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改正全般へのターゲティングということで言えば、コンパクトに纏まっている。

『図解 退職給付会計はこう変わる』 .JPG図解 退職給付会計はこう変わる1.jpg図解 退職給付会計はこう変わる!』(2013/08 東洋経済新報社)

 「"やや中古"本に光を」シリーズ第5弾(エントリー№2275)。2013年4月以降適用の年金積立不足のBS計上義務づけ新会計基準に対応した入門書であり、日本基準とIFRS(国際税務報告基準)の改正内容を解説するとともに、具体的な対応例を示します。2015年4月現在でも退職給付会計基準は本書の通りであり、"やや中古"本といってもまだ100%現役であるわけですが...。

 退職給付会計の解説書は意外と少ないことに気づきますが、おそらく、改正のたびに改訂しなければならないのに対し、毎回どのレベルから説明していけばよいのか測りかねるというのもあるのではないでしょうか。基本的事項は一通り解っているとの前提でいくならば、大企業においても本当にその基本事項を押さえている人ですらそれほど多くはおらず、「一般書」として出すにしても読者ターゲットが絞られてしまうというのもあるのかもしれません。

退職給付債務の算定方法の選択とインパクト.jpg 以前に、井上 雅彦/江村 弘志著『退職給付債務の算定方法の選択とインパクト』('13年/中央経済社)を取り上げましたが、あちらは2013年改訂伴う退職給付債務の算定方法の選択(「期間定額基準」か「給付算定式基準」か)に絞って解説した参考書であり、一方、本書は、会計基準の今回の改正全般にフォーカスしたものです。その部分にターゲティングしているという点で言えば、本書は非常にコンパクトに纏まっていたように思いました。退職給付会計の基本について1章を割いたうえで、改正のポイントに移り、更に、日本基準とIFRSの相違点を解説し、最後に、会計基準変更の影響と今後の対応を解説しています。

図解 退職給付会計はこう変わる3.JPG この本よりももっと基本事項について遡って解説したもので且つ今回の改定に合わせて改訂されているものもありますが、そうなると結構ページ数が多くなります(井上雅彦著『キーワードでわかる退職給付会計(3訂増補版)』('13年/税務研究会出版局)などがそう)。自分も持っていますが、制度改定のごとに買い換えるのは効率が良くないかも。その点、本書は手頃ではあるかと思います(結局両方買ってしまったが、もっぱらこちらを読んでいる)。

 2012年6月発表の日本の会計基準の改正は、「貸借対照表での即時認識の導入」「退職給付債務の計算方法の変更」「退職給付制度運営に関する開示の充実」でしたが、IFRSの退職給付会計基準も2011年5月に「遅延認識の選択肢の排除(即時認識への統一)」「退職給付に関する費用の要素ごとの分解表示」「退職給付制度運営リスクに関する開示の充実」などの改正が行われていて、但し、日本基準ではこれが連結貸借対照表でしか適用されません。損益計算書においては遅延認識が認められており、貸借対照表も単独企業ベースでは変更なし。となると、「単独」のBSと「連結」のBSが合致しないというおかしなことが必然として生じることを許容しているということになるため、こうした状況が過渡期的なものであることは予想に難くありません。

 IFRSの退職給付会計基準改定に際してのキーワードは「透明性(=わかりやすさ)」。国際基準に簡単に合わせられないわが国独自の事情はあるかと思いますが、この複雑さは何とかして欲しいと思います。

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「期間帰属方法」と「割引率」に的を絞った実務書。テーマがフォーカスされている点で効率がいい。

退職給付債務の算定方法の選択とインパクト.jpg退職給付債務の算定方法の選択とインパクト』(2013/07 中央経済社)

『退職給付債務の算定方法の選択とインパクト』.JPG 2012年5月に、日本における新しい退職給付会計基準が公表され、「貸借対照表での未認識債務の即時認識」「退職給付債務の計算方法の変更」「退職給付制度運営に関する開示の充実」などの改正がなされました。本書は、これらの改正項目のうち、「退職給付債務計算」に関わる項目を取り扱っており、その中でも特に企業財務や実務への影響が大きいと思われる「期間帰属方法の取扱い」と「割引率の見直し」を中心に解説しています。

