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ストーリーはぐちゃぐちゃなになのに面白い。スタイリッシュな「殺しの烙印」。

「殺しの烙印」1967.jpg「殺しの烙印」dvd.jpg「殺しの烙印」01.jpg
日活100周年邦画クラシック GREAT20 殺しの烙印 HDリマスター版 [DVD]」宍戸錠/真理アンヌ/小川万里子
「殺しの烙印」cp.jpg
 殺し屋がランキングされ、すべての殺し屋がナンバー1になろうと鎬を削る世界。ナンバー3の花田(宍戸錠)は、元締めの藪原(玉川伊佐男)から名前を名乗らない謎の男(南原宏治)の護送を依頼され、任務中にナンバー4の殺し屋でスタイリストの高(大和屋竺)とナンバー2を倒し、新たなナンバー2の座を獲得して任務を終える。運転手兼相棒で元ランク入りの殺し屋の春日(南廣)を任務中に失った花田は、「夢は死ぬこと」と語る謎の女・美沙子(真理アンヌ)に迎えられて帰路につく。美沙子は来日「殺しの烙印」 00.jpg中の外国捜査官の男の狙撃を花田に依頼するが、花田は手元を狂わせ、無関係の人物を射殺してしまう。このためにランキング外に転落した花田は、殺し屋の掟として、彼を処刑しに来る殺し屋たちの襲撃を次々と受ける。妻の真実(小川万里子)や美沙子も処刑人のひとりだった。しかし美沙子と花田は互いを愛し合ったために殺し合うことができず、ともに逃げる立場となる。美沙子は殺し屋組織に囚われの身となる。美沙子以外の刺客をすべて倒した花田の前に最後の敵として現れたのは、かつて彼が護送した謎の男だった。この男・大類こそが伝説の殺し屋ナンバー1だった。花田は大類との決闘に臨む―。

「殺しの烙印」11.jpg 鈴木清順監督の1969年作。一応ストーリーは書きましたが、観ている分にはぐちゃぐちゃで、ぐちゃぐちゃなのに面白く、また、全体を通して映像がスタイリッシュでした。しかし、どうしてこんなぐちゃぐちゃなストーリーなのか。

「殺しの烙印」12.jpg まず、1966年に結成された脚本家グループ「具流八郎」によるシナリオ執筆が決まり、中心人物だった大和屋竺が「殺し屋の世界ランキング」というアイディアを立ててハードボイルド・タッチの前半部分を書き、他のメンバーがそれに話を加えていくという方式をとり、また、一部の場面でギャビン・ライアル『深夜プラス1』、リチャード・スターク『悪党パーカー/人狩り』といった小説を参考にしているようです(だから、冒頭は『深夜プラス1』になっている。ただし、途中で話が途切れる)。

「殺しの烙印」ぼ.jpg 作中には小川万里子ら女優のヌードが随所に登場しますが、編集当初はフィルムに直接白い矢印を書き、その矢印が自粛個所を追いかけながら隠すという手法を取ろうとしたのが、この方法は会社から無断でお蔵入りにされ、公開時点で、画面半分を隠すほどの大げさな黒ベタによって塗りつぶされることになったとのことです。このため、鈴木清順監督を含む製作スタッフは、この修正版を「インチキ『殺しの烙印』」と呼んでいたそうで、修正が入っていない「完全版」は東京国立近代美術館フィルムセンター(のちの国立映画アーカイブ)に収蔵され、のちにビデオソフトとしてこの「完全版」復活したそうです(自分がシネマブルースタジオで観たのは"修正版"の方だった)。

「殺しの烙印」水.jpg 本作は公開時、批評家や若い映画ファンに熱狂的に支持されましたが、一方、当時の日活社長・堀久作は完成した作品を観て激怒し、特に、宍戸錠が演じる主人公の殺し屋が、ガス炊飯器の蓋を開け、米飯の炊ける匂いに恍惚とする、という描写が特に気に入らなかったようです(後にこのシーンのためにこの映画は有名になるのだが、元々の意図はCMのパロディだったようだ)。

「殺しの烙印」13.jpg 堀久作は公開翌年1968年の年頭社長訓示において、「わからない映画を作ってもらっては困る」と本作品を名指しで非難し、同年4月に鈴木清順監督に対し電話で一方的に専属契約の打ち切りを通告しました。これらの問題を不服とした映画人や大学生有志による「鈴木清順問題共闘会議」が結成され、映画界を巻き込んだ一大騒動に発展し、鈴木も日活を提訴、1971年に和解が成立しましたが、鈴木は1977年に松竹で「悲愁物語」を監督するまで約10年間のブランクを送ることとなりました。

クエンティン・タランティーノ.jpg 本作はやがて海外で高い評価を得るようになり(クエンティン・タランティーノ、ジョン・ウー、パク・チャヌクらがその影響を認め、ジム・ジャームッシュ、ウォン・カーウァイらが絶賛している)、国内でも再評価されることになりましたが、こうしたことは時々あるパターンだなあという気がします(そして、クエンティン・タランティーノがそれによく噛んでいる(笑))。

真理アンヌ in「ウルトラマン(第32話)果てしなき逆襲」('67年)   
科学特捜隊インド支部・パティ隊1.jpg真理アンヌ2.jpg真理アンヌ3.jpg 真理アンヌは1948年生まれ。父親がインド人で母親が日本人。この作品と同じ年「ウルトラマン(第32話)果てしなき逆襲」('67年)に科学特捜隊インド支部・パティ隊員役で出ています。因みに、「ウルトラセブン」で菱見百合子が演じた「友里アンヌ隊員」の役名は、第1期ウルトラシリーズを企画した金城哲夫(1938-1976/37歳没)が真理アンヌのファンだったことからその名になったとのことです(この人は吉本興業所属の現役)。

