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会社を辞めるのに慎重になり過ぎるのもどうかと思うが、その辺りの見極めを説いた本か。

50歳からの逆転キャリア戦略.jpg 『50歳からの逆転キャリア戦略 「定年=リタイア」ではない時代の一番いい働き方、辞め方 (PHPビジネス新書) 』['19年]

 「会社員人生もいよいよ最終コーナー」と思いきや、「定年後も働き続ける人生100年時代」と言われガックリといったミドルも少なくからずいると思われる一方、これは見方を変えれば、「本当にやりたい仕事に挑戦する時間ができた」とも言えるとし、では、充実したセカンドキャリアのためには何が必要で、会社員のうちにやっておくべきことは何か、そのポイントを説いた本です。

 第1章では、もしいま早期退職したらどうなるか分からない(=危うい)「まだ辞めてはいけない人たち」とはどのような人かを挙げ、第2章では、人生後半戦のキャリアの考え方を「お金、肩書き」から「働きがい」へ転換することを説いています。第3章では、会社は「学び直しの機会」に溢れていて、辞める前に出来ることはまだ多くあるとしてそれらを列挙し、第4章では、 50歳からの働き方を変える「7つの質問」を通して、著者の" 七転八倒体験"から人生後半戦の働き方を考え、最後に、「人生後半戦の使命を考えるキャリアプランニングシート」など3つのワーク素材を付しています。

 各章とも列挙型で分かりやすく纏まっていて、個人的には第1章、第3章、第4章がすんなり腑に落ちた印象です。特に、第1章の「まだ辞めてはいけない人たち」については納得度が高かったですが、慎重になりすぎるのもどうかなと。第4章の「50歳からの働き方を変える「7つの質問」」も、著者は自身の経験に照らして照らしてとのことですが、一般論として参考になるように思われました。第1章、第4章の各項は以下の通り。

■第1章 まだ辞めてはいけない人たち
 【1】やりたいことがない人―転職の条件が年収しか言えない人は危険
 【2】変化に対応できない人―自分の専門以外に関心を持とうとしない人は危険
 【3】根拠なく楽観する人―リサーチ不足の「なんとかなるさ」は危険
 【4】自分を客観視できない人―「上司が評価してくれないから辞める」は危険
 【5】経営の視点や知識に欠ける人―会社経営を甘く考えている人の独立・転職は危険
 【6】自分のことしか考えていない人―周囲に貢献する意識に欠けているミドルは危険
 【7】社名や肩書きにこだわる人―昭和・平成型のプライドを捨てられないミドルは危険

■第4章 50歳からの働き方を変える「7つの質問」
 Q1 自分の人生があと1年だとしたら、何をやりたいですか?
 Q2 なぜ、その「やりたいこと」に挑戦しないのですか?
 Q3 やりたいことができない本当の理由は何ですか?
 Q4 名刺がなくても付き合える社外の知人は何人いますか?
 Q5 会社の外でも通用する「自分の強み」は何ですか?
 Q6 その強みを磨き、不動のものにするためには何が必要ですか?
 Q7 今のうちに何から始めますか?
 
 いつか自分のやりたいことをやってみたいと思いつつも、いつ会社を辞めるかというのは難しい問題だと思います。本書は、準備ができていないうちに辞めることの危うさを説いた本とも言えますが、意外と、すぐにでも独立できるような人が慎重になって定年まで(場合によっては再雇用されても)会社にとどまっているというのが、平成不況以降続いている傾向ではないかと、個人的には感じています。

 自分に辞める準備ができているかセルフチェックするにはいい本だと思いますが、あまりに慎重になり過ぎるのもどうかと思いました(誰でも慎重にはなると思うが)。まあ、その辺りの見極めを説いた本だと思います。実際、辞める準備ができていないのに辞めて失敗している人もいれば、辞める準備ができないまま定年再雇用期間も終わってしまい、結局、今いる会社がラストキャリアになる人もいて、そうした人が途中で辞めていればやっぱり上手くいかなかったかもしれず、うかつに他人に対してこうした方がいいああした方がいいとは言えない、本当に難しい問題だと思います。

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組織論になっていない。啓発書としては尤もなことばかりだが、目新しさに欠ける。

すべての組織は変えられる.jpgすべての組織は変えられる (PHPビジネス新書)』['15年]

 Amazon.comでのレビュー評価が比較的高かったのでつい買ってしまいましたが、買ってから「リンクアンドモチベーション」の執行役員の人が書いたものだということに気づきました(まさか、帯に推薦文を書いている人の会社に勤務している人の本であろうとは)。ただ、"推薦人"である人の本は書店で立ち読みしたことしかなかったので、まあこれを機会に読んでみるのもいいかと...。

 書かれていることは、啓発的で尤もなことばかりですが、タイトルからするに、著者自身は「組織論」のつもりで書いていると思われるものの、実際に組織全体の施策を説いている部分は終章の数ページだけではなかったでしょうか。

 例えば、「陰口や悪口がなくなるだけで組織は激変する」とありますが、これって「組織論」とは言えないのでは。「気まずいメンバーこそ、呑みに誘え」とか、リーダー論、部下コミュニケーション論だなあと。"メソッド"と言うほどのものでもなく、殆どこれまで幾多もあった自己啓発書の世界と変わらないと言っていいかも。内容的に目新しさはありませんでした。

 紹介されているマズローの欲求階層説などは、モチベーション理論でしょう。また、モチベーションの高さは「目標の魅力」×「達成可能性」×「危機感」で決まるとしていますが、これって、ビクター・ブルーム(V.Vroom)の、モチベーションの高さは「対象の魅力度」×「達成への直結度」×「実現可能性」で決まるとした「期待理論」を自社流にアレンジしたものでしょう。こうした亜流の理論から入るよりも、本来の「期待理論」を押さえておいた方が読者にとっては良いように思うのですが、どうでしょうか。著作権の無いことをいいことに、既存理論の一部を改変して、あたかも完全に自社オリジナルの理論のように見せるやり方というのは(多くのコンサルティング会社がやっていることだが)好きになれません。

 「リンクアンドモチベーション」系の本と言っていい? Amazon.comレビューの高評価から見て、嵌る人は嵌るのだろなあ。個人的には、組織論にもなっていないし、目新しさにも欠け、読んでもあまり得られるものはないように思いましたが、一定の「固定客」がいるのでしょう。

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目新しいことが書かれているわけではないが、再啓発される部分はあった。

フィードバック入門es.jpgフィードバック入門5.JPGフィードバック入門.jpgフィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術 (PHPビジネス新書)』['17年]

 本書では、上司から部下へのフィードバックについて、フィードバックは「成果のあがらない部下に、耳の痛いことを伝えて仕事を立て直す」部下指導の技術であるとし、コーチングとティーチングのノウハウを両方含んだ、まったく新しい部下育成法であると捉えています。

 第1章「なぜ、あなたの部下は育ってくれないのか?」では、マネジャーが置かれている部下育成が困難な現況を分析し、フィードバックこそ最強の部下育成方法であり、フィードバックは、【情報通知】(ティーチング的)=たとえ耳の痛いことであっても、情報や結果を通知すること(現状を把握し、向き合うことを支援)と【立て直し】(コーチング的)=部下が自己の業績や行動を振り返り、行動計画をたてる支援を行うこと(振り返りと、アクションプランづくりの支援)から成るとしています。

 第2章「部下育成を支える基礎理論 フィードバックの技術 基本編」では、部下育成の基礎理論として「経験軸」と「ピープル軸」を掲げ、「経験軸」の考え方は、部下に適切な業務経験を与え、ストレッチゾーン(挑戦空間)を促すことであり、「ピープル軸」の考え方は、「業務支援」「内省支援」「精神支援」による面の育成であるとしています。そして、フィードバックとの関係では、【情報通知】=経験軸+ピープル軸「業務支援」、【立て直し】=ピープル軸「内省支援」+「精神支援」となるとし、耳の痛いことを伝えて耐え直すフィードバックの技術を、フィードバックのプロセス順に解説しています。

 第3章「フィードバックの技術 実践編」では、「あなたは、相手としっかりと向き合っているか?」「あなたは、ロジカルに事実を通知できているか?」などフィードバックの実践における5つのチェックポイントと、フィードバック前には必ず「脳内予行演習」すること、フィードバックの内容も記録することなど、フィードバックの8つのTips(コツ)を示しています。

 第4章「タイプ&シチュエーション別フィードバックQ&A」では、すぐに激昂してしまう「逆ギレ」タイプや何を言っても黙り込む「お地蔵さん」タイプ、から目線で返される「逆フィードバック」タイプなど、部下のタイプ&フィードバックのシチュエーション別に、上司がそれらにどのように対処すべきかを、Q&A形式で解説しています。

 第5章「マネジャー自身も成長する! 自己フィードバック・トレーニング」では、フィードバック力をつける2つのポイントとして、自分自身のフィードバックを客観的に観察することと、自分自身もフィードバックされる機会を持つことを挙げ、フィードバック力をつけるトレーニング方法や自分自身をフィードバックし続けるコツを紹介しています。

