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講談調で娯楽性が高く、伝説的虚構性を重視。「忠臣蔵」の初心者が大枠を掴むのに良い。

忠臣蔵(1958).jpg
忠臣蔵 1958_0.jpg
忠臣蔵 [DVD]」(2004) 主演:長谷川一夫

忠臣蔵 [DVD]」(2013)

滝沢修 忠臣蔵1958.jpg 元禄14年3月、江戸城勅使接待役に当った播州赤穂城主・浅野内匠頭(市川雷蔵)は、日頃から武士道を時世遅れと軽蔑する指南役・吉良上野介(滝沢修)から事毎に意地悪い仕打ちを受けるが、近臣・堀部安兵衛(林成年)の機転で重大な過失を免れ、妻あぐり(山本富士子)の言葉や国家老・大石内蔵助(長谷川一夫)の手紙により慰められ、怒りを抑え役目大切に日を過す。しかし、最終日に許し難い侮辱を受けた内匠頭は、城中松の廊下で上野介に斬りつけ、無念にも討忠臣蔵(1958)市川.jpgち損じる。幕府は直ちに事件の処置を計るが、上野介贔屓の老中筆頭・柳沢出羽守(清水将夫)は、目付役・多門伝八郎(黒川弥太郎)、老中・土屋相模守(根上淳)らの正論を押し切り、上野介は咎めなし、内匠頭は即日切腹との処分を下す。内匠頭は多門伝八郎の情けで家臣・片岡源忠臣蔵  昭和33年.jpg右衛門(香川良介)に国許へ遺言を残し、従容と死につく。赤穂で悲報に接した内蔵助は、混乱する家中の意見を籠城論から殉死論へと導き、志の固い士を判別した後、初めて仇討ちの意図を洩らし血盟の士を得る。その中には前髪の大石主税(川口浩)と矢頭右衛門七(梅若正二)、浪々中を馳せ参じた不破数右衛門(杉山昌三九)も加えられた。内蔵助は赤穂城受取りの脇坂淡路守(菅原謙二)を介して浅野家再興Chûshingura(1958).jpgの嘆願書を幕府に提出、内蔵助の人物に惚れた淡路守はこれを幕府に計るが、柳沢出羽守は一蹴する。上野介の実子で越後米沢藩主・上杉綱憲(船越英二)は、家老・千坂兵部(小沢栄太郎)に命じて上野介の身辺を警戒させ、兵部は各方面に間者を放つ。内蔵助は赤穂退去後、京都山科に落着くが、更に浅野家再興嘆願を兼ねて江戸へ下がり、内匠頭後室・あぐり改め瑤泉院を訪れる。瑤泉院は、仇討ちの志が見えぬ内蔵助を責める侍女・戸田局(三益愛子)とは別に彼を信頼している。内蔵助はその帰途に吉良方の刺客に襲われ、多門伝八郎の助勢で事なきを得るが、その邸内で町人姿の岡野金右衛門(鶴田浩二)に引き合わされる。伝八郎は刃傷事件以来、陰に陽に赤穂浪士を庇護していたのだ。一方、大石襲撃に失敗した千坂兵部は清水一角(田崎潤)の報告によって並々ならぬ人物と知り、腹心の女るい(京マチ子)を内蔵助の身辺に間者として送る。江戸へ集った急進派の堀部安兵衛らは、出来れば少人数でもと仇討ちを急ぐが、内蔵助は大義の仇討ちをするには浅野家再興の成否を待ってからだと説く。半年後、祇園一力茶屋で多くの遊女と連日狂態を示す内蔵助の身辺に、内蔵助を犬侍と罵る浪人・関根弥次郎(高松英郎)、内蔵助を庇う浮橋(木暮実千代)ら太夫、仲居姿のるいなどがいた。内蔵助は浅野再興の望みが絶えたと知ると、浮橋を身請けして、妻のりく(淡島千景)に離別を申渡す。長子・主税のみを残しりくや幼い3人の子らと山科を去る母たか(東山千栄子)は、仏壇に内蔵助の新しい位牌を見出し、初めて知った彼の本心にりくと共に泣く。るいは千坂の間者・忠臣蔵  昭和33年tyu.jpg小林平八郎(原聖四郎)から内蔵助を斬る指令を受けるがどうしても斬れず、平八郎は刺客を集め内蔵助を襲い主税らの剣に倒れる。機は熟し、内蔵助ら在京同志は続々江戸へ出発、道中、近衛家用人・垣見五郎兵衛(二代目中村鴈治郎)は、自分の名を騙る偽者と対峙したが、それを内蔵助と知ると自ら偽者と名乗忠臣蔵e.jpgって、本物の手形まで彼に譲る。江戸の同志たちも商人などに姿を変えて仇の動静を探っていたが、吉良方も必死の警戒を続け、しばしば赤穂浪士も危機に陥る。千坂兵部は上野介が越後へ行くとの噂を立て、この行列を襲う赤穂浪士を一挙葬る策を立てるが、これを看破した内蔵助は偽の行列を見送る。やがて、赤穂血盟の士47人は全員江戸に到着し、決行の日は後十日に迫るが、肝心の吉良邸の新しい絵図面だけがまだ無い。岡野金右衛門は同志たちから、彼を恋する大工・政五郎(見明凡太朗)の娘お鈴(若尾文子)を利用してその絵図を手に入れるよう責められていて、決意してお鈴に当る。お鈴は小間物屋の番頭と思っていた岡野金右衛門を初めて赤穂浪士と覚ったが、方便のためだけか、恋してくれているのかと彼に迫り、男の真情を知ると嬉し泣きしてその望みに応じ、政五郎も岡野金右衛門の名も聞かずに来世で娘と添ってくれと頼む。江戸へ帰ったるいは、再び兵部の命で内蔵助を偵察に行くが、内蔵助たちの美しい心と姿に打たれる彼女は逆に吉良家茶会の日を14日と教える。その帰途、内蔵助を斬りに来た清水一角と同志・大高源吾(品川隆二)の斬合いに巻き込まれ、危って一角の刀に倒れたるいは、いまわの際にも一角に内蔵助の所在を偽る。るいの好意とその最期を聞いた内蔵助は、12月14日討入決行の檄を飛ばす。その14日、内蔵助はそれとなく今生の暇乞いに瑤泉院を訪れるが、間者の耳目を警戒して復讐の志を洩らさChûshingura (1958) .jpgず、失望する瑤泉院や戸田局を後に邸を辞す。同じ頃、同志の赤垣源蔵(勝新太郎)も実兄・塩山伊左衛門(竜崎一郎)の留守宅を訪い、下女お杉(若松和子)を相手に冗談口をたたきながらも、兄の衣類を前に人知れず別れを告げて飄々と去る。勝田新左衛門(川崎敬三)もまた、実家に預けた妻と幼児に別れを告げに来たが、舅・大竹重兵衛(志村喬)は新左衛門が他家へ仕官すると聞き激怒し罵る。夜も更けて瑤泉院は、侍女・紅梅(小野道子)が盗み出そうとした内蔵助の歌日記こそ同志の連判状であることを発見、内蔵助の苦衷に打たれる。その頃、そば屋の二階で勢揃いした赤穂浪士47人は、表門裏門の二手に分れ内蔵助の采忠臣蔵 1958_1.jpg配下、本所吉良邸へ乱入。乱闘数刻、夜明け前頃、間十次郎(北原義郎)と武林唯七(石井竜一)が上野介を炭小屋に発見、内蔵助は内匠頭切腹の短刀で止めを刺す。赤穂義士の快挙は江戸中の評判となり、大竹重兵衛は瓦版に婿の名を見つけ狂喜し、塩山伊左衛門は下女お杉を引揚げの行列の中へ弟を探しにやらせお杉は源蔵を発見、大工の娘お鈴もまた恋人・岡野金右衛門の姿を行列の中に発見し、岡野から渡された名札を握りしめて凝然と立ちつくす。一行が両国橋に差しかかった時、大目付・多門伝八郎は、内蔵The Loyal 47 Ronin (1958).jpg忠臣蔵 _V1_.jpg助に引揚げの道筋を教え、役目を離れ心からの喜びを伝える。その内蔵助が白雪の路上で発見したものは、白衣に身を包んだ瑤泉院が涙に濡れて合掌する姿だった―。[公開当時のプレスシートより抜粋]
若尾文子(お鈴)・鶴田浩二(岡野金右衛門)

