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宇宙論の歴史と今現在をわかり易く説く。宇宙の未来予測が興味深かった。

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竹内 薫.jpg 竹内 薫 氏 竹内薫 サイエンスZERO.jpg Eテレ「サイエンスZERO」
ざっくりわかる宇宙論 (ちくま新書)

 宇宙はどう始まったのか? 宇宙は将来どうなるのか? 宇宙に果てはあるのか? といった宇宙の謎を巡って、過去、現在、未来と宇宙論の変遷、並びに、今日明らかになっている宇宙論の全容を分かり易く説いています。

 パート①「クラシックな宇宙論」では、コペルニクス、ケプラー、ニュートンから始まって、アインシュタインと20世紀の宇宙論の集大成であるビッグバンまで宇宙論の歴史を概観し、パート②「モダンな宇宙論」では、20世紀末の科学革命と加速膨張する宇宙について、更に、宇宙の過去と未来へ思いを馳せ、パート③「SFのような宇宙論」では、ブラックホールやブレーンといった、物理学的に予想される「物体(モノ)」について述べています。

 宇宙論は20世紀末から現在にかけてかなり進化しており、それが今どうなっているのかを知るのに手頃な本です。基本的には数式等を使わず、一般人、文系人間でも分かるように書かれている一方、部分的には(著者が重要と考える点は)かなり突っ込んだ説明もなされており、個人的にも、必ずしも初めから終わりまですらすら読めたわけではありませんでした。

 でも、説明が上手いなあと思いました。まえがきで自身のことを、科学書の書き手の多くがそうである「プロ科学者〈兼〉アマチュア作家」とは違って、「アマチュア科学者〈兼〉プロ作家」であると言っており、科学好きの一般読者のために、宇宙論の現状をサイエンス作家の視点からざっくりまとめたとしています。

 東京大学理学部物理学科卒業し、米名門のマギル大学大学院博士課程(高エネルギー物理学理論専攻)を修了していることから、「プロ科学者〈兼〉アマチュア作家」ではないかという気もしていたのですが、最近の共著も含めた著作ラッシュやテレビ出演の多さなどをみると、やはり作家の方が"本業"だったのでしょうか? 確か推理小説も書いているしなあ。但し、小説やエッセイ的な著者よりも、こうした解説書・入門書的な著書の方が力を発揮するような印象があり、本書はその好例のようにも思います(Eテレの「サイエンスZERO」のナビゲーターはハマっているが(2011年に放映された"爆発迫るぺテルギウス"の話題を本書コラムで扱っている)、ワイドショーとかのコメンテーターとかはイマイチという印象とパラレル?)。

 「作家」としての自由さからというわけはないでしょうが、仮説段階の理論や考え方も一部取り上げ(著者に言わせれば、「科学は全部『仮説にすぎない』」(『99・9%は仮説』('06年/光文社新書))ということになるのだろうが)、結果的に、宇宙論の"全容"により迫るものとなっているように思いました。

 印象に残ったのは、パート②の後半にある宇宙の終焉と未来予測で、太陽の寿命はあと50億年くらい続くとされ、太陽がエネルギーを使い果たして赤色巨星になると地球は呑みこまれるというのが一般論ですが、その前に太陽は軽くなって、その分地球を引っ張る力が弱まり、地球の軌道が大きくなって実際には呑みこまれないかもしれないとのこと。

 それで安心した―というのは、逆に50億年という時間の長さを認識できていないからかもしれず、6500万年前にユカタン半島に落下し恐竜を絶滅させたと言われるのと同規模の隕石が地球に落下すれば、今度は人類が滅ぶ可能性もあるとのことです。仮に地球が太陽に呑みこまれる頃にまで人類が生き延びていたとして、火星に移住するのはやがて火星も呑みこまれるからあまり意味が無いとし(これ、個人的には一番現実的だと思ったのだが)、と言って、他の星へ移住するとなると、最も近いケンタウルス座アルファ星域に行くにしても光速で4年、マッハ30の宇宙船で光速の3万倍、12万年もかかるため、ワームホールでも見つけない限り難しいのではないかとしており、確かにそうかもしれないなあと思いました(冥王星に移住っていうのはどう?―と考えても、その前に人類は滅んでいる可能性が高いだろうけれど、つい、こういう提案をしたくなる)。

