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「友だちの恋人」の撮影の合間に撮られた作品。まったく性格の異なる都会の娘と田舎の娘の共同生活。

「レネットとミラベルの四つの冒険/コーヒーを飲んで (エリック・ロメール コレクション) [DVD]」ジョエル・ミケル/ジェシカ・フォルド
エリック・ロメール監督による1987年公開作「友だちの恋人」の撮影の合間に撮られたのが、レネットとミラベルの同一主人公らによる「青い時間」「カフェのボーイ」「物乞い 窃盗常習犯 女詐欺師」「絵の売買」の4つの短編から成るこのオムニバス映画で、ロメール監督は田舎の娘レネット役のジョエル・ミケルの体験談に着想を得て本作を企画し、少人数のスタッフと16ミリフィルムで撮影を敢行したそうです。
自転車のパンクをきっかけにミラベル(ジェシカ・フォルド)は、ある田舎道で、この町の納屋のような家に一人で住み、絵を描いて暮らしているレネット(ジョエル・ミケル)と出会う。彼女はミラベルに、夜明け前に1分間だけ音のない世界になる"青の時間"を体験させようと家に泊まるよう誘うが、せっかくのチャンスが車の音で失敗に終わる。落胆するレネットに、ミラベルはもう1晩泊まることを告げ、二人はその昼間に田舎の生活と自然を満喫する。そして2泊目の夜明け、二人は"青い時間"を味わい 感動する―。(第1話「青い時間」)
同監督の「緑の光線」に似ているように思いました。シリーズ第5作「緑の光線」('86年)は、孤独なヒロインがバカンスの最後の日に知り合った若者と一緒に、日没前に一瞬だけ見えるという太陽の「緑の光線」を見に行くという話でしたが、「青い時間」では、それぞれ田舎と都会に住む若い女性同士の組み合わせ。二人の出会いから、性格の全く異なる二人が打ち解けていく様ががごく自然に描かれていていました。自然も美しいし(「緑の光線」と同じく、チーズで有名なブリー地方が舞台)、レネットの住まいも悪くなかったです。でもパリで絵の勉強をするために、彼女はミラベルのアパートへ―。
秋になり、パリのミラベルのアパートで同居し、美術学校に通うレネットは、ある日ミラベルと待ち合わせしたモンパルナスのカフェで、奇妙なボーイ(フィリップ・ロダンバッシュ)と出会う。小銭を持っていないミラベルがコーヒー代に200フラン札を出すと、ボーイは「どうせ友だちなんか来ないんだろう。飲み逃げしようとしてもそうはいかない。おつりが出せないから小銭で払え」と無理難題を言う そこにミラベルがやってきて、彼女は500フラン札を出してボーイと押し問答が続くが、ボーイが席を離れた隙に二人はお金を払わず逃げてしまう しかし、レネットは翌朝、代金を払いにカフェに行く―。(第2話「カフェのボーイ」)
レネットがモンパルナスのカフェに行く道を尋ねた行きずりの男性たちも変な連中だったけれど、それ以上に可笑しいのがボーイで(客であるレネットからすれば頭にくる相手だが)、翌日、レネットがカフェに金を払いに行った時、「昨日のボーイは?」と訊くと、「彼はアルバイトだから、もういない」と言われます。馘首になったのかなあ。イマイチ、釈然としない...。
ヤスミナ・アウリー(万引き犯)/マリー・リヴィエール(女詐欺師)
物乞いに小銭をやるレネットに影響を受けたミラベルは、ある日、スーパーで万引きする女(ヤスミナ・アウリー)を見つけ、彼女を助ける行為をするが、成り行きから女が万引きした商品はミラベルの手に残ってしまう 帰宅後、二人は彼女の行為について議論する 。ある日 レネットは、駅で小銭をせびる女(マリー・リヴィエール)に会い、彼女に小銭を与えたため電車に乗り遅れてしまう。 電話をしようとするが小銭がないので、彼女も通行人に小銭をせびるがうまくいかない。 すると、先ほどの女がまた通行人から小銭をせびっているのを見つけ、彼女に金を返すように詰め寄るが、彼女が泣き出してしまい 諦める―。(第3話「物乞い、窃盗常習犯、女詐欺師」)
レネットは、ミラベルが万引き女を助けたと聞き、その理由が「彼女が捕まって懲役になったら可哀そうだから」とのことで、ミラベルを咎めます。ミラベルのやったことは犯罪の幇助であり、それを非難するレネットに分があるでしょう。二人の性格の違いもあるでしょうが、ちょっとミラベルの社会道徳観が心配です(この先、大丈夫か)。女詐欺師を演じたのはロメール監督の「飛行士の妻」「緑の光線」でそれぞれ主役を演じたマリー・リビエールでした。それにしても、3作とも全然タイプの異なる役だなあ。さらに、スーパーの万引き監視員を演じているのは、「美しき結婚」('81年)主演のベアトリス・ロマン! こうなるとカメオ出演に近いでしょうか。。
ファブリス・ルキーニ(画廊の主人)
レネットは、今月家賃を払う番だったが、金が無く、 二人はレネットが描いた絵を画廊に売ることにする。 レネットは言葉が話せないふりをして画廊の主人(ファブリス・ルキーニ)と交渉するがうまくいかない。しかし、他の客が画廊に入って来たのを契機に、ミラベルが機転を発揮し二人は大金を手にする―。(第4話「絵の売買」)
これは第2話、第3話に比べて落ちがはっきりしていて面白かったです。画廊の主人を演じたのは、「満月の夜」('84年)で、パスカル・オジェ演じる主人公ルイーズから振られる男性オクターブを演じたファブリス・キーニでした。エリック・ロメール作品に多く出演したほか、フランソワ・オゾン監督の「危険なプロット」(2012年)で主演するなどし、セザール賞に6回ノミネートされた、今やフランスが誇る名優であるとのことです。

4話の中では第1話が★★★★、第4話が★★★☆、あと第2話と第3話が★★★といったところでしょうか。どれもユーモアを交えた軽快なタッチで描かれていて、「喜劇と格言劇」シリーズの作品と比べてもより軽いかも。「喜劇と格言劇」シリーズが男女の恋愛模様を中心に描いているのに対して、女性同士のからっとした感じの友情を描いており、そうした男女の情が絡まない分、軽くなっているのかもしれません。
「レネットとミラベル 四つの冒険」●原題:QUATRE AVENTURES DE REINETTE ET MIRABELLE(英:FOUR ADVENTURES OF REINETTE AND MIRABELLE)●制作年:1986年製作(公開は1987年)●制作国:フランス●監督・脚本:エリック・ロメール●製作:マルガレット・メネゴス●撮影:ベルナール・リュティック●音楽:ロナン・ジレ/ジャン=ルイ・ヴァレロ●時間:99分●出演:ジョエル・ミケル/ジェシカ・フォルド/フィリップ・ロダンバッシュ/ヤスミナ・アウリー/マリー・リヴィエール/ベアトリス・ロマン/ファブリス・ルキーニ●日本公開:1989/07●配給:シネセゾン●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-02-18)(評価:★★★☆)

パリ近郊の新都市セルジー・ポントワーズで市役所に勤めるブランシュ(エマニュエル・ショーレ)は、職員食堂で最後の夏休みを迎えた学生レア(ソフィー・ルノワール)と出会い意気投合する。恋人ファビアン(エリック・ビエラード)の好きな水泳が苦手というレアのため、ブランシュは水泳の手ほどきをすることに。そして二人がプー
ルにいたところへ、ファビアンの友人アレクサンドル(フランソワ・エリック・ゲンドロン)が現れる。ブランシュはたちまちアレクサンドルに恋してしまうが、好きな相手に対して臆病になってしまう性格のため打ち解けられない。ファビアンは卒業を機に、最近ウマが合わないファビアンを捨て、パリを去ろうとする。運命の悪戯でブランシュはファビアンと親しくなり、一夜を共にする。ところが、休暇旅行から帰ってきたレアがファビアンと仲直りしたとブランシュに告げる。一方、レアはアレクサンドルに口説かれる―。
「友だちの恋人」(副題は「友だちの友だちは友だち」)は、エリック・ロメール監督による1987年公開作品。同監督の「喜劇と格言劇」シリーズ第6作で、これがシリーズ最終作になります。パリ郊外のニュータウンを舞台に、4人の男女が繰り広げる恋愛模様を軽快なタッチで描いていて、これまでのシリーズ作が一人の女性が主人公だったのが、今回は一応ヒロインに焦点を合わせながらも、主人公とその女友達の恋愛も描いていて、相互に"反応"し合う男女2×2の恋物語になっている点が特徴的です。
主要登場人物4人の関係がどんどん移り変わって、観ている方も混乱しますが、仕舞いには、登場人物であるブランシュとレアも互いに勘違いしたりして(笑)。ラストは
ハッピーエンドでしたが、ブランシュは周囲に振り回されている印象も。これがハッピーエンドでなかったら、あまり好きになれない映画だったかもしれません。この二組、この先大丈夫かなあというのもあります(特にアレクサンドルはプレイボーイだし)。
ロメール監督の「
「友だちの恋人」●原題:L'AMI DE MON AMIE(英:BOYFRIENDS AND GIRLFRIENDS)●制作年:1987年●制作国:フランス●監督・脚本:エリック・ロメール●製作:マルガレット・メネゴス●撮影:ベルナール・リュティック●音楽:ジャン=ルイ・ヴァレロ●時間:102分●出演:エマニュエル・ショーレ/ソフィー・ルノワール/エリック・ヴィラール/フランソワ・エリック・ジェンドロン/アン=ロール・マーリー●日本公開:1988/07●配給:シネセゾン●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-02-04)(評価:★★★☆)



日本映画には東京を描いた作品が多いのですが、本書は、一昨年['22年]に91歳で亡くなった映画評論家の佐藤忠男(1930-2022)が、映画における東京の風景の役割や意味、人々の暮らしぶり、監督論等を語ったもので、『東京という主役―映画のなかの江戸・東京』('88年/講談社)の改題増補版になります。
第1章では、小津安二郎、黒澤明、成瀬巳喜男の3人の監督の作品を取り上げていますが、まず何をもってもしても小津安二郎! 生涯に作った53本の作品の内、東京を舞台にしていない作品はせいぜい8本ぐらいしかないそうです。「
黒澤明作品については、「
成瀬巳喜男作品では、ミルクホールを舞台にした「はたらく一家」(38年)に着眼していますが、個人的には未見。「ミルクホール」というものの起源が解説されているのが興味深かったです(ホテルニューオータニに「ミルクホール」という名のそう高くない洋食屋があって、コーヒーのみだが打ち合わせで等で50回近く利用した。また、時々利用する中伊豆・吉奈温泉にある旅館「東府やResort&Spa-Izu」にも「ミルクホール」というフリードリンクスペースがあり、数回行ったことがある)。
ホテルニューオータニ「ミルクホール」/東府やResort&Spa-Izu「大正館」ラウンジ「ミルクホール」
第2章では、江戸から東京への推移を写し出した作品を取り上げていて、山中貞雄監督の「

渚の「新宿泥棒日記」(69年)も未見。山本政志監督の「
第5章は、外国映画の中の東京を取り上げ、ヴィム・ヴェンダース監督(「
林立する、小津の映画とは似ても似つかぬ東京であり、彼は小津の時代は遠くに過ぎ去り、日本的なものが失われたと感じたと(映画の中では、東京タワーで落ち合った友人の
第6章では、映画における"東京名所"を場所ごとに見ていきますが、吉原(浅草)のところで、溝口健二の遺作「赤線地帯」(56年)を取り上げています。吉原で働く女性たちを描いた群像劇ですが、映画のクレジットに芝木好子「洲崎の女」とあるように、芝木好子の短編集『洲崎パラダイス』の一部を原作にして、舞台は〈洲崎〉から〈吉原〉に置き換えられています。キャラクターの描き分けがよく出来た作品でした。
ある真夏の午後、小学校6年生の秀男(大沢健三郎)は、母・深谷茂子(乙羽信子)に連れられて呆野から上京した。父を亡くし、銀座裏に八百屋を開くおじ山田常吉(藤原釜足)の店に身を寄せるためだった。挨拶もそこそこに、母の茂子は近所の旅館へ女中として勤め、秀男は長野から持って来たカブト虫
と淋しく遊ぶのだった。そんなある日、近所のいたずらっ子に誘われて、駐車場で野球をした秀男は、監視人につかまってバットを取られてしまう。遊び場もない都会の生活に馴染めぬ秀男の友
達は、気のいい従兄の昭太郎(夏木陽介)と、小学校4年生の順子(一木双葉)だった。順子は茂子の勤めている「三島」の一人娘、母の三島直代(藤間紫)は月に2、3回やって来る浅尾(河津清三郎)の二号だった。順子の宿題を見てやった秀男は、すっかり順子と仲よしになった。山育ちの秀男は順子と一緒に海を見に行ったが、デパートの屋上から見る海は遠く霞むばかりであった。しかもその帰り道、すっかり奇麗になった母に
会った秀男は、その喜びもつかの間、真珠商の富岡(加東大介)といそいそと行く母の後姿をいつまでも恨めし気に見なければならなかった。その上、順子にやる約束をしたカブト虫も箱から逃げてしまっていた。
しかも、更に悲しいことに、母が富岡と駈け落ちして行方不明になる。傷心の秀男と順子は月島の埋立地に出掛ける。そこで見つけたキチキチバッタ、しかし、これも秀男がケガをしただけで逃げられてしまう。夏休みも終りに近づいたある日、秀男の田舎のおばあさんからリンゴが届く。箱の中に偶然カブト虫も。秀男は喜び勇んで家を飛び出し、順子の家へ走るが、浅尾の都合で「三島」は商売替えし、順子はいなかった。呆然とした秀男は、カブト虫を手に、かつて順子といっしょにいったデパートの展望台の上で、秋立つ風のなかをいつまでも立ちつくしていた―。
子どもを主人公に、その眼を通して大人たちを描いた作品ですが、ちゃんと子どもの心情を中心に据えていて、個人的には、成瀬巳喜男ってこういう作品も撮ることができたのかあとちょっと意外でした。少年のひと夏の出来事が切なく描かれており、これって傑作ではないでしょうか。感動させようと過度な感情を交えるようなことはせずに、淡々と描いているのが成功しています。銀座で、八百屋が舞台というのが独特(今ではちょっと考えられない)。そこの気のいいあんちゃんを夏木陽介が好演していました。
銀座のバー「ベラミ」で女給をしている津路雪子(田中絹代)は5歳になる息子の春雄(西久保好汎)と暮らしているが、昔の愛人・藤村安蔵(三島雅夫)は今でも金の無心に来る。ある日雪子は昔の仲間・佐山静江から上京してきた資産家の息子・石川京介(堀雄二)の案内役を頼まれる。相手をしているうちに雪子は石川との結婚を夢見るが、春雄の行方が突然わからなくなってしまい、石川の相手を妹分の女給・京子(香川京子)に頼んで自分は帰宅する。春雄は見つかったが、その一夜の間に京子と石川は婚約してしまっていた。諦めた雪子は今日も銀座で働くのだった―(「銀座化粧」)。
「秋立ちぬ」と同じく銀座を舞台にしています。ただし、遡ること9年、女給バーとかちょっとレトロな感じ(一応"高級バー"ということらしい)。雪子(田中絹代)が東京案内を頼まれた、お上りさんの資産家の息子を演じていたのは、後にドラマ「
田中絹代演じる雪子は、堀雄二演じる石川との結婚
を夢見ますが、最初から"夢"で終わるのは見えていたのではないかな(それでも夢を見るのが女性というものなのか)。ましてや、香川京子演じる若い京子(満19歳で女給役を演じた)がライバルではかなわない(かえっ
て諦めがついたか)。京子が、石川が一晩同じ部屋にいて何もしなかったのでますます好きになるというのは、どうなんだろう(その結果、一晩で婚約を決める)。これって当時の女性の一般的な感覚なのだろうか。現代女性だったらどうだろうか―いろいろ気を揉んでしまいました。 
売春防止法案が国会で審議されている頃、吉原の「夢の里」では娼婦たちがそれぞれの事情を負って生きていた。より江(町田博子)は普通の主婦に憧れている。ハナエ(木暮実千代)は病気の夫と幼子を抱えて一家の家計を支えている。ゆめ子(三益愛子)は一人息子との同居を夢見ている。やすみ(若尾文子)は客を騙して金を貯め、仲間の娼婦に金貸しを行って更に貯金を増やしていた。不良娘のミッキー(京マチ子)も加わり「夢の里」は華やぐが、結婚したより江は夫婦生活が破綻する。ハナエの夫は将来を悲観して自殺未遂を起こす。ミッキーは自分を連れ戻しに来た父親を、女癖の悪さを責めて追い返す。ゆめ子は愛する息子に自分の仕事を否定されて発狂する。やすみは自分に貢ぐために横領した客に殺されかける。ラジオが法案の流産を伝え、行き場のない彼女たちは今日も勤めに出る。しかしやすみだけは倒産して夜逃げした元客の貸布団屋を買い取って女主人に納まった。退職したやすみに変わって、下働きのしず子(川上康子)が店に出る事になる。着物を換え、蠱惑的な化粧を施されるしず子。女たちがあからさまに男たちの袖を引く中、ためらいながら、しず子は男に誘いかける―(「赤線地帯」)。
溝口健二監督の1951(昭和26)年公開作で、出演は若尾文子、三益愛子、町田博子、京マチ子、木暮実千代、川上康子など。
発狂しますが、原作では最初から精神を少し病んでいて(それも客がつかない原因になっている)、息子のために働いてきたのにその息子に自分の仕事を非難され(これは映画と同じ)、かつて息
子を連れて空襲の中を逃げ回った記憶に囚われながら入水自殺します(映画よりさらに悲惨!)。このほかに、ミッキー(京マチ子)のような、享楽のために(?)特飲街に居続ける女性もいて、自分を連れ戻しに来た父親を、その女癖の悪さを責めて追い返しています。さらには、やすみ(若尾文子)のよう
に客に貢がせて、最後はその客を破綻させ、自分が代わって経営者になるといったヤリ手も。一方で、ハナエ(木暮実千代)のように、病気の夫と幼子を抱えて一家の家計を支えるために特飲街で働く女性もいて、四者四様で、群像劇でありながら、この描き分けにおいて新旧の女性像が浮き彫りにされてた、優れた映画でした(やすみ・ミッキーが「新」、ゆめ子・ハナエが「旧」ということになるか)。実は、このやすみ・ミッキーに似たタイプの女性も短編集『洲崎パラダイス』にある作品に登場するので、おそらく溝口健二はそれらも参考にしたのではないかと思われます。

「秋立ちぬ」●制作年:1960年●監督・製作:成瀬巳喜男●脚本:笠原良三●撮影:安本淳●音楽:斎藤一郎●時間:80分●出演:大沢健三郎/一木双葉/乙羽信子/藤間紫/藤原釜足/夏木陽介/原知佐子/加東大介/河津清三郎/菅井きん●公開:1960/10●配給:東宝●最初に観た場所:神保町シアター(24-05-02)(評価:★★★★☆)
「銀座化粧」●制作年:1951年●監督:成瀬巳喜男●製作:伊藤基彦●脚本:岸松雄●撮影:三村明●音楽:鈴木静一●原作:井上友一郎●時間:87分●出演:田中絹代/西久保好汎/花井蘭子/小杉義男/東野英治郎/津路清子/香川京子/春山葉子/明美京子/落合富子/岡龍三/堀雄二/清川玉枝/柳永二郎/三島雅夫/竹中弘正/田中春男●公開:1951/04●配給:新東宝●最初に観た場所:神保町シアター(24-05-02)(評価:★★★☆)
「ロビンソンの庭」●制作年:1987年●監督:山本政志●製作:浅井隆●脚本:山本政志/山崎幹夫●撮影:トム・ディッチロ/苧野昇●音楽:JAGATARA/吉川洋一郎/ハムザ・エル・ディン●時間:119分●出演:太田久美子/町田町蔵(町田康)/上野裕子/CHEEBO/坂本みつわ/OTO/ZABA/横山SAKEV/溝口洋/利重剛/室井滋/田トモロヲ/江戸アケミ●公開:1987/10●配給:レイライン●最初に観た場所:渋谷・ユーロスペース(88-07-09)(評価:★★★☆)
「東京画」●制作年:1985年●製作国:アメリカ・西ドイツ●監督・脚本:ヴィム・ヴェンダース●製作:クリス・ジーヴァニッヒ●撮影:エド・ラッハマン●音楽:ローリー・ペッチガンド●時間:93分●出演:ヴィム・ヴェンダース(ナレーション)/笠智衆/ヴェルナー・ヘルツォーク/厚田雄春●公開:1989/06●配給:フランス映画社(評価:★★★☆)

「赤線地帯」●制作年:1956年●監督:溝口健二●製作:永田雅一●脚本:成澤昌茂●撮影:宮川一夫●音楽:黛敏郎●原作:芝木好子(一部)●時間:86分●出演:若尾文子/三益愛子/町田博子/京マチ子/木暮実千代/川上康子/進藤英太郎/沢村貞子/浦辺粂子/十朱久雄/加東大介/多々良純/田中春男●公開:1956/03●配給:大映●最初に観た場所:国立映画アーカイブ(24-05-26(評価:★★★★☆)


「進藤英太郎映画祭」中野武蔵野ホール



第1章のミニシアターというものが未知数だった「80年代」のトップは新宿「シネマスクエアとうきゅう」(81年12月、歌舞伎町「東急ミラノビル」3Fにオープン)。企業系ミニシアターの第1号で、1席7万円の椅子が売り物でした。柳町光男のインディペンデント作品「
が16週上映(コピーは"中世は壮大なミステリー"。教養映画風だが実はエンタメ映画)、今で言うストーカーが主人公で、買い手がつかなかったのを買い取ったというパトリス・ルコントの「
六本木「俳優座シネマテン」(81年3月、「俳優座劇場」内にオープン)の「テン」は夜10時から映画上映するためだけでなく、ブレイク・エドワーズのコメディ「テン」(79)から
とったとのこと。トリュフォーの、フランスの文豪ヴィクトル・ユーゴーの次女アデルの狂気的な恋の情念を描いた「アデルの恋の物語」(75)はここでした。ルキノ・ヴィスコンティが看板監督で、「地獄に堕ちた勇者ども」(69)や「
81年オープンのもう1館は、渋谷「パルコ・スペース・パート3」。ヴィスコンティの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(43)(ヴィスコンティの処女作。原作はアメリカのハードボイルド作家ジェームズ・M・ケイン。映画での舞台は北イタリア、ポー河沿いのドライブイン・レストランに。ファシスト政権下でオールロケ撮影を敢行した作品)、「
行機でやってきて、ホテルに泊まり1週間通い詰めた人もいたとのこと。カルトムービーとインディーズのメッカでもあり、日本では長年オクラだった「ピンク・フラミンゴ」(72)は、86年に初めてここで正式上映されたとのこと、個人的には84年に「アートシアター新宿」で観ていましたが、その内容は正直、個人的理解を超えていました。99年に映画常設館「CINE QUINTO(シネクイント)」となり、これは第2章で「シネクイント」として取り上げられています。個人的には、初期の頃観た作品では、フランスの女流監督コリーヌ・セローの「彼女と彼たち-なぜ、いけないの-」(77)、チェコスロバキアのカレル・スミーチェクの「少女・少女たち」(79)、台湾の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の「
「シネヴィヴァン六本木」(83年11月「WAVEビル」地下1階にオープン)は、オープン2本目でゴッドフリー・レジオ監督の「コヤニスカッティ」(82)を上映、アメリカの大都市やモニュメントバレーなどを映したイメージビデオ風ドキュメンタリー。コヤニスカッティとはホピ族の言葉で「平衡を失った世界」。延々と続いた早回しシーンがスローモーションに転じた途端に眠気に襲われました。アンドレイ・タルコフスキー監督の「ノスタルジア」(83)が84年に7週間上映、ビクトル・エリセ監督の「
監督の「
「ユーロスペース」(82年、渋谷駅南口桜丘町「東武富士ビル」2Fにオープン)は、85年6月のデヴィッド・クローネンバーグ監督の「
ーヴン・キング原作の「
「シャンテ・シネ」(87年、日比谷映画跡地にオープン)は、今の
「TOHOシネマズ シャンテ」。ここの大ヒット作は何と言っても88年公開の「ベルリン・天使の詩」(87)で、30週のロングランという単館ロード全体の記録を打ち立てたとのこと(動員数は16.6万人)。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の「
「シネスイッチ銀座」(87年にオープン)は、個人的には前身の「銀座文化劇場・銀座ニュー文化」さらに「銀座文化1・2」の頃から利用していましたが、"シネスイッチ"は、洋画と邦画の2チャンネルを持つという意味でのネーミングだそうで、ジェームズ・アイヴォリーの「
第2章のブームの到来の「90年代」のトップは渋谷「シネマライズ」(86年6月、渋谷 スペイン坂上「ライズビル」地下1階にオープン)。劇場の認知度を上げたのは86年7月公開のトニー・リチャードソンの「
2011年に閉館した「シネセゾン渋谷」 (85年11月、渋谷道玄坂「ザ・プライム渋谷」6Fにオープン)はリバイバル上映に個性があり、市川崑の「
「ル・シネマ」(89年9月、渋谷道玄坂・Bunkamura6階にオープン)の方は東急系で、92年にかけられたジャック・リヴェット監督(原作はバルザック)のフランス映画「
主演の「花の影」(96)も17週上映、今世紀に入ってからは、張藝謀(チャン・イーモウ)監督、チャン・ツィイー主演の「
「恵比寿ガーデンシネマ」(94年10月、恵比寿ガーデンテラス弐番館内にオープン)は、ポール・オースター原作、ウェイン・ワン監督の、ニューヨークのタバコ屋の人間模様を描いた「スモーク」(95)のような渋い作品をやっていました。個人的には、ロイ・アンダーソンの「
第2章の最後は、「岩波ホール」(68年オープン、74年から映画常設館に)。サタジット・レイ「
4年2月にロードショー。4週間後にホールは満席になったといいます(因みに、サタジット・レイの「大地のうた三部作」のうち「大河のうた」は結末がハッピーエンドでないため、インドでも興行上は振るわなかった)。その後も、75年にルネ・クレールの「

「隣の女」●原題:LA FEMME DA'COTE(英:THE WOMAN NEXT DOOR)●制作年:1981年●制作国:フランス●監督:フランソワ・トリュフォー●製作:フランソワ・トリュフォー/シュザンヌ・シフマン●脚本:フランソワ・トリュフォー/シュザンヌ・シフマン/ジャン・オーレル●撮影:ウィリアム・ルプシャンスキー●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:107分●出演:ジェラール・ドパルデュー/ファニー・アルダン/アンリ・ガルサン/ミシェル・ボートガルトネル/ヴェロニク・シルヴェール/ロジェ・ファン・ホール/オリヴィエ・ベッカール●日本公開:1982/12●配給:東映ユニバースフィルム●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-10-01)(評価:★★★)●併映:「アメリカの夜」(フランソワ・トリュフォー)/「終電車」(フランソワ・トリュフォー)
「アメリカの夜(映画に愛をこめて アメリカの夜)」●原題:LA NUIT AMERICAINE(英:DAY FOR NIGHT)●制作年:1973年●制作国:フランス●監督・脚本:フランソワ・トリュフォー●製作:マルセル・ベルベール●撮影:ピエール=ウィリアム・グレン●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:115分●出演:ジャクリーン・ビセット/ヴァレンティナ・コルテーゼ/ジャン=ピエール・オーモン/ジャン=ピエール・レオ/アレクサンドラ・スチュワルト/フランソワ・トリュフォー/ジャン・シャンピオン/ナタリー・バイ/ダニ/ベルナール・メネズ●日本公開:1974/09●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-10-01)(評価:★★★☆)●併映:「隣の女」(フランソワ・トリュフォー)/「終電車」(フランソワ・トリュフォー)
「終電車」●原題:LE DERNIER METRO(英:THE LAST METRO)●制作年:1980年●制作国:フランス●監督:フランソワ・トリュフォー●製作:マルセル・ベルベール●脚本:フランソワ・トリュフォー/シュザンヌ・シフマン●撮影:ネストール・アルメンドロス●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:134分●出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ジェラール・ドパルデュー/ジャン・ポワレ/ハインツ・ベネント/サビーヌ・オードパン/ジャン=ルイ・リシャール/アンドレア・フェレオル/モーリス・リッシュ/ポーレット・デュボスト/マルセル・ベルベール●日本公開:1982/04●配給:東宝東和●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-10-01)(評価:★★★)●併映:「アメリカの夜」(フランソワ・トリュフォー)/「終電車」(フランソワ・トリュフォー)
「薔薇の名前」●原題:LE NOM DE LA ROSE●制作年:1986年●制作国:フランス・イタリア・西ドイツ●監督:ジャン=ジャック・アノー●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:アンドリュー・バーキン●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:ジェームズ・ホーナー●原作:ウンベルト・エーコ●時間:132分●出演:ショーン・コネリー/クリスチャン・スレーター/F・マーリー・エイブラハム/ロン・パールマン/フェオドール・シャリアピン・ジュニア/エリヤ・バスキン/ヴォルカー・プレクテル/ミシェル・ロンスダール/ヴァレンティナ・ヴァルガス●日本公開:1987/12●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所(再見):新宿武蔵野館(23-04-18)(評価:★★★)
「赤い影」●原題:DON'T LOOK NOW●制作年:1973年●制作国:イギリス・イタリア●監督: ニコラス・ローグ●製作:ピーター・カーツ●脚本:アラン・スコット/クリス・ブライアント●撮影:アンソニー・B・リッチモンド●音楽:ピノ・ドナッジオ●原作:ダフニ・デュ・モーリエ「いまは見てはだめ」●時間:110分●出演:ドナルド・サザーランド/ジュリー・クリスティ
/ヒラリー・メイソン/クレリア・マタニア/マッシモ・セラート/レナート・スカルパ/ジョルジョ・トレスティーニ/レオポルド・トリエステ●日本公開:1983/08●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所:新宿・シネマスクエアとうきゅう(83-09-11)(評価:★★★)
「マーラー」●原題:MAHLER●制作年:1974年●制作国:イギリス●監督・脚本:ケン・ラッセル●製作:ロイ・ベアード●撮影:ディック・ブッシュ●音楽:グスタフ・マーラー/リヒャルト・ワーグナー/ダナ・ブラッドセル●時間:115分●出演:ロバート・パウエル/ジョージナ・ヘイル/リー・モンタギュー/ロザリー・クラチェリー●日本公開:1987/06●配給:俳優座シネマテン=フジテレビ●最初に観た場所:新宿・シネマスクエアとうきゅう(87-06-21)(評価:★★★)
「ケレル(ファスビンダーのケレル)」●原題:QUERELLE●制作年:1982年●制作国:西ドイツ/フランス●監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー●脚本:
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー/ブルクハルト・ドリースト●撮影: クサファー・シュヴァルツェンベルガー/ヨーゼフ・バブラ●音楽:ペール・ラーベン●原作:ジャン・ジュネ『ブレストの乱暴者』●時間:108分●出演:ブラッド・デイヴィス/ジャンヌ・モロー/フランコ・ネロ/ギュンター・カウフマン/ハンノ・ポーシェル●日本公開:1985/05●配給:人力飛行機舎=デラ●最初に観た場所:新宿・シネマスクエアとうきゅう(88-05-28)(評価:★★★?)
「アデルの恋の物語」●原題:L'HISTOIRE D'ADELE H.(英:THE STORY OF ADELE H.)●制作年:1975年●制作国:フランス●監督・製作:フランソワ・トリュフォー●脚本:フランソワ・トリュフォー/ジャン・グリュオー/シュザンヌ・シフマン●撮影:ネストール・アルメンドロス●音楽:モーリス・ジョベール●原作:フランセス・ヴァーノア・ギール『アデル・ユーゴーの日記』●時間:96分●出演:イザベル・アジャーニ/ブルース・ロビンソン/シルヴィア・マリオット/ジョゼフ・ブラッチリー/イヴリー・ギトリス●日本公開:1976/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:大塚名画座(78-12-08)(評価:★★★★)●併映:「二十歳の恋」(フランソワ・トリュフォー/ロベルト・ロッセリーニ/石原慎太郎/マックス・オフュルス/アンジェイ・ワイダ)
「地獄に堕ちた勇者ども」●原題:THE DAMNED(独:Götterdämmerung)●制作年:1969年●制作国:イタリア・西ドイツ・スイス●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:アルフレッド・レヴィ/エヴェール・アギャッグ●脚本:ルキノ・ヴィスコンティ/ニコラ・バダルッコ/エンリコ・メディオーリ●撮影:アルマンド・ナンヌッツィ/パスクァリーノ・デ・サンティス●
音楽:モーリス・ジャール●時間:96分●出演:ダーク・ボガード/イングリッド・チューリン/ヘルムート・バーガー/ラインハルト・コルデホフ/ルノー・ヴェルレー/アルブレヒト・シェーンハルス/ウンベルト・オルシーニ/シャーロット・ランプリング/ヘルムート・グリーム/フロリンダ・ボルカン●日本公開:1970/04●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:大塚名画座(79-02-07)(評価:★★★★)●併映:「ベニスに死す」(ルキノ・ヴィスコンティ)
「カッコーの巣の上で」●原題:ONE FLEW OVER THE CUCKOO'S NEST●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ミロス・フォアマン●製作:ソウル・ゼインツ/マイケル・ダグラス●脚本:ローレンス・ホーベン/ボー・ゴールドマン●撮影:ハスケル・ウェクスラー●音楽:ジャック・ニッチェ●原作:ケン・キージー『カッコウの巣の上で』●時間:133分●出演:
ジャック・ニコルソン/ルイーズ・フレッチャー/マイケル・ベリーマン/ウィリアム・レッドフィールド/ブラッド・ドゥーリフ/クリストファー・ロイド/ダニー・デヴィート/ウィル・サンプソン●日本公開:1976/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:テアトル吉祥寺(82-03-13)(評価:★★★★)●併映:「ビッグ・ウェンズデー」(ジョン・ミリアス)
「光と影のバラード」●原題:Свой среди чужих, чужой среди своих(英題:AT HOME AMONG STRANGERS)●制作年:1974年●制作国:ソ連●監督:ニキータ・ミハルコフ●脚本:エドゥアルド・ボロダルスキー/ニキータ・ミハルコフ●撮影:パーベル・レベシェフ●音楽:エドゥアルド・アルテミエフ●時間:95分●出演:ユーリー・ボガトィリョフ/アナトリー・ソロニーツィン/セルゲイ・シャクーロフ/アレクサンドル・ポロホフシコフ/ニコライ・パストゥーホフ/アレクサンドル・カイダノフスキー/ニキータ・ミハルコフ●日本公開:1982/10●配給:日本海映画●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(82-11-21)(評価:★★★☆)
「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●原題:OSSESSIONE●制作年:1943年●制作国:イタリア●監督:ルキノ・ヴィスコンティ●製作:カミッロ・パガーニ●脚本:ルキノ・ヴィスコンティ/マリオ・アリカータ/ジュゼッペ・デ・サンティス/ジャンニ・プッチーニ●撮影:アルド・トンティ/ドメニコ・スカーラ●音楽:ジュゼッペ・ロゼーティ●原作:ジェームズ・M・ケイン●時間:140分●出演:マッシモ・ジロッティ/クララ・カラマイ/ファン・デ・ランダ/ディーア・クリスティアーニ/エリオ・マルクッツォ/ヴィットリオ・ドゥーゼ●日本公開:1979/05●配給:インターナショナル・プロモーション●最初に観た場所:池袋・文芸坐(79-09-24)(評価:★★★★)●併映:「家族の肖像」(ルキノ・ヴィスコンティ)
「ピンク・フラミンゴ」●原題:PINK FLAMINGOS●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本・撮影:ジョン・ウォーターズ●時間:93分●出演:ディヴァイン/ディビッド・ロチャリー/メアリ・ヴィヴィアン・ピアス●日本公開:1986/06●配給:東映=ケイブルホーグ●最初に観た場所:渋谷・アートシアター新宿(84-08-01)(評価:★★★?)●併映:「フリークス・神の子ら(怪物団)」(トッド・ブラウニング)
「彼女と彼たち-なぜ、いけないの-」●原題:POURQUOI PAS!●制作年:1977年●制作国:フランス●監督・脚本:コリーヌ・セロー●製作:ミシェル・ディミトリー●撮影:ジャン=フランソワ・ロバン●音楽:ジャン=ピエール・マス●時間:97分●出演:サミー・フレイ/クリスチーヌ・ミュリロ/マリオ・ゴンザレス/ニコル・ジャメ●日本公開:1980/11●配給:フランス映画社●最初に観た場所:渋谷・パルコスペース3(84-06-17)(評価:★★★★)
「寡婦(やもめ)の舞」●原題:과부춤(英:WIDOW DANCING)●制作年:1984年●制作国:韓国●監督:李長鍋(イー・チャンホ)●脚本:李長鍋(イー・チャンホ)/李東哲(イ・ドンチョル)/イム・ジンテク●撮影:ソ・ジョンミン●原作:李東哲(イ・ドンチョル)『五人の寡婦』●時間:114 分●出演:イ・ボイ(李甫姫)/パク・ウォンスク(朴元淑)/パク・チョンジャ(朴正子)/キム・ミョンコン(金明坤)/パク・ソンヒ/チョン・ジヒ/ヒョン・ソク/クォン・ソンドク/ソ・ヨンファン/イ・ヒソン●日本公開:1985/09●配給:発見の会●最初に観た場所:渋谷・パルコスペース3(「東京国際映画祭」)(85-06-02)(評価:★★★☆)
「ビジル」●原題:VIGIL●制作年:1984年●制作国:ニュージーランド●監督:ヴィンセント・ウォード●製作:ジョン・メイナード●脚本:ヴィンセント・ウォード/グレーム・テットリー●撮影:アルン・ボリンガー●音楽:ジャック・ボディ●時間:114 分●出演:ビル・カー/フィオナ・ケイ/ペネロープ・スチュアート/ゴードン・シールズ●日本公開:1988/02●配給:ギャガ・コミュニケーションズ●最初に観た場所:渋谷・パルコスペース3(85-06-02)(評価:★★★☆)
「コヤニスカッティ(コヤニスカッツィ)」●原題:KOYANISQATSI●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ゴッドフリー・レッジョ●製作:
「ノスタルジア」●原題:NOSTALGHIA●制作年:1983年●制作国:イタリア・ソ連●監督:アンドレイ・タルコフスキー●製作:レンツォ・ロッセリーニ/マノロ・ポロニーニ●脚本: アンドレイ・タルコフスキー/トニーノ・グエッラ●撮影:ジュゼッペ・ランチ●時間:126分●出演:オレーグ・ヤンコフスキー/エルランド・ヨセフソン/ドミツィアナ・ジョルダーノ/パトリツィア・テレーノ/ラウラ・デ・マルキ/デリア・ボッカルド/ミレナ・ヴコティッチ●日本公開:1984/03●配給:ザジフィルムズ●最初に観た場所:Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(24-02-13)(4K修復版)(23-02-08)(評価:★★★★)
「暗殺の森」●原題:CONFORMISTA●制作年:1970年●制作国:イタリア・フランス・西ドイツ●監督・脚本:ベルナルド・ベルトリッチ●撮影:ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●原作:アルベルト・モラヴィア『孤独な青年』●時間:115分●出演:ジャン=ルイ・トランティニャン/ステファニア・サンドレッリ/ドミニク・サンダ/エンツォ・タラシオ●日本公開:1972/09●配給:パラマウント映画=CIC●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(84-06-21)(評価:★★★☆)
「闇のカーニバル」●制作年:1981年●●監督・脚本・撮影:山本政志●製作:伊地知徹生/山本政志●時間:118分●出演:太田久美子/桑原延亮/中島稔/太田行生/じゃがたら/遠藤ミチロウ/伊藤耕/中島稔/前田修/山口千枝●公開:1981/12●配給:CBC=斜眼帯●最初に観た場所:渋谷・ユーロスペース(83-07-16)●2回目:渋谷・ユーロスペース(88-07-09)(評価:★★★★)
「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」●原題:THE BROTHER FROM ANOTHER PLANET●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジョン・セイルズ●製作:ペギー・ラジェスキー/マギー・レンジー●撮影:アーネスト・ディッカーソン●音楽:メイソン・ダーリング●時間:110分●出演:ジョー・モートン/ダリル・エドワーズ/スティーヴ・ジェームズ/レナード・ジャクソン/ジョン・セイルズ/キャロライン・アーロン/デヴィッド・ストラザーン●日本公開:1986/05●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:ユーロスペース(86-06-14)(評価:★★★★)
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「ピアノ・レッスン」●原題:OPPENHEIMER●制作年:1993年●制作国:オーストラリア/ニュージーランド/仏●監督・脚本:ジェーン・カンピオン●製作:ジェーン・チャップマン●撮影:スチュアート・ドライバーグ●音楽:マイケル・ナイマン●時間:121分●出演:ホリー・ハンター/ハーヴェイ・カイテル/サム・ニール/アンナ・パキン/ケリー・ウォーカー/ジュヌヴィエーヴ・レモン/トゥンギア・ベイカー/イアン・ミューン●日本公開:1994/02●配給:フランス映画社●最初に観た場所(再見):TOHOシネマズシャンテ(24-04-08)(評価:★★★★)
「避暑地の出来事」●原題:A SUMMER PLACE●制作年:1959年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:デルマー・デイヴィス●撮影:ハリー・ストラドリング●音楽:マックス・
スタイナー●原作:スローン・ウィルソン『避暑地の出来事』●時間:131分●出演:リチャード・イーガン/ドロシー・マクガイア/トロイ・ドナヒュー/ サンドラ・ディー/アーサー・ケネディ●日本公開:1960/04●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:銀座文化劇場(84-06-21)(評価:★★★☆)
「酒とバラの日々」●原題:DAYS OF WINE AND ROSES●制作年:1962年●制作国:アメリカ●監督:ブレイク・エドワーズ●製作:マーティン・マヌリス●脚本:J・P・ミラー●撮影:フィル・ラスロップ●音楽:
「シャレード」●原題:CHARADE●制作年:1963年●制作国:アメリカ●監督:スタンリー・ドーネン●製作:マーティン・マヌリス●脚本:J・P・ミラー●撮影:フィル・ラスロップ●音楽:
ー・マッソー/ジョージ・ケネディ/ネッド・グラス●日本公開:1963/12●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●最初に観た場所:銀座文化劇場(88-04-16)(評価:★★★☆)

「レザボア・ドッグス」●原題:RESERVOIR DOGS●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督・脚本:クエンティン・タランティーノ●製作:ローレンス・ベンダー●撮影:アンジェイ・セクラ●音楽:カリン・ラクトマン●時間:100分●出演:ハーヴェイ・カイテル/ティム・ロス/マイケル・マドセン/クリス・ペン/スティーヴ・ブシェミ/ローレンス・ティアニー/クエンティン・タランティーノ●日本公開:1993/04●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所(再見):早稲田松竹(24-05-20)(評価:★★★★)●併映:「バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト」(アベル・フェラーラ)

「
「スモーク」●原題:SMOKE●制作年:1995年●制作国:アメリカ・日本・ドイツ●監督:ウェイン・ワン●製作:ピーター・ニューマン/グレッグ・ジョンソン/黒岩久美/堀越謙三●脚本:ポール・オースター●撮影:アダム・ホレン
ダー●音楽:レイチェル・ポートマン●原作:ポール・オースター『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』●時間:113分●出演:ハーヴェイ・カイテル/ウィリアム・ハート/ハロルド・ペリノー・ジュニア/フォレスト・ウィテカー/ストッカード・チャニング/アシュレイ・ジャッド/エリカ・ギンペル/ジャレッド・ハリス/ヴィクター・アルゴ●日本公開:1995/10●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:新宿武蔵野館(24-06-05)((評価:★★★★)
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ルディーノ・ザッポーニ●撮影:ダリオ・ディ・パルマ●音楽:ニーノ・ロータ●時間:110分●出演:フェデリコ・フェリーニ/アニタ・エクバーグ/ピエール・エテックス/ジョセフィン・チャップリン/グスターブ・フラッテリーニ/バティスト●日本公開:1976/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋・文芸坐(78-02-07)(評価:★★★★)●併映:「フェリーニのアマルコルド」(フェデリコ・フェリーニ)

「木靴の樹」●原題:L'ALBERO DEGLI ZOCCOLI(米:THE TREE OF WOODEN CLOGS)●制作年:1978年●制作国:イタリア●監督・脚本・撮影:エルマンノ・オルミ●音楽:J・S・バッハ●時間:186分●出演:ルイジ・オルナーギ/フランチェスカ・モリッジ/オマール・ブリニョッリ/テレーザ・ブレシャニーニ/バティスタ・トレヴァイニ/ルチア・ベシォーリ●日本公開:1979/04●配給:フランス映画社●最初に観た場所:有楽町・スバル座(80-12-02)(評価:★★★★)
「大理石の男」●原題:CZLOWIEK Z MARMURU●制作年:1977年●制作国:ポーランド●監督:アンジェイ・ワイダ●製作:バルバラ・ペツ・シレシツカ●脚本:アレクサンドル・シチボ
ル・リルスキ●撮影:エドワルド・クウォシンスキ●音楽:アンジェイ・コジンスキ●時間:165分●出演:イエジー・ラジヴィオヴィッチ/クリスティナ・ヤンダ/タデウシ・ウォムニツキ/ヤツェク・ウォムニツキ/ミハウ・タルコフスキ/ピョートル・チェシラク/ヴィエスワフ・ヴィチク/クリスティナ・ザフヴァトヴィッチ/マグダ・テレサ・ヴイチク/ボグスワフ・ソプチュク/レオナルド・ザヨンチコフスキ/イレナ・ラスコフスカ/スジスワフ・ラスコフスカ●日本公開:1980/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(81-05-24)(評価:★★★☆)●併映:「水の中のナイフ」(ロマン・ポランスキー)

「女の叫び」●原題:A DREAM OF PASSION●制作年:1978年●制作国:アメリカ・ギリシャ●監督・脚本:ジュールス・ダッシン●撮影:ヨルゴス・アルヴァニティズ●音楽:ヤアニス・マルコプロス●時間:110分●出演:メリナ・メルクーリ/エレン・バースティン/アンドレアス・ウツィーナス/デスポ・ディアマンティドゥ/ディミトリス・パパミカエル/ヤニス・ヴォグリス/フェドン・ヨルギツィス/ベティ・ヴァラッシ●日本公開:1979/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:岩波ホール(80-02-04)(評価:★★★★)

宇宙のどこかにある惑星イガムには、ドラーグ族とオム族が暮らしている。ドラーグ族は、オム族の十倍以上の身長、青い皮膚、魚のヒレの様な耳、真っ赤な目を持ち、その惑星の生態系の頂点に立つ存在である。一方のオム族は原始的な生活を営んでおり、ドラーグ族はオム族をペット、おもちゃ、そして奴隷にしてその命を弄んでいた。また、ドラーグ族は、オム族が高度な知能を持っている可能性を懸念しており、自分たちの優位を守るために、「害虫駆除」感覚で定期的にオム族大量虐殺していた。そんな中、オム族のテールという少年は、母を殺されたのちに、ドラーグ族の少女ティバに拾われてペットになるが、ある日、彼らが知能を高めるために用いている「学習器」を持って逃亡する。この「学習器」によって、オム族はこれまで持っていなかった知能を手にすることになり、そうして生き残りをかけたドラーグ族とオム族の闘いが始まる―。
シネマブルースタジオの2022年「異世界へようこそ vol.2」特集のテリー・ギリアム監督の「
本作は第26回カンヌ国際映画祭で特別賞を受賞し(アニメ作品としては初)、「ハリウッド・リポーター」誌の映画批評家ジョン・デフォー選出の「大人向けアニメ映画ベスト10」(2016年)において10位にランクイン、日本でも1985年の劇場初公開以来カルト的な人気を誇り、『
ネタバレになりますが、イガムの近くには「野性の惑星」と呼ばれる未開の惑星があり、オム族の隠れ都市はドラーグ族の偵察機械に発見され、自動駆除装置の襲撃を受けますが、テールたちは「学習器」により開発したロケットで脱出に成功し、「野性の惑星」に到達、そこは、男女一対の首のない巨大な像が無数にあるだけの荒野で、像の首の上に、瞑想したドラーグ族の「意識」が頭部があり、これこそがドラーグ族にとっての生命維持活動であり、生殖でもあったため、ロケットからビームを発射して像を破壊すると、惑星イガムにいるドラーグ族本体が次々と死ぬことに。ドラーグ族の議会は紛糾し、知事が「このままでは二つの種族はお互いを破壊し尽くし全滅する。和平を結び、ドラーグ族とオム族が共存する方法を見つけよう」と提案、戦いは終結し、オム族はドラーグ族が用意した新しい人工衛星に移住することに。その星は「テール(地球)」と名づけられた―。
「猿の惑星」のラストと似た印象もあるストーリーもなかなかですが、アニメーションも今まで見たことのないようなそれで、奇妙な巨大生物やマシーンの描写などは、宮崎駿の漫画・アニメ『風の谷のナウシカ』に影響を与えたと指摘されているようです。当人は、本作を鑑賞した際「ヒエロニムス・ボッシュの絵みたいな」「美しくもおぞましい」キリスト教ベースの美術に辟易しつつも「面白い」と思い、翻って風土を念頭におかない作品を描く通俗的な日本のアニメの現状を、「美術が不在」という表現で反省したとのこと(風土を反映させたのが「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」ということか)。個人的にも、正直、地球人に相当するオム族も含め、そのタッチに"気色悪さ"を覚えたのは確かです(確かにヒエロニムス・ボスに代表されるルネサンス期風の描画とも言える)。
たまたま「学習器」の恩恵を受けたオム族のテールが、支配者であるドラーグ族のティバより早く学習器によって惑星イガムの地理や文化を吸収することができたのは、ドラーグ族の1週間はオム族の1年に相当するためであり、テールに感化され、「墓場」にあった学習器で学習したオム族が、ドラーグ族時間で僅か3季でドラーグ族に劣らない高い科学技術を有するに文明都市を築けたのは、ドラーグ族の3季がオム族時間で15年にあたるためです。このあたりは一応チェックしておいた方がいいかも。
「ファンタスティック・プラネット」●原題:LA PLANETE SAUVAGE●制作年: 1973年●制作国:フランス・チェコスロバキア●監督:ルネ・ラルー●製作:サイモン・ダミアーニ/アンドレ・ヴァロ=カヴァグリオーネ●脚本:ローラン・トポール/ルネ・ラルー/スティーヴ・ヘイズ●撮影:ハポミル・レイタール/ボリス・パロミキン●音楽:アラン・ゴラゲール●原作:ステファン・ウル「オム族がいっぱい」●時間:72分●日本公開:1985/06●配給:ケイブルホーグ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-11-23)(評価:★★★☆)
ある日、建築技師のマシコフ(スタニスラフ・リュブシン)は、「あそこに自分は異星人だという男たちがいる」と困った様子の学生ゲデバン(レヴァン・ガブリアゼ)に助けを求められる。異星人など信じられないマシコフが、その男たちが持っていた空間移動装置のボタンを押すと、次の瞬間、マシコフとゲデバンは地球から遠く離れたキン・ザ・ザ星雲のプリュク星へとワープしていた。星の
住民は地球人と同じ姿をしており、見かけによらぬハイテクとな野蛮な文化を併せ持っていた。彼らはテレパシーを使うことができ、話し言葉は「キュー」と「クー」のみで、前者は罵倒語、後者がそれ以外を表す。しかし、高い知能を持つ彼らはすぐにロシア語を理解し話すことができた。この星の社会はチャトル人とパッツ人という二つの人種に分かれており、支配者であるチャトル人に対して被支配者であるパッツ人は儀礼に従
わなければならない。両者の違いは肉眼では判別できず、識別器を使って区別する。この星を支配しているのは、「エツィロップ」と呼ばれる警官たちである。プリュクの名目上の為政者は「PJ様」と呼ばれ、人々は彼を熱烈に崇拝している。プリュクにおける燃料は水から作られたルツというもので、自然の水は取り尽くされ、飲み水は貴重品となっており、ルツから戻すことでしか手に入らない。プリュクでは地球のマッチ棒(の化学物質)が非常に高価なものであり、カツェと呼ばれて事実上の通貨となっており、所有者は特典が受けられる。マシコフとゲデバンの二人は、マッチの価値を利用してなんとか地球へ帰ろうとするのだが―。
1886年公開のソ連のゲオルギー・ダネリヤ監督(グルジア共和国出身)によるコメディーSF映画()。ディストピアな設定はソビエト社会の寓意的描写ではないかと言われるそうで、「言われている」と言うのは、検閲を通り抜けるためにほとんどすべて比喩的な表現になっているためで、ウィキペディアにも「作中では解説が若干省かれているので解りにくく、理解するには前後の伏線を注意深く頭に留めておく必要がある」とあるぐらいです。
実際、ソ連全土で1570万人という驚異的な観客を動員したそうで(ソ連の人は、どの部分が何の風刺か凡そ解ったんだろなあ)、その後も世界中でカルト的人気を博し、日本でも1991年に公開され('89年の池袋文芸坐の「ソビエトSFファンタジー映画祭」で上映されたとの話もある)、2001年にはニュープリントで再公開、2016年にはデジタル・リマスター版が公開されました。また、監督自身の手になるアニメ版「クー!キン・ザ・ザ」が、2013年に公開されていますが、こちらは、舞台が21世紀はじめに移すなど、多少内容を変えているようです。
この作品は根強いファンがい
るのか、或いは毎年新たにファンになる人がいるのか、'18年にデジタル・リマスター版が発売されて以降、今年['22年]まで毎年DVD&Blu-rayがリリーズされています。また、ゲオルギー・ダネリヤ監督自身による「クー! キン・ザ・ザ」(Ku! Kin-dza-dza)('13年)というアニメ化作品も作られています(ゲオルギー・ダネリヤ監督は本2019年に88歳で逝去し、これが遺作となった)。
ブリアゼ●撮影:パーヴェル・レベシェフ●音楽:ギヤ・カンチェリ●時間:135分●出演:スタニスラフ・リュブシン/レヴァン・ガブリアゼ/ エヴゲーニー・レオノフ/ ユーリー・ヤコヴレフ●日本公開:1991/01●配給:マウントライト●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(21-11-23)(評価:★★★☆)

1950年代の西ドイツ、バイエルン州の小さな町。ここでは地元の土建屋シュッケルト(マリオ・アドルフ)が幅をきかせ、不正な利権を享受している。娼婦ローラ(バルバラ・スコヴァ)は、夜な夜な娼館に入り浸る彼に愛人とし
て囲われながら、奔放な生活をしている。この町にある日、清廉潔白な建築省の役人フォン・ボーム(アーミン・ミューラー=スタール)が赴任してくることになり、彼はシュッケルトらとともに町の再開発に着手する。フォン・ボームはその傍ら、淑女のふりをしたローラと恋
に落ち、結婚を申し込むようになる。しかしある夜彼は、ローラがシュッケルトの情婦であることを知ってしまう。そこでフォン・ボームは、シュッケルトの不正を新聞に告発し彼を破滅させようとするが、町の誰も不正の告発など望んでいないことに気づく―。
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(1945-1982)監督の'81年公開の映画で、日本ではファスビンダー監督の没後30年となる2012年、特集「ファスビンダーと美しきヒロインたち」で上映されました。70年代後半から80年代前半にかけてファスビンダーが撮った「マリア・ブラウンの結婚」('79年)、「ベロニカ・フォスのあこがれ」('82年)と並ぶ「西ドイツ三部作」の一作で、バイエルン州のとある田舎町が舞台となっています。
ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の「嘆きの天使」('30年/独)のモチーフを引き継ぎつつ、それを戦後の西ドイツを舞台に翻案していて、古めかしい道徳観をもつ真面目な中年男性がローラに入れあげ結婚を申し込むという筋立ては、マレーネ・ディートリヒ演じる放浪のキャバレー歌手ローラ・ローラに権威的な堅物教授が恋焦がれて破滅していくという「嘆きの天使」に似ており、そう言えば見た目も、バルバラ・スコヴァ演じるローラは、ディートリヒ演じるローラ・ローラに似ています(敢えてそういう撮り方をしているのだろう)。
ローラは町の最大の権力者である土建屋シュッケルトの情婦という立場に飽き足らず、町にやって来た真面目な建築省の役人フォン・ボームにも自ら接近、娼婦としての姿を隠し、教養ある清楚な淑女を装って、ただただ現実の利害の追求のもとに生きていきます。
その結果、「嘆きの天使」のキャバレー歌手がアウトサイダーとして体制の外側から魅惑し続けるのに対し、この映画のローラは、インサイダ―に"成り上がり"ます。そうなれる土壌として、社会秩序を担う権力者たちが娼館に入り浸り、ヒューマニズムを標榜する共産主義者も同じていたらくで、〈退廃〉が〈社会〉秩序を侵食すると言うより、むしろ〈退廃〉が〈社会〉と親和関係を構築してしまっているという状況があります。
ローラ自身は、教会での彼女の祈りの表情から、本心では道徳的な誠実さや自らの浄化を希求しているのかなとも思わせますが、結局、フォン・ボームに娼婦であることがバレたら、自棄になったように開放的に歌い踊り狂い、そこには、彼女の中に誠実と退廃が対を成して同居しているかのようにも見えます。
「ローラ」●原題:LOLA●制作年:1981年●制作国:西ドイツ●監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー●製作:ホルスト・ベントラント●脚本:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー/ペア・フレーリッヒ/ペーター・メルテシャイマー●撮影:ザビエ・シュワルツェンベルガー●音楽:ペール・ラーベン/フレディ・クイン●時間:115分●出演:バルバラ・スコヴァ/アーミン・ミューラー=スタール/マリオ・アドルフ●日本公開:2012/12●配給:マーメイドフィルム●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-07-09)(評価:★★★☆)

時は冷戦最中、元英国秘密情報部MI6の諜報員ジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)は、スパイ活動を一時引退していが、新たな上司のM(エドワード・フォックス)から新たに命令を受ける。国際的犯罪組織"スペクター"のNo.1メンバー、マキシミリアン・ラルゴ(クラウス・マリア・ブランダウアー)が、2つの核弾頭を強奪したのだ。これは、スペクターの首領で、No.2のブロフェルド(マックス・フォン・シドー)の新
たな作戦「アラーの涙」の一環だった。核弾頭を取り戻す命令を受けたボンドは、ラルゴを追ってバハマへ向かうことに。バハマに到着したボンドは、ラルゴの部下で殺し屋ファティマ(バーバラ・カレラ)に殺されそうになる。しかし、2度の暗殺の危機を切り抜けて、なんとか生き残る。さらに、ニースのカジノでドミノ(キム・ベイシンガー)という女性に出会ったボンドは、ドミノの兄ジャック(ギャヴァン・オハーリー)が、核弾頭を手に入れるためにラルゴに殺されたことを明かす。その後、ミサイルの一つがワシントンの大統領のもとにあると知ったボンドは本部に通報、引き続きもう一つのミサイルの行方を追うが―。
1983年公開のアーヴィン・カーシュナー監督作で、ジェームズ・ボンドの映画の制作会社イーオン・プロダクションズとは別の会社の制作であるため。007シリーズとしては番外編になります。初代ジェームズ・ボンドを演じたショーン・コネリー(1930 - 2020/90歳没)が「007 ダイヤモンドは永遠に」('71年/英・米)から12年ぶりの復活、7回目にして最後のボンド役を演じました(原題の意味は「ボンド、やめるなんて言わないで」ということらしい)。内容は1965年に公開された4作目「007 サンダーボール作戦」のリメイクですが、使用権の問題のためか、いつものシリーズとオープニングが違ったり(ガンバレル(銃口)のシークエンスが無い)、音楽が
敵のラルゴ役のクラウス・マリア・ブランダウアーは、主演作であるイシュトバーン・サボー監督の「メフィスト」('81年/西独・ハンガリー)を新宿のシネマスクウェア東急で'82年に観ました。ナチス政権下で権力に翻弄される実在した「ファウスト」の名優グリュントゲンスをモデルにしたクラウス
・マンの小説の映画化作品(第34回カンヌ国際映画祭「脚本賞」受賞作)でしたが、そうした芸術色の強い映画(個人的評価は★★★☆)に出ていた俳優が、まさかその後すぐジェームズ・ボンド映画に出るとは思ってもみませんでした(言語も違ったし)。ただし、この作品では、彼、クラウス・マリア・ブランダウアーとショーン・コネリーとの心理戦的演技が、当時の典型的なボンド映画よりも感情に訴えかけるものがあると評価されて好評を博し、映画の商業的な成功にも繋がっています。クラウス・マリア・ブランダウアーはその後も活躍を続け、シドニー・ポラック監督の「
スペクターの首領ブロフェルドにマックス・フォン・シドー(1929 - 2020/90歳没)で、ドナルド・プレザンス(「
サバラス(「女王陛下の007」)('69年))、チャールズ・グレイ(「ダイヤモンドは永遠に」('71年))に続いての配役。マックス・フォンシドーも「
教の王と対峙する善の王オズリック王の役でしたが、スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・クルーズ主演の「
ボンドガールの一人は、スペクターの女殺し屋(スペクターNo.12)ファティマを演じたバーバラ・カレラ(1951年生まれ)。ファティマは最後までボンドを追い回して危機に落とし入れる
も、Q(アレック・マッコーエン)が開発した万年筆型ロケットで爆殺されます。ボンドを追いつめた際に、自分が最高の女だったとボンドに書き付けを要求す
るシーンが見せ場でしたが、結局それが仇となった(笑)。バーバラ・カレラはこの「ネバーセイ・ネバーアゲイン」の出演が一番のキャリアとされていますが、「エンブリヨ」('76年)、「ドクター・モローの島」('77年)といった作品の彼女に思い入れがある人もいるかと思います。
もう一人は、ラルゴの愛人でどうやらラルゴに殺害されたジャックの妹ドミノを演じたキム・ベイシンガー(1953年生まれ)で、こちらは敵側からボンド側に寝返る(これはシリーズのいつものお約束通り)言わ

個人的には「ナインハーフ」はイマイチだったかも。原題は「9週間半」。監督は「フラッシュダンス」('83年)のエイドリアン・ラインで、相変わらず映像には凝っていて、哲学的な語り口を装っていますが、本質はエンターテイメントではなかったかなあ(キム・ベイシンガーのボディにばかり目が行く。この頃のミッキー・ロークってなぜか好きになれない)。
キム・ベイシンガーはその25年後、ギジェルモ・アリアガ監督の「
そう言えばキム・ベイシンガーは、アカデミー賞の授賞式でのプレゼンターとして舞台に立った際に(その年の作品賞は「
この「ネバーセイ・ネバーアゲイン」では、これら準主役級のほかに、Mの役が「
ローワン・アトキンソン
「ネバーセイ・ネバーアゲイン」●原題:NEVER SAY NEVER AGAIN●制作年:1983年●制作国:アメリカ・イギリス●監督:アーヴィン・カーシュナー●製作:ジャック・シュワルツマン●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ミシェル・ルグラン●原作:イアン・フレミング●時間:134分●出演:ショーン・コネリー/クラウス・マリア・ブランダウアー/マックス・フォン・シドー/バーバラ・カレラ/キム・ベイシンガー/バーニー・ケイシー/アレック・マッコーエン/エドワード・フォックス/ギャヴァン・オハーリー/ローワン・アトキンソン/ロナルド・ピックアップ/ヴァレリー・レオン/ミロス・キレク/パット・ローチ/アンソニー・シャープ/プルネラ・ジー●日本公開:1983/12●配給:松竹富士=ヘラルド●最初に観た場



「メフィスト」●原題:MEPHISTO●制作年:1981年●制作国:西独・ハンガリー●監督:イシュトバン・サボー●脚本:イシュトバン・サボー/ペーテル・ドバイ●撮影:ラホス・コルタイ●音楽:ゼンコ・タルナシ●原作:クラウス・マン●
時間:145 分●出演:クラウス・マリア・ブランダウアー/クリスティナ・ヤンダ/イルディコ・バンシャーギィ/カーリン・ボイド/ロルフ・ホッペ/ペーター・アンドライ/クリスティーネ・ハルボルト●日本公開:1982/04●配給:大映インターナショナル●最初に観た場所:新宿・シネマスクウェア東急(82-05-01)(評価:★★★☆)



