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「難民3部作」第2作。前作よりシビアな結末だが、「カーリドは死ななかった」とみる。

希望のかなた 2017.jpg希望のかなた 01.jpg 希望のかなた 02.jpg
希望のかなた [DVD]」サカリ・クオスマネン
『希望のかなた』1.jpg ヘルシンキ。トルコからやってきた貨物船に身を隠していたカーリド(シェルワン・ハジ)は、この街に降り立ち難民申請をする。彼はシリアの故郷アレッポで家族を失い、たったひとり生き残った妹ミリアム(ニロズ・ハジ)と生き別れになっていたのだ。彼女をフィンランドに呼び、慎ましいながら幸福な暮らしを送らせることがカーリドの願いだった。一方、この街でセールスマン稼業と酒浸りの妻に嫌気がさしていた男ヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)は遂に家出し、全てを売り払った金をギャンブルにつぎ込んで運良く大金を手にした。彼はその金で一軒のレストランを買い、新しい人生の糧としようとする。店と一緒についてきた従業員たちは無愛想でやる気の『希望のかなた』2.jpgない連中だったが、ヴィクストロムにはそれなりにいい職場を築けるように思えた。その頃カーリドは、申請空しく入国管理局から強制送還されそうになり、逃走を目論んだあげく出くわしたネオナチの男たちに襲われるが、偶然ヴィクストロムに救われる。拳を交えながらも彼らは友情を育み、カーリドはレストランの従業員に雇われたばかりか、寝床や身分証までもヴィクストロムに与えられた。商売繁盛を狙って手を出した寿司屋事業には失敗するものの、いつしか先輩従業員たちまでもカーリドと深い絆で結ばれていく。そんなある日、カーリドは難民仲間からミリアムの居場所を知らされる。ヴィクストロムらの協力で彼は妹と再会、目的を果たすに至る。だが、安心しきった彼をいつかのネオナチの一員が襲う―。

『希望のかなた』3.jpg フィンランドのアキ・カウリスマキ監督・脚本による2017年の映画で、カンヌ国際映画祭でプレミア上映された前作の「ル・アーヴルの靴みがき」('11年)から続く「難民3部作」の第2作。元々は「港町3部作」という構想だったのが、欧州で難民問題が深刻化する中、そちらに重きを置くように路線変更したようです。さらにカウリスマキ監督は、この作品を最後に映画監督業自体からの引退を仄めかしています。(●2023年、監督引退を事実上撤回し、復帰作「枯れ」』が第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、審査員賞を受賞した。)

 この作品は、第67回ベルリン国際映画祭で「銀熊賞(監督賞)」を受賞しています。同監督作としては、カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得した「過去のない男」('02年)以来、久しぶりの世界三大映画祭の主要部門の受賞であり、この監督、意外と賞の方は獲っていないのだなあと思いました。

 難民問題と格差社会を描き続けているベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督は、カンヌ国際映画祭で5作品連続で主要賞を受賞していますが、ベルリン国際映画祭の"傾向と対策"も、難問問題や格差社会になりつつあるのでしょうか。近年、政策上難民を受け入れてきたドイツで難民受け入れ反対の声が上がるばかりでなく、デンマークをはじめ北欧内でも難民問題を巡って受け入れ反対運動を起きていて、我々が知る以上に、欧州では難民問題がクローズアップされているのかもしれません。

「希望のかなた」4.jpg 映画は、「ル・アーヴルの靴みがき」と似た流れで、主人公が偶然出くわした一人の難民を庇護するというものです。レストラン経営のヴィクストロムは偶然にシリア難民の青年カーリドと出くわし、最初は互いに殴り合いの喧嘩をするものの、結局は彼を受け入れることで、彼を強制送還しようとする側、彼を暴力で排除しようとする側と対峙することになります。

 「ル・アーヴルの靴みがき」では、靴みがきの主人公がアフリカ難民の少年を北仏から母親がいるロンドンに密航させようと骨を折りますが、この「希望のかなた」では、このシリア難民のカーリドはシリア脱出の際にハンガリーで生き別れた妹を探しており、自身も難民申請するも不受理となり、強制送還前日に収容施設から逃亡します(結果的に妹とは会えて、彼女の難民申請も図ることに)。

「希望のかなた」 犬.jpg ネタバレになりますが、最後はヴィクストロムは妻とのよりを戻し(カーリドを庇護することが彼の人格に変化をもたらした?)、一方のカーリドは、ネオナチに刺されながらも、妹を難民センターに送り出した後、浜辺で朝日を受けて横たわり、寄り添ってきた犬のコイスティネンに微かに微笑む(そう言えば「ル・アーヴルの靴みがき」でも犬は難民の少年の味方だった)―というエンディングでした。

 カーリドが刺されて(おそらく)血をどくどく流しながら横たわっているところで映画はぷつっと終わり、すべてがハッピーエンドだった「ル・アーヴルの靴みがき」とはこの点が大きな違いです。「ル・アーヴルの靴みがき」がある種"メルヘン"だとすれば、こちらは"現実"ということなのでしょうか。

