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渋谷TOEIの閉館最終上映作品は、「暴力映画の巨匠」深沢欣二監督の復活作。

「バトル・ロワイアル」2000d.jpg「バトル・ロワイアル」000.jpg
バトル・ロワイアル [DVD]」藤原竜也/柴咲コウ
 新世紀の初め、経済危機により完全失業率15%、失業者1,000万人を突破。大人を頼れない子供達は暴走し、学級崩壊や家庭崩壊が各地で発生。少年犯罪は激増し、不登校児童・生徒は80万人。校内暴力による教師の殉職者は1,200人を突破。自信を失くし子供達を恐れた大人たちは、やがて新世紀教育改革法(通称「BR法」)を「バトル・ロワイヤル」b.jpg定める。誰もが恐れる「死」を利用し、恐怖による支配により大人の威厳を取り戻す目的で施行されたこの法律は、年に一度全国の中学校3年生の中から選ばれた1クラスに、コンピュータ管理された脱出不可能な無人島で、制限時間の3日の間に最後の一人になるまで殺し合いを「バトル・ロワイヤル」01.jpg強いるという法律だ。(以下、本編あらすじ)今回BR法に選ばれたのは、城岩学園中学3年B組の生徒たちだった。修学旅行のためにバスに乗ったはずが催眠ガスで眠らされ、無人島に連れてこられた生徒達は、元担任のキタノ(ビートたけし)によりバトル・ロワイアルについて説明される中、見せしめに生徒2名が殺害される。3日間のタイムリミット内に最後の一人になるまで殺し合わなければ、生徒全員に嵌められた首輪が爆発する。少ない食料と水、地図・コンパス・懐中電灯、ランダムで選ばれた様々な武器や道具などが生徒全員に手渡され、狂気のデスゲームが開始される。出発地点から出た直後に、主人公の七原秋也(藤原竜也)は「バトル・ロワイヤル」4.jpg他の生徒から襲われる。極限状態に追い込まれた生徒たちは、様々な行動に出る。昨日までの友を殺害する者、諦めて愛する人と死を選ぶ者、力を合わせて事態を回避しようとする者。自分から志願してゲームに参加する転校生の桐山和雄(安藤政信)に殺戮される者。そんな中、七原秋也は、同じ孤児院で育った親友・国信慶時(小谷幸弘)が仄かな想いを寄せていた中川典子(前田亜季)を守るため、武器を取ることを決意。当て馬としてゲームに参加した転校生の川田章吾(山本太郎)と共に島からの脱出を図る―。

上左から山本太郎・安藤政信・柴咲コウ・栗山千明

渋谷TOEI2.jpg 深作欣二(1930-2003/72歳没)監督の2000年公開作で、2000年度・第43回「ブルーリボン賞」作品賞受賞作(原作は高見広春の同名小説『バトル・ロワイアル』)。個人的には、劇場ではまだ観ていなかったのですが、宮益坂下の「渋谷TOEI」が今月['22年12月]4日(日)に営業を終了し、69年の歴史に幕を閉じるに際して、最終日に「鉄道員(ぽっぽや)」と「バトル・ロワイアル」が特別上映されることになったので観に行きました(料金は各500円)。

 中学生が殺し合うという衝撃的なテーマと過激な暴力描写でR15指定になり、青少年へ悪影響を及ぼすとして国会でも議論になり、深作欣二監督は「中学生にこそ見てもらいたい」と反発、その注目度の高さから、結果、興行収入31億円のヒットとなり、同館でも直営館としてNo.1の興収を稼ぎ、ラストシーンが渋谷のスクランブル交差点だったことから、ラストを飾る作品に選ばれたそうです。渋谷TOEIでのラストショー上映に際しては、深作欣二監督の長男で同作の脚本・プロデューサーの深作健太氏と、同じくプロデューサーの片岡公生氏のトークショーがありました。

 映画公開当時、深作親子らは、前日の夜に車で「丸の内東映」(当時)に行ったそうで、健太氏は「劇場を多くの人が囲んでいたのを見た時の親父の顔が忘れられない」と懐かしんでいましたが、その時、「渋谷東映」(当時)の方が、道路にまで人の列が溢れて「大変なことになっている」との連絡が入ったそうです。

 暴力を描くことを通して暴力の虚しさを表現するという意味では、「仁義なき戦い」シリーズ以上に成功しているかもしれず、ヤクザ映画の衰退で低迷していた深沢欣二監督の復活作となりました。先にも述べたようにR15指定であったので、中学生が主人公ながら現実の中学生は観られなかったわけですが、ブラック・ファンタジーと言うかある種の寓話であって、若年層が観た方が自分に近いところでいろいろ考えさせられる作品ではないでしょうか。

 海外でも、「バラエティ」誌は、「深作が減速しているという兆候はない」、「日本の暴力映画の巨匠としての地位に復帰した深作欣二の、彼の最も凶悪でタイムリーな映画のひとつ」と述べ、スタンリー・キューブリックの「時計じかけのオレンジ」('71年/英・米)と比較しています。

クエンティン・タランティーノ.jpg 海外と言えば、映画監督のクエンティン・タランティーノが、この作品を「過去20年間で見た中で最高の映画」、「ここ数十年で最も影響力のある映画の一つと考えている」として高く評価していて、同監督の映画「キル・ビル」('03年/米)(この作品に出ている栗山千明が出演している)が影響を受けているとされています。

 メイキング映像では、タンクトップ姿の深作欣二が動き回っていて、とても70歳には見えないエネルギッシュな印象でした。復活作と言えるこの映画の公開から僅か2年後に、前立腺ガンの脊椎転移により亡くなったのが惜しまれます。