忠臣蔵 1958 長谷川一夫.jpg 1958(昭和33)年に大映が会社創立18年を記念して製作したオールスター作品で、監督は渡辺邦男(1899-1981)。大石内蔵助に大映の大看板スター長谷川一夫、浅野内匠頭に若手の二枚目スター市川雷蔵のほか鶴田浩二、勝新太郎という豪華絢爛たる顔ぶれに加え女優陣にも京マチ子、山本富士子、木暮実千代、淡島千景、若尾文子といった当時のトップスターを起用しています。当時、赤穂事件を題材とした映画は毎年のように撮られていますが、この作品は、その3年後に作られた同じく大作である松田定次監督、片岡千恵蔵主演の「赤穂浪士」('61年/東映)とよく比較されます。「赤穂浪士」の方は大佛次郎の小説『赤穂浪士』をベースとしています。

 "忠臣蔵通"と言われる人たちの間では'61年の東映版「赤穂浪士」の方がどちらかと言えば評価が高く、一方、この'58年の大映版「忠臣蔵」は、「戦後映画化作品の中で最も浪花節的かつ講談調で娯楽性が高く、リアリティよりも虚構の伝説性を重んじる当時の風潮が反映されている作品であり、『忠臣蔵』の初心者が大枠を掴むのに適していると言われている」(Wikipedia)そうです。概ね同感ですが、東映版「赤穂浪士」にしても、大佛次郎の小説『赤穂浪士』を基にしているため、史実には無い大佛次郎が作りだしたキャラクターが登場したりするわけで、しかも細部においては必ずしも原作通りではないことを考えると、この大映版「忠臣蔵」は、これはこれで「伝説的虚構性を重視」しているという点である意味オーソドックスでいいのではないかと思いました。

 「赤穂浪士」の片岡千恵蔵の大石内蔵助と、3年先行するこの「忠臣蔵」の長谷川一夫の大石内蔵助はいい勝負でしょうか。「赤穂浪士」が浅野内匠頭に大川橋蔵を持ってきたのに対し、この「忠臣蔵」の浅野内匠頭は市川雷蔵で、「赤穂浪士」が吉良上野介に月形龍之介を持ってきたのに対し、この「忠臣蔵」の吉良上野介は滝沢修です。この「忠臣蔵」の長谷川一夫と滝沢修は、6年後のNHKの第2回大河ドラマ「赤穂浪士」('64年)でも忠臣蔵 1958.jpgそれぞれ大石内蔵助と吉良上野介を演じています(こちらは大佛次郎の『赤穂浪士』が原作)。また、「赤穂浪士」が「大石東下り」の段で知られる立花左近に大河内傳次郎を配したのに対し、こちら「忠臣蔵」は立花左近に該当する垣見五郎兵衛忠臣蔵 1958 中村.jpg二代目中村鴈治郎を配しており、長谷川一夫が初代中村鴈治郎の門下であったことを考えると、兄弟弟子同士の共演とも言えて興味深いです。但し、この場面の演出は片岡千恵蔵・大河内傳次郎コンビの方がやや上だったでしょうか。
二代目中村鴈治郎(垣見五郎兵衛)

勝新太郎(赤垣源蔵)
忠臣蔵_V1_.jpg この作品は、講談などで知られるエピソードをよく拾っているように思われ(このことが伝説的虚構性を重視しているということになるのか)、先に挙げた内蔵助が武士の情けに助けられる「大石東下り」や、同じく内蔵助がそれとなく瑤泉院を今生の暇乞いに訪れる「南部坂雪の別れ」などに加え、赤垣源蔵が兄にこれもそれとなく別れを告げに行き、会えずに兄の衣服を前に杯を上げる「赤垣源蔵 徳利の別れ」などもしっかり織り込まれています。赤垣源蔵役は勝新太郎ですが、この話はこれだけで「赤垣源蔵(忠臣蔵赤垣源蔵 討入り前夜)」('38年/日活)という1本の映画になっていて、阪東妻三郎が赤垣源蔵を演じています。また、浪々中を馳せ参じた不破数右衛門(杉山昌三九)もちらっと出てきますが、この話も「韋駄天数右衛門」('33年/宝塚キネマ)という1本の映画になっていて、羅門光三郎が不破数右衛門忠臣蔵 1958 simura.jpgを演じています。こちらの話ももう少し詳しく描いて欲しかった気もしますが、勝田新左衛門の舅・大竹重兵衛(演じるのは志村喬)のエピソード(これも「赤穂義士銘々伝」のうちの一話になっている)などは楽しめました(志村喬は戦前の喜劇俳優時代の持ち味を出していた)。
志村喬(大竹重兵衛)

 映画会社の性格かと思いますが、東映版「赤穂浪士」が比較的男優中心で女優の方は脇っぽかったのに対し、こちらは、山本富士子が瑤泉院、京マチ子が間者るい、木暮実千代が浮橋太夫、淡島千景が内蔵助の妻りく、若尾文子が岡野金右衛門(鶴田浩二)の恋人お鈴、中村玉緒が浅野家腰元みどりと豪華布陣です。それだけ、盛り込まれているエピソードも多く、全体としてテンポ良く、楽しむところは楽しませながら話が進みます。山本富士子はさすがの美貌というか貫禄ですが、京マチ子の女間者るいはボンドガールみたいな役どころでその最期は切なく、若尾文子のお鈴は、父親も絡んだ吉良邸の絵図面を巡る話そのものが定番ながらもいいです。
1山本・京・鶴田.jpg忠臣蔵 鶴田浩二 若尾文子.jpg
山本富士子(瑤泉院)/京マチ子(女間者おるい)/鶴田浩二(岡野金右衛門)  若尾文子(お鈴)・鶴田浩二

山本富士子 hujin.jpg「婦人画報」'64年1月号(表紙:山本富士子)

忠臣蔵 1958es.jpg忠臣蔵(1958)6.jpg滝沢修(吉良上野介)・市川雷蔵(浅野内匠頭)

 渡辺邦男監督が「天皇」と呼ばれるまでになったのはとにかく、この人は早撮りで有名で、この作品も35日間で撮ったそうです(初めて一緒に仕事した市川雷蔵をすごく気に入ったらしい)。でも、画面を観ている限りそれほどお手軽な感じは無く、監督の技量を感じました。ストーリーもオーソドックスであり、確かに、自分のような初心者が大枠を掴むのには良い作品かもしれません。松田定次監督、片岡千恵蔵主演の「赤穂浪士」('61年)と同様、役者を楽しむ映画であるとも言え、豪華さだけで比較するのも何ですが、役者陣、特に女優陣の充実度などでこちらが勝っているのではないかと思いました。
 
【新企画】二大大型時代劇映画「忠臣蔵1958」「赤穂浪士1961」を見比べてみた。(個人ブログ「映画と感想」)


「忠臣蔵」スチール 淡島千景(大石の妻・りく)/長谷川一夫(大石内蔵助)/木暮実千代(浮橋太夫)
淡島千景『忠臣蔵』スチル1.jpg
淡島千景/東山千栄子(大石の母・おたか)
淡島千景『忠臣蔵』スチル5.jpg