「ナインハーフ」●原題:NINE 1/2 WEEKS●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:エイドリアン・ライン●製作:アンソニー・ルーファス・アイザック/キース・バリッシュ●脚本:パトリシア・ノップ/ザルマン・キング●撮影:ピーター・ビジウ●音楽:ジャック・ニッチェ●原作:エリザベス・マクニール●時間:117分●出演:ミッキー・ロー/キム・ベイシンガー/マーガレット・ホイットンン/ドワイト・ワイスト/クリスティーン・バランスキー/カレン・ヤング/ロン・ウッド●日本公開:1986/04●配給:日本ヘラルド(評価:★★★)
「あの日、欲望の大地で」●原題:THE BURNING PLAIN●制作年:2008年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ギジェルモ・アリアガ●製作:ウォルター・パークス/ローリー・マクドナルド●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:ハンス・ジマー/オマール・ロドリゲス=ロペス●時間:106分●出演:シャーリーズ・セロン/キム・ベイシンガー/ジェニファー・ローレンス/ホセ・マリア・ヤスピク/ジョン・コーベット/ダニー・ピノ/テッサ・イア/ジョアキム・デ・アルメイダ/J・D・パルド/ブレット・カレン●日本公開:2009/09●配給:東北新社●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-09-07)(評価:★★★★)




「ブーム」とはパーティーのこと。ブームに誘われることを夢見る13歳のヴィック(ソフィー・マルソー)が、自分の14歳の誕生日ブームを開くまでの物語。リセの新学期(夏のバカンス明け)に始まり、歯科医の父親(クロード・ブラッスール)とイラストレーターである母親(ブリジッド・フォッセー)の別居騒動、ハープ奏者の曾祖母プペット(ドゥニーズ・グレイ)の折々の助言を背景に、ブームで出会ったマチュー(アレクサンドル・スターリング)との恋模様、春休み明けに自身が開く誕生日ブームまでを描く。
「ラ・ブーム」('80年/仏)はクロード・ピノトー(1925-2012/87歳没)監督によるフランス映画で、個人的にはこの映画で「
(1966年生まれ)のデビュー作であり(日本で言えば"中一"だが高校生くらいに見えたりもする)、ブリジッド・フォッセーはソフィー・マルソー演じる思春期の娘をも持つ母親役。個人的にはどうってことない映画でしたが、ヨーロッパ各国や日本を含むアジアでヒット作となりました。
娘の恋愛だけでなく、親夫婦の倦怠期とそこからの脱脚を
も描いているところがフランス映画らしく、改めて観ると、フランス的文化・恋愛価値観が垣間見られた作品だったように思います。映画パーソナリティの襟川クロ(1950年生まれ)氏が「おもちゃ箱的青春ムービー。(中略)ごく普通の少女達が、普通の恋をして、またひとつ大人になるのでありました、とりまく大人は大人でイロイロあり、ひとつ年をとりましたとさ。といった、よくあるパターンではありますが、しかし、その味つけがなかなかのもの」と評価したほか、映画評論
家の
この映画は高田馬場パール座で観て、併映がフィービー・ケイツ(1963年生まれ)の19歳の時の
デビュー作である「パラダイス」('82年/米)(公開時のタイトルは「フィービー・ケイツのパラダイス」)でしたが、こちらは当時のメモを見ると「フィービー・ケイツのアイドル映画。中身がない」(評価★☆)とだけありました(笑)。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーは当時、米仏2大アイドルだったのかもしれません。米国にはあと1人、二人
と同年代のブルック・シールズ(1963年生まれ)がいましたが、ルイ・マル監督の「プリティ・ベイビー」('78年/米)も観ました(これも高田馬場パール座で、併映はダイアン・レイン主演の「リトル・ロマンス」('79年/米))。ニューオリンズの娼館が舞台のこの作品に、ルイ・マル監督が渡米して自ら発掘した彼女を起用したもので、ブルック・シールズは11歳で娼婦(12歳)を演じてセンセーションを巻き起こしましたが、ルイ・マル作品としてはイマイチだったかも(評価★★★)。フィービー・ケイツについては「
結構、アイドル映画を観ていたのだなあと今になって思います。「プリティ・ベイビー」はブルック・シールズのアイドル映画ではありませんが(彼女の出たアイドル映画と言えば17歳の時の「青い珊瑚礁」('80年/米)あたりか)、彼女を一気にアイドルに押し上げた映画でしょう。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーを比べると、米国型アイドルとフランス型アイドルとではやはり違うなあと思わされます(映画雑誌「スクリーン」だと、ソフィー・マルソーが表紙向きで、フィービー・ケイツがグラビア向きと言ったところか)。フランス人監督のルイ・マルが見出したブルック・シールズはどちらか。天皇徳仁(今上天皇)が皇太子時代、日本人では柏原芳恵、外国人ではブルック・シールズの熱烈なファンであったとされていましたが、プリンストン大学を首席で卒業するような才女でした。
「ラ・ブーム」で父親と娘の役だったクロード・ブラッスールとソフィー・マルソーが、この作品の6年後、フランシス・ジロー監督の「デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて」('86年/仏)では年齢の離れた夫と妻を演じましたが、これも夫婦の危機を打開しようとする話で、ただし、結構どろっとした話になっています。滞在先のリゾートホテルで殺人事件が起きる犯罪ミステリ仕様ですが、やや猟奇的側面も(原作は『狼は天使の匂い』『ピアニストを撃て』『華麗なる大泥棒』のデイビッド・グーディス)。さらには、「ラ・ブーム」の父親役と裸で激しいラブシーンを演じたりしていることもあり、そうした映画を企画する側も企画する側だが、「みんな父娘相姦みたいな目で私たちを見たがってるのよね」と自分でも承知していながら、こうした作品に簡単に出演してしまうソフィー・マルソーもソフィー・マルソーだとの批判と言うか苦言もあったようです。やはり、「ラ・ブーム」のソフィー・マルソーのイメージを壊されたくないファンがいるのだろうなあ(タイトルが何のことだかよく分からないのが難。ビデオタイトルは「地獄に墜ちて」)。
さらにその13年後、ソフィー・マルソーはマイケル・アプテッド監督の007シリーズシリーズ第19作「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」('99年/英)(公開時タイトルは「ワールド・イズ・ノット・イナフ」)でボンドガールとなり、当時で32歳ぐらいでしょうか、役どころは、ピアース・ブロスナン演じるジェームズ・ボンドを翻弄する悪役エレクトラ・キングで、結構ボンドと微妙な関係になりながらも、やがて本性を現しサディスティックにボンドを苛め倒していましたが(やや変態性欲気味)、詰まるところ悪役なのでやはり最期は...。彼女は、1996年に、半自伝的小説『うそをつく女』を刊行し、作品は「女性のアイデンティティの探求」と評され、フランスでは大きくとりあげられたとのことですが、こうした有名人女優がボンドガールになるのは当時としては珍しかったのではないでしょうか。その後、2002年に、長編映画監督としてのデビュー作「聞かせてよ、愛の言葉を」('01年)でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞を受賞するなどの活躍を遂げています。
「禁じられた遊び」●原題:JEUX INTERDITS●制作年:1952年●制作国:フランス●監督:ルネ・クレマン●脚本:ジャン・オーランシュ/ピエール・ポスト●撮影:ロバート・ジュリアート●音楽:ナルシソ・イエペス●原作:フランソワ・ボワイエ●時間:86分●出演:ブリジッド・フォッセー/ジョルジュ・プージュリー/スザンヌ・クールタル/リュシアン・ユベール/ロランヌ・バディー/ジャック・マラン●日本公開:1953/09●配給:東和●最初に観た場所:早稲田松竹 (79-03-06)●2回目:高田馬場・ACTミニシアター (83-09-15)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「鉄道員」(ピエトロ・ジェルミ)●併映(2回目):「居酒屋」(ルネ・クレマン)

「ラ・ブーム」●原題:LA BOUM●制作年:1980年●制作国:フランス●監督:クロード・ピノトー●製作:アラン・ポワレ●脚本:ダニエル・トンプソン/クロード・ピノトー●撮影:エドモン・セシャン●音楽:ウラジミール・コスマ(主題歌:「愛のファンタジー」歌:リチャード・サンダーソン)●時間:110分●出演:クロード・ブラッスール/ブリジッド・フォッセー/ソフィー・マルソー/ドゥニーズ・グレイ/ アレクサンドル・スターリング/ ベルナール・ジラルドー/シェイラ・オコナー/アレクサンドラ・ゴナン/ジーン=フィリップ・レオナール/リシャール・ボーランジェ/ウラジミール・コスマ●日本公開:1982/03●配給:松竹=富士映画●最初に観た場所:高田馬場パール座(82-09-15)(評価:★★★☆)●併映:「フィービー・ケイツのパラダイス」(スチュワート・ジラード)
「パラダイス」●原題:PARADISE●制作年:1982年●制作国:カナダ●監督・脚本:スチュアート・ギラード●製作:ロバート・ラントス/スティーブン・J・ロス●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ポール・ホファート●時間:95分●出演:フィービー・ケイツ/ウィリー・エイムス/リチャード・カーノック/チュヴィア・タヴィ/ニール・ヴィポンド●日本公開:1982/06●配給:松竹富士(評価:★☆)●併映:「ラ・ブーム」(クロード・ピノトー)
「プリティ・ベビー」●原題:PRETTY BABY●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督・製作:ルイ・マル●脚本:ポリー・プラット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:ジェリー・ウェクスラー●時間:110分●出演:ブルック・シールズ/E.J.ベロッ/キース・キャラダイン/スーザン・サランドン/アントニオ・ファーガス/マシュー・アントン/ダイアナ・スカーウィッド/バーバラ・スティール/ドン・フッド●日本公開:1978/10●配給:パラマウント●最初に観た場所:高田馬場パール座(80-01-16)(評価:★★★)●併映:「リトル・ロマンス」(ジョージ・ロイ・ヒル)
「デサント・オ・ザンファー 地獄に墜ちて」●原題:DESCENTE AUX ENFERS●制作年:1986年●制作国:フランス●監督:フランシス・ジロー●製作:アリエル・ゼイトゥン●脚本:フランシス・ジロー/ジャン=ルー・ダバディ●撮影:シャルリー・ヴァン・ダム●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●原作:デイビッド・グーディス●時間:88分●出演:ソフィー・マルソー/クロード・ブラッスール /ベッツィ・ブ

「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」●原題:THE WORLD IS NOT ENOUGH●制作年:1999年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:マイケル・アプテッド●製作:マイケル・G・ウィルソン/バーバラ・ブロッコリ●脚本:ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:デヴィッド・アーノルド(主題歌:「The World is Not Enough」ガービッジ)●原作:イアン・フレミング●時間:127分●出演:ピアース・ブロスナン/ソフィー・マルソー/ロバート・カーライル/デニス・リチャーズ/ロビー・コルトレーン/デスモンド・リュウェリン/マリア・グラツィア・クチノッタ/サマンサ・ボンド/マイケル・キッチン/コリン・サーモン/セレナ・スコット・トーマス/ウルリク・トムセン/ゴールディ/ジョン・セル/クロード=オリビエ・ルドルフ/ジュディ・デンチ●日本公開:2000/02●配給:UIP(評価:★★★☆)
作:エリッ
ク・アルトメイヤー/ニコラス・アルトメイヤー●撮影:イシャーム・アラウィエ●音楽:ニコラス・コンタン●原作:エマニュエル・ベルンエイム●時間:113分●出演:ソフィー・マルソー
/アンドレ・デュソリエ/ジェラルディーヌ・ペラス/シャーロット・ランプリング/エリック・カラヴァカ/ハンナ・シグラ/グレゴリー・ガドゥボワ/ジャック・ノロ/ジュディット・マーレ/ダニエル・メズギッシュ/ナタリー・リシャール●日本公開:2023/02●配給:キノフィルムズ●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(23-02-17)(評価:★★★★)

香港・三合会の幹部ホー(ティ・ロン)は闘病中の父と学生の弟キット(レスリー・チャン)の面倒を見ていたが、弟が警官になる希望を持っていることで病床の父から足を洗うよう頼まれる。了解したホーは、次回の台湾への贋札の取り引きを最後に、闇社会から足を洗おうと決意する。しかし、取り引きは密告によって警察に知られており、同行した後輩シン(レイ・チーホン)を逃し、ホーは自首することに。その間、香港では父が陰謀によって殺され、そのことでキットは尊敬する兄が三合会の組員と知る。一
方、ホーの親友マーク(チョウ・ユンファ)は報復のために乗り込んだレストランで裏切者を皆殺しにしたものの、足を撃たれ負傷する。数年後、ホーは出所するが、今では警察官になり結婚もしているキットから、父親の死の責任とマフィアの兄を持つことから出世の出来ない不満をぶつけられた上に追い出され、親友マークは負傷で自由の利かない体になったことから雑用以下の扱いを受けるほど落ちぶれていた。そして元は後
輩だったシンが三合会で権力を握るようになっていた。ホーは弟と和解するためにも堅気となり、穏やかに暮らそうとするが、周りはそんな彼を放ってはおかなかった。男として失った誇りを取り戻したいマークは旧友に協力を求め、シンも自分に力を貸すよう強要する。しかしシンは自分の敵となる人物たちの粛清を始め、手始めに組長のユー(シー・イェンズ)が殺された。現状を知ったホーは弟との絆、親友との友情のためにマークと共に銃を手に取る―。
ジョン・ウー監督の1986年作品で、「香港ノワール」とも呼ばれる新しい流れを作った記念碑的な作品です(因みに、この作品をはじめ、ジョン・ウーなどが監督・製作した香港製犯罪映画は、アクションではハリウッド製アクション映画との親和性があるが、ギャング映画としての基本的傾向は「フレンチ・フィルム・ノワール」に近いとされている)。第6回「香港電影金像奨」の最優秀作品賞・最優秀主演男優賞(チョウ・ユンファ)受賞作で、第23回「金馬奨」の最優秀監督賞・最優秀主演男優賞受賞(ティ・ロン)も受賞しています。興行的にも成功し、「男たちの挽歌Ⅱ」('87年)、「アゲイン/明日への誓い」('89年)とシリーズは計3作製作されています(チョウ・ユンファは第2作「男たちの挽歌Ⅱ」ではマークの双子の弟のケンの役で出ているが、「アゲイン/明日への誓い」(タイトルに3と付けられていることがあるが、時間的には第1作目よりも前にあたる作品)では再びマーク役で出ている)。
スローモーションを多用した銃撃戦は、サム・ペキンパーの「
この作品は、チョウ・ユンファ(周潤發)の出世作とされていますが、レスリー・チャン(張國榮)もよく知られるようになったのはこのあたりからで、その後二人とも、有名監督の作品に次々と出演するようになります。さらに、演技力とアクションにより武侠映画のトップスターとして活躍するも、一時低迷していたティ・ロン(狄龍)が復活を遂げた作品でもあります。
「香港電影金像奨」の最優秀主演男優賞を受賞したチョウ・ユンファと、「金馬奨」の最優秀主演男優賞受賞を受賞したティ・ロンと、どちらが良かったかというと微妙ですが、個人的にはティ・ロンに軍配を上げたいと思います。すっかり卓越した演技派俳優になったように思いますが、弟役のレスリー・チャンとカンフーでじゃれ合うシーンに、かつて武侠映画で見せたアクションの片鱗を窺わせます。
ジョン・ウー監督が台湾警察の警部役で出ているほか、製作総指揮のツイ・ハーク(「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」シリーズなどの監督でもある)が、キットの恋人が実技試験を受ける音楽学院の審査員役で出ていて(まあ、ツイ・ハークはもともと俳優としてのカメオ出演も多い監督だが)、オーバーアクション気味の演技をしているのに遊び心を感じました。凄絶なマフィア社会を描いた作品ですが、基本的にはエンタテインメント作であると思います。



「男たちの挽歌」●原題:英雄本色(英:A BETTER TOMORROW)●制作年:1986年●制作国:香港●監督・脚本:ジョン・ウー(呉宇森)●製作総指揮:ツイ・ハーク●製作:ウォン・カーマン●撮影:ウォン・ウィンハン●音楽:ジョセフ・クー●時間:97分●出演:チョウ・ユンファ(周潤發)/ティ・ロン(狄龍)/レスリー
・チャン(張國榮)/レイ・チーホン(李子雄)/ケネス・ツァン(曾江)/エミリー・チュウ/ティエン・ファン/シー・イェンズ/カム・ヒン・イン/シン・フイオン/レウ・ミン/ジョン・ウー(呉宇森) /ツイ・ハーク(徐克)●日本公開:1987/04●配給:日本ヘラルド映画(評価:★★★★)


第1章「悲劇」では、「
行った」('71年/米)も相当なもの。カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリ受賞作でありながら、殆どホラー映画に近い戦慄を覚えましたが、選者の森達也氏が、映画を通して主人公の苦痛を一度は体験すべきだと述べているのには賛同します。監督は「ローマの休日」('53年/米)の脚本家ドルトン・トランボで(原作もドルトン・トランボで発表は1938年)、第二次世界大戦後に「赤狩り」の標的とされ投獄された経験もあり(そう言えば「

![ジョニーは戦場へ行った [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%81%AF%E6%88%A6%E5%A0%B4%E3%81%B8%E8%A1%8C%E3%81%A3%E3%81%9F%20%5BDVD%5D.jpg)
「ジョニーは戦場に行った」●原題:JOHNNY GOT HIS GUN●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督:ダルトン・トランボ●製作ブルース・キャンベル●脚本:ダルトン・トランボ●撮影: ジュールス・ブレンナー●音楽:ジェリー・フィールデ
ィング●原作:ダルトン・トランボ●時間:112分●出演:ティモシー・ボトムズ/キャシー・フィールズ/ドナルド・サザーランド/ジェイソン・ロバーズ/マーシャ・ハント/ チャールズ・マッグロー/ダイアン・ヴァーシ/エドワード・フランツ/ ケリー・マクレーン●日本公開:1973/04●配給:ヘラルド映画●最初に観た場所:新宿アートビレッジ(79-02-24)(評価:★★★★)![未来世紀ブラジル [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E4%B8%96%E7%B4%80%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%83%AB%20%5BDVD%5D.jpg)
「未来世紀ブラジル」●原題:BRAZIL●制作年:1985年●制作国:イギリス●監督:テリー・ギリアム●製作:アーノン・ミルチャン●脚本:テリー・ギリアム/チャールズ・マッケオン/トム・ストッパード●撮影:ロジャー・プラット●音楽:マイケル・ケイメン●時間:142分●出演:ジョナサン・プライス/ロバート・デ・ニーロ/キ
ム・グライスト/マイケル・ペイリン/キャサリン・ヘルモンド/ボブ・ホスキンス/デリック・オコナー/イアン・ホルム/イアン・リチャードソン/ピーター・ヴォーン/ジム・ブロードベント●日本公開:1986/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘(87-07-19)(評価:★★★★)●併映:「ザ・フライ」(デビッド・クローネンバーグ)
蝶々/倍賞美津子/小川真由美/清川虹子/殿山泰司/垂水悟郎/絵沢萠子/白川和子/フランキー堺/北村和夫/火野正平/根岸とし江(根岸李江)/河原崎長一郎/菅井きん/石堂淑郎/加藤嘉/佐木隆三●公開:1979/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-17)(評価:★★★★☆)
ン=ピエール・ラッサム●撮影:マリオ・ヴルピアーニ●音楽:フィリップ・サルド●時間:130分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ/ウーゴ・トニャッツィ/フィリップ・ノワレ/ミシェル・ピッコリ/アンドレア・フェレオル●日本公開:1974/11●最初に観た場所:大塚名画座 (78-11-07) (評価★★★★☆)●併映:「糧なき土地」(ルイス・ブニュエル)/「自由の幻想」(ルイス・ブニュエル)




1960年、兵役を数カ月後に控えたミッシェル(ジャン=クロード・エミニ)は、勤め先のテレビ局でリリアーヌ(イヴリーヌ・セリ)とジュリエット(ステファニア・サバティーニ)という女の子と知り合う。2人の娘はミシェルに恋心を抱く。ミシェルは生中継中にヘマをして放送局を辞め、コルシカ島で早めのヴァカンスを楽しんでいた。そんな彼のところに、リリアーヌとジュリエットがやって来る。双子のように仲良しだった2人の仲は、嫉妬が原因でぎくしゃくし始めて―。
「アデュー・フィリピーヌ」('62年/伊・仏)は、ヌーヴェルヴァーグの代表監督の一人ジャック・ロジエの長編モノクロ処女作。日本では70年代に東京日仏学院で自主上映されていて、2004年と2006年には紀伊国屋書店がDVDを発売されていますが、入手困難で1万円位のプレミア価格になっていました。2010年1月のユーロスペースでの特集上映「ジャック・ロジエのヴァカンス」での上映が日本初の劇場公開で、2016年にはシアター・イメージフォーラムの同特集で再上映されながらも、DVDは2018年現在再リリースされておらず、価格は依然高値のようです。
「さよならフィリピン娘」という意味のタイトルは、劇中に出てくるフランス式の遊びからとったもので、アーモンドの双子の実を見つけた者同士が次に顔を合わせた時に、先に「さよならフィリピン娘」と言った方に幸運が訪れる、という他愛ないものですが、それがこの映画の内容を象徴しているとも言えるし、また、リリアーヌとジュリエットがただふざけて口にする、大した意味が無い言葉ともとれます。
前半の舞台はパリ、主人公ミッシェルはマスコミで働く(といってもカメラのケーブルマン)青年で、録画装置の無かった生放送時代のテレビ局の舞台裏や、華やかな業界に群がる浮薄な連中などを絡めながら、ナンパした2人の娘を手玉に取る様子がテンポ良く描かれます。
ヌーヴェルヴァーグ繋がりとして、ゴダールがプロデューサーにジャック・ロジエ監督を推薦して、この長編デビューの契機を与えたということがあるようです。随所にイタリア的な要素が表出していますが、ジャック・ロジエ監督のイタリアン・ネオリアリスモへの傾倒ぶりを端的に示しているのが、主演に素人を起用している点でしょう。俳優たちにとっても、この作品はほとんどワン・アンド・オンリーなものになったようで、刹那的な魅力を強調しているように思えます。箒のCM(ホーキー?)や冷蔵庫のCM(エスキモーに氷を売る)の制作風景が戯画的に描かれているのは、商業主義への風刺でしょうか? ただし、全体としては、メッセージ性を極力排除しているように思えました。
ジャック・ロジエ監督の長編第2作は「オルエットの方へ」('69年/仏)で、これも、2010年1月のユーロスペースでの「ジャック・ロジエのヴァカンス」で日本初上映、'16年10月にシアター・イメージフォーラムで再上映された作品。今度はカラー作品ですが、ヴァカンス、男女の三角関係(今度は五角関係?)、ドキュメンタリー風乃至プライベートフィルムタッチなところ、主役に素人の俳優を使っている点など、「アデュー・フィリピーヌ」の要素を多く引き継いでいます。あらすじは―、
キャロリーヌ(キャロリーヌ・カルチエ)は、ヴァンデ県の海岸沿いにある家族の別荘に友だちのカリーヌ(フランソワーズ・ゲガン)、ジョエル(ダニエル・クロワジ)と共にヴァカンスを過ごしに来る。最初のうち3人は女だけの気ままな時間を楽しんでいたが、そこへ、ジョエルの上司で密かに彼女に
思いを寄せるジルベール(ベルナール・メネズ)が現れる。ジルベールは別荘の庭にテントを張らせてもらうことになるが、3人から軽く扱われるばかり。そんな中、3人は海からの帰りにパトリック(パトリック・ヴェルデ)というヨットマンの青年と出会い、ジルベールはパトリックと親しくなっていく―。
と、書きましたが、これまたそれほどストーリー性は前面に出されておらず、9月1日から20日までの3人のヴァカンスの過ごし方が映像日記のよう描かれ、3人が都会生活を離れた開放感から日常の何でもないことに可笑しみを見い出しては燥(はしゃ)ぐ姿が自然に生き生きと語られています。彼女たちが別荘の近くの農場やカジノのあるオルエットという村へ行こうとして、その地名を口にするだけで意味なく笑いこけ、これが作品のタイトルの一部になっている点で、タイトルの付け方も「アデュー・フィリピーヌ」と少し似ています。
3人に体よく馬鹿にされ続けた上司ジルベールがパリに帰ってしまい、次にはパトリックの粗雑な一面に腹を立てたカリーヌがパリに帰ってしまって、残った2人も興覚めして騒々しいパリに戻ってくる―という結末ですが、ストーリーよりも、うなぎを床にぶちまけるシーン、ヨットで海面を走行するシーン、海岸を馬で駆けるシーンなど、個々の断片的なシーンの方が印象に残ります(特にヨットに乗るシーンは、昔、夏にティンギーヨットに乗ったことがあったので、個人的に懐かしさを覚えた)。
寡作で知られるジャック・ロジエ監督が長編第3作「トルチュ島の遭難者」('74年/仏)に続いて撮った長編第4作は「メーヌ・オセアン」('86年/仏)で、前第3作に続くコメディですが、ジャック・ロジエ監督はこの作品で、本来は新人若手監督に贈られるジャン・ヴィゴ賞を当時60歳で受賞しています。この作品も、2010年1月のユーロスペースでの特集「ジャック・ロジエのヴァカンス」での上映が日本発上映でした。
フランス西部ナント行きの列車メーヌ・オセアン号で、ブラジル人ダンサーのデジャニラ(ロザ=マリア・ゴメス)は検札係のル・ガレック(ベルナール・メネズ)とリュシアン(ルイス・レゴ)との間でトラブルになるが、女弁護士ミミ(リディア・フェルド)に救われる。漁師プチガ(イヴ・アフォンソ)の弁護のためアンジェで降りる予定のミミは、意気投合したデジャニラと海に行く計画を立て、2人一緒にアンジェで下車する。プチガの裁判はプチガの態度の悪さとミミの意味不明の抗弁のため、あっさり
と敗訴する。ミミとデジャニラは列車内で再会したリュシアンの勧めで、プチガの住むユー島に3人で行くことに。リュシアンはユー島への旅に上司のル・ガレックも誘う。ユー島でリュシアンとル・ガレックは、ミミとデジャニラと合流、そこにプチガが居合わせ、ミミとデジャニラからメーヌ・オセアン号でのル・ガレックの態度について悪口を聞かされていたプチガはル・ガレックに喧嘩をふっかけ、止めに入ったリュシアンがケガを負う。冷静になったプチガは反省し、酔った勢いもあり、逆にル・ガレックを気に入ってしまう。そこにニューヨークからデジャニラの雇い主である興行主ペドロ・マコーラ(ペドロ・アルメンダリス・Jr)が現れ、ふとしたことから市民会館でどんちゃん騒ぎをすることになる―。
ダンサーと弁護士という全く異質な職業の2人の女性の偶然の出会いを介して、漁師、列車の検札係、興行主という、これまた全く異質の職業の男たちが一堂に会してどんちゃん騒ぎをする―という、コメディだけに初期2作よりはストリー性があり、観ていて楽しい映画です。「ヴァカンス」というモチーフは前3作に通じ、「海辺」や「島」といった背景についても同じことが言えます。
ただし、映画の終盤は、興行主に「現代のモーリス・シュヴァリエ」とおだて上げられたものの実は単にからかわれていただけだったことに気付いた検札係の上司が(演じるベルナール・メネズは17年前の「オルエットの方へ」でも、ヴァカンス先で部下の女性らに軽んじられ、途中で帰る上司という役柄だった)、ナントに戻るため漁師に頼み込んで船で送ってもらい、何度か船を乗り継ぎ、ようやく海岸に辿り着くまでを延々と描いており、ストーリーもさることながら、ベルナール・メネズがズボンの裾を濡らしながら浅瀬を道路が走っている側に向かって行くシーンなどが印象に残ります。
ストーリー性を前面に出さず(或いはストーリーがあってもさほど意味はなく)、個々の出来事を単に個々の事象として背景の中に塗り込んでしまうとでもいうか、そのため、背景が前景にも増して印象に残るのがジャック・ロジエ作品の特徴かもしれません。その意味では、比較的ストーリー性が感じられる「メーヌ・オセアン」よりも、「アデュー・フィリピーヌ」「オルエットの方へ」の2作の方が、よりジャック・ロジエらしいユニークさがあったように思います。特に「アデュー・フィリピーヌ」が実際に撮影されたのは公開の2年前、アルジェリア戦争最中の1960年(昭和35)年の物語と同時期の夏ですが、主人公の兵役の話が出てきてやっと時代に気づくくらいのモダンなセンスには驚かされます。
「アデュー・フィリピーヌ」●原題:ADIEU PHILIPPINE●制作年:1960年(撮影)・1962年(公開)●制作国:フランス・イタリア●監督:ジャック・ロジエ●脚
本:ジャック・ロジエ/ミシェル・オグロール●時間:106分●出演:ジャン=クロード・エミニ/ダニエル・デカン/ステファニア・サバティニ/イヴリーヌ・セリ/ヴィットーリオ・カプリオリ/ダヴィド・トネリ/アンヌ・マルカン/アンドレ・タルー/クリスチャン・ロンゲ/ミシェル・ソワイエ/アルレット・ジルベール/モーリス・ガレル//ジャンヌ・ペレス/シャルル・ラヴィアル●日本公開:2010/01●配給:アウラ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-06-12)(評価:★★★★)

作年:1971年(撮影)・1973年(公開)●制作国:フランス●監督:ジャック・ロジエ●脚本:ジャック・ロジエ/アラン・レゴ●撮影:コラン・ムニエ●時間:106分●出演:フランソワーズ・ゲガン/ダニエル・クロワジ/ キャロリーヌ・カルチエ/ベルナール・メネズル●日本公開:2010/01●配給:アウラ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-06-26)(評価:★★★★)

「メーヌ・オセアン」●原題:MAINE-OCEAN●制作年:1986年●制作国:フランス●監督:ジャック・ロジエ●製作:パウロ・ブランコ●脚本:ジャック・ロジエ/リディア・フェルド●撮影:アカシオ・デ・アルメイダ●音楽:シコ・ブアルキ/フランシス・ハイミ/ユベール・ドジェクス/アンヌ・フレ
デリック●時間:130分●出演:ベルナール・メネズ/ルイス・レゴ/イヴ・アフォンソ/リディア・フェルド/ロザ=マリア・ゴメス/ペドロ・アルメンダリス・Jr●日本公開:2010/01●配給:アウラ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-07-04)(評価:★★★☆)



90歳の通称"ラッキー"(ハリー・ディーン・スタントン)は、今日も一人で住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。ヨガをこなしたあと、テンガロンハットを被って行きつけのダイナーに行き、店主のジョー(バリー・シャバカ・ヘンリー)と無駄話をかわし、ウェイトレスのロレッタ(イヴォンヌ・ハフ・リー)が注いだミルクと砂糖多めのコーヒーを飲みながら新聞のクロスワード・パズルを解く。夜はバーでブラッディ・マリーを飲み、馴染み客たちと過ごす。そんな毎日の中で、ある朝突然気を失ったラッキーは、人生の終わりが近いことを思い知らされ、「死」について考え始める。子供の頃怖かった暗闇、逃げた100歳の亀、"生餌"として売られるコオロギ―小さな町の、風変わりな人々との会話の中で、ラッキーは「それ」を悟っていく―。
昨年[2017年]9月に91歳で亡くなったハリー・ディーン・スタントン主演のジョン・キャロル・リンチ監督作品で、ハリー・ディーン・スタントンの遺作となりました。ジョン・キャロル・リンチは本来は俳優で(最近では「
」の創始者マクドナルド兄弟の兄モーリスを演じていた)、この「ラッキー」が初監督作品になります。一方、2017年のTV版「ツイン・ピークス」でハリー・ディーン・スタントンを使ったデヴィッド・リンチ監督が、主人公ラッキーの友人で、逃げてしまったペットの100歳の陸ガメ"ルーズベルト"に遺産相続させようとしとする変な男ハワード役で出演しています(役者として目いっぱい演技している)。
ントンは太平洋戦争時に、映画の中でダイナーの客が語る沖縄戦に実際に従軍している)、映画では少々偏屈で気難しいところのあるキャラクターとして描かれています。自分の言いたいことを言い、そのため周囲の人々と小さな衝突をすることもありますが、でも、ラッキーは周囲の人々から気に掛けられ、愛されていて、彼を受け容れる友人・知人・コミニュティもあるといった
具合で、むしろこれって"ラッキー"な老人の話なのかもと思いました。但し、彼自身はウェット感はなく、どうやら無神論者らしいですが、そう遠くないであろう自らの死に、自らの信念である"リアリズム"(ニヒリズムとも言える)を保ちつつ向き合おうしています。ある意味、精神的"終活映画"と言えるでしょうか。その姿が、ハリー・ディーン・スタントン自身と重なるのですが、孤独でドライな生き方や考え方と、それでも他者と関わりを持ち続ける態度の、その両者のバランスがなかなか微妙と言うか絶妙かと思いました。
ハリー・ディーン・スタントンはこの映画撮影時は90歳で、「八月の鯨」('87年/米)で主演したリリアン・ギッシュ(1893-1993)が撮影当時93歳であったのには及びませんが、「サウンド・オブ・ミュージック」('65年/米)のクリストファー・プラマーが「手紙は憶えている」('15年/カナダ・ドイツ)で主演した際の年齢85歳を5歳上回っています(クリストファー・プラマーはその後「ゲティ家の身代金」('17年/米)で第90回アカデミー賞助演男優賞に88歳でノミネートされ、アカデミー賞の演技部門でのノミネート最高齢記録を更新した)。
ハリー・ディーン・スタントンがこれまでの出演した作品と言えば、SF映画の傑作「エイリアン」や、準主役の「レポマン」、主役を演じた「パリ、テキサス」など多数ありますが、第37回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した、ヴィム・ヴェンダース監督の「パリ、テキサス」が特に印象深いでしょうか。この「ラッキー」のエンディング・ロールで流れる彼に捧げる歌の歌詞に「レポマン」「パリ、テキサス」と出てきます。また、米国中西部らしい舞台背景は「パリ、テキサス」を想起させます(ジョン・キャロル・リンチ監督は


「パリ、テキサス」('84年/独・仏)は、失踪した妻を探し求めテキサス州の町パリをめざす男(スタントン)が、4年間置き去りにしていた幼い息子と再会して親子の情を取り戻し、やがて巡り会った妻(ナスターシャ・キンスキー)に愛するがゆえの苦悩を打ち明ける―というロード・ムービーであり、当時まだアイドルっぽいイメージの残っていたナスターシャ・キンスキーに、「のぞき部屋」で働いている生活疲れした人妻を演じさせ新境地を開拓させたヴィム・ヴェンダース監督もさることながら、ハリー・ディーン・スタントンの静かな存在感も作品を根底で支えていたように思いま
す。ヴィム・ヴェンダース監督は、ロマン・ポランスキー監督が文豪トマス・ハーディの文芸大作を忠実に映画化した作品「
ハリー・ディーン・スタントンは、主役だった「パリ、テキサス」に比べると、リドリー・スコット監督の「エイリアン」('79年/米)では、"怪物"に「繭」にされてしまい、最後は味方に火炎放射器で焼かれて
しまう役だったからなあ(それもディレクターズ・カット版の話で、劇場公開版ではその部分さえカットされている)。ただ、あの映画は、英国の名優ジョン・ハートでさえも、エイリアンの幼生(チェスト・バスター)に胸を食い破られるというエグい役でした。最初に観た時はストレートに怖かったですが、最後に生き残るのはシガニー・ウィーバー演じるリプリーのみという、振り返ればある意味「女性映画」だったかも。シリーズ第1作では男性に置き換えられていますが、チェスト・バスターが躰を食い破って出て来るというのは、哲学者・内田樹氏の「街場の映画論」等での指摘もありましたが、女性の出産に対する不安(恐怖、拒絶感)を表象しているのでしょうか。
この恐れは、シガニー・ウィーバー演じるリプリーが完全に主人公となったシリーズ第2作以降、リプリー自身の見る「悪夢」として継承されていきます。「エイリアン2」('86年/米)の監督は、「ターミネーター」のジェームズ・キャメロン。ラストでエイリアンと戦うリプリーが突如「機動戦士ガンダム」風に変身する場面に象徴されるように、SF映画というよりは戦争アクション映
画風で、「1」に比べ大味になったように思います(海兵隊のバスケスという男まさりの女兵士は良かった)。デヴィッド・フィンチャー監督の「エイリアン3」('92年/米)になると、リドリー・スコット監督がシンプルな怖さを前面に押し出した第1作に比べてそう恐ろしくもないし(馴れた?)、ジェームズ・キャメロン監督がエイリアンを次々と繰り出した第2作に較べても出てくるエイリアンは1匹で物足りないし、ラストの宗教的結末も、このシリーズに似合わない感じがしました(「エイリアン」「エイリアン2」は共に優れたSF映画に与えられる「サターンSF映画賞」を受賞している)。
チェスト・バスターの出現がシリーズを象徴する場面として印象に残るという意味では、「エイリアン」でのジョン・ハートの役は、エグいけれどもオイシイ役だったかも。この人、「
そのジョン・ハートも「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」('17年/英)のチェンバレン役を降板したと思ったら、昨年['17年]1月に膵臓ガンで77歳で亡くなっています。「ウィンストン・チャーチル」ではゲイリー・オールドマンがアカデミー賞の主演男優層を受賞していますが、そのゲイリー・オールドマンと、第22回「サテライト・アワード」(エンターテインメント記者が所属する国際プレス・アカデミが選ぶ映画賞)の主演男優賞を分け合ったのがハリー・ディーン・スタントンです。但し、スタントンは"死後受賞"でした。遅ればせながらこれを機に、ジョン・ハートとハリー・ディーン・スタントンに追悼の意を捧げます(「冥福を祈る」と言うと、"ラッキー"から「冥土なんて存在しない」と言われそう)。
そう言えば、ハリー・ディーン・スタントンは生前、"The Harry Dean Stanton Band"というバンドで歌とギターも担当していて、2016年に第1回「ハリー・ディーン・スタントン・アウォード」というイベントが開催され、ホストが今回の作品にも出ているデヴィッド・リンチで、ゲストが「沈黙の断崖」('97年)でハリー・ディーン・スタントンと共演したクリス・クリストファーソンや、「ラスベガスをやっつけろ」('98年)などで共演経験のあるジョニー・デップでしたが(ジョニー・デップの登場はハリー・ディーン・スタントンにとってはサプラズ演出だったようだ)、この「ハリー・ディーン・スタントン賞」って誰か"受賞者"いたのかなあ。

公開:2018/03●配給:アップリンク●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(18-04-13)(評価:★★★★)


「ワン・フロム・ザ・ハート」●原題:ONE FROM THE Heart●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:フランシス・フォード・コッポラ●製作:グレイ・フレデリクソン/フレッド・ルース●脚本:アーミアン・バーンスタイン/フランシス・フォード・コッポラ●撮影:ロナルド・V・ガーシア/ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:トム・ウェイツ●時間:107分●出演:フレデリック・フォレスト/テリー・ガー/ラウル・ジュリア/ナスターシャ・キンスキー/レイニー・カザン/ハリー・ディーン・スタントン /アレン・ガーフィールド/カーマイン・コッポラ/イタリア・コッポラ/レベッカ・デモーネイ●日本公開:1982/08●配給:東宝東和●最初に観た場所:目黒シネマ(83-05-01)(評価:★★★)●併映:「ひまわり」(ビットリオ・デ・シーカ)

「エイリアン」●原題:ALIEN●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:ゴードン・キャロル/デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル●脚本:ダン・オバノン●撮影:デレク・ヴァンリント●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:117分●出演:トム・スケリット/シガニー・ウィーバー/ヴェロニカ・カートライト/ハリー・ディーン・スタントン/ジョン・ハート/イアン・ホルム/ヤフェット・コットー●日本公開:1979/07●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)(評価:★★★★)●併映:「遊星からの物体X」(ジョン・カーペンター)





「エレファント・マン」●原題:THE ELEPHANT MAN●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:デヴィッド・リンチ●製作:ジョナサン・サンガー●脚色:クリストファー・デヴォア/エリック・バーグレン/デヴィッド・リンチ●撮影:フレディ・フランシス●音楽:ジョン・モリス●時間:124分●出演:ジョン・ハート/アンソニー・ホプキンス/ジョン・ギールグッド/アン・バンクロフト●日本公開:1981/05●配給:東宝東和●最初に観た場所:不明 (82-10-04)(評価:★★★☆)

1日目・・・農夫(デルジ・ヤーノシュ)は馬車に乗り、風の中人里離れた家に戻る。娘(ボーク・エリカ)は彼を出迎え、農夫は馬と車を小屋に戻す。娘は農夫の服を着替えさせ、2人で茹でたジャガイモ1個の食事を貪る。寝る段になって、農夫は58年鳴き続けた木食い虫が鳴いていないことに気付く。外は暴風が吹き荒れている。2日目・・・娘は井戸に水を汲みに行く。パーリンカ(焼酎)を飲んだ後、農夫はいつもの通り、馬車に乗って外へ出ようとするが、馬は動こうとしない。諦めた農夫は家に戻って薪を割り、娘は洗濯をする。ジャガイモを貪ったところへ男(ミハーイ・コルモス)が現れ、パーリンカを分けてくれるように頼む。町は風で駄目になったという男は、世界についてのニヒリズム的持論を延々述べるが、農夫はくだらないと一蹴、男はパーリンカを受け取って出て行く。3日目・・・娘は井戸で水を汲む。パーリンカを飲み、農夫と娘は馬小屋の掃除をする。新たな飼い葉を与えても馬は食べない。ジャガイモ
を食べていた時外を見ると、馬車に乗った数人の流れ者が現れ、勝手に井戸を使い出す。2人は外へ飛び出して流れ者を追い払い、流れ者は2人を罵って去る。食器を片付けた後、娘は流れ者の一人が水の礼として渡した本を読むと、教会における悪徳について書かれていた。未だ風は激しく吹き続けている。4日目・・・娘が水を汲みに行くと、井戸が干上がっていた。馬は相変わらず飼い葉を食べず、水
も飲まない。農夫はここにはもう住めないと、家を引き払う決心をする。荷物を纏めて馬を連れ、今度は自分らで車を引いて農夫と娘は家を出るが、丘を越えたところで戻ってくる。娘は窓から外を何も言わず見続ける。5日目・・・娘は農夫を着替えさせ、農夫は小屋に行き馬の縄を外してやる。2人はジャガイモを貪るも力なく、農夫は殆どを残してしまう。夜になったが、ランプに火が付かなくなり、火種も尽きる。嵐は去っていた。6日目・・・農夫と娘が食卓についている。農夫はジャガイモを生のまま口にするが、すぐ諦める。2人を沈黙が支配する―。
ハンガリーのタル・ベーラ監督(1955年生まれ)の2011年の作品で、第61回ベルリン国際映画祭銀熊賞
(審査員グランプリ)、国際批評家連盟賞(コンペティション部門)を受賞した作品ですが、タル・ベーラ監督はこの作品を監督としての最後の作品と表明しています。それぞれ農夫と娘を演じたデルジ・ヤーノシュ、ボーク・エリカ,ミハーイ・コルモス共、前作「倫敦から来た男」('07年/ハンガリー)に続いての出演で、音楽、撮影、編集も同じスタッフです。
強烈な印象を残す馬は、本当に働かなくてその日に売り手がつかなかったらソーセージになるところだった馬を、タル・ベーラ監督がこれだと思って"スカウト"したそうです。冒頭に「1889年1月3日。哲学者ニーチェはトリノの広場で鞭打たれる馬に出会うと、駆け寄り、その首をかき抱いて涙した。そのまま精神は崩壊し、彼は最期の10年間を看取られて穏やかに過ごしたという。 馬のその後は誰も知らない」とナレーションが流れます。この馬は、そのニーチェの馬を象徴的に指しているのでしょうか(原題は「トリノの馬」)。
農夫と娘が強風の中家に閉じ込められ、2日目にはその馬は動かなくなり、4日目には水を失い、5日目には火を失うといった具合に生きていく上で欠かせないものを順番に失っていくわけで、旧約聖書における神が6日間で世界を作った「天地創造」とは逆に、6日で世界が静かに崩壊していく様が、農夫と娘の生活の変化を通して間接的に描かれているとも言えます(タル・ベーラ監督はこの作品について、「本当の終末というのはもっと静かな物であると思う。死に近い沈黙、孤独をもって終わっていくことを伝えたかった」と語っている)。
長回しという点で、アンドレイ・タルコフスキー監督やテオ・アンゲロプロス監督の作品と似ているように思われ、また、世界の終わりを間接的に描いたのであるならば、タルコフスキー監督が第39回カンヌ国際映画祭で、カンヌ映画祭史上初の4賞(審査員特別グランプリ、国際映画批評家賞、エキュメニック賞、芸術特別貢献賞)を受賞した「サクリファイス」('86年/スウェーデン・英・仏)を思い出させます。「サクリファイス」はタルコフスキー監督の遺作で、この監督は晩年になればなるほど作品の哲学的な色合いが濃くなっていったように思いますが、但し「サクリファイス」では、世界の終りの危機が核戦争勃発によってもたらされたことが、登場人物がテレビでそのニュースを聴く場面があることから具体的に示されているのに対し、この「ニーチェの馬」では、2日にパーリンカを分けて欲しいと立ち寄った男が、「町は風で駄目になった」と言うだけです。
ほぼ全編に渡って吹きすさぶ風(人工の風だそうだが)―この風によって世界が滅ぶという抽象性がある意味この映画の"重み"になっているように思います。加えて、農夫を演じたデルジ・ヤーノシュの哲学者のような顔つき。殆どセリフがないのも"重さ"に繋がっているし、モノクロ映画であることも効果を増しているように感じられ、個人的には「サクリファイス」より骨太感があるように思いました。長回しが多く、観るのにある程度覚悟のいる作品ですが、他にあまり類を見ない作品であると思います(ジャガイモがこれほど印象に残る映画も無い)。
ハンガリー)の監督ヤンチョー・ミクローシュ(1921-2014)なども「ミクローシュ・ヤンチョー」と「名・姓」の順で長年通ってしまっているのでややこしいです。1869年、オーストリアとハンガリーの二重帝国治下に入って3年目のハンガリーの、農民と義賊の群れが狩りこまれた荒野の砦を舞台にした「密告の砦」は、ハンガリー人将校たちが仕組んだ"密告"の罠にはまり、次々と倒れていく義賊集団のゲリラたちが悲惨でした。農民が義賊ゲリラ狩りに駆り出されるというのは皮肉ですが、コレ、すべて史実とのことです(1966年度ハンガリー批評家選出最優秀映画賞、1967年度英国批評家協会優秀外国映画賞受賞作品)。「密告の砦」と「ニーチェの馬」の2本だけで、ハンガリー映画って"重い"なあという印象になってしまいがちですが、とりあえず「ヤンチョー」と「タル」が姓であることを憶えておきましょう。
「ニーチェの馬」●原題:A TORINOI LO/THE TURIN HORSE●制作年:2011年●制作国:ハンガリー・フランス・スイス・ドイツ●監督:タル・ベーラ(苗字・名前順、以下同じ)●製作:テーニ・ガーボル●脚本:タル・ベーラ/クラスナホルカイ・ラースロー●撮影:フレッド・ケレメン●音楽:ヴィーグ・ミハーイ●時間:154分●出演:デルジ・ヤーノシュ/ボーク・エリカ/コルモス・ミハリー●日本公開:2012/02●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-03-25)(評価:★★★★)
「サクリファイス」●原題:OFFRET●制作年:1986年●制作国:スウェーデン・イギリス・フランス●監督・脚本:アンドレイ・タルコフスキー●製作:カティンカ・ファラゴ●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ●時間:149分●出演:エルランド・ヨセフソン/スーザン・フリートウッド/オットーアラン・エドヴァル/グドルン・ギスラドッティル/スヴェン・ヴォルテル/ヴァレリー・メレッス/フィリッパ・フランセーン/トミー・チェルクヴィスト●日本公開:1987/04●配給:フランス映画社●最初に観た場所:テアトル新宿(87-10-17)(評価:★★★☆)
「密告の砦」●原題:SZEGENYLEGENYEK●制作年:1965年●制作国:ハンガリー●監督:ミクローシュ・ヤンチョー(名前・苗字順、以下同じ)●脚本:ジュラ・ヘルナーディ●撮影:タマーシュ・ショムロー●時間:149分●出演:ヤーノシュ・ゲルベ/ティボル・モルナール/アンドラーシュ・コザーク/ガーボル・アガールディ/ゾルタン・ラティノヴィッチ●日本公開:1977/06●配給:フランス映画社●最初に観た場所:千石・三百人劇場(80-01-23)(評価:★★★★)●併映:「オーソン・ウェルズのフェイク」(オーソン・ウェルズ)

サッカー競技場の売り子スー・リーチェン(マギー・チャン(張曼玉))は、ある日突然遊び人風の客ヨディ(レスリー・チャン(張國榮))に交際を迫られ断るが、1分間だけ時計を見ているように言われる。1960年4月16日午後3時。やがてスーはヨデ
のダンサー、ミミ(カリーナ・ラウ(劉嘉玲))にやる。翌朝、ヨディと一夜を過ごしたミミが部屋を出ると、昨夜彼女と部屋で出会い、一目惚れしたヨディ
の親友サブ(ジャッキー・チュン(張学友))が階段で待っていた。一方、ミミの存在を知って放心状態で夜の町を彷徨うスーを、巡回中
の若い警官タイド(アンディ・ラウ(劉徳華))が見つけ、心配し彼女を慰める。彼はスーに恋心を抱き、巡回路の公衆電話に電話するように言うが、彼女からの電話は無かった。養母から恋人とのアメリカ移住を告げられたヨディは、実の
母親の住むフィリピンへと旅立つ。残されて悲しむミミのために、サブはヨディに貰った車を売り、彼の後を追うようにとその金を渡す。ヨディが初めて訪ねた母親はフィリピン貴族の娘で、不義の息子である彼とは会おうとしなかった。自暴自棄になった
ヨディは酔いつぶれ、船乗りに介抱されるが、その船乗りはかつてスーを慰めた元警官タイドだった。ヨディは偽造パスポートで渡米しようとしてギャングを殺してしまい、2人は南へと向かう列車に逃げ込むが、車中でヨディがギャングの報復で撃たれ、息を引き取る。その頃ミミはマニラに降り立ち、香港では誰もいない公衆電話のベルが夜に街角に響いていた。そして九龍のアパートの一室では、ギャンブラー(トニー・レオン(梁朝偉))が身支度を整えていた―。
ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の監督デビュー作「いますぐ抱きしめたい」('88年)に続く監督第2作の1990年香港映画で、第10回香港電影金像奨で最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞(レスリー・チャン)、第28回金馬奨で最優秀監督賞を受賞した作品。同監督の浮遊感と疾走感の入り混じる語り口と映像美独特のスタイルが確立された原点と言われている作品ですが、2005年以降日本での上映権が消失していて、その間DVDが再リリーズされたりはしていますが、スクリーンでの上映は今回が13年ぶりでした。
最後にいきなりトニー・レオンが出て来るのは、続編を想定していたためということですが、当時"アイドルスター"だった主要出演者6人が全員"トップスター"になってしまったため予算的に再結集不可能ということで、続編を作ることができなかったとのこと。後に作られた「
脚本もウォン・カーウァイで、フィリピンでヨディとタイドが偶然出会い、「1960年4月16日午後3時」というキーワードで同じ女性(スー)を介した経験があることに互いに気づくところなどは面白かったです。ヨディを巡るスー(マギー・チャン)とミミ(カリーナ・ラウ)のバトルの激しさもなかなかのものでした。こうして男性同士が偶然出会ったり、女性同士が最悪の状況で鉢合わせするのに、男女は行き違ってばかりいる感じだったなあ。
ウォン・カーウァイの作風を愉しむと共に、後のスター俳優たちの若き日の演技が楽しめる作品でもあると思います(レスリー・チャンは2003年に自殺。一方、カリーナ・ラウは2008年にトニー・レオンと結婚した)。レスリー・チャンは、同じ破滅型の人間を演じた後の「ブエノスアイレス」に匹敵するか、その上を行く演技で、彼が演じるヨディは、警官から船乗りに転じたタイドが言うように"カス人間"なのでが、それでも女性たちが惚れる―彼の演技はそのことに説得力を持たせているように思いました(演技力と言うより演技センスがいいという感じ)。


(●2023年7月10日、「Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下」(2022年12月4日閉館した「渋谷TOEI」のあった渋谷東映プラザ7F・9Fに、Bunkamuraの再開発に伴って2023年4月10日より長期休館に入った「Bunkamuraル・シネマ」が移転して2023年6月16日「Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下」としてオープン)の杮落とし特集「マギー・チャン レトロスペクティブ」で再見した。マギー・チャン出演作9作が組まれた特集だが、チラシの表紙にはこの「欲望の翼」での彼女が使われている。
だけ描かれ、映画が唐突に終わるのはなぜかについては諸説あるようだ。元々はトニー・レオン演じるディーラーが主要なキャラクターとして考えられていて、実際、ウォン・カーウァイは当時、香港で最も危ないエリアと言われた九龍城砦
のアパートで何か月も撮影をしたため、トニー・レオンの実質的な降板によってカットされたフィルムは多かったようだ。その一部はYouTubeにアップされていて、トニー・レオン演じるディーラーの部屋にマギー・チャン演じるスーが会いに階段を登って行く場面や、狭い室内で二人が会話をする場面などがある。
めの決意であり、彼は二人で俳優を辞めることも提案したという。ウォン・カーウァイ自身、当時、香港映画界を取り巻く状況に嫌気をさし、黒社会の資金に依存しない映画作りを模索していた。「ここではないどこかへ」―それはトニー・レオンやウォン・カーウァイが痛切に願ったことであり、トニー・レオンの降板と入れ替えにこの映画の主人公となったレスリー・チャンに委ねられることになったのかもしれない。一方、レスリー・チャン演じる、実の母親に面会を拒絶されてフィリピンのジャングル沿いの道を歩くヨディの姿に被るロス・インディオス・タバハラスの「Always in My Heart」の曲には切ない情感があるが、この映画のヨディ像が、母親が事業に忙しく祖母の家に預けられ乳母に育てられたレスリー・チャンの実人生に重なるという人もいる。確かにそうした見方も成り立つかもしれない。)
港●監督・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●撮影:クリストファー・ドイル●音楽:ロス・インディオス・タバハラス/ザビア・クガート●時間:97分●出演:レスリー・チャン(張國榮)/マギー・チャン(張曼玉)/カリーナ
・ラウ(劉嘉玲)/アンディ・ラウ(劉徳華)/ジャッキー・チュン(張学友)/レベッカ・パン(藩迪華)/トニー・レオン(梁朝偉)●日本公開:1992/03●配給:プレノン・アッシュ●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ2(18-03-15)●2回目:渋谷・Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(23-07-10)(評価:★★★★)



1945年8月15日、日本統治からの台湾解放の日、港町基隆で酒家を営む林家では、長男・文雄(ウンヨン)(陳松勇(チェン・ソンヨン))の妾宅で男児が生まれる。の林家の主は75歳の林阿祿(リン・アルー)(李天祿(リー・ティエンルー))で、次男は軍医として南洋に、三男は通訳として上海に日本人として徴用され戻らない。耳が聞こえず話せない四男の文清(ウンセイ)(梁朝偉(トニー・レオン))は、郊外で写真館を営んでいた。文清は、写真館に同居している教師の呉寛榮(ヒロエ)(呉義芳(ウー・イーファン))の妹で、看護婦として病院に働きに来
た寛美(ヒロミ)(辛樹芬(シン・シューフェン))を迎えに出る。寛榮は、小川校長(長谷川太郎)の娘で、台湾生まれの静子(中村育代)と秘かに愛しあっていたが、日本人であるため故国に帰らねばならなくなった静子は、寛美に寛榮への思いを託して台湾を去る。ある日、精神錯乱状態で生還してきた三男
の文良(アリヨン)(高捷(カオ・ジエ))のもとに、文雄の妾妻の兄・阿嘉(アカ)(張嘉年(ケニー・チャン))が、上海ボス(雷鳴レイ・ミン))を連れて来て阿片の密輸を唆すが、それが文雄にばれ、彼の幼なじみの阿城(林照雄(リン・ジャオション))との間の争いに発展、事件は一応決着するが、何者かの密告によって漢奸の疑いで文良が逮捕され、文雄は阿嘉を連れて上海ボスと対面、文良の釈放を頼むが、文良は大量の血を吐いて帰宅する。
1947年2月27日、台北でヤミ煙草取締りの騒動を発端に本省人と外省人が争う〈二・二八事件〉が勃発、寛榮と文清は臨時戒厳令下の台北へ向うが、文清が無事帰宅した
数日後、寛榮が足を折って戻る。台湾省行政長官として赴任した国民党の陳儀将軍は弾圧を命じ、やがて文清が逮捕される。口がきけずに釈放された文清は、次
々処刑された仲間の遺品を遺族に届ける旅に出、山奥でゲリラとなって身
を潜める寛榮と再会する。その頃文雄は、賭場で阿嘉の喧嘩に巻き込まれ、上海ボスの拳銃に命を落とす。数日後、文清と寛美の結婚式が行われ、やがて二人の間に男の子が生まれる。そんなある日、山からの使者が、軍隊が山に踏み込み寛榮たちが銃殺されたことを伝え、文清にも逃げるように言うが、彼らに行く場所は無かった―。
侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の1989年公開作で、第46回ヴェネツィア国際映画祭「金獅子賞」受賞作品。終戦直後の台湾北部の基隆・九份を舞台に〈二・二八事件〉を取り扱っていますが、そもそも当時は〈二・二八事件〉そのものをタブー視する雰囲気も強く、公開自体が危ぶまれたのこと。幸いにしてノーカットで公開されるや台湾でも大ヒットしています。〈二・二八事件〉を直接的に描いた初めての劇映画であり、この映画がヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞したこことで初めて、〈二・二八事件〉が世界的に知られる事となった(日本も含め)とのです。
トニー・レオンが若いです(役柄上、ややもっさい感じ)。台湾語が話せなかったため聴覚障害者の役(文清)になったと言われていますが、物語は主に、自らは筆談によってしか言葉を発することができないこの文清の視点で進行していきます。周囲の人が議論したり激昂したりしているのを、耳が聞こえないにしろその傍にいることで、間接的に"語り部"の役割を果たしていることになり、複雑な政治背景等がある程度分り易くなっているように思いました(因みに、この作品の日本語字幕を手掛けた台湾生まれの田村志津枝氏の著書『悲情城市の人びと―台湾と日本のうた』('92年/晶文社)によれば、映画では俳優達が日本語を知らないため台湾語が多用されているが、知識人達が当時使っていたのは日本語であったとのこと)。
それにしても重かったです。この映画の四兄弟も、軍医として南洋に行った次男は結局行方知れずのままであるし(おそらく戦死したということだろう)、三男は精神を病んで帰還、一人頑張っていた長男も(家長である父を継いでゴッドファーザー的な役割を担っていた)、入りびたっていた賭場で喧嘩に巻き込まれて撃たれて亡くなり(現地の闇社会を描いていて日本のヤクザ映画みたいな場面が何度かあった)、文清と一緒に思想犯として捉われた人たちは処刑され、文清の親友で寛美の兄である寛榮も、山に籠って妻帯し新たな生活を始めるも軍隊に踏み込まれて銃殺されます。兄弟でただ一人残った文清が寛美と結婚し、子供が生まれ新たな家庭を築いたことが唯一の救いかと思ったら、その文清も―。「歴史に翻弄される家族の愛と哀しみを描いた年代記」「侯孝賢畢生の一大叙事詩」という謳い文句に偽りは無い作品でした。
「悲情城市」●原題:悲情城市/A CITY OF SADNESS●制作年:1989年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)●製作:邱復生●脚本:呉念真/朱天文(チュー・ティエンウェン)●音楽:立川直樹/張弘毅/S.E.N.S.●撮影:陳懐恩●時間:159分●出演:李天禄(リー・ティエンルー)/陳松勇(チェン・ソンヨン)/高捷(カオ・ジエ)/梁朝偉(トニー・レオン)/辛樹芬(シン・シューフェン)/呉義芳(ウー・イーファン)/陳淑芳(チェン・シューファン)/黄倩如(ホアン・チンルー)/柯素雲(クー・スーユン)/林麗卿(リン・リー
チン)/何璦雲(フー・アイユン)/張嘉年(ケニー・チャン)/林揚(リン・ヤン)/詹宏志(ヂャン・ホンジー)/呉念眞(ウー・ニエンジェン)/謝材俊(シエ・ツァイジュン)/張大春(ジャン・ダーチュン)/中村育代/長谷川太郎/頼徳南(ライ・ドゥーナン)/雷鳴(レイ・ミン)/文帥(ウェン・シュアイ)/比利(ビリー)/矮仔塗(アイ・ツートゥ)/陳郁蓉(チェン・ユーロン)/林照雄(リン・ジャオション)/林鉅(リン・ジュイ)/阿匹婆(ア・ピポ)/鷺青(ルー・チン)/梅芳(メイ・ファン)●日本公開:1990/04●配給:フランス映画社=ぴあ(評価:★★★★☆)


第二次世界大戦後のドイツ。15歳のマイケル(ダフィット・クロス)は、体調が優れず気分が悪かった自分を偶然助けてくれた21歳も年上の女性ハンナ(ケイト・ウィンスレット)と知り合う。猩紅熱にかかったマイケルは、回復後に毎日のように彼女のアパートに通い、いつしか彼女と男女の関係になる。ハンナはマイケ
ルが本を沢山読む子だと知り、本の朗読を頼むようになる。彼はハンナのために『オデュッセイア』や『犬を連れた奥さん』などを朗読する。ある日、ハンナは働いていた市鉄での働きぶりを評価され、事務職への昇進を言い渡されると、マイケルの前から姿を消
してしまう。理由がわからずにハンナに捨てられて8年が経ったある日、ハイデルベルク大学法学部生となったマイケルは、ロール教授(ブルーノ・ガンツ)のゼミ研究のためにナチスの戦犯を裁くアウシュビッツ裁判を傍聴し、被告席の一つにハンナの姿を見つける。彼女は第二次世界大戦中に強制収容所で看守をしていたのである。裁判はハンナに不利に進み、彼女は無期懲役の判決を受ける―。
2008年のアメリカ・ドイツ合作映画で、監督は英国人のスティーブン・ダルドリー、原作は1995年に出版されたベルンハルト・シュリンク(Bernhard Schlink)の長編小説『朗読者』('00年/新潮社、原題:Der Vorleser/The Reader)です。映画は(終盤に主人公がニューヨークへ行く場面を除き)ドイツで撮影されていますが、英語による製作であるため、主人公の名前も、原作のミヒャエルからマイケルになっています。但し、少年時代のマイケルを演じたダフィット・クロスはドイツの俳優、母親を演じたズザンネ・ロータもドイツ人女優、法学部のロール教授はスイス出身のブルーノ・ガンツが演じていてます。ハンナ役のケイト・ウィンスレットは英国人女優、成人してからのマイケルを演じたレイフ・ファインズも英国人俳優、アウシュヴィッツの生存者母子ローゼ・マーターとイラーナ・マーターの二役を演じたレナ・オリンはスウェーデン出身、若き日のイラーナを演じたアレクサンドラ・マリア・ララはルーマニア人、成人したマイケルの娘を演じたハンナー・ヘルツシュプルングは、これまたドイツ人女優です(アメリカ人、いないね)。
先に原作を読みましたが、かつて齋藤美奈子氏が「包茎小説」と呼んでいたのを思い出しました。15歳のミヒャエルと21歳年上のハンナが出会い、男女の関係を持って別れるまでを描いた第1章だけならば、確かに"筆おろし"小説と言えなくもなく、元判事で法学部教授である作者がこういうの書くのが興味深いと思いました。しかし、第2章の裁判の場面はまさにキャリアに裏打ちされたもので、作品に深みを与えることにも繋がっているように思いました。小説はこれに、裁判以降の主人公とハンナの話を描いた第3章を加えた3つの章から成ります。
一方の映画の方は、1995年の主人公マイケルの「現在」を軸に、1958年の15歳の時にハンナと出会った少年期、1966年のハンナの裁判を偶然傍聴することになった法学部生
時代、1976年のマイケルが本を朗読しテープに録音して、それを獄中のハンナに送ることを思いついた時期、1980年のハンナから届いた短い文章の礼状にマイケルが感動した出来事、1988年の20年の刑に減刑されたハンナが釈放されることが決まった時などとの
間を行き来する形をとっていますが、概ね原作に忠実であるといっていいでしょう(マイケルが離婚して娘となかなか会えないでいるといった現況は映画のオリジナル。あとは、ブルーノ・ガンツ演じる教授のウェイトが原作より大きくなって、主人公に精神的に導き支えるという点で、原作における主人公の父親である哲学教授の役割を一部代替していたりする)。
原作でも言えるのは、ハンナが幾つか謎を抱えている女性であるという点であり、①なぜマイケルと交わるようになったのか?(単なる気まぐれ?)、②なぜ裁判で不利になることを承知で自らの"秘密"を明かさなかったのか?(主人公がその"秘密"に気づく場面は、ミステリの謎が明かされるようで、原作でも映画でも白眉)、③そして最後に彼女がとった行動の理由は?―等々。映画を観て、①の理由は、マイケルが彼女にとっての癒しとなる"朗読者"であり、自らを成長させるパートナーであったことが窺えましたが

