現する、生産性向上を考慮した成果配分方式で、アメリカではかなりの数の企業で実施されている(中略)。スキャンロン・プランによって、従業員は創造性と創造プロセスを重視しながら、多様な才能を発揮することができる。この方式を原動力としてアイデアを生み、問題を解決し、変化と争いに対処することができる」としています。「ハーマンミラーのような集団には、個人としての多様性と、企業としての多様性がある。企業としての多様性とは、各個人が集団に役立てるために持ち寄る才能、能力、熱意のことだ。その多様性を正しい方向に導き、うまくまとめれば、集団の最大の強みとなる(中略)。多様性をまとめるプロセスとは、思いきって他人の強みに頼ることである。何かについて自分よりすぐれた人がいれば、その人に対して自分の弱みを認めればいい」としています。
スキャンロン・プラン
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ラッカー・プラン
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10章「オーナーと従業員の理想の関係」では、オーナーシップの考え方を示し、オーナーとは有形資産だけでなく、企業の後継者への遺産に対しても責任を負うとし、ハーマンミラー社では、「オーナー」と「従業員」と「後継者」は同じものをさすことが多いとしています。

 以下、各論に入り、11章「リーダー必須のコミュニケーション術」では、「活力のある組織には、たいてい連帯感がある。相互依存、相互利益、互いへの貢献、そしてシンプルな喜びからなる連帯感だ。これが保たれ、強まるように配慮するのも、リーダーシップの『アート』のひとつだ」が、「とはいえ、連帯感を保ち強めるには「すぐれたコミュニケーションがぜったいに欠かせない」として、意味合い、効果、機能、運用ポイント、義務の5つの視点から、そのノウハウが示されています。「組織の連帯感や価値観の基本を伝えるいちばんの方法は、態度によるコミュニケーションだ」とし、「すぐれたコミュニケーションとは、相手の一人ひとりに敬意を払うことにほかならない」「すぐれたコミュニケーションは、人々が教え、学ぶための必須条件だ。成長する会社に生じるギャップを埋める方法であり、人々が連絡をとり合い、信頼を築き、助けを求め、業績を監視し、ビジョンを共有できる方法だ」「すなわち、すぐれたコミュニケーションの効果とは、相互連絡、信頼構築、サポート要請、業績モニター、ビジョン共有の5つの面で役立つことであるといえよう。 コミュニケーションの機能はふたつあり、教育機能と『解き放つ』機能である」としています。

 12章「『ピンクの氷』は危険の兆し」では企業の衰退の兆候が挙げられており、「危険の兆し」として、お祝いや儀式の時間がなくなる、従業員が、貢献、精神、美徳、美、喜びなどを大切にする価値観ではなく、ビジネス・スクールで学んだドライな基準にしたがおうとする、過去と将来に対する考えを数字で示したくなる、指標を設けたくなる、リーダーが、人でなく組織構造に頼る、などが挙げられています。

 13章「勤務評定のポイント」14章「会社の施設のあり方」15章「後継者の選び方」の各章とも、各テーマに沿って著者の、リーダーシップの観点に立った有意義なノウハウとポリシー、信条が示されています。

 16章「あなたは泣いていますか?」では、「上っ面だけの態度」をはじめ、私たちにとって「涙を流すべき」こと(会社にとっても)が18項目挙げられていて、この中には、「顧客を邪魔者と見なすこと」「態度を見ず、結果だけを見るリーダー」「決して『ありがとう』と言わないリーダー」「のびのびとベストを尽くせない仕事を押しつけられること」などといった項目もあります。

 17章「品格のしるし」では、「品格のある会社は社員に自由を与え、自己実現をさせる。同様に、品格のあるリーダーは部下に自由を与える」とし、「品格のあるリーダーはつねに完全を求める」ともして、「品格のしるし」として、「契約はさまざまな関係のなかのごく一部である。完全な関係には『心』が必要だ」「知性と教育は『事実』を教えてくれる。知恵は『事実』を教えてくれる。企業生活にはどちらも必要だ」「時間をさいているからといって、かならずしも関与していることにはならない」など8項目が示されています。

 200ページ足らずの本であり、たいへん分かり易い言葉で書かれていますが、非常に奥深い本でもあります。リーダーシップの本であるとともに、マネジメントの本でもあり、また、自らの実践に基づいて書かれた優れた啓発書であり、いかにして部下の潜在能力を最大限まで引き出し、強力な組織をつくるかを考えるうえで多くの示唆が含まれていると思われ、お薦めです。

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

《読書MEMO》
●章立て
はじめに
1章 ある親方の死
2章 リーダーシップの「アート」とは?
3章 参加型マネジメントで組織を変える
4章 「愛着」について
5章 投手と捕手
6章 遊軍リーダーを活かせ
7章 資本主義の未来のために
8章 これが「偉人」だ
9章 「語り部」の役割
10章 オーナーと従業員の理想の関係
11章 リーダー必須のコミュニケーション術
12章 「ピンクの氷」は危険の兆し
13章 勤務評定のポイント
14章 会社の施設のあり方
15章 後継者の選び方
16章 あなたは泣いていますか?
17章 品格のしるし
あとがき

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従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチ。リーダー個人の動機や視点に注目。

静かなリーダーシップ.jpg静かなリーダーシップ5.JPG 企業変革の名著を読む.jpg
静かなリーダーシップ (Harvard Business School Press)』['02年]『企業変革の名著を読む (日経文庫)』['16年]

 本書(原題:Leading Quietly: An Unorthodox Guide to Doing the Right Thing,2002)では、特殊な能力を持つリーダーが組織の目的を達成するために力を発揮する従来の「ヒーロー型リーダーシップ」に対して、日常生活やビジネスの意思決定を正しく行い、地道な努力と絶妙な妥協によって目的を達成する能力を「静かなリーダーシップ」とし、目を引くヒーロー型リーダーよりも、静かなリーダーが社会で果たす役割の方が大きいと主張しています。そのうえで、第1章から第8章にかけて、静かなリーダーの8つの特徴的な考え方や行動特性について述べています。

 第1章では、静かなリーダーは「現実を直視する」としています。静かなリーダーは、現実的であるとともに自分の理解を過大評価せず、計画を立てるが予想外の事態にも備え、組織内のインサイダー(事情通)に目を光らせ、人を信頼しすぎないことがないのと同じく、人を信頼しすぎることもなく、信頼してもどこかで切り札を残しておくとしています。

 第2章では、静かなリーダーの「行動はさまざまな動機に基づく」としています。複雑でさまざまな動機が静かなリーダーの成功のカギとなり、また、リーダーであり続けるためには、自分の地位を守って交渉の場にとどまり続けなければならず、そのため健全な利己主義の感覚が必要であるとしています。

 第3章では、静かなリーダーは「時間を稼ぐ」としています。静かなリーダーは、難問に直面しても、問題に突進するのではなく、何とかして時間を稼ぐ方法を考えるとのことです。なぜならば、常に変化する予想不可能な世界では、流動的で多面的な問題に対して、即座に対策を考えるのは無理であるからだとしています。

 第4章では、静かなリーダーは「賢く影響力を活用する」としています。ここでいう影響力とは、主に人の評判と仕事上の人間関係で構成され、静かなリーダーは現実主義者であるため、自分の影響力を危険さらす前に、リスクと報酬(見返り)を考えるとしています。

 第5章では、静かなリーダーは「具体的に考える」としています。つまり、複雑な問題に直面した場合、忍耐強さと粘り強さをもって、自分が何を知っているのか、何を学ぶ必要があるのか、だれからの支援が必要なのかを理解しようとするとしています。

 第6章では、静かなリーダーは「規則を曲げる」としています。静かなリーダーは、規則について真剣に考え、創造性と想像力を駆使して規則を曲げながら、規則の目的を果たす方法を探すとしています。規則をないがしろにするのではなく、規則の解釈の余地を探すということです。

 第7章では、静かなリーダーは「少しずつ徐々に行動範囲を広げる」としています。今後の展開が不明な状況下で、リーダーシップが成功するかどうかは、事態を把握できるかどうかにかかっていて、そのためには、些細なステップを適切に実行する必要があり、静かなリーダーは探りを入れながら、物事の流れ、避けるべき危険、活用できるチャンスを徐々に理解するとしています。

 第8章では、静かなリーダーは「妥協策を考える」としています。静かなリーダーにとって妥協をを考えるということは、実践的な知識を習得して実行に移すことであり、多くの場合、妥協を考えることが、目的を達成する最善の方法であるとしています。

 第9章では、これまでの振り返りとして、静かなリーダーには「三つの静かな特徴」があり、それは、自制、謙遜、粘り強さであって、ほぼだれでも静かなリーダーシップ特徴を実践できるとして、これまで述べてきたことを振り返りつつ、この三つの特徴について解説しています。

 第1章から第8章にかけて各章ごとに、「静かなリーダー」のケーススタディとなる人物が1人または2人登場し、読みやすいものとなっています。一方で、あまり体系的に本書を理解しようとすると、却って読みずらいかも。著者自身、本書の"付録"で、「本書はエッセイである。理論構築、仮設の検証、結論の証明を行っているのではない」とし、「本書はガイドラインの形で、実践的なアドバイスも提供している」としています。

 従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチで、リーダーシップ論に新たな視点を与えているとともに、リーダー個人の動機や視点に注目し、そこからリーダーシップ論を展開しているという点でもユニークです。従来の「ヒーロー型リーダーシップ」が組織目標の達成というトップダウンの組織に動かし方であるのに対して、静かなリーダーシップはボトムアップ型の個人の目的達成を中心とした組織の動かし方であり、解説の渡邊有貴氏も書いているように、個人を視点としたリーダーシップ指向は強まると思われます。内部昇進でミドルがトップになっていく日本には理解しやすい内容であると思います。ミドルマネジメントにお薦めですが、もちろん人事パーソンが読んでも良いと思います。

 因みに本書は、『企業変革の名著を読む』('16年/日経文庫)において紹介されていて、こちらはコンサルタントやビジネススクールの人気教員たちが企業や組織の変革をテーマにした本をそれぞれ選んで解説したものですが(オリジナルは日経電子版の「日経Bizアカデミー」及び「NIKKEI STYLE出世ナビ」に2011年から連載の「経営書を読む」のうち2014年から2016年にかけて掲載のもの)、その11人12選のラインアップのうちの1冊となっています。いずれの紹介者たちも、本の内容を紹介するにあたって、コンサルなどで経験した本の内容に呼応するような事例を複数、ケーススタディとして交えながら解説するスタイルになっていて、『静かなるリーダーシップ』の紹介者はPwCコンサルティングの森下幸典氏ですが、分かりやすい解説でした(事例に関しては、元本の『静かなるリーダーシップ』自体が事例構成になっているので、元本を読んだ方が早い?)。

 『静かなるリーダーシップ』というタイトルでもあり、個人的にはリーダーシップの本として手にしましたが、ミドルマネジメント向けに書かれていて、個人の動機などに着眼していることが特徴として挙げられながらも、最終的には組織変革が目的となっているため、「企業変革」をテーマにした本と言えなくもないです。『企業変革の名著を読む』は、日経文庫の「名著を読む」シリーズの1冊でもありますが、テーマが「企業変革」とあるのにあまり「企業変革」らしくない内容の本も納められていて、そうした中で本書は、比較的オーソドックスな選本ということになるのかもしれません。

《読書MEMO》
● 『企業変革の名著を読む』で取り上げている本
企業変革の名著を読む9_1.jpg1 ジョン・P・コッター『企業変革力』
2 ロバート・バーゲルマン『インテルの戦略』
3 ピーター・センゲほか『出現する未来』
4 サリム・イスマイルほか『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法』
5 松下幸之助述『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』
静かなリーダーシップ.jpg6 ジョセフ・L・バダラッコ『静かなリーダーシップ』
7 C・K・プラハラード『ネクスト・マーケット』
8 シーナ・アイエンガー『選択の科学』
9 ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』
倫理の死角2.jpg10 マックス・ベイザーマンほか『倫理の死角
11 若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』
12 アレックス・ファーガソン『アレックス・ファーガソン自伝』

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リーダーシップの発揮は危険だが、やるだけの価値はあるとして、そのプロセスを説く。

最前線のリーダーシップ  .jpg 最前線のリーダーシップ図1.png   最前線のリーダーシップ sin.jpg ロナルド・A・ハイフェッツ.jpg
最前線のリーダーシップ』['07年]『[新訳]最前線のリーダーシップ―何が生死を分けるのか』['18年]ロナルド・A・ハイフェッツ in NHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(全6回)(2016)
ハーバードリーダーシップ白熱教室2.jpgハーバードリーダーシップ白熱教室.jpg 本書は、ハーバード・ケネディスクールの教授らによるものであり(著者の一人ロナルド・ハイフェッツ教授は「NHK白熱教室〕シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)で知られている)、原著("Leadership on the Line: Staying Alive Through the Dangers of Leading")刊行は2002年です(2017年に改版された)。人はいかにしてリーダーシップ行動を起こすことができるか、また、リーダーシップ行動に伴う危機をどう乗り越えるのか、その方法や技術について説いた本ですが、本書では、そもそも、リーダーシップを発揮するということは、危険な生き方をするということであるというところから始まります。つまり、真のリーダーは、未解決の問題を表面化させ、長きにわたる慣習に挑戦し、人々に新しいやり方を要求せねばならず、脅威にさらされた人々は、変化を要求する人間に狙いを定め、その結果リーダーは、個人的にも職業的にも傷つくことになるのだと。しかし、周囲の人々の生活をよりよくし、人々にとって価値のある「将来の可能性」を提供できるがゆえに、リーダーシップはリスクに見合う価値があるというのが著者らの考えです。

ロナルド・ハイフェッツ3.jpg 第1部「リーダーシップには危険がいっぱい」では、なぜリーダーシップがそれほど危険なのか、どのようにしてリーダーシップを発揮した人々が表舞台から排除されるかについて取り上げています。
 第1章「危険の本質とは」では、リーダーシップを発揮することの危険は、リーダーシップを必要とする問題の本質に由来し、適応を必要とする問題に取り組むことは、人々の習慣、考え方、価値基準の変化を迫ることになるため、抵抗を招くのだとしています。
 第2章「迫りくる4つのリスク」では、組織や社会が示す抵抗の4つの形として、リーダーシップには「脇に追いやられる」「注意をそらされる」「個人攻撃される」「誘惑される」という4つのリスクがあるとしています。

ロナルド・ハイフェッツ5.jpg 第2部「リーダーシップを発揮しながら生き延びる5つの方法」では、排除されるリスクを減らすためにどのような行動をとるべきかについて取り上げています。
 第3章「全体像をつかむ―方法1」では、「ダンスフロアから1歩出てバルコニー席に上がる」という表現を用いて、まず起きていることの全体像を知るべきであるとし、①技術的な問題か、適応が必要な問題かをみきわめる、②人々の立ち位置を知る、③言葉の奥に潜む歌に耳を傾ける、④権威者の行動を読む、の4つを説いています。
 第4章「政治的に考える―方法2」では、政治的に考えることの重要性を説き、そのうえでの6つの基本的な視点として、①パートナーを見つける、②反対派を遠ざけない、③自分が問題の一部であったことを認める、④喪失を認識する、⑤自らモデルになる、⑥犠牲を受け入れる、を挙げています。
 第5章「衝突を指揮する―方法3」では、破壊的側面を最小化し、建設的なエネルギーを確保するための方法として、①適応を促す環境を確保する、②熱気を調整する、③ペースをつくる、④将来像を見せる、の4つを挙げています。
 第6章「当事者に作業を投げ返す―方法4」では、作業を自分の方から下ろしてあるべき場所に戻すべきあるとする一方、リーダーシップを発揮する際には必ず介入が必要になるが、その介入には、①観察する、②問いを投げかける、③見解を示す、④行動に移す、の4種類があるとして、介入し、結果を評価し、介入を修正し、再評価し、再び介入するという、リーダーシップの継続的な行動において、自分の行動がどう受け取られたか、それに対する反応に常に耳を傾ける必要があるとしています。
 第7章「攻撃を受けても踏みとどまる―方法5」では、攻撃を受けても踏みとどまるには、①ほかのどのような懸念事項が問題にかかわる人を忙しくしてしまっているか、②その問題を取り上げることで、どのくらい深く人々が影響を受けるか、③人々は取り上げられる問題をどの程度深く学ぶ必要があるか、④権威ある立場の人は、その問題についてどのような意見を持っているか、の4つの問いかけをせよとしています。

ロナルド・ハイフェッツ4.jpg 第3部「リーダーシップの原点、心を見つめる」では、人々がどのようにして自ら墓穴を掘るような行動をとってしまうのかについて論じ、これらの状況を見きわめて行動に移る方法に加え、リーダーシップに課されるストレスに持ちこたえるための個人的な挑戦について、考え方と実践の両面から対処法を提示しています。
 第8章「渇望をコントロールする」では、渇望(欲望)に屈しないためにためにはどうすればよいか、渇望を抑制するにはどうすればよいかを説いています。
 第9章「自分自身をつなぎ止める」では、役割と自己を区別し、自由と強さを得るための方法として、相談役を協力者と区別して確保すること、肉体的にも精神的にも安心できる聖域を探すことなどを説いています。
 第10章「原動力を把握する」では、リーダーシップを発揮することは、人々の人生に貢献することによって、自分の人生に意味を与える方法の1つであり、最も良いのは、リーダーシップが愛情を原動力とした行動であるときであるとしています。
 第11章「神聖な心を保つ」では、自己防衛的な姿勢は、無邪気さを皮肉に、好奇心を傲慢に、哀れみを冷淡に変えてしまうが、神聖な心とは、人間のあらゆる活動に対して包容力を持ち続けることであり、無邪気さ、好奇心、哀れみは開かれた心の美徳なのであるとしています。

 リーダーシップを発揮する際のプロセス全体を俯瞰するとともに、反対派のさまざまな行動に対して戦略的に対処して、人々が課題と向き合って自らを変えていくための環境をつくりこんでいくという、リーダーシップの本質的な作業を的確に捉えた本であると言えます。啓発的であると同時に実践的であり、本書に示されているリーダーシップのプロセスを押さえておくことは、我々が実際にリーダーシップを発揮する際に役に立つものと思われ、本書の姉妹書とも言えるハイフェッツ教授らの新著『最難関のリーダーシップ―変革をやり遂げる意志とスキル』('17年/英治出版)と併せお薦めできる本です。

《読書MEMO》
●英治出版 公式Twitterより(2018年10月5日)
紀伊國屋書店 梅田本店さんでは、最新刊『[新訳]最前線のリーダーシップ』を新刊話題書棚やリーダーシップ棚など多面で展開くださっています!!
時代を超えて絶大な支持を集めるリーダーシップ論の金字塔!
最前線のリーダーシップ  kinokuniya.jpg

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ビル・ジョージ)

企業の持続的成長に求められる本物のリーダーシップについての実証的考察。

ミッション・リーダーシップ図1.png82011793.jpg  ビル・ジョージ.jpg Bill George
ミッション・リーダーシップ―企業の持続的成長を図る』(2004/08 生産性出版)

 先端医療テクノロジー企業メドトロニック社のCEO及び会長を務め、何度もベスト経営者賞を受賞した著者による本書(原題:Authentic Leadership: Rediscovering the Secrets to Creating Lasting Value)は、自分流のリーダー像を各自がどう模索すべきかを実証的に説いた啓蒙書であり、著者は経営者時代にいち早くCSRを重視し、利益追求のみならず、企業組織が暴走せずに倫理を順守できる体制づくりに奔走するなど企業が持続的に成長するための組織づくりを啓発してきた人物です。

 序章では、エンロンやワールドコムなどの企業不祥事や、M&Aを中心とした安易な企業買収、事業売却やリストラなどの背景にある最近のリーダーシップの危機がいかに発生してきたかについての見解を述べ、この危機の解決には新しい法律ではなく、新しいリーダーシップが要請されているという考えを示しています。

 第Ⅰ部は、本物のリーダーの特性を記述し、変革を求める経験を通じていかにリーダーが自己を成長させるかを示し、加えて彼らが仕事と私生活をバランスさせていかに本物の人生を送っているかを明らかにしています。

 第1章では、リーダーシップはスタイルではなく、本物を目指すことから生まれるとし、第2章では、リーダーに成長するには自己をどう高めるかを説き、第3章では、バランスの取れた生活がすぐれたリーダーを生むとしている。

 第Ⅱ部では、これらの経営リーダーがいかに本物の企業を築くのかを検討しています。ここでは、ミッション重視の企業は、財務的利益を追求する企業に比べて、長期的に見てより大きな株主価値を創造するという考え方を述べています。また、なぜ、価値重視の企業が卓越した業績を上げる企業になり得るのか、さらに自社の人材をエンパワーすることに努める企業がなぜすぐれた顧客サービスを提供する企業になるのかについても解明しています。加えて第Ⅱ部では、偉大な組織を築くのは、カリスマ性の高いCEOではなく、偉大な経営チームやそのほかのチームであることを実証しています。第Ⅱ部の最後の章でも、本物の企業がいかにすべてのステークスホルダーに卓越した成果をもたらすかについて言及しています。

1ミッションリーダーシップ ビルジョージ.jpg 第4章では、ミッションは人材をモチベートするが、お金はモチベーとしないとし、第5章では、価値観はうそをつかないとしている。第6章では、カスタマーが最も重要であるとし、第7章では、すぐれたチームが企業を生むのであってCEOだけの貢献ではないとし、第8章では、本物の企業がいかにステークスホルダーに成果をもたらすかを説いている。

 第Ⅲ部では、本物の企業がいかに市場で競争力を発揮するのかを検証しています。まず成功を収めてきた企業が成長を止める7つの落とし穴を検討しています。それに続く各章では、各企業がそのミッションを実現するために何をなすべきかを探り、さらに企業がぶつかる倫理上のジレンマ(葛藤)とその解決法を明らかにし、加えて数多くのブレークスルーに値する革新を生むプロセスを検証しています、第Ⅲ部の結論を述べる数章では、企業買収や合併はお金のためではなく、組織を築くために行われるべきことを提案し、さらにさまざまなステークスホルダーの各グループから出されるさまざまなニーズに応えるチャレンジを紹介しています。

 第9章では、成長に伴う7つの落とし穴を挙げ、第10章では、さまざまな障害を乗り越えるにはどうすればよいか、第11章では、倫理上のジレンマをどう克服するか、第12章では、心のこもったイノベーションとは何かを述べている。続く第13章では、企業買収はお金のためだけのものではないとし、第14章では、株主は、カスタマー、社員に次ぐ第三順位であるとしている。

 第Ⅳ部では、「利益」を超えて存在する諸問題を取り上げています。つまりガバナンスとマネジメントとの間に見いだせる大きな差異を解明しています。また、経営リーダーはいかなるときに自らの課題を公けの場に持ち出すべきかを検討し、さらに経営者をいかに育て、新しい挑戦に挑み続けるかを検討しています。

 第15章では、企業ガバナンスにための制度を作ることを、第16章では、自社の立場を明確に主張することの重要性を説き、第17章では、後継者を準備し、さらに前進することを説いている。

 序章でも述べられているように、現在、CSRやコンプライアンスが注目されたきっかけはエンロンやワールドコムなどの企業不祥事であり、M&Aを中心とした安易な企業買収やリストラによる一時的な利益の増加を通した株主価値市場主義に基づく短期的利益志向そのものでした。本書は、そうしたことが日常化していた企業の状況に一石を投じ、企業のミッションを追求することが事業の成長やイノベーションを生むとし、そのことをメドトロニック社において実証的に示したものあり、企業においてミッションやビジョンとは単なるお題目ではなく、まず最初に考えるべきものであるとしています。

 成長への7つの大罪を避けるための、成長の維持に貢献する「規律を守るリーダーシップ」を示した著者は、たとえ成長が鈍ったときも、リーダーはコスト削減に走る誘惑に勝ちながら成長への意欲を新たにし、そのためのあらゆる手を考えるべきであるとしています。本書で提案されるさまざまなアイデアは、新しいリーダーたちが本物のリーダーシップを発揮し、本物の企業を築くことに意欲を燃やす面で大いに貢献するものと思われます。

【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)


《読書MEMO》
●7つの大罪―成長に伴う落とし穴
1.明確なミッションを持たずに進む
2.コア・コンピタンスを過少評価する
3.単一の製品ラインに頼り過ぎる
4.技術とマーケットの変化を見落とす
5.企業文化を変えずに戦略を変える
6.自社のコア・コンピテンシーから逸脱する
7.成長のために企業買収に依存する

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ロジャー・マーティン)

組織に蔓延する「無責任ウイルス」への4つの対処ツールを示す。実践的・啓発的な本。

頑張りすぎる人が会社をダメにする .jpg頑張りすぎる人が会社をダメにする 2.jpg ロジャー・マーティン.jpg ロジャー・マーティン  .jpg
「頑張りすぎる人」が会社をダメにする―部下を無責任にしてしまう上司の法則』(2003/12 日本経済新聞社)ロジャー・マーティン(Roger L. Martin)カナダ・トロント大学ロットマン・スクール・オブ・マネジメント学長
「頑張りすぎる人」が会社をダメにする0.JPG 原題は"Responsibility Virus(無責任ウイルス)"。責任感の強いリーダーが必死で働けば働くほど、同僚や部下がやる気を失い、職場の人間関係が壊れ、組織全体の業績が悪化していくのはなぜかという疑問を、この「無責任ウイルス」という比喩を用いて分析したものであり、職場に「無責任ウイルス」がどのように蔓延していくかを実例を用いて解き明かすとともに、その予防と治療のためのマネジメント・ツールを示しています。

 第1部「無責任ウイルスとは何か」では、雑誌の業績を好転させる名人で華々しいキャリアを持つリーダーの、部下の責任を引き受けていった末の業績悪化と失脚、IDA(国際開発機関)に勤めるエリートの、開発途上国担当者に対する熱心なアプローチが生む相互不信と挫折など3つの事例を紹介し、これらを通して、頑張り過ぎた上司の下に頑張らない部下が生まれるのは、上司の「失敗への恐れ」が部下への「支配価値」を生むためであり、また上司・部下トータルの責任量は変わらないとする「責任量保存の法則」を提示しています。

 第2部「無責任ウイルスの症状」でも、自信と能力にあふれた弁護士の、事務所の浮沈を背負い込むあまりの組織不和と変革の失敗などの強い責任感で周囲を引っ張るリーダーとその組織が、それゆえに挫折し、衰退していった例など3つの事例を紹介し、これらを通して、①協働の死滅、②不信と誤解の発生、③選択決定スキルの低下という、「無責任ウイルスの症状」を示しています。

 第3部「無責任ウイルスへの4つの処方箋」では、「無責任ウイルスの症状」に陥りながらもそれを克服した、著者自身の経験も含めた4つの事例を紹介し、それらを通して、①意思決定プロセス、②枠組み実験、③責任のハシゴ、④リーダーシップとフォロワーシップの再定義という4つのマネジメント・ツールを示しています。第一のツールである「意思決定プロセス」とは、グループのメンバーが、ヒーロー型リーダーシップや言いなりのフォロワーシップに反射的に飛びこむのではなく、生産的な協議を促すためのものであり、グループの力を上手に利用して、より生き生きした強固な決定を下して実行し、一人では到達できない成果をあげるためのものであるとのことです。第二のツールである「枠組み実験」とは、責任過剰や無責任にはまり込んで不信感や誤解を抱いているものが、問題になっている相手との関係や協働能力の改善を助けるためのものであるとしています。第三のツールである「責任のハシゴ」とは、部下が上司とともに責任をとる能力を構築し、上司が責任過剰になるのを防ぐ能力開発型のツールであるとのことです。第四のツールである「リーダーシップとフォロワーシップの再定義」は、リーダーとフォロワーが責任過剰/責任過少という極端な状態に陥るのを防ぐツールであるとしています。

 第4部「無責任ウイルスをやっつけろ」では、ここでも事例を紹介しつつ、過少責任からいかにして脱出するか、責任過剰からいかにして脱出するかを説くとともに、プロフェッショナルが抱える「何でも仕切りたがる」という危険に陥らないために先に挙げた4つのツールをどう使うか、また、CEOと役員会の関係においてCEOが同様の危機に陥らないために先に挙げた4つのツールをどう使うかを示し、更には、日常生活において、妻と夫、親と子、友人や同僚との間で生じる無責任ウイルスから来るさまざまな問題も、4つのツールを使うことで解決できるとして、その例を示しています。

 最後に「結び」として、これまで述べてきたことを総括し、失敗への恐れが失敗を生むこと、支配価値の存在とそのマイナス面を思い起こすことなどを説き、「負けずに勝つ」ことにばかりこだわるのではなく「十分な知識に基づく選択」をし、「困惑の回避」に走るのではなく「オープンな基準による検証」を行い、「理性の保持」にばかり気をとられるのではなく「真の自分らしさ」に沿った行動をとるといった、新しい支配価値を身につければ、自ずと能力の最先端で、つまり強みや優位性の上で生きることになり、個人の集まりである組織が、新しい支配価値に従って生き、再定義されたリーダーシップモデルに取り組み、責任についてより高度の対話を維持することによって、着実に能力を伸ばすことができる競争を、確実に「求める」ようになるとしています。

 全体を通して事例を通じて解説されており、実践的(プラクティカル)な内容ですが、同時に啓発的であり、また、概念的(コンセプチュアル)でもある本であり、その点は邦訳タイトルから受ける印象とは少し違いました(著者の近著の邦訳タイトルは『インテグレーティブ・シンキング』('09年/日本経済新聞出版社))。書かれていることに相当する職場でのイメージを思い浮かべながら読まないと、今読んだ内容がすっとどこかへ流れていってしまうかも。

 一方が過剰に責任をとろうとすると、別の方は責任を過少にとってバランスを保とうとするという「責任量保存の法則」という観点は面白いと思いました(但し、本書は単なる「エンパワーメント」に対しては否定的である)。肝は、無責任ウイルスに対処するための4つのマネジメント・ツールを示した第3部でしょうか。やや高度に概念的な部分もあり、応用は少し難しいかもしれませんが、習得できれば役立つと思われ、多くの人にとって読む価値はあるのではないかと思います。

《読書MEMO》
●目次
まえがき
序 もう英雄はいらない?
第1部 無責任ウイルスとは何か
 1 頑張りすぎた上司と頑張らない部下
 2 「失敗への怖れ」と「支配価値」の役割
 3 責任量保存の法則
第2部 無責任ウイルスの症状
 4 協働の死滅
 5 不信と誤解の発生
 6 選択決定スキルの低下
第3部 無責任ウイルスへの4つの処方箋
 7 [ツール1]選択決定プロセス
 8 [ツール2]枠組み実験
 9 [ツール3]責任のハシゴ
 10 [ツール4]リーダーシップとフォロワーシップの再定義
第4部 無責任ウイルスをやっつけろ
 11 責任過少からの脱出法
 12 責任過剰からの脱出法
 13 プロフェッショナルが抱える危険性
 14 役員会の危機
 15 日常生活と無責任ウイルス
結び 新しいリーダーシップへの道
訳者あとがき

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グリッド理論による人間のタイプ分けと対処法。理想の管理者像を示したリーダーシップ論。

BlakeMoutonPhoto.png期待される管理者像9.JPG期待される管理者像.jpg
期待される管理者像―新・グリッド理論』 ロバート・R・ブレーク/ジェーン・S・ムートン

 マネジリアル・グリッド論(Managerial grid model)とは、リーダーシップ行動論の1つで、1964年にロバート・R・ブレーク(Robert.R.Blake,1918-2004)とジェーン・S・ムートン(Jane.S.Mouton,1930-1987)によって提唱されたものです。エクソン社でコンサルタント業務を担当し、人間の行動について調べたブレークらは、管理の理論化手法、特にリーダーシップと動機づけに関して、現実との大きな開きがあると結論づけています。当時もてはやされていたモチベーション理論は、ダグラス・マグレガーのⅩ理論・Y理論でしたが、ブレークらは多くの社員の行動やモチベーションが、ⅩとYの中間にあり、Ⅹ理論・Y理論は、組織行動の全体像の一部にすぎないとして、「業績に関する関心」「人間に関する関心」「モチベーションに関する関心」の3本の軸を用いたモデルこそが現実をより正確に表すと結論づけています。

Leadership Dilemmas- Grid Solutions.jpg ブレークとムートンは、1964年発表の"The Managerial Grid"(『期待される管理者像』('65年/産業能率短期大学))に続いて、1978年に"New Managerial Grid"(『新・期待される管理者像』('79年/産業能率大学出版部))、1985年に"The Managerial Grid Ⅲ"(本邦未訳)を上梓していますが、本書はさらに1987年のムートン女史の急逝(享年58)後に改訂された1991年版("Leadership Dilemmas- Grid Solutions")の翻訳になります。

"Leadership Dilemmas- Grid Solutions: a visionary new look at a classic tool for defining and attaining leadership and management excellence (Blake/Mouton Grid Management and Organization Development Series)"(1991)
5つのグリッド・スタイル(リーダーシップ・スタイル)
マネジリアル・グリッド論.gif グリッド理論とは、リーダーシップの行動スタイルについて、「業績に対する関心」と「人間に対する関心」という2軸に注目し、横軸に「業績に対する関心」、縦軸に「人間に関する関心」をとり、それぞれにどの程度関心を持っているか、それぞれの軸を9段階に分け、ここにできる計81の格子(グリッド)をマネジメント・グリッドと称し、典型的な5つのリーダーシップ類型(9・1型、1・9型、1・1型、5・5型、9・9型)に分類したものでした。

 そして、この改訂版では、これまで強調されてきた5つのグリッド・スタイル(リーダーシップ・スタイル)に、さらにこれまでのタイプを複合した「温情主義(9+9型)」と「日和見主義」の2つが加えられ、7つのグリッド・スタイルが浮き彫りにされています。

 第1章では、リーダーシップを構成する6つのエレメント(葛藤処理・イニシャティブ・探究心・意思表示・意思決定・クリティーク)について解説しています。

 第2章では、横軸に「業績に対する関心」、縦軸に「人間に関する関心」をとり、業績と人間に関する関心がリーダーシップのスタイルを決めるとするグリッド理論によるリーダーシップの7つの分類が紹介されています。
 ・「9・1型」...「権威服従型」
 ・「1・9型」...「カントリー・クラブ型」
 ・「温情主義(9+9型)」
 ・「1・1型」...「無関心型」
 ・「5・5型」...「中道型」
 ・「日和見主義」
 ・「9・9型」...「チームマネジメント型」
 さらに、リーダーと同様に部下のタイプも、このグリッドに沿って7つに分類されるとしています。
 ・「9・1型」...「こわもて型」
 ・「1・9型」...「ご機嫌とり型」
 ・「温情主義(9+9型)」...「高級参謀型」
 ・「1・1型」...「無関心型」
 ・「5・5型」...「堅実型」
 ・「日和見主義」...「抜けがけ型」
 ・「9・9型」...「問題解決型」

 第3章以降、これら7つのリーダーシップの各スタイルの特徴を述べ、リーダーシップを構成する6つのエレメントはそれぞれどう表れるか、また、上司に対する部下の反応は部下のそれぞれのタイプごとにどうなるかを述べています。

 第3章では「9・1型」について、このタイプは「権威服従型」とも言われ、この型のマネジャーは業績を重視し、権限とコントロールシステムを強化するが、人間的要素を顧みない、とにかく「強い者が勝ち!」というタイプであるとしています。

 第4章では「1・9型」について、このタイプは「カントリー・クラブ型」とも言われ、この型のマネジャーは人間関係に十分気を配るが、業績に対する関心は低く、「楽しくやろう」というタイプであるとしています。

 第5章では「温情主義(9+9型)」について、このタイプのマネジメントでは、忠誠と服従の代償として厚遇が与えられるが、従わない者は罰せられる、「俺は偉いのだ!」というタイプであるしています。