 ただ、個人的には、「希望のかなた」というタイトルに影響されたのかもしれませんが、カーリドは死ななかったのではないかという気がします。

「希望のかなたIncP.jpg この映画は随所にユーモアが見られます。例えば、ヴィクストロムがレストランを改装して日本風にした寿司屋は、欧米人にありがちな勘違い的日本趣味に溢れていて、法被を着た従業員たちもどこか変です。日本人がしばしば外国映画に見い出す"おかしな日本観"を、カウリスマキ監督は意図的に具象化してみせ、ユーモアを醸しているように思えます(日本人にはよくわかるユーモアだが、外国人にどこまでわかるか?)。

 そうしたユーモアと、バッドエンドの結末は相性が悪いように思えます。したがって、独断ですが(笑)「カーリドは死ななかった」とみるのがスジではないか思います。

 それにしても、やっぱりシリア内戦によって大量の難民が欧州になだれ込んだことで、欧州も今まで以上に難民の問題と向き合わなければならなくなっているのでしょう。

 国連の「持続可能開発ソリューションネットワーク」が発表している「世界幸福度ランキング」で2018年版から2021年版まで4年連続で1位を獲得したフィンランドにさえも、やっぱりネオナチみたいなゴロツキはいるというのは、この問題と無関係ではないのでしょう。

ヴァルプ(犬のコイスティネン)
「希望のかなた」 犬2.jpg「希望のかなた」es.jpg「希望のかなた」●原題:TOIVON TUOLLA PUOLEN●制作年:2017年●制作国:フィンランド・ドイツ●監督・製作・脚本:アキ・カウリスマキ●撮影:ティモ・サルミネン●時間:98分●出演:シェルワン・ハジ/サカリ・クオスマネン/シーモン・フセイン・アル=バズーン/カイヤ・パカリネン/ニロズ・ハジ/イルッカ・コイヴラ/ヤンネ・フーティアイネン/ヌップ・コイヴ/カティ・オウティネン/マリア・ヤンヴェンヘルミ/ミルカ・アフロス/スレヴィ・ペルトラ/マッティ・オンニスマー/ハンヌ=ペッカ・ビョルクマン/タネリ・マケラ/ヴィッレ・ヴィルタネン/トンミ・コルペラ/ヴァルプ(犬のコイスティネン)●日本公開:2017/12●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-12-17)(評価:★★★★)

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「難民3部作」第1作。こんな結末でいいのかなと思ったりもするが、この監督の場合あまり気にならないのが不思議。
ルアーヴルの靴磨き 2011.jpg ルアーヴルの靴磨き es3.jpg ルアーヴルの靴磨き 03.jpg
ル・アーヴルの靴みがき [DVD]
アンドレ・ウィルム/カティ・オウティネン
「ルアーヴルの靴磨き」01.jpg 北フランスの大西洋に臨む港町ル・アーヴル。ここに暮らすマルセル・マルクス(アンドレ・ウィルム)は、かつてパリでボヘミアン生活を送っていたが、今はル・アーヴルの駅前での靴磨きを生業としている。ベトナム移民のチャング(クォック=デュン・グエン)と共に日々靴磨きに精を出し、夕暮れともなると微々たる儲けながら代金を持ち帰り、献身的な妻・妻のアルレッティ(カティ・オウティネン)に迎えてもらうのを楽しみにしていた。ずっと苦労をかけてきた妻は、マルセルアーヴルの靴磨きges.jpgルにしてみれば勿体ないくらいの女房と感じられてならなかった。そんなある日、アルレッティは病に倒れ、医師から治る見込みはない、余命も長くないと宣告されるが、彼女はマルセルには絶対にこのことは言わないで欲しいと医師に頼む。一方、港にアフリカのガボンからの不法移民が乗った船が漂着し、密航者らのコンテ「ルアーヴルの靴磨き」02.jpgナから逃げ出し、警察の検挙をすり抜けた一人の少年イドリッサ(ブロンダン・ミゲル)にマルセルは偶然出くわす。警視のモネ(ジャン=ピエール・ダルッサン)はマルセルを尋問し、不審者を見なかったかと訊ねるが、少年を見捨てられないと考えたマルセルは、街の一同と共に少年を庇う。ところが隣の住人(ジャン=ピエールルアーヴルの靴磨き3.jpg・レオ)が、黒人の少年が出入りするのを目撃し、警察に通報してしまう。モネ警視はマルセルに付きまとい馬鹿な真似はするなと忠告する。マルセルは収監されたイドリッサの祖父に会いに行き、ロンドンにイドリッサの母親がいて、自分は捕まってしまったが、イドリッサをロンドンに行かせてほしいと頼まれる。マルセルは密航に必要ま300ユーロを集めるため、人気ロックスターのリトル・ボブ(ロベルト・ピアッツァ)にチャリティコンサートを依頼する。資金が集まって、いよいよ密航の日、イドリッサを港まで運び船に乗せることがたが、そこに警視モネがやって来る―。

