【3369】 ○ 井口 博 『パワハラ問題―アウトの基準から対策まで』 (2020/10 新潮新書) ★★★★

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一般向け新書だが、意外と経営者、管理職向けだった。事例も豊富で解説も深い。

パワハラ問題.jpg 『パワハラ問題―アウトの基準から対策まで― (新潮新書)』['20年]

 最近、社内でのパワハラがもめて法廷にまで持ち込まれるケースが増えてきていますが、本書は、20年以上にわたりこの分野を専門の一つとしてきた弁護士が、アウトとセーフの境界はどこにあるのか、被害を受けたり訴えられたりした場合どうすればいいか、といったパワハラをめぐるさまざまな問題について、一般向けに分かりやすく解説したものです。

 第1章で、まず、ハラスメントに関する基礎知識を整理するとともに、さまざまな種類のハラスメントを解説し、第2章では、ウィズコロナ時代におけるテレワークの浸透で登場した新たなハラスメント「テレハラ」を取り上げています。第3章では、パワハラの6つの行為類型を示すとともに、どんなことがアウトでどういうときがセーフなのかを示し、また、会社や経営者・管理職の責任はどう問われるのかを解説しています。

 第4章では、いわゆるパワハラ防止法の中味にについて、パワハラ3要件を軸に解説し、第5章では、公務員の場合は法律上どう規定されているのか(人事院規則とパワハラ防止法ではパワハラの定義が違うとのこと。公務員のの方が範囲が広い)、第6章では、経営者や管理職は措置義務として何をすればよいのかを述べ、第7章では、パワハラ経営者、管理職にならないためにどうすればいいのか、例えば、部下から相談を受けたときに、部下に言っていい言葉・悪い言葉などを教示しています。

 第8章では、グレーゾーンとパワハラの境界線を示し、上司の立場に立ち、問題化した場合はどうリカバリーするべきかを説いていますが、特にグレーゾーンの事案の場合、その後の対応によって「白」にもなれば「黒」にもなることがあるというのが理解できます。

 さらに、第10章では、これも最近多いようですが、モンスター社員やネット中傷などにより管理職が被害者となった場合の会社の対応の在り方を述べ、第11章では、「問題集」形式で8つのケースを挙げて、「あなたならどう動くか」を問うとともに、望ましい対応とはどのようなものかを示しています。

 また、巻末に、「現場で役立つ最新パワハラ判決30戦」として、パワハラを認めた判決例を16、認めなかった判決を14ほど紹介しています。こうしてみると、パワハラの判例もかなりの件数が出揃い、グレーゾーンとパワハラの境界線が以前よりは見えてきた印象を受けます。

 個人的には、思っていた以上に経営者、管理職向けとの印象を受けました。人事パーソンにとっても、啓発される部分は少なからずあると思われます。新書という限られた紙数の範囲内ですが事例も豊富であり、最後の判例集などはこの1、2年のものが多く紹介されていて、実務面でも参考になります。さらに、研修などにおけるケーススタディやグループディスカッションなどに応用できる"素材"もあったように思われ、あとがきで著者自身が本書の社内研修での利用を推奨しています。

パワハラ問題に対する自身の認識・理解度を確認し、知識をブラッシュアップするために一読されるのもよいかと思います。

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