【675】 ○ スコット・トゥロー (上田公子:訳) 『推定無罪―プリジュームド・イノセント (上・下)』 (1988/09 文藝春秋) ★★★★ (△ アラン・J・パクラ 「推定無罪」 (90年/米) (1991/06 ワーナー・ブラザース) ★★★)

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"実務寄り?"のリーガル・サスペンス。興味深い「司法取引」の様。

推定無罪 上.jpg  推定無罪下.jpg     推定無罪 ポスター.jpg Presumed Innocent m.jpg  映画「推定無罪」
推定無罪〈上〉 (文春文庫)』『推定無罪〈下〉 (文春文庫)』〔'91年〕

Presumed Innocent.jpg 1987年「英国推理作家協会(CWA)賞」シルバー・ダガー賞受賞作。1988 (昭和63) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位(同年度「このミステリーがすごい」(海外編)第2位)。

 1987年発表の本作品『推定無罪-プリジュームド・イノセント』(Presumed Innocent)は、もともと連邦検察局の検事補だったスコット・トゥローが在職中に執筆したもので、彼の処女作。

 作家になった後も彼は弁護士として活動していて、死刑廃止論者でもあり、何度か法廷で死刑判決をひっくり返しているヤり手だそうです(同じ弁護士作家のジョン・グリシャムが、作家になるまでは地方で傷害事件訴訟などに主に関与していたのに比べると、法律家としてのキャリアの華々しさはこちらの方が圧倒的に上)。

 女性検事補が自宅で全裸の絞殺死体となって発見され、優秀で堅物の首席検事補として知られていた主人公は、地方検事の命令でこの事件を担当することになるが、実は事件の被害者が、自分の部下で愛人の女性だと知って驚く―。

 疑惑が自分に向けられてくる主人公の"追い詰められ感"がうまく描けていて(検察官だった人間が被告人の立場に追いやられていく訳だから、焦るのは当然だが)、面白く読めました。事件に潜む政治的な背景はともかくとして、何よりも作者が、バリバリの弁護士ということで、並みのリーガル・サスペンスよりずっと"実務寄り"な印象を受けます(自分が実務に使うわけではないけれど)。

 興味深かったのは、「公判前の評議」において「有罪答弁取引」をして公判によらない解決を図るというシステムで、所謂「司法取引」というものがどのように行われるのかが分ります(アメリカにおける刑事事件裁判の9割は司法取引で処理され、純粋に陪審員制度によって判決が下されるのは5%ぐらいだという)。日本の司法制度とか日本人の感覚とは随分違うなあという感じです。

推定無罪04.jpg '90年にシドニー・ポラック製作、アラン・J・パクラ監督で映画化され、検察官を演じたハリソン・フォードは、女性に助けられるちょっと情けない男って感じで、「インディ・ジョーンズ」シリーズからのイメージ・チェンジ作にもなりました。既に「刑事ジョン・ブック 目撃者」('85年/米)や「フランティック」('88年/米)などに出演しており、このimages「推定無罪.jpg作品以降、「逃亡者」('93年/米)などサスペンス物への出演がますますPRESUMED INNOCENT 1990   .jpg多くなるハリソン・フォードですが、この作品ではラウル・ジュリアほか女優陣の方が元気がいいです。

 司法取引の場面だけはキッチリと描かれていて、そこは気に入りましたが、とは言え原作はかなり長くて専門的な記述も多く、映画にするとどうしても細部は端折らざるを得ない...。原作はジョン・グリシャムよりは通好みの作風だと思うけれども、映画で見ると「ああ、これもまた映画的なストーリーなのだなあ」という気がしてしまうのは、その辺りに原因があるのかも。

THE BURDEN OF PROOF 1991  .jpgTHE BURDEN OF PROOF 1991.jpg '91年には『推定無罪』の続編とも言える『立証責任』(The Burden of Proof,1990)がTV映画化(ミニ・シリーズ)されていて(日本でも'93年にビデオ販売された)、『推定無罪』の主人公ラスティ・サビッチの弁護をつとめた弁護士サンディ・スターンが原作でも映画でも前作からのスピンオフの形をとって主人公になっています。シカゴへの2日間の出張からスターンが帰宅すると妻のクララがガレージの車の中で自殺していて、31年間も連れ添った愛妻がなぜ自殺したのか、さっぱり理由がわからないスターンは、妻宛の病院からの請求書を手がかりにクララの死の真相を探り始めるというもの。おそらく原作は面白いのだろうけれど、ドラマは162分の長尺ながらもやや物足りなかったでしょうか。主人公スターンは56歳で、演じたのはヘクター・エリゾンド(「刑事コロンボ(第33話)/ハッサン・サラーの反逆」('75年)の犯人役だった)、共演は「推定無罪」にも出ていたブライアン・デネヒーで、共演者の方が存在感があったかも(ブライアン・デネヒーはこの作品でエミー賞最優秀助演男優賞にノミネートされた)。スコット・トゥローらしい法律の専門知識は生かされているように思いましたが、ややマニアックか。加えてこうした中年期の危機みたいなものを描いた作品となると、やはり映画よりもテレビドラマになってしまうのでしょうか。

推定無罪09.jpgPresumed Innocent (1990)  推定無罪.jpg「推定無罪」●原題:PRESUMED INNOCENT●制作年:1990年●制作国:アメリカ●製作:シドニー・ポラック/マーク・ローゼンバーグ●監督:アラン・J・パクラ●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作:スコット・トゥロー「推定無罪-プリジュームド・イノセント」●時間:127分●出演:ハリソン・フォード/ラウル・ジュリア/ブライアン・デネヒー/ボニー・ベデリア/グレタ・スカッキ/ジョン・スペンサー/ポール・ウィンフィールド●日本公開:1991/06●配給:ワーナー・ブラザース (評価★★★)

立証責任 1993 tv 映画.jpg01立証責任.jpg「立証責任」●原題:THE BURDEN OF PROOF●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:マイク・ローブ●製作:ジョン・ペリン・フリン●脚本:ジョン・ゲイ●撮影:キース・ヴァン・オーストラム●音楽:クレイグ・セイファン●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作: スコット・トゥロー「立証責任」●時間:162分●出演:ヘクター・エリゾンド/ブライアン・デネヒー/メル・ハリス/エイドリアン・バーボー/ステファニー・パワーズ/アン・ボビー/ヴィクトリア・プリンシパル/ゲイル・ストリックランド/ジェフリー・タンバー/コンチータ・トメイ●VHS日本発売:1993/04●販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ (評価★★★) 「立証責任 [VHS]

 【1991年文庫化・2012年新装改定版[文春文庫(上・下)]】

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