 フィンランドのアキ・カウリスマキ監督・脚本による2011年の映画で、フランスの港町のル・アーヴルを舞台にした作品で、同監督の「難民3部作」の第1作(原題:ルアーヴル)。タイトルにも表されているように、元々は「港町3部作」という構想だったのが、欧州で難民問題が深刻化する中、そちらに重きを置くようになり、シリーズ第2作「希望のかなた」('17年)以降、「難民3部作」に路線変更したようです。第64回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でプレミア上映され、FIPRESCI賞を獲得しています。

 移民問題というやや重のテーマを扱いながら、どことなくユーモアも漂い(資料によってはコメディ映画として紹介されていたりする)、映画に出てくる人々も皆、質素ながらも互いに支え合って生きていて、日本映画でよく描かれる下町の人情のようなものに通じるところがあります。

 マルセルの妻が倒れるとご近所さんは奥さん手を差し伸べるし、イドリッサが捜査対象になっていることを新聞で知ると皆で庇います。カフェの女主人や常連客、靴みがき仲間までもがマルセルに協力するのがいいです。マルセル自身も、イドリッサを母の元に届けるために奮闘し、最後はイドリッサを追う警視モネまでも、実は人情味ある人間だったとは! 

 加えて、アルレッティにも奇跡が起きるとなると、こんなハッピーな結末にしてしまっていいのかなと思ったりもしますが、この監督の場合、この作り方があまり気にならない、不思議な作品です。多分、作為的に盛り上げるような作り方をしていないため、かえって受け入れやすいのではないかと思います。

ルアーヴルの靴みがき 01.jpg アンドレ・ウィルムが演じた主人公のマルセル・マルクスという名前は、カール・マルクスにインスパイアされたそうで、また、 ジャン=ピエール・ダルッサンが演じたモネ警視は、ドストエフスキーの『罪と罰』に登場する、ラスコーリニコフを疑い心理面から追い詰める捜査官ポルフィーリー・ペトローヴィチにインスパイアされているそうです。

「ルアーヴルの靴磨き」con.png マルセルの頼みでチャリティ・コンサートをやってくれる人気ロックスターのリトル・ボブ(ロベルト・ピアッツァ)は実在のロックンローラーで、つまり本人役で出ているわけです。カウリスマキ監督は、「ロケ地を探していたとき、リトル・ボブの存在がル・アーヴルを舞台に選んだ理由のひとつだった」と言い、「ル・アーブルはフランスのメンフィス、リトル・ボブはさながらそこのエルヴィス・プレスリー」と、その歌声を絶賛しています。

LE HAVRE Jean-Pierre Léaud.jpgJean-Pierre Léaud.jpg ジャン=ピエール・レオは、トリフォーやゴダールの映画によく出ていたヌーヴェルヴァーグ映画の代表的俳優ですが、まさかこんな密告者役で出ているとは思いませんでした(この密告者の男だけが映画の中で"嫌な奴"なのだが)。2016年には第69回カンヌ国際映画祭においてパルム・ドール・ドヌール(名誉パルム・ドール)を受賞していますが、過去の同賞の受賞者は以下の通り錚々たる顔ぶれになります。

パルム・ドール・ドヌール受賞者(※印は俳優としての受賞)
  1997年  イングマール・ベルイマン(スウェーデン)
  2002年  ウディ・アレン(米)
  2003年  ジャンヌ・モロー(仏)※
  2005年  カトリーヌ・ドヌーヴ(仏)※
  2007年  ジェーン・フォンダ(米)※
  2008年  マノエル・ド・オリヴェイラ(ポルトガル)
  2009年  クリント・イーストウッド(米)
  2011年  ベルナルド・ベルトルッチ(伊)
       ジャン=ポール・ベルモンド(仏)※
  2015年  アニエス・ヴァルダ(仏)
  2016年  ジャン=ピエール・レオ(仏)※
  2017年  ジェフリー・カッツェンバーグ(米)
  2019年  アラン・ドロン(仏)※

 また、この映画に出たカウリスマキ監督の愛犬"ライカ"は、2001年から始まったカンヌ国際映画祭で優秀な演技を披露した犬に贈られる賞「パルム・ドッグ賞」の「審査員特別賞」を受賞しています。

ライカ(犬)
ルアーヴルの靴磨き 0.jpgルアーヴルの靴磨き8.jpg「ルアーヴルの「ルアーヴルの靴みがき」11.jpg靴みがき」●原題:LE HAVRE●制作年:2011年●制作国:フィンランド・フランス・ドイツ●監督・製作・脚本:アキ・カウリスマキ●撮影:ティモ・サルミネン●時間:93分●出演:アンドレ・ウィルム/カティ・オウティネン/ジャン=ピエール・ダルッサン/ブロンダン・ミゲル/エリナ・サロ/イヴリーヌ・ディディ/クォック=デュン・グエン/フランソワ・モニエ/ロベルト・ピアッツァ/ピエール・エテックス/ジャン=ピエール・レオ/ライカ(犬)●日本公開:2012/04●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-12-04)(評価:★★★★)
   
ピエール・エテックス(ベッカー医師)...「恋する男」(1962)「ヨーヨー」(1964)「大恋愛」(1968)
カティ・オウティネン(アルレッティ)...「過去のない男」(2002)「街のあかり」(2006)「希望のかなた」(2017)


