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原作の雰囲気は伝えていたか。勝新は熱演、伊藤雄之助は怪演。
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とむらい師たち [DVD]」 勝新太郎/藤村有弘

 区役所戸籍係(藤本有弘)の窓口を訪ねた"ガンめん(顔面)"(勝新太郎)は、死亡届が来るなり死者の元に駆けつける。火葬場従業員の伜に生れたデスマスク屋のガンめんは、死人の顔に石膏をちぎっては投げつけ、できたデスマスクを葬式で飾る。そこに葬儀屋の正葬社・米「とむらい師たち」伊藤雄之助.jpg倉(遠藤辰夫)と安楽社・稲垣(財津一郎)が駆けつけ仕事の取り合いを始める。ガンめんの家にはこれまでに取ったデスマスクが陳列されている。ガンめんは助手の霊柩車運転手"ラッキョ"(多賀勝)に加え、戦地ガダルカナル帰りの美容整形医 "センセ"(伊藤雄之助)を新たに仲間に加え、死顔美容を施す商売を興して軌道に乗せる。正葬社から賄賂を貰って優先的に死亡先の連絡をしていたことが判明して区役所を辞めた"ジャッカン"(藤村有弘)もマネージャー役で加わり、「死んだらルンペンも大統領も一緒や」というガンめんの考えに共感した金持ちの社長も支援者になる。死顔美容、デスマスクを備えた「国際葬儀協会(国葬)」を設立、事業は順調に発展、生前の葬儀予約も"社長"(藤岡琢也)から取る。 ある日、センセが人を殺したと電話して、服飾屋とく(西岡慶子)に中絶手術を施して罪の意識に悩むセンセを見たガンめんは、水子供養イベントを思いつく。この計画は雑誌社の取材も受け、本番でヘリコプターから落として膨らました特大ビニール製水子「とむらい師たち」007.jpg地蔵は効果満点、中之島公園での水子供養の一大イベントがは大成功し、ガンめんたちは大儲けし、勢いに乗ってテレビで葬儀コマーシャルも流す。ラッキョ、センセ、ジャッカンは次にサウナ風呂もある葬儀会館を建て、葬儀を完全なビジネスにする計画を立てるが、ガンめんは「葬式は心でするもの」という自分の信念に背いていくこの計画に乗れず、3人と別れて出直す決心をする。ほとんど一文無しになったガンめんは、'70年に大阪で予定されている万国博の向こうを張ることを思いつき、死者の祭典である葬儀博を開催しようとする。しかし、資金提供者を得られず、協力者も紙芝居の絵描きだけ。ガンめ「とむらい師たち」01.jpgんは地下に広場を作り、デスマスクの陳列や戦没者絵図、地獄絵作りなど死の世界の再現に打ち込む。一方、ジャッカンが館長となった国葬会館では冷凍室まで設置され、センセは併せて立ち上げた「死顔様教団」の教祖となっていた。ある日、地下のガンめんは大衝撃を感じて地上に出た。地上は水爆でも落ちたのか、一面瓦礫と化していた。世界全部が葬博や、と狂ったように叫びながら飛び出したガンめん。その姿もいつしか消えて、あたり一面に死の静寂が包んでいた―。

「とむらい師たち」02.jpgとむらい師たち 野坂昭如y.jpg野坂昭如11.jpg '68(昭和43)年公開の三隅研次監督作で、'66(昭和41)年発表の野坂昭如の原作は、高度成長期において人の「死」というものが社会から隠蔽されようとされている風潮にアンチテーゼを投げかけた作品であり、「エロ事師たち」('63年発表)同様、スペシャリスト集団の男たちの奮闘をユーモアと哀切を込めて描いています。

藤本義一 2.jpg 脚本は藤本義一。映画の中で、「国際葬儀協会」の略称が「国葬」で、"ガンめん"(勝新太郎)が「この間あった元総理"国葬"とは違いまっせ」と客に説明するのは、1967年10月31日、吉田茂元総理が亡くなって11日後に行われた戦後初の(閣議決定で行われることになった)国葬のことで、原作発表の時点では吉田元総理は存命のため、原作には無いセリフです(今年['22年]9月27日に銃撃された安倍晋三元総理の国葬が(これも閣議決定で)55年ぶりに行われた)。

 原作では、ガンめんが新興宗教を立ち上げ、先生の助言のもと運営していくのですが、映画ではガンめんは"センセ"や"ジャッカン"らの金儲け主義に反発して、途中から独自行動をとるようになっていて、この辺りは脚本の藤本義一の考えが入っているのでしょうか。それとも、勝新太郎の世間的イメージを考慮したのか。

「とむらい師たち」勝5.jpg それでも、原作の雰囲気は伝えていたかと思います。基本的に喜劇であり、"ガンめん"の死人の顔に石膏をちぎっては投げつけるデスマスク作りは、現実にはちょっとあり得ないものですが、それを勝新太郎が生き生きとと熱演しています。また、「国葬」の電話番号が「307-4942(みんな、よく死に)」)というのが笑えます。伊藤雄之助が国葬で教祖的存在である"センセ"を怪演し、藤村有弘(この人の真っ先に思い浮かぶイメージは、NHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」(原作:井上ひさし、山元護久)のドン・ガバチョ)が区役所職員からいけいけの国葬マネージャーに転じた"ジャッカン"を演じていて、いずれもハマリ役。水爆でも落ちたのか、すべてが灰塵と化すというカタストロフィ的結末は原作通りです(ただ、このシーンは当時の映像技術的にやや弱いか)。

辛口喜劇のススメ.jpg 先に取り上げた山本周五郎原作、川島雄三監督の「青べか物語」(1962年/東宝)と同じく神保町シアターの特集「辛口喜劇のススメ」で観ましたが、こちらもなかなかDVD化されず、2014年にやっとDVD化された作品です。

 因みに、野坂昭如原作の映画化作品には、今村昌平監督の「『エロ事師たち』」より 人類学入門」('66年/日活、2004年DVD化)、千野皓司監督の「極道ペテン師」(原作は『ゲリラの群れ』)('69年/大映、未DVD化)、石田勝心監督の「頑張れ!日本男児」(原作は『アメリカひじき』)('70年/東宝、未DVD化)、増村保造監督の「遊び」(原作は『心中弁天島』)('71年/大映、2001年DVD化)などがありますが、高畑勲監督のアニメ映画「火垂るの墓」('88年/東宝)の高い認知度に比べると未DVD化のものがあったりして観る機会が得にくく、認知度は落ちるというのが実態かと思われ、やや残念です。

「とむらい師たち」勝.jpg「とむらい師たち」●制作年:1968年●監督:三隅研次●製作:田辺満●脚本:藤本義一●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:野坂昭如●時間:89分●出演:森繁久彌/東野英治郎/南弘子/丹阿弥谷津子/左幸子/紅美恵子/富永美沙子/都家かつ江/フランキー堺/千石規子/中村メイコ/池内淳子/加藤武/中村是好/桂小金治/市原悦子/山茶花究/乙羽信子/園井啓介/左卜全/井川比佐志/東野英心/小池朝雄/名古屋章●公開:1968/04●配給:大映●最初に観た場所:神保町シアター(22-11-10)(評価:★★★☆)

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谷崎文学の世界を分かりやすく且つ重厚に再現。原作と異なる結末。愉しめた。

