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雄大な西部を背景とした様々な価値観の対立。ストーリー的に飽きさせずに最後まで見せる。

大いなる西部ps.jpg大いなる西部.jpg大いなる西部(テレビ吹替音声収録)HDリマスター版.jpg 大いなる西部001.jpg
「大いなる西部」ポスター「大いなる西部(テレビ吹替音声収録)HDリマスター版 [DVD]

大いなる西部9M.jpg大いなる西部1Y.jpg 1870年代のテキサスのある町に、東部から1人の紳士ジェームズ・マッケイ(グレゴリー・ペック)が、有力者テリル少佐(チャールズ・ビックフォード)の娘パット(キャロル・ベイカー)大いなる西部2HA.jpgと結婚するためにやって来る。出迎えた牧童頭のスティーブ・リーチ(チャールトン・ヘストン)は主人の娘を密かに恋しており、ヤサ男風のジェームズに敵意を抱く。パットは、ジェームズと父の牧場に向かう途中、ヘネシー家の息子大いなる西部5Y.jpgバック(チャック・コナーズ)たちの悪戯を受けるが、ジェームズは彼らの為すがままで抵抗しなかった。パットの父テリル少佐は大地主ルーファス・ヘネシー(バール・アイヴス)とこの地の勢力を二分して争っていた。両者が共に目をつけている水源地ビッグ・マディは、パットの親友の女教師ジュリー・マラゴン(ジーン・シモンズ)が所有していた。大いなる西部1A.jpg彼女は一方が水源を独占すれば必ず争いが起こると考え、どちらにも土地を売ろうとしなかった。少佐は娘婿にされた乱暴に対して、ヘネシーの集落を襲いヘネシーの息子たちにリンチを加えて復讐するが、ジェームズはそんな少佐に相大いなる西部S.jpg容れないものを感じる。彼は争いの元である水源地ビッグ・マディを見て女主人ジュリーに会い、中立の立場で誰にでも水を与え、自分でこの地に牧場大いなる西部JK.jpgを経営したいと申し出て売約契約を交わす。血気にはやるパットと父の少佐には、ジェームズの態度が不満だった。一方、ヘネシー父子は、水源地を手に入れて少佐に対抗するため、ジュリーを監禁する。ジェームズはメキシコ人牧童ラモン(大いなる西部E2.jpgアルフォンソ・ベドヤ)の案内で単身本拠に乗り込み、水源は自由にすると明言してジュリーを救出しようとする。ジュリーに横恋慕する息子バックは、父ルーファス・ヘネシーの計らいでジェームズと決闘することになるが、卑怯な振舞いから父に射殺される。やがて少佐の一隊が乗り込んできて戦いが始まり、1対1で対決したルーファスと少佐は相撃ちで共に死に、憎悪による対立と暴力の時代は終わりを告げる―。

大いなる西部 old poster.jpg ウィリアム・ワイラー監督の1958年作品で、まさに「大いなる西部」を雄大に描きつつ、その中に様々な価値観の対立を織り込み、また、ストーリー的にも2時間46分の長尺でありながら飽きさせずに最後まで見せるという、巨匠ならではの堂々たる娯楽大作です。グレゴリー・ペック(1916-2003/享年87)、チャールトン・ヘストン(1923-2008/享年84)、ジーン・シモンズ(1929-2010/享年80)、キャロル・ベイカー(1931- )の4大スターが共演していますが、テレビで初めて観た時は4人とも存命していたのが、今はキャロル・ベイカーしか生きていないのは、50年以上前の作品であるから仕方無いけれど、ちょっと寂しいです。

大いなる西部BL8.jpg チャールトン・ヘストンは「主演」ではなく、主演はこの映画の製作も兼ねたグレゴリー・ペックであり、チャールトン・ヘストンの方は「助演」ということで、年齢的にも、グレゴリー・ペックが当時42歳だったのに対し34歳と、相対的にはまだ若い感じか。ウィリアム・ワイラー監督は、グレゴリー・ペックの主演作では「ローマの休日」('53年)があり、一方、この作品の翌年には、チャールトン・ヘストン主演の「ベン・ハー」('59年)を撮ることになります。

大いなる西部Z.jpg この作品には、グレゴリー・ペック演じるジェームズ・マッケイのキャラクターが分かりにくいとの批評もあるようですが、物語の設定上も、周囲が煮え切らないようなものを感じるキャラだから、観ている側がそう感じるのもおかしくないかも。実際にはジェームズは勇気ある正義漢であり、決して"ヤサ男"でも"慎重居士"でもないわけですが大いなる西部D83.jpg(逆にいくら命があっても足りないくらい(?)勇敢)、ただ、そこまで「能ある鷹は爪を隠す」的行動をするかなあという感じは確かにあります(却ってイヤミっぽい?)。むしろ、チャールトン・ヘストン演じる牧童頭スティーブ・リーチのキャラクターの方が分かり易くて親近感が感じられました。チャールトン・ヘストンが屈折した役柄を演じているというのも興味深いですが、彼は同年のオーソン・ウェルズ監督の「黒い罠」('58年/米)では、主人公のメキシコ人麻薬捜査官を演じています(オーソン・ウェルズ演じる刑事の不正を探る役))。

ジーン・シモンズ.jpgバール・アイヴス.jpg大いなる西部-01.jpg それ以外の俳優陣では、ヘネシー家の父親を演じたバール・アイヴス(1909-1995、数多くのヒット曲を持つフォーク歌手でもあった)がアカデミー助演男優賞とゴールデングローブ賞の両方の助演男優賞を受賞していますが、個人的には、ジーン・シモンズ(1929-2010)演じる女教師が印象的でした。きりっとした美人でもありますが、自らの名誉を犠牲にしてジェームズを守ろうとするところが、名誉にこだわって争いを繰り返す周囲の愚か者たちとの対比で際立大いなる西部J.jpgっていました。最後は、ジェームズと結ばれることを暗示するような終わり方と取るのが妥当―というか、もう、それしかないだろうなあと思ったりもします。

チャック・コナーズ バスケ.jpgチャック・コナーズ mlb.jpg グレゴリー・ペックとチャールトン・ヘストンの延々と続く殴り合いのシーンも語り草になっていますが、確かにグレゴリー・ペック190㎝、チャールトン・ヘストン191㎝という両者の長身は荒野に映えます。但し、敵役バック・ヘネシーを演じたチャック・コナーズ(1921-1992/享年71)はそれらを上回る身長197㎝の長身で、俳優になる前はBAA(現NBA)とMLBの選手でした(つまりプロバスケットボールとメジャーリーグ大いなる西部B.jpgの選手を兼ねていたことになる)。1958年10月に公開されたこの映画の中では、ヘネシー家の不良息子で、ジェームズ、パットらにちょっかいを出し、ジュリーに横恋慕した挙句、最期はその卑怯な行為によりバール・アイヴス演じる自分の父親に射殺されてしまうという情けない男の役ですが、同じく1958年9月から米ABCで放送開始されたテレビ西部劇「ライフルマン」では、無法者の悪や暴力と闘う銃の達人にして、妻にライフルマン59.jpgライフルマン .jpgChuck_Connors_The_Rifleman_1959.JPG先立たれ男手で子どもを育てる、いわば「男やもめのヒーロー」ルーカス・マケインを演じ、日本でも1960年から1963年までTBS系列で156話が放映されて人気を博しています(つまり、テレビの西部劇でヒーロー役を演じながら、同時期に映画の方ではアウトローの不良かつダメ男役を演じていたことになる)。

