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人間の最期の過ごし方について考えさせられた。

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エンド・オブ・ライフ』['20年] 佐々涼子(1968-2024/56歳没)

エンド・オブ。ライフ.jpg ベストセラーとなり後にドラマ化もされた『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』('12年/集英社)の著者・佐々涼子(1968-2024/56歳没)が、『紙つなげ!―彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』('14年/早川書房)に続いて世に放ったノンフィクションで、2020年第3回・「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」受賞作。

 2013年にから2020年まで、京都にある「渡辺西賀茂診療所」という患者に寄り添う在宅医療をしている診療所を取材して書いた本であり、7年間見てきた終末医療の現場を綴りつつ、著者自身がこだわり続けてきた「理想の死の迎え方」に向き合ったものとなっています。

 特に、冒頭に出てくる、2013年、末期がんに冒された女性の、家族と潮干狩りに行くという約束を果たしたいという最後の願いを叶えるために、訪問看護スタッフらが奮闘する様は感動的です。スタッフは難しい判断を迫られますがそれをやり遂げ、女性はその夜、帰宅した直後に亡くなります。座して死を待つよりも、最後に家族との思い出を作りたいという患者の意向に応えた、究極のQOLストーリーと言えます。

 ただし、これにはいろいろな意見もあるかと思います。無理して京都から遠路知多半島まで潮干狩りに行ったこと結局は女性の寿命を縮めることになったのではないかとか(実際、帰宅途中で呼吸状態が悪化し、酸素飽和度は40%を切ることもあった)、また、そしも行く途中で亡くなっていたら周囲も後悔しか残らなかったのではないかとか。この辺りは、読む人によって評価の分岐点になるかもしれません。

 もう一つ、こちらはストレートに感動的なのですが、この2013年の"潮干狩り"を中心メンバーとしてサポートした訪問看護師の森山文則氏が、その6年後に自身ががんによる余命宣告を受け、自身の死と向き合っていく様が描かれていることです。

 200人以上を看取ってきた彼の最期の日々の過ごし方は、抗がん剤治療をやめ、医療や介護の介入もほとんど受けることなく、「自分の好きなように過ごし、自分の好きな人と、身体の調子を見ながら、『よし、いくぞ』といって、好きなものを食べて、好きな場所に出かける、病院では絶対にできない生活でした」っと本人が語っています。人間の最期の過ごし方について考えさせられます。

 訪問看護師として看取りを仕事にしてきた人が、今度は看取られる立場になるというのは皮肉なことのように思えますが、考えてみれば十分あり得ることであるけです。そして、今度は、その森山を取材した著者自身が、悪 性脳腫瘍という言わば脳のがんに冒され、手に施しようがなく自らの死を受け入れざるを得なくなります。

佐々涼子2.jpg 本書を最初に読んだとき著者は存命でした。執筆活動を続け、様々な人と対談したり、マスコミの取材を受けたりしていたので、意外と持つのかなあと思ったのですが...。昨年['24年]9月に訃報を聞いた時は残念に思いましたが、『夜明けを待つ』('23年集英社インターナショナル)に、「私たちは、その瞬間を生き、輝き、全力で愉しむのだ。そして満足をして帰っていく。なんと素敵な生き方だろう。私もこうだったらいい。だから、今日は私も次の約束をせず、こう言って別れることにしよう。『ああ、楽しかった』と」とあり、そう言えるだけでも強い人だったのだなあと思いました。

NHK首都圏NEWS WEB 「ノンフィクション作家 佐々涼子さん死去 56歳」2024年09月02日

【2024年文庫化[集英社文庫]】

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「葬送」ということについて、さらには「死」について色々考えさせられた。

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エンジェルフライト 国際霊柩送還士2.jpg エンジェルフライト 国際霊柩送還士3.jpg 佐々涼子.jpg
エンジェルフライト 国際霊柩送還士』['12年]『エンジェルフライト 国際霊柩送還士 (集英社文庫)』['14年]ドラマ「エンジェルフライト 国際霊柩送還」タイアップカバー 佐々涼子氏(1968年-2024年9月1日/56歳没
2024年ドラマ放映(主演:米倉涼子)
エンジェルフライト 国際霊柩送還士ドラマ1.jpg 2012年・第10回「開高健ノンフィクション賞」受賞作。

 異境の地で亡くなった人の遺体を、国境を越えて故国へ送り届ける「国際霊柩送還士」の姿を通し、死のあり方を見つめるノンフィクション作品。やっていることは「エンバーミング」なのですが、「葬送」ということについて、さらには「死」についていろいろ考えさせられる内容でした。

 取材対象となった国際霊柩搬送業者エアハース・インターナショナルは、海外で亡くなった人の遺体の日本への帰国と、日本で亡くなった外国人の遺体を母国へ送還することを主に行っています。

