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マギー・チャン出演2作。ラストがいい「ラヴソング」。勉強になった「宋家の三姉妹」。

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ラヴソング」マギー・チャン(張曼玉)/レオン・ライ(黎明)
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宋家の三姉妹」マギー・チャン(張曼玉)/ヴィヴィアン・ウー(鄔君梅)/ミシェル・ヨー(楊紫瓊)[左]

「ラヴソング」 01.jpg 1986年。故郷 天津に恋人シャオティン(小婷)(クリスティ・ヨン(楊恭如))を残し、シウクワン(小軍)(レオン・ライ(黎明))は香港へやって来る。シウクワンの夢は、香港で金を蓄えてシャオティンと結婚すること。しかし、広東語はチンプンカンプン、右も左も分からない香港では迷う事ばかり。そんなある日、初めて入ったハンバーガーショップで 店員のレイキウ(李翹)(マギー・チャン(張曼玉))に偶然助けられ、彼女と徐々に親しくなっていく。いくつも仕事を掛け持ちするシッカリ者のレイキウは、シウクワンにとって、香港で唯一頼れる友人に。ところが、何でも知っているように見えたレイキウもまた広州からやって来た大陸出身者であると判る。香港で孤独な二人はどんどん親密になり、1987年大晦日の晩、ついに一線を越えてしまう。それでも、お互いを"友人"と偽り続け、関係を続けるが、1990年、シウクワンは天津から呼び寄せたシャオティンと結婚、レイキウもまたパウ(豹哥)(エリック・ツァン(曾志偉))の援助で、実業家として成功していくのであった―(「ラヴソング」)。

 1996年(香港返還の前年)11月に公開されたピーター・チャン(陳可辛)監督作で、出演はマギー・チャン(張曼玉)、レオン・ライ(黎明)、エリック・ツァン(曾志偉)など。1998年・第16回「香港電影金像奨」で最優作品賞・最優秀主演女優賞・最優秀助演男優賞など9つの賞、「台湾映画金馬賞」最優秀脚本賞、米国の「シアトル国際映画祭」最優秀作品賞などを受賞し、「タイム」では同年度の世界での優秀な作品トップ10で2位に選ばれています。20世紀末で最も成功したラブストーリー映画とも称され、同作品のヒロイン、マギー・チャンは「ロアン・リンユィ 阮玲玉」('91年/香港)に続いて2回目の金像賞、金馬賞のダブル受賞を達成しています。

「ラヴソング」 11.jpg 1986年から始まり、1995年までの主人公二人の10年に及ぶ心温まるラブストーリーで、特にラストがいいですが、ラストがいいと感じられるということは、そこまでのストーリーの積み上げ方が上手いのでしょう。テレサ・テンの歌をモチーフにしており、「ラヴソング」 12.jpg原題にもなっている「甜蜜蜜(ティェンミミ/ 蜜のように甘く)」という曲もその1つ。当時香港ではテレサ・テンのファンであることは 大陸出身であることを意味し、それを隠すためテレサ・テンのカセットは密かに買われていたようですが、 それまでいかにも香港人らしく振る舞っていたレイキウも実は大陸出身であることを告白し、他に親しい人のいない寂しい二人の仲は一気に 深まっていきます。

「ラヴソング」 l.jpg 二人が自転車に乗って「甜蜜蜜」を歌うのが、恋愛の始まりの高揚感を現していて良かったです(まさに「ラヴソング」)。テレサ・テンの曲では、その他に、「再見!我的愛人」(アン・ルイスの「グッドバイ・マイ・ラブ」)、「涙的小雨」(クールファイブの「長崎は今日も雨だった」)といったカバー曲も流れます。テレサ・テンが亡くなったのは1995年5月8日ですが、そのニュースが流れる場面が最後にあり、この映画で重要な役割を果たします。この映画はテレサ・テンが亡くなった翌年に作られているため、ラストシーンはほぼリアルタイムということになります。

「我が心のテレサ・テン」.jpg テレサ・テンについては、昨年['22年]8月にNHKの「映像の世紀バタフライエフェクト」で"我が心のテレサ・テン"として取り上げていましたが、日本人が一般に抱く「台湾からやって来た歌手テレサ・テン」のイメージとは大違いであり、彼女は当時すでにアジアの歌姫であって、天安門事件(1989年)などに苦しむ中国の若者たちにとっては、政治的メッセージを発する自分たちのシンボル的な存在であったようでです(ただし、この映画では天安門事件などは描かず、そうした政治的メッセージを伏せている)。

「ラヴソング」 つあん.jpg エリック・ツァン(曾志偉)演じる、レイキュウがその愛人になってしまうヤクザ者のパウ(豹哥)も、実は見かけに「ラヴソング」 ドイル.jpgよらず人間味のあるいい男でした(エリック・ツァンはこの演技で「香港電影金像奨最優秀助演男優賞」を受賞)。ウォン・カーウァイ監督作品の撮影監督で知られるクリストファー・ドイルが、英語学校の酔いどれ不良講師役で出ていますが(その授業というのが、海賊映画を見せてその台詞を覚えさせるものだった)、これもまた見かけによらず優しい男であり、この辺りもラブロマンス的には良かったです。


「宋家の三姉妹」1997.jpg 1900年代の初頭。中国の大財閥の総帥チャーリー宋(チアン・ウェン(姜文))は、三姉妹のわが子を米国留学させた。長女の宋靄齢は14歳。三女の美齢はまだ9歳の時に。当時の中国は清朝打倒運動が盛んで、宋も密かに革命家の孫文(ウィンストン・チャオ(趙文瑄))を支援していた。やがて辛亥革命で清朝は滅亡、孫文は中華民国大統領に選出される。1910年、帰国して孫文の秘書となる長女の靄齢(ミシェル・ヨー(楊紫瓊))。だが、靄齢は程なく富豪の孔祥熙(ニウ・チェンホワ(牛振華))と結婚。代わって孫文の秘書となる次女の慶齢(マギー・チャン(張曼玉))。政争に破れた孫文が日本に亡命すると慶齢も渡日し、親の反対を押し切って親「宋家の三姉妹」01.jpg子ほど歳の離れた孫文と結婚。1922年、広東に革命政府を樹立した孫文は、味方であるはずの軍閥に急襲され、軍事顧問の蔣介石(ウー・シングォ(呉興国))により救出される。だが、妻・慶齢は脱出に苦労し、妊娠中の子を失う。1924年、孫文の抜擢で蒋介石は黄捕士官学校の校長となる。学校設立には、財閥である靄齢の夫・孔祥熙が深く関わっていた。蒋介石の出世を見越して、妹の美齢(ヴィヴィアン・ウー(鄔君梅))に結婚を勧める靄齢。1925年、「宋家の三姉妹」02.jpg孫文は総理在任中に「革命未だ成らず」と言い残して逝去。人々から孫文の思想の象徴と見なされる慶齢。政治的に孫文になり代わったのは総司令官の蒋介石だった。蒋家の権力、孔家の財力。孫家の名声が国を動かすと確信する靄齢。孫文が作り上げた中国国民党は彼の死後、権力争いで分裂。乱れた国民党を嫌って脱退する慶齢。混乱に乗じて権力拡大を画策する蒋介石。蒋介石を非難した慶齢は、美齢や靄齢と敵対する。美齢は既に蒋介石と婚約していたのだ。1927年、慶齢はソ連に渡り、美齢は国民革命軍の総司令官となった蒋介石と盛大な結婚式を挙げる。1931年。満洲事変が勃発するが、蒋介石の国民党は中国共産党の粛清を優先し、日本軍の侵攻を許す。ソ連から帰国し、蒋介石非難声明を発表する慶齢。慶齢が邪魔だが、義姉であり、英雄・孫文の妻である彼女を暗殺できない蒋介石。1936年、蒋介石が西安で張学良らに拉致・監禁される。国民党と共産党の内戦を停止し、対日戦線を開始せよと蒋介石に迫る張学良。蒋介石の救出に力を合わせる宗家の三姉妹。日本軍との戦いのために、共産党に働きかけて張学良らの暴走を止める慶齢。救い出された蒋介石は、挙国一致の抗日を宣言。兵士の慰問などで反日戦線の象徴となる三姉妹。だが、終戦を待たずに靄齢と夫は香港に、慶齢は上海に移住。中国では共産党が台頭し、蒋介石と美齢は国民党と共に台湾に去る。「一人は金と、一人は権力と、一人は国家と結婚した」と言われた三姉妹が再び揃うことは無かった―(「宋家の三姉妹」)。

