Recently in 井川 比佐志 出演作品 Category

「●川島 雄三 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●野村 芳太郎 監督作品」【2388】 野村 芳太郎 「張込み
「●新藤 兼人 脚本作品」の インデックッスへ 「●森繁 久彌 出演作品」の インデックッスへ 「●フランキー 堺 出演作品」の インデックッスへ 「●東野 英治郎 出演作品」の インデックッスへ 「●加藤 武 出演作品」の インデックッスへ 「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●や 山本 周五郎」の インデックッスへ

浦粕(浦安)で暮らす人々の悲喜こもごも。原作を巧みに再構成した新藤兼人脚本。

「青べか物語」00.jpg
青べか物語 [DVD]」森繁久彌/左幸子/フランキー堺/池内淳子
「青べか物語」p.jpg 「青べか物語」000.jpg
 東京都と千葉県の境を流れる江戸川の河口に、貝と海苔と釣場で有名な浦粕集落がある。ある日、「先生」と呼ばれる三文文士(森繁久彌)がやって来て、当分の住いを、片足が不自由な妻(乙羽信子)と暮らす増さん(山茶花究)の家の二階に決める。着て早々、先生は見知らぬ老人・芳爺(東野英治郎)から、青べか舟を売りつけられる。先生が観察するに、この地では他人の女房と寝るぐらいのことは珍しくなく、動物的本能が公然と罷り通っている大変なところだった。町にはごったく屋という小料理屋が多い。その中の一軒「澄川」に威勢のいいおせい(左幸子)、おきん(紅美恵子)、おかつ(富永美沙子)の3人が働いている。「澄川」の真ん前に「みその」洋品雑貨店があり、息子・五郎(フランキー堺)の花嫁(中村メイコ)は里帰りしたまま戻ってこない。べか舟を先生に売りつけた芳爺、消防署長わに久(加藤武)、天ぷら屋の勘六(桂小金治)あさ子(原悦子)夫婦などが五郎は不能らしいと噂をふりまいた。だが、孤独な生活を楽しんでいる老人もいる。廃船になった蒸気船に寝泊りしている老船長(左卜全)がそれだ。彼はいまだに若い頃の恋人(桜井浩子)を想い浮かべることによってのみ生き甲斐を感じているかのようである。飲み屋の連中の騒ぎ、バクチ場で血相変えて喚く連中、様々な人間模様に興味を感じながらも、煩わしさを避けて先生は青べか舟で釣りに出掛ける。五郎には母親(千石規子)が新しい花嫁(池内淳子)を連れてきて、今度は不能だなどと陰口も叩かれず、幸福な生活に入れるらしい。そんな先生に思いがけない事件が起きる。ごったく屋のおせいが先生に惚れたのだ。言い寄られた先生は眼を白黒。失恋のおせいは、腹いせに偽装心中を図る。とんでもない騒ぎに巻き込まれた先生は、様々な思いを抱きながらも浦粕集落から逃げ出すことにした―。

 1962(昭和37)年公開の川島雄三監督作品。個人的には劇場(神保町シアター)で観ましたが、昨年['21年]やっとDVD化された作品であり、これまでなかなか観る機会が無かった作品です。

青べか物語1.jpg 原作は山本周五郎が1960(昭和35)年1月から12月にかけて「文藝春秋」に連載したもので、この年、作者は57歳。ただし、実際に作者が浦安(作中では原作・映画とも"浦粕"となっている)に住んだのは、1924(大正15)年からの3年間、23歳から26歳までの間のことで、町の人から「先生」と呼ばれているけれど、実はまだ20代の若さだったのです。

 映画では設定を、浦安付近の埋め立てがまさに始まらんとする直前(浦安市の海面埋め立てが始まったのは1964(昭和39)年)、つまり映画撮影時の"現在('62年)"に置き換えているようにも見えますが(冒頭にそう思わせる浦安の'62年当時の風景シーンがあり、そのままドラマ部分に入っていく。警察官も戦後のそれの恰好をしている)、一方で、描かれている物語の中身や背景はとても戦後とは思われず、昭和初期といった感じなのはそのためでしょう(母親に売り飛ばされた娘の話などがあったりする)。永らくDVD化(ビデオ化)されなかったのは、地元の人に浦安とその周辺の描き方に根強い反発や忌避感があったためだとのことですが、それは、このアナクロニズムによるものではないでしょうか。

「青べか物語」12.jpg 原作は33篇のエピソードからなる「浦粕」とそこに暮らす人々のいわば"点描"ですが、映画ではそこから幾つかのエピソードを拾い上げて膨らませ、特にフランキー堺が演じる五郎の結婚騒動が中心にきているため、哀しい話もあるけれども、全体的には喜劇色が強くなっているように思いました。それでも、原作を巧みに再構成し(脚本は新藤兼人)、「浦粕」で暮らす人々の悲喜交交(こもごも)をよく描いた作品だと思います。

「青べか物語」11.jpg 森繁久彌は主人公の語り手の立場で、珍しく受け身的な演技でしたが、これはこれでぴったりでした。最後、逃げ出すかのように「浦粕」を去るのも原作と同じです。左卜全演じる「船長」が、退職後、廃船に住んでいまだに若いころの恋人(桜井浩子)を思い出しているというのも切なかったです。

「青べか物語」13.jpg 名優揃いですが、その魅力を引き出す川島雄三の演出はさすが。先に述べたように、時代が戦後なのか昭和初期なのかよくわからないのが残念で(戦後だとすればかなりアナクロということになる)星半分マイナス。でも、もうこうした映画は撮れないだろうという思いで(加えて、久しく待望されたDVD化を祝して)星半分オマケして、最終的に星3つ半というところでしょうか。

 
「青べか物語」14.jpg「青べか物語」●制作年:1962年●監督:川島雄三●製作:佐藤一郎/椎野英之●脚本:新藤兼人●撮影:岡崎宏三●音楽:池野成●原作:山本周五郎●時間:101分●出演:森繁久彌/東野英治郎/南弘子/丹阿弥谷津子/左幸子/紅美恵子/富永美沙子/都家かつ江/フランキー堺/千石規子/中村メイコ/池内淳子/加藤武/中村是好/桂小金治/市原悦子/山茶花究/乙羽信子/園井啓介/左卜全/井川比佐志/東野英心/小池朝雄/名古屋章●公開:1962/06●配給:東宝●最初に観た場所:神保町シアター(22-11-10)(評価:★★★☆)

「●TVドラマ②70年代・80年代制作ドラマ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3091】 富本 壮吉 「松本清張の熱い空気
「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ 「●橋爪 功 出演作品」の インデックッスへ「●ま 松本 清張」の インデックッスへ 「●日本のTVドラマ (~80年代)」の インデックッスへ(「サインはV」)

船越英一郎(当時22歳)の「2時間ドラマ」デビュー作。原作の改変ぶりはまずまず。

「歯止め」101.jpg船越英一郎.jpg 黒の様式 カッパ・ノベルズ.png 黒の様式 新潮文庫.jpg
「松本清張の歯止め」['83年/日テレ・火曜サスペンス劇場]船越英一郎『黒の様式 (カッパ・ノベルス) 』『黒の様式 (新潮文庫)』(「歯止め」「犯罪広告」「微笑の儀式」)
船越英一郎/范文雀
「歯止め」11.png 郊外の住宅地で暮らしている津留江利子(長山藍子)は、夫・良夫(井川比佐志)はサラリーマンで、一人息子の19歳の恭太(船越英一郎)は、東大を目指している一浪の受験生だが、その恭太が、最近何「歯止め」21.jpgかにつけ反抗的な態度をとるのがいたたまれなかった。ただ、江利「歯止め」はn1.jpg子には反抗的な恭太も、大学のエリート助教授・旗島信雄(山本學)に嫁いだ江利子の妹・素芽子(范文雀)に対しては素直になり、何でも相談しているようであり、そんな二人に江利子は嫉妬さえ覚える。その素芽子は時々家に来るが、夫の旗島信雄もその義母・織江(月丘夢路)も特に心配してないようだ。恭太が素芽子の「歯止め」31.jpg水着写真を隠し持っていたのを見つけ江利子は心配するが、夫・良夫に相談すると、夫はその世代の男にはよくあることと一笑に付す。そん「歯止め」41.jpgなある日、素芽子が突然自殺する。恭太は素芽子は旗島家に殺されたのだと、通夜の場で荒れ狂う。苛立ちが募って、挙句の果てには、予備校仲間のガールフレンド・亜子(小森みちこ)を襲う恭太。恭太の行動を止めさせるため、江利子は素芽子の死が自殺であることの証「歯止め」5.jpg拠を織江に求めるが、逆に、その年頃の子は想像もできないことをする「歯止め」6.jpgので、その"歯止め"になってあげるのが母親の役割だと言われる。さらに、素芽子が通っていたという精神科の医師で、旗島信雄のことも知る竹田助手(橋爪功)を訪ねると、竹田は、旗島信雄にも恭太と同じような時期があって、それを乗り越えたのは母親の力があったからだと言うが、それ以上具体的なことは話さない。江利子は次第に信雄と織江の関係を訝しく思うようになる―。

 原作は、松本清張の短編小説で、「週刊朝日」1967(昭和42)年1月6日号から2月24日号に、「黒の様式」第1話として連載され、同年8月に短編集『黒の様式』」収録の一作として、光文社(カッパ・ノベルス)から刊行されています(後に新潮文庫『黒の様式』として刊行。「歯止め」は文庫本で100ページ前後のボリューム)。親子間の近親相姦がモチーフになっている作品です。

 1976年に、日本テレビ系列の「愛のサスペンス劇場」枠(13:30-13:55)で全20回の連続ドラマとして放映され、これが2回目のドラマ化。1981年から始まった日本テレビ系列の「火曜サスペンス劇場」で、1983(昭和58)年4月に放映されました。因みに、スタートからこの月まで、「火曜サスペンス劇場」のテーマは岩崎宏美が唄う「聖母(マドンナ)たちのララバイ」でした。

「歯止め」71.jpg そして何よりも、在京民放5局の2時間ドラマすべてに主演作品がある唯一の俳優と言われる「2時間ドラマの帝王」船越英一郎(1960年生まれ、当時22歳、芸名は'97年まで「船越栄一郎」だった)の「2時間ドラマ」デビュー作がこのドラマになります。まさに「火曜サスペンス劇場」などの成功などにより「2時間ドラマ」というものが隆盛に向かう、その最中(さなか)に登場した船越英一郎、といった感じでしょうか。

「歯止め」小森1.jpg 主演は長山藍子で、船越英一郎は、范文雀、山本學、井川比佐志らとともに共演という位置づけになりますが、それでも重要な役割を担っていて、最初に信雄と義母の近親相姦的関係を訝しんで、素芽子の死に纏わる"疑惑"を糾弾するのが船越英一郎が演じる恭太。一方で、自らも性の衝動に悶々とし、素芽子の水着写真をベッドに持ち込んで...("青姦"とは言えるのかどうか知らないが、河原でもズボン下ろしてやっていたなあ)。しかし、ラストは小森みちこ演じるガールフレンドとの関係も回復して、でも、ハナからもう1浪するするつもりでいるのか?

「歯止め」長山藍子1.jpg「歯止め」長山.jpg 長山藍子(1941年生まれ)は、TBSの「クイズダービー」の2枠レギュラー(1979年10月~1981年9月)としても"お茶の間の顔"でしたが、このドラマではかなり"重い"役でした。彼女が演じる母・江利子は、最初は素芽子は自殺であることを恭太に納得させようとしますが、次第に彼女自身も恭太と同じ疑惑を抱くようになり、さらに、息子の性向を矯(た)めるために、母親が身をもってする"歯止め"が有効適切なのか悩むという、ストーリー的には二重構造的な近親相姦の心理劇となっています。

 その心理劇の方がかなり重くて、この家は一体どうなるのかと思ったら、家庭崩壊直前で最後、井川比佐志が演じる父親が初めて「理想的な父性」を一気に発揮して(笑)一件落着、一方の素芽子の死は自殺なのか他殺なのかというミステリの方は、彼女は精神的に追い詰められてはいたのは確かだろうけれど、自殺とも他殺とも解釈できる終わり方になっていて、やや未消化感が残りました。

 原作では、姉妹が逆になっていて、「現在」が昭和40年で、「姉・素芽子」は23年前の昭和17年に、結婚2年後の21歳で亡くなっており、その時江利子は17歳、姉・素芽子の死は青酸カリ自殺とされたという、いわば過去の眠っていた出来事を掘り起こす設定。恭太は17歳の高校2年生で、ドラマ同様に悶々としていますが、実際に素芽子の死の真相に挑むのは母・江利子であり、最後は夫・良夫が20年前の事件の謎を解くという流れで、(推察レベルではあるが)ドラマよりはミステリの結末が明確です。

 ただ、原作の方も、主人公・江利子の心理的窮迫に焦点が当てられており、その部分を拡大したドラマの改変はまずまずだったように思います(ラストの母子無理心中はやや唐突か。これは原作にはない)。船越英一郎の「2時間ドラマ」デビュー作ということも少しだけ勘案して、星3つ半の評価としました。

「アテンションぷりーず」1.jpg范文雀.jpg 最後に范文雀(1948-2002/54歳没)について(このドラマに出た頃は34歳くらいか)。22歳の時に「サインはV」(1969年--1970年/TBS)で ジュン・サンダース役(途中から登場)で人気を博し、後番組の「アテンションプリーズ」(1970年--1971年/TBS)でも準主役級で起用されていました。その後、寺尾聡と結婚して一時芸能界を引退したような時期がありましたが離婚後に復帰、舞台などを経て演技の幅を広げていきました。感受性が鋭く聡明な人格であり、人に媚びずに、気に入らなければ大物男優との共演も辞退する男勝りな一面もあったそうですが、自分自身を曲げることなく、常に上を目指すストイックでプロフェショナルな姿勢に、演劇関係者やファンを初めとした多くの人々が魅了されていたとのこと。亡くなった際は、その早すぎる死が惜しまれたものです。 
      

「サインはV」r.jpg「「サインはV」1.jpg「サインはV」●監督:竹林進/金谷稔/日高武治●制作:黒田正司●脚本:上條逸雄/鎌田敏夫/加瀬高之●音楽:三沢郷●原作:神保史郎/望月あきら●出演:岡田可愛/中山仁/中山麻理/范文雀/岸ユキ/青木洋子/小山いく子/和田良子/泉洋子/西尾三枝子/三宅邦子/十朱久雄/星十郎/木田三千雄/近松麗江/村上冬樹/林マキ/逗子とんぼ/塚本信夫、/有沢正子/土屋靖雄/5代目柳家小さん/ミキ中町/平井道子/立原博/田崎潤/ナレーション:納谷悟朗●放映:1969/10~1970/08(全45回)●放送局:TBS

   

EASE アテンションプリーズ 范文雀.jpeg「アテンショNぷりーず」.jpgアテンションプリーズ2.jpg「ATTENTION PLEASE アテンションプリーズ」●演出:金谷稔/竹林進●制作:黒田正司●脚本: 竹林進/上條逸雄●音楽:三沢郷(作詞:岩谷時子)●出演: 紀比呂子/佐原健二/皆川妙子/范文雀/高橋厚子/関口昭子/黒沢のり子/麻衣ルリ子/山内賢/竜雷太/ナレーション:納谷悟朗●放映:1970/08~1971/03(全32回)●放送局:TBS


「歯止め」脚本.jpg「歯止め」1983.jpg「松本清張の歯止め」●演出:出目昌伸●脚本:重森孝子●音楽:佐藤允彦●プロデューサー:小杉義夫/高倉三郎●原作:松本清張●出演:長山藍子/井川比佐志/船越英一郎/范文雀/山本學/月丘夢路/小森みちこ/橋爪功/立石涼子●放送日:1983/04/05●放送局:日本テレビ(評価:★★★komori michiko.jpg☆) 
  
  
  
小森みちこ/魅惑のセレモニー(1983)

「●伊丹 十三 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 「●降旗 康男 監督作品」【2197】 降旗 康男 「居酒屋兆治
「●山﨑 努 出演作品」の インデックッスへ 「●宮本 信子 出演作品」の インデックッスへ 「●渡辺 謙 出演作品」の インデックッスへ「●大滝 秀治 出演作品」の インデックッスへ 「●加藤 嘉 出演作品」の インデックッスへ 「●岡田 茉莉子 出演作品」の インデックッスへ 「●中村 伸郎 出演作品」の インデックッスへ 「●津川 雅彦 出演作品」の インデックッスへ「●橋爪 功 出演作品」の インデックッスへ「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ「●役所 広司 出演作品」の インデックッスへ

〈ラーメン・ウエスタン〉のスタイル。人物造型もウェットでないのがいい。

「タンポポ」米国版ポスター.jpgタンポポ図2.jpgタンポポ 1985.jpg tampopo.jpg
タンポポ<Blu-ray>」/「Tampopo」米国版DVD

米国版ポスター['16年]

タンポポ61.jpg 長距離タンクローリーの運転手ゴロー(山﨑努)とガン(渡辺謙)がとある寂れたラーメン屋に入ると、店主のタンポポ(宮本信子)がタンポポ1.jpg幼馴染の土建屋ビスケン(安岡力也)にしつこく交際を迫られていたところだった。それを助けようとしたゴローだが逆にやられてしまう。翌朝、タンポポに介抱されたゴローはラーメン屋の基本を手解きしタンポポに指導を求められる。そして次の日から「行列のできるラーメン屋」を目指し、厳しい修行が始まる―。

タンポポ81.jpg 1985(昭和60)年公開の伊丹十三(1933-1997/64没)脚本・監督による「ラーメンウエスタン」と称したコメディ映画で、伊丹十三監督作としては、長「タンポポ」es.jpg編第1作「お葬式」('84年)と第3作「マルサの女」('87年)の間にくる作品ですが、公開当時は「お葬式」ほど注目されず、「マルサの女」が伊丹十三監督としての3年ぶりのブレイク作品になったように思います。実際、「お葬式」と「マルサの女」はそれぞれ第58回と第61回のキネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれていますが、この「タンポポ」はベストテンにも入っていません(ベストテン第11位)。やはり、ラーメン店の再興というのが、テーマ的に小粒と思われたのでしょうか(三谷幸喜監督の「ラヂオの時間」('97年/東宝)で渡辺謙がタンクローリ0「藤田「タンポポ」.jpgーの運転手役で出演しており、この作品へのオマージュととれるし、三谷幸喜監督がこの作品を高く評価していることが窺える)。