 このように、解説する対象を「期間帰属方法」と「割引率」という2つのテーマを絞り込んでいるため、この項目に対しての知識的ニーズがある人にとっては、ある意味"効率のいい"解説書となっています。テーマを絞り込んでいる分、簡潔ながらも実務レベルにまで踏み込んで解説されており、数値例や図表を多用して視覚的理解を促すとともに、ケース別のシミュレーションを行うなどして、具体的に実務に供するものとなっています。

 とりわけ、「期間帰属方法の選択」において、「下に凸カーブ」「S字カーブ」など給付カーブのさまざまなパターンを設例し、それぞれのパターンにおいて、「期間定額基準」「給付算定式基準」(均等補正を行わない場合と行う場合)のいずれの期間帰属方法を選択するかによってどのような影響の違いが生じるかを検証し、著者なりに考察して一定の結論を導き出している点は、たいへん丁寧であり、また、分かりやすかったように思います。

 「入門書」的要素もありますが、全体としては、退職給付会計についてある程度の予備知識がある人に向けて、今回の改正に沿って諸々の判断を行う際のポイントを示した「実務書」であると言えます。こうした類の本の中では、比較的手に取りやすく、また、読みやすいものであると思います。

 但し、初学者の場合は、退職給付会計の仕組みや実務全般について書かれた「入門書」を先に読まれることをお勧めします。今回の退職給付会計の改正に伴って、これまで出されていた解説書が改訂されたり、また新たな解説書が刊行されたりしています。

 退職給付会計の実務全般を扱った本にしても、今回の改正点に的を絞って解説した本にしても、それぞれ解説の切り口や項目ごとのウェイトのかけ方が微妙に異なるため、自分の知識的ニーズに合ったものに出会うには、何冊かの本を試読してみる必要があるかもしれません。

 また、企業によっては、「退職給付会計」というテーマ自体が、「理解できる人には理解できるが、理解できない人には理解できない」的なものになっているきらいもあるように思います。

 タイトルに「インパクト」とありますが、実際、退職給付会計基準の変更は企業財務に少なからず影響を及ぼすものであり、人事部門や財務部門が、社内勉強会などの相互研鑽を通して、このテーマに関する知識や問題意識を共有化していくことも、大切なことではないかと考えます。

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「●日経文庫」の インデックッスへ

退職給付会計に関する知識をブラッシュアップする上で、実務に沿った解説がなされている良書。

1退職給付会計の知識 〈第2版〉.png退職給付会計の知識1.jpg 『退職給付会計の知識〈第2版〉(日経文庫)

 日経文庫は、そのラインアップに、ビジネス関係の入門書を多く揃えていることで定評がありますが、それらのタイトルの付け方は、「入門」「知識」「実際」といった具合に、そのレベルや内容によってわかれています。

 本書は、「初めて退職給付会計を学ぶ人を対象に、ケーススタディを多用してわかりやすく解説した入門書」とのですが、コンパクトな新書でありながらも、社会人・企業人向けに単行本として売られている退職給付会計の一般入門書よりは、かなり詳しく解説されています。

 入門書としての要件も満たしていますが、初学者で、本書を読んだだけで退職給付会計の概要を理解し得た読者がいるとすれば、もともと相当の財務的知識なりセンスなりの持ち主であったということではないでしょうか。

 むしろ、ある程度、退職給付会計を学習したり、実務で関わったりしたことのあるビジネスパーソンが、自分の知識を深める(ブラッシュアップする)ために読むのにふさわしい内容でありレベルではないかと思います(だから「入門」ではなく「知識」というタイトルになっているのだともいえる)。

 本書は、2006年に刊行された第1版の改訂版で、それ以降の数年間で退職給付会計に関する幾つかの改正が行われ、また、年金資産の運用環境や、経済環境、企業の経営環境も、金融ビッグバンと言われた2000年代初頭からこの10年間で変化していることから、法改正部分だけでなく、統計や事例も最新情報に改められています。

 退職給付会計の基礎計算は、人事パーソンも知っておいて損はないし、知っておくべきであると思いますが、その他にも、退職給付制度の終了時の扱いや確定拠出年金への移行、総合型年金基金から脱退する際の会計処理、事業再編時の対応など、実務上で発生するケースを想定しての解説がなされています。

