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1ペニーの過不足なく、本人に気づかれずにという、仕返しの美意識がいい。

百万ドルをとり返せ!.jpg NOT A PENNY MORE,NOT A PENNY LESS.jpg  100万ドルをとり返せ!2[VHS].jpg 100万ドルをとり返せ4.jpg NOT A PENNY MORE NOT A PENNY LESS2.bmp
百万ドルをとり返せ! (新潮文庫)』/"Not a Penny More, Not a Penny Less"/「NOT A PENNY MORE NOT A PENNY LESS」VHS

 1977(昭和42)年度の第1回の「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門・海外部門共通)第3位作品。

 証券詐欺を行うためだけに設立された架空の石油会社の株投資話に騙され、合わせて100万ドルの損害を被ったスティーヴン、エイドリアン、ジャン=ピエール、ジェームズの4人は、オクスフォード大学の数学教授であるスティーヴンの発案で、この偽投資話の黒幕である大物詐欺師メトカーフに罠を仕掛けて、彼からきっちり100万ドルを取り戻す作戦を練る―。

 1976年に発表されたジェフリー・アーチャーの処女作で、国会議員だった自分自身が北海油田の幽霊会社に100万ドルを投資して全財産を失い、政界を退かざるを得なかった経験が執筆動機になっており、彼はこの作品のヒットにより借金を完済して'85年に政界に復帰しますが、翌年にはスキャンダルで辞任するなど、その後もこの人の人生はジェットコースターのように浮沈が激しく、ただ、どんな逆境からも、その逆境を糧にして(直裁に言えば「ネタ」にして)這い上がってくるというのはスゴく、転んでもタダでは起きないアーチャー氏といったところ。

 本作は所謂コン・ゲーム小説ですが、自身の経験がベースになっているためか彼の作品の中でもとりわけ面白く、また「1ペニーも多くなく、1ペニーも少なくなく」(原題は"Not a penny more, not a penny less")という合言葉を実践し、更にはメトカーフ自身が自分が騙されたことに気づかないようにするなど、仕返しするにも美意識があっていいです。

 画商のジャン=ピエールは、印象派の絵画に目が無いメトカーフにルノアールの贋作を買わせ(名画の贋作のモチーフは'05年発表の『ゴッホは欺く』でも使われている)、医師のエイドリアンは、偽薬を使ってメトカーフに多額の医療費を払わせ、スティーヴンは、オックスフォードの偽名誉学位を与えて多額の匿名寄付をせしめるが、貴族のジェームズだけは、特殊技能もアイデアも無く、そこで恋人のアンにも協力を仰ぐ―。

 それぞれに切れ者という感じですが、その中にジェームズという凡才が混じっていて、彼が皆の作戦をフイにしてしまうのではないかと読者の気を揉ませるところが旨く、アンのアイデアによる作戦の結末も鮮やか。自分がアーチャー作品を読み進むきかっけとなった作品ですが、ただ、ジェームズ-アン-メトカーフの関係は、今思えばやや御都合主義かなあと。

音楽:ミッシェル・ルグラン
100万ドルを取り返せ! TV映画.jpg '90年に英国BBCでドラマ版が制作され、'91年に日本でビデオ発売(邦題「100万ドルをとり返せ!」)、'92年にNHK教育テレビで放映され、最近でもCS放送などで放送されることがあります。自分はビデオで観ましたが、原作の各場面をあまり省かずに忠実に作られていて、その上ジェームズとアンのラブ・ストーリーを膨らませたりしているため、結果として3時間超の長尺となり、その分だけ原作のテンポの良さ、本Not a Penny More, Not a Penny Less (1990).jpg来の面白味がやや減じられたような気もしました。

Not a Penny More, Not a Penny Less (1990)