 著者は更に宇宙の未来に思いを馳せ、このまま宇宙の加速膨張が進めば、空間の広がりが光速を超え、1000億年後には真っ暗な宇宙になるだろうと(その宇宙を観る地球ももう無いのだが)。更に、宇宙の年齢137億年を約100億年とし、ゼロが10個つくのでこれを「10宇宙年」とすると、12宇宙年から、宇宙の加速膨張のために、遠くの銀河は超光速で遠ざかるようになって、まばらに近くの銀河や星だけが見えるようになり、14宇宙年から40宇宙年の間に宇宙が「縮退の時代」を迎え、40宇宙年になると陽子が全て崩壊して原子核も無くなり、光子や電子のような素粒子に生まれ変わり、要するにモノと呼べるものは宇宙から全て消えると。そして、40宇宙年から100宇宙年の間、宇宙は「ブラックホールの時代」となり、100宇宙年になるとブラックホールも消えて「暗黒の時代」を迎えるそうです。イメージしにくいけれど、理論上はそうなる公算が高いのだろうか。

 「未来永劫」などとよく言いますが、宇宙論における「未来」というのは、我々が通常イメージする「未来」と100桁ぐらい差があるということなのでしょう。

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脳卒中からの脳科学者の回復の記録。まさに奇跡的。その回復要因をもっと考察して欲しかった。

奇跡の脳1.JPG奇跡の脳.jpg  奇跡の脳 文庫.jpg Jill Bolte Taylor Ph.D. in TED.jpg
奇跡の脳』['09年]『奇跡の脳: 脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)』['12年] Jill Bolte Taylor Ph.D. in TED

 著者のジル・ボルト・テイラー(Jill Bolte Taylor Ph.D.)はハーバードの第一線で活躍する脳科学者でしたが、1996年12月10日の朝、目覚めとともに脳卒中に襲われ、歩くことも話すことも、読むことも書くこともできず、記憶や人生の思い出が失われていくという事態に陥ります。

 彼女を襲った病気は、脳動静脈奇形(AVM)による脳出血(脳卒中は血管が詰まる「脳梗塞」と血管が破れて出血する「脳出血」に大別される)でしたが、本書は、そうした"心の沈黙"という形のない奈落の世界に一旦は突き落とされたものの、そこから完全に立ち直ることが出来た彼女が、後から長い時間をかけて自らの陥った状況を思い出し、科学者として分析し、回復の過程をまとめたものです(原題は"My Stroke of Insight A Brain Scientist's Personal Journey")。

 脳卒中に襲われた朝の自身の心理状態などが詳しく書かれていますが、その瞬間、これで脳の機能が失われていく様を内側から研究できると思ったというのがスゴイね。「時間が流れている」という感覚も、「私の身体の境界」という感覚も、脳の中で作り出された概念に過ぎないということを、それを失うことによって悟ってしまうというのも。

 脳卒中などによる機能障害は、最初はリハビリの効果が見られても6ヵ月ぐらいで症状が固着し、そこからはあまり目覚ましい回復は見られないというのが一般的であるのに対し、彼女の場合は年ごとに身体機能と知的活動を行う力を回復し、8年ぐらいかけて身体機能を元に戻すとともに、研究の場に完全復帰しています。

 そこには並々ではない努力はあったと思われるものの、脳の大手術を受けたこと、また障害の重さなどから言うと、やはり"奇跡的回復"と言っていいのでは(「身体の境界」の感覚が戻ったのは7年目だという)。

 彼女の場合、主にダメージを受けたのは左脳であったため、左脳が司っていた言語機能、理性や時間感覚が失われる一方で、右脳の芸術家的機能が活発化していったわけで、本書の後半は、「左脳マインド」に対する「右脳マインド」の話になっていて、プラグマティックであると同時に、ややスピリチュアルな雰囲気も。

 本書は全米で50万部売れ、彼女の「TED」(Technology Entertainment Design)でのプレゼンの様子はユーチューブで何百万回も視聴されたそうですが、それを見ると、この人、相当のプレゼンテーターというか、教祖的な雰囲気もあって、確かにアメリカ人には受けそうだなあ(但し、日本でも、NHK-BSハイビジョンで特番が組まれた。訳者・竹内薫氏の仕掛けもあったとは思うが)。

