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最初からエリオット・グールド風のマーロウになっていたが、なかなか良い(好みの問題)。

「ロング・グッドバイ」 1973.jpg「ロング・グッドバイ」 2.jpg
ロング・グッドバイ(テレビ吹替音声収録版) [DVD]
「ロング・グッドバイ」 3p.jpg「ロング・グッドバイ」 4.jpg 私立探偵フィリップ・マーロウ(エリオット・グールド)の家に、友人のテリー・レノックス(ジム・バウトン)が突然訪ねて来る。テリーは妻とケンカしたと話し、メキシコへ連れて行ってほしいとマーロウに頼む。テリーを車で送り帰宅したマーロウは、テリーの妻が殺されたことを知る。テリーを匿っていると疑われたマーロウは警察に留置場に入れられるが、テリーがメキシコで自殺したとの報せを受けて釈放される。「ロング・グッドバイ」 5.jpg「ロング・グッドバイ エリオット・グールド2.jpgそんな中、マーロウは有名作家ロジャー・ウェイド(スターリング・ヘイドン)の妻アイリーン(ニーナ・ヴァン・パラント)から、行方不明になった夫の捜索を依頼される。マーロウはアルコール中毒のウェイドを発見し、病院から連れ帰る。しかし、ウェイドはある日、深夜に自ら海に入っていき自殺してしまう。そして、テリーの件でチンピラのボス、マーティ・オーガスティン(マーク・ライデル)がマーロウを脅迫してくる。やがてマーロウは、テリーの妻殺害にアイリーンが関わっていることに気づく。テリーの死を確かめにマーロウはメキシコへ行く―。

「ロング・グッドバイ」 6.jpg ロバート・アルトマン監督がレイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説をアレンジして映画化したものですが、ストーリー的に原作とかなり違います。原作では作家のウェイドは、マーロウと妻アイリーンの目の前で入水自殺するのではなく、どこかで殺害死体が発見されるというものでした。誰が殺したかというと、実は妻のアイリーンで、彼女の忘れられない"亡くなった恋人"というのがテリー・レノックス。だから、テリーの殺しも、嫉妬したアイリーンによるもので、マーロウにそれらを事実として突き付けられた彼女は自殺するのではなかったかな。ただ、核となるマーロウと"友人"テリーとの関係変化と結末は原作と同じで、自分を裏切った友に対して「ロング・グッドバイ」ということです(まあ、ここを変えると「ロング・グッドバイ」というタイトルが成立しなくなる)。

「ロング・グッドバイ エリオット・グールド3.jpg「ロング・グッドバイ エリオット・グールド.jpg エリオット・グールドが、猫を愛する探偵フィリップ・マーロウを飄々とした演技で好演していますが、冒頭の猫の餌を買いに夜中に出かける話などは原作にはまったくなく、最初からエリオット・グールド風のマーロウになっています。ただ、これがなかなか良くて、松田優作などはドラマ「探偵物語」('78年-'79年/日本テレビ)の役作りで大いに参考にしたそうです(確かにこのマーロウ、私立探偵の工藤俊作っぽいけれど、松田優作の方がマネしたわけか)。

「ロング・グッドバイ エリオット・グールド5.jpg 原作とは大幅に異なる設定と結末を変えたことで、公開当時は賛否両論を呼んだようですが、長年にわたりカルト映画として愛されているのは事実でしょう。今回初めて観ましたが、個人的にも好きです。ただ、レイモン村上春樹 09.jpgド・チャンドラーの熱心なファンにはやり評判がよくないようです。村上春樹などは『カラマーゾフの兄弟』『グレート・ギャツビー』とこの原作『長いお別れ』を最も影響を受けた作品3作として挙げており、『長いお別れ』は自らも翻訳していますが(『ロング・グッドバイ』('07年/早川書房)、この映画に対する彼の評価はどうなのだろうか。おそらく、ダメだろうなあ。人それぞれ好みの問題だと思います。

「ロング・グッドバイ」 7しゅわ.jpg 無名時代のアーノルド・シュワルツェネッガーがオーガスティンの手下の一人として出演していましが(「コナン・ザ・グレート」('82年/米)に出る約10年前か)、なぜかオーガスティンがその場にいる男連中に「皆、裸になれ」と言います。シュワルツェネッガーの肉体を見せるため? シュワちゃんは、ボディガードを通り越して完全にボディビルダーでした(笑)。
 