「バトル・ロワイアル」5.jpg 当時18歳だった藤原竜也は、1997年に蜷川幸雄演出の舞台「身毒丸」主役オーディションでグランプリを獲得し俳優デビューしていましたが、深作欣二監督から「演出は蜷川より俺の方が上だからな」と言われたそうです。監督ってそれぐらい自信がないとダメなのでしょう。当時16歳だった栗山千明(石井隆監督のバイオレンス・アクション映画「GONIN」('95年/松竹)に10歳で出ていた)、18歳だった柴咲コウ、25歳だった安藤政信、同じく25歳だった山本太郎・現参院議員らの中学生役というのも見どころです(童顔の藤原竜也がいちばん変わっていないか)。

「バトル・ロワイアル」42.jpg それにしても、男子生徒21人、女子生徒21人、計42人というのは2000年当時標準的だったのだなあ。今は中学校の1クラス平均は29人と、30人を切っているようです。

渋谷TOEI3.jpg「バトル・ロワイアル」●制作年:2000年●監督:深作欣二●製作:片岡公生/深作健太●脚本:深作健太●撮影:柳島克己●音楽:天野正道●原作:高見広春●時間:114分(劇場公開版)・122分(特別篇)●出演:藤原竜也/前田亜季/山本太郎/栗山千明/柴咲コウ/安藤政信/小谷幸弘/塚本高史/美波/山村美智子/谷口高史/宮村優子/ビートたけし●公開:2000/12●配給:東宝●最初に観た場所:渋谷TOEI1(22-12-04)(評価:★★★★)

渋谷TOEI(2022年12月4日)

渋谷東映(渋谷TOEI) 東映初の直営劇場「渋谷東映」と「渋谷東映地下」として1953年に開業したが、1990年9月16日にいったん閉館し、その後、同地に建て替えられた「渋谷東映プラザ」内に1993年2月20日「渋谷東映」(7階)と「渋谷エルミタージュ」(9階)が270席と189席の2スクリーンでオープン(2004年10月9日~「渋谷TOEI1」(7階)・「渋谷TOEI2」(9階))。2022年12月4日閉館。
渋谷TOEI01.jpg

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映画を観て、改めて疑問に思った点や、新たに納得できた点があった。

「沈黙のパレード」2022.jpg「沈黙のパレード」01.jpg 「沈黙のパレード」02.jpg
「沈黙のパレード」(2022)福山雅治/柴咲コウ/北村一輝
「沈黙のパレード」03.jpg 物理学者・湯川学(福山雅治)の元に、警視庁捜査一課の刑事・内海薫(柴咲コウ)が相談に訪れる。行方不明になっていた女子学生が、数年後に遺体となって発見された。内海によると容疑者は、湯川の友人で内海の先輩刑事・草薙俊平(北村一輝)がかつて担当した菊野商店街の料理店「なみきや」の店主・並木祐太郎(飯尾和樹)と真智子(戸田菜穂)夫妻の長女・並木佐織(川床明日香)殺害事件で、完全黙秘を貫き無罪となった男・蓮沼寛一(村上淳)。蓮沼は今回も同様に完全黙秘し、証拠不十分で釈放され、被害者の住んでいた町に戻って来た。町全体を覆う憎悪の空気...。そして、夏祭りのパレード当日、その蓮沼が殺される。女子学生を愛していた、家族、仲間、恋人...全員に動機があると同時に、全員にアリバイがあった―。

東野 圭吾 『沈黙のパレード』.jpg 原作『沈黙のパレード』('18年/文藝春秋)はガリレオシリーズ第9作で、長編としては第4作。同シリーズではシリーズ第3作『容疑者Xの献身』('05年/文藝春秋)が'08年に、シリーズ第6作『真夏の方程式』('11年/文藝春秋)が'11年に映画化されていて、3度目の映画化作品です(何れも監督は西谷弘)。因みに原作は、「週刊文春ミステリーベスト10」(国内部門)で、作者の作品としては'85年の『放課後』、'99年の『白夜行』、'05年の『容疑者xの献身』、'09年の『新参者』に続いて5度目の第1位となっています。

「沈黙のパレード」p2.jpg 改めて容疑者の数が多いと思いましたが、映画のパンフレットを見たら、作者はアガサ・クリスティの『オリエント急行殺人事件』を意識したとあり、ナルホドと思いました。ある種、倒叙法的であり、主眼も謎解きではなく、事件に関わった人々の心情に置かれているように思いました。ただし、原作にある多くの登場人物のひとり一人を深掘りし、過去と現在が交錯する内容を全部映画に反映させるには時間的制約があり、その代わり、断片的な描写を細かく入れる形で人間関係や過去と現在の部分を圧縮する手法を取っています。

「沈黙のパレード」p3.jpg 『オリエント急行殺人事件』とちょっと違うなと思ったのは、いわば"チーム・リーダー"がメンバーをコントロール仕切れなかった点で、事態の急変によりリーダーが計画中止を決断するも、思い入れの強い実行犯が暴走してしまったということだったのだなあと改めて思いました。

 ほかに改めてこれどうなの?と思ったのは、過去の出来事で、並木佐織(川床明日香)と新倉留美(檀れい)が公園で揉み合い、並木佐織が頭を打って倒れ、新倉留美は気が動転してその場から走り去り、線路に飛び込もうとしてフェンスを登れず転倒し、正気に戻って公園に戻ったら並木佐織がいなかったという―本当に自分が殺害したなら死体はそこにあるわけで、そこに死体が無いということは生きている可能性があるわけだから、なぜ警察に届けなかったのかなあと(結果的に遺棄致死傷罪になることを怖れた?)。

