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原作に忠実に作られていて良い。坂口良子・長門裕之共に体当たり演技。

「坂道の家」00.jpg
「松本清張の坂道の家」['83年/日テレ・火曜サスペンス劇場]坂口良子/長門裕之
「坂道の家」ks.jpg「坂道の家」011.jpg 寺島吉太郎(長門裕之)は、場末の町で地道に小間物屋を営んでいたが、ある日、彼の店に今まで見かけない女性が店を訪れる。吉太郎はその女性・杉田りえ子(坂口良子)に何となく好意を抱き、持ち合わせのなかった彼女が欲しがっていた店のセー「坂道の家」坂道.jpgターを渡してやる。杉田りえ子は、ホステスとして働いた金を実家に送金し「坂道の家」02.jpgながら質素な生活を送っていることがわかり、吉太郎は、親子ほど年の離れたりえ子に惚れてしまう。りえ子の勤めるクラブ「キュリアス」に夜な夜な通い詰めるようになり、これまで堅実だった吉太郎の生活は一変し、預貯金はどんどん減っていく。それでも吉太郎はりえ子にのめり込んでいき、彼女にクラブをやめさせるため、坂道の一軒家を賃借してそこに彼女を住まわせるが、そこからさらに、りえ子に執着するがゆえの吉太郎の蟻地獄が始まる―。

「黒い画集」1.jpg「坂道の家」文庫.jpg 松本清張による原作は、「週刊朝日」1959(昭和34)年1月から4月まで、「黒い画集」第3話として連載され、1959年4月に単行本『黒い画集1』収録の一編として、光文社より刊行されています(後に『黒い画集』('71年/新潮文庫)に第7話として所収)。

 この、1983年2月8日、日本テレビ系「火曜サスペンス劇場」枠で放映された坂口良子・長門裕之主演の「松本清張の坂道の家」は4回目のドラマ化作品で、視聴率21.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。その後、1991年にTBS系「月曜ドラマスペシャル」枠で黒木瞳・いかりや長介主演でドラマ化され(視聴率20.8%)、さらに、2014年にテレビ朝日系「松本清張二夜連続ドラマスペシャル」の第一夜として尾野真千子・柄本明主演でドラマ化されています。黒木瞳・いかりや長介版も尾野真千子・柄本明版もドラマ関係の賞を受賞していますが、やはり原作がいいのでしょう(演技系の受賞は柄本明だったが、りえ子役は女優がやりたがる役かも)。

•1991年「松本清張作家活動40年記念・黒い画集 坂道の家(TBS)」黒木瞳・いかりや長介
「坂道の家」黒木.jpg 「黒い画集 坂道の家(TBS) .jpg
•2014年「松本清張〜坂道の家(テレビ朝日)」尾野真千子・柄本明・小澤征悦・渡辺えり
「松本清張〜坂道の家(EX)」.jpg

 坂口良子・長門裕之版は比較的原作に忠実に作られていて、真面目だった吉太郎が若いりえ子に溺れていく前半から中盤にかけてのどろどろした愛憎ドラマ部分と(坂口良子・長門裕之共に体当たり演技といった感じ)、すでに吉太郎が不審死を遂げて、なぜこうなったかというミステリ部分の終盤に分かれています。

 吉太郎が殺害される、その伏線として、吉太郎がりえ子にビールを飲ませて風呂に入れるという殺意が感じられる折檻をするのは原作と同じ。ただし、ドラマでは冒頭に、病院の診察室でりえ子が医者に心臓が弱いことを示される場面がありますが(タイトルバックは胸部レントゲン写真)、これは原作にはなく、ドラマではりえ子をはっきり心臓の持病持ちにしたことになります(これはこれで筋が通っていたのでは)。

「坂道の家」0i1.jpg石田純一.jpg ドラマでは、りえ子の自白シーンの回想場面で、りえ子の同郷の恋人・山口武豊(石田純一)がりえ子に「ヤツがやろうとしていることを逆にやってやれと」と殺害を唆し、心臓麻痺というその方法まで示した場面があり、山口がかなり"悪者"になっている印象もありますが、原作を読み直してみると、ラストのりえ子の漢字・カタカナ書きの調書の中で、吉太郎が自分に殺意を抱き、心臓麻痺で死んだように見せかけようとしたのを、逆に利用したのは山口が考え出したとありました(清張作品には謎解きを調書スタイルにしているものがいくつもあり、これもその1つ)。

「坂道の家」大地1.jpg こうした点も、原作に忠実に作られていて、いいと思いました。違った点と言えば、原作では事件当時、坂道の家の煙突から煙が出る時間(風呂が炊かれる時間)がいつもと違ったと証言するのが、向かい側の丘の家に住む浪人生だったのに対し、ドラマではさすがにもう風呂炊きで煙突から煙が昇る時代ではないということからか、風呂の覗き見の常習犯が証言するようになっていて、その風呂を覗く男を大地常雄(後の大地康雄)が演じていました。

「マルサの女」大地1.gif「深川通り魔殺人事件」('83年.jpg 大地康雄はこの年の7月、「深川通り魔殺人事件」('83年/テレビ朝日)(同名事件を基にしたノンフィクション)の主役の殺人犯役を演じて注目され(実際の犯人像は藤原新也『東京漂流』('83年/情報センター出版局)で見ることができるが、大地康雄と少し似ているか。当時「本人を出した?」という問い合わせがあったとか)、続いて伊丹十三監督の「マルサの女」('87年/東宝)の「マルサのジャック・ニコルソン」こと伊集院役でブレイクすることになりますが、この時はまだ無名時代だったのだなあ。

「坂道の家」0.jpg「松本清張の坂道の家」●監督:松尾昭典●プロデューサー:嶋村正敏(日本テレビ)/田中浩三(松竹)/樋口清(松竹)●脚本:宮川一郎●音楽:三枝成章●原作:松本清張●出演:坂口良子 (杉田りえ子:クラブ「キュリアス」のホステス)/長門裕之 (寺島吉太郎:小間物屋)/石田純一 (山口武豊:りえ子の同郷の恋人)/正司歌江(寺島の妻)/永島暎子 (さゆり:「キュリアス」のママ)/梅津栄(おでん屋台)/大地常雄(南:風呂を覗く男)/唐沢民賢 (渡辺監察医)/佐藤英夫(刑事)/大場順(刑事)/杉江廣太郎(マスター)/中村竜三郎 (吉太郎を看取る医師)/森章二(不動産屋店主)/成田次穂 (りえ子の主治医)●放送日:1983/2/28●放送局:日本テレビ(評価:★★★★)

《読書MEMO》
「坂道の家」の過去のテレビドラマ化
 •1960年「坂道の家(KR)」(全10回)市川中車・水谷良重・千石規子・梅若正二・芦田伸介
 •1962年「坂道の家(NHK)」(全2回)織田政雄・友部光子・菅井きん・堀勝之祐
 •1965年「坂道の家(KTV)」三國連太郎(30分番組)
 •1983年「松本清張の坂道の家(NTV)」坂口良子・長門裕之・石田純一・正司歌江
 •1991年「松本清張作家活動40年記念・黒い画集 坂道の家(TBS)」黒木瞳・いかりや長介・沖田浩之
 •2014年「松本清張〜坂道の家(EX)」尾野真千子・柄本明・小澤征悦・渡辺えり

1991年「黒い画集 坂道の家(TBS)」黒木瞳・いかりや長介
「黒い画集 坂道の家(TBS)」.jpg

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林隆三の渋い演技で、ハードボイルドタッチに仕上がっている佳作「交通事故死亡1名」。

「交通事故死亡1名」.jpg「交通事故死亡1名」05.gif
「松本清張の交通事故死亡1名」['82年/日テレ・火曜サスペンス劇場]林隆三/山田吾一
「交通事故死亡1名」01.jpg ある夜、タクシー運転手の小山田(林隆三)は、客の栗野(重田尚彦)を乗せて走っていると、前の車が急停車し、さらに車の前に女が飛び出してきて、それらを避けようとした小山田は思わずハンドルを大きく切り、その時道路脇に立っていた男・吉川を運悪く撥ねてしまう。小山田は業務上過失致死の罪で三年の実刑となり、妻・恵子(あべ静江)、一人息子と仲良く暮らしていた彼の人生は一変する。ところが、面会に来た会社の事故係・亀村(桑山正一)が妙なことを言う。「お前さんは嵌められたのかもしれんぞ」。その言葉を奇異に感じた小山田は、出所後、亀村に会いに行く。すると、亀村はタクシー会社を辞め、今では喫茶店のマスターになっていた。事故の裏に何が隠されているのか、小山田は真相を追求しようとするが、亀村は、あれは自分の思い込みだったと言う。その亀村がある日、ビルから落ちて、謎の死を遂げる―。

『死の枝』文庫1.jpg「交通事故死亡1名」0211.jpg 1982年12月7日「火曜サスペンス劇場」枠で放送。原作は松本清張が「小説新潮」に1967(昭和42)年2月から12月まで11回にわたって『十二の紐』と題して連載し、同年12月、新潮社より『死の枝』と改題されて刊行された連作短編集の第1話「交通事故死亡1名」。林隆三の渋い演技で、ハードボイルドタッチに仕上がっており、ドラマとして佳作だと思います(視聴率21.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区))。

 原作では、物語の探偵役が会社の事故係の亀村で、小山田が服役中に事故の真相に迫りますが、ドラマでは、林隆三が演じる事故を起こしたタクシー運転手の小山田が、交通刑務所で服役して、出所後に自ら事件の真相を探るという具合に改変されています。実は亀村も小山田が服役中に事件の真相には気づいていて(それが「お前さんは嵌められたのかもしれんぞ」という言葉に繋がる)、ただし、途中から犯人を恐喝する側に回ったようで、それで今は脅し取った金を元手に喫茶店を開き、そのオーナーになっているが。金を脅し取り続けているうちに殺害されたということです。

「交通事故死亡1名」031.jpg 加山麗子演じる吉川の愛人(今は、山田吾一演じる、小山田のタクシーの前を走っていたクルマを運転していた浅野の愛人)・池内篤子が自殺するなど(彼女もわざと小山田のタクシーの前に飛び出してきた共犯者)、原作から多少の改変はありましたが(原作は自殺未遂(狂言自殺?)で、ドラマは浅野から持ち出された別れ話が原因の自殺か)、基本的な枠組みは変わっておらず、タクシー運転手・小山田の推理劇&復讐劇になっている分ドキドキ感とカタルシス効果があり、しかも先にも述べたように、林隆三が「ハードボイルド」していて渋かったです。

 それと、原作では明かされていないタクシーの客の栗野と、前を走っていた車を運転していた浅野の関係が(原作は、探偵役の亀村がこれから栗野から聞き出すというところで終わっている)、ドラマでは商品の横流しという経済犯罪が背景となっていることが窺え、犯行の動機が示されているのも親切だったと思います。

 また、事故で亡くなったヤクザ男の吉川の未亡人役の山口美也子、警視庁捜査1課の刑事役の戸浦六宏など、脇役陣もしっかりしていたように思います。あべ静江(1951年生まれ)、加山麗子(1956年生まれ)といった女優も懐かしいです。特に加山麗子は、「日活ロマンポルノの清純派」(こういうよく分からない路線があった)として人気を得た後、多くのテレビドラマに出演したかと思ったら、20代で引退してしまったからちょっと懐かしかったりもします。

(上から)
林隆三/あべ静江
山口美也子
加山麗子

「エロチィック関係」 1978p.jpg「エロチィック関係」 1.jpg 日活ロマンポルノ時代の加山麗子は, 長谷部安春(1932-2009)監督、内田裕也(1939-2019)主演の「エロチックな関係」('78年/日活)を池袋文芸地下で観ましたが、加山麗子(当時22歳)も主演といっていい作品でした。併映が推理作家の小林久三原作、貞永方久監督の「錆びた炎」('77年/松竹)であったように、「エロチックな関係」もまた推理もの(探偵もの)で、ある女の浮気の調査を依頼された探偵が、予想もつかなかった連続殺人事件に巻き込まれていくという、レイモン・マルロー原作の「春の自殺者」の映画化ですが、何「エロチックな関係」加山・内田1.jpgか物足りなかった記憶があります。ただし、内田裕也のロマンポルノ出演作品の中では代表作とされていて、'92年に今度は内田裕也の製作・脚本で、内田裕也が前作と同じ探偵役でビートたけしが依頼人役、加山麗子が演じた探偵の妻兼秘書役(銃撃アクションシーンなどもある)を宮沢りえ(当時19歳)が演じた(秘書役)リメイク作品「エロティックな関係」('92年/松竹)が作られました(個人的にはリメイクの方は観ていない)。
「エロティックな関係」('92年/松竹)宮沢りえ/ビートたけし/内田裕也
「エロティックな関係」図3.jpg


「交通事故死亡1名」041.jpg「松本清張の交通事故死亡1名」●監督:貞永方久●プロデューサー:小杉義夫(日本テレビ)/鍋島壽夫●脚本:原寛司●音楽:大谷和夫●原作:松本清張●出演:林隆三/あべ静江/山田吾一/加山麗子/重田尚彦/桑山正一/山口美也子/戸浦六宏/木村元/青空球児・好児/奥野匡/小沢象/小田草之介/三島史郎、坂本由英、石井洋光、羽吹正吾、中沢青六、竹村晴彦、浦上喜久、谷本小代子、田村元治、井上れい子、小日向範成、上枝俊介、石原愛美、西村容子、鈴木恵美、青木啓二、青江薫、門間利夫、菊川予市、松原昇/平井千都/金原敬三/永淳●放送日:1982/12/07●放送局:日本テレビ(評価:★★★★)

「エロチィック関係」 1978.jpg「エロチィック関係」 2.jpg「エロチックな関係」●制作年:1978年●監督:長谷部安春●製作:栗林茂●脚本:中島絋一/長谷部安春●音楽:A・イカルト・ルティアーニ●原作:レイモン・マルロー「春の自殺者」●出演:内田裕也/加山麗子/牧ひとみ/田中浩/井上博一/南条マキ/西村昭五郎/江角英明/岡尚美/梓ようこ/日野繭子/安岡力也/ジョー・山中●公開:1978/07●配給:日活●最初に観た場所:池袋文芸地下(80-07-04)(評価:★★☆)●併映:「錆びた炎」(貞永方久)
ロマンポルノ45周年記念・HDリマスター版「ゴールドプライス3000円シリーズ」DVD エロチックな関係」['20年]

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意外な結末ばかりの短編集。もう少しで完全犯罪が成立しそうだったのが...。

『危険な斜面』単行本.jpg 『危険な斜面』カッパ01.gif『危険な斜面』カッパ02.jpg 『危険な斜面』文春文庫.jpg 『危険な斜面』文庫2.jpg
危険な斜面 (1959年) 』『危険な斜面 (カッパ・ノベルス)』['62年]『危険な斜面 (1980年) (文春文庫)』『新装版 危険な斜面 (文春文庫)
『危険な斜面 (カッパ・ノベルス)』
『危険な斜面』カッパ01.jpg『危険な斜面』カッパ05.jpg『危険な斜面』カッパ3.jpg 松本清張の、1959年2月刊行の短編集『危険な斜面』収録作6編を所収。もう少しで完全犯罪が成立しそうだったり、事件が迷宮入りになったままで終わりそうだったりしたのが、偶然の事実やある人物の洞察によって、その壁が崩れ、事実が見えてきたといった展開のものをはじめ(「急な斜面」「投影」)、6編とも「意外な結末」という意味では共通していて、さすがに上手いなあと思いました。

『危険な斜面 (カッパ・ノベルス)』カット:金子千恵子
『危険な斜面』カッパ4危険.jpg「急な斜面」(1959.2 オール読物)
 歌舞伎座で会社の得意先の接待に参加していた秋場文作は、ロビーで自社の会長・西島卓平の愛人を目にするが、呼び止められて、10年前の自分が何度か交渉を持った女・野関利江であると気づく。野関利江は秋場文作に電話番号を教え、交渉が復活。秋場文作は、出世したい男で、重役、部長、課長、平社員といった序列を、人生の階段として絶えず意識していた。今の野関利江は西島会長の妾だから利用価値があるのだ、と秋場文作は考えた。しかし、野関利江は秋場文作を恋人と考えた。自分が老いて西島会長から捨てられる前に、秋場文作を繋いでおきたいのだった。感情を沸騰させはじめた女を前に、秋場文作は黒い計画を巡らす―。

「急な斜面」」2000.jpg 「男というものは、絶えず急な斜面に立っている。爪を立てて、上にのぼっていくか、下に転落するかである」という一文が響く。秋場文作が用いたのは、超有名作「点と線」('57年発表)みたいなアリバイトリックだが、使った飛行機に有名人が乗っていたのが運が悪かった。まあ、秋場文作のために野関利江に振られた沼田仁一という男の執念もあるけれど。謎を解いた人間が犯人に金銭要求する「脅迫者」になるパターンはよくあるが、途中までそうかと思ったら、結局「金」よりも「復讐」だった。
松本清張特別企画・危険な斜面」('00年/TBS)田中美佐子/風間杜夫

『危険な斜面』カッパ5二階.jpg「二階」(1958.1婦人朝日)
 竹沢幸子の夫・英二は2年近く療養所にいたが、治癒の見込みはなかった。夫の懇願に負け、幸子は夫を自宅療養に切り替え、付添いの看護婦を頼む。看護婦・坪川裕子は経験も長く、世話は行き届いていた。印刷屋の仕事に忙しい幸子は、あまり夫の寝ている二階に上っていく暇がない。それは頼みにできる付添い看護婦をつけた安心もあるからだと幸子は信じていた。しかし幸子の心には、階段に足をかける度に、素直に上れない躊躇が起きた。幸子には、看護婦というよりも、一人の女が、二階で夫とひっそりと向かい合っているという意識が起こっていた。理由のない不安であった。実際、坪川裕子は常に忠実で慎み深かった。にもかかわらず、夫と看護婦のいる二階の圧迫に、幸子の心は追いつめられていく―。

「松本清張傑作選 4 二階」.jpg「二階」77年.jpg 「婦人朝日」1958年1月号に掲載。坪川裕子という女性がこの家にやってきたのは偶然で、英二とどうだったかとうのも最後に明かされるが、二階で起きていることは何となく見当がつく。最後は妻のプライド、凄まじきかな、という感じ。'77年のTBS「東芝日曜劇場」のドラマ版は、若い妻が十朱幸代(1942年生まれ)なのに対して看護婦が10歳年上の渡辺美佐子(1932年生まれ)が演じて、その年齢差が逆にリアリティを醸していた。登場人物がほぼ3人きりの約45分のスタジオ収録ドラマだが、緊迫感があったように思う(視聴率21.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区))。
松本清張傑作選 4 二階」('77年/TBS「東芝日曜劇場」)十朱幸代/竹沢英二/山口崇/渡辺美佐子

「巻頭句の女」(1958.7小説新潮)
 俳句雑誌「蒲の穂」の編集会議の場で、巻頭を飾ったこともあるさち女が、この3か月一句も投稿していないことが話題になった。さち女の才能を高く評価する麦人は、さち女を見舞うことにする。困窮しているさち女が入院していたのは施療院だったが、麦人が訪ねると3か月前に退院したという。麦人の本業は医師なので、院長は親切に当時の状況を語る。さち女の本名は志村さち子、病名は末期の胃癌、文通していた岩本英太郎という男性が、結婚して彼女の最期を看取るために引き取るというので退院を許可したという。東京に戻った麦人は、同人の青沙を女の新居に行かせたが、さち女は亡くなっていた。近所の人の話では、月の内10日ほどしか岩本は帰宅しておらず、さち女が亡くなった夜は何度か自動車が岩本の家の前で止まったのこと。麦人は、さち女の死についてさらに詳しく調べさせる―。

 保険金殺人&死体すり替え殺人だったわけか。死体すり替えの部分は、後の東野圭吾『容疑者Xの献身』('05年/文藝春秋)がこれに似ているように思った(どちらも、余った死体をどうするかという課題が残るが)。さち女の薄幸が痛ましい。


『危険な斜面』カッパ6失敗.jpg「失敗」(1958 新春号・別冊週刊サンケイ)
 東京で強盗殺人が発生し、2人組の犯人の1人は九州出身の浦瀬三吉、もう1人は東北出身の大岩玄太郎で、主犯は浦瀬で共犯が大岩。2人は浦瀬の故郷・九州に逃亡したと思われたが、警視庁から大岩の妻子がいる東北の中都市D市の警察に、大岩が妻子の許に立ち寄る可能性もあるので、捜査協力してほしいとの連絡があった。所轄署の山村刑事部長は、ベテランの島田刑事と若手の津坂刑事を張込み任務につかせる。大岩の妻くみ子に了承をもらい、自宅で張込みを開始するが―。

 これも超有名作「張込み」('55年)を思わせる設定。張込みを開始して1週間、大岩は妻くみ子の許に現れなかったという、途中まではほとんど「張込み」と同じような流れでいくが...。犯罪者の妻に対する若い刑事の同情が愛情に変わったのか。でも、「張込み」のドラマ化作品も、結構この路線を匂わせているものが多いのではないか。


「拐帯行」(1958.2日本)
 会社の金を持ち出した森村隆志は、西池久美子と博多行きの特急「さちかぜ」に乗り、一路九州へと向かった。死に場所を求めての旅だった。これまで惨めな境遇で生きてきた隆志と久美子は、生きていても仕方がない、死ぬよりほかに途が無いように思えた。が、せめて、死ぬ直前に一度贅沢をしてみたかったのだ。熱海から、斜め向こうの席に中年の紳士と妻らしい人が座った。夫は落ち着いてパイプをくわえ、妻は穏やかな上品さを湛え、夫婦は生活も十分安定して幸福そうに見えた。しばらく眼を惹かれていた隆志は、一瞬、久美子との間に、妙な距離を感じた。なぜかわからないが、その夫婦に影響されたような気がした。闇の中にいるような隆志の気持ちが、少しずつ変わり始める―。

 「日本」1958年2月号に掲載。土壇場で光と影が逆転する展開。山田洋次の初監督作品「二階の他人」('61年/松竹、原作:多岐川恭)の中の1ストーリーを思い出した。小坂一也・葵京子夫婦が間貸しした二階の部屋にやって来た評論家とその妻という品のよさそうな夫婦が、実は...というもの。


『危険な斜面』カッパ投影2.jpg「投影」(1957.7読売倶楽部)
 トラブルから東京の大手新聞社を辞職した太市は、水商売の女と瀬戸内の見知らぬ地方都市まで流れ、キャバレー勤めする女のヒモにまで堕ちる出口の見えない日々を過ごす。やがて、なんとか零細新聞社に職を得た彼は、市政の腐敗摘発に動く羽目になる―。

 不審な死亡事故における、光の投影によって帰宅の方向を誤らせるトリックはやや現実味が薄い気がするが、主人公が再就職した地方新聞社での人との出会いや経験を通して人間的に成長する姿が活き活きと描かれていて、ラストはグッと来る、松本清張作品には珍しい感動作に仕上がっていると言える。


「危険な斜面」2012.jpg この短篇集に収録されている作品はすべてテレビドラマ化されていますが、その中でも表題作の「危険な斜面」が8回と多く(「投影」もいい作品だと思うが、ドラマ化回数がそう多くないのは、トリックの再現が難しいからではないか)、個人的は、2012年フジテレビの「松本清張没後20年特別企画・危険な斜面」(出演・渡部篤郎・長谷川京子・溝端淳平)を観ました。

「危険な斜面」4.jpg 原作では最後に刑事が出てきますが、ドラマでは赤井英和演じる刑事が最初は溝端淳平演じる沼田仁一に嫌疑をかけたことから、頭にきた沼田仁一から示唆されて渡部篤郎演じる秋場文作に接近するようになり、一方で沼田仁一も秋場文作を心理的に追い込み最後の結末に至るという、警察と沼田仁一が実は"共闘戦線"を張っていたというのは原作通りですが、刑事役に赤井英和を配して主要人物の1人としたことでその伏線が描かれている点が、原作との大きな違いだったでしょうか。それ以外は、「点と線」のトリックも、報道写真にたまたま写り込んでいたことによるアリバイ崩壊も活かされていて、オーソドックスな作りになっていたように思います(禿げ頭のはずの会長は、中村敦夫演じるダンディな男性に改変されていたが、長谷川京子演じる会長秘書・野関利江の手引きで渡部篤郎演じる秋場文作がどんどん出世していくのは原作とほぼ同じ)。
「松本清張没後20年特別企画・危険な斜面」('12年/フジテレビ)長谷川京子/中村敦夫/渡部篤郎
「危険な斜面」3.jpg
    
     
    
「二階」11.jpg「二階」●監督:柳井満●プロデューサー:石井ふく子●脚本:服部佳●原作:松本清張「二階」●出演:十朱幸代/山口崇/渡辺美佐子/松下達夫/岡本茉利●放映:1977/02/06(全1回)●放送局:TBS(評価:★★★★)
  
      
       
長谷川京子/渡部篤郎
「危険な斜面」12.jpg「松本清張没後20年特別企画・危険な斜面」●監督:赤羽博●プロデュー:岩崎文(ユニオン映画)●脚本:当摩寿史●サウンドデザイン:石井和之●原作:松本清張「危険な斜面」●出演:渡部篤郎/長谷川京子/溝端淳平/萩尾みどり/大路恵美/品川徹/梨本謙次郎/伊藤栞穂/長谷川朝晴/五辻真吾/木下政治/松川荘八/加藤満/旭屋光太郎/高品剛/有山尚宏/赤井英和/中村敦夫●放映:2012/09/30(全1回)●放送局:フジテレビ

【1962年新書化[カッパ・ノベルズ]/1980年文庫化・2007年新装版[文春文庫]】

《読書MEMO》
●「急な斜面」のテレビドラマ化
•1959年「急な斜面(フジテレビ・全2回)」梶川武利・千典子
•1961年「急な斜面(TBS・全2回)」須賀不二夫・浅茅しのぶ・丹阿弥谷津子
•1962年「急な斜面(NHK・全2回)」前田昌明・中川弘子・渡辺文雄
•1966年「松本清張シリーズ・急な斜面(フジテレビ)」川崎敬三・富永美沙子・内田朝雄
•1982年「松本清張の危険な斜面(テレビ朝日)」:水沢アキ・田島令子・山本圭・西村晃
•1990年「松本清張スペシャル・危険な斜面(日本テレビ)」古谷一行・池上季実子・松本留美・薬丸裕英
「危険な斜面」ドラマ.jpg•2000年「松本清張特別企画・危険な斜面(TBS)」田中美佐子・風間杜夫・袴田吉彦
•2012年「松本清張没後20年特別企画・危険な斜面(フジテレビ)」渡部篤郎・長谷川京子・溝端淳平・赤井英和
  
●「二階」のテレビドラマ化
•1965年「二階(フジテレビ)」三國連太郎・佐々木すみ江・楠侑子
「二階」77年.jpg•1977年二階(TBS)」十朱幸代・山口崇・渡辺美佐子
  
●「巻頭句の女」のテレビドラマ化
•1962年「巻頭句の女(NHK・全2回)」加藤嘉・前沢迪雄・高橋正夫
  
●「失敗」のテレビドラマ化
•1959年「失敗(フジテレビ)」津島恵子・清水将夫・土屋嘉男
  
●「拐帯行」のテレビドラマ化
•1959年「拐帯行(日本テレビ)」高橋昌也・悠木圭子・幸田宗丸
•1988年「松本清張サスペンス 拐帯行(フジテレビ)」石橋保・渡辺典子・高松英郎・南田洋子
「ドラマSP 黒革の手帖~拐帯行~」.jpg•2021年「黒革の手帖~拐帯行~(テレビ朝日)」武井咲・渡部篤郎・毎熊克哉・安達祐実
  
●「投影」のテレビドラマ化
•1959年「投影(日本テレビ)」三橋達也・岩崎加根子・河野秋武
•1960年「投影(NHK・全2回)」佐竹明夫・吉行和子・早野寿郎・大町文夫

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原作のアンチカタルシスを活かしながらも適度に改変。二人の女性の生き方の対比も。

「松本清張の葦の浮船」001.jpg「松本清張の葦の浮船」002.jpg 『葦の浮船』単行本.jpg
「松本清張の葦の浮船」['84年/テレ朝・土曜ワイド劇場]坂口良子/渡瀬恒彦 『葦の浮船』['67年/講談社]
「葦の浮船」41.jpg 大学の歴史学助教授・折戸二郎(津川雅彦)と小関久雄(渡瀬恒彦)は、中学校から大学院、勤務先までずっと一緒の友人同士。利己的でプレイボーイの折戸は、いつも女性関係の後始末を、人のいい小関に押し付けていた。折戸と人妻・笠原幸子(山口果林)との浮気「松本清張の葦の浮船」0061.jpg旅行の辻褄合わせにも、小関を利用していた。今回も小関は二人が密会している間、飛騨高山で仕事をしていて記者の近村達子(坂口良子)と出逢うが、それを知った折戸は早くも達子に目を付け、小関が同席すると見せかけ達子を食事に誘う。だが、達子は初めて会った時から小関に惹かれていて、折戸には靡かない。そこへ幸子が姿を現し、達子は店を後にする。折戸は浜田学部長(北村和夫)から次期教授に推薦すると知らされ、女性問題を起こさないように言い含められた。折戸は幸子と小関を使って別れようとするが、幸子は折戸の口から直接切り出されるまでは了承しない。仕方なく折戸は幸子と待合旅館で会うが、その時、たまたま隣室の不倫カップルの殺人事件を目撃してしまう。人妻が若い不倫相手の男に刺されたのだった。刑事(加藤武)に名を問われた折戸は、咄嗟に小関の名前を騙り、幸子も達子の名を騙って、折戸に迷惑がかからないようにした。幸子は、男と別れたい人妻と、彼女と別れたくない男の組み合わせが自分たちと似ていることで、彼らに特別な感情を抱いていた。どうしても幸子と別れたい折戸は、その現場に小関だけでなく妻(萩尾みどり)も来させ、ついに幸子は折戸と別れることを決意する。そして、一時は前向きに人生を考えるが、その後自殺する。遺体の安置所で、幸子の夫・笠原(高津住男)がナイフをで折戸に斬りかかる。小関は笠原に、折戸を殺すならば、二人の不倫関係に加担した自分も殺されるべきだと迫り、笠原は折戸を傷つけただけで殺すことは出来なかった。幸子の自殺、自身の傷害事件と続き、折戸のスキャンダルが明るみになる。マスコミは、幸子の死は折戸に狂った挙句の自殺だとし、折戸は笠原にも傷を負わせられ、彼らに迷惑をかけられた被害者であるとの報道をする。一時は大学を辞めることを覚悟した折戸だが、見舞いに来た浜田は、折戸を教授にすることが決まったと知らせる。大学としてもマスコミの報道を利用し、被害者的な扱いを利用し、名誉を損なわない対応を考えたのだった。一方の小関は島根へ行くことになっが、相変わらず小関は、不満も言わずに決定に従う―。

「松本清張の葦の浮船」tj1.jpg 原作は松本清張の「婦人倶楽部」(1966(昭和41)年1月号-1967(昭和42)年4月号に連載された長編小説(1967年に講談社から単行本刊行)。1971年に一度ドラマ化されていて、1984年にテレ朝「土曜ワイド劇場」枠で放映された本作は2度目のドラマ化作品(視聴率24.1%)。企画は、松本清張原作の映画化作品を多く手掛けた野村芳太郎で、監督は野村孝、脚本は橋本綾です。原作の設定は3月半ば以降ですが、ドラマは真冬の設定であり、雪景色の北陸(金沢・東尋坊)・奥飛騨でロケが行われています。

 主人公の小関に渡瀬恒彦(40)、プレーボーイの折戸に津川雅彦(44)、そのW不倫の相手・笠原幸子に山口果林(37)、小関が旅先で出会う若い女性・近村達子に坂口良子(29)という配役陣で、演技陣は実力的に安定しており、北陸や奥飛騨の雪景色と相俟って、情感のあるドラマに仕上がっていたように思います。

「松本清張の葦の浮船」達子.jpg 原作との大きな違いは、坂口良子が演じる近村達子がかなり前面に出ていて、実質、坂口良子が渡瀬恒彦とW主演のようになっており(クレジット的にもそうなっている)、この達子が渡瀬恒彦演じる折戸に一方的に好感を抱き、折戸の追っかけみたいな感じになっている点です。原作では風采が上がらず女っ気の無い男となっている小関を、どう見てもナイスガイの渡瀬恒彦が演じているので、こうなるのもありかなと。

「松本清張の葦の浮船」sin.jpg 細かいところでは、最初の方の、浮気旅行の折戸と奥飛騨に調査に行った小関が同じ新幹線で帰京するというのはドラマのオリジナルで、小関に"追っかけ"の達子がくっ付いてきたので、新幹線で達子は折戸と一緒にいた幸子と出会うことになりますが(達子は、折戸が幸子と不倫関係にあり旅行の口実に小関を利用していることを察知し、達子も開き直ってか折戸家の平和のためにいつもこうしていると言う)、幸子は小関を折戸と同様にいいように利用している達子のことを嫌悪するのかと思いきや、最終的には達子と幸子の間に何やら同志的な共感が生まれるのは、完全にドラマのオリジナルです(でも悪くなかった)。

「松本清張の葦の浮船」0091.jpg さらに、折戸と幸子が待合旅館でたまたま隣室の不倫カップルの殺人に遭遇するのは原作通りですが、直に殺人を目撃するのはドラマのオリジナル、加藤武演じる刑事に名を問われた折戸が咄嗟に小関の名前を言い、それを見た幸子も達子の名を言うのもドラマのオリジナルで、このあたりは、原作に薄いサスペンス色を、ドラマでは入れようとしたのでしょうか。

「松本清張の葦の浮船」w1.jpg 原作は、小関がいいように折戸に利用されて、結局、折戸は教授になって小関は地方に飛ばされるという終わり方で、それ自体はドラマも変わりませんが、ドラマでは渡瀬恒彦演じる小関が、津川雅彦演じる折戸を目覚めさせようと(というか、その自分勝手な講釈にムカついて)1発殴ったり、折戸が実は小関の優秀さにコンプレックスを抱いていたと吐露したりする場面があり、このあたりは原作があまりにアンチカタルシスなため、観る側に多少ともカタルシスを与えようとしたのではないでしょうか。折戸が幸子の夫に刺されるのも、その一環ではないかと思います(原作では止めに入った小関が誤って刺されてしまう)。

「松本清張の葦の浮船」果林1.jpg「葦の浮船」山口果林21.jpg 幸子役の山口果林(1947年生まれ)は桐朋学園大学短期大学部時代に安部公房(1924-1993)に見い出され、安倍公房スタジオの看板女優として活躍しましたが、実生活で安倍公房の愛人であったこともあって、役が似合ってしまう(笑)。まあ、安倍公房ご推薦の芸能界デビューだったとは言え、NHKの連続テレビ小説「繭子ひとり」('70年)の主役の座はオーディションで勝ち取っているから、もともと演技の素養はあったのでしょう。