 「誰かがあなたを愛してる」('87年/香港)のメイベル・チャン 監督の1997年5月公開作(この年の7月に香港は英国から中国に返還された)。「誰かがあなたを愛してる」とはまったく作風の異なる作品で(「ラヴソング」の方が「誰かがあなたを愛してる」に近い)、伝記映画であるとともに壮大な時代劇ロマンです。1998年・第17回「香港電影金像奨」の最優秀主演女優賞(マギー・チャン)、最優秀助演男優賞(チアン・ウェン)、最優秀撮影賞(アーサー・ウォン)、最優秀衣装賞(ワダ・エミ)、最優秀音楽賞(喜多郎/ランディ・ミラー)を受賞しています(マギー・チャンは前年の「ラヴソング」に続いて2年連続の受賞)。

 三姉妹とその配役を整理すると、

「宋家の三姉妹」3姉妹.jpg  長女・宋靄齢(孔祥熙と結婚)... ミシェル・ヨー(楊紫瓊)
  次女・宋慶齢(孫文と結婚)... マギー・チャン(張曼玉)
  三女・宋美齢(蔣介石と結婚)... ヴィヴィアン・ウー(鄔君梅)

「宋家の三姉妹」3姉妹本.jpg 「一人は金と、一人は権力と、一人は国家と結婚した」いうこの映画のキャッチから、「宋靄齢は金を愛し、宋美齢は権力を愛し、宋慶齢は国を愛した」と評されるようになったそうです。宋三姉妹については、これもまた昨年['22年]8月にNHKの「映像の世紀バタフライエフェクト」で"中国 女たちの愛と野望"として取り上げていたので、まったく知らないわけではありませんでしたが、映画は意外と説明的に作られていて、これはこれで勉強になりました。この映画によれば「国共合作」が成り立ったのは宋三姉妹の尽力によるものであり、中国の歴史を変えた三姉妹ということになるでしょうか。

 渋谷のBunkamuraが今年['23年]4月10日から休館したことに伴い、渋谷東映プラザ内「渋谷TOEI」跡地に6月16日に開業した「Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下」のこけら落としを飾ったのが、このマギー・チャン(1964年生まれ)の回顧上映「マギー・チャン レトロスペクティブ」でした(マギー・チャンに着眼するところがBunkamuraらしい?)。ミシェル・ヨー(1962年生まれ、マレーシア出身)が「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」('22年/米)でアジア人女優として初めてアカデミー主演女優賞にエントリーされ、受賞したことも影響しているのでしょうか。そのミシェル・ヨーとマギー・チャンを同時に観られるのが嬉しい作品です。

 ミシェル・ヨーはアカデミー賞受賞で、国際派女優としてこれまで以上に注目を集めるようになりましたが、マギー・チャンも1992年には「ロアン・リンユィ/阮玲玉」で香港女優初の「ベルリン映画祭主演女優賞」を獲得し、ベルリン国際映画祭(1997年)、ベネチア国際映画祭(1999年)、カンヌ国際映画祭(2007年)の審査員も務めるなどした香港を代表する国際派女優となりました。

「ラヴソング」 d.jpg「ラヴソング」●原題: 甜蜜蜜/(英)COMRADES, ALMOST A LOVE STORY●制作年:1996年●制作国:香港●監督:ピーター・チャン(陳可辛)●製作:ピーター・チャン/クローディ・チョン(製作総指揮:レイモンド・チョウ)●脚本:アイヴィ・ホー●撮影:ジングル・マー●音楽:チウ・ツァンヘイ(主題歌:テレサ・テン「甜蜜蜜」)●時間:118分●出演:マギー・チャン(張曼玉)/レオン・ライ(黎明)/エリック・ツァン(曾志偉)/クリストファー・ドイル(杜可風)/クリスティ・ヨン(楊恭如)/アイリーン・ツー●日本公開:1998/02●配給:BMGジャパン=ビターズ・エンド●最初に観た場所:Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(23-07-10)(評価:★★★★☆)

「宋家の三姉妹」05.jpg「宋家の三姉妹」●原題:宋家皇朝/(英)THE SOONG SISTERS●制作年:1997年●制作国:香港・日本●監督:メイベル・チャン(張婉婷)●製作:ン・シーユエン●脚本:アレ「宋家の三姉妹」04.jpgックス・ロー●撮影:アーサー・ウォン(黄岳泰)●音楽:喜多郎/ランディ・ミラー●時間:145分●出演:マギー・「宋家の三姉妹」03.jpgチャン(張曼玉)/ミシェル・ヨー(楊紫瓊)/ヴィヴィアン・ウー(鄔君梅)/ウィンストン・チャオ(趙文瑄)/ウー・シングォ(呉興国)/チアン・ウェン(姜文)/エレイン・チン(金燕玲)/ニウ・チェンホワ(牛振華)●日本公開:1998/11●配給:東宝東和●最初に観た場所:Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(23-07-09)(評価:★★★★)

チアン・ウェン(姜文)in 「紅いコーリャン」('87年/中国)/「春桃(チュンタオ)」('88年/中国・香港)/「宋家の三姉妹」('97年/香港・日本)[「香港電影金像奨最優秀助演男優賞」受賞]
チアン・ウェン(姜文)1.jpg チアン・ウェン(姜文)3.jpg チアン・ウェン(姜文)2.jpg

《読書MEMO》
●NHK 総合 2022/05/30「映像の世紀バタフライエフェクト#8―我が心のテレサ・テン」
「わが心のテレサ・テン」.jpg
台湾出身のテレサ・テンの歌声は世界のチャイニーズの心を震わせ、テレサが一度も足を踏み入れたことのない中国本土にも彼女のカセットテープがあふれた。中国から台湾に亡命した空軍パイロットはテレサとの面会を真っ先に求め、台湾当局もテレサをプロパガンダに利用した。そして、テレサの歌声は天安門広場の民主化デモを支援し、香港の民主化運動でも歌われ続けている。歴史に翻弄されたアジアの歌姫の知られざる物語である。

●NHK 総合 2022/08/22「映像の世紀バタフライエフェクト#15―中国 女たちの愛と野望」
「中国 女たちの愛と野望」.jpg
中華人民共和国の建国式典に毛沢東と共に天安門に上る女性がいた。「革命の父」孫文の未亡人・宋慶齢である。中国の権力の攻防の陰にはいつも女性がいた。辛亥革命から権力者を支えてきた宋家の三姉妹、「一人は国を愛し、一人は権力を愛し、一人は富を愛した」と言われた。中国を恐怖に陥れた文化大革命を主導した江青、そのねらいはライバルの女性を失脚させることだった。権力の陰で繰り広げられた女性たちの愛と野望の物語。