 彼女が陥った脳機能障害について、図説などを用いて丁寧に解説してあるのが親切で、一方、まさに"奇跡"であるところの回復過程についてはさらっと済ませてしまっていて、「努力」だけでこのような回復を遂げられるものではなく、何らかの特別な要因があったと思われるのですがそれにはさほど触れず、その後は「右脳マインド」の話になってしまっているのが、個人的にはやや不満。そうした"奇跡"が起きたことの「神秘」が、そのまま後半のスピリチュアリズムに受け継がれているといった感じでしょうか。

それでも、そうした「右脳マインド」の話にしても、体験者、しかも脳科学者が語っているだけに、凡百の啓蒙書などに書かれていることなどよりは、ずっと説得力はあったように思います。

【2012年文庫化[新潮文庫(『奇跡の脳: 脳科学者の脳が壊れたとき』)]】

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

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素材が"ごちゃまぜ"で、結果として、読後感の薄いものに...。

もしもあなたが猫だったら?.jpg 『もしもあなたが猫だったら?―「思考実験」が判断力をみがく (中公新書 1924)』 ['07年]

 同著者の『99・9%は仮説』('06年/光文社新書)が結構売れたのは、光文社ならではのタイトルの付け方の妙もあったかと思いますが、言っていることは割合まともで、実のところ、ある種の「科学エッセイ」に過ぎないと捉えたのですが、本書は、「思考実験」ということをテーマにしながらも、よりエッセイっぽくなっている感じがしました。

 学術的ないしマニアックな傾向にある「中公新書」にしては、まるで「岩波ジュニア新書」のような語り口で(文字も少し大きい)、この辺りから出版社サイドの「2匹目のドジョウ」狙いの意図が窺えなくもないのですが、読んでいくうちに、結構、著者の専門領域である物理学のテクニカル・タームも出てきて、ああ、やはり「中公新書」かと...。

 要するに、1週7日間に区切った構成で、後にいくほどレベルを上げているのでした(第6日に"マックスウェルの悪魔"、第7日に"アインシュタインの相対性理論"を取り上げている)。

 但し、間々に科学哲学的な話がエッセイ風に挿入され、それはそれで楽しいのですが、取り上げられている「思考実験」が、「重力がニュートンの逆二乗則からズレると宇宙はどうなるか?」「なぜ、この宇宙は、"6つの魔法数"がすべてうまく微調整されているのか?」といった物理学寄りのものと、「現代日本で親子を分離して教育したらどうなるだろうか?」「プラトンと共産主義が似ているのはなぜだろうか?」といった社会科学や哲学寄りのものが混在しているのが、ちょっと自分の肌には合いませんでした(単体では、それなりに面白い部分もありましたが)。

 こうしたテーマの並存(と言うか"ごちゃまぜ")は、前著『99・9%は仮説』でも見られたもので、著者の頭の中ではキチンと繋がっているのだろうけれども、自分自身は頭が硬いせいもあるのかも知れませんが、全体に統一がとれていないように思えてしまい、結果として、読後感も薄いものにならざるを得ませんでした。

 著者の書いたものや対談集は『99・9%は仮説』以前にも読んだことがあり、個人的には好みのサイエンス作家。ベストセラーの後に量産体制に入って、そのために1冊当たりの密度が落ちるということは、ファンとしては避けて欲しいものです。

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とりあげている「仮説」のレベルにムラがある。科学エッセイに近い「啓蒙書」?