藤田敏八(歯が沁みる男)

 「お葬式」は名画座で観て、「タンポポ」は90年頃ビデオで観ましたが(この作品はその後なかなかDVD化されず、先にDVD化された米国からの輸入版で観た人も多いようだ)、意外と「タンポポ」の方が面白かったのではないかと後で思いました。「タンポポ」米国版ポスター2.jpg伊丹十三作品の人気ランキングなどを見ると、「お葬式」「マルサの女」と並んでこの「タンポポ」はベスト3に入っていることが多いですし、個人的には、「マルサの女」に匹敵する面白さだとは思っていましたが、今回観直して、これは「マルサの女」よる上ではないかと(評価○から◎に変更!)。

 米国では日本公開の翌年の1986年12月にニューヨークのジャパン・ソサエティーにて初上映され、翌年3月、近代美術館(MOMA)で新人監督シリーズの一本として上映されるとたちまち話題を呼び、一般公開にて大ヒットを記録、その年の全米の外国映画興行成績第5位にランクインし、その後も長きに渡り"海外でヒットした日本映画"として、世界中に記憶されることとなったといいます。

2016年10月、4Kデジタルリマスター版での30年ぶりの全米公開が決まり、皮切り上映されたニューヨークで、新たに制作された米国版ポスターを前に舞台挨拶をする宮本信子氏[写真:産経新聞(三品貴志氏撮影)]
  
タンポポ山崎1.jpg 米国で受け入れられたのは、〈ラーメン・ウエスタン〉のスタイルで「シェーン」('53年)を換骨奪胎したストーリータンポポ図2 (2)1.jpgを作り上げたことが大きいと思います。ラーメン店を一人で営む宮本信子の下にふらりと店に入ってきたトラック運転手の山崎努にしても常にカウボーイハットだし、自分たちの店のラーメンの味を貶された男たりがタンポポの店に押し掛ける時も、4人の男の内1人はさりげなくカウボーイハットで大いなる西部J.jpgした(ここは「OK牧場の決斗」('57年)風か)。そう言えば、土建屋の安岡力也も洋風の帽子でした。山崎努と殴り合った末に友情を築くのは、グレゴリー・ペックとチャールトン・ヘストンの延々と続く殴り合いのシーンで知られる「大いなる西部」('58年)へのオマージュではないでしょうか。アメリカ人は観ていてぴんとくるのでしょう。

「大いなる西部」('58年)チャールトン・ヘストン/グレゴリー・ペック

 山田洋次監督、高倉健主演の「遙かなる山の呼び声」('80年)なども「シェーン」へのオマージュ作品(ほぼパクリか)ですが、「タンポポ」の場合、ストーリー的には予定調和でありながらも、日本人的なウエットなキャラクターではなく、アメリカ映画的なドライな人物造形を意図的に模倣している点が、アメリカでスムーズに受け入れられる要因となったのではないかと思います。

「タンポポ」ロード.jpg また、この作品の中には、13の食べ物にまつわるエピソードが織り交ぜられているということで、それらも愉しめたし、今思うと、錚々たる面子(メンツ)の俳優がそれらサブストーリーに出ていたことが思い起こされ、暫く観ていない人は観直してみるのもいいのではないでしょうか。メインストーリーに関わる登場人物が主役の宮本信子、山崎努らを含め23名なのに対し、サブストーリーの登場人物が冒頭の役所広司、黒田福美(ヴィスコンティ監督の「ベニスに死す」のパロディか。黒田福美はこの作品以降、伊丹作品の常連に)を筆頭に46名と倍以上いるといいいます。

タンポポ 大友.jpg また、渡辺謙演じるガンが本を読みながら頭の中で描き出しているラーメンの先生を演じた大友柳太朗(1912‐1985/73歳没)は、この映画が公開される前の1985年9月27日、東京都港区の自宅マンション屋上から飛び降り自殺しています。したがって、この「タンポポ」が遺作となったわけですが、死の前日には自ら監督の伊丹十三(この人も'97年に自殺することになるのだが)に電話をかけ、自分の出番がすべて撮影済みであることを確認していたそうです。

市川右太衛門・大友柳太朗「大江戸七人衆」('58年)/大友柳太朗「酒と女と槍」('60年)/「赤穂浪士」('61年)
大江戸七人衆6.jpg酒と女と槍002.jpg赤穂浪士 大友.jpg この大友柳太朗という人は、1950年代には「片岡千恵蔵・市川右太衛門の両御大、中村錦之助・東千代之介・大川橋蔵の三羽烏よりも稼ぎ頭だ」と言われたほどの人気で、松田定次監督の「大江戸七人衆」('58年/東映)の七人衆の一人、旗本の平原役は市川右太衛門と同格か次席格で、大川橋蔵や東千代之介より上の格付けでしたし、内田吐夢監督、海音寺潮五郎原作の「酒と女と槍」('60年/東映)では主人公の富田高定を演じ(この映画、高定の"上司"格である前田利長役で片岡千恵蔵が客演している)、これも松田定次監督の「赤穂浪士」('61年/東映)でも原作者・大佛次郎が創造したキャラクターでフジテレビ「北の国から」 .jpgある、千坂兵部(市川右太衛門)の命により大石内蔵助(片岡千恵蔵)ら赤穂浪士の動向を探る浪人「堀田隼人」という重要な役どころでした。80年代には現代劇において老人役として人気を博しましたが、次第に台詞覚えに苦労するようになり「老人性痴呆にかかった」と悲観しはじめ、不眠症にも悩まされるようになり、特に後輩の杉良太郎からの執拗なダメ出し・批判に悩まされ、自信を喪失していったとのことです。

フジテレビ「北の国から」右は吉岡秀隆


タンポポs.jpg 因みに、西洋レストランで行われていた岡田茉莉子が講師を務めるマナー講座の近くの席で、パスタをすすったりげっぷを放つなどの騒音を出し、生徒たちが全員真似てパスタをすすって食べる元凶となった太った外人は、フランス出身のパティシエで日本で初となるフランス菓子専門店を開店させたアンドレ・ルコント(1932-1999)という人です。東京オリンピックを翌年に控えた1963年、ホテルオークラのシェフ・パティシエとして初めて日本を訪れ、本格的な砂糖菓子の彫刻を日本で最初に広めた人物です。


タンポポ5.jpgタンポポ4.jpg「タンポポ」●制作年:1985年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:田村正毅●音楽:村井邦彦●時間:115分●出演:山﨑努/宮本信子/渡辺謙/役所広司/安岡力也/加藤嘉/桜金造/大滝秀治/黒田福美/岡田茉莉子/高橋長英/橋爪功/大犮柳太朗/津川雅「タンポ」ポ 橋爪.jpg「タンポポ」井川.jpg彦/原泉/藤田敏八/高見映(高見のっぽ)/ギリヤーク尼ヶ崎/洞口依子/アンドレ・ルコント/中村伸郎/林成年/田武謙三/井川比佐志/三田和代/大月ウルフ/上田耕一●公開:1985/11●配給:東宝(評価:★★★★☆)
橋爪功(ホテルのボーイ)/井川比佐志(危篤の妻(三田和代)にチャーハンを作らせる男)

《読書MEMO》
●挿入されるエピソード(順不同。とりあえず13?)
タンポポ 紹興酒 海老.jpg➀ 白服の男(役所広司)とその情婦(黒田福美)が冒頭に登場し、映画館の最前列を陣取って食事をしようとする。
② 白服の男と情婦が口移しで生卵の黄身を崩さず何度もやりとりする(このほかに、白服の男が生きたままのエビに紹興酒をかけ、情婦の下腹に乗せ、情婦がくすぐったがって悶絶するというシーンもある)。
③ 白服の男が海辺の若い海女(洞口依子)から買った生牡蠣を食べ、殻で切った唇の血をその若い海女が舐める。
④ ガン(渡辺謙)が頭の中で創造した老人(大友柳太朗)がガンにラーメンの由緒正しい食べ方を教える。
⑤ レストランで食事マナーを生徒に教える講師(岡田茉莉子)の傍で外国人がズズッーとスパゲッティを啜って食べる。
⑥ 接待での場でフランス語メニューの読めない顧客と上司が当たり障りない注文し、フランス語は読めるが空気が読めない新米社員が高級料理や高級ワインを次々にオーダーする。やり取りを見たボーイ(橋爪功)は密かにほくそ笑む。
⑦そば屋で餅を喉につまらせた老人(大滝秀治)が、ゴロー(山崎努)らに助けられて、老人は御礼にとスッポン料理を一同に振舞う。
⑧ 食の細いターボー(タンポポの息子)にホームレスのシェフ(高見映(高見のっぽ))が、自分がリストラされたレストランに夜忍び込み、本物のオムライスを作って食べさせてやる(高見映は"ノッポさん"の帽子を被っている)。
⑨ 親から自然食しか与えらない子がソフトを食べる男(藤田敏八)をじっと見るので、男は自分のソフトをやる。
⑩ 食品店の柔らかい食材を触り回る老婆(原泉)とそれを見張る店長(津川雅彦)が深夜の店内で追っかけっことなる。
⑪ 東北大名誉教授を装うスリ(中村伸郎)に北京ダックを奢り、偽投資話で騙そうとする詐欺師(林成年)だったが...。
⑫ 幼い子どもらを持つ男(井川比佐志)が、危篤の妻(三田和代)にどうしてよいか分からずチャーハンを作らせる。
⑬ ラスト‥クレジットロールの背景に映し出される「授乳」シーン(人間にとって最初の食事であるということか)

タンポポ13.jpg

「●山田 洋次 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1469】 山田 洋次「家族
「●橋本 忍 脚本作品」の インデックッスへ 「●林 光 音楽作品」の インデックッスへ 「●滝沢 修 出演作品」の インデックッスへ 「●倍賞 千恵子 出演作品」の インデックッスへ 「●新珠 三千代 出演作品」の インデックッスへ 「●川津 祐介 出演作品」の インデックッスへ 「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ ○あの頃映画 松竹DVDコレクション 「●ま 松本 清張」の インデックッスへ

「弁護士を許さない」原作の真骨頂を活かし、むしろ原作超えか。倍賞千恵子もいいが、滝沢修はさすが。
霧の旗 1965.jpg
   
霧の旗041.jpg
あの頃映画 「霧の旗」 [DVD]
松本清張傑作映画ベスト10 5 霧の旗 (DVD BOOK 松本清張傑作映画ベスト10)
霧の旗 DVDブック.jpg「霧の旗」011.jpg 柳田桐子(倍賞千恵子)は高名な大塚欽三(滝沢修)の法律事務所を今日も訪れたが、返事は冷たい拒絶の言葉だった。熊本の老婆殺しにまきこまれた兄・正夫(露口茂)のために、上京して足を運んだ桐子は、貧乏人の惨めさ「霧の旗」021.jpgを思い知らされる。「兄は死刑になるかも知れない!」と激しく言った桐子の言葉を、何故か忘れられない大塚は、愛人・河野径子(新珠三千代)との逢瀬にもこの事件が頭をかすめた。熊本の担当弁護士から書類をとり寄せた大塚は、被害者の「霧の旗」031.jpg致命傷が後頭部及び前額部左側の裂傷とあるのは、犯人が左利きではなかったかという疑問を抱く。数日後、桐子の名前で「兄が「霧の旗」041.jpg一審で死刑判決を受けたまま二審の審議中に獄中で病死した」と知らされる。「僕が断ったからこんな結果になったとでも言っているみたいだね」と苦笑しながらも、事件のことが気にかかった大塚は、熊本から事件の資料を取り寄せる。兄の死後、上京した桐子はバー「海草」のホステスとなる。そして店の客の記者・阿部(近藤洋介)から「大塚が事件の核心を握ったらしい」と聞かされる。ある日桐子は同僚のホステス信子(市原悦子)から恋人・杉田健一(川津祐介)の監視を頼まれた。ある夜、尾行中の桐子は、健一が本郷のしもた屋で何者かに殺害された現場に来合わせた。そこには大塚の愛人・径子も来ていて、慌てて桐子に証言を「霧の旗」051.png頼み去っていく。桐子は径子が落とした手袋を健一の死体の血だまりに残すと、本来の証拠品である健一の兄「霧の旗」12.jpg貴分・山上(河原崎次郎)のライターをバッグにしまう。径子は殺人容疑者として逮捕され、大塚の社会的地位も危ぶまれた。大塚は証拠品のライター提出と、正しい証言を求めて桐子の勤める店に足を運んだ。そんなある夜、桐子はライターを返すと大塚をアパートに誘い、ウイスキーをすすめて強引に関係を迫った。翌日桐子は担当検事に「大塚から偽証を迫られ、暴行された」と処女膜裂傷の診断書を添えて訴えた―。

霧の旗 (1969).jpg霧の旗 新潮文庫2.jpg 1965(昭和40)年公開の山田洋次監督作。原作は、雑誌「婦人公論」の1959(昭和34)年7月号から 1960(昭和35)年3月号に連載され、1961(昭和36)年3月に中央公論社より刊行された松本清張作品。脚本家の橋本忍がすでに書き上げていた脚本を山田洋次監督が読んで、「僕にやらせてくだい」と松竹に持ち込み、松竹の城戸四郎と交渉の末、映画化が実現したとのことです。
霧の旗 (新潮文庫)

 不正な人間、邪悪な人間に対して弱い人間が立ち上がって正義を貫くというのがフツーの物語ですが、この物語の主人公・桐子は、貧しいといい弁護士が雇えないという〈社会悪〉に対して挑むと言うより、大塚弁護士〈個人〉に徹底的に対して復讐するという、弁護士側にしてみればお門違いとも思える相手の恨みからヒドイ目に遭う話であるのが特徴です(社会学者の作田啓一は、本作において大塚弁護士の側に罪があるとすればそれは「無関心の罪」であり、現代人の多くがひそかに心あたりのある感覚であると分析している)。

「霧の旗」091.jpg このややエキセントリックとも思える女性・桐子に役をどう魅力的に演じるかはなかなか難しい挑戦だったと思いますが、当時23歳の倍賞千恵子はそれを見事に自然体でこなしていて、いいと思います。皇居の前を桐子が歩くシーンは、脚本にはなく山田洋次監督が現場で考えたものですが、山田洋次監督は倍賞千恵子を「ただ歩いているというのが軽やかにできる人」と賞賛しています。

 ただ、それでも、当時の演劇界の最高峰の俳優であり、精密な理論に裏打ちされた演技をすることで知られた滝沢修と、自分の役は「やりにくい」と言いつつも、橋本忍に「映画にはどうしても死に役というものがある。今回はあきらめてほしい」と言われて覚悟して役に臨んだ新珠三千代の、この二人の存在が大きいように思います。

「霧の旗」061.jpg 特に滝沢修の演技は観ていて飽きさせません。桐子が自分の家に大塚弁護士を招き入れて酔わせるシーンがありますが、倍賞千恵子は、だんだん顔を赤くして額に筋を立てて酔っていく滝沢修の演技がすごかったと言い、ただの水を飲んでいるのによくそこまで演じられると、名優の芝居に引き込まれたそうです。

「霧の旗」b.jpg 山田洋次監督は、倍賞千恵子の演技も滝沢修に伍して素晴らしかったとしていますが(山田洋次監督は渥美清と倍賞千恵子を「二人の天才」と呼んでいる)、滝沢修が倍賞千恵子をリードした面もあったのではないでしょうか。倍賞千恵子は当時、三点倒立して集中力を鍛えることに凝っていて、毎朝それをして撮影所に入ったそうですが、それでも滝沢修とシーンはたいへんで、胃痛で具合が悪くなり、夜中に撮影が終わって救急病院に行ったら、腎臓結石だと言われたそうです。

「霧の旗」071.jpg 冒頭、桐子が熊本(原作では桐子はK市在住)から一昼夜かけて東京へ向かうシーンは、野村芳太郎監督の「張込み」('58年/松竹)で刑事らが東京から列車で佐賀に向かうシーンを(上りと下りの違いはあるが)想起させます。

 原作と異なるのはラストで、原作は「大塚弁護士は煉獄に身を置いた。河野径子が閉じ込められている牢獄よりも苛酷であった。東京から桐子の消息が消えた東京から桐子の消息が消えた」で終わりますが、映画では、大塚弁護士が弁護士の仕事を辞める(地位と名誉を失う)ことと引き換えに免責されることが、検事との会話の中で示唆されています。また、映「霧の旗」l1.png「霧の旗」ll1.png画では、桐子は最後に九州の阿蘇の火口口に現れ、次に、船の上から河野径子の潔白を証明する証拠物件であるライターを海に投げ捨てます。これは、結局、最後まで桐子は大塚弁護士を許さなかったということを念押ししているようにも思えました。

「霧の旗」dvd.jpg 原作は何度もテレビドラマ化されていますが、ドラマの方は、桐子が最後、ライターを新聞記者に渡したり('83年/大竹しのぶ版)、検察局に送って、挙句の果てには疑いの晴れた弁護士の愛人・径子は妻と離婚した大塚弁護士と一緒になる('10年/市川海老蔵版)といった終わり方になっているものが多いようです。テレビ的に、あまりハードな結末は一般に受け入れられないという判断なのでしょうか。

 個人的は、桐子が大塚弁護士を最後まで許さないところが、彼女の恨みの深さの現れであり、彼女においてはその深さが大塚弁護士個人への復讐となったが、それは実は〈社会悪〉=〈社会格差〉の根深さであって、その点が原作の真骨頂ではなかったかと思っています。映画はそれを活かしていました。と言うか、原作には無い最後の桐子の旅がライターを捨てる場所を探す旅であり、それを深い海に投げ捨てるという点で、橋本忍の脚本によるラストは原作を超えていたようにも思います。