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「労働者3部作」に続くシリーズ第4作。「格差の最も無い国」にある"格差"。競争社会の外にいる人々への暖かい視線。
「枯れ葉」2023.jpg「枯れ葉」03.jpg 「枯れ葉」01.jpg
「枯れ葉」アルマ・ポウスティ/ユッシ・バタネン
「枯れ葉」04.jpg アンサ(アルマ・ポウスティ)はヘルシンキのスーパーマーケットで働く独身女性、ホラッパ(ユッシ・バタネン)は酒に溺れながらも、どうにか産廃工事で働いている独身男性。ある夜、アンサは友人のリーサ(ヌップ・コイブ)とカラオケバーへ行き、そこへ同僚のフオタリ(ヤンネ・フーティアイネン)に誘われたホラッパがとやって来る。フオタリがリーサを口説こうとする中、アンサとホラッパは、互いの名前も知らぬまま惹かれ合う。アンサは、スーパーの廃棄食品を持ち帰ろうとしたとして事前通告無しで馘を言い渡され、上司の理不尽な通告に怒り、リーサと共にスーパーを辞める。アンサはパブの皿洗いの仕事に就くが、給料日にオーナーが麻薬の密売で警察に捕まってしまう。「枯れ葉」06.jpg偶然そこにホラッパがやってきて、カフェでコーヒーを飲み、その後2人は映画館に行くことに。映画館でゾンビ映画を観て、帰り際ホラッパは「また会いたい」と言う。名前は今度教えると言い、アンサは電話番号をメモした紙をホラッパに渡して頬にキスをするが、ホラッパはそのメモを失くしてしまう。ホラッパは帰ってからメモが無いことに気づくが、探そうにも名前も分からず途方に暮れる。その上飲酒がバレて仕事もクビに「枯れ葉」05.jpgなってしまう。同僚のフタリオに「再会して結婚しかけた」と話すが、連絡しようにも彼女の連絡先を知らないことを言い嘆く。一方アンサも、ホラッパから電話がないことにヤキモキする。しかし2人は偶然映画館の前で再会し、アンサはホラッパをディナーに招待する。穏やかに食事をしていたが、隠れて酒を飲むホラッパに対し、アンサは「アル中はご免よ」と言い、父と兄がお酒によって死に、母はそれを嘆いて死んだと話す。するとホラッパは「指図されるのはご免だ」と言って出ていく。不運な偶然と現実の過酷さが、彼らをささやかな幸福から遠ざける中、果たして2人は、無事に再会を果たし、想いを通い合わせることができるのか―。

アキ・カウリスマキ監督の『Fallen Leaves』がカンヌ審査員賞を受賞 - Nord News
「枯れ葉」がカンヌ審査員賞.jpg アキ・カウリスマキ監督が「希望のかなた」(2017)で監督引退宣言してから6年経を経て、引退を撤回して撮ったラブストーリーで、2023年・第76回「カンヌ国際映画祭」で「審査員賞」を受賞し(受賞ニュースが伝えられた時の邦訳は原題直訳の「落ち葉」だったが、音楽にシャンソンの名曲「枯葉」が使われているため、このタイトルになったと思われる)、「タイム」誌はこの映画が「静かな傑作」であり、カウリスマキの最高傑作かもしれないと評しています。当初3部作として構想され完結していた「労働者」シリーズの「パラダイスの夕暮れ」(2002)、「真夜中の虹」(1990)、「マッチ工場の少女」(1991)に続く4作目として、厳しい現実を描きながらも、ささやかな幸せを信じ生きる人々を優しく描いています。

 フィンランドは「世界の幸福度ランキング」で2022年・2023年と連続して第1位で、「最も格差の少ない国」とされていますが、そうした国フィンランドを舞台に、実在する"格差社会"の底辺にいる人々を描き続けているのが特徴的です(アキ・カウリスマキ監督自身もサンドブラスト、製紙工場、病院の清掃業などで働いていた経歴を持つ)。この映画のアンサも、最後は女性でありながら工場で働く肉体労働者となり、ホラッパに至っては鋳造所で働くようになったものの、アル中がたたって住むところすら無くなり、安ホステルで寝泊まりするようになります(しかし、タルデンヌ兄弟や是枝裕和ではないが、こうした"格差社会"ものはカンヌで強いね)。

 かつてアキ・カウリスマキ監督は、小津安二郎監督生誕90年(没後30年)を記念して世界中の映画作家が小津安二郎を語った「小津と語る」(1993)の中で、「あなたのレベルに到達できないことを納得するまでは、死んでも死にきれません」という言葉を残していますが、この映画にも小津の影響が見られるのでしょうか。無表情と棒読みのセリフは、役者に「演技をさせない」という意味で、日本の濱口竜介監督の作品などにも通じるものがあるように思いました。

