【430】 ◎ 司馬 遼太郎 『梟の城』 (1959/09 講談社) ★★★★☆ (△ 篠田 正浩 (原作:司馬遼太郎) 「梟の城 (1999/10 東宝) ★★★)

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武士の価値観の対極にある忍者の価値観=スペシャリストの価値観。昭和30年代の忍者ブームの火付けに。

司馬遼太郎「梟の城」春陽文庫.jpg梟の城 司馬遼太郎.jpg 梟の城1.jpg 梟の城.jpg    梟の城2.jpg
梟の城 (1959年)』(帯推薦文:今東光)/『梟の城』 新潮文庫〔'77年・'89年改版版]/春陽文庫〔'96年改訂版〕
梟の城 (1967年) (春陽文庫)
梟の城 (1961年) (ロマン・ブックス)』(カバー2種)『梟の城 (春陽文庫)』(新装版)
梟の城 (1961年) (ロマン・ブックス).jpg梟の城 (1961年) (ロマン・ブックス)2.jpg梟の城 (春陽文庫).jpg  司馬遼太郎(1923‐1996)が最初に発表した長編小説で、1958(昭和33)年4月から翌1959(昭和34)年2月まで今東光(1898-1997)が社長だった宗教新聞「中外日報」に連載されたものです。八尾市の天台院の住職の仕事などのため文壇を離れていた今東光が20年ぶりに筆を執ろうと産経新聞社を訪ねた時、今東光の作品を知っていて一席設けた編集局長に呼ばれその場に同席したのが、文化部の文芸担当だった司馬遼太郎だったとのこと。今東光の弁によれば、「とても無理です。まだ短編しか書いたことないんです、と尻込みする奴を、長編だって短編だって変わりゃしねえよ」といって励ました末に生まれたのがこの作品だったとか。

 1959(昭和34)年下期の第42回「直木賞」受賞作でもあるこの作品は、豊臣秀吉の暗殺を謀る伊賀忍者・葛籠(つづら)重蔵と、彼と同じ師匠のもとで技を磨いた忍者でありながら武士として出世することを渇望する風間五平を描いています。

 司馬遼太郎はデビュー当初は「忍豪作家」と呼ばれ、またこの作品は昭和30年代の忍者ブームの火付けにもなりましたが、初の長編でありながらさすがに高い完成度を持つものの、後にその歴史解釈が「司馬史観」と言われるほどの歴史小説の大作家になることを、この作品のみで予見することは難しかったのではないでしょうか。むしろ、講談本的なエンターテインメント性が強い小説に思えます。    

 登場人物が極めて魅力的。伊賀の慣習に生きる重蔵を通して、武士の価値観の対極にある忍者の価値観がよくわかりますが、それは今風に言えばゼネラリストの価値観に対するスペシャリストのそれではないでしょうか。 
 一方の五平は、功名を上げるために伊賀を裏切り権力者に仕官しますが最後は見捨てられる―このあたりは、組織に消耗されるサラリーマンにも通じるところがあります。 

梟の城 映画 0.jpg梟の城 映画 1.jpg 小萩という神秘的な女性が登場しますが、神秘的でありながら重蔵に恋のアタックをかけてくるし、木さるという女忍者の行動にやや短絡的な面があるのも現代的です。

 こうした先取り感が今もって読まれ、或いは工藤栄一監督、大友柳太朗主演「忍者秘帖 梟の城」('63年/東映)として映画化された後、更に篠田正浩監督、中井貴一主演で「梟の城」('99年/東宝)としてリメイク映画化されている要因ではないかと思います。

梟の城 1999.jpg 映画の方は、篠田正浩監督の「梟の城」観ましたが、重蔵役が中井貴一、五平役が上川隆也でした。SFⅩを使用したミニチュアと、CGと実写映像のデジタル合成が特徴的で、堺の町並みや聚楽第などを再現していました。ただし、映像は綺麗なのですが、ストーリー的にはかなり端折られていて、一方で、重蔵を巡っての小萩(鶴田真由)と木さる(葉月里緒菜)のしのぎ合いのようなものが前面に出ているのは、女性の観客も取り込もうとしたためでしょうか。ただ、役者たちの演技が歌舞伎を意識したのかやや生固く、アクションも少なくて地味な感じでした。
「梟の城」(1999)in 鶴田真由(小萩)/ 葉月里緒菜(木さる)
「梟の城」鶴田真由 .jpg 「梟の城」葉月里緒菜.jpg

新忍びの者.jpg新忍びの者2.jpg 昔の映画で、同じく忍者を扱った、村山知義原作、山本薩夫監督、市川雷蔵主演の「忍びの者」('62年/大映)などの方がずっとダイナミックだったように思います。市川雷蔵が石川五右衛門を演じるこの映画は、シリーズ第3作、森一生監督の「新忍びの者」('63年/大映)において、釜煎りの刑に処されるところを刑場を脱出した五右衛門が、秀吉の暗殺を敢行せんとその寝所に入り込んで...と「梟の城」を意識したみたいな話でした。でも、映画同士で比べると、市川雷蔵版の方がダイナミックな忍者映画だったかように思います。司馬遼太郎の原作も「忍者小説」であるのに、篠田正浩監督はそれを半ば芸術映画のように撮ろうとしてしまったのではないかと感じました。

梟の城 映画es.jpg「梟の城」●制作年:1999年●監督:篠田正浩●製作:角谷優/鯉渕優●脚本:篠田正浩/成瀬活雄●撮影:鈴木達夫●音楽:湯浅譲二●原作:司馬遼太郎 ●時間:138分●出演:中井貴一/鶴田真由/葉月里緒菜/上川隆也/永澤俊矢/根津甚八/山本學/火野正平/小沢昭一/津村鷹志/マコ岩松/筧利夫/花柳錦之輔/田中伸子/中尾彬/馬渕晴子/武部まりん/中村敦夫(ナレーターも)/岩下志麻/若松武史/横山あきお/桜木誠/家辺隆雄/友寄隆徳/笠原秀幸/水谷ケイ●公開:1999/10●配給:東宝(評価:★★★)
火野正平/山本學/中井貴一
マコ岩松(秀吉)/岩下志麻(北政所(秀吉の正室))/[下]鶴田真由(小萩)・中井貴一(葛籠(つづら)重蔵)
「梟の城」マコ.jpg岩下志麻梟の城 .jpg 「梟の城」鶴田真由 2.jpg 

 【1965年文庫化、1977年・1989年・2002年改訂[新潮文庫]/1967年再文庫化・1087年・1996年改訂[春陽文庫]】


《読書MEMO》
●「かれらの多くは、不思議な虚無主義をそなえていた。他国の領主に雇われはしたが、食禄によって抱えられることをしなかった。その雇い主さえ選ばなかった。(中略)かれらは、権力を侮蔑し、その権力に自分の人生と運命を捧げる武士の忠義を軽蔑した。諸国の武士は、伊賀郷士の無節操を卑しんだが、伊賀の者は、逆に武士たちの精神の浅さを嗤う。伊賀郷士にあっては、おのれの習熟した職能に生きることを、人生とすべての道徳の支軸においていた。おのれの職能に生きることが忠義などとはくらべものにならぬほどに凛冽たる気力を要し、いかに清潔な精神を必要とするものであるかを、かれらは知りつくしていた。」(新潮文庫'77年版14p)

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月 9日 23:06.

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