【3361】 ◎ 森戸 英幸/小西 康之 『労働法トークライブ (2020/07 有斐閣) ★★★★☆

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労働法の初学者にもベテランにも、忙しい人や労働法の本はちょっと苦手という人もお薦め。

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労働法トークライブ』['20年]

 本書は、二人の労働法学者が、労働法上の今議論しておくべき問題、いわば旬のトピックを選んで語り合ったものですが、タイトルおよび表紙イラストにあるように、あたかも聴衆を前にした軽妙なトークライブのように(あるいはラジオの深夜番組のトークのように)、真面目一点張りではなく、ときにおちゃらけた冗談などもはさみながら、それでも真剣に、かつ深く、各テーマについて考えています。

 選ばれたテーマは、採用の自由、労働者性、性差別、障害者雇用、高齢者雇用、ハラスメント、過労死、解雇、正規・非正規の格差、副業・兼業の10個であり、それを各章に割り振っていますが、例えば「高齢者雇用」の章には「私がジジババになっても」というサブタイトルがついていたりすることなども、本書の持つ雰囲気を表しています。

 各章の構成は、冒頭に、各テーマに関わる論点を含んだ、実際にありそうな「Case」(設例)があり、そこに含まれる労働法上の問題を示唆したうえで「Talking」に入り、この部分が各章の根幹となります。そして、トークの後にまとめとしての「Closing」があり、続いて、冒頭のケースに対して労働法上正しい解答をするとすればどうなるかという「Answer」があります。さらに、各章ごとに、実務家や研究者などの「Special Guest」のトークに対するコメントを付しています。

 大学で行われているゼミスタイルを想起させる構成ですが、各章の「Closing」の部分が、「意識高い系若者たちへ」「現場の労使の皆さんへ」「霞が関の皆さんへ」と分かれていて、学生など労働法の学習者だけでなく、企業労働者や経営者といった社会人、労働政策の立案に携わる行政官なども意識したものとなっています。

 全体の流れとしては、基本を押さえながら、後に行けば行くほど、正規・非正規の格差、副業・兼業といったより今日的なテーマを扱っていることになりますが、1つの章の中においても、まず基本を押さえた上で、必要に応じて最近の法改正や裁判例なども押さえながら、今現場でどういったことが課題となっているか、それは今後どういった方向に向かうのかを探っています。

 例えば、第1章の「採用の自由」では、三菱樹脂事件などの過去の重要判定を検証しつつ、どこまで個人情報に関わる部分を調査していのか、あるいは面接で聞いていいのかといった実務的な問題に踏み込んでいきますが、両者の会話を通して、時代や社会環境の変化とともに、新たな論点や留意すべき点、判断が難しい点などが浮かび上がってきます。

 第9章の「正規・非正規の格差」でも、丸子警報器事件の判決を検証しながら、長澤運輸事件など最近の注目判決を読み解き、パート法からパート有期法法への法改正のポイントを踏まえつつ、今後日本的雇用は変わるかどうかといったことを論じています。

 まず、現行の法制度のルールや判例法理を踏まえた上で論を進めていますが、それらはいずれも人事パーソンであれば知っておきたいことばかりであるため、労働法の初学者の方にもお薦めです。一方で、現場で生じている(あるいはこれから生じるであろう)難しい問題にコンパクトに斬り込んでいるため、べテランにもお薦めです。更には、どの章からでも読めて、しかも楽しくすっと入り込めるように書かれているため、忙しい人や労働法の本はちょっと苦手という人にもお薦めという、三拍子揃ったスグレモノでした。

 個人的には、お堅いイメージのある有斐閣にしては思い切ったソフト趣向ながら、内実はオーソドックスであるという印象がありました。Special Guestの一人の清家篤氏、『定年破壊』('00年/講談社)での論から少し方針変更したんのだなあ(因みに、森戸英幸氏は『いつでもクビ切り社会―「エイジフリー」の罠』('09年/文春新書)で「定年破壊」に大いなる疑念を呈していたように思う)。

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