ルーカス・マケイン(チャック・コナーズ)
WESTERN HEROES VOL.11 ライフルマン [DVD]」 
「ライフルマン」The Rifleman (ABC 1958~1963) ○日本での放映チャネル:TBS(1960ライフルマン.jpg~1963)

「大いなる西部」●原題:THE BIG COUNTRY●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督:ウィリアム・ワイラー●製作:ウィリアム・ワイラー/グレゴリー・ペック●脚本:ジェサミン・ウェスト(脚色)/ロバート・ワイラー(脚色)/ジェームズ・R・ウェッブ/サイ・バートレット/ロバート・ワイルダー●撮影:フランツ・F・プラナー●音楽:ジェローム・モロス●原作:ドナルド・ハミルトン●時間:166分●出演:グレゴリー・ペック/チャールトン・ヘストン/ジーン・シモンズ/キャロル・ベイカー/バール・アイヴス/チャールズ・ビックフォード/アルフォンソ・ベドヤ/チャック・コナーズ/チャック・ヘイワード/ドロシー・アダムズ●日本公開:1958/12●配給:松竹=ユナイテッド・アーチスツ●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(15-09-14)(評価:★★★★)

《読書MEMO》
●チャールトン・ヘストン 1958年出演作
Charlton Heston 1958 Touch of Evil poster .jpgCharlton Heston 1958  the big country.jpgCharlton Heston in 1958 "Touch of Evil" (「黒い罠」)& "The Big Country "(「大いなる西部」)

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ウェルズの万能ぶりが発揮されたフィルム・ノワールの傑作(逸失部分があるのが残念)。

黒い罠 blueray.jpg 黒い罠 dvd.jpg 黒い罠    .jpg
黒い罠 完全修復版 [Blu-ray]」「黒い罠 [DVD]」オーソン・ウェルズ/チャールトン・ヘストン

黒い罠Q1.jpg黒い罠 O.jpg 米国とメキシコの国境で、町の有力者が車に仕掛けられた爆弾によって爆死する。新婚旅行で町に来ていたメキシコ人麻薬捜査官のバルガス(チャールトン・ヘストン)は米国側の刑事クインラン(オーソン・ウェルズ)やその相棒のメンジス(ジョゼフ・キャレイア)らと協力して捜査にあたる。クインランはメキシコ人の容疑者黒い罠H.jpgを逮捕するが、証拠の品はクインランが捏造したものだった。それに気付いたバルガスはクインランの扱った過去の事件を調査すると、過去にも同様にクインラン黒い罠 ジャネット・リー.jpgによって証拠が捏造されたと思われる事件があった。バルガスは警察上層部にクインランを告発するが逆に反論され、警察もク黒い罠3P.jpgインランに味方する。バルガスの告発に危機を抱いたクインランは、バルガスに敵対するギャングのグランディ(エイキム・タミロフ)にバルガスの妻スーザン(ジャネット・リー)を誘拐させ、ホテルの一室に連れ込ませる。クインランはその部屋 黒い罠h-7.jpgでグランディを絞殺し、スーザンに殺人の罪を着せようとす黒い罠 9.jpgる。しかしクインランが現場に置き忘れた杖をメンジスが発見し、彼はバルガスに協力することを決意する。メンジスは無線機を身に付けてクインランとの会話を録音し、証拠をつかもうとする。しかしそれを見破ったクインランはメンジスを射殺、後を付黒い罠 オーソン・ウェルズ.jpg黒い罠-44.jpgけていたバルガスをも撃とうとする。が、メンジスが最期にクインランを撃ち、録音された証拠のテープを聞きながらクインランは息絶える。しかしその頃、クインランが捏造した証拠で逮捕されたメキシコ人は、爆弾事件の犯人であることを自白していた―。

Touch of Evil1S.jpg 1958年に作られたこの映画は、当初オーソン・ウェルズは俳優としてのみの起用で、監督は別人に依頼する予定だったのが、ユニヴァーサルがチャールトン・ヘストンと出演交渉を行った際に、ウェルズの出演を知ったチャールトン・ヘストンが、ウェルズが監督も兼ねることを会社に強く要望したためにウェルズの監督が実現したとのことです。

 当時ハリウッドでは、完璧癖のあるウェルズは映画製作に金と時間をかけ過ぎる扱いにくい監督だとされており、ウェルズはそうした風評を払拭するため、ほぼ映画会社が設定した予算と期間内で映画を撮影しましたが(約90万ドルの制作費と僅か39日の撮影期間)、ストーリーが難解すぎるとの理由で映画会社がウェルズに無断で映画の脚本変更と追加撮影、再編集を行ったとのことです(「試写会版」109分)。ウェルズは映画会社の独断専行に激怒し、58ページに及ぶ意見書を映画会社に提出しますが無視され、逆に映画会社は、試写会で出た俗悪だとの一部の苦情に応えて一部をカットして劇場公開したとのことです(「劇場公開版」96分)。

黒い罠h-21.jpg 映画は2本立ての添え物の方の一本として公開され、興行的には惨憺たる失敗で、米国内の批評家からも黙殺され、結果的にウェルズにとって本作品がアメリカにおける最後の監督作品となりますが、同年のブリュッセル万国博覧会で上映された際には審査員のジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーたちから絶賛され、万博での最高賞を与えられています。

 ウェルズ他界後13年を経た1998年に、彼の残したメモに忠実に再構成されたディレクターズ・カット版が上映され(「修復版」111分。既にウェルズは亡くなっているので正確にはディレクターズ・カットとは言えない)、今度は好評を博しますが、これまでDVDなどで観ることができたのは96分の「劇場公開Touch of Evil (1958).jpg版」でした。それが、'14年に111分の「修復版」(Blu-ray)がリリースされたとのことですが個人的には未見です。'15年にNHK-BSプレミアムで放映されたものも96分の「劇場公開版」でした(最初にカットされた部分が逸失しており、「劇場公開版」の方がオリジナルに近い方だとの見方も成り立つ。ゴダールやトリュフォーが観て絶賛したのもこの「劇場公開版」と思われる。何れにせよ、この作品の真の意味での完全版は存在しないことになる)。
Touch of Evil (1958)
 原作は1956年に出版されたホイット・マスターソンの探偵小説『黒い罠』(原題:Badge of Evil)で、原作ではクインランが「従」でメンジスが「主」と映画と逆の立場であったのを、シナリオではオーソン・ウェルズ演じる上司クインランを「主」、部下メンジスを「従」とにし、更には、爆弾事件の犯人をラストで変えています。この変更は大きいですが、単にプロットに捻りを加えるだけでなく、社会的背景と相俟って、クインランのキャラクターに深みを持たせることにもなったと思います。

Touch of EvilB.jpg黒い罠AZ.jpg 更に、オーソン・ウェルズが監督することになった段階で、原作ではメキシコ人の妻を持つアメリカ人地方検事補佐が主人公だったのを、夫婦の国籍を逆にし(つまり、チャールトン・ヘストンがメキシコ人で、ジャネット・リーがアメリカ人の妻ということにした)、物語の舞台をカリフォルニア州からアメリカとメキシコの国境地帯にするなどの様々な設定の変更をウェルズは行っています。