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鬼の棲む館 [DVD]」 高峰秀子/勝新太郎/新珠三千代
「鬼の棲む館」c taka1.jpg 南北朝時代、戦火を免れた山寺に、無明の太郎と異名をとる盗賊(勝新太郎)が、白拍子あがりの情人・愛染(新珠三千代)と爛れた生活を送っていた。自堕落な愛染、太郎が従者のように献身しているのは、彼女が素晴らしい肉体を、持っていたからだった。晩秋のある夕暮、京から太郎の妻・楓(高峰秀子)が尋ねて来た。太郎は、自分を探し求めて訪れた楓を邪慳に扱ったが、彼女はいつしか庫裡に住みつき、ただひたすら獣が獲物を待つ忍従さで太郎に仕えた。それから半年ほども過ぎたある晩、道に迷った高野の上人(佐鬼の棲む館 0091.jpg藤慶)が、一夜の宿を乞うて訪れた。楓は早速自分の苦衷を訴えたが、上人は、愛染を憎む己の心の中にこそ鬼が住んでいると説教し、上人が所持している黄金仏を盗ろうとした太郎には「鬼の棲む館」c ara.jpg呪文を唱えて立往生させた。だが、上人はそこに現われた愛染を見て動揺した。その昔、上人を恋仇きと争わせ、仏門に入る結縁をつくった女、それが愛染だった。上人に敵意を感じた愛染は、彼を本堂に誘う。そうした愛染に上人は仏の道を諭そうとしたが―。

無明と愛染 プラトン社.jpg無明と愛染3.jpg 三隅研次(1921-1975/54歳没)監督による1969年公開作で、原作は谷崎潤一郎の戯曲「無明と愛染」。1924(大正13)1月1日発行の「改造」新年号に第一幕が、3月1日発行の3月号に第二幕が発表され、その年の5月に『無明と愛染 谷崎潤一郎戯曲集』として「腕角力」「月の囁き」「蘇東坡」と併せてプラトン社から刊行されています。
無明と愛染』['24年/プラトン社]

 脚本は、新藤兼人。映画の最初の方にある楓が夫である無明の太郎を訪ね来る場面は原作にはなく、原作は、道に迷った高野の上人が宿を求めて山寺を訪ねたら、すでにそこで太郎が妻妾同居状態で暮らしていた―というところから始まります(映画の冒頭から半年が経「鬼の棲む館」7.jpgっていることになる)。従って、落ち武者たちが寺を襲い、それを太郎が妻妾見守る前で一人で片付けるというシーンも映画のオリジナルです。勝新太郎の座頭市シリーズを第1作の「座頭市物語」('62年/大映)をはじめ何本も撮っている監督なので、やはり剣戟を入れないと収まらなかったのでしょう(笑)。どこまでこんな調子で原作からの改変があるのかなあと思って観ていたら、佐藤慶の演じる上人が訪ねて来るところから原作戯曲の通りで、宮川一夫のカメラ、伊福部昭の音楽も相俟って、重厚感のある映像化作品に仕上がっていました。

鬼の棲む館es.jpg「鬼の棲む館」11.jpg 愛染と楓の激突はそのまま新珠三千代高峰秀子の演技合戦の様相を呈しているように思われ(新珠三千代は現代的なメイク、高峰秀子は能面のようなメイクで、これは肉体と精神の対決を意味しているのではないか)、序盤で派手な剣戟を見せた勝新太郎も、愛染と楓の凌ぎ合いの狭間でたじたじとなる太郎さながらに、やや後退していく感じ。それでも、ああ、この役者が黒澤明の「影武者」をやっていたらなあ、と思わせる骨太さを遺憾なく発揮していました。

「鬼の棲む館」katu.jpg 考えてみれば、原作は戯曲で、それをかなり忠実に再現しているので、役者は原作と同じセリフを話すことになり、新藤兼人の脚本は実質的には前の方に付け加えた部分だけかと思って、「結末は知っているよ」みたいな感じて観ていました。そしたら、最後の最後で意表を突かれました。

「鬼の棲む館」2.jpg 谷崎文学の世界を分かりやすく且つ重厚に再現していましたが、加えて、原作と異なる結末で、"意外性"も愉しめました。これ、映画を観てから原作を読んだ人も、原作の結末に「あれっ」と思うはずであって、全集で20ページくらいなので是非読んでみて欲しいと思います(原作の方が映画より"谷崎的"であるため、映画を観た人は原作がどうなっているか確認した方がいいように思う。映画は「魔性の女」が生きていてはならないというか、"映画的"に改変されている)。

鬼の棲む館/勝新太郎高峰秀子三隅研次(監督)谷崎潤一郎(原作)
鬼の棲む館 谷.jpg鬼の棲む館 09.jpg「鬼の棲む館」●制作年:1969年●監督・脚本:三隅研次●製作:永田雅一●脚本:新藤兼人●撮影:宮川一夫●音楽:伊福部昭●原作:谷崎潤一郎「無明と愛染」(戯曲)●時間:76分●出演:勝新太郎/高峰秀子/新珠三千代/佐藤慶/五味龍太郎/木村元/伊達岳志/伴勇太郎/松田剛武/黒木現●公開:1969/05●配給:大映●最初に神保町シアター(「鬼の棲む館」)2.jpg観た場所:神田・神保町シアター(21-03-10)(評価:★★★★)

神保町シアター ミスミ.jpg

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原作を改変して一続きのストーリーにしながらも、原作のエッセンスは損なわず。

ななみだ川 dvd.jpg ななみだ川 1967 2 - コピー.jpg ななみだ川 1967 3 - コピー.jpg
なみだ川 [DVD]」藤村志保
「なみだ川」3.png 嘉永年間、江戸日本橋はせがわ町に、おしず(藤村志保)、おたか(若柳菊)の姉妹がいた。二人はそれぞれ、長唄の師匠、仕立屋として、神経を病んで仕事を休んでいる彫金師の父・新七(藤原釜足)に代って、一家の生計を支えていた。姉のおしずは、生半可な諺を乱発する癖のあるお人好し、妹は利口で勝気な性格だった。姉妹にとって悩みの種は、時折姿を現わしては僅かな貯えを持ち出していく兄の栄二(戸浦六宏)のことで、二人の結婚を妨げている原因の一つあった。ある日、おたかに、彼女が仕立物を納めている信濃屋の一人息子・友吉(塩崎純男)との縁談が持ち上がる。おたかは友吉を憎からず思っていたのだが、彼女は姉よりも先に嫁ぐのが心苦しく、また栄二のこともあるので話を断る。だが、妹の本心を知るおしずは、信濃屋の両親に栄二のことを打ち明け、妹には自分にも好きな人があって近いうちに祝言を上げるからと、縁談を纏めたのである。おたかは喜びながらも、姉の結婚話は嘘に違いないと胸を痛める。そして姉が好きな人だという貞二郎(細川俊之)に会ってみて、姉の嘘を確かめた。だが、おたかは姉が本当に貞二郎に焦がれているのを知っていた。彫金師としては江戸一番の腕を持ちながら少しスネたところのある貞二郎におたかは頼み込み、おしずに会ってもらうことにし。試しにと、おしずに会った貞二郎は、彼女の天衣無縫な性格に心がなごむ。だが、このことが、前からおしずを囲ってみたいと思っていた鶴村(安部徹)に伝わると、鶴村は貞二郎に、おしずは自分の囲われ者だと言って手を引かせようとした。それを真に受けた貞二郎は、おたかに会って確めようとした時、おしずの自分を想ういじらしい気持ちを訴えられて我が身の卑しい気持ちを恥じる。やがておたかの結納も無事に終えた夜、栄二が姿を現わした。おしずは、栄二が妹の婚礼を邪魔する気なら、刺し違えて自分も死のうと短刀を握りしめる―。