「ピストルオペラ」 2001.jpg「ピストルオペラ」9.jpg 鈴木清順監督自身にとっても思い入れのある作品なのか、後に、この作品の"続編"と言うより、殺し屋がナンバーランキングされている世界というモチーフを生かした「ピストルオペラ」('01年/東宝)を撮り、その作品は第58回ヴェネツィア国際映画祭アウト・オブ・コンペ部門正式招待作品となり、同映画祭では「偉大なる巨匠に捧げるオマージュの盾」を受賞しています。

「ピストルオペラ」011.jpg「ピストルオペラ」02.jpg 日本でも多くの人がこの"続編"作品を高く評価しているようですが、個人的には、鈴木清順監督の独自の映像美が横溢している作品だと感じられた一方で(観終わった直後は新鮮さを感じた)、後で考えてみたら、主演の江角マキコと共演の山口小夜子の高身長二人組も、演技しているのかどうかもよく分からない作品でした(江角マキコのセリフが棒読みなのは、下手なのか監督の演出なのか)。結局、「殺しの烙印」よりは落ちるかなという印象です。
  

「殺しの烙印」真理.jpg「殺しの烙印」真理2.jpg「殺しの烙印」●制作年:1967年●監督:鈴木清順●脚本:具流八郎(鈴木清順/大和屋竺/木村威夫/田中陽造/曽根中生/岡田裕/山口清一郎/榛谷泰明)●撮影:永塚一栄●音楽:山本直純(主題歌:大和屋竺「殺しのブルース」)●時間:91分●出演:宍戸錠/南原宏治/真理アンヌ/小川万里子/南廣/長弘/大和屋竺●公開:1967/06●配給:日活●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(23-03-28)(評価:★★★★)


「ピストルオペラ」2001.jpg「ピストルオペラ」●制作年:2001年●監督:鈴木清順●脚本:伊藤和典●撮影:前田米造●音楽:こだま和文●時間:112分●出演:江角マキコ(皆月美有樹(殺し屋No.3))/山口小夜子(上京小夜子)/韓英恵(少女・小夜子)/永瀬正敏(黒い服の男(殺し屋No.1?))/樹木希林(りん)/ヤンB・ワウドストラ(白人の男(殺し屋No.5))/渡辺博光(車椅子の男(殺し屋No.4))/加藤善博(情報屋の男)/柴田理恵(女剣劇の役者)/青木富夫(劇場の男)/小杉亜友美(ターゲットの女)/上野潤(若い男)/乾朔太郎(渡辺謙作)(ダンスホールの男)/三原康可(殺し屋NO.6)/田中要次(殺し屋NO.7)/加藤照男(殺し屋NO.8)/森下能幸(殺し屋NO.9)/加藤治子(折口静香)/沢田研二(東京駅の男(殺し屋No.2))/平幹二朗(花田五郎(元殺し屋No.1))●公開:2001/11●配給:松竹●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(23-04-16)(評価:★★★)

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藤田敏八監督、小山内美江子脚本。蜷川幸雄が主役として頑張っていた「死を予告する女」。
恐怖劇場アンバランス 第02話 「死を予告する女」1.jpg 2話 「死を予告する女」蜷川.jpg 1話「木乃伊の恋」title.jpg 1話「木乃伊の恋」6.jpg
DVD恐怖劇場アンバランス Vol.1」「死を予告する女」蜷川幸雄(坂巻)/「木乃伊の恋」大和屋竺(定助)

 「恐怖劇場アンバランス」から2話。

第2話「死を予告する女」(制作№7) 
 作詞家の坂巻(蜷川幸雄)には内縁関係の和恵(藤田佳子)と娘がいるが、籍も入れず、和恵が妊娠した際も、産みたければ勝手に産めばいいが自分恐怖劇場アンバランス vol1.jpgは知らな2話「死を予告する女」01.pngいとしていた。和恵には下積み時代に世話になったが、だからといって縛られたくはなかったのだ。その娘が危篤になり、和恵は坂巻に電話するが、坂巻は作曲家の久保(財津一郎)やプロデューサーの西田(名古屋章)らとレコーディング中でそれどころではない。帰宅時に乗ったタクシーで、運転手が、蛇が飼育箱ごと行方不明になったというニュースの話をする。坂巻が自宅マンションに帰ると、ドアの下の隙間に蛇のようなものが見え、ドアを開けるとドアチェーンが落ちていた。 部屋に入ってシャワーを浴びようとすると、鏡を通2話「死を予告する女」3.jpgして見知らぬ黒衣の女(楠侑子)がソファにいることに気づく。女は「あなたは明日の夜、12時13分にお亡くなりになります」と坂巻の死を予告する。坂巻は部屋を飛び出し、むしゃくしゃした気持ちのまま行きつけのクラブへ行くと、ママ(荒砂ゆき)が迎えてくれた。ふと気づくと、奥のテーブルに先ほど部屋にいた女が座って坂巻を見ている。それ以降、坂巻は女につきまとわれる。和恵に嫌がらせかと問い詰めるが、彼女は覚えがないと言う。道路沿いで女に出会った際に、彼が押し倒して車に轢かれたはずの女が忽然と消えたのを目の当たりにして彼の怯えは頂点に達し、久保に相談する。久保や西田も彼の異変に気づいて心配し、女が予告した時間まで二人とも坂巻の自宅で一緒にいることにする―。

蜷川幸雄.jpg 「恐怖劇場アンバランス」の第2話(制作№7)で、の藤田敏八(「八月の濡れた砂」('71年))監督、小山内美江子(「3年B組金八先生」)脚本ですが、2016年に亡くなった演出家の蜷川幸雄が主演であり、そちらの方での注目度が高いと思われます。この人は70年代には結構テレビドラマに俳優として出ていましたが、主演作品を今こうして観られるのは貴重かもしれません。'73年放映ですが、実際の制作は'69年で(シーリーごと3年余り"お蔵入り"になっていた)、 その年は蜷川幸雄が「真情あふるる軽薄さ」('69年)で演出家としてのスタートを切った年でもあります。