黒い罠0GDN.jpg黒い罠7A.jpg また更にウェルズは、実際の映画化(撮影)段階で、映画が始まってすぐの爆弾のクローズアップから爆発までの3分18秒をワンショットで見せることにし、その他にもこの作品には5分を超える長回しが複数回ありますが、とりわけ冒頭のこの長回しシーンは、作品自体の再評価を経て、今や映画史に残ると言ってもいいシークエンスとされています。

黒い罠A.jpg黒い罠 デートリッヒ.jpg それらに加えてウェルズは、当初予定していなかった2人の俳優、モーテルの夜勤係のデニス・ウィーバー(スティーヴン・スピルバーグ監督のTV映画「激突!」('71年)、TVシリーズ「警部マクロード」('70年~'77年))とジプシーで酒場の女主人のターニャを演じたマレーネ・ディートリッヒのためにシナリオを変更するなどしています。つまり、この作品には、原作、オリジナル脚本、ウェルズが改変した脚本、実際に全ての配役が決まった映画化(撮影)段階での最終シナリオという、基本的な流れを汲みながらも比較的明確な違いもある4つの段階があることになります。

 ゴダールやトリュフォーがこの作品を絶賛したのは、彼らが信奉する、芸術作品にそれぞれ「美術作家」「作曲家」「小説家」という個人作業の表現主体が存在するように、映画を、映画監督(作家)による個人の表現手段、表現物と見なすべきだとする「作家主義」の考えに合致する典型例としてこの作品を捉えたからだとされていますが、実際この作品にはこうした背景があったわけです。

黒い罠h-9.jpg 但し、作品として成功していなければ、どうにも評価のしようがないでしょう。この作品は、細部を見れば、足の悪いクインランが現場に杖を置き忘れるか?といった穴が無くもないし、作品そのものが部分的にカットされてしまったことで、ラストでの、メンジスに撃たれたクインランの死の間際の「これはおまえのために受けた2発目の銃弾だ」という言葉の意味が分かりにくくなっているということもあるかと思いますが、それでもやはり、ウェルズの万能ぶりが発揮されたフィルム・ノワール史上に残る傑作であると思います(逸失部分があるのが残念)。

黒い罠h-43.jpg黒い罠hP.jpg マレーネ・ディートリッヒは、ウェルズとの友情からノークレジット、ノーギャラでOKという事で出演を快諾したそうですが、2日間だけの撮影参加ながら、自前の衣装を着てウェルズが彼女を想定して書き加えたジプシー女ターニャを魅力たっぷりに好演(ラッシュ・フィルムを観て大物imagesXH2OY7TG.jpg女優の出演を初めて知った黒い罠LF7E.jpgスタジオの重役たちは、ディートリッヒの名前をクレジットに出すために彼女に出演料を支払った)、最後の方のセリフで、クインラインを愛していたのは私ではなく、彼を殺した部下の男メンジスだったと言うのは、この作品のテーマの1つ(クインラインとそれを支えた部下との愛憎)を端的に言い当てているように思いました。ディートリッヒ自身は後にこの場面を、自身の女優としてのキャリアの中で最高の演技だったと述べています。


マレーネ・ディートリッヒ/オーソン・ウェルズ
Orson Welles and Marlene Dietrich.jpg「黒い罠」●原題:TOUCH OF EVIL●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督・脚本:オーソン・ウェルズ●製作:アル黒い罠 ポスター.jpgバート・ザグスミス/リック・シュミドリン(修復版)●撮影:ラッセル・メティ●音楽:ヘンリー・マンシーニ●原作:ホイット・マスターソン「黒い罠」●96分(劇場公開版)/109分(試写会版)/111分(修復版)●出演:オーソン・ウェルズ/チャールトン・ヘストン/ジャネット・リー/ジョセフ・カレイア/エイキム・タミロフ/マレーネ・ディートリッヒ/デニス・ウィーヴァー/ヴァレンティン・デ・ヴァルガス/モート・ミルズ/ヴィクター・ミリアン/ジョアンナ・ムーア/ザ・ザ・ガボール/ジョセフ・コットン(ノンクレジット)●日本公開:1958/07●配給:ユニヴァーサル・ピクチャーズ(評価:★★★★)

《読書MEMO》
●アントン・コービン監督(オランダ)の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●勝手にしやがれ(ジャン=リュック・ゴダール)
 ●ケス(ケン・ローチ)
 ●ぼくの伯父さん(ジャック・タチ)
 ●ウエスタン(セルジオ・レオーネ)
 ●レイジング・ブル(マーティン・スコセッシ)
 ●裏窓(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●七人の侍(黒澤明)
 ●ストーカー(アンドレイ・タルコフスキー)
 ●道(フェデリコ・フェリーニ)
 ●黒い罠(オーソン・ウェルズ)

●ポン・ジュノ監督(韓国)の選んだオールタイムベスト10[同上]
 ●悲情城市(ホウ・シャオシェン)
 ●CURE キュア(黒沢清)
 ●ファーゴ(ジョエル & イーサン・コーエン)
 ●下女(キム・ギヨン)
 ●サイコ(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●レイジング・ブル(マーティン・スコセッシ)
 ●黒い罠(オーソン・ウェルズ)
 ●復讐するは我にあり(今村昌平)
 ●恐怖の報酬(アンリ=ジョルジュ・クルーゾー)
 ●ゾディアック(ディヴィッド・フィンチャー)

●チャールトン・ヘストン 1958年出演作
Charlton Heston 1958 Touch of Evil poster .jpgCharlton Heston 1958  the big country.jpgCharlton Heston in 1958 "Touch of Evil" (「黒い罠」)& "The Big Country "(「大いなる西部」)

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ラストのロープウェイという"密室"での犯人の追いつめ方に味があった。

死の方程式 vhs.jpg 死の方程式 rm.jpg  猿の惑星 1968.jpg
特選 刑事コロンボ 完全版「死の方程式」【日本語吹替版】[VHS]」ロディ・マクドウォール/「猿の惑星」ポスター
死の方程式・ロンドンの傘 (サラブレッド・ブックス 243―特選・刑事コロンボ4)
死の方程式 本.jpg死の方程式 タイトル.jpg 化学会社の先代社長の道楽息子ロジャー(ロディ・マクドウォール)は叔父で現社長のデビット(ジェームス・グレゴリー)に会社を追放されそうになり、葉巻ケースに仕掛けた爆弾で事故に見せかけ爆殺する。コロンボはロジャーを犯人とにらむが証拠が見つからなかった―。