 前半部分はややコンセプチュアルですが(米国のビジネス書によく見られるタイプか)、後半になればなるほどマニュアル的になり、実践を意識した入門書になっています。全体としては、フィードバックの考え方やチェックポイントを、著者なりにその研究の成果に基づいてまとめたものであると言えます。ものすごく目新しいことが書かれているわけではないけれども、一つのコンセプトのもとに体系的に整理されていることによって、改めて啓発される箇所はそれなりにあったという印象です。中には分かっていてもそれを実践するのがなかなか難しいのだと言いたくなるような箇所もあるかもしれませんが、それが習得できればそれなりに役立ち、十分に効果的であると思われます。そうした意味では、自己啓発のつもりで読んでみるのもいいのではないかと思います。

《読書MEMO》
●フィードバックのプロセス(第2章)
・事前......SBI情報の収集⇒「1to1」を中心に
・フィードバック
①信頼感の確保
②事実通知」鏡のように情報を通知する
③問題行動の腹落とし:対話を通して現状と目標のギャップを意識化させる
④振り返り支援:振り返りによる真因探究、未来の行動計画づくり
⑤期待通知:自己効力感を高めて、コミットさせる
・事後......フォローアップ
●フィードバックの実践 5つのチェックポイント(第3章)
1.あなたは、相手としっかりと向き合っているか?
2.あなたは、ロジカルに事実を通知できているか?
3.あなたは、部下の反応を見ることができているか?
4.あなたは、部下の立て直しをサポートできているか?
5.あなたは、再発予防策をたてているか?
●フィードバックにまつわる8つのTips(コツ)(第3章)
Tips①:フィードバック前には必ず「脳内予行演習」
Tips②:フィードバックの内容も記録する
Tips③:耳の痛いことを言った後で無駄に褒めない
Tips④:フィードバックは「即時」と「移行期」にこそ行う
Tips⑤:フィードバックの沈黙時には時空間を変える
Tips⑥:フィードバックの強烈なストレスと向き合う方法
Tips⑦:「嫌われるもの仕方がない」という覚悟を持とう
Tips⑧:どうしてもフィードバックが難しいときもある
●タイプ&状況別フィードバックQ&A(第4章)
・すぐに激昂してしまう「逆ギレ」タイプ
 ⇒こちらから具体的に改善策を聞く
・何を言っても黙り込む「お地蔵さん」タイプ
 ⇒こちらも負けじと黙り込む
・上から目線で返される「逆フィードバック」タイプ
 ⇒「もし君が上司だったら~」と仮定法で意見を求める
・言い訳ばかりしてくる「とは言いますけれどね」タイプ
 ⇒どんどんしゃべらせて、矛盾を炙り出す
・「根拠なきポジティブ」タイプ/すぐに「大丈夫です!」タイプ
 ⇒なんとかなると思う理由を具体的に聞く
・別の話題にすり替える「現実逃避」タイプ
 ⇒根気よく話を元に戻して、何度でも同じことを述べる
・上司のお前が間違っている! 「思い込み」タイプ
 ⇒部下の日頃の行動を元に具合的に指摘する
・なんでも他人のせいにする「傍観者」タイプ
 ⇒「傍観者に見えるよ」とそのまま指摘する
・都合よく解釈する「まるめとっちゃう」タイプ
 ⇒「私の言いたいことはそうではない」とはっきり言う
・お膳立てしても挑戦しない「ノーリスク」タイプ
 ⇒「挑戦しなくてもいいけど、現状維持はできないよ。このままだとこうなるよ」と伝える
・昔取った杵柄を振りかざす「元○○の神様」タイプ
 ⇒「立場上、私はこう言わざるを得ないのですが」と前置きしてから、素直に述べる
・前評判と働きが違う「他では優秀」タイプ
 ⇒「郷に入れば郷に従え」とはっきり伝える
●フィードバック力をつけるトレーニング方法(第5章)
・模擬フィードバック......自分おフィードバックの観察
・アシミレーション......部下による上司へのフィードバック方法
・社外でのフィードバック......社内の人間関係では得られないスパイシーなフィードバックを受ける
●自分自身をフィードバックし続けるコツ(第5章)
・ピーターの法則......「人は無能になるまで出世する」
・「緊張屋」と「安心屋」
  「緊張屋」......厳しいフィードバックをしてくれる人
  「安心屋」......精神的支援をしてくれる人
   ⇒両者のバランスが大切

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"現代若手社員像"分析は体系的に整理されている。施策提言部分も、啓発的ではあるが...。

なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか?7.JPGなぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか?.jpg
なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか? 職場での成長を放棄する若者たち (PHPビジネス新書 376)』['17年]

 本書の構成は、第1章から第3章までがタイトルに沿った若手社員の現状およびその背景の分析、並びにその要因となる課題の抽出であり、第4章がマネジャーによる課題解決の方向性と施策、第5章が若手自身による課題解決の方向性と施策となっています。

 第1章では、現代の若手社員は職場においてどのような状況なのか現状分析し、その行動特性や思考特性として、まじめで優秀、自己実現志向、社会志向を持ち、自分の時間を大切にし、フラットなヨコのネットワークを駆使する自己充実型の若手社員―こんなに意識と意欲の高い、前向きさを持っている人たちが、一方では、報告や相談ができず、個性や欲求がなく、打たれ弱く、リスク回避志向が高く、待ちの姿勢であるとも指摘されるとしています。

 第2章では、現代の若手社員がそのような行動特性や思考特性を持つようになった背景を、彼らが生きてきた社会状況、教育現場の環境などの変化に着目して分析し、その節目は1991年と2004年にあって、今の若手社員は、詰め込み教育によって高度なインプット能力を携えた"91年前"世代とも、キャリアアップ志向を携えた"04年前"世代とも異なる存在であり、今の会社での仕事を生き生きとしている、という状況ではないとしています。

 第3章では、若手の成長を阻み、彼らが会社で生き生きと仕事できないでいる要因として、業務の高度化や細分化などがもたらした仕事上の「タスク完結性」「自律性」「フィードバック」の低さが、彼らに仕事に対する違和感を抱かせ、モチベーションを下げていて、若手社員はいま「成長の危機」にあるとしています。

 第4章では、従来のOJTなどによる経験学習モデルが、さまざまな環境の変化によって機能しなくなり、そうした「環境適応性」の揺らぎが経験学習を阻んでいるとしたうえで、こうした状況に対してのマネジャーの処方箋として、環境適応性を引き出す「問いかけ」が効果的であるとしています。具合的には、彼・彼女はどのようにしてこの会社と出会い、どのような好感を持ち、どのようなことができると思い入社したのか、その時の彼・彼女の経験、気づき、思いを聞き出す「キャリアインタビュー」を行うことなどを提唱しています。

 第5章では、若手社員自身がどのような行動をとることで状況を打開できるか、周囲にどのような働きかけをすればよいかを説いています。まず、「天職探し」という考えを捨て、とにかく行動すること、「外に出る」「仲間を得る」「視野を拡大する」「目の前の仕事に対して事を起こす」という4つのポイントに沿って、社外での学習機会を活用したり、ボランティア活動によって当事者意識を育んだりすることなどを推奨しています。

 全体として、第1章から第3章までは、著者の前著『若手社員が育たない。―「ゆとり世代」以降の人材育成論』 ('15年/ちくま新書)からさらに体系的に整理された"現代若手社員像"の分析となっているように思いました。第4章のマネジャーにとっての処方箋の部分も、それまでの分析を受けていて啓発的ではあるものの、例えばキャリアインタビューなどは、前提となる相互の信頼関係や、聞く側に相応の技量があることが条件となるようにも思いました(自身がある人は、部下に対してキャリアインタビューしてもいいと思うが、人事サイドで、「マネジャーの皆さん、部下にキャリアインタビューをしてください」ということにはならないだろう)。むしろ第5章の若手社員に対する提言部分の方が、若手に限らず、かなり幅広い層に受け入れられる啓発であるように思いました。

《読書MEMO》
●目次
第1章 前向き、なのに頑張らない―若手社員の矛盾に満ちた実態
第2章 「新能力」「新学力」がもたらした大転換
第3章 「えもいわれぬ違和感」の正体
第4章 マネジャーへの処方箋―環境適応性を引き出す「問いかけ」の力
第5章 若手社員への処方箋―「天職探し」を捨てよ、外に出よう

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中小企業向けにオーソドック且つ丁寧に解説。人物を見抜く工夫の各社の例が良かった。

なぜあの会社には使える人材が集まるのかZ_.jpgなぜあの会社には使える人材が集まるのか (PHPビジネス新書)

 パート・アルバイトの戦力化支援などで豊富な経験を持つ著者が、主に中小企業の事業主・採用担当者向けに、人材の採用・定着・戦力化に成功している企業の特徴や、採用実務に関して留意すべき点を、募集から面接、実際の採用に至るまで丁寧に解説し、採用できなかった際の対処法などについても述べています。更には、募集・採用に纏わる最近の法改正なども押さえています。

 人材の採用・定着・戦力化に成功している企業は、企業と従業員の間の「相思相愛」を常に意識しているとするなど、テクニカルな解説だけでなく、啓発的な要素も多分に含んでおり、本書に対するネットなどの評価も高いようです。

 そのような「心得」的な部分は、言ってみれば普遍的なものであり、書いてあること自体はオーソドックスですが、その分説得力はありました(著者の示す"働く側の「相思相愛」判断基準"は、60年代に提唱された「PM理論」に通じるものがあったように思った)。ただし、著者が求人広告会社(「アイデム」)の出身者であることもあり、募集広告の出し方と、最適なメディアの選び方(インターネットから、タウン誌・新聞折込み広告なども含めたそれぞれのメリット・デメリット)については、各1章を割いてさすがに詳しく書かれています。