小沢栄太郎(千坂兵部)・京マチ子(女間者おるい)    船越英二(上杉綱憲)
忠臣蔵 小沢栄太郎・京マチ子.jpg 忠臣蔵 船越英二.jpg

Chûshingura (1958)
Chûshingura (1958).jpg忠臣蔵 1958 08.jpg「忠臣蔵」●制作年:1958年●監督:渡辺邦男●製作:永田雅一●脚本:渡辺邦男/八尋不二/民門敏雄/松村正温●撮影:渡辺孝●音楽:斎藤一郎●時間:166分●出演:長谷川一夫/市川雷蔵/鶴田浩二/勝新太郎/川口浩/林成年/荒木忍/香川良介/梅若正二/川崎敬三/北原義郎/石井竜一/伊沢一郎/四代目淺尾奥山/杉山昌三九/葛木香一/舟木洋一/清水元/和泉千忠臣蔵 1958 10.jpg太郎/藤間大輔/高倉一郎/五代千太郎/伊達三郎/玉置一恵/品川隆二/横山文彦/京マチ子/若尾文子/山本富士子淡島千景/木暮実千代/三益愛子/小野道子/中村玉緒/阿井美千子/藤田佳子/三田登喜子/浦路洋子/滝花久子/朝雲照代/若松和子/東山山本富士子『忠臣蔵(1958).jpg千栄子/黒川弥太郎/根上淳/高松英郎/花布辰男/松本克平/二代目澤村宗之助/船越英二/清水将夫/南條新太郎/菅原謙二/南部彰三/春本富士夫/寺島雄作/志摩靖彦/竜崎一郎/坊屋三郎/見明凡太朗/上田寛/小沢栄太郎/田崎潤/原聖四郎/志村喬/二代目中村鴈治郎/滝沢修●公開:1958/04●配給:大映(評価:★★★★)

山本富士子(瑤泉院)・三益愛子(戸田局)

2020年2月20日NHK-BSプレミアム
千坂兵部(小沢栄太郎)と女間者おるい(京マチ子)/岡野金右衛門(鶴田浩二)と大工の娘・お鈴(若尾文子)
忠臣蔵_0182.JPG 忠臣蔵_0183.JPG
立場を転じて内蔵助に秘密情報を漏らすおるい(京マチ子)/「徳利の別れ」赤垣源蔵(勝新太郎)
忠臣蔵_0185.JPG 忠臣蔵_0186.JPG
娘婿・勝田新左衛門(川崎敬三)を叱る大竹重兵衛(志村喬)/「南部坂雪の別れ(後段)」瑤泉院(山本富士子)
忠臣蔵_0189.JPG 忠臣蔵_0190.JPG

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大佛次郎の原作小説をベースに考えればオーソドックス(?)なオールスター映画。

赤穂浪士 1961 .jpg赤穂浪士 1961 87.jpg 赤穂浪士 kataoka .jpg
赤穂浪士 [DVD]」 片岡千恵蔵(大石内蔵助)

赤穂浪士 1961dL.jpg 五代将軍綱吉治下、江戸市内に立てられた高札の「賄賂は厳禁のこと」の項が墨黒々と消され、犯人とおぼしき浪人・堀田隼人(大友柳太朗)が目明し金助(田中春男)に追われるが、堀部安兵衛(東千代之介)に救われる。赤穂五万石の当主・浅野内匠頭(大川橋蔵)は、勅使饗応役を命ぜらるが、作法指南役の吉良上野介(月形龍之介)は、内匠頭が賄賂赤穂浪士 1961  ookawa1.jpgを贈らないため事毎に意地の悪い仕打ちをする。勅使登城当日、度重なる屈辱に耐えかね、松の廊下で上野介に刃傷に及ぶ。内匠頭は命により即日切腹、浅野家は改易に。赤穂城代・大石内蔵助(片岡千恵蔵)のかつての親友で、上野介の長子・綱憲(里見浩太朗)を当主とする上杉家の家老・千坂兵部(市川右太衛門)は、上野介お構いなしとの片手落ちの幕府の処断に心痛する。兵部は清水一角(近衛十四郎)に命じ、腕ききの浪人者を集め、上野介の身辺を守らせ、隼人も附人の一人となる。兵部は妹の仙(丘さとみ)に内蔵助らの動静をさぐることを命じ、隼人も赤穂に赴く。内蔵助は、同志に仇討ちの意志を赤穂浪士さくら千恵蔵.jpg伝えて城を明け渡すと、京都山科に居を構えて祇園一力で遊蕩の日々を送り、妻子とも離別する。世の誹りの中、兵部だけは内蔵助の心中を知る。内蔵助は立花左近を名乗って東下りするが、三島の宿で本物の立花左近(大河内傳次郎)と鉢合わせになり、左近の情ある計らいで事無きを得る。内蔵助は討入り前に瑶泉院(大川恵子)を訪れ、言外に今生の別れを告げると、元禄14年12月14日雪の中、本所松坂町の吉良邸に討入る―。

赤穂浪士 1961 ookawa .jpg 松田定次監督による1961年の東映創立10周年記念作品。東映は同監督の1956年製作の東映創立5周年記念作品「赤穂浪士 天の巻・地の巻」、1959年製作の"東映発展感謝記念"「忠臣蔵 櫻花の巻・菊花の巻」に続くオールスター・キャストの忠臣蔵映画であり、「赤穗浪士 天の巻・地の巻」などと同じく、大佛次郎(1897-1973/享年75)の、昭和初期に「東京日日新聞」に連載、1928年改造社より刊行の小説『赤穗浪士』(新潮文庫など)を原作としています(5周年記念の後にまた"東映発展感謝記念"作や10周年記念作を作ったのは、その間に大映が長谷川一夫主演のオールスター映画「忠臣蔵」('58年/大映)を作っていることへの対抗意識もあったようだ)。5周年記念「赤穗浪士 天の巻・地の巻」の時の脚本が新藤兼人であっ赤穂浪士 東.jpgたのに対し、こちらは小国英雄の脚本。「赤穗浪士 天の巻・地の巻」の時は大石内蔵助を市川右太衛門が、浅野内匠頭を東千代之介が、立花左近を片岡千恵蔵、堀部安兵衛を堀雄二が演じていたのに対し、こちらは大石内蔵助を3年前の「忠臣蔵 櫻花の巻・菊花の巻」の時と同じく片岡千恵蔵が(片岡千恵蔵は「忠臣蔵 天の巻・地の巻」('38年/日活)では浅野内匠頭と立花左近の1人2役を演じている。この時の大石内蔵助役は坂東妻三郎)、浅野内匠頭を大川橋蔵が、立花左近を大河内傳次郎が、堀部安兵衛を東千代之介が演じています。また、この作品では、内蔵助の心情を知る上杉家の家老・千坂兵部の存在が大きく取り上げられていて、それを市川右太衛門が演じているほか、原作小説の主人公的存在で、千坂兵部の命により赤穂浪士の動向を探る浪人・堀田隼人という架空大友柳太朗赤穂浪士38.jpgの人物を、「赤穗浪士 天の巻・地の巻」の時に続いて赤穂浪士 月形.jpg赤穂浪士 1961 es.jpg演じています(この役は過去に大河内傳次郎や片岡千恵蔵も演じている)。因みに吉良上野介も、「赤穗浪士 天の巻・地の巻」の時に続いて月形龍之介が演じています。
大河内傳次郎(立花左近)・片岡千恵蔵(大石内蔵助)...「大石東下り」の場面