「ロング・グッドバイ」 p2.jpg「ロング・グッドバイ」●原題:THE LONG GOODBYE●制作年: 1973年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルトマン●製作:ジェリー・ビ「ロング・グッドバイ エリオット・グールド7.jpgック●脚本:リー・ブラケット●撮影:ビルモス・ジグモンド●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作:レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』●時間:111分●出演:エリオット・グールド/ニーナ・ヴァン・パラント/スターリング・ヘイドン/ジム・バウトン/ヘンリー・ギブソン/マーク・ライデル/ウォーレン・バーリンジャー/ルターニャ・アルダ/ルターニャ・アルダ/デヴィッド・アーキン/アーノルド・シュワルツェネッガー●日本公開:1974/02●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:早稲田松竹(23-10-06)((評価:★★★★)●併映:「雨にぬれた舗道」「イメージズ」(ロバート・アルトマン)

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'93年は「ジュラシック・パーク」の年か。アイロニカルだった「ザ・プレイヤー」。

『映画イヤーブック 1994』.JPG映画イヤーブック1994.jpg    ザ・プレイヤー.jpg  ザ・プレイヤー  dvd.jpg
映画イヤーブック〈1994〉 (現代教養文庫)』/「ザ・プレイヤー」チラシ/「ザ・プレイヤー デラックス版 [DVD]

 1993年に公開された洋画328本、邦画151本、計479本の全作品データと解説を収録、更に映画祭、映画賞の記録、オリジナル・ビデオ・ムービー、未公開ビデオのデータなども網羅しています。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「ザ・プレイヤー」「愛の風景」「マルコムX」「許されざる者」「クライング・ゲーム」「秋菊の物語」「ジュラシック・パーク」「アラジン」「リバー・ランズ・スルー・イット」「ザ・シークレット・サービス」「タンゴ」「友だちのうちはどこ?」など10作品、一方邦画は、「お引越し」(相米慎二監督)、「病院で死ぬということ」(市川準監督)、「月はどっちに出ている」(崔洋一監督)、「ヌードの夜」(石井隆監督)の4作品と、依然やや寂しいか。

 映画館の年間入場者数は、それまでの史上最低を記録した'92年よりやや上向いて1億3千万人台に戻りましたが、これは偏に「ジュラシック・パーク」の大ヒットのお陰、邦画は、前年の「シコふんじゃった。」に続いて、今度は「月はどっちに出ている」が映画賞を総ナメするという、表面的にはやや偏った状況でした。

ザ・プレイヤー  vhs.jpg でも、前出の通り、ピレ・アウグスト監督の「愛の風景」(スウェーデン他9カ国)、チャン・イーモウ監督の「秋菊の物語」(中国)、パトリス・ルコント監督の「タンゴ」(仏)、アッバス・キアロスタミ監督の「友だちのうちはどこ?」(イラン)といったハリウッド映画以外の作品も一部で注目された年であり、また、ハリウッド映画の中にも、ロバート・アルトマン監督がハリウッドの映画製作の内幕を描いた「ザ・プレーヤー」('92年/米)などの変わった作品もありました(この作品は1992年カンヌ国際映画祭「監督賞」「男優賞」及びインディペンデント・スピリット賞、ザ・プレイヤー 1.jpgニューヨーク映画批評家協会賞などを受賞している)。

 原作・脚本はマイケル・トルキンで、ハリウッド映画界の権力者"プレイヤー"を目指す若手プロデューサーのグリフィン(ティム・ロビンス)が、脚本を没にされた脚本家から脅迫を受けるが、逆に脅迫者とおぼしき脚本家を殺害し、その恋人(グレタ・スカッキ)をも自分の女にしてしまう―「えーつ、これで終わり!?」という感じで、皮肉を込めたピカレスク・ロマンだったわけね。

THE PLAYER 1992 movie.jpg ラスト近く、グリフィンはウケだけを狙ったどうしょうもない通俗映画を作っていて、それに主演しているのが、ジュリア・ロバーツ、ブルース・ウィリスの二人で、更にバート・レイノルズ、アンジェリカ・ヒューストン、ジョン・キューザック、ジャック・レモン、アンディ・マクダウェル、シェール、ピーター・フォーク、スーザン・サランドンなどが映画内映画にカメオ出演している―この辺りはやはりロバート・アルトマンの名の下に―という感じでしょうか。