死の方程式01.jpg 巷の評価はイマイチみたいですが、個人的にはそう悪くないと思っている作品で、コロンボのラストのロープウェイという"密室"での犯人の追いつめ方はなかなか味があったし、それまでずっと調子づいていた犯人が最後で大もがきする、その落差の激しさもいいと思いました。
死の方程式 ロディ・マクドウォール.jpg 犯人が、若くて軽く、お調子者っぽい感じであるのも、あまり高い評価を得ていない理由の一つかもしれませんが、演じているのは「猿の惑お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ.jpg星」('68年)でチンパンジーの考古学者・コーネリアスを演じていたロディ・マクドウォール(1928-1998)であり(当時42歳で、実はピーター・フォークと同世代)、こんな犯人がいてもいいかなあと(吹替え担当は野沢那智)。ロジャーはいつもカメラを手にしていますが、和田誠氏の『お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ』('75年/文藝春秋)によれば、実際のロディ・マクドウォールはかなり上手な写真家であり、芸能人を大勢撮って写真集も出しているとのことです(代表作は撮られた有名人に関するエッセイを別の有名人が書いている「Double Exposure」シリーズ)。

第6話「二枚のドガの絵」キム・ハンター/「猿の惑星」キム・ハンター/ロディ・マクドウォール
Kim Hunter colombo.jpg猿の惑星1.jpg 「刑事コロンボ」の第6話「二枚のドガの絵」には、被害者の前妻役でキム・ハンターが出ていましたが、キム・ハンターも「猿の惑星」にチャールトン・ヘストン演じる主人公・テイラーを治療するチンパンジーの"獣医"ジーラ博士(ロディ・マクドウォール演じるコーネリアスの婚約者でもある)の役で出ていました。この第8話「死の方程式」の犯人の叔父である被害者役のジェームズ・グレゴジェームズ・グレゴリー.jpgリーも「続・猿の惑星」に出ていたということで、「刑事コロンボ」シリーズ全体では7名の役者が「猿の惑星」シリーズ(全5作ある)の出演者であるとのことです。キム・ハンターは「猿の惑星」シリーズの第2作「続・猿の惑星」('70年)、第3作「新・猿の惑星」('71年)まで出演し、ロディ・マクドウォールとなると「猿の惑星・征服」('72年)、「最後の猿の惑星」('73年)までにも(つまり5作全部に)出演しています。

猿の惑星 1968 1.jpg 「猿の惑星」シリーズは、フランクリン・J・シャフナー(「パピヨン」('73年/米))が監督し、テイラーを演じたチャールトン・ヘストンが出ていた第1作「猿の惑星」が(第2作「続・猿の惑星」も前半だけ出ているが)、まだ「人類はどこへ向かうのか」といった哲学的なテーマを含んでいたように思います(チャールトン・ヘストンは続編の製作に反対していて第2作に出演するつもりがなかったが、テイラーが途中で死ぬことと、自分の出演料を寄付することを条件に第2作の出演を承諾したという)。第1作は、SF映画史に残る記念碑的作品とされていますが、原作者のピエール・ブール(1912-1994)はアカデミー賞作品賞受賞作「戦場にかける橋」('57年/英・米)の原作者でもあり、戦争中は仏印で日本軍の捕虜となった経験もあるようで、『戦場にかける橋』や『猿の惑星』は、仏印での経験を基猿の惑星 1968 2.jpgに書かれたと言われています。ただ、「猿の惑星」の場合、映像化されてみると、テイラーたちが降り立ったのはどうみても地球にしか見えないとか、原始的な生活を送る人類なのに女性(リンダ・ハリソン)がハリウッド的なメイクをしているとか(まあ、この点については「恐竜100万年」('66年)主演の"全身整形美女"ラクエル・ウェルチなど先行例は多々あるが)突っ込みどころは多く、ラストシーンについても、振り返ってみれば、コンクリート建築が補修工事なしに何百年も精巧な形を保つかもやや疑問のように思いました。ただ、そうは言ってもやはり、あのラストシーンはインパクトがあったように思います。


死の方程式 アン・フランシス.jpg その他にこの第8話には、「禁断の惑星」('56年)のアン・フランシス(1930-2011)が犯人の秘書&愛人役で出ていますが、第15話「溶ける糸」にも犯人に殺されてしまう看護婦役で出ているし、被害者デビットの妻(犯人の叔母)役のアイダ・ルピノは、第24話「白鳥の歌」で犯人に殺されてしまう妻役でも出ていたことに気づきました(こうして見ると、複数回このシリーズに出ている役者が結構いるなあと)。

死の方程式03.jpg シリーズ中、世間的にはややマイナーの部類のエピソードのようですが、こうしたクロスオーバーしている役者陣への関心と、ロープウェイ内でのラストシーンの面白さ(恒例の"逆トリック"の中でも秀逸)や野沢那智の吹替えがハマっていることなどもあって、個人的にはお薦めの一作です。

「刑事コロンボ(第8話)/死の方程式」●原題:SHORT FUSE●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:エドワード・M・エイブロムズ●製作:リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク●脚本:ジャクソン・ギリス●音楽:ギル・メレ●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/ロディ・マクドウォール/ジェームズ・グレゴリー/アン・フランシス/ウィリアム・ウィンダム/アイダ・ルピノ/エディ・クィラン/リュー・ブラウン●日本公開:1973/03●放送:NHK‐UHF(評価:★★★★)

「猿の惑星」ポスター  ロディ・マクドウォール/キム・ハンター/チャールトン・ヘストン
猿の惑星 1968.jpg猿の惑星 1968 3.jpg「猿の惑星」●原題:PLANET OF THE APES●制作年:1968年●制作国:アメリカ●監督:フランクリン・J・シャフナー●製作:アーサー・P・ジェイコブス●脚本: マイケル・ウィルソン/ロッド・サーリング●撮影:レオン・シャムロイ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:ピエール・ブール●時間:112分●出演: チャールトン・ヘストン/ロディ・マクドウォール/キム・ハンター/モーリス・エヴァンス/ジェームズ・ホイットモア/ジェームズ・デイリー/リンダ・ハリソン●日本公開:1968/04●配給:20世紀フォックス(評価:★★★★)

ypo896 ●劇場用映画ポスター 【 猿の惑星 PLANET OF THE APES 】 1968年アメリカ映画 

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'94年公開の個人的ラスト・アクション・ヒーロー・ムービー「トゥルーライズ」「スピード」。

『映画イヤーブック 1995』.JPGスピードdvd1.jpg トゥルーライズ dvd2.jpg TRUE LIES movie.jpg
映画イヤーブック〈1995〉 (現代教養文庫)』「スピード [DVD]」「トゥルーライズ [DVD]

 1994年劇場公開の全作品(洋画304本、邦画161本、計465本)にデータと解説を付して収録、ビデオ・ムービー、未公開ビデオのデータなども網羅しているほか、『映画イヤーブック』としては5冊目になるということで、全5冊の総索引も付きました。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「トゥルー・ロマンス」「シンドラーのリスト」「さらば、わが愛 覇王別姫」「ピアノ・レッスン」「青い凧」「ギルバート・グレイブ」「パルプ・フィクション」「ショート・カッツ」「スピード」の9作品、一方邦画は、「トカレフ」(阪本順治監督)、「全身小説家」(原一男監督)、「棒の哀しみ」(神代辰巳監督)、「忠臣蔵外伝・四谷怪談」(深作欣二監督)の4作品。

 '94年の映画館入場者数は1億2299万人で、それまでの史上最低だったそうで、前年の「ジュラシック・パーク」のような大ヒット作が無かったということもあるようですが、この頃には平成不況による停滞感が定着して、多くの人が、わざわざ映画館まで行かなくともビデオで観ればいいいという感覚になっていたのではないかなあ。

