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有酸素運動で脳細胞が増える。週3回30~40分のランニングを推奨。動機づけにはなるか。
『The Real Happy Pill: Power Up Your Brain by Moving Your Body』『運動脳』['22年/サンマーク出版]アンダース・ハンセン『一流の頭脳』['18年/サンマーク出版] アンデシュ・ハンセン(Anders Hansen)
『スマホ脳 (新潮新書) 』['20年]『最強脳 ―『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業― (新潮新書) 』['21年]『ストレス脳 (新潮新書)』['22年]『脱スマホ脳かんたんマニュアル (新潮文庫 ハ 60-1)』['23年]『メンタル脳 (新潮新書 1024)』['24年]
『運動脳』は、スウェーデンの精神科医で、ベストセラーとなった『スマホ脳』('20年/新潮新書)の著者によるものですが、書かれたのは本書(原題:The Real Happy Pill(「最高の薬」): Power Up Your Brain by Moving Your Body)の方が先で、『一流の頭脳』('18年/サンマーク出版)として『スマホ脳』の2年前に訳出もされています(この時の著者名の表記は"アンダース・ハンセン")。『スマホ脳』がベストセラーになったので、旧著を加筆・再編集して再出版したようです(新潮新書の『スマホ脳』はタイトルの付け方が巧かったということか。ただ、『スマホ脳』の方は、スマホ依存への対症療法的な内容に思え、やや物足りないと思ったら、どちらかと言うと本書が先にあって、『スマホ脳』の方は各論だったということになるかも。因みに、『スマホ脳』の原題は、スウェーデン語で「Skärmhjärnan」といい、作者が作ったこれもまた造語で、英訳すると「shade brain」となり、「ぼやけ脳」「霞脳」などと訳すことができるそうだ)。
本書『運動脳』は、全体としては、運動(有酸素運動)で脳細胞が増え、脳が活性化することを説いていて、第1章では、運動で脳が物理的に変えられることを先ず述べています。20分から30分ほどで十分効果があると。第2章では、脳からストレスを取り払うにはどうすればよいかを説いています。運動でストレス物質「コルチゾール」をコントロールでき、また、運動は海馬や前頭葉を強化するとし(「長時間1回」より「短時間複数回」がいいとも)、運動がおそらくストレスの最も優れた解毒剤であるとしています。ウォーキングとランニングでは、ランニングの方が有効であるようです。
第3章では、「集中力」を高めるにはどうすればよいかを説いています。ここでは、集中物質「ドーパミン」を総動員せよとし、ドーパミンを増やすにも、ウォーキングよりランニングの方がやはりいいようです。第4章では、うつ病を防ぎ、モチベーションを高めるにはどうすればよいかを説いています。近年の研究で、うつ病を防ぐにに最も効果がある運動はランニングで、ウォーキングにもうつ病を防ぐ効果があることが明らかになったそうです。また、運動で「海馬の細胞数」が増え、「性格」も変わるとのことです。30~40分のランニングを週に3回行うこと、その活動を3週間以上は続けることを推奨しています。
第5章では、「記憶力」を高めるにはどうすればよいかを説き、持久系のトレーニングは海馬を大きくする効果があることが実験で判ったとしています。第6章では、頭の中から「アイデア」を出すのにも運動は効果的あるとしています(例として村上春樹が出てくる)。第7章では、「学力」を伸ばすにも運動は効果的であるとしています。
第8章では、「健康脳」を維持するにはどうすればよいかを説き、やはり運動が効果的であると。第9章では「移動」することの効用を説き、「脱・スマホ脳」のプランを示しています。第10章では、どんな運動をどれくらいやればよいかを説いていますが、ランニングを週に3回、45分以上行うのが良いと。
運動が脳にいいというのは以前から言われていたし、運動によってストレスが解消されるというのは多くの人が体験していることではないかと思います。分かりやすく書かれていて、納得させられることも多いですが、何となく感覚的に分かっていることもありました(ウォーキングよりランニングの方が有効であるとか)。やや「ある調査によると」的な根拠不明の表現が多かったでしょうか。後半にいくと、前半部分との重複も多かった気がします。
「本国スウェーデンで最も売れた本!」「人口1000万人のスウェーデンで驚異の67万部超え!」という触れ込みです(『スマホ脳』より売れたとうことか)。『スマホ脳』は(読みやすく書かれているが)先に述べたようにどちらかと言うと各論で、先に読むとしたら「健康脳」という意味で総論的なこちらかもしれません。運動をしていない人は「明日から運動しよう」、している人は「このまま続けよう」「頻度を増やそう」という動機づけにはなる、そうした意味では「いい本」かもしれません。自分自身にとってもそう
した要素はあったので、敢えて△とはせず○にしました。
しかし、「○○脳」というタイトルの本、著者のものに限らず増えているなあ。漢字3文字の造語タイトルも増えているみたい(『食欲人』(著者はデイヴィッド・ローベンハイマー、スティーヴン・J・シンプソン他)とか『熟睡者』(著者はクリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル他)とか)。