 第6章では「1・1型」について、このタイプは「無関心型」とも言われ、組織の一員としての身分を保つために、仕事をやり遂げるための最低限の努力しかせず、人間に対しても業績に対しても関心が薄い、「触らぬ神に祟りなし」というタイプであるとしています。

 第7章では「5・5型」について、このタイプは「中道型」とも言われ、コツコツと平凡な仕事に精を出す組織人で、業績達成と人々の気持ちへの配慮をバランスよく保てば組織はうまく機能し、自らの帰属欲求も充足される、「これだけやれば十分だ...」というタイプであるとしています。

 第8章では「日和見主義」について、このタイプは、自分の利益追求のためにあらゆるグリッド・スタイルを使い分けるタイプで、とにかく「自分の得になることがあるか」を最優先するタイプであるとしています。

 ここまで(第3章から第8章)は、業績にあまり貢献しない6つのリーダーシップ・スタイルについての説明でしたが、第9章では、本書が理想のリーダーシップ・スタイルとする「9・9型」について解説しています。このタイプは「チームマネジメント型」とも言われ、仕事に打ち込んだ人によって成果を上げてもらうタイプで、組織目的という共通の利害関係を通じてお互いに依存し合うことによって、信頼と尊敬による人間関係を樹立する、「一人は全員のために、全員は一人のために」というタイプであるとしています。第10章では、「9・9型」のリーダーシップを発揮するための実務的な着眼点や具体的なやり方について述べています。

 第11章では、「あなたも9・9型のマネジャーになれる」として、9・9型のリーダーシップを身につけるためにはどうすればよいかを説いています。第12章では、チームワークを改善するにはどうすればよいかを説き、第13章では、グリッド方式が組織開発にどう応用できるかを、最終第14章では、組織開発にどのような効用があるのかを説いています。

 リーダーシップおよび組織開発の名著とされる本ですが、7つのリーダーシップ・スタイルにそれぞれ対応する7人のメンバーから成る組織を舞台としたストーリー仕立ての解説になっているため、読み易く(しかも翻訳ではその7人が日本人の名になっている!))、一度は目を通しておきたい本。ほぼ同じ時期に三隅二不二が提唱した「PM理論」と似ているところもありますが、発表されてから何度か時代に対応して改訂されているところが米国らしいと言えるかもしれません。但し、この「全改訂」版で"古典"として確立した印象もあり、入手できる内に読んでおきたいものです。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

《読書MEMO》
●内容説明(表紙カバー 折り返し)
本書は、いろいろな面で進展を遂げてきたグリッド理論を、時代に対応して集大成・再構築した最新版の完訳である。特に、変革しつつある現代のマネジメントを踏まえたリーダーシップのあり方を、従来の五つのグリッド・スタイルに新たに二つを追加、動機づけ要因の分析、クリティークとスタイル改善への着眼点の掘り下げを行いつつ、追究する。21世紀に向けて、理想の管理者像を明示した究極のリーダーシップ論。
●目次
第1章 人的資源を活かす鍵―リーダーシップ
第2章 グリッド理論によるリーダーシップの分類
第3章 9・1型―強い者が勝ち!
第4章 1・9型―楽しくやろう
第5章 温情主義(9+9型)―俺は偉いのだ!
第6章 1・1型―触らぬ神に崇りなし
第7章 5・5型―これだけやれば十分だ
第8章 日和見主義―自分の得になることがあるか
第9章 9・9型―一人は全員のために、全員は一人のために
第10章 9・9型の実務適用の着眼点と具体的やり方
第11章 あなたも9・9型のマネジャーになれる
第12章 チームワークの改善法
第13章 グリッド方式による組織開発
第14章 組織開発の効用と将来の展望

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒【735】 C・レイモルド『最高の上司とは何か

提唱者自身による「状況対応型リーダーシップ」入門書。
1分間リーダーシップ8.JPG1分間リーダーシップ 旧.jpg  1分間リーダーシップ 新.jpg
1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法』['85年]『新1分間リーダーシップ』['15年]

SL理論ード.png 1985年に発表された本書は、リーダーシップのあり方を4類型にまとめ、それぞれ相手の状況、担当する事業の経験等、習熟段階に合わせて適切に使い分けると良いとする「状況対応型リーダーシップ」を提唱したものとして知られています。本の記述スタイルとしては、ある起業家が、熟練したマネジャー(1分間マネジャー)に助言を求めにいくという、「1分間シリーズ」の他の本と同じ物語風のスタイルとなっています。

 第1章「ある企業化の来訪」では、〈1分間マネジャー〉は、成功するためには「より懸命(ハード)に働くな。より賢明(スマート)に働け」と言い、「違った相手には違った触れ方(ストローク)を」するように助言しています。

 第2章「部下は〈1分間マネジャー〉をどう見ているか」では、〈1分間マネジャー〉の3人の部下が登場し、それぞれが〈1分間マネジャー〉との間で仕事上どのような管理スタイルになっているのかを話し、そこから〈1分間マネジャー〉が部下によってリーダーシップ・スタイルを使い分けていることが窺えるようになっています。

 第3章「リーダーシップ・スタイルを使い分ける」では、状況対応型リーダーになるには、
  ①リーダーシップ・スタイルを柔軟に使い分ける「柔軟性」、
  ②部下たちの要求(ニーズ)を診断する「診断力」、
  ③部下たちと何らかの合意を取り付ける方法を知る「取り決め」の3つのスキルが必要であるとしています。

situational-leadership-model.jpg そのうえで、
  ①指示型(リーダーは具体的な指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく監督する)、
  ②コーチ型 (リーダーは引き続き指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく監督するが、決定されたことも説明し、提案を出させ、前進できるように援助する)、
  ③援助型(リーダーは仕事の達成に向かって部下の努力を促し、援助し、意思決定に関する責任を部下と分かち合う)、
  ④委任型(リーダーは意思決定と問題解決の責任を部下に任せる)
の4つの基本的なリーダーシップ・スタイルを示し、「平等でないものを平等に扱うことほど不平等なことはない」としています。

 第4章「部下を診断する」では、部下の発達の段階を診断して、
  D1: <低>適正能力 x 高いやる気
  D2: <中>適正能力 x 低いやる気
  D3 : <高>適正能力 x まちまちなやる気
  D4: <高>適正能力 x 高いやる気
の4つの段階に分類し、
  D1の人はやる気はあるがやり方が分からないので、指示型を用い、始動をかけてあげる(S1:指示型)
  D2の人は能力はついてきているが、やる気が低いので、指示とともに援助・称賛・意思決定への参画による意欲向上をはかる(S2:コーチ型)
  D3の人は能力は高水準なため指示は少なくても良くなるが、自分自身に対する動機づけが弱い分、援助により自身と意欲を向上させる(S3:援助型)
  D4の人はすでに独り立ちして行動が出来るため、業務を委任する(S4:委任型)
という具合に、部下の発達の段階に応じたリーダーシップ・スタイルの使い分けをすると良いとしています、

 第5章「〈1分間マネジャー〉と状況対応型リーダーシップ」では、部下の適性能力とやる気を伸ばすには、部下への観察を通じて指示型・コーチ型から援助型・委任型にリーダーシップ・スタイルからを変えていくべきであるとしています。

 第6章「部下と取り決めをする」では、「状況対応型リーダーシップとは、部下に対して何をするかではない。部下といっしょに何をするかである」とし、また、目標設定に際して、
  S:Specific(具体的な)
  M:Measurable(測定可能な)
  A:Attainable(達成可能)
  R:Relevant(適切な関連がある)
  T:Trackable(追跡可能)
以上のSMART(スマート)になるようにすると良いとしています。

 終章である第7章「状況対応型マネジャーになる」では、「知りすぎて使わざるは、なお知らざるがごとし」とし、状況対応型リーダーシップを実際に使い、役立てることが大切であるとしています。

 本書で提唱されている「状況対応型リーダーシップ」は、人事パーソンにとって、とりわけリーダーシップ研修などを実施するに際しては、基本知識の部類に属するものと思われます。部下の目標を決め、目標に対する現在の部下の発達度から、リーダーシップのスタイルを使い分けるべきである、というのが本書の趣旨であり、マネジャーがリーダーシップを効果的に発揮するうえで実際に参考になると思われます。

 個人的には、先行の『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』 ('83年/ダイヤモンド社)で言っていた、部下マネジメントにおいて大切なのは、「目標設定、褒めること、叱ること」であるというのに比べれば、こちらの方がずっと研修や実務で使える洗練された理論のように思います。

 本書は、30年余りの時を経て『新1分間リーダーシップ―どんな部下にも通用する4つの方法』('15年/ダイヤモンド社)として改定されており、状況対応型リーダーに必要な3つのスキルが「柔軟性・診断力・取り決め」から「目標設定・診断・マッチング」に変わったり、SMARTの「M」が'Measurable'から'Motivating'に変更になったりしていますが、4種類のリーダーシップ・スタイルや、それぞれの部下の発達段階との対応関係など、基本的・中核的な部分では大きく変わっていません。「状況対応型リーダーシップ」を理解する上で、旧版・新版のどちらを読んでも差し支えないのではないかと思われます。本書の場合は、理論の提唱者によって書かれている本であること自体に意義があると思います。

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ファシリテーター型リーダーシップを提唱、その発揮ノウハウを噛み砕いて解説。

なぜ、あのリーダーはチームを本気にさせるのか?.jpgなぜ、あのリーダーはチームを本気にさせるのか?――内なる力を引き出す「ファシリーダーシップ」 (DOBOOKS)』(2018/06 同文舘出版)

 組織コンサルタントによる本書は、従来の「トップダウン型」のリーダーシップから、メンバーやチームの力を引き出す「ファシリテーター型」のリーダーシップへの転換を提唱しています。そして、ファシリテーター型リーダーシップの発揮には、人の部位になぞらえると、「耳:聴く、目:観る、口:問う/語る、手:手と手をつなぐ、足:踏み込む、頭:考える」の6つの機能の実践が伴うとして、この6機能の実践から成る新たなリーダーシップ・スタイルを、「ファシリーダーシップ」と名づけ、以下、6機能を章ごとに解説しています。

 1章では、耳:聴く(Listen)ということについて述べています。ここでは、リーダーは、メンバーに力を与え相互作用を生み出すために、話す前に「聴く」ことが必要であるとし、「聴く」力を高めるための7つの秘訣や、カウンセラーマインドなどリーダーが知っておくべき実践心理学の知識、「聴き合い、響き合う」ための場づくりの手法としての「1on1ミーティング」「リーダーズインテグレーション」「プラウド&ソーリー」などを紹介しています。

 2章では、目:観る(Insight)ということについて述べています。ここでは、リーダーとメンバーではもともと異なる視界を有しており、それを一致させるのがリーダーの役割であるとし、また、チェスター・バーナードの定義したグループとチームを分かつ組織成立の3要素(共通の目的・協同意志・コミュニケーション)を紹介しています。さらに、個人や組織の持つバイアス(偏見)にどのようなものがあるか、グループシンク(集団浅慮)を回避する「悪魔の代弁者」と呼ばれる手法や、ピーター・センゲが言うところメンタルモデルを見直す「5P」の観点、ジェームズ・C・コリンズ等が言うところの「企業衰退の5段階のシグナル」、エドワード・デノボの「6色の帽子思考法」などを解説し、著者自身の経験を基に、組織を見極めるための16の危険シグナルを紹介しています。

 3章では、口:問う(Inquire)/語る(Tell)ということについて述べています。ここでは、4つの問いかけ法(調査/提案/探求/共創)と4つの陥りがちな罠(詰問/命令/べき/執着)、対話・議論・会話の違いと対話が拓くプレゼンシングまでの4つのレベル、聞き手が奮い立つパワフルなストーリー語りの「5つのメソッド」、職場で実践できる「問う、語る」ための対話の場づくりの手法としての「他己紹介インタビュー」や「ポジションチェンジ・ダイアログ」などの手法を紹介しています。

 4章では、手:つなぐ(Connect)ということについて述べています。ここでは、リーダーに必要なシステムを活かす力として、物事をつながりで捉える力(「因果」で捉える、「循環」で捉える、「クリティカルパス」で捉える)、「抵抗勢力」とつながる力(イレブン>サポーター>フーリガン>野次馬)を紹介し、さらに、ジョン・ゴットマンが言うところの「心理的安全性」のために関係性悪化の4つの危険要因(①避難、②侮辱、③自己弁護、④逃避)を解毒する方法や、ミハイ・チクセントミハイが提唱したフロー理論を紹介し、キース・ソーヤーが提唱した、チームで力がみなぎるフロー状態「グループ・フロー」が起こりやすい10の条件を紹介、さらには、職場で集合知を生み出すための手法として、「TEA TIME/BAR TIME」などを紹介しています。

 5章では、足:踏み込む(Step into)ということについて述べています。ここでは、部下のやる気に火を灯す「ダメ出しフィードバック」とその黄金則「薪+FIRE」、承認力を高める「ポジティブフィードバック・ピラミッドモデル」、「承認」「改善」「表彰」のための場づくりの手法として、興味と思いやりある承認風土を創る「おかくれさん」、健全なダメを出し、改善活動につなげる「きらいなことボード」などを紹介しています。

 6章では、考える(Think)ということについて述べています。ここでは、「考える」ことを阻む5つの大きな壁~「経験」「前提」「抽象」「選択肢」「文脈」を紹介し、マインドフルネス瞑想で物事の本質を捉えることを勧めています。また、直感やひらめきを起こすための5つのステップや、潜在意識にアクセスするビジュアリゼーションという手法、衆知を集め、創造的に考える会議の場をつくっていくコツなどを紹介しています。

 以上のように、「ファシリーダーシップ」という考えを軸に、網羅的にリーダーシップ発揮のノウハウを解説しており、その密度は濃いように思いました。リーダーにとっての教科書となる本ですが、実践にまで落とし込んでおり、ファシリテーションに関わる人には役立つ知識や手法がぎっしりという感じ。書かれていることを一度に全部実践できるわけではないとは思いますが、知っておけばいつか使える時があるかもしれません。テキスト的な内容でありながらも分かりやすく噛み砕いて解説されており、さらに、合間に20の「小咄」が挿入されていて、例えばワンパターンから抜け出す「あいづち」を九九で81個並べて紹介したりしており、肩肘張らず楽しみながら読めて役に立つ本と言えます。

《読書MEMO》
●内容紹介
はじめに
・耳:聴く(Listen)メンバーに力を与え、相互作用を生み出すために、話す前に聴く
・目:観る(Insight) さまざま次元、角度、距離感で観ることで、行き詰まりを突破する
・口:問う/語る(Inquire/Tell)問いかけ、ストーリーを語り理屈を超え感情を揺さぶる
・手:手と手をつなぐ(Connect)境界線を越えたつながりの土壌を耕し組織を進化させる
・足:踏み込む(Step into)踏み込んだフィードバックで、本音が行き交う組織を作る
・頭:考える(Think)過去の成功体験を健全に疑い、今ここに立ち止まり、考え抜く
1章 耳:聴く(Listen)
・ 「聴く」力を高める7つの秘訣
・ 承認が与えられないと無自覚に展開される「心理ゲーム」
・ 「リーダーズインテグレーション」でチームを統合しよう!
・ 「プラウド&ソーリー」で真実の声に耳を傾けよう!  ほか
2章 目:観る(Insight)
・ グループとチームを分かつ組織成立の3要件
・ グループシンクを回避する「悪魔の代弁者」
・ メンタルモデルを見直す「5P」の観点
・ 16の危険シグナルであなたの組織を見極めよう!  ほか
3章 口:問う(Inquire)/語る(Tell)
・ 4つの問いかけ法(調査/提案/探求/共創)と陥りがちな罠(詰問/命令/べき/執着)
・ 対話、議論、会話の違いと 対話が拓くプレゼンシングまでの4つのレベル
・ 聞き手が奮い立つ、パワフルなストーリー語りの「5つのメソッド」
・ 「ポジションチェンジ・ダイアログ」で立場を超えた納得解を作ろう!  ほか
4章 手:つなぐ(Connect)
・ 「抵抗勢力」とつながる力~イレブン>サポーター>フーリガン>野次馬
・ 「心理的安全性」のために関係性悪化の4つの危険要因を解毒する
・ チームで力がみなぎるフロー状態に入ろう!
・ 職場で集合知を生み出そう! TEA TIME/BAR TIME  ほか
5章 足:踏み込む(Step into)
・ ダメ出しフィードバックの黄金則「薪+FIRE」
・ 承認力を高めるポジティブフィードバック・ピラミッドモデル
・ 「おかくれさん」で興味と思いやりある承認風土を創ろう!
・ 「きらいなことボード」で健全なダメを出し、改善活動につなげよう!  ほか
6章 頭:考える(Think)
・ 「考える」ことを阻む5つの大きな壁~「経験」「前提」「抽象」「選択肢」「文脈」
・ マインドフルネス瞑想で本質を捉える
・ ひらめきの神、ミューズを降臨させる5つのステップ
・ 衆知を集め、創造的に考える会議の場を開こう!  ほか

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組織論から入って、リーダー(またはリーダーを志す人)へのアドバイスになっている。

DREAM WORKPLACE1.JPGDREAM WORKPLACE.jpg なぜ、あなたがリーダーなのか 旧3.JPG Rob Goffee & Gareth Jones.jpg
DREAM WORKPLACE(ドリーム・ワークプレイス)――だれもが「最高の自分」になれる組織をつくる』(2016/12 英治出版)『なぜ、あなたがリーダーなのか? (ADL経営イノベーションシリーズ)』['07年] Rob Goffee & Gareth Jones
"Why Should Anyone Work Here?: What It Takes to Create an Authentic Organization""Why Should Anyone Be Led by You? With a New Preface by the Authors: What It Takes to Be an Authentic Leader"(2019)
Why Should Anyone Work Here.jpgWhy Should Anyone Be Led by You?:What It Takes To Be An Authentic Leader.jpg 原題は"Why should Anyone Work Here?"(なぜみんながここで働かなければならないのか?)。本書では、世界で一番働きたいと思う組織は、有能な人材を引きつけ、留まらせる灯台のようなところであり、社員と会社そのものから、常に一番よいところ引き出す場となる組織であるとしています。そして、著者ら(『なぜ、あなたがリーダーなのか』(原題:"Why Should Anyone Be Led by You?: What It Takes To Be An Authentic Leader" 2006))の著者でもある)は、世界中の人々に、理想の組織、すなわち最高の自分になれる組織とはどのようなものであるのかを問い続けた結果、回答は大きく次の6つの原則に分類されることが判ったとしています。

 ①違い(Difference)ありのままの自分でいることができる
 ②徹底的に正直であること(Radical honesty)今現実に起きていることを伝える
 ③特別な価値(Extra value)社員の強みと利益を理解し、強化する
 ④本物であること(Authenticity)アイデンティティ、価値観、リーダーシップ
 ⑤意義(Meaning)日々の仕事にやりがいをもたらす
 ⑥シンプルなルール(Simple rule)余計なものを減らし、透明性と公平性を高める

そして、これらの頭文字をとってこれを「夢(DREAMS)」の原則と呼び、以下、第1章から第6章までは、この6つの原則をひとつずつ詳しく述べ、各章の中でそれぞれの原則に沿ったシンプルな組織診断ツールを示すとともに、末尾にリーダーがとるべきアクションを整理しています。

 第1章「ありのままでいられるように」では、「違い」は埋めずに、むしろ広げるべきであるとして、思考プロセスや人生経験の「違い」を理由に人を雇い、価値観に対する見解の一致を求めながらも、個人が創造的な表現をする余地を認めよとしています。

 第2章「徹底的に正直である」では、今現実に起きていることを伝えるべきであるとして、コミュニケーションは正直に、かつ迅速に行うことなどを説いています。

 第3章「社員の強みと利益を理解し、強化する」では、ひとりひとりのために特別な価値を創造せよとし、能力開発のチャンスを与えること、社員に価値を付加することなどを推奨しています。

 第4章「『本物』を支持する」では、アイデンティティや価値観を重視し、自分の中にある「本物であること(オーセンティシティ)」を行動で示すことを説いています。

 第5章「意義あるものにする」では、日々の仕事にやりがいをもたらすにはどうすればよいかを述べており、意義あるものを見つけようと思ったら、様々な経験を取り入れ、また、あらゆる機会を使って、自分の組織の取り組みと成果を、広くコミュニティにつなげていくことを推奨しています。

 第6章「ルールはシンプルに」では、余計なものを減らして、透明性と公平性を高めることに努めよとし、物事がうまくいかなくても、新しいルールをつくりたいと思う誘惑を退けなさいとしています。

 さらに第7章では、本物の組織を作り維持するにはどうすればよいか、6つの原則を自分の組織の現状にカスタマイズする際に、リーダーとして行わなければならないトレードオフのパターンなどを示しています。

著者らはロンドンの組織行動学とリーダーシップの研究者ですが、各章とも組織の在り方から入って、組織診断ツールを示した上で、リーダーがとるべきアクションを整理しており、最終的にはリーダー(またはリーダーを志す人)に啓発を促す内容になっています。

 「6つの原則」は、それだけではやや抽象的な人生訓のような印象も受けなくはありませんが、多くの事例を紹介することで、読み進んでいく中で具体的にどのようなことを指すのかがイメージ出来るようになっていて、そのことがリーダーへのアドバイスに繋がっていきます(中にはややもやっとした感じのままのものもあったが、一方で、感動的なエピソードも少なからずあった)。

 ただし、本書で挙げた組織は、「6つの原則」の少なくともひとつ以上の達成に向けて努力していると思われるから取り上げられたのであるとのことで、それらの中で「6つの原則」をすべて解決した企業はひとつもないとしています。ですから、「こんなのウチでは無理だ」などと思わないで、自分たちに出来ることは何かという感覚で読んでいった方が、割合受け入れられ易いのではないでしょうか。

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現役の管理職にとっても次世代の管理職を育成するためのツールとして活用できる。

リーダーシップ徹底講座.jpgリーダーシップ徹底講座』(2018/04 中央経済社)

 本書は、マネジャーに求められるリーダーシップとマネジメントに関する知識を身につけることを目的として、リーダーシップやマネジメントを学ぶ学生や大学院生、次世代の管理職候補となる若手や中堅の社会人、さらに、現にマネジメントに関わっている現役管理職を対象に書かれたものです。

 第1章では、「マネジメントそしてマネジャーとは?」として、マネジメントとは何かということをドラッカーの主張などに基づいて説明し、『ハーバード流ボス養成講座―優れたリーダーの3要素』(2012/01 日本経済新聞出版社)の著者リンダ・A・ヒルらの研究から導き出されたマネジメントに関する誤解や、マネジメントに関するさまざまな論点を考察、また、組織の概念について、『経営者の役割―その職能と組織』 (1956/09 ダイヤモンド社)の著者チェスター・I・バーナードの近代組織論に基づいて解説しています。

 第2章では、「マネジメントの基本」として、マネジメントの基本となるマネジャーの人間観について、エドガー・H・シャインが『組織心理学』(1981/03 岩波書店)で論じている人間観のモデル(経済人・社会人・自己実現人・複雑人)に基づいて解説し、マネジメントを実行する上で必要不可欠なパワーに関するJ・フレンチとB・H・レイブンによる5類型を取り上げています。

 第3章では、「リーダーシップの基本」と題して、リーダーとは一体何かを、R・J・ハウスらが主張するリーダーシップが生まれる3つのパターン(任命されたリーダー、選挙で選ばれたリーダー、自然発生的リーダー)で解説、次に、マーティン・M・チェマーズの『リーダーシップの統合理論』(1999/02 北大路書房)など、リーダーシップ論の代表的なテキストにおけるリーダーシップの定義を比較検討し、また、リーダーシップを語る上で必要不可欠なフォロワーの存在について、『最前線のリーダーシップ―危機を乗り越える技術』 (2007/11 ファーストプレス)の著者ロナルド・A・ハイフェッツらの主張を紹介、さらに、『サーバントリーダーシップ』(2008/12 英治出版)の著者であるロバート・K・グリーンリーフのサーバント・リーダーシップについて解説しています。

 第4章では、「リーダーシップ論の展開」と題して、リーダーシップ論の歩みを、初期リーダーシップ研究における資質的アプローチ、行動アプローチ、状況アプローチの順でそれぞれの代表的研究を紹介し、それに続く、『カリスマ的リーダーシップ―ベンチャーを志す人の必読書』(1999/12 流通科学大学出版)の著者ジェイ・A・ コンガー、ラビンドラ・N・ カヌンゴらによるカリスマ的リーダーシップ論や、B・J・アボリオの変革型リーダーシップ論について解説しています。

 第5章は、「フォロワーの目から見たリーダーシップ」として、フォロワーの視点を重視したリーダーシップ研究を説明、具体的には、E・P・ホランダーの特異性―信頼理論を取り上げています。また、フォロワーのリーダーシップ認知について、B・コールダーのリーダーシップ原因帰属モデル、R・G・ロードのリーダーシップ情報処理モデル、L・R・オファーマンのフォロワーが抱く暗黙のリーダーシップ論について説明しています。また、J・R・マインドルの提唱したリーダーシップの幻想について解説しています。

 第6章では、「フォロワーシップについて考える」ということで、リーダーシップを受け入れるフォロワーに求められる行動としてのフォロワーシップについて考察し、『指導力革命―リーダーシップからフォロワーシップへ』(1993/11 プレジデント社)の著者ロバート・E・ケリーの提唱した「模範的なフォロワー」や、『フォロワーシップ―上司を動かす賢い部下の教科書』(2009/11 ダイヤモンド社))の著者アイラ・チャレフの提唱した「勇敢なフォロワー」を取り上げています。

 第7章は、「マネジャーに求められるもの」として、管理者行動論の諸研究を説明し、具体的には、『ザ・ゼネラル・マネジャー―実力経営者の発想と行動』(1984/03 ダイヤモンド社)の著者ジョン・P・コッタ―の「ゼネラル・マネジャー」、『マネジャーの実像―「管理職」はなぜ仕事に追われているのか』(2011/01 日経BP社)の著者ヘンリー・ミンツバーグの「マネジャーの仕事」と「マネジャーの実像」の議論、リンダ・A・ヒルらによる「マネジャーの3つの課題」について説明しています。

 本書の前身である『リーダーシップ入門講座―まとめ役になれる!』(2011/03中央経済社)から7年ぶりの改訂であるとのことですが、リーダーシップ論だけでなくフォロワーシップ論についての解説がなされているのが特徴で、さらに最新のリーダーシップ理論も織り込まれてアップデートされています。また、前著に比べ、マネジメント及び管理者行動について掘り下げているのも特徴です。

 テキスト的な本ですが、序章で述べられているように、現役の管理職にとっても、管理職としての経験を振り返って整理し、次世代の管理職を育成するためのツールとして活用できる本であるかと思います(索引はあるが、文中のキーワードを太字にするようなことはしていないのは、読み物としても読めるようんすることを意識したのか)。

 初学者には、なぜリーダーシップ理論を学ぶのか、それが実務に何の役に立つのかといった抵抗感が往々にしてあるものですが、理論をそのまま現実に適用するのではなく、その理論の基本的エッセンスを応用の足掛かりとし、自分なりのリーダーシップ・スタイルを確立させ、自分自身のコアを持つことは大切であり、そのためには、理論体系をまず把握するのが、毎週のように刊行される自己啓発本みたいなものを読み漁るよりずっと効率的であると、個人的には考えます。

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目に見えにくいフォロアワーシップというものを自身の経験から可視化して解説。

リーダーシップからフォロワーシップへ8.JPGリーダーシップからフォロワーシップへ.jpg 中竹竜二.jpg
新版 リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』 中竹 竜二・日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター
リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』['09年]
リーダーシップからフォロワーシップへ    .jpg 本書は、著者が2006年に清宮克幸氏の後を受け早稲田大学ラグビー蹴球部の監督に就任し、2007年度から2年連続で全国大学選手権2連覇を成し遂げた際に刊行された本の新版であり、新版として刊行するにあたり、「いいリーダーの資質」についてまとめた終章が加わっています(第1~7章はほぼ旧版を踏襲)。

 第1章では、リーダーシップとフォロアワーシップを同じレベルで考えなければならない時代がやってきたとし、「リーダー」と「リーダー以外」を分けて考えると、組織に対してそれぞれの立場で考えなければならないことは、
 ①リーダーが考える自分自身のリーダーシップ(第2章)
 ②リーダーが考える自分以外のフォロワーシップ(第4章・第5章)
 ③フォロワーが考える自分自身のフォロワーシップ(第6章)
 ④フォロワーが考えるリーダーがとるべきリーダーシップ(第7章)
 の4つあるとしています。

 第2章では、リーダーのためのリーダーシップ論を説いています。まず、ストッグディルの特性論を紹介し、彼はリーダーの持つ特性として、「公正」「正直」「誠実」「思慮深さ」「公平」「機敏」「独創性」「忍耐」「自信」「攻撃性」「適応性」「ユーモアの感覚」「社交性」「頼もしさ」の14を挙げたとし、また、優秀なリーダーたちが持っている能力を、分かりやすく表現したシリーズとして「~力」という考え方があり、そこで挙げられる「力」には情報収集力、分析力、実行力、準備(段取り)力、決断力、対応力、論理力、創造力、マネジメント力、俯瞰力、交渉力、企画力、発想力、目標設定力、課題解決力...等々があるが、管理職研修ワークショップからの吸い上げなどから全ての要素がリーダーシップの大切な能力であることは確認できるものの、一つひとつが大切であることと、一人の人間がそれらの全ての要素を持つべきだということとは全く異なり、この両者を混同すると、「極めて万能で優秀な神様みたいな能力を備えたリーダー以外は、いわゆる理想のリーダーシップを発揮することは、非常に困難である」という矛盾に陥ってしまうとしています。一方、非理想のリーダー像には大きな共通項が見出しやすく、そこから逆説的に考えると、理想のリーダーの条件は、「ブレない」「言動に一貫性を持っている」ことであるとしています。

 これを受け、第3章では、リーダーとしてのスタイルを確立させることの必要性を説いています。ここでは、「中竹のスタイル」として、①日本一オーラのない監督、②期待に応えない、③ 他人に期待しない、④怒るより、謝る、⑤選手たちのスタイル確立を重視の5つを挙げ、さらに、スタイル確立の鉄則として、①多面的な自己分析、②できないことはやらない、③短所こそ光を!、④引力(周囲のプレッシャー)に負けない、⑤焦らず、勇気を持って、の5つを掲げ、また、Vision(ビジョン)・Story(ストーリー)・S cenario(シナリオ)の3つのフェーズを意識してマネジメントするVSSマネジメントというものを提唱しています。また、スタイルを作り上げるプロセスで起こりがちな失敗として留意すべきこととして、①「スタイルがないのがスタイル」は×、②スキルが全くなければスタイルなし、③安易なオンリーワン思考、④無謀な夢、⑤情報過多での混乱、の5つを挙げています。

 第4章は、リーダーのためのフォロワーシップ論です。ここでは、フォロワーを育てるためには、リーダーがまず理想のフォロワー像を描き、部下に主体性を持たせることが大切で、「マニュアル化」や「安全性」はむしろ自主性逓減に繋がることがあるとしています。部下の成長機会を手助けするのがリーダーの役目であり、そのためには、フォロワーの資質と目標に合った環境を整えるとともに、フォロワー一人ひとりのスタイル構築を支援しなければならないとしています。

 第5章では、具体的なフォロワーシップ実践の際の重要な思考スキルと手法を紹介しています。ここでは、(フォロワー育成の中竹メソッドとして)フォロワーとの個人面談におけるチェックポイントとして、①ポジティブ(前向き)で未来志向であるか、②弱点克服に偏りすぎていないか、③周りの引力に負けていないか、④スタイルがオンリーワンになっているか、⑤スタイルを発揮する状況をイメージできているか、の5つを挙げています。そして、自らの経験から、個人面談を通して、選手の短所に光を当ててあげ、相手の懐に入り込み、ワンサイズ大きなスタイルを目指させることで、お互いにとってエネルギーとなる面談となるとしています。また、フォロワーが自分たちで課題を見つけ、解決していくために欠かせないチームトークを推進するために必要なスキルと心構えについても述べています。

 第6章は、フォロワーの立場になって、どう組織を支えていくかが論じられています。ここではまず、組織と人間の関係性に注目し、日本と西洋における個人と組織の一般的な捉え方を比較したうえで、フォロワーの5つの選択肢として、①自分自身の個としての成長を最優先、②仲間(フォロワー)と共に成長する、③リーダーを成長させる、④リーダーを変える、⑤組織を脱退する、の5つを挙げ、前2つのパターンがフォロワーのためのフォロワーシップ行動であり(第6章で解説)、後3つは「フォロワーのためのリーダーシップ」の考え方であるとしています(第7章で解説)。そして、自分自身の個としての成長を考えるには、まず、フォロワーであることのメリットを理解しておくことが重要であるとし、また、自分だけでなく、仲間と共に成長したいと思った場合は、組織に存在する課題をプロジェクト化するとよいとしています。

 第7章は、フォロワーが考えるリーダーシップ論です。ここでは、リーダーのプライドをコントロールすることを説き、その一つの方法として、リーダーそのものの人格ではなく、リーダーと言う立場に敬意を払うポジションリスペクトという考え方を紹介しています。

 2009年刊の本書旧版の巻末にある「おそらくこれから数年の間に、多くの組織においてリーダーシップからフォロワーシップへと議論の焦点が移行するだろう」という著者の予測は、当たったと言えるかと思います。ただし、著者も指摘しているように、トップダウン型のリーダーシップは目に見えやすく、一方で、フォロワーシップは、努めて目を凝らさなければなかなか見えてこない面があり、ラグビーチームの監督としての著者自身の経験に基づいて書かれた本書は、そうした意味ではその見えにくい部分を、著者なりの切り口で可視化して解説しているように思いました(何よりも実績があるので説得力がある)。

 スポーツチームの監督がチームが優勝したりして本を出すのはよくあることですが、本を出した次の年にはリーグなどで最下位だったりすることもあり、個人的には何となくそうした本を読むことに対してそう積極的でなかったです。そうしたこともあり、本書も刊行時にはすぐに読みませんでしたが、こうして新版を読んでみると、この著者の本は当時から「ビジネス書」(ビジネスの世界に応用可能な普遍性を有する本)だったのだなあと思いました。

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部下を不調に追いやる「危険な上司」4タイプの特徴と対処法を分かりやすく説く。

『上司が壊す職場』.JPG上司が壊す職場.jpg  「新型うつ」な人々.jpg 劣化するシニア社員ード.jpg
上司が壊す職場 日経プレミアシリーズ』 『「新型うつ」な人々 (日経プレミアシリーズ)』『劣化するシニア社員 (日経プレミアシリーズ)

 本書は、産業カウンセラーであり、本書と同じ日経プレミアシリーズにも『「新型うつ」な人々』(2011/06)、『劣化するシニア社員』(2014/02)などの著書がある著者が、自身のカウンセラーとしての経験則をもとに、部下を不調に追いやる上司の特徴とその対処法に分かり易く説いた本です。

 第1章では、職場におけるメンタル不調の7割は、上司が原因で起こるとしています。そして、部下を不調にさせる管理職のおよそ半分(全体の3分の1)は、マネジメント能力の未熟さ、つまり「スキル不足」の問題を抱えているとしています。一方、残りの3分の1は、上司自身の特性、つまりキャラクターに偏りがあるケースであるとし、本書ではこの部分に注目し、このタイプを「危険な上司」と呼び、こうした上司が存在するだけで、そこは「心が折れる職場」となるとしています(「『部下も悪い』と考える会社は危ない」とも言っている)。

