「●国際(海外)問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3512】 小泉 悠 『終わらない戦争』
「●は 秦 郁彦」の インデックッスへ 「●新潮新書」の インデックッスへ
ベテランの日本軍事史研究家が、プーチン戦争の野望と誤算の全貌を解明。
秦 郁彦 氏
『ウクライナ戦争の軍事分析 (新潮新書) 』['23年] 『なぜ日本は敗れたのか―太平洋戦争六大決戦を検証する (洋泉社新書y) 』['01年]
ベテランの軍事史研究家(専門は日本軍事史が専門)が、進行中のウクライナ戦争について、これを「プーチン戦争」と定義し、その野望と誤算の全貌の解明を試みた本です。
著者は、ヒトラーやスターリンがそうだったように、プーチンといえども軍事作戦の行方を恣意的に操作できるものではなく、ウクライナ戦争の経緯を、「何が起きたのか、なぜそうなったにかを過不足なしに記述する」(ランケ)ことに徹したいと念じたとしています。
全5章構成の第1章では、ウクライナ戦争がどのように始まったかを、侵攻初期のキーウ争奪戦を中心に分析し、プーチンの「特別軍事作戦」とその誤算について解説しています。
第2章では、その前史である9世紀から21世紀までの歴史を辿り、第3章では、2022年末までのウクライナの東部と南部戦場の攻防を中心に扱っています。
第4章では、分野別に、航空戦、海上戦、兵器と技術のほか、米国やNATOの対ウクライナ支援や対露制裁などを概観しています。
第5章では、2023年の年初から4月末に至る戦況を辿り、さらに、和平への道を展望しています。その中では、和平をめざすAからDまで4つのシナリオを示していて、どのシナリオならばの本が存在感を示せる機会があるかまで探っています。
あとがきによれば、執筆は開戦から2か月ばかりして、リアルタイムで書いたものが、1年後に再読しても古びていないため、一字も直していないとのことです。
また、この「論考」を、これまで30本以上を寄稿した産経新聞社の「正論」の編集部に送ったところ(著者は'14年に「正論大賞」を受賞している)、担当の論説委員から返事がなく、電話で確認したら「面白くないし、誰もが知っていることしか書いていない」と言われたとのこと、原稿をボツにするしないか、「ボツならば「正論大賞」は返上したい」「勝手もどうぞ」といった遣り取りまであったとのことです。
新潮新書として日の目を見ることになってよかったですが、日本軍事史が専門の著者が(個人的には著者の『なぜ日本は敗れたのか―太平洋戦争六大決戦を検証する』('01年/洋泉社新書y)』などを読んだ)、90歳にして(著者は1932年12月生まれ)、畑違いとまでは言わないけれど、専門を超えてこうした本を出すというのは稀有なことだと思います。
《読書MEMO》
●目次
第一章 「プーチンの戦争」が始まった
挫折した空挺進攻 「私は首都にふみとどまる」 泥将軍と渋滞の車列 首都正面から退散したロシア軍 ◆コラム◆七二時間目の岐路
第二章 前史――九世紀から二一世紀まで
冷戦終結とソ連解体のサプライズ クリミア併合の早業 ドンバス戦争の八年 プーチン対バイデン ロシア軍の組織と敗因 BTGとハイブリッド戦略 ◆コラム◆「さっさと逃げるは......」
第三章 東部・南部ウクライナの争奪
ドンバスへの転進 ドネツ川岸の戦い 南部戦線の攻防 ウ軍反転攻勢の勝利 ロシアの四州併合と追加動員 ヘルソン撤退と「戦略爆撃」 ◆コラム◆「軍事的敗北と破産は突然やってくる」
第四章 ウクライナ戦争の諸相
航空戦と空挺 海上戦 「丸見え」の情報戦 兵器と技術(上)――戦車と重砲 兵器と技術(下)――ミサイルと無人機 ウクライナ援助の波 制裁と戦争犯 罪と避難民 ◆コラム◆「キーウの亡霊」伝説 ◆コラム◆戦車の時代は去ったのか? ◆コラム◆あるドローン情報小隊の活動 ◆コラム◆使い捨てカイロを支援
第五章 最新の戦局と展望
膠着した塹壕戦の春 今後の戦局とシナリオ 平和への道程は ◆コラム◆ブフレダルの戦い ◆コラム◆ゼレンスキー(コメディアン)対プーチン(スパイ)