100万ドルをとり返せ1.jpg「100万ドルをとり返せ!」●原題:NOT A PENNY MORE,NOT A PENNY LESS●制作年:1990年●制作国:イギリス●監督:クライブ・ドナー●製作:ジャクリーン・デービス●脚本:シャーマン・イェレン●音楽:ミッシェル・ルグラン●時間:186分●原作:ジェフリー・アーチャー「百万ドルをとり返せ!」●出演:エド・ベグリー・ジュニア/エドワード・アスナー/ブライアン・プロザーロ/フランソワ・エリク・ジェンドロン/ニコラス・ジョーンズ/マリアン・ダボ/ジェニー・アガッター●日本公開:1991/09●配給:ビクターエンタテインメント(VHS)(評価:★★★☆)100万ドルをとり返せ5.jpg100万ドルをとり返せ6.jpg100万ドルをとり返せ3.jpg100万ドルをとり返せ2.jpg

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相変わらず手馴れている。薀蓄も含め、懐かしさみたいなものは感じたが、"裏焼き"は遊びすぎ。

ゴッホは欺く 上.jpg ゴッホは欺く下.jpg    Archer back with Van Gogh novel.jpg Archer back with Van Gogh (本書より)
ゴッホは欺く 上巻 (新潮文庫)』 『ゴッホは欺く 下巻』['07年]

FalseImpression.jpg ある英国貴族秘蔵のファン・ゴッホの自画像を巡って、貴族に無理な貸付をして担保として名画も財産も巻き上げてしまおうと謀る悪辣銀行家、自画像の所有者である姉を殺された貴族の妹、彼女の財産を守るために、銀行家に挑んでいく女性美術史家(美術コンサルタント)、その彼女が悪徳銀行の手先なのか味方なのか判断がつかないまま追跡するFBI捜査官、更にこれらに、銀行家の手先のルーマニア出身の女暗殺者が絡んでのニューヨーク→ロンドン→ブカレスト→東京→ニューヨーク→ロンドンと繰り広げられる追走劇―。

"False Impression"

 2005年に刊行されたジェフリー・アーチャーの長編で(原題:False Impression)、作者お得意のハラハラドキドキもの、しかも、これまた造詣の深い絵画を題材にしたものでしたが、前段はややだるかったと言うか、主人公が9.11テロに巻き込まれるというのなどは、何かとってつけたような感じがし、但し、中盤、主人公が「ホテル西洋銀座」に泊まるあたりから、主人公、FBI、暗殺者のチェイスが面白くなり、この作家独特のテンポが復活してきたように思えました。  

 結局、これ、女性ばかりが活躍するサスペンス・ドラマだなあと(創作意図してのそれを如実に感じる)。
 聡明な貴族女性と、大胆な機知と行動力を兼備した主人公の女性美術史家、彼女を助ける親友の秘書、さらには執拗かつ冷徹な暗殺者までが女性。一方、男性側は、銀行家、FBI捜査官からして、すべてに後追い気味で、日本人実業家のナカムラが英国紳士風に振舞っていうのが、ちょっと洒落ている程度というか(これさえも、キザで芝居っぽいと言えなくもないけれど)。

 "絵画モノ"という点で『ダ・ヴィンチ・コード』を想起させ、あそこまで絵に込めた様々な意味というものは無く、その分仰々しさもありませんが、『ダ・ヴィンチ・コード』のように話が横滑りしていくだけといった感じも無く、ちゃんとクライマックスでまとめている―、でも、やはり、読んでいるときは楽しいけれど、読み終わったらそれでお終いで、それほど残らないと言う点では同じかも(『ダ・ヴィンチ・コード』のようないかがわしさが無いだけ、こっちの方がマトモであるとも言えるかも知れないが)。

 普通の作家だったら傑作かもしれないけれども、ジェフリー・アーチャーだと思って読むから、多少評価が厳しくなってしまうのかも知れません(ゴッホの絵の"裏焼き"はちょっと遊びすぎ。普通に"贋作"でいいのに)。
 相変わらず手馴れているなあ、息長く頑張っているなあと、英国人作家らしい薀蓄描写も含め、懐かしさみたいなものは感じましたが。                                    