 さらには、昇給率、退職率などの基礎率が大きく変動した場合や、超過積立、大量退職などの例外的な局面での対応についても解説されていて、こうした人事マネジメントの問題が絡むケースになると、会計の専門家でもどこまで明確な説明が期待できるか。むしろ、自分で勉強した方が早いというのもありますし、退職給付制度の見直し等において、金融機関と対等に意見交換ができるようになるという強みにも繋がるかと思います。

 退職給付会計は、人事マネジメントの問題と併せて金融ディスクロージャーの問題を内包しているわけですが、国際財務報告基準(IFRS)については、(導入が正式決定されていないためか)本書ではほとんど触れられていません。

 IFRSについては、最近になって入門書が多く刊行されており(「日経文庫ビジュアル」にも『IFRS(国際会計基準)の基本』('10年4月)というのがある)、そちらを読めばいいということなのかもしれませんが、経理・財務的な視点に重きをおいて書かれたものがほとんどであり、人事パーソンにとってはあまり効率のよい参考書がないのが痛いところです。

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税制適格年金廃止を考える中企業向け。自社適合を探る仮想討議の内容が参考になる。

導入モデルでわかる適格年金のやめ方.jpg 『導入モデルでわかる 適格年金のやめ方』 ['08年]

 中小企業の退職金制度改革を、ケーススタディ形式でわかり易く説明したもので、同じく社内討議討を経ての新企業年金への道を事例形式(会話形式)で指し示したものとして『中小企業の退職金・適年制度改革実践マニュアル』(大津章敬 著/'06年/日本法令)がありましたが、これは、適格年金の中小企業退職金共済(中退共)への移行を、コンサルタントの導きにより経営陣が探る、というのが事例の流れでした。

 一方、本書の方は、3つの事例が用意されていて、何れも、現在の制度は「退職金一時金+税制適格年金」であり(退職金一時金は、退職給付制度全体の50%を超えていない)、そうした中で、3社3様に自社適合を模索しながらも(この本のケーススタディで提案をリードしているのは社内の人事部)、確定拠出年金(DC年金)への移行を中心に据えるか、或いは、適格年金の部分には中退共に移行するが、退職金一時金を確定拠出年金(DC年金)に移行するといった、確定拠出年金(DC年金)を入れる方向で、検討が進んでいきます。

 但し、これは前半のケーススタディ部分についてであり、後半の解説部分については、中退共、確定給付型企業年金についても解説されているほか、ケーススタディにおける選択肢や制度のサブシステムとして、確定給付や前払い退職金の話は出てきて、一足飛びに先に示した結論にいくわけでありません。
 この、自社適合を探るための人事部と経営陣や組合との討議内容が、たいへん参考になります。

 出発点が、本書のタイトル通り、「退職金・適年」ということで揃っているので、読者対象が絞り込まれていることになりますが、その分、制度本体の話だけでなく、新会計基準との絡みなど、退職金の制度問題と併せて中小企業が抱えるテーマについても、比較的突っ込んだ解説がされていています(但し、会話形式をとっているので難しくはならない)。

 適格年金を廃止して退職給付債務から解き放たれたい、本当は中退共に移行したいが、会社が一定規模以上であるために要件を満たさず選択できない、といった会社にはピッタリの本であり、確定拠出年金(DC年金)を入れるのであれば、今('09年)読まずしていつ読むのか、といった本でもあります。

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「日本版401k」の入門書。「術」というほど特別なことが書いてあるわけでもなく...。

年金術.jpg 『年金術』 文春新書 〔'03年〕

401k.jpg 「年金術」というタイトルですが、本文全5章のうち4章は日本版401kについて述べられていて、日本版401kについての加入者・受給者(つまり一般の人)の側に立った解説書と言えます。

 先行して導入した企業(主に大企業)の事例や金融機関の動きと運用の中心になりそうな商品、制度のあらまし及び仕組み、先例としてのアメリカの401kの歴史と現在の姿、日本版401kの今後のゆくえなどが解説されていて、本書刊行当時('03年)としては、まとまった入門書として読めたかも知れません。

 ただし、著者はジャーナリストということですが、日本版401kをあまりに肯定的に捉えるその姿勢には、同じ新書で『投資信託を買う前に』('00年)という前著もあるように、銀行系の金融コンサルタントのような色合いを強く感じます。