こうした"秘密"を持つ女性を演じるのは難しいだろうなあと思いますが、それだけ魅力的でもあり、ケイト・ウィンスレット(1975年生まれ)はそこに上手く嵌ったように思います(ニコール・キッドマンが妊娠で降板し、当初の候補だったケイト・ウィンスレットが結局演じることになった)。ケイト・ウィンスレットは、この作品で「タイタニック」('97年)以来4度目のアカデミー賞主演女優賞ノミネート(「助演賞」ノミネートを含むと6度目)にして、初の受賞を果たしています。「タイタニック」で共演したレオナルド・ディカプリオ(1974年生まれ)も、「レヴェナント:蘇えりし者」('15年)で4度目のアカデミー賞主演男優賞ノミネート(「助演賞」ノミネートを含むと5度目)にして初受賞していますが、若い頃から演技の天才などと呼ばれたレオナルド・デカプリオよりもケイト・ウィンスレットの方が受賞は7年早かったことになります。
「タイタニック」でケイト・ウィンスレット演じるローズは1等客室の客、レオナルド・ディカプリオ演じるジャックは3等客室の客でした。「船」って階層社会の縮図だなあと思いました(それは現在の豪華クルーズ船の旅などでも同じかも)。階級差を超えた恋という定番の設定ですが、意外と感情移入できたのは、振り返ってみれば二人の演技がしっかりしていたのかもしれません。個人的には、昔、八戸と苫小牧間のフェリーで1等の個室部屋がとれなくて2等の部屋に雑魚寝部屋にいったん入ったのを思い出しました。すぐに1等のキャンセル待ちに並んで、窓ありの個室部屋に移りましたが、やはり天と地の差があったなあ(笑)。学生時代は、雑魚寝部屋で伊豆大島に行ったりしていましたが、その頃は全然抵抗なかったけれど...。
局ビデオで観てしまいましたが、「タイタニック」の監督と言うより「アビス」('89年)の監督によるCG映画だと思って軽く見ていました(「アビス」は海洋SFだが、夫婦愛がテーマのひとつになっている。なのに、キャメロン監督はこの映画の撮影中に、製作者で妻でもあるゲイル・アン・ハードと離婚したという皮肉。'89年公開作に30分の未公開部分を付加した完全版も観たが、話題になっていた大津波来襲のSFXはイマイチ。メッセージ性が前面に出た分だけ説教臭くなったし、いずれにせよ、異星人の船は海底から浮上させない方が良かった)。
それが、さほど期待していなかった「アバター」を実際観てみると、結構ドラマ部分もしっかりしていて、事前の予想よりも良かったです。主人公のジェイク・サリー(サム・ワーシントン)は、アバターと一体化し、先住民族であるナヴィの一員として彼らの地パンドラで生きることを選びますが、ああ、これって、ケビン・コスナーが監督し、自身で主演した「ダンス・ウィズ・ウルブズ」('90年)年と同じで、「こちら側」にいた人間が「あちら側」の世界と接し、最後はあちら側に行く話だなあと思いました。ネットで調べたら、大筋には共通点があるとの見方が幾つか見
受けられ、「『アバター』では,『ダンス・ウィズ・ウルブズ』と同様の方法によって観客の評価や解釈が誘導されます」とする大学の先生の論考(神戸市外国語大学・山口治彦教授「
「愛を読むひと」●原題:THE READER●制作年:2008年●制作国:アメリカ・ドイツ●監督:スティーブン・ダルドリー●製作:アンソニー・ミンゲラ/


「タイタニック」●原題:TITANIC●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ジェームズ・キャメロン/ジョン・ランドー●撮影:ラッセ
ル・カーペンター●音楽:ジェームズ・ホーナー(主題歌:セリーヌ・ディオン「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」●時間:194分●出演:レオナルド・ディカプリオ/ケイト・ウィンスレット/ビリー・ゼイン /デビッド・ワーナー/フランシス・フィッシャー/ダニー・ヌッチ/ジェイソン・ベリ
ー/エイミー・ガイバ/ビル・パクストン/グロリア・スチュアー
ト/スージー・エイミス/ルイス・アバナシー/キャシー・ベイツ/バーナード・ヒル /ジョナサン・ハイド/ヴィクター・ガーバー/マーク・リンゼイ・チャップマン/ヨアン・グリフィズ/エドワード・フレッチャー /エリック・ブレーデン/マイケル・エンサイン/バーナード・フォックス●日本公開:1997/12●配給:20世紀フォックス(評価★★★★)

「アビス」●原題:THE ABYSS●制作
年:1989年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ゲイル・アン・ハード●撮影:ミカエル・サロモン●音楽:アラン・シルヴェストリ●時間:140分(公開版)/171分(完全版)●出演:エド・ハリス/メアリー・エリザベス・マストラントニオ/マイケル・ビーン/レオ・バーメスター/トッド・グラフ//キ
ジョン・ベッドフォード・ロイド/J・C・クイン/キンバリー・スコッャプテン・キッド・ブリューワー/マイケル・ビーチ/ディック・ウォーロック/ジョージ・ロバート・クレック/クリス・エリオット/クリストファー・マーフィ/アダム・ネルスン/ジミー・レイ・ウィークス/J・ケネス・キャンベル/ケン・ジェンキンス/ピーター・ラトレイ/ジョー・ファーゴ●日本公開:1990/03●配給:20世紀フォックス映画(評価★★★)
「アバター」●原題:AVATAR●制作年:2009年●制作国:アメ
リカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ジェームズ・キャメロン/ジョン・ランドー●撮影:マウロ・フィオーレ●音楽:ジェームズ・ホーナー(主題歌:レオナ・ルイス「I See You」●時間:162分●出演:サム・ワーシントン/ゾーイ・サルダナ/シガニー・ウィーバー/ステ
ィーヴン・ラング/ミシェル・ロドリゲス/ジョヴァンニ・リビシ/ジョエル・デヴィッド・ムーア/ディリープ・ラオ/ラズ・アロンソ/ウェス・ステュディ/CCH・パウンダー●日本公開:2009/12●配給:20世紀フォックス映画(評価★★★★)
「ダンス・ウィズ・ウルブズ」●原
題:DANCES WITH WOLVES●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ケビン・コスナー●製作:ケビン・コスナー/ジェイク・エバーツ●脚本:マイケル・ブレイク●撮影:ディーン・セムラー●音楽:ジョン・バリー●原作:マイケル・ブレイク●時間:181分(オリジナル版)/236分(完全版)●出演:ケビン・コスナー/メアリー・マクドネル/グラハム・グリーン/ロドニー・A・グラント/モーリー・チェイキン/ロバート・パストレリ/ラリー・ジョシュア/トム・エヴェレット●日本公開:1991/05●配給:東宝東和(評価★★★★)





サントリーウイスキーのテレビCMに200万ドルで出演するために来日した年配のハリウッド俳優ボブ・ハリス(ビル・マーレイ)は、異国で言葉も通じず孤独を感じていた。同じホテルに滞在していた
シャーロット(スカーレット・ヨハンソン)は大学を卒業したてで結婚したばかりだが、セレブ写真家の夫ジョン(ジョバンニ・リビシ)は仕事に忙しく、彼女もボブと同じく孤独だった。シャーロットは夫が自分よりも、若く人気のある女優ケリー(アンナ・ファリス)のようなセレブなモデルに興味があるのではないかと不安を抱く。ボブの方は、長年の夫婦生活に疲れ、"中年の危機"にある。ある晩、長時間の撮影を終え、ホテルのバーで
疲れを癒していたボブに、ジョンや友人達といたシャーロットが気づき、ウエイターに日本酒を渡してもらう。2人はホテル内で顔を合わせる内に親しくなる。シャーロットは日本の友人に会う時にボブを誘い、二人は共に日米の文化の違い、世代間のギャップを経験しながら
東京の夜を冒険する。ボブが発つ前々夜、彼はホテルのバーのバンド歌手にアプローチされ、翌朝目を覚ますと彼女が部屋にいて、どうやら一夜を共にしたらしい。シャーロットがボブを朝食に誘いに部屋に行くとその女性がいたため、しゃぶしゃぶの昼食時の空気が悪くなる。その夜、ホテルの火災報知機が鳴るアクシデントがあり、ボブとシャーロットはお互いが寂しかったことを伝えて和解する。そして翌朝、ボブは米国へ帰ることになっていた―。
2003年公開の「ロスト・イン・トランスレーション」は、ソフィア・コッポラ監督の、ジェフリー・ユージェニデスの『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』('01年/ハヤカワepi文庫)を原作とする「ヴァージン・スーサイズ」('99年)に次ぐ第2作で、400万ドルの少予算と27日間で撮影されたこの作品は、本国で4400万ドルの興業収入という成功を収め、2004年のゴールデングローブ賞の脚本賞(ソフィア・コッポラ)、ミュージカル・コメディ部門の作品賞、同主演男優賞(ビル・マーレイ)の3部門で受賞、アカデミー賞では主要4部門(作品賞・監督賞・主演男優賞・オリジナル脚本賞)にノミネートされて脚本賞を受賞し、
新宿のパークハイアットホテルのスィート・ルームやバーから始まって、渋谷のクラブやカラオケボックスなど主人公の2人が巡る先々において、外国人から見たTOKYOという都市の生態が上手く描かれているように思いました。また、それが、共にエトランゼである2人の孤独を映し出し、孤独な者同士であるゆえに2人が接近していくプロセスも自然であるし、ところどころにユーモアも織り込まれていたりして、その分、ラストの別れの切なさも際立っています。2人の関係がプラトニックなまま続き、そのままで終わるのもいいです。
ビル・マーレイの演技も渋いし、スカーレット・ヨハンソンも悪くないです。ビル・マーレイは「ゴーストバスターズ」('84年)など喜劇のイメージがあるので、演技の幅の広さを感じました。スカーレット・ヨハンソンは、今やすっかり肉体派アクション女優になってしまいましたが、幼い頃から演劇教室(リーストラスバーグ・シアターインスティテュート・フォー・ヤングピープル)に通い、8歳のときオフ・ブロードウェイにデビュー、10歳で映画デビューし、本作出演時は(シャーロットは大学を卒業したてという設定だが)まだ18歳でした。スカーレット・ヨハンソンは、女優人生のこの時でないと出来ない演技をしているように思います。
この映画に関しては、日本人を上から目線で戯画化していて、日本や日本人を馬鹿にしているといった批判も一部にあるようですが、その点はそれほど気になりませんでした。例えば、ボブがシャーロットとしゃぶしゃぶ料理店に行って、「自分で料理する店だなんて」と憤慨しているのも、歌手の女性と一夜を共にしてしまったことをシャーロットに知られた気まずさから、しゃぶしゃぶ料理店に八つ当たりしているという、いわばユーモアの構図なのでしょう(「ぐるなび」の渋谷「しゃぶ禅」のページに「ロストイントランスレーションで使われた席」という写真が今も出ている)。
佳作ではありますが、そんなにたくさん賞を獲るほどの映画かなあという気もします。ソフィア・コッポラ監督の才能は、他の作品をもっと観てみないと分からないといった感じでしょうか。スカーレット・ヨハンソンを見るとソフィア・コッポラ監督の演出力を感じますが、ビル・マーレイを見ると、俳優が元々有している実力のような気もします。
そこで、ソフィア・コッポラ監督の次の作品「マリー・アントワネット」('06年)も観てみましたが、何でこんな駄作を撮ってしまったのかなあという感じでした。主演は「ヴァージン・スーサイズ」のキルスティン・ダンストで、撮影はフランスのヴェルサイユ宮殿で行われましたが(撮影料は1日1万6千ユーロで、3か月かかったという。製作費は4000万ドルで前作の10倍)、カンヌ国際映画祭に出品された際に、プレス試写ではブーイングが起き、フランスのマリー・アントワネット協会の会長も「この映画のせいで、アントワネットのイメージを改善しようとしてきた我々の努力が水の泡だ」とコメントしたとのことです。
ものすごく時代がかった背景でしたが(アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞)、14歳から33歳までのマリー・アントワネットを演じたキルスティン・ダンストは当時24歳で、一人その演技だけが現代の女子大生みたいで、周囲からすごく浮いていたように思います。Wikipediaによると、「根本的なテーマが誰も知る人のいない異国にわずか14歳で単身やってきた少女の孤独である点は、監督の前作の『ロスト・イン・トランスレーション』と類似している」とのことで、ナルホドね。どうやらソフィア・コッポラ監督はこうしたテーマを追い続けているようですが、この作品に関して言えば、オーストリアからフランスにやって来た少女というより、21世紀のアメリカから18世紀のフランスにタイムスリップした女子大生といった感じでしょうか。「ヴァージン・スーサイズ」から連なる"ガーリームービー"の系譜ともとれます。この作品を支持する人もいますが、個人的には、ソフィア・コッポラ監督の作品は、出来不出来のムラが大きいのかもしれないと思いました(この作品を支持する人はおそらく、歴史モノとしてではなく、ガーリームービーとしてこの作品をとらえたのではないか)。![「マリー・アントワネット].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%80%8C%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AF%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%5D.jpg)
マリー・アントワネットのウィーン時代の飼い犬、パグ犬モップス(映画では、お輿入れの際にマリーとモップスは引き離されてしまうが、それがフランスに行ってからのマリーの夢の中に現れて、却ってマリーがつらい思いをする)が、2001年から始まったカンヌ国際映画祭で優秀な演技を披露した犬に贈られる賞「
ビル・マーレイ in「ゴーストバスターズ」(1984)/「
スカーレット・ヨハンソン in「ママの遺したラヴソング」(2004)ゴールデングローブ賞 主演女優賞(ドラマ部門)ノミネート/「マッチポイント」(2005)ゴールデングローブ賞 助演女優賞ノミネート
「ロスト・イン・トランスレーション」●原題:LOST IN TRANSLATION●制作年:2003年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ソフィア・コッポラ●製作:ソフィア・コッポラ/ロス・カッツ(製作総指揮:
/ジョバンニ・リビシ/アンナ・ファリス/フランソワ・デュ・ボワ/キャサリン・ランバート/ティム・レフマン/藤
井隆●日本公開:2004/04●配給:東北新社●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(17-04-17)(評価★★★☆)
「ゴーストバスターズ」●原題:GHOSTBUSTERS●制作年:1984●制作国:アメリカ●監督・製作:アイヴァン・ライトマン●脚本:ダン・エイクロイド/ハロルド・ライミス●撮影:ラズロ・コヴァックス●音楽:エルマー・バーンスタイン(主題歌:レイ・パーカー・ジュニア「ゴーストバスターズ」)●時間:105分●出演:ビル・マーレ
イ/ダン・エイクロイド/ハロルド・ライミス/シガニー・ウィーバー/リック・モラニス/アニー・ポッツ/アーニー・ハドソン/ウィリアム・
アザートン/デヴィッド・マーギュリーズ/トム・マクダーモット/ノーマン・マトロック/マイケル・エンサイン/スティーヴン・タッシュ/ジェニファー・ラニヨン/ジョン・ロスマン/アリス・ドラモンド/レジナルド・ヴェルジョンソン/ローダ・ジャミニャーニ/ジーン・カセム●日本公開:1984/12●配給:コロンビア ピクチャーズ●最初に観た場所:大井町・大井武蔵野舘(86-05-05)(評価★★★)●併映:「フライトナイト」(トム・ホランド)
「マリー・アントワネット」●原題:MARIE-ANTOINETTE●制作年:2006年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ソフィア・コッポラ●製作:ソフィア・コッポ
ラ/ロス・カッツ(製作総指揮:




「ヒッチコック劇場(第136話)/指」('60年)スティーブ・マックイーン/ニール・アダムス/ピーター・ローレ
『あなたに似た人(Someone Like You)』はロアルド・ダール(Roald Dahl、1916-1990/享年74)の1953年刊行の第二短編集で、1954年の「アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)」受賞作です(短編賞)。因みに第一短編集は1946年刊行の『飛行士たちの話』('81年/ハヤカワ・ミステリ文庫)、第三短編集は1960年刊行の『
『あなたに似た人』は、田村隆一訳で1957年にハヤカワ・ポケットミステリで刊行され、その後1976年にハヤカワ・ミステリ文庫で刊行(創刊ラインアップの一冊)されましたが、その際には、「味」「おとなしい兇器」「南から来た男」「兵隊」「わがいとしき妻よ、わが鳩よ」「海の中へ」「韋駄天のフォックスリイ」「皮膚」「毒」「お願い」「首」「音響捕獲機」「告別」「偉大なる自動文章製造機」「クロウドの犬」の15編を所収していました。そして、この田口俊樹氏による〔新訳版〕は、「Ⅰ」に「味」「おとなしい凶器」「南から来た男」「兵士」「わが愛しき妻、可愛



DVD化されたりしています(このように当時放映されず後にDVD化されたエピソードや、今も本邦未ソフト化のエピソードもあるため、ロアルド・ダール劇場の「話数」は原則通り本国のものを採用)。ドラマ版は原作をどう表現しているかを観る楽しみもあり、この原作のドラマ化作品「ワインの味」に関して言えば、まずまず楽しめました(緊迫感のあとのスッキリした気分は、ドラマの方が効果大だったかも)。
料理の支度をしながら愛する夫の帰りを待っている妻メアリ。しかし、帰ってきた夫からもたらされたのは別れの言葉だった。彼女は絶望して、とっさに夫を殺害するが、凶器の仔羊の冷凍腿肉を解凍して調理し、それを刑事たちにふるまう。刑事たちは何も知らずに殺人の凶器となった証拠を食べてしまう―。松本清張の短編集『

移せないかと考えた」(渡辺剣次編『13の凶器―推理ベスト・コレクション』('76年/講談社))と創作の動機を明かしています。この作品は次に述べる「南から来た男」と同じく、CBSで1955年から1962年に放映された「ヒッチコック劇場(Alfred Hitchcock Presents)」で第84話「兇器」(1958)(ヒッチコック劇場の「話数」は邦順を採用)として映像化されています。映像化してどれくらいリアリティがあるかと思われるプロットですが、そこはさすがにヒッチコックでした。作品の核であるユーモアは、リアティによって支えられているのだなあと。ラストの主人公の笑みは、2年後に撮られる「
因みに、「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では、第1シリーズ第4話でドラマ化(「おとなしい凶器」(1979))されていますが(主演は「わらの犬」('71年)のスーザン・ジョージ)、最初に実際に外部の者の犯行であったような映像を見せていて、観る者に対するある種"叙述トリック"的な造作になっています。好みはあると思いますが、個人的には、実際に無かったことを映像化するのはどうかなと思いました。
プールそばのデッキチェアでのんびりしている私は、パナマ帽をかぶった小柄な老人が、やって来たのに気づく。アメリカ人の青年が、老人の葉巻に火をつけてやる。いつでも必ずライターに火がつくと知って、老人は賭けを申し出、あなたが、そのライターで続けて十回、一度もミスしないで火がつけ
られるかどうか、自分はできない方に賭けると。十回連続でライターに火がついたら、青年はキャデラックがもらえ、その代り、一度でも失敗したら、小指を切り落とすと言う。青年は迷うが―。この作品は、金原瑞人氏の訳で『南から来た男 ホラー短編集2』('12年/岩波少年文庫)にも所収されています。
この「南から来た男」は「ヒッチコック劇場」で1960年にスティーブ・マックイーンとニール・アダムス(当時のマックイーンの妻)によって演じられ((第136話「指」)、監督はノーマン・ロイド(ヒッチコックの「逃走迷路」('42年)で自由の女神から落っこちる犯人を演じた俳優でもあり、「ヒッチコック劇場」で19エピソード、「ヒッチコック・サスペンス」で3エピソードを監督している)、"南から来た男"を演じたのはジョン・ヒューストン監督の「
出るのが興味深く、緊迫感においてスティーヴン・バウアー版を上回っているように思います(IMDbのスコアもマックイーン版は
「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では第1シリーズ第1話として1975年に、ホセ・フェラー(老人)、マイケル・オントキーン(青年)主演でドラマ化(邦題も「南から来た男」)されています。舞台は原作通りリゾートになっていて、老人はちゃんとパナマ帽を被っています。派手さは無いけれど原作にほぼ忠実です(IMDbのスコアは
吉行淳之介はこの短編の初訳者である田村隆一との対談で、あのラストで不気味なのは「老人」ではなく「妻」の方であり、夫の狂気に付き合う妻の狂気がより強く出ていると指摘しています。そう考えると、結構"深い"作品と言えるかと思います。
私と妻はブリッジをやるためにスネープ夫妻が来るのを待っている。私も妻も夫妻のことはあまり好きではないが、ブリッジのために我慢する。妻はふと、いったい、スネープ夫妻が2人きりの時はどんな様子をしているのか、マイクを取り付けて聞いてみようと言う。そいて、それを実行に移し、聞こえてきた2人の会話は、ブリッジにおけるインチキの打ち合わせだった。それを聞いた妻は―。夫婦そろって悪事に身を染める場合、妻主導で、夫は妻の尻に敷かれていたという状況もあり得るのだなあ(「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では、第2シリーズ第17話でドラマ化(1980)されているが、日本でDVD化はされていない)。
(オークション・プール)に参加する。嵐が来ているので、ミスター・ボディボルは有り金全部を短い距離につぎ込むが、朝起きると嵐は収まり、船は快走していて、彼は大いに嘆く。しかし、ある作戦を思いつき、それは、船から人が落ちれば船は救助のため遅れるはずだというもので、自分が落ちた現場を目撃するのに最適な人を探し始める―。ブラックでコミカルと言うか、悲喜劇といった感じ。他人を突き落とすことを考えないで、自分で飛びこんだ分、悪い人ではないのでしょうが。この作品も「ヒッチコック劇場」で第103話「賭」(1958)として映像化されていて、「兇器」と同じく、ヒッチコック
自身が監督しています。クル
ーズ船は借り切ったのかなあ。主役の俳優は、この体形で海に飛び込んで大丈夫かな思ったけれど、見事な飛込みぶりでした。スタントだとは思いますが、「落ちる」のではなく「飛び込み」をしていました。老婦人が見ていない隙に落ちるのだから、これでもいいのかも(でも、アスリートぽかった)。
この作品は「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では、第1シリーズ第8話「海の中へ」(1979)としてドラマ化されていて、やはり主人公は太っていますが、こちらは「落ちて」いました。こちらも立派なクルーズ船を使っていましたが、ヒッチコック版の方がモノクロフィルムの強みと言うか、重厚感が
あったように思います。この映像化作品単独で観ても面白いのですが、それは原作の面白さに依るものであり、ヒッチコック版と比べると、同じ短編でありながら、ヒッチコック自身が演出したことで醸されている重厚感には及ばないでしょうか。繰り返しになりますが、コメディ映画は、リアルかつシリアスに作り込めが作り込むほど、ユーモアが映えるように思います(因みに原題が "Dip in the Sea"でなく"Dip in the Pool"となっているのは、"Dip in the Sea"だと「海水浴」になってしまうのと、"Dip"とすることで「賭場(Pool)に浸る」という意味に懸けたのではないか)。
れもドラマシリーズ「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出
来事」の中で第2シリーズ第12話「見知らぬ乗客」(1980)として映像化されています。主演のジョン・ミルズ(「ライアンの娘」('70年/英・米)のオスカー俳優でサーの称号が与えられている)はさすがの演技達者ぶりで、若き日のフォックスリーを演じたジョナサン・スコット=テイラー(前年に「オーメン2」('79年/米)でダミアン少年を演じている)のいじめっ子ぶりも強烈でした。
ら追い払われそうになったドリオリは、自分はこの絵描きの描いたものを持っていると叫ぶ―。タイトルから何となくどういうことか分かりましたが、さすがにラストはブラックで、ちょっと気持ち悪かったです。とは言え、同時に、主人公の哀れさも滲みます。これも「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中で第2シリーズ第11話「永遠の名作」(1980)として映像化されています。カンヌには画商が老人を住まわせると言っていたホテルは存在しないというところまではよく分からなかったですが、ラストの額縁に入った一枚の絵を見せられれば、それだけで充分でした。
動かすか、万が一噛まれた時の処置はどうするか等々、様々な作戦を立てるが―。ハリーのインド人医師に対する人種差別意識と重なり、風刺っぽい皮肉が効いています。この作品もまた「ヒッチコック劇
場」で第124話「毒蛇」として映像化されていますが、原作をいくつか変えています。大きなものとしては、ハリーと"ティンバー"(原作の「私」)の一人の女性をめぐる微妙な関係と、結末のドラマ独自のどんでん返しがあります。普通、原作をいじるとダメになることが多いですが(特に結末)、ヒッチコック自身が演出しているこの作品は原作とはまた違った"味"がありました。
また、「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では第2シリーズ第14話「或る夜の事件」(1980)としてドラマ化されていて、こちらもハリーの妻と"ティンバー"の不倫などを織り込んで話を膨らませていますが、その部分をここまで"見える化"してしまったのはどうだったかなと思いました(同じく改変はしているが、ヒッチコック版の方がいいか)。
ざけて穴に頭を突っ込んで抜けなくなってしまう。バジル卿は、鋸と斧を持ってくるよう執事に命じるが、彼が手にしたのは斧だった―。芸術至上
主義の本分からして、実際、斧で妻の首を切落としかねない感じでしたが...。浮気妻への"心理的"復讐と言ったところだったでしょうか。「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では、第1シリーズ第6話でドラマ化(「首」(1979))されています。実際に広大な庭にムーアっぽい彫刻を幾つも据えていました。ラストは、斧を振り下ろすところでストップモーションになっています。
茹でたりすると電磁波を発信するという話がありましたが、最近は園芸店やホームセンターで、「電磁波を吸収する効果があるサボテン」というのが売られています。「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では、第4シリーズ第41話でドラマ化(「音響捕獲機」(1981))されていますが、 ハリー・アンドリュースが演じるクロースナーは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」('85年/米)でクリストファー・ロイドが演じた"ドグ"っぽい感じのマッドサイエンティストぶり(でも、こっちの方が4年早い)。ただ、映像化したからと言って何か新たな発見があるような内容でもなかったです。

因みに、スティーブ・マックイーンの初主演映画は、「ヒッチコック劇場」の「指」に出演した2年前のアービン・S・イヤワース・ジュニア監督の「マックイーンの絶対の危機(ピンチ)」('58年)で、日本公開は'65年1月。日本での'72年のテレビ初放送時のタイトルは「SF人喰いアメーバの恐怖」で、'86年のビデオ発売時のタイトルも「スティーブ・マックィーンの人喰いアメーバの恐怖」だったので、「人喰いアメーバの恐怖」のタイトルの方が馴染みがある人が多いのではないでしょうか。宇宙生物
が隕石と共にやって来たという定番SF怪物映画で、怪物は田舎町を襲い、人間を捕食して巨大化していきますが、これ、"アメーバ"と言うより"液体生物"でしょう(原題の"The Blob"はイメージ的には"スライム"に近い?)。この液体生物に立ち向かうのがマックイーン(当時、クレジットはスティーブン・マックイーンで、役名の方がスティーブになっている)らが演じるティーンエイジャーたちで、スティーブン・マックイーンは実年齢27歳で高校生を演
じています(まあ、日本でもこうしたことは時々あるが)。CGが無い時代なので手作り感はありますが、そんなに凝った特撮ではなく、B級映画であるには違いないでしょう。ただそのキッチュな味わいが一部にカルト的人気を呼んでいるようです。スティーブ・マックイーン主演ということで後に注目されるようになったことも影響しているかと思いますが、「人喰いアメーバの恐怖2」(ビデオ邦題「悪魔のエイリアン」)('72年)という続編や「ブロブ/宇宙からの不明物体」('88年)というリメイク作品が作られています。
国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:1980/04/12●監督:アラステア・リード●脚本:ロナルド・ハーウッド●原作:ロアルド・ダール「味」●時間:26分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/ロン・ムーディー/アントニー・キャリック/Mercia Glossop/デビー・ファーリントン●DVD発売:2008/01●発売元:JVD(評価★★★☆)
「ヒッチコック劇場(第84話)/兇器」●原題:Alfred Hitchcock Presents(S 3 E 28-#106)LAMB TO THE SLAUGHTER

「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第4話)/おとなしい凶器」●原題:Tales of the Unexpected -LAMB TO THE SLAUGHTER●制作年:1979年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:1979/04/14●監督:アラン・ピックフォード●脚本:ロビン・チャップマン●原作:ロアルド・ダール「おとなしい凶器」●時間:24分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/スーザン・ジョージ/マイケル・バーン/ブライアン・ブレスト●日本放映:1980/05/10●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★)
「ヒッチコック劇場(第136話)/指」●原題:Alfred Hitchcock Presents(S 5 E 15-#168)MAN FROM THE SOUTH●制作年:1959年●制作国:アメリカ●本国放映:1960/01/03●監督:

映局:日本テレビ(評価★★★★)

「新・ヒッチコック劇場(第15話)/小指切断ゲーム」●原題:Alfred Hitchcock Presents -P-2.MAN FROM THE SOUTH●制作年:1985年●制作国:アメリカ●本国放映:1985/05/05●監督:スティーブ・デ・ジャネット●製作:レビュー・スタジオ●脚本:スティーブ・デ・ジャネット/ウィリアム・フェイ●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●原作:ロアルド・ダール「南から来た男」●時間:24分●出演:アルフレッド・ヒッチコック(ストーリーテラー)/スティーヴン・バウアー(青年)/メラニー・グリフィス(若い女)/ジョン・ヒューストン(カルロス老人)/キム・ノヴァク(女)/ティッピ・ヘドレン(ウェートレス)●日本放映:1988/01/0


局:テレビ東京●日本放映(リバイバル):2007/07/08●放映局:NHK-BS2(評価★★★☆)
新・ヒッチコック劇場「南部から来た男」(1985)"Man From The South"(日本放送時のタイトル「小指切断ゲーム」) 


「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第1話)/南から来た男」●原題:Tales of the Unexpected -MAN FROM THE SOUTH●制作年:1979年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:1979/03/24●監督:マイケル・タクナー●脚本:ケビン・ゴールドスタイン・ジャクソン●原作:ロアルド・ダール「南から来た男」●時間:24分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/ホセ・フェラー/マイケル・オントキーン/パメラ・スティーヴンソン/シリル・ルッカム/ケティ・フラド●日本放映:1980/04/19●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★☆)
「ヒッチコック劇場(第103話)/賭」●原題:Alfred Hitchcock Presents(S 3 E 35-#113)A DIP IN THE POOL●制作年:1958年●制作国:アメリカ●本国放映:1958/06/01●監督:アルフレッド・ヒッチコック●脚本:フランシス・コックレル●原作:ロア
「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第8話)/海の中へ」●原題:Tales of the Unexpected -A DIP IN THE POOL●制作年:1979年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:1979/05/19●監督:マイケル・タクナー●脚本:ロナルド・ハーウッド●原作:ロアルド・ダール「賭」●時間:24分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/ジャック・ウェストン/グラディス・スペンサー/マイケル・トラウトン/ジャナ・シェルドン/ポーラ・ティルブルック●日本放映:1980/06●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★)
ロッピング・フォックスリー」●時間:25分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/ジョン・ミルズ/アンソニー・スティール/ポール・スパリアー/ジョナサン・スコット・テイラー●日本放映:1980/06●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★☆)
C●本国放映:●1980/04/28●監督:ハーバート・ワイズ●脚本:ロビン・チャップマン●原作:ロアルド・ダール「首」●時間:24分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/デレク・ジャコビ/ルーシー・ガッテリッジ/ボリス・イザロフ/ドナルド・ピカリング/Teris Hebrew●日本放映:1980/06●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★☆)




「ヒッチコック劇場(第124話)/毒蛇」●原題:Alfred Hitchcock Presents(S 4 E 1-#118)POISON●制作年:1958年●制作国:アメリカ●本国放映:1958/10/05●監督:アルフレッド・ヒッチコック●脚本:ケイシー・ロビンソン●原作:ロアルド・ダール「毒」●時間:30分●出演:アルフレッド・ヒッチコック(ストーリーテラー)/ウェンデル・コーリー/ジェームズ・ドナルド/アーノルド・モス/ドゥリーン・ラング●日本放映:「ヒチコック劇場」(1957-1963)●放映局:日本テレビ(評価★★★★)
「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第14話)/或る夜の事
件」●原題:Tales of the Unexpected -POISON●制作年:1980年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:1980/04/28●監督:グレアム・エヴァンズ●脚本:ロビン・チャップマン●原作:ロアルド・ダール「毒」●時間:23分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/アンドリュー・レイ/アンソニー・スティール/ジュディ・ギーソン/サイード・ジャフリー●日本放映:1980/07●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★)
「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第6話)/首」●原題:Tales of the Unexpected -NECK●制作年:1979年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:1980/04/28●監督:クリストファー・
マイルズ●脚本:ロビン・チャップマン●原作:ロアルド・ダール「首」●時間:25分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/ジョーン・コリンズ/マイケル・オルドリッジ/ピーター・ボウルズ/ジョン・ギールグッド●日本放映:1980/05●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★☆)
「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第41話)/音響捕獲機」●原題:Tales of the Unexpected -THE SOUND MACHINE●制作年:1981年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国

「マックイーンの絶対の危機(ピンチ)(人喰いアメーバの恐怖)」●原題:THE BLOB●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督:アービン・S・イヤワース・ジュニア●製作:ジャック・H・ハリス●脚本:ケイト・フィリップス/セオドア・シモンソン●撮影:トーマス・スパルディング●音楽:ラルフ・カーマイケル●原案:アービン・H・ミルゲート●時間:86分●出演:スティーブ・マックイーン/アニタ・コルシオ/アール・ロウ/ジョージ・カラス/ジョン・ベンソン
/スティーヴン・チェイス/ロバート・フィールズ/アンソニー・フランク/ジェームズ・ボネット/オーリン・ハウリン●日本公開:1965/01●配給:アライド・アーティスツ(評価★★★)







1954年、シェイクミキサーのセールスマン、レイ・クロック(マイケル・キートン)に8台もの注文が飛び込む。注文先はマック(ジョン・キャロル・リンチ)とディック(ニック・オファーマン)のマクドナルド兄弟が経営するカ
リフォルニア州南部にあるバーガー・ショップ「マクドナルド」だった。合
理的なサービス、コスト削減、高品質という、店のコンセプトに勝機を見出したクロックは兄弟を説得し、「マクドナルド」のフランチャイズ化を展開する。しかし、利益を追求するクロックと兄弟の関係は次第に悪化し、クロックと兄弟は全面対決へと発展してしまう―。
ジョン・リー・ハンコック監督の2016年製作映画(本国公開2016年12月7日、日本公開2017年7月29日)で、「マクドナルド」の"創業者"(founder)"レイ・クロックの成功とその裏側を描いた実話風ビジネスドラマです。レイ・クロックの「マクドナルド」に纏わる話は、本で読んだり(自伝『成功はゴミ箱の中に』

壮大なフランチャイズ・ビジネスで利益を追求しようとするレイ・クロックと、小規模でも堅実な道を歩もうとするマクドナルド兄弟との確執に焦点を当てていて、フェイスブックの創業者間の対立を描いた「
この映画の日本版のキャッチ・コピーの1つに「英雄か。怪物か。」というのがありますが、本国版のキャッチ・コピーは"He took someone else's idea and America ate it up."で、「他人のアイデア」とあるように、30秒以内に注文客に商品を渡すといったマクドナルドのコンセプト自体は、レイ・クロックの独創ではないことをより明確に打ち出しています。この映画はマクドナルド社の協力無しに作られているわけですが、それでもレイ・クロックという人物を、アクの強さがあるにせよ、進取の気性に富み、スモール・ビジネスをビッグ・ビジネスに変えた傑物として描いている部分が大きいように思いました。
中盤でレイ・クロックが、人から"創業"はいつか聞かれて答えに窮する場面があったのが印象に残りました(創業したのはマクドナルド兄弟だから)。それが、ビジネスが拡張すると、彼自身が"ファウンダ―(創業者)"を名乗るようになり、終いにはマクドナルド兄弟から経営権を全面的に買い取って、兄弟には「マクドナルド」という名を使わせないようにします。マクドナルド兄弟に「マクドナルド」という名を使わせないというのもスゴイですが、兄弟が交換条件として求めた「永続的に利益の1%」を支払うという件については、契約書には記さず"紳士協定"ということにして、必ず守ると言いながら反故にし、兄弟の店はやがて閉店することになったことを映画は最後に伝えています。
こうした「目的のためには手段を選ばず」的な面はあるものの、52歳のうだつの上がらないシェイクミキサーのセールスマンだった男が、あれよあれよという間に外食産業の帝国を築いてしまうというのは、まさにアメリカン・ドリームを象徴するような話であるには違いありません。成功の条件は、ひたすら「根気強く」ということでしょうか。但し、映画で描かれる彼は、人の能力(やる気と言うべきか)を見抜く才能があり、そうして得た人材を適材を適所に配置することに長け、また、いいタイミングで自身の右腕となる参謀的な人物と出会えたという運もあったようです。
KFCはフランチャイズ・ビジネスという点でもマクドナルドのずっと先輩格にあたるわけですが、マクドナルドもフランチャイズ・ビジネス抜きには考えられないわけで、そうした観点から見ればレイ・クロックも"ファウンダ―(創業者)"と言えなくはないと思います。彼は「マクドナルド」という商標にこだわったため、マクドナルド兄弟との対立が深まったという気もします。なぜ、「クロック」とせず「マクドナルド」にこだわったのかが、映画の中でも、また本物のレイ・クロックが登場する記録映像の中でも明かされていたのが興味深かったです(両親はチェコ系ユダヤ人であり、クロックという姓は当時の米国ではマイノリティ=被差別層を想起させる姓ということになる)。
「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」('14年)でアカデミー主演男優賞にノミネートされたマイケル・キートンがレイ・クロックを好演しています。マイケル・キートン主演のビジネス・ムービーと

「バットマン」で彼が演じたバットマンはとにかく暗く、映画自体が暗かったです。ロビンも出てこないし、昔テレビでやっていた実写版の「怪鳥人間バットマン」('66‐'67年)とは随分違う感じがしました。映画は米国ではヒットしたようですが、日本では宣伝の割りにはイマイチだったように思います。"ジョーカー"を演じたジャック・ニコルソンのギャラの高さが話題になった記憶があります。
シリーズ第2作の「バットマン・リターンズ」は、ペンギン男にダニー・デヴィート、新登場のキャット・ウーマンにミシェル・ファイファーを配しましたが、共に主役のマイケル・キートンを完全に喰ってしまう怪演を見せ、第1作よりちょっとだけ面白かったかも。何れにせよ、マイケル・キートンは、主演であるのに第1作でジャック・ニコルソンに喰われ、第2作でダニー・デヴィート、ミシェル・ファイファーに喰われるという損な役回りだったようにも思います。
話を「バッドマン」第1作に戻して、ゴッサムシティの裏社会を牛耳るマフィアのグリソム(ジャック・ニコルソン演じるグリソムの部下でその右腕だったジャック・ネーピアは、グリソムの愛人に手を出してその怒りを買って罠に嵌められ、化学工場で警官隊に追い詰められ、そこに現れたバットマンと格闘の末に化学薬品の液槽に転落してしまい、一命は取りとめたものの肌は真っ白に漂白され、顔面は麻痺、精神に異常をきたしてしまい、そこから「ジョーカー」と名乗り始めて、グリソムら裏社会の大物たちを次々と殺害し、街を支配するようになるというのが話の流れ。ジョーカーとバッドマンの間にはもともと因縁があったというとになる)を演じたのが「
この年はシルヴェスター・スタローン、カート・ラッセルがライバル刑事役でダブル主演したアクション映画「デッドフォール」('89年/米)でも犯罪組織のボスを演じ、二人の刑事を抹殺できないまでも失脚させるべく罠を仕掛け、押収品を横流しする悪徳刑事として、果てにはFBI捜査官殺しにまで仕立て上げるという役でで出ています。スタローンが時折みせるコメディタッチはイマイチ。一方、カート・ラッセルはアクションでスタローンに拮抗していました。でも、個人的には、老ジャック・パランスの悪役が嬉しかったです。ただし、「
「ファウンダー ハンバー
ガー帝国のヒミツ」●原題:THE FOUNDER●制作年:2016年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・リー・ハンコック●製作:ドン・ハンドフィールド/ジェレミー・レナー/アーロン・ライダー●脚本:ロバート・シーゲル●撮影:ジョン・シュワルツマン●音楽:カーター・バーウェル●時間:115分●出演:マイケル・
キートン/ニック・オ
ファーマン/ジョン・キャロル・リンチ/リンダ・カーデリニ/パトリック・ウィルソン/B・J・ノバク/ローラ・ダーン/ジャスティン・ランデル・ブルック/ケイト・ニーランド●日本公開:2017/07●配給:KADOKAWA●最初に観た場所:渋谷シネパレス(旧渋谷パレス座)(17-07-30)(評価★★★☆)





「ガン・ホー」●原題:GUNG HO●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:デボラ・ブラム/トニー・ガンツ●脚本:ローウェル・ガンツ/ババルー・マンデル●撮影:ドナルド・ピーターマン●音楽:トーマス・ニューマン●時間:11
1分●出演:マイケル・キートン/ゲディ・ワタナベ/ミミ・ロジャース/山村聰/クリント・ハワード/サブ・シモノ/ロドニー・カゲヤマ/ジョン・タトゥーロ/バスター・ハーシャイザー/リック・オーヴァートン●日本公開:(劇場未公開)VHS日本発売:1987/11●発売元:パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン(評価:★★★☆)




「ダークナイト」●原題:THE DARK KNIGHT●制作年:2008年●制作国:アメリカ・イギリス●監督:クリストファー・ノーラン●製作:クリストファー・ノーラン/チャールズ・ローヴェン/エマ・トーマス●脚本:クリストファー・ノーラン/ジ
ョナサン・ノーラン●撮影:ウォーリー・フィスター●音楽:ハンス・ジマー/ジェームズ・ニュートン・ハワード●原作:ボブ・ケイン/ビル・フィンガー「バットマン」●時間:152分●出演:クリスチャン・ベール/ヒース・レジャー/アーロン・エッカート/マギー・ジレンホール/マイケル・ケイン/ゲイリー・オールドマン/モーガン・フリーマン/メリンダ・マックグロウ/ネイサン・ギャンブル/ネスター・カーボネル●日本公開:2008/08●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)

「怪鳥人間バットマン」(Batman) (ABC 1966~1968) ○日本での放映チャネル:フジテレビ(1966~1967)/WOWOW
「デッドフォール」●原題:TANGO & CASH●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:アンドレイ・ミハルコフ=コンチャロフスキー●製作:ジョン・ピーターズ/ピーター・グーバー●脚本: ランディ・フェルドマン●撮影:ドナルド・E・ソーリン●音楽:ハロルド・フォルターメイヤー●時間:106分●出演:シルヴェスター・スタローン/カート・ラッセル/ジャック・パランス/テリー・ハッチャー/ジェフリ
ー・ルイス/エドワード・バンカー/ブライオン・ジェームズ/ロバート・ツダール/ジェームズ・ホン/マルク・アレイモ/マイケル・J・ポラード/マイケル・ジェッター/フィル・ルーベンスタイン/フィリップ・タン/ルイス・アークエット/ロイ・ブロックスミス/クリント・ハワード/グレン・モーシャワー●日本公開:1990/03●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★)



ギリシャのキクラーデス諸島で1965年に8歳のジャック・マイヨールはエンゾと出会った。そこで二人は初めて素潜りを競うが、翌日にダイバーであるジャックの父の死を目撃し大きな衝撃を受ける。12年後
の1987年、一流のダイバーとなったエンゾ(ジャン・レノ)は、稼いだ金をつぎ込んでジャック(ジャン=マルク・バール)の行方を探していた。ジャックと共にダイビング選手権に出場して勝利することがエンゾの夢だった。別なところでニューヨークで働く保険調査員ジョアンナ(ロザンナ・アークエット)は、自動車事故の調査でペルー・アンデス山脈の高地にいた。そこで彼女は、氷結した湖に酸素ボンベもなしに数十分も潜水するジャックに出会う。彼こそがエンゾが捜していた少年ジャックの成長した姿であり、彼は水族館のイルカだけを友として静かに暮ら
していた。ジョアンナは彼の不思議な魅力に惹かれ、ペルーから故郷へ帰ったジャックの後を追いか
けるようにヨーロッパへ旅に出る。やがてエンゾはジャックをシチリアの競技会に連れ出すが、そこでのダイビングでジャックに敗れてしまう。ジャックへの対抗心に燃えるエンゾは、無謀な記録に挑んだ挙げ句に命を落としてしまう。その魂に引かれるかのように、ジャックも深夜の海に一人潜って行こうとする。彼を愛し子供を宿したジョアンナはジャックを引き留めようとするも、彼の海への想いを止めることは叶わなかった。やがて人間の限界を超える深海に達したジャックの目の前に一匹のイルカが現われ、彼を底知れぬ深淵へと誘って行った―。
リュック・ベッソン監督(1959年生まれ)の1988年 公開作で、ベッソン監督の両親はともにスキューバダイビングのインストラクターであり、ベッソン自身もダイバーとして過ごしましたが、17歳のときに潜水事故に遭いスキューバダイビングが出来なくなったそうです。映画ではスキューバダイビング
ではなくフリーダイダイビングを扱っていますが、海に対するベッソン監督の思い入れが、美しい映像に結実した作品ではないかと思われ、特にラストの主人公がイルカに誘われるように深海に身を委ねる
シーンは印象に残りました(ロケは主にギリシャのキクラデス諸島アモルゴス島やシチリア島のリゾート地タオルミーナで行われた)。
世界的なフリーダイバーのジャック・マイヨール(フランス人)とエンゾ・マイオルカ(イタリア人)がモデル
となっていますが、ジャック・マイヨールは「ジャック・マイヨール」のままの役名でクレジットされているのに対し、ジャン・レノが演じたエンゾは「エンゾ・モリナーリ」の名でクレジットされています。因みに、この作品はジャック・マイヨール自身の自伝を基
にしているとのことですが、ジャックとエンゾの相互の友情が描かれているものの、ジャックが温厚で素直だが孤独でイルカを友とする青年として描かれているのに対し、エンゾの方はプライドが高くかなり癖のある人物として描かれており、これをジャン・レノが演じて、結果として当時日本ではあまり知られていなかったジャン・レノが、主役のジャン=マルク・バールや、知名度抜群のロザンナ・アークエットよりも印象に残るものとなっています。
因みに、ジャック・マイヨール(1927-2001)は、1976年、49歳で人類史上初めて素潜りで100メートルを超える記録を作り、55歳の時には105メートルを記録していますが、映画では時代を少し後にして、逆に年齢の方は30年分若くしている感じでしょうか(映画でのジャックは1965年時点で8歳という設定になっている)。テレビでジャック・マイヨールがプールに潜って座禅を組んでいる間に脈拍数など体がどのように変化するかをやっていたのを見たことがありますが、その頃は気骨はあるが気のいい老人といった感じだったでしょうか。まさか、その何年か後に74歳で首吊り自殺を遂げるとは思ってみませんでしたが、うつ病を患っていたようです。
一方のエンゾ・マイオルカ(1931-2016)は、映画の「エンゾ・モリナーリ」ように無理なダイビングを
この映画は、'88年公開時は「グレート・ブルー」というタイトルの120分英語版でした。有楽町の日劇プラザで公開日の1週間後に観ましたが、公開後2週間で打ち切りとなっています(新宿プラザ劇場は1週間で打ち切り)。フランスでも公開時は惨憺たる興行成績だったのが、その後じわじわとカルト的な人気が出てきたとのことです。それを受けて日本でも'89年にセルビ
デオが発売されると同じように人気が出て、'92年に「グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版」がシネセゾン渋谷で独占公開されています(同時にビデオも発売)。「グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版」は、個人的には'94年にビデオで観ましたが、「グレート・ブルー」が英語版だったのに対して、こちらは48分の未公開シーン(変な日本人ダイビング・チームとかも出てくる)を加えて再編集した168分のフランス語版でした。最近、132分のオリジナル版「グラン・ブルー」を劇場で観ましたが、これはフランス国内で
最初に公開された版で、この映画は元々国際マーケット向けに製作されたものでセリフはすべて英語だったものを、俳優本人たちがフランス語に吹替えたものです(変な日本人ダイビング・チームはやはり出てくる)。要するに、最初に観た「グレート・ブルー」(変な日本人ダイビング・チームは出てこない)は、国際マーケット向けに製作された132分英語版を12分縮めたものだったのだということを初めて知りました(カットされた12分の中に変な日本人ダイビング・チームの話があったことになる。やはり、日本公開に向けて配給会社側が配慮してカットしたのか)。




「グラン・ブルー(グレート・ブルー)」●原題:LE GRAND BLEU(BIG BLUE)●制作年:1988年●制作国:フランス・イタリア●監督:リュック・ベッソン●製作:パトリス・ルドゥー●脚本:リュック・ベッソン/ロバート・ガー
ランド●撮<影:カルロ・ヴァリーニ●音楽:エリック・セラ●時間:132分(オリジナル版(「グラン・ブルー」)/120分(編集版(「グレート・ブルー」)/168分(完全版(「グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版」)●出演:ロザンナ・アークエット/ジャン=マルク・バール/ジャン・レノ/ポール・シェナー/セルジオ・カステリット/マルク・デュレ/ジャン・ブイーズ/グリフィン・ダン●日本公開:1988/08●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所(「グレート・ブルー」編集版120分):有楽





ローマに住む映画監督のサルヴァトーレ(中年期:ジャック・ペラン)は、アルフレード(フィリップ・ノワレ)という老人が死んだという知らせを受ける。アルフレードは、かつてシチリア島の小さな村にある映画館・パラダイス座で働く映写技師だった。「トト」という愛称で呼ばれていた少年時代のサルヴァトーレ(少年期:サルヴァトーレ・カシオ)は大の映画好きで、母マリア(中
年期:アントネラ・アッティーリ)の目を盗んではパラダイス座に通いつめていた。「トト」はやがて映写技師のアルフレードと心を通わせるようになり、ますます映画に魅せられていった。アルフレードから映写技師の仕事も教わる
ようになった「トト」だったが、フィルムの出火から火事になり、アルフレードは重い火傷を負って失明してしまう。その後、焼失したパラダイス座は「新パラダイス座」として再建され、父の戦死が伝えられた「トト」は、家計を支えるためにそこで映写技師として働くようになる。やがて思春期を迎えた「トト」ことサルヴァトーレ(青年期:マルコ・レオナルディ)は駅で見かけた美少女
エレナ(アニェーゼ・ナーノ)との初恋を経験、それから兵役を経て成長し、今は映画監督として活躍するようになっている。成功を収めた彼のもとに母マリア(壮年期:プペラ・マッジオ)からアルフレードの訃報が届き、映画に夢中だった少年時代を思い出しながら、サルヴァトーレは故郷のシチリアに30年ぶりに帰って来たのだった―。
ジュゼッペ・トルナトーレ監督(1956年生まれ)の1988年公開作で、1989年カンヌ国際映画祭審査員グランプリを受賞したほか、イタリア映画としては15年ぶりにアカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞した作品です(ゴールデングローブ賞外国語映画賞も受賞)。日本でも'89年12月に公開され、「シネスイッチ銀座」での単館ロードながら40週というロングランを記録し、観客動員数約27万人、売上げ3億6900万円という数字は、単一映画館における興行成績としては未だ破られておらず、単館ロードそのものが減っているため、この記録は今後も破られないと言われています。
この映画について、母性(女性)原理への回帰という意味で日本人の気質に通じるものがあって、日本人に受け入れられやすいのではないかという見方をどこかで読んだ覚えがありますが、確かにシシリア人気質というのは家族の絆を非常に重んじるところがあるようです。但し、映画において「トト」ことサルヴァトーレにとって疑似的な父親の役割を果たすアルフレードは、サルヴァトーレに「この村から出て行け。ローマに行って、もう戻ってくるな」と諭すわけであって、これは完全な父性(男性)原理と言えるのではないかと思いました(「ノスタルジーに惑わされるな」と言っているのも同じことだろう。極論すれば、家族を犠牲にしてもわが道を行けと言っているともとれる)。
それがいいのか悪いのかというと、結局トトことサルヴァトーレは、映画監督としては成功したものの、アルフレードの教えを守ったばかりに母親は30年間息子に会えず、そして、成功しているはずのサルヴァトーレ自身も、実を結ばなかった初恋の思い出を引き摺っているのか、結婚もせずに付き合う女性をとっかえひっかえし、何となく虚無感を漂わせている感じです。但し、これをもってアルフレードの教えが誤っていたとかそんなことは言えないだろうなあ。アルフレードの教えを守ったからこそ映画人としての今の自分があるのかもしれないし、何かを得れば何かを失う、人生って大方そのようなものではないかなあと思いました。
「ニュー・シネマ・パラダイス」●原題:NUOVO CINEMA PARADISO●制作年:1988年●制作国:イタリア・フランス●監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ●製作:フランコ・クリスタルディ●撮影:ブラスコ・ジュラート●音楽:エンニオ・モリコーネ/アンドレア・モリコーネ●時間:155分(オリジナル版)/124分(国際版(劇場公開版))/175分(完全版(ディレクターズカット版))●出演:フィリップ・ノワレ/ジャック・ペラン/サルヴァトーレ・カシオ/マルコ・レオナルディ/アニェーゼ・ナーノ/アントネラ・アッティーリ/プペラ・マッジオ/レオポルド・トリエステ/エンツォ・カナヴェイル/レオ・グロッタ/イサ・ダニエリ/タノ・チマローサ/ニコラ・ディ・ピント●日本公




ロンドンの保険会社で、ポアロ(ピーター・ユスティノフ)が模造宝石に保険をかけようとしたホレス・ブラット(コリン・ブレークリー)の調査を依頼される。ポアロは彼に会い、「結婚の約束をした女優のアリーナ・マーシャル(ダイアナ・リグ)に20万ドルの宝石を与えたが、彼女が他の男と結婚したので、宝石を取り戻したところ模造品だった」と聞かされる。当のアリーナはアドレア海の孤島のホテルで休暇を過ごす予定であり、ポアロもそこへ赴く。ホテルの女主人ダフネ(マギー・スミス)はタイラニア国王の元愛人で、手切れ金代りにこのホテルを貰ったのだった。アリーナとは昔一緒に舞台に出たことがあり、二人は再会すると互いに笑いながら嫌味を言い合う。アリーナが新夫ケネス・マーシャル(デニス・クイリー)、ケネスと前妻との間の子リンダ(エミリー・ホーン)と共に着いたホテルには、彼女を再び舞台に復帰させようというプロデューサーのオーデル・ガードナ
ー(ジェームズ・メイソン)と妻の
マイラ(シルヴィア・マイルズ)、彼女の伝記を執筆したジャーナリストのレックス・ブルースター(ロディ・マクドウォール)が待っていたが、彼女は女優業への復帰も伝記の出版も拒否する。そして、ホテル客のハンサムなラテン語教師パトリック・レッドファン(ニコラス・クレイ)と大っ
ぴらにいちゃつき、人々の非難の目を浴びる。アリーナのことでパトリックが妻クリスティン(ジェーン・バーキン)と喧嘩しているのを、多くの人が聞きつける。ある日、ホテルを一人で出たアリーナは、ホテルと反対側の海岸の浜辺で日光浴をしていた。パトリックとマイラがボ
ートでその浜辺へ。パトリックが横になっている彼女の所へ行くと彼女の死を発見。マイラの知らせを受けたダフネの依頼でポワロが捜査にあたる。皆それぞれに犯行動機があったが、ポアロは死亡推定時刻の11時半から12時までの全員のアリバイ
を訊くと、誰にとってもアリーナ殺害は不可能だった。リンダとクリスティンは死体発見現場とは反対側の海辺で海水浴とスケッチをしていたし、ケネスは部屋でタイプを打っていたし、レックスはボートで別の海上にいて、ダフニネは従業員とミーティングをし、窓からオーデルが庭で読書しているのを目撃していた。皆がホテルを去る日、ポワロは皆を集めて犯人を指摘する―。

原作の登場人物の内、ミリー・ブルースターが男性に変更され、レックス・ブルースター(ロディ・マクドウォール)になっているほか、ブルースターがパトリック・レッドファンと共にアリーナの遺体を発見する部分は、オーデル・ガードナーの妻マイラ(シルヴィア・マイルズ)にその役割を置き換えられています。更に、ケネス・マーシャルのことを心配する有名ドレスメーカーのロザモンド・ダーンリーは登場せず、その役割は一部、原作には無いホテルの女主人ダフネ(マギー・スミス)に置き換えられているといった感じです。
原作の舞台は英国内ですが、それをアドリア海にあるティラニア島(架空の島)に改変しています。実際のロケ地はスペインのマヨルカ島付近のドラゴネーラ島であり(ホテル内の壁にかかっている島の地図(文庫カバー図と同じ)と島の空撮映像で見る形とが一致していない(笑))、美しい風景をバックにコール・ポーターの名曲が
流れ、陽光に満ちたリゾート感、優雅な贅沢感が溢れる作品になっています。一方、一部登場人物の改変はあるものの、プロットはほぼ原作に沿っています(原作が精緻なプロットであるため、基本的には殆どいじりようがないのだが)。
そのことを意識してか、最後にポワロが犯人だと名指して推理を展開した容疑者が、話としては面白いが証拠がどこにもないと反駁し、悠々とその場を立ち去ろうとするという映画オリジナルの場面があって、それに対してポワロがどう対処したかという独自の"捻り"が加えられています。イギリス映画であって、多くの観客がクリスティの原作の結末を知っているため、敢えてこうしたシークエンスを加えたのではないかとも思われ、また、「
アリーナ・マーシャルを演じたダイアナ・リグ(Diana Rigg)は、「女王陛下の007」('69年)のボンドガールで、娘のレイチェル・スターリング('77年生まれ)も女優であり、「
パトリック・レッドファンの妻クリスティンを演じたジェーン・バーキン(Jane Birkin)は、「
ナイル殺人事件」に続いての出演で、10代で既にミケランジェロ・アントニオーニ監督の「
せたという出来事は'84年のこと。以降、女優業、歌手業をこなしながらカジュアル系のファッション・リーダーとしても今日まで活躍し続けていますが、この映画の頃はまだ"着せ替え人形"みたいな感じ。夫パトリック役のニコラス・クレイはシルビア・クリステル主演の「チャタレイ夫人の恋人」('81年/英・仏)で重要な役どころの森番役を演じるなどしましたが、残念ながら2000年に肝癌で亡くなっています。
「地中海殺人事件」●原題:EVIL UNDER THE SUN●制作年:1982年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:アンソニー・シェーファー/バリー・サンドラー●撮影:クリストファー・チャリス●音楽:コール・ポーター●原作:アガサ・クリスティ「白昼の悪魔」●時間:117分●出演:ピーター・ユスティノフ/コリン・ブレイクリー/ジェーン・バーキン/ニコラス・クレイ/マギー・スミス/ロディ・マクドウォール/ジェームズ・メイソン/ダイアナ・リグ/シルヴィア・マイルズ/デニス・クイリー/エミリー・ホーン●日本公開:1982/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:有楽座(82-12-28)(評価★★★☆)






1938年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポアロ・シリーズの第16作で(原題:Appointment with Death)、前年発表のポワロシリーズ『
『ナイルに死す』はジョン・ギラーミン監督の映画「
映画「死海殺人事件」は、「ナイル殺人事件」やガイ・ハミルトン監督の「
演じていますが(共演者に「
原作では、ボイントン夫人は虐待に近いような子供達の扱いぶりで、しかも太った醜い女性として描かれていますが、映画では専制的ではあるものの、原作までは酷くないといった感じでしょうか。それでも、殺害された彼女は皆から嫌われていたわけで、遺産相続も絡んでいて(それが目眩ましにもなっているのだが)、登場人物全員が容疑者候補であるのは原作と同様です(殺人事件があって禁足令が出ているけれど、旅行自体は皆続けるのだろうなあ)。『オリエント急行の殺人』と同様、ポワロの聴き取りに対して誰かが(場合によっては複数が)虚偽を述べているわけであって、ある種"叙述トリック的であるわけですが、これを映像化するのは難しかったかもしれません。
実際、映画を観ると、容疑者達の陳述が真実であろうと虚偽であろうと、その陳述に沿った映像化がされているため、途中からある程度そのことを含み置いて観ていないと、無かったことを映像化するのは《掟破り》ではないか(フランソワ・トリュフォーなどはアルフレッド ヒッチコックへのインタビュー『映画術』でそう言っている)ということになります。まあ、原作でも映画でも、初めてで犯人が判ればなかなかのものだと思いますが、映画を観て改めて新米医師であるサラの死亡推定時刻の見立ては正しかったのだなあと再確認しました。ピーター・ユスティノフがポワロを演じてきた映画は、この作品で英国から米国のB級映画会社に製作が移った
ものの(この会社は後に倒産する)、ユスティノフの演技自体は悪くないし(「ナイル殺人事件」「地中海殺人事件」に続いてこの映画も"旅行もの"であるため違和感が無い)、ローレン・バコールのキツイ顔もいいけれど
(初めて観た時はさすがに老けたなあと思ったが、彼女が亡くなったのは2014年でこの作品の26年後89歳で亡くなっている)、やはり、「起きなかったことを映像化している」点がちょっと引っ掛かりました(他に何かいい手があるわけではないが)。デヴィッド・スーシェ版「


ける)が事件解決に臨む。ストーリーは概ね原作通りで、原作に対するリスペクトが感じられる。ただし、時代設定を昭和30年に置き換え、舞台を"巡礼の道"として世界遺産にも登録されている熊野古道および和歌山県天狗村にある「黒門ホテル」にしているため、作品の雰囲気はかなり違ったも
のとなっている。熊野本宮大社は本物の現地ロケ、熊野古道ツアーのスタート地点「発心門王子」には浜松市にある「方広寺」が使われ(2018年に行った。参道が長い山道になっている)、黒門ホテルの外観
の概観は「蒲郡クラシックホテル」が使われたが、内観はセット撮影であるとのこと。全体に三谷幸喜らしいコメディタッチで、殺害される金持ちの未亡人(松坂慶子)さえもユーモラスでどこか憎めない(松坂慶子はコメディ専門になったのか?)。映画でローレンン・バコールが演じた女性代議士(鈴木京香)が、勝呂と旧知であるというのはドラマのオリジナル。でも、プロットは原作をそのまま活かしていることもあって愉しめた。
「死海殺人事件」●原題:APPOINTMENT WITH DEATH●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督・製作:マイケル・ウィナー●脚本:アンソニー・シェーファー/ピー
ター・バックマン/マイケル・ウィナー●撮影:デヴィッド・ガーフィンケル●音楽:ピノ・ドナッジオ●原作:アガサ・クリスティ「死との約束」●時間:103分●出演:ピーター・ユスティノフ/ローレン・バコール/キャリー・フィッシャー/ジョン・ギールグッド/パイパー・ローリー/ヘイリー・ミルズ/ジェニー・シーグローヴ/デビッド・ソウル/アンバー・ベゼール/マ
イケル・グレイブ/ニコラス・ゲスト/ジョン・ターレスキー/マイク・サーン●日本公開:1988/05●配給:日本ヘラルド映画(評価★★★)


【1957年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(高橋豊:訳)/1978年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(高橋豊:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(高橋豊:訳)]】

