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シュール且つ軽めの純文学的な匂い。テーマも含めて全部モチーフ?
『オーデュボンの祈り (新潮文庫)』['03年] 『オーデュボンの祈り (新潮ミステリー倶楽部)』['00年]
2000(平成12)年・第5回「新潮ミステリー倶楽部賞」受賞作で、1996年から2000年までしか続かなかった一般公募による同賞の最後の受賞作。
コンビニ強盗に失敗し、警察から逃げる途中で気を失った伊藤は、気づくと見知らぬ孤島にいたが、江戸時代より外界から遮断されているというその島には、島の預言者として崇められている優午という名の喋るカカシがいて、その優午は、伊藤が島に来た翌日に死体となって発見される―。
島には、嘘のことしか喋らない画家の園山や、処刑が"島の法律"として許されている桜、太って動けないウサギという女、島で唯一外界との行き来をして商売をする轟という熊のような風体の男等々、変わった人物が住んでいて、出だしはミステリーと言うよりファンタジーという印象を強く受けました(ウサギ穴に落っこちたアリスみたい、この主人公は)。
やや村上春樹っぽい感じで、出てくる人や生き物が皆何かのメタファーなのかと思い、そういう謎解きみたいなことを考えさせられながら、この訳の解らん夢見のような世界に付き合わされるのかと最初はややゲンナリさせられながらも、読んでいると自然とその中に入り込めてしまい、最後まで読めてしまうのが不思議でした。
まあ、ラストは予定調和という感じでしたが、途中は作家が描きたい世界を好きに書いているような感じでありながらも、それまで鏤(ちりば)めてきた様々な要素を、(大体においては)ミステリとして収斂させているのは巧みと言うか立派と言うべきか、読後感も悪くなく、デビュー作にして既に作者がストーリーテラーとしての才覚を存分に発揮していたということかも知れません(単行本刊行時にはそれほど話題になったという記憶が無いのだが)。
但し、やはりこの作品の特徴は、シュール且つ軽めの純文学的な匂いと言うか、前衛演劇を見ているような現実浮遊感のようなものではないかと思われ、結局、テーマも含めて全部モチーフであるという(リョコウバトにしろ音楽にしろ)そんな印象を受けました(才能だけで書いていて、テーマ性が弱い? そう感じるのは、読み手である自分自身のコンセプチュアル・スキルが弱いためだと言われれば、そうなのかも知れないが)。
【2003年文庫化[新潮文庫]】