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ヴェンダース生涯の傑作か。主人公を「悟りきった哲人」にしていないところがいい。

PERFECT DAYS00.jpg
「PERFECT DAYS」役所広司

PERFECT DAYS01.jpg 東京スカイツリー近くの古アパートで独り暮らす中年の寡黙な清掃作業員・平山(役所広司)は、毎朝薄暗いうちに起き、台所で顔を洗い、ワゴン車を運転して仕事場へ向かう。行き先は渋谷区内の公衆トイレ。それらを次々と回り、隅々まで手際よく磨き上げてゆく。一緒に働く清掃員タカPERFECT DAYS02.jpgシ(柄本時生)はどうせすぐ汚れるからと作業は適当にこなし、通っているガールズ・バーのアヤ(アオイヤマダ)と深い仲になりたいが金が無いとぼやいてばかりいる。平山は意に介さず、ただ一心に自分の持ち場を磨き上げる。誰からも見て見ぬふりをされるような仕事だが、平山はそれも気にせず仕事を続け、仕事中は殆ど言葉を発しない。それでも平山は日々の楽しみを数多く持っている。例えば、移動中の車で聴く古いカセットテープ。パティ・スミス、ルー・リード、キンクス、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとどれも少し前の音楽だ。PERFECT DAYs 2.jpg休憩時に神社の境内の隅に座りささやかな昼食をとる時は、境内の樹々を見上げる。木洩れ日を見て笑みを浮かべ、一時代前の小型フィルムカメラでモノクロ写真を撮る。街のPERFECT DAYS田中.jpg人々は平山をまったく無視して行き交うが、時折ホームレス風の老人(田中泯)が、平山と目を合わせてくれる。仕事が終わると近くの銭湯で身体を洗い、浅草地下商店街の定食屋で安い食事をする。休日には行きつけの小さな居酒屋で、客にせがまれて歌う女将(石川さゆり)の声に耳を傾けることもある。家に帰ると、四畳半の部屋で眠くなるまで本を読む。フォークナー『野生の棕櫚』、幸田文『木』等々...。眠りに落ちた平山の脳裏には、そのPERFECT DAYS05.jpg日に目にした映像の断片がゆらゆら閃き続けている。ある日、平山の若い姪・ニコ(中野有紗)がアパートへ押し掛けてくる。平山の妹ケイコ(麻生祐未)の娘で、家出してきたという。平山の妹は豊かな暮らしを送っていて、ニコに平山とは世界が違うのだから会ってはならぬと言い渡しているらしい。ニコは平山を説き伏せて仕事場へついてゆく。公衆トイレを一心に清掃してゆく平山の姿にニコは言葉を失うが、休憩時、公園で木洩れ日を見上げる平山の姿を見て、ニコにも笑顔が戻る。しかし平山の妹がニコを連れ戻しにやってくる―。

PERFECT DAYS0s1.jpg ヴィム・ヴェンダース監督の2023年公開作で、同年の第76回「カンヌ国際映画祭」で、役所広司が日本人俳優としては是枝裕和監督の「誰も知らない」('04年)の柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した作品です(同映画祭のエキュメニカル審査員賞も受賞)。そう言えば役所広司は、主演作である今村正平監督の「うなぎ」('97年)が第50回「カンヌ映画祭」で最高賞である「パルム・ドール」を受賞しています。

PERFECT DAYSt.jpg この映画の製作のきっかけは、世界で活躍する16人の建築家やデザイナーが参画して渋谷区内17か所の公共トイレを刷新したプロジェクト「THE TOKYO TOILET」の活動PRを目的とした短編オムニバス映画が当初の計画だったとのこと、撮影はたった15日間という短い期間だったそうです。

 カンヌ国際映画祭の審査員で台湾の批評家・王信(ワン・シン)は、ヴィム・ヴェンダース監督の代表作「パリ、テキサス」('84年/西独・仏)が、より成熟した高いレベルで日本を舞台に再び作り直されたかのようだとし、ヴェンダース生涯の傑作と呼ばれるだろうとしていますが、同感です。アメリカの「バラエティ」誌も、映画の構造はごくシンプルで「ベルリン・天使の詩」('87年/西独・仏)のような哲学的な煩悶は登場しないが、同監督による劇映画としてはここ数十年でもっとも優れた作品になったと称賛、個人的にも「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」よりいいと思いました。

PERFECT DAYS10.jpg 主人公・平山(ヴィム・ヴェンダース監督が敬愛する小津安二郎監督の作品の主人公の名に由来しているのは明らか)の一見かわり映えの無い生活が12日間描かれていますが、毎日が同じようで、ちょっとずつ今までにない出来事や事件のようなものが起き、過去を捨てたはずの平山が、次第にその自分の過去に向き合わさざるを得なくなるという作りになっています。

 行政のキャンペーンが製作のきっかけだったこともあり、上から目線での、主人公・平山にとっての「パーフェクトな生活(素晴らしい生活)」という見方であり、(ラストの方の切実な展開もあってか)平山にとって本当にこの生活がパーフェクトなのか、平山はこのままでいいのかという批判もあるようです。でも、そうした批判は「パーフェクト」をどう捉えるかにもよるのではないかと思いました。

PERFECT DAYS20.jpg エンディングの平山の表情を映した長いショットで、最初笑っていた平山は、途中からやや泣き顔にも見える表情になったりもし、彼の人生への満足と後悔の両方が滲み出ていて、それらをひっくるめての「パーフェクト」という意味であり、少なくとも一般的な「完璧な生活」という意味合いとは異なるように思いました。平山の日々を見ていると、どこか禅僧の生活のメタファーのようでもありますが、それを「完全に悟りきった哲人」にしてしまっていないところが、平山という人物が身近に感じられていいです。

PERFECT DAYS04.jpg 居酒屋の女将が石川さゆりで、ほんとに映画の中で歌っていたなあ(自分がこの映画を観た大晦日の日に紅白歌合戦でも歌っていた)。三浦友和が演じるその女将の元夫が現れ、平山は最初はその元夫の登場で女将に振られたと思い、この映画の中で初めて酒を飲みます(行きつけの定食屋でも居酒屋でもそれまで酒は飲んでいない)。しかし、元夫はガンで余命宣告を受けており、後を平山に託したことで、二人は女将を介して何となく気持ちが通じていました。