スーザン・サランドン/ピーター・フォーク

 ロバート・アルトマンは「M★A★S★H」(70年/米)、「ナッシュビル」(75年/米)以来、時々こうした"仲間内"感覚の作品を撮っていたなあ。この作品も、アイロニカルだけれど、みんなんで楽しみながら映画を作っている感じもあって、その分「毒」が中和されている印象も。

"THE PLAYER"(1992)輸入版DVD
THE PLAYER 1992.jpg「ザ・プレイヤー」●原題:THE PLAYER●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルトマン●製作:デヴィッド・ブラウン/マイケル・トルキン/ニック・ウェクスラー●脚本・原作:マイケル・トルキン●撮影:ジャン・ルピーヌ●音楽:トーマス・ニューマン●時間:124分●出演:ティム・ロビンス/グレタ・スカッキ/フレッド・ウォード/ウーピー・ゴールドバーグ/ピーター・ギャラガー/ブライオン・ジェームズ/ヴィンセント・ドノフリオ/ディーン・ストックウェル/リチャード・E・グラント/シドニー・ポラック/シンシア・スティーヴンソン/ダイナ・メリル/ジーナ・ガーション/ジェレミー・ピヴェン/リーア・エアーズ●カメオ出演ジュリア・ロバーツ/ブルース・ウィリス/バート・レイノルズ/アンジェリカ・ヒューストン/ジョン・キューザック/ジャック・レモン/アンディ・マクダウェル/The-Player.jpgシェール/ピーター・フォーク/スーザン・サランドン/ジル・セント・ジョン/リリー・トムリン/ジョン・アンダーソン/ミミ・ロジャース/ジョエル・グレイ/ハリー・ベラフォンテ/ゲイリー・ビューシイ/ジェームズ・コバーン/ルイーズ・フレッチャー/スコット・グレン/ジェフ・ゴールドブラム/エリオット・グールド/サリー・カークランド/マーリー・マトリン/マルコム・マクダウェル/ニック・ノルティ/ロッド・スタイガー/パトリック・スウェイジ●日本公開:1993/01●配給:大映(評価:★★★☆) Julia Roberts, Bruce Willis and may others for The Player

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「集団主人公」映画。「アメリカン・アイドル」の地方予選を想起させる「ナッシュビル」。

ナッシュビル Nashville.jpg ナッシュビル チラシ.jpg   グランド・ホテル ポスター.jpg  マッシュ dvd_1L.jpg
Nashville [DVD] [Import]」(輸入盤)/チラシ  「グランド・ホテル[DVD]」「マッシュ [DVD]

ナッシュビル 1場面.jpg カントリー音楽のメッカ、ナッシュビルで、ある大統領候補のキャンペーンのためにコンサートが行われる準備が進められていて、町には、イベント関係者や働き口ナッシュビル 映画.jpgを求める者、野次馬、音楽ファンなど、多くの人間が集まってきていた。その中には、自分がカントリー歌手であることに疑問を感じている黒人や、芸能界で生きることを夢見る運転手、歌手希望の音痴のウエイトレス、家出してきたノイローゼ青年、カントリー歌手になりたくて田舎の農家の夫から逃れきた女など、様々な人間がいた―。

 「ナッシュビル」('75年/米)はロバート・アルトマン(Robert Altman、1925-2006)監督の1975年の作品で(Nashville)、主人公が24人もいるという所謂「グランド・ホテル」形式の映画ですが、最初に観た時はむしろ、「主人公がいない映画」という印象でした。

「グランド・ホテル」米国版パンフレット(1932)
グランドホテル(GRAND HOTEL)パンフレット.jpgグランドホテル オールキャスト.jpg 「グランド・ホテル」形式という呼び方の起源となった、エドマンド・グールディング監督の「グランド・ホテル」('32年/米)を後に観ましたが、ベルリンの一流ホテルのそれぞれの部屋で1日の間に起きる人間ドラマを描いた映画で、旧い映画のわりには面白かったです。但し、この"元祖"作品よりも、新「グランド・ホテル」形式とも言われた「ナッシュビル」の方がより面白かったと言うか、インパクトありました。