 タイトルでも使用されている「エンジェルフライト」は、天使が霊柩(棺)を運んでいる図柄のエアハース社のシンボルマークで、「国際霊柩送還士」という言葉(公的資格などの名称ではない)と併せて、登録商標だそうです。今はどうか分からないですが、取材当時、きちんとした会社としてこうした仕事をしているのは日本ではこの会社だけで、よく知られている海外の事件などの犠牲者の多くを、この社が扱っていたことが本書から窺えます。

 著者は約1年かけて創業者や社員、遺族などへの取材を重ね、時には遺体搬送の現場に立ち会い、エアハース・インターナショナルが手がける国際霊柩送還士という仕事の本質に迫っています。ただし、最初は社長の木村利惠氏から「あなたに遺族の気持ちが分かるんですか。あなたに書けるんですか」と言われて断られ、取材の許可が下りたのは、取材を申し込んでから4年ぐらい経ってからだそうで、この粘りに感服します。

 会社設立は'03年で、本書を読むと、現場はいつも緊急事態の連続のような感じで、当初はとても取材など受ける状況ではなかったのと、木村利惠氏のこの仕事への思い入れから、中途半端な取材はされたくないという思いがあったのではないでしょうか。

 この著者の取材方法には、対象の中に自分自身が入っていくところがあって、自分自身の親の看取り体験などの話も出てきますが、著者自身も取材対象に入り込んでいくタイプだったのがこの場合良かったのかもしれません。

 本書は「開高健ノンフィクション賞」を受賞し、「国際霊柩搬送士」という仕事が世に広く知られるようになるましたが、さらに'23年3月17日からAmazon Primeにて、本作を原作とし、米倉涼子を主演とした配信ドラマ「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」(全6話)が配信されました。そちらの方は今でも視聴可能なのですが、今月['24年6月]9日よりNHK BSプレミアム4KおよびNHK BS「プレミアムドラマ」枠でも放送されるので、テレビ版の方を観たいと思います(BSでの放送に際しては、プレミアムドラマの放送枠(50分)に合わせられるよう再編集されたとのこと)。

《読書MEMO》
「エンゼルフライト.jpg●2024年ドラマ化【感想】脚本はエピソード的にはオリジナルで、フィリピンなどでの海外ロケも含め、かなりしっかり作られている感じ。やや、泣かせっぽい感じもあり、一方でコミカルな要素も加わっているが、「エンゼルフライト2.jpgテレビドラマにするなら、こうした味付けも必要なのかも。米倉涼子が主演で、(エンバーミングの)施術シーンがあり、遠藤憲一まで出ているので、ついつい「ドクターX」を想起してしまい、米倉涼子の演技にも当初それっぽいものを感じた。ただ、「ドク「エンゼルフライト3.jpgターX」と異なるのは、米倉涼子がエンジェルフライト 国際霊柩送還士ドラマ2.jpg泣く場面が多いことで、彼女自身の後日談によれば、脚本上泣かなくてもよいシーンでも涙が出てきたとのこと。それは他の俳優陣も同様のようで、それだけ脚本が上手くできていたということにもなるのだろう。反響が当初の予想以上に大きいことを受け、続編の製作が決まったと聞く。

  
エンジェルフライト 国際霊柩送還士ドラマ3.jpgエンジェルフライト 国際霊柩送還士」●脚本:古沢良太/香坂隆史●監督:堀切園健太郎●音楽:遠藤浩二●原作:佐々涼子●時間:49分●出演:米倉涼子/松本穂香/城田優/矢本悠馬/野呂佳代/織山尚大(少年忍者・ジャニーズJr.)/鎌田英怜奈/徳井優/草刈民代/向井理/遠藤憲一●放映:2024/03~07(全6回)●放送局:NHK-BSプレミアム4K/NHK BS(2023年3月17日からAmazon Prime Videoで配信)

エンジェルフライト 国際霊柩送還士 全6.jpg第1話「スラムに散った夢」(葉山奨之・麻生祐未)

第2話「テロに打ち砕かれた開発支援」(平田満・筒井真理子)


第3話「社葬VS食堂おかめ」(余貴美子・菅原大吉)

第4話「アニメに憧れたベトナム人技能実習生」(近藤芳正・濱津隆之)


第5話「那美VS究極の悪女」(松本若菜・二役)

第6話「母との最期の旅」 (草刈民代・飯田基祐)


【2014年文庫化[集英社文庫]】

●文庫Wカバー版
エンジェルフライト 国際霊柩送還士w.jpg

佐々 涼子2.jpg佐々涼子(ささ・りょうこ)
2024年9月1日、悪性脳腫瘍のため死去。56歳。
「エンジェルフライト」や「エンド・オブ・ライフ」など生と死をテーマにした作品で知られる。

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