「枯れ葉」07.jpg アンサもホラッパも厳しい現実の中にいますが、それぞれに自分のことを気にかけてくれる同僚(二人とも解雇されるので"元同僚"になるが)の友人がいるのが救いでした(最後の方でホラッパが入院する病院の看護師も優しかった)。アキ・カウリスマキ監督の、競争社会ではない、普通の社会(競争社会の外)に生きる人々への温かい視線を感じます。

「枯れ葉」poster.jpg 映画館にはブリジット・バルドーの映画ポスターがあったり、アラン・ドロンの「若者のすべて」(1960)やジャン=ポール・ベルモンドの「気狂いピエロ」(1965)などポスターもあったりして(ロベール・ブレッソン監督の「ラルジャン」(1983)[左]もあった)、そのほかの場面でも背景に映画やレビューのポスターを映り込ませており、この辺りも小津が古い作品でよくやったことであり、小津作品へのオマージュでしょうか。

 2人がデートで観たゾンビ映画は、アキ・カウリスマキ監督と親交のあるジャームッシュ監督の「デッド・ドント・ダイ」(2019)。観終わって映画館を真っ先に出てきたシネフィルと思われる中年男たちが、(ゾンビ映画だったのに)この映画はロベール・ブレッソンの「田舎司祭の日記」(1950)に似ている、いやジャン=リュック・ゴダールの「はなればなれに」(1964)だ、と激論を交わす姿が笑いを誘います(この後、アンサとホラッパの2人は本当の離れ離れになってしまう。この映画は「悲喜劇」だとされているようだ)。

「枯れ葉」アルマ・ポウスティ.jpg また、主演のアルマ・ポウスティは、来日時のインタビューで「この映画は荷物を抱えた孤独な人々が人生の後半で出会う物語だ。人生の後半で恋に落ちるのは勇気がいる」と説明しています。演出はフリーではなく考え抜かれており、「とにかくセリフを覚えてこい。でも練習するな」と指示されるそう。またほとんどのシーンがワンテイクで撮影されているため、ポウスティは「俳優としては怖い」と吐露。さらにカウリスマキが現場でモニタを使わないことにも触れ、「一度カメラをのぞいて照明や小道具の位置を自分でチェックしたら、カメラの横に座ってワンテイクで撮る。あとからモニタはチェックしない。何が撮れているのかわかっているからです」と説明しています。

「枯れ葉」band.jpg ヘルシンキ在住のアンナ&カイサ・カルヤライネン姉妹によるバンド「MAUSTETYTÖT(マウステテュトット)」も出演し、劇中歌として「Syntynyt suruun ja puettu pettymyksin(悲しみに生まれ、失望を身にまとう)」という歌が歌われていますが、無口な主人公の気持ちを代弁しているような歌で、こうした地元のミュージシャンの劇中での起用は「ルアーヴルの靴みがき」(2011)など他のほとんどの作品でもやっています。

「枯れ葉」dog.jpg 「ルアーヴルの靴みがき」では、カウリスマキ監督の愛犬〈ライカ〉が登場し、カンヌ国際映画祭で優秀な演技を披露した犬に贈られる賞「パルム・ドッグ賞」の「審査員特別賞」を受賞していますが、この作品でも、〈アルマ〉という犬が、アンサが殺処分されそうだったのを拾ってやった犬として登場し、ちゃんと演技していて(笑)、「パルム・ドッグ賞」の「審査員大賞」を受賞しています。アンサが犬に付けた名前は「チャップリン」。ラストでアンサがホラッパと画面の奥へ歩いて行くシーンは、「モダン・タイムス」(1936)へのオマージュになっていました(こちらは「男女」+「犬」だったけれど)。

 因みに、映画の時代設定は不明確であり、映画の中に映っている壁掛けカレンダーは、まだ来ていない2024年秋を示している一方、ラジオでナレーションされているニュースは2022年のロシアのウクライナ侵攻の初期の出来事であって、そのため、別の現実が舞台になっているとも言われているようです(メタ―バース流行り?)。

「枯れ葉」d2.jpg「枯れ葉」02.jpg「枯れ葉」●原題:KUOLLEET LEHDET(英:FALLEN LEAVES)●制作年:2023年●制作国:フィンランド・ドイツ●監督・脚本:アキ・カウリスマキ●製作:ミーシャ・ヤーリ/アキ・カウリスマキ/マーク・ルオフ/アルマ(犬)●撮影:ティモ・サルミネン●時間:81分●出演:アルマ・ポウスティ/ユッシ・バタネン/ヤンネ・フーティアイネン/ヌップ・コイブ/マッティ・オンニスマー/アルマ(犬のチャップリン)●日本公開:2023/12●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:角川シネマ有楽町(スクリーン1)(24-01-24)(評価:★★★★☆)

アルマ(犬のチャップリン)

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「労働者3部作」第1作。カウリスマキ映画の作風の雛形が出来上がった作品。

パラダイスの夕暮れ1986.jpgパラダイスの夕暮れ03.jpg
パラダイスの夕暮れ (字幕版)」[Prime Video]マッティ・ペロンパー/カティ・オウティネン