1930年代の中国・北京の街角。春桃(チュンタオ)(劉暁慶〈リウ・シャオチン〉)は毎日、大きな籠を背負って屑拾いに精を出していた。家では、売り物の絵を整理しながら、劉向高(リウ・シアンカオ)(姜文〈チアン・ウェン〉)が彼女の帰りを待っていた。春桃は、抗日戦下、結婚式当日に夫を匪賊に奪われ、夫と離れ離れになって以来、北京の街角で屑拾いで生計を立てる身だったのだ。春桃と向高は愛し合っていたが、彼女は向高が妻と呼ぶことは許さなかった。3年後のある日、籠を
昔の北京の下層の人々の暮らしを描くことにこだわった凌子風(リン・ツーフォン、1917-1999)監督の1988年作品で(英:A WOMAN FOR TWO)、主演の劉暁慶(リウ・シャオチン)と姜文(チアン・ウェン)は、謝晋(シエ・チン)監督の「芙蓉鎮」('86年)でも名コンビぶりを見せたほか、姜文は張
藝謀(チャン・イーモウ)監督の「
このように、後にそれぞれかなり違った道を辿る女優と男優ですが、この作品での演技の息はぴったり合っていて、家事や仕事をしながらの淀みない流れるような掛け合いは見事です。とりわけ、2人の男たちを引っ張っていく春桃を演じる劉暁慶(リウ・シャオチン)の演技は上手いです。この作品での彼女は、後に"整形美人"とまで噂されるようになった美人スター・イメージでは無く、ちょうど鞏俐(コン・リー)が「紅いコーリャン」でデビューしたばかりの時のような素朴な逞しさと内面から来る輝きがあります。
ストーリーの方は、同じ家での女1人男2人の生活が始まるわけですが、何しろ1930年代の中国の話なので、周囲の覗き趣味的な関心や嘲りは尋常ではないものがあり、これに対し春桃ではなく男2人の方が参ってしまいます(2人ともいい人なんだけどねえ)。男2人も真剣に先のことを考えるのですが、相手を思い遣りながら且つメンツにもこだわってしまうため(相手のメンツにまで思い遣ってしまう)、結果、自己犠牲の精神と言えば美しいのかもしれませんが、実質的にはどんどんネガティブ思考になっていきます。
この辺りの、世間の目を気にせず、目の前のことだけを考えて生きている、それでいて、世間を恨むわけでもなく、困っている隣人を助けたりもする春桃の生き方と、既成の観念に囚われ、陋習的規範から抜け出せない男たちの対比が、この作品の見処ではないでしょうか。ラストに至るプロセスは重いですが、随所にユーモアも散りばめられていて、娯楽性も備えた作品であると言えます。そうしたこの作品の魅力の多くは、劉暁慶、姜文らの演技力と凌子風の演出力に支えられているのでしょう。
「春桃(チュンタオ)」●原題:春桃/A WOMAN FOR TWO●制作年:1988年●制作国:中国・香港●監督:凌子風(リン・ツーフォン)●脚本:韓蘭芳(シュイ・ティーシャン)●撮影:梁子勇(リャン・ツーヨン)●音楽:瞿希賢(チュイ・シーシエン)●原作:許地山●時間:94分●出演:劉暁慶(リウ・シャオチン)/姜文(チアン・ウェン)/曹前明(ツァオ・チェンミン)/馮漢元(フォン・ハンユアン)●日本公開:1994/12●配給:TJC東光徳間(評価:★★★★)

19世紀末のブラジル・マナウスのオペラハウス。オペラ歌手エンリコ・カルーソの公演を聴こうとペルー・イキトスからボートを漕いで来たフィツカラルド(クラウス・キンスキー)とモリー(クラウディア・カルディナーレ)。会場にもぐり込んだフィッカラルドは、カルーソのテノールに聞き入る。アイルランド出身の彼の本名はブラ
イアン・スウィーニー・フィツジェラルドだが、インディオたちは彼をフィツカラルドと呼ぶ。今は製氷業だが、かつてアンデスに鉄道を敷設しようとして破産した経歴の持主で、白人らは彼を奇人とみなしていたが、娼家経営の愛人モリーは良き理解者であり、インディオの子らも彼を慕う。彼はイキトスにオペラ・ハウスを建てようと決意するが、それには莫大な資金が必要で、ゴム成金たちには相手にされない。そこで彼は、自らがジャングルを切り拓いてゴム園を作ることを計画、モリーが出してくれた金で成金の一人ドン・アキリノ(ホセ・レーゴイ)から中古の蒸気船
を買い、パウル船長(ポール・ヒッチャー)、料理人ウェレケケ(ウェレケケ・エンリケ・ボホルケス)、機関士チョロ(ミゲル・アンヘル・フェンテス)らを雇う。"モリー号"と命名された船は修理を終えてアマゾン川に船出、彼のゴム園用地は流れの激しい"ボンゴの瀬"のあるウカヤリ川上流にあったため、彼は
船をパテリア川に進める。途中、中断された鉄道駅に寄り、レールを外して船に積み込む。船が進んで首刈り族の土地に入ると、乗組員らの多くは逃亡してしまう。フィツカラルドは操舵室の屋根上に蓄音機を置いてレコードをかけ、密林にオペラが流れるとインディオたちが姿を現わす。彼らは続々と船に乗り込んで来
るが、フィツカラルド一行に手を出さない。フィツカラルドは、パテリア川とウカヤリ川が最も接近したところで、船を川から揚げて山越えしてウカヤリ川に降ろすという計画をインディオに伝えると、酋長(D・P・エスピノサ)は協力するという。目的地に着いてレールを降ろし、ジャングルを切り拓き、滑車で船を引っぱり揚げる。7ヵ月後、遂に船はウカヤリ川に浮かぶ。祝杯に酔ったフィツカラルドらが寝ている隙に、インディオたちは船を激流に放つ。彼らは激流の荒ぶる魂を静める儀式として協力したのだった。フィッカラルドらを乗せたモリー号は、木の葉の如く激流を流されていく―。
ヴェルナー・ヘルツォーク監督による1982年作品で、同年のカンヌ国際映画祭「監督賞」受賞作。完成まで4年半を要し、苛酷なロケのためスターが次々と降板していった末にフィツカラルドの役をクラウス・キンスキーが得たことは知られていますが、結果として、オペラハウス建設への情熱に憑かれたフィツカラルドを演じたクラウス・キンスキーはハマリ役でした(思えば彼は、同監督の「
ラストの、数日後には自分の所有から離れるモリー号の船上で、オペラを聴きながらフィツカラルドが見せる陶酔と誇りと狂気が入り交ざった表情はなかなかですが(ヘルツォーク作品の中ではかなり爽やかなエンディング?)、この映画のクライマックスはやはり、この映画を観たことがない人でもビデオやCDのジャケットでその場面は知っていると思われる、例の蒸気船の山越えでしょう。
ヘルツォーク監督、ホントに船を山越えさせてしまったなあという感じで、実写でここまでやるというのは当時でもスゴイと思いましたが(完璧主義者だったフリッツ・フォン・シュトロハイム(「
アギーレと同様フィッツカラルドも実在の人物に改変を加えて描いてるようですが、最初観た時は西洋肉食系人種の凄まじい執念のようなものを感じました。また、異文化の出会いの物語でもあったなあと。最初は、西洋人の自らの文化への自信のようなものを感じましたが(「オペラで未開の地を啓蒙してやる」みたいな)、最近観直してみて、ラストの方でフィツカラルドが、初めてナイヤガラ瀑布を見つけた西洋人の言葉をぼそっと語る場面があったことに気づき、ああ、自分のことをなぞらえていたのだなあと。つまり、人に語っても信じてもらえないような不思議な体験をしたということであり、そこに彼の異文化への畏敬のようなものを感じました。結構、文化人類学的な視点の入った映画だったかもしれません。
「フィツカラルド」●原題:FITZCARRALDO●制作年:1982年●制作国:西ドイツ●監督・脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク●製作:ヴェルナー・ヘルツォーク/ルッキ・シュティペティック●撮影:トーマス・マウホ●音楽:ポポル・ヴー●時間:158分●出演:クラウス・キンスキー/クラウディア・カルディナーレ/ホセ・レーゴイ/ポール・ヒッチャー/
ウェレケケ・エンリケ・ボホルケス/ミゲル・アンヘル・フェンテス/グランデ・オセ
ロ/ペーター・ベルリング/デイヴィッド・ペレス・エスピノサ/パウル・ヒットシェル●日本公開:1983/07●配給:大映インターナショナル●最初に観た場所:東急名画座(83-04-16)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(15-06-23)(評価:★★★★)


1968年5月のパリ五月革命の最中、南
仏ジェール県の当主ヴューザック家夫人(ポーレット・デュボー)が突然の発作で死ぬ。長男のミル(ミシェル・ピコリ)は彼女の死を兄弟や娘たちに伝えようとするがストで電話が繋がらない。ようやく駆け付けたミルの娘カミーユ(ミュウミュウ)と
フランソワーズたち3人の子、姪のクレール(ドミニク・ブラン)とそのレズビアン友達マリー=ロール(ロゼン・ル・タレク)、弟のジョルジュ(ミシェル・デュショーソワ)と彼の後妻リリー(ハリエット・ウォルター)たちの話題は革命と遺産分配のことばかり。立派な邸宅を売ったらゴルフ場にもできるというカミーユとジョルジュにミルは怒りを爆発させ、小川へザリガニ捕りに行く。カミーユと幼馴染みの公証人ダニエル(フランソワ・ベルレアン)の読みあげる夫人の遺書の中に、小間使いのアデル(マルティーヌ・ゴーティエ)が相続人に含まれていると知って一同は驚くが、気のあるミルだけは喜ぶ。パリで学生運動に参加しているジョルジュの息子ピエール
=アラン(ルノー・ダネール)が共産党嫌いのグリマルディ(ブルーノ・カレット)のトラックに乗せてもらって屋敷に現われる。翌日、革命の影響で葬儀屋までがストをする。ミルたちは遺体を庭に埋めることにし、葬式を一日延期し、ピクニックに興じる。その夜、屋敷に現われた村の工場主夫妻から、ド・ゴール大統領が姿を消していて、ブルジョワは殺されると知らされた一同は、森の洞窟へと逃げる。疲労と空腹で一夜を過ごした彼らのもとにアデルがやって来て、ストが終ったことを知らせる。いつしか彼らの心の中には、屋敷を売る考えはなくなっていた。無事に葬儀は終わり、人々も帰るべき場所へと帰って行き、屋敷には再びミルだけが残される―。

ブルジョワ階級出身のルイ・マル監督が五月革命に翻弄されるブルジョワを風刺と皮肉を込めて描いた作品ととれますが、アイロニカルな部分がことさらに強調されているわけではなく、その点において自然であるとともにやや中途半端か。むしろ、政治的なことは抜きにして、単純に集団劇として見た場合に結構面白いのではないでしょうか(ルイ・マルの頭にはアントン・チェーホフの『桜の園』があったという。また、ジャン・ルノワールの「ゲームの規則」的な作りをも意識しているらしい)。
ミルは母親の死に一度慟哭しますが、その後は親族たちのドタバタに振り回され、そうした中で弟の後妻リリーと急速に接近(それまでも小間使いのアデルと恋人関係にあったようだが)、娘のカミーユは幼馴染みの公証人のダニエルとの関係が再燃したようで、レズビアンだったはずのマリー=ロールはピエール=アランと親密になり、それに対抗するようにクレールもトラック運転手のグリマルディと親しくなります(何だか、親戚と他人が入り混じった乱交状態みたいになってくるね)。
こうした人同士の関係の化学変化が、ミルの突然思い立ったザリガニ捕りや(これも相続争い対する嫌気から逃れたい気持ちからの行動だと思うが)、関係者総出でのピクニックを通して描かれ、美しい自然の中で人々の気持ちが解放され、行動が大胆になっていく一方、屋敷を売ってどうのこうのといった考えは消えていき、また、それは同時に、屋敷を売りたくないミルの思惑に沿ったものになっているというのは、観ていてまずますスムーズな流れです。
しかし、ミル自身は、屋敷は売らずに済んだものの、最後は小間使い兼恋人のアデルにも婚約者がいて彼女も去っていくという目に遭います(意外としたたかな女性だった)。リリーも去ってアデルも去り、残されたミルは、もう誰もいない屋敷で亡き母の幻影とダンスを踊る―ミルの老境の孤独を感じさせるエンディングで、初
め「田舎の日曜日」→中ほど「お葬式」→ラスト再び「田舎の日曜日」といった感じの作品ですが、「田舎の日曜日」同様にフランスの田舎を美しく撮っている作品でもあります。黒澤明(1910-1998)監督の娘である黒澤和子氏によれば、黒澤明が生前評価していた作品でもあるようです(黒澤和子

ミシェル・ピコリ(1925-2020/享年94)は「
ック・リヴェット(1928-2016/享年87)監督(この人もヌーヴェルヴァーグの中心的人物である)の「美しき諍い女(いさかいめ)」('91年)に出演しています。高名であるが世捨て人の画>家(ミシェル・ピコリ)が、もともとモデルだった妻(ジェーン・バーキン)とプロヴァンスの片田舎にある古城で静かに暮らしているところへ、一人の若い画家が恋人(エマニュエル・ベアール)を連れて彼のもとを訪れると、画家は彼女をモデルにする事で、自分が長い間打ち捨てていた作品「美しき諍い女」の制作を再開する気になるというものです。ノーカット版は3時間57分ですが、当時['93年]VHS版(1時間31分)で観てしまいました(ジャック・リヴェット監督が別撮りのフィルムでテレビ用にシー
ンを変更した2時間5分の別バージョン「美しき諍い女ディヴェルティメント」が1993年に劇場公開されているが、現在は約4時間のオリジナル完全版が
DVD・Blu-ray化されている)。エマニュエル・ベアールは作中を通じてほとんど全裸であり、「ワイセツか芸術か」の物議をかもした問題作ですが、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しています(エマニュエル・ベアールはブライアン・デ・パルマ監督の「



「五月のミル」●原題:MILOU EN MAI●制作年:1989年(公開年:1990年)●制作国:フランス・イタリア●監督:ルイ・マル●製作:ルイ・マル/ヴィン・セントマル●脚
本:ジャン=クロード・カリエール●撮影:レナート・ベルタ●音楽:ステファン・グラッペリ●時間:107分●出演:ミュウミュウ/ミシェル・ピコリ/ミシェル・デュショーソワ/ブルーノ・カレット/ポーレット・デュボー/ハリエット•ウォルター/マルティーヌ・ゴーティエ/ドミニク・ブラン/ロゼン・ル・タレク/フランソワ・ベルレアン/ルノー・ダネール●日本公開:1990/08●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(90-10-10)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(15-04-18)(評価:★★★☆)
題:LA BELLE NOISEUSE(英:BEAUTIFUL TROUBLEMAKER)●制作年:1991年●制作国:フランス●監督:ジャック・リヴェット●製作:マルティーヌ・マリニャック●脚本:パスカル・ポニツェール/クリスティーヌ・ロラン/ジャック・リヴェット●撮影:ウィリアム・リュプチャンスキー●音楽:イゴール・ストラヴィンスキー●原作:「バルザック 知られざる傑作」●時間:91分(VHS版)・131分(2時間編集版)・237分(ノーカット版)●出演:ミシェル・ピコリ/ジェーン・バーキン/エマニュエル・ベアール/マリアンヌ・ドニクール/ダヴィッド・バースタイン/ジル・アルボナ/マリー・ベリュック/マリー=クロード・ロジェ●日本公開:1992/05●配給:コムストック(評価:★★★★) 


米国人外科医リチャード・ウォーカー(ハリソン・フォード)は、学会で講演するために妻サンドラ(ベティ・バックリー)と共にパリを訪れていた。新婚旅行以来のパリに心を弾ませていた彼だったが、ホテルにチェックインした後、
スーツケースが空港で誰かのものと取り違えてしまったことに気づく。明日にでも取り替えてもらうよう妻に言ってシャワーを浴びるが、その間に妻はホテルの部屋から忽然と姿を消してしまう。幾つかの関係先に問い合わせるも本気で取り合ってもらえず、逆に妻の浮気を疑われるという不本意な状況の中、ある目撃情報から妻の装身具を路上で発見、彼は妻は誘拐されたと確信し単身で捜索に乗り出す―。
ロマン・ポランスキー監督(左写真)の1988年作品で、タイトルの「フランティック」(frantic)とは、「気が狂ったような」という意味であり、妻の誘拐事件にパニックになる主人公の姿を指しています。ハリソン・フォードはプライベートで妊娠中の当時の妻メッリサ・マシスンとパリ旅行に行った際にポランスキー監督と出会い、その時にこの作品の企画を打ち明けられ、異郷のパリで主人公の心情に近い立場だったこともあって喜んで出演をOKしたという裏話があります(ポランスキー監督はこの映画にミシェル役で出演したエマニュエル・セニエと'89年に結婚した)。
主人公が誤って持ち帰ったスーツケースは、運び屋の女ミシェル(エマニュエル・セニエ)が米国から持ち込んだ核兵器の起爆装置が隠されたもので、彼女に行き着いた主人公は、その起爆装置の争奪に躍起になるアラブ人グループとそれを阻止せんとするイスラエル側の攻防の中、ミシェルを救ったりしながら自らも妻の捜索にあたる―。
この映画は、公開時に結構評価が割れたような気がします。ロマン・ポランスキーにしてはクセが無いオーソドックスなサスペンスですが、ストレートにサスペンスとして見
るとやや盛り上がりに欠け、ヒッチコック作品ほどの完成度にも至っていないといのがマイナス評価の理由でしょうか。大掛かりな仕掛けが出てこないこともあって、TVのミステリードラマを見ているような印象もあります。しかしながら、パリの街の雰囲気を自らがエトランゼになった気分で味わえ、ハリソン・フォードの好演もあって、個人的評価としては「○」です。特にハリソン・フォードが、主人公の医師が不測の事態にキリキリ舞いさせられる様を見事に演じていたように思います。
ハリソン・フォードは当時、「インディ・ジョーンズ」シリーズからのイメージ・チェンジを図っており、既に「
古典的TVシリーズのリメイク「
「フランティック」●原題:FRANTIC●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ロマン・ポランスキー●製作:ティム・ハンプトン/トム・マウント●脚本:ロマン・ポランスキー/ジェラール・ブラッシュ/ロバート・タウン/ジェフ・グロスン●撮影:ヴィトルド・ソボチンスキ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:120分●出演:ハリソン・フォード/エマニュエル・セニエ/ベティ・バックリー/ジョン・マホーニー/ジミー・レイ・ウィークス/ジェラール・クライン/パトリス・メレネク/イヴ・レニエ/リシャール・デュー/ドミニク・ピノン/ジャック・シロン//パトリック・フラールシェン/





![名探偵ポワロ[完全版]Vol.10.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DVol.10.jpg)


何者かによる英国首相の襲撃事件があったが、首相は顔にかすり傷を負ったのみで難を逃れ、国際連盟の会議に出席するべく渡仏する。関係者がほっと安堵した矢先に今度は首相誘拐の報が入り、国家機密問題として外務省のサー・バーナードからジャップ警部の推薦を介してポワロに捜査要請が下る。会議までに残された時間は32時間と15分。差し迫った状況にも関わらず、ポワロは渡仏前の首相の英国での襲撃事件ばかりを調べて、一向にフランスへ渡る気配を見せない―(第18話「誘拐された総理大臣」)。
「名探偵ポワロ」の第18話(第2シーズン第8話)で本国放映は1990年2月25日、本邦初放映は1991年2月26日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「首相誘拐事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「誘拐された総理大臣」)、新潮文庫『クリスティ短編集2』(「首相誘拐事件」)などに所収などに所収。
ポワロはフランスで首相と共に襲撃されたというダニエルズ中佐が英国に帰って来ているというので会いに行きます(事件当時の運転手にも会いに行くがこちらは行方不明に)。なかなか渡仏しないポワロに対しサー・バーナードは苛立ちを露わにし(原作と異なり最後まで渡仏しない)、「(ポワロを推薦した)私の年金もパアかも」と嘆くジャップ警部に、ポワロは以前に中佐と派手に離婚争議をやったという元妻イモジャン(ミス・レモン、ここでもゴシップ通を発揮)のことを調べるよう依頼します。
この辺りから何となく読めてしまう感じもします。ポワロ・シリーズで政治や外交を扱ったものは大味になりがちだという典型例かも(警察だけでなく軍隊まで登場)。分かり易く映像化されていますが、その分、替え玉工作の"無理さ加減"などが露呈した印象も。

ベルギー出身の国際的映画スター、マリー・マーベルのもとに、満月の晩にダイヤ"西洋の星"を盗むという脅迫状が届いた。西洋の星には対になる宝石があり、それはレディー・ヤードリーの持つ"東洋の星"と呼ばれるダイヤだという。そして、ヤードリー家にも脅迫状が届いているらしい。レディー・ヤードリーがポワロとヘイスティングスにその宝石を披露した直後、"東洋の星"は盗まれてしまい、やがて"西洋の星"もマリー・マーベルも元から消えてしまう―(第19話「西洋の星の盗難事件」)。
「名探偵ポワロ」の第19話(第2シーズン第9話)で本国放映は1990年3月4日、本邦初放映は1991年6月29日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「〈西洋の星〉盗難事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「西洋の星の事件」)などに所収などに所収。
いかにも悪そうな奴らの間に更に仲介人がいて話がややこしくなる一方で、「辮髪の男が...」といったところからして嘘臭く、何となく話が見えにくい一方で、何となくミエミエな面もあるという、観ていて落ち着かない印象でしょうか。
レディー・ヤードリーは最後良かったね、という感じ。もとは言えば、海外で"色男"に靡いてしまったという身から出た錆でもあっただけに、ポワロにどれだけ感謝しても感謝し切れないだろうなあ。一方のマリー・マーベルの方は、ポワロは彼女に悲しい知らせを伝えなければならないと言っていましたが、へイスティングスに対しては、悪党男と切れて良かったと言っています。無理にそう思い込もうとしているのではなく、ポワロ自身の本音でしょうね。全然"いい男"そうでもないし、こんなのが、彼女だけでなく、レディー・ヤードリーまで巻き込んだのが不思議ですが、この部分にケチをつけても仕方がないのでしょう。事件が解決しているのに、"消えたもう一つのダイヤ"はどこにいったのかと案じるへイスティングスは、視聴者に優越感を与えるための存在か?




暫く面白い事件もなく、ポワロは落ち込んで引退を口走り、へイスティングスを連れて北部の海辺の町ウィットコムに観光に赴く。町にはジャップ警部の講演ポスターが貼られ、本人も姿を見せるが何故かポワロは素っ気無い。ヘイスティングスはポワロ
を、湖の町ウインダミアへのバス旅行に誘う。二人はバスの中でメアリーという娘と知り合った。彼女は、骨董屋を営む叔母から、掘り出し物の画集を得意先に届けるように頼まれていた。ポワロが気に留めたもう一人のバス客は、貧弱な口髭の青年で、これは態度が失礼だったため。観光地でヘイスティングスがメアリーとランチをしている時、メアリーは突然走り出し、自分のスーツケースをその青年が盗ろうとしていると...。しかし、これは間違いで、よく似たスーツケースだったようだ。その夜、ヘイスティングスらと同宿のホテルでメアリーは、画集が盗まれたと言って騒ぎ出す。盗難届を出し、得意先にも行くと、既に絵は何者かによって得意先に売却されていた―(第16話「二重の罪」)。
「名探偵ポワロ」の第16話(第2シーズン第6話)で本国放映は1990年2月11日、本邦初放映は1991年1月22日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。
このプロットには誰でもまんまと引っ掛かるのではないでしょうか。前半部分が映像上の"叙述トリック"になっていないか、もう一度観直してみる必要はある気がしますが、プロット自体は原作にほぼ忠実に作られているようです。ポワロの謎解きが終わった後、共犯者がポワロに毒づき、そのことによって、ああ、共犯者もいたのかと思い出したくらいですから、自分もヘイスティングスと似たようなものか。
ポアロは、あるパーティーで、若夫婦のロビンソン夫妻から自分たちが分不相応な高級マンションを格安で借りることが出来たという話を耳にし、この話の背後に何か事件が拘わっていると考え捜査に乗り出す。一方、スコットランドヤードでは、ジャップ警部が、アメリカからやって来たFBI捜査官たちと、国際的なスパイ事件に関する合同捜査を行っていた―(第17話「安いマンションの事件」)。
「名探偵ポワロ」の第17話(第2シーズン第7話)で本国放映は1990年2月18日、本邦初放映は1991年2月5日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「安アパート事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「(「安アパート事件」)、新潮文庫『クリスティ短編集2』(「「安アパートの冒険」)などに所収。
冒頭でポワロ達が観ている映画はジェームス・キャグニー主演の「Gメン」('35年)という作品だそうで、当エピソードも、雰囲気的にはアメリカの犯罪サスペンス映画の雰囲気を取り入れたものと言えるでしょうか。プロット的には面白かったです(アーサー・コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』所収の「赤毛組合」に着想がやや似た印象も)。
ただ、アメリカで起きた事件の屋外シーンが、見るからにバックが"書割り"風で(高層ビル街などは垂れ布に描いた風)、パリのナイトクラブのシーンが雰囲気があっただけに、ギャップが大きかったように思います(好意的に解釈すれば、パリのナイトクラブは今ポワロ達が見ている光景であるのに対し、アメリカでの事件は、ポワロが謎解きに際して想像したものを映像化したものであるから、わざと作り物風にしているのだと?)。
FBIの態度のデカい捜査官が、最初はポワロのことを小馬鹿にしていたのが、最後は素直にその能力を認め、感謝と脱帽の意を表しているのが快く、ポワロもさることながら、ジャップ警部も溜飲を下げたのでは。
「名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件(安アパート事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE ADVENTURE OF THE CHEAP FLAT●制作国:イギリス●本国放映:1990/02/18●監督:リチャード・スペンス●脚本:クライブ・エクストン/ラッセル・


ポワロは残高の確認のため銀行へ行くが、引き出しオーバーで赤字と言われ激昂する。その深夜、ポワロの元にピアソン頭取が訪ねてきた。謝罪に来たのかと思ったポワロだが、事件の依頼である。銀行はウー・リンという中国人から、鉱山の場所を示す高価な地図を買う事になっていたのだが、約束の重役会にウー・リンは現れず、行方が分からないという。その翌日、ウー・リンの死体が発見されるが、地図は消えていた―(第13話「消えた廃坑」)。
「名探偵ポワロ」の第13話(第2シーズン第3話)で本国放映は1990年1月21日、本邦初放映は1990年7月25日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「消えた鉱山」)などに所収。
中華街のカジノ(アヘン窟でもある)での捜査など、ギャング映画っぽい雰囲気もあったし、一方で、ロンドン警察の最新システムという、無線連絡に沿って3人の婦警が地図上でミニチュアのパトカーを動かす奇妙な捜査方法などが出てきて、"ハードボイルド風"と"ホントウかいな風"が混在し、最後は、ポワロがウー・リンのパスポートと見せかけて...と、色々楽しめました。
冒頭のポワロが銀行のピアソン頭取が来たのを、謝罪しに来たのと勘違いする場面も可笑しく(原作のピアソンはビルマ鉱業の重役)、さらに可笑しいのが、モノポリーに真剣にハマっているポワロとへースティングス。ポワロは最初劣勢で、「駅にはホテルは建てられないよ」と指摘され、「実際にはあるじゃないか」「でもルールだし...」「じゃあルールが間違ってるんですよ!」とここでも激昂。「スキルなんかは全然関係のないゲームだね」と言っていたのが、ジャップ警部が訪ねてきてもゲームに熱中。事件が解決する頃にはへースティングスに圧勝し、全く逆の発言に...。因みに、残高不足はポワロの入金し忘れが原因でした。
雨の降る寒い日、ポワロの元に中年の女性が訪ねて来る。コーンワルのポルガーウイズに住む歯科医の妻ペンゲリー夫人である。夫人は胃の痛みを訴え、夫が助手のエドウィナといい仲になり、自分を殺すために毒を盛っているのではないかと話す。翌日、ポワロとヘイスティングスは夫人の住むコーンワルへ赴く。しかし、既に夫人は毒殺されていた―(第14話「コーンワルの毒殺事件」)。
ペンゲリー夫人への訪問を、彼女の方から訪ねて来た日の翌日ではなくその日にしていれば、夫人は殺害されずに済んだのではないかとの自責の念から、ポワロの事件捜査は夫人の弔い合戦の様相を呈し、また、おそらく裁判にかけられるであろう夫のペンゲリーを絞首台送りにしないためにも―と、結構最初から力が入っています。そして、ペンゲリーは実際に捕まり、裁判にかけられます(推理ドラマの"逆転のセオリー"からすれば、まず間違いなく無実だろうとの予測はつくが、その割には、当のペンゲリーは法廷でも無力化していたなあ。妻が亡くなったショックからか。毒殺事件において自らの無実を実証することの困難さというのもあるかも)。
最後、公判中のペンゲリーが犯人だと信じきって、のんびり立ち食いなんぞをしているジャップ警部に、ポワロが「勝算のない戦を続けるより、負けを認めるほうが利口です」と言って去っていったところへ、部下からの真犯人は別にいたとの報。ジャップ警部は「ポアロめぇっ!」と怒鳴りますが、ポワロが犯人を逃がす際に「2日以内に捕まる」と予言していることからすると、ジャップ警部に手柄を立てさせるための所為だったともとれます。因みに、それより前の事件直後に、ポワロはヘイスティングスに対し、警察はペンゲリーを逮捕し、彼が裁判にかけられることも予言しており、"ポワロの予言は的中する"ことの伏線になっているという構図が上手いと思いました。
「名探偵ポワロ(第13話)/消えた廃坑」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE LOST MINE●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/14●監督:エドワード・ベネット●![名探偵ポワロ[完全版]Vol.7.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DVol.7.jpg)
「名探偵ポワロ(第14話)/コーンワルの毒殺事件(コーンウォールの毒殺事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE CORNISH MYSTERY●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/28●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エク![名探偵ポワロ[完全版]Vol.8.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DVol.%EF%BC%98.jpg)



創立50周年の式典を行っているパイ工場。そのパイ工場の経営者ファーリーから一通の手紙を受け取ったポワロは、工場内にある彼の家を訪ねる。毎晩繰り返し、自分が自殺する不可解な夢を見ると彼は言い、誰かが催眠術で自分を殺そうとしているのではと疑っているのだった。ポワロは、その態度や依頼ともつかない彼の話に釈然としないまま工場を後にした。後日ファーリーが、ポワロに話した夢と同じような方法で自殺をする。しかしポワロは、その死に疑問を持ち調査を始める―(第10話「夢」)。
「名探偵ポワロ」の第10話(第1シーズン第10話)で本国放映は1989年3月12日、本邦初放映は1990年7月11日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。
サイコ・ミステリと思わせておいて...というのは、クリスティ作品に結構あるパターンではないでしょうか。今回はポワロはかなり行き詰った様子を見せ、「若い頃の放蕩」が今になって祟ったのではないかと彼らしからぬことまで口にしますが(ヘイスティングスもこのポワロには似つかわしくない言葉にはさすがに唖然とする)、偶々ポワロに時刻を聞かれたミス・レモンが窓を開けて時計台を見て答えた、その何でもないような彼女の行動を見て一気に閃きます。
では、その前までは、どこまで判っていたのか。ファーリーに例の手紙を返してくれと言われて最初別の手紙を返したのは単純ミスだったのか。でも、何となくおかしい雰囲気は感じていたようでした(自分も感じたけれど、どこがおかしいかは全然分からなかった)。結局、ポワロは犯人が○○していたのを見破ったわけですが、それは、ミス・レモンの啓示より前か同時か、気になるところです。
ポワロたちが、最近起きた宝石泥棒の話をしていると、伯爵令嬢のミリセントがある捜査の依頼をしにやってくる。公爵と結婚することになっている彼女は、ラビントンという男に、昔の恋人に出した手紙をネタにゆすられており、その手紙を取り返してほしいというのだ。ポワロはラビントンと交渉するが、話は
決裂する。やむなく、ポワロはヘイスティングスと共にラビントン家に押し入るが―(第12話「ベールをかけた女」)。
第10話「夢」では犯人が○○していましたが、今回はポワロが錠前屋を装ってラビントン家に単独入り込んで細工を施し、夜にまた、今度はヘイスティングスを伴って侵入、例の手紙は見つかりますが、通いだったはずの家政婦がいて警官に通報され、逃げ遅れたポワロのみ留置場に入れられてしまうという展開(但し、留置場に入れられるのはドラマのオリジナル)。
家政婦は最初から怪しいと思っていたということで(ということは「通い」というのがウソだったのか)、変装やアクションがイマイチなのがポワロらしいというか、先ずそれ以前に、スーパーマリオ・ブラザーズみたいな格好の"スイス人"錠前屋に扮したり、黒のニット帽を被って上下黒ずくめの出で立ちで不法侵入の危険を冒すところはポワロらしくないというか。やっぱり、結構ユニークなエピソードと言えるかも。
「名探偵ポワロ(第10話)/夢」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE DREAM●制作国:イギリス●本国放映:1989/03/12●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/アラン・ハワード(ベネディクト・ファーリー)、ジョエリー・リチャードソン(ジョアンナ・ファーリー)●日本放映:1990/07/11●放映局:NHK(評価:★★★☆)
●脚本:クライブ・エクストン●時間:54分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/フランシス・バーバー(レディー・ミリセント)/キャロル・ヘイマン(ゴッドバー夫人)●日本放映:1990/07/18●放映局:NHK(評価:★★★☆)




新型戦闘機の開発設計を手がける夫メイフィールドがドイツのスパイとの噂のあるバンダリン夫人を屋敷に招待していると知ったメイフィールド夫人。悩んだすえ国家の一大事とポワロに依頼し、屋敷に招くことに。その夜、まんまと設計図が紛失し、バンダリン夫人が盗んだと思われたが―(第8話「なぞの盗難事件」)。
「名探偵ポワロ」の第8話(第1シーズン第8話)で本国放映は1989年2月26日、本邦初放映は1990年3月10日(NHK)。原作はクリスティー文庫『死人の鏡』(「謎の盗難事件」)、創元推理文庫『死人の鏡』(「謎の盗難事件」)などに所収。
意外と凝っていたなあと。ポワロは、バンダリン夫人は犯人ではないと早々と宣言していましたが、ではシロかと言うとそうとも言えないのではないでしょうか。しかし、ドイツのスパイ組織と交渉したにしても、こんな面倒なトリックを使うかなあという気もしました(ポワロに見破られるための契機をわざわざ作ったことになる)。ちょっと凝り過ぎ?
最後、夫婦間の信頼が回復できて「めでたし、めでたし」、ポワロも表向き笑みを隠しながら、実は目を細めニッコリという感じですが、夫がかつて軍事秘密を敵国(日本)に売ったというのは、恐喝ネタになっていたということからすると本当だったということか。まあ、過去のことより、今のことの方が大事?
ポワロは、ヘイスティングスの友人が監督をしている撮影現場を見に行く。主演は人気絶頂の美人女優ヴァレリー、夫役はサイレント時代の大スター・ウォルトンだが、彼は酔っており台詞も満足に言えない。そして、現場で我もの顔にふるまっているプロデューサーのリードバーンがいた。ヴァレリーはある国の皇太子ポールと婚約しているが、リードバーンに何やら弱みを握られているらしい。その夜、ポワロの元に一本の電話がかかる。自宅にてリードバーンが殺され、第一発見者ヴァレリーの潔白を証明してほしいという依頼だった―(第9話「クラブのキング」)
「名探偵ポワロ」の第9話(第1シーズン第9話)で本国放映は1989年3月12日、本邦初放映は1990年3月17日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「クラブのキング」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「クラブのキング」)などに所収。
これも結構凝っていました。原作の興行主とダンサーの関係がプロデューサーと女優に置き換わっていますが、事件当夜ボスの自宅玄関前に三人の男女が次々と現れ慌てて立ち去る姿が見られたというのは原作と同じ。最初、オグランダー家(ここへヴァレリーが逃げ込み匿われる)でその家の家族たちポーカーをしていたその痕跡にポワロがこだわっている意味が不明でしたが、後でナルホドねと。但し、家族として義絶しているのに、隣りなり(プロデューサーの家の隣りだが)近所なりに住んでいるというのはご都合主義的な印象も受けます。
それと、やはり最後は「めでたし、めでたし」ですが(丁度嫌な奴もいなくなったことだし?―コレ、制作に口出しするプロデューサーを揶揄してる?)、事件そのものは「傷害致死」が成立しているとも言える状況でありながら、ポワロが意図的に迷宮入りにしてしまったとも言える結末で(これはドラマのオリジナルで、原作ではこの「傷害致死」に該当する部分が無かったのではないか)、この辺りが何となく素直に「めでたし、めでたし」とは言えない印象も。原作では、オグランダー家が家族を一徹なまでに守り切り、ポワロはそれに押されたという感じだったでしょうか(正確には未確認)。少なくともドラマでは、ポワロは積極的にオグランダー家に加担した印象を受けます(ポワロの台詞「家族万歳」!)。
ただ、死んだリードバーンから排斥され関係が険悪だったジプシー(ロマ)の中に犯人はいるのではないかとハナから疑ってかかって、真相からほど遠いところを漁っているジャップ警部からすれば、"ポワロにも解けない事件がある"というのは安心材料なのかも。
「名探偵ポワロ(第8話)/なぞの盗難事件(謎の盗難事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE INCREDIBLE THEFT●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/26●監督:エドワード・ベネット●脚本:デビッド・リード●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ジョン・ストライド(トミー・メイフィールド)/シアラン・マッデン(レディー・メイフィールド)●日本放映:1990/03/10●放映局:NHK(評価:★★★)
「名探偵ポワロ(第9話)/クラブのキング」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE KING OF CLUBS●制作国:イギリス●本国放映:1989/03/12●監督:レニー・ライ●脚本:マイケル・ベイカー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ニーヴ・キューザック(バレリー・サンクレア)/ジャック・クラフ(ポール皇太子)/Jonathan Coy(バニー・ソーンダース監督)/David Swift(リードバーン)●日本放映:1990/03/10●放映局:NHK(評価:★★★)


ポアロが住むホワイトヘイブンマンションの自宅56Bの二階下36B号室に、裕福なグラント夫人が引っ越してくる。 ポアロはこのところ風邪をこじらせて自室に閉じこもったまま元気が無く、見かねたヘイスティングスがポアロを推理劇に誘う。観劇で二人は、ポアロの直ぐ階下46B号室の住人で 若い女性パトリシア・マシューズを見かける。劇が終わり、アパートに戻ったマシューズと友人達は部屋の鍵が無い事に気付き、友人のドノバンとジミーがゴミ用エレベーターから入ろうとするが、間違えて1つ下の36B号室に入ってしまう。そこで二人はグラントの夫人の死体を発見する―(第5話「4階の部屋」)。
「名探偵ポワロ」の第5話(第1シーズン第5話)で本国放映は1989年2月5日、本邦初放映は1990年2月17日(NHK)。原作はクリスティー文庫『愛の探偵たち』(「四階のフラット」)、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』(「四階の部屋」)などに所収。
原作を多少変えているようですが、引っ越して来たグラント夫人が、1つ上の階のパトリシア・マシューズが友人と音楽とダンスに興じ、下の自分の階に響いてウルサイため、手紙で苦情を伝えようとした―と思わせる所は上手いと思いました。ただ、お手伝いが、部屋に入って来て死体に気づかないまま寝てしまったというのはどうか。何れにせよ、犯人を推理するのは無理な"知られざる背後関係"設定であり、それでもポワロは推理してしまうわけですが(しかも"速攻"で解決!)、意外性は楽しめる作品ではないでしょうか。
ポワロとヘイスティングスが船で乗り合わせたクラパトン大佐夫妻。夫人は傍若無人な言動をくり返すが、大佐はそんな妻にも献身的だった。それには夫人の古い友人の将軍も憤ったり呆れたりしている。ところが、船がアレクサンドリア港に停泊中、大佐が船に戻ると、鍵のかかった船室で夫人は殺されていた。アレキサンドリアの警察に介入されたくないというと船長の意向でポワロは捜査に乗り出す―(第7話「海上の悲劇」)。
「名探偵ポワロ」の第7話(第1シーズン第7話)で本国放映は1989年2月19日、本邦初放映は1990年3月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『黄色いアイリス』(「船上の怪事件」)、創元推理文庫『砂に書かれた三角』(「海上の悲劇」)などに所収。
優雅の地中海クルーズとそれに参加している貴族趣味っぽい乗客たち。どういう訳か、その中におそらく休暇中と思われるポワロとヘイスティングも混ざっています(ジャップ警部とミス・レモンは"お休み")。乗客の中でもとりわけ皆から嫌われているのがクラパトン夫人で、大佐はよくあんな女性の夫でいるものだと陰口を叩かれる始末。殺され
るならこの夫人だろうと思って観ていましたが(そうすれば皆が容疑者になるから)、肝腎の事件はなかなか事件は起こらず、船はアレクサンドリア港に寄港。「地中海殺人事件」ではないですが、観光情緒はそこそこ味わえます。TV版としては結構贅沢な方かも。
「名探偵ポワロ(第5話)/4階の部屋」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE THIRD FLOOR FLAT●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/05●監督:エドワード・ベネット●脚本:マイケル・ベイカー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /スザンヌ・バーデン(パトリシア・マシューズ)/ジョシィ・ローレンス(グラント夫人)●日本放映:1990/02/17●放映局:NHK(評価:★★★☆)

「名探偵ポワロ(第7話)/海上の悲劇(船上の怪事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: PROBLEM AT SEA●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/19●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /ジョン・ノーミントン(クラパトン大佐)/シェリア・アレン(クラパトン夫人)/ベン・アリス(ファウラー船長)●日本放映:1990/03/03●放映局:NHK(評価:★★★☆)![名探偵ポワロ[完全版]Vol.2.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DVol.2.jpg)


地方の大地主マーカス・ウェイバリーが、ポワロのところへ相談に訪れる。5万ポンドを支払わないと、翌日息子ジョニーを誘拐するという脅迫状を受け取ったと言うのだ。ヘイスティングスは、ウェイバリーの話を半信半疑で聞いていた。ポワロは、ウェイバリーを連れてジャップ警部を訪ねるが、ジャップ警部もまた事件としては扱ってくれない。事件を未然に防ぐことが重要だと考えるポワロは、ウェイバリー邸に赴き、やがてジャップ警部も部下を引き連れ警戒にあたるが、2人はジョニーを目の前で誘拐されてしまう―(第3話「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」)。
デヴィッド・スーシェ主演の英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第3話(第1シーズン第3話)で本国放映は1989年1月22日、本邦初放映は1990年1月27日(NHK)。原作はクリスティー文庫『愛の探偵たち』、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』などに所収。
振り返ってみれば、この回のポワロは結構犯人に翻弄されて、現場を離れた隙に子供を誘拐されてしまうなど複数のミスしている感じがするのですが(時計が10分進められていたことにポワロもジャップ警部も気
づかなかったというのはちょとねえ)、その割には「足行水」などして若干のんびりした雰囲気がするのは、事件が誘拐であって殺人事件ではないためか、それとも翻弄されているように見えて実は早い段階でポワロには犯人の目星がついていたためか。
友人の歯科医ボニントンとレストランで食事をしたポワロは、そこの常連客であるという老人が最近長年の習慣にないメニューを口にしたという話に興味を惹かれる。数日後、その老人は遺体で発見され、警察は階段からの転落事故死と判断したが、ポワロは老人が死の直前にレトランでとった行動の不自然さから不審を抱き、独自に調査に乗り出す―(第4話「24羽の黒つぐみ」)。
英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第4話(第1シーズン第4話)で本国放映は1989年1月29日、本邦初放映は1990年2月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』などに所収。
ミス・マープル物の長編『ポケットにライ麦を』と同じくマザーグースの"6ペンスの歌"がモチーフとして使われていますが、『ポケットにライ麦を』ほどには歌詞がプロットに絡んでいないように思いました。
ポワロが歯の治療中で肉料理が食べられず、自分で肉料理を作ってヘイスティングスに食べさせ、その味はどうかしきりに気にするという場面が可笑しかったし、抽象絵画を観てそのタイトルが「鳥に石を投げる男」だと聞いてヘイスティングスが「ほぅ。で、どっちが男?」と言ったり、ポワロがクリケットの試合に夢中で気も漫(そぞ)ろのヘイスティングスにイラついたり皮肉を言ったりしつつ、ラストで自ら試合結果を分析してみせヘイスティングスを唖然とさせる場面なども楽しいです。ただ、こうした場面ばかり印象に残って、ポワロの鋭さというのは意外と感じられなかったような気も。
「名探偵ポワロ(第3話)/ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE ADVENTURE OF JOHNNIE WAVERLY●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/22●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ジェフリー・ベイトマン(マーカス・ウェイバリー)/ジュリア・チャンバース/DOMINIC ROUGIER●日本放映:1990/01/27●放映局:NHK(評価:★★★☆)
「名探偵ポワロ(第4話)/24羽の黒つぐみ」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:FOUR AND TWENTY BLACKBIRDS●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/29●監督:レニー・ライ●脚本:ラッセル・マレー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン) /リチャード・ハワード(ジョージ・ロリマー)/トニー・エイトキン(トミー・ピナー)/CHARLES PEMBERTON/GEOFFREY LARDER/DENYS HAWTHORNE/HOLLY DE JONG●日本放映:1990/02/03●放映局:NHK(評価:★★★☆)

ヘイスティングスが新聞に載っている面白そうな事件を読み上げてみても、国家的重大事件でなければ引き受けないと言うポワロ。そんな彼のもとへコックが失踪したから探してくれという夫人が現れる。依頼を拒否しようとするポワロだったが、夫人から、熟練したコックがいなくなるのは家宝の宝石を失うに等しい国家的事件だと言われて、これは失礼だったと依頼を受けることに。ポワロが話を聞いた下働きの女性は、彼女は奴隷商人に誘拐されたに違いないと言うが、荷造りしていたために、誘拐ではなく、自分から姿を消したのだとポワロは考える。家に下宿している銀行員にも事情を聞くが、何も知らないと言う。彼の勤める銀行では証券紛失事件があり、不審に思ったポワロだが、そうこうするうちに依頼主の夫人から、コックが勝手に出て行ったなら依頼は取り消しだと1ギニーが送られてきてまう―(第1話「コックを捜せ」)。
デヴィッド・スーシェの主演英国LWT(London Weekend Television)制作「名探偵ポワロ」(ポワロの声の吹き替えは、昨年['15年]10月に88歳で亡くなった熊倉一雄が最終シリーズまで務めた)の第1シーズン第1話で本国放映は1989年1月8日、本邦初放映は1990年1月20日(NHK)(記念すべき第1話だが、日本での放送は第2話の方が1週先だった)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「料理人の失踪」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「料理女を捜せ」)などに所収。
結局、コック失踪事件は銀行の横領事件から殺人事件へと発展していき、プロットの密度は濃いですが、これでほぼ原作通りのようです。失踪したのはコックと言うより家付きの料理女といった感じでしたが、完全に犯人い騙されていたのだなあ。しかし、
殺人の犯行において死体を隠すというのは結構たいへんであるにしても、それ用のトランク1つのために、弁護士になりすますなどしてここまでやるかなあというのはあります(それで話が面白くなっているも確かだが)。ただ、同居人ということで、彼女がそういう話に乗ってくるタイプだということは読んでいたのでしょう(高齢者を狙った詐欺だね。金を奪うわけではないけれど)。
ガイ・フォークス・デイの夜、こんな晩なら銃声が花火の音にまぎれてしまうので殺人にはもってこいだとヘイスティングスは言うが、その翌日、女性が自宅で射殺体で発見される。被害者は、若き美貌の未亡人バーバラ・アレンで、当初自殺と思われたが、状況に不審な点があり、警察は
他殺と断定する。第一発見者は、ルームシェアをしていた女性写真家のジェーン・ブレンダーリースで、彼女にはアリバイがあり、他に容疑者として、被害者のバーバラと婚約していた下院議員
チャールズ・レイバトン・ウェスと、ジェーンとバーバラの部屋をしばしば訪れていたユースタス少佐が浮上する。さらに、少佐は被害者との過去の愛人関係を理由にして、恐喝していたようだった―(第2話「ミューズ街の殺人」)。
英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第2話(第1シーズン第2話)で本国放映は1989年1月15日、本邦初放映は1990年1月13日(NHK)。原作はクリスティー文庫『死人の鏡』(「厩舎街の殺人」)、創元推理文庫『死人の鏡』(「厩舎街の殺人」)などに所収。"ミューズ"は"Muse"ではなく"Mews(厩舎)"で、転じて厩から通りまでの「路地」を言います。
ガイ・フォークス・デイ(11月5日)は、1605年の「火薬陰謀事件」で国会爆破をもくろんだ実行犯のガイ・フォークスが捕らえられた
記念日で、祭りでは篝火で人形を燃やします(但し、ガイ・フォークスは火刑ではなく絞首刑に処せられた)。英語で「男、奴」を意味する"Guy"は彼の名に由来し、また、ガイ・フォークス・デイに人々が着けるお面は、アノニマス、ウィキリークスのジュリア・アサンジが"抵抗と匿名"のシンボルとして用いています。
話の方は、自殺だと思ったら他殺...と思ったら...と二転三転する展開に引き込まれますが、"犯人"はちゃんといましたね。"犯人"と言っていいのかどうか分かりませんが、ポワ
ロははっきり「殺人未遂」と言ってます。この辺りの厳格さはポワロらしいという気がします。それでも"犯人"の気持ちが分からないでもないですが。


![名探偵ポワロ [レンタル落ち] 全52巻.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%20%5B%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E8%90%BD%E3%81%A1%5D%20%E5%85%A852%E5%B7%BB.jpg)
「名探偵ポワロ(第1話)/コックを捜せ(炊事婦の失踪)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE ADVENTURE OF THE CLAPHAM COOK●制
作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/08●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ブリジット・フォーサイス
国:イギリス●本国放映:1989/01/15●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・




「今現在」を「1970年11月25日」に置いて、三島(緒形拳)が自決した当日の起床からの経過を現在進行形でカラー・ドキュメンタリー風に描き、その「今現在」の時の流れをベースに、三島の幼少期から「楯の会」結成までの半生をモノクロームで描いた「フラッシュバック(回想)」シーンを交える一方、第1章「美(beauty)」で『金閣寺』、第2章「芸術(art)」で『鏡子の家(Kyoko's House)』、第3章「行動(action)」で『奔馬(Runaway Horses)』(『豊饒の海』第2部)の各作品をダ
イジェストで映像化しており、最後の第4章「文武両道(harmony of pen and sword)」で、三
島が市ヶ谷駐屯地に到着した場面から自決に至るまでを描いています。こうなるとかなり複雑な印象を与
えますが、回想部分はモノクロで、作品部分は「劇中劇」として極めて演劇的に作られているため(石岡瑛子(1938-2012/73歳没)が美術担当)、観ていてたいへん分かり易いものとなっています。
冒頭で、三島が母(大谷直子)や祖母(加藤治子)との特異な幼少期を経て、思春期から同性愛的指向を自覚したことなどを紹介、第1章では簡略化された『金閣寺』が劇中劇として描かれ、ドモリでコンプレックスの
塊のような学生(ある意味、三島のペルソナである)で金閣寺の住職になることを目指して修行する溝口(五代目 坂東八十助=十代目 坂東三津五郎)が、障害者でありながらをそれを逆手にとって高い階級の女を籠絡している柏木(佐藤浩市)と出会い、その

手ほどきで女性に接するも臆して何もできなかった後(ここでフラッシュバックで青年期の三島(利重剛)が病弱だったために戦争の徴兵を逃れ得たことなどが描かれる)、今度は老師(笠智衆)から施された
金で遊郭で遊女(萬田久子)を抱き、女に「どでかいことをする」と言うが、それは金閣寺を燃やすことだった―とい
うもの(ここで三島が自邸を出て「盾の会」のメンバーと市ヶ谷駐屯地へ向かうため車に乗り込む"現在"のシーンに切り替わり、更に今度は、モノクロで『潮騒』などの作品で作家として高い評価を得た頃の三島を描く)。 
第2章では『鏡子の家』を演劇化しており、原作では鏡子というある種"巫女"的な女性を軸に、恵まれた結婚をし将来が嘱望されるエリート会社員「清一郎」、拳闘家でボクシングで王座を獲る「俊
吉」、美貌の無名俳優でボディビルで鋼の肉体を得る「収」、天分豊かな童貞の日本画家で画壇での名声を博す「夏雄」の4人が登場しますが(それぞれが三島のペルソナと言える)、ここでは俳優の「収」(沢田研二)にフォーカスして、母親(左幸子)や恋人(烏丸せつこ)との関係を描いています(ここでまたモノクロのフラッシュバックになり、男とダ
ンスし―ダンス相手のモデルは美輪明宏か―同性愛者として美醜にこだわり、ボディビル
によって肉体改造に励む三島の姿が描かれる)。次に、ラーメン屋台のような所に収、俊吉(倉田保昭)、夏雄(横尾忠則)がいて芸術談義をしていると思ったら、収は清美(李麗仙)という女社長に会って母親の負債を相殺するためのある種"奴隷契約"
を結ばされ(その間、三島のセミヌード写真の撮影模様や出演した映画のポスターなどがフラッシュバックで入る)、母親にはいい役がついたと報告し、最後はピンク色の部屋でその清美に自分の肉体をマゾヒスティックに傷つけられている―(ここで市ヶ谷に向かう車中の三島と「盾の会」のメンバーのシーンに切り替わる)。
第3章は、『奔馬』の主人公・飯沼勲(永島敏行)を描いた劇中劇で、剣道3段の飯島青年が政界
の黒幕を倒すべく陸軍中尉(勝野洋)や同志らとクーデターを謀るという二・二六事件をモチーフにした原作通り
の展開で(フラッシュバックで日本刀を振るって剣術に精進する三島が描かれる)、彼が首謀者となって同じ学生仲間らと決行を誓い合いますが(そこでまた緒形拳演じる三島の歩んできた道のフラッシュバックで、「盾の会」の結成やその閲兵式の模様が描かれ、更に、'69年の東大全共闘との討論会の様子が描かれる)、事を起こす前に飯島らは逮捕され、飯島は聴取にあたった尋問官(池部良)に拷問してくれと
頼むが叶わない。その後、飯島は脱獄に成功し、政界の黒幕・蔵原(根上淳)を暗殺
すると、海を見渡す断崖へと直行し、暁の太陽を背に割腹自殺を図る―(ここでいきなり、映画「憂国」の切腹シーンを撮影中の三島のモノクロ・フラッシュバックになる。そして、映画「憂国」の完成記者会見の模様が入る)。
第4章は、これまで「今現在」として描かれてきた「1970年11月25日」の部分の続きで、三島らが市ヶ谷駐屯地に到着してから自決に至るまでが描かれており(間にフラッシュバックで「盾の会」の自衛隊体験入隊の模様が描かれる)、自決前のバルコニーでの演説をはじめ、「三
島事件」を克明に描いています(更に間に、ロッキードF104戦闘機に試乗した際の模様が描かれる)。最後に三島が切腹して雄叫びする場面に続いて、第1部から第3部の小説のラスト
シーンがワンカットずつ描かれ、『奔馬』の最後の一行のナレーションと共に、冒頭のタイトルバックにあった太陽が正面に昇っている風景でエンドロールとなります。なお、「フラッシュバック」で描かれる半生の挿話やナレーションには、自伝的小説『仮面の告白』や随筆『太陽と鉄』などからの引用が使用されています。
優として知られ、2013年のゴールデングローブ賞授賞式において、自身が同性愛者であることをほぼ公表したジョディ・フォスターが絶賛している)。主人公の三島の役は、最初は高倉健にオファー
されていたらしいのですが(高倉健はポール・シュレイダー脚本、シドニー・ポラック監督の「
ものの、ここまで三島の作品と人生を再現していれば立派なものだと思います(それが理解できるかどうかはまた別の問題として)。細かい点で事実と異なるとの指摘もあるようですが(第2章のフラッシュバックに写真集『薔薇刑』の撮影模様があるが、三島はこの映画のように撮影の際に自らカメラのアングルを指示するようなことはなく、完全に「被写体」に徹していたという当のカメラマン
結局、上映自体が遺族側の了解が得られず、作品は日本では劇場公開されなかったわけで、惜しいことです(同性愛を示唆する場面は結構あったが、それ以外に政治的な理由があったともされている)。長年ビデオ・DVD化されない「幻の作品」であっため、自分自身も、中身がよく分からないのでやや"色物"的な作品ではないかとの先入観が以前はありましたが、『三島由紀夫と一九七〇年』('10年/鹿砦社)付録として"ゲリラ・リリース"された米国版DVD(区の図書館で借りられた)で観てみると、映像も綺麗だし、演技陣も錚々たるメンバーであり、また、よく演出したものだと思いました。作家とその作品の関係性を描くという意味でも非常に大胆な試みであり、それは100%成功しているわけではないですが、分かり易いというだけでも評価できるのではないでしょうか。

稔 [第1章・金閣寺]坂東八十助/佐藤浩市/萬田久子/沖直美/高倉美貴/辻伊万里/笠智衆(米国版のみ) [第2章・鏡子の家]沢田研二/左幸子/烏丸せつこ/倉田保昭/横尾忠則/李麗仙/平田満 [第3章・奔馬]永島敏行/池部良/誠直也/勝野洋/根上淳/井田弘樹●米国公開:1985/10●DVD発売:2010/11●発売元:鹿砦社(『三島由紀夫と一九七〇年』附録)(評価:★★★★)






があり、これを日本人をバカにしていると観客がとれば日本では受けないとして配給会社が配給を見送ったようですが、ちょっと世に出るのが早すぎたでしょうか。監督は後に「![黒い画集 あるサラリーマンの証言[1].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E9%BB%92%E3%81%84%E7%94%BB%E9%9B%86%E3%80%80%E3%81%82%E3%82%8B%E3%82%B5%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%81%AE%E8%A8%BC%E8%A8%80%5B1%5D.jpg)

「アパートの鍵貸します」('60年/米)は、アカデミー賞の作品賞、監督賞など5部門受賞した作品で、和田誠氏が『お楽しみはこれからだ』シリーズなどで何度も取り上げている作品でもあります。出世の足掛かりにと、上役の情事のためにせっせと自分のアパートを貸している会社員バドことC・C・バクスター(ジャック・レモン)でしたが、人事部長のJ・D・シェルドレイク(
フレッド・マクマレイ)が自分の部屋に連れ込んで来たのが、何と自身の意中の人であるエレベーターガールのフラン(シャーリー・マクレーン)だったというよく知られた

のに対し、あの試合は巨人対南海線で、日本シリーズではなく1リーグ制の時の試合だと川本氏が指摘しているのがマニアックです。志村喬が野球監督を演じた「男ありて」('55年/東宝)を取り上げると、川本氏が「素晴らしい映画」だとすかさずフォローするのが嬉しいです。
れてきて飲ませるビールは"配給"だったとか(そう言えば、今日はたまたまビールが手に入ったようなことを志村喬が言ってたっけ)、一方、小津安二郎はサントリーと提携してい
て、「
このウィスキーは」と言わせているとか、岸田今日子がやっている店がトリスバーだとか。なるほどで。それでいて、冒頭の川崎球場の照明塔のシーンでサッポロビールとあるから、川本氏が言うように両方から金もらっていたのか(因みに、サントリーがビール事業に再進出したのは1963(昭和38)年で、この映画が公開された翌年)。小津映画では酒好きの中村伸郎のために、飲むシーンは実際に酒を飲ませ、肴もウニだったりしたというからスゴイね。笠智衆は下戸だったけれど、東野英治郎は本当に酔っぱらっていたわけかあ。
A級、B級問わずと言うことで、黒澤や小津といった巨匠ばかりでなく、前田葉子主演の「女競輪王」('56年/新東宝)なんて作品なんかも取り上げているのが何だか嬉しいです。




「黒い画集 あるサラリーマンの証言」●制作年:1960年●監督:堀川弘通●製作:大塚和/高島幸夫●脚本:橋本忍●撮影:中井朝一●原作:松本清張「証言」●時間:95分●出演:小林桂樹/中北千枝子/平山瑛子/依田宣/原佐和子/江原達治/中丸忠雄/西村晃/平田昭彦/小池朝雄/織田政雄/菅井きん/小西瑠美/児玉清/中村伸郎/小栗一也/佐田豊/三津田健/西村晃/、平田昭彦●公開:1960/03●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸地下 (88-01-23)(評価★★★☆)

「アパートの鍵貸します」●原題:THE APARTMENT●制作年:1960年●制作国:アメリカ●監督・製作:ビリー・ワイルダー●脚本:ビリー・ワイルダー/I・A・L
・ダイアモンド●撮影:ジョセフ・ラシェル●音楽:アドルフ・ドイッチ●時間:120分●出演:ジャック・レモン/シャーリー・マクレーン/フレッド・マクマレイ/レイ・ウォルストン/ジャック・クラスチェン/デイビット・ホワイト/ホープ・ホリデイ/デイビット・ルイス/ジョアン・ショウリイ/エディ・アダムス/ナオミ・スティーブンス●日本公開:1960/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:銀座文化2(86-06-13) (評価:★★★★)







恩師スコット博士に婚約の報告に出かけた恋人同士のブラッド(バリー・ボストウィック)とジャネット(スーザン・サランドン)は、嵐の中で道に迷った末に山中で車がパンクしてしまい、電話を借りようと近くの古城を訪ねるが、そこでは奇怪なパーティーが開かれていた。城主フランクン・フルター(ティム・カリー)は変わった人物で、彼自身が作った人造人間、ブロンドで筋肉質の美男子「ロッキー」を披露する。そしてフルターとロッキーは、結婚するような演出でベッドのある部屋へと向かうが、ジャネットがロッキーの虜になってしまう。さらに、バイセクシュアルのフルターは、ジャネットとブラッドの両方と関係を持ってしまう―。
ジム・シャーマン監督の「ロッキー・ホラー・ショー」('75年/英)は、最初に名画座で観た時はロック・オペラってこんなのもあるのかという感じで(元々はロンドンで初演された劇場ミュージカル)、併映のロマン・ポランスキーの
ベルリンにあるハンバ
ーガー・ショップ「バーガー・クイーン」は、NYのハーレム出身ダンサーでトランスベイター(性転換者)のアンジー・スターダストが経営する店であり、類が友を呼んで世間のはみ出し者の米国人たちの溜まり場になっている。"バーガー・クイーン・ブルース"を歌うライラは、売春街から東ドイツへ渡って成功したパンク・スター、エロチックな空中ブランコ・ショウを見せるためにやって来たジュディスとパートナーのトロンは、アンジーの"スターダスト・ペンション"に棲むことになるが、隣部屋の売れない黒人ダンサーのゲイリーが魔術や妖術に凝っていて、自室に火をつけてしまう。ストリッパーのタラもトランスベイター(日本流に言えばニューハーフ)で、夜毎、違う男をベッドに連れ込んで同居人のロレッタを困らせる。「バーガー・クイーン」の店員ヨアキンも、ショービジネスのスターをめざす両性具有者(アンドロギュヌス)である―。
「ベルリンブルース」('83年/西独)は、公開された時に「ロッキー・ホラー・ショー」の再来と言われた、西ドイツの異色監督ローザ・フォン・ブラウンハイムの1986年作品で、ドイツらしいアナーキーな雰囲気に満ちたカルト・ムービーですが、不快感とかは無く最後まで楽しめました(むしろ最後の大合唱は、マイノリティの人たちが誇り高く生き続けることを宣言しているようで感動させられた)。ブラウンハイム監督自身もホモセクシュアルであることを公言し、同性愛者や性的倒錯をテーマに撮りまくっていて、出演者たちも実在のベルリン在住アメリカ人グループで、実名で出ていて現実の仕事と同じ役どころを演じています(つまり皆、本人役で出ているということ)。
後にパーシー・アドロン監督の

「ロッキー・ホラー・ショー」●原題:THE ROCKY HORROR SHOW●制作年:1975年●制作国:イギリス●監督:ジム・シャーマン●製作:作 マイケル・ホワイト●脚本:ジム・シャーマン/リチャード・オブライエン●撮影:ピーター・サシツキー●音楽:リチャード・ハートレイ●時間:99分●出演:ティム・カリー/バリー・ボストウィック/スーザン・サランドン/リチャード・オブライエン/パトリシア・クイン/ジョナサン・アダムス/ミート・ローフ/チャールズ・グレイ●日本公開:1978/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-02-06)●2回目:シネマライズ渋谷(地下1階)(88-07-17)(評価:★★★?)●併映(1回目):「ファントム・オブ・パラダイス」(ブライアン・デ・パルマ) 



F))(303席)」になる。2004年、3スクリーン目、デジタル上映劇場「ライズX(38席)」を地下のバースペースに増設。地下1階スクリーン「(元)シネマライズ渋谷」2010年6月20日閉館、跡地はライブハウス「WWW」に(地下2階「ライズⅩ」2010年6月18日閉館、地上2階「シネマライズ」2016年1月7日閉館)。
作年:1983年●制作国:西ドイツ●監督・脚本・製作:ローザ・フォン・ブラウンハイム●撮影:シュテファン・ケスター●音楽:ホルガー・ミュンツァー/アレクサンダー・クロート●美術:インゲ・スティボルスキー●時間:91分●出演:レアンジー・スターダスト/ジェイン・カウンティ/ジュディス・フレックス/ロン・フォン・ハリウッド●日本公開:1986/10●配給:ユーロスぺース●最初に観た場所:渋谷・ユーロスペース(86-12-06)(評価:★★★★) 「