「霧の旗」●制作年:1965年●監督:山田洋次●製作:脇田茂●脚本:橋本忍●撮影:高羽哲夫●音楽:林光●時間:111分●出演:倍賞千恵子/滝沢修/新珠三千代/川津祐介/近藤洋介/内藤武敏/露口茂/市原悦子/清村耕次/桑山正一/浜田寅彦/田武謙三/阿部寿美子/穂積隆信/三「霧の旗」川津2.jpg「霧の旗」井川.jpg崎千恵子/井川比佐志/大町文夫/菅原通済/河原崎次郎/逢初夢子/金子信雄●公開:1965/05●配給:松竹(評価:★★★★☆)

川津祐介(大塚弁護士の愛人の河野径子の情夫・杉田健一。本郷のしもた屋で何者かに殺害される)/ 井川比佐志(桐子が「このへんの海の深さはどれくらいあるんです?」と訊くと「そうね。よくわかんないけど、1000メートル以上あるだろうね。しかし、あんた、どうして、そんな」と応える船員)

「●黒澤 明 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●溝口 健二 監督作品」【3061】 溝口 健二 「残菊物語
「●「山路ふみ子映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●池辺 晋一郎 音楽作品」の インデックッスへ 「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ「●吉岡 秀隆 出演作品」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ ○あの頃映画 松竹DVDコレクション

原作者が「ラストで許そう黒澤明」と言うと、自分もそんな気になる。

八月の狂詩曲 ポスター.jpg 八月の狂詩曲 1.jpg 八月の狂詩曲 5.jpg
「八月の狂詩曲(ラプソディー)」村瀬幸子・吉岡秀隆ほか/リチャード・ギア
八月の狂詩曲7.jpg ある夏休み。長崎市街から少し離れた山村に住む老女・鉦(村瀬幸子)に1通の航空便が届く。ハワイで農園を営む鉦の兄・錫二郎が不治の病にかかり、死ぬ前に鉦に会いたいとの内容で、鉦の代わりに息子・忠雄(井川比佐志)と娘・良江(根岸季衣)がハワイへ飛んだ。そのため4人の孫が鉦のもとにやって来た。ハワイから忠雄の手紙が届き、錫二郎が妹に会いたがっているため、孫と一緒にハワイに来てほしいと伝えてくるが、鉦は錫二郎が思い出せないとハワイ八月の狂詩曲 2.jpg行きを拒む。都会の生活に慣れた孫たちは田舎の生活に退屈していたが、原爆ゆかりの場所を見て回ったり、祖母の原爆体験の話を聞くうちに、原爆で夫を亡くした鉦の気持ちを次第に理解していく。やがてハワイ行きの八月の狂詩曲 3.jpg決断を促す手紙が届き、鉦は原爆忌が終わってから行くことを決意し電報を出す。それと行き違いに忠雄と良江が帰国、手紙に原爆のことを書いたのは、アメリカ人に原爆の話はまずかったと落胆する。そこへ錫二郎の息子のクラーク(リチャード・ギア)が来日、空港に出迎えた忠雄はその意図を理解できなかったが、クラークは「ワタシタチ、オジサンノコトシッテ、ミンナナキマシタ」と語り、おじさんが亡くなった八月の狂詩曲 4.jpg場所へ行きたいと頼む。その夜、庭の縁台でクラークは鉦に、おじさんのことを知らなくて「スミマセンデシタ」と謝る。鉦は「よかとですよ」と答え、二人は固い握手を交わす。8月9日、鉦は念仏堂で近所の老人たちと読経する。クラークは父の死去を伝える電報を受け取り、急遽帰国する。鉦はやっと錫二郎を思い出し、その死を悲しむが、その後様子が変になり、雷雨の夜に突然「ピカが来た」と叫ぶ。翌日、キノコ雲のような雷雲が空に広がり、鉦は長崎の方へ駆け出して行く。豪雨となり、孫たちや息子たちは祖母を追いかける―。

 黒澤明(1910年生まれ)監督の1991年公開作で、脚本も黒澤明。遺作となった「まあだだよ」('93年)の一つ前の作品であり、三船敏郎を主演に据えた最後の作品「赤ひげ」('65年)以降、「どですかでん」('70年)、「デルス・ウザーラ」('75年)、「影武者」('80年)、「乱」('85年)、「夢」('90年)と5年に1作のペースで撮り続けていた黒澤明監督ですが、この作品は「夢」のわずか1年後の作品であるのが興味深いです。

八月の狂詩曲 6.jpg 黒澤自身はこの作品について、「ラストのあのシーンで笑ってくれ」と言ったそうですが(つまり、鉦おばあさんが豪雨の中で風に立ち黒澤明 大林.jpg向かい、そこにシューベルトの「野ばら」の合唱が流れる場面のことになる。個人的には、黒澤明には"風男"という異名がある(都築政昭『黒澤明と「用心棒」―ドキュメント・風と椿と三十郎』('05年/朝日ソノラマ))ほど風に縁があるということを思い出した)、笑ってくれと言われても、反戦色が滲む作品でもあるため、そう簡単には笑えない気もします (ただし、木下惠介監督の「二十四の瞳」('54年)の原作もそうだが、この作品の原作「鍋の中」も反戦小説ではなくフツーの文芸小説であり、「原爆」や「ピカ」といった言葉も出てこない)。 そう言えば、今年['20年]4月に亡くなった大林宣彦監督の遺作が「海辺の映画館―キネマの玉手箱」('20年)という反戦色の強い作品でしたが、晩年になるとそうした傾向のものを撮りたくなるのでしょうか。

I「鍋の中」817.jpg八月の狂詩曲es.jpg 原作である「鍋の中」は、村田喜代子(1945- )の1987(昭和62)年上半期・第97回「芥川賞」受賞作です。映画を観ていて、リアルなシーン、戯画化されたシーン、いかにも物語の中のシーンみたいなのが入り混じっていて、例えば、孫たちが鉦おばあさんの料理にダメ出しするなどはリアルだし、ハワイに金持ちの親戚がいると分かった大人たちの行動は通俗的かつ戯画的だし、孫たちは物語の中の人物のように純真であったりします。その辺りにややちぐはぐさを感じましたが、これはおそらく原作がそういう性質のものなのだろうと思いました。でも、原作を読んでみたら、映画と相当違っていました。

 原作者の村田喜代子氏はこの映画化作品に不満だったそうで(そうだろうなあ)、「別冊文藝春秋1991年夏号」に、「ラストで許そう、黒澤明」(『異界飛行』収録)というエッセイを書いています。これを読むと、自分が映画を観て感じたちぐはぐさは、原作者も感じていたということが分って興味深かったです。

八月の狂詩曲5.jpg 例えば、そのエッセイの中に、「主人公の祖母が純文学的造形であるのにくらべ、孫達は通俗小説的可もなく不可もなくで、親はマンガタッチである。この原因はなんだろうと暗闇の中でかんがえた。祖母が映画の中でしっかりと個性を持って立っているのは、原作の造形にわりと忠実に沿っているためだが、孫達はストーリーの幕引き以上の役をここでは持たされていないため、ただ可愛いだけなのである。親達は原作には出てこない映画だけの登場人物であるため、作りがもうひとつ浅いのだろう」といった文章もあります(因みに、原作は孫娘の視点から描かれている)。

 それでもこのエッセイが「ラストで許そう、黒澤明」というタイトルになっているのは、映画を観終わった後、「どうですか、原作者の感想は」と友人に聞かれ、実際、考えた上で、「ラストで許そう、黒澤明」と返事したからそうで、原作者は映画を原作とは別にものとして捉えながらも、ラストの映像の力強さには感じるものがあったようです(三島由紀夫が黒澤のことを「テクニシャン」と呼んでいたが、そうした面はあるかも)。

 自分の作品を映画化してくれた、自分より35歳も年上の世界的監督に、「ラストで許そう」なんて当時は態度が大きいと感じた人もいたようですが、原作者というのは自分の作品の方がいいと思っているのが普通であるし(このエッセイにはっきりそう書いている)、これくらいにのスタンスでもいいのではないかと思います(原作者はラストの、老婆の至福の姿が、黒澤明その人にみえたそうだ)。原作者が「ラストで許そう」なんて言うと、自分もついそんな気になります。主体性が無さすぎかもしれませんが(笑)。
 
八月の狂詩曲 ギアges.jpg この映画は、アメリカでは、芸術性とは異なった部分で評判がイマイチでした。それは、リチャード・ギア演じるクラークが「すみませんでした」「私たち悪かった」と鉦おばあちゃんに謝っている場面が、アメリカ人であるクラークが原爆投下を「すみませんでした」「悪かった」と謝罪していると捉えられたためのようです。実際には、「私たち」は、「鉦の兄であるハワイに移民した錫二郎やクラークらの一家」のことであり、「すみませんでした」は「鉦おばあちゃんの夫が被爆死したことを知らなかった」ことに対してなのですが、そのことが分からず、井川比佐志、根岸季衣らが演じる親たちが、「クラークさんが謝りに来る」とただただ慌てふためく場面もあったりして、これが皮肉にも、観る側にとっての誤解にも結びついたのかもしれません(因みに、原作ではクラークは手紙でしか登場しない)。

 2015年にアメリカのシンクタンクであるピュー・リサーチ・センターが実施した調査では、原爆投下は「正当化できる」と答えた日本人は14%にとどまり、79%は「正当化できない」と回答しているのに対し、アメリカ人では56%が「正当化できる」と回答し、過半数を上回ったそうで、原爆投下に関する歴史認識には、日米のあいだで超えられない深い溝があるようです。

 『COUNTDOWN 1945』という本によれば、広島と長崎への原爆投下から数日後に行われたギャラップの世論調査では、85%のアメリカ人が原爆投下を支持していて、その後の調査で、その支持率は安定していたそうです。被爆60周年を迎えた2005年には、原爆投下を支持するアメリカ人は57%、反対する人は38%だった」と(前述の通り、2015年の調査でもそう変わっていないということにまる)。ところが最近になって、有力紙ロサンゼルス・タイムスが、今年[2020年]8月6日の広島平和記念日に、「日本に原爆を落とす必要なかった」という論説を掲載し、また、近年では、29歳以下の若年層に限定すれば、アメリカでも原爆投下は「間違っていた」と考える人たちは多いといのことです(逆に「正しかった」と考える人々は、65歳以上の白人男性、共和党支持者に多いが、若年層の回答を見ればアメリカの世論も変化しているという指摘もある)。

下村脩 2.jpg 『COUNTDOWN 1945』は、戦争終結のための選択肢は、本土決戦か原爆投下の2つに1つであったという論調ですが、例えば長崎への2回目の原爆投下についてはどうか。広島への原爆投下のたった3日後に、再び無警告で長崎への原爆投下を行ったことは、広島の原爆以上に正当化しえない殺戮だったのではないかと思われます。このことを、2008年にノーベル化学賞を受賞した故・下村脩(長崎に原爆が落ちた際に当時16歳で諫早市にいた)が、ストックホルム大学でのノーベル賞受賞記念講演で話し(通常は記念公演での政治的話題はタブーとされているのだが)、著書にも書いていますが、こうした人々の発言もあって、アメリカでも少しずつ世論が変化しているのかもしれません。

 今この作品が海外公開されていれば、少なくとも当時のように、アメリカの映画界で黙殺されることも無かったかもしれません。ただし、当時のアメリカででも"完全黙殺"されたわけではなく、この映画の撮影時にはなかった平和公園のアメリカからの慰霊碑が、1992(平成4)10月にアメリカのセントポール市から寄贈されていることを付記しておきます(この慰霊碑への寄付を募るために「八月の狂詩曲」上映会がセントポール市で開催された)。

八月の狂詩曲 ポスター.jpg八月の狂詩曲 dvd.jpg八月の狂詩曲(ラプソディー) [DVD]
「八月の狂詩曲(ラプソディー)」●制作年:1991年●監督:黒澤明●製作:黒澤久雄●脚本:黒澤明●撮影:斎藤孝雄/上田正治●音楽:池辺晋一郎●原作:村田喜代子「鍋の中」●時間:98分●出演:村瀬幸子/吉岡秀隆/大寶智子/鈴木美恵/伊崎充則/井川比佐志/根岸季衣/河原崎長シネマ ブルースタジオ 戦争の傷跡 特集.jpg一郎/茅島成美/リチャード・ギア/松本克平/牧よし子/本間文子/川上夏代/音羽久米子/木田三千雄/東静子/堺左千夫/夏木順平/川口節子/槇ひろ子/加藤茂雄/歌澤寅右衛門/門脇三郎●公開:1991/05●配給:松竹●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-08-19)(評価:★★★☆)

 

《読書MEMO》
●クラーク役には当初、ジーン・ハックマンが予定されていた。これは脚本を読んだハックマン本人の熱望を受けてのものであった(年齢がクラーク役としては高いため、当初は黒澤が難色を示していた)。ただし、健康上の理由から撮影前に降板している。リチャード・ギアは代役だったわけだが、この作品が原爆論争を引き起こす可能性を含むことを織り込み済みでの出演だったのではないか。撮影で使われた念仏堂(下左)は、撮影終了後に、リチャード・ギアの希望により彼のアメリカの別荘へ移築されたが、ハリウッド俳優としては破格の安い出演料で出演してくれたリチャード・ギアに対する埋め合わせの意味もあったという。リチャード・ギアは、鉦おばあさんの家(下右)も欲しがったが、さすがにこれをアメリカへ移築するのは大変なので諦めてもらったという。
八月の狂詩曲 仏.jpg 八月の狂詩曲 家.jpg

「●TVドラマ①50年代・60年代制作ドラマ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 黒木 和雄 「恐怖劇場アンバランス(第7話)/夜が明けたら
「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ「●ま 松本 清張」の インデックッスへ

良かったけれども、原作は超えられない。ラストの言い争いは不要だった。

DVD恐怖劇場アンバランス Vol.345_.jpg(第6話)/地方紙を買う女title.png (第6話)/地方紙を買う女1.jpg (第6話)/地方紙を買う女 夏.png
DVD恐怖劇場アンバランス Vol.3」井川比佐志(杉本隆治)/夏圭子(潮田芳子)
井川比佐志/吉野よし子 at ホテルニューオータニ
(第6話)/地方紙を買う女2.png 地方紙・甲信新聞社に「杉本隆治の連載小説を読みたいので定期購読したい」との手紙が東京から届く。当の小説家・杉本隆治(井川比佐志)は気を良くするが、1カ月後につまらないから購読をやめたいとの手紙が届く。腑に落ちない杉本は、手紙の差出人(第6話)/地方紙を買う女3 1.jpgを申し込んだ日から止めた日までの1カ月間の記事をチェックすると、東京から来たカップルの心中事件が目を引く。杉本は芳子がホステスとして勤めるキャバレーに自ら行き、芳子(夏圭子)に会って「僕の小説のどこが面白かった?」とカマを掛けるが答えは曖昧で、芳子が自分の小説を読んでいないと確信する。今度は芳子が杉本の周辺を調べ始め、杉本のマンションのベランダで杉本に好意を持っている甲信新聞の女性編集員・ふじ子(吉野よし子)の姿を確認する。杉本の方も芳子に、新作のアイディアができたとして偽装心中の話をしれカマを掛け、彼女の反応を見る。ある日、芳子は杉本とふじ子をハイキングに誘い、ふじ子は芳子の手作り弁当を口にしようとするが―。

『顔・白い闇』.JPG白い闇 (1957年) (角川小説新書).jpg 松本清張の中編小説「地方紙を買う女」が原作。「地方紙を買う女」は、「小説新潮」1957年4月号に掲載され、1957年8月に短編集『白い闇』収録の1編として、角川書店(角川小説新書)より刊行されています(1959年『顔・白い闇』として文庫化)。若杉光夫監督の「危険な女」('59年/日活)は、この作品が原作で、主演は渡辺美佐子、芦田伸介でした。また2016年までに、本作品も含め9度テレビドラマ化されていて、それらは以下の通りになります(因みに、上には上があり、松本清張原作の「一年半待て」は2016年まで12回ドラマ化されている)。  
顔・白い闇 (角川文庫)』(顔/張込み/声/地方紙を買う女/白い闇)『白い闇 (1957年) (角川小説新書)』(白い闇/一年半待て/地方紙を買う女/共犯者/声)

 ・1957年「地方紙を買う女」(NHK)大森義夫・藤野節子・千秋みつる
 ・1960年「地方紙を買う女~松本清張シリーズ・黒い断層」(KR)堀雄二・池内淳子・杉裕之
 ・1962年「地方紙を買う女~松本清張シリーズ・黒の組曲」(NHK)筑紫あけみ・野々村潔
 ・1966年「地方紙を買う女」(KTV)岡田茉莉子・高松英郎・戸浦六宏
 ・1973年「恐怖劇場アンバランス(第6話)地方紙を買う女」(CX)夏圭子・井川比佐志・山本圭
 ・1981年「地方紙を買う女 昇仙峡囮心中」(ANB)安奈淳・田村高廣・室田日出男
地方紙を買う女.jpg ・1987年「地方紙を買う女」(CX)小柳ルミ子・篠田三郎・露口茂
 ・2007年「地方紙を買う女」(NTV)内田有紀・高嶋政伸・秋野暢子
 ・2016年「地方紙を買う女~作家・杉本隆治の推理」(ANB)田村正和・広末涼子・水川あさみ

松本清張ドラマスペシャル・地方紙を買う女2.jpg 原作が文庫で50ページほどで、かつては30分ドラマ枠で放送されることが多かったのが、80年代以降、「2時間ドラマ」枠で放送されるのが定番化しています。直近の2016年のテレビ朝日版(田村正和・広末涼子)では舞台を金沢に移したりもしています(2020年のNHK「黒い画集~証言~」も舞台を東京から金沢に変えている。金沢と言えば「ゼロの焦点」なのだが)。それに限らず、2時間ドラマになってからの作品は改変が多く、2時間もたせるために原作にいろいろ足している印象を受けます。

(第6話)/地方紙を買う女5.png そうした中、「恐怖劇場アンバランス」の一話として'70 年に作られ(制作№11)、第6話として'73年に放映されたこの「地方紙を買う女」は(「恐怖劇場アンバランス」は'69年7月から'70年3月にかけて制作されながら、放映が延びていた。シリーズごと3年間お蔵入りしていたことになる)、正味45分、コンパクトに纏まっていてほぼ原作通りであり、下手に足し算するよりも、よく作品の雰囲気を伝えているように思います。監督はフジテレビのディレクターだった森川時久で、当時このシーリーズを演出した鈴木清順、藤田敏八、神代辰巳、黒木和雄といった人たちがまださほど実績が無かったのに対し、森川時久は人気ドラマ「若者たち」を手掛け、その劇場版で'66年に映画監督デビューも果たしていました。