マンハッタン乗換駅.jpg こうした試みは、文学では既に先行して行われていて、例えば、ジョン・ドス=パソス(John Roderigo Dos Passos, 1896-1970)が1925年に発表した『マンハッタン乗換駅(Manhattan Transfer)』(中央公論社「世界の文学36」)は、ニューヨークの一画に住み、同じ乗換駅を利用する何人もの人々の、彼らの意識を1つ1つ切り取るように描いた作品ですが、これもある種「グランド・ホテル」的形式と言えるのではないでしょうか(コーラスグループ「マンハッタン・トランスファー」の名は、この小説に由来する。「マンハッタン乗換駅」とは要するに「グランド・セントラル駅」なのだが)。
     
『グランド・ホテル』.jpg 「グランド・ホテル」は、オーストリアの作家ヴィッキー・バウム(Vicki Baum、1888-1960)の小説『ホテルの人びと』を、アメリカで舞台化した戯曲に基づき映画化したもので、ヴィッキー・バウムはこの小説を書くために実際にホテルでメイド(客室係)として働いたそうな(実際にあった有名企業経営者と速記者とのスキャンダルがストーリーに使われているが、ホテル従業員としての守秘義務違反にならないのか?)。映画は第5回アカデミー賞の作品賞を受賞しましたが、他部門でのノミネートは無く作品賞でしか候補に挙がらずに受賞を果たした珍しいケースです(主演○○賞とか助演○○賞とかを与えようとしても、誰が主演で誰が助演なのか判別しにいくい作品であるというのも一因か)。

ジョーン・クロフォード&ウォーレス・ビアリー in 「グランド・ホテル」

 「グランド・ホテル」の出演者には有名スターが名を連ねていて、彼らが演じている役柄がそのまま中心的登場人物ということになり、こちらの方は「集団」と言うより「複数主人公」というイメージに近いかも。その中でもグレタ・ガルボジョーン・クロフォードが目を引きますが、今思い起こしても、"共演"していたという印象はあまりないです(その辺りはまさに「グランド・ホテル」形式と言える面かもしれないが)。

 これ、実は、『淀川長治究極の映画ベスト100』('03年/河出文庫)によれば、撮影初日、ホテルのセットが出来上がって、グレタ・ガルボが一段高い所に立っていた、そこにジョーン・クロフォードが入ってきて、ガルボの所へ行って「お早うございます」と言ったら、グレタ・ガルボは上から見下ろして、「ご苦労さん」と言ったもので、ジョーン・クロフォードはかんかんに怒って、「私だって主役よ。何がご苦労さんなの。絶対にこんな映画淀川長治究極の映画ベスト100_1.jpgになんか出ません」と言い出す騒ぎになり(まさに"主役"が大勢いる「グランド・ホテル」形式ならではのトラブルと言えるか)、それで二人が一緒に映る場面雨 マイルストン.jpgがこの映画には無いそうです。ジョーン・クロフォードはこの悔しさから、ハリウッドの第一級プロデューサーのサミュエル・ゴールドウィンに泣きついて、生涯最高の作品に出演させて欲しいと頼み込み、そこでゴールドウィンはサマセット・モームの小説の映画化作品「」('32年/米)の主演の娼婦の役を与えたとのことです。

淀川長治 究極の映画ベスト100 (河出文庫)

Joan Crawford
ジョーン・クロフォード.jpg 但し、「雨」におけるジョーン・クロフォードが演じた娼婦サディ・トンプソン役は、後の高評価はともかく、公開当時は評判が良くなくて、興行的にも失敗作となっています。一方、「雨」の1ヵ月前に公開され、第5回アカデミー作品賞を受賞した「グランド・ホテル」は1932年度のMGMで興行成績ナンバー1作品であり、この年に「モーション・ピクチャー・ヘラルド誌」が実施した「もっとも興行成績をあげられるスター」の投票企画で、ジョーン・クロフォードはマリー・ドレスラー、ジャネット・ゲイナーに続く3位となっています。マリー・ドレスラーは1931年に、ジャネット・ゲイナーは1928年に、それぞれアカデミー主演女優賞を獲得していましたが、クロフォードはその後も映画に出続けるも傑作に恵まれない状態が続きます。