2005(平成17)年・第53回「菊池寛賞」授賞式
蜷川幸雄 菊池寛賞.jpg 「厳しい演出で知られた蜷川幸雄が、自身若い頃には実際どのような演技をしていたのか」的な気持ちで観てしまいましたが、財津一郎、名古屋章といった芸達者と互して主役を張るだけの演技をしていたように思います。強迫神経症的な状況に追い込まれる主人公を、意外とクセ無くリアルに演じていたと思います。太地喜和子 1.jpgただし、日経新聞の『私の履歴書』によると、俳優でありながら演出家として頭角を表しつつあったある日、出演していた時代劇「水戸黄門」を見た太地喜和子から、俳優としての演技にダメ出しされたことをきっかけに演出家一本に絞ることにしたそうで('73年から'79年にかけて「水戸黄門」に7回単発出演している)、太地喜和子が「白い巨塔」('78~'79年)に出ていた頃の話かと思われます。

1死を予告する女1.png ラスト近くで、坂巻の妻・和恵(藤田佳子)が、黒衣の女(楠侑子)と似たような雰囲気で坂巻・久保・西田ら3人の前に現れニンマリするところが、一つ読み解きのヒントかと思いますが、坂巻だけでなく久保(財津一郎)や西田(名古屋章)もそうした不思議な経験をするため、「全部が主人公の坂巻の妄想でした」では説明しきれない造作2話 「死を予告する女」楠侑子.jpg2話「死を予告する女」.jpgになっていて、これはこのシリーズの一つの特徴かもしれません。
楠侑子(黒衣の女)/藤田佳子(和恵)

山手教会地下「ジァン・ジァン」
山手教会地下「ジァン・ジァン」.jpg別役実.jpg 黒衣の女を演じた楠侑子は1933年生まれで撮影時36歳でした(劇作家の別役実(1937-2020)の妻で、渋谷の山手教会地下「ジァン・ジァン」で毎年男優一人を招いて別役作品を上演し続けていた。イラストレーターのべつやくれいは娘)。当時、名古屋章(1930年生まれ)よりは若かったですが、財津一郎(1934年生まれ)、蜷川幸雄(1935年生まれ)よりは年上でした。
蜷川幸雄(売れっ子の作家の酒巻)/楠侑子(謎の女:「あなたは明日の夜12時13分にお亡くなりになります」)
(第2話)/死を予告する女」.jpg

2話)/死を予告する女」 蜷川1.jpgゴーガの像1.pngゴーガの像図1.png また、坂巻の行きつけのクラブのママを演じた荒砂ゆき(1939年生まれ)は、谷崎潤一郎原作、神代辰巳監督・脚本の「鍵」('74年)に主演で出ますが、「ウルトラQ(第24話)/ゴーガの像」('66年)に「田原久子」の旧芸名で、アリーン(リャン・ミン)役でも出ていて、ああ、そう言えばこの「恐怖劇場アンバランス」も円谷プロだったかと改めて思ったりした次第です。

荒砂ゆき(クラブのママ)
荒砂ゆき in「ウルトラQ(第24話)/ゴーガの像」(1966)/映画「鍵」(1974)原作:谷崎潤一郎、監督:神代辰巳
「ゴーガの像」1荒砂.jpg 「ゴーガの像」3荒砂.jpg 2荒砂ゆき.jpg 3荒砂ゆき.jpg


第1話「木乃伊(ミイラ)の恋」(制作№10) 
 山城の国の村里。一軒家の地面の下から鉦(かね)の音が聞こえる。家の百姓・正次(川津祐介)が1話「木乃伊の恋」11.jpg掘り起こすと、そこに1話「木乃伊の恋」2.jpgは数百年前に入定した僧のミイラが手だけを動かして鉦を叩いている。復活したミイラは次第に生気を取り戻し、定助(大和屋竺)として村人と暮らすようになるが、生前の過度の禁欲の反動からか、老婆にちょっかいを出し、知恵遅れの後家と交わり、金色の「お仏様」を産み落とす。最初は畏怖の念を抱いてた村人たちも、すぐに彼を「入定の定助」とバカにするようになり、その振る舞いに呆れた挙句―。

 「恐怖劇場アンバランス」の第1話として放映されたものですが、制作№は「10」であり、第2話より3つ後です。このシリーズ、おおよそ3年のお蔵入り期間を経て放映された13話のうち、制作No.7まではオリジナル脚本のホラー路線だったのが、制作No.8以降は原作つきのサスペンスに路線変更しています。

『妖』円地文子.jpg『妖・花食い姥』.jpgペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29.jpg この「木乃伊の恋」は、円地文子が江戸時代の上田秋成による読本「春雨物語」(1808年成立)に材を得た「二世の縁 拾遺」(『妖』('57年/文藝春秋)・『妖・花食い姥』('97年/講談社学芸文庫)などに所収)を原作とし、この作品はこれまでも円地文子の個人全集や文学全集に収録されてきたほか、岩波文庫『日本近代短篇小説選 昭和篇3』('12年)にも収録されましたが、昨年['19年]刊行された村上春樹作品の翻訳者でもある編者による『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29』(新潮社、ジェイ・ルービン編)という本にも収録されていました(序文を村上春樹が書いている)。『妖 (1957年)』/『妖・花食い姥 (講談社文芸文庫) 』['97年]/ジェイ・ルービン編(村上春樹・序文)『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29』['19年]

鈴木清順  .jpg 監督は鈴木清順で、「殺しの烙印」('67年/日活)が当時の日活社長・堀久作の「わからない映画ばかり作られては困る」との発言を生んで解雇された1968年の〈鈴木清順解雇事件〉から「悲愁物語」('77年/松竹)でカムバックを果たすまで約10年間映画を製作しておらず、'70年製作のこのTV作品はこの期間の作品になります。

1話「木乃伊の恋」09.jpg 上田秋成の「春雨物語」は、村上春樹の『騎士団長殺し』のモチーフとしても使われていますが、円地文子版及びこの映像化1話「木乃伊の恋」101.jpg作品では、先に挙げた「春雨物語」の江戸時代の話(原作の中で原典である「二世の縁」のおそらく円地文子自身によるものと思われる全訳(下に前半部分を抜粋)が叙述されているが、これが意外と軽妙でいい)を挟んで、「笙子」を主人公とする現代の話があります(原典は仏教批判ともとれるが、円地文子は「二世の縁」における甦った定助の「性」への我執をモチーフとしつつ、実は現代の話としての「拾遺」を通して、布川の「性」及び笙子自身の「性」つまりは男女の「性」への〈我執〉をテーマとしているようだ)。