 と言って、タイトルに「術」と付けるほどの特別なことが書いてあるわけでもなく、前著もそうでしたが、読んでも概説的な知識が得られるだけで、具体的にどうすれば良いのかはあまり見えてきません。
 1章だけ公的年金についての問題点や改革の方向性について触れていますが、それらについても一般的な概説の域を出ていないように思えます。

 「日本版401k」という言葉も、現在では「確定拠出年金」と言った方が良いだろうし、加入者の一部についての拠出限度額や確定給付年金からの移換限度額など、すでに細部においては法律が改定されている部分もあり、こうした本をタイムリーであるというだけで新書として出版するのはどんなものだろうかという気がしました(著者にとっては大いに"箔付け"になるかもしれないが)。

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各種企業年金を法律的な観点から横断的に解説。わかりやすく、しっかりした内容。

企業年金の法と政策.jpg 『企業年金の法と政策』 (2003/03 有斐閣) 森戸 英幸.jpg 森戸 英幸 氏 (上智大学教授)

 2003年に刊行された本書は、適格年金、厚生年金基金、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金を中心に、それら企業年金と呼ばれるものを法律的な観点から横断的に解説したもので、中退共、特退共、年金財形、内部留保型退職金(退職一時金)を含め、各制度の仕組みや税制についてわかりやすく解説されているほか、各企業年金の掛金や積立、運用はどうなっているか、加入や受給に関する不利益変更はどのように扱われるかなどが、簡潔かつ丁寧に纏められています。

 例えば、退職事由による給付格差を設けることの可否といったテーマについても、内部留保型、中退共、特退共、適格年金、厚生年金基金、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金、年金財形の8種について順番に解説しており、振り返ってみれば、こうした横断的な纏め方をした本はこれまであまりなかったなあ、とその分かりやすい手法に感心させられます。

 著者の狙いもまさにその手法にあるようで、加えて、アメリカ法における401kプランなどの受給権の扱いなどにもよく触れられていて(わが国における新企業年金の制度的未熟さも浮き彫りにしているようにも思えた)、先の退職事由による給付格差の解説でも「バッド・ボーイ条項」といったわかりやすい用語を援用しているのが心憎いです。

 著者は労働法の権威である菅野和夫・東大教授の愛弟子で、本書の中で解説されている企業年金の不利益変更や支払確保の問題は"専門中の専門"ということになるのでしょうが、一方、企業年金の再編や監督・情報開示の問題については、実務的観点から述べられていて、ただし「マニュアル本」を志向するのではなく、専門書と一般書の間に位置する網羅的かつそれなりに突っ込んだ解説書となっています。

 一言で言えば、わかりやすく、しっかりした内容で、法学者が書いたものとしては柔らかいコラム的なページもありますが、それも息抜きにはちょうどいい感じ。
 生保会社で長く年金業務に携わった経験のあるベテランに薦められて読みましたが、さすがプロは、入門書の良し悪しにも目が利くものだと感心。

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適年から中退共への移行を解説。事業主にも読みやすいが、プレゼン形式での進行は、コンサルする立場からも参考に。

中小企業の退職金・適年制度改革実践マニュアル~2.JPG中小企業の退職金・適年制度改革実践マニュアル.jpg 『中小企業の退職金・適年制度改革実践マニュアル』 (2005/09 日本法令)

 本書では、「服部印刷」という仮想の中小企業を舞台に、コンサルタント(社会保険労務士)と社長や経営幹部らとの会話形式で、退職金制度の現状把握から新制度の設計、適格退職金制度の「中小企業退職金共済」(中退共)への移行までの一連の流れを、それぞれの段階での検討ポイントを示しながら、わかりやすく解説しています。

 移行制度の検討に際しては、最初から「中退共」と決め打ちするではなく、退職金制度自体の廃止(退職金前払制度)、規約型の確定給付年金、確定拠出年金(本書では、中退共も確定給付年金の一種であるとしています)なども選択肢として視野に入れながら、それぞれの長所・短所を説明し、経営者の意向を確認しつつ、話が進んでいきます(臨場感ある!)。

 極めて実務的な観点で書かれていて、例えば「服部印刷」では最終的に中退共で行こうということになりますが、中退共の欠点として、懲戒解雇された社員にも支払われるというものがあり、そうした問題に対する会社としての現実対応まで踏み込んで書かれています。

 付録として退職金診断ができるCD-ROMが付いていて、中退共とポイント制退職金制度の設計シミュレーションができるようになっていますが、そのため、中退共を検討している企業だけでなく、退職金制度を給与比例制からポイント制に改めたいと考えている企業にとっても使える本になっていると思います。

 事業主が読んでも読みやすいものだと思いますが、経営陣に対するプレゼンテーション形式で説明が進行して行くので、コンサルをやる立場からも参考になる部分は多いように思いました。

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初版来の充実した内容で、移行手続き、経過措置などを解説。価格をやや上げ過ぎ?