 著者は、そうした危険な上司は、自身に問題がある自覚もなければ、罪悪感もなく、他人に気を配れず、他罰的で、極度に「自己中心」な思考をする傾向にあり、無自覚にパワハラ問題を起こし続けるとしています(「『自然な言動』で部下を追い込む」と言っている)。そのうえで、「危険な上司」を、周囲が目に入らず、空気が読めない「機械型」、相手を"敵"と認識すると感情的に攻撃する「激情型」、常に賞賛を浴びたい、特別視されたい「自己愛型」、部下の気持ちよりも自己の目的を重視しすぎる「謀略型」の4タイプに分類し、第2章から第5章の各章で、それぞれのタイプを詳説するとともに、その対処法を示しています。

 「機械型」は、興味の幅が狭く、段取りが下手で、普段は部下の仕事に全く関心がないのに、融通は利かず、どうでもよいことを細かく注意してくるタイプです。周囲の目を気にせず、荷物が多くカバンがぱんぱん、デスクが異様に散らかっているか、逆にクリップ一つないほど片付き過ぎている人にこのような特徴が出やすいとのことです(その性格が変わらない場合は、「うちの上司はそういう人」と割り切って考えるのがお勧めとのこと)。

 「激情型」は、部下の些細な一言で、突然逆上し、罵声をあびせかける典型的なパワハラ上司で、自分が信頼する人にはとことん尽くすが、それが裏切られたと感じると、感情のコントロールができなくなって相手を攻撃してしまうタイプです。会社や職場への不満を話し出したら止まらず、何事も根に持ちやすいとのことです。ひどいケースでは、激昂の末に暴力を振るう場合もあり、こうなるとパワハラの域を超えるとしています(そもそも、激情型の人を上司に就かせないよう、会社側は見きわめる必要があると)。

 「自己愛型」は、「あの人は有能だ」と思われることが本人にとっての最大目標であり、「部下の手柄は自分の手柄」と考えているのに、自身のミスは、その責任を平気で部下へ押し付けるタイプです。電話の声が必要以上に大きく、周りに聞こえるように仕事を進めたり、「忙しさ自慢」をしてきたりするなど、面倒くさい「かまってちゃん」が多いとのことです(賞賛をし続ければ敵意の対象とはされないため、部下側の対応は比較的容易だと)。

 「謀略型」は、支配欲や権利欲がとても強く、「邪魔」と感じた部下は躊躇なく切り捨てられる「最も危ないタイプの上司」であり、他のタイプは自身の感情をコントロールできないため、部下や組織を壊してしまうという側面があるが、このタイプは、自分の目標を達成するために「理知的」に行動しているのが特徴。結果のためには手段を選ばず、部下の弱みを最大限利用し、自分のせいで部下がつらい目にあっていても良心が痛むことがない。口がうまく、自分を「できる上司」だと演出するのを得意とする人が多いとのことです(部下側の対処が最も難しいタイプで、「離職者の続出、職場の澱んだ空気」の責任者であると)。

 第6章では、こうした「危険な上司」がカウンセリングなどを通して変われるか、もし行動様式を変えようとするならば、どのようなカウンセリング内容になるかを、専門家の立場から4つのタイプごとに解説しています。また、こうした個別対応もさることながら、「危険な上司」を生み続け、メンタル不調者を多く出す組織、いわば「危険な会社」というものも多く目につくとしています(「危険な上司」の類型を大まかにでも理解しておけば、自らの職場で起こっている問題を明示的に認識する助けとなるが、最終的は組織的な取り組みが求められるということになる)。

 そこで、最終章の第7章では、「危険な上司」を生まない会社になるにはどうすればよいか、幾つかの提言をしています。この中で、ある職場で問題を起こしたりした上司を、同じ職位のまま別の職場に「たらい回し」するのは、問題の先送りであるとしています。また、ライン管理職中心の人事を見直すべき時代にきているのではないかとも述べています。

 本書では、カウンセリングの手法を示しつつも、カウンセラーの立場でできることには限界があり、「人事上の判断」でしか、真の解決はできないとしています。また、各章で、誰を管理職に登用するかの判断が非常に重要になってくるとしています。意外と、パワハラ上司になる危険性というのは、管理職登用に際してはあまりチェックされなかったりすることもあるのではないか思われます。その意味では教唆的な内容であり、人事パーソンとって自らの気づきを促すために一読してみるのもよいかと思います。

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前著『最前線のリーダーシップ』の実践編と言えるか。

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最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意志とスキル』ロナルド・A・ハイフェッツ in NHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)
最前線のリーダーシップ
最前線のリーダーシップ.jpg 本書(原題:Practice of Adaptive Leadership: Tools and Tactics for Changing Your Organization and the World、2009)は、ハーバード・ケネディスクールの教授らによるもので、著者の一人ロナルド・ハイフェッツ教授はNHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)で知られています。また、本書は、ハイフェッツ教授の『リーダーシップとは何か!』('96年/産能大学出版部、原題:Leadership Without Easy Answers、1998)や『最前線のリーダーシップ』('07年/ファーストプレス、原題:Leadership on the Line: Staying Alive Through the Dangers of Leading" 2002、マーティ・リンスキーとの共著、先月['18年10月]新訳版刊行)の続編とも言える内容であり、前著で培われてきた考えを更に推し進め、「アダプティブ・リーダーシップ」というものを強く提唱するものとなっています。

 本書の第1部「イントロダクション:目的と可能性」の第2章で、アダプティブ・リーダーシップとは、難題に取り組み、成功するように人々をまとめあげ動かしていくことであるとしており、リーダーシップで失敗する最大の原因は、「適応課題」(問題の当事者が適応することによってのみ前進させられる課題)を「技術的課題」として対処してしまうことにあるとしています。そして、アダプティブ・リーダーシップでは、観察、解釈、介入という3つの主要な活動を反復するとし、ステージごとに、そのコツを身につけることが大切であるとしています。以下、第2部から第5部にかけてが、そのプロセスの実践編となっています。

 第2部「システムを診断する」では、第5章で、観察によってシステムをどのように診断するか、技術的要素と適応要素はどう判断するかを述べ、適応課題の類型を示しています。第6章では、政治的状況をどう診断するか、第7章では、適応力の高い組織にはどのような特性があるのかを述べています。

 第3部「システムを動かす」では、第8章で、システムを解釈する際の方法を述べ、第9章で、効果的な介入をどうデザインするのかを述べています。そして、第10第では政治的に行動する方法を、第11章では対立を組織化する方法を、第12章では適応力の高い文化を構築する方法を述べています。

 第4部「自分をシステムとして認識する」では、第13章で、どのようにして自分自身に目を向けるかを述べ、第14章では自分自身の忠誠心を特定する方法を、第15章では自分自身のチューニングを確認する方法を説いています。更に、第16章では自身の能力の容量を広げるにはどうすればよいか、第17章では自身の役割をどう把握するか、第18章ではどうやって目的を明確にするかを述べています。

 第5部「自分を戦略的に動かす」では、第19章で、目的とつながり続けることの、第20章で勇気をもって参画することの、第21章で人を鼓舞することの重要性とコツをそれぞれ説き、第22章では、リーダーシップを一つの実験として考える考え方を提唱しています。そして、最後の第23章では、成長し成功するためのポイントを述べています。

 著者の前著『最前線のリーダーシップ』では、「ダンスフロアから1歩出てバルコニー席に上がる」という表現を用いて、まず起きていることの全体像を知るべきであるとしていましたが、本書では、第2部以降、アダプティブ・リーダーシップにおける、観察、解釈、介入というプロセスの解説を進めていくうえで、随所で「バルコニーにて」というコーナーで観察すべきポイントを示し、「現場での実践演習」というコーナーで、実験へのヒントを紹介しています。それらヒントは啓発的であり、納得性が高いように思いました。

 第12章で、適応力の高い組織の特徴として、「エレファント(Elephant in the room):重大な問題でその場にいる誰もがその存在を認識しているが、見て見ぬふりをされているもの」の指摘が日常的行動としてなされていることをトップに挙げているのが個人的に印象に残りました。

 また、システムの診断と併せて、自分自身をシステムとして認識することを説いているのは興味深かったです(第2部がシステムの診断、第3部がシステムを対象とした行動、第4部が自分自身の診断、第5部が自分自身を対象とした行動について書かれていることになる)。一方で、スキルに比重を置いてはいるものの、全体を通しては、オーソドックスなリーダーシップ論であるようにも思いました(突飛なことは何一つ言っていない)。但し、示された多くのヒントは大いに啓発的であると思います。

 個人的には、『最前線のリーダーシップ』(個人的評価は◎)から先に読んだのが良かったかもしれません。『最前線のリーダーシップ』も、リーダーシップ行動に伴う危機をどう乗り越えるのか、その方法や技術について説いた本でしたが、『最前線のリーダーシップ』の方がよりコンセプチュアルで、本書の方は、それに比べると("実践の書"を謳っている分)テクニカルかもしれません。本書単独で読んでも得られるものは少なからずあるかと思います(但し、実践してこそ意味があることを忘れてはならない)。

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「科学的モチベーション論」入門。モチベーションの有無よりその理由に注目。

会社でやる気を出してはいけない』.JPG会社でやる気を出してはいけない.jpg  Susan Fowler.jpg Susan Fowler
会社でやる気を出してはいけない

 世界30カ国以上の国々でリーダーシップ・コンサルタント、コーチとしての仕事に携わった実績を持つという著者による本です。タイトルは刺激的ですが(原題"Why Motivating People Doesn't Work...and What Does")、本書のベースにある考え方は、「人間はどんな時でもモチベーションを持っている」ということ、問題は「モチベーションに有無ではなく、モチベーションの理由」であって、「仕事へのモチベーションがあればあるほど望ましいという考え方」は、単純すぎるどころか馬鹿げている」というものです。モチベーションには科学的な裏付けがあり、「科学的にモチベーションをマネジメントする方法」を示したものが本書であるとのことです。

 第1章「モチベーション・ジレンマ」では、他人のやる気を引き出そうとしてもうまくいかない理由を解明し、その代替案となる「モチベーション・スペクトラム」というものを提案しています。モチベーション・スペクトラムとは、横軸に「心理的欲求」、縦軸に「自己制御力」を取り(この「心理的欲求」と「自己制御力」については第2章、第3章で改めて解説している)、その高低によって「無関心」「外発的」「義務的」「協調的」「統合的」「内在的」の6種類のモチベーションタイプを配したもので、前3タイプを「後ろ向きタイプ」、後3タイプを「前向きタイプ」のモチベーションとしています。

 第2章「モチベーションっていったい何?」では、人間に備わっているモチベーションの本質を知り、それを利用することで得られるメリット、それを省みないことによる代償を明らかにしています。ここでは、モチベーションの本質とは、「自律性」「関係性」「有能感」を満たしたいという人間の「心理的欲求」であるとしています。

 第3章「何かに駆り立てられる『ドライブ』の罠」では、結果を出そうとがむしゃらにならなくても、なぜかよりよい結果が出せる方法を紹介しています。そこで鍵になるのは「自己制御力」ですが、「マインドフルネス」「価値観」「目的」の3つが自己制御力を育む手段となるとしています。

 第4章「モチベーションはスキル」では、自らのモチベーションの質を変えていくために個人がなすべきことと、そのために役立つスキルとして、①現在のモチベーションタイプを見きわめる、②前向きタイプのモチベーションにシフトする、③自らを振り返る、という3つを挙げています。

 第5章「モチベーションをシフトする」では、部下のやる気をより質の高いものへと変えていくためのリーダーの会話術を披露し、第6章「前向きなモチベーションへのシフトを阻む5つの固定観念」では、リーダーとしての言動に悪影響を及ぼしている固定観念や価値観を見定め、部下が前向きなモチベーションを持てるよう促し支援する最善策を紹介しています。第7章「前向きなモチベーションが約束するもの」では、モチベーションに対する新たなアプローチに秘められた可能性を、「組織」「リーダー」「職場での成功を目指す人」の3つの観点から考察しています。

 前半部分が理論編で、後半にかけて実践編になっていくという感じでしょうか。全編を通じて事例を織り込んで解説しているため、読みやすいものとなっています。「マネジメントは科学である」というアメリカ的な考え方が、モチベーションも同様に科学的裏付けがあり、モチベーションを科学的にマネジメントすることで、自分や相手のモチベーションを前向きなものにすることが可能となる、という考え方に敷衍されている本と言えるのではないかと思います。

 これはこれで一つの考え方であると思いますが、「マズローの欲求五段階説」など古典的理論に拘泥されない新しいモチベーション理論であり、自分自身にも相手にも、またチームやプロジェクトにも当てはまる考え方でもあるように思いました。一方で、"理論書"というよりむしろ"啓蒙書"として読める面も多くあるかもしれません(個人的には多分にそう読んだ。リーダーに対する警句がいっぱい出てくる)。確かに、科学的なモチベーション論と精神論の境界は難しいように思いますが、本書において言語化された概念を、もう一度自らの頭の中で再整理してみるもの、その「科学的モチベーション」に一歩近づく手立てではないかと思います(帯に「『科学的モチベーション』のはじめ方」とある)。

 "啓蒙書"として読むと楽に読めるけれど、"理論書"として読むと結構コンセプチュアル・スキルを要する本であったかもしれません。

《読書MEMO》
●人はいかなる場合でもモチベーションを持っています。問題はやる気があるかどうかではなく、なぜやる気があるかなのです。
●リーダーとしてなすべきは、職場で部下が関係性を実感できるように計らうことです。それは、互いに尊重し合っていると思えるよう、誠意をもってつながっていると感じられるよう、自分より大きなものに貢献できるよう導くことにほかなりません。
●人のやる気を引き出そうとしてもうまくいかないのは、関係性を感じるよう他人に無理強いすることができないからです。
●従業員は職場に関して、頼りになるか否か、安心できる場か不穏な場か、信頼できるか否か、というふうに絶えず評価を下しています。そして、信頼性があり安心できる職場環境のほうが高い自己制御能力を持てる可能性がずっと大きいのです。
●皮肉にも、後ろ向きタイプのモチベーションが生み出すエネルギーは中毒性を持っており、それと同時に人を疲弊させます。(中略)マイナスのエネルギーを維持するには、原因を問わず、怒りを燃やし、失望し続けるしかありません。
●前向きタイプのモチベーションが持つエネルギーは、後向きタイプのモチベーションが放つマイナスのエネルギーにはけっしてかないません。
●価値観は高い自己制御力を支える柱です。それなのに、仕事に関して自分はどんな価値観を持っているかと疑問を抱き、深く考えたことのある人はほとんどいません。
●従業員は外発的モチベーションに夢中になると、他人や物に操られるようになり、知らず知らずに自律性を失ってしまうのです。
●人は、自律性を損ねるような職場をつくるリーダーに対して憤りをかんじます。そのうえ、結果を出せと部下を追い立てる上司を利己的だとみなします。
●どんな感情でも容認するが、どんな行動でも容認できるわけではない、という姿勢を持ちましょう。感情を察知し、それを受け入れ、対処するのです。
自らの心の声に耳を傾けて、感情が重大な役割を果たしていることを認めて、自己制御力を鍛えてください。
●権力を手にしたのだから、けっしてそれを使ってはいけない。優れたリーダーになれるのは信頼と尊敬を集めるからであって、権力があるからではない
●リーダーとは部下が心理的欲求を満たしうる職場づくりを担う人間である。

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ルーキーの強み(ルーキー・スマート)はリーダーにこそ求められる。

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ルーキー・スマート』『メンバーの才能を開花させる技法』リズ・ワイズマン
Liz Wiseman Recognized By Thinkers50 As Top Leadership Thinker
リズ・ワイズマン 2.jpgオラクル.png 著者のリズ・ワイズマンはオラクルで長年人材育成に携わった人で、前著『メンバーの才能を開花させる技法』('15年/海と月社)では、リーダーの2つの類型として「消耗型リーダー」と「増幅型リーダー」があり、消耗型リーダーは自分の知性に溺れ、メンバーを低く見て、組織にとって大切な知性と能力を損ない、一方、増幅型リーダーはメンバーの知識を引き出すことで、組織の中に伝染力のある集合知を築くとしていました。

 本書では、はじめて経験する課題に取り組むルーキーに着目し、ルーキーの潜在力に目覚め、彼らをもっと活用することを説いています。さらには「だれもが永遠にルーキーでありつづけられる」として、自分自身もマンネリと決別し、ルーキーならではの強み(ルーキー・スマート)を身につけることを勧めています。そして、これまでの「経験」に「ルーキーのパワー」が加われば、個人としても組織としても非常に強みを発揮できるようになるとしています。

 第1部「ルーキー・スマートを手に入れる」の第1章では、著者らの調査からわかったこととして、はじめて経験する課題に取り組むルーキーは、目覚ましい成果を上げることができ、多くのベテランと肩を並べ、イノベーションが求められる局面などではベテランを凌駕することも多いが、そうした自覚あるルーキーの示す思考・行動にはパターンがあるとしています。著者はそれを「ルーキー・スマート」と名づけ、ルーキー・スマートには、「バックパッカー」「狩猟採集民」「ファイアウォーカー」「開拓者」の4つのモードがあり、同じ人が局面ごとにさまざまなモードに入るとしています。そして、第2章から第5章にかけて、各モードとその思考パターンを解説しています。

 「バックパッカー」とは、重荷がなく、失うものがない者のことを指し、ベテランが"守り"思考であるのに対して、ルーキーは無制約で自由な思考で動くことができるとしています。「狩猟採集民」とは、知識や専門技能が未熟であるため、周りの世界を理解しようと努め、導きを求めて他の人の力を借りようとする特性を指しています。「ファイアウォーカー」とは、自信がないため慎重に、かつ同時に、あたかも初心者の火渡りのように素早く行動する特性を指しています。「開拓者」は、地図に記されていない、しばしば不快な土地に乗り出していく者を指し、"定住者"であるベテランと違って、未知の世界へ乗り出すために、ハングリーで絶えず精力的に行動する特性を指しています。

 第2部「ルーキー・スマートの育み方」の第6章では、「永遠のルーキー」であるための資質として、好奇心、謙虚さ、遊び心、計画性の4つを掲げています。第7章では、ルーキー・スマートは若者や未経験者だけのものではなく、どんなに経験や実績が豊富な人でも自分を再生させ、ルーキーへ回帰できるとして、それを実現するための4つの戦略(①リーダーから学習者へ、②非快適ゾーンに足を踏み入れる、③小さな行動をとる、④若々しさを取り戻すための手順を確立する)を示しています。

 第3部「人に続いて組織も変わる」の第8章では、リーダーがルーキーを活かすための方法として、①方向性を示したうえで自由を与える、②建設的な「ミニ試練」を与える、③安全ネットつきの綱渡りをさせる、の3つを挙げています。また、ルーキーとベテランの効果的な組み合わせ方法や、チームや組織にルーキーらしさを取り戻す方法についても述べています。

 全体を通して、調査に基づいて書かれているため説得力があります。ルーキーに着目した本ですが、著者の専門はリーダーシップの実践的研究であり、本書におけるルーキー・スマートも、最終的には年齢的な枠を超えた特性的なものであって、むしろ、リーダーが柔軟な思考や果敢な行動力、挑戦者の精神を失わないためにはどうすればよいかを説いた本であるように感じられました。ルーキーの強み(ルーキー・スマート)はリーダーにこそ求められるという意味で、たいへんユニークな視座を提供していて、啓発度は高かったように思います。<

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目新しいことが書かれているわけではないが、再啓発される部分はあった。

フィードバック入門es.jpgフィードバック入門5.JPGフィードバック入門.jpgフィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術 (PHPビジネス新書)』['17年]

 本書では、上司から部下へのフィードバックについて、フィードバックは「成果のあがらない部下に、耳の痛いことを伝えて仕事を立て直す」部下指導の技術であるとし、コーチングとティーチングのノウハウを両方含んだ、まったく新しい部下育成法であると捉えています。

 第1章「なぜ、あなたの部下は育ってくれないのか?」では、マネジャーが置かれている部下育成が困難な現況を分析し、フィードバックこそ最強の部下育成方法であり、フィードバックは、【情報通知】(ティーチング的)=たとえ耳の痛いことであっても、情報や結果を通知すること(現状を把握し、向き合うことを支援)と【立て直し】(コーチング的)=部下が自己の業績や行動を振り返り、行動計画をたてる支援を行うこと(振り返りと、アクションプランづくりの支援)から成るとしています。

 第2章「部下育成を支える基礎理論 フィードバックの技術 基本編」では、部下育成の基礎理論として「経験軸」と「ピープル軸」を掲げ、「経験軸」の考え方は、部下に適切な業務経験を与え、ストレッチゾーン(挑戦空間)を促すことであり、「ピープル軸」の考え方は、「業務支援」「内省支援」「精神支援」による面の育成であるとしています。そして、フィードバックとの関係では、【情報通知】=経験軸+ピープル軸「業務支援」、【立て直し】=ピープル軸「内省支援」+「精神支援」となるとし、耳の痛いことを伝えて耐え直すフィードバックの技術を、フィードバックのプロセス順に解説しています。

 第3章「フィードバックの技術 実践編」では、「あなたは、相手としっかりと向き合っているか?」「あなたは、ロジカルに事実を通知できているか?」などフィードバックの実践における5つのチェックポイントと、フィードバック前には必ず「脳内予行演習」すること、フィードバックの内容も記録することなど、フィードバックの8つのTips(コツ)を示しています。

 第4章「タイプ&シチュエーション別フィードバックQ&A」では、すぐに激昂してしまう「逆ギレ」タイプや何を言っても黙り込む「お地蔵さん」タイプ、から目線で返される「逆フィードバック」タイプなど、部下のタイプ&フィードバックのシチュエーション別に、上司がそれらにどのように対処すべきかを、Q&A形式で解説しています。

 第5章「マネジャー自身も成長する! 自己フィードバック・トレーニング」では、フィードバック力をつける2つのポイントとして、自分自身のフィードバックを客観的に観察することと、自分自身もフィードバックされる機会を持つことを挙げ、フィードバック力をつけるトレーニング方法や自分自身をフィードバックし続けるコツを紹介しています。

 前半部分はややコンセプチュアルですが(米国のビジネス書によく見られるタイプか)、後半になればなるほどマニュアル的になり、実践を意識した入門書になっています。全体としては、フィードバックの考え方やチェックポイントを、著者なりにその研究の成果に基づいてまとめたものであると言えます。ものすごく目新しいことが書かれているわけではないけれども、一つのコンセプトのもとに体系的に整理されていることによって、改めて啓発される箇所はそれなりにあったという印象です。中には分かっていてもそれを実践するのがなかなか難しいのだと言いたくなるような箇所もあるかもしれませんが、それが習得できればそれなりに役立ち、十分に効果的であると思われます。そうした意味では、自己啓発のつもりで読んでみるのもいいのではないかと思います。

《読書MEMO》
●フィードバックのプロセス(第2章)
・事前......SBI情報の収集⇒「1to1」を中心に
・フィードバック
①信頼感の確保
②事実通知」鏡のように情報を通知する
③問題行動の腹落とし:対話を通して現状と目標のギャップを意識化させる
④振り返り支援:振り返りによる真因探究、未来の行動計画づくり
⑤期待通知:自己効力感を高めて、コミットさせる
・事後......フォローアップ
●フィードバックの実践 5つのチェックポイント(第3章)
1.あなたは、相手としっかりと向き合っているか?
2.あなたは、ロジカルに事実を通知できているか?
3.あなたは、部下の反応を見ることができているか?
4.あなたは、部下の立て直しをサポートできているか?
5.あなたは、再発予防策をたてているか?
●フィードバックにまつわる8つのTips(コツ)(第3章)
Tips①:フィードバック前には必ず「脳内予行演習」
Tips②:フィードバックの内容も記録する
Tips③:耳の痛いことを言った後で無駄に褒めない
Tips④:フィードバックは「即時」と「移行期」にこそ行う
Tips⑤:フィードバックの沈黙時には時空間を変える
Tips⑥:フィードバックの強烈なストレスと向き合う方法
Tips⑦:「嫌われるもの仕方がない」という覚悟を持とう
Tips⑧:どうしてもフィードバックが難しいときもある
●タイプ&状況別フィードバックQ&A(第4章)
・すぐに激昂してしまう「逆ギレ」タイプ
 ⇒こちらから具体的に改善策を聞く
・何を言っても黙り込む「お地蔵さん」タイプ
 ⇒こちらも負けじと黙り込む
・上から目線で返される「逆フィードバック」タイプ
 ⇒「もし君が上司だったら~」と仮定法で意見を求める
・言い訳ばかりしてくる「とは言いますけれどね」タイプ
 ⇒どんどんしゃべらせて、矛盾を炙り出す
・「根拠なきポジティブ」タイプ/すぐに「大丈夫です!」タイプ
 ⇒なんとかなると思う理由を具体的に聞く
・別の話題にすり替える「現実逃避」タイプ
 ⇒根気よく話を元に戻して、何度でも同じことを述べる
・上司のお前が間違っている! 「思い込み」タイプ
 ⇒部下の日頃の行動を元に具合的に指摘する
・なんでも他人のせいにする「傍観者」タイプ
 ⇒「傍観者に見えるよ」とそのまま指摘する
・都合よく解釈する「まるめとっちゃう」タイプ
 ⇒「私の言いたいことはそうではない」とはっきり言う
・お膳立てしても挑戦しない「ノーリスク」タイプ
 ⇒「挑戦しなくてもいいけど、現状維持はできないよ。このままだとこうなるよ」と伝える
・昔取った杵柄を振りかざす「元○○の神様」タイプ
 ⇒「立場上、私はこう言わざるを得ないのですが」と前置きしてから、素直に述べる
・前評判と働きが違う「他では優秀」タイプ
 ⇒「郷に入れば郷に従え」とはっきり伝える
●フィードバック力をつけるトレーニング方法(第5章)
・模擬フィードバック......自分おフィードバックの観察
・アシミレーション......部下による上司へのフィードバック方法
・社外でのフィードバック......社内の人間関係では得られないスパイシーなフィードバックを受ける
●自分自身をフィードバックし続けるコツ(第5章)
・ピーターの法則......「人は無能になるまで出世する」
・「緊張屋」と「安心屋」
  「緊張屋」......厳しいフィードバックをしてくれる人
  「安心屋」......精神的支援をしてくれる人
   ⇒両者のバランスが大切

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ジェフリー・フェファー)

「リーダー神話」は百害あって一利なし!リーダーシップ教育と現実のギャップを浮き彫りに。

悪いヤツほど出世する4.JPG悪いヤツほど出世する.jpg    悪いヤツほど出世する 文庫.jpg
悪いヤツほど出世する』 『悪いヤツほど出世する (日経ビジネス人文庫)

 2017年の「経営思想家トップ50(Thinkers50)」において"殿堂入り"したジェフリー・フェファーの、既刊『「権力」を握る人の法則』('14年/日経ビジネス文庫)の続編に位置付けられる本であるとのことで、リーダーシップに関する従来の知識やリーダーシップ研修の類が実際の職場で役に立たないのはなぜかを探り、リーダーシップについて読者の再考を促しています。

 第1章では、「リーダー神話」は百害あって一利なしとして、リーダーシップに関する本やブログが数十年にわたって精力的に書かれ、講演や研修が盛んに行われているにもかかわらず、職場の実態もリーダーの質も上がっていないことを指摘し、科学的なデータや調査よりも感動体験を求めることにその一因があるとしています。

 そのうえで、続く五つの章で、リーダーシップにとって欠かせないとされている五つの要素―謙虚さ、自分らしさ、誠実、信頼、思いやり―を取り上げ、これらの資質が組織や集団にとって望ましい資質であるには違いないが、第一に、これらの資質を多くリーダーが備えているという証拠はあるのか、第二に、リーダーシップ教育産業が推奨することと反対の行動をとるほうがむしろ賢明に見えるのはなぜかを考察しています。

悪いヤツほど出世する81.JPG 第2章では、「謙虚さ」について、そもそも控えめなリーダーはいるのかという疑問を呈し、むしろ自信過剰な方が成功しやすく、過剰な自信は時に大事であり、ナルシスト型の行動は出世に有利であるとしています。

 第3章では、「自分らしさ」について、そもそも「真の自分」は存在するのかという疑問を呈し、「自分らしさ」は臨機応変に捨てるべきであり、つねに自分らしさを前面に押し出すリーダーシップは有効ではないとしています。

 第4章では、「誠実」について、もちろん真実を語るリーダーはいるが、たいていのリーダーは嘘をつくものであり、嘘をついて損をすることは滅多になく、むしろ、嘘がよい結果をもたらすこともあるとしています。

 第5章では、「信頼」について、現代のリーダーが信頼を得ているとは言いがたく、ただし、信頼を踏みにじってもリーダーは罰せられないことが多く、むしろ人を信頼しすぎると損をすることがあるとしています。

 第6章では、「思いやり」について、リーダーの多くは「社員第一」ではなく「我が身第一」であり、リーダーを部下思いにすることを期待するならば、エージェンシー理論に基づき適正な測定とインセンティブを導入すれば、少しは改善されるだろうとしています。

 第7章では、自分の身は自分で守らねばならないということを強調し、第8章では、リーダー神話を捨てて、真実に耐えるべきであるとしています。そして、現実と向き合うためのヒントとして、「こうあるべきだ」(規範)と「こうである」(現実)を混同しない、他人の言葉ではなく行動を見る、ときには悪いこともしなければならないと知る、普遍的なアドバイスを求めない、「白か黒か」で考えない、許せども忘れず、の6つを挙げています。また、リーダーシップを巡る問題点は、リーダーの発言と行動の不一致や行動と結果の不一致、リーダーシップ教育と現実の不一致など不一致の問題であり、不一致を一致に変えるためには、現実に根ざした努力が必要であるとしています。

人材を生かす企業.jpg人材を活かす企業―「人材」と「利益」の方程式.jpg 著者は「スタンフォード大学の人気教授」と帯にありますが、日本でも、90年代に刊行されたその著書『人材を生かす企業―経営者はなぜ社員を大事にしないのか?』が2000年代に入って再び翻訳され(『人材を活かす企業―「人材」と「利益」の方程式』』)読まれるなど、単なる人気教授と言うより「カリスマ教授」に近いのではないでしょうか。誰もが薄々思っていることを、データや実例をもとに解き明かし、リーダーは部下思いで、謙虚・誠実であるべきだといった「神話」を妄信として打ち砕いていく様は爽快でもあり、読み易い啓発書ですが、一方で、リーダーシップ教育と現実のギャップを浮き彫りにもしており、考えさせられる本でした。

 処世術的な読み方と組織行動論的な読み方ができる本ですが、これでいくと、リーダーに依存しすぎるのはよいことではなく、今後は権力分散型の組織が望ましいということになるのでしょうか。

 邦訳タイトルといい装丁といい若干「売らんかな」系(?)に見えなくもないですが、原題は「Leadership BS: Fixing Workplaces and Careers One Truth at a Time」。「BS」はBull Shit(=デタラメ)の略語で、直訳に近い訳だと「リーダーシップの嘘:職場とキャリアを1つずつ改善するために」となるようですが、Bull Shitの語感からは「嘘っぱち」と訳した方が近いのかも。「悪いヤツほど出世する」は更なる意訳ですが、これも内容的にはみ出した訳とは必ずしも言えないようです。善意に解釈すれば、よりアイロニカルな意味合いが込めたのでしょう。

【2018年文庫化[日経ビジネス人文庫]】

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基礎理論を学ぶことの重要性を説いていることに共感。初任管理職などには示唆に富む本。

即効マネジメント2.jpg即効マネジメント.jpg即効マネジメント: 部下をコントロールする黄金原則 (ちくま新書)』['16年]

 著者の既刊『無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論』('15年/プレジデント社)の姉妹編で、前著で扱った、部下のやる気をどう出させるか(「個」のマネジメント)というテーマと組織全体の活気をどう保つか(「組織」のマネジメント)というテーマのうち、前者に的を絞り、より細かく解説を加えたものであるとのことです。

 本書での理論解説のベースに置いているのは、ハーズバーグやマズローをはじめとする大家と呼ばれる7人の研究者の理論であり、とりわけ、著者が薫陶を受け、元気・勇気・やる気にあふれるリクルートの組織風土を生み出した大沢武志(1935-2012)氏の実践的理論を基礎に置いているとのことです。

 著者は、マネジメントというものを1つの型にはめる必要はなく、むしろ基礎理論を覚えることが重要であるとして、本書では、そのための基礎理論を「明日から使えるように、実践的で簡単な法則」にしたとし、それが、「2W2R(What・Way・Reason・Range)」と「三つのギリギリ」であるとしています。

 第1章では、「やる気」には内発的動機と外部誘因があるが、社員の内発的動機を高めれば企業は強くなるとし、では、その内発的動機はどのようにすれば高まるのかを、ハーズバーグの「満足要因と衛生要因」説などを用いて説明していて、それには「機会」を与え「支援」することが必要であるとしています。

 第2章では、部下にどのような機会を与えそれをいかに支援するかを解説し、指導の基本は2W(What・Way)であり、手本やなどできっちり「What」を教えるのも必要だが、それよりも、その通りにやれば誰でもうまくできる成功の道筋=「Way」を教えることが重要であるとしています。また、教えるに際しては、その理由や目的(Reason)を伝えることが大切で、それが部下の自律への入口になるとしています(ここまでで「2W1R」となったわけだが、もう1つのRについては後述されることになる)。更に、部下に機会を与える際には、「できるかできないかギリギリの線を示す」「経験や得意技を活かす場を残す」「逃げ場をなくす」という「三つのギリギリ」が重要であるとしています。

 第3章では、やる気を絶やさない秘訣として、目標はすぐにくずれるので、そのたびごとに刻み直すこと、そのためにも、上司は常に部下を見てSOSや慢心を見逃さないこと、更に、横の見通し(今の仕事は周囲にどんな影響を与えているか)と縦の見通し(今の仕事は将来のキャリアにどんな影響を与えているか)をつけることが重要であるとしています。

 第4章では、もう1つのRであるRange(範囲)について述べており、成長が実感出来るように踊り場(自遊空間)を作って思いっきり羽を伸ばせるようにしてあげること、階段を刻み、踊り場で遊ばせることが大切であることを、D・マクレガーの「XY理論」や三隅二不二の「PM理論」を用いつつ説明しています。

 第5章では、「誰もがエリートを目指せる」日本型のキャリア構造は世界的にみれば特殊であるが、これも「ギリギリの線を与え続ける」などといったモチベーション理論をキャリアパスの下敷きとして意図的に生み出された構造であるとして、基礎理論の重要性を説いています。また、仮に社員がやる気を出してくれずマネジメント理論が通じないと思われるケースであっても、それは、人の心を揺り動かす要因(動因)が揃っていないことによるものであり、部下は多様な動因を持つから、上司はそれに合った「多様な機会」を作っていくことが大切であることを、マーレイの動因理論などを用いて説いています。

 第6章では、学んだことを人に教えることの重要性を説くとともに、本書でこれまで述べてきた基礎理論を、質問形式で簡潔にまとめています。以上、要約すれば、「2W2R(What・Way・Reason・Range)」とは、何を、どうやって、なぜ、どこまでを決めることであり、「三つのギリギリ」とは、(1)易しすぎず難しすぎず、(2)活かし場を用意する、(3)逃げ場をなくす、ということになります。