 ジョーン・クロフォードが復活を果たすのは、ワーナー・ブラザースへ移籍してから出演したマイケル・カーティス監督の「ミルドレッド・ピアース」('45年/米)で、日本では劇場未公開作ですが、「深夜の銃声・偽りの結婚」や「ミルドレッド・ピアース 深夜の銃声」といったタイトルでテレビ放映されたこともあるミルドレッド・ピアース poster.jpgミルドレッド・ピアース 01.jpg作品です。クロフォードはこの作品で初のノミネートでアカデミー主演女優賞を獲得、女優としての評価を蘇らせ、その後の数年間、ハリウッドで最も成功した女優として君臨することになります。(2011年にケイト・ウィンスミルドレッド・ピアース 幸せの代償.jpgレット主演でテレビドラマ化され、同年10月15日と16日にWOWOWで「ミルドレッド・ピアース 幸せの代償」(全5話)としミルドレッド・ピアース [DVD].jpgて放映された。ケイト・ウィンスレットは、プライムタイム・エミー賞主演女優賞、ゴールデングローブ賞主演女優賞(いずれもミニシリーズ・テレビ映画部門)を受賞。)(2012年9月にWOWOWシネマでオリジナル映画が「深夜の銃声・偽りの結婚」のタイトルで再放映された。)(2013年5月、原題通りの「ミルドレッド・ピアース」のタイトルでDVDが発売された。)

ミルドレッド・ピアース [DVD]」['13年]
 
ミルドレッド・ピアース02.jpg(●映画「ミルドレッド・ピアース」は『郵便配達は二度ベルを鳴らす』『殺人保険』の作者ジェイムズ・M・ケインの1941年発表の同名小説が原作のフィルム・ノワールであり、深夜のビーチハウスでひとりの男が銃撃され、やがて警察の取調室で、殺された男性モンティの妻ミルドレッド(ジョーン・クロフォード)が自らの過ミルドレッド・ピアース  001 .jpg去を振り返りつつ、供述を始めるという構成(但し、原作には殺人事件は無く、サスペンスでもなく、純粋な人間ドラマである)。彼女は、最初の夫と別れた後、苦しい家計を支えるために外で働き出し、やがて自分のレストランを経営、チェーン店化するまでに成功し、モンティと再婚しやっと幸せを手に入れたものの、娘のケイが考えもしなかったようなわがミルドレッド・ピアース04.jpgまま娘に育ってしまう(この流れ自体は原作通り)。ビジネス界での成功と引き換えに、母親の役割に失敗して娘を思わぬ悪女へと成長させ、苦悩するヒロインをジョーン・クロフォードが熱演している。ジョーン・クロフォードはこの映画出演の10年後に後にペプシコの会長CEOとなるアルフレッド・スティールと4度目の結婚をし、その夫の死後もペプシコ社で重役として経営に関わっていた期間があるすが、実人生でそうなる前に「ミルドレッド・ピアース」でやり手実業家を演じていて、それが板についているというのが興味深い。因みに、ジェイムズ・M・ケイン原作、ローレンス・カスダン監督の映画「白いドレスの女」('81年/米)は、原作『殺人保険』('43年)と同じく犯人が"完全犯罪"をやり遂げるが、この映画「ミルドレッド・ピアース」では犯人が罰を受けるような結末になっている(前述通り、原作では殺人事件そのものが無いが、母娘の関係が破綻で終わるのは同じ)。
 
「ナッシュビル」ヘンリー・ギブソン(中央白服の男ハミルトン)/ロニー・ブレイクリー(バーバラ・ジーン)
ナッシュビル 映画002.jpgNashville (1975).jpg 「グランド・ホテル」からジョーン・クロフォードの話になりましたが、 話を戻して、ロバート・アルトマン監督の「ナッシュビル」はどのようにして作られたかと言うと、アルトマン監督がスタッフをナッシュビルに滞在させて毎日日記を書かせ、それを繋ぎ合せてストーリーを作り上げたのだそうで、ナッシュビルでの撮影期間中も、スタッフやキャストは全員同じモーテルに泊まっていたそうです(出演者のギャラ「ナッシュビル」カレン・ブラック.jpgは均一だった)。そのためか、観ていてアドリブ感があると言うか、いかにも撮りながら作り、作りながら撮っていったという感じがします。カレン・ブラックがグラマーな「二流カントリー歌手」(触れ込みは「カントリーの女王」)役で、ロニー・ブレイクリー演じる「貧血を起こしやすい歌手」バーバラのライバルという役どころで自作の歌を歌ったり、エリオット・グールドが「M★A★S★H マッシュ」の時と同じシャツ着て本人役「ナッシュビル」エリオット・グールド.jpgでカメオ出演するなどのお遊びも。当時としては抜きん出て有名なスター俳優は(カメオ出演以外は)使っていないということもあって(当時無名で、後に有名になる役者も多く出ているが)、結果として「集団主人公」という映画の特質がよく出ているように思いました。