 一方で、麻生祐未が演じる平山の妹ケイコとは全然ダメでした。恋敵にもなり得る相手と気持ちが通じて、近しいはずの肉親と気持ちが通じないのも、人生の皮肉かも。小津安二郎の「東京物語」('53年)で、父親(笠智衆)と気持ちが通じ合うのが実の息子や娘ではなく、血の繋がりのない息子の嫁(原節子)であったのが想起させられました。

 因みに、写真屋の主人を翻訳家の柴田元幸が演じているほか、バーの常連客としてモロ師岡とあがた森魚、野良猫と遊ぶ女性に研ナオコ、駐車場係に松金よね子など、結構いろいろな人がカメオ出演していました。

アパートの平山の部屋のセット
PERFECT DAYS0部屋.jpg「PERFECT DAYS」●原題:PERFECT DAYS●制作年:2023年●制作国:日本・ドイツ●監督:ヴィム・ヴェンダース●製作:柳井康治●脚本:ヴィム・ヴェンダース/高崎卓馬●撮影:フランツ・ラスティグ●音楽:(劇中曲)ルー・リード「Perfect Day」ほか●時間:124分●出演:役所広司/柄本時生/アオイヤマダ/中野有紗/麻生祐未/石川さゆり/田中泯/三浦友和/田中都子/水間ロン/渋谷そらじ/岩崎蒼維/嶋崎希祐/川崎ゆり子/小林紋/原田文明/レイナ/三浦俊輔/古川がん/深沢敦/田村泰二郎/甲本雅裕/岡本牧子/松居大悟/高橋侃/さいとうなり/大下ヒロト/研ナオコ/長井短/牧口元美/松井功/吉田葵/柴田元幸/犬山イヌコ/モロ師岡/芹澤興人/松金よね子/安藤玉恵●公開:2023/12●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:シネ・リーブル神戸(23-12-31)(評価:★★★★☆)
「PERFECT DAYS」部屋2.jpg
シネ・リーブル神戸(朝日ビルディングB1F)
シネリーブル神戸.jpg
シネリーブル神戸2.jpgシネリーブル神戸内.jpg

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山崎努が演じる"父"老人が破天荒で人間臭く面白い。死して後に何かを遺した?

『あ、春』.jpg「あ、春」 斎藤。佐藤.jpg 「あ、春」 佐藤。山崎.jpg
あの頃映画 「あ、春」 [DVD]」佐藤浩市/山崎努/斉藤由貴

「あ、春」02.jpg 一流大学を出て証券会社に入社、良家のお嬢様・瑞穂(斉藤由貴)と逆玉結婚して可愛いひとり息子にも恵まれた韮崎紘(佐藤浩市)は、ずっと自分は幼い時に父親と死に別れたという母親の言葉を信じて生きてきた。ところがある日、彼の前に父親だと名乗る男が現れたのである。ほとんど浮浪者としか見えないその男・笹一(山崎努)を、俄かには父親だと信じられない紘。だが、笹一が喋る内容は、何かと紘の記憶と符合する。しかも、実家の母親・公代(富司純子)に相談すると、笹一はど「あ、春」04.jpgうしようもない男で、自分は彼を死んだものと思うようにしていたと言う。笹一が父親だと知った紘は、無碍に彼を追い出すわけにもいかず、同居する妻の母親・郁子(藤村志「あ、春」 8.jpg保)に遠慮しながらも、笹一を家に置くことにした。しかし、笹一は昼間から酒を喰らうわ、幼い息子にちんちろりんを教えるわ、義母の風呂を覗くわで紘に迷惑をかけてばかり。堪忍袋の緒が切れた紘は笹一を追い出すが、数日後、笹一が酔ったサラリーマン(木下ほうか)に暴力を振るわれているのを助けたことから、再び家に連れてきてしまう。図々しい笹一はそれからも悪びれる風もなく、ただでさえ倒産が囁かれる会社が心配でならない紘の気持ちは休まることがない。そんなある日、笹一の振る舞いを見かねた紘の実家の母・公代が来て、紘は笹一との子ではなく、自分が浮気してできた子供だと告白する。その話に身に覚えのある笹一は、あっさりその事実を認めるが、紘の心中は複雑だ。ところが、その途端に笹一が倒れてしまう。医師(塚本晋也)の診断では、末期の肝硬変。笹一は入院生活を強いられ、彼を見舞う紘は、幼い頃に覚えた船乗りの歌を笹一が歌っているのを聞いて、彼が自分の父親にちがいない、と思うのだった。しばらくして、ついに紘の会社が倒産する―。

「ナイスボール」.jpg「あ、春」06.jpg '98年公開の相米慎二(1948-2001/享年53)監督のホームドラマ的作品で、第73回(1999年度)「キネマ旬報ベストテン」第1位、第49回ベルリン国際映画祭「国際批評家連盟賞」受賞作品。原作は村上政彦『ナイスボール』('91年/福武書店)。証券会社勤務のサラリーマン(佐藤浩市)で、良家の娘(斉藤由貴)と結婚し、一人息子をもうけ、義母(藤村志保)と同居する、そんな主人公の家庭に、5歳の時に死別したと母(富司純子)から聞かされていた父(山崎努)が突然の闖入者としてやって来たという話です。

「あ、春」山崎1.jpg この、山崎努が演じる"父"老人がなかなか破天荒で人間臭く面白いです。末期の肝硬変だとわかって入院生活を余儀なくされた彼と佐藤浩市演じる息子が、病院の屋上で船乗りの歌を歌って親子であることを感じるシーンは、美しかったです。結局、母親・郁子(藤村志保)の証言によれば、血は繋がっていないが、5歳まで一緒にいたため幼児記憶がある、つまり「心の父親」であるということでしょう。

「あ、春」山崎2.jpg その「心の父親」笹一が息を引き取り、紘(佐藤浩市)は死に目に会うことは叶いませんでしたが、笹一のお腹に、彼がこっそり温めて孵化したチャボの雛を見つけます(雛の孵化に失敗するというシチュエーションも用意されていたそうだが、それだと、「あ、春」というタイトルにならないのでは)。紘の会社は倒産しますが(1997年11月に自主廃業した山一証券がモデルか)、紘は既に、笹一のように強く生きていける自信を彼から授かったように見えます。

 ラストの笹一の遺体を荼毘に付した紘たちが、彼の遺灰を故郷の海に船に乗って撒くシーンも良かったです。妻・瑞穂(斉藤由貴)、義母・郁子(藤村志保)、母・公代(富司純子)、笹一の愛人・三林京子の4人の女性が、強風の中、髪を振り乱して散骨している様はなぜか仄々(ほのぼの)とした気持ちにさせられ、ユーモラスでもあります。何となく亡くなった笹一が、紘に限らず後の人々に何かを遺したことが感じられるラストでした。

「あ、春」05.jpg「あ、春」03.jpg「あ、春」富士d.jpg「あ、春」●制作年:1998年●監督:相米慎二●製作:中川滋弘●脚本:中島丈博●撮影:長沼六男●音楽:大友良英●原作:村上政彦「ナイスボール」●時間:100分●出演:佐藤浩市/山崎努/斉藤由貴/藤村志保/富司純子/三浦友和/三林京子/岡田慶太/村田雄浩/原知佐子/笑福亭鶴瓶/塚本晋也/河合美智子/寺田農/木下ほうか/掛田誠●公開:1998/12●配給:松竹●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-02-12)(評価:★★★★)

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少女の成長を描いて、「台風クラブ」と並ぶ佳作「お引越し」。「若手女優育成型」監督だった?