「松本清張の葦の浮船」子1.jpg 坂口良子(1955-2013/57歳没)は1970年代はアイドル的扱いをされていて(市川崑監督の「犬神家の一族」('76年)に石坂浩二演じる金田一耕助に茶目っ気たっぷりに絡む娘役で出ていた)、このドラマの時もまだ20代でしたが、同じテレ朝「土曜ワイド劇場」枠の「松本清張の小さな旅館」('81年)(視聴率24.1%)でセミヌードを見せ、日テレ「火曜サスペンス劇場」枠の「松本清張の坂道の家」('83年)(視聴率21.8%)では長門裕之と激しい濡れ場を演じています(この頃の2時間ドラマって視聴率が高い)。そして、本ドラマでも最後、渡瀬恒彦演じる小関と寝ることになりますが、まあ、これだけ一緒にいれば自然かなと(原作は小関は最後まで女っ気無し)。
「松本清張の葦の浮船」坂口2.jpg
 また、その後、小関の地方赴任のための荷造りを手伝ったりしているシーンもありますが、最後は小関に付いていくのではなく、一人で生きていくような終わり方になっていたように思います(最初の頃はともかく小関に付いて行けばいいと思ったが、結局「誰かの船に乗せてもらう」のではなく「みんな一つ一つの船なのだ」と悟ったという、殆ど原作以上にタイトル解説している(笑)達子の独白がラストにある)。

「松本清張の葦の浮船」2人1.jpg アンチカタルシスの原作を、真逆のハッピーエンドにしてしまうのではなく、適度にカタルシスがあるものに改変してほろ苦さは残しているのがいいと思い「松本清張の葦の浮船」14 04.jpgました。また、小関と折戸という二人の男性を対比させるだけでなく、達子と幸子という二人の女性の生き方を対比させ(同調もさせ)ている点が上手いと思いました(幸子の最後の方も改変するのかと思ったけれど、2時間ドラマの定番的結末でありながらも、一応ここはまた原作に回帰した)。


「葦の浮船」er2.jpg「松本清張の葦の浮船」1984.jpg「松本清張の葦の浮船」●企画: 野村芳太郎●監督:野村孝●制作:東映/霧プロダクション●脚本:橋本綾●音楽:坂田晃一●原作:松本清張●出演:渡瀬恒彦/坂口良子/津川雅彦/山口果林/萩尾みどり/加藤武/北村和夫/一谷伸江/高津住男/西沢利明●放送日:1984/02/04●放送局:テレビ朝日(評価:★★★★)
 
 
 

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女主人公をイノセントとして描いている。原作を改変して成功している稀有なドラマ化例。

松本清張の種族同盟0.jpg 松本清張の種族同盟1.jpg 火と汐  ポケット文春 1968.jpg 火と汐  文春文庫 旧.jpg
土曜ワイド劇場「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」['79年/テレビ朝日]小川真由美/高橋幸治『火と汐 (文春文庫)
種族同盟 松本清張3.jpg松本清張ほか著/日本推理作家協会編『種族同盟―現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』(カッパ・ノベルス 1969.01)
 千鶴子(小川真由美)は旅館から旅館、仕事から仕事へと流れ歩く"渡り中居"。そんな千鶴子に思わぬ災難がふりかかる。彼女の色気に目をつけた議員秘書に犯され、誤って崖から突き落としてしまったのだ。そして、千鶴子は逮捕されてしまうが、一人の高い野望を抱いた男(高橋幸治)が国選弁護士となり、無罪判決を勝ち取るが―。原作は松本清張の中編推理小説で、「オール讀物」1967(昭和42)年3月号に掲載され、1968年7月に中短編集『火と汐』収録作として、文藝春秋(ポケット文春)から刊行されています(その後、文春文庫で文庫化)。また黒の奔流 01 -  コピー.jpg、カッパ・ノベルス『現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』('69年)に表題作として収録されています。渡邊祐介監督、岡田茉莉子・山崎努主演で、「疑惑」('82年/松竹)の10年前に「黒の奔流」('72年/松竹)として映画化されているほか、これまで以下3度テレビドラマ化されています。
渡辺 祐介 「黒の奔流」 (1972/09 松竹) ★★★★

 •1979年「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」(テレビ朝日)小川眞由美・高橋幸治・金沢碧
 •2002年「松本清張没後10年記念企画・黒の奔流」(テレビ朝日)渡瀬恒彦・さとう珠緒・純名里沙
 •2009年「松本清張生誕100年特別企画・黒の奔流」(テレビ東京)船越英一郎・星野真里・黒谷友香・賀来千香子

「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」('79年/テレビ朝日)小川真由美/高橋幸治/金沢碧
松本清張の種族同盟3.jpg松本清張の種族同盟 6.jpg この1979年版の小川真由美演じる被告は、映画版と同じく旅館の女中(渡り仲居)で(千鶴子、つまり原作で殺害される女性と同じ名前になっている)、彼女の色香に目をつけた客の議員秘書に犯され、彼を崖から渓流に突き落として死なせてしまいます。警察に捕まって尋問されますが、本人に殺意がなかったこともあってか無実を訴え、資力がないので国選弁護人をつけることになりますが、その案件引き受けた弁護士が、高橋幸治演じる矢野弁護士で(原作は一人称で語られるため、弁護士の名は出てこず、この「矢野」という名は映画と同じ名前)、その助手の金沢碧が演じる由基子は(これは原作でもそのことが示唆されているが)彼の愛人ということになっています(男女の入れ替えをはじめ、全体の設定としては原作より映画「黒い奔流」にずっと近い)。

阿刀田高.jpg 小説家の阿刀田高はその著書『松本清張あらかると』(1997年/中央公論社)で「種族同盟」のドラマの脚色を賞賛していて、少し長くなりますが引用します。

松本清張の種族同盟ド.jpg 「〈種族同盟〉のテレビ化は、実にみごとなものであった。もちろん小説を映像化して絶讃を受けた映画やテレビ・ドラマは他にもたくさんあるだろう。どちらかと言えば、テレビより映画のほうによい作品が多いような気がするけれど、テレビ化だって捨てたものじゃない。名品を次々に思い出すことができる。だが、私がここでことさらに〈種族同盟〉を挙げるのは、作品の筋が原作から大きく変更されたにもかかわらず、見どころのある物語をあらたに創っていたからである。しかもその変更の理由が(これはあくまで私の推測ではあるけれど)―テレビ的だなあ―と思いたくなるような、けっして本質的ではないものなのに、ドラマ化された結果は本質的な条件をクリアーしていた。ありていに松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件454.jpg言えば「小説をテレビ化するとき、テレビ局の側にもいろいろ事情はあるでしょう。しかし変更するなら、このくらい、熟慮して変えてください」と、あらまほしき例として挙げたくなるのが、この〈種族同盟〉のテレビ・ドラマ化であった。(中略)〈種族同盟〉のドラマ化は、原作のエンドマークの先にたっぷりと新しいものをつけたして違和感のないものとした。付加するならば、このくらいうまく繋げてほしい。主人公を男から女へ変えるなら、ここまで工夫してほしい。小説〈種族同盟〉と、テレビ・ドラマ化された映像と、どちらがよいかは、むつかしい問題ではあるけれど、私としては、「小説のほうは凄味があるけれど、陰鬱だからなあ。テレビのほうがある種の女のあわれさがよく出ていて、ここちはいいね」と言いたくなってしまう。いずれにせよテレビドラマ〈種族同盟〉は、原作を大きく変えて、しかも充分に成功した珍しい例、と、私は特筆大書したいのである。」

 個人的にも阿刀田氏とほぼ同意見で、やはり脚本が優れているのでしょう。原作や映画化作品と大きく異なるのは、小川真由美演じる千鶴子が"イノセント"として描かれていることで、彼女が無罪を訴えるのも自分は何も悪いことはしていないという"イノセント(無実)の心情"によるものであり、彼女の高橋幸治演じる弁護士に対する想いも"イノセント(純粋)な愛"であって、これが最後まで貫かれていました。弁護士が婚約しても、「先生の結婚は邪魔しない」と言い、妊娠を口実に結婚を迫った映画版とは真逆と言えるかもしれません。

8話)/悪魔のような美女 o.jpg松本清張の種族同盟4.jpg ただ、この"イノセント"を実際に演じるのは相当に難しいはずであり、それをリアリティをもって演じ切った小川真由美ってすごいなあと思いました。同じ「土曜ワイド劇場」枠で同年4月放映の「江戸川乱歩 美女シリーズ(第8話)/悪魔のような美女」('79年/テレビ朝日)で『黒蜥蜴』の緑川夫人(魔性の女賊・黒蜥蜴)を演じたばかりだったはずですが、演技の幅を感じます(出演映画では、前年の6月に「鬼畜」('78年/松竹)、この年の4月「復讐するは我にあり」('79年/松竹)が公開されている。まさに絶頂期)。

松本清張の種族同盟図9.jpg松本清張の種族同盟 t.jpg 最初の方で小川真由美演じる千鶴子と議員秘書の絡みがあって、しかも千鶴子がたまたまゆっくり走っていたトラックに飛び乗るシーンがあるので(これが意図せず時間トリックとなって彼女の無罪につながるのだが)、原作と違って言わば倒叙ミステリーになっています。その分、ミステリとしての意外性は削がれていることになりますが、ドラマはあくまでも千鶴子が主人公である作りなので、あまり気になりませんでした。

松本清張の種族同盟5.jpg松本清張の種族同盟6.jpg 高橋幸治(1935年生まれ)も悪くなかったです(映画で弁護士を演じた山崎努(1936年生まれ)と似た感じか)。NHKの大河ドラマ「太閤記」('65年)で織田信長、連続テレビ小説「おはなはん」('66年)で速水中尉を演じて人気を博した俳優です。山崎努より1歳年上なだけですが、今世紀に入ってから引退状態にあり、知らない人も多くなっているか...。

高橋幸治(矢野弁護士)/小川真由美(千鶴子)
金沢碧(由基子)
松本清張の種族同盟0.png 金沢碧は、事務所の助手・岡橋由基子役でしたが、原作や映画において弁護士を追いつめる元被告に代わって、由基子が弁護士を恐喝する役回りでした。ダーティな部分を全部引き受けた感じで、最後にドジを踏ん7話)/宝石の美女 kanazawa2.jpgで哀れな末路を辿りますが、どこかユーモラスで憎めない感じであり、その前に、基本"美人"です。実際、「江戸川乱歩 美女シリーズ(第8話)/宝石の美女」('79年)に"美女"役で出ており、これは小川真由美が出た「悪魔のような美女」の1話前になります(同シリーズ第15話「鏡地獄の美女」('81年)にも再度"美女"役で出ている)。

 小川真由美版のドラマ「種族同盟」は、改変して成功している稀有な例ですが、一つケチをつけるとしたら、「湖上の偽装殺人事件」というサブタイトルでしょうか。これって、視聴者を怖がらせるための、ある種"叙述トリック"のつもりなのかなあ。でも"偽装"しようとした側からすれば未遂に終わったわけで、未遂行為をタイトルにするのは如何なものでしょうか。

松本清張の種族同盟k.jpg松本清張の種族同盟1-.jpg「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」(土曜ワイド劇場)●演出:井上昭●脚本:吉田剛●音楽:津島利章●原作:松本清張●出演:小川真由美/高橋幸治/金沢碧/下条アトム(下條アトム)/加藤嘉/朝加真由美/中村竹弥/川合伸旺/進藤準/小島三児●放映:1979/05/26(全1回)●放送局:テレビ朝日(評価:★★★★☆)

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原作からの改変点を楽しみながら観られる。体当たり演技の名取裕子(当時23歳)がいい。

kemonomichi.jpg「けものみち」1982.01 .jpg「けものみち」19822.jpg
松本清張原作 けものみち DVD-BOX 全2枚セット」山崎努/名取裕子
kemonomichi 2.jpg 成沢民子(名取裕子)は、暴漢に襲われて負傷し動けなくなった夫・成沢寛次(石橋蓮司)を養うため、割烹旅館・芳仙閣で住み込みの仲居をしていた。しかし、寛次はそんな民子をいたわるどころか、日々、猜疑心を募らせるのだった。ある日、芳仙閣にニュー・ローヤル・ホテルの支配人・小滝章二郎(山崎努)が訪れ、小滝は民子に、今の生活から抜け出し、もっと安楽な生活に導く手助けをするようなことを仄めかす。民子は小滝の誘いに乗ることを決意し、失火に見せかけて夫を焼き殺す。そして、民子は弁護士・秦野重武(永井智雄)により、政財界の黒幕・鬼頭洪太(西村晃)の邸宅に連れて行かれる。小滝の誘いとは、鬼頭の愛人になることだったのだ。民子は鬼頭の相手を務める一方、小滝とも関係を持ち、鬼頭の後ろ盾を得て、奔放な生活を送るようになる。寛次の焼死事件は、小滝が民子のアリバイを証言したこともあり、警察と消防によって失火と断定されたが、焼死事件に不審を抱いて独自に捜査を進めた刑事・久恒(ひさつね)義夫(伊東四朗)は民子が犯人であると睨み、証拠を民子にちらつかせて肉体関係を迫る。しかし、逆に久恒は警察官を免職される。背後に鬼頭の影を見た久恒は、自分が調べ上げた鬼頭の闇の部分を書いて新聞社に持ち込むが、鬼頭の力を怖れる新聞社のデスク(塩見三省)はこれを受け付けない。やがて、鬼頭家の女中頭・山倉米子(加賀まりこ)が殺害される―。

けものみち (新潮文庫).jpgけものみち(上) (新潮文庫).jpgけものみち(下) (新潮文庫).jpg 「NHK土曜ドラマ 松本清張シリーズ」として'82年1月に毎週土曜日夜3話に分けて放送されたもの。原作は松本清張が「週刊新潮」の'62年1月8日号から'63年12月30日号にかけて連載したもので、'64年5月、新潮社から単行本として刊行されています。原作の時代設定は執筆当時、つまり東京オリンピック開催の2年前になっていて、ドラマもそれに倣っています。
 
和田勉.jpg「けものみち」道行.jpg 面白かったです。原作の面白さに拠るところ大であるとは思いますが、和田勉(1930-2011/81歳没)による演出も良かったのではないかと思います。原作は、最後に小滝が民子を焼死させ、小滝だけが生き残る、ある種、小滝を中心としたピカレスクロマンとなっています。それに対してNHK版の方は、名取裕子は演じる民子を中心に描かれていて、最後は山崎努演じる小滝との逃避行になっており、"道行(みちゆき)物"のような印象のあって、小滝を完全な悪者にしていないところがテレビ的なのかもしれませんが、これはこれで良かったです。

「けものみち」10.jpg 当時NHKのディレクターであった和田勉が、仕事上のトラブルに陥っていた名取裕子に、民子役として直接出演を依頼して制作された作品です。政財界の黒幕・鬼頭を演じた西村晃の怪演をはじめ、山崎努、加賀まりこらベテラン役者陣の中で、当時23歳で25歳のヒロイン(原作は31歳)を演じた名取裕子は体当たりの演技で頑張っていたと思います。実際、彼女は当時引退を考えていたところ、このドラマへの出演で女優の世界に引き戻されたと後に語っています。以後、清張作品だけで映画・テレビドラマ合わせて17本出演することになり、「清張女優」とまで呼ばれるようになりました(その後もドラマに出続け、今度は「片平なぎさに次ぐ2時間ドラマの女王」の異名を持つようになった)。

「けものみち」4.jpg 山崎努の安定した演技はもちろんのこと、当時お笑いで人気を博していた伊東四朗のシリアスな刑事役もなかなかのものだったし、女中頭・山倉米子役の加賀まりこのきついイメージも印象的。さらに、もう色欲しか残っていないような末期老人・鬼頭を演じる西村晃―、得体のしれない弁護士・秦野重武を演じる永井智雄といった、こうした面々を相手に23歳でヒロインを演じ切ったというのは、本人にとっても自信になっただろううし、この役に彼女を起用した和田勉の慧眼もさすがだと思います。個人的には、原作が変な風に改変されてガックリくるドラマが多い中、原作からの改変点を楽しみながら観ることができるドラマでした。

「けものみち」門0.jpg「けものみち」庭.jpg 鬼頭邸の門や庭のシーンは(ドラマ制作当時の)清張邸を使って撮影されていて、第1話の終わりに、その庭での原作者・松本清張と山崎努、名取裕子の会話が挿入されているのが貴重映像かと思います。

「けものみち」ばんせn.jpg「松本清張シリーズ・けものみち」●演出:和田勉●脚本:ジェームス三木●音楽:(オープニング)ムソルグスキー「交響詩 禿山の一夜」/(劇中音楽)ムソルグス「けものみち」暫し.jpgキー「組曲 展覧会の絵」(ラヴェル編曲)●原作:松本清張●出演:名取裕子/山崎努/西村晃/伊東四朗/永井智雄/加賀まりこ/石橋蓮司/中村伸郎/久米明/加藤和夫/勝部演之/林昭夫/塩見三省/松崎真/高森和子/原知佐子/矢吹二朗/林ゆたか/奥野匡/野村信次/西村淳二/松本マツエ/増田順司/大森義夫/山崎満/松村彦次郎/入江正徳/小坂明央/小林かおり/永六輔●放送日:1982/01/09~23●放送局:NHK(評価:★★★★)

【1968年文庫化[新潮文庫(全1冊)]/2005年再文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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船越英一郎(当時22歳)の「2時間ドラマ」デビュー作。原作の改変ぶりはまずまず。

「歯止め」101.jpg船越英一郎.jpg 黒の様式 カッパ・ノベルズ.png 黒の様式 新潮文庫.jpg
「松本清張の歯止め」['83年/日テレ・火曜サスペンス劇場]船越英一郎『黒の様式 (カッパ・ノベルス) 』『黒の様式 (新潮文庫)』(「歯止め」「犯罪広告」「微笑の儀式」)
船越英一郎/范文雀
「歯止め」11.png 郊外の住宅地で暮らしている津留江利子(長山藍子)は、夫・良夫(井川比佐志)はサラリーマンで、一人息子の19歳の恭太(船越英一郎)は、東大を目指している一浪の受験生だが、その恭太が、最近何「歯止め」21.jpgかにつけ反抗的な態度をとるのがいたたまれなかった。ただ、江利「歯止め」はn1.jpg子には反抗的な恭太も、大学のエリート助教授・旗島信雄(山本學)に嫁いだ江利子の妹・素芽子(范文雀)に対しては素直になり、何でも相談しているようであり、そんな二人に江利子は嫉妬さえ覚える。その素芽子は時々家に来るが、夫の旗島信雄もその義母・織江(月丘夢路)も特に心配してないようだ。恭太が素芽子の「歯止め」31.jpg水着写真を隠し持っていたのを見つけ江利子は心配するが、夫・良夫に相談すると、夫はその世代の男にはよくあることと一笑に付す。そん「歯止め」41.jpgなある日、素芽子が突然自殺する。恭太は素芽子は旗島家に殺されたのだと、通夜の場で荒れ狂う。苛立ちが募って、挙句の果てには、予備校仲間のガールフレンド・亜子(小森みちこ)を襲う恭太。恭太の行動を止めさせるため、江利子は素芽子の死が自殺であることの証「歯止め」5.jpg拠を織江に求めるが、逆に、その年頃の子は想像もできないことをする「歯止め」6.jpgので、その"歯止め"になってあげるのが母親の役割だと言われる。さらに、素芽子が通っていたという精神科の医師で、旗島信雄のことも知る竹田助手(橋爪功)を訪ねると、竹田は、旗島信雄にも恭太と同じような時期があって、それを乗り越えたのは母親の力があったからだと言うが、それ以上具体的なことは話さない。江利子は次第に信雄と織江の関係を訝しく思うようになる―。

 原作は、松本清張の短編小説で、「週刊朝日」1967(昭和42)年1月6日号から2月24日号に、「黒の様式」第1話として連載され、同年8月に短編集『黒の様式』」収録の一作として、光文社(カッパ・ノベルス)から刊行されています(後に新潮文庫『黒の様式』として刊行。「歯止め」は文庫本で100ページ前後のボリューム)。親子間の近親相姦がモチーフになっている作品です。

 1976年に、日本テレビ系列の「愛のサスペンス劇場」枠(13:30-13:55)で全20回の連続ドラマとして放映され、これが2回目のドラマ化。1981年から始まった日本テレビ系列の「火曜サスペンス劇場」で、1983(昭和58)年4月に放映されました。因みに、スタートからこの月まで、「火曜サスペンス劇場」のテーマは岩崎宏美が唄う「聖母(マドンナ)たちのララバイ」でした。

「歯止め」71.jpg そして何よりも、在京民放5局の2時間ドラマすべてに主演作品がある唯一の俳優と言われる「2時間ドラマの帝王」船越英一郎(1960年生まれ、当時22歳、芸名は'97年まで「船越栄一郎」だった)の「2時間ドラマ」デビュー作がこのドラマになります。まさに「火曜サスペンス劇場」などの成功などにより「2時間ドラマ」というものが隆盛に向かう、その最中(さなか)に登場した船越英一郎、といった感じでしょうか。

「歯止め」小森1.jpg 主演は長山藍子で、船越英一郎は、范文雀、山本學、井川比佐志らとともに共演という位置づけになりますが、それでも重要な役割を担っていて、最初に信雄と義母の近親相姦的関係を訝しんで、素芽子の死に纏わる"疑惑"を糾弾するのが船越英一郎が演じる恭太。一方で、自らも性の衝動に悶々とし、素芽子の水着写真をベッドに持ち込んで...("青姦"とは言えるのかどうか知らないが、河原でもズボン下ろしてやっていたなあ)。しかし、ラストは小森みちこ演じるガールフレンドとの関係も回復して、でも、ハナからもう1浪するするつもりでいるのか?

「歯止め」長山藍子1.jpg「歯止め」長山.jpg 長山藍子(1941年生まれ)は、TBSの「クイズダービー」の2枠レギュラー(1979年10月~1981年9月)としても"お茶の間の顔"でしたが、このドラマではかなり"重い"役でした。彼女が演じる母・江利子は、最初は素芽子は自殺であることを恭太に納得させようとしますが、次第に彼女自身も恭太と同じ疑惑を抱くようになり、さらに、息子の性向を矯(た)めるために、母親が身をもってする"歯止め"が有効適切なのか悩むという、ストーリー的には二重構造的な近親相姦の心理劇となっています。

 その心理劇の方がかなり重くて、この家は一体どうなるのかと思ったら、家庭崩壊直前で最後、井川比佐志が演じる父親が初めて「理想的な父性」を一気に発揮して(笑)一件落着、一方の素芽子の死は自殺なのか他殺なのかというミステリの方は、彼女は精神的に追い詰められてはいたのは確かだろうけれど、自殺とも他殺とも解釈できる終わり方になっていて、やや未消化感が残りました。

 原作では、姉妹が逆になっていて、「現在」が昭和40年で、「姉・素芽子」は23年前の昭和17年に、結婚2年後の21歳で亡くなっており、その時江利子は17歳、姉・素芽子の死は青酸カリ自殺とされたという、いわば過去の眠っていた出来事を掘り起こす設定。恭太は17歳の高校2年生で、ドラマ同様に悶々としていますが、実際に素芽子の死の真相に挑むのは母・江利子であり、最後は夫・良夫が20年前の事件の謎を解くという流れで、(推察レベルではあるが)ドラマよりはミステリの結末が明確です。

 ただ、原作の方も、主人公・江利子の心理的窮迫に焦点が当てられており、その部分を拡大したドラマの改変はまずまずだったように思います(ラストの母子無理心中はやや唐突か。これは原作にはない)。船越英一郎の「2時間ドラマ」デビュー作ということも少しだけ勘案して、星3つ半の評価としました。

「アテンションぷりーず」1.jpg范文雀.jpg 最後に范文雀(1948-2002/54歳没)について(このドラマに出た頃は34歳くらいか)。22歳の時に「サインはV」(1969年--1970年/TBS)で ジュン・サンダース役(途中から登場)で人気を博し、後番組の「アテンションプリーズ」(1970年--1971年/TBS)でも準主役級で起用されていました。その後、寺尾聡と結婚して一時芸能界を引退したような時期がありましたが離婚後に復帰、舞台などを経て演技の幅を広げていきました。感受性が鋭く聡明な人格であり、人に媚びずに、気に入らなければ大物男優との共演も辞退する男勝りな一面もあったそうですが、自分自身を曲げることなく、常に上を目指すストイックでプロフェショナルな姿勢に、演劇関係者やファンを初めとした多くの人々が魅了されていたとのこと。亡くなった際は、その早すぎる死が惜しまれたものです。 
      

「サインはV」r.jpg「「サインはV」1.jpg「サインはV」●監督:竹林進/金谷稔/日高武治●制作:黒田正司●脚本:上條逸雄/鎌田敏夫/加瀬高之●音楽:三沢郷●原作:神保史郎/望月あきら●出演:岡田可愛/中山仁/中山麻理/范文雀/岸ユキ/青木洋子/小山いく子/和田良子/泉洋子/西尾三枝子/三宅邦子/十朱久雄/星十郎/木田三千雄/近松麗江/村上冬樹/林マキ/逗子とんぼ/塚本信夫、/有沢正子/土屋靖雄/5代目柳家小さん/ミキ中町/平井道子/立原博/田崎潤/ナレーション:納谷悟朗●放映:1969/10~1970/08(全45回)●放送局:TBS

   

EASE アテンションプリーズ 范文雀.jpeg「アテンショNぷりーず」.jpgアテンションプリーズ2.jpg「ATTENTION PLEASE アテンションプリーズ」●演出:金谷稔/竹林進●制作:黒田正司●脚本: 竹林進/上條逸雄●音楽:三沢郷(作詞:岩谷時子)●出演: 紀比呂子/佐原健二/皆川妙子/范文雀/高橋厚子/関口昭子/黒沢のり子/麻衣ルリ子/山内賢/竜雷太/ナレーション:納谷悟朗●放映:1970/08~1971/03(全32回)●放送局:TBS


「歯止め」脚本.jpg「歯止め」1983.jpg「松本清張の歯止め」●演出:出目昌伸●脚本:重森孝子●音楽:佐藤允彦●プロデューサー:小杉義夫/高倉三郎●原作:松本清張●出演:長山藍子/井川比佐志/船越英一郎/范文雀/山本學/月丘夢路/小森みちこ/橋爪功/立石涼子●放送日:1983/04/05●放送局:日本テレビ(評価:★★★komori michiko.jpg☆) 
  
  
  
小森みちこ/魅惑のセレモニー(1983)

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「寒流」が原作。原作とも映画とも異なる結末はイマイチだったが、俳優を見ていて愉しめた。

「愛の断層」1975.jpg「松本清張シリーズ・事故」dvd2.jpg 「愛の断層」11.jpg
土曜ドラマ 松本清張シリーズ 上巻 DVD 全5枚」「愛の断層」平幹二朗/香山美子/中谷一郎

「愛の断層」12.jpg 東陽銀行の支店長・沖野一郎(「愛の断層」13.jpg平幹二朗)は融資先の料亭の女将・前川奈美(香山美子)と深い仲になっていた。だが学生時代からの友人で常務の桑山英己(中谷一郎)は、二人の関係を訝って探[愛の断層_s2.jpg偵の伊牟田(殿山泰司)を使って二人の仲を突き止める。そして、自分の権限を使って沖野から出されていた奈美の店の支店出店のための資金融資の稟議を却下してしまう。その上で、自分と沖野と奈美の三人での温泉旅行を設定し、途中で沖野に帰るよう命じて、自分は奈美を奪ってしまう。失意の沖野は銀行を辞めようとするが、そんなある日、探偵の伊牟田から桑山常務と奈美の密会写真を提供される―。

黒い画集 00_.jpg黒い画集2.png黒い画集3.png黒い画集 第二話 寒流.jpg『黒い画集』 .jpg '75(昭和50)年放送された、NHK「土曜ドラマ」松本清張シリーズ版('75年-'78年)の第3作で、原作は、'59(昭和34)年4月から翌年7月にかけて光文社から刊行された『黒い画集』第1巻から第3巻の中の1つであり、鈴木英夫監督の「黒い画集 第二話 寒流」('61年/東宝)として、池部良(沖野一郎)、新珠三千代(前川奈美)、平田昭彦(桑山常務)の出演で映画化されてます。

 一方、ドラマ化作品は以下の通り。
 •1960年「寒流 (日本テレビ)」山根寿子・細川俊夫・安部徹
 •1962年「寒流 (NHK)」原保美・春日俊二・環三千世
 •1975年「松本清張シリーズ・愛の断層 (NHK)」平幹二朗・香山美子・中谷一郎
 •1983年「松本清張の寒流 (テレビ朝日)」:露口茂・山口崇・近石真介
 •2013年「松本清張没後20年スペシャル・寒流 (TBS)」椎名桔平・芦名星・石黒賢
月曜ゴールデン「寒流~黒い画集より」.jpg
2013年・TBS月曜ゴールデン「松本清張没後20年スペシャル・寒流」椎名桔平・芦名星(1983-2020/36歳没)

 このNHK版だけ「愛の断層」というタイトルなので、原作が「寒流」であることを見過ごしている人もいるかもれないと思われます。原作は、銀行員である主人公が踏んだり蹴ったりの目に遭いますが、最後に策を凝らして逆転すると言うか常務を罠に嵌める復讐劇になっています。

「黒い画集 第二話 寒流(黒い画集 寒流)」(1961/11 東宝) ★★★☆ 出演:池部良/新珠三千代
黒い画集 寒流01.jpg黒い画集 寒流03.jpg 一方、鈴木英夫監督の映画の方は、原作同様、主人公(池部良)が仕事上のきっかけで美人女将(新珠三千代)と知り合い、いい関係になったまではともかく、そこに主人公の上司である好色の常務(平田昭彦)が割り込んできて、主人公の仕事人生をも狂わせてしまうというものですが、主人公は原作と異なり、踏んだり蹴ったりの散々な目に遭うだけ遭って、反撃策を講じても相手に裏をかかれ、ただ敗北者で終わってしまう結末になっています(鈴木英夫監督は、欲に駆られて自滅する人間や犯罪者を描いた和製フィルム・ノワール的作品を得意とした)。

「愛の断層」14.jpg そして、このNHKの中島丈博(「無宿 やどなし」('74年)、「祭りの準備」('75年)、「女教師」('77年))脚本版は、どちらでもない結末でした。殿山泰司演じる探偵の伊牟田が、平幹二朗演じる沖野の前に現れる以前に、中谷一郎演じる桑山常務の依頼を受けて、香山美子演じる奈美と沖野の関係を密偵したことがあったというのはドラマのオリジナルです。桑山常務と奈美の密会写真を沖野に渡すのは原作と同じですが(ただし、桑山常務の対抗勢力である"副頭取派"に渡すよりも、写真をどうするか沖野に判断して欲しかったとの注釈がつく)、沖野が奈美といる旅館へ桑山常務を呼び出したり、その際に奈美が問題の写真をこっそり奪ったりと、この辺りはドラマのオリジナルで、どんどん原作と違った方向に行くなあという感じがしました。

「愛の断層」18.jpg.png.jpg 沖野が銀行を辞めるというのもドラマのオリジナルですが、原作とも映画とも決定的に異なるのは、沖野が奈美のところへ出向いて写真もネガも燃やして欲しいと頼むところで、奈美はそれを拒絶し、副頭取に送ると言い放ったために二人は揉み合いに。最後は転落事故でしたが、「無理心中」にされているということは、事故&自殺というこ「愛の断層」16.jpgとなのでしょう。それはともかく、どうして最後に沖野が桑山を守るような行動をとったのが謎で、ラストシーンで、むっつり顔の沖野の遺影が桑山にニヤッと微笑みかけるといったシュールなオチから逆算すると、沖野と桑山は最後まで友情で結ばれていたことになります。

「愛の断層」19.jpg しかしながら、最初に三人で旅館に行った際に、桑山が沖野に自分の背中を流せと言ってマウントしたのに対し、後に沖野が桑山を旅館に呼び出したときは沖野が桑山に自分の肩を揉めと言って(どちらもドラマのオリジナル)、権力の見せつけ行為とその仕返しという関係になっていただけに、その底流に「友情」があったとはちょっと理解しがたい気もします(友情と言うよりホモセクシャルな関係ととる人もいるようだ)。

黒い画集 寒流 ド.jpg 一方、奈美の自殺は沖野が死んだショックからのものと考えられ、結局、奈美は沖野を好きだったのだろなあ。原作でも映画でも、奈美は最後は沖野に「はっきり言って、自分より惨めに見える人、好きになれないわ」と絶縁宣言し、そのファム・ファタールぶりを露わにするのですが(新珠三千代が役に嵌っていた)、ドラマの香山美子演じる奈美は、桑山に抱かれた時こそ騙し討ちに遭った気持ちだったけれども、ホントは最後まで沖野のことを好きだったのではないかと考えます。

「愛の断層」香山.jpg
 同じ「松本清張シリーズ」で、この作品の翌週に放送された「事故」もそうでしたが、この頃のこのシリーズ、脚本家の意図かどうかは分かりませんが、メロドラマ的改変が多いように思います。「愛の断層」の場合、原作「寒流」やその映画化作品と異なり、総会屋(映画では志村喬が演じた)ややくざ(映画では丹波哲郎が演じた)も出てこず、「愛の断層」17.jpg.pngタイトルからしてそうですが、主人公の男女の恋愛心理に重点を置いている印象。原作から改変された結末は個人的にはイマイチでしたが、平幹二朗、中谷一郎、殿山泰司といった俳優たちの手堅い演技と、奈美を演じた香山美子(当時31歳)の美貌が堪能で「愛の断層」清張.jpgきるドラマでした。香山美子はこの2年後に「江戸川乱歩の陰獣」('77年/松竹)で初ヌードを披露することになりますが(本作にでも情事の場面がある)、一方で、時代劇「銭形平次」('70年‐'84年/フジテレビ)で平次の妻・お静役を長く務めました。因みに、この「松本清張シリーズ」の第1次シリーズ12作のすべてに原作者・松本清張がカメオ出演しています。

松本清張(タクシー運転手)

松本清張シリーズ・愛の断層  20.jpg「愛の断層」t.jpg「松本清張シリーズ・愛の断層」●演出:岡田勝●脚本:中島丈博●音楽:眞鍋理一郎●原作:松本清張「寒流」●出演:平幹二朗/香山美子/中谷一郎/殿山泰司/高田敏江/森幹太/鈴木ヒロミツ/山崎亮一/松村彦次郎/鶴賀二郎/望月太郎/テレサ野田/桂木梨江/石黒正男/戸塚孝/小林テル/本田悠美子/風戸拳/西川洋子/松本清張(クレジット無し)●放送日:1975/11/01●放送局:NHK(評価:★★★)


●「土曜ドラマ(第1次・第2次)」松本清張シリーズ(全15話)放映ラインアップ
        放送日   脚本/演出       出 演 (《第1次》は松本清張本人がすべてに出演)
《第1次》
 1975年
  遠い接近  10月18日  大野靖子/和田勉   小林桂樹、笠智衆、吉行和子、荒井注
  中央流沙  10月25日  石松愛弘/和田勉   川崎敬三、佐藤慶、内藤武敏、中村玉緒
  愛の断層   11月1日    中島丈博/岡田勝   平幹二朗、香山美子、中谷一郎、殿山泰司
  事故    11月8日   田中陽造/松本美彦   田村高広、山本陽子、野際陽子、二瓶康一(火野正平)
 1977年
  棲息分布   10月15日  石堂淑朗/和田勉   滝沢修、佐藤慶、津島恵子、中山麻里
  最後の自画像  10月22日 向田邦子/和田勉   いしだあゆみ、加藤治子、内藤武敏、乙羽信子
  依頼人    10月29日  山内久/高野喜世志   太地喜和子、小澤栄太郎、二木てるみ、沖雅也
  たずね人   11月5日   早坂暁/重光亨彦   林隆三、鰐淵晴子、小山明子、戸浦六宏
 1978年 
  天城越え    10月7日   大野靖子/和田勉   大谷直子、佐藤慶、鶴見辰吾、中村翫右衛門
  虚飾の花園   10月14日  高橋玄洋/樋口昌弘    岡田嘉子、奈良岡朋子、内藤武敏、河原崎建三
   一年半待て   10月21日  杉山義法/高野喜世志   香山美子、早川保、南風洋子、藤岡弘
  火の記憶    10月28日  大野靖子/和田勉    高岡健二、秋吉久美子、村野武憲、山内明
《第2次》
  天才画の女   1980年4月5日・12日・17日  高橋康夫/高橋玄洋  竹下景子、佐藤慶、 鹿賀丈史、篠ひろ子
  けものみち   1982年1月9日・16日・23日  和田勉/ジェームス三木 名取裕子、山崎努、 西村晃、伊東四朗
  波の塔  1983年10月15日・22日・29日  和田勉/ジェームス三木 佐久間良子、山崎努、 鹿賀丈史、和由布子
土曜ドラマ 松本清張シリーズ3.jpg

