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あの監督がこんな風刺の効いた変わったコメディも撮っていたのかという感じ。

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【映画チラシ】ベレジーナ

「ベレジーナ」 1.jpg スイスの経済弁護士ヴァルト博士(ウルリヒ・ノエテン)とファッション・デザイナーのシャルロッテ・デー(ジェラルディン・チャップリン)は権力にすべての生きがいを感じる人種で、金融界でも政界でもまともに相手にされてはいなかった。しかし、シャルロッテが抱えるコールガール、ロシア人のイリーナ(エレナ・パノーヴァ)は、権力者たちの寵愛を集めていた。次第に、博士とシャルロッテはそんな彼女に期待と私財をかけ、高級マンションを買い与えるや、彼女に語りかける男たちの機密のやりとりを盗聴しようとする。だが、イリーナは決して機密のやりとりをしようとしない。苛立ったヴァルト博士とシャルロッテは、イリーナに、常連客たちのスパイをするかロシアへ帰るかという最後通牒をつきつけた―。

「ベレジーナ」 4.jpg 「ヘカテ」('83年/仏・スイス)を撮ったスイスの映画作家ダニエル・シュミット(1941-2006)の1999年公開作(日本公開は2001年)。ドイツ語劇で、原題は Beresina oder Die letzten Tage der Schweiz 、ビデオタイトルはこれに近い「ベレジーナ スイス最後の日」)。2016年にユーロスペース(シネマヴェーラ渋谷)の《開館10周年記念特集II シネマヴェーラ渋谷と愉快な仲間たち》の【柄本佑セレクション】でリバイバル上映されてましたが、個人的には今回シネマブルースタジオで観ました。

「ベレジーナ」 3.jpg コメディであり政治風刺劇ですが、あのダニエル・シュミットが、こんな風風刺の効いた変わったコメディも撮っていたのかという感じ。政治家、裁判官、警察―そのすべてのトップがみんな利権をむさぼっているという(しかも性的変態ばかり)、まとめて批判の対象になっているところが興味深いです。

 結末を知らないで観た方が面白いかと思いますが、一方で、人物相関がわかりづらく、また、ストーリー展開もカットバックがあったり、別次元のストーリがあったりすると思えば、いきなり急展開に話が進むので、後半は飽きさせなかったけれども、何が何だかという印象も少なからずありました。以下は、ネタバレです。

「ベレジーナ」 2.jpg  やがて国外退去の通知を受け、絶望したイリーナは、睡眠薬を飲み死を待った。その間に彼女は、自分の一番の客であった元陸軍少尉シュトゥルツェネガー(マルティン・ベンラート)の帽子の裏側に書いてあった秘密の電話番号をダイヤルしてしまう。それによって、かつて秘密軍隊コブラ団にいた老人たちがクーデターを起こし、古いコブラ団のヒットリストに載っていたすべての役人たちを殺害していった。そして偶然にもコブラ団の指揮を取ったことになったイリーナは、昏睡状態から目覚めたのち、アルプスの新しい国、ヘルベチア王国の女王の座につくのだった―。

 秘密部隊コブラ団の老人たちが、それぞれコード番号がふられていて、指令を受けてて町内会の連絡網みたいな感じで電話でそれを伝えていくのが面白く、せっかく要人の暗殺に来たのに、ドアの前で律儀に順番待ちしたりしていて可笑しいです。でも彼らは、物語の前半大部分を占める主要登場人物らをテンポよく撃ち殺していき、任務完了、まだ見ぬコード番号0番の指令の発信元を訪ねてみると...。

「べレジーナ」[.jpgエレナ・パノーヴァ演じるイリーナが、あまり状況が掴めておらず、ただスイスの市民権を得たいがために政財界の重鎮達の渡り歩き(顧客ではあるが、ほぼ"お友達"感覚で)、でも他人の秘密を漏らすことはしたくないという無垢な(無知ともいえるが)女性を演じていてハマっています。