お引越し  01.jpgお引越し  p.jpg お引越し dvd.jpg  東京上空いらっしゃいませ dvd.jpg 相米慎二.jpg
お引越し デラックス版 [DVD]」(2002)/「お引越し(HDリマスター版) [DVD]」(2015)田畑智子/「東京上空いらっしゃいませ [DVD]」牧瀬里穂/相米慎二(1948‐2001)
お引越し  0s.jpg 漆場レンコ(田畑智子)は京都鴨川近くに住む小学6年生。両親が離婚を前提に別居することになり、父親のケンイチ(中井貴一)が家を出て行き、母・ナズナ(桜田淳子)との二人暮らしとなる。離婚というものが最初は実感としてピンとこなかったレンコだったが、新生活を始めようと契約書を作るナズナや、独り暮らしで寂しそうなケンイチを見て、その意味が少しずつ理解できてくるともに、そんな両親に挟まれ、彼女の心はざわついてくる。クラスの転校生"サリー"こと橘理佐(青木秋美〔現・遠野なぎこ〕)は関東から引っ越して来た少女で、レンコたち関西弁と言葉が異なり、級友たちはサリーを遠巻きにしていた。お引越し-1.JPGある日レンコは帰り道でサリーと一緒になり、サリーの両親が離婚していることを聞く。レンコとサリーが親しくなったことで、レンコは級友らから裏切り者扱いされ、級友と掴み合いの喧嘩になり、止めに入った木目米先生(笑福亭鶴瓶)の制止を振り切って、理科室の火のついたアルコールランプを倒しボヤを起こす。そんな彼女の唯一の理解者は、ボーイフレンドのミノル(茂山逸平)だった。レンコは夏休みに入って、父・ケンイチの部屋に籠城する計画お引越し1_1.jpgを立てるが、実行前にナズナに露見して失敗する。ケンイチとナズナを元通り仲直りさせたいレンコは、去年も行った琵琶湖畔への家族旅行を今年も実行しようと、クレジットカードを使って電車の切符とホテルの手配を自力でする。現地のホテルに現れたケンイチは、ナズナに復縁を求めるが、ナズナは拒否する。レンコはその場を逃げ出し、子どもを亡くした砂原という老夫婦(森秀人・千原しのぶ)に会う。それでも仲良くやっている夫婦に力を得たレンコは、祭りの中を彷徨する。琵琶湖畔に辿り着いたレンコは、祭りの山車とかつて仲良しだった自分たち家族の幻影を見る。やがて山車は燃え、家族は水に沈み、それを見たレンコは、「おめでとうございます!」と何度も叫ぶ―。

 1993年公開の相米慎二(1948‐2001/享年53)監督作で、相米慎二監督はこの作品で1993年度・第44回「芸術選奨」を受賞しています。原作は、1991年・第1回「椋鳩十児童文学賞」を受賞したひこ・田中の『お引越し』('90年/福武書店)ですが、映画はストーリーの進行とともに原作にはない映画オリジナルの話が多くなり、特に後半は相米慎二監督の独自の世界という印象を受けます。

お引越し 湖.jpg 終盤のレンコが見る湖での幻影シーン(原作には琵琶湖行きの話そのものが無い)での、彼女の「おめでとうございます」という連呼に、監督の思いが込められていたように思いました。レンコはもう自分たち家族は修復できないと悟り、過去と決別するために、また新たな自分を得た自分自身に対して「おめでとうございます!」と言ったのでしょう。エンドロールでは、小学生のレンコがいつの間にか中学生の制服姿に変わり、さっぱりとした表情で街中を人々や家族と接しながら跳ねるように歩いています。相米監督のもう1本の佳作「台風クラブ」('85年)と同じような印象のラストで、作品そのものが少女の成長物語であったことを裏付けるものとなっています。

お引越し 映画    .jpg 相米慎二監督は、当時17歳の薬師丸ひろ子主演の「セーラー服と機関銃」('81年)、当時19歳の斉藤由貴主演の「雪の断章‐情熱‐」('85年)、当時14歳の工藤夕貴主演の「台風クラブ」('85年)、当時18歳の牧瀬里穂主演の「東京上空いらっしゃいませ」('90年)などを撮っていますが、これらの主演女優の殆どが映画初出演かそれに近い新人でした。何だか新人専門みたいで、しかもとりわけ未成年(少女)を撮るのが上手だった(?)のかとも思ってしまいますが、この「お引越し」にレンコ役で主演した田畑智子は当時11歳で、それまで学芸会などでもたいした役をやったことがなかっとのことで、大抜擢と言えます。

お引越し s.jpg 田畑智子の演技は、相米監督の長回しによく耐えていて、良かったと思います。特に前半部分の自然な演技が良く、逆に後半部分は「女優」であることを意識した演技になってしまった印象も受けました。後半部分に相米監督のオリジナルな考えが込められていることを考えると、彼女の演技力が相米監督の演出に耐えられるのを見て、相米監督がそうした演出をしたようにも思いました。後半の演技の方を高く評価する人もいておかしくないかもしれませんが、個人的には前半部分の彼女の演技の方がやっぱり良かったという印象です(彼女がやがて映画(「ふがいない僕は空を見た」('12年))で不倫を重ねる人妻役を演じるなんてところまではまだとても想像出来なかったが)。