「遠い接近」('75年)/「中央流沙」('75年)/「最後の自画像」('77年)/「天城越え」('78年)/「火の記憶」('78年)/「けものみち」('82年)

●松本清張カメオ出演集《第1次・松本清張シリーズ》(1975-1978)
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土曜ドラマ 松本清張シリーズ 上巻 DVD 全5枚
土曜ドラマ 松本清張シリーズ1.jpg「遠い接近」(1975/10/18放送)
 昭和23年(1948)、三重県・御在所山の崖から男が突き落とされて死亡。事件の裏には、戦争の傷跡が深く刻まれていた。昭和17年(1942)、自営の印刷色版画工・山尾に召集令状が届く。入隊後は古参兵にいじめられ、朝鮮の前線部隊へ配属、復員すると家族は広島の原爆で亡くなっていた。山尾はふとしたことから自分の召集のカラクリを知り、人生を奪った相手に復讐の炎を燃やす。

「愛の断層」(1975/11/1放送)(原作「寒流」)
 沖野一郎は銀行支店長に就任早々、前支店長から料亭の女将・前川奈美を紹介される。やがて二人は深い仲に。奈美から八千万円の融資を頼まれた沖野は、学生時代からの友人で上役の桑山常務に了解を求めるが、桑山は奈美の体と引き替えという条件を出す。沖野は理不尽な条件に内心憤りつつも逆らえない。若くして支店長になれたのも桑山あってこそ。ある日、沖野は見知らぬ男から桑山と奈美の密会写真を提供され...。

「事故」(1975/11/8放送)
 興信所の調査員・浜口久子は、会社重役夫人・山西三千代の浮気調査を担当する。三千代の情事の確証を得るため、知り合いのトラック運転手に頼んで、夫の留守に山西邸の玄関に突っ込むという事故を起こさせる。現場に待機していた久子は、慌てて2階から下りてきた三千代と愛人を見て衝撃を受ける。なんと三千代の密会相手は、久子が勤める興信所の所長だった...。

「棲息分布」(1977/10/15放送)
 井戸原俊敏は戦時中に軍の物資を横領し、敗戦のどさくさに闇屋から巨財を築いた男。あくどく冷徹に会社を乗っ取り、利権を求めて政界の有力代議士にも近づこうとする。井戸原の過去を握る根本常務は元憲兵で、それをネタに井戸原に一泡吹かせ、金を引き出そうとたくらむ。さらに井戸原の妻や愛人たち、井戸原夫婦の情事をかぎつけたゴシップ記者などもからんで...。

「最後の自画像」(1977/10/22放送)(原作「駅路」)
 定年を迎え、第二の人生を前に小旅行に出かけた小塚貞一。一か月たっても戻らないため、妻の百合子は安否を気遣い捜索願いを出す。二人の刑事が捜索に当たるが、誰に聞いても小塚は謹厳実直で、社内の信頼も厚く、浮いた噂ひとつない。趣味といえば写真と旅行だけ。ところが、その小塚が旅に出る前、銀行から500万円を引き出していたことが判明。さらに、一人の若い女性の存在が浮上して...。

土曜ドラマ 松本清張シリーズ 下巻 DVD 全5枚
土曜ドラマ 松本清張シリーズ2.jpg「依頼人」(1977/10/29放送)(原作は小説としては存在せず)
 美容院を営む佐伯伊佐子は、ある会社会長の愛人で、店も会長に買ってもらったものだ。その会長が息を引き取ると、顧問弁護士の沼田が伊佐子に接触してくる。遺族の意向で伊佐子の出方を探るのが目的だったが、沼田は土地問題で悩んでいた伊佐子の弱みにつけ込み、自分の愛人にしようと画策し始める。追い詰められた伊佐子を、若手弁護士・河村亮平が助けようとするが、法曹界の壁が立ちはだかる。

「たずね人」(1977/11/5放送)(原作は小説としては存在せず)
 3年ぶりに帰国したカメラマンの綾村省三は、オランダで出会ったルキアという女性を連れていた。彼女は日本軍人の父とインドネシア人の母との間に生まれた子どもで、終戦直後に別れた父親を捜しに来日しただった。綾村とルキアはテレビの人捜し番組に出演するが、手がかりは「サイトウ少尉」という名前と、父が母に教えた「砂山」という歌だけだった。

「虚飾の花園」(1978/10/14放送)(原作「獄衣のない女囚」)
 リバーウエストマンションの10階に住むのは、独身女性ばかり。住人の一人で社長秘書の服部和子は、屋上で女性の死体を発見する。死んだのはマンションの住人ではない山本菊江で、他殺と断定。担当刑事らは、動機や犯行時間から容疑者を3人に絞る。元外交官夫人の栗宮多加子、洋裁学校教師の村瀬妙子、そして、モデルの南恭子。捜査が進むにつれて、中年を過ぎた独身女性たちの隠された一面が浮上してきて...。

「一年半待て」(1978/10/21放送)
 郊外の交番に、「夫を殺しました」という子連れの女が自首してきた。女は保険外交員の須村さと子。二人目の子どもができたころに夫の会社が倒産。働きに出たさと子の稼ぎが増えるにつれて、無職の夫は酒と賭博と女に明け暮れるように...。ある日、さと子は、酒を飲んで子どもに乱暴する夫を殺してしまう。世間は彼女に同情して嘆願書も集まり、執行猶予つきで刑は軽くなりますが、再出発を前に新しい事実が浮かび上がる。

「火の記憶」(1978/10/28放送)
 高村泰雄は父の顔を知らず、母もすでにこの世にはいない。記憶を閉ざしていた泰雄は、母の十七回忌に見つけた一枚のはがきを手がかりに、恋人とともに過去を探す旅に出る。母と暮らした幼い日々を思い出すと、なぜか"火の記憶"がよみがえり、母のそばには父ではない一人の男が寄り添っていた。封印していた過去の扉を開き、事実が明らかになるにつれて、泰雄の心は次第に解き放たれていく。


池部良/新珠三千代/平田昭彦
黒い画集 寒流 title.jpg黒い画集 寒流00.jpg「黒い画集 第二話 寒流(黒い画集 寒流)」(映画)●制作年:1961年●監督:鈴木英夫●製作:三輪礼二●脚本:若尾徳平●撮影:逢沢譲●音楽:斎藤一郎●原作:松本清志「寒流」●時間:96分●出演:池部良(沖野一郎)/荒木道子(沖野淳子)/吉岡恵子(沖野美佐子)/多田道男(沖野明黒い画集 寒流_0.jpg)/新珠三千代(前川奈美)/平田昭彦(桑山英己常務)/小川虎之助(安井銀行頭取)/中村伸郎(小西副頭取)/小栗一也(田島宇都宮支店長)/松本染升(渡辺重役)/宮口精二(伊牟田博助・探偵)/志村喬(福光喜太郎・総会屋)/北川町子(喜太郎の情婦)/丹波哲黒い画集 第二話 寒流12.jpg郎(山本甚造)/田島義文(久保田謙治)/中山豊(榎本正吉)/広瀬正一(鍛冶久一)/梅野公子(女中頭・お時)/池田正二(宇都宮支店次長)/宇野晃司(山崎池袋支店長代理)/西条康彦(探偵社事務員)/堤康久(比良野の板前)/加代キミ子(桑山の情婦A)/飛鳥みさ子(桑山の情婦B)/上村幸之(本店行員A)/浜村純(医師)/西條竜介(組幹部A)/坂本晴哉(桜井忠助)/岡部正(パトカーの警官)/草川直也(本店行員B)/大前亘(宇都宮支店行員A)/由起卓也(比良野の従業員)/山田圭介(銀行重役A)/吉頂寺晃(銀行重役B)/伊藤実(比良野の得意先)/勝本圭一郎/松本光男/加藤茂雄(宇都宮支店行員B)/細川隆一/大川秀子/山本青位●公開:1961/11●配給:東宝(評価:★★★☆)


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ミステリ、サスペンスとして愉しめ、メロドラマ的だが情感があり、ラストの改変も悪くない。

「松本清張シリーズ・事故」dvd1.jpg「松本清張シリーズ・事故」dvd2.jpg 「事故」1975.jpg 「事故」m.png
土曜ドラマ 松本清張シリーズ 上巻 DVD 全5枚」佐野浅夫/山本陽子/野際陽子/田村高廣/二瓶康一(火野正平)/千昌夫/渡辺文雄 松本清張『事故』(文春文庫)
「松本清張シリーズ・事故」00.jpg「松本清張シリーズ・事故」01.jpg ある晩、民家の玄関先にトラックが突っ込む事故が起きる。事故を起こしたのは運送会社のトラック運転手の山宮健次(二瓶康一(火野正平))。突っ込んだ先は会社重役宅で、夫人の山西三千代(山本陽子)が寝間着姿で出てきた。後日、運送会社の事故担当の高田(佐野浅夫)は山西宅に謝罪に行くが、三千代夫人が出てきて、夫は「出社」していると言う。その頃、興信所の調査員・浜口久子(野際陽子)は、所長の加納(田村高廣)に辞職を申し出てい「松本清張シリーズ・事故」02.jpgた。有能な部下の突然の辞意を訝しがる加納。久子は、山西三千代の浮気調査を担当していた。実はトラック事故は、久子が三千代夫人の情事の確証を得るため、自分の年下の愛人である山宮に頼んで、夫の留守に山西邸の玄関に突っ込ませたという人為的なものだった。一方、それ以前に加納は、三千代夫人から夫の山西省三(渡辺文雄)の浮気調査の依頼を受けていた。そして、山西の浮気の確証が「松本清張シリーズ・事故」03.pngを得るも、三千代夫人は現場を押さえることなく加納の胸に飛び込んできたのだった。そして今度は、妻の浮気を疑った山西が加納の興信所へ調査依頼にきて、それを担当していたのが調「松本清張シリーズ・事故」04.png査員の浜口久子だった。山宮に事故を起こさせた際に現場に待機していた久子は、慌てて二階から下りてきた三千代夫人とその愛人を見て、三千代夫人の密会相手が自分が勤める興信所の所長の高田だったとわかり衝撃を受けたのだった。彼女がそのことを吹き込んだテープを聴いた加納は、同じものを彼女が山西に送れば身の破滅であると悟り、久子と山宮の殺害を決心する「松本清張シリーズ・事故」05.jpg―。山梨県内で同じ日に久子と山宮の死体があがる。遺体安置所には山宮の遺体と久子の遺体が並べられ、運送会社の高田が山宮の遺体確認のためそこを訪れた際には、加納も久子の遺体確認に来ていた。高田にすれば、片や自分の会社の社員で、片やその社員がトラックで突っ込んだ家の夫人である。高田はふと山宮が起こした事故に不自然なものを感じ、山宮の死と久子の死は関連があるのではないかとの疑念を抱く。山宮の事故当時の相方の運転手だった佐々(千昌夫)に事情を訊くなどするうちにその疑念は確証に代わり、加納と久子が公園で逢っているところを直撃して牽制する。しかし、山宮の死体と久子の死体は同じ県内とは言え50キロ離れた場所で見つかっており、その謎が高田にはまだ解けなかった―。

「事故」ぽk.jpg '75(昭和50)年放送のNHK「土曜ドラマ」松本清張シリーズ版('75年-'78年)の第4作で、原作は松本清張が「週刊文春」1962(昭和37)年12月31日号・1963(昭和38)年1月7日号合併号から1963年4月15日号まで、「別冊黒い画集」第1話として連載した文庫で200ページほどの小説です。因みに、過去5回のドラマ化は、帯番組も含め以下の通りとなっています。
 ・1972年「真昼の月(CX)」[全50回]市川和子・土屋嘉男・下條正巳
 ・1975年「松本清張シリーズ・事故(NHK)」田村高廣・山本陽子・佐野浅夫 
 ・1982年「松本清張の事故 (ANB)」山口崇・松原智恵子・中尾彬
 ・2002年「松本清張スペシャル・事故 (NTV)」古谷一行 ・斉藤慶子 ・十朱幸代
 ・2012年「松本清張没後20年特別企画 事故〜黒い画集〜(TX)」高橋克実 ・京野ことみ

 新しいものになるほど原作からの改変の度合いが大きいようですが、この田中陽造(鈴木清順監督「恐怖劇場アンバランス(第1話)/木乃伊の恋」('70年)/「ツィゴイネルワイゼン」('80年)の脚本)による脚本のNHK版は、途中までは比較的原作に忠実ではなかったでしょうか。ただ、原作が事件がいったん迷宮入りした後、不審に思った刑事が再捜査するのに対し、このドラマ版では、佐野浅夫演じる運送会社の事故担当の高田が"探偵役"になっています(ただし、この"探偵"、犯人の確証が得られたら、犯人から息子の大学進学費用300万円をゆすりとろうとするのだが)。

 夫(渡辺文雄)の浮気調査の依頼主(山本陽子)と依頼された興信所の所長(田村高廣)とが矩を越えた禁断の関係に陥ってしまい、その秘密を知った女調査員(野際陽子)とその協力者である彼女の愛人(火野正平)を局長が自分の職業的地位を守るため殺害するのは原作と同じです(原作では女調査員は真面目にこつこつ調査することだけが取柄だが、ドラマでは野際陽子が演じることで"有能な"調査員になっている)。さらに、その夫が今度は妻の浮気を疑って調査を依頼してくるのも同様です(実はその依頼した相手こそが妻の浮気相手だったということなのだが)。

 原作は途中から興信所の局長の自身の犯行の回想が入る変則的な倒叙法と言えるものでしたが、ドラマの方はもっと早くから田村高廣演じる所長が登場して、野際陽子演じる女調査員が辞めるという話もほとんど冒頭に出てくるため、つまり原作の回想をリアルタイムにしていることになります。そして、犯人が追いつめられて犯行を決意するまでが描かれていて、実際の犯行はその後で行われるのですが、スタイルとしてはよりオーソドックスな倒叙法になっているとも言えます(ちょうどNHKで「刑事コロンボ」を放映していた頃だなあ)。

「事故」m3.png.jpg ただ、泥臭い犯行場面は割愛して佐野浅夫が演じる運送会社の高田の推理に任せることとし、田村高廣と山本陽子が不倫関係に陥ってしまった男女を情感豊かに演じることに注力した、メロドラマ的色合いが濃い作りになっていますが、これはこれでいいのでは。その流れで、ラストは"道行き"のような感じで、報道上はこれも「事故」の1つに過ぎないという、冒頭のトラックの「事故」が実は人為的なものだったということに絡めたオチでもありました。

「事故」hino.jpg「松本清張シリーズ・事故」06.jpg ミステリとしてもサスペンスとしても楽しめ、「寒流」が原作の前作「愛の断層」同様にメロドラマ色が強いけれど演技力のある俳優が演じているのでしっとりした情感が出ていてよく、ラストの改変も悪くなかったです。火野正平や渡辺文雄といった脇役陣の演技まで愉しめるし、なぜか「事故」清張 m.png.jpg千昌夫が火野正平の同僚のトラック運転手役で出ていた「事故」m4.png.jpgり、公園の遊具の整備係の役で原作の松本清張がカメオ出演していたりもします。ドラマ化作品の中ではよく出来ている方だと思います。

松本清張(公園の遊具の整備係)

「松本清張シリーズ・事故」●演出:松本美彦●脚本:田中陽造●音楽:眞鍋理一郎●原作:松本清張●出演:田村高廣/山本陽子/佐野浅夫/野際陽子/渡辺文雄/二瓶康一(火野正平)/千昌夫/松本清張(クレジット無し)●放送日:1975/11/08●放送局:NHK(評価:★★★★) 

山本陽子2.jpg山本陽子.jpg 山本陽子
俳優・山本陽子(やまもと・ようこ=本名同じ)2024年2月20日、静岡・熱海市内の病院で死去。死因は急性心不全。81歳。

『映画情報』1965年6月号(国際情報社)より

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後の「家政婦は見た!」シリーズへ発展したドラマ。市原悦子が嵌っている。

事故  dvd2.jpg熱い空気 1.jpg 事故 ポケット文春.jpg 事故  文春文庫.jpg
松本清張サスペンス 熱い空気 [DVD]」['83年/テレ朝・土曜ワイド劇場]市原悦子・吉行和子/『事故―別冊黒い画集 (1963年) (ポケット文春)』['63年]/『新装版 事故 別冊黒い画集 (1) (文春文庫)』['07年](「事故」「熱い空気」所収)
熱い空気10.jpg 渋谷の「協栄家政婦会」に所属する家政婦・河野信子(市原悦子)は、他人の家庭を次々と見て回り、その家の不幸を発見するのを愉しみとしていた。外見から見てこの上ない幸せな家庭だと思っても、必ず不幸は存在している...。信子は青山に住む大学教授・稲村達也(柳生博)の家に派遣されたが、体裁屋で二重性格の妻・春子(吉行和子)、出来損ない揃いの三人の子供を始めとして、その内実、家族がばらばらであることを見抜く―。

 1983(昭和58)年7月にテレビ朝日「土曜ワイド劇場」枠で放送されたもので、主演は市原悦子(1936-2019/82歳没)。原作は松本清張が「週刊文春」1963(昭和38)年4月22日号から7月8日号まで、「別冊黒い画集」第2話として連載した文庫で160ページほどの中編小説で、1963年9月に短編集『事故―別冊黒い画集1』収録の一作として、文藝春秋新社(ポケット文春)より刊行されています。

 面白かったです。原作の面白さに拠るところは大きいと思いますが、市原悦子、吉行和子、柳生博といった俳優陣の安定した演技力がそれを支えているよに思いました。とりわけ市原悦子は良くて、設定とサブタイトルを引き継ぐ形での市原悦子主演のドラマシリーズ「家政婦は見た!」(この作品を含め全25作)が制作されていくことになったのも頷けます(あの「家政婦は見た!」の元の話も松本清張なのかとも思わされる)。

熱い空気6.jpg 原作で起きる多くの出来事をどれくらいドラマに反映させることができるかとなあと思いましたが、出てくる順番は原作と異なるものの、夫の不倫や老母の負傷事故、熱海でのチフス事件、最後の主人公が被る仕打ちなど、結局、全部反映させていたように思います。原作の持ち味も損なわず、脚本が良く出来ていたように思います。

 後はニュアンスの違いでしょうか。ドラマでは、主人公は家政婦として訪ねた家の不幸を発見するのを愉しみとしていて、ただし、最初の内は、稲村家がどこをとっても非の打ち所がない家庭に見えてがっかりしますが、原作では、特に主人公にそうした意図はなかったものの、稲村家に出向いてみたら、この家庭がまともではなく、家族がばらばらであるこにすぐ気づくという流れになっています。

熱い空気 えんf.jpg それと、原作では最後には信子自身が災厄に遭うという、因果応報的ともとれる結末で終わっていて(文庫新装版解説のエッセイストの酒井順子氏は、逆にこのことでホッとさせられると書いていて、ナルホドと思った)、ドラマもその通りではあるのですが、ドラマではその後、耳のケガもが癒ないいちから意気揚々と家政婦紹介所を出発し、新たな派出先の門前に立って大声で「ごめんくださいまし。家政婦紹介所から参りました熱い空気 紹介所.jpgtが」と叫ぶ信子の姿で終わっています(後のシリーズ化に繋げる意味で、この付け加えられたラストシーンの意義は大きい。それとも最初からシリーズ化を考えていた?)

 原作の発表が1963(昭和38)年で、それをドラマ制作時の1983(昭和58)年に置き換えています。原作の家政婦の日当が10時間850円なのに対し、ドラマでは9時5時(8時間)で5,800 円(手数料10%)になっています。ただ、家政婦たちが普段は寄宿舎の四人部屋で生活しているというのは昭和30年代を感じます(ドラマでは、この設定を活かして、信子が同僚たちに稲村家の虚偽も皮を剥いでみせるという自身の"野望"を語る場面がありますが、原作にはこうした場面はない)。

松本清張tbs「熱い空気」.jpg 原作「熱い空気」は1966年にフジテレビで望月優子主演で、1979年にTBS「東芝日曜劇場」で森光子、長門裕之主演(監督:鴨下信一/プロデューサー:石井ふく子)でドラマ化されていて、市原悦子版が3回目のド熱い空気 yonekura.jpgラマ化でしたが、「家政婦は見た!」シリーズ化によってあまりに市原悦子の役柄が嵌ってしまったせいか、その後ずっとドラマ化されなかったところ、テレビ朝日系で2012年12月に「松本清張没後20年・ドラマスペシャル 熱い空気」として米倉涼子主演でドラマ化されました。信子と稲村家の結末は、原作と異なるドラマオリジナルの展開となっているようですが、個人的には未見です。

「松本清張の熱い空気―家政婦は見た!夫婦の秘密「焦げた」」●監督:富本壮吉●プロデューサー:柳田博美/塙淳一●脚本:柴英三郎●音楽:坂田晃一●原作:松本清張●出演:市原悦子/柳生博/吉行和子/山口いづみ/鈴木光枝/ 高岡健二/野村昭子●放送日:1983/07/02●放送局:テレビ朝日(評価:★★★★)

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片平なぎさがしたたかなヒロインを演じる。原作のラストを改変しているが、トータルで原作を超えている。
高台の家01.jpg高台の家 1976 0.jpg IMG_20220103_135522.jpg
「松本清張の高台の家」['85年/テレ朝・土曜ワイド劇場]片平なぎさ・岡田茉莉子・三國連太郎/『高台の家』['76年/文藝春秋]/『高台の家: 松本清張プレミアム・ミステリー (光文社文庫プレミアム)』['19年]
 大学の助教授で法制史を教える山根(篠田三郎)は古本屋でいい資料を見つけ、親父(稲葉義男)に出所を聞く。本を売った人は残念ながらすでに交通事故で死亡しているという。遺族に他の本を見せてもらうようなんとか交渉したいと考えた山根は、親父に調べてもらい、本の出所・深良家を訪ねる。そこは高台にある広大な邸だった。病身の当主・英之輔(三國連太郎)とその妻・宗子(岡田茉莉子)、亡くなった息子の嫁・幸子(片平なぎさ)は、皆が快く山根を迎えてくれた。資料を探した山根は借りようと英之輔を探すが、英之輔と幸子の様子に何か異高台の家02.jpg様なものを感じる。資料を借りた山根は宗子に呼び止められ、幸子に案内され客間に連れていかれる。そこは優秀な青年たちが集うサロンで、みな若く美しい未亡人の幸子が目的だったのだ。メンバーに紹介されるも特に興味の無かった山根だが、後日、メンバーの一人・堀口と大学で偶然出会う。そして、その翌日、彼がとあるマンションから飛び降り自殺したことを新聞の記事で知り、深良家には何か隠された秘密があるとの疑いを抱く。山根が堀口が飛び降り自殺したマンションに行ってみると、そこで同じくサロンのメンバーの一人である建築家の森田(隆大介)の姿を見かける。果たしてこのマンションは森田が幸子と密会する場なのか―。

高台の家 5.jpg 1985年4月13日、テレビ朝日系列の「土曜ワイド劇場」枠にて「松本清張の高台の家」放映され、配役陣は、三國連太郎、岡田茉莉子、片平なぎさという強力ラインアップ。篠田三郎はどちらかと言うと狂言回し的な役どころでした。とにかく三國連太郎、岡田茉莉子、片平なぎさの三人が深良家のドロドロ感を盛り上げる、盛り上げる、凄いったらありゃしない(笑)。三國連太郎、岡田茉莉子に伍している片平なぎさは当時まだ25歳。若々しい美しさを湛えつつも、この頃から後に「2時間ドラマの女王」として君臨するようになるだけのオーラがあったともとれます。

 シャワーを浴びる片平なぎさを覗き込む三國連太郎の怪演などもありましたが、肩から上が片平なぎさ本人で、別のカットでの首から下は吹き替えです。映画初主演作だった「瞳の中の訪問者」('77年/東宝)の撮影中、シャワーシーンを控えた片瞳の中の訪問者 片平 志穂美.jpg平なぎさが共演者の志穂美悦子と一緒に大林宣彦監督から別室に呼び出されて「とても綺麗に撮りたい。美しい映像にしたい。(少し沈黙の後)脱いでくれないかな?」と言われ、片平なぎさも大林監督に対し敬意を表し、作品の撮影意図も理解していたものの、当時高校生であった彼女は、芸能界に入る時の条件として「絶対に脱がない」という父親との約束があったので、結局断ることとなり、この時もシャワーシーンはあったものの肩から下は擦りガラスでした(それ以降、現在に至るまで片平なぎさが撮影で脱ぐ事はなかった)。

「瞳の中の訪問者」('77年/東宝)志穂美悦子(手前)/片平なぎさ

高台の家 1976.jpg高台の家 1976 2.jpg 原作は松本清張の中編小説で、「週刊朝日」1972年11月10日号から12月29日号に、「黒の図説」第12話として連載され、1976年5月に『高台の家』収録の表題作として(他に「獄衣のない女囚」を収録)、文藝春秋から刊行されています(文春文庫、光文社文庫などで文庫化)。

松本清張の高台の家 katahira.jpg 原作では、深良英之輔が59歳で、妻は宗子は48歳、嫁の幸子は28歳という設定なので、当時の片平なぎさの実年齢25歳はかなり若いということになります。途中まで原作もドラマもほぼ同じですが、終盤から大きく異なります。

 建築家の森田が宗子と関係があったのはドラマと同じですが、原作では、ドラマとは逆に森田が宗子を旅館で絞殺し、その後、嫁・幸子を呼び出して雑木林で無理心中しようとしますが果たせなかったということになっています(このあたりは新聞記事報道の形式をとっている)。

「高台の家 00.jpg ドラマも原作も当主・英之輔とその妻・宗子の確執が軸になっていて、宗子の死をもって英之輔が"逆転勝利"を収めるのは同じですが、原作がそこで終わっているのに対し、ドラマではそこから片平なぎさ演じる嫁・幸子の"再逆転"があることになります(原作では事件後に幸子は実家に帰されてしまう)。

高台の家クレジット図2.jpg 監督は野村孝(「松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中」('80年/テレビ朝日))、脚本は橋本忍の娘・橋本綾(「松本清張スペシャル・地方紙を買う女」('07年/日本テレビ))ですが、英之輔と宗子の両者の確執にとどまっている原作に対し、幸子を加えた三者の確執関係に発展させたドラマはこれはこれで面白く、結局、片平なぎさを主演に据え、したたかなヒロインとして描いたドラマにしたわけですが、三國連太郎、岡田茉莉子の好演と相俟って、トータルで原作を超えているように思えました。

地方紙を買う女.jpg 因みに、橋本綾脚本のドラマでは、「松本清張スペシャル・地方紙を買う女」でも、内田有紀が演じる"女"が原作のように自殺はせず、逆に高嶋政伸演じる小説家を毒殺し、自分は病気の子どものために生き延びるという改変がされていました。ヒロインをしたたかな女性にしている点で、共通しているように思います。


高台の家1.jpg「松本清張の高台の家」●制作年:1985年●監督:野村高台の家2.jpg孝●プロデュース:白崎英介/大久保忠幸●脚本:橋本綾●撮影:西山誠●音楽:坂田晃一●原作:松本清張●出演:片平なぎさ岡田茉莉子/篠田三郎/三國連太郎/隆大介/稲葉義男/片岡弘鳳/上田耕一/下塚誠/久保田民絵/山口嘉三/稲垣昭三●放送局:テレビ朝日●放送日:1985/04/13(評価:★★★★)

隆大介(「高台の家」建築家の森田)/2015年3月21日、マーチン・スコセッシ監督の新作映画「沈黙 -サイレンス-」の撮影のため台湾を訪れたが、台湾桃園国際空港にて入境審査の際、酒に酔っており、審査官に暴力を振るい骨折させた。現行犯逮捕され、公務執行妨害罪及び傷害罪にあたる罪で送検されたため「沈黙 -サイレンス-」の出演契約は解除された。/2021年4月11日、頭蓋内出血のため自宅にて死去、64歳。
高台の家 隆大介.jpg 隆大介図2.jpg 隆大介.jpg

光文社文庫(松本清張プレミアム・ミステリー)『中央流沙』['19年]/『高台の家』['19年]
中央流砂・高台の家.jpg

【1977年新書化[カッパ・ノベルズ]/1979年文庫化[文春文庫]/2011年再文庫化[PHP文芸文庫]/2019年再文庫化[光文社文庫プレミアム]】

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原作に比較的忠実。元宝塚ベルばらスター・安奈淳はドラマでも上手かった。

松本清張の地方紙を買う女 t.jpg   松本清張の地方紙を買う女2.jpg
土曜ワイド劇場「松本清張の地方紙を買う女 昇仙峡囮心中」['81年/テレビ朝日]主演:安奈 淳
松本清張の地方紙を買う女31.jpg 潮田芳子(安奈淳)は複雑な家庭環境で育った故郷をから都会へ出て、庄田咲次(室田日出男)と出会ったが、実は咲次は妻子持ちで、芳子を働かせては金をむしり取るヒモだった。地獄のような生活が続き、ついに芳子は咲次の留守中に家を出る。その後、信州伊那で働いている時、会社の研修旅行で来ていた潮田早雄(新克利)と出会い、二人は結婚する。やっとまともな生活に落ちつけた芳子だが、技術者として腕の立つ潮田は、部長(永井智雄)からブラジルへの単身赴任を言い渡される。咲次は過去の出来事を国際電話で夫に知らせると脅してくる。芳子は咲次に、夫への気持ちがなくなったといい、梅子と一緒にピクニックに誘う。昇仙峡に着き、芳子は用意していた弁当を広げると二人にすすめ、毒物入りのにぎりを食べさせて殺し、その場から逃げ去る。東京へ戻った芳子は、二人が無理心中として片付けられたか気になっていたが、地方紙ならば事件の報道がされるのではないかと思いつく。ふと定食屋で見た「野盗伝奇」のことを思い出し、甲信新聞に、この連載が面白そうだから定期購読をしたい、19日付から送ってほしいと手紙を出す。一か月経った頃、ようやく二人の死体が発見され、妻子持ちの咲次に結婚を迫っていた梅子が無理心中を図ったのではないかとの記事が載る。その後暫く購読を続けたが、二人の事件に関する記事はなく、無理心中で終わったと考えて、芳子は「野盗伝奇」がつまらなくなったので購読をやめたいとの手紙を新聞社に送る。あとは、怪しまれないよう暫く店を続け、適当な頃に辞めて夫の帰りを待つだけだ。「野盗伝松本清張の地方紙を買う女 昇仙峡囮心中4112.jpg奇」の作者・杉本隆治(田村高広)は売れない作家で、担当の宮口(森本レオ)からも、作風が堅いので、もっと大衆が好む作品を書いてくれと苦言を呈されている。家でも妻(中原早苗)から犬の散歩係と見られいるありさまのパッとしない男だ。そんな杉本は、「野盗伝奇」を読むために購読を申し出た女性読者がいると知り、いい気分になって芳子に礼状を送っていた。しかし、やがて「野盗伝奇」がつまらなくなったので購読を辞めたいと女性が言ってきたことを知り落胆する。だが、「野盗伝奇」は前よりも面白くなっている自信があり、納得がいかない。杉本はふと、芳子が連載に興味を持ったというのは口実ではないだろうか、19日以降掲載される可能性のある何かを見たくて申し込んだのかもと思い、新聞を読んで1か月前の心中事件を見つけ、時間の符号をみる。杉本は興信所へ行き、潮田芳子の調査を依頼し報告を受ける。彼女は夫が海外赴任中に交通事故に遭ったと嘘をつき、新宿の「ニュー愛」でホステスをしていて、その前に勤めていた「ブラックワン」で、芳子のツケで飲んでいた男が死んだ咲次と風貌が似ていることを知る松本清張の地方紙を買う女 案案2.jpg。杉本がニュー愛へ行ってみると、芳子はヨシエと名乗っていて店に出ていた。芳子は、礼状まで送ってきた杉本を売れない小説家だと軽く考えていたが、杉本が店へ甲信新聞を忘れていき、しかも咲次と梅子の心中事件の記事の切り抜きが入っていたことから、彼がただ会いに来たのではないと気づく。杉本は、宮口と集文社のふじ子(奈美悦子)に頼み、咲次と梅子が死んだ時と同じ格好をさせて林の中でその後姿をカメラに撮ると、ニュー愛へ行って、写真を店で広げて見せた。芳子はそれが咲次と梅子の後姿にソックリで驚き思わず気分が悪くなるが、その姿を杉本が見ていた。そんな折、芳子に夫から電話があり、来月ブラジルから帰国するという。その前に、心中事件に探りを入れてきている杉本を始末しなければならない。杉本は芳子を"よしべえ"と呼ぶようになり、それぞれの肚の内を探りながらも打ち解けているというような奇妙な間柄になっていた。芳子は杉本に女性の友人を交えて三人でピクニックへ行こうと誘う。杉本は承諾し、ふじ子を誘ってピクニックへ行くこととなる。当日早起松本清張の地方紙を買う女 昇仙峡囮心中4-211.jpgきして弁当を用意した芳子は、杉本に電話し、先にひとりで行くので後で天城峠で待ち合わせようと言う。あの時と同じように現地で落ち合い、三人で歩き出し目的地へ着くと、杉本は芳子とふじ子の二人の写真を撮る。お腹が空いたからと芳子は持ってきたサンドイッチをフジコにすすめる。ふじ子がそれを口にしようとしたとき、杉本はそれに毒が入っていると言って食べるのをやめさせる。杉本は、咲次と梅子にも毒の入った食べ物を食べさせて心中に見せかけて殺したのだろうと問い詰めるが、そんな杉本の推理を芳子は笑い飛ばし、死ぬかどうか見てと言って自分でサンドイッチを食べる。しかし、芳子は死なない。芳子は先生とはこれっきりサヨナラと吐き捨て去っていく。その後、杉本は苦心してニュー愛のママ(ひろみどり)の家を突き止めて行ってみると、ママは芳子から杉本宛への手紙を預かっていた。そこには、すべては杉本のいう通りで、自分が二人を殺そうとしたことを認めていた。毒はジュースの中に入れていたと言い、潮田と会った場所でそのジュースを飲むのだという。杉本がその場所を探し出し到着した時には、ジュースを飲みほした芳子が死んでいた―。

『顔・白い闇』.JPG 松本清張の中編小説「地方紙を買う女」が原作。「地方紙を買う女」は、「小説新潮」1957年4月号に掲載され、1957年8月に短編集『白い闇』収録の1編として、角川書店(角川小説新書)より刊行されています(1959年『顔・白い闇』として文庫化)。本作品も含め9度テレビドラマ化されていて、それらは以下の通りになります。
顔・白い闇 (角川文庫)』(顔/張込み/声/地方紙を買う女/白い闇)