(第6話)/地方紙を買う女 6.png 小説家・杉本を演じた井川比佐志の演技もいいし、謎の女・芳子の夏圭子(当時26歳)も良かったです。ただ、原作と全く同じに作られているかというと、原作では山本圭が演じるトップ屋が出てきません(芳子の身許調査は杉本が探偵社に依頼して行う)。したがって、ラストの井川比佐志と山本圭の論争(言い争い)もありません。この部分が、小山内美江子による脚本の見せどころだったのかもしれませんが、個人的には蛇足だったように思います(他にも細部でも原作との違いはある。例えば、芳子の夫は刑務所にいて今度刑期を終えるのではなく、満州に抑留されていて帰還することになったなど。これは、時代背景を原作から10年以上ずらしているため)。また、原作では、杉本は芳子のことを「芳ベイ」と呼ぶようになるまでに親密の情を抱いていますが(そこが主人公の辛さ)、ドラマでは杉本から見て「容疑者」としてのイメージの方が凌駕しているように思います。

(第6話)/地方紙を買う女71.png シーリーズの中でもよく出来ている方だと思いますが、その良さは原作に依るところ大であり、ドラマ版は"蛇足"もあったりして、これもまた、原作を超えるまではいってないと思います。原作のスゴイ点は、主に芳子の視点及び心理描写で話が進んでいくことで、普通はこのスタイルだと「倒叙法」になりますがそうなっておらず、それでいて推理小説として成り立っていることです(ドラマは冒頭に犯行シーンがあり「倒叙法」になり切っている)。この手法は、行き過ぎた"叙述トリック"になる恐れもありますが、本作ではそうなっていないどころか、芳子と杉本の心理的な探り合いを際立たせています。これもまた松本清張の"社会派推理小説"群の一環を成す作品ですが、技術的な面でも優れていると思います。

松本清張 「夜盗伝奇」.jpg 因みに、作中で杉本隆治が新聞に連載している『野盗伝奇』は、松本清張の実際の作品であり、西日本スポーツなどブロック紙系の新聞に連載され1957年11月に光風社より刊行(後に角川文庫で文庫化)されていて、「地方紙を買う女」を「小説新潮」に連載していた時期と重なり、このあたりに清張に茶目っ気が窺えます。


『野盗伝奇』(改版版)
光風社・1964(昭和39)年9月発刊

 

夏圭子 in「不良番長 練鑑ブルース」(1969)
夏圭子 in「不良番長 練鑑ブルース」.jpg1(第6話)/地方紙を買う女図.png「恐怖劇場アンバランス(第6話)/地方紙を買う女」●制作年: 1970年(制作№11)●監督:森川時久●監修:円谷英二●制作:円谷プロダクション/フジテレビ●脚本:小山内美江子●音楽:冨田勲●原作:松本清張「地方紙を買う女」 ●出演:井川比佐志/夏圭子/山本圭/吉野よし子/中村美代子/中島葵/横森久/可知靖之/飯沼慧/金井進二/早川純一/大林丈史/松谷量子/前川哲男/青島幸男(解説)●放送:1973/01/29●放送局:フジテレビ(評価:★★★☆)

地方紙を買う女3.jpg松本清張全集 (36) 地方紙を買う女.jpg松本清張全集 (36) 地方紙を買う女 短篇2』(秀頼走路/明治金沢事件/喪失/調略/箱根心中/ひとりの武将/増上寺刃傷/背広服の変死者/疑惑/五十四万石の嘘/顔/途上/九十九里浜/いびき/声/共犯者/武将不信/陰謀将軍/佐渡流人行/賞/地方紙を買う女/鬼畜/一年半待て/甲府在番/捜査圏外の条件/カルネアデスの舟板/白い闇)

「●小栗 康平 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●相米 慎二 監督作品」【1125】 相米 慎二 「台風クラブ
「●岸部 一徳 出演作品」の インデックッスへ「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

「説明不足」で「不親切」になってしまった。美しく撮られている一方で、美術上の難点も。

映画『FOUJITA』.jpg映画『FOUJITA』s.jpg FOUJITA (小栗康平コレクション 別巻)_.jpg
「FPUJITA」('15年/日・仏) オダギリジョー 「FOUJITA (小栗康平コレクション 別巻)
映画『FOUJITA』V.jpg 1913年、27歳で単身フランスへ渡ったフジタ(オダギリジョー)は、「乳白色の肌」で裸婦を描き、エコール・ド・パリの寵児となる。そして1940年に帰国し、戦時下で戦争協力画を描くことになったフジタは、日本美術界の中で重鎮として登り詰めていくが、疎開先の村で敗戦を迎える―。

映画『FOUJITA』  コンペ.jpg 小栗康平監督が10年ぶりに手がけた長編監督作で、1920年代からフランスを中心に活躍した日本人画家・藤田嗣治の半生を映画化したもの。日本とフランスの合作映画として製作され(フランス側のプロデューサーは、「アメリ」のクローディー・オサール)、第28回東京国際映画祭のコンペティション部門出品作。前半は、フジタのパリにおける社交生活や芸術生活などが断片的なスケッチを繋げていくように描かれ、後半は、戦時下の日本における彼の生活が描かれています。

映画『FOUJITA』01.jpg 前半のパリ時代のフジタを演じるオダギリジョーはちょっと軽い感じがしましたが、実際、フランスで人気を博していた頃の藤田嗣治は、「FouFou(フランス語でお調子者の意)」と呼ば映画『FOUJITA』  ZK.jpgれていたとのことで、それに沿ったのでしょうか。ただ、オダギリジョーは喋らないでじっとしている方がよく、動いたりフランス語を喋ったりすると、周囲がフランス人ばかりで、非常に浮いている印象を受けました。パリ時代の最後を飾る「フジタ・ナイト」でのフランス風「花魁道中」におけるフジタも、観ていて痛々しい印象すらありました。

映画『FOUJITA』05.jpg 後半は、何の説明もなく舞台は日本に切り替わり(但し、戦争が始まって日本に戻ってきたのだなということは理解に難くはないが)、フジタは陸軍美術協会理事長に就き(やや受身的に描かれている)、戦争画を手掛け、「決戦美術展」には彼の作品「アッツ島玉砕」が展示されています。ここでは主に、5番目の妻の君江(中谷美紀)との疎開先での静かな生活が描かれ、疎開で世話になった家の息子・治郎(加瀬亮)の出征などがエピソードとして織り込まれています。出征を前にした治郎が語る、狐が人間を騙そうとして見破られてしまう話に軽く噴き出すフジタは、パリ時代の彼とは対極にいるようにも思えました。

 映画は、次第に、フジタの心象を表すような美しい風景の連続となり、最後は自身が仏ランスに建立した「シャペル・フジタ(フジタ礼拝堂)」の壁画を映して終わり(エンディングロールの後に出てくる)、小栗康平監督はこの作品についてあるインタビューで「映画を見ることは、絵を見ることと同じだと思います」と語っていたように思いますが、まさに、そういう映画だったなあと。

 まあ、「泥の河」「伽倻子のために」「死の棘」「眠る男」など過去の殆どの作品で国際的な映画賞を受賞している小栗康平監督が賞狙いにいったと言うよりは、自分が撮りたい映画を撮ったというように解してあげたいところですが、余計な「説明」を意図的に排することで、逆にちょっと「説明不足」で「不親切」になってしまった印象も受けます。

映画『FOUJITA』attu.jpg 「アッツ島玉砕」などは、戦意高揚作品の形をとりつつ、実はピカソの「ゲルニカ」などと同じく「反戦」絵画として描かれたものではないかと思わせるものがあるのですが、映画の中でそうした藤田嗣治の作品世界をじっくり見せることは敢えてしていないように思えました。フランスで描かれた諸作品の「素晴らしき乳白色」の世界もそうですが、ドラマ部分の薄暗いトーンを(ラストの「シャペル・フジタ」を除いて)作品にまでも被せてしまっていたのが残念。

 もう一つ、藤田嗣治は、戦争協力画を描いたことで戦後に戦争責任を問われ、そうした批判に嫌気がさして1949年に日本を去り、その後、生涯日本に戻ることなくフランスに帰化し、異国で亡くなったわけで、後に自身も、「私が日本を捨てたのではない。日本に捨てられたのだ」とよく語ったとのことですが、映画ではフランスに再度渡るところまでは描かれておらず、いきなり「シャペル・フジタ」の壁画がラストで出てきてお終いという...やっぱりコレ、ちょっと「不親切」過ぎない?

映画『FOUJITA』e.jpg藤田嗣治    .jpg 藤田嗣治のことをある程度知っている人も知らない人もこの映画を観るわけでしょう。藤田がスケープゴートに近い形で戦争協力の罪を被せられたことについては、彼の実力と国際的名声が日本画壇の重鎮たちにとっては脅威となり、仕組まれたうえでの'異物'排除であったとの説もあるようです(ちょうどオーソン・ウェルズがその'天才'を警戒されて、ハリウッドでは不遇だったように)。藤田はパリに立つ際に、「絵描きは絵だけ描いて下さい。仲間喧嘩をしないで下さい。日本画壇は早く国際水準に到達して下さい」との言葉を残しています。
藤田嗣治(1886-1968)

映画『FOUJITA』_6.jpg ただ、映画内ではこうした藤田嗣治が当時置かれていた背景事情を殆ど割愛しているか、または説明していません。そのことと、藤田嗣治の「波乱の生涯を描いた」という映画の口上との間にギャップを感じたのは自分だけでしょうか。

 また、確かに美しく撮られている映画だとは思いますが、同じパリ編でも、現地で撮られたもの(キャバレーの場面など)と日本のスタジオで撮られたシーン(カフェの場面)がはっきり見分けがつくほど美術のトーンが違っていたりしていたのも気になりました。

浅田彰.jpg 批評家の浅田彰氏が、昨日(2016.1.7)自身のブログでこの作品がなぜ失敗作であるのかを分析していました。どれをとっても安っぽく鈍重で見るに堪えない活人画、オダギリジョーのとても公衆の前に出せるものではない付け焼刃のフランス語、1920年代のパリと1940年代の日本しか描いていない構成―と、かなりボロクソです。星3つでもまだ甘い方かも。
  
「FOUJITA」●制作年:2015年●製作国;日本/フランス●監督・脚本:小栗康平●製作:井上和子/小栗康平/クローディー・オサール●撮影:町田博●音楽:佐藤聰明●時間:126分●出演:オダギリジョー/藤谷美紀/アナ・ジラルド/アンジェル・ユモー/マリー・クレメール/加瀬亮/りりィ/岸部一徳/青木崇高/福士誠治/井川比佐志/風間杜夫●公開:2015/11●配給:KADOKAWA●最初に観た場所:渋谷・ユーロスペース(15-11-10)(評価:★★☆)

 
ユーロスペース2.jpgユーロスペースtizu.jpgユーロスペース 2006(平成18)年1月、渋谷・円山町・KINOHAUSビル(当時は「Q-AXビル」)にオープン(1982(昭和57)年渋谷・桜丘町にオープン、2005(平成17)年11月閉館した旧・渋谷ユーロスペースの後継館。旧ユーロスペース跡地には2005年12月「シアターN渋谷」がオープンしたが2012(平成24)年12月2日閉館)

「●黒澤 明」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2309】 都築 政昭 『黒澤明と「用心棒」
「●中公新書」の インデックッスへ 「●黒澤 明 監督作品」の インデックッスへ「●池辺 晋一郎 音楽作品」の インデックッスへ 「●倍賞 美津子 出演作品」の インデックッスへ 「●原田 美枝子 出演作品」の インデックッスへ 「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ 「●笠 智衆 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

「心配性で淋しがり、心やさしい泣き虫」だった黒澤。「家庭ではいいパパだった」的トーンか。

回想 黒澤明.jpg 黒澤和子.jpg 黒澤 明 「夢」1.jpg
回想 黒澤明 (中公新書)』北海道で「夢」の撮影中の黒澤明と黒澤和子(映画衣装デザイナー)「夢 [DVD]

黒澤明2.jpg 黒澤明(1910-1998/享年88)の長女である著者が、『黒澤明の食卓』('01年/小学館文庫)、『パパ、黒澤明』('00年/文藝春秋、'04年/文春文庫)に続いて、父の没後6年目を経て刊行した3冊目の"黒澤本"で、「選択する」「反抗する」「感じる」「食べる」「着る」「倒れる」など24の動詞を枕として父・黒澤明に纏わる思い出がエッセイ風に綴られています。

 本書によれば、外では「黒澤天皇」として恐れられていた父であるけれども、実はそういう呼ばれ方をするのを本人は最も嫌っていて、気難しい面もあるけれど、「人間くさくて一直線、心配性で淋しがり、心やさしい泣き虫」だったとのこと。孫と接するとなると大甘のおじいちゃんで、相好を崩して幸せそうだったとか、実の娘によるものであるということもあって、「家庭ではいいパパだった」的なトーンで貫かれている印象も受けなくもありません。微笑ましくはありますが、まあ、男親ってそんなものかなとも(著者が意図しているかどうかはともかく、読む側としてはそれほど意外性を感じない)。

 でも、宮崎駿監督の「魔女の宅急便」('89年/東映)を夜中に観て、翌日、目を腫らして、「すごく泣いちゃったんだ。身につまされたよ」と、ポツリと言っていたとかいう話などは、娘ならではエピソードかもしれません。晩年、小津安二郎監督の作品をビデオで繰り返し見ていたとのことで、肉体的な労力を減らして、良い作品を撮ろうと勉強していたのではないかとのことです。

 著者自身、「夢」('90年/黒澤プロ)以降、衣装(デザイナー)として黒澤作品や小泉堯史、山田洋次、北野武、是枝和裕などそれ以外の監督の作品の仕事をしていて、黒澤の晩年の作品に限られますが、家庭内だけでなく、撮影の現場や仕事仲間の間での娘の目から見た黒澤監督のことも描かれており、役者やスタッフを怒鳴り散らしてばかりいるようなイメージがあるけれども、実は結構気を使っていたのだなあと(役者の躰に触れてまでの演技指導をすることはなかったという。役者のプライドを尊重していた)。ただ、これも、著者の父に対する世間の「天皇」的イメージを払拭したいとの思いも半ば込められているのかも。

黒澤 明 「夢」2.jpg黒澤 明 「夢」3.jpg 著者が最初にアシスタントとして衣装に関わった「夢」は(衣装の主担当はワダエミ)、黒澤明80歳の時の作品で、「影武者」('80年)、「乱」('85年)とタイプ的にはがらっと変わった作品で比較するのは難しいですが、初めて観た時はそうでもなかったけれど、今観るとそれらよりは面白いように思います。80歳の黒澤明が少年時代からそれまでに自分の見た夢を、見た順に、「日照り雨」「桃畑」「雪あらし」「トンネル」「鴉」「赤冨黒澤 夢 01.jpg士」「鬼哭」「水車のある村」の8つのエピソードとして描いたオムニバス形式で、オムニバス映画というのは個々のエピソードが時間と共に弱い印象となる弱点も孕んでいる一方で(「赤ひげ」('65年)などもオムニバスの類だが)、観直して観るとまた最初に観た時と違った印黒澤 明 「夢」水車2.jpg象が残るエピソードがあったりするのが面白いです(小説で言うアンソロジーのようなものか)。個人的には、前半の少年期の夢が良かったように思われ、後になるほどメッセージ性が見え隠れし、やや後半に教訓めいた話が多かったように思われました。全体として絵画的であるとともに、幾つかのエピソードに非常に土俗的なものを感じましたが、最初の"狐の嫁入り"をモチーフとした「日照り雨」は、これを見た時に丁度『聊齋志異』を読んだところで、「狐に騙される」というのは日本だけの話ではないんだよなあみたいな印象が、観ながらどこかにあったのを記憶しています。

 黒澤明はその後、「八月の狂詩曲」('91年)「まあだだよ」('93年)を撮りますが、85歳の時に転倒してから3年半は寝たきりで、結局そのまま逝ってしまったとのこと(老人に転倒は禁物だなあ)。黒澤作品って、「どですかでん」('70年)以降あまり面白くなくなったと言われますが(そうした評価に対する、自分は自分の年齢に相応しいものを撮っていうのだという黒澤自身の考えも本書に出てくる)、晩年に作風の変化が見られただけに、もう何本か撮って欲しかった気もします。

第1話「日照り雨」(倍賞美津子(私の母))/第2話「トンネル」
黒澤 夢 倍賞1.jpg 黒澤 夢 4話1.jpg
黒澤 明 「夢」水車.jpg第5話「鴉」(マーティン・スコセッシ(ゴッホ))/第8話「水車のある村」笠智衆(老人)
「夢」●制作年:1990年●制作国:日黒澤明 夢 0.jpgマーティン・スコセッシ 「夢」11.jpg本・アメリカ●監督・脚本:黒澤明●製作総指揮:スティ夢 倍賞y1.pngーヴン・スピルバーグ●製作:黒澤久雄/井上芳男●製作会社:黒澤プロ●撮影:斎藤孝雄/上田正治●音楽:池辺晋一郎●時間:119分●出演:寺尾聰/中野聡彦/倍賞美津子/伊崎充則/建みさと/鈴木美恵/原田美枝子/油井昌由樹/頭師佳孝/山下哲生黒澤明 夢 dvd.jpgマーティン・スコセッシ井川比佐志/根岸季衣黒澤明「夢」1.jpgいかりや長介笠智衆/常田富士男/木田三千雄/本間文子/東郷晴子/七尾伶子/外野村晋/東静子/夏木順平/加藤茂雄/門脇三郎/川口節子/音羽久米子/牧よし子/堺左千夫●公開:1990/05●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)
 
第7話「鬼哭」いかりや長介(鬼)/寺尾聰(私)「夢 [DVD]