三隅研次.jpg 1967年公開の三隅研次(1921-1975)監督作で(脚本は依田義賢)、原作は、山本周五郎が江戸・日本橋を舞台に、お互いの幸せを尊重し合う姉妹の姿を描いた『おたふく物語』。姉・おしずを演じる藤村志保は、大映の演技研究生だった頃に原作を読み、いつかこの役を演じたいと思いを抱いていただけあって、お人好しを可愛く演じてはまり役でした。藤村志保はこの頃は毎年5本から10本の映画に出演しており(三隅研次監督の「大魔神怒る」('66年/大映)にもヒロイン役で出演している)、テレビでも、2年前にNHKの大河ドラマ「太閤記」('65年)で緒形拳演じる秀吉の妻・ねねを、この年の大河「三姉妹」('67年)では次女るいを演じて(長女を岡田茉莉子、三女を栗原小巻が演じた)、お茶の間でもお馴染みの人気女優でしたが、主役を演じたこの作品は代表作と言えるのではないでしょうか。

三隅研次

児次郎吹雪・おたふく物語.jpgおたふく物語 (時代小説文庫).jpg 原作の『おたふく物語』(「妹の縁談」「湯治」「おたふく」から成る)は、「おたふく物語」(「講談雑誌」1949年4月号)、「妹の縁談」(「婦人倶楽部」1950年9月秋の増刊号)、「湯治」(「講談倶楽部」1951年3月号)の順で独立した短編として発表されていて、姉妹の名も「おたふく物語」はおしずとおきく、「妹の縁談」はお静とおかよ、「湯治」お静とおたかになっていたのが、『おたふく物語』(55年/河出新書)としてまとめられた際に、「妹の縁談」「湯治」「おたふく」と一部改題の上で時系列に並べ替えられた連作となり、姉妹の名もおしずとおたかで統一されたとのことです。
児次郎吹雪・おたふく物語 (河出文庫)』['18年]『おたふく物語 (時代小説文庫)』['98年]

 ただし、「妹の縁談」の縁談では姉妹に両親と兄二人がいるのに、「おたふく」では「家族は両親と娘二人」とされるなど、修正忘れ?もあったりします。映画では、彫金師の父親とそれを支える姉妹と、倒幕活動の資金だと言って家族から金を巻き上げる兄が一人という家族構成になっていました。

 原作は、「妹の縁談」で、おしずが姉を差し置いてはと嫁に行きそびれている妹に対し、一計を図って妹の縁談を纏めようとする様が描かれていて、これは映画も同じです。おしずの「目黒の秋刀魚」についての勘違いは映画でも活かされていました。

「なみだ川」 toura.jpg 「湯治」では、金をせびりに来た兄におしずが短刀を突き出して追い返すも、衣類を持って後を追いかけるという結末で、家に来られても困るけれども、兄妹愛はあるといった感じでしょうか。映画のように、もう来ないという約束を破って妹の婚礼を邪魔するようなタイミングで来たわけでもないですが、映画の方でも、最後には栄二(戸浦六宏)は今度こそもう邪魔しないと言っているので、結局、兄も根はそんな悪い人ではなかったっということでしょう。
戸浦六宏
細川俊之/藤村志保
「なみだ川」 hosokawa.jpg細川俊之.jpg 原作の最後の「おたふく」では、おしずもおたかも既に結婚していて、おしずの夫は勿論貞二郎ですが、ある日、貞二郎が自分の作った、値段的には張るはずの彫り物を、かつて裕福ではなかったはずのおしずが幾つも持っていることを知り、そこから鶴村との過去の関係を疑い始めて悩むというもので、この誤解を解くために今度はおたかの方が、おしずにとって貞次郎は長年の想い人であり、彼が丹精こめて作った彫り物を身につけていたかったが、直接は言えなくて、長唄の稽古に来ていた鶴村の家人に頼んで鶴村の名で注文したものだと事情を説明し、貞二郎の疑念を晴らすというもの。映画の方は結婚前なので、おしずとおたかの姉妹愛にうたれた貞二郎が、おしずに惚れ直して父・新七におしずを嫁にと申し入れるというものでした。

なみだ川 玉川.png 最後がおしずの"天然ボケ"で終わるところは原作も映画も同じで、ストーリーの起伏はありますが、「なみだ川」というタイトルに反して映画も原作も結構コミカルな面があり(その上で泣かせる人情話なのだが)、また、それを藤村志保が上手く演じていました(刃物屋の玉川良一に小刀の突き方を教わるところなどは、深刻な状況なのにほのぼのコントみたい)。

「なみだ川」 tour.jpg「なみだ川」安倍.jpg 時制的に異なる三話を映画では一続きにしたために、「妹の縁談」は概ねそのままですが、「湯治」では兄の栄二が一度した約束を破っておたかの結納後(婚礼前)に再び押しかけてくるようにし(でも最後は去って行く)、「おたふく」での貞次郎(細川俊之)の疑念は、過去の関係に対するものではなく、リアルタイムにしたのでしょう。そのため、原作には名前しか出てこない鶴村が映画では登場し(安部徹)、貞二郎におしずは自分の囲い者だと言って手を引かせようとするなど、栄二の戸浦六宏と異なり、終始一貫して"悪役"でした(笑)。

 原作を改変して一続きのストーリーにしながらも、原作のエッセンスは損なっておらず、楽しめるとともに、脚本家の力量を感じた作品でした。 

「なみだ川」 title.jpg「なみだ川」●制作年:1967年●監督:三隅研次●脚本:依田義賢●撮影:牧浦地志●音楽:小杉太一郎●原作:山本周五郎●時間:79 分●出演:藤村志保/若柳菊/細川俊之/藤原釜足/玉川良一/安部徹/戸浦六宏/塩崎純男/春本富士夫/水原浩一/花布辰男/本間久子/町田博子/寺島雄作/木村玄/越川一/美山晋八/黒木現/香山恵子/橘公子●公開:1967/10●配給:大映●最初に観た場所:神田・神保町シアター(21-02-24)(評価:★★★★)
藤原釜足 なみだ川1.jpg 藤原釜足(彫金師の父・新七)

三隅研次特集.jpg

藤村志保.jpg藤村 志保(ふじむら・しほ)女優
2025年6月12日、肺炎のため死去。86歳没。
大魔神怒る」(1966年)、「白い巨塔」(1966年)、「なみだ川」(1967年)、「不毛地帯」(1976年)、「あ、春」(1998年)、「双生児」(1999年)、ドラマ「太閤記」「三姉妹」「てるてる家族」。


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写真が豊富(数千点)かつ鮮明。生活費を切り詰め集めた"執念のコレクション"。