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アカデミー賞を総嘗め。今までアジア系を無視してきたことの反動ともとれるが。

「エブエブ」2022.jpg「エブエブ」08.jpg 「エブエブ」09.jpg
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 」(2022)ミシェル・ヨー
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「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」(1997)舞台はホーチミン(サイゴン)、ロケ地はタイのバンコク

「エブエブ」03.jpg 中国系移民のエヴリン(ミシェル・ヨー)は、自身が経営するコインランドリーが破産寸前で、しかも国税局から監査が入り、税金の申告をやり直さなければならなくなったという問題や、頼りにならない夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)、反抗的な娘ジョイ(ステファニー・スー)、老齢で車椅子が必要な上に最近ボケてきた父親ゴンゴン(ジェームズ・ホン)といった家族の問題など、数多くのトラブル「エブエブ」06.jpgを抱えていた。疲れ果てた彼女の前にある日、夫に乗り移った"別の宇宙(ユニバース)の夫"が現れ、「全宇宙にカオス「エブエブ」04.jpgをもたらそうとしている強大な悪ジョブ・トゥパキを倒せるには君だけだ」と彼から告げられて、世界の命運を託されてしまう。彼女は"無限の多元宇宙(マルチバース)"に飛び込み、カンフーの達人の"別の宇宙のエヴリン"の力を得て、マルチバースの脅威ジョブ・トゥパキと戦うこととなるが、ジョブ・トゥパキの正体は"別の宇宙の自分の娘"だった―。

トゥモロー・ネバー・ダイ よー.jpg「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」1997.jpg007 ミシェル・ヨー.jpg 2022年制作のダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)監督よる「異次元間アクション映画(通称「エブエブ」)。主演は香港アクシTRUE LIES movie.jpgョン映画の華として活躍し、「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」('97年/英・米)、「グリーン・デスティニー」('00年/中国・台湾・香港・米)でハリウッドに進出したミシェル・ヨー(59歳)で(脚本は当初ジャッキー・チェンが主演を務めることを想定して書かれていたものだった)、共演は「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」('84年/米)で少年役だったキー・ホイ・クァン、「トゥルーライズ」('94年/米)のジェイミー・リー・カーティス(63歳)などです。

「エブエブ」オスカー.jpg どうして今このメンバー?とも思える組み合わせですが、先月['23年3月]発表の第95回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、編集賞の計7部門を受賞し、この3人ともが演技賞を受賞したことになります(主演男優賞は「ザ・ホエール」のブレンダン・フレイザ)。

 アカデミー賞の7部門独占は、今世紀に入って'04年の「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」('03年)の11部門、'09年の「スラムドッグ$ミリオネア」('08年)に次ぎますが、この2作は「エブエブ」のような演技賞の受賞はなく、演技部門における3冠達成は、1951年の「欲望という名の電車」と1976年の「ネットワーク」に次いで3度目、ほぼ半世紀ぶりのこととなります。さらに、編集賞を除く主要6部門制覇は、「或る夜の出来事」「地上(ここ)より永遠に」「カッコーの巣の上で」「クレイマー、クレイマー」「愛と追憶の日々」「羊たちの沈黙」などの持つ最多記録(主要5部門制覇)を抜いて史上初とのことです。

「エブエブ」12.jpg アカデミー賞受賞決定の直後に観ました。そんなスゴイ作品かなあというのはありましたが、話は強引ながらも勢いがあり、乗せられて観てしまいました(フツーに娯楽映画として観たということか)。ミシェル・ヨー演じるエヴリンの、現実生活の苦しさをぶっ飛ばすキレキレのアクションは「グリーン・デスティニー」での彼女を髣髴させ、キー・ホイ・クァンも、一時俳優業から武術指導のアシスタントに転じていただけに、なかなかのアクションでした。共にCGは使っていないそうです(ミシェル・ヨーの小指での腕立て伏せのシーンはCGだと思うが)。

ダニエルズ(.jpg 人生をカオスと捉え、マルチバースの世界にそれを反映させているといった感じでしょうか(監督のダニエルズは「湯浅政明や今敏、宮崎駿などといった、日本のアニメ監督からインスピレーションを受けて作った」とコメントしている)。例えばエヴリンには、カンフーマスターであったり女優として成功するなど別宇宙での彼女が沢山いるといった具合です(ミシェル・ヨーの過去に出演したカンフー映画や、国際的な映画祭での実際の映像などを使っている。映画自体は低予算映画で、2023年・第38回「インディペンデント・スピリット賞 作品賞」を受賞している)。SFのスタイルを借りつつ、女性とマイノリティを励ます映画にもなっています。

ダニエルズ(ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート)

[エブエブ」.jpg 一方で、観終わってみれば、徹底した「現実逃避」映画ともとれ、要は、「母と娘」の関係の解(ほつ)れとその修復という古典的・感情的テーマを、大袈裟なマルチバースという枠組みの中で展開しただけに過ぎなかったという見方もできなくはないと思います(この点が「そんなスゴイ作品かなあ」という印象に繋がる)。

 アカデミー賞で多くの賞を受賞したのは、これまでアジア系の映画がアカデミーであまり評価されておらず、アジア系の俳優にも型通りの役しか与えられなかったことへの反省もあるでしょう。アカデミー賞はその時々で、過去のアンバランスを修正すべく反動形成された受賞がしばしば見られるように思います(偏向しているとの批判をかわし、賞の権威を維持するための調整が優先されがち)。

ミシェル・ヨー0.jpg この作品でアジア人女優として初めてアカデミー主演女優賞を受賞した(エントリーされること自体がアジア人女優初だった)ミシェル・ヨー(楊紫瓊・1962年生まれ)は、その前にゴールデングローブ賞(今年['23年]1月)でも主演女優賞を受賞していて、その時のスピーチで「昨年私は60歳を迎えた」「女性は年齢の数字が大きくなればなるほど、機会に恵まれることは少なくなる」と女性の年齢による機会損失について訴えていましたが、アカデミー賞の授賞式のスピーチでもオスカー像を掲げ、「これは希望と可能性の印です。夢が叶う証です。そして女性のみなさん、『あなたはもう盛りを過ぎた』なんて誰にも言わせてはなりません」と語ったことが、世界的に大きな反響を呼びました。

ミシェル・ヨー.jpg その彼女に、来月['23年5月]のカンヌ国際映画祭のオフィシャルディナーの場にて、「ウーマン・イン・モーション」アワードが授与されることが今月['23年4月]決定しました。2015年に発足した「ウーマン・イン・モーション」アワードは、女性に対するコミットメントや取り組みを称えるもので、アジア人では2019年のコン・リー以来2人目の授賞になります。

カンヌ国際映画祭オフィシャルディナーのフォトコールにて(2023.5.25)。左からフランソワ=アンリ・ピノー、ミシェル・ヨー、パートナーのジャン・トッド Vittorio Zunino Celotto


 彼女はインタビューで、「『グリーン・デスティニー』の頃は、ハリウッド業界はアジア人俳優を認める準備がまだできミシェル・ヨー2.jpgていなかったと思います。作品賞や監督賞はあっても、俳優だけはノミネートされなかった。ジョアン・チェンやコン・リーなど、私より先に活躍していた美しい女優たちは、本来ならアカデミー賞にノミネートされているべきでした。人種のせいなのか? 私はそうだと思います。しつ「グリーン・デスティニー」23.jpgこく言いたくはないですが、ただ『前に進みましょう』と言いたい。いまこそ前進するときです。素晴らしい映画の魅力とは、文化を超え、時代を超え、言語を超えるところにあると思います」と述べています。