「べレジーナ」ジェラルディン.jpg そのエレーナを大物たちにあてがったのが、ジェラルディン・チャップリン演じる(彼女はフランス語、スペイン語だけでなくドイツ語も話すのか)黒い扇子が胡散臭いシャルロッテで、ラストでは今度はロシア娘ならぬいいキューバ娘を見つけたと、依然、権力志向は衰えていないのが、これまたブラック・ユーモアです。

 配給元のユーロスペースによれば、「ベレジーナ」とは、ロシア(現ベラルーシ)の河の名で、1812年ロシア遠征から敗退するナポレオン軍(スイスの傭兵も多数参加)の「ベレジーナの戦い」の舞台となり、スイス・ドイツ語圏ではスイス的英雄主義の代名詞だそうで(この映画でも狂信的な秘密愛国組織「コブラ」の精神として、その歌の一節がクーデター指令の暗号に使われる)、一方で、スイス・フランス語圏で「これはベレジーナだ」と言えば最もひどい災厄を意味する慣用句だそうです。

「べレジーナ」 9.jpg「ベレジーナ」●原題:BERESINA ODER DIE LETZTEN TAGE DER SCHWEIZ●制作年:1999年●制作国:スイス・ドイツ・オーストリア●監督:ダニエル・シュミット●製作:マルセル・ホーン●脚本:マルタン・シュテール●撮影:レナート・ベルタ●音楽:フカール・ヘンギ●時間:108分●出演:エレナ・パノーヴァ/ジェラルディン・チャップリン/マルティン・ベンラート/ウルリヒ・ノエテン/イヴァン・ダルヴァス/マリナ・コンファロン/ステファン・カート/ハンス・ペーター・コーフ/ヨアキム・トマシュウィスキー日本公開:20001/04●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-08-27)(評価:★★★☆)

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坂東玉三郎に独自のアプローチで迫ったドキュメンタリー。彼の語る演劇論が興味深い。

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坂東玉三郎「書かれた顔」 [VHS]

「書かれた顔」p1.jpg 熊本・八千代座。坂東玉三郎が「鷺娘」を舞う。続いて「大蛇」を踊るため舞台に向かう玉三郎。その姿を背広姿の玉三郎がみつめている。舞台が終わり、化粧を落とす玉三郎。四国・内子座。まず御祓いが粛々と行われ、続いて玉三郎は楽屋で化粧をし、《女》へと変身してゆく。大阪のホテルで女形が女を演ずることについて語る玉三郎。そして八千代座で坂東彌十郎の大伴黒主を相手に「積恋雪関扉」の黒染を演じる。カメラは玉三郎の早変わりや、鉞(まさかり)の陰で関守から黒主に変身する彌十郎、それに二人の演技を後見する黒衣の動きを丹念に捉えていく。玉三郎は希有の天才女優として杉村春子や武原はんの名を挙げる。杉村「書かれた顔」p2.jpgと武原がそれぞれインタビューに答え、《女》を演ずること、舞うことの精神を語る。大野一雄が東京湾の水の上を軽やかに舞う。蔦清小松朝じが三味線を手に常磐津の一節を聞かせる。女と黄昏について語る玉三郎。劇「黄昏芸者情話」。夜の東京湾を走る屋形船で年増の芸者(玉三郎)と若い男二人(宍戸開、永澤俊矢)が花札に興じている。やがて眼鏡をかけた青年(宍戸)と芸者は甲板に出て、接吻を交わす。その様子を見たもう一人の男(永澤)が青年に掴みかかり、芸者が慌てて間に割って入る。黄昏どきの芸者の家に電話がかかり、男からの電話に芸者は艶っぽく身悶えする。夜、明治風のたたずまいの街を芸者が歩き、青年が彼女の姿を求めて走る。再び「鷺娘」。そして大阪の街を行くリムジンに乗った玉三郎の姿が挿入される。「鷺娘」はクライマックスを迎え、玉三郎が大きく後ろにのけぞる―。