・1957年「地方紙を買う女」(NHK) 大森義夫・藤野節子・千秋みつる
・1960年「地方紙を買う女~松本清張シリーズ・黒い断層」(KR) 堀雄二・池内淳子・杉裕之
・1962年「地方紙を買う女~松本清張シリーズ・黒の組曲」(NHK)筑紫あけみ・野々村潔
・1966年「地方紙を買う女」(KTV) 岡田茉莉子・高松英郎・戸浦六宏
・1973年「恐怖劇場アンバランス(第6話)地方紙を買う女」(CX) 井川比佐志・夏圭子・山本圭
・1981年「地方紙を買う女 昇仙峡囮心中」(ANB) 安奈淳・田村高廣・室田日出男
・1987年「地方紙を買う女」(CX) 小柳ルミ子・篠田三郎・露口茂
・2007年「た地方紙を買う女」(NTV) 内田有紀・高嶋政伸・秋野暢子
・2016年「地方紙を買う女〜作家・杉本隆治の推理」(ANB) 田村正和・広末涼子・水川あさみ

 この'81年版は、テレビ朝日系列の「土曜ワイド劇場」枠で放送されたもので、映画「黒の奔流」('72年/松竹)の渡辺祐介(1927-1985)監督による演出で、脚本は猪又憲吾、主演は安奈淳(当時34歳)ですが、比較的原作に忠実に作られているように思いました。

(第6話)/地方紙を買う女3.png地方紙を買う女.jpg フジテレビ系列の「恐怖劇場アンバランス」の第6話として放映された夏圭子(当時26歳)主演の'73年版と、日本テレビ系列の「火曜ドラマゴールド」枠で放映された内田有紀(当時31歳)主演の'07年版を観ましたが、'07年の内田有紀版は、主人公の結末を改変して、高嶋政伸演じる作家・杉本隆治は早くから犯人を見抜いていて、この事件を自分の小説のネタにしようとします。そして、最後、主人公は死にませんが、代わりに...(これはこれでまずます面白かった)。
1973年「恐怖劇場アンバランス(第6話)地方紙を買う女」(CX) 井川比佐志・夏圭子・山本圭/2007年「地方紙を買う女」(NTV) 内田有紀・高嶋政伸
2016年「地方紙を買う女〜作家・杉本隆治の推理」(ANB) 田村正和・広末涼子
地方紙を買う女〜作家・杉本隆治の推理.jpg松本清張ドラマスペシャル・地方紙を買う女2.jpg '16年のテレビ朝日の田村正和・広末涼子版もちらっと観ましたが、田村正和(1943-2021/77歳没)は兄・田村高廣と同じ役を35年後に演じたことになりますが、演技が半ば"老後の古畑任三郎"になっていました(笑)。こちらも最後、主人公は死なず、自首することが仄めかされていますが、そうしたテレビ的な結末になっている分だけやや凡庸な印象でしょうか。

(第6話)/地方紙を買う女1.jpg(第6話)/地方紙を買う女 夏.png '73年の夏圭子版は、これは比較的原作に近い形で作られていて、芳子役の夏圭子の演技も良かったし、小説家・杉本を演じた井川比佐志の演技も良かったですが、原作にはない山本圭が演じるトップ屋が出てきたりして、2時間ドラマではなく1時間枠(正味45分)なので、やるならもっと別な部分を肉付けした方が良かったような気もします。

 '73年の夏圭子版とこの'81年の安奈淳版の大きな違いは、夏圭子版の方が、ドラマの冒頭に犯行シーンがある「倒叙法」で、その後は小説家・杉本の視点からの推理が続く(ドラマの主観は杉本で、芳子は杉本にとって"謎の女"的位置づけとなる)のに対し、この安奈淳版は、主人公の潮田芳子が犯行に至るまでの経緯が丁寧に描かれていて(したがってドラマの主観は芳子)、小説家・杉本を演じた田村高廣が登場するのは中盤にさしかかろうかという頃になってです。原作も、主に芳子の視点及び心理描写で話が進んでいくため、この安奈淳版の方が原作に近いと言えるかもしれません。ただし、原作の旨い点は、芳子の視点で話が進んでいきながら「倒叙法」になっていないところであり、ちゃんと推理小説としても読めるようになっている点かと思います。

松本清張の地方紙を買う女 31.jpg安奈淳.jpg 安奈淳は、「ベルサイユのばら」でオスカル役を演じ、第1期ベルばらブームを築いた元宝塚の花組男役のトップスターですが(月組の榛名由梨・星組の鳳蘭・雪組の汀夏子とともに「ベルばら四強」と呼ばれた)、1978年7月31日、花組・東京宝塚劇場公演「風と共に去りぬ」(スカーレット・オハラ役)を最後に退団しており、ドラマ初出演は、その年['78年]のNHKの大河ドラマ「黄金の日日」(原作:堺屋太一)の 第47、48話でのフィリピン人娘ツルの役でした。この松本清張原作のドラマへの出演は宝塚退団の3年後になります。テレビドラマへの出演はそう多いわけではないですが(2000年に膠原病の一種であるSLEで倒れ、そこから奇跡の復帰を遂げている)、演技は上手いと思いました。

 小説家・杉本を演じた田村高廣は、夏圭子版の井川比佐志や広末涼子版の実弟・田村正和のような鋭いタイプと言うよりはやや丸い感じで、風采があがらない小説家を上手く演じていました(ただし、この"風采があがらない"というのはドラマのオリジナル。奥さんの尻に敷かれているといった描写は原作にはない)。芳子に付きまとう咲次役の室田日出男は、悪(ワル)を演じさせればさすが。内田有紀版のこの役が千原ジュニアなので、比べると千原ジュニアのチンピラ的な線の細さに対し、室田日出男のやくざな凄みが目立ちます。

 原作との相違点は、原作では芳子の夫・潮田は満州に抑留されていて帰還することになったのが、さすがにこれは時代が違うということで、夫が海外勤務でブラジルにいることになっています。昇仙峡は、原作では、「臨雲峡」という架空の地名でした。あと、ラストでの主人公の死に場所は、ドラマのオリジナルです。ただ、そのほかの点は原作に近く、杉本が芳子を"よしべえ"という愛称で呼ぶようになり、そうした関係の中でお互いの腹の探り合いが続くのも原作の通りです。したがって、杉本が芳子を問い詰めるクライマックスシーンでは「よしべえ、同じことを前にもやったろ?」というセリフになりますが、これも原作と同じです。この語感のギャップが原作の良さなのですが、内田有紀版や広末涼子版などほかの多くは、杉本は芳子を「キミ」と呼ぶにとどまっています(これでは杉本の複雑な心境は伝わってこない)。

 因みに、作中で杉本隆治が新聞に連載している『野盗伝奇』は、松本清張の実際の作品であり、西日本スポーツなどブロック紙系の新聞に連載され1957年11月に光風社より刊行(後に角川文庫で文庫化)されていて、「地方紙を買う女」を「小説新潮」に連載していた時期と重なり、このあたりに清張に茶目っ気が窺えます。

「松本清張の地方紙を買う女 昇仙峡囮心中」●制作年:1981年●監督:渡辺祐介●プロデューサー:大久保忠幸/池ノ上雄一/宇都宮恭三●脚本:猪又憲吾●撮影:坪井誠●音楽:羽田健太郎●原作:松本清張●出演:安奈淳/田村高廣/室田日出男/森本レオ/新克利/永井智雄/中原早苗/宮井えりな/奈美悦子/ひろみどり/加山麗子/藤方佐和子/武知杜代子/宮本幸子/上原美佐/相馬剛三/轟謙司/須賀良/竹田光裕/池上明治/五ノ上力/滝川龍之介/木村修/山崎由利子/安藤彩華/伊藤みゆき/桑原英一●放送局:テレビ朝日●放送日:1981/11/14(評価:★★★★)

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「ゼロの焦点」('58年)の女性主人公へと繋がる「声」('56年)、「白い闇」('57年)。

白い闇 (1957年) (角川小説新書).jpg  『顔・白い闇』.JPG 松本清張短編全集〈第5〉声 (1964年).jpg 声―松本清張短編全集〈5〉 (カッパ・ノベルス).jpg
白い闇 (1957年) (角川小説新書)』(白い闇/一年半待て/地方紙を買う女/共犯者/声)『顔・白い闇 (角川文庫)』(装画:駒井哲郎)(顔/張込み/声/地方紙を買う女/白い闇)『松本清張短編全集〈第5〉声 (1964年) (カッパ・ノベルス)』(声/顔/恋情/栄落不測/尊厳/陰謀将軍)『声―松本清張短編全集〈5〉 (カッパ・ノベルス)』['02年]
「松本清張の「声」.jpg  「松本清張の白い闇.jpg
「松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き」['78年/テレビ朝日・土曜ワイド劇場]/「松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中」['80年/テレビ朝日・土曜ワイド劇場](共に音無美紀子主演)

 新聞社で電話の交換手・高橋朝子は、数百人の声を聞き分けられるベテラン。ある日、社会部の石川汎に頼まれて、赤星という姓の学者に電話をかけるが、太く厭らしい声で電話を切られてしまう。電話帳を見誤り、同じ赤星姓でもまったくの別人にかけてしまったとすぐに分かったが、不快なので、間違えた方の住所を見てみると、世田谷の邸町であった。帰宅し夕刊を開いた朝子は、世田谷の赤星邸で強盗殺人事件が起こったことを知る。朝子は警察に出頭し電話の件を伝えたが、犯人の手掛かりは掴めない。ところが、月日は流れたある日、結婚して離職した彼女の耳に、あの電話の声の主が...。声の持ち主は意外なところから朝子のもとに現われる―。(声)

 信子の夫の精一は、仕事で北海道に出張すると言って家を出たまま失踪した。夫の身を案ずる信子は、精一の従弟・高瀬俊吉の助言に従い、夫の仕事関係の炭鉱会社に電報を打つが、北海道には一度も来ていないと返事が来る。信子は俊吉に結果を報告したが、俊吉から、実は精一には青森に田所常子という隠れた女がいるとの思いがけない"夫の裏切り"を聞かされる。信子は青森に向かい女と対峙するが、却って田所常子に圧倒されてしまう。病人のようになって東京へ帰った信子を俊吉はいたわるが、その二ヵ月後、思いがけない事件が発生する。俊吉が連れてきた田所常子の兄だという白木淳三という仙台の旅館経営者が、田所常子は青森県の十和田湖に近い奥入瀬の林の中で死体で発見されたという。田所常子を殺害したのは夫・精一なのか。その精一はいまどこにいるのか―。(白い闇)

「影なき声」0.jpg 「声」は、文庫で80ページほどの短編で、「小説公園」1956(昭和31)年10月号・11月号に連載され、1957年2月に『森鴎外・松本清張集』(文芸評論社・文芸推理小説選集1)収録の一編として刊行されています。また、鈴木清順監督、二谷英明(石川汎)、南田洋子(朝子)主演で「影なき声」('58年/日活)として映画化されるとともに、1950年代から70年代にかけて5回テレビドラマ化されています。電話交換手という仕事が人々にとってまだ馴染みのあったころに集中していうように思います(今後ドラマなどで映像化される可能性は低いか)。

「影なき声」('58年/日活)南田洋子・二谷英明
        
「影なき声」posuta-.jpg「影なき声」1.jpg「影なき声」●制作年:1958年●監督:鈴木清順●脚本:佐治乾/秋元隆太●音楽:林光●撮影:永塚一栄●原作:松本清張「声」●時間:92分●出演:二谷英明/南田洋子/高原駿雄/宍戸錠/芦田伸介/金子信雄/高品格●劇場公開:1958/10●配給:日活
二谷英明/南田洋子   
『声―松本清張短編全集〈3〉』 (1964/03 カッパ・ノベルス)
「声」松本清張 カッパノベルズ.jpg

 「白い闇」は、文庫で70ページ弱の短編で、「小説新潮」1957(昭和32)年8月号に掲載され、1957年8月に短編集『白い闇』収録の表題作として、角川書店(角川小説新書)より刊行されています。こちらは、映画化はされていませんが、50年代から00年代にかけて8回テレビドラマ化されています。

 何度もドラマ化されていることからも窺えるように、共に傑作です。短編集『白い闇』所収作では、「一年半待て」が2016年までに12回、「地方紙を買う女」が9回ドラマ化されていますが、内容的にもそれらに比肩し得るレベルにあると思います。「声」は時間差トリックが秀逸で、「白い声」は誰が味方で誰が敵かという点でほとんどの読者を欺いてみせるのではないかと思います。

 この両作品の特徴は、平凡な女性である主人公が、警察に頼らず独力で事件の謎を解こうとする点で、そこで思い出されるのが「ゼロの焦点」('58年発表)です。「ゼロの焦点」も、夫が単身赴任先の北陸で行方不明になり、妻・が単身捜査に乗り出す過程で夫の二重生活が浮き彫りになってくるというものなので、「白い闇」と少し似ています。

 三作とも女性が主人公ですが、「声」では、主人公の朝子は、事件に深入りしたばかりに犯人グループの犠牲になり、あとは警察が事件を解決することになり、「白い闇」では、主人公の朝子は、犯人を見抜くことが出来たものの、霧深い湖のボートの上で犯人と対峙し、最後は危うく犯人に殺害されかけます。それに比べると、「ゼロの焦点」の女主人公・板根禎子は、やはり断崖絶壁の上で犯人と対峙しますが、二人きりではなくそこにもう一人の人物がいて、自らが犯人に崖から突き落とされるということにはなりません。

 こうしてみると、「声」('56年)、「白い闇」('57年)から「ゼロの焦点」('58年)へと女性主人公が進化してきている(推理小説として洗練されてきている)ように思えました。「声」「白い闇」は、名作「ゼロの焦点」へと繋がる作品でもあるように思いました。特に「白い闇」は、夫の失踪などのモチーフは「ゼロの焦点」と重なり、さらに偽装自殺は「点と線」('57年)とも重なるように思いました。

松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き.jpg ドラマ化作品では、「声」のドラマ化作品で、'78年にテレビ朝日の「土曜ワイド劇場」枠(2時間ドラマがまだ定着しておらず90分枠だった)で放送された音無美紀子主演の「松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き」がありました(4回目のドラマ化作品であり、その後ドラマ化されていまいのは、やはり「電話交換手」という職業設定のためか)。

 新聞社の電話交換手・朝子(音無美紀子)は、ある日、大学教授宅への電話を間違って繋いでしまう。そこで出た男の「こちらは墓場」という声を聞く朝子。翌日、新聞に強盗殺人事件の記事が出て朝子は被害者が自分が間違えて電話を繋いだ人物と知る。強盗殺人を働いたのは不動産ブローカー・川井(小松方正)、浜野(米倉斉加年)ら三名。浜野は週刊誌記者を装って朝子に近づこうとするが、話を聞いたのは朝子の同僚・良江(泉ピン子)。浜野ら三人は役所に勤める朝子の婚約者・小谷(秋野太作)と良からぬ企み。朝子は浜野に小谷を外すよう頼み、二人の間には奇妙な繋がりが。だが、ある日浜野がかけてきた電話の声が事件の時聞いた声と朝子が気づいた時から新たな事件が――とやや原作を脚色しています。

 音無美紀子演じる朝子と米倉斉加年演じる浜野のキャラがいいし、秋野太作の小谷も小谷らしいというか。それぞれの俳優の持ち味が活かされた好編だったように思います。
【2975】○ 水川 淳三 (原作:松本清張) 「松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き」 (1978/03 テレビ朝日) ★★★☆
松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き2.png1松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き.png「松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き」●監督:水川淳三●プロデューサー:佐々木孟●脚本:吉田剛●音楽:菅野光亮●原作:松本清張●出演:音無美紀子/秋野太作(津坂匡章)/米倉斉加年/泉ピン子/小松方正/柳生博/波多野憲/高橋征郎/寄山弘/土田桂司/加島潤/高杉和宏/小林悦子/本木紀子/沖秀一/山本譲二●放映:1978/03/11(全1回)●放送局:テレビ朝日(評価:★★★☆)

 音無美紀子は、同じく「土曜ワイド劇場」枠で、'80年に放送された「白い闇」のドラマ化作品「松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中」にも主演していますが、コレ、何と原作と犯人を変えています。

松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中10.jpg 小関信子(音無美紀子)は、不動産屋を経営する夫・精一(津川雅彦)姑の初子(賀原夏子)と三人で暮らしていた。精一は北海道の新規案件のためパンフレットのデザインを従兄弟の高瀬俊吉(速水亮)に依頼することになり俊吉が精一の家にやって来た。たたき上げで勢力旺盛な精一と違い俊吉は一流商社のデザイナーで性格も対照的だった。精一は俊吉が信子に心を寄せていることはわかっていた。それを信子も気が付いているだろうが、信子は自分を愛しているという自信があった。その晩、俊吉は精一夫婦の家に泊まることになった。俊吉が隣の部屋に寝ているのも気にせず、精一は信子を求めてきた。気配を察した俊吉は、精一の家を飛び出すと馴染みのバーへ行った。ホステスのユリ(池波志乃)がひとりいただけでそのままふたりはユリの家へ行く。ユリは同僚の田所常子(横山エリ)が俊吉と付き合っていたと思い、俊吉に自分は常子と違って結婚は求めないと迫っるが、俊吉はユリを振り切って帰ってきてしまう。精一は北海道へ出張に行くことになった。信子は妊娠したことがわかり早くそれを伝えようと空港まで急きょ精一を見送りに行くことにした。信子が精一に妊娠を告げると、性格的に大喜びしそうな精一だが複雑な表情だった。信子は早く帰ってくるように言って見送ったが、精一はいつまで経っても帰ってこなかった。不安に思った信子が北海道へ電話すると、そこはもう10日も前に発っていたという。信子は俊吉の会社へ行き、心当たりを聞くが、俊吉は自分は何も知らないという。羽田空港に到着した信子を俊吉が迎えに来ててくれた。俊吉は今度は自分が常子のところへ行ってみるという。心労が重なった信子は病院で流産してしまう。知らせを受けた初子が来て、俊吉から精一に女がいたことを聞かされた。俊吉は信子を飲みに誘い、酔った俊吉は信子の家へ行き二人はその晩関係を持ってしまう。警察から常子が死体で見つかったと連絡が入り、信子と俊吉は署まで出向く。刑事が言うのには十和田湖近くの林で見つかり死後約2か月ほどで、青酸系の毒物を飲んだらしい。依然として精一の行方はわからない。常子の兄で元宮城県警の刑事・白木淳一(下川辰平)も来ていて、長らく音信不通だった常子から1か月ほど前に手紙が来てアパートへ行ったものの10日前に家を出たきりだった。それから、ずっと妹を探し続けていたのだと話すー。

下川辰平.jpg かなり原作を改変していますが、放映当時はこれはこれで面白いということで(視聴率23.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区))'83年3月に同じ土曜ワイド劇場枠で再放送されています。ドラマ「太陽にほえろ!」('72年~'75年)で七曲署の「長さん」こと野崎太郎・巡査部長を演じた下川辰平(1924-2004/75歳没)を元宮城県警の刑事・白木淳一役で起用していて、原作を読んでいれば尚のことですが、ほとんどの人が引っかかったのではないでしょうか(「これはないよ」という気も若干したが)。音無美紀子はホームドラマのイメージですが、このほかにも同じく土曜ワイド劇場の「松本清張の山峡の章・みちのく偽装心中」('81年/ANB)にも出ていて(主演)、サスペンスでも安定した演技力を発揮していたことがわかります。

松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中4.jpg松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中お.jpg「松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中」●監督:野村孝●プロデューサー:吉津正/柳田博美/野木小四郎●脚本:柴英三郎●音楽:菅野光亮●原作:松本清張●出演:音無美紀子/津川雅彦/速水亮/賀原夏子/横山リエ/下川辰平/池波志乃/小野武彦●放映:1980/12/06(全1回)●放送局:テレビ朝日(評価:★★★☆)



 結局、'96年にテレビ東京で放送された、白い闇 ドラマ 大竹晩.jpg大竹しのぶ主演の「松本清張ドラマスペシャル・白い闇 十和田湖奥入瀬殺人事件」あたりが、一番原作に忠実なのかも。時代が原作の昭和30年代から〈今〉に置き換えられているため、主人公の夫の職業は石炭商から魚のブローカーに換えられていますが、おおむね原作に忠実です。主人公がどこで犯人に気づくかが原作の一つのポイントですが、大竹しのぶが上手く演じていてさす白い闇 大竹しのぶ3.jpgがです。この女優はときどき演技過剰になるような印象もありますが、この作品は適度な演技達者ぶりで良かったです。演技達者ぶりと言えば、旅館経営者の白木を演じた寺田農も良かったです(ちょっと怪しげなところが役にぴったり)。

「松本清張ドラマスペシャル・白い闇 十和田湖奥入瀬殺人事件」●演出:木下亮●プロデューサー:鶴間和夫/大野晴雄/林悦子●脚本:須川栄三●音楽:福井峻●原作:松本清張●出演:大竹しのぶ/加勢大周/寺田農/左時枝/三浦浩一/清水ひとみ/一柳みる/片桐竜次/田岡美也子/川津花/中条佳代子/佐藤功/中村徳彦/大船滝二/水野ケイ/楠美千穂/樽見幸子●放映:1996/02/08(全1回)●放送局:テレビ東京
  

 
●「声」ドラマ化
 •1958年「声」(KRテレビ(現TBS))佐野周二・三井弘次・藤間紫
 •1959年「声」(フジテレビ)千典子・飯沼慧
 •1961年「声」(TBS)福田公子・岩井半四郎
 •1962年「声」(NHK)小山明子・松本朝夫・三島耕
 •1978年「松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き」(テレビ朝日)音無美紀子・秋野太作・泉ピン子・米倉斉加年

・1978年松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き(テレビ朝日)音無美紀子・秋野太作・泉ピン子・米倉斉加年[上]
松本清張の「声」t.png 松本清張の「声」お.png 松本清張の「声」3.png

●「白い闇」ドラマ化
 •1959年「白い闇」(KRテレビ(現TBS))乙羽信子・高橋昌也・金子信雄
 •1959年「白い闇」(フジテレビ)日野明子・真木祥次郎・入川保則
 •1961年「白い闇」(TBS)月丘夢路・井上孝雄・山茶花究
 •1962年「白い闇」(NHK)吉行和子・金内吉男・鈴木瑞穂
 •1977年「白い闇」(TBS)吉永小百合・草刈正雄・二木てるみ・井上孝雄
 •1980年「松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中」(テレビ朝日)音無美紀子・津川雅彦・速水亮
 •1996年「松本清張ドラマスペシャル・白い闇 十和田湖奥入瀬殺人事件M」(テレビ東京)大竹しのぶ・加勢大周・寺田農
 •2005年「黒革の手帖スペシャル〜白い闇」(テレビ朝日)米倉涼子・豊原功補・岡本健一・田村高廣

・1977年「松本清張傑作選 2 白い闇 [レンタル落ち]」「白い闇」(TBS)吉永小百合・草刈正雄
1977年「白い闇」(TBS)dsd.jpg 1977年「白い闇」(TBS).jpg
・1980年松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中(テレビ朝日)音無美紀子・津川雅彦・速水亮[上]
白い闇・テレビ朝日・音無.jpg 白い闇・テレビ朝日・2.jpg
・1996年松本清張ドラマスペシャル・白い闇 十和田湖奥入瀬殺人事件(テレビ東京)大竹しのぶ・加勢大周・寺田農[上]
白い闇 大竹しのぶ3.jpg 3白い闇 寺田.jpg 3白い闇 大竹しのぶ2.jpg
・2005年「黒革の手帖スペシャル〜白い闇」(テレビ朝日)米倉涼子・豊原功補
黒革の手帖スペシャル〜白い闇0.jpg 黒革の手帖スペシャル〜白い闇.jpg

「白い闇」...【1959年文庫化[角川文庫(『顔・白い闇―他三篇』)]/1965年再文庫化[新潮文庫(『駅路―傑作短編集6』)]】
「声」...【1959年文庫化[角川文庫(『顔・白い闇―他三篇』)]/2009年再文庫化[光文社文庫(『声―松本清張短編全集〈05〉』)]】

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明智版「パイルD-3の壁」。リライト作品である原作を超えた面白さ。

魅せられた美女~江戸川乱歩の「十字路」dvd.jpg 岡田奈々の「魅せられた美女」2.jpg 十字路 (江戸川乱歩文庫).jpg 江戸川乱歩全集 第19巻 十字路 (光文社文庫).jpg
魅せられた美女~江戸川乱歩の「十字路」~ [DVD]」岡田奈々/『十字路 (江戸川乱歩文庫)』['18年]『江戸川乱歩全集 第19巻 十字路 (光文社文庫)』['04年]

13話)/魅せられた美女t.jpg 売り出し中のアイドル歌手・沖晴美(岡田奈々)は所属事務所の社長で不動産業も営む伊勢省吾13話)/魅せられた美女1.jpg(待田京介)に新しいマンションを購入して貰う。早くに両親を13話)/魅せられた美女2.jpg亡くした晴美は、将棋棋士の兄・沖良介(天知茂・二役)に育てられ、やっと掴んだ成功だった。晴美のマンションに伊勢が引っ越し祝いに訪れていたところへ、突然、夫の浮気を疑った伊勢の妻・友子(西尾三枝子)が現れ、ナイフを手に晴美に13話)/魅せられた美女3.jpg襲いかかる。揉み合ううち、知子はナイフを誤って友美に突き立ててしまい、彼女は斃れる。伊勢は、妻の死を自殺に見せかける工作を企て、晴美に友子の服を着させ、その日友子が自分が傾倒する新教宗教の用事で行く予定だった伊東へ行かせて13話)/魅せられた美女4.jpg、断崖で投身自殺したように見せかけるよう指示する。一方、自分はクルマのトランクに友子の死体を載せ、それを遺棄するため自分の会社の所有地がある多摩平へ向かうが、途中、調布市の交差点で接触事故を起こす。その交差点付近のバー「桃子」では、晴美のマネジャー・真下幸彦(中条きよし)と、晴美の兄・良介が飲んでいた。良介の婚約者でママの桃子(奈美悦子)の目の前で二人は口論にな13話)/魅せられた美女 .2.2.2.jpgり、揉み合いになる。突き飛ばされて頭を打った良介は、泥酔状態でふらふらと店を出て行き、ちょうど交番で調書を取られている最中でその場に不在だった伊勢のクルマの後部座席に乗り込んでぐったりしてしまう。クルマに戻った伊勢は、そうとは知らず多摩平の社有地にある「首なし沼」に到着、友子の死体を沼へ遺棄しようとしていると、目の前に良介が立っていたので、咄嗟に持っていたナイフで刺殺する。予期せぬことで、二人もの遺体を遺棄することになった伊勢だったが、それら始終を、自分が突き飛ばした良介のことが心配になって後をつけていた真下が見ていた―。

少年探偵江戸川乱歩全集〈39〉死の十字路』/映画「死の十字路」('56年/日活)
少年探偵江戸川乱歩全集〈39〉死の十字路.jpg映画 死の十字路ed.jpg 原作である江戸川乱歩作の「十字路」は1955(昭和30年)11月刊行の書下ろし小説で、文庫で240ページほどの長さ(2018年版「江戸川乱歩文庫」(春春堂))であり、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。渡辺剣次(1919-1976)による第一稿をリライトしたもので、トリック、プロットも渡辺剣次の案出です。従って、乱歩独特の怪奇風乃至エログロ風の雰囲気は全く無く、モダンで都会的な印象で、また、明智小五郎39死の十字路.jpgも出てこないため、これを松本清張とか笹沢佐保の作品だと言われて読んでも判らないかも。ただ、乱歩っぽくないことを気にしなければ、話そのものは一作品としてまあまあ面白かったように思います。井上梅次監督は、ドラマに先行して同じ原作で映画「死の十字路」('56年/日活)を撮っていて、この時は、晴美=新珠三千代、伊勢=三國連太郎、良介と探偵の二役で大坂志郎でした。ポプラ社の『少年探偵 江戸川乱歩全集』版のタイトルは映画と同じ「死の十字路」で、表紙('72年半)の探偵と思われる人物が大坂志郎に似ています(ゴーストライターの氷川瓏(ひかわ・ろう)(=渡辺祐一、渡辺剣次の実兄)によって内容は改変されていて、友子と晴美とはもともと仲のよい友だち同士だったが、晴美が友子に誘われて参加した「過激な思想を持つ研究会」に晴美は馴染めず脱会したため、友子は「裏切り者を制裁する」ということで晴美のアパートへ押しかけて襲いかかり、そこに居合わせた青年社長の伊勢省吾に殺害されてしまうという、昭和47年の年明けに起きた「あさま山荘事件」の影響がみられるものになっている)。

13話)/魅せられた美女422.40.2.2.2.jpg 原作では、商事会社の伊勢省吾と沖晴美は社長とその秘書兼愛人という関係で、一方、真下幸彦は商業美術家で、その恋人の相良芳江(ドラマには登場しない)の兄で画家の良介が事件に巻き込まれてしまうという設定になっています。ドラマでは、伊勢(待田京介)は不動産会社社長で芸能事務所も経営し、彼の事務所所属の売り出し中の歌手が沖晴美(岡田奈々)で、その兄が将棋棋士の良介(天知茂・二役)、晴美のマネージャーが真下幸彦(中条きよし)となっていて、原作の相良芳江のキャラクターを「沖晴美」に一本化した感じですが、これは結構大きな人物相関の改変かと思います。

13話)/魅せられた美女9.jpg 原作では、伊勢が妻・友子を揉み合いの末にほぼ事故的に刺殺するため、そもそもドラマのように秘蔵っ子アイドル歌手が人を刺してしまったのでそれを揉み消すという話ではないのですが、ドラマではさらに一捻り入れて、友子(西尾三枝子)が晴美と揉み合っているうちに肩にナイフが刺さるが、それは実は致命傷ではなかったということでした(事故的であるのは原作に通じる)。この点は、晴美が全てを打ち明けに明智の下へ来て、肩を抑えながら友子は「心臓にナイフが刺さって」死んでいたと言うのを聞いた明智がおかしいと思ったのが事実解明の糸口となりました。つまり、明美が気を失っている間に伊勢が改めて友子の心臓を刺したわけで、偶発事故に便乗したような形になっていて、その殺意は原作と異なり明確なものとなっています。

13mashiata.jpg 原作では、幸彦が前半部分の"素人探偵役"となり、後半部分では、良介の妹・芳江が相談した南探偵事務所の私立探偵・南重吉がより突っ込んだ調査をして(この南が良介と顔がそっくりであるという設定は、ドラマで明智が良介にそっくりであることに置き換えられて活かされている)、最後は警察の花田警部(ドラマの浪越警部より優秀?)が事件の全容を解明するようになっていますが、ドラマでは、幸彦が"探偵役"どころか、伊勢に13nami esuko.jpgよる友子および良介の死体遺棄現場を実際に目撃したのを機に、"恐喝者"になります(その結果、犯人に殺されてしまうという、よくある末路を辿る)。因みに、原作では、良介は伊勢のクルマの後部座席で、伊勢がその存在すら知らないうちに脳出血か何かで死亡しているため、伊勢が殺害したのは友子だけになっていますが、ドラマでは良介に加え、バー「桃子」(原作では「桃色」)のママ・桃子(奈美悦子)まで訳あって伊勢に殺されれています(今回の「浴室要員」は奈美悦子だった。岡田奈々は顔だけのシャワーシーンのみ)。

13話)/魅せられた美女8.jpg13話)/魅せられた美女10.jpg 遺体をトランクに載せた伊勢のクルマが、交差点で接触事故を起こすのは、原作では新宿のガード下ですが、ドラマでは、都心と多摩平の中間点の調布市のどこかになっています(因みにクルマは原作ではキャデラックルーチェ 1977-1978.jpgだが、ドラマではマツダ・ルーチェ)。ちょうど伊勢が足止めを食ったその交差点付近のバーで、そこで良介とその妹・晴美のマネージャーである幸彦が飲んでいるわけですが、伊勢と良介という「無関係な者同士」が出くわしたとする原作よりも、伊勢と良介が「共に晴美の関係者」であるドラマの方が、偶然度が高くなっていると言えます。

十字路 ロマン・ブックス.jpg 原作では、花田警部の追及に追い詰められた伊勢は、最後に晴美に電話して拳銃自殺し、晴美も飛び降り自殺するという"遠隔心中"のような形になっていて(伊勢と晴美は純愛関係にあったことになる)、ちょっと笹沢佐保の「六本木心中」(1962)みたいな感じでした。これでいくと、「美女シリーズ」における美女は、最後、飛び降り自殺ではなく、明智の腕の中で死ぬのかなと思いましたが、人物相関が原作と違っていたので、そうはなりませんでした。

十字路 (1959年) (ロマン・ブックス)

13話)/魅せられた美女5.jpg 原作では伊勢は遺体をダム建設の水没予定地の古井戸に遺棄しますが、ドラマでは沼に棄てます。原作との大きな違いは、伊勢が現場に再び行くのを文代らが尾行し、沼を突き止めますが、警察が沼を浚っても死体は見つからず、伊勢は勝ち誇って明智を痛罵するという展開。しかし、実は、尾行されているのを計算して、わざと遺留品を警察に見つけさせ、死体がこの沼にあると思わせる伊勢の作戦で、伊勢はその前に恐喝者である幸彦に手伝わせて遺体を沼から引き揚げ、警察の調べて何も無いという証左を得てから改めて死体をそこへ沈める作戦でした(そこが死体の隠し場所として最も安全な場所となる)。しかし、明BLUEPRINT FOR MURDER.bmpパイルD-3の壁.jpg智は、実はそこまで伊勢の作戦を読んでいました。ここまできて思い当たるのが「刑事コロンボ(第9話)/パイルD-3の壁」('72年)でした。そもそも倒叙的な展開からしてコロンボに似ていますが、プロット的には「パイルD-3の壁」からそのまま拝借したといってもいいかと思います。でも、ストーリーに上手く組み込まれていて、結果的にドラマは原作を超えた面白さだったと思います。
  
13話)/魅せられた美女 masuda.jpg ドラマでの天知茂演じる棋士・沖良介が挑んだ「王位戦」の対戦相手は升田幸三に似ていました。しかもその名が「大村誠」で、大山康晴、木村義雄、中原誠から一文字ずつとって13話)/魅せられた美女 masuda0.2.2.2.jpgいる(笑)。対局は伊東かどこかで行われたらしく、伊勢に言われた偽装工作を終えた晴美が兄の元へ立ち寄ります。一方、天知茂演じる明智の方は、文代、小林と伊東へ釣りに行って(事務所の社員旅行?)晴美が残した自殺の痕跡を見つけ、地元の警察へ。そこへ良介が現れ、良介はアマ三段の警察署長の将棋の先生で、一緒に呑む約束をしていたとのことで、都合よく(笑)天知茂同士のご対面となります。良介が、「僕のやり方はね、相手の出方を見てこっちのやり方を決める」と言い、明智が「探偵と同じですね。そして最後は...」と言うと、良介が「逆手で勝負」と言って意気投合しており、これが「パイルD-3の壁」的やり方の伏線になっているので、シナリオ的にはこの「有名人対談」はどうしても入れたかったのでしょう(折角の一人二役でもあるし)。