ミシェル・ヨー in「グリーン・デスティニー」('00年)

 しつこく言いたくはないとしながらも、これまで偏向(人種差別)があったとはっきり言っている! さらに、自分より先にジョアン・チェン(陳冲・1961年生まれ、「ラストエンペラー」('87年)、「ラスト、コーション」('07年)など)やコン・リー(鞏俐・1965年生まれ、「紅いコーリャン」('87年)、「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年)など)らがアカデミー賞にノミネートされるべきだったと言っているところがエライです。

ポリスストーリー3 4」.jpg ミシェル・ヨーは1985年、初主演作「レディ・ハード 香港大捜査線」('85年/香港)でアクション映画に初挑戦、バレエ仕込みの身体表現で激しいカンフーアクションや危険なスタントシーンを演じ、レディ・アクションスターの先駆けとなって、「皇家戦士」('86年/香港)では真田広之と共演、「ポリス・ストーリー3」('92年/香港)でジャッキー・チェンと共演し「走行中の貨物列車の屋根にオートバイで飛び乗る」というスタントを代役なしで演じています(ジャッキー・チェンをして「自分の見せ場を奪われるから競演NG」と言わしめたとか)。「ジェームズ・ボンド」シリーズ第18作「007トゥモロー・ネバー・ダイ」('97年/英米)(公開時タイトルは「トゥモロー・ネバー・ダイ」「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」2.jpg35歳で「ミシェル・ヨー「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」3.jpg」(それまではミシェル・キングまたはミシェル・カーンだった)としてハリウッドへ進出したのは、"満を持して"といった感じだったでしょうか。中国国外安保隊「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」よー.jpg員ウェイ・リンという役柄で、ジェームズ・ボンド役のピアース・ブロスナンと対等に渡り合う「戦うボンドガール」として注目を浴びました。ボンドと一緒に手錠をかけられた「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」ば.jpg状態でビルからジャンプするシーンや、そのままバイクで市中を駆け抜けるシーンは派手で、格闘シーンもよく脚が上がっていてキレキレと言う感じでした。ストーリーは大したことなかったものの、優れたSF・ファンタジー・ホラー作品に送られる「サターン賞」で4つのノミネートを受け、ピアース・ブロスナンが「サターン主演男優賞」を受賞していますが、ミシェル・ヨーの貢献も大きかったのではないでしょうか。


「エブエブ」05.jpg  因みに、この「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」で、ミシェル・ヨーより数多くの賞を受賞したのがキー・ホイ・クァンで、ゴールデングローブ賞助演男優賞、アカデミー助演男優賞のほかに、第88回「ニューヨーク映画批評家協会賞 助演男優賞」、第57回「全米批評家協会賞 助演男優賞」、第48回「ロサンゼルス映画批評家協会賞 助演男優賞」など多くの賞を受賞しています。「現実世界の頼りない夫」としてのハリウッド映画における従来のアジア人のパターナルな演技と、「"別の宇宙(ユニバース)の夫"」としてのヒロイックな演技(まるでブルース・リー(!?))の使い分けが際立っていたことが評価されたのでしょう。

ジェームズ・ホン br.jpgジェームズ・ホン.jpg さらに、ボケているのに頑固な父親ゴンゴンを演じたジェームズ・ホンは1929年生まれの今年94歳。ジェニファー・ジョーンズ、ウィリアム・ホールデン主演の香港を舞台とした映画「慕情」('55年)の頃からノンクレジットですが映画に出ており、「砲艦サンパブロ」('66年)のヴィクター・スー役などもありましたが、「ブレードランナー」('82年)のレプリカントの眼球を作っている遺伝子工学者ハンニバル・チュウの役などは、多くの人にとって懐かしいのではないでしょうか(あれから40年かあ)。と言うこキー・ホイ・クァン hフォード.jpgとは、ハリソン・フォードは、この映画に出ているキー・ホイ・クァンと「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」('84年/米)で共演したほかに、ジェームズ・ホンとも「ブレードランナー」で共演したことがあるということか。

ジェームズ・ホン in「ブレードランナー」('82年)


「エブエブ」02.jpg「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」●原題:EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONC●制作年: 2022年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ダニエルズ(ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート)●撮影:ラーキン・サイプル●音楽:サン・ラックス●時間:140分●出演:ミシェル・ヨー/キー・ホイ・クァン/ステファニー・スー(許瑋倫)/ジェイミー・リー・カーティス/ジェームズ・ホン/タリー・メデル/ジェニー・スレイト/ハリー・シャム・Jr/ビフ・ウィフ/スニータ・マニ/アーロン・ラザール/オードリー・ヴァシレフスキ/ピーター・バニファズ●日本公開:2023/03●配給:ギャガ●最初に観た場所:TOHOシネマズ西新井(シアター1)(23-03-15)(評価:★★★☆)
ジェイミー・リー・カーティス「トゥルーライズ」から28年
ジェイミー・リー・カーティス.jpg
 
11「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」.jpg「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」●原題:TOMORROW NEVER DIES●制作年:1997年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ロジャー・スポティスウッド●製作:マイケル・G・ウィルソン/バーバラ・ブロッコリ●脚本:ブルース・フィアスティン●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:デヴィッド・アーノルド(主題歌:「トゥモロー・ネヴァー・「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」び.jpgダイ」シェリル・クロウ)●原作:イアン・フレミング●時間:119分●出演:ピアース・ブロスナン/ジョナサン・プライス/ミシェル・ヨー/テリー・ハッチャー/ジョー・ドン・ベイカー/リッキー・ジェイ/ゲッツ・オットー/デスモンド・リュウェリン/ヴィンセント・スキャベリ/ジョフレー・パーマー/コリン・サーモン/サマンサ・ボンド/ジュディ・デンチ●日本公開:1998/03●配給:UIP(評価:★★★☆)

ポリスストーリー3 1992.jpg「ポリス・ストーリー3」●原題:警察故事3/超級警察(英題:POLICE STORY III:SUPER COP)●制作年:1992年●制作国:香港●監督:スタンリー・トン(唐季禮)●製作:ウィリー・チェン/エドワード・タン●脚本:エドワード・タン/フィレー・マー/リー・ウェイイー●撮影:ラム・ウォクワー(アンディ・ラム(林國華))●音楽:ジョナサン・リー(李宗盛)●時間:96分●出演:ジャッキー・チェン(成龍)/ミシェール・キング(ミシェル・ヨー(楊紫瓊))/マギー・チャン(張曼玉)/トン・ピョウ(董驃)/ユン・ワー(元華)/ケネス・ツァン(曾江)/ジョセフィーヌ・クー(顧美華)/ケルヴィン・ウォン(王霄)/フィリップ・チャン(陳欣健)/ロー・リエ(羅烈)●日本公開:1992/12●東宝東和(評価:★★★)

ジャッキー・チェン(香港警察チェン・カクー刑事)・ミシェール・キング(ミシェル・ヨー)(中国人民武装警察部隊ヤン刑事)/マギー・チャン(チェンの恋人メイ)
ポリスストーリー3 5.jpg
ポリスストーリーよー2.jpg

「●ウォン・カーウァイ(王家衛)監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2624】 ウォン・カーウァイ 「恋する惑星
「●「香港電影金像奨 最優秀作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「●レスリー・チャン(張國榮) 出演作品」の インデックッスへ 「●マギー・チャン(張曼玉) 出演作品」の インデックッスへ 「●トニー・レオン(梁朝偉) 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ
ウォン・カーウァイ監督がそのスタイルを確立した作品。且つ、主要出演者が全員トップスターになった作品。
欲望の翼 vhs_.jpg欲望の翼0.jpg 欲望の翼 dvd.jpg
欲望の翼【字幕版】 [VHS]」「欲望の翼 [DVD]