「書かれた顔」p3.jpg 「ヘカテ」('82年/仏・スイス)などで知られるスイスの映画作家ダニエル・シュミット(1941-2006)が、人気女形・坂東玉三郎に独自のアプローチで迫っ「書かれた顔」p6.jpgた、1995年製作(日本公開は1996年3月)のドキュメンタリーで、玉三郎の舞台のほか、彼が年増の芸者に扮した「黄昏芸者情話」というフィクションパート(劇部分)が組み込まれていますが、ダニエル・シュミットはこの映画全体がドキュメンタリーではなくフィクシィンであると言っていたそうです(因みにノー・ナレーションである)。

 玉三郎が女形を演じるのを、「今宵かぎりは...」('72年)以来シュミットの全作品のカメラを手掛けるレナート・ベルタが美しく撮っています。玉三郎は当時46歳くらいかと思われますが、素の姿もすごく若く見えます。その玉三郎が語る演劇論も興味深く、玉三郎は女性の気持ちになって女形を演じるのではなく、男性から見た女性の美しさを集約して演じているのだというようなことを述べています。

「書かれた顔」p4s.jpg 自らの演劇論を語る際に尊敬する杉村春子(1906-1997/91歳没)の名を挙げていますが、その杉村春子のインタビューも挿入されていて、自分のハンディを踏まえて演じているという点で、玉三郎が語る内容と重なるのが興味深かったです(杉村春子のハンディは、当初舞台から映画界に行った女優は美人ばかりだったのに自分はそうではなかったこと、玉三郎のハンディは女形にしては身長がありすぎること)。

「書かれた顔」 9ト.gif.jpg 杉村春子と同じく玉三郎が尊敬する人物として2人目に登場するのは、88歳の舞踏家・大野一雄(1906-2010/103歳没)で、夜の晴海埠頭での舞踏を見せます(そう言えば晴海埠頭は今年['22年]2月に閉鎖になったばかりだなあ)。3人目は、芸者か「書かれた顔」 8ト.gif.jpgら日本舞踊の舞踏家に転じた武原はん(1903-1998/95歳没)で、92歳にして日舞を踊ってみせます。さらに4人目には、当時で現役最高齢102歳になる芸者・蔦清小松朝じ(1894-1996/102歳没)が三味線の芸を披露します。いずれも貴重な映像であるとともに、この映画の流れや雰囲気に沿った挿入だったように思います。

「書かれた顔」p5g.jpg むしろ、映画全体がフィクションであるならば劇中劇とも言える、玉三郎と宍戸開、永澤俊矢による「黄昏芸者情話」のパートの方が、全体を通して緊張感がある中で、ここだけ少し浮いていた印象もありました(宍戸開は、玉三郎の監督・主演作品「天守物語」('95年)で共演したばかりだった)。これは、宍戸開らの若さのせいもあるのでしょうか?(玉三郎はいつも年齢不詳だが)

 ただ、ドキュメンタリー部分がノー・ナレーションであるのと同様、劇部分もセリフなしで進行し(玉三郎が電話を受けるシーンだけ、「あっ」と一言発するぐらい)、ちょっと「今宵かぎりは...」を想起する部分もありました。でもこちらの方が分かりやすいです。「今宵かぎりは...」は最初観た時よく分からなかったので...(後で、主人と召使の"入れ替えパーティ"だと知った)。

坂東彌十郎 鎌倉殿の13人1.jpg坂東彌十郎 鎌倉殿の13人2.jpg その他に、「積恋雪関扉」で坂東彌十郎と共演している映像があり、坂東彌十郎と言えば今年['22年]のNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で北条時政を演じているなあと。当時で40歳くらいでしょうか。背が高いので、女形にしては高身長の玉三郎と、見た目ですが、相性がいいように思います。

坂東彌十郎 in「鎌倉殿の13人」(2022)with 小栗旬(北条時政・義時)

坂東やじゅうろう.jpg 坂東彌十郎は玉三郎の「夕鶴」('97年)の演出も手掛け、その後、同世代の十八世中村勘三郎(1955-2012/57歳没)による「麒麟がくる」玉三郎.jpg「平成中村座」に参加。'03には中村座ニューヨーク公演、'14年には長男と自主公演「やごの会」を立ち上げ、'16年にはフランス、スイス、スペインの3カ国をめぐる欧州公演も行っています。大河ドラマでは、武骨で、自分の一族のことしか考えていない"田舎の侍"って感じの北条義政(これ、本人が最初に脚本を読んだ時に受けた印象だそうだ)を演じていますが、実は英語、フランス語を話すインテリです。海外公演に行ったのは、若くしてニューヨーク・メトロポリタン歌劇場に招聘された玉三郎の影響もあるのでは(そう言えば、玉三郎は坂東彌十郎の2年前、'20年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」に正親町天皇役で出演していた)。