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やはり選挙モノはミステリ並みに面白い。女性大統領はまだ先?
ロスノフスキ家の娘.jpg ロスノフスキ家の娘 (下) (新潮文庫)_.jpg  J・アーチャーs.jpg
ロスノフスキ家の娘(上)(新潮文庫)』『ロスノフスキ家の娘(下)(新潮文庫)』ジェフリー・アーチャー作品(新潮文庫)
The Prodigal Daughter (Kane & Abel #2)
The Prodigal Daughter.jpgThe Prodigal Daughter .jpg ポーランド移民からホテル王になったケインの娘フロレンティナ。彼女が恋し合った相手のリチャードという青年が、実は父の宿敵である銀行家ウイリアム・ケインの息子であり、互いの親たちは子供たちの結婚を許さない。それでも反対を押し切って結婚した彼女は、夫の助けでビジネスに成功する。その後、旧友の勧めで上院議員に立候補し当選する。やがて彼女は'96年のアメリカ大統領選挙に出馬し、アメリカ初の女性大統領を目指す闘いに臨む―。

 1982年夏に発表されたジェフリー・アーチャーの4番目の長編(原題"The Prodigal Daughter"は「放蕩娘」の意)で、第3作『ケインとアベル』('79年)の続編。第5作『めざせダウニング街10番地』('84年)までミステリをやや離れた経済・政治ドラマといった作風ですが、やはり選挙モノはミステリ並みに面白いです(特に、英国上下両院での議員経験がある作者が書くと)。

クリントン上院議員(右から3人目)の選挙事務所は、かつて民主党の副大統領候補になった経歴を持つジェラルディン・フェラーロ氏(右).jpg フロレンティナの幼少期から実際のアメリカの歴史を辿ていて、彼女が上院議員をしている時期はカーター、レーガン政権の時代になっていますが、現実には、本作刊行の2年後の'84年の大統領選挙の時に、民主党がフェラーロという女性「副」大統領候補(姓と名の違いはあるが"フロレンティナ"と語感が似ているので印象深かった)を指名したものの、大統領戦(モンデールvs.レーガン)そのもので共和党に惨敗して、女性の副大統領は誕生しませんでした(結局、副大統領になるかどうかは大統領選次第ということ)。
ヒラリー・クリントンとかつての民主党副大統領候補フェラーロ(右端) [ロイター/2008]

Sarah Palin.jpg その後、'08年の大統領選の民主党指名争いにヒラリー・クリントンが立ちましたがオバマに破れ、一方、共和党は党として初の女性副大統領候補サラ・ペイリンを立てているというのが現況('08年10月)。この間に、フェラーロ(24年前の)副大統領候補はヒラリー候補の政治資金担当顧問をしていたものの、自身の「オバマ氏が仮に白人だったら現在の地位にはいられなかった」との発言が人種差別であるとの批判を受けて辞任するという出来事もあって、いろいろあるなあ、大統領選って、という感じですが、副大統領はともかく、女性大統領はまだ先になりそうです。
共和党副大統領候補サラ・ペイリン [ロイター/2008]     

ロスノフスキ家の娘.jpg 一応、単独の読み物としても楽しめますが、前作を読んだ方が良いにこしたことはなく、親同士の確執の深さが前提にないと、ホームドラマに出てくる単に頑固な親父とあまり変わらない印象になってしまうかも。
 前半部はフロレンティナの成育史(家庭教師や学校での教育等)が詳しく描かれていて、やや冗長感もありましたが、仮に大統領になる女性がいるとしたらこんな感じで育っていくのかなと思わせる面もあり、それなりに面白かったです(前提として大富豪の娘であるというのがあるが)。

【2023年再文庫化[ハーパーBOOKS]】

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ミステリアスに交錯する2人の実業家の運命。テレビ映画版もお薦め。

ケインとアベル 上.jpg ケインとアベル下.jpg Kane & Abel.jpg   ケインとアベル vhs.jpg
ケインとアベル 上下 新潮文庫』 ['83年]/ "Kane & Abel"/「ケインとアベル(VHS)」(絶版)