エリオット・グールド(本人役(カメオ出演))
 
アメリカン・アイドル.bmp ロバート・アルトマンは「M★A★S★H マッシュ」('70年/米)の監督でもあり、ある意味、ベトナム戦争終結当時の「病めるアメリカ社会」の断片像ともとれますが、オーデション歌番組「アメリカン・アイドル」の地方予選などは、いまだにこの「ナッシュビル」という映画の雰囲気と重なる部分があるような気もします。

M★A★S★H マッシュ ポスター.jpg★A★S★H マッシュ 3.jpg 「M★A★S★H」は、朝鮮戦争を舞台にしたブラック・コメディで、野戦病院(マッシュ)に派遣されたドナルド・サザーランド、エリオット・グールド、トム・スケリット演じる3人の医師が、軍規を無視して婦長の尻を追いかけたり、女性将校(サリー・ケラーマン)をからかったりとやりたい放題をやる話。でも、この3人、実は極めて優秀な外科医であって、負傷して血だらけの患者を面白可笑しく冗談を言いながら手術するけれど、結局は治してしまうし、いたずらや悪「M☆A☆S☆H」.jpg事を企んだりはするけれど、人情味もあるということで、ちょっと憎めない...コメディ部分にもやや毒気のある鬼才ロバート・アルトマンらしい作品でしたが(1970年の第23回カンヌ国際映画祭でグランプリ受賞(現在の最高賞パルム・ドールに該当))、個人的には「ナッシュビル」の方がやや上でしょうか(「ナッシュビル」は全米映画批評家協会賞・作品賞&監督賞受賞)。両作品について言えることですが、アルトマンの社会批判精神はストレートな表され方をするのはでなく、ユーモアを介するなどして屈折した形で表現されるので、背景が掴めていないと、ただ面白かったで終わってしまうこともあるかもしれません(その面白さにもクセがあって、人や作品によって評価が分かれるが)。

Nashville(1975) ヘンリー・ギブソン in「ナッシュビル」(全米映画批評家協会賞「助演男優賞」受賞) リリー・トムリン in「ナッシュビル」(ニューヨーク映画批評家協会賞「助演女優賞」、全米映画批評家協会賞「助演女優賞」受賞)
Nashville(1975).jpgナッシュビル ヘンリー・ギブソン.jpgリリー・トムリン ナッシュビル.jpg「ナッシュビル」●原題:NASHVILLE●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督・製作:ロバート・アルトマン●脚本:ジョーン・テューケスベリー●撮影:ポール・ローマン●音楽:リチャード・バスキン/キース・キャラダイン●時間:160分●出演:ヘンリー・ギブソン/カレン・ブラック/アレン・ガーフィールド/ネッド・ビーティー/マイケル・マーフィー/ジェフ・ゴールドブラム/リリー・トムリン/ジェラルディン・チャップリン/キース・キャラダイン/ロニー・ブレイクリー/グウェン・ウェルズ/バーバラ・ハリス/スコット・グレン/エリオット・グールド/ジュディー・クリスティー/デイヴィッド・アーキン/バーバラ・バクスレイ/ティモシー・ブラウン/ロバート・ドキ/シェリー・デュヴァル/アラン・ニコルズ/デイヴィッド・ピール/バート・レムゼン/キーナン・ウィン●日本公開:1976/04●配給:パラマウント映画=CIC●最初に観た場所:新宿西口・新宿(西口)パレス(78-02-08)(評価:★★★★)●併映:「バーブラ・ストライサンド スター誕生」(フランク・ピアスン) 
新宿西口パレス3.jpg新宿三葉ビル.bmp新宿(西口)パレス 新宿西口小田急ハルクそば「新宿三葉ビル(三葉興行ビル(現・三葉興業本社ビル))」内。1951年12月28日オープン。1986(昭和61)年11月14日閉館。 
 
