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前作よりシビアな結末だが、「カーリドは死ななかった」とみる。

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『希望のかなた』1.jpg ヘルシンキ。トルコからやってきた貨物船に身を隠していたカーリド(シェルワン・ハジ)は、この街に降り立ち難民申請をする。彼はシリアの故郷アレッポで家族を失い、たったひとり生き残った妹ミリアム(ニロズ・ハジ)と生き別れになっていたのだ。彼女をフィンランドに呼び、慎ましいながら幸福な暮らしを送らせることがカーリドの願いだった。一方、この街でセールスマン稼業と酒浸りの妻に嫌気がさしていた男ヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)は遂に家出し、全てを売り払った金をギャンブルにつぎ込んで運良く大金を手にした。彼はその金で一軒のレストランを買い、新しい人生の糧としようとする。店と一緒についてきた従業員たちは無愛想でやる気の『希望のかなた』2.jpgない連中だったが、ヴィクストロムにはそれなりにいい職場を築けるように思えた。その頃カーリドは、申請空しく入国管理局から強制送還されそうになり、逃走を目論んだあげく出くわしたネオナチの男たちに襲われるが、偶然ヴィクストロムに救われる。拳を交えながらも彼らは友情を育み、カーリドはレストランの従業員に雇われたばかりか、寝床や身分証までもヴィクストロムに与えられた。商売繁盛を狙って手を出した寿司屋事業には失敗するものの、いつしか先輩従業員たちまでもカーリドと深い絆で結ばれていく。そんなある日、カーリドは難民仲間からミリアムの居場所を知らされる。ヴィクストロムらの協力で彼は妹と再会、目的を果たすに至る。だが、安心しきった彼をいつかのネオナチの一員が襲う―。

『希望のかなた』3.jpg フィンランドのアキ・カウリスマキ監督・脚本による2017年の映画で、カンヌ国際映画祭でプレミア上映された前作の「ル・アーヴルの靴みがき」('11年)から続く難民問題3部作の第2弾。元々は「港町3部作」という構想だったのが、欧州で難民問題が深刻化する中、そちらに重きを置くように路線変更したようです(さらにカウリスマキ監督は、この作品を最後に映画監督業自体からの引退を仄めかしている)。

 この作品は、第67回ベルリン国際映画祭で「銀熊賞(監督賞)」を受賞しています。同監督作としては、カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得した「過去のない男」('02年)以来、久しぶりの世界三大映画祭の主要部門の受賞であり、この監督、意外と賞の方は獲っていないのだなあと思いました。

 難民問題と格差社会を描き続けているベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督は、カンヌ国際映画祭で5作品連続で主要賞を受賞していますが、ベルリン国際映画祭の"傾向と対策"も、難問問題や格差社会になりつつあるのでしょうか。近年、政策上難民を受け入れてきたドイツで難民受け入れ反対の声が上がるばかりでなく、デンマークをはじめ北欧内でも難民問題を巡って受け入れ反対運動を起きていて、我々が知る以上に、欧州では難民問題がクローズアップされているのかもしれません。

 映画は、「ル・アーヴルの靴みがき」と似た流れで、主人公が偶然出くわした一人の難民を庇護するというものです。レストラン経営のヴィクストロムは偶然にシリア難民の青年カーリドと出くわし、最初は互いに殴り合いの喧嘩をするものの、結局は彼を受け入れることで、彼を強制送還しようとする側、彼を暴力で排除しようとする側と対峙することになります。

 「ル・アーヴルの靴みがき」では、靴みがきの主人公がアフリカ難民の少年を北仏から母親がいるロンドンに密航させようと骨を折りますが、この「希望のかなた」では、このシリア難民のカーリドはシリア脱出の際にハンガリーで生き別れた妹を探しており、自身も難民申請するも不受理となり、強制送還前日に収容施設から逃亡します(結果的に妹とは会えて、彼女の難民申請も図ることに)。

「希望のかなた」4.jpg ネタバレになりますが、最後はヴィクストロムは妻とのよりを戻し(カーリドを庇護することが彼の人格に変化をもたらした?)、一方のカーリドは、ネオナチに刺されながらも、妹を難民センターに送り出した後、浜辺で朝日を受けて横たわり、寄り添ってきた犬に微かに微笑む(そう言えば「ル・アーヴルの靴みがき」でも犬は難民の少年の味方だった)―というエンディングでした。

 カーリドが刺されて(おそらく)血をどくどく流しながら横たわっているところで映画はぷつっと終わり、すべてがハッピーエンドだった「ル・アーヴルの靴みがき」とはこの点が大きな違いです。「ル・アーヴルの靴みがき」がある種"メルヘン"だとすれば、こちらは"現実"ということなのでしょうか。