スピードdvd.jpg ハリウッド映画のアクション系で、「ダイ・ハード」('88年)、「氷の微笑」('92年)のカメラマンだったヤン・デ・ボン(「トータル・リコール」「氷の微笑」のポール・バーホーベン監督と同じくオランダ人)の初監督作品「スピード」('94年)が気を吐きました。

「スピード」('94年).jpg 時速を80キロ以下に落とすと爆発する爆弾を仕掛けたバスの疾走が迫力満点のノンストップアクションで、バスが街中を車をはじき飛ばしながら爆走したり、キアヌ・リーブスが爆弾を解除するために高速で走るバスの下にもぐりこむシーン、或いは、地下鉄の車両が工事現場を破壊しながら地上に突き抜けるシーンなどは実写中心であるため見応えはありました。

スピード01.jpg 脚本を書いたグレアム・ヨストは、 アンドレイ・コンチャロフスキー監督の「暴走機関車」('86年/米)の原「スピード」ホッパー2.jpg案である黒澤明のオリジナル脚本を読んで着想を得たと述懐していますが、その脚本もまずまずではないでしょうか。但し、脚本を含めてよく出来ていた「ダイ・ハード」と比べるのと、トータルではやや落ちるか。キアヌ・リーブス、サンドラ・ブロック共に頑張っているけれど、爆弾魔のデニス・ホッパー(1936-2010)は、クイズ好きのオタクみたいで、それほど凄味がないような....。デニス・ホッパーということで、期待し過ぎてしまったのかもしれませんが(結局、大掛かりなアクションで見せる映画だった。元々の狙いも概ねそうだとは思うが)。

speed 2s.jpgスピード2  05.jpg ということで、個人的にはヤン・デ・ボン監督には次に期待、というところだったのですが、その続編「スピード2」('97年/米)であっさりコケてしまった感じでした(既に同年の「ツイスター」('97年/米)を観れば、この監督の力量の限度は窺い知れたのだが。因みに、竜巻パニックスピード2 dvd.jpg映画「ツィスター」はアメリカではそこそこヒットしたらしく、アメリカ人にとって竜巻は身近な恐怖なのでしょう(日本にもこうした映画のファンは多いらしく、Amazon.comのレビュー評価などもそう悪くないようだが、個人的には、竜巻をあまりに擬人化し過ぎているように思えた)。「スピード2」は舞台を大型客船に移したことで、看板の〈スピード〉感は無くなり、サンドラ・ブロック演じるヒロインは残りましたがキアヌ・リーブスは出演しておらず、代わりにジェイソン・パトリックが出演していましたが地味で、敵役のウィレム・デフォーの方がむしろ頑張ってはいましたが、それでもデニス・ホッパーに比べるとやはり格下感は否めなかったでしょうか。話の展開にも〈スピード〉感は感じられなかった...(いずれにせよ、キアヌ・リーブスとデニス・ホッパーがいないというのはロスト感が大きい)。
スピード2 [DVD]

トゥルーライズ dvd.jpg 「スピード」の「四つ星」評価に対し、本書で星3つの評価となっている「ターミネーター」シリーズのジェームズ・キャメロンが監督した「トゥルーライズ」('94年)の方が、ユーモアの要素があって個人的な評価はやや上になります。

トゥルーライズ1.jpg アガサ・クリスティの「おしどり探偵」シリーズの現代アクション版みたいで、アーノルド・シュワルツェネッガーはコメディも充分にこなすし、スタント無しのジェイミー・リー・カーティスも良かったです(アクションでもそれ以外でも身体を張った演技をしていたなあ)。

トゥルーライズ jlカーチス.jpg カーチェイスの場面で実際に橋を爆破したというのもスゴいですが、一方で、シュワちゃんがゴールデン・ゲート・ブリッジにしがみつくシーンやハリヤー・ジェット機上でのテロリストとの"生身"のバトルシーンなど、デジタル合成のSFXをふんだんに使っています。

 アクション・シーンをCGで撮るというのは「バットマン リターンズ」('92年)あたりがハシリだそうですが、米国の俳優協会ではその頃から、役者自身がアクションを演じる場面が無くなってしまうということで問題視され始めていたようです。「バットマン リターンズ」の中には、一旦CGで撮ったものを、俳優協会からの要請で俳優やスタントマンを使ったものに撮り直した場面があります(高い所から飛び降りたバットマンが地面に着地するシーンなど)。

トゥルーライズ2.jpg 「トゥルーライズ」ではそのほかに、ハリヤー・ジェット機の熱で空気が揺らぐシーンなどにもデジタル・ドメイン社が開発したCGが初めて使われていて、この技術は「アポロ13」('95年)のロケット発射シーンなどにも使われました(ジェームズ・キャメロンはデジタル・ドメイン社の初代共同経営者)。

 シュワルツェネッガーは、この作品の前年にジョン・マクティアナン監督の「ラスト・アクション・ヒーロー」('93年)を製作総指揮しており(主演もシュワルツェネッガー)、もう生身の肉体を使ってのアクションは終わりだなという意識はこの頃からあったのではないでしょうか。その前の作品が、それこそCGで描かれる敵と戦う「ターミネーター2」('91年)だったし(これもジェームズ・キャメロン監督)。

 個人的には、'94年の「トゥルーライズ」が(すでにCGがいっぱい使われてはいるけれども)自分の中での"ラスト・アクション・ヒーロー"ムービーという印象ですが、同じく'94年の「スピード」も、キアヌ・リーブスの次のヒット作「マトリックス」('99年)がアクションシーンをCG主体で構成していたことを考えると、キアヌ・リーブス的に言えばこれもまた"ラスト・アクション・ヒーロー"ムービーだったと言えるように思います。
 
SPEED-1994 -On set / Keanu Reeves|Sandra Bullock
SPEED 1994.jpgスピード02.jpg「スピード」●原題:SPEED●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:「スピード」ホッパー.jpgヤン・デ・ボン●製作:マーク・ゴードン●脚本:ランダル・マコーミック/ジェフ・ナサンソン●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:マーク・マンシーナ/ビリー・アイドル●時間:115分●出演:キアヌ・リーブス/デニス・ホッパサンドラ・ブロック/ジョー・モートン/ジェフ・ダニエルズ/アラン・ラック●日本公開:1994/12●配給:20世紀フォックス映画●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(94-12-17)(評価:★★★☆)

speed 2es.jpgスピード2 01.jpg「スピード2」●原題:SPEED:CRUISE CONTROL●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督:ヤン・デ・ボン●製作:マーク・ゴードン●脚本:グレアム・ヨスト●撮影:ジャック・N・グリーン●音楽:マーク・マンシーナ●時間:121分●出演:サンドラ・ブロック/ジェイソン・パトリック/ウィレム・デフォー/テムエラ・モリソン/ブライアン・マッカーディー/グレン・プラマー/コリーン・キャンプ/ロイス・チャイルズ/マイケル・G・ハガーティー/ボー・スヴェンソン/フランシス・ギナン/ジェレミー・ホッツ●日本公開:1997/08●配給:20世紀フォックス映画(評価:★★☆)