東宝特撮怪獣映画大鑑(増補版).jpg 東宝特撮怪獣映画大鑑 増補版.jpg ゴジラ.jpg モスラ対ゴジラ1964.jpg
東宝特撮怪獣映画大鑑』(1999/03 朝日ソノラマ) 「ゴジラ」(1954)/「モスラ対ゴジラ」(1964)

 朝日ソノラマの旧版('89年刊行)の「増補版」。553ページにも及ぶ大型本の中で、'54年の「ゴジラ」から'98年の「モスラ3」までのスチールや撮影風景の写真などを紹介していますが、とにかく写真が充実(数千点)しているのと、その状態が極めてクリアなのに驚かされます。

浅野ゆう子.jpg 怪獣映画ファンサークル代表竹内博氏が、仕事関係で怪獣映画の写真が手元に来る度に自費でデュープして保存しておいたもので(元の写真は出版社や配給会社に返却)、当時の出版・映画会社の資料保管体制はいい加減だから(そのことを氏はよく知っていた)、結局今や出版社にも東宝にもない貴重な写真を竹内氏だけが所持していて、こうした集大成が完成した、まさに生活費を切り詰め集めた"執念のコレクション"です(星半個マイナスは価格面だけ)。

水野久美2.jpg若林映子2.jpg やはり、冒頭に来るのは「ゴジラ」シリーズですが、スチールの点数も多く、ゴジラの変遷がわかるとともに、俳優陣の写真も豊富で、平田昭彦、小泉博、田崎潤、佐原健二、藤木悠、宝田明、高島忠夫、女優だと水野久美若林映子(後のボンドガール)、根岸明美、さらに前田美波里や、ゴジラものではないですが浅野ゆう子('77年「惑星大戦争」)なども出ていたのだなあと。

モスラ対ゴジラ.jpgモスラ.jpgゴジラ ポスター.jpg 「ゴジラ」('54年)は、東宝の田中友幸プロデューサーによる映画「ゴジラ」の企画が先にあって、幻想小説家の香山滋が依頼を受けて書いた原作は原稿用紙40枚ほどのものであり、現在文庫で読める『小説ゴジラ』は、映画が公開された後のノヴェライゼーションです。

ゴジラ 1954.jpgゴジラs29.jpg  自分が生まれる前の作品であり(モノクロ)、かなり後になって劇場で観ましたが、バックに反核実験のメッセージが窺えたものの、怪獣映画ファンの多くが過去最高の怪獣映画と称賛するわりには、自分自身の中では"最高傑作"とするまでには、今ひとつノリ切れなかったような面もあります。やはりこういうのは、子供の時にリアルタイムで観ないとダメなのかなあ。ゴジラ 1954.jpg初めて「怪獣映画」というものを観た人たちにとっては、強烈なインパクトはあったと思うけれど。昭和20年代終わり頃に作られ、自分がリアルタイムで観ていない作品を、ついつい現代の技術水準や演出などとの比較で観てしまっている傾向があるかもしれません。但し、制作年('54年)の3月にビキニ環礁で米国による水爆実験があり、その年の9月に「第五福竜丸」の乗組員が亡くなったことを考えると、その年の12月に公開されたということは、やはり、すごく時代に敏感に呼応した作品ではあったかとゴジラ_.jpg思います。
宝田明(南海サルベージKK所長・尾形秀人)/河内桃子(山根恭平博士の娘・山根恵美子)/平田昭彦(科学者・芹沢大助)
(●2024年「ゴジラ生誕70周年記念上映」で再鑑賞。ラストで芹沢(平田昭彦)が海「ゴジラ」芹沢.jpg中から上がらずゴジラともに最期を迎えたのは、最強兵器オキシジェン・デストロイヤーの知識を自ら封印したというのが一般的解釈だが、そこまでする必要があったのかという思いがあった。今回観直してみて、山根恵美子(河内桃子)が尾形(宝田明)に秘密を漏らしたことで、芹沢は彼女が自分より尾形を選んだことを改めて認識し、恋に破れたと言うか、前向きに捉えれば恵美子の幸せは尾形に託したという意識も根底にあったのではないかと思った。ある意味「三角関係」映画だった。

Gojira (1954) 菅井きん(1926-2018/享年92)(小沢代議士)/志村喬(古生物学者・山根恭平博士)(ラストで「あのゴジラが最後の一匹とは思えない」と言う。)
Gojira (1954) .jpg菅井きん ゴジラ.jpgo志村喬ゴジラ.jpg「ゴジラ」●制作年:1954年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本:村田武雄/本多猪四郎●撮平田昭彦 ゴジラ.jpg影:玉井正夫●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二ほか●原作:香山滋●時間:97分●出演:宝田明/河内桃子/平田昭彦/志村喬/堺左千夫/村上冬樹/山本廉/榊田敬二/鈴木豊明 /馬野都留子/菅井きん/笈川武夫/林幹/恩田清二郎/高堂国典/小川虎之助/手塚克巳/橘正晃/帯一郎/中島春雄/川合玉江/東静子/岡部正/鴨田清/今泉康/橘正晃/帯一郎●公開:1954/11●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿名画座ミラノ(83-08-06)●2回目:TOHOシネマズ 日比谷 (24-07-17)(評価:★★★☆→★★★★(緊迫感はシリーズ随一ではないかと思われ、評価を修正した。))●併映(1回目):「怪獣大戦争」(本多猪四郎)


モスラ_0.jpg 作品区分としてはゴジラ・シリーズではないですが、中村真一郎、福永武彦、堀田善衛の3人の純文学者を原作者とする「モスラ」('61年)の方が、今観ると笑えるところも多いのですが、全体としてはむしろ大人の鑑賞にも堪えうるのではないかと...。まあ、「ゴジラ」と「モスラ」の間には7年もの間隔があるわけで、その間に進歩があって当然なわけだけれど。

「モスラ」('61年)予告

モスラ51.jpg ザ・ピーナッツ(伊藤エミ(1941-2012)、伊藤ユミ(1941-2016))のインドネシア風の歌も悪くないし、東京タワー('58年完成、「ゴジラ」の時「モスラ」(61年).jpgはまだこの世に無かった)に繭を作るなど絵的にもいいです。原作「発光妖精とモスラ」では繭を作るのは東京タワーではなく国会議事堂でしたが、60もののけ姫のオーム.jpg年安保の時節柄、政治性が強いという理由で変更されたとのこと、これにより、モスラは東京タワーを最初に破壊した怪獣となり、東京タワーは完成後僅か3年で破壊の憂き目(?)に。繭から出てきたのは例の幼虫で、これが意外と頑張った? 宮崎駿監督の「もののけ姫」('97年)の"オーム"を観た時、モスラの幼虫を想起した人も多いのではないでしょうか。

モスラ4S.jpg「モスラ」●制作年:1961年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚色:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:古関裕而●特殊技術:円谷英二●イメージボード:小松崎茂●原作:中村真一郎/福永武彦/堀田モスラ_1.jpg善衛「発光妖精とモスラ」●時間:101分●出演:モスラ111 .jpgフランキー堺小泉博香川京子/ジェリー伊藤/ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)/上原謙志村喬平田昭彦/佐原健二/河津清三郎/小杉義男/高木弘/田島義文/山本廉/加藤春哉/三島耕/中村哲/広「モスラ」上原・香川.jpg志村 モスラ.jpg瀬正一/桜井巨郎平田昭彦 モスラ.jpg/堤康久●公開:1961/07●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿シアターアプル (83-09-04)(評価:★★★☆)●併映:「三大怪獣 地球最大の決戦」(本多猪四郎)   
   
