【3346】 ◎ アダム・グラント (楠木 建:監訳) 『GIVE & TAKE―「与える人」こそ成功する時代』 (2014/01 三笠書房) ★★★★☆

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2225】 ○ 秋山 進 『「一体感」が会社を潰す
「●ビジネス一般」の インデックッスへ  ○経営思想家トップ50 ランクイン(アダム・グラント) 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「Dr.HOUSE」)

ギバー(与える人)こそが成功するとして、どうしたらギバーになれるのかを説く。

GIVE & TAKE2.jpgGIVE & TAKE.jpg アダム・グラント.jpg アダム・グラント
GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』['14年]

 組織心理学者による本書では、人間の思考と行動を「ギバー(人に惜しみなく与える人)」「テイカー(真っ先に自分の利益を優先させる人)」「マッチャー(損得のバランスを考える人)」の三類型に分け、それぞれの特徴と可能性を分析し、ギバーこそが成功するとして、どうしたらギバーになれるのかを説いています。

 パート1では、ギバーは「ギブ・アンド・テイク」の関係を相手の利益になるようもっていき、受け取る以上に与えようとし、テイカーが自分を中心に考えるのに対し、ギバーは他人を中心に考え、相手が何を求めているかに注意を払うとしています。そして、多くの人々が、ギバーとして人間関係や評判を築いたサービス提供者を重視するようになっているとしています。

 パート2では、テイカーは自分のことで頭がいっぱいなので、三人称の代名詞(私たち)より一人称の代名詞(私)を使うことが多く、調査によれば、たいていの人は、フェイスブックのプロフィールを見ただけでテイカーかどうかを見分けることができるというとのことです。また、ギバーの1つ目の才能として、「ゆるいつながり」の人脈づくりを挙げ、強いつながりは「絆」を生み出すが、弱いつながりは「橋渡し」として役立つとしています。

 パート3では、テイカーは自分がほかの人より優れていると考え、他人に頼りすぎると、守りが甘くなってライバルに潰されてしまうと思いがちだが、ギバーは、競り合うことを弱さだとは考えず、それは強さの源であり、多くの人々のスキルをより大きな利益のために活用する手段であるとしています。また、ギバーの2つ目の才能として、自分だけでなくグループ全体が得をするように、パイ(総額)を大きくすることを挙げ、ギバーはグループに貢献するので皆から感謝されるとしています。

 パート4では、ギバーは同僚や会社を守ることを第一に考えるので、進んで自らの失敗を認め、柔軟に意思決定しようとし、長い目で見てよりよい選択をするためなら、さしあたって自分のプライドや評判が打撃を受けてもかまわないとするとしています。そして、ギバーの3つ目の才能として、テイカーが、自分こそが一番賢い人間になろうと躍起になるのに対し、ギバーは、たとえ自分の信念が脅かされようと、他人の専門知識を受け入れ、その結果、部下の可能性を掘り出し、精鋭たちを育てるということを挙げています。

 パート5では、テイカーは強気な話し方をする傾向があり、独断的であるのに対し、ギバーはもっとゆるい話し方をする傾向があり、控えめな言葉を使って話すとしています。また、ギバーの4つ目の才能として、「強いリーダーシップ」を発揮するのではなく、知らずしらずのうちに相手の心をつかむ質問力や説得術により、相手に対して「影響力」を及ぼすことが挙げられるとしています。

 パート6では、ギバーが成功するために気をつけなければならないこととして、困っている人をうまく助けてやれないときに、燃え尽きてしまうことがあるが、他人のことだけでなく自分自身のことも思いやりながら他者志向的に与えれば、心身の健康を犠牲にすることはなくなるとしています。

 パート7では、「いい人」であるだけでは絶対に成功はできないとし、気づかいが報われる人と人に利用されるだけの人の違いを説いています。ここでは、ギバーが陥りやすい三つの罠として、信用しすぎること、相手に共感しすぎること、臆病になりすぎることを挙げ、それらに陥らないためにはどうすればよいかを述べています。

 パート8では、人間が「お互いを助ける」のはなぜかを考察し、それは、困っている相手に自己意識を同化させ、相手のなかに自分自身を見出すからだとし、つまり、実際には自分自身を助けていることになるとしています。そして、最初に人々の行動を変えれば、信念も後からついてくるとしています。

 パート9では、多くの人がギバーとしての価値観を持っているのに仕事ではそれを表に出したがらないが、ほんの少しでもギバーになれば、もっと大きな成功や豊かな人生、より鮮やかな時間が手に入ること示唆して、本書を締め括っています。

 監訳者の楠木建氏も書いていますが、本書を読んだ第一の印象は「情けは人のためならず」ということでしょうか。しかし、楠木氏は、本書は凡百の「自己啓発書」ではなく、行動科学の理論と実証研究に裏打ちされている点で、個人的な経験や思いつきで書かれた自己啓発のビジネス書とは一線を画しているとしています。

 人事パーソンの視点で見れば、職場にこうしたギバーが増えていくことが望ましいということになるかと思います。また、もし、あるチームが効果的に機能しているとすれば、それは特定のギバーに負っている面があったりもする可能性もあり、そうしたギバーが燃え尽きてしまうことがないような配慮も必要になってくるかと思います。その意味で、組織論的な観点からも多くの示唆に富む本であると思います。

TED Talks. 「与える人」と「奪う人」 ― あなたはどっち?
TED Talks. 「与える人」と「奪う人」.jpg

2TED Talks. 「与える人」と「奪う人」2.jpg2TED Talks. 「与える人」と「奪う人」.jpg(●アダム・グラントは「TEDトーク」で「人当たりの良いギバー」と「人当たりの悪いテイカ―」はすぐ分かるが、「人当たりの良いテイカ―」と「人当たりの悪いギバー」は見分けを誤ることがあると注意を促してる。「人当たりの悪いギバー」の例として「Dr.HOUSE」でヒュー・ローリーが演じたグレゴリー・ハウス医師を挙げているのが個人的には分かりやすかった。有能だが不愛想でいつも不機嫌に「Dr.HOUSE」2004.jpg「Dr.HOUSE」ヒュー・ローリー.jpgしているため組織の上の方からも疎んじられているが、実は部下にとって自身の成長を促してくれる存在であるということだ。キャラクター的にはシャーロック・ホームズをモデルにしていることが知られ、日本では「US版ブラック・ジャック」というキャッチコピーが付けられていた。)

「Dr.HOUSE」 House (FOX 2004/11~2012) ○日本での放映チャネル:FOXライフHD(2005)→FOXチャンネル(2006-)

《読書会》
■2021年04月16日 第34回「人事の名著を読む会」アダム・グラント 『GIVE & TAKE』
『GIVE & TAKE dokusyokai.jpg『GIVE & TAKE dokusyokai2.jpg


Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1