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熊野三山巡りをすることになり読んだ。行く前に勉強になった。
『熊野古道 (岩波新書 新赤版 665)』['00年]
熊野古道(中辺路)大門坂(2024.11.10撮影)
ゆたかな自然に懐深く抱かれた聖地,熊野.「蟻の熊野参り」という言葉どおり、人々は何かに引きつけられるように苦しい巡礼の旅を続けた。中世の記録から、上皇の御幸や一般庶民の参詣のようす、さらに熊野信仰の本質,王子社成立の謎等にせまり,長年の踏査経験をふまえて,この日本随一の古道の魅力を語り尽くす―(本書口上より)。
グループで熊野三山巡りをすることになり本書を読みましたが、行く前に勉強になりました。全3部構成の第Ⅰ部で、中世からの熊野詣の変遷を歴史的に検証してその意味を考え、第Ⅱ部では、熊野詣の作法と組織を検討することにより、熊野信仰の解明を試み、第Ⅲ部では、著者自らが踏破した熊野古道を紹介しています(因みに、熊野古道ユネスコの世界遺産に登録されたのは2004年で、今年['24年]はその20周年にあたる)。
第Ⅰ部では、熊野の中世史を扱っています。聖地である熊野に対する信仰は、平安時代には「熊野御幸(ごこう)」と呼ばれた上皇や女院の参詣によって脚光を浴びるようになったとのことです。因みに、熊野詣とは、熊野三山を参詣することを言い、熊野詣が盛んになる平安時代後期に、本宮・新宮・那智が一体化して熊野三山と呼ばれるようになりますが、古くは別々の神であったと考えられるようです。
1088年に白河上皇が高野山へ参詣してから院政期に熊野詣は大流行し、上皇の熊野詣に際しては貴族が先達(道案内人)を務めたこともあって、当時の様子を伝える記録は結構残っているようです(その貴族の中にも自らも熱心に参詣する者がいて、その記録も残っている)。藤原定家が記した上皇の参詣の記録は、その代表的なものになります。
第Ⅱ部では、参詣の目的や作法について解説しています。熊野信仰の特徴は「神仏習合」(平安末期の浄土信仰の流行から明治政府による「神仏分離」政策の前まで)であり、参詣の目的は、病気の平癒など現世的なものと、極楽浄土に行きたいという来世的なものの両方があったようです。また、熊野古道の中辺路などに祠(ほこら)などのような形で多く見られ、その数の多さから九十九王子とも呼ばれる「王子」は一体何のためのものか、道中の休憩所だとか熊野三山を遙拝する場所だとか諸説あるようですが、著者は儀式を行う場ではないかとしています。「王子」は熊野権現の分身あるいは熊野権現の御子神とされていますが、その原型は、熊野詣が盛んになって王子が成立する以前からそこにあった道祖神のような神々だったのではないかとしています。
発心門王子(中辺路)
また、参詣の数を競う傾向もあったようです。それにしても、後白河上皇の34回(本書ではこの回数を通説としている)というのはスゴイね。よほど極楽往生したかったのか、西暦1160年から1191年までほぼ毎年行っていたようです(そう言えば、今年['24年]ちょうどNHK大河ドラマで「光る君へ」をや
っており、その中であったかどうかは知らないけれど、藤原道長が時の上皇・花山(かざん)法皇の熊野詣を、収納の時期であったこともあり、反対し中止になったという話もあったそうです(本書23p。西暦999年11月のことである)。
2024年NHK大河ドラマ「光る君へ」花山天皇(本郷奏多)/柄本佑(藤原道長)
第Ⅲ部では、熊野古道の歩き方を、著者自身の経験をもとに指南しています。この辺りはガイドブックに任せた方がいいのではないかとの声も聞こえてきそうですが、著者の解説をガイドの話でも聞くように読むのも悪くないと思います。
因みに、グループでの熊野三山巡りの大まかな旅程は以下の通り。3日間で三山(本宮・速玉・那智)を巡りますが、古道歩きは2日目の発心門王子~熊野本宮大社と、3日目の大門坂~熊野那智大社・青岸渡寺・那智の滝で、いずれも中辺路になります。
■第1日
東京 8:09発JRのぞみ
名古屋 9:45着
10:01発JR南紀
新宮 13:37着
13:46発バス
熊野本宮大社前 14:37着
熊野本宮大社 参詣
熊野本宮大社前 16:40発バス
川湯温泉着 16:48着
■第2日
川湯温泉 9:00ホテル発
熊野本宮大社前 バス
発心門王子
古道(中辺路)を歩く(約3時間)
熊野本宮大社
熊野本宮大社前 12:15発バス
熊野速玉大社前 13:10着
熊野速玉大社 参詣
熊野速玉大社前 14:45発
紀伊勝浦駅
勝浦温泉着
■第3日
紀伊勝浦駅 9:05発
大門坂 9:24着
古道(中辺路)を歩く(約2時間)
熊野那智大社・青岸渡寺・那智の滝 参詣
那智の滝駅前 14:34発バス
紀伊勝浦駅 14:58着
15:35発リムジンバス
南紀白浜空港 17:30着
南紀白浜空港 18:20発JAL
羽田空港 19:30着
《読書MEMO》
■第1日 熊野本宮大社(2024.11.8)
熊野本宮大社旧社地 大斎原へ向かう道
■第2日 熊野古道(中辺路)発心門王子~本宮大社(2024.11.9)
熊野速玉大社
■第3日 熊野古道(中辺路)大門坂(2024.11.10)
熊野那智の滝(ご神体に当たり、これにより三山を巡ったことに)
2日目の「発心門王子~本宮大社」が「初級コース」、3日目の「大門坂~那智大社」が「中級コース」との触れ込みで、確かに大門坂から表参道にかけての階段はきつかったが、むしろ発心門王子~本宮大社間の前半の下りが、後から脚に効いてきたとの声もあった。