 応募受付のやり方も軽視できないとしているのには共感させらえました。面接で人を見抜く方についても書かれていますが、やはり、これが一番難しいのではないかと思います。その中でも興味深かったのが、相手の仮面を剥がして本質を見極めるためのトーク技術や面接方法について、企業が実際にどのような工夫をしているのかその実例が紹介されている箇所でした。

 面接の際に、履歴書に書かれている内容から、面接官個人との共通点を探し出してそれを話題にし、相手にリラックスしてもらい本音を聞くとか、最寄駅まで車で送迎してその際の態度をミラーでチェックするとか(地方の中小企業だったりするとこうしたことが結構あり得るかも)、幾つも独自の工夫例が出てきます。中小企業の採用担当者は、自分たちで知恵を絞っていろいろな試みをしているのだなあと、その熱意に感心しました。テクニックをそのまま採り入れるかどうかはともかく、面接で人を見抜こうと思ったら、採用担当者もそれなりに知恵を絞ることが必要だと改めて感じました。

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若い人に向けて分かり易く語っている。古さを感じさせないのはスゴイことかも。

社員稼業 新書1.jpg 社員稼業 新書2.jpg  社員稼業 新版.jpg 社員稼業 旧版.jpg
社員稼業 仕事のコツ・人生の味 PHPビジネス新書 松下幸之助ライブラリー』『[新装版]社員稼業』『社員稼業―仕事のコツ人生の味 (PHPブックス)』['74年]

 松下幸之助(1894-1989/享年94)が社内外で行った講話を5話収めており、第一話「生きがいをどうつかむか」が昭和45年に朝日ゼミナールとして行われたものである以外は、第二話「熱意が人を動かす」が昭和34年の松下電器大卒定期採用者壮行会、第三話「心意気を持とう」が松下電器寮生大会、第四話「何に精魂を打ち込むのか」が昭和38年の大阪府技能大会、第5話「若き人びとに望む」が同じく昭和38年の郵政省近畿管内長期訓練生研修会での話と、何れも昭和30年代のもとなっています(松下幸之助は昭和36年に社長を退き、会長に就任しているが、会長職を退いたのは昭和48年、80歳の時だった)。

 本書を読むと、若い人に向けて分かり易く話すのが上手だったのだなあという気がしますが(元々そうした話をするのが好きだった?)、当時の若い人たちは、すでに「経営の神様」と呼ばれていた松下幸之助の話をどのような思いで聴いたのでしょうか。

自分自身、PHPから単行本で出されている松下幸之助の講話集はこれまでそれほどじっくり読んだことはなかったのですが(本書も昭和49年10月PHP研究書刊の単行本がオリジナル)、新書になったのを機に読んでみると、意外と今に通じる普遍性があって古さを感じさせず、さすが松下幸之助という感じです。

 とりわけ本書は「社員稼業」という言葉が特徴的で、松下幸之助の説く「社員稼業」とは、「たとえ会社で働く一社員の立場であっても、社員という稼業、つまり一つの独立した経営体の経営者であるという、一段高い意識、視点を持ってみずからの仕事に当たる」という生き方を指します。

 今風に言えば、プロフェッショナルとか、アントレプレナーとか、インディペンダント・コントラクターとか、いろんなものがこの概念に当てはまるのではないでしょうか。松下幸之助が自社の社員に向けてこうした話をするというのは、そのことが社員の独立を促して辞める社員が続出しそうな気もしますが(松下幸之助自身が企業を辞めて独立して会社を起こしたわけだが)、当時は「終身雇用」が守られていて、ましてや松下電器という大企業(既に数万人の従業員がいた)に就職したということでつい安心感に浸ってしまいがちで、こうした話をしないと、自らは何もせず指示待ちの、雇われ根性の社員ばかりになってしまうという危惧が松下幸之助にあったのではないかと思われます。

 結果として、今現在にも通じる話になっているわけですが、この外にも、今風に言えば「ワーク・ライフ・バランス」(松下は昭和40年、日本の大手企業で最初に完全週休2日制を導入している)、「CSR」(どの講話にも「松下電器は社会の公器である」といった話が出てくる)、「フォロワー・シップ」(本書の中で「上司を使う人間になれ」と言っている)に該当する話が出てきて、そうした意味でも古さを感じさせないのはスゴイことかもしれません。

 個人的には、織田信長の長所や、信長対する明智光秀と豊臣秀吉の態度の違いについて述べているところなどが興味深かったですが、非常に日本人の感性に訴えるような話し方をするなあという印象があります。

 リーダーシップの泰斗ジョン・コッタ―が、それまで松下幸之助について全く知らなかったのが、ハーバード・ビジネス・スクールで自分の担当する講座が松下幸之助記念講座(松下による寄付講座)であったこと契機に、幸之助について調べてみると、自分がこれから大学で教えようとしていることを既に幸之助が繰り返し述べていることに驚き、『幸之助論』を著すに至ったというのは有名な話です。

 日本の場合、マネジメントとかリーダーシップとかの「理論」の部分は殆ど「輸入品」だと思うのですが、それゆえに日本人の感性に合わない部分もあるように思え、しかしながら、例えば松下幸之助のこうした話などによって、同じような考えが働く人に浸透していったという経緯はあるのかもしれません。今回初めて松下幸之助の講話本を読んだのですが、単に「経営の神様」による訓話ということだけでなく、「輸入品」である「理論」を、日本的な観点から見直すという意味での効用もあるように思いました。

【1974年単行本[PHP研究所]/1991年文庫化[PHP文庫]/2009年新装版[PHP研究所]/2014年新書化[PHPビジネス新書 松下幸之助ライブラリー]】

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「守・破・離」という従来の概念に、マネジャー、スペシャリストという概念をクロスオーバーさせたもの?

「一体感」が会社を潰す―6.JPG「一体感」が会社を潰す1.JPG
「一体感」が会社を潰す 異質と一流を排除する<子ども病>の正体 (PHPビジネス新書)

 バブル崩壊までの高度経済成長期においては、社員は社長や上司の号令のもと、一致団結して同じ行動をとることが組織の勝利の方程式であり、そのため、組織において「一体感」や「仲間意識」を高めることが、非常に良いこととされてきた―しかし、これまでの社会情勢に合わせて発達してきたこの「一体感」や「仲間意識」が、ここに来て、たくさんの組織、会社の成長をかえって妨げているのではないか。そして、変化に適応できていない人や組織が、かつての成功モデルにしがみつき、かつて合理的であった、仲間ウチの「一体感」を高めるべく、子どもっぽい思考や行動、そして組織のあり方を続けているのではないか―。

 25年以上にわたり、30社以上の組織に経営改革のための助言をしてきた組織コンサルタントであるという著者(この人の本はあ『インディペンデント・コントラクター―社員でも起業でもない「第3の働き方」』を読んだことがある)は、こうした状況を「組織の<子ども病>」と呼び、本書前半部分(第1章~第3章)では、個人、組織文化、マネジメントの3つの観点から「コドモ組織」の以下の15のパターンを、事例でもって分かり易く示しています。著者が本書をエッセイ風に書いたブログで述べている通り、この部分は楽しく読めました。

「個人がコドモ」
 パターン1:誰が当事者?批評家ばかりの組織
  パターン2:「空気」に支配されている人たちの組織
  パターン3:「稼ぐ」ことを忘れた人たちの組織
 パターン4:仲間としか仕事をしない人たちの組織
 パターン5:忠誠心の表明を要求する上司がいる組織
「組織文化がコドモ」
 パターン6:全体最適より個別最適を優先する組織
 パターン7:必要以上に摩擦を回避する組織
  パターン8:よその部署の情報が流れてこない組織
 パターン9:例外対応ができていない組織
 パターン10:議論のための議論で満足する組織
「マネジメントがコドモ」
 パターン11:実現不可能な目標が設定される組織
 パターン12:権限と責任が不釣り合いな組織
 パターン13:優先順位がつけられない組織
 パターン14:反省しない、学習能力の低い組織
  パターン15:一流が排除される組織

 そして、続く第4章で、コドモ組織と大人組織の違いを「標準化力と同質性/専門技術力と異質性」といったように対比的に示し、コドモ組織が大人組織に変わるための3つのポイントとして、1.個人の「自立」と「自律」、2 .目的合理的な思考行動パターン、3.マネジメントのプロ化、を掲げ、それぞれ解説しています。

 この中ではまず、個人の「自立」と「自律」を具体的に考えるために、両要素を縦横の軸としたマトリクスを示しています。そして、目指すべき究極は「プロフェッショナル」乃至は「超一流」であるとの前提のもと、「丁稚」→「一人前」→「自律」というプロセスを経て次に「統合的役割」に至るのが通常だが、「自律」での研鑽が足りないために、次段階の「プロフェッショナル」に至る前に厚い壁があるとし、また、「一人前」段階で「一流」を目指すにしても、「一人前」から「自律」を経ないでそこへ行こうとするから、やはりそこには厚い壁があるとしています。つまり、「プロフェッショナル」への道と同様、「一人前」から「自律」へ行き、そこで研鑽を積むことで初めて「一流」「超一流」への道が開けるというものです。