総解説・新企業年金.jpg 『総解説 新企業年金―制度選択と移行の実際』 (2005/04 日本経済新聞社)

 '02年刊行の『総解説・新企業年金-制度選択と移行の実際』の第2版。編者は旧厚生省の年金数理局長で、新企業年金の法制定に携わった現役官僚や信託銀行の年金数理部出身者らとの共同執筆になっていて(皆さん、数学系出身なのですね)、内容はハイレベルですが、"学者本"ではなく"実務書"です。

 給付建て企業年金を中心に、各企業年金制度の内容とメリット・デメリットの比較、年金制度の移行に際してはどのような手続きが必要かを、経過措置も含めて詳しく解説して、且つわかりやすく、良書だと思います。

 初版刊行時は、上場企業などが新会計基準移行を直前に控えた頃で、基金の代行返上が相次ぎましたが、「退職給付に関する新会計基準」の章では、退職給付会計の考え方だけなく、代行部分の取扱いに関する問題点まで踏み込んで書いてあったりし、また、政令や通達についても網羅されていて、企業内の実務担当者には好評を博したようです。

 今回はそれを受けての改訂ともとれますが、代行返上に必要な手続、退職給付会計の改正内容や、確定給付企業年金法における金融機関の受託者責任などの法改正部分がしっかり織り込まれて解説されています。

 全8章から2章増えて10章になりましたが、これは初版第2章の「各給付建て企業年金制度の変更点」を、「厚生年金基金」「キャッシュバランス型年金」「確定拠出年金制度・中小企業退職金共済制度・適格退職年金制度・退職一時金制度」の3つに割ったためで、確かにこの方がわかりやすい。

 初版来「公的年金制度」と「世界の年金制度」に各1章を割いていて、網羅的といえば網羅的ですが、それ以外の部分がそのことで内容が薄まることはなく、肝心な点は詳説されていて、価格も手頃であったため気になりませんでした。
 第2版は、ページ数が1割増えただけの割には(404p→440p)価格が上がり過ぎ(2,400円→3,360円)のような気が...(初版の価格設定が安すぎた?)。

《読書MEMO》
●章立て
序章 企業年金改革の背景と課題
第1章 確定給付企業年金法の概要
 1 制度の枠組み
 2 受給権保護
 3 税制措置
 4 資産運用
第2章 厚生年金基金制度
 1 制度創設の経緯
 2 新しい代行制度
 3 適用範囲と加入員資格
 4 給付の内容と支給要件
 5 財政運営  他
第3章 新しいタイプの給付建て年金
 1 キャッシュバランス型年金(CB型年金)
 2 キャッシュバランス類似制度
第4章 確定拠出年金制度等
 1 確定拠出年金制度
 2 中小企業退職金共済制度
 3 適格退職年金制度
 4 退職一時金制度
第5章 各企業年金制度の比較と制度間移行
 1 各年金制度の比較
 2 移行等の全体像
 3 制度の切り替え――その1:給付建て制度間の移行等
 4 制度の切り替え――その2:給付建て制度から確定拠出年金への移行
 5 離転職への対応――ポータビリティ  他
第6章 企業年金制度の選択
 1 企業からみた選択
 2 従業員にとっての選択
第7章 公的年金制度の状況
 1 公的年金制度の構造
 2 国民年金(基礎年金)
 3 厚生年金
 4 公的年金の財政と保険料負担の見通し
 5 公的年金積立金の運用
第8章 退職給付に関する会計基準
 1 退職給付会計導入の背景
 2 退職給付会計の考え方
 3 情報開示(注記)
 4 諸外国の会計基準との比較
 5 新企業年金制度導入に伴う退職給付会計基準の改定  他
第9章 世界の年金制度の動向
 1 英国 2 米国 3 ドイツ 4 スウェーデン
第10章 年金制度の将来
 1 公的年金制度の将来 2 企業年金の将来
最後に 近年の年金改革論議について
年金関連年表

