【2528】 ○ 司馬 遼太郎 『ビジネスエリートの新論語 (2016/12 文春新書) 《福田 定一 (司馬 遼太郎) 『名言随筆 サラリーマン―ユーモア新論語』 (1955/10 六月社)》 ★★★☆

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「ビジネスエリート」と言うより「サラリーマン」目線であることに終身雇用時代を感じる。

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ビジネスエリートの新論語 (文春新書)』『名言随筆サラリーマン (1955年)』『ビジネスエリートの新論語』(1972年)

ビジネスエリートの新論語ド.jpg 1955(昭和30)年、サラリーマン時代の司馬遼太郎が本名・福田定一の名で刊行した、古今東西の名言を引用して語る人生講話風のサラリーマン向けのエッセイの復刻刊行。新書口上には「後年、国民作家と呼ばれる著者の、深い人間洞察が光る。"幻の司馬本"を単独では初の新書として刊行!」とあります。

 1955年に六月社から刊行された時は『名言随筆 サラリーマン―ユーモア新論語』というタイトルだったのが、1972(昭和47)年に新装版となって六月社書房より刊行された際に『ビジネスエリートの新論語―サラリーマンの原型を侍に求める』というタイトルに改題され,この時も福田定一の名で刊行されています(この間、'65年に六月社から、'71年に文進堂から、共に『サラリーマンの金言』というタイトルで別バージョンが刊行されている)。

 当時(1955年、著者32歳)から既に博覧強記ぶりが窺えますが、金言名句ごとの文章の長さはまちまちで、忙しい記者生活(産経新聞文化部の記者だった)の間にこつこつ書き溜めたものなのでしょうか。意外とユーモアや遊びの要素も入っていて、気軽に読めるものとなっています。

 印象としては、確かにビジネスエリートとしての矜恃を保つことを説いている箇所もありますが、会社社会の中で生きていくための処世術的なことを説いている箇所もあって、当初の『名言随筆 サラリーマン』のタイトルの方が内容的にはしっくりくるような気がしました。

 Amazon.comのレビューなどを見ると、"今読んでもまったく色褪せていない"的なコメントが幾つかありましたが、基本的には金言名句を取り上げているため、確かにそういうことになるでしょう。一方で、今と違うのは、会社および会社の中にいる自分(乃至は読者)というものを半永続的に捉えていて、つまり終身雇用が前提になっているという点であり、当時は今よりも上司の部下に対する生殺与奪権者としての力が大きかったことを感じました。

 第一部はやや文章がやや粗いかなあと思われる部分もありましたが、第二部に描かれている二人の老サラリーマンとの出会いの話は物語的にも読めて秀逸であり(実際に著者はこの二人の記者との出会いに大きな影響を受けたそうだが)、これだけ書ければもういつでも作家として独立できそうな気もしますが、著者が産経新聞を退社したのは6年後の1961(昭和36)年で、『梟の城』で第42回直木賞を受賞した翌年のことになります。

 この後も6年間もサラリーマンをやっていたのかあという、やや意外な印象を受けました。まあ、結婚前後の時期にあたり会社を辞めることに慎重だったというのもあるかもしれないし(著者がその前に勤めていた新聞社は倒産していて、産経新聞社は3社目の就職先だった)、仕事そのものが記者という「書く」仕事であったということもあるかと思いますが、やはり、会社ってそう安易に辞めるものではないというのが当時の社会通念としてあったのではないかと思います。

 そう思って本書を読むと、ますます「ビジネスエリート」と言うより「サラリーマン」といった言葉の方がフィットするように思われ、また、そうした上から目線ではない、ほどよい目線で書かれていることが、読者の共感を生むのかもしれないと思った次第です。

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