 そして、コドモの組織から大人の組織になるためには、「目的合理的な思考行動パターン」が求められ、それは例えば、自分の仕事にこだわりを持ち、自分がやるべき仕事を深く理解して、自分のやりたい仕事ができる組織で働くことができることが目的合理的ということになると。そこで摩擦が起こるのは当たり前であり、それを回避するのではなく、摩擦が発展の糧となると考えるべきだとしています。

 更に、「マネジメントのプロ化」とは、専門家の持つ多様性を束ねて機能的に統合し、共通の目標を実現させるようにすることであり、一流から一目置かれる「眼力」と「質問力」を有するのがマネジメントのプロであり、また、大人の組織はルールではなくプリンシプルで動き、プロセス制御ではなく結果制御であるとしています。

そして、最後の第5章では、組織がコドモの組織である状況で、大人になるための戦略を、「一流の仕事人」の日常を通して解説し、一流の技術者、プロフェッショナルとして大切にしたい要素として、1.自助努力、2.連携、3.正直かつ率直、4.ポジティブ、5.基準を高くもつ、の5つを挙げています。

 全体を通して啓発的であるだけでなく理論構成もしっかりしていて、書かれていることは異を唱えるものではありませんが、考え方は、本書の中にも出てくる「守・破・離」という従来の概念と、マネジャー、スペシャリストという概念をクロスオーバーさせたものであるように思われました。

 但し、現代ビジネスに求められる高度の専門性や、常に変革が求められる時代環境に即した、新たなマネジャー、スペシャリスト像を示しているという点では評価できると思います(「一体感」を批判していると言うより、「自律」段階にある人を異質なもの、または脅威として潰してしまう組織体質を批判している本だと思った)。

 一方で、「一流」「超一流」という言葉を使っていることにやや引っ掛かりました。スポーツにおけるスター選手などと違ってビジネスの現場では、「一流」の仕事をしている人って意外と自分が「一流」だという意識は無かったりするのではないかなあ。まだ「丁稚」段階にある人に向かって、あんまり「一流」ということを言いすぎると、逆に「守・破・離」の「破」をすっ飛ばして「離」に行こうとして、著者が意図したものと逆の結果を生むことに繋がる気もするのですが、杞憂に過ぎないものでしょうか。 自己啓発書的要素もあり、読む人によって相性の違いはある本だと思います。

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手軽に読めるがややインパクトは弱いか。若手ビジネスパーソンへのサバイバルのための指南書?

崩壊する組織にはみな「前兆」がある 1.jpg崩壊する組織にはみな「前兆」がある: 気づき、生き延びるための15の知恵 (PHPビジネス新書)

 三菱商事で10年間海外プロジェクトを担当後、ボストン・コンサルティンググループ(BCG)で19年間内外の一流企業に経営アドバイスを行ってきたという著者(現在は経営大学院教授)が、企業組織が崩壊に向かう「前兆」となる現象を紹介するとともに、その問題点や発生原因を解説したものです。読者ターゲットは、キャリア半ばのビジネスパーソンであるとのことで、そのため、大手コンサルティングファームの出身者が書いた本であるわりには、"田の字"の図説が多用されているようなものに比べ、分かり易く書かれているように思いました。

 本書で取り上げられている15の前兆とは、「沈黙する」「どなり合う」「ブンブン回る」「飾り立てる」「コロコロ変わる」「誇大妄想する」「はしごを外す」「浮かれる」「MBAする」「面従腹背する」「密談する」「ぐちゃぐちゃになる」「からめとられる」「別居する」「マヒする」「落下する」の15です(なぜか16あるね)。

 これらの前兆の発生に大きく影響する要因として、①企業のライフサイクル・ステージ、②企業のDNA、③そのときどきのリーダーのタイプの3つがあり、これらが組み合わさってこうした前兆が生まれるとしています。15の前兆の並べ方は、概ね企業のライフサイクル・ステージに沿ったものであり、「ブンブン回る」あたりから創業期、「浮かれる」あたりから成長期の問題となり、「面従腹背する」「密談する」あたりで成熟期・再生期、「マヒする」「落下する」で衰退期から組織崩壊へ至るとしています。

 15の前兆は、何となく読む前から内容が分かりそうなものもありますが、そうでないものも、各章の冒頭に具体的な事例が紹介されていて、読み始めればすぐにナルホドなあと。例えば「飾り立てる」の章では、経営者が美術品や競走馬にはまった例が紹介されていますが、経営トップ自らが「経営者本」を出したりして、メディアなどで飾り立てられている組織も、顕在的・潜在的両面で問題を内包している可能性が高いとしています。

 「はしごを外す」とは、リスクのある仕事を他人にやらせてその成否を見極め、うまくいけばすかさず自分の手柄にし、うまくいかなければ責任を他人に押し付けて逃げることであり、テレビドラマ「半沢直樹」を思い出してしまいました。ドラマでは、そうした上司に立ち向かう主人公がヒーローとして描かれているのに対し、本書のスタンスは、若いビジネスパーソンの立場に立って、そうしたことが蔓延する組織をどう見切るか、その"見切り"のポイント、ビジネスパーソンとしてのサバイバル方法を指南していると言えるかと思います。

 ただ、個人的に思うに、若いビジネスパーソンの方が意外とこれらの組織崩壊の前兆に敏感であり、むしろ、本書にもあるように、危機感覚が「マヒする」ことになりがちなのは、"組織の中にどっぷりと浸かっている"ベテランだったりするのではないかなあ。

 著者は、15の前兆の中で最も危険なものを一つ選べと言われれば、「沈黙する」(会議などで出席者が口を開かないこと)を選ぶとしており、ベテランの経営コンサルタントが、どのような視点で企業診断を行っているかを知るうえでは興味深い面もありました。ただ、人事パーソンの目線からすれば、全体としてはそれほどインパクトのある本ではないかも(まあ、一応、自らの組織の中で起きていることが、組織崩壊の"前兆"に該当するかどうかを振り返ってみる分には悪くない、と言うか、手軽に読める本ではありますが。

《読書MEMO》
●出席者が会議で沈黙する
役員会での沈黙、部門会議での沈黙、労使懇談会や職場をよくする会での沈黙。せっかく議論するために集まっているのに、みな口を開かない。(中略) 多くの場合、沈黙の会議は、その組織に何か大きな不具合が生じていることの「兆候」と考えてよい。役員会が静かで、議論が活発化していない企業は、おそらく経営的に問題があると疑ってよい。この例の会社もそれから間もなくして、経営不振に陥り、社長も退任させられてしまった。
●経営者が美術品や馬にはまる
これも有名な話だが、ある成功した技術系新興企業の経営者が、ふとしたはずみで馬主になったらその魅力に取りつかれ、ついには巨額の資金を競馬に投じるようになってしまった。しばらくして彼は、会社の役員会で社長を電撃的に解任されてしまった。一説には、彼が「競走馬育成事業」を会社の中核事業にしようと目論んだため、他の役員がそれを阻止するためだった、とも言われている。そのまま競馬事業に突き進んでいたら、その会社の経営はどうなっていただろうか。
●「はしご外し」が蔓延する
正しいことやチャンスがあることでも、そのリスクが目について、自分ではなかなか先頭を切れなくなる。そこで他の人にやらせて、その成否を見極める。うまくいけばすかさず前に出て、自分の手柄にするし、うまくいかなければ首を引っ込めて、責任をそいつに押し付けて逃げる。(中略)もちろん、こうした「はしご外し」行動が蔓延すれば、その組織には徐々に活力が失われ、もはやかつてのようなダイナミックな成長は期待できない。緩やかに衰退していくしかない。
●幹部社員が不審な行動をとる
会社の社員、特に幹部社員に不審な行動が目立つようになると、危険な兆候であることが多い。ひそひそ話、密談、長時間の離席、非常階段や喫煙コーナーなどでの長い携帯電話、会議の席などで目を伏せる、目を合わせない......。こうした行動がしばしば目撃されるのは、組織崩壊の前兆である。幹部や社員は、さまざまな理由で、会社を逃げ出そうとしている可能性が高い。
●利害関係者が多い
こうした体験を通じて、私が考え出したのは、「ステークホールダーの数と意思決定スピードは二乗に反比例する」という法則である。この意味は、ステークホールダーの数が、たとえば4人から5人へと2倍になると、意思決定のスピードは、2×2=4の逆数で4分の1に落ち、意思決定にかかる時問は逆に4倍に延びるということである。ステークホールダーが多いことは、それだけ組織の足を引っ張り、うすのろの組織にする絶大な効果があるということだ。
●「やつら対われわれ」と言いだすようになる
合弁会社や統合会社は、男女の結婚のようなものである。最初は、相思相愛の熱烈な恋愛感情で結ばれたカップルも、結婚して一緒に暮らすようになると、「こんなはずではなかった」という思いが生じ、両者の間に冷ややかなすきま風が吹くようになる。(中略)会話の中に、「やつら対われわれ」というような表現が出てくるのは、パートナー間に不信感が蔓延していることの表れである。こうなると、組織の崩壊も間近である。
●組織の中に浸かってマヒする
想定外の事故が起きたとき、事故調査委員会などが組織されて、事故原因を調査する。そうすると、経営が緩んでいた兆候や、事故が起きる伏線あるいは予兆がいたるところに出てくる。それに対して、調査委員会もまたメディアも「想定できたじゃないか」とか、「事前になぜ手を打てなかったのか」とか、「経営陣の怠慢だ」と責めることになる。(中略)しかし、実際に事故発生前の組織の中にどっぷりと浸かっていると、そうした兆候がいたるところにあったとしても、気がつかない。あるいは気がついていても手を打とうという行動にはならない。「まあ今まで大丈夫だったし...」とか、「自分の任期中には目をつむろう...」となるわけである。