ツイスター.jpgツイスタード.jpg「ツイスター」●原題:TWISTER●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:ヤン・デ・ボン●製作:キャスリーン・ケネディ/イアン・ブライス/マイケル・クライトン●脚本:マイケル・クライトン/アン・マリー・マーティン●撮影:ジャック・N・グリーン●音楽:マーク・マンシーナ●時間:113分●出演:ヘレン・ハント/ビル・パクストン/ケイリー・エルウィス/ジェイミー・ガーツ/ロイス・スミス/アラン・ラック/フィリップ・シーモア・ホフマン/トッド・フィールド/ジョーイ・スロトニック/ジェレミー・デイビス/スコット・トマソン/ウェンデル・ジョセファー/ショーン・ウォーレン/ザック・グルニエ/ラスティ・シュウィマー●日本公開:1996/07●配給:UIP(評価:★★)
ツイスター [DVD]

「トゥルーライズ」.jpgトゥルーライズ01.jpg「トゥルーライズ」●原題:TRUE LIES●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ジェームズ・キャメロン/ステファニー・オースティン●オリジナル脚本:クロード・ジディ/シモン・ミシェル/ディディエ・カミンカ●撮影:ラッセル・カーペンター●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:144分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/ジェイミー・リー・カーティス/トム・アーノルド/ビル・パクストン/ティア・カレル/アート・マリックトゥルーライズ  ティア・カレル.jpgトゥルーライズ チャールトン・ヘストン.jpg/エリザ・ドゥシュク/グラント・ヘスロヴ/チャールトン・ヘストン●日本公開:1994/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(94-09-25)(評価:★★★★)
アーノルド・シュワルツェネッガー/ティア・カレル   チャールトン・ヘストン(主人公ハリーの上司スペンサー・トリルビー)

ラスト・アクション・ヒーローs.jpgラスト・アクション・ヒーロー  vhs.jpg「ラスト・アクション・ヒーロー」●原題:LAST ACTION HERO●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●製作:スティーヴ・ロス/ジョン・マクティアナン●脚本:デヴィッド・アーノット/シェーン・ブラック●撮影ディーン・セムラー●音楽:マイケル・ケイメン●時間:131分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/オースティン・オブライエン/チャールズ・ダンス/ロバート・プロスキー/トム・ヌーナン/フランク・マクレー/アンソニー・クイン/ブリジット・ウィルソン/F・マーリー・エイブラハム/マーセデス・ルール/アート・カーニー/イアン・マッケラン/プロフェッサー・トオル・タナカ/ジョーン・プロウライト/ノア・エメリッヒ●日本公開:1993/08●配給:コロンビア映画(評価:★★★)

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思っていた以上に良かった「トゥームストーン」。ちょっと長過ぎる「ワイアット・アープ」。

トゥームストーン ポスター.jpg TOMBSTONE movie 1993.jpg トゥームストーン dvd.jpg   ワイアット・アープdvd.jpg

「トゥームストーン」ポスター/「トゥームストーン [DVD]」/「ワイアット・アープ 特別版 〈2枚組〉 [DVD]

トゥームストーン1.jpg トゥームストーンへ平穏な暮らしを求めやって来た元保安官のワイアット・アープ(カート・ラッセル)は、町がクラントン兄弟や凄腕のガンマン、ジョニー・リンゴ(マイケル・ビーン)らカウボーイズと名乗る無法者集団に牛耳られていることを知る。ワイアットは旧友ドク・ホリデトゥームストーンes.jpgイ(ヴァル・キルマー)と再会したが、彼は結核に冒されていて、恋人のケイト(ジョアンナ・パクラ)が彼の生き方を全うさせようと寄り添っている。一方ワイアットは、舞台女優のジョセフィーヌ(ダナ・デラニー)と知り合う。カウボーイズの無法ぶりを抑えようと、ワイアットの兄と弟は保安官となり、アープ兄弟は一味からOKコラルでの決闘を申し込まれるが、ドクの加勢を得て勝利する。しかし、敵の報復により兄が重体に、弟が殺されるに及んで、ワイアットは再び保安官のバッジを付け、ドクと共に立ち上がる―。

トゥームストーン_V1_.jpg 「トゥームストーン」('93年/米)の監督は「ランボー 怒りの脱出」のジョージTombstone(1993).jpg・P・コスマトスで、あまり期待していなかったけれども、観てみたら、カート・ラッセルのワイアット・アープもまずまずで、思っていた以上に良かった作品。史実に忠実に作られているとのことで、僅か約2分間のことだったというOKコラルでの決闘を、実際の時間通りに描いているほか、服装や小道具なども丁寧に再現しているようですが、何といっても初めて知ったのは、カウボーイズ一味との銃撃戦は1回ではなかったということでした。
Tombstone(1993)

トゥームストーン ヴァル・キルマー.jpg この作品でみると、敵役のリンゴなどはワイアット・アープの手に余る相手で、ワイアットを助太刀したのがドグ・ホリディという構図になっているのが興味深いです(一番の拳銃使いはドグ・ホリディということか)。

Val Kilmer (Doc Holliday) in Tombstone (1993)

 最初はワイアット・アープ(カート・ラッセル)もドグ・ホリディ(ヴァル・キルマー)もちょっと線が細いかなと思いましたが、2人の心の交流やものの考え方を丁寧に描いて成功しているように思われ、娯楽映画としてもテンポ良く、アープらに宿を提供する牧場主の役でチャールトン・ヘストンが出演していたりします(現時点['11年3月]でDVDが廃盤になっているのが惜しい)。


ワイアット・アープ コスナー.jpg 同じ頃に公開された「ワイアット・アープ」('94年/米)は、「シルバラード」のローレンス・カスダン監督ということで期待しましたが、こちらは完全にケヴィン・コスナーの映画という感じ。ケヴィン・コスナーはやりたかったんだろうなあ、この役を。

Kevin Costner in Wyatt Earp (1994)

ワイアット・アープ 001.jpg こちらも「史実に忠実」が謳い文句で、同じくOKコラルの決闘の後にもう一度、ワイアット・アープ(ケヴィン・コスナー)とドグ・ホリディ(デニス・クエイド)はカウボーイズ一味を相手にワイアットの弟の弔い合戦をやっています。

ワイアット・アープ デニス・クエイド.bmp デニス・クエイドのドグ・ホリディは、ヴァル・キルマーより更に線が細い、というより病的。事実、結核病みだったから、リアルと言えばリアルなのかも(自分の頭の中にある「荒野の決闘」('46年)のヴィクター・マチュアのイメージが強すぎるのか。何せ、「サムソンとデリラ」のサムソンをやった役者だったからなあ)。

ワイアット・アープ-7.jpg 3時間11分の大作になっているのは、ワイアット・アープの生涯を通しで描いているためで、若い頃に身重の妻を病気で喪って酒浸りの日々を送り、馬泥棒で留置所に入れられたりもしたのだなあと(よくぞ立ち直った)。但し、決闘に至るまでがあまりに長く(これはある種「伝記映画」か?)、ケヴィン・コスナーの熱演(?)にもかかわらず(コスナーはこの作品で「ゴールデン・ラズベリー賞」の最低主演男優賞を受賞している)冗長な感は否めませんでした(この人が製作に関わった作品は、長尺になる傾向がある。カットするのが惜しい?)。