パラダイスの夕暮れ103.jpg ニカンデル(マッティ・ペロンパー)はゴミの収集人。相棒と二人、収集車に乗ってゴミを集めて回る。仕事帰りにスーパーで買い物をしていると手首から血が出ていた。レジ係の女性イロナ(カティ・オウティネン)が親切に手当してくれた。ニカンデルは彼女に一目惚れする。年配の同僚(エスコ・ニッカリ)から「俺は独立してのし上がるつもりだ。一緒にやろう。」と誘われ、その気になったが、同僚は仕事中に急死してしまう。ショックを受けたニカンデルはバーで酔って暴れ、留置所に入れられた。そこで出会ったメラルティン(サカリ・クオスマネン)という失業中の男に自分の会社を紹介し、一緒に働くことになる。仕事中にパラダイスの夕暮れ104.jpg偶然イロパラダイスの夕暮れ105.jpgナに再会し、デートに誘う。ビンゴホールに連れて行ったら「わたしたちうまくいかない」と振られてしまう。イロナはスーパーの店長(ペッカ・ライホ)からクビを言い渡される。悔しくて事務所の手提げ金庫を盗んだ。帰り道、ニカンデルを見つけドライブをねだった。二人は郊外のホテルに泊まりゆっパラダイスの夕暮れ106.jpgくり話をした。翌朝、海を見ながら初めてキスをした。イロナがアパートに帰ると刑事が待っていた。彼女が取り調べを受けている間、ニカンデルはこっそりと金庫をスーパーの事務所に戻す。ニカンデルがイロナのアパートに行くとルームメイト(キッリ・ケンゲス)しかいなかった。彼女は荷物を纏めて出て行ったらしい。ニカンデルは車で探し回ったが見つからない。イロナはホテルが満室だったのでベンチで夜を明かし、朝になってニカンデルの部屋のベルを鳴らした。ニカンデルはコーヒーを出した。彼が仕事をしている間、イロナは彼のベッドで眠った。同棲が始まり、イロナは衣料品店で働き出したが、二人の心はすれ違う。夕食後、イロナが「散歩に行きたい」と言うのでニカンデルが「一緒に行こう」と言うと「独りがいいの」パラダイスの夕暮れ107.jpgと答える。メラルティン夫婦と一緒に4人で映画を観て、酒を飲もうと約束をしたのにイロナはすっぽかす。寂しく情けない思いをしたニカンデルはヘソをまげ、彼女をアパートから追い出す。レコードを聴いたり、パブで酒を飲んで自分を慰めたが、どうしても彼女に会いたかった。イロナは勤め先の店長(ユッカ=ペッカ・パロ)と高級レストランで食事をしていたが、気分が乗らず「帰るわ。ご馳走さま」と中座し、ニカンデルの部屋へ行き、留守だったが彼のレコードを聴きながら寝入ってしまった。その頃ニカンデルはパブの帰り道、暴漢におそわれてケガをして倒れていた。翌日、搬送された病院にメラルティンが見舞いに来た。やっぱりイロナに会いたい。病院を抜け出して彼女の店に行った。「迎えに来た。新婚旅行に行こう」「いいわね」二人をメラルティンは港まで送った―。

パラダイスの夕暮れ109.jpg 1986年公開の、アキ・カウリスマキ監督の、長編3作目で、「労働者(プロレタリアート)3部作」第1作。今に見られるカウリスマキ映画の独特の作風の雛形が出来上がった作品とされ、さらに、既にそれは完成形と言えるものになっています。また、アキ・カウリスマキ監督作の常連となるマッティ・ペロンパーとカティ・オウティネンの初共演作でもあります(ただし、マッティ・ペロンパーの方は、アキ・カウリスマキ監督と親交のあるジム・ジャームッシュ監督のオムニバス映画「ナイト・オン・ザ・プラネット」 ('91年/米)のヘルシンキ編にも出たりしていたが、残念ながら44歳で早逝した)。

マッティ・ペロンパー(1951-1995/44歳没)

 「労働者3部作」の第1作の主人公がゴミの収集人というのも象徴的です。因みに、労働者3部作のあとの2作(「真夜中の虹」「マッチ工場の少女」)はそれぞれ失業者、女工を主人公にしています。徹底して社会の片隅に生きる人々(少し貧しいが、心は優しい)を主人公にし続けているとこころが、ある意味凄いと思います(小津安二郎などの影響も受けているようだが、小津は途中から中流以上の家庭を舞台にするようになった)。

 この作品を観て、経済的に裕福ではない人を主人公に据えるとともに、彼らは、現状では幸福感が得られていないと言うか、幸福とは何か、自分が不幸だということにも気づかないでいるような状況で登場するのも特徴であると改めていました。イロナに「なぜ私といるの?」と訊かれたニカンデルが、「俺には理由なんてない。あるのはただ、この名前と、ゴミ集めの制服、虫歯に病気の肝臓、慢性胃炎...いちいち理由をつける贅沢なんて俺にはない」と、ちょっとハードボイルドっぽく返しますが(この男、時々ハードボイルドを気取るところもある)、自虐的と言うか達観してしまっている印象も受けます。二人は急接近したと思ったら離反したりしますが、最後はハッピーエンドに。でも、この先この二人、大丈夫かなという気もします(結構、発作的に行動する傾向が二人ともある)。