一人暮らしの若い女性が連続して殺害され、被害者2人の共通点を探したモースは、彼女らがクルマを何れもディーラーのボイントン(パトリック・マラハイド)から買っていること、ボイントンは被害者ソーン(ジュリア・レーン)とも接点があり、被害者の女友達アンジー(テッサ・ウォーツザック)を脅迫するなどしていたことから、物証はないもののボイントンを犯人と確信、自動車会社の隣の自動車教習所のベテラン教習官ウィテカー(デヴィッド・ライアル)のもとへ教習を受けるため定期的に通うことで、ボイントンにプレッシャーをかける。捜査に参入した犯罪心理学の専門家である女性捜査官メイトランド(メアリー・ジョー・ランドル)は、初めはモースの強引な捜査に違和感を覚えるが、次第にモースの被害者への同情や犯罪への怒り、そして捜査そのものに対する彼の姿勢に共感を覚えるようになっていく―。
「主任警部モース」シリーズの第14話で、1990年に本国で放映され、2000年に日本語字幕付きVHSが発売されています。「
時々、自らの思い込みから暴走することがあるモース。今回はその典型で、誤認逮捕の挙句、最後は包丁を持った真犯人と車内で格闘し、自分の命まで危機に晒される―という、事件的には踏んだり蹴ったりのエピソード、刑事ドラマの最後の方で、主役の刑事が誤認逮捕した相手に誤っている場面が来るというのも冴えない話ですが、モースと女性捜査官メイトランドとの心理的関係の推移が思いの外に楽しめました。
ラスト、犯人との格闘で腕を負傷したモースがその腕を使って作業しているのを見て、メイトランドが医者に禁じられているのでは気遣ったところ、自分は天邪鬼だから人に言われたことと反対の事をすると言うモース。それに対して、「じゃ、私に電話しないでね」と言って去っていくメイトランド―この遣り取りが良かったです。
「主任警部モース(第14話)/死を呼ぶドライブ」●原題:INSPECTOR MORSE:DRIVEN TO DISTRACTION●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/17 ●監督:サンディ・ジョンソン●脚本:アンソニー・ミンゲラ●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/パトリック・マラハイド/メアリー・ジョー・ランドル/ジュリア・レーン/テッサ・ウォーツザック/デヴィッド・ライアル●ⅤHS発売:2000/12●発売元:日本クラウン(評価:★★★★)

モースも一員である合唱団のオペラ公演「魔笛」のリハーサルに、彼は車で女友達のベリル(マデリーン・ニュートン)と駆けつけるが、運転の荒っぽさを彼女に詰られ、帰りは別行動でと言われてしまう。そのベリスが、一時稽古場を離れた隙に殺害された。悲鳴を聞き、第一発見者となったモースは、凶器の包丁を拾い上げて容疑者となってしまう。モースのことを良くは思っていないボトムリー警部(リチャード・ケイン)が捜査の指揮を執り、ルイスがその配下に付くが、次々とモースに不利な証拠が現れ、濡れ衣を晴らそうとするモースは、逆に追いつめられていく―。
オペラ好きのモースは、オペラの合唱団にも入っていたわけか(モースの前列には、原作
者のコリン・デクスターがいて、結構大映しになっているカットがある)。殺害されたべリルは、モースが好意を抱き、かなり積極的にアプローチしていた女性。モース自身も自宅で不審火に見舞われ、自慢のLP盤コレクションがかなりの被害に遭った模様です(トスカニーニの「魔笛」を最悪としているけれど、これ、演奏はBBC交響楽団のものか?)
かつて自分が捕まえた天才的詐欺師ド・フリースが怪しいと睨んだモースでしたが、彼は記録上は海外で獄死したことになっていて、但し、ルイスが調べてみると、コンピュータをハッキングしてデータを改竄していたらしい。時としてモースに反感を抱き、前話ではモースの強引な捜査に反発していたルイスですが、今回は最初から無能なボトムリー警部(フリーメーソン信者らしい)は相手にせず、モース一辺倒でした。しかも、得意なコンピュータでハッキングを突き止めるという、IT犯罪捜査官のような活躍ぶり(操っているのは、黒い画面にグリーンの文字が出るMS-DOSコンピュータみたいだが)。
「機械オンチのモースに犯行は無理で、犯人はモースよりずっと頭がいい」というルイスの言い分は可笑しいですが、やはりド・フリースは生きていて(冒頭のオペラ・リハーサルの衣装係に注目)、モースをその命を奪えるところまで追い詰めるも、アッカンベーするみたいな感じで逃げていく。そして、意外な共犯者と合流。しかし、その途端に警察に包囲され、モースがちょっと前に見た幻視通りに―。
モースはルイスに「魔笛」を知らないと事件の話が通じにくいと言い放ち、自分はもう(こんな事件があって)合唱隊は辞めるとしながらも、ルイスにはベリル追悼公演となった「魔笛」を半ば無理矢理聴きに行かせますが、ルイスは台詞がさっぱり聴き取れないと言って途中で夫婦で会場を抜け出してしまいました。「魔笛」は普通ドイツ語でやりますから、台詞が解らなくて当然なのですが、この辺りは労働者階級出身のルイスらしかったかな(映画「アマデウス」では映画観客層に合わせてモーツアルト歌劇を全部英語でやっていたけれど)。でも、ルイスがハッキングを突き止め、自分の疑いを晴らした時などは、モースは感謝の祝杯を挙げるという心遣いもみせています(これも、自分が久しぶりに呑みたかったという理由の方が大きいか)。

150年もの歴史を誇るラドフォード醸造社の社長トレヴァー(アンディ・ブラッドフォード)が酒樽の中で死体で見つかる。ライバル企業からの買収問題に揺れるラドフォード家では、自立再建派の被害者と会社売却派の弟スティーブン(ポール・シェリー)との間に確執があり、更にスティーブンは、元秘書の妻を差し置いて、兄トレヴァーの妻ヘレン(キム・トンソン)と親密状態にある。兄の死によって新社長となり、会社を売却の方に舵を切るかに思えたスティーブンだったが、彼もまた殺害され、酒樽の中で見つかる。息子2人を亡くしたチャールズ(ライオネル・ジェフリーズ)とその妻イザベル(イザベル・ディーン)が、会社の自立再建か売却かを決める重役会議を召集する。一方、トレヴァーの秘書ゲイルは、鉄道オタクの薬剤師ブリースと交際しているが、モースが事件を探る中で、ブリースとその母親は、ラドフォード社の創業に纏わる秘密があるらしいことが判る。そして、その秘密を知っているらしい弁護士ネルソンも殺害されてしまう―。
年/英)にもあります。ルイスの言葉遣いは庶民派で、弁護士の事務所にかかってきた犯人からと思われる電話の言葉遣いは上流階級のものだったということなのでしょう(その違いから閃いた)。鉄道オタクの薬剤師(それにしてはモデルのような美人の黒人の恋人がいる)の母親の言葉遣いは"庶民派"であり、よって犯人ではなく、実は母親は、第3の犯行が息子の仕業だと思って彼を庇ったのでした。
スティーブンの妻(リサ・ハーロウ)が、夫とは躰だけの関係で結婚したと割り切って、ラドフォード家の人々には愛想をつかしながらも、自宅室内プールでオペラ「椿姫」を聴きながらスイミングに勤しみ、ナイスボディだけは維持しているというのがなかなか良かったです(義姉に自分の夫を「貸し出してもいいのよ」と言う発想がスゴイね。体力ありそうだし、一時、彼女が真犯人ではないかと...)。まあ、彼女にはラドフォード家の遺産相続人である2人の子供もいるわけだし、伝統を重んじ(カネへの執着もさることながら、それ以上に)不名誉を嫌うラドフォード家の人々の価値観の方に尋常ならざるもの![Inspector Morse Sins of the Fathers [Audiobook].jpg](http://hurec.bz/book-movie/Inspector%20Morse%20Sins%20of%20the%20Fathers%20%5BAudiobook%5D.jpg)



ある雨の夜、ボーフォートの学内討論会「環境問題は党派政治を超えるか」に学寮長のマシュー(ジェフリー・パルマー)と参加しようとしていたディア博士(デヴィッド・ニール)が、忘れ物を取りに戻った際に何者かに襲われ死亡し、学寮長は現場から逃げ去った若者とぶつかって負傷する。博士の直接の死因は心臓発作だったが、討論会での問題発言を阻止しようとした何者かの仕業なのか? 学寮長は化学肥料会社に投資して利益をあげていたが、その会社は環境問題を引き起こして問題になっていた。その告発記事を書いた「日曜新聞」の記者シルヴィ(チェリル・キャンベル)は学寮長の養女であり、今度の事件後に公邸を訪れ、家族に煙たがられながらも取材のため滞在していた。学寮長夫妻の娘イモジェン(イレーネ・リチャード)はかつて心に傷を負って大学を中退し、今は結婚して夫と厩舎を営んでいたが、今も神経を病んでおり、その原因は定かでない。学寮長の妻ブランチ(バーバラ・リー=ハント)は元ピアニストで、以前は庭師フィルの娘アマンダも彼女にピアノを習いに来ていた。モースは、学寮長の公邸に何度か届いた嫌がらせの小包と事件との関連を疑う一方、学寮長が事件の際に目撃した若者ミックに辿り着いて身柄を確保するが、彼は、自分が博士の傍に行った時には彼は既に死んでいたと言う。ミックと同性愛関係にあり、彼を匿っていた数学者のジェイク(トム・ウィルキンソン)はアメリカに高飛びし、ミックの部屋は何者かによって放火される。モースが、末期がんで入院中のミックの母親を病院に訪ねた際に、逃げ去る不審者を見つけて追跡するが捕り逃がしてしまう―。
今回は「倒叙法」できたのかと思わせるぐらい、冒頭から不審な素振りを見せる人物が出てきて、実は博士は学寮長と間違えられて殺害されたのではないかとのモースの見方が出てきた以降は、「第一容疑者」が目まぐるしく入れ替わる展開。モースも事件の展開に振り回され放しという感じの中、当の学寮長までも殺害されてしまいます。
一方のルイスは、現場に残された嘔吐物の分析に執心し、モースが相変わらずパブにちょくちょく立ち寄っては推理を纏めようとしているところへ、ビールを飲んでいるモースに向かってゲロの内容物の話ばかりするため、さすがにモースは嫌な顔をしますが、結局、このルイスの"ゲロへの執着"が、捜査が行き詰ったことに加え、上層部からの圧力もあって事件解明を諦めかけていたモースを、博士殺害の真犯人に導きます。





「ダイ・ハード シリーズ」の中で一番面白かったのはやはり第1作の「ダイ・ハード」('88年)であり、「テロ集団に襲われたロサンゼルスの高層ビル」という設定を生かして、縦のアクションに徹したのが成功した1つの要因だったと思います。
ブルース・ウィリス演じるニューヨーク市警マックレーン刑事は、これまでに無かった新たなヒーロー像を産み出した言えるし(その"嘆き節"も受けた)、マックレーンが高層ビル内で孤軍奮闘する状況の中、外部から無線の声だけでサポートする黒人刑官(レジナルド・ヴェルジョンソン)との男同士の見えない絆なども、観客を熱くさせるものがあったと思います。
また、英ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身のアラン・リックマン(1946-2016/享年69)演じるテロリストも良かったです。アラン・リックマンは「ロビン・フッド」('91年/米)でもケビン・コスナー演じるロビンの敵役の悪役を演じましたが、半ばコメディ仕立てということもあってか、「ダイ・ハード」で見せたほどの凄味や演技のキレはありませんでした(但し「ロビン・フッド」の演技で英国アカデミー賞助演男優賞を受賞している)。「ダイ・ハード」での好演は、リックマンの落下シーンで事前に打ち合わせていたタイミングより早く彼を落下させ、"素"の驚きの表情を撮るなどした、ジョン・マクティアナン監督の演出の妙にあるのでしょうか(撮影は、後に「スピード」('94年/米)を監督することになるヤン・デ・ボン)。
「ダイハード2」('90年)は、スイス出身で、「エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター最後の反撃」('88年/米)を撮ったレニー・ハーリンの監督作です。「エルム街の悪夢」シリーズは'84年から'97年までの間に7作作られいて、ライバルシリーズであった「13日の金曜日」シリーズは'88年から'02年までの間に10作作られています('03年には「フレディ vs ジェイソン」が作られている)。「エルム街の悪夢4」は「フレディ対超能力少女」で、その前に観た「13日の金曜日 PART6/ジェイソンは生きていた!」('86年/米)が、"ジェイソン"はコメディアンだったのか?と思えるほど怖くなかったのですが、「エルム街の悪夢4」
におけ
る"フレディ"のコメディアン化は、ジェイソンのそれを上回っているように思えました。そんなこともあって、「ダイハード2」も劇場に行くのをためらわれたのですが、劇場で観たらまあまあの出来だったでしょうか。但し、雪のワシントン・ダレス空港を舞台に(原作はウォルター・ウェイジャー『ケネディ空港/着陸不能』)、旅客機
の爆発、滑走路の大火災とスペクタル・シーンが大掛かりになった分だけ主人公のマックレーン刑事がスーパーマン化し、「1」と比べると大味な印象を受けました。レニー・ハーリンは、この後、シルヴェスター・スタローン主演の「クリフハンガー」('93年/米・仏・日)を撮っています(「ダイハード2」の終盤のクライマックスシーンでのマックレーン刑事が懐からライターを取り出すところから、彼がまだ喫煙者であったころが窺える)。
「ダイハード3」('95年)で監督をマクティアナン、舞台をニューヨークに戻して原点回帰? ニューヨーク市内で突如爆弾テロが発生し、「サイモン」と名乗る犯人は警察に電話し、ジョン・マクレーンを指名する。嫌がらせの様に、黒人達が多く住むハーレムのど真ん中で、「黒ん坊は嫌いだ(I hate Niggers)」というカードを下げさせられたマクレーンは、自身が白人である事も災いし、当然それを見た黒人ギャング達に半殺しにされかける。しかし、その近くで店を経営する黒人の男・ゼウス(サミュエル・L・ジャクソン)に助けられ、それを知り、面白くなかったサイモンの指示によって、2人は行動を共にする事になるというあらすじ。
マクレーンに協力する黒人ゼウスを演じたサミュエル・L・ジャクソン(前年の「パルプ・フィクション」('94年/米)で一気に知名度をアップさせていた)、敵役サイモンを演じたジェレミー・アイアンズと(個人的には「運命の逆転」('90年/米)以来だったなあ)、共に演技達者で、途中まではそれなりに楽しませてくれましたが、途中から主人公のスーパーマン化は前作より更に進行し、最終的には一層大味な作品になってしまいました。
因みに、マクレーンとその敵役サイモンの右腕タルゴ(ニック・ワイマン)との格闘シーンで、相手がデカくて(ニック・ワイマンは身長196㎝))脚に杭を刺されても痛みを感じずマクレーンを追い詰める怪物ぶりであるため、マクレーンが「お前『アダムズのお化け一家』に出てなかったか?」と言いますが、TVドラマ「アダムズのお化け一家」の映画化作品「アダムス・ファミリー」('77年/米)(テッド・キャシディ(身長206㎝)がアダムス一家に仕える巨人の執事を演じた)のリメイク作品が、バリー・ソネンフェルド監督の「アダムス・ファミリー」('91年/米)でした。ブルース・ウィリス自身は、メリル・ストリープとゴールディ・ホーンが、永遠の若さと美貌を賭けて女のバトルを繰り広げるロバート・ゼメキス監督のブラックコメディ「永遠に美しく...」('92年/米)で、二人の間でオロオロするばかりの整形外科医役で出ていて、これもまた"不老不死"映画でした。
「ダイハード3」の12年後に作られた「ダイハード4.0(フォー)」('07年)では(いきなりマクレーンの娘が出てきた)、不正にネットワークへアクセスするハッカーを利用して、政府機関・公益企業・金融機関への侵入コードを入手したテロリストがライフラインから防衛システムまでを掌握し、サイバーテロによって全米を揺るがすという設定で、それでもテロリストとまともに戦ってい
るのは(若いハッカーを従えた)マクレーンただ1人という不思議な設定で、彼の娘は例のごとくテロリストの人質に。一部にサイバー合戦も見られますが、遂には国防省から最新鋭戦闘機F-35まで出てきてしまって、これが結構間抜けな役回りで、通信システムを掌握するテロリストのミスリードでマクレーンを攻撃(いくら命令とは言え、街中のハイウェイで戦闘機が機銃を乱射するかなあ)、これはもう、カネをかければいいものが出来ると勘違いしているのではないかと思わざるを得ません。マクレーンはトラックから戦闘機に飛び乗り、戦闘機からハイウェイに舞い降りと、殆ど人間ではあり得ない超絶アクションで、これまた更に大味に。まあ、自分の中では既に「3」でこのシリーズは終わったという印象ではありましたが...。
最近作のシーリズ第5作となる「ダイ・ハード/ラスト・デイ」('13年)は、舞台をシリーズ初の海外であるロシアに移しての展開でしたが(今度はいきなりマクレーンの息子が出てきた)、周囲の迷惑を顧みない滅茶苦茶なカーチェイスから始まって(巻き添えの死傷者が何十人と出てもおかしくない)、ラストでは女性敵役がマックレーンに対する怨みからヘリコプターで突っ込んでくるという、殆ど盲目的自爆の様相。彼女イリーナ(ユーリヤ・スニギル)はそれまで何のためにマックレーンを欺こうとしていたのか。もう完全にリアリティとはサヨナラした上に、ストーリーまでも破綻気味―「3」以降「5(ラスト・デイ)」まであまり評価する気にならないのですが、「5」はこれまでの中で最も劣るように思いました。 「
「ダイ・ハード」●原題:DIE HARD●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●製作:ローレンス・ゴードン/ジョエル・シルバー●脚本:スティーヴン・E・デ・スーザ/ジェブ・スチュアート●撮影:ヤン・デ・ボン●音楽:マイケル・ケイメン●原作:ロデリック・ソープ「ダイ・ハード」●時間:131分●出演:ブルース・ウィリス/アラン・リックマン/アレクサンダー・ゴドノフ/ボニー・ベデリア/レジナルド・ヴェルジョンソン/アート・エヴァンス/ウィリアム・サドラー●日本公開:1989/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:渋谷東宝(89-02-12)●2回目:三軒茶屋映劇(89-07-01)(評価:★★★★)●併映(2回目):「レッド・スコルピオン」(ジョセフ・シドー)








プソン●日本公開:1990/09●配給:20世紀フォックス(評価:★★★)


「13日の金曜日 PART6/ジェイソンは生きていた!」●原題:FRIDAY THE 13TH PART6:JASON LIVES●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:トム・マクローリン●製作:ドン・ビーンズ●撮影:ジョン・R・クランハウス●音楽:ハリー・マンフレディーニ●時間:87分●出演:トム・マシューズ/ジェニファー・クック/デヴィッド・ケーガン/トム・フリドリー/レネー・ジョーンズ/ケリー・ヌーナン/トニー・ゴールドウィン/ナンシー・マクローリン/ヴィンセント・ガスタフェッロ/ロン・パリロ●日本公開:1986/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:東急レックス(89-04-30)(評価:★★)




![ダイ・ハード4.0 [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%894.0%20%5BDVD%5D.jpg)
「ダイ・ハード/ラス
ト・デイ」●原題:A GOOD DAY TO DIE HARD●制作
年:2013年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ムーア●製作:アレックス・ヤング●脚本:スキップ・ウッズ●撮影:ジョナサン・セラ●音楽:マルコ・ベルトラミ●キャラクター創造:ロデリック・ソープ●時間:98分(劇場公開版)・102分(最強無敵ロング・バージョン)●出演:ブルース・ウィリス/ ジェイ・コートニー/セバスチャン・コッホ/メアリー・エリザベス・ウィンステッド/ユーリヤ・スニギル/ラシャ・ブコヴィッチ●日本公開:2013/02●配給:20世紀フォックス(評価:★★)

後に「タイタニック」('97年公開)に抜かれるまで1位の記録だった)、'89年公開の「最後の聖戦」も、同年公開の「バック・トゥ・ザ・フューチャー パート2」の94.0億円に及ばず2位と、このシリーズ作は何れも年間トップを取ってはいなかったんだなあと、やや意外な思いもします。「最後の聖戦」公開時に「シリーズ最終作」と銘打っていたように思いますが、その後「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」('08年)が作られています(2008年の年間興業収入57.1億円で第3位。この年の第1位は「崖の上のポニョ」の155億円)。
物語は聖杯伝説をベースにしており、手に入れれば願いはすべて叶うという聖杯を巡ってのナチス連中とインディたちの争奪戦。ナチスに誘拐された考古学者である父親(ショーン・コネリー)を救出に向かったインディも捉えられ...と、本来ならばもっとハラハラドキドキさせられるような展開になるところが、ハリソン・フォード演じるインディのおとぼけぶりに輪をかけるようなショーン・コネリー演じる父親のおとぼけぶりで、コメディ映画みたいになっていました。
インディは馬に乗って軍用列車を追いかけたり、ナチスの一味と殴り合い、撃ち合いしたりと相変わらずアクション面でも頑張っていますが、前作に比べると派手さがなく、テンポもイマイチ。最後は、聖杯の守り主みたいな騎士が出てき
てなかなかシュールに盛り上げてくれましたが(それにしてはその手前の仕掛けがやたらメカニックだったりもする)、「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」のラストと被ってしまい、結果的に「ショーン・コネリーがとぼけた父親役をやっている映画」という印象のみが強く残ってしまった気がします。但し、ショーン・コネリーはこの作品
における「007シリーズ」のジェームズ・ボ
ンドのパロディ的要素を含む役どころを気に入っていたようで(敵か味方か途中までよく分からないボンドガール的な女性が出てくるのは007へのオマージュか)、2006年に俳優業を引退宣言していますが、もし映画界に戻ってくるとしたら「インディ・ジョーンズ」に出られるときだけとも語っています。
因みに、ショーン・コネリーがジェームズ・ボンドのパロディ的要素を含む人物設定の役柄として出演している作品の代表的なものとしては、アメリカ海兵隊員の英雄率いるテロリストと、制圧する特殊部隊との攻防を描いたマイケル・ベイ監督によるアクション映画「ザ・ロック」('96年/米)があります。かつて敵に包囲された末に救援も得られずに部下を見殺しにされ、それに対して何の補償もない国に憤りを抱くハメル准将(エド・ハリス)が、14人の部下と共に化学兵器を奪取して、ザ・ロックと呼
ジ)がアメリカ海軍特殊部隊SEALsに同行して島に潜入することになりますが、潜入にあたってアルカトラズ島からの唯一の脱獄成功者で、現在は刑務所に幽閉中の元イギリス情報局秘密情報部(SIS)部員・兼SAS大尉のメイソン(ショーン・コネリー)の協力を得るというもの。結局、SEALsは敵の前に全滅し、残されたのは元脱獄囚メイソンと化学兵器オタクのグッドスピードのみという、まあアクション映画のパターナルな展開ですが、ショーン・コネリー演じるメイソンが元SIS(SISの中にMI6がある)ということで、ジェームズ・ボンドが意
識されていることは明白でした。この映画公開の前年にサンフランシスコに行き、ゴールデン・ゲート・ブリッジからアルカトラズ島を観てきたところだったので懐かしかったですが、映画自体はやや大味でした。エド・ハリスの叛乱はかなり理不尽であるし(最後、自分でも作戦変更した)、FBIでありながら戦闘経験のない化学兵器オタクであるはずのニコラス・ケイジ(アクション映画の主役は初)が、カーチェイスをはじめ結構アクションしていました。化学兵器である毒ガスの溶剤が洗濯用の洗剤に見えてしまったのが難でした。
因みに、ショーン・コネリー演じるメイソンが刑務所から移送された後に滞在をリクエストし、その豪華なスウィートルームをしばし満喫するホテルは、サンフランシ
スコの「ザ フェアモント サンフランシスコ」で、ここは映画「
アドバイザー」が映画の舞台となったり重要なシーンに登場したホテルの中で、ユーザーからの評価が高いものをランキ
ング化した「
インディ・ジョーンズ シリーズ3作の個人的評価は、第1作「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」が★★★☆、第2作「魔宮の伝説」が★★★★、第3作「最後の聖戦」が★★★といったところです(第3作が星3つと厳しいのは、絶対評価と言うより、ややシリーズの中での相対評価になっているためで、普通の娯楽映画としてみれば十分楽しめる作品であると言える)。因みに「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」は、2000年代に入って、ソフト化作品のタイトルに"インディ・ジョーンズ"と付けるようになっており、これはこの作品がインディ・ジョーンズ シリーズの第1作であることを知らない年代層が増えてきたためでしょうか。
(●シリーズ第4作「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」('08年)年から15年を経て、シリーズ第5作でその続編である「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」('23年)が公開された。ルーカスフィルムがウォルト・ディズニー・カンパニーに買収されて以来、初となるシリーズ作品で、監督はジェームズ・マンゴールド。これまでのシリーズで監督を務めていたスティーヴン・スピルバーグは監督を降板してプロデューサーを務めている。
1944年、インディ(ハリソン・フォード)はナチスが略奪した秘宝「ロンギヌスの槍」を友人の考古学者バジル(トビー・ジョーンズ)と共に奪還しようとする最中、ナチスの科学者フォラー(マッツ・ミケルセン)が偶然見つけたもう一つの秘宝「アルキメデスのダイヤル」の片割れを手に入れる。時が経ち1969年。アメリカがアポロ計画の月面着陸成功に沸く中、定年を迎え長年勤めた大学教授の職を退いたインディはバジルの娘ヘレナ(-フィービー・ウォーラー=ブリッジ)からかつて手に入れた「アルキメデスのダイヤル」の調査を依頼される。同じ頃、アポロ計画の協力者となっていたフォラーもインディに奪われたダイヤルを取り戻すべく、ナチスの残党と共に動き出そうとしていた―。
ハリソン・フォードも歳をとったが、同じく続投したインディの友人で、エジプトの発掘屋サラー役のジョン・リス=デイヴィスや、インディの妻・マリオン役のカレン・アレも同様。ついでに、シリーズ初出演、インディの旧友で潜水士レナルドの役のアントニオ・バンデラスの現在の姿も。ただし、1944年のシーンでは、撮影時79歳のハリソン・フォードがAIよって37歳のインディに"ディエイジング"されています。ただ、そのためか、最初からCG過剰感は否めず、ほとんど〈マンガ〉みたいな感じで観ていたら、終盤にきてタイムスリップして今度は〈SF〉に。アルキメデスが出てきて、これはもう〈SFマンガ〉と言っていいか(笑)。息もつかせぬ勢いで続くジェットコースタームービーと言いたいところであるし、実際に見栄えはそうではあるのだが、観ていてどこかでジェットコースター的展開に飽きている自分もいたというのが正直なところ。過去のシリーズ作品へのオマージュが所々にあり、それは懐かしかった。評価は★★★。)

●製作:フランク・マーシャル●脚本:ローレンス・カスダン●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原案:ジョージ・ルーカス/フィリップ・カウフマン●時間:115分●出


グロリア・カッツ●撮影:ダグラス
・スローカム●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原案:ジョージ・ルーカス●時間:118分●出演:ハリソン・フォード/ケイト・キャプショー/キー・ホイ・クァン/アムリッシュ・プリ/ロイ・チャオ/ロシャン・セス/リック・ヤン/デヴィッド・ヴィップ/チュア・カー・ジ



「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」●原題:INDIAN INDIANA JONES AND THELAST CRUSADE●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:ロバート・ワッツ●脚本:ジェフリー・ボーム●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ジョン・ウィリアムズ●製作総指揮:ジョージ・ルーカス●時間:127分●出演:ハリソン・
フォード/ショーン・コネリー デン/ホルム・エリオット/アリソン・ドゥーディ/ジョン・リス=デイヴィス/ジュリアン・グローヴァー/
リヴァー・フェニックス/マイケル・バーン/ケヴォルク・マリキャン/リチャード・ヤング/ロバート・エディスン●日本公開:1989/07●配給:パラマウント・ピクチャーズ●最初に観た場所:歌舞伎町・新宿プラザ劇場(89-07-30)(評価:★★★)

リアム・フォーサイス/デヴィッド・モース/マイケル・ビーン/ザンダー・バークレー/ラルフ・ペデュート/デヴィッド・ボウ/ヴァネッサ・マーシル/ジェームズ・カヴィーゼル/ドワイト・ヒックス/ジョン・C・マッギンリー/ジョン・ラフリン/アンソニー・クラーク/デヴィッド・グラント/トニー・トッド/ボキーム・ウッドバイン/ダニー・ヌッチ/ショーン・スケルトン/スティーヴ・ハリス/インゴ・ノイハウス/グレゴリー・スポールダー/ブレンダン・ケリー/レイモンド・クルス/マーシャル・R・ティーグ/フィリップ・ベイカー・ホール/スタンリー・アンダーソン/スチュアート・ウィルソン/ハワード・プラット/ハリー・ハンフリーズ/レオナルド・マクマハン/クレア・フォーラニ/トッド・ルイーゾサム・ホイップル●日本公開:1996/09●配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル・ジャパン(評価:★★★)
「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」●原題:INDIANA JONES AND THE DIAL OF DESTINY●制作年:2023年●制作国:アメリカ●監督:ジェームズ・マンゴールド●製作:スティーヴン・スピルバーグ/キャスリーン・ケネディ/フランク・マーシャル/サイモン・エマニュエル●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原案:ジョージ・ルーカス/フィリップ・カウフマン●時間:154分●出演:ハリソン・フォード/フィービー・ウォーラー=ブリッジ/アントニオ・バンデラス/ジョン・リス=デイヴィス/シャウネット・レネー・ウィルソン/トーマス・クレッチマン/トビー・ジョーンズ/ボイド・ホルブルック/オリヴィエ・リヒタース/イーサン・イシドール/マッツ・ミケルセン●日本公開:2023/06●配給: ウォルト・ディズニー・ジャパン(評価:★★★)![Vol.10「欺かれた過去」【字幕版】 [VHS].jpg](http://hurec.bz/book-movie/Vol.10%E3%80%8C%E6%AC%BA%E3%81%8B%E3%82%8C%E3%81%9F%E9%81%8E%E5%8E%BB%E3%80%8D%E3%80%90%E5%AD%97%E5%B9%95%E7%89%88%E3%80%91%20%5BVHS%5D.jpg)


モースは、大学OBのクリケット・チームの試合のためにロンドンに来ていた、学友の弁護士ドンに呼び出されて久々の再会を果たす。彼はモースに何か相談したがっているようだが、モースが訊いても話さない。その後、彼の方からモースに連絡をしてくるが、モースは書店爆破事件の捜査で手が離せない。その翌日ドンはリード線をくわえて感電死死体となって発見される。モースは休暇中のルイスを説得し、ドンが所属していた、脚の不自由な事業家ローランドが率いるOBクリケットチームに、彼を代わりの選手として潜入させる。トニーの妻ケイト(シャロン・モーン)はラジオ局のDJで、トニーの隣室のフォスター夫婦(ジオフリー・ビーヴァーズ、ジェーン・ブッカー)の夫ピーター・フォスターは何やらクリケット・チームを探っているようだった。そんな中、OBチームのクリケットの試合中に選手控室でピーターが何者かに殺されてしまう―。
ドンの妻でラジオ局のDJのケイトは若くて美人で、モースは夫を亡くした彼女を慰めるうちに彼女に惚れてしまった感じですが、フォスター夫婦の妻フィリッパも美人で、モースはこちらにも接近、双方ともモースに悪からぬ印象を抱いているようで、モースがフィリッパとクリケットのOB試合を観戦しているところへケイトが現れ、女性同士がバッティングした感じ(ケイトはぷぃと去ってしまった)。更に、ピーターが殺害されたことで、モースは2人の「未亡人」の間に挟まった形になりましたが、まあ、原作においてもモースは不思議と女性にモテるキャラではあるので、これはアリかなと。
2件の殺人事件もヘロイン密輸出も解決を見ないまま船が出そうになる―その時モースに突然の閃きが訪れるという、結構ハリウッド映画的なスリルはありましたし、結末も意外でした。ヘロイン密輸出の犯人に対しては、モースも思わず「なぜだ」と問い詰めたくなるし、一方の旧友ドンの殺害事件につていても...。
このシリーズ"らしい"ほろ苦い結末でした。振り返ってみれば、2件の殺人事件に何か動機上の関連がありそうに思えたのがまず第一のミスリード要因だったでしょうか。モース独特の理詰めの推理は勿論ありましたが、最後は直観による解決だったような気もして、その辺りはややシリーズ"らしくない"真相への導き方だったようにも思います。むしろ、モースと美女2人の遣り取りが見所だったとも言えます。
警察官がクリケット・チームに潜入していきなり好プレーを連発することが可能かと言うのはありますが、ルイス巡査部長役のケヴィン・ウェイトリーは、一時プロのクリケット選手を目指していたということで、コリン・デクスターの原案がそもそもケヴィン・ウェイトリーの"クリケット愛"に捧げられたものであるとのことです。
一方で、ネスカフェ・ゴールド・ブレンドのTVコマーシャルに出ていたシャロン・モーンが演じるケイトに、「コーヒーは嫌い。飲むと頭が痛くなる」と言わせているのは、脚本家のお遊びか。
「主任警部モース(第10話)/欺かれた過去」●原題:INSPECTOR MORSE:DECEIVED BY FLIGHT●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/18●監督:アンソニー・シモンズ●脚本:アンソニー・ミンゲラ●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/アマンダ・ヒルウッド/シャロン・モーン/ノーマン・ロッドウェイ/ジオフリー・ビーヴァーズ/ジェーン・ブッカー/ダニエル・マッセィ/ブライアン・プリングル/ニッキー・ヘンソン●VHS発売:1999/08●発売元:日本クラウン(評価:★★★☆)



運河で首と両手脚が切断された死体が見つかる。時を同じくして、オックスフォード大学時代の同級生で同大学の学寮長を務める旧友アレックス・リース(バリー・フォスター)から、ケリッジ博士(テニエル・エヴァンス)が失踪していると相談を受けたモース。死体の状況から殺害されたのは博士だと思われたが...。一方、博士課程を修了したばかりのデボラ・バーンズ(ビーティ・エドニー)は、自分が特別研究員になれなかったのはケリッジ博士が反対票を投じたからだと思い込み博士に直接尋ねると、ケリッジは反対したのは自分ではなく、学寮長のリースだと言う。リースは彼女の博士論文の指導担当で、共著で本を出し、更には2人の間に肉体関係まであったのだが―。
リースまで殺されてしまったのは、実力の無い彼が"漁夫の利"を得たことに対する犯人の恨みでしょうか。女子大生の研究成果を自分のものとし、肉体関係まで持っておいて研究員には推さないというのは、まあ、殺されても仕方無いという感じでしたが。
それにしてもモースは、捜査中にビールを飲む回数がどんどん多くなるなあ。しかも、独身の気安さからか、リースの秘書キャロルに声掛けして彼女の行きつけのジャマイカ料理のレストランで歓談しています。
と呑みたがっているように見えました(上司のストレンジ警視正に罵倒され、歯医者にも苛められ、その上事件の解決が困難を極めれば、自宅でオペラを聴くだけではストレスは解消されないか)。


オックスフォード大学の学寮長候補ハンベリー卿の大邸宅から、数点の絵画が盗まれ、モースはルイスと気乗りしない窃盗事件の捜査を開始するが、窃盗事件の後に失踪していた絵の所有者ハンベリー卿が、邸の敷地内で死体となっているのを発見する。更に、邸付近でブレーキに細工されたクルマの事故に遭遇、亡くなった男は、邸で子守に雇われていたフランス人のミシェル(イリーナ・ブルック)の恋人ロジャーで、ミシェルはレディ・ハンベリー(パトリシア・ホッジ)から突然の解雇を言い渡されていた。ロジャーの所持品から脅迫文が見つかり、ハンベリー卿を何らかのネタで脅迫していたらしい―。
ラストで実行犯が殺人容疑で逮捕され、手錠を掛けられて連行されますが(かなり惨め)、一方のレディは娘と別れの言葉を交わす(手錠を掛けられることもない)―でも、裁判が始まったら「殺人」と「殺人教唆」は同等の扱いであり、この場合むしろ「殺人教唆」の方が罪が重いんじゃないかな。
今回からこれまでの検死医マックスに代わって女医ラッセル(アマンダ・ヒルウッド)が登場、モースが「お嬢さん」と呼ぶと「ドクター」と呼んで欲しいと、早速2人はぶつかっています。
「主任警部モース(第8話)/ハンベリー・ハウスの殺人」●原題:INSPECTOR MORSE:GHOST IN THE MACHINE●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/04●監督:●脚本:ジュリアン・ミッチェル●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/アマンダ・ヒルウッド/マイケル・ゴドリー/パトリシア・ホッジ/クリフォード・ローズ/バーナード・ロイド●VHS発売:1999/06●発売元:日本クラウン(評価:★★★☆)


夕闇迫るオックスフォードで、なかなか来ないウッドストック行きのバスにしびれを切らして、2人の娘がヒッチハイクをすることに。その晩、ウッドストックの酒場の中庭で、2人の娘の1人シルビアが死体で見つかる。シルビアはその日、もう1人の娘とバス停でバスを待っていたのを目撃されていたのだが、バスに乗った形跡はなく、彼女は赤いクルマの何者かの誘いに乗ったようだ。また、彼女が持っていた封筒の宛先は、勤務先の秘書部長ジェニファー・コールビーになっていた。もう1人の娘は誰でどこに消えたのか、なぜ名乗り出ないのか? テレズ・バレイ警察のモース主任警部は、ルイス部長刑事とともに事件捜査に当たる―。
大学講師バーナードは大学の正教授を目指していて(その割には年齢を喰っている)、妻のマーガレットはその尻を叩いている感じでしたが、あまりに妻に言われ続けると、女子大生を誘惑して気晴らしをしたいという気になるのか(それとも単なるスケベ老人か)。夫がシルビアを轢き殺したと思い込んだマーガレットは、クルマのタイヤを破棄したりして(確かにシルビアをヒッチしたのはバーナードだったが、シルビアの事故死に殺人の疑念があることは報じられていなかったのか)懸命に証拠隠滅を図るけれども、これも夫のためと言うより、その地位を守るため。しかし、その頃には、最初の2人の娘の目撃者であるとともに、超人的記憶力を持つ推理好きお婆さんの証言で、クルマの持主は特定されていた...。![Inspector Morse:Last Bus to Woodstock [VHS].jpg](http://hurec.bz/book-movie/Inspector%20Morse%EF%BC%9ALast%20Bus%20to%20Woodstock%20%5BVHS%5D.jpg)




バレリーは若いフランス語の補助教員ディヴィッド・エイカムとも、女子校の校長ドナルド・フィリップソンとも関係していたということなのでしょう。それを知った女性副校長(彼女は男性には関心が無い。つまりレズビアン?)は、そのことをネタに校長を脅して副校長の座を掴んだということのようです(フランス語教師はクビになって別の学校へ転職した?)。校長はバレリーの母親グレース(フランセス・トーメルティ)とも関係していて、グレースはバレリーがジョージの子供ではないことを仄めかしていますが、どうやらジョージも血の繋がりのない娘バレリーと関係していたみたいで、そのことに頭にきたグレースが校長との不倫に走り、その現場を見てしまった娘バレリーがショックを受けて家を出たというのが、2年前の彼女の失踪の原因だったようです。
「主任警部モース(第5話)/キドリントンから消えた娘」●原題:INSPECTOR MORSE:LAST SEEN WEARING●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1988/03/08●監督:エドワード・ベネット●脚本:トーマス・エリス●原作:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/ピーター・マッケリー/フランセス・トーメルティ/メリッサ・シモンズ/フィリップ・フレサートン/スザンヌ・ベルティシュ/グリーン・ヒューストン/ジュリア・サワルハ/エリザベス・ハーレー●VHS発売:1999/04●発売元:日本クラウン●日本放映:2001/05 (NHK-BS2)(評価:★★★★)
◎ Here are some favorite episodes (or characters or scenes or...):![ジョンとメリー [VHS].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%BC%20%5BVHS%5D.jpg)
![ジョンとメリー [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%BC%20%5BDVD%5D.jpg)

![卒業 [DVD] L.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%8D%92%E6%A5%AD%20%5BDVD%5D%20L.jpg)
マンハッタンに住む建築技師ジョン(ダスティン・ホフマン)のマンションで目覚めたメリー(ミア・ファロー)は、自分がどこにいるのか暫くの間分からなかった。昨晩、独身男女が集まるバーで2人は出会い、互いの名前も聞かないまま一夜を共にしたのだった。メリーは、整頓されたジョンの家を見て女の影を感じる。ジョンはかつてファッションモデルと同棲していた過去があり、メリーはある有力政治家と愛人関係にあった。朝食を食べ、昼食まで共にした2人は、とりとめのない会話をしながらも、次第に惹かれ合っていくが、ちょっとした出来事のためメリーは帰ってしまう―。
脚本は「シャレード」('63年)の原作者ジョン・モーティマーですが、構成の巧みさもさることながら、演じているダスティン・ホフマンとミア・ファローがそもそも演技達者、とりわけダスティン・ホフマン演じるジョンの、そのままメリーに居ついて欲しいような欲しくないようなその辺りの微妙に揺れる心情が可笑しく(ジョンの方に感情移入して観たというのもあるが)ホントにこの人上手いなあと思いました(でも、ミア・ファローも良かった)。
最後に互いの気持ちを理解し合えた2人が、そこで初めて「ぼくはジョンだ」「私はメリーよ」という名乗り合う終わり方もお洒落(その時に大方の日本人の観客は初めて、そっか、2人はまだ名前も教え合っていなかったのかと気づいたのでは。アメリカ人だったら普通は最初に名乗るけれど、アメリカ人が見たらどう感じるのだろうか)。観た当時は、これが日本映画だったら、もっとウェットな感じになってしまうのだろうなあと思って、ニューヨークでの一人暮らしに憧れたりもしましたが、逆に、ニューヨークのような大都会で恋人も無く一人で暮らすということになると、(日本以上に)とことん"孤独"に陥るのかも知れないなあとも思ったりして。
そうした大都会での孤独をより端的に描いた作品が、ダスティン・ホフマンがこの作品の前に出演した同年公開のジョン・シュレシンジャー(1926-2003/享年77)監督の「真夜中のカーボーイ」('69年)であり、ジョン・ヴォイトが、"いい男ぶり"で名を挙げようとテキサスからニューヨークに出てきて娼婦に金を巻き上げられてしまう青年ジョーを演じ、一方のダスティン・ホフマンは、スラム街に住む怪しいホームレスのリコ(一旦は、こちらもジョーから金を巻き上げる)役という、その前のダスティン・ホフマンの
主演作であり、彼自身の主演第1作だったマイク・ニコルズ監督の「卒業」('67年)の優等生役とはうって変った役柄を演じました(「卒業」で主人公が通うコロンビア大学もニューヨーク・マンハッタンにある)。
映画デビューした年に「卒業」でアカデミー主演男優賞ノミネートを受け(この作品、今観ると「サウンド・オブ・サイレンス」をはじめ「スカボロ・フェアー」「ミセス・ロビンソン」等々、サイモン&ガー
ファンクルのヒット曲のオン・パレードで、そちらの懐かしさの方が先に立つ)、主演第2作・第3作が「真夜中のカーボーイ」(これもアカデミー主演男優賞ノミネート)と「ジョンとメリー」であるというのもスゴイですが、ゴールデングローブ
賞新人賞を受賞した「卒業」の、その演技スタイルとは全く異なる演技をその後次々にみせているところがまたスゴイです(「卒業」で英国アカデミー賞新人賞を受賞し、「真夜中のカーボーイ」と「ジョンとメリー」で同賞主演男優賞を受賞している)。
3作品共にアメリカン・ニュー・シネマと呼ばれる作品ですが、その代表作として最も挙げられるのは「真夜中のカーボーイ」でしょう。ニューヨークを逃れ南国のフロリダへ旅立つ乗り合いバスの中でリコが息を引き取るという終わり方も、その系譜を強く打ち出しているように思われます。「真夜中のカーボーイ」も「ジョンとメ
リー」も傑作であり、ダスティン・ホフマンはこの主演第2作と第3作で演技派としての名声を確立してしまったわけですが、個人的には「ジョンとメリー」の方が、ラストの明るさもあってかしっくりきました。一方の「真夜中のカーボーイ」の方は、ジョーとリコの奇妙な友情関係にホモセクシュアルの臭いが感じられ、当時としてはやや引いた印象を個人的には抱きましたが、2人の関係を精神的なホモセクシュアルと見る見方は今や当たり前のものとなっており、その分だけ、今観ると逆に抵抗は感じられないかも(但し、原作者のジェームズ・レオ・ハーリヒー自身はゲイだったようだ)。![ミスター・グッドバーを探して [VHS].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%92%E6%8E%A2%E3%81%97%E3%81%A6%20%5BVHS%5D.jpg)
ダイアン・キートン演じる主人公の教師はセックスでしか自己の存在を確認できない女性で、原作は1973年にニューヨーク聾唖学校の28歳の女性教師がバーで知り合った男に殺害された「ロズアン・クイン殺人事件」という、日本における「東電OL殺人事件」(1997年)と同じように、当時のアメリカ国内で、殺人事件そのものよりも被害者の二面的なライフスタイルが話題となった事件を基にしており、当然のことながら結末は「ジョンとメリー」とは裏腹に暗いものでした。主人公の女教師は最後バーで拾った男(トム・ベレンジャー)に殺害されますが、その前に女教師に絡むチンピラ役を、当時全く無名のリチャード・ギアが演じています(殺害犯役のトム・ベレンジャーも当時未だマイナーだった)。
何れもニューヨークを舞台にそこに生きる人間の孤独を描いたものですが、ニューヨークを舞台に男女の出会いを描いた作品がその後は暗いものばかりなっているかと言えばそうでもなく、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの演技派2人が共演した「恋におちて」('84年)や、メグ・ライアンとトム・ハンクスによるマンハッタンのアッパーウエストを舞台にしたラブコメディ「ユー・ガット・メール」('98年)など、明るいラブストーリーの系譜は生きています(「ユー・ガット・メール」は1940年に製作されたエルンスト・ルビッチ監督の「街角/桃色(ピンク)の店」のリメイク)。
「恋におちて」はグランド・セントラル駅の書店での出会いと通勤電車での再会、「ユー・ガット・メール」はインターネット上での出会いと、両作の間にも時の流れを感じますが、前者はクリスマス・プレゼントとして買った本を2人が取り違えてしまうという偶然に端を発し、後者は、メグ・ライアン演じる主人公は絵本書店主、トム・ハンクス演じる男は安売り書店チェーンの御曹司と、実は2人は商売敵だったという偶然のオマケ付き。そのことに起因するバッドエンドの原作を、ハッピーエンドに改変しています。
トム・ハンクスとメグ・ライアンは「めぐり逢えたら」('93年)の時と同じ顔合わせで、こちらもレオ・マッケリー監督、ケーリー・グラント、デボラ・カー主演の
(●今度は韓国系の男女を主人公にした、ニューヨークでの再会物語が作られた。海外移住のため離れ離れになった幼なじみの2人が、24年の時を経てニューヨークで再会する7日間を描いた、セリーヌ・ソン監督のラブストーリー作品「パスト ライブス/再会」('23年)である。
とソウルでそれぞれの人生を歩んでいた。2人はオンラインで再会を果たすが、互いを思い合っていながらも再びすれ違ってしまう。そして12年後の36歳、ノラは作家のアーサー(ジョン・マガロ)と結婚していた。ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れ、2人はやっと巡り合うのだが―。


公開:1969/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-17)(評価:★★★★☆)●併映:「ひとりぼっちの青春」(シドニー・ポラック)/「草原の輝き」(エリア・カザン)三鷹東映 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。
「真夜中のカーボーイ」●原題:MIDNIGHT COWBOY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・シュレシンジャー●製作:ジェローム・ヘルマン●脚本:ウォルド・ソルト●撮影:アダム・ホレンダー●音楽:ジョン・バリー(主題曲「真夜中のカーボーイ」ハーモニカ演奏:トゥーツ・シールマンス)●原作:ジェームズ・レオ・ハーリヒー「真夜中のカーボーイ」●時間:113分●出演:ジョン・ヴ
ファー・ソルト/ボブ・バラバン●日本公開:1969/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:早稲田松竹(78-05-20)(評価:★★★★)●併映:「俺たちに明日はない」(アーサー・ペン)
マン●脚本:バック・ヘンリー/カルダー・ウィリンガム●撮影:ロバート・サーティース●音楽:ポール・サイモン
ニエルズ/エリザベス・ウィルソン/バック・ヘンリー/エドラ・ゲイル/リチャード・ドレイファス●日本公開:1968/06●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(83-02-05)(評価:★★★★)●併映:「帰郷」(ハル・アシュビー)


キー●音楽:デイヴ・グルーシン●時間:106分●出演:ロバート・デ・ニーロ/メリル・ストリープ/ハーヴェイ・カイテル/ジェーン・カツマレク/ジョージ・マーティン/デイヴィッド・クレノン/ダイアン・ウィースト/ヴィクター・アルゴ●日本公開:1985/03●配給:ユニヴァーサル映画配給●最初に観た場所:テアトル池袋(86-10-12)(評価:★★★)●併映:「愛と哀しみの果て」(シドニー・ポラック)




「パスト ライブス/再会」●原題:PAST LIVES●制作年:2023年●制作国:アメリカ●監督・脚本:セリーン・ソン●製作:デイヴィッド・イノヨーサ/クリス
チン・ヴァション/パメラ・コフラー●撮影:シャビエル・キーシュナー●音楽:クリストファー・ベア/ダニエル・ローセン●時間:106分●出演:グレタ・リー/ユ・テオ/ジョン・マガロ/ユン・ジヘ/チェ・ウォニョン●日本公開:2024/04●配給:ハピネットファントム・スタジオ●最初に観た場所:Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(24-05-06)((評価:★★☆)





「ロッキー」('76年)は、シルヴェスター・スタローン(1946年生まれ)が当時、映画オーディションに50回以上落選し、ポルノ映画への出演や用心棒などをして日々の生活費を稼ぐ暮らしの中で、プロボクシングのヘビー級タイトルマッチ「モハメド・アリ対チャック・ウェプナー戦」をテレビで観てウェプナーの善戦に感激し、それに触発されて3日間で脚本を書き上げプロダクションに売り込んだもので、プロダクション側はその脚本に7万5千ドルという、当時としては破格の値をつけたということですから、脚本自体が良かったのでしょう(アカデミー賞作品賞・監督賞、ゴールデングローブ賞作品賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞などを受賞)。
プロダクション側は主演にポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、アル・パチーノなどの有名スターを想定していたのに対し(ジェームズ・カーンなども有力な主演候補だった)、スタローンはあくまで自分が主演することに固執したため、最終的に36万ドルまで高騰した脚本は、スタローンの主演と引き換え条件に2万ドルまで減額されたそうな。でも、結果的にスタローンは無名俳優から一躍スターダムに躍り出たわけで、主演に固執して良かった...(逆に言えば、窮乏生活に慣れていたので、カネには固執していなかった)。
日本でも公開当時、誰もがこの作品を観に映画館に押し掛ける状況で、アカデミー賞作品賞受賞、キネマ旬報でも年間1位と高評価。こうなると逆に事前に情報が入り過ぎてしまい、結局個人的にはロードでは観に行かなかったのですが、後で「ロッキー2」('78年)と併せて名画座に降りてきた頃になって遅ればせながら観て、筋書きは分かっていても、やはり感動させられました。
但し、シルヴェスター・スタローン自身が監督した「ロッキー2」の方はイマイチ、更に、今度こそロードでと観に行った「ロッキー3」('82年)では、対戦相手クラバー(ミスター・T)が全然強そうに見えないのが難で、これもイマイチ。それに比べると、「ロッキー4 炎の友情」('85年)は、ドラゴ(ドルフ・ラングレン)の登場で、多少シリーズ最後を盛り上げたという印象で、個人的にはまあまあ許せるかなという感じでしたが、スタローン自身はこの「ロッキー4 炎の友情」で、ゴールデンラズベリー賞の最低主演男優賞を受賞しています。
一方、ロッキーより強そうに見えたドラゴを演じたドルフ・ラングレンは、その後「レッド・スコルピオン」('88年/米)に主演。アフリカ南部の共産主義国家に潜入したソ連の特殊部隊兵士の活躍を描くアクション映画でしたが、何だか動きが鈍くなったような...。空手家としての実績もあり、6か国語を話すインテリでもあるそうですが、シルヴェスター・スタローン同様に監督業に進出する傍ら併せて俳優業を続けているものの、B級映画ばかり出ている印象でしょうか。因みに、「レッド・スコルピオン


士を演じていますが、ジャン=クロード・ヴァン・ダム演じる同じく甦ったもう一人の兵士の方が善玉なのに対し、ドルフ・ラングレンの方はヒール役(悪玉)というのが相変わらずでした(まあ、ドルフ・ラングレンの方が見た目が強そうだというのもあるかもしれないが、妥当な配役か)。観た時は可もなく不可もない娯楽作品という印象でしたがそこそこ人気があったのか、その後「ユニバーサル・ソルジャー/ザ・リターン」('99年)、「ユニバーサル・ソルジャー:リジェネレーション」('09年)が作られ、ジャン=クロード・ヴァン・ダムは両方に主演、ドルフ・ラングレンは'09年の方に出ています(2人とも中年にして頑張っている?)。
「ロッキー2」以降はシルヴェスター・スタローン自身が監督しているのですが、ボディビルダーから俳優に転じ、更には州知事も務めたアーノルド・シュワルツェネッガー(1947年生まれ)と比べると、シルヴェスター・スタローンという人は根っから映画が好きなんだなあという気がします。二人が今年['13年]になって初めて本格共演を果たした「大脱出」('13年)のプレミアで、シルヴェスター・スタローンは アーノルド・シュワルツェネッガーについて「20年間、本当に互いを激しく嫌い合っていたんだ」と告白していますが、とはいえ、「それはいいライバルはなかなか見つからないということの証。次第にその存在に感謝するようになる。そうやって競い合ってきたから、こうして二人ここにいるのかも」と今は互いの存在を 認め合っていることを明かしています。個人的には、そもそも映画への関わり方が二人は違うのではないかと。アーノルド・シュワルツェネッガーが「俳優」であるのに対し、シルヴェスター・スタローンは「映画人」という印象であり、脚本を書くか書かないかの違いは大きいように思います。
但し、シルヴェスター・スタローンの映画監督としての力量はどうなのかはやや疑問符も...。作品への思い入れが先行しているような感じもあり、ついていけない人もいるのではないでしょうか。「ロッキー」に関しては、シリーズを通しての熱烈なファンが多くいるようですが、「ロッキー3」と「ロッキー4」の間の時期に、「サタデー・ナイト・フィーバー」('77年)の続編としてシルヴェスター・スタローンが監督した「ステイン・アライブ」('83年、脚本もシルヴェスター・スタローン)は特に見るべきものの無い作品で、この映画に主演したジョン・トラボルタの長期低迷のきっかけになった作品とも言えるのではないかと思います。
因みに「ランボー」('82年)のシリーズ作も、全4作全てシルヴェスター・スタローンの脚本または彼が脚本参加しているものでしたが、第1作(「ロッキー3」と同じ年に作られている)の「ランボー1人 vs. 警官千人」に始まり、「ランボー/怒りの脱出」('85年)では「ランボー1人vs.ベトナム軍」、
「ランボー3/怒りのアフガン」('88年)では「ランボー1人vs.ソ連軍10万人」とスケール・アップするにつれて、当初のランボーのアウトローの孤独と哀しみは消え、すっかり超人ヒーローになってしまい、「ランボー3/怒りのアフガン」などは、見ていてちっともハラハラしない...。しかも、今思えば皮肉なことに、この作品は、ランボーがアフガン・ゲリラと協力してソ連軍と戦う内容になっていて、当時のアフガン・ゲリラの一派が後のタリバン内の過激武装勢力になっていくわけです。

「ロッキー」●原題:ROCKY●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・G・アヴィルドセン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ジェームズ・グレイブ●音楽:ビル・コンティ●時間:119分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア/バート・ヤング/バージェス・メレディス/カール・ウェザース●日本公開:1977/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸坐(81-01-22)(評価:★★★★)●併映:「ロッキー2」(シルヴェスター・スタローン)
「ロッキー2」●原題:ROCKYⅡ●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ビル・バトラー●音楽:ビル・コンティ●時間:119分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア/バート・ヤング/カール・ウェザース/バージェス・メレディス●日本公開:1979/09●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸坐(81-01-22)(評価:★★)●併映:「ロッキー」(シルヴェスター・スタローン)
「ロッキー3」●原題:ROCKYⅢ●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ビル・バトラー●音楽:ビル・コンティ●時間:99分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア/バート・ヤング/カール・ウェザース/ミスター・T/ハルク・ホーガン/バージェス・メレディス/トニー・バートン/イアン・フリード/ウォーリー・テイラー/ジム・ヒル/ドン・シャーマン●日本公開:1982/07●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:有楽町・丸の内松竹(82-10-22)(評価:★★)



旧・丸の内松竹 前身は1925年オープンの「邦楽座」(後の「丸の内松竹」)。1957年7月、旧朝日新聞社裏手に「丸の内ピカデリー」オープン(地下に「丸の内松竹」再オープン)。1984年10月2日閉館。1987年10月3日 有楽町マリオン新館5階に後継館として新生「丸の内松竹」(現:丸の内ピカデリー3)がオープン。 2018(平成26)年12月2日「丸の内ピカデリー3」休館。
「ロッキー4 炎の友情」●原題:ROCKYⅣ●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ビル・バトラー●音楽:ビル・コンティ●時間:91分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア



「レッド・スコルピオン」●原題:RED SCORPION●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ジトー●製作:ジャック・エイブラモフ●脚本:アーン・オルセン●撮影:ホアオ・フェルナンデス●音楽:ジェイ・チャタウェイ●時間:106分●出演:ドルフ・ラングレン/M・エメット・ウォルシュ、アル・ホワイト/T・P・マッケンナ/カーメン・アルジェンツィアノ/ブライオン・ジェームズ/ジョセフ・ビッグウッド/ジェイ・チャタウエイ●日本公開:1989/01●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:三軒茶屋映劇(89-07-01)(評価:★★)●併映:「ダイ・ハード」(ジョン・マクティアナン)「
「ユニバーサル・ソルジャー」●原題:UNIVERSAL SOLDIER●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ローランド・エメリッヒ●製作:アレン・シャピロ/クレイグ・ボームガーテン/ジョエル・B・マイケルズ●脚本:リチャード・ロススタイン/クリストファー・レイッチ/ディーン・デヴリン●撮影:カール・W・リンデンローブ●音楽:クリストファー・フランケ●時間:102分●出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム/ドルフ・ラングレン/アリー・ウォーカー/ジョセフ・マローン/エド・オロス/ジーン・デイヴィス/レオン・リッピー/ランス・ハワード/リリアン・ショウバン/チコ・ウェルズ/ジェリー・オーバック●日本公開:1992/11●配給:東宝東和(評価:★★★)
「ステイン・アライブ」●原題:STAYING ALIVE●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:シルヴェスター・スタローン/ロバート・スティグウッド●脚本:シルヴェスター・スタローン/ノーマン・ウェクスラー●撮影:ニック・マクリーン●音楽:ビージーズ/フランク・スタローン●時間:96分●出演:ジョン・トラボルタ/シンシア・ローズ/フィノラ・ヒューズ/スティーヴ・
インウッド/ジュリー・ボヴァッソ/チャールズ・ウォード●日本公開:1983/12●配給:パラマウント映画=CIC●最初に観た場所:新宿ジョイシネマ(84-04-07)(評価:★★★)


「ランボー」●原題:FIRST BLOOD●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:テッド・コッチェフ●製作:バズ・フェイシャンズ●脚本:マイケル・コゾル/ウィリアム・サックハイム/シルヴェスター・スタローン●撮影:アンドリュー・ラズロ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:ディヴィッド・マレル「一人だけの軍隊」●時間:97分●出演:シルヴェスター・スタローン/リチャード・クレンナ/ブライアン・デネヒー/デビッド・カルーソ/ジャック・スターレット/マイケル・タルボット/デビッド・クロウレイ●日本公開:1982/10●配給:東宝東和●最初に観た場所:新宿ローヤル(84-09-24)(評価:★★★)『
「ランボー3/怒りのアフガン」●原題:RAMBO 3●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・マクドナルド●製作:バズ・フェイシャンズ●脚本:シルヴェスター・スタローン/シェルドン・レティック●撮影:ジョン・スタニアー●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:ディヴィッド・マレル●時間:97分●出演:シルヴェスター・スタローン/リチャード・クレンナ/カートウッド・スミス●日本公開:1988/06●配給:東宝東和●最初に観た場所:歌舞伎町・新宿プラザ(88-07-10)(評価:★★)

貧しいフィリピン青年の「僕」キドラット(キドラット・タヒミック)はジムニー(小型乗合バス)の運転手であるが、将来は宇宙飛行士を夢みている。僕のジプ
ニーがアメリカ人のビジネスマン(ハルムート・レルヒ、この作品の共同撮影カメラマン)の気に入り、ひとまずパリに赴くことになって、村をあげての大騒ぎの中、憧れの地へ発つが、日夜チューインガム自販機を詰め替える単純作業に追われ、夢は遠のく。巨大なスーパーの煙突の中に身を隠し、故郷を想う僕は、進歩という観念そのものに疑問を抱くようになる―。
1977年にフィリピンの映像作家キドラット・タヒミック監督(Kidlat Tahimik 、1942年生まれ)が発表した彼のデビュー作で、スペイン人が造った橋、アメリカの軍用車を改造したジプニー、月ロケットなどをモチーフに、フィリピン社会に染みついた植民地主義を、とぼけたユーモアや温かい詩情、ファンタジックで時にナンセンスな展開、ドキュメンタリー風の映像などを通して炙り出した作品です。
フィリピンの田舎町で行われる熱狂的な大祭を背景とした物語を描いて国際映画賞を受賞しています(マンハイム・ハイデルベルグ国際映画祭映画「新興国のための審査員賞」)。'87年に第2回東京国際映画祭(アジア秀作映画週間部門)にて上映されたのを観ましたが、馬や犬のマスコ
ットを家族で作って祭りで売っていた祖母と少年が、ある日ドイツのデパートの女性バイヤー(カタリーナ・ミューラー)がたまたま通りかかって、大量注文をしたために家族は大騒動となるという、ちょっと「悪夢の香り」と似た展開。但し、"日記映画作家"と呼ばれるだけあって、祭りの準備をする人々や本番の祭りの模様を記録映画風に描いていて、ドキュメンタリータッチがより色濃く出ています。また、単に反商業主義・反植民地主義というだけでなく、土着的、アジア文化的なものへの回帰指向もより鮮明になっています。この辺りは、「悪夢の香り」の主人公である「僕」が、最後に文明批判に目覚め、先住民の友達の教えを思い出して帰国するという結末からの流れを汲んでるともとれます。
今やその風貌や語り口から仙人のような趣を醸す同監督ですが(50代になってからマニラを離れ、山間部に移り住んでいる)、元々は富裕知識階層の出身で、ペンシルバニア大学ウォ―トンスクール(米国でもトップクラスとされるMBA)で経営学の修士号を取得し、パリで経済協力開発機構(OECD)の研究員をしていたという、かつては自他共に認めるバリバリのエコノミストでした。その彼が、帰国してから経済人への道をではなく、自主制作映画作家としての道を歩み(MBAの卒業証書を破り捨たというから相当の覚悟だったのか)、反商業主義を貫いて、国際的に高く評価される映像作家になったというのが興味深いです(相変わらず祭り好きの、剽軽なオッサンである点は変わらないみたいだけど)。
福岡アジア文化賞受賞スピーチ(2012)
「悪夢の香り」●原題:KIDLAT WORLD MABABANGONG BANGUNGOT(Perfumed Nightmare)●制作年:1977年●制作国:フィリピン●監督・製作・脚本・撮影:キドラット・タヒミック●共同撮影:ハルトムート・レルヒ●音楽:エフゲニー・グレボフ●時間:95分●出演:キドラット・タヒミック/ジェジェット・ボードリィ/マン・フェリィ/ハルムート・レルヒ/カタリーナ・ミューラー/ドロレ

ネセゾン●最初に観た場所:シネセゾン渋谷(87-09-26)(評価:★★★☆) シネセゾン渋谷 1985年11月6日、渋谷道玄坂「ザ・プライム渋谷」6Fにオープン。2011年2月27日閉館。