魅せられた美女 okada.jpg13魅せられて.jpg 岡田奈々演じる売り出し中の歌手・沖晴美のステージ衣装は、ジュディ・オング(シリーズ第5話「黒水仙の美女」の「美女」役だった)の日本レコード大賞受賞曲「魅せられて」(1979年2月25日リリース)の衣装によく似ています(本ドラマの放映日は1980年11月1日)。ドラマのタイトルもこれに便乗した? ただし、岡田奈々がドラマ内で歌っている岡田奈々/静舞/江戸川乱歩の「十字路」.jpg曲は「静舞(クワイエット・ダンス)」で、ドラマのこの回のオリジナルテーマ曲として1980年10月21日にリリースされたものです。因みに、マネジャーの幸彦役の中条きよし(第12話「エマニエルの美女」、第21話「白い素肌の美女」にも出演。'78年から「必殺シリーズ」に出ていて、深田祐介原作のドラマ「炎熱商人」('84年/NHK)などにも出ていた)もデビュー曲「うそ」で日本レコード大賞の大衆賞を受賞したこ第9話 死体置場(モルグ)の殺人者.jpgとがある元歌手であることはよく知られています。良介の婚約者・桃子役の奈美悦子(第7話「宝石の美女」にも「半裸の状態で遺体で発見される女医」役で登場)も、伊勢の妻・友子役の西尾三枝子(元「プレーガール」メンバー。「恐怖劇場アンバランス(第9話)/死体置場(モルグ)の殺人者」にこれも殺される役で出ていた)も、さらには伊勢役の待田京介(空手指導者でもあり、大山倍達の一番弟子だった)もそれぞれレコードを出したことがあるようです。天知茂もブルース曲集などのレコードを出していて、歌手や元歌手が集合したような回でもありました。
   
井上梅次監督映画「死の十字路」('56年/日活)三國連太郎  大坂志郎/新珠三千代
映画 死の十字路.jpg 死の十字路 s1.jpg

岡田奈々「警視庁南平班~七人の刑事8」(2015年・56歳)
警視庁南平班 岡田奈々.jpg岡田奈々魅せられた美女.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第13話)/悪魅せられた美女」●制作年:1980年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:成澤昌茂/井上梅次●音楽:鏑木創(オリジナルテーマ曲「静舞」(作詞:三浦徳子/作曲:佐藤健))●原作:江戸川乱歩「十13話)/魅せられた美女 amachi.jpg字路」●時間:90分●出演:天知茂(二役)/五十嵐めぐみ/柏原貴/荒井注/岡田奈々/奈美悦子/中条きよし/待田京介/北町嘉郎/西尾三枝子/吉田良全/喜田晋平/松井紀美江/横山繁/小田草之助/今井健太郎/岡本正幸/城戸卓/沖秀一/小森英明/篠原靖夫/羽生昭彦/田中哲也/上地雄大/工藤和彦/加藤真琴/鈴木謙一/永妻晃/楢岡泉/酒井栄子/松尾友子●放送局:テレビ朝日●放送日:1980/11/01(評価:★★★★)

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手抜きをしない映像化で活かされた原作の良さ。でもやはり、小川真由美が一番か。

江戸川乱歩「黒蜥蜴」より 悪魔のような美女 d.jpg 8悪魔のような美女 02.jpg 黒蜥蜴 (江戸川乱歩文庫).jpg 江戸川乱歩全集 第9巻 黒蜥蜴 (光文社文庫).jpg
江戸川乱歩「黒蜥蜴」より 悪魔のような美女 [DVD]」小川真由美/『黒蜥蜴 (江戸川乱歩文庫)』['15年]/『江戸川乱歩全集 第9巻 黒蜥蜴 (光文社文庫)』['03年]
8話)/悪魔のような美女 t.jpg 宝石王・岩瀬庄兵衛(柳生博)に黒蜥蜴から「あなたの一番大切なものを頂戴にあがる」という予告状が届く。相談を受けた明智(天知茂)と波越警部(荒井注)が岩瀬と娘の早苗(加山麗子)とホテルロビーで話していると、ドイツ帰りで岩瀬の顧客の緑川夫人(小川真由美)がやって来る。岩瀬は、明智たちが大切なものとは何か尋ねると、「エジプトの星」というダイヤを見せる。黒蜥蜴が指定した夜、明智は浪越警部と共に黒蜥蜴の出現を待ち受けるが、警部はシャワーを浴びると睡魔が襲ってきて岩瀬と共にベッドで寝てしまう。緑川夫人と早苗は隣の部屋に戻り、明智が独りトランプをしながら寝ずの番をすることに。8悪魔のような美女 01.jpgそこへ再び緑川夫人が現れ、明智に、明智と黒蜥蜴どちらが勝つかという賭けを持ち掛け、明智は探偵稼業を賭けることに。緑川夫人は自分の全財産、身も心も賭けると言う。緑川夫人が隣の部屋で物音がすると言い、明智と早苗の部屋を見に行くが、早苗はベッドに寝ているらしく、夫人の問いかけにも「眠い」と応える。安心した二人は、部屋に戻る。犯行予告の深夜12時までポーカーをする明智と緑川夫人。しかし、何事もなく12時を過ぎる。緑川夫人は、明智たちが黒蜥蜴の目的の品をとり間違えてはいないかと言い、岩瀬に宝石よりもっと大切なものはないかと尋ね、それが早苗であることがわかると一同は慌てて部屋を飛び出す。早苗の部屋に行くと、彼女は先ほど同じくベッドで寝ていたが、明智がその髪を掴むと、マネキンの頭部だった。波越警部はホテルをチェックアウトした不審者8悪魔のような美女_011.jpgを洗い、山川教授が量子力学の論文を書いていて大量の原稿を部屋に持ち込み、大きなトランクを下げてホテルを出たという情報を得る。部屋には大量の原稿が残されていて、山川教授に扮していた雨宮(清水章吾)という男が、トランクに早苗を詰めてホテルを出たのだ。宿泊者名簿を見た時から雨宮に目を付けていた明智は、助手の文代(五十嵐めぐみ)と小林(柏原貴)に雨宮の車をつけさせていることを話し、再び緑川夫人とポーカーをする。文代と小林は雨宮からトランクを奪い、中を開けると下着姿で猿轡で手足を縛られた早苗が出てくる。明智はこの報告を受け波越たちに伝えると、早苗が救出されたが雨宮が逃げたことで、緑川夫人は「どうやらこの勝負引き分けのようでしたね」と言うが、明智は「この勝負は僕が勝ちました」と言う―。
少年探偵江戸川乱歩全集〈33〉黒い魔女
少年探偵江戸川乱歩全集〈33〉黒い魔女 .jpg 原作である江戸川乱歩作の「黒蜥蜴」(くろとかげ)は1934(昭和9年)1月から12月まで月刊誌「日の出」に連載されたもので、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。文庫で240ページほどの長さ(2015年版「江戸川乱歩文庫」(春春堂))ですが、三島由紀夫が戯曲化するなど文学的評価も高く、また、数ある乱歩の作品でも映像化や舞台化などの原作とされた回数が最も多いものになります。ただし、執筆当時の乱歩は執筆活動に行き詰まって作品が思うように書けないでいた時期で、乱歩が目指す本格推理小説への大衆の反応はイマイチで、風変わりな怪奇小説、通俗的なスリラーに大衆の興味が集まってしまい、執筆の方向性に大きく悩んでいたとのこです。

8悪魔のような美女0.2.2.2.jpg 原作では、緑川夫人こそが「黒蜥蜴」であることを、最初の3分の1くらいのところで指摘してしまいますが、ドラマも(この回からシリーズがレギュラーで2時間枠となった)、正味90分くらいの内の最初の30分で、同じく明智が当人の目の前で指摘します。でも、その前に緑川夫人が明智をさんざん挑発しているので、明智もかなり何となく気がついていた印象がドラマではありました。前半部の明智と緑川夫人の心理合戦がなかなか面白く、ポーカー8悪魔のような美女a.40.2.2.2.jpgをやる明智と緑川夫人とで、最初のうちは緑川夫人が圧勝し、やがてそれに呼応するように早苗が誘拐されたことが明らかになりますが、その後、実は、山川教授に扮してホテルを抜け出た雨宮に、明智の助手・文代と小林の尾行がついていることを明智から知らされるや、今度は緑川夫人のツキが落ちたかのように明智に負け続けます。原作でも二人はトランプゲームをしますが、勝負の形勢推移はドラマのオリジナルであり、上手いと思いました。

8悪魔のような美女 kayama01.2.2.jpg8悪魔のような美女 05.jpg 因みに、黒蜥蜴による最初の誘拐の試みの際に、早苗が「眠い」と言ったのは実は緑川夫人の腹話術で、原作通り(原作の方がいっぱい喋っている)。二度目の誘拐の試みの際に、長椅子を用いるのも原作通りですが、緑川夫人が顔パックしたり風呂に入ったりして早苗になりすますのはドラマのオリジナルです(「浴室要員」が小川真由美とは!)。

8悪魔のような美女 06.jpg 小川真由美の演技も良かったかと思います(この人、岩下志麻と「鬼畜」('78年/松竹)、「食卓のない家」('85年/松竹)で競演しているが、共に岩下志麻の上を行っていた。当ドラマと同年の「復讐するは我にあり」('79年/松竹)での演技も印象的だった)。先行する映画化作品として、ドラマと同じ井上梅次が監督、京マチ子が主演のミュージカル映画「黒蜥蜴」('63年/大映)と、深作欣二監督、丸山明宏(美輪明宏)主演の「黒蜥蜴」('68年/松竹)がありますが、小川真由美は、京マチ子、美輪明宏に挑んだ形にもなり(しかも「特別出演」とクレジットされている)、相当気合が入ったのではないでしょうか。

8悪魔のような美女.2.2.jpg 映画化作品の前二作は何れも三島由紀夫の戯曲を原作とした「三島戯曲の映画化」であり(深作欣二版の方は三島由紀夫自身が特別出演していることでも知られる)、ドラマの方が原作に近いかと思います。ただし、三島は戯曲化するにあたり、「女賊黒蜥蜴と明智小五郎との恋愛を前景に押し出して、劇の主軸」にしたとのことですが、ドラマ版もその影響を受けている面があるように思いました。ただし、「美女」が明智の腕に抱かれて死ぬというのは、このシリーズの定石でもあります。

8悪魔のような美女 kayama01.jpg8悪魔のような美女 kayama02.jpg 早苗役の加山麗子の入浴シーンもありますが、躰だけの部分は吹き替えのように見えます。トランクから助け出される場面も、実は原作では全裸なのですが、ドラマでは下着姿です。でも、後半、黒蜥蜴に囚われてからは、吹き替え無しでほとんど全裸に近かったです(原作では完全に全裸なのだが、まあ、頑張っている方だろう)。

8話)/悪魔のような美女40.2.2.2.jpg 8悪魔のような美女 04.jpg
     
    
    
    
    
  
8話)/悪魔のような美女清水章吾.jpg8悪魔のような美女 ii.jpg 清水章吾が、山川教授に扮した黒蜥蜴の部下・雨宮(黒蜥蜴の指示で"獲物"を剥製にするために水槽に沈める係だが、逆に明智に早苗の替わりに水槽に沈められてしまう。この回の明智は結構シビア)を演じていますが、かつてチワワとともに出演した「アイフル」のCMで一躍ブレイクしましたが、昨年['19年]末、仕事も家族関係もうまくいかず自殺未遂したとの報道があり心配です。
  
8悪魔のような美女 takuma.jpeg8悪魔のような美女 takuma.jpg8宅麻伸.jpg 第6話、第7話で本名の「詫摩繁春」名義で出演していた宅麻伸が、ここでは黒蜥蜴に囚われ、水槽に沈められて、はく製にされてしまう役でした。当時、宅麻伸は、キャバレーのボーイをしながらデビューを目指して、キャバレーの店主が天知茂に紹介して天知の事務所に預かりとなっていたそうです(「明智事務所」ならぬ「天知事務所」か)。

Alfred Hitchcock 女主人01.jpg 英国の作家ロアルド・ダール(Roald Dahl、1916-1990/享年74)の1960年刊行の短編集『キス・キス』に、若い美男子の学生などを自分の宿に泊めて、その剥製を作る女主人が出てくる「女主人」という短篇があり、映像化作品として「ヒッチコック劇場(第184話)」で「ロンドンから来た男」('61年)、「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第5話)」で「女主人」('80年)がありますが、乱歩はロアルド・ダールの四半世紀前に、このモチーフを作品で用いていることになるなあと改めて思いました。
Alfred Hitchcock Presents - Season 6 Episode 19 #210."The Landlady"(1961)(「ロンドンから来た男」)

 原作の良さに支えられてはいると思いますが、その良さも映像化において手抜きをしないことで初めて活かされるかと思われ、その点、2時間枠となった初回としてのスタッフの意気込みが感じられるものでした。でも、やっぱり、小川真由美が一番だったではないでしょうか。

京マチ子主演ミュージカル映画「黒蜥蜴」('63年/大映) 深作欣二監督・丸山明宏主演「黒蜥蜴」('68年/松竹)
  黒蜥蜴 1968 4.jpg

8悪魔のような美女ogawa amachi.jpg8悪魔のような美女 03.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第8話)/悪魔のような美女」●制作年:1979年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:ジェームス三木●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「黒蜥蜴」●時間:90 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/柏原貴/荒井注/小川真由美/加山麗子/清水正吾/大前均/北町嘉郎/託磨繁春(宅麻伸)/羽生昭彦/水木涼子/工藤和彦/加島潤/岡本忠幸/鈴木謙一/市東昭秀/篠原靖夫/沖秀一/加藤真琴/マリー・オーマレイ/ウィリー・ドーシイ●放送局:テレビ朝日●放送日:1979/04/14(評価:★★★★)

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非探偵ものの原作を大幅アレンジしているのに、原作のテイストはよく残している。

宝石の美女 dvd.jpg 7話)/宝石の美女 1979.jpg 白髪鬼 乱歩文庫.jpg 黄金仮面 (光文社文庫).jpg
江戸川乱歩「白髪鬼」より 宝石の美女 [DVD]」田村高廣/金沢碧 『白髪鬼 (江戸川乱歩文庫)』['18年]『江戸川乱歩全集 第7巻 黄金仮面 (光文社文庫)』['03年]
7話)/宝石の美女 ×8.jpg 宝石窃盗犯・西岡三郎(睦五郎)が脱獄し、逃走中に仲間(沖秀一)を射殺して行方をくらます。撃たれた男の最期の言葉から、西岡は白髪の鬘を被って変装しているらしい。明智も事務所で文代(五十嵐めぐみ)、小林(柏原貴)とこのニュースを見ていた。西岡は10年前に盗んだ宝石の隠し場所である、富豪・大牟田の別荘にある墓所に行くが、盗品は全て無くなっていた。西岡の行方を追う波越警部(荒井注)に、大牟田家に痴漢が入7話)/宝石の美女1.jpgったという通報が入る。痴漢は白髪にサングラスの男とのことで、一同は大牟田家へ向かう。大牟田邸では、未亡人のルリ子(金沢碧)が、妹の豊子(田島はるか)と画家の川村(小坂一也)と3人で住んでいた。ルリ子は夫の財産が思ったより少なかったため、近くの別荘を売却するという。別荘には7話)/宝石の美女2-2.jpg川村が住んでいたが、ルリ子と川村は結婚することとなり一緒に住み始めたのだった。ルリ子は前夜、入浴中に白髪とサングラスの男に覗かれたという。すると、別荘の買い手と7話)/宝石の美女2-1.jpgして現れた、顔にアザがある白髪にサングラスの里見(田村高廣)という人物が、それは自分だと告白する。別荘の持ち主7話)/宝石の美女図3.jpgの家を捜しているうちに近くまで来て、庭から浴室を覗いてしまったのだという。西岡に関する情報もなく一同は大牟田邸を去る。里見が夫に似ているのを気味悪がるルリ子たち。実は大牟田(田村高廣、二役)はルリ子に唆された川村が断崖から突き落として殺害し、妹の豊子もこのことを知っていて、さらに、主治医の住田洋子(奈美悦子)を使って他殺と判らないように死亡診断書を書かせていた。里見は近くのホテル7話)/宝石の美女3.jpg7話)/宝石の美女4.jpgに宿泊していた。明智が大牟田家の墓へ来ると、散歩中の里見と会い、彼はルリ子を気に入って、彼女にプロポーズをするという。里見から宝石をプレゼントされ、欲深いルリ子の心は動く。ただ、里見のタバコを取り出す際の仕草やペンダントを振り回す癖が大牟田に似ているのが、夫の殺害に関与していたルリ子は気味が悪い。それでも、金に余裕がある里見へと関心がいくのだった―。

 原作は、江戸川乱歩が1931(昭和6)年4月から翌1932(昭和7)年4月まで「講談倶楽部」に連鎖した、文庫で約240ページ(2018年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))ほどの長編。英国の女流作家マリー・コレリ(1855-1924)の『ヴェンデッタ(復讐)』(1886)(『モンテ・クリスト伯』に大枠を依拠したストーリーとされる)を明治の作家・ジャーナリスト・翻訳家の黒岩涙香(1862-1920)が翻案した小説『白髪鬼』を更にリライトしたもので(それをドラマ化するということは、コレリ→涙香→乱歩→ドラマという三重の翻案ともいえる)、乱歩が海外の作家の作品を翻案、または翻案されたものをリライトした小説は6作品あり(その内、黒岩涙香の翻案小説のリライトは「白髪鬼」と「幽麗塔」)、その6つの中で「白髪鬼」は最初の翻案(リライト)小説になります。乱歩による原作は、殺害された後に埋葬された墓の中で蘇生し、恐怖のために白髪と化した一人の男の復讐譚で、怪奇譚と復讐譚を掛け合わせたようなものですが、主人公の「懺悔手記」というスタイルの非探偵小説であるため明智も登場せず、それをこのシーリーズの中に嵌め込むべきドラマとしてどうアレンジするかが、原作を読んだ人には見所になるかと思います。

7話)/宝石の美女 mutsu.png 改変のポイントは、窃盗犯・西岡(原作では「紅髑髏」ことシナ海の海賊王・朱凌谿)を里見こと大牟田が利用して、犯行時のアリバイ工作をすることで(最初は西岡の方が利用していたのだが、途中で立場が逆転する)、原作にはこうした話はありません(ドラマでは、犯人が誰か(WHO)ということより、犯人がどうやったか(HOW)がポイントになっている)。原作は、瑠璃子(ルリ子)、川村、里見の3人以外に主だった登場人物はいないシンプルな作りで、プロットよりも「怪奇・復讐譚」であることにウェイトが置かれていますが、ドラマでは、原作には無いルリ子の妹や主治医まで共謀者として登場させ、何れもが大牟田の復讐対象となっています。

7話)/宝石の美女 kanazawa.jpg 恒例の「浴室」要員は、風呂場で覗き被害に遭う「宝石の美女」ことルリ子を演じた金沢碧(1953年生まれ)で、本人と吹き替えを巧みに織り交ぜて(笑)、自然な感じで撮られていました。この「江戸川乱歩の美女シリーズ」は、1977年から1994年までテレビ朝日系「土曜ワイド劇場」で17年間放送されたテレビドラマシリーズですが、金沢碧はこの「土曜ワイド劇場」に1979年から2012年までの間、全部で27回出演していて、その中でこの「宝石の美女」が初登場でした。この「美女シリーズ」でも第15話「鏡地獄の美女」('81年)で再登場しますが、"天知茂版"の「美女シリーズ」で「美女」として2度出演したは叶和貴子(第17話「天国と地獄の美女」、第21話「白い素肌の美女」)と金沢碧だけで、この回が好評であったことを示すものかもしれません。

7話)/宝石の美女 tajima.jpg田島はるか.jpg ドラマで付け加えられたキャラクターのうち、田島はるか(1957年生まれ)演じる妹の豊子は、裸にされて逆さ吊りされた遺体で発見されますが、田島はるかはもともとロマンポルノの女優なので、これは吹き替え無しでしょうか(1976年の日活時代から1978年の「にっかつ」初年まで活動)。奈美悦子(1950年生まれ)が演じる死亡診断書において私利のために共謀する主治医の住田洋子も、半裸の状態で遺体で発見されますが、これは"全裸"ではなく"半裸"なので、岩場に逆さに奈美悦子.jpg7話)/宝石の美女 nami.jpg突っ立った脚はともかく、あとは奈美悦子本人でしょう(何だか、こんなことばかりにこだわっている(笑))。奈美悦子は第13話「魅せられた美女」でも、浴室で殺害される役で出ています。この人、最近は、通販番組に出ている人というイメージが強いですが、今年['20年]で満70歳、テレビに出続けているだけでもスゴイことなのかもしれません。

7話)/宝石の美女 amachi vs tamura.jpg 先にも述べた通り、原作が犯人の手記による叙述スタイルであるところに無理やり明智を絡ませているため、プロセスにおいて明智が事件に関与する部分は少な目で、文代や小林に至っては殆ど事務所内にいるだけという感じでした。そうした0田村高廣 宝石の美女.jpg物足りない面もありますが、探偵ものではない原作を大幅アレンジしているわりには、原作のテイストはよく残しているように思いました(田村高廣の演技が光り、天知茂と競演する形になっている)。

田村高廣/金沢碧/小坂一也

 例えば、ドラマでは犯人はルリ子を石棺に閉じ込めたものの、殺害する前に明智に正体を暴かれ、復讐が完遂できませんでしたが(ただし、ルリ子は助け出された時には発狂している)、原作では、犯人は瑠璃子を石棺に生き埋めにして洞窟を後にします。ところが、そこへすっ裸の瑠璃子がただれた赤ん坊を抱いて現れます。実は、瑠璃子と川村は大牟田の存命中も付き合っていて、二人の間に赤ん坊ができますが、不義を隠すために殺害、それ7話)/宝石の美女 ending.jpgを知った里見こと大牟田は、別の嬰児の屍体を入手し、川村や瑠璃子の恐怖を増すための演出に使ったのですが、この話はドラマでは割愛されています(気持ち悪すぎる?)。そして、語り手である人物は、今、十何年になる獄中生活にあるというオチです(終身刑に服していることを示唆)。原作で、閉じ込められたはずの瑠璃子が犯人の前に(おそらく幻影として)現れた時、彼女は、手に宝石をつかんで、それをサラサラと赤ん坊の上に砂遊びのようにこぼす仕草をし、この部分が原作の恐怖の最後のクライマックスになっていますが、ドラマでも、赤ん坊は出てこないものの、エンディングでその部分は活かしています。この辺りは、まずまず工夫されていたと思います。

7話)/宝石の美女 poe.jpg 江戸川乱歩には、アラン・ポーの「早すぎた埋葬」をモチーフにした作品が幾つかあり、この作品も、原作にも出てきたし、ドラマの方も明智がペーパーバック(英語版)を手にしています。しかし、この作品に関しては、埋葬された人物が墓所で甦るというのは、黒岩涙香版も、その元となったマリー・コレリの『ヴェンデッタ』も同じです。ウィキペディアによれば、江戸川乱歩版の原作・涙香版との主な相違点は、原作・涙香版ではあくまで妻と友人がしていたのは浮気のみで、主人公の死因は不測の事態であったのに対し、乱歩版は明らかの殺意が友人にある事。また、復讐方法も原作・涙香版では友人は衆人環視の拳銃による決闘で堂々と行っているのに対し、乱歩版は別荘におびき寄せてのからくり仕掛けによるじわじわした殺し方になっているなどより凄絶になっている点とのことです。また、法を無視しても復讐を肯定するか、それを犯罪者とするかは大きな違いで、乱歩版では終身刑になっている主人公が、原作・涙香版では復讐を果たした英雄のようになっているのは、マリー・コレリのオリジナルが、『モンテ・クリスト伯』や『巌窟王』など系譜の物語であることによるのでしょう。ドラマ版で明智などに出てこられると、復讐すら完遂できないというのは、まあ仕方がないのかもしれません。

「江戸川乱歩 美女シリーズ(第7話)/宝石の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「白髪鬼」●時間:70 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/柏原貴/荒井注/金沢碧/田村高廣/小坂一也/奈美悦子/睦五郎/田島はるか/岡部正純/山本幸栄/羽生昭彦/山崎純資/沖秀一/託摩繁春(宅麻伸)/工藤和彦/加藤真琴/篠原靖夫●放送局:テレビ朝日●放送日:1979/01/06(評価:★★★☆)

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初めて2時間枠で放映されたものだが、突っ込みどころが多かった。原作の「ルパン」を「ルパン二世」に改変。
妖精の美女dvd.jpg 黄金仮面 妖精の美女 yumi k.jpg 黄金仮面 妖精の美女197812.jpg 黄金仮面 乱歩文庫.jpg 黄金仮面 (光文社文庫).jpg
江戸川乱歩の黄金仮面 妖精の美女 [DVD]」由美かおる 『黄金仮面 (江戸川乱歩文庫)』['15年]『江戸川乱歩全集 第7巻 黄金仮面 (光文社文庫)』['03年]
黄金仮面 10.jpg 冒頭「皆さんはもう、『黄金仮面』のことはよくご存じだと思いますが」と語る明智。都内で黄金の仮面を被った黄金仮面1.jpg怪人の姿が目撃され、国宝級の古美術品が盗まれる事件が頻発していた。古美術品の蒐集家である大島喜三郎(松下達夫)に黄金仮面から手紙が届き、彼の長女・絹枝(結城美栄子)の恋人で、フランス商社の東京支店長ロベール・サトー(伊吹吾郎)の訪問予定日に、大島所有の古美術品を奪うと予告してきた。フランス大使館の職員ジョルジュ・ポアン(ジェリー伊藤)がロベールの友人であり、大島のコレクションを見たいということから大島が二人を招いたところを狙われたのだ。不安を抱いた秘書の三好(藤村有弘)が、波越警部(荒井注)に相談、明智に捜査協力を依頼することに。明智黄金仮面2.jpgと波越警部は箱根・芦ノ湖畔の大島美術館に行き、黄金仮面との対決準備をする。美術館にやってきたロベールとジュルジュも美術品を見て回るが、ジョルジュは次女の不二子(由美かおる)に興味を抱く。もちろん美術品にも関心を示し、特にインド・ジャイナ女神像に関心を注ぐ。さらに自宅に置かれている大島家秘蔵の虚空蔵菩薩にも関心を抱いたため、自宅に招待することを大島が約束をする。芦ノ湖での美術品紹介は無事終ったが、後日、茶席を抜け出してきた大島家の三女・よし子(岡麻美)が入浴中に何者かに刺され、「黄金仮面」と言って息絶える。明智は今までの黄金仮面の犯行から、その犯行ではないと言う。事務員・小雪(野平ゆき)の通報で、秘書の三好と事務員の千秋が事務所でガスで眠らされているのが発見されるが、明智は犯人は小雪だと断言。千秋に言い寄るよし子への嫉妬心からの犯行だった。美術館の一室に追い詰められた小雪は自害しようとするが、突然、鎧が動き出しナイフを持つ手を止める―。
少年探偵江戸川乱歩全集〈27〉黄金仮面
黄金仮面 少年探偵.jpg 昭和5(1930)年9月から昭和6(1931)年10月にかけて雑誌「キング」に連載された原作は、文庫で約320ページ(2015年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))ほどの長編で、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。

 乱歩の原作は、フランスの作家マルセル・シュウォッブの小説『黄金仮面の王』にヒントを得て書かれたもので、乱歩独自の猟奇的色彩は薄く、乱歩自身も、「この作は私の長編小説の中でも、最も不健全性の少ない、明るい作と言えるのではないかと思う」と述べています(桃源社『江戸川乱歩全集』第6巻あとがき、昭和37年)。その分、冒険活劇的要素が増して、よく言えば自由自在でで娯楽性の高い、悪く言えばかなり現実離れした作品となっています。因みに、明智小五郎と少年探偵団が一緒に活躍する少年物のシリーズが書かれるのは、この作品の約5年後の『怪人二十面相』が最初になりますが、この作品にそうしたシリーズの萌芽が見られると言えるかもしれません。

黄金仮面 boat -2.jpg 年末特別版としてこれまでの枠を30分延長して初めて2時間枠で放映されたこのドラマ化作品(小林君が初登場する)も、原作の傾向に即して、アクション映画風のシーンが多くなっていて、黄金仮面 妖精の美女 rope.jpgモーターボートが出てくるところなどもしっかり映像化していました(第1話「氷柱の美女」の原作『吸血鬼』にもモーターボートによる追走劇があるが、ドラマでは割愛されていた)。加えて、原作には無い、ロープウェイやヘリコプターによる犯人逃走シーンなどもあります。一方で、シリーズのお約束事である「浴室」シーンなどもしっかり織り込まれています。結果的に、登場人物の構成を変えたりしていますが、ラスト、犯人まで原作と変えてしまったような...。

黄金仮面 j.jpg 「浴室」要員は、三女・美子(岡麻美)で(浴室で刺殺されるのは原作通り)、かなり大胆に見せます。さらには、事務員・小雪(野平ゆ)もライフルで撃たれて明智がウェットスーツの胸をはだけ...(これは原作に無い。原作では刺殺)。ヒロインである次女の不二子(由美かおる)は「水戸黄門」ではないですが、背中だ黄金仮面 yumi.jpgけ見せるシャワーシーンがあるくらいなので、その代わりにみたいな感じで、それ以上の部分は他の女優が担うという、第4話「白い人魚の美女」くらいからこうしたパターンは定着したようです(最初の頃、井上梅次監督は、現場で女優と「脱ぐ・脱がない」を交渉してルパン三世峰不二子.jpgいたそうな)。因みに、由美かおるの役名の「不二子」ですが、原作でも「不二子」であり、「ルパン三世」の峰不二子はこれに由来するのかと思いましたが、モンキー・パンチ(1937-2019/81歳没)自身は、たまたまカレンダーの富士山を見て着想したとかで、「黄金仮面」との関係については否定しています。セシルとかいう役で出ている山本リンダは、どういう役回りなのかよく分かりませんでした(笑)。

ジェリー伊藤 in「妖精の美女」/in「モスラ」(1961)/「誰もいない海」(1967)
黄金仮面 jyeri- .jpgジェリー伊藤 モスラ.jpgジェリー伊藤 誰もいない海.jpg ジョルジュ役のジェリー伊藤(1927-2007/79歳没)は、映画「モスラ」('61年)などで俳優として活躍しただけでなく、歌手としても活躍した人で、後に数多くの歌手がカバーした「誰もいない海」('67年)は、元は彼のため黄金仮面 ibuki.jpg水戸黄門 伊吹吾郎 由美かおる.jpgに書かれた曲でした(トワ・エ・モワ、越路吹雪が'70年の同じ日にカバー曲のシングルを出した。個人的には、グラシェラ・スサーナ版が印象深い)。ロベール役の伊吹吾郎(由美かおるとは「水戸黄門」コンビ)は、第3話「死刑台の美女」にも出ていましたが、この後、第11話「桜の国の美女」では同じくロベール役で登場します。最初は日本語をぎこちなさげに喋っていましたが、途中からフツーの日本人になっていました。船に乗ると、何だか漁師が似合いそう(笑)。

 原作には、モーリス・ルブランの怪盗ルパン・シリーズへの乱歩のオマージュが込められているかと思いますが、モーリス・ルブラン自身もコナン・ドイルのシャーロック・ホームズ・シリーズを意識して『ルパン対ホームズ』をルパン・シリーズの初期に書いています。ドイルは、デビュー短編集『怪盗紳士ルパン』の最後にホームズをルパン対ホームズ 偕成社文庫.jpg実名で登場させてコナン・ドイル本人からの抗議を受け(この説には疑問の声もあるという)、原著ではシャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)がハーロック・ショルメ(Herlock Sholmès)と改名されていますが、日本の翻訳界ではホームズと訳すのがお約束のようです。『ルパン対ホームズ』における両者の対決は、ルパンが圧倒的に優勢で、ホームズがいいところ無し(笑)ですが、最後にホームズに花を持たせて、形だけ両者引き分けにしています(因みに、そのコナン・ドイル自身も、先輩名探偵であるエドガ=アラン=ポーのオーギュスト・デュパンを見下している。自分の創作したキャラが一番だと思うのは皆同じ?)。
ルパン対ホームズ(偕成社文庫-アルセーヌ・ルパン・シリーズ)』['87年]

黄金仮面 31.jpg 乱歩の原作『黄金仮面』もこのドラマ版も、結局は明智がルパンに勝っているわけですが、ルパンは追い詰められながらも捕まることはなく、一応は両者イーブンの形にしているところが、『ルパン対ホームズ』とやや似ているように思います。原作では、ルパンは不二子さえも連れていくことが出来ず、何も持たずに日本を離れることになりますが、ドラマではそこまで露骨に差をつけてはいません(続編への伏線か)。

 ドラマでの「黄金仮面」の正体は、フランスで「ルパン二世」というあだ名で呼ばれている怪盗であってルパンその人ではないことにされていますが、サブタイトルに「怪盗ルパン」と明記され、明智が当人に向かって「ルパン」と呼びかける場面もあり、微妙に不徹底だったかも(原作はルパン本人を想定)。ストーリーはそこそこ原作に忠実で、死んだと思われた明智が変装して再登場するというこのドラマシリーズの"お約束"も原作通りです。

黄金仮面4.jpg ドラマにおけるルパンは殺人を犯さないという主義であるはずなのに、部下は小雪を殺害しているし(これは原作も同じだが)、また、部下たちは明智にもピストルをがんがん放っています。さらには自身も、自分が手先として使ったウルトラセブン、あっ、違った!森次晃嗣が演じる浦瀬を、盗品を横流ししたという理由のみで自分を裏切ったとして殺しています。

黄金仮面 rope.jpg ラストの犯人改変は、原作を読んだ視聴者の予想を裏切るどんでん返しなのでしょう。それはいいとして、トータルでみると、年末2時間枠で派手なアクションもあったものの、結構突っ込みどころが多い回だったように思います。
黄金仮面 yumi last.jpg
「江戸川乱歩 美女シリーズ(第6話)/妖精の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「黄金仮面」●時間:92 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/荒井注/由美かおる/結城美栄子/野平ゆき/松下達夫//ジェリー伊藤/伊吹吾郎/森次晃嗣/藤村有弘/山本リンダ/北町嘉朗/柏原貴/託摩繁春(宅麻伸)●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/12/30(評価:★★★)

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洋物の「本格」風のプロットと、乱歩が加味した乱歩らしい雰囲気を共に活かしていた。

04白い人魚の美女.jpg 白い人魚の美女 001.jpg 緑衣の鬼 江戸川乱歩文庫.jpg 緑衣の鬼 光文社文庫.jpg
江戸川乱歩「緑衣の鬼」より 白い人魚の美女 [DVD]」夏純子/『緑衣の鬼 (江戸川乱歩文庫)』['19年]/『緑衣の鬼~江戸川乱歩全集第11巻~ (光文社文庫)』['04年]
白い人魚の美女 10.jpg白い人魚の美女 011.jpg ある蒸し暑い夜、明智は仕事を終えた後、表のビルで奇妙な影が映し出されているのを目にして不審に思い、助手の文代(五十嵐めぐみ)を連れて調べに現場へ行く。明智と文代はそこで、怪しい影が通りかかった女性に対しナイフを突き立てる瞬間を目撃する。そこには影の恐怖に怯える笹本芳枝(夏純子)がいて、彼女は偶然にも、文代の女子大テニス部の先輩だった。明智が芳枝に話を聞きながら周辺の捜査を開始した時、また影の男が現れる。緑のマントを羽織り、けむくじゃらの髪をした影がそこにいた明智や芳枝に目撃され、芳枝の夫で詩人の笹本静雄はショックで寝込んでしまう。周辺を探していた文代は、庭先で芳枝の写真が入ったロケットを発見、芳枝のものではないというロケットの中の写真は10年近く前のもので、明智は、そのロケットを波越警部(荒井注)に渡して捜査の要請をする。一方、明智の言いつけで笹本家を白い人魚の美女021.jpg訪ねた文代は、芳枝が気を失っているのを見つける。そして、顔が潰された静雄の変わり果てた姿も。その時、文代は緑色の服を着た何者かに殴りつけられ、気を失う。文代からの連絡が途絶え、明智はヤキモキするが、波越警部からの連絡で、ロケットが芳江の伯父で夏目財閥の当主・夏目菊太郎(松村達雄)が10年前に作らせたものとわかり、また文代のことも気がかりで、明智は笹本邸に向かう。するとそこには、気を失って倒れている文代がいて、ただし、気がついた文代が言う笹本静雄の死体は無く、一方、浴室で全裸で殺されているお手伝い・たま子(日野繭子)が発見される―。