 国文学者の布川(浜村純)から「春雨物語」は実話だと聞かされた笙子(渡辺美佐子)は戦時中に夫が亡くなった工場跡を訪れ、そこで死んだはずの夫と再会し雨の中で愛し合うが、その間に、つい先ほど病床にありながら彼女に言い寄った布川が、今しがた急逝したことを駆けつけた女中から知らされる―(因みに、布川が亡くなったというのはドラマのオリジナルであり、原作には無い。また原作では、布川はかつて血気盛んな頃は笙子に迫っていたが、今は自身の"下の世話"まで女中頼みであるためそれはなく、ただし、その女中をずっと愛人にしてきたらしいなどといった点でも、原作はドラマとやや異なる)。

1話「木乃伊の恋」5.jpg こうして見ると確かにサスペンスと言えばサスペンスですが、「春雨物語」の部分が映像的にぶっ飛んでいて(それがいいとい人もいるかもしれないが)個人的にはややついていけなかったです。後の清順作品に見られる映像的な美意識はあまり感じられず、ミイラにしても「お仏様」にしてもただただ気持ち悪かったです。このシリーズ13話のうち、どの系統にも属さない異色作であり、なぜこれを第1話にもってきたのか、その意図がよく分かりませんでした(異質だからこそ敢えて第1話にもってきたのか?)。

川津祐介(正次・江戸時代の百姓)/大和屋竺(定助・数百年前に入定しミイラとして甦った僧))/渡辺美佐子(笙子・病床の師から「春雨物語」の口語訳の手助けを引き受けた)
(第1話)/木乃伊(ミイラ)の恋」.jpg

蜷川幸雄(謎の女に自らの死を予告される売れっ子の作家の酒巻)
(第2話)/死を予告する女 2.png2話「死を予告する女」4.jpg「恐怖劇場アンバランス(第2話)/死を予告する女」●制作年:1969年(制作№7)●監督:藤唐十郎×蜷川幸雄.jpg田敏八●監修:円谷英●制作:円谷プロダクション/フジテレビ●脚本:小山内美江子●音楽:冨田勲●出演:蜷川幸雄/財津一郎/名古屋章/藤田佳子/荒砂ゆき/中原成男/小林寛/田中賎男/中ことみ/福田えみこ/福光洋子/楠侑子/青島幸男(解説)●放送:1973/01/15●放送局:フジテレビ(評価:★★★☆)   蜷川幸雄×唐十郎(2013)   
(第2話)/死を予告する女 .jpg

(第1話)/木乃伊(ミイラ)の恋 .jpg       
恐怖劇場アンバランス/ミイラの恋1.jpg1話「木乃伊の恋」4.jpg「恐怖劇場アンバランス(第1話)/木乃伊(ミイラ)の恋」●制作年:1970年(制作№10)●監督:鈴木清順●監修:円谷英二●制作:円谷プロダクション/フジテレビ●脚本:田中陽木乃伊(ミイラ)の恋  9.jpg造●音楽:冨田勲●原作:円地文子「二世の縁 拾遺」●出演:渡辺美佐子/浜村純/大和屋竺/加藤真知子/田中筆子/瀧那保代/昔々亭桃太郎/早(第1話)/木乃伊(ミイラ)の恋」51.png川研吉/白田和男/中原淑子/中原成男/相生千恵子/関陽子/市来まさみ/恒吉雄一/羽鳥靖子/川津祐介/青島幸男(解説)●放送:1973/01/08●放送局:フジテレビ(評価:★★★)

渡辺美佐子
      
恐怖劇場アンバランス Blu-ray BOX」(2016年リリース)
恐怖劇場アンバランス 1973.jpg
「恐怖劇場アンバランス」●監督:鈴木清順/藤田敏八/長谷部安春/山際永三/神代辰巳/森川時久/黒木和雄/満田かずほ/鈴木英夫/井田探●監修:円谷英二●特撮:佐川和夫●制作年:1969年8月~1970年4月●制作:円谷プロダクション/フジテレビ●脚本:田中陽造/小山内美江子/若槻文三/市川森一/山崎忠昭/滝沢真里/満田かずほ(禾+斉)/山浦弘靖/上原正三●音楽:冨田勲●解説:青島幸男●放映:1973/01~04(全13回)●放送局:フジテレビ

「恐怖劇場アンバランス」(全13話)放映ラインアップ
話数 制作No. サブタイトル ☆原作 脚本/監督
第1話 10 木乃伊(ミイラ)の恋 ☆円地文子 田中陽造/鈴木清順
第2話 7 死を予告する女 小山内美江/藤田敏八
第3話 9 殺しのゲーム ☆西村京太郎 若槻文三/長谷部安春
第4話 6 仮面の墓場 市川森一/山際永三
第5話 5 死骸(しかばね)を呼ぶ女 山崎忠昭/神代辰己
第6話 11 地方紙を買う女 ☆松本清張 小山内美江子/森川時久
第7話 12 夜が明けたら ☆山田風太郎 滝沢真理/黒木和雄
第8話 8 猫は知っていた ☆仁木悦子 満田穧(かずほ)/満田穧
第9話 3 死体置場(モルグ)の殺人者 山浦弘靖/長谷部安春
第10話 13 サラリーマンの勲章 ☆樹下太郎 上原正三/満田穧
第11話 2 吸血鬼の絶叫 若槻文三/鈴木英夫
第12話 1 墓場から呪いの手 若槻文三/満田穧
第13話 4 蜘蛛の女 滝沢真里/井田 探