 田畑智子はこの作品で、キネマ旬報新人女優賞、報知映画賞新お引越し  桜田.jpg人賞、毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞を受賞しましたが、母・ナズナ役の桜田淳子も、キネマ旬報助演女優賞、報知映画賞助演女優賞、毎日映画コンクール助演女優賞を受賞しています。桜田淳子の方は、歌手から女優に転向して、この時までに既に芸術選奨新人賞(大衆芸能部門)('86年)や菊田一夫演劇賞('87年)など数多くの賞を受賞しており、更なる飛躍をという矢先に統一教会の合同結婚式絡みの問題が報道され、この「お引越し」が最後の映画出演となり、芸能界からも身を引くことになりました。この作品での彼女の演技を見ると、惜しい気がします。

お引越し 映画  es.jpg その他、助演として、父・ケンイチ役の中井貴一や先生役の笑福亭鶴瓶が出演していますが、中井貴一は田畑智子と桜田淳子の好演に隠れてやや影が薄かったでしょうか。中井貴一と笑福亭鶴瓶は「お引越し」の3年前の相米慎二監督作東京上空いらっしゃいませ12.jpg品「東京上空いらっしゃいませ」('90年)にも出ていましたが、ストーリーがメルヘンチックで、相米慎二独特の粘り強いシーンの構成が見られない作品であった上に、当時の中井貴一は大根で、笑福亭鶴瓶も映画向きの配役とは思えませんでした。牧瀬里穂のみ東京上空いらっしゃいませ01.jpgがやたら元気に演技していて、映画としては相米監督はこんな凡作も撮るのかと思わされましたが、前年(1989年)当時17歳でJR東海・クリスマス・エクスプレスのCM(第1作)で脚光を浴び、映画初出演で主役を演じた牧瀬里穂は、その後宮沢りえ・観月ありさと共に「3M」と呼ばれるまでに女優として開花しました(中井貴一は開花するのに時間がかかった?)。相米慎二監督の演出は厳しかったそうです。「若手女優育成型」監督といった感じだったのでしょうか。


お引越し  5.png「お引越し」●制作年:1993年●監督:相米慎二●脚本:奥寺佐お引越し   sakurada .jpg渡子/小此木聡●撮影:栗田豊通●音楽:三枝成彰●原作:ひこ・田中「お引越し」●時間:124分●出演:中井貴一/田畑智子桜田淳/須藤真里子/田中太郎/茂山逸平/森秀人/千原しのぶ/笑福亭鶴瓶/青木秋美(現:遠野なぎこ)●公開:1993/03●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画=アルゴプロジェクト●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(17-07-19)(評価:★★★★)
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東京上空いらっしゃいませ 00.jpg東京上空いらっしゃいませ04.jpg「東京上空いらっしゃいませ」●制作年:1990年●監督:相米慎二●脚本:榎祐平●撮影:稲垣涌三●音楽:村田陽一/小笠原みゆき(主題歌:井上陽水「帰れない二人」)●時間:109分●出演:中井貴一/牧瀬里穂/笑福亭鶴瓶/毬谷友子/出門英/竹田高利/藤村俊二/工藤正貴/谷啓/三浦友和/河内桃子/木之元亮/遠藤美佐子/斉藤暁/岸野一彦/モロ師岡/佐山雅弘/上野哲郎/礒見博/楠本卓司●公開:1990/06●配給:松竹(評価:★★☆)
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JR東海「クリスマスエクスプレス」牧瀬里穂1989

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日本的な風土を背景にギリシャ神話的な世界を再現? 5回の映画化。次は―。

潮騒 昭和29 新潮社.jpg潮騒 昭和29 新潮社2.jpg 潮騒 新潮文庫.jpg 潮騒 1964 dvd.jpg 潮騒 1964年 吉永.jpg
潮騒 (1954年)』『潮騒 (新潮文庫)』「潮騒(新潮文庫連動DVD)」「潮騒」1964年/日活(吉永小百合・浜田光夫)

新潮文庫 潮騒.jpg 三島由紀夫が1954(昭和29)年6月に発表した書き下ろし作品で、最初に読んだ時は、三島作品にありがちな翳のようなものが殆ど無い、あまりに純朴な漁師と海女の恋の物語にやや違和感を覚えましたが、後に、三島がこの作品の発表の数年前のヨーロッパ旅行の際にエーゲ海やアドリア海を旅していること、古代ギリシャの散文作品『ダフニスとクロエ』に着想を得ていることなどを知り、ナルホドという感じがしました。

新潮文庫[旧装幀/カバー版(絵:中島清之)]

三重県の神島.jpg 風光明媚な「歌島」の華麗な描写もさることながら(三重県の神島がモデル、三島は当作品発表の前年に2回―おそらく取材のため―旅している)、日本的な家族の繋がりや民俗的風習、青年団などの地域コミュニティのようなものも描かれていて、日潮騒 新潮文庫3.png潮騒 (1954年) 0_.jpg本的なものとギリシャ的なものの融合を目指したのか、或いは、日本的な風土を背景にしても、三島の力量をもってすれば、そこにギリシャ神話的な世界の再現は可能であることを示してみせたのか。

潮騒 (1954年)

Mishima_Yukio.JPG 「ギリシャ的」と言えば、"女性の健康美とエロス"、"男性の鍛えられた逞しい肉体"などといった付随するイメージがありますが、三島がボディビルを始めたのはこの作品発表の後ぐらいからで、当時はまだ三島自身は"文弱の徒"であり、この健康美礼讃ともとれる作品に評論家もやや戸惑ったのかすぐには反応しなかったものの(ぴんとこなかった?)、巷には好評でたちまちベストセラーとなり(結果的に第1回「新潮社文学賞」受賞作にもなった)、同年に映画化もされ10月に公開されました(素早い!)。

三島30歳(1955年秋、自宅の庭にて)

 それを含め、昭和の時代を通して映画化された回数が5回というのは、三島作品の中で最多であり、川端康成の『伊豆の踊子』の映画化回数6回に迫ります(戦後に限れば5回ずつで同回数)。
 
 因みに、映画された「伊豆の踊子」の制作年・制作会社と監督・主演は、
  1933(昭和8)年 松竹・五所平之助 監督/田中絹代・大日方伝
  1954(昭和29)年 松竹・野村芳太郎 監督/美空ひばり・石浜朗
  1960(昭和35)年 松竹・川頭義郎 監督/鰐淵晴子・津川雅彦
  1963(昭和38)年 日活・西河克己 監督/吉永小百合・高橋英樹
  1967(昭和42)年 東宝・恩地日出夫 監督/内藤洋子・黒沢年男
  1974(昭和49)年 東宝・西河克己 監督/山口百恵・三浦友和
 