 こうしたことが、クイズなどを交えつつ、読み易く丁寧に解説されていて、また、章を追うごとに理論を積み重ねて構造化していくため、説得力のあるものとなっています。個人的にも、基礎理論を学び、実践することの重要性を説いている点には共感しました(同著者の雇用システムや労働市場問題を扱った本よりも共感度が高い?)。とりわけ初任管理職、ミドルマネジメント層には一定の示唆に富む本であるかと思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに 「あの人はすごい」―その理由は、マネジメント理論でけっこう説明できます。
第1章 なぜ、企業は社員のやる気を大切にするのか
第2章 やる気の源泉=「機会」と「支援」の鉄則
第3章 やる気を絶やさないための秘訣
第4章 もう一つのR(=Range)は、なぜ「スーパーな力」なのか
第5章 世界でも特殊な日本型のキャリア構造
第6章 学んだことを人に教え、自分でも実践する
あとがき リクルートの「元気とやる気」の秘密を、みなさんに

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幾つかの気づきを与えてくれる一方、ややもの足りなさを感じる面も。

モチベーションの新法則5.JPGモチベーションの新法則.jpg
モチベーションの新法則 (日経文庫)』['15年]

 部下や職場全体のモチベーションをどうすれば高められるのかを、経営心理学の立場から、クイズなどを交えて分かりやすく解説した入門書です。著者によれば、個人の成功体験の紹介ではなく、誰にでも役立てられること、②心理学の最新の研究に基づいていること、③日本人に特徴的な心情や文化的背景を前提に解説していることが、本書の特色であるとのことです。

 第1章では、多くの若者が「成長したい」という時代に、成長欲求をモチベーションにつなげるにはどうしたらよいかを考察しています。第2章では、ほめて育てるというのが流行っているが、それには落とし穴があるとし、ほめる際の注意点を示しています。第3章では、モチベーションは気分に大きく左右されるという視点から、上司のちょっとした声掛けの効果について考え、そのコツが紹介されています。
 
 第4章では、内発的動機づけと外発的動機づけをどのように使ったらよいかを解説しています。第5章では、ポジティブなものの見方のコツについて述べるとともに、ネガティブだからうまくいっている人もいて、そうした人にはどう対応すればよいかを説いています。第6章では、分かっていてもできない理由について考察しています。

 第7章では、無意識の威力に焦点を当てて、日常生活の中でモチベーションを高めるコツを紹介しています。第8章では、MBO(目標管理)の問題点を指摘しつつ、業績目標と学習目標という視点から、モチベーションを維持するのに有効な目標の立て方について検討しています。第9章では、関係性(人間関係)に重きを置くのが日本人の特徴であることを念頭に置き、アメリカのモチベーション論では見落とされがちな日本人独自のモチベーション法則について考察しています。

 日経文庫ということもあってか、テキストとしてコンパクトに纏まっており、モチベーション理論について、マズロー、マグレガ―、ハーズバーグなど1960年代の理論あたりまでは学習したが、それ以降どのような理論が展開されてきたかを今一度俯瞰しておきたいという人には手ごろな入門書であると思います。

 個人的には、目標管理において、業績目標と学習目標のどちらを持つかによってモチベーションが異なってくるといった点や、日本人は仕事よりも職場を重視する傾向があるため、関係性を整えるだけでモチベーションが上がるといった指摘が腑に落ちるものでした。

 人事パーソンの視点から見て、幾つかの気づきを与えてくれる本であるとは思いますが、クイズが意外と歯ごたえがないのと同様、読む人によっては、それほど目新しさが感じられる指摘でもなかったりするかも。また、こうした心理学系の人が書いた本にありがちですが、実践に活かさなければならない立場の人が読んだ際には、ややもの足りなさを感じる面があるかもしれません。

 著者には専門書に近い内容の本から自己啓発書まで数多くの著書がありますが、本書はその中間的位置づけでしょうか。より専門書寄りのものとして『モチベーション・マネジメント』('15年/産業能率大学出版部)があり、自己啓発よりも知識としての理解に重点を置くならば、体系的にはそちらの方がスッキリしているように思いますが、これは読者の好みの問題でしょう(個人的には著者の前著『お子様上司の時代』('13年/日経プレミアシリーズ)よりは今回の方がやや良かたったか)。

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理系の性分、理系的センスとは何か、理系社員とどう向き合うかを説く。「トリセツ」と言うより「啓発書」。

理系社員のトリセツ_1.jpg理系社員のトリセツ.jpg理系社員のトリセツ (ちくま新書)』['15年]

 文系と理系の間にある深い溝―本書は、その壁をを解消して、両者が一緒に働いている職場をうまくまわすにはどうすればよいか、そのために理系の特徴を分析し、その活用法を解説した本です。著者によれば、企業が成功するには、文系と理系双方の人材がうまくかみ合う必要があるのに、実際には文系と理系はお互いを相容れないものとして捉えがちであるとのことです。その結果、文系は理系の仕事をなかなか理解することができず、「文系上司」が「理系部下」の扱いに困っているといったことなども少なからず起きているとのことです。

 そこで「理系」である著者が、"理系の性分"とは何か、その思考傾向を多面的に探るとともに、"理系的センス"とはどういったものか、それはビジネスの様々な場面でどのような効果を発揮するかを説いていますが、読んでいて、そのセンスとは往々にして文系の人間にも求められるものであるように思いました。本書では、それらを踏まえたうえで、組織内で理系社員をどう活用すればよいかを解説しています。

 著者によれば、理系的才能の本質は想像力であり、真の理系は想像力で問題を解くとともに、事実に目を配り、直感に飛びつかず慎重に考えるとのこと、また理系人材は「質量保存・エネルギー保存の法則」を前提に物事を捉えるので、ゼロサムの関係には敏感であり、全体バランスを壊すことになるカネやポストでは動機づけられにくい一方、外部からの期待感や専門分野での名誉には奮い立ち"本気度"を刺激される側面も併せ持つとしています。

 上司が「理系部下」を活かす方法としては、文書化を徹底させるコーチングを行い、部下に自由に語らせるようにし、外部の干渉からは部下を守ること、また、先に述べたような理由から、技術成果に対し「顕彰」で報いることなどを挙げています。とにかく、複雑な評価制度などに惑わされず、コーチングを続けることが大切であるとしています。

最後に、理系マインドをビジネスにどう結びつけていくかを説くとともに、これからのビジネスは文理の協働が前提となり、文理別々で働いてもろくな事は起きないとし、また、理系女性の拡大は、人材増強策の切り札であるとしています。

 個人的には、理系の人材育成の要点として、
 ・空間的に狭い範囲に人材を集めること
 ・仕事を小刻みに数多く絶え間なく与えること、
 ・仕事の成果は質よりも早さを求めること、
 ・互いに切磋琢磨し、競争の状況が誰の目にも明らかに分かる分かるようにすること
とし、その典型例として、石ノ森章太郎や藤子不二雄、赤塚不二夫らを輩出したトキワ荘を例に挙げているが興味深かったです。

 このように、逐一分かりやすい例を挙げて解説しているためたいへん読みやすかったですが、著者はどちらかと言うと、理系人間の中でも「文系」的な方の人間ではないかとも思わせました。そのように考えていくと、だんだん理系と文系に分ける意味が無くなってくるようにも思えてくるのですが、ここはある種のタイポロジー(類型化)を前提とした"思考整理"であると割り切って、最後まで読んだ方がいいかもしれません。

 タイトルには"トリセツ"とありますが、〈マニュアル〉というよりは、文系人間が理系人間と向き合う際の考え方を示した〈啓発書〉といえるでしょう。もちろん、理系人間が、理系である自分の能力の特質を見つめ直し、その活かし方を考えるうえでのヒントが得られる本であるともいえるかもしれません。

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旧版の「1分間叱責」を「1分間修正」に修正。旧版よりしっくりくる。
新1分間マネジャー.jpg新1分間マネジャー――部下を成長させる3つの秘訣』['15年] 1分間マネジャー.jpg ケネス・ブランチャード/スペンサー・ジョンソン『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』['83年]

 世界中で累計2000万部以上売れたという1分間」シリーズの第1弾で、1982年に原著刊行の『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』('83年/ダイヤモンド社)の2015年改定版で、著者は旧版と同じくケン・ブランチャード(Kenneth H. Blanchard、心理学者)とスペンサー・ジョンソン(Spencer Johnson、精神医学者)の2人です(ブランチャード博士は、amazon.comにおいて世界中で25人しかいないベストセラー著者の殿堂入りを果たしている)。

 『1分間マネジャー』の特徴は、1つは、物語仕立てになっていて読み易いことで、但し、こうした寓話スタイルは、読んで合う人と合わない人がいるようにも思います。もう1つの特徴は、部下の管理方法の秘訣をシンプルに3つに纏めていることで、その3つの秘訣とは、「1分間目標設定」「1分間称賛」「1分間叱責」というものでした。個人的には、「1分間目標設定」はいいとして、「1分間称賛」「1分間叱責」と続くと、あまりに単純すぎて、逆にこんなのでいいのか、という思いがあって、初読以来、個人的には△評価になっていました。

 こうした古典的ベストセラーと言ってもいいような本が、中身を変えて改定されることは珍しいとのことですが(34年ぶり!)、今回も、物語仕立ての形式も同じであるし、中身もそれほど大きくは変わっていません。但し、物語全体を今の時代環境に合うように直したことで、以前の版は1982年に書かれたものであるから、インターネットなど無い時代のことでであったのに対し、今回の版では、インターネットで世界各地のメンバーとコミュニケーションをとる様子が描かれたりしています。

 次に、ここが一番決定的な改定点ですが、3つの秘訣の内の最後の「1分間叱責」が「1分間修正」に変わっっています。何れの場合も、部下が間違った方向に行ったときにどのように正すかということですが、改定版では、上司が所謂上から目線ではなく、部下と同じ目線で、軌道修正について話し合うようになっています。この改定の理由についてブランチャード博士は、「1980年代に比べ、今の時代はトップダウン式のリーダーシップがそぐわなくなってきており、部下とのパートナーシップがより重要になってきている」と述べています。また、「1分間目標設定」も、上司が一方的に目標を決めるのではなく、部下と共に決めていくような形に改定されています。

 個人的には、以前の版よりかなり良くなったと思います。と言うより、前の版を手にした時に、すでにそうした時代の風潮を感じていて、それがどこか、旧版に対する違和感に繋がっていたのかもしれません。今回の方がしっくりきます。

 旧版同士の比較では、1985年原著刊行の『1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法』(Leadership and the One Minute Manager)('85年/ダイヤモンド社)の方が良かった、と言うか、リーダーシップには唯一無二の完璧な手法はないが、事実上、指示型、委任型、コーチ型、援助型という4つのスタイルがあり、マネジメントの状況に応じていずれかのスタイルが取られるとする、かの有名な「状況対応型リーダーシップ」論が提唱されていて、これかあ、という印象を浮けた記憶があります。こちらの方は、本書より先に(2013年に)改定版『新1分間リーダーシップ―どんな部下にも通用する4つの方法』('15年/ダイヤモンド社)が出ています。

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多彩な11冊を、実際にビジネスシーンでありそうなケーススタディで解説。

リーダーシップの名著を読む1.jpgリーダーシップの名著を読む2.JPG             マネジメントの名著を読む.jpg
企業変革の名著を読む (日経文庫)』['15年]  『マネジメントの名著を読む』['15年]

 実務経験豊富な5人の経営コンサルタントらが、リーダーシップについての不朽の名著と言われる11冊を選び、その内容を紹介するとともに、現代における意義を解説したもので、ウェブサイト「日経Bizアカデミー」で2011年10月から連載されている「日経キャリアアップ面連動企画」(経営書を読む)の内容を抜粋、加筆・修正し、再構成したものであり、先に刊行された『マネジメントの名著を読む』('15年1月/日経文庫)の姉妹編にあたります。

 取り上げられているのは、ジョン・コッタ―の『第2版 リーダーシップ論』に始まり、デール・カーネギーの『人を動かす』、スティーブン・コヴィーの『7つの習慣』、ダニエル・ゴールマンの『EQ こころの知能指数』などの"有名どころ"から、エドガー・シャインの『組織文化とリーダーシップ』やトム・ピーターズらの『エクセレント・カンパニー』、更には、米国海軍の士官候補生向けに書かれた『リーダーシップ アメリカ海軍士官候補生読本』(個人的には"初モノ"だった)、2000年に邦訳が出たビジネス寓話『チーズはどこへ消えた?』、MLB弱小チームの再生を描き、映画化もされた『マネー・ボール』まで多彩です。

 そのラインナップと内容から、「体系」よりも「実践」を重視している印象を受けました。実際、9人のコンサルタントや大学教授が12冊の"座右の書"を紹介した『マネジメントの名著を読む』と同じく、単なる内容紹介にとどまらず、本の内容に関連して、実際にビジネスシーンでありそうなケーススタディを1冊につき4つ設定し、ケーススタディを通して本の内容を解説するというスタイルになっています。

 従って、11冊の中には、「天は自ら助くる者を助く」という序文で知られるサミュエル・スマイルズの『自助論』といった古典も含まれていますが、現代的なケーススタディに当てはめて解説されているため、19世紀半ばに英国で著され、明治時代に日本でベストセラーとなった古典でありながらも、その言わんとするところを身近に感じることができます。

 また、古典ばかりではなく、1990年に刊行され全世界で2000万部が売れたという『7つの習慣』についても、会社の上司と部下の関係をケースに引きながら、「真の成功とは、優れた人格を持つこと」という『7つの習慣』の根底に流れる考え方を提示していくスタイルをとっており、このように、本書自体がリーダーシップの"ケースブック"として読める点が、その特長と言えるかと思います。

 一方で、前著『マネジメントの名著を読む』よりも更に執筆陣の思い入れが強く感じられ(古今数多くあるリーダーシップに関する本の中から僅か11冊をまさに"厳選"しているわけだから、思い入れが無い方がむしろおかしいが)、切り口にも執筆者の経験や考え方が少なからず反映されているように思われました。

 その意味では、この1冊でリーダーシップに関するヒントを手っ取り早く頭に入れるのもいいですが、関心を持たれたもので原著を読んでいないものがあれば、そちらに当たるのもいいのではないでしょうか。そこでまた、執筆者とは違った見方が生じることも大いにあり得るのではないかと思います。

 同じ名著と呼ばれるものでも、「リーダーシップ系」のものは「マネジメント系」のものに比べて、読む人によって相性が良かったりそうでなかったりする傾向がより著しいように思います。「リーダーシップ」に関する本を読むということは、書かれていることを鵜呑みにするのではなく、また、書かれていることの全てに納得する必要もなく、自分にフィットしたものを探す「旅」のようなものではないかと思います。

《読書MEMO》
●取り上げている本
リーダーシップの名著を読む9_1.jpg第2版 リーダーシップ論 帯付 2.jpg1『第2版 リーダーシップ論ジョン・コッター ---- 変革を担うのがリーダーの使命・永田稔(タワーズワトソン)
2『人を動かす』デール・カーネギー ---- 誤りを指摘しても人は変われない・森下幸典(プライスウォーターハウスクーパース)
3『自助論』サミュエル・スマイルズ ---- 「道なくば道を造る」意志と活力・奥野慎太郎(ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン)
4『7つの習慣』スティーブン・コヴィー ---- 人格の成長を土台に相互依存関係を築く・奥野慎太郎
5『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン ---- 自制心と共感力で能力を発揮・永田稔
6『リーダーシップ アメリカ海軍士官候補生読本』アメリカ海軍協会 ---- 米国式リーダーシップの源流・高野研一(ヘイグループ)
7『組織文化とリーダーシップ』エドガー・シャイン ---- 変革はまず組織文化から・永田稔
エクセレント・カンパニー_.jpg8『エクセレント・カンパニートム・ピーターズ他 ---- 優れたリーダーの影響力は価値観にまで及ぶ・高野研一
9『なぜ、わかっていても実行できないのか』ジェフリー・フェファー他 ---- 成果ではなく行動したことを評価・森下幸典
10『チーズはどこへ消えた?』スペンサー・ジョンソン ---- 変化を受け入れ、いち早く動く・森健太郎(ボストンコンサルティンググループ)
11『マネー・ボール』マイケル・ルイス ---- チーム編成のイノベーション・森健太郎
 
 

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先の見えない時代に対応できる「機動戦経営」を提唱。概念的にはキレイにまとまっている。

米軍式 人を動かすマネジメント.jpg米軍式 人を動かすマネジメント──「先の見えない戦い」を勝ち抜くD-OODA経営

 本書は、先の見えない時代に対応できる「機動戦経営」(D-OODC(ドゥーダ)経営)というものを提唱しています。第1章「機動線経営とは何か?」では、日本人の計画好きのルーツはPACDにあるが、それが「計画・管理・情報」の過剰を生んでおり、軍事的にみれば「想定される攻撃」に対して適切かつ機敏に行動が取れることと、「想定外の攻撃」に対しても臨機応変な対応が取れることは別であり、先が見えない環境で戦うためには、前者の消耗戦型よりも、後者の機動戦型の方が有効であり、それは経営にも当て嵌るとのことです。

OODA.gif それでは機動戦経営とは何なのかと言うと、1つは、機動戦で言うところの「OODC」、即ち、観察(Observe)―方向付け(Orient)― 決心(Decide)― 実行(Act)のサイクルを繰り返すことであり、自分の計画から始まるのがPDCAであるのに対し、OODCは相手を観察することから始まるのがその特徴で(PDCAの前段階とも言える)、このOODCループによって「動く」個人をつくることができるとのことです。例えば接客業であれば、PDCA接客には、 決められた手順を守る従順さが求められるが、一方のOODCには、顧客に対する鋭い観察眼が求められるとのことです。

「OODAループ」from Insource

 そして、臨機応変に「動く」個人が育ったなら、機動戦では次に、 「ミッション・コマンド」という指揮法をとるとのことで、ミッション・コマンドは、何のためにどんな理由で戦うのか(Why)と、戦闘によってどんな勝利を目指すのか(What)が明確に示されるとのこと。更に、こここでOODCとミッション・コマンドを強力にサポートするのが判断と行動に直結する情報であり、これを「クリティカル・インテリジェント」と言うとのことです。

 つまり、「動く個人・動かすリーダーシップ・動ける情報」が機動戦経営の3要素であるとし、以下の章で、それぞれについて解説しています。

 理論的にかっちりしている印象を受けるのは、アメリカ空軍のジョン・ボイド大佐によって提唱された意思決定理論である「OODCループ」の考えを起点にしているということもありますが、その理論にミッション・コマンド、クリティカル・インテリジェントという概念を付加して行く過程も、分かり易く説明されているように思いました。

 第2章ではOODCについて、第3章ではミッション・コマンドについて、第4章ではクリティカル・インテリジェントについてそれぞれ解説し、最終第5章では、現在の米軍では、作戦計画の作成・立案において、「正しい問題の設定」を指す「オペレーショナル・デザイン」(Operation Design)が重視されているという事実をもとに、これをにOODCを組み合わせた「D-OODC(ドゥーダ)ループ」というものを提唱しています。

 やや気になったのは、第2章以下で、OODC、ミッション・コマンド、クリティカル・インテリジェントというそれぞれの概念を更に詳しく説明していく段階で、事例に落とし込んでいく際に、公認会計士である著者の顧問先の中小企業の事例など、事例そのものは数多く紹介されているのものの話がやや拡散気味で、概念と事例の対応関係がややもやっとなった印象がありました。

 そうしたこともあって、もともと概念的要素の高い内容ですが、理論的にはキレイに纏まっているものの、概念的なまま終わってしまった印象も受けました(自分の抽象化能力に問題があるのかもしれないが)。

 概念的には分かるのだけれど、この本を読んだ経営は、次、どうすればいいのか、ちょっと考えてしまうのではないかなあ。とは言え、PDCA絶対説をあっさり批判している点など、提唱されていることの新鮮さはありました。

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現場マネジャーが直面するジレンマに話題を絞った前半部分が良かった。

会社の中はジレンマだらけ.jpg会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング (光文社新書)』['16年]

 本書によれば、ジレンマとは「どちらを選んでもメリットもデメリットもあるような二つの選択肢を前にして、それでもどちらにするかを決めなければならない状況」とのことで、企業・組織においてマネジャーが直面する幾つかのジレンマのパターンを取り上げ、ヤフー執行役員の本間浩輔氏と東京大学の中原淳准教授が対談形式で議論しています。

 第1章が「絶対に結果を出さなくてはならないハードな案件。自分自身でこなす?それとも思い切って部下に任せる?」、第2章が「チーム内にくすぶり始めた時短社員への不満。ほかのメンバーを説得する?それとも時短社員に働き方を変えてもらう?」、第3章が「仕事をしない"年上の部下"がいます。言いたいことを伝える?それともやり過ごす?」といったように、マネジャーに"現場仕事"が増えがちな問題、産休社員に人員補充が無い場合に起きがちな問題、なぜ「働かないおじさん」の給料は高いのかといった問題を扱っていて、全部で5章ありますが、最初の3章が比較的トーク内容が充実していたように思います(後半2章は正直それほどでも...)。

 第1章では、ヤフーで行われている「ななめ会議」というのが興味深かったです。ある意味、マネジャーに気づきを促すフィードバック方法の1つなのですが、人事部が職場のマネジャーについて部下たちに発言させ、次に人事部がその発言をマネジャーに伝え、最後は三者で話をするというものですが、こうした方法論もさることながら、こうした方法を取ることが可能な企業文化というのもあるだろうなあと。本間氏が「成長には修羅場だ」といった「修羅場幻想」からそろそろ離れた方がいいと言っているのにも納得。IT企業でありながら、「会って話すことがポイント」と言っているのも興味深かったです。

 第2章では、ワーク・ライフ・バランスに関して、「資生堂ショック」を話題にしており、本間氏の発言などからも窺えるように、何時間働くかではなく、パフォーマンスを見て評価するという傾向は今後強まるのだろうなあと(コンサルティング会社「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵社長なども以前からこの路線だったように思う)。但し、マネジャーは短期的評価を気にしていてはダメで、その意味で、マネジャーには覚悟が必要というのも分かります。

 第3章では、「働かないおじさん」とは「おじさん」が「学習した結果」生じているのであり、本間氏が、その"経験学習"も相当な水準に達しているかもしれないと言っているの、ヤフーのような執行役員でもそうしたことを感じるのかと興味深かったです。もちろんこうなってしまうのはマネジャーにも問題があるわけで、1つの大きな原因が評価の在り方にあって、本間氏が、「その人」を評価するのではなく「今期の働き」を評価せよ、つまり「人」ではなく「事」を評価せよ、と言っているのがしっくりきました。会社の「利益」と部下の「やりたい事」のベクトルを摺り合わせるのが上司の仕事だと言っているのも分かり易かったです。

第4章では、なぜ新規事業のハシゴはすぐに外されるのかと言う問題を扱っていて、新規事業に異動したいと言う部下にどう対処すべきかを論じており、この中では、企業のビジョンに絡めた話で、IT企業の間で社史編纂が密かなブームになっているという本間氏の話が興味深かったです。

 第5章では、なぜ転職すると給料が下がるのかというテーマで、転職の話が突然舞い込んできたとき、年収が減っても新天地へ行くべきかということを論じており、今話題の「副業」の問題なども話し合われています。

 前半3章が、マネジャーの直面するジレンマに的が絞られていて良かったですが、後半になって若手など働く側の方へ視点がずれていて、やや散漫になっていった印象。ただ、ヤフー執行役員の本間浩輔氏の話はなかなか興味深く、中原淳氏が主に聞き手に回っているのもいいです(中原氏は、今後もこうした対談形式の本を光文社新書から出していくのか。金井壽宏氏のパターン?)。

《読書MEMO》
●目次
第一章 なぜマネジャーに"現場仕事"が増えるのか
第二章 なぜ産休社員への人員補充がないのか
第三章 なぜ「働かないおじさん」の給料が高いのか
第四章 なぜ新規事業のハシゴはすぐ外されるのか
第五章 なぜ転職すると給料が下がるのか目次

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どこの企業でも考える人事施策を1つ1つ積み上げてきた。結局、やるかやらないかの違いだろう。

ワーク・ルールズ! .jpgワーク・ルールズ!  .jpg Laszlo Bock.jpg Laszlo Bock
ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』['15年]

グーグル logo.jpg 本書は、1972年、共産主義政権下のルーマニアに生まれ、マッキンゼーやGE勤務を経て2006年にグーグルに入社、9年間に従業員が6千人から6万人に増えていく過程で、グーグルの人事システムを設計し進化させてきた、同社の人事担当上級副社長によるものです。グーグルにおける採用・業績評価・人材育成・福利厚生の仕組みや考え方を通して、人材を活かし、組織を有効に機能させるうえで効果的であると考えられるワーク・ルールの数々を示しています。

 第1章・第2章では、グーグルの創業エピソードなどを紹介しながら、社員が創業者のように行動すること、自分の仕事は重要なミッションを持つ天職だと考えること等をルールとして掲げています。第3章から第5章にかけては、採用について書かれており、時間をかけて最高の人材だけを雇うこと、何らかの点で自分より優れた人材だけ雇うこと、マネジャーに自チームのメンバーの採用を任せないこととし、卓越した採用候補者を見つけるにはどうしたらよいか、最高の採用テクニックを発揮するにはどうすればよいかを説いています。

 第6章では、マネジャーから権力を取り上げ、社員を信頼して運営を任せるにはどうすればよいかを説き、第7章では、評価や報酬でなく、個人の成長に焦点を合わせることで業績を改善せよとして、そのための業績評価のポイントを示しています。第8章では、最大のチャンスは最低(ボトムテール)の社員と最高(トップテール)の社員にあるとし、この2本のテールを管理することの重要さを説いています。第9章では、最良の教師は社内にいるとして、学習する組織を築くにはどうすればよいかを説いています。

 第10章・第11章では、報酬には大きな差があってよく、一方、社員がいちばん必要としている時には社員に寄り添う必要であるとしています(グーグルの社員が亡くなった場合、遺族に社員の死後10年間、給与の50%が支給されるという制度が紹介されている)。第12章・第13章では、社員を健康と富と幸福に導くにはどのような選択肢を設ければよいか、失敗に直面したときはどうすればよいかを説いています。第14章では、これまで述べてきたことを総括し、チームと職場を変えるための10のステップとしてまとめています。

 本書を読む前は、グーグルという極めてイノベーティブな文化を持つ企業のワーク・ルールが、普通の企業にとっては果たして参考になるのかという思いがありましたが、読んでみたら、確かにグーグルならではの話もなかった訳ではないですが、むしろ大部分は、どこの企業でも考えるであろう人事施策であり、それらを試行錯誤や失敗を繰り返しながら1つ1つの積み上げていた先に、官僚主義に陥らず、ベンチャースピリットを保ち続ける、今日のグーグルがあることが理解できました(著者も「グーグルのプログラムの大半は誰でも真似できる」としている。結局、やるかやらないかの違いだろう)。

 個人的には、第3章から第5章にかけて「採用」について3章を割き。なぜ採用は組織における唯一にして最重要の人事活動なのか、いかにして最高の人材を採用するか、その難しさについて説いているのが印象的でした(グーグルは、世界で入社するのが最も困難な会社の1つであり、本書でも、「まずは100万人から300万人の求職者からの応募を受け付け(中略)約0.25%しか雇わない」、「ハーバード大学は志願者の6.1%に入学許可を出した(中略)(ハーバードはグーグルの)25倍も簡単なのである」としている)。

 550ページを超す大著ですが、これからの企業の人事マネジメント(本書では「ピープル・オペレーションズ」という言葉を使っている)やそこで働く人々の働き方の在り方について考えるうえで様々な刺激と示唆を与えてくれる本であり、人事パーソンにお薦めしたい1冊です。

《読書MEMO》
●社員への権限委譲のために(第6章/241p)
□ステータスシンボルを廃止する
□マネジャーの意見ではなく、データにもとづいて意思決定を行う。
□社員が自分の仕事や会社の指針を定める方法を見つける。
□期待は大きく。
●業務評価のために(第7章/286p)
□目標を正しく設定する。
□同僚のフィードバックを進める。
□キャリブレーションを活用して評価を完了させる。
□報酬についての話し合いと人材育成についての話し合いを分ける。
●プロジェクト・オキシジェンの8つの属性(第8章/312p)
1 良いコーチであること。
2 チームに権限を委譲し、マイクロマネジメントしないこと。
3 チームのメンバーの成功や満足度に関心や気遣いを示すこと。
4 生産性/成果思考であること
5 コミュニケーションは円滑に。話を聞き、情報は共有すること
6 チームのメンバーのキャリア開発を支援すること
7 チームに対して明確な構想/戦略を持つこと。
8 チームに助言できるだけの重要な技術スキルを持っていること。
●2本のテールを管理するために(第8章/324p)
□困っている人に手を差し伸べる
□最高の社員をじっくり観察する
□調査やチェックリストを使って真実をあぶり出し、改善するように社員をせっつく
□自分のフィードバックを公表し、至らなかった点について改善するよう努力して範を垂れる。
●チームや職場を変える10のステップ(第14章/521p)
①仕事に意味をもたせる
②人を信用する
③自分より優秀な人だけを採用する
④発展的な対話とパフォーマンスのマネジメントを混同しない
⑤「2本のテール」に注目する
⑥カネを使うべきときは惜しみなく使う
⑦報酬は不公平に払う
⑧ナッジーきっかけづくり
⑨高まる期待をマネジメントする
⑩楽しもう!(そして、①に戻って繰り返し)

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リーダーシップ研究の最近の歩みをシズル感を持ちつつ概観するには手頃。

Thinkers50 リーダーシップ.jpg 『Thinkers50 リーダーシップ』(2014/11 プレジデント社)

 「Thinkers 50」は、マネジメント思想を調査、ランク付けしたうえで世の中に広く紹介する取り組みで、2001年以降、隔年で発表されているランキングは、「マネジメント思想のアカデミー賞」とも言われています。歴代の第1位は、ピーター・ドラッカー(2001年、2003年)、マイケル・ポーター(2005年)、C.K.プラハラード(2007年、2009年、クレイトン・クリステンセン(2011年、2013年)。日本では「経営思想家トップ50」などと訳されていますが、日本人では過去に大前研一氏が複数回ランクインしているほか、2013年に野中郁次郎氏が"Lifetime Achievement Award(生涯業績賞、功労賞)"を受賞しています。

 当シリーズは、「Thinkers 50」にランクインした経営思想家を、直接インタビューした内容とともに紹介し、ジャンル別に分けてそれぞれ1冊に要約することで、テーマごとの本質に迫る入門書であり、本書「リーダーシップ」は、「マネジメント」「ストラテジー」「イノベーション」の3ジャンルの邦訳に続くシリーズ第4弾になります。

リーダーシップの王道2.jpg 第1章でリーダーシップ研究の変遷を概観した後、第2章では『リーダーシップの王道』などの著者として知られ、今年['14年]逝去したウォレン・ベニスの思想を、本人へのインタビューを中心に紹介していますが、その中でベニスは、「クルーシブル(厳しい試練)」がリーダーを作ることを強調しています。そして、今の若いリーダーにとって難しいのは、クルーシブルが滅多に存在しないことであり、次世代のリーダーは自分でそれを見つけねばならないとしています。

ビジョナリー・カンパニー2  .jpg 第3章では、インタビューにおいてC.K.プラハラードがリーダーに求められる謙虚さを語り、『ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則』の著者ジム・コリンズが、企業を「まあまあ良い」水準から「偉大」な水準に飛躍させる「レベル5リーダーシップ」とは何かについて語っています。コリンズが提唱する「レベル5リーダーシップ」も、謙虚さと強い意志の組み合わせからなり、レベル5のリーダーは「物静かなリーダー」だとしています。

なぜ、あなたがリーダーなのか 旧版2 .jpg 第4章では、『なぜ、あなたがリーダーなのか?』の共著者ロバート・ゴーフィーガレス・ジョーンズが、自分らしいリーダーシップとは何かを語り、さらにエリザベス・メロンがリーダーの思考についての自らの考えを述べています。それらを統合すると、自分らしいリーダーシップにおいては、自分がすでに保有している資質を最大限に活用するものであって、他の成功したリーダーのスタイルを真似るものではなく、また、内省と高い自己意識が求められる―その際に近道をしたり、自己開発に不可欠な段階を省略したりすると、自分の価値観と異なる人格を装ってしまう―としています。

名経営者が、なぜ失敗するのか?.jpg 第5章では、著者がカリスマとリーダーシップの関係について考察するとともに、『カリスマCEOの呪縛』の著者ラケシュ・クラナ『名経営者が、なぜ失敗するのか?』の著者シドニー・フィンケルシュタインとの対話を通して、カリスマはリーダーの特性として、以前は望ましいもの、或いは不可欠なものと考えられていたが、現在では、リーダーとして効果ある特性なのか、疑問視されていることを示唆しています。

経営の未来 2.jpg 第6章では、フォロワーについての研究の歩みを概観し、フォロワーの類型を再整理するとともに、『フォロワーシップ(未訳)』の著者バーバラ・ケラーマン『経営の未来』の著者ゲーリー・ハメルへのインタビューを行っています。ケラーマンは、フォロワーを孤立者・傍観者・参加者・活動家・硬骨漢の5つのタイプに分けるとともに、「フォロワーが権力と影響力を拡大する一方で、リーダーは権力と影響力を失いつつある」とも主張しています。

トータル・リーダーシップ2.jpg 第7章では、『トータル・リーダーシップ―世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」』の著者スチュワート・フリードマンとの対話を通して、リーダーシップは企業や組織の中だけに存在するのではなく、リーダーの人生のそれ以外の部分とも重なり合い、影響を与えるとし、仕事とプライベートな生活のバランスをとるトータル・リーダーシップという考えが紹介されています。

コーチングの神様が教える後継者の育て方 .jpg 第8章では、現場で活用できるリーダーシップについて考察するとともに、『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』『コーチングの神様が教える後継者の育て方』『コーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方』『リーダーシップ・マスター』の共著者マーシャル・ゴールドスミスにリーダーシップの実践的な側面についてインタビューしています。

 以上のように、リーダーシップに関する代表的な考えと論者を紹介しながらも、インタビューで構成されている部分の比重が大きいため、とっつきやすいものとなっています。リーダーシップ研究の最近10年の歩みを、単なる項目主義ではなくある種シズル感を持ちつつ概観するには手頃であり、興味を持たれた経営思想家がいれば、その著書に読み進むと更によいかと思います。

《読書MEMO》
【目次】
◆第1章 リーダーシップ研究の変遷
◆第2章 クルーシブルがリーダーをつくる
◆第3章 レベル5リーダーシップ
◆第4章 自分らしいリーダーシップ
◆第5章 カリスマと影
◆第6章 フォロワーシップ
◆第7章 トータル・リーダーシップ
◆第8章 現場で活用できるリーダーシップ

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リーダーシップに対する「思い込み」を解く。分かり易さ、理論的なバックボーン、現場のシズル感がいい。

マネジャーになってしまったら読む本.JPGマネジャーになってしまったら読む本 2.jpg

 
 

永禮弘之 氏.jpg 永禮 弘之 氏 (エレクセ・パートナーズ)
マネジャーになってしまったら読む本―リーダーシップに自信が持てる7つの方法

 本書Part1第1章によれば、最近のマネジャー研修やリーダーシップ研修などで、参加者の中から、そもそもリーダーシップに興味が無いとか、元々"損な役回りである"マネジャーにはなりたくなかったとかいう声が聞かれることがあるとのことですが、これは個人的にも少なからず感じます。続く第2章では、こうした傾向は、日本人のマネジャーのリーダーシップに対する自信の無さからくるとし、その根底にリーダーシップへの「思い込み」があるとしています。

 Part2(第3章から第9章)では、新任マネジャーがよく抱く「リーダーシップに対する7つの思い込み」(1.自分にはリーダーシップがない、2.常に、部下には仕事で勝たなければならない、3.指導力が高くなければならない、4.人望を高めなければならない、5.リーダーシップのスキルやテクニックを身につけなければならない、6.自分を犠牲にしなければならない、7.自分の分身をつくらなければならない)が、リーダーシップへの過大な期待や要求につながり、多くの人の自信を失わせる原因となっていることを解き明かしています。