赤穂浪士0.gif 豪華俳優陣がそれぞれに相応しい役を演じているという印象を受け、オーソドックスに作られたものの中では完成度はまずまず高いのではないでしょうか。まあ、大友柳太朗が演じる堀田隼人は完全に架空の人物であるし、千坂兵部(実在)も赤穂事件の2年前(1700年)に既に没していたことが後に判明しているため、"オーソドックス"というのはあくまでも大佛次郎の小説『赤穗浪士』をベースとして考えた場合ということになり、マキノ正博/池田富保監督の「忠臣蔵 天の巻・地の巻」('38年/日活京都)などの"古典"と比べればいじりまくっているということにはなりますが...。因みに、立花左近は「実録忠臣蔵」('21年)でマキノ省三監督がこしらえた架空キャラクターで、モデルは垣見五郎兵衛(実在)という人ですが、大石内蔵助とは鉢合わせするどころか、実際には会ってもおらず、大佛次郎の原作にも登場しません。マキノ省三監督が「勧進帳」の要素を「忠臣蔵」に取り込み、それを受け継いだのでしょう(つまり、監督による"いじり"はそれまでも絶えず行われていたということか)。今や「大石東下り」として定番的な名場面となっています。

 まあ、あまり史実にこだわり出すと、そもそも吉良上野介は本当に浅野内匠頭に意地悪したのかも怪しくなり、浅野内匠頭に対する取り調べの記録なども確かな史料は無いため、結局は多くが推測の域を出ないことになってしまうというのもあるかと思います。だからこそフィクションが成り立つとも言え、フィクションはフィクションとして楽しむべきなのかもしれません。

赤穂浪士 大友.jpg この大佛次郎原作・松田定次監督版の場合、やはり何と言っても大友柳太朗が演じる堀田隼人の存在が特徴的で、「賄賂は厳禁のこと」と書かれた立札に落書きし(この話は原作には無い)、賄賂を受け取っている吉良上野介を揶揄することで、浅野内匠頭の吉良上野介への怒りを単なる"私憤"の域に止めず"公憤"の域にまで引き上げ、観客が浅野内匠頭に同情しやすい状況を作り出す役割を果たしているように思います。でも、結局隼人自身は、浪士たちに共感を覚えながらも自らを浪士たちに同化しきれないことを悟って、スパイ同士の関係から恋仲になった仙の下へ戻って行きます。映画からは隼人が自らが抱える虚無を克服できなかったことが窺えますが、原作では後日譚として隼人と仙は心中したとなっています(原作では仙は兵部の妹でも何でもない非血縁者)。

赤穂浪士 中村.jpg あとは目立ったのは、浅野内匠頭のことを心配していた中村錦之助(萬屋錦之介)演じる脇坂淡路守。吉良上野介ごときで命を落とすのは惜しいと内匠頭に辛抱を説き、浅野家臣には上野介への付け届をもう少し配慮しろとの実践的アドバイスをしています(この人の言うことを聞いていれば赤穂事件は起きなかった?但しこの話も原作には無い)。しかし、遂に刃傷事件が起きてしまって悔しがり、松の廊下を搬送される吉良にわざと(?)ぶつかって「我が家の紋所を不浄の血でけがすとはなにごとぞ!無礼者!」と言って吉良上野介を扇子でしたたか打ち据えます(この話も原作には無い)。でもこれはまあ立花左近の"勧進帳"(大石東下り)と併せて定番と言えば赤穂浪士 市川.jpg定番です。むしろ、市川右太衛門演じる上杉家の家老・千坂兵部赤穂浪士 里見.jpg後半の目立ちぶりが顕著だったかも。千坂兵部は内蔵助と旧知の関係になっていて(原作には無い設定)、なぜか内蔵助が立花左近と鉢合わせになった三島の宿にまで出没し、内蔵助と目と目だけの"会話"。最後は、父親の危機に馳せ参じようとする上野介の長子・綱憲(里見浩太朗)を上杉家のためだと言って(世間は皆、赤穂浪士側を支持していますとの殆ど観客向けのような説明の仕方がスゴイけれど)命を張って押しとどめます(原作では赤穂浪士討ち入りの時点で千坂兵部は国元に戻されているため、この場面も無い)。

赤穂浪士 松方.jpg 松方弘樹(1942年生まれ、デビュー2作目で当時18歳)が大石内蔵助の息子・大石主税役で出ていて、討ち入り前に元服しますが(実在の大石主税は当時15歳ぐらいか)、討ち入った先に近衛十四郎(松方弘樹の実父)が演じる二刀流の剣豪・清水一角がいるという取り合わせが興味深いです(清水一角は歌舞伎で使われた名前で、本名は清水一学(実在))。"親子出演"で、親子を敵味方にしてしまったのだなあ。近衛十四郎の剣戟がちらっと見られるのはいいです(松方弘樹の方はまだ、ただ出ているだけ程度の存在か)。

 江戸っ子の畳職人・伝吉を演じた中村賀津雄(中村嘉葎雄)(こちらは中村錦之助と"兄弟出演")とその棟梁を演じた吉田義夫(いつもは悪役が多い)、内匠頭の一の側近・片岡源吾右衛門(史料では無言であることを条件に内匠頭の切腹への立ち合いを許されたとある)を演じた山形勲(この人も普段は悪役が多片岡源五右衛門(山形勲)f.jpgく、後に吉良上野介も演じるがここでは忠義の家臣)も良かったです。オールスター映画ですが、ストーリーは概ね定番です(但し、改めて振り返ると、大佛次郎の原作と比べても細部においては「無い無い尽くし」であるため、「(原作をベースに考えれば)オーソドックス」の"オーソドックス"には?マークがつくが)。そうした意味では、個々の役者を楽しむ映画かもしれません。長谷川一夫主演の「忠臣蔵」('58年/大映)と観比べてみるのも面白いかと思います。

山形勲(片岡源五右衛門)

【新企画】二大大型時代劇映画「忠臣蔵1958」「赤穂浪士1961」を見比べてみた。(個人ブログ「映画と感想」)

赤穂浪士1961 _0.jpg「赤穂浪士」●制作年:1961年●監督:松田定次●製作:大川博●脚本:小国英雄●撮影:川崎新太郎●音楽:富永三郎●原作:大佛次郎「赤穂浪士」●時間:150分●出演:片岡千恵蔵/中村錦之助(萬屋錦之介)/東千代之介/大川橋蔵/丘さとみ/桜町弘子/三原有美子/藤田佳子/花園ひろみ/大川恵子/中村賀津雄(中村嘉葎雄)/松方弘樹/里見浩太郎/柳永二郎/宇佐美淳也/堺駿二/田中春男/多々良純/尾上鯉之助/徳大寺伸/香川良介/小柴幹治/片岡栄二郎/堀正夫/高松錦之助/有馬宏治/楠本健二/月形哲之介/瀬川路三郎/団徳麿/小田部通麿/潮路章/有川正治/南方英二(後のチャンバラトリオ)/遠山金次郎/尾上華丈/大前均/中村錦司/赤木春恵/上代悠司/国一太奈良東映赤穂浪士超満員昭和36年.jpg郎/水野浩/中村時之介/北龍二/明石潮/清川荘司/吉田義夫/星十郎/沢村宗之助/戸上城太郎/阿部九洲男/加賀邦男/長谷川裕見子/花柳小菊/青山京子/千原しのぶ/木暮実千代/大赤穂浪士 およね(木暮実千代).jpg河内傳次郎/近衛十四郎/山形勲/薄田研二/進藤英太郎/大友柳太朗/月形龍之介/市川右太衛門●公開:1961/03●配給:東映(評価:★★★☆)

木暮実千代(およね)

「赤穂浪士」封切時(奈良東映・昭和36年)写真:谷井氏

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シリーズ第4作。前作「二十二の指紋」よりやや落ちるが、個々の役者を見ていくと興味深い。

三十三の足跡poter.jpg多羅尾伴内 三十三の足跡vhs3.jpg 多羅尾伴内 三十三の足跡1 2 - コピー.png
「多羅尾伴内 三十三の足跡」[vhs]  片岡千恵蔵/木暮実千代/喜多川千鶴