 ニカンデルの友人となるメラルティンを演じたサカリ・クオスマネンがいい味出していて、演じているメラルティンというのも実はいい男でした。ラスト、2人がソ連船でエストニアのタリンに新婚旅行で旅立つときに見送る姿が何とも言えませんでした(因みに、カウリスマキ監督は、旅立つ二人を映さず、見送る友人だけを撮っている)。この人もアキ・カウリスマキ監督作の常連で、「過去のない男」('02年)では悪徳警官を演じていました。強面の悪(ワル)の方が風貌的に似合うため、この映画での意外性が効いています。

 ビンゴホールというのがあるんだね。まあ、フツー、デートするような場所ではないけれど(笑)。カウリスマキ監督自身もホテルのフロント係として出演しています。フィンランドの地元のムード歌謡曲などが使われているのも、カウリスマキ監督作の特徴。あと無いのは、「犬」の演技だけでしょうか。

パラダイスの夕暮れ f.jpgパラダイスの夕暮れ108.jpg「パラダイスの夕暮れ」●原題:VARJOJA PARATIISISSA(英: SHADOWS IN PARADAISE)●制作年:1986年●制作国:フィンランド●監督・脚本:アキ・カウリスマキ●製作:ミカ・カウリスマキ●撮影:ティモ・サルミネン●時間:78分●出演:マッティ・ペロンパー/カティ・オウティネン/サカリ・クオスマネン/エスコ・ニッカリ/キッリ・ケンゲス/ペッカ・ライホ/ユッカ=ペッカ・パロ/ヴァンテ・コルキアコスキ/マリ・ランタシラ/ アキ・カウリスマキ(カメオ出演)●日本公開:2000/04●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-10-10)(評価:★★★☆)

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「敗者3部作」第2作。貧しい暮らしをしている人々の方が男に親切。

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過去のない男1.jpg フィンランドのヘルシンキに向かう列車の乗客の中にその男(マルック・ペルトラ)はいた。辿り着いた夜の公園で彼は一眠りしていたが、そこに現れた3人組の暴漢に身ぐるみ剥がれた上にバットで執拗に殴打され、半死半生の身で病院に搬送された。一時は死んだと診断された男だったが奇跡的に蘇生した。その後、港の岸辺で再び昏倒していた男を救ったのは、コンテナに住むニーミネン(ユハニ・ニユミラ)一家であった。徐々に回復していった彼であったが、一家の妻カイザ(カイヤ・パリカネン)過去のない男2.jpgに何者か問われたときに、答えられなかった。彼は、頭を殴られたことにより、それまでの記憶、それまでの自分を失ってしまっていたのだ。そんな「過去を失った男」である彼に港町の人々は快く手を貸してくれる。コンテナ一家の主人は金曜日にスープを配給する救世軍の元に男を連れて過去のない男3.jpg行き、「人生は後ろには進まない」と励ます。地元の悪徳警官アンティラ(サカリ・クオスマネン)は彼に空きコンテナを貸し与え、男はその前にじゃがいも畑を作り、拾ったジュークボックスを置いた。職安では身分がないという理由で門前払いされたが、救世軍の事務所で仕事を得ることが出来た。そして、そこに属する下士官の女性イルマ(カティ・オウティネン)と仲を深めながら、男は徐々に人間としての生活を取り戻していく―。

過去のない男4.jpg アキ・カウリスマキ監督の2002年公開作。「浮き雲」('96年)に続く「敗者3部作」の第2作。'02年・第55回 「カンヌ国際映画祭」で「グランプリ」と、救世軍の女性イルマを演じたカティ・オウティネンが「女優賞」を受賞しています(カンヌは格差社会を描いたものがよく賞を獲る)。

過去のない男5.jpg コンテナで暮らすような貧しい暮らしをしている人々の方が、役人などよりよほど親切だったなあ。そんな貧しい人が「ディナーに行く」といっておめかししているので、どんなレストランに行くのかと思ったら...(笑)。救世軍が貧しい人々のスープを配るというのは、現代でも同じなのか。神田神保町に日本本営があるけれど...。それにしても、救世軍の弁護士って年寄りだったけれど有能だったなあ。拘留された男の許にその弁護士を遣わして彼の身柄を救ったのもイルマだったという、この辺りは分かりやすかったです。

 「植物人間になるくらいなら死なせてやろう」って医者が口に出して言うのが、あちらの国らしいと思いました。

過去のない男6.jpg この年の「パルム・ドール」はロマン・ポランスキー監督の「戦場のピアニスト」でしたが、優秀な演技を披露した犬に贈られる「パルム・ドッグ賞」を、犬のタハティ(役名:ハンニバル)が受賞しています(同監督作品は必ず犬が登場し、その後、何度かこの賞を受賞している)。フィンランドのムード歌謡=イスケルマの曲の数々とともに(同時監督の作品にはしばしば地元のバンドやミュージシャンが出てくる)、アキ・カウリスマキ監督がファンだと公言する日本のクレイジーケンバンドの「ハワイの夜」が挿入歌として流されています(もともとカウリスマキ・ファンである小野瀬雅生が、自分たちのCDが出るたびに欠かさずカウリスマキ監督に送っていて、その彼らのサウンドが監督に気に入られたという経緯がある)。

