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「●あ 安西 水丸」の インデックッスへ
待望の初作品集であり、構成も工夫されていて、その軌跡を偲ぶに相応しい保存版。
『イラストレーター 安西水丸』['16年](25.7 x 18.6 x 1.8 cm)『安西水丸: いつまでも愛されるイラストレーター (文藝別冊/KAWADE夢ムック)』['14年]
2014年3月に急逝したイラストレーター安西水丸(1942-2014)の作品集で、2016年6月刊行(安西水丸事務所 (監修))。安西水丸は、日本大学芸術学部卒業後、電通、ニューヨークのデザインスタジオ、平凡社を経てフリーのイラストレーターになり、書籍の装丁、雑誌の表紙やポスター、小説やエッセイの執筆、絵本、漫画など、多様な活動をしてきました。本書は、「ぼくの仕事」「ぼくと3人の作家」「ぼくの来た道」「ぼくのイラストレーション」の4章から成り、その活動の全容を1冊にまとめています。
chapter1「ぼくの仕事」では、その仕事を、小説、装丁・装画、エッセイ、漫画、絵本、雑誌、ポスター、リーフレットほか、広告・立体物に区分して、代表的なものを紹介しています。その多彩な活動を改めて感じとることが出来ますが、本書が初の作品集であるとのことで、まさに "疾走"している最中の逝去であり、亡くなることでようやっとこうした「作品集」を見ることができるというのが何となく哀しい気もします。
村上春樹をとり上げた雑誌の表紙/和田誠とのコラボレーション
Chapter2「ぼくと3人の作家」では、親交の深かった嵐山光三郎氏、村上春樹氏、和田誠氏との仕事を紹介しています。この中でも、村上春樹作品とコラボは印象深いものがありますが、村上作品で最初に装丁を担当したのは、'83(昭和58)年に中央公論社(現、中央公論新社)から出た『中国行きのスロウ・ボート』であるとのことです。本人も気に入っているようですが、村上作品は、先行して村上作品のカバーイラストを担当していた佐々木マキ氏のアナーキーな雰囲気も似合うけれども、こうしたカンファタブルなイラストや、『村上朝日堂』シリーズに見られるほのぼのとした雰囲気もマッチしているように思え、また、その雰囲気が意外と村上作品または村上春樹という作家の本質に近いところにあるのではないかと思ったりもします。
Chapter3「ぼくの来た道」では、子ども時代を過ごした千倉のことや、学生・イラストレーター時代のこと、青山と鎌倉のアトリエ、好きなもの(カレーライス、スノードーム、ブルーウィロー、お酒)が写真と文章で紹介され、娘・安西カオリ氏の父親との幼い頃の思い出を綴ったエッセイが付されています。千倉の話は、本人のエッセイにも出てきたなあ(村上春樹のエッセイにも出てくる)。アトリエに飾られた小物などは、ああ、これが作品のモチーフになったのだなあと思わせるものもあって興味深かったです。
Chapter4「ぼくのイラストレーション」では、純粋なイラストレーションとしての安西水丸作品が80ページにわたって紹介されていて圧巻! 多様な活動をしながらも、心には「イラストレーターであることへの誇り」を常に持ち続けたということが改めて感じられました。最後に、仕事面で何かと一緒に歩むことの多かった嵐山光三郎氏のエッセイと、村上春樹氏が寄せた短文が付されていますが、共に、まだ安西水丸という人がもうこの世にはいないという喪失感から抜け出せていないことを感じさせるものでした。
安西水丸、待望の初作品集であり、構成も工夫されていて、その軌跡を偲ぶに相応しい保存版として一冊です。