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「老い」の生き方。前向きであり、そうあるための方法論も書かれている。
『老いる意味-うつ、勇気、夢 (中公新書ラクレ 718) 』['21年] 森村 誠一(1933-2023/90歳没)
2023(令和5)年7月に肺炎のため満90歳で亡くなった著者が88歳の時に著した「老い」に関するエッセイ。老人性うつ病を克服した著者が、老いの生き方はどうあるべきかを綴っています。
第1章「私の老人性うつ病との闘い」では、老人性うつ病というものがどういったものか分かりました。うつ状態を脱するための4カ条として①楽しいものを探す、②のんびりする、③おいしいものを食べて、ゆっくり寝る、④趣味をみつける、だそうで、著者は①人と会う、②喫茶店やレストランに行く、③
電車に乗って、美しい場所、珍しい場所へ行く、④人を招くことをやったと。
また、著者は認知症も患ったようで、書けなくなった作家は「化石」として、脳からこぼれた言葉を拾っていくため、様々な言葉や単語を紙に書き続けるなどの努力をしたこと、その間、主治医への心理的依存度が非常に高かったことなどを明かしていますが、やがて努力の成果が現れ、詩作などを通していつもの状態に戻っていくことが出来、「道」が続いている限り歩みは止めず頑張ろうという気になったと。
第2章「老人は、余生に寄り添う」では、人の余生は長くなったが、余生と切り離せないのが老いであり、眉毛が伸びてきてショックを受けたと。ただ、未来に目を向ければ今の自分が「いちばん若い」わけで、最先端を追い続けている限り、自分も不変なのだと。人生は「仕込みの時代」「現役時代」「老後」の「三つの期」に分けられ、老後は「人生の決算期」であると。余生まで倹約を続ける必要はなく、「いい意味でのあきらめ」も必要であると。また、「条件付きの健康」で良しとせよと説いています。「楽隠居」なんて実は楽ではなく、生きている意味を見出すよう努めるべきだと。また、田舎の老人は「生涯現役」でいやすく、都会の老人は「自由を謳歌しやすい」とし、「老人たちよ、大志を抱け」としています。
第3章「老人は、死に寄り添う」では、ネコからさえ死のあり方を教えられてきたとし、また、妻に先立たれる可能性もあるが、男は妻に依存していることが多いので女房なしでは「男はつらいよ」と。一方で、離婚を切り出される可能性もあると(内館牧子の『終わった人』だね)。
長生きすれば肉親の死にも立ち会うことになるし、別れも辛いが自分自身も生き辛くなると。「お荷物老人」にならないこと、バリアフリーに甘えていると尊敬されないとも。また、今の世は孤独死が増えており、孤独死、孤立死を防ぐには、寂しさに耐える覚悟が必要だと。ともかく、家庭でも社会でも、「お荷物」にならないことだとしています。「仕事の定年」と「人生の定年」は異なり、仕事はやめても、生きていく緊張感は必要、「生きがい」と「居心地の良さ」は別物であるとしています。また、心や脳を衰えさせないためにはどうすればよいかを述べ、「老人社会」に現役時代を持ち込めば居場所がなくなる、70代が曲がり角で、80年代に入れば身辺整理、歳を重ねれば仲間は去っていくものだと。
第4章「老人は、健康に寄り添う」では、著者は散歩を日課にしているが、散歩コースに医院を入れるのも良いと。スケジュールが無くなると人間は無気力になるもので、自分の行動パターンを決め、「バイオリズム」を掴んだ上で、1日の予定はアバウトなところから始めるのがよいと。老いるに従い「現状維持」を考え、楽しみながらボケを阻止せよと。
短くても「人間的な眠り」を大切にすること、糖尿病予防のため風呂にはゆっくりつかること、癌や新型コロナウィルスとの向き合い方などを説き、諦めずに病気と向き合う姿勢が大切だと説いています。
第5章「老人は、明日に向かって夢を見る」では、老いを加速させるかどうかは自分次第だとして、「人」「文化」「場所」との出会いを大切にしたいものだと。茶者は「写真俳句」にハマって、これは楽しいと。また、配偶者とは「つかず離れず」で、時にデートもいいと。男はスタイルにこだわり、いくつになっても「武装」していたいと。また、異性との交流、シニアラブもあっていいと。さらに。シニア世代になってこそ「自由な読書」が楽しめるとしています。
老齢だからといって退屈している場合ではなく、また、誰かの役に立つことは、心の筋肉をほぐすとも。「気配り」「心配り」「目配り」を忘れるなと。
作家という職業のせいもありますが、いつまでも仕事をし続けることが目標になっている印象を受けました。そのため、すべてにおいて前向きであり(実際、読んでいて励まされる)、また、前向きであるための方法論も書かれていて、そのことが本書がベストセラーとなった要因の1つでしょう。平易な文章で書かれていて読み易く、また節ごとの小見出しが的確に内容を表しているというのもあるかもしれません。
帯に「私は百歳まで現役を続けるつもりだ」とあります。残念ながら90歳で亡くなってしまいましたが、晩年もやる気に満ちていたとが窺え、それは著者にとっても良かったのではないでしょうか。うつ病と闘い克服したという自信と自負も大きく作用したのではないかと思いました。
《読書MEMO》
●目次
第1章 私の老人性うつ病との闘い
第2章 老人は、余生に寄り添う
第3章 老人は、死に寄り添う
第4章 老人は、健康に寄り添う
第5章 老人は、明日に向かって夢を見る