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〈キャリア志向〉の強い社員の転職をバックアップするという発想転換を提唱。

社員が「よく辞める」会社は成長する図1.png社員が「よく辞める」会社は成長する!.jpg社員が「よく辞める」会社は成長する! (PHPビジネス新書)

 長引く不況で若者の安定志向が強まっていると言われ、調査でも「定年まで働き続けたい」と答える人の割合が増えているとされていますが、実際には就活中の学生や若いサラリーマンの〈キャリア志向〉は驚くほど強いと、著者は述べています。

 今の若者は、自分らしいキャリアを積むのが当たり前だと考えていて、「ステップ型就職」という意識で企業に入社してくるため、入った会社が自分の「適職」ではない、「自己実現」できそうにないと感じたら辞めることにためらいはなく、また、ある仕事で能力を高めたら、転職・独立してさらなる成功を目指す傾向にあるとのこと、しかも、優秀な社員ほどこうした〈キャリア志向〉が強いとのことです。

 そこで企業側も、辞めていく人に向かって塩をまいたり、石もて追うたりしても何の得にもならず、転職・独立が当たり前の時代を迎えた今、スマートで合理的な送り方を身につけるとともに、スピンアウトするエネルギーを、企業の活力と成長につなげるマネジメントモデルを構築していくことが求められるとしています。

 これまでの日本企業は、少なくとも高度成長期以来、長期雇用を前提に、何はともあれ、まず人材を確保し、使い方はあとで考えるという「ストック型」雇用システムを維持してきたが、これからの人材活用の最適解は「フロー型」マネジメントの中にあるとし、実際、伸びている会社は「フロー型」マネジメントを行っているところが多いとのこと、著者は「できる二割」の社員が抜ける組織は活力があるとまで言い切っています。

 個人にとって転職・独立に必要な年数と、会社側から見た「元がとれる」年数との間にはギャップがあるにしても、そのギャップは妥協が困難なほど大きくはないとし、目安として、入社3年で一人前に育て、10年で巣立たせ、その間の働きで上司も成果を手に入れる――要するに5年~10年程度を「適職選びの期間」と定め会社と個人の双方が損をしない仕組みを作れば、その期間に退職したとしてもそれまでに会社にかなりの貢献をしてくれるであろうし、また、そうした施策は女性や外国人留学生、非正規雇用社員の格差問題の解消にもつながり、社会的メリットもあるとしています。

 そのうえで、どうしても社員を流出させたくなければ社内に疑似的な労働市場をつくり、自分で仕事やキャリアを選択できるようにすればいいとしていますが、ただし、こうなると、やはり全社的には一定のストック人材を確保しておく必要もあるように思われました。

 また、「巣立ちのパワー」を生かすメカニズムの例として、ラーメン店の「のれん分け」制度や美容院の独立支援制度の事例が出てくるのが、かえって、こうした制度を入れる際に業種や職種が限定される印象を与えかねないような気もしました。

 社員の「巣立ち」を支援することは短期的・中期的に大きなモチベーションを引き出し、そのモチベーションが成果を大きく左右するのは、研究開発、デザイン、企画といった情報・ソフト系の仕事であると、著者自身そう述べているので、そのあたりの事例ももう少し欲しかった気がします。

 社員、企業、上司のそれぞれの立場から分かりやすく書かれていて、たとえば部下に「自立能力」をつけさせるには、異業種交流会やセミナー等を通じて「外の世界をわからせ」、そのことによって、本人にあらためて転職・独立の意思確認をし、また、自分の強みや弱みをわからせる、そして、第2テージとしてその「強みを生かし」、第3ステージとして、「強み」を伸ばしていくために実戦を経験させる―個人が自立すると、チームワークも良くなり、組織に対する帰属意識や愛着も、転職・独立する人のほうがより積極的な性質を帯びてくる―という論旨は、腑に落ちるものがありました。

 最後に、これからのリーダー像として「キャリア志向の部下を羽ばたかせる上司」像を提唱し、部下を育て、羽ばたかせることによって上司自身も成長できるとしています。

 優秀な社員をいかにして引き留めるかというリテンション施策に目が行きがちなところ、〈キャリア志向〉の強い社員の転職をバックアップすることで、会社と社員の間に「Win‐Winの関係」を築くというように発想の転換を促している点は、パラダイム変革的な提言として注目されていいかも。

 労働経済学ではスキルを、一つの会社でしか通用しない「企業特殊的スキル」と、どこでも通用する「一般スキル」に分類し、転職・独立するには「一般スキル」が必要だと言われていますが、著者は「外部通用性のある特殊的スキル」こそが転職や独立に役立つとしていて、このことは、当事者である社員自身が最もよく知っているのではないでしょうか。

 こうしたスキルは、伸び盛りの会社、業界内でも先端をいく企業においてこそより身につきやすいものであり、社員が「よく辞める」会社が成長するのではなく、成長している会社の社員は「よく辞める」ということになるんじゃないか。タイトルは「よく」に「良く」を懸けているのかもしれませんが、やや違和感あり、です。

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そんなにスゴイ本かなあ。どちらかと言うと本で読むよりセミナーで聴くような内容。外資礼賛?

藤野 祐美 『上司は仕事を教えるな!』5.JPG 上司は仕事を教えるな4754.JPG上司は仕事を教えるな! (PHPビジネス新書)』['12年]

 全体の趣旨としては、上司は部下の仕事に口を挟むよりは、部下への精神的支援に注力せよということだと思いますが、タイプ別部下への支援方法なども書かれていて、部下を持つ人が、自分が部下と普段どう接しているかを振り返るにはいい本かも。ものすごく噛み砕いて書いてあるし。

 但し、理論書というより啓蒙書、更に言えば、管理職研修における部下コミュケーションに関する講義をそのまま本にした感じの本であり、啓発される要素も無きにしもあらずですが、こういう話は本で読むよりもセミナーで聴いた方がいいのかも。
 でも、Amazon.comのブックレヴューを見ると、10人が10人5つ星評価になっていました。個人的には、そんなに「目からウロコが...」というほどのスゴイ本かなあという印象です。

 まず「朝のあいさつ」から始めよう―なんて、やっている人は既にやっているし、やらない人はこの本を読んでもやらないんじゃないかなあ。外資系の企業って、ボスが朝から元気に「Good Morning!」って言ってくれるから素晴らしいわけ? 

 日本企業にはダメ上司がいっぱいいて、一方の外資は素晴らしい上司ばかりだったと、著者個人の経験に基づいて図式的に内外を対比させていて、かなりの外資礼賛ぶり。外資系企業でもいろいろあると思うけれど。

 スポーツ選手がこうした指導で力を伸ばしたといった話などのも、やはりどちらかと言うと「本」よりも「セミナー」向きではないかと。この類のネタ話には、それ自体さほど目新しさがあるわけでもありません。

 一つ、興味深かったのは、外資系の企業であからさまに部下をえこひいきする上司がいたと書いていることで、日々のランチも決まった一人の部下としかいかなかったということ。著者自身、"嫌い"のえこひいきはダメだけれど"好き"のえこひいきはオープンに見せてもよいとしていますが、外資系の場合、自分の後継者を育てないと自分自身が次のポジションに行けないということもあって、こうしたことは珍しいことではないのではないかな。周囲も皆、自分がボスになれば同じことをすると分っているし、不満はあってもその行為自体を理不尽だとは思っていない気がします。

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波頭・茂木両氏のある種「職業的対談」みたいで、それほど心に響いてこない。

突き抜ける人材.jpg突き抜ける人材』.JPG
突き抜ける人材 (PHPビジネス新書)

NHKスペシャル 生み出せ 危機の時代のリーダー.jpg NHKスペシャルの「シリーズ日本新生」の先月['11年1月]21日放送分で、「危機の時代のリーダー」をテーマとして取り上げ、この日本という国の難局を打開できるリーダーを生むためには何が必要なのかという議論がされていました。番組のおおまかな落とし処が、強いリーダーの出現を受け身的に待つのではなく、一人ひとりが先ず自ら"小さなリーダー"となるべく一歩を踏み出そう的な感じで、これは、東日本大震災で被災住民の支援にあたるNPOボランティアの印象などがある程度影響しているのではないかと。

NHKスペシャル リーダー.jpg 主演者の面々に、姜尚中、田坂広志、古賀茂明の各氏らがいて、途中、日本の官僚と政治家の関係の問題が話題になったりし、現在の一律的な教育の問題も若干扱っていましたが、ややモヤっとした感じの議論の展開。デーブ・スペクター氏が受験教育の弊害にストレートに言及すると、それはその場で言っても詮無いことと思われたのか(パネリストの中に若手官僚などもいたせいか)、司会者にほ無視されたような...。

NHKスペシャル・シリーズ日本新生「生み出せ!危機の時代のリーダー」(出演者:姜尚中 野中広務 デーブ・スペクター 田坂広志 土井香苗 古賀茂明 河添恵子 三村等 辻野晃一郎 松枝洋二郎 瀧本哲史 久保田崇 古市憲寿 坂根シルック 渡辺一馬 竹内帆高 三神万里子)
                           