潮騒 1964 日活.bmp 一方、映画された「潮騒」の制作年・制作会社と監督・主演は、
  1954(昭和29)年 東宝・谷口千吉 監督/青山京子・久保明
  1964(昭和39)年 日活・森永健次郎 監督/吉永小百合・浜田光夫
  1971(昭和46)年 東宝・森谷司郎 監督/小野里みどり・朝比奈逸人
  1975(昭和50)年 東宝・西河克己 監督/山口百恵・三浦友和
  1985(昭和60)年 東宝・小谷承靖 監督/堀ちえみ・鶴見辰吾 

となっており、戦後だけでみると同じ5回であり、女優では吉永小百合と山口百恵が両方に出ています(2人とも「伊豆の踊子」の翌年に「潮騒」に出ている)。また、「潮騒」は何れの作品も神島でロケが行われており、これは、三島のこの原作における島の描写が極めて精緻かつ正確であることも関係しているのではないかと思います。

「潮騒」.bmp 潮騒 1964 vhs.jpg

 映画化作品「潮騒」のうち、映画館できっちり観たのは'64年の吉永小百合版(森永健次郎監督)ですが、日活がアクション映画路線から青春映画路線に舵を切った初期の段階で作られた作品。当時19歳の吉永小百合は明るく娘々していて、三島は彼女に「生活のかがやきにみちた美しさ」を見たとか(個人的には、映画そのものが原作のイメージと随分雰囲気が異なる気がしたのだが、作品ではなく女優を褒めた三島の本心はどうだったのか)。

潮騒 1975年 山口 dvd.jpg 確かにこの作品の吉永小百合は、田舎娘らしい親近感はありますが、これは'75年の山口百恵(映画出演時は16歳)にも言えることですが、ちょっと「海女」には見えないのが難点です。

 原作では、主人公の若い2人が裸で炎を挟んで対峙するところの描写にたいへん力が込められているように思えましたが(かと言って、三島文学にありがちな修飾過剰には陥っていない)、映画でのこの場面では、当然のことながら国民的スター・吉永小百合は絶対脱がないし、その後の映画化作品では、アイドルを使ってそこをどう撮るかが監督の腕の見せどころになってしまっているような感じがしなくもありません。時代感覚の違いもあるのかもしれませんが、この'64年版森永監督作品(吉永小百合版)ではその部分は成功しているようには思えないし、'75年版西河克己作品(山口百恵版)になるともう、アイドル映画であるということが前提になっているという感じ。 

●森谷司郎監督 1971年日活版(小野里みどり・朝比奈逸人主演)
潮騒 小野里みどり・朝比奈逸人.jpg潮騒 1971.jpg 三島自決の翌年に主役2人を一般公募して作られた'71年版森谷司郎監督作品(小野里みどり・朝比奈逸人主演)がこの場面を割と大胆に撮っているようですが未見、'75年の山口百恵版は、あの程度の肌の露出で激怒したファンもいたとのことですから、何だかヌードを撮ってはいけない作品みたいになっているようです(アイドル路線の中でリメイクされるのが要因か)。堀ちえみ・鶴見辰吾版潮騒.jpg'85年の堀ちえみ・鶴見辰吾版以来、四半世紀以上再映画化されていませんが、仮に、今後また映画化されることがあったらどうなるのでしょう。

 
●小谷承靖監督 1985年東宝版 (堀ちえみ・鶴見辰吾主演)
 
●森永健次郎監督 1964年日活版 (吉永小百合・浜田光夫主演)
潮騒 吉永小百合.jpg「潮騒」●制作年:1964年●監督:森永健次郎●製作:日活●脚本:棚田吾郎/須藤勝人●撮影:松橋梅夫●音楽:中林淳誠●原作:三島由紀夫「潮騒」●時0潮騒('64).jpg間:82分●出演:浜田光夫/吉永小百合/石山健二郎/清川虹子/清水将夫/原恵子/鴨田喜由/松尾嘉代/平田大三郎/菅井一郎/前野霜一郎/衣笠真寿男/榎木兵衛/高橋とよ/清水将夫●公開:1964/04●配給:日活●最初に観た場所:池袋・文芸地下(85-01-19)(評価:★★☆)●併映:「伊豆の踊子」(西河克己)

●西河克己監督 1975年東宝版 (山口百恵・三浦友和主演)
潮騒 山口百恵 VHS.jpg山口百恵  潮騒.jpg山口百恵 潮騒.jpg0潮騒 三浦友和 山口百恵.jpg「潮騒」●制作年:1975年●監督:西河克己●製作:東宝●脚本:須崎勝弥●撮影:萩原憲治●音楽:穂口雄右●原作:三島由紀夫「潮騒」●時間:93分●出演:宮田初江:山口百恵/三浦友和/初井言栄/亀田秀紀/中村竹弥/有島一郎/津島恵子/中川三穂子/花沢徳衛/青木義朗/中島久之/川口厚/丹下キヨ子/高山千草/田中春男/森みどり/石坂浩二(ナレーター)●公開:1975/04●配給:東宝(評価:★★☆)
                                          
【1954年文庫化[新潮文庫]】

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写真が豊富。懐かしい"昭和レトロ"に混ざる、意識的に忘れ去ろうとしてこられたもの。

東京今昔探偵.jpg 建設途中の東京タワー.jpg ALWAYS 三丁目の夕日 豪華版 [DVD].jpg  ALWAYS 三丁目の夕日2.jpg
東京今昔探偵―古写真は語る (中公新書ラクレ)』['01年]/「ALWAYS 三丁目の夕日 豪華版 [DVD]」建設途中の東京タワー/映画「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005)

 読売新聞都内版に「東京伝説」というコラムタイトルで、'96年から'00年まで162回にわたって連載されたものの中から43回分をピックアップして纏めたもの。

日本橋白木屋火災.jpg 「東京伝説」というタイトルの如く「旧い東京」の建物や施設、風物を取材していて、基本的には、当時それらに関係した人にインタビューするようにしていますが、既に関係者の多くが亡くなっていたりして、コラムであるため字数の制限もあり、1つ1つの取材そのものはそれほど深くありません。

②スカイツリー.jpg 但し、写真が豊富で、日本橋「白木屋」火災('32年)、街頭テレビ('53年)、建設途中の東京タワー('57年)、新宿駅西口のフォーク集会('69年)、光化学スモッグ('70年)...etc. 事件・社会事象関係はさすが新聞社ならではという感じ(建設中の「東京スカイツリー」の写真も、そのうち貴重なものになる?)。