 
 

有楽座(旧)3.bmpみゆき座.jpg「グランド・ホテル」●原題:GRAND HOTEL●制作年:1932年●制作国:アメリカ●監督:エドマンド・グールディング●製作:ポール・バーン/アーヴィング・G・サルバーグ●脚本:ウィリアム・A・ドレイク●撮影:ウィリアム・H・ダニエルズ●音楽:ウィリアム・アックスト/グランド・ホテル dvd ivc.jpgチャールズ・マックスウエル●原作:ヴィッキー・バウム●時間:112分●出演:グレタ・ガルボ/ジョン・バリモア/ジョーン・クロフォード/ウォーレス・ビアリー/ライオネル・バリモア/ロバート・テイラー/ジョージ・キューカー●日本公開:1933/10●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:日比谷・みゆき座(86-11-18)(評価:★★★)●併映:「暗黒街の顔役」(ハワード・ホークス)グランド・ホテル《IVC BEST SELECTION》 [DVD]
旧・みゆき座 1957(昭和32)年、東宝会館ビル(東宝本社ビル)竣工に伴い、同年4月、1階に邦画の「千代田劇場」、地下1階に洋画の「みゆき座」オープン。2005(平成17)年3月31日閉館(同年4月1日「日比谷スカラ座2」が「みゆき座」の名を引き継ぐ)。[写真]千代田劇場・みゆき座[1984(昭和59)年9月]「ぼくの近代建築コレクション」より

ミルドレッド・ピアース 00 .jpgミルドレッド・ピアース03.jpg「ミルドレッド・ピアース」●原題:MILDRED PIERCE●制作年:1945年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・カーティス●製作:ジェリー・ウォルド●脚本:ラナルド・マクドゥガル●撮影:アーネスト・ホーラー●音楽:マックス・スタイナー●原作:ジェイムズ・M・ケイン●時間:111分●出演:ジョーン・クロフォード/ブルース・ベネット/ザカリー・スコット/アン・ブライス/ジャック・カーソン/イヴ・アーデン●DVD発売:2013/05●発売元:ブロードウェイ(評価:★★★★)

マッシュ [DVD]
★A★S★H マッシュ dvd.jpgM★A★S★H マッシュ ケラーマン.jpg「M★A★S★H マッシュ」●原題:M*A*S*H●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルトマン●製作:インゴ・プレミンジャー●脚本:リング・ランドナーJr.●撮影:ハロルド・E・スタイン●音楽:ジョニー・マンデル●時間:116分●出演:ドナルド・サザーランド/トム・スケリット/エリオット・グールド/ロバート・デュヴァル/サリー・ケラーマン●日本公開:1970/07●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹オスカー(79-05-13)(評価:★★★★)●併映:「まぼろしの市街戦」(フィリプド・ロカ)/「博士の異常な愛情」(スタンリー・キューブリック)

ドナルド・サザーランド(ホークアイ・ピアース大尉)/ロバート・デュヴァル(フランク・バーンズ少佐)
M★A★S★H マッシュ サザーランド.jpg M★A★S★H マッシュ  3.jpg

アメリカン・アイドル1.jpgアメリカン・アイドル2.bmp「アメリカン・アイドル」American Idol (FOX 2002/06~ ) ○日本での放映チャネル:FOX(2006~)

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素材(話題)は古いが、"ケータイ"カメラ時代に考えさえられる点も。

映像のトリック2.jpg映像のトリック.jpg  秋葉原通り魔事件.jpg
映像のトリック (講談社現代新書)』['86年] 秋葉原通り魔事件 NHKスペシャル「追跡・秋葉原通り魔事件」(2008.6.20)より

 『写真のワナ』('94年/情報センター出版局)や『疑惑のアングル』('06年/平凡社)などの著書がある"告発系"(?)フォトジャーナリストである著者が、まだ共同通信社の写真部に在籍していた頃の著書で、'86年2月刊。

心霊写真.jpg 報道写真のウソを、太平洋戦争時から直近までの事例で以って説明していて、新書にしては写真が豊富です。但し、戦争中の報道写真なんてウソの報道ばかりであることは想像に難くなく、写真合成のひどさ(いい加減という意味も含めて)は、最近読んだ、小池壮彦氏の『心霊写真』('02年/ 宝島社新書)を髣髴させるものがありました("心霊写真"は世間を騒がせただけだが、本書にある"戦争報道写真"などは当時の日本国民を欺いたわけで、ずっと罪は重いと言えるが)。