坂東玉三郎 in「麒麟がくる」(2020)(正親町天皇)
  
「書かれた顔」 vhsト.gif.jpg「書かれた顔」●原題:THE WRITTEN FACE●制作年:1995年●制作国:日本・スイス●監督:ダニエル・シュミット●製作:堀越謙三/マルセル・ホーン●撮影:レナート・ベルタ●時間:89分●出演:坂東玉三郎(5代目)/杉村春子/大野一雄/武原はん/蔦清小松朝じ/坂東彌十郎/宍戸開/永澤俊矢●日本公開:1996/03●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-08-23)(評価:★★★★)

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「女が愛しているのは快楽だけだという事実」を突き付け、「愛の行為の果て」を描いた映画。

Hécate(1982).jpgヘカテ/ダニエル・シュミット.jpg ヘカテ/エレンディラ.jpg
Hécate(1982) 輸入版DVDジャケット「ヘカテ [DVD]」ベルナール・ジロドー/ローレン・ハットン/VHS「エレンディラ/ヘカテ」

 1942年、スイスのベルン。フランス大使館主催のパーティの人混みの中で、ある男がひとりもの想いに沈んでいた。その男ジュリアン・ロシェル(ベルナール・ジロドー)は10年前、フランスの植民地である北アフリカの地に赴任、熱い太陽の下で退屈な日々を送っていたが、あるパーティでテラスで風に吹かれていたクロチルドという女性(ローレン・ハットン)に出会い、その魔性の魅力に溺れていく。やがて、彼はクロチルドに大きな秘密があることを知る。それが秘密と呼んでいいものなのか、彼自身にもわからないのだが。彼は、ギリシャ神話に登場する女神ヘカテヘカテ パンフ.JPGを思い浮かべた。犬を従えて闇を歩く夜の魔女ヘカテ―。

エレンディラ サンリオ文庫.png かつてレンタルビデオで「エレンディラ」と「ヘカテ」の2本組みというのがありましたが、何だか凄い組み合わせだなあと(エレンディラの祖母とヘカテことクロチルドの"魔女"セットか)。「エレンディラ」はガルシア=マルケス原作、「ヘカテ」はポール・モラン(1888-1976/享年88)原作で、この作家は外交官としてアフリカに赴任していたこともあり、亡命先のスイスでの、ココ・シャネル(1883-1971/享年87)へのインタヴュー取材などでも知られています。

HECATE by  Daniel Schmid.jpgHecate.jpg 「ヘカテ」というのは、ギリシャ神話に出てくる、男を、子供を、更に世界をも支配する巨大な魔力を持つ、神秘的で残酷な女神のことだそうで、主人公の男にとってクロチルドはまさに「ヘカテ」であり、パンフレットにある批評の「恋とは永遠に不確か」(映画評論家・渡辺祥子)、「恋に乱れる男たちの愚かさよ」(画家・合田佐和子)と言うよりむしろ、「女が愛しているのは快楽だけだという事実」(翻訳家・小沢瑞穂)を突き付け、「愛の行為の果て」(作家・辻邦生)を描いた映画とも言えるかも。

Hécate(1982) 2.jpg クロチルド役のローレン・ハットン(Lauren Hutton、1943年生まれ)は、アローレン・ハットン.bmpメリカン・ヴォーグの専属モデル出身の女優で、特別にグラマーでも美人でもないですが、服の着こなしがいいのか、ダニエル・シュミット(1941-2006/享年64)のカメラ指示がいいのか、シュミットの映像美にマッチしており、この作品では、アンニュイなセクシーさを充満させています。
 後に、61歳でヌードになったことで話題になり、更に、'08年には、65歳にして、スペイン大手ファッションチェーン、マンゴのアルジェリアで新規ショップのオープンに際して、親善大使並びにイメージ・キャラクターに起用されています(やはり、この人も"魔女"か)。

