【2549】 ○ クレモンティーヌ・ドルディル 「パリが愛した写真家/ロベール・ドアノー<永遠の3秒>」 (16年/仏) (2017/04 ブロードメディア・スタジオ) ★★★☆

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孫娘が監督。ドキュメンタリーでありながら、ファミリー・ムービーっぽさがある作品。

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「パリが愛した写真家/ロベール・ドアノー<永遠の3秒>」 クレモンティーヌ・ドルディル  ロベール・ドアノー

パリが愛した写真家02.jpg フランスの国民的写真家ロベール・ドアノー(1912 -1994)の人生と創作に迫ったドキュメンタリーで、監督のクレモンティーヌ・ドルディルはドアノーの孫娘です。作品の撮影秘話や当時の資料映像、親交のあった著名人による証言や(「田舎の日曜日」('84年/仏)の主演女優サビーヌ・アゼマなどとパリが愛した写真家09.jpg親交があり、サビーヌ・アゼマは作品のモデルにもなっている)、作品蒐集家・ファンへのインタビューなどから成ります(作家の堀江敏幸氏がフランス語でコメントしている)。ドアノー自身は写真では殆ど登場せず、家族が映したと思われるカラー8ミリフィルムなどで多く登場するため、どことなくファミリー・ムービーっぽい感じがします。ドアノーという人が全く"大家"ぶっていなくて、冗談好きで人懐っこいキャラクターであることが分かり、こうした人柄が被写体となる人を安心させて、活き活きとした写真を撮ることが出来るのだなあと思いました。

パリが愛した写真家 02.jpg ドアノーは殆どパリで活動していたようです。海外にも行ってはいますが、世界中を飛び回っていたパリが愛した写真家   es.jpgという印象ではありません。今回、アメリカなど海外で撮った写真やカラーで撮った写真も見ることができて良かったですが(アメリカで撮ったカラー作品は、どこか無機質な感じのものが多い)、やはりパリを撮ったモノクロ写真が一番いいように思いました。映画全体を通しても、ドキュメンタリー部分もさることながら、そうした写真を紹介している部分の方が印象に残りました(ちょうど作品集を見ている感じか)。

パリが愛した写真家05.jpg この映画を観て知ったのですが、専らパリで活動していたこともあって、世界的にパリが愛した写真家s03.jpg有名になったのはかなり年齢がいってからのようです。あの有名な「パリ市庁舎前のキス」と呼ばれる作品は、1950年に「ライフ誌」に発表されていますが、この映画によると、その後長らく埋もれていて、ある日突然脚光を浴びた作品であるようです。

パリが愛した写真家01.jpg パリの若い恋人たちのシンボルとなったこの写真のカップルが誰なのかは1992年まで謎のままで、パリに住むラヴェーニュ夫妻は自分たちがこの写真のカップルだと思い込んでいました。夫妻は80年代にドアノーと会っていますが、ドアノーは真相を語らなかったため、夫妻は「無許可で写真を撮影した」としてドアノーを告訴し、裁判所はドアノーに事実を明らかにするよう要求しています。実は写真のカップルはフランソワとジャックという若い俳優の卵で、ドアノーが夫妻に真相を語らなかったのは、夫妻の夢を壊したくなかったからのようです。

「パリ市庁舎前のキス」

 写真の二人は恋人同士で、街角でキスをしているところをドアノーが見つけて近づき、もう一度キスしてくれるよう頼んで撮影したとのことです。しかし二人の関係は9か月しか続かず、ジャックは俳優を諦めてワイン職人になり、フランソワ・ボネは女優として活動を続けました。そして、今度はフランソワがドアノーを相手取り、肖像権料を要求して裁判を起こしますが、1955年の撮影日の数日後にドアノーが写真をプリントしてサインを入れ、謝礼としてフランソワに贈っていたことが判明したため、提訴は受理されませんでした。撮影の55年後の2005年、彼女はその写真をオークションに出品し、それは彼女が提訴によって得ようとした肖像権料を遥かに上回る高額で落札されたとのことです。

パリが愛した写真家08.jpg この映画でも、「パリ市庁舎前のキス」のモデルは恋人同士の俳優の卵であり、ドアノーは他にも多くのモデルを使ってこうした"スナップ"を演出したことはこの映画でも紹介されていますが、裁判のごたごたについては一切触れられていません。ある意味、ドアノーの他者への思いやりときっちりとした性格が窺えるエピソードだと思うのですが、アシスタントを務めていたドアノーの長女アネットによれば、裁判には勝ったもののの、裁判の過程で偽りと嘘に満ちた世界を見てしまったドアノーはひどくショックを受けたそうで、後にアネットは「あの写真は父の晩年を台無しにしてしまった」とまで述べています。

 ドアノーの孫娘であるドルディル監督が、この映画の中であの写真が演出であったことを改めて明かす一方で、あの写真を巡るごたごたに関しては映画の中では一切触れていないのは、やはり同じような思いがあったからではないかと思います(家族の思い出は美しきものであるべきか。まあ、できればそれにこしたことはない)。そうした意味でも、ドキュメンタリーでありながらも、ファミリー・ムービーっぽさがある作品と言えるかもしれません。  
  
   
パリが愛した写真家  s.jpg「パリが愛した写真家/ロベール・ドアノー<永遠の3秒>」●原題:ROBERT DOISNEAU, LE RÉBOLTÉ DU MERVEILLEUX●制作年:2016年●制作国:フランス●監督:クレモンティーヌ・ドルディル●製作:ジャン・ヴァサク●時間:80分●出演:ロベール・ドアノー/フランシーヌ・ドルディル/アネット・ドアノー/サビーヌ・ヴァイス/ダニエル・ペナック/フランソワ・モレル/フィリップ・ドレルム/サビーヌ・アゼマ/ジャン=クロード・カリエール/梶川芳友/佐藤正子/堀江敏幸/クレモンティーヌ・ドルディル/エリック・カラヴァカ●日本公開:2017/04●配給:ブロードメディア・スタジオ●最初に観た場所:渋谷・ユーロスペース(17-04-28)(評価★★★☆)

ユーロスペース2.jpgユーロスペースtizu.jpgユーロスペース 2006(平成18)年1月、渋谷・円山町・KINOHAUSビル(当時は「Q-AXビル」)にオープン(1982(昭和57)年渋谷・桜丘町にオープン、2005(平成17)年11月閉館した旧・渋谷ユーロスペースの後継館。旧ユーロスペース跡地には2005年12月「シアターN渋谷」がオープンしたが2012(平成24)年12月2日閉館)

サビーヌ・アゼマ_01.jpgパリ ロベール・ドアノー写真集.jpg【967】 ○ ロベール・ドアノー 『パリ―ドアノー写真集(1)』 (1992/09 リブロポート) ★★★★
【967】 ○ ロベール・ドアノー 『パリ遊歩―1932-1982』 (1998/02 岩波書店) ★★★☆
【1747】 ◎ ロベール・ドアノー 『パリ―ロベール・ドアノー写真集』 (2009/01 岩波書店) ★★★★★
【1748】 ○ ロベール・ドアノー 『芸術家たちの肖像―ロベール・ドアノー写真集』 (2010/01 岩波書店) ★★★★


「ボー・ド・プロヴァンスのサビーヌ・アゼマ」(1991)
「LES LEICAS DE DOISNEAU ロベール・ドアノー写真展」(ライカギャラリー東京,2016.02)

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