欲望の翼00.jpg 欲望の翼 title.jpg サッカー競技場の売り子スー・リーチェン(マギー・チャン(張曼玉))は、ある日突然遊び人風の客ヨディ(レスリー・チャン(張國榮))に交際を迫られ断るが、1分間だけ時計を見ているように言われる。1960年4月16日午後3時。やがてスーはヨデ欲望の翼01.jpgィを愛し始める。ヨディはナイトクラブを経営する養母(レベッカ・パン(藩迪華))と暮らしていたが、彼女が部屋に連れ込んだ男を叩き出し、男から取り返した養母のイヤリングの片方を、居合わせたクラブ欲望の翼03.jpgのダンサー、ミミ(カリーナ・ラウ(劉嘉玲))にやる。翌朝、ヨディと一夜を過ごしたミミが部屋を出ると、昨夜彼女と部屋で出会い、一目惚れしたヨディ欲望の翼 (aka A FEI JING JUEN), Carina Lau.jpgの親友サブ(ジャッキー・チュン(張学友))が階段で待っていた。一方、ミミの存在を知って放心状態で夜の町を彷徨うスーを、巡回中欲望の翼es.jpgの若い警官タイド(アンディ・ラウ(劉徳華))が見つけ、心配し彼女を慰める。彼はスーに恋心を抱き、巡回路の公衆電話に電話するように言うが、彼女からの電話は無かった。養母から恋人とのアメリカ移住を告げられたヨディは、実の欲望の翼mages01.jpg母親の住むフィリピンへと旅立つ。残されて悲しむミミのために、サブはヨディに貰った車を売り、彼の後を追うようにとその金を渡す。ヨディが初めて訪ねた母親はフィリピン貴族の娘で、不義の息子である彼とは会おうとしなかった。自暴自棄になった欲望の翼  tony01.jpgヨディは酔いつぶれ、船乗りに介抱されるが、その船乗りはかつてスーを慰めた元警官タイドだった。ヨディは偽造パスポートで渡米しようとしてギャングを殺してしまい、2人は南へと向かう列車に逃げ込むが、車中でヨディがギャングの報復で撃たれ、息を引き取る。その頃ミミはマニラに降り立ち、香港では誰もいない公衆電話のベルが夜に街角に響いていた。そして九龍のアパートの一室では、ギャンブラー(トニー・レオン(梁朝偉))が身支度を整えていた―。

欲望の翼384.jpg ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の監督デビュー作「いますぐ抱きしめたい」('88年)に続く監督第2作の1990年香港映画で、第10回香港電影金像奨で最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞(レスリー・チャン)、第28回金馬奨で最優秀監督賞を受賞した作品。同監督の浮遊感と疾走感の入り混じる語り口と映像美独特のスタイルが確立された原点と言われている作品ですが、2005年以降日本での上映権が消失していて、その間DVDが再リリーズされたりはしていますが、スクリーンでの上映は今回が13年ぶりでした。

レスリー・チャン/カリーナ・ラウ

欲望の翼Maggie Chueng and Leslie Chueng in Days Of Being Wild (1990).jpg 最後にいきなりトニー・レオンが出て来るのは、続編を想定していたためということですが、当時"アイドルスター"だった主要出演者6人が全員"トップスター"になってしまったため予算的に再結集不可能ということで、続編を作ることができなかったとのこと。後に作られた「花様年華」('00年)、「2046」('04年)に役名や設定が一部受け継がれており、この両作品が実質的な続編とされていますが、話そのものは繋がっていません。個人的には、この作品の雰囲気を色濃く継承しているのは、ゲイ・ムービーですが、「ブエノスアイレス」('97年)であるように思います。
マギー・チャン/レスリー・チャン

欲望の翼ages.jpg 脚本もウォン・カーウァイで、フィリピンでヨディとタイドが偶然出会い、「1960年4月16日午後3時」というキーワードで同じ女性(スー)を介した経験があることに互いに気づくところなどは面白かったです。ヨディを巡るスー(マギー・チャン)とミミ(カリーナ・ラウ)のバトルの激しさもなかなかのものでした。こうして男性同士が偶然出会ったり、女性同士が最悪の状況で鉢合わせするのに、男女は行き違ってばかりいる感じだったなあ。

マギー・チャン/カリーナ・ラウ

欲望の翼 days-of-being-wild.jpg ウォン・カーウァイの作風を愉しむと共に、後のスター俳優たちの若き日の演技が楽しめる作品でもあると思います(レスリー・チャンは2003年に自殺。一方、カリーナ・ラウは2008年にトニー・レオンと結婚した)。レスリー・チャンは、同じ破滅型の人間を演じた後の「ブエノスアイレス」に匹敵するか、その上を行く演技で、彼が演じるヨディは、警官から船乗りに転じたタイドが言うように"カス人間"なのでが、それでも女性たちが惚れる―彼の演技はそのことに説得力を持たせているように思いました(演技力と言うより演技センスがいいという感じ)。

トニー・レオン(梁朝偉)・アンディ・ラウ(劉徳華)2005年来日(「インファナルアフェア3 終極無間」のプロモーション)/ジャッキー・チュン(張學友)2008年来日(コンサート)
劉徳華(アンディ・ラウ)梁朝偉(トニー・レオン).jpg ジャッキー・チュン(張學友).jpg

「Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下」2023年7月10日
ルシネマ渋谷宮下.jpg「マギー・チャン レトロスペクティブ」.jpg(●2023年7月10日、「Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下」(2022年12月4日閉館した「渋谷TOEI」のあった渋谷東映プラザ7F・9Fに、Bunkamuraの再開発に伴って2023年4月10日より長期休館に入った「Bunkamuraル・シネマ」が移転して2023年6月16日「Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下」としてオープン)の杮落とし特集「マギー・チャン レトロスペクティブ」で再見した。マギー・チャン出演作9作が組まれた特集だが、チラシの表紙にはこの「欲望の翼」での彼女が使われている。

 この映画のラストで、トニー・レオン演じるカジノディーラーが、天井の狭い部屋の中で身支度をしている様子「欲望の翼」レオン.jpgだけ描かれ、映画が唐突に終わるのはなぜかについては諸説あるようだ。元々はトニー・レオン演じるディーラーが主要なキャラクターとして考えられていて、実際、ウォン・カーウァイは当時、香港で最も危ないエリアと言われた九龍城砦「欲望の翼」欠片.jpgのアパートで何か月も撮影をしたため、トニー・レオンの実質的な降板によってカットされたフィルムは多かったようだ。その一部はYouTubeにアップされていて、トニー・レオン演じるディーラーの部屋にマギー・チャン演じるスーが会いに階段を登って行く場面や、狭い室内で二人が会話をする場面などがある。

 また、1990年4月、主要キャストであるカリーナ・ラウが、黒社会が出資する映画に強制的に出演させられそうになり、彼女が断固として拒絶したところ、報復として拉致されるという事件が起きた。この事件は彼女にとって大きなトラウマとなったが、この時、毅然と対応をしたのが当時カリーナと恋人の関係にあったトニー・レオンであり、後になってカリーナは、彼が自分を守るためにウォン・カーウァイのこの映画を降板したと告白している。一時期、自殺まで考えたというカリーナの精神的な支えとなるたカリーナ・ラウ.jpgめの決意であり、彼は二人で俳優を辞めることも提案したという。ウォン・カーウァイ自身、当時、香港映画界を取り巻く状況に嫌気をさし、黒社会の資金に依存しない映画作りを模索していた。「ここではないどこかへ」―それはトニー・レオンやウォン・カーウァイが痛切に願ったことであり、トニー・レオンの降板と入れ替えにこの映画の主人公となったレスリー・チャンに委ねられることになったのかもしれない。一方、レスリー・チャン演じる、実の母親に面会を拒絶されてフィリピンのジャングル沿いの道を歩くヨディの姿に被るロス・インディオス・タバハラスの「Always in My Heart」の曲には切ない情感があるが、この映画のヨディ像が、母親が事業に忙しく祖母の家に預けられ乳母に育てられたレスリー・チャンの実人生に重なるという人もいる。確かにそうした見方も成り立つかもしれない。)