 Part3(第10章)では、自信を失う原因である「7つの思い込み」への対処方法を示すことで、自ら考え、行動するリーダーとして自信が湧いてくるよう読者を導くとともに、エピローグでは、更にリーダーとして成長していくための4つのステージ(セルフ・リーダーシップ → ワン・トウ・ワン・リーダーシップ → チーム・リーダーシップ → オーガニゼーション・リーダーシップ →ソサエティ・リーダーシップ )を示しています。

 労政時報の人事ポータル「ジンジュール」で著者の人材育成、教育・研修に関する連載を読み、本書を思い出しました。著者は数多くのセミナーやマネジャー・リーダーシップ研修をこなしており、個人的にも著者の人事担当者向けの企業内研修企画作成セミナーを聴いたことがありますが、双方向性の講義とワークショップ方式のグールプ作業から成り、たいへん分かり易く、また、身に付くものでした。

 こうした研修主体の仕事をしている所謂「セミナー講師型コンサルタント」が本を書くと、ともすると本がセミナーの内容そのものになってしまって、しかも "企業秘密"に属するメソッドの中核の部分は明かさないといった研修誘引型の(結果としてスカスカの内容の)本になりがちであるのに対し、本書は「指南書」としてきちんと纏まっているうえに、各章末のコラムなどでリーダーシップ理論などを紹介していることから窺えるように、理論的なバックボーンもしっかりしています。そのうえで分かり易くか書かれているので、新任マネジャーには是非ともお薦めですが、人事パーソンが読んでも得られるものは多分にあるのではないでしょうか。

 これは著者のセミナーや研修についても言えることですが、理論的なバックボーンをしっかり持ちながらも、多くのマネジャーや人事担当者のナマの声をしっかり吸い上げ反映させていてるシズル感があり、読み易い、分かり易いというのが共通する特長でしょうか。セミナー講師だけでなく、実際に人材育成や組織風土改革に関わっているコンサルタントであることがよく分かります。

 また、世の流れとして、リーダーシップとマネジメントを分けて考える風潮がありますが、本書では最初から「リーダーシップに対する思い込み」がマネジャーの自信を失わせているとして、マネジャーに欠かせないものとしてのリーダーシップという捉え方になっています。やみくもにスキルや知識を身につけても、他人に使われる器用な道具にはなれても、自分の人生の主役にはなれない―という著者の考えなどと併せて、個人的にはしっくりくるスタンスでした。刊行されてから何度か読み返しているため、却って取り上げるのが遅くなりましたが、五つ星です。

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いわばリクルート流のSL理論(状況対応型リーダーシップ理論)。分かり易く書かれている。

部下育成の教科書 00.jpg
   
  
   
   
部下育成の教科書』(2012/03 ダイヤモンド社)

 「"やや中古"本に光を」シリーズ第7弾(エントリー№2277)。表紙折り返しに「自立しない若手、伸び悩む中堅、やる気のないベタラン社員にも効く育て方の『「ものさし」』とあるように、ビジネスパーソンを10の「段階」に分け、その段階に合わせた育成方法を指南しています。その10の段階=ステージとは以下の通り。

部下育成の教科書 図.jpg

●一般社員層:4つのステージ(段階)
(1)スターター(Starter/社会人):ビジネスの基本を身につけ、組織の一員となる段階
(2)プレイヤー(Player/ひとり立ち):任された仕事を一つひとつやりきりながら、力を高める段階
(3)メインプレイヤー(Main Player/一人前):創意工夫を凝らしながら、自らの目標を達成する段階
(4)リーディングプレイヤー(Leading Player/主力):組織業績と周囲のメンバーを牽引する段階

●マネジャーとして部下を持つ管理職層:4つのステージ(段階)
(1)マネジャー(Manager/マネジメント):個人と集団に働きかけて、組織業績を達成しながら変革を推進していく段階
(2)ダイレクター(Director/変革主導):対立や葛藤を乗り越えながら、変革・改革を起こし、組織の持続的成長を実現する段階
(3)ビジネスオフィサー(Business Officer/事業変革):戦略的な資源配分を通じて、自ら描いた事業構想を実現する段階
(4)コーポレートオフィサー(Corporate Officer/企業変革):社会における自社の存在意義を絶えず問い直し、自社の針路を決める段階

●部下を持たない管理職層:2つのステージ(段階)
スペシャリストとして部下を持たない管理職層:2つのステージ(段階)
(1)エキスパート(Expert/専門家):高い専門性を発揮することを通じて、組織業績と事業変革に貢献する段階
(2)プロフェッショナル(Professional/第一人者):卓越した専門性を発揮することを通じて、事業変革に道筋をつける段階
部下育成の教科書 図1.jpg

 「10」と聞いてやや多過ぎか?と思いましたが、上記のように一般社員層4、部下を持つ管理職層4、部下を持たない管理職層4ということで納得。これを全部均等に解説していくと"総花的"になってしまうところを、一般社員層の4段階を特に詳しく説明し、更にステージの変わり目(トランジッション)をどう見極め、上司としてどう対処するかを説いたりもしているため、総花感は回避されているように思いました。

 部下の成長の段階の違いによって育成方法や指導に関する関与の在り方を違えるべきだという気付きを与えるという意味では、啓発される要素は多い本であるし、何よりも分かり易く書かれています。

 一般社員について、スターター、プレイヤー、メインプレイヤー、リーディングプレイヤーの4段階に分かれているというのは、SL理論(Situational Leadership Theory)との対比で捉え直してみると面白いのではないでしょうか。

 著者らは何れもリクルートマネジメントソリューションズ(前HRR、旧人事測定研究所)の所属。本書はいわばリクルート流のSL理論(状況対応型リーダーシップ理論)であり、一般職の部分に更に管理職層の部分を繋げて作ったものとも言えるのではないかと思いました。

 個人的なツン読本、または読み残しや書評の書き残しを改めて振り返った「"やや中古"本に光を」シリーズはここまで下記の通り。読んでみて大したことが書かれていなかった本もあれば、もっと早く読んでおけばという本もあって、本を読むときの時間的優先順位の決め方というのは難しいと改めて思った次第です。
【2270】 × 中澤 二朗 『働く。なぜ? (2013/10 講談社現代新書) ★☆
【2071】 △ 齋藤 孝 『雑談力が上がる話し方―30秒でうちとける会話のルール』 (2010/04 ダイヤモンド社) ★★★
【2272】 △ 近藤 圭伸 『上司の「人事労務管理力」―部下との信頼関係を築くために大切なこと』 (2012/09 中央経済社) ★★★
【2273】 △ 奥山 典昭 『間違いだらけの「優秀な人材」選び (2012/11 こう書房) ★★★
【2275】 ○ 三菱UFJ信託銀行退職給付会計研究チーム 『図解 退職給付会計はこう変わる! (2013/08 東洋経済新報社) ★★★★
【2276】 ◎ 笹島 芳雄 『最新アメリカの賃金・評価制度―日米比較から学ぶもの』 (2008/04 日本経団連事業サービス) ★★★★★
【2277】 ○ 山田 直人/木越 智彰/本杉 健 『部下育成の教科書 (2012/03 ダイヤモンド社) ★★★★(本書)

《読書MEMO》
sl理論.gif●SL理論(「INVENIO LEADERSHIP INSIGHT」より)
(1977年にハーシィ(P.Hersey)とブランチャード(K.H.Blanchard) が提唱したリーダーシップ条件適応理論の1つ)
S1:教示的リーダーシップ/ 具体的に指示し、事細かに監督する 
(タスク志向が高く、人間関係志向の低いリーダーシップ)
→部下の成熟度が低い場合
S2:説得的リーダーシップ/こちらの考えを説明し、疑問に応える 
(タスク志向・人間関係ともに高いリーダーシップ)
→部下が成熟度を高めてきた場合
S3:参加的リーダーシップ/ 考えを合わせて決められるように仕向ける 
(タスク志向が低く、人間関係志向の高いリーダーシップ)
→更に部下の成熟度が高まった場合
S4:委任的リーダーシップ/ 仕事遂行の責任をゆだねる
(タスク志向・人間関係志向ともに最小限のリーダーシップ)
→部下が完全に自立性を高めてきた場合

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ストーリーがよく出来ていて、いいタイミングでドラッカーの言葉が出てくる。

まんがでわかる ドラッカーのリーダーシップ論.JPGまんがでわかる ドラッカーのリーダーシップ論2.jpg   まんがと図解でわかるドラッカーのリーダーシップ論.jpg
まんがでわかる ドラッカーのリーダーシップ論』『まんがと図解でわかるドラッカーのリーダーシップ論 (別冊宝島) (別冊宝島 1750 スタディー)

 東京での仕事で挫折し、失意のまま退職した赤井満は、いつのまにか生まれ故郷で村おこしのプロジェクトリーダー「特命村長」に任命されていた! 村役場から選ばれたメンバーを率い、彼らの強みを生かした成果が期待される満。彼女を支えたのは、経営学の父・ドラッカーが唱えたリーダーシップの真髄だった―。

まんがでわかる ドラッカーのリーダーシップ論21.JPG 『まんがでわかる7つの習慣』('13年/宝島社)の第2弾ということですが、本書が刊行される以前に「別冊宝島」(ムック)として本書と同じ監修者による『まんがと図解でわかるドラッカーのリーダーシップ論』('11年)が刊行されており(その他に『まんがと図解でわかるドラッカー マネジメント、イノベーションなどが初心者でも簡単に理解できる!』('10年)や『まんがと図解でわかるドラッカー 使えるマネジメント論』('11年)などもある)、やや既知感のようなものもあってそれほど期待せずに読んだら、これが意外と"優れもの"でした。

 『まんがと図解でわかるドラッカーのリーダーシップ論』も好評で文庫化されたりもしていますが、マンガは添え物で図解がメインといった感じでしょうか。テーマ項目ごとにきちんと纏まっていましたが、「項目主義」になってしまっていて、逆に本当の意味での理解に繋がらない面もあるのではないかという気もしました。

まんがでわかる ドラッカーのリーダーシップ論00_.jpg その点本書は、マンガとしてのストーリーがよく出来ていて、いいタイミングでドラッカーの言葉が出てくるため、それがまた相互作用として活きているように思いました。ドラッカーの述べていることの中には時期によってニュアンスが少しずつ違っている部分もあり、その点、複数のドラッカーの著者から引用することで、ドラッカーがあたかも最初からそうしたことを提唱していたように捉えられてしまうのはどうかというのはムック版でもあり、本書でもありましたが、これくらいの入門レベルになると、そこまでこだわることもないでしょうか(むしろ、テンポが大事で、その点は合格点!)。

 こうした本は、普段本よりもマンガを読む人向けという捉えられ方をしがちですが、さらっと読めてドラッガーを身近に感じられるという点では、マンガへの親和度の高い低いに関わらずお薦めです。

まんがでわかる ドラッカーのリーダーシップ論 (宝島社新書)』['19年]

【2019年新書化[宝島社新書]】

《読書MEMO》
●コミュニケーションが成立するには経験の共有が不可欠だ...。組織においてコミュニケーションは手段ではない。組織のあり方である。―P.F.ドラッカー『マネジメント(中)』p157(本書23p)
●あまりに多くのリーダーが、自分のしていることとその理由は、誰にも明らかなはずだと思っている。そのようなことはない。多くのリーダーが自分の言ったことは誰もが理解したと思う。しかし誰も理解していない。―P.F.ドラッカー『非営利組織の経営』p 30(本書24p)
●重要なのはカリスマ性ではない。...リーダーが初めに行うべきは、自らの組織のミッションを考え抜き、定義することである。―P.F.ドラッカー『非営利組織の経営』p2(本書35p)
●人の配置は、あらゆる事業においてきわめて重要な事案である。...人が一人あるいは小さなチームとして、事細かな監督なしに自主的に働くとき、単に働きたいという意欲からより良い仕事をしたいという意欲に左右される。すなわち配置によって左右される。―P.F.ドラッカー『現代の経営(下)』p157(本書54p)
●専門職たる者は、自らの仕事が何であるべきか、優れた仕事とは何であるべきかを自ら決める。何を行うべきか、いかなる基準を適用すべきかについて、誰も彼に代わって決めることは出来ない。彼らは、誰からも監督されない。―P.F.ドラッカー『現代の経営(下)』p201(本書68p)
●専門職は一人で働こうとチームで働こうと、自らの貢献について責任をもつ。―P.F.ドラッカー『現代の経営(下)』p199-201(本書69p)
●上司は部下の仕事に責任をもつ。部下のキャリアを左右する。したがって、強みを生かす人事は、成果をあげるための必要条件であるだけでなく、倫理的な至上命令、権力と地位に伴う責任である。―P.F.ドラッカー『経営者の条件』p126(本書80p)
●人を問題や費用や脅威として見るのではなく、資源として、機会として見ることを学ばなければならない。管理(manage)で. はなくリード(lead)すること、支配(control)ではなく方向づけ. (direct)することを学ばなければならない。―P.F.ドラッカー『マネジメント(上)』p31(本書89p)
●成果をあげるための秘訣を1つだけあげるならば,それは集中である。成果をあげる人は最も重要なことから始め、しかも一度に一つのことしかしない。―P.F.ドラッカー『プロフェッショナルの条件』p138(本書111p)
●リーダーシップが発揮されるのは、真摯さによってである。範となるのも、真摯さによってである。真摯さは、取って付けるわけにはいかない。真摯さはごまかせない。―P.F.ドラッカー『マネジメント(中)』p109(本書127p)
●自らをマネジメントするということは、一つの革命である。...あたかも組織のトップであるかのように考え、行動することが要求される。―P.F.ドラッカー『明日を支配するもの』p231(本書166p)

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「労働法」の知識と「部下マネジメント」。そう悪くないが、Amazon での作為的な評価操作が信頼を損ねる。

1上司の「人事労務管理力」.png上司の「人事労務管理力」 2.jpg上司の「人事労務管理力」』(2012/09 中央経済社)

 「"やや中古"本に光を」シリーズ第3弾(エントリー№2272)。第1章から第3章まで、上司の「人事労務管理力」の重要性を、事例等交えて分かり易く説き、第4章で「人事労務管理力」の中心にくる「ダメ上司と言われないための知識」について解説していますが、この部分は採用・配置、人事評価、賃金から服務規律、退職・解雇まで、主に労働法の実務知識の解説となっています。続く第5章から第8章までは、上司の「人事労務管理力」の中枢としての知識の周辺にくる、部下の信頼勝ち取るための4つの行動(実践力)―「観察力」「傾聴力」「対話力」「承認力」―について解説し、最後に部下と本物の信頼関係を築くにはどうすればよいかを説いて終わっています。

 著者は社会保険労務士・中小企業診断士であり、「人事労務管理力」について「労働法」の面からと「部下マネジメント」の面から語っているのは、まさに著者の特性に対応していると言えるかもしれません。書かれていること一つ一つは至極尤もであり、基本事項は押さえていると言えますが、逆にインパクトが弱い印象も。「労働法」(テクニカルスキル)と「部下マネジメント」(ヒューマンスキル)が1冊に纏まっているため、経営者や管理職の初学者層には便利な1冊かもしれませんが、こうした本をちょっと読み込んでいる人にはややもの足りないかもしれません。

 本書はツン読していたわけではなく、早い時期に購入して読了していたのですが、まあ、それほど悪くない内容かなと思いつつ、インパクトの弱さもあって、コメントを書かずにいました。今回、Amazon.comのレビューを見たら、10人中9人が星5つの評価をしていて、残りの1人は星4つ評価。随分高評価だけれど、それほどスゴイ本だったかなとか、経営者や管理職の初学者にはツボにハマったのかなとか思いつつよく見ると、5つ星評価を付けている人のうち7人は本が出てから間もない1週間の間に連日入れ替わるかのようにレビューを寄せていて、更に、レビュアー(評者)らがこれまでにどのような本にどれほどレビューを書いているのか見てみると、9人のうち7人は、本書以外は1冊しかレビューを書いていないか、或いは本書のみのレビューしかありませんでした。

 出版不況の折、著者としてはAmazon.comに好意的コメントを集めて、それを見た人に出来るだけ本を買わせたい気持ちは解らないでもないですが、これはちょっとやり過ぎではないかなあ(レビュアーは殆どサクラであるということではないか)。

上司の「人事労務管理力」2.jpg 最初に読んで、内容的にはまあまあではないかと思いつつ、後で再読したりコメントを書いたりすることが暫く無かったのは、労働法の部分だけでなく、「観察力」「傾聴力」「対話力」「承認力」の4つについて書かれていることの何れもに対しての何となく既知感があってややインパクトが弱かったのが原因かと思いますが(4概念が近接したものであるというのもあって)、こうしたAmazon.comでの作為的な評価操作を目の当たりにしてしまうと、書かれていることも必ずしも著者のオリジナルではないのかなという気さえしてしまいます(それは無いにしても、ややゲンナリといったところか)。

 別にこの著者に限らず似たようなことをしている人は大勢いますが、書かれていることに対する信頼さえ失わせるようなことは止めておいた方が良かったのではないかと思います(上司と部下との信頼関係も大事だけれど、著者と読者の信頼関係も大事)。個人的なツンドク本を改めて振り返るつもりが(この本は読了していたので正確にはツンドク本ではないが)、販促手法に対する批判めいたことになってしまいましたが、巷では本の中身自体はそれなりに評価されらしく、こうした作為を施すまでもなく結構売れたようですから、今ここでこれくらいのことは言っても今更殆ど影響はないかと思います。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ダニエル・ゴールマン)

「集団に共鳴現象を起こし組織に前向きの雰囲気を醸成する」EQリーダーシップ。感情こそが組織の命との考えは意外と附落ちする。

『EQリーダーシップ―』.pngEQリーダーシップ3.jpg ダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman).jpgダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman、1946‐ )
EQリーダーシップ 成功する人の「こころの知能指数」の活かし方』ダニエル・ゴールマンが思いやりを語る | Talk Video | TED.com
ダニエル・ゴールマンが思いやりを語る Talk Video TED.com.jpg 1995年に『EQ-こころの知能指数』("Emotional Intelligence")を発表し、日本を含む全世界でベストセラーとなったダニエル・ゴールマンが、コンピテンシー研究者のリチャード・ボヤツィスらと共に著した本で、EQ(感じる知性)の高いリーダーが集団に共鳴現象を起こし業績を伸ばすことができるのはなぜか、という問いを解明したもの("Primal Leadership: Realizing the Power of Emotional Intelligence"、2002)。

 第1部「六つのリーダーシップ・スタイル」の第1章「リーダーの一番大切な仕事」において、優れたリーダーは、人の心を動かし、人の情熱に火をつけ、最高の力を引き出すとしています。リーダーの影響力はその発言だけにとどまらず、発言していないときもリーダーは注目されていて、特に人によって異なる反応を示すような微妙な状況下では人々はリーダーを見るのであって、ある意味、リーダーは感情の基準を作るのであるとし、優れたリーダーは集団の協調意識を高く保つことができ、メンバーを目標達成に駆り立てることができるとしています。

 第2章「共鳴型リーダーと不協和型リーダー」において、共鳴型リーダーと不協和型リーダーのそれぞれの例を挙げています。リーダーの基本的な役割は、良い雰囲気を醸成して集団を導くことであって、そのためには、集団に共鳴現象を起こし、最善の資質を引き出してやることが肝要であるとしています。共鳴は前向きの感情をより長引かせる効果があり、EQの高いリーダーは、ごく自然に共鳴を起こすことができ、熱意と行動力を示して、グループ全体を共鳴させるとしています。

 また、知と情は別々の神経回路でコントロールされているが、両者は緊密に絡み合っているとし、この知性と情動を統合する脳の回路こそ、EQリーダーシップの基礎であるとしています。ビジネスの世界は感情より知性を重視したがりますが、人間の感情は知性よりも強く、非常事態が起こったときに脳をコントロールするのは、情動をつかさどる脳(大脳辺縁系)であって、情動をつかさどる脳と前頭葉前部との対話は、思考と感情を統御する役割をもつ脳内のスーパーハイウェイとも呼ぶべき神経回路を通して行われるため、リーダーシップに不可欠なEQが発揮できるかどうかは、前頭葉前部と大脳辺縁系を結ぶ神経回路がスムーズに機能するかどうかにかかっているとのことです。

 さらに、EQには「自分の感情を認識する」「自分の感情をコントロールする」「他者の気持ちを認識する」「人間関係を適切に管理する」という4つの領域があり、それぞれが共鳴的リーダーシップに不可欠なスキルを提供しており、この4つの領域は密接に撚りあわされ連繋して動くものだとしています。

 第3章「EQとリーダーシップ」では、「自己認識」「自己管理」「社会認識」「人間関係の管理」というEQの4領域とそれに関連する18のコンピテンシーについて解説しています。例えば「自己認識」とは、自分の長所や限界、自分の価値観や動機について深い理解を有している、ということであり、自己認識の優れた人間は、自分の価値観に合った決断ができるので、仕事に対していつも前向きでいられるし、自己認識ができてはじめて、自己管理が可能になるのであって、自分が何を感じているかがわからなければ、自分の感情を管理できるはずがないとしています。

 第4章「前向きなリーダーシップ・スタイル」では、6種類の代表的なEQリーダーシップ・スタイルを紹介、この内、「ビジョン型リーダーシップ」「コーチ型リーダーシップ」「関係重視型リーダーシップ」「民主型リーダーシップ」の4つを業績を向上させる共鳴を起こす"前向きなリーダーシップ・スタイル"として解説し、第5章「危険なリーダーシップ・スタイル」では、「ペースセッター型リーダーシップ」「強制型リーダーシップ」の2つを、特殊な状況下では有用であるが注意して使う必要があるものとして解説しています。

 第2部「EQリーダーへの道」では、EQリーダーは育つものであるとし、リーダーシップ育成の中でも最も重要なのは自発的学習であって(第6章)、自分の理想像を見出すことから変化は始まり(《第1の発見》)、続いて現実をしっかり見ることが大切であり(《第2の発見》)(第7章)、さらに理想のリーダーシップを目指して学習計画を作り(《第3の発見》)、脳の構造を変え(《第4の発見》)、人間関係の力(《第5の発見》)を活かすことで、チーム全体を巻き込んでいくというステップを踏むとしています(第8章)。

 さらに、第3部「EQの高い組織を築く」では、リーダーシップの育成を最も効果的に実現させるには。リーダーと並行して組織も変化していかなければならないとして、集団のEQを高めるにはどうすればよいか(第9章)、さらに、組織の現実と理想をどう結び付けていくか(第10章)、また、長期に渡って持続する共鳴を起こすためにリーダーたちは何をすればよいか、進化し続ける組織とはどのようなものであるか(第11章)を示しています(意外とこの考え方が、日本人である自分にはすっきり腑に落ちる)。

EQリーダーシップ88.JPG 本書は、EQが共鳴的リーダーシップの最も重要なコンピテンシーであり、個人レベルでも集団レベルでもこうした能力を強化することは可能であるという観点に立つとともに、今日では、力だけで企業を率いるリーダーは少なくなり、人間関係にきちんと対応できるリーダーが増えていることなどからみても、協調を呼びかけるべきとき、ビジョンを提示すべきとき、傾聴すべきとき、命令を下すべきときを知っている共鳴的リーダーは不可欠となり、EQリーダーシップはますます重要になるとしています。
  
和田泰明さん.jpg 「EQリーダーシップ」のユニークさは、著者によれば、リーダーシップ理論と脳のメカニズムを関連づけた点にあるとのことですが、個人的にはむしろ、著者らがEQリーダーシップを、「集団に共鳴現象を起こし、組織に前向きの雰囲気を醸成するマネジメント」として定義することで、経営の世界に「感情」といったそれまであやふやであるとして回避されていたものを持ち込み、それどころか更に、感情こそが組織の生命だとの考えに立っていることの方に注目したいと思います。また、本書の考え方は、日本人であるわれわれには、意外と腑に落ちるものであるという点でもたいへん興味深いと思います。

 自己啓発書的要素が多分にある本でもありますが、人事パーソン目線で見るならば、人材アセスメントの観点から参考になる部分は多いように思われ、広くお薦めしたいと思います。

2019.03

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

《●『EQリーダーシップ』要約pp》
EQリーダーシップ図1.png
EQリーダーシップ図2.png
EQリーダーシップ図3.png
EQリーダーシップ図4.png
EQリーダーシップ図5.png
EQリーダーシップ図6.png


《読書MEMO》
●6つのEQリーダーシップ
【ビジョン型リーダーシップ】 共通の夢に向かって人々を動かす
 A:<共鳴の起こし方> 共通の夢に向かって人々をうごかす
 B:<風土へのインパクト> 最も前向き
 C:<適用すべき状況> 変革のための新ビジョンが必要なとき、または明確な方向が必要なとき
【コーチ型リーダーシップ】 個々人の希望を組織の目標に結びつける
 A:個々人の希望を組織の目標に結びつける
 B:非常に前向き
 C:従業員の長期的才能を伸ばし、パフォーマンス向上を援助するとき
【関係重視型リーダーシップ】 人々を互いに結びつけハーモニーを作る
 A:人々を互いに結びつけてハーモニーを作る
 B:前向き
 C:亀裂を修復するとき、ストレスのかかる状況下でモチベーションを高めるとき、結束を強めるとき
【民主型リーダーシップ】 提案を歓迎し、参加を通じてコミットメントを得る
 A:提案を歓迎し、参加を通じてコミットメントをえる
 B:前向き
 C:賛同やコンセンサスを形成するとき、または従業員から貴重な提案を得たい時
【ペースセッター型リーダーシップ】 難度が高く、やりがいのある目標の達成を目指す
 A:難度が高くやりがいのある目標の達成をめざす
 B:使い方が稚拙なケースが多いため、非常にマイナスの場合が多い
 C:モチベーションも能力も高いチームから高いレベルの結果を引き出したい時
【強制型リーダーシップ】 緊急時に明確な方向性を示すことで恐怖を鎮める
 A:緊急時に明確な方向性を示すことによって恐怖を鎮める
 B:使い方を誤るケースが多いため、非常にマイナス
 C:危機的状況下、または再建始動時、または問題のある従業員に対して

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奉仕こそがリーダーシップの本質。従来の「強いリーダー像」からの発想の転換を促す。

『サーバントリーダーシップ』。.jpg『サーバントリーダーシップ』.jpg ロバート・K・グリーンリーフ.jpg Robert K. Greenleaf A Life of Servant Leadership.jpg  The Servant as Leader.png
ロバート・K・グリーンリーフ(1904‐1990) "The Servant as Leader (English Edition)"
サーバントリーダーシップ』(2008/12 英治出版)

サーバントリーダーシップ6.JPG サーバント・リーダーシップの提唱者であり、AT&Tマネジメント研究センター長を務めたロバート・K・グリーンリーフ(Robert K.Greenleaf)による本書("The servant as leader"1970)は、「サーバント」つまり奉仕こそがリーダーシップの本質であり、高い志や社会への奉仕の心を持って、スケールの大きなミッションやビジョンに導かれながらも、その実現に邁進するフォロワーに対して、リーダーの方が尽くすという、それまでのパワーでフォロワーをぐいぐい引っ張っていく一般的なリーダー像とはまったく異なる、「奉仕型リーダーシップ」を提唱したものとして知られています。リーダーがフォロワーに尽くすのが自然であり、「導くこと」と「奉仕すること」は両立するという著者であるグリーンリーフの考え方は、従来の常識の転換を促すものであったと思われます(ピーター・センゲに「リーダーシップを本気で学ぶ人が読むべきただ1冊」と言わしめた本でもある)。

『サーバントリーダーシップ』三省堂 2.jpg 第1章「リーダーとしてのサーバント」では、サーバント・リーダーとはそもそもサーバントであって、そもそもリーダーである人とはタイプ的には両極端にあるとしています(ヘルマン・ヘッセの短編「東方巡礼」のレーオこそがサーバント・リーダーであるとしているのが分かり易い)。では「リーダーとしてのサーバント」とは何か。それは、①リードするという意識的なイニシアティブから始まり、②大きな夢があり、やりたいことがわかっていることであり、さらに、③傾聴し理解する力、④言語力と想像力、⑤一歩下がることができる能力、⑥受容と共感、⑦意識的な理論を超えた感知力、⑧予見力、⑨気づく力と知覚力、⑩説得力といった資質を携えていることであるとしています。さらに、⑪概念化はリーダーの重要な才能であるとともに、⑫人を癒すヒーリング能力も求められるとしています。
 この部分は、後にグリーンリーフ・センター・アメリカ本部の所長を務めるラリー・スピアーズ(本書の編者でもある)により、以下(《読書MEMO》)のような10余りの特性に再整理されたものを、監訳者である金井壽宏氏が本書巻末に載せています。

SERVANT-LEADERSHIP-2.jpg 第2章「サーバントとしての組織」、第3章「サーバントとしてのトラスティ」では、組織をより奉仕できるものにするための概念としてトラスティとその在り方を提唱し、さらに、第4章で、「企業におけるサーバント・リーダーシップ」の在り方を説いています。この部分は、組織を会社、トラスティを取締役会と想定し、取締役会と執行役員会の機能の違いを念頭においても読めるかと思います。以下、第5章で、「 教育におけるサーバント・リーダーシップ」、第6章で「財団におけるサーバント・リーダーシップ」、第7章で「教会におけるサーバント・リーダーシップ」について述べています。そして第8章「 サーバント・リーダー」では、著者がよく知るところのその模範となるべき人物を挙げて紹介し、第9章で「官僚主義社会におけるサーバントとしての責任」について、第10章で「 アメリカと世界のリーダーシップ」についてそれぞれ述べた講演を収めています。
 最終章にあたる第11章「心の旅」は、リーダーシップについて考えることは自らの姿に出会うことと同じで、深く内側の真実の自分へと辿る心の旅でもあるという、非常に啓蒙的かつ詩的とも言える内容のものとなっています。

servantleadership.jpg 「サーバント・リーダーは、何よりもまずサーバント(フォロワーに尽くす人)なのである。まず、初めにフォロワーに尽くしたいという自然な感情があり、フォロワーに尽くすことが第一なのである。そのうえで、導きたいという願望に駆られるのである」。つまりサーバント・リーダーは、自分のビジョンやゴールに向かって一緒に付いて来てくれるフォロワーに対し、「尽くしたい」という思いを最初に抱く―それゆえに、フォロワーに必要なものを提供しようと常に努め、フォロワーに影響力を行使してゴールに導いていきます。このように利他の心、フォロワーを思いやり、フォロワーに尽くす心で臨むことが、サーバント・リーダーシップの実践哲学です。
 グリーンリーフは、これを「Servant First」(相手に尽くす気持や奉仕の精神が最初に来る)と表現しています。リーダーがそうした実践哲学に立脚してこそ、フォロワーは絶大な信頼を寄せ、喜んでゴールへ同行してくれるということになるのでしょう。

『サーバントリーダーシップ』 .JPG とりわけ第1章をしっかり読まれることをお勧めします。先に述べたように、それまでのパワーで皆をぐいぐい引っ張っていくリーダー像に対して大きく発想の転換を促したという点で、欧米ではユニークなリーダーシップ観ということで注目されましたが、一方で、和を尊重する日本の社会においては、こうしたサーバント・リーダーと呼べるようなリーダーはこれまでにも少なからずいたようにも思われ、一般に日本はリーダーシップの研究やリーダーの育成が遅れている(或いはリーダーが育ちにくい)と言われる中、或いはまた、欧米型のリーダーシップ観をその通り実践した場合日本の社会の中ではむしろ"浮いて"しまいがちになるとも言われる中、日本人にとって、身近にイメージし易い、また、誰もが目指しやすいリーダー像を示した本としても注目されるべきではないでしょうか。解説で金井壽宏氏が、サーバントの素質がある人がリーダーになるのがいいと書いているは、特に日本の社会において当て嵌まるように思います。

サーバント・リーダーシップ   .png

【2794】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『プロがすすめるベストセラー経営書』 (2018/06 日経文庫)

《読書MEMO》
servant-leadership.jpg●サーバント・リーダーシップの特性
 ・利他心(相手に尽くし奉仕することにより信頼を得ること)
 ・気づき(自分自身の感情と行動を理解し、相手や状況を理解すること)
 ・癒し(自分や相手のストレスや困難、リスク要因を見つけ出して解決すること)
 ・傾聴(心を開いて、相手の要求や課題を聴くこと)
 ・共感(相手の立場で、相手の感情・思考・意図を理解すること)
 ・説得(強制ではなく相手を納得させて、自発的な行動を促すこと)
 ・概念化(目指すゴールやビジョンの具体的なイメージを描くこと)
 ・先見性(過去から学び、現実を見据え、未来への道筋を示すこと)
 ・スチュワードシップ(信頼と強い責任感の下で黙々と奉仕すること)
 ・成長へのコミット(相手の成長を支援すること)
 ・コミュニティー作り(チームワークと協調を促進すること)

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初期段階で読むテキストの1冊となり得るか。研修への応用をイメージしながら読むのもいい。

新版 グロービスMBAリーダーシップ.jpg【新版】グロービスMBAリーダーシップ.jpg グロービスMBAマネジメント・ブック[改訂3版].jpg グロービスMBA組織と人材マネジメント.jpg
【新版】グロービスMBAリーダーシップ』['14年]『【新版】グロービスMBAリーダーシップ』 ['14年/Kindle版] 『グロービスMBAマネジメント・ブック[改訂3版]』 ['14年/Kindle版]『グロービスMBA組織と人材マネジメント』 ['14年/Kindle版]

 2006年刊行の『MBAリーダーシップ』の8年ぶりの改訂新版で、前半約160ページの第Ⅰ部「理論編」と、後半約80ページの第Ⅱ部「実践編」から成りますが、各節のテーマごとに節の冒頭にケーススタディが配されていて、それを受けて理論や実践についての解説がなされるというスタイルを取っているため、テキストでありながら読み物を読むように読むこともできます。

 第Ⅰ部「理論編」では、第1章を「リーダーシップ理論の変遷」として、特性理論から始め、行動理論、条件的合理論、交換・交流理論を紹介し、さらに変革のリーダーシップ、サーバント・リーダーシップ、オーセンティック・リーダーシップについて解説しています。
 続く第2章は、「リーダーシップと関連する組織行動」として、リーダーの持つパワーの源泉が人間の心理に与える影響、良きフォロワーとして振る舞うこととリーダーの要件との関係、ネットワークの構築力とリーダーシップ発揮との関係、非常時のリーダーシップの要件といったことを解説しています。
 第3章の「リーダーシップの開発」では、リーダーシップ開発を組織的な取り組みとして体系化する方法や、今後のリーダーシップ開発の方向性について論じています。

 第Ⅱ部「実践編」では、「理論編」で学んだ考え方をいかに行動に落とし込んで実践するかを、第4章「リーダーシップを磨く」と第5章「リーダーシップを破棄する」に分けて示していますが、各テーマの冒頭のケースが経営大学院での双方向の授業内容をミニュチャアで再現したものとなっているのが特徴であり、この部分は、企業内インストラクターがリーダーシップ研修を実施する際の参考になるかと思います。

 企業内インストラクターとしての役割を担うか否かに関わらず、人事パーソンにリーダーシップ理論の基礎知識は必要であり、また、人事パーソンはリーダーシップに対する自分なりの考え方を持つべきであると考えます。そのために巷に溢れるリーダーシップに関する書籍を手当たり次第に読むというのも非効率であるし、と言って、正解を一つの理論フレームに求め過ぎるのも、個別の状況への応用が効きにくいという難点があるように思われます。

 したがって、こうしたテキスト的な書籍によってリーダーシップ理論体系を把握したうえで、自らが関心を持った理論については、その提唱者が直接書いた書物に読み進み、そのエッセンスを深耕していくのが最も効率的であるように思います。