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加入後のサポートも大事。企業の担当者レベルでも一定の知識を備えておく必要が。

Q&A 確定拠出年金ハンドブック~1.JPG確定拠出年金ハンドブック .jpg 『Q&A 確定拠出年金ハンドブック』 (2005/05 セルバ出版)

 ファイナンシャル・プランナーによって書かれた本書は、基本的には確定拠出年金(日本版401k)の加入者のための入門指南書で、制度加入後の資産運用に際しての経済環境の見方や運用方法などについてとりわけ詳しく書かれています。

 ただし、確定拠出年金の導入背景やその概要、退職一時金・税制適格年金、厚生年金基金等との違いや制度移行に際しての留意点などについても詳しく、且つわかりやすく纏められており、また「個人型」と同じ比重で「企業型」についても説明されているので、企業の人事・労務担当者など、導入を検討したり導入後の教育を企画・実施する側の人にとっても、基礎知識を身につけ、チェックポイントを整理する上での手引書として使えるのではないかと思いました。

 140項目余りからから成るQ&A方式で、一般読者サイドに立っている上に図表が多く使用されているため理解やすい内容ですが、それによって情報量が少なくなるということはなく、やや詰め込み過ぎ(?)のきらいもあるくらいギュッと詰まった内容で、一般書としてこれぐらいのレベルのものが入手できるのは有り難いことです。

 確定拠出年金を企業として導入する場合は、制度加入時の金融商品選択などの教育も重要ですが、運用教育はその時に限られるものではなく、運用中の加入者へのサポートも大事です。
 金融機関やファイナンシャル・プランナーアウトソーシングするしても、企業の担当者レベルでも、日常寄せられる社員からの基本的な質問には答えられるようにしておきたいものだと思います。

【2011年改訂版】

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退職金制度改革は、金融機関でなくその会社主導で進めるべきという考えに基づく実務書。

退職金規程と積立制度.jpg 『退職金規程と積立制度―税制適格退職年金制度廃止!中小企業に最適 確定給付から確定拠出へ制度改革12の行程』 (2005/01 経営書院)

 税制適格年金制度の廃止など退職金・企業年金制度が大きな転換期にある中小企業が「人事」と「財務」の両側面に留意しながら、どのような行程を経て退職金制度改革を進めていけば良いのかを、あくまで中小企業の立場に立って提案しています。
 一般にはどの制度に移行するかに関心が集まりがちですが、本書ではそれだけでなく、それ以前の、「適年」の積立金をどう処理していけば良いかという問題について特に丁寧に書かれていると思います。

 「退職金規程」と「積立制度」のパターンや意義、原資積立てや給付の仕組みを充分解説したうえで、具体的に「適年」を他の制度に移行させる手法を示していますが、可能性として考えられるものを網羅的にカバーしながらも、主たる提案としては、確定拠出(日本版401k)へ制度移行を推奨しています。

 ただしその前に、実際に「定額方式」「給与比例方式」の規程例をもとにその違いを解説したうえで、「既得権」等、保証額の決め方や制度廃止の場合の分配方式などを詳説しており、こうして見ると「給与比例方式」の場合の保証額の決め方がとりわけ難しく、特に自己都合退職と定年退職で、退職事由係数の格差が大きいような場合においてそのことを感じます。

 複雑な制度問題を扱った「実務書」ですが、事業主にもわかりやすい言葉で書かれて、まず自社の企業年金制度がどういった性格のものであるかを主体的に理解することが大事であることがわかります。
 そのうえで、不利益変更問題や制度廃止の場合の分配金の課税問題などもカバーしているため、退職金・企業年金制度の概要把握の助けとなるだけでなく、改革の方向性を検討する段階での留意点のチェック用としても使えると思います。

 年金財政の「収支報告書」の読み方などが解説されていることなどもその表れですが、退職金制度改革は金融機関主導ではなく企業がリードしながら進めていくべきであるという著者の考え方に符合する執筆内容であり、共感と信頼を覚えました。

 【2008年第2版】

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あおり気味のタイトルだが、しっかりした内容の入門書。

会社の年金.jpg会社の年金が危ない-厚生年金基金・適格退職年金はこうして減らされるそして会社は行き詰まる』 
 やや煽り気味のタイトルですが、内容はしっかりしているように思えます。
 一般向けにわかりやすく書かれた入門書ですが、企業年金業務に携わる新任の実務家や管理職が読んでも有益な内容ではないかと思いました。