カリーナ・ラウ/トニー・レオン夫妻

張國榮(レスリー・チャン)/張曼玉(マギー・チャン)/劉嘉玲(カリーナ・ラウ)/劉徳華(アンディ・ラウ)
「欲望の翼」4 .jpg

Los Indios Trabajaras "Always in my heart"
「欲望の翼」●原題:阿飛正傳/DAYS OF BEING WILD●制作年:1990年●制作国:香欲望の翼371c.jpg港●監督・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●撮影:クリストファー・ドイル●音楽:ロス・インディオス・タバハラスザビア・クガート●時間:97分●出演:レスリー・チャン(張國榮)/マギー・チャン(張曼玉)/カリーナ欲望の翼ド.jpg・ラウ(劉嘉玲)/アンディ・ラウ(劉徳華)/ジャッキー・チュン(張学友)/レベッカ・パン(藩迪華)/トニー・レオン(梁朝偉)●日本公開:1992/03●配給:プレノン・アッシュ●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ2(18-03-15)●2回目:渋谷・Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(23-07-10)(評価:★★★★)

Xavier Cugat "Perfidia"

「欲望の翼」[VHS]
欲望の翼【字幕ワイド版】.jpg

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「羅生門」「切腹」との類似(オマージュ?)。映像美的には飽きさせないが、演出は大味に。

HERO~英雄~01.jpgHERO~英雄~ dvd.jpg  HERO~英雄~0.jpg
英雄 ~HERO~ スペシャルエディション [DVD]」章子怡(チャン・ツィイー)/梁朝偉(トニー・レオン)/李連杰(ジェット・リー)/陳道明(チェン・タオミン)/張曼玉(マギー・チャン)/甄子丹(ドニー・イェン)

hero_018.jpg 中国の戦国時代末期、後に始皇帝となる秦王(陳道明(チェン・タオミン))は刺客に狙われており、忠実な家臣を除いては常に百歩以内の距離には誰も近づけさせることはなかった。過去のとある一件以来、宮殿の中も刺客が人の中に紛れ込むことの無い様、宮殿の外を多くの衛兵が守りを固めているのとは対照的に、敢えてがらんどうにしていた。そんなある日、一本の槍と二本の剣を携えた無名(ウーミン)(李連杰(ジェット・リー))と呼ばれる名無しの男が刺客を倒したと告げ、宮殿にやってくる。槍と剣には、中国最強と言われる3人の刺客の名前が記されていた。そして彼は秦王の前で、槍の使い手・長空(チャンコン)(甄子丹(ドニー・イェン))、剣の使い手・残剣(ツァンジェン)(梁朝偉(HERO~英雄~ges.jpgHERO~英雄~s.jpgトニー・レオン)、残剣の恋人で同じく剣の使い手・飛雪(フェイシエ)(張曼玉(マギー・チャン))の3人の刺客を倒した経緯を語り始める。秦王は刺客を倒した褒美として無名に自分の側に近づくことを許すが、彼の話を聞いていくうちに不自然な何かに気付く―。

無名(ジェット・リー)/飛雪(マギー・チャン)・残剣(トニー・レオン)
如月(チャン・ツィイー)
HERO~英雄~05 チャン.jpg 2003年の張芸謀(チャン・イーモウ)監督による自身初の武術映画。台湾出身のアン・リー(李安)監督が、章子怡(チャン・ツィイー)らを起用して撮った「グリーン・デスティニー」('00年/中国・香港・台湾・米)で、トロント国際映画祭の最高賞「観客賞」や米アカデミー外国語映画賞を受賞したのに対抗したのでしょうか。こちらも、第53回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(アルフレード・バウアー賞)を受賞するなどしています(チャン・ツィイーはこの映画にも、密かに残剣に恋する鴛鴦鉞の使い手・如月(ルーユエ)の役で出ていて、本作は結局、ジェット・リー、ドニー・イェン、トニー・レオン、マギー・チャン、チャン・ツィイーによる「5剣士」の物語となっている)。

HERO~英雄~ 09.jpg ジェット・リー演じる無明が語る話に虚構があり、そのことに気付いた秦王に促されて、同一人物に関する話が何度か異なった話として彼の口から語られ、それらが何れも映像となっています。従って、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞作した、黒澤明監督の「羅生門」('50年/大映)の実質的な原作は芥川龍之介の「藪の中」ですが、それと似た感じの、あたかも「羅生門」に対するオマージュのような構成になっていることは、多くの人が指摘しています。

無名(ジェット・リー)・飛雪(マギー・チャン)

HERO~英雄~  .jpg 但し、個人的には、まず最初に似ているなあと思ったのは小林正樹監督の「切腹」('62年/松竹)で、秦王の前で無名が3人の刺客を倒した経緯を語るというのは、仲代達矢演じる津雲半四郎が、井伊家上屋敷に井伊家の3人の剣客の髷を持ってきて、家老・斎藤勘解由(かげゆ)(三國連太郎)に、無理矢理切腹させられた娘婿の仇である3人を斃した経緯を語るのとそっくりで、ラストもやや似ています(「秦王」と「家老」の物語における価値ポジションは、最終的に真逆のものとなるが)。「切腹」もカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを受賞しているので、張芸謀監督も知っている作品であると思います(「切腹」へのオマージュも込められている(?))。

HERO~英雄~04.jpg 映像美的は飽きさせませんでした。「ストHERO~英雄~012.jpgーリーを色彩で語る」をコンセプトに、赤は無名の語る創作の世界、青は秦王の語る想像の世界、緑は実際にあった過去の世界、白は真実の現在と分けられ、それぞれの色HERO~英雄~03.jpgでエピソードが語られ、最後にやっと真相が明らかになるという構成は凝っていた思います。雨の中で闘うシーンや、池や砂漠での戦闘シーンなどもたいへん美しかったです。ワダエミ2.jpgカメラは「花様年華」('00年/香港)のクリストファー・ドイルが担当し、衣装は、黒澤明監督の「乱」('85年/東宝)で日本人女性初となるアカデミー賞(衣裳デザイン賞)を受賞したワダエミ(1937-2021/84歳没)が起用されています。

HERO~英雄~9s.jpg李陵・山月記22.jpg 刺客達のワイヤーアクションやCGなどによる超絶的な技に関しては、物理的法則に反しているとか言わないことがもう"お約束"なのでしょう。中島敦の短編に「名人伝」というのがあって(『李陵・山月記 (新潮文庫)』所収)、名人同士が矢を放ってひじりがぶつかり合うといった場面があり、こうした極端な表現も中国では伝統的なのかもしれません。
 
 
HERO~英雄~06.jpg 但し、武術映画で且つCGを駆使して大掛かりに見せた分、個々の役者の演技が背景に埋没してしまって大味になった印象を受けました。それまでの作品で素晴らしい演出力を見せてきた監督が、折角トニー・レオン、マギー・チャンといった繊細な演技が出来る俳優を揃えながら、ちょっと勿体ない気がします(この2人はウォン・カーウァイ(王家衛)監督の「花様年華」('00年/香港)のコンビでもある。そのウォン・カーウァイも、トニー・レオン、チャン・ツィイー主演の武術映画「グランド・マスター」('13年/香港・中国)を撮っている)。