 また、リーダーシップ理論は、理論をそのまま現実に適用するのではなく、基本的エッセンスを応用の足がかりとするというスタンスで臨むことになるのではないかと考えます。こうしたテキスト的な書籍を、実際に社内研修等に応用できるかどうか、応用した場合はどのような使い方になるのか、などとイメージしながら読むことは、そうした思考訓練を兼ねることになるようにも思います。

 テキストは学習者との相性もあるため、本書がそうしたテキストとしてベストであるとまでは言いません。また、本書1冊でこと足りるということもないでしょう。リーダーシップ理論(第1章)と組織行動論(第2章)を併せて120ページというのは、コンパクトであると言えばそうとも言えますが、相当"浅い"とも言えなくもありません。但し、そうした初期段階で読むべき何冊かのテキストとしては比較的オーソドックスであり、その候補のうちの1冊としてはなり得るかもしれません。

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マネジャーの"経験学習"にメス。経験と能力の関係、経験の決定要因をデータから解明。

松尾 睦  『成長する管理職』.jpg松尾 睦  『成長する管理職』2.jpg
成長する管理職: 優れたマネジャーはいかに経験から学んでいるのか』['13年]

 グローバル競争が激化する今日において、現場を支えるミドルマネジャーの成長を支援することは、人事部の今日的且つ大きな課題となっていますが、本書によれば、マネジャーの成長プロセスの研究はあまり進んでいないとのことです。確かに、管理職研修などでも、ひとしきり座学講義があって、最後には、「マネジャーの成長は経験で決まる」という結論で締めくくられることがありますが、その「経験」が具体的に何を指すのかは、曖昧なままにされてきたようにも思います。

 「経験学習」の研究者による本書は、「経験はどのように能力と関係しているのか」「経験はどのような要因によって決定されるのか」という2つの問いかけのもと、日本企業12社の課長・部長の調査データを分析することで、こうしたマネジャーの経験学習のプロセスを明らかにすることを狙いとしています。

 そして、それらの定性的・定量的調査の結果分析を通して、「経験はどのように能力と関係しているのか」という第1の問いに関しては、「部門を超えた連携」「変革への参加」「部下育成」という3つの経験が複合的に「情報分析力」「目標共有力」「事業実行力」を高めていることがわかったとしています。

 また、「経験はどのような要因によって決定されるのか」という第2の問いに関しては、「過去の経験」「目標の性質」「上司の支援」の3つが経験に影響を与えていることがわかったとし、このうち、経験に最も強く影響していたのは、過去の経験であり、例えば、部長時代に部門連携の経験を積んでいる人は、担当者時代や課長時代にも部門連携の経験を積んでいる傾向が見られ、部長時代に変革に参加している人は、それ以前にも変革に参加する傾向が見られたとしています。

 つまり、早い時期に上記3つの経験(「部門を超えた連携」「変革への参加」「部下育成」)を積んでおくほど、その後も同様の経験が積みやすくなる「経験の好循環」に入ることができる、逆にいうと、この循環に入れないマネジャーは成長しにくくなるとしています。

 では、この好循環に入るためにはどうしたらよいのかというと、そのためには、挑戦や好奇心を重視する「学習志向の目標」と、目標達成を重視する「成果志向の目標」を持つことであり、学習志向や成果志向の高い人は、部下育成の経験を積む傾向が見られたとしています。

 また、経験の好循環に入るためのもう1つの要因である「上司の支援」に関しては、特に、通常は会うことが難しい社内外の上位者やキーパーソンを紹介してもらい、対話する機会をもらっている人ほど、連携や変革の経験が見られたとしています。

 本書が示すこうした幾つかの知見に触れて、実際に自分がこれまで見てきた「成長する管理職」像と符合する点が多いと思われる読者も多いのではないでしょうか。、巻末には、これまでに得られた知見をベースに、補論として「マネジャーの育成方法」と「マネジャーの経験学習の診断方法」を付すなど、実務への落とし込みもなされています。

 全体としては研究書というスタイルをとっていますが、マネジャーを育成する役割を担っている人はもちろんのこと、マネジャーとして成長したいと思っている人、今後マネジャーになりたい人も読者層として想定しており、詳しい統計分析方法などはコラムや章末の参考資料としてまとめ、一般のビジネスパーソンは読み飛ばしてもよいとするなど、そうした読者がストレスを感じずに読めるよう配慮されています。

 また、要所ごとに、リーダーシップ理論などを"おさらい"的に紹介しており、その部分に関しては入門書としても読めます。そのため、マネジャーを育成する役割を担っている人には、階層を問わず一読され、「経験学習」という考え方を通して、マネジャーの成長を促すにはどうすればよいかということを改めて考えてみるのもよいのではないかと思います。

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(シェリル・サンドバーグ)

女性のためのキャリア指南書。男性が読んでも啓発される要素は多い。

LEAN IN(リーン・イン).jpgLEAN IN(リーン・イン)2.jpg LEAN IN(リーン・イン)3.jpg Sheryl Sandberg.jpg
LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』 Sheryl Sandberg in TED
              
シェリル・サンドバーグはいかにして野心を抱き.jpg 本書の著者シェリル・サンドバーグは、財務省で首席補佐官を務め、その後グーグルで6年半働いてグローバル・オンライン・セールスおよびオペレーション担当副社長を歴任した後、あのマーク・ザッカーバーグによりフェイスブックにスカウトされ、今現在はフェイスブックのCOO(最高執行責任者)の地位にある人であり、2011年8月のフォーブズ誌「World's 100 Most Powerful Women」で5位になった人でもあり(ミッシェル・オバマ大統領夫人よりも上に位置していた)、2013年には「経営思想家トップ50(Thinkers50)」にランクインしています。

「シェリル・サンドバーグはいかにして野心を抱きすべてを手に入れたのか」(米「TIME」誌→「COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2013年 08月号 [雑誌]」)

 こうした著者の華々しい経歴から、本書は、スーパーウーマンが自らの成功体験をもとに、フツーの人にはちょっと真似できないようなことが書かれた自己啓発書かと思われがちですが、実際に読んでみると、著者自身、自らのキャリアが恵まれたものであることを率直に認めつつも、現在の地位にたどりつくまでにさまざまな苦労や葛藤があったことが、実に赤裸々に、時にユーモアを交え描かれています。

 また、アメリカ社会において女性が仕事をしていくことがいかに困難かを多くのデータや文献から裏付けるとともに、その原因を、社会の仕組みだけでなく、働く女性の心理面からも分析し、女性たちがそうした内面の壁を突破するにはどうしていけばいいかを考える内容となっています。

 著者によれば、男女差別はアメリカ社会の中にも隅々まで根付いていて、優秀な女性たちは、自分たちの優秀さについて一種の罪悪感を抱いており(著者自身、ハーバード大学で最優秀学生の1人に選ばれた際に、「優秀な女は嫌われる」という思い込みから、周囲にはそのことを隠していたという)、女性たちはまず、この内なる敵と闘わなければならないのとしています。

 その上で、「キャリアは梯子ではなくジャングルジム」「笑っていれば気分が明るくなる」「ロケットの座席をオファーされたらまず座ってみる」「正直なリーダーになる」「完璧を目指すよりもとにかくやり遂げること」という「5つのマインドチェンジ」を提唱しています。

 女性がキャリアで成功する上での障害と、それを取り除くためにどうすればよいかということについて多くのページを割いていて、報酬の交渉をする際のポイント、夫を協力的なパートナーにするためのコツや、子供が生まれるまさにその時まで仕事を辞めてはいけないというアドバイスなど、いずれも具体的かつ有用なものばかりです。

シェリル・サンドバーグ1.jpg プレゼンテーション・カンファレンスとして知られる「TED」で著者が講演した際の話がでてきますが、著者が本書を著すきっかけとなったのは、TEDでの著者の「なぜ女性のリーダーは少ないのか?」と題された(周囲はなぜ彼女は成功したのかを聞きたがっていたが、彼女は敢えてこのテーマを演題に選んだ)トークの反響が大きかったためで(トークの模様はインターネットで視聴できる)、本書もアメリカでベストセラーとなり、女性のキャリアについて大きな論争が起きているとのことです。

 論争の元となる1つの要素として、例えば著者が、自分のことを特別な女性と崇め奉り「メンターになってくれませんか?」と言い寄ってくる女性に対して、力のある人間にすり寄っていけば誰かが自分を引き上げてくれるだろうという、その受け身の姿勢が気に入らないとぶちまけていたりすることもあるのかもしれません。また、男性優位社会との対立項として自らの考えを述べているように捉えられる点もあるのかも。

 但し、単に声高に女性の権利を主張するのではなく、本当に必要なのは相互理解であり、女性は女性で、まず出来ること、やるべきことをやりましょう、と言っているように思えました。その上で著者は、「いまこそ私は、誇りをもって、自分をフェミニストと呼ぼう」と宣言しています。結婚や出産といったライフイベントを機に、キャリアを諦めてしまう女性が多いのは日本も同じであるという、データに基づいた指摘もあり、アメリカ国内だけでなく、世界の女性に呼びかけているところに、メッセージ性、発信力のスケールの大きさを感じます。

 著者は本書を自分の領域でトップに就く可能性を高めたい、全力でゴールを目指したい、そう考えている女性に向けて書いたそうです。女性のためのキャリアの指南書として読めるばかりでなく、男性にとっても、一緒に働く女性のことを考える契機となる本であり、また、男女を問わず、キャリアやリーダーシップに関する示唆に富むものとなっています。更に、女性リーダーのロールモデルを増やしていくことは、今後の企業の人材活用における大きな課題になっていくことは間違いなく、人事パーソンの視点からみても、啓発される要素を多分に含んだ本であると思います。

photo3377-2.jpg それにしてもこの人、TEDのプレゼンもNHKの「クローズアップ現代」でのインタビューも見ましたが、コミュニケーション能力がやはり抜群に長けているのではないでしょうか、「1対多」でも「1対1」でも。その年俸22億円はカルロス・ゴーンの倍以上ですが、確かにハーバードを首席で卒業した秀才ではあるし、おそらくマーケティングなどの知識も豊富だとは思われるのですが、やはりこの人をこうした地位まで押し上げたのは、リーダーシップとコミュニケーション能力だろうなあと思います。

「クローズアップ現代 女性のリーダーはなぜ少ない?~米企業トップ サンドバーグさんのメッセージ~」(2013年7月9日放送)

Facebook COO Sheryl Sandberg Commencement Speech | Harvard Commencement 2014


【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

【2018年文庫化[日経ビジネス人文庫]】

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マネジメント、組織行動理論を、一般向け噛み砕いて書き直したような感じ。読みやすい!

マネジメントとは何か スティーブン・P・ロビンズ.jpg1マネジメントとは何か.pngマネジメントとの正体 ロビンス.jpg 【新版】組織行動のマネジメント.jpg   Stephen P. Robbins.jpg
マネジメントの正体―組織マネジメントを成功させる63の「人の活かし方」』['02年]『【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ』['09年]Stephen P. Robbins
マネジメントとは何か』['13年]

 著者のスティーブン・P・ロビンズ(Stephen P. Robbins)は、アメリカ国内の多くの大学で採用され今も使われている組織行動論に関する教科書の著者として知られる人で、日本でも2009年に『組織行動のマネジメント―入門から実践へ』(ダイヤモンド社)としてその要約版が12年ぶりに邦訳されています。新訳版は原著の第8版をベースに翻訳していますが、原著は2013年現在で第12版まで刊行されていて、累計売上げは200万冊を超え、マネジメントと組織行動学の分野における世界一のベストセラー教科書とされています。

 本書は、同著者の"The Truth About Managing People"(『マネジメントの正体―組織マネジメントを成功させる63の「人の活かし方」』('02年/ソフトバンククリエイティブ))の第3版の翻訳で(原著は2014年に第4版が刊行された)、帯に「世界でいちばんわかりやすいマネジメントの教科書」とありますが、MBAなどでテキストとして使われている『組織行動のマネジメント』(これはこれで、これ一冊で組織行動論を概観できる優れもの)がやや硬派な"教科書"であるのに対し、こちらは「現にマネジャーである人々」「人を管理する職に就きたいと考えるすべての人たち」を対象として、マネジメントの真髄を分かり易く噛み砕いて書いた "啓発書"であると言えるのではないでしょうか。

 マネジャーが直面する、人間の行動に関する主要な分野ごとに全9部59章で構成されていて、その分野とは、採用、モチベーション、リーダーシップ、コミュニケーション、チーム作り、業績評価、変化への対応などであり、殆ど「人事マネジメント」に関するトピックを扱っていると言ってもいいのではないと思います。
 新たな版のために16のトピックを書き下ろし、それ以外の部分も最新の状況を加味して書き直したとのことで、今回書き加えられたのは、倫理的なリーダーシップ、バーチャルなリーダーシップ、カリスマの負の側面、年齢に関する固定観念、組織政治、職場でのデジタル雑音などの今日的なトピックです。

 59のケースはそれぞれが一章となっていて、好きな順に読めますが、個人的には、今回書き直された部分が多かったリーダーシップに関する箇所がとりわけ興味深く読めました。
 「カリスマ性は身に着けつけられる」としながらも、「カリスマ性は毒にもなる」としてその負の側面も指摘しており、また、「優れたリーダーは政治に秀でている」として、政治は組織で生きていくために欠かせないとし、ポリティックスを肯定的に捉えています。一方、倫理に欠けるリーダーは、自分のカリスマ性を利用して、自己利益のためにフォロワーを支配しようとするとしています。
 また、今日のマネジャーは、コンピュータやスマートフォンなどで書かれた言葉を通して支援やリーダーシップを伝える能力が求められるとしています。

 更に、文化の違いについて、殆どのリーダーシップ理論はアメリカで、アメリカ人によって、アメリカ人を研究対象として展開されてきたため、アメリカの影響を強く受けているとしています。こうした理論ではフォロワーの権利より責任を重視し、義務を果たす決意や利他的な動機づけよりも、快楽の欲求によって動機づけされる立場を取っていて、精神的なものよりも合理性が強調されると。但し、これらの前提条件は世界各国で同じように適用されるものではないとしています。

 その他では、採用の部でも、「第一印象は正しいか」「性格は無視しよう、肝心なのは行動だ!」など啓発されるフレーズがありましたが、「判断に迷ったら『頭のよい人』に賭けよう」として、仕事をさせるうえでの知能の重要性を説き、また「実績につながるのは、冷静さより誠実さ」であると言っているのが興味深かったです。

 モチベーションの部の「プロは集中する楽しさを知っている」の章で、ランニング、スキー、ダンス、小説など何かに没頭して、他のことはどうでもよくなるような状態を「フロー」と呼び、こうしたフローは、テレビを見る、リラックスするなど気楽に過ごす時間には起きず、フローが一番起きやすいのは仕事中であるとしているのには、そうかもしれないなあと。

 コミュニケーションに関する部では、「男と女のコミュニケーションは違う」という章が面白く読め、男性と女性が互いにうまくコミュニケーションできないのは、男性は自分の地位を強調するために話をしがちだが、女性は繋がりを作るために会話をするからであって、結果として、男性は、女性がだらだらと自分の悩みを話すと非難し、女性は、男性が話を訊かないと文句を言う―といったことになるのだそうです。

『マネジメントとは何か』 .jpg 全体で230ページ弱で、その中にはこうしたエッセイに書かれている箇所も多く、全体を通して読み易いです。個人的には、あまり自己啓発書的なものは読まない方ですが、本書はどちらかというと、著者の専門であるマネジメント、組織行動理論を、一般向けの読み物風に書き直したような感じであり、平易な表現の裏に確固たるバックボーンがあるのが感じられます。
 著者自身、部下の管理についての真理を学ぶのに、人事や組織行動学の詳しい教科書を読み通す必要はないとの思いからこの本を書いたとまえがきに述べています。その意図がよく生かされた本だと思います。すべてのマネジャーはもちろんのこと、人事で仕事する人も読んで啓発される部分が多々あるのではないかと思われます。

 故スティーブ・ジョブズにまつわる話や「ヘリコプター(モンスター)・ペアレント」の話など、「現代の古典」ともなりつつあった本を、著者自身による最新のトピックを交えた新版で読めるのも有難いことです。因みに著者は、個人短距離走で11度の世界タイトルに輝き、米国と世界の年齢別記録を何度も塗り替え、米国マスターズ陸上の殿堂入りを果たしている人でもあるそうです。スゴイね。

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心構えから具体的なテクニックまで。ビジネス・ドキュメントとしても面白く読めた。

部下をつぶさない! アンチ体育会系リーダー術.jpg部下をつぶさない! アンチ体育会系リーダー術』(2014/05 dZERO)

 光文社にて「週刊宝石」「フラッシュ」の創刊に参加し、後に両誌の編集長となった人による本('04年に常務取締役を退任し、現在は大学の非常勤講師)。

写真週刊誌 FLASH 創刊号.jpg とりわけ、'86年の「フラッシュ(FLASH)」創刊の時のことが詳しく語られていて、写真週刊誌なんて一体世の中にどういった意義をもたらしているのかといったことを考えなくもないですが、とは言えやはりその道で後から参入したにも関わらず競争に勝ち残ったというのは、それなりにスゴイことなのかもしれません。
 「FLASH」創刊時には、先行して「FOCUS」(新潮社)、「FRIDAY」(講談社)、「Emma」(文藝春秋)、「TOUCH」(小学館)の4誌があったのが、'14年現在続いているのは「FRIDAY」と「FLASH」のみということで、写真週刊誌の時代そのものが既に終わっている印象もなくもありませんが、今現在はともかく、最も競争が激しかった当時にことを、企業を退いて10年を経て棚卸し的に書いているわけです。

 創刊プロジェク等を進めていく際の、殆ど寄せ集め部隊的な部下たちをどう束ね、どう導いていったかが、現場で起きた出来事に即して書いているため、単なる漫然とした成功談や人生訓で終わらず、心構えから具体的なテクニックまで披瀝されているのがいいです。また、販売部数の増減に喜んだり廃刊のピンチに立たされたりする様は、実録ビジネス・ドキュメントとしても面白く読めるものになっています。

 タイトルの「アンチ体育会系」云々は、編集部が特徴を出すためにつけたタイトルなのでしょう。さほどそのことが言われているわけではなく、与えられたことをこつこつとやり、その際に周囲に同僚や部下に配慮することができる常識人であることが、実はリーダーの要件であるということが窺えるものとなっています。ただ、当時の写真週刊誌業界というのが雰囲気的には「体育会系」であったのは間違いなく、そうした中で著者がその逆のタイプであったことが、かえってチームをバランス感覚のもとで率いていくのに良かったということはあったのかもしれません。

 但し、単に和気藹々とやっていればいいというものではなく、「怒鳴り声」よりも「囁き声」とありますが、そこは、新人への配慮、女性スタッフの活性化、反対勢力や社内の実力者を味方に巻き込む方法等々、さらには気の弱い人の社外での人脈の作り方まで、方法論的な話も出てきます(むしろ、体験的方法論が大半か。「リーダー術」というタイトルに悖(もと)るものではない)。

 個人的には、女性チームで女性リーダーを2人作って対等に扱う、とかいったテクニックは興味深かったです。但し、あくまでも著者の成功体験に過ぎないという見方も出来、上手くいくかどうかは状況によるでしょうし(著者もそのことを重々わきまえて書いている)、むしろ、著者の部下に向き合おうとする地道な姿勢、チームから一人も落伍者を出さないという強い意志の方に共感しました。

 一方で、一部に見られる、強引にプライバシー侵害に当たるような記事や芸能人の写真を持ち出して、後で関係先に謝って済ませるというやり方は(別に当時としては「FLASH」に限らず全ての写真週刊誌がやっていたことだが)、イエロージャーナリズムを助長し、これこそが写真週刊誌が退潮に追い込まれていった遠因ではないかと思われるフシもありました('86年の創刊号の発売部数80万部以降、次のピークは'89年1月の号が50万1000部。以降。50万部超えはない)。
 
 今の基準で見るとどうかなあという面は多々あり、当時でも「人間のクズだ」とか言われたという話が本文中にありますが、著者はそうしたことは「意に介さない」と断言し、「FLASH」の支持者が増え、部数が伸びることが、スタッフやその家族、会社やその取引先の幸福に繋がると信じ、従って編集長たる自分は「部数を伸ばす」ことに専念したのだとしています。
 
 企業の一員として、現場で部下を率いて仕事している人の考え方として真っ当なのかもしれないと思いました。文科系タイプであろうと体育会系タイプであろうと、自社にしても他社にしても、生き馬の目を抜くようなアグレッシブな人材が互いに鎬を削っていたというのが、当時の写真週刊誌業界ではなかったと思われ、著者もその一人であったと考えられなくもありません(何となくバブル期の回顧譚っぽい雰囲気もある本)。

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モチベーション低下要因を「変化・慣性・理想・違い」に分類しケースで語る。読み易いが、やや浅いか。
『実践 モチベーション・マネジメント』.JPG実践 モチベーション・マネジメント.jpg
実践モチベーション・マネジメント』(2013/12 PHP研究所)

 高いモチベーションの実現が、成果を上げる強い組織づくりには必須であることは異論のないところだと思います。本書は、何がメンバーのモチベーションを下げるのか、どのようにモチベーションをマネジメントすればよいのかをテーマに、ありがちな会社内の「モチベーション低下」の事例をストーリー仕立てで紹介しつつ、「モチベーションUP」のための具体的な方策や考え方を、背景となる理論やセオリーとともに解説しています。

ビジネスシーン1.jpg 12の事例と24の理論解説で構成されていますが、事例は、モチベーションを下げる要因を「変化・慣性・理想・違い」の4つに分類しています。例えば「変化」がモチベーションを下げるケースでは、人事異動やM&Aなどによるモチベーション低下の事例をストーリーで示し、それらに対する対応をアドバイスするとともに、「欲求階層説」や「Ⅹ理論・Y理論」などのモチベーション理論が紹介および解説されています。

 同様に、仕事がつまらない、仕事に飽きたなど「慣性」がモチベーションを下げるケースでは、「集団疑似性」や「高原現象」などの理論が、キャリアがみえない、自信喪失などの「理想」がモチベーションを下げるケースでは、「プランド・ハップンスタンス」や「経験学習モデル」などの理論が、年下上司・年上部下、女性上司、外国人社員といった「違い」がモチベーションを下げるケースでは、「サーバント・リーダーシップ」や「PM理論」などの理論が解説されています。
 
 本書は「公認モチベーション・マネージャー資格」の「アドバンスド・テキスト」でもあるとのことですが、モチベーションに関する諸理論を最初から体系立てて解説するのではなく、モチベーションの低下要因をまず類型化し、該当する状況をケース・ストーリーで示した上で、各事例にリンクする諸理論を紹介しているという点ではユニークであると思います。

 事例が、モチベーション・コンサルタントが相談者である上司の悩みに応えるという形をとっているため、読み物のようにすらすら読める一方で、事例にリンクされて解説されている諸理論が一般的かつ広範なケースに当てはまるものであるだけに、初学者が読むと、ともすると事例に引きずられてしまい、理論の一面しか理解し得ないのではないかとの危惧もいだきました。

 更には、仕事がつまらないと感じている新人に困っている上司に対して、「修行だと思って文句を言わずやってみろ」と言ってみるのもいいとか、時流から見てどうかなと、或いは状況によって逆効果ではないかとも思われるアドバイスなどもあり、事例と理論の結び付けにも一部に強引さを感じるものがありました。

 一応は巻末で、ケースごとに紹介した理論を改めて体系化して整理しており、また、各ケースや理論に関係する参考図書も紹介されているため、モチベーション理論の初学者は、本書と併せて、巻末に紹介されている参考図書や他の入門書などに読み進むことをお勧めします。

 研修担当者など実務者の観点からすると、ケース・ストーリーを実際の研修で使ってみるというよりは(ケース・ストーリーの中にQ&Aが混在している感じなので、使うとすれば、ケース・ストーリー全体を、その後で解説する理論の理論背景として説明する感じになるか)、モチベーション・マネジメントに対する理解度を再確認するとともに、改めて意識を高める参考書といった感じでしょうか。

 読み易いことは読み易いのですが、その分「アドバンスド(上級)」というほどには歯ごたえがなく、モチベーション理論のおさらい本としてはやや浅いとの印象を受けました。

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自社の管理職任用アセスメントが形骸化していないかどうかをチェックするうえでいい本。

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部長の資格 アセスメントから見たマネジメント能力の正体 (講談社現代新書)』['13年]

部長コマ.jpg 40年余に渡って経営コンサルティングに携わり、とりわけこの20年は管理職層を対象に、人材の能力評価と能力開発を主題とするヒューマン・アセスメントを行うことで企業を支援してきた著者が、ビジネスマンを読者として想定し、上級管理職である部長に焦点を合せ、彼らの仕事ぶりや様々な言動特徴を取り上げ、彼らのマネジメント能力とその開発方法を解説した本です。

 第1章で、様々なタイプの「困った部長」を大きく4つのグループ(1.的確な意思決定ができない部長、2.計画・管理がきちんとできない部長、3.対人能力に問題がある部長、4.個人特性の面で様々な問題を抱える部長)に分け、さらにそれらを18のタイプに細分化しています。体系的に分類されているだけでなく、18のタイプごとにそれぞれ具体的な言動例を挙げ、更にそれらに共通する特徴を整理し、必要に応じてケース事例を取り上げ、そうした部長が生まれる背景を分析し、他に与える影響などの問題点を解説しています。読んでいて分かりやすく、個人的にはそうしたタイプの「困った部長」に思い当るフシが多々ありました。章の終わりでは、それら「困った部長」への対処方法を概説しています。

 第2章では、部長の役割は何なのか、課長とどこが違うのか、マネジメント能力とは何かを整理しています。近年、経営環境が厳しさを増す中で、部長の役割が、かつての「部の目標達成を管理統制すること」から「所管する部門をより合目的的で効率的な組織に変え、より大きな付加価値を産み出すこと」へ変化してきているとしたうえで、そのような役割を遂行する能力とは何か、課長における求られる能力との違いはどこにあるのかを明らかにしています。

 第3章では、優秀な管理職の証と見做されている一般常識が間違っているケースを取り上げています。例えば一般的にできる部長はリーダーシップに富んでいると見做されますが、その部長にリーダーシップがあるかどうかは、そのリーダーシップが何を指すのか、その組織に本当に必要で効果的なものであるかで決まるとしています(リーダーシップがかえって有害になるケースも挙げている点が興味深い)。

 最後の第4章では、部長の能力開発にフォーカスして、実際の能力開発のステップと方法を示しています。本書の一番の狙いは、読者に気づきを促し、自らのマネジメント能力の開発に役立ててもらうこと、状況に合った効果的な言動を身につけ、タイミングよく発現してもらうことにあります。

 本書によれば、「困った部長」に不足しているマネジメント能力は、「考えてマネジメントする能力(狭義の意思決定能力と計画管理能力)」「人を活かし、組織を機能化させる能力(対人・組織マネジメント能力)」「能力全般の基盤となる個人特性(パーソナリティ)」に分けられ、それぞれ言動に現れるとのことです。「困った部長」のタイプの特徴が分かり易く活き活きと書かれていて、網羅的・体系的でありながら、項目主義的なテキストで終わっていない点がいいです。

部長の資格00.jpg ビジネスパーソンにとって啓発される要素が多いばかりでなく、人事パーソンの視点から見ても、上級管理職についてのアセスメントの重点項目を分かり易く説いたものと言えます。社内に「なんであんな人が部長をやっているんだろう」というような「困った部長」がいる企業の人事パーソンには、自社の管理職任用アセスメントが形骸化していないかどうかをチェックするうえでも、是非一読をお勧めします。

 こうした「上司学」的な本は毎月のように書店に並びますが、中身がスカスカのものも少なくなく、やはりその道のベテランが書いたものの方がいいように思います。本書は新書で読めるのもいいです。

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自社の管理職任用アセスメントが形骸化していないかどうかをチェックするうえでお勧め。

『お子様上司の時代』 2.jpg
 
  榎本 博明.jpg 榎本 博明 氏(略歴下記)
お子様上司の時代 (日経プレミアシリーズ)

 本書によれば、未成熟な大人が増加し、上司‐部下間の関係構築を困難にしているとのことであり、上司の側は、経験を伝え、部下を育てるために、言うべきことを言っているつもりでも、部下の側は、責められているように感じ、上司の指示や注意が押しつけられて、こちらの言い分は聞いてもらえないという不満を持っていることがあるとのことです(著者はこれを「俺の話を聞け!」ハラスメントと呼んでいる)。

 人間は、理屈ではなく感情で動くものであり、こうした「聴く耳」をもたず、自分語りに終始する上司では、部下のやる気を引き出すのは難しいとのこと。そこで、心理学者(心理学をベースにして企業の研修などを行う研究所の主宰者)である著者が提唱しているのが、心理学の世界で今流行している「ナラティブ」であり、「ナラティブ」とは「語り」を意味し、上司の思いを伝えるというよりも、部下の思いを共有すること、それによって気持ちの交流を引き起こし、その結果、部下のやる気を引き出すことができるものであるとしています。

 第1章「台頭するお子様上司」では、頼らないと拗ねる、立ててやらないと拗ねる、できる部下が気に食わない、意見が毎回変わる、といった、大人として未成熟な上司の具体例をいくつも挙げていますが、この部分を読んで、思わず「いるいる、こんな上司」と思う人は多いのではないでしょうか。

 第2章「社員旅行に行きたい20代」では、今度は若者世代を俯瞰して、プライベートな世界で率直に語り合える関係性を作れない若者が増えるなか、自分のことをわかってほしい、認めてほしい、といった承認欲求と結びついた関係性の欲求が高まっていて、アフターファイブの"ノミュニケーション"のようなものが退潮した現代において、彼らには職場のドライな人間関係が物足りなくなっていると分析しています。

『お子様上司の時代』.JPG 第3章「幼稚園化する職場」では、こうしたメンツや保身ばかり考える上司と、権利意識ばかりが強い部下(若者)という、それぞれが抱える要因により、職場全体が"幼稚化"していることを指摘しています。そうした状況を踏まえたうえで、第4章「やる気を引き出すのは『気分』」において、ナラティブの効用を説いていますが、この部分は、ナラティブの考え方の基本を説いた啓発的な内容となっています。

 最終の第5章「お子様上司の処方箋」において、ナラティブ・コーチングの手法を紹介していますが、相手の言うことをきちんと引き出して、かつ、ストーリーを語ることで部下のやる気を引き出す、細かいところまで指示するのではなく、自分で考えさせるのが大切と。紙数の関係もあってかごく簡潔なものにとどまっており、昔から言われているようなことを、ナラティブの名のもとに繰り返し述べていている印象も。結局、本書全体を通しては、ナラティブの「技法」よりも「必要性」と「効用」を説いた啓蒙書のような印象を受けましたが、それほど新鮮味は感じませんでした。
 
榎本 博明 『お子様上司の時代』.jpg むしろ、今日の職場で起きている世代間の認識のズレやコミュニケーション不全を、心理学というより世代論的な観点から分析してみせた本のようにも思います。その意味では"タイトルずれ"はしておらず、また、企業勤務の経験がある著者らしい洞察がみられますが、「分析」に比重がかかった分、「処方箋」の部分がやや弱かったように思います。

 読み物として楽しく、またすらすらと読めましたが、この本を読んだだけでナラティブを即実行するのは結構たいへんかも(ナラティブって意外と難しい?)。まあ、部下との関係性において、ナラティブということを意識してみる契機にはなるかもしれませんが。
 
 著者は元大学助教授で、心理学をベースにして企業の研修などを行う研究所の主宰者であるとのこと、『「上から目線」の構造』など「日経プレミアシリーズ」だけで既刊が3冊あり、固定的な読者もいるようですが、個人的にはこの著者の本を読むのは初めてです。浅く広く、この手の本をいっぱい書いていそうな人という印象も受けました。
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榎本 博明
心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした企業研修・教育講演を行う。著書に、『「上から目線」の構造』『「すみません」の国』『「やりたい仕事」病』『記憶の整理術』、『〈ほんとうの自分〉のつくり方』など多数。

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コミュニティや個々の文化の違いによる問題の解決法、文化差を積極的に活用するスキルを解説。事例がいい。
グローバル人材の新しい教科書23.jpgグローバル人材の新しい教科書―カルチュラル・コンピテンスを伸ばせ

グローバル人材の新しい教科書 image.jpg 外国語教授や留学等、語学に関わるサービスを提供しているベルリッツ・ジャパンによる本であり、本書にある「カルチュラル・コンピテンス」を伸ばす手法は、ベルリッツの子会社であるTMC(Training Management Corporation)が開発したものであり、世界各国の組織や個人によって実務に適用されているとのこと(ベルリッツ・ジャパンも「カルチュラル・コンピテンス」を使った研修を2010年から実施している)。今回の刊行は、この研修の受講者からの、日本語で「カルチュラル・コンピテンス」を復習したいとの要望に応えてのものだそうです。

 ベルリッツによれば、多くの日本企業がグローバル化を目指し、グローバル人材の育成に注力している中、「英語力はそれなりにあるはずなのにうまくいかない」との悩みが多く聞かれるとのこと。本書では、この問題は語学力ではなく、文化の衝突や対立に対処できない「カルチュラル・コンピテンス」の不足から生じているとしています。「カルチュラル・コンピテンス」とは、こうした文化の違いを活用する力のことで、英語に不自由しない人でも、不断の努力をして身につけるものであるとのことです。

 本書によれば、通常の異文化研修は、いわば「知識」を得るための研修であり、カルチュラル・コンピテンスの一部ではあるが、本書が説いているのは「知識」(カルチュラル・ナレッジ)の重要性や必要性だけではなく、文化を生かして積極的に活用するための具体的なスキル(カルチュラル・スキル)も含めてであるとのこと。

 例えば、メールを送る際に、社会的慣例や言葉遣いを気にする人と、端的でカジュアルなメールを送る人とでは、「文化」が違うと言え、社会的慣例を重んじる人が、カジュアルなメールをもらった場合、「常識がない」と思い、不愉快に感じるかもしれず、一方、逆の場合は、勿体ぶった書き方が無駄で不愉快に感じるかもしれないと。「常識がない」ととるか「文化の違い」と捉えるかで、仕事関係に大きく影響し、但し、「文化」の違いを認識するだけでは何も解決せず、本書ではこの違いをどのように解決し、活用していけばいいのか具体的なスキルを紹介しています。

 第1部~第2部の第4章までは、「カルチュラル・コンピテンス」がどういうものかを詳しく説明しています。第2部の第5章からは、「森山豊」という、M&Aに伴う懸案で、中年にして初めてチームリーダーとして海外に派遣されることになった架空の人物「森山豊」の経験を通し、日本人が海外でビジネスを行っていく上でどのように「文化」を理解し、対応していったのかというケース・ストーリーとなっています。第3部では、ベルリッツが実際に行った研修の事例を紹介しており、会社が抱える「文化」の問題がより具体的に記されています。

 「グローバル人材」について書かれた本は、著者自身の経験に基づくものが多く、それはそれで参考になったりもしますが、日系企業から多国籍企業の経営トップに転身した人(その逆のケースもあるが)や、証券マンから国際金融アナリストに転身したといった人などが書いたりしたものが多く、その人のキャリアの華々しさに、読む側としてはちょっと引いてしまうことが少なからずあり、また、そこで語られる内容も、著者個人の経験や価値観が色濃く反映されたりもしているように思います(勿論、良書もあるが、コンサルタントとして独立したことに伴う名刺代わりの本だったりする側面もあったりする)。