マンゴの広告キャンペーンに登場したローレン・ハットン(2008年・65歳)

HECATE 1982.jpg この映画で、ベルナール・ジロドー演じる外交官が赴任した国は同じ北アフリカでもモロッコのようですが、いずれにせよ、辺境の地で無聊を託っている折に、目の前にこんな女性が現れ、その女性が、恋人、愛人、情婦、更には貴婦人としても完璧であれば、男はずぶずぶ深みに嵌っていくだろうなあと思わせるものがあり、実際、この映画の主人公の男は次第に嫉妬心のコントロールが出来なくなって、狂気に駆られていきます。

 後に狂気から覚めた男が、シベリアの地で今は世捨て人同様となった彼女の夫と見(まみ)え、「君も、僕と同類さ。あれに噛まれた犬なんだ」と言われる場面は、何とも怖いと言うか、しんみりさせられると言うか...(原作の原題は「ヘカテとその犬たち」)。

異邦人パンフレット.jpg 映画の、北アフリカの砂漠の町という舞台設定が、何と言ってもいいです。パンフレットにある、筈見有弘(1937-1997/享年59)の、映画における「文化果つる辺境のロマンチシズム」というのは、マレーネ・デートリッヒ主演の「モロッコ」('30年)、ジャン・ギャバン主演の「望郷」('37年)あたりから連綿とあって、マルチェロ・マストロヤンニ主演の「異邦人」('68年)などもそうであり、この作品も、その系譜にあるとの解説に頷かされました。
 

Hécate(1982) 1.jpg「ヘカテ」●原題:HECATE●制作年:1982年●制作国:フランス/スイス●監督:ダニエル・シュミット●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:ダニエル・シュミット/パスカル・ジャルダン●撮影:レナート・ベルタ●音楽:カルロス・ダレッシオ●原六本木駅付近.jpg俳優座劇場.jpg作:ポール・モラン「ヘカテとその犬たち」●時間:108分●出演:ベルナール・ジロドー/ローレン・ハットン/ジャン・ブイーズ/ジャン=ピエール・カルフォン/ジュリエット・ブラシュ●日本公開:1983/08●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(83-10-17)●2回目:自由が丘・自由劇場(84-09-15)(評価:★★★★)●併映(2回目):「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(ボブ・ラフェルソン)
六本木・俳優座シネマテン(六本木・俳優座劇場内) 1981年3月20日オープン。2003年2月1日休映(後半期は「俳優座トーキーナイト」として不定期上映)。

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古典重視でマニアックな選択傾向に見えるが、なかなかの"本物志向"。

映画の魅惑・ジャンル別ベスト1000.jpg  ジャンル別映画ベスト1000.jpg      ダークマン.jpg 今宵限りは  シュミット.jpg
映画の魅惑―ジャンル別ベスト1000』「リテレール」別冊『ジャンル別映画ベスト1000』(学研M文庫)/サム・ライミ監督「ダークマン」/ダニエル・シュミッ監督「今宵かぎりは...」

 スーパーエディターと呼ばれ、'03年にガン死したヤスケンこと安原顕の編集からなる本書は、彼が編集長をしていた雑誌リテレールの別冊の1つ。文芸映画、青春映画、音楽映画など20ジャンルの映画のベスト50を、蓮實重彦、辻邦生など大家や曲者(?)20人が分担して選び評しています。
 ただし担当ジャンルの定義は担当した執筆者に任されているようで(ある意味、読者に対しては不親切ですが)、読者におもねることなく、執筆者はみな本当に好きな映画、見てもらいたい映画について真摯に語っています。

