【385】 ○ きたやま おさむ 『みんなの精神科―心とからだのカウンセリング38』 (1997/02 講談社) ★★★☆ (△ エイドリアン・ライン 「危険な情事」 (87年/米) (1988/02 パラマウント映画) ★★★/○ ペニー・マーシャル (原作:オリバー・サックス) 「レナードの朝」 (90年/米)(1991/04 コロムビア映画) ★★★☆)

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映画の分析などに、元アーティストとしての性が感じられる。
みんなの精神科.jpg みんなの精神科.JPG みんなの精神科2.jpg 危険な情事 (扶桑社ミステリー).jpg  レナードの朝 dvd.png
みんなの精神科-心とからだのカウンセリング38』 〔'97年〕『みんなの精神科―心とからだのカウンセリング38 (講談社プラスアルファ文庫)』〔'00年〕 H・B・ギルモア『危険な情事 (扶桑社ミステリー)』(ノベライゼーション) 「レナードの朝 [DVD]

 タイトルからも察せられる通り、趣旨としては、精神科医に対して抱く一般の心理的な垣根を低くし、〈橋渡し機能〉としてもっと活用してもらいたいというものです。

 "一億総精神科受診時代"が来ることで、むしろ自分は正常で他人のことをおかしいとする単純な〈排除〉の論理を排除できるのでは、という考えはわかりますが、全体のトーンとしては文化論、社会論を含むエッセイ風読み物で、本当に書きたかったことが何なのか、今ひとつ見えにくい部分もあります。

 一方、尾崎豊の破綻に至る心理分析や、映画「レインマン」('88年/米)の作り方に対する言及、「危険な情事」('87年/米)に見る隠されたメッセージの解釈には、精神科医としてだけでなく元アーティストとしての性も感じられ、すべてには賛同できないまでも、なかなか面白く読めました。

Fatal Attraction.bmp とりわけ個人的に興味深かったのは、映画「危険な情事」(Fatal Attraction)(邦題が凡庸ではないか? 原題は「死にいたる吸引力」)の主人公のマイケル・ダグラス演じる、軽い気持ちで一夜を共にした女性からのストーカー行為に苦しめられる男性を、彼自身がパラノイア、妄想性人格障害であると見ている点です(これ、知人宅でのビデオパーティで観た)。普通ならば、主人公を執拗にストーキングするグレン・クローズ演じる女性の方を、典型的な境界性人格障害であると見そうな気がしますけれども、精神科医だからこそ、ちょっと視点を変えた見方ができるのでしょうか。
     
危険な情事 dvd.jpgFATAL ATTRACTION.jpg 個人的には、グレン・クローズの鬼気迫る演技に感服!(彼女の演じたアレックスは2003年にAFIによって選ばれた「アメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100」で悪役の第7位となっていて、「時計じかけのオレンジ」でマルコム・マクダウェルが演じた主人公アレックス(12位)などより上にきている)、ただし、ペットのウサギを鍋で煮たのは映画とは言え後味が悪く、最後の湯舟からガバッと起き上がるところでこれはあり得ないと思い、この映画に対する評価はあまり高くなかったのですが、そっか、主人公の被害妄想だったのか、ナルホド。
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 穿った見方をすれば、こうした独特の作品分析などが、本当に書きたかったことではないかと...。 但し、「レナードの朝」(Awakenings、'90年/米)に関する記述などは、当時の精神医療の在り方がどのようなものであったかを、専門医の立場からきちんと解説しています。

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レナードの朝 dvd.jpgオリバー・サックス.jpg この作品のベースになっているのは、英国の医師で神経学者のオリバー・サックス(ダスティン・ホフマンが「レインマン」('88年/米)で自閉症者を演じることになった際にこの人にアドバイスを求めている)の著作である医療ノンフィクションで、英国で昨年['05年]ノーベル文学賞を受賞したハロルド・ピンターが戯曲化していますが、今度は米国でペニー・マーシャル監督が内容を再構成したフィクションという形で映画化したものです。

 ブロンクスの慢性神経病患者専門の病院に赴任してきたマルコム・セイヤー医師(ロビン・ウィリアムズ)が、30年間眠り続けた患者レナード(ロバート・デ・ニーロ)に対し、未認可のパーキンソン病の新薬を使うことで彼の意識を呼び戻し、レナードが女性に恋をするまでに回復させるが、やがて...。

