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"うつ"の底が抜けると躁になる。つまり、躁の方が深刻だということか。

問題は、躁なんです.jpg 『問題は、躁なんです 正常と異常のあいだ (光文社新書)』 ['08年] 「狂い」の構造.jpg 春日武彦・平山夢明 『「狂い」の構造 (扶桑社新書 19)』 ['07年]

 "うつ"よりも頻度が低いために見過ごされ易い"躁"についての本ですが、著者は、うつ病が「心の風邪」であるならば躁病は「心の脱臼」であるとし、"うつ"の対極に躁があるのではなく、"うつ"の底が抜けると躁になるとしていて(つまり、躁の方が深刻だということ)、その3大特徴(「全能感」「衝動性」「自滅指向」)を明らかにするとともに、有吉佐和子、中島らもなどの有名人からハイジャック事件の犯人まで、行動面でどのようにそれが現れるかをわかり易く説いています。

中島らも.jpg有吉佐和子.jpg 有吉佐和子が亡くなる2カ月前に「笑っていいとも」の「テレフォンショッキング」に出演し、ハイテンションで喋りまくって番組ジャックしたのは有名ですが(橋本治氏によると番組側からの提案だったそうだが)、当時、本書にあるような箍(たが)が外れたような空想小説を大真面目に書いていたとは...。中島らもの父親が、プールを作ると言って庭をいきなり掘り始めたことがあったというのも、ぶっ飛んでいる感じで、彼の躁うつは、遺伝的なものだったのでしょうか。

黒川 紀章.jpg 著者によれば、躁の世界は光があっても影のない世界、騒がしく休むことを知らない世界で、最近では老年期にさしかかった途端にこうした状態を呈する人が増えているとのこと、タイプとしてある特定の妄想に囚われるものや、所謂「躁状態」になるものがあり、後者で言えば、(名前は伏せているが)黒川紀章が都知事選に立候補し、着ぐるみを着て選挙活動をした例を挙げていて、その人の経歴にそぐわないような俗悪・キッチュな振る舞いが見られるのも、躁の特徴だと(個人的に気になるのは、有吉佐和子、黒川紀章とも、テレビ出演、都知事選後の参院選立候補の、それぞれ2カ月後に亡くなっていること。躁状態が続くと、生のエネルギー調整が出来なくなるのではないか)。

黒川紀章(1934-2007/享年73)

 不可解な犯罪で(アスペルガー症候群のためとされたものも含め)、躁病という視点で見ると行動の糸口が見えてくるものもあるとしていますが、やや極端な事例に偏り過ぎで(しかも、自分が直接診た患者でも無いわけだし)、一般の"躁"の患者さんから見てどうなのかなあ。罹患した場合、普段隠している欲望が歯止めなく流れ出していく怖さを強調する一方で、そうした事態に対する患者の内面の苦しみには、今一つ踏み込んでいないように思えます。

 (名前は伏せているが)中谷彰宏氏のように「○○鬱病の時代」とか言って素人が二セ医学用語を振り回すのは確かにどうしようもなく困ったものですが(この発言が本書を書くきっかけになったと「週刊文春」の新刊書コーナーで語っている)、著者自身も、時代の気質の中でこの病を捉えようとしている面があり、その分、社会病理学な視点も含んだ書きぶりになっていて、その点が入門書としてはどうかなあという印象もありました。

 著者自身は、「躁に関心があるのは、怖いもの見たさのようなものがある」といったことを、同じ文春の誌面で語っていて、そのことは、作家・平山夢明氏との対談『「狂い」の構造-人はいかにして狂っていくのか?』('07年/扶桑社新書)を読むと、人間の狂気そのものへの著者の関心が窺えます。但し、この対談では、平山氏の異常性格犯罪に対するマニアックな関心の方が、それ以上に全開状態で、著者が平山氏と歩調を合わせて、自らの患者になるかも知れない人間を「ヤツ」呼ばわりしているのが気になった。

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