第4話「雪あらし」原田美枝子(雪女)
原田美枝子 夢 雪女4.jpg原田美枝子 夢 雪女1.jpg
    
第6話「赤富士」井川比佐志(発電所の男)・寺尾聰(私)
黒澤 夢 011Z.jpg「夢」井川.gif 

「●小林 正樹 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒「●川島 雄三 監督作品」【2460】 川島 雄三 「とんかつ大将
「●「カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリ」受賞作」の インデックッスへ(「切腹」)「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ(「切腹」)「●橋本 忍 脚本作品」の インデックッスへ 「●武満 徹 音楽作品」の インデックッスへ(「切腹」「東京裁判」)「●丹波 哲郎 出演作品」の インデックッスへ(「切腹」)「●三國 連太郎 出演作品」の インデックッスへ(「切腹」)「●仲代 達矢 出演作品」の インデックッスへ(「切腹」)「●岩下 志麻 出演作品」の インデックッスへ(「切腹」)「●佐藤 慶 出演作品」の インデックッスへ(「切腹」「東京裁判」)「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ(「切腹」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ○あの頃映画 松竹DVDコレクション(「切腹」)「●「朝日賞」受賞者作」の インデックッスへ(武満 徹・仲代達矢)「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ(仲代達矢)

橋本忍脚本が巧みな「切腹」。壮絶且つ凄絶な復讐(仇討)劇。決闘シーンも味がある。

切腹 1962 ポスター.jpg切腹 1962 dvd.jpg 切腹 1962 決闘シーン.jpg  『東京裁判』 dvd.jpg
「切腹」 [DVD]」/護持院原決闘シーン(丹波哲郎・仲代達矢) 「東京裁判 [DVD]
「切腹」ポスター
切腹 1962 前庭 仲代.jpg 寛永7(1630)年10月、井伊家上屋敷に津雲半四郎(仲代達矢)という浪人が訪れ、「仕官先もままならず、生活も苦しくなったので屋敷の庭先を借りて切腹したい」と申し出る。申し出を受けた家老・斎藤勘解由(かげゆ)(三國連太郎)は、春先、同様の話で来た千々岩求女(石濱朗)の話をする。食い詰めた浪人たちが切腹すると称し、なにがしかの金品を得て帰る最近の流行を苦々しく思っていた勘解由が切腹の場をしつらえると、求女は「一両日待ってくれ」と狼狽したばかりか、刀が竹光であったために死に切れず、舌を噛み切って無惨な最期を遂げたと。この話を聞いた半四郎は、自分はその様な"たかり"ではないと言って切腹の場に向かうが、最後の望みとして介錯人に沢潟(おもだか)彦九郎(丹波哲郎)、矢崎隼人(中谷一郎)、川辺右馬介(青木義朗)の3人を順次指名する。しかし、指名された3人とも出仕しておらず、何れかの者が出仕するまでの間、半四郎は自身の話を聞いて欲しい「切腹」 (1962 松竹).jpgと言う。求女は実は半四郎の娘・美保(岩下志麻)の婿で、主君に殉死した親友の忘れ形見でもあった。孫も生れささやかながら幸せな日が続いていた矢先、美保が胸を病み孫が高熱を出した。赤貧の浪人生活で薬を買う金も無く、思い余った求女が先の行動をとったのだ。そんな求女に一両日待たねばならぬ理由ぐらいせめて聞いてやる労りはなかったのか、武士の面目などとは表面だけを飾るもの、と勘解由に厳しく詰め寄る半四郎が懐から出したものは―。

『東京裁判』 映画.jpg小林正樹.jpg 「人間の條件」6部作('59-'61年)の小林正樹(1916-1996/享年80)が1962(昭和37)年に撮った同監督初の時代劇作品であり、1963年・第16回カンヌ国際映画祭「審査員特別賞」受賞作です(現在のグランプリに該当)。この監督にはベルリン国際映画祭で「国際映画批評家連盟賞」を受賞した「東京裁判」('83年)という長編ドキュメンタリーの傑作もあります。この「東京裁判」という映画を観ると、裁判の争点は端的に言えば、天皇を死刑にすべきかどうかという点であったともとれ(中心となる戦犯らは死刑が裁判前からすでに確定しているようなもので、魂『東京裁判』 映画2.jpgを抜かれたお飾りのように被告席にいるだけ)、そのことを(主役が法廷にいないことも含め)浮き彫りにした内容であるだけに4時間37分を飽きさせることなく、下手なドラマよりずっと緊迫感がありました(この編集の仕方こそがドキュメンタリーにおける監督の演出とも言える。ナレーターは佐藤慶)。争点が天皇にあったことは、この裁判が、昭和天皇の誕生日(現昭和の日)に11ヶ国の検察官から起訴されたことに象徴されており、天皇に処分は及ばなかったものの、皇太子(当時)の誕生日(現天皇誕生日)に被告人28名のうちの7名が絞首刑に処されたというのも偶然ではないように思われます。

「切腹」ポスター in 小津安二郎「秋刀魚の味」
7「切腹」.jpg切腹 小林正樹.jpg 「切腹」の原作は滝口康彦(1924-2004)の武家社会の虚飾と武士道の残酷性を描いた作品です。映画化作品にも、かつて日本人が尊んだサムライ精神へのアンチテーゼが込められているとされていますが、井伊家の千々岩求女への対応は、武士道の本筋を外れて集団サディズムになっているように感じました(同時に斎藤勘解由は、千々岩求女を自らの出世の材料にしようとしたわけだ)。ストーリーはシンプルですが骨太であり(脚本は橋本忍)、観る側に、何故半四郎が介錯人に指名した3人が何れもその日に出仕していないのかという疑問を抱かせたうえで、半四郎がまさに切腹せんとする庭先の場面に、半四郎の語る回想話をカットバックさせた橋本忍氏の脚本が巧みです。

切腹(196209 松竹).jpg 壮絶且つ凄絶な復讐(仇討)劇でしたが、改めて観ると、息子・千々岩求女の亡骸を半四郎が求女の妻・美保と一緒に引き取りに来た際に、求女に竹光で腹を切らせた首謀者である沢潟、矢崎、川辺の3人しか半四郎に会っておらず、それ以外の者には半四郎の面が割れていないとうのが一つの鍵としてあったんだなあと。

切腹 1962 岩下.jpg 半四郎役の仲代達矢(当時29歳)は、長台詞を緊迫感絶やすことなくこなしており、勘解由役の三國連太郎(当時39歳)、沢潟役の丹波哲郎(当時39歳)の "ヒール(悪役)"ぶりも効いています(19歳の美保を演じた岩下志麻は当時21歳だったが、やはり若い。11歳の少女時代(右)まで演じさせてしまっているのはやや強引だったが)。

切腹 1962 三國.jpg 撮影中に起きた仲代達矢と三國連太郎の演劇と映画の対比「論争」は海外のサイトなどにも紹介されていて(この作品は「カンヌ映画祭」で審査員特別賞を受賞している)、仲代達矢の台詞を喋る声が大きすぎて、三國連太郎が(仲代達矢が演劇出身で)映画と演劇の違いが解っていないとしたのに対し、仲代達矢は、集音マイクがあろうと、実際の人物間の距離に合わせた声量で台詞を言うべきだと反論したというものです(小林正樹監督が両者が納得し合うまで議論するよう仕向けたため撮影は3日間中断、後に仲代達矢はあの議論は有意義だったと述懐している)。

切腹 1962 丹波.jpg カットバック(回想)シーンの中にある仲代達矢と丹波哲郎の決闘場面はなかなかの圧巻で、仲代達矢はこの作品と同じ年の1月に公開された「椿三十郎」('62年/東宝)で先に三船敏郎と決闘シーンを演じているわけですが、丹波哲郎との決闘シーンは、それとはまた違った味わいがありました(「椿三十郎」と言わば真逆の役回りであることもあり、"仲代達矢目線"で観ればこちらの方がいい)。

 因みに、その仲代達矢の腰を低く落として脇に刀を構える構えは戦国時代のもので、丹波哲郎の直立姿勢での構えは江戸時代初期に始まりその後主流となったものであるとのことです。

護持院原の敵討―他二篇 森鴎外著.png 両者が決闘した護持院原(ごじいんがはら)は、森鷗外の中編「護持院原の敵討」でも知られていますが、現在の千代田区神田錦町辺りで、江戸時代は"敵討ちの名所"だったようです(江戸から「中追放」の罪となった者の放たれる境界線のすぐ外側。従って、放たれた途端に、私怨を晴らし切れない者などに決闘を申し込まれる)。沢潟の方から半四郎をわざわざ決闘の場として護持院原に誘ったことがずっと個人的には解せなかったのですが、この作品の時代設定は大阪の陣からまだ15年しか経っていないので(まだ"敵討ちの名所"になっていない?)、たまたま近場の原っぱが護持院原だったと考えれば、沢潟が半四郎を護持院原に誘ったこと自体は不自然ではないのかもしれないと改めて思いました。

Seppuku(1962)  第16回カンヌ国際映画祭「審査員特別賞」受賞作
Seppuku(1962).jpg

近江彦根藩井伊家屋敷跡(東京都千代田区)の石碑.jpg 因みに、滝口康彦(1924-2004)による原作「異聞浪人記」は、講談社文庫版『一命』に所収(三池崇史監督、市川海老蔵 主演の本作のリメイク作品('11年)のタイトルは「一命」となっている)。『滝口康彦傑作選』(立風書房)にある原作に関する「作品ノート」によれば、「『明良洪範』中にある二百二十字程度の記述にヒントを得た。彦根井伊家の江戸屋敷での話で、原典では井伊直澄の代だが、小説では、大名取潰しの一典型といえる福島正則の改易と結びつけるため、直澄の父直孝の代に変えている」とのことです。『明良洪範』の記述の史実か否かの評価については様々な異論があるようですが、ある程度歴史通の人たちの間では、この中にある、彦根藩(この藩は当時は弱小藩だったが後に安政の大獄で知られる大老・井伊直弼を輩出する)が士官に来た浪人を本当に切腹させてしまったことが、こうした「狂言切腹」の風習が廃れるきっかけとなったとされているようです。
近江彦根藩井伊家屋敷跡(東京都千代田区)の石碑

人間の条件2.jpg小林 正樹(こばやし まさき、1916年2月14日 - 1996年10月4日)は、北海道小樽市出身の映画監督である。1952年(昭和27年)、中編『息子の青春』を監督し、1953年(昭和28年)『まごころ』で正式に監督に昇進。1959年(昭和34年)から1961年(昭和36年)の3年間にかけて公開された『人間の條件』は、五味川純平原作の大長編反戦小説「人間の條件」の映画化で、長きに渡る撮影期間と莫大な製作費をつぎ込み、6部作、9時間31分の超大作となった。続く1962年(昭和37年)初の時代劇『切腹』でカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞。続いて小泉八雲の原作をオムニバス方式で映画化した初のカラー作品『怪談』は3時間の大作で、この世のものとは思えぬ幻想的な世界を作り上げ、二度目のカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受けた他、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、日本映画史上屈東京裁判 小林正樹.jpg指の傑作と絶賛された。1965年(昭和40年)松竹を退社して東京映画と契約し、1967年(昭和42年)三船プロ第一作となる『上意討ち 拝領妻始末』を監督して、ヴェネツィア国際映画祭批評家連盟賞を受賞、キネマ旬報ベスト・ワンとなった。1968年(昭和43年)の『日本の青春』のあとフリーとなり、1969年(昭和44年)には黒澤明、木下恵介、市川崑とともに「四騎の会」を結成。1971年(昭和46年)にはカンヌ国際映画祭で25周年記念として世界10大監督の一人として功労賞を受賞。1982年(昭和57年)には極東国際軍事裁判の長編記録映画『東京裁判』を完成させた。1985年(昭和60年)円地文子原作の連合赤軍事件を題材にした『食卓のない家』を監督。これが最後の映画監督作品になる。(「音楽映画関連没年データベース」より)

切腹 1962 チラシ.jpg切腹 1962 仲代 立ち回り.jpg「切腹」●制作年:1962年●監督:小林正樹●脚本:橋本忍●撮影:宮島義勇●音楽:武満徹●原作:滝口康彦「異聞浪人記」●時間:133分●出演:仲代達矢/三國連太郎/丹波哲郎/石浜朗/岩下志麻/三島雅夫//中谷一郎/佐藤慶/稲葉義男/井川比佐志/武内亨/青木義朗/松村達雄/小林昭二/林孝一/五味勝雄/s沢潟彦九郎:丹波哲郎.jpg-s津雲美保:岩下志麻.jpg安住譲/富田仲次郎/田中謙三●公開:1962/09●配給:松竹(評価:★★★★)

丹波哲郎(沢潟彦九郎)/岩下志麻(津雲美保)
      
『東京裁判』 映画1.jpg『東京裁判』 映画3.jpg「東京裁判」●制作年:1983年●監督:小林正樹●総プロデューサー:須藤博●脚本:小笠原清/小林正樹●原案:稲垣俊●音楽:武満徹●演奏:東京コンサーツ●ナレーター:佐藤慶●時間:277分●公開:1983/06●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋文芸坐(84-12-08)(評価:★★★★)

 

「●山田 洋次 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2562】山田 洋次 「男はつらいよ 寅次郎相合い傘
「●「キネマ旬報ベスト・テン」(第1位)」の インデックッスへ>「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ「●「芸術選奨(演技)」受賞作」の インデックッスへ(倍賞千恵子) 「●佐藤 勝 音楽作品」の インデックッスへ 「●倍賞 千恵子 出演作品」の インデックッスへ 「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ 「●笠 智衆 出演作品」の インデックッスへ「●前田 吟 出演作品」の インデックッスへ「●渥美清 出演作品」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ(山田洋次)「●「朝日賞」受賞者作」の インデックッスへ(山田洋次)○あの頃映画 松竹DVDコレクション

一家族のロードムービー。家族を1つの有機体のように捉えた作品。倍賞千恵子の演技がいい。

家族 dvd.jpg  家族2.jpg 家族03.jpg
家族 [DVD]」 「家族」(1970年)(大阪→東京間移動車中/万博会場)

家族 プレスシート.png 長崎沖・伊王島の炭鉱労働者・風見精一(30歳)(井川比佐志)は、炭鉱閉山で転職を余儀なくされ、自らの夢であった北海道での牧場経営に乗り出したいと願う。妻の民子(25歳)(倍賞千恵子)は当初反対するが、長男(3歳)長女(1歳)の子供2人を連れて一緒に入植することに。精一の父である源蔵(65歳)(笠智衆)を広島県福山市に住む次男の力(前田吟)と同居させる予定だったが、訪ねてみると力の家は源蔵を同居させる状態になく、民子が精一と源蔵を説得し一緒に北海道へ向かうことに。家族5人はまず大阪へ向かい、そこで開催直後の大阪万博を見物に出かけ、その日の内に新幹線に乗り込み東京へ。

山田 洋次 「家族」.jpg 東京駅から上野駅に移動し、更に青森行きの夜行に乗る予定だったが、子2人のうち赤ん坊の方の様子が急変、上野の旅館に入り病院を探すが手遅れで死んでしまう。荼毘に付すために東京に2泊し、精一と民子が夫婦喧嘩をする険悪なムードの中、家族は夜行で青森に向かい、青函連絡船で函館に、それからまた長い列車の旅を経てやっと中標津に辿り着く。翌日、近所の人達が歓迎会を開いてくれた時、「炭坑節」を気持ちよく歌った源蔵は、その夜布団の中で静かに息を引き取る―。

 万博会場での家族5人を実写で撮っているので1970年の作品ということが分かり易いですが、正確には同年4月6日から1週間足らずの間に伊王島→長崎→福山→大阪→上野→函館→中標津と家族ごと移動するロードムービーのような作りになっています(途中、船旅が2回あるほかは殆ど列車移動ではあるが)。

 その過程で家族5人の内2人が亡くなるわけで、学校の映画の時間に観に行った作品ですが、通常の授業が休みなのはいいけれど、何でこんなに悲しい映画を見なきゃならないのかと―。最後に民子のお腹の中に新たな生命が宿っていることがわかり、家族の死と再生というか、家族を1つの有機体のように捉山田 洋次 「家族」_1.jpgえ、その中で消えていく命もあれば新たに生まれる命もあるという、今思えばそういう作品だったのだなあと(年齢がいって観ると、段々いい作品に思えてくる...)。

東京物語.jpg 福山で弟夫婦から老父の預かりを拒否されるところに旧来型の「家族」の崩壊の予兆が見て取れる一方、万博会場の雑踏に会場入口に来ただけで疲れ果ててしまう家族に、高度成長経済に取り残された一家というものが象徴的に被っているように思えましたが、それは最近観て思ったこと。但し、当時39歳だった山田洋次監督はそこまで見通していたのだろうなあ。今観ると、小津安二郎監督の「東京物語」('53年/松竹)からの影響がかなりあるように感じられます。

家族 1シーン.jpg 全体にドキュメンタリータッチで撮られていて、演技陣は難しい演技を強いられていたのではないかと思いましたが、この夫婦は旅程でしばしば険悪な雰囲気になる(これだけツライ目に合えば愚痴も出るか)その加減にリアリティがあり、その中でも倍賞千恵子の演技は秀逸。

 所々にユーモラスな描写もあってアクセントが効いていますが、青函連絡船の中で、険悪な雰囲気になる家族を行きずりの男が笑わせてくれる、この男を演じているのが渥美清です。

倍賞千恵子/井川比佐志/渥美清

 この作品の前年('69年)に同監督の「男がつらいよ」シリーズがスタートし、それがヒットして、松竹から3作撮ったところで好きな映画作りをしてもいいと言われて撮ったのがこの作品(但し、作品の構想は5年前からあったとのこと)。「男はつらいよ」シリーズの面々が他にもカメオ出演しています。

『家族』井川比佐志、倍賞千恵子.jpg山田 洋次 「家族」4.jpg この作品を見ていると、倍賞千恵子は「男がつらいよ」シリーズがあんなに長く続かなければ、もっと違った作品に出る機会もあったのではないかという気もしましたが、「故郷(ふるさと)」('72年)、「同胞」('75年)、「遙かなる山の呼び声」('80年)などシリーズの合間に撮られた山田洋次作品に主演しており、この内「故郷」と「遙かなる山の呼び声」での役名は、本作品と同じ"民子"です。

