【1451】 ◎ 張藝謀(チャン・イーモウ) (原作:莫言(モー・イェン)) 「紅いコーリャン」 (87年/中国) (1989/01 ユーロスペース) ★★★★☆ (○ 張藝謀(チャン・イーモウ) (原作:劉恒(リュウ・ホン)) 「菊豆<チュイトウ>」 (90年/中国・日本) (1990/04 大映) ★★★★)

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"赤"を基調としたダイナミックな映像美の張藝謀(チャン・イーモウ)初期作品2作がいい。

紅高梁 (中国版DVD).jpg RED SORGHUM1.jpg RED SORGHUM2.jpg 紅高梁
紅高梁 (中国版DVD)   コン・リー(鞏俐)(中央)
紅いコーリャン .jpg紅いコーリャン.jpg 1920年代末の中国山東省。私(語り手)の祖母・九児(チウアル)(鞏俐(コン・リー))は、ロバ一頭と引き換えに父に売られるように、親子ほども年の離れた病気持ち(ハンセン病)の造り酒屋の男に嫁ぐことになるが、御輿で嫁入りに向かう途中、強盗たちに襲われ、御輿の担ぎ手・余占鰲(ユイチャンアオ)(姜文(チアン・ウェン))に救われる。実家への里帰りの帰路でも、再び強盗が彼女を襲うが、強盗は余占鰲であり、互いに惹かれ合っていた2人は、コーリャン畑で結ばれる。やがて夫が行方不明となり、造り酒屋を継いだ九児は余と結婚、子供も生まれ、幸せな日々が続くのだが、やがてそこに日本軍が侵攻する―。「紅いコーリャン [DVD]

「紅いコーリャン」 チャン・イーモウ.jpgコン・リー(鞏俐)/チャン・イーモウ(張藝謀)
コン・リー.jpgチャン・イーモウ(張藝謀).jpg 1988年・第38回ベルリン国際映画祭のグランプリ金熊賞を受賞し、チャン・イーモウ(張藝謀)の名を世界に知らしめた作品で、神話的な雰囲気をも携えた骨太のストーリー、この作品がデビュー作でもあるコン・リー(鞏俐)をはじめとする役者陣の演技、"赤"を基調とした映像美等々の何れをとっても一級品であり、「中国映画にしては」といった上から目線での評価が入り込む余地がありません。"神話的"である一方で、日本軍の侵攻が始まってからの悲劇はリアルに描かれていて、抗日運動をしていた造り酒屋の番頭さんが、見せしめのため生きたまま頭皮を剥がされ、それを九児らは黙って見ているしかないという残酷なシーンもあり(江戸時代の刑罰より酷いなあ)、その際に強盗の頭目も並んで同様のやり方で処刑されるという、もう日本軍のやることは無茶苦茶という感じ。そうした日本軍を倒すために余らも立ち上がるが―。

「紅いコーリャン」 (87年/中国)1.jpg「紅いコーリャン」 (87年/中国)2.jpg プロパガンダ的と言うよりも人間そのものをしっかり描いている感じで、度重なる悲劇に屈せず前向きに生きようとする主人公が、「風と共に去りぬ」のスカーレットみたいであり(たまたまこれも"赤系統"の名前だが)、赤を主体とした強烈な色彩美が印象的。ダイナミックなカメラワークも含め、この監督が将来、「HERO」('02年)のような娯楽映画を撮る予兆が、既にこの作品にもあったかも(ワイヤーアクションを駆使するところまでいくとは思わなかったが、実は「紅いコーリャン」もワイヤーにカメラを吊るして撮っているシーンが幾つもある)。

菊豆(チュイトウ) .jpg菊豆 dvd.jpg菊豆 dvd us版.bmpJUDOU.jpg
コン・リー(鞏俐)「菊豆 [DVD]」/輸入版DVD Ju Dou(1990)
      
菊豆1.bmp菊豆2.jpg 「紅いコーリャン」では、それまでの中国現代映画にはないくらい大胆に"性"を描いていますが、「菊豆<チュイトウ>」('90年)はそれ以上であり、更には、現代に近い時代を扱った作品ではタブーとされてきた"不倫"を描いています(第43回カンヌ国際映画祭「ルイス・ブニュエル賞」受賞)。