制作№順
制作No. 話数 サブタイトル ☆原作 脚本/監督
1 第12話 墓場から呪いの手 若槻文三/満田穧
2 第11話 吸血鬼の絶叫 若槻文三/鈴木英夫
3 第9話 死体置場(モルグ)の殺人者 山浦弘靖/長谷部安春
4 第13話 蜘蛛の女 滝沢真里/井田 探
5 第5話 死骸(しかばね)を呼ぶ女 山崎忠昭/神代辰己
6 第4話 仮面の墓場 市川森一/山際永三
7 第2話 死を予告する女 小山内美江/藤田敏八
8 第8話 猫は知っていた ☆仁木悦子 満田穧/満田穧
9 第3話 殺しのゲーム ☆西村京太郎 若槻文三/長谷部安春
10 第1話 木乃伊(ミイラ)の恋 ☆円地文子 田中陽造/鈴木清順
11 第6話 地方紙を買う女 ☆松本清張 小山内美江子/森川時久
12 第7話 夜が明けたら ☆山田風太郎 滝沢真理/黒木和雄
13 第10話 サラリーマンの勲章 ☆樹下太郎 上原正三/満田穧

●円地文子「二世の縁 拾遺」より引用
 古曽部という村に年久しく住みついている豪農があった。山田を多く持って、豊年よ凶作よと騒ぎまくる心配もなく豊かに暮らしているので、主人も自然書物に親しむのを趣味とし、田舎人の中に殊更友を求めるでもなく、夜は更けるまで灯下に書見するのが毎日であった。母親はそれを案じて、
「さあさあ早くお寝み、子の刻(十二時)の鐘ももう疾うに鳴ったではないか。真夜中まで本を読むと芯が疲れて、さきへゆくときっと病気に罹るものとお父さんがよくお話なされた。好きな道というものはとかく、自分では気づかぬ内に深入りして後悔するものだよ」
 と意見をするので、それも親なればこその情けと有難いことに思って、亥の刻(十時)すぎれば枕につくように心がけていた。
 ある夜雨がしとしと降って、宵の中からひっそりと他の音といってはつゆばかりも聞えない静かさに、思わず書物によみふけって時を過ごしてしまった。今夜は母上の御意見も忘れて、大方丑の刻(午前二時)にもなったであろうかと窓をあけてみると、宵の中の雨はあがって、風もなく、晩い月が中空に上がっていた。「ああ静寂な深夜の眺めだ。この情感を和歌にでも」と墨をすり流し筆をとって一句二句、思いよって首をかしげ考えている中、ふと虫の音とのみ思っていた中に、鉦の音らしい響きの交って聞えるのに気づいた。はて、そう言ってみればこの鉦の音をきくのは今宵ばかりではないようだ。夜ごとこうして本を読んでいるときに聞えていたのを今はじめて気づいたのも思えば不思議である。庭に降り立ってあちらこちら鉦の音の聞える方角をたずね歩く中、ここから聞こえて来るらしいと思われる所は、普段、草も刈らず叢(むぐら)になっている庭の片隅の石の下らしかった。主人はそれをたしかに聞き定めて、寝間に帰った。
 さてその翌日、下男どもを呼び集めて、その石の下を掘るようにいいつけた。皆よって三尺ばかり掘り下げると鍬が大きな石に当ったので、それを取り除けると、その下にまた石の蓋をした棺らしいものがあった。重い蓋を大勢して持上げて中をみると何やら得体の知れぬものがいて、それが手に持った鉦を時々うち鳴らしているのだった。主人をはじめ近くによってこわごわさしのぞくと、人に似て人のようにも見えない......乾鮭のようにからからに乾固まって骨立っているが、髪の毛は長く生いのびて膝までもたれている。大力の下男を中に入れてそっと取出させることにしたが、その男は手をかけてみて、
「軽い、軽い、まるでただのようだ。じじむさいことも何もない」
 と気味悪半分大声に言った。こんなにして人々がかつぎ出す間も、鉦を叩いている手もとばかりは変らず動かしていた。主人はこの様子を見ていて尊げに合掌し、さて一同に言った。
「これは仏教に説く大往生の一つに「定に入る」といって、生きながら棺の中に坐り、坐禅しつづけて死ぬ作法がある。正しくこの人もこれであろう。わが家はここに百年余も住んでいるが、そのようなことのあったのをかつてきいたことがないところを見ると、これはわが祖先のこの土地に来たより以前のことであろう。魂はすでに仏の国に入って骸だけ腐らずこうしているものか。それにしても鉦を叩いている手だけが昔のまま動くのが執念深い。ともかくもこう掘り出した上は生命を再び蘇らせて見よう」
 主人も下男どもに手を添えて、木像のように乾し固まったそのものを家の中へかつぎ込んだ。
「危ないぞ、柱の角にぶち当てて毀すな」
 などとまるで毀れものを持ち歩くようにしてやっと一間に置いた。そっと布団など着せかけて主人がぬるま湯を入れた茶碗をもって傍らへゆき乾からびた唇を湿(うる)おしてやると、その間から舌らしい黒いものがむすむす動いて、唇を舐め、やがて綿に染ませた水をもしきりに吸うようである。
 これを見て女子供ははじめて、きゃっと声を上げ「こわい、こわい、化物だ」と逃げ退いて傍へよりつかなくなった。しかし、主人はこの様子に力を得て、この乾物を大事に扱うので、母なる人も一緒になって、湯水を与えるごとに念仏を称えるのを怠らなかった。
 こうして五十日ばかり経つ中に、乾鮭のようだった顔も手足も、少しづつ湿おって来て、いくらか体温も戻って来たようである。
「そりゃこそ、正気づくぞ」
 といよいよ気を入れて世話する中にはじめて目を見開いた。明るい方へ瞳を動かすようであるが、まだはっきりとは見えない様子である。おも湯や薄い粥などを唇から注ぎ入れると、舌を動かして味わう様子は、何のこともないただの人間であった。古樹の皮のようだった皮膚の皴が浅くなり少しづつ肉づいて来て手足も自由に動き、耳もどうやら聞えるのか、北風の吹きたてる気配に、裸のままの身体を寒げに慄るわしている。
 古い布子を持って来て渡すと、手を出して戴く様子はうれしそうで、物もよく食べるようになった。初めの中は尊い上人の甦りであろうと主人も礼を厚くして魚肉も与えなかったが、他人の食べるのを見て鼻をひくひくさせ欲しがるので、膳に添えると、骨のままかじって、頭まで食い尽くすには主人も興ざめる思いがした。
「あなたは一度定に入ってまた甦って来た珍しい宿世の方なのですから、私どもの発心のしるべに、この長い間どういう風にして土の下で生きていられたか覚えていられることを話して下さい」
 と懇ろにたずねて見ても、首を振って、
「何にも知らない」
 といってぼんやり主人の顔を見ているばかり、
「それにしてもこの穴へ入った時のことぐらいでも思い出せませんか、さても、昔の世には何という名で呼ばれた人か」
 といっても、一向に何も知らぬ人らしく、うじうじと後じさりして、指をなめたりしているさまが、全くこの辺りの百姓の愚鈍に生れついたものの有様そっくりである。
 折角数カ月骨折ってあたら高徳の聖を再生させたと喜んだのに、この有様には主人もすっかり気を腐らせ、後には下男同様に庭を掃かせたり、水を撒かせたり召使うようになったが、そういう仕事は別に厭いもせず、怠けずに立ち働いた。
「さても仏の教えとは馬鹿馬鹿しいものだ。禅定に入って百年余も土中にあり、鉦を鳴らしつづけるほどの道心はどこへ消え失せたのか。尊げな性根はさらになく、いたずらに形骸ばかり甦ったとは何たることか」
 と主人をはじめ村のなかでも少しこころある者は眉をひそめて話しあった。

