「●社会問題・記録・ルポ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●地震・津波災害」 【798】 吉村 昭 『海の壁―三陸沿岸大津波』
「●医療健康・闘病記」の インデックッスへ 「●「死」を考える」の インデックッスへ 「●さ 佐々 涼子」の インデックッスへ 「●「本屋大賞」 (第10位まで)」の インデックッスへ
人間の最期の過ごし方について考えさせられた。strong>
『エンド・オブ・ライフ』['20年] 佐々涼子(1968-2024/56歳没)
ベストセラーとなり後にドラマ化もされた『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』('12年/集英社)の著者・佐々涼子(1968-2024/56歳没)が、『紙つなげ!―彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』('14年/早川書房)に続いて世に放ったノンフィクションで、2020年第3回・「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」受賞作。
2013年にから2020年まで、京都にある「渡辺西賀茂診療所」という患者に寄り添う在宅医療をしている診療所を取材して書いた本であり、7年間見てきた終末医療の現場を綴りつつ、著者自身がこだわり続けてきた「理想の死の迎え方」に向き合ったものとなっています。
特に、冒頭に出てくる、2013年、末期がんに冒された女性の、家族と潮干狩りに行くという約束を果たしたいという最後の願いを叶えるために、訪問看護スタッフらが奮闘する様は感動的です。スタッフは難しい判断を迫られますがそれをやり遂げ、女性はその夜、帰宅した直後に亡くなります。座して死を待つよりも、最後に家族との思い出を作りたいという患者の意向に応えた、究極のQOLストーリーと言えます。
ただし、これにはいろいろな意見もあるかと思います。無理して京都から遠路知多半島まで潮干狩りに行ったこと結局は女性の寿命を縮めることになったのではないかとか(実際、帰宅途中で呼吸状態が悪化し、酸素飽和度は40%を切ることもあった)、また、そしも行く途中で亡くなっていたら周囲も後悔しか残らなかったのではないかとか。この辺りは、読む人によって評価の分岐点になるかもしれません。
もう一つ、こちらはストレートに感動的なのですが、この2013年の"潮干狩り"を中心メンバーとしてサポートした訪問看護師の森山文則氏が、その6年後に自身ががんによる余命宣告を受け、自身の死と向き合っていく様が描かれていることです。
200人以上を看取ってきた彼の最期の日々の過ごし方は、抗がん剤治療をやめ、医療や介護の介入もほとんど受けることなく、「自分の好きなように過ごし、自分の好きな人と、身体の調子を見ながら、『よし、いくぞ』といって、好きなものを食べて、好きな場所に出かける、病院では絶対にできない生活でした」っと本人が語っています。人間の最期の過ごし方について考えさせられます。
訪問看護師として看取りを仕事にしてきた人が、今度は看取られる立場になるというのは皮肉なことのように思えますが、考えてみれば十分あり得ることであるけです。そして、今度は、その森山を取材した著者自身が、悪 性脳腫瘍という言わば脳のがんに冒され、手に施しようがなく自らの死を受け入れざるを得なくなります。
本書を最初に読んだとき著者は存命でした。執筆活動を続け、様々な人と対談したり、マスコミの取材を受けたりしていたので、意外と持つのかなあと思ったのですが...。昨年['24年]9月に訃報を聞いた時は残念に思いましたが、『夜明けを待つ』('23年集英社インターナショナル)に、「私たちは、その瞬間を生き、輝き、全力で愉しむのだ。そして満足をして帰っていく。なんと素敵な生き方だろう。私もこうだったらいい。だから、今日は私も次の約束をせず、こう言って別れることにしよう。『ああ、楽しかった』と」とあり、そう言えるだけでも強い人だったのだなあと思いました。
NHK首都圏NEWS WEB 「ノンフィクション作家 佐々涼子さん死去 56歳」2024年09月02日
【2024年文庫化[集英社文庫]】