菊豆3.jpg これも「紅いコーリャン」と同じように金で買われて旧家の染物屋に嫁入りした菊豆(チュイトウ)(鞏俐(コン・リー)が主人公で、彼女は夫のDV(性的サディズム)に苛まれた末に、同居の使用人の若い男を引き込んでその男と結ばれ、病に倒れ身体の自由がきかなくなった夫に代わって次第に家庭内での実権を握っていきますが、男との間に生まれた子供が実の子でないことを知った父親(菊豆の夫は実は不能だった)は子供を邪険にする―。

Ju Dou (1990).jpg 子供がダミアンみたいな悪魔っ子で、かなり怖いです。当初辛くあたっていた父親がやがて愛情をかけるようになったにも関わらず、誤って染料の壺に落っこちて今まさに溺死しようとしている父を見て、この子は助けようともせず不気味な笑みを浮かべています(殆どホラー・ムービーの世界)。

 この後、更にこの子の悪魔っ子ぶりはエスカレートし、実の父親をも―といった具合に"不倫"をしたことに対する「因果応報」的なストーリーになっているのがやや気になりましたが、原作は農家が舞台だそうで、それを染物屋に置き換えることで、「紅いコーリャン」以上に強烈に"赤"を前面に押し出している作品であり、そうした"映像"を見せることが主眼であり、ストーリーはそのためのモチーフに過ぎないという感じがしなくもない作品でした(それぐらい強烈な映像美)。

 かつて中国本土では、チャン・イーモウのこれらの初期作品は度々上映禁止になっていたそうですが、その知名度が世界的に広まったこともあって、'08年の「北京オリンピック開会式」や'09年の「建国60周年記念パレード」の演出を任されるなど、今や"国家的"なディレクターになってしまっている(体制にとり込まれた?)―それに伴って、初期の頃の斬新さは弱まり、ハリウッド映画のような作品を撮るようになってしまったという印象はします。

Hong gao liang(1987)   コン・リー(鞏俐)
Hong gao liang(1987).jpgコン・リー(鞏俐).jpgHONG GAO LIANG 2.jpg「紅いコーリャン」●原題:紅高梁(HONG GAO LIANG) /RED SORGHUM●制作年:1987年●制作国:中国●監督:張藝謀(チャン・イーモウ)●製作:呉天明(ウー・ティエンミン)●脚本:陳剣雨(チェン・チェンユイ)/朱偉(チュー・ウェイ)/莫言(モー・イェン)●撮影:顧長衛(クー・チャンウェイ)●音楽:趙季平(ヂャオ・チーピン)●原作:莫言(モー・イェン)「紅高梁」「高梁酒」●時間:91分●出演:鞏俐(コン・リー)/姜文(チアン・ウェン)/滕汝駿(トン・ ルーチュン)/劉継(リウ・チー)/錢明(チェン・ミン)/計春華(チー・チュンホア)●公開:1989/01●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(89-02-18)(評価:★★★★☆)
シアターN渋谷.jpg旧・渋谷ユーロスペースシアターN渋谷 1982(昭和57)年渋谷駅南ユーロスペース1・2.jpg渋谷ユーロスペース.jpgシアターN.jpg口桜丘町にオープン、2005(平成17)年11月移転のため閉館。2006(平成18)年1月から渋谷円山町「Q-AXビル」に再オープン。旧ユーロスペース跡地には2005年12月3日「シアターN渋谷」がオープン(2012年12月2日閉館)

菊豆<チュイトウ> .jpg「菊豆<チュイトウ>」●原題:菊豆 JUDOU●制作年:1990年●制作国:中国・日本●監督:張藝謀(チャン・イーモウ)●製作:徳間康快●脚本:劉恒(リュウ・ホン)●撮影:顧長衛(クー・チャンウェイ)●音楽:郭峰(クオ・フォン)●原作:劉恒(リュウ・ホン)「羲、伏羲」 ●時間:94分●出演:鞏俐(コン・リー)/李保田(リー・パオティエン)/李スバル座_2.jpg有楽町 スバル座内.jpg緯(リー・ウェイ)/張毅(チャン・イー)●日本公開:1990/04●配給:大映●最初に観た場所:有楽町スバル座(90-05-26)(評価:★★★★)
有楽町スバル座 1946年12月31日オープン後1953年火災により閉館、1966年有楽町ビル2Fに再オープン(2019年10月20日閉館)
スバル座閉館.jpg有楽町スバル座閉館2.jpg
有楽町スバル座閉館_DVQ.jpg
 
莫言1.jpg莫言2.jpg《読書MEMO》
莫言(ばく げん、モー・イエン、1955 - )
2012年ノーベル文学賞受賞

雑誌「環球人物」/WEB NEWS「新华视点」

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