チャールトン・ヘストン(牧場主ヘンリー・フッカー)
チャールトン・ヘストン トゥームストーン.jpg「トゥームストーン」('93年/米).jpg「トゥームストーン」●原題:TOMBSTONE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・P・コスマトス●製作:ジェームズ・ジャックス/ショーン・ダニエル/ボブ・ミシオロウスキ●脚本:ケヴィン・ジャール●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:ブルース・ブロートン●時間:130分●出演:カート・ラッセル/ヴァル・キルマー/サム・エリオット/ビル・パクストン/ダナ・デラニー/ジョアナ・パクラ/パワーズ・ブース/マイケル・ビーン/チャールトン・ヘストン/ジェイソン・プリーストリー/マイケル・ルーカー/ビリー・ゼーン/ロバート・ミッチャム●日本公開:1994/05●配給:東宝東和(評価:★★★★)

Wyatt Earp(1994)   ジーン・ハックマン(ニコラス・アープ)
Wyatt Earp(1994).jpgワイアット・アープ ジーン・ハックマン.jpg「ワイアット・アープ」●原題:WYATT EARP●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:ローレンス・カスダン●製作:ケヴィン・コスナー/ ジム・ウィルソン/ローレンス・カスダン●脚本: ローレンス・カスダン/ダン・ゴードン●撮影:オーウェン・ロイズマン●音楽:楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード●時間:191分●出演:ケヴィン・コスナー/デニス・クエイド/ジーン・ハックマン/イザベラ・ロッセリーニ/マイケル・マドセン/デヴィッド・アンドリュース/リンデン・アシュビー/トム・サイズモア/ビル・プルマン/マーク・ハーモン/ジェフ・フェイヒー/アダム・ボールドウィン/アナベス・ギッシュ/メア・ウィニンガム/ジョアンナ・ゴーイング/キャサリン・オハラ/ジョベス・ウィリアムズ/アリソン・エリオット/ベティ・バックリー/ジェームズ・カヴィーゼル/ランドル・メル/レックス・リン/ルイス・スミス/トッド・アレン●日本公開:1994/07●配給:ワーナー・ブラザース映画(評価:★★★)

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イスラーム原理主義とグローバル化する資本主義の共通項を指摘。

文明の内なる衝突.bmp                      サミュエル・ハンチントン 文明の衝突.jpg
文明の内なる衝突―テロ後の世界を考える (NHKブックス)』['02年] /サミュエル・ハンチントン『文明の衝突

9-11_Statue_of_Liberty_and_WTC_fire.jpg 社会学者である著者が、「イスラーム原理主義者」による9・11テロ後に、テロを前にしたときの社会哲学の無力を悟り、またこれが社会哲学の試金石となるであろうという思いで書き下ろした本で、テロとそれに対するアメリカの反攻に内在する思想的な問題を、「文明の衝突」というサミュエル・ハンチントンの概念を援用して読み説くとともに(ハンチントンは冷戦時代にこの概念を提唱したのだが)、テロがもたらした社会環境の閉塞状況に対しての「解決」の道(可能性)を著者なりに考察したもの。
September 11, 2001 attacks

 イスラーム原理主義とグローバル化する資本主義の対立を、その背後にある共通項で捉えているのが大きな特徴ですが、9・11テロ後のアメリカのナショナリズムの高揚を見ると、それほど突飛な着眼点とは思えず、むしろ受け入れられやすいのでは。世界貿易センタービルで亡くなった消防士でも国家のために「殉死」した英雄ということになっているけれど、彼らはまさか直後にビルごと倒壊するとは思ってなくて救出活動に向かったわけです。

 '04年に亡くなったスーザン・ソンタグの、「アメリカ人は臆病である。テロリストは身体ごとビルにぶつかっていったのに、アメリカ軍は遠くからミサイルを撃つだけだ」というコメントが多くのアメリカ人の怒りを買った背景に、アメリカ人のテロリストに対する憧憬とコンプレックスがあるというのはなかなか穿った見方のように思えました。

 映画「インデペンデンス・デイ」が引き合いに出されていますが、「アルマゲドン」などもそうかもしれません(それぞれ'96年と'98年の作品で、共に9・11テロ以前に作られたものだが)。「インデペンデンス・デイ」「アルマゲドン」共に優れたSF映画に与えられる「サターンSF賞」を受賞していますが、SFXにはお金がかかっていっという感じでした。

インデペンデンス・デイ1.jpg 「インデペンデンス・デイ」('96年/米)は、本国では独立記念日の週に公開されたそうですが、昔の(ベトナム戦争時の)飛行機乗りが最新鋭のジェット戦闘機を操縦できるものかなあと疑念を抱かざるを得ず、大統領(湾岸戦争の戦闘パイロットだったという設定)が飛行編隊の先頭を切って巨大UFOに戦いを臨むと言う絶対にあり得ない設定でした(9・11の時は、ブッシュ大統領は緊急避難して、暫く居所を明らかにしていなかったではないか)。

アルマゲドン1.jpg 一方、「アルマゲドン」('98年/米)で石油掘削員が立向かう相手は巨大UFOではなく巨大隕石(小惑星)ですが、新型スペースシャトルの名前が「インディペンデンス号 」と「フリーダム号」で、この映画も独立記念日の週に公開されています(個人的には、ブルース・ウィリス演じる"部下想いのリーダー"が、出立する前に政府にいろいろ要求を突きつけるシーンが、やたら臭いこともあって好きになれなかった。実際、ブルース・ウィリスはこの作品で、「ゴールデンラズベリー賞」の"最低男優賞"と「スティンカーズ最悪映画賞」の"最悪の主演男優賞"をダブル受賞している)。

 2作とも独立記念日の週に公開されている点に、やはり何らかの意図を感じざるを得ないなあと。

1dollar_C.jpg 著者は、イスラームやキリスト教の中にある資本主義原理を指摘する一方、「資本主義は徹底的に宗教的な現象である」と見ており、そう捉えると、確かにいろいろなものが見えてくるという気がしました(確かに1ドル札の裏にピラミッドの絵がある なあ、と改めてビックリ)。
 
 "赦し"を前提とした「無償の贈与」という著者の「解決」案は甘っちょろいととられるかも知れませんが、レヴィ=ストロースの贈与論などに準拠しての考察であり、最後にある「羞恥」というものついての考察も(著者はこれを「無償の贈与」の前提条件として定位しようとしているようだが)、イランの映画監督マフマルバフの、「アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない。恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」という言葉の意味がこのことでわかり、個人的には興味深いものでした。

「インデペンデンス・デイ」2.jpgインデペンデンス・デイ.jpg「インデペンデンス・デイ」●原題:INDEPENDENCE DAY●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:ローランド・エメリッヒ●脚本:ディーン・デヴリン/ローランド・エメリッヒ●撮影:カール・ウォルター・リンデンローブ●音楽:デヴィッド・アーノルド●時間:145分●出演者:ジェフ・ゴールドブラム/ビル・プルマン/インデペンデンス・デイ ゴールドブラム.jpgウィル・スミス/ランディ・クエイド/メアリー・マクドネル/ジャド・ハーシュ/ロバート・ロジア●日本公開:1996/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(96-12-27)(評価:★★☆)
ジェフ・ゴールドブラム(デイヴィッド・レヴィンソン:天才エンジニア。衛星通信にノイズとして隠されていた信号が宇宙人の暗号であることを突き止め、彼らの目的が侵略であることを誰よりも早く理解する)