三十三の足跡to.jpg 正月興行を間近に控えた太陽劇場に鶴十郎の幽霊が出たという騒ぎが起きる。十年前、人気役者・嵐鶴十郎は芸道の事で当時の劇場主・中谷から意見されたのを恨んで三階の楽屋で自殺をした。その幽霊が出たという。中谷もその鶴十郎の幽霊に悩まされて縊死しており、現在の劇場の権利は木塚専三(進藤英太郎)の手にあった。元旦が初日で舞台稽古に張り切っていた"こまどり座"の中に中谷の娘よし子(木暮実千代)・あつ子(喜多川千鶴)姉妹もいて、かつての父の劇場での初舞台を楽しみにしていた。その姉妹に大道具係・後映画パンフ 三十三の足跡.jpg藤宗吉(山本礼三郎)は、お父さんは自殺ではないと謎の言葉を囁く。一方劇場には先日背景係をクビになった多羅尾伴内(片岡千恵蔵)が、今度は建築技師となって劇場の視察に乗り込んでいた。舞台稽古が始められるが舞台の床板が落ちて一座のみや子(暁テル子)がケガをする。楽屋にはどこからともなく人の足音が聞こえたり、笑い声やらうめき声が聞こえたりして奇怪な事が続く。一座の演出家・川上敏夫(月形龍之介)は宗吉を犯人と睨むが、その宗吉はロープで首を縊り、伴内の医者が乗り込んだ時には既に死んでいた。翌日、中谷姉妹の許へ伴内の公証人が現れてこの劇場は近くあなた達のものになると告げて帰っていく。それから程なく伴内は、私立探偵として宗吉の死因調査に劇場に現れた―。

「三十三の足跡」映画パンフ

二十一の指紋_dvd.jpg 松田定次(1906-2003)監督による1948(昭和23)年公開の大映映画で、多羅尾伴内シリーズの「七つの顔」('46年)、「十三の眼」('47年)、「二十一の指紋」('48年)に続く第4作。'48年末封切の正月作品ですが、封切時には片岡千恵蔵(1903-1983)は既に大映を退社しており、大映での最後の多羅尾伴内シリーズとなりました(大映4作の中では最後のこの「三十三の足跡」だけがDVD化されていない)。

二十一の指紋」('48年)

 映画評論家・山根貞夫氏によれば、片岡千恵蔵の大映退社の事の起こりは、'48年の秋、大映の永田雅一社長が映画館主の集まりで、"役者はカーテンと同じで何度でも取り替えられる"という趣旨の発言をやってのけたのが発端で、片岡千恵蔵がこれに怒って、大映との契約が切れるのを機に契約更新しないで大映を辞めたそうです。片岡千恵蔵はその後、監督・松片目の魔王.jpg田定次、脚本家・比佐芳武らと組んで、連合映画作家協会を設立、自由民権運動を描いた「白虎」('49年/松竹(配給))を自主製作しますが(月形龍之介、喜多川千鶴らも出演している)、この連合映画作家協会に東横映画の撮影所長・マキノ満男も参加しており、東横映画が大映との関係が切れる契機となったとのこと。片岡千恵蔵の方は東横映画に俳優兼重役として入社し、その東横映画が大泉映画などを合併して'51年に東映が創立され、2年後には多羅尾伴内シリーズ第5作「片目の魔王」('51年/東映)が作られ、シリーズ第11作「七つの顔の男だぜ」('51年/東映)まで続きました。
片目の魔王 [VHS]

 この「三十三の足跡」でも多羅尾伴内は、①劇場の背景係(新米の絵描きでペンキ缶をひっくり返してクビになる)、②建築技師(パリ・オペラ座を模したという劇場の構造に関心を寄せる)、③"通りがかりの"医師(大道具係の宗吉の縊死を検視する)、④公証人(中谷よし子・あつ子姉妹に劇場の所有権があることを伝える)、最後に、⑤私立探偵・多羅尾伴内、⑥正義の人・藤村大造と多彩ですが、これでも前作「二十一の指紋」('48年)の7役より1つ少ない...。しかも最後、決めゼリフを吐かないで書き置きして消え、書割りみたいな背景の中を去っていくところで終わるのがこれまでと異なる趣と言えばそう言えるものの、定番はやはり定番通りやった方が良かったのではないでしょうか。

 前半はむしろ、演出家・川上敏夫役の月形龍之介(1902-1970)の方が目立っていたなあ。黒澤明の初監督作品「姿三四郎」('43年/東宝)で、敵役の檜垣源之助を演じるなど、脇役・敵役のイメージがありましたが(「宮本武蔵」('40年/日活)では佐々木小次郎を演じた。その時の武蔵役が片岡千恵蔵)、この「三十三の足跡」では至極まともな理性人である演出家・川上敏夫を演じ、怪異騒動を最初から人為的なものと踏んで独自に犯人推理し(予想は違っていたが)、また、よし子・あつ子姉妹を解雇しようとする劇場主を諌めて2人が舞台に出られるようにするなど、完全にヒーロー風です。多羅尾伴内扮する背景係のうだつの上がらなさとの対比でこうした描き方になっているのでしょうが、ストレートに正義漢役も演じられる人なのだなあと。

三面鏡の恐怖 vhs.jpg木々高太郎「三面鏡の恐怖」.jpgお茶漬けの味.jpgお茶漬の味000.jpg その他では、亡霊騒ぎに巻き込まれる中谷よし子役の木暮実千代(1918-1990)は、同年の久松静児監督の「三面鏡の恐怖」('48年/大映)では、上原謙の主人公を驚かす方の役で出ていましたが今回は怯えさせられる役でした(この人は小津安二郎監督の「お茶漬の味」('52年/松竹)などホームドラマっぽい作品にも主演で出ている)。

 また、「二十一の指紋」に笠原警部役で出ていた大友柳太郎(1912-1985)が劇団関係者の笠原という役で出ていますが、悪玉の劇場主を演じた進藤英太郎(1899-1977)などに比べると当時はまだ若輩の部類だったのでしょうか。暗~い感じの大道具係・後藤宗吉を演じた山本礼三郎(1902-1964)は、この作品と同年、黒澤明監督の「醉いどれ天使」('48年/東宝)では、三船敏郎演じるヤクザの松永と最後死闘を繰り広げる松永の元親分のヤクザ・酔いどれ天使_5.jpg醉いどれ天使  20.jpg岡田を演じ(因みに木暮実千代はその岡田の元情婦で、今は松永の情婦だが松永を裏切る役で出ている)、「野良犬」('49年/東宝)では、拳銃の闇ブローカー・本多を演じています。

山本礼三郎/木暮実千代 in「酔いどれ天使」('48年4月公開)with 三船敏郎

杉狂児.jpg みや子(暁テル子)の許婚を演じた杉狂児(1903-1975)は、女性の尻に敷かれる気弱な男ばかり演じていますが、映画監督の稲垣浩は杉狂児について、「日本の映画史に残る喜劇役者だと私は思う。いや、思うではなくいだおれ太郎.jpgく是非とも日本映画史に残さねばならぬ喜劇役者である」とし、「伴淳や森繁も個人の力はあるとしても、杉狂児の作ったレールを忘れてはならない」と喜劇人として高く評価しています(稲垣浩監督の「無法松の一生」('43年/大映)にも出ている。また、この人は、大阪・道頓堀の"くいだおれ太郎"の顔のモデルであるとも言われている)。

多羅尾伴内 三十三の足跡1 2.png 個々の役者を見ていくと興味深いのですが、プロットや全体の構成、テンポの良さという点では前作「二十一の指紋」の方が上でしょうか(前作でイメージが確立してしまったので、今回は変化球を意図した?)。

 亡霊が出てくるシーンで「オペラの怪人」のテーマが流れるけれど(そう言えば、作品のモチーフ自体が「オペラ座の怪人」に似ている点もある)、音楽著作権の方はどうなっているのだろうか。クラシックなら著作権切れですが、「オペラ座の怪人」の作家ガストン・ルルーの没年は1927年であり、日本基準(没後50年)でも欧州基準(没後70年)でも当時はまだ著作権は生きています。但し、それはあくまで現在の基準であって、著作権法そのものが当時まだ整備されていなかったから問題ないのだろうか?それとも、似たような別の曲なのか? いや。やはり同じ曲で、ちゃんと著作権料を払った?