笠智衆 家族.jpg 「家族」「故郷」「遙かなる山の呼び声」で民子三部作と言われており(「遙かなる山の呼び声」の舞台は"家族"が目指した中標津)、それだけ「家族」での彼女の演技にインパクトがあったということかも。
家族 1971_1.jpg 「家族」の中で、新幹線から富士山を見るのを皆楽しみにしていたのに、富士山の前を通過する頃には家族全員疲れて寝てしまう...というのが、なんだかありそうな話で可笑しかったです。

「家族」●制作年:1970年●監督:山田洋次●脚本:山田洋次/宮崎晃●撮影:高羽哲夫●音楽:佐藤勝●時間:106分●出演:井川比佐志/倍賞千恵子/木下剛志/瀬尾千亜紀/笠智衆/前田吟/富山真沙子/竹田一博/池田秀一/塚本信夫/松田友絵/花沢徳衛/森川信/ハナ肇とクレージーキャッツ/渥美清/松田友絵/春川ますみ/太宰久雄/梅野泰靖/三崎千恵子●公開:1970/10●配給:松竹●最初に観た場所(再見):京橋・フィルムセンター(10-01-21)(評価:★★★★)

「●よ 吉田 修一」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1359】 吉田 修一 『横道世之介
「●「毎日出版文化賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「本屋大賞」 (10位まで)」の インデックッスへ「●や‐わ行の日本映画の監督」の インデックッスへ「●「キネマ旬報ベスト・テン」(第1位)」の インデックッスへ「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ「●「報知映画賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「山路ふみ子映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」」受賞作」の インデックッスへ 「●「芸術選奨(演技)」受賞作」の インデックッスへ(柄本明)「●久石 譲 音楽作品」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ「●妻夫木 聡 出演作品」の インデックッスへ「●柄本 明 出演作品」の インデックッスへ「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ「○都内の主な閉館映画館」のインデックッスへ(CINE QUINTO(シネクイント))

面白かった。作者が読者に対して仕掛けた読み方の「罠」が感じられた。

悪人  吉田修一.jpg 悪人 吉田修一.jpg 吉田 修一 『悪人』 上.jpg 吉田 修一 『悪人』下.jpg 映画 「悪人」3.jpg
悪人』['07年]『悪人(上) (朝日文庫)』『悪人(下) (朝日文庫)』['09年] 映画「悪人」['10年](妻夫木聡/深津絵里主演)

 2007(平成19)年・第61回「毎日出版文化賞」(文学・芸術部門)並びに2007(平成19)年・第34回「大佛次郎賞」受賞作。

 保険外交員の女性・石橋佳乃が殺害され、事件当初、捜査線上に浮かび上がったのは、地元の裕福な大学生・増尾圭吾だったが、拘束された増尾の供述と、新たな目撃者の証言から、容疑の焦点は一人の男・清水裕一へと絞られる。その男は別の女性・馬込光代を連れ、逃避行を続けている。なぜ、事件は起きたのか? なぜ2人は逃げ続けるか?

 出版社の知人が本書を推薦していたのですが、書評などを読むと、これまでの作者の作品と同様に、人と人の「距離」の問題がテーマになっているということを聞き、マンネリかなと一時敬遠していたものの、読んでみたら今まで読んだ作者の作品よりずっと面白かったし、それだけでなく、作者が読者に対して仕掛けたトラップ(罠)のようなものが感じられたのが興味深かったです。

 最初は、あれっ、これ「ミステリ」なのという感じで、芥川賞作家がミステリ作家に完全に転身したのかと。ところが、真犯人はあっさり割れて、今度は、その清水裕一と馬込光代という心に翳を持つ者同士の「純愛」逃避行になってきて、最後は、裕一が光代をあたかも"犠牲的精神"の発露の如く庇っているように見えるので、これ、「感動的な純愛」小説として読んだ人もいたかも。

 自分としては、清水祐一は「純愛」を通したというより、「どちらもが被害者にはなれない」という自らの透徹した洞察に基づいて行動したように思え、そこに、作者の「悪人とは誰なのか」というテーマ、言い換えれば、「誰かが悪人にならなければならない」という弁解を差し挟む余地の無い"世間の掟"が在ることが暗示されているように思いました。

 馬込光代の事件後の熱から覚めたような心境の変化は、彼女自身も「世間」に取り込まれてしまうタイプの1人であることを示しており、それは、周囲の見栄を気にして清水裕一を「裏切り」、増尾圭吾に乗り換えようとした石橋佳乃にとっての「世間」にも繋がるように思えました(作者自身は、「王様のブランチ」に出演した時、石橋佳乃を「自分の好きなキャラクター」だと言っていた)。

 そうして見れば、増尾圭吾が憎々しげに描かれていて(石橋佳乃の父親が読者の心情を代弁をしてみせて、読み手の感情にドライブをかけている)、清水祐一が彼に読者の同情が集まるように描かれているのも(母親に置き去りにされたという体験は確かに読み手の同情をそそる)、作者の計算の内であると思えます。

 これをもって、本当に悪いのは増尾圭吾のような奴で、清水祐一は可哀想な人となると、これはこれで、作者の仕掛けた「罠」に陥ったことなるのではないかと。
 石橋佳乃の「裏切り」も、その父親の「復讐感情」も、清水祐一の過去の体験による「トラウマ」も、注意して読めば、今まで多くの小説で描かれたステレオタイプであり、作者は、敢えてそういう風な描き方をしているように思いました。

 そうした「罠」の極めつけが、清水裕一と馬込光代の「純愛」で、これも絶対的なものではなく(本書のテーマでもなく)、ラストにある通り、最終的には相対化されるものですが、それを過程においてロマンスとして描くのではなく、侘びしくリアルに描くことで、読み手自身の脳内で「純愛」への"昇華"作業をさせておいて、最後でドーンと落としているという感じがしました。

 時間的経過の中で、人間同士の結ぼれや相反など全ての行為は相対化されるのかも知れない、但し、「世間」はその場においては絶対的な「悪人」を求めて止まないし、同じことが、「純愛」を求めて読む読者にも、まるで裏返したように当て嵌まるのかも知れないという印象を抱きました。

悪人 スタンダード・エディション [DVD]
映画 「悪人」dvd.jpg映画 「悪人」1.jpg(●2010年9月に「フラガール」('06年)の李相日(リ・サンイル)監督、妻夫木聡、深津絵里主演で映画化された。第84回キネマ旬報ベスト・テンの日本映画ベスト・ワンに選ばれ、第34回日本アカデミー賞では、最優秀主演男優賞(妻夫木聡)、最優秀主演女優賞(深津絵里)、最優秀助演男優賞(柄本明)、最優秀助演女優賞(樹木希林)、最優秀音楽賞(久石譲)を受賞。海外では、深津絵里が第34回モントリオール世界映画祭の最優秀女優賞を受賞している。原作者と監督の共同脚本だが、意識的に前半をカットして、事件が起きる直前から話は始まり、尚且つ、回想シーンをできるだけ排除したとのこと。その結果、祐一(妻夫木聡)が一緒に暮らそうとアパートまで借りた馴染みのヘルス嬢の金子美保や、石橋佳乃(満島ひかり)の素人売春相手の中年の塾講師である林完治などは出てこない。そうしたことも含め、主要登場人物のバックグラウンドの描写が割愛されている印象を受けた。加えて、光代を演じた深津絵里と、佳乃を演じた満島ひか映画 「悪人」満島.jpg映画 「悪人」柄本.jpgりの二人の演技派女優の演技の狭間で、主人公である妻夫木聡が演じる祐一の存在が霞んだ。さらに後半、柄本明が演じる佳乃の父や樹木希林が演じる祐一の祖母が原作以上にクローズアップされたため、祐一の影がますます弱くなった。原作者映画 「悪人」4.jpgはインタビューで「やっぱり樹木さん、柄本さんのシーンは画として強かったと思いますね。シナリオも最初は祐一と光代が中心でしたが、最終的に、樹木さんのおばあちゃんと、柄本さんのお父さんが入ってきて、全体に占める割合が大きくなったんですよね。あれは、僕らが最初に考えていたときよりも分量的にはかなり増えていて、自分たちでは逆に上手くいったと思っているんです」と語っている。柄本明は助演でありながら芸術選奨も受賞している(助演では過去に例が無いのでは)。この作品の主人公は祐一なのである。本当にそれでいいのだろうか。李相日監督は6年後、同作者原作の「怒り」('16年/東宝)も監督することになる。

李相日監督/深津絵里/妻夫木聡   深津絵里(モントリオール世界映画祭「最優秀女優賞」受賞)   
深津絵里(第34回モントリオール世界映画祭最優秀女優賞).jpg深津絵里 モントリオール世界映画祭最優秀女優賞1.jpg「悪人」●制作年:2010年●監督:李相日(リ・サンイル)●製作:島谷能成/服部洋/町田智子/北川直樹/宮路敬久/堀義貴/畠中達郎/喜多埜裕明/大宮敏靖/宇留間和基●脚本:吉田修一/李相日●撮影:笠松則通●音楽:久石譲●原作:吉田修一●時間:139分●出演:妻夫木聡/深津絵里/岡田「悪人」00.jpg将生/光石研/満島ひかり/樹木希林/柄本明/井川比佐志/宮崎美子/中村絢香/韓英恵/塩見三省/池内パルコスペース Part3.jpg渋谷シネクイント劇場内.jpg万作/永山絢斗/山田キヌヲ/松尾スズキ/河原さぶ/広岡由里子/二階堂智/モロ師岡/でんでCINE QUINTO tizu.jpgん/山中崇●公開:2010/09●配給:東宝●最初に観た場所:渋谷・CINE QUINTO(シネクイント)(10-09-23)(評価:★★★☆)
   
   
   
CINE QUINTO(シネクイント) 1981(昭和56)年9月22日、演劇、映画、ライヴパフォーマンスなどの多目的スペースとして、「PARCO PART3」8階に「PARCO SPACE PART3」オープン。1999年7月~映画館「CINE QUINTO(シネクイント)」。 2016(平成28)年8月7日閉館。


朝日文庫「悪人」新装版.jpg映画 悪人ド.jpg 【2009年文庫化[朝日文庫(上・下)]/2018年文庫新装版[朝日文庫(全一冊)]】 
         
悪人 新装版 (朝日文庫)』新装版(全一冊)['18年]

「●コミック」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【690】 内田 春菊 『私たちは繁殖している
「○コミック 【発表・刊行順】」の インデックッスへ「●た‐な行の日本映画の監督」の インデックッスへ「●伊丹 十三 監督作品」の インデックッスへ「●「キネマ旬報ベスト・テン」(第1位)」の インデックッスへ(「お葬式」「マルサの女」) 「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ(「マルサの女」) 「●「ブルーリボン賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「マルサの女」) 「●「報知映画賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「お葬式」「マルサの女」) 「●「山路ふみ子映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「お葬式」)「●「芸術選奨新人賞(監督)」受賞作」の インデックッスへ(伊丹十三「お葬式」)「●柴咲 コウ」の インデックッスへ(「県庁の星」)「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ(「県庁の星」)「●酒井 和歌子 出演作品」の インデックッスへ(「県庁の星」)「●山﨑 努 出演作品」の インデックッスへ(「お葬式」「マルサの女」)「●宮本 信子 出演作品」の インデックッスへ(「お葬式」「マルサの女」「マルサの女2」「スーパーの女」)「●大滝 秀治 出演作品」の インデックッスへ(「お葬式」「マルサの女」) 「●津川 雅彦 出演作品」の インデックッスへ(「お葬式」「マルサの女」「マルサの女2」)「●笠 智衆 出演作品」の インデックッスへ(「お葬式」「マルサの女2」)「●小林 薫 出演作品」の インデックッスへ(「お葬式」」)「●岸部 一徳 出演作品」の インデックッスへ(「お葬式」) 「●小沢 栄太郎 出演作品」の インデックッスへ(「マルサの女」)「●小林 桂樹 出演作品」の インデックッスへ(「マルサの女」)「●岡田 茉莉子 出演作品」の インデックッスへ(「マルサの女」)「●橋爪 功 出演作品」の インデックッスへ(「マルサの女」)「●三國 連太郎 出演作品」の インデックッスへ(「マルサの女2」)「●丹波 哲郎 出演作品」の インデックッスへ(「マルサの女2」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(新宿シネパトス(新宿ジョイシネマ3))「●あ行の現代日本の作家」の インデックッスへ(安土敏)

予定調和だが、それなりに楽しめた。映画の方は「スーパーの女」などと比べるとやはり...。
県庁の星2.jpg  県庁の星 桂.jpg 県庁の星 dvd.jpg県庁の星 織田 柴崎2.jpg  スーパーの女.jpg
県庁の星 (2) (ビッグコミックス)』 (全4巻) 桂 望実『県庁の星』「県庁の星 スタンダード・エディション [DVD]」柴咲コウ・織田裕二 「伊丹十三DVDコレクション スーパーの女

 Y県のエリート県庁職員である野村聡は、民間との人事交流プロジェクトに選ばれ、スーパー富士見堂で1年間の研修を受けることになるが、最初は役員根性・県庁マインド丸出しだった彼が、全く肌違いの民間の仕事を通して変質し、真の"スーパー改革"を実現するに至る―。

 公務員って、民間で言う「出向」のことを「研修」と言ってるみたいですね(「研修(出向)」と言っても、労務提供はしているわけだが、民間の「出向」と異なり、労災の請け元は官公庁のまま)。

 ということで、実質的なマンガの舞台は県庁内では無く、前半部分(1巻・2巻)はスーパーマーケット。後半部分(3巻・4巻)は、スーパーの経営を建て直した彼が、第3セクター赤字テーマパークを"潰す"ために送り込まれますが、前半からの流れで、結果はともかく、彼がどう立ち回るかは大体予想がついてしまいます。

 官庁の上層部や主人公の同期の役人の描き方はパターン化していて、事の展開もかなりご都合主義ですが、それでも、主人公とその教育係であるシングルマザーのパート女性とのやりとりも含め、結構楽しく読めました。"ギャグ的"に面白いというか、テーマパークに赴任した初日、「名刺を猿に配って終了」には思わず噴きました。

県庁の星 ポスター.jpg県庁の星1.jpg '05(平成17)年から'07(平成19)年にかけて「ビッグコミックススペリオール」に連載されたコミックで(桂望実の原作を杉浦真夕が脚色)、連載途中の'06年に織田裕二、柴咲コウ主演で映画化されていますが(実際に制作されたのは'05年。「白い巨塔」などのTVドラマを手掛けた西谷弘の映画初監督作品)、織田裕二って本気で演技してそれが丁度マンガ的になるようなそんな印象があり、こうした作品にはピッタリという感じでした。 柴咲コウ/織田裕二

スーパーの女.jpgスーパーの女2.jpg 但し、スーパーを舞台にした作品では、伊丹十三(1933-1997)監督、宮本信子主演の「スーパーの女」('96年/東宝)があるだけに、それと比べるとインパクトは劣るし、「スーパーの女」が食品偽装問題など今日的なテーマを10年以上も前から先駆的に扱っていたのに対し、「県庁の星」は映画もマンガもその部分での突っ込み度は浅く、特に映画は単なるラブ・コメになってしまったきらいも無きにしも非ずという感じ。

マルサの女.jpgマルサの女 1987.jpg 「お葬式」('84年/ATG)で映画界に旋風を巻き起こした伊丹十三監督でしたが、個人的には続く第2作タンポポ」('85年/東宝)と第3作「マルサの女」('87年/東宝)が面白かったです(「お葬式」と「マルサの女」はそれぞれ第58回と第61回のキネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれている)。「マルサの女」は、山崎努がラブホテル経営者"権藤"を演じていますが、彼が新人として出演した「天国と地獄」('63年/黒澤プロ・東宝)で三船敏郎が演じていた会社社長の苗字も"権藤"でした。巧妙な手口で脱税を行う経営者らとそれを見破る捜査官たちとの虚々実々の駆け引きをテンポよく描いており、ラストに抜けてのスリリングな盛り上げ方はなかなかのものでした。

マルサの女2 三國.jpgマルサの女 .jpg それまであまり世に知られていなかった国税査察部の捜査の様子をリアルに描いたということで社会的反響も大きく、翌年には「マルサの女2」('88年/東宝)も作られましたが、山崎努に続いてこちらも、宗教法人を隠れ蓑とし巨額の脱税を企てようとする"鬼沢"に大物俳優・三國連太郎マルサの女2 dvd.jpgを配し、これもまた脇役陣を含め演技達者が揃っていた感じでした。

 伊丹十三監督は「前作はマルサの入門編」であり、本当に描きたかったのは今作であるという伊丹十三.jpg趣旨のことを後に述べていますが、確かに、鬼沢さえも黒幕に操られている駒の1つに過ぎなかったという展開は重いけれども、ラストは前作の方がスッキリしていて個人的には「1」の方がカタルシス効果が高かったかなあ。監督自身は、高い娯楽性と巨悪の存在を一般に知らしめることとの両方を目指したのでしょう。
伊丹十三(1933-1997/享年64(自死))

お葬式 映画 dvd.jpg 確かに「お葬式」で51歳で監督デビューし、高い評価を得たのは鮮烈でしたが、作品の質としてはお葬式 映画 00.jpg3作目・4作目に当たる「マルサの女」「マルサの女2」の方が密度が濃いように思いました。それが、この「マルサの女1・2」以降は何となく作品が小粒になっていたような気がしたのが、この「スーパーの女」を観て、改めて緻密かつパワフルな伊丹作品の魅力を堪能できた―と思ったら、この「スーパーの女」を撮った翌年に伊丹十三は自殺してしまった。残念。
中央:菅井きん(日本アカデミー賞 最優秀助演女優賞)(1926-2018.8.10/享年92
伊丹十三DVDコレクション お葬式

企業家サラリーマン.gif 「スーパーの女」の原作は、『小説スーパーマーケット』(『小説流通産業』('81年))で、作者の「安土敏」こと荒井伸也氏は元サミット社長であり、この人の『企業家サラリーマン』('86年/講談社、'89年/講談社文庫)は、海外飲食店グループを指揮する男性と、新しい時代の経営者を目指す女性たちの生き方を描いた作品で、作者が現役役員の時点でこお小説を書いているということもあってシズル感があり面白かったですが、こちらもテレビドラマ化されているらしい。どこかで再放送しないものかなあ。