 それらの本を場当たり的に読んでいくのも悪いとは言いませんが、やや非効率かも。その点、本書は、「教科書」と謳うだけあって、「カルチュラル・コンピテンス」の概念がよく整理されており、但し、概念整理だけだと読んでもそれほど頭に残らないということからか、「森山豊」という人物の"奮闘記"とも言える事例が挿入されていて、これが実に活き活きしていて、小説を読むように楽しく読め、また、そのケース・ストーリーを通して、個対集団、個対個の関係においてどのような形でリーダーシップを発揮していくかを示すとともに、最初に述べた理論をおさらいするような形になっていて、とても分かり良いもののように思えました。

 国による文化の違いだけでなく、日本人であろうと外国人であろうと、同国人であってもその中で個人差があることに着眼しており、また、相手の価値観や文化に合わせるだけでなく、自国の文化や自分自身の価値観を主張し、相手に理解させることの重要さを(これもストーリー仕立てで)説いている点もいいです(まえがきに「日本人同士の仕事であっても仕事の進め方に悩んでいる方には有益であろう」とあるが、まさにその通りかも知れない)。

 自社の研修テキストをオープンにしているという点では、(これもまた自社ビジネスの一環であるにしても)好感が持てます。日本は所謂モノカルチャー社会と言われており、異質な文化と接する機会が少なかったと言えますが、今後、グローバル社会へと進んでいくにあたり、ビジネス文化の異なる人たちとの問題解決の一助になればと考えての刊行とのことで、また、M&Aで生じる会社間の文化の違いや、各コミュニティや個々人の、文化の違いから発生する問題など、日常に潜む「文化」の違いを発見してみる一助にもなるかも知れません。

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現在必要なのは支援型のリーダーシップ3.0であると。著者なりの理論の体系づけと啓発。
リーダーシップ3.0カリスマから支援者へ.jpg
リーダーシップ3.050.JPG  小杉 俊哉.jpg 小杉 俊哉 氏(経営学者、コンサルタント。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授、コーポレイト・ユニバーシティ・プラットフォーム代表取締役社長)
リーダーシップ3.0――カリスマから支援者へ(祥伝社新書306)

 企業や国家の運営が不振に陥ると、「カリスマ」リーダーを求める声が起こるのが世の常ですが、本書では、時代とともに企業にとって必要とされるリーダー像は変遷しているとし、中央集権のリーダーシップ1.0、変革型のリーダーシップ2.0を経て、現在必要なのは支援型のリーダーシップ3.0であるとしています。

 リーダーシップ1.0は、中央集権的に組織を支配するナポレオンのようなタイプで、企業リーダーの代表例は、軍隊式中央集権的な仕組みを産業界に持ち込んだフォード・モーターの創立者ヘンリー・フォードであり、これに対し、各事業部に責任者を置き、権限を委譲して責任を持たせることで組織をコントロールするGMのアルフレッド・スローンのようなタイプをリーダーシップ1.1とし、何れも、やがて時代の変化に沿わないものとなっていったとしています。

 一方、戦後急成長を遂げた日本企業におけるリーダーは、権力で率いるのではなく、組織全体に価値観と働く意味を与え、雇用の安定を図るなど協調を促し、一体感を醸成して組織を牽引するタイプであり、これをリーダーシップ1.5としていますが、これもバブル崩壊後は輝きを失った―。

 そこで1990年代以降は、組織の方向性を提示し、大胆に組織改編を行ない、競争や学習を促して組織を変革させる、例えばGEのジャック・ウェルチのような強いタイプのリーダーがもてはやされるようになり、ウェルチ以外にも、IBMのルイス・ガースナーやマイクロ・ソフトのビル・ゲイツ、アップルのスティーブ・ジョブズといったカリスマリーダーもそうであるとして、これをリーダーシップ2.0としていますが、このリーダーシップ2.0も、強さゆえのリスクを伴い、個人の力量に依存するところが大きいため、組織が個人の器を超えられないという難点が露呈した―そこで今求められるのが、支援型のリーダーシップ3.0であると。

図 リーダーシップ3.0.jpg リーダーシップ3.0は、それまでのヒエラルキーを逆転し、逆ピラミッドの最も下にリーダーがいて支える新たなリーダーシップのタイプであり、組織全体に働きかけてミッションやビジョンを共有し、コミュニティ意識を育てるところがポイント。個人とも向き合ってオープンにコミュニケーションを取り、組織や個人の主体性、自立性を引き出すものであり、高度成長期にあった日本企業のリーダーシップ1.5と一見似ているようにもみえるが、リーダーシップ1.5が他の選択肢を許さなかったのに対し、リーダーシップ3.0では「あえて、そこで働くことを選ぶ」という価値観が重視されるとしています。

 また、リーダーシップ3.0の具体例モデルとして、「サーバント・リーダーシップ」や「コラボレイティブ・リーダー」「第五水準のリーダーシップ」などを、リーダーシップ3.0を裏付ける理論として「マネジメント2.0」や「場の理論」「モチベーション3.0」などの諸理論を取り上げて、体系的に解説しています。

 単にリーダーシップ論を整理するだけでなく、リーダーシップ3.0を経営において実践している企業として、インドのIT企業HCLテクノロジーズや、ザ・リッツ・カールトン、SAS、サウスウェスト航空、資生堂など、日本企業を含む何社もの事例を挙げて、その取り組みも紹介しています。更に興味深いのは、「永平寺のリーダーシップ3.0」を禅の思想と絡めながら紹介し、760年続くマネジメント仕組みを解き明かしている点です。

 後半は、「3.0」リーダーに必要とされる要素を、「ビジョンを持ち、語る」「リーダーになる」「ミッションを持つ」など9つ掲げるとともに、日本人が「3.0」リーダーになるために必要なことは何かを考察し、「個人としての謙虚さと職業人としての意志の強さという矛盾した性格の組み合わせによって、偉大さを持続できる企業を作り上げる」という点で、日本人はリーダーシップ3.0に向いているとしています。

 リーダーシップ理論の多くは、いわば"輸入もの"であるわけですが、それを著者なりに体系づけ、現在の日本及び日本企業が置かれている状況を鑑みながら、今後の企業や社会で求められるリーダー像を明確に示しているという点で良書だと思います(こうした、既存の理論を自分の頭で考えた体系の中で整理して考察を深める手法は、著者の著書に共通する)。

 新書一冊に密度濃く詰め込んだため、若干項目主義になったきらいもありますが(いい意味において単行本で読みたかった本)、「永平寺から学ぶリーダーシップ3.0」などは読み物としても面白く、また、後半部分は大いに啓発的であり、新書であるがゆえに手軽に手に取れて、しかも元気づけられる本でもありました。

《読書MEMO》
●リーダーシップの変遷
リーダーシップ1.0―権力者<中央集権> 1900〜1920年代まで(17p~)
権力者が頂点に立ち、中央集権的に組織を支配するナポレオンのようなタイプ。代表例は、軍隊式中央集権的な仕組みを産業界に持ち込んだフォード・モーターの創立者ヘンリー・フォード。流れ作業を導入し、大量生産の管理手法を導入した。ユーザーが好みの色、形、性能を求めるようになると中央集権的な大量生産では対応できなくなり、リーダーシップ1.0は終演を迎える。
リーダーシップ1.1―権力者<分権> 1970〜1980年代まで(21p~)
各事業部に責任者を置き、権限を委譲して責任を持たせることで組織をコントロールするタイプ。代表例は、1920年にゼネラル・モーターズのCEOに就任したアルフレッド・スローン。最下級のシボレーからその上のポンティアック、中級のオールズモービル、中上級のビュイック、最上級のキャディラックとユーザーのニーズに応じたラインナップを用意し、あらゆるニーズに応えた。しかし、事業部制組織は現場とマネジャーの対立を深めることになり、階層による厳格な管理、賃金のみによる動機づけは社員の独創性を削いでいくことになった。
リーダーシップ1.5―調整者 1930〜1960年代まで(24p~)
権力で率いるのではなく、組織全体に価値観と働く意味を与え、雇用の安定を図るなど強調を促し、一体感を醸成して組織を牽引するタイプ。当時急成長を遂げた日本企業がこれにあたる。結果的に、この手法を取り入れた戦後日本はGNP世界第二位を達成し、産業界においてアメリカをしのぐ急成長を果たした。しかし、当初は有効だった価値観は次第に形骸化し、1991年のバブル崩壊後は急速に輝きを失った。
リーダーシップ2.0―変革者 1990年代(31p~)
組織の方向性を提示し、大胆に組織改編を行ない、競争や学習を促し、組織を変革させるタイプ。それまでのリーダーシップを否定し、毅然と大胆に行動するリーダーとしての存在価値をアピール。工業製品の大量生産・大量販売からいち早く脱却し、製品とサービスをバンドリングさせた新たなビジネスモデルを構築したGEのジャック・ウェルチ他、IBMのルイス・ガースナー、HPのカーリー・フィオリーナ、マイクロソフトのビル・ゲイツ、Appleのスティーブ・ジョブズなどカリスマ的リーダー。デメリットは、強さゆえのリスクを伴い、個人の力量に依存するところが大きいため、組織が個人の器を超えられないことであり、新しいビジネスモデルを創造しにくく、破壊的イノベーションに対応しづらく、社員も受け身に。
リーダーシップ3.0―支援者 2001年〜(73p~)
それまでのヒエラルキーを逆転し、逆ピラミッドの最も下にリーダーがいて支える新たなリーダーシップのタイプ。組織全体に働きかけてミッションやビジョンを共有し、コミュニティ意識を育てるところがポイント。個人とも向き合ってオープンにコミュニケーションを取り、組織や個人の主体性、自立性を引き出す。リーダーシップ1.5が他の選択肢を許さなかったのに対し、リーダーシップ3.0では「あえて、そこで働くことを選ぶ」という価値観が重視されている。
●「3.0」リーダーに必要とされる要素
○要素1「ビジョンを持ち、語る」
○要素2「リーダーになる」
○要素3「ミッションを持つ」
・ミッションを考えあぐねる場合は、自分のギフト(天賦の才能)について考えてもらう
○要素4「他者を支援する」
・「自己承認と自己確立」から「他者支援・感謝」
○要素5「人間力を磨く」
○要素6「仮面をとる」
・①自らの弱点を認める ②直観を信じる ③タフ・エンパシー(厳しい思いやり)を実践する ④他人との違いを隠さない
○要素7「ファシリテーと(促進)する」
○要素8「エンパワーメントを正しく理解し実行する」
○要素9「動機づけを行う」

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「第5水準のリーダーシップ」(カリスマ経営者はいらない)。「だれをバスに乗せるか―最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」。
『ビジョナリー・カンパニー2―飛躍の法則』.jpg
Good to Great_ビジョナリー・カンパニー2.jpgビジョナリー・カンパニー2.jpg  ジム・コリンズ(Jim Collins).jpg Jim Collins
ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則』['01年]
Good to Great: Why Some Companies Make the Leap...And Others Don't

 ビジョナリーカンパニー・シリーズの第2弾となる本書(原題:"Good to Great"、2001)は、1994年に出版されてベストセラーになった『ビジョナリー・カンパニー』の著者であるジム・コリンズが、6年の歳月をかけて「良い企業(グッド・カンパニー)」と「偉大な企業(グレート・カンパニー)」の違いを調べ上げて、そこから得られた知見を偉大な企業の法則としてまとめたもの」(解説より)です。章立ては以下の通り。

 第1章 時代を超えた成功の法則―良好は偉大の敵
 第2章 野心は会社のために―第5水準のリーダーシップ
 第3章 だれをバスに乗せるか―最初に人を選び、その後に目標を選ぶ
 第4章 最後にはかならず勝つ―厳しい現実を直視する
 第5章 単純明快な戦略―針鼠の概念
 第6章 人ではなく、システムを管理する―規律の文化
 第7章 新技術にふりまわされない―促進剤としての技術
 第8章 劇的な転換はゆっくり進む―弾み車と悪循環
 第9章 ビジョナリーカンパニーへの道

 第1章「時代を超えた成功の法則―良好は偉大の敵」では、本書の概要が述べられており、本書で纏められている調査とは、アメリカの上場企業の中で、15年程度凡庸な成長を続け、転換点を超えて目覚ましい成長を遂げその成長を15年以上維持できた偉大な企業11社を選び出し、その企業と同業種で同じ様に成長したがその後数年で衰えた企業との 比較において、何故その11社が良い企業から偉大な企業へと飛躍し、それを維持できたのかを探り出したものであるとのことです。そして、そうした企業には時代を超えた法則があり、「良好」であることはむしろ「偉大」となるための障害であるとしています。この章では、これから述べる各章の内容が要約されていますので、改めてそれを追ってみたいと思います。

 第2章「野心は会社のために―第5水準のリーダーシップ」では、良い企業を偉大な企業に変えるために必要なリーダーシップとは「第5水準のリーダーシップ」であり、派手なリ―ダーが強烈な個性をもち、マスコミで大きく取り上げられて有名人になっているのと比較すると、飛躍を指導したリーダーは万事に控えめで、物静かで、内気で、恥ずかしがり屋ですらあって、個人としての謙虚さと、職業人としての意思の強さという一見矛盾した組み合わせを特徴としている―これがその「「第5水準のリーダーシップ」であるとしています。

 第3章「だれをバスに乗せるか―最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」では、偉大な企業への飛躍を指導したリーダーは、はじめに新しいビジョンと戦略を設定したのだろうと著者らは予想していたが、事実はそうではなく、最初に適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし、適切な人がそれぞれにふさわしい席に坐ってから、どこに向かうべきかを決めていた―よって「人材こそがもっとも重要な資産だ」という格言は間違っていたことになり、人材が最重要の資産なのではなく、適切な人材こそがもっとも重要な資産であるとしています。

 第4章「最後にはかならず勝つ―厳しい現実を直視する(だが、勝利への確信を失わない)」では、偉大な企業への道筋を探し出すのに何が必要かについて、企業戦略を論じた本の大半よりも、捕虜になって生き残った人たちの方が学べる点が多いことに著者らは気づいたとし、それを「ストックデールの逆説」と呼んで、偉大な企業はいずれも、同じ逆説を信奉していて、その逆説とは、どんな困難にぶつかろうとも、最後にはかならず勝てるし、勝つのだという確信が確固としていなければならない。だが同時に、それがどんなものであろうとも、きわめて厳しい現実を直視する確固たる姿勢をもっていなければならないとしています。

 第5章「単純明快な戦略― 針鼠の概念(三つの円のなかの単純さ)」では、 偉大な企業に飛躍するには、「能力の罠」から脱却しなければならないとし、中核事業だからといって、何年か何十年かにわたってそれに従事してきたからといって、それに関する能力が世界でもっとも高いとは限らないし、中核事業で世界一になれないのであれば、中核事業が飛躍の基礎になることは絶対にありえず、「自社が世界一になれる部分はどこか」「経済的原動力になるものは何か」「情熱をもって取り組めるものは何か」の三つの円が重なる部分に関する深い理解に基づいて、中核事業に代わる単純な概念を確立するべきだとしています。

 第6章「人ではなく、システムを管理する ―規律の文化」では、どの企業にも文化があり、一部の企業には規律があるが、規律の文化をもつ企業はきわめて少ないとしています。規律ある人材に恵まれていれば、階層組織は不要になり、規律ある考えが浸透していれば、官僚組織は不要になる。規律ある行動がとられていれば、過剰な管理は不要になり、規律の文化と起業家の精神を組み合わせれば、偉大な業績を生み出す魔法の妙薬になるとしています。

 第7章「新技術にふりまわされない―促進剤としての技術」では、飛躍した企業は、技術の役割についての見方が一般とは違っていて、変化を起こす主要な手段としては使っていない。その一方で逆説的なことに、慎重に選んだ技術の適用に関しては、先駆者になっている。偉大な企業への飛躍にしろ、没落にしろ、技術そのものが主要な原因になることはないのだとしています。

 第8章「劇的な転換はゆっくり進む―弾み車と悪循環」では、革命や、劇的な改革や、痛みを伴う大リストラに取り組む指導者は、ほぼ例外なく偉大な企業への飛躍を達成できない。偉大な企業への飛躍は、結果をみればどれほど劇的なものであっても、一挙に達成されることはない。たったひとつの決定的な行動もなければ、壮大な計画もなければ、起死回生の技術革新もなければ、一回限りの幸運もなければ、奇跡の瞬間もない。逆に、巨大で重い弾み車をひとつの方向に回しつづけるのに似ている。ひたすら回しつづけていると、少しずつ勢いがついていき、やがて考えられないほど回転が速くなるとしています。

 第9章「ビジョナリーカンパニーへの道」では、これまで調査に基づき述べてきたことを総括するとともに、前著『ビジョナリー・カンパニー』で述べたことと本書との関係性などを解説しています。

 第2章から第8章にかけて、各章の章末にその章の要約があり、内容理解の助けになります。「第5水準のリーダーシップ」(カリスマ経営者はいらない)というのも、データと事例に基づいているだけに説得力があり、「だれをバスに乗せるか―最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」というのが個人的にはたいへん新鮮でした。

 本書では、人事制度については報酬制度も含めそれほど力点が置かれていませんが、本書を読むと、企業組織におけるトップのリーダーシップのあり方、企業の文化や価値観、人材選抜などの重要性が実感され、その点において人事は、社員の採用・人材育成から退職までの活動を通して大事な役割を担うということを再認識させられるとともに、経営者に対してフォロアーシップを発揮していかなければならないこともあるこいう思いにもさせられます。人事パーソンにもお薦めの1冊です。
 
【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

《読書MEMO》
●飛躍を導いた経営者は、派手さやカリスマ性とは縁遠い地味なしかも謙虚な人物だった。その一方で勝利への核心を持ち続ける不屈の意思を備えており、、カエサルやパットン将軍というよりは、リンカーンやソクラテスに似た思索する経営者であった。
●飛躍を導いた経営者は、最初に優秀な人材を選び、その後に経営目標を定める。目標にあわせた人材を選ぶのではない。
●飛躍を導いた経営者は、自社が世界一になれる部分はどこか、経済的原動力は何か、そして情熱を持って取り組めるものは何かを深く考え、必要とあればそれまでの中核事業を切り捨てる判断さえ下す。
●劇的な改革や痛みを伴う大リストラに取り組む経営者は、ほぼ例外なく継続した飛躍を達成できない。飛躍を導いた経営者は、結果的に劇的な転換にみえる改革を、社内に規律を重視した文化を築きながら、じっくりと時間をかけて実行する。
飛躍した企業と比較対象企業の例 ジレット vs ワーナーランバート フィリップ・モリス vs R.J.レイノルズ キンバリー・クラーク vs スコットペーパー

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ジジョン・P・コッター)

"リーダーシップ論のバイブル"の新版・新訳。自らの経験を咀嚼するアイデアの源泉として読む。

第2版 リーダーシップ論 帯付.jpg第2版 リーダーシップ論.jpg第2版 リーダーシップ論』 ジョン・コッター(John Kotter).jpg ジョン・コッター(John Kotter) ハーバード・ビジネススクール(松下幸之助記念リーダーシップ講座)名誉教授

 1999年に本邦で初版が刊行されて以来、リーダーシップ論のバイブルとまで言われてきた旧版に、新たな章を追加し、翻訳も一新したものです。全7章の構成の内、第1章から第6章までは、著者が1979年から97年にかけて「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌に発表したものであり、第1章から第3章では、リーダーシップと変革について論じ、第4章から第6章では、今日のマネジャーの仕事が、権限の行使から依存関係への適応にどうシフトしているのか、組織図に表れるよりもはるかに複雑な人間関係にマネジャーはどう身を置いているか、そしてこの2点からどのような意味が引き出せるかを論じています。

 第1章「リーダーシップとマネジメントの違い」では、リーダーシップはマネジメントとは別物であり、また両者は補完関係にあるとしつつ、リーダーシップとマネジメントの違いを、「方向性の設定」vs.「計画と予算の策定」、「人心の統合」vs.「組織編成と人員配置」、「動機づけ」vs.「統制と問題解決」という具合に対比的に論じ、リーダーシップ重視の文化を醸成することの重要さを説いています。

 第2章「企業変革の落とし穴」では、自らが提唱する「企業変革の8段階」説に沿って、各ステップの落とし穴として、
 ①「変革は緊急課題である」ことが全体に徹底されていない、
 ②変革推進チームのリーダーシップが不十分である、
 ③ビジョンが見えない、
 ④社内コミュニケーションが絶対的に不足している、
 ⑤ビジョンの障害を放置してしまう、
 ⑥計画的な短期成果の欠如、
 ⑦早すぎる勝利宣言、
 ⑧変革推進チームのリーダーシップの不足、
を挙げています。

 第3章「変革への抵抗にどう対応するか」では、変革の難問である"抵抗"に対処する方法として、教育とコミュニケーション、参画と巻き込み、援助と促進、交渉と合意、操作と取り込み、直接的強制と間接的強制の6つを掲げ、戦略をいかに選択するは、
 ①予想される抵抗の度合いと性格、
 ②変革の主導者と抵抗者の力関係、
 ③変革の計画・実行に必要な情報と受熱を持つ人がどこにいるか、
 ④変革の成否にかかっているもの、
の4つの状況要因を明確にする必要があるとしています。

 第4章「権力と影響力」では、優秀なマネジャーは、その仕事がさまざまな人たちに依存しているとし、その上で、権力を獲得・強化する4つの方法として、
 ①感謝や恩義を感じさせる、
 ②豊富な経験や知識の持ち主として信頼される、
 ③「このマネジャーとは波長が合う」と思わせる、
 ④「このマネジャーに依存している」と自覚させる、
ことを挙げるとともに、直接的あるいは間接的に権力を行使する方法を示した上で、①権力を身につけ、行使するうえで、どのような行動ならば、周囲の目に「妥当である」と映るのかに敏感である、②周囲に好影響を及ぼすには、権力や方法を使い分ける必要があり、そのことを直感的に理解している、③4種類の方法のすべてをある程度行使し、直接的・間接的方法のすべてを用いる、などの「権力を賢く使うための7カ条」を掲げています。

 第5章「上司をマネジメントする」では、上司と部下にまつわる一般的誤解を解くとともに、上司を理解することと併せて自分自身を理解することも欠かせないとした上で、上司との関係を構築し管理する方法を説いています。

 第6章「マネジャーの日常」では、あるリーダーの1日を追うことで、優秀なリーダーの仕事のやり方を分析し、優秀なリーダーは人脈を活用して課題を成し遂げるとしています。

 著者は98年にこの6本の論文を読み返し、核となるアイデアを10の相関性のある教訓としてまとめていますが(それらは本書の序章に掲載されている)、それぞれの教訓は、マネジャーが直面する事業環境の絶えざる重要な変化を映し出したものとなっています。

 その序章で著者も述べているように、本書を読む際のポイントは、医学書のように知識を詰め込むように読むのではなく、自分のこれまでの経験を咀嚼するアイデアとインスピレーションの源として読むことにあるのでしょう。
 
 個人的には、優れたリーダーというのはインフォーマルな人的ネットワークの構築ができ、そうした依存関係の中でパワーを発揮しているという旧版から著者の見方は実に炯眼であると感じられ、更には、エンパワーメント(権限委譲)が次のリーダーを育成し、組織改革を促すと述べている点も、大いに賛同するところです。
 
【2713】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『リーダーシップの名著を読む』 (2015/05 日経文庫)

《読書MEMO》 
●目次 
訳者まえがき──リーダーシップの役割、マネジメントの役割
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部
序章 リーダーシップの未来
 リーダーシップの本質とは何か
 リーダーシップ:10の教訓
 世紀の変わり目に思うこと
第1章 リーダーシップとマネジメントの違い
 リーダーシップとマネジメントは補完関係にある
 マネジメントとリーダーシップの違い
 「方向性の設定」vs.「計画と予算の策定」
 「人心の統合」vs.「組織編成と人員配置」
 「動機づけ」vs.「統制と問題解決」
 リーダーシップ重視の文化を醸成する
 【章末】方向性の設定:アメリカン・エキスプレスのルー・ガースナー
 【章末】一体化:イーストマン・コダックのチャック・トローブリッジとボブ・クランダル
 【章末】動機づけ:プロクター・アンド・ギャンブルのリチャード・ニコローシ
第2章 企業変革の落とし穴
100を超える変革事例からの教訓
 第一ステップの落とし穴◉ 「変革は緊急課題である」ことが全社に徹底されない
 第二ステップの落とし穴◉変革推進チームのリーダーシップが不十分である
 第三ステップの落とし穴◉ビジョンが見えない
 第四ステップの落とし穴◉社内コミュニケーションが絶対的に不足している
 第五ステップの落とし穴◉ビジョンの障害を放置してしまう
 第六ステップの落とし穴◉計画的な短期的成果の欠如
 第七ステップの落とし穴◉早すぎる勝利宣言
 第八ステップの落とし穴◉変革推進チームのリーダーシップが不十分である
第3章 変革への抵抗にどう対応するか
 変革への難問
 抵抗の原因を突き止める
 抵抗に対処する
 戦略をいかに選択するか 
第4章 権力と影響力
 権力をめぐる三つの疑問
 優秀なマネジャーは依存関係を考えながら権力を使う
 権力を獲得・強化する四つの方法
 公式の権威イコール権力ではない
 直接的あるいは間接的に権力を行使する方法
 権力を賢く使うための七カ条
第5章 上司をマネジメントする
 「ボス・マネジメント」はなおざりにされている
 上司と部下の関係にまつわる誤解
 上司を理解する
 自分自身を理解する
 上司との関係を構築し管理する方法
第6章 マネジャーの日常
 あるリーダーの一日
 優秀なリーダーの仕事のやり方
 人脈を活用して課題を成し遂げる
 立場が行動を規定する
 一見非効率だが実は効率的な行動
 リーダーのために会社は何をすべきか
 【章末】調査の概要と結果
第7章 自分のアイデアを支持させる技術
 優れたアイデアはなぜ日の目を見ないのか
 反対者や批判者を巻き込むテクニック
 批判にはこう対処する
 偉大なリーダーたちは物語を語る
第8章 【特別インタビュー】 迷走するアメリカ企業内大学
 リーダーシップ論のグールーの嘆き
 ベスト・プラクティスはGEの企業内大学
 マネジメント教育とリーダーシップ教育は別物
 MBAプログラムはリーダーを育成しない
 経営者と人事部門のミッシング・リンク

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○経営思想家トップ50 ランクイン(スチュワート・D・フリードマン)

リーダーシップとWLBの統合。仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の「四面勝利」を目指す。

トータル・リーダーシップ.jpgTotal Leadership.jpg

    
スチュワート・フリードマン(Stewart Friedman).jpg スチュワート・フリードマン(Stewart Friedman)
トータル・リーダーシップ 世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」』(2013/04 講談社)/原著

『トータル・リーダーシップ.jpg 著者は、ペンシルベニア大学ウォートン・スクール教授で、リーダーシップ開発とワーク・ライフ・バランスに関する第一人者であり、"Integrating Work and Life: The Wharton Resource Guide"(1998年、「仕事と人生の統合」)、"Work and Family - Allies or Enemies? "(ジェフ・グリーンハウスとの共著、2000年、「仕事と家庭は両立するのか」)など、ワーク・ライフ・バランス、リーダーシップ、変革のダイナミズムについての単著や共著が数多くあるそうですが、何れの著書も、人生のあらゆる面においてパフォーマンスを向上させるにはどうすればよいかをテーマとし、職場、家庭、地域社会、自分自身の間に共通する価値を見出すことを説いているようです。

 本書はそうした著者の近著で、米国でベストセラーとなった"Total Leadership: Be a Better Leader, Have a Richer Life"(2008年、「トータル・リーダーシップ:より良いリーダーになり、より良い人生を過ごす」)の翻訳であり、著者が唱えるところの、リーダーシップとワーク・ライフ・バランスを統合させた「トータル・リーダーシップ」の強化ステップやその内容等について、著者がペンシルバニア大学で実際に行っている講義に沿ってテキスト化したものです。

 「トータル・リーダーシップ」の目的は、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の4つの領域における「四面勝利」であり、一般にはレード・オフと思われがちなこれら4領域が実は相互連関しているとの新発見から、新たな人生は始まるとしています。

 本書で示された「トータル・リーダーシップ」の3つのステップは、
  1.自分の価値観に基づくビジョンを抱き(Be Real)
Total Leadership Be a Better Leader Have a Richer Life.png  2.そのビジョンに向けてまわりを巻き込み(Be Whole)
  3.ビジョンの実現に向けて行動する(Be Innovative)
であり、学べる内容は、
  ・自分の価値観を知るための考え方
  ・自分のストーリーを語って人を巻き込む方法、
  ・価値あるゴールやビジョンを生み出す方法
などとなっています。

 仕事、家庭、コミュニティ、自分自身で各「円」を描かせて、その大きさや重なり具合から、その人の人生における比重の置き方や価値観の一致度をみるやりかたは興味深いです。これは、キャリアカウンセリングなどでは以前から用いられている手法ではないかと思いますが、それをリーダーシップ理論にまとめあげているところが画期的と言えるかもしれません。


岡本祐子氏(広島大学教授)の「成人期の発達を規定する2軸・2領域」
アイデンティティ.jpg そうしたリーダーシップとワーク・ライフ・バランスの統合という意味で新しさを感じる一方、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の4つの領域の「調和」という考え方は、日本のキャリア心理学の研究者の中に既にかなり以前から提唱している人がいるように思われます(岡本祐子氏の「アイデンティの螺旋式モデル」など)。ただし、目指すところが「四面勝利」といった具合に、「勝利」を強調しているところが実践的と言うかアメリカ的かもしれません(「自分の夢を磨き上げる力、周りの人を巻き込む力、変化を起こす力を強化する全く新しいメソッド」という言い方は、何となく自己啓発セミナーみたいでもある)。

 本書の内容自体も、講義と言うよりワークショップでの実践を開示している部分が主で、そのワークショップには、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の4つの領域において様々な局面にある人々が集い、彼ら(彼女ら)がワークショップを通じてどのように変わっていったかが書かれており、理論よりも、この問題にどう取り組み、それをどう実生活に生かしていくかというプラグマティカルな視点が前面に出されています。

 ワークショップ型のカウンセリングみたいな感じでしょうか(ところによってはセラピーみたいな印象も)。このやり方でのワークショップを運営していくには、相当のファシリテーションやカウンセリング、コーチングのスキルが求められる気がしますし、そうしたものが盛んに行われているアメリカと、そうでもない日本との背景の違いは感じざるを得ません(著者の講義風景をウォートン・スクールのサイトの動画で見ると、この人、プレゼンテーションも上手みたい)。ただ、これからは日本でもこうしたワークショップは少しずつ盛んになっていくように思われ、その意味では参考になる本かも(初読の際の個人的評価は星3つだったが、再読して星4つに修正した)。

 本書は5年前に『ワーク・ライフ・バランスの実践法―仕事も私生活も犠牲にしない』('08年/ダイヤモンド社)として邦訳されていて旧版は絶版になっていますが、今回"復活"。著者の本邦初訳本でもあり、その内容がいきなりこうした実践編であるとうのは特徴的かと思いますが(訳者は、ウォートン校でMBA課程修了し、その間、日本人初の学生自治会長も務めたという長島・大野・常松法律事務所の塩崎彰久弁護士)、先に挙げた日本の学者の論文もあるように、理論部分にはそう新しいものでもないのかも。逆に言えば、日本人にとっても考え方が応用できる部分はかなりあるようには思いましたが、これをメソッドとして、大学の授業の中で展開するところがアメリカ流と言うかウォートン流なのかもしれません(日本の大学は理論に偏ってあまり実践を重視しない傾向があるのでは)。

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マッキンゼーが求めるのは「将来リーダーとなる人」。リーダーシップに関する若年層向け啓発書か。

1採用基準―.png採用基準 伊賀泰代.jpg   伊賀 泰代.jpg 伊賀 泰代 氏(マッキンゼー)    
採用基準』(2012/11 ダイヤモンド社)

 コンサルティング会社のマッキンゼーで採用マネジャーを12年務めたという著者による本ですが、就職超難関企業と言われるマッキンゼーの「採用基準」は、世間一般には、地頭のよさや論理的思考力が問われると思われているようだがそれは大きな誤解であるして、冒頭からそのような定説をきっぱりと否定しています。

 マッキンゼーが求めているのは分析が得意な人でもなければ優等生でもなく、「将来のリーダーとなる人」であるとのことです。なぜならば、問題解決に不可欠なのはリーダーシップであり、また、リーダーシップは全員に必要であると考えているからとのことです(でも、別のところでは、1リーダーシップ、に加えて、2地頭、3英語力、の3つが求められているとも書いてはいるが)。

 最終的に正式のリーダー職に就くのは一人だとしても、組織の構成員全員が多彩なリーダー体験を持っていることが重要であり、人はリーダー体験を積むことによって、「高い成果を出せるチームのメンバー」になれるというのが、マッキンゼーにおける採用に際しての考え方であり、マッキンゼーに限らず外資系企業の多くが、すべての社員に高いリーダーシップを求めているとのことです。

 転じて日本の企業に目をやれば、リーダーシップについて問われる機会はごく限定的で、三十歳前後になってもそれまでリーダーシップについて問われた経験が無いといった社員がいたり(確かに、人事考課における要素などにおいて、若年層にはリーダーシップを問わない企業も多いかも)、あるいは、管理職研修にリーダーシップに関する研修が織り込まれていなかったりもするとのこと(この点は、最近はそうでもないのではとも思うけれど)。

 外資系企業におけるリーダーには、その組織が成果を生み出すことを求められるが、日本の場合は組織の「和」が優先されると―。以下、日本企業と外資系企業におけるリーダーシップの捉え方の違いを、時に文化論的なレベルまで敷衍させて、対比的に、分かり易く説明しています。

 例えば、事故で電車が止まって駅のタクシー乗り場に長い行列ができている状況において、海外ではこういう場合、必ず誰かが相乗りを誘い始めるとのことで、これがリーダーシップの発揮なのであると。日本人の場合は、黙々と列に並び、一人ずつタクシーに乗っていき、そういう役割を自ら担おうという気が全く無い―これがこの国の人の特徴なのだと指摘しています。

 文化論に落とし込まれると確かに分かり易い。それをそのまま企業内における組織行動論にもってきているため、全体を通してややパターン化された外資系企業と日本企業の対比のさせ方になっている印象も受けましたが、マッキンゼーに入社するためのノウハウ本になっていない点は好感が持てました。
 但し、採用担当者が期待するような、採用時に応募者のリーダーシップを探るための方法論についてはそれほど突っ込んで書かれているわけではなく、本書自体、「採用基準」の本と言うより、4:6ぐらいの比率でむしろ「リーダーシップ」について書かれた本であると言ってもいいかもしれません。

マッキンゼー流最強チームのつくり方.jpg マッキンゼーでは、「全員がリーダーシップを発揮して問題解決を進める」前提で仕事が進み、「全員がリーダーシップをもっているチームでは、議論の段階では全メンバーが『自分がリーダーの立場であったら』という前提で、『私ならばこういう決断をする』というスタンスで意見を述べ」るとのことであり、だからこそ、高いパフォーマンスをもった組織が生まれるのだと言っています(結果としてリーダーとフォロアーの違いは殆ど無くなる。この辺りは著者のDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文にも書かれているようだ[2013年4月Kindle版で刊行] )。「職場でしばしば目にする、リーダーに対する建設的でない批判の大半は、『成果にコミットしていない人たち』によって」なされるとも著者は述べています。
マッキンゼー流最強チームのつくり方 (DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文(2012年9月))」(201304 Kindle版)

 リーダーとは具体的にどのようなアクションをとる人なのかについて、著者は「目標を掲げる」「先頭を走る」「決める」「伝える」という4点を挙げ、リーダーシップは生まれつきの資質ではなく、学んで向上させることができるものだとしています。今の日本に求められるのはリーダーシップを持つ人間であるというのが本書の根源的なメッセージであり、今の日本の問題は「カリスマリーダーの不在ではなく、リーダーシップを発揮できる人数の少なさにある」というのは当たっているかも。