少年探偵江戸川乱歩全集〈34〉緑衣の鬼.jpg 原作は、江戸川乱歩が1936(昭和11)年1月から12月まで「講談倶楽部」に連載した、文庫で約370ページ(2019年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))ほどの長編で、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。原作は、イーデン・フィルポッツが1922年に発表した『赤毛のレドメイン家』((乱歩が世界の探偵小説ベスト10で必ず1位に上げる作品)の翻案小説であり、乱歩が翻案した『緑衣の鬼』では、探偵作家・大江白虹が新聞記者の折口幸吉とともに事件に関与し、そこに探偵役として登場するのは明智小五郎ではなく乗杉龍平ですが、ドラマ版では当然のことながら明智こと天知茂が、原作における事件の「二つの不可解と五つの不可能」の真実を説き明かすことになります。
少年探偵江戸川乱歩全集〈34〉緑衣の鬼

白い人魚の美女031.jpg 原作は、読んでいて犯人の見当が途中でついてしまいましたが、この犯人、相当な「早変わり」をしていることになるなあと。でも、乱歩の小説だからそれはアリということで読むべきなのだなあと。ところが、そう思い込んでしまうと推理の方の詰めが甘くなってしまい、ラストで明かされる犯行の意外な全体像に自力では行きつけないということになってしまいます(自分がそうだった)。元々評価されている洋物を基にしていることもってプロットはしっかりしており、それに乱歩風の味付けがあって、トータルで見て、「本格」風のプロットでありながらも娯楽性の高い面白い作品になっています。

4白い人魚の美女1.png あとは、この長編をどうやって約70分くらいに纏めるかだったと思いますが、原作の洋物の「本格」風のプロットと、乱歩が加味した乱歩らしい雰囲気をそれほど損なわずによく活かしていたと思います。ドラマを観て、ある人物が登場した時には、怪しい!コイツが犯人だ!と思い、終盤、やっぱりそうだったと思いながらも、犯行の全容は最後まで分からなかったという、自分が原作を読んだ時と同じような経験をする人が何割かいるのではないでしょうか。それでも犯人は相当な「早変わり」をしていることになりますが(走りながら着替えていた(笑))、むしろ、原作通りに解釈するならばですが、犯人が誰もいないところで視聴者に向けて演技している"映像のウソ"があるところが少し気になったでしょうか(そのあたりはドラマは原作とは別の解釈なのか)。

4話)/白い人魚の美女1.jpg 原作で静雄の死体を見つけたかと思ったら後ろから緑衣の怪人に殴られ、気がついたら芳枝もいなくなっていたという目に遭うのは探偵作家の大江白虹であり、それがドラマでは明智の助手の文代に置き換わっています。また、原作では、笹本芳枝を巡って探偵作家・大江白虹とドラマで荻島真一が演じる笹本家のボディガード・山崎の恋のさや当てがあり、結局、山崎が夫・静雄を失った芳枝の新たな婚約者の地位を得ますが、ドラマでは、芳江の美しさに惹かれる明智に文代がやきもちを焼くような別の三角形の構図になっていて、ここでも文代に大江白虹の肩代わりをさせることで、原作のテイストを活かしています。原作の大江白虹は乗杉龍平との推理合戦に敗れ、プロとアマチュアの差を見せつけられますが、ドラマの文代は、ラストで緑衣の怪人に扮するなど大活躍でした。

白い人魚の美女 夏1.png ヒロイン笹本芳枝役の夏純子(1949年生まれ)は、18歳の時に若松孝二監督の「犯された白衣」('67年/若松プロ)でデビューし、主演の唐十郎の相手役として熱演した「"日活"最後の主演女優」と言われる人で、犯人に襲われるシーンなどで肩まで脱いでいますが、水族館の水槽に全裸で生きながら閉じ込められ、「白い人魚」と化すシーンなどの全身が映る箇所は吹き替えのようです。そのためか、原作には白い人魚の美女 日野1.jpg無い「浴室で全裸で殺されているお手伝い」役として、この年(1978年)"にっかつ"デビューの日野繭子(1959年生まれ)が起用されているのでしょう。彼女は現在はノイズ・ミュージシャンとして活動し、鍼灸師でもあるとのことです。

白い人魚の美女 朝加1.jpg その他、朝加真由美(1955年生まれ)が演じた夏目太郎の妹・知子もドラマのオリジナルで、時間内に収めるために原作の人間関係を単純化して端折るというのはよくありますが(本作でも原作の夏目菊三郎は最初からいない)、特に「浴室要員」としてではなく、新たなキャラクターを付け加えるというのは、ストーリーをわかりやすくするためというより、この場合、サスペンス気分を盛り上げるためなのでしょう(知子も犯人に殺害される)。朝加真由美は1973年、「ウルトラマンタロウ」(TBS)のヒロイン・白鳥さおり役でドラマデビューしましたが第16話で降板し、その後舞台の方に行って、この年がドラマ復帰の1年目で(まだ、ギャラガや安かった?)、その2年後に横山博人監督の「純」('80年)で映画デビューしています(映画デビューは夏純子の方が13年も早いことになる)。

白い人魚の美女 熱川.jpg ロケ地で、晴海のホテル浦島や熱川のワニ園が出てくるのが、「昭和」って感じで懐かしかったです。原作における「廃墟となった水族館」での追跡劇は、ドラマでは実際に魚がいる夜の水族館でやっていて、それはそれで雰囲気が出ていたし、洞窟での追走劇もしっかり映像化されていました。「緑衣」の魔人がシルクハットを被ってなんだか手品師みたいなのと、ラストのシーンがシーリーズの定番とは言え、当人以外はぼーっと突っ立っていてややぎこちなさがあったのが難でしたが、やはりこの作品はプロットが良いです。プロットの良さは当然ながら原作の良さに負うところ大かと思いますが、乱歩作品の雰囲気と併せて、それらを上手く活かして映像化している点を評価したいと思います。

第4話)/白い人魚の美女 111.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第4話)/白い人魚の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「緑衣の鬼」●時間:72 分●出演:天知茂(明智小五郎)/五十嵐めぐみ(文代)/夏純子(笹本芳枝)/荒井注(浪越警部)/朝加真由美(夏目知子)/松村達雄(夏目菊太郎)/荻島真一(山崎)/日野繭子(家政婦)/北町嘉朗/羽生昭彦/池田駿介/加地健太郎/東村元行/小田草乃介/篠原靖夫/久木念/土屋靖雄/鈴木謙一/沖秀一/青沼三郎/山本幸栄/岡本忠幸/福谷光一●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/07/08(評価:★★★★)

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「美女」は松原智恵子だったが、「死刑台の美女」の「美女」はかたせ梨乃だった。
死刑台の美女 dvd.jpg t13話)/死刑台の美女 .jpg 3話)/死刑台の美女 t2.png 悪魔の紋章 乱歩文庫.jpg 江戸川乱歩全集 第12巻 悪魔の紋章.jpg
江戸川乱歩「悪魔の紋章」より 死刑台の美女 [DVD]」『悪魔の紋章 (江戸川乱歩文庫)』['19年]『悪魔の紋章~江戸川乱歩全集第12巻~ (光文社文庫)』['03年]
83話)/死刑台の美女 .jpg 明智小五郎は、犯罪研究の権威・宗方隆一郎(伊吹吾郎)の妻・京子(松原智恵子)の依頼を受け、論文発表のため香港に飛ぶことに。車椅子の女性・京子の美貌に接したとき、この依頼は断れないと思ったのだ。その頃、実業家の川手庄太郎(増田順司)と3人の娘は何者かに脅迫を受けていたが、明智は不在になるため、宗方が代理で警護することになる。しかし三女・雪子(結城マミ)、次女・春子(三崎奈美)殺害された上に死体を辱められ、川手の腹違いの妹・北園竜子(稲垣美穂子)とその愛人・須藤が容疑者となる。現場には特殊な指紋・三重渦状紋が残されていた。宗方は川手と長女・民子(かたせ梨乃)を伊豆の山荘に匿うが、その夜、覆面の男女に襲われる。彼らは、強盗殺人犯だった川手の父に両親を殺された兄妹だった。川手の父は獄死したため、30年かけて息子と孫娘たちを根絶やしにするつもりなのだ。警察も犯人の意図を察知する。一方、竜子は疑われることを恐れ、三重渦状紋のある自分の指を切り落とすが、須藤に殺される。その須藤も罪を認める遺書を遺して自殺したことから、事件は終わったと思われた―。

少年探偵江戸川乱歩全集〈28〉呪いの指紋
少年探偵江戸川乱歩全集〈28〉呪いの指紋.jpg 原作は、江戸川乱歩が1937(昭和12)年9月から翌年10月まで「日の出」に掲載した、文庫で350ページ(2019年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))ほどの長編で、本人名義で児童向けにリライトされた作品(タイトル「呪いの指紋」)もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。ドラマを最初観た時は、原作を随分改変したなあという印象でしたが、もう一度原作を読み返してみたら、プロットのエッセンスの部分はかなり生かされていたように思いました。ぱっと観て原作と随分違うという印象を受けるのは、以下のような理由があるように思います。
  
3話)/死刑台の美 12.jpg その1:ドラマでは、明智が宗方隆一郎と妻・京子の依頼で香港に行くことになりますが、原作では明智は政府から国事犯調査の依頼を受け朝鮮に出張しており、車椅子の京子が明智の前に現れるようなこともありません(京子が車椅子生活を送っているというのもドラマのオリジナル)。また、原作で明智は、ドラマのように警察の捜査途中から現場に入るのではなくもっと後の、一見事件が落着したかに見えた時点で帰国して、それから独自の推理を展開します(この部分はある種"安楽椅子探偵"と言える)。でも、原作通りドラマ化したら、明智が最後しか出てこないことになってしまうので、早めに帰国させたのでしょう。

3話)/死刑台の美女2-2.jpg その2:原作では川手庄太郎の娘は2人きりで、共に惨殺されますが、ドラマではその2人にさらにもう一人、長女の民子(かたせ梨乃)がいて、父と共に犯人に騙され誘拐されます。川手親子は救出されますが、2人組が病院に侵入し、川手氏を殺害、民子を連れ去ってしまい、民子と尾行してきた文代(五十嵐めぐみ)を処刑台にかけて殺害しようとするのですが、そもそも原作には民子は登場しないので、こうした「死刑台」シーンもドラマのオリジナルです。

3話)/死刑台の美女 engeki.jpg その3:原作では、川手の娘の誘拐事件を巡って、宗像と犯人と思しき人物の「見世物小屋」での追跡劇が延々あるのですが(これが実はプロット要素にもなっている)、「見世物小屋」というのが原作が書かれて40年後の70年代においては古めかしすぎたのか割愛されていて、次女・春子(三崎奈美)の死体はヌード劇場で見つかるようになっています(犯人が川手に見せた"再現"演劇も割愛されるかと思ったら映像化されていて、70年代はアングラ劇場ブームだったため、こちらはアリだったのか)。最初に三姉妹がいる部屋でラジカセから流れている曲がピンク・レディーが'77年12月にリリースした「UFO」であり、あれからまた40年以上経ったのかあ...。

3話)/死刑台の美女 matu.jpg その4:やはり、ラストの改変がかなり効いています。いつも〈美女〉はみんな明智に惚れて結局メロドラマ調になってしまうのだけれど、もうこれはこのドラマシリーズの路線なのだと割り切ってしまえばいいのでは。原作では、犯人が明智に向けたピストルの弾丸は明智が予め抜き取っていて、絶望した犯人は自害します。それがドラマでは、ピストルに弾丸は入っていたっぽく、そうすると明智は女性に命を救われたことになります。

3話)/死刑台の美女4.png 「美女シリーズ」としての〈美女〉は松原智恵子でしたが、「死刑台の美女」の〈美女〉はかたせ梨乃(1957年生まれ)ということになるのでは。贅沢なキャスティングでしたが、かたせ梨乃は前回の「浴室の美女」の夏樹陽子ほどには脱がず、これもまた3話)/死刑台の美女  ko.jpg顔が映らない部分は吹き替えでした。となると、ヌード劇場の三崎奈美が、今回無かった「入浴シーン」の代替だったということか。それでは弱いということで(エロスの総量が足りない?)、五十嵐めぐみ演じる、犯人に捕まってしまった文代まで、犯人からSMチックな責めを被ることになったのではないかと思ったりもします。五十嵐めぐみ(1954年生まれ)は後にインタビューで「まさか文代があんな目に遭うとは思っていませんでした(笑)。お芝居とはいえ、けっこう痛い思いをした記憶がありますね。井上監督からは現場で『もうちょっとよく見えるようにしてくれ』なんて言われたり(笑)」と語っています(「映画com.」2015)。

3話)/死刑台の美女 katase.jpg流れ星おりん:かたせ梨乃.jpg かたせ梨乃は1978年4月、テレビ東京の「大江戸捜査網」第3シリーズ(里見浩太朗主演)で〈はやぶさお銀〉役の安西マリアが降板したのと入れ替わりに〈流れ星おりん〉として参入したのが、ドラマの本格デビューですが、この「美女シリーズ」出演はそれと同じ頃になります。「大江戸捜査網」へのレギュラー出演は、三船プロダクションの鳴り物入りだったというのもあるかと思いますが、翌年にはNHK大河ドラマ「草燃える」に出演するなどしていて、背景にはCMモデル、カバーガールとしての高い人気と知名度もあったかと思います。人気モデルの地位に安住ぜす、若いうちに女優の世界に足を踏み入れたのが成功した1つの要因かと思います。

3話)/死刑台の美女伊吹.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第3話)/死刑台の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎/井上梅次●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「悪魔の紋章」●時間:72 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/荒井注/伊吹吾郎/松原智恵子/稲垣美穂子/増田順司/かたせ梨乃/三崎奈美/結城マミ/宮口二郎/加地健太郎/東村元行/小田草乃介/喜田晋平/村上記代/紺あき子/谷よしの/土屋靖雄/青沼三郎/山本幸栄/羽生昭彦/沖秀一/篠原靖夫/加藤真琴/中村正人/下坂泰男/小野塚千枝子/藤原美佐穂/新垣嘉啓●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/04/08(評価:★★★☆)
松原智恵子 in 「芸能人格付けチェック BASIC~春の3時間スペシャル 特別編」(テレビ朝日 2020.3.19)
松原智恵子200319.jpg
かたせ梨乃 in 「チコちゃんに叱られる!」(NHK 2018.5.25)/伊吹吾郎 in「麒麟がくる」(NHK 2020.3.08)
かたせ180525 伊吹200308.jpg

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原作の面白さが活かされている。メロドラマ的には原作を超えたか。

江戸川乱歩「魔術師」より 浴室の美女 [DVD].jpg 2話)/浴室の美女1978t.jpg 2話)/浴室の美女8.jpg 魔術師 (江戸川乱歩文庫).jpg 江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師.jpg
江戸川乱歩「魔術師」より 浴室の美女 [DVD]」夏樹陽子 『魔術師 (江戸川乱歩文庫)』['19年]『江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師 (光文社文庫)』['04年]
2話)/浴室の美女 6.jpg2話)/浴室の美女1.jpg 榛名湖で静養中の明智小五郎(天地茂)は、玉村妙子(夏樹陽子)という女性に出会い、彼女の美しさに魅せられるが、彼女には起きる事を予感がする不思議な能力があるという。そんな折、資産家の伯父・福田徳二郎から、東京に戻ってきてほしいと電話がある。カウントダウンのような数字を示すものが順番の送られてくるようになって恐怖を覚え、妙子に助けを求めた2話)/浴室の美女2kubi.jpgのだ。東京に帰った妙子と福田は警察に相談するが、波越2話)/浴室の美女3kamen.png警部(荒井注)は、まだ何も起きていない事件なので、民間の探偵に頼むことを勧め、明智を紹介する。妙子の依頼と聞いて捜査に協力すると言った明智だが、帰京2話)/浴室の美女図5.jpgした上野駅で、福田の代理人という人物に騙され拉致される。やがて、福田が自室で首を落とされた姿で発見され、隠し金庫のダイアも盗まれていた。さらに翌日、"獄門舟"の札が掲げられて川を流れていた福田の首が発見される。一方で連れ去られた明智は船に監禁されていて、脱出しよ2話)/浴室の美女5sano.pngうとするも阻れる。玉村家に強い恨みをもった奥村源造(西村晃)が魔術師と称して明智に挑戦し、父親を殺された恨みを晴らすことに執念を燃やし、こ2話)/浴室の美女6nishi.jpgまの犯行を企てたのだった。明智は、犯罪への罪悪感を抱くその娘・綾子(高橋洋子)の助けで脱出するが、海中に落ちて水死体が発見されたとして、新聞に「明智小五郎氏 殺害さる」と報2話)/浴室の美女7.pngじられる。一方、福田の兄で宝石王の玉村(佐野周二)にも数字の通知が送られ始め、入浴中の妙子が何者かに襲われて傷を負う。さらに、長男・一郎(志垣太郎)は、危うく時計の針に首を落とされそうになる。最近雇われた庭師の音吉に犯人の疑いを抱いた玉村は、彼をクビにする。一方、明智の遺志を継いで、この事件の調査をしていた助手の文代(五十嵐めぐみ)は、玉村邸から怪しげな人物、"魔術師"その人が抜け出してきたのを発見、彼が《オクムラ魔術団》へ入っていくのを見届ける。彼女からの連絡で、《オクムラ魔術団》に踏み込んだ波越警部らは、間一髪で"魔術師"に逃げられてしまうが、その場には音吉もいた―。
少年探偵江戸川乱歩全集〈29〉魔術師
少年探偵江戸川乱歩全集 魔術師.jpg2話)/浴室の美女 endt.jpg 原作は、江戸川乱歩が1930(昭和5)年7月から翌年5月まで「講談倶楽部」に掲載した、文庫で300ページ(2018年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))ほどの長編で、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。明智が死んだように見せかけるというのは、「007は二度死ぬ」('67年/英)みたいだなあ(ボンドガールみたいな敵中の味方がいるし)。作中の過去の犯罪について、「江戸川乱歩文庫」の解説によれば、「レ2話)/浴室の美女 kabe.jpgンガ壁に人間を塗り込める」というのは、ポーの「アモンティリャードの樽」の着想を得たとのことですが、ポーで「レンガ壁に人間を塗り込める」と言えば「黒猫」を思い浮かべる人も多いのでは。前半は犯人である"魔術師"が圧倒的に優勢なのが、終盤、明智が畳みかけるように逆転攻勢するする展開は原作もドラマと同じです(原作でTales of Terror 1962 2.jpgは「水責め」だったのがドラマでは「火責め」になっていたりしたが)。しかも、いったん"魔術師"が亡んで事件が解決したかにみえて、その後にもう一つ意外な展開があるのも原作通りです。

黒猫の怨霊」('62年/米)(原作:エドガー・アラン・ポー「黒猫」)
     
2話)/浴室の美女 furo.jpg シリーズ第1話の『吸血鬼』が原作の「氷柱の美女」は、原作を読むと途中で犯人が判ってしまうのが難で、そのままドラマでもそうなっていしまっていましたが、この『魔術師』が原作の第2話では、原作を読んでもラストの展開は全く予測できないのと同様、原作を知らずにドラマを観ると、原作と同じように最後に驚きが味わえるのではないでしょうか。その後このシリーズで"恒例"となる「浴室」シーンが、この作品に関しては、掟破りとも言える"映像のウソ"ぎりぎりの線にかかっているようにも思えますが、全体としては原作の面白さが活かされている回であり、パイロット版とも言える第1話から進化したように思います。

 ラストはメロドラマ的ですが、これはこれで良かったように思います。原作では犯人は自殺しないで刑務所行きとなる、あくまで"毒婦"として扱われていますが、ドラマでは明智の胸の中で死んでいく「呪われた宿命」を背負った哀しい女性、或いは「運命と闘っていた」女性ということになっています。原作では、明智の気持ちがこの女性から別の女性に移っていくというプロセスがあるのですが、ドラマではそこを描いていないので、この終わり方もありかなと思います。メロドラマ的には(江戸川乱歩はそれを指向していなかったかもしれないが)原作を超えているかもしれません。

2話)/浴室の美女4.png 原作を読んだ人にとって観ていて興味深いと思われるのは、五十嵐めぐみ(第1話の時から髪を切った)演じる明智の助手の文代が事件にどう絡むかではないでしょうか。原作には、明智の助手としての「文代」は登場せず、ただし、非常に重要なキャラクターとして「文代」が登2話)/浴室の美女 ayako.png場します。原作通りでいくと、ドラマでは、同一人物が時間を超えて同じ場所に二人いることになってしまうので、ドラマの方の「(原作における)文代」に別の名前を与え、明智の助手としての「文代」とは別人にしたということでしょう。それによって、ドラマにおける明智の助手としての「文代」は、有能で気丈ではあるけれど特別おどろおどろしい出自を有するのでもなく、また、原作のラストに示されているように将来「明智夫人」と呼ばれるようなことにもならないことが示唆されていることになるかと思います。

佐野周二(1912-1978)      
2話)/浴室の美女  tl.jpg2話)/浴室の美女 sano.png「江戸川乱歩 美女シリーズ(第2話)/浴室の美女」●制作年:1977年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「魔術師」●時間:72 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/荒井注/西村晃/夏樹陽子/高橋洋子/志垣太郎/佐野周二/宮口二郎/高桐真/白石奈緒美/北町嘉郎/池田駿介/水原ゆう紀●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/01/07(評価:★★★★)

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最後、技術面で「荒唐無稽小説」の壁を乗り越えられなかったパイロット版。

『江戸川乱歩・氷柱の美女』dvd.jpg 『江戸川乱歩・氷柱の美女』01.jpg 江戸川乱歩文庫 吸血鬼.jpg 江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師.jpg [Prime Video]氷柱の美女.jpg
江戸川乱歩「吸血鬼」より 氷柱の美女 [DVD]」天知茂/三ツ矢歌子『吸血鬼 (江戸川乱歩文庫)』['19年]『江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師 (光文社文庫)』['04年]「江戸川乱歩シリーズ 氷柱の美女」[Prime Video]
/氷柱の美女 T1.jpg『江戸川乱歩・氷柱の美女』t_1 1.jpg 明智が静養中の箱根湖畔で釣りをしていると、そこに美しい女性が現れる。さらに、帰り際にも彼女と出会い、霧で道に迷ったというが、そこへ青年が駆けつける。明智は事務所のメンバーと湖畔のホテルに滞在していて、その女性、資産家の未亡人・畑柳倭文子(はたやなぎ しずこ)(三ツ矢歌子)は、ホテルの近くの別荘に一人息子の茂といて、湖畔ホテルへもよく来ていたのだ。その日、明智が文代(五十嵐めぐみ)、小林(大和田獏)とホテルのバーにいると、二人の男を/氷柱の美女 41.jpg携えた倭文子がいた。一人は画家の岡田道彦(菅貫太郎)で、もう一人は、今日倭文子を探しにきたグラフィックデザイナーの青年・三谷房夫(松橋登)だった。やがて、宿の一室で、岡田と三谷の二人の男による、倭文子の愛を得るため命を賭けた決闘が始まる。テーブルにふたつのワイングラスがあり、岡田は、どちらかに毒が入っているので、三谷にひとつ選んで飲み干すように要求する。結果、三谷は賭けに勝利し、岡田はその決闘で死こそ免れたものの、劇薬を顔に浴びて醜い姿となり、倭文子の前で屈辱を味わって姿を消す。やがて、岡田と思しき顔が潰れた水死体が見つかるが、それ以降、唇のない怪人が倭文子の周囲に出没する。恒川警部(稲垣昭三)は明智に事件解決への協力を依頼をするが、唇のない怪人は今度は明智を挑発するかのような行動に出る―。

 シリーズの記念すべき第1作。原作は、江戸川乱歩が1930(昭和5)年9月から翌年3月まで「報知新聞」に連載した、文庫で440ページ(2019年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))もの長編で、他の長編同様、どんでん返しの連続です。ただ、連載中に短いサイクルで読者の期待に応えようとしたのか、ややサービス過剰気味な分、リアリティは弱まっているように思います。それでも、ポーの「早すぎる埋葬」のプロットを織り込むなどしているし、後の推理作家にそうしたプロット面の多彩さで影響を与えた作品と言われています。

『江戸川乱歩・氷柱の美女』kobayasi humiyo1.png ドラマでの文代役の五十嵐めぐみは、シリーズ全25作中19作まで文代役を務めることになりますが、この頃はまだ髪が長くて、後のボーイッシュな髪形ではありません。小林を演じた大和田獏は、「少年」と呼ぶには年齢がいきすぎていたせいか、大和田獏はこの第1作のみの登場で終わっています。稲垣昭三(1928-2016/享年88)が演じた恒川警部は、原作通り「恒川警部」なのですが、こちらも第2作から荒井注演じる「浪越警部」に代わります。また、第2話「浴室の美女」まで放映が5カ月も空くことから、ある意味この回はパイロット版的な位置づけだったようにも思われます(「刑事コロンボ」の第1話「殺人処方箋」などは完全にそうだが、パイロット版ってスタイルの初期の完成度を知るうえで興味深いが、観ていて何となく落ち着かない気がする)。

 原作は、塩原温泉の旅館での男二人の「毒ワイン決闘」から始まり、ドラマ冒頭で明智が箱根に来ているのも(塩原から箱根に改変されている)、1日に3度倭文子に出会うのもドラマのオリジナルです。一方で、大部な原作を90分番組のドラマにするとなると、どうしても原作を大幅に圧縮せざるを得なかったようで、特に原作に幾多ある大掛かりなアクションシーンが全部カットされたのは、時間的な問題以外に予算の関係もあったのかもしれません。それでも、初回にこの江戸川乱歩らしい"荒唐無稽"とも思える作品を選んだのは果敢と言えます(先行する映像化例に、久松静児監督、岡譲二主演の映画「氷柱の美女」('50年/大映)があることはあるが)。

2 氷柱の美女 仮面1.jpg 原作は、明智の謎解きを待たなくとも何となく犯人が判ってしまうのですが、ドラマの方は、原作以上に早くから犯人がミエミエという印象も。明智も"判っている"風で、あとは、明智がどう犯人を追い詰めるかしか楽しみがないのですが、「氷柱の美女」の脚本におけるクライマックスで、明智が単に普通に犯人の前に現れて謎解きをすることになっていたのが、それでは面白くないと考えた井上梅次(1923-2010/享年86)監督が現場で思いついたのが、犯人が鏡に向って仮面を取ると、その鏡の中に脱いだはずの吸血鬼の仮面が映り、びっくりして振向くと、もう一人の吸血鬼がゆっくり仮面を取って明智の顔が現れるという演出だったそうです。以降、明智がラスㇳに変装して犯人の前に現れ、仮面をはがした上で謎解きをするというのがシリーズの定番になったとのことです。

『江戸川乱歩の吸血鬼・氷柱の美女』hatayamagi1.jpg 一方で、後にお決まりとなる「入浴シーン」はまだなく、その代わり、三ツ矢歌子(1936-2004/享年67)演じる倭文子が前半と後半各一度犯人に襲われますが、顔や肩から上は本人であるものの、胸や躰全体が映るシーンは吹き替えになっています。「昼メロの女王」と呼ばれながらも上品な役が多かった三ツ矢歌子が、ここまでやっただけでも当時驚くべきことだったようで、それ以上は無理だったのでしょう(その昔は「海女の戦慄」('57年/新東宝)などで水着になったりはしていたが、すでにこの時には四十路だったこともあるか)。井上監督は毎回現場で女優と交渉していたようですが、それも大変で、結局、〈ヒロイン〉と〈脱ぐ役〉を分けるというのが定番になっていったようです。
   
『江戸川乱歩・氷柱の美女』hyoutyunobijyo.jpg ラストも原作から改変されていますが、「氷柱の美女」を実現したのはなかなかのものです(タイトルが「氷柱の美女」なら、やらない訳にはいかないが)。ただ、最初に氷ごと横向き現れた時、どう見ても明らかにマネキンなので、これはいくらなんでも製氷機から出てきた瞬間に犯人が気づくだろうと。でもアップになると三ツ矢歌子で、そこだけ映していればまだよかったのにと思ったりもしました。というのは、中途半端にカメラを引くとその姿はまたマネキンになり、さらに別の角度から背景としての映り込みになると、その顔が紙に書かれた下手な似顔絵みたいで(なぜか笑っている)げんなりさせられたからです。ラストには"異形の愛"的なドラマチックな要素もあるだけに、最後に技術面で「荒唐無稽小説」の壁を乗り越えられなかった気がして惜しいです。

「江戸川乱歩 美女シリーズ(第1話)/氷柱の美女」●制作年:1977年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「吸血鬼」●時間:72 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/大和田獏/稲垣昭三/三ツ矢歌子/松橋登/菅貫太郎/野口ふみえ/北町嘉朗 /稲川善一/神田時枝/荻野尋/村上記代●放送局:テレビ朝日●放送日:1977/08/20(評価:★★★)

天知茂/荒井注(第2作~第25作)
江戸川乱歩 美女シリーズ3.jpg江戸川乱歩 美女シリーズ2.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(天知茂版)」●監督:井上梅次(第1作-第19作)/村川透/長谷和夫/貞永方久/永野靖忠●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎/井上梅次/長谷川公之/ジェームス三木/櫻井康裕/成沢昌茂/吉田剛/篠崎好/江連卓/池田雄一/山下六合雄●撮影:平瀬静雄●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩●出演:天知茂/五十嵐めぐみ(第1作-第19作)/高見知佳(第20作-第23作)/藤吉久美子(第24作・第25作)/大和田獏(第1作)/柏原貴(第6作-第19作)/小野田真之(第20作-第25作)/稲垣昭三(第1作)/北町嘉朗(第1作・第4作-第9作)/宮口二郎(第2作・第3作)/荒井注(第2作-第25作)●放映:1977/08~1985/08(天知茂版25回)【1986/07~1990/04(北大路欣也版6回)、1992/07~1994/01(西郷輝彦版2回)】●放送局:テレビ朝日
  

●「江戸川乱歩の美女シリーズ」(全33話)放映ラインアップ
(天知茂版)

話数 放送日 サブタイトル 原作 美女役 視聴率
江戸川乱歩シリーズ 浴室の美女.jpg1 1977年8月20日 氷柱の美女 『吸血鬼』 三ツ矢歌子 12.6%
2 1978年1月7日 浴室の美女 『魔術師』 夏樹陽子 20.7%
3 1978年4月8日 死刑台の美女 『悪魔の紋章』 松原智恵子 15.6%
4 1978年7月8日 白い人魚の美女 『緑衣の鬼』 夏純子 14.5%
5 1978年10月14日 黒水仙の美女 『暗黒星』 ジュディ・オング 15.3%
6 1978年12月30日 妖精の美女 『黄金仮面』 由美かおる 14.0%
7 1979年1月6日 宝石の美女 『白髪鬼』 金沢碧 13.0%
8 1979年4月14日 悪魔のような美女 『黒蜥蜴』 小川真由美 15.4%
9 1979年6月9日 赤いさそりの美女 『妖虫』 宇津宮雅代 16.9%
10 1979年11月3日 大時計の美女 『幽霊塔』 結城しのぶ 23.4%
岡田奈々の「魅せられた美女」.jpg11 1980年4月12日 桜の国の美女 『黄金仮面II』 古手川祐子 15.9%
12 1980年10月4日 エマニエルの美女 『化人幻戯』 夏樹陽子 19.5%
13 1980年11月1日 魅せられた美女 『十字路』 岡田奈々 20.0%
14 1981年1月10日 五重塔の美女 『幽鬼の塔』 片平なぎさ 21.6%
15 1981年4月4日 鏡地獄の美女 『影男』 金沢碧 19.7%
16 1981年10月3日 白い乳房の美女 『地獄の道化師』 片桐夕子 20.1%
17 1982年1月2日 天国と地獄の美女 『パノラマ島奇談』 叶和貴子 16.6%
18 1982年4月3日 化粧台の美女 『蜘蛛男』 萩尾みどり 17.6%
19 1982年10月23日 湖底の美女 『湖畔亭事件』 松原千明 16.0%
20 1983年1月1日 天使と悪魔の美女 『白昼夢』(『猟奇の果て』) 高田美和 12.6%
江戸川乱歩シリーズ 禁断の実の美女.jpg21 1983年4月16日 白い素肌の美女 『盲獣』(『一寸法師』) 叶和貴子 13.3%
22 1984年1月7日 禁断の実の美女 『人間椅子』 萬田久子 18.9%
23 1984年11月10日 炎の中の美女 『三角館の恐怖』 早乙女愛 22.4%
24 1985年3月9日 妖しい傷あとの美女 『陰獣』 佳那晃子 24.7%
25 1985年8月3日 黒真珠の美女 『心理試験』 岡江久美子 26.3%
(北大路欣也版)
1 (26) 1986年7月5日 妖しいメロディの美女 『仮面の恐怖王』 夏樹陽子 19.9%
2 (27) 1987年1月10日 黒い仮面の美女 『凶器』 白都真理 17.0%
3 (28) 1987年8月15日 赤い乗馬服の美女 『何者』 叶和貴子 17.9%
4 (29) 1988年5月14日 日時計館の美女 『屋根裏の散歩者』 真野響子 16.4%
5 (30) 1989年8月26日 神戸六甲まぼろしの美女 『押絵と旅する男』 南條玲子
6 (31) 1990年4月14日 妖しい稲妻の美女 『魔術師』 佳那晃子 15.8%
(西郷輝彦版)
1 (32) 1992年7月4日 からくり人形の美女 『吸血鬼』 美保純 15.5%
2 (33) 1994年1月8日 みだらな喪服の美女 『白髪鬼』 杉本彩 13.4%

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原作とかなり異なるが(犯人さえ違っている)、不思議と原作の雰囲気を伝えている。
江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女 dvd.jpg 江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女 t1.jpg 江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女 t2.jpg 暗黒星 (江戸川乱歩文庫).jpg
江戸川乱歩「暗黒星」より 黒水仙の美女 [DVD]」『暗黒星 (江戸川乱歩文庫)』['19年]
ジュディ・オング
美女シリーズ(第5話)/オング1.jpg江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女 1.png江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女2.jpg 明智探偵(天知茂)は、彫刻家・伊志田鉄造(岡田英次)の「呪」と題された彫刻展の招待状を受け、文代(五十嵐めぐみ)と彫刻展に。そこで女性の悲鳴が上がる、展示してある彫刻が口から血を流していたのだ。いたずら好きの長男・太郎(北公次)の仕業かと思われたが、それは次女・悦子(泉じゅん)がやったことだった。展覧会を後にしようとする明智たちを一人の女性がずっと見ていた。伊志田の長女・待子(ジュディ・オング)で、彼女こそが明智に招待状を送った本人だっ江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女 3.jpg5話)/黒水仙の美女図3.jpgた。待子は明智に伊志田邸に正体不明の黒い影が出現し、母の君代(空あけみ)はそれがもとで寝込んでいるという。明智に伊志田家に出没する黒い影についての捜査を依頼した。その夜、待子が独りでいると不気味な声が聞こえ、待子は明智に電話で助けを求める。5話)/黒水仙の美女 江波1.jpg耳を澄ませた明智にもその声は確かに聞こえた。黒い影は声だけでなく邸内を自由自在に跳び回って待子を恐怖に陥れる。そして、彫刻の一つに成りすました黒い影が待子の首を絞める。そこへチャイムが鳴り、待子の電話により伊志田家に到着した明智を、邸付きの看護婦・三重野早苗(江波杏子)が出迎える。邸内では待子が気絶していた。黒い影の主を見つけようと伊志田家の庭に出た明智は、例の不気味な声を聞き、その正体を暴こうとするも見失ってしまう。やがて三女の鞠子が殺害される事件が起き、続いて次女・悦子も浴室で―。