アルマゲドン09.jpgアルマゲドン.jpg「アルマゲドン」●原題:ARMAGEDDON●制作年:1998年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・ベイ●製作:ジェリー・ブラッカイマー/ゲイル・アン・ハード/マイケル・ベイ●脚本:ジョナサン・ヘンズリー/J・J・エイブラムス●撮影:ジョン・シュワルツマン●音楽:トレヴァー・ラビン●時間:150分●出演:ブルース・ウィリス/ベン・アフレック/リヴ・タイラー/ビリー・ボブ・ソーントン/ウィル・パットン/ピーター・ストーメア/(ナレーション)チャールトン・ヘストン●日本公開:1998/12●配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル・ジャパン(評価:★★)


【2011年文庫化[河出文庫]】

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ストーリー部分をうまく整理。結構ドラマチックな話も含まれているものだと...。

聖書物語.JPGマンガ 聖書物語.jpg    十戒09.jpg  十戒2.gif
マンガ聖書物語 (旧約篇)』 講談社+α文庫 〔'98年〕  「十戒 [DVD]

 自分も含め一般に日本人は、聖書の内容をそれほど詳しく知っているわけではなく、旧約聖書に至ってはほとんど言っていいくらい知らないのではないかと思います。映画「十戒」などのイメージは多少あるものの、原典をパラパラめくる限りそれほど面白そうにも思えず、特に旧約聖書の場合は、原典からストーリーを抽出しにくいということが、馴染めない最大の理由かも知れません。
 本書は、そうした旧約聖書のストーリー部分をうまく整理してマンガにしていて、内容を理解するうえでの良い助けになるものであると思います。

 こうして見ると、結構泣かせるようなドラマチックな話もあるのだと...。兄たちに諮られて異国(エジプト)に売られ、その後エジプト王になったヨセフの話などは、なかなかのストーリー展開で、最後にヨセフが兄たちを許す場面は感動的です。
 今まで知らなかったことも多く知ることができ、例えばオリーブの枝を咥えた鳩が平和のシンボルとされているのは、ノアの箱舟に洪水が引き安心して暮らせることを知らせに来た鳥がそうだったからだとか(知っている人からすればごく初歩的な知識だが)、今までそんなことも知らずホント無知でした(そうすると国連のマークも旧約聖書の影響を受けているということか)。

『マンガ 聖書物語 (旧約篇)』.JPG 旧約聖書は、"人類の歴史"というものが意識されて書かれた最も古い部類の物語だと思われますが、今の聖書は後に何百年にもわたって再編集されたものらしく、聖書学者によると創世記なども後の方で書かれたものだということで、つまり終末論がまずあって、そこから遡って編纂されているようです。
 このことは、個人としての人間が自分の死を意識し、そこから遡って自らの出自を問う考え方の指向と似ていますが、山本七平などは、そうした個人の有限の人生と"完結するものであるべき"歴史といった相似的な捉え方の中に、ユダヤ教やキリスト教の歴史観の特徴を見出していたように思えます。
 日本人の場合は、「行く川の流れは絶えずして...」と言う感じで、川べりで歴史を傍観していて、どこかに始まりと終末があるわけでもなく、一方、自分の人生の始まりと終わりは意識しているが、それが歴史の始まりと終わりのどのパートにあたるかという意識は無いのではないかと。
 こうした日本人の考え方では、「救世主」とか「最後の審判」という発想は出てこないのだろうなあと思ったりもしました。

 マンガのタッチは今ひとつかな、という感じで、また、マンガにすることで宗教的な意味合いや重みが脱落してしまっている部分も大いにあるかもしれませんが、西洋キリスト教圏文化などの背景にある重要な物語のストーリーを少し知っておくのもいいのではないかと思います。

『十戒』(1956).jpg十戒.bmp 冒頭に挙げた映画「十戒」('57年/米)は、セシル・B・デミル監督が自らが手がけたサイレント大作「十誡」('23年/米)を、10年の製作期間と1350万ドル(当時)を投じて自らリメイクしたもので、製作費の10倍もの興行収入を上げ、パラマウント映画としてのそれまでの最高記録を更新しました(2020年現在、インフレーション調整版で全米全作品の歴代6位)。「出エジプト記」の話を、モーセとラメセスの「兄弟げんか話」に置き換えてしまったきらいはありますが、分かり易いと言えば分かり易い「旧約聖書入門」映画であり、聖書をベースした作品としてはやはり欠かせない1本です。

Yul Brynner in The Ten Commandments.jpg 紅海が真っ二つに割れるシーンなどのスペクタルもさることながら(滝の落下を逆さまに映している?)、モーセが杖を蛇に変えるシーンなどの細かい特殊撮影も当時にしてはなかなかのもの(CGの無い時代に頑張っている)。

十戒5.jpg モーセを演じたチャールトン・ヘストン(1924-2008/享年84)の演技は大味ですが、それがスペクタクル映画にはむしろ合っている感じで、一方、もう1人の主役ラメセスを演じたユル・ブリンナー(1920-1985/享年65)は、父親がスイス系モンゴル人で母親はルーマニア系ジプシーであるという、ファラオ(エジプト王)を演じるに相応しい(?)ユニヴァーサルな血統(「王様と私」('56年/米)ではシャム王を演じている)。更に、癖のあるキャラクターを演じるのが巧みなエドワード・G・ロビンソン(1893-1973/享年79)、「イヴの総て」('50年)のアン・バクスター(1923-1985/享年62)などの名優が脇を固めていました。何れにせよ、もう1度観るにしても、劇場などの大スクリーンで観たい作品です。

十戒2.jpg

十戒1.JPG

1十戒.jpg

2十戒.jpg

奴隷頭デイサン(エドワート・G・ロビンソン)/王女ネフレテリ(アン・バクスター)
奴隷頭デイサン(エドワート・G・ロビンソン).jpg王女ネフレテリ(アン・バクスター).jpg

  
 
 
  
「十戒」●原題:THE TEN COMMANDMENTS●制作年:1957年●制作国:アメリカ●監督・製作:セシル・B・デ十戒3.jpgミル●脚本:イーニアス・マッケンジー/ジェシー・L・ラスキー・Jr/ジャック・ガリス/フレドリック・M・フランク●撮影:ロイヤル・グリッグス●音楽:エルマー・バーンスタイン●時間:222分●出演:チャールトン・ヘストン/ユル・ブリンナー/アン・バクスター/エドワード・G・ロビンソン/ジョ渋谷東急.jpgン・デレク/イヴォンヌ・デ・カーロ/デブラ・パジェット●日本公開:1958/03●配給:パラマウント●最初に観た場所:渋谷東急 (77-12-08)(評価:★★★☆)

渋谷東急 (東急文化会館5F、1956年12月1日オープン) 2003(平成15)年6月30日閉館 (2003年7月12日「渋谷クロスタワー」(旧・東邦生命ビル)2階にオープンした劇場が「渋谷東急」の名を引き継ぐが、こちらも2013年5月23日閉館)

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