   
モスラ対ゴジラ ポスター2.jpgモスラ対ゴジラ ポスター.jpg 「ゴジラシリーズ」の第1作「ゴジラ」を観ると、ゴジラが最初は純粋に"凶悪怪獣"であったというのがよくわかりますが、「ゴジラシリーズ」の第4作「モスラ対ゴジラ」('64年)(下写真)の時もまだモスラの敵役モスラ対ゴジラ 02.jpgでした。この作品はゴジラにとって怪獣同士の闘いにおける初黒星で、昭和のシリーズでは唯一の敗戦を喫した作品でもあります。因みに、「ゴジラシリーズ」の第3作「キングコング対ゴジラ」('62年)は両者引き分け(相撃ち)とされているようです。それが、'64年12月に公開された('64年12月公開予定だった黒澤明監督「赤ひげ」の撮影が長引いたため、正月興行用に急遽制作された)「ゴジラシリーズ」の第5作「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年)(下写真)「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年)3.jpgになると、宇宙怪獣キングギド三大怪獣 地球最大の決戦.jpgラを倒すべく力を合わせようというモスラ(幼虫)の"呼びかけ"にラドンと共に"説得"されてしまいます。この怪獣たちが極端に擬人化された場面のバカバカしさは見モノでもあり、ある意味、珍品映画として貴重かもしれません。ともかく、ゴジラはこの作品以降、昭和シリーズではすっかり"善玉怪獣"になっています(この映画で、東京上空を飛行したキングギドラは衝撃波で東京タワーを破壊し、「モスラ」に続いて東京タワーを破壊した2番目の怪獣となる)。また、この「三大怪獣 地球最大の決戦」には、後にボンドガールとなる若林映子が、キングギドラに滅ぼされた金星人の末裔であるサルノ王女(の意識が憑依した女性)役で出ていましたが、王女の本名はマアス・ドオリナ・サルノ(まあ素通りなさるの!)でした(笑)。この作品、「四大怪獣」ではないかとも言われましたが、モスラ、ゴジラ、ラドンの地球の3匹が若林映子 サルノ王女.jpg三大怪獣 地球最大の決戦 (1964年)-s2.jpg平田昭彦 三大怪獣jpg.jpgを力を合わせて宇宙怪獣キングギドラ戦に挑むことから、「地球の三大怪獣」にとっての最大の決戦という意味らしいです。
若林映子(サルノ王女)/夏木陽介・星由里子・志村喬 in「三大怪獣 地球最大の決戦」/平田昭彦

Mosura tai Gojira(1964)
Mosura tai Gojira(1964).jpgモスラ対ゴジラ hujita .jpgモスラ対ゴジラ2.jpg「モスラ対ゴジラ」●制作年:1964年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚色:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:89分●出演:宝田明星由里子小泉博/ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)/藤木悠/田島義文/佐原健二/谷晃/木村千吉/中山豊/田武謙三/藤田進/八代美紀/小杉義男/田崎潤/沢村いき雄/佐田豊/山本廉/佐田豊/野村浩三/堤康久/津田光男/大友伸/大村千吉/岩本弘司/丘照美/大前亘●公開:1964/04●配給:東宝(評価:★★★☆)
モスラ 小美人用に作られた巨大セット.jpgモスラ .jpg
小泉博・宝田明・星由里子・ザ・ピーナッツ/小美人用に作られた巨大セット(本多監督とザ・ピーナッツ)


「モスラ対ゴジラ」('64年)予告

「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年)予告

San daikaijû Chikyû saidai no kessen(1964)                 
三大怪獣・地球最大の決戦 パンフレット.jpgSan daikaijû Chikyû saidai no kessen(1964).jpg三大怪獣 地球最大の決戦2.jpg「三大怪獣 地球最大の決戦」●制作年:1964年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:97分●出演:夏木陽介/小泉博/星由里子若林映子「三大怪獣 地球最大の決戦」.png三大怪獣 地球最大の決戦 星百合子e.jpgザ・ピーナッツ/志村喬/伊藤久哉/平田昭彦/佐原健二/沢村いき雄/伊吹徹/野村浩三/田島義文/天本英世/小杉義男/高田稔/英百合子/「三大怪獣 地球最大の決戦」6.jpg加藤春哉●時間:93分●公開:1964/12●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿シアターアプル (83-09-04)(評価:★★☆)●併映:「モスラ」(本多猪四郎)
夏木陽介・若林映子(サルノ王女) in「三大怪獣 地球最大の決戦」
  
怪獣大戦争.jpg怪獣大戦争01.jpg 更に、ゴジラシリーズ第6作「怪獣大戦争」('65年)は、地球侵略をたくらむX星人がキングギ怪獣大戦争 土者.jpgドラ、ゴジラ、ラドンの3大怪獣を操り総攻撃をかけてくるというもので、X星人の統制官(土屋嘉男)がキングギドラを撃退するためゴジラとラドンを貸して欲しいと地球人に依頼してきて(土屋嘉男は「地球防衛軍」('57年)のミステリアン統領以来の宇宙人役か)、その礼としてガン特効薬を提供すると申し出るが実はそれは偽りで...という、まるで人間界のようなパターンの詐欺行為。「シェー」をするゴジラなど、怪獣のショーアップ化が目立ち、"破壊王"ゴジラはここに至って、遂に自らのイメージをも完全粉砕してしまった...。

怪獣大戦争011.jpg 本書にはない裏話になりますが、この作品に準主役で出演した米俳優のニック・アダムスは、ラス・タンブリンなど同列のSF映画で日本に招かれたハリウッド俳優達が日本人スタッフと交わろうとせずに反発を受けたのに対し、積極的に打ち解け馴染もうとし、共演者らにも人気があったそうで、土屋嘉男とは特に息が合い、土屋にからかわれて女性への挨拶に「もうかりまっか?」と言っていたそうで、仕舞には、自らが妻帯者であるのに、水野久美に映画の役柄そのままに「妻とは離婚するから結婚しよう」と迫っていたそうです(ニック・アダムスは当時、私生活では離婚協議中だったため、冗談ではなく本気だった可能性がある。但し、彼自身は、'68年に錠剤の過量摂取によって死亡している(36歳))。

怪獣大戦争ges.jpgニック・アダムス2.jpg「怪獣大戦争」●制作年:1965年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本: 関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:94分●出演:宝田明/ニック・アダムス/久保明/水野久美/沢井桂子/土屋嘉男/田崎潤/田島義文/田武謙三/村上冬樹/清水元/千石規子/佐々怪獣大戦争 土屋嘉男.jpg怪獣大戦争2.jpg木孝丸●公開:1965/12●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿名画座ミラノ (83-08-06)(評価:★★☆)●併映:「ゴジラ」(本多猪四郎)
中央:X星人統制官(土屋嘉男
    
水野久美.jpg 怪獣の複数登場が常となったのか、「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」('66年)などというのもあって(「ゴジラ」シリーズとしては第7作)、監督は本多猪四郎ではなく福田純で、音楽は伊福部昭ではなく佐藤勝ですが、これはなかなかの迫力だった印象があります(後に観直してみると、人間ドラマの方はかなりいい加減と言うか、ヒドいのだが)。
水野久美 in「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」('66年)宝田明
ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘 水の2.jpg
 
ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘ps.jpgゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘2.jpg シリーズ第6作「怪獣大戦争」に"X星人"役で出ていた水野久美が今度は"原住民"の娘役で出ていて、キャスティングの変更による急遽の出演で、当時29歳にして19歳の役をやることになったのですが、今スチール等で見ても、妖艶過ぎる"19歳"、映画「南太平洋」('58年/米)みたいなエキゾチックな雰囲気もありましたが、何せ観たのは子供の時ですから、南の島の島民たちが大壷で練っている黄色いスープのような液体の印象がなぜか強く残っています(何のための液体だったのか思い出せなかったのだが、後に観直して"エビラ除け"のためのものだったと判りスッキリした)。

「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」●制作年:1966年●監「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」.jpg督:福田純●製作:田中友幸●脚本:関沢新一●撮影:山田一「ゴジラ・エビラ・モスラ」水野.jpg夫●音楽:佐藤勝●特殊技術:円谷英二●出演:宝田明/渡辺徹/伊吹徹/当銀長太郎/砂塚秀夫/水野久美/田崎潤/平田昭彦/天本英世/佐田豊/沢村いき雄/伊藤久哉/石田茂樹/広瀬正一/鈴「ゴジラ・エビラ・モスラ」hirata 野.jpg「ゴジラ・エビラ・モスラ」takarada .jpg木和夫/本間文子/中北千枝子/池田生二/岡部正/大前亘/丸山謙一郎/緒方燐作/勝部義夫/渋谷英男●時間:87分●公開:1966/12●配給:東宝(評価:★★★☆)●併映:「これが青春だ!」(松森 健)
   
    
      
大怪獣ガメラgamera_1.jpg この辺りまで怪獣映画は東映の独壇場ともいえる状況でしたが、'65年に大映が「大怪獣ガメラ」、'67年に日活が「大巨獣ガッパ」でこの市場に参入します(本書には出てこないが)。このうち、「大怪獣ガメラ」('65年/大映)は、社長の永田雅一の声がかりで製作されることとなり(永田雅一の「カメ」で行けという"鶴の一声"で決まったようで、湯浅憲明(1933-2004)監督はじめスタッフは苦労したのではないか)、これがヒットして、ガメラ・シリーズは'71年に大映が倒産するまでに7作撮影されましたが、本作はシリーズ唯一のモノクロ作品です(「ゴジラ」の第1作を意識したのかと思ったが、予算と技術面の都合だったらしい)。大怪獣ガメラ 船越英二.jpgあらすじは、砕氷調査船・ちどり丸で北極にやってきた東京大学動物学教室・日高教授(船越英二)らの研究チームが、国大解呪ガメラ 1965es.jpg籍不明機を目撃、その国籍不明機には核爆弾が搭載されており、その機体爆発の影響で、アトランティスの伝説の怪獣ガメラが甦るというもの。「ガメラ」の命名者でもある永田雅一の「子供たちが観て『怪獣がかわいそうだ』とか哀愁を感じないといけない。子供たちの共感を得ないとヒットしない」との考えの大怪獣ガメラ _.jpg大怪獣ガメラ 1965_.jpgもと、ガメラは子供には優しく、特にカメを大事に飼っている主人公の少年には優しいのですが、いくら何でも擬人化し過ぎたでしょうか(永田雅一は「ガメラを泣かせろ」と指示したそうな)。特撮自体は悪くなく、逃げ惑う人々のシーンの人海戦術も効いているだけに、お子様仕様になってしまったのが惜しまれます(出来上がった作品を観て永田雅一は「面白い」と言ったそうだが、映画はヒットしたわけだから、商売人としての感性はあった?)。
大怪獣ガメラ [Blu-ray]」「大怪獣ガメラ デジタル・リマスター版 [DVD]
「大怪獣ガメラ」●制作年:1965年●監督:湯浅憲明●製作:永田秀雅(製作総指揮:永田雅一)●脚本:高橋二三●撮影:宗川信夫●音楽:山内正●時間:78分●出演:船越英二/山下洵一郎/姿美千子/霧立はるみ/北原義郎/左卜全/浜村純/北城寿太郎/吉田義夫/大山健二/小山内淳/藤山浩二/大橋一元/高田宗彦/谷謙一/中田勉/森矢雄二/丸山修/内田喜郎/槙俊夫/隅田一男/杉森麟/村田扶美子/竹内哲郎/志保京助/中原大怪獣ガメラ 船越英二  2.jpg健/森一夫/佐山真次/喜多大八/大庭健二/荒木康夫/井上大吾/三夏伸/清水昭/松山新一/岡郁二/藤井竜史/山根圭一郎/村松若代/沖良子/加川東一郎/伊勢一郎/佐原新治/宗近一/青木英行/萩原茂雄/古谷徹/中条静夫(ナレーション)●時間:87分●公開:1965/11●配給:大映(評価:★★★)

船越英二・霧立はるみ
 
「大魔神」(1966)青山良彦/高田美和/月宮於登女/藤巻潤
大魔神 1966.jpg大魔神77.jpg 「ガメラ」のヒットを受け、翌年「ガメラシリーズ」の第2作として総天然色による「大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン」('66年/大映)が作られましたが、併映の「大魔神」('66年/大映)大魔神1.jpg方が"初物"としてインパクトがあったかも。ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の「巨人ゴーレム」('36大魔神2.jpg年/チェコスロバキア)で描かれたゴーレム伝説に材を得たそうですが、戦国時代に悪人が陰謀を巡らせて民衆が虐げられると、穏やかな表情の石像だった大魔神が復活して動き出し、破壊的な力を発揮して悪人を倒すというストーリーは分かりやすいカタルシスがありました。大映映画ですが、音楽は東宝ゴジラ映画の伊福部昭(1914-2006/享年91)が担当しています(同じく大映映画で伊福部昭が音楽を担当した作品に、黒澤明監督が大映で撮った「静かなる決闘」('49年)がある)。「大魔神」は、ほぼ同じパターン内容で同年にシリーズ第2作「大魔神怒る」、第3作「大魔神逆襲」が公開されています。

「大魔神怒る」66年.jpg「大魔神怒る」t.jpg「大魔神怒る」1.jpg 「大魔神怒る」('66年/大映)は、1作目が大ヒットしたため、お盆興行作品として製作されたもので、監督は三隅研次(1921-1975)で、これも伊福部昭が音楽を担当。千草家とその分家・名越家が領主の平和な国が隣国か「大魔神怒る」f.jpgら侵略され、領主は滅ぶもお家再興と平和を望んで千草家の本郷功次郎の許嫁である名越家の藤村志保が魔人に願掛けするというもの。今回は魔人は「水の神」という設定になっていて、藤村志保「大魔神怒る」3.jpgが悪人たちより「大魔神怒る」4.jpg焚刑に処せられることになって、今まさに火に焼かれようとする時、この身を神に捧げますと涙を流すと大魔神が現れ(出現シーンはハリウッド映画「十戒」('57年)に想を得ている)、悪者たちが大魔人に倒され藤村志保が魔人に感謝し、その涙が湖に落ちると、魔人は水と化して消えていくという、第1作より洗練された感じでした。製作費は1億円、興行収入もほぼ同額だったそうです。
「大魔神怒る」藤村2.jpg 「大魔神怒る」藤村志保(当時27歳)