 特に、建設中の東京タワーの写真は、何だか「ゴジラ」に壊された後のようにも見えて興味深いです。実際には旧シリーズの「ゴジラ」は東京タワーを破壊しておらず(まだ出来ていなかった)、後から出てきた「モスラ」の方が先にタワーをへし折ってそこに繭を作ったりしたのですが。

ALWAYS 三丁目の夕日2005.jpgALWAYS 三丁目の夕日.jpg 西岸良平の漫画『三丁目の夕日』を原作とした山崎貴監督の映画「ALWAYS 三丁目の夕日」('05年/東宝)は、この建設中の東京タワーを上手くモチーフとして組み込んでいたように思われ、話の内容も映像も(映像の方は、広大なロケセットと併せて精緻なCGを使いまくっているのだが)ともに作り物っぽいところが逆に良かったように思います。ある種「時代劇」感覚(?)。従って、話の運びとしても、「ここで泣け」みたいな作り方が気にならなくはなかったですが、原作自体がそうした作りのものであることを考えれば、むしろそれに沿っていたと言えるのかも。

屋上遊園地.jpg 本書には、その他にも、デパートの屋上遊園地の賑わいや路面電車とバスの中間みたいなトロリーバス、下町の巨大キャバレーや新宿の歌声喫茶などが盛り込まれていて、昭和レトロを満喫することが出来ます(子供のころデパートに行く最大の楽しみは、この屋上遊園地で遊ぶことだったが、どんどん縮小・廃止されていったなあ)。
銀座松屋・屋上遊園地「スカイクルーザー」(本書61p)

 個人的には、下町の方に興味を惹かれ、「千住のお化け煙突」はあまりに有名で、「京成電鉄白髭線」も聞いたことがあり、南千住の「東京スタジアム」はその跡地が近所ですが(現在は「荒川総合スポーツセンター」と同センター付属のグランド)、観客が超満員の東京スタジアムのスタンドや、そこで行われた日本シリーズのロッテ対巨人戦('70年)で長嶋が決勝ホームランを打った写真なども掲載されているためにシズル感があり、新たな感慨に浸ることが出来ました。
南千住「東京スタジアム」(1962-1972)[現:荒川総合スポーツセンター]
東京スタジアム 1962-1972.jpg 東京スタジアム1967.jpg

荒川ふるさと文化館 入り口.jpg荒川ふるさと文化館 2].jpg荒川ふるさと文化館1.jpg 因みに、荒川総合スポーツセンターの付近に「荒川ふるさと館」という施設が区立荒川図書館内にあり、昭和の下町の路地裏や民家を再現していて、まさに「ALWAYS 三丁目の夕日」の世界、子どもを連れていくと楽しめます(大人の方が結構楽しんだりして...)。

現・JR隅田川駅付近
JR貨物隅田川駅.jpg 知らなかったのは、「東京俘虜収容所」(米国人捕虜収容所)の「第十分所」が南千住の旧国鉄隅田川貨物駅(現・JR隅田川駅)付近にあったということで、近所の派出所での警察官をしていたという老人が語る、敗戦と捕虜の解放時の話は生々しかったです。

 東京裁判では、第十分所に関係した憲兵や民間人が捕虜虐待などの罪でB・C級先般として裁かれたそうですが、その後、地元では「第十分所」の話はタブーとされてきたとのこと。調べてみたら、他の俘虜収容所では所長や看守に死刑判決が下った所も少なからずあったようですが、「第十分所」関係では死刑判決は無かったようです(捕虜の扱いが丁寧だったのか?)。

 かつて日本人が夢中になり、今は懐かしさをもって語られるもの、そうしたものの中に、「第十分所」のように意識的に忘れ去ろうとしてこられたものもあることを知ったのは収穫でした。

ALWAYS 三丁目の夕日 dvd.jpgALWAYS 三丁目の夕日09.jpg「ALWAYS 三丁目の夕日」●制作年:2005年●製作総指揮:阿部秀司●監督:山崎貴●脚ALWAYS 三丁目の夕日3.jpg本:山崎貴/古沢良太●撮影:柴崎幸三●音楽:佐藤直紀●原作:西岸良平「三丁目の夕日」●時間:133分●出演:吉岡秀隆/堤真一/薬師丸ひろ子/小雪/堀北真希/小清水一揮/須賀健太/もたいまさこ/三浦友和小日向文●公開:2005/11●配給:東宝(評価:★★★★)
ALWAYS 三丁目の夕日 通常版 [DVD]

「ALWAYS 三丁目の夕日」三浦友和.jpg 「ALWAYS 三丁目の夕日」小日向文世.jpg

「ALWAYS 三丁目の夕日」相関図.jpg

「ALWAYS 三丁目の夕日」('05年)/「ALWAYS 続・三丁目の夕日」('07年)/「ALWAYS 三丁目の夕日'64」('12年)
「ALWAYS 三丁目の夕日」2005.jpg 「ALWAYS続・ 三丁目の夕日」2.jpg 「ALWAYS 三丁目の夕日'64」2012.jpg

《読書MEMO》
●東京スタジアム
日本テレビ系列「ザ!鉄腕!DASH!!」2008年11月30日放映「 歴史探偵~昭和の映像から現在の場所を探し出せるか!」東京スタジアム/現:荒川総合スポーツセンター
東京スタジアム2.jpg 荒川総合スポーツセンター.bmp      
1970年の日本シリーズのポスター(ロッテの対戦相手は当初まだ決まっていなかったが(左)、その後巨人に決定)
1970年の日本シリーズのポスター.jpg
1970年11月1日日本シリーズ第4戦 ロッテvs.巨人(東京スタジアム)
1970年11月1日日本シリーズ第4戦1.png

1970年の日本シリーズ第4戦.jpg3回表、巨人・長嶋茂雄は左越えに2打席連続ホーマーを放つ。
第4戦
11月1日 東京 入場者31515人
巨 人 3 0 2 0 0 0 0 0 0 5
ロッテ 4 0 2 0 0 0 0 0 X 6
(巨)渡辺秀、●高橋一(1敗)、山内新、倉田-森、吉田孝
(ロ)成田、○佐藤元(1勝)、平岡、木樽-醍醐
本塁打
(巨)高田1号ソロ(1回成田)、長嶋3号2ラン(1回成田)、王2号ソロ(3回成田)、長嶋4号ソロ(3回成田)
(ロ)井石2号3ラン(1回渡辺秀)

ロッテはこの試合6-5で勝ち、シリーズ唯一の白星だった。

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工藤夕貴の演技がいい「台風クラブ」。少女を撮るのが上手だった故・相米慎二監督。