 因みに、救世軍の女性を演じたカティ・オウティネンは「ルアーヴルの靴みがき」('11年)などにも出演し、悪徳警官を演じたサカリ・クオスマネンも「希望のかなた」('17年)でのレストラン店主役など出ていて、二人とも同監督作品の常連です。この監督、常連の俳優か、そうでなければ素人に近い人を使う傾向があるのではないでしょうか。おそらく、中途半端に演技されるのが嫌なんだろうなあ。

過去のない男7.jpg「過去のない男」●原題:MIES VAILLA MENNEISYYTTA(仏:L'HOMME SANS PASSE、英:THE MAN WITHOUT A PAST)●制作年:2002年●制作国:フィンランド・ドイツ・フランス●監督・脚本・製作:アキ・カウリスマキ●撮影:ティモ・サルミネン●音楽:レーヴィ・マデトーヤ●時間:97分●出演:カティ・オウティネン/マルック・ペルトラ/アンニッキ・タハティ/マルコ・ハーヴィスト&ポウタハウカ(救世軍バンド)/ユハニ・ニユミラ/カイヤ・パリカネン/エリナ・サロ/サカリ・クオスマネン/アンネリ・サウリ/オウティ・マエンパー/ペルッティ・スヴェホルム/タハィ(犬のハンニバル)●日本公開:2003/03●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-04-29)((評価:★★★★)

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「敗者3部作」第3作。"人生、捨てたもんじゃない"と思わせてくれる。
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街のあかり2.jpg ヘルシンキの百貨店で夜間警備員を務める冴えない男コイスティネン(ヤンネ・フーティアイネン)は、魅力的な女性ミルヤ(マリア・ヤルヴェンヘルミ)と出会う。2人はデートをし、コイスティネンは恋に落ちた。人生に光が射したと思った彼は、起業のため銀行の融資を受けようとするが、まったく相手にされなかった。それでも恋している彼は幸せだった。街のあかり1.jpgしかし、実は恋人は彼を騙していた。ミルヤは、宝石強盗を目論むリンドストロン(イルッカ・コイヴラ)の手先だった。まんまと利用されたコイスティネンだったが、惚れたミルヤを庇って服役する。リンドストロンはそこまで読んで、孤独な彼を狙ったの街のあかり4.jpgだ。馴染みのソーセージ売りアイラ(マリア・ヘイスカネン)の彼への思いには気づかぬまま、粛々と刑期を終え社会復帰を目指すコイスティネン。だがある日、リンドストロンと一緒のミルヤと居合わせた彼は、そこで初めて自分が利用されていたに過ぎないことを悟る―。

街のあかり5.jpg 2006年公開の、アキ・カウリスマキ監督の、「浮き雲」('96年)、「過去のない男」('02年)に続く「敗者3部作」の第3作(完編)で、'06年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品。

 この作品の主人公の男は"孤独"の中にいて、彼の身に起こる不幸はとても辛いものだけれど、彼自身は自分の不幸に気づいてない様子でもあります。さらには、幸せの芽がすぐ傍にあることをも―(やや"無力症"気味?)。そんな彼が起業を思い立ったのはいいですが、職業訓練校の終了証明だけを持って銀行に行き、それだけでもって融資を受けようとするのが滑稽(この辺り、カウリスマキ独特のユーモアか)。それでも、切ない出来事のあとにジンワリ心に広がる希望があって、誰かがこの映画についてそう言ってたけれど、"人生、捨てたもんじゃない"と思わせてくれる、やさしさで包み込むような物語が心地いいです。

街のあかり31.jpg コイスティネンを演じるヤンネ・フーティアイネンは、アキ・カウリスマキ作品では前作「過去のない男」などに脇役出演し、今回がカウリスマキ作品で初めての主演。恋人のいない寂しい男を演じるにはマルチェロ・マストロヤンニに似ていて男前過ぎる気もしましたが、その分、寂しそうな姿は絵になっていました(職場でも孤立し、男たちは彼のことを蔑んでいるのに、女性たちは同情的であるのはこのイケメンのせい?)。一方、アキ・カウリスマキ作品主役級常連のカティ・オウティネンは、スーパーのレジ係の役で出ていました。

街のあかり7.jpg「街のあかり」●原題:LAITAKAUPUNGIN VALOT(英:LIGHTS IN THE DUSK)●制作年:2006年●制作国:フィンランド・フランス・ドイツ●監督・脚本・製作・撮影:アキ・カウリスマキ●時間:78分●出演:ヤンネ・フーティアイネン/マリア・ヤルヴェンヘルミ/イルッ街のあかりcb.jpgカ・コイヴラ/マリア・ヘイスカネン/ヨーナス・タポラ/ペルッティ・スヴェホルム/メルローズ(バンド)/カティ・オウティネン(カメオ出演)/パユ(犬)●日本公開:2007/07●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-05-12)((評価:★★★☆)

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