 1979年に発表された英国の作家ジェフリー・アーチャー(Jeffrey Howard Archer)の長編。

百万ドルをとり返せ!.jpg アーチャーの作品は、『百万ドルをとり返せ!』(Not a Penny More, Not a Penny Less '77年発表/新潮文庫)のようなコン・ゲーム(Confidence Game)作品、つまり信用詐欺をユーモラスに描いた中編や、『十二本の毒矢』(A Quiver Full of Arrows '80年発表/新潮文庫)のようなO・ヘンリーを髣髴させる洒落た短編集も楽しいけれど、こうした長編もかなりいいです。本書の続編にあたる『ロスノフスキ家の娘』(アベルの娘がケインの長男と結婚して米国初の女性大統領をめざすというスゴイ筋書き)や、同じく政界トップの座を主人公たちが競う『めざせダウニング街10番地』なども楽しめました。

百万ドルをとり返せ! (新潮文庫)
                                       
Kane and Abel.jpg 特に本書は2人の実業家を描いたビジネス小説ながら、20世紀初頭から中盤、後半にかけての欧米の時代背景や歴史的事件が巧みに盛り込まれていて、中短編とはまた異質の重厚さを持つものとなっています。そして重厚なだけでなく、著者のストーリー・テラーとして才能も存分に発揮されています。ボストン金融界の名門出身のウィリアム・ケインと、貧しいポーランド移民の子からホテル王にのし上がるアベル・ロスノフスキ。同じ日に生まれた対照的なこの2人の実業界における凄まじい対立と、本人たちも知らない過去の出来事も含めたミステリアスに交錯する運命を描いて、読み手を飽きさせることがありません。

Corgi Books 〔'86/UK〕

KANE AND ABEL2.bmpSam Neill.jpg 『百万ドルをとり返せ!』も『ケインとアベル』も共にテレビ映画(ドラマ)化されていてどちらも観ましたが、とりわけドラマ版「ケインとアベル」は力作で(テレビ東京「午後のロードショー」で'97年9月8日から3日間にわたって放送された)、後に「ジュラシック・パーク」('93年/米)に出演するサム・ニールがケインを好演し、こちらも後にジョニー・デップ主演の「ニック・オブ・タイム」('95年/米)などハリウッド映画に出ることになるピーター・ストラウスが演じたアベルも良かったです。通しで5時間を超える大作ですが、原作同様、最後まで飽きさせませんでした(今でもたまに民放やCS放送などで放映されることがあるが、日本語版ビデオは絶版に)。ラストの2人が偶然道で出会うシーンが、原作の情感を損なわずに描かれていて、そこに至るまでの作りこみも原作からの期待を裏切らないものでした。  

KANE AND ABEL 1985.jpgKANE AND ABEL 1985 2.jpg「ケインとアベル/権力と復讐にかけた男の情熱」(「ケインとアベル/愛と野望に燃える日々」)●原題:KANE AND ABEL●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:バズ・キューリック●脚本:ロバート・W・レンスキー●撮影:マイク・ファッシュ●音楽:ビリー・ゴールデンバーグ●原作:ジェフリー・アーチャー●時間:312分●出演:ピーター・ストラウス/サム・ニール/デヴィッド・デュークス/ヴェロニカ・ハーメル/ケイト・マクニール/ロン・シルヴァー/ジル・アイケンベリー /アルバータ・ワトソン/リチャード・アンダーソン/クリストファー・カザノフ●日本公開(VHS発売):1986/03 (日本エイ・ヴィー・シー) ●日本公開(TV放映):1994/05 (NHK‐BS2) (評価:★★★★☆)
"Kane and Abel: the Complete Mi [Import anglais]"

Sam Neill as Dr. Alan Grant in Jurassic Park (1993)/Marsha Mason, Peter Strauss (in picture), Johnny Depp in NICK OF TIME(1995)
sam-neill-as-dr-alan-grant-in-jurassic-park.jpgPeter Strauss .jpg

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