「三十三の足跡(多羅尾伴内三十三の足跡)」●制作年:1948年●監督:松田定次●●脚本:比佐芳武●撮影:石本秀雄●音楽:深井史郎/服部良一●時間:75分●出演:片岡千恵蔵/小暮実千代/喜多川千鶴/月形龍之介/杉狂兒/大友柳太郎/服部富子/暁照子/藤井貢/山本礼三郎/服部富子/上代勇吉/村田宏寿/南部章三/戸上城太郎/岩田正/大美輝子/南春恵/由利道夫●公開:1948/12●配給:大映(評価:★★★)  

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茂吉(佐分利信)は最後、泣かなかったのではないか(妙子(木暮実千代)が話を作っている?)。

お茶漬の味poster.jpgお茶漬けの味 dvd.jpg お茶漬けの味.jpg お茶漬の味00.jpg
お茶漬の味 [DVD]」「お茶漬の味 [DVD] COS-023」 佐分利信/木暮実千代

お茶漬の味36.jpg 会社勤務の佐竹茂吉(佐分利信)は長野出身で質素な生活を好む。妻の妙子(木暮実千代)とはお見合い結婚だが、上流階級出身の妙子にとって夫の質素さが野暮にしか見えず、学生時代の友人たちである雨宮アヤ(淡島千景)、黒田高子(上原葉子)、姪っ子の山内節子(津島恵子)らと遊び歩いて憂さをはらしている。茂吉はそんな妻の気持ちを知りながらも、あえて触れないようにしていた。ところが、節子がお見合いの席から逃げ出したことをきっかけに、茂吉と妙子が衝突する。妙子は口をきかなくなり、あげくのはてに黙って神戸の友人のもとへ出かけてしまう。一方の茂吉はウルグアイでの海外勤務が決まって羽田から出発するが、それを聞いても妙子は帰ってこない。茂吉が発った後、家に帰ってきた妙子にさすがの友人たちも厳しい態度をとる。平然を装う妙子だったが、茂吉の不在という現実に内心は激しく動揺していた。そこへ突如茂吉が夜中になって帰ってくる、飛行機のエンジントラブルだという。喜ぶ妙子に茂吉はお茶漬けを食べたいという。二人で台所に立って準備をし、お茶漬けを食べる二人。お互いに心のうちを吐露し、二人は和解する。夫婦とはお茶漬なのだと妙子を諭す茂吉。妙子は初めて夫のありがたさ、結婚生活のすばらしさに気づく。一方、お見合いを断った節子は若い岡田登(鶴田浩二)にひかれていくのだった―(「Wikipedia」より)。

お茶漬の味 vhs0.jpg 1952(昭和27)年公開の小津安二郎監督作で、野田高梧、 小津安二郎のオリジナル脚本ですが、小津が1939年に中国戦線から復員したあとの復帰第一作として撮るつもりだったのが「有閑マダム連がいて、亭主をほったからしにして遊びまわっている」という内容が内務省の検閲に引っ掛かってお蔵入りになっていたのを、戦後に再度引っ張り出して改稿したものであり、その際に、主人公夫婦がよりを戻す契機となったのが夫の戦争への応召であったのを、ウルグアイのモンテビデオ赴任に変えるなどしています。
          
お茶漬の味 saburi1.jpg 木暮実千代の演技の評価が高い作品ですが、茂吉を演じた佐分利信もいい感じではないでしょうか。奥さんの言いなりになっているようで、実は全て分かった上での行動や態度という感じで、最後の和解のシーンも良かったです。その後、木暮実千代演じる妙子が雨宮アヤ(淡島千景)ら女友達に夫婦和解の様子を伝え、妙子自身大泣きした一方で、茂吉の方も「わかっている」と言って目に涙を溜めて泣いたと夫婦2人で泣いたような話をしますが、この辺りは妙子が話を作っているのではないかなあ(彼女の性格上、自分だけが泣いたことにはしたくなかったのでは)。

お茶漬の味 鶴田・津島2.jpg 個人的には、この打ち明け話のシーンが無く、そのまま節子(津島恵子)と岡田(鶴田浩二)が連れだって歩くシーンで終わっても良かったようにも思いましたが、この"のろけ話"ともとれる話を節子が実質2度も聞かされるところが軽くコメディなのだろなあ。妙子から"旦那さんの選び方"の講釈を受けた上で(そうなったのは偶々なのだが)、ラストの岡田と連れだって歩くシーンに繋がっていきます。

津島恵子/鶴田浩二

お茶漬の味 野球観戦2.jpgお茶漬の味 パチンコ.jpg 女性3人でのプロ野球観戦(後楽園球場でのパ・リーグ試合でバッターボックスには毎日オリオンズの別当薫が。後楽園球場は当時、毎日オリオンズなど5球団の本拠地だった)や、競輪観戦(後楽園競輪場。1972年に美濃部亮吉都知事の公営ギャンブル廃止策により休止)、パお茶漬の味 笠智衆.jpgチンコなど(パチンコは当時立ったまま打つものであり、「東京暮色」('57年)でも笠智衆が立ったまま打つシーンがある)、昭和20年代後半当時の風俗をふんだんに盛り込んでいるのもこの作品の特徴で、パチンコ屋で偶然再会した茂吉の戦友・平山定郎役の笠智衆が、パチンコ屋の親爺でありながらパチンコが流行るのを「こんなもんが流行っている間は世の中はようならんです。つまらんです。いかんです」と言っているのもおかしいです(しかし、笠智衆は軍歌しか歌わないなあ。あと詩吟か(「彼岸花」('58年)))。

 歌舞伎座でお見合いというのも、当時としては、こういうセッティングの仕方はよくあったのではないでしょうか。節子(津島恵子)はその見合いをすっぽかして茂吉と岡田の競輪観戦に勝手に合流し、仕舞にはパチンコにまでついてきてしまうわけですが...(お茶漬の味 鶴田・佐分利・津島.jpg競輪レースの模後楽園球場 競輪場.jpg様を"執拗に"撮っているのが興味深い。「小早川家の秋」('61年/東宝)に出演した森繁久彌が、競輪シーンが台本にあるの見て「小津には競輪は撮れない」と言ったそうだが、ここで既にしっかり撮っている。この作品では、隣り合っていた後楽園球場と後楽園競輪場の両方でロケをやったことになる)。
後楽園球場・後楽園競輪場(1976年)

津島恵子/鶴田浩二    司葉子/佐田啓二(「秋日和」('60年))
お茶漬の味 津島・鶴田.png秋日和 司葉子 佐田啓二.jpg その後、パチンコに夢中で帰りの遅くなった岡田(鶴田浩二)と節子(津島恵子)がラーメン屋のカウンターで並んでお茶漬の味 カロリー軒.jpgラーメンを食べる場面は、夫婦でお茶漬けを食べるメインストーリーの方のラストの伏線と言えなくもありません。男女が並んでラーメンを食べる場面は後の「秋日和」('60年)におけるアヤ子(司葉子)と後藤(佐田啓二)も同様であり、この2人はやがて結婚することから、岡田と節子もそうしたことが暗示されているのでしょうか。因みにラーメン屋の名前は「三来元」で両作品に共通しています(とんかつ屋「カロリー軒」も小津映画の定番の店名)。