 本書は「突き抜ける人材」とは何か、どこがフツーと違うのか、そうした人材を生み出すにはどうすればいいのかを、波頭・茂木両氏が、直接対談ではありませんが、対談を模したようなリレー・エッセイの形で綴ったものです。

 必ずしも組織リーダーに限らず、ビジネスやイノベーションの分野での「突き抜ける人材」の輩出を模索したものと言えますが、教育の問題も一応はちゃんと扱っており、落とし処は「私塾」に対する期待のようなものになっています、

 2人とも話題は豊富と言うか、世相評論的な纏めは上手で、「海外ではこうしている」といった出羽守(ではのかみ)的な発言が少なからずあるものの、議論を更に進めており、現代教育の在り方への批判から、それではどうすればよいかということで、「私塾」というのが浮かんできたようです。

 但し、そこに至る1つ1つのテーマについての突っ込みがそれほど深くなく、どことなく既知感のある内容の評論風に流れていくため、危機感を煽りながらも"言い放っし"になっているような印象もあり、「お気楽対談」とまでは言いませんが、ある種「職業的対談」みたいで、それほど心に響いてきません(じゃあホントに「茂木塾」開くのかなあ)。

 NHKの「シリーズ日本新生」でもケーススタディとしてスティーブ・ジョブズが取り上げられていましたが、茂木氏が本書の中で、ジョブズ、ジョブズと連発するのにはやや辟易させられました(「ジョブズ追悼番組」にも出演していたし、この人のジョブズ崇拝は相当なもののようだ。番組ではWindowsは嫌いだと発言して、西和彦・元マイクロソフト副社長と喧嘩になったようだが)。
 
 ジョブズには個人的にも関心があり、学ぶ面も多いけれども、傑出した才能だけでなくキャラクターの激しさも含め、常人の域を超えているようなところがあるから(それでジョブズ自身も何度か大きな失敗をしているし)、彼自身をそのまま手本にするはちょっとキツいのではないかなあ(フェイスブックのマーク・ザッカーバーグについても同じ)。

 茂木氏って今やオールマイティ(専門分野不明)みたいな感じですが、こういうことを広く浅くスラスラ語れるのがまさにこの人の才能? 意図してやっているのではなく"天然"なのでしょう。

《読書MEMO》
●若くして頭角を現すための共通項(波頭氏)
「アメリカの経営学者であるジョン・コッターの調査によると、若くして頭角を現した人には、二つの共通項があるそうです。一つは、アジェンダを持っていること、もう一つは、ネットワークを持っていることです。アジェンダとは、日本ではよくミーティングで「その場での主要テーマ」といった意味で使われますが、ジョン・コッターのいうアジェンダは、「その人がつねに抱くこだわり」、つまり「執着するテーマ」のことです。(中略)コッターが指摘しているもう一つの共通事項のネットワークとは、社内や取引先、あるいはまったく無関係な外部にも、何かやろうとしたときにお願いできる人がいることです」

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"イノベーションの人"であったことを改めて痛感する『全発言』。中学生から読める『全仕事』。

『スティーブ・ジョブズ全発言 』.jpg  スティーブ・ジョブズ全仕事.jpg図解 スティーブ・ジョブズ全仕事』['12年]

スティーブ・ジョブズ全発言 (PHPビジネス新書)』['11年]

スティーブ・ジョブズ名語録.jpg 昨年('11年)11月の刊行(奥付では12月)ということで、10月のスティーブ・ジョブズの逝去を受けての執筆・刊行かと思ったら、昨年初から企画をスタートさせて脱稿したところにジョブズの訃報が入ったとのこと、著者には既に『スティーブ・ジョブズ名語録 (PHP文庫)』('10年)という著作があり、今回はその際に収録できなかったものも網羅したとのことで、その辺りが「全発言」という由縁なのでしょうか。

 彼の言葉を11のテーマ毎に括ってそれぞれ解説していますが、解説がしっかりしているように思え(前から準備していただけのことはある?)、内容も面白くて、一気に読めました(新書で330ページ超だが、見開きの右ページにジョブズの言葉が数行あって、左ページが解説となっているため、実質、半分ぐらいの厚さの新書を読む感じ)。

 必ずしも時系列に沿った記述にはなっておらず、冒頭にジョブズの年譜がありますが、1冊ぐらいジョブズの伝記を読んでおいた方が、そうした発言をした際のシチュエーションが、より把握し易いと思われます。

 11のテーマは、「ヒットの秘密」「自分の信じ方」「イノベーション」「独創の方法」「仕事のスキル」「プレゼンテーション」「リーダーの条件」「希望の保ち方」「世界の変え方」「チームプレー」「生と死」となっていますが、全般的にイノベーションに関することが多く(特に前半部分は全て)、ジョブズが"イノベーションの人"であったことを、改めて痛感しました。

 著者の解説と読み合わせて、特に個人的に印象に残った言葉を幾つか―。

「マッキントッシュは僕の内部にある。」
 ジョブズは、設計図の線を一本も引かず、ソフトウェア一行すら書かなかったにも関わらず、マッキントッシュは紛れも無くジョブズの製品だったわけで、マッキントッシュがどういう製品であるべきかという将来像は、彼の内部にしかりあった―何だか、図面を用いないで社寺を建てる宮大工みたい。

「イノベーションの出どころは、夜の10時半に新しいアイデアが浮かんだからと電話をし合ったりする社員たちだ。」
 著者が「多くの企業がイノベーションを夢見ながら一向に果たせずにいるのは、『イノベーション実現の五ヵ条』といったものを策定して壁に貼り出すことで満足するからだ。イノベーションとは、体系ではない。人の動きなのだ」と解説しているのは、確かにそうなのだろうなあと。ジョブズは、「研究開発費の多い少ないなど、イノベーションと関係はない」とも言っています。

「キャリアではない。人生なのだ。」
 '10年の春にジョブズを訪問したジャーナリストの、「キャリアの絶頂を迎え、この恰好の引き際でアップルをあとにされるのですか」との問いに答えて、「自分の人生をキャリアとして考えたことはない。なすべき仕事を手がけてきただけだよ...それはキャリアと呼べるようなものではない。これは私の人生なんだ」と―。今の日本、キャリア、キャリアと言われ過ぎて、"人生"がどっか行ってしまっている人も多いのでは...。

 後には、「第一に考えるのは、世界で一番のパソコンを生み出すことだ。世界で一番大きな会社になることでも、一番の金持ちになることでもない」との言葉もあります。
 これは「お金は問題ではない。私がここにいるのはそんなことのためではない」との言葉とも呼応しますが、ヒューレット・パッカードの掲げた企業目的が「すぐれた」製品を生み出すことだったのに対する、ジョブズの「すぐれた」では不足で、「世界で一番」でなければならないという考えも込められているようです。

 個人的には、自己啓発本はあまり読まない方ですが、読むとしたら、やはりジョブズ関連かなあ。神格化するつもりはありませんが、元気づけられるだけでなく、仕事や人生に対するいろいろな見方を示してくれるように思います。


 本書著者には、近著で『図解 スティーブ・ジョブズ全仕事』('12年1月/学研パブリッシング)というのもあり、これはスティーブ・ジョブズがその生涯に成し遂げた業績を解説しながら、イノベーション、チームマネジメント、プレゼン手法など、彼の「仕事術」をコンパクトに網羅したもの。

 190ページ足らずとコンパクトに纏まっていて、しかも、見開き各1テーマで、左ページは漫画っぽいイラストになっていますが、これがなかなか親しみを抱かせる優れモノとなっています。

 難読漢字(というほど難読でもないが)にはルビが振ってあり、中学生からビジネスパーソンまで読めるものとなって、特に中高生に、ジョブズの業績について知ってもらうだけでなく、ビジネスにおける「仕事術」というものを考えてもらうには、意外と良書ではないかと思いました。

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分かり易いけれど物足りない?

勝つプレゼン 負けるプレゼン.jpg勝つプレゼン 負けるプレゼン69.jpg
勝つプレゼン 負けるプレゼン (PHPビジネス新書)』['11年]

 「準備6割、本番3割、振り返り1割」―これが、プレゼン成功と上達の秘訣であるという考えの下に、何がプレゼンの良否を分けるのかが分かり易く解説されています。

 プレゼンにおける基本的なことをよく網羅しており、とりわけ「準備」にフォーカスして書かれていますが、「何を感じてほしいか」 をよく考え、「準備で目的を明確にする」ことは確かに重要だなあと。流暢に話すことばかりに気を取られるなという考えには共感しました。

 そうした「準備」の段階でのコンセプチュアル・ワークのポイントについて、「本番」での質疑応答などを想定しながら解説しているのは、一つの解説の「方法論」として分かり良かったように思います。

 ビジネスの場では、日々の業務で他者と関わる行為の全ておいてプレゼン能力が求められるとしながらも、タイトルからも窺えるように、新製品や企画の提案・コンペティション(他社競合)といった"勝負所"を想定して書かれているように思いました。

 その割には、「本番」の解説などは、かなり初歩的なレベルだったかも。管理職昇進試験などで、普段やったことのないプレゼンをやることになった人には応用的に役立つかも知れないけれど、広告代理店などで常日頃から競合プレをやっている人などにとっては、特に目新しい知識や見方は得られないかも知れません(「知っている」というのと「出来ている」というのは違うことであるとは思うが)。