 CGの魅力(技術力・低コスト性)に抗しきれないというのは、「ジュラシック・パーク」('93年/米)で、恐竜の全体像をマイケル・クライトンの原作よりうんと早く観客に見せてしまったスティーヴン・スピルバーグが辿った道と同じでしょうか。張芸謀監督は2006年に、2年後に開催される北京オリンピックの開会式および閉会式のチーフディレクターに就任、2年間映画製作をせず、2008年の北京オリンピック開会式および閉会式の演出を行いましたが、後に開会式の演出において打ち上げられた花火の多くが事前に用意されたCG映像だったことが明らかとなっています(因みに、北京オリンピック開会式の衣装は石岡瑛子(1938-2012/73歳没)が担当した)。


「HERO」(「HERO~英雄~」)●原題:英雄/HERO●制作年:2002年●制作国:香港・中国●監督:張芸謀(チャン・イーモウ)●製作:ビル・コン/張芸謀●脚本:李馮/張芸謀/王斌●撮影:クリストファー・ドイルHERO~英雄~ro02.jpg●音楽:譚盾(タン・ドゥン)●衣装デザイン:ワダ・エミ●時間:99分●出演:李連杰(ジェット・リー)/甄子丹(ドニー・イェン)/梁朝偉(トニー・レオン)/張曼玉(マギー・チャン)/章子怡(チャン・ツィイー)/陳道明(チェン・タオミン)●日本公開:2003/06●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)
トニー・レオン/マギー・チャン/チャン・イーモウ/ジェット・リー/チャン・ツィイー/ドニー・イェン

グランド・マスター032.jpgグランド・マスター56.jpgトニー・レオンチャン・ツィイー
in「グランド・マスター」['13年/香港・中国]ウォン・カーウァイ(王家衛)監督
    
     
     
    
《読書MEMO》
"巨匠"監督の「武侠映画」個人的評価と受賞した主要映画賞
グリーン・デスティニー(00年/中・香・台・米).jpgアン・リー(李安)グリーン・デスティニー」('00年/中国・香港・台湾・米)★★★☆
 トロント国際映画祭「観客賞」アカデミー賞「外国語映画賞」ゴールデングローブ賞「外国語映画賞」インディペンデント・スピリット賞「作品賞」ロサンゼルス映画批評家協会賞「作品賞」香港電影金像奨「最優秀作品賞」
HERO~英雄~2002.jpg張藝謀(チャン・イーモウ)HERO」('02年/香港・中国)★★★☆
 ベルリン国際映画祭「銀熊賞(アルフレード・バウアー賞)」
グランド・マスター 2013.jpgウォン・カーウァイグランド・マスター」('13年/香港・中国)★★★
 アジア・フィルム・アワード香港電影金像奨「最優秀作品賞」
黒衣の刺客 2015 .jpg侯孝賢(ホウ・シャオシェン)黒衣の刺客」 ('15年/台湾・中国・香港)★★★
 カンヌ国際映画祭「監督賞」アジア・フィルム・アワード

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強く惹かれ合いながらも一線を越えることが出来ない男女。魅せる"雰囲気"と幾つかの"謎"。

花様年華 [DVD].jpg花様年華dvd.jpg 花様年華 11.jpg
花様年華 [DVD]」「花様年華 [DVD]」 トニー・レオン/マギー・チャン

花様年華 01.jpg 1962年の香港。新聞社の編集者であるチャウ(トニー・レオン〈梁朝偉〉)が夫妻でアパートに引っ越してきた日、隣の部屋にもチャン夫人(マギー・チャン〈張曼玉〉)が夫と引っ越してくる。チャン夫人は商社で社長秘書として働いている。チャウの妻とチャン夫人の夫は仕事のせいであまり家におらず、二人はそれぞれの部屋に一人でいることが多かったが、大家のスーエン夫人(レベッカ・パン)の仲立ちもあり二人は親しくなる。ある日、一緒に昼食を取った際、それぞれの配偶者の日本土産の話などから、お互いの配偶者同士が浮気しているらしいと察する。隣同士の部屋に住む孤独な男と女―。チャウは夫人により接近するため、本の好きな彼女に自らの小説執筆の手伝いを依頼する。夫人がスリッパのままチャンの部屋にやって来たある日、偶然にアパートの住民ら花様年華 02.jpgが徹夜マージャンをすることになり、自分の部屋に戻るに戻れなくなった夫人は、一夜をチャンの部屋で過ごすも機会を窺い、自分のスリッパを置き足に合わないチャウ夫人のヒール靴を履いて、さも外出先から自宅に帰ってきたかのようにチャンの部屋を出て行く。更に二人は、チャウが小説を書くために借りたホテルの部屋で何度か逢引するが、チャウが夫人が夫を問い詰めることを想定した練習台になったりするものの、二人は自分たちの配偶者のように簡単に不倫関係を結ぶことは出来ないでいる。チャウは、シンガポールでの仕事に誘われて現地へ行くことにするが、その際に夫人を誘うも彼女は一緒には来ない。しかし、1963年のある日、彼女は突然シンガポールのチャウの部屋を訪ねる。チャウは無言の電話を受け、自分の部屋の灰皿に夫人のタバコの吸い殻を見つけるが、夫人とは会えなかった。時は流れ1966年、子どもを連れたチャン夫人が香港のかつてのアパートにスーエン夫人を訪ね、アメリカに移住するというスーエン夫人からかつて住んだ部屋を借り受ける。一方のチャンもその後アパートを訪れ、新しい管理人に、隣は「お母さんと息子」が住んでいると聞く。それが誰であるかを確認することなく、その後彼は取材でアンコールワットを訪問し、古跡の壁の穴に過去の秘密を封印する―。

花様年華00.jpg ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の2000年作品で、同監督の「欲望の翼」('90年)の続編、「2046」('04年)の前編とも言われていますが、雰囲気のある映画と言うか、最初はその雰囲気だけで引っ込まれて観ました。60年代の香港の共同住宅、隘路のような廊下、屋台形式の共同炊事場兼食堂―そうした舞台を背景に、互いに強く惹かれ合いながらもどうしても一線を越えることが出来ないでいる男女をしっとりと描いていて、それはホテルで二人が密会するようになっても続いていきます。ナット・キング・コールの「キサス・キサス・キサス」などの曲がくぐもった感じで背後に流れるのもムーディでした(この作品はニューヨーク映画批評家協会賞(2001年)、全米映画批評家協会賞(2001年)の各外国語映画賞を受賞。また、2000年第53回カンヌ国際映画祭で、男優賞(トニー・レオン)を受賞したほか、撮影監督、美術監督など映画スタッフに対して贈られる技術賞である「フランス映画高等技術委員会賞」(現「バルカン賞」)を受賞している)。

花様年華 (00年/香港).jpg 一方で、観ていて大きな謎の部分もありましたが、それは後にネットなどでいろんな人の分析を読んで、ナルホドなあと思ったりもし、また、そうした中でも見方が分かれていたりして、どっちの解釈が正しいのか、それは"正解"があるのか、それとも元々が観客に解釈を委ねている作品なのか―などと考えてみる上で"面白い"作品であると思います。以下、個人的解釈―。