 一方、原作を読んで疑問に思ったのが映画を観て納得したのは、原作を読んだ時、「普通の部屋」においてこんな理科実験的な仕掛けで犯行を完成させることが出来るのかなあと思ったのが(この点が個人的には妙に引っ掛かった)、映画で見ると本当に穴蔵みたいな部屋で、これなら中毒死もありかなと思った点です。映画「真夏の方程式」('11年)の"ペットボトル・ロケット実験"もそうでしたが、映像化作品を観て納得できた点もありました。

 一応、原作が既読でありながらも最後まで一定の集中をもって観ることができたので、評価は〇としました(甘いかな)。

「沈黙のパレード」p1.jpg「沈黙のパレード」p4.jpg「沈黙のパレード」●制作年:2022年●監督:西谷弘●製作:鈴木吉弘/大澤恵/山邊博文●脚本:福田靖●撮影:山本英夫●音楽:菅野祐悟/福山雅治●原作:東野圭吾●時間:130分●出演:福山雅治/柴咲コウ/北村一輝/飯尾和樹/戸田菜穂/田口浩正/酒向芳/岡山天音/川床明日香/出口夏希/村上淳/吉田羊/檀れい/椎名桔平●公開:2022/09●配給:東宝●最初に観た場所:TOHOシネマズ日比谷(22-09-26)(評価:★★★☆)

TOHOシネマズ日比谷.jpgTOHOシネマズ日比谷(2018年オープン)
スクリーン 座席数(車椅子用) スクリーンサイズ デジタル音響
SCREEN 1 456+(3) 19.8×8.3m TCX® カスタムオーダーメイドスピーカー
SCREEN 2 98+(2) 8.2×3.4m デジタル5.1ch
SCREEN 3 98+(2) 8.1×3.4m デジタル5.1ch
SCREEN 4 339+(2) IMAX®レーザー イマーシブ・サウンド
SCREEN 5 395+(2) 16.5×6.9m TCX® DOLBY ATMOS(対応作品のみ) VIVEオーディオ

TOHOシネマズ日比谷2.jpgSCREEN 6 98+(2) 6.3×2.6m スカルプトサウンド
SCREEN 7 151+(2) 11.8×4.9m VIVEオーディオ
SCREEN 8 120+(2) 8.8×3.7m VIVEオーディオ
SCREEN 9 257+(2) 12.9×5.4m スカルプトサウンド
SCREEN 10 98+(2) 8.5×3.6m デジタル5.1ch
SCREEN 11 98+(2) 9.1×3.8m デジタル5.1ch
SCREEN 12 489+(2) 15.0×6.2m VIVEオーディオ
SCREEN 13 106+(2) 7.1×4.1m デジタル5.1ch
13スクリーン 2,803+(27)

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あり得ない話なのだが、リアルな描写と凝ったプロットで引き込まれた。

月の満ち欠け 佐藤正午2.jpg月の満ち欠け 佐藤正午3.jpg月の満ち欠け.jpg   「月の満ち欠け」2022.jpg 
月の満ち欠け 第157回直木賞受賞』(2017/04 岩波書店)  映画「月の満ち欠け」(2022)
佐藤正午 氏
佐藤正午 .jpg 2017(平成29)年上半期・第156回「直木賞」受賞作。

 八戸在住で60歳過ぎになる小山内堅は、東京駅のホテルで、18歳で亡くなった娘・小山内瑠璃の高校時代の親友だった女優の縁坂ゆいと、その娘・るりの親子に会う。「どら焼き、嫌いじゃないもんね。あたし、見たことあるし、食べてるとこ。一緒に食べたことがあるね、家族三人で」と初対面の少女・縁坂るりは小山内に向かって言い放つ。彼女は「あたしは、月のように死んで、生まれ変わる」と言うのだ。目の前にいるこの7歳の娘が、いまは亡きわが子だというのか?小山内を含めた3人の男と転生を繰り返す少女の、30余年に及ぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく―。

小説の読み書き.jpg 1955年生まれの作者(佐世保在住)にとって、デビューから34年目での「直木賞」受賞作で、受賞時の年齢61歳10ヵ月というのは歴代第7位ですが、かなり高齢に感じられるのは、やはり既に作家として名を成しているためでしょうか。岩波書店からは『小説の読み書き』('06年/岩波新書)という本も出していたりして、内容的には小説の読み方書き方を人に押し付けるものではないですが、こうした本を著すというのはそれなりに作家として出来上がっているということではないかと思います。デビュー作以来32年ぶりの文学賞受賞作が前作の『鳩の撃退法』('14年/小学館)(山田風太郎賞)ということで、ここにきて"賞づいた" 感じもします(因みに『鳩の撃退法』の主人公は直木賞作家だったが今は小説を書いていない男)。そして、本作『月の満ち欠け』は実際面白かったです。この"面白さ"(言い換えれば"エンタメ性")は、かなり戦略的に練られた効果であるようにも思いました。
小説の読み書き (岩波新書)』['06年]

 人は何度も生まれ変わるという輪廻転生をモチーフにしていますが、作者によれば、着想はナボコフの小説「ロリータ」で、中年男が少女に恋をする話の逆で行こうとし、そのままだと嘘っぽいので、それに「生まれ変わり」の設定を加えたとのことです。シュールで現実にはあり得ない話ですが、リアルな描写を積み重ねていく文章の上手さと、複雑な設定が組み合わさったプロットの巧みさで、引き込まれるように読み進むことができました。