黒水仙の美女 原泉.jpg 登場人物の相関がやや分かりにくいですが、長女の待子は伊志田の亡くなった先妻・靜子の子であり、悦子と太郎、鞠子の三人が今の妻の子であって、待子が二歳の時、鉄造は絹代と関係を持ち、太郎と悦子が生まれ、伊志田家へ押し掛けてきたという過去があったと。離れの小屋で祈祷している精神を病んだ老女(原泉)は、靜子の母、つまり待子の祖母であると把握できれば、実は靜子には待子のほかにもう一人子がいたということが判った時点で、ああ、それが犯人だと思い当たるし、助けを求められて駆けつけた明智に「待子さんは夢遊病の気があるから」と言った時点でもう怪しいです。

少年探偵江戸川乱歩全集〈37〉暗黒星』['71年]
少年探偵江戸川乱歩全集〈37〉暗黒星.jpg江戸川 乱歩 「暗黒星」第20回.jpg 原作は、江戸川乱歩が1939年1月から12月に雑誌「講談倶楽部」に連載したもので、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。文庫で200ページほどの長さ(2015年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))。原作で江戸川 乱歩 「暗黒星」第2回.jpgは、伊志田の子供は、長女・「綾子」、長男・一郎、次女・鞠子の3人で、何れも今の母・君代の子ではなく、伊志田の前妻の子であるということになっています。明智に相談を持ち掛けるのは長男の一郎で(「講談倶楽部」挿絵の右が一郎、左が明智)、電話で助けを呼ぶのも一◆暗黒星■江戸川乱歩◆文庫.jpg郎。そして、一郎、綾子、鞠子、さらには伊志田までが犯人に攫われ、ドラマに比べれば、最後まで犯人は分かりにくくなっています。
暗黒星 (角川ホラー文庫)』['94年]

5話)/黒水仙の美女 オング2.jpg.png5話)/黒水仙の美女 江波2.jpg ドラマはこのように、物語の設定の細部が原作とかなり異なりますが(いや、細部どころか犯人さえ違っている)、不思議と原作の雰囲気をよく伝えているように思います。何よりも、ジュディ・オング江波杏子(2018年没)という二大女優を配したことで、それぞれをそれに見合った役柄に改変したものと思われます(それが活かされている)。その他にも、父親岡田・北.jpg役が岡田英次で、長男役が北公次(2012年没)と、配役は全体的に豪華です(北公次にとっては、ジャニーズ事務所在籍最後の仕事となった)。原作で浴室で殺害されるのは義母の君代ですが、泉じゅん2.jpg泉じゅん.jpgドラマでの"浴室要員"は次女・悦子(原作には無い)役の泉じゅんで、彼女が日活ロマンポルノから離れていた時期です(この頃、山口百恵と三浦友和の主演コンビ5話)/黒水仙の美女 泉1.jpg5話)/黒水仙の美女 泉2.pngの「泥だらけの純情」('77年)、「古都」('80年)にヒロインの女友達の役で出たりしている)。このドラマでは、財産のために自分以外の家族を皆殺しにしたい、そのために力を貸して欲しいと明智探偵に囁き(なんと大胆!)、逆に明智から「金と女性の誘惑に乗らないのが探偵の第一条件」と言われてしまうという、ドラマオリジナルのキャラになっています(これもその演技力を買われてのことか)。

伊志田待子(ジュディ・オング).jpghannin.jpg それにしても、ドラマで見ると、犯人は服装面で相当な早替わり(現実には不可能?)をしていたということになるかと思います(その上、無駄にいっぱいバック転をしていた。ステージでバック転を披露した最初のアイドルが北公次であることを思い出した)。一方の明智は、わざわざ犯人に変装する必要があったのかなと疑問に思われますが、原作では変装する理由がちゃんと説明されています。原作と比べてみると、翻案の妙が愉しめるかと思います。
  
伊志田鉄造(岡田英次).jpg三重野早苗(江波杏子).jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:井上梅次●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「暗黒星」●時間:72 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/荒井注/江波杏子/ジュディ・オング/岡田英次/泉じゅん/北公次/原泉/北町嘉郎●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/10/14(評価:★★★☆)
江波杏子 「女は二度生まれる」('61年/大映)/「女の賭場」('66年/大映)
江波杏子 女は二度生まれる.jpg 女の賭場.jpg
江波杏子(1942-2018/76歳没)
江波杏子.jpg 江波杏子_5.jpg

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急逝した天知茂の遺作(シリーズ最高視聴率)。美女役は新型コロナで亡くなった岡江久美子。

25話)/黒真珠の美女 dvd.jpg 25話)/黒真珠の美女 t1.jpg  25話)/黒真珠の美女 t2.png 25話)/黒真珠の美女 t3.jpg
黒真珠の美女~江戸川乱歩の「心理試験」~ [DVD]」天知茂/岡江久美子

25話)/黒真珠の美女 4シーン.png ある絵画の展示会で、明智探偵(天知茂)は黒真珠のイヤリングをしていた美女(岡江久美子)に出会う。その後、ゴッホの「星月夜」を画商の蕗屋裕子が手に入れたと発表され、西洋美術館が入手しようと名乗りを上げていると噂されていた。明智は展覧会場で、同級生で東京美術大学の教授・北原(久富惟晴)から蕗屋裕子を紹介してもらうが、彼女が例の黒真珠の美女だった。そこには蕗屋画廊の顧客で美術収集家の徳田礼二郎(高橋昌也)と、画商の宍戸(長塚京三)も来ていた。その後、明智の事務所に無記名の封筒が届き、文代(藤吉久美子)が開けると、中には百万円が入っていて、絵は偽物に違いないので入手経路を調べてほしいとあった。明智は、裕子を訪ねるが、彼女は絵の入手経路25話)/黒真珠の美女 4人.pngを明かさない。一方、この絵を前にして、徳田は「偽物だよ」と呟く。宍戸は、あの絵が本物なら時価十億は下らず、そんな大金を裕子がどうやって工面したか謎であり、偽者の可能性が高いことを明智に説明する。明智は宍戸を尾行し、ホテルで徳田の家のお手伝い・ユミエ(東千晃)と関係を持っていることを知る。彼女は聖ヨハネ病院の元看護婦で、同じ病院に勤める元恋人の小池(伊藤克信)から復縁を迫られていた。徳田邸ではカメラマン志望の恋人・富山(貞永敏)との交際を反対された徳田の一人娘・ユカ(代日芽子)が徳田と口論の末、家を飛び出し車で出かけていった。徳田と約束をしていた裕子から仕事が長引いてまだ京都駅にいるという電話が入り、それを受けたユミエが徳田に知らせに行くと徳田が血を流して倒れていた―。

 この「美女シリーズ」で天知茂の遺作となった作品で、天知茂は1985年7月27日にクモ膜下出血により54歳で亡くなっており、この第25話は、8月3日に放映されています。したがって、この回は、結果的に初放映が"追悼放映"になったかたちで、視聴率はシリーズ最高の26.3%を記録しています(以降、北大路欣也主演で6話、西郷輝彦主演で2作作られたが、天知茂の明智探偵像が強烈だったせいか長続きしなかった)。

テレビ朝日・土曜ワイド劇場 「江戸川乱歩 美女シリーズ(第25話)/黒真珠の美女」オープニング(天知繁追悼の意を表する南美希子アナウンサー)

そして誰もいなくなった 渡瀬_.jpg 2017(平成29)年に、テレビ朝日で渡瀬恒彦主演の「アガサ・クリスティ そして誰もいなくなった」が放送された際、3月25日・26日の2夜連続ドラマの各冒頭で、3月14日に亡くなった渡瀬恒彦が出演した「最後の作品」であることを伝えるテロップが表示され、しかも、末期がんの役で出ているのがかなり衝撃的でしたが、当時の視聴者も似たような印象を持ったのではないでしょうか。この「黒真珠の美女」では、渡瀬恒彦の場合と異なり、天知茂本人も自分が死ぬと志村けん エール.jpg志村けん  .jpgは思っていないと思いますが、明智がその喫煙を制止する文代の目を盗んでタバコを美味そうに吸う場面があったりして、ひやっとします。もっと最近では、今年['20年]3月30日放送開始のNHKの朝ドラ「エール」でテレビドラマ初出演の志村けんが、3月29日に新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなり、山田耕筰をモデルとする役で5月1日放映分から登場して、これも実質"追悼放映"になってしまったということがありました。
    
別冊スコラ 岡江久美子写真集「華やかな自転」.jpg岡江久美子 死去  NHK.jpg そして、同じく新型コロナウイルスによる肺炎のため4月23日に亡くなったのが、この「黒真珠の美女」の"美女"こと岡江久美子です。近年ではTBS「はなまるマーケット」の総合司会(1996年~2014年)のイメージが強く、また、かつてはNHKの「連想ゲーム」での名解答者(1978年~1983年)ぶりから「才女」のイメージがありますが、別冊スコラで『岡江久美子写真集 華やかな自転』を出したのが'82年で、フォトジェニックな女優でもありました(写真集は当時25歳。翌年、大和田獏と結婚)。

別冊スコラ 岡江久美子写真集「華やかな自転」』['82年]
岡江久美子
25話)/黒真珠の美女 岡江.jpg この「黒真珠の美女」の撮影時の岡江久美子は28歳で、若くして着物も似合うからなかな心理試験 春陽堂文庫.jpgかのもの。最後まで凛としていて、天知茂と拮抗しているか、むしろそれを凌いでいた印象です。内容的には、原作の「心理試験」はもうどっか飛んでしまっている感じですが(このシリーズ、後になればなるほど原作から離れていったようだ)、犯人捜しというより、絵の真贋の謎やその背後にある復讐劇、トラベルミステリー的なプロットなど、プロセスが愉しめ、ラストも明智探偵が最後に変装して登場し犯人を暴くというお決まりの型にもう一つ捻りが入っていて、いろいろと愉しめる佳作に仕上がっているように思います。

必殺仕掛人 春雪仕掛針ド.jpg 監督の貞永方久(さだなが まさひさ、1931-2011/79歳没)は九州大学法学部出身。卒業後、松竹京都撮影所演出部に入社して映画監督になっていますが、こうしたテレビ映画の演出も多数あり、特にABCテレビの「必殺シリーズ」では第2作(中村主水シリーズの第1作)である「必殺仕置人」('73年、全26話、山﨑努、藤田まこと主演)から参加し、劇場版「必殺仕掛人 春雪仕掛針」('74年/松竹)では監督も務めています。TVシリーズの「必殺仕掛人」('72~'73年、全33話、林与一、緒形拳主演)は「必殺シリーズ」の第1作で、「必殺仕置人」の前番組にあたり、第1作「必殺仕掛人」の原作は池波正太郎の「仕掛人・藤枝梅安」ですが、後番組の「必殺仕置人」の方は「必殺仕掛人」の枠組みだけ踏襲したTVオリジナルでした。「必殺仕掛人」は、当時のフジテレビの笹沢佐保原作の「木枯し紋次郎」(1972/01~05、1972/11~1973/03)の人気に押されていた朝日放送が対抗策として打ち出したもので、中村敦夫が撮影中の事故で一時離脱したタイミングを見計らい'72年9月に放送開始、放送時間も「紋次郎」の30分前の22時開始にするなどの策が練られました。因みに、緒形拳が演じた藤枝梅安は、当初は天知茂が想定されていたとのことです。

『必殺仕掛人 春雪仕掛針』.jpg必殺仕掛人 春雪仕掛針ges.jpg 映画「必殺仕掛人 春雪仕掛針」は、「必殺仕掛人」('73年/松竹、田宮二郎主演)、「必殺仕掛人 梅安蟻地獄」('73年/松竹、緒形拳主演)に続く「必殺仕掛人」シリーズ第3作(最終作)で、第1作と第2作の監督は松本清張原作の「黒の奔流」('72年/松竹)の渡邊祐介監督でした。第2作「梅安蟻地獄に続き、梅安=緒形拳、十五郎=林与一、半右衛門=山村聰のキャスティングで、仇役の盗賊の女棟梁役に岩下志麻を迎えていますが、このキャラクター造形は同じ池波正太郎の小説「鬼平犯科帳」の登場人物の「猿塚の千代」(「女賊」)をそのまま引いており、原作が池波正太郎であるには違いないですが、ただし、それらを融合させて映画オリジナルのストーリー構成となっています。
<あの頃映画> 必殺仕掛人 春雪仕掛針 [DVD]
必殺仕掛人 春雪仕掛針ku.jpg必殺仕掛人 春雪仕掛針s.jpg

[下]林与一・緒形拳/山村聰
必殺仕掛人 春雪仕掛針 緒形・林.jpg必殺仕掛人 春雪仕掛針 山村.jpg 岩下志麻演じる千代を堕落させる悪役・勝四郎を夏八木勲が演じていたりして、今観るとなかなかのキャスティング、林与一ばかりか、TV版では直接手を下すことがほとんどない仕掛人の元締め・音羽屋半右衛門役の山村聰も立ち回りをやるし、岩下志麻は「きつい女」役がもうすでに板についている感じでした。ただ、哀しい話ではあるのですが、今一つ哀しみが伝わってきにくいのは、千代が必殺仕掛人 春雪仕掛針HL.jpg梅安に「あんたが私を捨てなければ私は今頃...」と恨み節ばかり言っているせいもあるでしょうか(千代にとって梅安は"最初の男"だった)。梅「必殺仕掛人 春雪仕掛針」 3.jpg安は第1作と違って原作通り、かつて自分が結果的に自分の妹を殺してしまったことを自覚している作りになっているので、自分には所帯を持つ資格はないと思ったのではないでしょうか(と思ったら、「あの頃映画 松竹DVDコレクション」のキャッチに「私は人殺しですからね、人並みの夢を持っちゃいけねえ...」とあった)。それくらい梅役の心の闇は深く、ここにきてまた悪の世界に堕ちてしまった千代を...。シリーズで一番暗い作品かもしれませんが、この陰の深さは映画的には悪くないように思います。

代日芽子(徳田の一人娘・ユカ)/東千晃(徳田の家のお手伝いのユミエ)
25話)/黒真珠の美女 貞永.png25話)/黒真珠の美女 入浴.png「江戸川乱歩 美女シリーズ(第25話)/黒真珠の美女」●制作年:1985年●監督:貞永方久●プロデューサー:川田方寿/佐々木孟●脚本:山下六合雄●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「心理試験」●時間:92分●出演:天知茂/藤吉久美子/小野田真之/荒井注/岡江久美子/高橋昌也/久富惟晴/長塚京三/東千晃/代日芽子/貞永敏/堀之紀/伊藤克信/北町嘉朗/秋山武史●放送局:テレビ朝日●放送日:1985/08/03(評価:★★★☆)
  
必殺仕掛人 春雪仕掛針 p.jpg必殺仕掛人 春雪仕掛針1.jpg「必殺仕掛人 春雪仕掛針」●制作年:1974年●監督:貞永方久●製作:織田明●脚本:安倍徹郎●音楽:鏑木創●撮影:丸山恵司●原作:池波正太郎●時間:89分●「必殺仕掛人 春雪仕掛針」74.jpg出演:緒形拳/林与一/山村聰/岩下志麻/夏八木勲/高橋長英/竜崎勝/地井武男/高畑喜三/花澤徳衛/佐々木孝丸/村井国夫/ひろみどり/荒砂ゆき/相川圭子●公開:1974/02●配給:松竹(評価:★★★☆)

必殺仕掛人 春雪仕掛針 vhs.jpg


必殺仕掛人 テレビ1.jpg「必殺仕掛人」●監督:深作欣二(1)(2)(24)/三隅研次(3)(4)(9)(12)(21)(33)/大熊邦也(5)(8)(14)(16)(27)(30)、松本明(6)(7)(15)(19)(23)(32)/松野宏軌(10)(11)(13)(17)(20)(25)(28)/長谷和夫(18)(22)(26)(29)(31)/ほか●プロデューサー:山内必殺仕掛人 テレビ2.jpg久司(朝日放送)/仲川利久(朝日放送)/櫻井洋三(松竹)●脚本:池上金男(池宮彰一郎)(1)(4)(5)(28)/国弘威雄(國弘威雄)(2)(10)(11)(18)(25)(31)(33)/安倍徹郎(安部徹郎)(3)(8)(12)(20)(21)(28)/山田隆之(6)(7)(9)(13)(15)(19)(23)(32)/石堂淑朗(14)(27)/ほか●音楽:(オープニング)作曲:平尾昌晃「仕掛けて仕損じなし」●原作:池波正太郎『仕掛人・藤枝梅安』より●出演:緒形拳/林与一/山村聡/津坂匡章/太田博之/中村玉緒/松本留美/岡本健/ 野川由美子/(ナレーション(オープニング、エンディング))睦五郎(作: 早坂暁)●放映:1972/09~1973/04(全33回)●放送局:朝日放送


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「荒唐無稽小説」をシリーズの基調に沿って上手く改変したアレンジ力は評価できる。

9話)/赤いさそりの美女d.jpg 9話)/赤いさそりの美女t.png 9話)/赤いさそりの美女t2.png 妖虫 (江戸川乱歩文庫).jpg 目羅博士の不思議な犯罪.jpg
赤いさそりの美女~江戸川乱歩の「妖虫」 [DVD]」『妖虫 (江戸川乱歩文庫)』['15年]『江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪 (光文社文庫)』['04年]
9話)/赤いさそりの美女 21.jpg9話)赤いさそりの美女 宇都宮2.jpg 大宝映画夏の大作「燃える女」のヒロイン役を決めるためのコンテストの最終審査会にて、準女王に選ばれたのは相川珠子(野平ゆき)、そして女王として春川月子(三崎奈美)が選ばれた。このコンテストが出来レースだったことに不平を漏らす珠子と、その義理の姉となる桜井品子(永島瑛子)。そして、恋人役の男優・吉野圭一郎(永井秀和)が女王に王冠を戴冠させたその時、天井から照明器具が落ちてきた。間一髪、それを避けた二人だったが、これが、この後に起こる怪事件の前哨であることに気づいた者は誰もいなかった。やがて連続殺人が。街角にディスプレイされる春川月子と吉野圭一郎の死体。浴室で珠子に放たれる毒蠍。囚われの身となる品子。犯人は、明智探偵(天知茂)に変装して犯行を繰り返す―。

少年探偵江戸川乱歩全集〈31〉赤い妖虫
少年探偵江戸川乱歩全集〈31〉赤い妖虫.jpg 原作は、1933(昭和8)年12月から翌1934(昭和9)年10月まで雑誌「キング」に連載された長編「妖虫」で、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸9話)/赤いさそりの美女 31.jpg川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。探偵役は三笠竜介という老人ですが(作者は当時、明智小五郎に替わる新キャラクターを模索していたらしい)、当然のことながらドラマでは天知茂演じる明智小五郎に置き換えられています。この作品について、乱歩本人は「自註自解」として、「相変わらずの荒唐無稽小説だが、真犯人とその動機はちょっと珍しい着想であった」と述べています。

赤いさそりの美女ド.jpg 作者本人が「荒唐無稽小説」と言うくらいなので、どこまで映像化できるのかなという思いはありましたが、思った以上に原作を反映していたように思います。バラバラ死体風のマネキン、銀座街頭ショーウインドウへの死体陳列、犯人と明智探偵の変装合戦、密室からの脱出など、このシリーズにおけるドラマとしてのリアリティを何とか維持しつつ頑張っていたように思います。

赤いさそりの美女 博士1.jpg 原作と大きく違ったのは、蠍研究の世界的権威であったという匹田博士なる人物を登場させ、そこに犯人との愛憎劇を一枚咬ませていることで、原作は主犯格の者が手配の者を使っているのに対し、ドラマの方はこの二人の共犯になっていました。それと、原作では、珠子の家庭教師・殿村京子が次に教えることになった、珠子の学校の先輩の20歳になる美人ヴァイオリニスト・桜井品子が犯人の第三の標的になり、三笠竜介が何とか第三の殺人を起こさせまいとするものでしたが、ドラマでは、この桜井品子が珠子の義理の姉となっていて、彼女には犯人に狙われる理由があったことになっています。入浴中に狙われるのは野平ゆき(レイモン・ラディゲ原作「肉体の悪魔」('77年/日活))演じる珠子ですが、永島瑛子(清水一行原作「女教師」('77年/日活))演じる品子も危うい目に遭います(この部分は原作どおり)。

9話)/赤いさそりの美女 1.png 冒頭にミスコンの場面がありますが、原作では春川月子がミスジャパン、珠子がミストウキョウということで、同じミスコンで競ったわけではないようです。原作では、そうしたミスコンそのものは描かれていませんが、二人が競い合うミスコンをリアルタイムでやって、ドラマ映えするようにしたのでしょう。珠子が春川月子に代わって映画のヒロインに選ばれるのもドラマのオリジナル。また、珠子の家庭教師・殿村京子は原作では中年の醜女ということになっていて、ドラマではこれを美女である宇都宮雅代が演じており、ただし、原作とは異なるハンディを彼女に負わせています。

 ドラマのラストで、死亡したかと思われていた明智探偵が別人物に成りすまして登場するというこのシリーズのパターンをきっちり踏襲しているため、当然、老探偵・三笠竜介の原作とは異なっていますが、ドラマではさらに犯人同士の愛憎劇も織り込んでいるため、ラストも原作と違ったものになっています。この点は、単に追い詰められた犯人が自殺するという、パターナルな終わり方の原作を超えたかもしれません。

 原作に出てくる「蠍の着ぐるみ」と「一寸法師」はドラマでは出てきませんでしたが、まあ、出さなくて正解と言うか、出そうと思っても出せないだろなあと。永井秀和が映画スターの吉野圭一郎役で出ていますが、初夜で「蠍の呪いだ」なんて叫んだりして、殺されてやむなしといったキャラでした(この頃にはもうアイドル歌手ではなかったのか)。

 カップルが3組あったということでしょうか。登場人物が多く、また、犯人は変装でして犯行をするので、誰が誰だかという印象もありましたが、原作を読んでから観直してみると、「荒唐無稽小説」をシリーズの基調に沿って上手く改変していると言え、そのアレンジ力は大いに評価できるように思いました。

神山左門(天知茂.jpg大岡雪絵(宇津宮雅代.jpg 因みに、宇津宮雅代は、TBS・加藤剛主演のTVドラマ「大岡越前」の第1部('70年)で 初代「雪絵」(後の忠相の妻)役で第4話「慕情の人」から登場して、第6部('82年)まで雪絵役を演じ(敵によく捕まって人質になるが(笑)、小太刀の腕も確かで、悪人相手にひるむことはない)、その後を酒井和歌子に引き継いでいます(「雪絵」は、大岡越前.jpg加藤剛演じる「忠相」、高橋元太郎演じる「すっとびの辰三」、山口崇演じ大岡越前 天知茂.jpgる「徳川吉宗」らと並んで、全シリーズを通して登場した数少ないキャラクターであり、また、演者が交代しながら全シリーズ登場した唯一のキャラクターである)。また、天知茂も南町奉行与力「神山左門」(カミソリ左門)役で、このドラマシリーズの第1部から第3部('72-'73年)にレギュラー出演しています(祝言をあげたばかりの妻を盗賊に人質にとられ亡くしたため、悪に対する憎しみが人一倍強く、また、別人になりすまして敵方に潜入したり、常にニヒル感が漂う(笑)ところは「美女シリーズ」の明智小五郎と同じ)。

大岡越前t.jpg大岡越前1.jpg「大岡越前(1-15)」●監督:山内鉄也/内出好吉/佐々木康/工藤栄一ほか●製作総指揮:松下幸之助●製作:松下正治/丹羽正治/山下俊彦ほか●脚本:池上金男(池宮彰一郎)/稲垣俊/津田幸夫/加藤泰/宮川一郎/葉村彰子ほか●撮影:河原崎隆夫/平瀬静雄/萩屋信/平山善樹/脇治吉ほか●音楽:山下毅雄●出演:加藤剛/竹脇無我/片岡千惠藏/天知茂/山口崇/大坂志郎/土田早苗/高橋元太/大岡越前 忠相の父・大岡忠高 -2.jpg大岡越前 山口崇.jpg大岡越前 志村喬.jpg宇津宮雅代/夏八木勲/志村喬/北林早苗/松山英太郎/望月真理子/武原英子/酒井和歌子/平淑恵/森田健作/原田大二郎/西郷輝彦●放映:1970/03~1999/03(全402回)●放送局:TBS
天知茂(神山左門)・片岡千惠藏(忠相の父・大岡忠高)・高橋元太郎(すっとびの辰三) /山口崇(八代将軍・徳川吉宗)/志村喬(小石川養生所初代筆頭医師・海野呑舟)
 
山口崇 in「天下御免」(NHK・1971-72年)(主人公・平賀源内)/「クイズタイムショック」(テレビ朝日・2代目司会(1978-86年))/「御宿かわせみ」(NHK・シーズン1・2(1980-83年))(東吾の親友の定廻り同心・畝源三郎)/映画「記憶にございません!」(三谷幸喜監督・'19年/東宝)(啓介の恩師の元小学校教師・柳友一郎)
天下御免 山口崇.jpg クイズ タイムショック山口崇.jpg 御宿かわせみ 山口崇2.jpg 記憶にございません 山口崇4.jpg


9話)/赤いさそりの美女 野平1.png9話)/赤いさそりの美女 永島1.jpg9話)/赤いさそりの美女 宇都宮1.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第9話)/赤いさそりの美女」●制作年:1979年●監督:井上梅次●プロデューサ:中井義/植野晃弘/佐々木孟●脚本:井上梅次●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「妖虫」●時間:95分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/柏原貴/荒井注/宇津宮雅代/永島瑛子/永井秀和/入川保則/野平ゆき/速水亮/本郷直樹/堀之紀/北町嘉郎/高木次郎/増田順司●放送局:テレビ朝日●放送日:1979/06/09(評価:★★★☆)
永島瑛子(桜井品子)          野平ゆき(相川珠子)
赤いさそりの美女1図21.jpg 9話)/赤いさそりの美女 野平21.png
宇津宮雅代(殿村京子)
赤いさそりの美女11.jpg 9話)/赤いさそりの美女 宇都宮11.jpg 9話)/赤いさそりの美女 宇都宮21.jpg

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"エログロ"色の濃い3作を選んだバジリコ版。増村保造の映画化作品は「コレクター」風マザコン映画。
バジリコ 盲獣1.jpg盲獣 dvd.jpg盲獣poster.jpg 盲獣40.jpg
盲獣』(2016/01 バジリコ)「盲獣 [DVD]」「盲獣」ポスター 船越英二/緑魔子

 浅草歌劇の踊り子・水木蘭子は、ある日恋人の使いと偽る者に誘拐され、見知らぬ地下室へと連れ込まれる。薄暗い地下室には奇矯なオブジェが多数あり、それらは女性の身体の部位をかたどり、色彩は奇妙だが手触りは様々な素材を使った巧妙なもので、腕なら腕、唇なら唇とまとめて無数に並べられていた。その地下室の主は水木の前に度々現れていた「盲目の男」だった。生来の全盲である彼はその慰みとして「触覚」の世界を見い出し、父の莫大な遺産を使ってそれを満足させる芸術を造らせ続けているという。やがてこの触覚の世界に没頭し、彼と共にこの地下室で暮らすようになる蘭子。しかし、蘭子に飽いた男は、その本性を現し始める―。(「盲獣」)

 女性の体全体の美に執着する野崎三郎は、ある日友人の紹介で踊り子・お蝶に出会って、すっかりお蝶の身体の虜となり、共に暮らすようになる。そんなある日、お蝶が何かに怯えるように駆け落ちを提案する。不思議に思いつつも、野崎が以前行ったことのある人里離れた籾山ホテルへと身を寄せたが、沼でお蝶が姿を消してしまう。友人の植村喜八とともに、お蝶失踪の真実を探る野崎だが、何者かによって洞窟に閉じ込められてしまう。そして、犯人かと思っていた謎の男・進藤までが2人のいる洞窟に監禁される―。(「闇に蠢く」)

 探偵小説家の「私」は、偶然知り合った実業家夫人・小山田静子に助けを求められる。かつて捨てた男である、謎の探偵作家・大江春泥に脅迫されているそうだ。静子への下心と作風の異なる春泥への興味から、「私」は春泥を追うことになるが、行方を掴めぬ内に、春泥の脅迫通り、静子の夫・六郎が死体で発見される。しかし、そこには思いもよらない真相があった―。(「陰獣」)

 「盲獣」(1931(昭和6)年2月から翌1932(昭和7)年3月まで雑誌「朝日」に連載)、「闇に蠢く」(1926(大正15)年1月から11月まで雑誌「苦楽」に連載、その後中断し1927年に完結)、「陰獣」(1928(昭和3)年8月から10月まで雑誌「新青年」に連載)の3作を収めています。江戸川乱歩(1894-1965)の生誕120周年記念と言うより、没後50年を経て著作権が切れたために各社からその作品の刊行が盛んですが([Kindle版なども含め)、このバジリコ版はその中でも"エログロ"色の濃い3作を選りすぐったという感じでしょうか。

十字路・盲獣0_.jpg 「盲獣」は、作者自身は本作を失敗作としており、桃源社版の「江戸川乱歩全集」刊行の際、後半の一部を削除したほどです。推理的要素は殆ど無く、ただ男が猟奇的な殺人を繰り返していくばかりで(二度三度と繰り返し、最後は海女さんたちを纏めて殺害して犠牲者は計7名に)リアリティも何もなく、そこがまた一面において乱歩らしいところですが、やや突っ走りすぎて話が収まらなくなり、「全部男の空想でした」で終わってもおかしくないような内容でした。 『十字路・盲獣 (江戸川乱歩長編全集(20))』春陽堂書店 (1973)

陰獣~江戸川乱歩全集第3巻_.jpg 「闇に蠢く」の方が、カニバリズムなどがモチーフになってはいるものの、犯人推理の要素があり、その意外性が結構楽しめるかもしれません。「陰獣」は、更に凝った筋立てで、ラストは犯人が誰なのか曖昧にしてあります(但し、主人公にも読者にも誰が犯人か何となく分かるようにはなっている)。これらの作品にもエログロ的要素、更にはSM的要素までありますが、謎解きの要素もあって、「盲獣」ほど"異常さ"が前面に出てこない感じでしょうか。一方の「盲獣」も、純粋な猟奇小説に近いにしても、犯人があまりに易々と犯行を繰り返すため、却って軽すぎて、仕舞いには「笑っちゃう」といった印象も受けました(作者が自ら失敗作としたのも頷ける)。
陰獣~江戸川乱歩全集第3巻~ (光文社文庫)』[Kindle版]
(1. 踊る一寸法師/2. 毒草/3. 覆面の舞踏者/4. 灰神楽/5. 火星の運河/6. 五階の窓/7. モノグラム/8. お勢登場/9. 人でなしの恋/10. 鏡地獄/11. 木馬は廻る/12. 空中紳士/13. 陰獣/14. 芋虫)

 「陰獣」は加藤泰(1916-85)監督の「江戸川乱歩の陰獣」('77年/松竹)として映画化されているほか、何度かテレビドラマ化されています。一方、「盲獣」も、"映像化"するのは一見無理そうな作品ですが、「」('64年/大映)の増村保造増村保造.jpg1924-86)監督により「盲獣」('69年/大映)として映画されていて(増村保造は東京大学法学部卒業後、大映に入社。同大学文学部哲学科に再入学し、イタリアにも留学、フェデリコ・フェリーニやルキノ・ヴィスコンティらに学んだ)、出演は、「黒い十人の女」('61年)の船越英二(1923-2007)、「やさしいにっぽん人」('77年)の緑魔子(東映)、「静かなる決闘」('49年)の千石規子(東宝)です。この映画にはこの3人しか登場しませんが、船越英二がこんなマニアックな役を演じているのが何となくうれしい(?)。
増村保造
盲獣1.jpg 映画「盲獣」では、時代盲獣12.jpgが現代に置き換えられていて、誘拐される女性は原作では浅草歌劇の人気踊り子だったのが、映画では売れないファッションモデルから有名写真家のヌードモデルへ転身してその個展まで開かれるようになった女性(緑魔子)というように改変されています(彼盲獣09.jpg女が呼ぶ「按摩師」は「マッサージ師」(船越英二)になっているが、まあ、これは同じこと)。その彼女が攫(さら)われて連れてこられた地下室の、女性の身盲獣7.jpg体の部位をかたどったオブジェが林立する様が、映siroikyouhu3.jpg像的によく再現されていたように思います(アルフレッド・ヒッチコックの「白い恐怖」('45年/米)におけるサルバドール・ダリによるイメージセットを想起させる)。

盲獣10.jpg 映画では、盲目の男による誘拐は1度だけで、中盤までの展開は、監禁される側が監禁する側に対して憐れみを抱くようになるという点で、ウィリアム・ワイラー監督の「The Collector  .jpgコレクター」('65年/英・米)の影響を受けているように思いました。その後、男女が異常性愛に溺れていくのは江戸川 乱歩の原盲獣s.jpg作と同じですが、終盤にかけて、それまで息子である男のために"獲物"の調達と監禁に協力していた母親(千石規子)が、2人の関係が思いもよらず深いものとなったことを危惧してそこへ入り込んできたために三角関係の展開となり、その時点で原作とは別物になったように思いました(マザコン映画だったということか)。

盲獣vs一寸法師6.jpg 原作は、後に「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」('69年)の石井輝男(1924-2005)監督によって、その遺作「盲獣vs一寸法師」('04年/石井プロダクション=スローラーナー)の中でも一部映像化されていますが、先行例があったからこそ石井輝男監督も映像化に踏み切れたのではないでしょうか。でも、増村保造版に比べると石井輝男版セットなどは安っぽい印象を受け(意図したキッチュ感なのかもしれないが)、両者を見比べると、映画会社と独立プロダクションの差はあるにしても、改めて増村保造の映画作りへのこだわりを感じさせます。
石井輝男監督「盲獣vs一寸法師」('04年)
盲獣vs一寸法師 riri-.jpg石井輝男監督『盲獣VS一寸法師』.jpg 「盲獣vs一寸法師」は、リリー・フランキーが映画初出演にして主演を演じた作品ですが(彼はオーディションで選ばれた。オーディション落選組に「シン・ゴジラ」('16年/東宝)での主演が決まった長谷川博己がいた)、全部を観ていないので評価不可。増村保造監督の「盲獣」は、カルト的なポイントは加味しない評価で「星3つ」。カルト的要素を加点すれば「星3つ半」か或いは「星4つ」に近いといったところです。
    
白い素肌の美女 t.jpeg また、「盲獣」は、テレビ朝日の「江戸川乱歩 美女シリーズ(第21話)/白い素肌の美女」('83年)としてもテレビドラマ化されていますが、このシリーズは、天知茂演じる明智小五郎が事件の捜査に臨み、最後は変装して犯人を欺き、犯人の目の前で謎解きをするという推理仕立てがパターンであるため、それに合わせたストーリーになっています。前半のあらすじは、