Typhoon Club 1985.jpg 台風クラブ.jpg    逆噴射家族.jpg 逆噴射家族 1シーン.jpg 
「台風クラブ」ポスター「台風クラブ [DVD]」(相米慎二監督)「逆噴射家族 [DVD]」(石井聰互監督)ラストシーン

台風クラブ1.jpg 地方都市の女子中学生たちが、学校のプールに夜中に泳ぎにやってきて、先に来ていた男子生徒にイタズラをするが、度が過ぎて溺死寸前の状態に追い込んでしまう。翌朝、ニュースでは台風の接近を告げていた―。

台風クラブ2.bmp 「台風クラブ」('85年/東宝=ATG)は、'85(昭和60)年の第1回東京国際映画祭のグランプリ受賞作で、台風の接近に伴い、言いようのない感情の昂ぶりを見せ騒乱状態に陥る中学生たちを生々しく且つ瑞々しく描き出した作品。女子中学生役の工藤夕貴が、中学生の日常とそこに潜む思春期の生理的・精神的危うさを演じて台風クラブ22.jpg秀逸で、何か自分でそうしたものを観察でもしたかのような相米慎二監督の演出が際立っています。実際、女子中学生の私生活を「長回し」で写し撮っているような感じのシーンもあり、今ならば児童保護の名目で規制の対象になりそうな際どい場面もあって、更にストーリー的にも結構どろどろした出来事がありますが、そうしたことも含め、「観察対象」としての距離を置いて撮っているような感じもします。

 迫りくる台風に対する不安と非日常への漠たる期待、台風という非日常の中での狂騒、そして台風台風クラブ 図1.jpg一過、中学生たちは何事もなかったかのようにまた元気に学校に通い出す―でも実は、台風が来る前に比べぐっと大人に近づいているという、 "大人になるための出来事"を台風に絡めているところが旨く、また、女子中学生の方が男子よりも逞しく描かれているように思いました。人間の自律神経は気圧の変化には敏感で、酸素がたくさんある高気圧だと酸素ストレスで交感神経が緊張して体は興奮して元気になり、逆に雨や台風で低気圧が接近すると、副交感神経が優位に働いて、特に神経痛やリュウマチなどの持病がある人にとっては低気圧は不快感を増幅させるそうですが、思春期にある者の情緒不安定を引き起こすことについても何か科学的根拠があるんじゃないかなあ。

相米慎二.jpg 相米慎二(1948‐2001/享年53)監督は、薬師丸ひろ子(当時17歳)主演の「セーラー服と機関銃」('81年)の後に夏目雅子(当時25歳)主演の「魚影の群れ」('83年)や斉藤由貴(当時19歳)主演の「雪の断章‐情熱‐」('85年)などを撮り、そして工藤夕貴(当時14歳)主演のこの作品「台風クラブ」を撮っていますが、その内夏目雅子を除いて当時何れも二十歳未満で、斉藤由貴は映画初出演で主演、工藤夕貴もこの作品が初主演でした。何だか新人専門みたいですが、とりわけ未成年(少女)を撮るのが上手だった(?) 相米慎二監督はその後も、「東京上空いらっしゃいませ」('90年)で当時18歳の牧瀬里穂を、「お引越し」(93年)で当時11歳の新人・田畑智子を、それぞれ主役に据えた作品を撮っています。

台風クラブ 三浦友和 演.jpg 「台風クラブ」では三浦友和が不良っぽい教師役で出ていて、なかなか良かったです。三浦友和は、所謂「百恵・友和ゴールデンコンビ」と言われた作品群で1970年代に二枚目の俳優として10代に大変な人気がありましたが、その百恵・友和のゴールデン・コンビの第8作、大林宣彦監督、ジェームス三木脚本の「ふりむけば愛」('78年/東宝)を友達と観に行って、2人とも途中で眠くなりました。ただ、本作を契機に山口百恵と三浦友和は結婚に踏み切ることを決意したと言われています。2本立てで小原宏裕監督の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」('78年/日活)の後でしたが、大林宣彦監督はいい作品(尾道3部作など)も撮る一方で駄作も多い気がし、これもその1つ。百恵・友和コンビ作では、市川昆監督、川端康成原作の「古都」('80年)が山口百恵引退記念作品となり、三浦友和は村川透監督、勝目梓原作の「獣たちの熱い眠り」('81年/東映)でイメージチェンジを図りますが(三浦友和は萩原健一や松田優作のような反体制タイプの役者に憧れていたらしい)、映画内で風吹ジュンらとの激しいベッドシーンなどがあったものの、「三浦友和のイメチェン作」と言われている割にはイメチェンに成功しておらず、彼の後の演技の糧にはなったかもしれませんが、「友和クンにハードボイルドは似合わない」というのが当時の印象でした(この作品は過去にビデオあれておらず、'09年現在DVD化もされていない)。その三浦友和が、この「台風クラブ」では、その無責任ゆえに生徒たちから反発を喰う教師役を演じていて、恋人(小林かおり)が台台風クラブ 三浦友和 演技.jpg所で料理をしている隣りの部屋でだらしなく寝転がってる三浦友和が、近よってきた恋人に足を絡ませ倒して抱きつく長回しなど、ダメさ加減がよく出ていました(ハードボイルド風よりよりこっちの方がいい)。個人的には、この作品こそが彼のイメージチェンジ作ではないかなと思います(イメチェンって、ただこれまでと違う役をやればいいというものでもなく、新たなキャラを確立させなければならないだけに難しい)。三浦友和はこの作品で、第10回報知映画賞助演男優賞を受賞しています。
「NHKあさイチ~あさイチ・プレミアムトーク~」(2011.11.25)

「ふりむけば愛」('78年/東宝)、「獣たちの熱い眠り」('81年/東映)、「台風クラブ」('85年/東宝=ATG)
三浦友和1 ふりむけば愛.jpg 0三浦友和2 獣たちの熱き眠り2.jpg 三浦友和3 台風クラブ.jpg

逆噴射家族5.bmp 一方、工藤夕貴の映画初出演は、この作品の前年の石井聰互監督の「逆噴射家族」('84年/ATG)で(当時13歳)、真面目で小心者のサラリーマン(小林克也)が長期ローンでやっとマイホームを建て、家族4人でそれなりの幸せ気分でいたところに(この家族が変人揃いで皆それぞれ勝手気儘というかバラバラなのだが、その1人が工藤夕貴演じる娘)、郷里からまた変な祖父(植木等)が舞い込んで来て家の中がおかしくなりだし、更にある日、このサラリーマン氏が自宅でシロアリの群れを発見して、マイホームが朽ちるのではとの不安に駆られ、シロアリ駆除に向けて大暴走するというものです。