円地文子「二世の縁 拾遺」より
『日本近代短編小説選』昭和編3(岩波文庫)収録

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ストーリーはぐちゃぐちゃなになのに面白い。スタイリッシュな「殺しの烙印」。

陽炎座 00.jpg陽炎座 1981.jpg陽炎座 01.jpg
陽炎座 [DVD]

陽炎座 02.jpg 1926年、大正末年で昭和元年の東京。新派の劇作家・松崎春狐(松田優作)は偶然謎の女・品子(大楠道代)と出会う。三度重なった奇妙な出会いを、自分のパトロン玉脇(中村嘉葎雄)に打ち明けるが、玉脇の邸宅の一室は、松崎が品子と会った部屋とソックリだった。品子は玉協の妻ではと松崎は訝る。数日後、松崎は品子とよく似た振袖姿のイネ(楠田枝里子)と出会い、イネは「玉脇の家内です」と言う。しかし、玉脇によれば、イネは松崎と出会う直前に息を引きとったという。松崎の下宿の女主人みお(加賀まりこ)が玉脇の過去を語る。玉脇はドイツ留学中イレーネと結ばれ、彼女は日本に来てイネになりきろうとし、やがて病気で入院、玉脇は品子を後添いにしたという。折しも品子から松崎に、「金沢、夕月楼にてお待ち申し候。三度びお会いして、四度目の逢瀬は恋になります。死なねばなりません」との手紙が来る。金沢に向う松崎は列車の中で玉脇に出会い、松崎は金沢へ亭主持ちの女と若い愛人の心中を見に行くと言う。金沢陽炎座  松田優作 原田芳雄.jpgでは不思議なことが相次ぎ、品子と死んだはずのイネが舟に乗っていたかと思うと、やっと会えた品子は手紙を出した覚えはないと言う。玉脇は松崎に心中を唆すが、仕組まれた心中劇に松崎は乗れない。逃れた松崎は、アナーキストの和田(原田芳雄)と知り合い、和田は松崎を秘密めいた人形の会に誘う。人形を裏返して空洞を覗くと、そこには男と女の情交の世界が窺え、松崎が最後の人形を覗くと人妻と若い愛人が背中合わせに座っている。死後の世界であり、松崎は衝撃を受ける。金沢を逃げ出し彷徨う松崎は、子供芝居の小屋「陽炎座」に辿り着く。舞台で玉脇、イネ、品子の縺れた糸が解かれようとした刹那、愛憎の念が一瞬にして小屋を崩壊させる。松崎が不安に狂ったように帰京すると、品子の手紙が待っていた。「うたた寝に恋しき人を見てしより夢てふものは頬みそめてき」"夢が現実を変えたんだ"とつぶやく松崎の運命は奈落に落ちていくのだった―。

陽炎座 鈴木清順.jpg 1981年公開作で、今年['17年]2月に93歳亡くなった鈴木清順監督の「(大正)浪漫三部作」(「チゴイネルワイゼン」('80年)、「陽炎座」('81年)、「夢二」('91年))の第2作目です。鈴木清順監督のベスト作品は何かということが言われる際に「チゴイネルワイゼン」は"別格"とされたりすることがありますが、「チゴイネルワイゼン」がそうであれば、「三部作」まとめて"別格"となるような気もします。特にこの「陽炎座」は「チゴイネルワイゼン」の翌年に撮られており、鈴木清順監督の自らの美学に対する自信のようなものが感じられました。

陽炎座 07.jpg陽炎座 06.jpg 原作は泉鏡花ですが、「春昼」「春昼後刻」など複数の作品から引いているようです。但し、あるのかないのか分からないストーリーながらも、振り返ってみればそう複雑な話ではなく、次にどっちへ行くか分らないながらも、意外とシンプルな展開だったかも。「チゴイネルワイゼン」もそうでしたが、何だか分からない部分の方が多いのでけれども、幻想的な映像美とテンポの良い展開で愉しませてくれた作品という感じです。