1971年・第24回カンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞したニーノ・マンフレディ(1921‐2004)が監督・主演した、ヴェネチアのカーニヴァルを背景としたミステリ風コメディ映画で、日本では'84年の「イタリア映画祭」で上映された作品であり、その後、一般ロードでも公開されました。ニーノ・マンフレディは元々俳優であり、この作品の当初の監督アルベルト・ラットゥアーダ(「
老舗の古書店の娘と結婚して十数年経つ夫(マンフレディ)は、自らもローマからヴェネチアに移り住んで古書店を営もうとするがうまくいかず、芸術家の間で顔が広い妻(エレオノーラ・ジョルジ)に対するコンプレックもあって2人の関係はやや冷え切り気味だが、そんなある日、芸術家達の集いの場となっている知人の屋敷で、妻にそっくりの女の大判ヌード写真を見つける―。
カーニヴァルの翌朝、男はリリーと並んで焼きカボチャか何かを食べていますが、もう男にとってリリーが妻と同一人物であろうとなかろうとどうでもよく、目の前に愛する人がいるだけで満ち足りた気分になっているという、ミステリ的要素がありながら謎は最後まで明かされないという終わり方ですが(その方が却って洒落ていていい)、ある意味、女性に妻と娼婦の2役を求める男の願望を表した作品であるともいえます。

●脚本:ニーノ・マンフレデ/アージェ・スカルペッリ/ルッジェロ・マッカリ●撮影:ダニロ・デシデリ●音楽:ロベルト・ガットー/マウリッツィオ・ジアマルコ●時間:103分●出演:ニーノ・マンフレディ/エレオノーラ・ジョルジ/ジョルジュ・ウィルソン/ジャン=ピエール・カッセル/カルロ・バーノ●日本公開:1984/10●配給:イタリア会館●最初に観た場所:銀座文化1(84-10-04)(評価★★★☆)「





プロローグで、エジプトの秘宝発掘現場で2人の男が王の墓から財宝を見つける。その25年後、「シタフォード荘」に住むトレヴェリアン大佐(ティモシー・ダルトン)は、現首相チャーチルの後継と目されている。彼が後見人となっているジム・ピアソン(ローレンス・フォックス)は、素
行不良のため遺産相続人から外す旨の手紙を大佐から受け取ったとして怒っているが、大佐は、自分がその手紙を書いたことを否定する。酔い潰れたジムを、その婚約者エミリー(ゾーイ・テルフォード)は、パーティーで偶然知り合った新聞記者チャールズ・バーナビー(ジェームズ・マリー)とともに家に送り届けるが、翌日ジムは大佐に会うと言って、降りしきる雪の中、シタフォード荘に向かう。ミス・マープル(
ジェラルディン・マクイーワン)は甥で作家のレイモンドの別荘を訪ねてシタフォードに来たが、レイモンドは戻れず、彼女は、近くの「シタフォード荘」に泊めてもらうことになる。大佐の親友エンダービー(メル・スミス)は、大佐の政務官であり「シタフォード荘」を管理している。大佐は、そのエンダービーにも行先を告げずに山荘を出るが、ミス・マープルは彼が、ホテル「スリークラウン館」に偽名で予約を入れるのを聞いていた。エンダービーは、山荘に送り届けられたゼリーを食べた飼い鷹が死んだのを見て、大佐の身を案じて吹雪の中「スリークラウン館」に向
かうが、歩いて2時間はかかる。更にそれを案じたチャールズが後を追う。「スリークラウン館」は、カークウッド(ジェームズ・ウィルビー)が昨年ここを買い取ったもの
で、ミセス・ウィレット(パトリシア・ホッジ)と娘のヴァイオレット(キャリー・マリガン)、ミス・パークハウス(リタ・トゥシンハム)ら何人かの客がいて、ウィレット夫人の提案で、ホテルの客たちを集めての心霊占いが始まるが、占いの結果「今夜トレヴェリアン大佐が死ぬ」という言葉が現れる。エンダービーが到着し、途中で彼に追いついたチャールズと共に大佐の部屋に行くと、彼は胸を刺されて死んでいた。大雪で警察が来られないため、エンダービーが捜査に当たる―。
2006年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演のグラナダ版で、シーズン2の第4話(通算第8話)。日本ではNHK‐BS2で2008年6月26日に初放映。
降霊会の行われるのが原作の「シタフォード荘」でではなく、「スリークラウン館」に改変されていて、「シタフォード荘」の降霊会で「大佐が死ぬ」というお告げがあったちょうどその頃、「スリークラウン館」で大佐は殺害されたらしい、というのが原作のミソであるのに対し、「スリークラウン館」で行われた降霊会に大佐自身が加わっていて、その後で殺害されるので、その分、ミステリアスな雰囲気は削がれてしまっています。
原作では、事件を解決したエミリーが、頼りない男である婚約者ジムと、事件を通して距離の狭まった新聞記者チャールズのどちらを選ぶかが1つの見所で、最終的にはやはり婚約者の方を選んで、出来る女性というのは意外と頼りない男の方を選んだりするものだなあと思わせる面がありましたが、この映像化作品に登場するジム・ピアソンは最初からどうしようもない男で、そもそもなぜエミリーはこんな男と婚約したのかと思わざるをえません(そのエミリーも、やや高慢ちきで、原作ほど魅力的な女性にはなっていないのだが)。 エミリー(ゾーイ・テルフォード)
「この線でいくと、こっちは最後、チャールズの方を選ぶだろうなあ」と思わせるのが1つの引っ掛けだったわけかと。原作の真犯人バーナビー少佐がエンダービーに改名され、新聞記者のチャールズ・"エンダビー"の名前がチャールズ・"バーナビー" に改名されていることが「伏線」だったわけですが、凝り過ぎていて分かんないよ、そんな細かいところは...(因みに、ミセス・ウィレットの娘で原作のヴァイリットも"ヴァイオレット"に改変され、トレヴェリアン大佐がエジプト時代に愛した娘と同名という設定になっているが、こんな話は原作には元々は無い)。 トレヴェリアン(ティモシー・ダルトン)/ヴァイオレット(キャリー・マリガン)
ティモシー・ダルトンは007シリーズの4代目ジェームズ・ボンド役で、シリーズ第15作、第16作に主演(原作は共にイアン・フレミングの短編、監督は共にジョン・グレン)。第15作「007 リビング・デイライツ」('87年)は、高齢
続く第16作「007 消されたライセンス」('89年)は、'89年11月にベルリンの壁が崩壊したこともあり、冷戦下で作られた最後の007シリーズ作品です。ストーリー的も冷戦の要素が組み込まれた最後の作品とされていますが、ボンドの実質的な敵役は既に、前作のKGBから麻薬王へと変わっています。「古い時代の名残を感じられる最後のボンド映画」との見方もありますが、個人的には、ティモシー・ダルトンになってアメリカのアクション映画とあまり変わらなくなってきた印象を受けました。麻薬王の役は前年に「ダイ・ハード」('88年)でFBI特別捜査官を演
じたロバート・デヴィ、ボンド・ガールはキャリー・ローウェル(味方側)とタリサ・ソト(敵側)でこちらも共に米国出身、ティモシー・ダルトン"ボンド"は、この敵味方二人の女性に助けられてばかりだったなあ。
ティモシー・ダルトンは、'71年にショーン・コネリーの後任としてボンド役を依頼されていますが、ボンドを演じるには若すぎるという理由で辞退し、'79年にロジャー・ムーアが降板を考えていたために来た依頼も断っており、3度目の依頼でようやく引き受けたとのことです。但し、この2作でボンド役を降ろされてしまい、次回作からボンド役は
「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第8話)/シタフォードの謎」●原題:THE SITTAFORD MYSTERY, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 2●制作年:2006年●制作国:イギリス●演出:ポール・アンウィン●脚本:スティーヴン・チャーチェット●原作:アガサ・クリスティ●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ティモシー・ダルトン/マイケル・ブランドン/ローレンス・フォックス/ロバート・ハーディ/パトリシア・ホッジ/ポ

●監督:ジョン・グレン●製作:マイケル・G・ウィルソン/アルバート・R・ブロッコリ●脚本:リチャード・メイボーム/マイケル・G・ウィルソン●撮影:アレック・ミルズ●音楽:ジョン・バリー●原作:イアン・フレミング●時間:130分●出演:ティモシー・ダルトン/マリアム・ダボ/ジェローン・クラッベ/ジョー・ドン・ベイカー/ジョン・リス=デイヴィス/アート・マリック/ジョン・テリー/アンドレアス・ウィズニュースキー/デスモンド・リュウェリン/ロバート・ブラウン/キャロライン・ブリス●日本公開:1987/12●配給:MGM=ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★) 「
消されたライセンス」●原題:JAMES BOND 007 LICENCE TO KILL●制作年:1989年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ジョン・グレン●製作:マイケル・G・ウィルソン/アルバート・R・ブロッコリ●脚本:リチャード・メイボーム/マイケル・G・ウィルソン●撮影:アレック・マイルズ●音楽:マイケル・ケイメン●原作:イアン・フレミング●時間:133分●出演:ティモシー・ダルトン/キャリー・ローウェル/ロバート・ダヴィ/タリサ・ソトアンソニー・ザーブ/フランク・マクレイ/エヴェレット・マッギル/ウェイン・ニュートン/デスモンド・リュウェリン●日本公開:1989/09●配給:MGM=ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★) 「


偶然に女優のジェーン・ウィルキンソン(フェイ・ダナウェイ)と知り合ったポワロ(ピーター・ユスティノフ)は、彼女から離婚に応じない夫エッジウェア卿を説得して欲しいと頼まれる。ポワロはエッジウェア卿に会うが、卿からは半年も前に承諾の手紙を書いたことを聞かされ訝しがる。そしてその晩、エッジウェア卿は何者かに殺害され、現場ではジェーンの姿が目撃されたのだが、彼女には確かなアリバイがあり、どうやらそれは彼女そっくりの物真似タレント、カーロッタ(フェイ・ダナウェイが二役)だったらしい。しかし今度はそのカーロッタまで不自然な死を遂げる。エッジウェア卿の娘をはじめ、卿の死を望みそうな人間は多くいるが、その誰もにアリバイがあった―。
映画「
そうした中、興味深いのは、お馴染みジャップ警部を、'89年からTⅤ版「名探偵ポアロ」でポワロを演じることになるデビッド・スーシェが演じている点で、ピーター・ユスティノフ演じるポワロに常に先行される役どころを彼が演じているというのが、なかなか面白かったです。
「名探偵ポワロ/エッジウェア卿殺人事件」●原題:THIRTEEN AT DINNER●制作年:1985年●制作国:アメリカ●本国放映:1985/09/19●監督:ルー・アントニオ●脚本:ロッド・ブラウニングス●原作:アガサ・クリスティ●時間:95分●出演:ピーター・ユスティノフ/デヴィッド・スーシェ/フェイ・ダナウェイ/ジョナサン・セシル/リー・ホースリー/ビル・ナイ/ダイアン・キートン●ビデオ発売:1990/11 (ビクターエンタテインメント)(評価:★★★☆)






1932年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポワロシリーズの長編第6作で(原題:Peril at End House)、『牧師館の殺人』(1930)、『シタフォードの秘密』(1931)に続く「館物」でもあり、タイトルの邦訳は、ハヤカワ・ミステリ文庫・クリスティー文庫(共に田村隆一:訳、クリスティー文庫新訳版は真崎義博:訳)では「邪悪の家」ですが、創元推理文庫(厚木淳:訳)では「エンド・ハウスの怪事件」、新潮文庫(中村妙子:訳)では「エンド・ハウス殺人事件」などとなっています。
犯人がポワロの謎解きをミスリードさせる張本人である作品ですが、ポワロに対する読者の、彼がどんな状況においても超人的な名探偵であるという思い込みがある種トラップになっている作品とも言え、そう言えばこの作品はポワロとヘイスティングスとの謎解きを巡る会話が多く、振り返ってみれば、2人して読者をミスリードする役割を果たしていた感じもします。
デヴィッド・スーシェ(David Suchet)の主演TⅤ版(London Weekend Television)「名探偵ポワロ」でも、吹替えの熊倉一雄(1917-2015)の独特の声の抑揚のもと、ポワロはヘイスティングスに対しても「です・ます調」で語りかけ、それが固定的イメージになっていますが、考えてみれば、ポワロがヘイスティングスに対して「です・ます調」で話すのは、あくまでも翻訳者の選択であると言えるのでないかと思います。
そのデヴィッド・スーシェ版「名探偵ポワロ」ですが、英国LWT(London Weekend Television)が主体となって制作、1989年1月放映分から2014年1月放映予定分まで70作品作られており、この『邪悪の家』は、第2シーズン第1話(通算第11話)「エンドハウスの怪事件」として、1990年1月にシリーズ初の拡大版(ロング・バージョン)で放映されました。日本でも1990年8月11日、NHKがこのシリーズの放映を始めた年に放映されており、このシリーズで最初に観たポワロ物がコレという人も多いのではないかと思われます。
ほぼ原作に忠実に作られていますが、田舎に来て、誰も自分が有名な探偵であることを知らないことに不満なポワロのご機嫌斜めぶりが強調されているのが可笑しいです。それと、原作には出てこないミス・レモンが登場し、謎解きのヒントはヘイスティングスと彼女の言葉遊び的な遣り取りから生まれることになっています。更に、ラストのポワロが仕組んだ降霊会で、無理やり霊能力者の役割を演じさせられるのは、原作ではヘイスティングスのところが、この映像化作品ではミス・レモンになっています。
「名探偵ポワロ(第11話)/エンドハウスの怪事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT II:PERIL AT END HOUSE●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/07●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ポリー・ウォーカー(ニック・バックリー) /ジョン・ハーディング/ジェレミー・ヤング/メアリー・カニンガム/ポール・ジェフリー/アリソン・スターリング/クリストファー・ベインズ/キャロル・マクレディ/エリザベス・ダウンズ●日本放映:1990/08/11●放映局:NHK(評価:★★★☆)


ホームズの元にメアリー・モースタン(ジェニー・シーグローブ)という若い女性が相談に訪れ、彼女の父親はインド英国軍の大尉だったが、帰国した際に消息を絶ち、その数年後から謎の人物から彼女に贈り物が届くようになって、そして今度は、その相手から直接会いたいとの連絡があったという。ホームズとワトスンは、メアリーに付添って、彼女の父親とインドで一緒だったショルトー少佐の息子サディアス(ロナルド・レイシー)を訪れ、そこで父親の死と秘密の財宝についての話を聞かされる。それによれば、サディアスの父ショルトー少佐はインドにいた時期に、友人のモースタン大尉と共にアグラの財宝を発見し、ショルトーは先に財宝を持ってイギリス本国に戻っていたが、約束していた財宝の分け前を要求してインドからやってきたモースタン大尉と口論になり、心臓発作を引き起こさせてしまう。せめてもの罪滅ぼしに、財宝の一部を娘の元に送るようにというショルトー少佐の遺言を守っていたというのが事の真相で、ショルトーはその後持病を悪化させ、謎の侵入者の影に怯えながら急死、遺骸の胸に、侵入者が現れたことを示す「四人の署名」の文字と、シーク教を象徴する4の意味の赤い印付きの紙片が残されていたという。そして今回、父が生前に隠し場所を話さなかった財宝の隠し場所を発見して、メアリに分け与えるために手紙で呼び出したのだという。ホームズ一行はショルトーの兄が住むノーウッドの屋敷へと向かうが、鍵のかかった部屋の中で、双子の兄(ロナルド・レイシー二役)の死体が発見され、サディアスは兄殺しの容疑をかけられ逮捕される。ホームズが犬のトービィの嗅覚を頼りに真犯人を追ってテムズ河畔に辿り着くと、貸し船屋の女主人が義足の奇妙な男に船を貸したとを言う。ホームズは船を発見するため、ベーカー街イレギュラーズをロンドンの街に放った―。
1点だけ大きな違いがあり、原作では最後ワトソンンはメアリーと婚約してめでたしめでたし、それをホームズが「絶対におめでとうとは言えないね」と皮肉るところ、この映像化作品では、彼女は事件解決後に去っていき、それを窓から見遣ったワトスンが「魅力的な女性だ」とポツリ漏らすと、ホームズは「気がつかなかったよ」と―(この遣り取りは、原作では、メアリーがベイカー街を最初に訪れ、帰った後にある)。以降、長編第2作にしてワトスンが婚約してしまった原作に対し、このシリーズでは、最後までワトスンはホームズの同居人でいます。
ジェニー・シーグローブ演じるメアリーは美しく、また、原作よりかなり気丈な印象。彼女の手に財宝が渡るかどうかがストーリーのカギとなりますが、ファッションから見て何だか原作よりも経済的に恵まれている生活を送っている印象もあり、これだったら、財宝がなくても大丈夫?
る義足の男ジョナサン・スモールが逮捕された後に事件の内容を自らホームズらへ語るのも原作と同じですが、このジョナサン・スモールを演じているのが、「主任警部モース」のジョン・ソウ(John Thaw、1942-2002)だとは、最初気づきませんでした。「主任警部モース」の第1話は、この年(1987年)の1月に英国で放映されています。





ミッドサマー地区で中年女性アグネス・グレイ(デニーズ・アレクサンダー)が何者かに殺された。アグネスは不治の病に冒されており、「とてつもない過ちを犯したのでそれを正したい」と漏らし、意外なほどの大金を動物保護団体に寄付していた。一方、ハロルド・ウィンスタンリー(バーナード・ヘプトン)が舞台監督を務めるコーストン・アマチュア劇団による舞台劇「アマデウス」の初日が近づいていたが、バーナビー(ジョン・ネトルズ)の妻ジョイス(ジェーン・ワイマーク)も端役で出演する、サリエリ役で主演する会計士のエスリン(ニコラス・ラ・ブレボスト)はアグネスのいとこで唯一の親族だった。
キティ(Debra Stephenson)/ローザ(Sarah Badel)
エスリンの妻キティ(デブラ・スティーブンソン)は(舞台ではモーツァルトの恋人役)は不倫をしており、そのことを同じ劇団員のエスリンの元妻のローザ(サラ・バデル)がエスリンに示唆したことで、エスリンはローザに離婚話を切り出す。人々の愛憎が錯綜する中で初日の幕は上がるが、クライマックスでエスリンは、何者かによってテープが剥がされた剃刀で喉を切ってしまい死亡。バーナビーの調べで劇団員兼大道具係デービッド(イアン・フィッツギボン)の父で大道具係のコリン(ジェフリー・ハッチングス)が「自分が殺した」と自供するが、それは息子を庇ってのことで息子も無実が明らかになり、となると、アグネスとエスリンを殺した真犯人は別にいることになる―。
アマチュア劇団を舞台にした演出家と俳優の確執をモチーフにした作品ですが、ちゃんと原作者の著作がある作品で、しかも、今回は珍しく原作者本人が脚本を担当しているにしては、第1話「謎のアナベラ」、第2話「血ぬられた秀作」と比べると、人間関係の入り組み具合もさほどではなく、プロットも単純で、分かりやすけれど物足りないと言うか、ミステリとしてはややランク落ちの印象を受けます。
プロットは物足りないけれども、今回も怪しい人物、奇妙な人々には事欠きません。エスリンの妻の不倫相手は、ゲイの書店主アベリーの本屋で働いていた"ゲイ友"の書店員ティムだったんだなあ(舞台では2人は舞台美術係と照明係)。ハロルドのお手伝い(舞台では進行係兼小道具係)デアドレ・ティブス(ジャニーン・ダヴィツキー)が、ハロルドが劇の評判を聞くよう彼女に頼んだのに、彼女は事件のことを記者たちに話したくて仕方がない様子がおかしいです(でも、これが"マトモな感覚"なんだろなあ)。
トロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)が初めて警部の娘カリー(ローラ・ハワード)に出会って一目惚れするのはこの回だったんだなあと。彼女は、役者の卵ニコラス(エド・ウォーターズ)の方と仲良くなってしまいましたが、このプロの役者を目指している青年も書店員。バーナビーも、舞台美術の手伝いで書割の絵をかいているし、今回は、関係者ほぼ全員が劇団員であるか何らかの形で舞台に関係しているという中で事件が起きるというのが、最大のミソと言えるのでしょう。
しかし、「アマデウス」とはねえ。田舎のアマチュア劇団にしては随分難しそうな演目を選んだものだと思いますが、わざとそうした設定にしたのでしょう。原作は、サリエリが喉を搔き切る場面で"血糊"を見せるかどうかを演出家らが議論している場面から始まり、シェークスピア劇をはじめ演劇に関する薀蓄がてんこ盛りです。
映画の方は、アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞など8部門を獲得した作品で、双葉十三郎(1910-2009/享年99)の『
個人的にも大作であるとは思いましたが、モーツァルト像がややデフォルメされ過ぎている印象もありました。アカデミー賞の「主演男優賞」には、"ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト"を演じたトム・ハルスと、"サリエリ"を演じたF・マーリー・エイブラハムの両方がノミネートされましたが、F・マーリー・エイブラハムが受賞したのは順当と言えるかと思います(F・マーリー・エイブラハムはゴールデングローブ賞「主演男優賞」(ドラマ部門)、
「アマデウス」●原

ある日、ランピオン刑事(マリウス・コルッチ)が歩いていると怪しげな男が近づいてきて、男はルブランという浮気調査の探偵だった。君は出世の道をラロジエール警視(アントワーヌ・デュレリ)に邪魔されているとランピオンに話すルブランは、ランピオンを探偵社にスカウト、常日頃のラロジエールの横暴に耐えかねていたランピオンは、警察を辞め、探偵社に転職する。その探偵社に一人の女性マリー(プリュンヌ・ブシャ)が訪ねてきて、死んだと聞かされていた母親が夫殺しの罪で獄中にあることを最近知り、画家である父親は心臓発作で亡くなったと聞かされていたのだが、その15年前の出来事の真相を知りたいと調査依頼する。元上司のラロジエールを見返すべく、ランピオンは調査に奔走、事件は、女性の母親が、愛人を同じ屋敷内に住まわせた夫に対して嫉妬し、毒入りのビールを飲ませたというものだったが、マリーは母親の無実を信じていた―。
原作では、16年前に画家である夫を殺害したとして死刑を宣告され、その1年後に獄中で死亡した母の無実を訴える遺書を読んだ若き娘が、母が潔白であることを固く信じポアロのもとを訪れる―というものですが、この映像化作品では母親は獄中にて存命しています。
加えて、本編冒頭からラロジエール警視の横暴に不満の募るランピオン刑事の探偵社への転職話があったりして、原作が非常に完成度の高い構成を備えた傑作であるため、あんまり極端な改変をしないで欲しいなあと思って観ていましたが、まあ、上司・部下の関係の展開はサブストーリーであって、観終わってみれば、本筋の部分では原作をそう外れておらず、むしろ、母親がなぜ自身の無実を娘に伝えながらも公には冤罪を主張することをしなかったのか、或いは、なぜ犯人は被害者に対して殺意を抱いたのか、などといったことが状況と併せてスンナリ分かるものとなっています。
原作では、事件当時の5人の関係者それぞれにポワロが会って、過去の事件の状況を訊いて回り、まるで童謡にある「五匹の子豚」のような行動をとった5人に"レポート"まで出させるわけですが、さすがに"レポート"提出まではないものの、最後に関係者を集めて謎解きをしてみせるのは原作と同じ。しかもそこへ、存命だった(であることにしてしまった)母親が疑い晴れて釈放されて現れるというハッピーエンドで、冒頭で母親が絞首刑になる場面を入れた改変を行っているデヴィッド・スーシェ版(第50話、2003年)の暗さの対極にある、このシリーズならではの明るさです。カタルシス効果もあって良かったのではないかと思います。
原作では、母親が被害者の殺害現場にあったビール瓶の指
紋を拭ったのを見たと言う元家庭教師の後からの証言から、それこそ彼女が犯人ではないことを証明するものだというポワロの洞察が導かれるわけですが、この映像化作品では、当時5歳くらいだった娘に、二十歳過ぎの今になって、母親のそうした所為を見た記憶が甦ってくるというふうに改変されていて、これは改変する必要があったのかなとも。
そう言えば、「刑事コロンボ」の中にも、「殺意のキャンバス」(Murder, a Self Portrait、第50話、1989年)という、3人の女性(妻・前妻・愛人)と海辺のコテージで暮らす天才画家の話がありました。こうした状況設定のモデルはパブロ・ピカソ(1881-1973)だそうです。
「殺意のキャンパス」の方は、前妻は隣りのコテージに住んでいますが、今の妻と絵のモデルの愛人は自分のコテージに同居させていて、何れにせよ、妻妾同居はトラブルの元―といったところでしょうか。
って描いていたとうことをアリバイに、実は既に出来上がっていいる絵を持ち込んで、その間にアトリエを抜け出して海辺で日光用中の前妻を殺害するというもの。3人の女性との暮らしがギクシャクして、前妻を殺したら多少は落ち着くかと思ったら、現在の妻も愛人も画家の自己チューぶりに愛想をつかして出て行ってしまうという展開も皮肉がよく効いていて、80年代終わりに始まった新・シリーズの中では、比較的よく出来ている方ではないでしょうか。
このシリーズのコメディっぽいシーンに欠かせない俳優ヴィト・スコッティは、新旧シリーズ通して6話に登場していて、これが最後となりました。この作品以前は、第19話「
督:エリック・ウォレット●脚本:シルヴィ・シモン●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ●日本放映:2011/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)
「刑事コロンボ(第50話)/殺意のキャンバス」●原題:MURDER, A SELF PORTRAIT●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ジェームズ・フローリー●製作:スタンリー・カリス●脚本:ロバート・シャーマン●音楽:パトリック・ウィリアムズ●時間:90分●出演:ピーター・フォーク/ロバート・フォックスワース/パトリック・ボーショー/フィオヌラ・フラナガン/シーラ・ダニーズ/イザベル・ロルカ/ヴィト・スコッティ/ジョージ・コー/デヴィッド・バード●日本初放送:1994 /11●放送:NTV:★★★☆) 




ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)は、甥のレイモンドに持病の気管支炎の転地療養を勧められ、カリブ海のバルバドス島のホテルに滞在していた。ある日、宿泊客の一人で自慢話好きのパルグレイブ少佐(フランク・ミドルマス)から、2件の妻の自殺に関わった殺人容疑者だという人物の写真を見せられようとした時、彼がマープルの肩越しに誰かを見てそれをやめ、財布に写真をしまってしまうということがあった。その晩に酔っていた少佐は、翌朝自分の部屋で死んでいるのを部屋係のヴィクトリア(ヴァレリー・ブキャナン)に発見される。ヴィクトリアは少佐の部屋で死亡前には無かった不審な錠剤を見つける。

ホテルの経営者ティム・ケンドール(エイドリアン・ルーキス)とヴィクトリアから報告を受けたティムの妻モリー(ソフィー・ウォード)は、グレアム医師(T・P・マッケンナ)に相談する。医師は大佐の死は高血圧によるものと判断するが、一応、ネピア総督(ショーガン・シーモア)に依頼してウェストン警部(ジョゼフ・マィデル)に埋葬した死体を再検査させる。

マープルはヴィクトリアから、彼女の叔母(イサベラ・ルーカス)が住む村へ招待され、その叔母から
ホテル経営者夫婦の来歴を聞く。ヴィクトリアは、錠剤を本来の持ち主グレッグ(ロバート・スワン)に返す。モリーは一時的に記憶を失うことがある不安を滞在客のイヴリン(シェイラ・ラスキン)に打ち明ける。イヴリンの夫でグレッグに雇われている蝶学者エドワー
ド(マイケル・フィースト)は、最初の妻の看護婦で今はグレッグの妻であるラッキー(スー・ロイド)と関係しながらも、妻イヴリンとはとりあえず一緒にいる。
そうした中、モリーが夕食時に、樹の傍で刺殺されているヴィクトリアを発見する。ホテルに滞在していた車椅子の大富豪ジェイソン・ラフィール(ドナルド・プレザンス)は、最初はミス・マープルのことを嫌っていたが、やがて彼女の観察眼の鋭さに気づき、マープルと共に連続殺人事件の推理を始める―。



原作に対しては、やはり伏線が無かった分"掟破り"の印象を抱かざるを得ませんでしたが、この映像化作品ではそのヒントを与えているし、プロットが結構粗いところを、キャラクターをきちんと描き分けてドロドロした人物相関を浮かび上がらせることで補っている原作に倣って、この映像化作品も、ドラマ部分が丁寧に描かれているというか、説明的で分かりやすかったです(原作を先に読んでいるということもあるが)。
個人的には、原作が星3つ半の評価に対して、原作の魅力を忠実に再現しているという点、プラス、映像化によりカリブ海リゾートのイメージが掴めたり、ドナルド・プレザンスとジョーン・ヒクソンの演技競演が見られたりしたことを加味して星4つ。ミス・マープルがヴィクトリアの葬儀に参列するなども原作からの改変ですが、そのことによって「復讐の女神」というキータームの意味が明確化することに繋がっており、ここまできちんと作られてしまうと、後に来る映像化作品は、独自の改変を加え、"改変の妙"を狙ったものにならざるを得ないのかなあと。ストレートで勝負して、このジョーン・ヒクソン版を超えるのは難しいのでは。
「ミス・マープル(第10話)/カリブ海の秘密」」●原題:A CARIBBEAN MYSTERY●制作年:1989年●制作国:イギリス●本国放映:1989/12/25●演出:クリストファー・ペティット●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版108分(完全版203分)●出演:ジョーン・ヒクソン/フランク・ミドルマス/エイドリアン・ルーキス/ソフィー・ウォード/ドナルド・プレザンス/ロバート・スワン/シェイラ・ラスキン/ショーガン・シーモア/ジョゼフ・マィデル/マイケル・フィースト/スー・ロイド/バーバラ・バーンズ/スティーヴン・ベント/ヴァレリー・ブキャナン/イサベラ・ルーカス●日本放映:1996/04/09●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)


セント・メアリー・ミードへ行くためにパディントン発4時50分の急行列車に乗ったマクギリカティ夫人(モナ・ブルース)は、平行して走る列車を追い越す際に窓越しに女性が絞殺される瞬間を目撃、その話を信じるミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)はスラック警部(デヴィッド・ボロヴィッチ)に捜査を依頼するが、警察は手掛かりを見つけられず、夫人の勘違いだろうと片づける。そこでミス・マープルは、同じ列車に乗って犯人が死体を遺棄した場所を推察
し、フリーのハウスキーパーのルーシー・アイレスバロウ(ジル・ミーガー)に調査を依頼し、付近にあるクラッケンソープ家の住むラザフォード邸に彼女を家政婦として送り込む。屋敷の当主ルーサー(モーリス・デ
ンハム)は、先代の遺言で屋敷や土地を勝手に処分することはできず、遺産は彼の子供らにいくことになっていて、年一回相続権のある人間が集まって会食を開くことも遺言により決まっている。父の世話をしている長女エマ(ジョアンナ・ディヴィッド)のほか、屋敷に集まってきたのは、次男の画家セドリック(ジョン・ハラム)、三
男の銀行家ハロルド(バーナード・ブラウン)、四男のディーラーのアルフレッド(ロバート・イースト)、亡くなった次女の夫で子連れの保険会社員ブライアン(ディヴィッド・ビームズ)と息子のアレクサンダー及びその寮友達、そしてクインパー医師(アンドリュー・バート)。見届け人は、弁護士のアーサー・ウィンボーン(ウィル・ティシー)。ルーシーは古い納屋の石棺で女性の死体を見つけ、警察がその身元を探るうちに、今度は事故に見せかけてハロルドが森で殺される―。


その他にも、原作のクラドック警部(原作の『予告殺人』にも登場)ではなく、スラック警部(デヴィッド・ボロヴィッチ)が登場、彼はこのシリーズで第5話「
「ミス・マープル(第9話)/パディントン発4時50分」」●原題:4:50 FROM PADDINGTON●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:マーティン・フレンド●脚本:T.R.ボウエン●時間:日本放映版110分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン/モーリス・デンハム/デヴィッド・ボロヴィッチ/デヴィッド・ビームス/モナ・ブルース/ジル・ミーガー/ジョアンナ・デヴィッド/ アンドリュー・バート/ジョン・ハラン/ローダ・ルイス/バーナード・ブラウン/ロバート・イースト/イアン・ブリンブル/ウィル・ティシー●日本放映:1996/04/08●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)


老富豪ラフィ-ル(フランク・ガットリフ)は、秘書(バーバラ・フランチェスキ)にミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)のことを"復讐の女神"だと言っていた。一方ミス・マープルは、妻に追い出された甥のライオネル(ピーター・ティルベリー)を同居させていたが、新聞記事でラフィールの死を知り、カリブ海の島で彼と共に殺人事件を解決したことを思い出した。彼女はラフィールの弁護士ブロードリッブ(ロジャー・ハモンド)とシャスター(パトリック・ゴッドフリー)から、彼が遺言でマープルを「館と庭園の史跡巡り」バス・ツアーに"正義に関心があるならば"と招待していたことを知らされ、礼金は2万ポンドだが調査目的は不明。マープルは、何を解決すべきか分からないながらも故人の期待に応えるべく、ライオネルと共にツアーに参加することに。ツアーがアビー・デューシスに着いた時、旧領主邸からラヴィニア(ヴァレリー・ラッシュ)が、マープルに邸に泊まるよう迎えにを来て、ラフィールの手配であるというこ
の招待を彼女は受ける。邸には、彼女の姉クロチルド(マーガレット・ティザック)と妹アンセア(アンナ・クロッパー)がいたが、姉妹は、何年か前にラフィールの息子マイケル(ブルース・ペイン)との婚約後に殺されたヴェリティの親権者だった。マイケルは証拠不十分で釈放され、貧民街で暮らしていた。そんな中、ツアーのメンバーの一人で、かつてヴェリティの教師だったエリザベス・テンプル(ヘレン・チェリー)が何者に博物館で石像を落とされて意識不明の重態に。テンプルは、マープルに「あの人たちにヴェリティの真実を聞いて」との言葉を遺して亡くなる。ツアーに参加していたクック(ジェイン・ブッカー)とバロー(アリソン・スキルベック)の女性二人組はマープルを見張っている。同じくツアーメンバーのワンステッド教授(ジョン・ホースリー)は、ラフィールが依頼した犯罪心理学者、これもまたラフィールに呼び寄せられたというブラヴァゾン大執事(ピ-ター・コプリー)は、マイケルとヴェリティは真に愛し合っていたと証言し、ヴェリティは行方不明後半年して水路で顔を潰された死体で発見されたと言う。教授は同時期に行方不明になった少女ノラ・ブレントの母(リズ・フレィサー)に会い、一方マープルは、殺人の動機は"強い愛情"だと断言する―。
『カリブ海の秘密』の「後日談」なのに、このジョーン・ヒクソン版のシリーズでは「カリブ海の秘密」の2年前に作られ放映されていて、そのこと自体が、原作が「続編」と言うより後日談としての「別事件」であることを物語ってはいますが、原作では、ラフィ-ルさんはああ言った、こう言ったという話は結構出てくるんだよなあ(後に作られた「カリブ海の秘密」('89年)では、大富豪ラフィ-ルは、「刑事コロンボ/別れのワイン」('73年)のドナルド・プレザンスが演じている)。
ストーリー自体は基本的には原作に忠実ですが、原作では、甥のライオネルがミス・マープルと共にツアーに参加するどころか登場もせず(マープルの単独参加)、エリザベス・テンプルは博物館で石像を落とされて重傷を負うのではなく、野外で岩石を落とされて重体に。また、ラフィ-ルの息子マイケルは、原作では釈放されず収監されているため、貧民窟で貧民救済活動をしているなどといったことはなく、事件解決後に初めて登場する―細かいことを言えばそれ以外にも幾つかありますが、トータルでは概ね原作通りで、このシリーズの基調を外れていません。
「ミス・マープル(第8話)/復讐の女神」」●原題:NEMESIS●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:デヴィッド・トッカー●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版106分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン/フランク・ガットリフ/ピーター・ティルバリー/ ブルース・ペイン/ ジェーン・プーカー/ヘレン・チェリー/ジョン・ホースリー/アリソン・スキルベック/ ピーター・コプリー/マーガレット・チザック/ヴァレリー・ラッシュ/ロジャー・ハモンド/パトリック・ゴッドフリー/リズ・フレィサー●日本放映:1996/04/10●放映局:テレビ東京(評価:★★★)




ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)が、甥のレイモンドの好意でしばらく滞在することになった古風な格式をが売りの「バートラム・ホテル」。そこに偶々、女性冒険家のベス・セジウィック(キャロライン・ブラキストンン)も投宿していた。ミス・マープルはべス・セジウィックが結婚・離婚を繰り返していることを友人のセリナ(ジョーン・グリーンウッド)から聞く。

同ホテルには、ラスコム大佐(ジェイムズ・コッシンズ)が姪と称するエルヴィラ・ブレイク(ヘレナ・ミッチェル)と宿泊しているが、実はエルヴィラはべス・セジウィックの娘で、21歳になると莫大な資産を相続することになっていて、大佐は彼女の後見人であった。また彼女は、母親べス・セジウィックの若い愛人でレーサーのラディスラウス(ロバート・レイノルズ)と連絡を取り合っている。
ホテルが大規模な強盗事件と関係があると以前から睨んでいて、ホテルで張り込みを続けているフレッド警部(ジョージ・ベイカー)は、ミス・マープルに警部であることを見抜かれてしまう。そんな中、宿泊客の一人ペニファーザー牧師(プレストン・ロックウッド)が大事な会議の日を間違えて飛行機に乗れずホテルに戻ってきたところを何者かに襲われ、そのまま失踪するという事件が発生した。 
フレッド警部は失踪事件を捜査する警部に同行し、ホテルの受付係りやボーイ長のヘンリー(ネヴィル・フィリップス)らに聞き込みをするが、強盗事件、失踪事件とも手掛かりが得られずにいた。そこへ、離れたところで交通事故にあったらしく記憶を失っている牧師が戻ってきて、彼は自分の部屋で"鏡"を見たという。そんな中、ベスの元夫でホテルのドアマンのマイケル・ゴーマン(ブライアン・マクダラス)がホテル前で射殺される。銃撃されたエルヴィラを庇って自分が撃たれたらしい。犯罪組織の黒幕は誰か。ゴーマンを射殺したのは誰か―。

内容はほぼ忠実に原作をなぞっており、この作品の主人公は、表向きは由緒正しく、実は犯罪組織の大掛かりな犯罪のための「舞台装置」である「バートラム・ホテル」そのものであると言ってもよく、それだけにそのホテルをどう撮るかというのが一つの大きなポイントになるわけですが、雰囲気がよく出ているなあという印象(ミス・マープルは、あまりに昔のままであることに却って違和感を抱くわけだが)。原作でかなりの分量を割いている
ホテル内の描写や、そこで行われるお茶会の模様が、映像だと一発で分かるわけで、そこが映像の強みですが、逆にイメージと違ったりすると大きな引っ掛かりになるわけで、その点に関しては、この映像化作品は一定水準をクリアしているように思いました。
更に、エルヴィラがベス・セジウィックの娘であることも原作よりも早くから明かされており、ますますテンポがいいと言うか、娘エルヴィラに冷たく接するベス・セジウィックの真意というのが作品の一つのテーマになっているため、ドンデン返しの結末の伏線として、早い段階に母娘の対面を持ってきたのも悪くないように思いました。
この作品、前半部分は、ホテルが何らかの秘密を抱えているらしいという、その謎がメインであって、一方、エルヴィラは、自分の相続関係を調べまくっています。原作を知らないで観ると、メイドが牧師の部屋に入っていったところでその死体を見つけるというのが、時間帯的にもそろそろといったタイミングであるように思われることから、「死体発見シーン」的な典型的な効果音につられて、ついそう思い込んでしまうでしょう。原作を知らない人向けの演出だったんだなあ、あれは(バックの音楽とは裏腹に何も起きないわけだが、このメイドも"一味"だったみたい)。行方不明になった牧師が戻ってきて、ミス・マープルが"鏡"を見たという彼の言葉を頼りに実地検分してみせる場面は、"適度に解説的"でいいのではないかなあ。
「ミス・マープル(第7話)/バートラム・ホテルにて」」●原題:AT BERTRAM`S HOTEL●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:メアリー・マクマーレイ●脚本:ジル・ハイエン●時間:日本放映版108分(完全版205分)●出演:ジョーン・ヒクソン/キャロライン・ブラキストン/ヘレナ・ミッチェ/ジェームス・コッシンズ/ジョアン・グリーンウッド/ジョージ・ベイカー/ プレストン・ロックウッド/ブライアン・マクダラス/ロバート・レイノルズ●日本放映:1996/05/07●放映局テレビ東京(評価:★★★★)


ニュージーランドで育ったグエンダ・リード(ジェラルディン・アレクサンダー)は、夫ジャイルズ(ジョン・モルダー=ブラウン)と新居を購入したが、屋敷の持ち主に案内される前に寝室の場所が分かったり、庭師に頼んだ階段が既に柳の木の下にあったり、建築家に頼んだ扉が壁の裏側にあったりと、初めてのはずの家の中を隅々まで知っているような感覚を抱く。
夫ジャイルズは、ロンドンに住む従弟のレイモンド・ウェスト(ディヴィッド・マカリスター)夫とその妻に会ってグエンダを紹介、レイモンドの叔母ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)と皆で観劇に行くが、劇中の夫が妻を絞殺する場面で、グエンダは恐怖に駆られ叫び出し、マープルはそれは彼女の過去の記憶のせいだと推理、過去は掘り返さない方がよいと助言しつつも調査したところ、グエンダの父はインドから英国へ帰航中にへレンと会って結婚したが、新妻は駆け落ちしていたことが分かる。
グエンダがヘレンの情報を求める新聞広告を出すと、ヘレンの兄ジェイムズ・ケネディ医師(フレデリック・トレヴェス)が訪ねて来て、彼の話をもとに父の居たナトリウムを訪ね、父の死が、自分がヘレンを絞殺したという妄想に駆られての自殺だったことを知らされる。ヘレンには誰か他の男がいたらしく、グエンダはヘレンの恋人だった男を探し出し、弁護士ウォルター・フェーン(テレンス・ハーディマン)、退役少佐リチャード・アースキン(ジョン・ベネット)、観光会社経営ジャッキー・アフリック(ケネス・コープ)らと会うが、彼らは皆ヘレンに振られただけのようで、犯行証拠は得られない。

グエンダを演じるジェラルディン・アレクサンダーは、
「ミス・マープル(第6話)/スリーピング・マーダー」」●原題:SLEEPING MURDER●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:ジョン・デイビス●脚本:ケン・テイラー●時間:日本放映版108分(完全版203分)●出演:ジョーン・ヒクソ/ジェラルディン・アレクサンダー/ジョン・モルダー=ブラウン/フレデリック・トレーヴス/ジーン・アンダーソン/テレンス・ハーディマン/ジョーン・スコット/エイリル・メイナード/ケネス・コープ●日本放映:1996/05/08●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)


セント・メアリ・ミード村の牧師クレメント(ポール・エディントン)の若妻グリセルダ(チェリル・キャンベル)は料理が苦手なメイドに不満を抱いている。そのメイドのマリー(レィチェル・ウィーヴァー)は密猟で刑務所を出たばかりのアーチャー(ジャック・ギャロウェイ)と恋仲で、仕事の方はおざなり。クレメントが牧師館の離れを貸している画家レディング(ジェームス・ヘイゼルダイン)は、プロセロー大佐(ロバート・ラング)の妻アン(ポリー・アダムズ)と恋愛中で、前妻の娘レティス(タラ・マックゴーラン)の水着姿も描いている。副牧師ホゥズ(クリストファー・グッド)は情緒不安定であり、数日前から村に滞在している"謎の女"レストレンジ夫人(ノルマ・ウェスト)を、医師ヘィドック(マイケル・ブラウニング)は親身に思って診察している。そんな中、教会の募金が消えたことに疑いを持ち、帳簿を調べるために牧師館に来ていたプロセロー大佐が書斎で射殺体で見つかり、地元警察のスラック警部(ディヴィッド・ホロヴィッチ)とレイク警部補(イアン・ブリンブル)が捜査に乗り出すが、画家のレディング自首し、誰もが事件は解決と思った。ところが彼にはアリバイがあって犯行不可能とされ、続いて、彼と恋仲にある大佐の妻アンが、自分が夫を殺害したと認めるが、これも筋が通らない―。
1984年から1992年にかけて本国イギリスで放映されたBBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第5話(本国放映は1986年)で、
例えば、この事件の犯人はわざとミス・マープルの目の前を通って行ったうえで犯行を犯し、彼女に捜査をミスリードする証言をさせるわけですが、事件後に捜査が始まってからの「マープル証言」の中での"振り返り"としてその場面が出てくるのに対し、グラナダ版ではリアルタイムでその場面を映しています。
これ観ると、スラック警部はミス・マープルとの出会いがしらから「事件のあるところにミス・マープルあり」とウンザリしている様子で、最後の最後までミス・マープルを疎ましく思っている印象を受けます。
「ミス・マープル(第5話)/牧師館の殺人」」●原題:THE MURDER AT THE VICARAGE●制作年:1986年●制作国:イギリス●演出:ジュリアン・エイミーズ●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版95分(完全版188分)●出演:ジョーン・ヒクソン/ポール・エディントン/ロバート・ラング/シェリル・キャンベル/ポリー・アダムス/タラ・マクゴーラン/ジェームス・ヘイゼルダイン/デヴィッド・ホロヴィッチ●日本放映:1997/03/07●放映局:テレビ東京(評価:★★★)

投資会社社長レックス・フォーテスキュー(ティモシー・ウェスト)が事務所で、秘書のミ
ス・グローブナー(スーザン・ギルモア)がお茶を運んだ直後に急死し、その上着のポケット一杯にライ麦が入っていた。ニール警部(トム・ウィルキンソン)とヘイ巡査部長(ジョン・グローヴァー)は数時間前に摂取されたアルカロイド系毒物が死因と鑑識医フレンチ(ルイス・マホニー)から聞き、朝食に毒を盛られたとみて、レックスの自宅であるイチイ邸に行く。
家政婦メリー・ダヴ(セリナ・ケイデル)によれば、亡くなったレックスは皆に嫌われていた。若い後妻アディール(スティシー・ドーニング)はヴィヴィアン・デュボア(マーティン・スタンブリッジ)という男と浮気中であり、義理の姉エフィー・ヘンダーソン(ファビア・ドレイク)は階上の自室に籠り切り。邸には長男パーシヴァル(クライブ・メリン)とその妻ジェニファー(レイチェル・ベル)が同居し、他に執事クランプ(フランク・ミルズ)と料理人のクランプ夫人(メレリーナ・ケンドール)、メイドのエレン(ビュー・ダニエルズ)、マープルが躾けを教えたやや愚鈍な小間使いグラディス・マーティン(アネッテ・バッドランド)がいた。
レックスにアフリカから呼ばれた次男のランス(ピーター・デビソン)が、貴族出身の未亡人での妻パトリシア(フランセス・ロウ)をホテルに置いて邸へ来た夜、アディールが飲み物で毒殺され、グラディスからの電話を受けたミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)はマザー・グースの「6ペンスの唄」の歌詞を思い出す。彼女はイチイ邸にタクシーで駆けつけるが邸に入れてもらえず、ニール警部にメモを渡すも彼はそのメモを見ない。その夜、グラディスが洗濯物干し場で殺されているのが発見され、鼻には洗濯バサミが。マザー・グースの歌詞に沿えば、"つぐみ"が事件の背景にあるはずだとミス・マープルは警部に助言し、ランスはアフリカの"つぐみ"鉱山のことだろうと言う。レックスは昔その鉱山で鉱山技師のマッケンジーを見捨てて帰国しており、彼の子供がレックスへの恨みから犯行に及んだ可能性も。更には、犯行にあたって、男性と付き合いたいというグラディスの女心を巧みに利用した男がいるらしい―。
でも、この映像化作品では、ちょっと雰囲気違うなあと。原作を読み犯人が判っていて観ているというのもあったとは思いますが、この犯人、途中でかなりあからさまに怪しげな素振りもみせるし...。
レックスの会社の秘書のミス・グローブナー(スーザン・ギルモア)もそんな美人ではないし、レックスの若い後妻アディールは軽薄そうだし、小間使いグラディスに至っては...。レックスの義姉エフィー・ヘンダーソン(原作ではラムズボトル姓)が一番イメージ通りだったけれど(何だか全てを見透かしている感じ)、これは酸いも甘いも知り尽くしたお婆さんであり、あまり美人が出てこないというのが、故レックスの周辺の暗さを物語っている感じでした。





「リトル・パドックスで今晩7時に殺人があります」という広告が地元の新聞に出たことが村の人の間で話題になり、リトル・パドックスの邸の女主人レティシア・ブラックロック夫人(ウルスラ・ハウェルズ)がパーティの準備をする
中、好奇心の旺盛な村の住人たち―イースターブルック大佐(ラルフ・マイケル)とその夫人(シルヴィア・シムズ)、スウエッテナム夫人(メリー・ケリッジ)と息子で作家の卵であるエドマンド(マシュー・ソロン)、豚の世話をするヒンチクリフ(パオラ・ディオニソッティ)と気はいいが頭の弱い友人マーガトロイド(ジョーン・シムズ)、ハーモン牧師(ディヴィッド・コリングズ)とその夫人(ヴィヴィエン
ヌ・ムーア)―らが集まってくる。やがて7時丁度に居間の明かりが突然消えて銃声がし、見知らぬ男が倒れ絶命していた。銃弾はレティシアの耳をかすめたようで、夫人は耳朶から出血し、夫人の友人で同居人のドーラ・バンニー(レニー・アシャーソン)は気が動転し、難民の外人メイドであるハナ(エレーン・アイヴス・キャメロン)は自分の命が狙われているとヒステリニックに喚く。強盗に入って来た男はホテル従業員のルディ(ティム・チャリングトン)だったが、自殺なのか他殺なのかそれとも事故なのか杳として知れない。
捜査はクラドック警部(ジョン・キャッスル)とフレッチャー巡査部長(ケヴィン・ウェイトリー)によって行われ、居間にいた客をはじめ、レティシアの遠戚であるというジュリア(サマンサ・ボンド)とパトリック(サイモン・シェファード)、夫を戦争で亡くしたという、何か秘密を抱えている様子の若い未亡人フィリッパ(ニコラ・キング)らの証言を探っていく。署長の推薦で意見を求められたマープルは、ルディに強盗をやらせた誰かが犯人だと示唆し、ルディの友達だった女給のマーナ(リズ・クロウサー)に重ねて聞くよう助言したところ、ルディは強盗の真似をして誰かから礼金を貰う約束だったことが判明する。事件には、大富豪ゲドラーの遺産が絡んでいるようで、ゲドラーは妻が死んだ場合は、かつ彼の秘書だったレティシアに遺産が行くようになっていた。そして、ドーラ・バンニーが誕生日パーティの後、毒殺死する―。
クラドック警部を補佐するフレッチャー巡査部長役のケヴィン・ウェイトリーは、英ITVの「主任警部モース」シリーズではモースを補佐するルイス部長刑事役でずっと出ており、この時期、掛け持ちして「別の上司」に付いていたことになりますが、キャラクター的に全く同じに見えるのは、立場が同じだからか。
「ミス・マープル(第3話)/予告殺人」」●原題:A MURDER IS ANNOUNCED●制作年:1985年●制作国:イギリス●本国放映:1985/02/28●演出:デヴィッド・ジャイルズ●脚本:アラン・プレイター●時間:155分●出演:ジョーン・ヒクソン/シルヴィア・シムズ/パオラ・ダイオニソッティ/ メアリー・ケリッジ/ウルスラ・ハウエルス/ジョン・キャッスル/レネ・アシェーソン/ ジョーン・シムズ/ラルフ・マイケル/ケヴィン・ウォートリー/シルヴィア・シムズ/ジョン・キャッスル/マシュー・ソロン/ディヴィッド・コリングズ/ヴィヴィエンヌ・ムーア/エレーン・アイヴス・キャメロン/ティム・チャリングトン/サマンサ・ボンド●ビデオ発売:1998/01●発売元:日本クラウン(評価:★★★★)



戦争中の飛行機事故で負傷したジェリー・バートン(アンドリュー・ビックネル)とその妹ジョアナ(サビーナ・フランクリン)は、静養でリムストック村を訪ね、ファーズ荘を借りて一時滞在することになるが、やがて兄に妹を中傷する手紙が届き、どうやら中傷の手紙は村の誰彼問わずに送りつけられている模様である。
牧師ガイ(ジョン・アーナット)の妻モード(ディリス・ハムレット)は、手紙の主を探るべくミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)に相談する。そんな中、弁護士エドワード・シミントン(マイケル・カルヴァー)の妻アンジェラ(エリザベス・カウンセル)が青酸カリを飲んで死亡し、遺体の傍には「次男の父親は違う」という中傷の手紙と「もうダメ」というメモがあっため検死審問では自殺とされたが、ミス・マープルはこれは殺人だと直感する。
ファーズ荘の料理人パートリッジ(ペネロープ・リー)は、以前ファーズ荘で働いていたメイドのベアトリス(ジュリエット・ウェイリー)から、"自殺"事件の日に奇妙なことがあったので聞いて欲しいと言われ会う約束するが、そのベアトリスはシミントン家の衣装部屋で死体で見つかる。
村に勤めるよそ者の医師オーエン・グリフィス(マーティン・フィスク)はジョアナに恋し、その妹エリル(サンドラ・ペイン)はシミントン氏に思いを寄せる一方、ジェリーはシミントン家の厄介娘ミーガン(デボラ・アップルビイ)の秘めた魅力に気づき、ロンドン行きに同行させて彼女を美しく変身させる。ジョアナは2通目の中傷の手紙を受け取り警察に持参、更に、シミントン家の家庭教師エルシー・ホランド(イモジェン・ビックフォード・スミス)にも中傷の手紙が届き、手紙の指紋からグリフィス医師の妹エリルが逮捕されるが、医師は妹が犯人のはずはないと信じる。クロフォード警視(ロジャー・オスティミー)に依頼して、マープルは真犯人を罠にかける賭けに出る―。
原作が、田舎町でブラック・メールの飛び交うという陰湿な話のようでありながらそれほど暗くないのは、主人公の兄妹の気の置けない遣り取りと彼らを含む登場人物の恋愛模様を絡めることで毒が中和されているためであり、この映像化作品では、とりわけ妹ジョアナとグリフィス医師、兄ジェリーと二十歳の娘ミーガンとのボーイ・ミーツ・ガール的なストーリーを丁寧に描くことで、更にその中和度を増している印象です。
一方で、プロット的には犯人への手掛かりを原作以上に伏線として見せることはしていないので、最後のミス・マープルの謎解きは、原作同様に"ばたばたっ"という印象を受けざるを得ないかも。でもこれ、事件として振り返るとそう複雑なものではないため、下手にヒントを示すと犯人がすぐに解ってしまうというのもあるのかもしれません。
「ミス・マープル(第2話)/動く指」」●原題:THE MOVING FINGER●制作年:1985年●制作国:イギリス●本国放映:1985/02/21●演出:ロイ・ボールティング●脚本:ジュリア・ジョーンズ●時間:日本放映版95分(完全版189分)●出演:ジョーン・ヒクソン/アンドリュー・ビックネル / サビーナ・フランクリン/ジョン・アーナット/ディリス・ハムレット/マイケル・カルヴァー/エリザベス・カウンセル/ペネロープ・リー/ジュリエット・ウェイリー/マーティン・フィスク/サンドラ・ペイン/デボラ・アップルビイ/イモジェン・ビックフォード・スミス/ロジャー・オスティミー/リチャード・ピアソン/ヒラリー・メイソン●日本放映:1997/03/13●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)


セント・メアリー・ミード村の大佐の邸ゴシントン・ホールの書斎で家政婦が若い女性の死体を発見、バントリー大佐(モーレイ・ワトソン)と妻ドリー(グェン・ワットフォード)に知らせるとともに警察に連絡、ドリーは友人のマープル(ジョーン・ヒクソン)を車で呼び寄せて相談する。事件捜査の方は、大佐の友人メルチェット警察本部長(フレデリック・イエガー)が担当し、スラック警部(デヴィッド・ホロヴィッ
チ)、レイク警部補(イアン・ブリンブル)が現場を受け持つことに。マジェスティック・ホテルから行方不明者の捜索願が出されていたが、死体はホテルダンサーのルビー・キーン(サリー・ジェイン・ジャクソン)だという証言が得られる。ルビーは足首を痛めたジョージー(トゥルディー・スタイラー)が代わりに雇った少女で、捜索願を出した大富豪コンウェイ・ジェファーソン(アンドリュー・クルイックシャンク)はルビーを養女にするつもりだったと言う。一方、村の男マルコム(コリン・ヒギンズ)が採石場で燃えた車と焼死体を発見するが...。
コンウェイは8年前の航空機事故で家族を失い、自らも車椅子でのホテル住まいであり、遺された義理の娘アデレード(シーラン・マッデン)と息子マーク・ギャスケル(キース・ドリンクル)の世話になっていた。スラック警部はダンサー兼テニスコーチのレイモンド(ジェス・コンラッド)らを事情聴取。一方、黒焦げの車はルビーと最後に踊ったバートレット(アーサー・ボストロム)のものであり、焼死体はリーヴ少佐(スティーブン・チャーチェット)の娘パメラ(アストラ・シェリダン)と思われた。普段素行が良くない映画制作者のベィジル・ブレイク(アンソニー・スメー)が事件の夜に外出しており、彼に強い容疑がかかる。

原作はプロット的にも「死体入れ替え・時間差」殺人とやや凝っていて複雑。書斎で見つかった死体が検分の結果"処女"だったとか、村の知恵遅れの男マルコムが採石場で比較的早いうちに車と焼死体を発見するが最初は警察に相手にされないとか、村人から疑いの目で見られ始めたバントリー大佐に対して、映画制作者(原作では実は道具係り)のベィジル・ブレイクが「お話したいことがあります」と申し出る場面とかは何れも原作には無く、これみんな、視聴者に対する犯人推理の"助け舟"かと思われます(ベィジル・ブレイクが庭で何かを燃やしているのをマルコムに何を燃やしているのか訊かれ、「うちのばあさんさ」と答えたのは、死体を運んだ際の絨毯を処分していたわけか)。
マープル物の長編第2作、BBC版第1作でありながら、元警視総監ヘンリー卿をしてミス・マープルのことを「イギリス一の犯罪学者。メアリー・ミード村の観察から世界を見ている」と言わしめているのは、先行する短編集『火曜クラブ』でミス・マープルの推理力の凄さを知ったことによるものでしょう。デヴィッド・ホロヴィッチ演じるスラック警部は、現場の捜査が忙しい割には進展が無い中で上司からマープルの意見を聴くよう言われて、「ばあさんと引退した警視総監の両方の面倒を見なければならない」とご機嫌斜めなわけです(この"ご機嫌斜め"ぶりが可笑しいのは、サラリーマンにとっては、会社の中でもこうしたことが時にあるからかもしれないからか)。
ミス・マープルとスラック警部は、原作では、『牧師館の殺人』でスラック警部がミス・マープルに事件解決の先を越されているためマープルに対してライバル心を燃やすという設定ですが、このBBC版は「第1話」であるため当然"初顔合わせ"となり、この後、第5話「
![スーパーマンIII 電子の要塞 [Blu-ray].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3III%20%E9%9B%BB%E5%AD%90%E3%81%AE%E8%A6%81%E5%A1%9E%20%5BBlu-ray%5D.jpg)
メキシコ・アカプルコへ向かう豪華客船で、中古車ディーラーのヘイドン・ダンジガー(ロバート・ヴォーン)は、不倫関係にあり、不倫をネタに恐喝されていた、船専属のショー歌手ロザンナ(プーピー・ボッカー)を殺害、ロザンナに言い寄ってい
たピアニスト、ロイド(ディーン・ストックウェル)に容疑がかかるよう工作を行う。船長は、たまたま缶詰の懸賞に当選し、夫婦で観光で船に乗り込んでいたコロンボを呼び出し、非公式に捜査を依頼することにする―(結局、"カミさん"は映像上一度も出てこないのだが..)。
第29話であり、テレビシリーズ「0011/ナポレオン・ソロ」のロバート・ヴォーン演じる犯人は、第24話「白鳥の歌」のジョニー・キャッシュが演じたカントリー&ウェスタン歌手、第25話「権力の墓穴」のリチャード・カイリーが演じたロス市警次長、第27話の「逆転の構図」のディック・バン・ダイクが演じた写真家に続く、「恐妻家」乃至「資産家の奥さんの尻に敷かれている旦那」といったところですが、こっちはこれまでの彼らのように奥さんを殺すのではなく、愛人の方を殺してしまいます。
撮影には随分費用がかかっているのではないかなあと思いましたが、実際にメキシコのマサトラン経由でアカプルコに向かうクルーズ(出港地はサンフランシスコ)を利用して行なわれ、エキストラは本当の乗船客だったそうです。
患者として寝ていたはずのダンジガーに後ろをすり抜けられてしまう看護婦メリッサ役のスーザン・ダマンテは、この作品では脇役ですが、この頃、スチュワート・ラフィル監督の「アドベンチャー・ファミリー」('75年)にロバート・ローガンと共に主人公の夫婦役で出演していて、人柄の良さそうな典型的な70年代美女でした。
ロスの大都会からロッキーの山奥へ移住した家族を描いた「アドベンチャー・ファミリー」は実話がヒントになっているそうですが、佳作ではあるものの、ロッキーでの自給自足生活は、"グリズリー"の襲来などもあって大変そうだなあと(娘の健康を考えての移住なのに、万一子供が羆に襲われたりしたら元も子もない)。クマに襲われたところを家族が助けたクマに救われるという、今思うとちょっと作り話っぽかったかな。
因みに、脚本家の倉本聰氏は、テレビドラマ「北の国から」の脚本を書く際に制作サイドから、この「アドベンチャー・ファミリー」のようにしてくれと言われたそうです(あと一つ、参考にしてくれと言われたのが映画「キタキツネ物語」だった)(倉本聰『獨白 2011年3月』フラノ・クリエイティブ・シンジケート、2011年)。


ロバート・ヴォーンはその後も渋い脇役や悪役として活躍し、80年代では個人的には「スーパーマンⅢ/電子の要塞」('83年/米)に出ていたのが印象に残っています。リチャード・プライヤー演じる"小物"のワルを背後から操る"大物"のワルといった役どころ。クリストファー・リーヴ演じるスーパーマンをスーパー・コンピュータで打ちのめそうとするコンピュータ会社の悪徳社長の役ですが、現場に送り込まれるのはいつもリチャード・プライヤーで、作品全体のトーンもコメディ調。リチャード・プライヤーって、日本ではマイナーだけど、アメリカではかなり有名なコメディアンだったんだなあ(2005年没)。この作品は、ロバート・ヴォーン自身にとっても、その後の相次ぐコメディ映画出演への転機となった作品でしたが、映画全体としては、「スーパーマン」「スーパーマンⅡ」を超えるものではありませんでした。
因みに、テレビシリーズ(実写版)「スーパーマン」(1952‐1958年、1954年のシーズン3からカラー化)は、主人公のスーパーマン/クラーク・ケント役はジョージ・リーヴスでした(ジョージ・リーブスとも表記される。クリストファー・リーヴとは無関係)。日本では1956年からラジオ東京テレビ(KRテレビ、現TBS)で放映が開始され、最高視聴率74.2%を記録したそうで
す。当時テレビ局が3つ(NHK、NTV、KR)しかなかったことを考慮てもスゴイ数字! 古いドラマなのに記憶にあるのは、何度も再放送されたためです。放送終了後、ジョージ・リーヴスはスーパーマンのイメージが強過ぎて他の役が得られずスランプに陥り、1959年6月16日、ロサンゼルス市内の自宅寝室で射殺死体となって発見されています。自
殺説が有力ですが、ほかに他殺説もあります。クリストファー・リーヴの身の上に起こった有名な災厄やその他諸々と併せて、「
がヴェネツィア国際映画祭男優賞を受賞しています。


「刑事コロンボ(第29話)/歌声の消えた海」●原題:TROUBLED WATERS●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ベン・ギャザラ●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ウィリアム・ドリスキル●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:95分●出演:ピーター・フォーク/ロバート・ヴォーン/ジェーン・グリア/ディーン・ストックウェル/バーナード・フォックス/ロバート・ダグラス/パトリック・マクニー/プーピー・ボッカー/スーザン・ダマンテ/ピーター・マローニー●日本公開:1976/01●放送:NHK(評価:★★★★)
ル●製作:アーサー・R・ダブス●撮影:ジェラルド・アルカン●音楽:ジーン・カウアー/ダグラス・M・ラッキー●原作:アーサ
