『カプリコン・1』(1977).jpgCapricorn One.jpgCapricorn 1.jpg アメリカなどの戦勝国も、朝鮮戦争やベトナム戦争を含め、同じようなこと(報道統制・映像による虚偽行為)をしていたことがわかり、そう言えば、スタジオの中でいかにも火星着陸に成功したかのように演出してみせる、ピーター・ハイアムズ原作・脚本・監督、エリオット・グルード主演の「カプリコン・1」というSF映画(と言うより、完全な政治映画)などもあったなあと思い出したりもしました(この映画は米英両国の合作製作で、NASAは当初協力的だったが、試写で内容を知ってから協力を拒否した。アメリカ本国での公開は日本での公開より半年遅かった)。
"Capricorn One" (1977)

 "直近"の出来事では、日航機墜落事故'85年8月)で遺族に頭を下げている日航社長の姿勢が、実はカメラマンを意識したものであったとか、そのほか、グリコ・森永事件'84年)でのCGによる捜査写真の問題点などを扱っていますが、この頃が、CG写真やデジタルカメラ(本書では「電子カメラ」)の草創期だったのだなあ、と事件と共に思い出すとともに、今となっては話題(素材)が古すぎて、昔の新聞を読んでいるみたいな感じも。

豊田商事事件.jpg  本書は"トリック"というテーマには限定せず、ロス疑惑事件の三浦和義"疑惑人"逮捕('85年9月)前後の過熱報道など様々なケースを取り上げていますが、多くの報道陣の目の前で殺人が為された豊田商事事件(永野会長刺殺事件)('85年6月-何だか、事件が続いた時期だった)について、現場に居合わせたカメラマンの、夢中でシャッターだけ切り、急に身の危険を感じて逃げるべきかその場に居るべきか、という考えが一瞬頭の中をよぎったものの、後は冷静さを失い、結局自らはどうすることも出来なかったという証言を載せているのが関心を引きました。

豊田商事・永野会長刺殺事件 (本書より) 1985.6.19 毎日新聞(朝刊)

 これは、カメラマンだからこそ、撮るべきだったか、止(と)めるべきだったか、結局、後で悩むわけで(悲惨な戦争の報道でカメラマンが被写体に対して、撮影するしない以前の問題として何かしてやれなかったのかとよく非難されるパターンと同じ)、最近は一般の人が常に"ケータイ"というカメラを持っており、駅のホームで落下事故や飛び込みがあると、助けるわけでも人を呼びにいくわけでもなく、一斉に"ケータイ"で写真を撮り始めるという―(その写真を早速友人たちに転送している彼らは、後で思い悩むことがあるのだろうか)。

秋葉原通り魔事件 ケータイ.jpg 何だか現代社会の疎外を象徴する殺伐とした「お話」だと思っていたら、秋葉原通り魔事件が今月('08年6月8日)に起き、その際に居合わせた群集の一部が、一斉に"ケータイ"カメラを現場に向けているという光景が見られ、「現実」のこととしておぞましく感じられました。そんな中、ある30代の男性が、倒れた被害者を救助すべく、素手で口に手をこじ入れ気道確保をしたうえで、他の通行人と協力して心臓マッサージや人工呼吸を試み、到着した救急隊に被害者を引き渡したが、この人は写真が趣味で、当日も首からカメラをぶら下げていたにも関わらず、「目の前に倒れている人を救助したい一心」で、事件の写真は1枚も撮らなかった―という記事が読売新聞にあり、多少救われたような気持ちになりました。

カプリコン1.jpg「カプリコン・1」●原題:CAPRICORN ONE●制作年:1977年●制作国:アメリカ/イギリス●監督・脚本・原作:ピーター・ハイアムズ●製作:ポール・N・ラザルス3世●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●出演:エリオット・グールド/ジェームズ・ブローリン/ブレンダ・バッカロ/サム・ウォーターストーン/O・J・シンプソン/ハル・ホルブルック/カレン・ブラック/テリー・サバラス●時間:124分●日本公開:1977/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋文芸坐 (78-12-13) (評価:★★★)●併映「ネットワーク」(シドニー・ルメット)

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