陽炎座1-7.jpg 松田優作(1949-1989/享年40)がいい味を出していたように思います。それまでアクション映画ばかりだった松田優作に、鈴木清順監督は、直径1mの円を描き「この中から出ないような演技をしてください」と指導したそうです。松田優作はこの映画の翌年には森田芳光(1950-2011/享年61)監督の「家族ゲーム」('83年/ATG)に出演して好評を博し、森田芳光監督の「それから」('85年/東映)にも出演して、こちらも高い評価を得ましたが、そした演技の幅を拡げる契機となったのがこの作品ではないでしょうか。個人的には、「それから」のやけに重々しい松田優作よりも、TV版「探偵物語」の軽さを一部残しているようなこの作品の松田優作の方が好きです。鈴木清順監督は、松田優作の演技の個性を活かしているように思いました。

 共演の大楠道代、中村嘉葎雄、加賀まりこ、原田芳雄(1940-2011/享年71)の何れも良く、中村嘉葎雄と加賀まりこは、第27回キネマ旬報賞と第5回日本アカデミー賞のそれぞれの助演男優賞・助演女優優賞をW受賞しています。大楠道代、原田芳雄は「チゴイネルワイゼン」から引き続いての共演ですが、原田芳雄が亡くなっているだけに、今観ると、松田優作との共演は貴重な映像のように感じられます(前の共演作「竜馬暗殺」('74年/ATG)では原田芳雄が主役で、映画デビュー2年目の松田優作は脇だった)。久しぶりに松田優作を観て、松田龍平に似ていると思ったことに時の流れを感じたりもしました。
陽炎座 大楠.jpg 陽炎座  中村嘉葎雄、加賀まりこ.jpg 陽炎座 原田.jpg 陽炎座 中村.jpg

陽炎座es.jpg 楠田枝里子

陽炎座 03.jpg陽炎座 05.jpg「陽炎座」●制作年:1981年●監督:鈴木清順●脚本:田中陽造●撮影:永塚一栄●音楽:河内紀●原作:泉鏡花●時間:139分●出演:松田優作/大楠道代/中村嘉葎雄/加賀まりこ/原田芳雄/楠田枝里子/大友柳太郎/麿赤児/江角英/東恵美子/玉川伊佐男/佐野浅夫/佐藤B作/トビー門口●公開:1981/08●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(17-08-21)(評価:★★★★)

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結構「前衛」的。シュール過ぎてちょっとついていけない面もあった。

春桜 ジャパネスク vhs.jpg 春桜 ジャパネスク.jpg 春桜 ジャパネスク 1シーン.png suzuki seijyun.gif
春桜 ジャパネスク [VHS]」['83年]「春桜/ジャパネスク [DVD]」['08年]     鈴木清順監督
伊武雅刀/風吹ジュン
春桜ジャパネスク1.jpg 春桜の季節、男(伊武雅刀)は、桜の樹々をトラックの荷台に積み、それらを移植するための場所を探して田舎を旅している。トラックの前に突如、日傘をさした桜模様の着物の女(風吹ジュン)が現れ、どうやら彼女は目が不自由なようだ。自分も桜を追う旅の途中だと話す女に、男は、女人禁制のトラックには乗せられないと一度は断るが、結局は女を乗せてしまう。その女と旅するうち、男はだんだん彼女の妖気に嵌ってゆく―。

春桜ジャパネスク2.jpg 鈴木清順(1923年生まれ)が、満開桜を追って小淵沢、河口湖、御殿場などでロケを敢行して撮り上げたという、劇場公開を前提としないOⅤであり、1984 (昭和59)年に「ラフォーレ原宿」で上映された後は、ロードにかからないのは勿論のこと殆ど再上映されることはありませんでしたが、2003年にやっと劇場公開されました(その後、2008年にDVD化)。

春桜ジャパネスク3.jpg それまでの鈴木清順作品と言うと、ウエット感のあるフィルム映像、計算され尽くしたセットという印象があったので、乾いた印象のビデオ映像は、新鮮と言えば新鮮でした(ロケハンの多用は、「ツィゴイネルワイゼン」('80年)の頃から見られたが)。満開桜が美しく撮られていて、イメージとしては、梶井基次郎の「桜の樹の下には」や坂口安吾の「桜の森の満開の下」を映像化すると、こんな風なビジュアルになるのかなという感じです。

春桜ジャパネスク4.jpg 途中、男が女に桜湯を飲ませると、花びらを飲み込んでしまった女の目が見えるようになり(と言っても、実はそれまで盲人のふりをしていたのだが)、男は女に桜の樹の移植を請け負った経緯を話す。男は、桜を驚かしてはいけないと言って、夜は荷台に乗せた棺桶に入って寝る―この監督独特の浪漫的傾向が感じあられますが、シュール過ぎてちょっとついていけない面もあったかな。いきなり女が踊りだしたりして...。

風吹ジュン2.jpg風吹ジュン.jpg 風吹ジュン(1952年生まれ)はCMキャンペーンガールとしてスタートし、その後'74年に歌手デビュー、'75年に女優デビューしていますが、CMタレントして一世風靡した分、ドラマに出ていても女優というよりCMタレントが出ている印象が暫くはありました。この作品を観ると、フォトジェニックであるだけでなく、独特の妖気も感じさせるものになっていますが、当時の彼女の演技力に鈴木清順の演出力が相俟っての効果といった感じでしょうか。

風吹ジュン 八重の桜.jpg 今年('13年)のNHKの大河ドラマ「八重の桜」で八重(綾瀬はるか)の母親役を演じていましたが、西郷頼母(西田敏行)の妻を演じた宮崎美子(1958年生まれ)もCMモデルからの転身組で、かつてグラビアアイドルだったことを今は自虐ネタにしているみたいな感じか。風吹ジュンは「オーバー60(シックスティ)」にしては若いように思います。

舞衣夢 vhs.jpg この作品が「ラフォーレ原宿」で上映された際の併映作品が、同じく鈴木清順監督のOⅤ作品「舞衣夢(まいむ)」('84年/電通)で、美輪明宏とトミー・ギャレットの共演ですが、こちらはその年にVHS化されたものの現在は絶版中で、むしろ今はこちらの方が「幻の作品」になっているかも。再鑑賞の機会が無いため記憶がかなり薄れてしまいましたが、演劇とファッションショーを組み合わせたような内容で、宝塚歌劇を観ているような印象もあったし、美輪明宏の後の「近代能楽集」に繋がる要素もあったように思います(記憶が不確かなため評価不能)。
舞衣夢 [VHS]