「大魔神逆襲」66年.jpg「大魔神逆襲」1.jpg 「大魔神逆襲」('66年/大映)の監督は森一生監督(1911-1989)で、これもまた音楽は伊福部昭が担当。森一生監督は「女と男はつまらない。子供好きだから「大魔神逆襲」2.jpg子供でやりたい」と子「大魔神逆襲」3.jpg.png供たちが主役に据え、少年の純真な信仰心が大魔神を動かすという設定で、今回は大魔神「雪の魔神」として雪の中から現れ、最後には粉雪となって消えていきます。子供たちを主役に据えるのも悪いとは言いませんが、やは「大魔神逆襲」4.jpg.png.jpgり当時19歳の高田美和、27歳の藤村志保と続いた後だと、完全にお子様向けに路線変更してしまったなあという印象は拭えません。製作費は1億円弱、興行では併映なしの2番館上映となり、配給収入(興行収入から映画館の取り分を差し引いた配給会社の収入)も赤字で、4作目の企画もあったものの、これで打ち止めになっています。結局、わずか1年の間の3作で終わってしまったわけですが、その分、大魔神の重厚感は印象に残るものでした。ゴジラが「怪獣大戦争」('65年)で「シェー」をするなど、シリーズが永らえたゆえに"堕落"してしまったのとは対照的と言えるでしょうか。

「大魔神」(1966)  高田美和(当時19歳)
大魔神 blu-ray.jpg大魔神 高田美和.jpg「大魔神」●制作年:1966年●監督:安田公義●製作総指揮:永田雅一●脚本:吉田哲郎●撮影:森田富士郎●音楽:伊福部昭●時間:84分●出演:高田美和/青山良彦/二宮秀樹/藤巻潤/五味龍太郎/島田竜三/遠藤辰雄/杉山昌三九/伊達三郎/月宮於登女/出口静宏/尾上栄五郎/伴勇太郎/黒木英男/香山恵子/木村玄/橋本力(大魔神)●公開:1966/04●配給:大映(評価:★★★☆)
大魔神 Blu-ray BOX」(2009)

「大魔神怒る」(1966) 藤村志保(当27歳)in「大魔神怒る」('66年)/「なみだ川」('67年・三隅研次監督)
「大魔神怒る」b.jpg「大魔神怒る」藤村.jpgなみだ川 1967 2.jpg「大魔神怒る」●制作年:1966年●監督:三隅研次●製作:永田雅一●脚本:吉田哲郎●撮影:今井ひろし/森田富士郎●音楽:伊福部昭●時間:79分●出演:本郷功次郎/藤村志保/丸井太郎/内田朝雄/北城寿太郎/藤山浩二/上野山功一/神田隆/橋本力/平泉征/水原浩一/寺島雄作/高杉玄/黒木英男/三木本賀代/橘公子/加賀爪清和/小柳圭子/橋本力(大魔神)●公開:1966/08●配給:大映(評価:★★★☆)
大魔神怒る [Blu-ray]」(2009)

「大魔神逆襲」(1966)  
「大魔神逆襲」b.jpg「大魔神逆襲」5.jpg「大魔神逆襲」え.jpg「大魔神逆襲」●制作年:1966年●監督:森一生●製作総指揮:永田雅一●脚本:吉田哲郎●撮影:森田富士郎●音楽:伊福部昭●時間:87分●出演:二宮秀樹/堀井晋次/飯塚真英/長友宗之/山下洵一郎/仲村隆/安部徹/名和宏/北林谷栄/守田学/早川雄三/堀北幸夫/石原須磨男/南部彰三/橋本力(大魔神)●公開:1966/12●配給:大映(評価:★★★☆)
大魔神逆襲 [Blu-ray]」(2009)
    
    
「ゴジラ対ヘドラ」1971.jpg 一方、話を「大映」から「東宝」に戻して、シリーズ第15作「メカゴジラの逆襲」('75年)でゴジラvsキングギドラ.jpgゴジラvsビオランテ.gif「ゴジラ」1984.jpg一旦終了した「ゴジラ」シリーズ(その間に唯一ゴジラが空を飛ぶ第11作「ゴジラ対ヘドラ」('71年)などの異色作もあった)は、'84年に9年ぶりに再開されます。久々に作られた第16作「ゴジラ」('84年)(「平成ゴジラシリーズ」の第1作としてカウントするようだ)では、ゴジラを原点の"凶悪怪獣"に戻したようですが、第17作あたりから、また少しおかしくなってくる...。

「ゴジラ vs ビオランテ」vhs.jpgGSゴジラ vs ビオランテ 1989.jpg 第17作「ゴジラ vs ビオランテ」('89年)(「平成ゴジラシリーズ」第2作)は、バイオテクノロジーによってゴジラとバラの細胞を掛け合わせて造られた超獣ビオランテが登場し、一般公募ストーリー5千本から選ばれたものだそうですが(選ばれたのは「帰ってきたウルトラマン」第34話「許されざるいのち」の原案者である小林晋一郎の作品。一般公募と言ってもプロではないか)、確かに植物組織を持った怪獣は、「遊星よりの物体X」('51年/米)(「遊星からの物体X」('82年/米)のオリジナル)の頃からあるとは言え、随分と荒唐無稽なストーリーを選んだものだと...。
ゴジラVSビオランテ [DVD]

ゴジラ vs キングギドラ 1991.jpg 第18作「ゴジラ vs キングギドラ」('91年)(「平成ゴジラシリーズ」第3作)は、南洋の孤島に生息していた恐竜が核実験でゴジラに変身したという新解釈まで採り入れており(ここに来てゴジラの出自を変えるなんて)、ゴジラが涙ぐんでいるような場面もあって、また同じ道を辿っているなあと(この映画、敵役の未来人のUFOが日本だけを攻撃対象とするのも腑に落ちないし、タイム・パラドックスも破綻気味)。

ゴジラvsキングギドラ tutiya2.jpg 第17、第18作は大森一樹監督で、いくらか期待したのですが、かなり脱力させられました(第18作「ゴジラ vs キングギドラ」で怪獣映画の中での土屋嘉男を見たのがちょっと懐かしかったくら山村聰「ゴジラ vs キングギドラ」.jpgいか。山村聰も内閣総理大臣役で出ていたけれど)。この監督は商業映画色の強い作品を撮るようになって、はっきり言ってダメになった気がします。大森一樹監督の最高傑作は自主映画作品「暗くなるまで待てない!」('75年/大森プロ)ではないでしょうか。神戸を舞台に大学生の若者たちが「暗くなるのを待てないで昼間から出てくるドラキュラの話」の映画を撮る話で、モノクロで制作費の全くかかっていない作品ですが、むしろ新鮮味がありました(今年['08年]3月に、大森監督によってリメイクされた)。