 直木賞の選評では、9人の選考委員の内、浅田次郎、伊集院静、北方謙三、林真理子の各氏が強く推したようで、4人が◎だと、これでほぼ決まりという感じでしょうか。浅田次郎氏が「熟練の小説である。抜き差しならぬ話のわりには安心して読める大人の雰囲気をまとっており、文章も過不足なく丁寧で、どれほど想像力が翔いてもメイン・ストーリーを損うことがない」とし、伊集院静氏が「本来、小説には奇妙、摩訶不思議な所が備わっているものであるが、これを平然と、こともなげに書きすすめられる所に、作者の力量、体力を見せられた気がする」と評しており、この両氏の選評がしっくりきました。ストーリーでどこか破綻しているところはないかとも思いましたが、積極的に推さなかった桐野夏生氏さえ、「構成は怖ろしく凝っていて巧みだ」としているので、読んでいて時系列的な経緯が掴みにくかった部分は多少ありましたが、これでストーリー破綻はないのだろうなあ。

 気がついてみたら、語りの時間は東京駅付近で午前10時半に始まり午後1時すぎまでの3時間弱の間に収まっていて、この中に34年強の物語が詰まっているという構成も上手いと思いましたが、一方で、そうなると、最後の章が必要だったのかどうか(蛇足ではなかったか)と迷うところです。北方健三氏は、最終章と言うより最後の一行について、「本来ならば切れ味と言われるところに、微妙な作為を感じてしまったのだが、それが欠点だという確信は持てなかった」としています。

岩波文庫的 月の満ち欠け 文庫.jpg 『小説の読み書き』でも川端康成の『雪国』、志賀直哉の『暗夜行路』、森鴎外の『雁』といった文学作品を取り上げていて、ミステリっぽい作品がありながらもどちらかと言うと文芸作家というイメージもあったのですが、本作も、岩波書店から出されているせいもあるかもしれませんが、文芸小説っぽい雰囲気もあります。因みに本作は、岩波書店から刊行された本としては、芥川賞・直木賞を通じて初の受賞作となります(岩波書店としてもかなり嬉しかったのか、2019年の文庫化に際して、岩波文庫を模したカバー装填を施す"遊び"を行ったりしている)

 読んでみて、改めて、この作家ってストーリーテラーだったのだなあと思いました。帯に「二十年ぶりの書き下ろし」「新たな代表作」とあるだけのことはあって、十分に"凝って"いました。作者は、直木賞に決まって「うれしいより、ほっとした」とのこと。但し、授賞式は欠席しています(その理由には、「(佐世保から長崎までの)長旅で仕事ができなくなるのでは、元も子もない」と体調面での不安を挙げている)。

高田馬場・稲門ビル4.jpg 「3人の男」の小山内堅以外のあとの2人は三角哲彦と正木竜之介という男ですが、三角哲彦の若い頃の物語で、高田馬場の東映パラスと早稲田松竹が出て来るのが懐かしかったです。"懐かしかった"と言っても早稲田松竹はまだありますが、稲門ビル4階にあった東映パラスは1999(平成11)年頃閉館し、今は居酒屋「土風炉」になっています。

稲門ビル

「月の満ち欠け」.jpg
(●2002年12月、廣木隆一監督による映画化作品公開。

「月の満ち欠け」 相関図.jpg「月の満ち欠け」01.jpg 仕事も家庭も順調だった小山内堅(大泉洋)の日常は、愛する妻・梢(柴咲コウ)と娘・瑠璃(菊池日菜子)のふたりを不慮の事故で失ったことで一変する。深い悲しみに沈む小山内のもとに三角哲彦(目黒蓮)と名乗る男が訪ねてくる。事故に遭った日、小山内の娘が面識のないはずの自分に会いに来ようとしていたこと、そして彼女は、かつて自分が狂おしいほどに愛していた「瑠璃」(有村架純)という女性の生まれ変わりなのではないか、と告げる―。

「月の満ち欠け」02.jpg 山内堅役に2022年NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で源頼朝を演じた大泉洋、妻・梢役に2017年の「おんな城主 直虎」で井伊直虎を円演じた柴咲コウ。そう言えば、有村架純(2017年前期のNHK連続テレビ小説「ひよっこ」でヒロイン役を演じた)もまた、2023年の「どうする家康」の築山殿(瀬名)役でNHK大河ドラマに初出演する。有村架純と目黒蓮のストーリーをもっと見たかったという人もいたようだが、そもそも転生物語における3代分を1つの映画の間尺に収めるのに苦心している印象を受けた。そのくせラストで、亡くなった妻・梢も女の子に転生していることを仄めかしたのは、ちょっとやりすぎの印象も。原作の、ファンタジーでありながらも醸されていた文学的雰囲気も薄まった。評価は原作より星1つ減の★★★☆。) 

追記:1980年代の高田馬場がCGで再現されていたのは良かった。黒川紀章が設計した「BIG BOX」は1974年の開業当時からベースは赤だった(今は青)。隣の「F1ビル」2階の芳林堂書店はまだあるはずだ。早稲田松竹は、実際に今あるものを80年代風の装飾をして撮影に挑んだのだそうだ。「おもいでの夏」('71年/米)などがかかっているようだ。)
「月の満ち欠け」高田馬場.jpg

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「月の満ち欠け」6.jpg「月の満ち欠け」 4.jpg「月の満ち欠け」●制作年:2022年●監督:廣木隆一●製作:新垣弘隆/遠藤日登思/矢島孝/宇高武志●脚本:橋本裕志●撮影:水口智之●音楽:FUKUSHIGE MARI●原作:佐藤正午●時間:128分●出演:大泉洋/有村架純/目黒蓮(Snow Man)/伊藤沙莉/田中圭/菊池日菜子/寛一郎/波岡一喜/丘みつ子/柴咲コウ●公開:2022/12●配給:松竹●最初に観た場所:有楽町・丸の内ピカデリー2(2階席)(22-12-20)(評価:★★★☆)