 2作とも、監督が作りたいものを作ったという印象で、この監督、興行成績ということを度外視して撮らせると、 その作品は結構「前衛」になるのかも。

ラフォーレ原宿.jpg 春桜ジャパネスクp.jpg「春桜(はるさくら)ジャパネスク」●制作年:1984年●監督:鈴木清順●製作:荒戸源次郎/勝田祥三●脚本:大原清秀●撮影:伊藤嘉宏●音楽:河内紀●時間:80分●出演:伊武雅刀/風吹ジュン●初上映:1984/06((劇場公開:2003/07)●配給:電通(劇場公開:スローラーナー)●最初に観た場所:ラフォーレ原宿(84-07-01)(評価:★★★?)●併映:「舞衣夢」(鈴木清順)
ラフォーレ原宿 1978年(昭和53年)2月11日神宮前(旧・隠田町)にオープン

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漱石門下だった文人・内田百閒を身近なものに感じさせてくれる本。

百間先生月を踏む.jpg   久世光彦.jpg 久世光彦(1935-2006/享年70) ツィゴイネルワイゼン .jpg
百閒先生 月を踏む』 ['06年/朝日新聞社]  鈴木清順 監督(原作:内田百閒)「ツィゴイネルワイゼン」

 久世光彦(1935‐2006)の最後の長編小説(未完)で、内田百閒への著者の想いがひしひしと感じられます。
 係累を絶ち小田原でのうたた寝ばかりしていうような生活の中、時に近所の寺の和尚や作家風の人物と語らい、またその合間に幻想的な短篇小説を書いている百閒先生を、その世話役である小坊主・果林の目から描いています。

 百閒のちょっととぼけた人柄や、自らが見た夢を織り込む創作の秘密が窺えて楽しく、そうして出来上がった作品が章ごとに出てきますが、これらは実は久世氏の手によるもので、その意味ではかなり実験的な試みです。
 『女神(じょしん) 』('03年/新潮社)で大岡昇平の『花影』の向こうを張って同じモデル(坂本睦子)に肉薄しながらも、敢えてドラマ的要素をふんだんに盛り込んだスタイルの発展形を、この作品に見た思いがしました。

 ただし個人的にはこの小説は、地の文の方が良く感じられ、果林を通して百閒先生の実作に解説や突っ込みを入れているのが楽しいけれど、作中小説は「金魚鉢」などは何とか百閒小説という感じがしますが、他は修辞を凝らしすぎているものが多い気もし、作中作にまで蘊蓄を持ち込んでいるのもどうかなという気がしました。

ツィゴイネルワイゼン9.jpgツィゴイネルワイゼン.jpg 坪内祐三氏の解説が興味深く、百閒が住んだことのないはずの小田原を舞台にしている理由の1つに、鈴木清順監督の映画「ツィゴイネルワイゼン」('80年/シネマ・プラセット)のイメージが久世氏にあったのではないかとしています(確かに映画の中に砂浜のシーンがあった)。

ツィゴイネルワイゼン1.jpg 「ツィゴイネルワイゼン」は黒澤明監督の「影武者」('80年/東宝)を押さえてその年のキネ旬ベストワンを獲得した作品ですが、実際いい映画でした。大楠道代が「桃はツィゴイネルワイゼン2.jpg腐りかけているときがおいしいの」と言いながら、水蜜桃を舌で妖しく舐めまわすシーンが印象的であり、またこの映画に漂う死のイメージを象徴していた場面でもありました。
ツィゴイネルワイゼン チラシ.bmp
0坪内y.jpg 『百閒先生 月を踏む』の時代設定は、雑誌連載時は昭和25年(百閒61歳)となっていて、この中に映画「ツィゴイネルワイゼン」の原作である小説「サラサーテの盤」を着想する場面もありますが、実際には昭和23年に「サラサーテの盤」は発表されていて、これを作者の「生前の意向」を受け解説を担当した坪内氏は、昭和10年生まれの久世氏が15歳の果林に自分を重ねたとき、逆算的に昭和25年にならざるを得なかったとしています。ところが、同じく作者の「生前の意向」を受けたという編集部が、(その意向により)単行本で昭和22年(百閒58歳)という設定に直したのだと言っていて、このあたりは、作者の急逝による混乱を窺わせます(もし編集者の言うのが事実ならば、熱弁をふるった坪内氏が気の毒)。

 細部での齟齬はありますが、漱石門下生でありながら昭和の高度経済成長期まで生きた文人を、ごく身近な存在として感じさせてくれる本という意味ではいいのではないでしょうか。
 
ツィゴイネルワイゼン 原田.jpgツィゴイネルワイゼン3.jpg「ツィゴイネルワイゼン」●制作年:1980年●監督:鈴木清順●製作:荒戸源次郎●脚本:田中陽造●撮藤田敏八  .jpg影:永塚一栄●音楽:河内紀●原作:内田百閒 (「サラサーテの盤」(ノンクレジット))●時間:144分●出演:原田芳雄大谷直子/大楠道代/藤田敏八/真喜志きさ子/麿赤児/山谷初男/玉川伊佐男/樹木希林/佐々木すみ江/木村有希/玉寄ツィゴイネルワイゼン 日劇文化.jpg長政/夢村四郎/江の島ルビ/中沢青六/相倉久人●公開:1980/04●配給:シネマ・プラセット●最初に観た場所:有日劇文化入口.jpg日劇文化.jpg楽町・日劇文化(81-02-09)(評価:★★★★)  日劇文化(1935年12月30日、日劇ビル地下にオープン、1955年8月12日改装。ATG映画専門上映館。1981(昭和56)年2月22日閉館)のラストショー上映作品「ツィゴイネルワイゼン」

ツィゴイネルワイゼン5.jpg藤田敏八に演技をつける鈴木清順監督ツィゴイネルワイゼン6.jpg  

【2009年文庫化[朝日文庫]】

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