情報を入手、その詳細を突き止めるため、闇社会に通じている雑技団団長・張豪(ジャンハオ)の紹介で、首謀者シャマルに会うが交渉は決裂、更に、商売敵デイビッド・キムや謎の女AYAKOが暗躍し、中国国営エネルギー巨大企業CNOX(中国海洋石油)が不穏な動きを見せる中、田岡が何者かに誘拐されたため、張豪の部下である張雨(ジャンユウ)と共に、彼が拉致されていると思われる天津へと飛ぶ―。

アクション風ということで、「
AYAKOのイメージは、「エントラップメント」で主人公の美術泥棒役のショーン・コネリーと共演し、主人公と様々な駆け引きを繰り広げる保険会社調査員役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズかな。ゼタ=ジョーンズの方がよりアクション系で、主人公の相方(弟子?)的立場になったりし、その間、ショーン・コネリーに若干惹かれ気味になったりするんだけど、ラストは...。
キャサリン・ゼタ=ジョーンズはこの作品でゴールデン・ラズベリー賞の最低主演女優賞にノミネートされていますが(すごくいいと言うほどでもないが、そんなに悪くもなかったと思う)、この『太陽は動かない』も、仮に映画化されるとすると、鷹野やAYAKOを演じきれる役者はあまりいないように思います(巷ではAYAKOは「ルパン三世」の峰不二子が相応しいとの声を聞くが、いきなりアニメに行っちゃうのか)。
因みに、作者は映画「ラストエンペラー」('87年/イタリア・中国・イギリス)の大ファンということで、版元のサイトによれば本書執筆のため2011年5月に3泊4日という強行スケジュールで、北京→天津→内モンゴル自治区を行く取材旅行し(編集者同行)、北京では紫禁城を、この作品の前半の主要な舞台となる天津では溥儀が暮らしていた邸宅「静園」なども訪問したそうですが、そうしたモチーフはこの作品には織り込まれていなかったなあ(純粋に溥儀の家を見たかったということか)。
ベルナルド・ベルトリッチ(最近はベルトルッチと表記するみたい)監督の「ラストエンペラー」は、アカデミー賞の作品・監督・脚本・撮影・美術・作曲など9部門を獲得した作品で(ゴールデングローブ賞作品賞も)、紫禁城で世界初の完全ロケ撮影を行うなど前半のスペクタクルに比べ、ジョン・ローンが演じる庭師になった元・皇帝が、かつて自分が住んでいた城に入場料を払って入るラストが侘しかったです。
2時間43分という長尺でしたが、実はこれでも3時間39分の完全版を劇場公開用に短縮したものであり、そのため繋がりの良くないところもあって、個人的には星3つ半の評価でした(これ、有楽町マリオン別館内の「丸の内ルーブル」で観たけれど、たまたま天井の可動式シャンデリアの真下に座ったので、最初それが気になったのを憶えている)。その後、今世紀に入って完全版のDVDが発売されていますが未見。完全版を観れば評価が変わるかもしれません。
「エントラップメント」●原題:ENTRAPMENT●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・アミエル●製作:ショーン・コネリー/マイケル・ハーツバーグ/ロンダ・トーレフソン●脚本:ロン・バス/ウィリアム・ブロイルズ●撮影:フィル・メイヒュー●音楽:クリストファー・ヤング●原案:ロン・バス/マイケル・ハーツバーグ●時間:113分●出演:
「ラストエンペラー」●原題:THE LAST EMPEROR●制作年:1987年●制作国:イタリア・中国・イギリス●監督:ベルナルド・ベルトリッチ●製作:ジェレミー・トーマス●脚本:ベルナルド・ベルトルッチ/マーク・ペプロー●撮影:ヴィットリオ
・ストラーロ●音楽:坂本龍一●時間:163分(劇場公開版)/219分(オリジナル全長版)●出演:ジョン・ローン/ジョアン・チェン/ピーター・オトゥール/坂本龍一/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/デイヴィッド・バーン/コン・スー/ヴィヴィアン・ウー/ヴィクター・ウォン/デニス・ダン/イェード・ゴー/マギー・ハン/リック・ヤング/ウー・ジュンメイ/英若誠/リサ・ルー/ファン・グァン/立花ハジメ/坂本龍一/高松英郎/池田史比古/陳凱歌(カメオ出演)●日本公開:1988/01●配給:松竹富士●最初に観た場所:丸の内ルーブル (88-04-23)(評価:★★★☆)
ジョアン・チェン/ベルナルド・ベルトルッチ監督「ラストエンペラー」('87年/伊・中国・英)・デヴィッド・リンチ監督「


マリオン」新館7階に5階「丸の内松竹」とともにオープン(2005年12月~2008年11月「サロンパス ルーブル丸の内」) 2014年8月3日閉館(「丸の内松竹」は1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」2018(平成30)年12月2日休館、2019(令和元)年10月4日~ドルビーシネマ専用劇場「丸の内ピカデリー ドルビーシネマ」として再オープン) 
丸の内ルーブルの巨大シャンデリア

「ファンタジア」('41年、日本公開'55年)の見開き4ページにわたる紹介を筆頭に(これ、確かに名作ではある。本書にも紹介されている「ネオ・ファンタジア」('76年/伊)の方が大人向きの芸術アニメで、「ファンタジア」
がレオポルド・ストコフスキーならば「ネオ・ファンタジア」の方はヘルベルト・フォン・カラヤンで迫るが、「ネオ・ファンタジア」は「ファンタジア」より35年も後に作られた作品にしては残念ながらはアニメーション部分がイマイチ)、本書全体としてかなりディズニー偏重ではないかと思われ、イギリス映画である「イエロー・サブマリン」('68年/英)なども制作の経緯が結構詳しく記されているけれども、それらも含め米国においてメジャーであるかどうかという視座が色濃いとも言えます。
個人的には「イエロー・サブマリンン」は、「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」('64年/英)、「ヘルプ!4人はアイドル」('65年/英)などとの併映で名画座で観ましたが、いつごろのことか記憶にありません。劇場(ロードショー)公開当初はそれほど話題にならなかったといいますが、今思えば、日本の70年代ポップカルチャーに与えた影響は大きかったかも。イラストレーターの
芸術アニメに関して言えば、アレクサンドル・ペドロフの「
ロバート・ゼメキス監督の「ロジャー・ラビット」('88年)のような「実写+アニメーション合成作品」も取り上げられていますが、確かにアカデミー視覚効果賞などを受賞していて、合成技術はなかなかののものと当時は思われたものの、合成を見せるためだけの映画になっている印象もあり、キャラクターが飛び跳ねてばかりいて観ていて落ち着かない...まあ、アメリカのトゥーン(アニメーションキャラクター)の典型的な動きなのだろうけれど、これもまたディズニー作品。但し、この作品以降、「リジー・マグワイア・ムービー」('03年)まで15年間、ディズニーは実写+アニメーション合成作品を作らなかったことになります(最も最近の実写+アニメーション合成作は「魔法にかけられて」('07年))。まあ、実写とアニメの合成は、作品全体のごく一部分としてならば、ジーン・ケリーがアニメ合成でトム&ジェリーと踊る「


「白雪姫」●原題:SNOW WHITE AND THE SEVEN DWARFS●制作年:1937年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・ハンド●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:テッド・シアーズ/オットー・イングランダー/ アール・ハード/ドロシー・アン・ブランク/ リチャード・クリードン/メリル・デ・マリス/ディック・リカード/ウェッブ・スミス●撮影:ボブ・ブロートン●音楽:フランク・チャーチル/レイ・ハーライン/ポール・J・スミス●原作:グリム兄弟●時間:83分●声の出演:アドリアナ・カセロッティハリー・ストックウェル/ルシール・ラ・バーン/ロイ・アトウェル/ピント・コルヴィグ/ビリー・ギルバート/スコッティ・マットロー/オーティス・ハーラン/エディ・コリンズ●日本公開:1950/09●配給:RKO(評価:★★★★)「


「イエロー・サブマリン」●原題:YELLOW SUBMARINE●制作年:1968年●制作国:イギリス●監督:ジョージ・ダニング/ジャック・ストークス●製作:アル・ブロダックス●撮影:ジョン・ウィリアムズ●編集:ブライアン・J・ビショップ●時間:90分●出演:(アニメ画像として)ザ・ビートルズ(ジョン・レノン/ポール・マッカートニー/ジョージ・ハリスン/リンゴ・スター)●日本公開:1969/07●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(07-08-28)(評価:★★★☆)

「錨を上げて」●原題:ANCHORS AWEIGH●制作年:1945年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・シド
ニー●製作:ジョー・パスターナク●脚本:イソベル・レナート●撮影:ロバート・プランク/チャールズ・P・ボイル●音楽監督:ジョージー・ストール●原作:ナタリー・マーシン●時間:140分●出演:フランク・シナトラ/キャスリン・グレイソン/ジーン・ケリー/ホセ・イタービ /ディーン・ストックウェル●日本公開:1953/07●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19).jpg)
」 by Alexandre Petrov(アレクサンドル・ペトロフ) 1999.jpg)
「霧の中のハリネズミ(霧につつまれた







ポスターに関して言えば、60年代よりも前のものの方がいいものが多いような印象を受けました。個人的には、「キング・コング」('33年)のポスターが見開き4ページにわたり紹介されているのが嬉しく、「『美女と野獣』をフロイト的に改作」したものとの解説にもナルホドと思いました。映画の方は、最近のリメイクのようにすぐにコングが出てくるのではなく、結構ドラマ部分で引っ張っていて、コングが出てくるまでにかなり時間がかかったけれど、これはこれで良かったのでは。当のコングは、ストップ・アニメーションでの動きはぎこちないものであるにも関わらず、観ている不思議と慣れてきて、ティラノサウルスっぽい「暴君竜」との死闘はまるでプロレスを観ているよう(コマ撮りでよくここまでやるなあ)。比較的自然にコングに感情移入してしまいましたが、意外とこの時のコングは小さかったかも...現代的感覚から見るとそう迫力は感じられません。但し、当時は興業的に大成功を収め(ポスターも数多く作られたが、本書によれば、実際の映画の中での
コングの姿を忠実に描いたのは1点[左上]のみとのこと)、その年の内に「コングの復讐」('33年)が作られ(原題は「SON OF KONG(コングの息子)」)公開されました。 「コングの復讐」('33年)[上]
因みに、アメリカやイギリスでは「怪獣映画」よりも「恐竜映画」の方が主に作られたようですが、日本のように着ぐるみではなく、模型を使って1コマ1コマ撮影していく方式で、ハル・ローチ監督、ヴィクター・マチュア、キャロル・ランディス主演の「紀元前百万年」('40年)ではトカゲやワニに作り物の角やヒレをつけて撮る所謂「トカゲ特撮」なんていう方法も用いられましたが、何れにしても動きの不自然さは目立ちます。そもそも恐竜と人類が同じ時代にいるという状況自体が進化の歴史からみてあり得ない話なのですが...。
この作品のリメイク作品が「恐竜100万年」('66年)で、"全身整形美女"などと言われたラクエル・ウェルチが主演でしたが(100万年前なのに
ラクェル・ウェルチがバッチリ完璧にハリウッド風のメイキャップをしているのはある種"お約束ごと"か)、やはりここでも模型を使っています。結果的に、ラクエル・ウェルチの今風のメイキャップでありながらも、何となくノスタルジックな印象を受けて、すごく昔の映画のように見えてしまいます(CGの出始めの頃の映画とも言え、なかなか微妙な味わいのある作品?)。

それが、その10年後の、ジョン・ギラーミン監督のリメイク版「キングコング」('76年)(こちらは邦題タイトル表記に中黒が無い)では、キング・コングの全身像が出てくる殆どのシーンは、リック・ベイカーという特殊メイクアーティストが自らスーツアクターとなって体当たり演技したものであったとのことで、ここにきてアメリカも、「ゴジラ」('54年)以来の日本の怪獣映画の伝統である"着ぐるみ方式"を採り入れたことになります(別資料によれば、実物大のロボット・コング(20メートル)も作られたが、腕や顔の向きを変える程度しか動かせず、結局映画では、コングがイベント会場で檻を破るワンシーンしか使われなかったという)。
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代では「遊星よりの物体X」('51年)や「大アマゾンの半魚人」('54年)などのポスターがあるのが楽しく、50年代では日本の「ゴジラ」('54年)のポスターもあれば、「
「キャット・ピープル」はポール・シュレイダー監督、ナスターシャ・キンスキー主演で同タイトル「キャット・ピープル」('81年)としてリメイクされ(オリジナルは日本では長らく劇場未公開だったが1988年にようやく劇場公開が実現したため、多くの人がリメイク版を先に観たことと思う)、「遊星よりの物体X」は、ジョン・カーペンター監督によりカート・ラッセル主演で「遊星からの物体X」('82年)としてリメイクされています。
前者「キャット・ピープル」は、オリジナルでは、猫顔のシモーヌ・シモンが男性とキスするだけで黒豹に変身してしまう主人公を演じていますが、ストッキングを脱ぐシーンとか入浴シーン、プールでの水着シーンなどは当時としてはかなりエロチックな方だったのだろうなあと。実際に黒豹になる
場面は夢の中で暗示されているのみで、それが主人公の妄想であることを示唆しているのに対し、リメイク版では、ナスターシャ・キンスキーが男性と交わると実際に黒豹に変身します。ナスターシャ・キンスキーの猫女(豹女?)はハマリ役で、後日
「あの映画では肌を露出する場面が多すぎた」と述懐している通りの内容でもありますが、むしろ構成がイマイチのため、ストーリーがだらだらしている上に分かりにくいのが難点でしょうか。ナスターシャ・キンスキー自身は、「テス」('79年)で"演技開眼"した後の作品であるため、「肌を出し過ぎた」発言に至っているのではないでしょうか。「テス」は、19世紀のイギリスの片田舎を舞台に2人の男の間で揺れ動きながらも愛を貫く女性を描いた、文豪トマス・ハーディの文芸大作をロマン・ポランスキーが忠実に映画化した作品で、ナスターシャ・キンスキーの演技が冴え短く感じた3時間でした(ナスターシャ・キンスキーはこの作品でゴールデングローブ賞新人女優賞を受賞)。一方、「テス」に出る前年にナスターシャ・キンスキーは、スイスの全寮制寄宿学校を舞台に、そこにやって来たアメリカ人少女という
設定の青春ラブ・コメディ「レッスンC」('78年)に出演していて、そこでは結構「しっかり肌を出して」いたように思います。「レッスンC」は音楽は



「キング・コング」('33年)のリメイク、ジョン・ギラーミン監督の「キングコング」('76年)は、オリジナルは、ヒロイン(フェイ・レイ)に一方的に恋したコングが、ヒロインをさらってエンパイアステートビルによじ登り、コングの手の中フェイ・レイは恐怖のあまりただただ絶叫するばかりでしたが(このため、フェイ・レイ"絶叫女優"などと呼ばれた)、
リメイク版のヒロイン(ジェシカ・ラング)は最初こそコングを恐れるものの、途中からコングを慈しむかのように心情が変化し、世界貿易センタービルの屋上でヘリからの銃撃を受けるコングに対して「私といれば狙われないから」と言うまでになるなど、コングといわば"男女間的コミュにケーション"をするようになっています(そうしたセリフ自体は観客に向けての解説か?)。但し、「美女と野獣」のモチーフが、それ自体は「キング・コング」の"正統的"なモチーフであるにしてもここまで前面に出てしまうと、もう怪獣映画ではなくなってしまっている印象も。個人的には懐かしい映画であり、
興業的にもアメリカでも日本でも大ヒットしましたが、後に観直してみると、そうしたこともあってイマイチの作品のように思われました。ジェシカ・ラングも「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)で一皮むける前の演技であるし...2005年にナオミ・ワッツ主演の再リメイク作品が作られましたが、ナオミ・ワッツもジェシカ・ラング同様、以降の作品において"演技派女優"への転身を遂げています。
(●2017年に32歳のジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督による「キングコング:髑髏島の巨神」('17年/米)が作られた。シリーズのスピンオフにあたる作品とのことだが、主役はあくまでキングコング。1973年の未知の島髑髏島が
舞台で、一応、コングが島の守り神であったり、主人公の女性を救ったりと、オリジナルのコングに回帰している(一方で、随所にフランシス・フォード・コッポラ監督の「
込められているようだ)。ヴォート=ロバーツ監督自らが来日して行われた本作のプレゼンテーションに参加した
「

「キング・コング」●原題:KING KONG●制作年:1933年●制作国:アメリカ●監督:メリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサ
ック●製作:マーセル・デルガド●脚本:ジェームス・クリールマン/ルース・ローズ●撮影:エドワード・リンドン/バーノン・L・ウォーカー●音楽:マックス・スタイナー●時間:100分●出演:フェイ・レイ/ロバート・アームストロング/ブルース・キャボット/フランク・ライチャー/サム・ハーディー/ノーブル・ジョンソン●日本公開:1933/09●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★☆)●併映:「紀元前百万年」(ハル・ローチ&ジュニア)


「恐竜100万年」●原
題:ONE MILLION YEARS B.C.●制作年:1966年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ドン・チャフィ●製作:マイケル・カレラス●脚本:ミッケル・ノバック/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリッカート●撮影:ウィルキー・クーパー●音楽:マリオ・ナシンベーネ●時間:105分●出演:ラクエル・ウェルチ/ジョン・リチャードソン/パーシー・ハーバート/ロバート・ブラウン/マルティーヌ=ベズウィック/ジェーン・ウラドン●日本公開:1967/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:杉本保男氏邸 (81-02-06) (評価:★★★) Raquel Welch age71

「禁断の惑星」●原題:FORBIDDEN EARTH●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス●製作:ニコラス・ネイファック●脚本:シリル・ヒューム●撮影:ジョージ・J・フォルシー●音楽:ルイス・アンド・ベベ・バロン●原作:アーヴィング・ブロック/アレン・アドラー「運命の惑星」●時間:98分●出演:ウォルター・ピジョン/アン・フランシス/レスリー・ニールセン/ウォーレン・スティーヴンス/ジャック・ケリー/リチャード・アンダーソン/アール・ホリマン/ジョージ・ウォレス●日本公開:1956/09●配給:MGM●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-04-29)(評価:★★★☆)
「宇宙水爆戦」●原題:THIS ISLAND EARTH●制作年:1955年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ニューマン●製作:ウィリアム・アランド●脚本:フランクリン・コーエン/エドワード・G・オキャラハン●撮影:クリフォード・スタイン/デビッド・S・ホスリー●音楽:ジョセフ・ガ―シェンソン●原作:レイモンド・F・ジョーンズ●時間:86分●出演:フェイス・ドマーグ/レックス・リーズン/ジェフ・モロー/ラッセル・ジョンソン/ランス・フラー●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●日本公開:1955/12)●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-05-17)(評価:★★★☆)


ズビー●撮影:ジョン・ベイリー●音楽:ジョルジ
オ・モロダー(主題歌:








「キングコング」●原題:KING KONG●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア●撮影:リチャード・H・クライン●音楽:ジョン・バリー●時間:134分●出演:ジェフ・ブリッジス/ジェシカ・ラング/チャールズ・グローディン/ジャック・オハローラン /ジョン・ランドルフ/ルネ・オーベルジョノワ/ジュリアス・ハリス/ジョン・ローン/ジョン・エイガー/コービン・バーンセン/エド・ローター ●日本公開:1976/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:新宿プラザ劇場(77-01-04)(評価:★★★)![郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E9%83%B5%E4%BE%BF%E9%85%8D%E9%81%94%E3%81%AF%E4%BA%8C%E5%BA%A6%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%92%E9%B3%B4%E3%82%89%E3%81%99%20%5BDVD%5D.jpg)

ブ・ラフェルソン●脚本:デヴィッド・マメット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マイケル・スモール●原作:ジェイムズ・M・ケイン「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●時間:123分●出演:ジャック・ニコルソン/ジェシカ・ラング/ジョン・コリコス/マイケル・ラーナー/ジョン・P・ライアン/ アンジェリカ・ヒューストン/ウィリアム・トレイラー●日本公開:1981/12●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:三鷹オスカー (82-08-07)●2回目:自由ヶ丘・自由劇場 (84-09-15)(評価★★★★)●併映:(1回目)「白いドレスの女」(ローレンス・カスダン(原作:ジェイムズ・M・ケイン))●併映:(2回目)「ヘカテ」(ダニエル・シュミット)


「キングコング:髑髏島の巨神」●原題:KONG:SKULL ISLAND●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ●脚本:ダン・ギルロイ/マックス・ボレンスタイン/デレク・コノリー●原案:ジョン・ゲイティンズ/ダン・ギルロイ●製作:トーマス・タル/ジョン・ジャシュー/アレックス・ガルシア/メアリー・ペアレント●撮影:ラリー・フォン●音楽:ヘンリー・ジャックマン●時間:118分●出演:トム・ヒドルストン/
サミュエル・L・ジャクソン/ジョン・グッドマン/ブリー・ラーソン/ジン・ティエン/トビー・ケベル/ジョン・オーティス/コーリー・ホーキンズ/ジェイソン・ミッチェル/シェー・ウィガム/トーマス・マン/テリー・ノタリー/ジョン・C・ライリー●日本公開:2017/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:OSシネマズ ミント神戸 (17-03-29)(評価★★☆)

OSシネマズ ミント神戸 神戸三宮・ミント神戸(正式名称「神戸新聞会館」。阪神・淡路大震災で全壊した旧・神戸新聞会館跡地に2006年10月完成)9F~12F。全8スクリーン総座席数1,631席。




朝日新聞社の中東アフリカ総局長などを務めたベテラン記者の川上洋一氏(本書執筆時は既に新聞社を退職し大学教授)がクルド人問題について書いたもので、'02年の刊行ですが、その後最近まであまりこうしたクルド人にフォーカスした本がそう多く出されていなかったため、クルド人問題の入門書としては定番的位置付けになっているのではないでしょうか。
本書によれば、「祖国なき最大の民」と言われるクルド人の居住地域(クルディスタン)は主にトルコ、イラン、イラクにまたがり、面積はフランス一国にも匹敵、人口は2500万人とも推定され、パレスチナ人約800万を大きく凌ぐとのことです。
本書を読んで思い出されるのは、クルド人であるユルマズ・ギュネイ(1937-1984)監督の映画「路<みち>」('82年/トルコ・スイス)でした(この人、元は二枚目俳優。反体制作家でもあり、獄中から代理監督を立てて映画を作っていた)。
最初の男がやっと故郷に戻ってみると、妻は彼が入獄中に売春した咎で実家に戻され鎖に繋がれていて、しかも、掟により家名を汚した妻を自ら殺さなければならず、彼は妻を背負って山中へ逃げるが、鎖で繋がれていた間パンと水しか与えられていなかった妻は、雪の中で衰弱死する―。
クルド人の圧政に対する不屈の精神と家族愛、男女愛を描く一方で、クルド人自らが、旧弊な因習により自らを縛っている面もあること如実に示した作品で、本国(クルド社会)内でも評価が割れたのではないかなあ。いや、そもそも、ギュネイ監督の作品は国内上映が禁止されているか(国際的にはカンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを受賞)。



『
個人的なイチオシは、リドリー・スコット監督の「テルマ&ルイーズ」('91年/米)で、専業主婦のテルマ(ジーナ・デイヴィス)とレストランでウエイトレスとして働く独身女性のルイーズ(スーザン・サランドン)の親友同士が週末旅行に出掛けた先で、自分たちをレイプしようとした男を射殺したことから、転じて逃走劇になるという話(ロンドン映画批評家協会賞「作品賞」「女優賞(スーザン・サランドン)」受賞作)。
リドリー・スコットが女性映画を撮ったという意外性もありましたが、ジーナ・デイヴィスとスーザン・サランドンが、どんどん破局に向かいつつも、その過程においてこれまでの束縛や因習から解放され自由になっていく女性を好演し、彼女ら追いつつも彼女らの心情を理解し、何とか連れ戻したいと
思う警部役のハーベイ・カイテルの演技も良かったです(まださほど知られていない頃のブラッド・ピットが、彼女らの金を持ち逃げするヒッチハイカー役で出ていたりもした)。
「ダンス・ウィズ・ウルブス」といったアカデミー賞受賞作品と並んで「羊たちの沈黙」や「ターミネーター2」が星4つの評価を得ているというのがこの年の特徴でしょうか。
ジェームズ・キャメロン監督の「ターミネーター2」('91年/米)は、形状記憶疑似合金でできたT1000型ターミネーターが登場したものでしたが、この作品の前に「アビス」('89年)を撮り、ずっと後に「アバター」('09年)を撮ることになる
ジェームズ・キャメロン監督らしい特撮CGが冴えていたように思われ、T1000型を演じるロバート・パトリックも、華奢なところがかえって凄味がありました。一方、アーノルド・シュワルツネッガーが演じる旧タイプのT800型ターミネーターを善玉にまわしてヒューマンにした分、前作「ターミネーター」に比べ甘さがあるように思いました(これ、本書において山口猛氏が書いている批評とほぼ同じなのだが、山口氏の評価は最高評価になる星4つ)。IMDb評価は、「ターミネーター」が[8.1]、「ターミネーター2」が[8.6]で、「2」が上になっています。後からまとめて観た人は「2」の方がいいのかもしれないけれど、それぞれリルタイムで観た自分の場合、「1」のインパクトが大きかったです。
督デビュー作「殺人魚
フライング・キラー」(81年)に続く監督2作目であり、彼の出世作と言えます。ジェームズ・キャメロン監督はシュワルツネッガーと1度会食をしただけで、キャリアが浅く当初脇役で出演の予定だった彼をT800型ターミネーター役に抜擢することを決めたそうですが、シュワルツネッガーの全裸での登場シーンから始まって、そのストロングタイプのヒールぶりは今振り返っても
強烈なインパクトがあったように思います。ただ、この作品の後、「ターミネーター2」との間の7年間の間隔があり(ヒットしたB級映画にありがちだが、すぐにでも続編を撮りたいところが版権が複数社に跨っており、撮ろうにもなかなか撮れなかった)、その間に
シュワルツネッガーは「レッドソニア」「コマンドー」「ゴリラ」「プレデター」「バトルランナー」「レッドブル」「ツインズ」「
因みに、91年は、これも映像表現に特徴のあるデイヴィッド・リンチ監督のテレビ・シリーズ「ツイン・ピークス」が6月にWOWOWで日本で初公開、9月にビデオがリリースされており、日本中のレンタルビデオ店が「ツイン・ピークス」入荷&予約待ち状態になるという大ブームになりましたが、この作品もある意味「脱日常」的な作品だったなあと(まあ、「Xファイル」にしろ「LOST」にしろ、どれもみんな「脱日常」なのだが)。
ビデオ14巻、全29話(パイロット版(「序章」)を含めると30話)、25時間強のサスペンス・ミステリーですが、毎回毎回いつもいいところで終わるので、続きを観るまで禁断症状になるという(あの村上春樹も米国でリアルタイムでハマったという)―ラストは腑に落ちなかったけれども(「えーっ
、これが結末?」という感じか)、そのことを割り引いてもテレビ・ムービーの金字塔と言えるのでは(デイヴィッド・リンチによると、このラストはあくまでも第2シーズンの最終話に過ぎず、「ツイン・ピークス」という物語そのものの結末ではないとのことだが、続編は未だ作られていない)。(●その後、2017年に物語の25年後を描いた「リミテッド・イベント・シリーズ(全18話)」(邦題「ツイン・ピークス The Return」)が作られた。)

「テルマ&ルイーズ」●原題:THELMA & LOUISE●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:リドリー・スコット/ミミ・ポーク●脚本:カーリー・クーリ●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:ハンス・ジマー●時間:129分●出演:スーザン・サランドン/ジーナ・デイヴィス/ハーヴェイ・カイテル/マイケル・マドセン/ブラッド・ピット●日本公開:1991/10●配給:松竹富士(評価:★★★★☆)
「ターミネーター2」●原題:TERMINATOR2:JUDGMENT DAY●制作年:1991
年●制作国:アメリカ●監督・製作:ジェームズ・キャメロン●脚本ジェームズ・キャメロン/ウィリアム・ウィッシャー●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:137分(公開版)/154分(完全版)●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/リンダ・ハミルトン/エドワード・ファーロング/ロバート・パトリック/アール・ボーエン/ジョー・モートン/ジャネット・ゴールドスタイン●日本公開:1991/08●配給:東宝東和(評価:★★★)
「ターミネーター」●原題:THE TERMINATOR●制作年:1984年●制作国:アメリカ/イギリス●監督:ジェームズ・キャメロン●製作:ゲイル・アン・ハード●脚本:ジェームズ・キャメロン/ゲイル・アン・ハード
●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:108分●出演:



(1段目)デイル・クーパー捜査官(カイル・マクラクラン)/ローラ・パーマー(シェリル・リー)/アルバート・ローゼンフィールド捜査官(ミゲル・フェラー)/ハリー・S・トルーマン保安官(マイケル・オントキーン)/ハリーの部下、アンディ・ブレナン(ハリー・ゴアズ)/(2段目)ホーク保安官補佐(マイケル・ホース)/署の受付嬢ルーシー(キミー・ロバートソン)/ローラの同級生ドナ・ヘイワード(ララ・フリン・ボイル)/ローラの同級生オードリー・ホーン(シェリリン・フェン)/シェリー・ジョンソン(メッチェン・アミック)/(3段目)製材所経営者の未亡人ジョスリン・パッカード(ジョアン・チェン)/ボビー・ブリッグス(ダナ・アッシュブルック)/マイク・ネルソン(ゲイリー・ハーシュバーガー)/ローラの同級生ジェームズ・ハーレイ(ジェームズ・マーシャル)/シェリーの夫レオ・ジョンソン(エリック・ダ・レー)/(4段目)小さな男(マイケル・アンダーソン)/片腕の男(アル・ストロベル)/丸太おばさん(キャサリーン・コウルソン)/ネィディーン・ハーレイ(ウェンディ・ロビー)/謎の男ボブ(フランク・シルバ)
992年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・リンチ●製作:グレッグ・ファインバーグ●脚本:デイヴィッド・リンチ/ロバート・エンゲルス●撮影:ロン・ガルシア●音楽:アンジェロ・バダラメンティ●時間:135分●出演:シェリル・リー/レイ・ワイ
ズ/メッチェン・アミック/カイル・マクラクラン/デヴィッド・ボウイ/ミゲル・フェラー/キーファー・サザーランド/ダナ・アシュブルック/フィービー・オーガスティン●日本公開:1992/05●配給:日本ヘラルド映画(評価:★★★?)
デイヴィッド・リンチ(映画監督)2025年1月15日逝去。78歳。人気ドラマシリーズ「ツイン・ピークス」や、映画「マルホランド・ドライブ」など、カルト的人気を得た多くの作品で知られる。

●2025年ドラマ化【感想】2025年6月22日からNHKBSの「プレミアムドラマ」枠にて、直木賞作家での父である井上光晴と瀬戸内寂聴の不倫を基に描いた『あちらにいる鬼』('19年/朝日新聞出版)が話題になった井上荒野の『照子と瑠衣』('23年/祥伝社)のドラマ化作品が風吹ジュン・夏木マリのW主演で放映されたが、井上荒野の原作はまさに映画「テルマ&ルイーズ」へのオマージュ的な小説であり、従ってドラマも「テルマ&ルイーズ」を原案としていると
見ていい。ただし、原作は主人公の二人の女性の年齢を70代に引き上げており、ドラマでも実際に共に1952年5月生まれで73歳の風吹ジュン、夏木マリが演じている(二人は初共演)。70歳の親友同士の照子と瑠衣がそれぞれ、照子はモラハラ気味の夫との生活に見切りをつけ、瑠衣は老人マンションでのトラブルから逃れるために、二人一緒に逃避行を始め、長野県・八ヶ岳の別荘地で素性を隠して暮らし始めるというストーリー(因みに、井上荒野も2019年より長野県八ヶ岳の麓に暮らす)。風吹ジュンは年齢を重ねるごとにいい役者になっていく。
「照子と瑠衣」●演出:大九明子●脚本:大九明子/フル
タジュン●音楽:侘美秀俊●原作:井上荒野『照子と瑠衣』●時間:49分●出演:

'90年公開の洋画で先ず個人的に良かったのは、スパイク・リー監督の「ドゥ・ザ・ライト・シング」('89年/米)で、ブルックリンの黒人街でピザ屋を営むイタリア系父子と店員のムーキーやその周辺の黒人たちの暑い夏の1日を、毒々しい色彩感覚とラップのリズムにのせて描いたものですが、まだメジャーになる前のスパイク・リー監督自身がピザ屋の店員のムーキー役で主演しており、作品の根柢には人種差別問題があるのですが、予定調和に終わらない結末にスパイク・リーの鋭さが窺えました。ダニー・アイエロは「ゴッドファーザーPart II」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」にもちょこっと出ていた俳優ですが、この作品で1989年・
続いて良かったのがブルース・ベレスフォード監督の「ドライビング Miss デイジー」('89年/米)で、90年度アカデミー賞優秀作品賞・主演女優賞などの最多4部
門に輝いた秀作(ジェシカ・タンディは歴代最高齢(80歳)でのアカデミー主演女優賞受賞)。1948年のアトランタを舞台に70歳過ぎのユダヤ人の元教師(ジェシカ・タンディ)と黒人運転手(モーガン・フリーマン)の交流を描いたもので、ラストの老人ホームでの二人の再会シーンは感動的。こうした"感動ストーリー"仕立てを好まない人もいますが、個人的には入れ込んでしまいました。dジェシカ・タンディの名演もさることながら、この頃のモーガン・フリーマンもいいです(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。
モーガン・フリーマンが映画俳優として知られるようになったのは50歳の時、ジェリー・シャッツバーグ監督の「NYストリート・スマート」('87年/米)でアカデミー助演男優賞にノミネートされてからで、この「ドライビング Miss デイジー」でアカデミー主演演男
優賞にノミネートされたのは52歳の時。さらにフランク・ダラボン監督の「ショーシャンクの空に」('94年/米)でティム・ロビンスと共に主役レッドを演じて最高の評価を得、前作に続いてアカデミー主演演男優賞にノミネートされますが受賞はならず、その10年後に、クリント・イーストウッドが監督した「
デミー助演男優賞受賞を受賞し、4回目のノミネートでアカデミー俳優となります。(●2023年10月9日、「ショーシャンクの空に」を「TOHOシネマズ錦糸町オリナス」にて「午前十時の映画祭13」で4K版にて再鑑賞(劇評で観るのは初)。モーガン・フリーマンの堂々たる演技が、レッドを単なる"観察者"ではなくより強い存在していることを再認識した。一方で、アカデミー賞を獲れなかった理由も、主人公と異なりレッドが"行動者"ではなく"観察者"に留まっているという役柄設定のせいもあったのではないかと思った。原作は スティーヴン・キングの『刑務所のリタ・ヘイワース』。壁に貼られた女優のポスターリタ・ヘイワース、マリリン・モンロー、ラクエル・ウェルチと変わっていくのが時の流れを表していた。2023年時点で、

マーティン・スコセッシ監督の「グッドフェローズ」('90年/米)は、実在の人物をモデルにギャングたちの生き様を描いた作品で、ヴェネツィア国際映画祭「銀獅子賞」受賞作。ロバート・デ・ニーロが口封じのために仲間を次々と殺していく様子や、ジョー・ペシがギャングの幹部に呼ばれて昇格かと思い出向いたところ、逆に殺されてしまうところなどオソロシイ。「グッドフェローズ」って、反語的意味合いを含んでいるわけね(本書評価★★★★/個人的評価★★★★)。
「トータル・リコール」('90年/米)は、フィリップ・K・ディック(1928-1982/享年53)の短編SF小説「記憶倍
ります」をポール・バーホーベンが監督したもので、シュワルツェネッガー演じる主人公の偽(ニセ)の妻役に、後に同じくポール・バーホーベン監督の「氷の微笑」('92年/米)に主演するシャロン・ストーンが出ていました。優れたSF映画に贈られる「サターンSF映画賞」の第17回受賞作。この作品、最近リメイクされています(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。
因みに、ポール・バーホーベン監督は「ロボコップ」('87年/米)で米映画界に進出して成功を収めたオランダ人です。「ロボコップ」は、殉職した警官の遺体を利用したサイボーグ警官が活躍するバイオレンスSFアクション映画で低予算で作られながらもヒットし、「ロボコップ2」「ロボコップ3」やテレビドラマシリーズも作られました(2014年にリメイクされた)。サイボーグ警官を演じたのはピーター・ウェラーでしたが、アーノルド・シュワルツェネッガーも候補だったと
か。犯罪多発都市としてデトロイト市を舞台としていますが、デトロイトは当時から既に自動車産業の衰退で荒廃していたため、ロケのほとんどはダラスで行われたそうです。暴力シーンも多いですが、一方で、ピーター・ウェラーの演じる哀愁を帯びた主人公と、そのロボット歩き(ピーター・ウェラーしかできなかったので彼がスタントも演じた)はなかなかのものでした。ラストで、悪人がオム二社(ロボコップを造った会社)の会長を人質にして逃走を図りますが、悪人はオムニ社の役人で、ロボコップに内蔵されていた「オムニ社役員には危害を加えない」というプログラムがあって手を出せないでいたところ、会長が悪人に「お前はクビだ!」と叫んだことでプログラムの規定が消滅し、ロボコップは悪人を射殺するという、そうしたコミカルな面もありました(これも「サターンSF映画賞」の受賞作)。







「ショーシャンクの空に」●原題:THE SHAWSHANK REDEMPTION●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:フランク・ダラボン●製作:ニキ・マーヴィン●撮影:ロジャー・ディーキンス●音楽:トーマス・ニューマン●原作:スティーヴン・キング「刑務所のリタ・ヘイワース」●時間:142分●出演:ティム・ロビンス/モーガン・フリーマン/ボブ・ガントン/ウィリアム・サドラー/クランシー・ブラウン/ギル・ベローズ/ジェームズ・ホイットモア●日本公開:1995/06●配給:松竹富士(評価:★★★★)「
「グッドフェローズ」●原題:GOODFELLAS●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:アーウィン・ウィンクラー●脚本:ニコラス・ピレッジ/マーティン・スコセッシ●撮影:ミヒャエル・バルハウス●時間:145分●出演:レイ・リオッタ/ロバート・デ・ニーロ/ジョー・ペシ/ロレイン・ブラッコ/ポール・ソルヴィノフランク・シベロ/


ティン/シャロン・ストーン/ロニー・コックス/マイケル・アイアンサイド/マーシャル・ベル/メル・ジョンソン・Jr/ ロイ・ブロックスミス/レイ・ベイカー/マイケル・チャンピオン/デビッド・ネル●日本公開:1990/06●配給:東宝東和(評価:★★★☆)
「ロボコップ」●原題:RoboCop●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:アーン・L・シュミット●脚本:エドワード・ニューマイヤー/マイケル・マイナー●撮影:ヨスト・ヴァカーノ/ソル・ネグリン●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●時間:103分●出演:ピーター・ウェラー/ナンシー・アレン/ロニー・コックス/カートウッド・スミス/ダン・オハーリー/ミゲル・フェラー/ロバート・ドクィ/フェルトン・ペリー/レイ・ワイズ/ポール・マクレーン●日本公開:1988/02●配給:ワーナー・ブラザース映画(評価:★★★★)






マイケル・ハフハール(スティーヴ・マーティン)は世界的に有名な脳外科医だが、亡き愛妻の思い出に胸締め付けられる日々を送っていた。ある日、車を運転中、目の前を横切ったドロレス(キャスリーン・ターナー)を跳ね飛ばしてしまうが、駆け寄って見た彼女の美しさに参ってしまう。美貌のドロレスは、実は遺産目当てで年老いた男に近寄り、結婚後に夫を死に追いやる悪女だったが、そうと知らずにドロレスの脳外科手術を買って
出たハフハールは、手術を成功させ、意識を取り戻したドロレスにアタックをかけ結婚へ。しかし、新婚生活を送るうちにドロレスの傲慢さが目につくようになり、その上夜の営みを拒み続けるドロレスに欲求不満気味、上司の勧めで仕事とハネムーンを兼ねてオーストリアへ行き、脳移植の権威ネセシスター博士(デビッド・ワーナー)に出会い、彼の研究室で、"アン・アールメヘイ"と名乗る頭脳(声:シシー・スペイセク)とテレパシーで意思疎通出来ることを知る。意思疎通を図るうちに、次第にアールメヘイの持つ優しさに惹かれて、挙句の果てには、横行していた"エレベーター・キラー"にかこつけて、彼女に見合う女性を殺害してその肉体を手に入れようとまでし始める―。
'85年の第1回「東京国際映画祭」の一環としての「ファンタスティック映画祭」で上映された、カール・ライナー監督、スティーヴ・マーティン(1945‐)主演のホラー・コメディで、"脳"に不倫心を抱いてしてしまう男と
いう奇抜な設定。その流れで、その男は、"脳"のために肉体を探し、"脳移植"手術をしようとするという、ハチャメチャながらも、SF風のドタバタ喜劇であることを踏まえて観れば結構良く出来たストーリーであったように思え、意外と面白かったです(「ファンタスティック映画祭」に相応しい上映作品と言える)。
スティーヴ・マーティンにしてもレスリー・ニールセンにしても、銀髪のダンディな男が途方も無くバカバカしいことをやるという点で似ているかも。両者共に日本にはあまりいないタイプの喜劇役者でしょうが、そもそも洋モノコメディ軽視の日本では、当時スティーヴ・マーティンの名は殆ど知られていなかったように思われ、自分自身この作品で初めて知り、なかなかの芸達者だと思いました。この作品も日本ではロードにかかっておらず(映画祭出品後にビデオ化はされた)、「愛しのロクサーヌ」('87年)などでやっと日本でも彼の名知られるようになりましたが、その後も出演作品数は多く、バイプレイヤーだったりシリアスな役もこなしたりしているようで、最近では、2010年に、自身3回目となるアカデミー賞授賞式の司会をしています。

キャスリーン・ターナーはこの後、ロバート・ゼメキス監督の「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」('84年)にマイケル・ダグラスとの共演で出演しています。 「2つの頭脳...」がロードにかからなかったため、こちらを「東京国際映画祭」の1か月前に先に観ることになったのですが、ロマンス作家が否応なしに自分の書く小説張りの恋と冒険に巻き込まれていくという「インディ・ジョーンズ」と「ハーレクイン・ロマンス」を足して2で割り、それにコメディの味付けをしたような"盛り沢山"の作品でした。 

)という作品も作られています。今度は、人気冒険作家である主人公(キャスリーン・ターナー)が、独裁国大統領の伝記執筆のため渡ったアフリカで大騒動に巻き込まれるというもの。そこで、冒険家(マイケル・ダグラス)と再会し、その彼は悪党(ダニー・デヴィート)
とも再会していて...と、監督は変わりましたが主要メンバーは変わらず、気心知れた仲間で楽しみながら作っているような映画でした。

もありました。「
コメディタッチでテンポはそう悪くなかったように思います。ただ、個人的にはそんなに熱くなるほどの映画かなあとも。配役がある種ノスタルジーを醸すのかなあ。リチャード・チェンバレンは同じく主役を演じた「
結婚17年目を迎えたローズ夫妻の泥沼の離婚戦争をブラック・ユーモアで描いたコメディで(タイトルはイングランドの「バラ戦争」に準えている)、家庭間で領域を二分し、車をぶつけ合い、装飾品を投げ合って、生きるか死ぬかの闘いを繰り広げる様は、コメディというよりは恐怖映画に近く、寒気を覚えるくらい...。マイケル・ダグラスがシャンデリアにつかまっている場面が印象的でした。
ちょっとやり過ぎの感もありましたが、マイケル・ダグラス自身はこの作品を気に入っているようで(グレン・クローズに苛められる「
因みに、マイケル・ダグラスは「ローズ家の戦争」の3年後に、ポール・バーホーベン監督の「氷の微笑」('92年/米)でシャロン・ストーンと共演、殺人事件の容疑者となった女流作家に惹かれていく刑事を演じています。恋人が次々と死んでいく魔性の女を演じたシャロン・ストーンはこの作品が出世作となり、彼女が取調室で足を組みかえるエロティックなシーンは評判となりました。マイケル・ダグラスは当時さほ
ど有名ではなかったシャロン・ストーンの配役に難色を示し、役柄のリスク分散のため、スター女優との共演を望んみましたが、前作「
も(笑))。シャロン・ストーンは翌年には「
マイケル・ダグラスは「氷の微笑」('92年)と「ディスクロージャー」('94年)の間に「フォーリング・ダウン」('93年)に出演、 ささいなストレスが積み重なって主人公の理性を蝕んできたことが引き金となり、プッツン状態になる平凡な中年男D-フェンスを演じましたが、かつて「
・レイン」('89年)でハードボイルドな刑事ニック・コンクリンを演じた彼も、これだけ神経症的な役が続くと、「フォーリング・ダウン」の精神的にぶっ壊れた主人公の役が似合ってしまうのが何となく面白かったです。ただ、この映画、前半のコメディタッチに較べ、ラストはちょっと主人公が哀れ過ぎて、そこがイマイチでした。
「2つの頭脳を持つ男」●原題:THE MAN WITH TWO BRAINS●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督:カール・ライナー●製作:デイヴィッド・V・ピッカー/ウィリアム・E・マッキューン●脚本:カール・ライナー/スティーヴ・マーティン/ジョージ・ガイプ●撮影
:マイケル・チャップマン●音楽:ジョエル・ゴールドスミス●時間:93分●出演:スティーヴ・マーティン/キャスリーン・ターナー/シシー・スペイセク(声の出演)/デビッド・ワーナー/リチャード・ブレストフ/ジェームズ・クロムウェル/ジェフリー・コムズ/ポール・ベネディクト/マーヴ・グリフィン:マーヴ・グリフィン●日本公開:1985/06●配給/ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:渋谷パンテオン(85-06-02) (評価★★★★)
「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」●原題:ROMANCING THE STONE●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ゼメキス●製作:マイケル・ダグラス●脚本:ダイアン・トーマス●撮影:ディーン・カンディ●音楽:アラン・シルヴェストリ●時間:106分●出演:キャスリーン・ターナー/マイケル・ダグラス/ダニー・デヴィート/スピロス・フォーカス/アヴナー・アイゼンバーグ/ホランド・テイラー/ポール・デヴィッド・マギッド●日本公開:1984/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿ローヤル(85-05-06) (評価★★★)
「ナイルの宝石」●原題:THE JEWEL OF THE NILE●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:ルイス・ティーグ●製作:マイケル・ダグラス●脚本:マーク・ローゼンタール/ローレンス・コナー●撮影:ヤン・デ・ボン●音楽:ジャック・ニッチェ●原作キャラクター創作/ダイアン・トーマス●時間:107分●出演:マイケル・ダグラス/キャスリーン・ターナー/ダニー・デヴィート/ザック・ノーマン/アルフォンソ・アラウ/マヌエル・オヘイダ/ホランド・テイラー/メアリー・エレン・トレイナー/エヴァ・スミス●日本公開:1986/04●配給:20世紀フォックス(評価★★★)

「キング・ソロモンの秘宝/ロマンシング・アドベンチャー」●原題:KING SOLOMON'S MINES●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:J・リー・トンプソン ●製作:メナヘム・ゴーラン/ヨーラム・グローブス●脚本:ジーン・クインターノ/ジェームズ・R・シルク●撮影:アレックス・フィリップス●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:100分●出演:リチャード・チェンバレン/シャロン・ストーン/ハーバート・ロム/ジョン・ライス=デイヴィス/ケン・ガンプ/ジューン・ブゼレッジ●日本公開:1986/06●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:日比谷スカラ座(86-06-29) (評価★★★)


「ローズ家の戦争」●原題:THE WAR OF THE ROSES●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ダニー・デヴィート●製作:ジェームズ・L・ブルックス/アーノン・ミルチャン●脚本:マイケル・リースン●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:デヴィッド・ニューマン●原作:ウォーレン・アドラー「ローズ家の戦争」
●時間:116分●出演:キャスリーン・ターナー/マイケル・ダグラス/ダニー・デヴィート/マリアンネ・ゼーゲブレヒト/ショーン・アスティン/ヘザー・フェアフィールド●日本公開:1990/05●配給:20世紀フォックス(評価★★★)
「氷の微笑」●原題:BASIC INSTINCT●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:アラン・マーシャル●脚本:ジョー・エスターハス●撮影:ヤン・デ・ボン●音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード●時間:118分●出演:マイケル・ダグラス/シャロン・ストーン/ジョージ・ズンザ/ジーン・トリプルホーン/レイラニ・サレル/デニス・アーント/チェルシー・ロス/ブルース・A・ヤング/ダニエル・フォン・バーゲン/ドロシー・マローン/ウェイン・ナイト/スティーヴン・トボロウスキー/ベンジャミン・ムートン/ジェームズ・レブホーン/スティーヴン・ロウ/ミッチ・ピレッジ●日本公開:1992/06●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:新宿プラザ(90-06-02) (評価★★★)
「フォーリング・ダウン」●原題:FALLING DOWN●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ジョエル・シュマッカー●製作:ティモシー・ハリス/アーノルド・コペルソン/ハーシェル・ワイングロッド●脚本:エブ・ロー・
スミス●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:123分(完全版128分)●出演:マイケル・ダグラス/ロバート・デュヴァル/バーバラ・ハーシー/レイチェル・ティコティン/チューズデイ・ウェルド/フレデリック・フォレスト/ロイス・スミス/ジョーイ・ホープ・シンガー/マイケル・ポール・チャン/レイモンド・J・バリー●日本公開:1993/07●配給:ワーナー・ブラザース (評価★★★)


ペンシルバニア州のある操車場に停車中の最新式貨物列車が、整備士の人為的ミスによって無人のまま走り出してしまうが、積荷は大量の化学薬品とディーゼル燃料であることが判明、操車場長のコニー・フーパー(ロザリオ・ドーソン)は極めて深刻な事態が発生
したことを認識し、州警察に緊急配備を依頼する。フランク・バーンズ(デンゼル・ワシントン)と職務経験4ヵ月のその頃、勤続28年のベテラン機関士車掌ウィル・コルソン(クリス・パイン)は、この日初めてコンビを組み、旧式機関車に乗り込み職務に就いていた―。



にしているところに興味を惹かれました(「リスク管理」の教材?この作品の日本初試写会は鉄道高校として有名な東京・上野の岩倉高等学校の体育館で行われ、ゲストにAKB48のメンバーが登場した(2010年11月17日) )。
デンゼル・ワシントンは、同じくトニー・スコット監督作品の「サブウェイ123 激突」('09年)でも鉄道員の役を演じていて、前回は運行司令官役でしたが、今回は運転士役。デンゼル・ワシントンが、妻と死別し2人の難しい年頃の娘がいる寡男で会社からは退職勧告を受けていて、クリス・パインの方は、妻の浮気疑惑で離婚争議中のため接近禁止命令が出ている男といった具合に、共に仕事や家庭生活に難点を抱える者同士の組み合わせですが、映画の主役は、劇薬を積んで市街地へ向かって暴走する800メートルの貨物列車でしょうか。
鉄道会社の上層部の見通しの甘い事故対応が更に
事態を悪化させるといった社会批判も織り交ぜ、また、アクション映画としてもよく出来ているけれども、最初からデンゼル・ワシントン(観ていて安心感あり過ぎ)らが事態を収束するであろうことが見えていて、あまりドキドキしなかった感じも(むしろ、デンゼル・ワシントンは彼自身のアクション・シーンが危なっかしい感じだったけれど、勿論これは演技のうち?)。



女性操車場長のロザリオ・ドーソンは、リー・ストラスバーグ演劇学校で学んだ演技派で、この作品でも好演(「メン・イン・ブラック2」('02年)の店員役の頃に比べると随分貫禄がついた?)。但し、事故の収束とともに2人の男がヒーローになるのは"予定調和"の内だけれど、それで両者の仕事や家庭問題まで一気に解決されてしまったとなると、"事故様様"みたいな感じもしてしまいました(1人犠牲者が出ている。「危機管理」の観点からももっと反省すべきケースではないか)。
トニー・スコット監督、デンゼル・ワシントンの組み合わせでは、米軍原子力潜水艦を舞台にした「クリムゾン・タイド」('95年)が傑作でしょうか。
「アンストッパブル」●原題:UNSTOPPABLE●制作年:2010年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ジュリー・ヨーン/トニー・スコット/ミミ・ロジャース/エリック・
マクレオド/アレックス・ヤング●脚本:マーク・ボンバック●撮影:ベン・セレシン●音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ●時間:98分●出演:デンゼル・ワシントン/クリス・パイン/ロザリオ・ドーソン/ケヴィン・ダン/イーサン・サプリー/T・J・ミラー/リュー・テンプル/ジェシー・シュラム/ケヴィン・チャップマン/ケヴィン・コリガン/デヴィッド・ウォーショフスキー●日本公開:2011/01●配給:20世紀フォックス(評価:★★★) 東京・上野の岩倉高等学校での公開記念イベント(AKB48高橋みなみ、渡辺麻友、宮澤佐江)

「暴走機関車」●原題:RUNAWAY TRAIN●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:アンドレ・ミハルコフ=コンチャロフスキー●製
作:ヨーラン・グローバス/メナハム・ゴーラン●脚本:ジョルジェ・ミリチェヴィク/ポール・ジンデル/エドワード・バンカート●撮影:アラン・ヒューム●音楽:トレヴァー・ジョーンズ●原案:
「恐怖の報酬」●原題:LE SALAIRE DELA PEUR●制作年:1953年●制作国:フランス●監督・脚本:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー●撮影:アルマン・ティラール●音楽:ジョルジュ・オーリック●原作:ジョルジュ・アルノー●時間:131分●出演:イヴ・モンタン/シャルル・ヴァネル/ヴェラ・クルーゾー/フォルコ・ルリ●日本公開:1954/07●配給:東和●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10)(評価:★★★★)●併映:「死刑台のエレベーター」(ルイ・マル) 
ジットなし)●撮影:ダリウス・ウォルスキー●音楽:ハンス・ジマー●時間:116分●出演:デンゼル・ワシントン/ジーン・ハックマン/ジョージ・ズンザ/ヴィゴ・モーテンセン/ジェームズ・ガンドルフィーニ/リロ・ブランカート.Jr/ダニー・ヌッチ/スティーヴ・ザーン/リッキー・シュローダー/ロッキー・キャロル/ヴァネッサ・ベル・キャロウェイ●日本公開:1995/10●配給:ブエナ・ビスタ(評価:★★★★)

香港から恋人を追って演劇の勉強をしにニューヨークへやって来たジェニファー(チェリー・チェン)は、やくざな生活を送る遠縁の青年サミュエル(チョウ・ユンファ)のぼろアパートで暮らすことになり、早速恋人のビンセント(ダニー・チャン)との再会を果たすが、彼は別の女性と付き合っていた。ショックを受けたジェニファーをサミュエルが慰めるうちに、二人は惹かれ合っていく―。
サミュエルとジェニファーはいい雰囲気になりながらも、いざとなるともう一歩のところで邪魔が入ったりアクシデントがあったりして、その一歩が踏み出せない―そうなってしまう背景には、想いを寄せる相手が失恋で落ち込んでいるところに突け入るような行為を善しとしないサミュエルの美意識のようなものも働いていて、実のところジェニファーの方はサミュエルのキスを待っているのに、彼にはそうする勇気がやや足りないともとれるのが微妙なところ(結局「いつか」「いつか」と思いながら機を失ってしまう...よくありそうな話)。
終盤の、O・ヘンリーの「賢者の贈物」に似たベタなエピソードにも、むしろガチガチの悲恋物語から解き放たれたような、観る側をほっとさせるユーモアを感じました。
トル「さらば、わが愛/覇王別姫」、台湾のホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督の「童年往時」('85年/台湾)は「童年往時―時の流れ」と、原題の中国語を残していますが、そのことで表意文字の特性を生かしているように思います。
「誰かがあなたを愛してる」●原題:秋天的童話AN AUTUMN'S TALE●制作年:1987年●制作国:香港●監督:メイベル・チャン(張婉婷)●製作:ジョン・シャム(岑建勲)●脚本:アレックス・ロウ(羅啓鋭)●撮影:ジェームズ・ヘイマン/デイヴィッド・チャン●音楽:ローウェル・ロウ(盧冠廷)●時間:98分●出演:チョウ・ユンファ(周潤發)/チェリー・チェン(鐘楚紅)/ダニー・チャン(陳百強)/ジジ・ウォン●日本公開:1989/09●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画●最初に観た場所:シネスイッチ銀座 (89-10-10)(評価:★★★★)



独ローゼンハイムから米国に旅行に来ていた中年夫婦はラスベガス近郊でケンカとなり、夫(ハンス・シュタードルバウアー)は妻ジャスミン(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)をハイウェイの途中に置いて行ってしまう。ジャスミンは大きなトランクを抱えて砂漠を歩き、寂れたモーテル兼カフェ兼ガソリンスタンド「バグダッド・カフェ」に辿り着くが、カフェの女主人ブレンダ(CCH・パウンダー)も夫婦ゲンカをして夫を追い出したばかりで、息子や娘は勝手気ままで母親を手伝おうともしない。そこにステイすることにしたジャスミンは、勝手に店を掃除してしまうなどし、そうした彼女の振る舞いが気に入らないブレンダは最初の内は彼女を嫌うが―。
「バグダッド・カフェ」(奇妙な名前だが、ルート66沿いに実在するモーテルの名)には、女主人ブレンダ(CCH・パウンダーが好演。ギアナ出身の英国育ちで、今でこそ米国の映画やTVドラマなどでお馴染だが、当時はこれが映画での初の大役)のほかに、日々虚無的に夜遊びに明け暮れる娘、カウボーイ気取りの売れない画家、ピアノの弾けないピアニストなどが集い、そこはまるで社会の吹きだまりのような場所です(ローザ・フォン・プラウンハイムの「
そこにある時から滞在することになった太っちょの外国人女性ジャスミンによってそうした人々皆が癒されていく過程が、劇的な出来事を挿入しているわけでもないのに、旨く描かれています(ジャスミンを演じるマリアンネ・ゼーゲブレヒトはあまり喋らないが、存在感があってその印象は強烈)。そしてやがては、ジャスミンに皆の人気が集まるのを嫉妬していた女主人ブレンダも―。
労働許可証を持っていないため強制送還されたジャスミンが、再びこの地を訪れブレンダと再会する場面は感動的ですが、老画家ルディのジャスミンによせる恋心(「
"ロード・ムービー"ならぬ"ロードサイド・ムービー"。その"ロードサイド"にあったのは、"血縁"に拠らない「心の家」「アナザー・マイホーム」だったといった感じでしょうか。癒されたい気分の時に観るのにお奨めです。


「バグダッド・カフェ」●原題:BAGDAD CAFE(OUT OF ROSENHEIM)●制作年:1987年●制作国:西ドイツ●監督:パーシー・アドロン●製作・脚本:パーシー・アドロン/エレオノーレ・アドロン●撮影:ベルント・ハインル●音楽:ベルント・ハインル●時間:91分●出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト/CCH・パウンダー/ジャック・パランス/クリスティーネ・カウフマン/モニカ・カローン/ダロン・フラッグ/ジョージ・アキラー/G・スモーキー・キャンベル/ハンス・シュタードル●日本公開:1989/03●配給:KUZUIエンタープライズ●最初に観た場所:シネマライズ渋谷(地階) (89-03-05) ●2回目:シネマライズ 渋谷(地階)(89-03-12) (評価★★★★☆)

ピーター・フォークが今月('11年6月)23日、ロサンゼルス近郊ビバリーヒルズの自宅で亡くなったという報に接しました。83歳だったとのことですが、以前からアルツハイマー症であることが伝えられており、心配していたのですが...。
ピーター・フォークと言えば、70年代と90年代の2期にわたっての「刑事コロンボ」のTVシリーズが代表作でしょうが、一部の新聞の訃報で、代表的な出演映画にロバート・アルドリッチ監督の「カリフォルニア・ドールズ」('81年/米)とヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン/天使の詩」('87年/西独・仏)が並んで紹介されていました。 「カリフォルニア・ドールズ」('81年/米)
「カリフォルニア・ドールズ」(原題:...All the Marbles)は、アメリカの女子プロレスの世界を描いた作品で、さえない女子プロレスのタッグである、黒髪のアイリス(ヴィッキー・フレデリック)と金髪のモリー(ローレン・ランドン)の「カリフォルニア・ドールズ」のプロモーター、エディ役をピーター・フォークが好演。「ドールズ」はアウェイでの負けが仕組まれた試合で勝ってしまい、世間からも興行界からも批判に晒されるが、そこへ一発逆転をもたらすようなチャンスが巡って来る―。
ピーター・フォーク演じるプロモーターと「ドールズ」との心の通い合いが結構泣けて、こてこてのアメリカ映画でありながら、どことなく日本の人情噺的な雰囲気もある作品です。
のクライマックスで使われる大技ローリング・クラッチ・ホールド(回転エビ固め)は、2人が日本人
レスラーとの対戦で、ミミ萩原(女子レスラー役で出演、当時の女子プロレス界のアイドルスター的存在だった)の得意技を倣って自分らの決め技にしたものです(実際の日本での試合のテレビ中継では、ミミ萩原がこの技を繰り出すと、アナウンサーの志生野温夫が「ミミの十八番!!」と叫びながら実況していた)。
ヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン/天使の詩」は、人間になりたがっている天使ダミエル(ブルーノ・ガンツ)がサーカスの舞姫に恋をするというファンタジックなストーリーでしたが、映画俳優のピーター・フォーク(本人役を演じている)がベルリンに撮影のためやって来ていて、子供にしか見えないはずの天使が、どういうわけか彼には見えるらしい―。
映画は、「全てのかつての天使、特に小津安二郎、フランソワ、アンドレイに捧ぐ」というクレジットで締め括られており(ヴェンダースは'85年に小津安二郎へのオマージュとも言えるドキュメンタリー映画「東京画」を撮っている。また、'07年のインタビューで「今ならロベール・ブレッソンとサタジット・レイを必ず加える」と述べている)、日比谷シャンテ・シネの興業記録をうちたてたほどブームになった映画でしたが、ヴェンダースのファンが日本にそんなにいたのかと、当時はやや不思議に思いました。ピーター・フォークという親しみのある俳優が出ていて、ユーモアと芸術映画っぽい雰囲気を兼ね備えた作品であることに加えて、映画公開の半年前の'87年10月にオープンした日比谷シャンテが、デート・スポットとして新鮮かつ手頃だったという要因もあったのではないかと思います。
「ベルリンの壁」崩壊の数年前に作られた作品で、「壁」がロケ地にも使われ、映画の中でも象徴的な役割を果たしていますが、やや高踏的かなあ。個人的には、ナスターシャ・キンスキーを使った「パリ、テキサス」('84年/仏・西独)の方が好みでした。「パリ、テキサス」が1984年のカンヌ国際映画祭で最高賞の「パルム・ドール」を受賞したのに対し、「ベルリン/天使の詩」も1987年のカンヌ国際映画祭で「監督賞」を受賞するなど芸術作品として国際的評価も高かったですが、「パリ、テキサス」のナスターシャ・キンスキー以上に、この作品のピーター・フォークは、"客演"という感じがあり、彼の"正体"にもやや唐突感を覚えました。
血沸き肉躍り、かつホロリとさせる場面もある「カリフォルニア・ドールズ」の方が、自分としてはお薦め。但し、本邦においては楽曲の著作権関係によりDVD化されていないのが難でしょうか(2012年に吉祥寺バウスシアター、渋谷シアターNでリバイバル上映され(シアターNはクロージング上映)、2015年にDVD化された)。

「カリフォルニア・ドールズ」●原題:...All THE MARBLES a.k.a. THE CALIFORNIA DOLLS●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルドリッチ●製作:
ウィリアム・アルドリッチ●脚本:メル・フローマン●撮影:ジョセフ・バイロック●音楽:フランク・デ・ヴォール●時間:113分●出演:ピ



日比谷映画劇場(日比谷映劇)(1984年10月31日閉館)と日比谷シャンテ入口(日比谷映劇のデザインを一部模している)
ペーター・ハントケ(1942 - )





映画「評決」は、当初アーサー・ヒラー監督、ロバート・レッドフォード主演で制作が予定されていたのが、アーサー・ヒラーが創作上の意見不一致を理由に降板、ロバート・レッドフォードもアル中の役は彼のイメージにそぐわないとの理由で見送られ、企画は頓挫し、脚本も途中で何回も書き直されることになったそうです。
ポール・ニューマンになり、そのポール・ニューマン自身、「自分の長いキャリアの中で初めてポール・ニューマン以外の人物を演じた」と述べたそうですが、そうした彼の熱演もあって、リーガル・サスペンスと言うより人間ドラマに近い感じに仕上がっているように思いました。
ちょうどアカデミー賞の受賞式を日本のテレビ局で放映するようになった頃で、ポール・ニューマンの初受賞は堅いと思われていましたが、「ガンジー」のベン・キングズレーにさらわれ、4年後の「ハスラー2」での受賞まで持ち越しになりました。映画の内容の方は、より一般向けに原作をやや改変している部分もありますが、ポール・ニューマンの演技そのものにはアカデミー賞をあげてもよかったのではないかと思いました。
The Verdict (1982)