99.9%は仮説 思い込みで判断しないための考え方.png 『99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方』 ['06年]

 自然科学においては、「法則」という名のものも含め、究極的には全てが仮説であるということはむしろ当たり前であって、「科学は全部『仮説にすぎない』」という本書は、特に新たなことを唱えているわけではなく、科学的理論というものが「仮説である」と認識するところに科学的思考の鍵があるということを言いたかったのではないでしょうか、そうした意味では、本書の趣意は「啓蒙」にあるように思えました。

 但し、著者の「白い仮説、黒い仮説」という表現にもあるように、仮説が実験や観察などにより事実との合致を検証され続けていくと、次第により正しい自然科学法則として認められるようになっていくわけであり、何でもかんでも相対化すればいいというものではなく、その中で、より客観的に確かなものをベースに、それを数学における「命題」や「定理」のように考え、次の理論段階へ進むことが、科学的進化の道筋であるということなのだと思います。

 冒頭の「飛行機がなぜ飛ぶのかまだよく理解されていない」という話は、掴みとしては大変面白いし、「仮説」がすぐに覆ることもあるというのはわかりますが(反証可能だからこそ「仮説」なのである)、「仮説」が覆る可能性がある例として「冥王星は惑星なのか」という問題をもってきていることには、少し違和感がありました(実際、本書にあるIAU国際天文連合の「冥王星が惑星から降格されることはない」という声明は、本書刊行の半年後に、IAU自体がこれを覆して、冥王星を「準惑星」に降格したのであり、時期的にはドンピシャリの話題ではあったが)。

 これって、天文学の話というより、天文学会の中の話であるように思え、それまでにも、仮説が覆った例として「絶対に潰れないと思われた山一證券があという間に潰れた」などといった例を挙げていて、この話と、冥王星の話と、例えば最後にあるアインシュタインの相対性理論も「仮説」に過ぎないという話は、同じ「仮説」でも、その意味合いのレベルが異なるように思えました。

 サブタイトルから、何かビジネスに役立つ思考に繋がる「啓蒙書」かと思って買った人もいるかも知れませんが、どちらかというと、一般の人に科学に関心を持ってもらうための科学エッセイに近い「啓蒙書」という気がしました。

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人間とは何か。それは脳と遺伝子に尽きる!(養老孟司)

脳+心+遺伝子VSサムシンググレート 2.jpg脳+心+遺伝子.jpg              脳とサムシンググレート 5次元文庫.jpg
脳+心+遺伝子VS.サムシンググレート―ミレニアムサイエンス 人間とは何か』('00年/徳間書店)/『脳とサムシンググレート』 ['09年/5次元文庫(徳間書店)]

 村上和雄(分子生物学)・茂木健一郎(脳科学)・養老孟司(解剖学)の3人の学者の遺伝子・心・脳などについての自説展開と対談をまとめたもので、何だか全員の考えを取り込んだようなタイトル。

 村上氏が遺伝子以外の情報で遺伝子のスイッチがON/OFFとなると言っているのは今や通説です。
 ただ、その遺伝子を支配するものを〈サムシンググレート〉としていることに対して、養老氏は、神を考えたがるのは人間の脳の癖だと冷ややか(?)。
 茂木氏の〈クオリア説〉にも、養老氏は「皆さん、これ納得できる?」みたいな感じです。
 人間を神経系(脳)と遺伝子系という2つの情報系に分けて捉える養老氏の考えが、比較的すっきりしているように思えました。

 随所に興味深い話が多く、公務員であるため上限規制があるという国立大学の学長の給料の話(独立行政法人化され事情は変わった?)なども個人的にはそうだったのですが、話題を拡げすぎて全体にまとまりを欠いた感じもします。

《読書MEMO》
●村上和雄(分子生物学者・筑波大名誉教授)...サムシンググレート(遺伝子を支配している何かがある)。遺伝子以外の情報で遺伝子のスイッチがON/OFに。
●茂木健一郎(脳科学者)...クオリア(脳という物質になぜ感覚が宿るか?)
●養老孟司...人間は神経系(脳)と遺伝子系(免疫系など)の2つの情報系を持つ。当面は2つは違うものとすべき。ヒトゲノムや遺伝子操作の研究は、実は「脳一元論」「脳中心主義」。脳は脳に返せ。
●〔養老〕サムシンググレートは神の類似概念。それを考えるのは「脳のクセ」
●〔村上〕東大や京大の学長の給料なんて知れている。公務員だから(135p)
●〔茂木〕永井均、池田晶子が面白い(242p)
●〔養老〕人間とは何か。それは脳と遺伝子に尽きる(330p)/脳は遺伝子が作ったが、遺伝子から独立しかかっている(338p)

 【2009年文庫化[5次元文庫(『脳とサムシンググレート』)]】

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