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【2019年文庫化[岩波文庫的]】

《読書MEMO》
●2023年に早稲田松竹で、「月の満ち欠け」の上映に寄せて、劇中で三角(目黒蓮)と瑠璃(有村架純)が再会するきっかけになった作品「アンナ・カレーニナ」と、二人が劇中で早稲田松竹で鑑賞する「東京暮色」を上映。さらに、原作でも瑠璃のモチーフとなっているアンナ・カリーナ主演、ジャン=リュック・ゴダール監督作「女と男のいる舗道」がレイトショー上映された。
『月の満ち欠け』と巡る名画座・早稲田松竹.jpg

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予定調和だが、それなりに楽しめた。映画の方は「スーパーの女」などと比べるとやはり...。
県庁の星2.jpg  県庁の星 桂.jpg 県庁の星 dvd.jpg県庁の星 織田 柴崎2.jpg  スーパーの女.jpg
県庁の星 (2) (ビッグコミックス)』 (全4巻) 桂 望実『県庁の星』「県庁の星 スタンダード・エディション [DVD]」柴咲コウ・織田裕二 「伊丹十三DVDコレクション スーパーの女

 Y県のエリート県庁職員である野村聡は、民間との人事交流プロジェクトに選ばれ、スーパー富士見堂で1年間の研修を受けることになるが、最初は役員根性・県庁マインド丸出しだった彼が、全く肌違いの民間の仕事を通して変質し、真の"スーパー改革"を実現するに至る―。

 公務員って、民間で言う「出向」のことを「研修」と言ってるみたいですね(「研修(出向)」と言っても、労務提供はしているわけだが、民間の「出向」と異なり、労災の請け元は官公庁のまま)。

 ということで、実質的なマンガの舞台は県庁内では無く、前半部分(1巻・2巻)はスーパーマーケット。後半部分(3巻・4巻)は、スーパーの経営を建て直した彼が、第3セクター赤字テーマパークを"潰す"ために送り込まれますが、前半からの流れで、結果はともかく、彼がどう立ち回るかは大体予想がついてしまいます。

 官庁の上層部や主人公の同期の役人の描き方はパターン化していて、事の展開もかなりご都合主義ですが、それでも、主人公とその教育係であるシングルマザーのパート女性とのやりとりも含め、結構楽しく読めました。"ギャグ的"に面白いというか、テーマパークに赴任した初日、「名刺を猿に配って終了」には思わず噴きました。

県庁の星 ポスター.jpg県庁の星1.jpg '05(平成17)年から'07(平成19)年にかけて「ビッグコミックススペリオール」に連載されたコミックで(桂望実の原作を杉浦真夕が脚色)、連載途中の'06年に織田裕二、柴咲コウ主演で映画化されていますが(実際に制作されたのは'05年。「白い巨塔」などのTVドラマを手掛けた西谷弘の映画初監督作品)、織田裕二って本気で演技してそれが丁度マンガ的になるようなそんな印象があり、こうした作品にはピッタリという感じでした。 柴咲コウ/織田裕二

スーパーの女.jpgスーパーの女2.jpg 但し、スーパーを舞台にした作品では、伊丹十三(1933-1997)監督、宮本信子主演の「スーパーの女」('96年/東宝)があるだけに、それと比べるとインパクトは劣るし、「スーパーの女」が食品偽装問題など今日的なテーマを10年以上も前から先駆的に扱っていたのに対し、「県庁の星」は映画もマンガもその部分での突っ込み度は浅く、特に映画は単なるラブ・コメになってしまったきらいも無きにしも非ずという感じ。

マルサの女.jpgマルサの女 1987.jpg 「お葬式」('84年/ATG)で映画界に旋風を巻き起こした伊丹十三監督でしたが、個人的には続く第2作タンポポ」('85年/東宝)と第3作「マルサの女」('87年/東宝)が面白かったです(「お葬式」と「マルサの女」はそれぞれ第58回と第61回のキネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれている)。「マルサの女」は、山崎努がラブホテル経営者"権藤"を演じていますが、彼が新人として出演した「天国と地獄」('63年/黒澤プロ・東宝)で三船敏郎が演じていた会社社長の苗字も"権藤"でした。巧妙な手口で脱税を行う経営者らとそれを見破る捜査官たちとの虚々実々の駆け引きをテンポよく描いており、ラストに抜けてのスリリングな盛り上げ方はなかなかのものでした。

マルサの女2 三國.jpgマルサの女 .jpg それまであまり世に知られていなかった国税査察部の捜査の様子をリアルに描いたということで社会的反響も大きく、翌年には「マルサの女2」('88年/東宝)も作られましたが、山崎努に続いてこちらも、宗教法人を隠れ蓑とし巨額の脱税を企てようとする"鬼沢"に大物俳優・三國連太郎マルサの女2 dvd.jpgを配し、これもまた脇役陣を含め演技達者が揃っていた感じでした。

 伊丹十三監督は「前作はマルサの入門編」であり、本当に描きたかったのは今作であるという伊丹十三.jpg趣旨のことを後に述べていますが、確かに、鬼沢さえも黒幕に操られている駒の1つに過ぎなかったという展開は重いけれども、ラストは前作の方がスッキリしていて個人的には「1」の方がカタルシス効果が高かったかなあ。監督自身は、高い娯楽性と巨悪の存在を一般に知らしめることとの両方を目指したのでしょう。
伊丹十三(1933-1997/享年64(自死))