津島恵子/淡島千景   佐分利信/鶴田浩二
お茶漬の味2.jpgお茶漬の味 佐分利・鶴田.png 木暮実千代の他、淡島千景、上原葉子(上原謙の妻)、津島恵子らの演技も楽しめるし、ちょい役ながら当時19歳の北原三枝(後の石原裕次郎夫人)もバーの女給役で出ていて、鶴田浩二や笠智衆らの演技も同様に楽しめます。でも、やはり、真ん中にいる佐分利信が安心して見ていられるというのが大きいかも。何のことはないストーリーですが、観終わった後の印象はそう悪くはない作品でした。

お茶漬の味 0.jpg

Ochazuke no aji (1952)
Ochazuke no aji (1952) .jpg「お茶漬の味」●制作年:1952年●監督:小津安二郎●製作:山本武●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤一郎●時間:115分●出演:佐分利信/木暮実千代/鶴田浩二/笠智衆/淡島千景/津島恵子/三宅邦子/柳永二郎お茶漬けの味 dvd_.jpg/十朱久雄/望月優子/設お茶漬の味 北原.jpg楽幸嗣/志賀直津子/石川欣一/上原葉子/北原三枝●公開:1952/10●配給:松竹●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター(90-08-19)(評価:★★★☆)併映:「東京の合唱(コーラス)」(小津安二郎)お茶漬の味 [DVD]」 鶴田浩二/北原三枝(バーの女給役)
 

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観客に判断を任せた結末。"状況的"には解るが"動機的"によく解らない...。

三面鏡の恐怖 vhs.jpg 三面鏡の恐怖(1948)6.jpg 三面鏡の恐怖06.jpg 三面鏡の恐怖ー上原。小暮.JPG 三面鏡の恐怖 文庫.jpg
「三面鏡の恐怖[VHS]」 上原謙/木暮実千代 三面鏡の恐怖 (KAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ)』['18年]
san「三面鏡の恐怖」.jpg 建設会社秘書課長・真山十吉(上原謙)は、水力発電ダム工事に賭ける情熱を恋人・尾崎嘉代子(木暮実千代)に熱く語る。しかし後日、社長から娘への縁談を持ちかけられた十吉は、嘉代子を裏切って社長令嬢と結婚してしまう。傷心の嘉代子は、親切ごかしに近付いてきた真山の同僚・平原(水原浩一)と結婚する。数年が過ぎ、十吉は建設会社の社長になっていた。妻は病気ですでに他界しており、妻の妹・辰美(新宮信子)が義兄にほのかな恋心を抱いていた。そんな真山の邸にある日一人の女性が訪れ、真山は驚愕する。かつて別れた嘉代子だったからだ。しかし、その女性は、自分は嘉代子ではなく、妹の伊都子(木暮実千代・二役)であり、姉は心臓病で他界したと言う。驚きながらも、いつしか真山は伊都子を恋するようになり、二人は結婚して真山邸に住むようになるが、真山家の母親と辰美にはそれが面白くない。やがて、平原が新妻の伊都子と出会うが、伊都子は平原を忌み嫌う。一方の平原は、伊都子が実は自分の元妻・嘉代子であると疑う。そして辰美も伊都子の正体を疑い始める。そんな中、平原が謎の死を遂げ、担当の落合刑事(船越英二)は伊都子に嫌疑をかける―。

 1948(昭和23)年公開の、高岩肇脚本、久松静児監督のコンビによる「夜光る顔」('46年/原作:菊田一夫)、「パレットナイフの殺人」('46年/原作:江戸川乱歩)、「盗まれかけた音楽祭」('46年)、「蝶々失踪事件」('47年/原作:江戸川乱歩)に続く作品で、原作は木々高太郎(林髞)の第2回('49年)日本推理作家協会賞(長編部門)候補作「三面鏡の恐怖」(結局、この回の受賞者は「不連続殺人事件」の坂口安吾、但し、木々高太郎は第1回の短編部門での受賞者でもあった)。

木々高太郎「三面鏡の恐怖」.jpg 物語は、最初の方は矢鱈テンポがよくて、十吉が嘉代子と別れて"逆玉婚"したと思ったら妻が亡くなり、それでも社長の地位にいて、義妹の辰美からは慕われているものの彼の方はつれない―そこへ嘉代子そっくりの、その妹・伊都子を名乗る女性が現れる、という状況まであっという間にきてしまいます。

 嘉代子が使っていたのと同じ三面鏡の前で、十吉の心中を見透かすように笑う小暮実千代の"伊都子"は怖いです。そこで、これこそタイトル通りの「ホラー映画」かと思ったら、十吉が今度は伊都子に熱を上げてしまい、"伊都子"の本当の正体は嘉代子なのかが問題となる「サスペンス映画」でした。

 但し、そうした謎に明確な答えを与えないまま終わらせる、所謂リドル・ストーリーになっていて、伊都子の正体は嘉代子なのか、それとも伊都子はやはり嘉代子の妹なのか、また、平原は伊都子によって殺されたのか(その場合は正当防衛の可能性が高いと船越英二(二枚目!)演じる刑事は考える)、或いは平原本人の過失死なのか、何れも観客に判断を任せる形になっているのが面白いと思いました。

『長編推理小説 三面鏡の恐怖』(1948年/高志書房)

木々高太郎「三面鏡の恐怖」2.jpg ただ、話の流れとしては、"状況的"には伊都子の正体は嘉代子なのだろなあと。しかし、そうなると、何故わざわざ嘉代子は"伊都子"に化けなければならなかったのか"動機的"によく解らない...。ただ十吉を怖がらせるだけのためか。

 ところが、話の終わり方としては、十吉にとってはもうそんなことはどうでもよくなっていて、彼の願いは妻を伊都子と信じてひたむきに愛情を捧げることだけ、みたいなラブストーリー仕様になっていて、え~っという感じも(最初は伊都子に嘉代子の影を見て、あれほど怯えていたのに)。別の穿った見方をすれば、伊都子=嘉代子は実はとんでもないファム・ファタールになっていて(平山の影響?)、これから十吉に対する彼女の復讐劇が始まるととれなくもないのではないかなあ(考えすぎか)。

三面鏡の恐怖 (1955年) (探偵双書)』(1955年/春陽堂書店)

 因みに木暮実千代は、この作品と同じ年に黒澤明監督の「醉いどれ天使」('48年/東宝)と松田定次監督の「三十三の足跡 (多羅尾伴内 三十三の足跡)」('48年/大映)にも出ています。

木暮実千代2.jpg醉いどれ天使  20.jpg「三面鏡の恐怖」●制作年:1948年●監督:久松静児●●脚本:高岩肇/久松静児●撮影:高橋通夫●音楽:齋藤一郎●原作:木々高太郎「三面鏡の恐怖」●時間:82分●出演:木暮実千代/上原謙/新宮上原謙.jpg信子/瀧花久子/水原洋一/宮崎準之助/船越英二/千明みゆき/上代勇吉●公開:1948/06●配給:大映(評価:★★★) 木暮実千代 in「酔いどれ天使」('48年4月公開)with 三船敏郎
木暮実千代(1952年頃)(1918-1990/享年72)/上原謙(1909-1991/享年82)

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主人公は真田だと思うが、松永が余りに鮮烈。意図して劇画的に作ることで緊迫感を増している。

酔いどれ天使 dvd2.jpg Yoidore tenshi(1948).jpg 酔いどれ天使 dvd.jpg 酔いどれ天使 0.jpg 
酔いどれ天使 [DVD]Yoidore tenshi(1948)酔いどれ天使<普及版> [DVD]」志村喬(眞田)/三船敏郎(松永)