レナードの朝 0.jpg 著者はここで、精神病の症状の多様性と、多くの医師が異なった精神病観を持っていることを強調したうえで、セイヤー医師の処方を評価しています。一方、ここからまたやや映画ネタになりますが、この作品でアカデミー賞にノミネートされたのがロバート・デ・ニーロだけだったのに対し、ロビン・ウィリアムズの方が演技が上だったという意見が多くあったことを指摘し、実は2人の関係が作品の中で対になっているとしています。これは、医師中心に描いた「逃亡者」や患者中心に描いた「レインマン」など映画が医師・患者のどちらか一方の視点から描いているのが通常でレナードの朝02.jpgあるのに対して珍しく、更に、医師と患者が相互に補完し合って共に治療法を見つけていくという意味で、医師に患者性があること(セイヤー医師はネズミ相手の実験ばかりして他者とのコミュニケーションが苦手な独身男として描かれている)の重要性を説いています(スゴイ見方!)。

レナードの朝 2.jpg 個人的には、女流監督らしいヒューマンなテーマの中で、やはり、障害者を演じるロバート・デ・ニーロの演技のエキセントリックぶりが突出しているという印象を受けました。この作品で、ロバート・デ・ニーロがセイヤー医師の役のオファーがあったのにも関わらずレナードの役を強く希望し、ロビン・ウィリアムズと役を交換したというのは本書にある通りで、著者はそのことも含め「どちらが患者でどちらが医師であってもおかしくない作品」としているのが興味深いです。おそらく著者はセイヤー医師に十二分に肩入れしてこの作品を観たのではないでしょうか(同業者の役柄に感情移入するのはごく普通のことだろう)。その上で、ロビン・ウィリアムズの演技は著者の期待に沿ったものだったのかもしれません(デ・ニーロもさることながら、ロビン・ウィリアムズも名優である)。
   
危険な情事 9.jpg 「危険な情事」●原題:FATAL ATTRACTION●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:エイドリアン・ライン●製作:スタンリー・R・ジャッフェ/シェリー・ランシング●脚本:ジェームズ・ディアデン ほか●撮影:ハワード・アザートン●音楽:モーリス・ジャール ●原作:●時間:119分●出演:マイケル・ダグラス/グレン・クローズ/アン・アーチャー/スチュアート・パンキン/エレン・ハミルトン・ラッツェン/エレン・フォーリイ/フレッド・グウィン/メグ・マンディ●日本公開:1988/02●配給:パラマウント映画 ●最初に観た場所:有楽町・日劇日劇プラザ・日劇東宝.jpg日劇プラザ   .jpg有楽町マリオン 阪急.jpgプラザ (88-04-10)(評価:★★★)
日劇プラザ 1984年10月6日「有楽町マリオン」有楽町阪急側9階にオープン、2002年~「日劇3」、2006年10月~「TOHOシネマズ日劇3」、2009年3月~「TOHOシネマズ日劇・スクリーン3」2018年2月4日閉館


レナードの朝03.jpg「レナードの朝」●原題:AWAKENINGS●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ペニー・マーシャル●製作:ウォルター・F・パークス/ローレンス・ロビン・ウィリアムズ  1.jpgラスカー●脚本:スティーヴン・ザイリアン●撮影:ミロスラフ・オンドリチェク●音楽:ランディ・ニューマン●原作:オリヴァー・サックス●時間:121分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ロビン・ウィリアムズ/ジュリー・カブナー/ルー・ネルソン/ジョン・ハード/ペネロープ・アン・ミラー/マックス・フォン・シドー/アリス・ドラモンド/ジュディス・マリナ●日本公開:1991/04●配給:コロムビア・トライスター映画(評価:スレナードの朝 マックスフォンシドー .jpg★★★☆)

Robin Williams (1951-2014(63歳没「自殺」))as Dr. Malcolm Sayer/Max Von Sydow(1929-2020(90歳没))as Dr. Peter Ingham in Awakenings

ロビン・ウィリアムズ[上](マルコム・セイヤー医師...話すことも動くこともできない患者たちに反射神経が残っていることに気づき、訓練によって彼らの生気を取り戻すことに成功する(原作者オリバー・サックス自身がモデル)
マックス・フォン・シドー[右](ピーター・インガム医師...嗜眠性脳炎の患者は考える能力を失ったと考えている)

 【2000年文庫化[講談社+α文庫]】

《読書MEMO》
●『レインマン』に出てくる面白いエピソードは20人の自閉症患者と20年付き合ってやっと得られるもの
●『レナードの朝』で当初デ・ニーロがセイヤー博士をやる予定だったが、彼はレナード役(嗜眠性脳炎の患者)を欲し、ロビン・ウィリアムスが博士役になった
●『危険な情事』=道成寺と同じ、パラノイア・妄想(実は男の方が狂っている)だという解釈

1 Comment

ロビン・ウィリアムズ 2014年8月11日、カリフォルニア州の自宅で死亡しているのが見つかる。63歳。うつ病を病んでいた。自殺か。

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月 2日 09:58.

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