企業家サラリーマン (講談社文庫)

酒井和歌子(K県知事・小倉早百合)/石坂浩二(K県議会議長・古賀等)
「県庁の星」酒井和歌子石坂浩二2.jpg県庁の星9.jpg「県庁の星」●制作年:2006年●監督:西谷弘●製作:島谷能成/「県庁の星」井川2.jpg亀山千広/永田芳男/安永義郎/細野義朗/亀井修朗●脚本:佐藤信介●撮影:山本英夫●音楽:松谷卓●原作:桂望実「県庁の星」●時間:131分●出演:織田裕二/柴咲コウ/佐々木蔵之介/和田聰宏/紺野まひる/奥貫薫/井川比佐志/益岡徹/矢島健一/山口紗弥加/ベンガル/酒井和歌子/石坂浩二●公開:2006/02●配給:東宝(評価:★★★)

井川比佐志(スーパー「満天堂」店長・清水寛治)
柴咲コウ in「県庁の星」('06年/東宝)/「おんな城主 直虎」('17年/NHK)

県庁の星 柴咲コウ.jpg おんな城主 直虎 .jpg

中央:津川雅彦(1940-2018.8.4/享年78
スーパーの女ド.jpgスーパーの女 9.jpg「スーパーの女」●制作年:1996年●監督・脚本:伊丹十三●製作:伊丹プロダクション●撮影:前田米造/浜田毅/柳島克巳/高瀬比呂志●音楽:本多俊之●原作:安土敏「小説スーパーマーケット」●時間:127分●出演:宮本信子/津川雅彦/三宅裕司/小堺一機/伊東四朗/金田龍之介/矢野宣/六平直政/高橋長英/あき竹城/松本明子/山田純世/柳沢慎吾/金萬福/伊集院光●公開:1996/06●配給:東宝(評価:★★★★)

お葬式 映画01.jpgお葬式 映画 02.jpg「お葬式」●制作年:1984年●監督・脚本:伊丹十三●製作:岡田裕/玉置泰●撮お葬式 大滝435.jpg影:前田米造●音楽:湯浅譲二●時間:124分●出演:山笠智衆 お葬式.jpgお葬式 笠智衆.jpg崎努/宮本信子/菅井きん/財津一郎/大滝秀治/江戸家猫八/奥村公廷/藤原釜足/高瀬春奈/友里千賀子/尾藤イサオ/岸部一徳/笠智衆/津川雅彦/佐野浅/小林薫/長江英和/井上陽水●公開:1984/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋日勝文化 (85-11-04)(評価:★★★☆)●併映「逆噴射家族」(石井聰互)
[左]笠智衆(僧侶)/[下]高瀬春奈(侘助の愛人・良子。侘助もだだをこね、雑木林で性交する)/小林薫(火葬場職員・焼いている遺体が生き返る夢を見ることがあると吐露する)
お葬式 高瀬春奈.jpgお葬式 高瀬春奈2.jpg 「お葬式」小林薫2.jpg

菅井きん in「生きる」('52年)/「ゴジラ」('54年)/「幕末太陽傳」('57年)/「天国と地獄」('63年)/「お葬式」('84年)
菅井きん 生きる .jpg 菅井きん ゴジラ.jpg 菅井きん 幕末太陽傳 南田洋子  左幸子.jpg 菅井きん 天国と地獄.jpg お葬式8e-s.jpg 菅井きん.jpg
Marusa no onna (1987)
Marusa no onna (1987) .jpgマルサの女  .jpgマルサの女AL_.jpg「マルサの女」●制作年:1987年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:前田米造●音楽:本多俊之●時間:127分●出演:宮本信子/山崎努津川雅彦/大地康雄/桜金造/志水マルサの女347.jpgマルサの女 岡田ド.jpgマルサの女 津川.jpg里子/松居一代/室田日出男/ギリヤーク尼ヶ崎/柳谷寛/杉山とく子/佐藤B作/絵沢萠小沢栄太郎 マルサの女.jpg子/山下大介/橋爪功/伊東四朗/小沢栄太郎/大滝秀治/芦田伸介/小林桂樹/岡田茉莉子/渡辺まちこ/山下容里枝/小坂一也/打田親五/まる秀也/ベンガル/竹内正太郎/清久光彦/汐路章/上田耕一●公開:1987/02●配給:東宝
右端:小沢栄太郎
ジョイシネマ3 .jpg新宿ジョイシネマ3.jpg●最初に観た場所:新宿シネパトス (88-03-12)(評価:★★★★)●併映「マルサの女2」(伊丹十三)

新宿シネパトス (1956年3月「新宿名画座」オープン→1987年5月「新宿シネパトス」→1995年7月「新宿ジョイシネマ5」→1997年11月「新宿ジョイシネマ3」)

2009(平成21)年5月31日閉館 

「マルサの女」ポスター
マルサの女 ポスター.jpg

「マルサの女2」三國連太郎/上田耕一
マルサの女2 三國連太郎_1.jpgマルサの女2 .jpg佐渡原:丹波哲郎.jpg「マルサの女2」●制作年:1987年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:前田米造●音楽:本多俊之●時間:127分●出演:宮本信子/津川雅マルサの女2 笠.jpg彦/三國連太郎丹波哲郎/大地康雄/桜金造/加藤治子/益岡マルサの女2」.jpg徹他/マッハ文朱/加藤善博/浅利香津代/村井のりこ/岡本麗/矢野宣/笠智衆/上田耕一/中村竹弥/小松方正●公開:1988/01●配給:東宝●最初に観た場所:新宿シネパトス (88-03-12)(評価:★★★☆)●併映「マルサの女」(伊丹十三)

《読書MEMO》
映画に学ぶ経営管理論2.jpg●松山 一紀『映画に学ぶ経営管理論<第2版>』['17年/中央経済社]

目次
第1章 「ノーマ・レイ」と「スーパーの女」に学ぶ経営管理の原則
第2章 「モダン・タイムス」と「陽はまた昇る」に学ぶモチベーション論
第3章 「踊る大捜査線THE MOVIE2レインボーブリッジを封鎖せよ!」に学ぶリーダーシップ論
第4章 「生きる」に学ぶ経営組織論
第5章 「メッセンジャー」に学ぶ経営戦略論
第6章 「集団左遷」に学ぶフォロワーシップ論
第7章 「ウォール街」と「金融腐蝕列島"呪縛"」に学ぶ企業統治・倫理論

「●や 山本 周五郎」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1150】 山本 周五郎 『青べか物語
「●黒澤 明 監督作品」の インデックッスへ 「●か行の日本映画の監督」の インデックッスへ「●「山路ふみ子映画賞」受賞作」の インデックッスへ (「雨あがる」)「●小国 英雄 脚本作品」の インデックッスへ(「椿三十郎」「雨あがる」)「●佐藤 勝 音楽作品」の インデックッスへ(「椿三十郎」「雨あがる」)「●三船 敏郎 出演作品」の インデックッスへ(「椿三十郎」)「●志村 喬 出演作品」の インデックッスへ(「椿三十郎」)「●仲代 達矢 出演作品」の インデックッスへ(「椿三十郎」「雨あがる」) 「●小林 桂樹 出演作品」の インデックッスへ(「椿三十郎」)「●土屋 嘉男 出演作品」の インデックッスへ(「椿三十郎」)「●田中 邦衛 出演作品」の インデックッスへ(「椿三十郎」) 「●平田 昭彦 出演作品」の インデックッスへ(「椿三十郎」)「●伊藤 雄之助 出演作品」の インデックッスへ(「椿三十郎」) 「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ(「雨あがる」)「●原田 美枝子 出演作品」の インデックッスへ(「雨あがる」)「●吉岡 秀隆 出演作品」の インデックッスへ(「雨あがる」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ ○東宝DVD名作セレクション(黒澤明監督作品)(「椿三十郎」)

「雨あがる」の主人公と似ている「日日平安」(「椿三十郎」の原作)の主人公。

雨あがる 山本周五郎短篇傑作選.jpg 日日平安.jpg    椿三十.bmp 「椿三十郎」1962.jpg
雨あがる―山本周五郎短篇傑作選』 〔'99年〕/『日日平安』 新潮文庫/「椿三十郎 [DVD]

 『雨あがる―山本周五郎短篇傑作選』('99年/角川書店)は、山本周五郎(1903‐1967)の時代小説のうち、「日日平安」「つゆのひぬま」「なんの花か薫る」「雨あがる」の4編を所収し、これらは何れも黒澤明(1910-1998)監督が映画化した、或いは映画化しようとして脚本化していたものにあたります。

椿三十郎 三船 仲代.jpg椿三十郎パンフ.jpg 「日日平安」は、映画「椿三十郎」('62年/黒澤プロ=東宝)の原作('54(昭和29)年7月「サンデー毎日涼風特別号」発表)で、城代家老を陥れようとする次席家老ら奸臣たちに対し、城代の危難を救うべく起ち上がった若い侍たちを素浪人が助太刀するというストーリーは映画と同じ。但し、原作の助太刀浪人・菅田平野は、映画の椿三十郎のような神がかり的剣豪ではなく(映画の中の三船敏郎と仲代達矢の"噴血"決闘シーンは有名だが、原7 椿三十郎.jpg作にこうした決闘場面は無い)、どちらかと言うと、切羽詰ると知恵を絞って苦境を乗り切るタイプで、未熟な若侍たちをリードしながらも、結構自分自身も窮地においては焦りまくっていたりします。

「椿三十郎」 (黒澤プロ=東宝)
「椿三十郎」.jpg『椿三十郎』(1962).jpg 城代のグループを手助けすることになったついでに、あわよくば仕官が叶えばと思っているくせに、城代の救出が成ると自ら姿を消すという美意識の持ち主で、それでも一方で、誰か追っかけて来て呼び止めてくれないかなあなんて考えている、こうした等身大の人物像がユーモラスに描かれていて、読後感もいいです。
小林佳樹 椿三十郎.jpg 小林桂樹
Tsubaki Sanjûrô(1962)
椿三十郎ポスター.jpg椿三十郎 mihune.jpg 黒澤明は最初は原作に忠実に沿って、やや脆弱な人物像の主人公として脚本を書いたのですが、映画会社に採用されず、その後映画「用心棒」('61年)が大ヒットし椿三十郎 shimura.jpgたためその続編に近いものを要請されて、一度はオクラになっていた脚本を、「用心棒」で三船が演じた桑畑三十郎のイメージに合わせて「剣豪」時代劇風に脚色し直したそうで、ついでに主人公の名前まで「菅田平野」→「椿三十郎」と、前作に似せたものに変えたわけです(映画の中では、主人公が自分でテキトーに付けた呼び名とされている)。

 原作に大幅に手を加えて原作をダメにしてしまう監督や脚本家は多くいますが、黒澤明の場合は第一級のエンタテインメントに仕上げてみせるから立派としか言いようがなく(この作品は昭和47年のお正月映画だった)、「原作を捻じ曲げて云々...」といった類のケチをつける隙がありません。

雨あがる.jpg 黒澤明の没後に小泉堯史監督により映画化された「雨あがる」('99年/東宝)の原作「雨あがる」('51(昭和26)年7月「サンデー毎日涼風特別号」発表)の主人公・三沢伊兵衛(みさわいへい)も浪人ですが、こちらは柔術などもこなすホンモノの剣豪で、ただし、腕を生かして仕官したいのはやまやまだが、人を押しのけてまで仕官するぐらいなら妻のおたよと仲良く暮らせればそれでいいという人物。人助けの際に見せた自分の腕前が見込まれて士官が叶いそうになるが...。

雨あがる 特別版 [DVD]

雨あがる 00.jpg 映画化作品の方は、28年間にわたって黒澤の助手を務めたという経歴を持つ小泉堯史監督の監督デビュー作で、スタッフ・キャストを含め「黒澤組」が結集して作った作品でもあり、冒頭に「この映画を黒澤明監督に捧げる」とあります。

雨あがる01.jpg 元が中編でそれを引き延ばしているだけに、良く言えばじっくり撮っていると言えますが、ややスローな印象も。伊兵衛を演じた寺尾聡は悪くなかったけれど、脇役陣(エキストラ級の端役陣)のセリフが「学芸会」調だったりして、黒澤明監督ならこんな演技にはOKを出さないだろうと思われる場面がいくつかありました。
  
i雨あがる.jpg 日本アカデミー賞において最優秀作品賞、最優秀脚本賞(故・黒澤明)、最優秀主演男優賞(寺尾聡)、最優秀助演女優賞(原田美枝子)、最優秀音楽賞(佐藤勝)、最優秀撮影賞(上田正治)、最優秀照明賞(佐野武治)、最優秀美術賞(村木与四郎)の8部門の最優秀賞を獲得。但し、個人的には、セリフの一部が現代語っぽくなっている部分もあり、それが少し気になりました。これは黒澤作品でもみられますが(そもそも、この作品の脚本は黒澤自身)、黒澤監督作品の場合、骨太の演出でカバーして不自然さを感じさせないところが、この映画では、先のエキストラ級の端役陣の「学芸会」調のセリフも含め、そうした勢いが感じられませんでした。そのため、そうした不自然さが目立った印象を受けたように個人的には感じました。

44『道場破り』.jpg 因みに、この「雨あがる」は、60年代に内川清一郎監督により「道場破り」('64年/松竹)として映画化されており、脚本は「椿三十郎」と後の「雨あがる」の両作品にも関与している小国英雄。三沢伊兵衛役はこの作品が映画初主演だった長門勇。主人公の三沢伊兵衛は藩主の側室になるよう無理強いされていた家老の息女・妙(たえ)(岩下志麻)を連れて逐電し、追っ手に狙われながらも関所を越えられず宿場に潜み、剣の腕前を利用して、悪い心得と知りながらも道場破りを行い、関所越えにつかう賄賂のためにまとまった金子(きんす)をつくろうとする―という話に改変されていて、原作から大幅改変と言っていいかと思いますが、三沢伊兵衛という人間の精神性といったものは活かされていたように思います。
内川 清一郎 「道場破り」 (1964/01 松竹) ★★★★

 映画の「椿三十郎」と「雨あがる」の主人公は、剣豪という意味では同じであるものの人物造型はかなり違っている感じがしましたが、それぞれの原作においては、片や脆弱、片や剣豪、ただし、ついつい人助けをする人の良さや、自分の腕前や手柄に自分自身何となく気恥ずかしさのようなものを持っている点で、かなり通じる部分があるキャラクターだと言えるのではないでしょうか。また、こうした人物像に対する愛着が、山本周五郎と黒澤明の共通項としてあるような気がします。

三船敏郎、土屋嘉男、加山雄三、田中邦衛  
椿三十郎4b0.jpg仲代達矢 椿三十郎.jpg「椿三十郎」●制作年:1962年●製作:東宝・黒澤プロダクション●監督:黒澤明●脚本:黒澤明/菊島隆三/小国英雄●撮>影:小泉福造/斎藤孝雄●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「日日平安」●時間:96分●出演:三船敏郎/仲代達矢/司葉子/加山雄三/小林桂樹/団令子/志村喬/藤原釜足/入江たか子/清水将夫/伊藤雄之助/久伊藤雄之助 椿三十郎.jpg仲代達矢・三船敏郎 椿三十郎o.jpg三船三十郎と仲代.jpg明/太刀川寛/土屋嘉男/田中邦衛/江原達怡/平田昭彦/小川虎之助/堺左千夫/松井鍵三/樋口年子/波里達彦/佐田豊/清水元/大友伸/広瀬正一/大橋史典●劇場公開:1962/01●配給:東宝(評価★★★★☆)

三船敏郎/仲代達矢

「椿三十郎」若侍.jpg
     
雨あがる-Press01.JPG雨あがるes.jpg「雨あがる」●制作年:2000年●製作:黒澤久雄/原正人●監督:小泉堯史●脚本:黒澤明/菊島隆三/小国英雄●撮影:上田正治●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「雨あがる」●時間:96分●出演:寺尾聰/宮崎美子/三船史郎/吉岡秀隆/仲代達矢/原雨あがる 辻月丹 仲代達矢1.jpg田美枝子/井川比佐志/檀ふみ/大寶智子/松村達雄/奥村公延/頭師孝雄/山口馬木也/森塚敏/犬山半太夫/鈴木美恵/児玉謙次/加藤隆之/森山祐子/下川辰平●劇場公開:2000/01●配給:東宝(評価★★★)
仲代達矢(剣豪・辻月丹)
「雨あがる図1.jpg

 「雨あがる」...【1956年単行本〔同光社〕/2008年文庫化[時代小説文庫]】 「日日平安」...【1958年単行本〔角川書店〕/1965年文庫化・1989年・2003年改版〔新潮文庫〕/2006年再文庫化[ハルキ文庫→時代小説文庫]/2020年文庫化[講談社文庫(『雨あがる―映画化作品集』)]】

《読書MEMO》
●「日日平安」...1954(昭和29)年発表 ★★★★
●「つゆのひぬま」「なんの花か薫る」...1956(昭和31)年発表 ★★★
●「雨あがる」...1951(昭和26)年発表 ★★★★

「●お 小川洋子」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1338】 小川 洋子 『猫を抱いて象と泳ぐ
「●「読売文学賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「本屋大賞」 (10位まで)」の インデックッスへ 「●「芥川賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ(小川 洋子) 「●か行の日本映画の監督」の インデックッスへ 「●「日本映画批評家大賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ 「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ「●吉岡 秀隆 出演作品」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

「数式」と「阪神タイガース」。モチーフの組み合わせの新鮮さ。

博士の愛した数式 帯.jpg博士の愛した数式.jpg
妊娠カレンダー2.jpg 博士の愛した数式 2.jpg  
博士の愛した数式』['03年/新潮社・'05年/新潮文庫]『妊娠カレンダー』['91年/文藝春秋]「博士の愛した数式」['06年] 寺尾聰/深津絵里

博士の愛した数式 2003 読文.jpg博士の愛した数式 2003 honnya.jpg シングルマザーの家政婦である主人公が派遣された家には、事故の後遺症で記憶が80分しか持たないという数学博士がいて、ある日、彼女に10歳の息子がいることを知った博士は、家へ連れてくるように告げる―。