 ただ、個人的には、「希望のかなた」というタイトルに影響されたのかもしれませんが、カーリドは死ななかったのではないかという気がします。

「希望のかなたIncP.jpg「希望のかなた」寿司.jpg この映画は随所にユーモアが見られます。例えば、ヴィクストロムがレストランを改装して日本風にした寿司屋は、欧米人にありがちな勘違い的日本趣味に溢れていて、法被を着た従業員たちもどこか変です。日本人がしばしば外国映画に見い出す"おかしな日本観"を、カウリスマキ監督は意図的に具象化してみせ、ユーモアを醸しているように思えます(日本人にはよくわかるユーモアだが、外国人にどこまでわかるか?)。

 そうしたユーモアと、バッドエンドの結末は相性が悪いように思えます。したがって、独断ですが(笑)「カーリドは死ななかった」とみるのがスジではないか思います。

 それにしても、やっぱりシリア内戦によって大量の難民が欧州になだれ込んだことで、欧州も今まで以上に難民の問題と向き合わなければならなくなっているのでしょう。

 国連の「持続可能開発ソリューションネットワーク」が発表している「世界幸福度ランキング」で2018年版から2021年版まで4年連続で1位を獲得したフィンランドにさえも、やっぱりネオナチみたいなゴロツキはいるというのは、この問題と無関係ではないのでしょう。

「希望のかなた」es.jpg「希望のかなた」●原題:TOIVON TUOLLA PUOLEN●制作年:2017年●制作国:フィンランド・ドイツ●監督・製作・脚本:アキ・カウリスマキ●撮影:ティモ・サルミネン●時間:98分●出演:シェルワン・ハジ/サカリ・クオスマネン/シーモン・フセイン・アル=バズーン/カイヤ・パカリネン/ニロズ・ハジ/イルッカ・コイヴラ/ヤンネ・フーティアイネン/ヌップ・コイヴ/カティ・オウティネン/マリア・ヤンヴェンヘルミ/ミルカ・アフロス/スレヴィ・ペルトラ/マッティ・オンニスマー/ハンヌ=ペッカ・ビョルクマン/タネリ・マケラ/ヴィッレ・ヴィルタネン/トンミ・コルペラ●日本公開:2017/12●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-12-17)(評価:★★★★)

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こんな結末でいいのかなと思ったりもするが、この監督の場合あまり気にならないのが不思議。

ルアーヴルの靴磨き 2011.jpg ルアーヴルの靴磨き es3.jpg ルアーヴルの靴磨き 03.jpg
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「ルアーヴルの靴磨き」01.jpg 北フランスの大西洋に臨む港町ル・アーヴル。ここに暮らすマルセル・マルクス(アンドレ・ウィルム)は、かつてパリでボヘミアン生活を送っていたが、今はル・アーヴルの駅前での靴磨きを生業としている。ベトナム移民のチャング(クォック=デュン・グエン)と共に日々靴磨きに精を出し、夕暮れともなると微々たる儲けながら代金を持ち帰り、献身的な妻・妻のアルレッティ(カティ・オウティネン)に迎えてもらうのを楽しみにしていた。ずっと苦労をかけてきた妻は、マルセルアーヴルの靴磨きges.jpgルにしてみれば勿体ないくらいの女房と感じられてならなかった。そんなある日、アルレッティは病に倒れ、医師から治る見込みはない、余命も長くないと宣告されるが、彼女はマルセルには絶対にこのことは言わないで欲しいと医師に頼む。一方、港にアフリカのガボンからの不法移民が乗った船が漂着し、密航者らのコンテ「ルアーヴルの靴磨き」02.jpgナから逃げ出し、警察の検挙をすり抜けた一人の少年イドリッサ(ブロンダン・ミゲル)にマルセルは偶然出くわす。警視のモネ(ジャン=ピエール・ダルッサン)はマルセルを尋問し、不審者を見なかったかと訊ねるが、少年を見捨てられないと考えたマルセルは、街の一同と共に少年を庇う。ところが隣の住人(ジャン=ピエールルアーヴルの靴磨き3.jpg・レオ)が、黒人の少年が出入りするのを目撃し、警察に通報してしまう。モネ警視はマルセルに付きまとい馬鹿な真似はするなと忠告する。マルセルは収監されたイドリッサの祖父に会いに行き、ロンドンにイドリッサの母親がいて、自分は捕まってしまったが、イドリッサをロンドンに行かせてほしいと頼まれる。マルセルは密航に必要ま300ユーロを集めるため、人気ロックスターのリトル・ボブ(ロベルト・ピアッツァ)にチャリティコンサートを依頼する。資金が集まって、いよいよ密航の日、イドリッサを港まで運び船に乗せることがたが、そこに警視モネがやって来る―。