 目新しいことに奔る前に、まず基本を押さえるということは大事なことなのだろけれども、プレゼンの際の服装などの解説は、殆どビジネスマナーの世界のような気もしました。

 基本書としては良書だと思いますが、そうした意味では物足りない感じもあり、著者は「研修女王」と呼ばれているそうですが、どちらかと言うと、著者自身が「コンペティション型」「企画提案型」というより「セミナー講師」型ではないでないかとの印象を受けました。

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啓蒙書としても読めるし、ジョブズの失敗と成功、遺したものの大きさも知ることができる。
 
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スティーブ・ジョブズ 失敗を勝利に変える底力 (PHPビジネス新書)』「ファインディング・ニモ [DVD]

 スティーブ・ジョブズがその個性の強さゆえに犯した数々の失敗と、彼自身がそこから学び復活を遂げたことに倣って、ビジネスにおいてどのようなことに留意すべきかを教訓的に学ぶという、ビジネス・パーソン向けの啓蒙書的な体裁を取っていますが、併せて、ジョブズの歩んできた道における様々なビジネス上のイベントが、必ずしも時系列ではないですがほぼ取り上げられているため、ジョブズの足取りを探ることが出来るとともに、コンピュータ産業や映画産業の裏事情なども知ることができ、180ページほどの薄手の新書ですが、かなり面白く読めました。

 ジョブズを徒らに偶像化するのではなく、素晴らしい面とヒドイ面、それぞれについて書かれていますが、こうした体裁から、むしろ「反面教師」として部分にウェイトがかかっているのが本書の1つの特徴でしょうか。但し、こうした人間的にどうなのかと思われるような行動そのものが、ある意味、常人には測り知れない天才の個性でもあることは、著者も重々承知のうえなのですが。

 ジョブズがアップルへの奇跡的な復帰を遂げたことについては、当時のCEOギル・アメリオの"引き"が大きかったわけですが、そのアメリオをジョブズが策略を用いて放逐したことは、ジョブズの"悪行"としてよく知られているところ。本書でも「恩人を蹴落とし、CEOの座を射止める」と小見出しを振っていますが、ジョブズがアップルへの復帰を果たさなかったら、ジョブズの情熱はピクサーに注ぎ込まれ、ピクサーはジョブズの現場介入により、「トイ・ストーリー」('95年)のようなヒット作は生み出せず、駄作のオンパレードになっただろうという分析は興味深く、更には、iPodもiPhoneも誕生しなかったとして、アメリオの救済がいかに大きかったかを述べている辺りは、説得力がありました(そのアメリオを裏切ったジョブズがいかにヒドイ人間かということにも繋がるのだが、「裏切り者が作る偉大な歴史」という小見出しもある)。

ファインディング・ニモ whale.jpg 因みに、「ファインディング・ニモ」('03年)の制作の際に、ピクサーの美術部門のメンバーは、クジラの中にニモが呑みこまれるシーンを描くために、海岸に打ち上げられたクジラの死体を見に出かけたとのこと、ピクサーのデザイナー達は、アニメの映像世界の細部にジョブズ以上のこだわりを持っていたわけです。

ジョブズ&ゲイツ 2007年5月.jpg 更に、ジョブズとビル・ゲイツの間の様々な交渉についても、ジョブズが犯した過ちを鋭く検証していて、いかにジョブズが失ったものが大きかったかということが理解でき、Windowsのユーザーインターフェイスがその典型ですが、ある意味オリジナルはMacであり、普通ならばマイクロソフトではなくアップルがコンピュータ産業の覇者となり、ジョブズが世界一の億万長者の地位にいてもおかしくなかったことを示唆しているのも頷けました。
Steve Jobs and Bill Gates Interviewed together at the D5 Conference (2007).

スティーブ・ジョブズ 偶像復活.jpg ジョブズの秘密主義にもスゴイなあと思わされるものがあり、2005年に刊行されたジェフリー・ヤング、ウィリアム・サイモン著『スティーブ・ジョブズ―偶像復活』(′05年/東洋経済新報社)を読みましたが、そこにはiPhoneのことは全く出てきませんでしたが、2004年夏にジョブズが「アップルフォンを作ることはない」と正式発表した時、心の底では逆のことを考えていたというわけだと。

 著者は、アップルにおいてマーケティングに携わっていたこともある人で、現在はドラッカーの解説本を書いたり講演活動を行ったリもしている人。本書はビジネス啓蒙書としても読めるし、ジョブズの失敗と成功、遺したものの大きさをも知ることができ、更には、もしあの時ジョブズがこうしていたら...といったことに思いを馳せることにも繋がる本です。

ファインディング・ニモo5.jpg「ファインディング・ニモ」●原題:FINDING NEMO●制作年:2003年●制作国:アメリカ●監督:アンドリュー・スタントン/リー・アンクリッチ●製作:グラハム・ウォルターズ(製作総指揮:ジョン・ラセター)●脚本:アンドリュー・スタントン/ボブ・ピーターソン/デヴィッド・レイノルズ● 音楽:トーマス・ニューマン/ロビー・ウィリアムズ●時間:100分●出演:アルバート・ブルックス/エレン・デジェネレス/アレクサンダー・グールド/ウィレム・デフォー/オースティン・ペンドルトン/ブラッド・ギャレット/アリソン・ジャニー●日本公開:2003/12●配渋谷東急 閉館2.jpg渋谷東急 閉館.jpg給:ウォルト・ディズニー・ カンパニー●最初に観た場所:渋谷東急 (03‐12‐23) (評価★★★☆)

映画館「渋谷東急」が5月23日閉館.jpg渋谷東急 2003年7月12日、同年6月の渋谷東急文化会館の閉館に伴い、直営映画館(「渋谷パンテオン」「渋谷東急」「渋谷東急2」「渋谷東急3」)の代替館として渋谷クロスタワー2Fにオープン。2013年5月23日閉館。

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"バランスの取れた教養人"が書いた"当たり障りのない"リーダーシップ論"。具体像が見えてこない。

愚直に実行せよ! 人と組織を動かすリーダー論.jpg 中谷 巌 『愚直に実行せよ!.jpg
愚直に実行せよ! 人と組織を動かすリーダー論 (PHPビジネス新書)

 「PHPビジネス新書」の創刊ラインナップの1冊。

 第1章で、優れたリーダーの4つの資質として、「志がある」、「ビジョンと説明能力がある」、「愚直な実行力がある」、「身をもって示す姿勢がある」ことを挙げ、更に、カルロス・ゴーンの成功例などを引きながら、日本でリーダーシップを発揮するにはどのような条件が必要かを考察しています。

 第2章では、「志を高く持つ」ということはどういうことなのかを、「自信」「教養」「人間理解」をポイントに説き、第3章では、「説明能力」と「大局観」を読む力の大切さを説くと共に、日本という国の文明論的「位置」を意識せよと述べています。

 第4章では、「愚直な実行力」を持てということを、IBMのルイス・ガースナーの経営姿勢などを引いて説き、最後に(第7章)、リーダーは「身をもって示す」ことが肝要であるとしています。

 これだけだとキレイに纏まり過ぎていると思ったのか、第5章で、リーダーたる者は時に「狐」となれとし、また、第6章では、コーポレートガバナンスの問題などを扱っていますが、そうした章も含め、全体にキレイに纏まっているという印象で、さらっと読めるけれど、インパクトは弱いかなという感じ。

 結局、タイトルにもなり、まえがきでも強調されている「愚直に実行せよ」ということが"肝"なのだろうなあと思いましたが、ガースナー氏の登場も、書かれていることも、想定の範囲内という感じがしました。

 幅広い分析的な視点は、いかにも総研(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)の理事長らしいですが、"バランスの取れた教養人"が書いた"当たり障りのない"リーダーシップ論"ということで、具体的なリーダー像が今一つ見えてこないのが難かも。

 本書の中で小泉純一郎元内閣総理大臣のリーダーシップを持ちあげていますが、'08年に『資本主義はなぜ自壊したのか』(集英社)を著して市場原理主義との決別を表明し、「小泉改革の大罪と日本の不幸 格差社会、無差別殺人─すべての元凶は「市場原理」だ」という論文を発表したりもしています(変節ぶりが甚だしいが、この人自身リーダーとして大丈夫なのか?)。

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ドラッカーの経営思想の入門書、ドラッカーの著作への手引書としてお薦めできる1冊。

ドラッカーの実践経営哲学.jpg            ドラッカーの実践経営哲学 単行本.jpg
[新版]ドラッカーの実践経営哲学 (PHPビジネス新書)』['10年]/『ドラッカーの実践経営哲学―ビジネスの基本がすべてわかる!』['02年]

 '02年刊行の『ドラッカーの実践経営哲学』(PHP研究所)の新書復刻版で、著者は大日本印刷出身のビジネスマンで、ダイレック常務取締役などを歴任するなど、企業経営に関わりながら、自らの出身大学である慶応大学の同期生らと研究会を立ち上げてドラッカー研究を続けた人ですが、元本の刊行の翌年に亡くなっています。

 復刻の背景には昨今のドラッカー・ブームがあると思われますが、分かり易い内容でありながらも、オリジナルが単行本であることもあってかかっちりした構成で、ドラッカーの経営思想のサマリーとしては上質の部類に入ると思われます。

 畳み掛けるような事例を背景に持論を展開するドラッカーの手法を踏襲し、更に、それら事例の多くを、(本書執筆時点ではあるが)日本企業における直近のケースに置き換えて、自身の言葉で解説しているため、書かれていることがたいへん身近に感じられ、それが読み易さにも繋がっているのだと思います。