お葬式 映画 dvd.jpg 確かに「お葬式」で51歳で監督デビューし、高い評価を得たのは鮮烈でしたが、作品の質としてはお葬式 映画 00.jpg3作目・4作目に当たる「マルサの女」「マルサの女2」の方が密度が濃いように思いました。それが、この「マルサの女1・2」以降は何となく作品が小粒になっていたような気がしたのが、この「スーパーの女」を観て、改めて緻密かつパワフルな伊丹作品の魅力を堪能できた―と思ったら、この「スーパーの女」を撮った翌年に伊丹十三は自殺してしまった。残念。
中央:菅井きん(日本アカデミー賞 最優秀助演女優賞)(1926-2018.8.10/享年92
伊丹十三DVDコレクション お葬式

企業家サラリーマン.gif 「スーパーの女」の原作は、『小説スーパーマーケット』(『小説流通産業』('81年))で、作者の「安土敏」こと荒井伸也氏は元サミット社長であり、この人の『企業家サラリーマン』('86年/講談社、'89年/講談社文庫)は、海外飲食店グループを指揮する男性と、新しい時代の経営者を目指す女性たちの生き方を描いた作品で、作者が現役役員の時点でこお小説を書いているということもあってシズル感があり面白かったですが、こちらもテレビドラマ化されているらしい。どこかで再放送しないものかなあ。

企業家サラリーマン (講談社文庫)

酒井和歌子(K県知事・小倉早百合)/石坂浩二(K県議会議長・古賀等)
「県庁の星」酒井和歌子石坂浩二2.jpg県庁の星9.jpg「県庁の星」●制作年:2006年●監督:西谷弘●製作:島谷能成/「県庁の星」井川2.jpg亀山千広/永田芳男/安永義郎/細野義朗/亀井修朗●脚本:佐藤信介●撮影:山本英夫●音楽:松谷卓●原作:桂望実「県庁の星」●時間:131分●出演:織田裕二/柴咲コウ/佐々木蔵之介/和田聰宏/紺野まひる/奥貫薫/井川比佐志/益岡徹/矢島健一/山口紗弥加/ベンガル/酒井和歌子/石坂浩二●公開:2006/02●配給:東宝(評価:★★★)

井川比佐志(スーパー「満天堂」店長・清水寛治)
柴咲コウ in「県庁の星」('06年/東宝)/「おんな城主 直虎」('17年/NHK)

県庁の星 柴咲コウ.jpg おんな城主 直虎 .jpg

中央:津川雅彦(1940-2018.8.4/享年78
スーパーの女ド.jpgスーパーの女 9.jpg「スーパーの女」●制作年:1996年●監督・脚本:伊丹十三●製作:伊丹プロダクション●撮影:前田米造/浜田毅/柳島克巳/高瀬比呂志●音楽:本多俊之●原作:安土敏「小説スーパーマーケット」●時間:127分●出演:宮本信子/津川雅彦/三宅裕司/小堺一機/伊東四朗/金田龍之介/矢野宣/六平直政/高橋長英/あき竹城/松本明子/山田純世/柳沢慎吾/金萬福/伊集院光●公開:1996/06●配給:東宝(評価:★★★★)

お葬式 映画01.jpgお葬式 映画 02.jpg「お葬式」●制作年:1984年●監督・脚本:伊丹十三●製作:岡田裕/玉置泰●撮お葬式 大滝435.jpg影:前田米造●音楽:湯浅譲二●時間:124分●出演:山笠智衆 お葬式.jpgお葬式 笠智衆.jpg崎努/宮本信子/菅井きん/財津一郎/大滝秀治/江戸家猫八/奥村公廷/藤原釜足/高瀬春奈/友里千賀子/尾藤イサオ/岸部一徳/笠智衆/津川雅彦/佐野浅/小林薫/長江英和/井上陽水●公開:1984/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋日勝文化 (85-11-04)(評価:★★★☆)●併映「逆噴射家族」(石井聰互)
[左]笠智衆(僧侶)/[下]高瀬春奈(侘助の愛人・良子。侘助もだだをこね、雑木林で性交する)/小林薫(火葬場職員・焼いている遺体が生き返る夢を見ることがあると吐露する)
お葬式 高瀬春奈.jpgお葬式 高瀬春奈2.jpg 「お葬式」小林薫2.jpg

菅井きん in「生きる」('52年)/「ゴジラ」('54年)/「幕末太陽傳」('57年)/「天国と地獄」('63年)/「お葬式」('84年)
菅井きん 生きる .jpg 菅井きん ゴジラ.jpg 菅井きん 幕末太陽傳 南田洋子  左幸子.jpg 菅井きん 天国と地獄.jpg お葬式8e-s.jpg 菅井きん.jpg
Marusa no onna (1987)
Marusa no onna (1987) .jpgマルサの女  .jpgマルサの女AL_.jpg「マルサの女」●制作年:1987年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:前田米造●音楽:本多俊之●時間:127分●出演:宮本信子/山崎努津川雅彦/大地康雄/桜金造/志水マルサの女347.jpgマルサの女 岡田ド.jpgマルサの女 津川.jpg里子/松居一代/室田日出男/ギリヤーク尼ヶ崎/柳谷寛/杉山とく子/佐藤B作/絵沢萠小沢栄太郎 マルサの女.jpg子/山下大介/橋爪功/伊東四朗/小沢栄太郎/大滝秀治/芦田伸介/小林桂樹/岡田茉莉子/渡辺まちこ/山下容里枝/小坂一也/打田親五/まる秀也/ベンガル/竹内正太郎/清久光彦/汐路章/上田耕一●公開:1987/02●配給:東宝
右端:小沢栄太郎
ジョイシネマ3 .jpg新宿ジョイシネマ3.jpg●最初に観た場所:新宿シネパトス (88-03-12)(評価:★★★★)●併映「マルサの女2」(伊丹十三)