 チャン夫人は何故1963年になってシンガポールにチャウを訪ねたのか。これは、やはりチャウと一緒になろうと考えたのではないでしょうか(この時点でチャウの方は指輪をしておらず、シンガポール行きを契機に離婚をしている可能性が高い。勿論、離婚していなくても指輪はもうしなかったとは思うが)。夫人はそれでも、現地まで行ったにも関わらず、チャウに直接会って想いを伝えるまでには至らず、結果として訪ねた痕跡を残すに留まってしまった―ということではないか。

花様年華12.jpg 一説では、チャン夫人はスリッパを取りにシンガポールに行ったという見方もあるようですが、それは、後でチャウが部屋から無くなったものがあるとメイドに訴える、その"無くなったもの"とはスリッパであり、それは、例のマージャンの夜に夫人がチャウの部屋に置いてきたスリッパだったという。彼女がスリッパを"回収"するカットは実際にあり(スリッパが件(くだん)のものであったことそのものはまず間違いないだろう)、チャウにシンガポールでの仕事を紹介した人物がかつてのアパートの同居人でもあったことから、その人物がスリッパを見れば、どうして夫人のスリッパがここにあるのかと訝しがる、そのことを夫人は恐れたのか。仮にそうであるとしても、チャウが例のスリッパをシンガポールに持って行っていることを夫人は事前に知る由もなく、やはりここは、自分がチャウと付き合っていた「痕跡を消す」ためにスリッパを"回収"したのではなく(また、そのためにシンガポールまで行ったわけでもなく)、わざとタバコの吸い殻を残したのと同じように、チャウに想いを伝えに来たが踏み切れず、来たという「痕跡を残す」ためにスリッパを持ち帰ったと見るべきではないでしょうか。

 では、最後に出てくるチャン夫人が連れている子どもは誰との間にできた子なのか。チャン夫人が夫と縁りが戻り、男の子を儲けたと見る向きもありますが、そうすると先のスリッパ"回収"による「痕跡を消す」説と符合する面も出てくるものの、ややセコい感じも。但し、この説には一定の論拠が花様年華 06.jpgあり、チャウの妻(声のみで姿は画面には一度も出てこない)が電話で相手に対し(相手は不倫相手のチャン夫人の夫のようだが、こちらも声のみで姿は画面には一度も出てこない)、「話さないとダメよ」と言って泣いていることから(この部分も声のみ)、不倫相手に離婚を迫ったもののチャン夫人の夫が離婚を渋っているらしいことが窺え、更に、チャン夫人の夫が日本に出張中にチャン夫人の誕生日にラジオに歌のリクエストしていることで(その曲名が「花様的年華」)、これを聴いたチャン夫人が夫と和解し、結局は夫と別れなかったと解されるというもの。でも、そうだとしたら、どうしてわざわざチャウとの思い出が色濃く残るかつてのアパートに舞い戻ってくるのかが理解し難い気がします(この時、指輪はどうなっていた? 1962年時点では最後まで外さなかったようだが)。

トニー・レオン マギー・チャン1.png では、チャン夫人が連れている子どもはチャウの子なのか。だとしたら、二人はそれまでどうしても越えられなかった一線を最後に越えたことになりますが、それは何時だったのか。おそらく、夫人の夫への問い質し練習の延長としてやった、チャウとの別れの場面のロールプレイング(相手は夫を想定しているのかチャウを想定しているのか微妙)の後、夫人が泣き崩れ「今日は帰りたくない」というあの辺りでしょうか(2度目のタクシー内の場面)。その後、チャウがシンガポールに行っている間に妊娠・出産し、シンガポールにはそのことをチャウに伝えるためにも行ったとすれば、目的は果たさなかったものの行った動機としても説明がつくのではないでしょうか。

 個人的解釈としては、チャン夫人が最後、子ども連れて思い出の詰まったアパートに舞い戻ってきた割には結構さばさばして見えるのは、"思い出"に生きることで踏ん切りがついているためであって(その点でチャウとの間に生まれた子どもがい花様年華74.jpgるという意味は大きい)、一方、おそらくは隣の部屋にチャン夫人が戻って来ているのを知らないままにアンコールワットに行ったチャウは、そこまで割り切って"思い出"に生きられないからこそ(男女の生理的違いと言っていいのでは)、遺跡の壁の穴に口づけをするという行為を以って意識的に"思い出"を封印しようとしたのではないか―と考えます。

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Kayô nenka(2000)
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花様年華7_jp.jpg花様年華2).jpg「花様年華」●原題:花様年華/IN THE MOOD FOR LOVE●制作年:2000年●制作国:香港●監督・製作・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●撮影:クリストファー・ドイル/リー・ピンビン(李屏賓)●音楽:マイケル・ガラッソ/梅林茂●時間:98分●出演:トニー・レオン(梁朝偉)/マギー・チャン(張曼玉)/レベッカ・パン(藩迪華)/ライ・チン(雷震)/スー・ピンラン(蕭炳林)●日本公開:2001/03●配給:松竹●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ1(01-04-25)(評価:★★★★★
  
Maggie Cheung2.jpgマギー・チャン2.jpgトニー・レオン.jpgトニー・レオン マギー・チャン(hero 2002).jpg


マギー・チャン(張曼玉)/トニー・レオン〈梁朝偉〉[2000年第53回カンヌ国際映画祭男優賞(「花様年華」)]/マギー・チャン&トニー・レオン in 「HERO」(2002年/中国・香港/張芸謀(チャン・イーモウ)監督)
 

Bunkamura ル・シネマ1.jpgBunkamura ル・シネマ内.jpgBunkamura ル・シネマ2.jpgBunkamura ル・シネマ1・2 1989年9月、渋谷道玄坂・Bunkamura6階にオープン


 
 
 
 
《読書MEMO》
●ポール・シュレイダー監督の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●市民ケーン(オーソン・ウェルズ)
 ●暗殺の森(ベルナルド・ベルトルッチ)
 ●花様年華(ウォン・カーウァイ)
 ●レディ・イヴ(プレストン・スタージェス)
 ●オルフェ(ジャン・コクトー)
 ●スリ(ロベール・ブレッソン)
 ●ゲームの規則(ジャン・ルノワール)
 ●東京物語(小津安二郎)
 ●めまい(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●ワイルドバンチ(サム・ペキンパー)

●英BBC Culture「21世紀の偉大な映画ベスト100」(2016.08.24発表)上位20位
1.「マルホランド・ドライブ」(01/デビッド・リンチ)
2.「花様年華」(00/ウォン・カーウァイ)
3.「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(07/ポール・トーマス・アンダーソン)
4.「千と千尋の神隠し」(01/宮崎駿)
5.「6才のボクが、大人になるまで。」(14/リチャード・リンクレイター)
6.「エターナル・サンシャイン」(04/ミシェル・ゴンドリー)
7.「ツリー・オブ・ライフ」(11/テレンス・マリック)
8.「ヤンヤン 夏の想い出」(00/エドワード・ヤン)
9.「別離」(11/アスガー・ファルハディ)
10.「ノーカントリー」(07/ジョエル&イーサン・コーエン)
11.「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(13/ジョエル&イーサン・コーエン)
12.「ゾディアック」(07/デビッド・フィンチャー)
13.「トゥモロー・ワールド」(06/アルフォンソ・キュアロン)
14.「アクト・オブ・キリング」(12/ジョシュア・オッペンハイマー)
15.「4ヶ月、3週と2日」(07)クリスティアン・ムンジウ
16.「ホーリー・モーターズ」(12/レオス・カラックス)
17.「パンズ・ラビリンス」(06/ギレルモ・デル・トロ)
18.「白いリボン」(09/ミヒャエル・ハネケ)
19.「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(15/ジョージ・ミラー)
20.「脳内ニューヨーク」(08/チャーリー・カウフマン)

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