アンドレイ・タルコフスキー/鏡.jpgルシアンの青春2.jpg鬼火.jpgラルジャン1.jpg白夜2.jpg 個人的には、ブレッソンの「白夜」「ラルジャン」、ルイ・マルの「鬼火」「ルシアンの青春」、タルコフスキーの「鏡」などの評があるのが嬉しい。キューブリックの「現金に体を張れ」「バリー・リンドン」、ヴィスコンティの「夏の嵐」「若者のすべて」、ヘルツォークの「アギーレ・神の怒り」「フィッツカラルド」が入っているのもいい。

イワン雷帝(DVD).jpg世界名作映画全集 99 キートンの大列車追跡.jpgグリード.jpg若者のすべて DVD.jpg現金(ゲンナマ)に体を張れ.jpg シュトロンハイムの「グリード」、キートンの「将軍」、エイゼンシュタインの「イワン雷帝」などの古典もあれば、ホークスの「脱出」「三つ数えろ」、ヒューストンの「キー・ラーゴ」といったハードボイルドやオルドリッチの「ロンゲスト・ヤード」「カリフォルニア・ドールズ」、サム・ライミの「ダークマン」などB級アクション映画もあります。

フリークス dvd.jpgアフター・アワーズ.jpgBurt Reynolds THE LONGEST YARD.jpg三つ数えろ.jpg脱出2.jpg スコセッシは「アフター・アワーズ」がミステリー部門にあります。「フリークス」「快楽殿の創造」などは"アートシアター新宿"の定番カルトでした。「ロッキー・ホラー・ショー」は楽しい参加型カルト(映画館でびしょ濡れになった思い出がある)。'06年に亡くなったダニエル・シュミットの「今宵限りは...」は、音楽映画とアヴァンギャルドの2部門に登場。ファスビンダーの「ケレル」っていうのもジャン・ジュネ原作で結構アブナイ映画...。

 これらの中で「B級」作品で自分の好みは、 ロバート・アルドリッチ監督の「カリフォルニア・ドールズ」('81年/米)と、サム・ライミ監督の「ダークマン」('90年/米)でしょうか。

カリフォルニア・ドールス.jpg 「カリフォルニア・ドールズ」は、男臭い世界を描いて定評のあるアルドリッチが女子プロレスの世界を描いた作品で、さえない女子プロのタッグ「カリフォルニア・ドールズ」のプロモーターを「刑事コロンボ」 のピーター・フォーク が好演しており、彼と2人の女性選手との心の通い合いが結構泣けます。

「カリフォルニア・ドールズ」●原題:...All THE MARBLES a.k.a. THE CALIFORNIA DOLLS●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルドリッチ●製作:ウィリアム・アルドリッチ●脚本:メル・フローマン●撮影中野武蔵野ホール.jpg:ジョセフ・バイロック●音楽:フランク・デ・ヴォール●時間:113分●出演:ピーター・フォーク/ヴィッキー・フレデリック/ローレン・ランドン/バート・ヤング/クライド・クサツ/ミミ萩原●日本公開:1982/06●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:中野武蔵野館(83-02-06)(評価:★★★★)●併映「ベストフレンズ」(ジョージ・キューカー)

THE DARKMAN 1990.jpgダークマン.jpg 「ダークマン」は、「死霊のはらわた」('81年/米)などのスプラッター映画で知られ、後に「スパイダーマン」('02年/米)を撮るサム・ライミ監督が、事故で全身に大やけどを負った男の復讐を描いたもので、「神経を切られているため痛覚は無く、怒りによって超人的な力を発揮し、人工皮膚を駆使して他人に変身する、黒マントに身を包んだ"異形のヒーロー"」というコミック調ですが、悪を倒しても元の自分には結局戻れないわけで、その孤独と哀しみが切々と伝わってきました。

ダークマン 1990.jpg「ダークマン」●原題:THE DARKMAN●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督・原作:サム・ライミ●製作:ロバート・タパート●脚本:チャック・ファーラー/サム・ライミ/アイヴァン・ライミ/ダニエル・ゴールディン/ジョシュア・ゴールディン●撮影:ビル・ポープ●音楽: ダニー・エルフマン●時間:96分●出演:リーアム・ニーソン/フランシス・マクドーマンド/ラリー・ドレイク/コリン・フリールズ/ネルソン・マシタ/ジェシー・ローレンス・ファーガソン/ラファエル・H・ロブレド/ダン・ヒックス/テッド・ライミ/ジョン・ランディス/ブルース・キャンベル●日本公開:1991/03●配給:ユニヴァーサル=UIP(評価:★★★★)
 