 その上で、マッキンゼー流のリーダーシップの学び方(学ばせ方)についても述べていますが、それによれば、マッキンゼーにおけるリーダーの「基本動作」のもとになる考え方は、①バリューを出す、②ポジションをとる(自分の意見を明確にする)、③自分の仕事のリーダーは自分であると認識する、④ホワイトボードの前に立つ(議論のリーダーシップをとる)―といったことのようです。

 中盤あたりから最終章の「リーダーシップで人生のコントロールを握る」まで "啓蒙書"的なトーンが続くのは、「キャリア形成コンサルタント」という著者の今の仕事とも関係しているのでしょう。読者ターゲットを、キャリアの入り口にある若年層に絞っている本とみてもいいかもしれません。

 全体を通して書かれている内容自体は特に奇抜なことを述べているわけではなく、すんなり腑に落ちるもので、マッキンゼー礼賛ぶりがやや気にはなりましたが、その点も、外資系企業出身者が書いた同じような本に比べると、まだバランス感覚は感じられる方だと思います。むしろ、コンサルティングファームという業態はそれなりに意識して読んだ方がいいかもしれないし、また、読んでいて意識せざるを得ないかと思われます。

『採用基準―地頭より論理的思考力より大切なもの』2.jpg 巷にある採用本によくありがちな、あれも必要、これも必要とチェック項目ばかり矢鱈に多く並べて、結局は使いきれないし、何も印象に残らないといったパターンと比べると、求められるのはリーダーシップであるとはっきり言い切っている分、明快です(この点において評価★★★★☆)。日本の企業も、採用選考において、応募者のリーダーとしての資質にもっと着眼するようにした方がいいのかもと思わせるものがありました。実際、それを見極めるとなるとなかなか難しいことかと思われますが、そこまで具体的には踏み込んでおらず、人事パーソンの目線で見るとやや物足りなさも残ります(この点においては評価★★★☆)。

 但し、リーダーシップというものが外資系企業では若年層のうちから求められるということはよく分かりました(まあ、外資の場合、最初から中枢部にいる人間と、生涯、末端の現場から離れることのないであろう人間とが明確に分かれている傾向があり、ここで指しているのは、まさに中枢部の要員として採用された人間ということになるかとは思うが)。

 一方、マッキンゼーに就職するためのノウハウ本だと勘違いして購入して、アテが外れたという人もいたかもしれませんが、それは、そう思って買った人本人の問題。そうした(実利的な(?))ことは抜きにして、キャリアの入り口にある若年層の人に向けた、リーダーシップに関する啓発書としては悪くないように思いました(啓発書としては評価★★★★)。個人的には、総合評価星4つ(★★★★)です。

【2794】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『プロがすすめるベストセラー経営書』 (2018/06 日経文庫)

《読書MEMO》
HRアワード2013.jpg「日本の人事部」主催の「HRアワード2013」の書籍部門で最優秀賞を受賞

受賞についてコメントする著者の伊賀泰代氏(from「日本の人事部・HRアワード2013」)
 
 
  

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リーダーシップについて極めて謙虚に述べているが、体験に基づいているだけに説得力がある。

リーダーを目指す人の心得 2.gifリーダーを目指す人の心得』 リーダーを目指す人の心得 コリン・パウエル 英.jpg "It Worked for Me: In Life and Leadership"

 ジャマイカ移民の子で、ニューヨークのサウス・ブロンクスのストリートキッド、ペプシの工場の清掃夫から、陸軍入りしてから昇進に昇進を重ねて上りつめ、4つの政権でアメリカ軍制服組トップである統合参謀本部議長(1989-1993)などの要職を歴任し、最後はジョージ・W・ブッシュ政権で国務長官(2001-2005)を務めたコリン・パウエル(Colin Luther Powell、1937-)が、多くの逸話や自らの体験をもとにリーダーシップについて語った本です。

 纏めたのは、専ら軍人の回顧録を書いているライターのトニー・コルツ、訳者は『スティーブ・ジョブズ―偶像復活』('05年/東洋経済新報社)、『スティーブ・ジョブズ(上・下)』('11年/講談社)等、ジョブズの伝記なども訳している井口耕二氏。

 第1章に、私の「13ヵ条ルール」というのが紹介されていて、事例に沿った分かりやすいリーダー訓にまず引き込まれます。第2章では、自分を本当に知ることの重要性と、いつも自分らしくある方法を、第3章では、自分の部下を中心に、ほかの人を知ることに焦点をあて、第4章では、近年のデジタル世界における自らの経験を語り、第5章では、偉大な管理者、偉大なリーダーになる方法を説いています。

ドラッカー先生のリーダーシップ論 帯.jpg ピーター・ドラッカーは、「最も多くのリーダーが訓練を受け、育成されているのは軍隊である」と弟子たちに述べていたそうですが(ウィリアム・A・コーン『ドラッカー先生のリーダーシップ論』('10年/武田ランダムハウスジャパン))、米国史上最年少で(しかも黒人で)アメリカの四軍(陸、海、空、海兵隊)のトップである統合参謀本部議長となった彼は、まさにその最たるものと言えるでしょう。

 『リーダーを目指す人の心得』って、どこにでもありそうな凡庸なタイトルになってしまっているけれど、原題の"It Worked for Me"は「私はこれでうまくいった」ということであり、「For Me(私にとっては)」とついているところが実に謙虚です(あまりに謙虚なので、ストレートなタイトルに置き換えた?)。

 「For Me(私にとっては)」と言っているのは、リーダーシップに正解というものはなく、「誰もがこれでうまくいく」とはいうわけではないということを示唆しているわけですが、そうでありながらも、書かれていることの普遍性と説得力には、巷に出回っている「これを読めばあなたも有能なリーダーになれる」的な薄っぺらな自己啓発本を凌駕して大いに余りあるものでした。

Colin Powell.gif『司令~1.JPG 冒頭の「13ヵ条ルール」の内の1つ「まず怒れ。その上で怒りを乗り越えろ」に関して、かつてボブ・ウッドワードが著した『司令官たち―湾岸戦争突入にいたる"決断"のプロセス』('91年/文藝春秋)の中で、「砂漠の嵐」作戦の指揮官だったノーマン・シュワルツコフ(1934-2012)が、部下が悪い話を持ってきただけでその部下に怒鳴り散らすタイプだったのに対し、彼の部下だったパウエルは、自分の部下のどんな話もじっくり聞くタイプだったとあったのを思い出しました。湾岸戦争後、二人の地位の上下は逆転しています。

 さらに湾岸戦争後、パウエルには、"初の黒人大統領"を待望する世論の声が強まりますが、これも「13ヵ条ルール」の1つ、「他人の道を選ぶことはできない。他人に自分の道を選ばせてはいけない」の項で、自らの"直感"に沿って大統領選への不出馬を決断したことが書かれています。

 国務長官を辞した際も、金融関係など多くの企業から超高額処遇での役員オファーがあったものの、同じような考え方からそれらを断り、結果としてその時に彼に役員オファーした金融企業はリーマンショックで破綻したり苦境に立たされており、断ったのは正しかったと。

 『司令官たち』では、ジョージ・H・W・ブッシュ(パパ・ブッシュ)が、慎重派のパウエルよりも、好戦的なスコウクロフトの主戦論になびいて湾岸戦争に突入していく様が描かれていましたが、イラク戦争でもパウエルは、息子ジョージ・W・ブッシュの強硬姿勢にブレーキをかける立場に回っています。

 しかし、米国は戦争に突入し、パウエルは国連で「イラクに大量破壊兵器あり」との確証に基づかない演説をさせられることになりますが、本書ではそのことを自らの経歴上の"汚点"として素直に認め、どうしてそうしたことになったのかを冷静に分析しています。

Colin Powell's endorsement:less a vote for Obama than a vote against Romney.jpg パウエルは政治的には元々共和党穏健派であり、本書からは共和党のレーガン大統領への尊敬の念が窺えますが、前々回(2008年)の大統領選から民主党のオバマ支持に回っているのは、こうしたこともあって共和党のリーダーへの愛想が尽きたのか...?

 最終章は楽しいエッセイ風の回想録(あるレセプションで、ダイアナ妃を巡って主賓のヘンリー・キッシンジャーをさし置いて王妃と近しく接したことを嬉々として語っている)、及び、子どもたちの未来に希望を託すものとなっており、全体を通しても、リーダーシップの啓蒙書としてばかりでなく、読みものとしても興味深く、楽しく読めるものとなっています。

【2017年文庫化[飛鳥新社]】

《読者MEMO》
●コリン・パウエルの「13ヵ条ルール」
1.何事も思うほどは悪くない。翌朝には状況は改善しているはずだ。
2.まず怒れ。その上で怒りを乗り越えろ。
3.自分の人格と意見を混同してはならない。さもないと、意見が却下されたとき自分も地に落ちてしまう。
4.やればできる。
5.選択には細心の注意を払え。思わぬ結果になることもあるので注意すべし。
6.優れた決断を問題で曇らせてはならない。
7.他人の道を選ぶことはできない。他人に自分の道を選ばせてもいけない。
8.小さいことをチェックすべし。
9.功績は分けあう。
10.冷静であれ。親切であれ。
11.ビジョンを持て。一歩先を要求しろ。
12.恐怖にかられるな。悲観論に耳を傾けるな。
13.楽観的でありつづければ力が倍増する。

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ジム・コリンズ/モートン・ハンセン)

不確実性の時代に高成長を遂げた企業及びリーダーの特質を、実証的に検証。
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ビジョナリー・カンパニー4.png
 ビジョナリー・カンパニー1.jpg ビジョナリー・カンパニー2.jpg ビジョナリー・カンパニー3.jpgビジョナリー・カンパニー 4 自分の意志で偉大になる』['12年]  『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』['95年] 『ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則』['01年]『ビジョナリーカンパニー3 衰退の5段階』['10年]
    
ジム・コリンズ(Jim Collins).jpg ビジョナリー・カンパニーシリーズの第4弾となる本書(原題:"Great by Choice: Uncertainty, Chaos, and Luck--Why Some Thrive Despite Them All"、2011)では、「経営規模が脆弱な状況でスタートし」、「不安定な環境下で目覚ましい成長を遂げ、偉大な企業となった」事例を調査対象として選抜しています。

ジム・コリンズ(Jim Collins)元スタンフォード大学経営大学院教授

モートン・ハンセンMorten_Hansen.jpg そして、それらの企業が業界の株価指数を少なくとも10倍以上も上回る株価パフォーマンスを示していることから、それらを「10X(10倍)型企業」と命名し、一方、同じ環境下で、かつては優位にありながら「偉大になれなかった企業」(衰退した企業)を「比較対象企業」として挙げ、両者を歴史分析することによって、「10X倍型企業」および「10X型リーダー」の特質とは何かを分析してします。

モートン・ハンセン(Morten Hansen)UCBerkeleyおよびINSEAD教授。ボストンコンサルティング出身。

 高成長企業とダメになってしまった企業の比較歴史分析という点では、『ビジョナリー・カンパニー―時代を超える生存の法則』('95年/日経BP社)、『ビジョナリー・カンパニー2-飛躍の法則』('01年/日経BP社)などと同じですが、高成長や卓越さといった視点に加えて、置かれた環境の厳しさを指標に加えて事例を選んでいるのが本書の特徴です(衰退した企業をも調査対象としている点では、『ビジョナリー・カンパニー3-衰退の5段階』('10年/日経BP社)とも同じ)。

 例えば航空業界であれば、サウスウェスト航空(10X倍型企業)とPSA(比較対象企業)を、コンピュータ業界ではマイクロソフト(10X倍型企業)とアップル(比較対象企業)を取り上げ、歴史データをもとにリーダーのとった経営戦略の推移から対比するなどし、そのほかにフトウェア、バイオ、半導体、保険、医療機器の各業界から「10X型企業」と「比較対象企業」をそれぞれ1社ずつ選んで対比させています(アップルは、調査対象期間の関係で「比較対象企業」とされているが、スティーブ・ジョブズの復帰後の彼の行動は、「10X型リーダー」のそれとして解説されている)。

 それらの企業研究から、10X型リーダーの特徴的行動パターンとして、「狂信的規律」「実証的創造力」「建設的パラノイア」の三つを抽出し、それぞれを「二十マイル行進」「銃撃に続いて大砲発射」「死線を避けるリーダーシップ」というキー・フレーズのもとに解説しています。

 「二十マイル行進(狂信的規律)」においてはリスクマネジメントと持続的改善活動の重要性を説き、「銃撃に続いて大砲発射(実証的創造力)」では、具体性のある創造力の重要性、「死線を避けるリーダーシップ(建設的パラノイア)」では、最大限の準備を怠らないことの大切さを説いています。

 そうした中で、例えば「大混乱する世界で成功するリーダーは大胆であり、進んでリスクを取るビジョナリー」であるといった"神話"に対し、現実には、未来を予測できるビジョナリーではなく、「何が有効なのか」「なぜ有効なのか」を確認し、実証的なデータに基づいて前に進んだのであって、比較対象企業のリーダーよりリスク志向でも大胆でもなく、またビジョナリーでも創造的でもない。より規律があり、より実証主義的であり、よりパラノイア(妄想的)なのである―といったように、従来の"神話"を幾つも覆している点も興味部深いです。

 また、「10X倍型企業」には、「具体的で整然とした一貫レシピ」<SMaC(Specific Methodical and Consistent)>があり、「10X型リーダー」は運だけで成功したのではなく、成功する原則を死守したから「偉大」になれたのであって、言い換えれば「自分の意思によって偉大に」なったのであるとしています。

 『ビジョナリー・カンパニー2』で「バスに乗せる人」と「降ろす人」を厳格に決めることが重要であると説いた「まず人選ありき」といった概念をはじめ、これまでのシリーズにあった「ハリネズミの概念」「基本的価値観」「BHAG(不可能なぐらい高い目標)」「カルト的文化」「ストックデールの逆説」「時を告げるのではなく、時計を作る」「衰退の五原則」「弾み車」と言った概念については、前作で十分説明されているとして、本書では意識的に触れていませんが、本書で述べられていることは、それらを具体的な行動レベルに落とし込んだものとも言えます。

 広い意味で「経営書」と言うより「啓蒙書」ですが、著者が師とするドラッカーの著作に倣って、データによる裏付けがきっちりしていて説得力のあるものとなっているうえに、世界で初めて南極点に到達したアムンゼンと、遅れて南極点に到達した後に隊員が全員死亡したスコットの詳細な比較分析例などを用いて、「10X倍型企業」と「比較対象企業」の違いにあてはめながら解説したりするどしているため、読みやすく、また、分かりやすいものとなっています。

 ベンチャー企業の経営者などに人気のあるシリーズですが、この不確実性の時代においては、どういった企業の経営者が読んでも啓発される要素がある本であると思われ、また、「経営者を支える」経営専門家(役員・経営幹部がそれに該当すると思われるが)にも読んでほしい本である―ということは、とりもなおさず、人事パーソンにも読んでほしい本、ということになります。

『ビジョナリー・カンパニー』
【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)
【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)
【2701】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『マネジメントの名著を読む』 (2015/01 日経文庫)

《読書MEMO》
●崩れ去った神話(31‐33p)
○【神話】大混乱する世界で成功するリーダーは大胆であり、進んでリスクを取るビジョナリー。
【意外な現実】我々の調査対象になった10X型リーダーは、未来を予測できるビジョナリーではない。「何が有効なのか」「なぜ有効なのか」を確認し、実証的なデータに基づいて前に進む。比較対象リーダーよりリスク志向ではなく、大胆でもなく、ビジョナリーでもなく、創造的でもない。より規律があり、より実証主義的であり、よりパラノイア(妄想的)なのである。
○【神話】:刻々と変化し、不確実で混沌とした世界で10X型リーダーが際立つのはイノベーションのおかげ。
【意外な現実】驚いたことに、イノベーションは成功の鍵ではない。確かに10X型企業も多くのイノベーションを起こす。しかし、我々の調査では「10X型企業が比較対象企業よりもイノベーション志向である」という前提を裏付けるデータは出てこなかった。10X型企業が比較対象企業よりもイノベーションで劣るケースさえあった。我々の予想に反し、イノベーションだけでは切り札にならないのだ。より重要なのは、イノベーションをスケールアップさせる能力、すなわち創造力と規律を融合させる能力である。
○【神話】脅威が押し寄せる世界ではスピードが大事。「速攻、そうでなければ即死」ということ。
【意外な現実】環境が急変する世界では、素早い判断と素早い行動が求められるから、「どんなときでも即時・即決・即行動」という哲学を取り入れる、これは破滅を招く効果的な方法だ。10X型リーダーはいつアクセルを踏み、いつ踏んではならないかを理解している。
○【神話】外部環境が根本的に変化したら自分も根本的に変化すべき。
【意外な現実】外部環境が急変しても、10X型企業は比較対象企業ほど変化しない。劇的変化に見舞われて世界が揺れ動いたからと言って、自分自身が劇的変化を遂げる必要はない。
○【神話】10X型成功を達成した偉大な企業は多くの運に恵まれている
【意外な現実】全体として見ると、10X型企業が比較対象企業よりも強運であるとは限らない。幸運だろうが不運だろうが、10X型企業も比較対象企業も共に同じ程度に多くの運に遭遇している。成功の鍵を握っているのは、運に恵まれているかどうかではなく、遭遇した運とどのように向き合うかである。

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そんなにスゴイ本かなあ。どちらかと言うと本で読むよりセミナーで聴くような内容。外資礼賛?

藤野 祐美 『上司は仕事を教えるな!』5.JPG 上司は仕事を教えるな4754.JPG上司は仕事を教えるな! (PHPビジネス新書)』['12年]

 全体の趣旨としては、上司は部下の仕事に口を挟むよりは、部下への精神的支援に注力せよということだと思いますが、タイプ別部下への支援方法なども書かれていて、部下を持つ人が、自分が部下と普段どう接しているかを振り返るにはいい本かも。ものすごく噛み砕いて書いてあるし。

 但し、理論書というより啓蒙書、更に言えば、管理職研修における部下コミュケーションに関する講義をそのまま本にした感じの本であり、啓発される要素も無きにしもあらずですが、こういう話は本で読むよりもセミナーで聴いた方がいいのかも。
 でも、Amazon.comのブックレヴューを見ると、10人が10人5つ星評価になっていました。個人的には、そんなに「目からウロコが...」というほどのスゴイ本かなあという印象です。

 まず「朝のあいさつ」から始めよう―なんて、やっている人は既にやっているし、やらない人はこの本を読んでもやらないんじゃないかなあ。外資系の企業って、ボスが朝から元気に「Good Morning!」って言ってくれるから素晴らしいわけ? 

 日本企業にはダメ上司がいっぱいいて、一方の外資は素晴らしい上司ばかりだったと、著者個人の経験に基づいて図式的に内外を対比させていて、かなりの外資礼賛ぶり。外資系企業でもいろいろあると思うけれど。

 スポーツ選手がこうした指導で力を伸ばしたといった話などのも、やはりどちらかと言うと「本」よりも「セミナー」向きではないかと。この類のネタ話には、それ自体さほど目新しさがあるわけでもありません。

 一つ、興味深かったのは、外資系の企業であからさまに部下をえこひいきする上司がいたと書いていることで、日々のランチも決まった一人の部下としかいかなかったということ。著者自身、"嫌い"のえこひいきはダメだけれど"好き"のえこひいきはオープンに見せてもよいとしていますが、外資系の場合、自分の後継者を育てないと自分自身が次のポジションに行けないということもあって、こうしたことは珍しいことではないのではないかな。周囲も皆、自分がボスになれば同じことをすると分っているし、不満はあってもその行為自体を理不尽だとは思っていない気がします。

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グローバル人材としての「マインドセット」とは必ずしも目新しいものではないのが興味深い。

なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか.jpg  なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか2.jpg ドミニク・テュルパン.jpg ドミニク・テュルパン
 『なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか―世界の先進企業に学ぶリーダー育成法

 スイスに本拠を置くビジネススクールIMDの学長と、その日本拠点の代表による共著で、このIMDのミッションは、グローバル・リーダーの開発であるとのことです。

 全5章構成の第1章では、マクロ的な観点からさまざまなデータを示すことで、世界において、日本および日本企業がいかにグローバル化の流れにたち遅れているかを示しています(IMDの調査による世界競争力ランキングでは、日本はバブル期には世界競争力第1位だったのが、2011年版調査では59カ国中26位とのこと)。

 さらに第2章では、今度はややミクロな観点から、日本企業が「グローバル化」につまずいた要因を取り上げるとともに、第3章では、IMDが社員教育等で関与する各国の企業のグローバル人材育成の取り組みや、いくつかの日本企業の事例を紹介しています。

 つまずきの要因としては、①もはや競争優位ではない「高品質」にこだわり続けた、②生態系の構築が肝心なのにモノしか見てこなかった、②地域規模の長期戦略が曖昧で、取り組みが遅れた、④生産現場以外のマネジメントがうまくできなかった、の4点を挙げ、具体的事例と併せて解説しています。

 さらにその奥には、ある種の視野狭窄に陥って本当の土俵での戦略的な取り組みができていないことと、常にオープンで何事にも好奇心の心の扉を開き、他者や異文化を尊重できる、そうしたマインドセットを持った人材が少なく、新卒大卒男性を大量採用して会社のカラーに染めていく人材育成を続けてきたために、多様な人材が欠如していることの2つの課題が見えてくるとしています。

 ここまでの分析には説得力がありましたが、第4章では、グローバル・リーダーの必要条件として「グローバル・マインドセット」という概念をとりあげ、IMDが考える「マインドセット」とは、「異なる社会、文化システムから来る人たちやグループに対して影響を与えることを可能にするような思考」のことであるとしていますが、おそらくこの部分が本書の中核と言えるかもしれません。

 「マインドセット」は体験と学習によって高めることが可能であるとするとともに、IMDが経営幹部研修などにおいて活用している、個人の行動特性をはかるアセスメントツール(グローバル・コンピテンシー・インベントリー)は、「認知管理力」「関係構築力」「自己管理力」の3つの軸から成っているとしています。

 これらをバランスよく兼ね備えているのがグローブトロッター(グローバル人材)であり、3要素の何れかが欠けた場合、あるいは1要素しか満たさない場合、どのような行動特性が現れるかが、分かりやすく解説されていますが、これがなかなか面白い。

  「認知管理力」「関係構築力」のみ ⇒ 日和見主義者
  「関係構築力」「自己管理力」のみ ⇒ 調整役
  「自己管理力」「認知管理力」のみ ⇒ 冒険家
  「認知管理力」のみ ⇒ 観察者
  「自己管理力」のみ ⇒ 孤立主義者
  「関係構築力」のみ ⇒ 異業種交流好き
  何も無しみ ⇒ ひきこもり
 といった具合です。

 第5章では、グローバル人材育成のために日本企業ができることとして、人事異動の効果的活用や幹部教育を手厚くすること、人材育成は日本人も外国人も対象とすることなど、5つの提案をしています(最後に「海外ビジネススクールを有効に活用せよ」とある)。

 部分部分は面白く読め、特に第4章、第5章が、単に要素分析にとどまらず、今日本企業で求められる施策にまで踏み込んで書かれている点は評価できると思いますが、一方で、このあたりの踏み込みがやや浅く抽象的な印象もある...。

 全体としてよく纏まっているし、大いに啓蒙的ではあるけれど、具体策としては、結局は社員にいろいろと「経験を積ませろ」というところに落ち着くのかなという気も。

 考えてみれば、「認知管理力」「関係構築力」「自己管理力」などは、日本企業が管理職登用アセスメントなどで永らく用いてきた指標であり、これに異価値許容性(これも昔からアセスメント項目にあったことはあった)などのグローバルな視点をもっと取り込んで人材の育成をはかれということなんだろうなあ。

 集合研修としての育成ノウハウは、本書においては必ずしも具体的に公開されているとは言えず、そうした意味では、コンサル受注誘因本と言えなくもないし、研修よりも人事異動による育成等を説いている面では、そうでないとも言えます。

 ただ、本書で述べられているグローバル・リーダーのアセスメント要素自体は決して目新しいものではない(個人的にはそのことが、本書から学んだ最大のポイント)ことから考えても、わざわざ海外の研修機関に社員を派遣しなくとも、それ以前に、今までやってきた管理職育成施策のもとになっている「求められる人材像」というものを、もう一度見直してみる契機となる本ではあるかもしれません。

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「自分を知る」「絵を描く」「人を巻き込む」-リーダーシップ実践の3ステップ。セミナー本のような印象も。

リーダーは弱みを見せろ2.JPGリーダーは弱みを見せろ.jpgリーダーは弱みを見せろ GE、グーグル 最強のリーダーシップ (光文社新書)』['12年]

 米国のコーネル大学大学院で人材マネジメント・組織行動学の理論を学び、GEとグーグルでリーダーシップを教えた経歴を持つという著者(1972年生まれ)が、この激変する社会で求められるリーダーシップとは何かを書いた本です。

 リーダーシップ実践には「自分を知る」「絵を描く」「人を巻き込む」の3つのステップがあり、この「自己・他者認識力」「ビジョン構築力」「コミュニケーション力」について、リーダーシップには「型」があるとの考え方のもと、これまでリーダーシップについて書かれた名著とされる本からリーダーシップ論を引きながら説いています。

 GE・グーグルといった先進企業での自らの経験に置き換えたり、日本の企業経営者の言動に当て嵌めたりしながら解説を進めているので、あるべきリーダー像というものを比較的身近に感じながら読み進むことができます。

 但し、やはり引いているものは海外のものが多く、これはまあ、リーダーシップ研究の歴史の長さが違いますから、リーダーシップの「型」を紹介していくとこうならざるを得ないのかなあと。

 ドラッカー、ウォレン・ベニスといった大御所から、「EQリーダーシップ」のダニエル・コールマンや「フロー体験」のチクセントミハイ、マーカス・バッキンガムなど比較的新しい論客、更には、マルコム・グラッドウェルや『7つの習慣』のスティ―ヴン・R・コヴィーといった自己啓発本に近いものまで紹介されています。

 基本的には、場当たり的なリーダー論に依拠するよりは、こうした「型」を一通り網羅して、大まかに体系を掴んだうえで、その中から自分に合った考え方を抽出し、管理者やリーダーとしての日々の活動に落とし込んでいく―というのが、やはり一番近道のように、個人的にも思います。

 本書に関しては、リーダーシップ論の体系づけにはさほどこだわっておらず、むしろ後半に行くほど、啓蒙書的なスタイルになっているように思えました。
 リーダーシップ研修の講義をそのまま本にしたような内容とも言えます(理論だけだと、聞く方は寝ちゃうから)。

 そうした意味では、よく纏まっているというか、上手く纏められていますが、紹介されているリーダーシップの「型」というものが、ややMBA型の「強いリーダーシップ論」に偏っているかなあ。ジャック・ウェルチとかもそうだし、GE出身だから当然そうなるのだろうけれども、「状況対応型リーダーシップ」とか「サーバント・リーダーシップ」などは出てこないね。

 タイトルの「リーダーは弱みをみせろ」ということについては、「自己・他者認識力」の部分で、ビル・ジョージの『リーダーへの旅路』を引きつつ、「自分の奥底に蓋をして必死に隠してきた自分の弱さを明らかにし、それらを受け入れることを通じて、自身の発言や行動が確信に満ちてきて、その結果、人がついていきたいと思う本物のリーダーに成長できる」としています(その後にジョンとハリーの「ジョハリの窓」の解説がつづく)。

ザ・ゼナラルマネジャー2.JPG 個人的には、むしろ「リーダーは弱みをみせろ」という言葉から想起したのは、リーダーシップ論の大家ジョン・コッターでした。
 コッターは、その著書『ザ・ゼネラル・マネジャー』から『リーダーシップ論』にかけて、「インフォーマルな人間関係に依存する」ことを優れたマネジャー(リーダー)の特質の一つとして挙げており、噛み砕いて言えば、困った時に「俺、困ってるんだけど」と言って相談できる仲間がいる、つまり、「人に弱みを見せることができる」のが、実は優れたリーダーであるというのが彼の考えではなかったかと思います。

 コッターのリーダーシップ論も、基本的にはオーソドックスな「変革のリーダーシップ論」であり、リーダーに高いエネルギーレベルを求めるものですが、一方で、こうした対人態度に関する言及があるのが特徴。これだけ先人たちの名前が挙がっているのに、タイトルを見てすぐに想起させられたコッターの名前が、本書の中に無かったのが意外でした。

 本書自体はそれほど悪くないと思われ、リーダーシップ研修のス進め方事例として読めば、よく纏まっているように思いました。特に、リーダーシップ研修を内製化しようとする場合においては、コンテンツ作成のヒントは得られるかもしれません。

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経験に裏打ちされたリーダーシップ本。外資系企業トップの「キャリアの物語」としても読める。

世界で通用するリーダーシップ.jpg世界で通用するリーダーシップ2.jpg 三谷 宏幸.jpg 三谷 宏幸 氏(ノバルティス ファーマ社長)
世界で通用するリーダーシップ』['12年/東洋経済新報社]

 外資系医薬品会社ノバルディス ファーマの現社長である著者が、グローバルで通用するリーダーシップとは何か、経営にとっていかに人材を育成していくことが重要であるかを語るとともに、とりわけ若い世代に向けて、自分の能力と可能性を信じ、失敗を恐れず挑戦せよと訴えかけた本です。

 著者は、灘高校、東京大学工学部を卒業後、川崎製鉄(現JFEスチール)に入社し、在職中に米国留学を経験した後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、日本ゼネラル・エレクトリック(GE)へ転職、GEの航空機エンジン北アジア地域社長など務めた後に現職にあるとのことで、あまりの華々しい経歴に、読む前から少し引いてしまいそう―。

 しかし、実際に本書を読んでみると、東大受験に一度失敗し、希望していた商社への就職にも失敗するなど、キャリアのスタートからずっと順風満帆に歩んできたわけではなく、それでも常に経営に携わりたいと気持ちを持ち続け、現状に安住せず、自らの洞察力と努力でキャリアを切り拓いてきたことがわかります。

 東京へ出てきたとき、米国留学をしたとき、そして、GEに入って日本法人の社長になったときが人生の大きな転機だったとしていますが、30歳のとき米国留学を希望したのも「早く経営をやってみたい」という思いからであり、BCGからGEへの転職も、経営戦略やセオリーでは語れない「感性」を、「経験」の場を通して磨くことで、自らの経営者としての素質や能力を高めたいとの思いからだったようです。

 とりわけ、GEでのジャック・ウェルチとの出会いは、BCGで多くの経営者を見てきたはずの著者にとっても衝撃的であったようで、そのカリスマ性とエネルギッシュな仕事ぶりや、一方でそれぞれの事業の細かなことまで頭に入っており、社員はもとより日本のビジネスパートーナーの名前を百名以上覚えているという繊細さ、そうしたことからも窺える、仕事の半分以上を「人事」に費やしていたというウェルチの、リーダー育成の方法や考え方などが紹介されています。

 そうした外資系企業の徹底したリーダー人材の育成・鍛錬方法を日本企業のそれと対比的に解説しながらも、類書にありがちな「外資」礼讃に陥ることなく、革新を求める、コンプライアンスをしっかりするといった「外資」的な枠組みと、チームワーク、顧客志向といった「内資」的な枠組みをハイブリッドさせることが、日本に軸をおいた外資系企業の強みに繋がるとしています。

 巻末にリーダーシップに関する名著が紹介されていますが、本文で語られていることは机上論では無く、すべて経験に裏打ちされているため説得力があり、さらに、リーダーシップの本としてだけでなく、外資系企業の日本人トップの「キャリアの物語」としても読め、キャリアの入り口にある人にとっては、たいへん啓発的な本ではないかと思いました。

 併せて、マネジメントの本としても読め、今まさに企業風土の変革やリーダー人材の育成が求められている「内資」のビジネスパーソンが読んでも、得るところはあるのではないかと思われます(個人的には一番には、「キャリアの本」として読んだかもしれない)。
 
 ウェッブでの著者インタビューによれば、執筆にあたって「自慢話」にならないよう配慮したとのこと。その配慮は感じられたものの、それにしてもやはり、外資系企業のトップになる人って、凄いなあという感じ。

《読書MEMO》
●目次
第1章 いつも何かを探していた
第2章 日本と米国、考え方の違い
第3章 経営の理論を学ぶことから実践へ
第4章 企業の成長をドライブする
第5章 外資に勤めるということ
第6章 ジャック・ウェルチに学んだリーダーシップ
第7章 医薬品業界とノバルティス
第8章 これからの日本の役割
●一般的に陥りやすいのは、前年度主義、前例主義なのだ。こうして過去にとらわれて、次の発想ができない。これに対して、欧米諸国は、最初から予定調和も既定路線もない。だから、虚心坦懐に事実を見つめて、何がベストなのかをその時々に考えるという強さを持っている。(43p)
●日本人にとって創造の妨げになるのは横並び意識だ。日本人はともすれば、隣を気にしてまわりと同じ発想をしようとする。ただ、一見安全そうに見える発想は、実は往々にしてリスクを伴うということを意識しておかなければならない。だからこそ意識してポジティブシンキングを心がけて変化を先取りすることが必要だ。(58p)
●人間というのは面白いもので、トレーニングによって自分の能力以上のことができるようになってくる。とりわけGEで学んだのは、「ストレッチ」という考え方である。これは自分の能力より上の目標を自らが設定して、それに挑んでいくやり方である。こうした行動を繰り返すことで、自分の成長に自分で限界を作らず、常に成長を続けていくことができる。(137p)

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自己啓発書だが、管理職(リーダーシップ)研修のヒントも。

Bootstrap Leadership.jpg「課長」として身につけたい50のルール.jpg
「課長」として身につけたい50のルール』(2011/12 メトロポリタンプレス)
"Bootstrap Leadership: 50 Ways to Break Out, Take Charge, and Move Up"

 書店に行けば必ずいつも置いてあるのがリーダーシップに関する自己啓発書ですが、自分自身もどれを読めばいいのかしばしば迷って、結局何も読まなかったりもします。但し、管理職研修をやるとかいうことになると、理論ばかりやっていてもイメージが湧きにくいから、啓蒙的な要素も入れた方がいいかなということで、今回この本を手にしました。

 米国のリーダーシップ・カウンセラー、コーチである著者が、優れたリーダーになるための50のポイントをまとめた本で(原題"Bootstrap Leadership: 50 Ways to Break Out, Take Charge, and Move Up Steve Arneson"(2010))、翻訳者によれば、タイトルに「課長」とあるのは、日本企業におけるプレイング・マネジャーである「課長」に着目し、翻訳編集した内容になっているためであるとのことです。

 企業内でさまざまな現場監督を務めながら、一人の管理者として企業全体や業界全体にまでも視野を広げ、さらには創造的に仕事をこなすクリエイティブなスキルを身につけるにはどうすればよいかについて書かれた本です。

 原著者も、本書は「将来をイメージする」「アイデアを実行に移す」「部下の適性を判断し、長所を伸ばしてやる」「後継者を育てる」「自分自身に投資する」という5つのポイントに着目しているとしており、内容がマネジャーとしての資質とリーダーとしての資質の両方に及んでいるともとれるとから、「課長」という表題は適切であるように思いました。

 「理想の上司を目指そう!」「新しいゲームを加える」「まわりの世界に目を向ける」「心地よい環境から抜け出す」「上司や指導者としての役目」と題された5つ基本スキルに基づくセッションごとに、「課長としてのリーダー力」を身につけるためのルールが1セッション10ずつ掲げられ、解説されています。

 あらかじめ冒頭に、本文で語られる50のルール