新宿シネパトス (1956年3月「新宿名画座」オープン→1987年5月「新宿シネパトス」→1995年7月「新宿ジョイシネマ5」→1997年11月「新宿ジョイシネマ3」)

2009(平成21)年5月31日閉館 

「マルサの女」ポスター
マルサの女 ポスター.jpg

「マルサの女2」三國連太郎/上田耕一
マルサの女2 三國連太郎_1.jpgマルサの女2 .jpg佐渡原:丹波哲郎.jpg「マルサの女2」●制作年:1987年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:前田米造●音楽:本多俊之●時間:127分●出演:宮本信子/津川雅マルサの女2 笠.jpg彦/三國連太郎丹波哲郎/大地康雄/桜金造/加藤治子/益岡マルサの女2」.jpg徹他/マッハ文朱/加藤善博/浅利香津代/村井のりこ/岡本麗/矢野宣/笠智衆/上田耕一/中村竹弥/小松方正●公開:1988/01●配給:東宝●最初に観た場所:新宿シネパトス (88-03-12)(評価:★★★☆)●併映「マルサの女」(伊丹十三)

《読書MEMO》
映画に学ぶ経営管理論2.jpg●松山 一紀『映画に学ぶ経営管理論<第2版>』['17年/中央経済社]

目次
第1章 「ノーマ・レイ」と「スーパーの女」に学ぶ経営管理の原則
第2章 「モダン・タイムス」と「陽はまた昇る」に学ぶモチベーション論
第3章 「踊る大捜査線THE MOVIE2レインボーブリッジを封鎖せよ!」に学ぶリーダーシップ論
第4章 「生きる」に学ぶ経営組織論
第5章 「メッセンジャー」に学ぶ経営戦略論
第6章 「集団左遷」に学ぶフォロワーシップ論
第7章 「ウォール街」と「金融腐蝕列島"呪縛"」に学ぶ企業統治・倫理論

「●ひ 東野 圭吾」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1034】 東野 圭吾 『流星の絆
「●「直木賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「週刊文春ミステリー ベスト10」(第1位)」の インデックッスへ 「●「このミステリーがすごい!」(第1位)」の インデックッスへ 「●「本格ミステリ・ベスト10」(第1位)」の インデックッスへ 「●「本格ミステリ大賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「本屋大賞」(10位まで)」の インデックッスへ 「●た‐な行の日本映画の監督」の インデックッスへ 「●堤 真一 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●柴咲 コウ」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「NUMBERS~天才数学者の事件ファイル」) 「○都内の主な閉館映画館」のインデックッスへ(シネマメディアージュ)

「純愛」というより「偏愛」。直木賞作品としては軽すぎる。

容疑者χの献身.jpg容疑者Xの献身.jpg     容疑者Xの献身 dvd.jpg 容疑者Xの献身 映画.jpg
容疑者Xの献身』['05年/文藝春秋] 「容疑者Xの献身 スタンダード・エディション [DVD]」福山雅治/柴咲コウ

 2005(平成17)年下半期・第134回「直木賞」受賞作。2005 (平成17) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2006 (平成18) 年「このミステリーがすごい!」(国内編)第1位。2006(平成18)年版「本格ミステリ・ベストテン」第1位。これにより、「年末ミステリランキング3冠」初達成作品になりました(早川書房の「ミステリが読みたい!」は2008年版(2007年11月発行)が第1回で、この時点では賞自体が未創設であるため「4冠」はあり得なかった。後に、米澤穂信『黒牢城』(2021年刊)が「年末ミステリランキング4冠」国内初達成作品となる)。2006(平成18)年・第6回「本格ミステリ大賞」(小説部門)も受賞(因みに『黒牢城』も「直木賞」および「本格ミステリ大賞」を受賞している)

 以前に水商売をしていて今は弁当屋に勤める子持ち女性・靖子は、自分につきまとう前夫・富樫が自分のアパートに押しかけてきたために思わず絞殺してしまうが、現場に駆けつけたアパートの隣に住む「石神」という高校の数学教師は、「私の論理的思考に任せてください」と言って事件の事後処理を請け負う―。

NUMBERS 天才数学者の事件ファイル.jpg 作者の「物理学者湯川シリーズ」の第3弾で、TVドラマ化されている「ガリレオ」('07年放映開始)を見て海外ドラマ「NUMBERS 天才数学者の事件ファイル」('05年米国放映開始)を想起しましたが、実は、オリジナルである「物理学者湯川シリーズ」の第1弾『探偵ガリレオ』('98年/文藝春秋)の刊行は「NUMBERS」の放映より7年も早い。
 「NUMBERS 天才数学者の事件ファイル」(FOX)

 今回の第3弾では、この「石神」という数学教師が湯川学の大学時代の同窓で、実は天才的な数学者であり、物理学者・湯川学と"論理対決"をすることになるという構図で、敢えて天才数学者を敵役にしたのは、数学者が探偵役である「NUMBERS」を意識したということでもないでしょうけれど。

 さらっと読めて、トリックも奇想天外で、シリーズものの1編としてはまあまあの出来の小品だと思いましたが、これが直木賞作品だと思うと、同じ作者の『秘密』('98年)や『白夜行』('99年)に比べてどう見てもインパクト不足で、ついついケチをつけたくなってしまう...。