 変わった映画というか、最初観た時はよく分らなかった映画と言えば、 ジム・シャーマン監督の「ロッキー・ホラー・ショー」('75年/英)と、ダニエル・シュミット監督の「今宵かぎりは...」('72年/スイス)でしょうか。

 「ロッキー・ホラー・ショー」は、最初に名画座で観た時は、ロック・オペラってこんなのもあるのかという感じで(スーザン・サランドンが出てたなあ)よく分らんという印象だったのですが、2度目に渋谷のシネマライズ渋谷(地下1階スクリーン)で観た時には、アメリカからシネセゾンが招聘したと思われるコスプレ軍団が来日していて、映画館の最前列で映画に合わせて踊ったり、紙吹雪や米を撒いたり、雨のシーンでは如雨露で水を撒いたりして観客も大ノリ、ああ、これ、こうやってパーティ形式で観るものなんだと初めて知りました。

ロッキー・ホラー・ショー (1976).jpg「ロッキー・ホラー・ショー」●原題:THE ROCKY HORROR SHOW●制作年:1975年●制作国:イギリス●監督:ジム・シャーマン●製作:マイケル・ホワイト●脚本:ジム・シャーマン/リチャード・オブライエン●撮影:ピーター・サシツキー●音楽:リチャード・ハートレイ●時間:99分●出演:ティム・カリー/バリー・ボストウィック/スーザン・サランドン/リチャード・オブライエン/パトリシア・クイン/ジョナサン・アダムス/ミート・ローフ/チャールズ・グレイ●日本公開:1978/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-02-06)●2回目:シネマライズ渋谷(地下1階)(88-07-17)(評価:★★★?)●併映(1回目):「ファントム・オブ・パラダイス」(ブライアン・デ・パルマ)

今宵限りは  シュミット.jpg今宵限りは.jpg 「今宵かぎりは...」は、つい先だって('06年8月5日)亡くなった「ラ・パロマ」や「ヘカテ」の監督ダニエル・シュミットの最初の長編映画ですが(この人、大分の湯布院に行った時、自分と同じ旅館「亀の井別荘」に泊まっていた)、日本公開は制作の14年後でした。大きな屋敷の広間で夜中に宴会が行われていて、クラシック音楽が流れる中、殆ど台詞もなく淡々と、赤外線カメラで撮ったような粗い映像でその模様が映し出されているのですが、宴会の客たち以上にそれに仕える召使の方が陶然としている―実はこれ、年に一夜だけ、主人と召使たちが入れ替わる宴で、召使いのために主人が旅芸人たちと芝居などの余興を披露していたのだったという、そのことを映画を観た後で知り、しかしその後はなかなか観直す機会がない作品です。

今宵かぎりは .jpgHeute nacht oder nie (1972).jpg「今宵かぎりは...」●原題:HEUTE HACHT ODER NIE●制作年:1972年●制作国:スイス●監督・脚本:ダニエル・シュミット●製作:イングリット・カーフェン●脚本:メル・フローマン●撮影:レナート・ベルタ ●時間:90分●出演:ペーター・カーダニエル・シュミット.jpgン/イングリット・カーフェン/フォリ・ガイラー/ローズマリー・ハイニケル●日本公開:1986/11●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(86-12-01)(評価:★★★?)
Daniel Schmid(1941- 2006/享年65)

 もちろん、もっと最近の映画や(といっても本書が'93年の刊行ですが)メジャーな映画(「スター・ウォーズ」など)も入っていますが、全体としてはいい意味で"本物志向" だけど古典重視でマニアックにも見えるかも。教養主義的な雑誌リテレールもほどなく廃刊となりましたが、この別冊のスタイルは'96年に学研から出た同じ編者の『ジャンル別映画ベスト1000』に引き継がれ、その後文庫にもなっています(学研M文庫)。

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