 2003(平成15)年度・第55回「読売文学賞」受賞作ですが、第1回「本屋大賞」(1位=大賞)も受賞していて、こちらの方が記念すべき受賞という感じではないでしょうか。また、それにふさわしい本だと思いました(因みに、2003年から始まった、紀伊国屋書店の書店スタッフが選ぶベスト書籍「キノベス」でも第1位に選ばれている)。

 映画にもなるなど話題になった作品であり、主人公と博士の心の通い合いが主に描かれているのだと思って読み始めましたが、途中から、博士の主人公の息子に対する愛情に焦点が当たっている感じがし、それを見守る主人公の視線の温かさ、主人公自身が癒されている感じがいいです。

 博士は80分しか記憶が持続しないわけだから、息子とは(主人公ともそうだが)毎日"初対面"の関係であるわけで、それだけに、博士の息子に対する愛情に深い普遍性を感じます。

 一方で、「海馬」を損傷したりすればそうした状態になることがあるのは知られていることですが(海馬の損傷で一番重度の症状は「陳述的記憶」が全て飛んでしまうというものであり、学術的には海馬は「宣言的記憶」の固定に関わるとされている)、新しい記憶は全く博士の中では作られていないのか、結局は主人公のことも息子のことも翌日になればすべて博士の頭の中には何も残っていないのか―といったことを、博士と過去の記憶を共有し、またそのことを自負している義姉と主人公との対峙において考えてしまいました。そもそも、記憶とは何か―。

妊娠カレンダー.jpg 以前に芥川賞受賞作の『妊娠カレンダー』('91年/文藝春秋)を読んで、文学少女版「ローズマリーの赤ちゃん」みたいに思え、芥川賞狙いとか言う依然に好みが合わず、あまりいいとは思わなかったのですが、いつの間にか力をつけていたという感じ(当初から力はあったが、自分の見る眼が無かったのか?)。

妊娠カレンダー (文春文庫)』 ['94年]

 『博士の愛した数式』は一種のファンタジーとも言える作品なのかもしれないけれども、「素数」「友愛数」「完全数」「オイラーの公式」といった数学的モチーフと'92年の阪神タイガースのペナントレースを上手く物語に取り込んでいて、この組み合わせの"新鮮さ"とそれぞれぞれの"深さ"には、大いに惹き込まれました。

博士の愛した数式 1シーン.jpg 映画化作品は「雨あがる」('00年/東宝)の小泉堯史監督、寺尾聰、深津絵里主演で、原作の終わりで主人公の"私"が"博士"を見舞った際に息子の"ルート"が「学校の先生になった」と告げていることを受けて、ある高校の教室に新しい数学担任となったルート(吉岡秀隆)がやってくるところから始まり、全体が彼の回想譚になっていますが、結果的に原作では1人に集約されていた"私"が、映画では2人(母と息子)いるような感じになって、個人的にはこの構成はしっくりこなかった気がしました。

「博士の愛した数式」('05年/監督・脚本:小泉堯史、出演:寺尾聰/深津絵里/齋藤隆成/吉岡秀隆)

博士の愛した数式 1シーン0.jpg 「オイラーの公式」などを映画の中できちんと説明している点などは、原作のモチーフを大事にしたいと考えたのか、ある意味で思い切った選択だったと思いますが(「虚数」って高校の「数Ⅱ」で習っているはずだが殆ど忘れているなあ)、一方で、博士と浅丘ルリ子演じる義姉が薪能を観に行き、そこで博士が無意識的に義姉の手を握るシーンなど原作にない場面もあって、さらには、義姉が自分が博士の事故の原因だったこと、博士との間に出来た赤ん坊を堕したことを主人公に打ち明けるシーンなど、踏み込んだ解釈を入れている分、説明過剰になっている印象も。

博士の愛した数式 dvd.jpg博士の愛した数式 movie.jpg 原作では、博士の記憶保持期間が80分からだんだん短くなっていくことを示して彼の死を示唆していますが、映画では博士と成長した息子がキャッチボールをする回想シーンを入れるなどして、意図的に暗くならないようにした印象も。寺尾聰、深津絵里とも演技達者の役者ですが(寺尾聡が着ていた古着のジャケットは実父・宇野重吉の遺品とのこと)、意外と映像化すると削ぎ落ちてしまう部分が多いように思いました。
博士の愛した数式 [DVD]

博士の愛した数式es.jpg 映画だけ観ればそれはそれで感動するのでしょうが、原作がある種のステップ・ファミリー的な話になっているのに対し、映画は博士を巡っての義姉(浅丘ルリ子)と主人公(深津絵里)の確執と和解の話が前面に出ているように思いました(その分、ピュアな原作に比べ、ややどろっとした印象も)。原作の持ち味を十分に伝えるのが難しい作品だったかもしれないし、浅丘ルリ子という大物女優を起用したことも、映画が原作と違ってしまったことと無関係ではないと思います。

博士の愛した数式ages.jpg博士の愛した数式 3.jpg「博士の愛した数式」●制作年:2006年●監督・脚本:小泉堯史●製作:椎名保●撮影:上田正治/北澤弘之●音楽:加古隆●原作:小川洋子「博士の愛した数式」●時間:117分●出演:寺尾聰/ 深津絵里/齋藤隆成/吉岡秀隆/浅丘ルリ子/井川比佐志●公開:2006/01●配給:アスミック・エース(評価:★★★)

 【2005年文庫化[新潮文庫]】

「●や 山崎 豊子」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1340】 山崎 豊子 『沈まぬ太陽アフリカ篇
「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ(山崎 豊子)「●や‐わ行の日本映画の監督」の インデックッスへ「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ 「●佐藤 勝 音楽作品」の インデックッスへ「●丹波 哲郎 出演作品」の インデックッスへ「●加藤 嘉 出演作品」の インデックッスへ「●大滝 秀治 出演作品」の インデックッスへ 「●小沢 栄太郎 出演作品」の インデックッスへ「●山形 勲 出演作品」の インデックッスへ「●仲代 達矢 出演作品」の インデックッスへ「●北大路 欣也 出演作品」の インデックッスへ「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ「●藤村 志保 出演作品」の インデックッスへ「●秋吉 久美子 出演作品」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

読後の感動はあった。モデルはモデル、小説は小説として読むべきか。

不毛地帯 1.jpg 不毛地帯 2.jpg 不毛地帯 3.jpg 不毛地帯 4.jpg 不毛地帯12f9.jpg
『不毛地帯』 新潮文庫[旧版](全4巻)   映画「不毛地帯」('76年/東宝) 仲代達矢・丹波哲郎

不毛地帯 映画.jpg 『白い巨塔』('65年/新潮社)、『華麗なる一族』(73年/新潮社)が、それぞれ映画も含め力作だったのに対し、この『不毛地帯』の仲代達矢主演の"映画"の方は、配役は豪華だけれど個人的には今ひとつでした(テレビで観たため、平幹二朗主演のテレビ版と記憶がごっちゃになっている)。そもそも、181分という長尺でありながらも、原作の4分の1程度しか扱っておらず、原作が連載中であった事もありますが次期戦闘機決定をめぐる攻防部分だけを映像化したと言ってもよく、結果として壱岐正という主人公の生き方に深みが出てこない...。

不毛地帯ー.png「仲代達矢 不毛地帯.jpg ただし"原作"だけでみると、自分が最初に読んだ当時の読後の感動はこれが一番で、もともと映画に納まり切らない部分が多すぎたか? それと、こうした複雑な話が映画化された時によくありがちな傾向で、愛憎劇中心になってしまった感じもしました。

 この原作の方は、以前は商社マンを目指す人はみなこぞって読んで、そして感動したという話も聞きます。しかし今改めて読むと、作品に描かれる総合商社の体質は今も変わらないのかもしれませんが、産業構造の変化などで商社の仕事自体はずいぶん変わっているのではないかという気がします(その点、一番変わっていないのは『白い巨塔』で描かれた大学附属病院かもしれない)。

 国の二次防主力戦闘機の受注をめぐって、交渉相手の防衛庁の部長に戦時中の命の恩人である元陸軍中佐・壱岐正をぶつけるという商社の戦略が凄いと思いましたが、戦後60年以上を経た今現在、こうした"命の恩人"みたいな関係がどれだけあるのか、またそれがビジネスで成り立つかと考えると、かなり特異な状況を描いているようにも思えました。

 そうしたこともあり、良くも悪くも、モデルとされている瀬島龍三氏のイメージとどうしても切り離せません。
 小説の主人公はラストの身の引き方は美しいが、瀬島氏は商社マンとして一線を退いた後も中曽根内閣の臨調委員として政治"参謀"ぶりを発揮し(結局こういう「ひとかどの人物」は在野にいても声がかかる?)、90歳を超えてなお中曽根氏の個人的ブレーンの1人となっている...。

 著者は「これは架空の物語である。実在する人物、出来事と類似していても偶然に過ぎない」と言っています。
 『白い巨塔』と並ぶ著者の代表作であり傑作であることには違いなく、モデルはモデル、小説は小説として読むべきなのかも知れません(同一作者の後の作品『沈まぬ太陽』では、同一モデルであるはずのこの人物の描き方が、「国士」から単なる「策士」へと変化している)。

瀬島龍三(せじま・りゅうぞう)
瀬島龍三.jpg伊藤忠商事元会長。富山県松沢村(現小矢部市)出身。1938年12月陸軍大学校卒、大本営陸軍参謀として太平洋戦争を中枢部で指揮をとる。満州で終戦を迎えたが、旧ソ連軍の捕虜となり、11年間シベリアに抑留され、1956年に帰国。1958年、伊藤忠に入社し、主に航空機畑を歩いた。1968年専務に就き、いすゞ自動車と米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携を仲介。戦前、戦中、戦後を通じて政、財界の参謀としての道を歩んだ。(2007年9月4日死去/享年95)

不毛地帯 映画.jpg不毛地帯 丹波哲郎2.jpg「不毛地帯」●制作年:1976年●監督:山本薩夫●製作:佐藤一郎/市川喜一/宮古とく子●脚本:山田信夫●音楽:佐藤勝●原作:山崎豊子●時間:181分●出演:仲代達矢/丹波哲郎/山形勲/神山繁/滝田裕介/山口崇/日下武史/仲谷昇/山本圭/北大路欣也/小沢栄太郎/田宮二郎/久米明/大滝秀治/高橋悦史/井川比佐志/中谷一郎/八千草薫/秋吉久美子/藤村志保/志村喬/高城淳一/秋本羊介/岩崎信忠/石浜朗/内田朝雄/小松方正/加藤嘉/中津川衛/辻萬長/高杉哲平/杉田俊也/神田隆/永井智不毛地帯 dvd.jpg不毛地帯相関図.jpg不毛地帯久松経済企画庁長官  1.jpg雄/嵯峨善兵/伊沢一郎/青木義朗/アンドリュー・ヒューズ/デヴィット・シャピロ/●劇場公開:1976/08●配給:東宝(評価★★★) 
不毛地帯 [DVD]
不毛地帯 金脈図.jpg丹波哲郎(防衛庁・川又空将補)/加藤嘉(防衛庁・原田空幕長)/大滝秀治(経済企画庁長官・久松清蔵)
川又空将補 - 丹波哲郎.jpg 原田空幕長 - 加藤嘉.jpg 久松経済企画庁長官 - 大滝秀治.jpg
小沢栄太郎(貝塚官房長)
不毛地帯b-b014d3c5e38d.jpg「不毛地帯」 小沢栄太郎.jpg 
    
山形勲(近鉄商事社長・大門一三――壱岐をスカウトする)
山形勲 不毛地帯.jpg不毛地帯 山形.jpg

秋吉久美子(壱岐直子)
「不毛地帯」秋吉久美子.jpg

 【1983年文庫化[新潮文庫(全4巻)]・2009年改訂[新潮文庫(全5巻)]】

不毛地帯〔'76年/東宝〕監督:山本薩夫/製作:佐藤一郎/脚本:山田信夫/出演:仲代達矢/丹波哲郎/山形勲
不毛地帯 映画.jpg

「●い 池波 正太郎」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●い 伊坂 幸太郎」 【1333】 伊坂 幸太郎 『オーデュボンの祈り
「●映画」の インデックッスへ 「●黒澤 明 監督作品」の インデックッスへ 「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「ブルーリボン賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「●小国 英雄 脚本作品」の インデックッスへ 「●武満 徹 音楽作品」の インデックッスへ「●仲代 達矢 出演作品」の インデックッスへ 「●加藤 武 出演作品」の インデックッスへ  「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ 「●原田 美枝子 出演作品」の インデックッスへ 「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「ニューヨーク映画批評家協会賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「全米映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

巨匠の作品でもダメなものはダメ、B級でも面白いも面白い、とする。「乱」はつまらなかった、で意見が一致した。
『最後の映画日記』.jpg最後の映画日記.jpg  乱 デジタル・リマスター版 [DVD].jpg
最後の映画日記』['04年/河出書房新社](表紙イラスト:池波正太郎) 乱 デジタル・リマスター版 [DVD]

  第1部は、'75年から'88年にかけて雑誌等に発表したもので、昔の映画の思い出や、自分の小説の劇化などについて書かれていますが、戦前の映画俳優や役者に対する思い入れが感じられ、また鬼平犯科帳をテレビでやるなら松本幸四郎(当時)でなければ許可しないと言ったなどの話が興味深い(萬屋錦之介ではダメだと)。

 第2部は、'74年から'85年にかけて連載した「映画日記」の単行本未収録分('81年から'82年分)で、60歳になっても芸術作品から娯楽作品まで、この時期公開された映画(リバイバル含む)の試写会を精力的にハシゴしている様子が窺えます。
 大家の作品でもダメなものはダメ、B級に近い作品でも面白いも面白いとし、映画や芝居を見た後でどこで何を食べたかまで全部書いてあるのも、お決まりとはいえ楽しめます。

 第3部はヒチコック、黒澤映画についてのトークと、常盤新平氏との対談など。
 精神分析的要素が入ってたヒチコック分析はさすが。氏は、ヒッチ氏の"気張った巨匠ぶり"がないところが気に入っているようです。
 一方、"巨匠"黒澤明の「乱」を、観客を置き去りにした、ドラマツルギーの無い作品として痛烈に批判していますが、個人的には自分も同じ意見です。海外での評価は高かったようですが、個人的にはイマイチでした。
 

「乱」キャスト1.jpg乱 nakadai.jpg「乱」●制作年:1985年●制作国:日本・フランス●監督:黒澤明●製作:セルジュ・シンベルマン/原正人●脚本:黒澤明/小国英雄/井手雅人●撮影:斎藤孝雄●音楽:武満徹●衣装:ワダエミ●時間:162分●出演:仲代達矢/寺尾聡/根津甚八/隆大介/原田美枝子/宮崎美子/野村武司/井川比佐志/ピーター/油井昌由樹/加藤和夫/松井範雄/伊藤敏八/鈴木平八郎/児玉謙次/渡辺隆/東「乱」井川.jpg郷晴子/南條玲子/神田時枝/古知佐知子/音羽久米子/加藤武/田崎潤/植木等●公開:1985/06●配給:東宝=日本ヘラルド映画(評価:★★☆)

井川比佐志(鉄修理(くろがねしゅり))

《読書MEMO》
●「映画日記」('81年10月から'82年9月)
嵐が丘(ウイリアム・ワイラー監督)、ジズ・イズ・エルビス、007/ユア・アイズ・オンリー、約束の土地(アンジェイ・ワイダ監督)、そして誰もいなくなった、タイム・アフター・タイム、ベリッシマ(ルキノ・ヴィスコンティ監督)、スター・クレージー(シドニー・ポワチエ監督)、秋のソナタ(イングマール・ベルイマン監督)、エクスカリバー、ラブレター(東陽一監督)、皆殺しの天使(ルイス・ブニュエル監督)、イレイザーヘッド(デヴィッド・リンチ監督)、針の眼(ケン・フォレット原作)、愛と哀しみのボレロ(クロード・ルルーシュ監督)、昔みたい(ニール・サイモン脚本・ゴールディ・ホーン主演)、アパッチ砦ブロンクス(ポール・ニューマン主演)、天国の門(マイケル・チミノ監督)、マノン(東陽一監督)、悪霊島(篠田正浩監督)、幸福(市川昆監督・水谷豊主演)、駅(倉本聡脚本・降旗康男監督・高倉健主演)、レイダース(S・スピルバーグ監督)、山猫(ヴィスコンティ監督)、エンドレス・ラブ(フランコ・ゼッフィレッリ監督)、泣かないで(N・サイモン脚本・マーシャ・メイスン主演)、勝利への脱出(S・スタローン主演)、四季(アラン・アルダ監督)、ミスター・アーサー、ジェラシー(ニコラス・ローグ監督)、女の都(フェデリコ・フェリーニ監督)、郵便配達は二度ベルを鳴らす(ジェシカ・ラング主演)、パラダイス・アーミー、告白(ロバート・デ・ニーロ、ロバート・デュバル主演)、マッドマックス2、Uボート、白いドレスの女、ミッドナイトクロス(ブライアン・デ・パルマ監督)、プリンス・オブ・シティ(シドニー・ルメット監督)、ベストフレンズ、アレキサンダー大王(テオ・アンゲロプロス監督)、フランス軍中尉の女、この生命誰のもの、タップス、スクープ(シドニー・ポラック監督・P・ニューマン主演)、終電車(フランソワ・トリュフォー監督)、黄昏(ヘンリー・フォンダ主演)、デュエリスト(リドリー・スコット監督)、鉄の男(A・ワイダ監督)、シャーキーズ・マシーン、フォー・フレンズ、ボーダー(ジャック・ニコルソン主演)、レッズ(ウォーレン・ビーティ主演・脚本・監督)、ザ・アマチュア、人類創世、チャタレイ夫人の恋人、未知への飛行、カリフォルニア・ドールズ、ザ・レイプ(東陽一監督)、さらば愛しき大地、コナン・ザ・グレート、ハンガリアン、キャット・ピープル(ナスターシャ・キンスキー主演)

About this Archive

This page is an archive of recent entries in the 井川 比佐志 出演作品 category.

芦川 いづみ 出演作品 is the previous category.

山﨑 努 出演作品 is the next category.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1