 天才と呼ばれる数学者の考えたトリックというのが、こんな危なっかしくて非効率なものなのかとか、警視庁の科学捜査というのはずいぶん手抜きだなあとか、プロットに対する不満もいろいろありますが、個人的には「石神」という人物にあまり共感できないし、それ以前に、その人物像にリアリティが感じられないのが一番の不満な点でした。

 帯に「純愛」とありますが、むしろ「偏愛」と言った方がよく、その心理構造がよく見えない分、作品として軽いものになってしまっている気がしました。ただし、世間一般には東野作品の中では評価が高いようです。
 
容疑者x スチール.jpg 「県庁の星」('06年/東宝)の西谷弘監督によって映画化されましたが、探偵役の物理学者・湯川(福山雅治)の主たる相方が、同窓の草薙刑事ではなく、柴咲コウ演じる部下の女性刑事になっていて、「県庁の星」で西谷監督と相性が良かったのかなと思ったら、テレビドラマ「ガリレオ」からこのパターンになっていたようです(テレビ版を見ていないので知らなかった)。

容疑者Xの献身ド.jpg 原作にない雪山登山シーンとかあって面喰いましたが、数学教師「石上」役の堤真一(本来は二枚目であってはならないのだが)と「靖子」役の松雪泰子は、どちらもベテランらしい手堅い演技で(堤真一は第33回「報知映画賞」最優秀主演男優賞を受賞、松雪泰子も好演と言っていいかも)、その分、映画化作品にありがちなことですが、ミステリよりも人情ものの要素が強くなっているように思いました(一方で、富樫の死体は一体どうやって始末したのかとか、プロット面での突っ込みどころが出てきてしまう)。

容疑者Xの献身 2008フジテレビジョン.jpgYôgisha X no kenshin (2008).jpg 前日ベンチに座っていたはずの浮浪者が翌日消えているのが、同じカメラワークを反復させることで分かり易くなっていますが、浮浪者に対する「石上」の排他的・優越的な考え方(愛する人のためなら浮浪者1人の命なんぞ...という)などは映画では必ずしも充分に説明されてはおらず、そのあたり、親切なのか不親切なのかよく分からない作りでした。

Yôgisha X no kenshin (2008)

「容疑者Xの献身」●制作年:2008年●監督:西谷弘●製作:亀山千広●脚本:福田靖●撮影:山本英夫●音楽:福山雅治/菅野祐悟●原作:東野圭吾「容疑者Xの献身」●時間:128分●出演:福山雅治/柴咲コウ/堤真一/松雪泰子/北村一輝/ダンカン/長塚圭史/金澤美穂/益岡徹/林泰文/渡辺いっけい/品川祐/真矢みき/リリー・フランキー(友情出演)/八木亜希子/石坂浩二(特別出演)/林剛史/葵/福井博章/高山都/伊藤隆大●公開:2008/10●配給:東宝●最初に観た場所:台場・シネマメディアージュ(08-11-01)(評シネマメディアージュ.jpgシネマメディアージュ2.jpgシネマメディア-ジュ「容疑者Xの献身」zj.jpeg価:★★★) シネマメディアージュ 2000年4月22日アクアシティお台場のメディアージュ1階にオープン。13スクリーン3034席を有するシネマコンプレックス。2017年2月23日閉館

天才数学者の事件ファイル2.jpgNUMBERS 天才数学者の事件ファイル 5 dvd.jpg「NUMBERS~天才数学者の事件ファイル」Numbers (CBS 2005/01~ ) ○日本での放映チャネル:FOX CRIME (2006~)

 【2008年文庫化[文春文庫]】


《読書MEMO》
『容疑者Xの献身』をめぐる「本格」論争(Wikipediaより)
 2005年末、『容疑者Xの献身』が「本格ミステリ」として評価され、同年の『本格ミステリ・ベスト10』にて1位を獲得したことに、推理作家の二階堂黎人が疑問を呈したことに始まる問題。
 二階堂の主張は、「『容疑者Xの献身』は、作者が推理の手がかりを意図的に伏せて書いており、本格推理小説としての条件を完全には満たしていない(そのため、『本格ミステリ・ベスト10』の1位にふさわしくない)」というものであった。このことに関して二階堂のウェブサイトや『ミステリマガジン』誌上などに多くの作家や評論家が意見を寄せたため、本格的な論争となった。その過程で二階堂の説における矛盾や見当違いも指摘されたが、二階堂は自説を曲げなかった。
 最終的には笠井潔などの有力者の多くが「『容疑者Xの献身』は本格である」という立場につき、さらには2006年5月に同作品が第6回本格ミステリ大賞を受賞したこともあり、現在では二階堂の意見は否定された形で議論が収束している。ただし、笠井は本作を「標準的な出来栄えの初心者向け本格」とした上で「探偵小説の精神的核心が無い」と批評し、ミステリ関係者が絶賛したことに手厳しい批判を向けている。同時に、メインの犯行とは別個の、道義的には遥かに悪質な行為がトリックの手段として淡々と描かれながら「感動的なラスト」と評されたことについても議論となった が、これについては北村薫が、ミステリあるいは小説を道徳論で論ずるべきでないとの立場を示している。もっとも、本作を感動的とか、涙誘うとかという風に位置づけたのは市場や読者の側であって、筆致はむしろ客観的である。
 なお、作者の東野圭吾本人は、一貫して「本格であるか否かは、読者一人一人が判断することである」というスタンスを取っている。

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