逆噴射家族6.bmp 小林よしのり氏(当時31歳)の原案だそうですが、映画としてはあくまでも石井聰互監督(当時27歳)の映画という感じで、DJ・小林克也の演技は役者並みだし、ちょっと狂い気味の妻役の倍賞美津子や、植木等の怪しい老人ぶりもいいです。

0有薗芳記 in 「逆噴射家族」.jpg 更には工藤夕貴の兄を演じた有薗芳記の電脳オタクぶりも、映画初出演ながら凄かった―ということで、工藤夕貴のぶっ飛び感も、これらに比べるとちょっと弱かったかも知れません("緊縛シーン"(?)に象徴されるように、彼らの被害者的立場という色合いが強い役柄のせいもあったが)。
有薗芳記 in 「逆噴射家族」

逆噴射家族ンロード.jpg逆噴射家族A.jpg 「逆噴射家族」は海外の映画祭でもグランプリなどを獲っている作品ですが、狂気を描くことが目的化してしまっている面も感じられ、むしろ異価値・異文化的な面で海外に受台風クラブ07.jpgけたのではないかなあ。個人的には「台風工藤夕貴 in 「台風クラブ」.jpgクラブ」の方がより好みでしょうか。

[上]小林克也 in 「逆噴射家族」

[下]工藤夕貴 in 「台風クラブ」
        
  

台風クラブes.jpg「台風クラブ」●制作年:1985年●監督:相米慎二●製作:宮坂進●脚本: 加藤裕司●撮影:伊藤昭裕●音楽:三枝成章●時間:85分●出演:工藤夕貴/三上祐一/大西結花台風クラブ  13.jpg三浦友和/佐藤充/寺田農/尾美としのり/鶴見辰吾/紅林茂/松永敏行/会沢朋子/小林かおり/きたむらあきこ/石井富/佐藤浩市(友情出演)●公開:1985/08●配給:東宝=ATG●最初に観た場所:有楽町スバル座(1985/8/31)●2回目:大井武蔵野館(1986/9/20)(評価:★★★★)●併映(2回目):「時代屋の女房」(森崎東) 
    
ふりむけば愛〈別冊近代映画〉.jpgふりむけば愛9.jpg「ふりむけば愛」●制作年:1978年●監督:大林宣彦●製作:堀威夫/笹井英男●脚本:ジェームス三木●撮影:萩原憲治●音楽:宮崎尚志(主題歌:三浦友和「ふりむけば愛 dvd.jpgふりむけば愛」(作詞・作曲:小椋佳 編曲:松任谷正隆))●時間:92分●出演:山口百恵/三浦友和/森次晃嗣/玉川伊佐男/奈良岡朋子/黒部幸英/神谷政浩/名倉良/高橋昌也/南田洋子/大内勇/藤木啓士/安西卓人/星野晶子/岡田英次●公開:1978/07●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-06-03)(評価:★★)●併映:「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」(小原宏裕)
ふりむけば愛 [DVD]

獣たちの熱い眠り .jpg獣たちの熱き眠り 00.jpg獣たちの熱い眠り 3.jpg「獣たちの熱い眠り」●制作年:1981年●監督:村川透●脚本:永原秀一●撮影:仙元誠三●三浦友和風吹ジュン宇佐美恵子「獣たちの熱い眠り」広告.jpg音楽:速水清司●原作:勝目梓●時間:111分●出演:三浦友和/風吹ジュン/なつきれい/宇佐美恵子/石橋蓮司/鹿内孝/峰岸徹/宮内洋/佐藤蛾次郎/阿藤海/安岡力也/草薙幸二郎/中丸忠雄/中尾彬/成田三樹夫/伊吹宇佐美恵子1.jpg宇佐美恵子2.jpg吾郎/(以下、特別出演)吉行和子/池波志乃/来栖アンナ●公開:1981/09●配給:東映●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)(評価:★★)●併映:「吼えろ鉄10文芸坐.jpg拳」(鈴木則文)
[上]「映画チラシ 「獣たちの熱い眠り」監督 村川透 出演 三浦友和、なつきれい、宇佐美恵子」/[右]広告切抜き
宇佐美恵子
三浦友和/風吹ジュン
0「獣たちの熱い眠り」.jpg 0「獣たちの熱い眠り」2.jpg
     
逆噴射家族1.jpg逆噴射家族 2.png逆噴射家族 1.png「逆噴射家族」●制作年:1984年●監督:石井聰互●製作:長谷川和彦/山根豊次/佐々木史郎●脚本:石井聰逆噴射家族E-.jpg亙/小林よしのり/神波史男●撮影:田村正毅●時間:106分●出演:小林克也/倍賞美津子/植木等/工藤夕貴/有薗芳記/岸野一彦/小海とよ子/緒方明/林崎巌/郷守信廣/井上欣逆噴射家族   .jpg則/高橋佑奈/井手国弘/アレックス・アブラモフ●公開:1984/06●配給:ATG●最初に観た場所:池袋日勝文化劇場(85-11-04)(評価:★★★☆)●併映:「お葬式」(伊丹十三)

「逆噴射家族」スチール写真(左から有薗芳記/植木等/小林克也/倍賞美津子/工藤夕貴)
   
日勝文化2.jpg池袋.jpgビックカメラ池袋.jpg池袋日勝映画劇場・池袋日勝文化劇場・池袋スカラ座・池袋日勝地下劇場 (現・池袋東口ビックカメラ池袋本店付近) 1995(平成7)年6月25日閉館
池袋日勝 日勝文化3.jpg
日勝文化705.jpg③池袋東急 ④池袋スカラ座 ⑮池袋日勝地下劇場 ⑬池袋日勝映画劇場 ⑭池袋日勝文化劇場

・1937年 池袋日勝映画館オープン
・1946年10月 - 池袋日勝映画劇場として再オープン
・1951年12月 - 池袋日勝地下劇場オープン
・1960年前後 - 池袋日勝文化劇場、池袋松竹劇場オープン
・1963年 - 池袋松竹劇場を池袋スカラ座と改称
・1995年 - 4館ともすべて閉館
池袋スカラ座/池袋日勝文化 菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より  
池袋日勝 日勝文化 6月25日.jpg 池袋日勝.jpg 
青木 圭一郎 『昭和の東京 映画は名画座』(2016/03 ワイズ出版)より
昭和の東京 映画は名画座  池袋.jpg

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