 フィンランドのアキ・カウリスマキ監督・脚本による2011年の映画で、フランスの港町のル・アーヴルを舞台にしたフランス語映画です。第64回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でプレミア上映され、FIPRESCI賞を獲得しています。

 移民問題というやや重のテーマを扱いながら、どことなくユーモアも漂い(資料によってはコメディ映画として紹介されていたりする)、映画に出てくる人々も皆、質素ながらも互いに支え合って生きていて、日本映画でよく描かれる下町の人情のようなものに通じるところがあります。

 マルセルの妻が倒れるとご近所さんは奥さん手を差し伸べるし、イドリッサが捜査対象になっていることを新聞で知ると皆で庇います。カフェの女主人や常連客、靴みがき仲間までもがマルセルに協力するのがいいです。マルセル自身も、イドリッサを母の元に届けるために奮闘し、最後はイドリッサを追う警視モネまでも、実は人情味ある人間だったとは! 

 加えて、アルレッティにも奇跡が起きるとなると、こんなハッピーな結末にしてしまっていいのかなと思ったりもしますが、この監督の場合、この作り方があまり気にならない、不思議な作品です。多分、作為的に盛り上げるような作り方をしていないため、かえって受け入れやすいのではないかと思います。

ルアーヴルの靴みがき 01.jpg 主人公のマルセル・マルクスという名前はカール・マルクスにインスパイアされたそうで、また、モネ警視はフョードル・ドストエフスキーの小説『罪と罰』に登場する、ラスコーリニコフを疑い心理面から追い詰める捜査官ポルフィーリー・ペトローヴィチにインスパイアされているそうです。

「ルアーヴルの靴磨き」con.png マルセルの頼みでチャリティ・コンサートをやってくれる人気ロックスターのリトル・ボブ(ロベルト・ピアッツァ)は実在のロックローラーで、つまり本人役で出ているわけです。カウリスマキ監督は、「ロケ地を探していたとき、リトル・ボブの存在がル・アーヴルを舞台に選んだ理由のひとつだった」と言い、「ル・アーブルはフランスのメンフィス、リトル・ボブはさながらそこのエルヴィス・プレスリー」と、その歌声を絶賛しています。

LE HAVRE Jean-Pierre Léaud.jpgJean-Pierre Léaud.jpg ジャン=ピエール・レオは、トリフォーやゴダールの映画によく出ていたヌーヴェルヴァーグ映画の代表的俳優ですが、まさかこんな密告者役で出ているとは思いませんでした(この密告者の男だけが映画の中で"嫌な奴"なのだが)。2016年には第69回カンヌ国際映画祭においてパルム・ドール・ドヌール(名誉パルム・ドール)を受賞しています。過去の同賞の受賞者は以下の通り錚々たる顔ぶれです。

パルム・ドール・ドヌール受賞者(※印は俳優としての受賞)
  1997年  イングマール・ベルイマン(スウェーデン)
  2002年  ウディ・アレン(米)
  2003年  ジャンヌ・モロー(仏)※
  2005年  カトリーヌ・ドヌーヴ(仏)※
  2007年  ジェーン・フォンダ(米)※
  2008年  マノエル・ド・オリヴェイラ(ポルトガル)
  2009年  クリント・イーストウッド(米)
  2011年  ベルナルド・ベルトルッチ(伊)
       ジャン=ポール・ベルモンド(仏)※
  2015年  アニエス・ヴァルダ(仏)
  2016年  ジャン=ピエール・レオ(仏)※
  2017年  ジェフリー・カッツェンバーグ(米)
  2019年  アラン・ドロン(仏)※

 また、この映画に出たカウリスマキ監督の愛犬"ライカ"は、2001年から始まったカンヌ国際映画祭で優秀な演技を披露した犬に贈られる賞「パルム・ドッグ賞」の「審査員特別賞」を受賞しています。

ルアーヴルの靴磨き 0.jpgルアーヴルの靴磨き8.jpg「ルアーヴルの靴みがき」●原題:LE HAVRE●制作年:2011年●制作国:フィンランド・フランス・ドイツ●監督・製作・脚本:アキ・カウリスマキ●撮影:ティモ・サルミネン●時間:93分●出演:アンドレ・ウィルム/カティ・オウティネン/ジャン=ピエール・ダルッサン/ブロンダン・ミゲル/エリナ・サロ/イヴリーヌ・ディディ/クォック=デュン・グエン/フランソワ・モニエ/ロベルト・ピアッツァ/ピエール・エテックス/ジャン=ピエール・レオ●日本公開:2012/04●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-12-04)(評価:★★★★)

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