酔いどれ天使 志村・三船.jpg 戦後の焼け跡にあるゴミ捨て場と化して悪臭を放つ小さな沼、その対岸で医師を営む眞田(志村喬)は近所でも評判の飲んだくれ医者で口は悪かったが、心の優しい人物だった。眞田は闇市をシマとするヤクザの松永(三船敏郎)の怪我の治療をしたことから、彼が結核であることを察知し注意を与える。松永は口煩い眞田の首を絞めつけるが、松永の兄貴分である岡田(山本礼三郎)に虐待され、今は眞田に救われて彼の看護婦代わりをしている美代(中北千枝子)を見て去って行く。眞田は松永を心配してダンスホールへ行って再度彼に忠告し、数日後、泥酔した松永がレントゲン写真を持って眞田を訪れるが、予醉いどれ天使 3.jpg想通り松永の病は重かった。やがて岡田が刑務所から出所、周囲は彼の機嫌を伺うようになり、松永の情婦だった奈々江(木暮実千代)も岡田に靡く。眞田は病魔に蝕まれた松永を医院に連れて帰る。悪夢にうなされて眼を覚ました松永は、美代を連れ戻そうと醉いどれ天使 4.jpg医院に乗り込んだ岡田に、今日は引き取ってくれと頭を下げて頼み込む。ヤクザの虚しさを悟った松永に、飲み屋の女ぎん(千石規子)は優しい誘いをかけるが、闇市の連中は打って変わって松永を無視するようになる。松永が奈々江の部屋へ行くと岡田がおり、アパートの廊下に流れたペンキの上で松永と岡田は死闘を繰り広げる。雪解けのある日、故郷へ帰るというぎんの手には松永の遺骨があった。沼をじっと眺めている眞田に、肺病を克服したセーラー服の少女(久我美子)が走ってきて礼を述べ、2人は微笑みながら肩を並べて歩き出す―。

酔いどれ天使 志村.jpg 主人公の医師・眞田に関しては、当初は若く理知的で使命感に燃える人物の設定だったそうですが、あまりに理想的すぎたため脚本執筆が初期段階で頓挫し、黒澤明、植草圭之助らは前に取材で出会った医師を思い出して、その人物をモデルに切り替えたとのこと。その人物は、劇中のような場末で無免許の婦人科医をやっていたような類の中年男で、アル中で下品を絵に描いたような人物だったが、会話中に時折見せる人間観察・批判、自嘲するような笑い方などに哀愁と存在感があったそうです。

 劇中で眞田が、自分のことを自分で「天使」だと言っているのが興味深いです(マイケル・カ酔いどれ天使_5.jpgーティスの「汚れた顔の天使」(Angel With Dirty Face、'38年/米)などとはタイトルの付け方のスタンスが異なるか)。仁義をふりかざす松永に対しての「仁義なんてものは悪党どもの安全保障条約さ」といった台詞も気が利いていますが、こうした台詞の中に、作品テーマの1つである、ヤクザ社会に対する批判も込められているように思いました(この台詞、和田誠氏も『お楽しみはこれからだ PART2―映画の名セリフ』('76年/文藝春秋)の中で取り上げていた)。
三船敏郎(松永)/山本礼三郎(岡田)

酔いどれ天使 三船.jpg酔いどれ天使 三船2.jpg ところが、テーマはヤクザ批判なのに、時の新人俳優・三船のギラギラした個性が際立つあまり、松永が主人公の眞田以上に魅力的な人物と化してしまったことは、黒澤監督にとって大きな誤算だった(?)ともされている作品で、確かにそうした面はあるかも。黒澤明は、この作品の前年の谷口千吉監督の「銀嶺の果て」('47年/東宝、三船敏郎の実質的デビュー作)で原作・脚本を務め、撮影現場にも関与していることから、自分が監督するなら三船敏郎という新人俳優をどう使おうかというイメージは、少し前からあったのではないでしょうか。

酔いどれ天使 チラシ.jpg酔いどれ天使 三船 4.jpg それがハマり過ぎたというか...。おそらく、これで松永が改心したら、ヒューマン・ドラマとして綺麗過ぎるものになってしまうため、敢えて松永を破滅の道へ向かわせたのだと思いますが(最後、松永は街娼と心中する、という植草圭之助の案を黒澤が却下して、ヤクザ同士の抗争による死にした)、結果的に松永を通して「滅びの美学」を描いたような作品になった印象も。一方で、これでは救いが無さすぎるということで、結核を克服した少女(久我美子)の話をエンディングに据えたのではないかな。

三船敏郎(写真奥)

酔いどれ天使 ラスト.jpg ラスト近くの松永と岡田がペンキにまみれて格闘する場面で、あそこでペンキ缶をひっくり返すのは非リアリズムだと思うのですが、リテイク(撮り直し)のきかない場面になっていることで緊迫感を増しているように思われました(「椿三十郎」('62年/東宝)のラストの三船敏郎と仲代達矢の噴血決闘シーンについても同じことが言える)。松永が瀕死の状態でありながら物干し台に上っていくのも非リアリズムでしょう(死ぬ時は、お天道様の方を向いて死ぬということか)。意図して「劇画的」に作られているように思いました。

酔いどれ天使 5.jpg 小林信彦氏が「週刊文春」のエッセイで、闇市の風景を一番忠実に描いているのは、黒澤明の「酔いどれ天使」と「野良犬」('49年/東宝)だと述べています。「酔いどれ天使」はセット撮影が主で、それもかなり大掛かりなセットだと思われますが、黒澤の師匠にあたる山本嘉次郎監督の「新馬鹿時代」('47年/東宝、三船敏郎の映画出演第2作目)のセットの使い回しだったそうです。

酔いどれ天使 笠置.jpg 劇中の酒場でのダンスシーンで「ジャングル・ブギー」(黒澤明:作詞/服部良一:作曲)を唄う笠置シズ子の型破りな芸風は凄かったなあ。序盤と終盤にちらりと映るガード下の"生活力ビタミン"「ワカフラビン」の広告がやけに印象に残った...(清水宏の「金環蝕」('34年/松竹蒲田)にも同じわかもと製薬の胃腸薬「ワカモト」飲んでいる場面があったが、あちらは明らかにタイアップ。こっちの場合、逆効果のような気もしたのだが、どうなのだろう)。

千石規子(ぎん)/殿山泰司(ひさごの親爺)  志村喬/久我美子(当時17歳/右写真は彩色加工版)
酔いどれ天使Drunken-Angel-0.50.16.jpg酔いどれ天使 久我m.jpg酔いどれ天使 久我c.jpg「醉いどれ天使」●制作年:1948年●監督:黒澤明●製作:本木荘二郎●脚本:植草圭之助/黒澤明●撮影:伊藤武夫●音楽:早坂文雄●時間:98分●出演:志村喬/三船敏郎/中北千枝子/山本礼三郎/木暮実酔いどれ天使s.jpg酔いどれ天使 Drunken-Angel-0.14.42.jpg千代/千石規子/笠置シヅ子/久我美子/進藤英太郎/清水将夫/殿山泰司/飯田蝶子/生方功/堺左千夫/大村千吉/河崎堅男/木匠久美子/川久保とし子/登山晴子/南部雪枝/城木すみれ●公開:1948/04●配給:東宝●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(11-01-15)(評価:★★★★)

久我美子 小津 安二郎監督 「お早よう」('59年/松竹)/大島渚監督 「青春残酷物語」('60年/松竹)/野村芳太郎監督「ゼロの焦点」('61年/松竹)
小津 安二郎 「お早う」佐田・久我.jpg 「青春残酷物語」久我.jpg 『ゼロ3.JPG


《読書MEMO》
●NHK連続テレビ小説(朝ドラ)2023(令和5)年度後期放送「ブギウギ」(モデル:笠置シズ子)花田鈴子(福來(ふくらい )スズ子)役:趣里

「ブギウギ」.jpg

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