 従来型の厚生年金基金や税制適格年金は、加入者側からみれば(退職給付を年金で受給中の人も同様ですが)「給付減」となる可能性が大きく、また企業側から見れば、「掛金の引き上げ」は避けて通れない、あるいはその必要に迫られる可能性が高いという著者の前提は、ここ何年かの企業年金の財政状況を見ればけっして大袈裟なものではないでしょう。

 単年度では株式市況の回復などで年金資産の今まであった評価損を大幅に圧縮したというような話があるにしても、それは今までの負債を軽減したということであり、また少しでも利回りが悪化すれば、企業は再び退職給付債務の償却に追われることになる...。
 
 著者は、どうしてこうした事態になったかを"憤りを込めて"解説するとともに、一般に想定される給付減額の方法について、それがどのようにして実施されるのかを、年金を受け取る側の視点から"冷静に"解説していてます。  
 
 その冷静さはとりもなおさず、著者が、現実に従業員と向き合って対応しなければならない企業側の立場もわかって書いているということによるもので、この辺りのバランスの良さと実務的な観点が(社員側から見れば、「どっちの味方なのか」という感情論的な反発はあるかも知れませんが)、経済評論家などによって書かれた類書とは異なるところではないでしょうか(著者は公認会計士です)。

●新しい退職給付会計基準によって会社が経理処理している場合、掛金の引上げが会社の損益に影響を与えることは原則としてない。税金の計算にあたっては、掛金は損金に算入されるので節税効果がある(法人税・住民税・事業税あわせて約40%)
●適格退職年金では受給者の給付減額を実施するための手続きについての明文規定が無い。そのため、国税当局に事前にネゴし、全員から同意書をとる。確定給付年金では加入者の2/3以上の同意があればよい。

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退確定給付企業年金の理解に重宝する的を絞った1冊。

1確定給付企業年金のすべて.png確定給付.jpg 『確定給付企業年金のすべて』['02年/東洋経済新報社]

 既存の税制適格年金・厚生年金基金から新企業年金等への移行動向は、大雑把に言えば、大企業が確定拠出年金(日本版401k)、中企業が確定給付企業年金、小企業が中小企業退職金共済制度といったところではないでしょうか。

 この中で、大企業の日本版401k導入などは新聞等でも報じられ耳に入りやすいのですが、確定給付企業年金についての一般情報はやや不足気味で、関連の書籍も少ないので、その確定給付企業年金に絞った1冊となっている本書は重宝するかと思います。

 とりわけ、制度移行や企業合併の際の措置や手続き、制度間の関係(日本版401k〔確定拠出年金〕、前払い制度等との併設など)について、詳しくわかりやすく説明されています。 

 本書を読んで改めて認識を深めたことは、税制適格年金などが従業員の全員加入を原則としているのに対し、確定給付企業年金は確定拠出年金(日本版401k)などとの制度併存が可能であるため、従業員に選択可能な制度構築も可能であるということです。

 日本版401k(確定拠出年金)は自社にそぐわないが個々にはそれを望む従業員もいるかも知れず、と言って現在の適格年金には当面は手の着け様がなく、一方で中退共は加入要件を満たさない、とういうような困難なジレンマに陥っている企業の担当者には、特にお薦めの本です。

《読書MEMO》
●確定拠出年金(企業型)は、前払い、確定給付との選択が認められている
 =加入者となることを希望する者のみを加入者とすることが可(16p)
●確定給付は50歳で辞めたら即、年金受給が可能だが、49歳で辞めたら60歳まで「年金の」支給はされない(22p)
●適年から確定給付への移行は、移行前から加入者については、退職一時金の支給要件のままでいくことができる(但し、制度管理が二重になる問題)

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退職金問題に悩む事業主向けにわかりやすく書かれている。

図解 小さな会社の退職金の払い方.jpg 『図解 小さな会社の退職金の払い方』  (2001/11 東洋経済新報社)

 税制適格年金、厚生年金基金の問題点や、確定拠出年金、確定給付企業年金、中退共のメリット、デメリットがわかりやすくまとめられています。
 いずれについても実務に踏みこんで書かれており、60歳以降の継続雇用や同族会社役員の退職金のあり方についても触れています。