 自分自身、こんなによく出来たドラッカーの入門書があったとは知らず、今回初めて新書で読みましたが、著者が生きていたら、更に最新の企業事例を織り込んで本書を改訂していたのではないかと思われ、それが成らなかったことが残念です。

 ドラッカーの経営思想の入門書、その著作の翻訳書に至るための手引書としてお薦めできる1冊です。

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学生にとっての良書は、企業の採用担当者にとっても参考になることがある。

人事のプロは学生のどこを見ているか.jpg    『人事のプロは学生のどこを見ているか』.jpg       就活のしきたり2.jpg
人事のプロは学生のどこを見ているか (PHPビジネス新書)』['10年]『就活のしきたり (PHP新書)』['10年]

 同時期に読んだ『就活のしきたり―踊らされる学生、ふりまわされる企業』(2010/10 PHP新書)は、「PHP新書」の品格を疑うようなレベルであり、学生にとっても企業の採用担当者にも役に立たない本のように思いましたが、版元が同じでありながらも本書の方はマトモであり、蹴活本が大流行りのご時世ですが、学生にとっての良書は、企業の採用担当者にとっても参考になることがあると思わせるものでした。

 そんな言い方をすると、マニュアル化された学生の「傾向と対策」を、面接場面においてどう突き崩すかが分かる本ともとれそうですが、本書はそうした小手先の戦術的なレベルの本ではなく、書店に溢れているマニュアル的な蹴活本とは一線を画し、但し、マニュアル本を全否定するわけではなく、より深い意味において、会社側は学生のどこを見ようとしているのかを、経験的且つ体系的に探ったものとなっているように思いました。

集団面接.bmp まず典型的な採用のプロセスを概観したうえで、会社側の意図や重視する部分を説明し、更に、「コミュニケーション力」とは何か、「行動力」とは何かについて掘り下げて解説されています。

 グループ討議で重要なのは「それらしい結論に導くことよりも、自分の意見をきちんと出して議論すること」、最終面接で重視されるのは、「能力的なことよりも、本気でこの会社に来てくれるかどうか」といった太字で書かれている部分は、人事部の担当者にとってはある程度分かっていることかも知れませんが、現場の面接担当者や役員に関してどれぐらい共有されているでしょうか。

 「面接官も間違いを犯す」という前提のもとに、考課者研修などではお馴染みの「ハロー効果」や「対比誤差」といったものが、面接場面でどのように現れるかが分かり易く具体例で示してあり、「ああ、こんなこと、今までの面接でもあったなあ」とか「これ、面接担当者の指導要領として使えるなあ」などと、密かに思ってしまいました。

 「企業分析」をする際に、バリューチェーン分析でその会社の仕事の流れを理解せよと説いているのも、一般の蹴活本などにあまり書かれていないことではないでしょうか。
 
 学生からすれば、本書を読んでテクニックを学ぶのではなく、そこから、より深い企業研究を自らの努力でしていかなければならないということですが、表面的な企業情報の検索に終始し、そうした受身的ではない、自分の頭で考える企業研究というのがあまりなされていないのが、現在における「蹴活」の状況であり、そのことが、学生側から見れば「自分らしさ」を出せず、企業側からすれば「本当の姿が見えてこない」という結果を生みだしているようにも思います。

 後半では、学生に向けて「働きたい会社の見つけ方」を説いていますが、外資系企業、非上場企業、ファミリービジネス(同族)企業などの幅広い範囲にわたって、その特徴やコーポレートカラーを的確・簡潔に示しつつも、最後は、会社の方針と自分の価値観が一致することが大切であると説いているのもいいです。

 全体を通してとりたてて奇抜なことや目新しいことが書かれているわけではありませんが、企業側にとっても、本書に書かれていることに照らした場合、自社における新卒採用の選考や面接の在り方はどうかを確認するうえで、一読の価値はあったように思います。

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参考にならないわけではないが、あまりに「リクルート」回顧調。
  
職場活性化の「すごい!」手法.png職場活性化の「すごい!」手法2.png         組織を変える「仕掛け」.jpg
職場活性化の「すごい!」手法 (PHPビジネス新書)』['09年]  高間 邦男『組織を変える「仕掛け」 (光文社新書)』['08年]
 
 『組織を変える「仕掛け」-リーダーシップとは』(高間邦男著/'08年/光文社新書)を読んだ後に、実際の"テクニカル編"に当たるような本かなと思い本書を読みましたが、う〜ん、この著者はリクルートのトップ営業だったそうで、「やまびこあいさつ」、「寄せ書き」「社員図鑑」「社内パーティ」等々、いかにも「リクルート」という印象を受けました(他社の事例も多少はあるが)。

 職場を活性化するための手法が具体的に幾つも紹介されていて、その背後にある著者の考え方には異を唱えるわけではないですが、実際この本に書かれているようなことをやって効を奏す会社(職場)とそうでもない会社(職場)があるのではないかとも。

 著者自身、重厚長大で伝統的な企業には、「リクルートのようなイケイケ・ドンドンの社風は異次元のものに映るに違いない」、「工場や研究所の活性化のために太鼓や鳴り物で鼓舞激励するような手を使うというのは、TPOがずれているだろう」と最初に断りながらも、紹介されている例の多くは、リクルートで著者自身が経験したものです。

 著者がいた頃のリクルートは、単一または少数の自社メディアを掲げ皆で一斉にセールスにかける、そうした営業スタイルが主体だったのではないでしょうか。
 一見、最近のベンチャー企業と似てなくもないですが、例えばITベンチャーでも回線リセールのような業務を主体とする会社と、コンテンツ・ビジネスを主体とする会社では大きく業態が異なり、後者の方は、下手すると社員数だけの職種があったりするわけで、そうした意味では「研究所」的な要素もあって、ベンチャーだからと言って、本書にあるような手法が向いているとも限らないのでは。

 但し、社風や職場風土に似つかわしくないかなと思われることでも、職場のムードを変えるために、ある時期、思い切ってやってみた方が良いというようなこともあるでしょう。
 ナレッジ・マネジメントにおける「場」の考え方にあるように、インフォーマル・コミュニケーションの充実が図られるならば、それが人と人の関係や職場の活性化に寄与するところは大きいと思います。

 「社内報」や「社内イベント」などは、かつて企業業績が好況だった時期には、別にそうした意図のもとでなくても、自然発生的にあったように思います。
 今は、入社以来そうしたことを経験したこともなく、日々の業務に追われている人が、企業の若手社員には結構多いのでは。

 本書に紹介されている活性化事例が参考にならないわけではないですが、「リクルートではこうしていた」的な話ばかりで、冒頭の断り書きを除いては、その方式がどの会社や職場でも通用するような感じで書かれているのがやはり気になりました。
 著者が若手社員だった頃と今とでは社会情勢も就労意識も異なるし、また、その中でも当時のリクルートは特殊な会社だったわけです。
 帯にある「これだけあればどれかは効く!」というのは確かかもしれないけれど、どれが自社に効くかというのが難しいわけであって、その辺りを冒頭の一言で済ませているのはちょっと乱暴な感じも。

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一般サラリーマン向けの解説書として見るならば、オーソドックス。

イザというときの労働基準法.jpg 『イザというときの労働基準法 (PHPビジネス新書)』 ['08年]

 著者は元(長野・沖縄)労働基準局長。同じ著者の『わかる!使える!労働基準法―「知らない」ではすまされない仕事のルール』('07年/PHPビジネス新書)の続編とも言えるもので、この新書のメインターゲットである、企業で働く一般サラリーマン向けに、Q&A方式で、賃金や労働時間に関する問題をわかり易く解説しています。

 新書にしては項目数も多く、その点では充実しているかと思われ、用語索引もついて親切です。
 経営者・管理職向けにも書かれている部分があり、その点で一般サラリーマンが読んでどう思うかというのもありますが、経営者・管理職に求められる労働法の知識というのは、一般サラリーマンが知っておいても結局のところ無駄にはならないと思うので、いいのではないでしょうか。

 ただ、人事担当者や実務担当者が読むとなると、少し浅いかも(初任者レベルか)。
 大学教授である大内伸哉氏の『どこまでやったらクビになるか―サラリーマンのための労働法入門』('08年/新潮新書〉もそうでしたが、判例などを挙げても具体的な判例名がない、と言うより、本書の場合、項目数が多い分、判例解説にまでは言及しきれず、「...という場合もあります」的な解説にとどまっている部分が多いように思えました。

 でも、パート、契約社員、高齢者等を巡る問題も含め、現時点では最新の内容となっており、あくまでも一般サラリーマン向けの解説書として見るならば、手に取りやすいというメリットがあり、内容的にもオーソドックスな線をいっているのではないでしょうか。

《読書MEMO》
●章立て
序章 まずは知っておきたいトラブル解決の基本ルール
第1章 賃金に関するトラブル
第2章 労働時間、割増賃金、休日・休暇のトラブル
第3章 企業内のさまざまなトラブル―配転、出向、男女差別、企業合併、労災保険など
第4章 退職、解雇、雇用保険に関するトラブル
第5章 パート、契約社員、高齢者を巡るトラブル
第6章 「あっ、労働基準法違反!」そのときどうする?―イザというときの労働者の解決手段
第7章 経営者、管理職なら知っておきたい!労基署、労基監督官への対応法

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