【3112】 ○ 赤塚 不二夫 『赤塚不二夫の名画座面白館 (1989/07 講談社) ★★★★ (○ 齋藤 武市 (原作:小川 英) 「ギターを持った渡り鳥 (1959/10 日活) ★★★☆)

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映画に纏わる自伝的エッセイ漫画、映画青春記。その時代のシズル感があった。

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赤塚不二夫の名画座・面白館』「日活100周年邦画クラシック GREAT20 ギターを持った渡り鳥 HDリマスター版 [DVD]

 赤塚不二夫(1935-2008/72歳没)が自らの映画体験を漫画で描いた本で、1989(平成元)年刊行。1954(昭和29)年頃の江戸川区小松川の化学薬品工場の寮に住み込んで『漫画少年』など投稿を続け、肉筆回覧誌「墨汁一滴」の同人に参加した頃から、その後のトキワ荘に移ってからの期間を中心に、若い頃、お金はなくとも映画を観まくっていた時代に観た映画を漫画で語った、自伝的エッセイ漫画です。

 全13話の各タイトルになっている(メインで取り上げている)映画は、「七人の侍」「狂った果実」「ニッポン無責任時代」「ゴジラ」「独立愚連隊」「唐獅子牡丹」「ギターを持った渡り鳥」「けんかえれじい」「楢山節考」「男はつらいよ」「眠狂四郎殺法剣」。そして、これらに関連するその他多くの映画作品にもふれています。

 特に長谷邦夫(1937-2018/84歳没)や石森章太郎(1938-1998/60歳没)らと映画談義をしている場面が多くありますが、映画に関しては彼らの方が先輩格と言うか理論派の映画マニアであり、談論形式でその言説をそのまま載せたりしているのが素直です。実際、冒頭の「七人の侍」('54年/東宝)などは、長谷邦夫に強く薦められて観に行って、感銘を受けています。三人で雑司ヶ谷の手塚治虫邸を最初に訪ねた時、石ノ森章太郎が16歳、長谷邦夫が17歳、赤塚不二夫が19歳だったとあり、赤塚不二夫が一番年上なわけですが、長谷邦夫や石森章太郎は、映画という面では赤塚不二夫の"師匠"でもあったのでしょう。

『名画座面白館』022.jpg でも、そうした仲間に感化されながらも自分の好みをしっかり持っていて、そのあたりはやはり職業柄、創作者であれば当然かもしれませんが、分かる気がしました。例えば、木下惠介監督などは絶賛の対象であり、「楢山節考」('58年/松竹)を取り上げ、長谷邦夫や石森章太郎らと語り合いながら自らの意見も述べ、舞台仕立てにした部分が見事であるとし、リメイク版の今村昌平の作品「楢山節考」('83年/東映)の土俗的リアリズムは「わしは買わないのだ」と断言しています(個人的にはそれぞれにいいと思うのだが)。

IMG_20220228_050114.jpg ここでは木下惠介監督の「野菊の如き君なりき」('55年/松竹)についても長谷邦夫や石森章太郎らと語り合3人で語り合っていますが、石森章太郎が全体を楕円にしてまわりをボカした手法について指摘すると、長谷邦夫が「昔の懐かしい写真アルバム集みたいな感じを出すためだね」とはっきり言っていて、こういうのに赤塚不二夫自身が教えられたということを、漫画で再現しているという感じでしょうか(切ない映画だった)。

 「ギターを持った渡り鳥」('59年/日活)のところでは、小林旭ファンの「少年サンデー」の記者が出てきて、長谷邦夫も交えて議論し、漫画ならではに構図でシリーズの流れなどを解説していて分かりやすかっ「ギターを持った渡り鳥」3.jpgたです。このシリーズで一番人気が急上昇したのは一昨年['20年]亡くなった"殺し屋ジョージ"こと宍戸錠で、拳銃無頼帖シリーズとか「早射ち野郎」('61年/日活)はその後だったのだなあ。でも、「ギターを持った渡り鳥」のいいところ(切ないところ)はやはり土地(本作は函館市が舞台)の娘・浅丘ルリ子との別れでしょう。浅丘ルリ子がウェットな執着を見せず、「あの人は戻らない」と決めてかかっているのも西部劇の影響でしょうか。

 映画青春記であると共に、読者に対する鑑賞ガイドになっている点が親切です(長谷邦夫や石森章太郎の意見を多く取り入れている分、押しつけがましさがな無い)。また、どういう状況やきかっけでその作品を観に行って、その時の映画館や客席はどうだったのかとかも描かれていたりするので、時代のシズル感がありました。ビデオすらない時代の話。家で一人でNetflixやAmazonプライムで観てしまうと、こういう、映画そのものとそれを観た時の状況がセットで記憶に残るという感触は味わえないのだろうなあ。

「ギターを持った渡り鳥」2.jpg「ギターを持った渡り鳥」1.jpg「ギターを持った渡り鳥」●制作年:1959年●監督:齋藤武市●脚本:山崎巌/原健三郎●撮影:高村倉太郎●音楽:小杉太一郎●原作:小川英●時間:78分●出演:小林旭/浅丘ルリ子/中原早苗/渡辺美佐子/金子信雄/青山恭二/宍戸錠/二本柳寛/木浦佑三/鈴木三右衛門/神戸瓢介/片桐恒男/青木富夫/弘松三郎/伊丹慶治/野呂圭介/近江大介/水谷謙之/高田保/宮川敏彦/ 衣笠真寿夫/原恵子/清水千代子/菊田一郎/倉田栄三/渡井嘉久雄/竹部薫/ 高瀬将敏●公開:1959/10●配給:日活(評価:★★★☆)

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This page contains a single entry by wada published on 2022年2月21日 00:36.

【3111】 ○ 平井 和正(原作・原案)/桑田 次郎(画) 『8(エイト)マン (全6巻)』 (1995/04 扶桑社文庫) ★★★★ was the previous entry in this blog.

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