第26作「ゴジラ×メカゴジラ」0.jpg 駄作の多かった「平成ゴジラシリーズ」(第16作~第22作)に対し、第23作「ゴジラ2000 ミレニアム」('99年)から始まる「ミレニアムシリーズ」(第23作~第28作)でやや盛り返した感もありますが、その中でいちばんの傑作とする人もいる第26作「ゴジラ×メカゴジラ(ゴジラたいメカゴジラ)」('02年)(先行作品に第14作「ゴジラ対メカゴジラ」('74年)、第20作「ゴジラvsメカゴジラ(ゴジラたいメカゴジラ)」('93年)がある)さえ、個人第26作「ゴジラ×メカゴジラ」2.jpg的にはイマイチでした。何よりも、主演の釈由美子(当時24歳)のセリフ棒読みが結構キツイ...。ゴジラは絶対悪として描かれ、ゴジラに対抗するために作られたメカゴジラのメインパイロットが彼女の役なので、あまりに下手だとちょっと作品に入り込めない...(「ゴジラ vs ビオランテ」の沢口靖子(当時24歳)も当時はあまり上手くなかったが、主役ではなかった(主役は田中好子(当時33歳)))。

 結局、ゴジラ・シリーズは'04年の第28作をもって終了しますが、「ゴジラ」シリーズ全体での観客動員数は9,925万人で、「男はつらいよ」シリーズ全48作の合計観客動員数7,957万人を上回り、歴代で最も観客動員数多い劇場映画シリーズとされています('16年7月29日に「ゴジラ」シリーズの第29作、国内では「ゴジラ FINAL WARS」('04年/東宝)以来約12年ぶりの日本製作のゴジラ映画として「シン・ゴジラ」が公開され、8月1日までに観客動員71万人となり、「ゴジラ」シリーズが累計観客動員数で1億人突破した)。

ゴジラ vs ビオランテ  .jpgゴジラ vs ビオランテs.jpg「ゴジラ vs ビオランテ」●制作年:1989年●監督・脚本:大森一樹●製作:田中友幸●音楽:すぎやまこういち(ゴジラテーマ曲:伊福部昭)●時間:97分●出演:三田村邦彦/田中好子/小高恵美/峰岸徹/高嶋政伸/高橋幸治/沢口靖子(特別出演)/永島敏行(友情出演)/久我美子(友情出演)●公開:1989/12●配給:東宝(評価:★☆)ゴジラvsビオランテ [DVD]
「ゴジラ vs ビオランテ」久我.jpg「ゴジラ vs ビオランテ」永島1.jpg「ゴジラ vs ビオランテ」沢口1.jpg久我美子(大和田圭子官房長官 ※友情出演)/永島敏行(山本精一技術部長 ※友情出演)/沢口靖子(白神源壱郎博士の一人娘・白神英理加 ※特別出演)

GS第18作ゴジラvsキングギドラ.jpg「ゴジラ vs キングギドラ」.jpg「ゴジラ vs キングギドラ」●制作年:1991年●監督・脚本:大森一樹●製作:田中友幸●音楽:伊福部昭●特技監督:川北紘一●時間:103分●出演:中川安奈/豊原功補/小高恵美/西岡徳馬/土屋嘉男/山村聰/佐原健二/時任三郎/原田貴和子/小林昭二/佐々木勝彦/上田耕一/チャック・ウィルソン/ケント・ギルバート/ダニエル・カール/リチャード・バーガー/ロバート・スコットフィールド●公開:1991/12●配給:東宝 (評価:★☆)
ゴジラvsキングギドラ 東宝DVD名作セレクション
  
暗くなるまで待てない!47.jpg「暗くなるまで待てない」のサウンドトラックm.jpg「暗くなるまで待てない!」●制作年:1975年●監督:大森一樹●脚本:大森一樹/村上知彦●音楽:吉田健志/岡田勉/吉田峰子●時間:30分●出演:稲田夏子/栃岡章/南浮泰造/村上知彦/森岡富子/磯本治昭/塚脇小由美/大森一樹/鈴木清順●公開:1975/04●配給:大森プロ●最初に観た場所:高田馬場パール座 (80-12-25) (評価:★★★★)●併映:「星空のマリオネット」(橋浦方人)/「青春散歌 置けない日々」(橋浦方人)

「暗くなるまで待てない」サウンドトラック(吉田健志)

ゴジラ×メカゴジラ 東宝DVD名作セレクション.jpgゴジラ×メカゴジラ 2002.jpg「ゴジラ×メカゴジラ(ゴジラたいメカゴジラ)」●制作年:2002年●監督:手塚昌明●脚本:三村渉●音楽:大島ミチル●特撮監督:菊地雄一●時間:88分●出演:釈由美子/宅麻伸/小野寺華那/高杉亘/友井雄亮/水野純一/水野久美/上田耕一/森末慎二/萩尾みどり/江藤潤/北原佐和子/柳沢慎吾/藤山直美/中村嘉葎雄/田中美里/永島敏行/村田雄浩/中尾彬/松井秀喜(本人役)●公開:2002/12●配給:東宝 (評価:★★☆)
第26作「ゴジラ×メカゴジラ」な.jpg松井秀喜「ゴジラvsメカゴジラ」.jpg松井秀喜(本人役)
永島敏行(特生自衛隊(特自)小隊長・宮川二尉)/田中美里(看護師)
  
  
  
    
日本誕生.jpg ゴジラ・シリーズ以外で、役者だけで見れば何と言っても凄いのが「日本誕生」('59年)で、ヤマタノオロチが出てくるため確かに"怪獣映画"でもあるのですが、三船敏郎、乙羽信子、司葉子、鶴田浩二、東野英治郎、杉村春子、田中絹代、原節子など錚々たる面々、果ては、柳家金語楼から朝汐太郎(当時の現役横綱)まで出てくるけれど、「大作」転じて「カルト・ムービー」となるといった感じでしょうか(観ていないけれど、間違いなくズッコケそうで観るのが怖いといった感じ)。 

「日本誕生」 アメノウズメノミコ (乙羽信子)

マタンゴ.jpg 初期の「透明人間」('54年)やガス人間第1号」('60年)など"○○人間"モノや天本英夫の「マタンゴ」('63年)といった怪奇モノ、地球防衛軍」('57年)宇宙大戦争」('59年)などの宇宙モノから中国妖怪モノ、"フランケンシュタイン"モノまで、シリーズごとのほぼ全作品を追っていて、作品当りのスチール数も豊富な上に、一部については、デザイン画や絵コンテなども収められています。

 この頃東宝はゴジラ映画だけを作っていたわけではなく、クラゲの化け物のような怪獣が登場する宇宙大怪獣ドゴラ」('66年)といった作品もありました。個人的には、"フランケンシュタイン"モノでは、フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」('66年)などが印象に残っています。
 
水野久美 in 「フランケンシュタイン対地底怪獣」('65年)/根岸明美 in「キングコング対ゴジラ」('62年)
東宝特撮怪獣映画大鑑1.jpg 東宝特撮怪獣映画大鑑2.jpg
根岸明美(1934.3.26-2008.3.11/享年73) in 「アナタハン」('53年)、「キングコング対ゴジラ」('62年)
根岸明美 アナタハン.jpg 根岸明美 マタンゴ.jpg
赤ひげ 根岸明美 2.jpg赤ひげ」('65年)(阿部嘉典『「映画を愛した二人」黒沢明 三船敏郎』(1996/01 報知新聞社)より)

《読書MEMO》
● 桂 千穂 『カルトムービー本当に面白い日本映画 1945→1980』['13年/メディアックス]
IMG_4モスラ.JPG

IMG_6大魔神.JPG

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