ジェームズ・メイスン/ミロ・オシア/エドワード・ビンズ/ジュリー・ボヴァッソ/リンゼイ・クルーズ/ロクサン・ハート/ルイス・J・スタドレン/ウェズリー・アディ/ジェームズ・ハンディ/ジョー・セネカケント・ブロードハースト/コリン・スティントン/バート・ハリス/ブルース・ウィリス(ノンクレジット)(傍聴人)●日本公開:1983/03●配給:20世紀フォックス●最初に観





ニューヨークに住むウィリー(ジョン・ルーリー)は、クリーブランドに住む叔母が入院する間、ハンガリー出身の16歳の従妹エヴァ(エスター・バリント)を預かることになり、エヴァ、ウィリー、ウィリーの賭博友達エディ(リチャード・エドソン)の3人の奇妙な生活が始まる―。
ジム・ジャームッシュ監督の前作「パーマネント・バケーション」('80年)もそうですが、自主制作フィルムの雰囲気を保っていて、それを3本繋ぎ合せたという感もあり、ストーリーはあって無いようなシンプルなものです。
一応はロード・ムビーのような体裁をとっていて(途中からか)、ウィリーとエディがエヴァを誘って雪のエリー湖に行ったり、南国フロリダに行ったりしていますが、ストーリーよりも3人の、ぎこちないようで自然体でもあるように見える不思議な関係を、淡々としたモノクロームのカメラワークで描いており(殆どワンシーン・ワンショットで撮られている)、その演出と映像のトーンそのものが新鮮でした(時に映像詩のような印象も)。
タイトルは「はみ出し者仲間」の意。刑務所仲間の超ノン気な脱獄道中で、今回も音楽も担当のジョン・ルーリーが演技でも相変わらず良く、そのジョン・ルーリーと、映画初出演のシンガーソングライター、トム・ウェイツのクールな2人に、後に「ライフ・イズ・ビューティフル」('98年)を監督・脚本・主演し、アカデミー賞主演男優賞・外国映画作品賞を受賞する、ロベルト・ベニーニが陽気に絡みます。
登場人物の行動が行き当たりばったりだったり、予期せぬ偶然に流されたりするのと、登場人物相互の関わり合いがカラッと乾いた感じで描かれているのは「スト・パラ」と同じで、最後に男達が、ごく当たり前のようにそれぞれの道へ別れていくのは、日本映画ではちょっと考えられないようなドライ且つ爽やかなエンディングでした。
ジョン・ルーリー(イイ男にも見えるし、ハ虫類系の顔にも見える)も、本職は役者ではなくサックス奏者で、両作品の音楽も担当していますが、多才な人だなあと。90年代にライム病という難病を発症して生死の境を彷徨い、音楽活動からは身を引きましたが、画家としての活動に創作意欲の捌け口を見出し、昨年('10年)には日本でも個展が開かれています(作品は夢の世界を描いたような水彩画が多く、画風は子供の描いた絵のように見えるものもあれば、幽玄な水墨画に近いものもある。やはり、大病したためただろうか)


「ダウン・バイ・ロー」●原題:DOWN BY LAW●制作年:1986年●制作国:アメリカ・西ドイツ●監督・脚本:ジム・ジャームッシュ●製作:アラン・クラインバーグ●撮影:ロビー・ミューラー●音楽:ジョン・ルーリー●時間:107分●出演:トム・ウェイツ/ジョン・ルーリー/ロベルト・ベニーニ/ニコレッタ・ブラスキ/エレン・バーキン●日本公開:1986/11●配給:フランス映画社●最初に観た場所:有楽町・スバル座(86-12-14)(評価:★★★★)


コン・リー(鞏俐)/チャン・イーモウ(張藝謀)

プロパガンダ的と言うよりも人間そのものをしっかり描いている感じで、度重なる悲劇に屈せず前向きに生きようとする主人公が、「風と共に去りぬ」のスカーレットみたいであり(たまたまこれも"赤系統"の名前だが)、赤を主体とした強烈な色彩美が印象的。ダイナミックなカメラワークも含め、この監督が将来、「




「紅いコーリャン」では、それまでの中国現代映画にはないくらい大胆に"性"を描いていますが、「菊豆<チュイトウ>」('90年)はそれ以上であり、更には、現代に近い時代を扱った作品ではタブーとされてきた"不倫"を描いています(第43回カンヌ国際映画祭「ルイス・ブニュエル賞」受賞)。
これも「紅いコーリャン」と同じように金で買われて旧家の染物屋に嫁入りした菊豆(チュイトウ)(鞏俐(コン・リー)が主人公で、彼女は夫のDV(性的サディズム)に苛まれた末に、同居の使用人の若い男を引き込んでその男と結ばれ、病に倒れ身体の自由がきかなくなった夫に代わって次第に家庭内での実権を握っていきますが、男との間に生まれた子供が実の子でないことを知った父親(菊豆の夫は実は不能だった)は子供を邪険にする―。
子供がダミアンみたいな悪魔っ子で、かなり怖いです。当初辛くあたっていた父親がやがて愛情をかけるようになったにも関わらず、誤って染料の壺に落っこちて今まさに溺死しようとしている父を見て、この子は助けようともせず不気味な笑みを浮かべています(殆どホラー・ムービーの世界)。

「紅いコーリャン」●原題:紅高梁(HONG GAO LIANG) /RED SORGHUM●制作年:1987年●制作国:中国●監督:張藝謀(チャン・イーモウ)●製作:呉天明(ウー・ティエンミン)●脚本:陳剣雨(チェン・チェンユイ)/朱偉(チュー・ウェイ)/莫言(モー・イェン)●撮影:顧長衛(クー・チャンウェイ)●音楽:趙季平(ヂャオ・チーピン)●原作:莫言(モー・イェン)「紅高梁」「高梁酒」●時間:91分●出演:鞏俐(コン・リー)/姜文(チアン・ウェン)/滕汝駿(トン・ ルーチュン)/劉継(リウ・チー)/錢明(チェン・ミン)/計春華(チー・チュンホア)●公開:1989/01●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(89-02-18)(評価:★★★★☆)
旧・渋谷ユーロスペース/シアターN渋谷 1982(昭和57)年渋谷駅南


「菊豆<チュイトウ>」●原題:菊豆 JUDOU●制作年:1990年●制作国:中国・日本●監督:張藝謀(チャン・イーモウ)●製作:徳間康快●脚本:劉恒(リュウ・ホン)●撮影:顧長衛(クー・チャンウェイ)●音楽:郭峰(クオ・フォン)●原作:劉恒(リュウ・ホン)「羲、伏羲」 ●時間:94分●出演:鞏俐(コン・リー)/李保田(リー・パオティエン)/李





《読書MEMO》



もとプロゴルファーで現在は不動産屋のタネン(ジョン・ヴォイト)は、別れた妻(ミリー・パーキンス)のもとで育てられている3人の子供たちと年に一度過ごす期間に、夏の地中海を豪華客船で旅をするというプランを立てる。それは子供達の愛情を取り戻し、妻との復縁の為に無理をして実行した旅行だったが―。
別れた妻の再婚相手は弁護士であり、普通にエンタメ系ならば、こうした社会的地位のある強力なライバルとダメ男だった主人公が競い合って、最後は主人公が再び家族を取り戻すという風になりがちなのですが、この作品は必ずしもそうはなりません。
「父親とは何か」を考えさせる映画であり、但し、ここで求められている父親像は、ハリウッド映画の伝統的な「強い父親」像ともやや異なり、アメリカ映画というよりヨーロッパ映画を観ているみたいな感じでした("新たな相手女性?"役でマリー・クリスチーヌ・バローとか出てくるし)。
「チャンプ」('79年)と「5人のテーブル」('82年)の2作品だけの比較で見るのは乱暴かもしれませんが、不況の時は「一発逆転」的なドリーミィな作品がウケるかも知れないけれども、あまりに不況が長引くと、そんな"夢物語"のような話は次第に受け容れられにくくなり、こうしたリアルな脚本になったのではないかとも。







農民が地主の横暴に苦し
められた19世紀末のアイルランド、農夫ジョセフ(トム・クルーズ)の父も、厳しい地代の取立ての混乱で事故死する。更に地主の配下に家を焼かれ、怒ったジョセフは地主を射殺しようと地主邸に向かうが失敗、銃の暴発のため負傷し、復
讐相手の邸で介抱を受けるという間抜けな結果となる。そこには、放火の張本人で地主令嬢と結婚を図るスティーブン(トーマス・ギブソン)がいて、ジョセフは彼を襲うも再度失敗し、彼と決闘させられることに。そこへ、実はスティーブンのお高くとまった性格が嫌いで、堅苦しい生活を捨てアメリカ行きを望む地主令嬢のシャノン(ニコール・キッドマン)が現れ、ジョセフを攫うように連れ去り、二人のアメリカ行きの旅が始まる―。
アイルランド系移民の苦労を描いたロン・ハワード監督の'92年作品で、トム・クルーズとニコール・キッドマンが仲良かった頃、と言うか、結婚したての頃の作品ですが、映画の中に出てくる「オクラホマ・ランドラッシュ」というのが印象深かったです。
1889年4月22日の正午を境にオクラホマへの白人の入植が認められた。同年同月日には15ドルの入植手続き料を支払った人々がオクラホマとの境界に集まり、正午を告げる号砲が鳴ると一斉にオクラホマへと乗り込んでいった。彼らは一人当たり160エーカー(65ヘクタール)の土地を手に入れることができた――これは、新大陸のフロンティア時代の入植者に土地を無料で配るというもので、移民たちが白線に並んで「用意ドン!」で駆けっこして、ここからここまでは自分の土地だと主張した範囲の土地が与えられるというスゴイものなのですが(当然、そこで醜い争いも生じる)、お嬢さんだが気が強いシャノンと、自分の土地を得るにはこの方法しかないと考えるジョセフは、このレースに参加する―。
ロン・ハワードにはアイルランド人の血が流れていて、祖先にはこのオクラホマのランド・ラッシュに実際に参加した人もいたとのことで、随分前からこの映画の構想は練っていたそうです。ニコール・キッドマンをヒロインに想定していたところに、トム・クルーズが出演の名乗りを上げたそうですが、ロン・ハワードは当時二人が交際していることを知らなかったそうです。因みに、トム・クルーズ自身にもアイルランド人の血が流れています。
2人ともいい演技をしています。特に、上流意識を持ち、気位が高いながらも、ボディガード代わりに連れてきたトム・クルーズに内心では惹かれていくニコール・キッドマンの演技がいい(トム・クルーズはこの映画の随所で、状況の急な変化に振り回される、三枚目的な味を出している)。
移民たちが駆けっこして奪い合っている土地は、元々は北米原住民のものであるはずという批判的な見方も出来ますが、この映画が日本でも本国でもあまりヒットしなかったことを思うと、もう少し注目されても良かったのでないかと。ロン・ハワードは両親とも俳優だったので、子役の頃から多くのテレビドラマや映画に出演していましたが(「

一方のトム・クルーズは、それ以前に「トップガン」('86年)で一躍世界的なスターになっていたわけで、日本でもこの映画は大ヒットしました。まあ、米海軍が協力を惜しまない "USネイビィのリクルート戦略"の一環のような映画でした。「
ヴァル・キルマー、メグ・ライアン、ティム・ロビンスら若手俳優の出世作としても知られ、「ER 緊急救命室」の"グリーン先生"ことアンソニー・エドワーズがトム・クルーズの同僚パイロット役で出てましたが、出ていた記憶が薄いのはまだ髪の毛が濃かったせいでしょうか。ともかく、トム・クルーズ人気を一気に高めた作品であって、その分だけ相対的に他の俳優の影が薄い? 後になって、あの人も出ていた、この人も出ていたと言われる映画です(当時まだ皆さほど名が知れてなかったということもあるが)。
トム・クルーズの当時の人気はすさまじく、その勢いで「トップガン」と同年にマーティン・スコセッシ監督の「ハスラー2」('86年)に出演、翌々年にはロジャー・ドナルドソン監督の「カクテル」('88年)、バリー・レヴィンソン監督の「
ューマンに初のアカデミー主演男優賞をもたらし、ダスティン・ホフマンと共演した「レインマン」は第61回アカデミー賞と第46回ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)、さらに第39回ベルリン国際映画祭においてそれぞれ作品賞を受賞しました。一方、トム・クルーズのスマイルと、フレアバーテンディングによるカクテル作りの派手なパフォーマンスでヒットを博した「カクテル」は、(一応"原作"はあるようだが)完全なトム・クルーズ・ファンのためのアイドル映画でした。これ、ビデオパーティで観た(90-04-01)のですが(自分で選んではいない)、当時の日本のバブリーな雰囲気にマッチしていた面もあったかも。

ケリー・マクギリスは1982年に映画デビューしていますが、彼女を一躍有名にしたのは、ハリソン・フォードと共演し、アーミッシュの女性を演じた「刑事ジョン・ブック 目撃者」('85年)でしょう(これも知人宅でのビデオパーティで観た(89-05-03))。ハリソン・フォード演じる警察の不正を知ったために警察に追われること
になった刑事が主人公で、警察を舞台にした犯罪サスペンスかと思ったら、そのジョン・ブック刑事が匿われたアーミッシュの村の暮らしぶり(と言うより、アーミッシュの人々の考え方)が描かれていて、ある種カルチャーショック映画のようになっていました。ハリソン・フォードはアカデミー主演男優賞にノミネートされましたが、来日した時に、今まで出演した中で一番印象に残っている作品として、この「刑事ジョン・ブック 目撃者」を挙げていました。この作品でのハリソン・フォードの演技の延長上に、後の「
ました。女性がアレクサンドル・ゴドゥノフ演じる許嫁候補(?)と仮に結婚したとしても、ずっとジョン・ブックのことを思い続けるのでしょう(「シェーン」にも同じことが言えるが、旦那または許
嫁は"立場ない"なあ)。それにしてもケリー・マクギリス、最初の主演作がハリソン・フォードの相手役で、次がトム・クルーズの相手役であったわけで、当時の圧倒的な美貌のせいもあってか、キャリアの最初の方がとりわけ華々しかったです。
(●2022年にジョセフ・コジンスキー監督による「トップガン マーヴェリック」('22年/米)が公開され
た。「トップガン」から36年ぶりの続編で、トム・クルーズが前回同様マーヴェリック役を演じ、米海軍パイロットのエリート養成学校、通称"トップガン"に教官として戻ってくることになるも、結局、自らチームを率いて敵地へウラン濃縮施設撃破のために飛ぶことになるというもの。トム・クルーズは60歳で頑張っているなあという感じで、映画もヒットしているようだ。日本でも世代を問わず絶賛する声が多い。ただ、前作と異なり、映画評論家までが褒めていたりするのには違和感を感じる。俳優のミッキー・ロークが、トム・クルーズが「トップガン マーヴェリック」で米国
で興行収入1位になったことについてどう思うかとの質問に、「あいつは35年間あんな同じ役を演じてるんだ。尊敬に値しないね」と言っており、そちらの方がまともなマトモな見方とも言える。ヒロイン役はジェニファー・コネリー(51歳)。ケリー・マクギリスは、自分のところには出演オファーが無かったと言っている(笑)。気になったのはストーリーで、教官が部下を救い、今度は部下が教官を救うという話は美しいが、敵地に不時着して、"たまたま近くあった"敵の戦闘機を強奪して帰還するというのはあまりに話が出来過ぎているように思った。かつて、クリント・イーストウッドが監督・主演した「ファイヤーフォックス」('82年)で、イーストウ

ッド演じる元米空軍パイロットがNATOの秘密ミッションでソ連に潜入し、最新鋭戦闘機「MiG-31 ファイヤーフォックス」を盗み出すという映画があったが、あれは最初から周到な計画のもとに敵地に潜入しているわけであって、しかも、
当時の〈東西冷戦〉状況を背景としているとはいえ戦闘機自体はパイロットの意志を感知してオートマチックに敵を攻撃する機能を搭載しているといった半ばSF仕立てでもあった(この機能は実際に研究されているが、まだ実現していない)。苦心惨憺の末に敵戦闘機に辿り着いたイーストウッドとの比較でみると、トム・クルーズの、不時着した付近にたまたま敵の戦闘機があったというのは、あまりにご都合主義的な話だったように思う。
「トップガン マーヴェリック」には、トム・クルーズが前作と同じ"マーヴェリック"役で出ているほかに、ヴァル・キルマーが前作と同じ"アイスマン"役で出ていて、個人的には「
「遥かなる大地へ」●原題:FAR AND AWAY●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:ブライアン・グレイザー/ロン・ハワード●脚本:ボブ・ドルマン●撮影:ミカエル・サロモン●音楽:ジョン・ウィリアムズ●時間:140分●出演:トム・クルーズ/ニコール・キッドマン/トーマス・ギブソン/バーバラ・バブコック/シリル・キューザック/ロバート・プロスキー/コルム・ミーニー/アイリーン・ポロック/ミシェル・ジョンソン/ダグラス・ジリソン/ウェイン・グレイス/バリー・マクガヴァン●日本公開:1992/07●配給:ユニヴァーサル映画=UIP(評価:★★★☆)
「トップガン」●原題:TOP GUN●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ドン・シンプソン/ジェリー・ブラッカイマー●脚本:ジム・キャッシュ/ジャック・エップス・Jr●撮影:ジェフリー・キンボール●音楽:ハロルド・ファルターメイヤー/ジョルジオ・モロダー●時間:110分●出演:トム・クルーズ/ケリー・マクギリス/ヴァル・キルマー/アンソニー・エドワーズ/トム・スケリット/マイケル・ アイアンサイド/ジョン・ストックウェル/リック・ロソビ
「カクテル」●原題:COCKTALEN●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ロジャー・ドナルドソン●製作:テッド・フィールド/ロバート・W・コート●脚本:ヘイウッド・グールド●撮影:ディーン・セムラー●音楽:ピーター・ロビンソン(主題歌:ザ・ビーチ・ボーイズ「ココモ」)●原作:ヘイウッド・グールド●時間:104分●出演:トム・クルーズ/ブライアン・ブラウン/エリザベス・シュー/ケリー・リンチ●日本公開:1989/03●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★)

「刑事ジョン・ブック 目撃者」●原題:WITNESS●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・ウィアー●製作:エドワード・S・フェルドマン●脚本:ウィリアム・ケリー/アール・W・ウォレス●撮影:ジョン・シール●音楽:モーリス・ジャール●時間:113分●出演:ハリソン・フォード/ケリー・マクギリス/ルーカス・ハース/ジョセフ・ソマー/ダニー・グローヴァー/ヤン・ルーベス/アレクサンドル・ゴドゥノフ/パティ・ルポーン/ブレント・ジェニングス/アンガス・マッキネス/フレデリック・ロルフ/ヴィゴ・モーテンセン●日本公開:1985/06●配給:UIP(評価:★★★☆)
「トップガン マーヴェリック」●原題:TOP GUN: MAVERICK●制作年:2022年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ
・コシンスキー●製作:ジェリー・ブラッカイマー/トム・クルーズ/クリストファー・マッカリ
ー/デヴィッド・エリソン●脚本:アーレン・クルーガー/エリック・ウォーレン・シンガー/クリストファー・マッカリー●撮影:クラウディオ・ミランダ●音楽:ハロルド・フォルターメイヤー/レディー・ガガ/ハンス・ジマー●時間:131分●出演:トム・クルーズ/マイルズ・テラー/ジェニファー・コネリー/ジョン・ハム/グレン・パウエル/ルイス・プルマン/エド・ハリス/ヴァル・キルマー●日本公開:2022/05●配給:東和ピクチャーズ●最初に観た場所:TOHOシネマズ上野(スクリーン2)(22-07-12)(評価:★★☆)




二子東急 1957年9月30日 開館(「二子玉川園」(1985年3月閉園)そば) 1991(平成3)年1月15日閉館 






1983年に英国の作家ケン・フォレットが発表した小説で(原題:On Wings of Eagles)、実際にあった事件を取材して作品化したものであり(単行本帯には「ケン・フォレット初のノンフィクション」とあるが、"ノンフィクション小説"という感じか)、本書に登場するEDS会長ロス・ペローという人物は、1992年の大統領選に民主・共和両党とは別に第3政党を立ち上げ立候補したあのロス・ペロー氏です(小柄だが気骨ありそうな老人という印象)。
この選挙は、一般投票率が、ビル・クリントン43%、ジョージ・ブッシュ37%、ペロー19%という結果で、彼の善戦は、パパ・ブッシュの票を獲り込んだため、クリントン大統領誕生の副次的要因となったと言われていますが、自分で傭兵部隊を作って直接行動に出るというのは、一部のアメリカ人にはいかにも受けそうだなあと思います。
'86年にアンドリュー・V・マクラグレン監督によってTⅤ映画化されており、サイモンズ大佐を演じたバート・ランカスターは貫禄の演技で、ああ、この人なら部下はついてくるなあと。
慎重なサイモンズは、社員たちに様々な事態を想定した訓練を施しますが、イランに入ってからの交渉は難航し、革命に乗じて何とか刑務所から2人を脱獄させた後も、トルコへの脱出行の最中に不測の事態が次々発生し、そうした際にそれらの訓練が役立つ―では、サイモンズは超人的な予言者のような人物なのかというとそうではなく、結果的に実行されることの無かった作戦の訓練も数多くこなしていたわけで、要するに、あらゆる不測の事態を想定して、入念に計画し、備えたということことなのでしょう。

「地獄の7人」では、男たちの友情や親子の愛情がテーマとなっていましたが、年寄りにアクションはキツいんじゃないかとつい余計な心配してしまったりするのは、元になっているのがフィクションだからでしょう。そうした意味では、「鷲の翼に乗って」のような「事実に立脚した」とか「実話に基づく」という謳い文句は強みだなあと(それさえ信じ込ませれば怖いもの無し?)。原作も映画も共に大いに楽しめたのは、自分がその"ノンフィクション効果"を、大いに受けたからかも。
「鷲の翼に乗って」●原題:ON WING OF EAGLES●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:アンドリュー・V・マクラグレン●音楽:ローレンス・ローゼンタール●原作:ケン・フォレット●時間:235分●出演:バート・ランカスター/リチャード・クレンナ/ポール・ル・マット/ジム・メッツラー/イーサイ・モラレス/ジェームズ・ストリウス/ローレンス・プレスマン/コンスタンス・タワーズ/カレン・カールソン/シリル・オライリー●テレビ映画:1990/10 テレビ東京(評価:★★★★)
「地獄の7人」●原題:UNCOMMON VALOR●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督:テッド・コッチェフ●製作:ジョン・ミリアス/バズ・フェイトシャンズ●脚本:ジョー・ゲイトン●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ジェームズ・ホーナー●時間:105分●出演:ジーン・ハックマン/ロバート・スタック/フレッド・ウォード/レブ・ブラウン,/パトリック・スウェイジ●日本公開:1984/06●配給/パラマウント映画●最初に観た場所:三軒茶屋映劇(85-05-25)(評価★★★)●併映:「ゴールド・パピヨン」(ジュスト・ジャキャン)



Ken Follett
第2次世界大戦下、当時は英国が支配していたリビア、エジプトに、連合軍から"砂漠の狐"と恐れられるロンメル将軍が送りこんだスパイ、アレックス・ヴォルフは、英国占領下のカイロで英国軍の軍事作戦をスパイし、ロンメル将軍に情報を送ろうとするが、それに気付いた英国軍のウィリアム・ヴァンダム少佐は、地元の女性を協力者とし、スパイを暴き出す作戦に出る―。
読み易い一方で、やや通俗に流れるキライもある作家かなあと思いましたが、TV映画化作品(監督は俳優のデヴィッド・ヘミングスで、本人も出演している)を観て、ああ、最初から映像化を意識していたのかなあとも(要するに、"エスピオナージュ通"受けよりも"一般大衆"受けを狙った?)。
自分は"一般"側なので、原作のみならず、3時間超に及ぶ映像化作品の方も、「セクシーなベリーダンス」シーンとかだけでなく、プロット的にも良くできたエンタテインメントとして、それなりに(むしろ大いに)楽しみましたが、TV映画であるためか、人物像がパターン化していて演出的に特筆するようなものがある作品ではなく、ただ面白いだけという感じ。それはそれで面白ければ良しとすべきなのかも知れませんが(評価自体は素直に★4つ)、やはり、その面白さは原作に負うところが大きいか。






第2次世界大戦の最中、英国内で活動していたドイツの情報将校ヘンリー・フェイバー(コードネーム"針")は、連合軍のヨーロッパ進攻に関する重大機密を入手、直接アドルフ・ヒトラーに報告するため、英国陸軍情報部の追跡を振り切り、Uボートの待つ嵐の海へ船を出したが、暴風雨の影響で離れ小島に漂着してしまう―。
1978年にイギリスの作家ケン・フォレット(Ken Follett)が発表したスパイ小説で(原題:The Eye of the Needle)、1979年「アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)」を受賞した作品。この人は『大聖堂』以来、歴史小説家の趣きがありますが、この作品でエドガー賞などを受賞し、『トリプル』(Triple)、『レベッカへの鍵』 (The Key to Rebecca)と相次いで発表していた頃は、米国のロバート・ラドラム(1927-2001)に続くエスピオナージュの旗手という印象でした。
但し、そのプロセスがやや異なり、マシーンのように非情に行動する"ジャッカル"に対し、ヘンリーは、同じく非情な人物ではあるものの、流れついた島の灯台守の夫婦に世話になるうちに、その妻と"本気"の恋に落ちてしまうという人間臭い設定になっています(夫
が下半身不随で、妻は欲求不満気味だった?)。そして、そのことが結局は、彼が任務を遂行し得なかった原因に―。



ドイツのパラシュート部隊の精鋭を率いるシュタイナーを演じたマイケル・ケインが主役で、ドナルド・サザーランドの役どころは、部隊に先んじて英国に潜入する元IRAのテロリストで現大学教授のリーアム・デヴリン。スパイである男性(デヴリン)が潜入先で地元の女性と恋に陥るところが「針の眼」と似ていますが、シュタイナーの部隊の人間がどんどん死んでいく(計画を指揮したラードル大佐(ロバート・デュヴァル)も失敗の責を取らされ銃殺される。但し、ヒトラーの命令によ
る形をとっているが、元々からヒムラー(ドナルド・プレザンス、本物そっくり!)の独断的計画であったことが示唆されていて、ヒムラー自身は何ら責任を取らない)という状況の中で、愛に目覚めたデヴリンは最後に生き残ります(ドナルド・サザーランドについて言えば、「針の眼」とちょうど逆の結末と言えるかもしれない。ケン・フォレットとジャック・ヒギンズの作風の違いか?)。
「カサノバ」は全編スタジオ撮影で、巨大なセットがカサノバの人生の虚しさとだぶっていると言われているそうです(フェリーニ監督は彼の人生を演技的と捉えたのか)。カサノバ(ドナルド・サザーランド)が自らの強壮ぶりを誇示する"連続腕立て伏せ"シーンなどは凄かったというか、むしろ悲壮感、悲哀感があった...(ある精神分析家によれば、好色家には、"女性なら誰とでも"という「カサノバ型」と"高貴な女性を落とす"ことに喜びを感じる「ドンファン型」があるそうだが、何れもマザー・コンプレックスに起因するそうな)。

「針の眼」の映画の方は、「カサノバ」及び「鷲は舞いおりた」の5年後に撮られた作品ですが、ここでのサザーランドは、冷徹非情ながらもやや"もっそり"した感じもあって、それでいて目付きは鋭く(こういう病的に鋭い目線は、後のロン・ハワード監督の「バックドラフト」('91年/米)の放火魔役に通じるものがある)、半身不随の灯台守の夫を自身の正体を知られたために殺害する場面などは、(相手を殺らなければ自分が殺られるという状況ではあるが)"卑怯者ぶり"丸出しで、普通のスパイ映画にある"スマートさ"の微塵も無く、それが却ってリアリティありました。
ケイト・ネリガン(この人もカナダ出身で演技を学ぶためにイギリスに渡った点でドナルド・サザーランドと重なる)が演じる灯台守の妻がヘンリーの正体を知り、突然愛国心に目覚めたため?と言うよりは、ヘンリーの行為を愛情に対する裏切りととったのでしょう、「何もかも戦争のせいだ。解ってくれ」と弁解する彼に銃を向けるという、直前まで愛し合っていた男女が殺し合いの争いをする展開は、映像としてはキツイものがありましたが、それだけに反戦映画としての色合いを強く感じました。
因みに、ドナルド・サザーランドの息子のキーファー・サザーランド(英ロンドン出身)も俳優で、今は映画よりもTVドラ
マ「24-TWENTY FOUR-」のジャック・バウアー役で活躍していますが(どの場面を観ても、いつも銃と携帯電話を持って、無能な大統領補佐官らに代わって大統領から直接指令を受け、毎日"全米を救うべく"駆け回っていた)、父親ドナルド・サザーランドの方も、「ダーティ・セクシー・マネー」の大富豪役などTVドラマで最近のその姿(相変わらず、どことなく不気味さを漂わせる容貌だが)を観ることができるのが嬉しいです(でも本国では2シーズンで打ち切りになってしまったようだ)。キーファーが自身の演じるジャック・バウアーの父親役と
して「24」への出演を依頼した際、ドナルドは「
「針の眼」●原題:EYE OF THE NEEDLE●制作年:1981年●制作国:イギリス●監督:リチャード・マーカンド●製作:スティーヴン・フリードマン●脚本:スタンリー・マン●撮影: アラン・ヒューム●音楽:ミクロス・ローザ●時間:154分●出演:ドナルド・サザーランド/ケイト・ネリガン/イアン・バネン/クリストファー・カザノフ/フィリップ・マーティン・ブラウン/ビル・ナイン●日本公開:1981/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★☆)


「鷲は舞いおりた」●原題:THE EAGLE HAS LANDED●制作年:1976年●制作国:イギリス●監督:ジョン・スタージェス●製作:ジャック・ウィナー/デイヴィッド・ニーヴン・ジュニア●脚本:トム・マンキーウィッツ●撮影:アンソニー・B・リッチモンド●音楽:ラロ・シフリン●原作:ジャック・ヒギンズ「鷲は舞いおりた」●時間:123分(劇場公開版)/135分(完全版)●出演:マイケル・ケイン/ドナルド・サザーランド/ロバート・デュヴァル/ジェニー・アガター/ドナルド・プレザンス/アンソニ

ー・クエイル/ジーン・マーシュ/ジュディ・ギーソン/トリート・ウィリアムズ/ラリー・ハグマン/スヴェン=ベッティル・トーベ/ジョン・スタンディング●日本公開:1977/08●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋テアトルダイア (77-12-24)(評価:★★★☆)●併映:「ジャッカルの日」(フレッド・ジンネマン)/「ダラスの熱い日」(デビッド・ミラー)/「合衆国最後の日」(ロバート・アルドリッチ)(オールナイト)

「24-TWENTY FOUR-」24 (FOX 2001/11~2009) ○日本での放映チャネル:フジテレビ(2004~2010)/FOX
ドナルド・サザーランド 2024年6月20日、フロリダ州マイアミで死去。88歳。 「M★A★S★H(マッシュ)」で人気俳優の仲間入りを果たし、アラン・J・パクラ監督の「コールガール」(71)、ニコラス・ローグ監督の「赤い影」(73)、ジョン・シュレシンジャー監督の「イナゴの日」(75)、ロバート・レッドフォード監督の「普通の人々」(80)など、アメリカン・ニュー・シネマを代表する作品に出演。その後は、「バックドラフト」の放火魔や、「ハンガー・ゲーム」シリーズのスノー大統領など悪役で強い印象を残していた。




「ヘカテ」というのは、ギリシャ神話に出てくる、男を、子供を、更に世界をも支配する巨大な魔力を持つ、神秘的で残酷な女神のことだそうで、主人公の男にとってクロチルドはまさに「ヘカテ」であり、パンフレットにある批評の「恋とは永遠に不確か」(映画評論家・渡辺祥子)、「恋に乱れる男たちの愚かさよ」(画家・合田佐和子)と言うよりむしろ、「女が愛しているのは快楽だけだという事実」(翻訳家・小沢瑞穂)を突き付け、「愛の行為の果て」(作家・辻邦生)を描いた映画とも言えるかも。
クロチルド役のローレン・ハットン(Lauren Hutton、1943年生まれ)は、ア
メリカン・ヴォーグの専属モデル出身の女優で、特別にグラマーでも美人でもないですが、服の着こなしがいいのか、ダニエル・シュミット(1941-2006/享年64)のカメラ指示がいいのか、シュミットの映像美にマッチしており、この作品では、アンニュイなセクシーさを充満させています。
この映画で、ベルナール・ジロドー演じる外交官が赴任した国は同じ北アフリカでもモロッコのようですが、いずれにせよ、辺境の地で無聊を託っている折に、目の前にこんな女性が現れ、その女性が、恋人、愛人、情婦、更には貴婦人としても完璧であれば、男はずぶずぶ深みに嵌っていくだろうなあと思わせるものがあり、実際、この映画の主人公の男は次第に嫉妬心のコントロールが出来なくなって、狂気に駆られていきます。
した。マイケル・カーティス監督の「カサブランカ」('42年/米)なども「北アフリカ映画」とでも言うか、その類と言えるのではないかと思います。
はイルザと一緒に旅立つ予定だったが、約束の時間にイルザは現れず、リックはイルザに振られたと思っていた。実はその日、イルザは生きていたラズロと再会していたのだ。余儀のない事情が二人を割いたのだったと知って、リックの愛情は蘇る。リックはラズロ夫妻に旅券を渡し、ルノーを味方にして飛行場へ。二人を飛行機に乗せた時、ラズロを追ってシュトラッサー少佐が現れ、離陸を止めようとするシュトラッサーをリックが射殺。リックはカサブランカ脱出を決め、リックを見逃すルノーと共に夜霧の中へ消えていく―。
シュトラッサーを射ち殺してでも彼女を守ろうとするリックは、過去の痛みに耐えていた彼ではなかったということでしょう。その上で、愛を失っても大義を守ろうとしたリック。その彼を前にして、実はレジスタンスの隠れた支援者であったルノーは、自由フランスの支配地域であるフランス領赤道アフリカのブラザヴィルへ逃げるように勧めて、リックを見逃すという流れが(因みに、カサブランカとブラザヴィルでは陸路で千キロ以上の遠隔地であるが)、出来すぎた結末と言えばそうかもしれませんが、実際よく出来ていたように思います。基本、ラブロマンス映画ではあるものの、アメリカも参戦した第二次世界大戦における国際関係と対立を中心に置いて製作された作品であることもあり、プロパガンダ的要素が多分にあったのだと今振り返って思います。でも、そうしたことを超えて、「君の瞳に乾杯」というボガードがあまりにカッコよすぎる...。
「ヘカテ」●原題:HECATE●制作年:1982年●制作国:フランス/スイス●監督:ダニエル・シュミット●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:ダニエル・シュミット/パスカル・ジャルダン●撮影:レナート・ベルタ●音楽:カルロス・ダレッシオ●原

「カサブランカ」●原題:CASABLANCA●制作年:1942年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・カーティス●製作:ハル・B・ウォリス●脚本:ハワード・コッチ/ジュリアス・J・エプスタイン/フィリップ・G・エプスタイン●撮影:アーサー・エディソン●音楽:マックス・スタイナー」●時間:102分●出演:ハンフリー・ボガート/イングリッド・バーグマン/ポール・ヘンリード/クロード・レインズ/コンラート・ファイト/シドニー・グリーンストリート/ピーター・ローレ/S・K・サコール/マデリーン・ルボー/ドーリー・ウィルソン/ジョイ・ペイジ/ジョン・クォーレン/レオニード・キンスキー/クルト・ボウワ●日本公開:1946/06●配給:セントラル映画社●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(83-01-05)(評価:★★★★)
ピーター・ローレ in「暗殺者の家」('34年)/「



原作はウォルター・テヴィス。「ブレードランナー」の原作者であるフィリップ・K・ディックらに影響を与えたとされるSF映画ですが、特撮(と言えるほどのものでもない)部分は、ニュートンが回想する故郷の星の家族が"着ぐるみ"みいたいだったりして(しかも、お決まりの"キャット・アイ")、むしろ、地球人の姿を借りている主人公の宇宙人を演じているデヴィッド・ボウイ自身の方が、表情や立ち振る舞いがよほど宇宙人っぽく見えました。これって相当な集中力を要求される演技だと思います(デヴィッド・ボウイ自身もこの作品に思い入れがあったのか、2015年にオフブロードウェ
イで舞台化された際にはボウイ自身もプロデュースを担当した)。
パンフレットの解説によれば、これはSFと言うよりも愛の物語であるとありましたが、メリー・ルーがニュートンとの数十年ぶりの再会で心を開くことが出来なかったのは、彼女が年齢を加えているのに、ニュートンの方は一向に年をとっていないという隔たりのためで、時を共有するというのは、一緒に年齢を重ねていくということなのだなあと思ったりもしました。「時間」というものも、この作品のテーマの1つであると言えるかもしれません。
富を得れば得るほど孤独になり、自分が何のために地球に来たのかもだんだんわからなくなり
、酒に溺れていく(宇宙人もアル中になる!)ニュートン―。人間の疎外というものを描いた作品でもあるように思いました。
デヴィッド・ボウイは、本作が映画では日本初お目見えでしたが、この作品の前後に「ジギー・スターダスト」('73年/英、ボウイのステージと素顔を追ったドキュメンタリー。日本での公開は'84年)、「ジャスト・ア・ジゴロ」('81年/西独、未見)に出ていて、その後「クリスチーネ・F」('83年/西独、ドイツの麻薬中毒少女をドキュメンタリー風に扱った映画)、「ハンガー」('83年/英、カトリーヌ・ドヌーヴが吸血鬼女、デヴィッド・ボウイがその伴侶という設定)、大島渚監督の「戦場のメリー・クリスマス」('83年/日・英)と続きます。因みに、「ジギー・スターダスト」は1972年にデヴィッド・ボウイがリリースしたアルバム名であり、異星からやってきた架空のスーパースター「ジギー」の成功からその没落までを描いたというそのコンセプトは、3年後に作られた「地球に落ちて来た男」にほぼ反映されたとみていいのではないでしょうか。


「クリスチーネ・F」は、西ベルリンの実在のヘ麻薬中毒の少女(当時14歳)の手記『かなしみのクリスチアーネ』(原題: "Wir Kinder vom Bahnhof Zoo", 「われらツォー駅の子供たち」)をベースに作られ映画ですが、主人公のクリスチーネも、同じ14歳の女友達も、共に薬代を稼ぐために売春していて(この女友達はヘロインの過剰摂取で死んでしまう)、更に、男友達も男娼として身体を売っているという結構すごい話で、クリスチーネをはじめ、素人を役者として使っていますが、演技も真に迫っていて、衝撃的でした(因みに、手記を書いたクリスチアーネ・フェルシェリノヴ(1962年生まれ)は、2010年現在生きていて、一旦は更生したものの、最近また麻薬に手を出しているという)。
この頃の「西ドイツ」映画には、日本に入ってくるものが所謂"芸術作品"っぽかったり(「ノスフェラトゥ」('78年)、「ブリキの太鼓」('79年)、「メフィスト」('81年))、歴史・社会派の作品だったり(「リリー・マルレーン」('81年)、「マリア・ブラウンの結婚」('79年))、重厚でやや暗めのものが多く、また、娯楽映画の中にもアナーキーな部分があったりして(「

リドリー・スコット監督の弟トニー・スコットの初監督作品でもある「ハンガー」では、デヴィッド・ボウイは、「地球に落ちてきた男」で演じた「歳を取らない」宇宙人役とは真逆で、吸血鬼に若さを奪われ「急速に老いていく男」を演じています。
この他にも、スーザン・サランドンとカトリーヌ・ドヌーヴとのラヴシーンといったのもありましたが、個人的には、全体的にイマイチ入り込めなかった...。日本でもそんなにヒットしなかったように思いますが、ガラッと作風を変えた次回作「
デヴィッド・ボウイが日本で再びブレイクすることになったのは、「ハンガー」より先に公開された大島渚監督作品「戦場のメリークリスマス」('83年/日・英)によってであって、音楽の方は、同じく役者として出演していた坂本龍一が担当していました。


「地球に落ちて来た男」●原題:THE MAN WHO FELL TO EARTH●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ニコラス・ローグ●製作:マイケル・ディーリー/バリー・スパイキングス●脚本:ポール・メイヤーズバーグ●撮影: アンソニー・B・リッチモンド●音楽:ジョン・フィリップス●原作:ウォルター・テヴィス●時間:119分●出演:デヴィッド・ボウイ/キャンディ・クラーク/リップ・トーン/バック・ヘンリー/バーニー・ケイシー●日本公開:1977/02●配
「ジギー・スターダスト」●原題:ZIGGY STARDUST●制作年:1973年●制作国:イギリス●監督:ドン・アラン・ペネベイカー●撮影:ジェームズ・デズモンド/マイク・デイヴィス/ニック・ドーブ/ランディ・フランケン/ドン・アラン・ペネベーカー●音楽:デヴィッド・ボウイ●衣装デザイン:フレディ・パレッティ/山本寛斎●時間:90分●出演:デヴィッド・ボウイ/リンゴ・スター(ノンクレジット)●日本公開:1984/12●配給:ケイブルホーグ●最初に観た場所:三鷹オスカー(86-07-06)(評価:★★★)●併映:「地球に落ちて来た男」(ニコラス・ローグ)/「ハンガー」(トニー・スコット)
「クリスチーネ・F」●原題:CHRISTINE F●制作年:1981年●制作国:西ドイツ●監督:ウルリッヒ・エーデル●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:ヘルマン・ヴァイゲル/カイ・ヘルマン/ホルスト・リーク●撮影:ユストゥス・パンカウ●音楽:ユルゲン・クニーパー/デヴィッド・ボウイ●原作:クリスチアーネ・ヴェラ・フェルシェリノヴ「かなしみのクリスチアーネ(われらツォー駅の子供たち)」●時間:138分●出演:ウルリッヒ・エーデル/ナーチャ・ブルンクホルスト/トーマス・ハウシュタイン/イェンス・クーパル/ヘルマン・ヴァイゲル/デヴィッド・ボウイ●日本公開:1982/06●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:荻窪オデヲン座(82-12-11)(評価:★★★☆)●併映:「グローイング・アップ ラスト・バージン



「ハンガー」●原題:THE HUNGER●制作年:1983年●制作国:イギリス●監督:トニー・スコット●製作:リチャード・シェファード●脚本:ジェームズ・コスティガン/アイヴァン・デイヴィス/マイケル・トーマス●撮影:スティーヴン・ゴールドブラット●音楽:デニー・ジャガー/デヴィッド・ローソン/ミシェル・ルビーニ●時間:119分●出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/デヴィッド・ボウイ/スーザン・サランドン/クリフ・デ・ヤン
グ/


「戦場のメリークリスマス」●制作年:1983年●制作国:日本・イギリス・オーストラリア・ニュージーランド●監督:大島渚●製作:ジェレミー・トーマス●脚本:大島渚/ポール・メイヤーズバーグ●撮影:杉村博章●音楽:坂本龍一●原作:ローレンス・ヴァン・デル・ポスト「影さす牢格子」「種子と蒔く者」●時間:123分●出演:デヴィッド・ボウイ/坂本龍一/ビートたけし/








セットも役者(脇役陣含む)も音楽(エンニオ・モリコーネ)も豪勢で、時代の雰囲気を感じさせる重厚かつ哀愁に満ちた作品だと思いましたが、3時間半近い長尺の割にはやや唐突な終わり方のような気もしていました。但し、後年テレビで観直してみると、劇場のようにスケールの大きさは味わえないのですが、ストーリーは冷静に追えるというメリットもあって(勿論、2回目ということあって)、ちゃんと伏線はあったのだなあと思いました。
つまりヌードルスは自分が仲間を裏切ったと思っていたのが、実はマックスの方が最初から仲間を裏切っていたわけで、そのマックスが、今は実業界に君臨するも失脚の窮地にある―ラストシーンで、ヌードルスが道でマックスと思しき人影を認めるも、清掃車が通り過ぎた後にはその影は無かったことは、マックスの自殺を示唆しているのでしょう。
友情が悔恨に、更に復讐の念に転じるべきものが、ノスタルジーを通じてアンビバレントとして様々な感情が複雑に併存しているのが、今の老いたヌードルスなのでしょう。そして過去を引き摺って生きてきたという点では、マックスもヌードルスと同じであり、彼なりに落し前をつけようとしたともとれます。
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」●原題:ONCE UPON A TIME IN AMERICA●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:セルジオ・レオーネ●製作:アーノン・ミルチャン●脚本:セルジオ・レオーネ/レオナルド・ベンヴェヌーティ/ピエロ・デ・ベルナルディ/エンリコ・メディオーリ●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:205分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ジェームズ・ウッズ/エリザベス・マクガヴァン/ジェニファー・コネリー/ダーラン・フリューゲル/トリート・ウィリアムズ/チューズデイ・ウェルド/バート・ヤング/ジョー・ペシ/ジェームズ・ヘイデン/ウィリアム・フォーサイス/ダニー・アイエロ/ジェラード・マーフィ/ラリー・ラップ/ダッチ・ミラー/ロバート・ハーパー/リチャード・ブライト/ポール・ハーマン●日本公開:1984/10●配給:東宝東和●最初に観た場所:有楽町・日本劇場




主役を食ったロバート・デ・ニーロ、映画を食ってしまったショーン・ペン。



「ミーン・ストリート」('73年/米)は、マーティン・スコセッシ 監督の初期の映画で、しがないヤクザ者のチャーリー(ハーヴェイ・カイテル)が、組織に対する忠誠心や自分の生き方に自信を持てないでいる一方、気分によって仕事をし、酒・博打・女による借金で首が回らなくなっている親友のジョニーボーイ(ロバート・デニーロ)をかばい続けるがばかりに、共に窮地に追い詰められていく―という話。
本来の主役はハーヴェイ・カイテルであり、親友を巡って葛藤する青年を見事に演じているのですが、それを凌いでいるのが、ジョニーボーイという無頼のキャラクターを演じているロバート・デ・ニーロ(当時29歳)の演技で、そのハチャメチャぶりと破滅型人格の底に滲む哀感には、当時スゴい役者が現れたものだと思わせるものがあったのではないでしょうか。
「初体験/リッジモント・ハイ」('82年/米)は(故・伊藤計劃の『
てきた)、アメリカの高校生達の恋と青春を描いた作品で、当時人気のフィービー・ケイツ(Phoebe Cates、中
学生のようなルックスと大学生のような肉体の持ち主である彼女には、ロシア系、中国系などの血が混ざっている)を中心に据えたアイドル映画ですが(ストーリー上の主人公はジェニファー・ジェイソン・リーJennifer Jason Leigh)、学生になりすまして母校リッジモント・ハイに潜入し若者たちの生態を観察したキャメロン・クロウの同名原作が元になっており、高校生の実態を世の大人たちに知らしめる啓蒙的意図を持った作品でもあったようです。

フィービー・ケイツはこの作品の2年後、ジョー・ダンテ監督の「グレムリン」('84年/米)に主演し、日本でもその年(昭和59年)のクリスマス映画として公開されましたが大ヒットし(そもそも"モグワイ"という珍獣は、クリスマス・プレゼントだった。どうして
フィービー・ケイツが日本でホントにブレイクしたのは、やはり「グレムリン」ではないでしょうか。個人的には、この「初体験/リッジモント・ハイ」を観て最も印象に残ったのは、教室内の不良少年の1人で、その悪ガキぶりは演技を超えて本物の不良に見え、しかも、本当に少しキレてしまっているような感じさえありました。この不良少年を演じたのがショーン・ペンで(Sean Penn、当時22歳と高校生役にしては結構老けていた)、ちょっと狂った若者を映画に出させたわけではなく、やはり類稀なる演技力の賜物だったのだと、後で思いました(前年の「タップス」('81年/米)にも出ていたらしいが、坊主頭のトム・クルーズ(当時19歳)の方が印象深い)。
その後、ショーン・ペンの方は、デ・ニーロを超える2度のアカデミー主演男優賞を受賞するまでの俳優になっていますが、「リッジモント・ハイ」に関して言えば、こんなたわいもないアイドル映画(乃至は"啓蒙映画")の中に置くにはあまりに"規格外"な存在であり、作品そのものの予定調和を掻き乱し、結果として映画そのものを食ってしまったという印象があります。
映画公開時は準主役というより脇役に近かったと思いますが(ポスターの右上に小さく写真が出ているだけ)、最近のDVDカバーなどでは彼の写真が前面に使われていて、「無名時代のショーン・ペンを観ることが出来る作品」というのがウリになっているのかも(売り出し前のニコラス・ケイジやフォレスト・ウィッテカー、後の「ER」のグリーン先生ことアンソニー・エドワーズなども高校生役で出ている)。
「ミーン・ストリート」●原題:MEAN STREETS●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:マーティン・スコセッシ/ジョナサン・T・タプリン●脚本:マーティン・スコセッシ/マーディック・マーティン●撮影:ケント・ウェイクフォード●時
間:115分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ハーヴェイ・カイテル/デヴィッド・プローヴァル/エイミー・ロビンソン/ロバート・キャラダイン/デヴィッド・キャラダイン/リチャード・ロマナス●日本公開:1980/11●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(81-03-18)(評価:★★★★)●併映「アリスの恋」(マーティン・スコセッシ)
「初体験/リッジモント・ハイ」●原題:FAST TIMES AT RIDGEMONT HIGH●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:エイミー・ヘッカーリング●製作:アート・リンソン/アーヴィング・エイゾフ●脚本:キャメロン・クロウ●撮影:マシュー・F・レオネッティ●音楽:アーヴィング・エイゾフ●原作:キャメロン・クロウ●時間:90分●出演:ジェニファー・ジェイソン・リー/フィービー・ケイツ/ショーン・ペン/ジャッジ・ラインホールド/ニコラス・コッポラ/ニコラス・ケイジ/フォレスト・ウィッテカー/ブライア
ン・ベッカー/ヴィンゼント・スキャベリ/アンソニー・エドワーズ/エリック・ストルツ●日本公開:1982/11●配給:ユニヴァーサル=CIC●最初に観た場所:中
野武蔵野館(83-07-02)(評価:★★☆)●併映「マイ・ライバル」(ロバート・タウン) 
「グレムリン」●原題:GREMLINS●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ジョー・ダンテ●製作:マイケル・フィネル●脚本:クリス・コロンバス●撮影:ジョン・ホラ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:106分●出演:ザック・ギャリガン/フィービー・ケイツ/ホイト・アクストン/フランシス・リー・マッケイン/ポリー・ホリデイ/コリー・フェルドマン●日本公開:1984/12●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(84-12-29)(評価:★★★)





1984(昭和59)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位。
1986年にBBCでテレビ映画化されていて、ピアース・ブロスナンがKGBのスパイを演じていますが、これがなかなか渋い。後の「007シリーズ」を思わせるような女性との絡みやアクション・シーンもありますが(ピアース・ブロスナンがジェームズ・ボンド役を射止めるのは、この作品の8年後)、アクションに関して言えば、いかにもテレビサイズのそれという感じで、むしろ敵役マイケル・ケインとの演技合戦の方が見どころかも。
この小説にある小型原子爆弾の起爆剤となる物質はポロニウムで、2006年に英国で発生した、元ロシア連邦保安庁情報部員アレクサンドル・リトビネンコの不審死事件は(事件そのものが、この小
説とかなり似ている部面があるようにも思えるが)、リトビネンコの死因はポロニウムによる毒殺だとされています(公開された病床のリトビネンコの、それまでとは変わり果てた写真は衝撃的だった)。
ピアーズ・ブロズナンの映画初出演作は、 アガサ・クリスティの『鏡は横にひび割れて』を原作とする「
中国返還を10年後に控えた香港を舞台とするビジネスドラマで、原作は、あの「将軍」を書いたジェームズ・クラヴェル。「将軍」がイマイチだったのでこれもどうかと思ったのですが、ビデオ全3巻、6時間の
長尺でありながら、比較的飽きずに最後まで観ることが出来、ということは、それなりに面白かったということになるのでしょう。「タイパン(大班)」とは香港にある外資系企業のトップを指し、原題の「ノーブル・ハウス」はかつて東アジアで勢いを誇った実在の商社。ピアーズ・ブロズナンはそこの後継者として生まれた青年実業家役で、敵対的M&Aに対する攻防を繰り返していく様をミステリーを絡めて描いたものです。日本でもM&Aが珍しくなくなった今日、比較的馴染みやすい内容となっており、DVD化されるかなと思いましたが、現在のところ['10年]まだのようです。
「第四の核」●原題:THE FOURTH PROTOCOL●制作年:1986年●制作国:イギリス●監督:ジョン・マッケンジー●撮影:フィル・メヒュー●音楽:ラロ・シフリン●原作・脚本:フレデリック・フォーサイス●時間:116分●出演:ピアース・ブロスナン/マイケル・ケイン/ジョアンナ・キャシディ/ネッド・ビーティ/ジュリアン・グローヴァー/マイケル・ガフ/レイ・マカナリー/イアン・リチャードソン/アントン・ロジャース/キャロライン・ブラキストン/ジョセフ・ブラディ/ベッツィ・ブラントリー/ショーン・チャップマン/マット・フルーワー●日本公開:(劇場未公開)VHS/1997/10 東北新社(評価★★★)
「M&A/タイパンと呼ばれた男」●原題:NOBLE HOUSE●制作年:1988年●制作国:イギリス●監督:ゲイリー・ネルソン●原作:ジェームズ・クラヴェル●時間:361分●出演:ピアース・ブロスナン/ジョン・リスデイヴィーズ/ジュリア・ニクソン/デンホルム・エリオット/デボラ・ラフィン●日本公開:(劇場未公開)VHS(全3巻)/1989/10 アスミック・エース(評価★★★☆)


'90年に英国BBCでドラマ版が制作され、'91年に日本でビデオ発売(邦題「100万ドルをとり返せ!」)、'92年にNHK教育テレビで放映され、最近でもCS放送などで放送されることがあります。自分はビデオで観ましたが、原作の各場面をあまり省かずに忠実に作られていて、その上ジェームズとアンのラブ・ストーリーを膨らませたりしているため、
「100万ドルをとり返せ!」●原題:NOT A PENNY MORE,NOT A PENNY LESS●制作年:1990年●制作国:イギリス●監督:クライブ・ドナー●製作:ジャクリーン・デービス●脚本:シャーマン・イェレン●音楽:ミッシェル・ルグラン●時間:186分●原作:ジェフリー・アーチャー「百万ドルをとり返せ!」●出演:エド・ベグリー・ジュニア/エドワード・アスナー/ブライアン・プロザーロ/フランソワ・エリク・ジェンドロン/ニコラス・ジョーンズ/マリアン・ダボ/ジェニー・アガッター●日本公開:1991/09●配給:ビクターエンタテインメント(VHS)(評価:★★★☆)









これを読み、マーチン・スコセッシ監督の「アフター・アワーズ」('85年/米)という、若いサラリーマンが、ふとしたことから大都会ニューヨークで悪夢のような奇妙な一夜を体験する、言わば「巻き込まれ型」ブラック・コメディの傑作を思い出しました(スコセッシが大学生の書いた脚本を映画化したという。カンヌ国際映画祭「監督賞」、インディペンデント・スピリット賞「作品賞」受賞作)。
グリフィン・ダン演じる主人公の青年がコーヒーショップでロザンナ・アークェット演じる美女に声を掛けられたきっかけが、彼が読んでいたヘンリー・
ミラーの『北回帰線』だったというのが、何となく洒落ているとともに、主人公のその後の災厄に被って象徴的でした(『北回帰線』の中にも、こうした奇怪な一夜の体験話が多く出てくる)。映画「アフター・アワーズ」の方は、そのハチャメチャに不条理な一夜が明け、主人公がボロボロになって会社に出社する(気がついたら会社の前にいたという)ところで終わる"ワンナイト・ムービー"です。
作に忠実だが、より漫画チックにデフォルメされている。星野源吹き替えの男性主人公よりも、花澤香菜吹き替えのマドンナ役の"黒髪の乙女"の方が実質的な主人公になっている
。モダンでカ
ラフルでダイナミックなアニメーションは観ていて飽きないが、アニメーションの世界を見せることの方が主となってしまった感じ。一応、〈ワン・ナイト・ムービー(ストーリー)〉のスタイルは原作を継承(第1章だけでなく全部を"一夜"に詰め込んでいる)しているが、ストーリーはなぜかあまり印象に残らないし、京風情など原作の独特の雰囲気も弱まった。映画の方が好きな人もいるようだが、コアな森見登美彦のファンにとっては、映画は原作とは"別もの"に思えるのではないか。因みに、この作品は、「オタワ国際アニメーション映画祭」にて長編アニメ部門グランプリを受賞している。)

「アフター・アワーズ」●原題:AFTER HOURS●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:マーチン・スコセッシ●製作:エイミー・ロビンソン/グリフィン・ダン/ロバート・F・コールズベリー●脚本:ジョセフ・ミニオン●撮影:ミハエル・バルハウス●音楽:ハワード・ショア●時間:97分●出演:グリフィン・ダン/ロザンナ・アークェット/テリー・ガー/ヴァーナ・ブルーム/リンダ・フィオレンティ
ーノ/ジョン・ハード/キャサリン・オハラ/ロバート・プランケット/ウィル・パットン/ディック・ミラー●日本公開:1986


「夜は短し歩けよ乙女」●●制作年:2017年●監督:湯浅政明●脚本:上田誠●キャラクター原案:中村佑介●音楽:大島ミチル(主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION「荒野を歩け」)●原作:森見登美彦●時間:93分●声の出演:星野源/花澤香菜/神谷浩史/秋山竜次(ロバート)/中井和哉/甲斐田裕子/吉野裕行/新妻聖子/諏訪部順一/悠木碧/檜山修之/山路和弘/麦人●公開:2017/04●配給:東宝映像事業部●最初に観た場所:TOHOシネマズ西新井(17-04-13)(評価:★★★)
SCREEN 1 106+(2) 3.5×8.3m デジタル5.1ch


中国の著名な映画監督チェン・カイコー(陳凱歌、1952年生まれ)が、60年代半ばから70年代初頭の「文化大革命」の嵐の中で過ごした自らの少年時代から青年時代にかけてを記したもので、「文革」というイデオロギー至上主義、毛沢東崇拝が、人々の人間性をいかに踏みにじったか、その凄まじさが、少年だった著者の目を通して具体的に伝わってくる内容です。
著者の父親も映画人でしたが、国民党入党歴があったために共産党に拘禁され、一方、当時の共産党員幹部、知識人の子弟の多くがそうしたように、著者自身も「紅衛兵」となり、「毛沢東の良い子」になろうとします(そうしないと身が危険だから)。

その前月にシネヴィヴァン六本木で観た台湾映画「童年往時 時の流れ」('85年/台湾)は、中国で生まれ、一家とともに台湾へ移住した"アハ"少年の青春を描いたホウ・シャオシェン(
劇を描いたもので、台湾の3監督によるオムニバス映画の内の1小品。他の2本も台湾の庶民の日常を描いて、お金こそかかっていませんが、何れもハイレベルの出来でした。


一方、チェン・カイコー(陳凱歌)監督の名が日本でも広く知られるようになったのは、もっと後の、
(●2023年10月12日、シネマート新宿にて4K修復版を鑑賞(劇場で観るのは初)。張國榮(レスリー・チャン)と鞏俐(コン・リー)が一人の男を巡って恋敵となるという、ある意味"空前絶後"的映画だったと改めて思った。)
中国は今月('09年10月1日)建国60周年を迎え、しかし今も、共産党の内部では熾烈な権力抗争が続いて(このことは、清水美和氏の『「中国問題」の内幕』('08年/ちくま新書)に詳しい)、一方で、ここのところの世界的な経済危機にも関わらず、高い経済成長率を維持していますが(GDPは間もなく日本を抜いて世界第2位となる)、今や経済界のリーダーとなっている人達の中にも文革や下放を経験した人は多くいるでしょう。記念式典パレードで一際目立っていたのが毛沢東と鄧小平の肖像画で、「改革解放30年」というキャッチコピーは鄧小平への称賛ともとれます(因みに、このパレードの演出を担当したのもチャン・イーモウ)。
「童年往時/時の流れ」●原題:童年往来事 THE TIME TO LIVE AND THE TIME TO DIE●制作年:1985年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)●製作:徐国良(シュ・クオリヤン)●脚本:侯孝賢(ホウ・シャオシェン






CONCUBI●制作年:1993年●制作国:香港●監督:陳凱歌(チェン・カイコー)●製作:徐淋/徐杰/陳凱歌/孫慧婢●脚本:李碧華/盧葦●撮影:顧長衛●音楽:趙季平(ヂャオ・ジーピン)●原作:李碧華(リー・ビーファー)●時間:172分●出演:張國榮(レスリー・チャン)/張豊毅(チャン・フォンイー)/鞏俐(コン・リー)/呂齊(リゥ・ツァイ)/葛優(グォ・ヨウ)/黄斐(ファン・フェイ)/童弟(トン・ディー)/英達(イン・ダー)●日本公開:1994/02●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画(評価:★★★★☆)●最初に観た場所(再見)[4K版]:シネマート新宿(23-10-12)


鞏俐(コン・リー)in「さらば、わが愛 覇王別姫」(1993年・





がバブル景気で浮かれていた頃アメリカはどうだったかを知ることが出来る映画でもある)、マーティン・シーンは「









2004(平成16)年・第57回 「日本推理作家協会賞」(短編部門)受賞作(連作の第1部「死神の精度」に対する授賞)。
当時の評判も良かったみたいで、同月には渋谷ユーロスペースで同監督の前作「ヴィデオドローム」('82年/カナダ)が上映され、ジェームズ・ウッズ主演のこの作品は見た人の性格を変える暴力SMビデオによって起きる殺人を描いたもので(鈴木光司原作の日本映画「リング」はこれのマネか?)、この2作でクローネンバーグの名は日本でも広く知られるようになりました(「ヴィデオドローム」は、ちょっと気持ち悪いシーンがあり、イマイチ)。
Videodrome
その後、クローネンバーグは、ジョルジュ・ランジュラン原作、カート・ニューマン監督の「ハエ男の恐怖(The Fly)」('58年/米)のリメイク作品「ザ・フライ」('86年/米)を撮り(ホント、"気色悪い"系が好きだなあ)、ジェフ・ゴ
ールドブラムが変身してしまった「ハエ男」が最後の方では「カニ男」に見えてしまうのが難でしたが(と言うより、何が何だかよくわからない怪物になっていて、オリジナルの「ハエ男の恐怖」の方がスチールを見る限りではよほどリアルに「蠅」っぽい)、ただしストーリーはなかなかの感動もので、ラストはちょっと泣けました。
「デッドゾーン」ではクリストファー・ウォーケンが演じる何の前触れもなく突然に予知能力を身につけてしまった主人公の男(スティーヴン・キングらしい設定!)は、将来大統領になって核ミサイルの発射ボタンを押すことになる男(演じているのは、後にテレビドラマ「ザ・ホワイトハウス」で合衆国大統領役を演じることになるマーティン・シーン)に対して、彼の政治生命を絶つために犠牲を払って死んでしまうのですが(未来を変えたということか)、これならストーリー的にはいくらでも話が作れそうな気がして、これきりで終わらせてしまうのは勿体無いなあと思っていたら、約20年を経てTVドラマシリーズになりました(テレビドラマ版の邦題は「デッド・ゾーン」と中黒が入る)。
テレビドラマ版「デッド・ゾーン」で主役のアンソニー・マイケル・ホールを見て、雰囲気がクリストファー・ウォーケンに似ているなあと思ったのは自分だけでしょうか。意図的にクリストファー・ウォーケンと重なるイメージの俳優を主役に据えたようにも思えます。



「ザ・フライ」●原題:THE FLY●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:スチュアート・コーンフェルド●撮影:マーク・アーウィン●音楽:ハワード・ショア ●原作:ジョルジュ・ランジュラン「蠅」●時間:87分●出演:ジェフ・ゴールドブラム/ジーナ・デイヴィス/ジョン・ゲッツ/ジョイ・ブーシェル/レス・カールソン/ジョージ・チュヴァロ/マイケル・コープマン●日本公開:1987/01●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘 (87-07-19)(評価★★★★)●併映:「未来世紀ブラジル」(テリー・ギリアム)