 中小・零細企業向けには中退共を推奨していますが、手放しの評価ではなく、いい加減な辞め方をした社員や顧客を奪って辞めた社員に対しても支払われるなどのデメリットもきちんと説明しています。
 「退職金前払い制度」や確定拠出年金は中小企業に馴染まないとする著者自身の考えもしっかりと、その理由とともに述べられています。この点が一番参考になりました。

 あくまでも著者の考え方であり、また中小零細企業のすべてに著者の主張があてはまるかというと、業態や社員構成、企業風土などによって異なるかと思います。
 その点は著者も「この制度が一番いい」というような書き方はしていません。
 ですからこの本を読めばすべてが解決するというわけではありませんが、退職金問題に悩む事業主にはお薦めです。

《読書MEMO》
●前払い制度を導入して、退職金を廃止したらどうなる?→中小企業にとって退職金は老後資金とは限らず、手切れ金としの役割も→人員整理が困難に(32p)
●中退共のデメリット→問題のある辞め方をした社員にも直接払われてしまう(懲戒解雇したときは減額や不支給も可能だが、その分の積立金は戻らない(69p)
●適格年金制度の優れているところは自己都合係数を自由に設定可能(77p)
●確定拠出(401k)は中小企業に馴染まない面も(102p)
 ・1.入社間もない社員の退職金を減らせない
 ・2.突然辞めたり、ライバル企業に行く人の退職金を減らせない
 ・3.原則として60歳にならないと給付が行われないのは問題
 ・4.積立金の運用方法が選択できるとしても、そんなノウハウがない

 ★それでも規約型企業年金制度よりはいいのではないか
●退職金制度を減額変更する場合は、代替措置として他の面での労働条件の向上が必要→「定年後の継続雇用」がいい

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退職給付会計の仕組み、小企業向けの簡便法などがよくわかる!

図解 ひとめでわかる退職給付会計.gif  『図解 ひとめでわかる退職給付会計』 ['00年/東洋経済新報社] 2時間でわかる図解 退職給付会計早わかり.jpg2時間でわかる図解 退職給付会計早わかり (2時間でわかる図解シリーズ)』 ['00年/中経出版]

 新会計基準の主な柱の1つである「退職給付会計」は、経理・財務担当者にもよくわからないという人が多いようですが、それは、今まで企業年金会計が会社のバランスシートにおいてオフバランスであり、財務諸表作成において考慮する必要がなかったのと、個人としても自社の企業年金制度の仕組みに関心があまり無かったり、ゆえによく知らなかったりするためだと思います。 

 中小企業などでは、企業年金の運用管理は人事・総務部門の所轄になっていることが多いようですが、人事・総務部門の担当者側からすると、今度は会計のことがよくわからなかったりする...。 
 しかし、企業にとって「退職給付会計」が大きな経営問題である以上、「主体的な判断」をするための最低限の知識は企業内部に蓄積・共有されるべきです。
 この問題に対して金融機関やコンサルタントなどの外部者は、サゼッションすることはあっても指示はできないのですから。  
 
 自分自身、退職給付会計を理解する上で類書も何冊か読みましたが、本書が最もわかりやすかったです!
 PBO(退職給付債務)の概念、バランスシートなどへの影響、会計基準変更時差異と遅延認識、退職給付信託などのポイントが、図解と併せてよく理解できます。
 とりわけ、年金数理計算の仕組みについての説明部分は、説明資料を作る際にエクセルで本書と同じものを作ってみましたが、PBOの概念を理解する上で大きな助けになりました。

 発行されて少し時間のたっている本ですが、小企業などこれから新会計基準(退職給付会計)に移行するところにとっては、小企業向けの「簡便法」の説明も、会社退職金、企業年金にわけてわかりやすく書かれていて、参考になるかと思います。

 本書以外では、『時間でわかる図解 退職給付会計早わかり』('00年/中経出版)がわかり易かったです。
 「2時間で」というのは少し無理がありますが、3日ぐらいかけて少しずつ読めば、概要はかなりつかめるかなという感じ。
 「簡便法」のところなどは、前著と併せ読むと、より理解し易いかも知れません。
 ただ、縦書きであることが、そうした計算式の出てくるようなところでは、ややツライかも。

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