白い素肌の美女 02.jpeg 助手の文代(高見知佳)と小林少年(小野田真之)に無理やりディスコに連れてこられた明智小五郎だったが、どうにも馴染めずその場を飛び出してしまう。その帰り道の公園で不自然に荷物を包み直している尼僧に目が止まる明智、よくみるとその荷物は人の前腕部を包んだものだった。明智に気づいた尼僧は、その場を立ち去る。明智がその後を追いかけると、寺に中から僧侶が出てきて、ここには自分しかおらず、尼僧がいる寺ではないと言う。多摩川の丸子橋付近で遊んでいる子供達の元にいくつもの風船に吊られた荷物が落ちてきて、それが紙に包まれた人の両脚であったため騒ぎになる。警察で、事件を担当する波越警部(荒井注)は、この猟奇的な事件を明智に相談する。一方の明智は、山野文化学院の院長・山野(田中明夫)の茶会に呼ばれ、山野の後妻・百合枝(叶和貴子)がなにかを明智に相談しようとした時、マッサージの宇佐美鉄心(中条きよし)がやってくる。彼女はそれをやり過ごし、一人娘の三千子(美池真理子)の行方を捜してほしいと明智に頼むが、後日、都心のデパートで人間の右手が発見され、指紋から三千子の右手と判明する―。

白い素肌の美女 01.jpg クレジットも原作は「盲獣」となっていますが、「一寸法師」からかなり引いています。まったくのオリジナル脚本にしてしまわないだけ良心的とも言えますが、かなり込み入った話になっています白い素肌の美女 kano.jpg。ただし、犯人は、最初に出てきた時から犯人らしい(笑)妖しい雰囲気なので、あとは犯行の謎解きを愉しんでくださいということかと思います(純粋推理的と言えなくもないが、そう言い切るにはややアンフェアか)。叶和貴子は、「パノラマ島奇譚」を原作とするシリーズ第17話「天国と地獄の美女」('82年)に続く2度目の「美女」役、明智の助手の文代と小林少年の役は、前の第20話からそれぞれ 五十嵐めぐみ → 高見知佳、柏原貴 → 小野田真之にバトンタッチしています。

白い素肌の美女00.jpg やはり、映画と比べると、犯人の「秘密の部屋」のセットがあまりにちゃちだったでしょうか(照明で隠している感じ)。「天国と地獄の美女」と比べても安上がりに仕上げた感じで(「天国と地獄の美女」の方がシリーズの中では特別だったのかもしれないが)、その分、ミステリの方にウェイトを置いたのでしょう。ただ、そのミステリの方も、ややパンチ不足だったように思いました。

白い素肌の美女 tt.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第21話)/白い素肌の美女」●制作年:1983年●監督:篠崎好●プロデューサー:佐々木孟●脚本:長谷和夫●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「盲獣」●時間:90分●出演:天知茂/高見知佳/小野田真之/荒井注/叶和貴子/美池真理子(池まり子)/五代高之/福田妙子/曽我町子/飯野けいと/喜田晋平/加藤土代子/桜川梅八/小田草之介/田中明夫/中条きよし●放送局:テレビ朝日●放送日:1983/04/16(評価:★★★)

   
  
音楽:林 光(1931-2012)
林光.jpg盲獣11.png盲獣090.jpg「盲獣」●制作年:1969年●監督:増村保造●脚本:白坂依志夫●撮影:小林節雄●音楽:林光●原作:江戸川乱歩「盲獣」●時間:84分●出演:船越英二緑魔盲獣16.jpgMôjû (1969) .jpg盲獣19.jpg千石規子●公開:1969/01●配給:大映(評価:★★★)

Môjû (1969)

船越英二 in「黒い十人の女」('61年/大映)/緑魔子 in「やさしいにっぽん人」('71年/東プロ)/千石規子 in「静かなる決闘」('49年/東宝)
黒い十人の女 03.jpg やさしいにっぽん人       .jpg 「静かなる決闘」 千石.jpg

盲獣・陰獣 (河出文庫)』['18年]
盲獣・陰獣 (河出文庫).jpg「盲獣」...【1973年文庫化[春陽文庫(『十字路・盲獣―江戸川乱歩長編全集(20)』)]/1988年再文庫化[春陽堂書店・江戸川乱歩文庫(『十字路―他一編(盲獣)』)]/1988年再文庫化[講談社江戸川乱歩推理文庫(『盲獣』)]/2005年再文庫化[光文社文庫(『江戸川乱歩全集 第5巻 押絵と旅する男』)]/2018年再文庫化[河出文庫(『盲獣・陰獣 』)]】
江戸川乱歩作品集Ⅱ 岩波文庫.jpg「闇に蠢く」...【1988年文庫化[春陽堂書店・江戸川乱歩文庫(『暗黒星―他一編(闇に蠢く)』)]/2004年再文庫化[光文社文庫(『江戸川乱歩全集 第2巻 パノラマ島綺譚』)]】
「陰獣」...【1977年文庫化[春陽文庫(『江戸川乱歩名作集〈1〉陰獣』)]「陰獣」春陽文庫.jpg/2005年再文庫化[光文社文庫(『江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣』)]/2008年再文庫化[角川ホラー文庫(『陰獣―江戸川乱歩ベストセレクション (4)』)]/2015年再文庫化[春陽堂書店・江戸川乱歩文庫(『陰獣 』)]/2018年再文庫化[岩波文庫(『江戸川乱歩作品集Ⅱ 陰獣・黒蜥蜴 他』)]/2018年再文庫化[河出文庫(『盲獣・陰獣』)]】
江戸川乱歩名作集〈1〉陰獣 (1977年) (春陽文庫)

江戸川乱歩作品集Ⅱ 陰獣・黒蜥蜴 他 (岩波文庫)』['18年]
要旨(「BOOK」データベースより)
犯行の謎に迫る探偵と意表を突く犯人。謎と推理をテーマとした代表作群。「陰獣」は緻密な構成とトリックにより日本探偵小説の新段階を告げた。「黒蜥蜴」は妖しく美しい女賊黒蜥蜴と明智小五郎探偵との対決と愛の葛藤を描く。幻のデビュー作「一枚の切符」、本格探偵小説「何者」、戦後の好短篇「断崖」を収録。

《読書MEMO》
● 桂 千穂 『カルトムービー本当に面白い日本映画 1945→1980』['13年/メディアックス]
IMG_8盲獣.JPG

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丸尾作品に特徴的なウエット感が無く、スコーンと突き抜けている感じ。

パノラマ島奇談 丸尾末広.jpg  パノラマ島綺譚 光文社文庫.jpg パノラマ島奇談他4編 春陽文庫.jpg 天国と地獄の美女.jpg
パノラマ島綺譚―江戸川乱歩全集〈第2巻〉 (光文社文庫)』['04年]『パノラマ島奇談 (1951年) (春陽文庫〈第1068〉)』(装画:高塚省吾)
パノラマ島綺譚 (BEAM COMIX)』['08年]「天国と地獄の美女~江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」~ [DVD]

 2009(平成21)年・第13回「手塚治虫文化賞新生賞」受賞作。

江戸川乱歩×丸尾末広の世界 パノラマ島綺譚.jpg 「月刊コミックビーム」の2007(平成19)年7月号から翌年の1月号にかけて連載された作品に加筆修正したもの。「エスプ長井勝一漫画美術館主催事業」として、「江戸川乱歩×丸尾末広の世界 パノラマ島綺譚」展が今年(2011年)3月に宮城県塩竈市の「ふれあいエスプ塩竈」(生涯学習センター内)で開催されており(長井勝一氏は「月刊漫画ガロ」の初代編集長)、3月12日に丸尾氏のトークショーが予定されていましたが、前日に東日本大震災があり中止になっています。主催者側は残念だったと思いますが、原画が無事だったことが主催者側にとってもファンにとっても救いだったでしょうか。

 原作は、江戸川乱歩が「新青年」の1926(大正15)年10月号から1927(昭和2)年4月号にかけて5回にわたり連載した小説で、売れない小説家だった男が、自分と瓜二つの死んだ大富豪に成り替わることで巨万の富を得て、孤島に人工の桃源郷を築くというものです。

 光文社文庫版にある乱歩の自作解説(昭和36年・37年)によると、発表当初はあまり好評ではなく、それは「余りに独りよがりな夢に過ぎたからであろう」とし、「小説の大部分を占めるパノラマ島の描写が退屈がられたようである」ともしていますが、一方で、萩原朔太郎にこの作品を褒められ、そのことにより、対外的にも自信を持つようになったとも述べています。

江戸川乱歩名作集 春陽堂.jpg『江戸川乱歩名作集』.jpg 個人的には、昔、春陽堂の春陽文庫で読んだのが初読でしたが、ラストの"花火"にはやや唖然とさせられた印象があります。原作者自身でさえ"絵空事"のキライがあると捉えているものを、漫画として視覚的に再現した丸尾末広の果敢な挑戦はそれ自体評価に値し、また、その出来栄えもなかなかのものではないかと思われました。

 前半部分は、原作通り、主人公がいかにして死んだ大富豪に成り替わるかに重点が置かれ、このトリック自体もかなり無理がありそうなのですが、視覚化されると一応納得して読み進んでしまうものだなあと。

丸尾 末広 (原作:江戸川 乱歩) 『パノラマ島綺譚』1.jpg 但し、本当に描きたかったのは、後半のパノラマ島の描写だったのでしょう。海中にある「上下左右とも海底を見通すことのできる、ガラス張りのトンネル」などは、実際に最近の水族館などでは見られるようになっていますが、その島で行われていることは、一般的観念から見れば大いに猟奇変態的なものです。

 しかしながら、丸尾末広の他の作品との比較においてみると、独特の猥雑さが抑えられ、ロマネスク風の美意識が前面に押し出されているように思いました("妻"の遺体があるところが明智小五郎にバレるところなどは、原作の方が気持ち悪い。丸尾版では、明智小五郎が"ベックリンの絵"なる意匠概念を持ち出すなどして、ソフィストケイトされている)。
丸尾 末広 (原作:江戸川 乱歩) 『パノラマ島綺譚』12.jpg
 でも、やはり、ここまでよく描いたなあ。乱歩が夢想した世界に寄り添いながらも、それでいて、丸尾パワー全開といった感じでしょうか。但し、丸尾作品に特徴的なウエット感が無く、逆に、スコーンと突き抜けてしまっています。個人的には、これはこれで楽しめました。

 光文社文庫版にある江戸川乱歩の自作解説によると、原作は、昭和32年に菊田一夫がこれをミュージカル・コメディに書き換えて、榎本健一、トニー谷、有島一郎、三木のり平、宮城まり子、水谷良重などの出演で、当時の東宝劇場で上演したとのことです。一体、どんな舞台だったのでしょうか。


天国と地獄の美女 江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」 [DVD]
天国と地獄の美女 江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」.jpg 1977(昭和52)年から1994(平成6)年までテレビ朝日系「土曜ワイド劇場」で17年間33回にわたり放送されたテレビドラマシリーズ「江戸川乱歩 美女シリーズ」(内、天知茂版が1977年から1985(昭和60)年までの25回)の中で、第17話として1982(昭和57)年にジェームス三木の脚色によりドラマ化され江戸川乱歩 美女シリーズ 天国と地獄の美女01.jpgたことがあり(タイトルは「天国と地獄の美女」)、正月(1月2日)に3時間の拡大版(正味142分)で放映されています。明智小五郎役は天知茂、パノラマ島を造成する人見広介役は伊東四朗で(山林王・菰田源三郎と二役)、菰田千代江戸川乱歩 美女シリーズ 天国と地獄の美女02.jpg子(源三郎の妻)役が叶和貴子(当時25歳)、その他に小池朝雄、宮下順子、水野久美らがゲスト出演しています。パノラマ島64 天国と地獄の美女.png自体は再現し切れていないというのがもっぱらの評価で、実際観てみると、特撮も駆使しているものの、ジャングルとか火山とかの造型が妙に手作り感に溢れています(特撮と言うより"遠近法"?)。ただ、逆にこの温泉地の地獄巡り乃至"秘宝館"的キッチュ感が後にカルト的な話題になり、シリーズの中で最高傑作に推す人もいます(叶和貴子は第21話「白い素肌の美女」(原作『盲獣』(実質的には『一寸法師』)('83年)、北大路欣也版第3話「赤い乗馬服の美女」(原作『何者』)('87年)でも"美女役"を務めた)。
図1天国と地獄の美女.png
天国と地獄の美女 叶.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第17話)/天国と地獄の美女」●制作年:1982年●監督:井上梅次●プロデューサ:佐々木天国と地獄の美女95_.jpg孟/植野晃弘/稲垣健司●脚本:ジェームス三木●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「パノラマ島奇譚」●時間:142 分●出演:天知茂/叶和貴子/伊東四朗/荒井注/五十嵐めぐみ/小池朝雄/宮下順子/水野久美/柏原貴/原泉/東山明美/草薙幸二郎/北町嘉朗/松本朝夫/出光元/加瀬慎一/相原睦/渡辺憲悟/本田みちこ/喜多晋平/山本幸栄/小田草之介/加島潤/近藤玲子バレエ団●放送局:テレビ朝日●放送日:1982/01/02(評価:★★★☆)


江戸川乱歩 美女シリーズ3.jpg江戸川乱歩 美女シリーズ2.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(天知茂版)」●監督:井上梅次(第1作-第19作)/村川透/長谷和夫/貞永方久/永野靖忠●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎/井上梅次/長谷川公之/ジェームス三木/櫻井康裕/成沢昌茂/吉田剛/篠崎好/江連卓/池田雄一/山下六合雄●撮影:平瀬静雄●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩●出演:天知茂/五十嵐めぐみ(第1作-第19作)/高見知佳(第20作-第23作)/藤吉久美子(第24作・第25作)/大和田獏(第1作)/柏原貴(第6作-第19作)/小野田真之(第20作-第25作)/稲垣昭三(第1作)/北町嘉朗(第1作・第4作-第9作)/宮口二郎(第2作・第3作)/荒井注(第2作-第25作)●放映:1977/08~1985/08(天知茂版25回)【1986/07~1990/04(北大路欣也版6回)、1992/07~1994/01(西郷輝彦版2回)】●放送局:テレビ朝日


江戸川乱歩作品集III パノラマ島奇談・偉大なる夢 他.jpgパノラマ島綺譚 江戸川乱歩ベストセレクション (6).jpg【1951年文庫化[春陽文庫(『パノラマ島奇談 他4編―江戸川乱歩名作集2』)]/1987年再文庫化・2015年改版[春陽堂書店・江戸川乱歩文庫(『パノラマ島奇談 他4編』)]/1987年再文庫化[講談社・江戸川乱歩推理文庫(『パノラマ島奇談』)]/2004年再文庫化[光文社文庫(『パノラマ島綺譚―江戸川乱歩全集第2巻』)]/2009年再文庫化[角川ホラー文庫(『パノラマ島綺譚―江戸川乱歩ベストセレクション (6)』)]/2016年再文庫化[文春文庫(桜庭 一樹 (編)「パノラマ島綺譚」--『江戸川乱歩傑作選 獣』)]/2018年再文庫化[岩波文庫(『江戸川乱歩作品集III パノラマ島奇談・偉大なる夢 他』)]】
パノラマ島綺譚 江戸川乱歩ベストセレクション (6) (角川ホラー文庫)』['09年]
江戸川乱歩作品集III パノラマ島奇談・偉大なる夢 他 (岩波文庫)』['18年]


●「江戸川乱歩の美女シリーズ」(全33話)放映ラインアップ
(天知茂版)

話数 放送日 サブタイトル 原作 美女役 視聴率
江戸川乱歩シリーズ 浴室の美女.jpg1 1977年8月20日 氷柱の美女 『吸血鬼』 三ツ矢歌子 12.6%
2 1978年1月7日 浴室の美女 『魔術師』 夏樹陽子 20.7%
3 1978年4月8日 死刑台の美女 『悪魔の紋章』 松原智恵子 15.6%
4 1978年7月8日 白い人魚の美女 『緑衣の鬼』 夏純子 14.5%
5 1978年10月14日 黒水仙の美女 『暗黒星』 ジュディ・オング 15.3%
6 1978年12月30日 妖精の美女 『黄金仮面』 由美かおる 14.0%
7 1979年1月6日 宝石の美女 『白髪鬼』 金沢碧 13.0%
8 1979年4月14日 悪魔のような美女 『黒蜥蜴』 小川真由美 15.4%
9 1979年6月9日 赤いさそりの美女 『妖虫』 宇津宮雅代 16.9%
10 1979年11月3日 大時計の美女 『幽霊塔』 結城しのぶ 23.4%
岡田奈々の「魅せられた美女」.jpg11 1980年4月12日 桜の国の美女 『黄金仮面II』 古手川祐子 15.9%
12 1980年10月4日 エマニエルの美女 『化人幻戯』 夏樹陽子 19.5%
13 1980年11月1日 魅せられた美女 『十字路』 岡田奈々 20.0%
14 1981年1月10日 五重塔の美女 『幽鬼の塔』 片平なぎさ 21.6%
15 1981年4月4日 鏡地獄の美女 『影男』 金沢碧 19.7%
16 1981年10月3日 白い乳房の美女 『地獄の道化師』 片桐夕子 20.1%
17 1982年1月2日 天国と地獄の美女 『パノラマ島奇談』 叶和貴子 16.6%
18 1982年4月3日 化粧台の美女 『蜘蛛男』 萩尾みどり 17.6%
19 1982年10月23日 湖底の美女 『湖畔亭事件』 松原千明 16.0%
20 1983年1月1日 天使と悪魔の美女 『白昼夢』(『猟奇の果て』) 高田美和 12.6%
江戸川乱歩シリーズ 禁断の実の美女.jpg21 1983年4月16日 白い素肌の美女 『盲獣』(『一寸法師』) 叶和貴子 13.3%
22 1984年1月7日 禁断の実の美女 『人間椅子』 萬田久子 18.9%
23 1984年11月10日 炎の中の美女 『三角館の恐怖』 早乙女愛 22.4%
24 1985年3月9日 妖しい傷あとの美女 『陰獣』 佳那晃子 24.7%
25 1985年8月3日 黒真珠の美女 『心理試験』 岡江久美子 26.3%
(北大路欣也版)
1 (26) 1986年7月5日 妖しいメロディの美女 『仮面の恐怖王』 夏樹陽子 19.9%
2 (27) 1987年1月10日 黒い仮面の美女 『凶器』 白都真理 17.0%
3 (28) 1987年8月15日 赤い乗馬服の美女 『何者』 叶和貴子 17.9%
4 (29) 1988年5月14日 日時計館の美女 『屋根裏の散歩者』 真野響子 16.4%
5 (30) 1989年8月26日 神戸六甲まぼろしの美女 『押絵と旅する男』 南條玲子
6 (31) 1990年4月14日 妖しい稲妻の美女 『魔術師』 佳那晃子 15.8%
(西郷輝彦版)
1 (32) 1992年7月4日 からくり人形の美女 『吸血鬼』 美保純 15.5%
2 (33) 1994年1月8日 みだらな喪服の美女 『白髪鬼』 杉本彩 13.4%

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平沢無罪説を先駆的に展開。GHQの関与については"隔靴掻痒の感"は否めないが。
小説帝銀事件.jpg 松本 清張 『小説 帝銀事件』.jpg 小説 帝銀事件.jpg  悪魔が来りて笛を吹く 1979 ちらし.jpg 犬神家の一族 角川映画 THE BEST [DVD].jpg
小説帝銀事件 (1959年)』/角川文庫/『小説帝銀事件 (角川文庫)』/「悪魔が来りて笛を吹く【DVD】」「犬神家の一族 角川映画 THE BEST [DVD]
昭和23年9月28日毎日新聞
帝銀事件02.jpg帝銀事件.jpg '59(昭和34)年に雑誌「文藝春秋」に発表された松本清張の「昭和史発掘シリーズ」に先立つ昭和の事件モノで、「昭和史発掘シリーズ」の中でも'48(昭和23)年という占領時代に起きたこの「帝銀事件」は取り上げられていますが、「小説」と頭に付くのは、捜査に疑念を抱いた新聞社の論説委員の視点からこれを描いているのと、事件の部分がセミドキュメンタリータッチで再現されているためでしょうか。

 12人が死亡した凶悪事件と平沢貞通画伯が犯人に祭り上げられていく過程もさることながら、個人的には本書によって初めて、関東軍細菌戦部隊(731部隊)の生き残り関係者の事件への関与が疑われること、彼らはGHQの保護下にあったことなどを知り、そっちの方の衝撃も大きかったです。

 731部隊がいかに残虐の限りを尽くしたか、また、その戦犯行為の当事者らが人体実験を含む研究データを渡す代わりに戦争犯罪に問われないと言う約束をGHQに取り付け免責されたという事実については、森村誠一氏の『悪魔の飽食―「関東軍細菌戦部隊」恐怖の全貌!長編ドキュメント』('81年/カッパノベルズ)があるし(この本は後に記述や写真の誤謬を多く指摘された)、太田昌克氏の『731 免責の系譜―細菌戦部隊と秘蔵のファイル』('99年/日本評論社)青木富貴子氏の『731-石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』('05年/新潮社)では "免責問題"をより深く追及していますが、「小説帝銀事件」の発表は『悪魔の飽食』と比べても、それより20年以上早いことになります。

 いま読み直してみると、最初に挙がった何人かの容疑者の中に平沢の名前があり、一旦それが消えて軍関係者へ嫌疑が向けられるも、そちら方面の捜査が打ち切られて再び平沢の名が浮上したという経緯や、面通しの結果誰も平沢を犯人だとする人がいなかったこと、彼の病的な虚言癖などについては細かく書かれている一方で、GHQの関与については"隔靴掻痒の感"は否めず、このことは、平沢は無実の罪に問われたということが公然の事実のようになっている今と違い(歴代の法務大臣が誰も死刑執行のハンコを押さなかったわけだし)、「事件は解決済み」とする風潮がまだ根強かった当時としては、米軍から情報を得られない限りは、平沢を犯人とする根拠の脆弱さに的を絞って、そこから平沢無実説を導き出すことを主眼とするしかなかったためと思われます。

帝銀事件0.JPG帝銀事件01.jpg平沢貞通.bmp 平沢が疑われることになった原因の1つに、所持金の出処の曖昧さの問題がありましたが、「春画を描いたと自分の口から白状すれば、彼の画家的な生命は消滅するのである」とし、「肉体的な死刑よりも、芸術的生命の処刑を重しとした」と、その精神的内面まで踏み込んで"推理"している点も作家らしく、またこれも、タイトルに「小説」と付くことの所以の1つであると思います。    

事件発生直後の現場の様子/犯人の行動を再現させられる平沢(ともにWikipediaより) 平沢貞通(1892-1987/享年95)

仲谷昇(平沢貞通)/田中邦衛(平沢を犯人と決めつけてしまった古志田警部補)
帝銀事件 ドラマ 1.jpg帝銀事件 ドラマ 3.jpg帝銀事件 ドラマ 2.jpg 松本清張のこの作品は1980(昭和55)年に1度だけドラマ化されていて、ドラママタイトルは「帝銀事件 大量殺人 獄中三十二年の死刑囚」、監督は森崎東、脚本は新藤兼人、主演は仲谷昇、共演は田中邦衛・橋本功などです。テレビ帝銀事件・大量殺人獄中32年の死刑囚.jpg朝日の「土曜ワイド劇場」枠で放映されました。平沢(仲谷昇)を犯人と決めつけてしまった古志田警部補(田中邦衛)に焦点を当て、平沢に対する拷問に近い取り調べなどが描かれており、第17回ギャラクシー賞(月間賞)を受賞するなどしています。結局、「GHQのことなど何も知らなかった」と後に嘯く警部補も、利用された人間だったということでしょう。誰による犯行かについては、冒頭に犯人が犯「帝銀事件:タイトル2.jpg行に及ぶ場面がかなりの間尺であり、その間常に犯人の背中や手元・足元だけを映し顔を殆ど映していませんが、犯人が犯行後に現場付近で待機していたと思われる軍用ジープで現場を立ち去る場面などがあり、最初からGHQ関係者の犯行であることを強く匂わせる作りとなっています。

「帝銀事件 大量殺人 獄中三十二年の死刑囚」●制作年:1980年●監督:森崎東(監修:野村芳太郎)●脚本:新藤兼人●撮影:小杉正雄●音楽:佐藤勝●原作:松本清張「小説帝銀事件」「日本の黒い霧」●出演:仲谷昇/田中邦衛/橋本功/中谷一郎/小松方正/戸浦六宏/木村理恵/大塚道子/浜田寅彦/稲葉義男/暮林修/ジェリー・ククルスキー●放送局:テレビ朝日●放送日:1980/01/26(評価:★★★★)
 
 
 因みに、横溝正史の『悪魔が来りて笛を吹く』(雑誌「宝石」1951年11月号 - 1953年11月号に発表)は、この帝銀事件をモチーフに書かれたと言われています(作中では「天銀堂事件」となっており、ストーリーは事件の後日譚となっている)。悪魔が来りて笛を吹く 1979.jpg原作は読んでいませんが、西田敏行が金田一耕助を演じた映画「悪魔が来りて笛を吹く」('79年/東映)を観ました(角川春樹製作、監督は「太陽にほえろ」「俺たちの旅」などのTVシリーズを手掛けた斎藤光正)。青酸カリも事件に絡んで出てきますが、メインのモチーフは近親相姦と言えるでしょうか。謎解きの部分で複雑な家系図が出てきますが、映画ではそれが分かりにくいのが難でした(「読んでから観る」タイプの映画だったかも)。歴悪魔が来りて笛を吹く 1979.jpg代の横溝正史原作の映画化作品の中ではまあまあの評価のようですが、そのわりには西田敏行が金田一耕助を演じたのはこの1回きりでした。まあ、映画で金田一耕助を1度演じただけという俳優は、西田敏行以前には池部良、高倉健、中尾彬、渥美清などがいて、西田敏行以降も古谷一行、鹿賀丈史、豊川悦司などがいるわけですが...(石坂浩二と並んで金田一耕助役のイメージが強い古谷一行は映画では1度きりだが、MBSテレビの「横溝正史シリーズ」('77-'78年)、TBSの「名探偵・金田一耕助シリーズ」('83-'05年)でそれぞれ金田一耕助役を演じている)。

犬神家の一族 (1976年)1.jpg犬神家の一族 (1976年)2.jpg 金田一耕助ものの映画化作品でやはりまず最初に思い浮かぶのは、東宝の市川崑監督・石坂浩二主演の金田一耕助シリーズ(「犬神家の一族」('76年)、「悪魔の手毬唄」('77年)、「獄門島」('77年)、「女王蜂」('78年)、「病院坂の首縊りの家」('79年))ではないでしょうか。特に、角川映画第1作として作られた「犬神家の一族」('76年)(配給会社は東宝、共演は島田陽子坂口良子など)は、かつて片岡千恵蔵の金田一耕助シリーズ(「獄門島」('49年)など)で千恵蔵がスーツ姿だったりしたのが、金田一耕助を初めて原作通りの着物姿で登場させた映画であり(結局、西田敏行版「悪魔が来りて笛を吹く」などもその路線をなぞっていることになる)、原作の複雑な人物関係も分かりやすく表されていて、細部では原作と改変されている部分も少なからずあるものの、エンタテインメントとしてよく出来ていたように思います。30年後の2006年に同じ監督・主演コンビでリメイクされ(原作からの改変部分まで旧作を踏襲している)、石坂浩二(金田一)のほかに、大滝秀治(神官)、加藤武(署長)が旧作と同じ役で出演していますが、00年代としては犬神家の一族」(2006ード.jpg犬神家の一族 (2006年 松嶋.jpg犬神家の一族 (2006年 富司.jpg豪華キャストであるものの、それでも旧作と比べると役者の豪華さ・熟達度で及ばないように思いました。犬神家の三姉妹は旧作の高峰三枝子、三條美紀、草笛光子に対して、新作が富司純子、松坂慶子、 萬田久子でそれなりに錚々たるものでしたが、何となく違うなあと思いました。富司純子も大女優ですが、高峰三枝子が長年役柄を通して培ってきた"毒気"のようなものが無いように思われました。ヒロイン役の島田陽子と松嶋菜々子を比べても、松嶋菜々子って何か運命的なものを負っている将軍 SHŌGUN0.jpgという印象が島田陽子に比べ弱いなあと(ただ、島田陽子も米テレビドラマ「将軍 SHŌGUN」('80年)に出てダメになった。ジェームズ・クラベルのベストセラー小説を原作に、アメリカで12時間ドラマとしてTV放映したものを劇場用にまとめたものを観たが、日本人の描き方がかなりヘンだ。どうしてこんな作品に三船敏郎はじめ日本の俳優は臆面もなく出るのか。ただし、島田陽子はこの作品で日本人女性初のゴールデングローブ賞を受賞している)。
島田陽子 in「将軍 SHŌGUN」

 「小説 帝銀事件」から始まって、映画「悪魔が来りて笛を吹く」を経て、映画「犬神家の一族」の新旧比較になってしまいました。

「犬神家の一族」(1976)
「犬神家の一族」1976.jpg
「犬神家の一族」(1999)
「犬神家の一族」1999.jpg
「犬神家の一族」新旧キャスト.gif
 
 
 

悪魔が来りて笛を吹く 1979 ポスター.jpg悪魔が来りて笛を吹く 1979 vhs.jpg「悪魔が来りて笛を吹く」●制作年:1979年●監督:斎藤光正●製作:角川春樹●脚本:野上龍雄 ●撮影:伊佐山巌●音楽:山本邦山/今井裕●原作:横溝正史●時間:136分●出演:西田敏行/夏木勲(夏八木勲)/仲谷昇/鰐淵晴子/斎藤とも子/村松英子/石浜朗/小沢栄太郎/池波志乃/原知佐子/山本麟一/宮内淳/二木てるみ0「悪魔が来りて笛を吹く」.jpg/梅宮辰夫/浜木綿子/北林早苗/中村玉緒/加藤嘉/京悪魔が来りて笛を吹く jidojpeg.jpeg慈道...加藤嘉.jpg唄子/村田知栄子/藤巻潤/三谷昇/熱田一久/住吉道博/村田知栄子/藤巻潤/三谷昇/金子信雄/中村雅俊/秋野太作/横溝正史/角川春樹●公開:1979/01●配給:東映(評価:★★☆)

西田敏行(32歳)/斉藤とも子(18歳)/鰐淵晴子(34歳)/原知佐子(43歳)/小沢栄太郎(70歳)
悪魔が来りて笛を吹く...西田敏行(32).jpg 悪魔が来りて笛を吹く...斉藤とも子(18).jpg 悪魔が来りて笛を吹く...鰐淵晴子(34).jpg 悪魔が来りて笛を吹く...原知佐子(43).jpg 悪魔が来りて笛を吹く...小沢栄太郎.jpg
「「悪魔が来りて笛を吹く」夏木.2jpg.jpg夏木勲(夏八木勲)(39歳)等々力警部

梅宮辰夫(40歳)「俺はな、金田一耕助というのは明智小五郎より名探偵だと思ってるんだ」(風間俊六)
「悪魔が来りて笛を吹く」梅宮1.jpg

池袋東映-2.jpg●最初に観た場所:池袋東映 (79-01-13)


池袋東映 池袋東口2分60階通り(地下に池袋名画座) 1985年頃閉館 

0池袋東映.jpg 1982年8月 舛田利雄監督・丹波哲郎主演「大日本帝国」公開時
         
犬神家の一族 (1976年)0.jpg「犬神家の一族」●制作年:1976年●監督:市川崑●製作:市川犬神家の一族 poster.jpg坂浩犬神家の一族 女優.jpg喜一●脚本:市川崑/日高真也/長田紀生●撮影:長谷川清●音楽:大野雄二●原作:横溝正史●時間:146分●出演:石坂浩二/島田陽子/あおい輝彦/川口恒/川口晶/坂口良子/地井武男/三条美紀/原泉/草笛光犬神家の一族 (1976年)00.jpg子/大滝秀治/岸田今日子/加藤武/小林昭二/三谷昇/三木のり平/高峰三枝子/小沢栄太郎/三國連太郎●公開:1976/11●配給:東宝(評価:★★★☆)

犬神家の一族(2006) [DVD]」「犬神家の一族」(2006年)市川崑監督とキャストら(2006.10 東京国際映画祭)
犬神家の一族 (2006年 DVD.jpg犬神家の一族 2006.jpg「犬神家の一族」●制作年:2006年●監督:市川崑●製作:市川喜一●脚本:市川崑/日高真也/長田紀生●撮影:五十畑幸勇●音楽:谷川賢作/大野雄二(テーマ曲)●原作:横溝正史●時間:134分●出演:石坂浩二/松嶋菜々子/尾上菊之助/富司純子/松坂慶子/萬田久子/池内万作/奥菜恵/岸部一徳/深田恭子/三條美紀/草笛光子/大滝秀治/加藤武/中村敦夫/仲代達矢●公開:200「犬神家の一族」matuzaka.jpg犬神家の一族 (2006年  大滝秀治.jpg犬神家の一族 (2006年 仲代.jpg6/12●配給:東宝(評価:★★★)
松坂慶子(次女・犬神竹子)/大滝秀治(神官・大山泰輔)/仲代達矢(犬神佐兵衛)

 
 
 
 

将軍 SHŌGUN p.jpg将軍 SHŌGUN1.jpg将軍 SHŌGUN2.jpg「将軍 SHŌGUN」●原題:SHŌGUN●制作年:1980年●制作国:アメリカ●監督:ジェリー・ロンドン●製作プロデューサーベル/ケリー・フェルザーン●脚本:エリック・バーコビッチ●撮影:アンドリュー・ラズロ●音楽:モーリス・ジャール●原作:ジェームズ・クラベル●時間:121分(TV版全5話・547分)●出演:リチャード・チェンバレ将軍 shogun 島田.jpg/ベン・チャップマン/ジェームズ・クラ将軍 SHŌGUN31.jpgン/三船敏郎/島田陽子/フランキー堺/目黒祐樹/金子信雄/ダミアン・トーマス/ジョン・リス=デイビス/安部徹/高松英郎/宮口精二/夏木陽介/岡田真澄/宅麻伸/山本麟一/(ナレーション)オーソン・ウェルズ●日本公開:1980/11●配給:東宝●最初に観た場所:飯田橋・佳作座 (81-01-24)(評価:★☆)●併映:「二百三高地」(舛田利雄)
将軍 SHŌGUN vhs.jpg


【1961年文庫化・2009年新装版[角川文庫]/1980年再文庫化[講談社文庫]】

 
《読書MEMO》
神保町シアター「没後40年 横溝正史 銀幕の金田一耕助」特集(2021年6月5日~25日)ライアンアップ
銀幕の金田一耕助.jpg1.『三つ首塔』 昭和31年 白黒 監督:小林恒夫、小沢茂弘 出演:片岡千恵蔵、高千穂ひづる、三条雅也、中原ひとみ、南原伸二
2.『悪魔の手毬唄』 昭和36年 白黒 監督:渡辺邦男 出演:高倉健、北原しげみ、小野透、永田靖、大村文武
3.『本陣殺人事件』 昭和50年 カラー 監督:高林陽一 出演:中尾彬、田村高広、村松英子、東野孝彦、常田富士男
4.『犬神家の一族』 昭和51年 カラー 監督:市川崑 出演:石坂浩二、高峰三枝子、三条美紀、草笛光子、あおい輝彦
5.『悪魔の手毬唄』 昭和52年 カラー 監督:市川崑 出演:石坂浩二、岸恵子、若山富三郎、加藤武、草笛光子
6.『獄門島』 昭和52年 カラー 監督:市川崑 出演:石坂浩二、司葉子、大原麗子、草笛光子、太地喜和子
7.『八つ墓村』 昭和52年 カラー 監督:野村芳太郎 出演:渥美清、萩原健一、山崎努、小川真由美、山本陽子
8.『女王蜂』 昭和53年 カラー 監督:市川崑 出演:石坂浩二、岸恵子、司葉子、高峰三枝子、仲代達矢
9.『悪魔が来りて笛を吹く』 昭和54年 カラー 監督:斎藤光正 出演:西田敏行、夏八木勲、鰐淵晴子、斉藤とも子、仲谷昇

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